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【場】『 大通り ―星見街道― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:00:31
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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647三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/01(金) 22:58:37
>>646

「あっ、鉄先輩――」

      パァッ

「こんにちは」

      ペコリ

「どうぞ、またお会いできて嬉しいです」

知っている顔を見かけて、自然と表情が綻びました。
それから、背中の竹刀袋に視線を向けます。
先輩は、やっぱり剣道部の帰りでしょうか。

「そういえば――」

「鉄先輩は高等部二年の日沼流月先輩を知っていますか?」

少し前のことを思い出しました。
一緒にお話してくれた先輩です。
確か、鉄先輩と同学年だったと思います。

648鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/01(金) 23:09:54
>>647

「ありがとう」ペコリ

幼くも礼儀正しい三枝さんに合わせて、こちらも礼をして椅子に座る。
竹刀袋は邪魔にならないように、椅子の背もたれに引っ掛けておいた。

「・・・日沼さん?」「一応知ってる、かな」「話したことはないけれど」

ただその名字は聞いたことがあるし、恐らく遠巻きながら姿も見たことがあるはずだ。
なかなか派手な髪色をしていて、いわゆる『不良』的なグループの1人らしい、と耳にした。
そのグループに関して根も葉もない噂はいくつかあるが、そこまでは言わなくていいだろう。

「三枝さんこそ、どうして日沼さんを知っているんだ?」

『メニュー』を開きながら、訊ねる。
三枝さんとは学年も違うが、何よりあまりに『タイプ』が違う。接点はないように思えてしまう。

649三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/01(金) 23:32:16
>>648

「そうですか――」

「日沼先輩にも、同じような事を言われました」

やっぱり、なかなか深い親交というのは見当たらないようです。
生徒数の多い学校だからでしょうか。
でも、それは構いません。

「『超能力』です」

鉄先輩の質問に、真面目な顔つきで返しました。
そして、すぐに口元を緩めます。
本当は違うからです。

「――――だったらビックリしますか?」

          クスクス

「『冗談』です」

普段よりも子供っぽい笑顔で、そう言いました。
目指す『立派な人』になるためには、ユーモアも理解していないといけません。
『本当の本当』は、少しだけ『本当』ですけど。

「この前、学校で少しお話したからです」

「鉄先輩のことを話したら、千草が感謝していることを伝えてくれると言ってくれました」

「日沼先輩は親しみやすくて、良い先輩だと思いました」

650鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/01(金) 23:52:19
>>649

>「日沼先輩にも、同じような事を言われました」

「…だろうなぁ」

その言葉に深く頷く。
今泉さんのように顔が広い子ならともかく、ましてや自分はさほど知り合いは多くない。
同じ学年といえど、同じ部活や同じクラス、あるいはそうだった過去があるか、
または友人の友人という繋がりでもない限り、なかなか知り合いになることはない。
それこそ、自分にとっての鳥舟さんや平石さんのように。

>「『超能力』です」

「─────」

『スタンド使い』という共通点がなければ。
そう思っていた矢先に投げかけられた言葉に、『メニュー』を読んでいた手が止まり、
バッと三枝さんを見上げる。だが、その真意を問おうとするよりも早く。

>「――――だったらビックリしますか?」

>          クスクス

>「『冗談』です」

「・・・いや、中々『冗談』が上手いな、三枝さんは」

応じるように、こちらも口角を上げる。
子供は時々、驚くほど本質を見抜くことがあるという。一瞬だけ、その笑みも、全てを知った上での事のように思えてしまった。
が、流石にそれは妄想に過ぎないだろう。ただ最近自分の知り合いに『スタンド使い』が多かったので、過敏になっているだけだ。

「…そうか」「日沼さんはいい人なんだな」「今度、オレからも話しかけてみるよ」

正直、三枝さんの言葉はあまりに意外だったが、確かに自分とて日沼さんと直接話したことがあるわけではない。
ならば、実際に言葉を交わしたこの少女の言葉を信じるべきだ。それに、いい人ならそれに越したことはない。

「オレは『黒蜜ときなこのプリン』にしようかな」「三枝さんは?」

651三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/02(土) 00:12:45
>>650

「はい――」

そう答える表情は、心なしか少し誇らしげに見えました。
何だか、自分が二人の先輩の架け橋になれたように感じたからです。
少しだけ――ほんの少しだけ、『立派な人』に近付けた気がして嬉しく思いました。

「千草は『フルーツあんみつ』にします」

言いながら、メニューの一点を指差します。
あんみつは好きなのですが、今日はフルーツあんみつの気分です。
それから、出しっぱなしになっていたノートを脇に片付けましょう。

「鉄先輩は部活動の帰りですか?」

「ご苦労様です」

       ペコリ

鉄先輩は立派な人です。
それを少しでも見習っていきたいです。
千草は、まだまだ未熟者ですから。

652鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/02(土) 00:27:09
>>651

「お、いいセンスだ」
「すみません、注文をお願いします」

いいセンスと言ったのは、実際自分も『あんみつ』にするか迷ったからなのだが。
とにかく、運良く男性のウェイターが通りがかったので、2人分の品を注文する。
そのままメニューも持っていってもらった。

「そうだよ。もう少しで『大会』もあるから、頑張らなきゃな」
「三枝さんは?ここでテスト勉強とか?」

カバンからファイルを取り出しながら、こちらからも訊ねる。

653三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/02(土) 00:50:23
>>652

「剣道の大会――ですか」

テレビか何かで見かけたような覚えはあります。
でも、実際に見たことはありませんし、詳しい内容までは分かりません。
ただ、きっと凄いものなんだろうという想像くらいは千草にもできます。

「千草には何もできませんが」

「でも、鉄先輩のことを応援しています」

「先輩も千草のことを応援してくれましたから」

        ニコリ

以前に神社の近くで出会った時のことを思い出しました。
その時、鉄先輩は千草が立候補したら応援してくれると言ってくれました。
だから、千草も先輩を応援したいのです。

「生徒会会議の『議事録』の整理です」

「書記として、正式に生徒会に加わることになったので」

       ペコリ

「鉄先輩が応援して下さったおかげです」

でも、まだまだです。
千草は、もっともっと成長したいのです。
そのためには常に上を、常に先を見つめなければいけません。

654鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/02(土) 01:07:42
>>653

>「千草には何もできませんが」

>「でも、鉄先輩のことを応援しています」

>「先輩も千草のことを応援してくれましたから」

「・・・いや」「そう言ってくれる人がいる事が、オレにとっては何より力になる」
「ありがとう、三枝さん」ペコリ

両手に膝を置き、頭を下げて感謝を示す。
『団体戦』のレギュラーは、あと一歩のところで。…本当に、僅かな差で落としてしまったが。
『個人戦』のレギュラーは、まだ確定していない。ここからの挽回次第では、チャンスはある。
自分の心が抱える問題さえクリアできれば、だが。

しかし、その次に聞いた報告は、そんな憂いを吹き飛ばすように喜ばしいものだった。

「そうか、三枝さんは『生徒会』に入れたのか!」「おめでとう」「目標が1つ、叶ったな」

あの神社でこの少女が口にした望み。
それが叶ったかどうかはずっと気になっていたが、これはとても嬉しい事実だ。

「偉いなぁ、三枝さんは」「ここでも『お仕事』をしてたんだな」

素直に感動しながらも、自分もファイルからこの街の地図を取り出して、スマホを隣に並べた。
こちらもお仕事というほどではないが、私用を片付けておこう。

655三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/02(土) 01:35:24
>>654

「えへ……」

「――ありがとうございます」

     ペコリ

今日一番の嬉しそうな表情で、頭を下げました。
本当に嬉しかったからです。
生徒会に入れたことでも、それを祝ってもらえたからでもありません。
その二つも嬉しいことですが、
それよりもお互いに応援しあえる関係を築けていることが嬉しいのです。
それは、得た結果よりも尊いものだと千草は思っています。

「他に『雑用』も幾つかやらせてもらっています」

「いつか『生徒会長』になるのが、次の目標です」

「そのために、今は与えられた仕事を精一杯やっていきます」

一つ一つの言葉を噛み締めるように、実現させたい展望を語ります。
いつかは叶えたい目標です。
でも、そこで終わりではありません。
もし、そこに辿り着けたら、さらに先を目指したいのです。
千草の『最終目標』は、その向こう側にあるのですから。

「鉄先輩――どこかにお出かけの予定ですか?」

先輩が取り出した地図を眺めながら尋ねます。
この街ということは、それほど遠くではなさそうですが。
どこか地図に印などがしてあるのでしょうか?

656鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/02(土) 22:15:45
>>655

「『生徒会長』か…更に大きく出たな」

『生徒会』に入ることそれ自体も容易いことではないと思うが、
更に『生徒会長』となれば、尚更だ。学園の中で、生徒代表とも言える立場にあるからだ。
それに相応しい人望と能力が求められる。

「でも、きっと三枝さんなら大丈夫だ」「真面目で勤勉なキミなら」

そう言えるくらい、自分はこの少女に好感を覚えている。
重ね合わせるのは彼女に失礼かもしれないが、自分も器用に色々とこなすというより
地道に少しずつ努力を重ねていくタイプだ。だから三枝さんの成功も、我が事のように嬉しいのかもしれない。

「あぁ…出かけるわけじゃあないんだ」「ちょっと、この街の危ない所をマークしておきたくてな」


鉄が広げた地図の中には、幾つかの印がしてある。
緑色の丸は、『ホームセンター』『大型ディスカウントストア』『骨董品店』などに記されている。
また赤色の丸は、時刻の他に『通り魔』『暴行事件』など備考が記されていた。
スマホを見ながら、鉄は更に地図の上に赤色の丸を書き記していく。


「三枝さんも、気をつけて」「生徒会で遅くなった時は、2人以上で帰ったりとか」

「…お、来たな」

『お待たせいたしました』

注文の品が届き、店員が『フルーツあんみつ』と『黒蜜ときなこのプリン』をテーブルの上に置いた。

657三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/03(日) 00:09:29
>>656

千草は何よりも『死』を恐れています。
だから、それを連想させる言葉も怖いのです。
普段は、目に入れないように意識しているのですが――。

「 あ 」

      プイッ

赤丸に書かれた言葉を見て、一段階高い声を上げて反射的に顔を逸らしました。
『通り魔』や『暴行』――そういう単語を見ると千草は『死』を連想します。
だから、無意識に反応してしまったのです。

         スゥー……

こういう時は、まず深呼吸です。
どうにか気持ちが落ち着いてきました。
予想していなかったので、少し驚きましたが。

「――――はい、ありがとうございます」

     ニコリ

「鉄先輩も気を付けてください」

「でも、先輩なら大丈夫かもしれませんけど――――」

その時、ちょうど品物が運ばれてきました。
話すのを途中で止めて、あんみつを一口食べます。
鉄先輩が大丈夫だと思う理由は、もちろん『アレ』です。

「だって鉄先輩は、8年も『剣道』を続けてらっしゃるんですから」

竹刀袋の方に視線を向け、そう言いました。
だけど、不思議なことだと思います。
どうして先輩は、こんなに熱心なのでしょうか。

「……朝陽先輩のお加減はどうですか?」

神社から帰る途中で鉄先輩から聞いた話を思い出します。
朝陽先輩はピアノが上手で、今は腕を怪我しているとのことでした。
あの時も、つい千草は少し耳を塞いでしまいましたが……。

658鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/03(日) 00:35:20
>>657

「!」

「・・・すまない」「無神経だった」

地図を見て目を逸らす三枝さんに、深く頭を下げる。
家での作業を当事者の妹に見られる訳にはいかないと思ってここでやる予定だったが、
そもそも並んでいる字面だけで、女の子にとって気分の良いものではなかったのだろう。
こういった気遣いが欠けている己の無神経さを悔やみ、反省する。
地図を折り畳み、再びファイルへとしまった。
妹が寝静まった後や、あるいは学校の図書室など、他にできる場所はある。焦る必要はない。

