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【場】『 大通り ―星見街道― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:00:31
星見駅を南北に貫く大街道。
北部街道沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、
横道に伸びる『商店街』には昔ながらの温かみを感じられる。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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363小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/11/27(月) 17:00:54
>>362

「近いのか! じゃあ眠りの国か、ううむ、それとも――――」

                   「光?」

光と、夢。明るいイメージの言葉だと思った。
それ以外になにか、近いものがあるのだろうかとも。
それ以上は小角には推理できていなかった。材料はあった。
サングラス。昼間とはいえ、眩いと思うほどの太陽でもない。

――――はっとさせられたのは、想像が及んでなかったから。

「なっ…………そうなのか」

目。思わず絶句した。どういう顔をすればいいのか分からない。
それでも、夢見ヶ崎の笑みを見て、少しは言葉が喉にのぼって来た。

「それは……おめでとう、と言わせてもらうよ。
 わたしが軽々しく言ってしまっていいのか、わからないが」

              スッ

「きみの顔を見れば、祝うべきなのは間違いないと分かった」

「おめでとう、夢見ヶ崎さん――いや、『光の国のアリス』さん」

いつの間にか、やや俯きがちになっていた顔を上げて、そう言うしかなかった。
おめでとう。ともっと心の底から言いたかったけど、今はまだ言葉だけが精一杯だった。

364夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/27(月) 20:46:51
>>363

「ありがとう――オヅノちゃん」

一点の曇りもない笑顔で、お礼を言った。
出会ったばかりなのに、やや馴れ馴れしい感はある。
それでも、素直に感謝しているのは本当のことだ。
文字通り光が溢れんばかりの表情が、それを証明している。

そして――。

「ヘイヘイヘイッ――」

「お願いだから、そんな暗い顔しないでくれよ、スイートハート。
 キュートな君には、明るい顔が一番よく似合ってるよ。
 そのコートがキミに似合ってるのと同じくらいにさぁ〜〜〜」

「――ところで、今ヒマかい?
 良かったら、オレと一緒にショピングでもどう?
 この辺じゃあ一番の店を紹介するからさ」

また悪ノリが始まった。
どこかの映画か何かで見た『プレイボーイ』の影響らしい。
しかし、ただふざけているわけではない。
雰囲気が暗くなりかけたのを察してのことだ。

――私は、いつだって明るい方が好き。
   だって、私は『光の国のアリス』なんだから――

365小角 宝梦『イル・ソン・パティ』:2017/11/27(月) 21:21:29
>>364

「れ――礼を言われることはしていないさ」

             「……」

思わず沈黙してしまったから、続く悪ノリは助かった。
小角宝梦はノせられやすい。ゆえに、答えは決まっている。

「……ふふん、言っただろう?
 わたしを褒めても何も出ないと!
 しかし、暗い顔をすべきじゃないのは同感だ」

              フ

微笑を浮かべて、小角はいつもの顔に戻る。
せっかくのお誘いなのだ。今日は、もう用もないし。

(わたしが暗くなってどうする!
 気を使わせてしまったじゃないか)

         (平常心、だ)

「それに……良い推理だね、ひまなんだ。
 どうせなら、きみのおすすめを聞いてみようか」

           ザッ
                  トコ トコ

「一体――どんなところに連れて行ってくれるのかね?」

案内役を買って出たアリスに、白梟のような探偵が着いて行く。
聞いた事も無い物語だが、それが今確かにここにあり――楽しい時間なのだ。

366夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/11/27(月) 22:16:46
>>365

「なぁに――」

「最高にクールでイケてる店だよ、ハニー。
 コレも、そこで買ったのさ」

自分の頭を飾るリボン代わりのスカーフを指差す。
探偵のようなシックな装いとは異なる、様々な色が使われたカラフルな布地。
行き先となるのは、そういった商品を扱っている店のようだ。

「もっとも――」

  ワンダーランド
「『不思議の国』ってワケじゃあないけどね」

普段の自分に戻り、クスッと笑う。
そして、アリスは歩く。

  トッ

時計を持った白ウサギではなく、探偵姿の白梟と共に。

     トッ トッ

奇妙で不思議な取り合わせ。

          トッ トッ トッ

だが――それも一つの物語だ。

367冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/12/27(水) 23:46:27
「え? うん、分かった。後でそっち行くね」

「何食べたいって? うーん……あ」

「夜は焼肉っかなぁー」

ある日の大通り。
一人の少年が歩いている。手には通話中のスマホ。
上着のポケットから何か落ちた。
手袋だ。
右手の手袋がポロリと落ちた。

368夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/12/31(日) 20:37:23
>>367

ブルーのサングラスをかけた少女が歩いている。
格好はパンキッシュなアレンジを加えたアリス風ファッションといったところ。

「お」

歩いている少年を見かけた。
夏に海で会ったことを覚えている。

「ん?」

電話の内容が耳に入った。
そして、手袋が落ちるのが見えた。

「よし」

横から近寄っていく。
何事かを企むような薄笑いの表情で。

「や、レイゼイくん」

「久しぶりだね。ところで今、誰と喋ってたの?」

「さあ、教えてもらおうか!こいつは人質だ!」

言いながら、少年の前に手袋を出してみせる。
もちろん本気ではない。

369冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/12/31(日) 22:05:45
>>368

「あれ、明日見」

「わわわ。手袋なんで?」

「あー違うの。違う違う」

スマホの会話に集中していたため突然の登場に驚いてしまった。
それから手袋に気付いて二度目の驚き。

「お姉さん。前に話したっけ」

「お世話になってる人」

スマホを耳から離して、囁くように言う。
スマホの画面には通話中であることを示す画面が浮かぶ。

370夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2017/12/31(日) 22:39:59
>>369

「聞いた聞いた。マッドサイエンティストのお姉さんでしょ」

「あ、これ返すよ。そこに落ちてた」

手袋はあっさりと返した。
それはいいとして、このお姉さんとやらには興味がある。
前に聞いた限りでは、色々と実験とかしてるらしい。

「私もちょっと挨拶したいな、そのお姉さんに」

「いい?」

そう言って片手を差し出す。
直接話をすることができれば、謎の片鱗が見えるかもしれない。

371冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2017/12/31(日) 23:21:22
>>370

「マッド? いや、そこまで危なくはないと思うけど……?」

「あぁありがと」

手袋を受け取り上着のポケットに押し込んだ。
先程同じようにして落としたのは忘れているのか、覚えているがそうしているのか。

「挨拶? 僕はいいけど」

「もしもし? うん、ごめんね。えっと、明日美が話がしたいって」

「え? いや、違うよ。トモダチ? うん、そんな感じ」

「……はい」

スマホを差し出した。

372夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 00:07:37
>>371

「センキュー!」

お礼を言ってスマホを受け取る。
さて、どう切り出そうかな。
相手はかなり変わった人みたいだし。
でも、今は情報が少ないからなぁ。

――ま、普通にすればいいか。

「もしもし?はじめまして」

「私、レイゼイくんの友達で、夢見ヶ崎明日美っていいます」

「前にレイゼイくんからお姉さんの話を聞いてたので、ご挨拶させてもらいましたぁ」

こんな感じでいいかな?

373冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 00:48:22
>>372

『ああ! どうもどうもー』

『自分はツクモってゆーのねー?』

聞こえてきたのはまったりとしていて微妙に元気な声だ。
騒ぎはしないものの声のトーンは明るい。

『咲ちゃんの友達? ホントホント?』

『あーでも明日美ちゃんって聞いたことあるかもー?』

『海で遊んでくれた子?』

374夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 01:10:16
>>373

「そーです、そーです」

「一緒にビーチバレーやってましたぁ」

もっとトッピな人かと思った。
でも、意外と普通の対応で、少し驚いた。

「あの時は楽しかったなぁ」

「レイゼイくん、私のことなんて言ってました?」

喋りながら、ちらっと横目で少年の顔を窺う。
特に深い意味はないが。

375冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 01:35:25
>>374

『ふーん。そうなんだー』

おかしな反応はない。
さすがにおかしな人がすぎると冷泉咲も懐かないという事なのだろうか。

『咲ちゃんはねぇ、初対面なのに話しやすい人だったって言ってたよー』

『だーけーどー自分ちょっとジェラシー。ジェラっちゃったんだよねぇ』

咲が君を見ている。
特に何か意味のある視線でもないが。
目が合っている。

『自分は咲ちゃんの変化を求めたー』

『だけど考えたの。あの子がどう変化するは興味深い』

『でもでも変わっちゃった彼の中にある魂はどうなんだろう』

『実験で得られる成果が常にプラスではないのと同じように人間関係もプラスだけを生まない』

『もちろん、マイナスが悪いという訳でもないけど』

『はっきりと言って自分は嫉妬を感じるよ。自分は彼の変化に立ち会えない』

『同時に彼が自分以外の色を飲み込んでいく様は喜びと悲しみを教えてくれるおかしな教師なーんーだー』

少し、興奮しているようだ。

「?」

『変化や成長は破壊と創造に等しく、自分との会話によって君や咲ちゃんも破壊と創造を繰り返してる……』

『……あーちょっと待って興奮し過ぎちゃった』

『えっと、とにかくとにかく咲ちゃんは明日美ちゃんを気に入ってるってわけ!』

376夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 01:58:23
>>375

「?????」

頭上に大量の疑問符が浮かぶ。
自分が馬鹿だとは思わない。
だけど、言われて即座に理解するにはツクモの言葉は難解すぎた。

しかし、彼女が複雑な感情を抱いていることは分かった。
そして、彼女が自分の期待していた通りの人間であることも。

「あー、そーなんですかぁ」

「良かったなぁ良かった、うんうん」

謎に包まれたツクモの一端を知ることができた。
もっと深く突っ込んでもいいけど、さらに嫉妬が強くなって嫌われると話しにくくなる。
話題を変えよう。

「そういえば、ツクモさんは実験するのがお好きなんですよねぇ?」

「最近はどんなことをしてるんですかぁ?」

377冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 02:21:06
>>376

矢継ぎ早に出る言葉は相手が理解できるかというコミュニケーションとしての性質を少々欠いているのだろう。

『ごめんねーほんとー』

『どうにも気まぐれな割にはガーッと言っちゃうんだよねぇ』

『実験? 最近は過冷却水とかブタンガスとか?』

378夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 18:36:15
>>377

「あははは、いいですって。私も時々そんなことあるしぃ」

「カレイキャクスイ……豚、ガス……?」

何か分からないが、科学とかそういう専門的な言葉らしい。
聞いたら説明してくれるだろうか。
いや、説明されても余計分からなくなるだけかもしれない。
聞くのはやめよう。

「へぇぇぇ〜、興味あるなぁ」

「いつか私も見せてもらいたいな、なぁんて」

意味は分からなくとも、実験という響きには興味をそそられる。
未知の世界の匂いを感じる言葉だ。
それに、ツクモに対しても興味はある。

379冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 20:08:54
>>378

『そー。過冷却水にブタンガスねぇ』


相手が理解しているのかいないのかあまり気にしている雰囲気でもない。
ただどういうものかの質問がなされなかったので特にそれ以上説明することもなかった。

『別にうち来てくれたらやるやるー』

『咲ちゃんの連絡先とか聞いといたらー?』

『でも今日はダメだよーまたジェラっちゃっうかーらー』

けらけら笑ってツクモは答えた。
実験を見に行く分には大丈夫なようだ。
タイミングというのはあるが。
話はひと段落といったところだ。
咲に電話を戻してもいいしもう少し話しても大丈夫だろう。

380夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 20:37:12
>>379

「オコトバに甘えて、そのウチ行かせてもらいますねー。そのウチ」

言葉で説明されるより、自分の目で実際に見る方がいい。
頭でアレコレ考えるのではなく、五感を通して体験し、感じること。
それが自分の望みだ。

「んじゃ、この辺でレイゼイくんに代わりますね。ありがとうございましたぁ」

ツクモに挨拶し、咲にスマホを渡す。
こうして話ができたし、次は実際に会うこともできるかもしれない。
収穫としては十分だ。
上出来、上出来。

「――面白い人だね、お姉さん」

電話口にいるツクモに聞こえないような小さな声で、咲に感想を漏らす。
一言で表現するとしたら、そういった印象を受けた。

381冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 20:43:28
>>380

『はーい。ばいばーい』

頭で理解して見るか、目で見て理解するか。
進み方は人それぞれだ。

「ね? 言ったでしょ? もう、そういうんじゃないって」

「じゃあね」

スマホを受け取り咲が通話を終了した。

「でしょ? 楽しい人」

382夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 21:17:15
>>381

「うんうん。少なく見積もっても、私と同じくらい面白いね」

咲の言葉に何度か頷いて納得の意思を示す。
それに、咲には強く執着している様子だった。
今は咲が説明してくれたから、友達以外の関係かどうかという疑いは晴れたらしい。

