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リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル13
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当スレッドは「魔法少女リリカルなのはクロスSSスレ」から派生したバトルロワイアル企画スレです。
注意点として、「登場人物は二次創作作品からの参戦する」という企画の性質上、原作とは異なった設定などが多々含まれています。
また、バトルロワイアルという性質上、登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写や表現を用いた要素が含まれています。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。
企画の性質を鑑み、このスレは基本的にsage進行でよろしくお願いします。
参戦元のクロス作品に関する雑談などは「クロスSSスレ 避難所」でどうぞ。
この企画に関する雑談、運営・その他は「リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板」でどうぞ。
・前スレ
したらば避難所スレ(実質:リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルスレ12)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12701/1244815174/
・まとめサイト
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアルまとめwiki
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/
クロスSS倉庫
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/
・避難所
リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル専用したらば掲示板(雑談・議論・予約等にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12701/
リリカルなのはクロスSSスレ 避難所(参戦元クロス作品に関する雑談にどうぞ)
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/
・2chパロロワ事典@wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/
詳しいルールなどは>>2-5
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【基本ルール】
・参加者全員で殺し合いをして、最後まで生き残った者のみが元の世界に帰れる。
・参加者の所持品は基本的に全て没収され、その一部は支給品として流用される。
・ただし義肢などの身体と一体化した武器や装置、小さな雑貨品は免除される。
・主催者に敵対行動を取ると殺されるが、参加者同士のやりとりは反則にならない。
・参加者全員が死亡した場合、ゲームオーバーとなる。
・バトロワ開始時、全参加者はマップ各地に転送される。
・マップとなるのは「各クロス作品の建造物が配置されたアルハザード」という設定。
・バトルロワイアルの主催者はプレシア・テスタロッサ。
・バトロワの主催目的は未定です。それはバトロワの今後の発展次第で決定されます。
【支給品】
・参加者はバトロワ開始時、以下の物品を支給される。
・デイパック(小さなリュック。どんな質量も収納して持ち運べる素敵な機能有り)
・地図(アルハザードの地形が9×9マスで区分されて描かれている)
・名簿(参加者の名前のみが掲載されたファイル)
・水と食料(1日3食で3日分、都合9人分の水と食品が入っている)
・時計(ごく普通のアナログ時計。現在時刻を把握出来る)
・ランタン(暗闇を照らし、視界を確保出来る)
・筆記用具(ごく普通の鉛筆とノート)
・コンパス(ごく普通の方位磁石。東西南北を把握出来る)
・ランダム支給品1〜3個(現実・原作・クロス作品に登場する物品限定。参加者の能力を均一化出来る選択が必要)
・尚「地図」〜「ランダム支給品」はデイバックに収められている。
【支給品の制限】
・以下の支給品には特別な制限がかかります。詳しい内容は【制限一覧】のページを参照してください。
1.デバイス系
2.ライダーベルト系
3.火竜@FLAME OF SHADOW STS
4.巫器(アバター)@.hack//Lightning
5.カード系の支給品(遊戯王、アドベントカード@仮面ライダー龍騎、ラウズカード@仮面ライダー剣)
6.意思持ち支給品(自律行動あり)
・制限が必要そうだが制限が決定していない物品を登場させたい場合は、事前の申請・議論が必要。
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【時間】
・深夜:0〜2時
・黎明:2〜4時
・早朝:4〜6時
・朝:6〜8時
・午前:8〜10時
・昼:10〜12時
・日中:12〜14時
・午後:14〜16時
・夕方:16〜18時
・夜:18〜20時
・夜中:20〜22時
・真夜中:22〜24時
【放送】
・以下の時間に「死亡者」「残り人数」「侵入禁止エリア」を生き残りの参加者に伝える。
・深夜になった直後(00:00)
・朝になった直後(06:00)
・日中になった直後(12:00)
・夜になった直後(18:00)
【地図】
ttp://www5.atwiki.jp/nanoharow/pages/126.html
【禁止区域】
・侵入し続けると1分後に首輪が爆発するエリア。「放送」の度に3エリアずつ(放送から1時間後、3時間後、5時間後に一つずつ)増える。
・侵入禁止はバトロワ終了まで解除されない。
【首輪】
・参加者全員の首(もしくは絶対に致死する部位)に装着された鉄製の輪の事です。
・これにより参加者各人の「生死の判断」「位置の把握」「盗聴」「爆破」が行われ、「爆破」以外は常に作動しています。
「爆破」が発動する要因は以下の4通りです。
・主催者が起動させた場合
・無理に首輪を外そうとした場合
・主催者へ一定以上の敵対行動を取った場合
・禁止区域に一定時間滞在していた場合(尚、警告メッセージが入る)
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【書き手のルール】
・バトロワ作品を作る上で、書き手に求められる規則。
・トリップをつける
・本スレでも連載中の書き手は、あくまでもこちらが副次的なものである事を念頭において執筆しましょう
・残虐描写、性描写は基本的に作者の裁量に任されます。ただし後者を詳細に書く事は厳禁
・リレー小説という特性上、関係者全員で協力する事を心掛けましょう
・キャラやアイテムの設定において解らない所があったら、積極的に調べ、質問しましょう
・完結に向けて諦めない
・無理をして身体を壊さない
【予約について】
・他の書き手とのかぶりを防止する為、使用したいキャラを前もって申請する行為。
・希望者は自身のトリップと共に、予約専用スレで明言する事。
・予約期間は1週間(168時間)。それ以内に作品が投下されなかった場合、予約は解除される。
・ただし諸事情により延長を希望する場合は、予約スレにて申請すれば3日間の延長が可能である。
・自己リレー(同一の書き手が連続して同じキャラを予約する事)は2週間全く予約がなかった場合に限り許可する。ただし放送を挟む場合は1週間とする。
・書き手は前作の投下から24時間経過で新しい予約が可能になる。ただし修正版を投下した場合は修正版を投下終了してから24時間後とする。
・作品に登場したキャラはその作品が投下終了してから24時間後に予約可能になる。ただし修正版が投下された場合は修正版を投下終了してから24時間後とする。
【状態表のテンプレ】
・バトロワ作品に登場したキャラの、作品終了時点での状況を明白に記す箇条書きです
【○日目 現時刻(上記の時間参照)】
【現在地 ○ー○(このキャラがいるエリア名) ○○(このキャラがいる場所の詳細)】
【○○○○(キャラ名)@○○○○(参加作品名)】
【状態】○○(このキャラの体調、精神状態などを書いて下さい)
【装備】○○○○(このキャラが現在身に付けているアイテムを書いて下さい)
【道具】○○○(このキャラが現在所持しているアイテムを書いて下さい)
【思考】
基本 ○○○(このキャラが現在、大前提としている目的を書いて下さい)
1.○○(このキャラが考えている事を、優先順で書いて下さい)
2.○○
3.○○
【備考】
○○○(このキャラが把握していない事実や状況など、上記に分類出来ない特記事項を書いて下さい)
・以下は、バトロワ作品の参加キャラ数人以上が、特定の目的を果たすべく徒党を組んだ際に書くテンプレです
【チーム:○○○○○(この集団の名前を書いてください)】
【共通思考】
基本 ○○○(この集団が共有している最大の目的を書いてください)
1.○○(この集団に共有している思考を、優先順で書いてください)
2.○○
3.○○
【備考】
○○○(この集団が把握していない事実や状況など、上記に分類出来ない特記事項を書いてください)
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【参加者名簿】
【主催者】
○プレシア・テスタロッサ
【魔法少女リリカルなのはStrikerS】4/10
○高町なのは(StS) ●シャマル ●ザフィーラ ○スバル・ナカジマ ●キャロ・ル・ルシエ ●ルーテシア・アルピーノ ○ヴィヴィオ ○クアットロ ●チンク ●ディエチ
【魔法少女リリカルなのはA's】1/4
●高町なのは(A's) ●フェイト・T・ハラオウン(A's) ●シグナム ○ヴィータ
【リリカル遊戯王GX】0/5
●ティアナ・ランスター ●遊城十代 ●早乙女レイ ●万丈目準 ●天上院明日香
【NANOSING】1/4
○アーカード ●アレクサンド・アンデルセン ●インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング ●シェルビー・M・ペンウッド
【コードギアス 反目のスバル】0/4
●ルルーシュ・ランペルージ ●C.C. ●カレン・シュタットフェルト ●シャーリー・フェネット
【魔法少女リリカルなのは マスカレード】4/4
○天道総司 ○相川始 ○キング ○金居
【仮面ライダーリリカル龍騎】0/3
●八神はやて(A's) ●浅倉威 ●神崎優衣
【デジモン・ザ・リリカルS&F】0/3
●エリオ・モンディアル ●アグモン ●ギルモン
【リリカルTRIGUNA's】1/3
●クロノ・ハラオウン ○ヴァッシュ・ザ・スタンピード ●ミリオンズ・ナイブズ
【なの☆すた nanoha☆stars】2/3
○泉こなた ○柊かがみ ●柊つかさ
【なのは×終わクロ】0/2
●新庄・運切 ●ブレンヒルト・シルト
【リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】1/2
●セフィロス ○アンジール・ヒューレー
【魔法妖怪リリカル殺生丸】0/2
●ギンガ・ナカジマ ●殺生丸
【L change the world after story】1/2
○ユーノ・スクライア ●L
【ARMSクロス『シルバー』】1/2
○アレックス ●キース・レッド
【仮面ライダーカブト】0/2
●フェイト・T・ハラオウン(StS) ●矢車想
【ゲッターロボ昴】0/1
●武蔵坊弁慶
【魔法少女リリカルなのは 闇の王女】0/1
●ゼスト・グランガイツ
【小話メドレー】1/1
○エネル
【ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは】1/1
○ヒビノ・ミライ
【魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】1/1
○八神はやて(StS)
現在:19/60
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立て直したほうがいいという意見が多かったので立てました
では投下します
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創造の後には破壊があり、破壊の後には創造がある。
つまり創造は破壊から生まれるのだ。
だから一面瓦礫の山と化したこのE-5のエリアから新たな芽が息吹くのは当然の流れかもしれない。
そう静かで暗い芽が――。
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俺は負けたのか?
今まで『欠陥品』や『初期不良品』と歯牙にもかけてこなかった奴に。
同じ遺伝子プールから生まれた存在ではあるが、唯一アリスの意思を宿していない奴に。
俺は負けたのか?
いや、正確には『負けていた』が正しいか。
本来なら身体を刃で地面に刺し貫かれた時点で俺は死んでいる。
あの時レッドが“グリフォン”を発動させれば超振動でARMSの心臓たるコアは破壊されていたのかもしれない。
だがそうはならなかった。
おそらく制限によって“グリフォン”の威力がコアまで届かない可能性を危惧したんだろう。
だからこそ確実に止めが刺せるように左手に持ったベガルタを捨てて、己の刃を振り翳したのだ。
あるいは自らの手で直接最期となる感触を得たかったのかもしれない。
もう死んでしまった今となっては確かめる術はないが。
確かにあの時のキース・レッドの判断に誤りはなかった。
だがそれはこの特殊な場所だからであって、ここ以外なら死んでいたのは俺の方だ。
今も俺が生きているのは単に運が良かっただけ。
だがそんな考えは慰めでしかない。
俺はあいつに負けたんだ。
そして次はもうありえない。
あいつは俺が殺したのだから。
そうだ。
勝負に負けた俺が勝負に勝ったあいつを殺したんだ。
その事実はもうどんな事をしても拭い去る事はできない。
ああ、それにしてもここは静かだ……。
▼ ▼ ▼
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瓦礫の山。
八神はやては目が覚めるとそこにいた。
不思議な事になぜ自分がここにいるのか記憶がない。
自分がどこにいるのか把握しようにも辺り一面360°全て瓦礫ばかり。
これでは自分がどこにいるのか分かるはずがない。
しかしそんな状況に置かれているのになんとなく受け入れている自分がいた。
「ん?」
ふと右手で何かをつかんでいる感触があった。
今まで気が付いていなかったのは不思議だが、はやては別に何とも思わなかった。
それはここがどこだかおぼろげながら理解しつつあるという事もあった
だがなにより右手にあったものが些細な疑問を全て吹き飛ばしたからだ。
「ああ、そうか……ついに、ついに、取り戻せたんや。みんなを……」
いつのまにかはやての周りには5つの人影があった。
「主はやて……」
剣の騎士、烈火の将シグナムが。
「はやて……」
鉄槌の騎士、紅の鉄騎ヴィータが。
「はやてちゃん……」
湖の騎士、風の癒し手シャマルが。
「主はやて……」
盾の守護獣、蒼き狼ザフィーラが。
そして――。
「主はやて……」
幸運の追い風、祝福のエール――リインフォースが。
「みんな……」
はやてが取り戻したいと強く願い続けてきた家族がそこにいた。
「はやてちゃん……」
そしてはやての隣には新しい家族リインフォースⅡの姿もあった。
「ああ、これでもうみんな一緒やね……みんな、みんな一緒や!
シグナムも、ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、そして――リインフォース、もちろんちっこいリインも!」
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それははやてが望んでいた光景だった。
誰一人欠ける事なくみんな一緒にここにいるという願い。
それが今この瞬間目の前で実現している。
それは本当ならこの上もないほど嬉しい出来事――のはずだった。
「でもな……」
だがはやての心には嬉しさ以上の感情が渦巻いていた。
「なんで……」
それは温かいものではなく、もっと暗いもの。
「なんでみんなそんな目で私を見るんや?」
はやては自分に向けられた視線の意味を悟って愕然としていた。
すぐにこれは嘘だと自分が置かれた状況を否定しようとした。
だがそれは決して勘違いではない。
「シグナム? ヴィータ? シャマル? ザフィーラ? なあ、そんな顔やなくて、私は笑ってほしいんや……」
シグナムも、ヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、そして――。
「リイン! なあ、笑ってや!」
――二人のリインフォースもまたはやての笑いかける事はなかった。
「私、頑張ったのに、それなのに、なんで? なんで? そんな目で私を見るんやああああああああああ!!!!!」
はやては分からなかった。
なぜみんながそんな悲しそうな表情を浮かべているのか。
いや本当は分かっていた。
ただ認めたくなかっただけ。
その事実を認めたくないばかりにはやては泣き叫び、そして――。
『はやて! はやて! はやて!』
――静かな悪夢は終わりを迎えた。
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プレシア・テスタロッサの手によって幕を上げたバトル・ロワイアル、通称『デスゲーム』。
その会場であるアルハザードの某所に作られた特別な9km×9kmの会場の中央に位置するE-5エリア。
その位置ゆえに序盤から様々な参加者がそのエリアを訪れ、時には手を組み、時には戦い、そして今はもうすっかり廃墟と化していた。
セフィロスの『メテオ』による隕石群。
憑神刀(マハ)の持ち主によって幾度も放たれた『妖艶なる紅旋風』による竜巻。
二つのロストロギアの力を借りて天上院明日香が行使した『星を破壊する最強の光』にも匹敵する砲撃。
それ以外にも短時間でエリアに与えられたダメージは計り知れない。
これで無事であるエリアなどあるはずがない。
その跡地の中でヴィータは必死にはやてを抱え起こして名前を呼んでいた。
「はやて! はやて! はやて!」
金居からミラーワールドについての事情を聞いている最中に発生した大規模な魔力の衝突。
それによる衝撃波は辛うじて残っていた地上本部を倒壊させるほどのものだった。
幸いヴィータがいた場所までは若干距離があったのでシールドを展開する事で難を逃れる事が出来た。
そして爆発の中心に向かったところ、瓦礫の中に倒れているはやてを見つけて今に至る。
「おい、ヴィータ。あんまり大声出すなよ。まだ近くにセフィロスやアーカードがいるかもしれなないし、それに金居も――」
「うるせえ。今はそんな事よりも――」
その声を遮るかのようにデスゲーム開始から18時間が経過した事を知らせる放送が流れた。
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アーカードは静かに放送に耳を傾けていた。
今回の死者は19人。
前回の倍以上しかも前回の放送まで生き残っていた参加者の半数が死んだ事になる。
だがアーカードはあまり関心がなかった。
今のアーカードの目的はプレシア・テスタロッサの抹殺。
最終的に主インテグラのラストオーダーを果たせるなら誰が死のうと関係なかった。
それゆえに円卓会議の一員であるペンウッドが死んでいた事に別に興味はなかった。
だが例外はある。
(……セフィロス、貴様は別だ)
アーカードを後一歩まで追い詰めた化け物。
そのセフィロスもまた死んだ。
その瞬間は予想外に呆気ないものだった。
かなりのダメージを負っていたのではっきりとは分からないが、正面から撃たれて死んだらしい。
誰が殺したのか少し興味はあるが、目星は付いている。
(おそらくあの女、はやてと呼ばれていたな)
あの時点で同じエリア内で戦闘を目撃していた人物は3人。
金居とヴィータとはやて。
そのうちヴィータとは背格好が合わない上に銃殺という手段を取るとは思えない。
そうなると金居とはやての二択だが、アーカードは戦闘中の気配からはやてだと半ば確信していた。
それは殺気。
ヴィータがアーカードに対して並々ならぬ殺気に似た物を送っていたとの同様にはやてはセフィロスに対して同じものを送っていた。
むしろこっちは純粋に殺気と呼べるほどにどす黒い視線だった。
もしも予想が正しいなら生かすつもりはない。
先程の爆発で建物の崩壊に巻き込まれて傷を負ったが、問題はないだろう。
(どちらにせよ、直接会えば分かるか)
そして吸血鬼は静かに姿を現した。
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アレックスは悩んでいた。
参加者にとっては重要な放送も耳に入らないまま悩み続けていた。
これから自分は何をするべきかと。
もちろん六課の仲間と合流してデスゲームを終わらせるべきだ。
だがキース・レッドに敗北した事実はアレックスの身体をこの場に縛りつけていた。
そんな時、誰かが近付いてきた。
「おい、生きているのか?」
今のアレックスはARMSの力で再生中ではあるが、その事を知らない人から見れば死人も同然の状態だ。
だからそういう質問がされるのは半ば自然な流れだ。
「ああ……なんとかな……」
とりあえずそれだけ答えた。
正直なところ今は誰かと話す気分ではない。
それにこうして質問してくるという事は少なくとも相手は殺し合いに乗っていない。
もしも殺し合いに乗っていれば何も聞かずに殺しにくるはずだから。
「再生力が高いのか。ところで貴様は殺し合いに乗っているのか?」
ここがデスゲームの場である以上、当然とも言える質問だ。
「いや、俺は殺し合いには乗っていない」
以前なら本能のままに闘争を繰り広げていたのかもしれない。
だがアレックスは一度死んだ時にその呪縛から解き放たれている。
(そうだ、俺は決めたはずだ。運命に縛られず自らの意志で闘争を行うと! だから――)
「――それなら用はない」
真上から振り下ろされる断罪の鉄槌。
それがアレックスの目に映った最期の光景だった。
【アレックス@ARMSクロス『シルバー』 死亡確認】
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ヴィータにとって先程の放送は人数の割に衝撃は大きくなかった。
19人の死者のうちヴィータと関わりがあったのはシャマル、ゼスト、セフィロス、フェイト、ルーテシアの5人。
だがシャマルは事前にはやてからその死を聞かされていたから改めてその死を悼むに止まった。
フェイトに関しては敵対している間柄とはいえ信用できそうな人物ではあったが、そこまで深い関係でもないので上に同じ。
ゼストとルーテシアもアギトの大切な人ではあるが、直接会った事がないのでまた上に同じ。
そのアギトだが今は二人の死によるショックからかデイパックの中に籠っている。
別人の可能性があるとはいえ大切な存在を一度に失ったのだから無理もない。
だがセフィロスだけはその衝撃は大きかった。
ヴィータから見てセフィロスは別次元の強さを誇っていた。
最初ははやてを死に追いやったと思い込んで戦ったが、アギトから事情を聞くに及んで最初ほど敵視できなくなっていた。
むしろ僅かではあるが共感できるものがあった。
最後に見たのは同じく規格外の化け物であるアーカードと戦っている最中だった。
そのアーカードが生きている事から戦いに敗れて死んだのかもしれない。
(セフィロス、結局お前とは――)
「ほう、また会ったな」
「――ア、アーカード、てめえぇぇぇえええええ!!!!!」
セフィロスの最期に静かに想いを馳せていた時に聞こえてきた声。
その声をヴィータが聞き逃すはずがない。
最凶の吸血鬼アーカードの声を。
「やっぱり生きていたのかよ……」
「降りかかる火の粉は払わないといけないな」
ヴィータはすぐさま真紅のバリアジャケットを身に纏って槍を構える。
先程の戦闘の傷がまだ癒えていないのかアーカードの身体には真新しい傷がいくつも刻まれていた。
何かにうなされていたようなので治療のために核鉄をはやてに持たせているが、まだ目覚めていない。
どうせ気絶したはやてを連れて逃げ切れるとは思えないので決死の覚悟で迎え討つつもりだ。
それに今ならアーカードの傷も癒えていないので勝機の芽はあるのかもしれない。
こうして廃墟の真っ只中で静かに死闘の火蓋は切られた。
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【1日目 夜】
【現在地 E-5 崩壊した市街地】
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】健康、奇襲に対する危機感(大)、アーカードへの恐怖
【装備】ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、セフィロスのデイパック(支給品一式)
【思考】
基本:はやての元へ帰る。脱出するために当面ははやて(StS)と協力する。
1.アーカードは殺す!!!
2.はやて(StS)は様子見、当分の間は同行するが不審点があれば戦闘も辞さない。
3.ヴィヴィオとミライを探す。
4.アーカード、アンジール、紫髪の少女(かがみ)は殺す。
5.グラーフアイゼンはどこにあるんだ……?
6.そういえば金居はどこだ?
【備考】
※ヘルメスドライブの使用者として登録されています。
※今のところ信用できるのはミライ、なのは、ユーノのみ。
※はやて(StS)、甲虫の怪人(キング)、アーカード、アレックス、紫髪の少女(かがみ)、アンジールを警戒しています。
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
基本:???
1.旦那……ルールー……。
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。
※ヴィータがはやてを『偽者』とする事に否定的です。
【アーカード@NANOSING】
【状態】疲労(中)、全身に裂傷(中)
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、拡声器@現実、首輪(アグモン)、ヘルメスドライブの説明書
【思考】
基本:インテグラの命令(オーダー)に従い、プレシアを打倒する。
1.邪魔をするヴィータを殺した上ではやてを……。
2.再度プレシアの下僕を誘き寄せるために、工場に向かい首輪を解除する。
3.積極的に殺し合いに乗っている暇はないが、向かってくる敵には容赦しない
4.首輪解除の技能者を探してみる?
5.アンデルセンを殺した参加者を殺す。
【備考】
※スバルやヴィータが自分の知る者とは別人だと気付いています。
※第一回放送を聞き逃しました。
※デスゲーム運行にはプレシア以外の協力者ないし部下がいると考えています。
※首輪解除時の主催の対応は「刺客による排除」だと考えています。
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(さて、どうしよっか? さすがに手負いとはいえヴィータだけでアーカードを倒せるとは思えん。
私が加勢できたらいいんやけど、まだ回復までには時間がかかりそうやな)
はやては今の状況を努めて冷静に見ようとした。
実は少し前から意識はあったが、すぐにアーカードが来たので様子を見る事にしたのだ。
本来ならアーカードとは戦わずに逃げたい。
だが今のアーカードは万全とは言えない状態だ。
もしかしたらヴィータと組めば倒せるかもしれない。
(でもまずはヴィータに時間を稼いでもらうしかないか……)
不幸中の幸いか、明日香が魔力の源にしていたジュエルシードはその内包する力を使い切ったせいか何の反応も示さないようだ。
ジュエルシードの力も加わっていたと知った時は使うのは危険だと思ったが、これなら夜天の書も問題なく使える。
だが備えあれば憂いなし。
もし可能ならば明日香の近くに落ちている道具で使えそうなものがあれば活用したい。
はやては静かに自分が動く時を持ち続けるのだった。
【1日目 夜】
【現在地:E-5 崩壊した市街地】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(大)、魔力消費(大)、胸に裂傷(比較的浅め、既に止血済)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(中)、スマートブレイン社への興味
【装備】コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金
【道具】支給品一式×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、首輪(セフィロス)
【思考】
基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
1.様子見。
2.手に入れた駒(ヴィータ等)は切り捨てるまでは二度と手放さない。
3.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
4.金居のことは警戒。
5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。その為なら外見だけでも守護騎士に優しくするつもりです。
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金居がアレックスを殺した理由は至極単純で簡単なものだった。
つまりこのまま生かしておけば邪魔になるからだ。
高い回復能力を持つ主催者に反抗する参加者。
しかもその戦闘能力が高いのはミラーワールド見ていたので既に知っていた。
そのような参加者を放っておけば障害になる事は確実だった。
だから満足に動けないこの千載一遇の機会を逃す手はなかった。
殺害の手口は首から胸にかけての部分にイカリクラッシャーを叩きつけて潰すというもの。
生半可な方法では再生されてしまうと考えた結果、絶対的な致死を司る首輪周辺を破壊することにした。
そして予想通りもう再生する事はなかった。
金居がアレックスを発見したのはヴィータが爆心地へ向かっている最中。
それまではミラーワールドのことを大まかに話している最中だった。
因みに話した内容はあの時点で以下の二つ。
・ミラーワールドに参加者を引きずり込んだのは浅倉威。
・確認できただけで引きずり込まれた参加者は9人(金居、キング、相川始、天道総司、柊かがみ、柊つかさ、キース・レッド、キース・レッドに似ている男、黒服の少年)
そこまで話したところであの衝撃波が襲ってきた。
まだアンデッドの姿には戻れなかったが、逆にヴィータにその姿を見せずに済んで結果オーライだった。
そのヴィータは移動中に遠目ではやての姿を確認したのか、はやてと名を呼びながら一目散に走って行った。
この時金居は無理に急いで行くつもりはなかった。
まだ近くにアーカードがいた場合、離れていた方が何かと都合がいいと考えたからだ。
それから放送があり死者の多さに驚いたが、それだけだった。
ただアーカードが死んでいないと分かって少し警戒心が増したぐらい。
アレックスを見つけたのはそんな時だった。
そして一応殺し合いに乗っているか聞いた上で邪魔になると判断して殺した。
(少し気になったのはボーナスの基準か。前の放送であんな発破をかけたぐらいだから、もしや基準はそこか?)