「ありがとうございます」

店員へ礼を言い、プリンを自分の前へと置いた。
せっかく喜ばしい出来事があったのだ、気分を切り替えていこう。

「どうかな、こういう場合は『剣道』より『空手』や『柔道』の方が強そうだけど───」ハハハ
「まぁでも、そういう状況になったとしても負けるつもりはない」
「だから安心して、頼ってくれ」

『剣道』で勝てる相手ならそれでいい。そうでなかった時のために、手にした『シヴァルリー』だ。

「・・・・・ほとんど完治したよ」「以前のように動かすには、少しリハビリが必要だけどな」

「そういえば、あの時の三枝さんの『お願い』は叶ったのかい?」

妹、朝陽のことを話したあの帰り道を思い出して、訊ねる。
カラメルの代わりに黒糖が乗った、きなこ混じりのプリンを食べる。とても美味しい。

659三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/03(日) 01:04:57
>>658

「謝らないでください」

「鉄先輩は悪くありませんから」

先輩は何も悪いことはしていません。
悪いのは千草の方です。
でも、この習慣は多分なくせないと思います。

「分かりました、先輩」

「その時はお願いします」

『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』――千草の『墓堀人』は役に立ってくれるでしょうか。
何度か練習してみましたが、まだ分かりません。
そもそも、危ないことにならないのが一番だと思いますけど。

「――そうですか……」

「あの――朝陽先輩の演奏……いつか聴いてみたいです」

千草にできることは多くありません。
千草は未熟で弱い人間です。
できることは、ここにも朝陽先輩を待っている後輩がいることを伝えることくらいです。

「いえ、『まだ』です」

「まだまだ、ずっとずっと先のことですから」

あの時に祈ったのは、『素晴らしい最期を迎えること』でした。
それが訪れるのは、きっと何十年も先のことになるでしょう。
きっと、そうであって欲しいと思います。

「鉄先輩の『お願い』はどうですか?」

「――プリンもおいしそうですね……」

鉄先輩のお願い事は叶ったのでしょうか?
先輩のプリンをチラリと見ながら聞き返しました。
行儀が悪いですが、いわゆる隣の芝生は青いというやつです。

660鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/03(日) 01:51:51
>>659

>「あの――朝陽先輩の演奏……いつか聴いてみたいです」

「…ありがとう」「本人に…朝陽に伝えておくよ」

やはり優しい子だなぁ、と思いつつ。
多分に気遣いの含まれたその言葉を受け取った。
朝陽は、そういう言葉を力にできる人間だから。かけ値なしに喜ぶだろう。

>「いえ、『まだ』です」
>「まだまだ、ずっとずっと先のことですから」

「そうなのか…てっきり『書記』や『生徒会長』になることかと思っていたけど」
「三枝さんの『夢』は、それ以上に壮大ってことなんだな」

予想が外れたな、と小さく口にする。とはいえ願い事の内容を聞いたりはしないが。
例えば、素敵なお嫁さんとかだったりするかもしれない。あまり女の子のプライバシーに立ち入るべきではない、よく妹が口にしていた。

>「鉄先輩の『お願い』はどうですか?」

「うっ」「いや、オレもまだでね…オレの努力が足りてないんだろうからしょうがない」モグモグ

頭を書きながら、答える。結局仲直りはまだできていない。
何が悪かったのか、自分自身がそれを把握しないといけない。謝るには、誤りを知らなければ。

「今度、知り合いの人が勤めている『烏兎ヶ池神社』にでも行って、またお祈りしようかな」
「他の場所なら効くってわけじゃあないだろうけど」

「…ん?」

プリンを物欲しそうに見る三枝さんに、年相応の微笑ましいものを感じて。
思わず小さく吹き出してしまう。

「いいよ、少し食べてみな」

そう言って、『黒蜜ときなこのプリン』を彼女の方へと差し出す。

661三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/03(日) 03:31:51
>>660

「壮大だなんて、そんな――」

苦しむことなく安らかに旅立ち、看取ってくれる人の心にも良い影響だけを残すこと。
それが千草の『夢』で、『人生の目標』です。
何か大きなことを成し遂げようというお願いではありません。
ただ、それでも叶えるのは難しいと思います。
生徒会に入ったり生徒会長を目指すのは、その一歩です。

「千草の夢は、ほんのささやかなものですから」

本音を言うと、『死にたくない』という思いがあります。
でも、それが無理なことくらい未熟者の千草にも分かります。
だから、せめて『素敵な最期』を迎えたいと思うのです。

「『烏兎ヶ池神社』――初めて聞きました」

「それは、この街にあるんですか?」

「千草も一度行ってみたいです」

神頼みだけで夢が叶えられるとは思っていません。
だけど、自分の気持ちを新たにすることはできると思います。
それに、少なくとも損をすることはないですから。

「鉄先輩、今笑いましたね?」

「千草のことを子供だと思いましたか?」

少しだけすねたような表情をしてみせます。
でも、プリンを差し出されると、そちらに視線が向きました。
自然と、少しずつ口元が緩んできます。

「……ありがとうございます」

         ニコ

「でも、いただくだけじゃ不公平です」

「お返しに、鉄先輩も千草の分を食べていいですよ」

「――『パイナップル以外』ですけど……」

控えめに付け加えながら、フルーツあんみつを先輩の方に差し出します。
それから、先輩が分けてくれたプリンを一さじすくって口に運びました。
初めて食べましたが、優しい甘さがとてもおいしく感じられます。

「これもおいしいですね」

「先輩は、こういうお菓子がお好きなんですか?」

662鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/03(日) 21:53:49
>>661

「ここにあるらしいぞ」
「友人の友人が言っていたんだけど、『パワースポット』とかなんとか」

今度は紙の地図ではなく、スマホの『地図アプリ』で指し示す。
【ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/7023/1549033452/1】
とはいっても、場所と少しの情報だけで、自分も詳しくは知らない。
烏と兎に池、その変わった名前にも何らかの由来があるのだろうか。

「あぁ、いや別に、そんなわけじゃあ…」
「…すまん。ちょっと思った」「いや、年相応に可愛らしくていいんじゃあないか?」
「朝陽も以前はもっと可愛げがあったんだけどなぁ…」

ちょっぴりふてくされた様子を見せる三枝さんに慌てて首を振るが、
どうせウソをついてもバレると思い、観念して両手を挙げ正直に言う。
妹も、これくらいの時は…いや、もう少し以前、小学生くらいの時は、よく懐いてくれたものだ。
何にせよ、差し出したプリンに彼女が頬を緩めるのを見て、安心する。

「え、オレも頂いていいのか?」
「実はちょっと気になってたんだ、『フルーツあんみつ』」「ありがとう」

感謝の言葉を述べながら、餡と白玉をスプーンに乗せ、口に運ぶ。
和菓子ならではの、ほんのりとした甘さが口の中に広がった。

「…あぁ、美味しいな」「よし、今度来た時はこちらを頼もう」

>「先輩は、こういうお菓子がお好きなんですか?」

「そうだな、どちらかというと洋菓子より和菓子系統が好きだ」
「生クリームやバターたっぷり、とかはあまり得意じゃなくて…」
「でも『バターどら焼き』は以前食べてみたけど、アレは新しい美味しさだったな」
「『和スイーツ』?とか言うらしいが、ああいう菓子も新鮮で良かった」

自分は男子だが、甘いものは好きだ。

663三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/04(月) 00:08:48
>>662

「『バターどら焼き』ですか――それもおいしそうです」

「違うもの同士が合わさると、今までとは違う素敵なものができることがあるんですね」

「時には、それが失敗することもあると思いますけど」

「でも、千草と先輩は『バターどら焼き』になれそうな気がします」

「――ね、鉄先輩」

          ニコリ

「先輩、連絡先を交換しませんか?」

「鉄先輩とは、またお話してみたいです」

「先輩が嫌じゃなければ、ですけど……」

手帳型のケースに入ったスマートフォンを取り出します。
先輩は『立派な人』ですから、この繋がりは大事にしたいのです。
そういう関わりは、千草が成長する上でも大切だと思っています。

「もし何かあった時は、先輩を頼りにさせていただきます」

「その代わり――先輩も千草のことを頼ってもいいですよ?」

「『一方通行』じゃ不公平ですから」

千草には大したことはできないでしょう。
でも、もしかすると何かの役に立てるかもしれません。
千草の目指す『立派な人』になるためには、それも必要なことです。

「何だか、たくさんお喋りしちゃいましたね」

「それで、あの――早速なんですが……」

「先輩に一つお願いしてもいいですか?」

664鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/04(月) 00:38:14
>>663

「詩的だな」ハハッ
「でも確かに、それには同意する」「年は5コも下だけど、オレはキミを『尊敬』してるからな」

三枝さんの言葉に頷き、自分もスマホを取り出す。市松模様の、ハードケースだ。
好感を覚えている彼女に対して、連絡先の交換を拒む理由などなく。
むしろ、『通り魔』のような人間がいるかもしれないこの街で。
いざという時に、連絡はすぐに取れた方がいい。

「もちろん、こちらこそよろしく」
「ああ、その時は頼りにさせてもらうよ」「何せ、未来の『生徒会長』だからな」

もちろん冗談だ。
彼女が『生徒会長』になったとしても、例えば別に剣道部に対してどうこうしてもらうつもりはない。
この子の直向きさ、勤勉さは、きっと自分の心の支えになる。そういう頼り方もあるだろう。

>「それで、あの――早速なんですが……」

>「先輩に一つお願いしてもいいですか?」

「ん、なんだ?」「忌憚なく言ってくれ」

665三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』:2019/03/04(月) 01:08:37
>>664

「――ありがとうございます」

       ペコリ

「千草も鉄先輩を尊敬しています」

「だから、これからも先輩のことを見習わせていただきます」

連絡先の交換を終えて、スマートフォンをしまいます。
こういう出会いの積み重ねも、『夢』の実現に繋がると思います。
身の回りにある全てを、その一つにしていきたいです。

「えへ……」

「大げさですよ、先輩」

「でも――それを叶えるために、これからも頑張ります」

軽い否定を含んでいましたが、表情は嬉しそうでした。
期待に答えるのも『立派な人』の条件です。
冗談まじりであっても、今から期待されるのは喜ばしいことです。

「今日、一緒に帰ってくれませんか?」

「さっき、先輩も『二人以上で帰った方がいい』と言われていたので」

「これを食べて、残りの議事録を整理してからになりますけど……」

「後は見直しをするだけなので、そんなにかからないと思います」

「……お願いできますか?」

上目遣いで鉄先輩の顔を見つめます。
一緒に帰れたら、その分だけ先輩と長くお話ができます。
少しズルいですが、それがこのお願いの『本当の理由』です。

666鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/04(月) 01:44:37
>>665

「もちろんだ」

三枝さんの言葉に、笑顔で頷く。急いで家に帰る用事があるわけでもない。
もっともあったとしても、彼女の安全の方が優先だ。
もし、万が一。朝陽に続いて、この少女にまでも凶刃が振りかざされてしまったなら。
…そんな想像したくもないような事を防ぐためなら、何でもしよう。

「ゆっくり食べるといい」
「それと、今回の会計はオレに出させてもらっていいかな」
「祝『会計』就任ということで」

恐らく三枝さんは断ろうとするかもしれないが、この点に関しては甘んじて受け取ってもらおう。
自分は年頃の少女への贈り物などには全く疎い。こういった形でしか、祝いを形にできないのだから。

「…本当に、おめでとう」

微笑みながら、小さく、呟く。
自分が守りたいものは、確かにこれなんだという実感がある。
自分には朝陽や三枝さんのような大きな『夢』はないけれど。
そういった話を聞いて、そして努力している彼女たちが、理不尽なものに脅かされないように。
そういったものへと『立ち向かう』。それが自分の『士道』だ。


