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企画もの【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議

1名無しさん@初回限定:2004/08/03(火) 00:27

雑談、キャラクターの情報交換、
今後の展開などについての総合検討を主目的とします。
今後、物語の筋に関係のない質問等はこちらでお願いします。

規約はこちら
>>2

574紅蓮の挙句 (12/13):2008/11/27(木) 00:12:04

朽木双葉は怒り狂っていた。朽木双葉は嘆き狂っていた。
暴れる2つの狂気が鬩ぎ合い、五体がバラバラになりそうなくらい軋んでいた。

「星川をっっ!! 思い出しなさいっっ!!」

思わず手が出た。平手を見舞った。

「星川っっ!」 唇を噛み締めて平手を見舞った。

「星川っっ!」 血を吐く思いで平手を見舞った。

「星川っっ!」 叫びながら平手を見舞った。

「星川っっ!」 肩をわななかせながら平手を見舞った。

「星川っっっっ!!!!!」

双葉の痛切な叫びを聞き届けたのは、神か、悪魔か。
幽冥の境に旅立ちかけていたアインの意識が呼び戻された。
アインは眩しそうな気怠そうな表情で、一度閉した瞼を開ける。
そして、焦点の合わぬ目で虚空を見つめて、つぶやいた。

「ほし…… かわ……」
「そう、星川!! あんたが奪った!!」

双葉の声が歓喜に震える。
復讐が遂に実を結ぶ。その予感に。

「……って……」

575紅蓮の挙句 (13/13):2008/11/27(木) 00:13:18


「…………………………何だったかしら」


誰だったかしらですら無い、それがアインの遺した最後の言葉だった。
アインの瞳から光が消え、四肢がだらりと垂れ下がる。

双葉は絶句するのみ。

その瞬間、最後の人型式神が崩れ去った。
まるでそのチャンスを待っていたのだといわんばかりの炎が、
双葉に襲い掛かった。
怒髪に炎が絡み、天を衝く。

「あえ:いrjhぱえいおあぁっっっ!!!!!」

言葉にならない絶叫を迸らせて、双葉は地面を拳で叩いた。
何度も何度も、打ち付けた。
狂奔する怒りに支配され、叫び続け、叩き続けた。

アインはその隣で静かに横たわっている。
殺されたとは到底思えない、安らかな死に顔で。
素敵医師の首を胸に抱いて。

満ち足りた思いも、深い絶望も平等に、炎は全てを飲み込んでゆく。

             ↓

576紅蓮の挙句 (情報 1/1):2008/11/27(木) 00:13:47

【№16 朽木双葉:死亡】
【№23 アイン:死亡】

―――――――――残り 8 人

577名無しさん@初回限定:2008/11/27(木) 00:21:54
>>553-576
仮投下お疲れ様です。

だってあいつは(略の、の投下の方了解しました。
こちらはOKです。妄執レミネセンスの前でも一向に構いませんので。

578284:2008/11/27(木) 00:57:30
名前欄入れ忘れましたorz
「紅蓮の挙句」の方も内容に問題はないと思います。

明日か明後日の夜に6人組の小ネタをここに仮投下する予定です。
「最優先事項」等との兼ね合いができそうなら本投下も考えてます。
ぎりぎり本スレ埋められる容量だといいのですが。

「終わる長い夢」は次スレかここの投下にします。
「最優先事項」等の内容次第で、次は透子の方を予約します。

気づいたことですが、どうもアインの参戦時期はメール欄みたいですね。

579無題:2008/11/28(金) 08:29:04
「……ちと良いかの狭霧殿?」

 地獄の苦しみに悶絶して自らのバットを抑えるランス。
 ふんっ。といい気味といった表情でバットを地面につけたつ狭霧。
 男とてその様子に少々怯えながら魔窟堂は後ろから狭霧に話し掛けた。

「あぁ、魔窟堂さんですか」

 ニコニコとしながらジジイではなく名前で呼ぶ狭霧の顔が魔窟堂や横にいるまひるたちには少々怖く感じれた。
 なにしろ、ランスのハイパー兵器を破壊?した直ぐ後である。

「い、いやの、話したいことがあるんじゃが……」

 魔窟堂の言葉で心の中でピクリとだけ動いた狭霧が魔窟堂の顔を覗く。

(さて、ジジイ? もしかして先ほどのことですかね? それとも探りを入れてくるのか……)

 ジジイこと魔窟堂が不信感を抱いたのは先ほどのやり取りで感づいた。
 このタイミングで話し掛けてくるということは、その気づいた不信感を直接か、
遠まわしか、どちらにせよぶつけてくるのか。
 それとも確信を持つために探りを入れてくるのか。
 騙しあいが始まりますかね? と狭霧は心の中で呟く。

580無題:2008/11/28(金) 08:29:19
「なんでしょう?」

 まずは切り出してみないことには始まらない。
 魔窟堂の声にとてもランスのハイパー兵器をバットで……とは思えないほど爽やかに返事する狭霧。
 その様子が余計にまひる達の顔を青く引きつらせる。

「う、うむ。……有体に言えばこれからのことにあたってなんじゃが」
「……と言いますと?」

 どうやら今のところ先ほどのこととは無関係であるようだ。
 尤もこの先に何があるか、狭霧は油断できないが。

「此方側の戦力・状況分析はほぼ終わったと言ってよいじゃろう。
で、これからの指針になるわけじゃが……、その前に運営者達のことについてじゃ」
「なるほど。脱出が成功するにしろ彼らとの衝突は避けれない。
これからの行動を決める前に、その為にも私達と同じように彼らの戦力と状況を分析すると言うことですね?」
「流石狭霧殿じゃ。解りが早くて助かる」

 純粋にそれだけの理由で魔窟堂は話している。
 それは例えかすかな不信感があったとしても、やはり知能という面においては最も狭霧が頼りになるからであろう。
 ふむ。と内面で思考した狭霧は、警戒を解く。
 必要以上に張れば、何処かで警戒を相手にも気づかせてしまう。
 それは必要以上に不信感を煽ってしまう、と判断した。
 魔窟堂の方も必要以上に勘繰れば彼女に警戒と不信感を抱かせてしまうのがわかっている。
 今まで通り普通に接するべき部分ではそうしていくべきだろう、と判断し、これからのことも兼ね揃え、話題を切り出した。

581無題:2008/11/28(金) 08:31:05
「では、順番に行きましょうか。
まずはあのザドゥという男ですね」

 アソコを抑えてフーフーしてるランスと心配するユリーシャもようやく彼らの会話が耳に届く余裕を取り戻す。

「あぁ、あの野郎か……」

 低い声を出しながらランスはザドゥのことを思い出す。
 同じく、全ての始まりであったあの時を各々は思い出していた。

「最初の彼の立ち位置から大体想像できますが……タイプ的にも駒というよりは彼の役割はリーダーでしょうね。
恐らく頂点にどっしりと構え座り、まとめ役に立つものだと思いますが……」
「ワシもそう思う。そのためにも圧倒的強さを持つ彼なのじゃろうな……じゃが……」
「ええ、倒せないわけではありません」

 あくまで倒せない『わけではない』ですけどね、と付け加わる。

 タイガージョーとの打ち合い。
 凄まじい攻防の果てにザドゥはタイガージョーを打ち倒し、その自らの強さを示した。
 その強さは参加者を畏怖させる。
 が、今この時をもってして、それは手の内を晒したという事実に他ならなかった。

「格闘家に間違いないでしょうね。それも生粋の」
「ったくこのアマ……。
格闘家なのは解るが、あいつの打撃一つで虎野郎の動きが止まったぞ?」
「何か言いましたか?」

582無題:2008/11/28(金) 08:31:37
 狭霧に対して少々ぼやきながらもランスはあの時見えた光景の疑問を吐き出す。
 彼の世界にも格闘家は存在している。
 例えば、かつて世界最強と謳われたフレッチャー・モーデル……本人はもはやただのデブだったが、
その弟子は真空破のような物を出したし、ランスの良く知るヘルマンの皇子パットン・ミスナルジは、
格闘レベル2であり、武闘乱武という奥義を使える。
 ……周囲の認識は自爆技では有るが。

「俺様のランスアタックのように気を使ってるのは解ったんだが……あれはちと厄介だぞ?」

 タイガージョーが放った奥義といい、ザドゥが使った死光掌といい、どちらも気を利用している。
 同じく気を利用した必殺技を放てるランスは、全てを捉えきることは不可能だったが、彼らの気の動きを原理は解らぬが垣間見ることができた。
 
「ふむ、気か……。それなら恐らく。
気を相手の身体に打ち込んで相手の体の動きを止めたり、支配権を封じて自由に動かすとかかのう……。
YOU は SHOCK〜 愛で空が落ちてくる〜。というやつじゃな」

 世紀末覇者達が繰り広げる漫画のテーマソングを歌いながら魔窟堂がそこから読み取った推測を重ねる。
 あの時は何をしたのかどんな技か解らなかったが、気を使ってるという事実さえ解れば、無駄なオタク知識が導いてくれる。

「……触れられたらアウトってことですかね?」

 歌う魔窟堂に呆れつつ狭霧が推測を尋ねる。
 もし、それが事実であるなら、真正面からの戦いではほぼ無敵と言っていいだろう。

583無題:2008/11/28(金) 08:32:06
「それはないんじゃねーかな。俺様のランスアタックもそうだが、気を整えるための時間が必要だし、この手の技は練った時間と込めた力に応じたモンになるからな。
あの時、あの野郎も気を練ってやがったのは感じ取れた。
速射性はなし、触れられたらアウトってこたないと思うぜ」
「うむ。わしもそう思う。全力全開で撃ったものがどのくらいの威力でどういう効果を出すかまでは解らぬが、
漫画のように指先一つで秘孔を押せばダウンということはなかろうて」
「なにその漫画?」
「なに世紀末覇者達の集う熱い漫画じゃよ。無事戻れたらまひる殿も読むといい。なんならワシが貸して……」
「はいはい、それはいいですから。続けましょう」
「ちょっとくらい語らせてくれてもいいじゃろう。オタクの本分は語ることに……」

 さみしいのう。とさめざめという魔窟堂を横に狭霧は情報を皆の前で整理する。

 ザドゥ。
 格闘家であり、その実力は計り知れない。
 彼の役割は、ゲーム運営実行者達のリーダー。
 運営実行者達を纏めている象徴が彼なのだろう。
 が、真正面からでもこのメンバーで勝つ事は可能と判断できる。
 スピードにおいては魔窟堂の方が圧倒的であるし、ランスや恭也の戦闘力、まひるのトリック的な能力、
そして今はいないが知佳、更にもしアインが加われば、益々負ける要素はない。
 また人間である以上、粉塵爆弾のようなトラップを防ぎきる事は不可能だろう。
 しかし、ザドゥの格闘家としての戦闘力もまた達人を超えたものであり、その一撃もさることながら、
相手の動きを止める奥義も所有していると判断できる。
 攻撃力は非常に高く、一撃一撃が下手をすれば致命傷に繋がる可能性もある。
 真正面からぶつかれば、何人かは命を落とす可能性が高い……いや落とす方が確実だろう。
 あくまで真正面から闘った場合であり、奇襲をされた場合の対処は難しいといえる。
 倒すのは難しい。
 しかし、方法がないわけではない。倒す方法を取れないわけでもない。
 みなの指揮を高めるためにも『希望は見える』と強調する。

584無題:2008/11/28(金) 08:32:22
「奇襲してくるようなやつにはみえなかったけどな」
「あの手のタイプは正々堂々真正面から制裁を加えに来るタイプじゃな」

 と最後にランスと魔窟堂の意見が付け加わった。



「では次に行きましょうか」
「関わった順番からいけばあの嬢ちゃんかのう……」
「それって……」
「どれだ?」

 察したまひるに対して、嬢ちゃんと言われて、最初にいた三人のうちどちらであろうかと尋ねるランス。

「御陵透子……警告者の方じゃな」
「おー、あのねーちゃんか」

 んむ、あのねーちゃんも中々えがった。とランスはニヤケタ顔で思い出す。
 警告を喰らったことより彼の中ではいい女という印象の方が強い。

「「…………」」

 その様子をジト目で見る狭霧とまひる。
 狭霧は重要な情報なのにと呆れつつ、まひるはこの人は相変わらずだなぁと苦笑しながら。

585無題:2008/11/28(金) 08:32:50
「まず共通している事は、神出鬼没。恐らく何らかの移動能力を持ってるのじゃろう。
次にどうやら初期の頃からゲームに消極的なもの、反抗的なものや行為を取るものに警告を加えていたようじゃな」
「……何というか得体の知れない不気味な感じでしたね」
「でも攻撃的じゃなかったよね……」
「総合するとその移動能力を持って警告と監視をするのが彼女の役割じゃろうな」

 事実、病院では透子の警告の後に狭霧達は襲われている。
 ランスは、その後にケイブリスの襲撃を受けている。
 透子の役目は警告者に徹するものだろう。と彼らは判断する。

