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422名無しになりきれ:2012/12/16(日) 21:42:51
>「ルナちゃんは、今日も気合い入ってるね」

「えへへ、そうでしょ。やっぱこういうメイクの良さがわかるのってリリィだけね。
私の場合、気合い入れてメイクをがんばんないと存在感ゼロなんだもん」
リリィの何気ない言葉にルナは破顔。
うれしく思いながら冬の冷気の停滞する石畳を歩む。

>「それにさ、ササミちゃんは確かに光物好きだけど、値段で身に着けてるわけじゃ無いと思うよ。
 要は好きか嫌いか、気に入ったか気に入らなかったか、じゃないかな?」

「えー…、なにその価値観。ざっくりしちゃってる。まあ、ササミらしいっちゃササミらしいけど…」
ルナがそう言い返した視線の先には、何故か頬を赤らめているリリィがいた。
その様子にルナは、やはりササミを連れてこなかったことに後悔する。
たぶん、リリィはササミのことを憧れているのかもしれない。もしかしたらそれ以上の感情…。
ルナにもその気持ちはわからなくもなかった。
実際、マイナスから始まったササミとの関係も今ではほんの少しプラスに傾いている。
まるで心が、溶け出した氷のように。これも全部……

そして、ボレアースに二人は到着した。
ルナは氷の首飾りを手にとる。

>「フリード君はきっと、とっても可愛いですって褒めてくれると思うけどね。
 でもさ、そう思えるならいい機会じゃない?
 そろそろルナちゃんは、フリード君以外の男の子とも交友関係を広げるべき・・・・・じゃないかなぁ?」
 リリィは水晶のボタンを手に取りながら、「今日はパーティもあるんでしょ?」と畳み掛けた。

「え!?なにそれ。ふざけているの!」
真っ赤な顔でルナは声を荒げた。
そんなつもりで言ったわけじゃ…と返したかったけど、考えてみればそうなのだ。

423名無しになりきれ:2012/12/16(日) 21:47:48
>「ルナちゃんは、今日も気合い入ってるね」

「えへへ、そうでしょ。やっぱこういうメイクの良さがわかるのってリリィだけね。
私の場合、気合い入れてメイクをがんばんないと存在感ゼロなんだもん」
リリィの何気ない言葉にルナは破顔。
うれしく思いながら冬の冷気の停滞する石畳を歩む。

>「それにさ、ササミちゃんは確かに光物好きだけど、値段で身に着けてるわけじゃ無いと思うよ。
 要は好きか嫌いか、気に入ったか気に入らなかったか、じゃないかな?」

「えー…、なにその価値観。ざっくりしちゃってる。まあ、ササミらしいっちゃササミらしいけど…」
ルナがそう言い返した視線の先には、何故か頬を赤らめているリリィがいた。
その様子にルナは、やはりササミを連れてこなかったことに後悔する。
たぶん、リリィはササミのことを憧れているのかもしれない。もしかしたらそれ以上の感情…。
ルナにもその気持ちはわからなくもなかった。
実際、マイナスから始まったササミとの関係も今ではほんの少しプラスに傾いている。
まるで心が溶け出した氷のように。これも学園のみんなのおかげかもしれない。

そして、ボレアースに二人は到着した。
ルナは氷の首飾りを手にとる。

>「フリード君はきっと、とっても可愛いですって褒めてくれると思うけどね。
 でもさ、そう思えるならいい機会じゃない?
 そろそろルナちゃんは、フリード君以外の男の子とも交友関係を広げるべき・・・・・じゃないかなぁ?」
 リリィは水晶のボタンを手に取りながら、「今日はパーティもあるんでしょ?」と畳み掛けた。

「え!?なにそれ。ふざけているの!」
真っ赤な顔でルナは声を荒げた。
そんなつもりで言ったわけじゃ…と返したかったけど、考えてみればそうなのだ。

424名無しになりきれ:2012/12/16(日) 23:32:07
>「そういう事なら、少し勉強いたしますよ?」

「えぇ!ほんとにぃ!?」
店員が伝えてくれた首飾りの値段にルナは驚愕する。
安すぎるのだ。不気味なほどに、低価格なのだ。



>「ああ、いい買い物できた。お茶代が残ってホントに良かったよー」
ルナもこくこくとうなずきながら喫茶店の椅子に腰をおろす。
リリィも嬉しそうに戦利品である紙袋を抱きしめている。

> 「今日買った細工ボタンは、ササミちゃんにプレゼントするのに使うんだ。
> ほら、ササミちゃんっていつも薄着でしょ?今日も寒い格好で尖塔の上に止まってたし。
> 服とかだと、背中とかの顔が隠れちゃうから、ショールを編んでみたの。
> 最初からいくつかわざと穴を開けててね、ボタンの開閉で開いたり閉じたりするの。
> だから一枚もので使ったり、マフラーにしたり、羽織った時には背中とかの顔が出せるようにって思って。こんな感じで」
> リリィはテーブルの上に指で書いてみたが、多分ルナにはうまく伝わらないだろう。
> 「あとはボタンつけるだけだから、今日ササミちゃんに持っていくんだー」

「へー…。やっぱリリィってやさしい。
それじゃあ私も何かプレゼントしようかなー。かわいいくつしたとか」

>「・・・・・・あ、とうとう降ってきたね」
>曇天からひらひらと粉雪がちらつき始めた。

「……うん」
ルナはちょっと悲しい気持ちになる。

>見て見て、とルナにコーヒーカップの中を指差し、「可愛くて飲めない」とちょっぴり眉を寄せた。

微苦笑したあとルナもコーヒーカップの中をみてみる。
するとそこにはシロクマがいた。
ルナはリリィと一緒にマスターに会釈。

>「・・・・・・・ところでルナちゃんは、結局何を買ったの? もしかして、さっきの雪の結晶みたいなペンダント?」
>ルナにシュガーポットを勧めながら、リリィはうきうきとルナの手元を覗き込んだ。

「じゃーん!」
満面の笑み。手元で冷たく光る首飾り。
ルナは両手を首の後ろにまわして首飾りをかけてみせる。
と同時に自分の体が急速に縮んでしまったかのような錯覚に陥り身震いしてしまった。
そして嘆きや悲しみにも似た雄たけびが耳の奥に聞こえたような気もした。

「……」

そこへ現れたのはエンカという男子生徒。

>「へぇ、なかなかマブいねぇ、そこの彼女ォ。リリィのツレか?名前はなんてーの?」

「…ルナ・チップル」

>「俺の名前はエンカ・ウォン。この学園の全ての生徒と友達になる男だ!」

「……え、えっと、がんばって」
苦笑いでエンカにそう返すと、困惑した顔でリリィをみる。
ていうか先ほどリリィが言った言葉のせいで変な意識が生まれてしまう。
今まで接してきた男子生徒とといえば、ほとんど美少女にしか見えないフリードだけ。
それゆえに、ルナは男子生徒に対しての免疫が少ないのかもしれないのだ。

>バァンッ!!!

突然の大きな音にびくりと体を竦ませる。

>「み……水……」
>「分かりましたちょっと待っててください!」
音のした方向、窓の外を見ると何者かにフリードがお酒のビンを手渡している。

「な、なによこれぇ。いきなりアンデルセン童話みたいな感じなんですけど」

425名無しになりきれ:2012/12/16(日) 23:34:57
>「そういう事なら、少し勉強いたしますよ?」

「えぇ!ほんとにぃ!?」
店員が伝えてくれた首飾りの値段にルナは驚愕する。
安すぎるのだ。不気味なほどに、低価格なのだ。



>「ああ、いい買い物できた。お茶代が残ってホントに良かったよー」
ルナもこくこくとうなずきながら喫茶店の椅子に腰をおろす。
リリィも嬉しそうに戦利品である紙袋を抱きしめている。

> 「今日買った細工ボタンは、ササミちゃんにプレゼントするのに使うんだ。
> ほら、ササミちゃんっていつも薄着でしょ?今日も寒い格好で尖塔の上に止まってたし。
> 服とかだと、背中とかの顔が隠れちゃうから、ショールを編んでみたの。
> 最初からいくつかわざと穴を開けててね、ボタンの開閉で開いたり閉じたりするの。
> だから一枚もので使ったり、マフラーにしたり、羽織った時には背中とかの顔が出せるようにって思って。こんな感じで」
> リリィはテーブルの上に指で書いてみたが、多分ルナにはうまく伝わらないだろう。
> 「あとはボタンつけるだけだから、今日ササミちゃんに持っていくんだー」

「へー…。やっぱリリィってやさしい。
それじゃあ私も何かプレゼントしようかなー。かわいいくつしたとか」

>「・・・・・・あ、とうとう降ってきたね」
>曇天からひらひらと粉雪がちらつき始めた。

「……うん」
ルナはちょっと悲しい気持ちになる。

>見て見て、とルナにコーヒーカップの中を指差し、「可愛くて飲めない」とちょっぴり眉を寄せた。

微苦笑したあとルナもコーヒーカップの中をみてみる。
するとそこにはシロクマがいた。
ルナはリリィと一緒にマスターに会釈。

>「・・・・・・・ところでルナちゃんは、結局何を買ったの? もしかして、さっきの雪の結晶みたいなペンダント?」
>ルナにシュガーポットを勧めながら、リリィはうきうきとルナの手元を覗き込んだ。

「じゃーん!」
満面の笑み。手元で冷たく光る首飾り。
ルナは両手を首の後ろにまわして首飾りをかけてみせる。
と同時に自分の体が急速に縮んでしまったかのような錯覚に陥り身震いしてしまった。
そして嘆きや悲しみにも似た雄たけびが耳の奥に聞こえたような気もした。

「……」

そこへ現れたのはエンカという男子生徒。

>「へぇ、なかなかマブいねぇ、そこの彼女ォ。リリィのツレか?名前はなんてーの?」

「…ルナ・チップル」

>「俺の名前はエンカ・ウォン。この学園の全ての生徒と友達になる男だ!」

「……え、えっと、がんばって」
苦笑いでエンカにそう返すと、困惑した顔でリリィをみる。
ていうか先ほどリリィが言った言葉のせいで変な意識が生まれてしまう。
今まで接してきた男子生徒とといえば、ほとんど美少女にしか見えないフリードだけ。
それゆえに、ルナは男子生徒に対しての免疫が少ないのかもしれないのだ。

>バァンッ!!!

突然の大きな音にびくりと体を竦ませる。

>「み……水……」
>「分かりましたちょっと待っててください!」
音のした方向、窓の外を見ると何者かにフリードがお酒のビンを手渡している。

「な、なによこれぇ。いきなりアンデルセン童話みたいな感じなんですけど」

426名無しになりきれ:2012/12/17(月) 00:35:56
「あんたたちなにやってるの!?」
外に出ると遠く風の音が聞こえる。それはひどく物悲しい音色だった。
目前に迫った「冬」の到来に身構えたフィジルの島々が交わす囁き声のようにも
この世界の奥底に封じ込められた巨大な存在が、外の世界を思って続ける慟哭のようにも聞こえる。
じっと耳を傾けているとそれだけで鈍い痛みの形をした感情が止め処なく胸の奥底から滲みだして来そうな感覚。
ルナは一瞬目眩のようなものに襲われたが、気を取り直して目の前の光景に意識を集中する。

「その人、喉が渇いてるの?じゃあリリィの口移しで…。
なーんて上手い話があるわけないじゃん!
この私が反転魔法であなたのお口にお酒を詰め込んであげるけど、
苦情は受け付けないから!」

タクトから迸る稲妻。
フリードリッヒの持つ酒ビンにワディワジを放つ。
それを受けた酒ビンからは液体が噴出しフードの男の口元に迫る。

刹那、凍えた風が切れ味の良い刃物の鋭さで顔を切りつけてくる。
冷たいのも痛いのも通り越し、逆に熱く痺れたような衝撃でルナの頬を叩く。

いつのまにか雪は降りしきっていた。
まだ昼だというのに視力を支える光の絶対量そのものは夜のそれに近かった。
墨を溶かしたような黒い空間をその純白の粒で埋め尽くそうとするように
雪は激しく狂おしく乱れ舞っている。

「…なんかこれってやばいくない?」
どんどんと降り積もってゆく雪が足に重い。
一呼吸ごとに喉を焼く冷気。

「このままじゃパーティーに行けなくなちゃう!下手したら寮にも帰れなくなっちゃう。
みんな、はやく学園に帰ろう!フリード、あなた寒い国出身なんでしょ?なんとかしてよ!」
ルナはいち早く学園に戻ることを選択する。他にも選択肢はあるかも知れない。
リリィとエンカの手を握って無理やり引っ張ってゆく。が、その手は氷のように冷たかった。
吹雪の奥、漆黒の空から無数の馬の嘶きが聞こえたような気もした。

427名無しになりきれ:2012/12/17(月) 22:53:06
>「なれるから!じゃねーよ、ガキンチョ」

「きぃー!また餓鬼って言った。こう見えても僕はあなたのおじいちゃんよりも長生きしてるんですからっ!」
鳥居は金切り声あげて暴れ狂う。
なぜなら生還屋の右手が、鳥居の髪をぐちゃぐちゃにして掴んでいるから怒り心頭なのだ。
そんなぷんすかちゃんな状態の少年の言葉を聞いてか聞かずか生還屋はこうも続ける。

>「俺達にゃ先にこなさなきゃならねえ仕事があんだろ。このジジイとガキ共を助けたのは、ただの成り行きだぜ。
 それともなんだ。一度引き受けた仕事をほっぽって、僕は僕のしたい事をします〜ってか?
 それこそ嘘つきで、でたらめってモンだろ?」

「その冷めた感じ。割り切った感じが気に入らないです」
半眼で暗い顔。生還屋にぐしゃぐしゃとなすがままにされている鳥居。

>「別に聞くのは自由だし、やるのも自由だけどよ。
 それはこっちの仕事が終わってからにしな」

「ブーッ!」
とうとう鳥居は苦虫を噛んだような顔でむくれてしまった。
生還屋に痛いところを突かれた鳥居は、自分のわがままに気付いてしまっていた。
しかし納得できないのが業というもの。鳥居はフェイに視線を移す。
自分が求める答えを言ってくれるものと信じて。

>「じゃが、いずれにせよ……ぬしらには突き止めようがあるまい。
 下手に藪をつつけば、蛇どころか鬼を招きかねん。やめておく事じゃよ。
 ……儂は、ぬしらには死んで欲しくない。この呪災は、国の兵士や術士に任せておけばよい」

「ふむむ…」
もう、唸るしかなかった。大人の体でない鳥居が、大人になりきれないように
吸血鬼の不死身の体は、心の暴走を招くのだ。
夢の中にいると自覚した人間が、好奇心からとんでもないことをするかのように
この世のすべての不幸に復讐できるものと錯覚してしまうのだった。

428名無しになりきれ:2012/12/17(月) 22:57:34
>「なれるから!じゃねーよ、ガキンチョ」

「きぃー!また餓鬼って言った。こう見えても僕はあなたのおじいちゃんよりも長生きしてるんですからっ!」
鳥居は金切り声あげて暴れ狂う。
なぜなら生還屋の右手が、鳥居の髪をぐちゃぐちゃにして掴んでいるから怒り心頭なのだ。
そんなぷんすかちゃんな状態の少年の言葉を聞いてか聞かずか生還屋はこうも続ける。

>「俺達にゃ先にこなさなきゃならねえ仕事があんだろ。このジジイとガキ共を助けたのは、ただの成り行きだぜ。
 それともなんだ。一度引き受けた仕事をほっぽって、僕は僕のしたい事をします〜ってか?
 それこそ嘘つきで、でたらめってモンだろ?」

「その冷めた感じ。割り切った感じが気に入らないです」
半眼で暗い顔。生還屋にぐしゃぐしゃとなすがままにされている鳥居。

>「別に聞くのは自由だし、やるのも自由だけどよ。
 それはこっちの仕事が終わってからにしな」

「ブーッ!」
とうとう鳥居は苦虫を噛んだような顔でむくれてしまった。
生還屋に痛いところを突かれた鳥居は、自分のわがままに気付いてしまっていた。
しかし納得できないのが業というもので、鳥居はフェイに視線を移す。
自分が求める答えを言ってくれるものと信じて。

>「じゃが、いずれにせよ……ぬしらには突き止めようがあるまい。
 下手に藪をつつけば、蛇どころか鬼を招きかねん。やめておく事じゃよ。
 ……儂は、ぬしらには死んで欲しくない。この呪災は、国の兵士や術士に任せておけばよい」

「ふむむ…」
もう、唸るだけの少年。大人の体でない鳥居が大人になりきれないように
吸血鬼の不死身の体は心の暴走を招くのだ。
夢の中にいると自覚した人間が、好奇心からとんでもないことをするかのように
この世のすべての不幸に復讐できるものと錯覚してしまうのだった。

429名無しになりきれ:2012/12/17(月) 23:54:12
フェイはマリーの質問にも答え、鳥居も幾つかの情報を得た。
マリーさまさまというべきだろう。
あとはフェイの無事をフーに伝えて、対処してもらうだけだ。
となれば長居は無用。冒険者たちは寺院へと足を運ぶ。

>「……そう言えばよぉ、ガキンチョ」
>フーの待つ寺院に向かう途中、思い出したように生還屋が鳥居に声をかけた。
>「軽く流してたけどオメー今、吸血鬼……ようは不死身なんだろ?
 アイツ確か結界張ってるとか言ってたよな。寺ん中、入れんのか?」

「しりません。入れなかったら入れなかったでそれまでのことです。
ていうか入れなかったら頼光の神気でもう一度人間のこどもに戻してもらうだけです」
首をクルッと生還屋から真逆に向け視線をそらす。
いやなこという。と鳥居は思っていた。

そして――

>「……あー、いや、その心配は無さそうだ」

飛び交う悲鳴。寺院の門に群がる動死体。

>「どうすんだ、これ……つっても、オメーらの事だ。腹なんざとうに決まってんだろうけどよ」

「結界は!?フーさんはいったい何をしてるんですか?
あかねさん、結界の再起動ってできますか?マリーさん、あとのことは頼みます!」
鳥居は跳躍して塀の縁に飛び乗る。

430名無しになりきれ:2012/12/18(火) 18:24:52
>「なれるから!じゃねーよ、ガキンチョ」

「きぃー!また餓鬼って言った。こう見えても僕はあなたのおじいちゃんよりも長生きしてるんですからっ!」
鳥居は金切り声あげて暴れ狂う。
なぜなら生還屋の右手が、鳥居の髪をぐちゃぐちゃにして掴んでいるから怒り心頭なのだ。
そんなぷんすかちゃんな状態の少年の言葉を聞いてか聞かずか生還屋はこうも続ける。

>「俺達にゃ先にこなさなきゃならねえ仕事があんだろ。このジジイとガキ共を助けたのは、ただの成り行きだぜ。
 それともなんだ。一度引き受けた仕事をほっぽって、僕は僕のしたい事をします〜ってか?
 それこそ嘘つきで、でたらめってモンだろ?」

>「別に聞くのは自由だし、やるのも自由だけどよ。
 それはこっちの仕事が終わってからにしな」

「ブーッ!」
とうとう鳥居は苦虫を噛んだような顔でむくれてしまった。
生還屋に痛いところを突かれて自分のわがままに気付いてしまったのだ。
しかし納得できないのが業というもの。鳥居はフェイに視線を移す。
自分が求める答えを言ってくれるものと信じて。

>「じゃが、いずれにせよ……ぬしらには突き止めようがあるまい。
 下手に藪をつつけば、蛇どころか鬼を招きかねん。やめておく事じゃよ。
 ……儂は、ぬしらには死んで欲しくない。この呪災は、国の兵士や術士に任せておけばよい」

「ふむむ…」
もう、唸るだけの少年。フェイの顔はけわしい。
呪災そのものを振り払うという提案に、喜ぶこともなく、
それどころか心配してしまっている。

431名無しになりきれ:2012/12/18(火) 18:31:56
そしてフェイはマリーの質問にも答え、鳥居も幾つかの情報を得た。
まさにマリーさまさま。あとはフェイの無事をフーに伝えて対処してもらうだけ。
となれば長居は無用。冒険者たちは寺院へと足を運ぶ。

>「……そう言えばよぉ、ガキンチョ」
>フーの待つ寺院に向かう途中、思い出したように生還屋が鳥居に声をかけた。
>「軽く流してたけどオメー今、吸血鬼……ようは不死身なんだろ?
 アイツ確か結界張ってるとか言ってたよな。寺ん中、入れんのか?」

「しりません。入れなかったら入れなかったでそれまでのことです。
ていうか入れなかったら頼光の神気でもう一度人間のこどもに戻してもらうだけです」
首をクルッと生還屋から真逆に向け視線をそらす。頬はプーと膨らんでいる。
いやなこという。と鳥居は思っていた。



>「……あー、いや、その心配は無さそうだ」

飛び交う悲鳴。寺院の門に群がる動死体。

>「どうすんだ、これ……つっても、オメーらの事だ。腹なんざとうに決まってんだろうけどよ」

「結界は!?フーさんはいったい何をしてるんですか?
あかねさん、結界の再起動ってできますか?マリーさん、あとのことは頼みます!」
鳥居は跳躍して塀の縁に飛び乗る。

432名無しになりきれ:2012/12/18(火) 18:37:12
>「なれるから!じゃねーよ、ガキンチョ」

「きぃー!また餓鬼って言った。こう見えても僕はあなたのおじいちゃんよりも長生きしてるんですからっ!」
鳥居は金切り声あげて暴れ狂う。
なぜなら生還屋の右手が、鳥居の髪をぐちゃぐちゃにして掴んでいるから怒り心頭なのだ。
そんなぷんすかちゃんな状態の少年の言葉を聞いてか聞かずか生還屋はこうも続ける。

>「俺達にゃ先にこなさなきゃならねえ仕事があんだろ。このジジイとガキ共を助けたのは、ただの成り行きだぜ。
 それともなんだ。一度引き受けた仕事をほっぽって、僕は僕のしたい事をします〜ってか?
 それこそ嘘つきで、でたらめってモンだろ?」

>「別に聞くのは自由だし、やるのも自由だけどよ。
 それはこっちの仕事が終わってからにしな」

「ブーッ!」
とうとう鳥居は苦虫を噛んだような顔でむくれてしまった。
生還屋に痛いところを突かれて自分のわがままに気付いてしまったのだ。
しかし納得できないのが業というもの。鳥居はフェイに視線を移す。
自分が求める答えを言ってくれるものと信じて。

>「じゃが、いずれにせよ……ぬしらには突き止めようがあるまい。
 下手に藪をつつけば、蛇どころか鬼を招きかねん。やめておく事じゃよ。
 ……儂は、ぬしらには死んで欲しくない。この呪災は、国の兵士や術士に任せておけばよい」

「ふむむ…」
もう、唸るだけの少年。フェイの顔はけわしい。
呪災そのものを振り払うという提案に、喜ぶこともなく、
それどころか心配してしまっている。

――そしてフェイはマリーの質問にも答え、鳥居も幾つかの情報を得た。
まさにマリーさまさま。あとはフェイの無事をフーに伝えて対処してもらうだけ。
となれば長居は無用。冒険者たちは寺院へと足を運ぶ。

>「……そう言えばよぉ、ガキンチョ」
>フーの待つ寺院に向かう途中、思い出したように生還屋が鳥居に声をかけた。
>「軽く流してたけどオメー今、吸血鬼……ようは不死身なんだろ?
 アイツ確か結界張ってるとか言ってたよな。寺ん中、入れんのか?」

「しりません。入れなかったら入れなかったでそれまでのことです。
ていうか入れなかったら頼光の神気でもう一度人間のこどもに戻してもらうだけです」
ツンと顔をそらす。頬はプーと膨らんでいる。
いやなこといいいます。と鳥居は思っていた。

433名無しになりきれ:2012/12/18(火) 19:35:43
>「……あー、いや、その心配は無さそうだ」

飛び交う悲鳴。寺院の門に群がる動死体。

>「どうすんだ、これ……つっても、オメーらの事だ。腹なんざとうに決まってんだろうけどよ」

「ええ、たすけるに決まってます!」
鳥居は跳躍して塀の縁に飛び乗る。すると目の前に広がる絶望の風景。
方々からあがる火の手。今にも破られそうな正門。
動死体に囲まれている手傷を負った男。

(たすけなきゃ!)
動死体と戦っている男に鳥居は自分を重ねた。
自分の中の何かを守るために彼は戦っているのだろう。
そう、たった一人で不幸に抗っているのだ。

「マリーさん、ごめんなさい!」
こんどは鳥居がマリーを投げた。動死体の群がる男の方角に。

「あかねさん、結界の再起動はできますか!?僕は門を何とかしてみせます!」
鳥居は寺院の建物の中に入ると巨大な物体を押して出てきた。
それは仏像だった。門まで押して重石の代わりにするのだ。
しかし肩や頭に齧り付く動死体たち。それでも鳥居は押し続けている。

――今まで迷惑をかけ過ぎてしまった。
それにここを守りきれなかったら、自分たちも向こうの班の人たちも
全滅の可能性がある。

他の冒険者たちの嫌悪感、それよりも通り越してただ繋がっていたい。
もしかしたら繋がってくれるかも知れないという淡い希望を抱いて、
鳥居は仏像を押し続けるのだ。

434名無しになりきれ:2012/12/18(火) 19:44:34
>「……あー、いや、その心配は無さそうだ」

飛び交う悲鳴。寺院の門に群がる動死体。

>「どうすんだ、これ……つっても、オメーらの事だ。腹なんざとうに決まってんだろうけどよ」

「たすけるに決まってます!」
鳥居は跳躍して塀の縁に飛び乗る。すると目の前に広がる絶望の風景。
方々からあがる火の手。今にも破られそうな正門。
動死体に囲まれている手傷を負った男。

(たすけなきゃ!)
動死体と戦っている男に鳥居は自分を重ねた。
自分の中の何かを守るために彼は戦っているのだろう。
そう、たった一人で雨のように降り注ぐ不幸に抗っているのだ。