ボーナスとして与えられる道具が何になるか。
第二回放送から第三回放送までに殺した人数。
第三回放送までに殺した人数。
殺した参加者の力量。
果たして選ばれる基準が何に基づいているのか、それはまだ誰にも分からない。
「さて、こいつのデイパックも回収して、あとは……ん?」
それを見つけたのは偶然だった。
地面に走った亀裂。
その周囲には倒壊した地上本部のなれの果て。
つまりは地上本部の地下部分が倒壊の影響で僅かに剥き出しの状態であった。
そしてその亀裂から金居は何かを感じた。
それを確かめるべく近づくと、そこにはある模様が描かれていた。
ちなみに近くに落ちていた看板には次のような説明が書かれていた。
『魔力を込めれば対象者の望んだ場所にワープできます』
【1日目 夜】
【現在地:E-5 地上本部跡地】
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】なし
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
基本:プレシアの殺害。
1.なんだ、これは?
2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
4.上手く状況を動かして隙を見てアーカードを殺害する。
5.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
6.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。
▼ ▼ ▼
-
「あれは転移魔法陣!? なんで地下に移動を!?」
会場の様子を監視していたリニスがそれに驚いたのも無理はない。
確かに魔法陣は屋上にしかなく、その魔法陣も屋上ごと崩れたはず。
それが今は地下に移動している。
まるで元からそこにあったかのように。
元々リニスは今回から採用されたボーナスシステムを使ってどうにか参加者の助けとなる道具を送りたいと思っていた。
だが誰にも気づかれる事なく道具を仕込むのは簡単な事ではない。
案の定ボーナス用の道具が置かれた場所にも何らかの監視システムが設置されていた。
まずはそれをどうにか掻い潜る方法を考えている時に最初のボーナス適用者である金居が現れたのだ。
その際のボーナスの転送から何かヒントが得られないか注意して監視していた時、金居と同様に魔法陣の存在に気付いた。
(いったい何が……)
そしてその様子をさらに監視している人物がいる事にリニスは気付く事はなかった。
▼ ▼ ▼
(あの子は思いもしていないでしょうね。まさか私がこんなに早く休息を終えているなんて)
リニスを監視していたのは休息すると言って一度奥に引っ込んだはずのプレシア。
既にその顔には疲労の色はない。
それも当然だろう。
参加者の何人かには一瞬で体力や魔力を回復してくれる道具が配られている。
その配った張本人がそのような便利道具を全て参加者に渡して手元に残していない訳がない。
(でも地上本部が崩れるなんて……少し甘く見すぎていたようね。これからは一層の注意が必要ね)
さすがにキース・レッドによる内部破壊、E-5エリア全土に放たれたいくつもの砲撃。
まさか短時間で地上本部にここまで攻撃が集中するとは思わなかった。
キース・レッドが手を出すまで本格的な破壊活動がなかっただけに油断がなかったというのは嘘になる。
(それにしても、まさか万が一に備えて付与しておいた機能が役に立つなんて……そのおかげで『要』は無事……。
ただ、調整のために禁止エリアにせざるを得なかったけど、果たして誰か気づく参加者がいるのかしら。
ふっ、気づいたところで何もできないでしょうけどね。それよりも今は山猫と――)
そしてプレシアは別画面に映る二人を見て静かに微笑みを浮かべるのだった。
(――馬鹿ね。ここに辿りつけないとも知らずに……)
そこに映っていたのは亡き主の仇を討つために乗りこんできた『風』と『犬』の姿だった。
【全体備考】
※E-5のアレックスの死体に近くに以下の物が放置されています。
アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
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投下終了です
誤字・脱字、疑問、矛盾などありましたら指摘して下さい
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一応トリ付け忘れていたので
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投下乙です。
アーカードとヴィータ、普通なら勝負は見えているがこれはどうだ?
そしてアレックスは再生中をやられたか。
あと魔法陣はキーポイント?
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投下乙です。
ただ、セフィロスの技は「メテオ」ではなく「スーパーノヴァ」なのでは?
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投下乙です。
アレックスはここで退場……そして道具はほぼ金居総取り(ただ、ボーナスの解釈を断定しかねているのが気に掛かるが……まぁ、金居第2回〜第3回で仕留めていないから金居だけをみたらどっちでも変わらないか……しかし、金井の推察次第では他の対主催涙目だぞ……)。
魔法陣が何故か現れていたが……禁止エリアになる事踏まえるとどちらにしろこれが最後の出番か?
で、アーカードvsヴィータ……とりあえず結果は見え見えな気もするが何で対主催同士で争うんだよと小一時間(いや、今回は展開上しゃーないけど。)
そして早々に発見された『犬』&『風』オワタ
……実は予想では、ヴィータ辺り退場とか対主催アーカード退場とかアレックスマーダー化とか、『犬』&『風』退場とかロクでもない展開ばかりが浮かんだけど別にそんな事はなかったぜ。
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投下乙です
アレックスは金居に殺されたか。順調にキルスコア稼いでるな
はやては目覚めたのはいいが、アーカード戦はどう乗り切るか
金居も助太刀して三人がかりなら勝率も上がりそうだが…
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投下乙です。
はやては何とか目を覚ましたみたいだけど、今のアーカードは
はやても敵対視してるから早く行動しないと拙いという……。
ヴィータだけじゃ間違いなく勝てない、はやても魔力は空っぽ、となればやはり金居がどう出るかによる?
最後に出て来た転移魔法陣もどんな展開に繋がるのか楽しみです。
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>>22
wiki上で修正しておきます
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ヴィータ、アーカード、八神はやて(StS)、金居分を投下します
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別に、大層な正義感があったわけじゃない。
騎士の誇りもどぶに捨て、大切な人を救うために、その人との約束に背いた身だ。
辻斬りまがいの行為に手を染めてるあたしらに、今更正義を説く資格なんざありゃしない。
天下の管理局に盾突いて、はやてと同い年くらいの子供にまで牙をむいた。
外道だ悪党だと罵られたって当然さ。
だけど、言い訳することが許されるなら、せめて1つくらいは弁解させてほしい。
あたしらだってこんなこと、本当はしたくなかったんだ。
あたしらは長く戦いすぎた。もう二度と戦いたくなんてなかった。
そして、はやてはそれを叶えてくれた。
戦うことしかできなかったあたしらに、人並みの穏やかな暮らしを与えてくれた。
戦うことしか知らなかったあたしらに、人並みの感情というものを教えてくれた。
だからもし許されるなら、あのまま戦うこともなく、平凡に日々を過ごしていたかったんだ。
リンカーコアの蒐集だって、そんな日を繋ぐためにやっていたことだ。
はやての命を救うために、仕方なくやっていたことなんだ。
事情も目的もない戦いなんて、誰が好き好んでするものか。
だから、今目の前にいるこいつは許せない。
本当なら、誰だって傷つかないのが一番なのに。
こんなくだらない殺し合いなんかで、死んでいい命なんてない方がいいのに。
それでも奴はその力で、大勢の人間の命を奪っていった。
いいや、こいつだけじゃない。
こんな狂ったゲームの中で、何人もの人間が殺し合いに乗り、何人もの人間が死んでいった。
守りたかった命。
救えなかった命。
大勢の人間の血が流れて、その度に自分の無力に嫌気がさした。
ああ、そうだ。
もうそんな想いをするのはたくさんだ。
だから、あたしはこいつと戦う。
こいつだけは絶対に、あたしが今ここで殺してやる。
どんなに実力差があろうと、そんなものは知ったこっちゃない。
どんなに絶望的な戦いだろうと、諦める理由になんかなりゃしない。
もうこれ以上、誰もお前に殺させやしない。
だから。
だから、お前はここで倒されろ。
吸血鬼――――――アーカード!
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◆
(さて、どうしたものか)
白銀に輝く拳銃を手に、金居は1人思考する。
その手に握られたハンドガンは、名をデザートイーグルという。
つい先ほど、淡い魔力の光と共に、デイパックの中に現れたボーナス支給品だ。
放つ弾丸は50口径。超大型の鉛玉は、拳銃というくくりにおいては、世界最強の破壊力を有している。
一方でその巨大さと反動故に、並の人間には満足に扱えない代物とも言われていた。
反動や重量の方は、アンデッドである彼にとっては屁でもないが、確かにこのグリップの大きさは少々握りづらいだろう。
とはいえ破壊力は申し分ない。ギリギリではあるものの、あのアーカードにも手傷を負わせる威力はあるはずだ。
アンデッドの正体を隠しているうちは、多少は出番も回ってくるかもしれない。
(だが、果たしてこいつは当たりか外れか?)
改めて銃身を見据えながら、自問した。
拳銃としては破格の威力を有するデザートイーグル。
それでも威力ではイカリクラッシャーに劣るだろうし、利便性ではデバイスに劣るだろう。
それらの条件を加味した上では、この武器のランクはいかほどのものなのだろうか。
プレシアの意図を探る上では、こいつの性能はかなり微妙だ。
強いともとれるし、弱いともとれる。
上位ともとれるし、下位ともとれる。
紺色の髪の娘や眼鏡の女の分が得られなかったことから、ご褒美の対象が3回放送以降のキルスコアのみということは分かった。
しかし、支給品のレアリティが敵の力量に左右されるのか、というのは謎のままだ。
(まぁそれはそれとして……問題はむしろこっちだな)
銃をデイパックへと収め、足元の魔法陣へと視点を落とす。
ぼんやりと煌く円環の紋様は、落ちていた看板の説明によると、望む場所へのワープに用いるものなのだそうだ。
光の印象が似ているあたり、先ほどデザートイーグルを転移させた技術と、同じ理屈なのだろうか。
ワープできるとだけ書かれた説明文には、それ以外の情報はほとんどなし。
せいぜい魔力を消費する必要がある、というものくらいで、他に制約らしいものはなかった。
つまりはほとんどリスクを冒すことなくして、無制限な距離の移動を行うことができるというわけだ。
普通に考えてもみれば、これはやや便利すぎる代物ではないのか。
故にこれは記述通りのお助けアイテムではなく、逆に騙されて使えば被害を被るようなトラップではないのか。
(……それはそれで不自然、か)
しかし、その懸念もすぐに消える。
これまでの状況を整理すれば、そんな罠が仕掛けられるはずもないというのは明確だ。
プレシア・テスタロッサが望むのは、殺しではなく殺し合い。
ただ死体を築き上げたいというのならば、こんな回りくどい手を使うまでもなく、首輪を一斉に爆破すれば済むだけのこと。
第2回目の放送では、自らそれをしたくないと口にしていた。
ミラーワールドの戦闘では、主犯の浅倉のみを始末するに留まり、残りは全員生かして会場に戻した。
それほどに主催者側の介入を嫌がるというのなら、この魔法陣に罠を仕掛けるような真似をしでかすはずもない。
故にこれの有用性については、八割方信じてやってもいいだろう。
(問題とすべきは、こいつがどこまで融通の利く代物か、だ)
それが残り二割の懸念だった。
こいつが本物であるとして、さてではその本物の機能とやらは、一体どの程度優れているのだろうか。
有効移動圏内は、一体この場所から何マス分か。
マスとマスの間を移動したとして、果たしてどれほど精密に着地点を指定できるのか。
どこかにいる特定の人物と会いたいだとか、そういう正確な座標も分からない場所には飛べるのか。
(何にせよ、実際に魔法使いを連れてこないと始まらないか)
ひとまずはそこで思考を打ち切る。
今は亡きアレックスのデイパックを拾い上げ、自分の持ち物へと無造作に突っ込む。
よくよく考えてもみれば、金居は魔導師ですらないのだ。
ああだこうだと考えたところで、発動させるための魔力がなければ、何を試すこともできない。
であればさっさとはやてらと合流し、これを使わせてみなければ。
かつり、かつりとアスファルトを踏み、荒れ果てた廃墟を進んでいく。
するとそれから程なくして、自分の足音とは異なる音が、遠くの方から聞こえてきた。
きん、きん、きん、きん。
断続的に響いているのは、金属のぶつかり合う音だ。
「どうやら向こうも向こうで、荒事になっているらしいな」
ぼそり、と呟くと同時に。
金居は自らを音の方へと加速させた。
-
◆
「つらそうだな」
忌々しいあの低い声が、己の鼓膜を震わせる。
ぜいぜいと自身の口を突く吐息に混じって、余裕たっぷりなあの声が響いてくる。
ぐ、と歯を食いしばって、槍を地に突き立ち上がった。
膝をつく姿勢を取っていた身体を、得物を杖代わりにして持ち上げた。
既に我が身はボロボロだ。
振りかざす穂先は届かない。時たま届いたとしても、すぐに傷口が再生する。
自己修復の速度は大幅に落ちていたようだが、それでも脅威には変わらない。
どれだけ傷つけたとしても、一分の隙も見せやしない。
逆に敵の切っ先は、こちらの防御を押しのけて、着実にこの身体を切り裂いていく。
騎士甲冑はずたぼろに引き裂けた。
致命的な直撃こそまだだが、至る所が血まみれだ。
額から流れる血液を拭い、ヴィータの瞳がアーカードを睨む。
「それで終わりか、お嬢ちゃん(フロイライン)? 身体が殺意に追いつけないのか? 一人前なのは威勢だけか?」
「うる……せぇッ」
精一杯の強がりを吐いた。
実際にはもういっぱいいっぱいだ。
全身から流れ出る真紅の雫は、根こそぎ体力を奪って地に染みていく。
五体に刻み込まれた刀傷も、痛くて痛くてたまらない。
体力も気力も限界ギリギリ。有り余っているものといえば、せいぜい魔力くらいだろう。
「見せてくれ。そして分からせてくれ。
お前は私を殺せるのか。私を殺すに足る者なのか。その手に握り締められた杭は、果たして私の心臓に届くのか」
彼我の戦力差は絶望的だ。
分かり切ったことではあったが、その事実が急速にリアリティを増して、深く身体にのしかかってくる。
クロノが撤退を促した時点で、まともに戦える相手ではないことは推測できた。
セフィロスと互角に戦った時点で、自分が勝てなかったあいつ並に強いことは分かっていた。
だが、結局それらは全て傍証に過ぎない。
こうして直接刃を交えなければ、主観の確証にはなり得なかった。
そして、今だからこそ分かる。
今目の当たりにしているこの鬼の、なんと猛々しくおぞましいことか。
人間離れの再生力の、なんと忌々しいことか。
常識外れの怪力の、なんと凄まじいことか。
指先が震えそうだった。膝が振動で崩れ落ちそうだった。
戦う前から刷り込まれた恐怖が、より深く心を侵食していく。
もう嫌だ。できることなら逃げ出したい。
こんなにも強くおぞましき魔物とは、これ以上戦いたくなんてない。
刃が突き刺されば確実に死ぬ。
拳を当てられただけでも砕け散る。
明確ににじり寄る死のビジョンが、怖くて怖くてたまらない。
「できるできないじゃねぇ――」
ああ、それでも。
だとしても、引き下がることなどできないのだ。
今ここで自分が逃げ出せば、今度ははやてが犠牲になる。
自分の知るはやてとは雰囲気の違う、正直いけ好かないタイプの人間だが、さすがに殺されるのは後味が悪い。
そしてはやてが殺されれば、今度は金居とかいう奴が襲われるだろう。
奴までもが殺されてしまえば、もう誰にも止められない。
自分がこの場から逃げ出すことは、それだけの人間の死を意味するのだ。
「――やるんだよッ!!」
だから、やってやる。
殺ってやるとも。
一体実力差が何だというのだ。どれだけ怖かろうと知ったことか。
どれだけ力の差があろうが、そんなことはどうだっていい。
殺せる殺せないの問題じゃない。
殺さなければならないのだ。
怒号を上げるヴィータの足が、かつんと鋭くアスファルトを蹴った。
-
跳躍と同時に、飛行魔法を発動。
滑空するような低空飛行で、真っ向からアーカードに突っ込んでいく。
加速、加速、なおも加速。
並行して身体強化を発動。
ありったけの魔力を纏い、五体の運動能力を向上させる。
煌々と煌く槍の穂先は、武器強化の術式の賜物だ。
「悪くない返事だ」
いい返事だ、とは言わなかった。
にぃと笑みを浮かべる吸血鬼は、それを正解とは認めなかった。
弾丸並の加速を見せるヴィータを前に、しかしその顔には余裕の笑顔。
口先だけとしか見なしていない。
それだけで殺せると思っていない。
当然といえば当然だ。自分はまだ一方的に蹴散らされるだけで、一度も結果を出していないのだ。
「では、あとは結果を示してもらおう」
がきんっ、と響いた鋼鉄の音。
難もなく、無造作に。
軽く持ち上げられたのは、常識外れな長さの長剣。
全身全霊を込めた一撃が、そんな動作で受け止められる。
のれんをめくるかのような動作で、あっさりと受け止めてみせたのだ。
「お前は取るに足らないただの狗か、はたまた尊厳ある人間か」
刃の向こうの瞳が光る。
名刀・正宗越しに向けられた視線が、爛々と真紅の瞳を放つ。
赤は燃え盛る炎の色。
そして滴る血の色だ。
「――ッッ!」
瞬間、烈風がヴィータを襲った。
痛烈な衝撃が叩きつけられる。槍の穂先を怒濤が押し返す。
ギリギリまで身体強化を付与した身体が、まるで貧弱なやせっぽちのようだ。
渾身の力を込めた一撃が、まるで問題にもされていない。
視界の風景が遠ざかり、みるみるうちに距離が開いた。
ビルの残骸もたなびく煙も、遥か彼方に置き去りになった。
「くそっ!」
吐き捨てると同時に、急制御。
飛行魔法のベクトル制御で、吹き飛ぶ身体にブレーキをかける。
開始からたっぷり3秒をかけ、つんのめるようにしてようやく停止。
つくづく恐るべきはアーカードだ。
あんな態勢からこれほどのパワーを発揮して、こちらの攻撃を弾き返してくるとは。
「言われなくとも……やってやらぁっ!」
だが、今更その程度では足を止めない。
力が強いことなど、とっくの昔に分かり切っていることだ。
こんなものはせいぜい、パワー勝負では勝てないということを、再認識した程度にすぎない。
ならば、パワー以外で勝負するまでのこと。
力で駄目なら、スピード勝負だ。
再度飛行魔法を加速させる。
ぎゅんと、再度世界が加速。
遠ざかった景色を追い越して、置き去りにして突撃する。
風を切る音が耳に響いた。三つ編みの髪が鬱陶しく暴れた。
猛スピードでアーカードへと殺到。
そしてそのまま立ち止まることなく、すれ違いざまに槍を一閃。
ざく、と肉を斬る感触を覚えた。
振り返る先の左腕に、赤の一文字が刻み込まれた。
そしてその程度では止まらない。空中で我が身を反転させ、再び肉迫と同時に斬撃。
寄らば斬る。近づけば突く。
蜘蛛の糸を描くような高速機動で、忙しなく繰り出されるヒット・アンド・アウェイ。
スピードを突撃力ではなく、純粋に機動力として使ったというわけだ。
-
(まだだ……!)
それでもヴィータの表情は晴れない。
苦虫を噛み潰したような表情で、肩越しに吸血鬼の姿を睨む。
まだ足りない。
この程度のダメージではまだ駄目だ。
すれ違いざまに放つ一撃など、所詮はたかが知れている。
その僅かな傷の積み重ねで、最終的に体力を削り切れるならまだよかった。
しかし、これではまだまだ足りないらしい。
いくら手傷を負わせようと、斬ったそばから回復していく。
思うようにダメージが蓄積されず、瞬く間に無傷になってしまう。
これではまるで無駄骨だ。
弱体化したはずの再生能力すらも、上回ることができないのか。
槍の使いこなせぬお前に、剣を持った私が倒せると思ったか――あの漆黒と銀髪の魔人の言葉が、脳裏で絶えず反響する。
そうだ。
相手が悪かっただけではない。
自分の実力も足りないのだ。
これが使い慣れたグラーフアイゼンなら、もっとましなダメージを与えられたはずだった。
だが結果はこの有様だ。
拙い槍の制御では、思うように力がこもらない。
力の込め方が分からないから、中途半端な威力しか発揮できない。
その結果がこのジリ貧だ。
槍一つ使いこなせない未熟が、この無様な有様を生みだしたのだ。
(それでも――やるしかねぇんだよっ!)
