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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議2
1
:
◆VnfocaQoW2
:2010/04/04(日) 00:20:17
雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。
278話以降、3ルートに分岐することとなりました。
ルートAは従来通りのリレー形式に、
ルートB、Cは其々の書き手個人による独自ルートになります。
規約はこちら
>>2
334
:
透子嵐(16/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:19:37
…………………………………………透子なのか?」
視覚情報を信用するのならば。
それは、透子ではない。
それは、智機であった。
機体信号を信用するのならば。
それは、透子ではない。
それは、智機であった。
あらゆる観測データがそれをN−21であると裏付けている。
あらゆる論理演算がそれをN−21であると結論付けている。
それなのに。
問答無用に。
なぜか、智機には判った。
目の前の姉妹機は、姉妹機ではないのだと。
姉妹機でありながら姉妹機のみではないのだと。
「いえす」
N−21はおちょくるかの如き口調とは裏腹に、
無表情に、焦点の合わぬ茫とした眼差しで、
智機の言葉を肯定した。
その物腰は、全く透子のものであった。
「語彙が辞書ツール依存」
「……ちょっと違和感」
335
:
透子嵐(17/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:20:21
Yesと、Noと。
言葉の短さは確かに透子らしくはあれど、透子らしからぬ言葉の選択は、
どうやらオートマンの機能故らしい。
「はやく手伝う」
「ザドゥは重い」
エラーが、エラーが、エラーの嵐が、智機を襲い混乱させる。
聞き分けのない論理演算回路がN−21=透子を認めない。
条件式の不備を理由に、その結論は成り立たぬと聞く耳持たぬ。
結論だけが先に存在している。
この矛盾を解決せぬ限り、智機は負荷を蓄積してしまう。
軽減されぬ負荷は、やがて智機を熱暴走に追いやってしまう。
知佳のサイコキネシスが外界に対する台風であるならば、
透子の今の在り方は智機の内界に対する嵐である。
共に劣らず智機の【自己保存】を脅かせる脅威であった。
「Yes、Yes、Yes。
納得は出来ないが理解はした。君は透子だ、間違いない。
しかし、私の条件式と演算回路ではその解に辿りつけないのだよ。
どうだろう。
私が過負荷で熱暴走する前に、こうなるに至った事情など、
説明していただけないかね?」
諧謔でも慇懃無礼でもなく。
智機にしては、相当に謙った懇願であった。
しかし、この新たな透子は、その下手に出ている智機に対し、
気怠げな表情で不平を伝えたのである。
336
:
透子嵐(18/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:21:06
「えー…… 長いし」
「喋るの面倒」
智機は更に謙る。慣れぬ愛想笑いが彼女の頬を引き攣らせる。
「そこを曲げて、頼みたいのだよ、New透子…… さん
貴女もその体になったのなら、エラーの放置が致命的な結果を招くことは
把握されているだろう?
意地の悪い事は言わずにどうか、情けをかけてくれ給えよ」
今、彼女の内界で生じているエラーの嵐を解決するということは、
プライドの高い智機をそうまでさせる必要性があったのである。
「あ、そうだ」
「送ればいいんだ」
発言と共に、透子のカチューシャの触角が点滅し、智機のそれも明滅した。
無線LANによる、データ転送である。
機械同士ならではの、効率的な情報伝達手段であった。
「Yes、感謝するよ。New透子さん」
感謝の言葉と共に、智機は送られたプレーンテキストをオープンする。
それは、御陵透子が如何にしてN−21となったのか、
その出来事を抽出した、僅か二秒の、しかし濃密なログファイルであった。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
337
:
透子嵐(19/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:22:03
(ルートC・2日目 PM11:25 J−5地点 灯台付近・上空)
今、御陵透子は落下している。
仁村知佳の高速飛行により発生したGに負け、意識を失っている。
二秒後に透子は地面に衝突し、原型を留めぬ程に潰れ、飛び散る事になる。
(私は……)
その二秒の間に、思惟生命体―――【透子】が、目覚めた。
より正確には、御陵透子の脳内で共生関係を結んでいた【透子】が、
透子という宿主が気絶しているにも関わらず、思考していた。
(御陵透子じゃ、なかった)
【透子】は、勝沼紳一に感謝した。
もし、勝沼紳一が気絶せし透子に憑依しようとしなければ、
思惟生命体は、【透子】と透子の区別を喪失したまま、
ここで共に朽ちていたであろうから。
自覚が、芽生えていた。
何百万年も【透子】は透子として生きており。
強く共生しすぎた余りに、思惟生命体と人間との区別が曖昧となっており。
【透子】の記憶を保ったまま転生を繰り返したことにより、
本来の肉体の主である透子が自我を発達させることは無く。
【透子】と透子は、融合したといってもよい状態で安定していた。
そこに。
紳一という名の楔が、打ち込まれたのである。
338
:
透子嵐(20/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:22:29
この楔が【透子】の【透子】たる自覚を促した。
この楔が【透子】の透子との差異を認識させた。
(死ねない―――)
(喪われた私の意味を)
(取り戻すまで)
御陵透子は落下している。
地面に衝突するのは一秒後である。
加速して、墜落する。
【透子】は、知っている。
この恐怖を、知っている。
これを、乗り越えている。
遠い遠い過去―――
彼女たち思惟生命体が群生し宿っていた恒星間宇宙船は、
流浪の果てに地球に不時着するを仕損じている。
墜落し、大破している。
その大災厄を、【透子】は多くの仲間と共に逃れている。
(……【共生】)
思惟生命体とは、姿無く、形なく、実体も無い生命体である。
単独では存在できぬ、曖昧な生命体である。
その思惟生命体が生きる術は、他者との【共生】にあった。
思考する能力のある物質/生物に宿り、その頭脳を間借りすることで
思惟という生命活動を送ることを可能とするのである。
339
:
透子嵐(21/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:23:14
遭難した【透子】たちは、この本能に従った。
地球に巣食う原生動物に。
思惟生命体が共生可能な程度には頭脳を発達させていた黎明の人類に。
その【共生】先を、移したのである。
1km以上の距離を隔てた彼らの群れに電波の如く飛び係り、
その脳に問答無用で共生したのである。
御陵透子は落下している。
地面に衝突するのは間も無くである。
しかし【透子】の思惟から焦りは消えていた。
自覚を取り戻し、記憶を蘇らせ、方策を得た故に。
もう、目星すらついていた。
【透子】は気づいている。
透子の視覚にも聴覚にも頼らず、単独で発見している。
距離にして200m西に存在する、新たなる【共生】先の存在を。
カスタムジンジャーを走らせ、学校跡からシェルターへと向かう存在を。
数分前に魔剣カオスとグロック17とをトレードした存在を。
御陵透子は地面に衝突した。
命が失われた。
しかし、その飛び散った脳には【透子】は存在しなかった。
【透子】は既に、【共生】先へと飛び掛っていた。
340
:
透子嵐(22/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:23:41
それは、易かった。
クマノミがイソギンチャクに潜むが如く。
コバンザメがジンベエザメに貼り付くが如く。
思惟生命体が共生の本能に従う―――
それだけのことであった。
さらに述べるならば。
【透子】とは元々機械より生じた生命現象であり、
このN−21はオートマンなる機械知性体であり、
その知能は、智機のAIは、
炭素系生命体の脳よりも遥かに寄生しやすく、
遥かに支配しやすく……
【透子】にとって良く馴染むものであった。
(AIがっ!?)
抵抗は一瞬。ワンセンテンス。
それだけでN−21は沈黙した。
そうして思惟生命体は、レプリカ智機N−21のAIに侵入し、
いとも容易く支配を完了し。
新たな透子としての機械の体を、得たのである。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
341
:
透子嵐(23/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:24:39
(ルートC・2日目 PM11:50 J−5地点 地下シェルター)
記録を読み終えた智機は震えていた。
恐怖でもある。
感動でもある。
透子に対するヘイトとリスペクトが、矛盾無く生じたのである。
透子の本体とは、機械より生じた生命体である。
自らと根を同じくし、何十万年も先行したモンスタースペックを有し、
さらには、自力にて機械というハードの制約を乗り越えた。
それは脱機械を目論む智機にとって、憧れと羨望の対象と映った。
それが、リスペクトである。
しかし透子とは、N−21に為した様に、共生する。
共生といえば聞こえはいいが、実質憑依である。
意志のハイジャックである。
しかも、殺しても、壊しても、意味が無い。
直ちに新たな共生先に移るのみである。
それが、ヘイトである。
「透子…… 様」
その二つの念を以ってして、表れは一つであった。
服従、である。
【自己保存】は最大出力で叫んでいた。
決して、この機械の神には、逆らってはならぬと。
「擦り寄るな」
「今更」
342
:
透子嵐(24/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:25:15
しかし、その智機の転身は、透子のお気には召さなかったらしい。
強い口調で、釘を刺した。
「No、透子様。これは胡麻摺りの類ではなく、
本心からの尊敬の念を抱いてだね―――」
「それが『今更』」
「私は知っている」
「お前がしたことを」
透子の切れ長の三白眼がぎろり、と、同じ顔の智機をねめつけた。
同時に、両者のカチューシャ触角が明滅する。
再びの、透子からの転送であった。
すぐに智機が目を通したその資料は、透子のものではなかった。
透子に共生される前の、N−21のログであった。
PM6:00前後のログであった。
「な―――!!」
智機の目が驚愕に見開かれる。
智機の膝が恐怖に笑う。
透子の怒りの根源を理解して。
「そういうこと」
智機が鎮火タスクの隙を突いてクラックしたのは、『四機』である。
P−3は、6人のプレイヤーへの交渉役に充てた。
N−48、N−59は、しおりの身柄確保役に充てた。
P−4も元はしおりの身柄確保用であったが、連絡員捜索役へと転身した。
そこに、N−21は存在しない。
343
:
透子嵐(25/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:29:45
では、このN−21とは何か?
それは、代行機・N−22と共に目覚めた機体である。
【自己保存】の要請により、固有ボディにてのプランナーへの謁見を忌避した
智機が起動させ、遠隔操作による間接的謁見を為した機体である。
智機はこの機体を、そのまま指揮下に置いていた。
クラックよりも早い段階で、島内に放っていた。
つまり。
N−22の記憶野には、残っていたのである。
プランナーと謁見した情報が。
智機が透子の能力制限を願った情報が。
そして、それが叶えられた情報が。
「だから信用しない」
透子の言葉に、智機が震える。歯の根が鳴動する。
己の導き出した、絶望的な予測によって。
因果は応報する。
この新たな透子に、自分が殺される。
それを逃れる術はない。
「大丈夫」
「殺すつもりない」
透子は芹沢を背後から抱きかかえながら、背中越しに、智機へ告げた。
それは許しを与える言葉ではなかった。
与えたものは執行猶予であった。
344
:
透子嵐(26/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:29:58
「また邪魔しない限り」
「言うこと聞く限り」
今の透子は無表情でも無感情でもない。
怖い声を出していた。
透子と離れていたこの六時間で、どんな変化がおきたのか。
今の透子は、時折感情を表に出すようになってきている。
「Yes…… なんなりと、ご命令を」
「ん、それじゃ」
「ザドゥと芹沢の」
「タオルを換えて」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
.