「マリーさん、ごめんなさい!」
こんどは鳥居がマリーを投げた。動死体の群がる男の方角に。

「あかねさん、結界の再起動はできますか!?僕は門を何とかしてみせます!」
鳥居は寺院の建物の中に入ると巨大な物体を押して出てきた。
それは仏像だった。門まで押して重石の代わりにするのだ。
しかし肩や頭に齧り付く動死体たち。それでも鳥居は押し続けている。

(今まで迷惑をかけ過ぎてしまいました。
ここを守りきれなかったら、ぼくたちも
帰ってきた頼光たちもみんなしんじゃいます)

他の冒険者たちの嫌悪感、それよりも通り越してただ繋がっていたい。
もしかしたら繋がってくれるかも知れないという淡い希望を抱いて、鳥居は仏像を押し続けていた。

435名無しになりきれ:2012/12/31(月) 16:52:49
放課後の教室は閑散としていた。
ところどころ染みをつけたベージュのカーテンが冷たい風に煽られてゆっくりと膨れ上がる。
柔らかく膨らんだ布地のむこうには灰色の空が見えた。

海棠美帆は冷たい空を見つめながら、ジョーカーのことを考え続けていた。
やはりあれは夢ではなかった。
今やこの街では都市伝説はただの伝説にとどまらない。
謎の怪人が現身の存在となって、街の闇を徘徊している。

だが、海棠に変化はなかった。
あの時感じた異様な力――ペルソナ――はまったく感じられない。
一瞬目を覚ました凶暴な獣が、また寝入ってしまったような感じだった。
なぜだろう。ジョーカーが存在しているのなら何故姿を現さないのだろう。
あの時、海棠に力を貸せと言ったのはなんだったのだろう。

「海棠さん」
声をかけられたので振り向いた。野中ミエコだった。

「クラスの人のことたちなんて、気にすることないわ。心の中でバカにしてたらいいわよ。
私は海棠さんが犯人だなんて信じていないから」

436名無しになりきれ:2012/12/31(月) 21:03:33
放課後の教室は閑散としていた。
ところどころ染みをつけたベージュのカーテンが冷たい風に煽られてゆっくりと膨れ上がる。
柔らかく膨らんだ布地のむこうには灰色の空が見えた。

海棠美帆は冷たい空を見つめながら、ジョーカーのことを考え続けていた。
やはりあれは夢ではなかった。
今やこの街では都市伝説はただの伝説にとどまらない。
謎の怪人が現身の存在となって、街の闇を徘徊している。

だが、海棠に変化はないように思えた。
あの時感じた異様な力――ペルソナ――はまったく感じられない。
一瞬目を覚ました凶暴な獣が、また寝入ってしまったような感じだった。
なぜだろう。ジョーカーが存在しているのなら何故姿を現さないのだろう。
あの時、海棠に力を貸せと言ったのはなんだったのだろう。

「海棠さん」
声をかけられたので振り向いた。野中ミエコだった。

「クラスの人のことたちなんて、気にすることないわ。心の中でバカにしてたらいいわよ。
私は海棠さんが犯人だなんて信じていないから」

「…ありがとう」と海棠は答えた。声はかすれていた。
野中は小さな声で話を続ける。

「須藤竜子なんて病院送りになって当然の女なのよ。下品で野蛮で最低の糞女。
今ごろは病院のベッドで天井を見ながら猛省してるのかしら?
ふひひ、私たちを苛めたから天罰が下ったのね」
小鼻を膨らませながら野中は興奮していた。普段の無口な彼女はどこへいったのやら。
詰め寄るように海棠に近づいているために生温い息が吹きかかる。

「……あの、まさかなんだけど」
異様な野中の言動に脳裏に浮かぶ疑念。
海棠の怪訝な表情に、野中は気が付くと慌てて言葉を返す。

「え?私がジョーカー様に依頼して須藤を襲わせたっていうの?
そ、そりゃ確かにジョーカー様に電話をかけてみたことはあるんだけど、結局携帯は繋がらなかったわ。
ジョーカー様にも好みがあるのかしら。それとも電話が殺到していて忙しかったのかしらね…?」

437名無しになりきれ:2012/12/31(月) 21:15:19
放課後の教室は閑散としていた。
ところどころ染みをつけたベージュのカーテンが冷たい風に煽られてゆっくりと膨れ上がる。
柔らかく膨らんだ布地のむこうには灰色の空が見えた。

海棠美帆は冷たい空を見つめながら、ジョーカーのことを考え続けていた。
やはりあれは夢ではなかった。
今やこの街では都市伝説はただの伝説にとどまらない。
謎の怪人が現身の存在となって、街の闇を徘徊している。

だが、海棠に変化はないように思えた。
あの時感じた異様な力――ペルソナ――はまったく感じられない。
一瞬目を覚ました凶暴な獣が、また寝入ってしまったような感じだった。
なぜだろう。ジョーカーが存在しているのなら何故姿を現さないのだろう。
あの時、海棠に力を貸せと言ったのはなんだったのだろうか。

「海棠さん」
声をかけられたので振り向いた。野中ミエコだった。

「クラスの人のことたちなんて、気にすることないわ。心の中でバカにしてたらいいわよ。
私は海棠さんが犯人だなんて信じていないから」

「…ありがとう」と海棠は答えた。声はかすれていた。
野中は小さな声で話を続ける。

「須藤竜子なんて病院送りになって当然の女なのよ。下品で野蛮で最低の糞女。
今ごろは病院のベッドで天井を見ながら猛省してるのかしら?
ふひひ、私たちを苛めたから天罰が下ったのね」
小鼻を膨らませながら野中は興奮していた。普段の無口な彼女はどこへいったのやら。
詰め寄るように海棠に近づいているために生温い息が吹きかかる。

「……あの、まさかなんだけど」
異様な野中の言動に脳裏に浮かぶ疑念。
海棠の怪訝な表情に、野中は気が付くと慌てて言葉を返す。

「え?私がジョーカー様に依頼して須藤を襲わせたって言いたいの?
そ、そりゃ確かにジョーカー様に電話をかけてみたことはあるんだけど、結局携帯は繋がらなかったわ。
ジョーカー様にも好みがあるのかしら。それとも電話が殺到していて忙しかったのかしらね…?」

438名無しになりきれ:2012/12/31(月) 21:38:47
放課後の教室は閑散としていた。
ところどころ染みをつけたベージュのカーテンが冷たい風に煽られてゆっくりと膨れ上がる。
柔らかく膨らんだ布地のむこうには灰色の空が見えた。

海棠美帆は冷たい空を見つめながら、ジョーカーのことを考え続けていた。
やはりあれは夢ではなかった。
今やこの街では都市伝説はただの伝説にとどまらない。
謎の怪人が現身の存在となって、街の闇を徘徊している。

だが、海棠に変化はないように思えた。
あの時感じた異様な力――ペルソナ――はまったく感じられない。
一瞬目を覚ました凶暴な獣が、また寝入ってしまったような感じだった。
なぜだろう。ジョーカーが存在しているのなら何故姿を現さないのだろう。
あの時、海棠に力を貸せと言ったのはなんだったのだろうか。

「海棠さん」
声をかけられたので振り向いた。野中ミエコだった。

「クラスの人のことたちなんて、気にすることないわ。心の中でバカにしてたらいいわよ。
私は海棠さんが犯人だなんて信じていないから」

「…ありがとう」と海棠は答えた。声はかすれていた。
野中は小さな声で話を続ける。

「でもね。須藤竜子なんて病院送りになって当然の女だったじゃん。下品で野蛮で最低の女。
今ごろは病院のベッドで天井を見ながら猛省してるのかしら?ふひひ、私たちを苛めたから天罰が下ったのね」
小鼻を膨らませながら野中は興奮していた。普段の無口な彼女はどこへいったのやら。
詰め寄るように海棠に近づいているために生温い息が吹きかかる。

「……あの、まさかなんだけど」
異様な野中の言動に脳裏に浮かぶ疑念。
海棠の怪訝な表情に、野中は気が付くと慌てて言葉を返す。

「え?私がジョーカー様に依頼して須藤を襲わせたって言いたいの?
そ、そりゃ確かにジョーカー様に電話をかけてみたことはあるんだけど、結局携帯は繋がらなかったわ。
ジョーカー様にも好みがあるのかしら。それとも電話が殺到していて忙しかったのかしらね…?」

439名無しになりきれ:2013/01/01(火) 00:52:03
放課後の教室は閑散としていた。
ところどころ染みをつけたベージュのカーテンが冷たい風に煽られてゆっくりと膨れ上がれば、
柔らかく膨らんだ布地のむこうには灰色の空が見えた。

海棠美帆は冷たい空を見つめながら、ジョーカーのことを考え続けていた。
やはりあれは夢ではなかった。
今やこの街では都市伝説はただの伝説にとどまらない。
謎の怪人が現身の存在となって、街の闇を徘徊している。

だが、海棠に変化はないように思えた。
あの時感じた異様な力『ペルソナ』はまったく感じられない。
一瞬目を覚ました凶暴な獣が、また寝入ってしまったような感じだった。
なぜだろう。ジョーカーが存在しているのなら何故姿を現さないのだろう。
あの時、海棠に力を貸せと言ったのはなんだったのだろうか。

「海棠さん」
声をかけられたので振り向いた。野中ミエコだった。

「クラスの人のことたちなんて、気にすることないわ。心の中でバカにしてたらいいわよ。
私は海棠さんが犯人だなんて信じていないから」

「…ありがとう」と海棠は答えた。声はかすれていた。
野中は小さな声で話を続ける。

「でもね。須藤竜子なんて病院送りになって当然の女だったじゃん。下品で野蛮で最低の女。
今ごろは病院のベッドで天井を見ながら猛省してるのかしら?うふふ、私たちを苛めたから天罰が下ったのね」
小鼻を膨らませながら野中は興奮していた。普段の無口な彼女はどこへいったのやら。
詰め寄るように海棠に近づいているために生温い息が吹きかかる。

「……あの、まさかなんだけど」
異様な野中の言動に脳裏に浮かぶ疑念。
海棠の怪訝な表情に、野中は気が付くと慌てて言葉を返す。

「え?私がジョーカー様に依頼して須藤を襲わせたって言いたいの?
そ、そりゃ確かにジョーカー様に電話をかけてみたことはあるんだけど、結局携帯は繋がらなかったわ。
ジョーカー様にも好みがあるのかしら。それとも電話が殺到していて忙しかったのかしらね…?」
野中は笑っていた。

440名無しになりきれ:2013/01/01(火) 14:00:39
放課後の教室は閑散としていた。
ところどころ染みをつけたベージュのカーテンが冷たい風に煽られてゆっくりと膨れ上がれば、
柔らかく膨らんだ布地のむこうには灰色の空が見えた。
海棠美帆は冷たい空を見つめながら、ジョーカーのことを考え続けていた。
やはりあれは夢ではなかった。
今やこの街では都市伝説はただの伝説にとどまらない。
謎の怪人が現身の存在となって、街の闇を徘徊している。
だが、海棠に変化はないように思えた。
あの時感じた異様な力『ペルソナ』はまったく感じられない。
一瞬目を覚ました凶暴な獣が、また寝入ってしまったような感じだった。
なぜだろう。ジョーカーが存在しているのなら何故姿を現さないのだろう。
あの時、海棠に力を貸せと言ったのはなんだったのだろうか。

「海棠さん」
声をかけられたので振り向いた。野中ミエコだった。

「クラスの人のことたちなんて、気にすることないわ。心の中でバカにしてたらいいわよ。
私は海棠さんが犯人だなんて信じていないから」
「…ありがとう」と海棠は答えた。声はかすれていた。
野中は小さな声で話を続ける。

「でもね。須藤竜子なんて病院送りになって当然の女だったじゃん。下品で野蛮で最低の女。
今ごろは病院のベッドで天井を見ながら猛省してるのかしら?うふふ、私たちを苛めたから天罰が下ったのね」
小鼻を膨らませながら野中は興奮していた。普段の無口な彼女はどこへいったのやら。
詰め寄るように海棠に近づいているために生温い息が吹きかかる。

「……あの、まさかなんだけど」
異様な野中の言動に脳裏に浮かぶ疑念。
海棠の怪訝な表情に、野中は気が付くと慌てて言葉を返す。

「え?私がジョーカー様に依頼して須藤を襲わせたって言いたいの?
そ、そりゃ確かにジョーカー様に電話をかけてみたことはあるんだけど、結局携帯は繋がらなかったわ。
ジョーカー様にも好みがあるのかしら。それとも電話が殺到していて忙しかったのかしらね…?」
野中エミコのほの暗い笑みを見て、海棠の顔は凍りついてしまう。

「……そ、それ、もう二度とやらないほうがいいよ。
遊びでもなんでも…。人を呪わば穴二つって言うじゃない」
語尾が震えている。野中はジョーカーと接触しようとしていた。
否、本当は接触していて嘘をついているのかも知れない。
その可能性も大だ。海棠だってジョーカーと接触したことなど秘密にしていたい。
例え動機が興味本位だったとしても、それを明かすことは良しとしない。
噂では、ジョーカー様には憎い相手を殺すことも依頼できるし、交渉しだいでは夢を叶えてくれるともいう。
誰だって、今、手に入れている現実がジョーカーの能力によるものだなんて後ろめたくて言うことなど出来ないだろう。

441名無しになりきれ:2013/01/01(火) 15:41:13
割り切れない気分のまま海棠は窓を閉めた。
窓は閉まる寸前に、ぴゅーと甲高い風の音を発した。

(もう一度、ジョーカーに会いたい)ため息が漏れる。
ジョーカーと出会ったあの日から、携帯の呼び出し音は一度も鳴っていない。
だからと言って海棠のほうから電話をかけるという勇気もなかった。
勇気もないくせにジョーカーのことを思うと日に日に胸が苦しくなる自分がいた。

>「やぁ!ワタシ神部衣世って言うの、美術部員! 突然なんだけど、前衛的絵画のモデルになってみない?!」

突然、教室に元気な声が響く。驚いて振り返ると長身の女が佇んでいる。
――神部衣世。
美術部員。一年留年している。そんな噂を聞いたことがある。
海棠の記憶では一度も会話はしたことはないが、嫌いなタイプではなかった。
留年を経験していたという噂が、何となく心の緊張を解く。
彼女も自分よりなのかもと思う。同じ学園の異分子。そんな気持ちだった。

「わ、悪いけど私、自分を見られるのってあんまり好きじゃないから…。ほ、他の人に頼んでみたら?」
海棠は、神部が会話のきっかけを掴みたいだけなことなど知らない。
なので真に受けていた。全身に心臓があるような感じで、体全体が恥ずかしさで脈打っていた。
それとは正反対に、野中はメガネをピキンと輝かせながら挙手をしている。

「あーそれなら私を描いてください。いいでしょ?
さあ早く!美術室にいきましょ!あ、海棠さんも一緒にいきましょー!」
神部、海棠、二人の手を引っ張って野中は廊下に歩みだした。

442名無しになりきれ:2013/01/01(火) 15:52:34
割り切れない気分のまま海棠は窓を閉めた。
窓は閉まる寸前に、ぴゅーと甲高い風の音を発した。

(もう一度、ジョーカーに会いたい)ため息が漏れる。
ジョーカーと出会ったあの日から、携帯の呼び出し音は一度も鳴っていない。
だからと言って海棠のほうから電話をかけるという勇気もなかった。
勇気もないくせにジョーカーのことを思うと日に日に胸が苦しくなる自分がいた。

>「やぁ!ワタシ神部衣世って言うの、美術部員! 突然なんだけど、前衛的絵画のモデルになってみない?!」

突然、教室に元気な声が響く。驚いて振り返ると長身の女が佇んでいる。
――神部衣世。
美術部員。一年留年している。そんな噂を聞いたことがある。
海棠の記憶では一度も会話はしたことはないが、嫌いなタイプではなかった。
留年を経験していたという噂が、何となく心の緊張を解く。
彼女も自分よりなのかもと思う。同じ学園の異分子。そんな気持ちだった。

「わ、悪いけど私、自分を見られるのってあんまり好きじゃないから…。ほ、他の人に頼んでみたら?」
海棠は、神部が会話のきっかけを掴みたいだけなことなど知らない。
なので真に受けていた。全身に心臓があるような感じで、体全体が恥ずかしさで脈打っていた。
それとは正反対に、野中はメガネをピキンと輝かせながら挙手をしている。

「あーそれなら私を描いてください。いいでしょ?
さあ早く!美術室にいきましょ!あ、海棠さんも一緒にいきましょー!」
神部、海棠、二人の手を引っ張って野中は廊下に歩みだした。
海棠はその様子に再度いぶかしむ。野中は海棠よりも無口で大人しい子だったはず。
もしかしたら、いじめっ子の須藤竜子がいなくなったおかげで明るさを取り戻したのだろうか。
そんな疑問も置き去りに、三人の足音はリノリウムの床に響く。

443名無しになりきれ:2013/01/03(木) 17:03:42
>――パリーン! カプセルが砕け散るような音が響いた。そして我は無傷で立っていた。

『ば、ばかな!?きさまはマトリョーシカか!?』

>「ラスボス! お前の正体がなんとなく分かった気がする……。”創造主”の残留思念……。
 自らの手を離れ意思を持って一人歩きを始めた《世界》への嫉妬、恨み、憎しみ……。
 怨念だけが意思を持って世界に留まった存在ではないか!?」

『くくく、この世界の成れの果てを目の当たりにしてしまえば創造主でさえも怨念と化すだろうよ。
よーく見るがいいユグドラ。お前の作り上げたこの世界を。
変わらぬ永遠と美しい静寂を捨てたお前らの醜い世界を、このざまを。
与えられては奪われる。その繰り返しではなかったか?
救われることもなく繰り返される…永遠の悲しみのな!』

「バカな神様ずらね…」

生首のスカーがあらわれた。

「怖いのは死ぬことでも生きることでもないずら。…執着をもつことずら。
でも俺は生きることに執着しなかったずら。命を捨ててユグドラを庇ったずら。
それはなぜか分かるずらか?」

『ちっぽけなプライドというものだろう』

「ちがうずら。俺たちは見えない絆で繋がっていたからずら。
絆は永遠に失うことはないのずら。だから執着なんてもとからなかったずらよ」

『………』

ラスボスは無言になった。
そこへ意気揚々とノアが解説を入れる。

>「その通り。みんな、反撃開始だ!
 あいつが付けている名札に書いてある”神”と言う肩書、あれを”紙”に書き換えれば勝てる!!
 一気に畳み掛けろ!」

そしてブラッディは神の肩書きを紙に書き換えた。

444名無しになりきれ:2013/01/05(土) 22:08:29
巨馬の黒瞳に映る紫電の光。視線の先には杖を持ち決死の覚悟を決めるテオボルト。
ボレアースは、このような人間(?)が実在しているということに驚きの色を隠せないでいた。
そう言えば、風の噂で聞いたことがある。

ある属性の魔法に異常なまでの適性を示す。
ある魔法を生まれつき能力として有している。
未知なる力に開眼する。
今までは天才と言われて来た種類の子供たちが、
続々と生まれ始めているという噂を。

なるほど、このような人間が増え始めているというのなら
神に対する信仰心などが減少しているという事実も頷けた。
しかし、まだ早い。ボレアースは全身に力をこめる。
神の前では人はまだまだ無力なのだということを、この世界に示さなければならない。
人が神にとって変わるなどあってはならぬことであり、あたりまえのことなのだ。

そのときだった。魔力の放出を感じた。

>「神同士潰しあってりゃぁええがね!!!」
ササミの声が頭の内部で何度も反響する。「まずい」と巨馬は思う。
しかし、氷の槍を放つべく、氷の魔力を最大限まで宿した体はまるで固定砲台。
動けないのだ。射線上に立つテオボルトに氷の槍を放つまでは。
続けて両耳が捉えたのは僅かな時空震。
なんということか。リリィの体から幽霊のような女が浮かび上がってた。
それは六角形の物体を連続し壁を展開させると、
巨大雪玉の軌道を大きく変えることに成功する。

これはボレアース最大の失策だった。
ササミの魔力を吸収した首飾りに亀裂が生じる。
その僅かな隙間から無数の触手が噴出する。それは「蔦」だった。
魔力の高いものを求め彷徨うように広がると身動きのとれないボレアースを捉える。
巨体に突き刺さり、その呪いを解く。
そして神の姿に戻したあとにエネルギーである神気というものを飲み込んでゆく。

「うおおおお!吸われるのじゃあああ!きさまらが邪魔をしたせいじゃ。
クロノストーンが復活してしまうぞいいいいい!!」
神の姿に戻ったボレアースは髭もじゃの初老の姿をしていたが、みるみるうちにやせ細ってミイラのようになった。

445名無しになりきれ:2013/01/05(土) 22:20:39
巨馬の黒瞳に映る紫電の光。視線の先には杖を持ち決死の覚悟を決めるテオボルト。
ボレアースは、このような人間(?)が実在しているということに驚きの色を隠せないでいた。
その覚悟と秘められた魔導の才に…。そう言えば、風の噂で聞いたことがある。

ある属性の魔法に異常なまでの適性を示す。
ある魔法を生まれつき能力として有している。
未知なる力に開眼する。
今までは天才と言われて来た種類の子供たちが、
続々と生まれ始めているという噂を。

なるほど、このような人間が増え始めているというのなら
神に対する信仰心などが減少しているという現実も頷けた。
しかし、まだ早い。ボレアースは全身に力をこめる。
神の前では人はまだまだ無力なのだということを、この世界に示さなければならない。
人が神にとって代わるなどあってはならぬことなのだ。

そのときだった。

>「神同士潰しあってりゃぁええがね!!!」
ササミの声が頭の中で何度も反響する。魔力の放出を感じる。「まずい」と巨馬は思う。
しかし、氷の槍を放つべく、氷の魔力を最大限まで宿した体はまるで固定砲台。
動けないのだ。射線上に立つテオボルトに氷の槍を放つまでは。
続けて両耳が捉えたのは僅かな時空震。
なんということか。リリィの体から幽霊のような女が浮かび上がっていた。
それは六角形の物体を連続し壁を展開させると、巨大雪玉の軌道を大きく変えることに成功する。

これはボレアース最大の失策だった。
ササミの魔力を吸収した首飾りに亀裂が生じる。
その僅かな隙間から無数の触手が噴出した。「蔦」だった。
それは魔力の高いものを求め彷徨うように広がると身動きのとれないボレアースを捉える。
捲きつき固定するとその巨体に突き刺さり呪いを解く。
そして神の姿に戻したあとにエネルギーである神気というものを飲み込んでゆく。

「うおおおお!吸われるのじゃあああ!きさまらが邪魔をしたせいじゃ。
クロノストーンが復活してしまうぞいいいいい!!」
神の姿に戻ったボレアースは髭もじゃの初老の姿をしていたが、みるみるうちにやせ細ってミイラのようになった。

446名無しになりきれ:2013/01/05(土) 22:29:16
巨馬の黒瞳に映る紫電の光。視線の先には杖を持ち決死の覚悟を決めるテオボルト。
ボレアースは、このような人間(?)が実在しているということに驚きの色を隠せないでいた。
その覚悟と秘められた魔導の才に…。そう言えば、風の噂で聞いたことがある。

ある属性の魔法に異常なまでの適性を示す。
ある魔法を生まれつき能力として有している。
未知なる力に開眼する。
今までは天才と言われて来た種類の子供たちが、
続々と生まれ始めているという噂を。

なるほど、このような人間が増え始めているというのなら
神に対する信仰心などが減少しているということも頷けた。
しかし、まだ早い。ボレアースは全身に力をこめる。
神の前では人はまだまだ無力なのだということを、この世界に示さなければならない。
人が神にとって代わるなどあってはならぬことなのだ。

そのときだった。

>「神同士潰しあってりゃぁええがね!!!」
ササミの声が頭の中で何度も反響する。魔力の放出を感じる。「まずい」と巨馬は思う。
しかし、氷の槍を放つべく、氷の魔力を最大限まで宿した体はまるで固定砲台。
自らの強力過ぎる魔力のために凍てついて動けないのだ。射線上に立つテオボルトに氷の槍を放つまでは。
続けて両耳が捉えたのは僅かな時空震。
なんということか。リリィの体から幽霊のような女が浮かび上がっている。
それは六角形の物体を連続し壁を展開させると、巨大雪玉の軌道を大きく変えることに成功する。

これはボレアース最大の失策だった。
ササミの魔力を吸収した首飾りに亀裂が生じる。
その僅かな隙間から無数の触手が噴出した。「蔦」だった。
それは魔力の高いものを求め彷徨うように広がると身動きのとれないボレアースを捉える。
捲きつき固定するとその巨体に突き刺さり呪いを解く。
そして神の姿に戻したあとにエネルギーである神気というものを飲み込んでゆく。

「うおおおお!吸われるのじゃあああ!きさまらが邪魔をしたせいじゃ。
クロノストーンが復活してしまうぞいいいいい!!」
神の姿に戻ったボレアースは髭もじゃの初老の姿をしていたが、みるみるうちにやせ細ってミイラのようになってしまった。

447名無しになりきれ:2013/01/06(日) 12:39:12
頭がキンキンする。冷気で血が淀んでいる。
だからルナの思考は鈍くなっていた。

ボレアースに蹴飛ばされ、二つに割れた雪だるまの片割れをどうにかするべく
フリードは自分自身を氷の腕で吹っ飛ばす。
なんという元気だろうか。否、それは元気というものを超えている。
ルナはえへへと薄い笑みを浮かべた。
あとはわずかに残された魔力で、足元の雪原に反転魔法をかけ
冷たさを熱さに変え穴を開ければ…

しかしその笑顔は凍りつく。
幽霊の女の出現。続いて

>「あ〜〜〜こうなったら一蓮托生だぎゃあああ!!」
なんとササミが首飾りに魔力を供給しはじめたのだ。
と同時に負ぶさってきたリリィが丸い物体になってころりと落ちる。

「ひっ!!」
ルナは生首が落ちてきたと思ってびっくりした。
しかしすぐに首飾りを外してササミから離れると、丸いものを拾い上げて反転魔法を流そうとする。
時間を捲き戻してリリィを再生するつもりなのだ。
でも魔力も少なく、まして時間に干渉するほどの力をルナはもっていない。