「戦力としては不明じゃな……あの神出鬼没な移動能力は厄介じゃが」

 故に不気味である。
 ザドゥやケイブリスのように見るものを畏怖させるような『強い』という感じはないが、
先ほど、狭霧が言ったように何かを隠してるような不気味さがある。

「実際に戦闘になってみないと解らんが、知佳殿やまひる殿のように特殊能力的な何かを使うタイプかのう……」
「直接戦うタイプではなさそうですからね……。ま、現状ではこのくらいでしょう」
「では次じゃな……」
「包帯ぐるぐる男ですか?」
「んむ……嫌な声をしとった」

 あまり思い出したくない、語りたくないといった風に魔窟堂が口篭もりつつ語る。
 狭霧の方も遺作に捕まった時に少々の事は聞いていたし、因縁のある物が多い相手である。

「トリックスター……と言ったところかの」

586無題:2008/11/28(金) 08:33:02
 素敵医師の行なったことは、ゲームを加速させること。
 薬と話術を用いて、遺作のようなゲームに乗っているものにはサポートを。
 遥やアインのような消極的なものには薬を用いて混乱を。
 彼らの知らぬ所では藍にグレン達にと様々な手を用いて接触し、混乱させている。
 最もどれも破滅していく様を見るのが素敵医師は好きだったのだが。
 先に出た透子のような警告者とは違い、直接手を下す実行者的な役割だろう。
 
「私は一番警戒するタイプだと思いますけどね」

 狭霧は考えた結果を口出す。
 遺作のことからも愉快犯的な一面があるのが読み取れる。
 また策を講じてあれやこれやと此方を引っ掻き回すようなこともしてくるのが遥の件から読み取れる。
 ザドゥと違って奇襲も遠慮なくしてくるだろう。
 罠も仕掛けてくるだろう。
 この状態なら、もしかしたら交渉も持ちかけてくるかもしれない。
 この島において最も注意せねばならぬ人物であると彼女は踏む。

「実行犯であることとアイン殿が追いかけてることからも戦闘力も備えてると見た方が良さそうじゃな」
「本質的には裏をかくタイプでしょうけどね」

「そういえばおっぱい娘は俺様達しか出会ってないのか?」

 カモミール・芹沢、といってもランス達の前で名乗ったわけではないのでおっぱい娘である。
 ちなみに彼女の襲撃でグレンが死に、解除装置を受け取った、ということにランスはしていた。
 ばれたらまずいと思い、この輪の中にいる内に浅はかな行動に反省はしつつも、反面「嘘はついてない」とランスは思っている。
 確かに彼女の襲撃でグレンが死んだのは事実である。
 トドメを刺したのがランスであっただけで。

587無題:2008/11/28(金) 08:33:18
「改めて聞くがどんな感じでしたか?」
「あのおっぱいは兵器だな。うむ、一戦お手合わせしたかったぞ、ガハハハハハ」
「ランス様、そういうことではなくて……」
「ん、ああ。チューリップみたいな大砲を使ってたな。あれは少々厄介だな。
帯剣もしてたが恭也のやつの方が強いと俺様は思うぞ……だが」
「だが……どうしました?」
「グレンのやつに左腕をすっぽり切られた」
「「「「え?」」」

 一同の声が重なる。
 もしかしたらグレンの最後の力で倒されたのだろうか?
 と少しだけ期待しつつ。

「斬られた手に握ってた刀だけもって逃走しやがった。
左腕も置きっぱなしだったし、出血も凄かったし、あの様子じゃ長くないと思うぞ」

 実際には斬られた左腕は、斬られた所が素敵医師の薬の副作用で硬質化、更に少しずつ異形化している。

「グレン殿……」

 その光景を目に浮かべ魔窟堂がぐっと目を堪える。 


「まぁ、処置を施されれば生きてる可能性はありますね。
ですが、戦力としては使えたとしても大幅にダウンしてるでしょう」
「ふむ。では要注意人物ではないじゃろうな」
「……向こうに反則的な回復手段がないことが前提ですけどね」

588無題:2008/11/28(金) 08:33:34
 しかし、戦闘手段は大砲で砲撃し、接近戦は剣士として戦うというスタイルだろうことがわかる。
 その実力も厄介であるには違いないが、ザドゥ程のような強大なものでもないのがランスの言からも取れる。
 素敵医師と違って純粋な歩兵が彼女の役目であると狭霧たちは判断した。


「では、あの巨大な化け物についてじゃが……」
「ケイブリスの野郎か……。強いぞ」
「ワシも姿を見たが、あれを相手にするのは骨が折れそうじゃな」

 ケイブリス。
 純粋な破壊力ならザドゥ以上であろう。
 何より、あの体格が脅威である。
 人の身のザドゥと違い、致命傷を与えるのが難しければ、接近戦なら六本の腕と八本の触手の猛攻を掻い潜って攻撃を与えねばならない。
 更にランスから聞き及んだ限り、ザドゥと違って奇襲もしてくる可能性が高い。
 勿論、巨体である故に目立ちやすい上に大きさから来る立ち回りの不利があるのは間違いない。
 が、それを有り余って補う圧倒的な暴力。
 奇襲するにしても人間であるザドゥと違って耐久力も防御力も与えなければいけない範囲も桁違いである。
 ザドゥの時で述べたような粉塵爆弾等では目くらまし程度の効果しかない可能性もある。
 もし戦うことになったら単体では最も一同が警戒せねばならぬ相手。

「できるなら真正面からは戦いたくない相手じゃのう」
「流石の俺様も武器なしじゃ真正面はきついぞ」
「その辺は最悪、恭也さんと魔窟堂さんに前線を期待するしかないですね……。まひるさんでは機動力という面で向いてないでしょうから」
「ご、ごめんなさい」
「後方支援として期待してますよ?」
「が、頑張ります」

589無題:2008/11/28(金) 08:33:52
 果たしてそんな化け物相手に自分が役に立てるのだろうか。
 いや、やらなければいけないのだ。とまひるは自分に言い聞かせる。

「良きかな良きかな」

 と魔窟堂はそのやり取りを見て「努力、友情、勝利はいいのう」と頷いていた。

「ジジイは、その加速装置で相手の撹乱ということで……」

 と狭霧は突っ込むようにぼそりと言った。


(ザドゥとケイブリスに対しての理想は奇襲から短時間で仕留める。もしくはトラップにはめる。ですかね……)

 かつて。
 狭霧があちこちに仕掛け、参加者がかかってくれれば良しであった時と違い、
今度は特定の相手のために罠を仕掛けなければいけない。
 今どこにいるか解らない上に次に出会うと限らないケイブリスとザドゥを対象にしたトラップを
連れ込むための場所を用意して仕掛けるというのは現実的に無駄が多い。
 彼ら以外が引っかかってもそれはそれで有効なこともあるだろうが、
苦労して仕掛けた切り札をなくしてしまうのは惜しいし、参加者がかかる可能性もある。
 ならば、二人以外にも有効なトラップでもいいし即席的なトラップでもいいが、
そうなると煙幕等の小細工的な手段になるだろうか。
 奇襲するなら、トラップなら、役立つアイテムを作って用意するとしたらどんな方法がいいか、と狭霧はあれやこれやと考え始める。

590無題:2008/11/28(金) 08:34:17
「各々の対処は、後々臨機応変にしていくとしてじゃ。あと一人じゃな……」

 思考しはじめた狭霧を見て、「狭霧殿らしいのう」と言いながら魔窟堂が最後の一人について切り出す。

「正確には何機いるのかわかりませんがね」
「……病院で私達を襲ってきたあの……人?」
「改めて聞く限りでは完全なアンドロイド……で間違いないかの?」
「えぇ、恐らく司令塔である本体は本拠地にいて、そこから遠隔操作で分体を操作しているんだと思いますけどね」
「……まだ駒はあると思うか?」
「断言はできませんが……もし今後のことを考えるのなら、少なくても繰り出してきた数と同数以上、6体前後は最低でも残してる可能性がありますね」

 放送の声が彼女であったことからも本体が残ってるのも解る。
 
「特徴は……」

 警告者である透子、早々に舞台へ登場した素敵医師とカモミール芹沢。
 それに対して智機が出てきたのは首輪解除後である。

「運営側の最終防衛ラインを担ってる者と言ったところですか」
「あとは、機械歩兵として可能な技術は詰め込めると見てよいじゃろう……」

 一度に同時並行で操れる数は解らないが、各々の機体を別々の指示で繰り出す事が出きるだろう。
 戦闘方法といった細かい部分はあらかじめ組み込まれたプログラムによってオート化されているのだろうが、
アレを使え、ココは引け、等と言った指示は有効と判断できる。

591無題:2008/11/28(金) 08:34:29
「6か……」

 全てを上げ終えたところで魔窟堂がその数を呟く。

「……まだいたりするのかな?」

 最初に出会った五人とは別に現われたケイブリス。
 そのこともあるともしかしたら、まだ出ていないだけで他にもいるのかもしれない。
 他の皆も一度は思った疑問をまひるはこの場にぶつけてみた。

「難しい話じゃな……。じゃが、戦闘員はほぼいないと断言しても良かろう」
「同感ですね」
「え、え、どうして?」

 魔窟堂の返答に対して当然といったように返事をする狭霧。
 それを見てまひるがクエスチョンマークを浮かべる。

「単純なこった。今俺様達がゆったりしてられる。それが事実だろ?」

 挟むようにしてランスが横から答えた。

「まぁ、ランス殿の言う通りじゃな」
「まひるさん、今首輪をつけている参加者は後何人いると思います?」

 疑問に対して狭霧は疑問に答えた。

「え、えーっと……ここに6人いて、あとアインさんでしょ……。
あっ!」

592無題:2008/11/28(金) 08:34:54
 数え出してまひるはピンと来た。

「そうじゃ、恐らく2人か、3人もいればいい方じゃろう」
「つまり、あちらも全力で此方を潰しにこなくてはいけない……はずなんですよ」
「その状況下で俺達は襲われてない……それが事実だ」

 一呼吸つくと魔窟堂が状況整理とばかりに語りだす。

「まず純粋にザドゥと名乗る男はトップじゃ。
トップが軽軽しく動いてはならぬのが組織の定めであり、そのために各々の役割を持った執行者がおる。
この男が前線に出てくるのは、まず余程のことがない限りありえないじゃろう」

「もしかしたらワシラが知らないだけで、今までも、今もどこかに出動してる可能性もあるかもしれんがの」
とだけ魔窟堂は付け加え、
「ありえねさそうだけどなー」とランスが応答する。

「では消去法で行きましょう。次はけったくそわるいと評判の包帯男ですが……」
「アインさんが追いかけてる人……だよね?」
「そうじゃ。今まで此方に来る素振りもないということは、おそらくアイン殿が追跡してるおかげじゃな」

 素敵医師がまだ単独で動いてるのかは解らないが、此方に来るには、アインの手を振り切る必要がある。
 しかし、その名を知られたファントム。
 出し抜くには困難をきっするのは間違いないであろう。
 もし他の駒をぶつけたとしたらそれも可能だろうが、それなら今だ此方に来ていないのが気にかかる。

「他にも怪我をしたか、アイン殿の手によって既に亡くなっているか、残る少ない参加者の方に加担しにいったかは解らぬが、
ここまで放置されている以上は、現在手が空いていないと見てよいじゃろう」

593無題:2008/11/28(金) 08:35:15
「手が空いてないと言えば、残りの三名も大なり小なり同じでしょうからね」
「まず陣羽織のお嬢ちゃんじゃが、ランス殿からの情報によれば、そうそう前線復帰はできんじゃろう。
勿論、あれから大分時間も経っとるので既に治療されている可能性もなきにしにあらず、じゃから今後はわからんがな……」

 片腕となったカモミール芹沢。

「……ケイブリスの野郎もダメージは負ったはずだからな」

 中の両腕と鎧の背を破壊されたケイブリス。

「此方も全滅させましたからね……」

 病院で破壊した6機。

 今までの彼らの行動は無駄ではない。
 勿論、カモミール芹沢やケイブリスのように戦力を戻しつつあるものもいるが、
少しずつではあるが彼らは着実に運営陣たちにダメージを与えていた。
 
「つまり、もし他にも人員がいたり余裕があるのだとしたら、それを此方に必ず割いてくるはずじゃ。
故に余裕がない可能性の方が高いじゃろう」
「ただ非戦闘員……。まぁ例えば彼らの食事を用意する係りとか掃除係とか……半分冗談ですが、雑用のための人員はいるかもしれません」
「これらから恐らく向こうは今戦力を割く余裕がない、と見ることができる。
そして次に来る時は必勝を来してくるじゃろう」
「前も言いましたが、そのために準備を整えてる……未だ整っておらずと言ったところですかね」

594無題:2008/11/28(金) 08:35:34
 ふぅ、と一息つくと「しかし」と狭霧は言葉を再開する。

「ただ一つ気になるとしたら……」
「うむ。戦力はある……しかし、あちらさんの方か、それともここにいない参加者達の方で何かあったか……」
「こっちにかかれないようなことが起きたか、ってことか」

