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∵ Three dot ∴

1 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:38:23 ID:9OubR0lk0




( ^ω^) ラノブンピック2020参加作品




.

2 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:40:59 ID:9OubR0lk0
やるならここしかない。幸いにも、最近知り合った小さな『友達』は手癖が悪かった
とにかくこの『自動車』という乗り物は生きた心地がしない。母親は『これ』に連れられ二度と私の下に帰らなかった
道が悪いのか、ガンッと足下から突き上げられ、天井に頭を打つ。早くこの狭い檻から出たいものだ。急いでくれないか?


「ゴェエエエエエ」

「ゴェエエエエ」


よしよし、複雑なロックじゃなくて助かった。心なしか『友達』も誇らしげだ
後はタイミングだ。幸いにも敵は『運転手』と『見張り』のみ。やってやれないことは無い


「ゴェ」


ん?ああ、勿論わかっているさ。出来る限り『彼女』が怪我しないよう善処する。本当さ。カーネル・サンダースに誓ってもいい
男に二言はないさ。その後のことは……まぁ、その時に考えよう。何、悪いようにはならないさ。ガス室とやらに送り込まれるよりはね
じゃ、作戦の第二段階だ。よろしく頼むよ


「ゴェ!!」

「ゴェ!!」


『友達』が配置に着くのを確認し、チャチな『檻』の扉を、音を立てないように押し開ける
近くの座席に縮こまる『彼女』は目を見開いたが、その後、何事も無かったとでも言いたげに真っ暗闇しか映らない窓へと視線を移す。良い子だ
さて、愛らしくても先祖は狼。産まれた瞬間から『狩り』の本能は備わっている。低い姿勢から、足音を立てず忍び寄り――――


「ゴェ!!」

「ゴェ!!」


『シートベルト』が外れた瞬間


(∪#^ω^)「ギャウウウウウウウッッッ!!!!!!!!!!」


一気に襲いかかるのさ!!

3 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:42:21 ID:9OubR0lk0






















4 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:44:14 ID:9OubR0lk0
―――――
―――



(´・ω・`)「……」

<ヽ`∀´>「遅いニダね……」

(´・ω・`)「ったく、どこで油売ってんだよ……」

<ヽ;`∀´>「旅費の調達は彼次第だからね……気が気じゃないニダ」


学生の夏は、日数から見れば長いように見えるが、体感は矢の如し
酒とタバコが楽しめるようになれば、その特別な時間は幾ばくも残されてはいない
ピザの空箱にマウンテン・デューの缶の山が転がる彼らの狭い居住室では、ギチギチに詰め込まれた旅行鞄とキャンプ道具が持ち主と共に出発の時を待つ


(´・ω・`)「有り金全部注ぎ込んだんだからよ。勝ってくれなきゃ困るぜ」

<ヽ;`∀´>「ウリは余り気乗りしない方法ニダ……」

(´・ω・`)「ベビー・シッターで稼げる額なんざタカが知れてらぁ。それとも、ウォルター・ホワイト先生を見習うか?」

<ヽ;`∀´>「ヤクは御法度ニダ」


アジア系の若者、『ニダー』は困ったように眦を下げ
それを見たルームメイトの『ショボン』は、鼻で笑ってテレビのリモコンを手に取った


(´・ω・`)「いくら誠実に生きようとな、どっかで博打を打つ時は来るもんだぜ?」

<ヽ`∀´>「誰の言葉ニカ?」

(´・ω・`)「兄貴。『Fortnite』のパックを課金する時はいつもこう言ってた」

<ヽ;`∀´>「途端に安く聞こえてくるニダ……」

(´・ω・`)「俺もそう思う」

5 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:45:15 ID:9OubR0lk0
持て余す待機時間を潰そうと、テレビを付けたは良いものの
明け方のチャンネルはどこも退屈なニュース番組しかやっていない。ショボンは舌打ちしてリモコンをソファーに放り投げた


(´・ω・`)「おっせえなぁ……」

<ヽ`∀´>「……様子、見に行く?」

(´・ω・`)「やだよめんどくせえ絡まれたくねえもん」

<ヽ;`∀´>「だよね……」


ショボンが手持ち無沙汰にスマホを弄り始め、ニダーは会話を切り上げテレビを注視する
と言っても、眠たげな表情をした中年キャスターが、何処の政治家が汚職をしただの、深夜に保健所のトラックが事故を起こしただのと
取り立てて興味を引くネタは取り扱っていない。コーヒーでも淹れようかと腰を上げた瞬間