結局、この日も無事に三枝さんを家へと送り届けて、幸い『通り魔』は現れなかった。
代わりに幾つかの楽しい話をして、満たされた気持ちで己もまた、自宅へと帰った。

667鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/07(木) 03:00:05

                 ブロロロ・・・

バスから降りて、大通りを歩く。
アンティーク雑貨を買って、
本屋で欲しい新刊を買って、
ランチを食べて、それから。

(ああ、まいったなあ。やる事がたくさんあって、
 しかもそれが全部楽しい事なんて、たまんないなあ)

特別な日というわけでもないのだが、
浮かれてしまっているのは事実だろう。

そういう気分が、ポケットから落ちた『小銭入れ』に気づかせなかった。

668高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/07(木) 22:01:05
>>667

(前のミニライブは上手くいったな……)

(でも、ずっとああやって頼るのはな……)

(……今日は成功のお祝いなんだからもっと前を向かないと)

伸びた背筋のまま俯いて歩く女性がいる。
緩く結んだ黒髪。
それと同じように黒いカーディガンはセーラー服のようなシルエットをしていた。

(あ)

俯いているから、見えるものがある。

「落としたよ」

一旦拾わずに声をかける。
昔それで窃盗犯と間違えられたから。

669鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/07(木) 23:42:42
>>668

「あっ、え、ああっ小銭入れ!
 いつの間に落としてたのかな、いえ、
 ありがとうございます、助かりました」

           クルッ

「っと」

金色の瞳と、左右で長さを変えた黒髪。
振り向いた女は、そういう姿をしていた。

「すいませんね、ちょっと浮かれてたみたいで」

一瞬高宮の『手』を見たが、
拾った訳ではないと気付いて、
しゃがんで『鳩』柄の小銭入れを拾う。

「気付いてくれて、どうもありがとう。
 ソレがなかったらボク、大変な事になってたよ」

「えーっと。何かお礼とかした方がいいかな。
 あ、新手のナンパじゃあないからね?
 女同士だしさ……そうだ、缶ジュースとか飲む?」

特に他意はなく、自販機を軽く指さす。
口頭のお礼だけでも良かったが、今日はやはり浮かれていた。

670高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/07(木) 23:52:26
>>669

「別に、そんなつもりで声をかけたんじゃあないから」

目を逸らして言葉を返す。
浮かれた相手に比べて、少し沈んだところがある。

「それに君が自分で財布を拾ったからね」

自分は何もしていないと言外に含ませる。
それが相手に伝わるかはわからないけど。

671鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 00:01:24
>>670

「そう、そっか、それならいいんだ。
 キミを誤解してしまってたみたいで、
 なんだか申し訳ないけど――」

        ニコ…

小銭入れをおとなしく、ポケットにしまう。
気持ちいつもより深めに入れておいた。

「ま、ありがたいのは事実だからさ。
 ジュースはともかく気持ちは受け取ってね」

笑みを浮かべて、立ち去ろうとして、
また振り返る前に高宮の表情に気づく。

「……深入りはしないけど、
 なんか嫌な事でもあったの?
 ごめんね、こういうの気になる方なんだ」

鬱陶しがられるかもしれないが、
顔のイイ人間が暗い顔をしているのは、
なんだか、もったいないことのような気がするから。

672高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/08(金) 00:34:20
>>671

「……」

俯き気味に小さくうなづいた。
おずおずと、様子を見るように。

「気持ちくらいなら……荷物にはならないから」

重さの無い気持ちなら自分でも持てる。
そうでないものは気が重くなってしまうから。

「嫌なこと、か……」

(そんなにぼくが嫌なことまみれに見えるのか……? くそう……)

「この顔は生まれつきなんだ……」

「いや、気にかけてもらって申し訳ないね」

「あぁでも悩みといえばあるにはあるけど」

673鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 00:58:47
>>672

「なら、よかったよ」

       「……?」

頷く高宮に笑みを魅せながら、
内心の憤慨には気付かない。

「ああ、そうだったんだねえ、
 ごめんね、誤解が多くってさ」

「ま、深入りはしないって言ったから」

         スッ

「話し辛い悩みなら聞かないけどさ」

足を一歩引いた。
流石に対話を求められていないと察したし、
地雷原でタップダンスをする気もなかった。

「ボクにあずけて軽くなる荷物なら、
 あずけてみてくれてもかまわないよ」

  「投げつけるのは、やめてほしいけどね」

674高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/08(金) 01:28:04
>>673

「……今日の楽しみ方がわからないんだ」

そう言った。
高宮は今日の楽しみ方がわからない。

「つい最近いいことがあってね」

「そのお祝いじゃないけど、今日はいい日にしようと思ったんだけど」

どう一日を楽しめばいいのかわからない。

「君は今日何をしてたのかな。言いたくないのなら、いいんだけど」

「その様子だと多分、楽しい一日を謳歌してたんじゃないかな」

675鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 02:14:00
>>674

「楽しみ方、楽しみ方かあ。ボクは方法は考えたことないけど」

「今日は雑貨を買ったり本を買ったり、
 ランチでサラダバーを食べたりしたねえ」

       「でも」

「ボクは今からまだまだ謳歌するところなんだ。
 わざわざバスで着たのにお昼過ぎじゃ終われない。
 もっと、やりたい放題してから帰りたいんだよ」

視線の先は、東の方角。
ここから東に行けば――――川に突き当たる。

それから、視線は高宮をいったん経由して、
この町で一番高い、ここからでも見える塔へ。

「だから今から、スカイモールの劇場に劇を見に行くんだ」

「一緒にどうだい? 楽しみ方が分からないならボクに預けてみなよ。
 予約チケットは一枚しかないけどさ、どうせガラガラだから、
 さすがに、お代までは出してあげられはしないけどさあ」

          クルッ

     「楽しくなくってもボクのせいに出来るし、
      それに、ボクはいつも一人で見るんだけどねえ、
      たまには他人と感想を言い合ったりしたいんだよね」

676高宮『リプレイサブル・パーツ』:2019/03/08(金) 22:30:00
>>675

「さ、サラダバー……?」

(健康志向なのかな……いや、まぁ、最近野菜高いしな……)

少しだけ予想外の答えだった。
寿司や酒を嗜むのとは少し趣が違う。

「劇か」

あまり悩まなかった。
その先のことは。

「行こう」

「こう見えても無駄なものを集めるのが得意でね」

「財布の中はそういうので詰まってるんだ」

少し厚い長財布が上着のポケットからのぞいていた。

「一緒に楽しませてもらおうかな」

677鳥舟 学文『ヴィルドジャルタ』:2019/03/08(金) 22:42:57
>>676

「野菜をね、たくさん食べるとさあ。
 いい気分になるんだ。
 ボクは肉とか魚も全然食べるし、
 今日がそう言う気分なだけなんだけど」

「たまにない? 野菜を食べたい日」

この店なんだけどね、と、
スマホの画面を見せる。
自然派レストランとのことだった。結構高い。

         ニコ

「よし、決まりだ。
 きみ、車で来てるなら載せてってくれない?
 歩きで来たなら、バスの時間は15分後だね」

「どっちにしても……今日は、想像以上に楽しくなりそうだ!」

笑みを浮かべたまま、いずれにせよ、歩きはじめるのだった。

なお、劇は鳥舟がファンをしている男優が出るらしく、その事をしきりに語られた。

678鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/26(火) 22:49:20
人通りの多い交差点。そこの近くにある、待ち合わせによく使われるスポット。
その壁によりかかりながら、鋭い目線で行き交う人々を眺めている青年がいた。
白のインナーに黒いライダース、デニムという格好で、腰には小さめのポーチを付けている。

「・・・・・・・・・・」

近くにベンチが空いているが、そこに座るつもりはないようだ。
何かを、あるいは誰かを探すように、切れ長の瞳を動かしている。

679音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/26(火) 23:50:31
>>678

     カツカツカツカツ・・・

気取ったスーツを着た『ケツアゴ』の男が、
『鉄』の眼前を通り過ぎ、『ベンチ』へ腰掛けようとする。


       スゥゥ...

                     スクッ


   「――――ああ、ひょっとしたら、
    この『ベンチ』で待ち合わせてるのかね?」

半ば中腰の姿勢にまで至ったところで、
『鉄』が視線を巡らせているのに気が付き、腰を上げる。

   「別に、この『ベンチ』は座ってしまって、構わんのだろう?
    私もちょうど、ここで待ち合わせをしていてね。

    少々長くなりそうなんだ。――――いいだろうか?」

『待ち人』を探す『鉄』の視線を遮らぬよう、
彼の脇に立ったまま、話しかける。

680鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/26(火) 23:59:30
>>679

「ああ、いえ。お気になさらず」

声をかけられ、青年は男性の方を見て首を振った。
幾分か、その鋭い視線が和らいだ様に見える。

「オレはあなたと違って、特定の人を待っているわけではないんです」
「ですので、そのベンチは『待ち人』を待つあなたのような方が使うべきだと思います」
「どうぞ」

許可を求めるピエールの言葉に頷き、ベンチへ座ってもらうように手で示す。

681音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 00:10:20
>>680

   「どれ、それじゃあ遠慮なく」

座面に付いたゴミや埃を、パッパと手で払ってから、
その頑強な肉体を折り畳むように、ベンチへと腰掛ける。

   「ところで、『特定』の人を待ってないとは、
    随分と妙な話に聴こえるな。

    見たところ、まだ若そうだから、
    『交通量』の調査ってわけでもあるまい」

訝しむように問い詰める声色でもなく、
唯々、不思議そうに問い掛ける。

   「ちょうどここに、空いてる目玉が『2つ』あるのだが、
    ここは一つ、君の『待ち人』を一緒に探してみようじゃあないか」

暇に空いてか、要らぬおせっかいを焼き始める。

682鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 00:20:17
>>681

「ああ、いえ…」

自分で口にして思う。特定の誰かを待っているわけではないとは、妙な話だ。
例えばナンパです、なんてうまく嘘でもつければよかったのだが。
自分はそういうのは得意ではない。だが、かといってこの人の善意を無下にするのも心苦しい。

「・・・・・・・・・・」

10秒にも満たぬ沈黙を間に置いて、結局口を開く。

「怪しい人間を探している、なんて言ったら」
「いや、そんな事を言い出す人間が一番怪しいだろ、と思われるかもしれませんが」

683音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 00:29:48
>>682
「そうだな。……君が一番怪しいぞ」

重たげな沈黙に応えるかのように、
真面目くさった語調で言葉を返し、


     フフッ

          「フフッ、クッ、」

          「ああ、いや、冗談だよ。失敬、失敬」

含み笑いを浮かべては、傍に立つ少年を見上げた。

「疚しいことを隠せるような人間なら、
 もっと平然として、常人の振りが出来るさ」

「まあ、怪しい人間を探してることと、
 君がそんなに、悪そうに見えないのは解ったよ。

 ――――で、怪しい人間ってのは、どんなのだい?
 ほっかむり被って、唐草模様の風呂敷包みでも担いでいれば、
 私も出ることに出て突き出せるような人間だと解るのだがねェ……」

そう、簡単なものではないだろう、と前置きを入れて、問い掛ける。

684鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 00:43:13
>>683

>「そうだな。……君が一番怪しいぞ」

「・・・道理です」

いきなりこんな事を言い出すなど、何を企んでいるのか分かったものではないだろう。
だからそう言われても仕方ない。目を瞑り、自省する。
今日は諦めて、帰るべきかと考えたところで。

>          「フフッ、クッ、」

>          「ああ、いや、冗談だよ。失敬、失敬」

>「疚しいことを隠せるような人間なら、
> もっと平然として、常人の振りが出来るさ」

>「まあ、怪しい人間を探してることと、
> 君がそんなに、悪そうに見えないのは解ったよ。

「・・・・・」「ありがとう、ございます」

彼の言葉に、微笑みながら深く頭を下げる。
この男性が自分のことを悪い人間だと思わなかったように、自分もまた、彼が良い人間であるように思えた。
しかしその次の問いを訊ねられては、表情を曇らせてしまう。

「…いえ、容姿に関しては何も分かっていません」「男性が女性か、若者か老人か、日本人かそうでないのかさえ」
「ただ、恐らく何らかの『凶器』…それも『刃物』を扱っている可能性はあります」

「…それだけです。現れない可能性の方が、かなり多いと思います」

それでも、自分は人の流れを見続ける。可能性は低いが、ゼロではないのだから。

685音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 01:04:22
>>684
「刃物、か。

 少なくとも、『持ち歩く』にしても、
 目立つような装いにはしないだろうな……」

『凶器』、とは人を傷つける『道具』に用いる言葉だ。
増してや『刃物』、神妙な面持ちになって、『鉄』の言葉を聞く。

「まるで、……そうだな。

 『邪推』をするようだが、
 君は『待ち人』が来ると思っているのかね」

                   ラウンド・アバウト
老若男女、さまざまな人種が 『 交 差 点 』 を過ぎ去っていく。
目の前を横切っては、背後へと抜け、何百人もの人影が現れては消える。

その光景を目の当たりにしながら、『ピエール』はすっと立ち上がった。

    「『待ち人』が来ないという『結果』を得て、
     
              安心するために見張ってはないか?」


       ズ ア ッ!