だからといって、止まれない。
前言を撤回して逃げることは許されない。
豪快に振りかぶった切っ先で、横薙ぎに叩っ斬ろうと突撃をかける。
これまで以上に速度を上げた。
これまで以上に力をこめた。
ほとんどやけくその一撃だ。それでも、通らないことはないはずだ。
フルスピードとフルパワーの特攻を、敵の視界の範囲外から叩き込むのだ。
単純な速度はこちらが勝っている。ならばこの一撃、そう易々と反応できるはずが――
「がッ……は」
瞬間、目の前に閃光が走った。
電流を浴びせられたかのように、五臓六腑が硬直する。
雷撃に照らされたかのように、視界が激しくスパークする。
呼吸困難に陥った身体が、浮遊感と共に投げ出された。
意識は霞がかかったように焦点を失い、ただただ強烈な苦痛の中、ゆっくりと過ぎていく風景を彷徨う。
どすん、と背中に衝撃を感じた時。
その時背中を打ったのだと理解し。
かは、と息を吐き出した時。
自分は反撃を食らって吹っ飛ばされたのだと、ようやく理解することができた。
起伏の乏しい胸元が、絶えず激痛を訴え続ける。
吐き気を伴う独特な感触だ。肋骨がへし折れたサインに他ならなかった。
びくびくと痙攣する身体を懸命に起こし、足に力が入り切らず、俯いたような姿勢になる。
攻撃を受けた。
峰打ちとはいえ、正確なタイミングで直撃を食らった。
よけられない角度と速度を伴い、反撃しきれない威力を乗せたはずだった。
いいや、その認識こそが誤りだったのだ。
そもそも思い返してみれば、奴はあのセフィロスの速度に、完璧に追いついていたではないか。
-
「さぁ、どうした? まだ肋骨が折れただけだぞ」
あの声がまた響いている。
忌々しい声が鳴り響いている。
かすみきった視界にも、確かに奴の存在を感じられる。
あの恐ろしくもおぞましき、赤き装束を纏いし鬼の姿を。
爛々と瞳を煌かせ、血塗られた長刀を携えた、吸血鬼アーカードのその姿を。
「それともやはりそこまでか? その程度の器でしかなかったということか?」
つくづく反則的な男だ。
不死身で無敵で不敗で最強で、嫌になるほど馬鹿馬鹿しい。
目を向けられただけで威圧される。
幾千万もの剣の雨を、真っ向から浴びせられたような錯覚に、心が砕けそうになる。
気配だけでそれなのだ。現実の実力は言うまでもない。
その手は百万の鉄槌を砕くだろう。
その足は百万の剣閃を折るだろう。
その身は百万の銃弾を受けても、なおも笑って佇んでいることだろう。
何もかもが規格外の男。
誰よりも強く、誰よりも高く、その上殺しても死なない男。
単純に力が強いということが、これほどまでの恐怖を生むのか。
砲撃も撃てず、音速でも走れず、空も飛べないはずの男が、これほどまでに恐ろしく映るとは。
パワーでも駄目、スピードでも駄目。
いかな小細工を弄したとしても、全てがことごとく叩き潰される。
できることはこちらの方が圧倒的に多いのに、その全てを駆使しても、何一つ奴には届かない。
これではっきりと分かってしまった。
はっきりと理解してしまった。
この存在には勝てないと。
もはやこれ以上どれほどの手を尽くしても、自分にはこの男を殺す術がない、と。
「……アギト」
背後のデイパックへと、声を飛ばした。
その中に引きこもっている、古代ベルカの剣精へと、蚊の鳴くような声を発した。
この存在にはかなわない。
パワーもスピードもテクニックも、その全てが通じない。
ならば、どうする。
どうやって奴を倒せばいい。
自分にはどう足掻いてもかなわない相手を、それでもなお殺すにはどうすればいい。
「ユニゾンだ……力を、貸してくれ……」
簡単なことだ。
自分1人でかなわないのなら、1人で戦わなければいいのだ。
こいつを倒せるというのなら、どんな手だって使ってやる。
何にだってすがってやるし、誰にだって頭を下げてやる。
もはや躊躇している暇などなかった。
故にヴィータは迷うことなく、背中の融合騎へと助力を請うた。
彼女は自分のパートナーではない。ゼスト・グランガイツという、確固たるロードを持った融合騎だ。
そう簡単に心を許してくれるなどとは、毛頭思ってなどいなかった。
故にこれまでは、あえてその話題を切り出さず、可能な限り1人で戦おうとしていた。
だが、今はそんなことを言っていられる場合ではない。
このまま戦い続けていては、自分は間違いなく死ぬだろう。
それも何一つ為すこともできず、アーカードを野放しにしたままに、だ。
-
「……無理だよ……あたしは、戦えない……」
たっぷり待つこと5秒間。
返ってきたのは、そんな言葉だ。
これがあのアギトの声か。
烈火の二つ名が指すように、気が強く堂々としていた、あの剣精の声だというのか。
あまりに弱く、あまりに細い。
強気な目をしていた彼女の声が、今では風前の灯火のようだ。
一瞬我が耳を疑ったが、それも無理からぬことだと、一瞬後には理解していた。
彼女は数時間前の自分と同じだ。
子供のはやてが殺された時と同じように、ルーテシアとゼストという、何物にも代えがたい身内を喪ったのだ。
その気持ちは十分に理解できる。
はやてのみならず、ヴォルケンリッターの全員を喪った自分にも、痛いほどに理解できる。
「今のあたしが出たって……足手まといくらいにしか――」
「――急げッ!!」
それでも。
だとしても。
そうだと分かっていながらも、しかしヴィータは吼えていた。
微かに息を呑む音が聞こえる。アギトが面食らったのだろう。
それも無理からぬほどの、骨折患者のそれとは思えぬ雄叫びだ。
「時間がねぇんだ……このまま死ぬわけにゃ、いかねえんだよ……!」
確かに、お前の事情は分かっている。
だがそれすらも、今では気にしている時間が惜しい。
正直済まないとは思うが、それでもお前の都合を聞いているわけにはいかないんだ。
悪いが今ここにいる以上は、腹をくくってついて来てもらう。
この場を打開できるかもしれない力があるなら、何と言おうと戦ってもらう。
「こいつはどうしても殺さなくちゃいけないんだ……でなきゃみんな、殺されちまう……みんなみんな、守れねぇんだ……」
思い出すのは、いくつもの顔。
この殺し合いの中で出会った顔に、殺し合い以前から知っていた顔。
中には敵だっている。どうしても分かり合えない奴だっている。
それでも皆、こんなところで死んでいい命ではないのだ。
こんな化け物みたいな男なんかに、無惨に蹴散らされていい命ではないのだ。
「こいつを倒せなくちゃ、意味ねぇんだっ!!」
命を落とすことは怖くない。
今更それ自体を怖れはしない。
それでも、自分が命を落とす時は、同時にアーカードもまた死ぬ時だ。
そうでなければならないのだ。
あの吸血鬼なんかよりも、奴を残して死ぬことの方が、何十倍も恐ろしいのだ。
だから自分は命懸けで戦う。
奴を葬り去れるというのなら、この命を賭けても構わない。
そうすれば残された人々を守れるというのなら、命なんて惜しくはない。
それでも今は、悲しいくらいに力が足りない。
この命の全てを燃やし尽くしても、奴の命には届かない。
今以上の力がいる。
限界を超えた力がいる。
故に。
だからこそ。
「だからあたしに力を貸せ――アギトッ!!!」
-
◆
最初は聞き流すつもりだった。
途中から戦いが起きていたのには気づいていたが、それでも無視を決め込むつもりだった。
自分にどうしろというのだ。
自分に何ができるというのだ。
もう、何もかもがどうでもいい。
いつしか仲間意識を抱いていたヴィータの窮地も、この胸を打つには至らない。
今更戦う意味など見出せなかったし、そうまでして生きる意味すらも見つからなかった。
何せ自分は亡くしたのだ。
あの2人を喪ってしまったのだ。
ずっと共に連れ添ってきた、ゼスト・グランガイツとルーテシア・アルピーノ。
生まれてきた時のことは覚えていないし、自分を作ったマイスターの顔も知らない。
ただ静かに長き時を眠り続け、気付けばどこぞの施設で実験動物
いつかは心と身体が壊れて、何一つ生まれた意味を残せぬままに、終わってしまうのだとばかり思っていた苦痛の日々。
そんな境遇を終わらせてくれたのが、あの2人組の旅人だった。
故に孤独な自分にとっては、2人は絶対的な恩人であって、無二の家族でもあった。
そんな肉親を喪ったのだ。
別世界の別人の可能性はもちろんある。だが、そうでない可能性ももちろんある。
であれば自分が生きる意味など、一体この地上のどこにある。
無理に生き残る理由も、そのためにヴィータに力を貸す義理も、どこにも見当たりはしなかった。
――急げッ!!
その、はずだった。
その言葉を、聞くまでは。
――時間がねぇんだ……このまま死ぬわけにゃ、いかねえんだよ……!
頭から冷水をぶっかけられたような心地だった。
こいつはなんと強い意志で、あの怪物に立ち向かっているのだ。
自分と同じように、全ての家族を喪ってなお、こいつはまだ戦うというのか。
なんと力強い闘志か。
なんと逞しい決意か。
身体がボロボロになってなお、その身に燃える灼熱の意志には、一切の陰りも見受けられない。
何故そうまでして戦えるのだ。
家族ですらない他人のために、何故そこまで戦おうと思えるのだ。
そんな姿を見せられていては。
そんな声を聞かされていては。
――こいつを倒せなくちゃ、意味ねぇんだっ!!
あの男を思い出してしまうではないか。
-
ゼスト。
ゼスト・グランガイツ。
こうありたいと心から思える、誇り高きベルカの騎士。
あの日自分を救い出してくれた、ヴィータの槍の本来の持ち主。
強く気高く雄々しかった、父にも等しき最愛の男だ。
存命の頃のゼストもまた、己の意志と誇りに従い、真っすぐに戦い続けていた。
傷つきボロボロになりながらも、ルーテシアの望みを叶えるために、ひたすらに槍を振るっていた。
結果犯罪者であるスカリエッティに加担こそしたものの、その心の有りようは、正しく騎士の持つべきそれだった。
ゼストがこの場に生きていたなら、一体どう立ち回ったか。
恐らくは目の前のヴィータ同様、あの魔物と戦っていたのではないのだろうか。
たとえ己が滅びようと、その胸の正義を貫くために、命を賭して戦っていたはずだ。
ならば、自分には何ができる。
ゼストを愛した自分には、一体彼のために何ができる。
「……分かったよ……」
見極めろ。
ゼストの願いとは何だ。
ゼストの想いとは何だ。
正しく生きてきたゼストならば、自分にもそれを求めるはずだ。
真っすぐに己の生き様を貫き、生き続けてほしいと思うはずだ。
その想いに従うことで、初めて報われるのではないのか。
その願いを叶えることで、ゼストは救われるのではないのか。
生きるために、戦うこと。
この狂った殺し合いを打開するべく、正義を信じて立ち向かうこと。
そのために戦い続けてこそ、初めてゼストは報われる。
自分を救ったのは間違いではなかったと、初めて認めることができる。
「それを旦那が望むのなら、あたしも一緒に戦ってやる……!」
腰の翼を羽ばたかせた。
緩んだデイパックの口から、勢いよく我が身を飛び出させた。
月の光をその身に浴びる。
闇夜の月明をその身に受ける。
あの日と同じ月の明かりを、五体全てで受け止める。
「ユニゾンするぞ、ヴィータッ!!」
戦うんだ。
ゼストの名に恥じないように。
ゼストの恩に報いるために。
自分はゼストの娘であったと、胸を張って生きるために――――!
-
◆
ユニゾン・イン。
それが魔法の言霊だ。
共に紡いだその言葉が、剣精を光の粒子へと変える。
眩い桜色の魔力光が、この身体へと溶け込んでいく。
精神のリンクを感じた。
感覚の一体化を感じた。
燃え盛る炎の熱と共に、騎士と融合騎の肉体が、光の速さで同調していく。
これがユニゾンというものか。
この胸に感じる温かな炎が、身も心も重ね合わせるということか。
同時に漲るのは力。
血液を沸騰させんばかりに、全身からにじみ出る熱い力。
熱気に当てられた大気中の水分が、真っ赤な湯気となって立ち上った。
ほとばしる体温が炎を成し、火花を散らして五体を包んだ。
燃え上がる真紅の光に包まれて、ヴィータの姿が変わっていく。
灼熱の凱火に包まれて、2人が1つになっていく。
――私は、今のままでも十分幸せや。
守りたい、命があった。
――我ら、夜天の主の下に集いし騎士。
――主ある限り、我らの魂尽きることなし。
――この身に命ある限り、我らは御身の下にあり。
共に戦った、仲間がいた。
――お話を聞かせて!
不思議な少女と、戦場で出会った。
――だけどそれが、僕の今の意思だから。
――死なせてしまったアグモン君やクロノ君の分まで、僕達が戦うんだ。
共に戦えたかもしれない、人々に出会った。
――ヴィヴィ……ちゃ……を……お願…………―――
救うと約束した、命があった。
――お前が、俺のはやてを殺したんだ。
救えなかった、命があった。
-
まるで走馬灯のように、出会った顔が浮かび上がってくる。
今この時を生きている、救わなければいけない者達。
自分の力が足りなくて、散っていってしまった者達。
自らの内より湧き上がる炎と共に、瞳に浮かんでくるいくつもの顔。
全て、守りたかった命だ。
守るべき者達であり、守れなかった者達だ。
はやてのために戦ってきた。
目的すらなかった人生を終えて、ただはやてを守るために、戦う力を振るってきたつもりだった。
されど周りを見渡してみれば、こんなにもたくさんの顔がある。
少なからず信じた者達の記憶が、こんなにもたくさん浮かんでくる。
人間、変われば変わるものだ。
はやてを救うためとはいえ、人々を脅かしたというのに。
闇の書に支配されていたとはいえ、大勢の命を奪ったというのに。
いつの間にか、守りたい人達でいっぱいだ。
別に、大層な正義感があったわけじゃない。
血と罪に染まったこの身には、正義の味方を名乗る資格はない。
だから、これはただのわがままだ。
人間なら誰しもが持っている、ほんのささやかで取るに足らない、子供じみたわがままだ。
そしてそれでも構わない。
ただのわがままでも構いはしない。
自分1人の勝手な願いで、誰かの命が守れるのなら、いくらでも貫き通してやる。
せめてこの最期の戦いくらい、いいカッコができるというのなら、わがままだって構うものか。
「でりゃあッ!」
槍を握った右手を振り抜く。
身に纏う炎を振り払う。
赤き炎熱を闇に散らせ、戦士の姿を外気に晒す。
ぱちぱちと舞う黄金の火花は、さながら月下の桜吹雪。
陽炎に揺らぐ熱気を切り裂き、銀月の白光をその身に受けて、
剣精と共に新生した鉄槌の騎士は、今こそ戦場に躍り出る。
その身を覆う騎士甲冑は、一瞬前のそれとは違っていた。
半袖の上着は姿を消し、ノースリーブのインナーが露出している。
ゴシップロリータの鎧を彩る、漆黒のリボンと革の手袋は、眩い金色に染まっていた。
黄金に煌く頭髪と、水色に輝く双眸は、さながら赤と青の炎。
「紅の鉄騎、ヴィータ」
今こそ、その名を口にした。
改めてその名を名乗り上げた。
誇り高き守護騎士として。
命を守る騎士として。
輝く満月のスポットライトと、煌く炎の花弁に照らされて。
「烈火の剣精アギトと共に――――――推して参るッ!!」
-
「らぁっ!」
大地を蹴る。
穂先を構える。
鬱陶しいデイパックを放り捨て、アスファルトの地を疾走し、目標目がけて再び殺到。
黒光りする鋼鉄の槍は、今や灼熱に輝く朱色の槍だ。
大振りに構え、一閃。
がきん、と鳴り響くは金属の音。
互いの構える業物が、衝撃にびりびりと振動する。
「ほぅ」
ぽつり、とアーカードが漏らす。
ここに来てあの無敵の吸血鬼が、初めて感嘆の声を上げた。
なるほど確かに、その気持ちは自分でも理解できる。
自分ですらも驚いているのだ。
身体強化も武器強化も、ユニゾン前とは桁違いだ。
烈火の剣精のサポートの成果は、ヴィータの想像を大きく上回るものだった。
ユニゾンデバイスとの融合とは、これほどのパワーをもたらすものなのか。
(でも、まだ十分じゃねえ)
それですらもまだ足りない。
まだまだ微妙に届かない。
まともに押し合えるようになっただけでも、かなり進歩したと見ていいだろう。
だが、所詮はそこまでだ。
他の部位への攻撃はあくまで牽制。最重要目的は、弱点の心臓目がけての一突き。
相手の反応速度よりも早く、防御不可能な速度が発揮できなければ、到底十分とは言えない。
《ヴィータ、一旦下がれ!》
「何!?」
《いいから早く!》
唐突に脳内に浮かぶ声は、念話の感覚に近かった。
急に後退を指示したアギトに従い、一旦その場から飛び退る。
飛行魔法で加速をかけ、対象との間に十分な間合いを保つ。
《いいか? 今からあたしが動作を指示する。でもってお前があたしの動きに合わせて、奴に攻撃を叩き込むんだ》
「何だって?」
着地と同時に提示されたのは、そんなアギトの提案だった。
一瞬、意図を測りかねた。
それもそうだ。
そもそもユニゾンデバイスというものは、術者をサポートし戦闘能力を高めるために作られたもの。
術者がデバイスに使われる、なんてふざけた話は聞いたことがなかった。
《槍の使い方が分からねぇんだろ? にわか仕込みで申し訳ねぇが、あたしが教えてやるって言ってんだよ》
なるほど確かに、よくよく考えてもみれば、それも魅力的な提案かもしれない。
元々アギトが得意とするのは、二つ名通り刀剣型のデバイスだ。
しかし彼女のロードだったゼストは、今まさにヴィータが手にしている、槍型デバイスの使い手だった。
つまりアギトの中には、少なくとも彼と戦闘を重ねた分だけ、槍術のノウハウが蓄積されているのである。
おまけに騎士と神経レベルで一体となり、文字通り融合する融合騎だ。
教官と身体感覚を共有し、全く同じ動作を体感している。恐らくその習得速度は、人間の比ではないだろう。
-
「面白ぇ、その話乗った!」
快諾の声と同時に、再度加速。
全身に灼熱の魔力を駆け巡らせ、吸血鬼の懐へと飛び込んでいく。
体内のアギトが動作を先取りし、狙う行動に最適な構えを取った。
それに合わせ、ヴィータも動く。
アギトと同様の手つきをして。
アギトと同様に腰を落として。
アギトと同様の呼吸リズムで。
問題はない。しっかりとした手本があるなら、それくらいは再現可能だ。
こんな小柄ななりをしているが、自分も数百年の時を戦い抜いてきた、ヴォルケンリッターの鉄槌の騎士。
必要な基礎体力と反応速度は、戦場で十分に磨き抜いてきた――!
「うぉりゃあっ!」
その速度は一陣の熱風。
その鋭さは熱砂の嵐か。
アギトの足さばきを再現し、アギトの手さばきを再現し、低い姿勢から突き上げた。
長身のアーカードの心臓目がけ、足元の高さから突きを放った。
何度となく放ったはずの突き。
それが構えが変わっただけで、その速さと威力の何としたこと。
びゅんと風を切り焼き尽くして。
目にも留らぬ刺突が殺到。
もちろん、そう簡単に当てられるはずもない。急所に命中することなく、心臓直撃コースを回避される。
だが、それだけでも驚嘆に値する成果だ。
轟々と燃え盛る灼熱の槍は。
煌々と光を放つ鋼の豪槍は。
「いい! 実にいいぞ守護騎士(ヴォルケンリッター)!」
あの無敵の吸血鬼の左肩に、深々と突き刺さっていた。
めらめらと炎が衣服に燃え移り、真紅のコートを焦がしていく。
傷口から流れる血液が、炎に焙られ沸騰していく。
肩に刺さった程度なら、一分もすれば塞がるだろう。
だがそれでも、十分な成果だ。これまで軽くいなされていた攻撃が、初めてまともに直撃したのだ。
正直、自分でも驚いていた。
構えを矯正するだけで、こうもスピードを乗せやすくなるものなのか。
「さぁ、これでようやく第一歩だ。このまま終わってくれるなよ。この私の命にさえも、あるいは届くやもしれないぞ?」
「言われねぇでもッ!」
力任せに槍を振った。
肩の肉ごと切り裂いて、強引に穂先を引き戻した。
ミディアムレアに焼けた筋肉が、宙に飛び散り霧散する。
にぃ、と頬の肉を釣り上げて、狂的魔的に笑むアーカードを、鋭く真っ向から睨みつけた。
《融合適正はそう悪くない! もう少し火力を上げていくぞ!》
「でえぇぇぇりゃああぁっ!」
アギトの声に合わせるようにして、再び第二撃を放つ。
次なる動作は薙ぎ払い。
提示された正しい動作は、使い慣れたグラーフアイゼンのそれとは全くの別物。
ぎぃんと唸る正宗によって、今度の一撃は防御された。
それでもまだまだ怯みはしない。すかさず三撃目を叩き込む。
それで駄目なら四撃目。脇腹を裂いただけなら更に五撃目。
ヴィータ1人では成し得なかった、流れるようなコンビネーション。
そして疾風迅雷のスピードに、更に炎熱のパワーが付与される。
「ふんっ! だりゃあっ!」
その手に立ち上るのは陽炎。
その槍に燃え盛るのは灼熱。
斬撃。突撃。突撃。
炸裂。炸裂。炸裂。
穂先が切っ先に激突する度、轟音と共に爆発が上がった。
敵に攻撃が命中する度、炎が弾け火花が散った。
ヴィータの操る無銘の槍は、今や文字通りの爆炎の槍だ。
-
(おしいな。これで身体が万全だったら……)
しかし、それですらも十分とは言えない。
爆裂と刺突を繰り返しながら、しかしその頬には冷や汗が流れる。
確かに敵のスピードは、攻撃速度も回復速度も、あのセフィロスと交戦した時に比べれば遅い。
微々たる差ではあるものの、やはりエリア1つを壊滅させた激戦が、身体に響いている証拠だろう。
それこそこちらのスタミナが万全ならば、あるいは持久戦の末に倒せたかもしれない。
しかし、事はそう単純ではない。
相手の体力が不十分であるように、こちらの体力も不十分なのだ。
否、もはや満身創痍と言ってよかった。
こちらは大量の刀傷を負わされ、ろくに治癒や再生もできず、おまけに肋骨を砕かれているのだ。
その上ユニゾン影響下のスピードアップによって、動きがより激しくなったのもよくない。
痛覚と出血による消耗はピークを向かえ、胸の傷は更に悪化の一途を辿っていた。
適切な治療を受けなかった場合、最悪死んでしまうかもしれない。
そしてその隙を逃す敵ではない。
アーカードは完璧だ。
自分のように、技術や慣れで実力が左右されるような、半端者では断じてはない。
恐らく経験者ではないのだろうが、奴の剣術はあまりにも拙い。それこそセフィロスに指摘された、一瞬前の自分と同じだ。
にもかかわらずこの男は、その大振りで無茶苦茶な動作で、シグナムにすらも匹敵する素早さを見せている。
パワーに至っては言うに及ばない。
もはや技量がどうこうだとか、そういう次元には存在しないのだ。
そんな相手の攻撃を、いつまでもしのぎ切れるような、生易しい健康状態ではないのだ。
(どうする)
今は気合で保っているだけだ。一瞬でもコンビネーションを崩そうものなら、あっという間に叩き潰される。
そうならないうちに倒さなければ。
だが、それができるかどうか。
ユニゾン状態になってなお、未だこちらの力量は、相手の動きに追いつけるレベルを出ない。
相手を完全に出し抜いて、一直線に心臓を潰すのは不可能だ。
それができるというのなら、とっくにセフィロスの技量をも超越している。
セオリー通りに戦うのなら、敵を傷つけ余力を奪い、自ら隙を作らせるしかない。
しかしその隙を生みだすまで、この身体が耐えられるかどうか――?
――ばぁん。
「!?」
刹那、轟音。
ばぁん、ばぁん、と立て続けに2発。
突如戦場に割り込んできたのは、拳銃の発砲音と思しき爆音。
同時に、ぶしゅ、と赤が広がった。
吸血鬼が剣を携える右の肩から、赤黒い液体の噴水が上がった。
これにはさしもの魔物も驚いたのか。
くわ、とその赤目を見開くと、反射の動作で背後を振り向く。
次なる衝撃はその瞬間だ。
ごしゃ、と鈍い音と共に、鬼の肩が砕け散った。
鈍色の煌きを放つ右肩が、血と肉と骨とリンパ液を撒き散らす。
赤と白と黄色がないまぜになって、なんだかよく分からない混合物となった肉片が、ぐちゃぐちゃと音を立て地に降り注ぐ。
からからと乾いた音を立てたのは、取り落とされた正宗か。
ずどんと轟音を立ててコンクリを砕いたのは、鋼鉄色のイカリクラッシャー。
「――鋼の軛ィッ!!」
そして突然の不意討ちは、その二撃だけには留まらなかった。
叫びと共に飛来するのは、天空より迫る銀色の閃光だ。
放たれた極太の魔力の楔が、残された左手へと突き刺さる。
その楔は殺すためのものではなく、その場に縫いつけるためのもの。
盾の守護獣・ザフィーラの放つ、ヴォルケンリッター最高硬度を誇るバインド魔法だ。
そしてその守護獣が逝った今、鋼の軛を放てる者は、このフィールドの中にただ1人しかいない。
「今やヴィータ! アーカードにとどめを刺せぇっ!」
闇の書を片手に叫びを上げる、未来の八神はやての姿があった。
-
◆
紅の騎士と吸血鬼の戦いに、突如割り込んだ2つの横槍。
これらを放ったのが何者で、いかなる状況の末に放たれたのかを、今から順を追って説明しよう。
まずは、2発の銃弾とイカリクラッシャー。
このコンボを叩き込んだのは、激しい戦闘の音を頼りに、地上本部跡から帰還した金居だった。
(やはりアーカードか)
彼が戦場にたどり着いたのは、ちょうどヴィータが峰打ちを食らい、肋骨を砕き折られた頃だ。
化け物のような長剣を握った、化け物のような男を見据える。
あの激戦を生き残ったのがアーカードであり、敗北したのはセフィロスであるということは、放送の時点で察していた。
今更意外に思うことも、今更絶望することもない。
問題はこれからどうやって、あの不死の魔物を抹殺するか、ということだ。
彼我の戦力差は明白だ。
最強の吸血鬼を前に、ヴィータはあまりにも無力だった。
一方的に嬲られた姿は、まさに見た目通りの非力な子供。
(このまま静観を決め込むわけにもいかないか)
断言してもよかった。
このままではヴィータは殺される。
ろくな抵抗もできないままに、無様に嬲り殺される。
そうなれば自分のプランは台無しだ。
身一つであの不死王(ノーライフ・キング)に勝てるなどという、自信過剰もいいとこな考えは抱いていない。
そしてこの機会をヴィータの死によって逃そうものなら、万に一つも勝算はなくなる。
自分も手助けをしなければ。
自分に危害が及ばない程度に、なおかつあのアーカードを抹殺できるように。
「――ユニゾン・インッ!」
彼女がアギトと融合したのは、ちょうどこの瞬間だった。
なるほど、融合騎というだけのことがある。
紅蓮と黄金に煌く炎へと変貌したヴィータの力は、飛躍的に向上していた。
冗談のように拙かった槍の構えも、見る間に矯正されていく。
(後は、タイミング)
それでも、まだ十分とはいえない。
悲しいかな、今更パワーアップした程度で勝てるようになるほど、彼女の体力は残されていなかった。
今でこそ騙し騙し互角に戦っているものの、あの傷の消耗はいずれ確実に響いてくる。
手を出さなければならないというのは変わらない。
もっとも手を出すタイミングは、かなり掴みやすくなったが。
(見極めろ)
デイパックからデザートイーグルを引き抜く。
まさかこんなに早く使うことになるとは思わなかったと思いつつ、眼前の魔物目がけて構えを取る。
タイミングが重要だ。
あの反応速度と索敵能力を持ったアーカードだ。完全に不意をつかなければ、自分の殺気など容易く気取られるだろう。
未だ自分の立場を守るためにも、アンデッドの正体は明かさないつもりだ。
故に今ある支給品のみを駆使して、一撃で確実に成果を上げなければならない。
狙うは吸血鬼の右肩。正宗を振るう右腕の付け根だ。
見極めろ。
一瞬の光明を見つけ出せ。
この鮮血と爆裂の乱戦の中、アーカードの注意が完全にヴィータに集中されるタイミングを。
なおかつヴィータを傷つけることなく、アーカードにのみ確実に命中させられる位置を。
-
(――そこだ!)