けど、もし彼女に会う機会があったなら、目の前ではあまり咲に近付きすぎない方が良さそうだ。
面と向かってジェラシー入っちゃうと、さっきよりもヤバくなりそう。
こえー、こえー。

「あっ、そうだ。連絡先教えてくれない?」

「また今度、私も実験とか見てみたいから」

「ついでに私のも教えとく。なんか変わったこととか珍しいこととかあったら教えて」

ツクモに言われた通り、連絡先を交換しよう。
それが終わったら、自分の当初の目的地へ向かうことにする。
ネイルの新しいのが欲しいんだよね。

383冷泉咲『ザ・ケミカル・ブラザーズ』:2018/01/01(月) 22:47:37
>>382

「そうだね!」

自分と同じくらい面白いという言葉に頷いて同意した。

「連絡先? いいよ。えっとね、これ」

スマホを君の方に向けた。
連絡先の交換を拒むことは無かった。
これで元の目的地に行けるだろう。

「じゃ、また今度とか」

384夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/01/01(月) 23:18:15
>>383

「あっはっはっ、照れるなぁ〜〜〜!」

同意されてしまった。
これをどう受け取るかは人によると思う。
とりあえず私は喜んだ。
面白いというのは、私にとっては褒め言葉だから。

「ありがとありがと。これでまた一つ入り口ができた」

入り口――それは未知の世界への扉だ。
人の数だけそれがある。
そして、それは多ければ多いほど良いのだ。

「うんうん、また今度ね」

「今日は焼肉だっけ?ウチは何かなぁ?」

「ま、いいや!これからネイルチップ買いに行くんだ。新しいの作りたいからさ!」

「――じゃ、レイゼイくん、またね!」

一通りの挨拶と軽い身の上話を終えてから、手を振って立ち去っていく。
その姿は徐々に遠ざかり、やがて見えなくなった。

385宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/04(日) 16:59:33

カーキ色の作業服を着た肉体労働者風の男が、大通りを歩いている。
四十台半ばの年齢だが、その屈強な体格には身体的な衰えは見えない。
鋭い視線には虚無的な光があった。

「この辺りも、随分と変わったものだ」

自分が刑務所にいた二十年の間に、色々なものが新しくなった。
街も、物も、人も、時代と共に移り変わっていく。
この場所も例外ではないようだ。

「ここは――」

「この店が生き残っていたとは驚いたな」

商店街の片隅にある一軒の雑貨屋の前で立ち止まり、思わずそう零した。
自分が幼い頃からあった店だ。
てっきり、とっくに潰れているものと思っていた。

「おやおや」

「誰かと思えば坊主かい。ようやく戻ってきたようだねえ」

中に入っていくと、奥にいた顔なじみの老婆に声を掛けられた。
この婆さんには、成人を過ぎてからも小僧扱いされてきた。
どうやら、それは今も変わらないらしい。

「婆さん、あんたもまだ生きていたのか。ますます驚いた」

「あたしは生涯現役なんだよ。まったく、いい若いもんがそんな元気のない顔をしてんじゃあないよ。シャキッとおし、シャキッと」

「俺はもう若くはないぞ」

「年上に口答えするんじゃないよ。あたしから見れば、まだまだガキさね」

腰の曲がった老婆は、ブツブツ言いながら、また奥へ引っ込んでいった。
俺はそれを見送り、何気なく店内を見て回る。
様々な品物を雑多に扱う昔ながらの雑貨屋といった感じで、基本的には俺が入所する前から変わっていない。

「――変わらないものもあるということか」

この店と、店主の老婆を思い出し、ポツリと呟いた。

386硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/04(日) 20:23:46
>>885
「こう言った、オブラートに包んだ表現をすれば
”昔ながらの”商店が、
どうやって生計を立ててるか気にならないかい。
火曜日の9時くらいにやっている人情ドラマでは、
こんなひなびた商店街に巨大なショッピングモールが出来て、
彼らを悪と決めつけて追い出すために躍起になる。
だが、地元の客が来る事に胡座をかいて経営努力を行なう商店なんて、
滅びて当然じゃあないか、って俺の母さんが言っていたよ」


気が付けば真後ろに、鼻ピアスに、髪を派手に金色に染めた
シュプリームのダウンを着たヤンキー風の男子高校生がいた。


「俺は、明日学校で書道の授業があるから墨汁を買いに来たんだが
あなたは何を買いに来たんですか」

387宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/04(日) 21:17:28
>>386

「大いに関心があると言いたいところだが、生憎そうでもない。
 この店がなくなろうと俺にさしたる影響は与えないし、その逆も同じだろう。
 実際、ここに来るのも二十年ぶりだ」

振り向いて相手の姿を一瞥する。
学生か。
スタイルは違えど、こういったタイプの生徒がいるのも変わらないようだな。

「俺は散歩の途中で立ち寄っただけだ。
 客観的に見れば冷やかしだな」

「だが、歩いて少し喉が渇いた。
 飲み物でも買うことにしよう」

冷蔵ケースから缶入りのお茶を取り出し、会計を済ませる。
そして、再び歩いてきて棚の一角を指差す。

「墨汁ならそこにある。最近でも習字の授業があるのか。
 変わらないものというのも案外あるものだ」

老婆はレジの前にいた。
買うのであれば、問題なく買えるだろう。

388硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/04(日) 21:38:29
>>387
「20年」

思わず声を上げる。

「俺は生まれていないが、20年前は今世間を騒がせてる小室哲哉の、
隆盛期だったらしい。
友達の家のパソコンの『YouTube』って奴で、
小室哲哉の『globe』ってバンドの、楽曲を聴かせてもらったが」

グイッ


「とてもとても良かった。
特に『Joy to the Love』って奴が彼氏と付き合いたての、
女性の気持ちを上手く描いていて、とてもとてもよかった。
勿論、俺は女の子と付き合った経験なんてないんだが」

墨汁と一緒にショーケースに入ったコーラを手に取り、
レジへと運んでいく。

「俺は近所の『玩具屋』の小倅なんだが、久しぶりに近所の商店街で買ったよ。
俺は字が汚い事にコンプレックスを抱いてるし、
まだまだ若輩者だから変わらない美しさって言う文化もよく分からないし、
マジな話、書道なんてこれっぽちもやりたくないんだが。
お婆さん、これください」

389宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/04(日) 22:39:34
>>388

「なるほど」

「俺は音楽に造詣が深い方ではないので曲は知らないが、その人名くらいは耳にした覚えがある。
 俺の知人は、昔よく聴いていたような気がする。
 確かに流行っていたようだ」

軽く頷いて同意の意思を示す。
この手の話題は、俺よりもあいつの方が得意だったか。
こんなところで、あいつのことを思い出すとは思わなかった。

「過去というのは過去でしかないが、同時に事実でもある。
 一時期でも栄えたのなら、それはそれで立派なことなのだろうな。
 栄えたことのない人間から見ると、そう思える」

店内の隅の方へ行って、買った緑茶を開けて飲み始める。

「ほう、君は商店街の関係者だったのか。それは意外だ」

「字が綺麗であることに悪いことはないだろうな。
 だが、書道をしたからといって字が綺麗になるという保証はできないが。
 幸い、字が綺麗でなくとも生きていくことに大きな支障はない」

レジの前に座った老婆は、年季を感じさせる無駄のない動きで手際よく会計を行う。
墨汁とコーラ合わせて税込み300円のようだ。
老婆は、袋が必要かどうかを尋ねている。

390硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/04(日) 23:07:28
>>389
「俺が商店の息子なのが、意外なのかい。
俺はあなたみたいな強面がこんな所で冷やかしをしてる方が意外だ。
袋は結構だ。エコだよエコ。
ーーだが。俺がレジ袋や割り箸を断った所で
石油や木の伐採量が変わるとは思わないが、
やらない悪よりやる偽善なのかい」

カラージーンズのポケットから小銭を取り出し老婆に渡すと、
墨汁とコーラを受け取り、作業服の男に続く。

プシュ!

「地球温暖化で生態系はどんどん崩れていくが、
恐らくコーラは20年前から美味いんだろうな。
俺は酒も飲まないしタバコも吸わない不良だ。
俺はコーラを裏切らないし、コーラは俺を裏切らない。
貴方と話してる今これを飲めば変わらないものの美しさを実感できるかもしれない。
ーーいただき『グビリ』ます」

コーラと間違えて墨汁の封を開け、
それに気づかないまま口元へと運び

「『ビューーーーー!!!!』」

派手に吹き出した。鄙びた文房具店、
墨汁の匂いが宗像の鼻腔を刺激する。

391宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/05(月) 00:34:01
>>390

「川や池にアザラシが紛れ込むことは確かに珍しいが、決して有り得なくはない。
 今ここに俺がいるのも、それと似たようなものだ。
 街中にアザラシが現れるよりは、二十年間現れなかった男が姿を見せる方が確立は高いだろう」

事も無げに淡々と答え、目の前の光景を黙って見つめる。
少年が開封したのがコーラではないことには気付いていた。
だが、おそらく冗談か何かだろうと思っていたため、特に止めることはしなかった。
よって、少年が墨汁を吹き出したところで、ようやく間違いであったことを察した。
しばらく無言のまま表情を変えず、両目だけをやや見開く。

「俺に言えることは――」

「君を裏切ったのは墨汁であってコーラではない。
 コーラは今でも君の味方だ。
 そのことは、君が片手に持っているコーラで口の中を洗い流せば実感できるだろう」

鼻に付く墨汁の匂いに、軽く眉を顰める。
懐かしい匂いと言えなくもないが、だからといって心地良い香りでもない。
体から墨汁の匂いを追い出すように、自身も緑茶を呷る。

392硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/05(月) 06:19:28
>>391
「エフッ、エフッ。
鼻まで行かなくて、エフッ、よかった」

口内に拡がる墨の味に思わず咳き込むながら、
文房具屋の商品に付着していないかよく確認する。
そして落ち着いた所でコーラを流し込む。

「ーー貴方の言ってる事は俺にはよくわからないが、
とにかくコーラは美味いという事はわかったよ。
一流の左官屋の手よって塗られた壁土のような汚れのない美味さだ。
なぁ、どうでもいいけれど今の言い回し『村上春樹』ぽくないかい?
無人島か刑務所か宇宙ステーションか、どこにいたかはわからないが、
20年前にも村上春樹は居ただろう?」


ゴシッ ゴシッ ゴシッ


老婆に店を汚したことを謝罪し、
申し訳ないついでにモップと水を張ったバケツを貸してもらうと、床掃除を始める。

「汚したついでだ。綺麗にしないとな」

393宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/05(月) 17:26:26
>>392

「君がいたと言うなら、多分いたのだろうな。
 俺は教養のある人間ではないので、それについては何とも言えないが」

そこまで言って、缶入りの緑茶を最後まで飲み干す。
そして、外に設置されているゴミ箱に空き缶を放り込んだ。
投げ込まれた缶が、軽く乾いた音を立てる。

「二十年間を無人島で過ごした男が帰ってきたとしたら、ちょっとしたニュースになりそうだ。
 宇宙飛行士が二十年ぶりに地球に帰還というのも世間の話題になるだろう。
 刑務所に二十年いた男が出所したとしても、それがニュースになることは少ないだろうな」

幸いなことに、墨汁で汚れたのは店の床だけだった。
老婆も特に文句を言うことはなく、寛容に対応する。
バケツとモップも問題なく貸して貰えた。

「床が汚れたのは、目の前にいながら止めなかった俺にも幾らかの責任がある。手伝おう。
 ちょうど仕事が休みですることがなくて困っていたところだ」

そう言って、自身もモップを借りて床を磨き始める。
実際のところ、することがなかったからこそ、自分は今この場所にいた。
何かしらの仕事ができたというのは有り難いことだ。

394硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/05(月) 19:15:33
>>393
「果たしてそうかな。
20年も刑務所にブチこまれるなんて、よほどの事だ。
殺人、それにプラスって所じゃあないか。
この間、総合の授業の課外活動で地方裁判所にお邪魔した時に、
地方裁判所の偉い人が教えてくれた。
20年も刑務所に居た人間なんて、『実話ナックル』が放っておくわけがない」


ーーゴシゴシッ

床掃除をしながら、冗談交じりに下世話な週刊誌の名前を挙げる。

「本当に申ッし訳ない。
どう考えても俺が悪いのに嫌な顔一つせずに手伝ってくれるなんて、
貴方はとても良い人なんだな。ありがとうございます。
感謝、感激、カンブリア宮殿ッてヤツだな」