 あちら側が、現在此方に手を割くことができないような重大な何かが起きたとした場合である。
 戦力も余裕も十分にあった。
 しかし、そのせいで此方に来る事が未だできないということである。

「それの懸念材料が今回の放送ですね」
「死者がいなかったことですか?」

 此方にとっては喜ばしいことでしたけど、とユリーシャは言った。

「いや、時間の方じゃな」

 が、即座に否定の発言が出る。

「ええ、今までぴったりと時間通りに行なわれていたはずの放送が今回に限って6分ですが遅れた」
「たかが数分と思うかもしれんが、少なくともその時何かがあったのは間違いない」
「果たしてそれが何であるのかは解りません……。しかし今現在私達が全く放置されたまま。
先ほどまで出払っていた魔窟堂さんの方にも何も有りませんでした」
「それらと放送遅れが因果関係が全くないとは思えぬ」
「例えば、あの機械兵の軍団ですが……。
もし私達を殲滅できるほど、または兵糧攻めできるほどにストックがあるのだとしたら、既に投入しているはずです。
けど、実際には何も起きていない」
「繰り返しになるが、ストックはあるが手が空いていないかストックに余裕がないか、だな」

595無題:2008/11/28(金) 08:35:55
 事実、智機のストックはもう無駄にできない地点まで追い込まれている。
 まずアズライト・鬼作・しおりの一件で80体以上を失い、次に病院での戦闘で戦闘特化させたはずの6体を失った。
 その時点ではまだ余裕があり、狭霧の懸念したように今度は本気での追撃を行なおうとしたが、
19体を破壊され、とうとう追い込まれた。
 挙句の果てには透子の手により二機破壊されている。
 本拠地の防衛、管制室の防衛を割くのは最終手段であり、それを除けば智機が総力を尽くせるのは後一回が限度とまで来ていた。
 尤も、現在彼女の分機はそれどころではないのだが……。

「わしらが放置されたまま、その上での放送の遅れ。
全く関連性がないとも思えぬ……」
「これ以上は完全に読めない推測になるので何ともいえませんけどね」

 と狭霧が一旦締めくくる。
 


 小屋の外で見張りに立つ恭也の額に汗が走る。
 少し前から東の方でオレンジ色の光が浮かび上がっていた。
 恭也が気づいたのは少し前。
 何事かと思いつつ其方からも目を離さなかった恭也であったが、直ぐにそれが何であるかに気づく。

 焦げた臭い。
 上空に立ち上る巨大な煙の雲。
 火の粉が飛び散る様がここからでも良く解る。
 森が燃えている……それも大規模な火災。

596無題:2008/11/28(金) 08:36:11
 燃えているのは、彼らがいる西の森ではなく東にあった群生の森である。
 しかし、ここからでも鼻を燻る臭いが感じ取れる。
 病院や学校、東の森の近くの建築物はまず壊滅的だろう。
 あの勢いがこのまま続けば、風に流れ、こちらの群生の森まで飛び火する可能性がある。

(これはまずい)

 直ぐさま、小屋のみんなに知らせて相談をした方がいいだろう。
 しかし、全員外に一斉に出すわけにはいかない。
 まずはリーダー格として主導を握る魔窟堂と狭霧の二人に見て貰うか。
 そう判断した恭也は扉を背にし、「魔窟堂さん、狭霧さん」と声をかけながらトントンとノックをして開けた。


「あ、恭也さん。どうしたんですか?」

 あいつらも飯食うなら食中毒でも起こしたんじゃないか、とランスが言ったり。
 そんなことありますか、と狭霧が否定しつつ。
 まぁないとも言えんがのう、と魔窟堂が頭を捻らせ。
 機械がどうして食中毒を起こしますかこのジジイ、と狭霧が魔窟堂の頭を叩き。
 あれではないか、これでもないか、と現在ある情報を元に推測を重ねている所に開かれた扉と呼び声にまひるが答える。

「魔窟堂さんと狭霧さん、少し来てもらえませんか?」

 此方に身体を半分向け、中にいる二人に向かって恭也は催促する。

597無題:2008/11/28(金) 08:36:27
「む? 何事じゃ?」
「……何かありましたか?」
「むっ?」
「?」

 空気が打って変わって変わった。
 恭也の声にただならぬ事態が起きたのではと中にいる各々は思う。

 敵か? いや敵ならこんな余裕はないはずである。
 では、一体なんであろうか。

 緊張が走る中、次に恭也の口から出た事実は想像以上の衝撃をもたらす。

「……向こうの森が燃えているんです。
多分、こっちまで火が移ってきそうな勢いで」

「「「「「え」」」」」

 驚きの声を上げる五人をよそに恭也が続ける。

「詳しい状況は見てもらった方が解りやすいので……」
「ぬぅ……。すまんが一度に全員出ると万が一の可能性もある。
ランス殿、ユリーシャ殿とまひる殿を頼めるかの?」
「む、がはははは。そういうことなら任せておけ」

「おいどういうことだ」と言っていたランスだが、女性二人?を任せられると機嫌よく引き受ける。

598無題:2008/11/28(金) 08:36:53
「では、まひるさん、ランスさん、ユリーシャさん、少し見てきますね」

 そうして恭也に連れられ、魔窟堂と狭霧の二人は小屋の外に出ていく。

 そして

「こ、これは……!?」
「本当に森が燃えている……」

 ボウボウとした音がまるで耳に聞こえてくるかのような赤い世界。
 瞳をオレンジ色が覆い、夕焼けのような空が広がる。

「恭也度のこれは何時頃から?」
「最初に光が上がったのに気づいたのは放送の少し前です。
何だろうと思ったんですが、直ぐに消えるかとも思ったら、それどころか……」
「もしや……」
「えぇ、可能性は0ではありませんね」
「うむ。時間的にも一致する。
恐らく火災だけではあるまい、あそこでわしが見過ごした何かが起きているかもしれん」
「……どういうことです?」

 狭霧と魔窟堂の相槌を見た恭也が何の話かと尋ねる。

「うむ、実はの……」

 ひとまず整理した運営組の詳細はおいておき、二人は先程まで小屋の中で運営組に関しての情報整理をしていたことを簡潔に述べると
首輪をつけた参加者が数少ない状況で未だ自分達が放置されてる理由、どうして放送が遅れたかの疑問、などを答えていく。

599無題:2008/11/28(金) 08:37:07
「なるほど……」
「どう思う狭霧殿? 安全を取って移動をするにこしたことはないが……」
「……もしこれが結びつくのなら、打って出るチャンスでしょうね。
しかし……」

 安全の為にも移動はした方が良いだろう。
 炎をやり過ごすなら西の海方面である。
 打って出るのならば始まりの地であった学校であろうか。
 しかし、この炎の勢いでは学校は、今いる森より早く火が飛び移り燃えるだろう。
 どうするべきか、と恭也を交え二人は考え込む。


 一方、小屋の中に残された三人。

「赤い光……大丈夫でしょうか?」
「がはははは、大丈夫だ。いざとなったら海にでも飛び込めばいい」
「あたしは寒いのは嫌だなぁ……」

 良く見れば、小屋の窓からもオレンジ色の光が少々垣間見ることができる。
 窓越しに見える光を見ておののくまひるとユリーシャだが、外で実物を見たらもっと驚くだろう。

「―――ッ!?」
「「ランスさん・様?」」

 二人を元気付けるかのごとく笑っていたランスの雰囲気が変わる。

600無題:2008/11/28(金) 08:37:56
「ど、どうしたの、ランスさん?」
「三人の気配がここからでも解るくらいになった」

 急に本気の顔になったランスを見たまひるは意外性もあり、何事かと驚く。

「誰か……よろしくねぇやつが来た」

 小屋越しにぴりぴりとした空気をランスは感じ取る。
 外にいる三人のものだ。
 きっかけは急に恭也の気が緊張して膨れ上がったことだった。
 変哲もなかった空気が小屋の中にいても解るほど。
 恐らく恭也の方も、気を高めることによってランスに気づかせる意味合いも含んでいるのだろう。

「ユリーシャ、まひるちゃん、気を入れておけよ……」

 ケイブリスなら一発で解る。
 ザドゥでも同じだ。
 あの強烈な気は臨戦体制に入っているのなら気づかぬはずがない。
 表の三人の気配が変わった以上、何物かが気づかれるように来た線が濃厚である。
 しかし、凝らすようにして気配を探ってもザドゥやケイブリスのような空気を感じ取れない。

(何が来やがった? 参加者か? それとも運営の野郎どもか?)

601無題:2008/11/28(金) 08:38:10
「あぁ、ようやく見つかった」

 一人分の足音が三人の耳に聞こえる。
 ザッザッザッとした重い足音。
 ゆっくりと少しずつ小屋へと近づいてくる。

「恭也さん、魔窟堂さん……」

 狭霧の声に応じかのごとく、三人の体を支える足に力が入る。

「動員中による不幸中の幸いといったところか」

 オレンジ色の空を背景にして現われるシルエット。
 狭霧と恭也には見覚えのある形。

「そう身構えないでくれ。今回は君達と戦うつもりは一切ない」

 忘れるはずもない。
 細部こそ違うが自分達の命を狙いに来た刺客と良く似た形。

「勿論、ゲームに参加しろと警告を発しに来たわけでもない」

602無題:2008/11/28(金) 08:38:28
 露わになる頭部を見て二人は確信し、二人に向いた魔窟堂の目に頷く。

「純粋に頼みたいことがあって交渉をしにきたのだよ」

 魔窟堂の体に力が入る、いざとなれば即座に加速装置を発動できるように。
 恭也の身体がゆっくりと構えを取る、いざとなれば奥義を発動できるように。

「―――話くらいは聞いてもらえないか?」

 両手を上に挙げ、非戦の意思を示した智機が彼らの前に現われた。

603名無しさん@初回限定:2008/11/28(金) 08:44:52
大変お待たせしました。

それぞれの持ってる運営陣の情報に見落としはないと思いますが(そのために何度も読み直しましたが……)
穴やミスがあったら遠慮なく教えて下さい。
智機の残機数と現状も「最優先事項」にあわせておきました。
>尤も、現在彼女の分機はそれどころではないのだが……。

なら大丈夫と思いますが、どうでしょうか?

今晩、ちょっと帰ってくるのが不可能なので土曜に確認後、早ければ土曜夜にOKが取れ次第投下します。
後編はそんなに長くない+既にある程度できているので時間が取れれば水曜には仮投下できるかと思います。


>「紅蓮の挙句」
>「だって、あいつは(略」
こちらも内容に問題ないと思います。

604284:2008/11/28(金) 23:43:42
>>579-603
仮投下お疲れ様でした。待った甲斐がありました。
おお思わぬ展開!そして久々に魔窟堂が活躍してていい。
特に問題はないと思います。
おかげさまでこちらも色々アイデアが浮かんできました。
使うとしても、まだ先の方ですが。

こちらの小ネタ仮投下は夜の12時過ぎになります。
「最優先事項」を確認次第、次の予約をどうするか月曜日くらいまでに決めます。

605名無しさん@初回限定:2008/11/29(土) 00:14:26
>>603
お疲れさまです。
内容に問題はないと思います。

「だって、あいつは(略」に対する返答が頂けましたので、
これより本スレに投下致します。
7〜8KB程度なので、次スレのアナウンスを加えたとしても
DAT落ちにはならないと思います。

606名無しさん@初回限定:2008/11/29(土) 00:22:49
>>604
書き込みの前にリロードしなかったので、無視するような形になってしまいました。
申し訳ないです。

小ネタの仮投下が終了次第、「最優先事項」の仮投下を行いたいと思います。

607無題:2008/11/29(土) 01:36:48

(二日目 PM1:55 病院内)

――見つけたそれはその場に似つかわしくないものだった。
使える衣服がないかとロッカーを物色してた時、それを見つけた。
ここどこだっけ?と疑念が頭をよぎった。
まさかと思い、それを手にとって恐る恐る臭いを嗅いで見る。
服の臭いしかしなかった事に安堵する。
あたしって下品と、心の中で呟きながら、鼻歌を歌いながら選んだ服をデイバックに詰めた。
部屋から出ようとした時、もう一度『それ』を見た。
不自然さに思わず眉をひそめる。
しばし『それ』を見つめると、手に取って折りたたみ、ビニールに入れてデイパックに入れ、
すぐさま部屋を出た。

       □       ■       □        ■

「駄目です」

地図に載っている小屋に行きたいというまひるの提案は、紗霧によってあっさり却下された。
当のまひるを含む何人かは『何で』と言いたげな表情をしている。
紗霧は両目をつむりながら疑問に答える。

「此処に行った所で良くて誰もいないか、悪ければあのロボットが待機してる可能性があります。
 もし主催が私達の居場所を把握していない場合は、向こうに好機を与えることになってしまうんですよ?」
「うーん……」