理解してからの反応は素早かった。
グリップを、握りなおし。
トリガーを、引く。
ばぁん、ばぁん、と2連発。
50口径の必殺の魔弾が、硝煙と裂空を伴い加速。
拳銃史上最大クラスの弾丸が、吸い込まれるようにしてアーカードへと向かう。
結果は命中。
2発中どちらもが命中し、盛大な血飛沫を噴き上げさせた。
仕込みは済んだ。本命はこれからだ。
反動ですっぽ抜ける銃身はそのままに、もう片方の手の武器を振りかざす。
膨大な重量を伴い振りかぶられるのは、銀色に煌くイカリクラッシャー。
吸血鬼がこちらを向く前に。
奴がまだ驚愕に硬直しているうちに。
ぶん、と勢いよく投擲。
スパイラル回転を描く超重量は、過たずして右肩に命中。
あらかじめ空いていた銃創が拡張される。
小さな穴を押し広げ、肩全体を粉砕する。
結果はこれまた成功だ。
胴体と右腕が別れを告げ、唯一の得物である正宗が放り出された。
真紅の魔眼と目を合わせたのは、ちょうどその瞬間だった。
その目に浮かぶ感情は、無。
一瞬前まで覚えていた驚愕が、しかし自分と目を合わせた瞬間、急速に覚めていくのが分かった。
やはり、お前はそうくるのか――と。
いつかこうなることは分かっていた、とでも言わんばかりに。
まるでこちらが胸に秘めていた殺意など、最初から見通していたと言わんばかりに。
(さぁ、これからどうする)
底冷えする心を押し殺し、ギラファアンデッドは思考する。
目と目を合わせた一瞬の刹那に、思考の糸を加速させる。
ここまではできた。
だが、ここまでで有効な手札を使いきってしまった。
この隙を突いてヴィータがとどめを刺せるならいい。
問題はそれが間に合わなかった場合だ。
しくじった後の追撃を、一体どうやって実行するか。
イカリクラッシャーは手元にない。相手に捕捉された以上、デザートイーグルの狙撃ではとどめは狙えない。
あまり取りたくない手ではあったが、アンデッドの本性を解放し、双剣の接近戦で仕留めるか――?
「――鋼の軛ィッ!!」
八神はやてが鋼の軛を放ったのは、ちょうどこの瞬間だった。
(これは、無理か……?)
狸は狸らしく。
管理局のちびだぬきは、管理局のちびだぬきらしく。
戦場の脇で狸寝入りを決め込んでいた八神はやては、戦況の一部始終を俯瞰していた。
その上での判断だ。
アーカードはあまりに強すぎた。
いくら使い慣れていない得物とはいえ、あのヴィータが赤子同然にあしらわれた。
刀傷は全身に及んでいるし、恐らくは何本か骨も折れているだろう。
実戦経験に乏しかったであろう、あの調子に乗った天上院明日香とは違う。
自らの全性能を自覚し、理性(ロジック)をもって力を行使する暴君だ。
腕っ節が強いだけでなく、全く隙を見せることがない。あまりに厄介すぎる相手だった。
-
「――ユニゾン・インッ!」
しかしその状況も、彼女がアギトと融合することで、わずかばかりとはいえ好転する。
体力的には厳しいものがあったが、それでも動きは飛躍的によくなったのだ。
一方的に嬲られていたヴィータが、何とか敵の動きについていけている。
全くなかった相手の隙が、僅かばかりだが見えるようになってきた。
(今がチャンスや)
夜天の魔導書のページをめくり、術式発動の準備を整える。
付け入るなら今だ。
相手の一瞬の隙を狙い、最高のタイミングで横合いから殴りつける――実現できるのは今しかなかった。
使える武器を慎重に選定する。
ヴィータに残された体力を考えれば、恐らくチャンスは一度しかない。
その一度でアーカードの動きを止め、確実に葬り去らなければならないのだ。事は慎重を要した。
憑神刀(マハ)の固有スキルの行使――これは駄目。
範囲攻撃の「妖艶なる紅旋風」は、心臓の一点のみを貫くには適していない。
面に展開して呑み込むにしても、それだけの魔力の余裕はない。何よりそれではヴィータが巻き込まれる。
「愛の紅雷」も同様だ。射程圏内ギリギリまで砲台を接近させるうちに、恐らく気付かれて叩き落とされるだろう。
ならば、ラグナロクやデアボリック・エミッションなど、自分が元々得意としていた広域魔法――これも駄目。
これに至っては論外と言ってよかった。
消耗が激しいことや、ヴィータを巻き込みかねないことは、「妖艶なる紅旋風」と共通している。
そしてデメリットはそれだけではない。自前の広域魔法では、チャージに時間がかかりすぎる。
その間にエネルギーを肌で感知され、目論見を見透かされる可能性が大きいのだ。
残された手段はただ1つ――夜天の主の身に刻み込まれた、配下・ヴォルケンリッターの魔法。
彼女らはそろって自分より器用だ。長いチャージ時間を必要とせず、手軽に発動できる魔法を多く有している。
そして彼女らの技の中に、この状況に適した魔法が1つある。
盾の守護獣・ザフィーラの必殺技――バインド魔法・鋼の軛だ。
(こいつで奴を足止めして、その隙にヴィータにとどめを刺させる)
それがはやてのプランとなった。
もとよりこんな横になった態勢では、攻撃魔法の狙いを定めるのは難しい。
心臓のみを狙うなどという精密射撃は、リインフォースⅡとユニゾンでもしない限り不可能だ。
故にここは精密射撃を諦め、大ざっぱな足止めに留めておく。
放つべきはシュツルムファルケンでも、スターレンゲホイルでもなかった。
標的を地面へと縫いつけ、行動を止めることに特化した、蒼き狼の拘束魔法だ。
(一撃で決めるんや)
自分自身に言い聞かせた。
タイミングを見極めろと。
一種の隙を見逃すな、と。
目指すは絶好の幸運のみだ。中途半端なチャンスに傾いていては、あの暴虐の魔王は止められない。
狙うんだ。
この鮮血と爆裂の乱戦の中、アーカードの注意が完全にヴィータに集中されるタイミングを。
なおかつヴィータを巻き込むことなく、アーカードにのみ確実に命中させられる位置を。
-
.
――ばぁん。
銃声が鳴り響いたのは、ちょうどこの瞬間だった。
(!?)
何が起こったのかなど理解できない。
唐突に銃声が轟いて、唐突にアーカードが血を噴き出したのだ。それだけで理解しろというのが無理な話だ。
だが混乱した彼女の思考は、次の瞬間にはクリアになっていた。
続いてその血肉をぶち抜いたのが、見覚えのあるアンカーだったからだ。
(金居が戻ってきたんか!)
螺旋を描き真紅にまみれるのは、あの優男に渡されたイカリクラッシャー。
胡散臭い男ではあった。そう簡単に信用していい相手でないことは分かっていた。
だが今この瞬間においては、まさに天恵と言っていい最高の援軍だ。
鉄塊が飛んでくると同時に、驚愕と共に振り返るアーカード。
今だ。
今こそが絶好のタイミングだ。
待ちぼうけるしかなかった機会が、今人の手によってこじ開けられた。
「――鋼の軛ィッ!!」
力の名を、口にする。
ありったけの魔力を注ぎ込み、白銀の聖杭を形成する。
生み出せたのはたった1つ。だがこの際、それだけだって十分だ。
狙うは未だ健在のもう片方の腕。
潰された右腕とは反対側にぶら下がっている、左腕の方を狙う。
杭は過たず命中した。
銀の光は赤い袖を捕らえ、アーカードを縫いつけることに成功した。
これで両腕が潰された。ヴィータが飛び込んだとしても、反撃を受けることはない。
作戦成功だ。
今こそこの好機を逃すことなく、最後の一撃を打ち込む時だ。
「今やヴィータ! アーカードにとどめを刺せぇっ!」
以上が吸血鬼の両腕を潰し、騎士に千載一遇の好機をもたらした事象の顛末である。
◆
こくり、と声に頷き返す。
サファイアの色に燃える瞳を、吸血鬼の方へと向け直す。
いけ好かない八神はやての偽者野郎に、まだどんな奴なのかもよく分からないコートの男。
それでも今この瞬間は、決して訪れないかもしれなかったチャンスを、必死でこじ開けてくれた者達だ。
どんなに忌々しかったとしても、殺させたくなんてない命だ。
分かるか、吸血鬼アーカード。
触れるもの全てを拒絶し暴力を振るい、闘争と死を撒き散らす化け物よ。
これが自分達人間の力。
お前がひたすら渇望していた、尊厳ある人間とやらの力だ。
同じ目的を果たすためなら、手を取り合って結束を結び、共に困難に立ち向かう力だ。
孤高を気取り、差しのべられた手を払いのけ、目に映る全てを虐殺するだけのお前には、人間は絶対に負けはしない。
1人1人は弱くたっていい。1人でお前に勝てなくたって構わない。
弱い人間は弱いなりに、互いに手を繋ぎ合って、何度蹴散らされても立ち上がってやる。
それで最後に立っているのがこちらなら、自分達人間の勝利なのだから。
-
《ヴィータ、デバイスのフルドライブを使え! カートリッジ・ロードは一発だ!》
「おう! そっちこそ最大火力で頼むぞ……この一撃で、絶対に野郎をぶっ潰すんだ!!」
叫びと共に、カートリッジを起動。
がしゃん、とコッキング音が鳴り響く。しゅう、と排気煙が噴出する。
鋼の豪槍の出力効率を、一気に最大レベルまでアップ。
デバイス自体に変化はない。グラーフアイゼンのギガントのように、外見が変わるわけではない。
それでも、その中身は本物だ。
身体にかかる負担こそ増えたが、その分五体に漲るエネルギーは、十二分に増強された。
ぼう、と穂先に火が灯る。
烈火の剣精の火力の全てが、騎士の槍を紅蓮に染める。
煌々と燃え盛る黄金の輝き。
視界を揺らめかせる熱風と陽炎。
まだだ、まだ足りない。
もっとだ、もっと。
もっと輝け。
もっと煌け。
もっと熱く、燃え上がれ。
どうせ先の長くない命だ。朽ち果てる寸前まで痛めつけられた身体だ。
この命の灯火が燃え尽きたっていい。命の燃料全てを焼き尽くしたっていい。
再生すらも追いつかない、一撃必滅の灼熱の業火を、奴の心臓に叩き込んでやる。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」
構えを取った。
腰を据えた。
十二分に呼吸を整え、突撃の準備を整えた。
全身からほとばしる灼熱の魔力が、もうもうと真紅の蒸気を立ち上らせる。
槍の穂先に集められた炎が、爛々と燃え盛り大気を焼き焦がす。
その姿、まさに灼熱真紅。
その力、まさに爆熱真紅。
紅の鉄騎の命の炎、今まさに全力全開極まれり。
「たぁッ!」
がんっ、と勢いよく大地を蹴った。
びゅん、と勢いよく飛び立った。
地面スレスレの低空飛行。ほとんどホバリングの高度での高速機動。
それは西洋の不死鳥か。
はたまた東洋の鳳凰か。
空気を切り裂き焼き尽くし、一陣の熱風が駆け抜ける。
灼熱の爪を携えて、爆熱の翼を羽ばたかせ、小さき騎士が疾駆する。
目の奥に浮かび上がるのは、既に逝ってしまった仲間の姿。
守護騎士ヴォルケンリッターの中でも、最も高い技量を有した、4人を束ねる烈火の将。
炎の魔剣レヴァンティンを振るい、灼熱業火の剣術を繰り出し、数多の敵を蹴散らした猛者だ。
悪いな、シグナム。
今となってはこの声も、あの世のお前には届かないんだろうが。
オリジナルにゃ到底及ばない、馬鹿にしてるような技術だろうが。
それでもせめてもの験担ぎだ。
今はその名前だけでも、ちょっとだけあたしに貸してもらう。
「紫電――――――一閃ッ!!」
.
-
大地を滑るように駆け抜けた。
力の名前を雄叫びに乗せた。
それは烈火の将シグナムが、最も信頼した必殺技。
魔力変換資質を持った騎士の、基礎にして奥義と称される戦闘技能。
この手に握るのは槍型デバイスで、技術もにわか仕込みだが。
その穂先を燃やす炎も、自前じゃなく他人の借り物だが。
今はせめてその名と共に、お前の力を貸してほしい。
そしてシグナムだけでなく、みんなの力も貸してほしい。
救えなかった命達よ。守れなかった命達よ。
今はこの紅の鉄騎の、たった1つのわがままを貫くために、みんなの力を貸してくれ――!
「RAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAH!!!!!」
咆哮が上がる。
崩壊が鳴る。
びりびりと大気を揺さぶる唸りと共に、ガラスの砕かれたような音が響く。
やはり恐るべきはアーカード。
あるいはその軛に込められた魔力が、ほんの少しばかり足りなかったのか。
盾の守護獣の拘束をも破壊し、たっぷり溜められた手刀の一撃が、弾丸のごとく迫ってくる。
ずぱ、と空を裂く音が聞こえた。
どっ、と血の散る音が聞こえた。
みちみちと肉をぶち抜いて、ばきばきと骨をぶち砕く音を、耳ではなく肌で感じていた。
《ヴィ……ヴィータッ!》
「まだ、まだあァァァァ……ッ!」
そうだ、まだだ。
この程度で歩みを止めてたまるものか。
まだ直撃を食らっただけだぞ。
腹をぶち抜かれてすぐだぞ。
まだほんの少しだけ命は保つ。この程度では即死に至りはしない。
ならば、こんなものに構ってられるか。
こんな負傷ごときで止まってられるか。
なおも飛行魔法を加速させた。
伝説のフェニックスの翼を羽ばたかせた。
腹に突き刺さった吸血鬼の剛腕を、根元まで食い込ませるようにして。
ぐちゃぐちゃと血肉を引き裂かれる不快感にも、おくびも怯むさまを見せぬまま。
「ぶゥち抜けええええぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェェェェェェ―――――――――ッッッ!!!」
遂に繰り出された一撃は、吸血鬼アーカードの左胸を、寸分の狂いなく貫き通した。
-
そうか、これが死だったか。
ごふ、と口元から血を垂らしながら、最強の吸血鬼は認識する。
薄ぼんやりと遠ざかる意識の中で、自らの身体へと意識を向けた。
命が遠ざかっていく。
身体の中に抱え込んだ、やかましいほどの命の声が、次々と口を噤んでいく。
あれはかつての十字軍。あれはインドかどこかの兵士だったか。
今息絶えていったのは、南米のホテルを襲った兵士達。
ああ、ちょうど今消えていったのは、トバルカイン・アルハンブラとかいった、トランプ使いの伊達男か。
嫌になるほど味わってきた、五感の喪失感と共に。
長らくろくに味わってこなかった、第六感や意識そのものさえも、ゆっくりと喪失していく感触。
これが、死か。
これが死というものだったか。
かつてまだ人であった時、あれほどに怖れ拒絶した死。
かつて伯爵を名乗っていた時、胸に杭を突き立てられ、擬似的に味わったかりそめの死。
そして今、この身体に、今度こそ本当の死を感じている。
ああ、そうか。
こんなものが死だったのか。
こんなにも静かで穏やかなものを、かつての私は怖れていたのか。
諦めが人を殺す。
人間に死を与えるものは、絶対的な力でもなければ、圧倒的な悪意でもない。
力や悪意に立ち向かうのをやめ、諦め抵抗を捨てた時点で、ようやく人間の敗北は確定する。
だが、裏を返せば、諦めない限りは人間は無敵だ。
たとえみっともなく逃げおおせたとしても、たとえ恥を忍んで頭を下げたとしても。
生き延びてまた立ち向かおうとする限り、人の可能性は無限大だ。
化物達(フリークス)よりも遥かに弱く、遥かに短命であるからこそ。
限りある短い生命に、生きた証を残さんと、化物以上に懸命になれるからこそ。
人とはどこまでも愛おしく、果てしなく高潔で、何物にも代えがたい強さを持った生命たり得るのだ。
「チッ……結局、相討ちか……」
故に誇るがいい、紅の鉄騎よ。
小さくも雄々しき心を抱いた、誇り高き守護騎士(ヴォルケンリッター)よ。
お前は今まさに成し得たのだ。
人の尊厳とたくましさを、その身をもって証明したのだ。
力及ばず朽ち果てた、真紅の竜を操りし少年ですらも。
化物じみた力を持ちながら、しかしどこまでも人であった神父ですらも。
人であることに耐えかねて、化物へと化生した剣士ですらも、お前の領域までは至れなかった。
お前は今まさに私を倒した。
このあまりにも死ににくい化物の、夢の狭間を終わらせたのだ。
-
「アーカード……てめぇは……本当にこれで、死ぬんだよな……?」
どうか誇ってほしい。
自分は人間だったのだと。
その意志で化物を打ち倒し、人間の尊厳を証明したのだと。
それが何よりの弔いだ。
そうであれば、お前の踏み台になったこの私も、幾分かは報われるというものだ。
「ああ」
そう。
もう、これでおしまいだ。
本当に私はこれで死ぬ。
永らく渇望していた死を、今度こそ本当に迎えることができる。
改めて思い起こしてみれば、あまりに長すぎるものではあったが、それなりに楽しい人生だった。
何人もの狗や人間や化物が、私を殺さんと立ち向かってきた。
ギリギリの命のせめぎ合いが、その度に私の生涯に充足を与えてくれた。
もちろん、心残りがないわけではない。
主インテグラの最期の命令(ラスト・オーダー)を果たせず、中途で投げ出してしまったこと。
アンデルセンやセフィロスの仇を見つけ出し、この手で殺すことができなかったこと。
狂った少佐の率いる最後の大隊(Lazte Battalion)に、今度こそ引導を渡してやることができなかったこと。
だが残念ながら、それはもはやどうしようもないことだ。
それを叶える力も時間も、今の私には残されていない。
ないものねだりをしたところで、できないことはできないのだ。
私は人間に対峙された、哀れな人間なのだから。
「これで、本当に――――――」
ふと、視線を傾け空を仰ぐ。
ああ、今夜は満月だったのか。今更になって気がついた。
なるほど、こんな戦場には似つかわしくない、黒く澄み渡ったいい夜空だ。
二日も満月が続くというのに、妙な違和感を覚えはしたが、それは無粋というものだろう。
こんなに月が明るくて、こんなに星が眩いのだ。
本当に、いい夜だと思う。
静かで、美しくて、いい夜だ。
こんな夜なのだから。
「――――――さよならだ」
まぁ――死にたくもなるさ。
【アーカード@NANOSING 死亡確認】
.
-
◆
めらめらと燃え盛る炎が、アーカードの死体を焦がしていく。
あの忌々しいくらいに死ににくかった化け物が、再生もへったくれもないままに、静かに灰へと変わっていく。
ああ、本当にやったんだ。
本当にこの手で、こいつを倒すことができたんだ。
人間、やればできるもんなんだな。まぁ、厳密にゃあたしは人間じゃねえんだけど。
《ヴィータ! おいヴィータ、しっかりしろよっ!》
頭の中で響くアギトの声が、今はぼんやりとしか聞こえない。
本格的にやばいんだな、これ。
もう、ほとんど意識が保ててねぇんだ。
無理もねぇだろうな。いくら闇の書のプログラムっつったって、基本的には人体の再現なんだ。
そりゃあこんだけの血を喪って、脊髄も筋肉もメタメタに潰されたら、生きてなんていられないだろうさ。
「悪ぃ、な……最後の最後で……ドジ、っちまった……」
これは嘘だ。
こんなのは、ドジでも何でもなかった。
どの道死因が変わるだけだ。ここまで痛めつけられた身体だったら、そのうち衰弱死してただろうさ。
それにアギトが気付けなかったのは、多分、初めてのユニゾンだったからなんだろう。
ま、それはそれでよかったかもしれねぇな。余計な気遣いや負い目を、あいつにさせねぇで済んだわけだから。
《畜生……なんで、なんでこうなっちまうんだよぉ……っ!》
なんだ、こいつ泣いてるのか。
あたしなんかが死にそうになってるのを、悲しいって思ってくれてるのか。
不謹慎かもしれねぇけど、なんかちょっと、嬉しいもんだな。
もう随分長いこと生きてきたけど、誰かに泣くほど心配されたのなんて、これが初めてかもしれねぇから。
人殺しだの辻斬りだのやってきた気味悪い兵器が、こうして誰かに人間として、死ぬのを悲しんでもらえてるんだから。
「……なぁ……はやて……」
嬉しいついでに、もう1つだけわがままを言わせてほしい。
声をかける相手は、あのいけ好かない偽はやてだ。
「ヴィヴィオ、って娘……なんだけどな……そいつ……助けて、やって、ほしいんだ……
あたしが……守る、って……助けてやるって……約束……した、から……」
本当は、あまり頼みたくなんてない。
あいつがいい奴かどうかはまだ分からないし、何より自分の引き受けた仕事を、他人に押しつけたくなんてない。
でも、そいつはもう無理な話だ。
あたしはこのままここで死ぬ。
ギルモンとの約束は、もう二度とあたしの手では果たせねぇ。
そのままあたしの命と一緒に、ヴィヴィオを助けるって約束も消えちまうよかは、誰かが引き受けてくれた方がよっぽどいい。
-
「……分かった。約束する」
ともあれ、これでもう用事は全部済んだ。
生きているうちに言っておきたいことは、これで全部言い終わった。
あとはゆっくりと、自分が死んでいくのを待つだけだ。
ああ……にしても、これでホントに終わりなんだな。
闇の書の主の守護騎士として、何百年も続けてきた戦いも、これで終わっちまうんだな。
何もかもが、必ずしも満足だったってわけじゃない。
まだまだはやてとしたいことはたくさんあった。
行きたい場所もたくさんあったし、食べたいものもたくさんあった。
そうでなくても、はやての足を、この手で治してやりたかった。
でも、ごめんな。
あたしはここまでみたいなんだ。
もうあたしは、はやてと一緒に生きられない。
大好きなはやての力になることも、足を治してやることもできない。
駄目な子だよな。ごめん、叱ってくれてもいい。
無理に欲張っちまったから、結局こんな道しか選べなかった。
身に余る結果を求めたから、自分を犠牲にすることしかできなかった。
でも、はやて。
許してくれるなら、せめて1つだけ言わせて。
あたしは確かに、何もかも全部満足したわけじゃない。
この世に未練はまだまだあったし、本当なら死にたくなんてなかったって思ってる。
でもさ。
はやてと一緒に生きてる間は、本当に楽しかったんだ。
戦うことだけしてきたあたし達が知らなかったことを、はやてはたくさん教えてくれた。
嬉しい時には笑うことも、笑えるくらい嬉しいことが、この世界にたくさんあることも。
あたし達ははやてに会えたから、人間みたいに生きることができたんだ。
あたしははやてに会えたから、人間みたいに死ぬことができたんだ。
だから、さ。
「……ありがとな……」
あたしはホントのホントに――――――幸せだったんだよ。
【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's 死亡確認】
.