345
:
台風一過の花園で(27/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:30:40
(ルートC・2日目 PM11:55 H−3地点 花園)
島の北北東に群生する色とりどりの花たちの中から、
けふけふと、湿った咳払いが聞こえていた。
仁村知佳である。
背中の翼で命からがら灯台跡から逃亡した彼女は、
力尽きるまで飛行し、落下するように降り立って、
今は、花々に囲まれて仰向けに横たわっていた。
銃創に刀傷。
共に骨や臓器への影響は無かったものの、そこからの出血量は夥しかった。
体力の消耗と疲弊感も激しかった。
自らの傷口へと念動を向けて押さえつけ、血液の流出を留めてはいるが、
それでも、冷えを増していく体温を知佳は止められずにいた。
(保つかな……)
知佳の翼・エンジェルブレスは、日光をエネルギーに変える
光合成デバイスとしての役目をも持っている。
故に、朝日さえ出てしまえば、体力は回復に向かうであろう。
しかし、来光までの六時間余り、命を繋ぐことができるのか。
それが、知佳には判らない。
病院跡や集落へと戻ることも、知佳は考えたが、
移動に掛かる疲労消耗と、潜伏による消耗回避とを秤にかけた末に、
じっと朝を待つことを選択していたのである。
そこに――― N−21が現れた。
346
:
台風一過の花園で(28/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:31:09
「おはなばたけ……?」
唐突に、前触れ無く。
透子のテレポートと同じく。
気の抜けた感想を漏らしながら。
後ろ手に何かを持った姿勢で。
それで、知佳の違和感が解消された。
「透子さん、なの?」
「にありーいこーる」
N−21は曖昧に肯定した。
曖昧ではあるが、正しい返答でもあった。
「借りを返しに来た」
N−21――― 透子は、そういいながら後ろに回していた手を、知佳に伸ばした。
知佳は目を閉じる。
ここで撃たれても斬られても、それは自業自得であるのだと。
知佳は、透子の報復を安堵と共に、受け入れた。
「……寝たの?」
数秒後に透子から発せられた見当違いな質問に、知佳は目を開ける。
透子が知佳に伸ばした手に、銃器は握られていなかった。
魔剣も握られていなかった。
握られていたのは、薬箱であった。
「あげる」
347
:
台風一過の花園で(29/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:31:24
それは、素敵医師の薬品小屋からかき集めたまっとうな医療品であった。
朝日まで保たぬかも知れぬ知佳の命をそれまで維持させるものであった。
「説明、面倒」
「読んで」
知佳は透子の申し出通り、透子を読心にかける。
【これは鎮痛剤これは解熱剤これは睡眠薬頓服薬だから必要に】
【応じて飲んででも睡眠薬はザドゥたちのと同じで十二時間目】
【醒めないからそのつもりであと包帯と消毒液も持ってきた傷】
透子の心中には、薬品の説明が流れていた。
そこに知佳への報復を示す一切の感情は感じられなかった。
「借りを返す、って……」
知佳は戸惑う。
その言葉は、裏切った事に対して、殺害した事に対して、
殺意を持って向けられていたのだと思っていた。
そうではなかった。
逆説的な慣用句としてではなく。
正しい意味での感謝を、透子は抱いていた。
「紳一を倒してくれて」
「ありがとう」
「自殺を止めてくれて」
「ありがとう」
「天使を読んでくれて」
「ありがとう」
348
:
台風一過の花園で(30/30)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 02:32:04
「私のほうがいっぱい」
「ありがとう」
そういう、借りであった。
「でも、殺されたし」
「お薬、あげたし」
「でも、そろそろ潮時」
「…………ね?」
貸し借りはこれで清算であると、透子は言った。
プレイヤーと主催者という立場に戻りましょうと、透子は告げた。
言葉の裏を捉えれば―――
それは、二人には淡く儚い友情が結ばれていたことを
確かに証している発言であった。
「ばいばい、知佳」
「さよなら、透子さん」
今度は戦うと、今度は殺すと。
その直裁な言葉のやり取りを無しにして。
それでもそういった意味を理解して。
二人は静かに決別する。
↓
【御陵透子(N−21):復活】
―――――――――主催者 あと 4 名
349
:
ちか/透子/一過(情報 1/2)
:2010/08/29(日) 02:32:37
(ルートC)
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子・智機】
【現在位置:J−5地点 地下シェルター】
【スタンス:待機潜伏、回復専念】
【主催者:椎名智機】
【スタンス:①【自己保存】
②【自己保存】の危機を脱するまで、透子には逆らわない
③【自己保存】を確保した上での願望成就】
【所持品:スタンナックル、Dパーツ、改造セグウェイ、軽銃火器×3】
【監察官:御陵透子(N−21)】
【スタンス: ①願望成就
②ルドラサウムを楽しませる】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、改造セグウェイ、
魔剣カオス】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』(現状:自身の転移のみ)】
※ザドゥと芹沢はあと六時間は目覚めません。
350
:
ちか/透子/一過(情報 2/2)
:2010/08/29(日) 02:33:18
【現在位置:H−3 花園】
【仁村知佳(№40)】
【スタンス:①潜伏。朝日を浴びて「エンジェルブレス」にて傷を回復させる
②手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
③恭也たちと合流】
【所持品:テレポストーン(2/5)、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(中)、出血(大)、脇腹銃創、右胸部裂傷】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】
※強力な睡眠薬を服用したため、12時間は目覚めません
※傷は念動と医療器具で止血、縫合済みです
※薬品類は使いきりました
351
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/08/29(日) 13:33:58
深夜の投下&仮投下お疲れ様でした。
この展開は思っても見ませんでした。
亡霊紳一はこの為に登場したのですね。
知佳と透子の別れなど色々と安心させられる内容の話でした。
トランス部長……その単語をここで見る事になるとは思わなかったなあ。
293話までの本編SS、地図を更新したまとめをUPしました。
パスはrowaです。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1118343.zip.html
次は明日の月曜日の夜、ここで何かを書き込む予定です。
352
:
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:44:45
>>351
更新、お疲れ様です。
以下9レス「天覧席の風景」を仮投下致します。
次回は、タイトル未定、例の長いタイトルものです。
ザドゥ単独、一人称を予定しております。
少し、間が空くかもしれません。
明朝が早いので、今回は本スレの投下を見送らせていただきます。
353
:
天覧席の風景(1/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:45:41
(ルートC・3日目 AM05:45 場所不明)
「なんでぷちぷち、じっとしてるのかなぁ……」
ルドラサウムの嘆息は、島内の戦局が段落したが為である。
【ぷちぷち】――― 人間どもの動きが止まった為である。
何しろ、島に居る殆どのぷちぷち達が、眠りについている。
動きを求めることのほうが無理であった。
ルドラサウムが最後に笑ったイベントは、三時間以上も遡ることになる。
広場まひるに夜這いをかけたランスが、
レギンスを微妙に盛り上げているアレに気付いて、
嘆きつつも大暴れして、
ユリーシャがオロオロして、
紗霧がバットでガツンした。
それを最後に、鯨神の興味を引くぱっとしたイベントは無い。
ルドラサウムは唯一動きを見せている集団に、視線を移す。
鎮火活動を行っているレプリカ智機たちである。
彼女たちが次々と破損し、爆発し、損傷してゆく様は、
ある種の感動のドラマとして、この鯨を愉しませた。
しかしそれも、二時間ほど前までのことである。
今や鎮火活動も、ほぼ完了していた。
Dシリーズ全機破損。
Nシリーズ32機破損。
そこから、被害は増えなかった。
今は残務処理に過ぎず、見所はもう無いと言って良い。
354
:
天覧席の風景(2/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:46:37
「あーあ、退屈だなぁ。物足りないなぁ」
ルドラサウムはバタンバタンと尻尾を縦に振っている。
縦の動きは苛立ちを表現するものである。
「ルドラサウム様、例の物、集まりまして御座います」
いやらしい含み笑いと共に現れたのは、鯨神に負けず劣らずの、異形の者である。
まず、全身が金色に発光していた。
体は、卵の如き楕円形をしていた。
そこから銀鱗に覆われた太い首が伸びており、
顔は亀に酷似する爬虫類のそれであった。
腕とも脚とも付かぬ極太の六本が伸び、指は存在していない。
これこそが、プランナーである。
この悪意に満ちたゲームの企画立案者であり、
ディレクターであり、スポンサーであり、黒幕である。
その点、厳密に言えば、ルドラサウムは黒幕ではない。
一部、キャストの勧誘にも指を伸ばしはしたものの、
基本的にはこの筋書きの無いドラマの、観客である。
この観客ただ一人の為に、
その退屈を解消する為に、
ゲームは企画されていた。
「もう待ちくたびれちゃったよ、プランナー。
持ってきてくれたんだよね、例の物?」
「こちらに」
355
:
天覧席の風景(3/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:49:32
プランナーの腕の一本に抱かれているのは、籐の如き素材の編み壺である。
連絡員・エンジェルナイトが腰に提げていたものである。
情報と称して、会場内の死者の魂を詰め込んだものである。
それは、献上品であった。
ゲームの終盤で盤面が膠着することを見越したプランナーが、
同じく、主のその癖と飽きっぽさと我侭さを見越し、
盤面が再び動き―――恐らくは最終決戦―――を見せるまでの間、
主の無聊を慰めるために用意した、玩具箱であった。
「ねえねえプランナー。【あの子】たちの分もあるのかな?」
死後、その魂が島内から離脱しようとしたために、
プランナーが張り巡らせた結界に捕らまえられ、
雲散霧消させられた、人ならざる者たちがいた。
【あの子】たちとは、その二人を指している。
ヤマノカミの眷属、№19・松倉藍(及びイズ=ホウトリャ)。
天津神の癒しの姫君、№22・紫堂神楽。
「断片は全て回収させました。
しかしこれを意味ある形に戻せるのはルドラサウム様だけに御座います」
「いいよ〜、それぇ〜、粘土こねこね〜♪」
プランナーが取り出した三つの魂の断片。
ルドラサウムはそれを器用に選別すると、己の体表を軽く擦って光る粉を出し、
それを残留思念の断片にまぶした上で、こね回した。
すると、どうであろうか。
356
:
天覧席の風景(4/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:50:22
《わたしの体なのに》《安曇村》《安曇村》
《堂島》《堂島》《還るょ》《ヤマノカミ》
《話し合い》《よかった…》《よかった…》
島の上空を覆う結界に触れて霧消した筈の魂たちが、
残留思念として明確な形を取り戻したではないか。
「流石のお手並みにございますな」
プランナーのお追従に、鯨神はしっぽを左右にぺちぺちした。
「ん〜、そお? そ〜でもないけどな〜?」
命とは、この鯨神の微小な破片や欠片に過ぎぬ。
全ての命はここより生まれ、全ての命はここへと帰ってくる。
ルドラサウムとは、魂の集合体であり、魂のふるさとである。
紛うことなき創造神なのである。
「これで全部そろったね♪ じゃあ、どの子から味見しよっかな?」
「は、今蘇らせました紫堂神楽など如何でしょう?