「俺は『硯 研一郎(スズリ ケンイチロウ)』。見ての通り男子高校生だ。
ーー君は誰で、何の仕事をしているんだい?」

395宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/05(月) 22:11:26
>>394

「ああ、少なくともまともな人間ではないだろう。
 相応の悪人であることは間違いない。
 よほど手口が残虐だったのかもしれないな」

何気ない口調で答えながら、ふと考える。
そう言われてみれば、ゴシップ誌の片隅にでも載っていないとも限らないか。
もっとも、それを自分の目で確かめてみようという気は起こらないが。

「宗像征爾だ。職業は建築業をやっている。
 より正確に言えば、配管工だな。
 ガス管や水道管に関する工事が主な仕事だ」

『良い人』という言葉を聞いて、表情の乏しい顔に、薄っすらと笑いらしきものが浮かぶ。
自分に対して、そんな言葉が向けられるとは思わなかった。
そのことが、純粋におかしかった。

「どうやら大方片付いたようだ。手伝った代わりといっては何だが、硯――君に頼みがある。
 君の家は玩具屋だったな。俺をそこまで案内してくれないか?
 ここでの冷やかしは、もう十分したからな」

モップを老婆に返しながら、不意に提案を口にした。
掃除の甲斐あって、床はすっかり綺麗になっている。
墨汁が零れる前よりも綺麗になっているように見える程だ。

「玩具で遊ぶような年でもなく、子供もいない俺が行ったところで買うものがあるかどうかは分からないが、
 同僚の子供に何か買うのも悪くないだろう。
 君の所がどんな店なのか、多少の興味もある」

396硯 研一郎『RXオーバードライブ』:2018/02/05(月) 22:47:04
>>395
「『配管工』って事は。
征爾さん、君はひょっとしてスーパーマリオなのかい。

俺は姫様を助けたと思ったら、レーサーになったり、またある時はお医者さんになったり、エトセトラ。
俺はそんな真っ赤な配管工のおじさんの事を、心底『リスペクト』しているんだ。
彼と同じ仕事に就いてる君もまた『ドープ』だ。ヤバイ。
ーーもっとも『緑色』の弟にはあまり興味がないがね」

老婆に掃除用具を返却するついでに騒いだ事を詫び、
墨汁とコーラを片手に店を出る。


「『オモチャとゲームのすずり』はそれなりに経営努力をしている個人商店だからな。
『switch』から『竹トンボ』まで幅広く、雑多に揃えている。
それなりに、楽しめるんじゃあないか。喜んで案内するよ。
俺の家の隣には友人の外国人が経営する、
ちょっと小粋な『喫茶店』があるんだ。
征爾さん、せっかくだし後でそこでお茶でもしようか。では行こうか」

397宗像征爾『アヴィーチー』:2018/02/05(月) 23:35:51
>>396

「組み立てと取り付け、点検と修理、掘削と埋め込み。
 配管工事と一口に言ってもやることは色々とあるが、大抵は地味な仕事だ。
 水を差すようで悪いが、君の言うような華々しさは俺にはないな」

硯に続いて、自分も店の入り口に向かう。
その直前、知り合いである老婆に向き直り、声を掛ける。

「――そういう訳だ、婆さん。邪魔したな」

「あいよ、またおいで。そっちの坊やもね。
 ……さっきよりはましな顔になったじゃないかい」

俺は老婆の言葉を最後まで聞かずに、そのまま店を出て行った。
次に来た時も、まだこの店は残っているのだろうか。
俺には分からない。
変わるものは変わるし、変わらないものは変わらないのだ。
結局のところ、全ては自然の成り行き次第という奴だろう。

「『スイッチ』を売っているのか?変わっているな」

頭の中には、電気のスイッチのようなものが浮かんでいた。
出所してから、世間の情報は一通り仕入れたが、まだ知らないことも多い。
まあ、行ってみれば分かるだろう。

「喫茶店か。それは楽しみだ。
 ちょうど濃いコーヒーが飲みたいと思っていた。
 『すずり』共々、期待させてもらおう」

398須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/13(火) 00:35:36

「コロッケをひとつ」

 商店街の肉屋で買うコロッケというのはどうしてああも美味いのだろう。

 そもコロッケという惣菜自体が罪だ。
 買ってくるともそもそして不味い割に、自分で作るとなれば存外と手間になる。
 しかし肉屋で売られている揚げたてのものとなれば話は別。
 面倒な手間は全て店側で負担してくれる。
 出来たてのそれに手間賃を求められるようなことも少なく、相場はだいたい150円前後か。

「からしも塗ってください」

 特に、冬場はうまい。そういえば、星見町に雪は降るのだろうか。

399鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/14(水) 23:47:10
>>398

カラコロカラコロ

                  カラコロカラコ

下駄が鳴る。
歩いて来たのは和服を着た少年。
癖のある黒髪をしており、首筋の辺りで織物のミサンガを髪紐がわりにして結んでいる。
首筋や肩にかかるはずだった髪がまとめられ小さな尻尾のようになっていた。

「……」

肉の棚をよく見ている。
品定めをしているのかもしれない。
手には買い物袋。ここも彼の買い物のルートなのだろう。

「ん……なにがええか……」

400須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/15(木) 22:57:10
>>399

 軽やかな音につられて視線を向ける。
 和服。

「……」

 下駄に着物とは風情があるが、この時期に寒くはないのだろうか。
 思いはすれど、口には出さぬ。
 エネルギーの浪費は避ける主義だ。

(目立つだろうに。気にしない人なのだろうか)

 それでも、視線は外さない。

                    「はいよ、コロッケお待ち!」>

 同じ年ほどの少年をじろじろ見ながら、会計を済ませる。

401鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/16(金) 00:00:08
>>400

「合挽きミンチを800」

「あとコロッケ……は、あぁ。ないんやね」

視線を感じてぷいと顔を向ける。

「ん?」

目が合って、鈴元がぺこりと頭を下げた。

402須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/16(金) 00:08:45
>>401

 コロッケはもう売り切れたのだろうか。
 となると、自分が受け取ったこの1つが最後ということになる。

「……」

 まあ、視線が合って会釈を返すくらいは労とは思わない。
 視線はそのまま、手に持ったコロッケへ。

「……」

 押し割ると、芳しい油の香りとともに、湯気が立ち上る。
 それを一口。
 揚げものの美味さの正体は、熱だ。今この一秒ごとに、美味しさは失われていく。

   ザク     モソモソモソ……

403鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/16(金) 00:25:17
>>402

「……」

本来コロッケが置いてあるであろう場所にコロッケの姿はない。
間違えようのない売り切れだ。

「……どうもおおきに」

会計を済ませれば買い物袋の数が増える。

「……」

じぃっとそちらを見つめている。

404須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/16(金) 00:37:51
>>403

「……」

 コロッケを買えなかった少年が、コロッケを食べる自分を、じっと見つめている。

 そこに宿る意味は、果たして何だろうか。
 思考や推察は、たいして労力を伴わない。
 腰を据えて、存分に考えてみよう。
 或いは、向こうから糸口をもらえるだろうか。

「……はっ、ほふ、ほっ……」

 揚げたてのコロッケは熱々だ。
 当然口の中に冷たい空気を入れて、冷まさないといけない。
 必要な行為だ。

 そろそろ、半分を食べ終わる。

405鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/16(金) 00:51:32
>>405

人生にこういった場面があるとしよう。
自身の欲したものをすぐ近くの誰かが持っている。
タッチの差。誰も悪くない。ただ運が悪かっただけ。
そういう状況は生きている間、ないでもない。

「……」

だがそんな時、その人物に譲ってもらうように頼めるだろうか。
天が味方をしなかったのだと諦めた方が賢明ではないか。
さらに言えば今回の対象はコロッケ。
食べ物だしすでに咀嚼されているものだ。
それを譲ってくれなど言えるだろか。

(……)

(美味しそう……いや、あかん。人のもんやし……食い意地はって、はしたないわぁ……)

言えるはずもない。

406須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/16(金) 01:23:09
>>405

 ……まあ、意地の悪い呆けは趣味ではない。
 根負けして視線を逸らす。

「……、……」

 しかし、困った。
 彼はコロッケを食べたかったのだ。
 それは、不可逆の真実。
 知ってしまったからには、目の前で残り半欠けを平らげるような真似は、もう出来ない。
 きっと莫大な労力を要することだろう。心の労力を。

 さりとて、施すというのもあり得ない。
 無償! 奉仕! なんと邪悪な言葉だ……。
 損失を許容するというのは、須々木遠都の信条に反する行為。

 食べることは出来ない。
 施すことも出来ない。
 考える一秒ごとに、揚げたてのコロッケはその価値を失っていく……。


                       じゅわわわわ……。>
                           ゴロン ガロン ゴロン>


「……!!」

 惣菜の棚を凝視する。
 少年が、自分が何を見ているかに気付くように。

 何もこちらは、どうしてもこの『最後のコロッケの半欠け』でなくてもよいのだ。
 味わいは、最初の一口で十分。
 極端な話、あとは体が温まればそれでいい。
 そして、肉屋で売られている総菜はコロッケのみではないだろう。

407鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/16(金) 23:04:21
>>406

「?」

振り返り惣菜の棚を見る。
棚と相手を交互に見て、また小首をかしげる。

「あ」

はっとした顔をして頷く。
これでもいいのかというようにハムカツを指さした。

408須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/16(金) 23:36:39
>>406

 少年の指したハムカツに目をやる。
 塩漬けして加工した豚肉を薄切りにして、シンプルに衣のみをつけた一品。
 腹の具合からしてもちょうど良いだろう。

 ……このまま横着を極めて無言の交渉を進めてもいいのだが。
 意味の取り違いがあれば、それが更なる徒労に繋がるのは目に見えている。

「こちらは、もう既に半分ですが」

 発話はこちらから。特に競っていたわけでもない。

「ハムカツの一枚を、まるごと譲ってもらえるんですか」
「僕は、それでもいいんですが」

 掠れた、覇気の欠片も感じない声音。
 こちらが声を出すのも億劫に聞こえるだろう。

409<削除>:<削除>
<削除>

410鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/17(土) 23:05:56
>>408

「ええん?」

一言そう言った後にハムカツを購入する。
暖かいハムカツを相手に差し出した。

「はい」

411須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/17(土) 23:44:08
>>410

「はあ、どうも」
(関西弁だ)

 公平な取引には思えないが、まあこちらが得をする分には良い。
 それかきっと、ハムカツがそこまで高くなかったのかもしれない。お安かったのかもしれない。

「そこまでして食べたいものなんですか」
「此処のコロッケ」

 毒気が抜かれてしまった。
 袖振り合うも多生の縁というし、一言二言は交わしていこう。

412鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/18(日) 23:08:53
>>411

「ん? 好きなんよ。ここの味が」

そういって鈴元がふにゃっと笑った。

「僕引っ越してきたんよ」

「それでここの道やらお店やら、はよ覚えようおもて」

「ほんなら、恥ずかしい話やけど迷子になってな。お腹空いたなぁって時にここでコロッケを食べたんよ」

413須々木 遠都『スモールタウン・ヒーロー』:2018/02/20(火) 00:25:49
>>412

「……まあ、空き腹には染みるでしょうね」

 苦悩とともにパンを食べたものにしか、……はてその続きはなんだったか。
 いずれにせよ、彼には思い出の味というわけだ。

「この町は広いですから」
「……お気をつけて」

 そう言って、去ろう。
 間食は手短に限る。
 有意義な取引もできた。今日は良い日だったと言えるだろう。

414鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/02/20(火) 01:08:12
>>413

「この街に来てもう一年くらい経つんやろか」

「思えば遠くまで来たもんやね」

去る相手を見送る。
コロッケを食べてふぅと息を吐く。

「さて、買い物も終わったしどうしよかな」

415美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/20(金) 21:29:23

「――これじゃない。これでもなし」

ショッピングセンター内に設置されているベンチに座ってスマホを弄りながら、つい独り言を零してしまう。
中々いい感じの新しいスニーカーを買ってテンションが上がっていたのが少し前のこと。
今は、少々厄介な問題に突き当たっていた。

「いくつだったかしら?ド忘れしちゃった」

思い出せないのは、スマホのロックナンバーだ。
普段はロックなんて掛けてないのに、なんとなく試してみたのが失敗だった。
ショッピングに夢中になっていたせいで、設定したナンバーをすっかり忘れてしまっていた。

「あ、分かったわ――」

「『直接』聞けば手っ取り早いんじゃない」

スタジャンの肩に、『機械仕掛けの駒鳥』が現れる。
マイクとスピーカーを備えた私の小さな相棒――『プラン9・チャンネル7』だ。
ロックされているスマホを耳に当て、通話をしているかのように声を発する。

「ハロー、調子はどう?ちょっと教えて欲しいことがあるの。いい?」

呼びかける相手は電話の向こうの人間ではなく、手に持っている『スマホ自体』だ。
私の声は、『プラン9・チャンネル7』のマイクを通じて、私のスマホに意思を持たせる。
そして、意思を持ったスマホは私の『支持者』に変わる。

「実はね、ロックのナンバーを忘れて困ってるのよ。あなたなら分かるでしょう。教えて?」

こんな風に喋っていると、なんだかアイドルだった頃を思い出す。
別に、そこまで鼻につくようなキャラ作りはしてなかったつもりだけど。
ラジオDJの今でもね。

《ワカリマシタ、クルミサン。ナンバーハ、『135790』デス。
 スコシデモ、アナタノオヤクニタテルコトヲ、ウレシクオモイマス》

「――ありがと」

『プラン9・チャンネル7』のスピーカーから出力されたスタンド音声の通りに、ナンバーを入力する。
無事にロックが解除された。
『機械の小鳥』を肩に乗せたまま、ほっと安堵のため息をつく。

416鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/23(月) 01:28:21
>>415

「その、お取込み中すいません」

「隣、ええやろか?」

墨色の着物を着た少年が声をかけた。
どうやらベンチの空いている場所に座りたいようだ。
肩ほどまで伸びた黒い癖毛。それを首筋の辺りで髪紐がわりの織物のミサンガで結んでいる。
背の低い少年だった。

417美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/23(月) 15:10:38
>>416

「――んっ?ええ、どうぞ」

少年に気付き、少し横に動いて場所を空ける。
同時に、何か聞いたような声だなと思った。
記憶力は良い方なのだ。
しかし、電話というのは幾らか声が違って聞こえる。
だから、本当に聞き覚えがあるかどうか確信は持てなかった。

(聞いたことがある気がしたんだけど……。気のせいかしら?)