『鉄』に近づき、肩を叩く。
その刹那、両刃剣の『ジュリエット』を発現し、
分厚い『刀身』を、少年の肩口にそっと押し当てる。

686鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 01:16:12
>>685

>    「『待ち人』が来ないという『結果』を得て、
>     
>              安心するために見張ってはないか?」

「…『通り魔』などいないのであれば、それに越したことは───」

ないだろうが、事実として傷付けられた人間がいる以上、そうでない可能性は限りなく低いだろう。
それはここで『通り魔』が見つかる可能性より、もっと有り得ないものだ。
そう説明しようとした言葉が、全て頭の中から消え去った。
肩口へと押し当てられた、『スタンド』の刃によって。

「『シヴァルリー』ッ!!」

名を叫びながら、己のスタンドを彼が剣を持つ側の方に発現する。
同時に可能であれば、その『切れ味』を奪い取り吸収する。
とっさに剣を持つ側の手に発現したのは、吸収する際の軌道で彼を傷付けないためだ。…今のところは。

「『刃物』を持った…『スタンド使い』ッ!」

687音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 01:33:25
>>686

>「…『通り魔』などいないのであれば、それに越したことは───」

      . .
     「いる……」

     「朗らかに話しかけ、あたかも常人のように振る舞い、
                                   . .
      ――――平然と『力』を振るう人間は、この世にいる」


憮然として、しかし真剣味を帯びた眼差しで、『鉄』に告げる。

それは、決して『普遍的』な事実としてではなく。
明確に『存在』すると知っているからこそ、
それと比較した『鉄』を『善人』と評した。

         ビュワッ!

『シヴァルリー』の視認によって、瞬く間に『ジュリエット』は鈍磨する。
己のスタンドであっても、その効果は認識できない。

     「私は、君の言う『待ち人』ではないが、

      ……とまぁ、スタンドを出した以上、
      そう言っても『信用』ならない、かも知れないが、ね」

穏やかに、押し殺すような低い声で、
念を押すように話しながら、『ジュリエット』を解除する。

     「いないのに、越したことはない。同感だ。

      ――――だが、そーいう『人種』がいるかどうかなら、
      間違いなく存在し、振るう刃に『前触れ』はない―――」

     「今の『一刀』は、そうした『警告』のためだ。
      ……正直言って、街中でじっと見てるだけでは、
      努力が実を結ぶ可能性は、低いと見えるがねェ……」

688鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 01:42:56
>>687

>     「いる……」

>     「朗らかに話しかけ、あたかも常人のように振る舞い、
>                                   . .
>      ――――平然と『力』を振るう人間は、この世にいる」

「・・・・・ッ!」

息を飲む。そして理解する。
この人は、そういう人間を知っている人だと。実際に目で見て、会ったからこそ、言葉の重みが違う。
そしてここからは想像でしかないが。この人は、そういった人間と、刃を交えた言葉もあるのではないか?

逞しい青年が『スタンド』を解除したことにより、『切れ味』も戻る。
その行動を警戒しつつも、数秒の逡巡の後に、自分も『シヴァルリー』を解除した。

「いいえ、信じますよ」
「以前にも、『スタンド使い』はそういうことができる人間だと教えてくれた人がいましたから」

それに、もし『通り魔』なら絶好の間合いでスタンドを解除する理由がない。
自分が警戒して『シヴァルリー』を出すより早く、斬ることも可能だったかもしれない。

>      ……正直言って、街中でじっと見てるだけでは、
>      努力が実を結ぶ可能性は、低いと見えるがねェ……」

「・・・・・」「何か、手段をご存知なのですか?」

訊ねる。蛇の道は蛇、とは少し違うが。
彼なら、あるいは荒事に関する知識が、あるいはその心当たりがあるのだろうか?

689音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 01:58:53
>>688
>「・・・・・」「何か、手段をご存知なのですか?」

  「私も、望んでそういう『人種』に会ったわけじゃあない。

   ――――だが、もしもそうした『人探し』をするのであれば、 
   『仲介人』を名乗る男に、『名刺』を貰ったことはあるぞ」


     スゥ...

                                         バ
『ピエール』は尻ポケットから、二つ折りの『財布』を取り出し、    サ
それをペラペラと捲り、もう一回ポケットにしまってから、                ガサ
胸ポケットから『カードケース』を取り出し、それを数度捲り、                   ゴソ
ポロッと落としたクリーニング屋のポイントカードを拾い上げ、    ペ
カードケースに仕舞い込むと上着のポケットを数度叩き、       ラ     ポロッ    
もう一度財布を取り出しては紙幣入れに指を入れてから、      ラ
ふと思い出したかのように上着のチーフポケットに手を入れ、              パ
一枚の『名刺』を取り出すと、それを『鉄』へと差し出した。                 サ

   「『曳舟』という男は、『需要』と『供給』を操るとか、
    ……少なくとも、そのスタンド能力を利用して、
   スタンド使いの斡旋や、仕事の紹介をしているぞ」

『曳舟利和』。
その名前を確かに見せると、その名刺をカードケースにしまう。

   「――――まぁ、私も正直に言うと、『信用』しているわけじゃあない。
    ちょっと、まぁ、『胡散臭い』ところもあるからな……。

    これをどーするかは、君次第、になるわけだ」

   「おっと、人の名前を出しておいて、
    私の名乗りもないとは、無礼もいいところだったな」

スッと視線を彼方に向けてから、少年へと向き直る。

   「『音無ピエール』だ。
    この町で『柔道整復師』をやっている」

690鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 02:13:52
>>689

「・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

青年の動きを待っている間、やはりこの人は『通り魔』ではないんだろうな、と確信を抱きつつ。
家に帰ったら財布の中や、部屋の掃除もまたしておくか、などと思っていた。
そして差し出された名刺。しっかりと、その名前を記憶する。
正直スマホで写真を撮っておくべきかと思ったが、流石にそれは無礼だろう。

「『曳舟』さん、ですか」

代わりにその名前をしっかりと覚えておく。
しかし、思ったよりも『スタンド使い』というのは体系化されているようだ。
『スタンド』に目覚めさせる人間の存在は知っていたが、ひょっとしてスタンド使いの『組織』などもあるのだろうか?
そしてその『曳舟』さんとやらと関わり合うことで、『通り魔』の情報や
それを知ることができる『スタンド使い』と出会うことができるのだろうか?

「『柔道整復師』の方でしたか。もし骨折などしまきたら、お世話になろうと思います、音無さん」
「オレは鉄 夕立(くろがね ゆうだち)。『清月学園高等部二年生』、『剣道部』です」

こちらも同じく名乗り返し、一礼をする。

691音無ピエール『ジュリエット・アンド・ザ・リックス』:2019/03/27(水) 02:25:48
>>690
「よろしく。

 ――――見つかるといいな」

『ピエール』はそう言い終えると、立ち上がる。
視界の端からゆっくりと歩いてくる『老婆』に、
軽く片手を上げて、自らの存在をアピールする。

   「私の『待ち人』は、やっと現れたよ。

    ……では、『夕立』。
    機会があれば、また会おう」

そう言って、老婆を出迎えるように歩み寄れば、
二言、三言話した後、ゆっくりと人混みに紛れていった。

692鉄 夕立『シヴァルリー』:2019/03/27(水) 02:36:59
>>691

現れた老婆を出迎えた音無さん、恐らくお客様だろうか。
彼には待ち人が現れたが、自分には現れなかったようだ。もう既に一時間が経過している。流石に潮時か。

「…ありがとうございました。またお会いしましょう、音無さん」

去り行く彼に対して、再度頭を下げる。
手荒い行動ではあったが、彼は自分に対して道を示してくれた。
『スタンド使い』の危険性を教えてくれた平石さんに、『悪意』を持つ人間は必ずいると警告してくれた音無さん。
大人の方からは、学ぶべきことは多い。

「あとは、進むべきか否か、か…」

帰途へと着きながら考える。そもそも、考えたところで詮無きことではあるのだが。
仮に進むことを選んだとして、こちらから『曳舟』さんとやらに接触できるのか?
電話番号でもあれば、話は違うのだろうが。
だが、どちらにせよ覚悟は決めておくべきだろう。もし進むことを選ぶのであれば。
『試合』とは違う、命懸けの争いになる覚悟を。

693サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/10(金) 23:30:15

オープンカフェの一人席に座り、何もない時間をつぶしていた。
布のマスクで隠れた口元も、長いまつ毛の猫のような目も、風景に溶けていた。

     カチッ カチッ カチッ カチッ

人生は『いつかその時』が来るまで、全部暇つぶしだと思うわけで。
暇つぶしなら無難に、サリヱ一人で完結するものを選んできたわけで。
暇つぶしのための暇つぶしのための暇つぶしをする気はしなかったわけで。
そんな風に考えてきたサリヱの人生に『本物』なんてのは何もないわけで。

         カチッ カチッ カチッ カチッ

だけど掌で転がす『フィジェットキューブ』の響きは、今日は意味がある気がした。

「…………」
  
    ミー・アンド・マイ・シャドウ
(『サリヱとサリヱの影法師』だなんて……他人から貰ったものにも、自分しかない)

           『チカッ』

見つめた影は消えて、向かいのビルの壁面に『影法師』が生まれていた。

「ひええ、なんだこりゃほんと……」

そういうありえない光景に思わず声が漏れるのは、暇つぶしの人生としては有意義な気がするからだ。

694彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 00:12:35

          『シュワォウ』
                    『シュワオォウ』

サリヱの視界右端から『色彩』が割り込んできた。
道路向かいの灰色のビル壁に、ビビッドカラーのラインが、長く、長く、引かれる。

額にゴーグルを引っかけたパンクなファッションの少女が、手にしたスプレーを巧みに操り、
ビル壁の端っこからストリートアートを仕上げている所らしい。
……絵のモチーフは、騙し絵の巨匠・エッシャーの「メタモルフォーゼ」を意識したようなデザイン。
人間のシルエットが変化していく過程を、目の覚めるような鮮やかな色遣いで仕上げてゆく。

「こいつが思いっきりの一筆(ストローク)だ」

ガンマンが二丁拳銃を持ち替えるように、スプレー缶を手の中でクルクルと弄ぶ。
腰のホルスターから「クロムイエロー」を引き抜くと、スプレーを噴出しながら、
ビルの左端を目指して、ラインを伸ばして――――

「――――っととと。先客か!?」

ビル壁に刻まれた『影法師』に気づき、慌ててブレーキをかけた。

「さっき下見した時はなかったのに、いつの間に描いたんだ?コレェ」

695サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/12(日) 22:04:45
>>694

「ひえ…………!」

視界に入ってきた『目立つやつ』に思わず声が出た。

(絶対やばいやつじゃん……皆見てるんだぞ……)
(……と、とりあえず、知らん顔しておくけどな)
(目立つのに巻き込まれたくないし)

       ポチポチポチポチ

(あと知らん影もしておく……)

手の中の『ボタン』を連打して気を取り直す。

影法師は・・・そのままにしておく。
『座っている人間の影』・・・『形』はない。影だけ。

回収したら秒でバレる。

        ・・・

             ・・・

                  ・・・

今日はいい天気だ。
オープンテラス席は道路に影を描き出す。

確かにそこに座っているが、『影がない人間』は・・・知らん顔でコーヒーを一口飲む。

696彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 22:25:30
>>695
そんなサリヱの気も知らず、彩木ミサオは『影法師』を眺めながら首をひねっている。

「しまったな……迷惑はかけないと約束したばかりなのに、
 さっそく他人のキャンパスに踏み込んでしまったぞ……?
 あまりに目立たなかったから、ギリギリまで気が付かなかったけど」

……もし、『コレ』のアーティストが「灰色のビルという背景に溶け込むように」という、
コンセプトで描き残していったのなら、誰かの作品に勝手に筆を足してしまったことになる。
これはいけない!