「テメッ……しつけえなオラァッ!!!!」


乱暴な怒鳴り声と共に、鈍い衝突音が床を震わせた

6 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:47:56 ID:9OubR0lk0
(´・ω・`)「よっしゃ、行くか」

<ヽ;`∀´>「ああ……うん」


最早、日常とも言うべきハプニングだったが、ニダーの心臓は早鐘を打つ
カレッジから近いものの、治安が悪い地域。大家も慣れているのか、これだけ騒ぎを起こして追い出されないのは怪我の功名というべきだろう

(#'A`)「クソがッ!!」


ドアを蹴破らんばかりに勢い良く開け放った、お世辞にも色男とは呼べない青年『ドク』は
一目散にキッチンの冷蔵庫を開け、ビールの栓を抜いて一息に半分ほど飲み干した


(´・ω・`)「おかえり」

(#'A`)「なぁ信じられるかオイ!?対戦相手の取り巻きが俺の試合を『サマ』だって因縁付けてきたんだぜ!?」

(´・ω・`)「まぁお前、顔面がザコだからな。戦果は?」

(#'A`)「ほらよ!!」


小汚い肩掛けバッグから丸く纏められた百ドル札の束をそれぞれに投げ渡す。ジッパーの中には、それが後五つほど入っている
彼が地下格闘技の試合で稼いできた資金だ。『旅費は任せな』と大口を叩くだけはあった
一般的なサラリーマン三か月分の給料に相当するだろうか。旅費には十二分に事足りた

7 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:49:49 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「あー、『お友達』は?」


ドアの向こうでは、恐らくぶん殴られて気絶したであろうドクの『ツレ』の腕がビクン、ビクンと痙攣している
救急車を呼ぶべきだろうが、せっかくの旅を前に面倒事に巻き込まれたく無い気持ちの方が強かった


(#'A`)「ほっとけ!!」

<ヽ;`∀´>「旅から帰ってきたら部屋が荒らされてるなんて、僕は御免ニダよ?」

(´・ω・`)「まぁそん時はそん時シバき回しゃいいじゃん」

('A`)「良い事言うな。よし、追手が来る前に出るぞ」

<ヽ;`∀´>そ「まだ残りがいるニカ!?」

('A`)「どっかのチンピラ集団っぽかったからな」

<ヽ;`∀´>「あーもー!!」


ドクは残ったビールを唇の端から溢しながら腹に納め、旅行鞄とテントを手に取って真っ先に部屋を出る
慌ただしい出発に、ショボンとニダーは顔を見合わせ苦笑いをした


<ヽ;`∀´>「前途多難、ニダ」

(´・ω・`)「金作った本人を前に文句も言えねえしな。旅の滑り出しとしちゃ、中々テンポの良い導入だと思うぜ?」


「何してんだ!!サッサと行こうぜ!!」


階下からせっつかれる声に誘われ、二人も荷物を手に取った
テレビの電源を消し、ガス栓を確かめ、ブレーカーも落とす
一月程の別れとなる住み慣れた部屋に短く別れを告げ、気絶する男を跨いで廊下に出た
最後に戸締りをして、アパートの前で待つ友の下へと足早に向かう



目指すは精霊の棲む楽園、伝説の地『スリー・ドット』


心弾む大冒険の幕が開けたのであった――――

8 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:50:48 ID:9OubR0lk0




『∵ Three dot ∴』



.

9 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:53:06 ID:9OubR0lk0
事の始まりは、ショボンが持ち出した一冊の資料だった


(´・ω・`)「フィールドワークだ」

('A`)「は?」

<ヽ`∀´>「何処へ?」

(´・ω・`)「精霊が棲まう地、『スリー・ドット』」


民俗学を専攻している身としては、伝説、伝承も研究の一環となる
ファンタジーやオカルトを信じない者なら一笑に伏すような与太話でも、彼らにとっては興味を引く対象だった