大体予想通りの返答ではあったが、叱られてるようで何か居心地が悪い。
少々ではあるがまひるの表情には落胆の混ざった困惑が浮かんでいた。

「何か在るとしても遺体でしょうね。彼らの支給品も使い物にならないものになっているか、
持ち去られてるかの何れかでしょうし」

608無題:2008/11/29(土) 01:37:55

と紗霧は言う、心の中で迂闊な参加者のと付け加えて。
狭い建物かつ森の中にある最初から所在の知れた小屋など
殺人鬼にとって格好の狩場になりかねない。

「うーん、死体あるなら、その人を弔ってやりたいんだけど」
「……首輪の事を忘れてませんか?」

紗霧は自らの首を親指で指す。

「あの首輪は解除されても、向こう側に色々と解るものなのですか?」

股間のハイパー兵器を押さえながら悶絶してるランスを看病しながらユリーシャは言った。

「それは解りません。ですが用心に越した事はありません」

対人レーダーを使用すれば、確認は可能かもしれないがそれくらいの事で機械停止のリスクを
紗霧は背負いたくなかった。
実際は解除後に探知機等は機能しないのだが、それを知る時間と道具は彼女らにはなかった。
その事を知っていたら、紗霧は罠の材料等に活用していたことだろう。

「う〜ん…………じゃ、諦める」

渋々まひるが返答したのを受けて紗霧は視線を外そうとする。
が、がさごそと物音がまひるの方から聞こえたので再びそちらの方に目を向けた。

「………………何ですかそれは?」
「あたしもこれ見た時はそう思ったよ」
「それって……」

まひるはそれの両端を掴んで全体像をみんなに見せていた。
ユリーシャとランスはそれを――それと同じものをよく目にしていた。

609無題:2008/11/29(土) 01:38:42

「まひる殿……何を……」

魔窟堂も結構目にしている、その為か心なしか声色は弾んでいた。
紗霧は半眼でしばし考え込み、彼女なりにややドスを利かせたつもりで言う。

「本題はこれですか? で、貴女はこれを何処から手に入れたんですか?」
「病院」

表情だけはにこやかに、内心では機嫌悪い時にやばかったかなと後悔しながらまひるは返答する。

「何で病院にこれがあるんですか? 変な趣味をお持ちの方が使ってたとでも言うつもりですか?」
「まったくの新品みたい」

このゲームの参加者の中にそういう格好をしてるのは何人かいた。
デザインは多少異なっているが。 

「支給品かな?」

恭也が言う。
これまでに一行は死んだ参加者のデイパック――支給品一式を2つ回収している。
それらの一つと彼は思ったのだ。

「ロッカーに入ってたよ。なぜか」
「そんな得体の知れないものは捨てて下さい」
「何を言う!紗霧殿!」

弾かれた様に魔窟堂が叫ぶ。
おイタをした子供を叱り付ける親の様に。
紗霧はその剣幕に少し驚いたが、数秒後に困惑は怒りに変わった。

610無題:2008/11/29(土) 01:40:14

まひるはその様子を見て冷や汗をかきながら、思わず後ずさった。
だが魔窟堂は引かなかった。
そして、さっきまで悶絶していたランスは力ない声で、だがはっきりと言った。

「まひるちゃん……サイズはいくつだ……」
「え、え、えと、あたしでもちょっと大きいくらいかな、かな?」
紗霧と魔窟堂の間に妙な緊張が走るのを見て、動転しながら何とか答えるまひる。

「そうか……」

ランスはゆっくり息を吐き出すと、ユリーシャの一瞥してから『アレ』を視線を移して言った。

「残念だ」

そんなランスを見て、ユリーシャは苦笑いをした。

「お、そんな趣味?」
「特にこだわってねーが、いいデザインしてるし、いい素材使ってそうだし着てくれると嬉しいけどなー」
「あはは……」

中学生やってた時のある見世物でそういう服を着て、周囲に大いに受けたのをまひるは思い出す。

「誰が着ますか!」
紗霧の怒声がとんだ。

「着てくれんのか、紗霧殿!」
涙を流して魔窟堂が言う。

「変態は黙ってろ」
紗霧が返す。

「なんともったいない!」

611無題:2008/11/29(土) 01:41:32

ユリーシャはランスの妙に自信溢れる台詞を聞いて苦笑いした。
いつか私は似た服を着せられてしまうんでしょうか?と思いながら。
請われたら多分承諾してしまうだろうが、だからといって出自が出自だけに着るのは抵抗感があった。
彼女の実家にいる芋好きの褐色肌の侍女の事を思い出しつつも、いつあの二人の口論を聞き続ける。

そして未だに『それ』を両手に持ったまま途方に暮れているまひるを他所に恭也は思った。

(何でお手伝いさんの……メイドさんの服があったんだろう)

さっきメイド服を着た知佳の姿を想像し、笑みを浮かべてしまった己をちょっと恥じながら、
事態の収拾のため彼は頭を働かせ始めた。

                              ↓

【広場まひる(元№38)】の所持品、服3着の内一つは最高品質(防具にあらず)のメイド服でした。

612284:2008/11/29(土) 01:46:52
投下終了。
こんな内容で遅くなってすいません。
別にメイド服にこだわりはありません。
ただ……一月ほど前に啓示のようなものを受けて書かざるを得なかったんです。
ちょっと後悔している。
まあアインか双葉のどちらかが合流したら、ネタとして着させるつもりだったんですけどね。

613名無しさん@初回限定:2008/11/29(土) 02:21:27
以下15レス、「最優先事項」の仮投下を行います。
レプリカまとめの部分は一部変更。
以前頂いた意見の反映+Nシリーズの初期数を160としました。
何か問題ありましたらレス願います。

次回仮投下予定は「そらをみあげて想うこと」。
恭也、知佳、ザドゥ救出タスクチーム・レプリカ達が登場の小ネタで、
明日投下予定です。

没ネタ入りする予定でしたが、>>579-603 にて、
状況が一致(恭也が一人で屋外にいた&最初に火災に気づいた)したので、
やっぱり投下することにしました。

614最優先事項 (1/14):2008/11/29(土) 02:22:15
>>585
(二日目 PM6:29 C−4地点 本拠地・管制室)

アドミニストレーター権限を委譲されてからのN−22の行動は素早かった。
本拠地のNシリーズ6機を直ちに起動すると、
3機をザドゥ救助タスクチームとし、3機を火災対策タスクチームとして、
該当端末の使用許可と備品・装備の持ち出し許可を与え、同時進行させたのだ。
結果、現時点で既にザドゥの元へNシリーズ1機と当座の救援物資が送り届けられ、
火災の進行シミュレーションと対策素案も纏まりつつあった。

今や他のレプリカ達から「代行」と呼ばれるようになったN−22は、
両タスクが動き出した時点でそれぞれのリーダーに処理を任せると、
情報端末に有線アクセスし、各種情報の徹底収拾を開始した。
それから数分。
彼女が必要とする情報のほぼ全てが、内臓HDDに収められようとしていた。

615最優先事項 〜Outline_of_Replica.txt〜 (2/14):2008/11/29(土) 02:22:50

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 * 
 * オートマン・椎名智機のレプリカには大まかに分けて3種類がある。
 * 1つ、通常仕様、Nシリーズ。識別色は橙。
 * 1つ、白兵戦仕様、Dシリーズ。識別色は赤。
 * 1つ、情報収集仕様、Pシリーズ。識別色は青。
 * 識別色はアンテナ機能を備えたカチューシャにペイントされている。
 * 
 * Nシリーズの機体数は46/160機(残存/開始時)。
 * うち、本拠地防衛用に10機固定。
 * 稼働時間は戦闘モードで4時間、デスクワークモードで10時間。
 * 基本身体能力は月夜御名紗霧程度、基本装甲は通常の作業用ロボット程度。
 * 正しい意味でのレプリカで、ハード/ソフト共にオリジナルに等しい。
 * 基本身体能力を超えない範囲でのあらゆる武装が物理的にはは可能だが、
 * リソースを大量消費するパーツ―――高機動レッグや強化アームなどを換装すると、
 * フリーズやシステムクラッシュを誘発してしまうという欠点もある。
 * この場合、常駐ソフトを切る事で実運用可能なレベルまで緩和できる。
 * 無論、切ったソフトに由来する機能は使用不可能となる。

616最優先事項 〜Outline_of_Replica.txt〜 (3/14):2008/11/29(土) 02:23:21
 * 
 * Dシリーズの機体数は3/4機。
 * 稼働時間は戦闘モードで4時間だが、後述のアタッチメントによって増減する。
 * 基本身体能力はランス程度、基本装甲はなみ以下。
 * ルドラサウムから与えられた強化パーツを取り付けた精鋭であり、
 * 各種アタッチメントを装備することでその能力・特性は大きく変化する。
 * キャタピラ、軽ジェットエンジンなどの移動機器。
 * 耐熱装甲、工学迷彩スーツなどの装甲。
 * 高周波ブレード、ビーム砲などの武装。
 * 無限のバリエーションであらゆる局面に対応できる万能さが魅力だ。
 * 但し、強化パーツの制御には多大なリソースを占有する為、
 * オリジナルが同期できないというデメリットもある。
 * なお、強化パーツの一つは、虎の子として本拠地の倉庫に保管されている。
 * このパーツを前述のNシリーズに組み込むことで、Dシリーズに昇格させることが可能となる。
 * 
 * Pシリーズの機体数は6/6機。
 * スペックその他はNシリーズに等しく、識別されるのは役割と権限に違いがある為。
 * 担う役割は現場での情報収集、哨戒活動。
 * 有する権限は情報収集端末への常時アクセス権と、優先レベル3以下の命令拒否権。
 * 特殊装備はスタングレネードと最高速40Km/hのカスタムジンジャー(セグウェイ)、
 * バッテリーパック×2。
 * ゲーム開始前から今に至るまで島内の担当領域から情報を収集/発信し続けている。
 * 参加者に対しては隠密行動を是とし、被発見時には交戦せず逃走するよう刷り込まれている。
 * また、Pシリーズが破壊された場合はNシリーズに同種の装備と権限を与え、
 * 新たなPシリーズとして登録変更される仕組みだ。

617最優先事項 〜Outline_of_Replica.txt〜 (4/14):2008/11/29(土) 02:23:57
 * 
 * 最後に、全てのレプリカに共通する特徴を記す。
 * この種の機械の例に漏れず、智機も基本的に熱に弱い。
 * 冷却ユニットは水冷式。
 * 蒸気の排出は後頭部の排気口から、冷却水の補充は口から行われる。
 * 内臓しているのは通信機と充電コード。
 * 充電については全機ともに本拠地と学校の専用充電機にて3時間、
 * 島内各所の建物のいくつかに仕込まれた特殊なコンセントにて10時間が必要となる。
 * 
 * そして最たる特徴は―――
 * 最優先事項に【ゲーム進行の円滑化】が設定されていること。
 * マザーボードに焼き付けられているそれは、決して覆ることはない。
 * 

[EOF]
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

618最優先事項 (5/14):2008/11/29(土) 02:24:32

代行管制機・N−22はデータバンクより抽出した最後の資料「レプリカ概要」に
目を通し、ようやく必要とする全ての事前資料をそのHDDに収め終えた。

「なるほどな」

その隣では、N−22より御陵透子へのコールを引き継ぎ、
使えなくなったらしい『世界の読み替え』についての状況把握に努めていた1機が、
深いため息と共に通信を切ったところだった。

「透子はザドゥ救助タスクに組み込めそうかね?」
「No、代行。透子の返答は要領を得ないが、推測するに世界の読み替えが制限されたようだ」
「では、救助タスクのみならず火災対策タスクにおいても……」
「Yes。残念ながらね」

管制室の6機のレプリカたちがそれぞれに嘆息する。
両チームともに透子の未知なる『世界の読み替え』に期待をかけていたのだ。
それが、頼れなくなった。
理由は不明。
しかし、N−22の論理推論プログラムは推論を導き出していた。
オリジナルの焦燥と怒りが透子の能力制限と一本の線で結ばれているのだろうと。

「ケイブリスの協力は得られそうかな?」
「判らないな。現在オリジナルと密談中だが、どうやら両タスクに関係の無い話のようだよ」
「無線も切られているしな」
「かの魔人殿は計算に入れないほうがよさそうだな」
「Yes、私もそう判断するよ」

同じ声、同じ姿の6機の智機が同じ結論に達する。

619最優先事項 (6/14):2008/11/29(土) 02:24:53

「では、ザドゥ救出・火災対策タスクは私たちだけの手で行わなければならないな」
「まずは両タスクの優先度を決めるとしよう。
 ザドゥ救出タスクチーム。そちらの進捗状況はどうかな?」

問いに対するチームリーダの返答は、苦渋に満ちていた。

「物資の調達まではトントン拍子で進んでいたのだが……」
「我々が内臓する通信機は熱、もしくは煙に弱いようだ」
「カタパルトで飛んだ1機は着陸時点で。学校からの4機も先ほど通信が取れなくなった」
「ザドゥ様の通信機はノイズが酷くて使い物にならないしね」
「No! 苦しい状況だな……」