-
◆
「使えそうなものは、この首輪だけか」
感情の希薄なクールな声で、金居がぼそりと呟いている。
左手に握られているものは、あの吸血鬼の背中に背負われていた、すっかり炭化したデイパック。
ああまで焼けてしまったのだ。アグモンなる者の首輪以外は、残らず全滅してしまったらしい。
「そっちはどうだ?」
正宗を拾い上げながら、金居がはやてへと問いかける。
逆に彼女の左手には、ヴィータが投げ捨てたデイパックが握られていた。
「ああ……ちゃんとご褒美とやらが入っとったわ」
緩んだ鞄の口に突っ込んだ右手が、その中に入っていたものを取り出す。
禍々しい意匠の刻み込まれた、異様な風体の短剣だ。
魔獣の爪のような刃が、何故か3枚重なって生えている。
色々と探ってみると、何か仕掛けでもあったのだろうか、じゃきんと刃が広がった。
左右に展開された刃と、上を向いたままの刃。
三つ又の歪な切っ先のシルエットは、子供が遊ぶ風車を彷彿とさせる。
更に中を探ってみると、これと同じものがもう1つあった。どうやら2本1対の双剣だったらしい。
「……ヴィータのことは、残念だが」
ぴくり、と。
金居の口にした名前に、微かに肩が強張った。
「それでも、俺達に立ち止まっている時間はない。行くぞ。お前に調べてもらいたいことがある」
冷たく事務的に言い放つと、踵を返して歩いていく。
かつかつと遠ざかる靴音に、はやてもまた、屈んだ姿勢から立ち上がって続いた。
そうだ。
ヴィータは死んだ。
あのアーカードと刺し違えて、そのまま炎の中で死んでいった。
最期の瞬間、彼女は自分に、ヴィヴィオを助けてほしいと言った。
あの時は「はやてらしさ」を装うために、一応返事をしておいたが、さて、一体どうしたものだろうか。
一方アギトはデイパックの中で、しくしくと涙を流している。
一番近くにいたというのに、守ることができなかったのだ。確かに無念ではあるだろう。
それでも彼女は戦いの時、確かに啖呵を切ったのだ。
あのゼスト・グランガイツが望むのなら、自分も戦ってやる、と。
今はまだ泣かせておけばいい。役に立ってほしい時には、必ず役立ってくれるはずだ。
(それよりも……問題はヴィータやな)
半ば炭と化した死体へと、視線を向ける。
確かにアーカードを倒すことはできた。しかしそれと引き換えに、得難い駒を喪ってしまったのだ。
蓋を開けて見てみれば、大失態と言っていい結果である。
鉄槌の騎士が死亡したということは、これで異世界のヴォルケンリッターが、残らず全滅してしまったということになる。
あれほど便利で扱いやすい駒は、もう手に入ることはなくなってしまった。
これから先のプランにも、あるいは大幅に支障を来たすかもしれない。
-
(そう、それだけなんや)
それだけのはずだ。
駒を失っただけなのだ。
戦略上困難になるだけで、さして感傷を覚えるには至らないはずだ。
それなのに。
(何で、こないな気分になる)
この胸に込み上げる不快感は何だ。
この胸を締め付ける寂寥感は何だ。
一体自分はどうしたというのだ。
あんなもの、家族の皮を被った偽物が、勝手に戦って死んだだけではないか。
そもそも偽りのヴォルケンリッターの死など、シャマルを切り捨てた時に経験していたではないか。
あの時は屁でもなかったというのに、何故この期に及んで同情したがる。
今更いい子ちゃんぶろうとするな。情に左右されて目的を見失うな。
しっかりしろ。
らしくないぞ、八神はやて。
クアットロの言葉がそんなに堪えたのか。
ヴィータの姿にそんなに胸を打たれたのか。
感傷になんて浸ってどうする。こんなにも簡単に情けに流されてどうする。
ぺちぺち、と頬を両手で叩きながら、視線をヴィータの亡骸から背けた。
その姿から逃げるようにして。
その想いを封じるようにして。
元の毅然とした表情を作り直し、はやては金居の後に続いていった。
(そういえば、あの銃……)
と、その時。
不意に違和感を覚え、立ち止まる。
(あんなもん……あいつの持ち物にあったか……?)
-
【1日目 夜】
【現在地:E-5 崩壊した市街地】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる
首輪(セフィロス)、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
1.……ヴィータ……
2.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
3.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
4.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
5.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
6.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
7.金居を警戒しつつ、一応彼について行く。
8.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
9.金居はどこであの拳銃(=デザートイーグル)を手に入れたのか?
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
基本:ゼストに恥じない行動を取る
1.畜生……
2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。
-
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ゼロ(キング)への警戒
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
デザートイーグル@オリジナル(5/7)、首輪(アグモン、アーカード)、
アレックスのデイパック(支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
【思考】
基本:プレシアの殺害。
1.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
2.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
3.はやてと共に地上本部跡地へ向かい、転移魔法陣を調べる。
4.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
5.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。
【全体の備考】
※E-5にアーカードとヴィータの死体と、アーカードのデイパックが放置されています。
デイパックは焼け焦げており、中に入っていた支給品は、ボーナス支給品ごと全滅しました。
※フィールド中では、何故か2晩連続で満月が出ているようです。
【デザートイーグル@オリジナル】
金居のデイパックに転送されたボーナス支給品。
現実に存在する銃で、50口径弾を発射することができる、世界最強の威力を持った拳銃。
ただしそれ故に相当な重量とサイズを有しており、反動も大きく、使い勝手は悪い。
【虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる】
ヴィータのデイパックに転送されたボーナス支給品。
謎の少年・カイトが用いていた双剣。
普段は禍々しい鉈のような形をしているが、戦闘時には刃を展開し、風車のような三つ又の形状に変形する。
-
投下終了。矛盾などありましたら、ご指摘お願いします。
今回のタイトルの元ネタは、以下の通りです。
燃える紅:「仮面ライダー響鬼」二十四之巻
BRAVE PHOENIX:「魔法少女リリカルなのはA's」挿入歌
わがまま:「とらいあんぐるハート3 リリカルおもちゃ箱」収録シナリオ・「魔法少女リリカルなのは」第13話サブタイトル
……いや、最近響鬼見始めまして、紅に一目惚れしちまったもので(ぉ
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投下乙です。
遂に強敵アーカード落つ!
ヴィータとアギトのユニゾン通称ヴィータ紅、そして金居とはやてのサポートでやっと倒せる程の強敵だった……ヴィータもやりきっただろう……。
ちょっと待て、確かアーカードは対主催で対主催のヴィータも退場……しまいにゃ残ったのは火種の宝庫黒はやてとステルス金居……アレ、なんか対主催涙目じゃね?(いや、どう考えてもアーカード対主催やったって火種だらけだけどさぁ)
-
投下乙です
正直、ここでアーカードが脱落するとは思わなかった!
だが熱い、熱かったぞヴィータ!
確かに火種満載のアーカードが生きてるのも不都合だがヴィータも退場で残ったのはこの二人かよ…
-
投下乙です。
いやぁ熱い! とにかく熱い!
こんなに熱い展開は久しぶりじゃ無かろうか。
結果的にヴィータは死んでしまったけど、最後の最後まで格好良かった。
対するアーカードもようやく人間に殺される事が出来て、満足げ。
アーカードもヴィータも、最後の言葉は本当に良かったと思う。
そしてはやてもはやてでヴィータの死には何か思う事がある様子。
最近は少しずつはやても変わって来たかな? って気はするけどどうなんだろう。
うん、何はともあれGJでした!
-
投下乙です
これぞ熱血!ヴィータとアギトのシンクロとか、なんという燃え展開!
そして仲間と力を合わせて強敵アーカードを倒す!しかも相討ちとか…
ヴィータお疲れ様、旦那もこの最期は本望だろう…
と、一見燃え展開みたいだけど、一歩引いて見てみると
対主催のアーカードとヴィータが誤解が発端で戦い始めて共倒れ
しかも生き残った二人は主催と通じるステルスと、冷酷な狸
さらに協力したのも自分の都合からという腹黒模様
ホント何も考えないで読んだら普通に燃え展開なのになw
-
ユーノ・スクライア分投下します
-
『放送は僕――オットーが担当させていただきました。』
淡々とした声による放送が終わった――
西の空を見ると赤い夕日が沈んでいくのが見える――
東の空を見ると赤い満月が昇っていくのが見える――
そして周囲を闇が空気を染めていく――
それに呼応するかの様に――
彼の心も暗い闇に沈んでいく様だった――
『マスター――』
声を発したのは『人』ではない――フェイト・T・ハラオウンのデバイス閃光の戦斧バルディッシュ――
『彼』は自身のマスターであるフェイトの死を悼んでいた――
ショックがないと言えば嘘になる――
出来れば無事に再会したかった――
だが、それは最早叶わぬ事だ――
この場にいた2人のフェイトが自分の世界及び時間軸のフェイトである保証はない――
無事に元の世界に戻る事さえ出来れば無事に再会出来る可能性は十分にある――
その可能性はブレンヒルトと出会った時から推測出来ていた事だ――
しかし――そんな推測に意味は無い――
如何なる世界、如何なる時間軸であろうとも自分のマスターである事に変わりは無いのだから――
彼女の喪失が大きな空虚を生む事に変わりはない――
彼女がこの場でどの様に行動し死に至ったのか――それを知る手段はない――
例えば、誰かを守るか助ける為に強敵と戦い散っていったのか――
親友である高町なのはを生き返らせる為に修羅の道を行き朽ち果てていったのか――
もしかすると一瞬の不注意で死に至った可能性だってある――
だが――1つだけ確かな事がある――
フェイトは死の瞬間まで誰かの為に戦っていたという事だ――
それが誰なのかはわからない――
プレシアの願いを叶える為かも知れない――
なのはやアリサ・バニングスを生き返らせる為かも知れない――
プレシア・テスタロッサの真意を確かめるとともに殺し合いを止めて多くの人を救う為かもしれない――
そして――娘を助ける為かも知れない――
バルディッシュは願う――
フェイトの最期が誰かの助けとなった事を――無為に終わる事の無い事を――
-
ここまで思考しバルディッシュはある違和感を覚えた――
『Mr.ユーノ――?』
先程からユーノ・スクライアは淡々と名簿と地図を眺めている――
呼ばれた人数は19人と非常に多い、それだけではなくユーノが気に掛けていた少女達や数多くの仲間達の名前が呼ばれていた――
だが、ユーノは呼ばれた瞬間こそ驚いていたもののその後は冷静に名簿と地図をチェックしていた――
彼はショックを受けていないのか――いや、彼の性格を考えるならばショックを受けないわけがない――
では、何故彼はその素振りを見せずにいるのだろうか?
彼は何を考えているのだろうか――
そしてその口がゆっくりと開かれる――
「バルディッシュ――確か君は僕から見て4年後の未来から連れて来られたんだよね――」
『Yes――』
「だったら――教えてくれないか――君の世界で起こった事を――」
その声は――何処か淡々としていた――
ここにいるユーノ・スクライアはバルディッシュのいた世界のユーノ・スクライアとは別人だ。
但し、その差異はLの存在の有無と約4年の時間軸の違いぐらいだったが――
ちなみに言えばその事自体はブレンヒルトと行動を共にしていた時点で把握していた。
しかし、ユーノ自身は世界が違う事については別段気にしていなかった事もあり深く切り込んだりはしなかった――
つまりユーノの世界から見て4年後に起こるであろう機動六課設立やJS事件に関して殆ど全て聞いていなかったのだ――
情報が大きな武器になるのは無限書庫の司書長をしているユーノ自身がよく理解している。
参加者の中に機動六課やJS事件の関係者が数多くいるならばその情報は得るべきなのは誰にだって理解出来る。
仮にその情報を知っていればもっと違った推測だって出来た筈である――
つまりここに至ってそれを知らない・知ろうとしなかった事は完全な悪手でしかない――
そういう余力が無かった――いや、明日香との遭遇後、温泉で休息を長い間取っていたし、
ブレンヒルトと行動を共にしていた間も休息していたのが多かった為、その時にバルディッシュから確認する事は出来たはずだ――
何故、ユーノはその事を知ろうとしなかったのだろうか――?
「そのJS事件で僕は――なのはの――」
『Ms.なのはの?』
「――いや、何でもないよ――それにしてもあのティアナが機動六課に入っていたなんてね。そういえばなのはも彼女の事を気にしていたっけ――」
『意外ですね、Ms.チンクやMs.ルーテシアの事を知らなかった貴方がMs.ティアナの事は知っていたとは』
「ああ、話を聞いて思い出したよ――彼女、少し前に僕の世界で起こったある殺人事件で協力してくれたんだ――さてと」
と、バルディッシュからJS事件に関する事を聞き終えたユーノは名簿を手に取り、
「バルディッシュ――今までの放送は全て覚えているね」
『Yes――』
「だったら――今から、僕は今も生き残っている参加者の名前を読み上げるから合っているか確認してくれる?
アーカード、相川始、アレックス、アンジール・ヒューレー――」
ユーノの口から現在も生存している参加者の名前が五十音順に次々読み上げられる――
「――ヒビノ・ミライに片方のはやて――そして僕の計19人――何処か間違っているかな?」
『――いえ、漏らしも間違いもありません。その19人で間違いありません』
「わかったよ」
-
『Mr.ユーノ――これからどうするつもりですか?』
バルディッシュは地図を見ているユーノに問う。ユーノ自身の様子を見る限り基本的な方針は変わっていない事だけは間違いない。
しかし、具体的な行動については全く不明瞭である。
「そうだね――実はまだ決めていない。僕が市街地に向かおうとしたのはルーテシアや明日香を止める為だったけど――」
『両名とも先の放送で呼ばれています』
「うん、残念だけど最早説得は不可能になった」
ユーノが市街地に向かっていたのは一時期行動を共にしていたが殺し合いに乗り市街地に向かったであろう天上院明日香とルーテシア・アルピーノを説得する為である。
しかし、先の放送で名前が呼ばれた以上、両名は死亡した事が確定した為それは不可能となった。
「だけど――実の所行動を決めかねている理由はそれだけじゃないんだ。
僕がブレンヒルトに話した脱出の手段については覚えているね、
でも、正直な所現状のままだと厳しいかもしれない。
いや、当初のプランはほぼ潰れたと考えて良いと思う――」
ユーノは眼鏡に手を当てながら口を開く――
「幾つか理由はあるよ――」
ユーノがブレンヒルトに話した脱出のプランを簡単に振り返ろう。
次元干渉型の結晶体であるジュエルシードの力を解放し意図的に次元震を引き起こしこのフィールドを覆う結界を破壊するというものだ。
仮に破壊に失敗したとしてもその反応を時空管理局が捕捉する事によりデスゲームは破綻するという寸法だ。
その一方で首輪解除の手段をLが模索するというプランだ。
「まず、当初必要だった仲間が既に死亡している事――」
先のプランの問題点としてジュエルシードの力を制御出来るのかという問題がある。
ユーノ自身も自分1人では難しいと考えており、補助系の魔法に長けているシャマルかザフィーラが必要だと考え合流を考えていた。
しかし、2回目の放送でザフィーラ、先の放送でシャマルの名前が呼ばれた――彼等の力を借りる事は不可能となった。
また、先の放送でLの死亡が伝えられている――故に、首輪解除をLに頼る事も出来なくなった。
『確かにMs.シャマル達の損失により難しくなりました――ですが、制御ならばMs.なのは達でも可能では――
首輪の解除にしてもMr.ユーノの手元にも首輪がある以上、Mr.ユーノがそちらも進めていけば――』
「そうだね――
実はさっき生存者を確認したのはジュエルシードの制御や首輪の解析が出来そうな人を割り出す為というのもあったんだ――
でもね――僕が潰れたと考えている理由は他にもあるんだ――
僕がこのプランをブレンヒルトに話した時――彼女が何て言ったか覚えているかい?」
前述のプラン――ジュエルシードを利用する事を彼女に話した際、彼女は3つの問題を指摘していた。
1つ――ゲームの盤台を崩しかねない物を主催者であるプレシアが支給するとは思えない問題
2つ――ジュエルシードの解放して自分達は無事で済むのかという問題
3つ――フィールドとは別に首輪をどうするのかという問題
その内、一番最初の問題であるジュエルシードに関してはルーテシアに支給されている事実があった。
故にユーノもブレンヒルトもそれ以上この問題については考えていなかったが――
「だけど――その前提が間違っていた可能性が高いんだ――」
そもそもジュエルシードが支給されていた理由に際し、ユーノはこう考えていた。
ジュエルシードを使えば高確率で暴走を引き起こし所持者はモンスターとなり――参加者間に戦闘を引き起こし殺し合いを促進させる――
故に、ジュエルシードは複数支給されている可能性もあると――
そして、その仮説が正しい事はユーノ自身が身を以て体験した――
明日香がジュエルシードの力を使い夜天の書の力を解放したのを目の当たりにしたのだ――
一見するとその仮説は正しいと誰もが考える――
-
『それの何処が間違っているのですか、Ms.明日香の力はMr.ユーノが身を以て体験した筈です』
「あれから今までずっと考えていたんだ、ジュエルシードの力は本当にあの程度なのかという事をね――
そして気付いたんだ――あの程度がジュエルシードの全力じゃない事をね――」
ユーノは語る――なのはとフェイトが出会う前、街に現れた巨大な大樹の怪物の話を――
それはジュエルシードの力によって生み出された怪物――そしてそれを生み出したのは少年だったのだ――
ジュエルシードは強い想いを持った者が願いを込めて発動させた時、一番強い力を発揮する――
だが、生み出した少年はジュエルシードの事など何も知らない、発動させたとしてもその願いは恐らくささやかなものだっただろう――
つまり――最初から強い願いを込めて意図的に発動させたならば、当時のなのはでは対処しきれない程の怪物になっていた可能性はあったという事だ――
ここで明日香がジュエルシードの力を引き出した時の事を思い出して欲しい。
明日香は既にジュエルシードがどういう物かについて大まかに説明を受けていた。
彼女がそれを発動したのは強い衝動に押されてというのもあっただろうが、おおむね意図的と考えて良い――
『今更な話ですが彼女は何故ジュエルシードを発動したのでしょうか――?』
「それについてはある程度推測出来るよ――そう、僕が刺されてから彼女がどうしていたのかを含めてね――」
ルーテシアがユーノを刺した時、明日香はその場所にいた――
突然のルーテシアの凶行を目の当たりにし、一般人である明日香が恐怖を感じるのは想像に難くない――
あの現場を見れば大抵は『ルーテシアがユーノを刺殺し、次は自分を襲う』と考えるだろう――
故に明日香はその場から逃げ出した――
「その時にルーテシアの持っていたデイパックを持ち去った。いや、奪ったんだろうね――」
『成る程、そのデイパックの中にジュエルシードと夜天の書が入っていたと――』
「ルーテシアに持たせた筈のそれを明日香が持っていたからそれはほぼ間違いないよ」
『すみませんMr.ユーノ、あの現場を見ていた筈でしたがその事に気付けませんでした――』
「仕方ないよ、事態が事態だったからね」
そして逃げ出した明日香はどのルートを通ったのかこそ不明だが十中八九海鳴温泉にたどり着き暫しその場所で身を休めていたのだろう。
だが、彼女の心中にはルーテシアに対する恐怖が強く刻み込まれた可能性が高い。
そして、次に襲われた時に対処する為にジュエルシードをと夜天の書を使おうかと考えていたのだろう――
『しかし、Mr.ユーノが襲われてから彼女との再会まで6時間あった筈――
何故、彼女はそれまでジュエルシードを使わなかったのでしょうか?』
「それは勿論、その危険性を理解していたからだよ。それについてはしっかり説明しておいたからね――
でも、ある2つの出来事が彼女のタガを外してしまい――衝動的に発動させてしまった――
1つが死んだはずの僕が姿を現した事――」
仮に目の前に死んだはずの人間が現れたらどう思うだろうか――
子供染みた理論ではあるが、恐らく死者の国へ連れて行くと考えてもおかしくはない――
つまり、自分を殺す為に現れたのだろうと――恐怖が刻み込まれている彼女がそれを考えてもおかしくはない――
故に、自らの身を守る為に――
『ですが放送さえ聞けばMr.ユーノの生存は確認出来る筈では?』
「簡単な事だよ、既に明日香の中では僕の名前が呼ばれるのが確定していた――
そして、その部分を聞き逃していたとしたら――僕の名前は呼ばれたものとして補完する筈――」
『その可能性はありますが彼女は大事な放送を聞き逃す様な人物なのでしょうか?』
「行動を共にしていたのは短い間だけど、少なくとも彼女はそんな不用意な人間じゃない。
頭に入らなかったんだ――多分、その前後で彼女の大切な人物の名前が呼ばれたんだと思う。
その時の放送で順番的に僕のすぐ近くになるのは遊城十代――恐らく彼の死のショックでその前後が頭に入らなかったんだ――
同時にそれがもう1つの理由――」
大切な仲間である十代の死亡、その直後で死亡したはずのユーノとの遭遇――
それでなくても強い恐慌状態に陥っていた彼女に冷静な判断を求める事は不可能――
理性や良心は完全に駆逐され、恐怖を振り払う為に触れてはならない領域に足を踏み入れてしまったのだろう――
その願いは自分を傷付ける物を全て駆逐する――その為の力を手に入れる事――
-
『成る程――それで、結局の所Ms.明日香の状態の何が問題なんですか? あの力はほぼ確実にジュエルシードによるもの――十分に実証されている筈では――』
「――本当にそう考えているのかい? もし、彼女が本当にルーテシア達を殺す為の力を欲してジュエルシードを発動させたならば――
あの時の大樹以上の怪物が生み出されないとおかしい筈なんだ――」
ユーノの推測が正しいならばその時の明日香の願いはあの時の少年の比では無いのは明白――
あの時の規模は海鳴市を覆うものであった――それを踏まえるならば制限の存在を加味したとしても――
発動したその力によってあの一帯は完全に崩壊していなければおかしい事になる――
だが、現実として強い力とはいえ常人の手に負える範囲でしか力は発動していなかった――
確かにB-7の中央部を崩壊させたが同じB-7にある海鳴温泉にはその力は届かず無事そのもの――
それが意味する事は――
「恐らく支給されているジュエルシードには何かしらの細工が施されている、
その出力は本来より大幅に抑えられていると考えて間違いないよ――」
『成る程、つまり意図的にジュエルシードを発動させたとしてもフィールドを破壊する事は無いという事ですか』
「うん、まさしくブレンヒルトが口にした通りだったんだ――プレシアが何の対策も無しにジュエルシードを支給する筈がないってね――
僕達はそれにもっと早く気付くべきだったんだ――」
『もっと早く気付けた筈という言い方ですね――』
「そもそもジュエルシードは誰に支給されていたのか――そしてその人物の近くに誰がいたのか――」
ジュエルシードは誰に支給されていたのか、その人物はルーテシアだ――
同時にその近くにはジュエルシードについて熟知しているユーノがいた――夜天の書を支給された上でだ。
『偶然じゃないでしょうか?』
「さっきも聞いたけど、ルーテシアは母親を目覚めさせる為にスカリエッティに協力していたんだよね?」
『ええ、ですがJS事件は既に解――』
「僕と同じ――例えばJS事件解決前に連れて来られていたとしたら――」
ルーテシアがJS事件前から連れて来られている場合、彼女はどのように行動するだろうか?
恐らく母親を目覚めさせる為に行動を起こす。
最初の放送で伝えられた優勝者への御褒美、それを聞いた瞬間どう考えるだろうか?