「なにこれ!どうなっちゃってるのよ。誰かなんとかして!!」
金切り声をあげたが、その声は自分でも驚いてしまうほど小さい。
気道も肺も寒さで縮み上がっているのだ。声など出ないのだ。

そして目の前に現れた白いドレスの女が、「次はお前だ」とばかりにルナを指差す。
ルナは負けじと迫り来る雪玉を指差す。すると女は雪玉の排除を優先させ
女が出現させた壁は雪玉の軌道を変える事に成功する。

「た、たすかったぁ!」
とりあえず雪玉という目の前の恐怖は去った。
だがササミの魔力を吸収した首飾りには亀裂が生じていた。
その僅かな隙間から無数の触手が溢れ出して来る。それは「蔦」だった。

蔦の主タナトストーンは、ボレアースをわざと神に戻し、純正の神気の吸収に成功すると
次に生徒たちの魔力に反応しざわざわと触手のように動きだす。

448名無しになりきれ:2013/01/06(日) 12:53:33
頭がキンキンする。冷気で血が淀んでいる。
だからルナの思考は鈍くなっていた。

ボレアースに蹴飛ばされ、二つに割れた雪だるまの片割れをどうにかするべく
フリードは自分自身を氷の腕で吹っ飛ばす。
なんという元気だろうか。否、それは元気というものを超えている。
彼は術者である自分を気絶させて雪玉を消すつもりだったのだろう。
ルナはフリードの心意気に感化され、腰に下がったタクトに手をかける。
もう自分たちでなんとかするしかない。こうなったらわずかに残された魔力で、
足元の雪原に反転魔法をかけ、冷たさを熱さに変え穴を開けるしか…

しかしその表情は凍りつく。
幽霊の女の出現。続いて

>「あ〜〜〜こうなったら一蓮托生だぎゃあああ!!」
なんとササミが首飾りに魔力を供給しはじめたのだ。
と同時に負ぶさってきたリリィが丸い物体になってころりと落ちる。

「ひっ!!」
ルナは生首が落ちてきたと思ってびっくりした。
しかしすぐに首飾りを外してササミから離れると、丸いものを拾い上げて反転魔法を流そうとする。
時間を捲き戻してリリィを再生するつもりなのだ。
でも魔力も少なく、まして時間に干渉するほどの力をルナはもっていない。

「なにこれ!どうなっちゃってるのよ。誰かなんとかして!!」
パニックになり金切り声をあげたが、その声は自分でも驚いてしまうほど小さい。
気道も肺も寒さで縮み上がっているのだ。声など出ないのだ。

そして目の前に現れた白いドレスの女が、「次はお前だ」とばかりにルナを指差す。
ルナは負けじと迫り来る雪玉を指差す。すると女は雪玉の排除を優先させ
女が出現させた壁は雪玉の軌道を変える事に成功する。

「た、たすかったっ!」
とりあえず雪玉という目の前の恐怖は去った。
だがササミの魔力を吸収した首飾りには亀裂が生じていた。
その僅かな隙間から無数の触手が溢れ出して来る。それは「蔦」だった。

蔦の主タナトストーンは、ボレアースをわざと神に戻し、純正の神気の吸収に成功すると
次に生徒たちの魔力に反応しざわざわと触手のように動きだす。

449名無しになりきれ:2013/01/10(木) 11:21:43
テオドールの魔法でズタズタに破壊されるクロノストーンの右腕。噴出する真紅の鮮血。
フリードに打ち下ろされんとしていた大鎌は、握力を失った主のもとからすり抜けて、雪原へと突き刺さった。

>「名前が知りたければ教えて差し上げよう。テオボルト・ジェナス。自分探し途中のただの魔法使いだ。
 封印されてたのは貴様か? 封じられるのが嫌なら、そっ首落としてそこらの森の獣の餌にしてくれよう」

「ほほう、テオボルト君。君は農民になれ。

450名無しになりきれ:2013/01/12(土) 03:15:09
芸事を観客に見せることによって、鳥居は喝采の拍手を浴びる。
人を助けることによって、感謝される。
誰かの記憶に残ることによって、人との繋がりを手に入れる。
それが鳥居の存在の証。

門を塞ぎ終えると足早にマリーたちを追う。
すぐに目に飛び込んだものはマリーに倒された動死体の山。

「すごいですね。マリーさんって…」
呟いて男を見れば怪我はそれほど深くはないようだった。
ほっと胸を撫で下ろし、視線をあかねに移す。

>「どやっ!ここはウチらに任せといた方がよさそうやろ?
 フーはん、あん中におるんやね?……よっしゃ、急ご!マリーはん!鳥居はん!
 生還屋はんは……」

あかねは出会った当初のあっけらかんとした調子で皆を急かしてくる。
鳥居が吸血鬼となったことに怪訝な表情を見せたのは気のせいだったのだろうか。

>「あー、俺ぁ生き残りを探してくるとするぜ。オメーらに付いていくよか、その方が安全そうだしよ」
生還屋はぶっきらぼうな口調で、あかねの言葉を断ち切った。
生き残りを探すなどとらしくないことを言ってはいるが、結局は安全な道を選ぶという彼らしい行動だった。

>「まっ、安心しろよ。ヤバそうな気がしたら、そんときゃ連れ戻しに行ってやっから」

「お願いします」

451名無しになりきれ:2013/01/12(土) 11:56:48
芸事を観客に見せることによって、鳥居は喝采の拍手を浴びる。
人を助けることによって、感謝される。
誰かの記憶に残ることによって、人との繋がりを手に入れる。
それが鳥居の存在の証であり心地よいこと。

今まではそう思って生きてきた。
でもこの異国に来てからというもの、
何かほの暗いものが心の奥底で蠢動しているのを感じる。
それはいったいなんなのだろう。

門を塞ぎ終えると、鳥居は肩で息をしながら足早にマリーたちを追う。
すぐに目に飛び込んだものはマリーに倒された動死体の山。

「すごいですね。マリーさんって…」
動死体の脳幹を一突き。見事な剣さばきだ。
これほどのことを、彼女は誰にも褒められるわけでもなくやってのけた。
過去にも影に隠れてやってきたのだ。自らの体を汚しながら。
鳥居には、そんなにまでして、なぜ、どうして。と疑問が沸く。

沈黙が落ちる。しばらくして…

「マリーさんってどうしてこんな仕事をやってるんですか?」
鳥居は恐る恐る聞いてみた。

>「どやっ!ここはウチらに任せといた方がよさそうやろ?
 フーはん、あん中におるんやね?……よっしゃ、急ご!マリーはん!鳥居はん!
 生還屋はんは……」

あかねは出会った当初のあっけらかんとした調子で皆を急かしてくる。
鳥居が吸血鬼となったことに怪訝な表情を見せたのは気のせいだったのだろうか。

>「あー、俺ぁ生き残りを探してくるとするぜ。オメーらに付いていくよか、その方が安全そうだしよ」
生還屋はぶっきらぼうな口調で、あかねの言葉を断ち切った。
生き残りを探すなどとらしくないことを言ってはいるが、結局は安全な道を選ぶという彼らしい行動だった。

>「まっ、安心しろよ。ヤバそうな気がしたら、そんときゃ連れ戻しに行ってやっから」

「お願いします」

452名無しになりきれ:2013/01/12(土) 13:44:56
芸事を観客に見せることによって、鳥居は喝采の拍手を浴びる。
人を助けることによって、感謝される。
誰かの記憶に残ることによって、人との繋がりを手に入れる。
それが鳥居の存在の証であり心地よいこと。

今まではそう思って生きてきた。
でもこの異国に来てからというもの、
何かほの暗いものが心の奥底で蠢動しているのを感じる。
それはいったいなんなのだろう。

門を塞ぎ終えると、鳥居は肩で息をしながら足早にマリーたちを追う。
すぐに目に飛び込んだものはマリーに倒された動死体の山。

「すごいですね。マリーさんって…」
動死体の脳幹を一突き。見事な剣さばきだ。
これほどのことを、彼女は誰にも褒められるわけでもなくやってのけた。
過去にも影に隠れてやってきたのだ。命を懸け、自らの体を汚しながら。
鳥居には、そんなにまでして、なぜ、どうして。と疑問が沸く。

沈黙が落ちる。しばらくして…

「マリーさんってどうしてこんな仕事をやってるんですか?
いざとなったら生身の人間も殺しちゃうんですよね。女の人なのに…」
鳥居は恐る恐る聞いてみた。マリーには何か目的があるのだろう。
そう思う。それが何かを知りたいと思う。強い意志を生み出す何か。
鳥居とは違う何か。

>「どやっ!ここはウチらに任せといた方がよさそうやろ?
 フーはん、あん中におるんやね?……よっしゃ、急ご!マリーはん!鳥居はん!
 生還屋はんは……」

あかねは出会った当初のあっけらかんとした調子で皆を急かしてくる。
鳥居が吸血鬼となったことに怪訝な表情を見せたのは気のせいだったのだろうか。

>「あー、俺ぁ生き残りを探してくるとするぜ。オメーらに付いていくよか、その方が安全そうだしよ」
生還屋はぶっきらぼうな口調で、あかねの言葉を断ち切った。
生き残りを探すなどとらしくないことを言ってはいるが、結局は安全な道を選ぶという彼らしい行動だった。

>「まっ、安心しろよ。ヤバそうな気がしたら、そんときゃ連れ戻しに行ってやっから」

「お願いします」

453名無しになりきれ:2013/01/12(土) 14:32:19
芸事を観客に見せることによって、鳥居は喝采の拍手を浴びる。
人を助けることによって、感謝される。
誰かの記憶に残ることによって、人との繋がりを手に入れる。
それが鳥居の存在の証であり心地よいこと。

今まではそう思って生きてきた。
でも鳥居は、フェイと接触することで、自分の内側に眠る何か恐ろしいものに気付きはじめていた。
あの老人は鏡だったのだ。彼は大切な絆を守るために他人の命を奪おうとした。
何かほの暗いものが心の奥底で蠢動しているのを感じる。それはいったいなんなのだろう。

心の奥底に眠る狂気のようなもの。
こんなものがある限り、神気なんて自然に消滅してしまっていたかも知れない。
神気なんて大層なもの、この愚かな道化師には不釣合いだったのだ。

門を塞ぎ終えると、鳥居は肩で息をしながら足早にマリーたちを追う。
すぐに目に飛び込んだものはマリーに倒された動死体の山。

「すごいですね。マリーさんって…」
動死体の脳幹を一突き。見事な剣さばきだ。
これほどのことを、彼女は誰にも褒められるわけでもなくやってのけた。
過去にも影に隠れてやってきたのだ。命を懸け、自らの体を汚しながら。
鳥居には、そんなにまでして、なぜ、どうして。と疑問が沸く。

そして、すでに動かなくなった動死体を見ながら逡巡する。
動死体と不死の王は何か繋がりがあるはず。その王が存在しているという王宮の地下。
彼は不死となってから、形の残る財や宝を好んだという。
少し自分と似ていると思う。卵細工を好む自分と。そう思うと怖かった。
と同時に鳥居が救われる答えがあるのかも知れない。そんな祈りにも近い希望も感じた。

鳥居は蒸発の音にふと我に返る。
気が付けば、あかねが水を召喚し僧房の入り口の火を消している。

>「どやっ!ここはウチらに任せといた方がよさそうやろ?
 フーはん、あん中におるんやね?……よっしゃ、急ご!マリーはん!鳥居はん!
 生還屋はんは……」

彼女は変わらない。そんないつも明るい彼女を羨ましくも思う。
鳥居を吸血鬼と知り、先ほど見せた怪訝な顔はすでになかった。

454名無しになりきれ:2013/01/12(土) 14:51:28
芸事を観客に見せることによって、鳥居は喝采の拍手を浴びる。
人を助けることによって、感謝される。
誰かの記憶に残ることによって、人との繋がりを手に入れる。
それが鳥居の存在の証であり心地よいこと。

今まではそう思って生きてきた。
でも鳥居は、フェイと接触することで、自分の内側に眠る何か恐ろしいものに気付きはじめていた。
あの老人は鏡だったのだ。彼は大切な絆を守るために他人の命を奪おうとした。
何かほの暗いものが心の奥底で蠢動しているのを感じる。それはいったいなんなのだろう。

心の奥底に眠る狂気のようなもの。
こんなものがある限り、神気など、戦いで消耗する以前に自然消滅してしまったかも知れない。
そう、神気なんて大層なもの、この愚かな道化師には不釣合いだったのだ。

門を塞ぎ終えると、鳥居は肩で息をしながら足早にマリーたちを追う。
すぐに目に飛び込んだものはマリーに倒された動死体の山。

「すごいですね。マリーさんって…」
動死体の脳幹を一突き。見事な剣さばきだ。
これほどのことを、彼女は誰にも褒められるわけでもなくやってのけた。
過去にも影に隠れてやってきたのだ。命を懸け、自らの体を汚しながら。
鳥居には、そんなにまでして、なぜ、どうして。と疑問が沸く。

そして、すでに動かなくなった動死体を見ながら逡巡する。
動死体と不死の王は何か繋がりがあるはず。その王が存在しているという王宮の地下。
彼は不死となってから、形の残る財や宝を好んだという。
少し自分と似ていると思う。卵細工を好む自分と。そう思うと怖かった。

鳥居は蒸発の音にふと我に返る。
気が付けば、あかねが水を召喚し僧房の入り口の火を消している。

>「どやっ!ここはウチらに任せといた方がよさそうやろ?
 フーはん、あん中におるんやね?……よっしゃ、急ご!マリーはん!鳥居はん!
 生還屋はんは……」

彼女は変わらない。そんないつも明るい彼女を羨ましくも思う。
鳥居を吸血鬼と知り、先ほど見せた怪訝な顔はすでになかった。

455名無しになりきれ:2013/01/12(土) 15:12:54
芸事を観客に見せることによって、鳥居は喝采の拍手を浴びる。
人を助けることによって、感謝される。
誰かの記憶に残ることによって、人との繋がりを手に入れる。
それが鳥居の存在の証であり心地よいこと。

今まではそう思って生きてきた。
でも鳥居は、フェイと接触することで、自分の内側に眠る何か恐ろしいものに気付きはじめていた。
あの老人は鏡だったのだ。彼は大切な絆を守るために他人の命を奪おうとした。
何かほの暗いものが心の奥底で蠢動しているのを感じる。それはいったいなんなのだろう。

心の奥底に眠る狂気のようなもの。
こんなものがある限り、神気など、戦いで消耗する以前に自然消滅してしまったかも知れない。
そう、神気なんて大層なもの、この愚かな道化師には不釣合いだったのだ。

門を塞ぎ終えると、鳥居は肩で息をしながら足早にマリーたちを追う。
すぐに目に飛び込んだものはマリーに倒された動死体の山。

「すごいですね。マリーさんって…」
動死体の脳幹を一突き。見事な剣さばきだ。
これほどのことを、彼女は誰にも褒められるわけでもなくやってのけた。
過去にも影に隠れてやってきたのだ。命を懸け、自らの体を汚しながら。
鳥居には、そんなにまでして、なぜ、どうして。と疑問が沸く。

そして、すでに動かなくなった動死体を見ながら逡巡する。
動死体と不死の王は何か繋がりがあるはず。その王が存在しているという王宮の地下。
彼は不死となってから、形の残る財や宝を好んだという。
少し自分と似ていると思う。卵細工を好む自分と。そう思うと怖かった。

鳥居は蒸発の音にふと我に返る。
気が付けば、あかねが水を召喚し僧房の入り口の火を消している。

>「どやっ!ここはウチらに任せといた方がよさそうやろ?
 フーはん、あん中におるんやね?……よっしゃ、急ご!マリーはん!鳥居はん!
 生還屋はんは……」

彼女は変わらない。そんないつも明るい彼女を羨ましくも思う。
鳥居を吸血鬼と知り、先ほど見せた怪訝な顔はすでになかった。

>「あー、俺ぁ生き残りを探してくるとするぜ。オメーらに付いていくよか、その方が安全そうだしよ」
生還屋はぶっきらぼうな口調で、あかねの言葉を断ち切った。
生き残りを探す。生還屋らしい言葉。そのほうが安全。彼らしい言葉。

>「まっ、安心しろよ。ヤバそうな気がしたら、そんときゃ連れ戻しに行ってやっから」

「はい、信じてます」
少し釘をさし、生還屋を見送ったあと。鳥居はマリーに視線を移す。
フーを救出するまえに、彼女に聞きたいことがあったのだ。

「マリーさんってどうしてこんな仕事をやってるんですか?
いざとなったら生身の人間も殺しちゃうんですよね。女の人なのに…」
恐る恐る聞いてみた。マリーには何か目的があるのだろう。
そう思う。それが何かを知りたいと思う。
鳥居とは違う何か。強い意志を生み出す力。

456名無しになりきれ:2013/01/12(土) 15:21:23
芸事を観客に見せることによって、鳥居は喝采の拍手を浴びる。
人を助けることによって、感謝される。
誰かの記憶に残ることによって、人との繋がりを手に入れる。
それが鳥居の存在の証であり心地よいこと。

今まではそう思って生きてきた。
でも鳥居は、フェイと接触することで、自分の内側に眠る何か恐ろしいものに気付きはじめていた。
あの老人は鏡だったのだ。彼は大切な絆を守るために他人の命を奪おうとした。
何かほの暗いものが心の奥底で蠢動しているのを感じる。それはいったいなんなのだろう。

心の奥底に眠る狂気のようなもの。
こんなものがある限り、神気など、戦いで消耗する以前に自然消滅してしまったかも知れない。
そう、あんな大層なもの、この愚かな道化師には不釣合いだったのだ。

門を塞ぎ終えると、鳥居は肩で息をしながら足早にマリーたちを追う。
すぐに目に飛び込んだものはマリーに倒された動死体の山。

「すごいですね。マリーさんって…」
動死体の脳幹を一突き。見事な剣さばきだ。
これほどのことを、彼女は誰にも褒められるわけでもなくやってのけた。
過去にも影に隠れてやってきたのだ。命を懸け、自らの体を汚しながら。
鳥居には、そんなにまでして、なぜ、どうして。と疑問が沸く。

そして、すでに動かなくなった動死体を見ながら逡巡する。
動死体と不死の王は何か繋がりがあるはず。その王が存在しているという王宮の地下。
彼は不死となってから、形の残る財や宝を好んだという。
少し自分と似ていると思う。卵細工を好む自分と。そう思うと怖かった。

――鳥居は蒸発の音にふと我に返る。
気が付けば、あかねが水を召喚し僧房の入り口の火を消している。

>「どやっ!ここはウチらに任せといた方がよさそうやろ?
 フーはん、あん中におるんやね?……よっしゃ、急ご!マリーはん!鳥居はん!
 生還屋はんは……」

彼女は変わらない。そんないつも明るい彼女を羨ましくも思う。
鳥居を吸血鬼と知り、先ほど見せた怪訝な顔はすでになかった。

>「あー、俺ぁ生き残りを探してくるとするぜ。オメーらに付いていくよか、その方が安全そうだしよ」
生還屋はぶっきらぼうな口調で、あかねの言葉を断ち切った。
生き残りを探すという生還屋らしい言葉。そのほうが安全という彼らしい言葉。
どちらも彼なのだ。

>「まっ、安心しろよ。ヤバそうな気がしたら、そんときゃ連れ戻しに行ってやっから」

「はい、信じてます」
少し釘をさし、生還屋を見送ったあと鳥居はマリーに視線を移す。
フーを救出するまえに、彼女に聞きたいことがあったのだ。

「マリーさんってどうしてこんな仕事をやってるんですか?
いざとなったら生身の人間も殺しちゃうんですよね。女の人なのに…」
語尾が震えていた。マリーには何か目的があるのだろう。
そう思う。それが何かを知りたいと思う。
鳥居とは違う何か。強い意志を生み出す力の源を。

457名無しになりきれ:2013/01/12(土) 16:07:55
僧房の内部は未だに燃え続けていた。
フーは書庫の中、書棚の下敷きになっていた。
鳥居はフーと書棚の間に出来た隙間に手を入れて、ドタンとひっくり返す。
続けてポケットから小瓶を取り出して水を飲ます。
彼が書庫にいるということは、大切な書物を火災から守ろうとでもしたのだろうか。

「しっかりしてくださいフーさん!大丈夫ですか?あ、ちょっと待ってて」

ぼばん!一旦出で行き、寝室から持ってきた布団を書棚に被せ、
酸素の供給を断ち切り消化する。

「本ですか?なにかの本を探して下敷きになっちゃたとか?」
布団を剥ぎ、焦げた本を指差し問う鳥居。

「あ、そうだ、あかねさん。この寺院がこんなになっちゃったこと
倉橋さんに伝えたほうがいいのでしょうか?
もしも僕たちが寺院から動かなくっちゃダメになったら
お互いに場所がわかんなくなっちゃいますよ。危ないから来るなとか、進行状況とか。
フーさんの人形で連絡と確認できませんか?
交信が繋がったらあとはマリーさんに話してもらいましょう」

458名無しになりきれ:2013/01/12(土) 16:33:33
僧房の内部は未だに燃え続けていた。
フーは書庫の中、書棚の下敷きになっていた。
鳥居はフーと書棚の間に出来た隙間に手を入れて、書棚をドタンとひっくり返す。
続けてポケットから小瓶を取り出してフーに水を飲ます。
彼が書庫にいるということは、大切な書物を火災から守ろうとでもしたのだろうか。

「しっかりしてくださいフーさん!大丈夫ですか?あ、ちょっと待ってて」

一旦書庫から出で行く鳥居。
寝室から持ってきた布団を書棚に被せ、
酸素の供給を断ち切り消化する。

「本ですか?なにかの本を探して下敷きになっちゃたとか?」
布団を剥ぎ、焦げた本を指差し問う。

「あ、そうだ、あかねさん。この寺院がこんなになっちゃったこと
倉橋さんに伝えたほうがいいのでしょうか?
もしも僕たちが寺院から動かなくっちゃダメになったら
お互いに場所がわかんなくなっちゃいますよ。危ないから来るなとか、進行状況とか。
フーさんの人形で連絡と確認できませんか?
交信が繋がったらあとはマリーさんに話してもらいましょう」

そう言ってフーの体の下に頭を入れて抱き起こす。
だが、鳥居が小さいために、フーの膝から下が床に着いている。

「あなたには死んでもらっちゃ困ります。僕、この嘆願だけはやり通したいんです。

459名無しになりきれ:2013/01/12(土) 18:57:18
芸事を観客に見せることによって、鳥居は喝采の拍手を浴びる。
人を助けることによって、感謝される。
誰かの記憶に残ることによって、人との繋がりを手に入れる。
それが鳥居の存在の証であり心地よいこと。

今まではそう思って生きてきた。
でも鳥居は、フェイと接触することで、自分の内側に眠る何か恐ろしいものに気付きはじめていた。
あの老人は鏡だったのだ。彼は大切な絆を守るために他人の命を奪おうとした。
何かほの暗いものが心の奥底で蠢動しているのを感じる。それはいったいなんなのだろう。

心の奥底に眠る狂気のようなもの。
こんなものがある限り、神気など、戦いで消耗する以前に自然消滅してしまったかも知れない。
そう、あんな大層なもの、この愚かな道化師には不釣合いだったのだ。

門を塞ぎ終えると、鳥居は肩で息をしながら足早にマリーたちを追う。
すぐに目に飛び込んだものはマリーに倒された動死体の山。

「すごいですね。マリーさんって…」
動死体の脳幹を一突き。見事な剣さばきだ。
これほどのことを、彼女は誰にも褒められるわけでもなくやってのけた。
過去にも影に隠れてやってきたのだ。命を懸け、自らの体を汚しながら。
鳥居には、そんなにまでして、なぜ、どうして。と疑問が沸く。

そして、すでに動かなくなった動死体を見ながら逡巡する。
動死体と不死の王は何か繋がりがあるはず。その王が存在しているという王宮の地下。
彼は不死となってから、形の残る財や宝を好んだという。
少し自分と似ていると思う。卵細工を好む自分と。そう思うと怖かった。

――鳥居はあかねの黄色い声にふと我に返る。
気が付けば、あかねがあの動死体と戦っていた男に抱きついてる。
否、正確には塀から飛び降りたあかねを男が受け止めていただけなのだが。
(ぐぎぎぎ)奥歯をかみ締めて嫉妬している鳥居。
かぶり振ってもうどうでもいいと思う。自分は吸血鬼、あかねは人間。
いったい何を求めていたのだろう。あほらしい。

>「どやっ!ここはウチらに任せといた方がよさそうやろ?
 フーはん、あん中におるんやね?……よっしゃ、急ご!マリーはん!鳥居はん!
 生還屋はんは……」

ただ彼女は変わらない。そんないつも明るい彼女を羨ましくも思う。
鳥居を吸血鬼と知り、先ほど見せた怪訝な顔はすでになかった。

>「あー、俺ぁ生き残りを探してくるとするぜ。オメーらに付いていくよか、その方が安全そうだしよ」
生還屋はぶっきらぼうな口調で、あかねの言葉を断ち切った。
生き残りを探すという生還屋らしい言葉。そのほうが安全という彼らしい言葉。
どちらも彼なのだ。

>「まっ、安心しろよ。ヤバそうな気がしたら、そんときゃ連れ戻しに行ってやっから」

「はい、信じてます」
少し釘をさし、生還屋を見送ったあと鳥居はマリーに視線を移す。
フーを救出するまえに、彼女に聞きたいことがあったのだ。

「マリーさんってどうしてこんな仕事をやってるんですか?
いざとなったら生身の人間も殺しちゃうんですよね。女の人なのに…」
すこし語尾がかすれた。緊張で喉がカラカラになる。
マリーには何か目的があるのだろう。
そう思う。それが何かを知りたいと思う。
鳥居とは違う何か。強い意志を生み出す力の源を。