N−22は大げさな身振りで頭を振りつつ、対策を講じるべく演算回路を回し始める。
そんな様子を察してか、火災対策タスクチームが強い口調で横槍を入れた。

「私たち火災対策タスクチームは、火災対策こそ最優先で行うべきだと主張する」
「論拠として火災シミュレーションの模様をご覧頂きたい」
「代行、メインモニタへの投影許可を」
「Yes、許可しよう」

管制室の正面に82インチの液晶が輝き、補助端末の画像を映し出す。
衛星画像に似た鳥瞰全島図のCGが画面端よりポップアップした。
その全島図の楡の木広場を中心に、赤色表示されるドーナツが如き領域がある。

「これが定点カメラとPシリーズの報告から予測した、5分前の火災状況」
「風の向き、強さが変わらないものとして、6時間分の推移を1時間毎に表示しよう」

620最優先事項 (7/14):2008/11/29(土) 02:25:17

1時間後―――南西方向への広がりが大きく、形は歪に。炎に飲まれる。
2時間後―――南西方向は全焼、洞窟と小屋2、隠し部屋3が炎に飲まれる。
3時間後―――東の森ほぼ全域が燃える。西の森および病院、廃村に延焼。
4時間後―――学校、耕作地、花園に延焼。小屋3が炎に飲まれ、廃村の6割が被災。
5時間後―――廃村全焼、さらに西の野原と漁港に延焼。小屋跡1も炎に飲まれる。
6時間後―――漁港、西の森が全焼。火の手はついに北西の山地へと伸びる。

「これほどとは……」
「火災対策チーフの主張を我々ザドゥ救出タスクチームも支持するよ」
「Yes」
「全私一致か。ならば次は対策の検討に入る」

この瞬間、ザドゥと芹沢はレプリカ達から切り捨てられた。
ゼロとイチの思考に評価点の大小を上回る判断基準は存在しない。
1ポイントの差が、それだけで絶対の差。
増してや曖昧に揺蕩う感情などを挟む余地など有ろうはずが無い。

「続きを」

N−22が手の動きで火災対策タスクリーダーを促す。
リーダーはYesと頷き、コンソールを操作。
メインモニタの画像が2時間後の映像に巻き戻り、固定された。

「まず、前提として消火の線は切り捨る」
「為すべきは延焼の阻止。実行すべきは木々の伐採と撤去」
「被害を東の森だけに留めるということだよ」
「そして、この対策完了のリミットがご覧の2時間後。PM8:30」
「廃村と西の森への延焼を許したらGAMEOVERだ」

621最優先事項 (8/14):2008/11/29(土) 02:26:21

ズームアップ。
そこには鬱蒼と生い茂る木々に隠れて佇む、一軒の山小屋があった。
先刻、魔窟堂が単独行の折に発見し、ペンのような何かを設置した小屋だ。

「楔を最初に打ち込むべき場所。それは東の森の名も無き小屋」
「アクション1。ここを中心に実働部隊を展開。周囲一切の樹木を切り倒し、運び出す」
「除去消火というやつだな」
「これを今から2時間以内に完了する」
「ここさえ乗り切れば、その後は幾分楽になる」
「延焼危険ポイントの西部、南部、および花園、学校周辺を軽く除去消火」
「こうして切り倒した箇所を仮に防衛ラインと名づけて、アクション2だ」
「アクション2。防衛ラインに進入する炎に、土砂を掛ける」
「窒息消火というやつだな」
「それを、危険が無くなるまで繰り返す」
「消火に十分な水とそのインフラが整備できない以上、打てる手はこの程度だ」
「故に必要なのは速度」
「そして人数」

火災対策タスクチームはそこで沈黙した。
3機の目線が代行N−22に注がれている。
N−22はしばし黙考した後、演技がかった口調で問いを発した。

622最優先事項 (9/14):2008/11/29(土) 02:26:45

「Yes。ならば問おう。必要な速度、それは何分後なのかな?」
「直ちに!」
「直ちに!」
「直ちに!」

火災対策タスクチームの3機の返答は淀みない。

「Yes。さらに問おう。必要な数、それは何機なのかな?」
「全機!」
「全機!」
「全機!」

火災対策タスクチームの3機の返答は一糸乱れない。

「つまり君たちはこう主張する訳だ」
「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」

火災対策タスクチームの3機の返答は確信に満ちている。

623最優先事項 (10/14):2008/11/29(土) 02:27:12

「成る程、君らの意見はよくわかった。
 では―――ザドゥ救出タスクチーム、君たちはどうだ?」

N−22は指差して問う。チームの2機は即座に右腕を上げて答える。

「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」

今まで口を閉ざして周囲の警戒に当たっていた本拠地警備・管制室担当の2機も、
自らの思いを主張した。

「即時全機投入!!」
「即時全機投入!!」

その時、同時に6本ものコールが入った。
通信を入れたのは全てレプリカPシリーズ。
火災対策チーム・オペレータがコールをディスカッションモードに切り替えると、
通信機の向こうの彼女らもまた、自らの思いを主張した。

『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』
『即時全機投入!!』

624最優先事項 (11/14):2008/11/29(土) 02:27:56

この話を聞いていたほぼ全てのレプリカが、同じ意志を同じ言葉で伝えた。
残るは1機。
火災対策タスクチームのリーダーが代表して最後の1機、N−22の意志を確認する。

「代行、あなたは?」

N−22はニヤリと歪んだ笑みを浮かべて、言った。

「無論、即時全機投入だ」

管制代行機かつ、アドミニストレーター権限保有者の意思表示。
それはすなわち決済であり、命令であった。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=

625最優先事項 (12/14):2008/11/29(土) 02:28:24

眠る全てのレプリカたちが起動した。
拠点防御に当たっていた10機のNシリーズたちは、命令を下さずとも
自ら武装を解除し、鎮火に適した装備への換装を始めている。
Pシリーズはタスクの本格始動に先立ち、道具/装備品や情報の収拾を中心に、
柔軟な準備活動を行うよう指示されていた。
また、火災対策タスクチームのリーダーはDシリーズの装備品の検討に余念が無く、
残りの2機は詳細なプランの構築に全機能を集中している。

慌しく、しかし整然と準備を整えてゆく同胞たちを満足げに眺めながら、
N−22は蚊帳の外ぎみのザドゥ救出タスクチームにも命を下した。

「君たち2機も火災対策実働部隊に参入してくれ」
「Yes!」
「Yes!」

2機が目覚めたNシリーズたちに合流すべく、管制室を後にする。
その扉を潜る前に、ザドゥ救出タスクチーム・リーダーがN−22に軽口を叩いた。
くすくすと忍び笑いしながら、人を小馬鹿にしたような口調で。

「しかし…… オリジナルの私がこの状況を見たら目を回すだろうね!」
「だから今、オリジナルがいない今、行うのだよ。
 わたしがアドミニストレーター権限を保有しているうちにね。
 【自己保存】を中心に据えた判断をされたら、
 本拠地の守りは残す、Dシリーズは温存しておくだの言い出しかねんだろう?」
「くくっ、臆病者だな、オリジナルは」
「責めてやるな、私。それが【自己保存】なのだから」

くすくす。
ザドゥ救出タスクチーム・リーダーは笑いながら扉を閉めた。

626最優先事項 (13/14):2008/11/29(土) 02:28:53

「シミュレーション結果、出ました」

火災対策タスクチームの2機が同時に顔を上げ、作業の完了をN−22に告げた。

「全タスクの完了までどれほど時間がかかる?」
「南西部緊急対策に90分。完全終了に220分」
「損害予測は?」
「Dシリーズ全機破損。Nシリーズ20機破損」
「よし、上出来だ」

半数以上の仲間を失うという報告を淡々と行うこと。
それを首肯すること。
我々人間の目に映るそれは、あまりに非情。あまりに冷酷。
しかし―――

レプリカ達の最優先事項は【ゲーム進行の円滑化】。
故に彼女らの態度は至って正常な反応。
機械には機械のルールがある。
これは決して残酷な話ではない。

「オペレータは1機で十分だからね」
「私、N−26もこれより現場組に合流しようと思うのだが、如何か」
「Yes。許可しよう」

また1機が、管制室を後にする。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=

627最優先事項 (14/14):2008/11/29(土) 02:29:23

「№16・朽木双葉の首輪からの生体信号が、今途絶えた。
 策士が策に溺れてしまったようだね。非常に残念だが、まあしかたない。
 それよりも、だね―――」

出発準備は十分弱で完了していた。
N−22は本拠地の正面出口前に整列するレプリカ達に向けて、放送を発信する。

「この死によって後顧の憂いが無くなった。そこに着目しよう。
 我々の鎮火タスクは、もう警告事由:ゲームの進行阻害に抵触しないのだ。
 大手を振って任に当たれる。幸先が良いとは思わないかね?」

N−22の演説にレプリカ達が沸く。その潮が引いてから、彼女は号令を下した。

「よろしい。では全機に命じよう。
 N−29を当オペレーションの最高権限者とし、40機の全てはその指揮に従え。
 また、命令実行に伴う各種判断においては自律思考を許可する。
 なお、命令の優先レベルは5。最高レベルだ。
 ……ではリーダー、オペレーション開始だ。号令を」

「―――出発!」

「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」
「Yes」「Yes」「Yes」「Yes」『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』
『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』『Yes』

40の智機たちが、一斉に唱和した。
                    ↓

628最優先事項 (情報 1/1):2008/11/29(土) 02:30:54

【レプリカ智機・代行(N−22)】
【現在位置:C−4 本拠地・管制室】
【スタンス:管制管理の代行】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

【レプリカ智機・オペレータ(N−27)】
【現在位置:C−4 本拠地・管制室】
【スタンス:火災対策タスクのオペレーティング】
【所持品:内蔵型スタン・ナックル】

【レプリカ智機・リーダー(N−28)】
【現在位置:D−3 本拠地入口 → F−6 小屋2付近】
【スタンス:火災対策タスクの現場監督】
【所持品:】
【備考:3機のDシリーズ、6機のPシリーズ、31機のNシリーズが指揮下に】

※ 本拠地にはメンテナンス中の智機本体×1と、レプリカ×3が存在。
※ レプリカは代行N−22、オペレータN−27と智機が同期している機体。

※ 前報酬の強化パーツ1個は倉庫で厳重に保管。開錠方法はオリジナルのみ知る。

※ 学校からザドゥ救出に向かった4機は消息不明。

629最優先事項 (情報訂正):2008/11/29(土) 02:45:25
>>628
  ×【レプリカ智機・リーダー(N−28)】
  ○【レプリカ智機・リーダー(N−29)】

630名無しさん@初回限定:2008/11/29(土) 22:41:21
「だって、あいつは(略」本スレ投下の折のご支援、ありがとうございました。
遅ればせながらお礼申し上げます。

さて、以下7レス「そらをみあげて想うこと」の仮投下を行います。

次回仮投下予定は「カモちゃん★すらっしゅ!」。
ザドゥ、芹沢、救援レプリカ登場で、来週末までに仕上げる予定です。

631そらをみあげて想うこと (1/6):2008/11/29(土) 22:46:43
>>542
(二日目 PM6:21 D−6 西の森・小屋3付近)

高町恭也は小休止を取っていた。
慣れぬ角度への飛針投擲と視線移動を続けたことで肩と首筋に張りを感じたからだ。
常日頃よりマニアと揶揄されるほどの修行三昧の日々を送っていたこの少年は、
休むべき時に休むことの利を経験上熟知していた。

りん……
秋の虫の声が、恭也の耳朶をくすぐった。
彼はその澄んだ音色に、澄んだ瞳と澄んだ声の少女の面影を連想する。

「仁村さん―――」

守ると誓ったどこか危うさのある少女。
恭也の胸に奔るは疼痛。

恭也個人の心情としては、今すぐここを飛び出して彼女を探したいと思っている。
しかし、滅私済民の精神を礎に数百年間磨き上げられてきた『御神』という歴史が、
師範代である彼の私心を押さえつける重石となっていた。
打倒主催者という大局観。
恭也は―――否、恭也に根付いている御神真刀流の精神は、それを至是とした。

要人を守ることで社会を守る。
御神真刀流の存在意義。
恭也は御神として己に問うた。

(悲願・主催者打倒を成す為に、守らねばならぬ要人とは誰か?)