優勝さえすれば母親を目覚めさせる事が出来るのではないかと考えるだろう。
ルーテシアがユーノを刺したのは放送直後、タイミング的に合致する――
-
つまり、遅くても最初の放送が終わった時点でルーテシアが殺し合いに乗る事は確定事項だったのだ。
そして、ルーテシアにジュエルシードと夜天の書を使わせ参加者を皆殺しにさせる算段だった可能性が高い――
筋書きとしてはこうだ――
ルーテシアとユーノを何とかして出会わせ彼女の近くにジュエルシードと夜天の書があるという状況を作り出す。
勿論、スタート地点を近くにするだけでは不完全、しかしある一計を案じる事でで高確率で出会う状況を作り出した。
それはルーテシアのスタート地点を川の上にする事、これによりルーテシアはスタート早々川に落ちる事になる。
その後近くにいたユーノを駆けつけさせ彼女を保護させるという流れだ。
2人は予定通りに互いに情報交換及び支給品の確認も行う――この時、ユーノにジュエルシードと夜天の書について説明させる事も予定通り。
そして、ルーテシアが殺し合いに乗ったタイミングで彼女にユーノを殺させ、2人分の支給品を全て総取りさせ――
後はジュエルシードの力で夜天の書を使い全ての参加者を一網打尽にさせると――
『確かにその仮説はあり得ますが、それならば最初から彼女に夜天の書とジュエルシードの両方を支給させれば良かったのでは?』
「駄目なんだ――最初から両方を支給するぐらいに優遇したら流石に気付かれる可能性が出てくる。
だからといって、近くに僕がいなければ夜天の書とジュエルシードの情報を得る事は出来ない。
だからこそ、ジュエルシードをルーテシアに、夜天の書を僕に支給したと思う」
『そう簡単に上手くいくでしょうか? 実際それらはMs.明日香の手に渡ったわけですし――』
バルディッシュの指摘はもっともである。ルーテシアが殺し合いに乗るタイミングは最初の放送の後、
つまり、その瞬間までルーテシアが無事でいなければ策は成り立たない。
だが、ユーノに言わせればそれは大きな問題ではない――
仮にルーテシアが最初の放送の前に退場したとしても、その場合は高確率でユーノも退場している。
つまり、その下手人の手に夜天の書とジュエルシードが渡る可能性が高いという事だ。下手人がその力を発動すれば何の問題もない。
同じ理由で明日香の手に渡る事も想定済みだったのだろう。その2つのロストロギアを手にした者がその力を発動すれば良いわけだから――
また、これらの事が想定外の事態により起こらなくても別段問題はない。何しろ、これは殺し合いを促進させる為の策の1つでしかない。
1つ策が潰れた程度で状況が大きく変わる程、脆弱な構造にはなっていないという事だ――
「前置きが長くなったね――
僕が言いたいのは要するに最初からルーテシアにジュエルシードと夜天の書を組み合わせて使わせるつもりだったって事――」
『そんな事をすれば、Ms.明日香の時以上の事が起こりますね』
「当然プレシアがそれに対する対策を怠るわけがない、そうさせる様し向けているから当然の事――
そう、これはもっと早く僕がルーテシアがどういう人物かがわかっていればわかった事だったんだ――」
『しかしMr.ユーノが連れて来られたタイミングはJS事件より前――わからなくても仕方が――』
「でも、JS事件の事を知っているバルディッシュと合流したのは半日も前の事だ――
その時にちゃんと僕が知ろうとすればもっと早く――ブレンヒルトが生きている時に自分のプランの欠陥に気付けた筈だったんだ――」
悪いのは自分――ユーノの言動からそう言っている様に感じ取れた――
-
『仮にジュエルシードや夜天の書に細工が施されていたとしても、その細工を処理すれば可能では無いでしょうか――』
「細工を処理――いや、それはそれで危険――まあいいや、確かにそうかも知れないけど――
実はもう1つあるんだ、それでもこのプランでは難しいという理由がね――」
そう言いながらユーノは周囲を見渡す――
『周囲に人の反応はありませんが――』
「空を見て――」
空を見上げるとそこは雲一つ無く、日が沈んだ事もあり星が瞬いている――そして東側を見ると赤みのかかった満月が浮かび上がっている――
『この空がどうかしましたか?』
「18時間以上経ってもずっと晴れ渡り雲一つ見えない空――
ミッドチルダでも地球でも見た事の無い星の形――
そして、1日経過しても欠ける事のない月――
そのどれをとっても現実的には有り得ない現象――
それだけじゃない――
あるラインを越えたら反対側にループする不可思議な現象――
魔法の発動を阻害する何かの存在――
6年前と殆ど同じだった海鳴温泉――
更に翠屋や地上本部、機動六課隊舎といった施設の配置――
つまり――この空間は何から何まで異常だということさ――」
『異常――確かにそれは感じていましたが――』
「それ自体は僕も最初に気付いてはいたよ――恐らくプレシアがこのデスゲームを行う為に作り出した空間と考えて良いと思う――」
ユーノが口にするのはこの空間の異常性――
制限やループの発生は言うに及ばず、永久に晴れ続ける空や未知の夜空に欠ける事のない月、そして自分達の知る施設の存在――
何れも現実的には有り得ない事だ――
これについてユーノは超巨大な結界を構築した上でその中に擬似的な戦闘フィールドを構築したのだと考えたのだ――
なお、これ自体は最初からある程度推測出来ていた事ではある――
『その空間を破壊する為にジュエルシードを使う――という話だったのでは?』
「その前に――これだけの結界を構築するのにどれぐらいの手間と魔力が必要かわかるかい?」
『シミュレータだとしても相当な労力が必要です――もしこれが現実に行われているならば――その労力は想像を絶すると考えて良いでしょうね――』
「そう、これをプレシア1人で行うのは非現実的過ぎる。協力者自体はいるみたいだけど――」
勿論、先の放送を担当したのがスカリエッティの戦闘機人の1人オットーという時点で何れかの平行世界のスカリエッティ達が協力している事は推測出来る――しかし、
『この規模ならば何処かの世界のスカリエッティとその仲間達が協力しても難しい――』
「それに、プレシアクラスの魔導師が何人か集まっても難しいと思う――」
『プレシアクラスの魔導師、それを何人も集めるのも至難――』
「つまり――この空間を作り出しているのはプレシア達の構築した『装置』だと思う――」
ユーノの推測――それはこの空間を作り上げているのはプレシア及びその仲間達が用意した『装置』によるものだと考えたのだ。
『装置』さえ上手く機能すれば後は『装置』が正常に働く様に監視を怠らなければ最小限の労力で済むという事だ――
『しかしその『装置』があるとしても大規模である事は確実――そんな『装置』を用意する事は可能なんでしょうか?』
「うん、ロストロギア級の道具を幾つか用意――いや、それ自体は恐らく僕達の知る物でも十分構築は可能だよ――」
『我々の知る物――それはもしや――』
「バルディッシュの想像通りだよ――夜天の書とジュエルシード――その2つ、もしくは準じるものがあればこの舞台を作り出す事は可能――」
-
夜天の書は一時期数多の世界を滅ぼした『闇の書』と呼ばれる非常に危険なロストロギアであった――
だが、その本質自体は魔導師の技術を蒐集し研究を行う為に作られた収拾蓄積型の巨大ストレージデバイスでしかない――
『闇の書』へと変貌したのも結局の所、元々あった機能が変化したものでしかない――
故に――夜天の書を端的に言えば最高級のストレージデバイスよりも数十段優秀なストレージデバイスと考えて良い事になる――
ストレージデバイスはバルディッシュ等に代表されるインテリジェントデバイスと違い自らの意志を持たないデバイスだ――
自らの意志を持たないとはいえストレージデバイスがインテリジェントデバイスより劣るという事ではない――
勿論デバイス自体がサポートする事が無い為、魔法の発動の全てを使い手自身が決定しなければならないという弱点はある――
反面人工知能を搭載していない事から、その分処理速度は数段速い――
つまり――優秀な使い手ならば高速かつ確実に魔法を発動出来る――条件さえ揃えばインテリジェントデバイス使い以上と言っても良いだろう――
勿論、人工知能を搭載しない為術者の成長による能力向上はあっても、元々の性能以上の力を引き出す事は出来ないという弱点はあるが――
要するに――優秀なストレージデバイスの演算能力は非常に高いという事だ――
ジュエルシードは前述の通り通り次元干渉型エネルギー結晶体である。
暴走した場合は周囲の動植物を取り込み大惨事を引き起こす事は言うに及ばず、単体でも次元震を引き起こす程の非常に危険なロストロギアだ。
何しろ、1個の全威力の何万分の1の力程度で小規模次元震を引き起こすのだ。そのフルパワーがどれぐらいなのかは想像を絶するものなのは理解できるだろう。
だが、扱いこそ非常に危険ではあったがその本質は莫大なエネルギーを有する結晶体でしかない。例えて言えば米粒大で1年分のエネルギーをまかなえる夢の超物質的な物という事だ。
つまり――ジュエルシードも暴走さえ起きなければ只の魔力タンクでしか無いという事だ――
では、夜天の書とジュエルシードでどのようにしてフィールドを作り出すのだろうか?
まず、フィールドを作り出す魔法の術式そのものはプレシアが予め用意したものと考えて良いだろう。
仮にアルハザードに到達しその地の技術を手に入れたならば、必要な術式を組み上げる事はそれ程難しくはないだろう――
問題となるのは維持と制御を行う為の手段とそれらに必要な莫大な魔力エネルギーだが――
いかにプレシアが優秀な魔導師であっても単独でそれを賄うのは不可能ではあったし、プレシアクラスの魔導師が何十人いても難しい事に違いはないだろう。
そう――その為に夜天の書とジュエルシードを利用したという事だ――
夜天の書を維持と制御を行う為の装置代わりにし――
ジュエルシードをフィールドを維持し続けるだけの魔力の供給源として――
『プレシアの手元にあるジュエルシードの総数は9個、それだけあれば――』
「違うよバルディッシュ――見落としていないかい、彼女は異なる平行世界を行き来出来る事を――
プレシアがその気になれば無数の平行世界から好きなだけジュエルシードを集める事が出来る筈――
100個でも1000個でもね――
勿論、これは極端な話――でもね、プレシアの手元にあるジュエルシードの総数は多めに考えておいた方が良い――
ここまで言えば何故僕の言ったプランが使えないのかわかるよね?」
『ジュエルシード1個や2個程度の魔力の総量ではエネルギーが足りない、そういう事ですね』
「そう、残念だけどこれは完全に僕の見極めが甘すぎたと言わざるを得ない――
いや、本当はブレンヒルトに指摘された時点で気付くべきだったんだ――」
-
『そんなゲームの盤台をひっくり返すようなものを、
あの腹黒そうなオバサンが私たちに支給するとは思えないわ。』
――あの時ブレンヒルトはこう言っていた――だが、ユーノは実際に支給されたという事実だけでその指摘を遮った――
そして、ルーテシアを説得しジュエルシードさえ取り戻せればそれで何とかなると考えていた――
だが、それがそもそもの間違いだったのだ――
支給されるはずのない物が支給される理由、それを考えなければならなかったのだ――
そう、ジュエルシードと夜天の書だけでは不可能――その結論にもっと早く気付かなければならなかったのだ――
勿論、ジュエルシードと夜天の書の力でフィールドが構築されているのはユーノの推測でしかない。全く別のロストロギアを使っている可能性は大いにありうる――
だが、如何なる方法であったとしても結論そのものは変わらない――
手段そのものはジュエルシードと夜天の書を使ったものに置き換える事が出来る――
ジュエルシード1個や2個分のエネルギー総量では足りないという結論に変わりはないのだ――
『ですがそれだけの大規模魔術であれば管理局が察知すると思いますが?』
確かにこのフィールドに関し、内部からの破壊は現状困難だと考えて良い。
しかし外部からはどうなのだろうか? あれだけの大規模魔術であれば管理局がその反応を捉える可能性が出てくる。
フィールド構築に必要な魔力が大きくなれば大きくなる程比例して察知される可能性が高くなるのは誰でも理解出来る。
勿論、それをカムフラージュする為の結界は当然施しているだろう。
だが、膨大な魔力を隠す為に膨大な魔力を消費する――ある意味本末転倒だ、隠すのにも限界が出てくるのは明白――
管理局に察知される事に関する対策は考えていないのだろうか?
「察知される事も織り込み済みだとしたら?」
『どういう意味です?』
「これだけの規模を探知したとして――すぐに管理局が駆けつける事が出来ると思うかい?」
管理局が異常を察知した場合どのように動くだろうか――
まずはその反応を確かめ規模を確かめる――
そしてその規模に応じて部隊を編成し鎮圧に向かう――
だが、あれだけの膨大な力を発するロストロギアの反応場所を鎮圧する為に必要な戦力を集めるのには時間が掛かるだろう――
勿論、火急であれば時間は短縮出来るだろう――
しかし膨大な力の反応だけではそこまで迅速には動けない――慎重に行動する可能性が高く、実際に介入するまでには大分時間がかかるだろう――
当然の事だが、生半可な戦力では返り討ちに遭う。戦力の無駄が出来ない以上、確実に鎮圧する為に時間を掛けてでも戦力を集める筈だ――
「察知したタイミング次第だけど――急いで鎮圧できるほどの戦力を確保出来ても――実際に介入するのは2,3日ぐらい先だと思う――」
『察知されない様にカムフラージュし、同時にその場所が介入しにくい場所にあるならば実際に踏み込むのはそれだけ遅れると――』
「つまり――結局の所、その間で全ての決着を着ければ何の問題もないんだ。
これまで3回の放送があったけど、何れもデスゲームに貢献した参加者には御褒美の話が出ていたよね」
前述の通り、最初の放送では優勝者への御褒美を、
2回目の放送ではキルスコアを上げた参加者に対するボーナスの検討の話を、
そして先の放送ではこの後キルスコアを伸ばした参加者には追加支給品を与えるという話を、
何れにしても殺し合いを促進させるものであるのは誰の目にも理解出来るだろう――
だが、何故ここまで殺し合いを促進させる必要があるのだろうか?
禁止エリアのルール等だけでも十分デスゲームを行う事が出来、遅くても6日目には決着が着く。
しかし、促進させるという事はそれだけでは遅すぎるという事を意味する――
つまり――
-
「最初からこのデスゲームにはタイムリミットがあったんだ。
管理局が介入してくるタイミングまでに全ての決着を着ける――
そして、フィールドを覆う結界もその期間だけ維持出来れば十分だって事――
その時間は管理局の動きや現状までの死亡者の数を踏まえて考え――
約48時間――それがこのデスゲームの制限時間――」
『管理局が駆けつけるまでの時間としてはあまりにも短すぎます――それで、その制限時間を超過した場合はどうなりますか?』
「それに関してはまだわからない――フィールドを覆う結界魔法が解除される可能性は高いだろうけど――
その内部にいる僕達が無事である保証は無い――」
『しかし、デスゲームが失敗した場合、プレシアはどうするでしょうか?』
「平行世界を渡る術を得ているのならば必要な道具だけを持って逃げれば済む話だね。
そして条件を少しだけ変えて全く同じデスゲームを行う――
でも、この可能性は低いと思う――」
ユーノはプレシアが失敗した際にデスゲームをやり直す可能性は0ではないが低いと考えていた。
確かに平行世界を行き来する術が無い限りプレシアを追う事は不可能だ。
だが、このデスゲームを行う為に恐らくプレシアは数え切れないくらい数多くの平行世界に干渉をかけただろう――
幾ら現状の時空管理局に平行世界を行き来する術を持っていなくてもそれだけ干渉をかければ何れは平行世界を行き来する者が現れる可能性が出てくる。
そしてひと度その者が現れれば他の世界にもその手段が伝えられる――それにより管理局もその手段を手に入れるだろう――
いや、今この瞬間にもその手段を得た者がプレシアを追っている可能性がある――
今回は大丈夫であっても繰り返す内にリスクは大幅に高まるという事だ――
故に――プレシアにとっては是が非でも今回でデスゲームを成功させに行く筈なのだ――
プレシアがその対策を行っている可能性はある――が、仮にそうだとしてもリスクを最小限に抑える為に今回で決着を着けようとする事に変わりはないだろう――
「だから、やり直しが出来るとしてもプレシアは絶対に今回のデスゲームを成功させようと動く筈だ――
そして、僕達にとっても今回だけがチャンスなんだ――
プレシアは馬鹿じゃない――次行う時にリスクが大きいとわかっているならば、次は絶対に失敗しない様に今回以上に厳重な対策を施すはず――
それこそ今度こそ止める事は不可能なぐらいにね――その為に、きっとまた多くの人を犠牲にする筈だ――
それを止める為には――今回プレシアを止めなきゃならないんだ――僕が――
僕が――止めなきゃならないんだ――」
-
『ところで――具体的な行動については何も決まっていないとのことですが――』
「いや、一応幾つかは考えているよ――」
今後の行動方針は幾つか浮かんでいる。
まず、当初の予定通り結界を破る手段の模索――前述のプランがほぼ潰れたとはいえ、諦めたわけではない。
まだ見落としている何かがあるかも知れない、それを見つける為にも今後もジュエルシードや夜天の書等ロストロギアを集めていった方が良いだろう――
次に首輪の解除――元々Lが行う筈だったそれをユーノが行うのだ。
幸か不幸かユーノの手元には首輪が1つある。このまま工場かスカリエッティのアジトに向かい解析を行うのも1つの手だ――
他に仲間達との合流もある、その為には人が集まっているであろう市街地やホテル・アグスタといった施設に向かう必要があるだろう――
「だけど、幾つか懸念があるんだ、まずはこれ」
と、後方にある車庫を指す。残り人数が15人以下にならなければ開かない筈の車庫である。
『残り人数は19人――後4人死亡すれば開かれる筈ですね』
「そう、勿論放送を聞かない限り正確な人数は把握出来ない。でも、逆を言えば放送を聞けば人数は把握出来るという事なんだ――」
『恐らく次の放送で4人呼ばれる可能性が高い――つまり』
「次の放送直後、ここに向かう参加者が現れるという事だね
立て札そのものはもう読めない様になっている、だけどその前に誰かが読んでいる可能性は十分にあるよ――
その人物が殺し合いを止めようとしているなら良いんだけど――もしも逆だったら――」
車庫内にある『何か』――それが何かは現状不明ではあるが、15人以下と指定している以上状況を変える物である可能性は高い――
殺し合いを止めようとする者が手にすれば脱出の切り札もしくは抑止力と成り――
優勝を目指す者が手にすれば他の参加者を一網打尽に出来るバランスブレイカーに成る――
そして残り人数は19人――
今現在も参加者が減少している事を踏まえるならばその封印が解かれるまで後僅かであり、既に解かれている可能性もある――
その扉が開かれる瞬間は確実に迫っているのだ――
「出来れば僕達が手に入れたい所だけど、正確な死者の人数を把握出来ない以上手を出せるのは早くて次の放送後――」
故に、確実に中身を手に入れるならば次の放送の時にもこの場所にいる必要がある――
6時間で戻って来なければならない以上、この場合は行動範囲が大幅に絞られる事になる――
「でも――それでなくてもこの12時間は殆ど行動出来ていない――これ以上のんびりしている時間はない――」
『しかし、この中身を殺し合いに乗った者に奪われるのは避けたい所――』
「判断に迷うのが本音だね――だけど、気になるのは他にもあるんだ――」
ここでユーノは今更ながらにチンクの考えていたプランを語る――
ユーノがルーテシアと行動を共にしていた時にチンクと明日香と合流していた際に彼女が行おうとしていたプランだ――
とはいえ、あの時は『脱出の為にレリック、聖王の器を見つけ出す』というあまりにも断片的な事しか語られておらず、
またこの時のユーノはチンク達を別の意味での誤解や、ある意味ではオイシイオモイをしていた為、その事について深く考えてはいなかった――
故に、この瞬間までその事を語らなかったのだ――
『レリック、聖王の器――チンクが考えていたのは――』
「そう――さっきJS事件の事を聞いたお陰で僕もチンクが何を狙っていたのかがわかったよ。
彼女はゆりかごを起動して脱出に使うつもりだったんだ――
だけど――そのプランも正直厳しいと思う――」
ユーノがチンクのプランでは無理だと判断した理由――
1つはレリックと聖王のゆりかごに何かしらの細工が施されている可能性だ――やはり、ジュエルシードと同様、殺し合いに使いやすく、脱出には使用出来ない様に細工されていると考えて良い。
もう1つはゆりかごで結界を破る程の出力を引き出せるという確証が無いという事だ――
-
「とはいえ、話を聞いた所レリックにしてもゆりかごにしても放ってはおけないね――」
『ゆりかごに向かうという選択も視野に入れるという事ですね――レリックの方は――』
「確かあの時は病院に反応があったらしいけど、流石にもう持ち出されている可能性が高いから――何処にあるかは正直わからないよ――」
『この地に幾つあるかはわかりませんが放置は出来ませんね――』
「それに、明日香の持っていた夜天の書とジュエルシードも――」
前述の通り、現状ジュエルシードと夜天の書では脱出は不可能と判断している。
だが、仮に制限されていてもその力が驚異的である事に全く変わりはない。
決して放置して良い代物ではないのだ。
『Ms.明日香は死亡したという話ですが――』
「裏を返せば、明日香を殺した人物が今ジュエルシードと夜天の書を持っているという事だよ――同時にその実力はあの状態の明日香以上――」
『更にジュエルシードと夜天の書が加わるならば――厄介な事になります――』
「出来れば、なのはかはやてが手に入れてくれれば良いけど――」
『その場合、Ms.なのはかMs.はやてがMs.明日香を殺したという事になるのですが――』
「いや、そういう意味じゃないから。だけど――実の所、それについて気になる事があるんだよね――」
『まだ何か――』
「明日香はあの時、何を願ったのか――僕達を皆殺しにする事が目的ならばその為に必要なのは――」
『力――』
「うん――きっと明日香は力を求めたと思う――それで――
決して触れては成らない領域に手を出したのかも知れない――
バルディッシュ――あの時の明日香の姿覚えているよね――」
『ええ、忘れやしません。あの姿は色こそ違うものの騎士甲冑自体はリインフォースのものと殆ど同じ――声も何処か似ていました――』
「声に関しては只の偶然だと思うけど――そもそもバリアジャケットは使用者のイメージによるものになる筈――
例えば僕がレイジングハートを使ったからといって僕がなのはのジャケットを身につける筈はないし、
ブレンヒルトのジャケットもフェイトのものにはならなかったよね――」
『Ms.ブレンヒルトがマスターのバリアジャケット身に着けたら自分は彼女に蹴り壊されていましたよ――特にソニックフォームの状態のものは――』
「だから――明日香が夜天の書を使ったからといってリインフォースの騎士甲冑を身に着けるなんてまず起こらない筈なんだ――」
『ジュエルシードの力によるものでしょうか――』
「じゃあ、ジュエルシードは何処からリインフォースの騎士甲冑を持ち出しているの?」
『夜天の書――いえ、幾らリインフォースの力を受け継いだとはいえ、あれ自体は管制人格や人工知能を有していない筈――』
「そう、普通に考えるなら明日香のイメージが優先されるべきなんだ。多分、白い色が彼女のイメージだよ――どうして白なのかはわからないけど――」
『まさか――』
-
「そう――ジュエルシードが明日香に力を与える為に夜天の書を闇の書の頃に戻して――いや、改変した可能性があるんだ――」
『言葉を返すようですが、ジュエルシード1個分の魔力分でなおかつ制限のある状況だから対処は可能だと口にしたのはMr.ユーノですよ?