460名無しになりきれ:2013/01/12(土) 19:07:04
芸事を観客に見せることによって、鳥居は拍手喝采を浴びる。
人を助けることによって、感謝される。
誰かの記憶に残ることによって、人との繋がりを手に入れる。
それが鳥居の存在の証であり心地よいこと。

今まではそう思って生きてきた。
でも鳥居は、フェイと接触することで、自分の内側に眠る何か恐ろしいものに気付きはじめていた。
あの老人は鏡だったのだ。彼は大切な絆を守るために他人の命を奪おうとした。
何かほの暗いものが心の奥底で蠢動しているのを感じる。それはいったいなんなのだろう。

心の奥底に眠る狂気のようなもの。
こんなものがある限り、神気など、戦いで消耗する以前に自然消滅してしまったかも知れない。
そう、あんな大層なもの、この愚かな道化師には不釣合いだったのだ。

門を塞ぎ終えると、鳥居は肩で息をしながら足早にマリーたちを追う。
すぐに目に飛び込んだものはマリーに倒された動死体の山。

「すごいですね。マリーさんって…」
動死体の脳幹を一突き。見事な剣さばきだ。
これほどのことを、彼女は誰にも褒められるわけでもなくやってのけた。
過去にも影に隠れてやってきたのだ。命を懸け、自らの体を汚しながら。
鳥居には、そんなにまでして、なぜ、どうして。と疑問が沸く。

そして、すでに動かなくなった動死体を見ながら逡巡する。
動死体と不死の王は何か繋がりがあるはず。その王が存在しているという王宮の地下。
彼は不死となってから、形の残る財や宝を好んだという。
少し自分と似ていると思う。卵細工を好む自分と。そう思うと怖かった。

――鳥居はあかねの黄色い声にふと我に返る。
気が付けば、あかねがあの動死体と戦っていた男に抱きついてる。
否、正確には塀から飛び降りたあかねを男が受け止めていただけなのだが。
(ぐぎぎぎ)奥歯をかみ締めて嫉妬している鳥居。
かぶり振ってもうどうでもいいと思う。自分は吸血鬼、あかねは人間。
いったい何を求めていたのだろう。不快な感じが胸に残る。

>「どやっ!ここはウチらに任せといた方がよさそうやろ?
 フーはん、あん中におるんやね?……よっしゃ、急ご!マリーはん!鳥居はん!
 生還屋はんは……」

ただ彼女は変わらない。そんないつも明るい彼女を羨ましくも思う。
鳥居を吸血鬼と知り、先ほど見せた怪訝な顔はすでになかった。

>「あー、俺ぁ生き残りを探してくるとするぜ。オメーらに付いていくよか、その方が安全そうだしよ」
生還屋はぶっきらぼうな口調で、あかねの言葉を断ち切った。
生き残りを探すという生還屋らしい言葉。そのほうが安全という彼らしい言葉。
どちらも彼なのだ。

>「まっ、安心しろよ。ヤバそうな気がしたら、そんときゃ連れ戻しに行ってやっから」

「はい、信じてます」
少し釘をさし、生還屋を見送ったあと鳥居はマリーに視線を移す。
フーを救出するまえに、彼女に聞きたいことがあったのだ。

「マリーさんってどうしてこんな仕事をやってるんですか?
いざとなったら生身の人間も殺しちゃうんですよね。女の人なのに…」
すこし語尾がかすれた。緊張で喉はカラカラ。マリーには何か目的があるのだろう。
そう思う。それが何かを知りたいと思う。鳥居とは違う何か。強い意志を生み出す力の源を。

461名無しになりきれ:2013/01/12(土) 19:13:38
芸事を観客に見せることによって、鳥居は拍手喝采を浴びる。
人を助けることによって、感謝される。
誰かの記憶に残ることによって、人との繋がりを手に入れる。
それが鳥居の存在の証であり心地よいこと。

今まではそう思って生きてきた。
でも鳥居は、フェイと接触することで、自分の内側に眠る何か恐ろしいものに気付きはじめていた。
あの老人は鏡だったのだ。彼は大切な絆を守るために他人の命を奪おうとした。
何かほの暗いものが心の奥底で蠢動しているのを感じる。それはいったいなんなのだろう。

心の奥底に眠る狂気のようなもの。
こんなものがある限り、神気など、戦いで消耗する以前に自然消滅してしまったかも知れない。
そう、あんな大層なもの、この愚かな道化師には不釣合いだったのだ。

門を塞ぎ終えると、鳥居は肩で息をしながら足早にマリーたちを追う。
すぐに目に飛び込んだものはマリーに倒された動死体の山。

「すごいですね。マリーさんって…」
動死体の脳幹を一突き。見事な剣さばきだ。
これほどのことを、彼女は誰にも褒められるわけでもなくやってのけた。
過去にも影に隠れてやってきたのだ。命を懸け、自らの体を汚しながら。
鳥居には、そんなにまでして、なぜ、どうして。と疑問が沸く。

そして、すでに動かなくなった動死体を見ながら逡巡する。
動死体と不死の王は何か繋がりがあるはず。その王が存在しているという王宮の地下。
彼は不死となってから、形の残る財や宝を好んだという。
少し自分と似ていると思う。卵細工を好む自分と。そう思うと怖かった。

――鳥居はあかねの黄色い声にふと我に返った。
気が付けば、あかねがあの動死体と戦っていた男に抱きついてる。
否、正確には塀から飛び降りたあかねを男が受け止めていただけなのだが。
(ぐぎぎぎ)奥歯をかみ締めて嫉妬している鳥居。
かぶり振ってもうどうでもいいと思う。自分は吸血鬼、あかねは人間。
いったい何を求めていたのだろう。ただ不快な感じがする。
胸の奥にあの暗い蠢動を感じる。

>「どやっ!ここはウチらに任せといた方がよさそうやろ?
 フーはん、あん中におるんやね?……よっしゃ、急ご!マリーはん!鳥居はん!
 生還屋はんは……」

ただ彼女は変わらない。そんないつも明るい彼女を羨ましくも思う。
鳥居を吸血鬼と知り、先ほど見せた怪訝な顔はすでになかった。

>「あー、俺ぁ生き残りを探してくるとするぜ。オメーらに付いていくよか、その方が安全そうだしよ」
生還屋はぶっきらぼうな口調で、あかねの言葉を断ち切った。
生き残りを探すという生還屋らしい言葉。そのほうが安全という彼らしい言葉。
どちらも彼なのだ。

>「まっ、安心しろよ。ヤバそうな気がしたら、そんときゃ連れ戻しに行ってやっから」

「はい、信じてます」
少し釘をさし、生還屋を見送ったあと鳥居はマリーに視線を移す。
フーを救出するまえに、彼女に聞きたいことがあったのだ。

「マリーさんってどうしてこんな仕事をやってるんですか?
いざとなったら生身の人間も殺しちゃうんですよね。女の人なのに…」
すこし語尾がかすれた。緊張で喉はカラカラ。マリーには何か目的があるのだろう。
そう思う。それが何かを知りたいと思う。鳥居とは違う何か。強い意志を生み出す力の源を。

462名無しになりきれ:2013/01/12(土) 19:54:06
僧房の内部は未だに燃え続けていた。
フーは書庫の中、書棚の下敷きになっていた。
鳥居はフーと書棚の間に出来た隙間に手を入れて、書棚をドタンとひっくり返す。
続けてポケットから小瓶を取り出してフーに水を飲ます。
彼が書庫にいるということは、大切な書物を火災から守ろうとでもしたのだろうか。

「しっかりしてくださいフーさん!大丈夫ですか?あ、ちょっと待ってて」

一旦書庫から出で行く鳥居。
寝室から持ってきた布団を書棚に覆い被せ、
酸素の供給を断ち切り消化する。

「もしかして本を探していたのですか?
それってどれですか?燃えちゃったら大変です!」
布団を剥ぎ、焦げた本を指差し問う。

「あ、そうだ、あかねさん。この寺院がこんなになっちゃったこと
倉橋さんに伝えたほうがいいのでしょうか?
もしも僕たちが寺院から動かなくっちゃダメになったら
お互いに場所がわかんなくなっちゃいますよ。危ないから来るなとか、進行状況とか。
フーさんの人形で連絡と確認できませんか?
交信が繋がったらあとはマリーさんに話してもらいましょう」

そう言ってフーの体の下に頭を入れて抱き起こす。
だが、鳥居が小さいために、フーの膝から下が床に着いている。

「あなたには死んでもらっちゃ困ります。だって僕、この嘆願をやり遂げるって決めたんです。
もしも王宮の地下に不死の王がいるのなら会ってみたい。だから生きてください。
そして足を上げてください。脛が傷だらけになちゃうと悪いから!」
鳥居はフェイを背に乗せて、前かがみになった。
脱出する準備万全だ。指示されるがままにフェイを安全な場所に運ぶだろう。

463名無しになりきれ:2013/01/12(土) 20:02:10
芸事を観客に見せることによって、鳥居は拍手喝采を浴びる。
人を助けることによって、感謝される。
誰かの記憶に残ることによって、人との繋がりを手に入れる。
それが鳥居の存在の証であり心地よいこと。

今まではそう思って生きてきた。
でも鳥居は、フェイと接触することで、自分の内側に眠る何か恐ろしいものに気付きはじめていた。
あの老人は鏡だったのだ。彼は大切な絆を守るために他人の命を奪おうとした。
何かほの暗いものが心の奥底で蠢動しているのを感じる。それはいったいなんなのだろう。

心の奥底に眠る狂気のようなもの。
こんなものがある限り、神気など、戦いで消耗する以前に自然消滅してしまったかも知れない。
そう、あんな大層なもの、この愚かな道化師には不釣合いだったのだ。

門を塞ぎ終えると、鳥居は肩で息をしながら足早にマリーたちを追う。
すぐに目に飛び込んだものはマリーに倒された動死体の山。

「すごいですね。マリーさんって…」
動死体の脳幹を一突き。見事な剣さばきだ。
これほどのことを、彼女は誰にも褒められるわけでもなくやってのけた。
過去にも影に隠れてやってきたのだ。命を懸け、自らの体を汚しながら。
鳥居には、そんなにまでして、なぜ、どうして。と疑問が沸く。

そして、すでに動かなくなった動死体を見ながら逡巡する。
動死体と不死の王は何か繋がりがあるはず。その王が存在しているという王宮の地下。
彼は不死となってから、形の残る財や宝を好んだという。
少し自分と似ていると思う。卵細工を好む自分と。そう思うと怖かった。

――鳥居はあかねの黄色い声にふと我に返る。
気が付けば、あかねがあの動死体と戦っていた男に抱きついてる。
否、正確には塀から飛び降りたあかねを男が受け止めていただけなのだが。
(ぐぎぎぎ)奥歯をかみ締めて嫉妬している鳥居。
かぶり振ってもうどうでもいいと思う。自分は吸血鬼、あかねは人間。
いったい何を求めていたのだろう。ただ不快な感じがする。
胸の奥にあの暗い蠢動を感じる。

>「どやっ!ここはウチらに任せといた方がよさそうやろ?
 フーはん、あん中におるんやね?……よっしゃ、急ご!マリーはん!鳥居はん!
 生還屋はんは……」

ただ彼女は変わらない。そんないつも明るい彼女を羨ましくも思う。
鳥居を吸血鬼と知り、先ほど見せた怪訝な顔はすでになかった。

>「あー、俺ぁ生き残りを探してくるとするぜ。オメーらに付いていくよか、その方が安全そうだしよ」
生還屋はぶっきらぼうな口調で、あかねの言葉を断ち切った。
生き残りを探すという生還屋らしい言葉。そのほうが安全という彼らしい言葉。
どちらも彼なのだ。

>「まっ、安心しろよ。ヤバそうな気がしたら、そんときゃ連れ戻しに行ってやっから」

「ハイ、シンジテマス」
少し釘をさし、生還屋を見送ったあと鳥居はマリーに視線を移す。
フーを救出するまえに、彼女に聞きたいことがあったのだ。

「マリーさんってどうしてこんな仕事をやってるんですか?
いざとなったら生身の人間も殺しちゃうんですよね。女の人なのに…」
すこし語尾がかすれる。緊張で喉はカラカラ。マリーには何か目的があるのだろう。
そう思う。それが何かを知りたいと思う。鳥居とは違う何か。強い意志を生み出す力の源を。

464名無しになりきれ:2013/01/12(土) 20:16:38
僧房の内部は未だに燃え続けていた。
フーは書庫の中、書棚の下敷きになっていた。
鳥居はフーと書棚の間に出来た隙間に手を入れて、書棚をドタンとひっくり返す。
続けてポケットから小瓶を取り出してフーに水を飲ます。
彼が書庫にいるということは、大切な書物を火災から守ろうとでもしたのだろうか。

「しっかりしてくださいフーさん!大丈夫ですか?あ、ちょっと待ってて」

一旦書庫から出で行く鳥居。
寝室から持ってきた布団を書棚に覆い被せ、
酸素の供給を断ち切り消化する。

「もしかして本を探していたのですか?
それってどれですか?マリーさん、持っていきましょう!」
布団を剥ぎ、焦げた本を指差し問う。

「あ、そうだ、あかねさん。この寺院がこんなになっちゃったこと
倉橋さんに伝えたほうがいいのでしょうか?
もしも僕たちが寺院から動かなくっちゃダメになったら
お互いに場所がわかんなくなっちゃいますよ。危ないから来るなとか、進行状況とか。
フーさんの人形で連絡と確認できませんか?
交信が繋がったらあとはマリーさんに話してもらいましょう」

そう言ってフーの体の下に頭を入れて抱き起こす。
だが、鳥居が小さいために、フーの膝から下が床に着いている。

「あなたには死んでもらっちゃ困ります。だって僕、この嘆願をやり遂げるって決めたんです。
もしも王宮の地下に不死の王がいるのなら会ってみたい。だから生きてください。
そして足を上げてください。脛が傷だらけになちゃうと悪いから!」
鳥居はフェイを背に乗せて、前かがみになった。
脱出する準備万全だった。指示されるがままにフェイを安全な場所に運ぶだろう。
その胸中に、もしかしたら不死の王に会えるかも知れないという期待。
自分の孤独な魂が、救われるかも知れないという微かな希望を宿しながら。

465名無しになりきれ:2013/01/16(水) 16:31:32
――大正時代。震災の爪痕も今は昔。
奇跡的に倒壊から免れた皇国の玄関『東京駅』
この赤褐色の建物を中心に帝都は復興を続けてきた。
かかるご時世とあらば、大東京一の盛り場である銀座も、
さぞかし火の消えたようになっているかと思わらるであろうが、さにあらず。
騒いで憂さを晴らしたいのか、老若男女が繰り出し大変な人出となっていた。
カフェーの女給と腕を組んでいる紳士。
少女歌劇の男役もかくやという断髪したモダンガールが
ロイド眼鏡にステッキ姿のモダンボーイを従えてペイヴメントを闊歩している。
その活気溢れるさまは夏の宵に相応しい。

ところ変わって裏通りの長屋。武者小路頼光の住居は今宵も慌しかった。
彼はあろうことか犬と格闘していた。それも三日前に隣人から預かった犬である。

「うおおお、この馬鹿犬!人様の家をめちゃくちゃにしやがってゆるさんぞ!!」
怒る頼光の周囲を、綿埃のような小型犬がキャンキャンと吠えながら暴れ回っている。
小型犬の名前は「満月」と飼い主から聞いている。きっと白くて丸いからだろう。
満月は枕の綿を引きずり出し、ドテラを引きちぎって、
その切れた布を咥えながら頼光から逃げ回っていた。小型犬が半狂乱しているのには理由があった。
実はとても空腹なのだ。その原因は頼光にあった。
彼は、満月の飼い主から預かった犬ビスケットを半分以上食べてしまっていたのだ。
隣人が旅行から帰って来るのは二日後というのにすでに餌はなかった。

「わかったぁ!わかったからもう暴れるんじゃねえ!
おう、そうだ。これからガキんちょのサーカスにでも行くか。
猛獣にやってる餌があるかも知れねえな。
いや待てよ。公演を何度もすっぽかしているから行きずれえな…。
じゃあ倉橋ん家に行くか?晩御飯の残り物でもあるかも知れねえ。
そうだ、それがいい!ぐわははははは!!」

そのとき、高笑いしている頼光の肩を、ぽんと叩く者がいた。

466名無しになりきれ:2013/01/16(水) 16:36:35
――大正時代。震災の爪痕も今は昔。
奇跡的に倒壊から免れた皇国の玄関『東京駅』
この赤褐色の建物を中心に帝都は復興を続けてきた。
かかるご時世とあらば、大東京一の盛り場である銀座も、
さぞかし火の消えたようになっているかと思わらるであろうが、さにあらず。
騒いで憂さを晴らしたいのか、老若男女が繰り出し大変な人出となっていた。
カフェーの女給と腕を組んでいる紳士。
少女歌劇の男役もかくやという断髪したモダンガールが
ロイド眼鏡にステッキ姿のモダンボーイを従えてペイヴメントを闊歩している。
その活気溢れるさまは夏の宵に相応しい。

ところ変わって裏通りの長屋。武者小路頼光の住居は今宵も慌しかった。
彼はあろうことか犬と格闘していた。それも三日前に隣人から預かった犬である。

「うおおお、この馬鹿犬!人様の家をめちゃくちゃにしやがってゆるさんぞ!!」
怒る頼光の周囲を、綿埃のような小型犬がキャンキャンと吠えながら暴れ回っている。
小型犬の名前は「満月」きっと白くて丸いからだろう。
満月は枕の綿を引きずり出し、ドテラを引きちぎって、
その切れた布を咥えながら頼光から逃げ回っていた。
小型犬が半狂乱しているのには理由は空腹。その原因は頼光にあった。
彼は、満月の飼い主から預かった犬ビスケットを半分以上食べてしまっていたのだ。
隣人が旅行から帰って来るのは二日後というのにすでに餌はない。

「わかったぁ!わかったからもう暴れるんじゃねえ!
おう、そうだ。これからガキんちょのサーカスにでも行くか。
猛獣にやってる餌があるかも知れねえな。
いや待てよ。公演を何度もすっぽかしているから行きずれえな…。
じゃあ倉橋ん家に行くか?晩御飯の残り物でもあるかも知れねえ。
そうだ、それがいい!ぐわははははは!!」

そのとき、高笑いしている頼光の肩を、ぽんと叩く者がいた。

467名無しになりきれ:2013/01/16(水) 16:44:16
――大正時代。震災の爪痕も今は昔。
奇跡的に倒壊から免れた皇国の玄関『東京駅』
この赤褐色の建物を中心に帝都は復興を続けてきた。
かかるご時世とあらば、大東京一の盛り場である銀座も、
さぞかし火の消えたようになっているかと思わらるであろうが、さにあらず。
騒いで憂さを晴らしたいのか、老若男女が繰り出し大変な人出となっていた。
カフェーの女給と腕を組んでいる紳士。
少女歌劇の男役もかくやという断髪したモダンガールが
ロイド眼鏡にステッキ姿のモダンボーイを従えてペイヴメントを闊歩している。
その活気溢れるさまは夏の宵に相応しい。

ところ変わって裏通りの長屋。武者小路頼光の住居は今宵も慌しかった。
彼はあろうことか犬と格闘していた。それも三日前に隣人から預かった犬である。

「うおおお、この馬鹿犬!人様の家をめちゃくちゃにしやがってゆるさんぞ!!」
怒る頼光の周囲を、綿埃のような小型犬がキャンキャンと吠えながら暴れ回っている。
小型犬の名前は「満月」きっと白くて丸いからだろう。
満月はドテラを引きちぎってその切れた布を咥えながら頼光から逃げ回っている。
小型犬が半狂乱している理由は空腹。その原因は頼光にあった。
彼は、満月の飼い主から預かった犬ビスケットを半分以上食べてしまっていたのだ。
隣人が旅行から帰って来るのは二日後というのにすでに餌はない。

「わかったぁ!わかったからもう暴れるんじゃねえ!
おう、そうだ。これからガキんちょのサーカスにでも行くか。
猛獣にやってる餌があるかも知れねえな。
いや待てよ。公演を何度もすっぽかしているから行きずれえな…。
じゃあ倉橋ん家に行くか?晩御飯の残り物でもあるかも知れねえ。
そうだ、それがいい!ぐわははははは!!」
そのとき、高笑いしている頼光の肩を、ぽんと叩くのは女の白い手。

468名無しになりきれ:2013/01/16(水) 19:09:19
背後には黒服の女が立っていた。
見た感じおよそこの長屋に相応しくないその女の名前は双條マリー。
長い髪は後ろに束ねられ、きりりとした気丈な瞳を輝かせながら
端正な双眸を頼光に見せ付けている。

「驚かせてすまない。ある知人から犬の餌の配達を頼まれてきたのだが、
隣には人がいないようだ。悪いが君が預かってはもらえないだろうか?」
マリーは籠に入った犬ビスケットを頼光に差し出した。

「おい、こりゃすげー偶然だな!この犬コロは隣の奴から預かっていた犬だ。
今、腹へって大暴れしてたとこだったんだがな。これで助かったぞ!」
すごい偶然もあるものだと驚嘆しながら、頼光は犬ビスケットの封を開け満月に与える。
すると満月は袋の中に顔を突っ込み餌を貪り始めるのだった。
兎にも角にもものすごいのは犬の気迫。頼光はあまりの気迫に面食らってしまい言葉が喉につまった。
さすがのマリーも口をぽかんと開けている。

469名無しになりきれ:2013/01/16(水) 19:27:23
背後には黒服の女が立っていた。
見た感じおよそこの長屋に相応しくないその女の名前は双條マリー。
長い髪は後ろに束ねられ、きりりとした気丈な瞳を輝かせながら
端正な双眸を頼光に見せ付けている。

「驚かせてすまない。ある知人から犬の餌の配達を頼まれてきたのだが、
隣には人がいないようだ。悪いが君がこの荷物を預かってはもらえないだろうか?」
マリーは籠に入った犬ビスケットを頼光に差し出した。

「おい、こりゃすげー偶然だな!この犬コロは隣の奴から預かっていた犬だ。
今、腹へって大暴れしてたとこだったんだがな。これで助かったぞ!」
すごい偶然もあるものだと驚嘆しながら、頼光は犬ビスケットの封を開け満月に与える。
すると満月は袋の中に顔を突っ込み餌を貪り始めるのだった。
兎にも角にもものすごいのは犬の気迫。頼光はあまりの気迫に面食らってしまい言葉が喉につまった。
さすがのマリーも口をぽかんと開けている。

「この小型犬、めずらしいな。血統書付きの犬のように思える。
失礼だがこんな長屋には不釣合いなほど高級な犬のようだ。隣人はいったい何者なのだ?」
マリーはしゃがみこむと犬の背を撫でながら問う。

「ん、ここだけの話。わけありの夫婦みてえだな。駆け落ちしてこの長屋に転がり込んだって噂だけどよ。
この間、富くじが当たって、二人でまだやってねえ新婚旅行に行くんだとかなんとか言ってたぞ」

470名無しになりきれ:2013/01/16(水) 20:31:41
背後には黒服の女が立っていた。
見た感じおよそこの長屋に相応しくないその女の名前は双條マリー。
長い髪は後ろに束ねられ、きりりとした気丈な瞳を輝かせながら
端正な双眸を頼光に見せ付けている。

「驚かせてすまない。ある知人から犬の餌の配達を頼まれてきたのだが、
隣には人がいないようだ。悪いが君がこの荷物を預かってはもらえないだろうか?」
マリーは籠に入った犬ビスケットを頼光に差し出した。

「おい、こりゃすげー偶然だな!この犬コロは隣の奴から預かっていた犬だ。
今、腹へって大暴れしてたとこだったんだがな。これで助かったぞ!」
すごい偶然もあるものだと驚嘆しながら、頼光は犬ビスケットの封を開け満月に与える。
すると満月は袋の中に顔を突っ込み餌を貪り始めるのだった。
兎にも角にもものすごいのは犬の気迫。頼光はあまりの気迫に面食らってしまい言葉が喉につまった。
さすがのマリーも口をぽかんと開けている。

「この小型犬、めずらしいな。血統書付きの犬のように思える。
失礼だがこんな長屋には不釣合いなほど高級な犬のようだ。隣人はいったい何者なのだ?」
マリーはしゃがみこむと犬の背を撫でながら問う。

「ん、ここだけの話。わけありの夫婦みてえだぞ。駆け落ちしてこの長屋に転がり込んだって噂だけどよ。
この間、富くじが当たって、二人でまだやってねえ新婚旅行に行くんだとかなんとか言ってたな。
つーか気になってんだけどよ。なんであんたが犬の餌なんて配達しに来たんだ?」

「フッ…、たんなる野暮用さ。とある知人の経営する貿易商が店じまいすることになってな。
七月二十八日の着日指定だった商品を急遽今日配達することになった。
知人には恩があったのでな。断り切れなかったのだ……」

それだけ言い置くと、仕事が残っているからと、マリーは帰って行った。
頼光は表通りまで見送り、再び長屋に戻ると満月の頭を撫でた。

「よく食うなおめえ。また餌がなくなっちまうぞ。
って、ちょっと待て。今日は何日だ?」
眉間に中指を当て、もみもみと解す。新婚旅行から隣人夫婦が帰って来るまでのこり二日。
この犬ビスケットの着日指定日は五日後の二十八日。
頼光は三日分の餌を隣人から預かっていたがそれは半分以上自分が食べてしまった。
それは関係なしとして二日の空白はいったいなんなんだろう。
いや、深く考えることもない。二日後に隣人は帰ってくるはずなのだから。

471名無しになりきれ:2013/01/16(水) 21:33:58
背後には黒服の女が立っていた。
見た感じおよそこの長屋に相応しくないその女の名前は双條マリー。
長い髪は後ろに束ねられ、きりりとした気丈な瞳を輝かせながら
端正な双眸を頼光に見せ付けている。

「驚かせてすまない。ある知人から犬の餌の配達を頼まれてきたのだが、
隣には人がいないようだ。悪いがこの荷物、君が預かってもらえないだろうか?」
マリーは籠に入った犬ビスケットを頼光に差し出した。