(´・ω・`)「シタラバの山岳地帯に住む先住民と深い関わりがあるらしい土地でな。なんでも、その妖精は『Rebel』と呼ばれるものらしい」

('A`)「『反乱』?穏やかじゃねえな」

<ヽ`∀´>「何かを司る存在ニカ?」

(´・ω・`)「詳しい事はまだ解明されていないが……万物が決して抗えないモノに唯一抗える精霊なんだと」

('A`)「神とか悪魔か?」

<ヽ`∀´>「天災の類もあり得るニダね。もしくは……」

(´・ω・`)「不老不死」

('A`)「あー……精霊ならその線も考えられるな。で?そこに向かおうってか?」

(´・ω・`)「夏の間は例年通り暇だろ?それに、論文のネタにもなる」

('A`)「ご機嫌だな。旅費なら俺に資金預けてくれりゃチャチャっと稼いでやるよ」

<ヽ;`∀´>「まっ……」


大学の静かな図書室。話が耳に入ったであろう学生の視線を感じたニダーは、声を潜めた
ただでさえ素行不良の問題児とつるんでいるのだ。悪い噂をこれ以上起こしたくはない

10 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:55:16 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「また非合法な格闘技ニカ?」

('A`)「それが一番手っ取りばえーもん」

(´・ω・`)「確かに」

<ヽ;`∀´>「命が幾つあっても足りないニダよ……それに、山岳地帯だなんておいそれと踏み入れていい場所じゃ……」

(´・ω・`)「行く気ねえのか?」

<ヽ;`∀´>「そ、そりゃ、僕だって興味はあるニダ……」


小心者の自覚はあるが、膨れ上がる好奇心は臆病など何処ふく風だ


(´・ω・`)「『冒険』だぜニダー?俺たちは誰も見たことがない世界を求めてこの学校で勉学に励んでんだろうが」

<ヽ;`∀´>「うむむ……そもそもその資料、何処から仕入れてきたニカ?」

(´・ω・`)「持ち出し禁止の資料庫からな。年増の女教授を一晩悦ばせた収穫としちゃ上々よ」

('A`)「いよっ!!節操無しのオチンコ野郎!!」

(´^ω^`)「よせよせよせよせ!!」


囃し立てるルームメイトを余所に、真面目なニダーは頭を抱えた
これでも勉学と研究には真摯に取り組む二人だが、余りの破天荒さに誰も信じてはくれない
歴史に名だたる芸術家や学者を鑑みれば、勤勉と人格は必ずしも吊り合うとは限らないものの
実際にこんな友人達と付き合うと、その彼らに振り回された周りの人々の苦悩や疲労が身に染みてわかる

11 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:55:45 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「し……」


持ち出した資料の信憑性を問おうとして、咄嗟に考えを改める
『確実』な冒険など、何が面白いと言うのだろう。『既知』を目指す探検家など、何処にいると言うのだろう


<ヽ;`∀´>「は……はは」


どうやら、自分もまた『彼ら』と同類らしい。臆病風は零れた笑いの吐息と共に溶けて消えた
身を焦がすようなスリル。この世界に存在する数多の謎への挑戦。ああ、『冒険、冒険、大冒険!!』


<ヽ;`∀´>「乗った」


短い同意に、破天荒な二人はニヤリと笑う。ニダーもまた、映し鑑のように口角を上げた


『挑む者』の、不敵な笑みであった

12 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:57:54 ID:9OubR0lk0
それから夏休みまでの短い期間、勉学と並行して旅の準備は着々と進められた
ショボンとニダーは『足』の調達とルート、日程の計画。必要な道具と予算の算出を
ドクは『危ない人脈』と『大人の遊び場』を使った資金繰りを

結局、旅費に関しては出発ギリギリまで時間を要した上、『多少の問題』までオマケされたが、用意は出来た


(;'A`)「ハァー……クッソ、シャワー浴びる暇くらい欲しかったぜ……」

(´・ω・`)「くっさ」

('A`)「臭くない。フレグランスな香り」

<ヽ`∀´>「腕上げないで欲しいニダ」

('A`)「腋からフレグランスな香り」


ショボンが用意した『足』は、年季の入ったオンボロだが、HENTAIコミックと物の品質は世界一であるジパング製のミニバン
トランクに荷物を手早く積み込む様はまるで夜逃げの準備のようであった為か、『多少の問題』も相まってニダーは思わず苦笑いを浮かべた