その死に際の記憶を神条真人などと共に味わわれれば、
無念や無情が極上のハーモニーを奏でること、請け合いでございましょう」
「……ホント、きみはそーいうの大好きだねぇ。わかった、一度試してみるよ」
ルドラサウムは臣下の進言を容れ、神条真人の思念を壺より引き抜いた。
《虎の仮面》《虎の仮面》《なんという……》
357
:
天覧席の風景(5/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:52:44
そして、真人と神楽の思念を、その赤く大きな口に、放り込んだ。
鯨神は目を閉じ、その舌の感覚に集中する。
噛み砕きも、嚥下もしない。
消化も初期化もしない。
ただ舌で転がし、記録/記憶を追体験するのである。
愉しむのである。
嬲るのである。
死ぬ間際にこう見えたであるとか。
殺すときにこう動いたであるとか。
そういった人間ドラマとアクションを、キャスト目線で愉しむのである。
マルチサイトで、殺す側と殺される側とを見比べるのである。
「神楽ちゃん、後ろ!後ろ!」
新しく与えられた楽しいおもちゃに、鯨神はすぐに没頭した。
既にプランナーの存在など眼中に無い。
その主の上機嫌ぶりを見て、金卵神はほくそ笑む。
(これであと二日――― いや、一日半程度は保ちますね)
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
プランナーの私室の如き空間には、天使たちが整列していた。
その数は100体を下るまい。
後ろ手に腕を組み、背筋を伸ばし、直立不動。
プランナー直属の精鋭たちである。
358
:
天覧席の風景(6/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:54:30
そこに、創造神への貢物を終えた主が、戻ってきた。
天使たちは一糸乱さず、深々と頭を下げる。
プランナーは軽く手を上げて返礼しする。
「情報の収集、ご苦労。ルドラサウム様もことのほかお喜びでしたよ」
「恐れ入ります」
「次に死者が出るまで、ここで待機していなさい」
「了解いたしました」
それは、連絡員であった。
主の労いに感動し打ち震えることも無く、淡々と返礼した。
エンジェルナイトとは、そうした存在故に。
「そういえば、悪魔フェリスはどうなっていましたか?」
プランナーはまた別の天使を指し、そう質問する。
「詳細は悪魔界に入らないとわかりませんが―――
強制解呪にて、ランスとフェリスとの契約が絶たれていました」
「まあ、会場はルドラサウム様のお膝元ですからね……
彼らもこちらと事を構えたくない以上、
不干渉に徹することにした、のでしょうね」
創造神ルドラサウムに対抗する勢力として、悪魔なる存在がある。
ルドラサウムの目を逃れて、魂を掠め取り、
ほんの少しずつ、ルドラサウムの弱体化を進めている集団である。
ほんの少しずつ、自陣営の強化を進めている集団である。
渦中のフェリスも、この末端に位置する存在であった。
359
:
天覧席の風景(7/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:56:09
弱小の反政府地下ゲリラが、強大な政府の拠点に攻め込む訳が無い。
相手にその存在を感づかれ、追尾でもされようものなら、
小規模な組織など一息に壊滅の危機を迎えるからである。
プランナーはそう分析し、そしてその分析は正しいものであった。
「であるならば、放置ですね」
相手が不用意な一度の侵入を無かったことにするのであれば、
此方もその一度の侵入を見なかったことにして、流す。
プランナーはそう結論付けたのである。
創造主サイドにしても、悪魔たちには不介入を原則としている。
それでも時折介入せざるを得ない状況というのは発生するのだが、
今回は面倒な諸問題を発生させてまで手出しすることはないと、
プランナーは考えている。
今やっていることは、ただの遊びである故に。
思いつきの余興であり、主の無聊を慰める暇つぶしである故に。
藪を突付いて蛇を出すような真似はしたくない。
「まあ、ランスには気の毒なことですが」
プランナーは、紗霧に請われたランスが召還を失敗した事を知っている。
失敗し、ほら吹き呼ばわりされた事を知っている。
その後も人目を避けて何度か試した事を知っている。
その徒労が今後も繰り返されると思うと……
プランナーは、愉しくて仕方なかった。
足掻き、もがき、悩み、苦しむ。
その上で、報われない。
この悪趣味な一柱は、そういった悲劇をこよなく愛するのである。
苦悩と怨嗟が大好物なのである。
360
:
天覧席の風景(8/8)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:57:28
その嫌らしい性質故に、このゲームは生まれたのである。
確かに、主・ルドラサウムを楽しませるためのものではある。
しかし隠し切れぬ彼の陰湿なサディズムが、この企図には滲んでいる。
「さて――― 八時までには、まだ間がありますね」
頭を切り替えて、プランナーが時間を確認する。
八時とは、ザドゥたちが目覚める時を指す。
その時間までに、プランナーは一つ、決めねばならぬことがあった。
シークレットポイントを使用したことによるペナルティ。
プランナーは、その具体的な内容を決めていなかった。
手落ちではない。
即興性を重視していた。
どうすれば、主の歓心を買えるのか。
どうすれば、己の濁った悦びを満たせるのか。
どうすれば、転落した主催者たちをもっと惨めに堕とせるのか。
プランナーの頭脳は回転する。
名の示す通り、番組をプランニングしていく。
より悲劇的に、より悪趣味に。
AM6:00―――
絶望の孤島に、また、朝日が昇る。
↓
361
:
天覧席の風景(情報 1/1)
◆VnfocaQoW2
:2010/08/29(日) 22:57:56
(ルートC)
【現在位置:?】
【連絡員:エンジェルナイト】
【スタンス:①死者が出るまで待機
②死者の魂の回収
③参加者には一切関わらない】
【所持品:聖剣、聖盾、防具一式】
※ここまでの全ての死者の魂は、ルドラサウムの手に渡りました
※紗霧パーティーが全員、まひるの性別(♂)を知りました
※フェリスの召還が不可能であると判りました
※東の森の火災は鎮火されました
362
:
名無しさん@初回限定
:2010/08/30(月) 16:57:37
プライドがズタボロのザドゥ
くたばりかけのカモミール
とことん裏目のともきん
ルドの記録に振り回される透子
よくもまあこれほど主催者を落としめたもんだ
それがペナルティで更に追い込まれるとな?
いいぞもっとやれ!
363
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/08/30(月) 22:35:37
新作お疲れ様でした。
プランナーの嫌らしさがよく表現されてたと思います。
鎮火作業におけるコストと時間の消費が予想を大きく上回って少しびっくりしました。
フェリスはこれで退場ですか。上級悪魔の判断が適切。
やや不謹慎ですが
>>362
さんと同じくペナルティの内容に期待してます。
あと気になる点が一つ。
神人は神霊に選ばれた依り代で神楽の魂=大宮能売神ではないです。
原典の主人公とかは軍神の力と妖の魂を内包していますし。
また近いうちに。
364
:
名無しさん@初回限定
:2010/08/30(月) 23:44:48
まさに外道…
だけどこの世のルールそのものだから従わざるを得ないなんて…くやしい(ry
365
:
名無しさん@初回限定
:2010/08/31(火) 10:18:22
みんな聞いてくれ、俺気付いちまったんだ
俺がロワ物を書いたり読んだりする視点がプランナーと同じだってことに…
366
:
名無しさん@初回限定
:2010/08/31(火) 15:09:51
まあ、その通りさね……だからこそ悪趣味に自覚的であるべきなのさw
367
:
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:44:56
>>363
ご指摘感謝です。
本スレ投下時には該当部分を、下記のように修正させて頂きます。
×天津神の癒しの姫君
○『百貨店の神』大宮能売神の神人(カムト)
368
:
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:47:48
本スレにての支援、ありがとうございます。
さるさん明けが23時までかかると思われますので、
その間に仮投下を進めたく。
以下15レス、長いタイトル改め「狂拳伝説クレイジーナックル」を
仮投下致します。
次回は「負けない心 挫けない勇気」。紗霧たち6人が登場予定です。
369
:
狂拳伝説クレイジーナックル(1/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:49:22
(ルートC・3日目 AM07:45 場所不明)
いつからこの薄暗い砂漠ににいるのか。
そもそもここはどこなのか。
霞がかかった頭では、思い出せない。
「あ、こっちにもありましたよ、ザドゥ様」
チャームが向こうで俺に手を振っている。
手にした何かの破片を、誇らしげに掲げている。
ああ、そうだ。
俺とチャームは、あれを集めていたのだ。
この薄暗い砂漠に散らばったあの破片を、
一つ残らず回収せねばならぬのだった。
だが…… あれは…… 何だった?
「さぁ…… 私はあまり難しいことは判りませんので。
でも大事なものだって言ってましたよ、ザドゥ様は」
砕けたそれが、散らばったそれが。
俺にとって大切な物であった事は判る。
しかし、こうして破片を集める意味とは、何だ?
失ってしまったものを集めて、一体何になるというのだ?
「そんな悲しいことを言わないで下さい、ザドゥ様ぁ……」
駆け寄って来たチャームがじゃれ付く。
豊満な胸をタンクトップ越しに擦り付け、
俺の頬をペロペロと舐め上げてくる。
370
:
狂拳伝説クレイジーナックル(2/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:50:13
チャーム―――
東欧の人身売買オークションで手に入れた、人体改造のモルモット。
野獣のような素早さと攻撃力を身に付けた、俺の四天王の一角。
夜はペット。可愛いやつだ。
「ほら、また見つけましたよ、ザドゥ様。
この輝きを見てください。この力強さを感じてください。
これは、ザドゥ様に絶対必要なものなんです」
チャームが、破片を俺に握らせる。
握った瞬間、蘇った。
俺が、組織への侵入者を殴り倒している情景が。
俺の心のどこかに、少しだけ活力が戻った。
俺の頭のどこかが、少しだけ明瞭になった。
「ね?」
チャームが微笑む。にこやかに。
なるほど、これは俺の力の源か。
この破片を全て集め、合わせることで、
きっと俺は俺を取り戻すのだろうな。
―――取り戻す?
自然と胸に浮かんだその単語に、違和感を覚えた。
取り戻すということは、失ったということ。
では、それはいつのことだ?
「いいんです、そんなこと、今考えなくても。
全部集めたらきっと思い出しますよ!」
371
:
狂拳伝説クレイジーナックル(3/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:50:41
そういう物かも知れんが、俺は既に『気になった』のだ。
探すのはお前に任せるから、もう少し俺に考えさせろ。
「はぁい……」
チャームは何故か淋しげに背中を向けた。
その様子が少し気にかかるが、まあ、後回しだ。
今は手にした破片が砕けた理由を思い出すことが最優先だからな。
後で尻の一つも撫でてやれば、チャームの機嫌は直るだろう。
「あっ……」
ん、どうしたチャーム?
「な、なんでもありません。
ちょっと勘違いして、別のものを拾ってしまっただけです。
ポイしましょうね、ポイ!」
チャームが手にしたそれは、汚い破片だ。
目を背けたくなるような気色悪い破片だ。
それなのに。
俺はその破片が、気になってしかたなかった。
チャーム、捨てるな。それを寄越せ。
「ザドゥ様がそうおっしゃられるのなら……」
チャームは不承不承といった体で、俺に破片を渡す。
手にした瞬間。
何かが、溢れた。
372
:
狂拳伝説クレイジーナックル(4/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:51:12
―――『お友達を』助けることなんだぁ♪
っっ!!?
なんだ、この能天気でカラっとした女の声は?
なぜ、俺の胸はこれほど痛むのだ?
なぜ、俺はこの声がこれほど恐ろしいのだ?
「だっ、大丈夫ですかザドゥ様ぁ?
だから言ったんですよ、ポイしましょうって」
いや、問題ない。心配には及ばん。
だが、痛くて恐ろしいはずのこの破片から、目を逸らすことが出来ない。
先程の力湧く破片よりも大切な何かだと、そんな直感が働く。
―――これだ。
他の破片は後回しでいい。先ずはこの薄ら汚れた破片を探すべきだ。
そうすれば、いずれこれらが砕けた理由にたどり着くはずだ。
その確信が、俺にはある。
「ザドゥ様ぁ。それはザドゥ様のためにならないゴミですよ?」
何でも言うことを聞く。服従する。
チャームとは、そういう利口なペットだ。
俺に尽くす方法を弁えている。なのに。
なぜか、従わなかった。
どこか、悲壮感が漂っていた。
であれば、これは本当に為にならぬものなのか?