「おい、こりゃすげー偶然だな!この犬コロは隣の奴から預かっていた犬だ。
今、腹へって大暴れしてたとこだったんだがな。これで助かったぞ!」
すごい偶然もあるものだと驚嘆しながら、頼光は犬ビスケットの封を開け満月に与える。
すると満月は袋の中に顔を突っ込み餌を貪り始めるのだった。
兎にも角にもものすごいのは犬の気迫。頼光はあまりの気迫に面食らってしまい言葉が喉につまった。
さすがのマリーも口をぽかんと開けている。

「めずらしいな、この小型犬。血統書付きのように思える。
失礼だがこんな長屋には不釣合いなほど高級な犬のようだ。隣人はいったい何者なのだ?」
マリーはしゃがみこむと犬の背を撫でながら問う。

「ん、ここだけの話。わけありの夫婦みてえだぞ。駆け落ちしてこの長屋に転がり込んだって噂だけどよ。
この間、富くじが当たって、二人でまだやってねえ新婚旅行に行くんだとかなんとか言ってたな。
つーかさっきから気になってんだけどよ。なんであんたが犬の餌なんて配達しに来たんだ?」

「フッ…、たんなる野暮用さ。とある知人の経営する貿易商が店じまいすることになってな。
七月二十八日の着日指定だった商品を急遽今日配達することになった。
知人には恩があったのでな。断り切れなかったのだ……」

それだけ言い置くと、仕事が残っているからと、マリーは帰って行った。
頼光は表通りまで見送り、再び長屋に戻ると満月の頭を撫でた。

「よく食うなおめえ。また餌がなくなっちまうぞ。って、ちょっと待て。今日は何日だ?」
眉間に中指を当て、もみもみと解す。新婚旅行から隣人夫婦が帰って来るまでのこり二日。
この犬ビスケットの着日指定日は五日後の二十八日。
頼光は三日分の餌を隣人から預かっていたがそれは半分以上自分が食べてしまった。
それは関係なしとして二日の空白はいったいなんなんだろう。
頼光は布団にごろりと寝転がると天井を見つめ深い溜め息。それほど考えることもないと目を閉じる。
そう、二日後に隣人は帰ってくるはずなのだから。

472名無しになりきれ:2013/01/16(水) 22:37:09
だがしかし、隣人夫婦は二日経っても帰って来なかった。
海水浴中に二人とも海で溺れ、夫は帰らぬ人に、妻は旅行先の病院へと入院することになったという。
そして奇しくも今日は七月二十八日。
退院した妻が、予定遅れで小型犬を引き取りに来た日と何故か同じ日だった。
彼女は数日後、隣の長屋から高級住宅街へと引っ越すという。

「満月。暴れませんでした?この子、私の言うことしかきかないわがままな子なんです。
おまけにイギリスのドッグフードしか食べれませんの。きっとお腹を空かせていることでしょう」

「いやいや大丈夫でしたよ。犬ビスケットなら間に合いました。
店じまいするってことでなぜか早めにお宅に届いたみたいですな。
もちろん私がきっちり預かって満月ちゃんに食べさせてあげましたよ」

「……え、そうですか」
見開いた女の瞳に頼光の姿と、犬ビスケットの袋が映っている。
袋には可愛らしい犬の絵と「犬ビスケット」という文字が印刷されていた。

「しかし助かりました。今日届くはずの犬の餌が、数日前に届いたんですから。
おかげで大暴れされなくてすみました!がははははは!!」

その言葉を聞いて隣人の女は微笑んだ。

「いいこね」
当たり前かのように満月は、くぅと鳴く。

473名無しになりきれ:2013/01/16(水) 23:13:41
――大正時代。震災の爪痕も今は昔。
奇跡的に倒壊から免れた皇国の玄関『東京駅』
この赤褐色の建物を中心に帝都は復興を続けてきた。
かかるご時世とあらば、大東京一の盛り場である銀座も、
さぞかし火の消えたようになっているかと思わらるであろうが、さにあらず。
騒いで憂さを晴らしたいのか、老若男女が繰り出し大変な人出となっていた。
カフェーの女給と腕を組んでいる紳士。
少女歌劇の男役もかくやという断髪したモダンガールが
ロイド眼鏡にステッキ姿のモダンボーイを従えてペイヴメントを闊歩している。
その活気溢れるさまは夏の宵に相応しい。

ところ変わって裏通りの長屋。武者小路頼光の住居は今宵も慌しかった。
彼はあろうことか犬と格闘していた。それも三日前に隣人から預かった犬である。

「うおおお、この馬鹿犬!人様の家をめちゃくちゃにしやがってゆるさんぞ!!」
怒る頼光の周囲を、綿埃のような小型犬がキャンキャンと吠えながら暴れ回っている。
小型犬の名前は「満月」きっと白くて丸いからだろう。
満月はドテラを引きちぎってその切れた布を咥えながら頼光から逃げ回っている。
小型犬が半狂乱している理由は空腹。その原因は頼光にあった。
彼は、満月の飼い主から預かった犬ビスケットを半分以上食べてしまっていたのだ。
隣人が旅行から帰って来るのは二日後というのにすでに餌はない。

「わかったぁ!わかったからもう暴れるんじゃねえ!
おう、そうだ。これからガキんちょのサーカスにでも行くか。
猛獣にやってる餌があるかも知れねえな。
いや待てよ。公演を何度もすっぽかしているから行きずれえな…。
じゃあ倉橋ん家に行くか?晩御飯の残り物でもあるかも知れねえ。
そうだ、それがいい!ぐわははははは!!」
そのとき、高笑いしている頼光の肩を、ぽんと叩くのは女の白い手。

474名無しになりきれ:2013/01/16(水) 23:19:20
背後には黒服の女が立っていた。
見た感じおよそこの長屋に相応しくないその女の名前は双條マリー。
長い髪は後ろに束ねられ、きりりとした気丈な瞳を輝かせながら
端正な双眸を頼光に見せ付けている。

「驚かせてすまない。ある知人から犬の餌の配達を頼まれてきたのだが、
隣には人がいないようだ。悪いがこの荷物、君が預かってもらえないだろうか?」
マリーは籠に入った犬ビスケットを頼光に差し出した。

「おい、こりゃすげー偶然だな!この犬コロは隣の奴から預かっていた犬だ。
今、腹へって大暴れしてたとこだったんだがな。これで助かったぞ!」
すごい偶然もあるものだと驚嘆しながら、頼光は犬ビスケットの封を開け満月に与える。
すると満月は袋の中に顔を突っ込み餌を貪り始めるのだった。
兎にも角にもものすごいのは犬の気迫。頼光はあまりの気迫に面食らってしまい言葉が喉につまった。
さすがのマリーも口をぽかんと開けている。

「めずらしいな、この小型犬。血統書付きのように思える。
失礼だがこんな長屋には不釣合いなほど高級な犬のようだ。君の隣人はいったい何者なのだ?」
マリーはしゃがみこむと犬の背を撫でながら問う。

「ん、ここだけの話。わけありの夫婦みてえだぞ。駆け落ちしてこの長屋に転がり込んだって噂だけどよ。
この間、富くじが当たって、二人でまだやってねえ新婚旅行に行くんだとかなんとか言ってたな。
つーかさっきから気になってんだけどよ。なんであんたが犬の餌なんて配達しに来たんだ?」

「フッ…、たんなる野暮用さ。とある知人の経営する貿易商が店じまいすることになってな。
七月二十八日の着日指定だった商品を急遽今日配達することになった。
知人には恩があったのでな。断り切れなかったのだ……」

それだけ言い置くと、仕事が残っているからと、マリーは帰って行った。
頼光は表通りまで見送り、再び長屋に戻ると満月の頭を撫でた。

「よく食うなおめえ。また餌がなくなっちまうぞ。って、ちょっと待て。今日は何日だ?」
眉間に中指を当て、眉根をもみもみと解す。新婚旅行から隣人夫婦が帰って来るまでのこり二日。
この犬ビスケットの着日指定日は五日後の二十八日。
頼光は三日分の餌を隣人から預かっていたがそれは半分以上自分が食べてしまった。
それは関係なしとして二日の空白はいったいなんなんだろう。
頼光は布団にごろりと寝転がると天井を見つめ深い溜め息。それほど考えることもないと目を閉じる。
そう、二日後に隣人は帰ってくるはずなのだから。

475名無しになりきれ:2013/01/17(木) 16:08:48
名前 パラケルスス13世
種族 魔人
年齢 23歳
外見 紅いドミノマスクで目元を隠し、金刺繍の朱いタキシードに紅いマントを羽織っている。
   髪はキャラメルブラウン。長いので後ろで束ねている。
技能 錬菌術。
装備、アゾットの古剣。謎の小瓶(凝縮された父親が入っている)

錬金術師パラケルススの末裔。
金属に限らず、様々な物質や、人間の肉体や魂をも対象として
それらをより完全な存在へ練成する試みを日々模索し旅しているのだが
能力が未熟なために様々な失敗を繰り返している。
性格は真面目。父親を尊敬していた。ロンギヌス(聖槍騎士団)が宿敵。

476名無しになりきれ:2013/01/17(木) 16:38:02
名前 パラケルスス13世
種族 魔人
年齢 23歳
外見 紅いドミノマスクで目元を隠し、金刺繍の朱いタキシードに紅いマントを羽織っている。
   髪はキャラメルブラウン。長いので後ろで束ねている。
技能 錬菌術。剣術。
装備、アゾットの古剣。白のポシェット。
   謎の小瓶(凝縮された父親が入っている)

錬金術師パラケルススの末裔。
金属に限らず、様々な物質や、人間の肉体や魂をも対象として
それらをより完全な存在へ練成する試みを日々模索し旅している
しかし如何せん能力が未熟なために様々な失敗を繰り返し続けている。
性格は真面目。父親を尊敬していた。ロンギヌス(聖槍騎士団)が宿敵。

477名無しになりきれ:2013/01/17(木) 19:03:57
名前 リュジー・タライノ
種族 人間
年齢 27歳
外見 ゆるいヴェーブのかかった柔らかな黒髪。透き通った鼻筋。
   綺麗な指の繊細な爪先。頬に傷。黒服。
技能 霊能力
装備 数珠。さらし。短刀。

やくざの若頭。呪怨の家の土地を転がそうとして
組員をいっぱい殺されたから調べ始めたと思っていた。

478名無しになりきれ:2013/01/17(木) 21:21:57
名前:パラケルスス13世
種族:魔人
性別:女
年齢:23歳
技能:錬金術。剣術
外見:紅いドミノマスクで目元を隠し、金刺繍の朱いタキシードに紅いマントを羽織っている。
   髪の色はキャラメルブラウン。長いので後ろで束ねている。
装備:アゾットの古剣。白のポシェット。
   謎の小瓶(凝縮された父親が入っている)
操作許可指定:
設定許可指定:

錬金術師パラケルススの末裔。
金属に限らず、様々な物質や、人間の肉体や魂をも対象として
それらをより完全な存在へ練成する試みを日々模索し研究し続けている。
しかし如何せん、能力が未熟なために様々な失敗を繰り返し続けてきた。
父親を尊敬しており性格は真面目。ロンギヌス(聖槍騎士団)が宿敵。


名前:リュジー・タライノ
種族:人間
性別:男
年齢:27歳
技能:霊能力
外見:ゆるいヴェーブのかかった柔らかな黒髪。透き通った鼻筋。
   綺麗な指の繊細な爪先。頬に傷。黒服。
装備:数珠。さらし。短刀。指輪。
操作許可指定:
設定許可指定:

やくざの若頭。土地買収の際に呪怨の家と関わってしまう。
その後、謎の怪事件多発の末に多くの組員を失ってしまったという不幸者。
右手人差し指にはめた指輪は組員からプレゼントされたもの。
背中には天照大神と龍の刺青が彫られている。

479名無しになりきれ:2013/01/17(木) 21:36:26
名前:パラケルスス13世
種族:魔人
性別:女
年齢:23歳
技能:錬金術。剣術
外見:紅いドミノマスクで目元を隠し、金刺繍の朱いタキシードに紅いマントを羽織っている。
   髪の色はキャラメルブラウン。長いので後ろで束ねている。
装備:アゾットの古剣。白のポシェット。
   謎の小瓶(凝縮された父親が入っている)
操作許可指定:名無しも可
設定許可指定:名無しも可

錬金術師パラケルススの末裔。
金属に限らず、様々な物質や、人間の肉体や魂をも対象として
それらをより完全な存在へ練成する試みを日々模索し研究し続けている。
しかし如何せん、能力が未熟なために様々な失敗を繰り返し続けてきた。
父親を尊敬しており性格は真面目。ロンギヌス(聖槍騎士団)が宿敵。


名前:リュジー・タライノ
種族:人間
性別:男
年齢:27歳
技能:霊能力
外見:ゆるいヴェーブのかかった柔らかな黒髪。透き通った鼻筋。
   綺麗な指の繊細な爪先。頬に傷。黒服。
装備:数珠。さらし。短刀。指輪。
操作許可指定:名無しも可
設定許可指定:名無しも可

やくざの若頭。土地買収の際に呪怨の家と関わってしまう。
その後、謎の怪事件多発の末に多くの組員を失ってしまったという不幸者。
右手人差し指にはめた指輪は組員からプレゼントされたもの。
背中には天照大神と龍の刺青が彫られている。

480名無しになりきれ:2013/01/18(金) 19:36:10
>リリィさん
じつは学園の生徒たちの魔力を吸って巨大化も考えてましたw
でも学園が静かというフリがあったので幽霊さんが生徒たちを守るために
片っ端から球体に閉じ込めてるのかなって。
なのでリリィさんの慧眼に恐れおののいていたのですw
クロノストーンとしては最後にちょっとリリィさんを感じとれたのでよかったー
って勝手に思っていますw

>フリードさんとテオさん
さんざん挑発してしまってすみませんでした。
あの台詞を言ってみたいからあんなテンションになっちゃいました。
おかげさまで結果的にはすごく追い詰められたのでぞくぞくとしましたw

>エンカさん
やさしさでやられちゃいましたwまさに北風と太陽ですね。
スノボーしてる絵を想像したらエウレカセブンのOP曲DAYSが流れてきましたーw

>ササミさん
情けない神発言はクロノストーンのSAN値を密かに削ってたかもw
某ラスボスのもろぱくりみたいなオチは、
中国のドラえもんみたいなものなので許してくださいです(テヘペロ)
じつは禁断の果実の匂いと葉擦れの音とかで甘い夢の世界へ誘惑とかも考えてました。
個人的にみんなの心のSSっぽいのを読んでみたかったりしたかったから。
漫画版のナウシカの不死の番人が、やさしさで双子の王様を下僕にかえてしまった感じ。

481名無しになりきれ:2013/01/21(月) 15:47:12
フーを背負ったまま鳥居は無言。その顔に焦燥の色は隠せない。
さらにマリーは、術で時間稼ぎをして欲しいとあかねに催促している。
もはや遅疑逡巡は許せない。おまけに一考の猶予もない。

しかし今はマリーとあかねを信じるしかない。
>傷つくのは自分じゃなく、近しい人間なんだってことを思い知らされてね
そう、あの言葉とともに。

>「これで……どうなるん?え?棚の裏?ほな……ちょい待ってな。ていっ!」

あかねが何かに気付き棚の裏を蹴飛ばすと小さな穴が出来た。
気流が変化しているということは他に空間があるということだった。
彼女は術で小さくなると内側に潜り込み…

>「うわっ、暗っ……えっと……あ、あったでマリーはん!
 なんかここ、床板が外せそうや……元の体に戻れば……痛っ!狭っ!
 あかん!ごめん!一旦この棚どけてや!」

「はい、任せてください!」
鳥居はフーを一旦床に寝かせ、棚を両手で動かす。
すると、書棚の奥には小さな空間があった。
床にはあかねが言ったように切れ目が入っている。その下には階段があった。

>「……フーはんが向かおうとしてたんは、そこで間違いなさそうやね」
書棚の陰から顔だけを覗かせて、あかねが言う。
着替えているのだ。鳥居は顔だけのあかねを見てパッと顔を背ける。
その頬は朱で染まっていた。


――地下にはそれなりに広い部屋があった。
空気の循環は保たれているようだ。フーの術――流れを操る力によるものだろう。

>「ほい、これ。暗いやろ?」
最後尾にいたあかねが燃えた板きれをエプロンで掴んで持ってきた。
それを使って燭台に火を点けると、部屋の全体に明かりが行き渡る。

「あ。ありがとうございます。これなら物の色もはっきりと見えます」
吸血鬼の鳥居は、闇の中でも物の輪郭は見えていたらしい。
見えてはいたらしいが、如何せん、地下に隠された道具の価値まではわからない。
ただ子どものころに、鳥居の母親も同じようなものを持っていたような懐かしい感じがする。
それは押入れに仕舞われていたおもちゃ箱を開いたような感覚と似ていた。

鳥居が不思議な感覚に襲われていると、あかねはフーの回収したいものを見つけたらしく声をあげる。
おまけに部屋の隅に快活そうに笑う女の描かれている巻物を見つける。

>「どうする?これ。そう大した荷物にはならへんけど……」

「持っていきましょう。これって誰かの思い出なのかもしれないです。
誰が描いたのかはわかりませんが、こんなに緻密に描いているってことは
その人を大切に思っていて、永遠にその姿をとどめておきたいっていう、
そんな祈りのようなものを感じます」
鳥居は袋に巻物を入れて腰に捲きつける。
ついでに金刺繍の施されている黒の中国式マントを羽織っていい気分。

>「――おい、何やってんだ?いい加減この建物、ヤバそうだぜ。
 時間切れだ。さっさと脱出しろ」

「あ、いけない。こんなところに閉じ込められて蒸し焼きなんて
まっぴらごめんです。はやく逃げましょう!マリーさん、あかねさん!」

482名無しになりきれ:2013/01/21(月) 16:47:34
フーはあかねの術によって目をさましたあと結界を再起動。
その後、地下室で回収したものの返却を求めてきた。
目を瞠らせたのは彼のものすごい剣幕だった。

「はい、これ」
鳥居は女の描かれていた巻物をフーに手渡す。

「あの、この絵の女性は誰ですか?」
おそるおそるではあるが、好奇心で問いかけてみる鳥居。
彼女はフーの昔の恋人なのだろうか。
それとも写真ではないということは過去に生きた大切な人なのだろうか。
いずれにしろ憎い相手の絵を好き好んで保管している人間などいないだろう。
きっと何か思い入れのある女なのだ。

フーはフェイの手紙を受け取り、
二度と結界が破れられないように守って欲しいと鳥居たちに頼んできた。
鳥居もそれには賛成だった。
倉橋や頼光、ブルーたちが帰って来れる場所を守る。
彼らが帰ってくることを信じて。

>「――鳥居はん」

そんな中、あかねが鳥居に話しかけてきた。
彼女は何やら鉢と布切れを持っていた。

>「さっき燃えた棚、素手で棚触っとったやろ。これ、薬草の軟膏と包帯や。
 ホントは術使ってちゃんと治してあげたいんやけど……鳥居はん、吸血鬼やん?
 多分、水の術とは相性悪いと思うから……」
あかねは少し言い難そうだった。

「……ありがとうございます。うん、多分僕、水の術には弱いのかもしれないです。
聖水とか聖なるものとか。もしかしたらこの結界も、ぼくの体に悪影響を与えているのかも」
鳥居のその顔には覇気というものがなかった。まるで迷子の子犬。少年の心は闇のなかにいた。
(いっそのこと全員他人ならいいのに)

483名無しになりきれ:2013/01/21(月) 20:20:27
フーを背負ったまま鳥居は無言。その顔に焦燥の色は隠せない。
さらにマリーは、術で時間稼ぎをして欲しいとあかねに催促している。
それを聞いていた鳥居の喉がひくりと動く。もう遅疑逡巡は許せない。
火災によって、僧房が崩れるのも時間の問題だ。

でも今はマリーとあかねを信じるしかない。
>傷つくのは自分じゃなく、近しい人間なんだってことを思い知らされてね
そう、マリーは自分よりも、近しい人間が傷つくことを恐れている。
鳥居にはその言動が、何故か信じるに値することに思えたのだ。

>「これで……どうなるん?え?棚の裏?ほな……ちょい待ってな。ていっ!」

あかねが何かに気付き棚の裏を蹴飛ばすと小さな穴が出来た。
気流が変化しているということは他に空間があるということだった。
彼女は術で小さくなると内側に潜り込み…

>「うわっ、暗っ……えっと……あ、あったでマリーはん!
 なんかここ、床板が外せそうや……元の体に戻れば……痛っ!狭っ!
 あかん!ごめん!一旦この棚どけてや!」

「はい、任せて!」
鳥居はフーを一旦床に寝かせ、棚を両手で動かす。
すると、書棚の奥には小さな空間があった。
床にはあかねが言ったように切れ目が入っており、その下には階段が見える。

>「……フーはんが向かおうとしてたんは、そこで間違いなさそうやね」
書棚の陰から顔だけを覗かせて、あかねが言う。あかねは着替えているようだ。
それに気が付いた鳥居はパッと顔を背け、その頬を朱で染めあげるのだった。

――地下にはそれなりに広い部屋があった。
空気の循環は保たれているようだ。フーの術――流れを操る力によるものだろう。

>「ほい、これ。暗いやろ?」
最後尾にいたあかねが燃えた板きれをエプロンで掴んで持ってきた。
それを使って燭台に火を点けると、部屋の全体に明かりが行き渡る。

「あ。ありがとうございます。これなら物の色もはっきりと見えます」
吸血鬼の鳥居は、闇の中でも物の輪郭は見えているらしい。
見えてはいるらしいが、如何せん、地下に隠された道具の価値まではわからない。
ただ子どものころに、鳥居の母親も同じようなものを持っていたような懐かしい感じがする。
それは押入れに仕舞われていたおもちゃ箱を開いたような感覚と似ていた。

鳥居が不思議な感覚に襲われていると、あかねはフーの回収したいものを見つけたらしく声をあげる。
おまけに部屋の隅に快活そうに笑う女の描かれている巻物を見つける。

>「どうする?これ。そう大した荷物にはならへんけど……」

「持っていきましょう。これって誰かの思い出なのかもしれないです。
誰が描いたのかはわかりませんが、こんなに緻密に描いているってことは
その人を大切に思っていて、永遠にその姿をとどめておきたいっていう、
そんな祈りのようなものを感じます」
鳥居は袋に巻物を入れて腰に捲きつける。
ついでに金刺繍の施されている黒の中国式マントを羽織っていい気分。

>「――おい、何やってんだ?いい加減この建物、ヤバそうだぜ。
 時間切れだ。さっさと脱出しろ」

「あ、いけない。こんなところに閉じ込められて蒸し焼きなんてまっぴらごめんです。
はやく逃げましょう!マリーさん、あかねさん!」

484名無しになりきれ:2013/01/21(月) 21:58:30
フーはあかねの術によって目をさましたあと結界を再起動。
その後、地下室で回収したものの返却を求めてきた。
目を瞠らせたのは彼のものすごい剣幕だった。

「はい、これ」
鳥居は女の描かれていた巻物をフーに手渡す。

「あの、この絵の女性は誰ですか?」
おそるおそるではあるが、好奇心で問いかけてみる鳥居。
彼女はフーの昔の恋人なのだろうか。
それとも写真ではないということは過去に生きた大切な人なのだろうか。
いずれにしろ憎い相手の絵を好き好んで保管している人間などいないだろう。
きっと何か思い入れのある女なのだ。

フーはフェイの手紙を受け取り、
二度と結界が破れられないように守って欲しいと鳥居たちに頼んできた。
鳥居もそれには賛成だった。
倉橋や頼光、ブルーたちが帰って来れる場所を守る。
彼らが帰ってくることを信じて。

>「――鳥居はん」

そんな中、あかねが鳥居に話しかけてきた。
彼女は何やら鉢と布切れを持っていた。

>「さっき燃えた棚、素手で棚触っとったやろ。これ、薬草の軟膏と包帯や。
 ホントは術使ってちゃんと治してあげたいんやけど……鳥居はん、吸血鬼やん?
 多分、水の術とは相性悪いと思うから……」
あかねは少し言い難そうだった。

「……ありがとうございます。はい、たぶん僕、水の術には弱いのかもしれないです。
聖水とか聖なるものとか。もしかしたらこの結界も、ぼくの体に悪影響を与えているのかも」
そうは言ったものの、鳥居にも自身の体の秘密はよくわからなかった。
もしかしたら鳥居を吸血鬼に変えた母親本人も予期せぬことが起きているのかも知れない。
ただ鵺との戦いで死にかけた鳥居は、唐獅子の生み出した神気を一度はその肉体に受け入れることが出来た。
だとしたら自分はいったいなんなのだろう。
何時ぞや倉橋が「生成り小僧」と彼を呼んだことは的を射ていたのかもしれない。
和装から洋装、土と木から煉瓦と混凝へ。まさに大正の狭間に寄生する「虫」が如し己の存在。

485名無しになりきれ:2013/01/21(月) 22:29:50
沈黙が落ちる。

自分は人に戻れるのだろうか。
戻る必要があるのか。

張り詰めたような静かな時間の中で、少年はずっと考えていた。
倉橋たちは無事にフーの代わりの人間を連れてくることが出来るのだろうか。
頼光が足をひっぱっているのではないか。いやブルーがついているから大丈夫だろう。
こちらはフェイ老人との約束は叶っている。あとは使いを出して後日ということなのだろう。
フェイからは不死の王について古い言い伝えを聞くことが出来ている。
問いてはみたいが、フーは古い言い伝えのことはわからないと初見のころに言っていた。

486名無しになりきれ:2013/01/21(月) 22:45:06
沈黙が落ちる。

自分は人に戻れるのだろうか。
戻る必要があるのか。

張り詰めたような静かな時間の中で、少年はずっと考えていた。
倉橋たちは無事にフーの代わりの人間を連れてくることが出来るのだろうか。
頼光が足をひっぱっているのではないか。いやブルーがついているから大丈夫なのではないか。
こちらはフェイ老人との約束は叶っている。あとは使いを出して後日ということになるのだろう。
すでにフェイからは不死の王について古い言い伝えを聞くことが出来ている。
フーにこのことについて問いてはみたいが、彼は古い言い伝えのことはわからないと初見の時に言っていた。

487名無しになりきれ:2013/01/21(月) 23:21:19
沈黙が落ちる。

自分は人に戻れるのだろうか。
戻る必要があるのか。

張り詰めたような静かな時間の中で、少年はずっと考えていた。
倉橋たちは無事にフーの代わりの人間を連れてくることが出来るのだろうか。
頼光が足をひっぱっているのではないか。いやブルーがついているから大丈夫なのではないか。
こちらはフェイ老人との約束は叶っている。あとは使いを出して後日ということになるのだろう。
すでにフェイからは不死の王について古い言い伝えを聞くことが出来ている。
フーにこのことについて問いてはみたいが、彼は古い言い伝えのことはわからないと初見の時に言っていた。

兎にも角にも今はこの結界を守ることに専念しよう。
そう考えたら鳥居から雑念が消えた。

その時だった。

>「……今、誰かがこちらを見ていタ。結界を切り裂いて、誰かガ。
 僕から見て三時の方向……距離は、およそ十間(二十メートル弱)ダ」

(きた!)
鳥居はすぐ隣にいたマリーたちの耳元で囁く。

「生け捕りにしましょう。フーさんの言葉だけじゃよくわかんないです。
あかねさんは、フーさんが相手に見せている場所を思いっきり術で光らせてください。
覗き見してるってことは強い光で目くらましが出来るはずですから。
そこへマリーさんが行って捕まえる。迷路のような狭い道なら目が眩んでる状態で走るのは
かなり不利だと思います。あとは尋問たいむです。相手が何者か知りたいです」
不審者のことを、鳥居は呪災を起こした人たちと考えていた。
複数の術者か、それか個人と仮定したのなら遺跡の宝を使って呪災を起こしている者に違いない。
嘆願を達成するためには謎を突き止めなくてはならない。

488名無しになりきれ:2013/01/23(水) 16:36:22
>「…………違うな、多世界に影響をもたらす者は排除するのみ
 それ以上でもそれ以下でもない……」

リュジーは永久闘争存在の言葉を聞き、ふと思う。
多世界に影響をもたらす者。きっとあの悪霊のことだと。
かつて除霊を相談した霊能力者は、恐怖におののきこう語った。
これは人の手にはおえないと。
蓄積した呪いが、怨念が、時と空間を越え拡大してゆくのだと。
そしてその忌まわしき残念な怨念の根源の名は――

「……佐伯伽椰子」
思い出すたびに背筋が凍りつく。あの不吉な女の名前を。
呪怨の家で起こった凄惨な事件。たしかに佐伯には同情はする。
しかし、リュジーは一歩もひけない。
佐伯が己を不幸にした世界に復讐するつもりなら
リュジーも仲間を呪い殺した佐伯に復讐する。

かならずや仇を討つ。佐伯の首を友の墓前に供えるのだ。
そう、それが男の生き様。任侠ヘルパーなのだから!

