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【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 七冊目【SS】

490白頭巾:2008/10/25(土) 20:00:32 ID:CRd8ZrdY0
ハロウィンコラボ企画

ふぁみりあいーえっくすシリーズ×Puppet―歌姫と絡繰人形―



ブルンネンシュティングにも、ようやく秋が来た。
夏の鬱陶しい暑さからもようやく解放され、比較的日々を過ごしやすい気候になるこの季節。
自然と足が外へと向くこの季節にも、そろそろ「アレ」がやってくる。


 「はろうぃん?」
 「そう、ハロウィン♪」

ブルンの中央部――いわゆる「商業区」のとある一角。
ブルンでも最も賑やかなこの区……その隅にひっそりと立つ、小さな喫茶店。
人通りの多いこの地区に立っているにしてはあまりに小さなその喫茶店の中に、二人の姿はあった。
目を瞬かせながらケーキにフォークを刺す栗色の髪の少女と、ニコニコと笑いながらティーカップを持つ亜麻色の髪の少女。
椅子に座っているだけで絵になりそうなほどの可憐さの少女二人だったが、不思議と軽い男たちから声をかけられることはない。
何故? ――それは、彼女らのテーブルに山のように積まれた皿で容易に説明できるであろう。
皿のほとんどは栗色の髪の少女が平らげたものである。亜麻色の髪の少女も少々は食べているが、食欲がそれこそ桁で違った。
――言う間に、また空高く積み上げられた皿の塔が、また一段高くなる。

 「ルフィエちゃん、ほんとにケーキが好きなんだねぇ」

とニコニコする少女。少々、というかかなり着眼点がズレている。もちろん本人に自覚はない。

 「えへ、だって食欲の秋って言うじゃない? メリィも食べれるときに食べないと!」

と言う間にショートケーキの1/3を食べ終えてしまったもう一人の少女ルフィエを、紅茶を啜りながら少女はじっと見やる。
メリィ、とは彼女の本名ではない。彼女の本名を聞いた時に、ルフィエは即興でつけたあだ名である。
当初こそ響きに難色を示していた彼女も、じきに慣れてしまっていた。あだ名とはそういうものである。
ちなみに、彼女が連れているファミリアからは「ごしゅじんさま」という通称をありがたく頂戴していることを彼女は知らない。


相変わらず物凄い食欲である。自分では考えられないくらい量を平然と平らげている。
そう言えば、以前開かれたブルン大食い選手権でも、常人では考えられない量である食事の数々を物凄いスピードで胃に収め、見事準優勝を叩き出したんだとか。
優勝者は確か……マイ、というブリッジヘッドのウィッチらしいが、当時の大会を見た者曰く「上位二名だけで参加者全員分は食った」とかなんとか。
自分より小さい(微々たる差だけど)この体のどこに蓄積されているのか、一度検査してみたいと思う少女、ごしゅじんさまであった。

 「で、ハロウィンって何なの? 聞いたことないけど……」
 「……うーん、なんて言ったらいいんだろう…?」

首を傾げるルフィエに、ごしゅじんさまももう一度「ハロウィン」について考える。
ハロウィンのことを知らないというのも珍しいことだが、ここにはいない少年と共に大陸中を旅する身では無理はないか、とも思う。そもそもハロウィンとは、具体的にどんな催しなのか?
仮装しあちこちの民家やギルドホールを回るくらいにしか捉えていないが――

 「……みんなで仮装して、一晩騒いで遊ぶお祭り、かな?」

実際は「万聖節」の前日に行われる北国を起源とする祭りなのだが、
最近はそれを知る者も少ない。某貴族家の当主や方向音痴なウィザードあたりなら知っているだろうが。
祭りの概要を聞き目を輝かせたルフィエは、

 「お祭り!? てことは、歌ったり踊ったりできるの!?」

と、今にも掴みかかりそうな勢いで立ち上がった。
元々祭事は大好きな性格である。最近退屈を持て余していただけに、これは騒がずにいられない。

 「いつ!?」
 「えと、……今日?」
 「ウソ!? 急いで準備しないと!」
 「え? 準備?」

491白頭巾:2008/10/25(土) 20:01:02 ID:CRd8ZrdY0
ハロウィンの準備といっても、仮装自体はもう準備してしまっている。飾り付けも古都の警備隊の皆々様がほとんど終わらせて、後は噴水付近の飾り付けのみとなっていたはず。
三日間も某邸宅で研究に付き合わされたというルフィエ(なんだかよく分からないが[エリクシル]という宝石の研究らしい)は、このタイミングになるまで解放してくれなかった少年に恨みの念を飛ばす。
仮装姿で町を散策するだけでも十分以上に楽しく、子供たちにとっては騒いでお菓子をもらってというオイシイお祭りなわけなのだが、
どうやら、ルフィエの方は仮装だけでは物足りないらしい。残ったケーキを目にも止まらぬ速度で平らげ、勢いよく立ちあがる。
ぐらりと揺れたお皿タワーが無残に崩れ落ちる光景をバックに、ルフィエは真剣そのものの表情でごしゅじんさまに言う。

 「メリィ、行こう!」
 「え――今から!?」
 「今から!!!」

頓狂な声を上げたごしゅじんさまの手を取り、片手で器用に財布から金貨を取り出して机に置く。ちなみにお亡くなりになられた50枚ほどの皿、その弁償代はもちろん含まれていない。
なんだか怖いルフィエに何か嫌な予感が過ったごしゅじんさまだが、残念ながら今のルフィエは誰にも止められそうになかった。




僕はふぁみりあいーえっくす! お肌がこんがり焼ける夏も終わって、食べ物のおいしい秋の到来!
食欲の秋、すぽーつの秋、読書の秋、あきまつりにうんどーかい、他にもたっくさんの楽しいいべんとがある秋だよー!
そんなわけで暇をもてあましたいけめんさん一行は、みんなでいけめんさんのお友達、つんでれさんのおうちに来てるよ!
数えきれないくらいたくさんお部屋がある、町でいちばんの大豪邸。こんなに広いお家を、つんでれさんはまだいくつも持ってるんだって!
今日は、いつも一緒のごしゅじんさまはどじっこさんとお出かけ中。れでぃー同士の大事なしょっぴんぐらしくて、僕はここでお留守番。

 「……あの、すっごく気が散るんですけど」
 「いいじゃないの。減るものじゃなし」
 「ちくしょう……うちのギルホが100つは入るくらいでけぇ……ちくしょう、市場のクッキーの100倍はうめぇ……」
 「どうせ部屋は余りまくってるわけだし……ていうか6人家族でこの広さは嫉ましい」

ぎるどのみんなが座ってもゆとりがある広いてーぶるで、ちぇすっていう遊びをしてるいけめんさんとつんでれさん。
おねぇさまとごきぶりさんはそれをじっと見ながら、ときどき「何やってんの」とつっこみを入れてる。
ごしゅじんさま情報だと、いけめんさん、ちぇすはぎるどの皆のなかで一番強いんだって。でも黒いのと白いのを交互に動かしてるだけで、つんでれさんと比べてどっちが強いのかはよくわかんないや。
はんらさんは、めいどさんが焼いたくっきーを食べながら涙を流してる。よっぽどおいしいのかな? そういえば、つんでれさんちにはお料理上手のめいどさんがにひゃくにんはいるらしいよ。
はんらさんが泣いてしまうほどおいしいくっきー。僕もひとつ食べてみたいけど、手が短くてとどかない……はんらさんお皿を自分の方に寄せすぎー!
それを見たつんでれさんがくっきーを取って、僕に渡してくれた。口では迷惑そうにしてるけど、中身はきっと優しい人なんだと思う。
こういう人のことを社会ではつんでれって言うんだって。普段つんつんしてるけどたまにでれる人のことなんだって。やっぱりよくわかんないや。

 「……そういえば、ジョスの妹さんはどうしました?」

ざっとみんなの顔を見まわしてから口を開いたつんでれさん。じょすっていうのは、いけめんさんのあだ名らしいよ。どじっこさん考案!
つんでれさんに言われてやっと気付いたみたいないけめんさん。いけめんさんもめんばーの顔を見まわして、うーんと首を傾げる。

492白頭巾:2008/10/25(土) 20:01:35 ID:CRd8ZrdY0
 「どうしたんだろうね……この部屋の前まで一緒に来たはずだけど」
 「チェック」
 「な!?」

つんでれさんの一声でぎょっとしたいけめんさん。ちぇっくっていうのはよく分からないけど、いけめんさんはどうやら負けそうなみたい。
途端にびしっとみけんにしわが寄ったおねぇさまはいけめんさんの頭をたたきながらやじを飛ばす。そんなに負けたくないのかな。

 「マスター頑張りなさい!、負けたら罰ゲームよ!!」
 「な、ちょっとストップ! ネルさんほんとに強いんですって!!」
 「言い訳はよくないぜ〜」
 「ケーキやばい……このケーキやばい〜……ぐすっ……」

おねぇさまにぺなるてぃーを付けられちゃったいけめんさん。髪をかき上げるのはいらいらしたり焦ったりしてる印!
でも今日の僕はつんでれさんの味方。僕はくっきーいちまいで買収されてしまいました。だけどつんでれさんはひざにだって乗せてくれるから僕も満足。



   「たっだいまー!!」
   「つ、疲れた……」

そんなこんなしてると、門の方から大きな声が聞こえてくる。ごしゅじんさまとどじっこさんが帰ってきたのかな?
僕をだっこしたまま椅子から立ち上がって、窓に歩いていくつんでれさん。
いけめんさんはおねぇさまとごきぶりさんから罵倒の嵐。はんらさんは号泣中。

窓から見下ろすと、目に入ったのは玄関まで歩いてくるごしゅじんさまとどじっこさん。なんでか分からないけど何かを目いっぱい積んだ台車を引きずってこっちに来るよ?

 「迎えに降りましょうか」

僕の方を見てにっこりするつんでれさん。僕がそわそわしてたのが分かっちゃったのな?




 「……これ、は……」

一階の広間に出た僕とつんでれさんが見たのは、扉の前にたくさん、たくさん、たっくさん積まれたかぼちゃ。
どれも僕の背の高さくらいはある大きなかぼちゃが、ごろごろ転がってる。

 「えへ、買っちゃった。全部」
 「え、えと、一応私は反対したんですよ? えっと、でもやっぱりこういうお祭りは盛大にしないとって――」
 「…………パンプキンジュースが何リットル作れるでしょうね。この代金はルフィエのお小遣いから差っ引いておきましょう」

眉をぴくぴくさせて、でも爆発しなかったつんでれさん……でもやっぱりお仕置きはしっかりするみたい。
ファミちゃんー! って駆け寄ってくるごしゅじんさまに手を振って、肩車してくれてたつんでれさんからぴょんと降りる。
ぎゅっと抱きしめてくれるごしゅじんさまにしがみついて、僕はかぼちゃの山をもう一回見やる。
きっと今日は、すごく楽しいことが起きる気がする!




みんながいるお部屋に戻ったつんでれさんとばいばいして、僕はごしゅじんさまとどじっこさんについていく。
二人ともなんだがそわそわしてて、心なしか盛り上がってるような気がする。ごしゅじんさまが鼻歌なんて歌ってるもん。

 「――じゃあ、私王子様やるね?」
 「お、王子様……? お姫様じゃないの?」

お部屋に入って陽気に笑うふたり。いつもより二割増楽しそうに見えるごしゅじんさまを見て、やっぱりお祭りってすごいんだなと思う。
ふたりが服を脱ぎだしたのを見て、あわてて目を隠す。えっちぃのはダメだよ!
可愛いー!って言いながら抱きついてくるどじっこさんにも負けない。お着替えしーんは覗かないお約束。

 「でもドラキュラの仮装かぁ……普段からミイラとか亜人を見てると、面白味がないのも否めないよね」

なんだかすごいことを言いながらがさがさと着替えるどじっこさん。
ふだんどじっこさんはつんでれさんと一緒に世界中を旅してまわってるんだって。

 「……ま、まぁ、ネリエルさんもきっとびっくりすると思うよ? なんならこっち着てもいいけど――」
 「ううん、王子様はたぶん柄じゃないと思うし」

本格的にがさがさっていう布がこすれる音がしてくる。どじっこさんに抱きつかれそうな僕はあわててお部屋から逃げ出した。

493白頭巾:2008/10/25(土) 20:02:15 ID:CRd8ZrdY0
お部屋の扉を開けると、いけめんさんとつんでれさんのちぇすはまだ決着がついてなかった。
他の三人がいないのを見ると、きっとおじょうさまを探しにいったのかな?

 「ん、おかえり」

と、僕を見付けてにっこりするつんでれさん。いけめんさんはちぇす盤を唸りながら睨みつけていた。
僕をおひざに載せて、分厚い紙の束を取り出したつんでれさん。貴族ってやっぱり忙しいのかな?

 「全く、あんな量のカボチャをどうするつもりでしょうね」
 「カボチャ?」
 「ルフィエとメリィが買ってきたんですよ。キャンドル用に」

いらいらしながら駒を動かすつんでれさん。どんどんつんでれさんが押しているのは、ちぇす盤の白と黒の数で僕にだってわかるよ!
いけめんさんは、おねぇさまの悪魔の罰げーむをなんとか阻止しようと半分やけになってるみたい。

 「……ネールくん?」

と、いつの間にかお部屋に入ってたどじっこさんがてーぶるに駆け寄る。いつ来たんだろう、まるで忍者だよどじっこさん。

 「何ですか、ルフィエ」

そんなどじっこさんにも全く全然驚いたそぶりも見せずに、つんでれさんはどじっこさんの声に適当に答える。
そんなつんでれさんの次の手を待ち受けていたいけめんさんが、つんでれさんの背後を見て、止まった。

 「……ルフィエ、さん?」

いけめんさんの表情と声に眉を細めたつんでれさんは、はあと溜息を吐いて体を曲げる。

 「ジョス、何驚いてるんですか。ルフィエなんか全然珍しくも何とも――」

   かぷ

 「痛ッ!?」

突然つんでれさんに噛みついたどじっこさん。これにはいけめんさんが顔をまっかにした。
何するんですか、とうめきながら振り向いたつんでれさん。でも、その体はいけめんさんと同じくぴったり止まっちゃう。

 「…………ルフィエ、ですよね?」

つんでれさんも、どじっこさんの豹変っぷりにびっくりしてる。
だって、綺麗な栗色の髪がましゅまろみたく真っ白になってるんだよ?
しかも無理やりかみのけを固めたみたいで、明後日の方向を向いてあちこちに逆立ってた。このお屋敷にいるシーフさん、ふくめんさんみたいだね!
服装もいつものわんぴーすじゃなくて、おとぎ話に出てくるどらきゅらみたいな、外側が黒に内側が赤っていう、派手なまんとを纏って立ってる。
僕にも負けないくらい尖った歯をがー、と見せて、どじっこさんはにっこりと笑う。
ほっぺに伝うつんでれさんの血がちょっぴりえっちぃ。

 「血、吸っちゃうぞ?」
 「まずその馬鹿げた格好を止めなさい」

でも、つんどらみたくクールなつんでれさんには効かなかった。つんでれさん改めつんどらさん。

494白頭巾:2008/10/25(土) 20:02:47 ID:CRd8ZrdY0
 「全く……」

リアルに噛まれた首を摩りながら、ネルはナイトの駒を動かす(いけめんさんがギョッとしたのは見て見ぬふり)。
それを楽しそうに眺めるルフィエに溜息を吐き、その真っ白な頭を指した。

 「それ、どうしたんですか?」
 「カツラだよ?」
 「ですよねえ」

そう言いながら視界を戻したネル。ルフィエはネルの背中にしなだれかかり、ふぁみたんの腕をばんざーいしている。
ネルとしてはチェス+書類という二つの難敵を相手にしてこの荷物はかなり邪魔なのだが、今日は御法度ととりえあえずしておく(カボチャは別ですけどね)。

 「マースタっ」

と、今度はいけめんさんの後ろから突然金髪の少女が飛び付いた。
その少女を見やったネルが書類の束をバッサーと落とし、ふぁみたんは顔を赤らめる。ルフィエは勝ち誇った表情。何故。
突然背中に受けた衝撃に手に持ったポーンを落としそうになったいけめんさんは、しかしなんとか踏みとどまって何事か振り向いた、

が、今度こそ手に持ったポーンを取り落とした。


王子様がいる。
長いブロンドの髪を三つ編みにし、頭の天辺にちっちゃな王冠をのっけた王子様が。
可愛いー、と目を輝かせるルフィエとキャッと顔を赤らめるふぁみたんに微笑みながら、メリィことごしゅじんさまはいけめんさんに笑いかける。

 「似合ってるでしょっ」

凄い勢いで頷くふぁみたんとは対照的に、赤面したまま固まるいけめんさん。
その反応にご満悦な様子のごしゅじんさまは、"予定通り"ルフィエへと駆け寄った。

 「ルフィエ姫!!」
 「ああ、メリィ王子!」

ごしゅじんさまが叫んだ瞬間、突然立ち上がるルフィエ。
いきなり手を離されたふぁみたんがネルの膝にボテッと落ち、唖然としながらネルはそのやりとりを見やる。

 「迎えにきたよ、私のプリンセス……」
 「王子……あなたがいない夜、私はどれだけ脅えて過ごしたか……」

吐息も触れ合う距離で言葉を交すルフィエとメリィに、いけめんさんは真っ赤になりながらあわあわする。
ちなみに、キャッとしているふぁみたんは既にネルが目隠し済みだ。返す手で慌てるいけめんさんにトドメの一手を打たんとビショップを取る。

 「もう離さないよ、私のルフィエ――」
 「もちろんですわ、王子――」

顔が近い!と手をぶんぶんさせるいけめんさん。ふぁみたんに至っては交される声だけでクラクラしてしまっている。
と、そんな中で。

 「チェックメイト」
 「なっっ!!?」

空気と化したネルが勝利を納め、いけめんさんの罰ゲームが確定した。




 「フェンリル――――っっっ!!!」

勝負が決まった直後、突如開かれた部屋の扉。
バァン、という音に目を白黒させた四人(+一匹)は、同時に部屋に飛び込んできた女性に目を白黒させた。
巫女さんだ。巫女さんがいる。
白と紅の巫女服を着、長い艶やかな黒髪を編んだ巫女さんが、突如部屋に飛び込んできたのだ。
その巫女さんは泣いているのか怒っているのか分からないが、とにかく真赤になった顔でネルへとしがみつく。ふぁみたんびっくり、四人は唖然。

 「フェンリルぅ……頼む、あのお転婆娘をなんとか止め……」
 「……カリン?」

泣きじゃくる声に聞き覚えのあったネルが恐る恐る聞き、巫女さんがこくりと頷く。
これには今度はルフィエがびっくり。あの、いつも鎧+マントの暑苦しいカリンが。
よりによって、一部の層にしか需要のない東方の神官服などを着て。
クールなイメージを叩き割ってしまうほど泣き崩れた顔をしている。

 「逃がさないんだからっ!!」

数秒遅れて、部屋へと飛び入りセミロングの髪を払うプリンセス。
一同はポカンとしながら、カリンと少女を交互に見つめていた。

495白頭巾:2008/10/25(土) 20:03:10 ID:CRd8ZrdY0
お部屋に突然飛込んできた、白と赤の女の人。
つんでれさんの反応からしてお友達みたい。そのお友達のこうはくさん(仮)は、同じく飛び込んできたおじょうさまから逃げるように机の後ろにさっと回る。
一体何事ですか、って渋いお顔をするつんでれさんは、ぐるると唸るおじょうさまに首を傾げた。

 「どうしたんです? カリンが何かしましたか?」
 「私は被害者だ!!!」

つんでれさんにぜろこんまさんびょうで反応したこうはくさん。目にうるうる涙を浮かべてるのはちょっと可愛そう。
どうしたんだろうかな? おじょうさまにあだ名を付けられて泣いちゃったのかな?
どじっこさんはこうはくさんを見て「きゃー、巫女さんだーv」ってぎゅっとし始めた。「ぎゅっ」の怖さを知ってる僕はつんでれさんの膝から動くまいと決めた。

 「あーもー、とりあえずルフィエはカリンから離れる。カリンは隣の部屋で着替えてきなさい。ジョス、とりあえず立て込んでるので一旦解散ということで」

こういうときはやっぱり流石なつんでれさん。僕を抱えたままこうはくさんをお部屋からぽいと追い出して、いけめんさんの首根っこを掴んでずるずると引きずっていく。
だけど、この次にもっとつんでれさんをいらいらさせるお客さんが。




   「カリンかっわいいー!!」
   「うぉああッ!!?」


 「…………今度は、何ですか」

お部屋の外から聞こえる、こうはくさんの悲痛な叫び声。
いけめんさんに捕まってぶーぶー言ってたおじょうさま、二人で盛り上がってたごしゅじんさまとどじっこさんもぴったり止まって、とびらの方を凝視。

   「え、なんで巫女服?! 超可愛いー!!」
   「ええい! 離れろ! 褒めるな! 胸を揉むなぁ――ッ!!」

今日いちばんの盛大な溜息を吐いたつんでれさん。お部屋の外にいるのはこうはくさんと……もう一人?
頭を抱えてとびらを開けたつんでれさんは、廊下でもみくちゃになっていたこうはくさんと、黒と白の髪の毛をした女の子の首根っこをむんずと掴む。
ちなみに、僕はとびらをあける前にはもうつんでれさんの頭の上へ避難完了。

 「サーレ……いつゴドムに戻ってきたんです? ていうかその手の動きをまず止めなさい」

つんでれさんに言われてやっとこうはくさんから離れた女の子。お人形さんみたいな顔つきで「昨日!」って言う姿にどじっこさん以外ぽかん。
ぐすっと涙を拭きながらお部屋から退室していったこうはくさんが見えなくなってから、つんでれさんはとびらを閉める。今日はこうはくさんの厄日みたい。

 「全く、いきなり来るなと何度言えば――ああ、紹介が遅れましたね。こっちが「シャーレーン。長いからサーレでいいよ。好きなものはお菓子で嫌いなのはネルぽん!」

ものの五秒で終わっちゃった女の子……もといおにんぎょさんの自己紹介。どじっこさんは苦笑いだけどみんなは頭に「?」を浮かべてる。
天使が通り過ぎた三十秒間の後、つんでれさんはコホンと咳払いをする。

 「三年ほど前に大戦があったでしょう? 敵の総大将のアジトから救出したんです、諸々の事情があって」

さんねんまえっていえば、僕がごしゅじんさまと出会うよりちょっと前の頃かな。
そういえば、そのころはなんだか外が騒がしかったような気がするけど、いまいち覚えてないな……?

 「とりあえず、さっき言ったとおり一旦解散しましょう。解散。ルフィエ、アーティさんを呼びに行ってくれますか?」
 「……あ、う、うん」

なんだかぐだぐだになってしまったお祭り前のつんでれさんち。
なんだかんだで、お祭りの時間は着実に近づいてきてる。

496黒猫:2008/10/25(土) 20:04:05 ID:JLWm9YSQ0

僕はふぁみりあいーえっくs(ry
え、それはさっきもやったって? いや、やらなきゃいけない気がしたんだよね……何でだろう?
まぁ、いいや! 僕は今、秋晴れの古都にいる。あーあー、本日は晴天なり。うんと、何で天気に拘るかって?
今日はね、はろうぃんってお祭の日なんだって! はろうぃんってね、素敵なんだよ!
皆で思い思いの仮装をして、「とりっくおあとりーと!」ってご挨拶。
「悪戯されるか、お菓子を出すか!」って意味なんだって。どっちに転んでも、楽しいよね!
さっきまで大きなお屋敷でお友達と遊んでいたごしゅじんさまも、王子様の仮装中。
一緒にお出かけの皆は先に帰ったんだけど、ごしゅじんさまは僕の仮装衣装が出来たってんで、寄り道こーす。
お店で早速お着替えした僕は、いつもの緑のふーどとまんとじゃなくて、黒いお帽子と黒いまんと。
お手々に持つのも、いつもの槍じゃなくて茶色い箒なんだよ!
よくわかんないけど、魔女さんの格好なんだって。
この格好なら僕も魔法が使えるのかなーって思ったけど、無理だったみたい。
両手を前にうーんって力を込めてみたけど、ふぁいあーぼると一つも出なかったや、しょぼーん。
そんなこんなで不思議な格好の人が溢れてるのは、今日も賑やかな古都噴水前、ふさふさわんこさんの格好のてれぽーたーさんに、ぎるどほーるに転送して貰う。
そこでは、何か地面に正座したいけめんさんと、それを皆が取り囲んでいるという光景が。
僕もごしゅじんさまも、お目々ぱちくり。
取りあえず、心配そうに眺めていたおどりこさんに詳しいお話を聞いてみた。
実はさっきのいけめんさんとつんでれさんのちぇす、豪華でぃなーをかけてたんだって。
豪華でぃなーを一番楽しみにしていたおねーさまは、大層ご立腹。
そふぁーに足を組んで座って、地べたに膝をつくいけめんさんを見下ろしてる。
怒りのおーらは……漫画家さんがお絵描きしたら、おねーさまの背景は網掛け指定なくらいだよ!

「……で、ソコの優男。この落とし前は如何つけるのかしら?」

右手に持った鞭を軽く左手の掌にぺちぺちしながら、おねーさまが詰問する。

「し、仕方がなかったんです! 二人があんな格好でいty」
「言い訳は男らしくないわよ」
いけめんさんの呟きをぴしっと切り捨てたおねーさまの背後の影、当社比で2倍2倍。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

恐怖政治ってこんな事を言うんだろうなあ。人間さんって恐いね。

「下僕一号、例の物を」
「は、はい!」

下僕一号と呼ばれたごきぶりさんが、蒼白な顔でおねーさまの横に傅く。
その手に捧げ持たれたのは、“?”と書かれた四角い箱。

「ロトBOX……?」

そう、伝説のあいてむ、ろとぼっくす!

「中身は違うけどね」

……の空箱だった、ちぇー。

「この中に、面白い罰ゲームを書いた紙をいくつか入れておいたの」

うっとりとした顔で言うおねーさまに、いけめんさんの顔色が白を通り越して青くなっていく。

「あくまでも……私が、“面白い”だけどね」

皆の脳裏には、今までの“おねーさまが楽しがった出来事”が過ぎってるんだろうね。
ごきぶりさんとはんらさんが、同情の眼差しをいけめんさんに送る。

「一つ、引いてくれるかしら? てゆーか、引け」

満面の笑顔で箱を差し出されたいけめんさんに、おじょうさまの応援が飛ぶ。

「おにーちゃん、がんば!」
「妹よ、今生の別れになるかもしれないおにーちゃんを許してくれ……南無」

ままよ、と突っ込まれたいけめんさんの右手が掴んだのは――。

「……はーい、発表しまーす」

紙を見て真っ白になったいけめんさんの手から紙を奪い取ったおねーさまが、うきうきと言った。

「『服はゴスロリ、頭にウサ耳、語尾は「ぴょん☆」で一日過ごす』でしたー」

うふふ、大当たり引いたわねーとご機嫌のおねーさまとは裏腹に、男性陣は涙を流していけめんさんから目を逸らした。
我に返ったいけめんさんは、引きつった笑顔を浮かべて後ずさる。

「に、似合いませんから……ね?」
「罰ゲームは罰ゲーム、でしょ? さっさと着ないと全裸に引ん剥くわよ!」
「わ、わかりましたから!」

おねーさまにうぃずだむかばーを剥ぎ取られたいけめんさんは、とぼとぼと更衣室へと向かった。

497黒猫:2008/10/25(土) 20:05:58 ID:JLWm9YSQ0
――数分後。
落ち着かなさそうに皆の前に引っ立てられたいけめんさんなんだけど……顔はいいし細いから、無駄に似合っているのが可哀想。

「……本当に一日この格好でいるんですか?」

すかーとがすーすーするのかもじもじする姿に、真っ赤な顔のごきぶりさんが「反則だろ……」と目を逸らした。
やったね、いけめんさん……可愛いもの好きのごきぶりさんをのっくあうとだなんて本物だよ!
満足げに頷いたおねーさまは、たった一単語を肯定代わりに口にした。

「語尾」
「……え?」

嫌なものを思い出した、という風に顔を顰めるいけめんさんに、畳み掛ける。

「語尾は何?」
「う……」

右へ左へ、いけめんさんの目が泳ぐ。

「……男に二言はないわよね?」
「わ、わかりました……ぴょん☆」

よく出来ました、とほくそ笑むおねーさまの前でいけめんさんは泣き崩れた。

「うぅ、色々大事なものをなくした気がします……ぴょん」

そんないけめんさんに合わせて、ふわふわのうさ耳もしょんぼり垂れてる。

「うさちゃんマスタ、可愛いーv」

めそめそ泣くいけめんさんの肩をぽんと叩いたごしゅじんさまの言葉は、振り向いた泣きべそ顔の幼馴染にさっくりととどめを刺した。






―― 一方その頃、古都警備隊の執務室に佇む二人の男女へと話は移る。
それは、先の大戦で活躍した英雄の内の二人。
二人の名は、[蒼き傭兵]アーティ=ベネルツァーと、[白の魔術師]カリアス=ハイローム。
アーティはソファーで悠々と寛ぎ、カリアスは手に布を持ったまま固まっている。……何やら、何処かで見たような光景に近い。
漸く硬直から脱したカリアスは、掠れた声で恐る恐るアーティへと声を掛ける。

「あ、アーティはん?」
「ん?」
「これ、何やの?」

これ――即ち、「着なさい」と渡された女物の衣装を指差しながら、引きつった笑顔のカリアスが訊く。

「何って、メイド服とネコ耳だけど?」

嗚呼、そんなことは痛いくらいにわかっている。聞きたいのは、思わず口から漏れた「何でこないな物を着れと……」という事で。
しかし、その言葉と同時に、辺りの気温が5度は下がった。冷気の出所は、ソファーからゆらりと立ち上がったアーティだ。

「……私のフランテル一周旅行計画を失敗させたのは誰?」

恐らく、先日の優勝賞品フランテル一周旅行の我慢大会に出場して準優勝に終わった事を言われているのだろう。
その我慢大会、カリアスに一言も断らずに勝手に申し込んだのはアーティであり、氷付けやら火達磨やら感電やらが恐かったカリアスが泣く泣く出場して必死に頑張った準優勝の賞品も勿論、カリアスが手にする事はないままアーティに持っていかれている。
因みに、準優勝の賞品はメインクエストでも御馴染みのネイブ滝産高級蜂蜜一年分。
健康や美容にいいと女性に大人気らしい。

「全く、根性ないんだから……普通あれくらいで失神する?」

並み居る屈強な挑戦者の中、荒事向けでないこの細い身体で頑張ったというのに。
もっと詳しく言えば、灼熱の優勝決定戦で脱水から失神するまで頑張ったというのに。
いくら何でも、これは酷い。……まぁ、こんな扱いも今に始まった事ではないのだが。

498黒猫:2008/10/25(土) 20:06:38 ID:JLWm9YSQ0
「そないなこと言うなら、アーティはんが出ればよかったやん」

無駄だと知りつつも思わずぼやいた言葉に、片眉を上げたアーティはただ冷たく返すだけ。

「か弱い女性にあんな酷い事やらせる気?」

そんな酷い事を他人にやらせたんは誰や! そう言いたくても、言えやしないのだ。
いくら[英雄]だの[最速の魔術師]だの[ブルンの守護神]だの持て囃されようとも、この同僚にして最恐の相方アーティ相手では、カリアスは所詮ヘタレなのだ。
ヘタレカリアス、略してヘタリアス。此処、試験に出るよ(何の)

「アーティはんは、か弱くなんて……」

それでも、ついうっかり本音が出たのは、無意識の反抗だったのだろうか。

「……何?」

アーティの周りの空気が、パチッと電気を放った気がした――いや、恐らく気の所為なんかじゃない。

「ごめんなさい堪忍してホンマ許してや」

アーティの満面の笑みに、慌てて謝罪を重ねるカリアス。
嗚呼、口は災いの元。
項垂れるカリアスの目の前に立つアーティの腕に、窓から入ってきた白い鳩が止まる。
その足には、手紙が括りつけられていた。
その手紙に目を通しながら、投げやりにアーティが追撃する。

「そうね……謝罪ついでに、今日は語尾に『にゃん♪』でもつけとくといいわ」

何たる屈辱。されど、逆らう事は即ち――死を意味する。

(あかん……命あってのものだねや……)

カリアスはメイド服とネコ耳を手に、心の中で男泣き。
そんなカリアスに、トドメとばかりにアーティが更なる追い討ちをかけた。

「あ、着替え終わったら、[影狼]の屋敷にこの手紙の返事と荷物を届けてきて」

示されたのは、床に無造作に置かれた重そうな荷物。確かに、鳩に括りつけて飛ばせないだろう。
いや、そんなことより何よりも。

「この格好でネルはん達と会えって言うん!?」

アーティは自分に何か恨みでもあるのだろうか――今回の我慢大会の件以外で。
カリアスの脳裏に、知り合いのファミテイマの少女メリィの言葉が過ぎった。

   「アーティお姉様のカリアスさんへの態度は、きっと……ツンデレね、ツンデレ!」

それはない、断じてない、あったら恐い。むしろ、何かもう勘弁して下さい。

「罰ゲームなんだから、行けって言ったら行きなさい。丁度ハロウィンだから目立たないわよ」

そんな問題なのだろうか――いや、違う。否定疑問文が脳裏に浮かんでは消えた。
いつまでも動かないカリアスに業を煮やしたアーティが、カリアスの目前に指を突きつけて言った。

「いい加減にしないと、一ヶ月間その格好と語尾させるわよ!」
「ほな殺生な!?」

鬼の如きアーティの言葉を受けたカリアスの悲鳴が、古都の秋の空に響いた。




秋晴れの空の下、とぼとぼ歩くゴスロリ魔術師。
あの角を曲がれば、後は遠目でも見える広大な目的地まで真っ直ぐの道程だ。
知り合いにこの姿を見られたくない一心で自然と早くなる足取りのまま角を曲がると、向こうから来た人とぶつかりそうになった。

「おっと、失礼……え?」
「いや、こっちこそ……ん?」

よーく見ると、知り合いにそっくりのような……目の前にいるネコ耳仮装の美人な女性は、まさか?

「カリアス……さん?」
「その声はまさか……ジョスはん?」

かくして、古都の中心でネコ耳男子とウサ耳男子は邂逅した。

499黒猫:2008/10/25(土) 20:07:40 ID:JLWm9YSQ0
――ウサ耳とネコ耳、この二人は同じく魔術師である為、それなりに面識も交流もあった。
高名なカリアス程ではないが、ジョスもまたそれなりには有名なのだ。
因みに、ジョスとは幼馴染のテイマのPにいけめんさんと呼ばれている魔術師の偽名兼通称だ。
生まれの所為で本名を名乗ると非常に面倒な事になるので、基本的に偽名で通している。

まぁ、ソレはまた別の話――。
「な、なんでそないな格好してはるん……」
「か、カリアスさんこそ如何して……ぎゃぼー」

イキナリ奇声と共に耳を押さえて蹲るウサ耳の魔術師。
まるで耳メテオでも喰らったような――仲間、いや、仲魔から、実際に喰らっているのだが。

「そんなに語尾語尾って耳メテオしなくても、ちゃんと語尾につけますぴょん!」

ヤケクソで叫び涙目の魔術師の姿は何故か自分を見ているようで、
カリアスは遣る瀬無く目を逸らした。
と、そのカリアスの目前を一本の槍が高速で飛んでいき、奥の民家の壁にめり込んだ。
本体とオサラバした前髪が数本、名残惜しげに宙を舞う。
ばちっと電気を放ちながらも反動でみょんみょん揺れるその槍は――とてもとてーも、むしろ嫌と言う程、見慣れた槍で。
衝撃に驚いて飛び出して来た不幸な民家の住人が、槍に括られた文を見て震え上がった。
「ぶ、ブルンの[蒼い悪魔]の筆跡……!」
[ブルンの守護神]が護るべき住人に怯えられて如何する。
恐怖に腰を抜かした住人の手から零れ落ちた紙は、空気を読んだ風に吹かれてカリアスの足元へと。
そこには簡潔に、「語尾、つけてるわよね?」と書いてあった。

「イエス、アイ、マム……にゃん」

背筋に冷たい汗が流れるのを感じたまま、直立不動のカリアスは呟く。
何とも言えない目でコチラを見ているウサ耳魔術師と目が合ったネコ耳魔術師は、お互いに肩を落とした。



仮装した市民でごった返す古都を、気を取り直したウサ耳とネコ耳が歩く。
二人ともなまじ顔がよいだけに、哀しいかな、目立っていた。
「今から諸悪の根源、ネルさんのお宅にお届け物に……ぴょん。

 いや、勝負に負けたのは私の所為なので、他人の所為にしてはいけないのですが……ぴょん」
「そっちもネルはんとこなんかいな……にゃん」
「はい、チェス勝負の罰ゲーム、ネルさんのお宅でフルコースを作成……ですぴょん」

――実はこのウサ耳魔術師、何故か古都の主婦に人気の魔術師ギルド機関紙『月刊ウィザード・増刊号』の『今の時代は料理が出来る男がモテる! 料理が美味い“イケメン☆魔術師”大特集』で紹介されていた事がある程の料理の腕前だ。
本人は真面目な記事だからと騙されて取材されたと嘆いていたのは、また別の話だが――。




――その頃、物陰では。
僕、ふぁみりあいーえっくすと愉快な仲間達……ごめんね、一回言ってみたかったんだ。
えっと、いけめんさんのぎるどめんばーが覗き見中。

「ふふ、ふふふ……」

先頭に立って覗くおねーさまは、大変ご満悦なご様子。かぎのついた尻尾がご機嫌にゆらゆら揺れてる。
その背後には、僕を抱き上げるごしゅじんさまと、僕のほっぺをつんつくするおじょうさま。おじょうさまは笑いを堪えるのに必死。

「ぷくくくく、白い人ってばネコさんになってる、ぷくくくく」

まっしろさんとおじょうさまの初対面の時、第一印象からおじょうさまが「驚きの白さだから、洗剤さん!」とのたまったのを思い出して、僕は噴き出しそうになった。
流石に、いけめんさんに全力で止められて結局落ち着いたのは、白い人。
他にも、ごきぶりさんの渾名の「カラスみたいだから、かーくん」と対の「白鳥みたいだから、はーくん」とか「郵便食べちゃう、白ヤギさん」とか「お好み焼きをオカズにご飯食べれるから、ご飯さん」とか「真っ白で清純なふりふりエプロン、新妻さん」とか「じゃぁもういっそ、チョークさん」って案もあったみたい。……どれも大概失礼だよね。
そんなおじょうさま、「れっつ、光合成ー!」とか言いながら、
僕に如雨露でお水かけてきた事もあったっけ……理由は「緑いから」だった筈。
緑=植物さんだったら、風属性攻撃武器も光合成出来るって理屈になっちゃうのになぁ。
物思いに耽る僕を現実に戻す、おねーさまの声。

「ふふ、このまま順調だと面白くないから〜♪」

パチンと指を鳴らしたおねーさまの前に、何処からともなく現れた子ども達が並ぶ。

「行くのよ、第一特殊部隊!」

びしっと指を指した先には、いけめんさんとまっしろさんの後姿。
おねーさまによる嫌がらせ第一弾、子どもの素直さ攻撃作戦開始だ!

500黒猫:2008/10/25(土) 20:08:11 ID:JLWm9YSQ0
――その一方、何も知らない魔術師ーズは。

「で、特化型ヘイストと通常型ヘイストの魔術展開時の魔力分布は――」
「成る程、その差異により通常ルートとは違う魔術回路が派生して――」

……学術的論議に夢中になっていた。
此処が魔術師ギルドの研究室だったなら、二人の格好がマトモだったなら……すれ違う人々がこんなに奇異の目を向けなかっただろうに。
そんな二人の前に、小さな影が立ちはだかり、一斉に声を上げた。

「わー、ねこさんだー!」
「きゃー、こっちはうさぎさんだー!」
「「かわいいー!!!!」」

大の大人、しかも男性が、女装に動物耳で可愛いと言われてグサグサこない筈はない。
忘れていた現実が再び襲い掛かり、二人を苦しめる。

「う、うあわぁぁぁぁ、可愛くありませんぴょぉぉぉん」
「ひぃぃぃぃ、堪忍してぇにゃぁぁぁん」

上がる悲鳴も何のその。

「ぴょんだって! かわいーぴょん!」
「にゃんだって! かわいーにゃん!」

無邪気に言われれば言われる程、追い詰められる二人。

「こうなったら、あれです……ぴょん」
「こうなったら、あれやな……にゃん」
「「……三十六計、逃げるに如かずーぴょん(にゃん)!!」」

子どもを振り切るように、賑わう古都を全力疾走する二人の魔術師。
その背には、カリアス謹製の移動速度特化型ヘイスト×二人前……非常に、大人げない。
恐ろしいまでの速度はまるで風のようで……不幸にも遭遇した通行人や露天商が驚きの声を上げる。
古都を駆け抜ける“風”は、まっすぐにヴァリオルド邸を目指していた――。

501白頭巾:2008/10/25(土) 20:08:54 ID:CRd8ZrdY0
ところ変わって、古都ブルン。

 「はいやぁッ!!」

普段は静かな南東区――そこから、凄まじい量の雷撃が空へと立ち上がった。
見間違えようのない、青と青の雷撃――アーティの放つ[ライトニングジャベリン]。
町行く人々は「またか」と唸り、商店の主たちは慌てて店じまいの準備を始める。
一週間に一度は見られるブルン名物[ジャベリン昇り]。アーティがカリアスに対して事あるごとに放ち、毎週町に甚大な被害をもたらすこの一撃は、
しかし、今日はさらにタチが悪かった。

 「ゼッッッタイ逃がさないんだから!」

次いで天に打ち上がった、目も眩むような金色の閃光。
アーティのライトニングジャベリンにも劣らないその閃光の正体は、やっぱりというかルフィエの得意術たる[スーパーノヴァ]verカステア。
それをぶっ放った張本人たるルフィエは、しかし命中しなかったのを見るや否や。

 「ッスゥ――……せいやぁっ!!」

特大の光弾を、視線の先にある"エモノ" へと放った。
が、そのエモノ――否、アーティも返す手で雷撃を放ち、ルフィエの放った光弾を軽々と打ち破った。
その、アーティが雷撃を産み出すのに費やした時間をルフィエは逃さない。即座に軽いステップを刻み彼女へと飛び掛った。
その、見る者たちを魅了してしまうほど見事な戦い。しかし、当人たちには余裕の欠片もなかった。

 「ゼッタイ着てもらうんだから、フリフリドレス!!」
 「着ないわよ! 私はあのバカの監視……じゃなくて、パトロールに忙しいのよッッ!!」
 「パトロールなんて一度もしたことないじゃない!」
 「なっ……私だってたまにはするわよ!」
 「毎日しなよ!!!」

この会話が交わされている間にも、数十本の雷の矢、数十発の光弾が双方の間を飛び交っている。なんとも荒々しい口喧嘩である。



事の始まりは数十分前。
いけめんさんの狼狽っぷりを見てご満悦なルフィエは、吸血鬼のコスプレをしたままの姿で町へと繰り出した。
さすがはお祭り数時間前といったところか。町中の人々が様々な仮装をし、街灯もパンプキンヘッド風にアレンジされている。
仮装する人々の中には仮面を付け、紅色のローブを被った少年の姿も見受けられる。恐らく大戦での[紫電狼]をモチーフにしているのだろう。
自分が直接戦闘に関わった回数は少ないので英雄に見られることもないが、「ネリエル」「アーティ」「カリアス」の三人の名は、ブルン中に知れ渡っていた。
三人が三人ともそれで天狗にはなったりしない性格だったため、特に前までの生活とは大差ないが。むしろ大戦が終結し、根強く残っていた差別意識が薄れてきているのは本当に良かった。
最も、差別意識が薄れたのは彼女と、今はここにいないもう一人のリトルウィッチが三年間、古都の復興に尽力し続けた故の成果なのだが。

やはりお祭り前の雰囲気とは、体中がムズムズしてしまうほど感情が昂ってくる。
その内「みwなwぎwっwてwきwたwww」とか言い出しかねないルフィエは、だが既に先ほどウルフマン姿のホールテレポーターにハグを食らわせ、町中に星型の紙吹雪を降らせていた。
大戦で英雄となった三人とは違い、ルフィエは祭事に現れては騒動を起こす、古都の名物のようなものにすらなっていた。

502白頭巾:2008/10/25(土) 20:09:16 ID:CRd8ZrdY0
と、

 「あれ」

町を行き交う仮装姿の人々たちの合間、アイテム商店の陰に自分の見慣れた姿を見かける。
青い髪に、細身で丁寧に手入れが施された意匠の槍を携えた女性――アーティ=ベネルツァー。
アーティさん、こんなとこで何やってるんだろう。もしかしてパトロール?
……ナイナイ、アーティさんがパトロールなんて、天地が三回転くらいしないとありえないんだから。
とりあえず直接聞いてみよう、と歩み寄ろうとしたルフィエは、
しかしその視界の端に、二人の女性を捉えた。

 (……あれ、あの二人)

遠くから故よく見えないが、一人は白と黒でデザインされた――いわゆるゴスロリ服に、ウサミミを付けた女性。
もう一人は、自分もヴァリオルド邸で給仕の練習をする際(ヴァリオルドのメイド達は自分より家事炊事が忌々しいくらい上手かった)に着るメイド服に、ネコミミをつけた女性。
ゴスロリの方はともかく、メイドの方はヴァリオルドのメイド服を着用していた。もしかしてネルが使いでも出したのだろうか。しかしネコミミ……?
と、
その二人が、突然無数の子供たちに囲まれる。子どもたちの無邪気な声に、しかしなぜか二人の女性は苦悶の表情を浮かべ、

 「――!」

一瞬後、凄まじい速度で明後日の方向へ飛び去ってしまった。
だがルフィエは、今の光景で理解した。どうしてアーティがあんなところにいいるのか。
視線を流せば、"やはり"アーティも慌てて商店の影から飛び出した。これは間違いない。
 (尾けてるんだ、アーティさん)
フフと(なぜか頬を染めながら)アーティへと忍び寄り、マペットの力で気配を洩らさないよう細心の注意を払いながら、

 「アーティーさぁ〜ん」

マペットの力を解いた瞬間、アーティへとしなだれかかった。
突然これをやられて、驚かない相手はいない。ネル相手に行ったときも、半時間口をきいてくれなくなったほど驚いていた。
これをやった後ネルとマペット、二人のカタブツにきつーいお説教を食らったわけだが、そんなことはどこ吹く風、全く反省していないルフィエである。
しかも、今度はネルのときのように抱きつくだけではない――「耳にふっと息を吹きかけ甘噛みする」というおまけつきである。反省しないどころか悪化している。
案の定、「はひゃわっ!?」という普段は絶対に聞けないような可愛い声を出し、アーティが地面に突っ伏す。ルフィエもろとも。

 「尾行はヨクナイですよ〜、アーティさぁん?」
 「そ、その声……ルフィエね? いったいこんなとこで何やってんのよ!」

最初こそその服装と髪にキョトンとしたアーティも、しかしすぐに我に戻って立ち上がる。首に手を回しているルフィエも引きずられるように立ち上がった。
そこでようやくアーティから離れたルフィエは、しかし人差し指を唇に当てて微笑む。

 「カリアスさんの後を尾けて、何か楽しいことがありますか?」
 「っな――バカなこと言うんじゃないわ。私はパトロールをしてるのよ、パ・ト・ロ・オ・ル!」
 「ふぅん……そういうことにしておいてあげるっ」

びし、とルフィエの言葉に青筋を走らせたアーティ。
だがそんなものは見えていないルフィエは、クルリとその場で一周回転し、言った。

 「アーティさん、たまには素直になってドレスとか、着てみたらどうですか?」

503白頭巾:2008/10/25(土) 20:09:39 ID:CRd8ZrdY0
その後、拒否し続けるアーティにだんだん意地になっていくルフィエ。
アーティの方もいきなり「お姫様のコスプレしろ」などと言われてはたまったものではない。
最終的にキレたアーティが雷撃をぶっ放ち、以下略。
古都の復興を誰よりも喜んでいたルフィエと、古都の平和を守る立場であるはずのアーティ。
その二人が古都を舞台に激闘を繰り広げるとは、なんとも馬鹿げた話である。

 「とーまーれー!!」

ひょいひょいと屋根から屋根へと飛び移るアーティに向かって、ルフィエは叫びつつ両の手を翳す。
一瞬後、これでもかと言うほど大量の光弾を彼女に向けてぶっ放ち、自身は遥か上空へと打ち上がった。
自分へと迫り来る光弾の数々。アーティは後ろを振り返ってそれを確認するや否や、

 「ッはいやぁー!!」

彼女の誇る細身の槍――レヴァンティンを"屋根"へと突き立て、小さな声で、しかし的確に呪文を紡ぐ。
それと同時に発動する術が槍へと稲妻を召喚し、一挙に光弾らへと放たれた。傍から見れば光と光のオンパレードである。
[ガーディアンポスト]、槍を媒体に雷を召喚する術であるが、民家の屋根に槍を突き立てて術を発動したのがアーティが初めてであろう。
光弾全てが稲妻で相殺されたのを確認し、アーティは槍を屋根から引き抜いて再び走り出す。家主が帰ってきたとき、大穴の空いた屋根を見てどう思うだろうか。

と、
 「!」

歩を進めようとしたアーティの足は、しかしすぐに止められる。十数人ものルフィエに囲まれたことによって。

 (ガルパラってあーた、ここ街中よ?)

などと自分のことは棚に上げて非難するアーティに、空中から舞い降りたルフィエはにっこりと笑って言う。

 「さ、フリフリドレス着ようか」
 「ふん、絶対嫌よ。やりたければ力ずくで――」

やりなさい、とアーティは言おうとして、しかし言えなかった。
前後、左右。自分を取り囲むルフィエから、凄まじい、とにかく凄まじい量の魔力を感じ取ってしまったから。
恐る恐る辺りを見回してみれば、アーティを取り囲むルフィエの内、四人のルフィエが"何か"の術を発動しようとしていた。
マズい。これはひじょーにマズい。
下手をすると古都が消し飛んでしまうかもしれない。ていうか消し飛ぶ。この威力はゼッタイ消し飛んでしまう。

 「ちょ、ちょちょちょちょちょっと待ちなさいルフィエ! そんなもの撃ったら古都が消し飛ぶわよ!!」

と両手をブンブンと振るアーティだが、しかし時既に遅し。
術をあっという間に完成させてしまったルフィエは、アーティの言葉に笑って言い放った。

 「乙女は一度決めたことは曲げないの」

その言葉と同時に、アーティの正面、背後、そして左右から"四発"のルリマがぶっ放たれ、アーティごと罪もない民家Aの家は跡形もなく消し飛んだ。
フリフリドレス>古都ブルンネンシュティング。後世に長く語り継がれるであろう伝説が生まれた瞬間であった。





 「…………ルフィエ、ちゃん?」

噴水前に来て、とルフィエに耳打ちされたごしゅじんさまは、魔法使いふぁみたんを抱えながら"それ"を凝視した。
黒い。とにかく黒い何か。人の形をしているのはたぶん気のせい。
これって一体何なのだろう。新種の亜人だろうか。
恐る恐るその消し炭みたいな亜人を指したごしゅじんさまに、ルフィエは笑顔で言い放った。

 「これ、アーティさん。例のフリフリドレスを着せにきたよ」
 「…………」




 「えっ?」



 「え、ちょっと待ってルフィエちゃ「大丈夫安心して! ちゃんとルリマぶち込んで気絶させてるから!!」
 「いやそういう意味じゃなくてね「フリフリドレスはヴァリオルドからちゃんと持ってきてあるから! はいこれ!!」
 「え? え?? えっ?? なんでこれ私に渡「じゃあよろしくね! 私はヴァリオルドに戻ってるから!!」

悉くごしゅじんさまの質問を一刀両断し、ルフィエはマシンガントークを華麗に披露してから彼女の手に消し炭と紙袋を押し付けた。
え――と声を上げるごしゅじんさまにも目もくれず、大空へと吸血鬼は打ち上がった。後塵に星の欠片を飛ばしながら。
星形の紙吹雪を唖然として眺めながら、ごしゅじんさまはその場で五分ほど立ち尽くした。

504黒猫:2008/10/25(土) 20:12:11 ID:JLWm9YSQ0

「……ええと、一体何が起きたんです?」

二人の目的地、広大な邸宅の主――ネリエル=ヴァリオルドⅣ世は、目の前で荒い息をしている二人の魔術師を前に、困惑の色を浮かべていた。
しんどいわーと言いながらも元気なのは古都警備兵時代から先の大戦まで苦楽を共にした仲間だし、体力の限界とばかりに頽れているのは数刻前まで自分とチェスをしていた相手だ。
二人ともおかしな格好をしていて、更には何かから逃げるように全力疾走して来た事をさえ除けば……普通の友人の訪問なのだが。

「ネルさんに……負け……罰ゲー……げふ、ごふ、がはっ!」

息も絶え絶えなのに無理して説明しようとしたウサ耳優男は、咳き込んだ。
乾いた喉か唇が限界だったのだろうか、真っ青な口元からたれーっと一筋の血が流れ落ちる。
何も知らない人が見たら、「死ぬ、このままじゃ死ぬ」と思う事だろう。

「……わかりましたから、何も言わずに水でも飲んで落ち着いて下さい」

ネルは本日何度目かもわからない溜息をつき、頭を抑える。

「ネルはん、自分が聞いたんに酷い……にゃん」

思わず突っ込んだカリアスを、ネルが容赦なく斬り捨てる。

「煩いですよ、バカリアス。バカだバカだと思っていましたが、まさか此処までとは。
 大体何ですか、そのふざけた格好と語尾は。夏は終わったというのに、今更脳に変な蟲でも沸きましたか、このバカリアス」

怒涛の勢いで厭味が返って来た――それも、総て一息で。

「ネルはん、酷い……にゃん」

ウサ耳魔術師相手とネコ耳カリアス相手の、この態度の差は何なのだろうか? アーティだけでなく、ネルも自分に何か怨みでもあるのか?
カリアスは泣きたくなった。




漸く落ち着いた魔術師をキッチンに案内したネルは、「では、バカリアスと一緒に応接室で待機しますね」と立ち去った――去り際に「期待してますね」という言葉だけを残して。
二人を見送った魔術師は、完全スキル装備で瞳を閉じて、深呼吸。
着替えたら仲魔に呪い殺されそうなので、ゴスロリ服の上から愛用の装備を羽織り、頭に乗せた王冠からはウサ耳がはみ出す、そんなかなりシュールな光景だが見るものはいないのが救いだ。
本気装備で挑むのは、たかが料理、されど料理。
いくら魔法料理人とは言え、本来なら大勢の料理人を集めてもかなり時間がかかる事だ。自慢のスキル装備でも速度が少々足りないだろう。
そこで、先程のカリアスとの会話を思い出す――そう、移動速度特化型ヘイストの構成理論だ。あれを応用すれば、理論的には攻撃速度特化型ヘイストも組み立てれるのではないか?
その後は、移動速度特化型ヘイストに攻撃速度特化型ヘイストを、重ね掛けすればよい。
速度上昇スキルの上書きは、移動速度と攻撃速度は別々に行われるからだ――スキルレベル40以下のヘイストが想起で攻撃速度だけ上書きされる、などがよく見るケースだ。

「……試す価値はありますね」

呟き、瞳を閉じた。カリアスから聞いた基本理論を自分なりにかみ砕いて、共感・理解する――まるでサマナーが自然と共感するかのように。
脳裏に描いた通常のヘイストの魔術構成に、少しだけ力の流れをつける。全体の魔力の流れが淀まないように慎重に組み込まれた、小さな小さな高低差。
魔法陣を循環する、広く普及したものと似て異なる魔力構成に、悪戯好きが多い風の精霊が興味深げに寄ってくる。
紡がれた祝詞により与えられた風の加護は、流石に本家には遠く及ばなかったものの――確かにいつもよりは移動に重点がおかれたモノだった。
「初めてなら、こんなものでしょうか」
まだまだ改善の余地はありますが。そう独り言を零し、再び集中する。先程とは真逆の方向で、小さな流れを乗せた。
風の精霊が、楽しくてたまらないと歓喜の声をあげる。
再び放たれた攻撃速度特化型の魔術は、先程の移動速度特化型よりはマシになっていた。
ソレは、先程の経験からなのか、攻撃速度特化の方が合っていたからなのか――どちらかはまだわからないけれど。

「後日、じっくり研究してみましょうか」

満足そうに頷いて、袖を捲くり上げた。「料理をするよ」との呼び掛けに、火・水・風と色んな元素の精霊が集まり辺りを飛び回る――さぁ、魔法料理人のマジックショーの始まりだ。
モーションさえない程のスキルレベルのフォベガで一気にチャージする。更に、水属性魔法や風属性魔法、火属性魔法――三元素をフルに使用し、恐ろしい速度で料理を作っていく。
その早すぎる速度はまるで……深夜のコロのように、素人にはモーションが見えなかった。

505黒猫:2008/10/25(土) 20:13:02 ID:JLWm9YSQ0

――その頃の古都では。
どじっこさんに託された“もの”に、呆然としていたごしゅじんさまだったけど、懸命に呼びかけたら我に返ってくれたよ。
でも、逆にごしゅじんさまってば慌てふためいちゃって、さぁ大変!

「如何しよう如何しよう! アーティさんが死んじゃう!!」

まだ生きてるのかな……とか思っちゃったけど、触ったらぽろぽろ崩れそうで恐くて触れないよ!
「取り敢えず、羽? いや、灰? あれ、灰ってば何処だっけ!?」
鞄をごそごそ探すも、慌ててるからべるとに入れてるのに気付いてない。
でもねでもね、もっといい方法があるよ、ごしゅじんさま!
ごしゅじんさまのお洋服の裾をくぃくぃして注意を向けて、僕は必死にすくわっと。
効果音にちゃーらーらーって鳴らないけど、ごしゅじんさまはやっと僕が言わんとしてる事に気付いてくれた。

「あ、おじさまのデスペナなしリザ!」

急いでまっするさんをお呼び出しだ!




――舞台はヴァリオルド邸に戻って。
食堂に並べられた晩餐を見たカリアスが、驚愕の声を上げる。

「こ、これは、まさか……伝説の、満漢全席!?」

驚きの余り、語尾を忘れている事にも気付かぬまま、目線は料理に釘付けだ。
ネルがそんなカリアスに説明を求めた。

「カリアス、満漢全席とは何ですか?」

――説明しよう、『満漢全席』とは!
ブルン王国の前身、遥か昔の古代王国の宮廷料理の事である!
全国津々浦々の高級品・珍品、総てを含め、その総数は数百品目に及ぶ。
古代王国では、一度催されれば三日三晩に亘り豪華料理を作り続けては食べ続けたという――。

「――ってとこですにゃん」
「成る程。一々語尾がムカつきますが、よしとしましょう」

一々発言がムカつくのはどっちや!
言いたいけど命が惜しいので我慢する、哀れなヘタリアス。
「ふふふ、流石に一人で全品は無理なのでプチですが。

 食費はヴァリオルド家持ちと言う事で、奮発しましたよ……ぴょん」

眼鏡を光らせて本日の料理人が指を振る。格好つけても、語尾がコレじゃ……。

「確かに、これだけの料理やと、食材だけで数十万しそうやにゃん」
「いいえ、一卓で数Mですぴょん」
「流石、宮廷料理……それなりにしますね」

真顔で言い切る魔術師もだが、一食数Mもの食材費を「それなり」の一言で済ましてしまうネルも恐い。
そんなネルは、食卓のど真ん中に鎮座する大きな塊が気になった様子。

「これは何です?」
「こちらは『紅焼熊掌』――キングクマーの巣産、最高級キングクマーの手ですぴょん」

キングクマー。
それは数々の冒険者を殺り、好物のハチミツより人間の血が染み付いた手を持つとまで言われる、クマーの王者。

「流石に市場に出回らないので、ギルメンに頼んでさくっと狩って来て貰いましたぴょん」

――その頃、クマー杖を手にホクホクの剣士がくしゃみをした。
隣で同じく、クマーベルトを手に涙目のシーフもくしゃみをした。
まぁ、本筋に関係なく如何でもイイ話なので割愛――。

「丁度沸いていてよかったですぴょん。やるからには完全な物を作らないとですぴょん」

不敵な笑みと共に、ウサ耳魔術師の眼鏡が妖しく光る。
この人、本気だ――カリアスはまるで恐ろしい者でも見る目で、先程まで同志だった筈の人物を見る。
マトモだマトモだと思っていたのに、この人は例の同僚と同じ側の人種なのかもしれない。
それは、カリアスの脳内に要チェック事項として刻まれた。

506黒猫:2008/10/25(土) 20:14:46 ID:JLWm9YSQ0

―― 一方、こちらは窓の外。

「くしゅ」
「いくしっ」

くしゃみをするはんらさんとごきぶりさんを眺め、おじょーさまが「あれれ、風邪?」と心配そう。
さっきね、けしずみさんを復活させた後、お屋敷の前でばったり合流したんだよ!
その復活も大変だったんだからね!
そう、こんな感じに――。
慌てて駆けつけたまっするさん、あまりの惨状にぽかーんとしちゃった。

「こんなに酷い怪我人は見た事ありませんよ……はぁ」

深呼吸、一つ。後は、目を瞑って神聖なお祈りを。

「神よ、彷徨える哀れな魂に正しき導きの手を――リザレクション!」

精神を集中して唱えられた祝詞と聖なる光がけしずみさんを包み込む。

「慈しみ深き主よ、か弱き民に癒しの光を――フルヒーリング! フルヒーリング! フルヒーリンg(ry」

続けてたたみ掛けるように放たれた綺麗な光が次々と注がれた。
光が余韻を残して消えた後には、若干煤が顔についてるけど、つやつやのお肌に戻った元けしずみさんの姿が。
流石に精神力を使い果たしたのか、まっするさんが肩で息をする。お疲れ様!
あんよをぽふんと叩いて労った僕に、にっこりと笑いかけてくれたまっするさん。かっこいいなぁ。
意識を取り戻した元けしずみさんが、身体を起こそうとしたら、あら大変。

消し炭になった鎧がぽろぽろと……きゃー!

僕がお手々でお目々を隠すその前に、顔を逸らしたまっするさんが大きなお手々で隠してくれた!

「きゃー、マントで隠すからコレ着てー!」

ごしゅじんさまががさがさと紙袋を渡したのかな?

「な、こんなもの……!」
「鎧、燃え尽きちゃってたから……これしか着替えないから、観念して着て!」

でも、ごしゅじんさまが重ねた言葉に、元けしずみさんは「くっ」っと声を詰まらせた。
その元けしずみさん――改め、ふりふりさんは、また何処からともなく飛んできたどじっこさんに捕まって連れ去られてしましたとさ。
その姿はまるで……そう、僕ぴったりな言葉知ってるよ!
うんとね、あぶだくしょん!
――お話を今に戻して。
いけめんさん、おどりこさん、おどりこさんのお迎えに行ったまっするさん――この面子以外は、ばったりとつんでれさんのお家の前で遭遇したんだ。
で、今に至る、と。
嫌がらせ大作戦総司令だったおねぇさまはもう、すんごくのりのりで――。

「あー、もう! ちゃんと第四弾まで用意した嫌がらせ作戦が台無しじゃないの!」

とか言いながら、逃げられた事にはんかちを噛み締めて悔しがっていたり。あーあ、後が恐そうだ。

「あら、こんなところで何を?」

突然の声に振り返ると、大きな包みを持ったおどりこさんとお迎えに行ったまっするさんの姿。
必死に窓から覗き込むおねーさまの姿に、まっするさんが「何をやっているんだ」と頭を抱えた。

「何って、見ればわかるでしょ? 観察よ、観察!」

何故か胸を張って威張るおねーさまに、おどりこさんも困ったようにふんわり苦笑する。

「で、そっちは何で此処に?」
「マスターに頼まれた食材を取ってきたんです。新鮮なバッファローのお肉ですよ」

おどりこさんは「久々に槍を回して弓で射ましたよ」とくすくす笑う。
ばっふぁろーさんは、うしさんなんだけど、おねーさまみたいにがぶがぶがお上手なんだよね。
近距離攻撃に発生するあれ、わーむっていうの? あー、思い出しただけで痛い痛い。

「俺達はクマーとラットキングで、そっちはバッファロー……明らかに俺達のが大変じゃねーか!」

同じく大きな包みを抱えたごきぶりさんが嘆く。
さっき届けたくまーさんの次に、らっときんぐさんを倒しに行くなんて、ぱわふるだよねー。

「まぁまぁ、距離的な問題だろ? それに、余ったらきっとお持ち帰りくらい……」

はんらさんがごきぶりさんを宥めたけど――。

「……ルフィエちゃんがいるのに、余るのかなぁ?」

ごしゅじさんまの言葉で、ごきぶりさんはしょんぼりして地面にのの字を書き始めた。
のがひとーつ、のがふたーつ、のがみっつー、のがよっつー、のがいつーつ――。

「あーん、あんなに豪勢なご馳走があるのにー! あの優男、もっとシメてやればよかったわ!」

おねーさま、みっともないです……。
あ、噛み締めてたはんかち、耐え切れずにぶちって千切れた。
見かねたまっするさんがおねーさまを窓から引っぺがそうとした、その時――何かに気付いたごきぶりさんが顔を上げる。

507黒猫:2008/10/25(土) 20:15:13 ID:JLWm9YSQ0
その目線の先には、黒服のがーどまんさんがわらわら。

「……この屋敷に何かご用でしょうか?」

そうにこやかに笑う一番偉いっぽいがーどまんさんに、引きつった笑顔ではんらさんが弁明しだす。

「あの、その……怪しい者ではなく……ええと、お届けモノです、はい」

背後で露出度の高いお仲魔が窓から覗き込んでいるんだもんね……しどろもどろになる気持ちもわかるけど、ひじょーに情けない。





「お客様で御座います」

食堂に案内された僕達を待っていたのは、つんでれさんといけめんさんと――予想以上に美味しそうな匂い。
誤解を解いたがーどまんさんが、ひつじさんに取り次いでくれて、食堂にご案内してくれたんだ。
あ、執事さんって言いづらくて噛んじゃうから、ひつじさんって呼ばせて貰ったよ!
ごきぶりさんとおどりこさんから包みを受け取ったいけめんさんがぴょこんとお辞儀。
「食材、ありがとう御座います……あれ、如何して貴女達まで一緒ですぴょん?」
お首を傾げたいけめんさんの動きに合わせて、うさ耳も揺れる。
勿論、おねーさまが覗き込んでいた事に気付いてたと思われるつんでれさんは、溜息を一つ。

「折角ですから、一緒に食べてって下さい。いくらルフィエがいても、この量は無理です」

さもありなん。
机の上には、てんこ盛りのご馳走!
途端に顔を輝かせたおねーさまは、「アンタ、見かけによらずイイヤツね!」と、つんでれさんの肩をべしべし叩いてた。

「見かけによらず、は余計です」

顔を顰めるつんでれさんに、まっするさんが「ごめんなさい、悪気はないんです」と必死に謝罪。
まっするさんって、ふぉろー体質だなぁ。
つんでれさんが「本当はお行儀が悪いので今日だけですよ」って僕をお膝の上に乗せてくれたよ。
ごしゅじんさまは、くすくす可笑しそうに笑ってる。
そんなごしゅじんさまを見ながら、僕もいただきまーすって両手をぱちん。
ご馳走は本当に美味しくてほっぺが落ちそうだった――本当に落ちたら困るけどね!



――20分が経過した。
これだけの人数で食べても食べてもなくならない料理の山に、脱落者続出。
本日のシェフの魔術師は嬉々としてラットキングとバッファローを調理中だという事実に、既にお腹がいっぱいな面子は目の前が真っ暗になる。
やはりルフィエがいないのがかなりの戦力ダウンなのだろうか?
先程までネルの膝の上にいたファミリアは、お腹をぽんぽこぽんに膨らませて、すやすや夢の中。
お腹が一杯になると眠くなる辺り、まるで幼児にそっくりだ。
そんなファミリアが風邪をひかないようにセバスに言いつけて毛布をかけているネルは、やはり小さいモノ好きなのかもしれない。

「それにしても、ルフィエは何処へ行ったんでしょうk」

賢く少量ずつ色々な料理を堪能していたネルがそう呟きかけた途端――。

「とりっくおぁとりーとぉぉぉ!」

とぉの部分を雄たけびのよう様に叫びながら、ルフィエが天窓から飛び込んできた。

「ぴぎゃ!」

――尤も、着地を失敗して、頭から床と感動の対面を果たしていたが。

「い、痛い……」
「何やってるんですか……」

半泣きのルフィエを眺めながら、ネルは深い深い溜息を一つ。

「何って、吸血鬼ごっこだよ?」

吸血鬼は天井から現れるって相場が決まってるの! 自信満々に胸を張るルフィエに、ネルが言い返す。

「何処の世界に頭から墜落する吸血鬼がいますか」

ネルは「えー、いるかもしれないよ!?」と不満そうなルフィエを眺めて、一応無事を確認する。
そして、目線を食卓に戻して――そう、ルフィエの奇行に一々構っていたらキリがない。
因みに、ネルは落下するルフィエを受け止めようと思えば出来たのだが、敢えて見捨てた事を追記しておく。
『天窓からコンニチハ☆ドッキリ大作戦』は、ルフィエが自らやった事、つまりは自己責任。
何より、食事中に席を立つのは行儀悪いし。
閑話休題。
既にダメージから復活したルフィエは、食卓に並ぶご馳走に目を輝かせた。
救世主、現る。この瞬間、ルフィエは間違いなく“英雄”となった。

508黒猫:2008/10/25(土) 20:18:26 ID:JLWm9YSQ0

――そんな食堂を物陰から覗きこんでいたのは、一人の女性。
少し前まで、ルフィエに縛られた挙句に猿轡まで噛まされて監禁されていたアーティである。

「せっかく可愛い格好だから、カリアスさんに見せてあげないと♪」

そんな台詞を述べながら、抵抗する自分を笑顔で縛り上げたルフィエは、ご機嫌で部屋を出て行った。
このままでは、本当に対面させられてしまう!
あの同僚にこんな恥ずかしい格好を見られたら最後、何を言われるかわかったもんじゃない。例えば、「馬子にも衣装やな」とか――屈辱だ。
彼に見付からずにすむには如何すればいいか?
答えは簡単――ルフィエが帰ってくるまでに此処を抜け出せばいい、それだけだ。
かくして、[蒼き傭兵]アーティvs[N]麻縄の、世紀の対決が執り行われる事となった。
この対決に勝利したのは、アーティだった。辛うじて人間の面目は保った訳だ。
防御効率がついている訳も、加害者に技術がある訳でもない、ただ巻かれただけの縄からの脱出にこれだけ時間がかかったのは屈辱的だが、仕方がない。
何しろ、“本気”のルフィエが何束も使ってまるで芋虫のようにぐるぐる巻きにしてくれたのだから。
それでも、腹が立つものは腹が立つので、悔し紛れに敗者である縄をけちょんけちょんに踏んづけておいた。
後は、ルフィエとカリアス――出来れば、ネルなど他の身内にも会わずに脱出するだけだ。
ヴァリオルドの屋敷は広く、まるで迷路のよう。実際、敵の進入を防ぐ為、態と複雑な作りにしてあるのだが。
記憶の中の地図を辿り、誰かと遭遇しても安心の回り道が多いルートを選ぶ。
慎重に、慎重に。それこそ、カリアスを追跡していた時よりも当社比30倍の慎重さで。
行程の半分、食堂の近くを通りかかった時だった……中から物凄い音がしたのは。
腐っても警備兵であるアーティの習性なのだろうか?
凄い物音に思わず覗きこんでしまったアーティを待ち構えた光景は、地面からルフィエが生えているかのような……えぇー!?
何も見なかった事にして、回れ右を選ぶ。懸命な判断だ。
が、そんな人影を目ざとく見つけた少女がいた。
首を傾げた少女は、ピンクの煙と共に小さな兎に変身して駆け出した――目指すは、慎重に進むふりふりドレスの女性。
何かの気配を感じて振り返ったアーティが見たのは、そんな小さな兎で。

「うさぎ……?」

如何してこんなところにと疑問に思っている間に、兎は前に回りこんで再びピンクの煙を吐き出した。

「え、ちょ、何!?」

煙が消えたその後には、上品なドレスを見に纏った、まるで人形のように愛らしい少女の姿。
にっこりと笑った少女の口から紡がれた言葉は、その印象をまるっとぶち壊すもので。

「きゃぁぁぁ、やっぱり可愛いぃぃぃ!!!!!」

語尾にはハートマークが一杯つくであろう、狂喜乱舞振りだ。
見付かっては大変とアーティが少女の口を塞ぎにかかったのと、少女が抱きついてきたのは同時だった。
ばこっ!
屈みかけたアーティの顎に、タックルした少女の頭がクリーンヒット。

「〜〜っ!?」

流石のアーティの目にも、予想外の痛みに涙が滲む。
少女はと言うと、その衝撃にも全く動じていない。流石、健康が自動上昇のプリンセスだ。

509黒猫:2008/10/25(土) 20:18:59 ID:JLWm9YSQ0
「こんなに可愛いんだから皆に見せないと!」

痛みに蹲るアーティを無理矢理ずりずり引きずる少女。
プリンセスとリトルウィッチは表裏一体。それ故だろうか、ルフィエと思考パターンが同じだ。
我に返ったアーティがまずいと思った時にはもう手遅れだった。

「見て見てー! すんごく可愛いのー!!!」

満面の笑顔の少女の手により食堂への扉が開かれて、中にいた面子と目線が合う――嗚呼、終わった。
「あ、アーティさん! そんなに早くカリアスさんに晴れ姿を見せたかったんですか?」
流石ルフィエ、正反対に曲解した。彼女には、引きつったアーティの顔なんて見えていない。

「そ、そんな筈な「へ、アーティはん?」

慌てて否定しようとしたアーティの言葉も、呆然としたカリアスの声に遮られ。
しかし、カリアスが続けた言葉は、アーティを怒らせるには充分だった。

「何でそないけったいな格好してるん?」

ぴしっ。アーティの額に青筋が走るが、カリアスは気付かず続ける。

「アーティはんは、普段の鎧のままが一番や」

ばちっ。アーティの身体から小さな火花が散ったが、カリアスはまだ気付かない。
勿論、カリアスに悪気はない。むしろ、本人は褒めているつもりなのだ。曰く、「無理して着飾らなくとも、ありのままが一番綺麗だ」と。
残念にも、今のアーティには通じなかったが。

「五月蝿いわっ、このバカリアスゥゥゥ!!!」

真っ赤な顔のアーティの叫びと共に、本日何度目になるかもわからない“ジャベリン昇り”が、古都の空高く昇っては消えた。
女心のわからない男、カリアス=ハイローム。ヴァリオルド邸食堂と共に散る。





廃墟となった元食堂に佇む無傷のネルは、深い深ーい溜息と呟きを漏らす。自宅の一部壊滅とか悪戯ってレベルじゃねーぞ、って話だ。

「如何してこうなるんでしょうね……」

もう怒る気力すらない。力なく呟くその背中には、哀愁が漂っていた。
そして、決心する――もう二度とフルメンバーで家になんか呼ぶもんか、と。
頑張れネル、負けるなネル。例え――周りに目を回した黒焦げの人っぽい塊が沢山転がっていようとも。

「まずは治療師の手配から始めましょうか」

主の言葉に、いつの間にか背後に控えていた同じく無傷のセバスが頷いた。その服には、流石に若干煤がついていたけれど。

「ほらほら、起きて下さい」

その後、人っぽい塊を取り敢えず手近な所からぺちぺち叩いて回るネルの姿が見れたという。


無残に割れた皿50枚余 約26000ゴールド
市場から姿を消したカボチャ約100個 約40000ゴールド
吸血鬼のばら撒いた星型紙吹雪折り紙700枚分 約800ゴールド 
某魔術師シェフによる満漢全席 約3000000ゴールド(時価) 
消し炭になったドレスとメイド服 約250000ゴールド
某傭兵と某歌姫による南東区襲撃の被害 約18000000ゴールド
同じく消滅したヴァリオルド邸食堂(家具含) 約76000000ゴールド
ズタズタになったカリンのプライド プライスレス
――計、約9700万ゴールドの請求書は翌日、無事ヴァリオルド邸に届けられた。



Trick or treat!
――貴方なら、どっちを選ぶ?

510黒猫:2008/10/25(土) 20:20:16 ID:JLWm9YSQ0
あとがきみたいなもの


・白猫

どうも、白頭巾もとい白猫です。
ハロウィンですね、はい。いやまだ一週間ほどあるわけですが←
今回はハロゥイン風ということで、悪友くろっちもとい黒頭巾さんとの合作です。製作期間は一か月ちょい?
まあ今回のこの企画は、どこかのチャットの悪乗りで生まれてしまったと言いますか、最初は悪ふざけだったはずがいつの間にか企画小説にまで(笑)
さてさて今回の小説はふぁみたん×ネルぽんを全力で出したわけですが。黒頭巾さんの方がアーカリにやけに力を入れていらしたので「負けるか!」みたいなねぇ(笑)
とまぁいつもと違ったお話をお楽しみ頂けたと思います! ちょっと長いのがアレですけど←
個人的にごしゅじんさまを全力でプッシュする予定なのですが、ふぁみたんとネルぽんを絡ませる(?)となんといいますか、
こう、脳内汁が滴るほどの衝撃を受けました。路線変更でふぁみネルを全力プッシュ。
機会があればごしゅじんさまを全力でプッシュしたいと思います。今後コラボする機会があればですが(笑)

ということで、皆々様もよいハロウィンを!
とりっくおあとりーと!



・黒頭巾

皆様に、はっぴーはろうぃん!
黒猫もとい、黒頭巾です☆―(ノ゚д゚)八(゚д゚ )ノ―☆
今回は、昔SSスレチャットで盛り上がったコラボネタを形にしました。
二人とも長文になる傾向があるので、結局大変な長さに^p^
これでも削りました…ソレでもものっそ長いです、ごめんなさい。
その内何処かに別verのもっと長いのがうpされます、多分。
皆様への感想は後日改めてーで御座います…あ、50行制限は今はもうなさげですよ、とだけ私信を。
取り敢えず、最後に一言…黒頭巾は、アーティ×カリアス、略してアーカリを全力で応援します←

511◇68hJrjtY:2008/10/26(日) 08:04:03 ID:TGA7oD/s0
>スイコさん
おぉ、避難所への投稿もありがとうございます!
改めて後で避難所の方の作品も読ませてもらいますね。
思えばWikiも作ったのに多忙にかまけて放置してるなぁ…(´・ω・`)
時間のある時にちょいちょい編集作業していきますね。

>ESCADA a.k.a. DIWALIさん
相変わらず、幼女の書き方が上手い…っと、ハロウィン小説ありがとうございます(笑)
ハロウィンと聞くと楽しいという雰囲気を思い浮かべる私、このような悲しい話に仕立てられていると
意外ながら新鮮な気持ちです。でもちゃんとハッピーエンドで結んでくれたのは嬉しかったですけれど(´;ω;`)
リタがジャックと一緒に冒険に出たのはまた別のお話。それこそが彼女たちの本当の物語の始まりですね。

>黒猫&白頭巾さん (笑)
おおぉぉ、なんかすごいスレが伸びてるってか伸びすぎ!コラボ小説ありがとうございます(ノ∀`*)
なるほどなるほど、示し合わせた上でのコラボだったのですね。長編好き同士さすが、息が合ってますね!
長いとはいえギャグ小説みたいなノリで笑いながらサクッと読んでしまいました(笑)
ふぁみたん命名の「けしずみさん」にはホントに笑わせてもらいました…あわれアーティはん。
お二人の色んなキャラの色んな一面大公開ッ!小説でしたね(*´д`*) 本編でも見たかった…!(笑)
あ、私はいけめんさん×おねーさまの「いけおねさん(謎)」で!(何

512甘瓜:2008/10/27(月) 01:29:19 ID:hPdg4DVc0
落ちた知識人

駆け出しのウィザードの私は、宿代を稼ぐために古都で仕事を探していた。
すると、うしろから男に声をかけられた。
彼は、クレンドルと名乗った。
「研究材料の飛海月のサンプルを探してるんだけど、引き受けてくれないかな?」
私はその仕事を難なくこなし、報酬を受け取る。いくらかの金と<帰還巻物>だ。
「あの、良かったら研究のほうのお手伝いもさせてください」
研究やら、実験やらに興味のあった私はそう申し出る。
報酬は出せないよ、とのことだったが、問題は無い。私がほしいのは知識だ。

それ以来クレンドルの手伝いを頻繁にこなした。
そんなある日、
「君もそろそろ自分の研究を始めてみないか?」
そうクレンドルに言われたのをきっかけに、
私は自分の研究をするようになった。
いつか他人の役に立てるような研究家に…!
それが、このとき私が心に決めたことだった。

たくさんの研究をした。
実験材料の採取にも実験道具を使った。
そんな中で、私の実験道具が昔より力を増した。
これは、私の研究<愛着による道具への思念の憑依>の実例といえる。
そして、私はそれを複製する機械もつくりだした。

513甘瓜:2008/10/27(月) 01:31:14 ID:hPdg4DVc0
そんな私に目をつけた組織がある。
レッドアイである。
手荒な組織であるのは噂で聞いたことがあるが、
設備のよさにほれ込んで、入信した。
それからは、自室で寝食を忘れ研究に没頭した。

研究所に冒険家がはいってくると、
「私の邪魔ばかりしよって!もう許さないぞ!」
と怒り狂って得意の魔法を連射する。
ことわっておくが、私はかなり上級のウィザードだ。
この辺りで狩をするような奴らでは束になっても倒せないだろう。
研究の過程で材料採取などをするうちに強くなったのだろう。
「ちっ!撤退だ!皆逃げろ!!」
リーダー格の戦士仲間を逃がし、自分が囮になる。
「ふんっ、仲間は上手く逃げたが、お前はどうする気だ!?」
「こうするのさ」
 !!
戦士は<帰還巻物>を取り出したのだ。
別に、巻物に驚いたのではない。
昔を思い出したのである。
私に研究家になるきっかけをくれた人がくれた巻物。それが過去の記憶を思い出させた。
─いつか他人の役に立てるような研究家に…!─
戦士が去った後、私はちにひざをつけて倒れこんだ。
そうだ、大切なことを見失っていたんだ…研究の過程で!
だが、いまさら組織を抜けれるはずは無い。
こんなに大きな組織に狙われて逃げきる自信はない。
ならどうする?
答えの出ぬまま自室に戻る。
ぼーっとしていた所為で論文の山をひっくり返す。
…!!これだ。<愛着による道具への思念の憑依>…。

514甘瓜:2008/10/27(月) 01:32:40 ID:hPdg4DVc0
「私の邪魔ばかりしよって!もう許さないぞ!」
ククク。なにが人のために、だ。完全に私利私欲じゃないか…
自分がかつて言っていたセリフが今はとても可笑しい。
「止めだっ」
バタッとレッドアイ所長…もといその影武者が倒れる。
「手袋ゲットー」
「何もとれなかった…」
「指輪あったら買うよ〜」
「白衣しかないや><」
「杖と靴ひろったv」

私は、影武者をつくり、冒険者に試練を与えている。
もちろん、倒せる程度の強さだ。
それ故、実力の衰えと本部に判断され、減俸…
「どうか私の力が、彼らの力になりますように…」
そう聞こえない程度の声で呟く。
さて、ひさしぶりに古都にでも行くか。金も稼がなくてはいけないしな。

古都で<所長の実験道具>を売りさばくウィザードを見かけたなら、
もしかすると、それは本物のレッドアイ所長かもしれません。

Fin

実は所長のセリフもうろ覚えの癖にこんな話書いてしまいました。
間違っていたら教えてください
そして、改行下手すぎ…。文章も下手ですけどね…
お目汚し失礼しました

515ドワーフ:2008/10/30(木) 18:37:47 ID:AepyIIHk0
子供たちの夜

 エバンスはつい最近この村にやって来たばかりの自称文豪。街の喧騒を離れて新作の執筆に打ち込むためにわざわざ辺境の村に大きな別荘を構えた。
 実際のところ、エバンスの本は一冊として売れたことはない。ただ作家という職業の雰囲気が好きな彼が富豪だった親の遺産を食いつぶしているだけだ。常に琥珀のパイプを手放さず高慢な態度をとる虚飾家、村の人々は彼を"先生"と呼ぶ。
 ある日、近所に住むフランコがエバンスを訪ねてきた。フランコは大きな袋を抱えてのしのしと玄関に上がりこむと、その袋をどさりとエバンスの前に置いた。
「なんだねこれは」
「お菓子ですよ、先生。明後日はハロウィンですから。自分でお菓子を用意しない家には、こうして子供達に配る分のお菓子を私が用意して配分してるんです」
 フランコが朗らかな笑顔で言った。エバンスが袋の口を開けてみると、確かに袋の中には小さなキャンディーがいっぱいに詰まっていた。300個は詰まっているだろうか。
「これはまた、随分と多くないかね」
「いえいえ、まだありますよ」
 そう言ってフランコは外へ出ると、さらに同じ袋を二つ抱えてきてエバンスの前にどすんと置いた。
 エバンスは怪訝そうに3つの袋を見下ろすと、パイプを口にくわえて吸った。そして煙を吐いて落ち着いて計算を始めた。エバンスが見た範囲ではこの村の子供の人数は10人程度、目の前のキャンディーが900個として…。
「一人につき90個くらいかね」
「まさか!3個だけで十分ですよ」
 エバンスは眉間に皺を寄せ、パイプの口でフランコを指差すように示しながら尋ねた。
「ちょっと待ちたまえ、このキャンディーは全部でどれだけあるんだね」
「1000個です。余った分は召し上がっても結構ですよ」
「いらん!キャンディーなど何百個も食べられるか!」
「100個もあまる事はないと思いますが…」
 エバンスは口をぽかんと開けた。訳が分からない。
「待ちたまえ。どうも話があってないぞ。この村の子供の人数はせいぜい10人ぐらいだろう?」
「よく見ておいでですね。11人です」
「では、どうして1000個もキャンディーが要るんだね」
 エバンスの質問に、フランコは大きく頷いて納得したように手を打った。
「ああ!そういえば先生はまだこちらに来たばかりでしたね。この村ではハロウィンの夜に子供が増えるんですよ」
「増える?子供が?」
「ええ。増えるんです」
「何故だね」
「さあ」
 エバンスは不快そうに眉を吊り上げて、怒ったように声を張り上げた。
「君は私をからかっているのかね」
「いえいえ、滅相もない。ただ、私も理由をとんと存じないので」
「ふざけるな!そんな訳の分からないことで勝手に人の家の玄関にこんな邪魔な物を置きおって」
「まあまあ先生、落ち着いてください」
「うるさい!この邪魔な袋を片付けて、さっさと失せろ!」
 エバンスの言葉にフランコは驚いたように声を上げた。
「先生、それは困ります」
「うるさいと言ってるだろう。大体私は子供が大嫌いなんだ。うるさくて品がなくて、その上汚らわしい!」
「しかし…」
 何か言いかけたフランコを、エバンスはじろりと睨みつけて黙らせた。何を言っても無駄だと思ったのか、フランコは持ってきた袋を持ち上げた。
「イタズラされても知りませんよ…」
 フランコはそう言い残してエバンスの家を後にした。
「ふん、ガキのイタズラがなんだと言うんだ」
 エバンスはフランコが開けていった扉をバタンと大きな音を立てて閉じた。

516ドワーフ:2008/10/30(木) 18:38:56 ID:AepyIIHk0
 次の日エバンスが村の中を散歩していると、村人達が自分を見て何やらひそひそと噂をしているらしいのが目に付いた。エバンスが噂している村人達を不快そうに睨むと、彼らは白々しく明後日の方を向いた。
『まったく、何だと言うんだ』
 エバンスは内心毒づいた。彼の頭の中では、フランコの言っていたハロウィンに子供が増えるという件は自分の富に嫉妬した村人達の悪ふざけという事で完結してしまっていた。
『貧乏人の田舎者どもめ、こんな土地に別荘など建てたのが間違いだったな』
 エバンスは悪態の代わりに煙草の煙を口から吐き出すと、遠くで農作業をしている村人達を侮蔑するような目で見た。そのとき、背後の民家から子供の大きな声が響いてきた。
「あ痛っ!」
「こら!これは配る分だから食べちゃ駄目だって言ってるでしょうが」
 どうやら子供がつまみ食いしようとしていたらしい。
 気になったエバンスが窓から家の中をちらっと覗くと、母親が子供を叱りつけているのが見えた。どこにでもある光景だが、エバンスは目を見張った。そこにはなんと、テーブルの上に信じられない量のクッキーの山が鎮座しているではないか。
「ちょっとぐらい良いじゃないかよー」
「だーめ、外の子達にイタズラされたくなかったら、あんたも袋に詰めるの手伝いなさい」
 どうやらあのクッキーを小さな袋に小分けに詰めているらしい。あの量では夕方まであの作業をすることになるだろう。
 エバンスは少し気味の悪いものを感じつつも、平静を装ってその母子の家の前をゆっくりと通り過ぎた。
 エバンスは歩きながら考えた。果たしてあんな量のクッキーを作ってまで人をからかいたいものだろうか。そこまで手の込んだ事をするものだろうか。
 エバンスは不安になった。もしかすると、本当にハロウィンの夜に子供が増えるのかもしれない。もしそうだとしたら、その子供達はどこからやってくるのだろうか。
 エバンスはあの母親の言葉を思い出した。
「外の子達だって?」
 "外の子"とはどういうことだろうか。他の村から子供がやってくるということなのだろうか。だが一番近い隣村でもここまで歩いて2、3時間はかかってしまう。子供の足ならもっとだろう。
 なにより隣村だってそれほど子供は多くないし、ましてや何百人もの子供なんてこの村の周辺に居はしない。
「おや先生。お菓子の準備はもうお済みですか」
 エバンスが考え込んでいると、たまたま通りがかった村人が声をかけてきた。村人は大きな袋を抱えており、チョコレートの甘ったるい匂い漂ってきた。
「いや、まだだが」
「ええええ!?」
 否定するエバンスに村人は素っ頓狂な声を上げた。あまりの驚きようにエバンスはたじろいでしまった。
「先生、早く準備しないと間に合いませんよ!?」
「い、いや、私はハロウィンなどという行事には興味がないものでね」
「何を言ってるんですか!」
 村人が詰め寄ってくると、チョコレートの匂いがより一層強くなった。服に匂いがついてしまいそうだった。
「興味あるか無いかなんて事は、あいつらには関係ないんですよ!?」
「あいつら?」
「去年はお菓子が少し足りなかったばかりに、ベジェンの奴は……あぁ怖ろしい!先生、今すぐフランコの家に行ってお菓子を貰ってきてください。いいですね?忠告しましたからね!」
 村人はまくし立てるようにエバンスにそう言うと、エバンスの声を無視して怖ろしい怖ろしいと呟きながら早々に歩き去ってしまった。
「一体、何だと言うんだ…」
 その場に立ちつくして、エバンスはぽつりと呟いた。

517ドワーフ:2008/10/30(木) 18:40:23 ID:AepyIIHk0
 ハロウィン当日の夜、エバンスは別荘を完全に締め切って"あいつら"の襲来に備えた。結局エバンスはフランコからお菓子を貰わなかった。フランコの家の前まで行ってはみたものの、一度追い返してしまった手前、怖ろしくなったからといって頭を下げてお菓子を貰う気になどなれなかった。
 屋敷の中の明かりを全て消し、蝋燭一本の灯りの中でエバンスは毛布を羽織って小さくなっていた。
「く、来るなら来い。怖くなど…」
 明かりを消して居留守を決め込もうとしたのだが、それが逆にエバンスの不安を煽っていた。周囲の民家からも離れているため、外の音は虫の声しか聞こえてこない。
 長い長い時間が過ぎたような気がした。こんなことならフランコからお菓子を貰っておけば良かったなどとエバンスは後悔し始めた。
 ドンドン…ドンドン…
「うヒィッ!?」
 玄関扉が何者かによってノックされた。毛布をぎゅっと握り、エバンスは漏れかけた悲鳴を押し殺した。
 ドンドンドン…ドンドンドン…
 扉を叩く音が強くなっている。エバンスは早く行ってくれ、今は留守なんだよと祈るように心の中で声を上げていた。
「あれぇ?いないのかなー」
 ドンドンドンドン…
 小さな子供の幼い声が聞こえてきた。エバンスはふっと顔を上げた。なんだ、ただの子供じゃないか。
 エバンスはすっくと立ち上がると、燭台を片手に玄関へと歩いていった。なにやら無性に腹が立っていた。
『何でたかがハロウィンにこんなにビクビクしなきゃならんのだ?外に居るのはただのガキだ。やっぱり誰かが仕組んだイタズラだったに違いない。貧乏人どもめ!よくもこの私をここまでコケにしてくれたな』
 今頃自分のことを笑っているであろうフランコの顔が目に浮かび、エバンスの腹の中は煮えくり返っていた。
 ドンドンドンドンドン
「もしもーし?」
「うるさい!」
 エバンスは怒りに任せて外の子供に向かって怒鳴ると、ドアノブを掴んで扉を勢い良く開けた。扉の向こうでは小さな子供達数人がエバンスの怒った顔を驚いた顔で見上げていた。エバンスは子供達を見下ろし、大きな声で怒鳴り散らした。
「黙れクソガキども!いくら叩いても菓子はやらん。とっとと失せろ!」
 エバンスの激しい剣幕に驚いた子供の一人が、しゃくりあげ始めた。
「ウゥ…ヒック…」
「ふん、泣いたところで菓子は出ないぞ。さっさと……」
 エバンスはふと顔を上げた。暗くて気づかなかったが子供達の他にも、その後ろに誰かが居るようだった。エバンスと同じくらいの身長で、子供達の親かとも思ったがどうも様子が違う。エバンスは手元の燭台を顔の高さまで持ち上げた。
「うぐぐ…グルル……」
 そいつは小さく唸った。ごつごつとした岩のような肌、口から覗く涎に濡れた鋭い牙、それはオーガだった。
「…………」
 エバンスは口をあんぐりと空けた。
「キキッ」
 足元からした鳴き声を見下ろすと、そこには小さなコボルトがいた。それだけじゃない、大蜘蛛、蠍、狼、熊、ガーゴイル、原始人に鳥人間……etc。大量のモンスターの群れによってエバンスの別荘は完全に包囲されていた。
「…………はぅっ」
 エバンスは白目を向くと、その場に倒れて気を失ってしまった。

 フランコに介抱されてエバンスは自分の部屋のベッドで目を覚ました。フランコは説明不足だったと何度も謝ったが、エバンスは呆けたような顔で聞き流していた。
 すっかり風通しの良くなった部屋に秋の夜風が吹き込んできた。ギャアギャアとうるさい魔物どもの鳴き声も遮るもの無く響いてくる。
 すぐそばではフランコの妻がエバンスが配るはずだったキャンディーをモンスターたちに配っている。
 しばらくすると事情を知っている村長が玄関を通らずやってきて、ハロウィンにやってくるモンスターたちについて話し始めた。
 昔、この時期になると村にはロマの旅団が毎年立ち寄っていた。彼らは面白がって周囲のモンスターにハロウィンを教え込み、お菓子を配っていたのだがやがて来なくなってしまった。ロマの旅団が居なくなった後もモンスターたちはハロウィンの日を覚えており、以来この村には毎年ハロウィンの夜になると、村の子供達と一緒にモンスターの子供たちがお菓子を求めて民家を巡るようになってしまったという。
 しかし、やはりこれもエバンスの耳には入っていなかった。
 やがてエバンスは恐怖のあまり失っていた正気を取り戻すと、そそくさと村を出て二度と戻ってこなかった。彼は死ぬまで街で暮らし、絶対に外には出たがらなかったという。

518ドワーフ:2008/10/30(木) 18:49:30 ID:AepyIIHk0
あとがき

またミスって右端まで文章が延びちゃってますね。
読みにくかったらごめんなさい。

なんとかハロウィンに間に合いました。
なんだか楽しい感じの話でなくてすみません。

519ドワーフ:2008/10/30(木) 18:52:37 ID:AepyIIHk0
レムフェアバルターとドラケネムファンガー

お前はこの世のあらゆるちっぽけな命よりも下等だ
生きようと足掻く事もなく 生きたいと求める事もなく
操り糸に導かれるままに動くだけ
だがどうやら お前にも命はあるらしい
操り糸はお前にやろう その命もお前にやろう
生きられるかどうかは お前次第だ

 地下遺跡の奥深く、それはただただ立っていた。大きな人の形をした人形、ともすれば鎧を着た人間のように
も見える。それは両の手に剣と盾を持ち、まるで彫像のように立っていた。どれだけの時をその人形はこの場所
で過ごしたのだろう。何十年、何百年…、それは誰にも分からない。
 そこに一つの人影がやって来た。どうやら盗掘をしに来たらしい。その人物は人形を見つけると驚いたように
飛び退いた。
「な、なんでぇ、ゴーレムかよ。しかも動いてねーみてーだな……」
 盗掘者はゴーレムに近づくとコンコンとその外殻を手の甲で叩いた。
「ふん、脅かしやがって」
「…………」
 ゴーレムは微動だにせず、沈黙していた。
「ん?なんだこいつ。変わった剣と盾を持ってやがる。こいつは高く売れそうだな」
 盗掘者はゴーレムの手にある剣と盾に目をつけると、その手を無理矢理開かせてまず剣をもぎ取ろうとした。
だが、ゴーレムの手は固く握られており中々剣を奪えない。
「くそっ、この……んぎぎぎぎ」
 盗掘者はゴーレムの腕にしがみ付くと、力任せにゴーレムの指を引っ張った。すると少しだけ指が動いて剣を
持つ手が緩んだ。
「おし、あとちょっとだ」
「………う…」
「あん?」
 どこからか聞こえてきた声に盗掘者は手を止め、辺りを見回した。だが周囲には誰もおらず、何かが潜んでい
る気配すらない。
「空耳かぁ?」
 再び盗掘者はゴーレムの指に手をかけた。すると、今度は先ほどよりもはっきりと声が聞こえてきた。
「…う…う……うお」
 驚いた盗掘者が顔を上げると、今まで全く反応がなかったゴーレムが呻き声を上げていた。
「な、なんだぁ?」
「うお……おおぅ」
 ゴーレムは剣を持つ手を振るって、腕にしがみ付いて居た盗掘者を振り払った。盗掘者はもんどり打ってひっ
くり返ると驚いた顔で起き上がった。
「いてて…なんだよこいつ。動いてないんじゃなかったのかよ!」
 盗掘者は立ち上がってゴーレムに背を向けると、逃げようと駆け出した。
「うおお…ぉおおおおおおおおおお!!」
 ゴーレムは雄叫びを上げると、男の背中を追って走り出した。巨体を激しく揺らし、盗掘者との距離をあっと
いう間に縮めた。
「は、はやっ…ひ、ひぃぃぎゃああああああ!!」
 ゴーレムは盗掘者の背中めがけて剣を振り下ろした。
 盗掘者の死体をその場に置き去りにして、ゴーレムは遺跡の中を歩き出した。叫び声を上げながら。
 その声はどことなく生まれたばかりの人間の赤ん坊の泣き声のようだった。 

一週間後、地上の日差しの下に彼はいた。
己の中の"生"を自覚することなく過ごした永い時の果てに、彼はようやく自分自身に目覚めたのだ。
彼を操る剣と盾はもう彼自身のもの、もう誰にも彼の自由を奪う事は出来ない。
しかし、彼はまだ自分がどういう存在なのかを理解できていなかった。
温かい日の光を浴びながら、彼は動けなくなっていた。
その姿は、何かを地面から拾い上げようとしていたかのようだった。
剣があった筈の手に剣は握られておらず、伸ばした指の先には小さな花が咲いていた。
はじめて見る綺麗なものに心を奪われ、彼は自らの自由を地面に捨ててしまったのだ。

一ヵ月後、彼の元から剣と盾は無くなっていた。

520ドワーフ:2008/10/30(木) 19:10:26 ID:AepyIIHk0
あとがき
もう一つ、書きあがったユニークの話も出しておきます。

>甘瓜さん
初めまして。
新しい書き手さんが来てくれて大変嬉しいです。
最近はすっかり落ち着いてしまいましたから。
うーん、セリフはどうだったか…覚えてませんね。
かつての情熱を持っていた自分を思い出すくだりや、
街で商売を始めるところなど、よく出来た話ですね。
改行などについては、さほど気にかける必要はないかと思います。
>>1にも書いてある通りの場所ですので、これからも思いついたら是非書きに来てください。

521名無しさん:2008/10/30(木) 22:39:44 ID:uUxvekr20
赤石のアンソロ計画があるらしいですね。
どうやら小説も募集しているらしいですよ。

522◇68hJrjtY:2008/10/31(金) 08:22:30 ID:dglgdhAI0
>甘瓜さん
初投稿ありがとうございます♪
初心者向けクエのひとつである「クレンドルの研究」からスタートしたレッドアイ所長の物語。
<愛着による道具への思念の憑依>、つまりは人のためになる研究。彼はついにそれを発見できたのですね。
そういえばあのクレンドル研究クエ、サブキャラ以降で初体験したら帰還ばっかりだったのに辟易した事もありましたが
帰還一個の1000Gでもひぃひぃ言ってた頃をこの小説のレッドアイ所長のように思い出さなければなりませんね(ノ∀`*)
次回の投稿お待ちしております!