こういうのは、一度気になりだすと確かめたくなる。
だけど、いきなり聞くのも失礼だろう。
その間も、『機械仕掛けの小鳥』は、まだ肩の上に乗っている。
少年の声に気を取られていて、解除するのを忘れていた。
動くことも鳴くこともないので、見ようによってはアクセサリーか何かにも見えるかもしれない。

「素敵なお召し物ね」

少年の着物を見て、感想を漏らす。
正月でもない今の時期に着物姿というのは珍しく、純粋に目を引く。
キャップにスタジャン、ジーンズにスニーカーというラフなアメリカンカジュアルスタイルの自分とは対照的だ。

418鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/23(月) 23:26:08
>>417

「おおきに」

服を褒められ頭を下げる。
それに合わせるように結ばれた髪が尻尾のように揺れる。

「あんさんもきれぇな服やねぇ」

「……美作さん」

ぼそりとそう呟いた。
伏し目がちにそちらを見ている。

(……お休みの日やんね……よかったやろか)

419美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/24(火) 00:06:24
>>418

思い返してみると、やはり聞き覚えがある。
それに、この特徴的な話し方にも覚えがあった。
滅多にない偶然だと思うが、それでも有り得ないことじゃない。

「ありがとう」

「――鈴元さん」

少年に向けて、朗らかに笑う。
彼が私のことが分かったのは、声だろうか。
もっとも、私の顔は番組サイトに掲載されてるから、知られていたとしても特に不思議はない。
だからといって、アイドルだった時代と比べて、呼び掛けられることはあまりない。
今は姿が露出しない仕事だから、当然といえば当然なんだろうけど。

「あの時は、どうもありがとう。久しぶりっていうのも少し変だけど――」
 
「こういう場合は、はじめましてって言うべきかな?」

人との出会いは一期一会というが、やはり再会できると嬉しいと感じる。
再会と呼んでいいのかは分からないけど、全くの初対面とも違う。
いずれにせよ、リスナーと直接顔を合わせられる機会が貴重なのは間違いない。

420鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/24(火) 00:14:53
>>419

「……覚えてくれてはったんやね」

まさか覚えらているとは思わなかったのだろう照れているのか頬を赤くして目を伏せる。
膝の上で両の手がもぞもぞと動いていた。

「は、初めましてやないやろか」

「変な感じやけど多分、そうやと思います」

そう言って少年が笑う。

「そういえば、それはその……さっき話してはったんよね?」

少年の目は肩の方に向いている。
機械仕掛けの小鳥に向けられている。

「あ、すんません……それは個人の事やし、それに今日お休みかなんかなんよね?」

「やのに、声かけてもうて……」

421美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/24(火) 00:48:13
>>420

「私は、これでも記憶力はいい方だから」

「それに、鈴元さんって個性的だから、印象に残ってたの」

驚いたというのは、こちらも同じだった。
こんな具合に呼び掛けられるとは思っていなかったのだから。
ただ、こちらには照れはなく、純粋に嬉しいという思いがあった。

「えっ?ああ、これね」

「うん、話してたわ。ちょっと困ったことがあったから」

「でも、それは解決したから、もう大丈夫よ」

彼は『プラン9・チャンネル7』が見えている。
ということは、彼も私と同じような力を持っているのだろう。
だからどうということもないのだが、不思議な縁のようなものは感じていた。

「私の前に放送してる番組が、今ちょうど時間延長の拡大版をやってるのよ。
 だから、その間、私は少しお休みをもらえたっていうわけなの」

「でも、次は私の番組が拡大版をやることになってるんだけどね」

「それで、今日は買い物しにきたんだけど、声を掛けてもらえて嬉しかったわ」

笑顔のまま言葉を続ける。
アイドルだった昔は呼び掛けられることも多かったから、その時の気持ちを思い出さないと言えば嘘になる。
だが、今はそれとは関係なく喜びを感じていた。

「鈴元さんは、今日は何か用事?」

「粋な格好だし、この近くで催しでも――」

「あ、それとも普段着なのかしら?着慣れてるようだし……」

422鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/24(火) 01:32:03
>>421

「個性的……」

(そやろか?)

思わず小首をかしげる。
他人が自分をどう思っているのかいまいち疎い。

「解決したんやったらそれでええんやけど」

それ以上それが何かを聞きはしなかった。
触れるべきでないというよりは、そこに触れるよりももっと別のことを話したかったのだろう。

「……僕も会えてよかったわぁ」

また顔が少し赤くなった。

「ちょっと買いモンの手伝いで来てて……」

「あぁ、これは普段着。子供の頃からずっとなんよ」

423美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/24(火) 21:34:59
>>422

「ええ、一度出会ったら忘れないくらいにね。少なくとも、私はそう思ってるかな」

彼の周りの人にも、同じことを思っている人は多いのではないだろうか。
実際、彼が街中にいれば、とても目立つだろう。
もし人混みの中で見かけたとしても、見落とすことはないと思う。

「一時はどうなるかことかと思ったけど、この子のお陰で助かったわ」

役目を終えた『プラン9・チャンネル7』を解除する。
これからは、パスワードが分からなくなった時は『本人』に聞くことにしよう。
これで、ロック関連のトラブルとは永遠にサヨナラできる。

「私も買い物に来てるの。新しい靴を買いに、ね」

そう言って、ショップの名前とロゴが入った袋を軽く持ち上げて見せた。
中には、少し前に発売された新作スニーカーの入った箱が入っている。
といっても、中身までは見えないと思うけど。

「――ところで、よく私のことが分かったのね。
 声で?それとも顔でかしら?」

知られていたとしても不思議はないとはいえ、気になるといえば気になる。
アイドル時代の過去の栄光にすがろうとする悪い癖なのかもしれない。
ただ、それを捨て切れない自分がいるのも否定できなかった。

「私の番組、以前から聴いていてくれてた?もしそうだったら嬉しいな。
 もちろん、一度でも聴いてもらえたなら、それだけで十分ありがたいことなんだけどね」

424鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/24(火) 23:28:38
>>423

「おおきに」

何だかそう返してしまう。
人の心に咲く桜の花のような人間を目指しているからだろうか。
人に認識されるのは嫌な事じゃない。
むしろ、嬉しい事だった。

「そうなんや」

(僕のとは違うんやなぁ……当然やけど)

これまでの人生でスタンド使いという人間に多く出会った。
どれも個性的だった。
……少なくとも自分以上に。
何となく俯くと自分の履いている下駄が視界に入った。

「前から聞いてて、それで……えっと、うっとこは姉と兄がおるんやけど」

「お兄ちゃんがアイドル好きなんよ。ご当地アイドル? とかいうんも好きやったり、いろんな人の事知っとって」

「僕がラジオ聞いてる時に教えてくれて……やから、知っとったんよ」

小さなきっかけだった。
だがそれが今こうして縁になった。

「そやから、顔も声も両方知っとるんよ?」

425美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/25(水) 00:25:09
>>424

「へええ――」

思わず声が漏れた。
感嘆のような、あるいは驚きのような声色だった。
もしかすると、その両方だったのかもしれない。

「それを知ってる人に出会えるなんて、いつ振りだろう。
 なんていうか――ちょっと恥ずかしいわね」

「ほとんどの人からは、もう忘れられちゃってるみたいだから」

はにかんだように笑いながら、少しだけ寂しげな表情になる。
瞬間的に、過去の映像が立て続けに頭に浮かんでは消えていった。
照明に彩られた煌びやかなステージ。
美しく飾られた華やかな衣装。
そして、舞台の上で光り輝いている私。
世間の記憶から消えても、私にとっては忘れられない記憶だ。

「私は今の仕事が好きだし、ラジオを聴いてくれる人がいることは、何よりも嬉しいことだと思ってるわ。
 でも、こうして昔のことを覚えててくれる人がいるのも、嬉しいものね」

「どうもありがとう」

そう言って、先程までとは少し感じの違う笑みを浮かべる。
どこか哀愁を感じさせるような微笑みだった。
ただ、それは決して暗いものではなかった。

「昔話をするようになると、老けた証拠だなんていう言葉もあるけどね」

そう言うと、今度は砕けた調子で笑う。

「お兄さんにお礼を言っておいてくれるかしら?
 覚えていてくれてありがとう、ってね」

「それから、もしよかったらこれからもよろしくって伝えて欲しいの」

「もちろん鈴元さんも、これからも応援よろしくね」

「そのお返しに、私も鈴元さんを応援するから」

そう言って、また明るく笑う。

426鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/25(水) 01:18:52
>>425

「忘れられへんよ。ほんまに輝いとる人の事は」

まっすぐな目でそう言った。
それから恥ずかしそうに笑った。
眉がハの字になってしまう。

「ありがとうやなんてそんな……僕はなんもしてへんから……」

「まだ若いやろ?」

冗談に軽い突っ込みもいれつつ。

「うん。もちろん、伝えとく」

それから次の言葉を聞いてはっとした顔になる。

「あ、いや、そんな、あかんよ。応援やなんて……」

「や、多分応援してる色んな人の事美作さん、応援してはると思うんやけど」

わたわたと慌ててる。
目を白黒させて手を動かしている。

「そんな目ぇ見て言われたら、なんかズルしてるみたいや……」

「ほんまに応援してもらいたくなるし、ほんまに嬉しゅうなってまうやんか……」

427美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/25(水) 01:48:53
>>426

「あはは、ごめんね」

慌てる様子を見て、朗らかに笑う。
この少年の反応を見ていると、微笑ましい気分になる。
こんな可愛らしい弟がいる兄と姉は、きっと幸せなのだろう。
そのことが、少し羨ましく思えた。

「そうね、私はみんなに支えてもらってると思うわ。
 そして、私が支えてもらった分だけ、みんなのことを支えたいと思ってるの」

「だから鈴元さんに応援してもらえると嬉しいし、私も鈴元さんのことを応援したいな」

正面から見つめながら、穏やかに問いかける。
自分には弟はいない。
でも、もし自分に弟がいたとしたら、こんな風に接していたかもしれない。
頭の中で、そんなことを考えていた。

「――ダメかしら?」

428鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/25(水) 02:04:20
>>427

「……あかんこと、ないよ」

「そんなん、あかんなんて言われへん」

一つ一つ確認するように言葉を紡ぐ。
それが今の精一杯。
だけどそれでよかった。
それでも思いを伝えられるのだから。

「……僕なんかほんまに支えられてるか分からんけど」

「美作さんみたいな素敵な人とお互い支えあって応援しあってっちゅつのは、ええ事やから」

「なんていうたらええんやろ。あんじょうよろしゅうお願いします」

と言って、目をそらす。

「それから、その、あんまり見つめられたら照れてまうわぁ……」

ゆでダコのような顔でそう告げた。

429美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/25(水) 02:37:04
>>428

「面と向かって素敵だなんて言われると――さすがに照れるわね……。
 でも、嬉しいわ」

言いながら、人差し指で自分の頬を軽く撫でる。
その仕草が、照れた時によくやる癖だった。
ただ、どちらかというと、褒められたことに対する嬉しさの方が強かった。

「ご丁寧にありがとう。こちらこそ、よろしくね」

今の自分は、かつての自分とは違う。
眩いステージに立つことはない。
華やかな衣装を着ることもない。
舞台上で脚光を浴びることもない。
だけど、一つだけ、あの頃と変わらないものがある。