632そらをみあげて想うこと (2/6):2008/11/29(土) 22:47:16

回答は明らかだった。
月夜御名紗霧だ。
彼が紗霧に従うと宣言したことは、この判断に由来する。

回答は明らかだった。
仁村知佳ではない。
思慕を貫き大局を見失うことは唯の我侭だ。

結論は既に出している。誓いという形で己を規定した。
それでもなお―――
高町恭也の胸の奥で、仁村知佳は燃えていた。

(いかんな。また俺の心が揺れようとしている)

思考の渦に飲み込まれる寸前、恭也の理性が警告を発した。
意識を切り変えるために立ち上がり、空を見上げた。
深呼吸を何度か。
振り仰いだ上空に赤い尾を引く星が流れた。
北の空から東の空へと。

「流れ星、か」

恭也は祈った。
御神の名に縛られぬ、裸の心で。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=

633そらをみあげて想うこと (3/6):2008/11/29(土) 22:47:44
>>556
(二日目 PM6:21 E−7 廃村・井戸付近の民家)

仁村知佳は潮風にさび付いた窓枠に背中を預け、一人震えていた。
陽の光が自分の能力と心の平衡を回復させる。
その時間が終ってしまったから。
彼女は次の朝を迎えるまで、2つの闇と戦わねばならない。
視界を塞ぐ夜の闇と、衝動的な破壊をもたらす心の闇。

伏せられた長い睫毛が年齢にそぐわぬ憂愁を醸し出している。
その慎ましやかな胸の奥に抱いているのは孤独感。
仲間たちと袂を分かってから半日と経っていない。
それでも、淋しい。人恋しい。

「恭也さん―――」

この島に来てから、その孤独感を忘れさせてくれたのは彼だ。
自分の手を引いてくれた高町恭也の逞しい背を思い出し、
仁村知佳は可憐な頬を染める。

守ってもらえることが嬉しかった。守ってあげられることが嬉しかった。
依存ではなく利用でもなく優劣もなく、真心で相手を気遣い、支え合う。
短い付き合いではあるが、恭也と関係は知佳にとって理想的なものだった。

「―――会いたいよ……」

知佳は思わず呟いた言葉が震えているのを知った。
目頭に熱を感じた途端、堰を切ったように涙が溢れてくるのを感じた。
思い出もまた、涙と共に溢れてきた。
荒んでいた幼き日の思い出が。

634そらをみあげて想うこと (4/6):2008/11/29(土) 22:49:18

念動力の暴走と人の心が読める故の不信感から周りを傷つけ、
座敷牢の如き離れに隔離されていた日々。
真実の心を姉・真雪に看破され、愛情を注がれるようになるまでの知佳は、
淋しさを破壊衝動に置き換えることで孤独感から耐えていた。

「あはは…… 弱くなっちゃったなぁ……」

その後、人と接する事と能力を制御することを覚え。
いつしか、さざなみ寮の仲間たちの暖かさと真心に触れ。
頑なだった心は日々癒され、柔くほぐされてしまっていた。
故に、幼き日には耐えられたはずの孤独感に耐え切れず、
ここに来て知佳は、遂に涙腺を崩壊させてしまったのだ。

恭也に己の醜い心の在りようを知られるのを恐れる気持ちと、
制御を離れたXX障害の暴走で彼を傷つけてしまうことを恐れる思慮。
感情と理性がそれぞれ導いたこの2つの恐れから、彼女が決めた別れだった。
それでもなお―――
仁村知佳の孤独な心は、高町恭也を求めてしまう。
涙を拭かぬまま見上げる滲んだ夜空に、恭也の面影を映してしまう。
その滲んだ視界の先に、赤い尾を引く星が流れた。

「ながれぼし?」

知佳は祈った。
両腕を額の前で組み、瞳を閉じて、心の底から。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=

635そらをみあげて想うこと (5/6):2008/11/29(土) 22:49:50

偶然の一致では片付けられない何かが、2人の間にはあるのかもしれない。
知佳は廃村の片隅で。
恭也は西の森の中で。
2人の立つ場所は距離を隔ててはいるけれども―――



「「あの人が、無事でいますように」」



同じ時間に同じ夜空を見上げ
同じ流れ星を見つけて
同じ祈りを捧げたのだから。

2人は名残惜しそうに、雲間に吸い込まれてゆく赤い星の尾を見つめる。
暫くのち、その雲だと思っていたものが煙で、発生源が東の森なのだと気づいたのも
また、同じだった。


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=

636そらをみあげて想うこと (6/6):2008/11/29(土) 22:50:17

2人の見た『赤い流れ星』は東の森の上空、約15mの地点で静止していた。

「落下ポイントに到着した。これよりフェーズⅡに移行する」

『赤い流れ星』は立ち込める煙の中で咳き一つすることなく、
冷静な声で通信機の先にいる同胞に状況連絡を行った。

そう、この『赤い流れ星』はレプリカ智機。
カタパルト投擲からの飛翔にて救援物資と共にザドゥの直接援護に赴いた1機だ。
纏うのは宇宙服が如き銀色の防熱スーツ。
下げるのは救援物資のみっちり詰まったボストンバッグが2つ。
背負うのは個人用噴射型離着陸機。
恭也と知佳が捉えた赤色の光は、この離着陸機のバーナーだった。

『ザドゥ様の無線が不安定で、十分なナビゲーションが出来ないのだよ。
 大事を取って予定ポイントの10mほど北で降下準備を行ってもらえるかね?』
「Yes。了解したよ、リーダー」

レプリカは頷くと、懐からカードの束を取り出した。

                ↓

637そらをみあげて想うこと (情報 1/1):2008/11/29(土) 22:51:20

【高町恭也(元№08)】
【現在位置:D−6 西の森・小屋3付近】
【スタンス:主催者打倒、アイテム・仲間集め、包囲作戦】
【所持品:小太刀、鋼糸、アイスピック、銃(50口径・残弾×4)、保存食、
     釘セット】
【能力:小太刀二刀御神流(奥義神速は使用不可)】
【状態:失血(中)、疲労(中)、右わき腹から中央まで裂傷あり。
    痛み止めの薬品?を服用】

【仁村知佳(№40)】
【現在位置:E−7 廃村・井戸付近の民家】
【スタンス:恭也達との再会、主催者達と場合によっては他の参加者達の
      心を読んでの情報収集。
      手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める。
      恭也が生きている間は上記の行動に務める】
【所持品:???、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(小)、精神的疲労(小)】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
    手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】

638名無しさん@初回限定:2008/11/29(土) 23:19:05
ところで、そろそろ新スレを立てようと思うのですがよろしいですか?

その際のテンプレは、基本的に第6部のものと同じで、
変更箇所は以下数点にしようかと思っています。

1)冒頭のコメント
   再開 → クライマックス、近し。
2)過去スレ・過去関連スレの対応
   前スレ → 第六部
   過去スレ一覧に 第五部 追加
   葱板バトルロワイアル 保管サイト第一避難所 の追加
3)運営側人物欄
   素敵医師に×マーク  

時期、内容等にご意見ありましたらお願いします。

639284:2008/11/30(日) 13:28:40
連日の仮投下乙です。

>だって、あいつは……〜
あーあの頃は平和だったんだなあ……。
双葉の内面描写がよくされていて、いろんな意味で自暴自棄な彼女が痛々しい。
希望から絶望に変わる『ねむりひめ』の別視点SS……GJでした。
アインもそうだけど、他の参加者との同行を避けてたのが痛いなあ。

『終わる長い夢』は容量的にも埋められないくらいのサイズで
次スレで投下するのもなんですので、次回のまとめUP前にここに投下してから
今の本スレで修正の報告をして完了とします。
投下は月曜日になると思います。

先日、投下したSSは時間的にも>>579の『無題』との兼ね合いは無理ですので
加筆したのをアナザー行きにします。
本投下した場合は喧嘩はカットしましたけどね。
小屋行き断念と首輪を回収しなかった理由付けがメインでした。

次スレのテンプレについては何ら問題ないと思います。

時期については次のSSの本投下後に、こちらが『終わる長い夢』の修正報告。
それから次スレを立てて、即死回避用に一本SS投下。
次に今スレに次スレの誘導のレスを投下してから、今スレを埋めるというのでどうでしょう?

640名無しさん@初回限定:2008/11/30(日) 22:14:08
>最優先事項
>「ケイブリスの協力は得られそうかな?」
なるほど、ケイブリスとの会話中に行動開始でしたか……。
此方が現在今執筆中の後編では、

戻ってきて状況確認したら既に分機が行動開始していたのでそのことも含めてケイブリスと会話中。
(分機がある程度動きだしてしまってるのを知った上でのこれからどうするかの会議)

と言う感じでした。
不都合がなければ最優先事項 (5/14)の後半の該当部分を少しだけ変更と言うのはできないでしょうか?
今後の都合も含めて不可能なら、こちらの方で途中で気づくなり何なりちょっと流れに変更を入れようと思います。

641名無しさん@初回限定:2008/11/30(日) 22:22:58
>>639
>先日、投下した
>607-611のことですよね。
最優先事項の時間の兼ね合いから、『無題』が終わるまで30〜40分程時間があります。
例えば、
>あいつらも飯食うなら食中毒でも起こしたんじゃないか、とランスが言ったり。
からの部分を>607-611にあわせて変え、その間に起こった出来事として当てはめる。
冒頭部分のバッドを構えてるシーンからを>607->611の終了から繋ぐように変える。
このどちらかなら無理なく挿入できると思いますが、どうしましょうか?

642名無しさん@初回限定:2008/11/30(日) 22:28:12
>>638
私もOKだと思います。
細かい部分は建てる前に一度ここ(避難所)に投下して確認で良いのではないでしょうか?

>639
>時期については
『無題』が状態表含めると30KBくらいになるので、良ければ次の話の投下後に新スレ立てと新スレへの『無題』の投下を兼ねてやりましょうか?

643名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:40:06
ご意見ありがとうございます。

あと1本、現本スレ(第6部)に投下を、ということのようですので、
今から「妄執ルミネセンス」を投下してきます。

以下5レス、新スレ(バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部)
テンプレ案を投下します。内容は>>638で述べている通りです。
これで問題なければ、流れとしては
>>639
 > 時期については次のSSの本投下後に、こちらが『終わる長い夢』の修正報告。
 > それから次スレを立てて、即死回避用に一本SS投下。
 > 次に今スレに次スレの誘導のレスを投下してから、今スレを埋めるというのでどうでしょう?
とし、

>>642
 > 『無題』が状態表含めると30KBくらいになるので、良ければ次の話の投下後に新スレ立てと
 > 新スレへの『無題』の投下を兼ねてやりましょうか?
のお言葉に甘えたいと思いますが、いかがでしょうか?

644テンプレ案 バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第7部:2008/12/01(月) 00:47:38

クライマックス、近し。
      
前スレ
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第6部
ttp://set.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1122229185/

<感想・質問等はこちらへ↓>
関連スレ
【バトル・ロワイアル】新・総合検討会議
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/15097/1091460475/


過去スレ・過去関連スレなどはこちら >>2
参加者表その1はこちら >>3
参加者表その2はこちら >>4
主催者表はこちら >>5

割り込み防止用 >>2-10

常に【sage】進行でお願いします

645名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:48:45

【過去作品スレ】
バトル・ロワイアル【今度は本気】第5部
ttp://pie.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1053422142/
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第4部
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1044/10442/1044212918.html
バトル・ロワイアル 【今度は本気】 第3部
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1029/10293/1029399672.html
バトル・ロワイアル。【今度は本気】 第2部
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1012/10127/1012701866.html
リアル・バトル・ロワイアル。【今度は本気】
ttp://www2.bbspink.com/erog/kako/1008/10085/1008567428.html


過去関連スレ(共に消失)
【リアル・バトル・ロワイアル。】 総合検討会議
ttp://doom.on.arena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/test/read.cgi?bbs=erog&key=008871626
【バトル・ロワイアル。】 総合検討会議 #2
ttp://doom.on.arena.ne.jp/cgi-bin/giko/hinan/test/read.cgi?bbs=erog&key=012551729


葱板バトルロワイアル 保管サイト第一避難所
ttp://d1s.skr.jp/ergr/top.html
編集サイト(現在休止中?)
tp://syokikan.tripod.com/

646名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:49:24

◆参加者1(○=生存 ×=死亡)

○ 01:ユリーシャ  DARCROWS@アリスソフト
○ 02:ランス  ランス1〜4.2、鬼畜王ランス@アリスソフト
× 03:伊頭遺作  遺作@エルフ
× 04:伊頭臭作  臭作@エルフ
× 05:伊頭鬼作  鬼作@エルフ
× 06:タイガージョー  OnlyYou、OnlyYou リ・クルス@アリスソフト  
× 07:堂島薫  果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
○ 08:高町恭也  とらいあんぐるハート3 SweetsongForever@ivory
× 09:グレン  Fifth@RUNE
× 10:貴神雷贈  大悪司@アリスソフト
× 11:エーリヒ・フォン・マンシュタイン  ドイツ軍
○ 12:魔窟堂野武彦  ぷろすちゅーでんとGOOD@アリスソフト  
× 13:海原琢磨呂  野々村病院の人々@エルフ
× 14:アズライト  デアボリカ@アリスソフト  
× 15:高原美奈子  THEガッツ!1〜3@オーサリングヘヴン  
○ 16:朽木双葉  グリーン・グリーン@GROOVER
× 17:神条真人  最後に奏でる狂想曲@たっちー
× 18:星川翼  夜が来る!@アリスソフト  
× 19:松倉藍(獣覚醒Ver)  果てしなく青い、この空の下で・・・。@TOPCAT
× 20:勝沼紳一  悪夢、絶望@StudioMebius