>ドワーフさん
一度に二話分の投稿、ありがとうございます!
さてさて、まずはハロウィン小話。戦慄系ハロウィンでちょっと怖いながらも、童話のような語り口で
実際にハロウィンの夜に子供たちに聞かせてあげても問題ないような不思議なお話でしたね。
ハロウィンをバカにしてしまうとどういう事になるか。「イタズラ」の実態も含めて、どこかユニークで面白く感じました。
そういえばRSモンスターって結構お菓子落としますよねぇ、実は大好物なのかもですね(笑)
一方、ゴーレムを操る二つのユニーク装備をめぐる悲しいお話。
ゴーレムというと私もそう同感ですが「自然を愛する優しい心を持つ」というイメージがあります。
ほとんど無敵のようになったゴーレムが、剣と盾より大事に選び取ったもの…。心温まりました(*´д`*)
またの投稿お待ちしています。

523スメスメ:2008/10/31(金) 23:30:07 ID:ddy6MTJU0
小説スレ5 >>750
小説スレ6 >>6-7 >>119-121 >>380-381 >>945-949
小説スレ7 >>30-34
小説スレ7 >>349-352

私達のグループが解散してからの事はあっと言う間だった。
予め、俺達の様な子供でも良い、と言う働き口を探してくれていたようだ。
仲間達は二度と悪さを働かないと言う条件で仕事に就いていった。
元々食う為に盗みなどを働いてきた連中だ。
食える環境にあるならそんな事には手を出さないだろう。
みんなも年相応の表情に生き生きとしたモノをみせながら働いている。
私はと言うと……


「――なぁ、坊主。名前は何て言うんだ?」

あの人が、仲間を一通り就職口へ送り届けてからのことだ。
私はそのままどこにも紹介もされず、
「取り敢えずオレの家に来い」と言う事で、あの人の家までの道を二人で歩いていた。
そんな時にふと訪ねてきたのだ。

「名前なんて無い。別に今まで必要でも無かったし」
「なるほどな、じゃあお前はこれからクニヒトだ。クニヒト=エヴァーソンと名乗れ」
突然の話に、彼の言っていることが一瞬理解できなかった。

「俺の息子にならないか?」
この言葉を聞いたときの気持ちは今も覚えている。
物心付いてから初めて嬉しいと感じた瞬間だった。
もちろん、同意し私は以降クニヒトと名乗ることになる。


養子として迎えられた後、私は学問、戦闘技術、作法……とにかく様々な事を必死に学んでいった。
ただ義父に応えたい一心で。

少し前まで生きることにしか執着できなかった奴が本気で人に認められる為に何かをしたいと思ったのだ。
誰かに見て貰いたい、誉めて貰いたい。
心無い連中からは理不尽を強いられようと、その気持ちの前ではそれほど苦にはならなかった。
みんなもこんな気持ちなのだろうか?
だが、そんな努力も評価してくれる相手が居て初めて価値があるもの……。


あの人がそんな事なんて気にする訳がない。
私を養子した後も義母と私をおいて旅に出る事もしょっちゅうだ。
それも一度出かけると、半月程帰って来ないことも当たり前だった。
義母に、それを何度も問い質しても、
「あの人が納得するまで好きにさせてやって?」
と笑顔で返すだけだった。
あの人にも事情があってあちこちを巡り歩いている。
頭では理解出来る……、理解できるがどうしても納得がいかない。
そんな風に葛藤しつつ、生活にも徐々に慣れてきて、私がここの家族となってから季節が一回りしてきた頃だ。
あの人が1ヶ月振りに帰ってきた。

それも見知らぬ少女を抱き抱えて。
抱き抱えられた少女は、ここへどうして連れてこられたか判らないようだった。
歳は4・5才だろうか?義父を掴んでいる手は心なしか震えており、その琥珀色の瞳は怯えているように感じた。


「お〜、クニヒト。ただいま〜」
右腕で少女を抱き抱えたまま、片方の腕で髪の毛がクシャクシャになるまで私の頭を撫でる義父。
義父が久し振りに帰ってきたことよりも、どうしても意識せずにいられない腕の中の少女。

「その子、誰ですか?」思うままに義父に訪ねると、
「今日からお前の妹になる子だ。 仲良くしてやれよ?」
と、少女の琥珀色で透き通った頭を撫でながら答える義父。

妹と聞いても、私にはいまいちピンとこなかった。
そして、その時に芽生えた感情に当時の私は名前を付けることが出来なかった。

524スメスメ:2008/10/31(金) 23:34:05 ID:ddy6MTJU0
「……ソン。エヴァーソンッ!」
その呼びかけにハッと気づき辺りを見渡す。
非常に大きな円卓に椅子が整然と並べられ、それに腰を掛けた制服の面々がこちらを伺っている。

――そう言えば今は会議中でした。
私としたことが居眠りしてしまったようです。

「失礼いたしましたっ!」とっさに立ち上がり敬礼をしながら詫びる。
ドッと笑いが周りから聞こえる。
「らしくないぞ。……では次の報告を頼む」

ここは【古都王宮騎士団】中央会議室。
元は遙か昔の王政の時代より、ブルン歴4804年に王政が崩壊するまでの長い間、王族直属の親衛隊として構成されていた組織だ。
しかし【シュトラディヴァリの反乱】によって王政は瓦解し、当然騎士隊も解散されるはずと思われた。
しかし当時、時の人であったバルヘリ=シュトラディヴァリによって軍隊だけは残されたが殆どが退役してしまい、少数での遊撃隊としてでしか機能しなくなってしまった。だが、これが功を奏して数々の手柄を立てていった。
そして百年以上の月日が流れた今では古都唯一の戦力である【古都防衛隊】の精鋭部隊となっている。

昔は何千と言う規模の人員で構成されていたが、今では1小隊を約7人前後で構成され、全7隊で構成される。
少数精鋭と言う事で、当然求められる能力は高く、採用試験も非常に狭き門となっている。
仕事内容は古都周辺の治安維持や対抗勢力の情報収集といった工作員としての性格もあるが、ブルンネンシュティグ中央議会や要職の護衛を中心に果ては有事の際の各指揮官としてを命負う事にもなる。
そうした任務を円滑に行うため、定期的に会議を行い今後の方針を決めている。
「――以上で報告を終わります」
隊員の一人が敬礼して報告を締める。
すると円卓の上座に座り込み一人だけ風格のある男が、
「皆も知っての通り、ここ最近鉄の道周辺における強盗事件が多発している。
恐らくは『例の奴ら』だろう、近日中にこれらの追討命令が来るはずだ。
各員、頭に入れておいてくれ。
以上、解散」
全員が立ち上がりその男へ向かって敬礼をし、
そして一気に場の空気がさっきまでの張りつめたモノから一転して和やかな空気へと変わった。

何人かの隊員が、からかい半分に私の席へやってきた。

「おう、クニヒト寝不足かぁ?」
「真面目にお勉強も良いけど、寝ないと今日みたいなヘマをしちまうぜっ」
「勉学で寝不足でしたら本望ですよ」
今朝の事を思い出し、溜息が漏れる。
その様子を見て隊員の一人が、

「ま、まさかお前、彼女が……」
その後に出てくる言葉は容易に想像がつき、
「ははは、まさか居――」るはずないと、否定しようとした矢先だ。

「「「な、なんだってぇぇぇ!?」」」
普通、全隊員が反応しますか?


過激な反応を見せた直後、一人の隊員がポンと肩を叩き、何故かうっすらと涙を目に浮かべ
「やっとお前も目覚めたか」
「こんなヤツでも良いっていう娘がいるなんてなぁ」
「おい、今日は寮長に頼んでお赤飯だ!」
皆、一様に反応を示し異様に盛り上がる。


あぁ、もう! どうしてこうも『仲が良い』んですか、この人たちは!
うるさい人達ですねっ!
と目一杯机を叩き叫びたいのをどうにか堪え、笑顔の体裁を整えながら
「そう言った訳ではないですよ。ただ明け方に思いも寄らぬ客人が来た為に若干寝不足なだけです」

525スメスメ:2008/10/31(金) 23:36:33 ID:ddy6MTJU0
するとそんな喧噪の中、先程会議を締めた男が私の方へやって来た。
比較的線の太い隊員が多い中、それでも大きく見える

「御疲れ様」
「お疲れさまです、隊長」
声を掛けられ反射的に敬礼の格好になる。

この『隊長』こと、レオフ=エギハルド。
【古都王宮騎士団】の第一小隊の隊長であり、その団体全てを統括する騎士団長でもある。
戦闘面では他の追随を許さないのはもちろんだが、普段は食事と仕事内容以外で口を開くことは殆どなく、更に周りとは一歩遅れたテンポの持ち主だ。
しかもボケているのかと、聞き正したい程に会話にならない。
才ある者は常人と少し離れた処があるとはいうがこの人はその典型なのだろう。

「飯はしっかり食っておけ。いざという時に力を出せぬぞ」
この様な感じで会話にならない事が多々ある。

よくこれで歴史ある騎士隊の隊長が務まるものだと思うが、これも不思議な事に業務には一切支障がないのが凄いところなのだろう。
……そう言えば今朝は思わぬ客人が来た為、ロクに準備も出来ていない状態でした。今回はあながち間違ってはいないのかもしれませんね。
「失礼しました。以後気をつけます」とまた敬礼をすると、
うむ、と頷いて去っていこうとした。が、
「そうそう、一つ調査任務を頼みたい」

首だけをこちらへ向け、その威圧感のある顔を近づけて話を切り出してきた。
「な、何でしょう?」
この人の行動には大分慣れたつもりだが、突然に顔を近付けられるのだけはどうしても慣れない。
思わず引きつった笑みを返して答えると、
「昨夜、西部地区の地下墓地にて大規模な戦闘があった、と言う証言が多数出ている。それを確認してきて欲しいのだ」

どんな用事かと思えば、
「確かにあそこにはバインダーと言う要管理対象も居るので大事を見てと言う事なら分かります。しかし雑魚とは言え他のモンスターが居るのですし、戦闘はあっても不思議ではないと思いますが」
「そうだ。だが『大規模な』と言う点が気になってな」
すると、その大きくタコまみれの手が私の頭頂部を覆い被さり、
「頼めるか、クニヒト?」

この人の手を他人の頭に置く癖。
これはこの人がプライベートの時にする癖みたいなものだ。
どうも個人的に気になっているらしい。
『例の作戦』の準備もあるのだが、幸いなことに今日は本部待機だ。
「判りました。では早速他の隊員に仕事の引き継ぎをして、向かうことにします」
敬礼をし、受け答える私。
レオフ隊長も頷くと踵を返し、自分の席へと戻っていった。
そして自分も同僚に引継作業をしてから支度をし、現地へと向かった。



古都西部地区集合墓地、通称【地下墓地】
ここに一体のモンスターがいる。

名をバインダー、かつて古都にて最大の大富豪だった男。

だが同時に戦争によって身を滅ぼしていった人物でもある。


当時、戦争容認派であったバインダーは様々な物質、武器などを古都やその同盟国に提供していった。
しかしそれと同時に敵対国家へも同様に様々な物質を売り捌いていたことが判った。

彼は所謂『死の商人』と言われる人物だったのだ。

その死の商人の最期は呆気ないもので、商談の最中に戦火に巻き込まれ亡くなったそうだ。
それも自分の売り捌いた商品によって。

526スメスメ:2008/10/31(金) 23:37:15 ID:ddy6MTJU0
だが彼の死後、非常に不可解な事が起こる。

ここからの話は不確定な情報からの推測も入るが、彼はとある新興宗教にも属しており、多額の寄付をしていたらしい。
彼の死後葬儀も遺族の意志を無視してその宗教が行ったそうだ。
その宗教とは必ずと言って良いほど、今迄の歴史に関与していると言う話まである位その筋では有名な話だ。
しかしそこまで有名な団体ならばある程度の事が判りそうなものだが、不思議な事にその目的どころか名前すら不明と言う事らしい。
とにかく彼の葬儀が終わり、埋葬してから半年余りが経った頃にそれは起こったのだ。
ある日、息子が墓参りに行くと墓の中のモノが無くなっていた。
しかも外側から掘り返された形跡はなく、内側から這い出てきた感じで……。

数日後、定期巡回の為に地下墓地を見回りに来ていた兵士によって新種のモンスターが発見された。
いつの時代か不明な祭壇、その近辺に普段見る骸骨剣士より一回り大きな骸骨剣士が現れる。
更に数日後、このモンスターをバインダーと断定。

決め手は当時首から掛けていた家紋入りのミスリル製の首飾り。
これはバインダーが生前、職人に作らせたもので世界でただ一つのモノだった。
それを新種のモンスターが身につけていたのだ。

このバインダー性質は非常に獰猛で、同じモンスターにですら襲いかかるほどだ。
その所為で追いやられた他のモンスターが地上に現れ、一般人に危害を加える可能性が出てきてしまった。
その為、バインダーを討伐するために王宮騎士団の1小隊が派遣される事となる。

しかし知っての通り、バインダーは幾度となく復活・再生を繰り返し、その度に猛威を振るっていた。
そこでとある魔術師に調査・研究を依頼し、バインダーについて調べてもらった。
結果としてバインダーは体内に超高度な何らかのエンチャントが施されており、それによって復活・再生を行っているらしい。
しかもこのエンチャント、現在でも解明されていない未知の技術で構成されていると言う話だ。
だが何故か現在のバインダーの祭壇の付近からは決して外に出ようとはしなかった。
幾度始末しても復活する上、行動範囲に制限があるため、要管理対象とは認定したものの、それ以上には関わらないようにすると言う対処が決定した。
当然、若干名の人間が異を唱えたが、その決定がその後も覆ることはなかった。



そして現在の地下墓地。
現在では本来バインダーの付近に居たモンスターが追いやられ、入り口付近にかなり大規模な集団を作っている。
一体一体は大して驚異ではない。
実際に一般の冒険家でも倒すことの出来るモンスターだが、流石に何十体も集団で居座っていると厄介だ。
しかし、我々治安を守るものとしては、非常に危うい状況ではあるが、モンスター全てを一掃する訳にはいかず、対処方法が見つかっていないのもまた現実である。

私は廊下沿いに設置されている松明を手がかりに地下墓地へと入っていった。
石畳の廊下を少し進んでいくとすぐに仕切られた小部屋がいくつかある。
この小部屋に先ほどの集団が何組かあるわけだが、今では王宮騎士団の甲冑をみると攻撃してくるモンスターは居らずそのまま素通りできるのは楽な限りだ。

そして目的地半ばまで進んできたところで一つの異変に遭遇する。

一カ所だけ大きく穴が空いているのだ。
しかも反対側の壁にも同じ様なあとがあるように見える。

「……何でしょうか、これは?」
思わず一人心地に呟きつつ近づいて調べてみると、破片の飛び散り方や壁の痛み具合からどうも墓地の中心地、つまりは私の目的地から外側へ『何か』が削りながら飛んでいった様な形になっている。
中心へ向かう穴から覗くと何カ所か通路があり、その奥30メートル程からうっすらとだが例の祭壇が見える。
反対側の穴を見るとまだ勢いが止まらず削り取られ、筒抜けとなっている部屋がさらに奥に見える。


ちょっと待って下さい。
あっちからここまで勢いが衰えることなく破壊しているというわけですか?
そう考えた途端、背中に寒いモノを感じた。

「ハハ……、悪い冗談ですかね」
こんな破壊力を一個人で出せるわけがない。
かと言って兵器の類をここへ持ってきているなら道中に何かしらの運んできた痕跡が残っているはずだ。

仮に出せたとしても魔術以外に出せるはずがない。

527スメスメ:2008/10/31(金) 23:37:55 ID:ddy6MTJU0
その考えに至った瞬間、ある一つの事を思い出した。
そう、アルの話だ。
アルは助けられたと言っていた。

誰に?

通りすがりの魔術師に。

ある一つの結論に至ると、私は居ても立ってもいられなくなり、空いている穴から一直線に穴を作った元凶が居たと思われる祭壇へ駆けていた。
進む毎に強くなって鼻に突いてくる腐臭。
そして息を切らせながら辿り着いて見た光景は、

「―――ッ」
想像以上の惨状だった。


あちこちの壁や柱を彩っている血痕。
床の一部にも同様に血痕と血溜まりが出来上がっていた。
周りの壁はもちろん地中で存在する為に必要な強固な柱や、
何の装飾もされていない無骨な石畳の床までが粉々に粉砕されていた。
その大半の破壊され方が今まで通ってきた壁と同じ様になっている事から同一の手段であると考えられる。
しかし何事もないかのようにそこにある祭壇。
もはや灰となって何だが判別のつかないのモンスター。
何よりおぞましいのは、

血溜まりの中央に転がっていた、元は3メートルはあろうと思われる今まで見たこともないような巨大なモンスターの下半身だ。

ここまでならば魔術師が何らかの理由から、魔法を用いて破壊工作をしていた、と言う推論に大きく関わっているのは間違いないと考えられた。
だが、それを覆す確たる物証が目の前に転がっているのだ。

非常に強力な力で握りつぶされ、引き千切られた腕、無造作に転がっている腕に近づき見てみると。
握り潰された腕に残る手の痕から人間の、それも若干小柄な人間のものだと言う事が判る。

となると当然バインダーの仕業ではない。
奴は持っている得物でしか攻撃をしないからだ。
アルが会ったという魔術師?
いや、仮に壁などの破壊行為には説明がつくが魔術師も人間だ、これほどの身体能力を有する人間なんて有り得ない。
仮に肉体強化の術法があっても果たしてここまでの力を手にすることが出来るか?
しかし、この引き千切られた腕に残る痕は人間のそれだ。
考えれば考えるほど解らなくなる。


もはや唯、呆然と立ち尽くすしか他になかった。

528スメスメ:2008/10/31(金) 23:42:55 ID:ddy6MTJU0
とりっくぉあとりぃとぅ!
どうも、スメスメです。
本当はハロウィンネタも書きたいところですが……

ぶっちゃけもっと話が進行していないと書けないネタだったんですよ。

仕方が無いので隔離板に投稿しようかと思うのですがネタバレでも載せてよいものなのだろうか?
と、言う訳(どう言う訳?)でしばらく待ってみる事にしてみます。
今日はもう充電しないと自分のバッテリーが無くなりそうなのでこれにて失礼をば……

529◇68hJrjtY:2008/11/01(土) 17:07:29 ID:mG9qPNmA0
>スメスメさん
お久しぶりです!続きのほうありがとうございます。
アルを視点とした物語が一転、義兄であるクニヒトを主体とさせた物語になりましたね。
シリアスな流れに息を呑みつつ、調査官として祭壇へと赴いた彼の見るものに同様に驚きです。
そして改めて、キリエがいかに異常な状況に置かれていたのかが分かりますね。
何やら推理モノのような雰囲気を漂わせつつ、続きを楽しみにお待ちしています。
---
ハロウィンネタができあがっているということでしたらぜひ読みたい!とは思いますが
本編のその部分が終わってからじっくりという事にさせてもらいます(ノ∀`*)
投稿は隔離板で構わないと思いますよ。ツリー掲示板となってリニューアルしてます、隔離板(笑)

530名無しさん:2008/11/02(日) 19:22:19 ID:WrGT.WaE0
ESCADAが相変わらず酷いままなのでNGワードにしますたwww
名前変えないでねw

531名無しさん:2008/11/03(月) 21:41:26 ID:7Z2OWj9k0
もうひとつの赤石

俺は赤石を探す勇者だ。しかし目覚めるとPCなるものの前にいた、
そう、俺は勇者ではないニートだった(とほほ・・・

532ドワーフ:2008/11/05(水) 18:46:52 ID:AepyIIHk0
報告:

宇宙暦XXXXXX年XX月XX日

E-3TO星天上界最高管理責任 神

 去るブルン暦4423年6月(当該惑星時間)、E-3TO星の天上界最重要機密に属するレッドストーンを地下界の悪魔
に奪取された事をここに報告致します。

 これは、一部天使長の職務における怠慢が原因であり、また私の危機管理についての指導の甘さに因るもので
あります。現時点でレッドストーンは地上界にその存在を確認されており、天使を派遣しての大規模な捜索活動
を展開しているところであります。
 事件当時の具体的な被害は現在調査中でありますが、悪魔との交戦で多数の天使が負傷及び死亡し、また記憶
障害を負った者も一部確認されておりますが、天上界の管理・防衛に何ら影響はありません。また事件後の地上
及び地下界での悪魔の活動も以前より多少の活性化は見られるものの、問題として取り上げるほどの物ではない
と思われます。現時点での事件の影響は極めて軽微ではありますが、次第によっては星系内に重大な損害を与え
かねない不始末であり、星系及び関係各位に対し、心からお詫び申し上げます。

 今後は各天使長に注意を呼びかけ、警備システムの見直しを進め事件の再発防止に努めていく所存であります
。レッドストーンの捜索につきましても、所在地域の特定まで漕ぎ着け、その回収も時間の問題と思われます。
与えられた職務に対し自覚と責任を持つよう教育を促し、私自身も二度とこのような過ちを繰り返さぬことを誓
います。つきましては、何卒寛大なご処置のほどをお願い申し上げます。
以上

Re:報告:

 事件発生から報告までに500年以上経過していることについて説明を要求します。また事件当時の具体的な被害
状況についても、至急報告するように。
 委員会は本件を最重要緊急課題に指定し、近く会議にて対策を討議しますので、貴方も責任者として出席する
ように。

通告:

 先の会議での決定通り、E-3TO星に対し事件の早期解決のためE-3TC星より応援としてリトルウィッチを派遣し
ます。彼女達の地上における活動が円滑に進むよう、支援してください。

Re:通告:

 リトルウィッチの活動支援について報告致します。彼女達の地上における立場を人間の最高位に近いプリンセ
スとしました。これにより地上の如何なる場所への侵入も許可され、また地上での生活も保障されます。この通
り事件解決に向けて如何なるご命令にも誠心誠意取り組んで参りますので、解決後の私の処遇につきましては何
卒寛大なご処置のほどをお願い申し上げます。

Re:Re:通告:
 貴方の処遇については、事件解決後に話し合われますので、そのつもりで。

533ドワーフ:2008/11/05(水) 18:54:39 ID:AepyIIHk0
あとがき

今回はちょっと発想を変えまして、
人間でも悪魔でも天使でもなく神様の視点で書いてみました。
REDSTONEの世界では神様が確かに存在するようですので、
実体を持たせようと少し人間臭くしてみました。
人間臭いというか、かなり情けないですね。

星の名前や委員会だとかはただの思い付きです。

534◇68hJrjtY:2008/11/09(日) 19:31:32 ID:R/Ut8hFo0
>ドワーフさん
謎に包まれたプリンセス/リトルウィッチの実態がまたひとつ明らかに…。
神様の感覚からすれば、地球(RS世界)は管理するべき場所で、そこで紡がれる歴史や事象も
データや報告書にまとめられるようなものなんでしょうね…なんて、悟ったような事を言ってみます(ノ∀`*)
小説とは異なるSFチックな短編、ありがとうございました!

535FAT:2008/11/12(水) 22:03:03 ID:07LLjSJI0
    『水面鏡』あらすじ

 物に魔力を付加することを生業としているエイミーとラスのベルツリー親子。
ラスの父親は地下界の魔物であり、ラスを地下界へと連れ戻そうとしている。
 ラスの父親の存在を記憶から消そうとしていたエイミーはその男との再会に
強いショックを受け、寝込んでしまう。
 そんな彼女の姿に居た堪れなくなったエイミーの親友、レンダルとデルタは
その男より先に旅に出ているラスを連れ戻そうと決意。誰の居場所をも念じれば
見えるという水晶を求めて廃抗の奥深くにひそむというチタンを目指す!






第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759

536FAT:2008/11/12(水) 22:05:54 ID:07LLjSJI0
―12―

 鉄鉱山から潜り、はしごをいくつも下って気付けばもう廃坑地下十階。冒険者たちで賑
わっていた地下九階が嘘のように静まり返っている。無音。そこは生物など何も存在して
いないかのような静けさで、空気すら止まっているようである。
「嫌な静けさだ」
「なんだか不気味ですわ」
 長いこと誰も立ち入らなかったのか、足跡は一つもない。三人は新しい足跡をつけなが
ら、マップの端から端まで隈なく地下への道とチタンを探し歩いたがそのどちらも見つけ
出せなかった。
「廃坑って十階までだったのか。人間の足跡がないのは分かるけど、魔物の足跡の一つも
ない。こりゃ完全にジム=モリさんにやられたね」
「ガセ……だったのでしょうか」
 デルタがぽつんと漏らす。
「殺す……しかないでしょう」
 レンダルがデルタのまねをしてぽつんと漏らす。
 虚しくなった三人は、とぼとぼと来た道を引き返す。するとデルタが壁に光る鉱物に目
を光らせた。
「まぁっ! 見てください、お姉さま方! こんなにきれいな鉱石が壁にびっしりです
わ!」
「ほんとだ。廃坑になったとは言え、元々はかなりの鉱物が産出されたって話だからね。
これはなんの鉱石かな?」
「えらい濁った色だなぁ。銀かなんか、金属系の元か。それにしてもよ、廃坑にするんな
らこんなもの残しとくかね。もったいね」
 またもレンダルが無意識に放った言葉にマリスとデルタはハッとする。そうだ、ここは
廃坑。廃棄された鉱山。鉱物が残っているはずがない。
「二人とも、離れろぉ!!」
 マリスが叫ぶ。すると突如、壁が割れ、銀灰色の魔物が現れた。見た目はコロッサスそ
のもの。ただ、全身は銀灰色の金属で出来ているかのように鈍く輝き、重々しい。割れた
岩壁の破片が乾いた音を響かせ、地面に散らばる。銀灰色の魔物は三人を見下すように仁
王立ちし、暗い眼光を覗かせる。
「おおお、出た出た出たっ! こいつがチタンか! デルタ、いくぞっ!!」
 デルタは体を曲刀と二又の短剣に変化させ、レンダルの手に納まった。
「だぁりゃぁぁぁぁぁっ!」
 レンダルは大股で踏み込むと腕をしならせ、勢いよくチタンを切りつける。しかし、相
手はコロッサス以上の皮膚の硬さ、キィンッと火花を散らし、その肉体には傷をつけるこ
とも出来ない。
「あたしに任せてよっ!」
 マリスは気を込めた拳をチタンのみぞおちにぶち込む。しかし、チタンは微動だにしな
い。マリスは拳の感触に違和感を感じた。
「なんだこいつっ! まるで中身がからっぽみたいに軽い手ごたえだ。衝撃がうまく伝わ
らない」
 その言葉でレンダルは思い出した。チタンは体内の水晶で動いているとジム=モリは言
っていたことを。
「おい、ひょっとしたらそいつ、水晶の力だけで動いてるんじゃないか」
「あっ、なるほど。ラスちゃんみたいに水晶の力でコントロールされていれば、ただの金
属が形を作りあげて動くこともできますわね」
「つまりは、その水晶を壊せばこいつは止まるってことか。でも、その水晶がほしくって
こんな所まで来たんだろう?」
 おしゃべりを嫌うかのようにブォン! とチタンが壁を蹴り上げる。砕け、弾かれた岩
石が散弾のように三人を襲う。

537FAT:2008/11/12(水) 22:06:45 ID:07LLjSJI0
「くっそ、いってーな! 何とかしてよお、こいつを引き裂いて水晶をいただこうぜ! デ
ルタぁ、でっけー斧だっ!」
 レンダルはデルタを巨大な斧へと変身させ、両手で構える。
「よしっ、あたしが動きを止める。隙ができたらやってちょうだい」
「おうっ!」
 マリスは素早い動きでチタンの拳をすり抜けると、その背後に回り、両膝の裏を突く。
がくんと膝をついたチタンの首についた防護板に腕を回し、がっちりとホールドした。
「今だっ!」
 レンダルは地面をいっぱいに踏み締め、腰を捻り、全身をしならせて巨大な斧を振り下
ろした。ガギィンと鈍い金属音が響き一瞬の火花が散る。全力の攻撃もチタンの体には傷
の一つもつけられない。
「ちぃっ!」
 レンダルが斧を引きずり、再度振り上げようとした瞬間だった。がっしりと首を固定し
ているマリスを引っ付けたままチタンは立ち上がると、勢いよくバックステップし、壁に
マリスを叩きつけた。
「ぐはっ」
 少し坑道が揺れた。マリスはチタンの硬い背中とごつごつした岩壁に挟まれ、その小さ
な体は力なく、どさっとチタンの足元に落ちた。
「マリスぅぅぅぅっ!!」
 チタンはマリスの小さな頭を踏み潰そうと足を高らかに上げた。レンダルは焦りながら
も、手をマリスのくれたジム=モリの巻物に伸ばしていた。
「マリスを助けてくれ、ジム=モリぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
 巻物を広げると、何の詠唱をしなくとも、火の鳥が飛び出した。ところ狭しと翼を広げ
た火の鳥は超高速でチタンに突っ込むと、チタンの頭を咥え、投げ捨てた。
「ぐごぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 咥えられた頭部は熱で変形し、空洞の胴体からは悲鳴のように炎の燃え盛る音がこだま
し、空いた穴から漏れ出した。
「マリスっ!」
 レンダルはマリスに素早く駆け寄ると優しく頭を腿に乗せ、大きなポーションを口に流
し込ませた。
「ごっほごっほ、すまない、足を引っ張ってしまって」
 マリスは全身の痛みに耐え、顔をチタンに向ける。その眼前にはチタンを翻弄する火の
鳥の姿があった。
「すごい魔力だ。あんな完全な形の鳥を魔力で創り出せるなんて」
「ジム=モリおじさまは鳥が大好きなのです」
「腐っても、あいつはベルツリー家の人間だからな」
 火の鳥は相手の体内にあるものの重要さを理解しているかのように、チタンの頭、腕、
脚を熔かせた。そして鉤爪で胴をぱりっと引き裂くと、役目を終えたことを示すように空
気に溶けていった。

「なんだかジム=モリに全部持ってかれた感じだな」
 レンダルはどろどろに溶け、もはや原型を留めていないチタンの胴部から丸く透き通っ
た水晶を取り上げた。
「きれいですわねえ」
「ほんと、まるで澄んだ空気のように透き通ってるね」
 水晶は一度手を離れれば、もう見つけられなくなってしまうかと思わせるほど透明だっ
た。三人がその透き通った美しさに見惚れていると、突然その水晶の内部に半身獣、半身
人のあの男が映し出された。はっと息を呑んだ瞬間、それはすでに目の前の現実となって
いた。

538FAT:2008/11/12(水) 22:07:54 ID:07LLjSJI0

―13―

「どうした? エイミー」
 ジョーイは突然上半身を起こしたエイミーを驚いた青い瞳で見た。
「来るわ、来た、来たのよっ!! レンダル、デルタっ!!」
 怯えた表情で髪を振り乱すエイミー。また悪い夢を見たのかと思い、ジョーイは優しく
肩に手を当て、エイミーをなだめる。
「落ち着いて。大丈夫、レンダルもデルタも元気にしてるよ」
「だめっ! だめなのよ! 誰か、誰か助けてあげて! レンダルが!! デルタが
っ!!」
「おいっ! しっかりしろ、エイミー!」
「お願いお願いお願いお願い!! だれかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 激しさを増すエイミーの感情の高ぶり。壁にかかっている額をカタカタと鳴らせるほど
の激情。感情が魔力の制御を狂わせる。エイミーの魔力は目に見えるほどその体内から溢
れ出し、破壊を始めようとしていた。
「くっ! 龍よ、抑えてくれっ!!」
 ジョーイは左目を覆っている眼帯を外し、その窪みでエイミーを強く見た。奥深く、暗
い窪みの中から青い魔力が飛び出す。青い魔力はエイミーを包むと優しく、なだめるよう
に溢れ出した魔力をエイミーに戻した。そしてエイミーは再び眠りについた。
「ありがとう。戻ってくれ」
 ジョーイの目の窪みに青い魔力が吸い込まれる。いや、流れ込んでくる。眠ったエイミ
ーの白い顔を確かめると、ジョーイは一つ、大きく安堵のため息をついた。
「なんて奴だ。ここまでこの娘の心を不安定にさせるなんて。男の風上におけない奴だな」
 ジョーイは知らない。エイミーが発狂した本当の理由を。
 暖かな太陽が牛の食欲をそそる。町はいつも通り穏やかで、のんきな牛がエイミーの家
の裏に生えた草をむしりとってはもしゃもしゃと食べていた。ジョーイはそんな光景を窓
から眺め、そのうち、うとうとと浅い眠りに落ちた。
 エイミーの感知した危機は、ジョーイには伝わらなかった。

539FAT:2008/11/12(水) 22:15:00 ID:07LLjSJI0
皆様お久しぶりです。初めましての方もたくさんいらっしゃいますね。
また半年以上も間が空いてしまいました。読んでくれていた方々には
本当に申し訳ないです。
またしばらくお世話になりますが、どうぞ宜しくお願い致します。

540◇68hJrjtY:2008/11/14(金) 15:40:02 ID:.AHgCHoA0
>FATさん
うわーい、FATさんお久しぶりです!この物語の続きが読めるとは(´;ω;`)
エイミーやデルタ、レンダル然り、面々も懐かしくて画面が見えないよママン。
でもでも、物語はしっかり続いているようで安心しました。チタンも撃破完了ですね。
ジム=モリさんのあの性格が見れると思うと…そこにマリスを加えたカオスが見れると思うと楽しみです(笑)
ラス&レルロンドの方も楽しみにしつつ続きお待ちしてます♪
---
私信ながら、チャットイベやらのお知らせでFATさんのブログに何回か書き込みしてしまいましたが
ちょっとコメントをすべき記事が分からなかったもので一番新しい記事のほうにコメしてしまいましたorz
「イベント開催なんて知らなかった!」って事になってましたら、私の不手際です。申し訳ありません<(_ _)>

541防災頭巾★:削除
削除

542柚子:2008/11/16(日) 14:44:24 ID:JNF/MKiM0
前作 最終回 六冊目>>837-853
登場人物 
・イリーナ 今作の主人公。魔導師の女性。バトンギルドに所属する。
・ルイス 美貌の戦士。バトンギルドに所属する。
・アメリア バトンギルドの若き女性ギルドマスター。
・アルトール バトンギルドの副ギルドマスター。
・グイード ブランクギルドのギルドマスター。重剣士。
・ディーター ブランクギルドの副ギルドマスター。武道家。
・マイア ブランクギルドの副ギルドマスター。召喚士。
・コルネリウス 古都ブルンネンシュティグの国王。
・ヘルムート 古都聖騎士団の隊長を務める戦士。
・エレナ 近衛師団の一員。魔獣使い。
・リュカ 近衛師団の一員。大魔導師。
・トール 近衛師団の一員。大天使。
・ダグラス 砂漠都市アリアンの国王。
・エルネスト 元古都聖騎士団の隊長。
・カルン ピーシング盗賊団の一員。
・バジル ピーシング盗賊団の党首。
・ノエル 街を回る獣医。
・ソロウ 謎の子供。
・ミシェリー イリーナの前に現れた少女。2ヶ月前に死亡した。

543柚子:2008/11/16(日) 14:45:41 ID:JNF/MKiM0
Avengers

5年前――

燦々と照らしつける太陽。
砂混じりの風は火薬の臭いを乗せて人々に吹きつける。
絶えず鳴り続ける爆音と剣戟の音が、この一帯で何が起きているのかを存分に語っていた。
ここは砂漠都市アリアンから数キロ程離れた砂漠。
そこでアリアン軍とブルン軍との小規模の戦闘が行われていた。
小規模と言っても、動員数は数百人数千人単位で、時々村で起きる紛争などの比ではない。
そういった戦闘がいくつにも合わさって1つの戦争となっているのだ。
無論、ここで行われている戦いもその内の1つ。
「第二防衛線、突破されました!」
様々な怒号が乱れ飛ぶ中、兵士の声が響き渡った。
「3番隊はどうした!」
「だめです、連絡が取れません!」
次々と送られてくる厳しい状況報告に、指揮官である男の表情が歪む。
戦いは既に激しい交戦状態にあった。
しかし戦況は一方的でアリアン軍が有利だ。
「エルネスト隊長、ご指示を!」
魔石を媒体にして魔力で言葉を伝達する魔力通信で指示を求める声が届く。
それも1つや2つではない。
その1つ1つにその指揮官――エルネストは的確な指示を与えていく。
この状況にありながら、まだ保っていられるのは彼のお陰だと言っても過言ではなかった。
彼らは古都聖騎士団と呼ばれる、数ある集団の中でも名実共に1位のエリート集団だ。
様々な武器を操り、時には馬も駆る。
男なら必ず一度は憧れると言われる最強の集団。
その集団を束ね頂点に立つのがこのエルネストであった。
そんな彼らが、今初めての窮地に立っていた。
それも無理はない。なにしろ相手は初めの情報より10倍以上の兵士量なのだ。
「く、王国からの増援はまだか……!」
エルネストの表情に苦渋の色が浮かぶ。
連絡は既に取ってある。彼らの本拠地である古都からの援軍はそろそろ来るはずだ。
そうすれば形勢逆転の契機はいくらでもあるだろう。
『隊長!』
「どうした」
魔力通信越しに兵士からの連絡が入る。
兵士は少しばかり声を震わせながら応えた。
『たった今、古都からの連絡が入りました』
「本当か!」
待ちに待った連絡。だが、その期待は簡単に裏切られた。
『増援は検討中。聖騎士団は最後まで奮闘せよ。とのことです……』
「何だと!」
それは、増援は来ないと言っているに等しい。
彼らは国から切り捨てられたのだ。
「そうか。そういうことですか、国王……」
その伝令を聞いたエルネストは絶望に暮れるのでもなく、なんと笑い出した。
人の何倍も頭が回る彼は気づいてしまったのだ。
彼らの君主は初めから彼らを切り捨てていたことに。誤りの情報を持たせて。
そしてそうする真意さえも。
それはこうして今も思惑通りに進められている。
ならばやるべきことは1つ。
「我が軍に告げる。これより一点突破を計る。敵の陣形を崩すのだ!」
『応!』
無理のある作戦であるにも関わらず、騎士たちは従順に従う。
そんな部下たちにエルネストは胸中でこれ以上ないほどの感謝と謝罪をした。
「全軍、我に続け!」
そしてエルネストたちは必死の特攻を始めた。

544柚子:2008/11/16(日) 14:46:53 ID:JNF/MKiM0
「へえ、そんな訳で入団をねえ」
「ええ。以前ふと皆さんの噂を小耳に挟みましてね」
古都ブルンネンシュティグから東に位置した荒野。
そこで若い男女が歩きながら親しげに会話を交わしていた。
2人は草木を避けながら人気のない方へと歩いていく。
「でもあんた、今まででこういった経験は? とてもそういう風には見えないが」
「こう見えても腕には自信があるんですよ」
そう言って若い女性が外套を捲り上げてみせる。
現れた細い腰の脇から、鈍い光を放つ鋭い剣が顔を出した。
「まあ、期待しているさ。それに」
「何です?」
男は急に言い淀み、女の顔を吟味するように眺め回す。
「あんたくらいなら、他にも役所はありそうだしな」
そう言って、男の細長い顔がいやらしく弛む。
そんな男に、女が笑顔で応える。
「ええ。私で良ければいつでもお相手致しますよ」
「へへ……」
照れているのか、男は歩む速度を上げた。
しばらく歩き続けると、小さな木造の小屋が見えてきた。
「ここですか?」
「そうだ」
男は先ほどの表情から一変し、鋭い雰囲気で周りを見渡す。
誰もいないことを確認すると、男は安堵の息をついた。
「やけに慎重ですね」
「俺たちがやっていることはそういう職柄だからな」
男はそのまま小屋に入ろうとするが、ふと立ち止まった。
「そういや忘れていたが。あんた、名前は?」
意外だったのか、女は少し驚いた後すぐに笑顔に戻した。
「イリーナって言います。イリーナ=イェルリン」
「良い名だな。では歓迎するよ、我々盗賊団一味へ」

545柚子:2008/11/16(日) 14:48:11 ID:JNF/MKiM0
小屋の中は盗賊のアジトとは思えない殺風景な内装だった。
それどころか、全く人の気配が感じられない。
イリーナが不可解に感じていると、見透かしたように男が口を開いた。
「二重のカモフラージュだよ。本命はこっちだ」
そう言って、男は足で床を叩いた。
男はそのまま奥へ進むと、何の変哲もない床に手を当てた。
「こっちだ」
男が手招きをする。
イリーナが近づくと、男は手に当てていた床を掴み、ゆっくりと持ち上げた。
すると、なんと階段が現れたではないか。
イリーナが思わず感嘆の息を漏らすと、男は得意げに笑った。
「へへ、驚いたかい。これが今でも俺たちが捕まっていない理由さ」
階段を降りると、更なる驚きがイリーナを待っていた。
「広い……上の数倍はありますか?」
「そうだ。ちなみに更に下が倉庫となっている。後で案内しよう」
地下の空間は上の数倍に値する広さを誇っていた。
驚くべき所はそれだけでなく、ここが迷路状の造りになっている所だ。
「なかなか凝っているだろう。仲間があんたを待っている。急ごう」
幾度にも渡り角を曲がると、ようやく人の賑わいが聞こえてきた。
どうやらイリーナのために待っているらしい。
最後に細長い道を曲がると、小広い空間に躍り出る。そこが盗賊達の溜まり場になっていた。
イリーナ達にいち早く気づいた団員が2人に手を上げた。
「来たか。待っていたぜ!」
それを発端にして、次々と他の団員も歓迎や労いの言葉を掛けていく。
「よく来たな、歓迎しよう」
党首らしき男が人々の間から躍り出る。
野蛮そうだがどこか落ち着いた気風を見せる、悪党共を束ねるに相応しい人物だった。
「初めまして。イリーナ=イェルリンと申します」
イリーナが丁寧に頭を下げようとすると、それは手で制止された。
「悪党に堅苦しいのはいらん。まあ、飲もうや」
党首が言うと、どっと周りが沸いた。
「ほらほら、こっちに来いよ!」
「さあさあ、飲もうぜ」
次々と掛けられる温かい言葉に応えようとイリーナが踏み出すと、奥の方で鉄塊が落ちるような音がした。
いや、それは比喩などではない。本当に鉄塊よりも重い物が落下してきたのだ。
続いて悲鳴が沸いた。
その悲鳴の中心にそれは居た。
全身を纏う銀色の鎧。その頂上に位置する深い青髪。
そして何よりも象徴的な物が鮮血で染まった大剣であった。
その大男は剣を一閃して血糊を払う。
その迫力に盗賊たちは思わず後退した。その瞬間、大男は一歩を踏み込んだ。
さらに一歩踏み込み、獰猛な一撃が盗賊たちに向けて振るわれる。
巨大な刃は前方の2人の胴に絡み、そのまま分解した。
「う、うわぁあああ!」
盗賊たちが悲鳴を上げる。広場は一瞬にして混乱に陥った。
しかし大男は止まらず、1人、また1人と死体を積み上げていく。
訳が分からない団員達は無抵抗のまま次々と絶命していく。
「敵に好きにさせるな、足を止めさせろ!」
党首からの一声で怯えきっていた盗賊達の目に闘志が宿った。
流石はこの大人数をまとめるだけはある、威厳のある声だった。
盗賊達はそれぞれに短剣や手裏剣、手斧などを構え、大男に狙いを絞る。
それでも構わず、男は走りを緩めずに突進してくる。
「斉射っ!」
党首の号令と共にそれぞれの獲物が一斉に放たれる。
男は大剣を盾にして頭を守る。飛来した刃物は鎧を貫けず床に落ちる。
男は全くの無傷。外れた短剣や手裏剣が虚しく壁や床に刺さるだけだった。
「それだけか」
男の顔に初めて感情が表れた。それは残酷な笑み。
男は跳躍し盗賊達の目の前に着地。そのまま大剣を振り抜いた。
刃は前列にいた数人の首を刈り取りながら回転、床に突き立てられる。
続けて放った斬撃の勢いを利用した中段蹴りが脇に居た盗賊の肋を砕く。
痛みに悶え倒れた盗賊の顔面を踏み潰し、さらに男が前進する。
「後退、後退!」
党首の指示で盗賊達は短剣を放ちながら後退した。

546柚子:2008/11/16(日) 14:49:15 ID:JNF/MKiM0
イリーナはさらに後方の場所で立ち尽くしたままだった。
急すぎる殺戮に動くことができない。
「おい、新人。お前も援護してくれ!」
道案内の男だった。
男の声でやっとイリーナは我に返る。
「は、はい!」
イリーナは腰から銀色に光る細身の剣を抜く。
柄には複数の魔石や補助魔石が嵌り、剣というよりも杖と呼べる代物だった。
イリーナは剣を強く握り締め、前を見据える。
眼前では地獄の光景が広がっていた。
息を吸い、吐く。覚悟を決め、イリーナは走り出した。
突き出した剣が背中から胸に抜ける。刀身はイリーナに道案内をした男の胸から生えていた。
剣の根元はイリーナが握っていた。
「な、ぜ……」
何故刺されたのかも分からず、疑問を浮かべたまま正確に心臓を貫かれた男は絶命する。
「すまない」
男の疑問に答えるかのように呟き、イリーナは刺さった剣を抜き取った。
空いた穴から一気に赤い血が滝のように流れる。
絶命した男は自立出来ずに自らの血で作られた血の池に沈む。
しかしその音は他の団員達の怒号や悲鳴でかき消された。
イリーナはさらに呪文式を紡ぐ。
呪文が完成。魔法陣の代わりとなった、剣に嵌められた魔石が光を発し空中に魔法陣を描く。
イリーナが紡いだ呪文は難易度3のジャベリンテンペストだった。
剣の周りに不可視の風の刃が発生、発射。風の刃は後方で奮闘している盗賊の胸を貫いた。
苦鳴と血を吐いて男は絶命する。隣に居た他の盗賊が悲鳴を上げた。
その男の胸にもジャベリンテンペストが放たれ、男が倒れる。
連続して団員が倒れることで、ようやく誰かがイリーナの無謀に気がついた。
「お前、何をして……」
最後まで言えずに、首を失った死体が後方に倒れる。遅れて首が床に落ちた。
倒れる死体は後ろに居た他の団員を巻き込んで転がる。
その光景を見て、残りの団員達もイリーナを敵と認識し始めた。
尚も魔術を紡いでいるイリーナに対して短剣や手裏剣が放たれる。
予想していたイリーナは予め紡いでいた難易度3、トルネードシールドを展開。
イリーナの周囲に発生した風の防護が飛来してきた投擲物を弾き返す。
弾き返された投擲物はそのまま盗賊達に突き刺さった。
苦鳴を上げる団員の間を抜ける影。一味をまとめる党首だった。
「この騒ぎの原因はお前か」
党首は刃の視線でイリーナを睨む。イリーナは全く臆せずに剣を向ける。
「慣れない演技は苦痛だったよ」
イリーナは続ける。
「向こうで馬鹿みたいに暴れている馬鹿をここへ誘導したのは、な。私達は依頼されてここへ来た」
党首の顔に苦い物が浮かんだ。追い詰められた犯罪者の顔だった。
「ここへ辿り着くのにはなかなか苦労した。だが、お偉いさん達を敵に回したのが間違いだったな」
古都のような冒険者やギルドが集まる国ではその数に比例して有能なその手の情報屋も多くなる。
いくら拠点を隠そうが、数人の情報屋に狙われればこんな小さな一味の拠点などすぐに見つかってしまうのだ。
「お前達は今まで通りにこそこそとしていれば良かったんだ。あれと組むべきではなかった」
言葉の刃が党首に突き刺さる。既に表情は違っていた。
「そうか。全て見透かされていたか。ならば」
党首の足に力が籠もる。
「ここで貴様らを倒すしか、生き残る道はあるまい!」
党首が疾走する。
いくら高位の魔術師とはいえ、近接戦闘では盗賊である党首の方が有利。
イリーナは動けない。党首の顔に勝利の確信が浮かぶ。
その時、2人の間に金色の羽毛が舞い降りた。いや、羽毛のように無音で着地したのだ。
党首は咄嗟に疾走を止める。だが、慣性の力が働き止まらない。
疾走は棒のような物にぶつかることでようやく止まった。
棒は胸に刺さっていた。
「ごふっ……」
小さな咳のようなものをこぼし、次に大量の血液を吐き出す。
棒のような物が抜かれる。
支えを無くした党首は呆けた表情のまま後方に倒れた。

547柚子:2008/11/16(日) 14:50:13 ID:JNF/MKiM0
「分かっていても心臓に悪いな」
呆れたようにイリーナが胸を撫で下ろして見せた。
「あら。こういう登場の方がインパクトがあるでしょう?」
そう話すのは女の声だった。
金色の軽鎧に包み込んだ身体は女性らしいラインを描き、同じく金色の髪が光を反射する。
その下から見せる容貌はまだ若く、美しかった。
手にはその容姿とは似つかない、鋭い光を発する短槍を握っている。短槍からは未だに血が滴っている。
「半分はルイスに任せるとして、こっちは私がやるわ。イリーナは端っこで驚いていなさい」
言いながら槍を軽く振るい、血糊を払う。
「支援ならしますよ。ルイスはともかくマスターになら」
「いらないわ」
女が自信満々に言い放つと、イリーナは大人しく下がった。
反対側では大男のルイスが盗賊達を圧倒していた。
「おい、半分はこっちを応戦しろ!」
「あの党首がやられたのか!?」
「くそ、化け物め!」
盗賊達は党首がやられたことにより統制が乱れていた。
それでも何人かは女の方へ向かってきた。
「では、行きますか」
女は爪先を何度か床に叩く。それを両足交互に行う。
その足が止まる。瞬間、女は短剣を投げようとしていた男の眼前にいた。
腕が閃き、高速の接近よりも速い刺突が放たれ、引く。
男は投擲の姿勢のまま死んでいた。
「は、速い!」
一瞬の殺人に盗賊達が怯む。それでも勇気のある数人が短剣や手裏剣を投擲する。
女は槍を縦回転。槍が綺麗な円弧を描き投擲物を弾く。
「遅いわ!」
「え?」
盗賊達の背後には数人の同じ容姿、風貌の女が5人ほど立っていた。
5人は一斉に同じ動きで短槍を放つ。それぞれが正確に心臓を貫かれ即死した。
女が指を弾くとそれらは霧散して消えた。
偶然狙われず生き残った内の1人が女に無謀の特攻をする。目は焦点が合っていなかった。
女は短槍を捻る。すると柄の部分が倍近く伸び、2メートル大の長槍となった。
一瞬の間合いの変化に対応し切れずに男は長槍の餌食となる。
「その分身術にその槍、あんたバトンギルドの虚勢のアメリアか!」
女の戦闘を見ていた1人が絶望にも似た声で叫んだ。
「そうだけど。知る必要はないわ」
アメリアの返答に盗賊達がどよめく。
「ならこっちの男は狂戦士ルイスか!」
名の知れた戦士達に盗賊達は動揺する。
統制が崩れ、戦意を失った盗賊達は2人の脅威とはなり得なかった。
アメリアが正確無比の槍の射撃で確実に心臓を貫いていけば、もう一方ではルイスの獰猛な刃が盗賊達の体を分解する。
イリーナは見ているだけでよかった。
光景は一方的な虐殺にも見えた。

548柚子:2008/11/16(日) 14:51:33 ID:JNF/MKiM0
最後の1人がアメリアの槍に貫かれ倒れる。
「戦闘終了。開始から3分52秒ってところね」
アメリアが歯車細工の時計を取り出し呟く。
「この場所を突き止める時間と労力を考慮すると馬鹿らしくなるな。
ルイスが事故か何かで死んでいれば少しは有意義になるかもしれないってことで、試しに死ね」
「イリーナよ、貴様もこの中に入るか?」
美貌の剣士がイリーナを睨む。
辺りは盗賊達の死体で埋め尽くされている。生きているのはイリーナ達だけだった。
その光景を眺め、アメリアの表情に翳りが差す。
「こんな任務……」
何かを言いかけ、止める。
「いえ、これは誰かがやらなくてはいけない任務よ。悪党に同情はいらないわ」
言い聞かせるようにアメリアは呟いた。
「敵に同情などかければ死ぬのはこちらの方だ」
ルイスが嫌みたらしくイリーナを見る。
「私は同情などかけていない」
「ああ、だが俺もイリーナに騙され殺された哀れな男だけには同情しよう」
「なんだと」
イリーナが剣に手を掛ける。ルイスは微動だにもしない。
「はいはい、喧嘩すんな。まだ仕事は終わってないわよ?」
アメリアは笑顔だった。いつもの彼女だった。
2人は鼻を鳴らし、イリーナも剣から手を離す。
「イリーナ。貴方が炎魔法を使えない理由だけど、聞き出したのよね?」
アメリアが婉曲的に意思を伝える。イリーナは頷く。
「ええ。ここのさらに下にあるらしいですよ。燃えやすい場での炎魔法は不便に過ぎる」
イリーナは足で床を叩いて隠し倉庫の場所を示す。
それを聞いてアメリアは少し驚く。
「地下迷路も驚いたけどさらに下とは驚きね。どこもそうなのかしら」
「いや、ここは特殊だと言っていたな」
依頼には拠点を破壊せず位置を報告することも含まれていた。
盗賊が残した財宝が欲しいという依頼主の汚らしい思想が目に見えていた。
「それにしても貴方の演技なかなかだったわよ。会話と魔力通信を同時にこなすとか普通できないわ」
「ああ、迫真の演技だった」
「え、だからこそ私がその役になったのでは? あとルイスに言われるとむかつく」
イリーナの疑問にアメリアは不思議そうに首を傾げる。ルイスは皮肉げに鼻を鳴らした。
「いいえ、貴方がそれ以外に役立ちそうもなかったからだけど」
「……そうですか」
本気でそう言っているようなので、イリーナは少し落ち込んだ。
ルイスが軽く笑ったのが不快だった。
確かに後衛の魔導師であるイリーナと、槍術師のアメリアや戦士のルイスとでは体の構造は大きく違う。
魔術や知識に長ける魔導師に対し槍術師は速さ、戦士は頑丈さや筋力に長ける。
さらに前衛は体中に身体強化の魔術を恒常的に施しているので驚異的な体術が可能となる。
確かにこれは妥当な采配と言えるだろう。
しかし理解はできても納得がいかない。明らかにイリーナが1番苦労役だからだ。
イリーナが反撃の言葉を考えていると、後方で足音。
イリーナに言われずとも前衛の2人は即座に反応する。
「誰だ」
ルイスの無機質な声に足音が怯える。数瞬後に影が飛び出して来た。
飛び出して来たのはまだ幼い少女だった。両手で短剣を握り、小刻みに震えている。
「よ、よくもお父さんを」
震える声で倒れている男を見据える。アメリアが殺した盗賊の党首だった。
次に他の団員達を眺め回し、最後に3人に戻る。
瞳に映るのは憎悪だけだった。
「許さないっ!」
少女が走り出す。狙われたのは前方に居たルイスだった。
少女がルイスに衝突し、甲高い金属音が鳴る。
短剣は空中に舞っていた。
呆気に取られる少女をルイスが組み伏せる。衝撃で少女の口から苦痛が漏れる。
「哀れだな」
押さえつけながら、ルイスが嘲笑う。
少女は痛みと悔しさから声にならない悲鳴を発していた。
「悪党の父親を持ったことが不運だったな」
「違うっ!」
少女の否定の言葉を無視し、ルイスの手が背中の大剣へと伸びる。
「ルイス!」
イリーナの制止も聞かずルイスは大剣を片手で振り上げる。
「楽になれ」
「ルイス、私たちの任務は関係者全ての抹殺よ」
アメリアの声でルイスの手が一瞬止まる。そして振り下ろした。
大剣は少女の顔の隣に刺さっていた。少女は極限の恐怖で気を失っている。
「分かっている」
ルイスが剣を戻し、少女を担ぐ。
アメリアは満足そうに頷き、イリーナは胸を撫で下ろした。
「そうする気なら先に言え、心臓に悪い」
「イリーナにいちいち報告するなど苦痛作業だ」
返そうとするイリーナの言葉をアメリアの声が遮断した。
「さて」
アメリアが槍を仕舞う。
「帰りますか」

549柚子:2008/11/16(日) 14:52:38 ID:JNF/MKiM0
古都ブルンネンシュティグの極東に位置するバトンギルド事務所本部。
本部と言っても支部は存在しない。
古めかしい造りの建造物の扉をアメリアが勢い良く開けた。
広がる景色は外面とは違い清潔感が漂う内装だった。
「ただいまー」
アメリアが奥の客間に座っている人物に声をかける。
その人物は胸に十字が象られた聖職者の格好をした男だった。手の上には本が置かれている。
その男はアメリアに気づくと読んでいた本をそっと閉じた。
「お帰りなさい、マスター。おや、その子は?」
落ち着いた男の声。男はアメリアの背中を見ていた。
アメリアの肩から覗く幼い少女の顔。表情は安らかとは程遠い物だった。
「拾ってきちゃった」
「猫や犬とは違うのですから」
アメリアの返答に男は苦笑する。
アメリアは少女を長椅子に寝かすと自らも椅子を引いて座る。
「色々あって。アルトール、後でこの子を孤児院に預けてきてくれない? 流石にここで引き受ける訳にはいかないし」
アルトールと呼ばれた男は軽く頷く。
「それはそうと他の2人はどうしました?」
「古都に着くなり寄るところがあると言ってどっか行っちゃったわ」
困ったようにアメリアは息を吐く。様々な疲労を感じさせる重い息だった。
それがギルドマスターに課せられた性なのだろう。
アルトールはそんな若きギルドマスターを案じるように見つめる。
「あの、大丈夫ですか?」
アメリアの表情が固まる。そして自嘲するように微笑む。
「こんな子に刃を向けられると……ね」
アメリアは横目で少女を眺める。
少女は依然としてうなされていた。
「少し休んだらいかがですか?」
アルトールの気遣いに、アメリアは首を振って断った。
「ありがとう。でもすぐに出るわ。報告を済ませないとね」
アメリアは立ち上がり雑多に並べられている書類の中から1枚の用紙を取り出した。
それから扉に向かおうとすると何かを思い出したように立ち止まる。
「あ、それと」
疑問顔のアルトールに悪巧みを考えついた子供のような笑みを向ける。
「この前ちょっと大きな仕事が入って。後で会うことになっているのよ」
「マスターのちょっとは信用なりません」
アルトールは深い苦味の入った溜め息を吐いた。

550柚子:2008/11/16(日) 14:53:32 ID:JNF/MKiM0
透き通るような蒼穹。空から伸びた光輪を1番背の高い十字が跳ね返していた。
続く下には様々な装飾、七色の硝子。
そこは大陸一大きな教会だった。
この大聖堂を中心に聖都アウグスタの街並みは広がる。
アウグスタは古都とは違い、商人の宣伝も都民同士の喧騒も聞こえない。
あるのは決まった聖堂の参列者と世間話をする人々、子供の走り回る姿だった。
「ここはいつも通りに平和だな」
軽く皮肉を込めたように話すのは女の声。
「祈るだけが能の国だ。全く居心地が悪い」
青髪の美貌の男が呟く。背中には大きな剣を背負っている。
「思考しないことが能のルイスに言われてはアウグスタも憤慨するだろうな」
「ではよく考えて貴様を斬ろう」
方向性のない会話は続かない。会話はすぐに途切れた。
イリーナとルイスはアウグスタの街を並んで歩いていた。
盗賊の件が終わり古都に着いた後、すぐに街のポーターを使い向かったのだ。
2人の足が止まる。目的地に着いた。
眼前に広がるのは無数の十字架。そこはアウグスタ集合墓地だった。
「行くぞ」
ルイスが静かに頷く。
踏み込む足は僅かに抵抗が有るように思えた。
数々の尊大な墓石を素通りし2人は奥の方へと向かう。
立ち止まった前には小さな墓石があった。
墓石には家名は無く「ミシェリー」とだけ彫られていた。
イリーナは脇に抱えていた花束を前に捧げた。
「もう2ヶ月か。いや、ようやくと言うべきか」
2人はあれから定期的にこの場所に訪れていた。
イリーナは独白を続ける。
「初めは希望を持ちここへ目指していたのだがな。今では違う目的で訪れている。皮肉なものだな」
「そうだな」
ルイスが短く返す。双眸は墓石に注がれていた。
イリーナは屈むと手を合わせ黙祷する。ルイスもそれに倣う。
暫く黙祷を捧げ、ようやくイリーナが立ち上がる。
瞳には強い意志が籠められていた。
「この場は私達の戒めだ。忘れてはいけない、許されない」
ルイスは何も言わない。冷たい風が青髪をさらっていく。
この街は彼女等にとって辛い記憶の塊だった。
正確にはこの近くの森がそうだった。あの時の傷痕は未だに森に深く残っている。
そこで2人は少女を守り切れずに死なせてしまった。
その事実は2人を深く傷つけている。
しかしイリーナは決して涙を流すことはしなかった。
涙を流すことも、彼女を哀れむこともしない。
そのような行為は少女を殺したも同義なイリーナに許されることではない。
そうイリーナは思っていた。
「帰るか」
「ああ」
身を貫くような痛みに堪えながら墓石を背にする。
1度も振り返らずにイリーナはその場を後にした。
墓地から出るとすぐにポーターが居る場所へ向かう。
途中でイリーナが歩を止めた。
「どうした、貴様も墓の中へ入りたくなったか」
「ルイスより先に入る気はない。ここは葡萄の名産地だったよな」
イリーナが遠くにある本格的な農地を指す。
「そうだが、それがどうした」
「いや、マスター達の土産に葡萄酒でもと思って」
その言葉にルイスが軽く驚く。
「何を企んでいる?」
「ただの美しい善意だ。でも、見返りが無さそうなのでやめておく」
ルイスが鼻で笑う。
「言葉が前後で矛盾している」
「私は限りなく現実主義者なだけさ」
そう言って会話は途切れる。
この会話の意味を2人共理解した上で実行しただけだ。
こんなくだらない会話でもしないととても耐えられなかった。
今度こそ2人は古都へ向かった。

551柚子:2008/11/16(日) 14:54:20 ID:JNF/MKiM0
イリーナ達が去ってから数分後。
再び墓地を訪れる小さな影があった。
その影は他の墓石には目もくれず、イリーナ達が通ったのと同じ道を進んでいく。
影が踏んだ草花が枯れる。見れば影が通った道には生命という生命が死に絶えていた。
立ち止まった前には同じ墓石があった。
「ミシェリー」と名前だけ彫られた墓石の前に影が立ち尽くす。
「花……」
墓の前には花束が添えられていた。
呟いた声は少年とも少女とも取れる幼い声だった。しかしその声から子供が持つべき無邪気さは全く含まれていない。
影が添えられた花束を持ち上げる。
血のように赤い花々はみるみる色を失い、やがて枯れ果て地面に落ちた。
それを影は無言で見つめていた。
影は掌を1度強く握り締め、脱力したように下ろす。
「……ミシェリー」
声は死者のように暗かった。

552柚子:2008/11/16(日) 15:01:07 ID:JNF/MKiM0
お久しぶりです。半年以上ぶりなので、初めまして。
続かないとか言っていた気がしましたが、曲がりなりにも続かせてみました。
話の内容は新しいので、前作読んでなくても大丈夫なはずです。
これからこそこそと連載していこうと思います。

>FATさん
お帰りなさい! と自分が言うのもおかしいですね。
また続きが読めてうれしいです。お互い頑張っていきましょう。

553名無しさん:2008/11/17(月) 01:47:28 ID:WcNvBC2g0
ROM専のものですが、初めて書いてみました。
テストみたいな感覚でプロローグ的なものですので、ヤマもオチもありまry

もうそろそろ12月も近い。大陸の中でも比較的温暖なこの土地にもついに、今年初めての雪が降って来た。
今の時刻は午前8時だが、基本的にかなりスローライフなこの小さな町の住人は、今頃になってやっと起床し始める頃だろう。
静まりかえっていた民家の中からやがてポツポツと明かりが灯っていく。
数時間遅れて、この町にもやっと朝がやって来たようだ。

そんな村の風景の片隅にひとつ、いつまで経っても眠ったままの家がある。

薄く雪の積もった路地に足跡を点々と残しながら、そこに急ぎ足で向かう少女の姿があった。
ウェーブのかかったセミロングの髪を揺らしながらずかずかと家の前までやってくると、
少女は遠慮無しに窓から中を覗き込む。
次にコンコンと軽く窓ガラスを叩き、反応が無いと見るや、勝手に窓を開けて「よっこらせ」と中に乗り込んだ。

その現場を目撃した人々も数人いたが、その家に限ってはそれが当たり前のことらしい。
特に誰も驚いたり警察に通報したりする様子もないようだ。

「ねぇ、いる?……もしかしてまだ寝てる?久しぶりに来たのに」

(悪い意味で)生活感が無い部屋に、今度は埃の足跡を残しながらドアを開けて進んでいく。
ドアを二回開けて階段を上り、廊下を少し歩いたあと、またドアを一回開ける。
たどり着いた部屋のベッドに、目当ての人物が無防備に眠っているのを見つけ、彼女は鞄の中から分厚い重そうな本を取り出した。
それを開いて読む……のではなく、おもむろに本を高く掲げ、力一杯布団に叩きつけた。

ボフッ

意外にも軽い音と手応えに首を傾げ、はっと何かに気づくと勢いよく布団を捲る。

かかったなアホがッ!

「ありがちなパターンだろ!!」

一瞬の間のあと部屋中に響き渡った甲高い叫び声に、外にいた人々は何事かと振り返る。
少女は「かかったなアホがッ!」と胴体に書かれたダミー人形(布に綿を詰めただけの塊である)を窓の外に放り投げた。


(今日中に探し出して一発殴ってやろう)
息を切らしながらベッドの上に倒れ込んで、布団にまだ体温が残っているのに気付く。
それに人形に書かれた字は几帳面な彼にしては粗末な走り書きだったし、
もしかしたら彼女の訪問に直前で気付いて慌てて逃げ出したのだろうか。

「あいつ…まだ近くにいるのね」

それから何気なく視線を横に移して、そこにあったものを見つける。そして少女は拍子抜けしてがくりと脱力した。
視線の先の、現場から2メートルも離れていないソファで爆睡しているのは紛れもない、
彼女が殴ってやりたいと思っている“あいつ”。もちろんダミーではなく本物である。

もちろん、この直後に殴られた。

554名無しさん:2008/11/17(月) 02:06:34 ID:WcNvBC2g0
一応主人公っぽい二人組の職と名前までは考えてありますが、肝心のストーリーはすっからかんでどうなることやら…。
女の子の方は髪型でジョブが大体バレてるとは思いますが、王道というかありきたりな組み合わせの二人ですw
勢いだけで書いてしまいましたので推敲…していません、すみませんorz

一日置いてからチェックしてみると良いとよく聞きますが、
一晩おいてから冷静なアタマで見てみると恥ずかしくなっていつも削除してしまいまs


もう夜も遅いので感想は直前のレスの柚さんにだけさせていただきます。短いですが…。
多分絶対きっと朝に起きられなくなるので!

ルイスの野生児っぽいところが好きだったので、また会えるのが嬉しいです!
前回の話が悲しい終わり方だったので、楽しそうに喧嘩する二人をまた見られるように祈っています(笑)

555◇68hJrjtY:2008/11/17(月) 06:02:58 ID:oSOQoEBQ0
>柚子さん
わぉ、FATさんに続いて柚子さんまで…お帰りなさい!(*´д`*)
イリーナとルイスの皮肉合戦も久しぶりでもう嬉しい限り。いきなりトバしてますけどね(笑)
前作では顔出ししかしなかったアメリアの戦闘シーン、バトンギルドの他の面々の活躍もなるかっ!?(笑)
拾われた盗賊の子供ですが、ミシェリーをどうしても連想してしまいます。ちゃんと墓まであるようで嬉しい(´;ω;`)
その墓に忍び寄る一人の影……まったく展開が見えないイリーナとルイスの新しい物語、続きお待ちしています。

>553さん
モノを書いたらあなたはROM専ではなく、立派な書き手さんです!というわけでデビューおめでとうです♪
雪の降るRS世界が非常に見たい私にはなかなか良いシーン…っていきなり本で叩かれてますが(笑)
少女の目的も気になるところながら、撲殺されかかった誰かさんがぼかされてて興味津々!
このままでは私の脳内で「撲殺され君」とか名前付けちゃいますよ!(こら
続きお待ちしてます(笑)

556ESCADA a.k.a. DIWALI:2008/11/17(月) 15:13:34 ID:OhTl4zsk0
>>448からの続きです〜・・・100スレ近くも空いちゃった;;;


 ミカエルは怒っていた・・・それはもう文字通り、拳に燃え盛る炎を纏うほど怒っている。
 対するはラティナの父親である燈道。鬼のような形相を浮かべるミカエルに動揺すら見せず
 それどころか彼を小物扱いするような表情で彼は仁王立ちのままだ・・・

「消し炭になりてェか?おっさんよォ・・・」
「その言葉、そのまま貴様に返してくれるわ・・・若造、名を何と言う?」
「てめぇに名乗るくらい、俺の名はそれほど安くはないんでね。」

 一触即発、一歩も引かない静かな舌戦が繰り広げられる中、ティエラはファミィとミリアを保護していた。
 彼女の華奢な腕に抱かれるミリアは親指をしゃぶっている。泣きそうな声で「うみゅぅ〜」と愚図っている。
 ティエラは彼女をなだめながら、さらに灼熱の炎を纏うミカエルを見ながら震えていた・・・

「(ヤバい・・・ミカっちの奴、ぷっつん来てるじゃない!!あそこまでくると止められないし・・・くそっ!!!)」
「おう、ティエラ。悪いけどミリアとファミィを頼んだぜ・・・俺の"炎帝"としての姿、見せないでやってくれ。」
「・・・え?わ、わかったわ!ミリアちゃん、ファミィくんっ、逃げるわよ!!?」
「ふぇ!?いやだいやだぁ〜!!いやなのぉ〜!!!ミリアはお兄ちゃんと一緒にいるの〜!!」

 泣きじゃくって兄と共にいることを叫ぶミリア、小さな体を懸命に動かすもティラに抑えられてしまう。
 しかしミカエルはそれを拒んだ。ミリアは彼にとってはかけがえのない大事な妹・・・彼女を巻き込みたくないがため
 彼は唇を噛み締めて、叫んだ・・・!!!

「ミリアっ!!!・・・頼む、兄ちゃんはお前が無事ならそれでいい。
 ・・・だから、だからはお前はティエラと一緒に逃げろ!!俺は誰にも負けないから!!!」

 兄の叫びに、ミリアは泣く一歩手前の顔でありながらも無言で頷く・・・
 ティエラもその様子に頷くと、そのまま跳躍して場を離れた。彼女が踏み台にした木の枝がガサガサと揺れる。
 そのせいで落ちてきた木の葉が途中で燃え尽きる・・・ミカエルの周りには既に灼熱の炎が燃え盛っていた!!
 彼の傍らには無詠唱で召喚された炎の霊獣、ケルビーもいる。『グルルル・・・』と獣のような唸り声を発していた。
 そしてミカエルが指をパチン!と鳴らすと、ケルビーは瞬時に第三形態となって人型の姿をとる。


「はじめようぜオッサン・・・フランデル大陸十三大冒険者、第7位『炎帝』はミカエル。俺の炎はハンパねぇぜ、灼熱に抱かれな」

 炎を纏った手で中指を突き立て、彼は燈道を挑発し返す・・・!!
 言い返さないまま燈道は槍を旋回させてミカエルとケルビーもろとも吹き飛ばそうと突撃した!!!

557ESCADA a.k.a. DIWALI:2008/11/17(月) 16:43:34 ID:OhTl4zsk0

 ――――・・・トラン森の中。木漏れ日が差し込む森の小道を二人の少女が走っている。

「はぁ・・・はぁっ、もう〜お父さんてばァ!!!ティエラさん大丈夫かな、お父さんあれでも一応バカ強だから・・・」
「それよりも早く急ぎましょうラティナさん!!あの方は暴れだすと見境なく壊し尽くすタイプですわ、早く止めないと!!」
「う、うんっ!!(それに・・・わたしが急にいなくなったんだもん、トレスヴァントが追いかけてきたり・・・っ//////)」

 恋人トレスヴァントが自らを追いかけに来てくれたのでは?と妄想して頬を赤らめるのは槍使いラティナ。
 そしてその隣を走るのは、ついさっきまで彼女と激闘を繰り広げて仲直りしたリトルウィッチ、エレナ。
 森の中へと持ち込まれた燈道とティエラの戦いを止めるためにひたすら走り続けているのだ・・・
 すると彼女達の目の前に何者かが降りてきた!!無意識のうちにラティナたちは身構えるがその者の姿を確認すると構えを解除した。
 褐色のキャラメル色の肌、銀髪の長いポニーテール、そしてスレンダーな肢体と露出度の高い部族的な衣装。
 そして流通の少ない希少な槍『ホースキラー』・・・間違いない、ティエラ本人である。

 ・・・が、しかし。

 彼女の腕には一匹のファミリアと一人の幼女が抱かれていた。
 エレナはこの状況に目が点になっていたが、ラティナは抱かれている小さな少女に目を丸くした。

「え・・・まさかこの娘、ミリアちゃん!?何でまた子供に戻ってるのよ〜!!?!」
「うにゅ〜、ミリアにもわかんないの〜・・・おひるねしてたらちっちゃくなっちゃてたのよ〜」

 困った顔で、そして子供らしいあどけない声でミリアが話すが、傍ではエレナが鼻血を出して悶えていた・・・
 
「あぁラティナちゃん・・・実はミリアちゃんね、何か変な物を食べさせられたせいで若返っちゃったみたいなの。
 さっきここから少し行ったところで、ミリアちゃんのお兄ちゃんと、さっきあたしが戦ってたおっさんとで
 いきなりバトルになっちゃって・・・で、お兄ちゃんが若返ったミリアを保護してくれって、こういうことなのよ。」

「そうなんですか・・・あ、じゃぁティエラさん!!わたしのお父さんは向こうで戦って・・・」

 ラティナが話すその時、ティエラが指した向こうから巨大な火柱が挙がった・・・!!!
 轟音を響かせて燃え上がる炎が木々の間から見えてくる。ミリアはティエラの胸にうずくまって震えていた。

「・・・っ、言い忘れてたけど、ラティナちゃんのお父さんと闘っているのはあの『炎帝』ミカエル。まさかここまで怒ってるとは
 予想の範囲外だったわ、やっぱり止めないと森全体が焼け野原になっちゃう!!!ラティナちゃんっ、行くよ!!?」
「え、あ、はははいっ!?あ、でもエレナちゃんはどうしましょ・・・」
「今はそれどころじゃないってぇの!!エルフの皆が怒り心頭になる前にまるごと『鎮火』するのが先っ!!!」
「はぁ・・・わかりましたっ!!(なつかしいなァ・・・また『アマゾネス』に戻ってきたみたい。)」

 鼻血を垂らしたまま
 「あぁ、なんて可愛らしい娘なんですの?この愛おしさは一体何?どうしてあんな小さな幼女に萌えてしまうの?」
 と、ぶつくさ一人問答をするエレナをその場に残して、ミリアとファミィを抱いたままのティエラとラティナは
 爆炎に怒りを任せるミカエル(と彼を怒らせた燈道)を止めるために急遽引き返すのであった。

558ESCADA a.k.a. DIWALI:2008/11/17(月) 16:44:02 ID:OhTl4zsk0

 〜同時刻、エルフの集落・バスルーム〜

「やっ、ダメぇ・・・恥ずかしいよぅミゲルぅ////////」
「何言ってるんだ、こうしてまた一緒になれたんだぜ?これくらいどうってことないだろ?な?」
「やぁ〜んっ//////////」

 ・・・・別にイヤらしいことじゃありません、バカップルがただ背中を流し合ってるだけです。
 ミゲルとニーナは同じ大浴場にいた。ミゲルが恋人ニーナの背中をゴシゴシと洗っているのだが、ニーナは勝手に恥ずかしがっている。
 妙にもじもじとした彼女だが、気にもかけずにミゲルは泡立ったタオルを彼女の背の上で往復させていた・・・
 二人きりの幸せな時間・・・だがそこへ急な知らせが入るのもまたお約束。
 ダダダダと何者かが走ってくる音が徐々に大きくなる。すると・・・

ガラガラピシャァーンっ!!!!!
 
 勢いよく開けられた戸から、エルフのクレイグが姿を現した・・・が、飛んできた桶が彼の顎にクリーンヒット!!
 風呂場ではニーナがパニクって「ひゃ〜んっ!!いやぁ〜んっ///////」と喚いているが、ミゲルはすぐに何事かと身構える。

「おうクレイグ・・・そんなにバタバタしてどうしたよ?何か緊急の事態でもあったのか?」
「う・・・う〜ん、あ!そうだよそれそれ!!実はさっき、郊外の森から火柱が上がって火事が起きたんだよ!!
 だからその・・・そうだニーナさんに用があったんだ、彼女の水を操る力で消火して欲しいんだけど・・・」

 ミゲルの背後で未だ混乱状態のニーナは『力を貸して欲しい』という言葉に目を輝かせ、瞬時にクレイグの目の前に現われた。

「くくくクレイグくんっ!!?!わわわわたわたわたしの力が必要なのねっ!!?!!!」
「う・・・うん。」
「ふわぁ〜、わたしもついにこの力を役立てるときが来たのね〜!?スーパーガールになれるのね〜!!?」
「いや、だからそう大した話じゃないんだけど・・・」
「オッケー!!そうと決まれば出動しちゃうんだからっ!!スウェルファー、カモォ〜ンっ☆」

 指をパチンと鳴らして、水のエレメントを持つ霊獣スウェルファーを彼女は召喚した。
 裸の上にタオルを巻いただけの姿で、彼女は事の詳細を確認しないまま飛び出していく・・・
 ミゲルやクレイグの突っ込みすら許さないほどのテンションとスピードを伴って、だ。

「人の話聞こうよ・・・ってか服、着ていかないんだね。」
「あぁ思い出した・・・あいつ、スイッチが入れば人の話は聞かないしこの世のドジ成分を集めても足りないくらいの
 天然系ドジっ娘なんだよなァ。あ、クレイグ?」
「ん?なに?」
「せっかく風呂場に来たんだ、入っていけよ。」
「そうだね、猛ダッシュしたせいで汗かいちまったし。」

 暴走する水のサマナーに唖然とした二人は、森での状況がどれだけカオスなのかも知らずに風呂に入るのだった。


to be continued・・・・

559ESCADA a.k.a. DIWALI:2008/11/17(月) 16:48:57 ID:OhTl4zsk0
なんだ、この名前でも書き込めるじゃねぇか。お久しぶりですDIWALIです。
そろそろ本編も進めないとな〜と重い腰を上げて頑張ってみました;;;
最近は某モンスター狩猟アクションゲームにハマっていてREDSTONEから遠ざかっていましたが・・・
やっぱり慣れ親しんだ場所には戻ってきちゃうんですよね。

ここしばらく他のサイトでの小説板などを回りながらスキルを磨いてきました・・・そう変わってませんけどorz
昨日新しいノートPCが我が家にやってきたDIWALIでした。

そしてFATさん、おかえりなさい!!

560名無しさん:2008/11/17(月) 23:06:31 ID:WcNvBC2g0
冷静になったアタマで読み返してみたらやっぱり恥ずかしい事この上無し!ですね。精進します…

>柚子さん
あちゃーすみません…
前の書き込みで名前が「柚さん」になっていました。馴れ馴れしい…

>68hJrjtYさん
早速感想をありがとう御座います。登場人物がぼかされてるのは別に伏線というわけでもなく、
単純に細かい設定をまだ決めてないので書こうにも書けなかっただけだったりします。(笑)

>ESCADA a.k.a. DIWALIさん
「くくくクレイグくんっ!!?!わわわわたわたわたしの力が必要なのねっ!!?!!!」
あ、あれ?ニーナさんこんなキャラだったっけ?と軽く吹き出しかけました(笑
その後のテンションがどことなくあの人のお姉さんに似(ry


今思えば最初の書き込みの時点で挨拶もろくにしていませんでした…すみませんorzそしてはじめまして!

561FAT:2008/11/18(火) 22:42:39 ID:07LLjSJI0
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538


―14―

 レンダルの胸には沸々と、様々な感情が沸きあがっていた。恐怖、怒り、憎しみ、恨み、
殺意。そして、絶望。ここが地下深くにあるという証明のような息苦しさ。
 突如現れたラスにレンダルはもちろんのこと、デルタも、そして初対面であるマリスも
時が止まったかのように硬直してしまった。殺意ではない。だた、そこに居るだけ。それ
でもラスの放つ空気は威圧的で、体重の何倍もの足枷を嵌められ、尚、地中に埋められた
ようだった。
「わざわざ門に寄ってくるとは、お前たちとは余程縁があるのかもな。いや、お前の案内
のおかげか、闇の魔力を持つ者よ」
 ラスはマリスの芯を指差す。レンダルもデルタも驚きの目でマリスを見る。しかしマリ
スはきっぱりと、力強い声で否定する。
「あたしは闇の魔力なんて知らないよ。あたしのは気って言うんだ。あんたたち地下界の
汚れた力と一緒にしないでくれ」
 ラスはあごに手を当て、考える。
「確かに。その魔力はお前のものではないな。与えられたもの。ふむ、ネクロマンサーの
生狂操術とやらの被検体か」
「あのネクロマンサーを知っているのか!?」
「奴は落ちこぼれ。一度は俺たちの世界から追放された。しかし人間を生きたまま操れる
術を開発したと意気揚々、戻ってきた。俺にとってはあんなもの、何の価値もないがな」
「なめやがって!」
 怒りを露にし、怒気を纏うマリス。しかしレンダルが腕を掴み、それを抑える。ラスは
もうマリスには興味が無さそうに顔を背けると、デルタと向き合った。
 デルタの胸に湧き上がる懐かしさ。心の奥に温かな火が灯る。その灯火はレンダルやマ
リス、エイミーの与えてくれるものよりももっと深いところで灯っていて、ふいにデルタ
は表情を緩めた。ラスに対するデルタの異変にレンダルは気付いたが、どうにかしたい衝
動をじっと抑え、マリスの腕を放した。
「お前は何だ」
 ラスはデルタに問いかける。ラスもまた、デルタに特別な感情を抱いているようだった。
「私は、あなたが嫌いです。エイミーお姉さまにあんなことをして、レンダルお姉さまを
殺しかけ、ラスちゃんを連れ去ろうとする。私の大事なものを全て奪おうとする人。だか
ら私はあなたが嫌いです。嫌い……なのに」
 デルタの大きな目からぽろぽろと涙が零れる。抑えたいのに、抑えられない。流れ出る
涙に悔しさを感じ、どうか、どうか止まってほしいと願う。
「そのセリフ、その姿。俺には見覚えがある。そいつは俺の産み親。お前はそいつの親縁
の者か」
 ラスの言葉に思いがけなく、レンダルはハッとする。デルタは里子。本人はゴッドレム
夫妻の本当の子供だと思っているが、実際には出生の知らない里子なのである。ただ、誰
もそのことをデルタには話していなかった。デルタを囲む環境は恵まれていたし、デルタ
はまだ十六歳。真実を語るには早いと思われていた。

562FAT:2008/11/18(火) 22:43:33 ID:07LLjSJI0
 レンダルが知っているのはデルタが里子だということだけ。どこの誰の子だなどという
ことは知らされていなかったし、恐らく町中の誰も知らない。ラスの言葉が真実ならば、
デルタの親族の内、誰かが犠牲になっている可能性が高い。神の悪戯な縁はデルタとラス
を結ぶのか。
「一緒にくるか? そうすればそいつに会わせてやろう」
 ラスは大きな手を差し伸べた。デルタにはその手が悪魔の手にも、天使の手にも思えた。
悪魔についていけば悲惨な運命が待ち受けているだろう。天使についていけば真実を知る
ことができるだろう。デルタは何もかもを忘れ、ただその手をじっと見、考えた。
「迷うな! デルタっ! お前は行っちゃいけない、そっちに行ったらお前がお前じゃな
くなっちまう!!」
「そうだ、デルタ、あたしからも頼む! 元気なエイミーさんに戻ってほしいんだろ! な
ら、あなたがそっちに行っちゃだめだ!!」
「なに、エイミーも直に連れて行く。それに、お前がいたほうがエイミーも喜ぶだろう」
 まるで魔法でも掛けられたかのように、デルタの瞳はまっすぐにラスを見つめている。
栗色の瞳が揺れ、ラスの眼が応える。それはレンダルたちの知るものと遥かにかけ離れて
いて、デルタの心の天秤が振れる。
 デルタの手が動いた。
「デルタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! 思い出せっ!! 俺たちと、エイミーをぉ
ぉぉぉぉぉぉっっ!!」
 叫びはただ坑道を虚しく突き抜けていくだけ。ぼーっとしたような、まどろんだ表情の
ままデルタの腕がラスのほうに伸びていく。レンダルはもはや何を言っても無駄だと悟り、
ジム=モリの巻物を一枚広げた。
「野郎! デルタから離れろっ!!」
 ジム=モリのかけた魔法は氷の鳥。空気を切り裂くように鋭く飛びかかり、ラスを突き
飛ばそうとする。が、ラスはデルタに差し伸べている手をそのままに、もう片方の手で闇
を創り出すとジム=モリの鳥は押し縮められるように吸い込まれ、消えてしまった。
「なかなかの魔力だが、俺の前では無に等しい」
 デルタとラスの手が触れる。デルタが行ってしまう。デルタがいなくなってしまう。
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 レンダルは最後の巻物を広げた。瞬間、景色が変わり、見慣れた家具と二羽の小鳥がデ
ルタの代わりに居た。
「あ……? ああっ!!」
 突然現れたレンダルに小鳥が慌てて羽ばたき、悲鳴を上げる。レンダルの隣には呆然と
したマリスがいた。青い顔でレンダルはぐるっと部屋を見回した。どこにもデルタの姿は
ない。
「ああっ!! あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁ!!!!!!!!」
 取り返しのつかないことをしてしまった。
 力だ。己の力を信じずに、ジム=モリの力を頼った結果だ。何て無力で、何て情けない
んだ。
 レンダルは自分への怒りから激しく床を叩いた。拳を握り、繰り返す。皮がむけようと
も、血が噴き出そうとも、拳が砕けようともけっして力を緩めることはなかった。
「よせ! やめろ! そんなことをしてなんになる!」
「ちくしょう!! ちっっっっっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
ぉ!!!!!!!」
 マリスの言葉はレンダルには届かない。なぜ、なぜ巻物を開いてしまったのだろう。ジ
ム=モリの愛する小鳥は二羽。当然、残りの一枚には何か別の魔法が掛けられているのだ
と、冷静に考えればわかったことなのに。ジム=モリをよく知っているレンダルだからこ
そ、分からなければ、気付かなければいけなかったのに。
「自分を責めるな! レンダル!! 自分を責めることで何が生まれる! こういうとき
だからこそ、冷静になれ!」
 似たような経験をマリスはしている。だからこそ、レンダルを止めたい。こんな姿は見
たくない。しかし、レンダルの自責の念を止めることはできない。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ
っ!!!!!!!!」

 もう戻ってこない。デルタの、あのかわいらしい笑顔が、あの甘ったるい声が、あの妹
のようなデルタが……。

「デルタぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 レンダルは泡を噛む思いで自分を責め続けた。ジム=モリが帰ってこようとも、レンダ
ルの怒りは治まらず、床を叩き続ける痛々しい音がデルタのいないハノブの夜空に虚しく
響いた。

563FAT:2008/11/18(火) 22:47:05 ID:07LLjSJI0
こんばんは。今夜は雪が降るみたいですね。指がかじかみます。

>>◇68hJrjtYさん
お久しぶりです!春はPC触れなかったのでイベントの開催も知りませんでした(。。)
でも68hさんのせいじゃないので、気にしないで下さい。もし次回がありましたら、そ
ちらでは参加させていただきたいです。

>>柚子さん
ただいまです!ミシェリー篇の最後、感慨深いものでした。愛らしいミシェリーの姿が印
象的で、なのにそれを守れなかったイリーナたちの悲しみ、国という存在の大きさに対す
る無力感、でも、日常を紡いでいく……そんなイリーナたちに感動しました。
今作では前作活躍の場がなかったアメリアの活躍を早速みれたり、またも国王の悪巧みが
裏で動いていたり、ミシェリーを知る不気味な影が現れたりと、今回も期待が高まってま
す。

>>553さん
初めまして。初めての投稿はすごく緊張しますよね。ようこそ、いらっしゃいです(笑)
意外と(?)王道ストーリーはない気がしますし、書き進めていくとだんだん個性がでて
くるものなんですよね。これからも投稿期待してます。

>>ESCADA a.k.a. DIWALIさん
ただいまです!熱くなってる森にニーナは飛んで火に入る夏の虫状態になってしまうので
しょうか?次回もハプニング期待してますよ!
新しいノートPCうらやましいです。私のはまだ2003年物で、いろいろ限界を感じてます(。。)

564◇68hJrjtY:2008/11/20(木) 04:47:18 ID:/kfbotLU0
>ESCADA a.k.a. DIWALIさん
お久しぶりです〜!なんだか懐かしい面々が揃ってきて嬉しいですよ〜。
ミカエルと燈道という押しも押されぬ強者のぶつかり合い、どちらが勝つのかまったく分かりませんね。
思えばミカエルもまだ本気バージョンを見ていませんし、燈道も隠し技がありそうな予感。決戦とはまさに。
そこへラブラブ中(笑)だったニーナが参戦なるか!?うーん、鎮火には適任と見ましたが…さてはて。
怒涛のバトル展開に終結は来るのか…続きお待ちしています。

>FATさん
なにやら不穏な様子のラスの登場もそこそこに、デルタとの離反。
いつレンダル&デルタ編とラス編が繋がるかと楽しみにしていましたが、これは予想を覆されました。
エイミーの予感然り、ラスに起きた変化の原因こそが全ての黒幕なのでしょうか…。
レンダル、マリスの苦悩が痛いほどに伝わりました。ラスたちを取り戻せるのはもはやこの二人だけなのでしょうか。
続きお待ちしています。
---
過去ログを読んでもらえたら分かると思いますが、イベントはなかなか楽しく終わりましたよ。
FATさんもお忙しそうでしたし、お手を煩わせまして申し訳ないです<(_ _)>
Wikiのほうにまでコメしに来てくれてありがとうございましたー、リンクの件など了解しました。

565名無しさん:2008/11/22(土) 00:04:53 ID:HzJ9owLQ0
553続きです。


初雪と共に乱入してきた少女はまるで嵐のように過ぎ去っていった。
2、3㎏はあろうかという分厚い本で、文字通り「叩き」起こしたばかりの可哀想な彼をソファから引きずり降ろし、
「5分後に街の西口まで来ること、時間厳守!」とだけ残してさっさと出て行ってしまったのだ。
……ふと時計を見ると既に4分経過している。
彼は重い溜息をつきながらやっと身支度を始めた。

そして約束の時間から20分後。
彼が少女の元にようやくたどり着いた時には、彼女は肩と頭に雪を積もらせてすっかり凍えてしまっていた。

「で、用件は何?フラン」

フランと呼ばれた少女はやや呆れた表情で彼を見た。
積もった雪を払い落として詰め寄ると彼の襟首を掴んで口元に耳がくるように引き寄せる。

「……用件なら一週間前にブリッジヘッドで会ったときに言ってた筈だけど?」
「あ」

そこまで言われてようやく彼は何かに気付いたようだ。
彼女の深緑の瞳から目をそらしながら気まずそうに呟いた。

「オオカミ駆除の依頼ね…あぁ……スマン、今思い出した」
「フラッツ…あたし二日前からこの街に来て待ってたわ…。あんたってほんとにマヌケね」

フランはあまり反省の色がない彼をジトリとした目で睨み付けると街の外に向かって歩き出した。
彼フラッツも素直にフランのあとに従う。

「人里に侵入してくるようになったんだって?」
「そうね。いまのところ人に危害は加えてないらしいけど、やっぱり危険だからね」

山の麓に位置するこの街は少し歩くとすぐに林や森の中にさしかかる。用心のため、フランは愛用の笛を取り出してしっかりと手に握った。
街から離れるにつれて深くなっていく雪を踏みしめながら会話を交わす。

「冬だからなぁ……餌でも漁りに来たのかな。……いや……それも無いか」

彼の街では今日が初雪だが、山の方では一週間前からとっくに雪は降り積もっている
深い雪の中では狩りの成功率も下がるし、何よりも草食動物の餌である草が雪に埋もれてしまうことで獲物自体の数も少なくなる。
それでも、狩りの名手であるオオカミ達が、わざわざ人里に餌を求めてくる程に飢えるとは考えづらい。

「……」

フラッツが急に黙り込んで足を止めた。
それを見てフランは笛を口元に持って行きながら彼の方に目配せする。

「オオカミかしら?」
「いや人間みたいだ。山賊か追い剥ぎ強盗じゃない?」

遠くでビィン、と弓の弾ける音が響いた。

566名無しさん:2008/11/22(土) 00:06:26 ID:HzJ9owLQ0
フラッツは片足を引いて半身をずらし飛んできた矢を避ける。
背後の軌道上にはフランがいるが彼女なら放っておいても大丈夫だろう。

「ひゃー!!あの野郎ぶっ殺す!」

一方、てっきり彼が矢を防いでくれるとばかり思っていたフラン。
情けない悲鳴を上げながらも笛を振ると、燃え上がる炎と共に赤い大きな犬が出現した。

フランのように自然元素の神獣を呼び出し自在に操る能力を持っている者をサマナー、または召喚師と呼ぶ。
今彼女が出現させた赤い犬は火の召喚獣であるケルビー。
彼女らが扱える四種類の召喚獣のなかでは一番初歩的な技術でも呼び出せる神獣だが、
炎に関しては上級のウィザードはもちろん、地下界の悪魔でさえ足下にも及ばないほどの力を誇っている。

犬はまるで召喚される前から自分のやるべき事を把握していたかのように、彼女が命令を下すまでもなく長い尻尾を振るって矢を弾いた。
今度は続け様に放たれた矢に素早く反応し、赤い犬は全て体で受け止める。
彼(彼女かもしれないが)の体に傷をつける事も出来ずに鉄製の矢が焼け落ちるのを見届け、フランは前方に笛を突き出す。

瞬間、火の神獣は弾かれたように駆け出した。
たった二回の跳躍だけで10メートル前方の藪に飛び込み姿を消す。すぐに藪の中から悲鳴が上がった。

「よし!いい子よ」

駆け寄ってきたケルビーの頭を撫でてやりながら油断無く辺りを見回す。
あの怠け者の相方はフランをたった一人残してさっさと逃げ出してしまったようだ。

「まだ居るの?あなた達の目的は何?」
「ただ小遣い稼ぎに来ただけのシーフさ、あんたもテイマーなら金目の物ぐらい持ってるんだろう?」

「あたし?テイマーでも低マでもないわ。……サマナーよ」

フランが笛を口元に構えた。同時に四方から短剣を持った男達が次々と飛び掛かる。

「ケルビー、死なない程度にね」

すっと息を吸い込み笛を鋭く吹き鳴らす。
それを合図にケルビーの体から膨大な熱が発生し、一瞬にして膨れあがり熱風と化した空気は数人のシーフ達を巻き込み吹き飛ばした。

「っ……第一段階でこれほど……なんて力だ!」

なんとか踏みとどまった残りの数人にも次々と尻尾の一撃を食らわせ昏倒させていく。
しかし相手も全員馬鹿ではない。残りの二人は接近戦は不利と判断すると巧みに尻尾の攻撃をかいくぐりケルビーの射程外まで飛び退いた。

「シーフをなめやがっ…!!」

すぐさま彼女がケルビーに指示を与える隙も与えず、二人同時に短剣を投げつける…筈だったが。

「……」

一人は短剣が自分の足下に勢い無く落ちるのを見て、自分の手首がおかしな方向に曲がっているのにやっと気付く。
もう一人は急に軽くなった手に違和感を感じて見ると手首から先が無い。痛みよりも先に驚愕の表情を浮かべている。

「いえ、シーフなんかじゃないわ。ただのゴロツキよ」

混乱しきって言葉も出ない男達を尻目に、フランは落ち着き払って呟いた。

567名無しさん:2008/11/22(土) 00:34:42 ID:HzJ9owLQ0
553番で初投稿した者ですがID変わってるような気もしないでもないような…
まだコテハンをつけていないので分かりづらくて申し訳ないです(_ _;

とりあえず二人のジョブをはっきりさせないと、と思いましたのでいきなり戦闘シーンです。
噛ませ犬のシーフ達はおそらくmobのシーフだと思います。はい。
中二病っぽくならないように頑張ってはみたのですが、案の定です。はい

>FATさん
うわああ、大好きなデルタがついに…
レンダルが痛々しくてもう……レンダルはデルタが帰ってくるまでずっとあの調子なのかな…心配でたまらないですorz
デルタの声って本当に甘ったるいようなイメージがありますよね。
なんかこう…猫撫で声というか…いや上品な猫撫で声というか…なんだろう(笑)

568柚子:2008/11/23(日) 18:32:24 ID:JNF/MKiM0
Avengers
前作 最終回 六冊目>>837-853
登場人物 >>542
1. >>543-551


冷たい風が頬を撫でる。
生まれるように男は目覚めた。
「あ」
間が抜けた女性の声。
視界から様々な情報が飛び込む。
1度目を閉じ、再び男は目を開いた。
眼前で顔を覗き込んでいる女の顔が双眸に映る。
「目覚めました……よね?」
不思議な物でも見るような表情で女性がさらに顔を覗き込んでくる。
視界が焦点を取り戻してきたことにより女性の顔も鮮明に映った。
黒曜石の瞳に漆黒に染まる肩下まで流れる髪。
浅く焼けた健康的な肉体。顔立ちは未だ少女の面影を残していた。
「あの……」
「ここはどこだ」
戸惑う女性に男の鋼の声が刺す。
男は周りを見渡した。
周りでは見知らない人間達が談笑をしている姿や武器の手入れを行っている男達が見えた。
「……私は何を」
男は寝ていた半身を起こす。直後に激痛。
あまりの激痛に男は身を折り曲げる。
「まだ起きちゃいけません!」
女性が男を押さえつけて無理矢理に寝かせる。
「すごい怪我なんですから。それも死んでもおかしくないような」
「私は……」
男は目覚める前の記憶を辿る。脳裏に現れたのは地獄のような戦場だった。
「私は生きているのか」
男は呟く。そして大事なことを思い出した。
「他の仲間はどうした!」
女性は静かに首を振った。
「あの場で息をしていたのは貴方だけでした」
「そうか」
男も静かに返した。握り締めるにも手に力が入らなかった。
男は最後の特攻を思い出す。
眼前に迫る10倍の兵力。正面からアリアン軍とぶつかった彼等は散った。
「私は……生きているのか」
もう1度彼は呟いた。
気づくと彼の手は自然と震えていた。
「そうです。生きていますよ」
女性が優しく男の手を握り締めた。手の震えが止まる。
「そういえば、お名前を聞いていませんでしたね。私はカルンと言います。ただのカルン」
女性が微笑み、男に同じことを問う。
「エルネストだ」
彼も名乗り返す。
「そして、ここは?」
エルネストは初めの質問をする。
カルンはにこやかに答えた。
「ここは盗賊団の拠点。私達は盗賊団の一味です」

569柚子:2008/11/23(日) 18:34:28 ID:JNF/MKiM0
平衡感覚を失った体が再び重力を取り戻す。
目を開けると既に視界は古都ブルンネンシュティグの街並みを映し出していた。
タウンポータルによる魔術によって2人は古都に戻ってきていた。
強力な魔術による魔力干渉からの魔力の逆流は防げたが体は未だ平衡感覚を失ったままであった。
こればかりはどうしても防ぎようがない。
ふらふらと揺れる体に力強い手が掛けられる。
「立ち方を忘れたのか?」
見上げると嘲弄するようなルイスの眼があった。
イリーナはこのときばかりは前衛の頑丈さを羨ましく思った。
「新しい拷問を思いついた。タウンポータルをかけ続けられるんだ」
軽口を叩きながらイリーナはルイスの手を退ける。
高位の魔術師であるイリーナだからこそこの程度で済むが、力も魔力も持たない一般人はそうはいかないらしい。
一般人は専用の防護道具を使うと聞く。それでも初めは吐くらしいのだが。
2人はポーターに礼を言い薄暗い路地裏を進む。
古井戸を通り過ぎ、明るい中央広場へ躍り出た。
目に飛び込む無数の人間。思い思いの場所に露店を立てる商人にPTの募集やギルドの勧誘。
視界の隅には喧嘩が殺し合いに発展していた。周りには野次馬が取り囲んでいる。
それはいつも通りの街の景色だった。
その景色に飽き飽きしながらイリーナは中央広場を横断する。目的地である事務所はここを越えたさらに向こうにある。
通りがかるごとに掛けられる露店商の声を無視しながら歩く。
近くで露店商と話す見知った声が聞こえた。
「良い品だ。どこで仕入れた?」
「それは商業的に秘密さ」
イリーナは耳を疑うが、何度聞こうとそれはルイスの声だった。
「おい。勝手にはぐれるな。商談を進めるな」
「何だイリーナか。悪いが取り込み中だ」
今気づいたようにルイスが顔を向ける。
手には小さな指輪が握られていた。
「これはかの有名な鍛冶職人の逸品でね。魔力抵抗を4.38%上昇させるだけでなく筋力も2.87%上昇させるんだ」
さらに続く商人の熱弁にルイスは興味深そうに頷く。
遠くでは先ほど殺し合いをしていた人らが警察団に連行されるのが見えた。
熱弁が止み、ルイスが意を決したように目を見開く。
「いくらだ?」
「やめろ!」
イリーナが半ば飛びかかるように指に摘まれた指輪を奪い取る。
「何をする、返せ」
「よし、返そう」
イリーナは指輪をルイスの手を越えて商人の手に返した。
「どういう気だ?」
憮然とした双眸がイリーナに訴えかける。
「金銭的に余裕がない。現在のお前の手持ちはある程度知っているし、何よりお前が銀行を利用している姿を不思議と見たことがない」
「利用したことがないのだから当たり前だろう?」
ルイスの返答にイリーナの方が面を食らう。
「金の利用は計画的にしろよ!」
ルイスがつまらなそうに鼻を鳴らし、再び指輪に手を伸ばそうとする。
「数秒前の記憶を忘れた?」
「貴様の金がある。俺の分を足し、それで足りる」
ルイスがあっさりと言い切る。
「お前に投資する価値がこの世に1ミリも存在しないのだが?」
「酒に投資しようとした金があるだろう?」
イリーナはアウグスタでの会話を思い出す。
「その理屈が理解出来ない以上にルイスがそんな大昔の会話を覚えていることにびっくり」
「そういう訳だ。貸せ」
どこ辺りがそういう訳なのか理解出来なかったが、ルイスがせがんでくる。
無論、渡す気は毛頭ない。
「仕方ないな、条件を呑むなら貸してもいいぞ」
「良いだろう、言ってみろ。今日の俺は心が広い」
懐は狭いけどね、という言葉を飲み込み、イリーナは言ってやる。
「私から金を絶対に借りない、という条件を呑めば貸してやるぞ」
つまり、この条件を呑めば今借りようとしている金も受け取れないことになる。
期待させて落とす。嫌がらせの基本テクニックだ。
その代わり相手を選ばないといけない危険な技でもあった。
「仏の顔も1度までだ」
ルイスの瞳が怒りで震える。
「ほぼ鬼じゃねえか! 広い心はどうした! それと借金返せ。ついでに死ね」
イリーナは今のうちに言いたいだけ言っておく。
「良いことを閃いた。貴様が死ねば借金も消える」
本気でそう思ったらしいルイスが背中の大剣の柄に手をかける。
危険を察知したイリーナも脳内で呪文を全力で紡いでいた。