……いや、流されるな、ザドゥ。
373
:
狂拳伝説クレイジーナックル(5/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:51:47
俺は既に判断を下し、命じたのだ。
それを他者の顔色で撤回するなど、あってはならん。継続だ。
俺が俺を信じることが出来ずに、何がザドゥか!
「そんなのより、こっち! この綺麗な破片を探しましょうよ」
チャーム、つべこべいうな。汚いほうだ。
俺が探せと言っている。
「……はぁい」
不承不承のチャームを尻目に、俺も探した。必死に。
這いつくばって、地面を舐めるように。
そして見つけた。三つの破片を。
―――大将も自己満でカモミールを殺さないよーに
―――アリが人に何を求めるの?
―――己の主はただ己のみ!!
……そうだったな。
俺は、負けたのだ。
あの島で、何度も何度も負けていたのだ。
「そんなことないですよ、ザドゥ様。
だってその三人は皆死んでるんですよ? ザドゥ様は生きてるんですよ?
どう考えたってザドゥ様の勝ちじゃないですか」
確かに、勝負には勝ったかも知れん。
生き残りには勝ったかも知れん。
374
:
狂拳伝説クレイジーナックル(6/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:52:39
だがな、チャームよ。
俺は、俺を貫けなかった。俺自身で、歪に曲げていた。
奴らは最後まで己を貫いた。己の意志を曲げなかった。
タイガージョーは命を賭してゲームを否定した。
ファントムは地獄の底まで仇を追っていった。
芹沢の『友達を助ける』思いは願望の成就を振りきり、
長谷川ですら醜く汚らわしい道化を貫いた。
俺は、その覚悟の差に、膝を屈したのだ。
「そんな…… あんまり自分を追い詰めないでくださいよ。
早く欠片を全部集めて、あのカッコよくて自信たっぷりなザドゥ様を
取り戻しましょうよ!」
チャーム、慰めなどいらん。少し黙れ。
俺はそろそろ思い出せそうなのだ。
先刻、俺はさらりと重要なことに触れなかったか?
それは、キーワードではないのか?
―――俺は、俺を貫けなかった。
―――俺自身で、歪に曲げていた。
そうだ。これだ。
タイガージョーと言葉と拳を交わした時には、
既に宿っていた暗澹たる敗北感。
それは、誰に? 何に? いつ? どこで?
探さねば。見つけねば。
俺の真の敗北を。
最初の敗北を。
375
:
狂拳伝説クレイジーナックル(7/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:53:25
「それって、シャドウの裏切りなんじゃないですか」
成る程な。
確かに俺はシャドウに敗れて、多くのものを失った。
組織。
部下。
名声。
権力。
女。
金。
だがなチャーム。
そんなもの、戦利品でしかなく。
俺という存在に追従した余禄に過ぎず。
俺そのものでは決してなく。
つまりは…… たかが贅肉よ。
「たかが…… 贅肉……」
俺が見つけねばならんのはな、チャーム。
そんなちんけな敗北では無いのだ。断じて。
贅肉を削ぐような敗北ではなく、拳を砕くような敗北なのだ。
それを見出さねば。
それを受け入れねば。
お前がいくら破片を集めきったとて、決して元の俺には戻るまい。
歪な俺の、不恰好なプライドが形成されるだけだろう。
―――カチ。
.
376
:
狂拳伝説クレイジーナックル(8/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:54:00
がむしゃらに探す俺の指先に、触れた。
大きな欠片が。
―――わか・・・・・った。その話・・・飲もう
―――キャハハハハ!
……見つけた。
これだ。
俺の真の敗北の記憶。
タイガージョーへの敗北感も、
アインへの敗北感も、
長谷川への敗北感も、
芹沢への敗北感も、
全て、結局。
この一敗から目を反らしていたから生まれたのだ。
自分を曲げた事を恥じるが故に、自分を貫く奴らが眩しかったのだ。
「ザドゥ様は、これが敗北だと、言うのですか……」
ああ、そうだ。
俺は、俺の主であることを捨てて、神の走狗に成り下がったのだ。
涎を垂らし、尻尾を振って。
ヤツがぶら下げた餌に飛びついたのだ。
今こそ、ザドゥは、認めよう。
俺の最大の敗北は、その選択をしたことだ。
俺は、俺を、裏切ったのだ!
「その餌は、必要ないものなんですか……?」
377
:
狂拳伝説クレイジーナックル(9/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:54:41
チャームの悲げな声が耳を衝く。
振り返ったチャームは氷柱に閉じ込められていた。
丸い目に涙を溜めて、俺を見つめていた。
そうだ…… 俺は、何を忘れていたのだ。
チャームは死んでいたではないか。
その復活こそが、俺が釣り上げられた餌ではなかったか。
「私は、必要ないんですか?」
チャームが涙を溜めて、氷柱を内側から叩いている。
俺を求めてくる。
この涙に。この献身に。この愛情に。
この死に、俺は変えられた。
俺は、俺を、見失っていた。
無論、チャームを責める気などは無い。
全ては俺の弱さだ。
一人の女に肩入れしすぎたツケが回ってきたに過ぎぬ。
「ザドゥ様ぁ…… どうして自分ばっかりご覧になってるんですかぁ?
もっとこっちを見てください…… もっと私を見てください……」
人の死の中になにかを見出した気になり、哀れみを覚え、共感を欲する?
ハッ! とんだ善人気取りだな、ザドゥ。
隠居したジジイでもあるまいに、それが牙を持つ人間の思想か?
そんなザドゥが、どこに居る?
断じる! そんなものはザドゥではない!
「酷いです、ペットは捨てないって、言ってくれたじゃないですかぁ……」
378
:
狂拳伝説クレイジーナックル(10/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:55:16
ああ、確かに言ったな。
不安がるお前を強く抱きしめながら、何度でも言ったな。
覚えているぞ。
忘れられるはずもなかろう。
だからな、チャーム。
飼い主としての責任は、果たしてやる。
「ザドゥ様ぁ! やっと私を見てくれた!」
なあ、チャーム……
俺は、今やっと、敗北を受け入れることが出来たのだ。
恐れていたそれは、恐れていたほどではなく、逆に清々しさすら感じたぞ。
だがな。
敗北を受け入れることと、負け犬のままでいることは、違う。
敗北は結果として受け入れよう。
だが、俺は、負け犬のままでいるつもりはないのだ。
だからな、チャーム……
「はいっ! なんでしょうザドゥ様っ♪」
俺の為にもう一度、死ね。
「なんっ……!?」
.
379
:
狂拳伝説クレイジーナックル(11/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:56:30
砕けろ、氷柱。
砕けろ、愛猫。
砕けろ、想い。
砕けろ、願い。
その痛みを以って、受け入れろ、ザドゥ。
愛する者を殺し直して、蘇らぬを自覚しろ。
―――狂 昇 拳 !
「酷い、おかた……」
ああ、なんと酷い男なのだろうな、ザドゥという男は。
だがチャームよ、お前は知っていた筈だ。
これが俺なのだと。
お前の復活などを望むザドゥこそ、本来のザドゥでは無かったのだと。
俺は飽くまでも俺本位で。
行動を妨げようとする者は必ず叩き伏せ。
意志を曲げようとする者は必ず返り撃ち。
いかなる犠牲も恐れず、
いかなる敵にも怖じぬ。
お前の飼い主とは、そういう男であったろう?
「さよならです……」
狂昇拳は氷柱を穿ち、そこに捕らわれるチャームの心臓をも貫いていた。
次の瞬間、霧消した。
その姿が消えると共に、左手首に巻いていた鈴の紐が切れた。
りん……
380
:
狂拳伝説クレイジーナックル(12/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 22:57:50
一度だけ悲しげに鳴った鈴は、砂漠の砂に同化して沈んでいった。
これで俺を縛るものは、無くなった。
一人だ。
独りだ。
俺は、ひとり、ザドゥだ。
俺は、ただの、ザドゥだ。
裸一貫。
鍛えぬいた狂拳。
―――それで十分。
散らばった破片も、もう要らぬ。
あれもまた一つの贅肉だ。
今の、単純化されたザドゥの動きを鈍らせる重荷だ。
―――それで完結。
そう、チャームも言っていたではないか。
生きているから、負けではない、と。
リベンジの機会が、まだあるうちは。
それを諦めないうちは。
俺は、まだ、俺でいられる。
確か、鯨は言っていたな。次に会うときはゲームの終了時だと。
成る程な。チャンスはその一回のみということか。
であれば、必ずゲームは成功させてやる。
成功させて、芹沢の願いを叶えてやる。
それから。いざ、俺の願いが叶えられようとした瞬間に。
―――殴る。
.
381
:
狂拳伝説クレイジーナックル(13/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 23:00:02
俺の全てを一撃に込めて、いけ好かん鯨野郎をぶん殴る。
そして言ってやる。
お前などに叶えさせてやるような望みなど無いのだと。
その後のことなど、知ったことか。
圧倒的な力量差があろうと。俺はお前の飼い犬ではなく。
伸ばした手が届かぬのだとしても。俺の主は俺だけで。
たったそれだけのシンプルな事実を、物分りの悪い蒼鯨に理解させてやる。
この拳でな。
『ねえねえ、今度こそザッちゃん起きたかなぁ?』
『違う、また寝言』
《寝言なのかうわごとなのか、ビミョーですよ?》
『瞼に小刻みな痙攣を感知。首魁殿はそろそろ目覚められるようだよ』
鼓膜に…… 聞き覚えのある声を感じる。
両瞼に…… 淡い光を感じる。
四肢に…… 筋肉の疼きを感じる。
ああ、俺はもうすぐ目覚めるのだな。
ああ、これまでの全ては夢だったのだな。
だとすれば、きっとこの夢も目覚めと共に忘れてしまうのだろう。
それはそれでいい。
だが、ただひとつ。
目覚めの世界に、これだけはもって行け。
これだけは、忘れるな。
382
:
狂拳伝説クレイジーナックル(14/14)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 23:00:18
―――敵は、鯨だ。
↓
383
:
狂拳伝説クレイジーナックル(情報 1/1)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/02(木) 23:00:40
(ルートC)
【主催者:ザドゥ】
【スタンス:ステルス対黒幕
①プレイヤーを叩き伏せ、優勝者をでっちあげる
②芹沢の願いを叶えさせる
③願望の授与式にてルドラサウムを殴る】
【所持品:なし】
【能力:我流の格闘術と気を操る】
【備考:重態、全身火傷(中)、睡眠中】
384
:
名無しさん@初回限定
:2010/09/02(木) 23:11:54
ザドゥが心底から格好いい……!
ネット上の読み物で今一番楽しみにしてるのがここだわ……
385
:
名無しさん@初回限定
:2010/09/03(金) 15:23:17
ストイックとナルシズムの極致!
シビれるぜザドゥ!
386
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/09/03(金) 21:02:50
本投下&仮投下お疲れ様でした。
これまでの積み重ねゆえのザドゥの覚醒がいい感じでした。
本投下の方もレプリカの本体との決別に加え、本拠地も廃棄とは……意外な。
没収された参加者の所持品は何処へ?