(´・ω・`)「まずは買い出しするから、その間にどっかの多目的トイレで身体洗っとけよ」

('A`)「多目的トイレで身体洗った奴とこれからしばらく旅してーのかお前。素直にコインシャワー使うわ」

<ヽ`∀´>「壊しそう」

('A`)「金返せテメーら」

13 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 09:58:55 ID:9OubR0lk0
いつも通りの減らず口を叩き合いながらも、三人の気分は昂揚していた
誰もが『旅』を前にすれば、例えるなら、飛行機の出発をコーヒーを飲みながら待つ空港での一時のようなワクワク感を禁じ得ない
しかも、型に嵌らない未知の地域。それも伝説を追い求める冒険ならば、感情はより一層の盛り上がりを見せる


('A`)「レンタルか?」

(´・ω・`)「いや、兄貴の車。壊しても構わん」

('A`)「構うだろ」

<ヽ`∀´>「許可は?」

(´・ω・`)「オウイエチャントトッタゼェイェアァハン?」

<ヽ;`∀´>「……」

('A`)「……まぁ、怒られんのはお前だからどうなろうと俺の知ったこっちゃねえんだけどよ」


ショボンは悪びれた素振りも見せず肩を竦めると、颯爽と運転席に乗り込んだ――――

14 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:00:47 ID:9OubR0lk0
―――――
―――



さぁて、どうしたものか


「ゴェェェェエエエエ!!!!」

「ゴェエエエエエエエ!!!!」


そうがなり立てないでくれないか?いくら私が愛くるしいとはいえ、出来ることの限度ってものはある
いや、約束を違えるつもりはさらさら無いがね。私の自由と引き換えに、キミらを故郷に送り届ける。ああ、わかってる。必ず成し遂げてやるとも
しかし私は一介の犬に過ぎない。万が一『カネ』とやらを手にしても『ミセ』とやらで食事を得ることも出来ないし
プニプニの肉球と保健所職員から逃げるために鍛え抜かれた我が健脚を持ってしても、『車』の速度と持久力には敵わない
それに、衰弱していく『彼女』を回復させる術も持っちゃいないんだ。キミらは犬を過信しすぎてはいないか?


「ゴェ……」

「ゴェェェエエエ……」


『助け』?いやいや、誰がこんな一行の面倒を見るもの好きな人間がいるものか
愛らしい私はともかく、小汚n……失礼。身元不明の少女と未確認生命体が二人もいるのだよ?
産まれ落ちてから二年もこの世界を生き抜いた私が断言するが、そんな人間など絶対に現れない。間違いない


「ゴェ!!」

「ゴェ!!」


『着いてこい』だって?頼もしいね。私が三歩ほど歩けばすぐさま立場が逆転してしまいそうなキミたちは


「ゴェエ!!!!!」

「ゴェクソイヌェェ!!!!」


わかったわかった怒らないでくれ。今クソ犬っつったかオイ?
全く……ほら、乗った乗った。何処へ連れていくのか知らないが、現状が好転してくれることを祈るよ

15 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:01:11 ID:9OubR0lk0
















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16 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:03:09 ID:9OubR0lk0
(⁻A⁻)「フゴゴッ……ガッ、ムニャムニャ……もう食べられないよぉ……」