570柚子:2008/11/23(日) 18:36:00 ID:JNF/MKiM0
「お、良い品じゃん」
背後から若い男の声が聞こえた。
振り返ると、青年が先ほどの指輪を摘み上げて吟味していた。
そんな青年に商人がルイスにしたのと同じ説明をしていく。
数瞬後、青年が意を決したように目を見開いた。
「いくらだ?」
青年は既に目が指輪に釘付けであった。
「待て、小僧。それは俺が先に目を付けた品だ」
イリーナに向けられていた殺気はそのまま青年へと向けられていた。
「あ? 何だテメー」
圧力のあるルイスの殺気を向けられながらも臆することなく青年も睨み返す。
チンピラだと思ったが違うようだ。それともただの馬鹿なのか。
「それは俺が購入する物だ。返せ」
「嫌だね。買ったもの勝ちだ」
ルイスと青年の視線が空中で激しく絡み合う。
「まだ買っていないだろう。買うから、寄越せ」
「嫌だね。馬鹿かお前」
互いが互いの自己主張をぶつけ合う。
驚くほどどうでもよいことだったので、イリーナは空を眺めていた。
古都の昼の空模様は曇り。夜には雨が降りそうだ。
「じゃあ、強いほうが勝つ」
「良いだろう」
いつの間にそんな結論が出たのか、2人は街中で喧嘩を始める気らしい。もはや止める気も起こらない。
イリーナは、馬鹿と単純さは等号で結べるのではないのかと考えた。
「やめるのじゃ、ディーター。勝手に騒ぎを起こそうとするでない」
離れた場所から老人、のように話す少女の声があった。
「げ、マイア!」
威勢の良かった青年が一歩下がる。
青年が見つめる方向には赤いフードを被り、金髪で可愛らしい少女が腕を組んで立っていた。
周囲には召喚獣が居ることから召喚士のサマナーだろう。イリーナの目算では歳は10代半ば辺り。
その歳とは釣り合わない魔力から、少女が相当のやり手であることが窺えた。
「またギルドの仕入れの途中ではぐれおって。見つけたと思ったらこれじゃ」
マイアと呼ばれた少女が老人言葉を流暢に紡ぐ。
明らかに普通ではなかったが、ギルドに入るような人間はどちらかというと変人の比率の方が高いのでこの際気にしない。
「だってよ、そもそも何で俺達がそんな仕事しないといけないのさ」
ディーターと呼ばれた青年が居心地悪そうにぼやいた。
「今は多忙で人手が足りないのじゃ。ゆくぞっ!」
マイアは争いの元となった指輪を店主に返すとディーターの襟首を掴んだ。
ディーターは子供が玩具を取り上げられたような目で指輪を眺めていた。
途中で目が合う。
「まさかとは思うけど、お前もギルドの人間?」
「そうだ。悪いかよ」
心外だと言わんばかりにディーターが不機嫌そうに返す。
見てみれば、ディーターの服装は漆黒のマントの裏から覗く短剣に各種防魔装備と戦闘用の物だった。
両腰には他より数回り大きい短剣が差してある。
物騒だが、黒い帽子の下から見せる整った顔はまだ幼い。成人はまだだろう。
落ち着きのなさから気付かなかったが、確かにディーターはそっちの世界の人間だった。
「別に悪いとは言っていない。もう会うことはないだろうしな」
ディーターが不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「身内の者が迷惑をおかけしました。ゆくぞ、ディーター」
マイアはディーターの襟首を引っ張って元の道へ戻り、人ごみの中へ消えた。
イリーナは息を吐いた。随分と無駄なことで疲れた気がする。
ただ、ルイスは満足そうだった。
「これで敵は消えた。イリーナ、金を出せ」
「私具合が悪くなったので帰ります」
イリーナは事務所の方へと歩き出す。
「おい、どこへ行く」
ルイスが引きとめようとするが、無視する。
イリーナは、馬鹿は構わなければいいということに今更気がついた。
露店の前ではルイスだけが立ち呆けていた。

571柚子:2008/11/23(日) 18:39:16 ID:JNF/MKiM0
ようやく事務所に着く。
古めかしい造りの扉を開くと聖職者の格好をした男が迎え入れた。
「お帰りなさい。ご苦労様でした」
男が穏やかな笑顔で2人を労う。
「ただいま、アルトールさん」
イリーナもつい微笑んで返してしまう。
アルトールには相手を穏やかな気持ちにさせる不思議な力がある。
しかし穏やかそうに見える彼はイリーナを超える実力の持ち主だ。
そんな彼だからこそ、このギルドの副ギルドマスターという大役を務めることが出来るのだろう。
返事を言わず、イリーナを追い越してルイスが椅子に腰をかける。
様子からしてまだ指輪が買えなかったことを根に持っているのだろう。
ルイスの態度にもアルトールは全く気に留めない。
変人揃いのギルドでも彼は常識人で善人なのだ。
「まだ気にしているのか。その内もっと安くて良い品も見つかるだろうさ」
イリーナ自身は全く同情していなかったが、後で根に持たれるのも面倒なので気を使っている風に振る舞っておく。
「いや、そんなことはどうでもよい」
「へ?」
ルイスは気にしないどころか全く違うことを考えているらしい。
イリーナは自分が馬鹿らしくなってきた。
「じゃあ何を考えていたんだよ。興味は微塵もないけど」
「これだ」
ルイスは鞘から大剣を抜き放ってみせる。
分厚い刀身から鋭い光が反射した。
「次はこれを強化する武具を買おうと思ってな。さて、何が最適か」
ルイスが男臭い笑みを浮かべる。この男の金の使い道は武具と食費以外に向くことはないのだろうか。
イリーナは無意識的に大剣に目を落とす。
ルイスの話によれば、この剣は無名の鍛治士に打ってもらった逸品らしい。
柄の中央に3つの三角形型に並べられた魔石が鎮座し、その中心には補助魔石が嵌め込まれている。
柄の先端には最重要とも言える重力機関があり、刀身の周りに軽い重力効果が働き威力が底上げされている。
切れ味より破壊力を重んじる戦士にとって理想的な剣だろう。
しかしこれ以上どう強化しようというのか。
「剣は分野外なのでよく分かりませんね。マスターに聞いては?」
アルトールが答える。
確かに改造好きのアメリアなら何か良いアドバイスをくれるかもしれない。
現に彼女の槍は1メートル弱から2メートル超まで伸縮自在の改造が施されている。
他にも何かあるかもしれないが、イリーナは知らない。
「確かにアメリアなら何か良い方法を知っているかもしれんな。後で聞いてみよう」
「そのマスターは今どこに?」
アメリアは現在不在のようだった。
「マスターは依頼の報告と、ある打ち合わせに出掛けましたよ」
アルトールが苦味を含んだ笑みを浮かべる。
「それに私も後でその子を孤児院へ預けてきます」
アルトールの指は近くの長椅子を差している。
そこでは随分穏やかになったとはいえ、未だ苦しそうに眠る少女が居た。
ここまで連れてきたことをすっかり忘れていた。
「孤児院に預けるんですか?」
「ええ、色々大変でしょうが、ここよりはましでしょう」
「確かに、仇と住めるわけがない」
イリーナは、2ヶ月程前にそこで同じように眠る少女を思い出した。
イリーナは孤児院に預けようとしたが、結局引き取ることにした。
その結果、少女を死なせることとなってしまった。
あの時、少女を孤児院に預けていれば違う結果になっていたのかもしれない。

572柚子:2008/11/23(日) 18:40:01 ID:JNF/MKiM0
「どうかしたのですか?」
アルトールが顔色を窺うように見つめていた。
「あ、いいえ、大丈夫です」
イリーナが表情を取り繕う。
イリーナが決して話そうとしないため、ルイスを除く団員はミシェリーのことを詳しく知らないのだ。
「俺は少し出る」
ルイスが椅子から立ち上がった。
「どこ行くんだ?」
「資金集めだ」
「方法は?」
ルイスが固まる。
「アルトール、何か良い依頼はないか?」
「そうですね、最近話題の殺人犯を追っては? 懸賞金もかけられていますよ」
アルトールが提案したのは、最近古都を賑わせている連続殺人犯だ。
ただの無差別殺人ではなく、古都の重役人のみを狙った犯行なのが懸賞金を吊り上げる種となっている。
「なるほど、行ってくる」
ルイスが事務所を出る。
情報も無しにどう探すのか全く不明であった。
「馬鹿は元気ですね」
イリーナが言うとアルトールは軽く笑った。
「私もすぐに出ますし、イリーナさんも休んでは?」
アルトールが付け加える。
「疲労は美貌の敵とも言いますし」
「あれ、口説いてます?」
「そうかもしれませんね」
アルトールが笑ってみせる。
これもアルトールなりの励まし方なのだろう。
イリーナも微笑んで、アルトールの言う通り休むことにした。
「では、お言葉に甘えて」
階段を上がり、自室に入る。
内装は女性らしくない、質素な物だ。
イリーナは外套を脱ぎ、ミシェリーの唯一の形見である白いリボンを解いた。
肩下まである髪が一気に解放される。
寝台に体を預けるとすぐに眠気が襲ってきた。疲労が溜まっている。
イリーナは眠る為、目を閉じた。

573柚子:2008/11/23(日) 18:40:55 ID:JNF/MKiM0
古都に夜が訪れる。昼に溜まった雨雲はついに夜になって降り出した。
「ふう、ひどい雨だね」
エドアルドは濡れた額を袖で拭った。脇には2人の部下を従えている。
連日の残業で彼は酷く疲弊していた。
最近、革命軍やら、連日殺人事件などの騒ぎで古都の役人やギルドは多忙を窮している。
特に、殺人犯は重役人だけを狙っているというではないか。
古都の西区長である彼にとってはたまったものではなかった。
だからこうして武闘派の部下を連れている。
「だいたい、どうしてこう事件が続くのかね」
エドアルドは曇天の空に愚痴を吐いた。
「時間が解決してくれるでしょう」
脇に長剣を差した男が答える。
「革命軍はともかく、殺人事件は早急に片付けないといけませんね」
「そう言ってもう5日が経つのだがね」
そう言われ、もう1人の長い杖を持った男が苦笑する。
「ああ、早く帰って妻と子供に会いたいよ。そこだけが私の癒しの場だ」
思い出したようにエドアルドは歩を早める。
3人は角を曲がり、住宅街へと繋がる路地裏へ出る。
「ん?」
エドアルドは目を疑う。
路地裏の真ん中で小さな子供が道を立ち塞いでいた。
子供は傘も差さず、全身を覆う大きな外套を雨に濡らしている。
「君、こんな時間に外に出ていると危ないよ」
エドアルドはなるべく圧力的にならないように話しかけた。
「危ないのはおじさん達だよ」
「え?」
思いもしない言葉にエドアルドは思わず聞き返した。
「……ここは最近、人殺しが出るから」
影が差すような声。声色には子供が含まれるべき無邪気さの成分が全く含まれていなかった。
「ああ、そういうことかい」
エドアルドは引きつった笑顔を浮かべる。
エドアルドは、目の前の子供に何故か怯えている自分に気が付いた。
「……西区長のエドアルドだな?」
子供の物とは思えない陰鬱で残酷な声が目の前の子供から発せられる。
瞬間、子供の周りの圧力が増した。
「な……」
エドアルドは声を失う。
子供は外套の顔の部分だけを捲り上げる。表れたのは死者を象ったような白い仮面。
エドアルドは、ようやく自分が噂の事件に遭遇しているのだと理解した。
「区長、お下がりください!」
部下の2人が飛び出す。
剣を持った男が仮面の子供に斬りかかる。子供は片腕を出して受け止める。
細腕を両断して進むはずの剣は、何故か止まっていた。
「下がれ!」
後方の杖を持った男が叫ぶ。剣士が離れると同時に男は難易度2、ファイアーボールを放った。
3つの火球が空中に顕現し、弾丸となって子供に殺到する。
しかし、3つの火の玉は子供の前方で霧散して消えた。
雨で威力が軽減されているといっても、ありえない現象だ。
再び剣士が仮面の子供に斬りかかる。子供の腕が閃き、拳で剣を粉砕する。
驚愕する剣士の顔へもう一方の手が伸び、顔面を掴む。
子供の手に触れた瞬間、男は壮絶な叫び声を上げた。
やがて痙攣する体が止まり、男が絶命する。
怯える魔導師がもう1度火球を放つ。しかしまた火球は3つとも寸前で霧散した。
さらに魔術を紡ごうとする魔導師に死の手が伸びる。
手は杖を掴むと、一気に破砕。そのまま魔導師の顔を掴む。
魔導師は同じようにして絶命した。
「ひ、ひい……」
エドアルドが後ずさる。仮面の子供は早足で近づいていく。
「な、何が目的だ。わた、私には妻と子供が……」
「死ね」
無情な死の手がエドアルドの頭を掴む。手に触れるとエドアルドは全身から激痛を感じた。
搾り出すようにエドアルドは絶叫する。しかし、絶叫は雨音にかき消される。
絶叫は長く、長く続いた。

574柚子:2008/11/23(日) 18:43:59 ID:JNF/MKiM0
こんばんは。毎日のように雷が鳴ってます。雪も降り始めそうです。

>>553さん
感想ありがとうございます。前作も読んでもらっていたと分かるだけで嬉しいですね。
呼び方など何とでもどうぞ。自分も掲示板で敬語を使うのはあまり慣れていないですし。
王道は好きです。王道の中でも個性は出ますしね。
これからお互いに頑張っていきましょう。

>FATさん
前作の感想を聞けて嬉しいです。
あの終わり方ではいけないとも思ったので、今回は何とか救いのある終わり方にしたいですね。
ラスからしてみるとあのネクロも小物ってめちゃ強そうですね。底が知れない。
デルタと次会うときはいつものように明るく話せそうもないですね。
それでも何とか取り戻してあげたいですね。
これからの展開を期待しています。

>68hさん
感想ありがとうございます。
自分も再びここへ戻ってこれて嬉しいです。
文章では会話を書くのが1番楽しいのでそういった会話は無駄に増えるかもしれないです。
それとこれも避難所に載せたほうが良いのでしょうか?

575◇68hJrjtY:2008/11/25(火) 17:31:57 ID:VtW6eWEg0
>558番さん (笑)
とか勝手にコテハン(?)つけちゃいましたが、いずれ正式なコテハンがつく日を楽しみにしております(笑)
さて、雪深い村里のちょっとしたオオカミ事件…という予想を裏切ってのシーフたちの襲撃!
予想を裏切ってと言えばヒーロー(?)であろうフラッツ君がいの一番で逃走してる(ノ∀`*)
サマナ主役ということでワクテカなのですがしかし「手首から先が無かった」とか恐ろしい。。
ほんわか風味なお話な印象でしたがこれは何か別の展開になりそうですね。
続きお待ちしています!

>柚子さん
辛辣な二人のジョークにちょっと憧れてます、こんにちは68hです。こんな友人(?)が欲しい(笑)
一作目冒頭も同様ですが、新登場ということでいいのかどうか、エルネストとカルン。
イリーナとルイスの物語にこの二人がどうリンクしてくるのかが大変楽しみになってきました。
政府や軍隊が背景ににおいますが、そういえば前作のミシェリーの物語も国家が裏にありましたよね。
もしかして今回の連続殺人犯も何らかの深いつながりがあるのでしょうか。ワクワク。
ルイスは金銭管理が苦手という新事実が判明しながら(笑)、続きお待ちしています。

576◇68hJrjtY:2008/11/25(火) 17:37:23 ID:VtW6eWEg0
スレ消費申し訳ないですorz
書き忘れ。

>柚子さん
> それとこれも避難所に載せたほうが良いのでしょうか?
避難所の管理人さんの意向では「どちらに載せるのも書き手の自由」とのことでした。
つまりはこちらに載せてもあちらに載せても両方に載せてもなんら問題はありませんよ、って感じですね。
避難所は保管庫的な意味合いもありますし(Wikiとは別の)、ツリー形式なので書きやすい&見やすいのはあります。
まあぶっちゃけ、柚子さんの方針に任せます(笑)

577蟻人形:2008/11/27(木) 21:05:24 ID:/PV5lAOo0
  赤に満ちた夜

 前話 >>466-469(七冊目)

 0: 秉燭夜遊 Ⅰ … Are you still glowing?


「実に幸運でしたね、あなた方は。今日という日に感謝すべきでしょう」
 剣士がその言葉を耳にしたのは、口を開いた男が剣士の砕かれた右肘を治療していたときだった。今にも崩れてきそうな天井の下、瀕死の仲間が皆彼と同じように簡易ベッドに寝かされていた。
「どういう意味だ?」
 苦々しく毒を吐く剣士。先程の己の無力さが許し難く、堪らなく悔しかった。
「もし訪れたのがこの日でなかったのなら、ここがあなた方全員の死地となっていた。そういうことですよ」
 男は渋ることなく自分の見解を述べた。過去の経験から導いた、適切で正確な『事実』を包み隠そうとはしなかった。更に男は淡々と続けた。周囲にその声を阻むものは何もなかった。
「西に墓地があります。ここで人間が活動していた頃の被験者は勿論、不運にも厄日に訪れてしまった冒険者たちもそこに眠っているんですよ」
 彼は物理的な治療を終え、すぐに魔力による治癒を施した。みるみるうちに負傷した肘は癒えた。その時の剣士はただ、黙することしかできなかった。


 崩壊した要塞の門が開かれる。
 あの戦闘から約半年、十六人いたメンバーは五人にまで減っていた。四人の同志を引き連れた剣士は表情を固くし、相手側の対応を待った。
 やがて一般的な女中の格好をした背丈の低い女性が早足で五人の前に現れた。女性は深々とお辞儀をし、さわりの良い挨拶で五人を出迎えた。
「遠方よりはるばるお越しくださりありがとうございます。主人が中でお待ちです」
 言い終えると女性は踵を回らし、もと来た道を辿った。剣士たちもそれに続いた。

 一行は無言で歩みを進めた。五人が皆何かを考えていたのか、それとも何も考えられなかったのかは分からない。
 崩れかけた家の前で、女中は唐突に立ち止まった。剣士たちはそれに倣った。しかし理由を聞くには至らなかった。彼らがそうする前に、彼女は何かに溶けるように姿を消してしまったからだ。彼女の在った場所に残されていたのは蝋が尽きて火が消えた蝋燭、それを支える受け皿の二つだけだった。
 一行がそれに驚く間もなく、何者かがそれらを優しく拾い上げた。剣士は今まで以上に表情を強張らせた。
 彼の目の前には男がいた。剣士を始めとした半年前のメンバーを治療したあの男が。
「大変失礼しました。手の空いた者がいなかったので、彼女に向かわせたのですが……」
 後半は寧ろ独り言のように、男は話した。直前の出来事についての細やかな説明はそれ以上続かなかった。しかし、彼の表情は飽くまで友好的だった。
「ようこそ御出でくださいました。お休みになられますか?」
「いや。すぐにでもお手合わせ願いたい」
 剣士は振り向くことなくそう答えた。しかし意義を唱える者はいなかった。

 夕映えは深く、日輪は既に大部分が地平下に没していた。即時の決戦を当然の如く期待している、その五人の意思を感じたのだろうか。男は僅かに自らの表情を正した。
「そうですか。私も、それが賢明だと思いますね」
 彼は実に静かに同意した。間もなく闇に包まれるはずの要塞は静寂な空気の中で、六名の会話の成り行きをひっそりと見守っていた。

578蟻人形:2008/11/27(木) 21:06:30 ID:/PV5lAOo0

 灯火が室内の夜を照らしていたため、その部屋は存外くっきりと映し出されていた。一方外界の残照は内の光に掻き消され、小さな枠の向こう側の闇はますます鮮明になっていた。
 部屋の壁には等間隔にランプが設置され、各自が無心に周囲を明るませていた。また、訪問者と住人を二つに分かつ境界には火の灯った蝋燭が一本だけ置かれていた。

「久しぶりね、来てくれると聞いて楽しみにしていたの」
 深く腰掛けた揺り椅子から立ち上がる少女。にこやかに一行の到着を迎える態度は特に異質を感じさせるものではなかった。敢えて不自然な点を挙げるとすれば、歓楽の声色の中に妙な落ち着き様を見出せることくらいだろう。
 彼女は着席を促すが、剣士は座らなかった。彼の背後に控えていた四人の仲間も同様であった。ギルドの長として、彼は眼前の存在に正面から挑戦状を叩き付けた。
「その男が何を言ったのか知らないが、俺たちは遊びに来た訳じゃない」
 軽く男に視線を移しつつ、剣士は口を開いた。平素よりもずっと低い声だった。
 少女の傍らに控えていた男はそれを聞くと、顔にちらりと不安を見せる。一方その主人はというと――早くも椅子に腰掛けており、少々残念そうに肩を落としただけだった。
「なら、今回も?」
 トーンを少し下げて言葉を返した彼女に対し、剣士は攻める態度を崩さなかった。男が警告めいた視線を送っていることすら気づいていない。彼の全てが眼前の蝋燭の火を越えて、正面の少女に向けられていた。まさに何者も恐れぬと言わんばかりの大胆さで、剣士は言い放った。
「そうだ、一刻も早く始めたい。そっちの用意は?」

 予め言っておこう。男は悟っていたということを。
 剣士は努めて平生に近い声色を意識していた。それに、彼は人間なのだから、憂さを晴らすことに悦びを覚えるのは仕方のないことだと。
 完全に理解していて、一瞬にして成った思索も含めての行動だった。この場にいる己以外の全員を重んじて、彼は動いたのだ。

「アドラー!」
 今度は少女から鋭い警告が飛んだ。
 男の挙止は主人の発声と共に止み、直後に他四名が止まった。彼の掌は剣士の鼻先一寸というところで静止していた。
 五人と一人は数秒の間、互いに視線を逸らそうとしなかった。その後各々が渋々、男を阻まんと出した手を解いた。主人の冷静さに内心胸を撫で下ろし、男は在るべき場所へと戻った。
 何事もなかったかのように、何もかもが元通りの場所に収まった。……火が消え白煙を天に昇らせている、対立の中央に置かれた蝋燭以外は。
 その部屋では、古いテーブルを挟んで七名が対峙していた。

 最初に口を開いたのは当然の如く少女だった。彼女以外の人間が静寂を破ることは叶うはずもない、その中での再構築が開始された。
「……こちらの手落ちね。すぐに準備させるわ」
 初めの一言を拾った瞬間から、六名は何か得体の知れないものに肌膚をチリチリと蝕まれるような感触を覚えていた。
 泰然とした挙措。古雅の原点を彷彿とさせる尊厳。彼女の態度には最早あどけなさなど欠片もなく、容姿にそぐわない理性的な物言いが際立って不相応であった。

 だが。
「待ってくれ!」
 打って変わって真摯な態度を声に示す。その主は対岸の剣士。特異な存在に向かう気構え、不可解な恐怖に臆しない精神は賞賛に値するものであろう。
 同様の考えを持ってか少女は彼の提言を許し、自らは傍聴の側へと移った。剣士は躊躇う事無く続けた。
「戦う場所のことだ。要塞から出た場所、ドレム川の河口にしてほしい」
 心なしか、後方に下がった四人の表情が険しさを増したようだった。男はほんの僅かに顔を俯けただけで、他の一切の所作を差し控えていた。
「いいわ。そうしましょう」
 相手の真意を把捉した少女は表情を和らげ言った。口元からは歓迎時のような温かみを見受けることができない代わりに、控えめな待望が目に見えて広がっていた。
「そちらは準備万端のようね。十分程度、私たちに時間を頂けないかしら?」
 微かに、彼女の声色は揺れていた。
 無言の了承があった後、五名は速やかに戦地へと向かった。五人が五人共、自分の感情を抑えられないような疾走であった。

579蟻人形:2008/11/27(木) 21:07:25 ID:/PV5lAOo0

 訪問者が退出した後、部屋は平素の在るべき雰囲気を取り戻しつつあった。
 少女はおもむろに腰を上げ、火の無い蝋燭に歩み寄った。受け皿ごと床に移し置き、その芯を優しく摘むように指で撫でる。途端に芯の先から滾々と湧き出るように炎が生まれ、客人を待っていた時のように再び燃え上がった。
 更に彼女は燃える火を覆うように諸手を真っ直ぐ差し出す。するとそれまで普遍的なものに止まっていた火勢が忽ち猛り立ち、熱を帯びた旋風が少女の銀髪を激しく靡かせた。
 ようやく少女が双手を戻して立ち上がった頃、火炎は少女の身の丈を大きく超える程に膨大な火球の塊となっていた。球形の猛火は大きく揺さぶれていたが、次第に温順さを取り戻していった。
 そして輪郭が完全不変のものとなると共に渦巻いていた炎が取り払われると。火球の在った場所に一人の青年が、何の不自然さも無く直立していた。
「彼を手伝ってあげて」
 少女は男を手で示し、青年に向かって静かに命じた。
「お任せください」
 青年はなめらかな口調で答え、男の始動を待った。
「その前に、少しよろしいでしょうか?」
 それまで黙然としていた男が青年の返答を足掛かりとして口を開いた。

 一瞬の空白。部屋中のランプの火が一斉に、同じように揺れ動いた。
「……これ以上待たせるのは失礼よ。手短に済ませて」
 相変わらず悠然とした口調ではあるが、その言葉には柔らかい棘が込められていた。男は慣れた様子ではあったが、それでも多少の緊迫を含んだ声で話した。
「一つだけ。決して冷静さを失わないように、くれぐれもお気をつけ下さい」
「分かってる。そう簡単に殺されたりしないわよ」
 彼は返事に閉口した。その憂慮の面持ちが胸中の苦悩を映し出していた。
 それが終わらぬうちに、少女は再び男に向けて言葉を発した。

「あ、言い忘れたけど――」

 たった一言に、彼の胸中は大きく波立った。
 直前と比べても明らかに鋭く磨がれた棘。冷静さを超えた冷ややかさ。自らの役割を果たすため、男は己の足を地に着け離さぬよう辛労しなければならない程であった。
「何があっても黙って見てなさい。手出しは許さないからね」
 やはりか、と言わんばかりに眉間に皺を寄せる男。恐怖と葛藤に苛まれながらも、男は言わないわけにいかなかった。
「しかし――」

「何?」

 部屋の空気が大きく震え、十数ある火が一斉にその姿を晦ました。闇と共に外気が流れ込んだかのように寒気が部屋を占拠し、窓から飛び込む月明かりは少女の影を浮き彫りにすることさえ遠慮しているようだった。
 青年は暗がりに溶け込み所在すら分からない。漆黒の中で少女の紅い眼精が二つ、まるで姿が見えているかのように、男を不動の視線で捕らえていた。男は懸命に耐え忍び、やがておずおずと苦言を呈した。
「……相手は人間です。それをお忘れなく、と……」
 一瞬にして、透き通った双眼が大きな円となる。やがて円が緩やか且つ柔らか味を帯びたものに変わるとようやく、男はそれまでの絶望的な重圧から解放された。
「さあ、もう行きなさい」
 少女の紅が暗闇の中に沈むと同時に、冷静で穏やかな平素の声が部屋に響いた。
 全てが伝わったことを知り、男は部屋から立ち去った。闇に紛れた一人分の足音も彼の軌跡を辿って行った。

580蟻人形:2008/11/27(木) 21:08:00 ID:/PV5lAOo0
お久しぶりです。
Avengers編の真っ最中でしたが、どうしても書きたくなって書いてしまいました。
ハロウィンに関係した話を書いてみようと思い立ったところ、そもそもハロウィンがどんなものか知らないことに気づいた次第で……。
結局自分の作品に走ってしまいました。なんとも申し訳ないorz

581白猫:2008/11/27(木) 22:39:04 ID:RqcjKFjo0

小さなパートナー



今日、私は久々にアリアンの土を踏んだ。実に二週間ぶりの懐かしい感覚し、張り詰めていた緊張もようやく解れる。
今回のシア・ルフト討伐はなるほど、確に厄介な依頼だった。
こちらは選りすぐりの腕利きを集めたのにも関わらず、一人の死者を出し私もまた傷を負った。
だがそれ相応の報酬も受け取った。しばらく旅の費用は心配せずに済みそうだな。

しかし、久々のアリアンはやはり暑い。流石は砂漠の町だろうか……暑さに慣れていない私には少々辛い。
早く旅館へ行き疲れたきった体を休めたかった……が、私にはまだやることがあった。




アリアンの町中、至るところで開いている露天商の数々。
この露天商で並んでいる品々。これらを歩きながら眺めるのが、私の数少ない楽しみの一つだ。
特別探している品があるわけではない。ただ並んでいる品を眺める、それだけ。
商人にしてみればいい冷やかしである。だが、これくらいは誰でもしているので多目に見て欲しい。
もしも何か必要になった時、品の値段が分からなければ話にもならないという理由からも、私はこの習慣を欠かさなかった。




アリアンの北区、倉庫の立ち並ぶ地域に入ることは滅多になかった。
柄の悪い者たちも少なくなく、冒険者も滅多に立ち入ろうとしないからだ。そんな場所に、わざわざ出向くほど私も暇ではない。
だがどうしてだろうか、私の足は何故かそこに向かっていた。
そして、襤褸布で全身を覆ったシーフが開いていた露店に並ぶ品の中、見つけたのだ。奇妙な品を。

噂に聞いたことはあったが、実物を見たのは初めてだった。
手で掴めてしまいそうなほど小さな、深い緑色の小袋。
ミニペット――異世界の妖精が封じ込まれた、魔法の込められしポーチ。
市場には滅多に出てこない、かなり珍しい品だ。
興味をそそられた私の視線に気付いたのか、露天商のシーフが私に笑いかける。

 「どうした旦那。ミニペットが気になんのかい?」

そうだ、私は正直に頷く。はっきり言って、かなり興味深い品であった。
精霊の封じ込められたポーチだ。金に余裕のある今なら、値段次第では購入してもよかった。
私に買う気があるのが分かったようで、シーフは満足げに笑う。

 「ふふん、おいらはミニペット大商店っていう名前で有名でね。
 旦那もミニペットが欲しいなら、是非是非この店を利用してくれ!」

このシーフはククルと名乗った。
彼の後ろに大量に積まれたミニペットポーチは、全てウィザードの友人から安く仕入れているという。
時間が経つと消えてしまうらしいポーチを軽々と仕入れるのだから、相当な商売上手なのだろう。とても私には真似できない。

 「旦那は剣士だろ? ならこいつだ!」

と言いながら取り出したポーチを、シーフは私の鼻先に突き出した。正直、この暑さでこの陽気っぷりはかなり鬱陶しい。

 「こいつは風の精霊シルフィーだ。攻撃速度や敏捷性を高めて、攻撃の補助や回復までしてくれる便利な奴だぜ!」

と自慢げに話すククル。確に話の内容からすると便利なものだろう。
回復もしてくれるとなると、もしかするとポーションを持ち歩く必要すらなくなるかもしれない。
いくらだ? と首を傾げた私に、ククルは目を細めた。何か妙な質問をしただろうか?


 「旦那は――……声が出ないクチかい?」

ククルの問いに、私は頷いた。頷きつつ、内心驚いていた。
今までこれほど早く、私の喉に気付いた者はいなかったからだ。
私は幼少の頃、事故で喉を潰した。今でもその傷痕が深く残り、声を出すことができない。
だが、私はこれをコンプレックスに感じたことは無かった。
あざ笑われようとも、蔑まれようとも――どんな仕打ちを受けようとも私は強く在らんとしてきた。
今までも、当然これからもだ。

 「そうか……なら、特別にサービスだ!」

そう言うが早いか、彼は私の手にポーチをぐいと押し付ける。
ククルの突然の行動に、私は呆気にとられる。結局いくらなのだ? これは。
だがククルが笑いながら腰に手を当てる姿を見、ようやく頭が追いついてくる。つまり――これを私にサービスする、と?
……このポーチは、確か数先万の価値があったはずである。私も当然、それくらいの値は出すつもりであった。
しかし彼は、なんの躊躇もなくそれを私に手渡したのだ。

 「そいつを大切に育てる。それが旦那に求める代金だ」

ニカッと笑うククル。その顔は「金は受け取らない」と語っていた。
この天晴な彼の好意に、私は甘えることにしたした。ポーチを片手で抱え、私はククルに頭を下げる。
感謝と、必ずそうするという意を込めて。

582白猫:2008/11/27(木) 22:39:28 ID:RqcjKFjo0

旅館の部屋、固いベッドに倒れ込んだ私は、手に持ったポーチゆっくりと眺める。
確に、奇妙な魔力を感じるポーチである。今まで見てきたどんなものでもない。
鬼が出るか蛇が出るか――いや、出てくるのは精霊だったな。
そんな薄い思考を流し、私はポーチの口を止めている紐をゆっくりと解いた。

瞬間、部屋中が光に包まれた。私にはその表現が限界だった。
とにかく、目も開けていられないほどの光が部屋中に溢れたのだ。
混乱しなかった、と言えば嘘になる。むしろ半ばパニックになり、思わず腰の剣に手を据えてしまったほどだ。

だが、眩い閃光は一瞬で収まった。ミニペットのポーチとは、開く度にこれほど閃光が辺りを包むものなのだろうか。
不意の光から視力が戻ったのを感じ、私は特別な変化がないか辺りを見回す。
白い壁に、特別広いというわけでもないがとにかく固いベッド。バスローブの入ったクローゼットに……緑色の紐。

さて――これは何だ?
空中にぷかぷかと浮かぶ、長く緑に染まった紐。
ちょいちょいと突いてみようとするが、紐は嫌がるように私の指をひょいと避ける。
なんなんだ、これは? ひょっとしてこれが精霊なのか?
どう見ても紐です。本当にありがとうございました。

……と、冗談はさておいて、だ。
問題は紐の先っぽに付いてるコレだ、コレ。
逃げる紐をひっつかみ、引っ張った先っぽに付いている小人。
体表が黄緑色なので少々不気味だが、よくよく見れば少女の姿をしている。後耳が異常なほど長い。頭二つ分はあるぞ?
この紐のようなものは少女(?)の後頭部から伸びている――ということは、これは髪か? いやいや、触覚という可能性も捨て切れない。
うーむ、と唸る私の眼前で少女はパタパタと紐を私の手から引き抜こうとしている。なるほど、これがどうやら精霊らしい。
名は確かシルフィーだったか。確か、古い文献にあった風の精霊の名はシルフィードだったと記憶している。このシルフィーも、きっと

風属性なのだろう。
ここでシルフィーが本気で痛がってきたので、紐から手を離してやる。
安心したようにふわふわと浮かぶシルフィーを見、私は部屋の端へと歩く。
そこに乱暴に置かれた(私が置いたには違いない)袋の中から、一振りの剣を取り出した。
薪割り斧。幼い頃から使い続けたものの、最近エンチャントに失敗し無残に壊れた私の元相棒だ。
その斧をシルフィーに差し出してみると、シルフィーは子供のように斧に飛びついてカリカリと刃をかじり出す。
本当に武器を食べている。いや、逆か。シルフィーは武器しか食べないんだったな。
確か食べると、死にはしないもののシルフィーに深刻な問題が起こるんだったか? これは気をつけなければ。
さて……いい加減疲れた。今日のところは眠るとしよう。


朝だ。久々の旅館で迎える朝は、どうしてこうも清々しいのだろう。アリアンの固いベッド万歳だ。
少々分厚い上着を脱ぎ、昨日洗ってから干してあったシャツに袖を通す。
太陽に照らされたシャツの方が着心地も良いのだが、この砂漠の町で日干しなどしたらとんでもないことになる。
……そういえば、日干しにした後の「おひさまの香り」というのは、ダニなどの死骸が放つ臭いだったか? 知らないというのは怖いも

のだな。
私の上で眠っていたシルフィー(冷たいベッドが温まるまでいい湯たんぽ代わりだった)もごそごそと這い出て、うーんと両手(と紐)を伸

ばす。
とりあえず朝食を取ろう……そうしたら、久々にあの厄介な塔を登ることにしよう。


アリアンを出いつものタクシー屋を使った私は、ものの数分で目的地へと到着した。
テレポーターを使って最寄りの町から出ても丸一日はかかる距離にある、恐ろしく高く……そして、大量の魔物を飼う塔。
通称は「スウェブタワー」。ようやくこの塔で狩る実力になったのがひと月ほど前。今となっては六階まではなんとか狩ることができる


ちなみに、今日は一人ではなく右肩にシルフィーが乗っている。朝食のランスはどうやらお気に召しているようでカリカリと一生懸命か

じっていた。
お前は喋るのか? とシルフィーをじっと眺めるが、精霊に人間の言語を話せというのは少々無理があるか?
というか、私が喋れないのだからコミュニケーションが取れん、と私は小さく溜息を吐いた。

583白猫:2008/11/27(木) 22:40:08 ID:RqcjKFjo0

スウェブタワー七階――とうとう私は、今日その階層へと足を踏み入れた。
といっても、六階と大した変化は見られない。生息している魔物たちが六階と変わらないからか?
愚鈍な動きで振り下ろされる斧を左手の盾で鋭く弾き、無様にバンザイをした斧兵の胸を斬り払い、蹴り飛ばす。
私の攻撃の合間に背後から飛び掛かってきたレッドアイ所員、その鞭を私は騎兵刀で斬り捨てる。
奴らとの戦いは、既に体に刻み込まれている。この階層では、相手にすらならないだろう。
だがやはり被弾することにはする。避けきれない、ブロックしきれない一撃に傷を負うことも確かだ。
そんなときに、シルフィーはかなり役に立ったといえる。
まるで狙い澄ましたかのように、的確にヒーリングを飛ばしてくる。いや、正式にはリゼネイションだったか。
とにかく、シルフィーの飛ばす回復魔法のお陰で私はベルトのポーションを使わずに済んでいた。ククルの言うことに間違いはなく、私

の予感もまた外れなかったようだ。
今度は比較的素早い速度で斧槍を振り下ろしてくる斧兵、私はその体を上下真っ二つに両断した。

何時間敵を薙ぎ払い続けただろう、そんなとき。
地面に崩れ落ちた剣をシルフィーに食べさせていると、足元に古ぼけた羊皮紙が落ちているのを見つけた。
どうやらこの階層に眠る宝を記した地図らしい。しかも比較的近い場所にある。ここから向かえば数分もかかるまい。
私は背後の所員には全く目もくれず、剣を納めて走り出す。シルフィーは勝手についてくるため、無視しておいた。

やはりそう甘くはないか。
空の宝箱を忌々しく思いながら、私は手に持った地図を握り潰す。
このように偽物の地図があることは珍しくない。現に、魔物が持っている地図の三割ほどは偽物か、たとえ入っていたとしてもハシタ金

しか入っていない。
運がなかった、と諦めて狩場に戻ろうと剣に手をかけた、

その時だった。


   ――――――!!


恐ろしいほど巨大な雄叫びと、遅れて上がる男性の悲鳴。
一つ上の階層から響いたその音に、私は数センチ飛び上がった。シルフィーに至っては剣の残骸を喉に詰まらせている。
しばらく続いたその二つの音も、やがて収まり何事もなかったように消え、静寂が再び訪れた。
一体、今の悲鳴は何だ? それにあの雄叫び。剣士の[ウォークライ]にも劣らないほどの衝撃だった。
疑問に思う一方で、私はもう一方で結論を出しつつあった。

Zinだ。

この先に、Zinの力を持つ魔物がいるのだ。
スウェブタワーの八階に棲む――血に塗れた不死の剣闘士が。
行くべきではないだろう。私ひとりの力では、恐らく不死の力を持つ剣闘士には勝てない。
だが、一方で震えていた。歓喜していた。
ようやく私の実力が試せる――シア・ルフトのときではない、純粋な私の力が。
気付いた時にはもう、私は階段を上り始めていた。魔物の血で染まった剣を片手に。




   やはり――でかい。

初めて"それ"を見たときの第一印象が、これだった。
凄まじく大きなアンデッドだ。これほど大きな魔物は、正直初めて見た。
私の肩に乗るシルフィーが、一生懸命クロークを引っ張っているのを感じる。だが、こればかりは譲るわけにはいかなかった。
素早く盾に魔力を注ぎ込み、宙へと放り投げる。普段は使わないこの術だが、格上の相手となれば話は別だ。
宙をフワフワと舞い私を保護する盾――シマーリングシールド。これで、通常の物理攻撃はよっぽどの威力を持たない限り私には届かな

い。

584白猫:2008/11/27(木) 22:41:09 ID:RqcjKFjo0
が、

剣闘士の炎を纏った斧の一撃。
その一撃は、難なく盾ごと私を遥か後方まで弾き飛ばした。


   強い――一筋縄どころか、一瞬でも油断すれば命はない。

壁に激突し、ようやく止まった私はポーションを喉に流し込みながら軽く思考を流す。
シルフィーが逆風を起こしてくれたお陰か、思ったほど激突のダメージは少ない。だが、今の一撃で分かった。
奴には、ブロックはあまり期待できない。通常の一撃程度なら防げるだろうが、今のように特殊な攻撃に対して私のシマーはまだ無力だ


だが、勝てないわけでもないはずだ。迫り来る剣闘士を睨み、私は両手で騎兵刀を握る。
久方ぶりだ。たった一人でZinを相手に死闘を繰り広げるのも……以前はルルリバーのドラゴンタートルだったか? 大分時間が空いてし

まったな。
さあ――見せてやろう。剣士の剣士足る所以を。

軽く、しかし鋭いステップを連続して刻んで剣闘士へと飛び掛かる。
が、剣闘士は軽々しく2mはあるであろう斧を振り上げ、私へと物凄い勢いで振り下ろしてくる。
その、巨獣をも両断するほどの一撃をしかし宙に浮いた盾が受け止める。一瞬盾が砕けるかとも思ったが、シマーの発動中に盾が大破す

ることはない。
斧の一撃を凌ぎ、私は空中で十字斬を剣闘士へと放つ。右腕の上腕に直撃するが――やはり、大した傷を与えるには至らない。
だがそれは想定の範囲内だ。そもそも[十字斬(サザンクロス)]にダメージは期待していない。
地面に着地し、剣を構える。同時に魔力を体内で練り上げ、術を発動させた。
瞬間、剣闘士を半円状に囲むように無数の分身が生成される。[パラレルスティング]――剣士の技能の中で最上級の威力を誇る一撃。


   ――ギャリィイインッッ!!


全ての剣が剣闘士に直撃したのを見、私は即座にその場を退避する。
今攻撃したのは奴の右足に過ぎない。こんな一撃で仕留められるほど、奴も甘くはないはずだ。
だが慢心もしていた。自身の決め技を足に受けたのだから、もう速い一撃は放てないだろう、と。
そして、その甘すぎる考えが。
次の剣闘士の一撃へ反応するのを、ほんの一瞬だけ、遅くした。






 「全く――びっくりしちゃった。ZINに単騎で飛び込むなんて」

次の瞬間、私の目の前には女性が座っていた。その後ろには、地に倒れ絶命している剣闘士の姿が。
一体何なんだ、どうして剣闘士は既に倒れている?
半ば混乱していた私に、ちょっと落ち着いてと女性が両肩を掴んでくる。というより、この女性は誰だ。
 「えっとね。いっこずつ説明しよう。いっこずつ」
明らかにどう説明しようか悩んでいた様子の女性は、とりあえずと私にそう言う。だが、私も説明してくれなければ何が何だか分らなか

った。


話を要約すると。

私のパラレルで足を負傷した剣闘士は、しかし即座に炎を纏った斧で一気に私との距離を詰め。
油断した私へと斧を振り抜いたが、咄嗟に割って入ったシルフィーがなんとか私の致命傷を防ぎ。
しかしやはり腹を切り裂かれた私は、同時に気絶して。
そこへ通りがかったこの女性が、傷ついた剣闘士を倒して私を施療したのだという。

なるほど、そういうことか。だがあの剣闘士を倒せるとは、彼女は相当手練のようだ。

……待て、シルフィーはどうなった? シルフィーは一体、どこへ行った?


辺りを見回す私に気付いた女性が、少しバツの悪そうな顔で脇のバスケットに手を伸ばす。
そこから取り出されたのは、小さな体をズタズタにして眠るシルフィーだった。
慌てて彼女の手からシルフィーを取り、その顔をそっと撫でる。

 「精霊だから死ぬことはないわ。大丈夫。きっと三日くらいで起きると思うから」

585白猫:2008/11/27(木) 22:42:23 ID:RqcjKFjo0
なんてこったい、sage忘れたorz


――女性の言葉を信じ、アリアンへと戻ってから二日が経った。
一向に目覚めないシルフィーをじっと眺めながら、私は目を閉じて思考を流す。
たった一日一緒にいて、たった数時間共に闘った。それだけだった。
だが、それでも私にとって。
シルフィーは私にとって大切な、初めて出来たパートナーだ。
それなのに私は何をしているんだ。

シルフィーの回復魔法を当たり前の顔をして受けて、
シルフィーが一生懸命止めようとしてくれたのにも関わらずそれを聞かず、
挙句の果てに、シルフィーに無駄な怪我をさせてしまった。

すべて私の責任だ。一体私は、何をやっているんだ?
シルフィーが起きたら、とびきり高い武器を食わせてやろう。あいつはどうやら槍が好みらしいから、ホースキラーあたりが喜ぶんじゃ

ないだろうか。
私としては青龍偃月刀が好みなのだが、まぁ高級と言えばホースキラー一択だからな。明日なんとしても露天商を捕まえなければ。
ひょっとするとククルとも会えるかもしれない。またあの、治安の悪い倉庫街へ足を運んでみるとしよう。
そんなことを考えているうちに、私の思考はいつの間にか深い眠りに落ちていた。



朝だ。あっという間に朝になってしまった。
未だに私の体から疲労はぬぐい切れていない。やはり少々無理をしすぎたのだろうか?
と、
ふと利き腕を見ると、そこには自分で巻いた覚えのない包帯が不器用に巻かれていた。自分で巻くならここまで歪にはならない。
ならば誰が? ――その私の疑問は、ぴょろんと飛び出た細い紐で全て解決された。
私の枕もとに寝そべる形で、なぜか包帯でぐるぐる巻きな姿のシルフィーが気持ち良さそうに眠っていた。

その姿を見た途端、体中の力がフッと抜け私は壁にもたれかかった。
そうか、この包帯はシルフィーがやったのか。どうりで下手糞なわけだ。あんな小さな手では包帯など巻ける筈がない。
こうしてはいられない。シルフィーが起きる前に、早く町で武具商人を見つけなければな。
眠ったままの小さなパートナーを起こさないように忍び足で扉の前まで歩き、私は静かに部屋の扉を開いた。

---
どうも、白猫です。
ハロウィン企画が終了して真黒に燃え尽きた白猫が帰ってきましたよ!←
今回は主人公の剣士さん視点のお話。ミニペットを題材にしたSSはそういえばまだ書いてなかったなぁと。
そういえばRSのSSでは未だにテイマ物を書いたことがありませんね……ビスルのSSは書き始めて5行で挫折しましたし……(・ω・`)
今度機会があれば書いてみようと思います。でも次はコテコテのバトルものが書きたいなぁ、アクションいいよアクション←
そしてsage忘れ申し訳ないです、エンターキーめorz
そしてさらに前半、メモ帳の保存形式をミスって改行がおかしいことになってます。なんというgdgdorz

586白猫:2008/11/27(木) 22:43:24 ID:RqcjKFjo0

前回コラボでやりそこねたコメ返し

>◇68hJrjtYさん
サマナ話の長編化はいまのところ考えてなかったりします。長編は今は書き上げる自信がありませんorz
実のところサマナものも今回が初めてなので、初めてなら意外性を求めて男の子採用。ヘタレな男の子こそ至高←
ケルちゃんは粋がって[煉獄悪魔]なんて名乗ってますが実際のところアレだったりします。通称「お湯屋(笑)」。
---
コラボ作品は終盤になって「あれ? 長すぎじゃね?」ってことになり終盤の集合写真まくら投げetcが削られていたりします。削られて

なおあの長さだから異常。
たぶん避難所にもっと長いのが投稿されるはずです。燃え尽き症候群真っ只中なので確実に年は越しますけど←
もともとギャグ小説の方が書くのは好き(下手の横好きレベル)なので、ギャグ小説として書く方が楽しかったりします。ツンデレ天然関

西弁ゴスロリなんでも揃ってるよ!←
パペットはこれからイベント要員として使おうとかもくろんじゃったりしてます。
---
何かお手伝いできないかとwikiの方もときどき覗いてたりしますが、
うーむ、やっぱり初心者はいぢらない方がいいですね。そっとしておきます(・ω・`)


>>476さん
ROM専だけど感想しちゃう→ROM専だけどSS投下しちゃうですね分かります。
変化としてはしばらく指示語を減らすことに重点を置いて行くつもりなのです。だから実際のところ書き方はあまり変わらないっていう(

笑)
長編は大きな物語が書けるのが売りですが、数スレにまたがるととっつきにくくなるのがネックですね、私も最近感じるようになりまし

た。
サマナものの第二弾とはなかなかハードなリクエストだぜ兄貴……期待しないで待ってほしいんだぜ。
399さんはぜったいにツンデレ。


>黒頭巾さん
精霊じゃなくて悪魔と契約するなんてほんとかわいそうなサマナ君・゚・(ノД`;)・゚・←
まぁ所詮お湯屋(笑)ですし、きっとお風呂の沸かし方に厳しいだけだと信じる、うん。
あとコラボおつかれさま! 燃え尽き症候群ゆっくり回復していってね!!


今回は若干脳内がgdgdになってしまいました、次回からは気をつけることとしましょう。
それでは、白猫の提供でお送りしました。

587◇68hJrjtY:2008/11/28(金) 04:01:58 ID:VtW6eWEg0
>蟻人形さん
小物短編になるのでしょうか、はたまたまだまだ続くのでしょうか、ともあれ執筆ありがとうです!
読む者に展開を予想させない、突然起きるさまざまな事件と物語。
剣士を主体とする五人、そして少女とアドラーと呼ばれた男…謎だらけなのがミステリアス。
剣士たちの目的が戦いに向けられているようですがさて、真相を含めて続きお待ちしています。
もちろん、いいところで切れた本編の方も待ってますよ♪

>白猫さん
ハロウィン小説ぶりですね、短編ありがとうございます!
なるほどサマナ少年君のお話も短編なのですね、しばらくは短編屋さんとして書いてくれるのでしょうか(ノ。・ω・)
そういえばパペットのほうでもアーティ、カリンなどはいましたが、また違うタイプの剣士殿。
ミニペットも好きですが、剣士殿の朴訥な性格がなんだか好みです(*´д`*)
無骨な剣士と可愛い風のミニペットが繰り広げる冒険にさちあれ(笑)
---
Wiki編集はそんなに怯える(謎)ことなく、気軽にどうぞー(笑)
もしなんかミスっても消しちゃえばいいですし、私が気がつけば適当に修正しますし。
というより私がやれって話なんですけどねorz 面目ない。
コラボ小説はもっと長かったんですか!?うーん、全部を読んでみたいと思いつつ(笑)
次回アップ予定という避難所小説も楽しみにしております〜!

588防災頭巾★:削除
削除

589蟻人形:2008/12/04(木) 13:38:27 ID:/PV5lAOo0
  赤に満ちた夜

 前話 >>577-579 (七冊目)

 0: 秉燭夜遊 Ⅱ … Savage friction


 各々が己に合った下準備を行っている様子を、少女は無感情に眺めていた。
 剣士は自分の甲冑や短剣に目もくれず、四人から離れた場所で専ら巨大な盾の手入れに精魂を傾けている。
 軽度を重視した木製の鎧を着用する槍遣いは準備体操やストレッチで体を温めている。
 短刀のような杖を持ったウィザードは徒に魔方陣を描き、杖に魔力を移動するタイミングを確かめている。
 非常に美しい撓りを保った弓を背に負う射手と闇に溶け込むような黒のコスチュームを身に纏う武道家は、お互い身振りを交えながら真剣な話し合いを繰り返している。
 彼ら五人の姿を浮き彫りにするのは約二十メートル四方、そして正方形の中央に設置された五つのランプの光であり、それらを準備したのは男と青年であった。
「今の時間は?」
 唐突に男に対して問いかける少女。男は主人の質問を受け取ると速やかに明かりの傍に赴き、懐から袂時計を取り出した。
「二十時五分前ですね。大体約束の時間です。彼らにも伝えましょうか?」
 男は時計をしまいながら、配意して尋ねた。少女は数秒間唇に指を当て考えたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「ええ、そうね。私が教えてくるわ」
 男が異論を唱える暇を与えず、彼女は単身、何の躊躇いも無く敵陣に踏み込んでいった。
 行く末を按じて主人を阻もうと踏み出した男だが、十も歩まぬうちに思い留まり足を止めた。彼は自分を諭し、憂えるような表情で主人の動向を見守ることを選んだ。

 突然の相手方の接近により、ギルド側は静かに動揺していた。少女が近づくと二名は口を噤み、二名は各々の手を止めた。
「……何か?」
 短髪の槍遣いが言葉少なに尋ねた。その場にいた何名かは彼女の槍を持つ手に力が入る様子を捉えていた。
「あと五分程で八時になるの。切りもいいし、その時間に始めてもいいかしら」
 言葉が周囲に響くと共に、ふっと緊張が途切れる。空気の変化を瞬時に悟り、少女は密かに眉を顰めた。
「ちょっと待って」
 武道家が言って剣士に向き直る。一瞬の間を置いて剣士が顔を上げた。恐らく魔力の通信を用いて意見を示し合わせているのだろう。
 どうやら剣士は即答したようだ。五人が顔を見合わせていた時間はものの十秒程であった。
「オーケーだ、こちらは構わないよ」
 今度は槍遣いが、剣士に代わって返事をよこした。
「本当に? 彼、まだ調整中みたいだけど」
 再び盾に注意を戻した剣士から視線を外さず、少女は他の仲間に念を押した。
「そっちこそ、そんな格好で闘うつもりかよ?」
 胡坐をかいていた射手が素早く切り返した。
 確かに指摘は的確だった。彼女が身に着けているのはなんと短いドレス、靴も外貌を重視したものであり、腕や脚に至っては素肌を晒す程に無防備であった。
 少女の視線が射手に飛んだ。対して射手は怯まず少女を睨み返した。
 やがて彼女は不敵にも、眼前の男に穏やかに微笑んだ。その笑みは間違いなく優しさを醸し出していたが、それと同じくらい切なげでもあった。
 彼女はそのまま無言で踵を返し、自陣へと戻っていった。四名はその様子をゆっくりと目で追っていった。

「如何でしたか?」
 敵の陣営から何事も無く帰還した主人を出迎え、男は言った。そうやって質問することも彼の役目の一つであった。
 半ば失望した様子で、少女は男に鈍い視線をやった。男は困惑しつつも主人の気持ちを汲み取った。
「行かなきゃよかったわ」
 シルバーブロンドをのろのろと掻き撫でながら、少女はやるせなさそうに呟いた。

590蟻人形:2008/12/04(木) 13:39:54 ID:/PV5lAOo0

『開始二分前です。任意の位置に移動してください』
 男の非常に物静かな声が、魔力によってハンヒ山脈を揺るがすほどのものに拡声される。しかし、それほどの大声が必要とされる場面ではない。
 声帯を中心とした発声器に魔力を集中させることで爆発的な空気の振動を起こし、広範囲に自分の声を届ける『叫び』の技術。男がそれを使用する場面は滅多に無いため、魔力の分量の調整を誤っただけのことであった。
「もっと音量抑えてよ。煩くて堪らないわ」
 少女が静かに怒りを示した。落胆から平常心が崩れ、転じて些細な出来事に対して敏感になっていた。
 男はこれまでになく焦っていた。残された道は深謝しかなかった。
 残念なことに、彼は主人の機嫌を取り戻す術を持ち合わせていなかったのだ。幾つか彼女の好む事柄は把握していたが、どれもこの場面で役立つものではなかった。
 彼の謝罪を受け取ると、少女は早くも戦場に足を向けた。
 男は風船のような不安を自分の中に押さえ込んだまま、主人を戦場へと送り出した。

 一方ギルド陣営では、既に全員が場所割を済ませていた。
 剣士は自分の場所に移動した後も気にかかる箇所があるのか、座り込んで盾の調整を続けていた。
 槍使いや武道家は軽く体を動かし、射手は精神の統一に耽っていた。それは三人にとって普段と同じ行動なのだろう。
 ただ一人、ウィザードだけが違った。青い液体が満たされた瓶を開け、内容物を一気に飲み干す。
 そして蓄えた魔力を一気に、仲間に対して付与した。槍使い、武道家、射手、自分、最後に駆け寄り剣士に。それは風の魔力を用いる最上級の魔術、行動速度上昇の魔法であった。
 掛けられた者が次々に、驚愕の表情を示す。ウィザードはそれを眺め、皆に向けてしたり顔で微笑んでみせた。
 唖然としていた四人の中で逸早く我に返った射手が足早にウィザードに歩み寄った。
「どういうことだ?」
 声色から先程の瞑想の効果が完全に失われているのは明らかだった。そんなことは一切気に掛けず、ウィザードが得意げにニヤッと笑った。
「無いよりマシな程度だけどな。持って二分だ」
 立つと一回り大きい射手がウィザードの目の前に立ちはだかった。彼の拳が勢い良くウィザードの胸に伸びる。
「タコ、そんなこと言ってるんじゃねぇ!」
「な……何すんだよ!?」
 胸倉を取られ、彼は驚き入って叫んだ。どうやら何故自分に怒りの矛先が向けられているのか全く理解できないらしい。
 全員の視線がウィザードに釘付けで、開始一分前を告げる男の叫びが耳まで届いたメンバーはほとんどいなかった。

 早くも平常心を取り戻した剣士が二人の間に割って入った。
「時間がないんだ、コイツを責めてる場合じゃない。もう定位置に着けよ」
 声を潜めながら剣士は二人を諫めた。
 射手は暫くウィザードを睨み付けていたが、掴んだ右手を解くと同時に肩を落とした。
「あぁぁもう、どうして練習中に出さないんだ、お前って奴は……」
 悲痛な呻きだった。ウィザードは平然としてそれに答えた。
「お前らを驚かせたかったんだよ。今ここで公開するなんて、最高に美味しいじゃないか!」
 射手は僅かに血の気を取り戻しウィザードに殴りかかろうとしたが、それを剣士が懸命に阻んだ。震える射手の右拳が振り下ろされ、音も無く空を裂いた。
 彼はもう一度、思い切りウィザードを睨み付けた。
「畜生っ、だから持続時間が伸びねぇんだよ。当然のことじゃ――っ」
 持続時間という言葉に剣士が反応し、咄嗟に射手の脇腹を小突いた。
「後にするんだ、さっさと準備しろ!」
 射手の悪態を妨げて剣士が声を張り上げた。剣士は喋り過ぎだと射手に囁き、指で背中越しに少女を指差した。
 小競り合いを無言で観戦していた少女は相変わらず、微かに顰めた眉だけで感情を表していた。
 呆れた様子で三人を見守っていた槍遣いと武道家も、剣士の怒号を聞くと我に返り、各々の定位置に戻っていった。
 全員が定まった位置に戻る頃、試合三十秒前を告げる男の叫び声が響き渡った。

591蟻人形:2008/12/04(木) 13:42:48 ID:/PV5lAOo0

平日の真昼間から失礼します。
前回は話を書き上げただけで万々歳で、それ以外の事に頭が回りませんでしたorz
普段もあまりまともに働いている頭ではありませんが、一応あれこれ考えて読ませていただきました。
それでは、一先ず今回から前々回の投稿までの感想を。



>>474 & >>587 ◇68hJrjtYさん

毎回感想を書いて下さってありがとうございます。いつも感想に対してコメント返してなくて申し訳ないです。
自分もプレイしている職としていない職の理解の差が激しいですが、なるべく偏らないように書いていこうと思ってます。
多数対一人の戦闘が書いてみたくて始めたことなので、今回の話は続きます。
戦闘前からややこしいことになってますが、戦闘に入ったらもっとややこしくなりそうです(汗


>>581-585 白猫さん

なんと言ってもククルが一番輝いてました。そして、剣士の義理堅さと優しさには口元が綻びましたね。
ところでシルフィーの挙動が一々可愛いのは仕様ですか? 違った意味で口元が……orz
ほんの二月程前まで九割方引退故にミニペットの存在を知りませんでしたが、この話を読んで少し傾きました(笑
今までペットが人間の姿をしていることに気づきませんでした。目を磨いでいかなければ。
やはり短編の物語なんでしょうか。声の出ない主人公ですが、周囲の目に負けず頑張ってほしいですね。


>>542-551 & >>568-573 柚子さん

本格的な戦闘は勿論、冗談がテンポ良く飛び交う会話に楽しませてもらってます。
特にルイスのぶっきら棒な喋り方が好きです。短くて単純、なのに要点が絞られている感じで。
そして仮面の子供、ソロウの特異な力が気にかかりますね。彼(彼女?)も国王の実験と関わった者なんでしょうか。
ミシェリーと何らかの接点がありそうですし、イリーナたちとどういう関係になるのかも気になるところです。


>>553 & >565-566 >>553さん

自分も勝手ながらレス番号で呼ばせていただきます。
王道には安心して読めるという利点がありますし、何より書いていくうちに>>553さんの個性が物語に現れるはずです。
……どこかで聞いたような理由ですが、とにかく王道で悪いことはありません。どうかお気になさらずに。
主人公の一人がサマナーなのは嬉しいですね。プレイしても続かなかった経験から応援したくなる気持ちと、逆に失礼かなと思う気持ちが混在してますが、やっぱり何となく好きなんです。
一方のフラッツはいろいろな意味で大丈夫なんでしょうか。彼の行く末が少し心配ですが、二人の密かな進展を応援したいところです。


>>535-538 & >>561-562 FATさん

以前から拝読させて頂いていましたが、再び続きを読むことができて嬉しい限りです。
ここでラス父の登場は思いつきませんでした。その悪役っぷりは流石ですね。
行ってしまうデルタに共感しつつ、レンダルと同じ種の憤りと不理解が心に残りました。
前に少しだけ書かれていたデルタの両親とどのような形で再会するのか、恐れつつ楽しみにしています。


>>485-488 & >>556-558 ESCADA a.k.a. DIWALIさん

最初のハロウィンで涙、12年目のハロウィンで涙。ジャック、一年に一度の案山子にしておくには勿体ない漢っぷりでした。
台無しになってしまいますが、>>489さんの一言には同意せざるを得ないです(笑
そしてまた、堂々と妹愛を叫ぶミカエルを始めとした仲間たちのハチャメチャな人間模様が再開しましたね。
一方でのんびりお湯に浸かる男二人、後々報いを受けそうな予感が……。

592蟻人形:2008/12/04(木) 13:43:52 ID:/PV5lAOo0

やっぱり一回では無理でしたorz
スレ消費申し訳ありません。



>>479-481 & >>515-517 & >>519 & >>532 ドワーフさん

まるで本物の歴史資料を読んでいるような感覚でした。
ユニークアイテムの設定についても感心するばかりで、もしこれが公式のものだと教えられたとしても、そのことに疑いすら持たないだろうと思ってしまう程です。
ハロウィンの話では、祭りのイメージと直接結びつかない勧善懲悪(?)の流れが分かりやすく、楽しんで読めました。
報告の内容が企業的に見えてしまうのは気のせいでしょうか。身近にあってもおかしくない報告書でしたね。


>>523-527 スメスメさん

対照的な義兄弟のそれぞれの動向から今回の一件が解き明かされていくんでしょうか。
盗みをやって生きてきたクニヒトがここまで丸くなったのも、何か並々ならない事件が過去にありそうですね。
次回はどちらの視点から物語が進むのか、アイナーは何処に消えたのか。事件の底が見えてきません。
また今回の書き込みではありませんが、前に書かれた元素戦争に関してアルの纏め方が非常に上手いと思いました。彼の性分も併せ、その器の大きさを垣間見たような気がします。


>>512-514 甘瓜さん

ウィザードの話かなと思いきや、レッドアイ所長の物語でしたか。
自分はまだ戦ったことが無い敵ですが、初心者向けのクエストを受ける姿を想像すると親しみが持てるような気がします。
あの姿で古都に出向いたら冒険者はどんな反応をするんでしょうか。地下水路にはよく似た人がいますけど(笑
所長の冒険者への見えない配慮が特に好印象でした。


>>490-509 白頭巾さん&黒猫さん

コラボお疲れ様でした。自分は経験ありませんが、一つの話を二人で作っていく過程は一人よりも断然面白そうです。
イベントに金がかかるのは当然ですが、彼らの場合文字通り桁が違いますね。一億近い請求書、いくらネルでも「それなり」では済まないはず。
楽しむ者がいる一方、悲しむ者あり。数え切れない程のハロウィンの犠牲者たち(民家Aの方々を含む)に神のご加護を。
初めのうち、『はんらさん』の意味が分からなかったのはご愛嬌です。
そして黒頭巾さん、前々回は感想をありがとうございました。
馴染み深いスキルでも細かい設定を足していくと全然別物になったりして味わい深いですよね。
亀な上にまとめて書いてしまって申し訳ありません(汗


>>471-473 スイコさん

ゲームの中にある世界の人物から見た視点で書かれている小説が多い中で、現実からゲームをしている視点で書かれる物語は少し、心に響く物があります。
二人から数歩離れたところに立つ『私』に自然と感情移入することができました。
三人三様の言葉は勿論、一人の中にもネットと現実の間のギャップがありますし。
普段どおりにパソコンに向かっている自分の生き方を振り返らせてくれる作品でした。



すみません、感想書くの滅茶苦茶難しいです。
素直に思ったことを書けばいいのに、格好いい言葉で……なんて考えてしまい。
結局感想になってないようなコメントになって書き直し。これがパターン化してる次第です。
次はこんなに長くならないようにしなければ……orz
大変失礼しました。

593柚子:2008/12/07(日) 14:55:07 ID:nrkoYs4w0
前作 最終回 六冊目>>837-853
Avengers
登場人物 >>542
1. >>543-551 2.>>568-573


「ここが盗賊団だって?」
カルンの告白にエルネストは目を丸くした。
「はい。名前もあるんですよ。前代党首の家名を取ってピーシング盗賊団っていうんです」
得意げにカルンが答える。
エルネストは彼女の言葉が信じられなかった。
カルンが盗賊には全く見えないし、そもそも盗賊団が人命救助など聞いたことがない。
「あ、まだ信用していませんね?」
カルンが覗き込んでくる。
「いや、盗賊が人命救助をするなんて信じられないんだ」
エルネストの言葉に、カルンはなるほど、と手を合わせた。
「確かにそうですね。あのですね、ここは普通の盗賊団とは違うんですよ。色んな意味で」
カルンの含んだような言い方にエルネストは怪訝な表情をする。
いまいち意味が掴めなかった。
カルンは言うかどうか迷うように口を開きかけては閉じるを続けていた。
そして意を決したようにエルネストに向き直った。
「ここの構成員は、全員が難民なんです」
カルンの表情に翳が差す。
「元犯罪者や職を失った人も居れば、貴方のように死にかけた所を救われた人もいます」
「なら、君も」
エルネストの問いかけに、カルンはどこか寂しげな笑顔で答えた。
「はい。私の場合、捨て子なのでここのみんなが家族のようなものです」
寂しい笑みは優しい微笑みに変わった。
「すまない。余計なことを聞いてしまった」
「いえ、いいです。アリアンのような国ではよくあることなんですよ」
カルンの強さにエルネストは驚きを隠せなかった。
彼女の言葉を聞いたら、周りで談笑している男達も違って写ってくる。
エルネストは自分がエリートとして特に何の挫折もなく進んできた自分が恥ずかしくも思えた。
「君たちは強いな」
「そうでしょうか?」
「ああ。こんなにも生きようとしている。生き続けようとしている」
「そう真っ直ぐに言われると、少し恥ずかしいです」
カルンが照れたような笑みを浮かべた。
そして何か思い出したように立ち上がる。
「そろそろご飯の支度なんで、手伝ってきますね」
「そんなこともやるのか?」
「ええ。後でエルネストさんの分も持ってきますね。体が動かないでしょうから、私が食べさせてあげます!」
「それは……」
エルネストの言葉を待たず、カルンが走り出す。女性の甘い香りが風となって届いた。
小さく息を吐き、エルネストは笑った。その瞬間、表情は驚愕に変わる。
「私は今、笑ったのか……?」
作り笑いではなく、本当に笑ったのはどれくらいぶりだろうか。
エルネストは疑問を振り払うように目を閉じる。次に目覚めるのはカルンが来るときだろう。
そしてエルネストは深い眠りに落ちた。

594柚子:2008/12/07(日) 14:56:21 ID:nrkoYs4w0
窓から射す光でイリーナは目覚めた。
時間を確認するまでもなく、朝だった。
仮眠を取るつもりだったのだが、熟睡して朝まで寝明かしてしまったようだ。
「うげ、疲労って怖いね」
感想を言い、階下へ降りる。
冷水で顔を洗い、まだ僅かに残っている眠気を吹き飛ばす。
共同部屋に入ると、中にはアメリアとアルトール、ついでにルイスが居た。
「あ、おはようイリーナ。よく眠れた?」
向かいに居たアメリアが手を上げて朝の挨拶をかけてくる。
「ええ、お陰様で」
イリーナも挨拶を返す。
「おはようございます、イリーナさん」
「朝からあまり間抜け顔を見せつけるな」
アルトールとルイスがそれぞれに挨拶をかけてくる。
イリーナは片方を無視して、様々な依頼の紙が貼ってある掲示板の所へ向かった。
「あれ?」
何か違和感がある。よく見るまでもなく、依頼の紙が1枚もない。
「はは、どこに隠れたんだ。私の楽で平和な、かわいい依頼用紙たちは」
「イリーナに触られるのが怖くて、どこかに逃げたのだろう」
何か聞こえた気がするが、無視。
イリーナがさらに探ろうとすると、後方から穏やかな声がかけられた。
「ある事情により、全てキャンセルになったんです。詳しくはマスターに」
後ろのアルトールへと振り返り、視線を平行移動させる。笑顔のアメリアが居た。
「マスター、これは何かアメリアンジョークとか、そんな感じですか?」
「いいえ、たまには良いでしょ?」
何か嫌な予感がした。
「今度大きな仕事を全員で手分けしてやるから、それまで休んで良いわよ」
予感は的中していた。
「私、辞退します。辞退して小さな依頼を引き受けます。民間人の為なら努力を惜しまないつもり……」
イリーナの舌が止まる。
アメリアが笑顔で睨んでいた。
「勘違いしているかもしれないけど、これは命令よ。言うでしょ、働かざるもの生きるべからず、だっけ?」
わざと間違える辺りが怖い。イリーナは泣きそうになった。
「あと、会うのは夜の会食でだから、それまで好きにしていてよいわよ」
「因みに誰と会うのですか?」
「ブランクギルドのグイードさんよ」
アメリアが誇るように言った。
「ブ、ブランクギルドォ!?」
イリーナは思わず叫んでいた。
他の2人も聞かされていなかったのか、それぞれ顔を跳ね上げる。
ブランクギルドと言えば、古都の数あるギルドの中でも一角を張る巨大ギルドだ。
そんなギルドとイリーナたちのような弱小ギルドが会食とは、夢か何かだろうか。
イリーナはアメリアが張り切るのも分かる気がした。
「重剣士のグイードか。1度剣を交えてみたいと思っていた」
ルイスが武人の笑みを浮かべる。
ルイスにとって強い人間は皆好敵手なのだろう。
「これを機に、超有名になって弱小ギルド脱出よ!」
アメリアは燃えていた。
それに反比例してイリーナは疲労が既に溜まり始めていた。

595柚子:2008/12/07(日) 14:58:44 ID:nrkoYs4w0
例の会食まで時間があるので、イリーナは武器の手入れをすることにした。
特別好きなわけではないが、いざという時命を分かつかもしれないので必要な作業である。
新聞紙を広げ、その上に短槍と尖剣を置く。
柄から魔石を外し、丁寧に拭いていく。次に刃油で刀身を磨く。
イリーナは鼻歌混じりに作業を進めていく。
「ん?」
イリーナは敷いていた新聞紙に目を落とす。日付は今日だった。
様々な記事の中から気になる記事だけを見つけ出す。
相変わらずの革命軍の記事を飛ばし読みし、見出しの記事を読む。
そこには連続殺人がまた起こったことが書かれていた。
今回の被害者は古都の西区長だそうだ。どんどん被害者は大物になっている。
ここまでくれば軍も動かざるを得ないだろう。
しかし、イリーナたちの事務所は南区寄りの東区なので、正直どうでもよいことだった。
ギルドへの依頼があるとしても西区のギルドだろう。
作業を続ける。
そういえばアルトールが、例の少女が無事孤児院に引き取られたと、嬉しそうに言っていたことを思い出す。
イリーナはアルトールのように、他人の幸福で喜べるほど善人ではなかった。
「これでよし!」
魔石を嵌め込み、作業を完了する。
時計を見れば既に正午を回っていた。
急に空腹感が襲い、まだ昼食を取っていないことを思い出した。
イリーナは新緑の外套を羽織り、白いリボンで髪を結ぶ。
そして昼食を取る為に外に向かった。


深紅の夕焼けが落ち始め、だんだんと夜に近づいていく。
会食までの時間は迫っていた。
「さーて。行くわよ!」
派手な金色のドレスで着飾ったアメリアが声を上げる。
鎧を脱ぎ、着飾ったアメリアは、生まれ持った気品も相俟って、まるで貴族のお嬢様だった。
しかし、決定的に違う所は背中に背負っている物騒な槍だろう。
それにしても、どうしてこの女は金色に拘るのだろうか。
それと比較すると、イリーナは何とも地味な格好だった。
何時もの格好と何ら変わりがない。違うのは髪の結び方くらいだ。
「イリーナ、貴方も女の子なら外出用の服くらい一着や二着持っておきなさいよ」
「いや、そもそもこんな事態に遭遇するとは思いもしなかったので」
皮肉で言ったつもりなのだが、アメリアが気づく気配はない。
気分が高まっているばかりに、頭の回転が幾分か遅くなっているようだ。
「貴方だって素材は良いんだから。そういう所は気をつけなさい」
「善処します」
イリーナは大人しく引き下がる。
今のアメリアに噛みついて良いことなど1つもない。
次にアメリアは叱りつける対象を変えた。
「そこの男2人! どうして服装が何時もと変わらないのよ!」
「すいません。イリーナさん同様こんな機会が訪れるとは思わなくて」
「右に同じ」
アルトールとルイスがそれぞれに答える。
「全くウチの男共は!」
散々と声を荒げるアメリアにアルトールがそっと声をかける。
「マスター。失礼ながらそろそろ行かないと間に合いません」
はっとして、アメリアが時計を見る。
「……仕方ない。行くわよ」
アメリアの号令で、ようやく4人は出発した。

596柚子:2008/12/07(日) 14:59:59 ID:nrkoYs4w0
40分ほどカーペットに乗り、ようやく指定の店に着いた。
何とも奇妙な組み合わせなので、周りからの好奇の目が痛かった。
指定の料理店は明らかに雰囲気が違う。
いわゆる高級料理店というやつだろう。
「……すごい店ね」
流石のアメリアもこの店の前には緊張するらしい。
他も同じようなものだった。
「これは私たちに対する嫌がらせか?」
「いや、善意だろう」
イリーナの言葉にルイスが答える。
ルイスの言うように、相手からしてみれば善意なのだろう。
「貧乏人の嫉妬心は怖いねってことか」
イリーナが結論を下した。
しかし、同業者にこれほどの差を見せつけられて喜ぶ人間が居るはずがない。
嫉妬心を感じてしまうのも当たり前な現象だ。
中に入ると、すぐに受付の女性が反応した。
「この時間に予約が入っているバトンギルドですけど。確認をお願いできる?」
受付の女性が用紙を取り出し、すぐに確認を済ませ、顔を上げる。
「バトンギルドさんですね。あちらへどうぞ」
女性が手を示した先には別の男が立っていた。
「こちらへ」
男性がついて来るように手で示す。
男性に導かれるまま、4人は階段を登っていく。
この店は珍しい5階建てで出来てあり、4人が案内されたのはその最上階だった。
階段の所々に見られる飾りでさえ高級品なのだから何とも嫌みな店だ。
イリーナは逐一驚くような愚行はせず、黙って付いて行った。
階段を登り切ると、絶景が広がった。ついつい感嘆の声を漏らしてしまう。
「お気に召されましたか?」
男性が誇らしそうにイリーナを見ていた。
「ええ、とても」
イリーナも微笑んで答える。
「では、こちらへ」
男性が指定の席へ導こうとするが、その必要はなかった。
明らかに他とは違う雰囲気を放つ男が1人居たからだ。
燃えるような赤い髪と髭に、ルイスをも超える巨体は熊を想像させる。
そして腰に下げる長曲刀は何よりの証。
噂に聞く、重剣士のグイードだ。
大物は雰囲気からまず違った。
2ヶ月前に死闘をした聖騎士団のヘルムートも鋭い威圧感を持っていたが、この男はそれとは違う威圧感を放っていた。
隣を見るとルイスが激しい敵愾心を放っている。同じ剣使いとして思う所があるのだろう。
男という生き物はどこまでも優劣を決めないと気が済まない生き物のようだ。
4人は進み、遂にグイードと対面する。
両者の間に鋭い緊張感が走る。
「昨日は使いを送ったりしてすまなかった。私がグイードだ」
大男が分厚い手を差し出す。
「アメリアよ。今回の件に関しては感謝しているわ」
アメリアも白く華奢な手を差し出し、両者が握手を交わす。
それにより張り詰めた空気が少し緩和された。
「いや、どんな豪傑かと思えば、大変可憐なお嬢さんだ」
「どうも」
賛美の言葉なのかどうか判断に困り、アメリアが曖昧に答える。
「紹介しよう。こちらは我らが副マスターを務めるディーターとマイアだ」
「ん?」
どこかで聞いたような名前にイリーナが疑問の声を上げる。
よく見ると、グイードの両脇に座っているのは露店で会ったあの2人であった。
グイードばかり見ていたので気がつかなかった。
「あ、お前ら!」
あちらもイリーナたちに気づいたようだ。
イリーナとルイスはちょうどアメリアたちの後ろに居たので分からなかったのだろう。
合わない背広を着た、黒髪に黒い瞳で全身漆黒のディーターが身を乗り出してくる。
「お前らは気に食わない奴293号に294号!」
「1号と2号じゃないのかよ」
イリーナは呆れる。どちらがどっちだか聞く気にもならない。
ディーターは威嚇するように睨みつけ続けている。
「これ、やめんかディーター」
召喚士のマイアがディーターを止める。
マイアは黒いドレスを身に纏い、まるで人形のようだった。
この妙な会話に他の面子が不思議そうに眺めていた。

597柚子:2008/12/07(日) 15:02:59 ID:nrkoYs4w0
「何だ、お前らの知り合いか?」
「違うって!」
グイードの問いかけをディーターが全力で否定する。
「こいつらは敵だ!」
「ディーター、お前は少し黙っておれ」
マイアに釘を刺されディーターは大人しく引き下がる。
ようやく全員が席につき、頃合いを見計らいグイードが口を開いた。
「ここは気に入ってくれたかな?」
「とても素敵な嫌がらせだったよ」
「堅苦しくて好きではない」
イリーナとルイスがほぼ同時に答える。
ディーターが凄い形相で睨んできたが無視。
「ちょっとイリーナにルイス、何を言っているのよ!」
小声でアメリアが注意してくるが聞こえないふりをする。
今は機嫌が悪いのだ。
「あまり部下の教育が行き届いていないみたいですな」
「恐縮です」
アメリアが頭を下げる。
アメリアから放たれる殺気がすごい。
「だが、そのような若者は嫌いじゃない。そこまで肝が座っているのは珍しい」
グイードは豪快な笑みを浮かべる。
「そう申されますと?」
「ええ、とても気に入りました。期待以上だ」
どうやら合格点が貰えたらしい。ただ嫌みを言っただけだったが。
「それで、私たちを選んだ理由は? そもそもこの面会の意味は?」
イリーナが問いかける。
気に入ったというのだから遠慮はいらない。
「ふむ。そうだな、分かる通り我々も多忙でね。人手が足りない」
グイードが髭を撫でながら答える。
「今回必要なのは数ではなく粒なのだ。そこで少数精鋭と聞く君たちに依頼をしたのだ」
なるほど、納得した。
多忙なのは昨日副マスターの2人がわざわざ買い出しをしていたことからも本当らしい。
「もう1つの方は特に深い意味はない。初対面でいきなり物騒な話も嫌だろう?」
グイードの答えにイリーナたちが面を食らう。
どうやらここへ誘ったのは、単にあちらの誠意を伝えたかったかららしい。
ルイスが嫌そうな顔をする。イリーナも同じような顔をしているだろう。
大物は、この会食もただの余興のようなものに過ぎないらしい。
もしかしたら、金持ちと心の広さが比例するというのは事実なのかもしれない。
そんなことを考えていると料理が運ばれてきた。
見た目も良いが、何より匂いに惹かれる。
料理が丸テーブルに置かれると、不審の目で見られるのも構わずルイスが食し始めた。
「良い腕をしている」
飲み込んだついでに、男性に言葉をかける。
「はあ……」
料理を運んできた男性はルイスの食べっぷりに対して圧巻にとられていた。
「何だ」
イリーナが目を向けていると、ルイスが疑問を口にする。
「お前なあ……」
「まあ良いではないか。後の小難しい話はマスター同士で話をつけよう」
そう言って、グイードがアメリアと通信番号を交換する。
下っ端のイリーナが何か出来るわけでもないので、後は任せて自分も食事を始めることにする。
「あ、美味い」
料理を口に運ぶと素直に感想が漏れた。
イリーナに続いて、ディーターにマイア、アルトールも食べ始める。
イリーナは外を眺めた。
窓越しに見える景色には、古都の街並みがどこまでも広がっていた。

598柚子:2008/12/07(日) 15:22:51 ID:nrkoYs4w0
しまった! かわいい女の子がいない!
こんにちは、忙しいせいか筆が止まっていました。
これからしばらくスローペースになるかもしれません。

今回は以前から書きたかった古都などの町の中を中心に書いています。楽しいです。
分かりにくいですが、エルネストの部分は依然と5年前のままです。
時間軸がずれているので混乱するかもしれませんが。

>68hさん
なるほど、アドバイスありがとうございます。
それでは、しばらくはここの掲示板でのみに載せていくことにします。

>蟻人形さん
感想ありがとうございます。
こちらから感想を返せないのは本当に申し訳ありませんが。
今は忙しいですが時間があるときにゆっくり読ませていただきます。

599FAT:2008/12/07(日) 18:07:26 ID:07LLjSJI0
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562


―光選―

―1―

 闇が薄れ、星々が姿を消そうとも、抵抗はしない。もはやそこに悲しみはなかった。こ
の立ち昇る朝日のように煌々と輝くのは胸中のランクーイが残していった希望。
 ラスとレルロンドは夜明けと共に出発した。激しい熱で結晶化した砂はランクーイの墓
標。いずれ波がさらってこの広大な海に沈むだろう。しかし、ランクーイはなくならない。
レルロンドと共に生きるのだ。
「師匠、どこに向かいましょう」
 バッグを肩から下げたレルロンドは満たされた思いを胸に、ラスに期待の眼差しを向け
た。そこには子供が憧れを手にしたときような輝きもあり、大人が誇りを持ったときの力
強さもあった。
「俺に考えがある。そこでうまくいけばお前の実力も多少はつくだろう」
 ラスは優しい目で応える。以前では考えられなかった表情が当たり前のように、それが
彼本来の姿であったかのように自然に現れ、レルロンドの気は更に弾む。
「よぉし! ランクーイのためにもがんばります!」

 初めは誰かが歩いた足跡が一つあっただけ。誰かがその足跡を追い、また誰かがその足
跡を追う――。多くの人々が行き交うことで道はその幅を広げ、やがて馬車が通るように
なり、大通りとなった。馬車はハノブ鉱山から産出される大量の鉄を忙しく毎日、昼夜な
く都市へ供給するために奔走した。そんな歴史が名前の由来となった、鉄の道を北に進む。
 雲一つない青空が広がり、それが無限に続いているようだった。太陽が山から離れ、そ
の姿を惜しみなく地上の生物達に見せつける時分、道には商人の引く馬車や冒険者たちの
姿が見え始めた。人々の顔を眺めながら、今の自分以上に生き生きとした表情の者はいな
いな、とレルロンドは密かに嬉しく思った。
 影が短くなってきた。レルロンドは小腹が空いたのでカバンからパンを取り出すとその
まま口に放り込む。ひどく硬いが辛抱し、噛み続け、唾液を滲みさせると徐々に柔らかく
なり、同時に甘みも出てくる。この甘みがレルロンドは好きだった。

600FAT:2008/12/07(日) 18:08:37 ID:07LLjSJI0
 パンを食べ終えても、ラスは変わらず北を向いて歩く。道を北上すると、あまり見かけ
ない服装の女性がそわそわと辺りを見回していた。気に掛かったレルロンドは声をかけた。
「お嬢さん、どうかなさいましたか?」
 声をかけられた女性は長身、長い陽のような金色の髪を頭の両側で結んでいて、豊かな
胸元に柔らかなフリルのついた、体にピタッと貼りついたような洋服、目を惹きつける純
白のフリルがついた短いスカート、ももまである長い白のハイソックス、そして手に持っ
た先端が星型のワンド、ととても奇妙な服飾であった。
「あっ、あのぉ、私、こまってるんです」
 女性の口調は特徴的などもりと、どこかぬけているような、言葉足らずな印象だった。
「どうなさいました?」
「わっ、わからないんですけど、こまってるんです」
 レルロンドはラスを仰ぎ見た。折角丸くなっていたラスも長時間歩きっ放しだったのと、
“女”というもの――特にレンダルやデルタのような特異な女性――に対して、苦手意識
を持っていることから、彼は少し不機嫌そうだった。
「弱りましたね。何に困っているのかわからないんじゃ、僕らではどうすることもできま
せんね」
「あっ、あなた、そこのあなた」
 突如、ピシっと指を差されるラス。その無礼な指先に、ラスは明らかに不機嫌そうだっ
た。
「私、あっ、あなたについていきます」
 唐突な宣言にぽかーんと口をあけるレルロンド。指差されたままのラスはとても不機嫌
そうだ。
「さ、い、行きましょう」
「おいおい、ちょっと待てよ」
 ようやくラスが重い口を開く。
「はひ?」
「勝手に決め付けてもらっちゃ困るんだよ、俺たちには俺たちの事情が、あんたにはあん
たの事情があるだろう。俺たちは急いでるんでね、わりいがおさらばさせてもらうぜ」
 ウェスタンハットを押さえながら、女性の横を冷たく通り過ぎ、立ち去ろうとするラス。
しかしその腕に女性はしがみ付く。
「こっ、こまります。私、そうされるとこまります」
 ぶんぶんと大きく腕を振りまわし、その手を振り解こうとするラス。しかし女性の手は
ピタッとラスにくっついたまま、離れない。
「ちっ。おい、言っとくけどな、俺たちは修行に行くんだ。あんたみたいな変なやつに構
ってられないんだよ」
「はひ? だ、大丈夫です。私、自分の身は自分で守りますから。だ、だから、あなたに
ついていきます」
 なんとも強引、強情な女だ。こういう強引さはデルタのそれに似ている。付いてくると
言い出したら絶対に折れなかったな、と女性にデルタを重ねるとラスは諦め、女性の顔を
睨んだ。
「勝手にしろ。ただ、この手だけは離してもらおうか」
「はひー」
 女性は手を離すと、その場で優雅にくるりと一回転してから自己紹介した。
「わ、私はソシア=モニテールと言います。得意なのはお、応援することです。仲良くし
ましょお」
 しかしこいつは底無しの馬鹿かも知れない、と呆れ顔のラス。声をかけたレルロンドを
睨む。
「僕はレルロンド=アラジャラン。師匠の名はラス=ベルツリーと言います。どうぞよろ
しく」
 そんな師匠の目に気付かないのか、レルロンドは爽やかにラスの分まであいさつした。
「ご、ご丁寧にどうも。仲良くしましょお」
「レルロンド、あんまり馴れ馴れしくしてると見捨てるぞ」
 深くウェスタンハットを被り直すラス。無愛想な昔の雰囲気に戻ってしまった。
「わったしっはみっらくっるまっほおつか〜い♪ てっんしっのっこえっでっしっあわっ
せさ〜♪ ららららら〜♪」
 能天気に聞いたこともないような恥ずかしい歌を歌うソシア。不機嫌さからラスはいそ
いそと二人から離れるように早足で歩いた。

601FAT:2008/12/07(日) 18:09:47 ID:07LLjSJI0

―2―

「へぇ〜、ソシアさんって海の向こうから来たんですね。どうりで、この辺りでは珍しい
格好だと思いましたよ」
 レルロンドはソシアの全身を頭の天辺から足下に目線を落としながら良く観察した。細
く高めの背、長くきめ細やかで蕩けて宙に舞ってしまいそうな金色の髪からは悪戯に女性
の香りが振り撒かれる。西洋人形のような整った顔立ちで、肌はシルクのように美しく艶
めき、触れようものなら指先が滑ってしまいそうだ。豊潤な胸、大胆に開いた胸元にキュ
ッとくびれた腰元、風が吹けば捲れてしまいそうなふわふわとしたフリルが棚引く短いス
カート、そのスカートと白のハイソックスの間からは色っぽい純白のふとももが覗いてい
る。レルロンドの青年としての本能が疼いた。
「そ、そうなんですっ。だから私、こまっていたんです」
 ソシアはそんなレルロンドの視線に気付かずに、無頓着に大手を振って歩いた。一歩ご
とに揺れる胸がレルロンドの視線を釘付けにする。
 一方のラスはと言うと、これまたソシアの胸が気になるようでいつの間にか二人と肩を
並べて歩いており、深く被ったウェスタンハットの陰からちらちらとソシアを見ていた。
ラス七歳、レルロンド十七歳。突然の魅力的な女性との接近に二人の男としての性が目覚
め始めていた。
「ソシアさんはお若く見えますがいくつくらいでしょうか? 僕より少し上かなと言う気
がしますが」
「あ、えっと、たしか……」
 ソシアは言葉を濁す。やはり女性に年齢を尋ねるのは失礼か。行き過ぎた探求にレルロ
ンドは唇を噛んだ。
「に、二十三です!」
 二十三。若すぎず、しかし若さを感じられる歳。女性として一番輝ける歳ではないだろ
うか。二十一歳の体を持つラスと十七歳のレルロンドは一層ソシアに惹かれた。
「おい、海の向こうから来たと言っていたな。海の向こうのどこから来たんだ?」
 ラスが興味を示した。他人に無関心だったラスも男の性には正直だ。
「はひ、えっと、いいところです」
 バカバカしい答えに二人は笑った。
「し、白い砂がきれいで、とても明るいんです。し、白い建物がたくさんあって、とても
明るいんです」
「ふうん。アウグスタみたいなとこだな」
「それでソシアさんは明るく育ったんですね」
「はひ、ふわふわしてて気持ちよくって、い、一年中お日様が暖かいんです」
 ソシアは太陽を浴びるように両手を広げた。二人の男の目は大胆な胸元に集まった。
「なぜお前は海を渡った?」
 冷静を装うラス。なんだかんだでソシアのことを色々と知りたがっている。
「はひ、ふ、船で来ました」
「違いますよ、来た手段じゃなくて、来た理由です」
「あっ、えっと、やらなきゃいけないことがあって、き、来ました」
 ラスは不審な目を向ける。
「お前、やるべきことがあるのなら、俺たちに構っている暇はないんじゃないのか」
 鋭い、獲物を狙う目だ。ラスは答え次第ではすぐにでも斬り掛かろうと剣の柄に手を忍
ばせた。
「や、やらなきゃいけないことは、今、しています」
「なに?」
「わ、私、応援するのが得意なんです。だ、だから、応援しにきました。あなたたちを、
お、応援することが、私のやるべきことなんです」
 ラスの思考が一瞬止まる。本当にこいつは底抜けに馬鹿なのか。誰とも構わず、応援す
るためだけに海を渡ってくるなんて、そんな理由があるのか?
「ははっ、なんだか不思議な人ですね、ソシアさんは。でも、ソシアさんらしい理由だと
僕は思います。なんて、まだ知り合ったばかりなのにおかしいですよね」
 ラスの心を知らずに、レルロンドはすけべなたれ目の焦点をソシアの胸元に当てたまま、
にこやかに笑った。
「ま、旅をするのにそういう理由もあるか」
 ラスは納得し、誰にも気付かれない内に手を戻した。そして目はソシアの胸にいった。
「はひっ! い、いっぱい応援するのでがんばってくださいっ」
 ソシアは無防備にも両手で万歳をした。たわわに揺れる胸に、凝視した二人の男の首も
揺れていた。

602FAT:2008/12/07(日) 18:14:47 ID:07LLjSJI0
皆様こんばんわ。久しぶりのラスパートです。こんなリトルウィッチでごめんなさい。
どうしても三人組で書きたがるのはきっと書きやすいからです。

>>◇68hJrjtYさん
場面が変わるたびに新キャラ出してる気がしますが、今回も新キャラです。これで出てな
い職は悪魔だけのはず。
またしばらくはのほほんで行きたいと思います。

>>553さん
サマナな誇りがかっこいいです。やはりサマナはこうでなくっちゃ!!
このゴロツキたちが果たしてオオカミの進出と関係があるのか、逃げちゃったフラッツの
動向も含め続きが気になります。
>デルタの声
甘えんぼなお嬢様のイメージで書いてるので、上品な猫撫で声という表現は近いものがあ
る気がします。ほんとはもっと萌っ子にもしようかと×。×;

>>柚子さん
エルネストとカルンの出会い。彼は軍人から盗賊に転身するのでしょうか?彼らが今後イ
リーナたちとどのように繋がってくるのか、楽しみです。
ルイスとディーターはとても仲よしになれそうですね。でもギルドが違うということは敵
対しなければならないということになるのでしょうか?
白い仮面を被った子供……お恐ろしいです。触れただけで生を失わせる程の力、この子供
とミシェリーとの関係を考えれば浮かび上がるのは国王の存在ですが、襲われているのは
古都の重役人のみ……謎が深まりますね。
続きを楽しみにしています!

