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リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル13
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「つらそうだな」
忌々しいあの低い声が、己の鼓膜を震わせる。
ぜいぜいと自身の口を突く吐息に混じって、余裕たっぷりなあの声が響いてくる。
ぐ、と歯を食いしばって、槍を地に突き立ち上がった。
膝をつく姿勢を取っていた身体を、得物を杖代わりにして持ち上げた。
既に我が身はボロボロだ。
振りかざす穂先は届かない。時たま届いたとしても、すぐに傷口が再生する。
自己修復の速度は大幅に落ちていたようだが、それでも脅威には変わらない。
どれだけ傷つけたとしても、一分の隙も見せやしない。
逆に敵の切っ先は、こちらの防御を押しのけて、着実にこの身体を切り裂いていく。
騎士甲冑はずたぼろに引き裂けた。
致命的な直撃こそまだだが、至る所が血まみれだ。
額から流れる血液を拭い、ヴィータの瞳がアーカードを睨む。
「それで終わりか、お嬢ちゃん(フロイライン)? 身体が殺意に追いつけないのか? 一人前なのは威勢だけか?」
「うる……せぇッ」
精一杯の強がりを吐いた。
実際にはもういっぱいいっぱいだ。
全身から流れ出る真紅の雫は、根こそぎ体力を奪って地に染みていく。
五体に刻み込まれた刀傷も、痛くて痛くてたまらない。
体力も気力も限界ギリギリ。有り余っているものといえば、せいぜい魔力くらいだろう。
「見せてくれ。そして分からせてくれ。
お前は私を殺せるのか。私を殺すに足る者なのか。その手に握り締められた杭は、果たして私の心臓に届くのか」
彼我の戦力差は絶望的だ。
分かり切ったことではあったが、その事実が急速にリアリティを増して、深く身体にのしかかってくる。
クロノが撤退を促した時点で、まともに戦える相手ではないことは推測できた。
セフィロスと互角に戦った時点で、自分が勝てなかったあいつ並に強いことは分かっていた。
だが、結局それらは全て傍証に過ぎない。
こうして直接刃を交えなければ、主観の確証にはなり得なかった。
そして、今だからこそ分かる。
今目の当たりにしているこの鬼の、なんと猛々しくおぞましいことか。
人間離れの再生力の、なんと忌々しいことか。
常識外れの怪力の、なんと凄まじいことか。
指先が震えそうだった。膝が振動で崩れ落ちそうだった。
戦う前から刷り込まれた恐怖が、より深く心を侵食していく。
もう嫌だ。できることなら逃げ出したい。
こんなにも強くおぞましき魔物とは、これ以上戦いたくなんてない。
刃が突き刺されば確実に死ぬ。
拳を当てられただけでも砕け散る。
明確ににじり寄る死のビジョンが、怖くて怖くてたまらない。
「できるできないじゃねぇ――」
ああ、それでも。
だとしても、引き下がることなどできないのだ。
今ここで自分が逃げ出せば、今度ははやてが犠牲になる。
自分の知るはやてとは雰囲気の違う、正直いけ好かないタイプの人間だが、さすがに殺されるのは後味が悪い。
そしてはやてが殺されれば、今度は金居とかいう奴が襲われるだろう。
奴までもが殺されてしまえば、もう誰にも止められない。
自分がこの場から逃げ出すことは、それだけの人間の死を意味するのだ。
「――やるんだよッ!!」
だから、やってやる。
殺ってやるとも。
一体実力差が何だというのだ。どれだけ怖かろうと知ったことか。
どれだけ力の差があろうが、そんなことはどうだっていい。
殺せる殺せないの問題じゃない。
殺さなければならないのだ。
怒号を上げるヴィータの足が、かつんと鋭くアスファルトを蹴った。
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