「このまま尻尾まいて逃げれねーぜ」
眼光鋭くリュジーはひとりごちる。
そんな中、突如一匹の不思議な生物―淫夢君がひょっこりと現れ
何やら挨拶をする動作をしてリュジーの肩に乗る。

「おまえも行くか?ならしっかり捕まってろ」

そうこうして、淫夢君を肩に乗せたリュジーを乗せた猟犬は激闘地跡に降りた。

>「…………」

「…………」
リュジーは大気に残った微かな波動を感じていた。
たしかにここでは何かがあったらしい。

489名無しになりきれ:2013/01/23(水) 16:43:56
>「…………違うな、多世界に影響をもたらす者は排除するのみ
 それ以上でもそれ以下でもない……」

リュジーは永久闘争存在の言葉を聞き、ふと思う。
多世界に影響をもたらす者。きっとあの悪霊のことだと。
かつて除霊を相談した霊能力者は、恐怖におののきこう語った。
これは人の手にはおえないと。
蓄積した呪いが、怨念が、時と空間を越え拡大してゆくのだと。
そしてその忌まわしき怨念の名は――

「……佐伯伽椰子」
思い出すたびに背筋が凍りつく。あの不吉な女の名前を。
呪怨の家で起こった凄惨な事件。たしかに佐伯には同情はする。
しかし、リュジーは一歩もひけない。
佐伯が己を不幸にした世界に復讐するつもりなら
リュジーも仲間を呪い殺した佐伯に復讐する。

かならずや仇を討つ。佐伯の首を友の墓前に供えるのだ。
そう、それが男の生き様。任侠道なのだから!

「このまま尻尾まいて逃げれねーぜ」
眼光鋭くリュジーはひとりごちる。
そんな中、突如一匹の不思議な生物―淫夢君がひょっこりと現れ
何やら挨拶をする動作をしてリュジーの肩に乗る。

「おまえも行くか?ならしっかり捕まってろ」
そうこうして、淫夢君を肩に乗せたリュジーを乗せた猟犬は激闘地跡に降りた。

>「…………」

「…………」
リュジーは大気に残った微かな波動を感じていた。
たしかにここでは何かがあったらしい。

490名無しになりきれ:2013/01/23(水) 17:20:05
「ちっ、逃げたか…」
リュジーはあたりを見渡していた。
無数の猟犬と排除する者。
現世ではあれほどの威勢を放っていた伽椰子も
この世界では追われる立場なのだろう。

「こりゃあ、いたちごっこだ」
リュジーも呪怨の能力の片鱗を現世で体験している。
永久闘争存在も、これだけの猟犬をひきつけているということは全能ではないのだろう。
彼をもってしても、伽椰子の探索には骨を折っているのかもしれない。

「どうする?」
戦いにおいては先をとることが勝利に繋がるものだ。
相手の行動の先を読むのだ。そらなら伽椰子の目的は?
ただ逃走しながら、殺戮を繰り返しているだけなのだろうか?
今のリュジーには知ることが必要なようだ。

「いったい伽椰子は、何が目的なのだ?」
淫夢君の頭を撫でながらリュジーは呟くのだった。

491名無しになりきれ:2013/01/23(水) 18:48:23
>「…………違うな、多世界に影響をもたらす者は排除するのみ
 それ以上でもそれ以下でもない……」

リュジーは永久闘争存在の言葉を聞き、ふと思う。
多世界に影響をもたらす者とは、きっとあの悪霊のことだと。
たしかに、心当たりはある。
かつて除霊を相談した霊能力者は、恐怖におののきこう語った。
この一件は人の手にはおえないものだと。
蓄積した呪いが、怨念が、時と空間を越え拡大してゆくのだと。
そしてその忌まわしき怨念の名は――

「……佐伯伽椰子」
思い出すたびに背筋が凍りつく。
あの不吉な女の名前。
呪怨の家で起こった凄惨な事件。

たしかに佐伯には同情はする。
しかし、今のリュジーにはそんな気持ちなどさらさらない。
佐伯が己を不幸にした世界に復讐するつもりなら
リュジーも仲間を呪い殺した佐伯に復讐するのだ。
かならずや仇を討つ。佐伯の首を討ち取り、友の墓前に供えるのだ。
そう、それが男の生き様。任侠道なのだから!

「このまま尻尾まいて逃げれねーぜ」
眼光鋭くリュジーはひとりごちる。
そんな中、突如一匹の不思議な生物―淫夢君がひょっこりと現れ
何やら挨拶をする動作をしてリュジーの肩に乗る。

「おまえも行くか?ならしっかり捕まってろ」
そうこうして、淫夢君を肩に乗せたリュジーを乗せた猟犬は激闘地跡に降りた。

>「…………」

「…………」
リュジーは大気に残った微かな波動を感じていた。
たしかにここでは何かがあったらしい。

492名無しになりきれ:2013/01/23(水) 18:55:34
「ちっ、逃げたか…」
リュジーはあたりを見渡していた。
無数の猟犬と排除する者。
現世ではあれほどの威勢を放っていた伽椰子も
この世界では追われる立場なのだろう。

「こりゃあ、いたちごっこだぜ」
リュジーも呪怨の能力の片鱗を現世で体験している。
永久闘争存在も、これだけの猟犬をひきつけているということは全能ではないのだろう。
彼をもってしても、伽椰子の探索には骨を折っているのかもしれぬ。

「どうする?」
戦いにおいては先をとることが勝利に繋がるものだ。
相手の行動の先を読むことだ。
それなら伽椰子の目的は?
ただ逃走しながら、殺戮を繰り返しているだけなのだろうか?

――わからない。

今のリュジーには知ることが必要なようだ。

「いったい伽椰子は、何が目的なのだ?」
淫夢君の頭を撫でながらリュジーは呟くのだった。

493名無しになりきれ:2013/01/31(木) 07:13:39
>「…………違うな、多世界に影響をもたらす者は排除するのみ
 それ以上でもそれ以下でもない……」

リュジーは永久闘争存在の言葉を聞き、ふと思う。
多世界に影響をもたらす者。きっとあの悪霊のことだと。
かつて除霊を相談した霊能力者は、恐怖におののきこう語った。
これは人の手にはおえないと。
蓄積した呪いが、怨念が、時と空間を越え拡大してゆくのだと。
そしてその忌まわしき残念な怨念の根源の名は――

「……佐伯伽椰子」
思い出すたびに背筋が凍りつく。あの不吉な女の名前を。
呪怨の家で起こった凄惨な事件。たしかに佐伯には同情はする。
しかし、リュジーは一歩もひけない。
佐伯が己を不幸にした世界に復讐するつもりなら
リュジーも仲間を呪い殺した佐伯に復讐する。

かならずや仇を討つ。佐伯の首を友の墓前に供えるのだ。
そう、それが男の生き様。任侠ヘルパーなのだから!

「このまま尻尾まいて逃げれねーぜ」
眼光鋭くリュジーはひとりごちる。
そんな中、突如一匹の不思議な生物―淫夢君がひょっこりと現れ
何やら挨拶をする動作をしてリュジーの肩に乗る。

「おまえも行くか?ならしっかり捕まってろ」

そうこうして、淫夢君を肩に乗せたリュジーを乗せた猟犬は激闘地跡に降りた。

>「…………」

「…………」
リュジーは大気に残った微かな波動を感じていた。
たしかにここでは何かがあったらしい。

494名無しになりきれ:2013/02/01(金) 16:05:33
>「…………違うな、多世界に影響をもたらす者は排除するのみ
 それ以上でもそれ以下でもない……」

リュジーは永久闘争存在の言葉を聞き、ふと思う。
多世界に影響をもたらす者。きっとあの悪霊のことだと。
かつて除霊を相談した霊能力者は、恐怖におののきこう語った。
これは人の手にはおえないと。
蓄積した呪いが、怨念が、時と空間を越え拡大してゆくのだと。
そしてその忌まわしき残念な怨念の根源の名は――

「……佐伯伽椰子」
思い出すたびに背筋が凍りつく。あの不吉な女の名前を。
呪怨の家で起こった凄惨な事件。たしかに佐伯には同情はする。
しかし、リュジーは一歩もひけない。
佐伯が己を不幸にした世界に復讐するつもりなら
リュジーも仲間を呪い殺した佐伯に復讐する。

かならずや仇を討つ。佐伯の首を友の墓前に供えるのだ。
そう、それが男の生き様。任侠ヘルパーなのだから!

「このまま尻尾まいて逃げれねーぜ」
眼光鋭くリュジーはひとりごちる。
そんな中、突如一匹の不思議な生物―淫夢君がひょっこりと現れ
何やら挨拶をする動作をしてリュジーの肩に乗る。

「おまえも行くか?ならしっかり捕まってろ」

そうこうして、淫夢君を肩に乗せたリュジーを乗せた猟犬は激闘地跡に降りた。

>「…………」

「…………」
リュジーは大気に残った微かな波動を感じていた。
たしかにここでは何かがあったらしい。

495名無しになりきれ:2013/02/01(金) 17:25:46
鳥居の「目くらまししたい」という言葉に、
あかねはそれは無理だけど「足止めはよい提案」と言ってくれた。
マリーも肩をぽんぽんしてくれる。
鳥居は心の中で「やった!」と小さなガッツポーズ。

>「――鳥居はん、ウチらも行こや。マリーはんほど滑らかには無理やろうけど、
 吸血鬼の力なら塀を越えて追っかけられるんちゃう?」
>「あと……出来ればその、おぶってって……欲しいんよね。
 ウチじゃマリーはんの真似は無理やし……。自分で言うのもなんやけど、ウチそんな重ないから……ねっ?」

496名無しになりきれ:2013/02/01(金) 20:24:48
鳥居の「目くらまししたい」という言葉に、
あかねは「それは無理、でも足止めはよい提案」と言ってくれた。
マリーも肩をぽんぽんしてくれる。
鳥居は心の中で「やった!」と小さなガッツポーズ。
あとは尋問時間の始まりを待つだけ、と暢気。

>「――鳥居はん、ウチらも行こや。マリーはんほど滑らかには無理やろうけど、
 吸血鬼の力なら塀を越えて追っかけられるんちゃう?」
>「あと……出来ればその、おぶってって……欲しいんよね。
 ウチじゃマリーはんの真似は無理やし……。自分で言うのもなんやけど、ウチそんな重ないから……ねっ?」

あかねを背に薄闇を跳躍。何時と言われてもその方角ははわからなかったけどとりあえずマリーの向かった方角ならわかる。
その距離はおよそ十間。鳥居は猫のように屋根や塀の上を走ると視線の先に観察者とマリーを捉える。
でも、その様子はおかしかった。
鳥居の想像では観察者に馬乗りになったマリーが短剣片手に「ぜんぶはけ」と鬼の顔で言っているはずだった。
しかし現実は、思ってたのとちがう。

(そっか…。僕は何にもわかってなかったです。生け捕りにする作戦なんて、
本来のマリーさんの剣捌きを鈍らせるものだって、とっても危険なものだって
最初に気付くべきでした……)
遅れて到着した鳥居はそのような認識だった。鬼に出会えば鬼を斬る。神に出会えば神を斬る。
マリーに対しての歪んだ評価。

鳥居は大きく息を吸い込むと瓦の屋根を跳躍。観察者の背後に着地。
だが、あかねを背負っているので体勢を崩して転んでしまう。

「いてて…。あの、すみませんでした。僕が貴方を生け捕りにしたいって言ったんです。
それはフーさんに結界を守るって約束したからです。結界の中にはまだ生きてる人が沢山いるんですよ。
それなのに結界を破壊してしまうなんて貴方は一体なんですか?」

497名無しになりきれ:2013/02/02(土) 20:32:56
鳥居の「目くらまししたい」という言葉に、
あかねは「それは無理、でも足止めはよい提案」と言ってくれた。
マリーも肩をぽんぽんしてくれる。
鳥居は心の中で「やった!」と小さなガッツポーズ。
あとは尋問時間の始まりを待つだけ、と暢気。

鳥居の想像では、観察者とその一味が不死の王に関係する遺物を盗んで悪用して呪災を起こし、
その災害から人々を守ろうとしているフーをいけ好かないからやっつけにきた。そう思っていた。
でもマリーは、観察者が僧房に隠されているものを狙っていたという。
そしてそれをフーは否定しない。それはつまり、観察者たちに足りないものがあるということだ。
その証拠は動死体が観察者たちが生み出した不死の王の失敗作ということ。
すべてあくまでも鳥居の想像の話だが。



>「――鳥居はん、ウチらも行こや。マリーはんほど滑らかには無理やろうけど、
 吸血鬼の力なら塀を越えて追っかけられるんちゃう?」
>「あと……出来ればその、おぶってって……欲しいんよね。
 ウチじゃマリーはんの真似は無理やし……。自分で言うのもなんやけど、ウチそんな重ないから……ねっ?」

あかねを背に薄闇を跳躍。何時と言われてもその方角ははわからなかったけどとりあえずマリーの向かった方角ならわかる。
その距離はおよそ十間。鳥居は猫のように屋根や塀の上を走ると視線の先に観察者とマリーを捉える。
でも、その様子はおかしかった。
鳥居の想像では観察者に馬乗りになったマリーが短剣片手に「ぜんぶはけ」と鬼の顔で言っているはずだった。
しかし現実は、思ってたのとちがう。

(そっか…。僕は何にもわかってなかったです。生け捕りにする作戦なんて、
本来のマリーさんの剣捌きを鈍らせるものだって、とっても危険なものだって
最初に気付くべきでした……)
遅れて到着した鳥居はそのような認識だった。鬼に出会えば鬼を斬る。神に出会えば神を斬る。
マリーに対しての歪んだ評価。

鳥居は大きく息を吸い込むと瓦の屋根を跳躍。観察者の背後に着地。
だが、あかねを背負っているので体勢を崩して転んでしまう。

「いてて…。あの、すみませんでした。僕が貴方を生け捕りにしたいって言ったんです。
それはフーさんに結界を守るって約束したからです。結界の中にはまだ生きてる人が沢山いるんですよ。
それなのに結界を破壊してしまうなんて貴方は一体なんですか?きっと薄汚い泥棒さんでしょう?」

498名無しになりきれ:2013/02/02(土) 21:20:34
鳥居の「目くらまししたい」という言葉に、
あかねは「それは無理、でも足止めはよい提案」と言ってくれた。
マリーも肩をぽんぽんしてくれる。
鳥居は心の中で「やった!」と小さなガッツポーズ。
あとは尋問時間の始まりを待つだけ、と暢気。

鳥居の想像では、観察者とその一味が不死の王に関係する遺物を盗んで悪用して呪災を起こし、
その災害から人々を守ろうとしているフーをいけ好かないからやっつけにきた。そう思っていた。
でもマリーは、観察者が僧房に隠されているものを狙っていたという。
そしてそれをフーは否定しない。それはつまり、観察者たちに足りないものがあるということだ。
その証拠は動死体が観察者たちが生み出した不死の王の失敗作ということ。
でもすべては、あくまでも想像の話。

>「――鳥居はん、ウチらも行こや。マリーはんほど滑らかには無理やろうけど、
 吸血鬼の力なら塀を越えて追っかけられるんちゃう?」
>「あと……出来ればその、おぶってって……欲しいんよね。
 ウチじゃマリーはんの真似は無理やし……。自分で言うのもなんやけど、ウチそんな重ないから……ねっ?」

「うん。いいですよ。あかねさんにはいっぱい助けてもらいましたから。
あ、そのお礼と言ってはなんですけど、日本に無事に帰れたら、
僕のサーカスを観に来て欲しいです。一緒に頼光も働いていますから」

あかねを背にした鳥居は薄闇を跳躍。とりあえずマリーの向かった方角に向かう。
その距離はおよそ十間。猫のように屋根や塀の上を走ると視線の先には観察者とマリー。
でも、その様子はおかしかった。
鳥居の想像では観察者に馬乗りになったマリーが短剣片手に「ぜんぶはけ」と鬼の顔で言っているはずだった。
しかし現実は思ってたのとちがう。

(そっか…。僕は何にもわかってなかったです。生け捕りにする作戦なんて、
本来のマリーさんの剣捌きを鈍らせるものだって、とっても危険なものだって
最初に気付くべきでした……)
遅れて到着した鳥居はそのような認識だった。マリーが体験した摩訶不思議な出来事は知らない。
おまけに鬼に出会えば鬼を斬る。神に出会えば神を斬る。マリーに対しての歪んだ評価。
鳥居は大きく息を吸い込むと屋根を跳躍。観察者の背後に着地。
結界を破ったと思われる彼に対し、鳥居は嫌悪はあったが敵意はなかった。
それ故に攻撃は仕掛けない。仕掛けたとしても鳥居の能力では避けられてしまうだろう。
あかねを背負ったまま、鳥居は体勢を崩して無様に転倒。

「いてて…。あの、すみませんでした。僕が貴方を生け捕りにしたいって言ったんです。
なぜならフーさんに結界を守るって約束したからです。結界の中にはまだ生きてる人が沢山いるんですよ。
それなのに結界を破壊してしまうなんて貴方は一体なんですか?きっと薄汚い泥棒さんでしょう?
たぶん盗んだ遺物で誰かを不死にしようとして失敗したんでしょうね。だからフーさんの隠していた大切なものを探していた。
そうでしょ?」

499名無しになりきれ:2013/02/02(土) 22:19:24
鳥居の「目くらまししたい」という言葉に、
あかねは「それは無理、でも足止めはよい提案」と言ってくれた。
マリーも肩をぽんぽんしてくれる。
鳥居は心の中で「やった!」と小さなガッツポーズ。
あとは尋問時間の始まりを待つだけ、と暢気。

鳥居の想像では、観察者とその一味が不死の王に関係する遺物を盗んで呪災を起こし、
その災害から人々を守ろうとしているフーをいけ好かないからやっつけにきた。そう思っていた。
でもマリーは、観察者が僧房に隠されているものを狙っていたという。
そしてそれをフーは否定しない。それはつまり、観察者たちに足りないものがあったということだ。
その証拠はお粗末な動死体。観察者たちが生み出した不死の王の失敗作と鳥居は仮定する。

>「――鳥居はん、ウチらも行こや。マリーはんほど滑らかには無理やろうけど、
 吸血鬼の力なら塀を越えて追っかけられるんちゃう?」
>「あと……出来ればその、おぶってって……欲しいんよね。
 ウチじゃマリーはんの真似は無理やし……。自分で言うのもなんやけど、ウチそんな重ないから……ねっ?」

「うん。いいですよ。あかねさんにはいっぱい助けてもらいましたから。
あ、そのお礼と言ってはなんですけど、日本に無事に帰れたら、
僕のサーカスを観に来て欲しいです。一緒に頼光も働いていますから」

あかねを背にした鳥居は薄闇を跳躍。とりあえずマリーの向かった方角に向かう。
その距離はおよそ十間。猫のように屋根や塀の上を走ると視線の先には観察者とマリー。
でも、その様子はおかしかった。
鳥居の想像では観察者に馬乗りになったマリーが短剣片手に「ぜんぶはけ」と鬼の顔で言っているはずだった。
しかし現実は思ってたのとちがう。

(そっか…。僕は何にもわかってなかったです。生け捕りにする作戦なんて、
本来のマリーさんの剣捌きを鈍らせるものだって、とっても危険なものだって
最初に気付くべきでした……)
遅れて到着した鳥居はそのような認識だった。マリーが体験した摩訶不思議な出来事は知らない。
おまけに鬼に出会えば鬼を斬る。神に出会えば神を斬る。マリーに対しての歪んだ評価。
鳥居は大きく息を吸い込むと屋根を跳躍。観察者から二間ほどはなれた背後に着地。
結界を破ったと思われる彼に対し、嫌悪はあったが敵意はなかった。
それ故に攻撃は仕掛けない。仕掛けたとしても鳥居の能力では避けられてしまうだろう。
だがそれ以前に、鳥居はあかねを背負ったまま体勢を崩して無様に尻餅をついてしまう。

「いてて…。あの、すみません。あかねさん」
よれよれと立ち上がり謝罪する。でも観察者をマリーと自分で挟んでいる状況は作れた。
鳥居は面を観察者に向け

「すみません。僕が貴方を生け捕りにしたいって言ったんです。
なぜならフーさんに結界を守るって約束したからです。結界の中にはまだ生きてる人が沢山いるんですよ。
それなのに結界を破壊してしまうなんて貴方は一体なんですか?きっと薄汚い泥棒さんでしょう?
たぶん盗んだ遺宝で誰かを不死にしようとして失敗したんでしょうね。だからフーさんの隠していた大切なものを探していた。
そうでしょ?」
あかねをその場に下ろして鳥居は問い詰める。

「僕たちは遺跡を守れって嘆願を受けたんです。だから遺宝は返してください。
……そう、僕はこの土地で、皆、何かの欲求があって行動しているってことを理解しました。
では貴方の望んでいることはなんですか?
僕たちは罪もない人たちの命を守るためにフーさんに力を貸していますが、
べつに彼に嘆願を受けたわけではありません。
何かの交換条件で、遺宝を返していただくことはできませんか?」
一方的に自分の想像で語る鳥居。

「もしもダメでしたら、申し訳ないですが、これからの貴方の未来がどうなるかは保障できませんね。
ただの結界を破壊した者として、泥濘の上で眠ることになるかもしれませんよ」
闇を湛え、なお爛々と光を宿す嚇灼の瞳。鳥居は漆黒のマントをなびかせながら観察者をねめつける。

500名無しになりきれ:2013/02/12(火) 12:08:58
鳥居の「目くらまししたい」という言葉に、
あかねは「それは無理、でも足止めはよい提案」と言ってくれた。
マリーも肩をぽんぽんしてくれる。
鳥居は心の中で「やった!」と小さなガッツポーズ。
あとは尋問時間の始まりを待つだけ、と暢気。

鳥居の想像では、観察者とその一味が不死の王に関係する遺物を盗んで呪災を起こし、
その災害から人々を守ろうとしているフーをいけ好かないからやっつけにきた。そう思っていた。
でもマリーは、観察者が僧房に隠されているものを狙っていたという。
そしてそれをフーは否定しない。それはつまり、観察者たちに足りないものがあったということだ。
その証拠はお粗末な動死体。観察者たちが生み出した不死の王の失敗作と鳥居は仮定する。

>「――鳥居はん、ウチらも行こや。マリーはんほど滑らかには無理やろうけど、
 吸血鬼の力なら塀を越えて追っかけられるんちゃう?」
>「あと……出来ればその、おぶってって……欲しいんよね。
 ウチじゃマリーはんの真似は無理やし……。自分で言うのもなんやけど、ウチそんな重ないから……ねっ?」

「うん。いいですよ。あかねさんにはいっぱい助けてもらいましたから。
あ、そのお礼と言ってはなんですけど、日本に無事に帰れたら、
僕のサーカスを観に来て欲しいです。一緒に頼光も働いていますから」