……と感想を書き込もうと思ったら続きが投下されてる!
なるほど、盗賊団と言っても義賊のような存在なのですね。カルン一人を見ただけでもう
この盗賊団を信頼してしまいそうです。
ブランクギルドとの同盟(?)になり、イリーナとルイスの厭味合戦の中にディーターが
交じってくるのも楽しみにしてます。
かわいい女の子いたじゃないですか……み、ミシェリー(;×;)



>>蟻人形さん
巧みな言葉遣いで、毎回毎回勉強させて頂いております。
戦闘前の緊張感と一挙一動が鮮明かつ繊細に描かれていて時間をかけてじっくりと読みた
くなる作品です。
次回は遂に戦闘開始といった処で期待が膨れ上がっています。

>>白猫さん
おお、ミニペット!まだ一度も買ったことありませんが、なるほど、便利……いえ、良い
相棒になれそうです。
今回の話では剣士が喋れないということもあって、よけいにシルフィーとの絆が強く描か
れているように思いました。
またの作品投下、お待ちしております。

603◇68hJrjtY:2008/12/09(火) 00:24:08 ID:ZhkvvSJE0
>蟻人形さん
コメ返しありがとうございます!
さてさて、先に小説のほうをば…なるほど、両チームがフィールドに配置され、Gvを思わせる展開になってきましたね。
WIZ君の気持ちがとってもよくわかります!こっそりひっそり練習しておいて本番で発揮(*´д`)
Gvやこうした戦争系物語を読んだり見たりすると、つくづく一介の兵士にだって性格や生き様があるんだなあ、
と思ってしまいます。(もちろん蟻人形さんの小説の主旨はそれとは違うと思いますけど(笑))
対する少女はしかし、不敵といいますか怪しげな雰囲気。両軍衝突なるか!?続きお待ちしています。
---
感想については私もまともにちゃんと書けたかなといつも心配しーしーです、はい(;´Д`A
小説書き手さんには及ばずながらも、読んでその時に感じたことを素直に文章にできるかどうかというのは
同じくらい難しいものがあるんだなー、と達観したかのように言ってみます(苦笑)
長い事こんな感想屋をやらせていただき、書き手の皆様ありがとうございます<(_ _)>

>柚子さん
続き投稿ありがとうございます♪
大手ギルドとして登場したブランクギルド。このギルマス、グイードの思惑も連続殺人事件のひとつと結びついているのでしょうか。
しかし格の違いと言いますか、文面からでもグイードのカリスマ性みたいなのが伝わる気がします。
そして意外な再会となった二人組。私の中ではディーター君は可愛い男の子設定なので大丈夫ですよ♪(何が
しかしやっぱり、意識しなくてもエルネストとカルンがルイスとイリーナに重なる気がします(笑)
両方が全く違う性格であるというのもなんだか意味深で、続き楽しみにしています。

>FATさん
久しぶりのラスパート、投稿ありがとうです!
うわー、なんかイイなぁこのリトルちゃん…応援したいからついてくって(*´д`)
なるほど、自由奔放な異国娘みたいな設定なのでしょうか。異星娘よりもこっちのほうがしっくりします(笑)
ランクーイを失ったばかりのラスとレルロンドも彼女のお陰で少しは癒され…るのでしょうか(ノ∀`*)
レンダル&デルタパートとは異なり、ラスの方は順調で何より何より。続きお待ちしています〜。

604蟻人形:2008/12/11(木) 20:27:15 ID:/PV5lAOo0
  赤に満ちた夜

 前話 >>589-590 (七冊目)

 0: 秉燭夜遊 Ⅲ … Covert Dissonance


 敵陣から戻った主人が髪を掻き分ける仕草を眺める男、その心の内では不安が増長しつつあった。
 手渡す言葉を選んだのも、時間の通告を阻むことを止めたのも、全ては主人の感情を荒立てないことを一番の目的とするからに他ならない。
 もし万が一のことがあれば、挑戦者五名は間違いなく命を落とすだろう。
 新たな冒険者の亡骸を供養する自分。幾度も起こった惨事を避けるべく、数ヶ月も前から、男は慎重に物事を進めていた。

 そんな中で持ち上がった一つの疑惑。平和な戦闘を一突きで崩落させる根本的な問題が、その当日になって浮上した。

 主従関係にある彼らは以前から、二人の間で唯一取り決めを行っていた。内容は「主人は自分の体調を偽り無く従者に伝えること」、それだけである。
 それだけのことなのだが、当事者二名は当然、周囲の者たちの命にまで関わる重要な事柄であり、今までその約定が破られたことはなかった。
 彼女は当日、体調は万全だと話していた。感情を乱さない自信がある、と。そのときの男は普段どおり、彼女の言葉を疑いもしなかった。

 しかし主人と挑戦者の対面時、その認識はぐら付いた。
 剣士が場所について要望を述べ、少女がそれに答えたとき、男は密かに戦慄していた。主人があれほど悦ぶ様を拝んだことがなかったからだ。
 虐殺ばかりを経験してきた彼女の目には、条件の交渉をする余地があるような戦闘がどのように映ったのか。
 普通の人間よりずっと控えめに歓楽を表し対話を進める主人を前に、彼は問題について深く考え直さなければならないことに気付いた。
 更に戦闘二分前。自分の失態については釈明しないだろうが、彼の胸中に芽生えた主人への疑念は、このとき疑いの枠に止めておける物でなくなった。
 懸念は危惧と名を改め、謝罪後の態度、殊にその表情は状況の深刻さを鮮明に物語っていた。
 このまま進めば最悪の結末しか残されていないということを、彼は最も早く悟っていた。

 だが、男がどんなに望んだとしても、最早戦いを止めることは叶わない。
 体のいい理由付けは通じない。かといって、正直な告白によって互いの面子を潰してしまうわけにはいかない。何より彼は自分を投げ打ってでも止めるという気概を持っていなかった。
 彼は真実に気付きながらも僅かな可能性に縋り付き、何処までも他人の顔色を窺う自分が堪らなく嫌だった。


 ランプが置かれた中央に陣取る少女は沸き立つ苛立ちを抑え、相手の一挙一動を入念に窺っていた。
 夜気に抱かれ頭が冷えていくにつれて、直前の接触によって生じた消沈も薄まっていった。
 しかし彼女は戦闘の深み、即ち勝負の行方は必ずしも実力のみで決するものではないということを、この頃は未だ知らなかった。
 彼女は敗北が失敗と等号で結ばれることを信じ、それらは何れも恥ずべき汚名であると考えていた。

 戦闘において彼女が自ら認めた敗北は一度のみ、それも三年前に喫したものである。
 敵は複数、実力は全員がはるか上。しかも彼女が自身の『力』の使い方をまだはっきりと把握していなかった時分のことだった。
 それにも拘らず、傷口は今も生々しく塞がらないまま心の奥底で剥き出しになっている。
 ふとしたきっかけで思い起こせば赤面を免れず、自ら身を焼いてしまいたいという衝動に駆られるのみならず、当時の相手方の会話が脳内で蘇り、その度自尊心を深く抉られるような強い屈辱感を味わっていた。

 もしも少女が敗北を知らないまま生きていたなら、この日の戦いはなかっただろう。
 ギルド側が即日の再試合の提案を了承したという連絡を男から伝え聞いたとき、彼女は驚きを隠そうとはしなかった。彼女にしては珍しいことだ。
 敗北の恐怖に打ち勝ってこの場に立った彼ら挑戦者たちへの敬意、僅かな嫉妬。そしてまた、元来秘める下への傲慢。胸中にそれら三つが共存するために、彼女は五人に対して攻撃的な優しさを纏いながら関わっていたのだ。
 だが、今の彼女は認めようとはしないだろう。理由は二つある。一つは根拠なく自分の上に人間を置くことを承知しないからであり、もう一つは、彼女の中で今一番大きな感情はそれではないからだ。
 戦闘前という一種独特な雰囲気を噛み締め、次第に吊り上る頬が彼女の本心を浮き彫りにしていた。
 そうして湧き上がる情熱と自尊心から生まれる油断が、男に対して初めて自分の具合を偽った原因であった。

605蟻人形:2008/12/11(木) 20:32:09 ID:/PV5lAOo0

 北側、つまり正面で槍を構えた女性から左右、そして背後。少女は順々に視線を移していく。
 武道家は西、射手は東。剣士は南と、四方を固めてはいるが釣り合いが悪く意図の読めない陣形である。
 だからこそ。彼女の笑みはいよいよ顕著になり、白く並びの良い歯が見え隠れするほどであった。
 再び仲間に風の魔法を掛けて回っていたウィザードが剣士と同じ側で足を止めた頃、男が開始十秒前を言い渡した。

 少女が口を覆ったのは己の感情を自制するためであり他意はなかったのだが、前方に立った槍遣いは違った受け取り方をしたようだった。
 無感情を作り上げていた顔の造形が根本から覆ると、槍遣いの怒気は誰の目にも明らかなものになった。
 加えて背後に立つ剣士、この二名が戦闘開始と同時に少女に牙を向く。彼女は直感的にそれを悟った。
 銀色の前髪で少々隠れる程度の位置にある紅の瞳。その目に映る、三方向から照らされた金属槍。それが突如、光の反射を一段と強めたように感じられた。

 男は五秒前を宣言し、続けてカウントダウンに入る。途中、左右を気にする少女の瞳は敵方の数人が臓器のような異物を口に含む様子を捉えた。
 だが彼女はほとんど気にも留めなかった。狙いは既に決定していたからだ。

『――試合、開始っ!』

 コールと共に少女は左足で地を蹴った。自分との距離を置いての攻撃が可能で、且つ単独である射手を真っ先に叩くために。
 駆け出して右、先程までの後方が一瞬目に入る。剣士が少女の背後に回り、更に後ろにウィザードが走る。少女にとって十分、想定できる範囲の行動だった。
 だが目標の射手が目を見開いたのも一瞬、さっきのお返しだと言わんばかりに意地悪く笑う。そう、なんと弓も構えずに。
 どうやら少女の狙いは直線的過ぎたようだ。少女と射手の距離が半分程度に縮まったところで、ブーツが地面を削る音と共に彼女の眼前に槍遣いが現れ、彼女の行く手を遮った。
 予想外の速力。
 しかし風属性の魔法に移動を助けられた反面、槍遣いは慣れない空気抵抗に戸惑いを隠すことができなかった。ブレーキをかけた左足に普段以上の負担が掛かったことに、ほぼ全員が気付いていた。

 理由まで詮索する余裕はなかったが、槍遣いに生まれた一瞬の隙を少女は見逃さなかった。
 左足に重心がずれて体勢を崩す槍遣いの右、少女にとって左側であるが、そこに軽快に回りこむ。飽くまで最初の標的は射手。
 直後、槍の柄が正確に少女の脇腹を突く。予想外の追撃を許した少女は射手への猛進を阻まれ、体勢が左方に傾く。
 瞬時に左手を地に着け、腕を軸に弧を描いて勢いを殺し転倒を避ける少女。直前の攻撃に吐き気を催すが、咳一つで持ち直し次の攻防へ体勢を立て直そうとする。
 しかし時間が圧倒的に足りなかった。少女に殆ど備える暇を与えず、右から剣士、正面よりやや左から槍遣いが迫る。
 敏捷性に長けた槍遣いが早いことを知り、左手を含めた三本の足で右へ跳ぶ。間一髪、左から鋭く突き出された金属槍が空を切った。
 盾を持つ剣士は守護の要であり、ギルドマスターとしての彼は仲間の支えである。加えて二人目の敵が槍遣いであることも大きな意味を持つ。それにこの状況では、誰がいいなどと贅沢も言っていられない。
 心を決めると一旦逃した射手を諦め、剣士に真っ向から向かっていった。

606蟻人形:2008/12/11(木) 20:33:11 ID:/PV5lAOo0

 彼女が変異に気付いたのは剣士が短刀を引き、突撃の構えをとる瞬間だった。見れば戦闘直前まで調整していた巨大な盾は見受けられず、代わりに左手用の短剣が握られている。
 そのことについての考察の重要性を一瞬で判断し、彼女の思考は別の観点へと向き直った。
 剣筋は直線的で回避は容易いが、下手に突っ込んでは他方の剣の餌食になる。確認する必要はないが、背後には槍遣いが後方に逃れようとする場合に備えて待機しているに違いない。
 途端に移り変わる少女の表情。哀を奏でてはいるが、それは決して諦めを示すものではなかった。


 残念極まりないといった色を見せる少女に剣士は違和を感じたが、深刻に受け止めることはなかった。それ相応の自信が、今の彼には備わっていたからである。
 一方走る速度を緩め、双手を不自然に開く少女。二つの丸みを帯びた掌から生み出されるのは小火球だった。
 しかし、それは前回の戦闘で種が割れている技術である。彼女が炎を扱うことは承知の上で、火炎に対する抵抗や耐熱性の防具を準備していないとは考えにくい。
 案の定剣士の口元が僅かに緩んだ。勿論、彼女はそれを攻撃として使う気は全く無い。
 剣士の短刀が少女を貫く直前。少女は出来るだけ素早く両側から挟むように、また少しだけ掌を相手側に傾けることを忘れずに、その両手で剣の刃を受け止めた。
 驚愕。次に目を見開き、己の失策を恨む剣士。彼の表情は激しい光に飲み込まれ、小さな爆発音が周囲に響いた。

 戦闘に関しての経験は圧倒的に少ない少女だったが、この日の戦闘を自分なりに楽しむため、彼女は相手方の五人と同じようにできる限りのことをしてきた。
 自分に対しての制約を掲げ、実際に男を相手にした実戦練習を行うこと以外に、思いを凝らして『作戦』を組み立てるような努力もしていた。
 今の彼女の行動もその一つで、己を守る鎧を多種の魔法で保護する者はいくらでもいるが、武器に抵抗系の魔力を付加する者は極めて少ないことを前もって考慮してのことである。
 事実、剣士が扱っていた武器に施された魔力は大半が攻撃能力を強化するものだった。両方向からの熱量に耐え切れず刀身は呆気無く焼ききられ、一旦上空に煽られた剣の先端が落下して地面に刺さった。

 剣士自身も爆風により後方に押され、数メートルに及ぶ二本の足跡を地上に刻み込んでいた。彼は俯いたまま、右手に残った握りを場外に放り投げた。
 だが、半年前のように試合まで投げることはしなかった。それどころか、彼はこのとき一切の負の感情を拭い去ろうと努めていた。
 故に剣士は吼えた。雄叫びによって不安や怒り、悲しみを残らず吐き出しながら、戦場に立つ者全員の時間を揺るがし、その挙動を止めた。
 発声を止めると彼は大きく息を吸った。新鮮な空気は彼の肺に快く収まり、体の隅々に新しい力を行き渡らせた。
 紅い視線を感じ取り、剣士は再び走った。ただし少女の許へ向かってではない。仲間が作る障害物、その陰に素早く滑り込んだ。
 勝利のために。早くも欠けてしまった自分たちの戦略を練り直すべく、剣士は不本意ながら前線から退くことになった。

607蟻人形:2008/12/11(木) 20:34:17 ID:/PV5lAOo0

 攻撃から小爆発が生じる合間に、少女は手早く後方を確認した。当然、相手の持つ剣の刀身が熱によって歪んだことを見届けてからの行動だ。
 彼女の予想通り、槍遣いは背後で待ち受けていたようだ。しかし逸早く魔力行使の目的を察知し、現在は二名から離れて様子を窺っていた。
 武器を失う兵士にこれ以上の攻撃は必要無いと判断した少女は、次の攻撃対象を槍遣いに定めた。剣の爆裂から生じる爆風を上手く使って加速しながら、正面に立つ槍使いとの距離を一気に縮める。
 迎え撃つ体勢の槍使いを見据えながら、彼女は別の攻撃の気配を捉えた。まずは風を切る音、少々遅れて視界に矢が現れた。
 一瞬動きを目で追ったが、避ける必要はなかった。それほどまでに矢のコースが進路から外れていたためだ。
 それを射た主に目を向ける余裕は無い。眼前の槍遣いが迫り来る少女を払おうと大きく槍を振るっていた。

 細い左腕で軽く槍を受け止めた瞬間、彼女はその妙な感触に必要以上に気を取られた。その影響で狙っていた木製の鎧の隙間への打撃は非常に緩いものになった。
 更に攻撃の最中に敵の手応えが完全に消え、思わず視線をそちらに向ける。丁度分身の陰から現れた槍の刃が真っ直ぐ、少女の脳天を目指して突き進んでいた。
 瞬時に頭を左に反らせ、辛うじて致命傷を回避したが、鋭利な刃先によって少なくとも十数本の髪の毛が刈り取られてしまった。しかしその行為に対して怒る様子は無く、寧ろ満足そうに笑みを浮かべている。
 そして反撃に転じようとした矢先、突然の轟音が彼女の体の自由を奪った。

 先刻の男の比ではない、音の波が体を襲う衝撃が実感できる程の爆音は剣士の口から発せられている。まるで動物が何かを訴えるような叫び声だった。
 少女の視線は槍遣いに向けられたままであった。少なくとも相対する槍遣いも同様に、何らかの力に縛られ動くことができないようだ。
 長い束縛が終わり、彼女は真っ先に視線を剣士に移した。瞬間二人の視線が合致し、直後に剣士が逃走を始めた。
 目の前に槍使いを認めていた少女は動くことなく、目だけで彼の行方を追った。そして『彼女等』を目にすることになった。

 主に激しい戦場となった北東側のフィールドとは逆、南西側に立つ『彼女等』はまさしく武道家だった。
 戦闘用の黒い衣装を身に纏う武道家がざっと二十人はいるだろうか。魔力の気配が少女にその正体を悟らせた。一体一体が精密に作り出された分身だ。
 更にここで、少女の脳裏に据え置きにした問題が蘇った。巨大な盾がなくなっていたのは何故だろうか?
 あれほど気に掛けていた盾が剣士の手から離れていた理由は一つ。盾は外の者を護っていた。それは間違いない。
 また武道家に盾を託すことはない。現状最も見つかりにくい彼女であるが、盾が目印となり、分身かどうかを見分ける手がかりとなってしまうからだ。
 ならばウィザードか射手か。そのどちらの姿も、武道家が作り上げた分身の中から見出すことはできなかった。
 これまでに経験したことの無い汗が、ゆっくりと少女の頬を伝っていった。

608蟻人形:2008/12/11(木) 20:35:08 ID:/PV5lAOo0
こんばんは。内容は別として、戦いを書くのは楽しいです。
初めての全うな戦闘で色々盛り込もうとしましたが、結局何が書きたいのか分からなくなってしまいました。
またも感想を返せなくて申し訳ありません。次に投稿するまでにしっかりと読ませていただきます。

609FAT:2008/12/14(日) 20:04:44 ID:07LLjSJI0
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562
―光選― 七冊目1>>599-600、2>>601



―3―

 無心に物事に取り組むと人間は視野が狭まり、時間の経過も短縮されたように感じる。
「そういえば師匠、どこに向かっているんでしたっけ?」
 ふと、レルロンドは顔を上げ、辺りを見渡した。ソシアの胸ばかり見ていたレルロンド
の位置感覚は完全に崩壊していた。道の脇には樹木が立ち並び、どこにでもありそうな、
平凡な光景だ。
「ん? ああ、それは俺に任せとけ。着いた場所が目的の場所だ」
 無心にソシアの胸ばかり見ていたラスは突然声をかけられうっとうしく思った。そして、
すぐに視線は元の場所に戻る。
「ちなみにここは鉄の道から外れた宝石の川の下流地帯に向かう道だ。ここを通ればハノ
ブを経由しなくてもプラトン街道に出れる。裏道ってとこだな」
「へえ、そんな道もあったんですね。僕、知りませんでしたよ」
「わはー、ラスさん、く、詳しいのですね」
 両手をぱちぱち叩いて感心するソシア。ぷるぷる震える胸に二人も大満足だ。
「まあな。ベルツリー家の教育は厳しいんだぜ。エンチャット士は賢くなければならない
なんて言われて毎日勉強ばっかりだったからな」
 ちょっぴり得意気なラス。ランクーイのおかげか、ソシアのおかげか、ラスの口数も増
えたものだ。
「羨ましいですね。僕なんてろくに教えてくれる人もいなかったもので」
「わ、私もあたま、わ、悪いので、あこがれますっ」
 ソシアの発言は冗談っぽくなかったので二人は黙って胸を見ていた。

 ハノブ鉱山から流れ出る鉱物に起因するのか、白く、明るかった地面は鈍い赤茶色とな
り、木々が減った代わりに剥き出しの岩石が目立つような荒野となった。暗い地面の色が
反映されたのか濃灰色の厚い雲が太陽を遮り、もたらされていた光熱は極端に弱まり、少
し肌寒く、空気が重く湿ったようだ。
 そんな中でもソシアは明るい。ラスとレルロンドが黙れば恥ずかしい歌を陽気に歌い、
話かけられればはひはひ笑顔で答えた。
 ソシアは応援するために海を渡ってきたと言っていたが、かけがえのない人を失ったば
かりのラスとレルロンドの心の隙間を埋めるには、温かな応援が一番重要なことなのかも
知れない。その証拠に、今の二人の目は生き生きと光り輝いている。別の意味でだが。
 ソシアは足元に突き出している岩や朽ちた木の根に足を取られないよう、気をつけなが
ら足を出す。度々上下するソシアの体の一部に夢中な二人は何度も岩に足を引っ掛け、転
びそうになった。体勢を崩し、地に片手をついたとて、それでも見るのをやめない。二人
に行き過ぎた男の根性を見た。

610FAT:2008/12/14(日) 20:05:26 ID:07LLjSJI0
「おっと、行き過ぎちまった」
 ラスは思い出したように立ち止まると進行方向を南に変え、再び原野を歩き出した。
「あ、もしかしてあれですか」
 レルロンドは前方を指差す。そこには人の背丈の二倍ほどある尖った大岩があった。そ
してその側面には人間一人が入るのにちょうど良さそうな楕円形の穴が開いている。
「そうだ。ここはキャンサー気孔と呼ばれている。簡単に言えばカニの巣だな。なぜ俺が
ここを選んだか分かるか?」
 ラスはソシアの胸を見た。
「いえ、わかりません」
 レルロンドもソシアの胸を見た。
「わ、私も、わかりません」
 ソシアは顔をぶんぶんと横に振った。黄金の長い髪がでんでん太鼓のようにソシアの顔
を小気味良いリズムで打つ。連動して胸も小刻みに横に揺れる。二人はこの瞬間を見逃さ
なかった。
「な、なんでなんですか?」
 美しい横揺れに見惚れてラスは正解の発表を忘れていた。
「あ、ああ、ここには水の元素を持つ魔物が多く生息している。レルロンド、お前の受け
継いだ元素はなんだ?」
 ラスはようやくレルロンドの顔を見た。
「ランクーイが使っていたのは火と、あの回復魔法は……大地、ですか?」
 レルロンドもようやくラスのウェスタンハットの奥に隠れた目を見た。二人の視線がソ
シアから外れたのは久方ぶりだ。
「そうだ。火は水に消され、大地は水を吸うが逆に水に支配されることもある。つまり、
お前の最も苦手な元素は水だ」
「なるほど。つまり、僕がここで水に負けないような強力な火力と、水を吸い上げれるほ
どの豊かな大地の力を得れば良いわけですね」
「口で言うのは簡単だが、その力を身につけるのは困難だぞ」
 レルロンドのすけべだったたれ目がきりっと上がる。
「やりますよ。僕の中にはランクーイがいる。ランクーイと僕が力を合わせればどんな試
練だって乗り越えられます!」
 力強く答えるレルロンドに、ラスは
「か、かっこいい〜」
「よし、んじゃ行くか」
「はいっ!」
 きりっとしたラスとレルロンドは視線をソシアの胸に戻し、キャンサー気孔へと足を踏
み入れた。入り口は段差になっていて、弾むソシアの胸を真剣に見ていた二人は仲良く前
のめりに転んだ。

611FAT:2008/12/14(日) 20:07:11 ID:07LLjSJI0
―4―

「あ、あの〜、だ、だいじょうぶですか?」
 ソシアは今、二人の男性に抱きつかれていた。ラスとレルロンド、二人の青年は段差に
気付かず、二人同時に転んだ。何かにしがみつこうと思い、腕を回したのはソシアの細い
腰のくびれだった。男二人の重さに華奢なソシアの膝が折れ、ぺたりと腰をついた。しが
み付いた二人は、傍から見ればソシアを奪い合っているようにも見える。
「あっ、すっ、すみません、つい!」
 顔を真っ赤にしてソシアを離すレルロンド。初めての女性の感触に、彼の心音は外まで
聞こえてきそうなほど高鳴っていた。
「わりいな、俺としたことがあんな段差を見落とすなんて」
 冷静さを装い、そっと腕を離すラス。しかし、彼の胸にもやはり今まで経験のしたこと
のない熱く抑制の効かない興奮が湧き上がっていた。
「い、いいえ、お二人とも、ぶ、無事でなによりです」
 どこまで鈍感なのか、ソシアは抱きつかれたことなど気にも留めていないように微笑み、
両手をついて立ち上がった。
 初めての女性の感触、甘い香り。二人は急激に男と女と言うものを意識し始めていた。

 抱きついてからというもの、ラスとレルロンドはあまりソシアの胸を見なくなった。ソ
シアを見るのが妙に気まずく、二人は黙ってただ前だけを向いて歩いた。
「やっさしっいひっかりはわったし〜♪ くらやみとっもすひっかり〜♪ おっほしさっ
まきらきらわったし〜♪ ふんふふんふふ〜ん♪」
 透き通ったソシアの歌声は美しい。二人が黙ればソシアは歌う。その奇妙な歌も聴き続
けていると段々と心地よく思えてくるから不思議だ。二人の表情も無意識に綻び、ここが
暗い洞窟の中だということを忘れさせてくれるようだった。

612FAT:2008/12/14(日) 20:07:48 ID:07LLjSJI0
「あっ、カニさんはっけーん」
 歌を中断し、ソシアはびしぃっと前方の黄色いカニを指差す。
「よし、レルロンド、始めるか」
「はい」
 レルロンドは引き締まった表情で指示を待った。緊迫したその顔付きからは幼さなど微
塵も感じられない。
「魔法を使うのは初めてだな? 魔法は想い。目に見える想いが魔法。コツはランクーイ
が知っている。まずはお前の想いを具現化してみろ」
 レルロンドは目を瞑り、己の深層部へと意識を潜り込ませ、考えた。

 僕の想い――僕の想いはランクーイの願いを叶えること! 世界一の魔法剣士にはなれ
なくても、代わりに僕が世界一の魔法弓兵になってみせる!

「ランクーイ!!!」
 レルロンドが目を見開き、叫ぶ。すると全身から火の魔力が噴き出し、轟々たる火力が
身に巻き付き、レルロンドは火だるまになった。
「くっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 自らの放つ炎はレルロンドを飲み込もうと燃え盛る。苦しむ弟子に師の激が飛ぶ。
「落ち着け! もう忘れたのか、ランクーイを受け入れた時のことを。あの感覚だ、あの
感覚こそが魔力を制御する全てだ!」
「あの時……? あの時は、ランクーイを救いたくって、うわぁあ!」
 熱が苦痛を生み出し、レルロンドから冷静さを奪う。
「それだ! 強い魔力を欲すればその想いから過剰な魔力が生まれ、暴走する。魔法は目
に見える想い。お前はなんのために魔法を使う!?」
「僕は、僕は……」
 レルロンドの表情が変化する。燃え盛る炎に包まれていながらも苦痛を表さず、茶色の
瞳は強い意志で朗々と輝いている。
「僕はランクーイと共に生きたいんだ!」
 求めるべきは欲望の力ではなく守るための力。ランクーイと共に生きるために魔法を使
う。そのために強くなる。レルロンドを激しく巻いていた炎はその想いに共鳴し、静かに
体内に引いていった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
 レルロンドは顔中に噴き出した汗を服の裾で拭う。その表情はまさしく精悍な男の顔つ
きと呼ぶにふさわしい充実感に満ちていた。
「よくやったな。初めてにしては上出来すぎだ。ランクーイといい、お前といい、全く、
末恐ろしいぜ」
 ラスが嬉しそうに笑った。どうして自分の師の笑顔とはこんなにも優しく、頼もしく見
えるのだろうか。きっと、ランクーイはこの優しい笑顔を何度も見ている。だから、強く
なれたんだ。ほっとしたのか、感動したのか、レルロンドのたれ目からは涙が溢れていた。
「か、かっこいい〜! お、男の絆って、か、かっこいい〜!!」
 ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶソシア。応援することも忘れ、二人のやりとりに真剣に見入
っていた。
「ラスさん、僕、師匠があなたで本当によかった」
「もうラスさんはやめたんじゃなかったのか、レルロンド」
 そうして、ラスはまたも笑った。いつの間にかウェスタンハットのつばは上げられてお
り、そこには明るいラスの笑顔があった。レルロンドは嬉しそうに自分に向けられたその
明るさにまた泣いた。

 カニは身の危険を感じたのか、気付けばいなくなっていた。

613FAT:2008/12/14(日) 20:24:10 ID:07LLjSJI0
昨晩は雪が降りました。つま先が冷えます。

>>68hさん
書き始めの頃はこのソシアがラスたちと書き馴染めるか不安でしたが、なんとか
なるものですね。
リトルが異星人って設定にしてしまうとスケールが広がりすぎて収拾つかなく
なっちゃいそうなのでやめときました 笑

>>蟻人形さん
表現力が凄いです。語彙力とそれらを組み合わせるのが本当に上手いなとただただ
感動するばかりです。
僅かな時間の経過の中での膨大な思考の回転に読んでいるこちらも緊迫し、一挙一動
に息を詰まらせています。
続きも楽しみにしています。

614防災頭巾★:削除
削除

615◇68hJrjtY:2008/12/15(月) 20:55:04 ID:jj8GvLEo0
>蟻人形さん
続きありがとうございます。
決して大規模ではない、少女一人と数人の戦いだというのに恐ろしいほどの緊張感を感じます。
謎の力を持つ少女とて無敵ではなく、剣士を筆頭とするメンバーたちとの火花散る戦い。
勝敗がどうの、という以前に一刻ごとの戦闘の流れに見惚れました。
さて、武道家キターと言いたいところですが…20人の分身!?(;゜ロ゜)
ついに焦りの見えた少女、「力」も気になるところです。続きお待ちしています。

>FATさん
続きありがとうございます〜!
沈みがちな行軍がソシア加入でやっぱり楽しくて明るいものになった気がします。
もちろん邪な視線と二人の男としての本性も同時に磨かれたようですが、それも含めて(笑)
むしろここで人間的にも二人の成長が描かれているような気もしました。レンダルたちと出会った時が楽しみ(ノ∀`*)
さて、キャンサー気孔でのレルロンドの修行。ランクーイの「ために」ではなく、「共に生きる」。
それこそがレルロンドの本当の意思であり、この物語の数あるひとつの柱とも思いました。
続きお待ちしています!

616柚子:2008/12/20(土) 17:45:11 ID:PR0YW7JE0
前作 最終回 六冊目>>837-853
Avengers
登場人物 >>542
1. >>543-551 2.>>568-573 3.>>593-597


エルネストが目覚めた日から、既に一週間が経とうとしていた。
盗賊たちは彼に温かく触れてくれて、カルン以外にも何人か話し相手もできた。
それでも、カルンと話す時間が1番長かった。
「はい。左腕を上げてください」
「もう体も動く。君がやる必要はないのだが」
エルネストはカルンに包帯を巻かれていた。
量は多いが、それでも日に日に少なくなってきている。
「いいです、やりたくてやっているんですから。それにこれは他人にやってもらった方が早いですし。はい、終わり!」
包帯の先を切り、結んだ後、お約束のように背中を叩く。
それからしばらく、カルンは男の引き締まった無駄のない肉体を眺める。
「それにしても、回復速度が異常です。これも騎士団の隊長さんだから?」
特に隠す必要もないので、エルネストはカルンに自分のことも話していた。
「いいや。これは私の体中に張り巡らされている身体強化の魔術のお陰だ」
「へえ、私もしてみようかしら?」
「すごく痛いぞ」
「やっぱり遠慮しておきますね」
カルンの言葉にエルネストが軽く笑う。
エルネストはあれから笑うことが多くなってきていた。
「この分だと、あと3日もあれば完治するだろう」
エルネストは己の体に手を当てる。
「早く治るといいですね」
そう言うカルンは言葉とは反対に少し寂しそうな表情だった。
そんなカルンをエルネストは悟り、少し考え込む。
「……邪魔でなければ、もう少しここに居させてもらおうと思う」
瞬間、カルンの表情が少女のように輝いた。
「はい! ここはいつでも年中無休ですから」
カルンの声が弾む。
エルネストはもう1度軽く笑って見せた。

617柚子:2008/12/20(土) 17:46:22 ID:PR0YW7JE0
道行く人を掻き分けるように歩く。朝だというのに凄い人の量である。
古都の街は人口が爆発寸前だ。
イリーナたち4人は再び街中を歩いていた。
大通りでは人が多すぎてカーペットが使えないのだ。
それに目的地も大通りに面しているのである。
「よくもこんな地価が高い所に建てられるわね。くそっ!」
ギルドマスターのアメリアが歯噛みする。
昨晩では平気な顔をしていたが、実は彼女が1番悔しかったらしい。
つまり、これから向かう場所はブランクギルド事務所なのだ。
昨晩は余興で、翌日の今日に詳細を話すらしい。
イリーナとしてはただ気が重いだけだった。
「マスター、一体どんな仕事なんです? 死んだり死にかける予感で死にそうなんですが」
「うるさい黙れ。くそ、人が邪魔ね。刺してやりたいわ」
イリーナは仮にも民間人を守る為のギルドの人間が、絶対に言ってはいけない言葉を聞いた気がした。
確かに人が邪魔で思うように進めない。
イリーナはルイスの後ろに居たので掻き分ける必要はなかった。
ルイスの迫力に、街の人間が自ら避けてくれるからだ。
「ルイス除人機だな」
「黙れ、ゴミ排出機」
背中越しにルイスが言ってくる。
反撃しようとすると、深くフードを被った子供と肩がぶつかった。
「すまない」
イリーナが言うが、子供は気にすることなくそのまま人混みの中へと潜っていく。
一瞬、懐かしい匂いが鼻をかすめる。思い出そうとするが、なかなか思い出せない。
考えていると、もう目的地に着くところだった。
昼間に最も人口が密集する中央区に建つ4階建ての建造物。
ブランクギルド事務所がそこにあった。
外壁には象徴図である重厚な盾を描いた旗がいくつもたなびいている。
中に入ると一般団員たちがせわしなく働いていた。
古都の一角を張る巨大ギルドでも忙しさには勝てないようだ。
「凄い数ね。何人いるのかしら?」
「この本部だけで30名。支部を含めると100名を超えるそうです」
アメリアの疑問にアルトールが事務的に答える。
アルトールが言ったのは戦闘員の人数。非戦闘員も含めるともっと増えるだろう。
最近はさらに増え、若手の育成に力を入れているとも噂で聞く。
段違いの規模に驚きを通り越して呆れるしかなかった。
「同業者だとは思いたくもないね」
イリーナが小さく感想を漏らした。
「いつか抜いてやるわ」
アメリアが夢のような夢を言う。
この現実を目の当たりにしても、彼女は本気で言っているようだ。
イリーナはそんな彼女を少し羨ましく思った。

618柚子:2008/12/20(土) 17:47:40 ID:PR0YW7JE0
受付の女性に尋ねて場所を教えてもらう。
会議室は4階にあるようだ。
階段を上がり、幅広い廊下を抜ける。会議室に入ると、既に昨晩と同じ顔触れが揃っていた。
中心に座るギルドマスターのグイードを挟むように、全身漆黒のディーターに、人形のようなマイアが両脇に陣取る。
「よく来てくれたな」
グイードが軽く会釈する。
両脇の2人もそれに倣った。
「失礼ですが、よほど多忙とお見えになりますが?」
まさか3人だけとは思わず、イリーナは遠まわしの皮肉を口にする。
「いや、これでいい」
イリーナの言葉に嫌な顔1つせずグイードが答えた。
「これから話すことは、我々のみで行う。マイア、あれを」
言われたマイアが数枚の用紙を取り出す。
イリーナたちも腰を下ろし、それを受け取った。
配られた物には、例の殺人事件の場所や時刻などが詳細に書き綴られていた。
「ご存知の通り、それは最近古都を賑わせる事件の1つだ」
全員がグイードに耳を傾ける。
「我々は依頼を受けこの事件の解決に協力していた」
「だが、未だに何も出来ていないようだな」
イリーナは言ってやる。
被害者は増え、犯人は今ものうのうと生きているのだから遠慮する必要はない。
「いや、進展はある」
グイードが意外な言葉を吐いた。
「どういう事だ?」
「4日目の日に、我々は遂に交戦することに成功した」
その言葉に、イリーナたちは驚きを隠せなかった。
「そいつは変わった仮面を被った子供でな、不思議な戦い方をする」
「それで、逃がしたとか言うのか?」
グイードは首を振る。
「いいや、厄介だったが倒した。だが、仲間が2人やられた」
イリーナの頭に疑問が生じる。
それを察したように、グイードは続けた。
「次は君たちも知っているように、次の日は西区長が殺された。昨晩もやはり起こったそうだ」
「つまり、犯人は複数犯ということですね?」
アメリアがそこから導き出せる答えを下す。
グイードが重々しく頷いた。
「さらに分かったことがある。我々は倒した敵の死体から仮面を外そうとした。しかし、その前に奴は砂になって消滅したのだ」
「あり得ない」
それは信じられることではなかった。
イリーナはこれまでの依頼で数多くの人間を殺してきたが、そんな異質な体質の人間は1人もいなかった。
「いいえ、それはあり得ることです」
答えたのはアルトールだった。
「敵は人型の魔獣ではなく、確実に人間だったのですよね?」
「ああ、そうだ」
アルトールが大きく息を吐く。
全員の視線がアルトールに集中していた。
「闇の魔術に死霊術というものがあります。その魔術に操られた人間、つまりシビトは再び死ぬと異常な早さで分解され、砂に還ると聞きます」
イリーナも聞いたことがある。
何度かネクロマンサーと対峙したことがあるが、強力なやつは死者の軍を率いていることがあった。
長く使役されている死者は肉が腐り、骨だけで動いていたのを覚えている。
それらは、確かに倒すと砂になった。
「しかし、現在その魔術を成功させた人間はいないと聞きます。闇の魔術を操れる人間自体が希少なので詳しくは分かりませんが」
「つまり、敵はネクロマンサーか、もしくはそのあり得ない魔術を習得した人間だと?」
「私にはそうとしか思えませんね」
「やはり、そうか」
グイードが重々しい息を吐く。彼も同じ結論に至っていたらしい。
「出来れば前者であってほしいね。後者だと厄介に過ぎる」
「俺は後者がいい」
横を向くとルイスが薄く笑っていた。戦闘の予感に疼いているのだろう。
「おい、どっちがいいとか暢気な話をしている場合かよ」
ディーターが突っかかってくる。
それにしても何かと噛み付いてくる男だ。特にルイスに。
イリーナは昨晩のその後の食事風景を思い出した。
「だが、ネクロマンサーのような魔獣がこのような事件を起こすとも思えん。後者だと想定して動いた方が良いだろう」
グイードが下した決断に、広い会議室の室内に重たい空気が張り詰める。
「それで、本題はこれからだ」
「何だと?」
咄嗟に横を向くと、アメリアが笑顔を浮かべていた。
イリーナは嫌な予感がした。

619柚子:2008/12/20(土) 17:48:25 ID:PR0YW7JE0
「今言った件だけなら我々でも十分に対処できる。だが、もう1つ依頼があってな。こちらの方がある意味厄介だ」
イリーナはアメリアの笑顔の意味が分かった。これがアメリアの言っていた大きな仕事なのだ。
グイードとアメリアが目線で確認し、グイードが話を進めていく。
「ある方の護衛を頼まれていてな、これを君たちに協力して欲しい」
「依頼主は?」
一拍の間を置いて、グイードが続けた。
「……現アリアン党首、ダグラス国王だ」
グイードの言葉に、イリーナに衝撃が走る。流石のルイスも驚きを隠せない様子だった。
「百歩譲って、何故そんな話が私たちに回ってくるんだ?」
「スパイの心配がない、他国で有名なギルドに頼みたいのだそうだ。もちろん、依頼も特別ルートを辿って要請された」
イリーナは気がさらに重くなった気がした。
対象相手が大物過ぎる。
「それで、誰から守ればいい?」
「今噂の革命軍からだ」
イリーナは再び衝撃に貫かれた。
先ほどから、予想の遥か上の回答が返ってくる。
イリーナは心労がさらに募った気がした。
「要請だと護衛は4人。だが我々が受けた要請だから丸々そちらに任せるわけにはいかない」
「だから、俺たちが行く。そっちからも同行する2人を選んでくれ」
グイードの隣のディーターが手っ取り早く進める。
どうやら、あちらは副マスターの2人が同行してくれるようだ。
「そうね」
全員の注目がアメリアに注がれる。
アメリアは少し迷ったような演技の後、あっさりと決断を下した。
「こちらからはイリーナとルイスを行かせるわ」
「な……」
明らかに悪意のある悪質な嫌がらせに、イリーナが言葉に詰まる。
あの2人と、さらにルイスと組むなど悪夢としか思えない。
イリーナはストレスがさらに溜まった気がした。
「何でこいつらと。冗談じゃねえ!」
「俺はこちらの敵と戦いたいのだが」
「いいじゃない、面白そうだし?」
冷気を含んだアメリアの笑顔に、男共が押し黙る。
「それでは、残りの2人はこちらに協力してもらおう」
「決まりね」
改めて2人のギルドマスターが握手をして契約を完了させる。
隣ではルイスとディーターが睨み合っていた。
先が思いやられそうだ。
「アリアン出発は2日後、詳細は後で送ろう。これで会議は終了する」
グイードが締めくくり、全員立ち上がる。
イリーナたちが出ようとすると、入れ替わるようにギルドの人間が飛び込んできた。
「マスター、例の殺人犯が現れました!」
「何だと!」
その報告に全員が反応する。
「既に軍、ギルド共に緊急要請が入っています! 場所は中央区噴水前!」
「ここが1番近いか。鈍間の軍は待っていられん。我々が行くぞ!」
「了解!」
ディーターとマイアが戦闘準備を始める。
「君は各隊と共に民間人の救助に向かってくれ。我々は殲滅に向かう」
「了解!」
そう言ってその団員は駆け出して行った。
「行くぞ、ディーター、マイア」
装備を終えたグイードが窓を開け放ち、そのまま空中に身を投げ出す。
次にディーターがマイアを抱えてグイードに続く。
「私たちも行くわよ!」
「はい!」
正義感の強いアメリアとアルトールが追うように窓から飛び出す。
「おい、ここは何階だと……」
イリーナが呆気に取られていると、不意に襟首を掴まれた。
「来い、貧弱」
ルイスが片腕でイリーナを持ち上げる。
「私は人間らしく階段で、って待って、やめて、心の準備がまだ……」
イリーナを待つはずもなく、ルイスがイリーナを抱えて窓から身を投げる。
イリーナの声無き叫びと共に難無く地面に着地する。
着地と同時にルイスがイリーナを放り投げる。
「階段を考え出した人の偉大さを再認識したよ」
「下らない事を言ってないで行くぞ」
2人はグイードたちの後を追う為に走り出した。

620柚子:2008/12/20(土) 17:58:35 ID:PR0YW7JE0
こんばんは。そろそろ今年も終わりますね。
今年中にあと1つは投下したいです。

>FATさん
久々のラスパート。新キャラのソシアのお陰か微笑ましいです。
ソシアをちらちら見る2人は、むしろ正常。男の哀しい性ですね。
レルロンドの成長ぶりは目を見張るものがありますね。これからどう成長していくのか楽しみです。
続きをお待ちしています。

621FAT:2008/12/23(火) 16:08:29 ID:07LLjSJI0
【赤鼻のビショさん】



ジンジングルグールベェ〜ル♪ジングリベェ〜ル♪

OH!!

ジングリグリグリジングリベェェェェェェ〜〜〜〜ル♪♪♪

赤鼻のビショさんがやってきた!! 真っ赤なお鼻で子供を探せ!!

おっきな袋に夢と子供を詰め込んで!! 一緒に行こうよ夢の国へ!!



「HEY!! 僕は赤鼻のビショさん!! トナトナ君今日は何の日か知ってるよな!!」
「天皇様の誕生日だね! ビショさん!!」
「ノンノンナンセンス♪ 今日はクリスッマッスイブイヴ!! 
トナトナ君、クリスマスイッヴイッヴといえば何が楽しみかな?」
「天皇様がまた一つ、ご無事に歳を召されたことです」
「HEY!! ボォォォッォォォォイッ!! 赤石に入りな。おじさんが
本当の楽しみってやつをティーチングしてたもう」
「ティーチン“グゥゥゥゥッゥゥ”!?」
「ノンノン!! そんな他人のネタは使わせないのがおじさんさ。さぁ、一緒にレッツ赤石in☆」



――赤石の中――

 真っ赤なお鼻のビショさんは子供たちに大人気!
 ほら、さっそくかわいらしいアリアンの子供たちがビショさんの周りに集まってきた!

「わぁ☆赤鼻のビショさんだぁ〜〜☆☆」
「HEY!! 赤石の☆たち、今年もおじさんの季節がやってきたよ!! さぁ、望みのものを出しな!!」
 赤い髪の女の子が勢いよく手を挙げたぞ! ビショさん即指名だ!
「あたち、かぜひいちゃったの。なおちてびしょさん」
「オーケィ!! 君にクリストマッス! プレゼントォォォォォォ!! ヒーリィィッィィングッ!!」
「“グゥゥゥゥゥゥゥ”!!」
「ノンノン、ヒーリン“グッ”!!」
「びしょさん、なおらないの」
「ハッハッハッ、喜んでもらえたようだね☆ さぁ、みんなどんどんおじさんに甘えておいで!!」
 頼りにならないぜ! 赤鼻のビショさん!! おっと、次の子供が待ってるぞ!
「ビショさん、ぼ、ぼく、強くなりたいんだ」
 黒いハットが似合うシャイボォイだ。突然ビショさんが腕まくりしたぁっ!!
「HEYボォイッッ!! 強くなりたきゃな、おじさんのように毎日この袋を右手に吊り下げてな!!」
 ビショさんの腕はむっきむき!! おっきな袋は重たいんだい!!
「じゃ、じゃあ、それください」
「HEY!! ボォォォォッォォォッォォィイ!!! それはできないぜん!!」
 声がでっかいよビショさん。シャイボォイがびびってる!
「ボォイ、この袋にはなぁ、おじさんの“夢”が詰まってるんだぜい。人には渡せないな」
 それが“男”ってもんだね、ビショさん!!
「ねぇねぇ、その中見せて〜」
 そんな可愛い声でおねだりするなよ、お姫様
「見せて見せて〜」「見せて〜」「中いれろー」「くれくれ〜」「鼻くれ〜」「見せて見せて〜」
 み、みんな!! そんなにビショさんを攻めると……
「オッケイッ!! みんなにだけ、特別に見せてあげたもう」
 お、男が廃るぜ! ビショさん!!

 大きな袋の口にみんなの視線は釘付け!! さぁ、ビショさん、思いっ切りひらいちゃって!!

「きゃーーーーー」「わぁーーーーー」「もわーーーーーー」「ちょたーーーーーー」

 ……あれれ? みんな消えちゃった。ビショさん、みんなはどこいったの?

622FAT:2008/12/23(火) 16:10:25 ID:07LLjSJI0

「夢の国さ」
 え?
「僕らが赤石の中に入っているように、ボォイガァルたちは赤石から出てったのさ」
 ビショさん……
「あいつら、きっと最高の笑顔で笑ってるさ」
 うん、目に浮かぶよ
「SAGE! おじさんたちも赤石の中でクリストマッスイブイヴを楽しくすごそうじゃないか☆」
 ああ、ビショさん、僕、いまサイコーな気分だよ!!

アナウンス:〜〜緊急メンテナンスのお知らせ〜〜

      只今より緊急メンテナンスを勝手に行います。すみやかにログアウト願います
      尚、ログアウトが間に合わなかった場合、全データの消失を保証致します。
      繰り返します……

「FAT!?」
 ビショさん!! 早く赤石から出なきゃ!!
「ふっ……」
 どうしたの? ビショさん?
「おじさんは、ここに残る」
 はぁ?
「この赤っぱなを、クリストマスまで赤石から出すわけにはいかねえんだ」
 一度ログアウトして、また入りなおせばいいじゃん!

アナウンス:キムチメンテナンス開始まで残り20秒

「トナトナ、お前はログアウトしろ」
 する。
「……ボォイ」

アナウンス:緊急キムチメンテナンスを開始しました。さようなら。




――あれから、二十四時間経った。世間はクリスマスイブに浮かれてる。

「となーあそべー!!」
「かぜがなおらないの」
「つ、つよくなるぞー」
 赤石から出てきた子供たちはみんな元気だ。
 僕は窓の外を眺める。帰ってこないとわかっていても、赤鼻のビショさんを
待ってしまうのはトナトナの宿命なんだね。
 ああ、ビショさん、あなたはきっと、このPCの中から僕らを見守ってくれてるんだね。

【HEY! ボォォォォォォォォイ!!】

 !?
 PCの画面に文字が!?
 ああ、ビショさん! ビショさんなんだね!!

 【メリークリストマッス☆】

 みんな、見て! ビショさんからの素敵なプレゼントだよ!!
「わぁー」「ビショさんありがとう」「かぜがなおらないの」「ありがとう!」
 ふふ、みんな嬉しそうだ。ほんとにいいことをしたんだね、ビショさん。

 赤鼻のビショさん!! サイコーだよ、あんた!!

623FAT:2008/12/23(火) 16:11:27 ID:07LLjSJI0
こんばんは。今回のは昔読んだ漫画のノリで書いてみました。

>>柚子さん
エルネストとカルンの微笑ましいやりとりが素敵です。この二人がどう五年後に繋がってくるんでしょう。
イリーナが肩をぶつけた子供が懐かしい匂いを残していった。
……なんて書かれると、やっぱりミシェリーと白い仮面の子供との関係を意識しちゃいます。
次回はついにイリーナたちと白い仮面の子供との対面となるのでしょうか。
続きを楽しみにしております。

624FAT:2008/12/24(水) 21:35:54 ID:07LLjSJI0

【暖かな冬】



――明かりなんて、この世から全て消えてしまえばいいのに――

 僕は明かりが嫌いだ。昼の明るさが嫌い、街の明るさが嫌い、人の明るさが嫌い……。
 明かりは僕の火を薄め、透明にし、消してしまう。
 明かりの中では、僕は存在できない。
 だから、僕は明かりが嫌いなんだ……。

 僕の住まいは古都ブルネンシュティグの路地裏にある。
 もちろん、賑わう街中からずっと北東に離れたところにある。
 いつだって静かで、じめじめと湿気っていて、昼間だって太陽と顔を合わせなくて済む。
 夜になれば真っ暗闇さ。
 遠くの空に街の賑やかな明かりが映っているのがぼんやりと見えるくらい。
 そんな遠くの景色をぼんやり眺めながら、僕は独り言をぼそぼそと吹く。
 夜から朝まで誰にも会わずに一日が終わる。
 ……みんな僕が望んだ生き方だ。


 ある日、僕はいつも通り窓のない真っ暗な部屋で目を覚まし、鏡に姿を映した。
 炎はしっかりと青く燃えていて、調子は良さそうだ。
 僕の部屋には物がほとんど置いていない。あるのは、
 朽ちかけたベッド、くすんだ姿見、同じ木材を用いた小穴だらけのテーブルとイス……。
 僕には、これだけあれば十分だ。
 顔色がいいことを確認するとそっと部屋のドアを開け、外が暗くなっていることを確かめてから部屋を出る。
 最近の僕は昼間に起きたためしがない。
 陽の下に出るのは恐いんだ。
 外の世界に足を踏み出した瞬間、むぎゅっという粉のようなものを押し固めた際に出る音が足元から聞こえた。
 少しびっくりして下を照らすときらきらと小さく反射するものが無数に見えた。
 息を吐くとひどく白い。僕は足元のきらきらを拾い上げてみた。

 ……雪だ。

 僕が記憶するに、僕が存在し始めてから二度目の雪だ。
 一度目はもう五年も前になる。
 場所は覚えていないけれど、とにかく静かなところだった。
 僕はまだ存在したてで、赤い髪の呪術師と一緒にいた。
 彼女の部屋には窓があった。そして、夜にはまぶしいくらいの明かりもあった。
 彼女は黒いローブを頭から被っていたけど光り物が大好きで、指には邪魔になりそうな大きな指輪を八つもしていた。
 僕は彼女の子供だったと思う。
 こんな料理のときに使う炉のような見た目の僕だけれど、彼女は決して自分が“創った”とは言わなかった。
 それに、僕が彼女の愛情を感じていたんだ。
 だから僕は彼女が好きだった。
 雪は音もなく、窓の外にいつのまにか降り積もっていた。
 雪に気付いたのは彼女だった。
 僕はぼぉっと火を灯していた。
 彼女は僕の両脇を抱きかかえるとドアを開けて、まだ置き人形のように体を動かすことの出来なかった僕を雪の上に置いてはしゃいだ。
「お前には雪が似合うねぇ。そのともし火も、雪におあつらえ向きだよ」
 そのとき、僕を映す鏡がなかったので確かなことは言えないけど、きっと僕は喜んでいた。
 そんな色だったと思う。

625FAT:2008/12/24(水) 21:36:52 ID:07LLjSJI0

 久しぶりの雪との再開に、僕の心は当時を映し出し、とても懐かしくなった。
 あのころの楽しかった思い出が雪となり、僕に忘れてしまっていたことを思い出させてくれた。
 手にした雪を大切にしたくて、グローブでそっと包み込み、珍しく浮かれた気分で小路をあるいた。
 雪のうえには僕の足あとがついていた。
 久しぶりに、僕は遠出をした。
 だって今夜は雪が降りたのだ。
 月さえも姿を見せない。
 僕は今夜、とても気分がいい。

 明かりのないほうへ、ないほうへと雪を踏みながら歩いた。
 きゅっきゅっと一歩ごと鳴るリズムが心地よかった。
 僕は橋を渡った。その先には寂びれた木工所がある。夜になれば人はいない。
 月のない夜に限って、そこは僕の展望台となる。
 建物の中に入ると、すぐ右にある階段を軋ませながら上り、屋根裏部屋の小さな窓辺に腰を下ろす。
 小窓を開け放つと僕は一つ、大きく息を吐いた。
 さらさらと白い息が流れていく。
 ここから眺める古都の夜景が、僕は好きだ。
 キラキラと輝いていて、でも、僕を恐がらせない。
 僕といっしょにいてくれる光だからだ。明かりとは違う。ぜんぜん違う。

 僕がぼぉ〜っと夜景に浸っていると、小さくすすり泣く女の子の声が耳に入った。
 やばい、人だ。
 僕が慌てて立ち上がり、階段に向かおうと体を回したときだった。
 女の子はもう僕を見つけていて、たたっと駆け寄ってきたかと思うと腕に抱きついてきた。
 はずみで、グローブの中の雪がこぼれた。
「え〜ん、こわかったよ〜。え〜ん」
 迷子だろうか。
 まだ右も左もわからなさそうな女の子は茶色のロングコートのフードをすっぽりと被っていた。
 袖口にはファーが付いていて、足には幼い体に不釣合いな大きな黒いブーツをはいている。
 僕は困惑した。
 人間と接触してしまった。
 どうしよう。
 『彼女』以外の人間と関わるのは、絶対にしないと誓ったのに。
 少女は僕に触れてしまった。
「うぅ、ヒック、ヒック」
 考えてもどうしようもない。少女はここにいるのだ。
 僕はどうするべきかわからなかったので窓の外へ顔を向けた。
 家々の屋根に積もった雪は白く、街は変わらず輝いている。
 少女はべそをかいたまま、ひしと僕の腕にしがみついている。
 そのまま、時間は止まったかのように過ぎていった。

626FAT:2008/12/24(水) 21:37:42 ID:07LLjSJI0

 僕は飽きるということがない。
 だからこの景色を眺めたまま、人形のように固まって動かなくったって苦にはならない。
 でも、人間は違うらしい。
 僕の腕の中でいつの間にか眠っていた少女は目を覚まし、じぃーっと僕の顔を覗きこんでいる。
 僕は少し照れて、少女の視線を気にしながらも窓の外を眺めたままだった。
「おじちゃん」
 呼ばれて、僕はようやくはっきりと少女の顔を見た。
 少し切れ長の目がついた幼い丸顔は僕の火に照らされて少し青く、髪は紫に見えた。
「おうちに、かえりたいよぅ」
 そうだね、僕もそう望むよ。
「ねぇ、おじちゃん」
 少女は僕の腕の裾をぐいぐい引っぱる。
 僕の声は火を揺らすだけで少女には聞こえないのだ。
 無視してるわけじゃない。ちゃんと答えているのに。
「おじちゃん〜……」
 また泣き出しそうに、少女の表情が曇る。
 困ったなぁ。とにかく、ここから出なきゃ。
 僕が立ち上がると腕の中にいた少女は転げ落ちた。
 しかし、なぜか楽しげに、再び僕の腕に抱きついてきた。
 人間といると、僕の心は乱れるようだ。

 木工所から出たものの、目的地はわからない。
 少女に君のお家はどこ? なんて聞いてみても伝わらない。
 少女は僕の顔を不思議そうに覗き込んで、首をかしげている。
 困ったなぁ。
 なんとかコミュニケーションをとりたくて、おろおろと辺りを見回してみると、いいものを見つけた。
 足あとだ。
 雪の上の足あとは何十分も前の形をそのままに残している。
 僕はジグザグに雪の上を歩いて少女に見せた。

 キミノオウチハドコ

 ところどころ繋がってしまってとても読みにくい。
 僕の描いた暗号を少女は指をくわえながら読んだ。
 そしてうんうんと頷き、ちょこんとしゃがみこんでくわえていた指で雪に返事を描いた。

 フルンネンシェテグ

 たどたどしい文字だけれど、少女は何かを期待して僕を見ている。
 わざわざ雪を踏みつけて文字を書かなくても、指で書けばよかったんだ。
 気付いて少し恥ずかしかった。
 
 ブルネンシュティグ?

 グローブをはめたままで、大きく文字を描く。
 少女はきゃきゃっと喜んだ。誤字だったんだね。

 ブルネンシュティグノドコ?

 ジャージャー

 少女はまた、書き終えて僕をじっと見つめる。でも今度はわからなかった。
 
 ジャージャー?

 少女は頬をふくらませて、両手をわっと何度も何度も空に広げた。
 繰り返されるジェスチャーに、ようやく僕は答えを見つけた。

 フンスイ?

 少女はコクンコクンとまんべんの笑みで二度うなずく。
 なぜだろう、少女が笑顔になると僕まで嬉しい。

627FAT:2008/12/24(水) 21:38:33 ID:07LLjSJI0

 目指す場所がわかったところで、僕はさっそく歩き始めた。
「さむい〜」
 少女は僕の横で雪をいじった手のひらに息をかけていた。かなり赤くなっている。
 僕は自分の手を見た。
 茶色のグローブに覆われた下の生の手は、しっかりと見たことがない。
 温度も感じたことがない。
 雪って、寒いんだ……。
 僕は思い切ってグローブを外してみた。
 そこには黒く、干からびた棒切れのような腕と小枝のような指があった。
 寒がっている少女に左右のグローブを渡すと喜んでくれた。
 僕は少しわくわくしながら、足もとの雪をすくってみた。
 雪を掻く感触はあった。
 それでも僕は雪の寒さを感じられなかった。
 哀しくなって、手を裾の奥に引っ込めた。

 だんだんと街の光が近くなる。
 輝きは明かりに変わり、胸が苦しくなった。
 
 ――『彼女』との時間をまた、思い出す。
 僕と彼女とは一年ほど、いっしょに暮らした。
 僕には食事の必要がない。眠りさえすればいい。
 着替えもしない。湯浴びもしない。
 彼女といっしょにいれるだけでいい。
 感情が火に表れるんだって、彼女は教えてくれた。
 僕は人間じゃないけど、とても人間らしいと彼女は言ってくれていた。
 そして自分は人間だけれども、人間らしくないとも笑いながら言っていた。
 僕はそんな彼女をとても人間らしいと思った。
 
 彼女との別れはあまりに突然だった。
 ……僕はやはり、明かりが苦手だ。
 はやる少女の手を引いて、立ち止まってしまう。
「?」
 首をかしげる少女。
 僕の火はきっと弱々しく揺れている。
「これ」
 少女が差し出したのは僕がさっき渡したグローブだった。
 違うんだよ、寒くない。
 でも、やっぱり伝わらない。
 雪に書こうかとも思ったけど、少女が強く押し付けてくるものだからあきらめてグローブをはめた。
 またじーっと僕の表情をうかがう少女に僕は喜んでみせた。
 少女に何か期待されると、不思議と気持ちが入るようだ。
 僕の火はきっといい色をしている。少女も笑顔になった。

 僕はちゃんと歩くことにした。
 この少女を送り届けるまでは、苦手な明かりだってがまんしてやる。

628黒頭巾:2008/12/24(水) 21:39:29 ID:JLWm9YSQ0
偉いお坊さんすら走る師走の暮、新年まで後数日の古都。
北風が建物と建物の間を駆け抜ける、寒い寒い季節。
古都を歩く人々は少し早足で――しかし、その要因は寒さの所為だけではなく。
ソレは、道行く人々が何処か楽しげな表情を浮かべている確率が高い事からも判る。
通りすがりの男が抱えた大きな荷物は、家で待つ子どもへプレゼントなのだろうか。
普段から人々の賑わう古都の噴水は、大きなツリーになって更に賑わいを増す。
そう――今日は楽しいクリスマス!


【聖なる夜の空に降るモノ】


まぁ、そんな古都でも、予定がなくて燻っているヤツもいくらでもいるもんだ――俺みたいにな。
自嘲気味に溜息をついた俺は、ごくごく一般的なウルフマンだ。
一般的とはいっても、よく手入れしている自慢の毛皮はふわふわもこもこもふもふ。
この季節こそモテてもイイ筈なのに、世の中色々間違ってる。
天上界にいるという神様に心の中で中指をおったてた俺に、ナイスタイミングで友の爆弾娘から耳打ちが来た。

『やっほー! どうせ暇でしょ、今すぐいつもの秘密基地に来てネ♪』

相変わらず失礼な小娘だ。
この秘密基地ってのは、所謂赤目倉庫ではなく、アリアン銀行近くの一般倉庫の事だ。
不法侵入ってヤツなんだが、四六時中入口に鍵がかかってない出入自由状態なんだから仕方ない。
俺達以外にも、密会や馬鹿騒ぎに使ってたりするのをよく見かける。
全く、何処が“秘密”基地なんだか。

『ばーか、俺があfkしてたら如何するつもりだったんだよ! ちょっと待ってろ』

色々と失礼な言い分だが、予定もない事だから付き合ってやるかと思ったからな。
じゃないと、何処にいても友録観察とローラー作戦で居場所を突き止められて何をされるかわかったもんじゃない。
どうせ、「寒いからもこもこ毛皮ぎゅーさせれ!」とかそんなノリだろう。
知識姫の癖に箱金腰装備要求分の力を振っている勿体無いステ振りのアイツの抱擁は、健康が少なめの自分としてはかなり痛い。
昔、全力で抱きしめられた時は……本気で天使のお迎えが来るかと思った、いやマジで。
そんな事を思いながら指定された場所に向かった俺を待っていたのは、予想外の展開で。

「ポチ、よく来た!」
「ポチ言うな!」

俺の名前は断じてポチではないコトを、俺の名誉の為に言っておく。

「まぁまぁ。はい、どーぞ!」

俺がコンマ1秒で返しても全く気にしない少女は、白い袋に詰められた何かを渡してきた。
柄にもなくクリスマスプレゼントなのかと嬉々として袋を開けた俺が馬鹿だった。
そう、コイツはそんな可愛い事をするようなヤツじゃないのは、長い付き合いの俺が一番よくわかっている筈なのに。

「なぁ、コレは何だ」
「トナカイの仮装」

いや、わかるがな。
袋の中身は、トナカイの角に、真っ赤なズボンに、紐が付いた真っ赤な球。

「何でトナカイの仮装?」

本当は訊く前から答えは解っていた、解っていたんだ。

「サンタさんのお供は真っ赤なお鼻のトナカイさんって相場が決まってるのよ!」

嗚呼、やっぱりですか。
全力で言い切る少女の背後に、ドーンと砕ける波が見えた……気がした。
普段とは違い、真っ赤なドレスの少女の姿を見た時点で嫌な予感はしてたんだ、本当は。
因みに、頭についているのも普段の羽根飾りでなくヒイラギだ。
こんな時、コイツは無駄に凝り性だと思う。

「それとも、サバイバルになる?」

笑顔でUM火炎瓶を取り出されたので、ソレだけはと辞退しておく。
コイツなら街中でも全力で俺に投げつけてくるだろう。
俺、何でコイツと友人やってんだろうか……時々わからなくなる。
諦めた俺は溜息をついて頭にツノをつけてみる。
少女が嬉しそうに笑うと同時に、俺のプライドが崩れる音がした。
心の中で泣いて、更に赤い丸い球を鼻につけたら――何か凄く甘い匂いが俺の鼻を刺激する。
犬に変身している間は嗅覚が並外れて優れているというのに……俺、涙目。
チキショウ、飴と一緒に入れてやがったな。
あまりの甘い匂いにガンガンする頭の中で、少女を罵倒する。
そんな事はまるで知らない少女は、ごそごそと何かを準備していた。

「次、コレ身体に結んでー」

何か赤と緑の紐を差し出されたので、その先に繋がるものに視線を走らせた俺は眩暈がした。

629FAT:2008/12/24(水) 21:39:36 ID:07LLjSJI0
 なるべく明かりのない建物の影を伝って歩き、街の中心を目指す。
 人がちらほら見え始めた。
 僕にとっては人は恐いものだけど、人からしたら僕らはもはやありふれた存在。
 受け入れられていないのは僕の勝手なんだ。
 少女は上機嫌に鼻歌を歌いながら、スキップなんてしてる。
 ときどき僕の顔を見上げて、ニカッなんて笑いながら。
 人の明るさも嫌いなはずだった僕が、少女の無邪気な明るさにはすっかり心を開いていた。
 
 そういえば、『彼女』も明るかった。
 僕にちょっかいを出しては、嫌がる僕を見て笑っていた。
 僕に夢のような話を聞かせてくれては、穏やかに笑っていた。
 僕はあの笑顔が好きだったんだ。
 少女の笑顔が思い出させてくれた。
 決して忘れるもんかと誓った彼女の、忘れてしまっていた笑顔を。
 
 急に、少女が駆け出し、強く僕の手を引いた。
 少女の目に映るものを見た瞬間、僕は強くブレーキをかけた。
 噴水だったはずのそこにはきらびやかに光る巨大なデコレーションツリーがあった。
「ここ〜!」
 少女は両手で僕を引っぱろうとする。
 ごめん、君の明るさは好きだけど、やっぱりこの明かりはだめだ。
 苦しすぎるよ。

 ――僕の脳裏にまばゆすぎる光が広がる。
 僕をかばい、光の中に消えてしまった彼女を、思い出させる。
 だめだ、強すぎる。
 赤い髪が光の中に飲まれたあの瞬間を、強烈に思い出してしまう。
「ねぇ〜!!」
 少女は一層の力をこめて僕を引っぱる。
 やめてくれ!
 僕はつい、少女を振り払ってしまった。
「いたぃ!」
 雪の上に転がった少女のフードがとれた。
 僕はとてもおどろいた。
 少女の髪の色もまた、赤かったからだ。
 僕はあわてて少女を抱き起こすと、少女はまたも僕を引っぱった。
 今度は、抵抗しなかった。
 赤い色の髪に、僕のふさぎこんでいた心の氷が溶けたようだった。
 少女に手を引かれながら、僕の火はとても強く燃えていたと思う。
 だって、このツリーの明かりが、まぶしくなかったから。
「キャー! きれいー!」
 明るい白黄色の照明の前で声を上げてはしゃぐ少女。
 赤い髪も跳びはねる。
 僕は不思議な気持ちになった。
 光の中に消えてしまったはずの『彼女』が、光の中から少女となって出てきたような気がした。

630FAT:2008/12/24(水) 21:40:25 ID:07LLjSJI0
「ママー!!」
 少女が突如両手を振った。
 少女が呼ぶ先から、背の高い金髪の女性が駆けつけた。
「ああ、よかった、無事だったのね。お母さん、とっても心配したわよ」
「うん、ごめんね、ママ」
 抱き合う母子の姿を、僕はなぜか嬉しく感じた。
「おじちゃん、ありがとう」
 突っ立っている僕に少女が駆け寄り、手を握った。
「まぁ、あなたがこの子を送り届けてくださったのですか。本当にありがとうございます」
 少女の母親は僕に本当に感謝してくれたんだと思う。
 とても優しい目をしていた。
「おじちゃん〜」
 少女はまた、無反応な僕を見上げて何かをさいそくする。
 僕はありがとうと言った。
 すると、少女の表情がぱぁっと明るくなった。
「おじちゃん! また遊んでね!」
「こちらこそありがとうございました。ご迷惑でなかったらこの子を今後も
よろしくおねがいいたします。それでは、また」
 あれれ?
 雪に書いたわけじゃないのに、僕の気持ちが伝わった?
「ばいば〜い」
 振り向きながら、元気よく手を振る少女。
 僕もばいばいと明るい火を灯しながら手を振った。
 
 帰り道、僕はこれ以上ないほど嬉しい気持ちでいっぱいだった。
 街灯に照らされながら、少女との一時を思い出す。
 少女は僕にとても大事なことを教えてくれた。
 あんなに恐れていた『明かり』が、今は好きだ。
 少女は『彼女』の生まれ変わりだったのかな、なんて楽しい空想をしてみたり。
 そうだ、明日はちゃんと朝に起きてみよう。
 きっと昼の明るさにも、楽しいことがいっぱいある。
 
「ありがとう」
 初めて伝わった言葉。
 この素敵な夜を、僕は忘れないよ。

631黒頭巾:2008/12/24(水) 21:58:13 ID:JLWm9YSQ0
Σぎゃー、長すぎエラー削ってる間に割り込んでしまってごめんなさいΣ(゚д゚;三;゚д゚)
も、もう大丈夫かな…(゚д゚ノ|

>>628の続き



「……何で絨毯を曳く必要がある。それは自分の意思で操って自動で飛ぶだろう!?」
「いやー、課金が切れたら飛ばなくなっちゃって」

課金しろ、課金。
もしくは、初心者クエやって来い、頼むから。
脱力してしゃがみこむ俺をさくっと無視した少女は、ちっちっちっと指を振って言い放つ。

「『飛べない絨毯は、ただの絨毯だ!』って言うじゃない」

何を当たり前の事を。
コイツ馬鹿だ、間違いなく馬鹿だ。
知識は高くても知恵がないに違いない。

「え、南瓜の馬車を曳く方がイイ?」
「……重いから遠慮しておく」

可愛く首を傾げて何ふざけた事を抜かすんだと小一時間(ry
まぁ、コイツの突拍子のない行動は今に始まった事じゃない。
ハロウィンにも「美女と野獣の仮装よ!」とか言いながら連れ回されそうになった。
兄と一緒に友人宅に行くってんで、途中でいなくなってくれたからよかったものの。
そう言えば、あの日は古都で色々な爆発騒ぎやジャベリン登りがいつもより多くあったっけか。
まぁ、イイ……言い出したら聞かないのがこの少女がこの少女たる所以。
人間、自らの精神を護るには――諦めが肝心なんだ。


――とは言え。
まさか、古都の国会議事堂を登らさせられる羽目になるとは思わなかったよ、俺。
でもね、この少女は期待に込めた目で見つめてくる訳ですよ。
で、言うの――「イイから黙って登れ?」ってね。
男として登らざるを得ないだろう、jk!
別にUM火炎瓶で脅されたからじゃなくて俺が紳士だからなんだぞ、勘違いするなよ!
まぁ、実際に登ってみたら予想外にしんどかった訳ですが。
もうね、ロッククライミングかと。
いくら力はあっても紙なのがワンコなのに……。
むしろ、警備員に見付かったら何を言われるかわかった事じゃないっつーの。
そんな事は全く気にしないであろう少女は、満足げな笑みで屋根の上から下界を見詰めている。
その笑顔を見て、こんな苦労もたまにはイイかとか不覚にも思ってしまった辺り俺も絆されているんだろうか。

「……れっつ、フラワーシャワー&キャンディシャワー!」

満面の笑顔の少女の言葉と共に、古都の空に花と飴が舞う。
スリングから放たれ、雪に紛れて落ちてくるモノに、古都を行きかう人々が驚きの声をあげた。
特に飴なんかは子ども達に大人気なお菓子だからな。
そんな様子を微笑ましく眺めていると、議事堂の下に古都の警備兵達がわいわい集まってきた。
と、同時に何か喚き立てている。

「こら、貴様ら! 早くそこから降りて来て神妙にお縄につけ!」

屋根も不法侵入になるのかよ。
思わず突っ込みかけた俺より、少女が不満の声を張り上げる方が早かった。

「何でー!? ただ高いトコに登ってクリスマスを彩っただけじゃない!」

その言葉に、警備兵が俄かに殺気立つ。
そして、隊長と思しき者が怒声をあげた。

「ばっかもーん! 一般市民や抵抗装備してない冒険者が混乱しているのが見えんのか!!」

俺達は互いに顔を見合わせて、呟く。

「「……あ」」

確かに、下界の騒ぎはいつの間にか不穏な空気になっている。
真っ直ぐ歩けずに建造物にぶつかる人やら、殴りあう人やら……あ、血まみれの人がまた一人倒れた。

「なぁ、コレさ……」
「みなまで言わないで……」

引きつった笑顔で同時に懐から不思議な時計を出す俺達、息ピッタリじゃね?
せーの。

「「ごめんなさーい!」」

謝罪の言葉と共に、時計の針を操作してお互いのGHへと逃げた。
いや、マジですまんかった、反省はしている。
罰は勘弁だけど。

632黒頭巾:2008/12/24(水) 22:01:02 ID:JLWm9YSQ0

――景色が一気に変わり、俺は見慣れた木の香りのGHにいた。
GHの奥には、腐れ縁のテイマがいたが、こっちを見ようともしない。
何かの写真を見ては「幸せ家族計画にはあの女が邪魔だわ」とかブツブツ言っていたので、俺もアイツを見なかった事にする。
君子危うきに近寄らずってヤツだ、うん。
どうせ、いつもの某GのGMのWIZだかの写真だろう。
一度見せて貰った事があるが、確かに顔はよかった――それは、先程まで一緒だったあの見た目だけはイイ姫と何処か似た顔立ちで。
そう言えば、あの姫の兄もWIZだとか言ってたような……まさか、な。
広い古都でそんな偶然はあるまい。
そんな事よりも先に誰にも見られないうちにと、俺は赤い付け鼻を外して赤いズボンも着替えた。
そして、ずっと漂っていた甘い香りの正体に気付く――うへ、この鼻ってば飴で出来てやがんの。
わーい、食っちまえば証拠隠滅も簡単だね☆
いや、現実逃避も大概にしろよ、俺……あの少女から渡されたってのが一番恐いんだよ!
何が混入されているかわかりやしねぇ。
俺は肩の上に呼び出したミニPに装備アイテムだからと無理矢理食わせて、証拠隠滅を図った。


――翌日の古都。
赤いワンコと赤い姫の手配書が回っていたのは――きっと気の所為だ、うん。
ただ、暫くはWIZの姿で出歩こうと思う。



おわれ。



****************



皆様にハッピークリスマs(ry
久方振りにお邪魔します、黒頭巾です。
FATさんは割り込みごめんなさい…orz
そして、お帰りなさい!
皆様への感想はまだ途中なので、次回こそ間に合うとイイな…orz

633FAT:2008/12/24(水) 22:59:09 ID:07LLjSJI0
皆様こんばんわ。連日連投になってしまいました。

>黒頭巾さん
おひさしぶりです! ただいまっ! 
割り込みというか、ほぼ同時の投稿にびっくりしつつも、今日の投稿が一人じゃ
なくてよかったとほっとしました。
下僕ウルフマンとわがまま姫のお祭り騒ぎ、面白かったです。
ポチ君(仮称)のあしらわれ様がけなげで、でもなんだかんだ言いながら楽しん
じゃってる姿が微笑ましかったです。
またの投稿を楽しみにしてます!

634◇68hJrjtY:2008/12/25(木) 17:55:59 ID:wmDr2SRU0
なんやらぷろくしエラーだかでしばらくの間書き込めませんでした(T-T*)
スレの皆さんメリークリスマス★

>柚子さん
年末ですよねぇ、言われてみれば確かに(;´Д`A なんだか忙しさにかまけてますorz
エルネストとカルンのなんだかほのかな恋模様に顔がにやらーっとしてる68hですがさて、
殺人犯が複数と分かっただけではなくそれ以上に大変な依頼を受けたイリーナとルイス…。
ディーター&マイアのコンビはともかく、この四人が一緒というだけで波乱万丈が予想されます(笑)
果たしてこの依頼と殺人犯グループの関係があるのか、そして殺人犯らしいフードの少年は。
戦闘シーンも楽しみながら推理も楽しい今回の小説、続きお待ちしています♪

>FATさん
まずはノリノリでハイテンションな赤鼻ビショさんの小話、ありがとうございました(笑)
始終笑いっぱなしでまさにマンガを読んでる気分。元ネタとなったほうのマンガも気になります(ノ∀`*)
風邪が治らない少女にわけもなく萌える!そして最高の相棒(?)、トナトナ君も素敵!
二作目の「暖かな冬」はまさに雪の日にほっと心が暖まる小話。
ネクロマンサーである彼が雪の中で出会えた少女は、何よりも「暖かなもの」だったのですね。
「ありがとう」という言葉が少女に伝わった時は感動しました。そうかしかし、おじちゃんかぁ(笑)
クリスマス…そうか、クリスマスだったなぁと感慨している、天皇誕生日で休めてラッキーな68hでした。
またの小話、そして本編。楽しみにしています♪

>黒頭巾さん
ハロウィンぶりです♪こちらもクリスマス小話ありがとうございます!
ちょくちょく前回のハロウィン話とリンクしてるのと、ワンコ×姫にニヤニヤさせていただきました(´д`*)
ポチ君(と命名!)のもふもふ毛皮に包まれて飴シャワー浴びたい。
そして某GMであるWIZの妹というと(笑) 全力少年ならぬ全力プリンセスも好きです(*´ェ`*)
シリーズ化なるかっ!?とか淡い期待を胸に…。次回作もお待ちしてます。

635蟻人形:2008/12/25(木) 21:42:03 ID:fUoOnsFI0
  赤に満ちた夜

 1:黎明の夢
 All >>640-647 (四冊目)

 2:先鞭
 All >>888-899 (四冊目)

 3: Avengers Ⅰ
 All >>344-351 (五冊目)

 4: Avengers Ⅱ
 Side Black >>824-827 (六冊目)
 Side White >>466-469 (七冊目)

 0:秉燭夜遊
 Ⅰ >>577-579 (七冊目)
 Ⅱ >>589-590 (  〃  )
 Ⅲ >>604-607 (  〃  )


 0:秉燭夜遊 Ⅳ … 秋と冬


 少女が戦闘の陰の部分で行われていた作業を眺める余裕があったのは、前方に構える槍遣いもまた戦闘再開の時機を見送っていたからだった。
 槍遣いは敵方との間合いを量りながら、ほとんど聞き手としてだが、ギルド間での魔力の会話にも加わっていた。
 従来の計画からの変更点を説く剣士の声を頭に掻っ込む途中で、槍遣いは正面に立つ敵の表情を捉えてしまった。
 今までとは違い真剣な顔つきだが、口元には――笑い。確実に笑みが浮かんでいる。それを目にした彼女の胸には再び怒りが込み上げ、今度は抑えることができなかった。
 槍遣いは少女の微笑の意味など問題にしていなかった。無礼千万、戦闘に際して笑むこと自体が異常であり信じられるものではなく、どうあっても許し難かった。
 変調に気付いた剣士の確認の問いにも答えず、彼女は槍を固く握り締めていた。他の者たちが変異に感付いたときには遅かった。全ての者の双眼に、第一歩目で土を蹴り上げ少女に走る槍遣いの姿が映った。

 このとき、少女は相対する女性が怒りに燃える理由について浅く考えていたものの、戦闘の最中に槍遣いの憤りが再発することを正確に予想していた。
 それにも拘らず、仲間の制止を余所にして駆ける槍遣いへの対応が遅れたのは、戦場で自分の対極に位置する武道家の分身に注意を奪われていたからに他ならない。
 確かに少女は相手方の向上した実力の度合い、長い思案によって生まれた策に期待を掛けていた。だからこそ五人は未だに存命しているのだ。
 しかし彼女は発見してしまった穴を見逃してやるほど情け深い性格ではなかった。むしろサディスティックな性分を持っていると言っても過言ではない。
 ただし、弱みに付け込んで相手を甚振るようなことは決してしなかった。自らの品格を貶めるような言動・行為はできる限り謹み、相手の尊厳を傷つけないよう常に意識する。戦闘以外の点においては、彼女はこの掟を完璧に守り抜いていた。

 鬼気迫る突撃に猶予の無さが相俟って、この戦いで初めて少女は迎撃――後手へと回ることになった。
 槍遣いの自暴とも言える捨て身の攻めはさながら特攻を決め込んだ兵士のようだ。
 単純な刺撃、頭上で槍を旋回させながらの迫撃、敵を除ける為の迎撃。非常に攻撃的だがどれも荒く大振りで、実力のある相手に傷を負わせる程のものではなかった。
 だが風の魔法が宿ったお蔭で、彼女の繰り出す猛撃は少女に反撃の隙を与えなかった。更に少女の注意を武道家の分身から引き離すことにも貢献し、結果的に良い方向へ転んだことは間違いなかった。

 戦闘が再開されて数秒が経過。早くも形勢は傾きつつあった。
 初めは猛攻を防ぐだけで精一杯だった少女は次第に敵の速度に慣れ、回避や防御を危なげなくこなすようになっていた。
 先程まで窺う機会もなかったが、観察を進める過程で彼女は槍遣いの武器との相性、更には槍を扱う技術にまで違和を感じ始めていた。まるで新調したばかり、自分の手に馴染んでいないようにも見える。半年間特訓したとはとても思えない実力に、少女は大きく落胆した。
 もっとも、苛立ち故に試合前の小競り合いをただ眺めていただけで注視していなかった彼女には、槍遣いの動きがぎこちない理由が分かるはずはない。
 しかも悪いことに、数あるうちの一つの期待が裏切られたことで、少女の頭の中では他の全ての期待も同じく望みのないものであるという思考が展開され始めた。
 こうなると積み上げられた土台は一気に崩落する。燃え上がるような苛立ちが、少女の瞳に熾った。心待ちにしていた分の落差が怒気を生み、彼女の意思は一気に、これまでと同質の虐殺へと転がっていった。

636蟻人形:2008/12/25(木) 21:42:56 ID:fUoOnsFI0

 場外に置かれた男の瞳は大まかにではあるが、主人の心境の変化を捕捉していた。
 言動を大人っぽく見せていても、精神は幼い外見と同様に未発達。その稚さ故に感情を抑制する術は未熟で、普段は男が欠けた欲求を補い少女の平静を保つ役割を果たしていた。
 手出しは禁止されている。しかし、今動かなければ主人の殺意を逸らせない。主人の命令か、挑戦者の生命か。男の心の天秤はひと時、確かに仮初めの良心に揺れた。
 だがその偽善とも呼べる迷いは一瞬の後に、心底に潜む本心によって完全に打ち砕かれた。
「切り捨てよ。重要なものは他にある」
 闇は語った。彼もそれに同意し、やがて体内で反響する僅かばかりの誠心を鎮めようと、体に溜まった心地の悪い空気を吐き出した。


 最早際限のない零落に運命を委ねる男は遥か昔、他愛の意思を失くした天界人だった。彼は様々な面で他の天界人と異なっていた。

 第一に、男は強い自我を持っていた。その予兆は『赤い空の日』以前から見え隠れしていたものだった。
 ビショップの姿を借りた者は当然であるが、地上に堕ちた天界人――即ち追放天使ならばほとんど全ての者が、天上界を治める『神』なる存在を信仰している。
 しかし彼は地上界に降り立って以来一度も神に祈りを捧げたことがない。
 直に対面したこともあるが故に存在だけは認めていたが、その力、例えば『神のご加護』などという下らないまじない事の効果などは完全に否定していた。
 だから人間の姿を借りるときも決してビショップには扮せず、神への奉仕に当たる技術も磨こうとしなかった。
 多くの天使にとって有り得ないような『地上界の生物に仕える』という所業に及んだ事実についても、上記を踏まえて考えたのなら全く理解できないことではないだろう。

 次に、男は過去に二度もの裁断を下された天界人の中で唯一、裁きの後も双翼を自らの背に負うことを許されていた。
 と言っても、『赤き石』の守護を勤める天使の一人だった彼は、『赤い空の日』以後に追放された同僚と同じく片方の羽の半分を剥奪されてはいた。
 だが三年前に執り行われた二度目の審判のとき、新たな任務に就くことで彼の罪は完全に赦免されている。
 ただし、任務を素直に受け入れたのは美しい忠誠心を示すためではなく、自我の目覚めによって生まれた抹消への恐怖に突き動かされたからだった。
 罪人が二度に渡って重罪を赦された前例はなかった。通常ならば、どちらも完全追放を免れないような罪状なのだ。
 当然のことながら最後の審問以来、彼は他の追放天使たちから白い目で見られている。
 しかし上記の点から分かる通り、代用のきかない重要な天使として、彼は多くの意味で一目置かれる存在だった。

 最後に、男は己の地上界名『クリフ』を嫌悪していた。これは非常に新しい時期起きた変質だった。
 意外に思われるかもしれないが、地上界の名で呼ばれることに対して不満を抱く天使はほとんどいない。
 何故なら大部分の追放天使は『赤き石』の盗難の責任を重く受け止め、片翼の半分を失う程度の刑罰で放免されたことに感謝し、与えられた任務に没頭しているからだ。
 彼らは自分の天命に不平を漏らすことなど全くなかった。まして授かったものに意義を唱えることなど考えられなかった。そういう訳で、これも男の特異な性質に数えられる。
 男が地上名を嫌悪するのは天使の尊厳と自我の過多が成す地上界への侮蔑でも、自分に新たな名を押し付けた者に対する反感でもない。
 今の主人に対してさえ、初めて自分の呼び名が必要になったとき、天上界で掲げていた姓『アドラー』を使うことを希求した。
 これは自分という芯が強い彼だからこそ苛まれる苦悩であり、突き立てられた刃は少女が負った傷よりも更に深く、彼の真の良心を引き裂いていた。

 それら三つの点を併せ持った異質な追放天使。一人の少女に仕える『アドラー』という男。
 彼が既に追放天使の領域から外れた位置にいることを、自身を含めた全ての天界人が存知していた。


 果敢な勇士たちの最期を見届けるため、暗い気持ちで視線を戦場に戻した男は、目には映らない自分の吐息を通して予想外の状況を目にする。
 不可解。一人の敵を眼前に置いたまま、彼の主人は一切の挙動を止めていた。

637蟻人形:2008/12/25(木) 21:44:12 ID:fUoOnsFI0
こんばんは。割と雪の多い地方に住んでいるので、地面の見えるクリスマスは久々です。
雪掻きの必要がないので楽ですが、何か物足りない気がします。

先日話を作っていく中で、前回から特に「こと」という単語を乱用していることに気付きました。
それまで同じ言葉を重ねないように注意していたので、見落としていたことに自己嫌悪……orz
中々気合が戻らないので、自分の癖に気付けた分進歩したと前向きに考えています。

今回は他の方々を見習い、これまでの経緯をまとめてみました。すみません、もっと早くにするべきだったと反省しています。やっぱり他にも反省点が多いです。


>◇68hJrjtYさん
いつもながら感想をありがとうございます。
感想も文章を読み、考えて書くことで上達するものですよね。
登場人物が何を考えているのか、みたいな些細なことでも考え出すと凄いボリュームになりそうです。

二十人分の分身については、無いとギルド側の策が成り立たないため出しました。
Ⅱで少女が下した判断と完全に食い違いますが、武道家の半年間に渡る鍛錬の成果だと大目に見てほしいです(汗


>黒頭巾さん
不憫な立場のポ――もといウルフマン。普段の彼の苦労が目に浮かびます。
ただ、姫に抱きしめられて泡を吹く狼は見ごたえありそうだな……とは考えましたが。
読んで思い出しましたが、ウルフマンはウィザードに戻れるんでしたね。実はシーフ以上に犯罪に適した職なのかも。
ハロウィンの大騒ぎが「いつもより多い」で済まされているあたり、いつもの古都の賑やかさが窺えます。
次回の祭りはいつ到来するのか! 更なる波乱を期待しています。


>FATさん
イラっと来る程ノリノリなビショさん、貴方のテンションが大好きです。
わが道を行くビショさんが普段どんな司祭を務めているのかも気になるところ。
何だかんだ言ってかなり元気をもらいました。赤鼻のビショさん、ありがとう!
そして前作とは全く違うのに、同じように心温まる冬の話も読ませていただきました。
全体的に不思議な雰囲気のネクロマンサーですが、手袋を貸してあげる優しさや、手で書けることに気付いて恥ずかしがる様子が、彼(彼女?)の人間らしさを感じさせてくれます。
そういえば以前、中に可愛い女の子が入っていると噂された時期があったような。第三の変身システムに期待するべきでしょうか。
最後に。遅くなりましたが、ラスとレルロンドの気持ちが痛いほど分かります。柚子さんの言う通り、男の性……ですね。


>柚子さん
アメリアさん、口に出してしまう大胆さが怖いです。しかしそのお蔭でクセのある二人を纏め上げていると考えると、マイナスには考えられないですね。
そして、イリーナがマイスの面倒を看るのは、やはり宿命でしょうか。
更にブランクギルドの二人まで加わって、最早予想できない範囲に達しています。
様々な摩擦によって生じているストレスの大部分がイリーナに降りかかっているのは、決して気のせいではないはず。
次回はいよいよ仮面の子供との交戦か、はたまた別の展開が待ち受けているのか。イリーナの精神消耗を気遣いつつ、続きをお待ちしています。

638名無しさん:2008/12/29(月) 17:35:04 ID:WrGT.WaE0
もったいないwテレビでテレビを見るだけなんてwww

639柚子:2009/01/02(金) 16:57:54 ID:gTpM/8Sc0
前作 最終回 六冊目>>837-853
Avengers
登場人物 >>542
1. >>543-551 2.>>568-573 3.>>593-597 4.>>616-619


古都の噴水前は地獄絵図となり果てていた。
いても賑わっているはずの広場は恐慌に陥っていた。
噴水の周囲には、人間だった赤黒い何かがいくつも転がっている。
次に自分がそうなることを恐れ、人々が押し合いながら逃げ惑う。
その中心には既に武装を展開しているアメリアたちが対峙していた。
その中にイリーナたちも参加する。
「マスター、状況は」
「言わせないで。見ての通り、最悪よ」
アメリアが強く唇を噛み締める。
「やはり、こいつらか」
グイードが呟く。視線は前方へ向けられていた。
そこには、3人のフードを深く被った、性別不詳の子供がいた。
1人は巨大な螺旋剣を持ち、横に並ぶ1人は大鎌を持っている。
最後の1人は遥か後方で空中に浮かんでいた。
しかし、共通して全員が白い死者のような仮面を被っていた。
「こいつら、前に……」
イリーナはブランクギルド事務所に来る途中、深くフードを被った子供とすれ違ったことを思い出す。
しかし、何故かこの中にその時の人物はいないと断定できた。
「アルトール、負傷者の救助を。1人でも多くを救うのよ」
「分かりました」
アメリアの判断を受けたアルトールが陣形から抜ける。
そしてすぐに救助活動を始めた。
「3体か、厄介だな。しかし、何としてもここで食い止めるぞ!」
グイードが活を入れ、全体の士気を高める。
魔術を紡ぎながら、互いに間合いを詰めていく。
両者の間合いが臨界点に達した時、ルイスとグイードが動いた。
魔風となって駆け抜け、前方の螺旋剣を持った子供に斬り掛かる。
金属音。2つの剣戟は完全に防がれていた。見た目からは有り得ない筋力だ。
さらに大剣が振り抜かれる。2人は地を蹴って後退。
大剣が完全に振り抜かれた瞬間、様子を窺っていたディーターが2人の頭上を越えて飛びかかる。
両腰に差した双剣を抜刀。隙のできた懐へ斬り掛かる。
その一撃を横から走った大鎌の一撃が防いだ。
ディーターは双剣を交差して受け止める。さらに勢いを利用し後転、地面に着地する。
着地と同時に納刀。両手を後ろに忍ばせ、無数の短剣を投擲する。
大鎌使いは得物を振るい、大半を撃ち落とし、残った短剣が肩やフードを切り裂いていく。
大鎌使いに金色の閃光が走る。
黄金の風となったアメリアが大鎌持ちの死角へ迫っていた。
最速の足が突然止まる。同時に足元の地面が穿たれる。
後方で空中に浮かんでいる弓使いの魔術だった。
「く、こう連携を取られると厄介ね!」
続く魔矢を避けながら、アメリアが叫ぶ。
全員が1度後退したところでイリーナは紡いでいた難易度2、ファイアーボールを連続で発動する。
脳から送られた魔力信号を魔石が受け取り、発光。脳からの情報を解析し、魔方陣が空中に展開されていく。
虚空から合計10個の火球が顕現。一気に斉射する。
火球は着弾と同時に炸裂。周りの露店ごと吹き飛ばしていく。
3体とも着弾の寸前に跳躍していたことを前衛が見逃すはずがない。
爆煙を抜け出てきた剣使いにグイードとディーターが迫る。
剣使いが大剣を一閃すると同時にディーターが跳躍し、グイードが巨大な盾を突き出して耐える。
空中に舞ったディーターが急降下。空中で前転し、そのまま踵を頭蓋目掛けて振り落とす。
剣使いは左腕を掲げてこれを防ぐ。
ディーターはさらに続く足で腕に絡め、体を捻る。回転に巻き込まれた剣使いの腕が、乾いた音を立てて折れた。
それでも構わず剣使いは蹴りを放つ。足がディーターの腹腔にめり込み、ディーターは大きく吹き飛ばされた。

640柚子:2009/01/02(金) 16:59:01 ID:gTpM/8Sc0
反対側で激しい剣戟が繰り返される。
鎌使いがルイスの袈裟切りを巨大な鎌の刃で受ける。受けると同時に氷弾を放ち、忍び寄るアメリアを牽制。
長大な鎌のリーチと速い魔術展開が、2人の接近を許さなかった。
イリーナのような後衛はこの高速戦闘についていけない。
その代わり、厄介な弓使いに近づける隙が生じた。
イリーナは左右で展開されている戦闘を抜け、後方の弓使いに向かって走り出した。
「変態の変態的速度にはついていけない!」
「なに、儂もおる」
気付くと、マイアが併走していた。脇には4体の召喚獣を引き連れている。
それを見てイリーナは軽く驚く。4体を同時に制御する召喚士など見たことがない。
想像を絶する統一力と制御力だった。
2人の接近に勘付いた弓使いが光の矢を放ってくる。2人は左右に展開。
イリーナは魔術を紡ぎながら走る。イリーナの方が御しやすいと思ったのか、弓使いはイリーナに狙いを定めた。
一瞬早くイリーナの魔術が完成。銀の短槍の先から難易度3、ジャベリンテンペストを放つ。
刹那の後、弓使いも光の矢を放った。
不可視の風の刃が弓使いのフードと左胴を裂いていき、光の矢がイリーナの肩を灼いていく。
激痛で魔力信号が乱れ、並行して紡いでいた魔術が途切れた。
次の瞬間弓使いの第二射が発射される。
光の矢がイリーナを捉える寸前、急に地面が隆起して壁が生成され、イリーナを守る。
マイアの召喚獣による元素魔法だ。
土の壁に容赦なく次々と攻撃が加えられる。壁に亀裂が入り、耐久限界を迎えた。
「乗るがよい!」
低空で飛んできたウィンディがイリーナを掴み上げる。
イリーナたちは魔術で牽制をしながら後退した。

641柚子:2009/01/02(金) 17:00:12 ID:gTpM/8Sc0
他の4人も同時に後退し、背中を合わせるように構える。
多かれ少なかれ、全員が全員傷を負っていた。
「ディーター、大丈夫かや?」
ディーターは片手で腹を押さえていた。口からは一筋の血が流れている。
「氣でなんとか処置はしたが、結構やばい」
ルイスやグイードと比べて、ディーターの防具は軽装だった。
速度は上がるが、その分一撃一撃が致命傷に繋がる。
「なかなかに厄介だ。これは他の団員には任せられないな」
荒い息を吐きながらグイードが呟く。
「よし、糞男共を囮という名の犠牲にした陽動作戦で行こう。人数も奇跡的にぴったり」
「1人でやっていろ」
イリーナの提案にルイスが短く切って捨てる。
他の面々も呆れたような顔を浮かべていた。そう言いながらも、誰も敵から目を離さない。
3体の体は無傷だった。この魔術と身体能力に加えて、再生力も備えている。
存在しないはずの隙を見出そうと、イリーナは3人を眺め回す。
見ると、大鎌使いが密かに魔術を紡いでいた。
その魔方陣を見た瞬間、イリーナは全身が総毛立つのを感じた。
「離れろ!」
叫ぶと同時に魔方陣が完成。空中に展開される。
4人はそれぞれの方向に飛び散る。刹那の後、4人が寸前まで居た空間が凍結した。
逃げ遅れた髪や外套の裾が凍結する。
発動されたのは、難易度4、フロストクエイクの空間凍結魔術だった。
その正体は、冷気の振動による瞬間凍結。この魔術の前にはどんなに頑健な鎧や盾も意味を成さない。
最悪、死んだことも理解しないまま死ぬことになる、恐ろしい魔術だった。
魔術から回避したディーターに剣使いが迫る。
剣の柄に唯一嵌っていた魔石が光る。すると、巨大な螺旋剣の刀身が回転を始めた。
高速回転した刀身が唸りを上げてディーターに襲い掛かる。
ディーターは1度に7本の短剣を投擲。
短剣が回転する刀身に触れる。瞬間、短剣は例外なく粉砕された。
「なにっ!?」
短剣を抜けて螺旋剣が直進してくる。回避不能の一撃。
固まるディーターの襟をグイードが引き寄せる。
剣に激突した石像が紙屑のように砕け散る。剣使いは止まることなく方向転換。
均衡を崩したグイードは盾でそれを受ける。凄まじいエネルギーに分厚い盾が火花を散らし、軋んだ音を立てる。
さらに踏み込もうとする剣使いに横から入ったルイスが蹴りを放つ。
まともに受けた剣使いは建物の壁に叩きつけられる。
そのルイスを襲う獰猛な刃。背後に迫っていた大鎌使いの攻撃をアメリアが受ける。
アメリアは刃を受け流し、槍を回転。アメリアの技術に鎌使いが圧倒される。
鎌使いは反撃の魔術を紡ぐ。難易度2、チリングタッチが鎌に向けて発動された。
冷気が籠められた鎌が槍と接触。すると、触れた先から槍が凍結を始めた。
握る手が凍る前に、イリーナは難易度3、ファイアーエンチャントを発動。
大鎌に向かって放ち、魔術を相殺。槍の凍結が止まった。
「スウェルファー!」
マイアの召喚獣が元素魔術を発動。
水の檻がアメリアを囲っていく。
続いてアメリアに殺到する光の閃光を水の檻が防いだ。光の作用により、矢が屈折して無人の地面に刺さる。
「せい!」
アメリアが懇親の突きを放つ。受け切れず、大鎌使いの体勢が崩れた。
刹那の隙にアメリアは体ごと槍を回転。柄部分で鎌使いの胴を殴打した。
吹き飛ぶ敵にアメリアが追跡をかける。
鎌の先が発光。難易度3、アイススタグラマイトによる氷壁で、それ以上の侵入を防ぐ。
「退いて!」
イリーナは既に紡いでいた魔術を展開する。
アメリアが飛び退くと同時に解放。槍の魔石が発光し、空中に巨大な魔法陣が描かれる。
難易度4、ファイアーストームの魔術が発動された。
横向きに放たれた炎の嵐は、大量の酸素を飲み込んで肥大化しながら直進。
前方の氷壁に炎の嵐が激突。瞬時に蒸発し、鎌使いに殺到する。
鎌使いはもう1度アイススタグラマイトを発動。形成された氷壁に、炎の嵐が一瞬だけ止まる。
その一瞬を利用して鎌使いは横跳びで死から逃れる。
しかし、逃げ遅れた右腕が炭化された。
追撃を妨害する弓使いへ召喚獣の元素魔術が殺到。1つが直撃し、弓使いが墜落する。
不利を悟ったのか、3人はそれぞれに撤退を開始した。
「いかん!」
グイードが叫ぶ。
「奴らを放つな、ここで仕留めるぞ!」
「応!」
即座に動いたディーターとマイアが逃げていく弓使いを追跡する。
グイードとアメリアが剣使いへと走る。
残ったイリーナとルイスは大鎌使いへと向かった。

642柚子:2009/01/02(金) 17:01:06 ID:gTpM/8Sc0
螺旋剣を引きずりながら逃げる剣使いにグイードとアメリアが追い付く。
2人なら勝てると踏んだのか、剣使いは螺旋剣を構える。
螺旋剣が再び回転。剣使いは2人に突進を開始する。
2人は左右に跳躍。剣使いは大剣を振り回し、地面や壁を破砕していく。
グイードが上空から切りかかる。回転する剣が受け、火花を激しく散らす。
アメリアが高速接近。剣使いは大剣を振り抜き、2人ごと吹き飛ばした。
「剣が厄介に過ぎる!」
グイードが唸る。
「だが、これ以上好きにはさせん。アメリア殿、あの回転を止めることは可能か?」
「少しの間だけなら、可能よ」
自信に溢れるアメリアの返答に、グイードが満足気に頷いた。
「十分だ」
「では、行くわよ!」
アメリアを先頭に2人が走り出す。剣使いは構わずに剣を突き出した。
「少し本気を出すわよ!」
アメリアの槍の魔石が輝く。次の瞬間、大量の分身が出現した。
発動したのは難易度4、オーサムフォートレスの魔術だった。
その効果は複数の分身を呼び起こし、長時間維持が可能な魔術なのだが、それでも20人は多すぎた。
その驚異的な魔術にグイードも驚愕する。
アメリアはこの魔術に特化した槍術士だった。
故に虚勢。彼女の称号はそんな彼女の姿を指した物だった。
20人のアメリアが螺旋剣に槍を突き入れる。
回転する剣の隙間に槍が次々と差し入れられ、剣の回転が弱まる。
「まだまだ!」
残りのアメリアたちも槍を突き入れ、全て差し入れられる。
そして、剣の回転が完全に止まった。
「今よ!」
後方にいたグイードが疾走。武器を捨てて剣に飛びかかり、巨大な両腕で押さえつけた。
突然グイードの腕が隆起。さらに腕や顔から黒茶色の毛が生じる。
最後に牙と爪が伸び、グイードは完全な人狼になっていた。
「ぬぉおおおお!」
人間の域を軽く凌駕する超筋力で剣ごと剣使いを持ち上げ、そのまま叩きつける。
その衝撃で剣が砕けた。
追い討ちを掛けるようにアメリアが跳躍。槍の柄が捻られ、全長2メートル超の長槍がその姿を現す。
アメリアはそれを投擲。唸りを上げて落下する槍の弓努が剣使いの心臓を貫いた。
どんな再生力があろうと、心臓を貫かれては生き残れる生物は存在しない。
「……倒したか」
人間の姿に戻ったグイードが大きく息を吐いた。
「存外に厄介な敵だったわ」
アメリアも魔術を切り、息をつく。
死んだ剣使いの体が変化を始めた。体が急速に分解を行われ、砂になる。
残った物はローブと白い仮面だけだった。

643柚子:2009/01/02(金) 17:01:45 ID:gTpM/8Sc0
空に浮遊して逃げる弓使いをディーターとマイアが追う。
「待てこの根暗仮面野郎!」
ディーターが1度に7本の短剣を投擲する。
逃げ切れないことを察した弓使いは難易度3、トルネードシールドを展開し、短剣を逸らす。
しかし、その隙にディーターは一気に距離を縮めていた。
風の結界内に侵入したディーターが双剣を抜刀。だが、そのまま切りかかろうとする足が止まった。
弓使いが紡ぎ終わっていた魔術に気づくとディーターは後退を開始。
その直後に魔術が放たれた。
放たれた魔術は難易度4、ライトニングサンダーだった。
上空から高電圧の雷が高速落下。落下すると地面を伝って2人に襲いかかる。
マイアはヘッジャーの岩の壁で防ぎ、ディーターは短剣を複数地面に刺し威力を軽減。
さらに魔力を殺す作用を持つ“氣”を前方に展開し、ようやく防ぐ。
攻撃を防ぐことは出来たが、再び距離は開いてしまった。
続く矢の応酬を避けながら2人は手近な建物へ逃げ込む。
「どうする、近づけねーぞ!」
苛立ちを含んだディーターの声。
「儂に言うな。主様が来るのを待つかや?」
「師匠には頼らねえ。俺たちだけで倒す。絶対」
マイアの提案をディーターは即断る。
しかし、状況は良いとは言えなかった。
「ふむ。飛び道具は効かぬし、魔術も強力じゃ。さらに回復力が凄まじい」
「一気に畳み込むしか手はないみたいだな」
結論は早くついたが、策がなかった。
「とりあえず突っ込む。後はどうにでもなる」
その言葉にマイアは小さく笑った。
「ふふ、ディーターらしいのう。それに、敵もあまり待ってくれないようじゃ」
マイアが言うように、2人を見つけ出した弓使いが魔術を紡いでいるのが見えた。
2人が脱出すると共に魔術が発動。降り注ぐ落雷が建造物を炎上させる。
ニ次爆発が起こり、木々の破片を含んだ風が2人に吹き付ける。
「行くぞマイア!」
ディーターが疾走。マイアが召喚獣を十字に展開し後に続く。
飛翔する矢を召喚獣が打ち落とす。
ディーターはヘッジャーを踏み台に上昇。ウィンディの風でさらに飛翔。
さらにケルビーとスウェルファーが左右に展開した。
正面と左右、上方からの同時攻撃。この連携こそが2人の強みだった。
しかし、魔術も同時に紡ぎ終わっていた。
魔法陣が空中に展開され、高電圧の毒蛇が召喚される。
「突撃せよ!」
雷が放たれる瞬間、雷と召喚獣たちが激突。
相殺された魔力が爆発を起こし、弓使いを吹き飛ばす。
倒れた弓使いへディーターが高速落下。
「迂闊に近づいたのが命取りだ!」
ディーターが双剣を抜刀。立ち上がろうとする弓使いの両肩から両脇にかけて双剣を一閃。
噴き出す鮮血がディーターの全身を染める。
ディーターの拳が青色に発光。それは武道家が持つ“氣”の集合だった。
その“氣”を叩きつける。青色の光は弓使いの体を通り抜けた。
ディーターが放った技は烈風撃と呼ばれる武道家の奥義だった。
武道家の“氣”は物理干渉を起こさない代わりに、触れることが出来ない物を破壊する。
触れられない物、全身の魔力を破壊し尽くされた弓使いが力無く倒れる。
回復のための魔力をも破壊され、全身が砂塵となっていく。
完全に死んだことを確認すると、ディーターは膝をついた。
「もう、生き返るとか、さすがに、ない、よな?」
肩で息をしながらディーターが白い仮面を突っつく。
ディーターが放った烈風撃は、威力だけなら難易度5の魔術に匹敵する。
その分、消費も激しかった。
「うむ。お主も知らぬ間に成長しているようじゃの。ほれ」
膝をつくディーターへマイアが手を差し出す。
ディーターは1度躊躇った後、その手を握り返した。