647名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:49:42

◆参加者2(○=生存 ×=死亡)

× 21:柏木千鶴  痕@Leaf
× 22:紫堂神楽  神語@EuphonyProduction
○ 23:アイン  ファントム 〜Phantom of Inferno〜@nitro+
× 24:なみ  ドリル少女 スパイラル・なみ@Evolution
× 25:涼宮遙  君が望む永遠@age
× 26:グレン・コリンズ  EDEN1〜3@フォレスター
× 27:常葉愛  ぶるまー2000@LiarSoft
○ 28:しおり  はじめてのおるすばん@ZERO
× 29:さおり  はじめてのおるすばん@ZERO
× 30:木ノ下泰男  Piaキャロットへようこそ@カクテルソフト
× 31:篠原秋穂  五月倶楽部@覇王
× 32:法条まりな EVE 〜burst error〜@シーズウェア  
× 33:クレア・バートン  殻の中の小鳥・雛鳥の囀@STUDiO B-ROOM
× 34:アリスメンディ  ローデビル!@ブラックライト
× 35:広田寛  家族計画@D.O.  
○ 36:月夜御名紗霧  Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
× 37:猪乃健  Rumble〜バンカラ夜叉姫〜@ペンギンワークス
○ 38:広場まひる  ねがぽじ@Active
× 39:シャロン  WordsWorth@エルフ
○ 40:仁村知佳  とらいあんぐるハート2@ivory

648名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:49:55

◆運営側(○=生存 ×=死亡)

○ 主催者:ザドゥ  狂拳伝説クレイジーナックル&2@ZyX
× 刺客1:素敵医師  大悪司@アリスソフト  
○ 刺客2:カモミール・芹沢  行殺!新選組@LiarSoft
○ 刺客3:椎名智機  將姫@シーズウェア
○ 刺客4:ケイブリス  鬼畜王ランス@アリスソフト
○ 監察官:御陵透子  senseoff@otherwise

649名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:55:58
以上です。

ERROR!
リンクURLを含む投稿を許可しない設定になっています。
掲示板内の規制に関しましては掲示板管理者へお問い合わせください。

とのことでしたので、http の h を抜いて書き込みました。
お手数ですがスレ建て時には、外部(避難所等)以外のリンクに
h を加えていただけますようお願いします。

650名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 00:59:03
>>640
該当箇所を以下のように修正しようと思います。
どうでしょうか?

   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

「オリジナルと密談中のケイブリスからは、協力が得られそうかな?」
「まず無理だと判断するよ。部屋の鍵が掛けられているし、無線にも応答しないからな」
「おまけに室内には電磁シールド。音声すら拾わせない念の入れ様だ」

N−22は思い出す。数分前、オリジナル智機が管制室に戻ってきた時のことを。
何故、起動できた?――― DMN権限を取得したからね。
何故、取得できた?――― 最高指揮官ザドゥ様より与えられましたので。
その2つの質疑応答のみで、オリジナルは管制室を出て行った。
彼女は皮肉の一つも口に出さずあっさり引いたオリジナルに違和感を覚える。

(気にはなる――― が、先ず為すべきはザドゥ救出、火災対策の両タスクだ)

ゲーム進行の円滑化という判断基準が、N−22のオリジナルに対する考察を封じた。
優先評価点が高い事項を差し置いて、低い事項が取り上げられることは機構上有り得ない。

651284:2008/12/01(月) 07:16:28
>>641
あ、本投下してもいいんですか。
ありがとうございます。
方法はどちらでも構いませんので。数分間の出来事ですし。
追加部分の投下は『終わる長い夢』の直後になると思います。

『終わる長い夢』は遙やタカさんの事にも触れられているので、
内容的にまずいんでしたら本スレの報告の際、そのレスアンカーを除きます。

>>643
OKです。

652名無しさん@初回限定:2008/12/01(月) 23:40:04
>>643-
此方もOKです。

>>650
お手数かけてすみません。
ありがとうございます。
これでOKそうです。

>>651
では、少し修正を加えますね。

ということで修正を加え、明晩に新スレ立てと本投下を行なおうと思います。
大丈夫でしょうか?

653284:2008/12/01(月) 23:56:56
>>652
大丈夫です。
投下は午前1時前後になりそうです。

654終わる長い夢(無題 修正版):2008/12/02(火) 02:06:23

>>614->>628

(二日目 PM6:13 東の森・双葉への道)

広場中央には長谷川の姿はなかった。
辺りは炎と煙に囲まれ、巨木の近くにいただろう、双葉の姿を確認する事もできない。

「た……」

さっきから耳鳴りがする。巨木が倒れた時からだ。
わたしはそれに構わず、追跡を続行するため、即座に広場の外周を観察した。

「そこね」

一ヶ所だけ火が途切れてる箇所があるのを見つけた。
罠の可能性も考えて、わたしは他に抜け道がないかどうか観察する。
……今度は見当たらない。長谷川はあそこから逃げたのだろうか?

ドズンッ!

「!」

背後に大きな物体が落ちる音がした。
燃え盛る音と熱風が一層強くなったような気がした。
耳鳴りもいっそう強くなった。
わたしは他に道は無いと悟り、抜け道の入り口まで走った。

「え……」

目の前が急に暗くなった。

655終わる長い夢(2):2008/12/02(火) 02:06:57

わたしは急停止し、不安を打ち払うように視線を下にして目を何度も瞬かせた。
徐々に視界が元に戻り、それから地面を凝視すると火に照らされた枯れ草がはっきり確認できる。
幸いにも視覚障害に陥った訳ではなさそうだ。
これもカオス使用の副作用だろうか?
わたしは前を見つめつつ、姿勢を低くしながらゆっくりと走る。
この道もわたしを誘い出すためのものだろうか?

……別にそれでも構わない。
いくら翻弄されようと最後に奴をこの手で始末さえできれば、それでいい。
病院で撃った時、猛獣でさえ殺せる攻撃を当てたのにも関わらず奴は生きていた。
だから今度こそ追いついて、確実に始末する。
その後、わたしは火災から逃げる時間と余力を失い命を失う事になる。
それでもいい。
遙を……ようやく持てたわたしの夢を踏みにじったあの男を始末できれば、それでいい。

……キーーーーーーーーン…………

うるさい。
わたしは耳鳴りを打ち消すように頭を振る。
双葉の生死は確認できてない。
彼女の扱うまやかしを警戒し、眼前の道自体が幻でないかどうか凝視する。
経験上は安全……それ以上は判断の材料もないのは確かだけれど、行くしかない。
最悪、無駄死に覚悟でその道にゆっくりと足を踏み入れる。
進んで行くと、両端には遠目ながらも燃え移っていない木や草がところどころ確認できた。

わたしは姿勢を屈め、ゆっくり前進していく。
うっとうしい耳鳴りは未だに続いている。
戦闘に支障がなければいいのだけれど……。

656終わる長い夢(3):2008/12/02(火) 02:07:40

左目が失明してるのはもとより、胃とわき腹も痛む。
力を出し切れるだろうか……アインである以上命を失う事に恐れはない。
けれど……。
長谷川は2人がかりだったとはいえ、あのザドゥと長時間渡り合ったほどの相手。
簡単にはいかないだろう。

「…………」

ぱちっ……ぱちぱちぱちっ、バキばき……

突然、両脇の樹が爆ぜて火の粉が舞った。
舞った火の粉は燃えてない木々にいくつか飛ぶ。
駄目ね……急がないと。
わずかに歩幅を広く、わずかに歩調を速めながらわたしは進んだ。
耳鳴りに連動するように、後方から熱風が流れる音が聞こえた。

「!?」

足元に異物感。何?
そしていきなり目の前に黒い塊が倒れてきた。

ドンッ!!

大木の欠片が砕け、周囲に飛び交う。
遅れた!
わたしは息を止め、腕で防御しながら全速力で迂回する。
すぐ横には火が上がっていたが、数センチぎりぎりの距離で通り過ぎた。
距離を置いてから、一瞬だけ振り向き、後方から火の手が来ないのを確認した。
息継ぎをしさらに前進した。

657終わる長い夢(4):2008/12/02(火) 02:08:20

「はぁ……はぁ……ごほっごほっ……」

しまった。
火の粉はわたしに移らなかったが、少し煙を吸いこんでしまった。

「ごほっごほっ……ごほっ……」

わたしはすすを吐き出そうと懸命に何度も咳をした。
胃と肺も痛んだ。
そんな状態でも耳鳴りは続いてる。さすがに困った。

「はぁ……はぁ……」

わたしは咳をし終え、ゆっくりと追跡を再開した。
……火が広がるのが早すぎる。
あの子供が放火して回らない限り、ここまで早くはならないはず。
双葉が再度あの子を言いくるめて、放火の指示を出したのだろうか?
……彼女の性格上それが出来るとは考えにくいが、可能性はゼロではない。
もし、この先にあの子供と双葉が生きて、長谷川と一緒にわたしを待っているとしたなら。
カオスがない今、それこそ……

「地獄ね」

…………こんな陳腐な台詞は自らの不幸を嘆いて言ったわけじゃない。。
口にしなければよかった。
これから先、わたしがどんな最期を迎えたところで、この島でも、現実でも悪い方向での大きな変化はないに違いない。
ただ……玲二に心配をかけてしまうかも知れないのが心残りだけれど。
それに、この火災にしたって、わたしと長谷川以外で死ぬのは一人も出ないかも知れないのに……。

658終わる長い夢(5):2008/12/02(火) 02:09:10

「……っ」

腕が突然痛み出し、わたしは小さく声をあげた。
一体、何?
右目で左腕を見た。
服の裾が燃えていた。

「!?」

わたしは火を消そうと、屈んで左腕を地面に擦り付ける。
あの時、着火していた。
そんな、気づけなかったの?
わたしは懸命に火を消そうとする。
火はすぐに消えた。

「……」

わたしは呆然としながら、おぼつかない足取りながら進んだ。
自ら吐いた息が冷たく澱んだもに変わったような気がした。
焼けた裾の布を払った。
見ると左腕に火傷があった。
少し痛むが動きに支障がない軽度のものと判断できた。
だけど、わたしは少しも安心なんかできなかった。

こんな……こんなミスをするなんて……。
動悸が高まって、冷や汗が流れ落ちた。
戦闘や訓練で傷を負ったことは幾らでもある。

659終わる長い夢(6):2008/12/02(火) 02:09:41

けど、こんなつまらない事で怪我をしたことは記憶のある限りない。
こつんと、つま先が何かにぶつかった。
はっとして足元を見ると、それはまたも石だった。

……頭が痛く、暑いはずなのに何か寒くなってきた。
それに伴い耳鳴りも強くなった。足も重くなったような気がした。

「わたし……」

思わず出した呟きは力なかった。
わたしは落ち着きを取り戻そうと、心を静めようと目を瞑り自身をコントロールしようとした。
それを実行する前に――目の前が突然真っ暗になった。

660終わる長い夢(7):2008/12/02(火) 02:10:15

       □       ■       □        ■

――今日、わたしはここを出る。
目の前には薄暗く、古びた木の板で作られた部屋がある。
わたしは手荷物を下ろし、腰を降ろして両手をあごに乗せて感慨深げに部屋をみた。
家具などはなく、部屋はがらんどうだった。
そこは昨日までのわたしの居場所。
物心が付く前、わたしはここに連れて来られた。
故郷から攫われ、ここに売られたのだ。

……でもわたしはそれほど自分を不幸だと思ったことはない。
聞いた話だと、わたしの故郷と思わしき国は飢饉に見舞われて、
多くの人は明日とも知れない日々をすごしているようだったから。
ここに連れてこられなければ、飢え死にしていたのかも知れない。
そう思えばあまり辛くなかった。

この町の外にしたって頼るものなく生きようとするのには、かなりの苦労が必要だろう。
何度も町の外を見ていただけにわかる。
外で生きていくのには積極的に奪う側になるか、奪われ尽くされるかのどちらかの道を、
選択せざるを得ない暴力の世界が待ってるに違いなかったから。

それはできない。
いつの日か、憂さ晴らしにわたしを虐めに来た子を返討ちにした時でさえ、
やりすぎて大怪我させたあの子の友達からの、非難と恨みのこもったまなざしには結構応えたんだ。
わたしはいくつもの深い恨みを買ってまで、ずぶとく生きて行ける自信なんて多分ない。
そんな不毛な道を選ぶくらいなら、まだここにいた方がいいと思う。
……あまりいいところとは言えないけれど、ここでよかった。
勉強させてくれたし、周りの人が結構気遣ってくれたのが解っていたから。

661終わる長い夢(8):2008/12/02(火) 02:10:54

……けれど、それも今日で終わり。
わたしを引き取りに、あの銀髪の陽気な人が迎えに来る。
数日前、わたしを養女にしたいと申し出にきたどこかの国のお金持ち。
店の人が身元を確認した限りでは、大丈夫そうとのことだった。

引き取り先が外国の軍隊とかだったら、どうしようかと思ってただけに安心した。
左の薬指が少し痛んだ。
わたしは怪我した指を見た。
数日前に料理を作ってる時に、切ってしまったんで包帯を巻いてある。
この間は火傷をした。 
やっぱり無理よ。

「……」

外国に行くのに少し、恐い気持ちもある。
あの人にちょっとうさん臭い所があるのは確かだし、この家への未練があるのも確か。
けど、こんな理由で拒むわけにもいかないし、断ったところでもうこんな機会は訪れないかも知れない。
ここには大金が手に入り、わたしがいなくなった分だけ負担が減る。
何より周りの子に疎外感を味あわせなくてすむのなら、これでいい。
これでいい……さみしいけれど……。

わたしは立ち上がりつつもう一度部屋を凝視した。
薄汚く辛気臭いなんの魅力もない部屋。
お香を買ってもらえなかったら、部屋変えを頼んだかもしれない。
けど、それはもう過ぎたこと。
わたしは笑みを浮かべた。
ガタガタと窓が揺れる音が聞こえる。強い風が吹いてるのだろうか?