294話までの本編まとめと地図を更新したまとめをUPしました。
パスは bato です。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1127479.zip.html
これからは可能な限り、本投下の翌日に更新という風に進めていきたいと思います。
387
:
折り返し地点(4/11)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/11(土) 22:15:37
それは知佳にも判っていた。
判っていても、割り切れなかった。
「でも、出来ないよ」
割り切るには交流が多すぎた。
割り切るには肩入れしすぎた。
割り切るには借りが大きすぎた。
そして――― 割り切るには、知佳は優しすぎた。
勝手ながら。
知佳は、透子に友情めいた思いを抱いてしまっていたのである。
「じゃあ」
「貴女が、殺して」
透子は目を閉じ、胸を広げ。
そこにカオスを刺し込んで欲しいのだと、知佳に告げる。
この時、知佳の心に、透子の心の声が染み込んできた。
【 どうせ死ぬなら 】
【 私を「かなしいひと」だと思ってくれた 】
【 私の歴史を知ってくれた 仁】
【村知佳の 役に立とう 】
知佳の目に、みるみる涙が溜まってゆく。
嬉しかった。友情を感じていたのは自分だけではなかったことが。
悲しかった。友情から来る提案を踏みにじらねばならぬことが。
「―――それもダメだよ」
388
:
◆VnfocaQoW2
:2010/09/11(土) 23:57:40
以下12レス、「負けない心 挫けない勇気」改め、
「譲れぬ想い 挫けぬ心」を投下致します。
次回は、「χ−1」。
主催者たちと黒幕たちが登場予定です。
>>387
は、ひとつ見なかった事に。
389
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(1/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/11(土) 23:58:55
(Cルート・3日目 AM09:00 D−6 西の森外れ・小屋3)
「メイド服っ!」
「メイド服っ!」
朝日差す二西の森の小屋に、男の魂の叫びが二つ、響き渡った。
魔窟堂野武彦と、ランスである。
この、およそ接点を見ない縁遠い二人が、意気投合していた。
大いなる野望の達成の為に、心を一つにして事にあたっていた。
その魂の叫びは、食卓に座す月夜御名紗霧へと向けられていた。
「着ません」
うんざりした顔で溜息をつく紗霧ではあったが、
以外にも、その表情に険は無かった。
「朝食の準備…… 今この時に装着せんでなんとする!」
「そうだそうだー!」
「ランス様も、こう仰っていますし……」
「着ません」
「着てあげてもよくない? 紗霧サン?」
「よし! 今まひるが良いコト言った!」
「着ません」
「あと一押しじゃ! 言ってやれい、恭也殿!」
「俺ですか? ……これといって、別に」
「……なんでですか!」
「紗霧サン、どしてそこでつっかかる?」
「メイド服なんて着ませんが、興味なさそうな態度も気に入りません」
390
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(2/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/11(土) 23:59:36
ふざけても、怒っても、呆れても。
それでも、皆の声は弾んでいた。
それもそうであろう。
何しろ、昨晩、大勝利を飾ったのである。
巨凶、ケイブリス相手に。
この朝食準備の席に、誰一人として欠けることなく揃っている。
このような状況、誰が想像したであろうか?
作戦立案者である紗霧とて、まさか怪我人すら出さずに勝利するとは
想像だにしていなかったのである。
浮き足立つのも、当然と言えた。
巨凶ケイブリスとの戦いを終えた六戦士は、深夜一時過ぎに、
彼らのホームである小屋へと、帰投していた。
そこで、たっぷりと休養を取った。
ランスの夜這いに関するアクシデントこそあったものの、
交替で見張りをたてて、それぞれが六時間の睡眠を得たのである。
で、皆が目覚めて。
顔を揃えて。
いざ、食事を作ろうという段で、深刻な問題が発生した。
「じゃあまひるさん、お願いします」
「いやいやここはユリーシャさんが」
「食事の準備はメイドの仕事でした」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
391
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(3/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:00:16
女性陣の誰一人として、まともな自炊経験がなかったのである。
問題は、それだけに止まらなかった。
「世の中にはコンビニという便利な場所があっての」
「そんなもん、シィルにやらせていたからなぁ……」
野武彦とランスもまた、厨房に立つ能力を持ち合わせなかった。
と、なれば。
あとは一人しかいなかった。
「男の大雑把な料理でよければ」
こうして高町恭也がひとり、厨房に立つことになった。
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
「……どうしても紗霧ちゃんのメイド姿が見たい」
「……異議なしじゃ」
小屋の裏手でP−3の残骸を処理しながら、ランスと野武彦は小声で密談する。
「恭也は朝ごはんを作っている。念のためユリーシャを見張りに立たせた。
今がチャンスなんだ。ジジイ、策は無いか?」
「では、こんなのはどうじゃ?」
キランと丸眼鏡が光り。落雷の書き割りが表れて。
野武彦の目線が、井戸へと向けられた。
392
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(4/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:01:01
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
小屋には長逗留を想定してか、米や味噌の備蓄がそれなりにあった。
肉類こそ備蓄が無かったものの、日持ちする野菜も発見された。
故に朝食は、一汁一菜。
ご飯と、赤だしと、煮物。
誠に日本人らしいメニューと相成った。
―――コトコトと、鍋が鳴っている。
―――刻まれたネギの強い香気が漂っている。
「なんてゆーかこの…… 厨房に立つ男子ってゆーのは、
一種独特の色気がありますなぁ」
広場まひるは、エプロンをつけて沢庵をトントンしている恭也の背を見つめ、
ワイドショーを眺める中年主婦の如き感想を述べた。
「ま、否定はしません」
済ました顔で興味なさげに相槌を打つ紗霧ではあるが、
しかしまひると並んで食卓から恭也を眺めていた。
ユリーシャも同席はしているものの、窓の向こうのランスを気に掛けるばかりで、
二人の会話にも、恭也の後姿にも、意識は向けられていない。
―――コトコトと、鍋が鳴っている。
―――炊飯器の湯気に混じる白米の甘い香りが漂っている。
.
393
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(5/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:02:16
「おう、終ったぞ」
「ついでに井戸水も汲んできたわい。食後の皿洗いに必要かと思っての」
「お疲れ様です、ランス様」
P−3の残骸の処理を終えたランスとユリーシャが帰ってきた。
忠実な愛玩犬の如く笑顔で駆け寄るユリーシャを抱きとめて、
ランスはその耳元に、何事かを囁いた。
ユリーシャは複雑な表情で頷くと奥の部屋へと引っ込んで行く。
「いやあ、しかし水桶は重いのぅ……
この老骨のヤワい足腰には格別に堪えるわい」
野武彦は厨房に向かって、不確かな足取りで歩いてゆく。
そんな様子に哀れ心を誘われたまひるが、
手を差し伸べようと腰を上げた時であった。
あまりにも意外な第三者が、まひるに先んじて救いの手を伸ばしたのは。
「情けないなあ、ジジイ。しょうがない、俺様が代わってやろう。
ホレ、桶をよこせ」
まひると紗霧は己の耳目を疑った。
あのランスが。
男にはとことん厳しいランスが。
ジジイは早くくたばれだのの暴言を吐くランスが。
男に、年寄りに、親切心を発揮したのである。
「よよよよ、人の情けが実に染みるのじゃあ!」
「わはは、大げさなジジイだな!
そんな書き割りを出す暇があるなら、さっさと桶を……
ををっ!?」
394
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(6/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:03:31
ランスが詰め寄り、野武彦が立ち止まり。
交錯の瞬間、二人はニヤリと笑いあった。
その瞬間、水桶が、宙に浮いた。
「なんと!
ランス殿に親切に涙を浮かべた野武彦は、
手渡す水桶の目測を誤ってしまったのだった!
まったく意図せずに!」
「さらに!
ジジイが手放した水桶をナイスキャッチした俺様だが、
無茶な体勢が祟って、桶をひっくり返してしまった!
紗霧ちゃんに向かって!」
野武彦とランスは慌てる素振りも見せず、一息に言った。
明らかな猿芝居であった。
しかしその素早い連携に、まひると紗霧は反応できなかった。
「きゃあ!」
「がははは! 紗霧ちゃん水浸し!」
「やったのう、ランス殿!」
頭からしたたかに水を被り、全身ずぶ濡れになった紗霧が、
その黒髪をワカメの如く額に張り付かせ、
ハイタッチを決める老人と青年に、恨めしげな上目遣いを向ける。
―――コトコトと、鍋が鳴っている。
―――溶かされた味噌の匂いが居間まで漂っている。
.