644柚子:2009/01/02(金) 17:02:34 ID:gTpM/8Sc0
風の刃が外套を貫く。
それでも大鎌使いの足は止められない。
イリーナたちは逃げた鎌使いを追っていた。
走りながらイリーナはファイアーボールを放つ。5つの火の玉が鎌使いを越えた先で着弾した。
着弾と共に爆裂し、鎌使いの足が止まる。
そこへ先行していたルイスが空中から斬撃。鎌使いの逃走経路を断つ。
ルイスの剣を鎌が受け、そのまま2人は切り結んでいく。
守りに入った鎌使いが後方へ跳躍。その瞬間イリーナがファイアーボールを放つ。
爆裂した炎が地面や家屋を粉砕。爆風が鎌使いを飲み込んでいく。
「やったか?」
「いや、逃げた」
ルイスが前方の家屋に指をさす。
ルイスのような前衛職ならしっかりと見えていただろう。
「しぶといな」
そう言いながらイリーナは槍を構え直す。
魔術反応。イリーナとルイスは同時に感知。それぞれ左右に退避。
退避と同時に氷弾と共に鎌使いが家屋の壁を突き破ってきた。
そのまま鎌使いは噴水の方へと逃げる。
「逃がすか!」
振り向きざまにファイアーボールを発動。5つの火の球がさらに5つに別れる。
合計25の弾丸が鎌使いへ殺到。鎌使いは氷の壁を形成してそれを防ぐ。
しかしそれは目くらましに過ぎない。接近していたルイスが爆風ごと壁を切り裂く。
重すぎる剣圧に受けた鎌が軋みを上げる。
さらにルイスは難易度1、マッスルインフレーションを発動。激しく隆起した各筋肉がさらなる剛力を生む。
ルイスの剣が閃く。隙ができた鎌使いの左腕を大剣が両断した。
腕を切られながらも鎌使いは後方へ跳躍。しかし、イリーナが放った風魔術が直撃する。
放たれた圧縮空気が鎌使いを吹き飛ばす。噴水に落下し、大きな水しぶきを上げた。
「ルイス!」
ルイスは難易度3、サンダーエンチャントを発動。刀身に高電圧の電撃が帯電。
ルイスはそれを投擲。投擲された剣は噴水に落ちた鎌使いに突き刺さった。
次に電流が走り、鎌使いの身体を徹底的に破壊する。
身体機能が停止し、鎌使いは完全に活動を停止した。
「今度こそ、やったな」
噴水の水は電流で干上がっていた。
「そうだな」
ルイスは無人の外套に突き立った大剣を抜いた。

645柚子:2009/01/02(金) 17:03:14 ID:gTpM/8Sc0
風にさらわれていく鎌使いの死骸を眺めながら、イリーナは噴水に腰を下ろす。
残った白い仮面だけが無表情にイリーナを見つめていた。
「そっちも片付いたようね」
「あ、マスター」
顔を上げると、アメリアとグイードがやって来ていた。
「後はあの2人だな」
「いや、その心配はいらない」
イリーナはグイードの目線を追う。
その先では、マイアと彼女に肩を抱かれたディーターがいた。
4人の視線に気づき、ディーターは咄嗟に腕を解く。
「遅いぞ」
「何だと?」
ルイスの冷たい言葉にディーターが詰め寄る。
「こっちは遠くまで行ったんだ、倒したのはこっちが早い」
「どうだか。女に肩を貸してもらわないとまともに立てないのだろう?」
「これは!」
言葉が続かず、ディーターは押し黙る。それでも決してルイスから目を逸らさない。
両者間の温度が急降下していく。
「どうにせよ、皆無事で何よりだ」
グイードの一声が場の緊迫感を中和した。
「そうね。アルトールのおかげで負傷者も最低限に抑えられたみたいだし」
アメリアがそれに続く。
広場では、ようやく到着した救急隊員が負傷者の治療を施していた。
「ふん」
ディーターがルイスから離れる。争う気も失せたらしい。
ルイスも手を掛けていた剣から離した。
グイードはどうやらこの手の扱いにはよく慣れているらしい。
やはり彼は何枚も上手だ。
「出来れば戦って、出来れば2人共死ねば私が幸せになれたのに」
イリーナが言うと、ルイスが嫌そうな顔をした。
「うむ。一件落着じゃな」
最後にマイアが場を締めた。
「……いいや、それにはまだ早い」
背後から声。その声に全員が咄嗟に振り返る。
そこには、先程と姿形が同じの、白い仮面に全身を覆う外套を纏った子供がいた。

646柚子:2009/01/02(金) 17:04:16 ID:gTpM/8Sc0
しかし、見た目は同じでも、感じる圧力が圧倒的に違った。
「貴様か、この一連の犯人は」
全員が動けない中、グイードが何とか言葉を紡ぎ出した。
「……そうだ」
その答えに全員が身構える。
イリーナも隙があれば放とうと魔術を紡いでいく。
「……貴様等か、我が同士を殺したのは」
性別を測れない陰鬱な声。表情は仮面で隠れていて分からない。
瞬間、仮面の子供の圧力が倍増した。
その一瞬に、アメリアとディーターが詰め寄っていた。
2人はそれぞれ左右から仮面の子供に襲い掛かる。
仮面の子供はアメリアの槍を掴み、ディーターの拳を掌で受け止める。
両腕を振り、そのまま2人を投げ飛ばした。
「きゃあ!」
「ぐお!」
2人は地面に叩きつけられ、さらに余った衝撃で転がっていく。
仮面の子供が影に染まる。上空からルイスが斬りかかっていた。
「なに!」
しかし、超重量の剣は届かずにいた。
見えない何かに遮られているかのように、大剣は数十センチ手前で止まっている。
隙だらけのルイスの体へ拳が叩きつけられ、鎧を砕かれながらルイスが吹き飛ぶ。
入れ替わるようにグイードが突進。姿は既に人狼に変貌していた。
グイードの両腕と仮面の子供の両腕が組み合わさる。
太さが数倍も違う両者の腕から出される力が、そこで拮抗していた。
グイードに異変。突然グイードは苦しみ出し、拮抗していたはずの力は徐々に仮面の子供が押していた。
「グオオオオ!」
人狼が吼える。仮面の子供と触れた手から蒸気が上がっていた。
「主様!」
マイアは高速召喚した召喚獣を突撃させる。
仮面の子供はグイードを弾き飛ばし、殺到する召喚獣を掴み上げる。
高速展開で不安定な召喚獣は簡単に元素に戻されてしまう。
しかし、残った1匹がグイードを引き寄せていた。
「主様、気を確かに!」
「うむ……」
人狼化を解いたグイードがなんとか立ち上がる。
「何なのだ奴は。奴は危険過ぎる」
「でも、これで!」
イリーナは紡ぎ終えた難易度4、ファイアーストームを発動。
横向きに放たれた炎の嵐が仮面の子供を飲み込む。
炎が収束していき、魔術効果を終える。
「そんな!」
イリーナは己の目を疑う。炎に飲み込まれた仮面の子供は火傷1つ負わずに、悠然と佇んでいた。
焼かれた石の地面から蒸気が立ち昇る。彼の周囲を残して。
「何者だよ、あいつは」
苦し紛れにイリーナが言葉を吐き出す。
「我が名は、ソロウ」
性別を測れない高くも低い声が、無表情の仮面の下から紡がれる。
「同士の仇を討たせてもらう」
ソロウが片手を掲げる。その上空で巨大な魔力が集っていく。
イリーナたちは微動だにもできない。その先には絶望しかなかった。
爆裂が起こった。ソロウのすぐ傍で。
「何だ!」
イリーナは魔術が飛んで来た方角へ目をやる。
そこには、完全武装した古都の軍隊が陣形を組んでいた。
「下がれ!」
軍の隊長と思しき人物が叫ぶ。イリーナたちは咄嗟に後退する。
「総射!」
イリーナたちが後退すると同時に軍隊の魔術が放たれる。
爆裂や雷撃、風の刃や氷弾など多様の魔術が1度に放たれ、広場を破壊し尽す。
ようやく魔術が止み、それでも油断なく全員が軍用盾を構えている。
煙が薄まる。広場には、そこには不釣合いなほど平然と立っているソロウの姿があった。
これにはさすがの古都の軍隊も驚愕を避けられなかった。
1人が放った炎の弾丸がソロウの手前で掻き消される。
ソロウは無言で背を向けると、飛翔した。
「追撃せよ!」
追うように魔術が放たれるが、どれも届くことはない。
「追え、追うのだ!」
軍の兵士たちがソロウを追いかけていく。
イリーナたちは小さくなっていくソロウを見つめ続けていた。
ソロウが一瞬振り返る。それはイリーナを見たような気もした。
「ソロウ……か」
イリーナは何とも言えない懐かしさに苛まれていた。
しかし、その正体を思い出すことはできない。
銀の槍を強く握り締める。それでも、答えが出ることはない。
古都の町は、ゆっくりと歪み始めていた。

647柚子:2009/01/02(金) 17:09:52 ID:gTpM/8Sc0
みなさん、あけおめです。
年が明ける前にもう1つと思っていましたが間に合いませんでした。
今回は戦闘描写ばかりで疲れました。途中で力尽きた感が否めませんが……
感想は途中なので次回に返したいです。
感想をもらっておきながら申し訳ない。

それでは

648◇68hJrjtY:2009/01/02(金) 21:49:08 ID:Tv4iRUw20
皆様あけましておめでとうございます〜♪
今年も宜しくおねがい申し上げます<(_ _*)>

>蟻人形さん
続きありがとうございます。
熾烈な戦闘が続いておりますが、なんだか少女が以前よりも感情豊かになった気がします。
相変わらずコンピュータのような思考回路、対する剣士たちにも冷徹な判断のみで動いていますが
人外ではあると想像しながらも人間味を感じています。可愛い、などというのとは別物ですけども(笑)
新たに舞台に上がった天使、アドラー。彼が少女を思う気持ちは仕えるべき従者としてのもの以上に思えました。
戦闘以外にも読みどころの多いお話、続きじっくり楽しみにしています。

>柚子さん
新年一発目投稿、ありがとうございます。
今回はグイード、アメリアを筆頭にした二つのギルドの主力との手に汗握る戦闘でしたね。
それぞれのタッグ戦になったこの戦闘ですが、場違いと分かっていてもディーターとマイア編ラストに萌えた(*´д`*)
ルイスとイリーナも二人の仲は置いといても長年のコンビであるわけで強くないはずは無い!
そして今回初戦闘となったグイードとアメリアのコンビ、まさに帝王と女帝。
軍隊の前にまたも失踪した白仮面リーダーの人物。事件がどう動いていくのか、続き楽しみにしています。

649白猫:2009/01/16(金) 23:09:28 ID:k3Ot.7r20


 「――――フゥ」

トン、トン、と。
何もかもが凍り付く氷点下、極寒の空の下。
人の吐息の色とは違う、僅かに濁った煙を大気に吐き出しつつ、金髪の女性は手に持ったキセルを叩き、ベルトに仕舞い込む。
薄らと雪に覆われた冬の草原は、極寒の季節の真只中ということもあり風が吹く度に四肢を貫かれるような寒さが襲ってくる。生憎と、女性は大した防寒具を纏ってはいなかった。
一面、目が眩んでしまいそうな白に覆われた大雪原。容赦無く命を削る寒気に身震いしながら、女性は小さく溜息を吐いた。

「人気者って、辛いわ」

そう呟くや否や、

女性の頬を、一本の矢が掠めた。


体を仰け反らせた女性は腰から鉈を取り出し、続け様に殺到する弓を軽く弾く。
凌いだ――流れる思考の合間、しかし緩まない緊張の中で女性は辺りを見渡し、目を細める。

「参ったわね……囲まれたかしら」

背に掛けられたままだった槍に手を伸ばし、女性は困ったような顔を浮かべながら意識を張詰める。
数は五人程度の小隊といったところ、どれもこれもが並ではなさそうだ。
(こんな山奥まで追ってくるなんて、ご苦労様なことね)
雪の中からゆっくりと這い出して来る黒装束の男達、それらを一瞥し、女性はトリアイナを構えた。
女性を半円状に囲む男達は剣、短刀、それぞれの獲物を構え、女性との距離を徐々に縮める。対する女性の方は涼しい顔でトリアイナを手に取ったまま、動かない。
一向に動きを見せない女性に、男達はその包囲網を確実に狭めて行く。既にその距離は5mと離れていない。
男達の中央に立つ女性は、かかってくる気のない男達に溜息を吐いた。槍を軽く回し、刃を地へと向ける。
それに釣られたか、先まで静寂を見せていた男達が、一斉に女性へと飛び掛かる。僅かにあった距離も、瞬時に埋められる。速いわね、と心中で称賛の言葉をかけ、しかし女性は不敵な笑みを浮かべる。

「残念でした、バァカ」

雪原に響き渡った女性の呟きと男達の怒号は、

槍を媒体に召喚された、十数mにも昇る雷の柱に一瞬で呑み込まれた。






「ちょっと何? コイツらアサシンギルドの連中じゃない」

男達の死体を確認し終え、女性は右手首に刻まれた刺繍に顔を渋くする。
逆十字と鴉の刺繍はアサシンギルドの一員の印。その印が、女性を襲撃した男達全員に刻まれていた。
とうとうアサシンギルドまで敵に回したか、と溜息を吐いた女性は、しかし頬をぺちんと叩き、立ち上がる。
まぁなんとかなるでしょ。


パチパチと爆ぜる男達の死体、炎に包まれた死体たちを眺めながら、女性は目を細めながら松明を放る。
更に強くなる炎は男達の身体を焼き、天高く黒煙を立ち昇らせる。
もっと燃えろ、女性は小さく呟く。もっと高く、もっと高く煙よ昇れ。もっと強く、もっと大きく燃盛れ。
男達が灰燼と化し、火の粉の一つも消え去るまで、女性はじっと膝を抱え天を眺めていた。

650白猫:2009/01/16(金) 23:09:53 ID:k3Ot.7r20


白と白に覆われた月下の城下町に女性が足を踏み入れたのは、それから数日後。
入国審査を受ける間、憲兵たちの間に腰を下している妙な雰囲気についてそれとなく聞いてみた。

「忙しそうね、兵士さんたち」
「ん? ああ、大変さ。国のあちこちでクーデターが起こってるもんでね。国家転覆でもするんじゃないかね」
「あら、もしかして入国手続きより出国手続きの方が大変?」
「出国手続き!」

女性の言葉にフンと鼻を鳴らした兵士は、肩をすくめて女性に身分証を返す。

「出国に手続きなんてありゃしない。そこらの国境から亡命者が近隣の国に逃げ出してるさ。あってないようなもんさ」
「へぇ」

想像以上にややこしいことになっているのね、と呟いた女性は、街灯に照らされた町の情景に目を移す。
国中で争いが起きているとは思えないほどの静寂さ。雪が音を吸収することもあって、女性には微かな衣擦れの音しか聞こえない。
身分証をポチェットに突っ込んだ女性は、町の中央に建つ、巨大な城塞を眺める。これから、自分が落とす城を。

「ちょっとガタイが良すぎるかしら。もうちょっとエスコートし甲斐のある男性がいいわねぇ」

ボヤきながらも女性は、燦然と煌く瞳を城塞から離さない。
難攻不落の城塞と謳われたのも昔の話か。度重なる戦の末、数年前にこの城は落ちた。
落ちた、だけで終われば良かった。だがそうもいかない、この城を握る男は――この国の重要な地位を占めるあの男は、必ず難攻不落神話を再来させるだろう。
(だからこそ、落とす……やれやれ、今度こそ私死んじゃうかも)
民家を跳び、市場を過ぎ、教会を超え、墓場を抜け。
月もない暗闇の中女性は音も無く、あまりにも呆気無く難攻不落の要塞、その一角に足を付けた。

「分厚い城壁ねぇ……1mくらいはあるのかしら」

今女性の立つ、城塞をぐるりと囲う城壁。高さ5m厚さ1mの城壁が、大凡300m四方に渡っていた。
城壁だけではない。その手前にあった堀(女性は一跳びで越えたが)は3mほどの幅がある。しかも、それが城塞に辿り着くまでにもう1セット存在した。
税金と労働力の無駄遣いだわ、と吐き捨てた女性は、もう一対あった堀と城壁を軽く跳び越える。白く彩られた中庭に着地した女性は、改めて城塞を見渡した。
(城内に見張りはなし、と……やっぱり[黒蓑]ってステキね)
実のところ、城壁を飛び越える際に女性は十数人の見張りを確認していた。外側にのみ配置された射手。恐らく侵入者は即座に射殺す命令でも出されているのだろう。物騒極まりない。
自分の故郷ではこんな防備を敷く意味すらない。皆が皆、気の赴くままに好き勝手に暮らしていた、そういう町だ。そこには秩序も無ければ縛るものも存在しない。皆が皆を思いやる心、それだけあれば十分だったというのに。なんだこれは。
(そういえばカチュアに「アンタは頭領としての意識が足りない」って散々怒鳴られたっけ)
赤髪、そばかすの少女のことを思い出して、女性は少しだけ苦笑する。あの頃は本当に馬鹿ばかりやっていた。仕事と娯楽の比率が1と9ほどであっただろう。
いつもアズセットと一緒になって狩りに出かけたり、賭博で八百長をして遊びに遊びまくっていた。そうしていると、いつの間にかどこからともなく現れたカチュアに説教を食らっているんだ。
暮らす場所が故郷から戦場になっても、そんな関係は変わらなかった。
アズセットが道を強引に開いて、自分が相手を一掃する。残った敵はカチュアが片付ける。
そして終われば、いつもの馬鹿騒ぎ。何も変わらない。変わらない筈だった。疑うことすらしなかった。

変えたのは、一人の男だった。
煉獄にも見紛う炎と炎の怒涛、黒い装甲に身を纏う騎馬兵の通る後には、何も残らない。
最強。そんな馬鹿げた二文字すら浮かんだ。此方の剣は騎馬兵一人傷つけることも敵わず砕け、相手の槍に数々の仲間が、戦友が屠られていった。


そしていつの間にか、自分は一人になったんだ。

651白猫:2009/01/16(金) 23:10:15 ID:k3Ot.7r20

黒装束で身を包んだ女性に、兵士は誰ひとり気付かない。
すぐ傍を通り過ぎても、息も触れ合うほどの距離に近付いても、体をぶつけ悪態をついても、誰ひとり気付くことはない。
女性の纏う蓑は、全ての者から彼女と言う存在を消し去っていた。彼女はここにあってここにない。例え体が触れ合っても、相手は脇見をして柱にぶつかった、程度にしか思わない。
(あの男は、強い)
螺旋階段をゆったりとした歩調で上り、女性は槍を握る。長き時を共に過ごした自慢の槍であり、自分の兄の遺した唯一の品でもある。
(少なくとも、あの時は私よりも強かった)
古き記憶を思い起こし、左腕の古傷を、槍を持った右腕で擦る。痛みはない。ただ、疼いているだけ。
(私は、弱い)
螺旋階段が途切れ、古めかしい扉が女性の前に現れた。数年前"女性が"使っていた部屋であり、今"あの男"が使っている部屋だ。
(少なくとも、あの時は私は弱かった)
扉の前に立ち、ドアノブに手をかける。あの時と変わらない、懐かしい感触に自然と女性の頬が緩んだ。
(でも)
ギィ、と小さく音を立て、扉が開く。扉の奥にはやはり、小さなベッドと洋箪笥、嵌め込みの天窓しかない。あの日と何一つ変わらない光景。
(今は違う)
そして、その小さな部屋の奥、椅子に胡坐をかいて座る男へと目が行く。黒い長髪に紅色の瞳、左半身を覆う(今は顔しか見えないが)薄気味悪い刺青。
(私は強くなり、あの男の力を削いだ)
その姿に燃え上がる黒炎を想像した女性は、しかし不敵な笑みを浮かべるに留まった。男の半身とも言えるあの騎馬兵たちは、もう一人も残ってはいない。
全て自分が、斬捨てた。
(今、あの男が強いとは――思わない)




「椅子の上で胡坐は行儀が悪いわね、アーク」
「人の部屋に入る時はノックをするもんだ、レティア」

打てば響くように、女性の言葉に男――アークが悪態をついた。
嫌そうな声色を隠しもしないその態度に女性――レティアは苦笑するが、しかし自分が招かれざる客であるという認識はしている。
(私に感情を見せるようになったのは、私を対等と認めたから、なのかしらね)
思う間に、男は椅子の上で立ち上がり剣を手に取っていた。レティアの方も、何時攻撃されても対応できるよう槍を構える。初撃で戦局はまず動かない。
やっぱりコイツを外におびき寄せるべきだった。そうレティアは小さく後悔した。

「そこの箪笥、結構お気に入りだったのよ」

レティアの言葉に、アークは全身から黒と黒の巨大な爆炎を生み出すことで答えた。

652白猫:2009/01/16(金) 23:10:35 ID:k3Ot.7r20

ガリッ、と登山靴が雪を噛む音が辺りに響き渡る。否、雪ではない。彼女の足元には雪ではなく、月明かりを反射する半透明の結晶――氷の床で覆われていた。
レティアの目の前にゆっくりと降り立ったアークは、右手に携える片刃の剣をレティアへと向ける。氷の結晶で覆われるレティアとは対照的に、彼の周辺からは白い煙が立ち昇っていた。
煙、ではない。そうレティアは理解している。アレは水蒸気だ。見れば分かる――アークの周りの雪が、瞬く間に蒸発しているのだ。
化の繰る黒煙は、そこらの魔術とは次元が違う。何もかもを呑み込み、跡には煤も残らない。彼女の沢山の戦友たちを殺し、自らを蝕んだのだ。あの術は嫌と言うほど理解している。
(本当に狡い奴……遠くから攻撃されてもあの炎に焼き尽くされて、いざ接近してもの炎に焼き尽くされて、あいつの攻撃を防御しても回避しても焼き尽くされて――全部焼き尽くされるじゃない)
なんだか可笑しくなって、レティアは今日何度目かの笑みを浮かべた。"ファウンテンバリア"を解いて、レティアは地面を踏んだ。

「残念だけど、今日は斬り合いに来たのよアーク。毎度毎度氷と炎のぶつけ合いじゃ飽き飽きするでしょ?」
「……――へえ」

レティアが自身の鉄壁の守り[ファウンテンバリア]を解いたのを見、アークは面白そうに笑う。
彼女のバリアは、そこらのウィザードとは格が違う。あの氷の世界には自分の炎すらも「凍る」。
もちろん、こちらがそれなりの威力を持たせた術を放てばあの力は霧散する。だが、自分の思うように進められない戦いに苛立たせられることもあった。
だが――今日はそのバリアを使わない。つまり、本当に、
(この[煉獄鬼]と斬り合うつもりということか?)
その推論に達した瞬間、彼を包む黒炎――[ファイアーエンチャント]が消え去った。腰から二本目の剣を抜き、彼独特の高い姿勢を取り、止まる。
まさか本当に誘いに乗るとは思っていなかったレティアは一瞬呆気に取られたが、しかしすぐに満面の笑みを浮かべる。流石はアークね、と呟いて。

「それじゃあ――行くわよ」
「来い」


一瞬の、静寂。
雪が再び二人を包み、辺りの音を拭い去っていく。
そして、互いの言葉の余韻が消え去る暇さえ惜しいかのように、二人は動いた。




「煉獄の炎に焼き砕かれて朽ちるがいい、[吹雪姫]!!」
「貴方を永の氷河期に閉じ込めてあげる、[煉獄鬼]!!」

---

653白猫:2009/01/16(金) 23:26:06 ID:k3Ot.7r20
お久しぶり、白猫です。あけおめ!←
年が明けて早二週間、ここ最近はめっきり寒くなりましたねぇ。土日を境にまた暖かくなるそうですが、参ったものです。

さて、今回も短編話。本当はクリスマスSSだったのですが、間に合わなくてヤケになってバトルものに変えたら失敗しました。てへ☆
短編なのでジャンルなんてなくていいんです、ジャンルなんて飾りです。なすびのヘタみたいなものです、たぶん。
最近バトルものを書いていない……いや一作書いたかな? とりあえず書き足りていないので伸び悩み。三作同時進行は私には無理でした。まる。

>FATさん
お久しぶりです! とある友人と一緒にFATさん復活を騒がせていただきました!
ミニペットは便利ですけど酷使するとすねちゃいます。適度にあそんであげましょう。
最近作品の投稿の方が御無沙汰なので、FATさんを始め皆様にもがんばってもらわないとね!!←

>蟻人形さん
ミニペット話は前々からククルが影の主人公だと疑いませんでした。いつかククルでSSを書いてみせます。
蟻人形さんの小説の方も時々拝見させてもらっています、ギルド戦ってのはやっぱり燃えますね、こう、ギラギラと!
私はしゃいんさんではありませんのでミニペットは無理強いしないんだぜ!

>◇68hJrjtYさん
これまた間が随分と空きました、どうも、白猫です。ご無沙汰してます。
実のところ、ミニペ話でSSのストックが尽きたので書きためなるものに挑戦したはいいものの撃沈、
なんてことを数回繰り返していました。よくあることだと思います、はい。
パペットの方ではみんながみんな大好きキャラなので、きっと細々と続けていくのかもしれません。
この短編もPuppetのサイドストーリーちっくなものですし……短編一本で読める、よね? うん。
---
wiki編集はなんとかぽつぽつこなしてたりします(まだ二回)。
だけどタイトルの編集をミスると再編集できないという罠\(^o^)/
気が向いたらちょくちょくwikiを見てやってください。ちょくちょく更新しようかとはもくろんでいます。


それでは、今回はこのあたりで。
白猫の提供でお送りしました!

654◇68hJrjtY:2009/01/17(土) 16:49:51 ID:N.pdTvYc0
>白猫さん
お久しぶりです、そしてあけおめです♪
パペットのサイドストーリー!?と思って読み返してみればなるほど、雰囲気は同じものですね。
パペットの長編物語からいろいろな短編が枝分かれすると思うと今後が楽しみ&パペット後日談ワクテカ。
前回ハロウィン小話がギャグチックだったので今回のシリアス短編は余計に真剣味を持って読めました。
RSスキルを扱ってのバトル描写、もう白猫さんにかかれば自由自在ですね(笑)
---
Wiki編集ありがとうございます<(_ _)>
PCがクラッシュしてからというもの放置の限りを尽くしていますが無論ブクマには登録してあります!(何
なるほど、とりあえず後で様子見がてら修正できそうな部分探してみますねー。

655FAT:2009/01/24(土) 13:35:28 ID:07LLjSJI0
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562
―光選― 七冊目1>>599-600、2>>601、3>>609-610、4>>611-612

―5―

 ぴちょん、ぴちょん、ぽちょんと水滴の弾ける音が幾重にも重なって洞窟の屈曲した空
間内を響き合う。鍾乳石から垂れてくる滴と天井から垂れてくる滴とでは奏でる音の高低
が違う。水面に落ちるか、地面や石筍に落ちるかでも音は繊細に変わる。その音の一つ一
つがメロディーのように聞こえてソシアは歌いだす。
「やさしくしあわせなうた〜な〜のよ〜♪ まほうはお〜もい〜〜やさしいお〜もい〜♪ 
ししょうはやさしくこころはみ〜ちる〜♪ やさしいなみだはとものため〜♪」
 空気が感動に震えるような美しい歌声に乗せた優しいメロディーと詩がレルロンドの心
を打つ。ラスもまた、らしくなく胸に熱いものを感じていた。
「ありがとうソシアさん、素敵な歌ですね」
 レルロンドは感動のあまりソシアの手を握っていた。しなやかな温もりがあった。
「こ、こちらこそ、感動して、ど、どうしてもこの感動を歌で表現したくなって」
「おい、いいぞ。もっと歌っててくれ」
 ラスはまたウェスタンハットを深く被りなおした。しかしそれはその奥に光るものを隠
すための照れ隠しだったのかも知れない。

656FAT:2009/01/24(土) 13:36:19 ID:07LLjSJI0
 ソシアはまた優しい歌を歌いだした。自然とレルロンドはランクーイに想いを馳せた。
「師匠、一つ、気にかかることがあるのですが」
「なんだ?」
 レルロンドは少し赤くなった目でラスを見た。
「ランクーイのことなのですが、僕が一緒にいたとき、ランクーイは強い魔法剣士になり
たいと言って魔法を使っていました。ですが、先ほどの僕のように暴走はしなかった。な
ぜなんでしょう?」
 ラスは余裕の表情で答える。
「あいつはまだそこまでのレベルに達していなかったからだ。わかるか? あいつの全魔
力を集めたって自分自身を焼き殺すほどの力はなかったってことだ。あいつが死ぬ直前に
放った魔法の威力は知ってるよな? あれくらいのレベルになると欲望は身を滅ぼす力に
なる。お前はその時点でのランクーイの力を受け継いだ。だから暴走したんだ」
「なるほど」
 レルロンドはランクーイのあのがむしゃらな魔法に対する熱意を思い出した。強くなり
たい、その一心でランクーイは魔法を学んでいた。はたして欲望を捨てろ、と言われすぐ
にそうできただろうか。十何年も抱き続けた想いを、捨てられるだろうか。
 レルロンドは欲望に身を任せること、それこそが子供の象徴のような気がした。欲望を
抑え、他人のことを想うこと、それこそが強さであり、それこそが大人と呼ぶにふさわし
い条件なのだと思った。そんな思考に頭が向いたのは心地よく奏でられているソシアの歌
の影響もあったかも知れない。
「さあ、そろそろ行くか」
 ソシアの優しい歌を堪能し、三人は歩き出した。ラスはレルロンドに実戦を経験させよ
うと生き物を探す。しかし、中々見つからない。
「カニさん、い、いませんねえ」
「ここは昔人気のあった狩場だからな。そのときにだいぶ数が減ったんだろう。なに、も
っと地下に行けばいくらでもいるはずだ」
「はい、期待してます、師匠っ!」
 レルロンドは藪森でのランクーイの気持ちが分かった気がした。ラスに認めてもらえる
ことが、気をつかってもらえることがこんなにも嬉しいなんて。信頼しているからこその
喜び。レルロンドはこの関係がずっと続きますようにと胸のうちで祈った。

657FAT:2009/01/24(土) 13:36:58 ID:07LLjSJI0

―6―

 地下へと何階くらい下っただろうか。過去の乱獲の影響なのか、それとも他の原因があ
るのか、生き物は一匹も見当たらない。ラスの表情からも余裕が消えていた。
「ながく〜くらいどうくつ〜♪ みずはいのち〜はぐくむみなもと〜♪ ひかりなきどう
くつ〜♪ みずをもとめるものもなし〜♪」
 ソシアの歌もトーンが落ち、暗くなってきた。しけたラスとレルロンドの雰囲気に嫌気
がさしたのか、ソシアは歌うのをやめた。
「はぁ、カニさん、い、いませんね」
「これは異常なのではないですか? 冒険者たちの乱獲というだけでは説明がつかない。
何か他の原因があるのでは?」
 レルロンドはラスの表情を伺う。真っ直ぐと前を向き、無反応だ。
「ど、どうしてでしょうか。こ、こまりましたね」
 ソシアは反応のない二人に飽き、辺りをきょろきょろと見始めた。
「あっ、お、お宝!」
 ソシアはたっと駆け出すと、躊躇なく宝箱に触れた。
「おいっ! 待て!」
 ラスの警告は虚しくもソシアが宝箱に触れた後だった。宝箱から不思議な力が開放され、
一閃、洞窟内に光が満ちたかと思うと、もう、ソシアの全身は痺れていた。
「はれれれれれれれ」
「馬鹿野郎! こういうとこの宝箱はたいてい罠がかかってるんだ。特別な訓練を受けた
もの以外はそうやって罰が当たるぞ」
「ごめんなはひいいいいいい」
 痺れというよりも痙攣に近い。ソシアの全身は上下に小刻みに震えている。それがラス
とレルロンドに再びソシアの胸を意識させた。
「た、たすけてくだしいいいいいいいいいい」
 レルロンドは胸に意識を集中させながら、手探りでバッグの中から数種類の解毒剤を調
合した強力な解毒剤を取り出し、震えるソシアの口に押し流した。おふ、おっふとむせた
ものの、体を支配していた痺れは徐々に和らぎ、ソシアはとすんと尻をついた。
「おおっ!」
 どちらが声を漏らしたのか、いや、二人同時に漏らしたのか。ラスとレルロンドは無防
備に開かれた脚の、その短いスカートの奥に釘付けになった。
「たっ、たすかりましたぁ〜。ありがとうございます」
 無頓着なソシアはそんな男たちの視線を気にすることなく、ただただ麻痺から開放され
たことを喜んだ。そしてすっくと立ち上がると、男たちはとても残念そうな顔をした。
「きっをつっけろ〜♪ おいしいおったかっらじっつはわな〜♪ びりびりしびれておっ
ちっち〜♪ わたしはしびれておっちっち〜♪」
 おかしな歌がまた、二人を元気にさせる。いや、ソシアの魅力はその歌声だけに留まら
ず、あれやそれも、全てが若い二人の元気の源となった。
「なんかもう、ずっとこうしてさまよい歩いていてもいい気分です」
「ああ、こういうのもいいもんだな」
 師匠と弟子は男の性によって絆を深めた。ランクーイのことはもちろんだが、このソシ
アとの出会いは二人の絆をより一層強く、結びつけた。
 ランクーイにばかり夢中でレルロンドを無視しがちだったラス。ラスに相手にされない
ことを不服に思っていたレルロンド。少し間違えば不仲になってしまいそうだった関係が、
今は師弟愛で固く結ばれている。少し不純な絆かも知れないが……。
 とにかく、二人の師匠と弟子という間柄は間違いなく成長している。同じものを見、同
じものに触れ、同じものに興奮する。気持ちの共有が二人の成長を助長し、互いの距離感
を無くす。それだけでもソシアの存在の意義はとても大きなものだった。
「た、たのしくいきましょお」
 ソシアは二人に笑いかけた。二人も、ソシアに笑顔を返した。その笑顔はどこか似てい
て、優しくソシアを照らした。

658FAT:2009/01/24(土) 13:37:45 ID:07LLjSJI0

―7―

「よし、レルロンド、いまからこいつをエンチャットする。お前は何を使ってもいい。こ
いつを倒してみせろ」
 ラスはようやく見つけたカニの甲羅を両手で押さえ、レルロンドに真顔で説明する。そ
の表情からは師としての威厳を感じる。
「はい。師匠の教えを守り、必ず倒してみせます」
 カニは甲羅を押さえられ、カシャカシャとハサミを鳴らすもラスには届かない。ラスは
甲羅に当てた手に意識を集中させ、ゆっくりと、壊れてしまわないように魔力をその体内
に送り込む。カニは与えられた力によって目覚め、口から吹き出す泡が青く輝いた。
「開始だ。ソシア、俺と共にここで見ていろ」
「は、はひっ!」
 ラスはカニを突き飛ばすとソシアの手をとり離れた場所に避難し、ソシアにとばっちり
がいかないように、薄い防御魔法の膜を張った。空間が少し歪んで見える。
「いくぞ、ランクーイ」
 レルロンドは優しく体内のランクーイに呼びかける。ぼうっと両手を温かな火が包み、
拳を握りしめる。
 先に攻撃を仕掛けたのはカニだった。ぶくぶくと泡を吹く口から、魔力を伴った冷水を
水鉄砲のように鋭く飛ばした。レルロンドは素早く横に跳ねると凍りつく石筍を横目に矢
を一本軽く放った。緩やかな弧を描く矢はカニの吹き出している泡に触れると凍りつき、
カチリと落ちた。
「なるほど、その泡が防護壁の役割を担っているんですね。なら、やはり狙うは無防備な
背面か」
 レルロンドは動きのとろいカニの背後に回ろうとした。しかし、ラスの魔力の影響か、
カニは機敏にサイドウォークし、レルロンドの正面から体当たりした。
「うはぁ!」
 予想外の動きにレルロンドは腹部を強打し、転がりつつも痛みに耐え、カニの正面に戻
った。カニの全身から魔力が溢れているのか、レルロンドの服が衝撃の瞬間のまま凍り付
いている。

659FAT:2009/01/24(土) 13:38:48 ID:07LLjSJI0
「くっ、ランクーイ!」
 レルロンドは体内から炎を捻出し、凍りついた服を融かす。カニは余裕からなのか、ハ
サミをカシンカシンと鳴らした。しかし、そんな安い挑発には乗らない。レルロンドは冷
静だ。ラスはそこにランクーイとレルロンドの差を見た。
 レルロンドは落ち着いて矢を一本、弓にあてがった。そして、矢に炎を纏い、力強く弓
をしならせ、放った。燃え盛る炎はカニのあぶくを打ち消し、矢が柔らかな口に突き刺さ
るだろう。そう期待したがカニはハサミを器用に動かすと矢を挟み、へし折った。カニは
力に酔いしれているようにハサミをカッチンカッチンといやらしく鳴らした。しかし、レ
ルロンドの表情にはまだ余裕があった。
「あいつ、試してやがる」
「え?」
 ラスはレルロンドの戦い方に感心した。ランクーイのようにただがむしゃらに相手を倒
すことを第一に考えるのではなく、今の自分がどれほどなのか、どんなことができるのか
を研究し、分析している。そもそもラスはレルロンドの戦闘能力の高さを評価していた。
それ故にランクーイとレルロンドの同伴を認めたと言ってもよい。ただ、ランクーイの性
格や求めているものにラスは惹かれ、ランクーイに夢中になっていただけであって、けっ
してレルロンドを評価していないということはなかった。
 レルロンドは次の手を実行する。矢に爆薬入りの小袋を括りつけ、放った。当然のよう
に小袋は矢ごとカニのあぶくで凍りつき、爆発は起こらない。……はずだった。レルロン
ドは凍りついた小袋を見て嬉しそうな笑みを見せた。あらかじめ小袋の中に忍ばせておい
た火の魔力が爆薬を刺激し、凍りついた袋ごと爆ぜる。カニの周囲は煙に巻かれて何も見
えない。煙が晴れたときにはレルロンドは足を炎で守りながら、カニの甲羅を踏みつけて
いた。口を地面で塞がれ、ハサミもレルロンドには届かない。レルロンドの完全勝利だ。
「師匠、倒してみせました!」
 レルロンドは自信に満ちた顔でラスに報告する。しかし、ラスの口からは予想外の厳し
い言葉が返ってきた。
「甘い、甘すぎる。相手が魔法を使えると知っていて、なぜそれで勝利したと言える。魔
法は目に見える想い。上級の魔法使いならば全身どこからでも魔力を放出することは可能。
ただ押さえつけたからと言ってそれでは勝利とは言えないな。相手が魔法を使うものなら、
殺すか、自身の魔力で相手を支配し、結解を張れ。でなければ勝利とは呼べん」
 レルロンドは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。魔法は目に見える想い。レルロ
ンドは今、足から炎を出している。同じように、このカニも甲羅からなんらかの魔法を出
してくる可能性がある。魔力を持つものとの戦いは、正に生きるか死ぬかのどちらかしか
ないのだ。

660FAT:2009/01/24(土) 13:39:25 ID:07LLjSJI0
「わかりました、師匠。僕は勝利してみせます」
 レルロンドは心を鬼にし、弓の下端についた刃をカニの甲羅と口の間に挿し込んだ。そ
して、その先端に熱を持たせ、内側から燃やした。
「わはー、いい匂いー」
 香ばしいカニの焼けた匂いが洞窟に広がる。レルロンドは食欲を見せるソシアとは反対
に、戦いの厳しさを再認識されたことで穏やかだった心が少し、強張った。
「ま、そんなに気にすんなよ。全身どっからでも魔力を出せる奴なんてそうそういない。
仮にいたとしたら今のお前じゃ太刀打ちできない。ただそういう奴も存在しているってこ
とを知っておいてもらいたかっただけだ。さあ、カニでも食って一休みしようぜ。お前は
飲み込みがいい。成長が早そうだからこれからが楽しみだぜ」
 レルロンドは自分の気持ちをすぐに察して気遣ってくれるラスの優しさに感動した。同
時に、自分の成長を期待してくれているという事実もレルロンドにとってはこの上ない喜
びであった。
「では、僕が身をとりましょう」
 レルロンドは少し照れくさい笑顔を隠しながらカニの甲羅を剥ごうとした。しかし、堅
固なカニの甲羅の前に歯が立たない。
「どけよ、俺がとってやるぜ」
 ラスは乱暴な言葉遣いとは裏腹に、優しくレルロンドをカニから引き離すと、背負った
大きな剣でスパスパッとカニを切り裂いた。
「わはー、い、いっぱい、身がはいってる!」
 ぎっしりと詰まった身にソシアは興奮した。レルロンドはラスの剣さばきに尊敬の眼差
しを向けている。
「いい熱の入り方だ。ムラがなく、脚の先まで均一に火が通っている。レルロンド、お前、
いいコックになれるぞ」
 珍しく、本当に珍しくラスが冗談を言った。レルロンドはラスの変わりように、いや、
角の丸くなりように心を躍らせた。冗談を言えるほどの余裕がラスの心の中に出来ている。
それは、エイミーによって与えられたあの水晶の魔力ではなく、ラス自身の成長によるも
のだとレルロンドは確信した。自覚していないのか、ラスはおいしそうにカニの身をほお
張っている。
「どうした? 食べないのか」
「お、おいしーですよ。食べましょお」
「あ、ええ、いただきます」
 ラスはレルロンドにカニの身を差し出した。それをレルロンドはありがたく受け取った。
ラスは当たり前のように手を差し出したが、それも成長の証。ラスは気付かなくともレル
ロンドは気付いた。そして少し大人になったラスを尊敬の眼差しで嬉しそうに見つめた。
ラスはそんなレルロンドの瞳のわけを理解できず、じっと見つめてくるレルロンドがもっ
とカニの身を催促しているものだと思い、もう一筋差し出した。
「れ、レルロンドさんっ、お、おいしーですね」
「ええ、おいしーです」
 言って、レルロンドの目からはなぜか涙が溢れた。
「おいおい、泣くほどうめーかよ」
「れ、レルロンドさんは美食家なのですねっ」
 笑いながら、レルロンドの頬を涙が流れ落ちた。涙のわけをラスが理解することは出来
なかったが、間違いなく、その涙はラスの成長によるものだった。

661FAT:2009/01/24(土) 13:40:31 ID:07LLjSJI0
皆様こんにちは。最近体を動かすことにはまってます。やはり適度な運動は必要ですね。

>>◇68hJrjtYさん
いつも感想いただきありがとうございます。
赤鼻の話とネクロの話を書いて思ったことはやっぱり短編っていいなぁってことですかね。
ほぼその日の気分次第で話のトーンが変わってくるので一日違うだけでこんな風に作風が
がらりと変わってきます。
また本編の合間に短編を書いていきたいと思います。

>>蟻人形さん
少女の期待が崩落していく様を想像すると背筋が凍るような恐怖を感じました。
でもギルド側の作戦もまだほんの一部すら実行されていないようなので、今後の少女の表
情の変化が楽しみです。
少女の従者、アドラーも興味深い存在ですね。この特異な追放天使が少女とギルドにど
のような影響を及ぼしていくのか、続きを期待しております。

>>柚子さん
流れるような戦闘シーンの連続、楽しませていただきました。
白い仮面の子供たち……両ギルドの精鋭達でも苦戦するほどの力、こんなものが大量に召
喚(?)されたらひとたまりもありませんね。フロストクエイクのようなオリジナル魔法
もより白い仮面の子供たちの特殊さを引き立てていて痺れました。
イリーナを意識しているようにも見えるソロウ。ミシェリー以外にも二人を結ぶものがあ
るのかなんて色々想像しちゃいます。
続きを楽しみにしております。

>> 白猫さん
お久しぶりです!!
氷を駆使するレティアと炎を駆使するアーク。対照的な二人の因縁は根が深いのですね。
ちょうどいいところで終わってしまったので続きが気になります。あ、でも短編だからこ
れで終わりなのでしょうか。
長編でも短編でも、これからも白猫さんのSSに期待しております。

662◇68hJrjtY:2009/01/24(土) 17:08:57 ID:N.pdTvYc0
>FATさん
続きありがとうございます♪毎回楽しみにしていますよ!
レルロンドの修行…なのですが、なんだか楽しい冒険物語チックでほんわか読めました。
ソシアのイケイケっぷり(死語)もそこまで「えろぃ!」と感じない不思議。
むしろソシアのお陰で二人の距離感が縮まったことのほうが嬉しいです。いいトリオだなぁ(笑)
ひとつずつ、しかし確かな足取りで成長する師弟。つい、もっとこの雰囲気を堪能したくなってしまいますね。
続きお待ちしています。

663名無しさん:2009/01/28(水) 17:56:01 ID:WrGT.WaE0
てすと

664防災頭巾★:削除
削除

665防災頭巾★:削除
削除

666防災頭巾★:削除
削除

667防災頭巾★:削除
削除

668K:2009/01/31(土) 04:39:40 ID:o10ct1CA0
 ずっと憎しみばかりだった。
 攻撃するならばやりかえし、命つきるまで戦うものだと、思っていた。
 すさまじく熱い炎の固まりと共に殴られ、最初の昇天をかますまでは。


1れべる

すごくあたまがいたいです。
隣でお姉さんがなでなでしてくれます。
ぼく、さっき一回なんか死んだ気がします。
けげんそうにお姉さんを見上げると、お姉さんはぼくを笛でこつんと殴りました。
痛くはなかったです。よろしくってことらしいです。
「コボくん、今日からあなたは私のペットだからね」

新しく名前を貰いました。


8れべる

ご主人さまがコボルト秘密にいきました。
なんかご主人さまの足下に炎があるので、慌てて後ろ足でけりけり、砂をかけて消そうとしました。
「ちょ、こら、めっ!」

怒られてしまいました。


14れべる

ご主人さまと一緒にコボルト秘密をくりあしました。
ぼくはご主人さまに攻撃しなさいっていわれたんだけど、誰を攻撃して良いのかわからなくてぐるぐるしてしまいました。
ぼくより先にご主人さまは撲殺していました。
ご主人さまはちょっとこわいです。

でも、ちゃんと役にたてないぼくも情けないです。



15れべる

あじとB3へ行こう!とご主人さまが言い出しました。
ぼくは途中のもんすたーが怖いのでやめたほうがいいんじゃないかなとおもいました。
ご主人さまはぼくの様子はまったくむししてB3にいきます。

2人して殺されて帰ってきました。
ぼく、5回くらいしんだ…。



21れべる

ご主人さまが洋服をとどけにいくそうなので、ついていきました。
そらとぶじゅうたんはきもちよくって、ご主人さまは鼻歌を歌っています。
ピクニックみたいでわくわくしました。

音程がはずれていることは気にしてはいけないとおもいます。



33れべる

 アウグスタうえの吸血鬼のおじさんとたたかいました。
 いたいいたいいたいいたい。
 ご主人さまが赤いお薬をのませてくれました。
 おいしくておなかいっぱいです。
「さあ、もっかい行ってらっしゃい!」

 いたいいたいいたいいたい。

669K:2009/01/31(土) 04:44:58 ID:o10ct1CA0
41れべる

もういちどあじとB3にいきました。
ご主人さまのお友達のお姫様が手伝ってくれました。
白い綺麗なドレスをひるがえして、爆弾をなげています。

可愛くてかっこいいけど、お姫様で爆弾ってどういうことか気になってしかたありません。
 鞄から液体窒素がちらりと見えるのでつっこむのはやめようと思いました。 
 ぼくはすることがないようで、ご主人さまとお姫様のお話を聞いていたら眠くなってしまいました。
「だいぶレベルがあがったね!」
「うん、53まで待ち遠しいよ〜!」

 うつらうつらしながらきいていましたが、ご主人さまが嬉しそうだとなんだかぼくも嬉しいです。


43れべる

 とおりがかった長髪のおにいさんがぼくに羽と炎をくれました。
 炎は槍の先にくっついて、一撃で吸血鬼のおじさんをたおします。
 はやいはやい!つよいつよい!
 ご主人さまがおにいさんにお礼をいって、ぼくに攻撃命令をだします。

 …でもやっぱりぐるぐるしちゃいました。

 ぼくがもっともっとはやくて、なにからもご主人さまを守れるようになればいいのに。
「ぽめ〜^^」
 ご主人さまの笑顔が、ぼく大好きなの。


46れべる

 ご主人さまが「絶対死ぬと思うけど」と言いつつぼくににっこりわらいかけた。
 よくわからないけど笑っているご主人さまは大好き。

「ちょっとハノブ高台望楼いってみよっか! ネクロクエしてみる!」
 無謀なことが大好きなご主人さまだよねって前お姫様がいってた気がする。

 絶対って絶対起こるから絶対って言うんだよね。


46れべる

 ご主人さまのお友達のお姫様と、都を西にちょっとでたところでばったり会ったのでおしゃべりした。
たたかわないでのんびりしてると、ぼくねむくなっちゃう。
「あと4レベルくらい? ファミテイム手伝うよ〜^^」
「ありがとう! でも病気のコボルトも使ってるとやっぱり愛着わくよね〜。ちっこくて、可愛くて」
「ダメだよ、ファミかエルフじゃないとダメ低いじゃん!」
「そうだよねー…やっぱだめだよね」

 ご主人さまはぼくをそっとなでてくれました。
 ぼくは半分眠りながらその手に頬をすり寄せました。

670◇68hJrjtY:2009/02/01(日) 03:27:06 ID:N.pdTvYc0
>Kさん
(´;ω;`)ウッ…。無邪気な文章なのが余計に悲しさをさそいます。こんばんわ68hです。
多くのテイマが踏襲してきたであろう病気コボ→ファミorエルフへの変更。
ゲーム内では何事もなかったかのように新しいペットにわくわくしてしまいがちですが…。
でも、今までのペットたちはどこかの空で応援してくれてるとか思いながら涙を飲んでます。
しかし病気コボでネクロクエとはっ…!このテイマちゃん、強くなりますね。うん。
またの投稿お待ちしています。

671FAT:2009/02/08(日) 20:40:57 ID:f79bllg60
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562
―光選― 七冊目1>>599-600、2>>601、3>>609-610、4>>611-612、5>>655-656、6>>657
>>658-660

―8―

 光の届かないキャンサー気孔。しかし、その孔内は淡く明るい。レルロンドはいまさら
ながらに疑問を持った。
「師匠、なぜここはこんなに明るいのですか? 光の届かない洞窟なのに」
「そ、そういえば、不思議ですね」
 ラスは足を止めると、斜め先の天井を指差した。
「あれを見ろ。光の強いところと弱いところがあるだろう」
 見れば、澄んだ緑色の光が淡濃と天井を彩っている。
「あの光の濃いところの下を見てみろ」
 ラスに言われたとおりにレルロンドとソシアは一番色の濃い光の下方に目線を送った。
「み、湖があります」
 ラスは頷いた。
「そうだ。この湖には特殊な夜光虫が繁殖している。そいつらが発光しているおかげでこ
の気孔は松明がなくても明るく、安心して狩りができる」
「ちょっと待ってください。では、あそこの濃い光はどう説明するんですか?」
 とレルロンドは一点を指差した。確かに、そこは下に水があるわけでもないのに明るい。

672FAT:2009/02/08(日) 20:41:33 ID:f79bllg60
「説明の順序を間違えたな。この特殊な夜光虫はまず、カニなどの生物の体内で繁殖する。
そいつらが死んだときに血や腐った肉に混じって外に出る。だからそこには何かの死体が
あったんだろう。そしてそれはいつの日にか水溜りに集まり、光が生まれる。そこの光が
色濃いということは、まだ死体がなくなって幾日も経っていないということだろうな」
 相変わらずの知識量の豊富さにレルロンドの好奇が疼く。
「でも不思議ですね。この湖を見る限りは光なんて全く感じられないのに、上を見上げれ
ば宝石のようなエメラルドグリーンが輝いてる。なぜ湖は光らないのですか?」
 ラスはすました顔で答える。
「だから特殊な夜光虫なんだ。普通の夜光虫は自身をその場で発光させ、その光は目に見
えるが照らすほどの強さはない。だが、この特殊な夜光虫は岩のような地殻をつくってい
る硬い物質に反応する光を出している。こいつらの出す光は俺たちには見えない。しかし、
岩と反応するとその光は俺たちにも見えるようになり、こうして洞窟全体を照らす、とい
うことだ。わかったか?」
「ら、ラスさん、やっぱりあったまいー」
「はい、たいへん分かりやすい説明、ありがとうございます」
「補足だが、この特殊な夜光虫はここだけでなく様々な場所に生息している。しかし、不
思議とこいつらは地下じゃないと発光できないらしい。あとは寄生できる生物がいないと
ころではやはり繁殖できないようだな」
 レルロンドとソシアはへぇ〜とラスに尊敬の眼差しを送った。たった七年間でよくもこ
れほどの情報を理解できるものだ。
「師匠にお供するのは楽しいですね」
 レルロンドはソシアに笑いかけた。
「ええ、わ、わたし、あ、あたまがわるいのでっ、ラスさんのお話、た、たのしいですっ。
ず、ずっと、お供させてください!」
 ソシアはどもりながら、本人はそんなことなど気にせずにラスを輝いた美しい瞳で見つ
めた。
「へっ、それじゃお前ら、俺と一緒にいたいなら死ぬなよ。それが俺についてくる唯一の
条件だ」
 ラスはソシアの美しい瞳に気付かれないように、照れをウェスタンハットの奥に隠した。
そんなラスに気付かずに、ソシアは喜ぶ。少女のような無邪気さと、整った大人の顔立ち
とのギャップは美しくもあり、まるでこの世の存在とは思えないほどの甘美さを持ってい
る。共にいたいと願っているのはむしろ、レルロンドであり、ラスでもあった。

 三人が絆を温かく深めているのを遠くで、天井から滴る水の音よりも静かに、夜光虫よ
りもひっそりと監視しているものがいた。それは何者かにテレパシーを送り、三人のあと
をつけた。天井から滴る水の音よりも静かに、夜光虫よりもひっそりと。

673FAT:2009/02/08(日) 20:43:13 ID:f79bllg60

―9―

 何の前触れもなく、突然ラスが振り返った。もうこれで五回目だ。夜光虫が照らし出す
その先には、石筍の一つもない。
「師匠、一体どうしたんですか?」
 レルロンドが心配そうにラスの顔を覗き込む。ソシアも両手を胸の前で握り、眉尻を下
げ、不安そうだ。
「お前は感じないのか? いるだろう、俺たちを監視している者が」
「えっ!?」
 レルロンドは驚いて振り返る。しかし、そこには転がっている岩の一つもない。
「いるったって、こんなひらけた所になにかいたら、さすがの僕だって気付きますよ」
「わ、わたしも、きづきませんでした」
 ラスは少し困ったようにウェスタンハットのつばに手をかけた。
「そうだな、俺も気配は感じるものの、そいつがどこにいるのかは特定できない。尾行の
うまいやつだ」
「こ、こまりましたね」
「なら、僕が囮になりましょうか?」
 レルロンドは何もいない空間を睨む。しかし、その視界はラスの大きな手によって遮ら
れる。
「いや、一人になるのはやめとけ。俺はもうあんなのは嫌なんだ」
 ラスの深い傷を見たレルロンド。
 ランクーイを失って後悔しているのはラスも同じだった。だから、ラスはもう愛する弟
子を一人にはさせない。一人にすることは、責任を放棄することになるのだから。
 レルロンドを失うことを最も恐れているのはラスであり、レルロンドの成長を最も望ん
でいるのもラスである。危険を冒さなければ強くはなれないだろう、しかし、危険を冒せ
ば死は近づいてくるだろう。ラスはそんなぎりぎりの駆け引きをさせつつも、自分だけは
どんなときもレルロンドの傍にいようと心に決めていた。そうすることで近づいてきた死
を、触れさせないようにするのだ。
 ランクーイが教えてくれたこと。弟子は野に放たれれば自力で強くなる。しかし、近づ
いてきた死にたやすく触れてしまう危うさを併せ持っている。もう二度とあんな思いをす
るものか、とラスの心に刻み込んだのは間違いなくランクーイだった。
「はい、すみませんでした」
 ラスの心情を察したレルロンドは野暮な考えを捨てた。
「まあいいさ、どんなやつが襲ってこようと俺が蹴散らしてやる。レルロンド、お前は俺
の指定した相手とだけ戦うことを考えていればいい。背伸びをすると後悔することになる
ぞ」
 後悔することになる。それは、レルロンドに言い聞かせるのと同時に、自分自身へも警
告しているようだった。
「あ、あそこに、ひ、ひとがいるー」
 ソシアの声に二人は前を向いた。すると、遠くに長く黒い髪の女が立っているのが見え
た。女は悪寒のするような青白いワンピース一枚で直立し、じーっと三人を見ている。
「おい、あんたぁ、こんなとこでなにしてんだ?」
 ラスが呼びかけると女は直立姿勢のまま、三人から視線を外すことなく薄闇の中に消え
ていった。

674FAT:2009/02/08(日) 20:43:45 ID:f79bllg60
「おっ、おおおおおばけっ」
 ソシアの顔から血の気がさっと抜け、体が震えだした。
「不気味ですね。先ほどから師匠が感じていたという気配はあの女性のものでしょうか」
 ラスは腕組みをし、静かに女の消えた方を睨んだ。
「いや、違うな。まだ背後から気配を感じる。今のはそいつが見せた幻覚かもしれん」
「僕にはあの女性があちらに誘い込もうとしているように見えましたが、どうします?」
 レルロンドはラスを仰ぎ見る。ラスは少し考えてから腕組みをしたまま、
「まあ、考えても仕方ないか。罠だろうが何だろうが、今の女を追うぞ」とつかつか歩き
出した。
「はいっ!」と威勢の良い返事をし、レルロンドは後に従う。
「ま、まってくださいー! 置いていかないで〜」
 ソシアは恐怖のあまり腰が抜けたのか、体を震わせたまま動けないでいた。
「そんなに恐がんなよ。ほら、いくぞ」
 ラスは少し戻り、ソシアの手を強引に引いた。腰の抜けているソシアは「きゃっ」と小
さく悲鳴をあげ、ラスにもたれかかるように抱きついた。
「おっ、おい」
 甘い香りと柔らかな感触に戸惑うラス。この気孔の入り口で感じたときよりも強く、鮮
明に女を感じた。無意識にまわした腕の中でソシアの震えは徐々に治まり、温もりだけが
全身に伝わった。
「あ、ありがとうございます。ラスさん、あったかいんですね」
 腕の中から自分を見上げているソシアの瞳があまりに魅力的でラスは思わず目を逸らし
てしまう。レルロンドはそんなラスの仕草に「ほう」と気付き、抱き合う二人に柔らかな
笑みがこぼれた。

「あた〜たかな〜うで〜♪ たくま〜しいうで〜♪ わたしをつつむやさしさは〜♪ て
んしのようなあたたかさ〜♪ きっとあなたはてんのひと〜♪」
 歩き出し、妙に熱っぽいラスと嬉しそうなレルロンドにソシアの歌が心地よく響く。レ
ルロンドは歌詞を聴き、また笑みがこぼれた。
 しかしながらラスは、嬉しいはずなのにソシアの歌の歌詞に胸を痛めた。自分は闇の者
なのだと、あの緑髪のエルフがラスの心の奥深くに植えつけた言葉がラスを苦しめた。
 天使のような温かさ。それがあったとしても、天の人には決してなれない。天とは真逆
のところに自分の存在はあるのだとラスは表情を隠した顔の裏で悩み、自分自身を追い込
んでいた。
「やわらかなひ〜とみ〜♪ やすらぎのひ〜とみ〜♪ わたしをつつむやさしさは〜♪ 
てんしのようなやさしさ〜♪ きっとあなたはてんのひと〜♪」
 ソシアは上機嫌に歌い続ける。清らかな歌声が響けば響くほどラスの苦しみは嵩み、ソ
シアの意図に反し、ラスの胸は癒えることなく、ただ諦めに起因する悲しみだけが満ちて
いった。

675FAT:2009/02/08(日) 20:45:05 ID:f79bllg60

―10―

 背後の気配を感じながらも、三人は不気味な女を追った。女は不自然に姿を見せては消
え、姿を見せては消えと何度も繰り返した。
 キャンサー気孔はカニが掘った穴。ここのカニは他の生き物との共生を好む。本来なら
ばトカゲ男やメロウのような長身の魔物が共に生活しているはずだ。トカゲ男たちはカニ
を喰らう。捕食者と共生とはおかしな話のように思えるが、キャンサー気孔に生息してい
るカニにとって、この捕食される瞬間が大切なのだ。
 通常、海辺に生息しているカニは腹の中で孵化した幼生を海に放つ。しかし、ここのカ
ニは幼生を自ら放つことが出来ない。幼生は母体の硬い殻の中でただひたすらに待つので
ある。捕食の瞬間を。
 殻の中で幼生が十分に育った親カニは寄行に走る。捕食者の前に自ら進み出、無抵抗に
捕食を誘うのである。トカゲ男はカニを捕食する際、銛で硬い殻を砕き、身を食す。メロ
ウはハンマーで豪快に叩き潰し、身を食す。このとき、幼生はようやく外の世界に出れる
のである。親の殻の中で十分に育った幼生はすでに親と同じ姿形をしており、すぐに岩の
陰などに逃げ込む。こうして捕食者は食糧を提供してもらい、カニは子孫を増やすという
共生関係がなりたっている。
 この特殊な共生関係がキャンサー気孔をただのカニの巣穴ではなく、人間も入り込める
ほどの巨大な穴にしているのである。メロウが悠々と歩けるほど高い天井、トカゲ男たち
が集団で過ごせるような広い部屋。これらはそれぞれの種が過ごしやすい環境を自ら創り
出した功績である。
 今、三人はそれらの生物が創り上げたとは思えないほど広大な空間の中に立っていた。
上を見上げても夜光虫の光が見えないほど天井は高く、壁は荒々しく削られ、その縁には
砕けた岩が転がっている。削り取られた岩はまだ新しい色合いをしている。風化の度合い
から、まだそれほど時が経っていないことが窺える。
「ひ、ひっろいですねー」
 ソシアは関心したように見上げる。声が幾重にも重なって返ってくる。
「こんな……なんの部屋だ、ここは!」
 ラスはこの巨大な空間に恐怖を感じた。その感覚はあの藪森で不気味な泉を目撃したと
きの驚きに似ていた。
 異世界の臭い。闇。
 ラスはこの気孔の仕組みを知っていた。故に、これほど巨大な空間が存在するというこ
とがカニの生息数の激減という先刻までの疑問の答えだと理解した。
「無駄に広いですね。ここから地上にでも通じているんでしょうか?」
「おしいわね」
 レルロンドの問いに聞きなれない女の答えが返ってくる。それはあの黒い長髪の不気味
な女のものだった。女は長い髪を垂らし、暗闇の中にうつむいて立っていた。
「ここはね、坊や、門なのよ」
 女が近づいてくる。よく見れば、長い髪は波打つような黒のソバージュヘアで肌はペン
キを塗ったような紫がかった青、歩いているはずなのにワンピースからは脚を運ぶ動作が
見えない。まるでお化けのようである。

676FAT:2009/02/08(日) 20:45:43 ID:f79bllg60
「きゃーっきゃーっ! あ、足がないー!」
 ソシアは恐怖に取り乱し、ラスの腕にしがみ付く。
「い、一体あなたは何者なんですか」
 レルロンドは恐怖から額に汗を滲ませている。やはり、霊は恐い。
「ナーマ様だ」
 突如背後に羽のついた目玉のような魔物が現れる。フランデル大陸でも確認されている
短い尾に触角のような二つの目を持つ浮遊性の目玉の魔物だ。
「ナーマ?」
「ナーマ様は我が主。そしてお前らの母となるお方だ」
「およし、フォルダー」
 ナーマがなだめるように言うとフォルダーは黙った。
「私はナーマ。まずはようこそおいでなさいました、とでも言っておきましょうか」
 ナーマは不気味に一人ひとりの顔を爬虫類のような目で見定める。その目をラスは知っ
ているようで寒気がし、なるべくナーマのギョロっとした気味の悪い目を見ないようにし
た。
「私は今、この瞬間を幸福に思うわ。だってそうでしょう、こうしてあなたが餌を引き連
れて私に会いに来てくださったんですもの」
 三人はナーマが何を言っているのか理解できなかった。
「このフォルダーの目、確かにあなた様の望む者と確認致しております」
「そうね。でなきゃ私自らが出向くなんてありえないわ」
 ナーマはそう言うと、ラスに熱く痺れるような視線を送った。
「もういいでしょ? あなたは十分に経験を積んだわ。私と一緒に帰りましょう」
「は?」
 ラスの内側からあの緑髪のエルフの言葉が沸きだす。引き出された不安が目の前のこの
生物に、おそらく大陸では確認されたことがないであろう爬虫類のような眼を持つ女に殺
意を抱かせる。
「まだ自覚してないのかしら? でもあなたの本能は目覚めているはずよ。だって、その
証拠にここに来たじゃない。もう芝居はいいのよ。餌を私に渡して、あなたは門をくぐり
なさい。そうすれば全て分かるわ。あなたは思い出すのよ、あなたの居るべきところ、す
るべきことを」
 ナーマの言葉はラスを不安定にさせた。ラスは不安気にレルロンドを見る。しかし、レ
ルロンドは冷静だった。
「師匠、そんな目をしないで下さい。大丈夫です、僕はあなたの弟子なんですから。ナー
マ、あなたはそうやって僕らをたぶらかすつもりですか? 生憎ですが、僕らの絆はその
程度では壊れませんよ」
 真っ直ぐなレルロンドの思い。レルロンドはラスのことを疑わなかった。その想いに、
ラスは奮起した。
「あのエルフの野郎も、お前も、人のことを何だと思ってやがるんだ! 俺は人間だ! 闇
の者でもなければお化けでもねぇ! 人間だっ!!」
 相手が何も言わぬうちにラスはナーマに斬りかかろうとソシアを振り払おうとした。し
かし、ソシアは全身でラスを引き止める。ラスの特攻はソシアの懸命の制止によって阻止
された。
「ちっ、なにしやがんだ!」
「ラスさん、だ、だめです! まだ、だめです! 相手の姿を良く見てください」
「あら、鋭い娘ね。せっかく一撃で捕らえてあげようと思っていたのに、台無しじゃない」
 とナーマは不気味に笑いながら腰を横に振った。ワンピースの後ろには背丈の何倍もあ
る長い尾が隠れており、尾の一振りは岩を軽々と粉砕した。
「ヘビ女? こんな化け物がこの世に存在していたなんてっ!」
「ナーマ様、どうなさいましょう」
 パタパタと羽ばたくフォルダーは指示を仰ぎつつもすでに獲物に飛び付かんと体を揺ら
していた。
「お前はそこの坊やと娘を殺りな。私はこの子を捕まえるわ。巻き添えを食らわないよう
にうまく立ち回るんだよ」
 ナーマが言い終わるのを待たずにフォルダーはレルロンド目掛けて高速で突っ込んだ。
「ランクーイ!」
 レルロンドが叫ぶと全身から眩いばかりの炎が噴き出し、高速接近してきた敵を巻き込
まんと天高く猛る。フォルダーは急旋回し、上空に退避する。状況がよく飲み込めないま
ま、戦闘は始まった。

677FAT:2009/02/08(日) 20:46:46 ID:f79bllg60
皆様こんばんは。目がしばしばし始めました。もう春ですね。

>>◇68hJrjtYさん
ラスとレルロンドの旅のお供キャラにはお色気ぷんぷんなお姉さまが欲しかったのですが、なんとなく合わ
ない気がして今のソシアのキャラに落ち着きました。
大人のエロスを表現できる方々は神だと思います。

>>Kさん
こんばんは、初めまして。
Kさんの作品を読んで、病気のコボルトをレベル100まで上げたギルメンの勇ましい姿を思い出しました。
テイムされ、徐々に主人との絆を深めていく姿がいたいけで、それだけに最後の二行がぐっときました。
また投稿して下さいね。読ませていただきます!

678◇68hJrjtY:2009/02/09(月) 17:39:25 ID:N.pdTvYc0
>FATさん
投稿ありがとうございます♪
ううむっ、ついに戦闘突入…の前に、いやーラスの博学な事!
特にカニが体内で子供を作り、他の捕食者に襲わせて出産する、のくだりには驚きました。
もちろんFATさん設定である事はわかりますが、やたらと説得力がありますね。もしかして実在動物の生態系がモデルとか…!
お色気姉御は確かに書ける人すごいですよねぇ。でも、ソシアもしっかり色気爆発ですから(*´д`*)
そして他人レスながら病気コボLv100に驚愕しております、すげぇぇっ。
ナーマと名乗る怪しい女性との戦い、ラスはまたも闇の者と烙印されてしまいましたが…続きお待ちしています。

679みやびだった何か:2009/02/11(水) 04:27:59 ID:xwp1C6OU0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce
 こんばんは。ってすでにおはようですね。

 お馴染みのみなさんお久しぶりです。そうでない方は初めまして。かつてみやびと呼ばれ
ていた出がらしです。雑巾かもしれません。いや本当は残飯ですごめんなさい。

 ――と。このくらい自分を卑下しておけば……[壁]д・)ダメ...?

 久しぶりすぎて読みきれないので最新の初めましてさんだけ。

>Kさん
 可愛くて牧歌的でいて切なくて、グッドです(★´ -`)(´- `☆)。o0(コボタソカワィィ)

 私も以前育てていたコボルトの本がどこかにあるはずなんですが、また開いてみようかな、
とか思ってみたり。……でも本はあるけど “本体” が消滅してたりしますが(殴)
 そのくらいあったかい気持ちにさせてくれたということで、またぜひ書いてくださいね。

---ちょこっと私信---------------きりとり---------------きりとり---------------

 【次スレに関して(早いけど;)】
 現行テンプレの以下の箇所について。

 投稿制限:1レス50行以内(空行含む) ※これを越える文は投稿できません。

 次スレのテンプレ案を出す際、上記の行の削除をお願いします(汗)
 どうも内容に誤りがある気がしてなりません。というかちゃんと仕様を確認して出したテン
プレ案ではないので、十中八九間違ってるハズです(;゜∇゜)
 スレを立てたことがないのでその辺わかりません;;
 また板の仕様およびここの現設定に詳しい方がいらっしゃいましたら、補足なり修正なり
してください。
 お手数をおかけします……ペコリン(o_ _)o))

---------きりとり---------------きりとり---------------きりとり---------------

 記:68hさん
 メールを出したのですが届いていないでしょうか。他に連絡先を知らないのでここで(汗)
 隠居の身で私用に使ってしまった……。

 とは言えリレーくらいは企画人として引率しないとマズイですね;
 (※続き書いてくれたみなさん、ありがとうございます!)
 そのうち折を見てまとめます(。-人-。)

 次から正規の流れで――|彡サッ
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

680◇68hJrjtY:2009/02/11(水) 19:50:01 ID:N.pdTvYc0
(私信失礼します)

>みやびさん
うぉお!お久しぶりです♪
リレー小説まとめてくださる!その節はぜひともまとめWikiにも(こら
メールいただいていたのですか…申し訳ない、PCのリカバリやらなんやらでながらく放置していたため
迷惑メールの山に埋もれたかなんかしたようですorz
と、ともかく、こちらから改めて別の生きてるメアドで送らせてもらいますね。
(というかまとめWiki(http://wikiwiki.jp/rsnovell/)で公開してるメアドなんですけどね(笑))。
ではでは、私信&急ぎで失礼しますね<(_ _*)>

681DIWALI:2009/02/12(木) 12:06:50 ID:.UokWbBQ0
Episode 10:Sexy Vampire 〜フィナーア、人間やめちゃいました☆〜


 黄金に輝く不思議な果実を口にしてから、彼女の身体に何かが起こった。
 体の内側から感じる熱、性的快感その他いろいろ・・・生来のエロ可愛すぎる声による喘ぎ声は森中に響き渡り、
 本人は顔を紅潮させながらその辺にあった木々に艶っぽくもたれかかり、火照りが収まるのをただ待っていた。
 俯きながら自身の素肌に目を見やると、その色に彼女は戸惑いを隠せない・・・肌が『灰色』に変色しているのだ!!

「えー!?ちょっとちょっとぉ、これは一体どういうことなのよ〜!!?どうしてぇ!?
 どうしてあたしのセクシーお肌が何でこんな色になっちゃってるの〜!!?いやァ〜んっ!!!!」

 頬を両手で覆い、若干涙目になりながら腰をくねらせるフィナーア。だが同時に背中から何かの音も・・・
 首を捻って後ろを振り向けば、刺々しい漆黒の翼がバサバサと音を立てながらホバリング状態になっている。
 あまりにも唐突過ぎる、自らの肉体の急激な変貌・・・驚くのも無理はないが、彼女は突如冷静になる。
 灰色の肌に白銀色の長髪、漆黒の翼と鋭い鉤爪、悪魔のような尻尾・・・ ま さ か 。

「あらあら・・・あたしってば、サキュバスちゃんに変身しちゃったみたい。もしかしてあの変なフルーツを食べたから?
 まァでも、子供の頃から憧れてたあのモンスターになれたなんてぇ・・・うふふっ、フィナちゃん嬉しくって、ふぁ・・・あっ
 な・・・何だか、あぁっ・・・変な気分に・・やぁ・・・んっ/////」

 幼き頃からの願いが叶って感極まったのか、自分の身体を、その綺麗で細い指を以て触りまくり、フィナーアは快感の海に溺れる。
 しかし意識がおかしな世界へとイってしまいそうな一歩手前だった・・・近くの茂みから何者かが言い争うような声が耳に入った。
 といっても距離としては彼女のいる場所から100m以上も離れている。その遠距離からでも微かな音が聞こえてしまうのも変身の影響だろう。

「(どうやら聴覚も相当なものになっちゃったようね・・・まァいいわ。いったん一人エッチは止めてやり過ごさなきゃ・・・)」


 ―――――・・・・・

「ところでよォ、ダリオ。おめぇこの変な黒い箱、ミカエルのリュックサックの中に入ってたんだが何だと思うよ?」
「え〜?そんなん聞かれてもわからないッスよぉ〜・・・てゆーかもうちょい幼女ミリアたん見たかったのに。」
「ほんとおめーのロリコンぶりには感服するというか呆れるというか・・・もうツっ込む気も失せるわ・・・」

 サキュバスに変身したフィナーアが接近を感知してから2分後、一匹の火鬼とレイスが彼女の隠れる茂みを通り過ぎる。
 だが彼女は聞き逃さなかった・・・ダリオという名のレイスが口にした『幼女ミリア』という言葉。
 溺愛する妹に何かあったのね!?――――思考する時間などゼロ同然、鉤爪を尖らせたサキュバスが2匹の前に躍り出た!!

682DIWALI:2009/02/12(木) 12:33:27 ID:.UokWbBQ0
「大体おめーよぉ、幼女以外に萌える対象とかいねぇのか!?例えばこう・・・おっぱいのデケェ姉ちゃんとかさ〜」
「先輩みたいな親父趣味は○ございません。幼女こそが正義です、真理なのです。あの愛くるしさはこの世の癒し・・・」
「おぇっ、な〜に神様気どりでほざいてやがんだよっ!!それになんだよ『○ございません』ってのは!!?
 気色悪ぃったらねーぜ・・・ん?お、噂をすればなんとやら・・・ボインなサキュバス姉ちゃんのお出ましか・・・」

 小柄な火鬼は、自身の前に立ちはだかるサキュバスに口笛を吹きながら声をかけた。
 対するサキュバスはスレンダーなボディを魅せつけるようなモデル立ちのまま、相手を睨みつけていた。
 すると火鬼の背後にいたレイスが詰め寄ってきた・・・火鬼と会話していた時のような間抜けさは無い、
 邪悪さを剥き出しにしたドスの効いた口調で美女に迫る・・・!!

「おぉコラ、何先輩にガンくれてんだおめー?焼き殺すぞこのアマが!!?」
「お黙りなさい、醜い亡霊魔術師が・・・あなた達、さっきミリアちゃんがどうとか言ってたわね。どういう事?」
「シカトこいてんじゃねぇぞこの野郎ァっ!!!もうプッツン来たぜ!?焼豚にしてやらぁっ!!!」

 うるさい蝿をあしらうように無視されたのが気に食わなかったのか、キレたレイスは最大火力でのフレイムストームを放とうとする。
 だがその刹那、彼の視界に一閃の光が過った・・・その攻撃はあまりにも速く、既にフィナーアの鋭い爪が彼を無惨に切り刻んでいた・・・!!

「うるさいおバカさんね・・・永遠に お・や・す・み」

 囁くように葬送の言葉を呟くと、ウィンクと投げキッスを風に舞うマントに送りつけた。
 彼女の脅威の戦闘力を前に、相棒を一瞬にして葬られた火鬼は凍りついている。眼は大きく開かれ、ガチガチと音を立てて口は震えきっている・・・
 そして焦燥に駆られた汗が立て続けに伝ってくる・・・・『殺される!!』その一言が彼の頭を支配していた。

「お、おい待て!?ミリアだって?何だおめぇ、あいつのペットなのか・・・えぇ!?」
「うふふっ、残念。わたしはこれでも元人間だったの・・・さっきまではね。そしてミリアちゃんはわたしの妹よ。
 覚悟はできてるかしら?妹に手を出したこと・・・あとその黒い箱、ミカエルちゃんのリュックから勝手に取ったのね?
 弟の物を無断で盗んだのも、妹に手を出したのと同罪ね・・・あの世で償ってもらうわよ?」

「ひぃっ・・・やめてくれぇぇぇぇぇええぇえぇえぇぇぇぇえええぇっ!!!」



「ダメよ・・・悪いコね。」


 鼻先を細い指で突かれたと思ったら、火鬼の視界はもう何も映していなかった。
 ただ真っ暗な闇が覆うだけ・・・静かな幕切れだった。

683DIWALI:2009/02/12(木) 12:58:43 ID:.UokWbBQ0
 ・・・一方、森の小道をモンスターの群れが進み行く。黒い肌と筋骨隆々の肉体、肩をいからせて歩くのはオーガソルジャー。
 そして彼らと追従して歩くのは、バナナを貪りながら四足歩行で移動している珍獣、ホワイトゴルゴの群れ。
 実は彼ら、この先にあるエルフ族の集落にて草野球の試合を挑むためにこうして遠路はるばるやってきたというのだ。

「ボボッボボンボ〜(訳:バナナ飽きた〜(´;ω;)ノシ)」
「そうだな〜・・・ほれ、これやるよ。ダイアーウルフの肉だ、旨いぞ〜」
「フンボボ〜!!(訳:ネ申 降臨!!肉キタ――――(゚∀゚)―――ッ!!!)」
「ボボ〜!!(訳:キタ―――――――(゚∀゚)―――――――ッ!!!)」

 骨太な腕を振り上げながら大喜びするホワイトゴルゴ達。オーガ達から分けてもらった肉を千切って、仲間内で頬張っている。
 しかし突如、パーティの歩みが止まりだす・・・思わずオーガの背中にぶつかるホワイトゴルゴたち・・・

「ンボ〜?(訳:どしたの〜?(´・ω・)σ)」
「あ・・・あれは・・・!!!」

 プルプルと震えるオーガ達の前には、一人のサキュバス・・・もといフィナーアがいた。
 自らを包む熱い視線に気付いたのか、フィナーアはオーガの群れに自ら近づいて行く。

「あらあら、ハァ〜イ!エロキュートなあたしに何かご用?今ならもれなくパフパフしてあげてもい・・・」
「野郎ども!!サキュバスの尻尾を擦ればラッキーになれるってばっちゃが言ってた!!擦るぞォー!!!!」

「え?えぇ〜!!!?ちょっとぉ、フィナちゃん強引なのはちょっと苦手・・・あっ、いやぁぁあぁあんっ!!
 ダメっ、そんな強く擦っちゃ・・・・ふぁ、あぁんっ!!か、感じちゃうわァ・・・こんなのっ、初めてぇ〜っ!!
 はァっ、はァっ・・・もっと、もっともっとォ!!あたしの尻尾を擦ってぇ〜んっ!!!あはぁ〜んっ!!?!/////」

 いきなり変な連中に巻き込まれるフィナーア、果たして無事に帰れるのやら、そして人間に戻れるのか・・・?


to be continued・・・

684DIWALI:2009/02/12(木) 13:05:04 ID:.UokWbBQ0
あとがき

・・・・やっちまったな〜、やっちまいましたよマミータ。
久しぶりにフィナーア登場and理不尽不条理無理矢理な展開でやってみました。
そしてこれまたギリギリな内容ですいません、尺度を一定に保てるようにしておきます;;;

・・・遅くなりましたが新年あけおめです、サキュバスの尻尾は性感帯b

685◇68hJrjtY:2009/02/12(木) 19:42:16 ID:N.pdTvYc0
>DIWALIさん
さりげなくもお久しぶりです!おっとと、あけましておめでとうございます♪
いやはや、久しぶりにDIWALIさんのエロ可愛い小説を堪能しましたよー(*´д`*)
と思ってたらなんとフィナ姉がサキュバスに(汗 これは一時的なものなのか否か!?(笑)
変身しても妹を思う気持ちは変わらずといったところですが、新ペットモンスター総出ですねぇ。
やっぱり個人的にはホワイトゴルゴ君たちが好きです(ノ∀`*) あの会話が(笑)
またの続きお待ちしております。

686K:2009/02/14(土) 06:48:33 ID:o10ct1CA0
48れべる

あと1れべるで、ご主人さまは説得ってスキルをとれるんだって!
そうしたら2人ペットが使えるらしいの!
ぼくどんなひとと一緒に戦うんだろうなぁ。
怖い人じゃないといいな。一緒にいっぱい遊んでくれるといいな。
「ごめんね……」
 ご主人さま、なんで?
 すごい悲しそうな顔。どうしたの?
 ご主人さまが悲しいのはいやだよ。ぼくにできることあったら、なんでもいって。
 ぼく、ご主人さまが大好きなんだよ…。


49れべる

ご主人さまは53れべるになりました。
説得を覚えたみたいです。

ご主人さまおめでとうって足下にすりよったらいつものようになでてくれました。
でもすごい、浮かない顔…。どうしたんだろう。
お姫様が言います。
「じゃあ、コボとは別れてね」
「ん……」

え?
別れるって、なに?
ぼく?

「ごめんね……」

ご主人さまがぼくの鎖をはずします。

なんで?これがないとぼく、ご主人さまのところに帰ってこれないよ。
別れるって、ぼくと?

あたまががんがんして、目の前がまっくらになったみたい。
ぼくはご主人さまの足下からうごかなかった。

「…行きなさい、コボ」

いやだ。
いやだよ、どうして?
ぼく、ご主人さまといっしょにいたいんだよ。それ以外なにもほしくなんてないよ。

「いきなさいったら!」

 笛でごちんと頭を叩かれて、小さく鳴いて逃げ出した。
 でも、ちょっと遠くでご主人さまの様子をみていたの。

 嘘だよね、ご主人さま。
 ぼくを、捨てたりなんかしないよね?
 ここにきて、抱きしめてくれるよね?
 いつものように頭をなでてくれるよね?

 でもご主人さまはぼくにそっくりの緑色を2人捕まえて、いなくなってしまった。

 追いかけて追いかけて、お外に出たけれどご主人さまはどこにもいなかった。鎖でつながれてないから、ついていくことができなかった。


 ご主人さま、どこ?



 ちいさな青い生き物が、タトバ山の前で鳴いていた。

687K:2009/02/14(土) 06:54:25 ID:o10ct1CA0
青い声は泣きやまない。
その身が朽ち果てるか、ご主人さまが迎えにくるまでは。



数日経って。

青い声は泣きやんだ。
はてさて、小さな命がつきたのだろうか。




 タトバの山の茂みを、見慣れた顔が覗く。
「……ごめんね」

 ご主人さまと呼ばれた娘は、小さな声で謝った。
 コボと呼ばれた青い生き物は、全力でその胸に飛び込んだ。
 探して探して、その手足はボロボロで、泥に塗れていた。激しいタックルに娘とコボ両方とも転ぶ。
「やっぱりコボと一緒にPT入ることはできないから…」
 このまま別れるには、娘はコボを愛しすぎていた。それ以上に、コボも。

 しかしそれでも。
 2人を分かつ常識は明確に存在した。

「だから、一緒にいよう。ソロしかできないけど、2人きりでも寂しくないなら」

 小さな青い生き物は、頭をその手にこすりつけた。
 寂しくなんかないよ、と言っているかのよう。



 ご主人さま。
 ぼくはいっしょにいるだけで、しあわせなんだよ。



 聞こえるはずのないその声が、聞こえたかのように娘も微笑んだ。

「いこっか」


 ちいさな病気のコボルトと、とあるビーストテイマーのおはなし。

688◇68hJrjtY:2009/02/14(土) 17:44:07 ID:N.pdTvYc0
>Kさん
続きありがとうございます。前回ラストまでは号泣モノで読ませてもらっていましたが
今回でちゃんとハッピーエンドにしてくれてとっても嬉しい一心です(´;ω;`)
「コボ」という名前ではなく、「コボと呼ばれた青い生き物」に変化しているあたりが
もうコボはペットでもなんでもないただのモンスターに変化してしまった…という暗示に思えました。
でも最後の最後にテイマ視点になって、コボと意思疎通できた事に読者としても幸せな気分です。
気が向いたらまたぜひ、お話を執筆してくださいね。お待ちしています。

689蟻人形:2009/02/15(日) 15:24:13 ID:vYAtmCGQ0
  赤に満ちた夜

 0:秉燭夜遊
 Ⅰ >>577-579 (七冊目)
 Ⅱ >>589-590 (  〃  )
 Ⅲ >>604-607 (  〃  )
 Ⅳ >>635-636 (  〃  )


 0:秉燭夜遊 Ⅴ … Lit Light Lives Ⅰ


 静かなノックは廊下と部屋の双方に響いた。
 返事と伺えるものはなかったが、ドアノブはすぐに、しかし遠慮がちに音を立てる。直後、古い木製の扉が軋みながら開き、仄暗い部屋に廊下の灯りが漏れた。
 消極的な訪問に気付いた部屋の占有者により、部屋の最奥から問いが投げかけられる。だが、質問は戸口に立つ者を確認するためのものではない。
「……何人残った?」
 声は意気消沈し、いつにも増して弱々しかった。
 しかし他方はその事実を予期していた。自分が正しく認識され、入室の許可を得たと考えた訪問者は扉を開き、部屋に足を踏み入れた。

 踵の低いブーツが石の床の上を横断する。ヒールが奏でる乾いた靴音は、出入り口の対極に設けられた机の前で止んだ。
 足音の主は机の左に置かれた小棚の上を確認し、転がっていたマッチ箱を手に取る。中の一本を取り出し、粗雑な作りのマッチをこなれた手つきで箱の側面に擦り合わせる。
 マッチの先端が淡い光を発すると、一組の男女が浮かび上がった。
「あたしを入れて四人。だけど移転先が決まるまで、ここに居座る人も多いみたいよ」
 訪問者である女は小棚の燭台を机に移し、蝋燭に火を点した。やや衰えていた幼火は居場所を変えると軽やかに揺れ、すぐに蝋を溶かす作業に取り掛かった。
 女が訪れるずっと前から同じ姿勢で椅子にもたれ掛かっていた男は、それを聞いても大きな反応は示さない。
 彼の傍らで、普段は賑やかなはずの女が静かに佇んでいる。
 火の光に除けられた闇さえも、自分から姿を変えようとはしない。
 部屋の中で動いているのは儚い一つの灯だけであった。

 小さな火は閑寂な空間の大部分に光を届けている。
 まずは二人の人間、机と椅子、そして小棚を一人前に照らしており、次いで白く塗られた壁や冷たい石の床を映し出す。
 四角い空間の中央には飾り気のない大きなテーブルが置かれ、チラシやら書類やらがぞんざいに積まれている。
 外の風景を縁取る窓は一箇所のみだが、見下ろせば南側の路地を行きかう人々の頭が一望できる。
 暗がりにより近くなった部屋の奥には、扉を背にして硬いソファが配置されている。
 そこで目を留めるべきは、人間が座るはずの場所を独占する一組の剣と盾。
 二つの痛み具合から、それらが一人の騎士に一つの戦いで使われたものだと連想できる者はそう多くはないだろう。
 剣には少量の泥が付着している以外は万全の状態を保っているのに対し、激しい凹凸や焼け焦げを負った盾は最早その役割を終え、亡骸のように横たわっている。

 よにん――。
 多少の間を置いて、男の口はそう動いた。勿論女はそれを見逃さない。
 次いで男の顔が傾き、女の視線を拾う。その瞼は腫れ、目は血走り、頬に涙痕がはっきりと残っている。表情から憂い以外の気色を見出すことはできず、心身ともに衰弱しきっているようだった。
 眼前の仲間に向けて無理にでも微笑もうとしたのだろうが、極度の消耗故それに至らず、力なく頬を引き攣らせるに止まった。
 男は再び口を開き、今度は己の言葉を女に伝えることに成功した。
「お前はいいのか? 行くなら行けよ、俺は止めないから」
 乾燥した喉から千切るように言葉を投げる男に対し、女は移籍を勧められることを前もって予想していたようだ。
 彼女は男の言葉を無視し、踵を返して窓に歩み寄った。何時から降り出したのか、細かな雪が灰色の空にちらついていた。
 背を向ける直前、彼女が表情を固くしたことに男が気付いたかどうかは分からない。
 ただ、女の右手が丈の短いカーテンを必要以上に強く引っ張ったことだけは確かだった。
「抜けるわけないでしょ。……したじゃない」
 目線を上げ、カーテンを握り締め、強い口調で、彼女は言った。

 短い言葉ではあったが、それが女の意の全貌ではなかった。彼女は否定の直後、用意していた非難を咄嗟に呑み込んでいた。
 数日前。仲間の命を乞うため敵に降伏したのは、ギルドの長である彼であった。彼は息の根を止めようともせず、只管に相手を弄ぶような子どもに対して頭を下げた。
 仲間を救うためとはいえ、プライドを自ら投げ打った男は果たして、剣を手放した自分を許すことができるだろうか。
 彼と長い付き合いのある女には、その心の内奥までも見て取ることができる。精神の弱さを知り、彼の心情を汲み取っての判断だった。

690蟻人形:2009/02/15(日) 15:25:08 ID:vYAtmCGQ0

 手触りのよい木肌で作られた年代物の椅子が音を立てる。背もたれにかかっていた男の重心が前に移動したのだ。
 揺らめく火を前に考え事をする男、その丸くした背中はまるで六十を過ぎた老人のようであった。
 少しの沈黙の後、今度は机に体重を乗せてから、男は女の方を見ずに尋ねた。ほんの一握りの生気を、無意味な憂さ晴らしに変えて。
「約束は、なかったことにする。それならどうだ?」

 曇った窓の左半分を通して早い夜の街を眺めていた女は、握ったままのカーテンからゆっくりと手を離した。
 質問が耳に届いてからの一瞬、彼女が息を荒くすることはなかった。むしろ、意に反して眉根に寄った皺を取ろうと努めていた。
 今は売られた喧嘩を買っている場合ではない。彼女は自分で考えていたより冷静な判断ができていた。
 女はなるべく普段に近い声色をつくり、男が投げて寄越した破れかぶれな提案をあしらおうと口をひらく。
 それと同時に、無意識のうちに手が動く。その動作は残された左側のカーテンを閉めるための動きではなかった。
「何言ってんのよ、まったく――」

 暗がりの中、女の指の三本が空を掻いた。そう、まるでその場所に自分の髪があり、それを梳かしつけようとするかのように。
 指先に違和感を覚えた彼女は、このとき初めて自分が肩に手を伸ばしていることに気付いた。そしてふと、蝋燭の明かりは自分を照らすことを避けているのでは、という妙な考えに襲われた。
 途端に女の表情に陰りが見えた。それは周囲の暗さとは関係のないものだ。
 他人の様子ばかりを気にかけていて自身の動揺を見つけられずにいたことに、彼女は強い不安を抱いていた。

 女に似合っていた長い金髪は最早見受けられない。その代わり、肩に掛からない程度の短髪が、彼女の覚悟をより深いものにしていた。
 そしてもう一つ。彼女の両手の掌や指の腹には、まだ軽い痛みが残っていた。

 部屋中に響く自分の靴音を聞きながら、女は心持ち足早に男に歩み寄る。燭台に乗った火の勢いが僅かばかり衰えていたのも事実だった。
 適当な距離で足を止め、普段は逞しいはずの肩に手を置き、黙考していた男に自分の存在を気付かせる。
 小さく息を吸った後、女は口を開いた。
「ほら、いい加減元気出しなよ。こういう暗〜いときに盛り上げるのがギルドマスターの役目だって、いつも言ってたじゃない!」
 優しいというより陽気な音だった。残念ながら、その二人分の激励は空しさを隠しきれておらず、女自身が望んでいたような効果をもたらしはしなかった。男の憮然とした態度も事を悪い方向に進めたようだ。
 女は唐突に椅子の肘掛を引っ張り、忽ち男を正面に突き合わせた。
 驚き戸惑う男の眼が幾度もの瞬きを経て女を捉えると、彼女は切迫したような面持ちで男に迫った。
 唇が一瞬震えたが、しっかりとした口調で、彼女は言った。
「思い出して」

 痺れるような永遠の時間が蕩けるように流れ出し、やがて男の声が戻ってきた。これまでで一番大きく、気恥ずかしそうな声が。
「そうだな。ありがとな」
 言いながら前髪を掻いて目を隠す男。そのせいで目の前に立つ女の溶けるような変化にも気付かない。
 それでも気にならなかった。不器用な後押しを受け止めてくれたひとへの感謝を込めて、女は小さく微笑んだ。
 光の中心に陣取る蝋燭の明かりが小さく踊り、二人の影が音もなく揺らめいた。

 ややあって、女は部屋を訪ねたそもそもの理由を思い起こす。それはギルドにとどまった者についての詳らかな報告。つまり、まだ彼女の役目は終わっていない。
 ところで、と切り出すと、男はようやく髪を弄る手を止め、視線は真っ直ぐに女を捉える。
 女が自分以外に残留を名乗り出た三人の名を伝えると、男はおもむろに頷いた。その顔はまだ青白かったが、数分前には見られなかった生気が戻っていた。
「……よし」
 男は自分に気合を叩き込むように唸り、続けて女に言った。
「その三人を広間に呼んでくれ」
「今すぐ?」
 男が延々と座り続けていた椅子から立ち上がったので、半歩後ろに下がりながら女が尋ねた。
「ああ、話がある。俺もすぐ下りるよ」
 男はそう答え、大テーブルに歩み寄った。上に乗った紙の山を漁り始めたのを見て、女は何も言わないままに部屋を出ていった。
 一人と一人が二人になり、二人のまま一人になるまで、蝋燭は始終彼らを照らし出していた。

691蟻人形:2009/02/15(日) 15:26:09 ID:vYAtmCGQ0
お久しぶりです。一週間に一話投稿は全然続きませんでしたorz
戦闘中に過去の話は……と思いましたが、思い切って入れてみました(これ以上延ばすと書くタイミングがなくなりそうなので)。
本編だけで力尽きました。毎回きちんと感想をつけなければと思うんですが……申し訳ないです。

692復讐の女神:2009/02/15(日) 21:43:58 ID:29CoJzW60
 テルと初めての冒険をこなしてから、それなりの月日が経っていた。
 気づけばテルはジェシの家に住み着いており、物置として使用していた部屋をひとつ占領するまでになっていた。
 もともと冒険に出ている日が多く部屋をあける期間が長いため、家を売り払おうか迷っていたが、やめることにしたのはこのためだ。
 それに、一緒に冒険をする間にジェシはテルの性格をおおむね理解しており、ありていに言えば気に入っていた。 
「せっかく部屋が余ってるんだし、お金もったいないじゃない?」
 テルに一緒に住まないかと提案したときに、使った言葉だ。
 宿代は月単位で借りたらしく安く済んでいるようだが、それでもお金はかかる。
 彼女はなにやらお金を必死になって貯めている節があったため、助けてあげたかった。
「ぶー、ジェシお姉さまはひどいですの。私には冒険に来るなといつもおっしゃるのに、テルだけは特別ですの?」
 ビシュカはかわいらしく頬を膨らませ、机につっぷしている。
 ここのところテルと行動することが多く、ビシュカをかまってあげる時間が少なくなったのが原因だろう、少し拗ねてしまったようだ。
「ビシュカ、無理言わないで。テルとビシュカでは冒険者としての経験が違いすぎるわ」
 ふくらんだ頬をつつくと「うぷー」と謎の音を立てて頬がしぼんでいく。
 そもそも、ジェシはビシュカを冒険に連れて行くつもりはない。ジェシの冒険はRED STONEの探索ではなく、個人的な目的だからだ。
 RED STONEの探索はもののついでであり、探索を手伝っていればコミュニティを通じて情報が得られやすいのだ。
「わ、私だって、ちゃんと経験はつんでますのよ! この間は、ラディルと一緒に地下墓地に入ったんですもの!」
 あのときの勇姿はと語りだすビシュカだったが。
「紅茶が入ったわよ」
 台所からトレイを運び出したジェシの鶴の一声で、嬉しそうに足をばたばた動かしだした。
 カランとテーブルに置かれたトレイには、入れられたばかりの紅茶とケーキが乗っていたのだ。
「こら、はしたないわよ」
「だって、ジェシお姉さまとお茶ですもの!」
 ティーポットは、白地に淡い赤の薔薇が描かれたもの。
 それに合わせたティーカップは同じく白地で、とっての部分に小さな薔薇の意匠が飾られていた。
 ティーカップに隠れて分かりづらいが、ソーサは茨を意識して作られたものである。
「トレイの上が、薔薇の舞踏会になってますの」
 ジェシが用意したケーキは、薔薇のジャムをたっぷりと使った赤いケーキであり。
 ティーカップを舞台とし、湯を極として踊るのはローズヒップ。
 ビシュカの言うとおり、まさに薔薇の舞踏会だった。
「別に意識していたわけじゃないんだけどね」
 ティーセットは、下品でない程度で手ごろなものを買った。
 ケーキは街を歩いているとき、懇意にしているお菓子職人に試作品として渡されたものだ。
 ローズヒップは、今日ビシュカが持ってきたもの。
 ここに舞踏会と相成ったのは、小さな奇跡といえよう。
「ジェシお姉さま、なぜティーカップが3つあるんですの?」
 いまこの場には、ジェシとビシュカの2人しかいない。
 普通に考えたなら、2つでよいはずだ。
「規則正しい人がいるからよ」
 小さな間が空き、ビシュカが不思議そうに首をかしげると、階段をギシギシと鳴らす音が聞こえてきた。
 音の主はそのまま一直線にこちらに向かってきて、ドアを開けた。

693復讐の女神:2009/02/15(日) 21:45:47 ID:29CoJzW60
番外編みたいなものをふと思いついたので書きました。
就職やらなんやらで、まったく小説を描く暇がなく泣いてます。
自分の小説を読み返して「あぁ、こんな設定だったっけ」などの思ったり。
4月から就職・・・時間作れなくなるのかな。

694復讐の女神:2009/02/15(日) 21:47:09 ID:29CoJzW60
「おふぁよー」
 テルだった。
 髪はボサボサで、目元にはあくびの結果である涙。寝ぼけているのか服が着こなせていないため、肩口が偏ってしまっている。
「おはよう。紅茶が入ったわよ、飲む?」
「んーのむー」
 とてとてと、目元をこすりながら歩いてきたテルは、近くて空いていたジェシの左隣に座った。
 ちなみにテーブルは長方形で、ビシュカはジェシの真正面に座っている。
 入れたときから時間を計っていたジェシは、蒸らし終わった紅茶をティーカップに入れていく。
 紅茶を全員に配り、ケーキをビシュカと自分の前に用意したジェシは、そこで初めてビシュカがジェシの隣に座ったテルを驚愕
の目で凝視しているのに気がついた。空いた口が本当にふさがらない様子で、言葉も忘れているみたいだ。
 しかし、当のテルは寝ぼけているためかそんなことにもまったく気づいておらず、目の前に置かれた紅茶を黙って手に取り一口。
「ん〜」
 満足そうにティーカップをソーサーの上に置き、頭をふらふらと動かしはじめた。
 そして、ポテリ。
 横にいるジェシの腕に寄り添うよう、倒れこんだのだった。
「お、おおおおおお、お姉さま!? ジェシお姉さま!? なんですの、これは!」
 声が完全に裏返ってしまっているのだが、きっと本人は気づいていないのだろう。
 ジェシは気にした風もなく、右手で優雅に紅茶を楽しんでいる。
「ちょ、ちょとテルさん! ジェシお姉さま、説明してください! いったい、これはなんなんですの!」
 テーブルに乗り出すようにして、テルとジェシを交互に凝視するビシュカ。
「ん〜♪」
 寝ぼけているテルが、嬉しそうな鳴き声でジェシの腕に顔をこすりつけた。
「─────────っ!!!!!!!??」
 もはや、言葉にすらならない悲鳴を上げるビシュカを認め、ジェシはカランとティーカップを置く。
「この子、朝が弱いみたいなのよ。依頼の最中とかはそんなことないんだけど、何もないとこんな感じなのよね」
「で、ですが、ですが……!」
「紅茶1杯飲み終わる頃に、本格的に目が覚めるわ。まあ見てなさい」
 そういってジェシがテルの体を起こすと、テルはまたゆっくりとティーカップを手に取り紅茶を飲みだした。それは本当にゆっくりと
した動きで、たっぷり2分をかけて紅茶を飲み干したテルは、一つ大きなあくびを上げた。
「……っ、おはよっ、ジェシ」
「おはよう、テル。もうお昼は過ぎてるわよ。顔を洗ってらっしゃい」
「うん、そうするわ。って、およ? ビシュカじゃないの、おはよっ。いたの?」
 返事の帰ってこないビシュカに疑問を持ちながらも、顔を洗うために台所へ向かったテル。
 その後姿を、ビシュカは鬼の形相でにらみつけていた。