あかねを背にした鳥居は薄闇を跳躍。とりあえずマリーの向かった方角に向かう。
その距離はおよそ十間。猫のように屋根や塀の上を走ると視線の先には観察者とマリー。
でも、その様子はおかしかった。
鳥居の想像では観察者に馬乗りになったマリーが短剣片手に「ぜんぶはけ」と鬼の顔で言っているはずだった。
しかし現実は思ってたのとちがう。

(そっか…。僕は何にもわかってなかったです。生け捕りにする作戦なんて、
本来のマリーさんの剣捌きを鈍らせるものだって、とっても危険なものだって
最初に気付くべきでした……)
遅れて到着した鳥居はそのような認識だった。マリーが体験した摩訶不思議な出来事は知らない。
おまけに鬼に出会えば鬼を斬る。神に出会えば神を斬る。マリーに対しての歪んだ評価。
鳥居は大きく息を吸い込むと屋根を跳躍。観察者から二間ほどはなれた背後に着地。
結界を破ったと思われる彼に対し、嫌悪はあったが敵意はなかった。
それ故に攻撃は仕掛けない。仕掛けたとしても鳥居の能力では避けられてしまうだろう。
だがそれ以前に、鳥居はあかねを背負ったまま体勢を崩して無様に尻餅をついてしまう。

「いてて…。あの、すみません。あかねさん」
よれよれと立ち上がり謝罪する。でも観察者をマリーと自分で挟んでいる状況は作れた。
鳥居は面を観察者に向け

「すみません。僕が貴方を生け捕りにしたいって言ったんです。
なぜならフーさんに結界を守るって約束したからです。結界の中にはまだ生きてる人が沢山いるんですよ。
それなのに結界を破壊してしまうなんて貴方は一体なんですか?きっと薄汚い泥棒さんでしょう?
たぶん盗んだ遺宝で誰かを不死にしようとして失敗したんでしょうね。だからフーさんの隠していた大切なものを探していた。
そうでしょ?」
あかねをその場に下ろして鳥居は問い詰める。

「僕たちは遺跡を守れって嘆願を受けたんです。だから遺宝は返してください。
……そう、僕はこの土地で、皆、何かの欲求があって行動しているってことを理解しました。
では貴方の望んでいることはなんですか?
僕たちは罪もない人たちの命を守るためにフーさんに力を貸していますが、
べつに彼に嘆願を受けたわけではありません。
何かの交換条件で、遺宝を返していただくことはできませんか?」
一方的に自分の想像で語る鳥居。

「もしもダメでしたら、申し訳ないですが、これからの貴方の未来がどうなるかは保障できませんね。
ただの結界を破壊した者として、泥濘の上で眠ることになるかもしれませんよ」
闇を湛え、なお爛々と光を宿す嚇灼の瞳。鳥居は漆黒のマントをなびかせながら観察者をねめつける。

501名無しになりきれ:2013/02/25(月) 21:38:59
最近、ルナの様子はおかしかった。
もとからおかしいと言われたらそれまでだったけど、ここ数日特に気分が優れない。
なんだか胸がくるしい。

もしかして恋煩い?そう思ってみて
フリード、エンカ、テオボルト、の顔を順番に思い浮かべてみる。
でもべつに好きでもなんともないみたいだった。
それならなんだろう。
もしかしたらササミとの関係なのだろうか。
ルナを小ばかにした感じのササミ。
「ぎゃははは!」あの笑顔がぽわんと出てくる。
リリィみたいに仲良しになってもっと自分を見てくれる関係になりたい。
そうなのだろうか。
自分を受け入れてくれない者への嫌悪。そう、それは昔からあった。
だから怖いメイクをしてみんなを怖がらせて平伏せさせようとしていた。
でもその作戦もまったく上手く行っていない。…みじめだった。

ルナは盛大なため息。鏡にうつっているのは花のない自分の顔。
ササミと同じ。素顔を隠している自分。
(もうばれちゃってるけど)
こっそり窓から尖塔を見上げてみるものの、ササミは見えない。
寝込んでいるにしても、その様子はおかしくて気配がない感じ。

502名無しになりきれ:2013/02/25(月) 22:30:41
そんなある日、封書がくる。内容はとある小島で清掃活動に野外活動をすること。
おまけに課題を果たせなかった者にはペナルティがあるということだった。

「小島かー。面白そう」
ルンルン気分になったルナは身支度を始める。
パジャマ、下着、ボディクリーム。日焼け止め。化粧道具。お菓子。水着。
あと銛。本で読んだりして、これが魚を刺す道具ってことは知っている。
それらをパンパンになるまでリュックにつめこむ。
収まりが悪いので出したり詰める順番を変えたりしながら。

そして、女子寮の門を出るとエンカの乗った丸い塊がトロトロと道を横切っていった。

「あ…」
目をぱっちり開いて手を小さくあげてみたけど、エンカはそのまま通り過ぎていってしまう。
(あれれ、ものすごく運転に集中してたから気がつかなかったみたい…とほほー…)
ルナはふうと一息をついて、馬車に乗った。

馬車は森に入ってぐんぐんと道を進んでゆくと
大ムカデに乗ったパピスヘテプとフリードとすれ違った。
(え!?今のワカメ頭フリードじゃなかった!?)
思わず二度見するも、馬車は、木々のスライドに引き裂かれるようにどんどん離れて
とうとう二人の姿は遠く見えなくなってしまった。

(なんか変な悪夢に紛れ込んじゃったみたい…)
なんだか、さみしい。そんなふうに思っていると馬車は途中で停止。
馬車から降りるとカンテラとベンチが寂しく置かれていた。
道の向こうには空を背景にして聳え立つ灯台。ルナは仕方なく歩く。

遠くでは雷鳴が響いていた。

503名無しになりきれ:2013/03/04(月) 18:37:27
そんなある日、封書がくる。内容はとある小島で清掃活動に野外活動をすること。
おまけに課題を果たせなかった者にはペナルティがあるということだった。

「小島かー。面白そう」
ルンルン気分になったルナは身支度を始める。
パジャマ、下着、ボディクリーム。日焼け止め。化粧道具。お菓子。水着。
あと銛。本で読んだりして、これが魚を刺す道具ってことは知っている。
それらをパンパンになるまでリュックにつめこむ。
収まりが悪いので出したり詰める順番を変えたりしながら。

そして、女子寮の門を出るとエンカの乗った丸い塊がトロトロと道を横切っていった。

「あ…」
目をぱっちり開いて手を小さくあげてみたけど、エンカはそのまま通り過ぎていってしまう。
(あれれ、ものすごく運転に集中してたから気がつかなかったみたい…とほほー…)
ルナはふうと一息をついて、馬車に乗った。

馬車は森に入ってぐんぐんと道を進んでゆくと
大ムカデに乗ったパピスヘテプとフリードとすれ違った。
(え!?今のワカメ頭フリードじゃなかった!?)
思わず二度見するも、馬車は、木々のスライドに引き裂かれるようにどんどん離れて
とうとう二人の姿は遠く見えなくなってしまった。

(なんか変な悪夢に紛れ込んじゃったみたい…)
なんだか、さみしい。そんなふうに思っていると馬車は途中で停止。
馬車から降りるとカンテラとベンチが寂しく置かれていた。
道の向こうには空を背景にして聳え立つ灯台。ルナは仕方なく歩く。

遠くでは雷鳴が響いていた。

504名無しになりきれ:2013/03/05(火) 12:13:02
>「笑っているか、だと?『笑っていた』さ。俺のすぐ傍でな。そして今は、どこにもいない」

苛立ちの色を隠せないジャン。彼は鳥居の頭を蹴り飛ばし、マリーに視線を移す。
そう、まるで、わざと悪いことをして自分に興味をむけさせる駄々っ子のように。

だから鳥居は思った。彼には自分しかいないのだと。本当に孤独なのだと。
それもそうだろう。自分の心を癒すために人の命を奪う。
そんな者を誰が好きになるというのか。それ故に自ら堕ちてゆく永遠の闇と孤独の螺旋。

ヌケダセヤシナイ。救われない。

鳥居の心はまたもや揺らいだ。が、その時、マリーが歩み寄んでくる。その動きは怒りを孕んだ無拍子。
鬼気迫るマリーの眼光に、鳥居は孤独に喰われそうになった自分を取り戻す。
そして血煙の中で交差する二つの影。横溢し、ぶつかり合う二つの剣気。
それに伴い、周囲を埋め尽くしてゆく殺気。

その中で、突如、鳥居の耳朶に響いたのは優しい声だった。

>「自分がそんなになってもうたら……誰が……マリーはんを……守るんや……」

「あかねさん。

505名無しになりきれ:2013/03/05(火) 12:19:47
>「笑っているか、だと?『笑っていた』さ。俺のすぐ傍でな。そして今は、どこにもいない」

苛立ちの色を隠せないジャン。彼は鳥居の頭を蹴り飛ばし、マリーに視線を移す。
そう、まるで、わざと悪いことをして自分に興味をむけさせる駄々っ子のように。

だから鳥居は思った。彼には自分しかいないのだと。本当に孤独なのだと。
それもそうなのかもしれない。ジャンは自分の心を癒すためだけに人の命を奪う。
そんな者を誰が好きになるというのか。それ故に自ら堕ちてゆく永遠の闇と孤独の螺旋。

ヌケダセヤシナイ。救われない。

ジャンと自分の心を照らせ合わせ、鳥居の心はまたもや揺らいだ。
が、その時、マリーが歩み寄んでくる。その動きは怒りを孕んだ無拍子。
鬼気迫るマリーの眼光に、鳥居は孤独に喰われそうになった自分を取り戻す。
そして血煙の中で交差する二つの影。横溢し、ぶつかり合う二つの剣気。
それに伴い、周囲を埋め尽くしてゆく夥しい殺気。

そんな中、ふと鳥居の耳朶に響いたのは優しい声だった。

>「自分がそんなになってもうたら……誰が……マリーはんを……守るんや……」

506名無しになりきれ:2013/03/05(火) 16:05:45
>「笑っているか、だと?『笑っていた』さ。俺のすぐ傍でな。そして今は、どこにもいない」

苛立ちの色を隠せないジャン。彼は鳥居の頭を蹴り飛ばし、マリーに視線を移す。
そう、まるで、わざと悪いことをして自分に興味をむけさせる駄々っ子のように。

だから鳥居は思った。彼には自分しかいないのだと。本当に孤独なのだと。
それもそうなのかもしれない。ジャンは自分の心を癒すためだけに人の命を奪う。
そんな者を誰が好きになるというのか。それ故に自ら堕ちてゆく永遠の闇と孤独の螺旋。

アア、ヌケダセヤシナイ

ジャンと自分の心を照らし合わせ、鳥居の心はまたもや揺らいだ。
が、その時、マリーが歩み寄んでくる。その動きは怒りを孕んだ無拍子。
鬼気迫るマリーの眼光に、鳥居は孤独に喰われそうになった自分を取り戻す。
そして血煙の中で交差する二つの影。横溢し、ぶつかり合う二つの剣気。
それに伴い、周囲を埋め尽くしてゆく夥しい殺気。

そんな中、ふと鳥居の耳朶に響いたのは優しい声だった。

>「自分がそんなになってもうたら……誰が……マリーはんを……守るんや……」

「そんなことを言ったって、今の僕に出来ることは、これくらいしかないんです。
あとはマリーさんを信じて、待つしかないのです」
マリーさんなら僕たちを笑顔に変えてくれる。鳥居はそう信じていた。
この戦いはもうすぐ終わって、あかねも助かる。
重傷をおってもなお、人のことを気遣っているこんな優しい少女が助からないわけがない。

気がつけば、血煙の中から出ているジャン。
構える刀の切っ先はマリーの正中線を捉えて離さない。

>「鳥居はん……マリーはんを……助けたげてや……」
あかねの声は小さく弱弱しかった。でもその言葉は純粋で、真っ直ぐ鳥居の心に響く。
と同時に体のなかが暖かくなる。とてもあたたかく、熱いくらいに。
なんということか。あかねは術で己の血液を操作して鳥居に供給してくれたのだ。

507名無しになりきれ:2013/03/05(火) 16:14:32
>「笑っているか、だと?『笑っていた』さ。俺のすぐ傍でな。そして今は、どこにもいない」

苛立ちの色を隠せないジャン。彼は鳥居の頭を蹴り飛ばし、マリーに視線を移す。
そう、まるで、わざと悪いことをして自分に興味をむけさせる駄々っ子のように。

だから鳥居は思った。彼には自分しかいないのだと。本当に孤独なのだと。
それもそうなのかもしれない。ジャンは自分の心を癒すためだけに人の命を奪う。
そんな者を誰が好きになるというのか。それ故に自ら堕ちてゆく永遠の闇と孤独の螺旋。

アア、ヌケダセヤシナイ

ジャンと自分の心を照らし合わせ、鳥居の心はまたもや揺らいだ。
が、その時、マリーが歩み寄んでくる。その動きは怒りを孕んだ無拍子。
鬼気迫るマリーの眼光に、鳥居は孤独に喰われそうになった自分を取り戻す。
そして血煙の中で交差する二つの影。横溢し、ぶつかり合う二つの剣気。
それに伴い、周囲を埋め尽くしてゆく夥しい殺気。

そんな中、ふと鳥居の耳朶に響いたのは優しい声だった。

>「自分がそんなになってもうたら……誰が……マリーはんを……守るんや……」

「そんなことを言ったって、今の僕たちに出来ることは、これくらいしかないんです。
あとはマリーさんを信じて、待つしかないのです。
いいからアカネさんは安静にしていてください!おねがいですから!」
マリーなら僕たちを笑顔に変えてくれる。鳥居はそう信じていた。
この戦いはもうすぐ終わって、あかねも助かる。
重傷をおってもなお、人のことを気遣っているこんな優しい少女が助からないわけがない。

気がつけば、血煙の中から出ているジャン。
構える刀の切っ先はマリーの正中線を捉えて離さない。
どうやら仕留め切れなかったらしい。鳥居は祈る気持ちで目を閉じた。

>「鳥居はん……マリーはんを……助けたげてや……」
聞こえてくる小さく弱弱しいアカネの声。でもその言葉は純粋で、真っ直ぐ鳥居の心に響く。
と同時に体のなかが暖かくなる。とてもあたたかく、熱いくらいに。
なんということだろう。あかねは術で己の血液を操作して鳥居に供給してくれたのだった。

508名無しになりきれ:2013/03/05(火) 16:19:30
>「笑っているか、だと?『笑っていた』さ。俺のすぐ傍でな。そして今は、どこにもいない」

苛立ちの色を隠せないジャン。彼は鳥居の頭を蹴り飛ばし、マリーに視線を移す。
そう、まるで、わざと悪いことをして自分に興味をむけさせる駄々っ子のように。

だから鳥居は思った。彼には自分しかいないのだと。本当に孤独なのだと。
それもそうなのかもしれない。ジャンは自分の心を癒すためだけに人の命を奪う。
そんな者を誰が好きになるというのか。それ故に自ら堕ちてゆく永遠の闇と孤独の螺旋。

アア、ヌケダセヤシナイ

ジャンと自分の心を照らし合わせ、鳥居の心はまたもや揺らいだ。
が、その時、マリーが歩み寄んでくる。その動きは怒りを孕んだ無拍子。
鬼気迫るマリーの眼光に、鳥居は孤独に喰われそうになった自分を取り戻す。
そして血煙の中で交差する二つの影。横溢し、ぶつかり合う二つの剣気。
それに伴い、周囲を埋め尽くしてゆく夥しい殺気。

そんな中、ふと鳥居の耳朶に響いたのは優しい声だった。

>「自分がそんなになってもうたら……誰が……マリーはんを……守るんや……」

「そんなことを言ったって、今の僕たちに出来ることは、これくらいしかないんです。
あとはマリーさんを信じて、待つしかないのです。
いいからアカネさんは安静にしていてください!おねがいですから!」
マリーなら僕たちを笑顔に変えてくれる。鳥居はそう信じていた。
この戦いはもうすぐ終わって、あかねも助かる。
重傷をおってもなお、人のことを気遣っているこんな優しい少女が助からないわけがない。

気がつけば、血煙の中から出ているジャン。
構える刀の切っ先はマリーの正中線を捉えて離さないでいた。
どうやら仕留め切れなかったらしい。鳥居は祈る気持ちで目を閉じる。

>「鳥居はん……マリーはんを……助けたげてや……」
すると聞こえてきたのは小さく弱弱しいアカネの声。でもその言葉は純粋で、真っ直ぐ鳥居の心に響くのだった。
と同時に体のなかが暖かくなる。とてもあたたかく、熱いくらいに。
なんということだろう。あかねは術で己の血液を操作して鳥居に供給してくれたのだ!

509名無しになりきれ:2013/03/05(火) 16:24:05
>「笑っているか、だと?『笑っていた』さ。俺のすぐ傍でな。そして今は、どこにもいない」

苛立ちの色を隠せないジャン。彼は鳥居の頭を蹴り飛ばし、マリーに視線を移す。
そう、まるで、わざと悪いことをして自分に興味をむけさせる駄々っ子のように。

だから鳥居は思った。彼には自分しかいないのだと。本当に孤独なのだと。
それもそうなのかもしれない。ジャンは自分の心を癒すためだけに人の命を奪う。
そんな者を誰が好きになるというのか。それ故に自ら堕ちてゆく永遠の闇と孤独の螺旋。

アア、ヌケダセヤシナイ

ジャンと自分の心を照らし合わせ、鳥居の心はまたもや揺らいだ。
が、その時、マリーが歩み寄んでくる。その動きは怒りを孕んだ無拍子。
鬼気迫るマリーの眼光に、鳥居は孤独に喰われそうになった自分を取り戻す。
そして血煙の中で交差する二つの影。横溢し、ぶつかり合う二つの剣気。
それに伴い、周囲を埋め尽くしてゆく夥しい殺気。

そんな中、ふと鳥居の耳朶に響いたのは優しい声だった。

>「自分がそんなになってもうたら……誰が……マリーはんを……守るんや……」

「そんなことを言ったって、今の僕たちに出来ることは、これくらいしかないんです。
あとはマリーさんを信じて、待つしかないのです。
いいからアカネさんは安静にしていてください!おねがいですから!」
マリーなら僕たちを笑顔に変えてくれる。鳥居はそう信じていた。
この戦いはもうすぐ終わって、あかねも助かる。
重傷をおってもなお、人のことを気遣っているこんな優しい少女が助からないわけがない。

気がつけば、血煙の中から出ているジャン。
構える刀の切っ先はマリーの正中線を捉えて離さないでいた。
どうやらマリーは、ジャンを仕留め切れなかったらしい。鳥居は祈る気持ちで目を閉じる。

>「鳥居はん……マリーはんを……助けたげてや……」
すると聞こえてきたのは小さく弱弱しいアカネの声。でもその言葉は純粋で、真っ直ぐ鳥居の心に響くのだった。
と同時に体のなかが暖かくなる。とてもあたたかく、熱いくらいに。
ああ、なんということだろう。あかねは術で己の血液を操作して鳥居に供給してくれたのだ!

510名無しになりきれ:2013/03/05(火) 17:09:16
「なんてことを!なんてことをしたんですかアカネさんっ!!」
悲しみが胸を押しつぶしてくる。こんなに悲しいのなら心なんていらない。
それなのに自分は冷酷な怪物にもなりきれない、まして人間の子どもとしての幸せもありはしない。
中途半端な生成り小僧。つらいことを忘れたいから、因果さえも笑い飛ばしたい。
それゆえにサーカスで繰り広げてきたのは永遠の宴。道化芝居。

かなしみよ、なくなってしまえ!この胸の奥深くに封じ込めてしまえ!

つらい。くるしい。こんな現実はいやだった。
鳥居はまだ息のあるアカネの姿をみて震えていた。

>「鳥居はん……マリーはんを……助けたげてや……」

しかしアカネの言葉が頭に響く。鳥居はマリーに視線を移す。
そこには一人ジャンに立ち向かうマリーの姿。
彼女は怒気で揺らいで見えた。その姿に鳥居はふと思う。

(悲しみや怒り。それは忘れたり押し殺したりしてしまうものじゃないのかも。
立ち上がる気持ちや、戦う気持ちに変えるべきものなのかもしれない。そう、マリーさんのように。
そうじゃなきゃ、この心はなんのためにあるというんですか!)

鳥居の瞳に灼熱の炎が宿り初める。

(僕は幸せでした。アカネさんの優しい気持ちに触れることができて…。
それに、目の前にはマリーさんが立っています。彼女は背中で僕に語りかけてくれました。
そして教えてくれました。ぶれない心の軸というものを!)

511名無しになりきれ:2013/03/05(火) 19:15:19
>「笑っているか、だと?『笑っていた』さ。俺のすぐ傍でな。そして今は、どこにもいない」

苛立ちの色を隠せないジャン。彼は鳥居の頭を蹴り飛ばし、マリーに視線を移す。
そう、まるで、わざと悪いことをして自分に興味をむけさせる駄々っ子のように。

だから鳥居は思った。彼には自分しかいないのだと。本当に孤独なのだと。
それもそうなのかもしれない。ジャンは自分の心を癒すためだけに人の命を奪う。
そんな者を誰が好きになるというのか。それ故に自ら堕ちてゆく永遠の闇と孤独の螺旋。

アア、ヌケダセヤシナイ

ジャンと自分の心を照らし合わせ、鳥居の心はまたもや揺らいだ。
が、その時、マリーが歩み寄んでくる。その動きは怒りを孕んだ無拍子。
鬼気迫るマリーの眼光に、鳥居は孤独に喰われそうになった自分を取り戻す。
そして血煙の中で交差する二つの影。横溢し、ぶつかり合う二つの剣気。
それに伴い、周囲を埋め尽くしてゆく夥しい殺気。

そんな中、ふと鳥居の耳朶に響いたのは優しい声だった。

>「自分がそんなになってもうたら……誰が……マリーはんを……守るんや……」

「そんなことを言ったって、今の僕たちに出来ることは、これくらいしかないんです。
あとはマリーさんを信じて、待つしかないのです。
いいからアカネさんは安静にしていてください!おねがいですから!」
マリーなら僕たちを笑顔に変えてくれる。鳥居はそう信じていた。
この戦いはもうすぐ終わって、あかねも助かる。
重傷をおってもなお、人のことを気遣っているこんな優しい少女が助からないわけがない。

気がつけば、血煙の中から出ているジャン。
構える刀の切っ先はマリーの正中線を捉えて離さないでいた。
どうやらマリーは、ジャンを仕留め切れなかったらしい。鳥居は祈る気持ちで目を閉じる。

>「鳥居はん……マリーはんを……助けたげてや……」
でもアカネはさらに言葉を続けてきた。小さく弱弱しい彼女の声。
でもその言葉は純粋で、真っ直ぐ鳥居の心に響くのだった。
と同時に体のなかが暖かくなる。とてもあたたかく、熱いくらいに。
ああ、なんということだろう。あかねは己の術で血液を操作し、
鳥居にその血液を供給してくれたのだ!

512名無しになりきれ:2013/03/05(火) 19:28:15
「なんてことを!なんてことをしたんですかアカネさんっ!!」
悲しみが胸を押しつぶしてくる。アカネは死んでしまうかもしれない。
そんなことは耐えられない。それなら、こんなにも悲しい気持ちになるのなら心なんていらない。
それなのに自分は冷酷な怪物にもなりきれない、まして人間の子どもとしての幸せもありはしない。
中途半端な生成り小僧。つらいことを忘れたいから、因果さえも笑い飛ばしたい。
それゆえにサーカスで繰り広げてきたのは永遠の宴。道化芝居。

鳥居は思いっきり叫びたかった。

かなしみよ、溢れるな!この胸の奥深くに閉じ込められてしまえ!と。

だが、つらい。くるしい。こんな現実はいやだった。
鳥居はまだ息のあるアカネの姿をみて震えていた。

>「鳥居はん……マリーはんを……助けたげてや……」

しかしアカネの言葉が頭に響く。鳥居はマリーに視線を移す。
そこには一人ジャンに立ち向かうマリーの姿。
彼女は怒気で揺らいで見えた。その姿に鳥居はふと思う。

(悲しみや怒り。それは忘れたり押し殺したりしてしまうものじゃないのかも。
立ち上がる気持ちや、戦う気持ちに変えるべきものなのかもしれない。そう、マリーさんのように。
そうじゃなきゃ、この心はなんのためにあるというんですか!)

鳥居の瞳に灼熱の炎が宿り初める。

(僕は幸せでした。アカネさんの優しい気持ちに触れることができて…。
それに、目の前にはマリーさんが立っています。彼女は背中で僕に語りかけてくれました。
そして教えてくれました。絶対に揺らぐことのない、正義の心というものを!!)

513名無しになりきれ:2013/03/05(火) 20:10:28
「なんてことを!なんてことをしたんですかアカネさんっ!!」
悲しみが胸を押しつぶしてくる。アカネは死んでしまうかもしれない。
そんなことは耐えられない。それなら、こんなにも悲しい気持ちになるのなら心なんていらない。
それなのに自分は冷酷な怪物にもなりきれない、まして人間の子どもとしての幸せもありはしない。
中途半端な生成り小僧。つらいことを忘れたいから、因果さえも笑い飛ばしたい。
それゆえにサーカスで繰り広げてきたのは永遠の宴。道化芝居。
それなのにこんなことが起きてしまうなんて……。

だから鳥居は思いっきり叫びたかった。

かなしみよ、溢れるな!この胸の奥深くに閉じ込められてしまえ!と。

だが、溢れ出して来る感情は止められない。つらい。くるしい。こんな現実はいやだった。
鳥居はまだ息のあるアカネの姿をみて震えながら、絶望でその心を萎縮させていた。

>「鳥居はん……マリーはんを……助けたげてや……」

しかしアカネの言葉が頭に響く。鳥居はマリーに視線を移す。
そこには一人ジャンに立ち向かうマリーの姿。
彼女は怒気で揺らいで見えた。その姿に鳥居はふと思う。

(悲しみや怒り。それは忘れたり押し殺したりしてしまうものじゃないのかも知れません。
立ち上がる気持ちや、戦う気持ちに変えるべきものなのかもしれない。そう、マリーさんのように。
そうじゃなきゃ、この心はなんのためにあるというんですか!)