<ヽ`∀´>「……」

(´・ω・`)「……そこにティッシュあるだろ」

<ヽ`∀´>「うん」

(´・ω・`)「穴という穴に詰めとけ。俺今手ぇ離せねえから」

<ヽ;`∀´>「死ぬニダ……」


試合の疲れは、ビール一本分のアルコールでも瞬く間に眠りへと誘う
住み慣れた街から離れ、『西』へ向かう車中。後部座席では寝袋を枕にドクが豪快にいびきをあげていた


(´・ω・`)「車で行こうっつったのは確かに俺だがよ。こうもグースカ寝られるとむかっ腹も立たぁな」

<ヽ`∀´>「まぁまぁ、お金稼いでくれたのは彼なんだし」

(´・ω・`)「それを言われちゃあな……ん?」


連なるブレーキランプの列に、ショボンはジワリと速度を緩めた


<ヽ`∀´>「渋滞?そんな混む時間でも無いだろうに」

(´・ω・`)「確かにな……ああ、なんか検問っぽい」

<ヽ`∀´>「検問?事件でもあったニカ?」

(´・ω・`)「飲酒運転かヤクの取り締まりじゃねーの……幸先の悪ぃ出だしだな」


ショボンはパワーウインドウを開けると、胸ポケットから煙草を取り出し火を着ける


<ヽ`∀´>「ダッシュボードにハッパ残ってるとか無いニダね?」

(´・ω・`)「ああ、吸い切った」

<ヽ;`∀´>「キミさぁ……」

(´・ω・`)「冗談だよ……兄貴にそんなもん買う度胸なんかねえし、使わなくても常時キマってる」

17 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:04:45 ID:9OubR0lk0
一抹の不安を覚えたが、今更あたふたと確認しては余計怪しまれるというもの
ニダーは鼻先に漂う副流煙の臭いを、先ほど購入したアイスコーヒーの香りでかき消し、タブレットを開いて旅程の確認をする


<ヽ`∀´>「ブンマル、ブンゲー、オムライスを経由して……国境をなぞるように聳え立つセブンクロスへ。順調にいけば三日ほどで着くニダね」

(´・ω・`)「まぁそう急ぐこともねえよ。時間も金も余裕があるんだし、観光がてらのんびり向かおうぜ」

<ヽ`∀´>「……」

(´^ω^`)「ブンマルのカジノで一発当て一発ヌくのもあr」

<ヽ`∀´>「前」

(´・ω・`)そ「おっと」


エンジンを吹かし、車はまた十数メートル進んで待機に入る。列の先では、渋滞にイラついた男が警察官に怒鳴り散らしていた


(´・ω・`)「あーあー。人間、ああはなりたくねえな」

<ヽ`∀´>「全くニダ」

(#´゚ω゚`)「テメッ後ろ詰まってんだからイチャモン付けてねえでとっとと消えろオラァン!!!!!!!!」プップーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!

<ヽ;`∀´>「キミさぁ」

18 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:07:57 ID:9OubR0lk0
牛歩の歩みの末、ようやく先頭に到着した頃、ショボンはタバコを三本吸い切り、ニダーはコーヒーを飲み干していた
運転席の窓から顔を覗かせる妙齢の警察官は、炎天下で浮かんだ汗を拭いながら申し訳なさそうに一礼をする


(;´∀`)「ソーリー、薬物取締強化週間でしてね。身分証の提示と荷物検査にご協力頂けますか?」

(´・ω・`)「勿論です。どうぞ」

(;´∀`)「ご協力感謝致します。では、トランクを拝見しても?」

(´・ω・`)「ニダー、開けてやれ」

<ヽ`∀´>「了解ニダ」


ニダーが助手席を降り、シェパードを連れた警官と共に荷物検査へと向かう
その間、ショボンは免許証を腰の低い警官へと提出し、質疑に答えた


( ´∀`)「随分と大荷物ですが、これからご旅行で?」

(´・ω・`)「ええ、街々を巡ってキャンプを張ろうかと」

( ´∀`)「いいですねぇ。私も若い頃は『愛馬』に跨ってシタラバ各地を転々としたものです。タバコを拝見しても?」

(´・ω・`)「どうぞ。何の変哲もないベストセラー『シタラバ・スピリッツ』ですが」

( ´∀`)「……確かに。いや、失礼を致しました。何分、規則なものでして」

(´・ω・`)「いえいえ、我々がこうして暢気な旅に出られるのもあなた方のご活躍あってのものですので」

( ´∀`)「そう言っていただけると、此方もより一層仕事に身が入りますよ……終わったようだ。異常無し、ですね」

(´・ω・`)「当然ですよ。危険なブツなら後部座席でグースカ寝てるブサイクくらいでウッ」


背もたれをガンと蹴られ、思わず言葉に詰まる。恨めかしく視線を向けると、『危険なブツ』はまたわざとらしい寝息を立て始めた


( ´∀`)「ハハ、愉快なお友達ですね……おっと、長話をしてしまっては皆様に申し訳ない。最後に此方を」

(´・ω・`)「はい……?」

19 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:09:41 ID:9OubR0lk0
手渡された一枚の紙には、何頭かの犬の写真。それと、薄汚れた『女の子』の顔写真が載っていた