(そう――今の私だって、捨てたもんじゃないわよね)

人に支えられ、そして支えるということ。
それは、アイドルだった頃も、ラジオパーソナリティーである今も変わらない。
そのことを、改めて教えられたような気がした。

「あはは、ごめんなさい。悪気があったわけじゃないの」

「だから許してね」

そう言って、口元に微笑を浮かべたまま、両方の手の平を胸の前で合わせた。
それから、ポケットから名刺入れを取り出し、その中から二枚の名刺を手に取る。
そして、その名刺をそっと差し出した。
パーソナリティーである自分の紹介や、所属するラジオ局と、担当する番組のことなどが記載されている。

「お詫びっていうわけじゃないんだけど、よかったらどうぞ」

「一枚は鈴元さんに。もう一枚はお兄さんに渡して欲しいの」

430鈴元 涼『ザ・ギャザリング』:2018/04/25(水) 22:31:31
>>429

名刺を受け取って何が書いてあるか確認する。
それからにっこりと笑う。

「……おおきに」

それからそれを懐から取り出した財布にしまう。

「お礼になるかはわからんけど……」

自分も財布から名刺を取り出す。
そこには『御菓子司 鈴眼』と書かれている。
住所と電話番号が記されている。
派手さのない静かな印象の名刺だ。

「うっとこ和菓子屋なんよ」

「元は京都のお店なんやけどよかったら」

431美作くるみ『プラン9・チャンネル7』:2018/04/25(水) 23:42:55
>>430

こちらの名刺は色鮮やかで、インパクトのある見栄えを重視したデザインだった。
個人の名刺ではあるが、番組の宣伝用でもあるから、当然といえば当然なのだが。
『パーソナリティー』の隣に表記された『美作くるみ』の名前は、丸みのある手書き文字で書かれている。
その傍らには、小鳥のイラストが小さく描かれていた。
これも手書きのものらしい。

「へえ、和菓子屋さんなのね。道理で、雅な佇まいだと思ったわ」

「私も甘いものが好きだから、近い内にお邪魔しようかな?」

受け取った名刺をしげしげと眺めてから、ひとまず名刺入れにしまっておく。
応援してくれる人と交流できて、新しいお店も見つけられた。
言うことなし、ありがたいことだ。
明るい笑顔を返し、それからスマホの時計を確認する。

「さて――楽しくお喋りしてリフレッシュできたし、ショッピング再開ね」

「私は小物を見てくるわ。スクーターの鍵に付けるキーホルダーが欲しいの」

そう言って、手に袋を持ってベンチから立ち上がる。

「……今日は本当にありがとうね、鈴元さん。
 あなたのお陰で、また明日からの仕事も頑張れそう」

「それじゃ、またどこかでお会いしましょう!
 ラジオの方も、引き続きよろしくね」

別れの挨拶と共に、軽く手を振る。
引き留められなければ、そのまま次の店に向かおう。
気分は上々だった。
今日は、とてもいい日だ。
心の中で、改めてそう感じていた。

432今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/22(火) 23:37:22

         カリカリカリカリカリ

              カリカリカリカリカリ

「う〜〜〜ん」

喫茶店を一人で勉強に使うのって大学部のセンパイっぽい感じ。
そんな立派な勉強じゃなくて、今日出し忘れた宿題なんだけど。

なんで出し忘れたかって言うとページ数が多すぎたから。
1日寝かしても減るわけない。"先生"が勉強も教えてくれたらいいんだけど。

席はそんなに混んでないから、まだ帰れとは言われない。
窓際の席って客がいる方がツゴーが良いとか聞いた事あるし。
もし外を通りかかった知り合いがいたら見られるのは……別にいいかな。悪い事してないし。

433夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/24(木) 00:18:41
>>432

      ピコンッ

その時、ラインの通知が届いた。
送信元は――『ユメミン』だ。
内容は以下の通り。

「わたしは、予知のうりょくにめざめた!
 むむむ……みえてきたぞ!
 ずばり、いまイズミンは喫茶店でひとりでべんきょうしている!」

……顔を上げれば、窓の外に誰かがいるのが見えるだろう。
パンキッシュなアレンジを加えたアリス風ファッションの少女。
今さっき届いたラインの送り主だ。

434今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/24(木) 07:20:55
>>433

              『ピコン』

「ん」

勉強中だけどスマホは机の上に置いている。
だから、画面にポップした通知もすぐに見えた。ユメミンだ。

      キョロキョロ

予知能力、なんてフツーありえない。けどユメミンには『ドクター』がいる。
フツーじゃないことがフツーな人っていうのがこの町にはいる。
もしかしたら本当なのかな。だとしたらテストの答えとか教えてほしいかも。
・・・なんて思いつつ周りを見回したら、窓の外と目が合った。

「あ」「ユメミンじゃないですか!」

声に出しちゃったけど、窓の外にいるんだし聞こえないかな?
小さく手を振ったのは見えたと思うし、窓際にいてよかった。
でもどっちにしても窓越しに話すなんて『ロミジュリ』みたいなのはどうかと思う。

       『ピコン』

だからユメミンにラインを送った。

『奇遇ですね、私もたった今催眠術に目覚めました!
 あなたはだんだんお店に入って来たくな〜〜〜る』

それからシャーペンをページに挟んで、広げていたノートとかを自分の前にちょっとだけコンパクトにまとめた。

435夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/24(木) 20:13:57
>>434

    ズッ……
          ズズズ……

「こ、これは……!!足がかってに……!!
 わたしのかんがえとは、むかんけいに動いている……!!」

   カランカラン  
          イラッシャイマセー

――などということはなく、普通に入店した。
元々この店に入るつもりで近くまで来ていたのだ。
そこに友達がいたから、というのも勿論ある。

「さすがはイズミン……よくぞ、このスーパートリックをみやぶった……。
 くそ、イズミンじゃなければだましとおせたのに……!
 でも一秒か二秒くらいはしんじただろう!!こんかいは引き分けだな!!」

「――あ、これとこれとこれください。のみものLサイズで」

とりあえず注文しよう。
そしてイズミンに向き直り、身を乗り出す。
ブルーのサングラス越しの視線は、ノートの方に向いている。

「ふむふむ、かんしんかんしん。
 なんの勉強してるのかな??おしえてあげようか??」

自分に教えられるかどうかなど全く気にせず、そんなことを言う。
自分の成績は、下から数えた方が早い。
特に、『漢字』に弱いのだ。

436今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/24(木) 22:02:27
>>435

「あとちょっとでユメミンの超能力だと納得するところでした!」
「フツーじゃないですけど、そういうのもありえそうだし」「特に私達ならねえ」

「あ、私はアイスミルクティーおかわりで」

飲み物が無くなってたし、ついでに注文しちゃおう。
席を使わせてもらってるお代がわり、っていうのもあるけど。

「これ。現文の宿題です。趣味とその理由を述べよって」
「趣味の理由って難しくないです?」「適当に決めちゃおうかな」

            ジャララッ

シャーペンとスマホを紙の上からどけて、原稿用紙をユメミンに見せてみる。

まだほとんど白紙だし、見せて恥ずかしいものじゃない。
まあ、白紙なのが恥ずかしいっていうのはあるかもしれないけど・・・

437夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/24(木) 22:59:56
>>436

「ふむふむ――これ、このままで出すっていうのはどう??」

「シュミというのは、アレコレとリユウを問うものじゃないんじゃないでしょうか??
 ヒトのシュミは、コトバではヒョウゲンできないモノなんです。
 だから、このハクシこそが、シュミというものをイチバンよくあらしていると思いました!!」

「――って感じでテイシュツするとか。
 イズミン、清月の『レジェンド』になっちゃうかも??
 ただし、セキニンはもてない!!」

あたらしいデンセツの誕生だ!!
そのぶん、セイセキがギセイになることになるけど。
あと、センセイにマークされて、ヒョウバンとか諸々もあぶないかもしれない!!

「ふっふっふっ、誰も『チョウノウリョク』じゃないとは言ってないけど??」

   ズギュンッ

不適に笑い、傍らに『ドクター』を発現させた。
少し目を閉じてから、片方の目だけをウィンクするように開く。

「――もうすぐ若い男女が入ってくる。
 女の方はミュール、男の方は新しい革靴を履いてる。
 女は身長160cm前後、男は175cm辺り。多分カップル」

いい加減な『予知』――ではない。
その言葉の後に、今さっき言った通りの二人が入店した。

「金ないから、あんまり頼むなよ」 「兄貴、奢ってくれるって言ったじゃん」

兄妹らしい二人は、言葉を交わしながら離れた席に着いた。

「あ〜〜〜『カップル』じゃなかったかぁ〜〜〜。
 もうちょびっとよく確かめてから言うんだったなぁ〜〜〜。
 あとすこしで花丸満点だったのにぃ〜〜〜。ざんねんざんねん」

そんなことを言いながら、大げさに肩をすくめる。
隣では、『ドクター』も同じポーズをとっている。

438今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/24(木) 23:35:38
>>437

「友達のセンパイが似たような事したらしいんです」
「ハクシで出して『これが俺の答えです』って」
「そしたら大学の推薦も白紙になったらしいですけど」

「ある意味カッコいいですけど、フツーの成績は欲しいんですよねえ」

            クルクルクル

ほとんど空になったグラスの中でストローを回す。
フツーじゃないのはちょっと憧れるけど、なさすぎるのは困るし。
というより、フツーでいいこととだめなことがある? みたいな?

「そういえばドクターの『能力』はまだ知らないんですよね」
「もしかしてほんとに『予知』なんですか?」「だとしたら憧れるかも」

「私も占いとか好きで――――」

なんて言っていたら、ユメミンは言い当てて見せた。
兄妹っぽい二人の客を目で追っていたのに、気づいたら振り向いていた。

「えっ・・・すごいじゃないですか!?」
「今こっち向いてましたよね、ユメミンもドクターも」
「うわーっ、フシギですね・・・ほんとに見てなかったですよね、今?」

                   『ソレハ〝先生〟ガ保証シマス』

「あっ先生。先生が言うならトリックとかじゃないですよね、これ」
                      
                   『今泉サン、夢見ヶ崎サン、コンニチハ』
                   『〝答エ合ワセ〟ヲ 期待シテモ?』

先生は嘘とかはつかない。正直というか、たぶん先生だからだと思う。
まあ見間違えたりはするし、ユメミンの『未来予知』はこのままじゃ謎のまま!

439夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/25(金) 00:10:56
>>438

「うまい!!イズミンにザブトンいちまい!!」

こんど使おう、と心の中で思った。
あ、『チョサクケン』とかはらわなきゃダメかな??
まぁ、それはそれとして――。

「ふっふっふっ……。
 それをしったら、きっとイズミンもセンセーもびっくりすることまちがいなし。
 私の『ドクター・ブラインド』は――」

自信満々に笑いながら、もったいぶってタメを作る。
もちろん『予知能力』なんかじゃない。

「――『耳が超いい』!!」

……いざ声に出してみると、なんだか間抜けだった。
しかし、事実は事実だ。
そして、『ドクター』の真髄は、それだけではない。

「じゃ、わかりやすく。ちょっとだけ『チクッ』とするよ」

『ドクター』が腕を伸ばし、『手術用メス』を思わせる爪で、イズミンの肌に軽く触れる。
ほんの少しだけチクリとするが、持ち前の精密さで傷はほとんど付いていない。
厳密には、ごく薄い引っかき傷ができることになるが、目にはほぼ見えない程度だ。

「――どう???」

イズミンは、すぐに気付くだろう。
普段よりも、周りの『音』や『声』がよく聴こえていることに。
それは、単に聴こえやすくなったというレベルではない。
席に座っていながら、店内に存在するありとあらゆる『音』や『声』が聴き取れるのだ。
一言で言うなら、『超人的』と呼んでもいいだろう。