鳥居の瞳に灼熱の炎が宿り初める。

(僕は幸せでした。アカネさんの優しい気持ちに触れることができて…。
それに、目の前にはマリーさんが立っています。彼女は背中で僕に語りかけてくれました。
そして教えてくれました。絶対に揺らぐことのない、正義の心というものを!!)

「助太刀します!マリーさん!」

ドクンと心臓が脈打つ。
鳥居はジャンに向かって一歩踏み出し、次に駆けた。
この体に宿るのはアカネの命。そしてこの拳に宿るものはマリーの意志。
猪突してある程度の間合いに入った時、ジャンはあの絶対的な勝利の間合いに鳥居を引きずり込むはず。
それならば鳥居は逃げない。さらにもう一歩踏み出して刀よりも深い間合いに潜り込む。
そこへ炎の神気をこめた拳で一突き。狙うはがら空きになるであろう左わき腹。
鳥居の身長なら低姿勢で踏み込めば剣撃より先に踏み込むことができるはず。
例え防御されたとしてもそのまま拳を捻りこむ。追いかけて焼き尽くす。



514名無しになりきれ:2013/03/05(火) 20:25:38
「なんてことを!なんてことをしたんですかアカネさんっ!!」
悲しみが胸を押しつぶしてくる。アカネは死んでしまうかもしれない。
そんなことは耐えられない。それなら、こんなにも悲しい気持ちになるのなら心なんていらない。
それなのに自分は冷酷な怪物にもなりきれない、まして人間の子どもとしての幸せもありはしない。
中途半端な生成り小僧。つらいことを忘れたいから、因果さえも笑い飛ばしたい。
それゆえにサーカスで繰り広げてきたのは永遠の宴。道化芝居。
それなのにこんなことが起きてしまうなんて……。

だから鳥居は思いっきり叫びたかった。

かなしみよ、溢れるな!この胸の奥深くに閉じ込められてしまえ!と。

だが、溢れ出して来る感情は止められない。つらい。くるしい。こんな現実はいやだった。
鳥居はまだ息のあるアカネの姿をみて震えながら、絶望でその心を萎縮させていた。

>「鳥居はん……マリーはんを……助けたげてや……」

しかしアカネの言葉が頭に響く。鳥居はマリーに視線を移す。
そこには一人ジャンに立ち向かうマリーの姿。
彼女は怒気で揺らいで見えた。その姿に鳥居はふと思う。

(悲しみや怒り。それは忘れたり押し殺したりしてしまうものじゃないのかも知れません。
立ち上がる気持ちや、戦う気持ちに変えるべきものなのかもしれない。そう、マリーさんのように。
そうじゃなきゃ、この心はなんのためにあるというんですか!)

鳥居の瞳に灼熱の炎が宿り初める。

(僕は幸せでした。アカネさんの優しい気持ちに触れることができて…。
それに、目の前にはマリーさんが立っています。彼女は背中で僕に語りかけてくれました。
そして教えてくれました。絶対に揺らぐことのない、正義の心というものを!!)

「助太刀します!マリーさん!」

ドクンと心臓が脈打つ。
鳥居はジャンに向かって一歩踏み出し、次に駆けた。
この体に宿るのはアカネの命。そしてこの拳に宿るものはマリーの意志。
猪突してある程度の間合いに入った時、ジャンはあの絶対的な勝利の間合いに鳥居を引きずり込むはず。
それならば鳥居は逃げない。さらにもう一歩踏み出して刀よりも深い間合いに潜り込む。
そこへ炎の神気をこめた拳で一突き。狙うはがら空きになるであろう左わき腹。
鳥居の身長なら低姿勢で踏み込めば剣撃より先に踏み込むことができるはず。
例え防御されたとしてもそのまま拳を捻りこむ。追いかけて焼き尽くす。

>「奪ってやるぞ、神殺し……。俺だけが奪われたままでなど、いられるか……。
 仲間も、命も、正義も、全て失って……お前も俺になってしまえ――!」

「マリーさんが、お前になんかなるわけないです!僕が、守ってみせるからぁ!!」
咆哮し、疾駆する鳥居。その右手に凝縮されるは炎の神気。
間合いを詰められたと同時にそれは発火し、ジャンの左脇腹を狙うことだろう。

515名無しになりきれ:2013/03/06(水) 12:12:16
シャドウの火炎攻撃を受け、ペルソナ「オトヒメ」の内部には無数の水泡のようなものが噴出。
それはまるで水のエナジーが沸騰しているようなイメージだった。
海棠を守っていたオトヒメは身を悶えながら消滅してゆく。
そう、オトヒメは耐久性に優れているペルソナであった。
しかし弱点をつかれてしまえば至極脆いものなのだ。

(くっ、情けない。こんなんじゃ…足止めにもなってないよ……)
膝から崩れ落ちた身体は気絶寸前。ふらりと崩れ落ちてゆく。
ああ、だめ。全身に力が入らない。このままでは頭を床に打ち付けてしまう。
そう思った次の瞬間――

>「ちょいと失礼するぜ!?」
身体を支えられた。次に持ち上げられた。整髪料の匂いが鼻腔をくすぐる。
(あの、オールバックメガネ?)
海棠を肩に担いだ中務は、安全な場所に移動すると優しく床に下ろしてくれた。
それはとても意外な行動で海棠には信じられなかった。
昔、海棠がメガネをかけていた時、クラスメイトの男子たちは
みんな揃って海棠のことをメガネザルとバカにした。
それは不良と呼ばれる人達だけではなく、普通の子も含めてクラスの男子全員だった。
だけどこのインテリヤクザ風な少年は、その見た目とは違って海棠を助けてくれたのであった。

「…あ、ありがと」
床にへたれこんでいる海棠は少年を見上げながら言った。
すると神部の声が響きわたる。そう、彼女は逃げていなかったのだ。

>「お願い、アクラシエル、ハンマ!!」
神々しい光を纏い、両腕に二挺の長槍を持った天使が光鎖でシャドウを縛り付けていた。
あれが神部のペルソナ「アクラシエル」なのだろう。
神部の心のように美しいペルソナ。それでいて何か強い情念を秘めているようなペルソナだった。

(まさかと思ってはいたけど、本当にペルソナを出しちゃうなんて)
しかし海棠はもう一度驚くことになる。

>「フフ、そう、か。そうだったな……。見たぞ、約束だ――僕に力を貸せ。来い、”スサノオ”!!」

「う、うそよ!!あの子までペルソナを…」
もうなんて表現すれば良いのだろう。ほとんどノリのようなもの。
でもスサノの生み出したペルソナは異様な巨体を誇っていた。
だから海棠は、その巨体が張りぼてではないことを祈る。ただなんとなく。

それでもシャドウは怯むこともなく火炎攻撃を再び発動させた。
それに応戦するかの如くスサノオは赤の壁を生み出しシャドウの火炎を防御。
次に大剣を構えながらシャドウに突進。
目標のシャドウは光鎖に拘束されたまま沈黙しているかのようだった。
だがそれは諦念からの沈黙ではなかった。
シャドウの内部は高エネルギーで臨界点にまで達していたのである。

>「吠え面かいてろ、鉄屑が――――マカジャマ」
しかしシャドウの魔法が発動する刹那、中務の封殺が展開された。
その隙を突くようにスサノオの大剣が、シャドウの身体を突き破る。

516名無しになりきれ:2013/03/06(水) 12:20:05
シャドウの火炎攻撃を受け、ペルソナ「オトヒメ」の内部には無数の水泡のようなものが噴出。
それはまるで水のエナジーが沸騰しているようなイメージだった。
海棠を守っていたオトヒメは身を悶えながら消滅してゆく。
そう、オトヒメは耐久性に優れているペルソナであった。
しかし弱点をつかれてしまえば至極脆いものなのだ。

(くっ、情けない。こんなんじゃ…足止めにもなってないよ……)
膝から崩れ落ちた身体は気絶寸前。ふらりと崩れ落ちてゆく。
ああ、だめ。全身に力が入らない。このままでは頭を床に打ち付けてしまう。
そう思った次の瞬間――

>「ちょいと失礼するぜ!?」
身体を支えられた。次に持ち上げられた。整髪料の匂いが鼻腔をくすぐる。
(あの、オールバックメガネ?)
海棠を肩に担いだ中務は、安全な場所に移動すると優しく床に下ろしてくれた。
それはとても意外な行動で海棠には信じられなかった。
昔、海棠がメガネをかけていた時、クラスメイトの男子たちは
みんな揃って海棠のことをメガネザルとバカにした。
それは不良と呼ばれる人達だけではなく、普通の子も含めてクラスの男子全員だった。
だけどこのインテリヤクザ風な少年は、その見た目とは違って海棠を助けてくれたのであった。

「…あ、ありがと」
床にへたれこんでいる海棠は少年を見上げながら言った。
すると神部の声が響きわたる。そう、彼女は逃げていなかったのだ。

>「お願い、アクラシエル、ハンマ!!」
神々しい光を纏い、両腕に二挺の長槍を持った天使が光鎖でシャドウを縛り付けていた。
あれが神部のペルソナ「アクラシエル」なのだろう。
神部の心のように美しいペルソナ。それでいて何か強い情念を秘めているようなペルソナだった。

(まさかと思ってはいたけど、本当にペルソナを出しちゃうなんて)
しかし海棠はもう一度驚くことになる。

>「フフ、そう、か。そうだったな……。見たぞ、約束だ――僕に力を貸せ。来い、”スサノオ”!!」

「う、うそよ!!あの子までペルソナを…」
もうなんて表現すれば良いのだろう。ほとんどノリのようなもの。
でもスサノの生み出したペルソナは異様な巨体を誇っていた。
だから海棠は、その巨体が張りぼてではないことを祈る。ただなんとなく。

それでもシャドウはスサノオを怯むこともなく、火炎攻撃を再び発動。
それに応戦するかの如くスサノオは赤の壁を生み出しシャドウの火炎を防御。
次に大剣を構えながらシャドウに突進。
目標のシャドウは光鎖に拘束されたまま沈黙しているかのようだった。
だがそれは諦念からの沈黙ではなかった。
シャドウの内部は高エネルギーで臨界点にまで達していたのである。
それは、ここにいる誰も気付いていないであろう危機だった。

しかし――

>「吠え面かいてろ、鉄屑が――――マカジャマ」
シャドウの魔法が発動する刹那、中務が封殺を展開。
その隙を突くようにスサノオの大剣が、シャドウの身体を突き破る。

517名無しになりきれ:2013/03/06(水) 14:16:52
シャドウの火炎攻撃を受け、ペルソナ「オトヒメ」の内部には無数の水泡のようなものが噴出。
それはまるで水のエナジーが沸騰しているようなイメージだった。
海棠を守っていたオトヒメは身を悶えながら消滅してゆく。
そう、オトヒメは耐久性に優れているペルソナであった。
しかし弱点をつかれてしまえば至極脆いものなのだ。

(くっ、情けない。こんなんじゃ…足止めにもなってないよ……)
膝から崩れ落ちた身体は気絶寸前。ふらりと崩れ落ちてゆく。
ああ、だめ。全身に力が入らない。このままでは頭を床に打ち付けてしまう。
そう思った次の瞬間――

>「ちょいと失礼するぜ!?」
身体を支えられた。次に持ち上げられた。整髪料の匂いが鼻腔をくすぐる。
(もしかして、オールバックのメガネくん?)
海棠を肩に担いだ中務は、安全な場所に移動すると優しく床に下ろしてくれた。
それはとても意外な行動で海棠には信じられなかった。
昔、海棠がメガネをかけていた時、クラスメイトの男子たちは
みんな揃って海棠のことをメガネザルとバカにした。
それは不良と呼ばれる人達だけではなく、普通の子も含めてクラスの男子全員だった。
だけどこのインテリヤクザ風な少年は、その見た目とは違って海棠を助けてくれたのであった。

「…あ、ありがと」
床にへたれこんでいる海棠は少年を見上げながら言った。
すると神部の声が響きわたる。そう、彼女は逃げていなかったのだ。

>「お願い、アクラシエル、ハンマ!!」
神々しい光を纏い、両腕に二挺の長槍を持った天使が光鎖でシャドウを縛り付けていた。
あれが神部のペルソナ「アクラシエル」なのだろう。
神部の心のように美しいペルソナ。それでいて何か強い意志を秘めているようなペルソナだった。

(まさかと思ってはいたけど、本当にペルソナを出しちゃうなんて)
だが海棠は、もう一度驚くことになる。

>「フフ、そう、か。そうだったな……。見たぞ、約束だ――僕に力を貸せ。来い、”スサノオ”!!」

「う、うそよ!!あの子までペルソナを…」
もうなんて表現すれば良いのだろう。ほとんどノリのようなもの。
でもスサノの生み出したペルソナは異様な巨体を誇っていた。
だから海棠は、その巨体が張りぼてではないことを祈る。ただなんとなく。

それでもシャドウはスサノオを怯むこともなく、火炎攻撃を再び発動。
それに応戦するかの如くスサノオは赤の壁を生み出しシャドウの火炎を防御。
次に大剣を構えながらシャドウに突進。
目標のシャドウは光鎖に拘束されたまま沈黙しているかのようだった。
だがそれは諦念からの沈黙ではなかった。
シャドウの内部は高エネルギーで臨界点にまで達していたのである。
それは、ここにいる誰も気付いていないであろう危機であった。

しかし――

>「吠え面かいてろ、鉄屑が――――マカジャマ」
シャドウの魔法が発動する刹那、中務が封殺を展開。
その隙を突くようにスサノオの大剣が、シャドウの身体を突き破る。

518名無しになりきれ:2013/03/06(水) 15:46:11
大型のシャドウ。その金属の身体に深々と突き刺さるスサノオの大剣。
ラクシャーサの連撃による多くの裂傷。
ハンマにより拘束されマカジャマにより封じ込められたシャドウのエナジーは
今まで内外から受けたの圧力に耐え切れないとばかりに、傷口から弾けるように噴出する。

大剣をトリガーとして内側から完熟した石榴のように翻るシャドウ。
溢れ出た金属の部品は、まるで肋骨のようだった。

ふと気がつけばポーチの中の水晶髑髏が青白く発光していた。
そうだ、イデアルエナジーを回収しなければ。
取り出した水晶髑髏を目の前に掲げる。
するとシャドウの残骸から幾条もの光が、光線となって水晶髑髏に吸い込まれていった。

それはまるで、人の魂のようだった。おまけに海棠が奪っている感じ。
今までにあの機械のシャドウが集めていたものを強奪している気分。
としたらあれはこの廃工場で、何かのエネルギーを集めていたのかもしれない。

ふと海棠は、とある噂を思い出す。この廃工場は昔、処刑場だったということ。
貧苦に喘いで一揆を起こした農民たちを大量に殺戮した場所であり
謀反の際には、士族が同じ場所で大量に殺された曰くつきの場所だということを。

(長居は無用かも。かなり火もまわってきちゃったし)

「神部さん、スサノちゃん。みんな、早く逃げましょう!動けない人はいないよね?」
自分なりに大声で叫んで、海棠は廃工場から脱出した。

(とりあえずは、任務完了ってとこかな…)
徐々に心が落ち着いてくる。いい意味でも悪い意味でも。なので海棠はまた無口になった。
あんな風に最後にシャドウのエナジーを吸い取った自分を皆はどう思っているのだろうか。
やはり普通じゃないと思われるのだろうか。でもそんなことを言ってしまえば、みんな普通ではないのだが。
問題は山積み。彼らのもつあの召喚器は、ジョーカーから渡されたものなのだろうか。
海棠は近くにいた風祭にむかって恐る恐る話しかけてみる。

「あの…、さっきは助けていただいてありがとうございました。私、海棠美歩って言います。
驚きました。あなたたちもペルソナ使いなんですよね?
その召喚器って、どうなされたのですか?もしかして、ジョーカーから授かったものだったりして?」

首をかしげて覗くように少年の顔を見上げる。月明かりを浴びた彼の顔はいたって普通。
普通過ぎるほど普通だった。あの悪鬼のペルソナを内に秘めているとは思えないほどに。

見上げれば、夜空には不気味なほどに光り輝く巨大な満月。それはビルを背景にぽっかりと浮かんでいた。
街並みに生み出された巨大な影は深く、その影は黒で黒を塗りつぶしたかのような漆黒。
踏み外してしまえば、奈落にでも堕ちてしまうと錯覚するほどに、その闇は深いのであった。
【シャドウ殲滅。その後、廃工場から脱出。帰りの道すがら、風祭さんに、その召喚器はどうしたの?って聞く海棠】

519名無しになりきれ:2013/03/06(水) 15:57:09
シャドウの火炎攻撃を受け、ペルソナ「オトヒメ」の内部には無数の水泡のようなものが噴出。
それはまるで水のエナジーが沸騰しているようなイメージだった。
海棠を守っていたオトヒメは身を悶えながら消滅してゆく。
そう、オトヒメは耐久性に優れているペルソナであった。
しかし弱点をつかれてしまえば至極脆いものなのだ。

(くっ、情けないね。こんなんじゃ…足止めにもなってないってば……)
膝から崩れ落ちた身体は気絶寸前。ふらりと崩れ落ちてゆく。
ああ、だめ。全身に力が入らない。このままでは頭を床に打ち付けてしまう。
そう思った次の瞬間――

>「ちょいと失礼するぜ!?」
身体を支えられた。次に持ち上げられた。整髪料の匂いが鼻腔をくすぐる。
(もしかして、オールバックのメガネくん?)
海棠を肩に担いだ中務は、安全な場所に移動すると優しく床に下ろしてくれた。
それはとても意外な行動で海棠には信じられなかった。
昔、海棠がメガネをかけていた時、クラスメイトの男子たちは
みんな揃って海棠のことをメガネザルとバカにした。
それは不良と呼ばれる人達だけではなく、普通の子も含めてクラスの男子全員だった。
だけどこのインテリヤクザ風な少年は、その見た目とは違って海棠を助けてくれたのであった。

「…あ、ありがと」
床にへたれこんでいる海棠は少年を見上げながら言った。
すると神部の声が響きわたる。そう、彼女は逃げていなかったのだ。

>「お願い、アクラシエル、ハンマ!!」
神々しい光を纏い、両腕に二挺の長槍を持った天使が光鎖でシャドウを縛り付けている。
あれが神部のペルソナ「アクラシエル」なのだろう。
神部の心のように美しいペルソナ。それでいて何か強い意志を秘めているようなペルソナだった。

(まさかと思ってはいたけど、本当にペルソナを出しちゃうなんて)
だが海棠は、もう一度驚くことになる。

>「フフ、そう、か。そうだったな……。見たぞ、約束だ――僕に力を貸せ。来い、”スサノオ”!!」

「う、うそよ!!あの子までペルソナを…」
もうなんて表現すれば良いのだろう。ほとんどノリのようなもの。
でもスサノの生み出したペルソナは異様な巨体を誇っていた。
だから海棠は、その巨体が張りぼてではないことを祈る。ただなんとなく。

それでもシャドウはスサノオを怯むこともなく、火炎攻撃を再び発動。
それに応戦するかの如くスサノオは赤の壁を生み出しシャドウの火炎を防御。
次に大剣を構えながらシャドウに突進。
目標のシャドウは光鎖に拘束されたまま沈黙しているかのようだった。
だがそれは諦念からの沈黙ではなかった。
シャドウの内部は高エネルギーで臨界点にまで達していたのである。
それは、ここにいる誰も気付いていないであろう危機であった。

しかし――

>「吠え面かいてろ、鉄屑が――――マカジャマ」
シャドウの魔法が発動する刹那、中務が封殺を展開。
その隙を突くようにスサノオの大剣が、シャドウの身体を突き破る。

520名無しになりきれ:2013/03/06(水) 16:06:31
大型のシャドウ。その金属の身体に深々と突き刺さるスサノオの大剣。
ラクシャーサの連撃による多くの裂傷。
ハンマにより拘束され、マカジャマにより封じ込められたシャドウのエナジーは
今まで内外から受けたの圧力に耐え切れないとばかりに、爆発とともに傷口から噴出する。

大剣をトリガーとして内側から完熟した石榴のように翻るシャドウ本体。
溢れ出た金属の部品は、まるで肋骨のようだった。

ふと気がつけばポーチの中の水晶髑髏が青白く発光していた。
そうだ、イデアルエナジーを回収しなければ。
取り出した水晶髑髏を目の前に掲げる。
するとシャドウの残骸から幾条もの光が、光線となって水晶髑髏に吸い込まれていった。

それはまるで、人の魂のようだった。おまけに海棠が奪っている感じ。
今までにあの機械のシャドウが集めていたものを強奪している感じ。
としたらあれはこの廃工場で、何かのエネルギーを集めていたのかもしれない。

海棠は、とある噂を思い出す。この廃工場は昔、処刑場だったということ。
貧苦に喘いで一揆を起こした農民たちを大量に殺戮した場所であり
謀反の際には、士族が同じ場所で大量に殺された曰くつきの場所だということを。

(長居は無用かも。かなり火もまわってきちゃったし)

「神部さん、スサノちゃん。みんな、早く逃げましょう!動けない人はいないよね?」
自分なりに大声で叫んで、海棠は廃工場から脱出した。

(とりあえずは、任務完了ってとこかな…)
徐々に心が落ち着いてくる。いい意味でも悪い意味でも。なので海棠はまた無口になった。
あんな風に最後にシャドウのエナジーを吸い取った自分を皆はどう思っているのだろうか。
やはり普通じゃないと思われるのだろうか。でもそんなことを言ってしまえば、みんな普通ではないのだが。
問題は山積み。彼らのもつあの召喚器は、ジョーカーから渡されたものなのだろうか。
それと行方不明の久我浜清恵は何処に?海棠は近くにいた風祭にむかって恐る恐る話しかけてみる。

「あの…、さっきは助けていただいてありがとうございました。私、海棠美歩って言います。
驚きました。あなたたちもペルソナ使いなんですよね?とてもかっこよかったです。
そして質問あるんですけど、あの廃工場で久我浜清恵さんを見かけなかったですか?
それとその召喚器って、どうなされたのですか?もしかして、ジョーカーから授かったものだったりして?」

首をかしげて覗くように少年の顔を見上げる。月明かりを浴びた彼の顔はいたって普通。
普通過ぎるほど普通だった。あの悪鬼のペルソナを内に秘めているとは思えないほどに。

見上げれば、夜空には不気味なほどに光り輝く巨大な満月。それはビルを背景にぽっかりと浮かんでいた。
それとは逆に、街並みに生み出された巨大な影は深く、その影は黒で黒を塗りつぶしたかのような漆黒。
踏み外してしまえば、奈落にでも堕ちてしまうと錯覚するほどに、その闇は深いのであった。
【シャドウ殲滅。その後、廃工場から脱出】
【帰りの道すがら風祭さんに、久我浜清恵さんを知らない?その召喚器はどうしたの?って質問】

521名無しになりきれ:2013/03/06(水) 16:15:36
シャドウの火炎攻撃を受け、ペルソナ「オトヒメ」の内部には無数の水泡のようなものが噴出。
それはまるで水のエナジーが沸騰しているようなイメージだった。
海棠を守っていたオトヒメは身を悶えながら消滅してゆく。
そう、オトヒメは耐久性に優れているペルソナであった。
しかし弱点をつかれてしまえば至極脆いものなのだ。

(もう、情けないっ。こんなんじゃ…足止めにもなってないってば……)
膝から崩れ落ちた身体は気絶寸前。ふらりと崩れ落ちてゆく。
ああ、だめ。全身に力が入らない。このままでは頭を床に打ち付けてしまう。
そう思った次の瞬間――

>「ちょいと失礼するぜ!?」
身体を支えられた。次に持ち上げられた。整髪料の匂いが鼻腔をくすぐる。
(もしかして、オールバックのメガネくん?)
海棠を肩に担いだ中務は、安全な場所に移動すると優しく床に下ろしてくれた。
それはとても意外な行動で海棠には信じられなかった。
昔、海棠がメガネをかけていた時、クラスメイトの男子たちは
みんな揃って海棠のことをメガネザルとバカにした。
それは不良と呼ばれる人達だけではなく、普通の子も含めてクラスの男子全員だった。
だけどこのインテリヤクザ風な少年は、その見た目とは違って海棠を助けてくれたのであった。

「…あ、ありがと」
床にへたれこんでいる海棠は少年を見上げながら言った。
すると神部の声が響きわたる。そう、彼女は逃げていなかったのだ。

>「お願い、アクラシエル、ハンマ!!」
神々しい光を纏い、両腕に二挺の長槍を持った天使が光鎖でシャドウを縛り付けている。
あれが神部のペルソナ「アクラシエル」なのだろう。
神部の心のように美しいペルソナ。それでいて何か強い意志を秘めているようなペルソナだった。

(まさかと思ってはいたけど、本当にペルソナを出しちゃうなんて)
だが海棠は、もう一度驚くことになる。

>「フフ、そう、か。そうだったな……。見たぞ、約束だ――僕に力を貸せ。来い、”スサノオ”!!」

「う、うそよ!!あの子までペルソナを…」
もうなんて表現すれば良いのだろう。ほとんどノリのようなもの。
でもスサノの生み出したペルソナは異様な巨体を誇っていた。
だから海棠は、その巨体が張りぼてではないことを祈る。ただなんとなく。

それでもシャドウはスサノオを怯むこともなく、火炎攻撃を再び発動。
それに応戦するかの如くスサノオは赤の壁を生み出しシャドウの火炎を防御。
次に大剣を構えながらシャドウに突進。
目標のシャドウは光鎖に拘束されたまま沈黙しているかのようだった。
だがそれは諦念からの沈黙ではなかった。
シャドウの内部は高エネルギーで臨界点にまで達していたのである。
それは、ここにいる誰も気付いていないであろう危機であった。

しかし――

>「吠え面かいてろ、鉄屑が――――マカジャマ」
シャドウの魔法が発動する刹那、中務が封殺を展開。
その隙を突くようにスサノオの大剣が、シャドウの身体を突き破る。


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