大体、細工を施されていると先程話したばかりではないですか――』
「うん――正直な所、これは考えられる最悪の仮説で僕自身それが起こる可能性は非常に低いとは思っている――
妄想と言っても良い――
でもね――
仮に、明日香の願いに答えてジュエルシードがその力の全てを使って夜天の書を改変したとしたら――
改変された夜天の書がジュエルシードに施された細工や制限を全て解いたとしたら――
そしてそれらから解放されたジュエルシードが更なる力を夜天の書に与えたら――」
『可能性が低いとはいえ0ではないのが恐ろしいですね――』
「それだけじゃない、明日香は力を求めていた――
もし、改変された夜天の書が明日香の願いに答えて周囲にある力を全て蒐集したとしたら――」
『かつての闇の書以上の脅威となりますが――本気でそれが起こると思っているのですか?』
「言ったはずだよ、妄想といっても良いって――」
『しかしMs.明日香は既に死亡しています――』
「だけど、その瞬間まではずっと明日香は持っていた。
既に修復不能なまでに改変された可能性はあるし、ジュエルシードの力が今現在も改変し続けている可能性も否定出来ない――
それに、もし次の持ち主がその力を不用意に使えば――」
『しかし、流石に最悪の事態となる前にプレシアが対処すると推測出来ますが――』
「うん、多分その事態に関しては想定済みだと思うし、仮に起こったとしても対処の用意はあると思う。
さっきも言ったけど、ジュエルシードと夜天の書を同時に使わせる事は視野に入れていただろうからね――」
『――しかし、こうやって話してみるとこちらが何を考えても
『プレシアは全てお見通しです、対策済みです、無駄です』
という結論に陥ってしまうのですが。先程から全てこの結論に帰結していますよ』
「うん、正直な所、どんな異常事態が起こっても
『プレシアならば対処出来ます』
というオチになってしまうんだよね――」
『ですが――何にせよ夜天の書とジュエルシードも放置できませんね――』
「出来れば今誰が持っているのかだけでもわかれば良いけど――」
-
と言いながらユーノは地図と名簿を眺める。次の行動を思案しているのは見て取れる。
だが――バルディッシュにしてみればそれが明らかに奇妙であった――
そして――
『Mr.ユーノ――貴方は何を考えているのですか――?』
遂に、バルディッシュはユーノに彼の真意を問いかけたのだ――
「何って、これからどうするかについてだけ――」
『そういう意味ではありません、貴方が真剣に今後を考えているのは理解出来ます――しかし――
何時もの貴方らしくありません――』
その問いに対し、
「何時もの僕らしくない――それはどういう意味――?」
『先程の放送で、貴方が行動を共にしていたMs.ルーテシア、Ms.明日香、Ms.チンクの名前が呼ばれました――
マスターやMs.シャマルの名前も――
そして――貴方が信頼しているMr.Lの名前も――
大切な仲間の名前が数多く呼ばれました――
只のデバイスでしかない私でもマスターの死にショックが無いと言えば嘘になります――
ですが貴方は――それに対しあまりにも淡々としています――
先程の放送ではMs.ブレンヒルト達の死に対し悲しみを見せていたのに対し――
今回はその様な様子が殆ど見られません――
何時もの貴方からは考えられないという事ですよ――』
「バルディッシュ――君こそ妙に饒舌だね――何時もの君からは考えられないよ――」
『自分でもそう思います――もしかしたら、Ms.ブレンヒルトの影響かも知れません――』
「ブレンヒルトのお陰か――確かにそうかもね――」
『それで――貴方の方はどうなのですか――』
何時ものバルディッシュならば気付いても指摘しなかっただろう。
前述の通りインテリジェントデバイスはストレージデバイスと違い人工知能を有している。
人工知能を有しているからこそ、インテリジェントデバイスは学習し――成長すると言っても良い。
もしかすると――ブレンヒルトと行動した事によりバルディッシュは成長したのかもしれない。
その成長がユーノの異変を指摘させたのだろう――
-
「――悲しいに決まっているよ――
悲しくないわけなんて無いじゃないか――」
その声は酷く震えていた――
「今すぐにでも大声を挙げて泣きたいよ――」
その表情は今にも泣き出しそうであった――
「だけど――僕には足を止める事も、逃げる事も許されない――
こうしている間にも誰かが殺されているかもしれないんだ――」
『それは理解出来ます――ですが――』
ユーノの言葉は一見正しい――
泣いている暇があるなら出来る事をやるのは当然の事だ――
だが――何かがおかしい――
ユーノの言葉はまるで――
『別にMr.ユーノがそこまで気負う事では無いのではないでしょうか?
Ms.なのはやMs.はやてもこのデスゲームを止めようとしている筈です。
もう少し彼女達を頼っても――』
「違うんだ――違うんだよバルディッシュ――
僕は気付いたんだ――いや、最初から気付かなきゃいけなかった事なんだ――
僕が原因なんだ――
僕が――全ての原因だったんだ――」
このデスゲームを行っている人物はプレシア・テスタロッサである。
勿論、現時点で彼女が本物かどうかは不明であるし、彼女が黒幕とは言い切れない。
だが――表に出ているのは確かに彼女だ。
つまり、真贋はともかくとして彼女の存在が大きなウェイトを占めている事に変わりはない。
そして――彼女の存在を考えるのならば――
PT事件――プレシア・テスタロッサ事件を無視する事は決して出来ないのはおわかりだろう。
PT事件の概要そのものはプレシアがジュエルシードを違法に使った事による次元災害未遂事件。
その彼女の為にジュエルシードを集めていたフェイト・テスタロッサは重要参考人として罪に問われた。
その罪は幽閉数百年以上の重罪。
実際はリンディ・ハラオウン達の弁護やフェイト自身が管理局の嘱託魔導師となった事で実刑ではなく保護処分になったが――
どちらにしてもそれは決して小さい罪ではない事はおわかりだろう。
だが――そもそもの前提として――
プレシア・テスタロッサがジュエルシードに手を出そうとしなければ――PT事件は起こらなかったのではなかろうか――?
-
「そう――プレシアがフェイトにジュエルシードを集めさせなければ――
ジュエルシードがなのはの世界に散らばったりしなければ――
いや――僕の一族が――僕がジュエルシードを見つけたりしなければ――
PT事件は起こらなかったんだ!」
そもそもジュエルシードはある遺跡から発掘された物でそれが輸送中の事故でなのは達の世界にばらまかれた。
そして、発掘をしたのはスクライア一族で――現場指揮を執っていたのは当時9歳のユーノだった。
言い換えればこういうことだ――
PT事件の切欠を作ったのはユーノ・スクライアだと――
つまり――このデスゲームの原因はユーノという事である。
少々飛躍しすぎていると思う方もいるだろう。
だが、IFの話に意味が無いとしてもユーノ達がジュエルシードを発掘したのが全ての始まりだという事は確かな話である――
『しかしスクライア一族はジュエルシードを発掘しただけ――Mr.ユーノには罪は――
それに、Mr.ユーノが発掘しなくても誰かが発掘したでしょうし、プレシアが自力で見つけ出していた可能性も――』
「それだけじゃ無いんだ――気付いているかい――
参加者の殆どはそれぞれの平行世界のなのは達、もしくは彼女達の仲間や関係者だという事に――」
『確かに参加者の多くはMs.なのはやマスターの仲間達や関係者でしたし、
Ms.ブレンヒルトも彼女の世界のマスター達を知っていました。
確かMr.キースレッドもMs.ルーテシアを知っていた様ですが――』
「そしてLも僕の世界のはやて達が保護した――
明日香に関してはわからないけど、彼女もなのは達を知っている可能性は高いと思う――」
『マスター達の関係者が連れてこられているとしてそれがMr.ユーノと何の関係があるのですか?』
「大ありなんだ――その全ての始まりは何処にあるのか――
PT事件――それが全ての始まりだったんだ。
僕が――ジュエルシード集めになのはを巻き込んだりしなければ――
なのはをこの道に引きずり込む事もなかったんだ――
それさえなければ――ブレンヒルトやL――明日香達をこのデスゲームに巻き込む事は無かった筈なんだ!
ジュエルシードを早く集めなきゃと焦ってなのは達に助けを求めたりしなきゃ良かったんだ――
最初から僕1人でやろうとせず管理局に助けを求めれば良かったんだ――
僕が――僕が――
僕がみんなを巻き込んだんだ!!
僕がなのはやフェイト、はやて達にブレンヒルトやL、明日香やルーテシアを!!
そして僕の知らないなのは達の仲間を!!
みんなを殺したんだ!! 僕が――!!」
-
それに気付いたのは何時だったのだろうか?
いや――もしかしたら最初から気付いていたのかも知れない――
ずっとそれについて向き合おうとしていなかっただけなのかも知れない舵手奪取
早々にルーテシアと出会ったから彼女を守る事を優先し――
彼女達と別れた後はずっとブレンヒルトが傍にいた――
仲間がいたからその事と向き合うのを先送りにしていたのかも知れない――
向き合う切欠となったのは明日香がジュエルシードを発動し牙を向けた時――
その対策を考える為にユーノはPT事件の事を思い返していた――
そう――その時には全ての切欠が自分という事に薄々気付いていた――
だが――その時のユーノは敢えてそうは考えないことにしていた――
仮になのは達にそれを言った所で――
『それはユーノ君のせいじゃないよ』――そう答えるのは容易に想像出来た――
だからこそ、過去を悔やむよりも先の事を考える事にしたのだ――
何よりも優先すべきはルーテシアと明日香の説得――
それを考えるべきだと自分に言い聞かせ続けたのだろう――
しかし――先の放送であまりにも多くの人が死んだ事が伝えられた――
ルーテシアや明日香、フェイトやシャマルにL――
彼女達の死がユーノに重くのしかかる――
全ての切欠が自分にあると気付いた以上――
その重圧は――15歳の少年には重過ぎたのだ――
何よりも重いのは――誰もユーノを罪に問えない事だ――
ユーノがした事は結局の所、ジュエルシードを見つけた事とジュエルシードを集める為になのはに助けを求めた事――
それはなのは以外の誰であっても『ユーノのせいではない』と答えるだろう――
では――決して問われる事の無い罪を犯した者は――
一体、誰が裁き――赦すのだろうか――?
何時しかユーノの目には涙が溢れ――その声には強い感情が込められていた――
「だから僕に止まる事は許されない――
死んでいった皆の為にも――いや、このデスゲームに巻き込んでしまった全ての人の為にも――
僕は――絶対にプレシアを止めなければならないんだ――
それは全ての切欠になった僕がやらなければならない事なんだ――」
そういう事だったのだ。
ブレンヒルト達の死を気にしていないわけでも悲しんでいないわけでもなかった。
むしろその逆――ユーノは彼女達の死に強いショックを受けていた。
そして、その元凶が自分にあると気付いているからこそ――
何としてでもプレシアを止める為に淡々と前に進もうとしたのか――
深い悲しみを心の奥底に抑え込んだ上で――
『ユーノが悪いわけではない』、『ユーノ1人の行動で全ての人間の運命が決まるなどおこがましいにも程がある』等という慰めが出来ないわけではない――
しかし、それでは意味はない――ユーノの行動が全ての切欠というのは確かな事実なのだから――
故に――ユーノがジュエルシードを見つけなければPT事件は起こらず、
なのは達も魔法と関わることなく彼女達がこの殺し合いに巻き込まれ死ぬ事も無かったというのは正しい――
-
だが――バルディッシュはそれを全て認めるわけにはいかない――
『Mr.ユーノ――貴方は大事な事を忘れていますよ――』
「――何を?」
『確かに貴方がジュエルシードを発掘しなければPT事件も起こらず、Ms.なのはも魔法と関わる事は無かったでしょう。
きっとMs.ブレンヒルト達も殺し合いに巻き込まれる事は無かったでしょう――』
「そうだよ――」
『ですが――それがあったからこそマスターとMs.なのはは出会えた――
そして、マスターとMs.なのはは友達になれたのですよ――』
「それは――」
『それだけではありません――闇の書事件――
あの場にいた仲間が1人でも欠けていればMs.なのは達の街は滅び去り――
闇の書は再び転生を繰り返し悲劇を繰り返していたかもしれません――
つまり――Ms.なのはがいなければそうなっていたという事――
そして――Ms.なのは達がその後管理局に入ったからこそ救えた多くの人々がいます――
それは全て――貴方とMs.なのはの出会いが始まりでは無いのですか?』
「バルディッシュ――」
『同時に――それぞれの平行世界でもその出会いがあったからこそブレンヒルト達がマスター達と出会えた――
Mr.ユーノ――貴方は彼女達の出会いまでも否定するというのですか――
少なくても――Ms.ブレンヒルト達はマスター達と出会えた事を否定したりはしないでしょう――
確かに――貴方の行動が多くの人々を死なせる結果を引き起こしたかも知れません――
ですが――貴方の行動のお陰で多くの人々を出会わせそして救った結果もある事を忘れてはいけません――』
ユーノの行動の全てが悪い方向に働いたわけではない――
もし、なのはが魔法と関わる事がなければフェイトと出会う事も無く、フェイトはプレシアの人形として使い捨てられていただろう――
なのは達がいなければ闇の書はなのは達の世界を滅ぼし再び転生を繰り返す、封印出来たとしてもはやて達を救う事は出来なかっただろう――
そして彼女達がいなければ彼女達によって救われる多くの命が失われていた――JS事件の結末も最悪の結果を迎えていたかも知れない――
同時に――ユーノとなのはの出会いが無ければそれぞれの世界でなのは達がブレンヒルト達と出会う事も無かっただろう――
『貴方が――いるからですよ――貴方がいるから全てが始まった――』
「そうだね――ありがとうバルディッシュ――僕が間違っていたよ――」
そこには――ほんの少し笑みを浮かべる若き司書長がいた――
-
『と、実際の所状況は何も変わっていませんが――』
「とりあえず、僕を除いた18人の内で誰が味方かを整理しないと――」
その内、相川始、アーカード、アレックス、アンジール・ヒューレー、泉こなた、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、エネル、
金居、キング、天道総司、柊かがみ、ヒビノ・ミライの計12人とは出会っていない為、敵か味方かすら不明瞭。
残り6人の内、なのは、はやて、ヴィータはユーノも知る信頼出来る人物だ。
ヴィータ辺りは片方のはやてを生き返らせる為殺し合いに乗る可能性は0では無いものの、魔法に関する分野でこの3人は信頼に値すると言って良いだろう。
「特にはやてだったら万が一夜天の書に異変が起こっても対処出来る可能性が高いし、3人の中で一番ジュエルシードに対する対処も出来ると思う」
次にスバル・ナカジマ――
「確か、空港火災でなのはが助けた子だよね」
『ええ――あの立て札を破壊したのは彼女の可能性が高いでしょう――』
車庫前にあった立て札は原型を留めない程粉々に砕かれていた。
殺し合いに乗った参加者が読む事を避ける為に行ったのは明白ではあるが、普通に考えて原型を留めない程粉々にするのは手間が掛かる。
「だけど彼女の能力を使えば――それは容易だと――」
しかし、スバルには振動破砕という対人対物に対し驚異的な力を発揮するISがある。直接触れなくても相当な威力を発揮するそれならばここまでの破壊は可能ということだ。
『それとは別にしても、JS事件後から連れて来られているならばMs.なのはやMs.はやてに負けるとも劣らない実力を持っています――』
「問題はギンガ達が死んだ事で殺し合いに乗る可能性が0じゃないという事だね――」
『Exactly――彼女は強いからその可能性は低いとは思いますが――』
味方ならば頼もしい――が、敵に回って欲しくないのが彼女であった――
-
そしてクアットロ――
「彼女の事は確かチンクも話していたよ――確か彼女の姉だったね――」
『その通りです――が、彼女は一番の危険人物です』
JS事件において、スカリエッティの戦闘機人の半数以上は更正プログラムを受け管理局に協力する選択を選んでいる。
だが、ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテの4名はその選択を選ばず収監されている。
とはいえ、ウーノの場合はスカリエッティに従う以外の生きる理由を持たないものだったし、
トーレとセッテは共に敗者としての矜持によるものであった――
が、クアットロはそもそも人間達に譲歩するという発想が無いという事によるものだった。
同時に、JS事件においてもスカリエッティ達が次々捕まった状況でも冷徹にその場から撤退するという行動を取った。
つまり――彼女の性格上、他者を助ける為に戦うという事がまず有り得ないのだ。
仮にチンクやディエチが死んでも彼女にとっては手駒を失った程度の事でしか無いだろう。
「ということは、当然なのは達は彼女に対して警戒しているって事だよね」
『ええ、JS事件を知っている者ならば皆――』
「そして、彼女は頭が切れる反面、直接的な戦闘力はそれ程高くない」
『能力さえわかっているならばMr.ユーノでも対処は可能です』
「だったら彼女と接触してみる価値はあるね」
『Ms.チンクの事が気に掛かるなら止めておくべきです、彼女の死に気を止める様な人物では――』
「だからだよ、彼女が此方に協力してくれる可能性は――高いよ」
客観的に考えればクアットロは誰もが警戒すべき人物である。
だが、参加者に管理局の人間が数多いならば彼等を通じてクアットロに対する警戒を強める者は多くなる。
クアットロを保護しようとする者は彼女と同じ側にいるチンクやディエチ、そしてルーテシアぐらいのものだろう。
つまり、最初からクアットロには敵が多いという状況ということだ。
更に彼女自身の戦闘能力はさほど高くはない――ISのシルバーカーテンにより翻弄される可能性は高いが、身体能力は普通の人間より強い程度――
能力にさえ気を付ければ対処は十分可能だ。故に彼女単独で勝ち残るのは非常に厳しいという事になる。
同時に――頭の回る彼女であれば早々にその事実に気が付くはずだ。
ならば彼女はどう動くだろうか、集団に入り込もうとする筈だろう。
かといって人知れず他者を殺したり集団を瓦解させたりはまずしない、
そういう事が出来るのは他者に知られないという前提が必要だからだ。
他者から警戒されている状況でそれを行えば真っ先に疑わせすぐさま窮地に陥ってしまう、
その事が理解出来ない彼女ではない、孤立する危険性のある愚行を考え無しにするのはまず有り得ない。
そして残り人数は19人、ここまで状況が熾烈ならば彼女自身是が非でも自身の味方――手駒を確保しようと躍起になるだろう。
故に――彼女自身不本意ながらも、管理局に協力する事も辞さない可能性は高いという事だ。
『成る程――しかし、先の放送で主催者側にスカリエッティがいる事はほぼ確実。彼等が彼女に参加者を殺す役割を与えているという可能性はあるのでは?』
バルディッシュの仮説はクアットロが主催者側の人物という事だ。
ユーノの見立てではチンクは主催者側にスカリエッティがいる事を知らなかったが、クアットロまでそうである保証はない。
主催者側にいるスカリエッティ達がクアットロに参加者を殺す役割を与えた可能性はある――
「0では無いけど――その可能性は低いよ」
しかし、ユーノはそれを否定する。
その理由は至極単純、クアットロにその役割を与える旨みが殆ど無いからだ。
彼女にその役割を与えようが与えまいが、周囲の警戒が強い事に変わりがない。
状況的には圧倒的に不利なのだ――せいぜい支給品を若干優遇させる程度の事しか出来ないだろう。
また、それ以前に彼女は性格的にも能力的にも最前線での戦いには全く向いていない。
彼女は命が懸かった状況ならば逃走を選択するはず――
故に彼女にその役割を与える事が不自然なのだ。
それならば最初からクアットロを参加させずトーレかセッテを参加させてその役割を与えれば良いし、
もしくはチンクかディエチにその役割を与えれば良かっただろう。
故に――クアットロが主催者側の人間という可能性は低いという事だ。
「勿論、警戒すべき人物なのは否定しないよ――でも、それは他の皆にも同じ事が言えるよね」
『Yes――』
-
「むしろ――僕としては、彼女の知恵を借りれるならば借りたいと思うんだ。
さっきも言ったけど恐らく生半可な作戦はほぼ確実にプレシアに読まれている――
首輪の解除にしても単純にそれを行えるかは正直微妙――」
『その通りですね――その為に危険人物である彼女の力も借りたいと?』
「多分――L自身も首輪解除の為に戦っていた――
でも――そのLもプレシアの前には為す術無く散っていった――
Lは本当に優秀だよ――この地にいる誰よりも優秀な探偵だ――
残念だけど――僕ではLを越える事は決して出来ない――
いや――きっとそれは他の誰にも無理な事だと思う――
でも――一人では越える事が出来なくても――
二人なら――Lに並べる、二人なら――Lを越せる
僕はそう思っているよ――だから、仲間達の力を集める事が出来れば――」
『Mr.Lが敗れたプレシアに――勝つ事が出来るというわけですね』
「その通り――だからまずは仲間達と何とかして合流しないとならないんだ。なのはやはやて達とね――」
その瞳には明らかな強い決意が込められていた――
同時に――先程までに見られた追いつめられている様子は既に無い――
「――ただ、何処に向かうかはまだ決まってないんだよね――どうしたら良いだろう?」
『禁止エリアを踏まえるならば、市街地方面から此方に向かう参加者が現れる可能性は高いでしょうが――』
今回禁止エリアに指定された1つの場所が地上本部のあるE-5、既に隣接するE-6も禁止エリアになっており市街地から離れる参加者は出てくるだろう。
「この配置だと、ゆりかごに意識を向けさせようという感じもあるね」
さらにH-6とI-7が指定された――既にH-4が禁止エリアとなり西側が海に囲まれている事を踏まえ、ループを使わない限り移動ルートは大幅に絞られる。
つまり、そこからゆりかごを意識させる狙いも十分にあるという事だ。
「多分、なのは達もゆりかごの事には気付くはず――そうだゆりかごと言えば――」
それは、先程はどうしても聞けなかった事――
「バルディッシュ――そのJS事件で僕はなのはの――力になれたかい――?」
『ええ、自分の世界のMr.ユーノは――Ms.なのはやマスター達の力になれましたよ――』
「そうか――」
『詳しい事を話しますか?』
「いや、それだけで十分だよ――」
自分がなのは達の力になれた――それがわかっただけでも少年の心は十分に満たされていた――
-
『Mr.ユーノ、確かまだ1人残っていましたね』
「ヴィヴィオ――確かJS事件でなのは達が保護した女の子だったね」
『ええ、聖王の器でもあり、ゆりかごを動かす鍵でした』
「彼女も探さないといけないね」
『お願いします――きっとマスターも『ヴィヴィオを助けてあげて』と願っている筈です』
「フェイトの声が聞こえて来そうだよ――でも、僕彼女の事を全く知らないんだよね」
『確か、声がMr.ユーノと似ています』
「僕は男だよ」
『しかし似ています』
「全然ヒントになっていないよ――」
【1日目 夜】
【現在地 E-7 駅・車庫の前】
【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、腹に刺し傷(ほぼ完治)、決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、
双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、首輪(矢車)
【思考】
基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。プレシアを止める。
1.何処へ向かおうかな?
2.なのは、はやて、ヴィータ、スバル、クアットロ等、共に戦う仲間を集める。
3.ヴィヴィオの保護
4.ジュエルシード、夜天の書、レリックの探索。
5.首輪の解除。
6.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※バルディッシュからJS事件の概要及び関係者の事を聞き、それについておおむね把握しました。
※プレシアの存在に少し疑問を持っています。
※平行世界について知りました(ただしなのは×終わクロの世界の事はほとんど知りません)。
※会場のループについて知りました。
※E-7・駅の車庫前にあった立て札に書かれた内容を把握しました。
※明日香によって夜天の書が改変されている可能性に気付きました。但し、それによりデスゲームが瓦解する可能性は低いと考えています。
※このデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
・この会場はプレシア(もしくは黒幕)の魔法によって構築され周囲は強い結界で覆われている。制限やループもこれによるもの。
・その魔法は大量のジュエルシードと夜天の書、もしくはそれに相当するロストロギアで維持されている。
・その為、ジュエルシード1,2個程度のエネルギーで結界を破る事は不可能。
・また、管理局がそれを察知する可能性はあるが、その場所に駆けつけるまで2,3日はかかる。
・それがこのデスゲームのタイムリミットで会場が維持される時間も約2日(48時間)、それを過ぎれば会場がどうなるかは不明、無事で済む保証は無い。
・今回失敗に終わっても、プレシア(もしくは黒幕)自身は同じ事を行うだろうが。準備等のリスクが高まる可能性が高い為、今回で成功させる可能性が非常に高い。
・同時に次行う際、対策はより強固になっている為、プレシア(もしくは黒幕)を止められるのは恐らく今回だけ。
・主催陣にはスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別の平行世界の彼等である。
・プレシアが本物かどうかは不明、但し偽物だとしてもプレシアの存在を利用している事は確か。
・大抵の手段は対策済み。ジュエルシード、夜天の書、ゆりかご等には細工が施されそのままでは脱出には使えない。
-
投下完了致しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
今回も前後編で>>62-71が前編『Lを継ぐ者/Sink』(約28KB)で、
>>72-83が後編『Lを継ぐ者/あなたがいるから』(約28KB)です。
今回のサブタイトルの元ネタは
『Lを継ぐ者』……『デスノート:リライト2 Lを継ぐ者』(TVアニメ版総集編)〔注.本ロワのLはアニメ版ではなく実写版出典〕
『Sink』……『金田一少年の事件簿』ED『Sink』
『あなたがいるから』……『名探偵コナン 瞳の中の暗殺者』主題歌『あなたがいるから』
以上、3つを『仮面ライダーW』風のサブタイトルにしました〔注.なお、『仮面ライダーW』に英語のサブタイトルはありませんが、元ネタの都合上そうせざるを得なかった(だって、金田一の曲名で手頃なの無かったんだよ!)〕
というわけでサブタイトルだけで日本を代表する探偵大集合させてしまいました。しかも都合がよい事(偶然です)に今夜は『名探偵コナン 漆黒の追跡者』放送日&明日は『名探偵コナン 天空の難破船』上映開始日、今夜は探偵祭り♪
リリカル全然関係ねぇお……
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投下乙です
まさかユーノでここまで濃い考察話になるとは想像もしなかったぞ
これは予想外
そうか…良くも悪くもユーノの一族から始まってたのか
言われて気が付いたよ
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投下乙です
ユーノ君カッコいいな
そうだな、ユーノ君がいたからみんなの出会いがあったんだよな(バルディッシュナイスフォロー!)