695復讐の女神:2009/02/15(日) 21:48:56 ID:29CoJzW60
>>693>>694 を脳内で置き換えてもらえるとうれしいですorz

696◇68hJrjtY:2009/02/16(月) 16:26:00 ID:N.pdTvYc0
>蟻人形さん
続きありがとうございます。
少女とあるギルドとの戦闘から一転しての場面転換。
しかしこれは、やはり剣士たちのギルド側が敗北したという見方で良いのでしょうか…。
お話はGv場面からのスタートでしたが、今後ギルドの事やもちろん少女たちの事も
明らかになっていくと思うととても楽しみです。
マスターと思われる男性、そして女性のひとつひとつの所作が細かくて間近で見ているような気がします。
熟考しながらの執筆ですよね、ゆっくりで構いません。続きお待ちしています。

>復讐の女神さん
お久しぶりです、続きありがとうございます。
ジェシ、テル、ビシュカの三人娘の薔薇の舞踏会。ひと時の安らぎ風景に和みました。
ビシュカかわええなぁ(*´д`*) ジェシへの懐きようがほんとにウサギっぽくて可愛い(謎)
ジェシの意向には反してしまいますがビシュカも同行…なんてほのかに妄想しながら続きお待ちしています。
就職ですか、そういえばもうそんな季節ですねぇ。新しい生活のほうも頑張ってくださいね♪

697ヒカル★:削除
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704ヒカル★:削除
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705◇68hJrjtY:2009/03/14(土) 18:00:30 ID:IPwDFHXg0
保守させていただきます。

最近は花粉がすごいですねー。私もかなり花粉症キテます。鼻水だばだば。
皆様もお気をつけてくださいな。

706名無しさん:2009/03/18(水) 16:53:56 ID:OnMpHZjE0
0時フォリン秘密
30分前に再起もして、長いことやっと連打に勝って秘密に入り
聖水を使うところの前の隊長相手にDTHをつかったシフがいて、強制

戻ってくるころには、2回目の秘密がはじまってました
経験値?入ってませんでした^−^

愚痴ではないが、秘密入口で人がいっぱいいたりしたら再起後でも強制することあるよ

707しー:2009/04/05(日) 00:34:59 ID:gy15gzhw0

古都ブルンネンシュティグ。冒険者たちの最初の拠点に、新米テイマーのミルティは足を踏み入れた。
「ここが、古都・・・」
古都の割には都会で、露店が立ち並んでいる。初めての光景に、ミルティは目を輝かせた。そして、故郷
ビスルにはない、噴水を見つけた。
「わあぁ・・・きれい!」
ミルティははしゃいで、噴水の方へ走り出した。しかし、途中で人にぶつかってしまった。
ぶつかった相手は冷めた目でミルティを見ていたが、ミルティはたたらを踏んでしまった。
「あっ・・・ご、ごめんなさい」
ミルティは慌てて謝った。そのとき、相手の静かでありながら燃えるような赤い双眸と目が合った。折れた
片翼が特徴的な追放天使は、にこりともせず言った。
「次は気をつけるんだよ」
そして天使は去っていこうとしたが、ふと足を止め振り返った。
「な・・・なんですか?」
「何かが取り憑いているかと思っただけだ。私は行く」
そう言うと翼を広げ明後日の方向へ飛んでいってしまった。ミルティはちら、と後ろを振り返った。
建物の陰に溶け込むように一人のシーフが立っている。ミルティがシャドーと呼んでいる、彼女に憑いている
霊である。いつからいたかは覚えていないが、いつの間にか姿を見るようになった。幽霊なのに、なぜか天使や
悪魔、さらには他職にまでよく気づかれる。
ミルティはシャドーに向けて、小さな声で言った。
「夜にまた、姿を見せて」
シャドーはそのまま、黒い霧と化し、消えた。ミルティがため息をついたとき、
「まったく・・・誰に向かって喋ってるんだ人ん家の前で」
振り返ると長身の男、ウィザードが立っていた。あんまりマジメそうに聞かれなかったので、ミルティは笑って
ごまかした。
「あんまり人がいないところで喋るもんじゃないぞ」
ウィザードはそう言って家の中に入っていった。
「はぁ・・・ごまかした」
ミルティは再度ため息をついた。

                       -*-

708しー:2009/04/05(日) 00:51:58 ID:gy15gzhw0

街のすぐ西のコボルトを捕まえてペットにしたミルティはその夜、宿に泊まった。しかし、ペットのコボルト・・・
ベリーがミルティのそばから離れようとしない。
「どうしたの」
ベリーは部屋の一点を見つめて震えている。目をやると、鏡に映ったシャドーが、ベリーの後ろで短剣を構えていた。
「や、やめてよシャドー・・・この子は味方よ」
シャドーが鏡から消え、ゆっくりと闇からにじみ出るようにミルティの前に現れた。ベリーがキィッと鳴いて、逆毛
を立てた。その時、コンコンと部屋のドアがノックされた。
「あぁもう、何こんな時間に・・・シャドー、隠れてて」
ミルティがドアを開けると、ビショップと悪魔が立っていた。
「リエディス、ここからよ、霊の気配がするの!本当よ!」
「ほっとこうよ。殺気とかないしさ」
「ナリを潜めてるんだわ。おじゃまするけどいい?」
相手はそう言って一方的に上がってきた。「いい?」とか言った意味がない。ミルティはあわてて悪魔を止めた。
「ちょっと待ってください、大丈夫ですから」
「それが甘いのよ・・・あっ、いた、あそこ、リエディス!」
悪魔が指さした先に、シャドーがいた。足の先は、闇に包まれ見えない。ビショップは傍からみてもわかるほど
面倒そうにシャドーに近づいた。
「君・・・幽霊みたいだね」
(……)
「この子に危害を加える気かい」
(そんなことはない…)
「君ずっとこの部屋にいたのかい」
(違う。テイマに取り憑いて、様々な景色を見ている)
珍しくシャドーが口をきいている、とミルティが驚くと同時に、ビショップが振り返った。
「守護霊だってよ、フレン?あっ、テイマーさん、ご迷惑おかけしました。これどうぞ」
ビショップはいたって落ち着いた仕草でミルティに何かを握らせた。見ると、小さめの鯛焼きが1つあった。
「ほらほらフレン、行こう」
「待って!絶対あいつは・・・」
「人を疑うのはよくないよ」
そんな会話を交わしながら、2人は出ていった。後にはミルティとベリー、そしてシャドーだけが残された。
「ベリー、鯛焼き半分食べる?」
ベリーはキーキーと嬉しそうに甘えた。ミルティは鯛焼きを半分に割り、頭の方をベリーにあげた。そして自分は
しっぽの方の割ったところをかじり、いつの間にか隣に来ていたシャドーに言った。
「大丈夫かな・・・今日だけで3人にばれたよ」
シャドーはミルティの方を向かずに、低く聞き取りづらい声で言った。
(…お前がいる限り、俺は消えない…)
果たしてどういう意味なのかミルティが考えている間に、シャドーは暗い闇へ消えていってしまった。

                       -*-

709しー:2009/04/05(日) 01:06:53 ID:gy15gzhw0
初めまして。
文章に自信はありませんが、書きました。
新参ながらまだみなさんの文を読んでいません。すみません。
明日ゆっくり読みます。

710◇68hJrjtY:2009/04/07(火) 20:13:01 ID:2jCZ.Q9M0
>しーさん
初めましてー。投稿ありがとうございます♪ ちょこちょこ感想書いてる68hと申します<(_ _)>
なるほど、シフの守護霊とは面白いですね。ミルティとシャドー、そしてベリーの三人旅。
シャドーの目的、というよりもミルティとの隠された繋がりがあるのでしょうか。楽しみです。
ビショップや悪魔など気になる顔ぶれも登場しましたね。続きお待ちしています。

711FAT:2009/04/07(火) 22:22:44 ID:teGRvlfQ0
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562
―光選― 七冊目1>>599-600、2>>601、3>>609-610、4>>611-612、5>>655-656、6>>657
>>658-660、8>>671-672、9>>673-674、10>>675-676


―11―

 レルロンドを大きな目で見下ろし、フォルダーは炎を纏った姿を睥睨する。
「その程度の炎で立ち向かおうとは、これではナーマ様の腹は満たせぬ。そこの女もただ
の人の模様。せめてナーマ様の食をそそるような姿にし、献上しよう」
 フォルダーは無力なソシアに背を向け、レルロンドに二本の触角を向けた。先端に付い
た小さな二つの目の焦点がレルロンドに重なると、二本の黒い光線がその一点を目掛けて
放たれた。細く鋭い光線はレルロンドの居た場所で接触し、地面を掘り返すほどの爆発を
起こす。
「すごい破壊力だ、あの小さな目が攻撃の主力なのか」
 噴煙を上げ大小の岩石が噴き落ちる中、レルロンドは広い床を転がりながらフォルダー
を分析する。高い天井までの空間は全てフォルダーの間合い。この地の利は覆せない。な
ら、どうする。
「中々の身のこなしだ。だが、いつまで持つかな」
 フォルダーは空中で停滞したまま、逃げ回るレルロンドを目で追い、何度も光線を放つ。
休まず打ち続けられる黒の光線を避けるだけで精一杯のレルロンド。抉られる地面に逃げ
場が無くなっていく。窮地。レルロンドの表情はすでに苦しそうに歪んでいた。しかし、
そんなレルロンドの耳にソシアの応援する声が届く。
「レッルロンド! レッルロンド! あっなたっはゆっうしゃ! レッルロンド! そら
もとべるっぞレッルロンド!」
 軽快な歌がソシアの美しくも力強い声に乗ってレルロンドを勇気付ける。すると、まる
で背が高くなったかのように目線が上がっていく。苦しかった息も戻った。気づけば、地
面が下方に遠くなっていた。
「レッルロンド! レッルロンド! ひをふけもっやせ! レッルロンド! そらかけか
ぜきるレッルロンド!」
 自分でも気付かなかった力が、目覚めたようだった。ソシアが歌えば歌うほど、レルロ
ンドの体に活力が漲ってくる。体を覆う炎もそれに呼応するように熱を増し、勢い付いて
いく。

712FAT:2009/04/07(火) 22:23:17 ID:teGRvlfQ0
「すごい! ソシアさん、応援ありがとうございます!」
 もはや応援というレベルではない。まるで高度な支援魔法を掛け尽してもらったかのよ
うにレルロンドは見違えた。自信に漲る青年はフォルダーの大きな目を不敵に睨みつける。
「この力……真に厄介なのはあの女の方だったか」
 フォルダーは歌うソシアに目の焦点を合わせようとした。しかし、レルロンドの高速射
矢が触角を掠め、狙いを定まらせない。
「ソシアさんには手を出させない。僕が守ってみせる!」
 レルロンドは炎の玉を創り上げると上空に放り投げた。間を置かず、三本の矢をその炎
の玉目掛け投げ入れた。
「その触角、もらう!」
 弓に矢をあてがい、フォルダーに放つ。フォルダーは単純に飛んでくる矢をぐるりと宙
で円を描いて軽々とかわし、触角を俊敏に反応させる。
「真の狙いはそちらだろう!」
 触角はレルロンドを狙わず、上空に浮いている炎の玉に焦点を合わせた。二本の黒い光
線が交差し、空中で爆発が起こる。炎の玉は三方に砕け散り、燦然と輝きながらゆっくり
と落下を始める。
「狙い通り」
 目の離れた一瞬の隙に、レルロンドは嘘のようなスピードでフォルダーに接近し、弓端
の刃で小さな羽を一気に切り落とした。
「ぬうっ! ばかなぁ!」
 羽を失い、落下していくフォルダー。その周りを先ほどの砕け散った三つの炎の残骸が
取り囲んでいた。
「ごめん、師匠の手前、君を生かしてはおけないんだ」
 フォルダーを取り囲んでいる三つの炎の中心には矢があった。その全ての矢じりがフォ
ルダーに向いている。
「ナーマ様に頂いた力に酔いしれていた、と云うわけか。だが、それは貴様も同じことだ
ぞ! 明日は我が身と思え!」
 ボシュッと火を噴き、三本の矢は炎の中から勢いよく噴射されフォルダーに突き刺さり、
燃え上がった。燃え盛る一つの炎は儚い線香花火のように強く光り、地面に激突すると弾
けて消えた。
「明日は我が身……か。ランクーイ……」
 レルロンドはランクーイのことを想った。決して力に酔いしれていた、と言うことでは
ないが結果としてはフォルダーの言葉の通りだ。いや、力に酔いしれていたと言うのなら
ばそれは逞しくなったランクーイの隣にいた自分のことではないだろうか。
 そんなことを考えていると突然強大な魔力の波がレルロンドを側面から飲み込んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁああああ!!」
 レルロンドは浮遊したまま衝撃に乗り、背骨が砕けんばかりに強く岩壁に打ち付けられ
た。
レルロンドを襲った強大な魔力の波はラスとナーマの魔法がぶつかり合った際に起こった
魔力の暴発だった。意識を失うと同時にソシアの応援の力が切れ、レルロンドの体は落下
を始める。
「レルロンド!? レルロンド、しっかりなさい」
 重力に引かれ落下してきたレルロンドを頼りなくソシアが受け止める。レルロンドの意
識は既に失われ、激しく打ち付けられた背面は真紅に染まり出血がひどい。
「しかたないですね。ちょっと早いけど大サービスですよ」
 ソシアはレルロンドを静かにおろすと星付きワンドを両手で顔の前にかざし、くるくる
と体を回転し始めた。
「ほら、しっかり。大サービスだからよ〜く見ておきなさい」
 くるくると軽快に回るソシアの全身から暖かな光がほとばしる。その光に導かれたよう
にレルロンドは意識を取り戻し、薄く瞼を開ける。
「うっ、ま、まぶしい……!! え! ソシアさん!?」
 レルロンドの目の前にはいつの間にか全裸になり、回転するソシアの神秘的な舞があっ
た。これは夢か。回転しながらでもソシアの美しい体のラインがレルロンドの眼にはっき
りと映った。レルロンドは傷付いていることも忘れ、立ち上がり、ソシアに夢中になった。
「はいっ! 元気になりましたね、レルロンド」
 レルロンドは白い歯を見せるソシアの言葉に違和感を覚えた。どもりもなく、自分を呼
び捨てにした美しい声。ほんの一時思考の止まったレルロンドの目の前で回転を止めたソ
シアは煙を巻きながら一瞬で別の姿に変身した。視覚がソシアの変貌を捉えたその瞬間、
レルロンドは自分の魂が体から抜け、天に昇っていく様を見た気がした。

713FAT:2009/04/07(火) 22:24:02 ID:teGRvlfQ0

―12―

 誰なのだろう。一体、この目の前にいる皺だらけの老婆は誰なのだろう。
 口をだらしなく開け、放心状態のレルロンドはソシアの代わりに現れた白いローブを羽
織った老婆に己の全てを奪われたように、あっけにとられていた。
「そんな顔をするんじゃありませんよ。仕方なかったのです。私が地上界にくるためには
『ソシア』を演じるしかなかったのです。そうしなければ、私は存在されることすら許さ
れなくなってしまうのですから」
 そんな老婆の言葉はもうレルロンドには届かない。ただただ、走馬灯のようにあの美し
いソシアが頭の中を駆け巡っている。しなやかな指にふやつやとしたもも、香る胸に高雅
な長い金色の髪。初めて意識した男と女の関係。その全てがこの老婆に置き換わっていく。
レルロンドは力なく膝を落とすと顔を深くうな垂れた。
「まぁ、あなたの気持ちがわからないでもありませんよ。だましている私も心が痛みまし
た。ですがね、レルロンド、これから私のすることを見ていてもらえれば、きっとあなた
にも私の苦悩が理解していただけると思いますよ」
 老婆がくるっと回転すると再び美しいソシアに戻った。そして激しい接戦を繰り広げて
いるラスとナーマを指差し、レルロンドに注目するよう促した。
「へえ、あなた、お父上よりも素質があるかも知れないわ。だって、気を抜いたら私が殺
されちゃいそうだもの」
 ラスの頭上に創り出されたいくつもの炎の玉が軍を成してナーマに急行する。ナーマは
体の倍以上もある尾をぶんぶん振って喜んだ。
「でも、私は負けないわ、絶対に。だって、気を抜かないもの」
 長い尾に水元素の魔力を張り、襲い来る炎の群れをまとめて打ち落とす。振り切った尾
からはまるで巨大な剣のような氷の刃が生まれ一直線にラスに斬りかかる。尾の異変を瞬
時に察すると体を倒して横転し、ラスは険しい顔をしてナーマを睨んだ。どんな元素の魔
法を放ってもナーマはその弱点となる元素で対抗する。見極めの速さとその威力の十分さ
から、中々次の手を出せないでいた。

714FAT:2009/04/07(火) 22:24:31 ID:teGRvlfQ0
「あなたが素晴らしいということはよ〜くわかったわ。だから、全力で捕らえてあげる」
 獲物の心を潰さんと禍々しくギョロッとした眼が鈍く光る。ナーマの体から何かが裂け
たような乾いた音が漏れた。すると突如、体の内側から何種類もの妖しい色彩をした魔法
元素が体外に溢れ出した。その元素群が溢れれば溢れるほどナーマの体に溶着し、徐々に
彼女を巨大化していく。ラスは無防備なナーマに風の魔力を乗せた大刀を背まで振りかぶ
り、未完成な体に斬りつけるも溢れ出る混沌とした魔力の前に激しく弾かれ、尻餅をつい
た。既にナーマは見上げるほど巨大なヘビの魔物へとその姿を変化させていた。
「なめやがって!」
 いきり立つラスは大刀を担ぐとナーマの人とヘビの境目に刃を入れる。剣に施したエン
チャットは大地の元素。少しでも傷つけば猛毒を注入できる。しかし、ラスの剣圧をもっ
てしてもナーマの皮膚は硬く、薄皮のひとつも切れない。火花が一瞬輝いた。
「無謀な子。お父上と違って頭は悪いのね」
 すぐさま離れようとしたラスをナーマの長い尾が追撃する。鋼鉄のごとく硬質な尾の先
端が槍のように伸び、ラスの大刀を弾き上げる。がら空きになった胴を狙う捕殺者の意図
をラスは分かっていた。冷気を伴う魔力を胸部に集中させ、不気味な笑みを近づけるナー
マの顔面に凄まじい威力の水鉄砲を放つ。水でありながら触れるもの全てを凍りつかせる
高純度の水元素魔法。至近距離からの発砲にナーマの上体が吹き飛ぶ。しかし、尾はすで
に獲物を捕らえていた、
「うがっ! うおおぉぉぉぉ!!」
 きつくラスを締め付ける長い尾。硬い鱗がラスの内臓を圧迫する。
「きっと、教育者が悪かったのね。可愛そうに。だって、あなた、こんなに簡単に捕まっ
ちゃったじゃない」
 尾を収縮させ、ラスを引き寄せる。凍りついた髪を労わりながら、ナーマの顔には勝者
の笑みが浮かび締め付けられているラスを見下す。
「なめんなよ……なめんなよ! ちくしょう!!」ナーマの罵りにラスの全身が火を噴く。
「だめよ、私の鱗は魔法を通さない。もうあがくだけ無駄なんだから、おとなしく私と一
緒に地下界に来なさい」
「ソシアさん、師匠が!」
「レルロンド、待ちなさい。もう少し、もう少しなのですから」
 ソシアは何かを待っているようだ。しかし、ラスの圧倒的不利は誰の目にも明らかであ
る。レルロンドはラスを助けるか、ソシアの策を待つか迷った。絶対にラスは失いたくな
い。だから今すぐに助け舟を出したい。しかし、ナーマはラスを捕らえると言っていた。
一緒に地下界に行くと言っていた。ならば、殺されることはないのではないだろうか。そ
れなら、何か策を持ってソシアが待てと言うのならば、それに賭けるべきではないだろう
か。内に持てる限りの魔力を集約し、その緊張状態を維持したまま、レルロンドはソシア
を信じ、彼女の策を待つことに決めた。
「負けるかよ!」
 体を拘束された焦燥感から、ラスは感情任せに炎風を巻き起こし抗うが、やはりナーマ
の体には傷一つつけることが出来ない。
「いい顔ね。青臭くって、好きよ。そういうの」
「ま……けるか……」
だんだんに強く締め上がる尾の圧にラスの意識は薄れ、ついには抵抗する力を失い頭を垂
れた。頭の上には目を光らせる捕食者の舌を伸ばした薄気味悪い影が映っている。決定的
な敗北だった。

715FAT:2009/04/07(火) 22:25:55 ID:teGRvlfQ0

―13―

「いい志ね。あなたはきっと私たちの大事な戦力になるわ」
 くたったラスをナーマは称え、右手の掌を天高くピンと肘を伸ばし掲げるとナーマはラ
スを締め付ける尾の力を抜かずに、ぼつぼつと低く唸るように呪文を詠唱し始めた。する
と、高い天井から重く生暖かい、目に映るほど悪意の充満した空気が流れ込み、まるで全
身に重甲冑をつけたかのように体が重く、指先を動かすことさえぎこちなさを感じる。
 闇の門が開いたのだ。
「あなたたち、フォルダーを倒したのは褒めてあげる。敬意を払って食べてあげるからそ
こで待っていなさい」
 巨大なナーマがそのヘビのような目を見開くと、ただでさえ重圧を受けていたレルロン
ドは体が痺れ、身動きが取れなくなった。
「かっ、体が……ソシアさん!?」
 ナーマのヘビ睨みにもソシアは動じず、ワンドを胸の前に構えナーマを見据える。そし
て、ワンドの先端についた星に指先を触れた。
「待ちましたよ、あなたが門を開いてくれるのを。闇への門は闇の者でなければ開けない、
闇への門へは闇の者でなければ辿り着けない。全く、あなたたちは面倒な物をつくってく
れたものです」
「おかしな娘ね、そんなことを知っているなんて。何者かしら」
 ヘビ眼が殺意に色めき立つ。ソシアは泰然自若として動じず、ゆっくりと星を手首で時
計回りに回した。
「この子たちの手前、本当のことを言うわけにはいきません。ですが、これだけは教えて
あげても良いでしょう」
 言葉が切れると同時に、ワンドの先端に捻じ込まれていた星が跳ねるように抜けた。
「門を破壊する者、です」
 解放された星は蒼い尾を引きながら、意思を持ったように一直線に開かれた門を目指す。
もちろんそれを見逃すナーマではない。腕を星に伸ばし、鋭い爪を振るう。だが、意外な
ものがナーマの注意を引いた。
「師匠をはなせ、ヘビ女ぁぁぁぁぁ!!」
 レルロンドが炎を纏った矢をナーマの長い髪に放った。下半身に魔法が通じないことは
分かっている。だからラスを締め付ける尾ではなく、燃えやすそうな髪を狙った。
「くっ! このくそがきがぁぁぁぁ!!」
 星の進行を阻もうと、そちらに気を取られていたナーマは不覚にもレルロンドの火矢を
喰らってしまう。ナーマの体から溢れる微量な魔力の膜によって火矢は消滅し、燃えも傷
つきもしないが恐ろしいことに彼女の怒りに火を点けてしまった。
「坊やが! おもちゃを振り回しちゃ! 危ないでしょぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
 レルロンドをナーマの太い尾が襲う。鞭のようにしなる尾にレルロンドは構えることも
できず鉄柱のような尾が深々と腹部にめり込んだ。バキバキといくつかの乾いた音が重な
り、体はそのまま軽々と吹き飛んだ。必然的にラスはナーマの尾から開放された。

716FAT:2009/04/07(火) 22:26:25 ID:teGRvlfQ0
「レルロンド! 無事ですか!?」
 不安げに遠く飛んでいったレルロンドを見遣るソシア。しかし、返事は無く小さく何か
が落ちた音がした。
「レルロンド、無事でいて下さいね。そして出来ることなら、これから起こることを見て
いて下さい」
 ソシアの放った星は門に吸い込まれるように内部へと入っていく。そして次の瞬間、甲
高く鳴ったかと思うと星は砕け散り、星の中に抑えられていた目を塞ぐほど眩い光が門に
亀裂を生じさせた。砕け散った星の欠片、その一つ一つが光り輝く流星となり、門を砕く。
門は内側から破壊され、星から生じた光が門を覆うように隠し、蓋となった。重く悪意に
満ちた風は断ち切られ、代わりに光の流星が戦場に降り注ぐ。
「ぎゃあぁぁぁあぁぁぁああ!!」
 光は悪を浄化し善を癒す。ナーマは雨のように体を打つ流星に焦げ付く己の臭いを嗅い
だ。焼けると同時に溶けてもいるような連続する痛みの感覚、魔法を通さないはずの鱗で
覆われた尾もきりきりと痛む。痛みはナーマの巨大化を解かせ、元の大きさに戻った。
 流星は誰の元にも降り注ぐ。光に打たれたレルロンドはぼぉ〜っとしていた意識が急速
に戻ってくるのを感じた。そして、ソシアが何を待っていたのか、何をしたがっていたの
かを理解した。ぼやける視界で見えた星の爆破と光の降雨。きっと彼女は大きな役目を背
負っているのだろう。「門」を破壊することに何の意味があるのかは分からなかったがソシ
アは自分を偽ってまでその「門」を破壊しようとした。レルロンドの想像では補いきれな
い世界が目の前にあった。
 流星はまた、ラスにも降り注ぐ。光は悪を浄化し善を癒す。ラスが本当に地下界の者な
らば、すなわち悪ならば消滅してしまうだろう。
 しかし、ラスは消えなかった。光は優しくラスを包み、傷ついた体を癒す。意識を失っ
ていた間に何が起こったのか、ラスには見当もつかない。ただ、やるべきことは分かって
いた。本能に従い、目に唯一映るナーマにとどめを刺すべく立ち上がると大刀にエンチャ
ットを施し、弱ったナーマの胴体を切り離した。
「ふっ、ふふふふふふ、頼もしい、実に頼もしいわ。あなた、無意識でしょう? その「闇
のエンチャット」、無意識の賜物でしょう?」
 ラスの剣を見ると黒く、禍々しく、深い闇を湛えた魔力がほとばしっていた。
「私を斬るほどの「闇」、見させてもらったわ。これなら安心して消えれるわ。ふふ、恐く
はないのよ。私たちはそのための一種二代制なんだから。私の娘も、あなたのようにたく
ましく育ってほしいわ」
「闇!? 俺が、かけたのか、この闇のエンチャット……」
「さようなら、次代を担う闇の者、皆が待ち焦がれていた獣魔の英雄。あなたの活躍を見
れないのは残念だけど、私、満足してるのよ。最高の闇だったわ。ただ、その小娘には気
をつけなさい。だって、私たちの敵なんですもの」
 上半身だけのナーマはソシアを睨む。ソシアは真っ直ぐに、透き通るような瞳でナーマ
に手をかざし、呟いた。
「消えなさい。あなたの存在は闇を呼んでしまう。欠片の一つも残しません」
 ナーマの上半身と下半身を突如出現した白い真四角の箱が飲み込む。ぽつり、何か呟く
とソシアの全身がほのかな光に包まれ、静かにその箱に近寄り、体を覆っていた光の魔力
を手に集め、勢いよく箱に叩きつけた。
「あなたは余計なことをしゃべりすぎました。その責任、取っていただきますよ」
 魔力を注入された箱が光を放ち、震え輝く。光が部屋を覆ったかと思うと次の瞬間には
箱が消え、ナーマは消滅していた。文字通り、灰の一つも残りはしなかった。

717FAT:2009/04/07(火) 22:27:02 ID:teGRvlfQ0

―14―

 巨大な空間は一瞬の静寂と煮え切らない思いで硬直していた。何から質問すれば良いの
か、余りにも多くの情報が一度に入ってきてしまって、戦闘で疲れた頭がそれらを整理す
るのを嫌がり、怠っているようだった。
「あ、あのぉ……」
 ソシアがもじもじと二人に話しかける。その話し方は以前のソシアのものだ。
「い、いろいろ、聞きたいことはあるでしょうけど、わ、わたし、しゃべれません」
 二人は黙ったまま、まだ整理のつかない情報を必死に繋げようとしていた。ナーマやソ
シアの発言から推測するに、ラスの父親は地下界におり、ナーマは直接の関与があったよ
うである。地下界と地上界を行き来する手段はあの「門」をくぐること。その「門」は「闇
の者」でなければ開けず、「闇の者」以外は辿り着くことさえ出来ないという。今回、「門」
に辿り着けたのはラスが「闇の者」だからか? しかし、ラスは光に癒された。光にその
存在を認められたのである。ナーマは光に拒絶され、身を焦がした。両者の違いは何か?
 ラスは自分が恐ろしくなった。無意識にかけたエンチャットの属性は闇。本能が選んだ
のは闇の元素。それも「闇の者」を一刀両断にするほどの高純度、高密度の闇。もはやラ
スは自分が地下界の住人だということを認めざるを得なくなっていた。長年人間として育
てられてきたが、無理があったのだ。

 人間ではなかったのだから。

「わ、わたしがなにものかって、きかないんですか?」
 ソシアは無反応な二人が不安になり、じろじろと顔を見た。やはり二人は何の反応も見
せない。
 レルロンドはソシアのしている全てのことに口を出すまいと決めていた。ラスやナーマ
ほどの実力者でも見抜けなかったソシアの秘めた力。戦闘が終わると同時に再び偽りの「ソ
シア」を演じていることに、ソシアの事情の深さを悟ったからだ。彼女のしようとしてい
ることは自分のためではなく、誰かのためなのだろう。だから自分を偽っている。レルロ
ンドは黙り続けた。
「おい」
 ラスが重い口を開く。
「はひ」
「お前に話がある。ちょっと来い」
 ソシアの腕をぐいと引き、ラスとソシアは部屋から出て行った。レルロンドはナーマの
言葉を思い返す。
「その小娘には気をつけなさい。だって、私たちの敵なんですもの」
 まさか、と一瞬残酷なイメージが脳裏を過ぎるが、今ここでラスを疑うわけにはいかな
い。
「そうさ、師匠は師匠なんだ。闇の者なんかでも、地下界の住人なんかでもない、僕らの
師匠なんだ。そうだよな、ランクーイ」
 レルロンドは胸に手をあて、その中にいるランクーイに助けを求めた。緑髪のエルフ、
そしてナーマ。二人はラスを闇の者だと断言した。それだけではない、ラスが使ったあの
闇のエンチャット。もはや疑う余地はない。でも、誰かが信じてあげなければいけない。
弟子である自分が、信じてあげなければいけない。
 レルロンドが胸に手をあて、震えているとラスとソシアが戻ってきた。レルロンドは何
と声をかければよいか、良い言葉が思いつかなかった。しかし、そんな心配をよそにラス
はいつも通りの口調で、
「おい、こんなとこさっさとおさらばするぞ。次に俺たちが目指すのは古都ブルネンシュ
ティグだ。お前もよく知ってるとこだろ?」とレルロンドの腕を持ち上げ、無理やり立た
せた。恐る恐るラスの眼を見るとそこには何の迷いも無く、強い決意を持った黒く力強い
瞳が輝いていた。
「はい! どこへだってついて行きますよ、師匠!」
 ラスの瞳にレルロンドの不安はどこかへ吹き飛んでいった。ラスはラス、それで良いの
だと、ラスの瞳が教えてくれた。
「そ、それじゃあみなさん、げ、げんきにいきましょお!」
 美しいソシアの声がキャンサー気孔に響く。数多くのしこりを残したまま、三人は上塗
りの自論でそれらを覆い隠し、キャンサー気孔を後にした。

718FAT:2009/04/07(火) 22:35:53 ID:teGRvlfQ0
みなさんこんばんは。いつの間にかほんとの春になってて驚きです。
二か月も空いてしまいました。

>>しーさん
はじめまして。
書き初めのなんともいえない緊張感を思い出してレスしてます。
色んな方の小説読むのも楽しいですよね。
内容的にも今までにないタイプのお話だと思いますし、続きを期待してますね。

719◇68hJrjtY:2009/04/08(水) 16:56:31 ID:2jCZ.Q9M0
>FATさん
お久しぶりです。ほんとに二ヶ月ですねぇ、早いものです。
お花見ももう終わり頃で新緑が綺麗な季節ですね。
FATさんの小説は土壇場で予想外な新事実や事件が起きると常々思っていましたが
今回の新事実はソシアの隠れた実態ですね。これは流石に予想外でしたよ!
無論、最初の出会いから考えれば自然とは言い切れない同行ではありましたが。
ラスが闇の者かはたまた光の者かというところですが、個人的にはどっちの者でもラスは大好きです。
精神的な葛藤を越えて、是非とも本来の自分を見つけて欲しいですね。
もちろんストーリーの続きもお待ちしています。次はついに古都への行程ですね。

720名無しさん:2009/04/10(金) 17:37:39 ID:WjRYiJOY0


此処は古都から西へ数キロ、東へ数キロの位置にある古都ブルンネンシュティング。
誰でも勇者になれる、そんな謳い文句で飾られた剣術道場には、今日も多くの入門者が訪れる。
だが厳しい入門試験に通ることができるの数百人の内一人いれば良い方だという。

「アレキスさん」
「なんだ、パッドフット君」

剣術道場といっても、内部は小さな教室のようにしかなっていない。教卓に正座して座る師範を始め、席には数人の生徒が重苦しい雰囲気の中にあった。
その生徒――厳しい入門試験に合格し、道場に入門した少年は手を上げて椅子から立ち上がる。ようやく師範たる剣士、アレキスも教卓から飛び降りる。

「ラビットです、先生。ところで、いつになったら鍛練は開始されるのでしょう」
「ふむ、鍛練を始めたいと言うのか。そういうことならば始めよう」

言うが早いか、アレキスは黒板の方へと歩み寄って黒板に人差し指を立てる。
生徒たちは黙って両の耳に耳栓を入れ、アレキスはそれを全く気にすることなくギィィイ、と爪を立てた。
アレキスは何食わぬ顔で生徒たちの方へと向き直り、生徒たちも無表情で耳栓を外す。耳栓を忘れて呻いている生徒が若干名いるが、残念ながら彼らは内申書にペケだ。
ちなみに内申書は就職や内定に必要になる。勇者と無職は似て非なるものであり、勇者になるなら無職は許されない。

「それでは始めよう、ダメオン君、号礼を」
「ダリオンです、先生」
「それでは授業に入ろう」

アレキスの言葉に手を上げた少年、ダリオンにウインクを飛ばし、アレキスはチョークを手に取って黒板に白の滑らかな線を描く。
程無くして黒板に描かれた美しい古都の情景に、子供たちから賞賛と感嘆の声が上がる。美しく、そしてどこか儚い古都のその姿を、アレキスはチョーク一本で再現して見せたのだ。

「これは何かな、ダメオン君」
「古都ブルンネンシュティングです、先生」
「その通り、これは剣士のパラレルシュティングを立体的に描いた図だ」

ざわざわと生徒たちから声が上がる。
だがアレキスも無理難題を押し付けるほど鬼畜ではない。彼は勇者であって無職ではないからだ。
めくるめく社会の荒波を知らない生徒たちを諭すように柔和な笑顔でアレキスは言う。

「それではパッドフット君、パラレルスティングとは何だ?」
「ラビットです、先生」
「その通り。パラレルスティングとは私の得意技だ」

ざわざわ。

「私はこう考えている。勇者とはパラレルスティングであると」
「先生、仰る意味が分かりません」
「疑問とは己で解決するために存在するのだレベッカ。では授業を続けよう。
レベッカは明日までにパラレルスティングの考察について原稿用紙50枚分の論文を書いて提出する人に嘲笑の目を送ること」
「先生、論文を書いて提出する人は誰ですか」
「もちろんダメオン君だ」

ギクリ、と肩を震わせる数名の少年。このクラスにはダメオンと呼ばれる生徒が5人いた。
ちなみに、初代卒業生の8人の内3人がダメオンだった。別に例の赤い悪魔とは何の因果も関係も無い。

「では実際にパラレルスティングとはどういうものか、見てみよう」

そう言うが早いか、アレキスは全員に立つように言って教室を出た。暗についてこい、と言われた生徒たちはその後をゆらりとした歩調でついて行く。
数分も経たずに古都の西、コボルトの生息地へと到着したアレキス達に通行人の視線が飛び交う。

「先生、こんな人の多い場所で鍛練をするのですか」
「良い質問だパッドフット君」
「ラビットです、先生」

アレキスの拍手に、生徒全員から惜しみない拍手がラビットに送られる。
辻支援の飛び交う西口の情景に細い眼をしつつ、アレキスはゆっくりと腰の剣に手を翳す。

「答えはイエスだ、パッドフット君。勇者とは常に民衆の視線に耐えなければならない」

剣を抜き、目の前の哀れなコボルトに向けて剣を構える。

「さあ、鍛練を始めよう。鍛錬に付き合ってくれるコボルトがせめて心置きなく逝けるよう祈るんだ」

アレキスの言葉に、生徒たちを始め通行人、露天商までもがコボルトへと黙祷を捧ぐ。
決して死者への敬意を忘れてはならない。そう暗に生徒たちにアレキスは指導しているに違いない。その光景を見た露天商ブロームは涙を流し、この涙で後に国会議員となる。

「では鍛練を始めよう」

アレキスはラビット目掛けて剣を振り上げた。

721◇68hJrjtY:2009/04/11(土) 02:31:47 ID:2jCZ.Q9M0
>720さん
投稿ありがとうございます♪しかし、深夜なのに笑わせてもらいました。
なんだか堅い語り口なのに、やってる事がみんなして楽しい…!
「ブルンネンシュティグ=パラレルシュティング」、この発想はマジで無かった。。
ちょっとトボけた感じの面白い先生だと思ってたらラストなんですかこれは(ノ∀`*)
最後までパッドフッド君だったラビット君に敬礼(笑) また投稿お待ちしてますー。

722しー:2009/04/13(月) 00:11:48 ID:fcS9pJCg0

「ベリー、いけ!がんば・・・あ、ベリー!まって、ちょ、ストップスト・・・」
制止の声もむなしく、ミルティは天使が攻撃していたガイコツを倒してしまった。
「ご、ごめんなさい・・・」
ミルティは慌てて謝った。天使は無表情のままミルティを見下ろして一言、
「次は気をつけるんだよ」
「はい・・・」
天使はそのまま飛んでいこうとしたが、ふと翼を下ろして振り返った。
「な、なん・・・」
「お前とは一回会ったな。何かが憑いた、すぐ周りが見えなくなるテイマ」
天使はミルティに反論する暇も与えず、つかつかと歩み寄ってミルティの目の前に立った。冷めた赤い瞳で睨まれ
怯みつつも、ミルティは口を開いた。
「なな何なのぉ・・・べべべ別にいいじゃない・・・」
ミルティが少し涙声になりかけたとき、すっと横から手が伸ばされた。まるでミルティを守るように・・・
「現れたか」
天使は表情を変えず呟いた。シャドーはやや前髪に隠れた深紅の双眸を光らせて天使を睨みつけている。
「幽霊のお前が私に立てつくか。一応ターンアンデッドもあるのだが」
「!!」
ターンアンデッド。範囲内のアンデッドを一瞬にして葬り去る魔法だ。もしそんなものを使われたら・・・
(天使…)
ミルティが再度泣きそうになったとき、シャドーの重く暗い声が響いた。
「何だ」
(もし貴様が俺を消し去るならば、困るのは俺だけではない)
「少女を盾にする気か」
(俺は今は消されたくない)
果たしてそれが嘘か本当かもわからない無感情な声でシャドーは言った。そして俯き、
上目遣いに天使を睨み上げ、笑った。
(クク…そんな無防備で俺に勝てるとでも…?)
天使の体が一瞬ビクリと震えた。翼が消え、髪が色を持ち・・・天使はビショップへ変身を遂げた。そして、
ビショップは膝をついた。
「・・・貴・・・様・・・・・・ッ・・・!!」
ミルティは、はっとした。天使に何が起こったか・・・シャドーが何をしたか。天使やウルフマンは、CPが
切れると変身が解けると、誰かが言っていたような気がする。
「シャドー・・・!」
ミルティはシャドーの方を見た。シャドーの瞳が赤く、暗く光っている。
天使から変身が切れる程搾り取っておきながら、まだ何かを吸収する気だ・・・天使の命が危ない!
ミルティは踵を返し、その場から逃げ出した。

シャドーの目から、光が消えた。だんだんとその姿が薄くなっていく。
(…命拾いしたな……)
そう言い残し、シャドーは消えた。同時にビショップは、力を失って倒れた。

                    -*-

723しー:2009/04/13(月) 00:32:22 ID:fcS9pJCg0

近くに浅い洞窟を見つけ、ミルティはそこへ入った。全力で走ったので、肩で息をする始末だ。こんなに走ったの何年
ぶりだろうと思うと同時に、涙があふれた。ベリーが心配したのか、キィと鳴いた。
「・・・シャ・・・ドー・・・。いる、でしょ・・・?」
ミルティは小さく問いかけた。暗い洞窟に、もう一つの気配が現れる。シャドーは、しゃがみ込んで泣くミルティの横に
立った。
「・・・うぅ・・・シャドー・・・いくらなんでも・・・、やりすぎよ・・・」
(……何故…泣く)
「・・・・・・だって・・・」
ミルティはシャドーの方を見た。
「だってっ・・・あの天使さん・・・すっごく辛そうで・・・でも私、何もできなかった・・・あなたを止めることも
せず・・・」
ミルティは悔しく、そして悲しかった。シャドーとずっと一緒にいたが、シャドーがこんなことをしたのは初めてだった。
自分の相棒が他人を苦しめるなんて思いもしなかった。
だからミルティは謝ってほしかったのだが、
(…今からでも遅くない…天使に謝ってこい)
「っっ、ど、どうしてよ!あなたが悪いんじゃない!」
予想を大きく外れた言葉に、ミルティは食ってかかった。するとシャドーは目を伏せ、
(………そうか)
それだけ言った。シャドーの足元にわだかまっていた黒い霧が、序々にシャドーの体全体を包む。ミルティが
しまったと思った時には、既にシャドーの姿はなかった。少し遅れて、声だけが聞こえた。
(……俺がいなければ、お前は泣くこともなかったわけだな…?)
「・・・・・・・・・」
シャドーの気配が消えたのを感じた。昼間に感じる希薄な視線も、たまに聞こえる幻聴かと思うほど小さい
息遣いも、感じなくなった。
少し離れた所にベリーがいるから、完全に一人ではないが、ミルティは寂しさと虚しさにおそわれた。風が
いつもより冷たく感じ、ミルティは二の腕を抱いた。ここで初めてミルティは、シャドーが憑依を解いたのだと
わかった。
「嘘・・・でしょ・・・?」
呆然として呟いたが、答えてくれる者は誰一人いなかった。

                       -*-

724ヒカル★:削除
削除

725◇68hJrjtY:2009/04/13(月) 18:23:00 ID:2jCZ.Q9M0
>しーさん
続きありがとうございます♪
シフ×テイマラヴーとか勝手な妄想爆発してましたが、事態は深刻な展開ですね。
シャドーの隠れた力が発現されたと同時にミルティからの憑依解除…?
今までのほんわかとした流れから一変してきましたね。
これが一時的なものなのか、それとも二人は別離してしまうのか。
先がまったく読めませんが、シャドーとミルティの今後など続きお待ちしています。

726ヒカル★:削除
削除

727ヒカル★:削除
削除

728ヒカル★:削除
削除

729Rachel:2009/04/20(月) 13:46:34 ID:pFONwgYY0
  Z&eacute;ro licence

 蒼い蒼穹に、少しずつ形を変化させる白い雲。
 その姿は、お祭りで綿菓子をちぎるよう。
 夢を持つ冒険者が集うここ、古都ブルンネンシュティグ。
 世の中は弱肉強食。
 強き者は名声もあり、豪華な食事にありつけるが、弱き者は知らぬ所で消えていく。
 "夢が叶うと思うな。決して清き心の人物が幸福を得るとは限らない。"
 これが親父の、唯一覚えている言葉だ。
 夢を描く事は簡単だ。
 頭で思い浮かべればいい。
 しかし、現実にするためには?
 夢によって様々だが、血も廻る思いで行動しなければならないだろう。
 ある人は力をつけ、ある人は知識、知恵を積み。
 チャンスが2度あるとは限らない。
 1回きりかもしれないし、人によっては1回もないかもしれない。
 では……夢が複数ある人は?
 贅沢者としか言い様がないだろう。
 叶うはずがないだろう、馬鹿野郎、と言える。
 ……いや、俺は。
 俺の夢は全て叶えてみせる。
 5つの、夢。
 叶えなくてはいけないんだ……。



  プロローグ 10歳

 物語は少年が10歳の時のあるきっかけからだった。
 いや、逆に言い換えればそれはきっかけに過ぎなかった。
 少年が、目指す夢の、最初のスタート地点なのだ。
 少年の名はユウヤ=クロリア。
 何の変哲もない、普通の男の子である。
 親は居ない。
 留守だとか、どこか遠くに出かけているなどではなく、ユウヤが物心ついた頃にはもう、この姉だけだったのである。
 母親はビーストテイマー、父親は武道家。
 というのは表向きであり、母親は天に仕える、魔獣使い。
 天上にいる全ての獣はもちろん、地上のモンスターまで全てを手なずけることが出来るという。
 そして、父親の本職はシーフ。
 いや、それよりassassinと言った方がいいだろう。
 以前、国家暗殺に関わっていた5人の内の、リーダー格であったが、ある事をきっかけに計画は崩れ、身を潜めたらしい。
 姉、ミカは母の血を受け継いだ。
 12歳で全てのスキルをマスターし、若くもビーストテイマーで知らない人は居ない、という状態になるが、15歳で引退し、今はロマでユウヤと平凡に暮らしている。

 ユウヤが夢をもつ、きっかけの糸が解れかけていた。

730Rachel:2009/04/20(月) 13:50:02 ID:pFONwgYY0
「ユウヤはさ。」
ふいに、編み物をしていた姉が呟く。
「夢とか、ないの?」
編んでいるのは、ユウヤが使う手袋である。
ユウヤも満10歳。
そろそろ何かの職を教わり始めてもいい年頃。
フランテル大陸には学校がない。
しかし、人の大半は何かの職に就き、何かを極める旅にでる。
男の子はもちろん、女の子もである。
戦いのための偵察術を学んだり、天文学だったり、調練学だったり。
宮廷の侍女にでもなりたかったら宮廷礼節を学び、騎士になりたいならば騎士道……などと。
シーフの場合は弟子入りが基本なのだが、表ざたにしていると死に関わるであろう。
父……ラウリー=クロリアに学んだ者は皆、名を知れる暗殺者に成長している。
国家はこれ以上暗殺者が増えると、反逆者が出、この地位が危ないのではないか……と、
シーフはもちろん、それを教える者にも賞金をかけ、捕まった者は……生きては、帰れない。
まあ、プロならば簡単には捕まったりしないのだが。
そんなふうに、大体の人が学ぶ、平均の年齢というのが10歳なのである。
「俺は普通にこの、ロマ村で暮らすよ。少し狩り出来る程度の腕はあるしさ!」
ユウヤは腕をぶんぶん振り回してみせる。
確かに、何も習ってない状態で……古代ヴァンプに喧嘩を売って、倒せないにしても生きて帰ってきた時点で並はずれているのだが。
「だからこそ、磨けば立派な騎士さんとか、戦士さんとか……まぁ、立派になれるかもしれないのよ?」
暗殺者、とは出さなかった。
ミキは父親のことはあまり良く思っていない様子だった。
母親はミキが、12つの時まで居たのだが、ミキは母親が父親に捨てられたと、そう思っていた。
いつも母親は微笑んでくれていたけど、その瞳はなんだか物寂しげだったから……。
ミキが、12歳……ビーストテイマーをマスターする、ほんの少し前に亡くなってしまった。
偉いね、凄いよって、褒めてくれる前だった。
だからこそミキは……ありえないかもしれないけど、自分がユウヤの前から居なくなってしまう前までに、ユウヤの立派な姿をみて、たくさん褒めてあげたいのだ。
……きっと、私みたいに夢が叶ってもだれも褒めてくれなかったら、すごくさびしいことだから。
叶った夢を、見てみてもちっとも嬉しくなかった、それをユウヤに、体験させたくはなかったのだ。
「……まだ、わかんないよ。やっぱり。」
「そっか。」
ミキは編む手を止め、優しく、ユウヤを小さな両手で包み込む。
育ち盛りの歳。
力ももうミキよりあるだろう。
何にでもいい。
傍で、この子を見守れたら、その時はもう……。

見守れたら。
それも一種の夢であろう。
そして、叶うことの無い夢に……。

731Rachel:2009/04/20(月) 13:55:54 ID:pFONwgYY0
初めまして。
粗末な文ですが、gdgdと考え、出してみました。
プロローグは軸である、ユウヤ君の冒険への始まりに関するところです。
ナレーターのところなど……いろんな人の考えが入り混じるようになってしまい、とても読みにくいと感じてしまうでしょうが、
暇つぶしとして読んで頂ければ光栄です。
まずは10歳、という名でプロローグを書いてみました。
というか……ここで終わったらプロローグまだあるんじゃ……って感じなのですが、
ユウヤ君の旅は12歳から始まります。
2年どこいくの?ってなっちゃうんですが
そこはいろいろと……考えてもなかったりします。
まあ、どうにかなるでしょう……。w
次回は、1話となります。
では、また、よろしくお願いします。
レイチェルでした。

732◇68hJrjtY:2009/04/20(月) 17:57:27 ID:2jCZ.Q9M0
>Rachelさん
初めまして!投稿ありがとうございます。
母の血を引いて天才的な素質を持つ姉のミキ。12歳でマスターして15歳で引退とは…!
シーフの血を引くユウヤ君も今後が期待できそうなのですが、プロローグの段階では判然としませんね。
両親は死んでしまったのか、それとも本当にただ「居なくなって」しまったのかもちょっと気になりました。
果たしてユウヤの「五つの夢」とは。今後、楽しみにしています。

733しー:2009/04/20(月) 18:25:19 ID:fcS9pJCg0

ミルティは古都の宿に泊まった。なんだか前止まった時より部屋が広く見える。ミルティは後ろをついてきたベリーを
ちらりと振り返ると、目が合った。ベリーはそっぽを向いた。ミルティの今のどうしようもない気持ちをなんとなく察しての
ことだろう。
ミルティはバッグからクッキーを取り出して、かじった。しけった味がした。しかしミルティは何も考えることができず、ただ
クッキーを少しずつ食べていった。3分の1くらいまで食べたとき、ふとミルティは、クッキーを食べ終えてしまったらシャドーと
二度と会えないような気がした。ミルティは残りを袋に入れて口をしばった。
扉の外から、小さな声が聞こえる。
「ああっ、こぼしたぁ!」
「・・・フレンってさぁ・・・いつもいつも」
「どういう意味よ!あぁあ、あたしのイチゴ牛乳・・・リエディスのせいだからね。・・・・・・どうして何も言わないの!?ねぇ、
そういうの一番嫌いなパターン・・・」
ガチャ。
ミルティは耐えかねて扉をあけてしまった。ビショップに文句を言っていた悪魔が口をつぐむ。ビショップも、驚いたように
ミルティを見た。
「君は・・・たしか・・・」
「あっ、あなた、霊に取り憑かれてた・・・。あの、前の幽霊はどうしたのよ」
「れい・・・」
悪魔、フレンの言う『霊』がシャドーを指すことに気づくのに、少し時間がかかった。シャドーを思うと、後悔と
寂しさで心が痛かった。
「・・・シャドーなら、いなくなった・・・私が、ひどいこと・・・うっ」
「わわっ、こんなところで泣かないで。入るわよ、いい?」
フレンはそう言って泣き始めたミルティを部屋に入れた。ビショップのリエディスもそれに続いた。

734名無しさん:2009/04/20(月) 19:08:01 ID:fcS9pJCg0

「そう・・・そんなことが」
フレンはミルティから話を聞き、そう漏らした。ミルティはうなずいて、リエディスが淹れてくれたコーヒーに口をつけた。
ミルティの涙もおさまり、部屋の真ん中のテーブルを囲んで3人で座っていた。ミルティは、他人に話したことで心が
少し軽くなるのを感じて、頬が染まった。
「その霊・・・シャドーは、いつからいたんだい」
リエディスが静かに尋ねた。
「もう覚えてない。ずっと前から」
「そうか」
リエディスは少し考え、
「君、ミルティの故郷はビスルだろう?」
「はい・・・」
「じゃぁその近くに墓があるかもね」
言われてみれば確かにそうである。取り憑かれていたということはその辺に霊がいたからに相違ない。リエディスは、
シャドーが自分の墓の近くへ帰ったと考えているようだ。しかし、ビスルには確か墓はなかった。
「ビスルは、墓なかったよ」
ミルティが言うと、フレンが身を乗り出して言った。
「でも、近くのブリッジヘッドにはあるのよ。小さい墓場で、たいした霊もいないみたいだったけど」
「・・・ミルティ、ブリッジヘッドには行ったことあるかい」
リエディスが尋ねた。そういえば、ブリッジヘッドには行ったことがあった。海がきれいで、特に夕方がきれいだった。
そして、そこで謎の声が聞こえ、怖かったことは今でも覚えている。
「そこかもしれない・・・!」
ミルティは希望をこめて言った。リエディスは遠慮がちに、
「いや、そのシャドーが戻ってたらと仮定してのことだし」
「でも、行ってみる価値はある・・・ありがとう!」
ミルティは2人にお辞儀をした。フレンが、少し微笑んだ。
「あのシーフのこと、好きなんでしょ」
「っ、え!?」
急に言われたのでミルティは反応に困った。
「フレン、そろそろ行くよ」
「ふふ、幸運を祈ってる・・・こんなこと悪魔が言うのおかしいかしら?」
「フレンー」
「もう、わかったってば」
フレンはミルティに手を振った。ミルティも、少し照れくさかったが、手を振り返した。

                      -*-

735しー:2009/04/20(月) 19:22:13 ID:fcS9pJCg0

「はぁ・・・はぁ・・・」
思った以上にブリッジヘッドは遠かった。ミルティはアウグスタに着いたが、既に走る気力はなかった。
「ベリ・・・歩こ・・・」
ベリーも疲れているようで、返事をしなかった。ミルティがさあ歩こうと前を向いたら、誰かとぶつかった。
「あっ・・・ご、ごめ」
ミルティの言葉が止まった。このパターンは前にも2回ほどあったが、まさかこんなところで会おうなんて。
「・・・貴様・・・前はよくも・・・」
天使の眼が復讐の色を帯びる。ミルティは慌てて言った。
「い、今は、その、いないの。彼を探しに、ブリッジヘッドまで行くの・・・」
「・・・どういうことだ」

ミルティの話を、天使は黙って聞いていた。ミルティは話しながら、この天使は実は優しかったんだと思うと同時に、申し訳
なさがこみあげた。
「・・・なるほど。それでお前はここまで走ってきたのか」
ミルティがうなずくと、天使は少しミルティから離れ、チャージを始めた。
「・・・・・・あの?」
ミルティが声をかけると、天使はこちらを一瞥し、両手を何も無い空間に向けて掲げた。そこに、白く光り輝く渦が
現れる。
「行け。すぐ消えるぞ」
ミルティはそれがタウンポータルだと、行けと言われるまで気づかなかった。ミルティは一歩踏み出したが、ふと振り返った。
「あの・・・私、ミルティ。あなたは?」
「私か。・・・ニフだ」
「ニフ、ありがとう・・・!」
最後の方は、ポータルに体が吸い込まれる感覚が強すぎて、うまく言えたかどうかわからなかった。

                      -*-

736◇68hJrjtY:2009/04/21(火) 16:44:27 ID:2jCZ.Q9M0
>しーさん
続きありがとうございます!
シャドーを探して旅を始めたミルティに、フレンやリエディスたちが入れ替わり立ち代りで
手助けをしてくれるというのがなんか自分の事のように嬉しい。あのニフまでもが。
それでいてミルティはベリーと共に一人でシャドーを探す…恋は強しですね!
さて、ブリッジヘッドで果たして何が待ち受けるのか。続きお待ちしています。

737DIWALI:2009/04/22(水) 16:17:50 ID:OhTl4zsk0
久々に続きです。

 場所としてはトラン森の西側だろうか・・・その場所は今、一人の青年が生み出した灼熱のせいで森林火災に見舞われている。
 彼の名はミカエル・ウォン。このフランデル大陸において、彼ほど炎の扱いに長けた者はもう一人といない炎の精霊術師・・・
 拳に紅蓮の炎を纏ったミカエルが睨むのは、東の異国からやって来た巨漢。名は東雲橙堂、ラティナの父親である。
 二人の男達は、燃え盛る業火に周りを囲まれながら20分以上も闘いを繰り広げていた・・・

「はっ・・・俺の灼熱領域に入ってこれたのは、アンタが初めてだな。東の国のおっさんよォ? 」
「フン! この程度の熱さなんぞ、生まれ故郷の火山で溶岩浴をすることよか温いわ!! 自惚れるな若造ォっ!!」
「どの口が言ってやがるんだこのジジイっ!!! フランデルの猛者達の力、甘く見てんじゃねぇぞォっ!!!! 」

 両者の怒号が飛び交い、巨大な薙刀と業炎の拳が激突する・・・!! 右の裏拳で薙刀の刃の軌道を逸らして、
 すかさずそこから身を捻り、火炎を纏った右足で後ろ回し蹴りを3連発放った!! 橙堂の脇腹に鈍重な痛みが走る・・・
 だが、橙堂もこれしきで怯むほどヤワでは無い。ミカエルの右足を右腕でガッチリと押さえつけると、左手で握る槍の石突で
 お返しとばかりにミカエルの鳩尾を穿つ・・・!! ミカエルは吹き飛ばされて地面に転げ落ちた。彼の相棒で炎の霊獣ケルビーが
 主の下へと迅速に駆け寄り、介抱している・・・

『ミカエル!! 大丈夫か?』
「っ、いてててて・・・・ペッ、にゃろォ〜!! やってくれるじゃねぇか 」
「フフっ、若造。お前こそ見事な蹴りを放つではないか・・・私としたことが甘く見ていたな 」

「ハッ、だ〜から言ったじゃねぇかよ。フランデルの猛者達を見くびるなってよ? けどな、俺はまだまだ弱い。
 まだまだ甘ぇよ。俺が目指している高みなんかにゃ程遠い・・・『英雄王のネリエル』や『唄姫のルフィエ』に比べりゃ
 俺の『炎帝』の二つ名なんか蟻並みさ・・・だが、高みへ行くためにも俺はここで負けるわけにはいかねぇ!!
 魅せてやるぜ、俺の本気100%の灼熱の世界を!!!」

 指をぱちんと鳴らし、相棒のケルビーにインシナレイトの火力を上げさせた。遠くからでも見えるほどの陽炎が森を覆い
 近づいただけで肌を焦がしそうな熱気が漂い出す・・・対する橙堂は、着ていた着物の上半身を脱いで裸になった。
 筋骨隆々な肉体を誇る彼の背には、東方伝来の芸術によって描かれた、天へと昇る龍の刺青があった・・・!!!

「その心意気や良し!! この『昇り龍』の橙堂、奥義を振るうに恥じぬ!!! 行くぞ、灼熱の王っ!!!」

738DIWALI:2009/04/22(水) 16:42:30 ID:OhTl4zsk0
「はァっ、はァっ・・・はァ〜・・・熱い、砂漠じゃないのに何か熱い!! ミカっちめ、森を砂漠化させたいの!? 」
「っ・・・ティ、ティエラさん・・・これ以上近づけば、火傷しちゃいそうですよぉ〜・・・ぜぇっ、ぜぇ 」

  橙堂とミカエルが闘っている場所より少し離れた森の小道。怒りのあまり、森林火災を引き起こしたミカエルを止めようと
 ティエラとラティナ、そして奇妙な木の実で年齢が退行、幼児化してしまったミリアたち一行は現場へと近づいていく。
 しかし、幼児化してしまい体力もそれ並みになってしまったミリアには、森中に漂う熱気が水分を奪うほど有害なものになっていた。
 顔を赤くし、息遣いも安定しない様子に、ティエラたち二人のランサーも戸惑いを隠せなかった・・・

「ふぇ・・・ぁぅ、あつ・・・い」
「大変、脱水症状を起こしてるわ!! ・・・っ、ティエラさん!
 わたしはミリアちゃんに水分を与えますから、先に行ってミリアちゃんのお兄さんを止めて下さい!! お願いしますっ!!! 」
「うん、わかったよ!! 全く馬鹿ミカエル、直情的なところは相変わらずなんだからっ!!! 」

 ホースキラーを握り締めて、ティエラは風に乗るような高速移動でどんどん進んでいった。
 砂漠のような暑さが漂う異常な森の中、ポーチから水筒を取り出して、少しずつ水をミリアに飲ませた。
 失われていた水分を取り戻した彼女の顔には微笑が浮かび上がり、間もなくすやすやと眠ってしまった。

「あっ・・・ふふ、疲れちゃったのかな。何で幼児に戻っちゃったのかわかんないけど、
 やっぱりミリアちゃん可愛いなぁ。わたしとトレスヴァントに子供が生まれたらこんなに可愛く・・・
 って、何勝手に妄想しちゃってるのよ〜!? わたしのバカバカバカぁ〜、忘れろっ、忘れろォ〜!!!!」

 妄想に顔を赤らめるも、それをしていた自分に突っ込みを入れて頭をポカポカと叩くラティナ。
 すると彼女の背後に二人の人物が現われ、ラティナはその姿に驚きを露わにした・・・

to be continued...

739DIWALI:2009/04/22(水) 16:51:27 ID:OhTl4zsk0
あっ、sage忘れてすいません!!
久々に投稿、ミカエルと橙堂の戦闘シーンを書いてみました・・・短いですが。
最近は色々と忙しくなって、SSスレも赤石もあまりできなくなってますが、ぼちぼちやっていきたいです;;



私言

某ブログでの1年前の記事にて、名指しで不満をブチまけられたのに今更気付きました・・・
「何故直球エロを描いた?閲覧者は誰もが大人じゃない、閲覧者の視点で考えろ、自重しろ」と。
仰るとおりです、ただ開き直って天狗になってただけでした。

今まで、自分の作品で不快感を感じた人へ・・・月並みな言葉ですが


『ごめんなさい。』

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741みやび:2009/04/22(水) 19:17:03 ID:ywVIv7TQ0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce
>DIWALIさん
 こんにちは! そして超がつくほどお久しぶりです。
 隠居中の身なのでコテハン無しにしようかとも思いましたが「お前誰やねん!」と言われ
そうなので一時的に復活。※活動を再開したわけではありませんのこと(汗)

 某ブログのお話しについて。
 詳しい経緯は知らないので迂闊なことは言えませんが……少なくとも個人攻撃に対しては
毅然としていてよいかと存じます。正論を掲げさえすればあらゆる行為は正義である、など
という考えは危険思想だと思いますし。もっとも私もかなり口が悪いほうなので、あまり偉そ
うなことは言えないのですが(汗)
 ただそれを逆手にとって盾とする行為もまた、個人攻撃者となんら変わらないことになって
しまいますから、ひとことお詫びしてあとは静観――というのが平和的でしょうね。
 エロ自体の是非については、普通の人がドン引きしそうなアングラ系でも屁の河童な私的
には「ノープロブレム!」と言いたいところではありますけれど(汗) 場所が場所なので『抜
いてもらうために書いた』ようなスタンスのエロはさすがにまずいでしょうね。
 ただ私の見落としがなければ、DIWALIさんに限らずここに投下された過去作品の中に度
を越した、いわゆる“えげつない”エロは一本もなかったように記憶してますが……はて。
 一冊目あたりには存在していた可能性もありますが、だとしてもすでに削除済みのはずで
すから。ちょっと謎ですね(汗)
 いずれにしても元気出してください。

 後ろ回し蹴りステキ。こういうのを読むと農家作りたくなっちゃいますよね。まあ知り合いが
もれなく引退および行方不明の今となっては、新規にキャラをこしらえて無課金でやっていく
にはモチベーションを新たに設定しなくちゃなりませんが(汗)
 あとラティナのボケっぷりに100点(笑)

 追記――。
 その他の職人さん、感想できなくてごめんなさい。
 最近はスレの安否を確認するためにアクセスしている状態なので、通読に至っていないの
が実情だったり……(汗)
 でもご新規さんもチラホラいてステキ。今度ちゃんと読みますorz

 ここはひとつ68hさんに作品を投下してもらって場を盛り上げる! という手も(笑)
 あれ。それにしても書式おかしいかなこれ? ちょいと最近仕入れたエディタを使っている
ので自信ないかも……。改行ズレてたらすみましぇん(泣)
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

742ヒカル★:削除
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743◇68hJrjtY:2009/04/22(水) 23:05:14 ID:2jCZ.Q9M0
>DIWALIさん
おぉ、久しぶりです!この啖呵の切り合いぶりはまさしくDIWALIさんの小説だ(*´д`*)
東雲vsミカエル戦もたけなわ、どっちが負けても無事に済まない展開になってきましたね!
しかしほっとしたのも束の間今度はラティナ&ミリアに伸びる謎の姿…敵か味方か。
幼児化ミリアがまたまた暴走してくれるかなとか勝手に期待してます(笑)
---
エロというものを主軸に扱うかサブ的な要素として用いるかでだいぶ印象も変わりますしね。
DIWALIさんの作品は後者だと前々から認識していましたので、私としても気にはなりませんでした。
ブログのコメントなど他人の意見には毅然とすべきだというみやびさんの言葉ももっともだと思います。
こういった匿名のコメントひとつで作風を変える必要は無いと思いますよ。プロ作家さんなんかは膨大な批判があるようですしね。

>みやびさん
こちらもお久しぶりです♪このスレでは(笑)
コテハン無しなんて許しませんぞ!もはやみやびさんはこのスレの歴史に残ってますよ!
スレの安否…。私も新掲示板の広告コピペがあったもんで、みんなそっちに移動したのかなーとか邪推してました(笑)
いっちょ盛り上げようかと、消えた小説を復活作業はしてみましたがなかなか進まずorz
エディタ使用ですか!改行など、大丈夫なようですよ〜(笑) in Firefox3

744ヒカル★:削除
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745ヒカル★:削除
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746名無しさん:2009/05/05(火) 13:43:47 ID:STuB303I0
1-1

私のお気に入りの時間は暖炉の傍の椅子に座ってゆっくりする時だ。
パチパチ…ときの焼ける音を聞きながら全身を椅子に沈めていく。
暖炉の温かさ、音、周りの静けさ、全てが好きだ。
だが、最近はもっと気に入っている時間がある。

「先生!先生!」
自分を呼ぶ声でふと目が覚めた。どうやらいつのまにか寝てしまっていたようだ。
ふと声のしたほうを見ると自分のことを先生、と呼ぶ少年が近付いてくる。
「あら、どうしたの?もう遅くてよ?」
暖炉の傍の椅子に腰かけながら少年に尋ねる。まあ要件は分ってはいるが。
「先生!お話の続きをしてよ!」
いつものをせがまれる。この子は本当にこの話が好きなようだ。
「ええ。してあげるからこっちにいらっしゃい。」
私は暖炉のそばのもう一つの椅子を指して招いた。彼が腰掛ける。
どこから切り出そうかと悩んでいるとき、ふと窓の外を見た。雪が降っていた。
そうか、また冬が来たか・・・。
「先生?どうしたの?」
少年がこちらを見ていた。悪意が微塵もない純真な瞳。
この瞳を見ていると黒く染まった自分が嫌になる。
「なんでもなくてよ。さあ始めましょう。どこからかしらね…」
「先生の好きなところからでいいよ。」
彼がそう言う。
好きなところから、じゃあここからにしよう。
「ある青年がいました。その青年は…」

お話を聞かせる。これが私の一番好きな時間…

747名無しさん:2009/05/05(火) 13:44:54 ID:STuB303I0
1-2
墓地。
死者が眠る場所。
俺はそこにいた。花を持って。
「…あなたはこの花が大好きでしたね。香りがいいとか。私は未だに慣れませんが。」
その花をある墓の前に置く。
先客がいたようで既にその花が置いてあった。3束も。
苦笑いをしつつ4束目を置き深く黙祷を捧げた。
「…さようなら。もうここには来られません。俺は村を出ます。」
そのまま踵を返す。つい先ほどの光景を脳裏に焼きつけながら。

俺は家には帰らず、そのまま村の出口まで歩いて行った。
もう夕暮れ時。良い子は家に帰る時間だ。
空は暗く、冬の寒い空気を肌で感じる。
「もう冬になったのか…」思わず口に出す。

村の入り口には一人の男が立っていた。
「君も、破るの?」
俺を睨んで言う。そんなに睨むなよ。
「も、ってことは俺以外にも?」
「ショウとアメリアはもう行ってしまった。」
2人ともか。
「そうか。早いな。俺はさんざん悩んだのに。即決か・・・
おっと睨むな。分かっている。先生の気持も。お前の気持も。
でもな?このままじゃ駄目なことぐらいお前も分かっているだろ?いや、お前だけじゃない、今生きているすべての人がこのままじゃ駄目なことぐらい分かっている。でも世界は変わらない。なんでだ?それは…」
「能力を持っている人間がいないから。」
よく分かっているじゃねぇか。さすがだ。
「どうしてみんな行ってしまうの…?どうして先生の言いつけを破るの?どうして…?
いや、僕はこうなってしまうんじゃないかって思っていた。」
おいおい、泣くなよ…
「俺は全員残ると思ってたぜ…特にお前は残ると思っていた。
先生にはとてもお世話になった。俺が先生の言いつけを破るのはたぶんこれが最初で最後だと思っている。だから…行く。ごめんな、アル。」
黙って泣いているアルの脇を通り抜ける。
あいつは何もしてこなかった。本気を出せば俺ぐらい軽くのせるはずなのに。

「『今まで覚えたことを実戦で使ってはいけません。この村で静かに暮しなさい』…か。」
じゃあなんで先生はこんなことを教えてくれたんだろう。
疑問に思いつつ、俺は村を離れた。

748名無しさん:2009/05/05(火) 13:45:57 ID:STuB303I0
0-1
世界は混迷していた。
王国の内紛、共和国の議会の形骸化などにより、各街、村が独立の道を歩み、さながら旧ヨーロッパの都市国家が各地に出現した。
各都市は時に手を取り合い、時に睨み合いそれぞれ勢いを伸ばしていった。
30年が過ぎた。
勢力を安定化させたある都市が大陸平定の名のもとに他の都市に侵略戦争を仕掛けた
都市同士の小競り合いも最近は頻繁に起こるようになった。そのうち全面戦争も起こり得ると言われていたが、唐突だった。
他の都市は自分も遅れまいと侵略を仕掛けるところもあれば、我関せずな都市もある。都市同士互いに手を取り合って侵略したり防衛したりするところも出てきた。

町の外に出ると会うのは野党かモンスターかどこかの兵隊…
世界は混乱している。安定を望む者は沢山いるのになぜかそれが叶わない。むしろ混迷を辿っていった。

そんな中、一人の人間が現れた。
名前をアリシアという。ある日どこからともなくとある村に現れた。
彼女は優秀な人間だった。世界を平和に導くためのあらゆる「手段」を知っていて、またそれを体現できるような人だった。
彼女には4人の教え子がいた。名前をそれぞれリチャード、アル、アメリア、ショウである。…

                            ヴァン著「大陸英雄伝」より

749名無しさん:2009/05/05(火) 13:49:36 ID:STuB303I0
この世界はばかげている。
戦争は絶えないし、私の所持金も少ない。
さらに言えば今私の周りに大量のウルフがいることとか特に。


おかしいなぁ。ちょっと休憩していただけなのになんでこんなことになっているんだろう。
そもそもウルフって夜行性だったっけ?夜の荒野に大量の犬と戯れる一人の女。
うん、この危機感は文にしただけじゃ伝わらないね。

さて、真面目に逃げる方法を考えなきゃ…
とりあえず一角を崩してそこのがけから飛び降りるか?いや、あの高さは死ねるな。
走って逃げるか?足の速さには自信があるがこの数の犬と競争して勝てる自信はないな…
魔術の心得があればよかったんだが残念だが私には縁のないものだし…
ってしまった!手元に槍がなかった。料理の準備をして他の荷物と一緒だ…
これは万事休すか?死ぬときは暖かい場所がよかったんだけどなぁ…
あ、もういちどケーキを食べたかったなぁ。
「…夫?」
そういえば最近町に寄ってないからシャワーも浴びてないし…まてまて、やり残したことがいっぱいあるぞ?これは死ぬに死に切れない。
「大丈夫?」
もし死んだら地縛霊に…ん?人の声?
「あの、大丈夫ですか?」
目の前に男の子が立ってこちらを見ていた。
「おおぅ、あんたどっから出てきた!?てかウルフの群れは?」
周りを見渡すとあれだけいたウルフが一匹もいなくなっていた。
「あ、僕が片付けました。危なそうだったので。」


…こ、こんな見た目人畜無害そうな男の子が!?
「あ、ありがとう…」
「危ないですよ?たとえ料理中でも獲物はちゃんと近くに置いておかないと。」



「改めてありがとう。助かったわ。本気で死ぬかと思ったし。」
「いえいえ、周りには気を付けてくださいね。」
「ところで貴方の名前は?」
「アルと言います。」
「アル君ね。私はユリア。あなたはどこかの兵士になりに行くつもりなの?」
そう聞くとアル君は微妙に不機嫌?になった。
「ユリアさんはそうなんですか?」
そんな目で見られるとちょっと傷つきそう…
「いいえ。そんな馬鹿げたことするつもりはないわ。そんなことしなくてもね、生きていけるもの。
 まあちょっと寂しい生活だけど…」
そういうとアル君が目を輝かせ?た
「そうですよね!争わなくても生きていけますよね!やっぱりそうだ、間違ってなんかない!」
おおぅ?なんか喜びだしたぞ?本当はやばい人なのか?アル君は。
お、なんかガッツポーズが飛び出した。
ちょっと経ってからアル君が言った。
「ユリアさんありがとうございます。その考えを貫き通してください。
僕は行くところが出来たので失礼します。」
いやいや!展開が急ですよ!?ここは主導権を握らねば
「待った待った!よくわからない部分はとりあえず置いておいて、どこに向かうの?
てかこの道を来たってことはたぶんアリアンだよね?だったら一緒に行かない?」
とりあえずいきなり誘ってみる。この子強いから近くは安全だし旅は人数多いほうがいいしね。
アル君は少し悩んだ後、
「はい、僕もアリアンに向かうのでよろしければご一緒しましょう!」

(あ…別に私はアリアンに行く気なかったんだけどな…まあいいか。)
「うん、アリアンまでよろしくね。アル君!」

750名無しさん:2009/05/05(火) 13:57:59 ID:STuB303I0
「ところでアル君っていくつ?」
「19歳です。」
「え…?私と同い年?その身長で?」
「触れないでください…」




|壁|ω・`)…
初めまして。初投稿、ではないですが初投稿です。
一応昔に一時期駄文をここに載させていただいた記憶がありますが…
たぶん気のせいですね、はい。

暇があればやっていこうかな、と思ったり…
まあ駄文乱文ですが少しでも読んでいただけたら…この馬鹿が嬉しがると思います
それでは
|壁|ミ

751◇68hJrjtY:2009/05/05(火) 17:30:28 ID:2jCZ.Q9M0
>750さん
一時期でも投稿されてたんですか!これは気がつきませんで…<(_ _;)>
新章という事で改めてスタートされたのでしょうか、ともあれ復活おめでとうございます♪
男っぽいとも言い切れないようなランサーのユリアが個人的にツボです(*´д`*)
ウルフの群れを駆逐したアル君のほかにアリシアに教わったのは3人…いずれもアルに匹敵する"能力"の持ち主なのでしょうか。
彼らがどうやって世界を変えていくのか。続き楽しみにしてます。

752ヒカル★:2009/05/06(水) 19:01:15 ID:???0
このスレを見て懐かしく思い、FF小説というところで、私の処女作を探してきました。


「花売り」

ギィという静かな音を立て、ゆっくりとドアが開くと、一人の少女が店に入ってきた。
左手にはボストンバッグほどの大きさのカゴを持っており、カゴの中には、
可愛らしい数本の花が見える。彼女は花売り。そう……彼女の仕事は花売り。
ギィという静かな音、それは彼女の夢がもうすぐ叶うことを示している音でもあった。

毎日毎日、花を育てている。それが彼女。
荒廃した教会の中にある、ちっぽけな花畑。そこで育った花、花、花。
いちりんの花も、時に魔法のような力を示す。
花を見るだけで穏やかな気持ちに満たされる、そんなことがよくあるから。
夕方になると、彼女は出かけて行く。色んな場所で、道行く人に花を売る。
いや、花の持つ不思議な力を売っているのだろうか。
カバンにストレスを詰め込んで、眉間にシワをよせているサラリーマン。
背中に寂しいと書いてある、ボール遊びの子供達。お金と引き換えに、花を受け取る。
眉間のシワも背中の文字も、しばらく消える。それを見て、彼女も至福を感じる。

いつしか彼女はささやかな夢を持つようになった。花を売りに行ったその街で。
それはアンティークで、落ちついた雰囲気の喫茶店……とでも言おうか、
通りすがりに外から見ているだけでも、その店が繁盛していることは彼女にもわかった。
そして窓からもれる明かりまでもが、その店の暖かさを語っているように見えた。
(いつかあそこでお茶を飲もう、たくさんの人が訪れるあの店で。)

窓際の小さなテーブルを選んで、彼女は一人でイスに座る。
そしてゆっくりとメニューを眺める。彼女は一つ一つの動作を味わう。
注文は、店に入る前から決まっていた。一杯の紅茶。
注文を伝えると、今度は店内の様子をうかがう。
色んな人がいた。彼女と同じく一人でお茶をたしなんでいる人、
笑顔で会話する二人連れの若い男。色んな飲み方、色んな思い。
その店の様子は、ある意味この大都市を象徴しているかのようでもあった。

しばらくすると店の奥からピアノの音が聞こえてきた。彼女は目を向ける。
あれは店の人だろうか? 白のタンクトップに黒のショートパンツ、両手にはグローブ。
グローブといっても、野球選手のではなく、ゴルフ選手が着用しているようなグローブ。
どちらにせよ、ピアノの演奏には不似合いで、一見するとピアニストには見えない。
しかしながら、その女性の奏でる旋律は……。

花売りの娘にとって、それはあまりにも思いがけないことだった。
彼女は確信した。彼女にとって今日という日は、お茶を飲む夢が叶った日などではなく、
この場所で、この曲に出会うために神様が与えてくれた一日だったのだ、と。
(もう一度あの曲を聴きたい、そしてできるのなら、あの人と話がしたい。)

今日も少女は花を育てる。夕方になると出かけて行って、道行く人に花を売る。
小さな胸に淡い想いを携えて……。


ヒカル
2004年02月18日(水) 19時17分00秒 公開
■この作品の著作権はヒカルさんにあります。
■作者からのメッセージ
原作の設定に逆らっている感もありますけど(汗)
一つ説明。この店はアバランチのアジトではなくて、ミッドガルのプレート世界(上流社会)の店です。
どうやって花を売りに行っているのかは不明(爆)
セリフ無しで書きたかったのですが、2箇所だけ主人公の心情を書きました。



あれから、5年なのですね。私って(汗)とか(爆)とか使っていたんですね。

753◇68hJrjtY:2009/05/07(木) 16:11:11 ID:2jCZ.Q9M0
>ヒカルさん
おぉ、赤コテという事はスレ立てとかされてる管理人さんの一人ですか!?
処女作だというFF小説、ありがとうございます♪RS以外の小説も個人的には歓迎です。
FF7ですか…ゲーム自体がだいぶ古くなっても、こうして小説として何度でも蘇るものですよね!
FF7を知らない人には恐縮ですがエアリスとティファの二人かな?
ミッドガルみたいな都会で花売り娘というだけでも絵になるのに…やっぱりエアリスはイイ(*´д`*)

754しー:2009/05/22(金) 21:15:37 ID:WNynU.oA0

「きゃ・・・」
ミルティはポータルから吐き出され、尻もちをついた。続いて隣にベリーが落ちる。ミルティは少しベリーを撫でてやり、
辺りを見回した。海の上を、船が進んでいる。空には、数匹のカモメが飛んでいて、のどかな雰囲気である。
ミルティは立ち上がり、ある方向へ歩き出した。しばらく歩くと、小さい墓場が見えてきた。
「懐かしい・・・」
思わず口に出してしまう。小走りで近づくと、墓の前にひざまずいて祈りを捧げている人がいた。金髪で、鎧を
着けた女の人・・・ランサーのようだ。ランサーは祈りをやめて振り向いた。
「あなたも、お参り・・・?」
「いえ、その、あっ、ここでシーフが死んだことってありませんか?」
ミルティが尋ねると、ランサーの顔が青ざめた。
「そ、そんな・・・ダインのことを聞いてはダメ・・・!」
「ダイン?」
「えぇ・・・数年前死んでしまったシーフよ」
もしダインがシャドーの生前の名であるとすれば、ここで間違いない。ミルティはふとシャドーが天使ニフに見せた、あの不可解な
能力を思い出した。
「そのダインって、スキルを使わなくてもCPを吸収できたとか・・・ありませんか?」
ランサーは驚いたようにミルティを見、やや警戒した目になって身構えた。
「あなた・・・ダインの何なの?」
「私は・・・」
言いかけて、少し言葉が詰まった。シャドーは自分に憑いていた霊だ。しかし今はいない。シャドーの何だ、と聞かれても、
うまく答えを探すことができない。
それでもミルティは、つたない言葉で説明した。
「えっと・・・私は、ずっと、その幽霊と一緒にいたの。でも、今はいなくて、ここに探しにきたの」
ランサーの目に光が宿った。その直後、ミルティはランサーに肩をつかまれていた。
「本当なの?ダインはいるの・・・?」
「いえ、今は、私から離れてしまったから、いるかどうかは・・・」
ランサーは手を離し、ため息をついた。そして、ぽつりと言った。
「あなたになら話してあげる。ダインのこと」

                        -*-

755しー:2009/05/22(金) 21:48:48 ID:WNynU.oA0

ダインは、不思議な力を持っていた。CPを敵から吸収できるという・・・たとえ自分のCPが0以下でも、使うことができた。
でも、彼はもう一つ、大きな欠点があったの。それは、ポーションの効果を受けることができないっていう、冒険者失格と
言ってもいいくらいの短所だった。ヒールでもチャージでも、使うことはできなかった。
ダインは前者の能力を買われてうちのギルドに入った。あんまり喋らなくて、時々ボロボロの姿でギルドホールで
座ってるときもあった。敬遠したい感じの雰囲気だったけど、たまに優しい一面もあった・・・。
そんなとき、ギルド戦の予定が組まれた。そしてマスターは、ダインにギルド戦に出ることを勧めたの。私と他数人は反対だったわ。
ポーションが使えなかったら、危ないし、辛いだろうって。でも、ダインは受け入れたの。そして、ギルド戦が始まった・・・
相手のレベルとこちらのレベルはほぼ同等、人数はあっちがちょっと少ない感じで、でも十分フェアな対戦になる、はずだった。それなのに、
開始して間もなく、私のパーティのプリンセスがやられた。そう・・・1人、すごく強い剣士がいたの。メンバーは次々と倒されて、
ついにその狙いが私に向けられた。怖くて悔しくて、絶望の淵に立たされたとき、背後で彼が囁いたの。
『諦めるな』
彼、ダインは私の前に出て剣士の前に立ち、CP吸収の能力を使った。続けて、ダブルスローイング・・・。
私も、はっとして、ダインに加勢してエントラップメントピアシングを使った。でもそのときのダインの表情、キツそう
だったの。剣士がフルチャージポーションを使うたびCPを吸収してたんだけど、吸うたび眉をしかめてて・・・。きっと、
その能力は少なからずダインに負担をかけていたに違いない。
その後私達は、後から来た応援もあって、剣士を倒した。でも、それと同時にダインも倒れ伏した。CPがマイナスになっても、
必要CPに制限がないスキルは使えるって、知ってるわよね。そして、ダインは私を剣士から守るため、ずっと私の前で攻撃を
受け続けてて・・・それで・・・その夜、ダインは・・・ダインは・・・・・・・・・」

「私達はダインを丁寧に埋めてあげた。それから毎月、私はここでおまいりしてるの・・・」
ランサーは、話すのもつらそうだった。ミルティは何ともいたたまれない気持ちになり、気がつくと泣いていた。
ギルド戦なんて、虚しいだけだ。得るものは何ひとつなく、失うものは大きい、そういうものだとミルティは考えていた。そんな
無意味な戦いで、シャドーは命を落としたのだ。
「っ、泣かないで。ダインはもう、きつい思いしなくて済むんだから・・・」
ランサーの言葉が、さらにシャドーの死を強調したような気がして、ミルティはしゃがみこんで泣いた。シャドーは、
つらい経験をしてきていたのに、あんなことを言って、シャドーを・・・!
その時だった、ふっとミルティやランサーの付近に第三の気配が現れたのは。
(…気にしすぎるな。過去のことなど、今は取るに足らない)
ミルティは顔をあげた。ランサーは手が震えていたが、ゆっくりと振り向いた。
(オパール、ミルティ…)
そう、この耳の奥で響く低音は・・・
「・・・ダイン」
ランサーはその名を口にした。シャドーは、自分の墓の上に座っていた。全体的に黒いオーラを纏っていてわかりづらいが、
確かにシャドーだった。
「ダイン・・・そこにいたの」
ランサーが問うと、シャドーは墓の上から舞い降りて、そっとランサーの頬にキスをした。幽霊だから接触はできなかったと
思うが、それでもランサーは小さく、
「うれしい・・・ありがとう」
そう言った。シャドーは何も言わず消えていったが、消える直前、少し微笑を浮かべたように見えた。

                              -*-

756しー:2009/05/23(土) 13:50:45 ID:WNynU.oA0
こんにちは。
小説を考えるにあたって、『今回は誰にでも読めてつまらなくないものを!』と最初は思っていたのですが、
いつの間にか普通に女性向けっぽくなってしまいました。男性には物足りないかもです。
しかも厨(って言ったらアレですが)っぽい設定も追加してしまいました。自分の小説だからやりたい放題です。

また書きに来ます。みなさんインフルエンザに気をつけてください。

757◇68hJrjtY:2009/05/23(土) 17:25:41 ID:kJztxVtc0
>しーさん
続きありがとうございます♪
なるほど、徐々に明らかになりつつあるシャドーことダインの実態。
もともと普通のシーフでは無かったという彼ですが、予想外の能力に驚きました。
オパールとミルティの出会いが彼を紐解く全ての始まりのように感じてなりません。
「女性向けではないか」という心配の点ですが、まったく構わないと思いますよ。
しーさんも仰るとおりご自分の小説なんですから自由にやっちゃってください(笑)

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761名無しさん:2009/06/04(木) 21:00:27 ID:cW4DW7Is0
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762名無しさん:2009/06/04(木) 21:00:51 ID:cW4DW7Is0
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763名無しさん:2009/06/04(木) 21:01:25 ID:cW4DW7Is0
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770◇68hJrjtY:2009/06/07(日) 19:26:56 ID:4iRAnLHg0
ヒカルさん、度重なる広告&マルチ削除ありがとうございます〜<(_ _)>
保守ついでにお礼っ。

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777契約者:2009/06/28(日) 02:18:33 ID:7ZAauq.60
>>752
お茶を飲む夢が叶った日などではなく、
この場所で、この曲に出会うために神様が与えてくれた一日だったのだ、と。

ここが印象に残りました
良い小説ですね。

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789◇68hJrjtY:2009/06/29(月) 16:22:47 ID:4iRAnLHg0
広告凄いですね(´・ω・`)
毎度の削除ありがとうございます。

必要ないかもですが保守と、書き手さん鼓舞で書き込み。
皆さん投稿いつでもお待ちしてますよ〜♪

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794ワイト:2009/07/05(日) 00:15:08 ID:u21hJAvY0
前回 RS小説7冊目>>426⇒続編

ガシィイッ!主人は、ラータの振上げ打下す、その動作を見上げると
ほぼ無意識に自らの首元に掌を向、得物を受止める――

一瞬、唖然の表情を浮べたラータは、その掌を払除け、間合を取る。
一方、主人は無意識に行動に実行した掌に、動揺の顔色を窺る。


――勿論、ラータはその一瞬を見逃すはずはない。即座に獲物を投擲する。

キィインッ!カンッ!カラララッ……!
弾いた……?主人は腕をタイミング良く振上げ、獲物を地に叩落した。


――グッ……!アッッ!!
疾走感に酔痴れる程のスピードを活用する、ラータは既に間合を詰め、主人の目前に駆ける。

ヒュアッ!――ブシュッ!
得物は身体を切裂いた先に鮮血は迸った。


――ラータの身体から……!

「がはっ!……ッ!アッ!く、くそ!てめぇ……まだそんな手段を……ッ!」

主人の手先に鋭利に輝く刃物?……それは、鈎爪の形状を形取る。その鈎爪は
戦闘以前、いや主人の変身後、掌に獲物を振下した直後……?いや、無確認だ。
更にその鈎爪は、主人の手先に真直ぐ、生殖する様に伸出する。


「チッ!仕方ねぇ……!それ相応の代償は、てめぇに返還してやるよ!!」

ラータは得物を自身周辺の空中に、相当数量を投擲する。
――投擲した得物は、守護する様にラータ自身の周辺を旋回する。


「……?」
主人は当然、認識不足にある。ラータの不可解行動に眉を顰めた。

「……気付いた瞬間にゃ、即座に命乞いする羽目になるぜ……?」
――発言後、ラータは両手に指の合間を縫って、得物を携帯する。


「カルテット……ッ!スローイングッッ!!」

――ブァッ!ババババッ!バババッ!バババババッッ!!


ラータは、両手に携帯する得物を投擲した!!同時に先程
ラータ自身の周辺に旋回する、得物は投擲した合図に主人を襲撃する!!


――ッツガガガガガガッガッッ!!キイィッッィン――!

主人の見下した地面に、無数の得物はカラカラ……と虚しく音を立、落下した。
主人を守護したのは、主人の鈎爪……相次いで、両翼……!?
両翼は、主人を覆い尽くす様にラータの得物を遮ったのだ。


ラータは、鈎爪以上に驚愕の顔色を示した。それは、何れの状況にも、無確認のこと。
更に手先の鈎爪同様に、その両翼は主人の背中に生殖する様に伸出する。


「ぁぁぁっ!ああああああっ!!」
――主人は突然、大音量の咆哮を上げた。同時に前原型の形状
変身後の形状を変化……第三段階の形態に主人は豹変?進化を遂げた。


ラータは、流血する傷口に応急手当を施し態勢を整え
進化の余韻に浸る主人を前に、冷静に状況改善に専念する。

シュウウウゥゥッ……!
――出現する……!主人の姿――!?


「あああぁぁ……!ううぅん……」

「ハハハッ!手先両手の鈎爪、背中にある両翼……その姿……!
驚いたぜ……!てめぇ、稀に出没する「サキュバス」かよ……!」

795ワイト:2009/07/05(日) 00:23:25 ID:u21hJAvY0
約1年振りの続編書込みになりますか…?ようやく投稿しました。
最近、久し振りに……このRS小説スレッド確認しに参りました。
以前投稿と比較すると、更に小説下手になってます。なってると思います。
次回続編はいつになるか、見当見込みないです。ご了承お願いします……

796◇68hJrjtY:2009/07/06(月) 16:48:34 ID:4iRAnLHg0
>ワイトさん
お久しぶりです♪
ワイトさんに限らず、皆さんの小説を心待ちにしている68hですw
主人の実態がついに露見といったところですね。まさかサキュバスとは(((´・ω・`))
ほとんど一騎打ちですが僅かに押されているラータ、なんとか勝機をつかみたいところです。
剣戟の木霊する戦闘シーン、続きお待ちしていますよ〜!

797名無しさん:2009/07/07(火) 00:39:43 ID:jbYrN6dg0
これは僕が子供の頃の話だったかな
僕はマダ6才。アヤも確か5才だった気がする
そのころはまだコボルトに病気が蔓延してなくて
危険だと噂され、ブルンネンシュティグからはでちゃいけなかった
西の方の共和国の領地もコボルトが歩き回っていて
僕たち子供はいってはいけなかった。
それでも、僕たちは子供だから、悪いことをしてみたかったのもあるんじゃないかな。
「あの日」の数日前、僕とアヤはある計画を練っていたんだよ。

−これはある少女と少年の、小さな小さな物語−

「コボルト」


−ブルンネンシュティグの保護施設−

「おい、アヤ。最近ヒーローってのが流行ってるじゃないか。」

僕は前髪にメッシュを子供ながらにかけている女の子、アヤに話し掛けた。
アヤは周囲の様子を見渡し、ため息混じりに言葉を返す。
「そうだね。みんな井戸前でよくショーをしてる戦隊の真似事ばかり
私はあまり興味ないな。格好良くないんだもん」

アヤは5才の割には大人のような思考などを持っていた。
何でも、テストをしてみたら、14才くらいの精神年齢らしい
親が何かの偉い人だっていうからその影響なのかも知れない。
僕もアヤと同じくらいの精神年齢らしいけどよくわからない。
だって、精神年齢とか、高いからってなんのデメリットもメリットもないし

まぁ確かに、その戦隊はあまりかっこいいものではなかった。
格好も陳腐な物だったし、良く親に連れて行かれて、本格的な
ショーを見に行ってた僕は目が肥えてしまっていて
全く興味は持っていなかったのだ。
しかし、他の皆は、悪い奴をやっつける。というヒーロー的行為に
あこがれを抱いていたらしく、その戦隊に夢中になっていた。

この話はそのときはここで終わった。しかし、その翌日のことだ。

昨日のように、休みの時間にアヤと二人で話していた時のこと
周りは昨日と同じように戦隊物の真似事で
やれ「ガキーン」だとか「ちゅいーん」だとか
言葉で効果音を発して遊んでいる奴らばかりだった。

(全く、あれはただのショーだろう。本物のモンスターを倒した方が
よっぽどヒーローってもんだぜ)

ふと、そんなことを想ったのだ。想ったことをすぐに口にしてしまう性分だった。
僕はそれを口にした。しかし、アヤがそれに非常に強い反応を見せたのだ。
目を輝かせ、素晴らしいことを思いついたのだろう。
そしてすぐにその内容を身を乗り出しながらしゃべってきた。

「てことはさ、私たちがモンスターを倒したら、ヒーローになれるんじゃない?」




全く思いつかなかった。そうか、それならば自分の自慢話も出来る。
他の奴らの上に立てて、優越感にも浸れる。
すぐに、その話は決まった。モンスターを倒そうということになったのだ。

しかし、問題は倒すモンスターだった。
最近じゃ墓地にバインダーなんてモンスターが出ていて
何人もの強い人が犠牲になっているとか。
あまり強いやつを相手にしても返り討ちにあって死ぬだけだ。
まだ6年しか生きていない。死ぬのは嫌だ。
僕はその旨をアヤに話した。

「う〜ん。私たちでも倒せそうなモンスターか〜・・・・」

アヤは10秒ほどだろうか。腕を組み考えた後に
「あっ」といって此方を向き又しゃべる。

「じゃぁ、コボルトはどう?先生達が「危険だから」っていってるやつ。
私聞いちゃったんだけどさ、そこまで危険じゃないらしいんだ。
モンスターの中でも一番弱い方らしいよ。」

コボルト    確か悪魔系のモンスターだと聞いたことがある。
あまり頭は良くなく、槍を使って小さな獣を捕って食べているとか
たまに人間も襲うらしいが、確かに危険な目にあったなんて話は聞いたことがない。

話は決まった。僕らは「コボルト」を倒そうと計画を練ることになった

798名無しさん:2009/07/07(火) 00:44:02 ID:jbYrN6dg0
次の日、色々と情報を集めた僕は、休み時間を利用して作戦会議を開く。

「町の西口に警備員はいなかった。やっぱりそんなに危険なモンスターじゃないみたいだ。
でも、やっぱり用心して、人の少ない夕方に西に行こう。
コボルト達は群れで行動することが多くて、いつも一匹や二匹
外を出歩いているらしい。だから、そいつを相手にしようとおもう。」

このコボルトの習性は、一日で僕が集めた唯一のコボルトの情報だった。
それは本当は、コボルト達の見回りのことだったのだが、そんなことはよく分からなかった。

その日はそれで解散。家に帰ることになった。

僕は家にかえってやることは既に決めていた。
敵を倒すのには絶対に必要なものがある。そう、武器だ。
武器がなければ相手にダメージを与えることが出来ない。
武道家というのは殴って敵を倒すそうだが
子供の力では素手で敵を倒すことは不可能だ。

(親父の部屋に剣が置いてあったはずだ。タウンソードとか言ったかな)

親父は家にいなかった。だから剣も簡単に持ち出せる

はずだった。


「あれ?もてない。」

そう、タウンソードがもてなかったのだ。
普段家事に利用する際は普通に持てたはずなのに
いざ戦闘のためにと持ち上げようとすると持ち上げることが出来ないのだ。

何かがおかしい

でも、持てない物はしょうがない。僕は早々に諦め
他に何か無いか探すことにした。すると
部屋の片隅に落ちている小さな剣を見つけた。
ゴミのようにそこに落ちている剣を僕は手に取った。

今度は持てる。よし、武器はこれに決定だ。
武器屋で見たことがある。確か凄い安い剣だ。
ショートソードっていったっけかな。

どうせゴミのように置かれていた剣だ。親父も僕が取ったとは気づかないだろう。
無くなったことに気がついても自分が無くしたと思うはずだ。
腰につけていたオモチャの剣と交換する。これでもうばれることはないはず。

その後僕は、なけなしの小遣いで、ラージポーションを一つだけ買った。
というかそれしか買えなかったのであるが。


あれ?キャンディーでも傷の回復は出来たんだっけ?
まぁいいか。もう遅いし。同じ年のドロシーちゃんとも話せたしね。


さて、全ての準備は整った。あとはコボルトを倒すだけだ。
その日はあまり眠れなかったのか、それともすぐ眠ってしまったのかは覚えていない。





あ、あと、物置で小さな盾も見つけたのでそれも持ってくことにした







そして「あの日」が来た。

学校では特になんにもなかった。ただ、アヤが次のような話をしてた。

「なんかさ、剣とか持てないの。で、何か持てないかって想ったら
槍?っていうのかな。それなんだよね。おかしいよね。
家事とかでは普通に持てたはずなのにさぁ。」

僕はきっと槍が向いているんだろうなとかすかに想っただけで、その話は終わった。


夕方になった。

「誰もいないね。本当にいない。コボルトもいない!!」

アヤはコボルトが見あたらないことに怒っていた。
僕たちはそばの木の陰に隠れている状態だ。

「まぁまぁ。コボルトだってずっと外にいるわけないさ。
いつかやってくるよ。」


そしてそのときはやってきた。コボルトが一匹、ヒョコヒョコと
出てきたのだ。

アヤはコボルトを見つけるや否や

「見つけた!おりゃー!」

と叫んでコボルトに突っ込んだ

799名無しさん:2009/07/07(火) 01:04:52 ID:jbYrN6dg0
コボルトはアヤにすぐに気づき、戦闘態勢を取った。
そして槍を突き出す。

「ッ危ない!」

アヤは殆ど反射的な動きで横っ飛びでその槍をさけた。

そしてそのままコボルトに槍を突き出す。

ズシュッという音と共にコボルトの方に槍が刺さる

「キェェ」

コボルトは小さくうなった。だがあまり大きなダメージは受けていないようだ。
そのままコボルトはアヤに槍を再び突き出す。今度は当たった。
アヤの腕を槍が斬りつける。

「いったぁーい!」

アヤはそう言うと腕を押さえてうずくまってしまった。

危ないな。そろそろ僕も攻撃しよう。二人でヒーローになろうじゃないか。
アヤの場合はヒロインだったっけかな?