(★ 「そもビル壁にアートを描く時点で領域侵害ではないのか?」という意見もあるだろうが、
ミサオにとってこの飾り気のないビル壁は「白紙である」と判断されたので、問題はなかった)

「塗料っぽい匂いは全然しない……墨?灰?チョーク?(クンクン)
……そうだ!描かれたばかりなら、近くに作者がいるかもしれない」キョロキョロ

あたりを見回していると、この『影法師』のシルエットとそっくりな子を向かいのカフェに見つけた。
なるほど、アレがきっとこの絵のモデルに違いない――――まさしく影写し!

「おーい、そこのマスクのカノジョ!ココに絵を描いていった人をさァ〜」

道路を渡ってサリヱの方にまっすぐやってくる。

697サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/12(日) 23:34:54
>>696

(あいつ何言ってんだ……? 『影』を『絵』と勘違いしてんの?)

芸術家のことはよくわからない。
何を考えているのか……どういう哲学があるのか。
わかるのは、明らかに自分と違う価値観ってことだけだ。

(……マスク?)

「ひえ……」

(や、やばい……こっちに来る……)
(『描いたヤツ』だって思われたんだ……やばい……)

(なんとか目立たないように……やり過ごさなくっちゃあ)

「なっなんだよぅ……絵なんか『描いてない』っての……」

             チラッチラッ

『影法師』を横目に見つつ、誤魔化しに走るサリヱ。

               カチャカチャ

「か、壁のシミじゃないのか?」
「あるだろ……ほらぁ、『ホラー番組』とかでさ……!」
「そういうのじゃないのぉ〜〜〜っ……」

「私はずっとここ座ってたからな、そんな絵なんて知らないよ……ほんとだよ」

698彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 23:57:35

「キミをモデルに描いてたヤツがいたんじゃないかなって。
 違う?ホント?あそこの壁の絵とそっくりだと思うけどなァ」

                    チラリ

「そうかァ?」

サリヱに何か妙な違和感を覚えつつも、その正体が『影』だというところまでは気づいていない。

「ホラーなシミ!なるほど、ここは大通りだからな。 ・ ・ ・ ・
 車も多いし、夜にバイクを飛ばす奴もいる………そういうこともあるカモ」
「(店員を呼んで)すいません、お水もらえます?あとカプチーノを1つ」

サリヱのテーブルの空いてる席に腰掛けた。

「それだったらそれで困ったな。
 こんなカフェの近くに、なんて縁起が悪い……でも死んだ人間が描いたカタチならそれも『作品』だ。
 先人が思いを残していったのなら『敬意』を払わなきゃいけない。悩むぜ」

「美術館だって365日同じ作品を展示し続けている訳じゃあないだろう?
 季節・時代によって展示品を変えてゆく必要がある。
 上から塗りつぶしたものかな?いっそ避けるカタチで同居する構図という手もあるけど」

すごく……しゃべる!

699彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/12(日) 23:59:37
>>697 また安価忘れちゃってた、ごめんネ

700サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 00:48:04
>>698

「ひええ、モデルとか……そんな目立つことしないっての」
「こういうシルエットのやつ、他にもいるってぇ絶対ぃ……」

(ウッ、こいつ今足元見なかったか……!)(実はバレてる?)
(っていつの間に座ってんだ! なんだこいつヤバ〜〜〜……)

          カチカチカチカチ

思わずフィジェットキューブのスイッチ面を連打する。
この距離の詰め方……いや詰めているのとも違う気がする。
独特の距離感、芸術家タイプを感じる……苦手なタイプだ。

「か、勝手に描いてるだけなら勝手に塗り潰しちゃっていいだろぉ……」
「いや、描いてるとは限らないけど」「シミを推すけど……」
「ともかく勝手にそうなってるだけだろぉ……?」
「ビルの持ち主が描いたなら別だけどさ……」

『所有権』があるからだ。
『所有権』――――『持ち主』には、権利がある。
持ち物を好きにする権利……あらゆる意味でそれがある。

(なんか話題変えないとこいつのペースに飲み込まれる……)

「あ、そう、カプチーノ頼んだよな」
「ここカプチーノに絵描いてくれるけど」
「あんまり難しいの注文したらすごい雑に出てくるぞぉ……」

「……」

(あっやばい……また『絵』の話にしてしまった…………!)

701彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 01:26:22

「そうだな。ストリートアートは自分の家の塀に描くんでもなければ、
 少なからず誰かのキャンパスにはみ出してしまう行為だ。
 しかし、市役所や所有者に問い合わせて『描いていいですか?』でOKとは、なかなかいかない」

「ただボクが描かなかったからビルの壁は白紙(ブランク)のままだろう?
 こんな人目につく大通りに面していながら、只の灰色なんて逆に失礼とも思うけど……」
「周囲との調和、アートが受け入れられる場か……場所と空気は選んでるつもりだけど……」

サリヱの指摘に思うところがあるのか、少し静かになったが――――


「ラテアート!向こうの『絵』を気にしてたからお任せで適当に頼んでしまったな。
 『ハーツ』と『リーフ』の簡単なアレンジならボクも描けるよ。
 色々な絵の画材を試していたとき、パンケーキアートとかその手のものにも挑戦してみたね」
「なくなることを前提とした、コーヒー一杯を飲み終わる間までのアート。
 一筆分の失敗で脆くも崩れてしまう繊細な芸術!刹那的だ!
 得るものは多かったよ――(店員が運んできたカプチーノの絵柄を見て)――『ネコちゃん』だ。そう見える」

カプチーノを一口すする。

「うん、ストリートアートも“ソレでいい”と思うな。今のところは。 
 この大通りを通った人の記憶の端に残って、描いて数日後には市の清掃が消してしまう。
 掃除する人には手間だろうけど、この『殺風景なビル壁やシミ?をどうにかしよう』と考えるきっかけにはなるかも。
 偉そうに語ったけど、絵柄のテーマをあーだこーだいうほどのこだわりは実はまだないんだ!」



「で、やっぱりキミが作者なんだろ。アレ」

702彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 01:36:58
>>700
「いや、恥じらう気持ちはわかるさ。公の場に絵を晒すのは勇気がいる。
 作者であることを隠して、クリーンな反応を見たかったとかかな。
 かの有名なストリートアーティストの某も、描いたあと近くでこっそり反応を見るのはやってると思う」

「ふぅ、一方的に語ってしまったな!普段同好の士がいない絵描きはこれだからいけない。
 さぁキミの順番だ。その思いのたけををブチまけてくれ!
 あの地味で目立たなく周囲に溶け込み見向きもされないような影の作品の意図をぜひ聞きたい!野暮かもしれないが素直な感想だ!」

703サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 02:09:31
>>702

「『影』だ。『影』に『意図』はない。『消えるまであるだけ』」

と、口が動いていた。

>>701

「…………」
「あ、いや」

それから、反論とか否定とかの言葉が頭をよぎった。
もう遅い気がした。

「ち、違うんだよお……じ、事故っていうかさあ……」

    アセッ

「認めるよ、無関係ってわけじゃないんだけど」
「でも違くてぇ〜ッ」「別に発表したかったわけじゃなくって」
「そういう目立つの嫌だしぃ……ただ、『試した』だけで」

             キョロッ
                  キョロッ

「そういう『芸術論』みたいなの、ないし……」

消えた影を一瞥して、それから影法師を見た。

「ちょ……ちょっと一服」

        ゴッゴッ

「私もカプチーノにしとけばよかった……」
「あとそれ私には『ネズミ』に見えた」

コーヒーを飲む。一口では足りない。
覗き込んだカプチーノの人為的な『模様』に、何を占うわけでもない。

「それで、だからそんな、芸術とかアートとかじゃないんだよぉ……ほんと偶然」
「テーマとかも、ないし」「『影』なのはそうだけど……作品とかそういうのじゃないんだよ」

「それこそ、その、『巡り合わせ』っていうかぁ……『あるからそこにある』だけ……みたいな」

704彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 22:02:27
>>703
「…………?」

一寸遅れてビル壁の方を振り向く。
ミサオのアートの色彩にかき消されそうに薄い『影』だが、
呼びかけてくるような存在感を一瞬感じてしまったのだ。


「手癖とか、偶然で付けちゃった模様?」

「なるほど……本当に『意図』はナシ。
 ボクは第一印象であのシルエットが『キミ』そっくりなように受け取った。
 偏見と前提知識次第……受け手は、見たいように見るってことか……」

                ウン  ウン

「あそこの描きかけアートも同じだね。
 新鮮さを覚える人もいれば、古典の安っぽいパロディと受け取る人もいる。
 突き詰めれば、キミの『影』やラテアートのネコちゃんと同じ――――」

       コトバ          カタロ
「どれだけ『色』を尽くして饒舌に描こうとも、真の共感とは幻想のようなもの。
 アーティストは有名・無名・どのジャンルでも本質的に孤独な存在ってワケだ!」

「なら、みんな好きなように描けばいい!『ただ試した』で『あるからそこにある』
 結構なことじゃあないか……それで1%でも波長の合う、
 『巡り合わせ』があれば儲けものだ!(ズズーッ)――うん、カプチーノで正解」

「泡はちょっと足りなかったけど」

                      ブジューッ

手品のように右手に『ホイップクリームのスプレー缶』を出現させると、
泡を吸いきったカプチーノの上にクリームを足した。即席ウィンナーコーヒーだ。

「キミも足すかい?『同じ味』は『共感』だ」

705サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 22:58:11
>>204

「手癖というか影癖というか……」
「とにかくそう、ほんとに意図はないからな」
「『攻撃』とかじゃあない」
「受け取り方までは……私が決める事じゃないが」

「『意味がないなら、自分で意味を考えれば良い』」
「『他人の中にこそ意味が生まれる』」
「……嫌いじゃない考え方だ。芸術的に前向きで」

意図はない、意味もない。
そこから勝手にプラスを読み取られるのは、嫌ではない。
他人の感じた中こそ『意味』が生まれる、というのは。

「ヒェッ……今それどこから出したぁ!?」

         カチャッカチャッ

「アーティストか手品師かどっちかにしろよぉ……」
「濃すぎるぅっ」「私がかえって目立つぅ……!」

などと考えていたら突然現れたスプレー缶に目を見開く。

「あっ……いや……まあ」
「なんとなく、分かるけど………………」「うん」

が、すぐにその正体には思い至る。
・・・突然現れた『影』が彼女を呼んだのだから。

「説明すると変に目立ちそうだし……」「嫌だし……」
「食べるには得体知れなすぎるし……悪いけど遠慮しとく」

ただ、タネがなんとなく察せてもいきなり出たものをいきなり食う勇気はなかった。

「…………その『道具』、好きなだけ出せるのか?」
「良いなぁ……」「食費がほとんど浮きそうだ…………」

「あ、いや、探るわけじゃないぞ……答えなくてもいいからな」

706彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/13(月) 23:24:53
>>705
「いらない?ならいいか」