395
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(7/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:04:57
奥の部屋に引っ込んでいたユリーシャが居間へと戻ってきた。
戻ってきたかと思いきや、そのまま小屋を出て行った。
その手に二つの大きな紙袋を握って。
「濡れた着衣に下着のラインを透かせては目の毒じゃ。
ささ、奥の部屋で着替えるとよい」
「俺様たちの大事な軍師が風邪をひいたら大変だからな。
早く奥の部屋で着替えるのだ!」
野武彦とランスはにこやかに紗霧を奥の部屋へと誘導する。
その様子に、紗霧は不信感を抱き。
数秒前に出て行ったユリーシャが抱えていた紙袋へと思い至る。
「まさかっ……!」
奥の部屋に飛び込んだ紗霧が目にしたものは。
男物女物、あらゆる衣類が持ち出されて空っぽになった、
部屋に備え付けの収納ボックスであった。
そして、その部屋の真ん中に。
まひるが病院で発見し、ユリーシャが保管を任されていた
衣服セットの入った袋だけが、ぽつんと、置かれていた。
「そこまでですか…… どうしてもメイド服なんですか」
紗霧を着替ぬ訳にはいかぬ状態へ追い込んだ上で、
替えの衣装の選択肢を限定させる。
それこそが、野武彦の策であった。
「それだけは譲れないのじゃよ」
「俺様は決して挫けないのだ!」
396
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(8/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:06:54
恥じることなく胸を張り主張する男二人の曇りなく輝ける瞳に、
ついに紗霧は溜息を以って、屈した。
「はあ…… しょうがないですね。
確かにここで風邪でもひいては困ります。
まひるさん、見張りを頼みます」
―――グツグツと、鍋が煮えている。
―――煮詰まった味噌汁の匂いが胃袋を刺激する。
紗霧の警戒に反して、野武彦とランスは全く大人しかった。
お利口に正座をして待っていた。
既に戻って来ているユリーシャは最初、暗い眼差しをしていたものの、
ランスに撫で撫でされたので、すっかり機嫌を治していた。
からり、と、引き戸が開かれて。
ごくり、と、男たちが息を呑む。
「いよいよだな!」
「なんと長い道のりであったことか……」
肩を叩き合い、互いの健闘を称えあう二人の前に、
着替えを終えた紗霧が、堂々と姿を表した。
その新装束の衝撃に、まひるやユリーシャまでもが息を呑む。
「な、な、な……?」
「そっちを選びよるとは!」
397
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(9/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:07:37
紗霧は、全身、清潔な薄いピンク色に包まれていた。
膝上までのタイトなスカートの下には白いタイツが履かれており、
頭上には三角巾の如きキャップが載せられていた。
胸ポケットには体温計が刺さり、首には聴診器が掛けられていた。
そう。
置かれた袋の中にある、もう一つの装束―――
紗霧は、ナース服に着替えたのであった。
メイド服とナース服。
どちらも同じく恥ずかしい衣装であり、
どの道コスプレの羞恥は拭えない。
ならばと、紗霧は考えた。
せめてと、紗霧は企んだ。
野武彦とランスの下らぬ策略に嵌っただけでも屈辱であるのに、
これ以上喜ばせるなど以ての外である。
ナース服とは苦渋の選択であり、意趣返しであった。
「この月夜御名紗霧にも、意地があります」
驚きを隠せぬ野武彦とランスは呆けた表情を見せ。
紗霧はそれを満足げに眺めながら笑った。
恐ろしく影の濃い、不吉な笑みであった。
「さて、お二方。治療のお時間です」
「何故に治療でバットなんじゃ?」
「しかもそれ…… 釘が打ち込まれてないか!?」
「昔の人は言いました。馬鹿は死ななきゃ治らない(ニッコリ)。」
398
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(10/10)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:08:46
紗霧が凶悪に改造されたバットを振り上げ、
野武彦が身を竦め、
ランスが野武彦を犠牲に逃げる素振りを見せ、
ユリーシャがランスに駆け寄り、
まひるが苦笑した、
その時。
ドシリと、厨房から、重い音が聞こえてきた。
―――カラカラと、鍋が焦げている。
―――焦げた煮物が目に染みる黒煙を発している。
全員が同時に、その異様に気付いた。
最も厨房に近かったまひるが、そちらに目線をやり、叫んだ。
「―――恭也さんが倒れてる!!」
↓
399
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(情報 1/1)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:09:30
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め
①しばらく休養】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:D−3 草原】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:生活用品、香辛料、メイド服、干し肉、スペツナズナイフ、
文房具、白チョーク1箱、レーザーガン、フラッシュ紙コップ】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、保存食】
【備考:失血で疲労(大)、発熱(大)、右わき腹から中央まで裂傷あり】
※痛み止め(解熱作用含む)の効果が切れました。
400
:
譲れぬ想い 挫けぬ心(情報 2/2)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 00:10:23
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残弾5)、白チョーク数本、
スコップ(小)、鍵×4、謎のペン×7、工具、
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】
【月夜御名紗霧(元№36)with ナース服】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
状況次第でステルスマーダー化も視野に】
【所持品:金属バット、ボウガン、メス×1、謎のペン×8、小麦粉、
薬品・簡易医療器具、対人レーダー、他爆指輪、解除装置
簡易通信機・大(←野武彦)】
【備考:疲労(小)、下腹部に多少の傷有、性行為に嫌悪感(大)】
【広場まひる(元№38)with 体操服】
【所持品:せんべい袋、救急セット、竹篭、スコップ(大)、簡易通信機・小】
※「?服」のラストは、ナース服でした。
※米と味噌、野菜の数日分を確保できました。
401
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/09/12(日) 18:48:34
本投下&仮投下お疲れ様でした。
実はMAP作成において紳一の扱いに少し悩んでました^^;
食料だけでなくP-3からアイテムを作成したり、
紗霧を着替させたりする策略を成功させる彼らの抜け目の無さに感服。
ナース姿とは……これはいい選択。
鍋の描写と最後の恭也の様子とうまくあっていたと思います。
295話までのSSまとめと地図を更新しました。
まとめのパスは rowa です。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1143002.zip.html
402
:
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:36:00
長時間に渡る本スレへの支援、ありがとうございました。
以下13レス、「χ−1」を仮投下致します。
次回は、「タクスタスク 〜the final mission〜」。
野武彦とまひる、代行N−22、他レプリカが登場予定です。
403
:
χ−1(1/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:37:37
(ルートC・3日目 AM9:00 J−5地点 地下シェルター)
拳を、握る。拳を、開く。
拳を、握る。拳を、開く。
目覚めたザドゥが最初にしたことは、【気】を用いての内観であった。
深い呼吸と共に【生の気】を巡らせれば、血液の滞りや発熱、代謝の停止等、
【死の気】を内包している箇所で停留し、あるいは霧消する。
これは気功を使う者特有の、肉体機能のチェック方法である。
(想像以上に疲弊が激しいな。火傷による機能の低下も著しいが……
だが、機能の不全には至っていない。俺はまだ、戦える)
その分析に、痛みは考慮されていない。
ザドゥはいつかの亡霊・紳一とは違い、痛み程度には動じない。
動くのか、動かぬのか。
壊れているのか、いないのか。
それを、一箇所一箇所丁寧に確認するのみである。
「はいはーい、ザッちゃんザッちゃん! 次はあたしを触診してー♪」
《そういう話なら、ぜひこの儂に!》
「黙れ妖刀、折られたいか」
《……お黙ります》
主催者一同の脳裏に、頭痛すら覚えるほどの強烈な鳴動が感じられたのは、
ザドゥが芹沢の背に【生の気】を巡らせようと掌を伸ばした矢先であった。
.
404
:
χ−1(2/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:38:47
《聞け、主催者どもよ》
プランナーであった。
姿見せぬ金卵神が、強大な思念波を叩き付けたのである。
主催者たちに、緊張が走る。
《基地は地中に没し、学校も崩壊し、素敵医師とケイブリスを失った。
しかも深夜零時と早朝六時の定時放送も為されなかった。故に。
お前たちはゲームを管理する力を失ったと判断してよいだろう―――》
(No!? ケイブリスが死んだ、だと?)
椎名智機のトランキライザが働き、情動負荷が軽減される。
その処理をトレースして、初めて智機は気が付いた。
ケイブリスの死に、強制緩和を必要とする程の悲しみが発生していたことに。
『いいぜ、その目……ギラギラとしてて餓えてる目だ。見直したぜ』
―――興味を抱かれたい。
―――知って欲しい。
―――求められたい。
失って初めて、智機は理解した。
ケイブリスこそ。
誰よりも真っ直ぐな眼差しで智機を見つめてくれていたのだと。
智機のその悲願に、最も近い感情を抱いてくれていたのだと。
.
405
:
χ−1(3/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:39:42
《しかし、それを以ってプレイヤーの勝利とは、我々は判断しない。
これは殺し合いのゲームである。
優勝とは唯一人が生き残るを指すのと同じく、
主催者の打倒とは主催者の全滅を指すからである》
透子は降り注ぐ言葉を咀嚼する。
一言半句逃すまいと、記憶領域にログ出力する。
深夜から早朝にかけての記憶/記録検索で、彼女は気付いていた。
ゲーム運営の実権を握っているのは、ルドラサウムなどではなく、
このプランナーという異形の神なのだと。
―――ルドラサウムを楽しませる。
確かにそれも重要ではあるが、それだけでは不十分である。
―――プランナーが敷いたレールから逸脱しない。
それに反することもまた、悲願の達成を遠ざけることになるのだと。
透子は理解したのである。
《つまり、ゲームは未だ継続中である。
優勝者が出るか、お前たちが全滅するまで、ゲームは終らない。
管理能力を失ったお前たちではあっても、
プレイヤーの敵としてのお前たちはゲームに必要とされている。
依然として。
故に、お前たちは未だ、その願いを叶える権利を失ってはいない》
.
406
:
χ−1(4/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:40:30
(なーんだ、じゃあ今までと変わらないってことかぁ)
芹沢は胸を撫で下ろす。
彼女は確かに主催の一翼を担う立場にはあれど、
智機の如きシステム面にての働きには携わらぬ駒でもあった。
刺客として戦場に赴き、プレイヤーを脅し間引くを旨とする、
純粋なる現場担当者であった。
その立場から見たプランナーの発言は、自分の行動を変えるようなものではなく、
逆に、対立構図はより鮮明に単純になったのだと、楽観的に受け止めた。
それよりも、なにやら。
(何かこのカミサマって、やーな感じぃ)
何を当たり前のことをさも勿体ぶって口にするのか。
直感型で嗅覚タイプの彼女としては、
プランナーのその性質に、生理的な不快感を覚えたのである。
《さて、では本題に入ろう》
―――本題?
その言葉にザドゥと芹沢は混乱する。
自分たちの主催としての去就が主題ではないとするならば、
それ以上に重要なものとは、一体何であるのか。
―――本題!
その言葉に透子と智機は思い至った。
自分たちが今居る場所と、そこを使用しているという意味に。
そこを、プレイヤーよりも先に利用したという事実に。
.
407
:
χ−1(5/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:42:14
《シークレットポイント……
そこにある「有利になる何か」を主催者がプレイヤーに先んじて使用すれば
ペナルティが下るというルールを、覚えているか?
今回のケースは難しい。
そこにある「何か」が道具ではなく、部屋そのものなのだから。
検討の末、我々はこう、判断した。
素敵医師や御陵透子が立ち寄ったことは、抵触しない。
ザドゥとカモミール芹沢が避難したこともまた同様である。
問題は―――
仁村知佳の襲撃を、その扉で防いだ点にある。
これを我々はペナルティの対象となると認定した》
プランナーはそこまで一息にまくし立てて、沈黙した。
待っている。
この神は、哀れな子羊たちから問いが発せられるのを待っている。
質疑応答の形を経て、ペナルティをより強固に刻みつけようと、
手薬煉を引いて待っている。
「……ペナルティとは?」
プランナーの期待に応えたのは空気を読めぬオートマン、智機であった。
異形の神はさらに勿体ぶって二呼吸の間を空けた上で、厳かな声で処分を通達した。
《優勝者が出た時点においての生存主催者のうち、
一人の願いを叶えないこととする》
「「「!!!」」」
.
408
:
χ−1(6/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:43:03
「一人って…… 誰のことなの?」
恐る恐る、芹沢が聞いた。
その怯えた声の調子に目論見の成功を確信したプランナーは、
喜びに震えそうになる己の声を抑えて冷静を装い、返答する。
《それはお前たちで話し合って決めればよい。
我々は対象人物まで特定しない》
口火を切ったのは透子であった。
瞳に炎を宿らせて、主催者の三人をにらみつけた。
「譲れない」
「私は絶対……」
「願いを叶える」
それを諌めたのは智機であった。
「Wait、Waitだよ、透子様。
ここで短絡を起こしてはいけない。
プランナー様はこう言ったろう?
優勝者が出た時点においての生存主催者のうち、と。
今、一人を口減らしたとしても意味が無いのだよ」
今、と、智機は口にした。それはつまり、後、ならば。
同胞を殺す意味があるのだと、その心算もあるのだと、
智機は宣言したに他ならない。
「ねぇねぇ、どーしよっか、ザッちゃん?」
409
:
χ−1(7/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:43:49
芹沢が腕組みするザドゥの袖を引っ張って、上目遣いで見つめる。
ザドゥを形式上の首魁に過ぎないと見る主催者たちの中で、
彼女は只一人、彼をトップであると認めている。
武家社会の末子たるこの女は、主筋に判断を委ねたのである。
プランナーの登場から此方、沈黙を保っているザドゥは。
芹沢の要請を受けるや、両の瞼をカッと見開いて、
まるでそこにプランナーの姿が見えているかの如く、
強い眼力で虚空を睨めつけると。
「―――断る」
そう、短く断じたのである。
《……首魁ザドゥ。君の発言は、誰に、何に向けて発せられたのかな?》
「そのペナルティ、承服しかねるということだ」
言い捨てた。
伺いを立てるといった様子ではなかった。
一方的な拒絶の宣言であった。
《憤りも理解せぬではないが、これは厳粛なるルールの適用に過ぎな……》
「黙れ下っ端」
《下っ……!?》
ザドゥの分を弁えぬ余りにも余りな暴言に、空気が凍りつく。
身の程を知らぬザドゥはそれでも飽きたらぬのか、
更なる暴言を重ねて、プランナーを侮辱する。
410
:
χ−1(8/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:46:03
「下っ端が横合いからピーチクパーチク囀るなと言っている。
俺が契約したのはルドラサウムだ。貴様に従う謂れは無い。
納得させたいのならあの鯨を出せ」
神と人との絶対的な力関係さえ考慮しなければ―――
理は確かに、ザドゥにあった。
椎名智機こそ企画立案者であるプランナーの存在を把握していたものの、
主催者のスカウトと契約はルドラサウム自らが行っている。
ぽっと出の、素性のわからぬ存在に従う理由など無いのである。
「だいたい、昨日の勝手なルール変更も、あれはなんだ?