「うらああ!!」

気合入れのために叫びながら敵に向かって剣を振り下ろす

だがコボルトには当たらなかった。意外とすばしっこいやつだ。
コボルトはそのまま回転して僕に槍を突き出す。
槍は横っ腹に刺さった。

痛いな。アヤはこれを喰らったのか。うずくまるのも無理はない。だが僕はヒーローだ。
これくらいじゃひるまないさ。

刺されたまま、僕はコボルトの腹に剣を突き刺す。これは深く入ったな。
僕はうずくまってるアヤに向かってしゃべる。

「アヤ、ヒーローになるんだろう?ずっとうずくまってるのかい?」

腕を押さえてふるえていたアヤの動きが止まる。そしてアヤは顔を上げた。
その口元は笑っていたな。絶対に。

「そうだね。ヒーローはこんなんじゃ諦めないよね。よし、くらえー!」

刺さった。コボルトの背中に。コボルトは先ほどよりも大きな悲鳴を上げた

「ギェェック」

だが、そのまま槍を振り回しアヤと吹き飛ばす。でも大丈夫みたいだ。
コボルトはそのまま僕に槍を突き出す。盾は皮で出来ているから何度も防げない。剣で防ぐしかない。

金属同士が当たり合う嫌な音が響き渡る。だが僕は笑っていた。振りが大きすぎるのだ。

見えた。僕はそう確信した。そしてコボルトのみせた隙を狙い、コボルトの腹をおもいきり斬りつけた。

ザジャッという景気のいい、でもどこか気持ちの悪い音がした。

「グェッェッェ」

コボルトの声はかすれだしている。きっと、もう少しだ。

800名無しさん:2009/07/07(火) 01:07:01 ID:jbYrN6dg0
「うりゃああ!!!」

気合を入れ直すため、大きく叫んでアヤが突っ込む。

同時に、僕もコボルトに向かってかけだした。
アヤにリーチは敵わないので、アヤの攻撃した後、僕がとどめを刺すためだ。

アヤがコボルトに槍を突き出す。


よし!これで倒した!
勝利を確信した僕は走りを止める。



ズブシャッ
槍が深々と腹に突き刺さり、そのまま身体を貫通する。


飛び散る血。倒れる身体。地面に落ちるドサッという音。









なぜだ。









 な ぜ コ ボ ル ト は 立 っ て い る ?



「グッ…………グブ………グフッ…………」

やられたのはアヤだった。大きな血を吐いて、倒れている。
お腹のあたりからはどくどくと血があふれ出し血だまりを作り始めていた。
やられそうになっていたコボルトは
非常に怒っていたんだ。だから起きてすぐに攻撃態勢を取った。
そして僅かに勝っているその槍のリーチを利用して
アヤよりも先に槍を刺すことに成功したんだ・・・・・・・
怒っていたコボルトは渾身の一撃をアヤの腹部に・・・



僕の性だ。あのとき、コボルトが倒れたときにとどめを刺していれば
アヤはやられなくてすんだんだ。僕の性だ。

僕の性だ。僕が責任を取らなければ。

コボルトめ・・・・許さない。絶対に許さない。ゆるさない、ゆるさない、ユルサナイ。
ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ
ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ
ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ



僕の中の何かがはじけた。いや、切れたのか。

「うわあああああああああああああああああ!!!!!!!!」

自分でもわかる。今までにないほど大きく叫んだはずだ。

後先も考えないで僕は、コボルトに向けて大きく剣を振り上げて、突撃した。

「死ね!死ねよおおおおおおおお!!」

なんだろう。力が溢れてくる。何が起きた?何があった?

その後の戦闘が終わるまでのことは覚えていない。

我に返ったら、一度しか攻撃してないはずのコボルトが傷だらけになって死んでいて
横に血だらけのアヤが倒れていた。でも、目を開いて、此方を向いていた。

801名無しさん:2009/07/07(火) 01:10:05 ID:jbYrN6dg0
「アヤ、大丈夫かよ!」

大丈夫なわけがないのに、僕はそう叫んでアヤの側に駆け寄った。

アヤは目だけを僕の顔に向けて、かすれて殆ど聞こえない声で言葉を紡ぐ。

「凄いね……あん…たは。たくさ…………んに分身して
攻撃する技なんて…………どうして隠し持ってたの……?」


何を言ってるんだ、分身技なんて僕は使えない。
やはり傷だらけの性で視界がぶれていたのだろうか。

「私……………死んじゃうのかな…………
バカなこと言わなければ良かった。ヒーローになりたいから
モンスターを倒してみせたいなぁ……………なんて。」

アヤは諦めたように話し続ける。
だが僕は諦めていない。何か、何か無いのか………
何か………

そう思って、僕は急いで袋の中をかき回す。

こつん、と指に当たる何か。
なんでもいい、なんでもいいんだ。頼むから何かアヤを助けられる
アイテムが………
わらにもすがる思いでそのアイテムを見る。




昨日、たった一つだけ買ったラージポーションだった。

キャンディーなんて比べ物にならないくらい回復してくれる。

これなら…………これならアヤが助かる!!


「アヤ、これだ、これを飲むんだ!苦いけど我慢しろ!!」

アヤにポーションをもたせる。 
だが、手に力が入らないのか、そのポーションを口に持っていくことはない。

僕はすぐにポーションをとると、口に持っていき飲ませようとする


ちくしょうっ、手がふるえて全く入らない………
ちくしょう、ちくしょう!!

何度やってもうまく行かない。手のふるえは止まってくれなかった。
このままじゃポーションが全部、口に入る前にこぼれてなくなってしまう。
どうすればいい、どうすればいい。





仕方がない。

僕は決心した。アヤのためだ。
僕はポーションを自分の口に持っていく。
そして全て、口の中に含んだ。







全く、ファーストキスを奪った罪は重いぞ、アヤ


僕はポーションを口に含んだまま、アヤの顔に自分の顔を近づけ、
唇を合わせる。感触なんて堂でも言い。今はアヤの命が最優先事項だ。


ポーションをアヤの口の中に流し込む。大丈夫、ちゃんと入っている。

口を離すと、ポーションを口からコボしてしまうかも知れないので
唇と唇は離さない。


アヤの喉仏が動く。しっかりと飲んでいる証拠だ。


そして、全部飲んだことを確認した僕はやっと顔を離した。

802名無しさん:2009/07/07(火) 01:14:20 ID:jbYrN6dg0
息は整ってきた。ポーションは凄いな。
まだ動かないアヤに様子を聞いてみる

「どうだい?大丈夫?まだ痛いか?」

アヤはゆっくりと顔を此方に向けると
ほほえみ、そして先ほどのかすれた声ではない、いつもの声でしゃべる

「もう大丈夫。凄いよ、お腹の傷も塞がったみたい。
でも、まだちょっとじんじんとした痛みが残っているかな。」

しゃべっている後半には苦笑いに代わっていたアヤの表情が
今度は真顔に代わる。

「ありがとね。やるじゃん。いつもあんな感じなのに、やるときゃやるんだ。
見直しちゃった。」


やばいな。面と向かって褒められると恥ずかしい
僕は顔を背けて話す。

「さ、さて。コボルトは倒した。僕らはヒーローだ。
さぁ、報告しにかえ………ろ……う……?」

ドサッ


「あ………あれ…………やべ、腰から下が動かない」

気が抜けてしまったか。僕の腰から下は完全に力が抜けて
動かなくなってしまった。

「アヤ…………ごめんね。ちょっと、僕は動けそうにないや」

素直に謝罪の言葉を述べると綾は首を振って返してきた。

「いいよ、私もまだここにいる。つかれちゃったみたい。」



その数十分後、偶然やってきた大人に発見され、
使節に連絡が行った。そして危ないと言われてたのにコボルトと
闘ったこと、そして親の物を勝手に盗んだことでこっぴどく叱られた。
だが、他の奴らには「モンスターを倒した」として、
凄い凄いといわれて、僕たちの目的は達することが出来た。
僕らはヒーローになったのだ。モンスターを倒したヒーローに。

そしてその夜、親父の説教を受けて、なんとか解放された。
でも、親父は、コボルトを倒せたことを褒めてくれていたようにも見えた。

親父は部屋を出たみたいだ。。でも僕はまだ立っている。

ふと、目の前の剣を見た。タウンソードだ。
特に理由もなく、持ち上げようと試みる。





簡単に持ち上げることが出来た。そう、本当に簡単に。
一度置いて、そして戦闘を思い浮かべながら持ち上げようとする。

それでも、持ち上げることが出来た。
なんだか、自分が強くなったように感じて、とても嬉しかった。

次の日、アヤからも同じ事を言われた。アヤも持ち上げられなかった槍が持ち上げられたらしい。



ちなみにその後、アヤの言っていた分身技というのは
どんなに頑張っても出すことが出来なかった。
この技がなんなのか分かったのは、冒険者になって鍛練を積んでからだ。
なぜあのとき、僕が使えたのかは分からない。でも、きっとアヤが
攻撃を受けたのが原因だと想う。僕は間違いなくそう思ってる。

803名無しさん:2009/07/07(火) 01:17:10 ID:jbYrN6dg0

「あの日」   

そう、僕が初めてモンスターと闘った「あの日」
きっと、その日が、僕の人生を決めたんだ。

「ちょっと、なにやってるの?速く時の森にいこうよ!!」

僕の後ろから話し掛ける女性の声。
振り向くと美しい女性。
全く、前髪のメッシュは相変わらずだな、アヤ。
昔のことを思い出していたのに、無粋な真似をするやつだよ。
あのとき、大けがをした女の子はこんなに美しくなったのか。
改めてそれを実感した。

「はいはい、分かってるよ。今日もペアハン頑張りますか!!」

僕はあきれた声を出して立ち上がり、アヤと並んで狩りにでかけた。










と言うわけで初めてのRS小説は終わりです

一応説明すると、最初に持ち上げられなかったタウンソードを
最後に持ち上げることが出来たのは、コボルトを倒してレベルアップしたからです。
コボルト一匹でそんなにレベル上がらない!とかは
小説だからってことで納得していただけると嬉しいです。
あと、アヤの言っていた「分身技」っていうのは
パラレルスティングのことですね。
文章は、「僕」がずっとしゃべっているので
大人っぽいでも子供っぽい ってのを意識しました。

804ヒカル★:削除
削除

805名無しさん:2009/07/07(火) 14:40:44 ID:OOUTumhw0
w

806名無しさん:2009/07/07(火) 14:47:19 ID:4rvjIaQc0
w

807◇68hJrjtY:2009/07/08(水) 06:26:17 ID:4iRAnLHg0
>803さん
初投稿、ありがとうございます!
5歳と6歳という年齢の子を主役と扱ったのは初めて読んだような気がします。
コボルト相手に初々しいながらも本人たちには必死そのものの戦闘シーンが
なんだかホントにLv1そこらの若葉だった頃の自分と重ね合わせてしまいました(笑)
後日談、といいますか、成長した二人の姿で締めくくられているのも嬉しいラスト。
またの投稿お待ちしております♪

808蟻人形:2009/07/11(土) 21:38:01 ID:MpOwosug0
今晩は、蟻人形です。

続きの前に、68hさんに感想を頂いて初めて気付いたことですが、前回(と今回)の話は回想のつもりで書いていました。
半年前に起こった一度目の決闘が冬で、それが終わった直後――という設定を考えていましたが、読み返してみると確かに自分でも前後の繋がりがよく分かりませんでした。
ⅠからⅣまでで季節に触れてなかったのに、いきなり雪とか降らせてしまったり。分かり辛くて申し訳ありませんorz

今回、新たに一話で四人の名前を出しました。
名前を三人称から一人称に変えるとき、『どれがどの人物の名前なのか』ということには注意を払ったつもりですが、正直なところ上手く書けていないような気がしています。
なので、その部分を特にご指摘頂けるとありがたいです。

809蟻人形:2009/07/11(土) 21:39:35 ID:MpOwosug0
  赤に満ちた夜

 0:秉燭夜遊

 Ⅰ >>577-579 (七冊目)   Ⅱ >>589-590 (  〃  )   Ⅲ >>604-607 (  〃  )   Ⅳ >>635-636 (  〃  )   Ⅴ >>689-690 (  〃  )


 Ⅵ … Lit Light Lives Ⅱ


 元々談話室に置かれていた十六の椅子。
 異国から仕入れた生地を使った高価なモノ、背もたれの後ろから新たな枝が伸びているような木製の生きたモノ、軽金属が器用に加工されたメタリックなモノ……。
 メンバーはそれぞれ自分専用の椅子を自由に持ち込み、いつでも好きなときに和気藹々と団欒を繰り返していた。

 上階で一本の蝋燭に明かりが灯ったとき、談話室には二人のメンバーがいた。
 入って最初に気付かされることは、椅子の在り様と数の変化だろう。
 室内には約半数の椅子が残っていたが、その中で無事でいるものはほとんどなかった。
 原型を留めず潰された椅子が少なくとも二つ以上はあり、他の五つの椅子のうち二つは部屋の隅に倒されたままで、一つは腰を下ろす部分が痛々しく歪んでいる。
 部屋には長方形の大きなテーブルと円形の少人数用テーブルがあるが、相方である椅子を失い広々とした空洞が部屋の空気をより一層重いものに作り変えていた。

 辛うじてではあるが、たった一箇所だけ生きている場所があった。
 小意地を張って地べたに胡坐を組む男と、肘掛が壊れた椅子に腰掛けた女。まるで何かに押し退けられたように、二人は広い部屋の隅にいた。
 会話は先程から途切れ途切れで、今も男が静けさを振り払おうと重い口を開いたところだった。
 短くまとめられた提案に対し、女はほとんど間を置かずに気のない返答する。
「ムリムリ。使えないだろうし、やるだけ無駄よ。余計なの入れたって、あいつは的にもしてくれないと思うけど」
 新しく頬に大きな腫れを拵えた男は内容を曖昧に小さく唸った。
「だけどよ、五人だぜ? 残ったのがたったの五人だ。しかも揃って攻撃メインで、支援タイプの奴は全滅と来てる。どっかから引き抜くしかねぇだろ?」
「それはあってるけどさ、新米なんか引っ張ってきたってどうにもならないじゃん。大体、訓練と実践が違うコトくらい分かってるでしょ?」
 女は包帯を厚く巻いた右手をひらひらと動かしながら言った。
「ああ、それは知ってる。俺が言いたいのは、水属性が使える奴を鍛えること前提で連れてくるのはどうだってことだ」
 真面目に説明する男だったが、女はしっかり取り合おうとはしなかった。体を前後に一度揺らし、元に戻ってから肩を落とした。
「魔力がどの色でも大差ないよ。あの強さだったら……」
 もう反論の言葉は出てこなかった。魔力の色、つまり属性の相性でどうにかなる相手でないことは男も十分理解していた。
 次第に視線が落ちていく女につられてか、男も意識せずにうなだれていく。会話の種が底を突き、微かな温もりさえ急速に失われていった。
「あーあ。どーしようもねぇのかぁ……」
 最後の男の呻きは、二人の耳に長く残った。

810蟻人形:2009/07/11(土) 21:40:22 ID:MpOwosug0

 談話室の戸が開いた。
 二人はある女性を連想して入り口を見上げたが、立っていたのはその人ではなかった。厚いコートを着た男が長髪に乗った雪を払い落としながら部屋に入ってきた。
「よっ。なんだい、こんなに暗くして」
 扉の向こう側から漏れる明かりが、外の寒さで赤みがさした顔を照らし出していた。男は何も言わずに頭を垂れたが、女は再び上体を起こした。
「オウバ、おかえり」
 そう挨拶はしたものの、女も立ち上がりはしなかった。
「レナン一人? マッチが擦れないなら他の誰かに頼めばいいのに」
 オウバと呼ばれた男はポケットの中のマッチ箱を探った。対して女は今度は手の甲のみに包帯を巻いた左手を振った。
「大丈夫、左は使えそうだから。それに一人じゃないよ」
 そう、と適当な相槌を打ち、オウバはテーブルの上の燭台へと歩みを進めた。その途中で、オウバはあることに気付いた。

 不意に唯一の足音が止まった。しかしオウバはまだ蝋燭の傍にはいない。立ち止まった彼の視線が部屋の逆側に倒れている一つの椅子に注がれていた。
「俺の椅子も……壊していったのか?」
 信じられないと言わんばかりの声が響いた。そのときのレナンの表情が暗がりに隠されていたことは幸運だった。
「ン……。巻き添えになったっていうか、その……」
 レナンは続きを話すことを躊躇っている様子を見せた。だが、事態は彼女が新しい言葉を組み立てるのを待たなかった。
 ずっと俯いていた男がようやく顔を上げた。彼の目はまずオウバを捉える。そこには紛れもない敵意が強く込められていた。
「俺が蹴り飛ばしたぜ。オウバ」
 素早くレナンの影が男からオウバへと向き直ったが、当人たちは気付きもしない。何故かオウバは何も言わなかった。
 事態を飲み込んだレナンは、オウバではなく男に魔力を送ることを選んだ。少しでも力を持つ者なら誰でも使える会話技術、『耳打ち』による伝達だ。
『ちょっとエニサ、今のはまずいよ。仕方なかったことだけど、壊しちゃったんだし……』
 耳打ちの内容は第三者に漏れることはない。
 彼女はオウバへの謝罪を勧める意を含めて耳打ちをし、男はそれを読み取った。
「で、謝れってか? 冗談じゃねェ」
 なんと返答は普通の肉声で突き返され、しかも男の口はまだ閉じなかった。彼はオウバを一層強く睨みつけ、続けた。
「お前さぁ、マジでズレてんだよ」

 レナンが男の名を叫び終える前に、オウバがレナンを呼んでいた。そのときの声はいつになく荒々しかった。
 あまりにもハッキリとした挑発を吹っかけられ、オウバも持ち合わせの少ない慎重さをかなぐり捨てていたのだ。
「黙っててくれ」
 特にその一言のあと、彼は絞るように喉から音を出した。
「エニサ、続けろよ。どういう意味だ?」
 頬を腫らした顔が更に歪み、そこからは憎悪の情さえ窺えた。
 互いにこれまでに溜め込んできた相手への不満が魔力に変わり、薄闇の上に二つの輪郭を黒く濃く刻み込んでいた。

811蟻人形:2009/07/11(土) 21:41:08 ID:MpOwosug0
 最初にエニサの魔力が一度小さく揺れた。
「まず火がからきしダメってのが論外。使えねぇ。土はいいとして、風が使えるくせにヘイストできないなんてありえねぇって話よ」
 段々と声が低く大きくなり、黒をバックにうねる魔力の動きも激しくなっていく。エニサは体を前に乗り出し、握りこぶしで床を打った。
「そうだ! ウィザードのくせに支援できないでどうすんだ? なんで土に拘ってるのか知らねぇが、ちったぁ自分以外のことも考えろ――」
「で!? 自分はどうなんだ! 色のある魔法を一度でも使ったことがあったか!?」
 オウバも負けじと声を張り上げた。エニサは僅かに、しかし確かにたじろいだ。鋭く切り込んだ反撃はエニサの弱点を見事に突き当てていた。
 相手の怯みを見逃さず、オウバは切り口をより深く攻めた。
「魔力を元素に換える方法すら知りもしないくせに、偉そうにしてりゃ世話がないな!」
 まるで電気が走ったようにエニサが立ち上がる。
 やや遅れてオウバも杖を構えたが、そのとき既にエニサは彼の視線の先から消えていた。

「っヅぅ!」
 硬い床が奇妙な声を発する。正確には、そこに体を重ねたエニサの声だが。地面に立っていたのは彼が倒れる前後で変わらず二人だった。
「まっったく!! どうして顔合わせるたび喧嘩吹っかけるの!?」
 起立はエニサ一人の行動ではなかった。新調した履き慣れない靴ではあったが、レナンの脚は万全の状態であった。
「……てっ、てめ……っ」
「オウバもよ! ガキじゃないんだから、いい加減場所と状況考えなさいよ!」
 レナンは地べたから聞こえる呻きを無視し、呆気にとられた面持ちのオウバに左手の人差し指を突きつけた。
 面食らったオウバだったが、一つ一つの動作に不満を散りばめつつも大人しく杖を置いた。
 談話室が完全に静まったとき、入り口の戸が再び開いた。

「あれ、どしたの? 三人とも、こんなに暗くして……」
 今度こそ二人が待っていた女性だった。その女性は扉を大きく開け、廊下の光が部屋の中に入るように角度を調節していた。
「誰かマッチ持ってない?」
 女性が暗がりの中の三人に尋ねた。
「あぁ、ダイジョブ。私、左手使えるから」
 レナンが人差し指を立てると、宙に浮く形で小さな火が生まれた。オウバは完全に機嫌を損ね、その光景が出来るだけ視界に入らないよう努めていた。
 光が三人を照らし出した途端、戸口に立つ女性が目を見開いた。
「うわっ、エニサ鼻血っ! 鼻血ヤバいよ!」
 他の二人が見ると、エニサは這いつくばったまま鼻を押さえていた。実際彼はオウバと違い、レナンの火を気にしている余裕などなかった。
「鼻っ……レナンッ! 鼻! 鼻折れたぞっ!」
 指の隙間から漏れた血の雫が、床の赤い水溜りに飛び込んだ。その量を見る限り相当の重傷だと判断できる。
「そんなはずないって。多分強く打っただけでしょ」
 燭台から燭台へと指を動かしながら、レナンは冷静に反論する。次に彼女はその場に突っ立ったままの女性に向き直った。
「シベル、エニサの鼻診てくれない? 火ィ点け終わったら代わるから」
 言い放たれた一言によって、頼まれた女性の顔に動揺と不安が浮かぶ。
「でもあたし、手当てとか全然できないよ……」
「いいのいいの、ただ死なないように目の前で見てるだけで。そもそも明かりがないと見えないからさ」
 恨みがましい表情を包み隠す余裕もないほど出血に慌てふためくエニサの様子を、レナンはえもいわれぬ顔で眺めていた。
 しかも踵をめぐらす一瞬、彼女の口元が小刻みに震えていた。
 それらは新たに部屋に入った女性――つまりシベルに対し、レナンの思考を悟らせるのに充分な役割を果たしていた。
 とはいえ、不機嫌そうに押し黙っているオウバや己との戦いに臨んでいるエニサまでが気付いたかどうかは言うまでもない。
 シベルは呆れるというよりは困惑した表情で、テーブルの上に置いてある燭台とちり紙を掴み、エニサの元に駆け寄った。

812蟻人形:2009/07/11(土) 21:42:07 ID:MpOwosug0
 蹲るエニサの前に屈み込んだとき、シベルは思わず息を呑んだ。火が映し出したエニサの顔は青白く、血糊が彼の両手と鼻の周りをべっとりと汚していた。
「レナン! レナン!!」
「わかってる、わかってる。終わってからね」
 ほとんど叫ぶようなシベルの声にも、呼ばれた本人は気楽そうに対応した。
 苛立っていたオウバまでが、差し迫った声色が気になったのか、はたまた好奇心からか、少し距離をおいてエニサを盗み見ていた。
 遂にシベルは唇を強く結んだ。燭台を床に置くと、震える手をエニサの顔に近づける。
 当然の権利として、エニサは大きく身を引いた。
「エニサ」
 名を呼んだ直後、シベルは一番若い火を振り返る。
 足音が不自然に長く途絶えたことが原因であり、一瞬の間を置いて、床と靴の擦れ合う音が戻った。
 彼女が視線を戻すと、エニサは一段と後ろへ下がろうとした。
「診るだけだから。血、止めないと本当に危ないかもしれないよ」
 シベルは再び手を伸ばしたが、壁に映ったエニサの影はもう逃げる素振りをしなかった。
 真っ赤に染まった諸手を顔から外し、大量のちり紙で血を拭き取ると、出血の大もとである鼻が全貌を露にした。
 いよいよそれにシベルの指が触れようかというところで、突然高い声が上がった。
 その後数秒間にわたって耳を劈くような悲鳴が続き、嵐が過ぎ去ったときには、謝罪をするシベルと転げまわるエニサ、笑みを漏らすオウバと笑い転げるレナンがあった。

「ウ……ウぅぅぅ……」
「ごめん! ごめんなさい!」
 エニサが唸りながら体を起こす間もレナンの馬鹿笑いが部屋一杯に響いていた。シベルは彼の両肩を抱え、動作を助けていた。
 立ち上がったとき、彼の顔が訴えるものはシベルへの怒りでもレナンへの憤りでもなかった。目はシベルの右手に釘付けとなっている。
 顔つきを変えたのはシベル一人だった。
 結局、彼は気持ち視線を落としながら口を開いた。鼻が腫れているせいで、はっきりとした発音にはならなかった。
「ヤケド、まだ治ってなかったのか?」
 笑い声のボリュームが一瞬で下がり、咳き込む音が場を引き継いだ。
 それと同じくらい唐突にシベルの謝罪が止まった。ややあってシベルが首を縦に振った。
「……ごめん」
 彼女は同じ言葉を呟いた。しかし、全てが――まったく異なったものになっていた。
 エニサが一番近くにあった椅子を引き、彼女を座らせた。
「あの、ゴメン。俺も悪かった……」
 いつの間にか、レナンも二人の傍に立っていた。非常に似つかわしくない、まるで自分が罵詈雑言を浴びせられたかのような面持ちだった。
「イ゙ッッ?!!」
 声を噛み殺したのはエニサ。その向こう脛を思い切り蹴飛ばしたのはレナン。
 まさに泣きっ面に蜂、最後にエニサはレナンからの耳打ちを受け取ることになった。
『この、マヌケっ!』

813蟻人形:2009/07/11(土) 21:43:07 ID:MpOwosug0
 部屋中が事の行く末を見守る中、レナンがシベルの傍にそっと寄り添ったときだった。三人の耳にしっかりとした声が届いた。
「大丈夫」
 全員の視線がシベルに注がれた。
 直後シベルは決起し、仲間たちに向き直る。彼女の表情には強い覚悟が表れていた。
 それを見たレナンの顔がパッと明るくなった。
「そうよ! あたしのせいでこうなったんだから、あたしが一番頑張らないと!」
「ちがう、ちがう」
 レナンがシベルの肩に腕を回しながら楽しげに訂正する。
「これはみんなのせい、だからみんなでガンバらないとねっ♪」
「そうだぜ、おい」
 鼻の下を腕で擦りながら、エニサが同意を示した。
 そうなると、自然と皆の視線は一人に集まる。オウバもテーブルから腰を下ろした。
「あぁ、正論だ」
 オウバの一言を聞いて、遂にシベルも笑顔になった。
「よっしゃ! オウバァ! 表出ろよ!」
 突然エニサはそう叫ぶと、テーブルの上に放置されていた弓と矢筒を引っ掴む。
 オウバもニヤッと口元を持ち上げ、エニサの行動に応じて杖を手に持った。
「……オッケェ!」
「ちょ、ちょっと!」
 予測していなかった二人の行動に、シベルが慌てて間に割って入ろうとした。
 一方、まだ暗かった部屋で何度もそうしたように、レナンはニッコリ微笑んだ。
 その後――言葉は切れ、悲鳴が残る。
 残った一つのテーブルと二つの椅子、そして幾つかの蝋燭が巻き添えとなり、それは決着することとなった。


 怪我人に対して無力であるシベルは、先の結果も相まって、レナンが働く様子を横で黙って見ている他なかった。
 じめっとした雰囲気を醸し出す男二人。彼らの傷を看るレナンは不自然なほど生き生きとしている。
 原因に心当たりのあるシベルは、それを聞かずにはいられなかった。
『レナン』
 エニサの鼻を治療するレナンに耳打ちで呼びかけると、彼女は目線だけをシベルに向けた。
『なに?』
『もしかして、なんだけど。あたしが二階から下りてくる前に、またやった?』
 そう尋ねた途端、レナンの指がはたと止まった。
レナンは首を斜めに傾げて髪を顔の前に流し、エニサの視線を経ったことを確認してから、さっきと同じようにニッコリと微笑んだ。
 訝しむエニサとレナンを交互に見ながら、シベルは短い髪の上から頭を掻いた。
『あのさ、いい加減二人の喧嘩を煽るのはやめにしたら? 性格悪く見えるよ』
『うぅん……分かってるけど、一度味を占めたら止められなくって。シベルもやってみない?』
 レナンが更に首を傾け、シベルに向けて軽くウィンクした。シベルは柔らかく微笑み返した。
『んー、考えとく』
 つれない返事に少し残念そうな面持ちで姿勢を正すレナンを確認してから、シベルは小さく溜息を吐いた。
 彼女の横顔に映った不安に気付いた者は一人もいない。
 空は灰色から黒色の雲に支配を譲り渡し、雪は風と共に夜の街を駆け抜けていった。

814◇68hJrjtY:2009/07/12(日) 08:12:38 ID:4iRAnLHg0
>蟻人形さん
続きありがとうございます♪
なるほど、戦いが終わってその回想…"少女"に惨敗した彼らが心と身体を休める時期。
でも、こんな時期の風景のほうが各登場人物に迫れる描写が見られて嬉しいです。
今回は蟻人形さんも仰るようにメインと思われる(?)登場人物の名前が判明してきましたね。
指摘要望の件ですが、私が読んだ限りでは人物の混同などはまったくありませんよ。
ぶっきらぼうなエニサ、しっかり者のレナン、エニサの好敵手オウバ、優しいシベル。
彼らがどんな物語の舞台に立って行くのか、続きお待ちしています!

815DIWALI:2009/07/19(日) 11:18:05 ID:JDly1N7M0
お久しぶりです!まずはこないだのコメ返しから・・・

>みやびさん and 68hさん
正論掲げれば即ち正義・・・たしかに行き過ぎればそれは間違っているかもしれませんが、例の件では
正しいことを戒めの意を込めて言ってくれたんだと信じています。仮にそれを見てなかったら調子に乗って
話をとんでもない方向に曲げてしまってたかもしれませんし・・・自分としては陽気でファンキーなエロの
つもりでしたが、読み手さんのセンスなども考慮してさじ加減を調整していきたいですね。
励ましの言葉、ありがとうございます!!

816DIWALI:2009/07/19(日) 11:51:18 ID:JDly1N7M0
>>738からの続きとなります。


「・・・・え?」

 すやすやと眠る幼女化したミリアを抱いていたラティナは唖然としていた・・・彼女の前に立っていたのは、一人の女性。
 上半身が裸で傷だらけの青年の肩を担ぎながら、そして彼と同じくらいの数の傷をこさえた、和服の美女がそこにいた。
 艶やかで美しい黒髪、雪のような白い肌に滴る紅の血・・・それがラティナ、いや、あやねの母だと気付くのに3秒も要らなかった。
 そしてその母、雪乃が肩を担いでいた青年がトレスヴァントだということを悟るのも同様・・・

「お、お母さん・・・それにトレスヴァントも?何があったの!?」
「実は・・・この子があやねちゃんの彼氏言うもんやから、ちょっと腕試しさせてもろたんえ?なかなかの上玉やわァ。
 "肉を切らせて骨を断つ"の真髄、しかと見せてもらいましたよって・・・あやねちゃん、ええ男見つけはりましたなァ」
「っ!!トレスヴァントに何てことしてくれてんのよっ、お母さん!?そうやって力づくで人を試すのやめてっていつも言ってるでしょ!?」
「あ・・・あぁ〜、ごめんね。私、強い人には目が無うて・・・ややわぁ〜、お母さん反省しとるさかいに」
「んもうっ、相変わらずなんだから・・・ねぇお母さん、この子をお願い。トレスヴァントと話がしたいの。」

 親指を咥えて眠るミリアを雪乃に預けると、地に伏しているトレスヴァントの元へとラティナは歩み寄る。
 大好きな人の元へと早足で歩み寄る彼女の瞳には、既に雫の塊が溜まっていた・・・それだけ、彼への愛が深かった。

「トレスヴァント・・・ねぇっ、わたしだよ?目を覚ましてっ!!」
「うっ・・・うぅ、その声・・・あや・・ね?あやね、か??」

 バチィンっ!!

 ラティナの故郷での名前を口にしたとき、彼の頬に衝撃が走った・・・!!
 既に振られていたラティナの平手、そして我慢できずに彼女の瞳から涙は静かに流れている。

817DIWALI:2009/07/19(日) 12:17:45 ID:JDly1N7M0
「・・・・ぁっ・・・!!バカあぁっ!!」
「え・・・ど、どうしたんだよ・・あや・・・」

 何度も何度も、馬乗りするラティナの往復ビンタはトレスヴァントの頬を叩き続ける。そしてそれに比例して流れる彼女の涙。
 もはや零れる嗚咽を抑えることもできないほどに、ラティナは泣いていた・・・しかしその涙も訳あってこそ、その平手の意味も。
 それを理解できる程の脳みそを持っているわけでもなし、しかし本能でそれをトレスヴァントは理解し、肌で感じ取る・・・

「バカバカバカバカバカぁっ!!!わひゃっ・・・わひゃしはっ、えぅっ・・・もう故郷には、かえら・・ないもんっ!!ずっとずっと、ずっと
 トレスヴァントと一緒にっ・・・ふぁ、らひ・・・ラティナとして生きたいんだもんっ!!らから・・・もう"あやね"なんて呼ばないでぇっ!!バカあぁっ!!!」
「・・・!!・・・・ラティナ。」

 我が侭な子供が泣きじゃくるように、涙に濡れた彼女の泣き顔は彼の心を抉った。
 ここが自分の居場所だと、自分が彼女に必要とされていると、そう言いたいかのような言葉の雨・・・
 それはあの時の状況と似ていた。行為と裏腹な態度を責めて、そして泣きながら告白されたあの夜に・・・
 そしてその次に行うべきことは・・・アレしかなかった。

「ほぇ・・・?」
「あの夜と一緒だな。感極まって泣きじゃくるお前を、こうやって優しく抱きしめていた・・・そうだろ?」
「・・・っ、ねぇトレスヴァント・・・抱きしめて、わたしのこと、ぎゅって・・・して。」
「ああ・・・何度でも、何度でも抱きしめてやる、唇を重ねてやる、愛してやる。ラティナ、大好きだっ!!」
「わたしもっ・・・わたしも大好きよっ、死ぬまでずっと一緒だよっ、大好きだよっ!!!」

 地面に仰向けに倒れるトレスヴァントに跨るラティナは、間髪入れずに彼の唇へ自らのそれを重ねる・・・!
 口の中で柔らかい物が絡み合い、恍惚の海へと二人は沈んでいく・・・そんな二人を雪乃は微笑ましく眺めていた。

「ふふっ、若いってええもんやわぁ。そういえば私と旦那はんも、決闘の末に抱き合った思い出がありましたなァ、うふふ」
「んみゅ〜・・・ふぁあ〜、うにゅ?あれぇ、トレチュバントとラティナがチューしてうの〜!おばちゃん、あれなぁに?」
「(お、おば・・・!?)う、うふふふ、子供は知らなくてええこと・・・どすえ?(おばちゃん・・・年は取りたくないもんどすなぁ)」

「ん、ふぅっ・・・トレフヴァントぉっ・・・」
「ラフィナ・・・んっ」

 陽炎に燃える森の中、二人はその愛を深めあった・・・

to be continued.

818◇68hJrjtY:2009/07/20(月) 20:45:54 ID:4iRAnLHg0
>DIWALIさん
お久しぶりです♪続きありがとうございます。
本名の「あやね」ではなく、ラティナという名前を愛する人に呼んでもらいたい…
ラティナが健気でホントに可愛い。トレスヴァントの今後の恋路も安心できそうですね。
胸キュン(死語)で青春真っ只中な二人にまずは萌えさせていただきました(笑)
さてはて、他方面での戦闘のその後も気になりながら続きお待ちしていますね。

819803:2009/07/30(木) 15:49:08 ID:jbYrN6dg0
「ふぅー。今日はここら辺にしようか。」

あかね色に染まる空。気の抜ける声を出す烏たち。僕は美しい女性とのペアハンを終えた。
前髪にメッシュをかけた元気な女性の名前はアヤ。僕の幼馴染みだ。

「ふふ、アヤ。昔と違って強くなったな。コボルトと闘った日は大けがをしたのに」

昔初めてアヤと共に闘った日のことを僕はアヤに話す。
目の前の女性は顔を少し赤くし、口をとがらせて抗議をしてくる。

「あのときは私もあんたも戦闘のこと何も分かってなかったじゃない。速く忘れてよ」

確かにその通り、あのときは僕もアヤも戦闘のことを知らずに突っ込んだだけだった。
だがやはりあのときの出来事を忘れることは出来ない。何せあの日は僕の想い人と初めて………
いや、これを言うのはやめておこう。僕自身も恥ずかしいからね。あの時はただの友達だったからなぁ

そういえば。僕とアヤの大冒険はいくつかあったな。どんなことがあったっけ
そう想った僕はアヤに聞いてみた。するとアヤは少し考えた後に
頭の上に豆電球が浮かんだかのように手のひらをポンとたたき僕に話す。

「そう言えば、10才頃に初級戦闘指導があったときに凄いことがあったじゃない。
あのときは確かジュンとリアーナも一緒だったよね。」

そう言えばそうだな。確かあれは指導を受けるようになって1ヶ月位したときのことだったな───

これは小さな小さな冒険をした二人と、その友達が体験したほんのちょっとだけ大きな物語

820803:2009/07/30(木) 15:51:00 ID:jbYrN6dg0
「コボルトの隠された隠れ家での闘い」


「今日はこれで終了。皆、武器の使い方は分かったか?しっかりと素振りなどをするように」

とても暑い夏の日。10才になった僕と、9才になったアヤは他の皆と一緒に戦闘指導を受けていた。
今日はやっと授業が終わり家に帰ることになったばかりだ。

「んー。やっと終わったね。前に闘ったことあるからか、結構できるものだねー。」

アヤは背伸びをしながらそう話す。僕とアヤはコボルト騒動で武器の扱い方を覚えており
他の奴らよりも遥かにうまく闘うことが出来ていた。
実際、今日のコボルトを相手にした戦闘では、あのときのようなへまはせず、
先生の助言も有ってか無傷で勝利することが出来た。
アヤに、あのときのトラウマがあるかと思ったが、逆にそのときのやり返しなのか
いつもと違いかなりいきり立って槍を突き刺していた。ううん、恐ろしい。

それから数日たったある日、遥か北西にある、アリアンという町の生徒と
合同訓練をすると言う話があり、そしてついにその合同訓練の日になったのである

朝、いつもと違う今日は、早くから集合をかけられていた。
僕はかなり速く起きて集合場所についていた。
どんな生徒がいるか気になるなんてことは全くない。僕の実力を見せつけて優越感に浸りたかっただけだ。
他に集合している生徒は2,3人。暇でしょうがない。アヤがいると楽しいんだけどな。

そういえば僕のファーストキスはアヤにあげてしまったんだっけ。でも不思議と嫌じゃなかった。何でだろう。
でも言ってしまえばアヤはかなり顔も整ってるし、将来綺麗になるんだろうな。そしたら
好きな男の人でも出来て、僕との関わりは全くなくなってしまうのだろうか──

と、考えていると肩を叩かれた。驚く。なんてことは全くなく、ただ後ろを振り向く。
噂をすれば影。全く、考えるだけで影が来るなんて。

「お早う。まさか、ずっと早くからいたの?張り切りすぎでしょ。」

肩に手を置いたままもう片方の手を口元に持っていき笑うアヤ。
胸がドキドキするのは緊張している性だろうな。アヤ相手にこんな感情持つわけがない。妹みたいなものだ。
僕は笑うアヤにあきれた顔で返した。

「アヤこそ、いつもと違ってかなり速いね。張り切っていたんじゃない?」

まぁね〜と少しだけ苦笑いするアヤ。
その後しばらく他愛のない話をしているといつの間にか集合時間になり、他の生徒も皆集まっていた。
そして先生が前に出てきて話す。

「今日は、アリアンの子供達と交流会を行う。いつかアリアンに行くこともあるだろう。
そのときに一緒に闘ってくれる仲間がいるのは心強いことだ。しっかりと友達を作るように。」

そして、今日の予定などの話をして集会は終わり、ついにアリアンの奴らと顔合わせの時間がきた。

821803:2009/07/30(木) 15:52:49 ID:jbYrN6dg0
こんにちは「アリアンから来ました。今日は僕たちとの交流会を開いていただいてとても嬉しいでしゅっ。」

絶対に先生に台本を書かれたであろう堅苦しい挨拶を一番前にいる男子が喋る。あぁ、噛んじゃった。
さて、確か今日は、それぞれの方で二人組を組んで、二人組同士で4人PTを創るんだったかな。
僕はいつも通りアヤと組むとして、相手は一体どんな二人組になるんだろうか。
僕はやはり、アヤの誘いで二人組を組んだ。これで問題は相手の二人組になった。
全員が二人組をくみ終わると先生が真ん中に出てきて話す。

「さて、二人組は組んだか?そしたら今度は4人PTを組む。PT編成は自分たちで考え
自分たちでPTを創るんだ。これは色々な場所ですぐさま野良PTを創る訓練にもなるからな。」

その後、PTを組む時間が始まった。
攻撃職だけで固める奴、間違えて回復職だけの奴、色々といるみたいだ。
いつも二人でいた僕とアヤはPTを組むことに少し抵抗を感じており、PTを作れないでいた。
武器が他の皆より強い、つまりレベルの高い僕らに色々な奴らが話し掛けてきたが
全て断ってしまっていたのだ。全く、これでは将来ソロかペアハンしかできそうにない。
まぁアヤとはPT組めるようになってもペアハンをたくさんするんだろうが。アヤに好きな人が出来なければ……だが。
そんな中、一人の男子に話し掛けられた。
杖を持っているからきっとウィザードなんだろう。少し長めの髪をした気の強そうなつり目の少年だ。

「おい、お前。レベルが高いからって偉そうにするなよ。レベルよりも装備に付いたオプションなんだからな。」

腕を組んで、偉そうに話し掛けてきやがる。なんだこいつは。ちきしょう。
と、その少年の後ろからもう一人、今度は女の子が出てきた。

「先生に言われたことそのまま言ってるなんて、お子ちゃまねぇ。」

また偉そうなのが出てきた。持っている物は………ゴムが付いてるからスリングなんだろう。どう考えても二股の木の枝だが。
これまた少しだけつり目の、どこかのお嬢さんなんだろうか、上品な服をきている。
笑いながら冷やかすその少女の方を少年は振り向いてにらみ怒鳴る。

「うるせぇリアーナ!先生が言ったなんて証拠はあるのかよ!俺の知識を見せてやったんだぞ!」

少女の名前はリアーナというのか。いかにも上品そうな名前だ。名字とかはきっと長ったらしいんだろうな。
エレクセント・シュヴィナールとかそんな感じに決まっている。エレクセントはミドルネームなんだろ。Eとかで略しちゃうんだきっと。
少女は怒鳴る少年に全く動じることなく更に冷やかす。

「ふふ、本を逆さまにして、いかにも分かってる風にうなずいてるやつがよく言うわよ。自称天才のジュン君。」

少年はジュンか。アヤと同じで少しボルティッシュ側の血を引いた人間がいるのだろうか、そっちでよく使われる名前の付け方だ。
少年は少女の言葉に反論できずにうなっていた。だがやがて此方を向き

「お前ら、さっきから断ってばかりだな。PT組んだことがないって落ちだろう。しょうがないから組んでやるぜ。」

と又上から目線でいってきた。すぐさま反論してやろうと思ったが、運の悪いことに先生がやってきて

「おぉ、最後のPTが組めたか。よし、それじゃぁ今日は皆が創ったPTで狩りだ。あまり遠くに行くんじゃないぞ!」

といって、PTを組むことになってしまった。タイミングが悪いんだよ、カス先公が。
そのまま解散となり、たくさんの4人PTは思い思いの場所で狩りを始めたようだった。

822803:2009/07/30(木) 15:54:51 ID:jbYrN6dg0
「ふん、お前ら、こんなぬるいところで闘おうだなんて想ってないだろうな?」

ジュンが腕を組みながら言ってくる。なんてムカつくやつだ。

「そんなわけないでしょ。私達は最初からコボルト達のアジトの洞窟に行こうと思ってたんだよ」

っと、アヤがいきなり横から顔を出して喋る。そう言えばさっきはずっと反応がなかったな。
肩がふるえている。よっぽど怒っているんだろうな。
それに対しジュンの横にいるリアーナが返答する。

「確かもう少し西の方にある洞窟だったわね。確かにここよりも強いコボルト達がいるわ。いいわ、行きましょう。」

リアーナはジュンと比べてまともな感じだ。いや、こいつもかなり偉そうにしてる。ジュンが異常なんだきっと
そう思っているとジュンが僕らの方を向く。何事かと想っているとこう尋ねてきた。

「そう言えばお前らの名前を聞いていないな。俺らの名前はもう知ってると想うが、俺がジュン、こいつがリアーナだ」

僕とアヤは簡単に自己紹介をして、4人で洞窟の中に入っていった。

洞窟の中、普通のコボルトよりも強いというのは本当だった。しかし、腕に自信のある僕は
だから簡単に敵を蹴散らすことが出来た。
しかし一つ問題があった、4人PTと言うのは形だけ、殆ど二人PTが二つという状況だった。
連携もしないし、何か指示をしあうわけでもないし、一緒の敵を倒すわけでもなかった。
それどころか、倒す目標の敵を同じになってしまい、喧嘩してしまったりもした。

「これは俺が先に目をつけたんだ!他の奴を攻撃しろよ!」

「何を行ってるんだよ。アヤが先に目をつけたんだ。だから僕らが攻撃する権利がある。」

今想えば、間に立たされたグレムリンはたまったもんじゃなかっただろう。
両方に攻撃され、そして無惨な姿になり、それでも身体を両方から引っ張られていたのだから。

アヤとリアーナは気があったようだった。いっちゃ悪いけどアヤもかなり偉そうだからな。何か通じる物があったのだろうか。

「子供よねぇ。ジュンなんて、昔からああなの。いっつも格好ばかりつけて、本当は格好悪い。」

とジュンを見つめてあきれ顔で話すリアーナ。

「そうなんだ。でもね、あいつは格好悪くないんだ。本当に格好いいんだよ。頼りになる。
あいつがいなきゃ私は死んでたもの。昔ちょっとあった出来事でね。かなり恩義感じてるんだ。
私はね、あいつのことが──」

後は聞こえなかった。横の野郎がうるさいからだ。

「ちきしょう!死にやがった!お前の性だぞ!!」

なんで僕の性になるんだ。理由を教えてくれたまえよ。意味が分からない。
もう狩りなんて出来る状況じゃない。そろそろ集合の時間が迫ってきていた。

823803:2009/07/30(木) 15:56:31 ID:jbYrN6dg0
「ちきしょう。お前の性で全然狩れなかった。」

壁を殴りながら怒鳴ってくるジュン。何で僕の性なんだろうか。突っかかってきたのはそっちなのに
と、壁を殴りながら歩くジュンがいきなり転んだ。何かに脚を引っかけたようだ。

「いってぇ!ちきしょう!なんなんだよ一体!」

頭を上げ、自分の足元を見るジュン。アヤとリアーナも駆けつけてきた。
ジュンは足下の物体を見て、目を丸くしていた。

「なんだこれ?光ってる石だ。原石や天球の一種か?にしては形が変だな。」

原石や天球というのは、確か石に不思議な力が込められており、撫でることでその能力を解放する石のはず。
だが原石や天球は形がある程度決まっている。だがこの石はそれらと違い、ひし形の形をしていた。
妖しい光を放つそれはなんだか引き寄せられそうになる魅力を感じる。

「一体なんだろうか。ちょっと調べてみる。」

僕はそう言って、石を拾った。熱いわけでもなくかといって冷たいわけでもなく。
光っているから熱いと想っていたのだけど。でもかなりスベスベしている。
そうして4人で石を眺めていた。

すると、突然石がビカーッと光る。
洞窟の暗闇になれていた僕らはまぶしさに絶えられず、目を腕で覆った。

「うわっ!眩しい!!」

僕は想わずそう叫んだ。アヤやリアーナも悲鳴を上げている。ジュンはどうでもいい。
何とか落ち着いたところで、何が起こったのか、腕をずらし、石のことを見てみる。
すると、石は、一つの光の筋を放っていた。
その筋は洞窟の壁に向かってのびている。いったい何なんだ?

と、石の光が弱まっていく。細めていた目を徐々に大きく開けていく。もう大丈夫だ。






「いったい何だった……ん…だ…?」

言葉を最後までしっかりと放つことが出来なかった。なぜなら今の言葉を喋っている途中に
光の当たっていた壁の場所が「ゴゴゴゴゴ〜ッ」と音を立てずれて雪、大きな道が開けたのだから。

「何これ…………隠し扉なの?」

全員が沈黙する中、最初に言葉を発したのはリアーナだった。
唖然とした表情で言葉を発している。

「隠し扉みたいだね。でも一体どんな技術が………さっきの石は一体…………」

と、アヤが僕の持っている石を見る。すると、なんとさっきの光を発した石は
僕の手の中で勝手に崩れていった。粉々に。

「く、くずれた。勝手に。一体どうなっているんだろ?石といいこの道といい。」

そういっていると、なんとジュンが開いた道に入ろうとしている。
それを見た僕はあわてて制止する。

「やめろって!何があるか分からないんだよ!ダメだって!危ないって!」

ジュンは足を止めて僕の方を見る。そしてニヤリと笑いこう話した。

「何言ってるんだ。この道を見つけたのは俺らが初めてかも知れないんだぜ?中を見て他の奴らに自慢するんだ。」

そういって中に入って行ってしまう。確かに中で何か見つければ自慢できるかも知れないけど…………あぁもう!

「アヤ、リアーナ!ここにいたってしょうがない。ジュンは先に行ってしまったんだ。行こうじゃないか」

二人の方を見て蒼叫び、ジュンの後を追いかける。これでジュンが死んでたりしたら後味が悪いからね。
アヤはため息をついてやれやれと両手を上げ、ゆっくりとついてくる。
リアーナは呼び捨てにされたことに怒っているのか腕を振り回している。ジュンは呼び捨てだけど、僕はダメなのか?
こうして、僕らは非軽石によって開いたその道を、先に進んでいった。
コボルトにだけ分かる文字で「ゲリブの安息所」と書かれていたのが分かるはずもなく……………。

824803:2009/07/30(木) 15:59:03 ID:jbYrN6dg0
僕らは先に進んだ。ジュンに追いつき、僕、ジュン、リアーナ、アヤの順番で先に進む。
道を進んでいくとなんだか開けた場所に出た。ここまで敵に出会ってはいない。
注意深く辺りを見回すと真ん中に一つの石像が置いてある。なんだこれは?コボルトのようだが。
全員で石像を調べるとアヤが何かを発見する。

「みてみて!何か文字が書いてある。え〜っと………読めないな………」

僕もあわててその文字を見てみたがなんて書かれているのか全く読めなかった。コボルトの文字なのか?
と、ジュンが顔を出し得意げな顔でその文字を読み出した。

「へへ、俺は本を読んでしっかりと文字を学んでんだぜ。読んでやる。
え〜っと、「コボルト、グレムリン、ゴブリン、ファミリアの皆の英雄"ゲリブ"ここに
彼ならではの安息所を作る。」ってかいてあるぜ。」

ほぅ、少し見直したぞジュン。僕らじゃ読めない文字を読むとは。そこは尊敬しよう。
リアーナは、順が読めると想っていなかったのか、ものすごくびっくりしている。

「何よ、そんな文字が読めるなんて何も言わなかったじゃないの!何でずっと一緒にいるのに
そう言うこと話してくれなかったのよ!私は、ジュンのこと何でも知ってるのが自慢だったのに……」

びっくりしながら話していた彼女は言葉の最後の方が小さくなり、俯いてしまった。
そうか、さっきの呼び捨てで怒ったことといい、この反応といい、彼女はジュンを……
ふふ、ならばこれからはリアーナさんと呼んでやるべきみたいだ。
さて、ジュンはと言うとそんな彼女の様子を見て非常にあわてているようだ。
腕を意味もなく振って弁解している。まるで子供だな。あぁ、僕らは子供か。

「ち、違うってリアーナ!黙ってた訳じゃねぇよ!教えるのを忘れてただけ!リアーナに
秘密にしようなんて全然想ってねぇってば!なぁ、本当だって!!信じろよ!」

そんな言葉に彼女は「どうかしら?」と一言行ってそっぽを向く。
この少女、本当のことを言ってるって気づいてるな。間違いなく。結構お似合いなんじゃないかな?なんて想ったりして
さて、僕は話を本題に戻すことにした。真面目な顔になり、皆に話す。

「さて、ここはコボルト達の英雄の安息所だ。ということは、普段よりも強いコボルト達がいるだろう。
ここを戻って、探索を大人達に任せてしまうか、僕らがここを探索して、他の皆に自慢するか。どっちがいい?」

先ほどの石像は僕の冒険心に火をつけてしまったようだ。僕は敢えて、さも自分たちが探索した方がいいように
言葉を選んで話す。ジュンはきっと乗るだろう。アヤもおそらく乗るはずだ。問題はリアーナだ。
そして思った通り、ジュンやアヤはこの話に乗ってきた。だが驚いたのはリアーナだった。

「別に良いわ。なんだか楽しそうだし。まぁ、ジュンが頼りになってくれれば、だけど。」

といとも簡単に承諾してしまった。こんな時までジュンの名前を出すのか。本当にこの少女は……
こうして僕らは歩を進める。途中コボルトの上位種、ゴブリンが2体出てきた。
普段よりも強いやつらだったが、たった2体、どうということは無い。蹴散らした。

そのまま先に進んでいくと、一匹のコボルトが暇そうに槍を回して遊んでいた。
攻撃に突っ込もうとするジュンを制止し、身長に近づく。するとコボルトは僕らに気づいた。
コボルトはボクらの前に来ると一礼し、なんと人間の言葉をはっきりと喋ったのだ。

「おや?人間が何故こんな所に。待て待て、その武器はしまえ。」

どうやら攻撃してくる様子はない。僕らは武器をしまう。コボルトは続ける。

「さて、俺は部族の安寧のために、君たちに平和的に、そう、平和的に提案を持ちかけよう。」

平和的 を強調するコボルト。聞くだけ聞いてみようじゃないか。僕は頷いた。

825803:2009/07/30(木) 16:00:43 ID:jbYrN6dg0
「俺の名前はシャーモンテル。まぁ見張りみたいなものだ。さて、本題に入ろう。
実は、北西に倉庫があるんだ、我々のな。槍とか、食料とか、まぁ色々だ。
でな、その倉庫に、洞窟狼が食料に釣られて住み着いてしまってな。そしたらなんと我々コボルト一族に
病気が蔓延してしまったのだよ。きっとあの狼が原因だ。君たちに余裕があるなら、そいつを倒して欲しい。」

そう提案され、僕らは一瞬考えた。魔物の頼みを聞いても良いのだろうか。
だが、此方を攻撃する様子は全くない。聞いてみる価値はあるだろう。僕らは承諾した。
その後僕らは、少し前にあった分岐点を右に進み、倉庫に到達する。
途中アヤが目つぶしの罠にかかってしまったが、少ししたら見えるようになったようだ。

倉庫にたどり着くと、鍵がかかっていた。鍵など持っていないので破壊する。
そうして中にはいると確かに狼がいた。舌を伸ばし、緑色の体液がたれ、まるでゾンビのような……
これ以上描写するのはきつい。勘弁して欲しい。
さて、敵はというと、動きも速いし、攻撃力も高そうだ。あのよだれは地面を溶かしているしな。
狼は此方に気づくと威嚇してきた。こちらも身構える。一瞬の沈黙。そしてすぐに

「おりゃー!!」

とアヤが叫び突っ込んでいった。あのときの二の舞だけは起こすなよ。今日はポーションがないからな。
アヤが槍を突き出す。深々と突き刺さる。だが狼はひるまない。何という強靱な肉体。
狼はアヤが槍を引き抜くと同時にアヤに飛びかかる。だが、やらせはしない。
僕は脚に力を込めると、そのまま狼にジャンプしながら斬りかかる。
ザンッと気持ちのいい音がなる。手応えありだ。これなら奴も………
と思ったのだが、全く違った。あれだけのダメージを受けても奴はひるまない。

「し、しまった!!」

あのときはアヤ、今回は僕かい?この攻撃は避けられないな。もう間に合わない。
だが、生存本能で僕は逃げようとしてしまう。案の定身体が付いていかず
体のバランスが崩れ、倒れる。間違いなく終わりだ。そう思った………が
視界の外から飛んでくる炎の弾。それは狼にぶつかると燃え上がり、狼を火だるまにする。

「グウォオオオォオオ!!」

これは効いたのだろう。狼は転げ回る。

「全く、油断しすぎだぜ。やっぱりレベルが高いだけなのか?」

その言葉に、振り向くとジュンが立っている。ジュンの杖の先端は炎がともっている。
今の炎の弾はジュンが放った物だったのか。命拾いした。僕は素直に感謝の言葉を述べる。

「ごめん。危なかった。お前がいなきゃやられてたよ。ありがとう。」

ジュンは狐につままれたような顔をしたがすぐに

「俺がいないと何も出来ないんだな。全く、あきれるぜ」

と悪口を言ってきた。だが顔は穏やかに笑っている。僕も笑う。
何だ、案外いいやつなんじゃないか。お前なら背中を任してもいいかも知れない。
と、そのとき、狼は雄叫びを上げる

「ガオオオオオオオオ!!!」

雄叫びと共に酸の混じったよだれが飛び散る。

「きゃあああ!あつ、あつい!!痛いよ!!」

アヤの悲鳴だ。ちきしょう。身体が焼けるように熱くて動けない。
目がやられないよう、腕でかばいながら周囲を見渡す。と

「ジュン、何してるのよ、私をかばうなんて。格好つけてんじゃないわよ!!」

ジュンがリアーナに覆い被さっていた。ジュンはあの短い間にリアーナをかばったのか………
情けない。僕はアヤをかばうことなんて出来なかった……………。
そのとき、アヤの雄叫びが聞こえる。

「うりゃあーーー!」

酸を浴びて、それでも立ち向かうのか。冒険者の鏡だな。
狼はあっけにとられたのか微動だにしない。
そのままアヤは突き出す………突きなんてものじゃないな、これは。
脚に力を入れ、腰を捻り、弾力を加え、その勢いを利用して槍を敵に突き刺す。
なんていったっけ?ラピ…………ラピ何とかってやつだ。
その疑問は攻撃を繰り出した本人が解決してくれた。

「食らえ!ラピッドスティンガー!!!!」

技の名前を叫ぶなんてどんな必殺技だよ。だが威力はバカに出来ない。

槍は狼をいとも簡単に突き抜ける。血を吐き出す狼。アヤにかからなくて良かった。酸が混じってるもんな。

「ギャアアアアアアウウウオオオ!!!!」

狼は最後の断末魔を叫ぶとそのまま動かなくなった。

826803:2009/07/30(木) 16:04:50 ID:jbYrN6dg0
沈黙。どれくらい時間がたったのだろうか。しばらくしてアヤが力が抜けたのだろう。ばったりと座り込んだ。
アヤ!と叫んで僕はアヤの側へ行く。アヤは苦笑いしながら此方を向いてつぶやいた。

「アハハハハ、ちょーっとがんばり過ぎちゃった。あぁ、脚に力がはいらないや……」

僕はそう言うアヤをすぐさま背負う。アヤはあわてて抗議してくるが聞かない。

「私重いんだって!最近太っちゃって!だからおんぶなんてしなくても良いってば!」

アヤ、君がこれで太っているというので有れば、僕はきっと1トンくらいあるのだろうね。
アヤに気を取られて二人に方を見てなかっただ。大丈夫だろうか。

「全く、私なんてほっといて自分を守ればよかったのよ。そんな怪我しちゃって。」

「しょうがねぇだろ?身体が勝手に動いちまったんだよ!」

仲睦まじく痴話喧嘩かい。全く、本当に仲がいいんだなぁ。
僕らはシャーモンテルへの元へと戻る。
奴は僕に気づくと一礼しお礼を言ってきた。

「ありがとう。これで我々一族は疫病に悩まされずにすむ!本当にありがとう!!これはお礼だ!」

そういってシャーモンテルは僕らに謎の液体を渡す。

「それは肉体を強化してくれる薬だ。ドーピングみたいな薬物とは違う。まぁレベルが上がると考えればいい。」

飲むかどうか迷った。だが他の3人は説明を受ける前に飲んでしまったようだ。僕が飲むわけにも行かないだろう。
身体がみなぎる感じがする。確かに効力はあるようだ。コボルト達にもこんな技術があるのか。
僕らはシャーモンテルに一礼し、帰ろうとした。だがシャーモンテルに呼び止められる。

「君らがきた道は隠し扉だ。だからもう開かない。この先に外に通じる道がある。そこにいくといい。」

シャーモンテルは地図を出し、簡単な道説明をしてくれた。
そして、改めてシャーモンテルにお礼を言ってその道を進むことにしたのだった。
道中、特に異常はなく、敵に出会うこともなく、目的の場所に着いた。
太陽の光がのぞき込んでいる。僕らは意気揚々と外に出ようとした。が

「我々の隠れ家に人間が入り込むとは、愚かなものだな。」

後ろから低い声が聞こえた。振り向く。
そこには黄色の服装をした一回り大きいコボルトがいた。インプとかいう最高上位種だったかな。

「貴様らを生きて返すわけには行かない。コボルト一族に逆らうとこうなると言うことを教えてやるために
見せしめとして殺してやろう。」

アヤが心配そうに僕に耳打ちする

「どうしよう・・・・出口はもうすぐそこなのに。」

残りの二人は外にでる準備をしているようだ。さて、どうしたものか。
色々と考える。アヤと一緒に闘うにしてもアヤが怪我したらどうする。あの二人も?今日知り合ったばかりで
さっきみたいな危険な目に又遭わせるわけにも行かない。ならば、方法は一つしかない。

827803:2009/07/30(木) 16:06:25 ID:jbYrN6dg0
僕はアヤのことを勢いよく、ジュンの方へ突き飛ばす。
アヤはびっくりして僕に問いかける。

「な、何してるのよあんた!まさか………!!」

アヤ、そうだ、その通りだよ。君の思っているとおりだ。僕はバカだからこれくらいしか思いつかなくてね。
アヤが此方に来ようとする。だが、腕を掴まれ来ることが出来ない。ジュン、良く理解してくれた。

「おい、お前、アヤって言ったっけ?あいつはお前や俺らのためにしようとしてるんだ!
あいつなら大丈夫だ!必ず戻ってくる!だからいまは外に出るんだ!
お前が怪我したらあいつの気持ちを無碍にすることになるぞ!それでもいいのかよ!!」

アヤはまだ騒いでいる。だがジュンは無視して外に連れ出していき、やがて3人の姿は見えなくなった。
僕は、インプの方を振り向き、仁王立ちの如く大の字に手を開き立ちはだかる。

「ほぅ、勇気ある少年だ。私は族長のゲリド!誇り高きインプである!貴様の名はなんだ!!」

そう言うゲリドに対し僕は答える。

「僕は剣士だ。敵に名乗るような名前はないよ。君には悪いと想うけど。」

そう言う僕にゲリドは笑い声を上げる。

「面白い少年だ。良いだろう。一騎打ちだ。ゆくぞ!!」

ゲリドは他のコボルトなんかとは比べ物にならないほど軽い身のこなしで飛びかかってきた。
僕は槍の攻撃をすかさずブロックする。これは皮じゃない、鉄製の盾だ。何度でも攻撃はブロックできるのさ。
そのままゲリドを振り払うと僕は剣を振り上げ斬りかかる。垂直切りだ。


バキンッ!というけたたましい音が響く。ゲリドの槍も鉄製だった。ゲリドは槍の柄の部分で攻撃を防いだのだ。
奴は防いだ後指で槍を数回回転させ身体を捻り槍を突きだしてくる。これはさっきアヤが使っていたラピッドスティンガーだ。
僕は体を反らせ攻撃を避ける。目の前を槍が通過する。危ない危ない。
僕は身体を回転させ元の体勢に戻すと剣をゲリドに突きだした。
頭を狙ったのが悪かったのか、ゲリドに気づかれ、頭を横に傾けられて空を切る。
ゲリドはそのまま槍を振り回す。しゃがんでそれを避け、腹を斬りつける。今度は当たる。
しかし勢いをつけなかったせいか傷は浅く与えるダメージは少なくなってしまった。
ゲリドはほんの少しうなるだけで攻撃の手を止めない。
今度は下側から脚を狙って鉄製の槍をたたきつけようとしてくる。ジャンプしてその攻撃を避け
隙だらけのゲリドをおもいきり剣で斬りつける。今度は手応えがある。
ゲリドはよろけ、後ろに下がり、切られた肩を押さえつぶやく。

「やるな少年。なかなかの指導を受けているようだ。4年前に、見回りのコボルトが
少年少女の二人にやられたというが、そのときの少年は貴様ではないのか?」

そんな昔のことをまさか族長様が覚えててくださるとは、光栄なことだ。
僕はその問いに正直に答える。

「その通りさ。僕が突き飛ばしたあの子、アヤと一緒にコボルトを倒したのはこの僕さ。」

ゲリドは笑う。そしてこう話した。

「ならば仲間の敵討ちの大義名分が私にもできたわけだ。」

ゲリドはそう言って再び飛びかかってくる。
避けるのが一瞬おくれた。僕の肩に槍が突き刺さる。
痛みに耐えきれず、僕はうなり声を上げる。

「うぐぅうううう…………」

だが僕はひるまない。刺さった槍を手でつかみ敵の動きを封じ、盾で吹っ飛ばす。盾で敵を突き飛ばす技、なんて言ったかな?
ゲリドは槍をつかんだままだったせいか、突き飛ばすと同時に槍も肩から抜けた。
ゲリドは受け身を取ると体制を整えすぐさま突進してくる。
そして槍を振り上げたたきつけてきた。僕は腕を交差させ、身構える。
槍は僕の肩に嫌な音を立てて当たった。ゲリドはやったとおもったのか後ろに下がる。
だが、僕は動じずに腕の交差をとき、にやりと笑う。
ゲリドは驚きたじろぐ。そりゃそうだ。渾身の一撃が効いてなかったのだから。

828803:2009/07/30(木) 16:09:15 ID:jbYrN6dg0
「剣士の心得。強靱な肉体で仲間の盾となれ…………。」

僕はその後、大きく息を吸いこむ。

「グレートガッツだ!お前の攻撃なんかきかねーぞ!ウオオオオオオオオオオ!!!!」

と叫んだ。するとゲリドはその声を聞き硬直する

「ウオ!!何だこの声は、か、身体が痺れて…………」

その僅かなスタンを僕は見逃さなかった。
しっかりと腰に力を入れひねる。腕にも力を入れ全ての意識を腕に集中させる。
しっくりくる。そうだ。これならもっと強い技が放てる。アヤ、僕は君のことを悪く言えないよ。

「くらいやがれ!サザァッァァンクロオオォォォォッス!!!」

ヒュヒュッと風を切る音。そしてその後、キンッという独特な音が鳴る。
何処の必殺技だよ、技の名前を叫ぶなんて。でもまぁ、他に人がいないからいいか。

「ギェック……………」

その小さな声を最後に、族長ゲリドは弾け飛んだ。
大量の血が僕に降りかかる。体中が血だらけだ。
そして目を開くと、説明するのも嫌な光景が広がっていた。だから説明はしない。



沈黙。全てが終わった。だが、前みたいに身体の力が抜けるなんてへまはしないぞ。

僕は外に出ようとする。そして、もう一度だけ壮絶な戦いを行った洞窟を見渡し、その場を後にした。
集合場所に戻ると、他の生徒は全員集まっていた。
他の皆は血だらけの僕を見て非常に驚いたようだ。先生があわてて僕に近寄る。

「ど、どうした。お前、何があったんだ!!」

その問いに対し、僕はアヤ達3人を読んで説明した。光る石や、あの隠し扉の向こうでおこったこと。
洞窟狼や族長ゲリドとの戦いなど、隅から隅まで全てを。
そしたら先生が唖然とした表情を取る。が、その後突然大笑いし

「よくやったぞ!お前らは凄い!今日のMVPはお前らだ!!」

と何故か褒めてきた。その後、何故か突然やってきた古都の国会議員の人などから表彰状を配られた。意味が分からん。

その後、3日間こちらにアリアンの生徒はとどまることになり、交流を深めることになった。
僕ら4人はすっかり意気投合していた。そして4人で連携を取りPT狩りを行ったりした。
途中で何やら国会の人たちが色々と聞きに来て五月蠅かった。
そして、アリアンの生徒たちが帰る日となった。

「タクシー乗り場は此方です。皆さん、準備は良いですかー?」

タクシーの人が合図をかけ、次々とアリアンへと帰っていく生徒達。
そんな中、僕とアヤはジュンとリアーナの二人との別れを惜しんでいた。

「おい、お前ら、俺らのこと忘れるんじゃねぇぞ。」

そっぽを向いて話すジュン。表情は分からない。
そんなジュンをリアーナは大泣きをしながらはたく

「バカじゃないの!?これからしばらく会えなくなるのよ?あんな大冒険を一緒にしたのに!!なのにそれだけなの!?」

僕も目尻が熱いな。アヤも今日ばかりは大泣きしている。
そんな僕らにジュンがつぶやく。

「…………どは……………。」

良く聞こえなかった。もう一度頼むと聞き返す。

「今度は…………お前らがこっちに来い。……………仕方がねぇから楽しみにしててやるよ。」

ジュン・・・素っ気なく言ったってわかる。お前、今泣きそうだろ?僕も泣きそうだもの。

そのまま沈黙する。やがてタクシーの人が

「そろそろ出発します。それでは行きますよー。」

と発言し、二人は出発してしまった。

829803:2009/07/30(木) 16:10:45 ID:jbYrN6dg0
その夜、数日ぶりに親父が家に帰ってきた。冒険に行っていたらしい。
そして町の人から僕らの冒険の話を聞くと、僕のことを褒めまくり、豪華な食事を用意してパーティーを開いた。何故だ。
アヤももちろん呼ばれてきたので、二人で他愛のない話やジュン達の話をして、お開きとなった。


───まぁ、あの後あの二人とはしばらく会わなかったけど、僕らがアリアン側に行く話が出てきて再開できた。
今でもたまにPT狩りするけど、お互いペアハンが好きみたいで、本当にたまにだ。
あの二人は今結婚したんだっけ。ジュンが婚約指輪を買ってリアーナにプレゼントしたらしいな。

「あの二人、今でも仲がいいみたいだね。あーぁ…………いいなぁ、結婚。」

アヤがため息をつく。君ならすぐにいい人が見つかるよ。僕が保証する。いつまでも僕とペアハンなんてしてるのはやめた方がいい。
そう言えば、洞窟に入ったばかりの時、アヤとリアーナで話してたよな。あのときなんて言ってたんだろうか。

「気づいてくれないんだもんな、私の気持ちに。本当に鈍感。」

アヤが憂鬱そうに更にため息をつく。そうか、アヤには好きな人がいるんだ。アヤも女の子だからな、好きな人が出来ても
おかしくはないもんな。僕なんかが釣り合う相手じゃないのさ。わかってる。
平然を装い、笑って答える。

「好きな人がいるんだな、アヤにも。がんばれ、応援するからさ。好きな人にはすぐに好きだと言ったほうがいい。」

なんて、僕が言える立場じゃないよな。アヤに好きだなんて言えるわけがないから。
と、アヤの歩みが止まる。あわてて止まる。が、少し前のめりになってしまったり。

「んー…………じゃぁ、言っちゃうけど…………」

何だ改まって?今日はユニークアイテムをドロップしたか?もし知らないうちに拾ったのならすぐに言ってほしいものだ。

「えっと………私さ、ずっと前からあんたのこと───








あの日、こんな会話が大人達の間であったことを僕らは知らない。


「コボルトの病気の原因を暴くのに加え、危険な手配モンスターのゲリドまで倒すとは。凄い子供達ですね。」

一人の議員がつぶやく。それに対して返答するもう一人の議員

「その通りだ。だが、光る石か。それはおそらくポータルのことだろうな。」

その議員はもう一言つぶやく。

「ポータル・・・秘密ダンジョンを開く鍵。あの洞窟にも秘密ダンジョンがあったとはな。」




830803:2009/07/30(木) 16:14:14 ID:jbYrN6dg0
まず謝罪を。
えっと、前回、僕とアヤの話をかいて、どんどん頭の中に話が浮かび上がってきまして、耐えきれず書いちゃいましたorz

さて、恒例の説明です。
一番最後、ゲリドの身体が硬直したのは、「僕」がウォークライを放ったからです。
あと、秘密に入るときの「ゲリブの安息所」が読めなかったのは、ジュンが先に進んでしまっていたからです。
そして「僕」が純也綾の名前をボルティッシュ側の付け方と言ったのは
大陸を韓国や中国とすると、ボルティッシュがどう考えても日本に見えるからです。



先に断っておきます。

またこのシリーズで書くかも。ということです。それでは読んでくださりありがとうございました。

831ヒカル★:削除
削除

832◇68hJrjtY:2009/07/31(金) 05:34:41 ID:4iRAnLHg0
>803さん
続編ありがとうございます♪
まさかまさか、この二人の成長した姿を拝めるとは……でも10歳でコボ秘密ですか(笑)
今回はジュンとリアーナという仲間も登場しましたが、話の箇所箇所に見られる
淡い恋愛模様なんかも伝わってきて、さらに戦闘シーンも二連戦というボリューム満点で
うまいバランスでコボ秘密に挑戦する冒険者四人組の物語が描かれていると思います。
アヤと「僕」は果たしてどうなったんだろうという妄想が止まりません(笑)
続き、あるのかな?もしも構想予定でしたらお待ちしていますね♪

833名無しさん:2009/08/14(金) 19:38:02 ID:ok6GBVsc0
僕達「コボルト」は古都ブルンネンシュティングから
近くに住んでいた。
古都から生まれる新しい冒険者によって何人もの
仲間達が消えていった。
―そんなある日―
僕は古都の近くの花畑で果物を取って食べていた。
そんな時一人の女の子が目に映った、槍をもっていて洋服を着ている可愛らしい女の子。
花畑から花を採っていた。僕はそれを遠くでじっと見ていた。
僕らモンスターが人に恋をするなどありあえないかもしれないけど
僕は彼女に一目惚れをしてしまった。そして彼女と話してみたくなった。
だけど彼女は花を採り終わると何処かへ消えてしまった。
―次の日―
僕は今日も花畑にいた。
少し時間が経つと彼女の姿が見えた。
彼女は花畑の近くを通り過ぎようとしていた、昨日と変わらない感じだった。
相変わらず綺麗だ。
僕は話したい気持ちでいっぱいになりそして彼女に話しかけようと近づこうとしていたその時だった・・・

彼女の目線の少し先にいた「僕の仲間」に向かって槍を構え突進し
僕の仲間を・・・
僕は言葉が出なかった、目の前で倒れこむ僕の仲間。
周りにいた仲間達はすぐさま「僕らの洞窟」へ走って逃げた

僕は言葉もでない、恐怖で動けなかった
そして・・・

―彼女は僕の方を向いた―
   ―そして僕を睨みつけ―
      ―僕に槍を構えた―

僕=コボルト
彼女(女の子)=ランサ、冒険者
僕らの洞窟=コボルトの洞窟

いろいろ変かもしれません、すいません・・・

834◇68hJrjtY:2009/08/15(土) 00:53:45 ID:4iRAnLHg0
>833さん
投稿ありがとうございます♪
ランサはコボルトの視点で見たら「仲間」と思っても仕方ないかもしれませんね。
そんなコボルト君の憧れは一瞬で打ち砕かれてしまうのですが(悲)
詩のように短い文章ながらもコボルトの嬉しさや悲しさが詰まっている短編ですね。
またの投稿お待ちしています!

835FAT:2009/08/30(日) 19:35:17 ID:tYbCX6N20
第一部 『双子の天才姉妹』 二冊目>>798(最終回)

第二部 『水面鏡』

キャラ紹介 三冊目>>21
―田舎の朝― 三冊目1>>22、2>>25-26 
―子供と子供― 三冊目1>>28-29、2>>36、3>>40-42、4>>57-59、5>>98-99、6>>105-107
―双子と娘と― 三冊目1>>173-174、2>>183、3>>185、4>>212
―境界線― 三冊目1>>216、2>>228、3>>229、4>>269、5>>270
―エイミー=ベルツリー― 三冊目1>>294、2>>295-296
―神を冒涜したもの― 三冊目1>>367、2>>368、3>>369
―蘇憶― 五冊目1>>487-488、2>>489、3>>490、4>>497-500、5>>507-508
>>531-532、7>>550、8>>555、9>>556-557、10>>575-576
―ランクーイ― 五冊目1>>579-580、2>>587-589、3>>655-657、4>>827-829
>>908>>910-911、6>>943、7>>944-945、六冊目8>>19-21、9>>57-58、10>>92-96
―言っとくけど、俺はつええぜぇぇぇぇ!!― 六冊目1>>156、2>>193-194、3>>243-245
>>281-283、5>>385-387、6>>442-443、7>>494-495、8>>703-704、9>>705-706、10>>757-758
11>>759 七冊目12>>536-537、13>>538、14>>561-562
―光選― 七冊目1>>599-600、2>>601、3>>609-610、4>>611-612、5>>655-656、6>>657
>>658-660、8>>671-672、9>>673-674、10>>675-676、11>>711-712、12>>713-714
13>>715-716、14>>717

―水晶の記憶―

―1―

 幼く、よたよたと拙い足取りで歩き回る小さな男の子。机の脚やスカートの裾に掴まっ
ては上を見上げ、その先に何があるのかを必死に知りたがり、ぐいぐいと引っ張っている。
 これはエイミーの記憶。彼女の見てきたもの。
 幼い男の子はラス。ラスは執拗にエイミーのスカートを引っ張り、見た目に似合わぬ力
でスカートを引きずりおろす。スカートをおろされたエイミーは顔を赤らめながらラスを
抱き上げ、母乳を与える。まだラスは生まれて半年余り。下半身を覆う濃い体毛とズボン
の中に隠した尾ばかりが人々の話題の種となり、まだこの時は誰もラスの成長の早さに疑
問を抱くものはいなかった。
 ラスが生まれてちょうど一年、初めての誕生日を迎えたラスは一歳児と呼ぶにはあまり
に大きく、あまりに重かった。このころ、ラスはようやく「マーマ、マーマ」と発言でき
るようになっていた。しかし、体つきはもうすでに三歳児並にまで成長していた。そして
このころから、ラスは魔法を使うようになった。
 エイミーは常にラスを弱い魔法の膜で覆っていた。そうしなければ、いつどこでどんな
魔法を勝手に使うか分からなかったし、魔法の暴発でラス自身が傷付いてしまわぬように
との配慮もあった。
 異常な成長の早さに、ラスの存在を危惧するものもいた。しかし、いつだって優しくし
てくれた人たちもいた。

836FAT:2009/08/30(日) 19:36:27 ID:tYbCX6N20
「ラスちゃ〜ん! デルタお姉さんとままごとして遊びましょー! はい、じゃあラスち
ゃんが旦那さま、私がお嫁さんねっ。はぁい、ラスちゃん、いいえ、あなた、ふ〜ふ〜し
てあげるからあ〜んしてぇ〜」
「やい、よせデルタ。ラスに変な菌が移るだろ」
「ひどい〜! レンダルお姉さま、私のどこに変な菌なんてついていらっしゃるっていう
の!」
「そこ。そこにも、これ、それ、あっ、ここにも。いっぱい生えてるぜ」
「ひっ、ひどい、ひどすぎますわ! 人をなめたけ菌みたいに言って! うわぁぁぁぁぁ
ぁ〜ん! エイミーお姉さまぁぁぁ! 悪鬼レンダルお姉さまが私をいぢめるのぉぉぉお
ぉ〜!!」
 若かりしときのレンダルとまだ幼さが残るデルタがそこにはいた。二人の日常はエイミ
ーとラスを喜ばせ、四人はいつも一緒に遊んだ。ラスはいつも笑顔だった。

 二歳のラスにある日、事件が起きた。ラスが他所の子供たちに怪我を負わせたのである。
事の発端は相手の子供たちがラスに石を投げつけたことだった。
「おまえ、けむくじゃらのばけものなんだってな! きもちわるいんだよ、どっかいけ!」
 ラスは決して暴力で返そうとはしなかった。ただ、「いたい、いたい」と泣きじゃくるだ
けだった。ラスは「いたい」以外に言葉を発しなかった。
「ばけものをうんだおまえのかあちゃんもでていけ! ばけものおんなのばけもの!」
 痛みにじっと耐えていたラスだったが、母エイミーのことをけなされると急に怒りが込
み上げてくるのを感じた。そして考える間もなく、ラスは怒りの魔法、闇を練りこんだ黒
い炎で相手に火傷を負わせたのである。エイミーのかけた魔法の膜はもろくも破れた。

837FAT:2009/08/30(日) 19:37:34 ID:tYbCX6N20
 町の住人はこの事件をきっかけに、ラスを悪魔の子と恐れ、子供たちを近づけさせなか
った。事態の深刻さにベルツリー家では親戚を集め、ラスの対処についての話し合いが連
夜行われた。
「エイミー、残念だが、ラスを里子に出そう。この子はもうこの町では暮らして行けない」
 誰が言ったかは思い出せない。エイミーは激昂した。
「いやです! ラスは私の子よ! 私が育てるわ! ラスはいい子じゃないのよ! いけ
ないのは相手の子でしょう!? そんなひどいことをされたら、誰だって怒るにきまって
るじゃない! ラスは正しいのよ!」
 興奮するエイミーを母がなだめる。また誰かが言った。
「でもな、今のラスの状態を見て、お前も気付いているだろう。ラスの異常さに。ラスを
ここに置いておきたいのなら、なにか手を打たねば誰も納得してはくれないだろう」
 何か手を打たねばならない。しかし、具体的には何をすればいいのか、エイミーは思い
つかなかった。絶望が、ひしひしと近づいてきているのを感じた。
「たしか、ネイムばあさんの残した巻物にこんなのがあったな。体内に魔力を込めた水晶
を埋め込む秘術。それならばラスの体の成長を遅らせる、或いは知能の発達を促進できる
かもしれん」
「あるにはある。だが、宿した魔力と埋め込む人間との魔力が調和せねば内部より崩壊が
起きる。相手に合わせた魔力を練るような高度な技術、我々では不可能だ」
 諦めの色を浮かべる親戚一同。しかし、エイミーはその術に希望を見出していた。
「魔力を……ラスに合わせればいいんですね」
 エイミーはすっと手のひらを机の上に差し出し、「ラス」の魔力を再現してみせた。
「あの子の魔力は純粋な四大元素、火、水、風、大地と微弱な光、それと、強大な闇。あ
の子は父親がいないことで心に大きな闇を抱えています。それが多感なラスの感情に最も
強く作用し、先のような黒い炎、つまり、火を飲み込むほどの闇となっています。あの子
にはもっと愛が必要なんです。私や、レンダルや、デルタだけじゃなく、お父様、お母様
だけじゃなく、もっと、皆さんの愛が必要なんです!」
 エイミーが声を荒らげる。必死な彼女の説得に、真剣な眼差しが集まる。
「だから、私にやらせて下さい。ラスを救えるのなら、なんだってしてみせます」
「しかしな、エイミー」
 彼女の父親であるデリックが苦言を呈する。
「それはお前にとっても、ラスにとっても辛い結果となるかも知れないんだぞ。お前は、
ラスがどうなってしまってもそれに耐えれるのか?」
 このとき、エイミーは父親の言葉の意味がわからなかった。だから、
「大丈夫です。私は失敗なんてしません。愛する我が子ですもの。必ず成功させます」と
半ば睨むような真剣な眼でデリックを見た。
「そういう意味じゃない」
「お願いします、やらせて下さい、お父様! だって、他に手はないんでしょう!? だ
ったら、やるしかないじゃない!」
 エイミーの決意は強固で、もはや誰の意見も聞かなかった。そして後日、親戚に紹介さ
れた医師と共に手術を決行することとなった。

838FAT:2009/08/30(日) 19:38:02 ID:tYbCX6N20
 エイミーは直径数ミリのひし形にカットされた、指輪にはめるような微細な水晶にラス
に合わせた魔力をエンチャットした。その作業は小さな指輪に魔力を注入するよりずっと
神経を削り、時計の針が何度も回った。エイミーは両手を水晶にかざしたまま、汗一つ流
さず、微動だにしなかった。開いていた手を閉じたのが、終了の合図だった。全神経を使
ってエンチャットされたその水晶は虹のように七色に輝いた。
「エイミー、少し休もう」
「そうよ。あなたはよくやったわ。がんばりすぎよ」
 デリックと妻、サメリーは疲れきったエイミーを心配し、横になるよう促した。しかし
エイミーは頑固に、
「だめよ、ラスはきっと今、不安だわ。私がそばにいてあげなきゃ」とふらふらになりな
がらも両親の気遣いを拒んだ。
 ラスは今、ベッドに縛り付けられ、頭を刈られている。これから何が行われるのか、ラ
スの未熟な脳では想像もつかなかった。
 ラスはきっと、叱られるんだと思った。悪いことをした、火傷をさせてしまったのだ。
一体、どんな罰を受けるのだろう。お尻を叩かれるのだろうか、ご飯をもらえなくなるの
だろうか。ラスは子供の範囲で子供の受ける罰を色々と考え、恐くなって泣き出した。
「感情が不安定になってきました。みなさん、この子の魔力が暴走しないよう、しっかり
と抑えていて下さい」
 医師の言う通りにベルツリー家の人々がラスの魔力が外に漏れ出さないようにその体に
手を添える。
「もうじき薬が効いて眠りにつくでしょう。そうしたらエイミーさんを呼んで下さい」
 ラスはものの数分もしない内に眠りについた。何も知らない、無邪気な寝顔だ。
 誰かがエイミーを呼びに行き、青ざめた顔のエイミーが姿を現した。
「エイミーさん、あなたの一手がこの子を殺してしまうかも知れないのですよ。あなたで
大丈夫ですか?」
 エイミーの体調を危惧し、医師が厳しくも優しく問う。
「そのために来たんです。私がやります」
 エイミーは七色に輝く水晶をしっかりと拳の中に握っていた。その輝きは指の合間から
こぼれ、エイミーの希望を表していた。
「そうですか……それでは、始めます。いいですか? 決して目を背けてはなりません。
血しぶきがあがろうとも、何が見えようとも、決して目を離さないで下さい。エイミーさ
ん、あなたは私の指示があったら正確にそこにその水晶を納めて下さい。チャンスは一度
きりです。失敗すればこの子は命を失います。良いですね?」
 エイミーは色の悪い顔でコクリと頷くと、七色の水晶をピンセットで挟んだ。

839FAT:2009/08/30(日) 19:39:24 ID:tYbCX6N20
―2―

 手術は無事に成功し、エイミーは極度の疲労から数日間寝込んだ。そして数日振りに目
覚めると、エイミーのベッドの縁にかつらを被ったラスが腕を枕にし、寝ていた。
「ああ、ラス、よかった、よかった! ラス!!」
 湧き上がる喜びを抑えられず、眠っているラスに抱きつく。苦しいほど強い抱擁に眼を
覚ましたラスの言葉に、エイミーは耳を疑った。
「放せ、くそばばあ」
 驚き、ラスの顔を覗き込むエイミー。その眼は、まるで憎いものでも睨んでいるかのよ
うな黒く、怒りの宿った色をしていた。
「えっ!? うそ? あなたラスでしょ? ねえ、ラスっ!」
 ラスはエイミーの手を振り払うと逃げるように部屋を出て行った。デリックの言葉はこ
のことを示していた。一人、ぽつりと部屋の中心に残されたエイミーを襲う哀しみは人並
みのものではなかった。

 ラスは突如、何でも理解できるようになっていた。
「いきなり抱きつきやがって、あのくそばばあ。いつかぶっとばしてやる」
 ほんの数日前までは「いたい」や「マーマ」など、単語しかしゃべれなかったラス。遅
すぎた言語の発達は、七色の水晶によって見た目の六歳児と同じ、もしくはそれ以上に発
達していた。もちろん、本人にその自覚はなかった。
 突然、流れ込んできた多くの情報。一段一段上らなければいけない階段を十段も二十段
も飛び越えてしまったラス。純粋だったラスの心は強制的に押し付けられた知能に反抗す
るかのようにぐれてしまった。早い反抗期だった。
 ラスはデリックのウェスタンハットを被り、家を出るとデルタのところに遊びにいった。
デルタは家の窓からラスが近づいてくるのを見つけると、たまらず窓から飛び出した。
「ラスちゃ〜〜ん! 私に会いに来てくれたのね〜〜!! デルタお姉さんうれしいわ
ぁ!!」
 ラスはぎょっとした。見慣れたはずのデルタのテンションが恐ろしかった。
「ラスちゃん、今日はなにして遊びましょうかっ!? ままごとにします? それともま
まごとにします? やっぱりままごとにしましょう!!」
 ドン引きするラス。ませた脳がデルタを拒もうとしていた。
「やめろ! ラスが怯えてるじゃねーか、この新婚妄想ピンク!!」
 救世主が現れた。レンダルのぶっきら棒さがませたラスにはちょうど良かった。

840FAT:2009/08/30(日) 19:39:53 ID:tYbCX6N20
「助かったぜ、レンダル」
 ラスをギョギョッと驚いた二人の眼が見る。ラスは何がそうさせたのかわからなかった。
「おい、ラス。お前いつの間にそんなにうまくしゃべれるようになったんだ?」
「きっと、私のままごとに付き合うために練習したんですわ! あぁっ、ラスちゃん、愛
を感じるわぁぁぁぁっ!」
「しゃべれる? ふん、そうか。あいつが何かしたんだろ。くそっ」
 ラスはエイミーのことを思い出し、苛立った。
「おい、あいつって誰のことだ、ラス」
 レンダルに見下ろされたラスは身震いした。見たことも無いレンダルの怒りの眼。本気
でレンダルは怒っていた。
「だ、誰って……ほら、あいつだよ、その、あの……」
 まごついたラスの頬をレンダルの平手が打つ。まるで矢が的に当たったときのような激
しい音が町に響き、ウェスタンハットが空を舞った。
「馬鹿野郎っ! 親のことを「あいつ」だなんて言うやつがあるかっ! エイミーがなぁ、
エイミーが、どれだけお前のことを愛してるか、わからないのか! ふざけるなよ、この
親不孝者がっ!!」
 青草の上に尻餅をつき、ラスは泣きじゃくった。愛を持ってここまで激しく叱ってくれ
た人は後にも先にもレンダルしかいなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「俺に謝ってどうする。エイミーに謝ってこい!」
 レンダルに叱咤され、ラスは泣きながら家に帰ると真っ直ぐにエイミーの部屋に入った。
「ラスっ!? どうしたの、そんなに泣いて。まただれかに意地悪されたの?」
 ラスは涙目でエイミーの顔を見た。エイミーの目はラスを泣かせた誰かに向けた怒りで
燃えていた。
「ち……がう゛う゛ぅ゛ぅ゛」
 エイミーはラスの言葉を待った。
「か……さん……。ばっ、ばばあ……なんて……って……ごめんな……さい」
「ラス……」
「レンダルたちの前で、あ……あいつ……だなんていって、ご……ごめんなさい! うわ
ぁぁぁぁぁぁん!!」
 エイミーは泣きじゃくるラスを優しく抱き寄せると耳元で囁いた。
「いいのよ。私はあなたの母親だもの。私のことをどんな風に言ったって、どんな風にし
たって怒りはしないわ。でもね、ラス。そういうことに心を痛められるっていうのは、あ
なたが優しい証拠よ」
 ラスは涙を流しながらも、エイミーの話に耳をそばだてた。
「私はあなたにひどいことをしたの。あなたの頭の中にね、水晶を埋め込んだのよ」
 エイミーはそっとラスのかつらを取ると、まだ包帯の巻かれている頭に指を沿わせた。
「この辺にね、私の愛情のこもった水晶が入っているの。あのときのあなたでは理解でき
ないと思って何も話さなかったわ。でも、今のあなたならきっと、わかってくれると思う。
だから話すわ」
 エイミーはラスに水晶の必要性と役割を説明した。ラスは恐ろしくも、その必然性を理
解した。そして、エイミーの肩を掴み、顔を近づけた。
「母さん、わかったよ。俺、いっぱい勉強する。そしていつか、母さんのこの水晶なしで
も立派になれるよう、努力するよ」
 ラスは力強くそう言うとエイミーの優しい微笑みに引き込まれ、母の胸に抱きついた。
「ごめんね、謝らなきゃいけないのは私のほうだったのに、ごめんね、ラス」
 まだラスは二歳。特異な体質だからとはいえ、ラスにとって、普通の子供にとっては過
酷すぎる話だった。それでも、ラスは心に誓った。ベルツリー家を担うエンチャット士に
なると。
 ラスの短い反抗期は終わった。

841FAT:2009/08/30(日) 19:41:03 ID:tYbCX6N20
―3―

 ジョーイは部屋のカーテンを開け、眩しいほど輝く朝日を招き入れた。カーテンを窓の
端に結びつけると深く眠っているエイミーを揺すった。
「エイミー、朝だよー、エイミー」
 昨日は魔法を使ったわけでもないのに、エイミーの眠りは深かった。夜遅くまでジョー
イにラスの昔話を聞かせていたからかもしれない。ジョーイはエイミーの話を聴き、あの
ラスの強さの秘密を知った気がした。それは大いなる母の愛。ジョーイには決して叶わな
い力。ジョーイはたった一度だけ対峙したあのラスの姿を思い浮かべ、少しうらやましく
なった。
 ジョーイはもう一度エイミーを目覚めさせようとベッドに近づいた。すると、ふとんを
鼻先まで被せたまま、エイミーの宝石のような黒く透き通った瞳がジョーイを見上げてい
た。
「あきれた。起きてたのかい」
「ふふ、あなたが寝ているすきに変なことしてないか、確かめたかったの」
 ジョーイの事情を知って尚、そのような失礼なことを言うのか。ジョーイはエイミーを
冷たく見た。
「うそ、冗談よ。う〜ん、いい朝だわ」
 朝日を浴び、輝く黒艶の髪。エイミーはまるで海辺の人魚のように美しかった。脚がふ
とんで隠れていたせいもあるだろう。ジョーイは神秘的な美を感じた。
「もうすっかり良さそうだな」
「ええ、おかげさまでね」
 ニッコリと笑顔を見せる。白い肌と朝日がよく合う。
「これからどうするんだい?」
「ちょっと待って、話は着替えてからしましょう」
「俺はもういつでも出れるんだけど。着替え、手伝おっか?」
 ジョーイが悪戯っぽく蒼い眼を向ける。エイミーは「出てって」と手でジェスチャーし、
ジョーイを追い出した。

「あ、おじさん」
 階段をおりたジョーイはデリックと鉢合わせた。
「やあ、ジョーイ君。今日もいい朝だね」
「おじさん、俺、今日でここから出て行くよ。随分と世話になりました」
 ジョーイは手ぶらだったが元々そんな生活をしていたのだから違和感はなかった。ベル
ツリー家の人々はこの風来坊の人懐っこさと眼孔に秘められた龍の悲しみを認め、なんに
だって口出ししなかったし、ジョーイもまた、この家族に多くを求めはしなかった。
「それは急だね。でも、気にすることはないさ。君の龍が導くように、君は生きたらいい。
それに逆らうのも良し、君が決めたことなら何も反対はしないさ。ただ、これだけは覚え
ておいてくれ。私も、妻も、もちろんエイミーも、君を本当の家族のように思っている。
またいつでも立ち寄ってくれよ」
 さすがエイミーの父だとジョーイは思った。この懐の温かさ、愛情の塊のような存在。
「はい、ありがとうございます。いや、ありがとう」
 思いがけない感動にジョーイはそそくさと家を出、木陰で涙をこぼした。レニィと出会
ってからというもの、彼は長く辛かった孤独の時間分を取り戻すかのように温かな人々に
恵まれた。その幸せに、慣れない優しさにどうしても涙が出てしまう。

842FAT:2009/08/30(日) 19:41:28 ID:tYbCX6N20
「ちょっと、勝手に出て行かないでよ。まだどうするか決めてないでしょう」
 着替え終えたエイミーが窓を開け、二階から呼びかける。
「エイミーの好きにしなよ、君の子供と友達だろ」
 エイミーは窓を強く閉めると、ばたばたと階段を下り、玄関を突き開けた。そして木陰
のジョーイまで一直線に走り寄った。
「あなたはどうするの?」
 ジョーイは慌てて涙を隠した。
「君についていくさ。ただ、事が解決したらまたどこかへ行こうかと思ってる」
「そう……」
 エイミーの表情が少し沈んだ。自分でも無駄な感情だとは分かっている。龍の見せた記
憶が何よりも決定的だった。
「あなたは罪な人。でも、責めない」
「悪いな。デルタにも、悪いと思ってる」
「あら、デルタはいいのよ。あの子は……」
 言葉半ばで、急にエイミーは思い出した。夢、いや、強大な魔力が見せたレンダルとデ
ルタの危機。何故忘れていたのだろう。
「どうした?」
 ジョーイは心配そうに顔を覗き込む。
「ジョーイ、ハノブだわ、ジム=モリ兄さんのところへ急ぎましょう」
「お、おい、何だよ? 俺にもちゃんと説明してくれよ」
「言ったわよ! 行こうと思ったのに、あなたがその龍で無理矢理抑え込んだじゃない!」
 ジョーイは思い出した。狂ったように喚き、魔力が暴走する寸前まで不安定になったエ
イミーの姿を。あれは、単なる発狂ではなく、意味があったのかと今更気付く。
「もう何日前の話? 急がなくちゃ、早く、一刻も早く!」
 エイミーは天使の翼の魔法を自分にかけるとジョーイを抱え、飛び上がった。
「ひえぇぇぇえぇえっ! そ、空も飛べるのかよっ!?」
 エイミーは背中の翼を羽ばたかせ重力に逆らい、空を翔けた。スマグを越え、山を越え、
半日も掛からずにハノブへと到着した。

843FAT:2009/08/30(日) 19:49:08 ID:tYbCX6N20
こんばんは、お久しぶりです。
こんな亀ペースで申し訳ないです。
もう秋の虫の音が聞こえてきます。今年は夏が短かったですね。
また投稿できるようにがんばりたいと思います!