「受け手の気持ちを考えつつ、自分のエゴも押しつつ……。
 今はただ広いキャンパスに描いてるだけで楽しいから、細かいことは気にしないけど!」

ガンマンが拳銃でやるように、スプレー缶を手の上でクルクル弄ぶ。

「最近、“聴かせてもらって”自覚した才能だよ」

チラリと『影法師』の方に目をやり、次にサリヱに視線を移す。
明言はしないが察している態度。

「色々挑戦した中で自分の手に一番なじむ筆さ。
 七色(レインボウ)の絵筆――――『どんな色でも持ってくることができる』」
「多すぎも少なすぎもない、一度に『七色分』まで置いておくことにしている」

ホイップクリームのスプレーが手の影に隠れた次の瞬間、アロマオイルのスプレーに代わっている。

「製品のロットナンバーとかまでちゃんと書いてある本物……生産元の会社が迷惑してなきゃいいけど」

「『影(アレ)』と同じで何となく偶然でできちゃうモノらしいね」
「キミのも、試しててそんなカンジしない?」

707サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/13(月) 23:52:57
>>706

「あっ、いや、お前個人が嫌とかじゃなくてだな」
「まだ『こういうの』を信じ切れてないだけだ」
「私は細かいこと気にする方だからぁ……一応言っとく」

        コロッ

テーブルの上にキューブを置いて、コーヒーを取る。

「……"聴かせて"?」「"描いて"じゃないのか?」
「いや……詮索はしないが……」
「気にはなるが……」

「…………『ソレ』と『アレ』はだいぶ違うがな」
「説明はしない……のはさっきも言ったけど」
「たしかに『理屈』とかそういうのじゃない」

影法師は今も、壁の側を歩く人々の会話を聴いている。
あるいは、そのアクセサリーの真珠の数を数えている。

「なんとなく、出来る」「なぜか『知ってる』」
「……手と足のほかにもう一つ増えた感覚で」

        ズズ…

「…………与えられた物だけど、『自分』なのは間違いない」

それが違和感なく『伝わってくる』。
歩き方を今更説明出来ないように、直感的な認識として。

「お前のも自分……」「……え、『ロットナンバー』!?」
「ヒェッ、それどっかの倉庫から飛んで来たりしてんじゃないのかぁ……!?」

「怖ぁ〜っ……まあ、そういうのとは違うって"聴かされて"? るんだろうがな……」

708彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/14(火) 00:16:43
>>707
「そうだね。鳥やヘビに『手足があるってどんな感じ?』と聞かれても説明には困る。
 最初から体の一部としてあったみたいに、見えるし動かせる……そういうモノ」

あの『影』もミサオのレインボウと同じく、遠くまで見えてるし動かせるモノなのだろう。

「……でも、『スプレー』は違うなぁ。考えて創ってるわけじゃない。
 このメーカーの製品使ったことないし、売り場で見かけても成分表までは気にしてないよ。
 とにかく、想像の及ぶ範囲で『一番ちょうどいい色』を手にする」

「数量限定の貴重品とか出しまくったら、真相がわかるかも(やんないけど)」

                  ズ ズ…
                               カチャ

少し納得いった表情で頷きながら、一息にコーヒーを飲み終えた。

「この感覚の話は、さっきも言った『貴重な共感』だったね。
 いい『巡り逢い』だったよ――――それじゃあ残りを仕上げようかな。ごちそう様」

そう言って支払いを済ませると、ミサオは再び道路向かいに戻ってゆく。
描きかけのアートの仕上げ作業に移るのだ。

709サリヱ『ミー・アンド・マイ・シャドウ』:2019/05/14(火) 00:39:49
>>708

「私のソレは『自分』でしかないからな……」
「既製品」「……にそっくりなもの? 実物?」
「とにかく既製品っぽいのを出せるのは怖い……」

悪用とかそういう話ではない。……少しはあるが。
この奇妙な力は『自己完結』するだけの力ではない。
無限の可能性があるということ……無限の危険性もだ。

(……私のが目立たない部類だと分かったのは良いがな)
(…………こいつのが派手なだけかもしれないが)

「私にも……悪い話じゃなかった。『価値』はあった」
「……って、あ、あれ続き描くのかぁ……!?」
「警察とか呼ばれるんじゃ……いや」

        キョロキョロ

「……誰もそんな事してなさそうか」

「まあ、私は止めないし……」「勧めもしないが……」
「好きに描けばいいさ。言われなくても描くだろうが」

去る姿を目で追っていたが、周囲の視線に気付いた。
あのアーティストの関係者だと思われるのは、まずい。

・・・それは、目立つからだ。

「………………………………………ちょっと目立ち過ぎた」

        『パン』

(場所を変えよう…………暇つぶしの場所を…………)

絵に集中し始めたのを見計らい、影を拾って店を出る。

710彩木ミサオ『レインボウ』:2019/05/14(火) 01:05:24
>>709
「『価値』のある体験、そう思ってもらえるならよかった!」
「モチロン描くよ。このまま尻切れトンボにはしておけないし」

          『 シュワォウ 』
                          『 シュワァォウ 』

そうして、サリヱの視界の端へとフェードアウトしビル壁の左端の方から、
人間が鳥へと変身(メタモルフォーゼ)してゆく図を完成させてゆく。
しばらく後、カフェ向かいのところまで描き進めたところで『影』がいなくなっているのに気づく。

「…………フム」
                 シュワォ      シュワォ

「よし!」

サリヱが去った後のカフェテラスと交互に見比べ、満足そうに頷くとその場を立ち去る。
空白だったビル壁には、クロムブラックの塗料で先ほどの『影法師』がそっくりに再現されていた。
これは……目立つ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
★星見町新名物・その〇 → 『駅前カフェのストリートアート』
後日、街の清掃がやってきて消してしまった。『影』に気づいた人は多分いない。

711竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/16(木) 22:45:53
「平和だなぁ……」

プラプラとあてもなく歩く。
何も無いことは平和でいい事だが、同時に退屈でもある。
事実、女は退屈していた。
追うものも追われるものもない。
なんと平坦で、平凡なことか。
……日々の支払いには追われているが。

「……」

あたりをみまわす。
何かないだろうか。

712小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/17(金) 00:54:59
>>711

その時、近くにいたのは『喪服』を着た女だった。
そこまで突飛な服装ではないが、珍しいと言えば珍しいかもしれない。
女は立ち止まり、何かを見ているようだ。

視線の先にあるのは、通りに設置されている花壇だった。
そこに植えられている花を見ているらしい。
今の所、辺りに他の人間は見当たらない。

713竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/17(金) 01:44:23
>>712

「……」

誰かの葬式でもあったのだろうか。
だとしたらご苦労なことだ。
死は誰にでも訪れるが、身近なものが死んだら式を挙げねばならない。
喪に服さないとならない。
多くの人間がどこかで死んでいるが、それを無視して身近なものや尊敬するものを弔わねばならない。
生きた人間のエゴだ。

「やぁ、どうも」

「何かありましたか、お嬢さん?」

「そこのお花が欲しいのかい?」

714小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/17(金) 02:28:18
>>713

呼び掛けられて、ゆっくりと顔を上げて静かに振り返る。
相手の姿を確認し、それから丁寧に頭を下げた。

  「――こんにちは」

  「いえ、ただ……」

また、花壇に視線を向ける。
咲いているのは、鈴の形をした小さな白い花々だ。

  「以前に通りかかった時には、まだ花が咲いていませんでした」

  「今、ちょうどスズランが咲いているのを見かけたもので……」

花壇に植えられているのはスズランの花だった。
君影草や谷間の姫百合といった別名もある。

715竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/17(金) 18:59:32
>>714

頭を下げた相手にへらへらと笑う。

「ご丁寧にどーもね、どーも」

自分は片手をあげるだけで応じる。
それでいい。
女にとってはこれぐらいのお返しが限界だ。

「鈴蘭の花ねぇ……」

「花言葉とか詳しそー」

そんなことを言いつつも、考えは別の方向。

(毒性の花……)

鈴蘭のことはよく知らないが、それは知っている。

716<削除>:<削除>
<削除>

717小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/17(金) 20:30:13
>>716

鈴蘭は、結婚式のブーケに使われることが多い。
慰めの意味も持つため、葬儀の供花としても使われる。
この小さな花を見ていると、自身が経験した出来事が頭をよぎる。

  「花言葉――ですか……」

  「純粋、純潔……謙遜、再び訪れる幸せ……」

  「――そういったものだと聞いたことがあります……」

思い出しながら、鈴蘭の花言葉を口にする。
その時、緩やかな風が吹いた。
空気の流れに乗って、爽やかな香りが辺りに漂う。

  「それから――」

  「鈴蘭の花は香りも素敵ですね……」

鈴蘭の花は、バラやジャスミンと並んで香水として用いられる。
同時に、外見とは裏腹に強い毒を持つ植物でもある。
芳香と有毒――相反する二つの側面を持つ花だ。

718竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/17(金) 23:06:00
>>717

「詳しいんじゃん。ちょっと尊敬しちゃうぜ」

「お姉さん的にはね」

クスクスと笑う。
それから鈴蘭のくすぐったそうに体を揺らす。
出来れば何の匂いも嗅いでいたくない気分だった。

「うん、そうね。そう思う」

「この花の香りに包まれてみたいなー」

薄っぺらなことを吐く。
そんなこと、微塵も思ってない。

「お嬢さんもそう思うかい? どうどう?」

719小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/18(土) 00:16:39
>>718

  「……そうですね」

穏やかに微笑する。
相手の思惑には気付かなかった。
気付くことはない。

  「それも素敵だと思います……」

  「私はラベンダーの花が好きなので……
   その香りに包まれていると気持ちが落ち着きます」

私の傍には、常に死の誘惑がある。
その足音が近付いて心が乱れた時、ラベンダーの香りが鎮めてくれる。
それでも足りない時には、『鎮静剤』に頼るのだ。

  「――お花はお好きですか?」

720竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/18(土) 20:38:25
>>719

「ひゃぁ〜お嬢様みたいだねぇ」

(私トイレの芳香剤ぐらいでしか聞かないなぁ)

失礼なことを思い浮かべながら言葉を返す。
おどけてみせて、心ではそれになんとも思わない。
心と言葉の乖離が平時。

「いんや、ぜーんぜん……ウソウソ、花の匂いは好きだよ。お姉さんが好きなのはねぇ、もっとキツい匂いなんだよなぁ」

「アルコール? 甘いタバコの匂い? そういうのが好き」

今度は乖離しなかった。
気まぐれな距離感で言葉と心が動き続ける。

721小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/19(日) 00:05:23
>>720

アルコールと煙草――自分にとっては、どちらも縁が薄いものだった。
『彼』と死に別れた時、そういったものに頼る道もあったかもしれない。
実際にはそうはならず、今の私は別のものに頼っている。

  「私も……お酒は時々いただきます」

  「嗜む程度ですが……」

言葉を交わしながら、不思議な感じのする人だと思っていた。
飄々としているというのとは少し違う気がする。
ただ、捉えどころがないという意味では近いものがあるようにも感じられた。