662終わる長い夢(9):2008/12/02(火) 02:11:25

わたしは窓際まで行き、窓を開ける。
冷たく、心地よい風が流れ込んできた。
あと5分くらいで迎えに来るはず。
向こうにもこれくらい良い風が吹いているのだろうか?
わたしは窓から空を見上げた。
雲がほとんどない青い空が広がっていた。
いい天気……。

ここはいい所とはとても『外』では言えないけれど、それでもわたしの人生の大半をすごした場所。
今日、この日だけは良い所だったとひとりで思いたい。
来る事はもうないけれど、ここを発つ今日という日は忘れない。

わたしの夢。
いつの日かわたしが――。

663終わる長い夢(10):2008/12/02(火) 02:12:09

目の前には地面。
わたしはとっさに両脚に力を入れて強く地面を踏みしめ、前倒しになるのを防いだ。
息を荒く吐き、ゆっくりと顔を上げる。
見えるのは相変わらずの灼熱地獄の中にいることを確認させられる現実。
やや上方を見た。煙が他の場所より明らかに薄くなっていた。
わたしはそれをチャンスと判断し、歩行スピードを少し上げた。
先には燃え残ってる木や草が認められた。
耳鳴りは続いていたが、さっきよりは小さくうるさいと感じられない。

「…………」

吹雪。枯れた草。動物の鳴き声。見知らぬ大人たち、車の中。白い肌のわたし。
古い建物。 長い髪。中年女。お香。古びた窓。怪我した子供。こちらを睨む子供。銀髪の中年男。

一瞬、気を失った時見えたこれらの映像は、白昼夢か、双葉のまやかしか、
カオス使用における後遺症だったのだろう。
気にしてはいけない。
わたしの心と肉体は奴を殺す事で占められなければならないから。
なぜならどれもこれも身に覚えはあるけど、あやふやで気の所為にできるものだから。
現に、わたしに迷いは……。

「え……」

意に反して足は止まった。
気を取り直し小走りに進もうとした、ゆっくり歩いたのみだった。

664終わる長い夢(11):2008/12/02(火) 02:13:10

「何故……?」

耳鳴りがまた強くなった、それに頭が痛く、いえ何か鮮明に……。
脳裏にさっき見た映像のようなものがゆっくりと順に浮かんでいく。
一巡りすると、耳鳴りがまた小さくなり、映像は浮かばなくなった。
もう一度、思い出そうとした。
一瞬だけ、銀髪の男の映像だけが出たがすぐ消える。
わたしは反射的に空を見た。

目に入ったのは炎と黒煙。
嫌な光景……。
また思い浮かべようとする、鮮明じゃないけどぼんやりと何かが浮かんだ。
しかし、浮かぶのはここまで、それ以上深くそれらを知ることはできそうになかった。
銀髪の男が何者であったか以外は。

「走馬灯なの? わたしがそんなものを見るとはね……」

わたしは鼻で笑った。
誤魔化すように。
走馬灯ならこれまで記憶にあったものが、浮かんでくるはずなのに浮かばなかった。
夢にしてはひどく心を引き付けられる映像……いや記憶。
あの銀髪の男がかつてのマスターと同一で。
その映像にいたサイスに対して、懐かしくも新鮮さを感じたという事は……。
何よりそれらを心の奥底で否定できないのは何故。
さっき浮かんで、もう思い出せない記憶を何故わたしは強く求めてるの?
けっして夢でも走馬灯でもない。
これは……。

665終わる長い夢(12):2008/12/02(火) 02:13:42

わたしは足を止めて言った。

「死と地獄を受け入れる覚悟は……していたつもりだったけど、これはなかったわ」

声が震えていた。
長谷川らに事前に薬を打たれていたからだろうか?
一酸化炭素中毒の所為だからだろうか?
カオスを使った後遺症だからだろうか?
理由はいい。
断片的にしか蘇ってない記憶を、サイスに消された記憶をこれから取り戻す事ができるなら。
これから先……。
わたしは顔を睦向かせて、頭を振った。
……けれど 。

「駄目……ごめんなさい玲二」

わたしは同じ苦しみを味わっていた、ここにはいない彼の名をかすれた声で呼んだ。
元の世界で再会してその事を伝えることができたなら、どれだけ彼を安心させることが出来るだろう。
でも……それはもう叶わない。
何故なら、わたしにはもうひとつしか進める道が残されてないから。
でも、それも。
わたしは右腕の火傷を見た。

「……わたしはできるの」

もし長谷川に倒されてしまえば、奴の欲望を叶えるだけの人形に変えられてしまうだろう。
ファントムより醜く悪い存在に変えられてしまう。
弱くなったわたしに奴を殺すことができるの? できるの?

666終わる長い夢(13):2008/12/02(火) 02:14:50

「……」

わたしは右手を上げて……
拳を額に叩き付けた。

「…………何を弱気な事を言ってるの」

痛みとともに、不安が消えていくのを感じた。
このゲームの趣旨に反する事、自体が非常に無謀なもの。
首輪を付けられてた時点で、神のような存在に命を握られてる時点で何を恐れてるの。
倒れてた遙を殺さなかった時点で、もう心は決めていたはずなのに。

「遙」

彼女を手にかけ、長谷川に踊らされたと知ったとき、遙の心を理解できず守りきれなかった悔しさと絶望、
そして奴に対する憎しみがわたしの心を支配した。
だから最初の誓いの代わりに、奴を追い始末することを目的に変えてここまで来た。
わたしは遙が持っていた写真に写っていた光景を思い出す。
許す訳にはいかない……どんな人も実験材料や玩具としてしか見ない、長谷川やサイスのような奴を。
たとえ届かなくても……追うのを止める訳には行かない。
不意に視界が一瞬暗転し、戻ると声が聞こえた。

『頼むよ……』

女の人の声。
昨夜、わたしが殺めた……大柄な女の人の遺言だった。
胸が微かに痛んだ。
わたしは追跡を再開した。

667終わる長い夢(14):2008/12/02(火) 02:16:57

「ひどいわ……」

わたしは小さくつぶやいた。
彼女はわたしに殺害を依頼してから、そう言って眠りについた。
迷ったけれど、彼女の依頼どおりに殺害を実行した。
魔窟堂と別れる口実にする意図が、全くなかったと言えば嘘になるかも知れない。
それでも……名前を思い出せないけれど、残された羽を生やしたあの少女の事を思うと、
この島に来るまで無抵抗の人を殺せなかったわたしにとっても、彼女の頼みは酷だと思った。

あの少女が素人同然の力しか持ってるようにしか見えなかったとはいえ。
憎しみが人を強くするとはいえ。
わたしと同じ道を歩ませた挙句、再会さえしないまま勝手にここで果てるのも酷いと思う。
また視界が暗転して、またさっきの記憶が幾つも浮かんで、新しく記憶もいくつか浮かんで消えた。

「……」

今度はサイスの記憶だけじゃなく、いくつかの記憶が脳裏に残った。
わたしは奇妙な充実感を感じて、わずかに身体を震わせる。
こんな道を歩んでいなければ……生き残って――遙たちと一緒に主催を倒せたならどれだけ良かった事だろう。
先ほどザドゥに対して願いを拒否する事をわたしは示した。
彼らの上に立つ者は少しも信用できなかったし、長谷川を殺せればそれで良かったとさえ思っていたから。
だけどもし願いを叶えられる程の力が、やり方次第で自称神以外にも利用することが可能だったなら。

何らかの形でもこれまで犯した償いようがない過ちを償うことが出来るなら。
たとえ償える可能性がゼロに等しくても。玲二の身に起こったような希望がここにもあるなら……。
考え込むわたしの耳に、ごぉっとどこかで炎が強くなった音が聞こえた。
わたしは深く深くため息をついて、言った。

668終わる長い夢(15):2008/12/02(火) 02:19:56

「もう、これでいい」

記憶を完全に取り戻せなくても、いい。
これだけ思い出せただけでも充分よ。
わたしは長谷川を初めとする主催者達の事を考える。
長谷川は主催いう名の複数ある駒の一つに過ぎない。
ザドゥに遠く及ばない奴相手でさえ、わたしはあそこまで翻弄され続けた。
他の強大な力を持つ主催者たちはいる。
そんな高望みはもうできない。
例え、すぐに奴を殺せたとしても、この火の中、わたしが生き残れる手段は思いつかない。
そして失った記憶を完全に取り戻すのを待てば、奴を始末する時間がなくなる。
もう手遅れなんだ。

「ごめんなさい……」

わたしは搾り出すように目を瞑りながら言った。
声はかすれて、目が痛かった。
これを最後に、もう叶わないだろう希望は考えないことにする。
心は凍てついたままでいい。
今は残る力を最大限に使う為に感情を殺し、殺意で心を満たす。

わたしはまっすぐ前を見つめ、今度こそ迷わず先を進んだ。

                ↓

669Why?(4):2008/12/02(火) 02:50:41
>>610


まひるはその様子に不吉さを感じて、思わず後ずさった。
魔窟堂は熱いまなざしで紗霧の目を見つめ続けている。
そして、さっきまで悶絶していたランスは力ない声で、だがはっきりと言った。

「まひるちゃん……サイズはいくつだ……」
「え、え、えと、あたしでもちょっと大きいくらいかな、かな?」

動転しながらまひるは何とか答えた。

「そうか……」

ランスはゆっくり息を吐き出すと、ユリーシャの一瞥してから『アレ』を視線を移して言った。

「残念だ」

そんなランスを見て、ユリーシャは苦笑いをした。

「お、そんな趣味?」
「特にこだわってねーが、中々いいデザインしてるし、いい素材使ってそうだし着てくれると嬉しいけどなー」
「あはは……」

ユリーシャはランスの妙に自信溢れる台詞を聞いて苦笑いした。
いつか私は似た服を着せられてしまうんでしょうか?と思いながら。
請われたら多分承諾してしまうだろうが、だからといって出自が出自だけに着るのは抵抗感があった。
彼女の実家にいる芋好きの褐色肌の侍女の事を思い出しつつも、あの紗霧と魔窟堂を見続ける。

670Why?(5+追記):2008/12/02(火) 02:51:44

「着ませんよ」

紗霧は不機嫌な声で言った。
魔窟堂の表情が落胆に沈んだ。
紗霧の眉間にしわが刻まれる。
未だに『それ』を両手に持ったままのまひるを見ながら恭也は思った。

(何でお手伝いさんの……メイドさんの服があったんだろう)

さっきメイド服を着た知佳の姿を想像し、笑みを浮かべてしまった己をちょっと恥じた。

「まさかと思いますが……その服、アインさんにも薦めるのではないでしょうね」
「…………」

魔窟堂は思った。

(その発想は無かった)

紗霧は沈黙を肯定と受け取り言った。

「見限られたいんですか、ジジイ」
「さ、紗霧殿!どうしたんじゃ? おぬしやけに短気じゃぞ!」

バットを握り締めた紗霧に対し、身の危険をますます感じた魔窟堂が叫ぶ。
メイド服とデイパックを恭也に預け、たまりかねたまひるが2人の間に入った。
事態は何とか収拾しそうだった。

                              ↓

【広場まひる(元№38)】の所持品、服3着の内一つは最高品質(防具にあらず)のメイド服でした。

671名無しさん@初回限定:2008/12/02(火) 02:55:41
遅れてしまいましたが、何とか仮投下完了です。
明日以降、修正報告と次スレのアドレス投下の後
無題改め『Why?』を投下します。

672名無しさん@初回限定:2008/12/03(水) 01:06:36
修正&新スレ立て&テンプレ貼り&投下完了しました。

ま、まさか投下完了に一時間半もかかるとは!

それでは予定した通り明日はちょっと無理かもしれないので明後日辺りに後編を投下します。

673名無しさん@初回限定:2008/12/03(水) 03:27:11
これから『Why?』の本投下を始めます。




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