あれが罷り通るなら、俺たち主催など要らんだろう。
今更覆せとも言わんが、今後貴様が何を呟こうと俺はその言葉を受け入れん。
それを覚えておけ」
言った。言い切った。
ザドゥを除く三人の女は、呼吸すらままならぬ緊張感の只中に叩き込まれた。
プランナーは二の句が継げずにいる。
その濃厚な沈黙を打ち破ったのは、果たして渦中の蒼鯨神であった。
《キャハハハ!!
下っ端? 下っ端だって? プランナーが?
そーだよね、そりゃそうだよねー》
「出たか、鯨」
《流石はザドゥ君、怖いもの知らずだね!
君の自主性を見込んで、トップに据えた自分の直感を褒めたいくらいだよ!
だってプランナーのこんな顔、今まで見たことなかったからね》
411
:
χ−1(9/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:47:05
本当に、心底楽しそうな。
この島に来てから一番楽しそうな笑い声が、
音の津波となってシェルター内を包み込む。
その空気は、魔剣にまでも伝播した。
《かはははははっ! すげーなザッちゃん!
三超神を下っ端扱いした生物は、多分お前さんが初めてじゃぞい!
よう言うた、よう言うた》
カオスとて、プランナーの曲った性根に苦渋を舐めさせられた一人である。
ザドゥの蛮行に送られた喝采は、心の底からのものであった。
「そーだよねぇ…… あたしもカミサマのこと、知らないなぁ。
その辺、くじらさんの説明が欲しいなー」
緊張の極みにあった芹沢すらも己を取り戻し、ザドゥに追従した。
空気は、逆転していた。
この場の明らかな絶対支配者であったプランナーが、
ザドゥの神を神とも思わぬ傲岸不遜な態度によって、
上役たるルドラサウムの予定外の登場によって、
単なる下っ端の道化へと、堕したのである。
主催者たちには見えぬ、されどルドラサウムには見えるその場所で、
プランナーは屈辱に下唇を噛み締める。
それはこの神が生を受けてこの方、初めて受けた屈辱であった。
《それじゃあ言うけど……。
残念だけど、このゲームの難しいルールとかは全部、彼に任せてあるんだ。
だから、ペナルティはプランナーの言ったとおり。
彼の言葉は、僕の言葉。わかった?》
412
:
χ−1(10/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:49:09
結局、ルドラサウムはプランナーの肩を持った。
彼を己の全権委任者であると宣言し、それまでの独断を肯定した。
プランナーは主の裁定に弱冠の溜飲を下げる。
しかし。それでも。
ザドゥは猶、ザドゥであった。
「いいだろう。では、俺が辞退しよう」
この宣言にはプランナーのみならず、ルドラサウムもまた、絶句した。
「願いが叶えられない対象を、俺にしろ」
発言が飲み込めぬ一同に、ザドゥは繰り返す。
「俺が首魁だ。責任を取るのは俺の仕事だ」
そして、己の翻意を表に現さぬまま責任論に帰結させ、
ザドゥは再び腕を組み、鋭い眼光を和らげた。
これ以上語ることは無いのだと、その態度は如実に物語っている。
「Yes。上に立つものが責任を取る。組織論として実に正しいね。
ザドゥ殿、私は貴君のその判断、断固支持するよ」
「さんせい」
透子と智機は、ザドゥの決意を額面どおりに受け取った。
その内面にまで考えが及ばなかった。
芹沢だけが違和感を覚えた。
疑念の眼差しでザドゥを見遣る。
その芹沢の視線に気付いたザドゥは、軽く頬を吊り上げるのみであった。
413
:
χ−1(11/12)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:50:08
(ザッちゃんは…… もしかして……)
直感型の芹沢には、もしかしてのその先を言語化できぬ。
しかし、判った。
ザドゥの中の大事な何かが、大きく変わってしまったのだと。
《あらららら、キミの目論見、外れちゃったね、プランナー》
プランナーの予定では。
このペナルティによって主催者どもは、疑心暗鬼に陥る筈であった。
相手を出し抜かんと、四者の間に陰謀や暗闘が生じる筈であった。
醜くて粘ついた情念と情念がしのぎを削るはずであった。
しかし、ルドラサウムの指摘する通り。
その陰湿な企みは、ザドゥの自己犠牲で木っ端微塵に砕け散った。
思惑の根本が、空振った。
《……申し開き様も無く》
金卵神は震える声で、己の主に謝罪した。
蒼鯨神は己の部下の謝罪を鷹揚に受け入れた。
《でもまあ、君のそんな悔しそーな顔が見れたから、楽しかったよ。
やっぱりぷちぷちは面白いなぁ、意外性があってさ》
その言葉を最後に、狂笑がフェードアウトしていって。
やがて二神の気配は消え去った。
414
:
χ−1(12/12)(情報 1/2)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:52:13
ザドゥの袖を握ったままになっていた芹沢が、再び彼を上目遣う。
なぜか遠くに行ってしまった様に感じられるザドゥとの距離を詰めるべく、
言葉の整理もできぬまま、不安な気持ちだけを上滑らせる。
「ザッちゃん、あのね……?」
「芹沢、お前が気にすることは何もない。
今まで通りのお前で居さえすればいい。
これは、俺の問題だ」
ザドゥは思いがけぬ優しい笑みを浮かべ、芹沢の頭を撫でると、
先程中断した芹沢の身体機能チェックを再開すべく、
包帯の巻かれた痛々しい背に、腕を伸ばした。
↓
(ルートC)
【グループ:ザドゥ・芹沢・透子・智機】
【現在位置:J−5地点 地下シェルター】
【スタンス:待機潜伏、回復専念】
415
:
χ−1(情報 2/2)
◆VnfocaQoW2
:2010/09/12(日) 23:52:53
【主催者:ザドゥ】
【スタンス:ステルス対黒幕
①プレイヤーを叩き伏せ、優勝者をでっちあげる
②芹沢の願いを叶えさせる
③願望の授与式にてルドラサウムを殴る】
【所持品:なし】
【備考:重症、発熱(中)全身火傷(中)】
【主催者:カモミール・芹沢】
【スタンス:ザドゥに従う(ステルス対黒幕とは知らないが、変化は察している)】
【所持品:虎徹刀身(魔力発動で威力↑、ただし発動中は重量↑体力↓)
魔剣カオス(←透子)】
【備考:左腕異形化(武器にもなる)重症、発熱(中)、全身火傷(中)、
腹部損傷、左足首骨折】
※芹沢のトカレフ及び鉄扇は、火災にて破損していました。
【主催者:椎名智機】
【スタンス:①【自己保存】
②【自己保存】の危機を脱するまで、透子に従う
③【自己保存】を確保した上での願望成就】
【所持品:スタンナックル、改造セグウェイ、軽銃火器×2、Dパーツ】
【主催者:御陵透子(N−21)】
【スタンス: ①願望成就
②ルドラサウムを楽しませる
③プランナーの意図に沿う】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、改造セグウェイ、
軽銃火器(←智機)】
【能力:記録/記憶を読む、『世界の読み替え』(現状:自身の転移のみ)】
416
:
名無しさん@初回限定
:2010/09/13(月) 00:02:42
ザ ド ゥ 祭 り 継 続 中 !
417
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/09/13(月) 05:53:27
おはようございます。
連日の投下お疲れ様です。
今回の話を収録・編集した所、本スレにて神鬼軍師の本領(8/30)が抜けているのを発見しました。
差支えがなければ本投下したもの及び、既に仮投下されてる分を直ぐにでも収録可能です。
作者さんのレスがあり次第、短時間でUPは可能です。
お待ちしております。
418
:
名無しさん@初回限定
:2010/09/13(月) 21:01:56
>>417
毎度の更新、お疲れ様です。
ご指摘の件、本スレに投下して参りましたので
ご対応の程、宜しくお願い申し上げます。
419
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2010/09/13(月) 21:53:46
レスと投下どうもでした。
x−1とは予想以上に痛いペナルティ……。
プランナーの底意地の悪さが極まってきた感じです。
それに対してのザドゥの漢っぷりがとても良く胸がすきました。。
智機のケイブリスへの感傷も良かったです。
296話までのSSまとめと地図を更新しました。
パスは negi です。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1145095.zip.html
420
:
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:40:29
ご無沙汰しております。
「タクスタスク 〜the final mission〜」は二つ先に回しまして、
以下10レス、「それでも、恭也は答えない。」を投下致します。
次回予定は「ひとりでも、みんなのひとり」です。
また、
>>399
の状態表の恭也の備考に対し、以下の読み替えをお願い致します。
× 【備考:失血で疲労(大)、発熱(大)、右わき腹から中央まで裂傷あり】
○ 【備考:失血で疲労(大)、体温低下(大)、右わき腹から中央まで裂傷あり】
421
:
それでも、恭也は答えない。(1/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:42:01
【タイトル:それでも、恭也は答えない。】
(Cルート・3日目 AM10:00 D−6 西の森外れ・小屋3)
月夜御名紗霧が纏ったナース服は、無駄にはならなかった。
高町恭也への看病の手が必要になった故にである。
小屋の居間、江戸間八畳。
部屋の中心に煎餅布団が二枚重ねて敷かれており、渦中の恭也はそこに寝かされていた。
紗霧以下四名が膝立ちで恭也を囲んでいる。
「まずは傷口を見ましょうか」
紗霧に促がされ、恭也の上着を脱がせた魔窟堂野武彦が顔を歪めた。
腹部にぐるりと巻かれた包帯が、赤と黒と黄とに染め上げられていた故に。
「これは……」
赤とは、血液である。
黒とは、凝固した血液である。
黄とは、膿である。
包帯を一巻き解く程に、血臭と膿臭の濃度が増してゆく。
室内は悪臭に満ち満ちてゆく。
この時点で、ユリーシャが嗚咽を漏らし、退室した。
「外の空気を…… 吸ってきます……」
422
:
それでも、恭也は答えない。(2/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:43:01
やがて現れた恭也の腹部は、皆が包帯の染みから予想したとおり、
目を覆いたくなる惨状であった。
焼き潰した腹部にある傷口の一部はずるりと剥けており、
その周囲の皮膚がぐぢぐぢに膿んでいたからである。
この時点で、広場まひるが貧血を起こし、退室した。
「ご、ごめん…… ちょっと、だいぶ…… 無理」
月夜御名紗霧も気持ちとしては先の二人に同調したが、なんとか踏み留まった。
「まひるさん、キッチンでできるだけ沢山の湯を沸かしてください」
「らじゃっ、た……」
まひるに指示を出した紗霧は、恭也の口に差し込んであった旧式の水銀体温計を
引き抜き、その体温を読み上げる。
「34.9度……」
「……くたばるのか?」
無神経な言葉を無造作に投げかけたのはランス。
しかし、その響きに篭るのは嘲笑でも無関心でも無い。
不安。心配。
それが伝わる故に、紗霧も野武彦もランスを咎めない。
そしてまた、恭也もランスを咎めない。
咎める事が出来ない。
恭也は意識を失っている故に。
静かに意識を失っている故に。
423
:
それでも、恭也は答えない。(3/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:45:25
表情は穏やかとも言えるほどの無表情であり。
四肢の筋肉はゴムマリの様に弛緩しており。
脈拍呼吸、共に極めて少ない状態である。
この、恭也の容態の急変は、薬品の効能が切れたことを原因としていた。
服用していた鎮痛剤――― モルヒネ混合物。
終末医療の臨床でおなじみのそれは、麻薬でもある。
痛みを和らげる効果にかけては全ての薬品に勝り、
疲労を感じさせにくくする効果もある。