  「――この辺りには、よく来られるのですか?」

  「もしかすると……またお会いすることがあるかもしれませんね」

奇妙な親近感のようなものを感じたのだろうか。
あるいは、心の中に何かを持っているというような。
だから私は、こんな言葉を言ったのかもしれない。

722竜胆『ブラックシープ・シンドローム』:2019/05/19(日) 20:05:19
>>721

「まぁ、ここに住んでるし来るには来るよ」

「自分の街だしね」

生活圏内ではあるらしい。

「また会うかもねお嬢さん」

「会わないかもしれないけど」

723小石川文子『スーサイド・ライフ』:2019/05/19(日) 22:48:22
>>722

返ってくる言葉を聞いて、口元に微笑を浮かべる。
やんわりとした柔らかい微笑みだった。

  「――はい」

  「もしお会いすることがあれば……またお話をさせて頂きたいです」

おもむろに背筋を伸ばし、姿勢を正す。
そして、出会った時と同じように深く頭を下げた。

  「声を掛けて下さって、ありがとうございました」

  「――それでは失礼します……」

別れの挨拶を告げると、背中を向けて静かに歩いていく。
先ほど感じた不思議な感覚を、心の片隅に残して。

724門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/07(金) 22:24:08

「―――とりあえず、これでいいか」

栗色のソフトモヒカン、ワインレッドのジャケットの男が
駅から少し離れた古ぼけたビルの前に立っていた。
一階にあるテナントには『門倉不動産』とかかれている。

                ………『手書きの張り紙』で。

725日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/09(日) 23:57:40
>>724

           ズイッ

「お兄さん、なぁにコレ?」
「おっ『不動産屋』――――へ〜、儲かるんでしょ?」

「家売るんだもんねぇ」

それを覗き込むのは、学生服の少女。
ビターチョコのような色の髪に、兎の耳のようにリボンを立てていた。

「なのにぃ、『張り紙』? これ、手書き?」
「あんまり景気良くないってやつなのかな」
「ニュースでそういう話してるよねぇ」

      スイッ

            「実際どお? 景気ど〜お?」

後ろに手を組んだ姿勢で、張り紙から『門倉』の顔に視線を向けなおす。

726門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/10(月) 00:22:48
>>725(日下部)

声をかけられた『門倉』は、少女に視線をやる。

「ああ―――うん、そうだな。
 景気はけしてよくはないが、
  それより別の問題が俺とこの『不動産屋』を襲っていてね。
   その結果が、この紙の張り紙というわけだ」

『門倉』は大げさにため息をつく。

「『金が足りない』という事だね―――つまりは。
 目の前にいる少女が『お客』になってくれれば少しは改善されるんだが………
  その学生服を見るに、その可能性も薄そうだ」

よくは分からないが『貧乏不動産屋』という事らしい。
もっとも、およそ真っ当な社会人と思えない『門倉』の格好と、
『紙の張り紙』での社名提示をみるに、儲かっていないのは当然とも思える。

727日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/10(月) 01:08:53
>>726

   スタスタ

笑みを浮かべて、回り込むように動く『日下部』。

「んふふ、正直なんだね〜。
 悪いけど『家』買う予定はないかな。
 おカネ、私も持ってないしな〜」

           スタスタ

「お金持ちそうだからお茶の一杯くらい奢ってもらえるかな〜〜〜って」

          「私も『正直』に言うとそう思ったん、だけどさぁ」

張り紙を見ながら、勝手なことを言っていたが・・・

「……ん〜?」

「なんか思い出してきたかも、もしかしてだけど」
「ここって、ちょい前に『爆破事件』があった不動産屋さ〜ん?」

頭のリボンを揺らしながら、再び門倉の顔に視線を向けなおす。

728門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/10(月) 20:11:09
>>727(日下部)

「………知っているのなら話は早い。
 つまりはそのせいでこのありさま、というわけさ」

 『門倉』は観念したかのように肩をすくめる。
 星見駅周辺の不動産屋で『爆破事件』があったというのはちょっとしたニュースになった。
 警察は『事故』と断定したらしいが、真実がどうだかは分からない―――

「一応それなりの蓄えもあったし『副業』したりして
 ある程度の修繕は出来たし周囲への補償もしている。
 だが、まだ『ある程度』にしか過ぎない。節約できるところは節約しないとね」

 『門倉』は二度目のため息をつく。

「さて―――どうせ客も来ないだろうし店に寄っていくかい?
        『お茶の一杯』くらいなら用意してあげられるよ」

 いかにも怪しい男、『門倉』が誘ってくる。

中に入ればねちっこく長話をしてきそうな予感もするし、
それ以上の事だってあるかもしれない。
それがイヤなら外でのライトなコミュニケーションで満足しておくべきか――

729日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/11(火) 04:13:00
>>728

「なぁるほどね。それで……このありさまってわけだ」

得心して張り紙に頷く。
『爆破事件』――――ないしは、『事故』。
『全国ニュース』になった類似の事故の関係で、覚えていた。

「副業、節約。意外と世知辛いけど〜」
「『命あっての物種』……とも言うもんね」
「少なくとも大けがとかはしてないみたいでよかったじゃん?」

     ニヤ

「……なんて優しいとこを見せてみたりして」
「感動したら一番良いお茶飲ませてね」

           スッ

「家の話とかされても、わかんないし」
「お茶の美味しさでそこをカバーするから」

「ま〜私、お茶の良しあしもあんまし……わかんないけど〜」

ナチュラルに上がりこんで茶をタカる動きを見せる『日下部』。
門倉もいかにも怪しげな雰囲気だが、この少女も価値観が怪しいのかもしれない。

730門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/11(火) 08:04:32
>>729(日下部)

「―――たまたま店に居なかったからね。
     怪我とかはしていないんだよ」

『主(あるじ)のいない状況での事故』………
まあ、そういう事もあるかもしれないが余計に怪しい話ではある。

 それはさておき、

「なァに、『良し悪し』なんて分からない方がいいんだよ。
 なんでも『良し』と思える方が人生は幸せに進む。

 ああ、そうだ。自己紹介しておこう。
    『門倉 良次(かどくら りょうじ)』、一応、不動産屋をしている。

                          ―――さあ、中へどうぞ」

勧められるままに『門倉不動産(手書き)』へと入る事になる『日下部』。

 ………

『不動産』内は控えめに言ってもひどいありさまだった。
壁紙はある程度張り直してあるのだが完全ではなく、
黒こげの壁面がところどころ見えている。

接客用のカウンターはまだ修繕できていない様子で、
申し訳程度に学習塾のような『長机』とパイプ椅子が置いてあった。
何かの間違いでここに入ってきてもマトモな感覚の客ならば、
適当な理由をつけて踵を返す………そんなふうに思わせる風景だ。

731日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/11(火) 22:42:58
>>730

「『気の持ちよう』でモノの『価値』は変わんないけどさあ」
「ま〜でも、『価値観』が違えば、変わってくるとこもあるか」
「良いこと言うね良次さん。あ、私は『日下部 虹子(クサカベ ニジコ)』」

「虹の子供って書いて虹子」
「不吉な名前でしょ〜」

              ザッ

                 ザッ

「不動産屋って入るの初めて……んふふ」

屋内に入ると、再び手を後ろで組んで辺りを見渡す。
焦げた壁とか……中途半端な壁紙とか、カウンターとかを。

「これ〜っ。ここで『家』の相談する席?」
「『大学部』の席みたいで風情がある。ここ座ってもい〜い?」

           ゴソッ

「お菓子でも出そうかな、私も……ね〜。良次さんってチョコレート好き?」
「あ。お茶って『お茶』? それとも〜、『コーヒー』のこと、お茶って言ってる?」

片手をカバンに手を入れて漁りながら、パイプ椅子の背もたれに手をかけた。

732門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/12(水) 01:19:29
>>731(日下部)

「『虹子』―――不吉なのかい?
          いい名前だと思うけれど」

 この『ありさま』にもさほど退かない『日下部』に
 『門倉』はそんな言葉を投げかける。

「そして―――だ。座るのはちょっと待ってほしいな。
  さすがにここじゃあ『おもてなし』するには、殺伐すぎる」

             ガ  チ   ャ   リ

       そう言いつつ、『門倉』が『ドア』を開けた。

 ………

 『日下部』がしっかり室内を確認していたのなら、
  その場所に『ドア』などなかった事に気づいただろう。

 『日下部』が外観からここの間取りを考察できていれば、
  位置的にそこに『ドア』があっても、『部屋』などないと分かっただろう。

 『日下部』がカバンに気をとられすぎていなければ、
  『門倉』の腕に重なるように一瞬だけ発現した『スタンドの腕』が見えただろう。

   しかし、たとえ全ての項目で『NO』だったとしても、
    『日下部』にはその『奇妙さ』が理解できるはずだ。

      『ドア』を開けたその奥には―――

 『不動産屋』の風景とはまるで違う、
  狭いビル内にあるような『数席しかないカウンターの店』があったのだから。


          ドド   ドド   ド  ド    ドド ド ド


                     「―――いらっしゃいませ」

薄暗い雰囲気のその店はどうやら『喫茶店』のような場所らしい。
『カウンター内』に居る長身の男の『店員』が『門倉』と『日下部』にそう声をかける。

 至って普通の対応―――ここが普通の『喫茶店』であればの話だが。

733日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/12(水) 14:19:45
>>732

「『虹』って『雨』の後にしか出ないしさ〜。すぐ消えちゃうじゃん」
「残るのは綺麗だったって感想だけだよ」「あとスマホの写真」

           ニタ ニタ

「『一瞬のために生きろ』って言われてるみたいでしょ?」

           「だから、私は不吉だと思うよ」
 
門倉の言葉に笑みを浮かべる日下部。
真意は、表情からは読み取れない。

「んん? ……?」

                  「あれっ」

日下部は『目に見えるもの』を信じている。
だから『目に見えたもの』はしっかり覚えている。

・・・そんな扉はなかった。
・・・それにこの建物に、その方向に部屋はないはず。

「んんん? なんだこれ」

   キョロッ

「良次さん、なにここ〜。……実はカフェに間借りしてるとか?」

         「ねェ〜、メニューとかって置いてある?」

                  キョロッ

しきりに視界をめぐらせながら、今度こそ席に着こうと動き出す。

734門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/12(水) 20:29:08
>>733(日下部)

『日下部』は唐突な『ドア』に疑問を覚えつつ、
物怖じもせず、キョロキョロしながら『カフェ内』へと侵入していく。

 「フフフ………なんだろうね?
  とりあえず好きなところに座るといいよ」

そんな『日下部』の小動物のような動きが面白いのか、
『門倉』は不気味な笑みを浮かべながら、答えになっていない答えを返す。

L字型になったカウンターの等間隔に椅子は置かれている。
用心のため入口間近に座るもよし、
好奇心を満たす為、奥の席まで行ってみるのもよし―――

 「メニューはそちらにございます」

『長身の店員』が手で示したとおり、カウンターの上に『メニュー』が差し込んである。
表紙を見るに『メニュー』は『フード』『サラダ』『サイドメニュー』
『ドリンク』『デザート』などに分かれているようだ。

『門倉』がそのメニューをヒョイととり、
『ドリンク』のページを『日下部』に向けて開く。

「すぐに出てくる『ドリンク』を頼んだ方がいいと思うよ。

   ………いや、ケチっているとかじゃあないんだ。
        『お茶の一杯』って話だったし、
        なにより、『そう長くはいられないからね』―――」

含みのある言い方で『門倉』はドリンクを薦めてくる。
『ドリンクメニュー』は以下のとおり。

<COLD>
・ミネラルウォーター
・ウーロン茶
・アイスティー
・レモンティー
・コーヒー
・オレンジジュース
・アップルジュース
・グレープフルーツジュース
・コーラ
・ジンジャーエール
・クリームソーダ
・タピオカミルクティー