「ユメミンの『未来予知』の秘密――わかったかな??」

440今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/25(金) 00:44:39
>>439

「私じゃなくて私の友達のネタですけどね」
「あ、でもネタ元はセンパイで」「推薦を白紙にしたのは先生、うーん」

「この場合著作者が謎ですし、座布団は私が預かっておきますか!」

               『チャント "返ス" ツモリデスカ?』

「そこはフツーに冗談の一環なのでノーコメントで」
「それにしても、耳ですか?」「それで話の内容を聞いたとか――」

        チクッ

「いっ!」

            『・・・"補修"ヲ 開始シマス』

      シュルルルルルル

ちく、っとした次の瞬間には先生が私の腕にテープを巻いていた。
先生の目線はドクターに向いてる。怒ってるのかな、それとも本能とかなのかな。

「たくは無かったですけど、びっくりしちゃった」
「それで、これが『ドクター』の耳の良さとどう・・・」「んっ!」

「なんだか音がよく聞こえるというか、聞こえすぎるというか」

耳に思わず手を当てた。
周りのボリュームが大きくなったんじゃなくて、自分の耳が良くなったとすぐ分かった。

「プチ手術、ってところですか。予防接種の方が近いのかな」

            『今泉サン、大丈夫デスカ?』
            『傷ハ トテモ浅イデスガ。耳ニ何カ?』

「腕は大丈夫です大丈夫、ちょっと痒かったくらいで〜」
「耳は・・・よく聞こえますねえ、さっきの二人が話してる事とかも」
「あっ、キッチンの会話まで聞こえる?」「面白いですねえ、これ」

「そういうわけで。ばっちり分かっちゃいました、秘密!」

ユメミンの未来予知の正体見たり。いや、聞いたりかな。
私の先生の秘密は前に見せたし、今も見せてるし、これでおあいこって感じがする。

・・・そうこうしているとウエイトレスさんが頼んだものを持ってきたみたい。まだ厨房を出たところだけど。耳が良いって便利。

441夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/25(金) 06:26:17
>>440

「ゴメンゴメン、センセーおこんないで??さわっただけだとできないんだもん。
 ちょっとチクッとしないとダメだからさ〜〜〜。ゆるして??」

センセーの反応に若干ヤバげなものを感じながらも、そのリアクションに興味も抱いた。
本体の意思とは無関係に動くスタンドが、どんな行動を取るのか。
その先を見てみたい気もするけど、さすがにちょっとキケンがあぶない。

「そう――ちょっとした『手術』ってやつ。
 わたしの『ドクター』は『移植シュジュチュ』ができる!!
 
 ……『移植手術』ができる!!」

肝心なところでうっかり噛んでしまい、微妙な間を置いてから言い直した。
新人シャンソン歌手の新春シャンソンショー!!
舌の動きを滑らかにするためにボイストレーニングが必要かもしれない。

「で――いま『ドクター』の『耳の良さ』をイズミンに『移植』してみた。
 そのあいだ『ドクター』は耳が聞こえなくなって、かわりにイズミンの耳が『超よくなった』ってこと」

「いまは『お店の中』だからこれくらいだけど、
 外でやったら、それはもう、ものスゴイことに……!!
 そこらじゅう『音だらけ』になるから、なれないと大変にタイヘンだけど……」

大量の音の中から必要な音だけを聴き取るというのは、多少のコツがいる。
自分も初めてやってみた時は、あやうく耳がぶっこわれそうになった。
今は、その辺の感覚みたいなものが、なんとなく掴めるようになっている。

「そうそう、わたしなんて、たまに人のないしょばなしをコッソリと……。
 『ちょびっと』だけね、ホントに『ちょびっと』だけ。
 なんていうか『たまたま耳に入っちゃった』っていうかぁ……。
 だけど、これがまたおもしろいのなんの……。
 いやぁ〜〜〜、ヒトとヒトのカンケイってのはフクザツですなぁ〜〜〜」

ベツに積極的にアクヨウしてるわけじゃないよ??
いや、ふつうのアクヨウだってベツにしてないけど。
うん、してない。ぜんぜんまったくしてない。
すくなくとも、わたしが『アクヨウだとおもってること』はしてないんだから。
このジュンスイなヒトミをみれば、それがつたわるはず……!!

「――あ、きてるね。うんうん、きてるきてる」

イズミンの意識が厨房に向いた瞬間、これ幸いとばかりにすかさず便乗する。
そして、少し意識を集中して、もう一つ『予言』をしてみる。
さっきはちょっとだけ外してしまったからだ。

「私達から見て、トレイの右手前にイズミンの『アイスミルクティー』、
 左手前に私の『ホワイトショコラストロベリーラテ』。
 左奥に『クラブハウスサンド』、右奥に『ほうじ茶プリン』」

ウエイトレスが運んできたトレイには、そのように品物が並んでいるはずだ。
といっても、『ドクター』の『超聴覚』はイズミンに移植中なので、音で聴いたわけじゃない。
『ドクター』は『聴覚』だけじゃなく、『嗅覚』も同じくらいに『超人的』だ。
それを頼りにして、『匂い』の漂う方向と距離から計算した結果だった。
それはともかく、おなか空いてるから早く食べたい。

442今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/26(土) 00:28:35
>>441

         『怒ッテハ イマセンヨ』
         
「先生が何考えてるのかは私も分からないんですよね〜」
「でも私は怒ってないし」「先生にも文句は言わせませんよ!」

         『何モ 無イノナラ 文句ナンテ言イマセンヨ』
         『夢見ヶ崎サン、怖ガラセテ シマッタナラ スミマセン』

「との事ですし、大丈夫ですよユメミン」
「それにしても『移植しゅず……手術』ですか」
「やっぱ言いにくっ」「ともかく本格的にドクターな感じですねえ」

そういえば前に会った時も手術って言ってた。
それで、あの時も言いにくかったのも覚えてる。
初めて会った時のことだし、忘れるわけない。

「フツーに手慣れてるんですねえ」「流石本家本元」
「私も話は聞こえるけど、テレビを何個も同時に見てる感じで」

話からするにユメミンはこの能力を上手く使ってる、みたい。
もしかしたら、それは『盗み聞き』とかなのかもしれない。
ちょっとフツーじゃないけど、そんなに目くじら立てる事でもない。

「どうにも、細かい内容は頭に・・・って」

「え、音だけでメニューまで分かるんですか!?」
「ん、あれ、でも聴覚は今私が持ってるんですよね」

「・・・??」「もしや、ドクターには第二の能力が」
「いや、でも能力が二つも三つもあるのは変ですよねえ」「先生は一つだし」

               コト

ウエイトレスさんがテーブルにユメミンの予知通りのトレイを置いた。

よく分からなくなってきたし、甘い物でも飲んで思考力を研ぎすまそう。
今思ったら、ロイヤルミルクティーにすればよかったかも。

「ユメミン、この問題の答え合わせもお願い出来ます?」
「それとももうちょっと自分で考えなさい!ってタイプの問題?」

443夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/26(土) 15:13:30
>>442

「あ〜〜〜、ハラへったハラへった。
 きょうは、あちこちイッパイあるいてみてまわったから、チョーおなかすいた。
 うむうむ、ウマいウマい。ガス欠のおなかにしみわたるぜ〜〜〜」

とりあえず注文したクラブハウスサンドにかじりついた。
グリルしたチキンとアボカド、卵、チーズ、トマトが挟んであり、なかなかに分厚い。
付け合せにフライドポテトも乗っている。
軽食ではあるが、割とガッツリ系だ。
今日は――というか今日も、新しい発見を求めて町中を歩き回っていた。
そのせいで、エネルギーが足りなくなっていたところだ。

「『ドクター』も『ノーリョク』は一つだよ。『ノーリョク』はね。
 なんていうかぁ、ちょっと『ヒミツ』があるんだよねぇ」

フライドポテトをつまみつつ、いたずらっぽく笑う。
実際、『ドクター』の能力は『センセー』と同じく一つしかない。
だから、これは能力ではなく特性のようなものだ。

「ふっふっ、そういわれると、なんかジラしたくなっちゃうなぁ〜〜〜。
 まぁ、そんなにひっぱるようなことでもないし、サクッとこたえあわせしちゃおっかなぁ。
 でも、そのまんまおしえるっていうのもツマンナイしぃ。
 んじゃ、かぁるく『ヒント』をだしてっと――」

「あ、センセー、『おてあて』ヨロシク」

     スゥッ

『ドクター』の爪で、イズミンの肌に軽く触れる。
爪の先で薄くなぞるようにしているので、できる傷は極小になるはずだ。
同時に、イズミンに移植した『超聴覚』を解除した。

「――ババーン!!!ってね」

    ド ド ド ド ド ド ド ド ド

アイスミルクティーを口に含んだ瞬間、『それ』が分かるだろう。
先程まで飲んでいたものと比べて、明らかに『違う』のだ。
飲み物の『味』が、目が覚めるように『鮮烈』に感じられる。
そればかりか、ミルクティーを構成する材料や、それら一つ一つが全体の何割くらいかまで把握でき、
全体の一割にも満たない隠し味の存在にも鋭く気付けるほどだ。
たとえるなら、『何十年間も世界中の料理を食べ歩いたグルメ評論家』以上に舌が肥えたという感じだった。

だけど、飲み物に変化があったわけじゃない。
『聴覚』の代わりにイズミンに移植したのは、『ドクター』の『超味覚』だ。
『超人的な味覚』の影響で、イズミンの舌が一瞬で一気に肥えたというわけだ。

「3、2、1……せいげんじかんしゅうりょう!!
 さてさて、シュツジョウシャのみなさんのカイトウをみてみましょう。
 それではイズミンせんしゅ!!おこたえをどうぞ!!」

444今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/26(土) 19:21:24
>>443

「どこか遊びに行ってたんですか?」
「あ、先生『補修』お願いします」

          『・・・オ願イサレナクテモ、補修ハシマスガ』
          『ホドホドニ シテ下サイ』『ワザト傷ツクヨウナコトハ』

「分かってますよ、でも気になるじゃないですか」
「フツーじゃないとは思いますけど、痛くもないですし」
「痛かったり痕が残るならフツーにやらないですよ」

             チク

          『・・・』

机の上に伸ばした左腕に一瞬だけ違和感があった。
その次の瞬間には先生が手を伸ばして、テープを巻いていた。

「先生、ありがとうございます」
「それで、今度は何を・・・」

                   ゴク

「んん!?」

ミルクティーが舌に触れた。それがはっきりわかった。
それだけじゃなくて、普段なんとなく流し込んでた味がわかった。
わかったっていうのは甘いとか渋いとかじゃなくて、もっと『言葉』だ。

・・・私がそれを言葉に出来たら、作文も楽なんだろうけど。

          『今泉サン、ドウナサイマシタカ』

「分かった! 分かりましたよ、ドクターの能力の正体」
「耳がいいだけじゃなくて、舌も・・・いえ」「鼻とか目も」
「そう、えーと、『五感』というのが鋭い!」
「そしてそれを移植できる・・・これなら一つでしょう」

いつのまにか耳はふつうになっていた。
移植した感覚はすぐに戻せるって事なのかな。

「今の予知は・・・匂い、それかガラスに反射したのを見たとか?」

この味覚からすると、どっちも出来なくはなさそうな気はする。
テストとかでもあるんだよね、こういう『これ!』って答案。
それが絶対あってるとは限らないんだけど、期待はしていい、はず。

「どうです、私の回答。ユメミン的には100点中何点ですかね」
「あ、マルかバツかだけでもいいですよ」「『部分点』があれば嬉しいですけど」

445夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/26(土) 21:51:25
>>444

「いやー、ちょっとしたぼうけんってとこ。
 なんか『オモシロソーなみせ』とかないかなぁって。
 ここはたまによるんだけど、なかなかいいよねー」

   ムッシャムッシャムッシャ
              ズズスズ゙ーーーー

喋っている間に、クラブハウスサンドとフライドポテトを平らげる。
その次にホワイトショコラストロベリーラテを飲んで口直しだ。
うむうむ、これもイケる。

「そーそー、『ワルいアソビ』はホドホドにしとかないとセンセーにおこられちゃうから。
 リョーカイしました、センセー!!
 でも、ふたりともなんにでもキョーミをしめすトシゴロなんだし、ちょっとくらいは、ね??ね??」

あまり固い感じではないが、一応の弁解を済ませる。
もちろん、言われなくても痛いこととか傷跡が残るようなことはしない。
『ドクター』の外科手術のような精密さなら、そうならないように繊細な微調整が可能だ。

「――う〜〜〜ん……『90点』!!
 おしい!!もうちょいで満点花丸だったのに!!」

「さっきのは『匂い』であてたっていうのは……だいせいかい!!
 いまは、イズミンに『ドクター』の『舌の良さ』を移植してる。
 だから、『ドクター』は『耳も鼻も舌も超イイ』」

「だいたいあってるんだけど……『イッコ』だけちがうんだよねぇ。
 よ〜〜〜くみてみたら、ひょっとするとわかっちゃうかもぉ??」

そう言いながら、自分の傍らに佇む分身――『ドクター』に視線を向ける。
その両目は、相変わらず固く閉じられていた。
目が存在しないというわけではなく、目そのものは確かに備わっている。
ただ、それがずっと閉じっぱなしなのだ。
考えてみれば、今まで一度も目が開いた所を見ていないことに気付くだろう。