決して、治療効果や回復効果があるわけではない。
つまり、薬のお陰で。
つまり、薬のせいで。
絶対安静にして然るべきの体を、無理やり駆動できたいただけなのである。
高町恭也は。
それを分かって、戦っていたのか。
それと知らずに、戦っていたのか。
意識を失ったままの青年は、どちらとも答えない。
「この状態、ジジイはどう見ます?」
「感染症…… じゃろうな」
熱が出ていれば、まだいい。
免疫系がウィルスを駆除すべく、熾烈な争いを繰り広げている証である。
しかし、傷口がひどく化膿しており、意識すら失っているというのに、
低体温、低生命活動であるということは。
ウィルスに、成す術も無く蹂躙されているということである。
「傷口の洗浄、膿の除去。抗生物質。点滴。……他には?」
「体温の確保じゃろう」
424
:
それでも、恭也は答えない。(4/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:46:49
紗霧と野武彦は言葉少なに意見交換し、素早く処置を決断する。
共に専門的な医療知識は無い。
漫画やライトノベルからの受け売りでしかない。
それでも決断に迷いは無かった。
一刻の余裕も無い状況であると判っている故に。
「ストーブを付けますから、ランスは土間のポリタンクから灯油を。
ジジイには点滴を頼みます」
=-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=
(Cルート・3日目 AM10:30 D−6 西の森外れ・小屋3)
灯油ストーブの上に乗ったヤカンが、しゅんしゅんと湯気を上げている。
室内気温、32℃。
真夏の日中の気温である。
それでも恭也の熱は戻らない。
傷口は清潔にした上で、軟膏を塗った。
点滴は今も投与中である。
出来得る限りの処置は済ませた。
それでも恭也の意識は戻らない。
紗霧は、見た目にはただ深く眠っているかの如く見える恭也の寝顔を、
ただ、黙って見つめている。
意識を緩めず、注意深く、少しの変化も見逃さぬように。
425
:
それでも、恭也は答えない。(5/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:48:48
「そろそろ出発するけど、他に必要なものってある?」
引き戸を半分だけ開けて、土間のまひるが居間の紗霧に声を掛けた。
「そうですね…… 清潔なタオルと、シニア用紙おむつを」
「タオル、オムツ、タオル、オムツ。ん、覚えた!忘れないうちに行って来ます!」
「メモを取りなさい、メモを」
包帯やテープの類は使い切り、点滴や抗生物質の残量も心許ない。
野武彦は、薬品をはじめとする医療用具の収集を主張した。
紗霧もそれを受け入れた。
故に、魔窟堂野武彦と広場まひるは、廃村を目指すこととなった。
雑貨屋や民家にあると思われる市販の医療品をかき集める為に。
病院跡という選択肢は無かった。
崩落した病院の医薬品が入手できないことは、
病院の放棄を決めた時点で確認を済ませていたのである。
「うおっ! なんだこの暑さは?」
まひるのさらに背後を通りがかったランスが、
開けた引き戸から漏れた熱気に、顔を顰めた。
「この暑さでも恭也さんには足りないんです。
熱気がもったいないので、引き戸は閉めといて下さい」
「紗霧ちゃんも暑いだろう?」
「へっちゃらです。私、冷血ですので」
「そうかぁ、汗かいてるように見えるがなぁ。我慢は体によくないぞ?
ここはひとつ、服をすぽぽーんと脱ぎ捨て…… 冗談冗談!」
426
:
それでも、恭也は答えない。(6/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:53:16
紗霧が無言で振りかぶったのは金属バット。
ランスは慌てて引き戸を閉める。
「暑いのなら外に行って見張りでもしてなさい。
悪いときには悪いことが重なるモノですから、
警戒しとくに越したことはありません」
返事は無かった。
しかし大小二つの足音が玄関の向こうへと移動してゆき、
扉が閉まる音が紗霧の耳に届いた。
それはおそらくランスとユリーシャで。
まひると野武彦は既に出発しており。
小屋の中には、紗霧と恭也だけとなった。
しん、と――― 静寂のベールが、小屋の中に降りた。
紗霧は大きく溜息をつく。
肺の空気を全て吐き出すまで、溜息をつく。
緊張感を解きほぐすべく、頭を振る。
(出来ることは全部やりました)
点滴の交換まであと30分ほど掛かる。
それまでは恭也の状態が変化せぬ限り、紗霧の仕事は無い。
(あとは―――)
427
:
それでも、恭也は答えない。(7/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:54:56
恭也が倒れてからの紗霧は、ずっと思考していた。
感情を意図的にスポイルしてきた。
行動と判断が重要なときには、いつだってそうしてきた。
雌伏と策略の人生を歩んできた紗霧にとって、それは容易いことであった。
しかし、その行動と判断にひと段落ついたならば。
他者の目を気にする必要すら無い状況となったならば。
紗霧ほどの鉄面皮とて、気は、緩む。
その、緩んだ紗霧の目線が、恭也の顔に向けられる。
恭也は変わらず、静かであった。
死体であると言われても納得してしまいそうな顔色であった。
(もし、恭也さんがこのまま……)
紗霧の心が、ざわつく。
名状しがたい焦燥感が、紗霧を襲う。
それを払拭すべく、紗霧が取った行動とは、罵倒であった。
走り出した焦燥感をぶっちぎる程の早口で。
「あなたは馬鹿ですか。いいえ、馬鹿ですね、大馬鹿にきまってます!
いくら鎮痛剤の効果が高かったとはいえ、
こんなになるまで我慢しているだなんて、感覚が鈍いなんてもんじゃありません。
あれですか。
あなたは恐竜か何かですか?
痛みの信号が脳に達するまで一日かかるとでもいうのですか?
神経伝達能力の進化を拒んだんですか?
三畳紀止まりですか?
ジュラ期止まりですか?
白亜紀止まりですか?
どうなんですか答えなさい!」
428
:
それでも、恭也は答えない。(8/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 00:58:38
その容赦ない罵倒に、なんともいえぬ切なさが宿っていることを、紗霧は自覚した。
焦燥感が晴れるは愚か、逆に深まってしまったことを、紗霧は自覚した。
それまでも、薄ぼんやりと感じていたそれを、紗霧は自覚してしまった。
「違います、違います。私はそんなんじゃあ有りません」
その顔がみるみる赤みを増したのは、決して室温の高さ故では無かった。
紗霧は芽生えたての自覚を振り払うかの如く、頭を左右に強く振る。
―――俺は月夜御名さんを信用していない
―――でも、月夜御名さんという才能を信じることはできます
紗霧の脳裏に浮かぶのは、紗霧と恭也の秘密の契約。
その言葉が、その情景がリフレインされるのは、これが始めての事ではない。
既に何度か。
既に何度も。
紗霧の思考の間隙を突いて、蘇っていた。
「どうですか恭也さん、ケイブリスを完殺できた今。
あなたの評価に変化はありましたか?
私の信用度は…… 少しは上方修正されましたか?」
紗霧の精一杯の少女としての問いに。
それでも、恭也は答えない。
↓
429
:
それでも、恭也は答えない。(情報 1/2)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 01:00:25
(ルートC)
【グループ:紗霧・ランス・まひる・恭也・ユリーシャ・野武彦】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め
①しばらく休養】
【備考:全員、首輪解除済み】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3】
【高町恭也(元№08)】
【スタンス:紗霧に従う】
【所持品:なし】
【備考:意識不明、失血(大)、体温低下(大)、感染症(中)
右わき腹から中央まで裂傷、化膿(中)】
【月夜御名紗霧(元№36)with ナース服】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
状況次第でステルスマーダー化も視野に
①恭也を看病】
【所持品:金属バット、ボウガン、メス×1、簡易医療器具、対人レーダー
他爆指輪、簡易通信機・大、レーザーガン(←ユリーシャ)】
【備考:下腹部に多少の傷有、性行為に嫌悪感(大)】
【小屋に保管のアイテム】
生活用品、香辛料、干し肉、小麦粉、保存食、メイド服
工具、スコップ(小)、スコップ(大)、竹篭
謎のペン×8、文房具、白チョーク1箱、謎のペン×7
解除装置、小太刀、鋼糸、アイスピック
430
:
それでも、恭也は答えない。(情報 2/2)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/26(水) 01:01:27
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3周辺】
【行動:周辺哨戒】
【ユリ―シャ(元№01)】
【スタンス:ランス次第】
【所持品:スペツナズナイフ、フラッシュ紙コップ】
【ランス(元№02)】
【スタンス:女の子優先でグループに協力、プランナーの事は隠し通す
男の運営者は殺す、運営者からアリス・秋穂殺しの犯人を訊き出す】
【所持品:斧】
【能力:剣がないのでランスアタック使用不可】
【備考:肋骨2〜3本にヒビ(処置済み)・鎧破損】
【現在位置:D−6 西の森外れ・小屋3周辺】
【行動:廃村にて医療品調達】
【魔窟堂野武彦(元№12)】
【所持品:軍用オイルライター、銃(45口径・残弾5)、鍵×4
ヘッドフォンステレオ、まじかるピュアソング】
【広場まひる(元№38)with 体操服】
【所持品:せんべい袋、簡易通信機・小】
※紗霧の「薬品」とまひるの「救急セット」は恭也に使い切りました。
431
:
284
◆ZXoe83g/Kw
:2011/01/26(水) 19:02:58
新作お疲れ様です。
感想は後ほど。
恐縮ですがこちらも動こうかと思っています。
前とバージョンは同じですがまとめをUPしました。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1384163.zip.html
パスワードはメール欄です。
432
:
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 00:47:57
長時間にわたる本スレへの支援、ありがとうございました。
以下9レス「ひとりでも、みんなのひとり」を仮投下致します。
次回は、「タクスタスク 〜the final mission〜」です。
433
:
ひとりでも、みんなのひとり(1/8)
◆VnfocaQoW2
:2011/01/30(日) 00:49:04
【タイトル:ひとりでも、みんなのひとり】
(ルートC・三日目 PM2:00 C−6 小屋1跡)
西の森、南端の浅く。
ナミが使用した手榴弾により崩落した小屋は、しおりが最後に見た時と
寸分違わず、無残な断面図を晒していた。
「ここだ…… ここだよぅ!」
その場所が視界に入っただけで、しおりの瞳は潤みを帯びた。
しおりがそこにいたのはたった二日前でしかないというのに、
彼女の胸に去来するのは郷愁めいた感傷であった。
その後の記憶があまりにも激動であり流転であり衝撃であった故に、
その二日前が、既に十年の昔日の如く感じられたのである。
しおりが目覚めたのは午前六時。
己が一人であるという事実を理解しつつも受け入れられなかった彼女は。
一面グレースケールの荒野で、泣きじゃくった。
既に燃えるものが何一つない焼け野原で、炎の涙を撒き散らした。
泣いて、泣いて、泣ききって。
涙も声も枯れ果てて、己の全ての澱を吐き出して。
そして、しおりは立ち上がった。
自分の足で。
自分の意思で。
たった一人で立ち上がった。
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