<HOT>
・ホットティー
・ミルクティー
・レモンティー
・コーヒー
・カフェラテ
・ココア

735日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/12(水) 22:54:02
>>734

        スタスタ

「ん〜? 含みがある。じゃあ、ここにしとこうかな」

   ストン

「入り口側って慌ただしいしさぁ」
「他にお客さんとか、来るのか知らないけど」

最奥の席まで歩いて、そこに座った。
用心などしていない――――ということだろうか。

「ども、ども〜」

「注文は・・・『タピオカミルクティー』」
「タピオカミルクティーってさ〜、良次さん好き?」
「みんな好きだよねえ」「私も好きだけど〜」

「でも、なんでどこも『ミルク』なんだろうねぇ」

メニューを指さしながら、カバンを机の下に置く。

「まそれはいいや、何? なんか『用事』とかあるの?」
「あーいや、それはあるよね。事務所があの状態なんだし〜」

長くはいられない――――という言葉の真意は、さすがに読み取れない。
が、納得のいく予想は出来たので、それ以上特に追及する気もなかった。

736門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/13(木) 08:24:12
>>735(日下部)

『タピオカミルクティー』を頼む『日下部』。

 「あ――― 俺もそれで」

『門倉』がそれに便乗する。
『長身の店員』は『分かりました』と頷く。
『タピオカミルクティー』ふたつがほどなく、用意されるだろう。

「俺も好きだよ―――『タピオカ』。
 最近は流行っているみたいだから色んな味があるみたいだけどね。
 でもまあ『ミルク』が『定番』ってヤツなんだろうな。『定番』は強いよね、やっぱり」

『門倉』も『日下部』の隣に座る。

「いやいや、『事務所』があんな状態だって
 かわいい娘とお茶の一杯くらい飲みたいさ。

 むしろあんな状態だからこそ、君のような娘と何にも考えず語っていたい。
 『虹』の話とか、『タピオカ』がなんの卵かとかそーゆー話をね。
 だから『用事』なんて大それたものは特にはないんだよ」

 『門倉』はそう語る。その言葉にのって
  この場で愚にもつかない『四方山話』に興じるのもアリか。

「ただまあ、たとえば君が『オイシい副業』に
 興味があると言うのならそれを紹介してはあげられるけど―――」

 『オイシい副業』………完全無欠に怪しいワードだ。
 うら若い乙女な『日下部』が気軽にのると酷い目に遭うヤツかもしれない。

737日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/13(木) 20:35:58
>>736

「『タピオカティー』って呼ばれるようにはならないんだろうね〜」
「『タピオカドリンク』って言い方は、聞く気もするけど」

「まあ」

「なんだかんだミルクが一番美味しい気はするかなぁ〜っ」

          クルッ

腰を軸に体を回し向き直る。
頭を飾るリボンが、クラゲの足のように揺れる。

「かわいい? 私かわいい?」
「よく言われるよ〜」

     ニヤ…

「んふふ、『用』がないならいいんだけど」
「長居できないみたいなこと言うもんだから気になってね」

水のコップを手に取り、水滴を拭いとるように掌で回す。

「それで〜? 副業って? 『おカネ』に特別困ってはないけど〜」

    「私みたいなかわいい娘にできる仕事って……なぁに?」

              ズイッ

上体を乗り出すようにして、門倉の話を――――『聞く』ことにした。

738門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/14(金) 08:19:42
>>737(日下部)

「『お金』に困っていないのはいい事だね。
 それなら、そんなに興味はないかもしれないが―――」

                    ピコーン

『門倉』が持っていた『タブレットPC』を起動させ、画面を指でスライドしていく。

「あった、これだ。

    『ひきこもり男子をどうにかして外に出してほしい』。

 ひきこもりの心境というのは正直、俺にはよく分からないんだよね。
 だから断ろうかなと思ってたんだけど。
 でもまあ、男子ってのはかわいい女の子に呼びかけられれば、
 すぐに飛びつくものだろう?

   かわいい女の子―――

               つまり、君にうってつけな仕事というわけだ」

             『門倉』はそう断言する。

『ひきこもり男子』はむしろ女子に
何かしらの苦手意識がありそうだが………
あくまで『門倉感覚』での『オススメ』という事らしい。

 ………

                  「………『タピオカミルクティー』です」

そうこうしているうちに『タピオカミルクティー』が運ばれてきた。

739日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/14(金) 23:44:05
>>738

「『10万』とかもらえるなら話は変わるけどねぇ」
「流石に、普通のバイトじゃそんなに儲かんないし」

「どれどれ〜」

          ズイッ


「――――『引きこもり』ぃ?」

「引きこもりってあの、家にこもって出ないやつのことでしょ?」
「ふうん……まあ、私は可愛いけどね〜。引きこもりかぁ〜」

           カチャッ

     クルックルッ

「話は聞いてもいいけどね。『引きこもり男子』か〜……」

       「あんま変なヤツだと嫌だなあ〜」

ストローを回して、タピオカをかき混ぜる。
別に意味があるわけでもないが……

「とゆーか……良次さんって、『不動産屋』だよねえ? 『斡旋業者』もしてるの?」

740門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/15(土) 00:13:55
>>739(日下部)

「まあ、断るつもりだったからあんまり詳しい情報もないし、
 無理にとは言わないけどね。

   ―――成功すれば『10万円』くらいはあげられるかもだけど」

『門倉』はさらっとそう告げ、ズズイとタピオカをすする。
タピオカが宇宙エレベーターのように高速で上へ上と吸い込まれる。

「そして、俺に様々な『依頼』が舞い込んでくるのは
 何を隠そう、この俺が『超能力者』だからなんだ。
 だから、みんな、俺を頼って来るんだよ―――

     ………

               なァんて言ったら信じるかい?」

『門倉』は冗談めかした口調でそんな事を宣う。

741日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/15(土) 02:00:46
>>740

「ほんと? ほんとに言ってる? ……10万だよぉ?」
「10万円ってさァ〜」「大きいんだよ?」「だって6桁だもん」
「良次さんみたいな『オトナ』にはそうでもないのかなあ?」

「私は、『17歳』だからさ〜……『10万』は魅力的だよぉ」

       クルックルッ

「ただね、友達がちょっとヤバいお仕事して『3万』稼いでた」
「その『3.3倍』ヤバいって認識も〜、できちゃうよね」

           ズズーーーーッ

そこまで言い終えてからタピオカを吸う。
動きはおとなしくなる……タピオカの魔力だろうか?

「……」

「でっ」「超能力者ね。ふぅ〜〜〜ん」「なるほどだね」

            キョロッキョロッ

即座に魔力が切れたのか、周囲を見渡す『日下部 虹子』。

「どうしよっかな、信じてほしい?」
「信じてもいいけどね。信じる『根拠』とかあったほうがい〜い?」

742門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/15(土) 08:52:29
>>741(日下部)

「へえ、『17歳』か―――未成年。

  ふふ………

               ………

 いやまあ、年齢は関係なく、しかるべき『仕事』をこなせば、
  しかるべき報酬を受け取るべきだと俺は思うね。
  『3万の仕事より3.3倍ヤバい』と考えるより、
  『3.3倍』、君が活躍するのだと思ってくれればいい。
  そうすれば『しかるべき報酬』は君のもの、というわけだ。

  あ、そうだ―――この前も、とある事件を解決してね、
             未成年の『パートナー』に『10万円』、ちゃんと渡したよ」

『門倉』は誇らしげに実績を主張するが、
税金なんかはどうなっているのだろう。
(これが噂の『闇営業』というヤツか?)

「そして、『超能力』を信じる『根拠』……だって?
      出せるのかい? そんなもの―――」

『門倉』は首を傾げる。

「あッ!
     ひょっとして君は………

            俺に『一目惚れ』しちゃったとか?

 『愛する者の言葉は無条件で信じる』

                 つまりはそういう事なのか―――?」

『門倉』がどこまで『本気』なのかは窺いしれない。

743日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/16(日) 09:07:00
>>742

「未成年だけど……? なに〜今の笑顔? いかがわし〜」

「まーでも、私のがその子より『3.3倍』……いやもっと可愛いし」
「仕事もね、それくらい出来るって自信はあるから……大丈夫かな〜」

        ニヤ…

「とゆーか、そんな頻繁に『仕事』抱えてるんだ」
「不動産屋っていうか〜、何でも屋さんみたいだねえ」
「その言い方だと、人を斡旋するだけじゃないみたいだし」

高額な『ギャラ』のためなら『闇営業』も仕方ないという気風らしい。
倫理観とかは『取っ払って』しまったのだろうか……これが今風なのか?

「私に惚れられたら、良次さんは嬉しい? ふふふふふ」
「でもね、残念だけど、そういうのじゃないな〜」
「100万円くれたらそういうことにしてもいいけど」

「『好き』も『信頼』も目に見えないんだからさあ」

        キョロ キョロ

「え〜と」「もう、これでいいかな…………」

視界を彷徨わせて……おもむろに食器入れに手を伸ばす。

「根拠はちゃんとあるんだけどね〜」
「ここで出しちゃっていい?」

「汚れちゃうからさ……掃除とか、誰か困らないかなあ?」

そして・・・フードメニュー用の物なのだろう。

            スッ

フォークを手に取り、袖をまくり、切っ先を肌に建てる。

744門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/16(日) 21:57:54
>>743(日下部)

「そりゃあ君のような可愛い娘が好きになってくれるならそれは最良だよ」

 『門倉』はそんな事を言いながら、

「―――?

       何を………何をしようとしているんだ!?」

 フォークを肌にたてる『日下部』に血相を変える。

「こ、『根拠』ってアレか?
  ヤクザの『指詰め』みたいな行為をもって示そうってのかい!?
        いや……病んだ少女の『リストカット』が近いか………?

    いやいや、譬えなんてどうでもいい!
    当たり前のことだが、俺はそんな事を望んじゃあいないよ!」

 『門倉』は『日下部』の行為を止めようとする。

745日下部『アット・セブンティーン』:2019/06/16(日) 23:19:51
>>744

「『オトナ』も手を焼く『ひきこもり』の『連れ出し』」
「『若くてかわいい』だけの『17歳』を連れてくのも」

「んふふふ、まあね」

        プツッ

止めるよりも・・・手を動かす方が、少しだけ早い。
目を細めて、肌に鋭い先端が突き刺さる。

「それはそれでいいんだろうけどね」
「でも……『仕事相手』はお金払うわけだし」

           『ポコ』 『ポコ』

「良次さんは、私のこと『頼れるパートナー』って紹介するんだよ」
「だから、その辺で捕まえた『17歳』じゃなくって〜」

                ・・・?

今確かに、『フォーク』は突き立てられた。
肌に銀の切っ先が刺さり・・・赤い血が・・・出たはずなのだが。

      ペロッ

「こういう『目に見える』証があった方がねぇ、お互いのためだと思うの」

いたずらな笑みを浮かべ、フォークを口にくわえるその手は、傷一つなく、白い。

746門倉『ソウル・ダンジョン』:2019/06/17(月) 00:53:10
>>745(日下部)

「ああッ!」

 『門倉』の眼前でフォークが『日下部』の柔肌に侵入していく。
 思わず軽い悲鳴のような声を出してしまう『門倉』だったが―――


                    「―――ん? んんん?」

 無傷の手………消えた『傷口』。その事実に目を見開く『門倉』。

 ………

「君―――その傷は……『奇術』か『マジック』で………?

 ………

  いや、止めよう。この現象が『超能力を信じる根拠』だというのなら」

              グ  オ  ン

       『門倉』の傍らに『人型のスタンド』が現れる。

  ・ ・ ・
「『視える』方の人間だという事だね―――虹子ちゃん、君は」


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