1期の頃から一人で背負いこもうとするきらいがあったけど、よかったよかった
ああ、声が似ているも何も中の人g(ry
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投下乙です
ようやくユーノが濃い考察をした!w
今まで散々だったからなぁ……
ともあれ今後ユーノがどう活躍するのか楽しみです。
無事他の対主催と合流できるか……距離的にはホテルが近いけど……?
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投下乙です
ユーノがカッコイイ!!今までルーテシアの裸体を観察したり胸に挟まれたりチンクの大事な部分を見たりブレンヒルトのパンツを何度も拝んだりサービスシーンを披露していたりしたのが嘘のようなカッコ良さだ!!
ユーノの今後の活躍が楽しみです。クアットロと組むことは叶うのだろうか…?
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―― 使いすぎじゃね
読んでて気持ち悪くなる
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リインフォース、アルフ、リニス、ウーノ分を投下します
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ほの暗い闇の中を蠢く、微かな金属音が2つ。
さながら小さなネズミのように、屋根裏を這いずり回るのは、1人の融合騎と1匹の使い魔。
眼下の廊下から漏れ出している、ぼんやりとした電灯の光だけが、この闇の中の光源だった。
《しかしまぁ、ホントに入り組んだ構造になったもんだよ》
額に皺を寄せながら、使い魔アルフが念話でぼやく。
肉声での会話をシャットアウトしたのは、盗聴の危険性を考慮した結果だ。
下の廊下には、ところどころに監視カメラが配置されている。であれば姿のみならず、声まで盗み聞きされる可能性も否定できない。
《やはり、元の時の庭園とは違うのか?》
《そりゃあ、元は別荘施設だったからね。こんな研究室みたいな作りにはなってなかったさ》
先を行く融合騎リインフォースの問いかけに、答えた。
かつてのプレシアの研究施設であった時の庭園だが、元々は居住スペースとして設計されたものを、研究用に改築したに過ぎない。
デバイスルームや研究室こそあれど、それも必要最低限のものであり、あくまでオプションでしかなかった。
だが今彼女らが潜入しているこの場所は、ただの別荘にしてはいやに複雑な構造になっている。
廊下にいくつもの扉が並ぶその様は、むしろ時空管理局本局や、大型の研究所を彷彿とさせた。
無機的かつ平面な壁の様子は、まるで病院の廊下のようで、生活感が感じられない。
《でも、それ以上に分からないのはこの世界そのものだよ。結局、ここは一体どこなんだ?》
奇妙なのは時の庭園の構造だけではなかった。
それ以上に不可解なのは、この世界だ。
転移魔法の着地点は時の庭園のすぐ傍だったが、その周囲を見渡すだけでも、その異質さは見て取れる。
辺りに散乱する遺跡らしき構造物は、どれもこれも見覚えのないものばかり。
空気に漂う匂いからは、文明はおろか、自然の気配すら感じられなかった。
既に滅亡した次元世界だということなのだろうか。
転移座標から正体を勘ぐろうにも、提示されたのは未知の座標。つまり、まったくのお手上げだった。
《恐らくは――アルハザード》
ぽつり、と。
呟くように響く、リインフォースの念話。
「!」
がん、と。
返ってきたのは言葉ではなく。
天井裏の低い天井に、盛大に頭をぶつけた音だった。
《アルハザード、って……そんな馬鹿な。本当に、現存していたっていうのかい……?》
痛む頭を抑えながら、震える声でアルフが尋ねた。
それが本当だというのなら、大問題だ。
アルハザードといえば、幾多の伝承の中で語り継がれる、超古代文明世界の名前である。
その歴史は古代ベルカよりも更に昔に遡り、その上その古代ベルカよりも、更に優れた技術力を有していた世界だ。
未だ発見もされておらず、そのあまりにも現実離れした名声から、存在そのものを疑われた、まさに魔法の理想郷。
そしてプレシアの娘・フェイトの使い魔であったアルフには、更にそれ以上に重要な意味を持つ名前でもある。
アルハザードは、プレシアが実娘アリシアを復活させる技術を求め、ジュエルシードによって渡航を図った目的地でもあるのだ。
そしてその桃源郷が、今まさに彼女らのいるこの場所だとするのなら。
あのプレシア・テスタロッサは、虚数空間の漂流の末に、本当に目的地にたどり着いたということになるではないか。
《そうなのだろうな。この地の空気には覚えがある……そしてそれは、かつてのベルカの地のそれとも違う匂いだ》
《空気に覚えがある?》
《そもそも古代ベルカの魔法技術は、アルハザードとの交流によって発展したものだからな》
だとするなら、それも真実なのだろう。
リインフォースがいうには、現代においてロストロギアと呼ばれているベルカの遺産は、
より優れた技術力を有した、アルハザードからの技術提供によって誕生したものなのだという。
つまりアルハザードとは、この夜天の書の管制人格にとっては、第二の故郷にも等しい場所ということなのだ。
そのリインフォースが、この地に漂う魔力の気配に、ベルカのそれとも異なる懐かしさを覚えている。
ならば真実、この場所は、あの御伽噺の理想郷ということに他ならない。
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《……仮にここがそうだとすると、なおさら分からなくなるね……目的地にたどり着いたっていうのなら、何であいつはあんなことを?》
思い返されるのは、一ヶ月弱ほど前の地獄の光景だ。
転移魔法を行使し地球を発つ前、彼女らの暮らしていた海鳴市は、プレシアの軍勢の手によって壊滅した。
未知の技術を取り込んだ大軍団を前に、迎撃に出た魔導師達は、1人残らず返り討ちにあったのだ。
アルフの元の主人であるフェイトも、そのフェイトやリインフォースを救ったなのはも、あの凄惨な虐殺の果てに死亡している。
今こうしてリインフォースについているアルフもまた、血と炎の最中で死にかけたのだ。
《プレシア・テスタロッサの目的は、娘アリシアの蘇生……だったな》
《あいつにとってはそれが全てで、他のことなんてどうでもいい、って感じだった。
その目的を果たす手段を手に入れたのなら、今更他の世界に攻め込む理由も……フェイト達が殺される理由も、ないはずなんだ》
不可解な点は、そこだった。
かつてプレシアが事を起こしたのは、アルハザードへの到達という、唯一無二の目的のために他ならない。
そしてその目的が達成された今だからこそ、あの襲撃の動機が分からなくなる。
望みは全てアルハザードで叶うというのに、何故彼女は、わざわざ他の世界への遠征を実行したのか。
管理局に察知されるリスクを冒してまで、今さらよそにかかわる理由など、プレシアにはないのではないのか。
《……何にせよ、調べてみる必要がありそうだな》
がたん、と。
念話に合わせ、前方から音が聞こえてくる。
アルフがそちらの方を向けば、これまで以上に強い光が、眼下の廊下から差し込んでいた。
金網状のカバーをリインフォースが外したらしい。
《そこに端末がある。幸い、監視カメラもない。この城の中枢へのハッキングを試してみる》
《ハッキング、って……あんた、できるのかい?》
《言っただろう?》
ふわり、と闇に揺れる銀髪。
くるり、とこちらを向く真紅の瞳。
穴へと身を乗り出すような姿勢から、リインフォースがアルフの方へと首を向ける。
《このアルハザードは、私の第二の故郷だと》
◆
セキュリティを解析。
ファイアウォールの構造を理解。システムの穴を探索し、突破。
転送される情報を取捨選択。余剰プログラムを受け流し、必要と思しき情報を取得。
頭部のメイン回路へと流れ込んでくるのは、複雑な数列で構成された構造式。
それらを1つ1つ読み解いていき、サイバーデータの深淵へと泳いでいく。
目を閉じたリインフォースの右手は、廊下に設置されていたコンピューターへとかざされていた。
手のひらに浮かぶ銀の光は、ベルカ式の三角魔法陣。
今まさに黒衣のユニゾンデバイスは、この時の庭園のサーバーへの不正アクセスの真っ最中だった。
《ホントにやってのけるとはね》
感心したようなアルフの念話が、頭の片隅に響いている。
彼女はリインフォースの傍らに立ち、敵の襲来を察知すべく、警戒態勢を保っていた。
こうして無防備な姿を晒し、ハッキングに没頭することができるのも、彼女が見張ってくれているおかげだ。
この狼の命を拾ったのが、人道的のみならず戦力的にも正解であったことを、改めて理解させられる。
《間もなくメインサーバーに到達できる》
いよいよ大詰めに近づいたと、口にした。
彼女がこのハッキングを為しえたのは、他ならぬその出自のおかげであった。
大規模な魔法文明を誇っていたアルハザードでは、この手のデータも魔法術式で構成・管理されている。
ミッド式でもベルカ式でもない、言うなればアルハザード式だ。並の魔導師や騎士では、解析することすら敵わないだろう。
しかしこの場にいるのは並の騎士ではない。
古代ベルカ最大級のロストロギアの1つ・夜天の魔導書の管制人格だ。
アルハザードの恩恵を最大限に蓄えただけに、アルハザード式の術式にも、ある程度の心得を有している。
加えてその身はデバイスである。プログラムの解析や操作には、生身の人間よりも長けていた。
おまけに彼女のスペックは、そんじょそこらのデバイスの比ではない。
幾多の魔術を蒐集・処理することを義務付けられ、それ相応の演算能力を与えられた、言うなれば史上最高峰のスーパーコンピューターだ。
この手の作業に関しては、唯一にして最強の専門家と言えるだろう。
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《侵入成功。これは、爆発物の制御システム?》
メインサーバーへと到達。
そしていの一番に上げたのは、怪訝な響きを伴う声だった。
最初に目に留まったデータは、何らかの爆弾の起爆システムを管理するためのものだ。
質量兵器の管理システムとは、この場には余りにも似つかわしくない。
魔術の理想郷たるアルハザードらしくもないし、アリシアを蘇生させたがっているプレシアらしくもなかった。
《次は……名簿か?》
故に次に開示されたデータに、あっさりと意識の矛先を向ける。
そして今度は深く興味を示し、廊下の端末に映像を映した。
かつかつと歩みの音が聞こえる。それに気付いたアルフが、モニターを覗き込んだのだろう。
《高町なのはに、フェイト・テスタロッサ……プレシアが殺して回った人間の目録とか?》
《いや、それにしては妙だ。ユーノ・スクライアが生存扱いになっている》
表示されたのは五十音順に並べられた、合計60人の名の連なる名簿。
そしてその名前のすぐ横に、「生存」ないし「死亡」のいずれかが追記されていた。
これも一見しただけでは、意味の理解に苦しむものだ。
なのはやフェイト、ヴォルンケンリッターらが死亡しているのだから、
アルフが言うように、既にプレシアが殺した者と、これから殺す者の一覧表にも見える。
だがそれでは、ユーノが生存にカテゴリされている理由が分からない。彼もまた海鳴の戦闘で、間違いなく死亡したはずだ。
加えてなのは、フェイト、はやての3人の名前が、それぞれ2つずつ用意されているのも気になる。
フェイトは両方死亡だったが、なのはとはやては片方ずつ死んでいた。
これは一体何を示すものなのだろうか。他のデータと比較してみれば、何か分かるかもしれない。
更なる解析を進めようとした矢先、
《待った》
アルフに、制止の声をかけられた。
《臭いと音が近づいてきてる。監視がこっちに向かってるみたいだ》
その言葉にコンピューターへのアクセスを解き、瞼を持ち上げ瞳を見せる。
赤い双眸の先の使い魔は、耳と鼻をひくつかせていた。
イヌ科の嗅覚と聴覚を信頼するなら、まだ若干の余裕はあるはず。
しかしそれも、この場から天井裏へ戻るのに利用した方が有意義だ。
よってここは素直に従い、元の屋根裏へと飛行する。
監視の目が近づく前に、極力音を立てぬよう留意して、金網状の蓋を戻した。
《あの卵メカか》
ややあって、眼下に現れた機影。
その楕円形のフォルムを見据え、忌々しげにアルフが呟く。
あれは海鳴の戦闘にも顔を見せていた、正体不明のロボット兵器だ。
魔力を通さない特殊なフィールドによって、なのは達ミッド式の魔導師は、大いに苦戦を強いられていた。
《……そういえば、何故監視が配置されているんだ?》
ふと。
疑問に思い、それを思念の声に乗せる。
《何故って?》
《よく考えてもみれば、ここは秘境中の秘境のはずだ。外部からの侵入者に気を配る必要は、皆無と言ってもいいと思うのだが》
それが疑念の正体だった。
ここは失われた地、アルハザード。
管理局150年の歴史をもってしても、未だ現存を確認できず、半ば御伽噺扱いさえされている場所である。
こんな所に侵入できる人間など、普通はいないと考える方が自然だ。
であれば、申し訳程度の監視カメラはまだしも、わざわざ制御の手間を割いてまで、あのロボットを配備する理由が見つからない。
あるいは、
《……既に見つかっているのか?》
こちらの侵入を察知し、その捕縛のために放ったというのなら、話は別だが。
-
◆
(ガジェットドローンが配備されている……?)
モニターに映された自律兵器を、使い魔リニスは怪訝な顔つきをして見つめていた。
事が起きたのは、間もなく夜も更け始めようかといった頃。
ちょうど転送魔法陣の移動について、モニターの映像ログを漁って調べていた時のことだ。
デスゲームの参加者達の認識に沿うならば、
吸血鬼アーカードの遺体が燃え尽き、八神はやてが従者のデイパックを回収した前後といったところか。
地上本部の崩壊に伴い魔法陣が一旦消滅し、直後に地下に出現したことは、映像から確認することができた。
誰が何をしてそうなったのかを調べようとしたのだが、
転送魔法陣に関するデータにはプロテクトがかけられており、リニスの権限では閲覧できない。
それでより上位の管理権限を持つ存在――プレシアが一枚噛んでいる疑いは固まったが、しかしそれ以上のことはもう分からない。
ここまでかと落胆していた時に、ふと何の気なしに庭園内の監視カメラへ視線を飛ばすと、そこに映っていたのはガジェットドローン。
このような経緯を経て、現在に至るというわけだ。
(プレシアが私を監視しているのかしら?)
最初に考慮した可能性は、それだ。
オットーの起用といい今回の件といい、どうにも自分は、プレシアに疑われているような気がする。
とはいえ翻意を抱えているのは間違いないので、弁明のしようがないのが現実だ。
そしてだからこそこの行動が、自分を警戒しているから、という風に結論づけることもたやすい。
妙な行動を起こした時に、即座に始末できるように、各所にガジェットを配置したのではということだ。
(でも、それなら精神リンクを繋ぎ直せばいい)
しかしよくよく考えてみれば、その可能性は薄いかもしれない。
何せ、リニスはプレシアの使い魔なのだ。
互いの行動を察知できる、精神リンクという手段を使えば、従者の謀反は主君に筒抜けになる。
ならばわざわざ監視員を増やす必要はない。むしろ視覚のみに頼るのは、より不確かな手段と言っていい。
(なら、ナンバーズ達に何かが?)
それなら監視の対象は自分ではなく、あの機械仕掛けの傭兵達だろうか。
なるほど確かに、客観的な目で見れば、連中も自分と同程度にはいかがわしい。
何せ“提供者”からしてああなのだ。その面の皮の下で何を考えているのか、分かったものではない。
それこそこうして味方を装い、信用させたところを裏切って、アルハザードの技術をかすめ取ろうとしても不自然は――
「……?」
と。
その時。
ぴぴぴぴ、と耳を打つ音があった。
不意に鼓膜に飛び込んできたのは、コンピューターから響く電子音。
それもこれはアラートだ。何かシステムのトラブルでもあったのだろうか。
警告を示すアイコンを選択し、報告バルーンを展開する。
そこに記載されていたのは。
「……っ!」
不正アクセスの報告だった。
「侵入者っ!?」
くわ、と瞳が見開かれる。
さぁ、と顔色が蒼白となった。
血の気は見る間に引いていき、顔中から嫌な汗が流れた。
不正アクセスとはすなわちハッキングだ。
こちらのコンピューターの所在が割れたということは、その時点で外部に居場所を察知されたことを意味する。
加えてハッキングに利用した端末は、この庭園の廊下のコンピューターだ。
外部からどころではない、内部からの不正アクセス。
すなわちそれは、下手人であるハッカーが、ここに侵入を果たしていることに他ならない。
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「くっ!」
逸る気持ちを抑えながら。
しかし目に見えた狼狽と共に。
リニスは制御コンピューターを操作し、全監視カメラの映像を展開する。
ゲームのフィールドなど後回しだ。外界に構っている暇などないのだ。
すぐさま庭園内の映像が、ばあっとモニターを埋め尽くす。
「何故だ……何故気付けなかったッ!?」
右を見ては、左を見て。
上を見ては、下を見て。
忙しなく視線を泳がせながら、苛立ちも露わな声を上げる。
そうだ。
何故こんな単純な理屈に気付かなかった。
気付こうと思えば、気付けるはずだったのだ。
そもそも監視というものは、味方を対象にした概念ではない。外敵が領地に侵入するのを防ぐため、というのが大前提だ。
それこそ普通に考えれば、味方よりも敵の方に目を向けて当然なはずだった。
このアルハザードは誰も特定できない、などという言い訳は、今となっては通用しない。
現に混沌の神を名乗るカオスなる者が、この殺し合いに一度介入しているのだから。
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
過去を悔やむ暇があったら、それを現在の行動に回すべきだ。
いかにゲームに反対しているとはいえ、プレシアを傷つけるつもりはリニスには毛頭ない。
故にこうして、プレシアを害するであろう者を、血眼になって探すのも当然の帰結。
敵はまだこの施設内にいるはずだ。ならば、何としても見つけ出さなければ。
いや、その前に警報か。庭園の他の人間達にも、警報ベルでこの非常事態を――
「……けい、ほう――?」
はっ、として。
警報装置に伸ばした手を、止める。
焦りも悔やみも苛立ちも、すぅっと遠のいていくのが分かった。
狼狽に開かれていた瞳が、それとは異なる感情によって、再び丸くなっていく。
茫然自失とした表情を浮かべながら、やがてコンソールからも手を離した。
そう、それだ。
外敵の可能性を排除したのは、それが原因だったのだ。
そもそもあのガジェットドローンは、プレシアの手によって放たれた可能性が高い。
そしてもし仮にプレシアが敵の存在を認知し、その対策としてガジェットを配備したというのなら、
この場の全員に注意を促すためにも、警報ベルを鳴らして然るべきはずなのだ。
しかし、この現状はどうだ。
今この時の庭園の中では、物音1つとして鳴っておらず、非常灯の光っている形跡もない。
故にリニスはほとんど無意識に、敵襲の可能性を否定して、味方を疑いにかかったのだ。
だが、これが本当に、敵に対する警戒態勢だとしたら。
敵襲を理解していながら、警報を鳴らさなかったとしたら。
「私は……プレシアに見捨てられたの……?」
仮にこの非常事態を、“全員”に通達する気がなかったとするなら。
思い当たる節はいくつかあった。
側近であるはずの自分を差し置いてまで、余所者に放送という大役を任せたこと。
本来なら自分が管理するであろうボーナス支給品システムに、アクセス権限を設けたこと。
転移魔法陣の移動を、こちらに相談することなく強行したこと。
そして、その魔法陣のデータの閲覧が不可能だったこと。
のろまな手つきでコンソールを弄れば、他にも様々な動作が、アクセス権限によって制限されていた。
それこそ、これまでなら問題なく実行できたような、首輪の制御システムへのアクセスさえも、だ。
「私にできることは……もう、何もない……?」
無力感が、声に滲んだ。
虚脱感が、顔に浮かんだ。
これまで有していたアクセス権限の、その大半が凍結された。
それが意味することは、プレシアが自分を必要としなくなったということ。
お前はもう当てにしていないから、非常事態を伝えるつもりもない、と、暗に示しているということだ。
そしてそれは、自分が殺し合いのフィールドに働きかけることが、事実上全くの不可能となったということを意味している。
そのくせモニターの監視機能は、未だ使用可能ときている。
これはなんという皮肉だ。
なんと陰惨で痛烈な三行半だ。
「指をくわえて見ていろと……そう言いたいのですか、プレシア……?」
-
◆
「さすがにプレシア・テスタロッサの使い魔……全くの馬鹿というわけではない、か」
ぽつり、と呟く女の声。
落ち着いた大人の女性といった声音の主は、黄金色に輝く双眸を、手元のモニターへと向けていた。
そこに映し出されているのは、かの猫の使い魔リニスの姿。
己の無力と絶望を噛み締め、呆然とした表情で、1人うなだれる無様な姿だ。
とはいえ自力でそこまでたどり着けたというのは、さすがは大魔導師の眷属といったところか。
(深刻に捉えすぎてるような気がしないでもないけど、まぁいいお灸にはなったんじゃないかしら)
リニスの推測通り、彼女は業を煮やしたプレシアの手によって、自らの管理権限を剥奪されていた。
それまで担当していた職務の数々は、このモニターを見やる女を含んだ、戦闘機人達に分配されている。
最初はプレシアも、外様に権力を与えていいものか少々迷ったようだが、
組織のけじめを保つためにも、結局はこうしてリニスへの懲罰を優先したのだ。
唯一使い魔の認識に間違いがあるとするなら、
これはあくまで力差を明確に示すための、一時的な罰則に過ぎないということか。
プレシアが言うには、あくまで第四回放送までの間頭を冷やさせるためのもので、
それで効果が見られたのなら――余計な行動を取る気が失せたようなら、厳重注意の後に権限を元に戻すつもりだという。
それにああも深刻なショックを受けているのは、やはりやましい意思があったということなのだろうか。
(さて……問題は彼女よりも、侵入者の方ね)
思考の矛先を切り替え、監視カメラの映像をシャットアウト。
その手元に映るモニターへと、ガジェットドローンの制御プログラムを呼び出す。
リニスの読み通り、この女は――いいや他の戦闘機人もまた、侵入者の存在を認知していた。
それこそ唯一彼女だけが、蚊帳の外へとはじき出されていたということだ。
(マリアージュはすぐに実戦投入可能だけど、今はまだ必要でもないか)
視線のみを傍らに流し、内心で呟く。
その目線の先に存在するのは、ガレアの王と称された少女。
小柄な身体を薄物に包み、オレンジ色の髪を垂らした、古代ベルカの冥府の炎王――イクスヴェリアだ。
洗脳プログラムの調整も、指揮権の剥奪も完了している。
ひとたび彼女を目覚めさせれば、屍の兵士マリアージュは、即座にこの女の下僕となり、彼女の指示するままに働くだろう。
しかし、今はまだその必要はない。
所詮ガレアの冥王は、もしもの時の備えでしかない。
高すぎる攻撃力と自爆能力を有した屍兵では、無用に建物を傷つけてしまう可能性もあるだろう。
故に、今はまだ必要がない。
今はガジェット達で用済みだ。
「頼むわよ、ガジェット達。私達のために邪魔者を見つけ出してちょうだい」
プレシアのために、とは言い切らなかった。
私達のために、とあえてぼかした。
女の指がしなやかに踊る。心無き魔導師殺し達へとタクトを振る。
機械人形のコンダクター――戦闘機人ナンバーⅠ・ウーノは、静かに蜘蛛の糸を張り巡らせていた。
【備考】
※リインフォースとアルフが、「首輪爆破の制御プログラム」「名簿」の二種のデータの存在を確認しました。
※リインフォースによる不正アクセスが、リニスに察知されました。
※第四回放送までの間、リニスのアクセス権限が大幅に制限されるようになりました。
監視映像の閲覧以外の、ほとんどの権限が凍結されています。
リインフォースとアルフの侵入も、リニスにのみ通達されていないようです。
※時の庭園内部に、ガジェットドローンⅠ型が複数配備されました。管制はウーノが行っているようです。
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投下終了。
今回分でリイン達とリニスを会わせようかとも思ったのですが、残り人数16人とまだまだギリギリ時期尚早だと思ったので、今はこのへんで。
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おっとと、いきなり誤字発見。
今はガジェット達で用済みだ。→今はガジェット達で様子見だ。
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少し頭冷やそうか
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投下乙です。
そうか、リイン&アルフはまだロワやっている事すら知らないのか(当然平行世界の存在も)。でも、もう発見されているからなぁ……オワタ。
流石にリニスは手を出せなくなったか(厳重注意だろうけど、実質ほぼアウトだからなぁ)……だが、見ているだけしか出来ないという事は……逆を言えば見る事は出来るって事だからなぁ……
だが……ウーノの口ぶりから察するに純粋にプレシアに従順というわけでは無いのが気になるが……(次の話でプレシアによって退場というオチもあるわけだが。)
しかし、これ本編扱いなのか? それとも外伝扱いなのか? どっちにすべきだろう……自分は本編でも良い様な気もするが……(でも、本当にあまり大きな動きのない外部話でもあるわけだしなぁ……)判断に迷う
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