844◇68hJrjtY:2009/08/31(月) 20:23:54 ID:4iRAnLHg0
>FATさん
お久しぶりです!続きありがとうございます。
かつての書き手さんが時間を置いてでも戻ってきてくれるのが嬉しい限りです♪
ラスの過去から始まった新章に突入ですね。想像はしていましたがやはり辛い過去…。
しかしレンダルとデルタも当時から同じだったと思うと平和でのんびりした生活も伺えます。
この時のエイミーの決意が今もなおラスの中のひとつになっていると思うと愛って偉大ですよね。
エイミーとジョーイの二人でのハノブへの旅、新たな展開を楽しみにしています。

845名無しさん:2009/09/17(木) 02:12:45 ID:swHfe6G20
もう一回初心者クエがやりたくなる小説

ttp://legendofthered.web.fc2.com/part1/chapter3.html
ttp://legendofthered.web.fc2.com/part1/chapter4.html

846sage:2009/10/16(金) 13:41:33 ID:xzUY4rGY0
>>845
おもしろい!
とゆうより、話がよく考えられてますねー。
まだ全部よんでないけど。
偽者の指輪を受け取ったボラックの対応が、渋すぎる。
でもこの紹介の仕方・・・・・・初めウィルスかと思ったーよ

847rball:2009/10/21(水) 18:08:39 ID:mfCIgwRo0
とっても良い小説ばかりが並んでいてとっても不安ですが
勇気を出して書いてみようかと思います。

話としてはレッドストーンの各キャラたちが互いに戦いあう闘技場
です。

前にこういう話がなかったかどうか心配ですが・・・。
(一応検索はしましたが)
また、でてくる職に対して作者の思いこみや片腹痛いような箇所が
多数見受けられるかと思いますが、みなさまの寛大なお心で
「しょうがねぇな」
と見逃してやってください。
では次レスから本編です。

848rball:2009/10/22(木) 17:37:02 ID:.ERteB6g0
「さぁて始まりました、究極の技と技を競い合うRED STONE コロシアァァム!ワタクシ司会のガストンでェす!
さぁて、今日はーーーイタッなにするんですか解説者のフェインさん?紹介するのを忘れたからってーーーあっごめんなさいごめんなさいお願いですから笑顔のまま首を閉めようとするのはーーー
ゥホン、こちら解説者のーーー」
「フェインです。さて、今日はウィザード対ランサーの試合ですねガストンさん。」
「ええ、そうですねぇ、にしてもこの場合遠距離攻撃が得意なウィザードさんには接近攻撃が豊富なランサーさんが相手だと不利な気がしますねぇ。」
「はい。しかしそこは知識豊富なウィザードさん、何か対策を打ってくるかもしれませんね。」
「さて、選手の紹介でェす。アリアンのの元傭兵、百戦錬磨女流槍使い、セレス!
そぉしてぇ対するは魔法都市スマグ出身の魔法使いギルドの副マスターでもある、魔術師、ヴィング!
さてこの戦い、どちらが勝つのでしょうか?さぁあ、選手も入場しました。でェは始めましょう。フェインさん。」
「はい。」
「「Fight!!」」

849rball:2009/10/22(木) 17:38:03 ID:.ERteB6g0
    “Wizard” Ving
     VS
     “Lancer” Ceres

開始の合図を受けてからはじめに動いたのはウィザード、ヴィングだった。
杖をバトンのごとく振り回しながら呪文を唱える。
「『風よ我を包み込み身を護る盾と成れ!トルネードシールド!』」
「おぉっ?トルネードシールドときましたねぇ〜フェインさん?」
「ええ、やはり接近戦に持ち込まれるとウィザードには不利ですからね。
しかしさすがは百戦錬磨の元槍騎兵のセレスさん、この事態は予想していたとみますね。」
と、解説者の言う通りのようで、セレスはさして驚いた風でもなく、どころかまるで予想していたかのように呪文が唱え終わったとたんに槍を地面突き刺し、
「それでどうにかなったつもりかしら?ランサーにだって魔法は使えるのよ!『雷よ地面を走れ!ラジアルアーク!』」
目映い光線が闘技場の煉瓦の地面を、ヴィング目掛けて走って行く。
しかしヴィングもそれを予想していたかのようにそれを一瞥すると素早い動作で

850rball:2009/10/22(木) 17:40:50 ID:.ERteB6g0
地面を撫でるように杖を振り、「『レビテイト』」と唱えた。
するとヴィングの体が宙に浮き、そしてジャンプしたような形で地面を走る雷をかわした。
そしてそのまま杖をセレスに向け、『ファイヤーボルト』を打ち出し、牽制した。
セレスは次の攻撃をしようとしていたがやむなくそれを『ブレイキングポイント』した。
「解説の暇も与えてくれないくらい流れるような展開ですね。」
「えぇそうですネェ。まあ誰もフェインさんの解説なんて聞いてませんし
文章のむdムグッじょっ・・・冗談デスって!」
「さて、今度はまた別の攻撃をセレスさんが仕掛けるようですね。」
「『右に炎よ左に氷よ、炎は破壊を、氷は殺戮をもたらさん!ファイアアンドアイス!』
そういいながら穂の部分に炎が、柄の先の部分が凍り付いている槍の中心部分を持ち、そして頭上で回した。
しかしーーーーーーその攻撃の範囲にヴィングはいなかった。
「!?」
とっさに反応できない。
そしてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「『チリングタッチ』」

背後から聞こえたその攻撃を『ブレイキングポイント』も『サイドステップ』もできなかったセレスはもろに攻撃を受けた。

851rball:2009/10/22(木) 17:46:54 ID:.ERteB6g0
>>850
訂正です。
×背後から聞こえたその攻撃を
○背後から声と同時に放たれたその攻撃を

852名無しさん:2009/10/22(木) 19:28:10 ID:OnMpHZjE0
訂正しなくても誰も見てませんよ^^;
後、FAT駄文sage

853名無しさん:2009/10/22(木) 19:44:35 ID:aZLhn4460
一応読みはしたけど厨二全快小説下手過ぎで萎えたわ
どっちにしろ駄文乙

854名無しさん:2009/10/23(金) 22:37:33 ID:3noXcOMk0
>>852 >>853
あんたら>>1を100回(ry

rballさん
 最近過疎なこの板に新しい書き手職人さんがいらしてくれて嬉しいです。
小説の批評等難しい事は出来かねますが、個人的には続きを期待しています。

ゆっくりで構いませんのでまた気が向いたら投稿なさってくださいな。

855rball:2009/10/24(土) 17:12:55 ID:Kv0ctwdE0
「・・・・・・」
セレスは無表情のまま無言で痛みに耐えている。
そしてヴィングは『コールド』していて動きが鈍っているセレスに向かって魔法を唱え始めた。
ちなみにもう『トルネードシールド』は解けている。
「さぁてフェインさん。」
「はい。」
「『アレ』は一体どういうことなんでしょうかねェ。」
「『アレ』はですね・・・・・・」

「そろそろとどめにしましょうかね。ランサーさん」
そうヴィングは言った。
「・・・・・・」
無反応のセレス。
「『隕石よ飛来せよ、そして完膚無きまでに全てを葬り去れ!メテオシャワー!』」
ヒューッと何か風切るような音がして
数瞬後
隕石の着地と共に爆音と光にセレスは包まれた。

「ま、物理系の攻撃だったお陰で助かったってところかしらね。」

四方八方から発せられたその言葉。
ヴィングはそれを理解できない。
そして徐に自分の体をーーー四方八方から槍で貫かれたその体を見て
「あぁ・・・見事だ・・・」
納得したようにそう呟いて
分身が消え、本物のセレスが槍を抜いたと同時に前に倒れた。

「ゲェェエムセットォッ! 勝者ぁ、ランサー セレス!」

歓声。
ヴィングの元へはビショップが駆け寄る。

856rball:2009/10/24(土) 17:13:30 ID:Kv0ctwdE0
「さぁてフェインさん、セレス選手の『ファイアアンドアイス』のあとから解説が無くって読者の方の中には
困惑しておられる方もいると思うので解説をお願いしまぁす。」
「はい。ではまず『ファイアアンドアイス』をどうやってヴィング選手が避けたかと言いますと
これは『テレポーテーション』でいったん『ファイアアンドアイス』の攻撃範囲から外れたのですね。
でまたすぐ『テレポーテーション』でセレスさんの背後に回ったのです。」
「そして直ぐ様『チリングタッチ』というわけですねェ。でぇ、その後は?」
「『チリングタッチ』はかわされたのです。いいえ

『ダミーステップ』によってかわされた時にできたダミー身代わりに受けた

といった方が正確ですね」
「ほうほう、私たちが見たセレス選手が二人に見えた『アレ』はダミーステップによるものだったのですなァ。」
「そうです。私たちは高いところから見ていたから気づきましたが、
ヴィングさんは相手に集中していたので気づかなかったのでしょうね。」
「なるほど。それならセレス選手が途中から無口になったのも頷けますなぁ。
ダミーは喋れませんからねェ。」

857rball:2009/10/24(土) 17:13:54 ID:Kv0ctwdE0
「あと彼女が言った物理系の攻撃だったお陰で・・・っていうのは物理系の攻撃じゃないとよけれないからですね。
そして後は、ダミーを強力な魔法で倒してセレスさんを倒したと思い込んで
油断している隙をねらってトルネードシールドが解けて無包備なヴィングさんに
『エントラップメントピアシング』したのでしょう。
まさに彼女はヴィングさんを『entrapment』した、つまり陥れたのでしょう。」
「さして巧くもありませんが
ーーーあっいえいえ言い間違いです巧かったですとてもとても!いえ違います嘘じゃありませんってばーーー
ゥヘン。でぇはフェインさん解説ありがとうございました。
この辺で皆様ともお別れでェす。では、また次の戦いの時に!ではそれまで、アデューーー!」

     “Wizard”Ving
      VS
    “Ranser” Ceres
                                 《Winner Ceres》

続く・・・かな?
お目汚し失礼しました><

858rball:2009/10/24(土) 18:04:38 ID:mfCIgwRo0
訂正です
×ダミー身代わりに
○ダミー が 身代わりに

>>853さん
すいません。
何分几帳面な正確なもので。
お気に障られたのならお詫びします。
>>853さん
こんなつまらない小説を読んでいただけただけでもうれしいです。
ありがとうごいます。
この板に書き込むに恥ずかしくないような小説作りを心掛けていきたいと思います。
それまでどうかお待ちいただければと思います。
>>854さん
フォローどうもすいません。
正直批評に関してはごもっともなので別に良いのです。
というか悪い点が見つかるのでむしろ助かります。

「戦闘シーンが書きたい!」
と、突発的に書いたのが良くなかったかもしれません。
また、携帯からなので制限文字数が少なく、面倒で幾らか削ったりしたのも悪かったと思います。
もし次に書き込むことがあれば物語性のあるきちんとした小説にしたいと思います。
上の小説は続けないことにします。
以下何事もなかったかのように良い小説の並ぶ
RED STONE小説upスレを続けてください。
お目+スレ汚しどうもすいませんでした。

859◇68hJrjtY:2009/10/26(月) 01:11:40 ID:mn.ayaXs0
しばらくご無沙汰してたら小説が!v(。・ω・。)ィェィ♪
保守ついでに何か短編を書こうとして結局サッパリな68hです、こんばんはorz

>rballさん
初めまして、投稿ありがとうございます♪
決闘ネタ、大好きですよ!ヾ(*・∀・)/
ホントに途中から解説の暇がないのが読んでて良く分かりました(笑)
もともと速いランサーとヘイストで速いWIZの対決はまさに神速対決と言うべきか…。
RSの職同士がタイマンする小説、私は構想した事もほとんどないのでホントに楽しみです。
続きお待ちしてます!

そして感想レスが遅れた事&やっぱり私も批評できない事、ご容赦を<(_ _)>

860◇68hJrjtY:2009/10/26(月) 01:14:22 ID:mn.ayaXs0
ハッ、今ちゃんと読んだらrballさんの最後のカキコに続けない宣言が……!

でも続き待ってます!(こら
気が向いたらいつでもどうぞです、はい(。・ω・)ノ゙

861rball:2009/10/26(月) 17:57:58 ID:Kv0ctwdE0
>>◇68hJrjtYさん
レスありがとうございます。
この支離滅裂で理解不能な小説を
読んでいただけて&内容を解読していただけてうれしいです。
やっぱり厨二ワールド全開になること(自分の頭の中が)が予想されるので続けないつもりです。

個人的には◇68hJrjtYさんがどの様な小説を書くのかきになります。
大変そうですががんばってください。

862◇68hJrjtY:2009/10/27(火) 17:41:29 ID:mn.ayaXs0
私信失礼します(・ω・*)

>rballさん
ご期待のレス感謝します(;´▽`A``
なんか書く書くとか言いつつずっとUPしないので逆に期待されてそうですが
ホントにヘタレなんでそのへんは安心してください♪
というかHDD吹っ飛び事件以来これといった小説も完成させておらず・゚・(ノω;`)・゚・
それにまあ、RS半引退の身ですし、ネタというネタも思いついてません。。
とりあえずは感想屋としてゆったりと生暖かくスレを見守ってます(笑)

863白猫:2009/11/03(火) 00:09:29 ID:qlUN4Kp20
前作 Puppet―歌姫と絡繰人形―
関係あるかもしれないもの >>649




私が初めて槍を手に取ったのが、10歳の頃。
傭兵業で生計を立てていた私の家は、可も無く不可も無く。どこにでもある中流家庭だった。
時に金持ちの護衛として雇われ、時に政府の軍務に就き、時に魔物を屠って金を得る。
そんな両親の姿を見て育った私が、同じように傭兵の道を進むことに何の不満も疑問も抱かなかった。
レールの敷かれた道路を歩く。「英雄」になれるとは思わないし、なろうとも思わない。
ただ父と母、育ててくれた両親に恩返しが出来ればそれでいい。
幼いながらも、周りで戦などに巻き込まれて死んでいく者たちの子を見てきた自分が出した目標だった。


武器を用いた訓練は、傭兵術においては基礎訓練の次に基本的となる訓練だ。
私は無我夢中で槍を振り回した。朝から晩まで、その次の朝が来ても。
父に止められても続け、過労で倒れることもあった。それでも私は槍を振り続けた。
私はほとほと負けず嫌いだ。このときを思い出すたびに、私はそれを実感する。


雪のように美しい少女と出逢ったのは、白と黒以外の色をすべて神様が抜き取ってしまったかのような、淡い雪の朝だった。
剣を持って、雪の絨毯を舞う。剣が弧を描く度に、空気が、空が声を上げる。共鳴する。
隣町の子だということは一目で分かった。小さな町である自分の故郷に住む子供など、空で全員、ミドルネームまで含めて呼ぶことができる。
私は思わず声を上げていた。綺麗、と。何を考える暇もなく、口から出た言葉がそれだった。
私の言葉に気付いた少女は、雪のような相貌をあっという間に向日葵のような笑顔に変え、駆け寄ってきた。
レティア、という名の隣町の少女は、私の初めての親友となった。


それ以来、私とレティアは朝と夜の二度、雪のちらつく平原で必ず一緒にいた。
別に当時の私に友人がいなかったわけではない。「そういう時代」だったのだ。
いつ町が襲われてもおかしくない。昨日友だった酒飲み仲間に、明日は刺されるかもしれない。
他国へ亡命する者も多くいた。が、私は知っていた。絶対に逃げ切ることはできないと。
確かにゴドムへ逃げ延びれば、世に名高き[最終貴族]カナリア=ヴァリオルドの庇護を受けることが出来るだろう。
だが、「常雪の山」である山脈を越えゴドムへ逃げることなどできるわけがない。あの山は死の山なのだ。
年間の平均気温は氷点下六十度を下回る。世界で最も過酷な山だ。
麓にある私の故郷がある高原ですら過酷な環境だというのに、よりによって山を越えるなどと。
……閑話休題。
毎日のように顔を合わせて、一緒に武器を振るっていた私たちは、いつしか思うようになっていた。
「一体どちらの方が強いのか」と。


連敗が込んでいた。
現在十一勝十七敗、四連敗中。
レティアは彼女得意の氷結魔法に何かコツを見出したのだろう。それまで互角程度だった私たちの力関係が急激に崩れた。
私の放つ雷撃は全て彼女の周囲を舞う結晶に阻まれ、彼女の繰り出す冷風は否応も無く私の体力を奪うのだ。
反則だと思った。周辺には彼女の武器である雪が五万とあり、レティアは私よりもずっと暖房の魔法が上手かった。
だが、すぐに私はその考えを打ち捨てた。有利だとか、不利だとか、そんなものは関係ない。
結果として勝ってしまえばいいのだ。彼女の雪も、寒さも、何もかも吹き飛ばして勝ってしまえばいい。
私の密かな決意は、六度目にして怒声に変わった父の食事の声で最後まで成されることはなかった。

864白猫:2009/11/03(火) 00:10:02 ID:qlUN4Kp20

私の力は弱い。
レティアの力は雪ではあるが、正確には「温度」だ。ただ彼女の力が、温度を上げるよりも下げる方が上手かっただけ。
もっと彼女が温度を上げる方に才能を持っていれば、今頃私は丸焼きになっていたかもしれない。雪達磨にされた回数は覚えてはいないが。
私の雷がすべて無効化されるのは単純な理屈だ。空気には電気を通しにくくする「抵抗」がある。
それを無くし、空気もなにもない「真空」にしてしまえば電気はそこを流れていってしまうというわけだ。
レティアは周辺の空気の温度を極端に下げることで空気の圧力を下げ、擬似的な「真空」を作り出す。
もちろん、そんなもの真空には程遠い。だが、電気はより流れやすい方へと流れてしまうのだ。
例えできそこないでも、圧力が下がり抵抗が低くなった方へ、電気は自然と誘導されてしまう。
なら、どうすればいい? 簡単な話だ。
抵抗など一切合財無視した、超電圧の電撃を叩き込んでしまえばいい。
出来るはずだ。電気の力を操るのは、町で私が一番上手なのだから。
だが、私はまだ12歳の子供。高電圧の電撃を生み出すほどの魔力は持ち合わせていないし、そもそも自分は魔法に向いていないことを知っている。
なら、どうすればいい? ――今度も簡単な話だった。


雷と同じ理屈だ。
雷は、大ざっぱに言えば雲の中に生じた氷の塊がぶつかり合うことによって生まれる「静電気」。
静電気なんてものは、冷えた冬の日に鉄製のものに触るだけで生じる些細なものだ。なんら難しいことではない。
だが、何を摩擦させる? 単純な話だ。寒い冬の日に、外に大量にあるもの――雪の結晶だ。
ほんの少しでも電力が生まれれば、後はそれを基にさらに多量の電力を生み出す。それを幾度となく、幾度となく繰り返す。
私は、これを「チャージング」と名付けた。魔術師たちが、高等な魔法を使用するための準備魔法だという。私も随分大それた名を付けたものだ。
生み出した雷は、全て槍へと集中させる「付加魔法」とした。雷の槍、ライトニングジャベリン。格好良いじゃないか。
この術が完成した日、私は確信した。これで、連敗生活ともおさらばだ、と。


が、私の野望は結局、二度と果たされることはなかった。
レティアは私が術を完成させるしばらく前に、彼女は両親とともに故郷へと帰って行ってしまったのだ。
十一勝十七敗、四連敗のち勝ち逃げされる。
この不名誉な戦績を、私は死ぬまで忘れることがはないだろう。




それからあとのことは、断片的にしか覚えていない。

両親に連れられ、砂漠を越えるルートからゴドムへと入った。

古都ブルンネンシュティングでカナリアの庇護を受け、警備隊の試験を受けた。精神鑑定で落ちた。前代未聞だったらしい。

カナリアに無理を言って裏口入隊させてもらった。前代未聞だったらしい。

若干十五歳で警備隊の隊長となり、「ブルンの守護神」と呼ばれるようになった。前代未聞だったらしい。

両親が戦死した。大規模な攻撃作戦が裏目に出たと聞いた。父の遺言通り、私は涙一滴流すこともなかった。

クソ生意気な魔法使いが入隊してきたのでイジめ抜いたらいつの間にか副隊長になっていた。生意気な奴め。

戦時中だったこともあってか、カナリアが死んだ。妻と妹も一緒に死んだらしい。長男だけが無事だった。

数年後、その長男が入隊してきた。あっという間に部隊長になち「ブルンの影狼」と呼ばれるようになった。前代未聞の早さだったらしい。

影狼がたった一人のゴロツキから一晩で盗賊団のアジトを割り出して潰してしまった。私がいなければ前代未聞だった。

大戦が終結してからしばらくして妙な小娘が影狼の傍にくっ付くようになった。あいつもまんざらでも無さそうだった。

古都に来てから初めて外に出た。さして感動もなかったが魔法使いが生意気だったので殴った。

大戦の首謀者「ルヴィライ=レゼリアス」と遭遇した。大陸全土の戦の引き金と言ってもいい大罪人を目にしたが、さした感動も無かった。

私の雷の槍が、初めて負けた。まだまだ修行不足だということを痛感した。小娘がとんでもない化け物じみた力を持っていた。

「常雪の山」でとことん鍛え直した。魔法使いがひょこひょこついてきたのでケツを蹴りあげた後ついでに絞り上げた。

影狼がルヴィラィ=レゼリアスを倒した。私もリベンジを果たせてすっきりした。

妙なテイマーと愉快な仲間たちと知り合った。影狼はホントに知人多いわね。

865白猫:2009/11/03(火) 00:10:26 ID:qlUN4Kp20


そして、今。


「青い空、白い雲」
「どこまでも続く海原やなぁ〜」

私は大陸の東、スバイン海にいた。
海賊退治、とは名ばかりの観光旅行、と見せかけての幽霊船調査、という名目の観光旅行だ。
もちろん海賊は退治したし幽霊船はあらかた沈めたので問題ない。前者も後者も仲良く海の藻くずだざまぁみろ。

「……で、バカリアス。いつになったら陸地が見えんの」
「えーと、陸地ってどっちやろうな? あっちかなっ?」
「死ね」

ねえ、レティア。
私、あの日から一度だってあなたのことを忘れたことはない。
だから、ね。
今度会ったときは、不名誉な連敗記録を塗り潰させてもらうから。


---

どうも、お久しぶりです。11か月ぶりです。いや匿名で一度書いてるから何か月ぶりだろう、まあいいや。
まだまだ生きております、白猫です。
最近は専ら、某有名同人ゲームの二次創作小説の方ばかりに手がいっています、そっちも進みは芳しくないですが。
いや〜、11月です。我が悪友くろっちもとい黒頭巾さんとのコラボからもう一年が経過したわけです。早いですね〜
実のところこうやって作品を書いたのも数か月ぶりだと思います。腕のなまりが怖くてとってもバトルものなんて書けやしないぜはっはー。
◇68hJrjtYさんを始め、未だに現役で、新規で書いている方もちらほらといるようで安心しました。このスレはまったりが一番いいなあ。
でもきっと8冊目には手が届かないんだろうなあ、と少し物悲しくなっている白猫です。ハック問題とかちょうこわい。

久々すぎてあとがきの書き方を忘れました。
えー、今回は前作、パペットの外伝その二です。たぶん。主人公勢のアーティさん過去話。誰得って俺得に決まってるでしょ。
回収してない伏線はこれでだいたい終了したと思います。たぶん。古代民の伏線はもういいやパペットとマペットの過去話なんかマジ誰得なんだよ\(^o^)/
68hさんといつぞやに約束した性格入れ変わっちゃった話はのんびり作成中だったりします。実はそっちが行き詰ってこっちを書き始めました。
書き始めたのが10時半を回った辺りですので、まだまだ速筆だけは衰えていないのかなあ、と思う白猫です。
私信返信にまた訪れることもあるかもしれません。それではまたそのときに。
これを書くのも久々です。白猫の提供でお送りしました。

866◇68hJrjtY:2009/11/06(金) 02:05:03 ID:mn.ayaXs0
>白猫さん
ホントお久しぶりですー!
前回登場したレティアの旧友がなんとアーティさんだとは…ここで繋がってたんですね。
レティアに勝つためにより大きな力で挑もうとする姿勢、12歳の頃から性格変わってないなぁ(笑)
さらにアーティさんの過去と現在の姿が見れて嬉しい限り(*´д`*)
久しぶりのカリアス尻轢きも見ものでしたw 幸せなカップルだ。。
これでパペット、そして外伝がすべて終了してしまったのでしょうか…
なんとも寂しいですが、パペット関係以外でも気が向いたらまた書きに来てください。
私のリク話もまだ執筆しておられたと聞いて驚喜してます(T-T)
白猫さんも別の活動などで忙しいでしょうが、いつでもお待ちしています♪

ところで、名無しで書き込んでおられたんですか(((( ;゚д゚))))アワワ
今から必死に探さないと……!(笑)

867名無しさん:2009/11/13(金) 19:15:38 ID:TKqs3Wvo0
-──- 、   _________
    /_____ \〟 >            |
    |/⌒ヽ ⌒ヽヽ | ヽ > _______  |
    |  / | ヽ  |─|  l   ̄ |/⌒ヽ ⌒ヽ\|  |
   / ー ヘ ー ′ ´^V  _ |  ^| ^   V⌒i
    l \    /  _丿  \ ̄ー ○ ー ′ _丿
.   \ ` ー ´  /     \        /
      >ー── く      / ____ く
    / |/\/ \       ̄/ |/\/ \    同じスレではこのままだけど
    l  l        |  l      l  l        |  l    違うスレにコピペするとスネ夫がドラえもん
    ヽ、|        | ノ      ヽ、|        | ノ     に変わる不思議なコピペ

868名無しさん:2009/11/22(日) 09:59:03 ID:TvCR6Kbc0
Gvスレも速やかに建ててます。
グッグってください。ヤフーも可。

新レッドストーンBBS

869ワイト:2010/01/15(金) 03:44:37 ID:cq0SkP4k0
前々五冊目>>754>>857>>906>>933>>934>>940>>969>>970>>998
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
→前六冊目>>27>>83>>84>>134>>154>>162>>163>>191>>216
>>267>>285>>306>>308>>309>>895>>901>>975
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
→現七冊目>>426>>452>>794→現続編
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

>「てめぇ、稀に出没する希少種の「サキュバス」かよ……!」

「それで? サキュバスになったから、どうしたってんだ?
(――第二形態と言うべきか?まずは、様子見だ……!)」

「あははっ! 見せて上げるわ? 実力の差ってやつをねっ!」
 傷口を庇いながら、身構えるラータを相手に、取るべき行動は勿論――

――その傷口を狙った攻撃。

――ビュッッ!
刹那にサキュバスの鉤爪が、ラータの傷を目掛け、突く形で襲い掛かる!

「クッソ、野郎っ!」
――ガシィイイッッ! グッグググッッ……!
鋭利に尖る鉤爪の尖端の刃先を掴み、それ以上の進出を防ぐ!

「時間の問題、ねっ! このまま、押し込んであげるっ! 
 ……いえ、すぐにでも!」
押し込もうとする、逆手の鉤爪でラータを切り裂かんと振り上げ!

「ぐっ! こ、の、っぁああっ!」
無理矢理、傷口を庇う手を振り解き、鉤爪を掴み続けたまま
 振り解いた手を固く握り締め、力を入れる!

「(ま、さか! 相打ち狙いなの!? ふふ、返り討ちよ!)」

 グッオッ! ――ブァアッ!
――拳と鉤爪が、交錯する!

「ギッ、ィイァァアアアッッ!」

――ドッ、ゴォ!
垂直から振り下ろす鉤爪より、平行線で放つ拳が、僅かに上回った!
 拳の放たれた先は、振り下ろす鉤爪を持つ腕を狙った反撃!

「あ、くっ……! や、やってくれるじゃない……」
押し込もうとする鉤爪も、反射的に後退せざるを得なくなる。
 同時に距離を置くために、サキュバスは上空に飛行した。

「ハハハッ! どうだァ……? 腕ぇ折れたろ? 
 ――それで、片腕は使えねぇな!」
「ど、どうかしら……? それよりも貴方、血を流しすぎているわねぇ……」

「それが、どうした? 俺は追撃の手を緩めない……! これで何回目、だっ!」
――ギュ、ッッオッ! サキュバス目掛け、ラータが飛ぶ!

 だらしなく垂れ下がる片腕の鉤爪が、機能不能になったためか
サキュバスは、自身に追い打ちを掛ける為、跳躍したラータに対して

――自然と守りに徹する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
久し振りの投稿で、すでに私のことを忘れている方々が、九割を占めると思います。
皆さん、明けましておめでとうございます。今年も、よろしくお願いします。

新年を迎え、いかがお過ごしでしょうか?私は相変わらず、多忙の身ですが……
この小説、何を書いていたのか……私自身忘れてしまって、今回はぐだぐだになりました。
次はいつになるか分りませんが、いつか投稿していく予定。それでは、失礼します。

870◇68hJrjtY:2010/01/27(水) 04:46:27 ID:mn.ayaXs0
>ワイトさん
お久しぶりですヾ(*゚ω゚*)ノ゙
私もしばらくネットから身を離していたのでレスのほうも遅れました。ごめんなさい<(_ _;)>
クールに戦場を駆け抜けるラータに久しぶりに会えて嬉しいです。
サキュバスとの戦いも佳境といったところですね。簡単に勝利できそうもないですが、さて。
投稿はいつでもお待ちしてます♪

871名無しさん:2010/02/18(木) 20:24:40 ID:Bac28GKI0
Gvスレも速やかに建ててます。
グッグってください。ヤフーも可。

新レッドストーンBBS

872名無しさん:2010/02/19(金) 21:35:08 ID:TvCR6Kbc0
Gvスレも速やかに建ててます。
グッグってください。ヤフーも可。

新レッドストーンBBS

873名無しさん:2010/03/07(日) 07:26:57 ID:6.EwuJ/w0
君に会いたくて。



漫画のように淡くも切なくもない
ただ普通の誰かのお話

私は 何の取り柄もない
嘘もよくいうし、性格が良いワケでもない。
泣き虫で、寂しがりやで
守るよりは守られたい。

そんな私は インターネットの中の世界で
恋をした。

874名無しさん:2010/03/07(日) 07:28:06 ID:6.EwuJ/w0
彼は
頭が良くて、冗談が言えて、運動もできる
らしい。
でも私の最初のイメージは
苦しそうな彼

そこで気づいた。
どんな完璧に見える人でも
傷つくことがあるんだ


彼は優しかった。
でもたまによくわからなかった。
それでも好きだった。

でも
所詮ネットの恋愛には
終わりがあって
ずっとそんなままごとは
付き合ってもらえない

私は
裏切った。
彼を。

サヨナラ はどうしても言えなかったから
あの頃の私にはその方法しか
思い浮かばなかった。

今はもう
話せない。
会えない

ごめんなさいも
さよならも
ありがとうも

大好きだよ っていう言葉も

全部、今はもう



今は少しずつ彼の足跡を紡いでる
いつかまた会えるように。

だからお願い
どうか、幸せでいてください……

875◇68hJrjtY:2010/03/09(火) 17:53:58 ID:l5kFS6pk0
>>873さん
悲しい詩、投稿ありがとうございます。
ネット恋愛は経験は無いながらも知人の姿など傍目で見ている事が多く、共感できました。
ネットという不思議な世界での恋愛、それは本心なのかそれとも嘘偽り(ままごと)なのか…。
本人たちにもきっと分からないまま突き進んでしまうんでしょうね。
「どうか、幸せでいてください」という最後の一文が涙を誘いました。

876名無しさん:2010/03/13(土) 22:52:21 ID:kBbBSo4E0
なんかいいね・・・

877名無しさん:2010/03/15(月) 18:27:15 ID:d4Iox1lc0
テスト

878名無しさん:2010/04/09(金) 06:07:49 ID:6.EwuJ/w0
理解できないコト



今日"クラスメイト"と話した。
陰口を言っていた
なのに楽しそう
何もいえない私も全部
理解できない。


宇宙は壮大だ
それに比べて人間はちっぽけだ。
人間と比べたらモルモットはちっぽけだ
命の重さが理解できない。


自分だけでは寂しさは凌げない
鏡に映った自分でも。
けど鏡に映ったのが想い人であれば凌げる
理解できない。


風の音が響く静寂のときでも
ネットにはたくさん人がいる。
それはヒトなのに
寂しさは募るばかり。


もしも神様がいるなら
なぜいまひとりにされてるのか
問いたい。
理解は できないけど。

879ヒカル★:削除
削除

880ヒカル★:削除
削除

881之神:2010/06/08(火) 18:15:37 ID:8GUNopgw0

みなさんこんにちは。

ずーっと前にここにSSを…途中までUPしていた者です。
もし途中まで読んでいた人がいたらと思い来ました。

簡単に言いますとPCアボーン&多忙のダブルパンチで、データや設定まで消えてしまい…。
書き続けようにも同時に忙しくなり、今に至ります。

簡単な絵を載せたり、スレも何個かまたいだのに…申し訳ないですorz
これからは書くとすれば読み切りですが、よろしくお願いします。

◇68hJrjtYや書き手の皆さん、また逢う日まで…!

882ドワーフ:2010/06/21(月) 21:10:45 ID:HW/cTXWU0
『フォーチュンフィール』

 キリウスはベルトを腰に巻いてみたが、別にどうということはなかった。身に付ければ望む運命を与えると聞いていたが、何も変わった様子は無い。
「ちっ、からかいやがったのか」
 キリウスは舌打ちすると、路肩の壁に背を持たれかけた。
「まあいいや、タダでくれるんなら何だって貰ってやるぜ」
 そう言って、彼はその壁から遠くのお屋敷の窓から覗く女性の小さな美しい後姿を眺めた。
「だがあの人は、タダって訳にはいかないだろうなぁ…」
「何が欲しい?」
 足元からした声にキリウスはビクリとした。見下ろすと、彼の隣で小さな老人がへたり込んでいた。
「何が欲しい?」
「何だよ、爺さん。金でもくれるってのか」
「望むなら、得られるようにしよう」
「…………」
 普段の彼なら笑い飛ばしてしまう老人の一言。しかし、今のキリウスは違った。彼は不気味に感じながらも、望みを口にした。




「契約は結ばれた…」
 老人はそう言って、何事も無かったかのようにいびきをかき始めた。

 まったく笑いが止まらなかった。あれから8年、彼の生活は驚くほど見違えた。
 キリウスはニヤニヤと笑いながら自室で悦に浸っていた。部屋の中はかつての王宮のそれに匹敵するほど豪奢な家具で満たされていた。この部屋の中

だけで、窓の外から見える街の一区画が丸ごと買えるほどだ。
 執事が読み上げる収支の額は毎日増え続けている。それをわざわざ日課として聞きながら、彼はベルトのバックルを磨いていた。
「素晴らしい。実に素晴らしい!」
「はい、旦那様」
 これも毎日同じ台詞、しかし執事は辟易とした様子も見せずに淡々と答えた。
 しかし、彼は決してこんな財産が全てだとは思っていなかった。本当に彼にとって何よりも大切なものがまもなく帰ってくる。
「おかえりなさいませ、奥様。お嬢様」
「ただいま、ジェストル」
「おとーさまー!」
「おかえりジネット!」
 キリウスは愛する娘を抱き上げて、彼女の頬にキスした。そして、愛妻ともキスを交わしてこう言った。
「今日は遅かったじゃないか。心配したんだぞ」
「いつもと変わりませんわ。あなた」
「そうだったか?お前たちのことを考えてると一分が一時間にも一日にも感じられてしまう」
「もう、あなたったら…」
「はははは!」
 
 この惚気ている男の名はキリウス。貧民の身から一代で古都一番の大富豪となった男。野を行くが如くライバルを蹴散らして現在に至る。そして、通

常なら許されない貴族の女との婚姻を認められた唯一の男である。
 妻のルメーユとの間にもうけた一人娘のジネットは今年で5歳になる。
 彼は今が自分の人生の絶頂であると感じていた。しかし、ある日を境にそれは一変する。

883ドワーフ:2010/06/21(月) 21:12:04 ID:HW/cTXWU0
「旦那様!」
 ノックもせずに入ってきた執事を咎めるようにキリウスは睨んだ。
「何だ騒々しい」
「お嬢様が、お嬢様が!」
 キリウスの身体が強張った。ぞくりとしたように目を見開いて、執事に詰め寄った。
「ジネットがどうかしたのか!?」
「先ほど、亡くなられました」
 頭の中に暗く深い何かが広がっていくのを彼は感じた。
「旦那様。お気を確かに!」

 ジネットは不幸な事故で死んだ。突然暴走した馬車が曲がり角を曲がりきれずに横転し、横滑りした車体がそこにいた妻と娘に突っ込んだのだ。妻は

軽傷で済んだが、娘は車体と建物の間にその小さな身体を挟まれて事切れていた。
 キリウスは娘の残酷な死を激しく嘆いていた。「何故だ!何故だ!」と叫びながら。周囲の者はその言葉をあまりの理不尽さゆえに、と思っていたが

、彼にとっては違っていた。彼が漏らした「話が違うじゃないか…」という一言には、誰もが首をかしげた。
 キリウスはその日から、寝室を妻とは別にした。そして毎日彼女を避けるように違う時間に起きて食事し、どこかへ出かけていった。

884ドワーフ:2010/06/21(月) 21:13:28 ID:HW/cTXWU0
「ようやく見つけたぞ。ペテン師め!」
 人気のない裏通り、その人物はいた。
「あら、久しぶりの挨拶にしてはあんまりね」
 それは占い師のような姿をした女。口元をベールで覆っているため顔ははっきりとは分からないが、声からするとかなり若いようだ。
「娘が死んだ」
「あらまぁ、それはご愁傷さま」
「何をぬけぬけと、貴様が殺したんだろう!」
「人聞きの悪いことをおっしゃらないでくださる?あなたのお子さんが亡くなるのは、とっくに決まってたことですのよ」
「何だと?」
「さっき、私のことをペテン師と仰りましたけど、私は何一つ騙した覚えはなくってよ」
「馬鹿な。望む運命を与えてくれると言っただろう!なのになんだこれは、私はこんなことを望んだ覚えはない!」
「そう。でも、無期限とは言わなかったわ」
「貴様……何故教えてくれなかった!?」
「聞かれなかったからですわ」
 そう言って女はにこりと目元で笑みを浮かべた。
「このっ…!」
「あら、馬鹿な気は起こさないほうがいいわよ。それより、これからもっと重要なことを教えてあげるわ」
「今更何を…」
「補足説明ってところかしら。あなたがどうして今のような運命を得られたのかを説明してあげるのよ」
「そんな事を知って何になる」
「あら、奥さんがどうなってもいいのかしら」
「まさか妻にまで…!」
「だから私は何もしないわ。でも、しっかり聞いておかないと彼女も…」
「ぐ、早く…」
「ん?」
「早く言え!」
 女はくすくすと笑いながら、説明を始めた。
「私があげたそのベルト、それは持ち主の望むままに運命を変えることが出来るベルト…」
「そんなことはもう知ってる」
「でも、正確には変えるんじゃないの、歪めるのよ。あなた自身の運命を、あなたの周囲の運命も」
「どういうことだ?」
「修正が始まったのよ」
「修正?」
「そう、この世のあらゆる物事は予め神が定めた運命によって支配されている。生まれてから死ぬまで、現れてから消えるまで、誰と出会うのか、どん

なことが起きるのか、何を選択するのか。全て決まっているの。それが運命」
 女は話を続けた。
「そのベルトはあなたの運命を歪ませた。そしてあなたの奥さんの運命も歪ませた。その結果どうなったのか、あなたと奥さんの間で本来であれば生ま

れるはずの無い子供が生まれた」
「…………」
「さっき言ったわよね。無期限じゃないって。つまり、ベルトの力が弱まって歪んだ運命を維持できなくなってきたのよ。そして、神の力によって運命

は本来あるべき形に向かって修正され始めたのよ」
「それは、つまり…」
「あなたの娘さんは最初から死ぬ運命にあったってことね。あら、運命から外れてたのにこんな言い方はおかしいかしら」
「よくも、よくも!」
 突然キリウスは女の襟首に掴みかかると力いっぱいに捻りあげた。しかし女は彼の腕を掴むと、その細腕からは信じられない力で彼の腕を握り締めて

その手をほどいた。
「ああっ……ぐああああ」
 締められた腕を押さえてキリウスは堪らずうずくまった。
「もう、何なのよ急に。あなたのお子さんは神に殺されたのよ。私たちを恨むのは筋違いよ」
「あの子は、ジネットは…何のために生まれてきた。死ぬためにか。違う…あんな、むごい…」
 嗚咽を漏らし始めたキリウスを見下ろして、女はやれやれという風にため息をついた。
「そんなに痛かったの?ごめんなさいね。私たちあなたのこと気に入ってるからあまり乱暴なことはしたくなかったんだけど」
 キリウスは身を起こすと、涙で腫れた目で女の顔を見上げた。
「わたし、たち?他に誰か居るのか?」
「ずっと居るじゃない。そこに」
 女はキリウスの腹を指差した。いや、彼の腰に巻かれているベルトを指差していた。
「馬鹿な…いや、しかし神の運命を歪める……」
 女はにやにやと笑みを浮かべていた。手の内に気づかない愚か者に、ようやく全てを伝えるときが来た。
「お前は…何者だ?」
 女はフードをめくり、ベールを外すと、その美しくも恐ろしい本性を現した。紅く長い髪が溢れるようにフードの中からこぼれ、頭には一対の黒光り

する角。たったそれだけの特徴で、子供でも何者なのか分かる。

885ドワーフ:2010/06/21(月) 21:15:45 ID:HW/cTXWU0
「悪、魔…」
「そう、名前はアスティマ。そして今はそんな姿になってるけど彼に代わって自己紹介させてもらうわ。フォルセスが彼の元の名よ」
「どうして…、どうして俺なんだ。お前たちと遭うのも運命だったというのか」
 キリウスは腰が砕けたのか、尻を地につけたまま後ずさりした。
「運命から外された私たちにそんなものは関係ないわ。ただ、あなたの欲望の声が大きかったから選んだの」
「欲望の、声?」
「凄かったわよ。自分で気づかなかった?金が欲しい、地位が欲しい、権力が欲しい、ルメーユが欲しい…」
 悪魔はキリウスに詰め寄ると、腰を落として彼の顔を覗き込んだ。
「どうしようもなく貧乏で、甲斐性もなく、不潔で汚らわしいネズミのようだったあなた。毎日のように窓際に立つルメーユを眺めてたわ。不相応なの

に、絶対に手の届かない高嶺の花なのに、どこまでも無駄で虚しいだけのに激しく彼女を求めてた」
 悪魔はしゃがむとキリウスの手を取ってぎゅっと両手で握った。
「とても素敵だったわ。あなたならきっと出来ると思ったの。そう、予想以上よ!あなたはその欲望で神の運命を大きく塗り替えた!」
 キリウスは震えていた。わなわなと震える唇で何とか言葉を吐いた。
「何の、ために?」
 悪魔はにんまりと笑った。口の端を大きくつり上がらせて、言った。
「別に何も」
 キリウスは呆けたような顔で悪魔を見ていた。その反応が面白いのか悪魔はくくっと笑った。
「馬鹿な、目的がないわけがないだろう」
「うーん、そうねぇ。強いて言うなら神を冒涜できればそれだけで良かったのよ。私たち悪魔は神の力に影響を及ぼせない。だけどあなた達人間の力を

借りれば話は別ってことね。何せ、人間は神が創ったんだから。自分で作った粘土人形に指を噛み切られる気持ちってどんなのかしらね。ふふふ」
「そんなことの為に…ジネットを…」
 全てを知って絶望したのか、キリウスは力なくうな垂れた。
「もう!だから娘さんを殺したのは私たちじゃないってば。あなたさえ余計な欲をかかなければ、娘さんは死なずに済んだんだから!あ、それじゃ生ま

れてもこないわね。あはは」
「何が可笑しい!」
 座り込んだまま、握りこぶしをぎゅっと握り、キリウスは俯いたまま吠えた。
「さっきから笑っているが、人が苦しんでいる姿がそんなに面白いのか!」
「ええ、面白いわ。とっても。本当は自分のせいなんだって気づいてるのに、人のせいにしたがってる所とか本当に滑稽ね」
「何だと」
 顔をあげたキリウスの前にあの悪魔は居なかった。奴はいつの間にか彼の背後に回っていて、彼を背中から抱いて耳元でささやく様に言った。
「最近奥さんと愛し合ってないんでしょ。そんなに彼女の顔を見るのがつらいの?何でつらいのかしら。自分のせいじゃないのに、おかしいんじゃなく

って?」
 ぞくぞくとする感覚にキリウスは身を強張らせた。息がくすぐったいのではない。背後から抱かれた身体に、無数のミミズが這い回っているかのよう

なおぞましさのを感じていた。今振り向いても、奴は女の姿をしているのか。
「薄々感じてたんじゃないの?娘さんを殺したのは自分かもしれないって。その通りよ。娘さんを殺したのはあなたよ。彼女という存在を生んだのはあ

なた。死なせたのもあなた。あなたは何も知らなかった、でも知らなかったからと許されることじゃないわ。今までにこう思ったことは無い?『こんな

にも苦しむくらいなら、いっそ生まれてこなければよかった』って、娘さんも死に際にそう思ったはずよ。あんなにぐちゃぐちゃになっちゃったんです

もの、さぞかし苦しかったでしょうね」
「このっ…」
 そう言いながら、キリウスは僅かな身じろぎも出来なかった。
「もっと早く自分の今の立場がおかしいことに気づいていれば、私に会いに来てさえいれば、娘さんを死なせずに済んだのに。そして奥さんも」
「まさか妻も…」
「修正に例外はないわ。当然影響を受けるでしょうね。救う方法はただ一つ。別の欲望の持ち主に彼を譲ること。そうすれば、新しい宿主の欲望の力で

今の運命はしばらくは維持される」
「なら、こんなベルトは今すぐお前にくれてやる」
「あらあら、それは駄目よ。彼は自分の意思で次の主を選ぶの、幸いもう気に入った人は居るみたいね。だけど、その前にあなたにやって貰わなくちゃ

いけない事があるの」
「何だ」

886ドワーフ:2010/06/21(月) 21:17:40 ID:HW/cTXWU0
「死んで頂戴」
 ぞっとする一言にキリウスは堪らず悪魔を振り払った。振り向けば奴は女の姿のままだった。だが明らかに人間と思えない異様な気配を放ちながらそ

こに立っていた。
「俺を、殺すのか」
「私たちは何もしないわ。ただ、契約をキャンセルしたければ死ぬしかないと言ってるの。要するに、奥さんを助けたければ自殺なさい」
「…………」
 キリウスの顔は冷や汗で濡れていて、その息を荒くなっていた。
「明日の正午、王宮跡に来なさい。彼が残った最後の力で運命を操作して次の主を連れてきてくれる。そこで貴方は死んで、彼は次の主の元で新たに契

約を結ぶわ。分かったら、今日は帰ってお休みなさい」

 ふらふらと魂の抜けたように歩き去っていくキリウスの背中を眺めながら、悪魔は言った。
「さあて、いよいよクライマックスね。私の愛しいお人形さんは最後の舞台でどんな表情を見せてくれるのかしら」

887ドワーフ:2010/06/21(月) 21:18:59 ID:HW/cTXWU0
 キリウスが屋敷に戻ると、執事がすっかり変わってしまった彼の様子を心配して医者を呼ぼうとした。しかし、彼はそれを断わり執事を部屋から締め

出した。
「こんな物など!」
 そう言ってベルトを外そうとしたが、彼の行動を察知したようにベルトは外れなくなっていた。引き出しからナイフを出して切ろうとしたがびくとも

しない。
「無駄なことはよせ」
 そう言ったのはキリウス自身だった。口を動かした感触はない。しかし彼自身の声で自分の耳に響いてきた。
 キリウスはベルトを見下ろしてぞっとした。あの悪魔が言ったとおり、このベルトもまた姿を変えた悪魔なのだ。逃れることは出来ない。
 キリウスは部屋の中央にぽつんと立ちすくんだ。見回せば、それまで自身の虚栄心を満たしてきた煌びやかな家具の数々が、ひどく色あせて見えた。
「私は…なんだ?」
 ぽつりと自問の台詞を吐いた。ここにあるのは本来の運命であれば自分のではないものばかり。自分は本当はここに居ていい人間じゃない。自分が欲

望に任せて運命を歪ませたために、ここにある財産を得るはずだった者達は皆、かつての自分のような文無しに身をやつしていったはずだ。中には死ん

だ者も居るだろう。
 そしてなにより、妻のことが気にかかった。彼女は本来ならば自分と全くかかわりの無い世界で生きていたはずだった。他の貴族の男と結婚して、子

供をもうけていたはずだ。そしてきっと、幸せに暮らしていたに違いない。
「ああ…、ルメーユ。すまない。私は…、お前の運命の人なんかではなかったんだ」
 娘を失ってしまった。妻を悲しませてしまった。そのことが彼の身に重く圧し掛かってきた。
「ああ…あぁ…ああ…あああ!!」
 頭を抱えてキリウスはうずくまった。悲しみに押しつぶされそうだった。止め処なく押し寄せてくる感情の波が彼の正気を奪っていく。
 冷静でない思考のなかで彼が抱いたのは「償いたい」という気持ちだった。自分に財を奪われた者達に、神に、娘に、妻に…。
 それと同時に、自分たちを弄ぶ悪魔どもに対して激しい怒りがこみ上げてきた。

 しばらくして部屋を出ると、そこには妻がキリウスを待つように立っていた。じっと目があったが、彼はすぐに目を逸らして廊下を歩き出した。
「あなた…」
 妻の一言に反応してキリウスは立ち止まった。
「…すまない」
 それでけ言って彼はまた歩き出した。
 ルメーユ。本当にすまなかった。私は本当にお前に愛されるべき人間じゃない。しかし、私のお前に捧げる心からの愛にかけて、この命と引き換えに

してもお前を守ってみせる。
 彼は一人用のベッドしかない寝室で、着替えもせずに布団に倒れこむように横たわるとあっという間に深い眠りに落ちてしまった。

888ドワーフ:2010/06/21(月) 21:20:33 ID:HW/cTXWU0
 正午にはまだ早いくらいに王宮跡に着いた。かつて隆盛を極めた姿は見る影もない瓦礫の山。キリウスはその姿を今の自分と重ね合わせた。
「早かったわね」
 あの悪魔、アスティマが倒れた柱に腰かけて彼を待っていた。
「次の契約者とやらを、ここで待てばいいのか」
「いいえ、あなたがこの時間にここに来ることはすでに決まってたもの。待つ必要はないわ。でも、ここから少し移動するわよ」
 そう言って悪魔は広大な王宮跡の奥のほうへと歩き出した。
 キリウスはベルトを見下ろした。すでに彼の意思とは関係なく、彼の運命すらも操作されている。
 だが彼は怖気づいたりはしなかった。前を行く悪魔の後姿を睨み付けると、後について歩き出した。
 中庭を抜け階段を上り、今なお崩れずに残っている外郭の上に案内された。そこで外郭の淵に立つ人物とキリウスは対面した。
「どういうことだ?」
 目の前にいる人物に信じられないという様子でキリウスは言った。しかし、気づくとつい先ほどまでそこに居た悪魔の姿はなくなっていた。
「あなた…どうしてここに…」
「それは私の台詞だ。どうしてお前が…」
「近寄らないで!」
 歩み寄ろうとしたキリウスは制止された。目の前に居たのは彼の妻だった。ベルトは次の契約者に事もあろうにルメーユを選んだのだ。
「何をしているんだ。そこは危ないぞ。すぐに下がるんだ」
 下から見上げるとそびえる様な王宮の外郭は、かなりの高さがあった。転落すれば失命の危険があった。
「あなたは…、私を責めてらっしゃるですわ」
「何だって?」
「あの日…、あの子を失ったあの日から、あなたは私を見てはくれなくなった…。私さえしっかりしていればあの子は死なずに済んだかもしれない…」
「違う…」
 違うんだ。何ということだ。あのとき誰よりも娘のそばに居たのは妻だったというのに。娘の死の瞬間を目撃していたというのに。誰よりも悲しんで

辛い思いをしていたのは彼女だったというのに。私は自分の負い目のことばかり考えていた。支えてやらなければならなかったのに…歪んだ運命のせい

ばかりではなく、私は本当に夫として失格だ。
「あの子に、謝りに行かなくては…」
「待て。待ってくれ。ジネットを殺したのは君じゃない。私なんだ」
 妻が振り返ってキリウスのほうを見た。妻は泣いていたのか、涙で頬を濡らしていた。そしてそれを隠しもしない。
 なぜ、なぜ君なんだ。君にどんな欲望があるというのだ。今このままここで私が死ねば、今度は君がこの呪われた悪夢のような運命を背負うことにな

る。
「君は悪くない。私のせいなのだ。欲望にまかせて悪魔どもに躍らせされた私が…」
「一体何をおっしゃっているのですか!?私を気遣ってそんなことを仰るのですか。やめて下さい。あなたは悪くない。私が、私があの子を…」
「落ち着くんだ!早まってはいけない」
 妻はひどく興奮しているようだった。ひょっとすると、このまま飛び降りてしまうかもしれない。
「落ち着くんだ。君は何も悪くない。本当に娘に謝りに行くべきなのは、裁かれるべきは、私なのだ」
 そう言ってキリウスは外郭の、妻とは反対側の淵に立った。妻の立つ外側同様、こちらも落ちれば命はないだろう。
「あなた…?」
 妻が目を見開いて、キリウスを見ていた。
 キリウスは目を閉じた。もとより死ぬ覚悟でここに来ていたが、このままここで死ぬわけにもいかない。妻が神の修正の対象となっても、妻を悪魔ど

もの玩具にさせるわけにはいかない。自身が地獄に落ちてもかまわない、神の慈悲が彼女の命まで奪わないことを信じたい。
 妻が自分に気を取られているこの短い時間の中でキリウスは考えた。妻を悪魔たちの手から守る方法を。
 奴らの契約のルールには弱点がある。それは選ばれた人間が望みを口にしなければ契約が成立しないことだ。しかし、もしここで妻に全てを話そうと

すれば、ベルトは彼女をあそこから飛び降りさせて殺すに違いない。もはやキリウスに残された手段は一つだった。それは、賭けだった。

889ドワーフ:2010/06/21(月) 21:21:49 ID:HW/cTXWU0
「やめて、あなた…やめてぇ!」
 ルメーユは夫のもとに駆け寄った。
「本当に、すまなかった」
 キリウスはそう言って前のめに倒れこんだ。ふわっと身体が浮く感覚があったかと思うと、ぞくっとする重力の感覚が全身を走りぬけ、次の瞬間には

全身を硬い感触が打ち付けた。
 下方に山積みになっていた瓦礫に身体を打ち付けて、キリウスは糸の切れた人形のように地面に転げ落ちた。手足はあらぬ方に曲がり、頭髪には血が

滲んだ。しかし、そんな状態で彼は目を薄っすらと開けて空を見た。
「はや…く……、はやく、きて…」
 彼は辛うじて賭けに勝った。この状態ならば死は免れない、しかしすぐに死ぬわけではない。妻に伝える時間がある。
 目がかすんできた。視界の端から黒い靄が広がって視界を真っ暗に塗りこめた。目が見えなくなってきたのだ。しかし意識はまだあった。身体の自由

はもうなく、四肢の感覚は失われていた。
 酷く長く感じられた孤独の後、暖かく柔らかな感触が彼に触れた。きっと妻だ。
「あ……しっかり…………」
 妻の声が遠い。触れられているのは確かなのに、なんと遠い。
 キリウスは口を動かした。自分の声も聞こえず、声が出ているのかすらもハッキリしなかった。胸の奥から熱した鉄のような何かがこみ上げてくるが

、それを押し殺して彼は妻に伝えようとした。

 誘いにのるな…誘いにのるな……さそいに………。

 とうとう耐え切れずに、喉の奥から赤黒い血を吐き出してキリウスの意識は途絶えた。

890ドワーフ:2010/06/21(月) 21:23:09 ID:HW/cTXWU0
「あなた!しっかりして」
 夫のもとに駆けつけたルメーユは、彼のあまりに酷い状態に悲鳴のような声で言った。
 娘を失い、今また夫を失おうとしている。冷静で居られようはずがない。
「さ……」
「え?」
 夫が口をもぞもぞと動かして、何かを言おうとしている。
「お願い喋らないでください。すぐに誰か人を呼んできますから」
「何が欲しい?」
「え?」
 様子とは打って変わって、はっきりとした口調で夫はそう言った。そしてルメーユの手をぎゅっと握り返すと、再び口を開いた。
「何が欲しい?望む運命を与えよう」
「何もいりません!」
 ルメーユははっきりとそう言った。しかし、夫の顔に涙の雫をぼたぼたと落としながら続けた。
「あなたさえ無事なら、他に何も…」
「契約は結ばれた…」
 そう言うと、夫の手から力がふっと抜けた。そして赤黒い血を口から吐き出した。
「あなた、しっかり!」
 ルメーユは叫んだが、すぐに気づいた。夫が寝息のように呼吸していることに。まだ息がある、すぐに治療すれば助かるかもしれない。
「あなた、すぐに戻ります」
 そう言ってルメーユは立ち上がると、スカートの裾を持ち上げて走り出した。

891ドワーフ:2010/06/21(月) 21:24:16 ID:HW/cTXWU0
 "最後の舞台"から少し離れた宮殿の屋根から、アスティマは彼らの様子を眺めていた。走り出したルメーユを見送って、彼女はハンカチの端を噛み締

めて涙を流していた。
「ああ、あんなに必死になって。なんていじらしいの」
 さめざめと流れる涙と拭って、拍手した。
「運命の人でない人と、あそこまで愛し合えるなんて!これこそ運命を超えた真実の愛ってやつね」
 止まらない彼女のスタンディングオベーション。まるで演劇でも鑑賞していたかのようである。
「ああなんて素晴らしいの。なんて美しいの…」
 そう言ってアスティマは屋根から高く跳躍すると、ぼろぼろになって横たわるキリウスのそばにふわりと着地した。そして、意識のない彼に向かって

再び拍手した。
「本当に素晴らしい舞台だったわ。もうキスしてあげたいくらい。でも、奥さんに悪いからやめておきましょうか」
 返事などあるはずもないのに、アスティマは一人で話しかけ続けた。
「そんな残念そうな顔をしないで。代わりに取って置きのプレゼントを用意したわ。第二幕は感動の再会から始まるから楽しみにしてて!」
 そう言うと、アスティマはキリウスに背を向けた。
「それじゃあ、元気になったらまたお会いしましょう」
 アスティマの姿が黒い霞となって空に消えた。
 キリウスは知らない。運命から外れた人間が、その死後どうなるのか。運命から外された存在がどんなものなのか。

 かつて、貧民の身から一代で古都一番の大富豪となった男がいた。彼は通常なら許されない貴族の女との婚姻を認められた唯一の男だった。しかし娘

の死をきっかけに心を病み、やがてすべての財産を処分すると妻と共にいずこかへと姿を消したという。その後、彼らの姿を見たものは居ない。

892ドワーフ:2010/06/21(月) 21:39:49 ID:HW/cTXWU0
お久しぶりです。
最後の書き込みからかなり間が空いてしまいました。
しばらく書かずにいたのですが、ふっと創作意欲が沸いてきたというか何と言うか…
また、稚拙な文章ではありますが投稿せさせていただきます。

以前と同様にユニークアイテムをネタに書いてみたのですが、久々なくせに「運命」などという
ややこしいものをテーマにしてしまったために、今回は話を破綻させかねない矛盾が随所に出てきてしまいました。
なんとか、読める形にはなったと思います。
しかし、最初は幸運を呼ぶベルトの明かるい話でいくつもりだったんですが、
どこでどう間違ったか…。一人の人間の都合で運命をいじったらどんな事になるのだろう
と、考え出した途端に一気に暗い話に方向が変わってしまいました。
しかも救いもないという…。
こんな話ではありますが、読んでやってくださるとうれしいです。

893名無しさん:2010/08/14(土) 22:18:57 ID:VKtGLx5k0
◇68hJrjtYさんがまだいらっしゃらないようなので不足ながらも感想を書かせていただきます。

フォーチューンフィールという、幸運のアイテムのお話なので、
さぞや愉快なお話なのかと思いきや、幸運の裏にある他人の不幸だったり、
予定調和に翻弄される人間の苦しみだったりと、非常に感慨深い作品でした。

愉快な話ではないにせよ、ただ暗いだけの話にしないところにドワーフさんのお話のつくりの上手さを感じました。
この話の鍵となる、妙に人間臭くて感情豊かな悪魔が、ともすれば少し悲しい気分になりそうなこの小説に
明るい灯をともしているような気がしています。

運命といったような非っ常に難しい主題をここまできちんと形に出来るドワーフさんの手腕に憧れます。
最近はこの掲示板もかなり下火になって職人さんもあまりいらっしゃいませんが、また何かふっと創作意欲が湧いたらぜひいらしてくださいね。

駄文失礼しました。

894名無しさん:2010/08/29(日) 17:22:06 ID:JIr.8KPA0
やっぱいいなぁ、このスレ・・・

895復讐の女神:2010/09/05(日) 15:55:50 ID:Xt88cq/60
ゲーム世界の感覚を取り戻そうとINしようとしたら、ログイン出来なかったでござる。
垢盗まれちゃったみたいだ。
未使用スフィア3つが・・・

896名無しさん:2010/09/13(月) 16:20:32 ID:HQXR5Yuk0
aaa

897ドワーフ:2010/09/28(火) 23:43:46 ID:HW/cTXWU0
マルチェドと復讐の傷跡

 そこは郊外の霊園。墓石が規則正しく、どこか寂しげに立ち並ぶ場所。穏やかな日差しの下で、男は苦しみ悶えていた。
 頭の禿げ上がった初老の男。貴族のような美麗な装いで、地に膝をついて喉の奥から振り絞るような声で何か喚いていた。
「ううぅぅぅぅ……。うぅぅぅ。アルジネフぅぅ。よくも……、よくも」
 胸からおびただしい量の血を垂れ流し、彼はひたすらに憎悪を訴えていた。止め処なく溢れ出る赤い血は、不思議なことに地面に滲むこと
もなく、ただただ地の底へ滴り落ちるように地面に消えていた。
「よくもぉ!よくもぉぉ……、娘を…裏切ってくれたな……」
 強烈な痛みに悶えるようにその身に爪を立て、掻き毟る。魂の叫びは響きこそすれ、誰にも届くことはない。
 いや、一人だけ例外がいた。
 小さな、ぶかぶかのコートでその身を覆う人物。灯台のような兜の奥から哀れむ様な声がした。
「それは違います」
「ぐぅぅぅぅあ゛あ゛ぁぁぁぁ……」
 コートの人物の名はマルチェド。彼は何の益があってか、嗚咽を漏らす男に話かけ続けていた。
「フェレネンドさん。フェレネンドさん。僕の話を聞いて下さい」
 しかし、いくら話しかけても男はマルチェドを無視し続けた。まるで見えていないかのように。
 マルチェドはそっと男に近づくと、その透き通った身体に触れた。

898ドワーフ:2010/09/28(火) 23:45:36 ID:HW/cTXWU0
 そこは郊外の霊園、しかしそこに居るのはフェレネンドとアルジネフという二人の男だった。
 フェレネンドは霊園の寂しげな景色と雰囲気をどこか楽しんでいるようだった。そして、やって来たアルジネフを微笑を浮かべて迎えた。
「きたか。アルジネフ」
「何の、御用でしょうか」
 フェレネンドとは親子ほど歳の離れた青年。笑みを浮かべるフェレネンドとは対照的に、アルジネフは決意を固めたかのような、まるで決
闘の合図を待つ騎士のような、どこともなく悲壮とも感じ取れる硬い表情をしていた。
「そう緊張するな。ここなら誰も来ないから、ゆっくりと話でもしようじゃないか」
「そうですか…」
 そう言ったっきり、二人は黙ってしまった。アルジネフはフェレネンドが再び口を開くのを待ち、フェレネンドはというと間を計るように
ゆっくりと、アルジネフの周囲をうろついていた。緊張しているのは、ひょっとするとフェレネンドの方なのかもしれない。
 小さくため息をついて、フェレネンドはようやく口を開いた。
「アルジネフ。お前の正体は割れた」
「そうですか」
 まるで最初から分かっていたかのように、アルジネフは即答した。それを分かった上で、覚悟してこの場に来たのだろう。
「お前の家族を殺したあのとき、お前の死体がないということを知ったあのときから、一度たりとも心の休まることはなかった。まだ年端も
行かぬ小僧だったとはいえ、あの執念深い男の息子だ。きっと復讐しにくるに違いないと思っていた」
「…………」
「そして思った通り、お前はこうして私の前に来た。娘に近づいて、私に接近する機会をずっと伺っていたわけだ。二十年間も復讐のために
費やすとはな、もっと別な人生を送ろうとは思わなかったのか」
「……別の人生。今とは別の人生、という意味か?それならあの日、お前に壊されたよ」
 アルジネフは怒気をはらんだ声で言った。口調は変わり、刺すような目つきをしていた。
「やはり、あの男に似ているな。割り切ったり妥協したりすることを嫌う頑固者だ」
 穏やかな日差しが当たりを照らしている。木漏れ日が揺れるレースのカーテンのように射す様は、霊園とはいえ幻想的だった。
 そんな雰囲気とは対照的に、陰険な眼差しでフェレネンドを睨み付けるアルジネフに、フェレネンドはやれやれといった風に肩をすくめた

「やれやれ、ゆっくりと話したいと言ったのにな。何か勘違いされているようでは、そうもいかないな」
「勘違いだと?」
「ああ、私はお前を殺す気などない。逆にお前に復讐を遂げさせてやろうと思っているのだ」
 アルジネフの眉がぴくりと動いた。動揺を隠そうと、油断を見せまいと、彼はさらに態度を硬化させた。
「ふざけるな」
「ふざけてなどいない。実を言うと、娘が生まれてから心変わりしてね…。いくら邪魔な商売敵だったとはいえ、何も殺すことはなかったん
じゃあないかと。いや、それは避けられなかったにしても子供たちの命まで奪うことはなかったとね」
 フェレネンドはアルジネフの目をじっと見据えた。フェレネンドは実に安らぎに満ちた、穏やかな表情をしていた。

899ドワーフ:2010/09/28(火) 23:46:19 ID:HW/cTXWU0
「時にアルジネフ。お前は、私の娘を愛してしまったな?」
「馬鹿な…」
 アルジネフは目を逸らして言った。僅かに息が乱れたのをフェレネンドは見逃さなかった。
「ふっ、分かりやすい男だ。だが娘は隠しもしなかったぞ」
「…………」
「皮肉なものだな。復讐のために近づいた仇の娘を、愛してしまうとはな」
 フェレネンドはアルジネフに歩み寄ると、手を伸ばせば届きそうな距離で立ち止まった。
「正直お前を殺してやろうかとも思っていた。だが、お前と連れ添うことがあの子にとっての幸福だというのなら、過去の因縁をこの命で清
算できるのなら、ここでお前に殺されるのも悪くない」
 そう言って、フェレネンドはアルジネフに懐から取り出した短剣を差し出した。
「自前の物を用意しているだろうが、これを使え。あとの処理は私の執事に任せればいい。安心しろ、あいつは口が堅いからな。信じられな
いかもしれないが、信用して欲しい」
 アルジネフはじっと差し出された短剣を見下ろした。飾り気のない無骨な短剣だった。
(こいつは、何を言っているんだ…)
 アルジネフは、予想外の展開に困惑していた、訳ではない。ただ、目の前の男の態度が気に入らなかった。
 アルジネフが無言で短剣を受け取ると、フェレネンドはふふっと笑った。
「はぁ〜…。妙なものだな、あれほど恐れていたお前のことを、こんな気持ちで迎える日がくるとはな」
(こいつは、何故笑っている?)
「思えばお前の父親は憎たらしい男ではあったが、立場が違えばきっと良い友となっていただろうな…」
(勝手なことを…)
 アルジネフは短剣の鞘を捨てた。鋭く輝く刃に、自分の顔が写っている。フェレネンドからは俯く彼の表情は見えないが、彼には自分の表
情がよく見えていた。今の彼の心を表す表情が。
「さあ、やるがいい。娘の花嫁姿を見れないのは残念だが、こんな晴れ晴れとした気分で死ねるのだから、これ以上は贅沢というものだ」
(こいつは…こいつは……)
 アルジネフはわなわなと震える手で短剣の柄をぎゅっと握り締めた。
(父も、母も、妹や弟も……、死にたくはなかった。最後の瞬間まで死の恐怖に怯え、苦しみぬいて死んでいった)
「どうした?さあ」
(なのにこいつは、満足して死のうとしている)
「躊躇うな、早く」
(許せない…)
 アウジネフはフェレネンドの肩を空いている左手で掴んだ。そして、笑みを浮かべているフェレネンドに向かって言ってやった。
「お前の娘も後で送ってやる。だから安心して、死ね」
「なにっ?」
 フェレネンドの表情が強張った、その瞬間を逃さずアルジネフは奴の胸に向かって短剣を突き立てた。
「馬鹿な…。あの子は…、本気で、お前を!」
「黙れ!絶望して死ね!」
 すがり付いてくるフェレネンドに対して、アルジネフは短剣をさらに捻り上げた。そして引き剥がすように男を突き飛ばした。フェレネン
ドはうめき声を上げてのた打ち回ると、やがてぴくりとも動かなくなった。あっけない復讐劇の幕引きだった。
 アルジネフは先ほど自分が言った言葉が信じられなかった。短剣をぽとりと落とすと、つぶやくように言った。
「出来るわけが、ない…」
 辺りは相変わらず穏やかな日差しに包まれている。彼らの心など知らぬように。

900ドワーフ:2010/09/28(火) 23:46:53 ID:HW/cTXWU0
「そうか、娘は生きているのか」
「はい、二人のお子さんに囲まれて、本当に幸せそうでした」
「そうか…、そうか、よかった」
 フェレネンドはうっすらと目に涙を浮かべていた。
「長い間、ずっと酷い悪夢を見ていた気がする。私がアルジネフにしたことを思うと、これも当然の報いなのかも知れない。あれだけのこと
をしておいて、自分に都合よく全てを清算しようとした私は、傲慢だったのかもな」
 フェレネンドはすくっと立ち上がると、マルチェドに深々と頭を下げた。
「ありがとう。君には本当に感謝している。これ以上の謝礼ができないのが残念だ」
「とんでもない、僕はただ…苦しみ続けているあなたを救いたかっただけです」
 フェレネンドはマルチェドの、目をじっと見た。妙な姿をしているし、顔も分からないが、その兜の奥の輝きは何よりも優しく暖かに感じ
られた。
「ああ、何て清々しい良い気分なのだろう。最後に娘を一目でも見たいが、これ以上は贅沢か」
 そう言って。フェレネンドの魂は天へと昇っていった。
 マルチェドはそれを見送ると、悲しげに俯いた。
 死んだ人の心を救うことは出来たが、生きている人間の心を救うことは出来ないでいた。
 マルチェドに全てを告白したアルジネフは、心に自分自身に対してのわだかまりを抱いたまま奥さんと向き合っている。復讐の刃は彼自身
の心をも傷つけていたのだ。
 その霊園は相変わらず穏やかな雰囲気を保っていた。

901ドワーフ:2010/09/29(水) 00:20:00 ID:HW/cTXWU0
あとがき

連投になってしまいましたが、書き込ませて頂きます。
かなり前に書いたマルチェドというネクロマンサーを主人公とした話をネタに、
また一つ書いてみました。
6冊目の403-419とこのスレの>>417-420に過去に書いた話がありました。
続きというわけではないのですが、どこだか分からなくて、見つけたときは
押入れから懐かしい玩具などを見つけたような気分になりました。
マルチェドと…なんてタイトルにしてますが、今回はマルチェドは端役です。

ここを読んでくださっている方がいてくれて、正直うれしいです。
もう誰も見てないのかな…なんて少し不安に思ってました。
本当にありがとうございます。

902名無しさん:2010/10/02(土) 11:18:03 ID:ICvGNH4Y0
>>ドワーフさん
なんとも物悲しくて、余韻の残る作品でした。
もし登場人物がどこかでこの作品とは違った選択をしたとしても、決してハッピーエンドでは終わらないような、
どこかで誰かが必ず心の傷を負ってしまうといったジレンマを感じました。

おそらくは、フェレネンドが満足して成仏したことはアルジネフに伝わるのでしょうが、
そこからアルジネフがどう自分の罪と向き合っていくのか…。
続きは私たちの心の中に、ということなのでしょうが私としてはアルジネフの幸せを願わずにいられません。

人の罪も、自分の罪も許すことができない弱くて優しい人間のあり方がとても丁寧に表現されていて、思わず感情移入してしまう作品でした。
自分もこんな話を載せられたらいいなあ…と思いながら実際に書くのはとても難しいですね。
相変わらずの手腕に頭が下がるばかりです。 もうここも住人が少ないようですが、またなにか創作意欲が湧いたらぜひいらっしゃってください。



>>復讐の女神さん
その御名を以前拝見したのはずいぶん昔のことだったように思います。
未だに古参の方もいらっしゃっていることが個人的に少し嬉しかったので返信させて頂きました。
運営側が不正アクセス防止のために正規のIDとパスワードにブロックを掛けていて、それでIN出来ないこともあるそうです。
というか、自分がそれありました。
なので、公式サイトにある『パスワードを忘れた』というところに適切なメールを送ればIN出来る可能性はあると思うのですが試してみてはどうでしょうか…。

903名無しさん:2010/10/02(土) 11:20:54 ID:ICvGNH4Y0
連投すみません。一番下まで下がっていたので上げさせていただきます。

904みやびのようなもの:2010/10/02(土) 18:50:53 ID:KYKd7IEk0
◇――――――――――――――――――――――――Red stone novel−Responce

 隠居しすぎてとうとう“バールのようなもの”みたいになりました……。


>復讐の女神さん
 >>902さんのおっしゃる通り、まだ諦めるのは早いかも……!
 あと単純な入力ミスといった点も、もういちどチェックしてみてはどうでしょう。
 とにかくまだやれることはあると思うので、なんとか頑張ってくみてださい(ノ>Д<ノ)

>ほか、作家さんたち
 感想できなくてすみません(汗)

 実は今回は読書ではなく「ネット活動再開」のご報告に来たのです……。
 ――が、なんだかKYな気がしてきました(汗)
 というのもサイトを復活させて自作のサルベージを行っているのですが、それを終えた
あと、おそらく新作のほうはサイトでのみ公開……というスタンスになりますので|ω;)

 疎遠だったうえに無責任なことになってしまい、申し訳ありません(汗)
 そんなわけでURLは自重しておきます。

 要は投稿しなくなってもネット活動は再開したので、たまにはレスしに来ます(*´・ω・)ノ
 ということで。

 もっと活力と時間が欲しい……。
Red stone novel−Responce――――――――――――――――――――――――◇

905名無しさん:2010/10/03(日) 12:14:36 ID:xxrYT74M0
お万個ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最古ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
べろべろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

906名無しさん:2010/10/31(日) 15:44:24 ID:uT.Z0vmk0
このスレ見て思ったのは

自分のブログでやれよ ってことだけですね

907名無しさん:2011/02/03(木) 05:39:03 ID:m7KgF2xA0
夜中にふと書きたくなったので…(´・ω・`)
ううう駄文ごめんなさい。
バレンタインネタです。甘くはないです。



-----------------------------------------------



ざく、ざく、ざく。

リトルウィッチが手際良く包丁を動かすたび、白い清潔なまな板の上でチョコレートは細かくなる。

ざく、ざく、

チョコレートを刻む作業に夢中になっていたリトルウィッチは、ふと顔をあげて窓辺を見た。
二羽の小鳥が戯れている。番だろうか?彼女は眩しそうに目を細め、再びまな板の上に視線を落とした。

すっかり細かくなったチョコレートを包丁の刃に乗せてアルミのボウルに入れ、
脇にやってからリトルウィッチは湯の様子を見た。小鍋の底から泡が浮かび始めている。そろそろ良いだろう。
リトルウィッチが指を差すと鍋の底の火が消える。彼女は鍋つかみを装備すると小鍋をまな板の上に移動し、
先ほどのボウルをその中へゆっくり、浅く沈めた。


日差しの暖かな午後だった。眠気を誘うように、時間はゆったりと流れる。
まどろむような時間の停滞。だが、ひとたび外に出れば冷たい北風に体の熱を奪われるだろう。
リトルウィッチの瞳もまた、冷たく暗い色に翳っていた。
端正な顔を僅かに青ざめさせ、まるで機械のように、溶け始めたチョコレートをかき混ぜる。

そんな彼女が時折顔を挙げては見ているものがある。
調味料の棚にひっそりと置かれた、小さな瓶だ。
中には怪しげな色の液体が入っている。それは惚れ薬だった。

908名無しさん:2011/02/03(木) 05:42:10 ID:m7KgF2xA0

焦がしてはいけない。お湯が混ざってもいけない。
溶かしたキャラメルを混ぜ、あの人が好きな甘すぎないチョコレートを。
チョコレート作りに集中することで意識を逸らそうとしているのに、
目線はどうしてもつられてしまう。――こんなもの、買わなければよかった。
リトルウィッチは恨みがましい目で小瓶を眺める。


そもそも、「惚れ薬」などという単語に釣られたのが気の迷いだった。
アリアンの片隅で売られていたこの小瓶の前で、しかしリトルウィッチは暫くの間立ち尽くしていた。
とりつかれた様に小瓶を見つめるリトルウィッチに、露店を開いていた老女は「半額で譲ろう」と言い、
彼女は震える手でそれを受け取ってしまったのだ。

無論、本物だなどとは信じていない。信じていないが、彼女には根拠が必要だった。
相手を確実に落とせる、という根拠ではない。諦めるための根拠だった。

 リトルウィッチが恋をしたのはギルドのエースだった。
加入当初こそ一緒に狩りに行く機会は多かったものの、時間がたつにつれてそれも目減りし、
今となっては直接会えるのはギルド戦ぐらいだ。
そのギルド戦も彼は前線で戦う一軍パーティーだが、ギルドの平均レベルにも満たないリトルウィッチは
いつも二軍で、顔を合わせている時間など微々たるものである。
 レベルは遥か遠く引き離され、会う事もなく、いつしか声をかけることにすら気兼ねし始め。
強いアーチャーと楽しげに議論する彼を眺めては、溜息を吐く。

 みじめだった。
どれだけ修行に励んでも追いつけない実力も、
膨大すぎて身に付かない知識も、
事あるごとに思い知らされる力量差も、
分不相応の恋をして、まだ諦められずにいる自分も。

それでも好きだった。
彼がギルドホールに現われる度体が軽くなってこのまま飛んで行けそうな気さえしたし、
声をかけられれば胸がときめいた。
彼がいるだけで、心があたたかいもので満たされる。
春の木漏れ日のように。


だけど、もうだめだ。
もう耐えられなかった。苦しさで胸が押しつぶされそうだ。
彼のふとした優しさが、気遣いが、かつて愛した彼の魅力全てがリトルウィッチを苛む。
どんなに好きでも、どれだけ幸せを感じても、彼に届くことはないのだ。
彼が自分を振り向くことはない。悲しいぐらい知っている。だから、もう、諦めるのだ。

心が躍るような歓喜とみじめな落胆を繰り返し、リトルウィッチは疲れ果てていた。

909名無しさん:2011/02/03(木) 05:44:42 ID:m7KgF2xA0


リトルウィッチは小瓶の中身が本当の「惚れ薬」などでないことを知っていた。
だが彼女はそれを本当の「惚れ薬」だと信じ込もうとした。

バレンタインデーに、惚れ薬を混ぜたチョコレートを。

「惚れ薬」は偽物だ。だから効き目が現われることはない。
だけど「惚れ薬」は本物だ。「惚れ薬」を混ぜたチョコレートですらままならなかったのだから、
彼がなびいてくれなくても、それは仕方ないのだ。

仕方ない。
それこそが、彼女が50万ゴールドという大金と引き換えに望んだ「根拠」だった。

(バレンタインデーの夜、私は彼を誘い出し、綺麗にラッピングしたこのチョコレートを差しだす)

リトルウィッチは小瓶を捻り、ボウルの上で傾ける。

(彼は優しいから、きっと受け取ってくれる)

思ったよりとろみのある薬品が、瓶の口へ向かって流れ始め、丸く滴を作る。

(そして次の日彼は何食わぬ顔でホールに現われて、いつもみたいに挨拶して、あの人と狩りに出かける)

(それで、おしまい)


しかし怪しげな色の薬品が滴り落ちる前に、無色透明な滴がボウルに落ちた。

「あれ」

 おかしいな、とリトルウィッチは笑った。
後悔などしていない、と思う。悩んだが、それで良いと決めたのだ。
溶かしたチョコレートに惚れ薬を混ぜて、型に流して固め、デコレーションし、
それを包んで当日を待てばいいだけ。簡単な計画だった。割り切ったはずだった。
なのに、彼にやんわりと断られる場面を想像すると、何故か途方もなく悲しくなり、鼻の奥がツンとする。
何でもない振りで笑い飛ばそうとした。しかし、次々と溢れてくる涙は止まらない。

この期に及んでまだ好きか。
いじましくもこんな薬に縋って、言い訳を作らねば諦めが付かないほど、好きか。
自分でも馬鹿馬鹿しいと散々思う癖に、どうしても惹かれて仕方ないほど、好きか。

好き。好き。大好き。

でも。


「ふ、ふふ、ははは…っ」

 笑いが止まらない。服の袖で目元を覆いながらリトルウィッチは声を上げて笑った。
そしてひっく、と大きくしゃくりあげたかと思うと、その場に崩れ落ちた。
まるで子供のような嗚咽が漏れてきて、堪えようとするのにできない。
口元を抑えて、冷たい木製の開きに縋りつきながら、彼女は咽び泣き続けた。



-----------------------------------

おしまい。



リトルウィッチは病んでない…です。
ネガティブになりすぎてとてつもなく絶望的な気分になってるだけ。
でも自分でも薄々このままじゃいけないなーと思って区切りをつけようとするんだけど
やっぱり諦められないみたいな感じみたいな。

予想以上に場所とりました。
ぐだぐだで本当ごめんなさい。

910ヒカル★:削除
削除

911ヒカル★:削除
削除

912名無しさん:2011/03/04(金) 06:00:04 ID:PAcVRaHU0
>>907~909さん
二月初旬にバレンタインネタを先行した小説の投稿、ありがとう御座います。
一人の剣士を想う、リトルウィッチの儚げな想いが、伝わって来ました。
小説を読み進めていく中で、とても悲しい気持ちにもなりました。
続きがあるのではないか?と思いましたが、流石に一ヶ月前にもなる投稿に
期待を寄せるのは間違っていると思うので一言、終始面白かったです。

913名無しさん:2011/03/05(土) 18:19:26 ID:VlWscOXQ0
3Dカメラで撮ったおっぱいエロすぎw
すれ違いおっぱい@ともも
ttp://oppai.upper.jp

914名無しさん:2011/03/26(土) 14:36:25 ID:3n3Lz4bg0
てか、3Dカメラで撮ったおっぱいがエロすぎるw
ttp://3dpic.99k.org

915:2011/06/20(月) 19:36:42 ID:EGVrtTjo0
初投稿

友達だった、
親友だった、
でもそれは、過去の話だった、
でもその話も過去の話になった
今、私の前には、友人、親友、「だった」人が、立っているのだ
たくさんの傷を負い、ボロボロの姿で。




話の発端はこうだった、
兄と喧嘩になった、
として兄が悪くないと主張した、
それでも私は譲らなかった
だから兄は事実を伝えるために洞窟へ向かった、
そして、一日がすぎた
二日が過ぎた
三日過ぎても帰らなかった
さすがに心配になったから
探しに行くことにした
万が一のときのために
小さな小刀を持って
(今思うと何の役にも立たなかったのだけれど)
そして家を出た

洞窟に着くと、生臭い香りがして
嫌な気分になった
けれども、進んだ
一本道で、すぐに開けた場所に出た
でも兄は見つからなかった
だからもっと奥に行った
奥に行く途中で、
いや、広間から奥に進む手前で、嫌な感じが強くなった
今思えば、このとき引き換えしていれば、
怪我もせず、死に掛けることも無かったのかも知れない
でも、あそこで戻っていたら、
この二人に会うことも、なかったかもしれない
そんなことを考えていた、
真っ青に染まり、凍りついて
巨大な槍に貫かれて倒された、二体のファミリアの前には
普通には見ないような、
青いジャケットを羽織り、白金の杖を持っているWIZと
フルプレートアーマーを着て、巨大なランスを持った、ランサー
かつての親友と、イタズラをしてよく怒られた、友達だった
そう、あの時の様な、笑顔を、また、
見られた…
涙が、あふれて、止まらない、
笑おうとしてるのに、鼻の奥がツーンとして、笑いながら、泣いていた
嬉しかった、いきなり村を飛び出して行った少年
自由気ままで、イタズラ好きで、
教育所(学校と呼べるほど立派では無かった)
での成績も一番悪かった
アイツ…シュンスケが
ウィザードになってるなんて…
そして、とっても大人しくて
一歩下がって何をするにも見ていた彼女、
ミレイが、ランサーになって前衛を、こなしていた
それでも、私に向ける笑顔は、
シュンスケは、あの時の様に歯を見せていかにも悪戯小僧といった感じで、
ミレイはやっぱりあの時の様に、優しく、静かに微笑んでいて、
あの時と、かわってないなぁ…


うん…兄も、見つかったし、帰ろうか
家で、兄と話した、

私、冒険家になりたい

兄は、ダメだ、と言ったけど、やっぱりなりたいものはなりたい
兄を何とか説得して、
(半ば強引に納得させて)
私は、冒険家になる為に、
ココ、ブルンネシュティングの地に、
訪れたのであった…




つづ…く?

916名無しさん:2011/06/20(月) 22:21:26 ID:v5ws8XBs0
久々のご新規さんにテンション跳ね上がりながら感想書かせて頂きます。

全体を通してとても瑞々しい文章に心惹かれました。
『私』の回想録のようなお話の構成ですが、『私』から見たシュンスケやミレイへの懐かしさと憧れがとても素直に伝わってきます。
初投稿にも関わらずこんなに透き通った文章が書ける>>915さんに脱帽です。

茶目っ気溢れるシュンスケと、物静かで優しいミレイ、そして冒険家になることを決意した『私』。
この三人がこの後どういう物語を紡いでいくのか。
ゆっくりで構いませんのでもし続きが出来たらぜひ投稿して下さいな。

917名無しさん:2011/08/01(月) 22:23:57 ID:qj3ui2iE0
ちょwこの女↓乳輪見えてるww
ttp://akb.cx/QvQ

918名無しさん:2011/08/28(日) 17:14:54 ID:mzHxSLf20
過疎ってますね・・・
好きだった白猫さんが今も活動してるのかすごく気に成ります・・・
今活動してる場所とかあったら見てみたいなあ・・・なんて・・・。

919名無しさん:2011/10/05(水) 00:29:37 ID:fqZ/5DPs0
からあげ海賊団

920名無しさん:2011/10/05(水) 02:21:35 ID:hMN.Cqcs0
ちゃんとキッチンペーパーで油ぬいとけよ

921名無しさん:2011/10/25(火) 01:45:50 ID:W.wACHYU0
高卒24歳平社員、残業ナシで手取り21万童貞
どうするよこいつ

922名無しさん:2011/10/25(火) 07:48:11 ID:SQrbxQ.c0
このニート野朗wwwwwwwwwwwwwwwwwww

ギャッフヒョーイwwwwwwwwwww

923名無しさん:2011/10/25(火) 17:40:14 ID:3XD7c8GM0
この童貞野朗wwwwwwwwwwwwwwwwwww

ギャッフヒョーイwwwwwwwwwww

924名無しさん:2011/10/26(水) 01:32:08 ID:5fbEFjyc0
高卒24歳平社員、残業ナシで手取り21万童貞
どうするよこいつ

925名無しさん:2011/11/13(日) 04:23:28 ID:7Y2qzZ5w0
ttp://blju.net/

926名無しさん:2011/11/21(月) 21:31:10 ID:Rk69/7zs0
संस्कृत; saṃskṛta, Sanskrit

927名無しさん:2011/11/22(火) 02:42:15 ID:Rk69/7zs0
夢芝居歌いな!

928名無しさん:2011/12/03(土) 05:47:27 ID:TWyS9Dro0
実写版でるとしたらテイマは和田あき子だな

929名無しさん:2012/05/09(水) 11:39:34 ID:hgYbCmbk0


930名無しさん:2012/08/30(木) 11:10:54 ID:tWS/1nwY0
たまにはこういう所も覗いてみるもんだな

931名無しさん:2012/09/28(金) 07:20:34 ID:QuKhxb3s0
そう思い、視界の先に見たものは・・・

932白猫:2012/10/09(火) 20:11:52 ID:051e.xxM0
(^o^)わたしです

というわけでみなさまお久しぶりです.
最近RSの広告を目にするなーと,ふらりと帰って来ました.
コテの皆様がいなくなり8冊目はいかないだろうと言った予感が当たっちゃってしょんぼりしている一方,名無しさん方で細々と作品が続いていてほっこりしました.
とくに>>907さんがとても琴線に触れました.狂気愛ってイイよね.

>>918さん
1年ほど前の書き込みですが,好きだったと言って下さり感謝感激でございます('ω` )
活動としては2年ほど前に小さな同人ゲームのライターなんぞをやったり某同人ゲームのSSを書いたりしておりましたが,趣味の領域は出ておりませんなだ.
たぶんこれからも個人用のブログで細々と続けるにとどまるとおもわれます.

最近はもう筆にも触れず,PlanetSide2の戦場で戦車と爆撃機を乗り回したりLeague of Legendsの舞台でサモナーをやっております.
ゴミ箱みたいな名前を見かけたらきっとそれは私です.縁があれば戦場でお会いしましょう(笑)
それでは2年ぶりで多分最後になるでしょう,白猫の提供でお送りしました。
またどこかでーヾ(゚ω゚)ノ゛

933ワイト:2012/11/14(水) 04:38:22 ID:9porlFj.0
――――
???
 
 此処は、数々の冒険者が拠点にし、日々活動を続ける中心街。そう、古都ブルンネンシュティグ。
今でこそ、昔のような活気は失われつつあるが、今でも、ある程度の冒険者達が行き交う街で有名だ。
活気が失われた原因の1つに、此処より西に遠く離れた街、オアシス都市アリアンが主に影響している。

 オアシス都市アリアンとは、オアシスと名の付く通り、街の中心に湖とも呼べる程の豊富な水で潤った街。
生活源にもなるその水に、自然と一般の人々が集まり、また冒険者も商売を目的に訪れるにもなり、都市にまで発展した。
そして、古都ブルネンシュティグには、大々的に宣伝出来るポイント……つまり、アピール出来る何かがない。
少し前までは、「RED STONE」と呼ばれる赤い石の噂が冒険者の意欲を掻き立てた。それの情報源で賑わったのだが……

 「RED STONE」とは、入手出来れば、願いが叶うだとか、巨万の富を得るだとか、不老不死になれる等々
噂が噂を誇張し、そんな赤い石を巡り合って冒険者達が競い合った時代があったが……今は、「終わった」
何故かと言えば、その「RED STONE」が「悪魔」と呼ばれる、地下に身を潜め、普段は表立った行動をしない
「人間」ではない、その存在が先に手に入れたと言う噂が流れた為だ。それも、仕方がなかったと言える。

 元々「RED STONE」の所有、管理をしていた「天使」と言う「悪魔」とは対立関係にある立場の「誰か」が
何を思ったのか、「天使」の住まう天上界から、その「RED STONE」を「人間」の住まう地上界に投げ落としたのだ。
その「誰か」とは、数ある天使の中でも最高位の地位に立つ、かつて「戦神の天使」の肩書きで知られた
「アズラエル」の所業とも、後に各界で噂され始めたのだが、それはまた別のお話である。

そして、今新たに冒険者として名乗りを上げる1人の少年の、「RED STONE」を巡る旅に出る物語の始まり、始まり……

――――
ある場所

「ねぇねぇ、それ何読んでたの?」
っ!――パタン。

今読んでいた「RED STONEの起源とその先」と「古都ブルネンシュティグとオアシス都市アリアンの歴史」
についての本を勢いよく閉じて、声を掛けられた先に目線を移す。

「え〜、別に読んでたっていいじゃない。どれどれ?」
 目線を移すと白いローブに身を包み、肩まであるかと思う銀色の髪の頭上にティアラのような冠を付けた……
いや、乗せた?少女が、微笑みながら僕が先程まで読書していた本に触ろうと、目の前に立っていた。

「あっ……なんだ、「ラピス」か。いたんなら、普通に声掛けてくれよな。誰かと思ったよ……」
「あら、失礼ね。幼馴染みの声が他の誰かに聞こえたの? っていうか、またこの本古いわねぇ。こういうの好きなの?」
 薄々誰かは察しは付いていたが、それでもやっぱり第一声は、挨拶から入ってくれるとありがたいと思う僕であった。

「何よ〜、ねぇ、聞いてる?」
 反応がなかったのか、再度返事の催促を促して来たラピスに慌てて相槌を打つ。

「ああ、うん。聞いてるよ。ごめんごめん、ちょっと考えごとしてたんだ。」
「ホントに? ……まぁいいわ。それより、明日テストに出るところ教えなさいよ。」
「ええ? それが目的だったのか〜?」
「いいじゃない。こんな図書館まで来るぐらいなんだから、勉強もしてたんでしょ。」

 間違ってはいなかったけど、図書館まで来て勉強や読書をするのは、1人で集中したいためであって……
「なに、ブツブツ言ってるの……、それじゃ今すぐ私と勉強しましょう。特にテストに出るところね!」
「仕方ないなぁ、そろそろ読書も止めにするところだったし、テスト勉強といきますか。」

そうして、僕が座っていた横の椅子にラピスが腰掛けて、2人のテスト勉強が始まった。

934ワイト:2012/11/14(水) 04:39:22 ID:9porlFj.0
――――
図書館

 僕とラピスは、古都ブルネンシュティグに最近建造されたと言われる、ブルグ学校と呼ばれる学習院に通っている。
ちなみに、僕とラピスは先述の通り幼馴染みの間柄で、学校も同じクラスのため、勿論テストも被るのだ。

「――ねぇ、この「スキル」の仕組みは、どうなってるの?」
「ああ、この「シマーリングシールド」っていうのは〜〜……」

 「スキル」とは、昔は元々の才能や頭のよい、一部の冒険者達が「モンスター」を相手に使用した、特有の技。
現在では、修行の積み重ねや閃きと言った要素で、努力次第で一般の人々でも使用することが可能になった物だ。
大体は、ブルン学校の入学時に目指す職業を決めて、それに向かって卒業時には、専門的なスキルをいくつか得ることが出来る。
現実で言えば、ある種の専門学校のようなものだ。今、勉強しているのは、その数あるスキルの仕組みについてである。

「へ〜……、やっぱり詳しいんだね。わざわざ、図書館にまで来た甲斐があったわ。」
「ま〜な〜。でも、今のは僕が目指す「剣士」のスキルだから、覚えておかないと、後で先生に怒られちゃうしな。
 それより、ラピスも日頃「ウィザード」に向けての修行や勉強は、やってるものなの?」

「わ、私はいいのよ! そういうのは、前日に頑張るタイプなの!」
「そ、そうなのか。んじゃ、今が前日なんだから今日は張り切って勉強しよう!」
「ええ〜……」「ええ〜、じゃない!」

職業には、種類が存在する。上の例で言えば、「剣士」と「ウィザード」だが、この他にも様々な職業がある。

――――
図書館―夕暮れ

「――ふ〜、そろそろ、こんなもんでいいかな。ラピス、遅くまでお疲れ様。」
「もう……、前日に頑張るって言ったけど、何もここまで〜〜……」
「ま、まぁ! いいじゃん。これで、明日のテストは満点間違いないよ。」
「そ、そうかしら……それなら、やった甲斐もあったわね。それじゃ……あっ」

少し長い時間椅子に腰掛けていたせいか、立ち上がろうとしてラピスの態勢が崩れる。
咄嗟に、僕の身体が上手く動いてくれたのか、足元から崩れそうになるところで、ラピスの身体を両腕で支えた。

――トサ。

白いローブを纏っているせいか、見た目は少し大きく感じたが、やはり身体は、細身で華奢なところが昔から変わっていない。

「(……思ったより、軽いな)」
「……ちょっとっ!」

「あ、えっ!ご、ごめん!」
考えていたせいで、支えっぱなしのままだった。すぐに離れたけど、少し俯きになっていたラピスの表情が赤かった気がする……

――ボソッ
「……(「ラズル」なら)別にいいわよ……」
「ん? 何か言ったかな? じゃ、次からは、勉強の時間も考えて頑張っていこうな。」
だいぶ紹介が遅れてしまったけど、僕の名前は、「ラズル」。これからも、よろしくね。

「誰に紹介しているのよ……! もう、周りに誰もいないわよ?」
「う、うん。なんかそうしないといけない気がしただけだよ。時間だし、帰ろうか。」

935ワイト:2012/11/14(水) 04:41:22 ID:9porlFj.0
――――
テスト当日

 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン〜〜……ガララッ
ザワザワ……ザワ

「よし、お前ら〜前から言っていた通り今日は、テストだ。そして、今日のテストは
 期末の評価に関わるものだからな! 心して受けるように。では、配っていくぞ〜」
「うわ〜、そういえばテストか……なぁ、あれやった?」「いや、俺もなんもやってないな……」
「俺、全然やってないわ〜、対策してないわ……、昨日実質1時間しか寝てないわ〜。」

生徒達の言葉が飛び交う中、ラピスとラズルは、2人とも少し余裕の表情を見せていた。

「ラピス大丈夫か?昨日やった通りやれば、2人共いけるさ。」
「そうね……頑張るわよ。……ラズル、昨日は…あ、(ありがとう)」
「……? ちょっと聞き取れなかったけど、いまなん――」「そこ!もう、テストは始まったぞ!」
「ああっ!すみません。今すぐ取り掛かります。」「(……あははっ…ラズル、ごめん許してね)」
「(チッ、面白くねぇ……!いつも、ラズルラズルって、ラズルのどこが……俺の方が……クソッ)」

――――
テスト終了後

「無事テスト終わったなぁ、ラピス。次の時間でテスト返ってくるし、楽しみだな。」
「そうね。それより……さっきからあなたに、後ろの角の席からずっと、誰か見てるわよ。」
「――えっ?」

 さっと、後ろを振り向くと、目が合ってしまった。――うわっ、よりによってアイツかぁ。どうしようか……
そんな反応するのには、理由があった。それは、僕と同じ職業「剣士」を目指す、1人の生徒だったからだ。

――ガタッ
「――おいっ! お前いま、俺と目が合って下向いただろ! ちょっと待てよ。」
「うわ〜、ラズルがまたアイツに因縁付けられてるぞ……」「いつものことだし、心配いらないだろ……?」

 ザワザワ……ザワ
アイツと呼ばれる生徒が、椅子から立ち上がって、僕の方に真っ直ぐ近付いて来た。

「なんだよ、「ナシアス」。たまたま、目が合っただけだよ。」
「あ〜ん?それが、ガン飛ばしたやつが言う言葉かぁ?テストが終わって、もう余裕ってかぁ?」
 やたら挑発的に、僕に因縁をつけてくるアイツの名前は、「ナシアス」。なぜか、僕には喧嘩腰だ。

「ああ、そうだよ。もう後期のテストが終わったんだしね。これで後は、ナシアスが静かになればいいな。」
「ん〜だとぉ? 今日のラズル君は、ラピスがいるからってちょっと調子に乗りすぎたな、そうだ! 「修練場」まで来い!」
「おいおい、やばくね?おい、誰か先生……」「いや、お前呼べよ。俺トイレ行って来るわ。」

 ああ……しまった。そうじゃないとも言い切れないが、挑発に対してちょっと乗りすぎてしまったかな。
修練場と言うところは、剣士を目指す生徒達が、文字通り修練しに身体を鍛えるのに打ってつけの場所だ。
現実で言えば、小・中学校にある体育館のようなもので、そこにある道具や用具が剣士の用品と言うこと。

「ね、ねぇ? 大丈夫よね? ナシアスもふざけてやってるのよ。あまり無茶しないようにして、頑張って。」
「はは、そうだね。無茶しないように、頑張ってって。なんだか、とても難しいけど努力してくるよ。」
 少し事情が発展したせいか、オロオロして戸惑っているラピスを見ていると、なぜか少し気分が楽になった。

936ワイト:2012/11/14(水) 04:41:46 ID:9porlFj.0
――――
修練場

「へへっ、おい、ラズル。優等生のお前の剣はこれと……盾はこれな。俺はこれだ。
 後、ルールは、剣と盾を使った決闘の一本勝負で、参ったって言ったほうが負けな。」
「ふ、ふん! 後で負けて、後悔するのは、ナシアスの方だ!」チャキ……

 そう言って、武器と盾を確認し構える。修練場にある剣と盾は、木製だけど打たれれば勿論痛いし、怪我もする。
よし……剣は、レイピア。刀身が細長く出来ていて、斬る。よりも、突くに向いている形状の剣だ。
そして、盾は、ラウンドシールド。サークルシールドと呼ばれる円形の盾を、使い易く軽くした盾だ。

 ナシアスの剣と、盾は……!?剣が、クリス。これは、刀身が波のようにくねくねと曲がっているのが特徴的な剣だ。
盾は、ビッグシールド。これは、ラウンドシールドの改良系で、防御面積が広くなったもので少し重くなった盾だ。

「ナシアス!その剣と盾、いつも先生が使っている剣と盾じゃないか!使ってもいい――」
「うるせぇ!あるもんは、使わせて貰う。それに、舐めた態度取ったお前に、相応しい剣だろ……?」
僕の言葉を遮って、ナシアスがやりたいように、言いたいように、僕の何が気に入らないのか。ともあれ、勝負が始まった。

――――
決闘(一本勝負)

「(まずは、相手の出方を伺うべきだ。僕の剣は、レイピア。斬りにくいし、踏み込みにくい……)
 けど、ナシアスは、強い剣を持って油断しているはず……カウンターを狙いにいく!)」
「(へへ……、ラズルの野郎、完全にビビッてるな! このクリスの前じゃ、しょうがねぇか。なら、俺から行くぜ!)」

 ダッ!
先手を取ろうと、勢いよく駆け出したのは、ナシアス。ラズルは、構えを崩さず待ち受けている。

「くらいやがれっ!」
グッ――ブンッ! 
「(こんなの当たらないよ!)」――サッ!
掛け声と同時に、クリスを振りかぶってラズルを斬りつけようとしたが、寸でのところで躱す。

「チィッ! 避けやがったか。――んっ!?」
クリスを振り終えた態勢から、整えようとした矢先、ラズルの姿がない。

 ――ガインッ!「うっわ! っと、っと……ラ、ラズルてめぇ!」
視界の外、ナシアスの身体の横に、クリスを躱して突いたが、運悪くビッグシールドの防御面積がそれを防いだ。
「(いまだ!突きで畳み掛ける!)」ヒュッ、ヒュヒュッ!ヒュンッ!

 態勢を崩したまま、ナシアスが攻撃に備え――ガインッ、ガキィン、ガンッ! ガァンッ!
虚を突いたレイピアの連続突きで、ビッグシールドがナシアスの左手から離れる!
「オ、オレの盾が!! ク、クソッ! ラズル! これでもくらえ!」

ヒュッ、ビュアッ! キィィインッ!!レイピアとクリスの刀身が交錯する――が、武器の性能差か、ラズルが押される!
「へっへっへっへへっ! この勝負! オレぇが貰ったァ!」グッグッググググッ……! ――ガギンッ!
「ま、まだだっ!!」スカッ!――……シュル
「へっ?」なんと、ラズルはレイピアを犠牲に、身体を寄せてナシアスの懐に入った!

「だ、だけどよ、お前もう剣な――あふゅ」ドコォッ!同時に、盾で「ノッキングショット」を放った!
「参った。は、聞けなかったけど、これで僕の勝ち。だな!」ナシアスは、盾の勢いで気絶してしまった。
――キーンコーンカーンコーン
勝利宣言と同時に、次の授業の始業開始チャイムが鳴り響き、大慌てでラズルは、踵を返し教室に向かった。

――――
何だかんだの卒業式

937ワイト:2012/11/14(水) 04:46:56 ID:9porlFj.0
ああ、まずい。sage忘れてしまいました……ご容赦願います。皆様お久し振りです。
いかがお過ごしですか?お元気ですか?前作の続編を忘れたので新作UP!それでは、失礼します。

938名無しさん:2013/02/09(土) 22:11:43 ID:qVU5CCyo0
あげ

939名無しさん:2014/01/30(木) 17:56:47 ID:K.QJyCrA0
【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 七冊目【SS】
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/19634/1209744527/938
効率を追い求める人達のスレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/19634/1182994450/912
アカウントハック対策室8
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/19634/1279163100/912
RED STONE改善・要望会議室
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/19634/1135446371/889
マナー、スラング教えあいスレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/19634/1108722029/848
レッドストーン絵スレ2
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/19634/1188282491/840
実装or未実装 2
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/19634/1137340729/821
【公開】株式会社ゲームオンの株について語るスレ【上場】Part2
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/19634/1242213272/820
ギル戦注意事項スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/19634/1131981555/817
【なんでやねん】 ツッコミスレ 【そんなあほな】
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/19634/1185086386/810

940名無しさん:2014/02/01(土) 11:40:20 ID:hnC45z6A0
一般クエスト達成率100%目指してた

941名無しさん:2014/02/01(土) 11:41:04 ID:hnC45z6A0
レベルが上がるごとに受諾可能クエが増えてなかなか難しい

942名無しさん:2014/02/01(土) 11:41:24 ID:hnC45z6A0
分岐と未実装のせいで絶対に100%にならないことを悟った

943名無しさん:2014/12/18(木) 22:25:59 ID:bfwd4Qfk0
ttp://urx2.nu/fm9p


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