  ……『L(エル)』 『I(アイ)』 『G(ジー)』 『H(エイチ)』 『T(ティー)』……

ふと、『ドクター』が、前に聞いたのと同じ言葉を呟いた。
以前と同様に、男とも女ともつかない無機質で淡々とした口調だ。
その五つのアルファベットを順番に並べれば、一つの単語が出来上がることになる。

「ジャジャン!!さいしゅうもんだい――あとの『イッコ』はなんでしょうか??
 これがとけたらポイントが2ばいだ!!」

446今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/26(土) 23:28:43
>>445

「前は『爬虫類カフェ』でしたっけ」「ヘビの写真を送ってきたやつ」
「私はフツーな店しか知らないから、ああいうのを教えたりは出来ないですが」
「こういう感じのカフェなら、そこそこ知ってるんですけども」

放課後とか、よく喫茶店に行ったりするし。
友達に教えてもらった店とかもあるし。
まあ、喫茶めぐりが趣味ってほどじゃないけど。

            『〝社会経験〟ノ一環デアレバ 止メハシマセン』
            『・・・壊レテシマワナイ 限リハ デスガ』
            『デスガ、先生モ不安ニナリマスカラ。ソレハ オ忘レナク』

「フツーに大丈夫ですって。無茶なことはしませんよ」
「安心してくださいよ先生。私はフツーが好きなので」

フツーじゃないのも、そんなに嫌いじゃないけど。
でもそれはフツーがあるから、ってところはある。

「う〜ん、惜しいですね。赤点は免れてよかったですが」
「イッコ・・・そうですね、耳、鼻、舌・・・と来れば」

「あ、『眼』ですか? なんか、ずっと閉じてますし」
「『エルアイジーエイチティー』って、光の方の『ライト』ですよね」
「というわけで、最終問題の回答は・・・ドクターに『視覚』はない!でどうです?」

            『・・・・・・・・・』

それにしても、なんでそんな制限があるんだろう?
そう思ったところで、ユメミンはいつもサングラスを掛けている事に気づいた。

ユメミンはフツーじゃない恰好をしていてオシャレだから、その中じゃフツーだった。
サングラスは、フツー室内じゃ掛けない。あー、私、今フツーの顔でユメミンを見れてるかな。

447夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/27(日) 05:39:08
>>446

「そうそう、『シャカイケンガク』ってやつ。
 ジンセーなにごともケイケンがだいじ!!
 『アリス』だって『ウサギ穴』にとびこんだんだし、
 わたしも『アリス』だから、ふしぎなセカイがあったら、そこにとびこんでいかなきゃ。
 なんてったって、わたしは『この世の全部』をみなきゃならないんだから!!」

別に危険に遭いたいわけじゃない。
だけど、その先に見たことのない未知の世界が待っているとしたら、躊躇う理由はない。
だって、私は『アリス』だから。

「ドドン!!イズミンせんしゅ、せいかいです!!
 『ドクター』は『耳や鼻や舌』はバツグンだけど、『目』はみえないんだよね〜〜〜。
 あ、あと『指先の感覚』とかも超イイから、肩コリとかで『どこがこってるか』とか、
 すぐわかっちゃってベンリ!!
 わたしのマッサージは、そのスジではけっこうひょうばんあったりなかったり」

  スッ

そこで唐突に笑うのを止める。
その顔には、いつになく真面目な表情が浮かんでいた。
おもむろに席から立ち上がると、静かに口を開く。

「私の『ドクター』には『視覚』がない。だけど、『ドクター』に『死角』はない。
 何故なら、存在しない『視覚』を補う『力』があるから」

  トスッ

やや抑えた声色で精一杯カッコつけた台詞と共に、やたらと気取ったポーズを決める。
少しの間そうした後、また着席した。

「――っていうのかっこよくない??いま、おもいついた。
 こんど、どこかでつかおっかな。ちゃんとメモっとかなきゃ」

スマホを取り出すと、メモ帳アプリを立ち上げてメモをとり始めた。
どうやら、いつか使う気らしい。

「ん??あれあれ??イズミン、かおになんかついてるよ??
 ここ、ここ。ほら、このあたりにさぁ〜〜〜」

スマホを元通りしまうと、声を掛けつつ自分の顔の中央付近を指差す。
イズミンの様子を何となく察したからだ。
湿っぽいのは、あんまり好きじゃない。

「――ね?『鼻』がついてるでしょ?わたしといっしょ。『お揃い』だね」

ふふっと笑う。
さっきまでの屈託のない笑い方とは少し違う、穏やかな笑い。
私は普通じゃない世界に目を向けることが多いし、実際そういう風に行動してる。
だから、イズミンとお喋りしてると、なんだか一休みできてるって気がしてホッとする。
それは、イズミンから感じられる『普通のオーラ』みたいなものに触れてるせいかもしれない。
『普通って何か』って聞かれたら、上手く答える自信はないけど。
でも、今の私が、この時間は充実した時間だって感じてることは間違いないと思う。

「あ、これウマい。イズミンも食べる?」

ややあって、食べていたほうじ茶プリンを差し出す。
しかし、『味覚』を移植したままなのを忘れていた。
食べたら、ビビッと電気が走ったみたいに、物凄く鮮明に味を感じられることだろう。

448今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/27(日) 23:53:16
>>447

「やっぱり、夢が大きいですねぇ、ユメミンは」
「ユメミンだけに」「なんて言ったら私は泉が大きい事になりますけど」

「・・・」

笑顔を浮かべてみる。多分ちゃんと笑顔だろう。
別に、今はもう大丈夫って感じなんだろうし。
あんまり気にしてる方がユメミンも気まずいはず。

「やった! 正解いただいちゃいました」
「便利ですねえドクター」「まさに死角なし・・・」
「っと、顔? どこですかね、ストローから跳ね――」

指先を顔の上で滑らせていると、次の答えを貰った。

「・・・・・・鼻、ですか」「そうですね! お揃いです」
「手も、脚も、カタワレも」「まあ見た目は違いますが」

             ヘヘ

「いただきます、実は食べたかったんですよそれ」
「晩御飯買っちゃったし、注文しなかったんですけど」
「断るのは悪いから仕方ない! という自分への言い訳で」

差し出されたプリンを受け取って一口食べる。
この甘いのくらい柔らかく気持ちをほどければいいんだけど。

「やっぱりおいしいですね〜、ほうじ茶スイーツ!」
「『移植』のおかげで、『和!』みたいな、後味?感じますし」
「抹茶派から陥落しそうです」「あ、ユメミンはほうじ茶派?」

私はフツーに、一晩寝でもしないとちょっと遠慮してしまう。
でも表には出さない。ユメミンはそういうの、好きじゃないだろうし。

私はフツーに、フツーを演じる事くらいできる。それくらいフツーだけどね。

449夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/28(月) 00:58:29
>>448

「すべてをやさしくつつみこむ、めがみのようなホーヨーリョク。
 それは、まるできれいなみずをたたえた、おおきなイズミのよう。
 あなたがおとしたのはキンのオノですか??ギンのオノですか??
 ことし、だいちゅうもくの、じつりょくはしんじんアイドル、イズミン。
 みんな、おうえんヨロシク!!」

イズミンの笑顔。
それに対して冗談を飛ばしながら、こちらも笑顔を返す。
その顔は、また賑やかな感じの笑いに戻っていた。
もう大丈夫だって伝えたかったから。
だから、普段通りの表情に戻ることにしたのだ。

「そう、同じ!!どうし、あいぼう、マブダチだ!!
 『カタワレ』だって――あ、これセケンでは『スタンド』っていうらしいよ。
 ユメミンの、あしたつかえるまめちしき№4!!」

そう、手だって脚だって――『目』だって同じだ。
昔は見えなかったけど、今は見えている。
光除けのサングラスは手放せないけど、それでも見えていることに変わりはない。
だから、私とイズミンは『同じ』なのだ。
そんなことを心の中でちょっとだけ思ったけど、顔には出さなかった。
せっかく明るくなったのに、またナイーブでセンチメンタルな雰囲気になってしまう。

「んー??まー、たぶんそんなかんじかもしれない。
 『今は』、だけど。ユメミンのこのみは、ていきてきにかわるのだ!!
 2しゅうかんくらいまえは『抹茶派』だった!!あしたは『紅茶派』になってるかもしれない!!」

「うんうん、いまなら食レポもできるぞ!!アイドルには、それもひつようだ!!
 ことばがなくても、おいしそうにたべてるだけでつたわるさ!!
 だって、いまイズミンがたべてるやつ、すげーおいしそうだもん。
 イズミンのせんでんこうかで、ここもあしたからおきゃくさんがばいぞうだ!!」

どうしてアイドルデビューする話になったのだろうか??
そんなことは私も知らない。永遠の謎だ!!
きっと、海に沈んだアトランティス大陸よりも深い謎が隠されているに違いない!!
そういえば、『味覚』を解除するの忘れてたな。
でも、イズミンがおいしそうに食べてる最中だし、もう少しこのまんまでもいいか。

「あ、こんどイズミンのオススメのみせとかおしえてくれない??
 かわったとこじゃなくてもいいよ。イズミンとおしゃべりしてるのって、ケッコーたのしいし」

「わたしは、めずらしいモノとかフシギなのがスキなんだけど、
 なんていうかさ――イズミンといっしょにいると『フツー』なのもいいよねってかんじ」

しみじみと言いながら、イズミンに笑いかける。
自分は、『普通じゃないこと』に惹かれることが多い。
でも、『普通のこと』だって改めて見直してみれば、今まで気付かなかった良さに気付くこともある。
『普通』があるから『普通じゃない』もあるのかもしれない。
イズミンと話していると、ふとそんなことを感じた。

450夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』:2018/05/28(月) 01:34:12
>>449

なんかモジバケしてたので、さりげなくテイセイだ!!

×ユメミンの、あしたつかえるまめちしき?・4!!
○ユメミンの、あしたつかえるまめちしきナンバー4!!

451今泉『コール・イット・ラヴ』:2018/05/28(月) 01:47:17
>>449

「あはは、ほめ過ぎですよユメミン」
「アイドルだなんて」「・・・悪い気はしませんけど」
「ユメミンもデビューしません? 同士として」

「それにしても・・・『スタンド』ですか」

            『不思議ト 納得ノ行ク呼称 デス』
            『立チ尽クシテイル ワケデハ ナイデスガ』

「そう呼ぶのがフツーなら、私もそうしようかな」
「先生は私の『片割れ』という雰囲気でもないですし」
「今日から使える豆知識になってしまいました」「流石はユメミン」

私は笑っている。
ユメミンも笑っている。

『なかったこと』には出来ない何かを、それでも隠して笑う。
その時の笑顔は嘘だけど、気持ちは嘘じゃない。楽しい時間。
本当に楽しいから・・・だから隠そうって思えるんだ。

「紅茶スイーツもいいですよね、それからコーヒー」
「『アフォガード』がおいしいお店があるんですよ」
「今度案内します」「いつになるかは分かりませんけど」

        ニコ

「私もユメミンとお喋りしてると楽しいから」
「フツーな私でよければまた遊びましょうね」
「・・・っと、と、遊びで思い出したけど、勉強中だった」
「すみません、作文集中するんでちょっと口数減りますね」

シャーペンを手に取る。ユメミンはここにまだいるのかな。
それとも食べ終わったら帰るのかな。どっちにしても、文章を考えよう。
ユメミンと話すのは楽しい。話さなくても、友達はそこにいるだけで嬉しい。

                カリカリカリカリ

                          カリカリカリカリ

452タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/06(水) 01:42:36

        カコン
               カコン

一つ、また一つ。
善行という石を積み重ねる。
この世は賽の河原ではない。
積み重ねた善行が勝手に崩されはしない。

    カコン
             カコン

まあ小難しい話ではなく。
単にゴミを拾っているのだが。

(暑くなってきたせいか、空き缶が多いわね。
 今週の善行は全部これで良いんじゃないかしら)

         カコン

クラシックなメイド服の女がゴミを拾いまくる姿は、
傍目に観るとかなり小難しい状況にも見えるだろう。

453『ニュー・エクリプス』:2018/06/08(金) 19:52:36
>>452

 ――クルクル  
          シュッ
                タンッ!!

   シャキーンッッ

 「悪の組織の首領! モーニングマウンテン!!」

エッ子「おやつ幹部 エッ子(/・ω・)/ !」

ムーさん「昼寝幹部……ムー」


 『三人合わせニュー・エクリプス! (∩´∀`)∩』

 「……んっ!? むむむっ!! どうにも一人足りない気がするっス!
幹部が一人足りないっス!! これは一体どう言う事っス!?」

 エッ子「そーだ! 一人足りないのだー! (`・ω・´)」

ムーさん「のりなら、この恥ずかしい状況に耐えられなくて
少し先でゴミ拾いしてるよ」

 
 「ふーむ、幹部のりは先行してゴミ拾いっスか!
こう言うキメポーズは全員でやらないと行けないんっス!!
 ん? おー!! こちらにも悪のゴミ拾い活動をしてる
お仲間が居たっス! こんにちはっス!! 暑い中ご精が出ますっス!!」

エッ子「こんにちはー(*'▽')!!」

物凄く和気藹々とした二人と、少し疲れた一人が
悪の組織と言いつつ貴方に近寄って来る。
 どうやら、悪の集団らしい。

454タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/08(金) 22:27:32
>>453

(特撮好きのボランティア部か何かかしらん。
 まあこれだけたくさんゴミもあるし、
 横取りだなんだって考えるのは罪深よね)

(……とはいえ)

「ご機嫌よう、お仲間様。
 学校の課外活動か何かかしら?
 それとも、自主的にやっているの?」

      「どちらにせよ感心しますワ」

空き缶を掴むトングを一旦、背中に戻す。
そしてお辞儀。メイドらしく、規律正しい角度。

「それにしても『悪の』というのは?
 ゴミ拾いは悪ではありませんワ。
 善行、要するにボランティアですもの」

「ああ、まあ、空き缶拾いで生計を立てている方には『悪い』ですけど」

少し引っかかる言葉があった。
まあ向こうは子供だし、そんな噛み付くような調子ではなく、
純粋に疑問として聴いている。渦巻くような瞳での凝視を添えて。

455『ニュー・エクリプス』:2018/06/08(金) 22:47:20
>>454

 悪の首領を名乗る少女は、最近再ブレイクした猫娘な感じの仮面を被っている。
貴方の言葉にハキハキした口調で答える。

因みに三人は、学生服で同じくゴミ袋を各自が持っており。片手に軍手を嵌めてる

 「ふっふっふ! 我らは悪の組織ニュー・エクリプス! そんでもって
清月学園のうちゅー・とーいつ部なんっス!
 ゴミを拾って、みーんながニュー・エクリプスの活動に対して偉いんだなーと
感心する事により、我らの悪の侵略活動が水面下で起こる事を気づかせない!
 これぞ、我ら悪の秘密組織の大いなる悪の侵略活動なんっスよ!」

エッ子「あっ! 星見グレープジュース飲む?
さっき自販機で当たったんだぞー! (*'▽')」

 悪の首領が堂々と悪の活動を述べるなか、貴方へと黄色い髪の毛の高等部の女子は
冷えたてな缶ジュースを渡してくる。

ムーさん「……」

一人だけ、二人と雰囲気が異なる怠惰な目つきをした女子は。貴方の渦巻く
瞳に対し、怯んだ様子なくフゥーとシガレットチョコを加えつつ見つめるに留まる。

ムーさん「とある家から一組の男女が出て来た。
その二人が現れた瞬間、家の周りにいた群衆の反応は劇的だった。
ある者は悲鳴をあげ、ある者は泣き出し、ある者は手にあるものを投げつける
 だが、その二人は平然と笑っていた。
それは何故なのだろう?」

 いや、見つめるに留まらず謎々なのか、ウミガメのスープなのか知らぬが
問題を出してきたぞ。

456タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/09(土) 04:31:13
>>455

(にしても、仮面? ファッション?
 ……顔のケガとかかもしれないし、
 無暗に突っ込まないのが妥当よね)

異様な仮面少女に多少の警戒はしつつ。

「マア、悪の組織……宇宙統一部。
 侵略活動とは一大事ですワね、
 私が此処で食い止めるべきかしら?」

            フ

(要はごっこ遊びって事ね。
 エクリプスってのは気になるけど)

「――――と、思ったけれど。
 私も正義のヒーローとかでも無し。
 ワイロを受け取ってここは見逃しましょう」

       「ありがとうエッ子さん」

口元に指を添え、黙秘を示しつつ。
グレープジュースを有難く受け取る。

「……?」

「クイズ、それとも心理テストかしら。
 そうですワね――――私の答えは、
 『二人は自分達に絶対の自信があるから』」

「愛か、強さか……正義か、何かは知らないけど。
 他人から何を言われても揺らがない軸があるんでしょう」

457『ニュー・エクリプス』:2018/06/09(土) 18:48:54
>>456

タタラは悪の組織の賄賂をうけとり黙認を示す。

エッ子「ラムネうまーい!! ヽ(*゚▽゚)ノ」

 「ラムネうまーいっス!!v( ´∀` )v」

悪の首領と、おやつの幹部も一休みしつつ自賛してるラムネを
飲んで、ぷはーっと笑顔でハイタッチをしている。一人は仮面で
顔色は読み取れないが、ほぼ性格が似てるので推し量るのは容易だ。

>『二人は自分達に絶対の自信があるから』

チッチッチッ

ムーさんは、貴方の回答に軽めに人差し指を振りつつ
気怠い様子を醸しつつ否定のジェスチャーを行う。

「クイズ、ではなし。これは『ウミガメのスープ』と言う問題だね。
主観的な感想や、象徴のようにアバウトではない。
この状況は、ある場所では極めて自然に見られる光景だ……」

 「……ん? 何でいきなり、そんな問題をするのか、か……
暇つぶしだね、うん」

 どうやら、ムーさんは貴方にウミガメのスープ問題を出したくて
仕方がないようだ。はい、いいえで答えられる質問ならば
幾らでも受けてくれそうだ……。

458タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/09(土) 22:01:49
>>457

悪の二人に微笑みかけ、
自らもグレープジュースを開封した。

     ゴク  ゴク

「……ひまつぶし、そう。
 それはステキですわね」

(人のコトは言えないけど、フシギちゃんね。
 こっちがヒマとは一言も言ってないけど……
 まあ、そんな風に断るのは大人気ない、か)

実際、べつに忙しい訳でもない。
ほとんど余暇の時間に近い。

であれば――遊びに付き合うのも、また一善。

「良いでしょ、質問をさせてもらっても?
 そういうルールでしたワね、この遊戯は」

             「……」

    ス…

口元に手を添えて、黙考する。

「まず、『お話の舞台は2018年6月のS県でも成り立つ』?
 要は異世界とか、異文化とか、戦時下とかではなく、
 私達が生きている今日、それが起きてもおかしくないか」

「これが『創作世界』の話じゃないのは分かってるけれど、
 念のため、ですワ。走り回った末の灯台下暗しは悲しいもの」

とはいえ前提を埋めるのが先だ、と気づくのはすぐだった。
あとで脳内で起きた出来事でした、なんて言われても、困るので。

459『ニュー・エクリプス』:2018/06/09(土) 22:35:07
>>458

>『お話の舞台は2018年6月のS県でも成り立つ』?

ムーさん「YES。まず、世界中の何処で起きていても
ちっとも不思議でも何でもない。この問題の舞台は
大昔でも起きてるだろうし、何十年もの未来でも普通に起きてるだろうね
季節は特に関係ないし……」

エッ子「お(/・ω・)/ なになに!? 何か面白い話!?」

「私たちも混ぜるっスー!」

ムーさん「んー……この問題、二人も前にやったからな。
あぁ、それじゃあ。今から、回答するメイドさんの質問に
二人も答えられる権利を与えようか」


 質問できる人数が増えた。陽気な二人は、どうやら以前も
このウミガメスープ問題を、した事があるらしい。

460タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/09(土) 22:58:01
>>459

(持ちネタみたいなもんなのね。
 という事は、回答者の素性は関係ない)

ウミガメのスープは『脳内当て』と紙一重。
特に初対面の相手であれば警戒は必要だ。
一つ一つ、可能性は潰していく。

そうすればおのずと、答えは見えてくる。

「――そうですか、では次の質問を。
 『集まった群衆の感情はポジティブな物である』?」

渦巻く目の焦点が彷徨う事をやめていた。
射貫くべき謎を見つけた気がしたからだ。
まあ別に探偵とかではないので、気分の話だが。
 
「ああ、『喜怒哀楽』の『喜楽』をポジティブと定義しますワ。
 悲鳴も、涙も、物を投げるのも、『嬉しい時』もする事でしょう」

           「そう。結婚式、とか――ね。
            それとも、大スターの花道歩きかしらん」

黄色い悲鳴。うれし泣き。ライスシャワーや、衝動の余りの投擲。
感情は一色ではない。相反する感情の者が入り乱れる場と考えてもいいか。

いずれにせよ――――この答えにはそれなりの『善』を感じるわけだ。

461『ニュー・エクリプス』:2018/06/10(日) 19:30:05
>>460

>『集まった群衆の感情はポジティブな物である』?

「YES。群衆の感情は全体的に明るいものだ……」

ムーさんは、そう回答すると共にタタラの言葉に僅かに眉をあげる。

それは『結婚式』のワードを聞いてだった。

「――正解だ。そう、結婚式
教会。神の家から出て来た二人を待ち受けてたのは親族と友人。
 花婿と花嫁の同僚や同級生に友人は黄色い悲鳴をあげて、親族の
何人かは泣き出し、そして彼らを祝うために紙吹雪とライスシャワーを投げた。
……ある程度まえに、私の親戚の式に参加して思い付いた問題だったんだ」

エッ子「その割には、何だか顔を顰めてない(´・ω・`)?」

ムーさん「ブーケトスに巻き込まれて、もみくちゃにされたのか苦痛だった……」

彼女は、少し遠い眼をしつつ語る。
 ムーさんの、ウミガメのスープは終わる。それに反応したのは
悪の首領と、おやつ幹部だった。

エッ子「ふっふっ! (`・ω・´) 
ムーさんの問題には、この前してやられたからね! 次は私たちの問題だ!」

「そう! モーニングマウンテンと幹部の問題っスー!」

続けて悪の首領と、幹部がウミガメのスープを出すらしい。
 呆れた声で、ムーさんは呟く。

ムーさん「……ちゃんとした問題なんだろうな?」

モーニングマウンテン「モーマンタイっス! ちゃんとしたウミガメスープっス!」

自信満々の悪の首領に代わり、エッ子は前に出ると不敵な笑みで告げた。


エッ子「では、この前に実際私たちが起こした出来事だ!
 私たちは、学校の私のクラスで沢山の人をきりつけたんだ!
大体は、血の色に染まって。それに真っ青になったり、死人みたいに
真っ白になった人もいたよ! 次の日は全員ちゃんと登校したけどね!」

モーニングマウンテン「そして、続いて自分達は
私のクラスでも、同じ事をしようと思ったんスけど。
とあるふかーい事情により、断念する事になったんス!
 さぁ、こっからが問題の要っス!
ずばり、自分達の犯した事は何だっス!?」


ムーさん「……ふぬ?」

 高等部エッ子と、中等部の朝山はウミガメのスープを繰り出す!
ムーさんは、本当に初めて聞く問題らしく首を捻ってる。
 二人に一人ずつ質問が出来そうだ。

462タタラ『インスタント・カルマ』:2018/06/10(日) 21:04:55
>>461

「お気に召す回答だったかしらん。
 こういう頭の使い方は久しぶりだったから、
 中々楽しい時間を過ごせましたワ。ありがとう」

「……」

(これじゃ、ボランティア部じゃなくてクイズ部ね。
 ま、ここで断るのも可哀想だし付き合いましょうか。
 ゴミは逃げない。今日の分はもう拾ったと考えてもいいし)

(ある意味辻クイズに応じるのも善行よね)

一瞬ゴミ拾いに割く時間を危惧したが、
そこまで忙しいわけでもない。付き合おう。
ゴミばかり拾うのは善行とはいえ多少気が滅入るし。

「――マア、貴女達も問題を。
 それはステキですわ、聞きましょう」

高度と自認する作り笑いを浮かべる。
そして、静かに最後まで問題を聴き終える。

「――とても物騒というか、罪深げな問題ですワね。
 一応確認しておくけれど……首領様は今、中等部で?
 そちらの――ええ、おやつ幹部様は高等部だと、思うのだけれど」

口元に指先を当て、小さく首をかしげる。
クラス、という単語が出た以上学年が関係する可能性はある。

「今の確認が正しい、という前提で聞きますワ。
 『貴女達が"きった"ことで、その人達は流血した』?」
 
「例えばもし人体を斬ったにせよ――髪を切ったら血は出ない。
 けれど真っ赤になって怒る人も、蒼白になる人もいるでしょうものね。
 とは言え、そんな非道い事はしていないのでしょうけれど……ね?」

もちろん髪を突然切って回るような奇行は想像し難いし、
そんな事をされれば次の日は休む人がいてもおかしくない。

なので、これが答えとは考えていない。あくまで質問その1だ。


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