<ヽ;`∀´>「ふぃー、緊張したニダ……何ですかこれ?」

( ´∀`)「数日前に55号線で保健所の車が事故を起こしましてね。脱走した犬達です。病気の類は持っていないそうなんですが、危険な野良犬には変わりませんので見かけたらご一報ください」

<ヽ;`∀´>「この、女の子は?」

( ´∀`)「ああ、彼女も数日前に捜索願を出されたばかりでしてね。我々も総力を挙げて探してはいるのですが、力及ばず……」

(´・ω・`)「……わかりました。もしも出先で見かけたなら、ご連絡を致します」

( ´∀`)「助かります。お時間を取らせて申し訳ありませんでした。良き旅を」

(´・ω・`)「良い一日を」


挨拶を済ませ、『待ちくたびれた』とでも言わんばかりにエンジンが唸りを上げてタイヤを回す
バックミラーにパトランプの点滅が見えなくなった頃、ようやくニダーが会話を切り出した


<ヽ;`∀´>「……こんな作りのビラ、あるニカ?」

(´・ω・`)「見たことも聞いたこともねえな。犬と女の子同列に扱うようなビラなんてよ。経費削減にしても酷すぎる」

<ヽ;`∀´>「だよね……」

('A`)「見せてくれ」


ニダーからビラを受け取ったドクは軽く一瞥し、首を傾げてこめかみを軽く掻く


<ヽ`∀´>「何か引っかかるニカ?」

('A`)「ん……55線っつってたな?」

(´・ω・`)「ああ」

('A`)「その道の先にも後にも保健所はねえ」

<ヽ;`∀´>「え……いやでも、捕獲の最中だったかもしれないし……」

('A`)「犬を乗せてんなら収容が先だろ。これだけの数なら『満員』だった可能性もある」

20 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:11:23 ID:9OubR0lk0
´・ω・`)「野良犬の捜索を警察が請け負うのもなーんか臭うよな。お前の体臭みたいに」

('A`)「フレグランス。まぁ、そこはポカやらかした保健所がテメーの尻拭いすんのが筋だろうな」

<ヽ`∀´>「陰謀めいたものを感じるニダね……」

(´・ω・`)「……」

('A`)「……」

<ヽ`∀´>「……」


それぞれが想い想いの妄想を頭の中で繰り広げる。同年代の学生と比べ、夢見がちな彼らは
日常の些細な出来事一つでも、余計な肉付けをした話を一晩中繰り広げられる一種の悪癖があった


('A`)「に、しても」


しかし、今日ばかりは。『冒険』初日の今日に到っては。彼らの悪癖よりも『現実』が勝った


('A`)「この犬のツラときたら、間抜けったらねえや」

(´・ω・`)「お前が言うな」

<ヽ`∀´>「お前が言うな」


ドクは運転席と助手席の背もたれを蹴り飛ばすと、両名が同時に息を詰まらせる


(#´゚ω゚`)「っぶねえな事故ったらどうすんだブサイク!!!!!!」

('A`)「そんときゃ犬と一緒にビラに載せてもらえよ」

<ヽ;`∀´>「失踪するの前提?」

22 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:14:31 ID:9OubR0lk0






('A`)「ショボンお前……輪郭が……」

∩´^ω^`)「イッケネ☆」

<ヽ;`∀´>そ「え!?どうなってんの今の!?ヤバくないニカ!?」






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23 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:17:00 ID:9OubR0lk0
―――――
―――



|゚ノ ^∀^)「アンタさぁ、いつもいつも思うんだけどぉ……そのファッションどうにかなんない?」


ブンマルから凡そ七十キロ地点。長距離ドライバーが主なお得意様の古びたダイナーに似つかわしくない『女性客』が三人、ボックス席を占拠していた
一人は、ブロンドの髪を緩い三つ編みにして、ラズベリー・パイを突きながらぼやくカウ・ガール風の衣装に身を包む胸の薄い女


川д川「な、な、なに……も、文句、ある?」


一人は、夏にも関わらず黒一色のファッションをキめ、ジパング・ホラーの幽霊のような長い前髪で顔を覆い隠し
リボンの代わりに、正面の人間に『ピースサイン』を見せる何とも可愛げのない人形の髪飾りを着ける胸の薄い女


(゚、゚トソン「突っかからなくていいですよ。貴女の偏愛は常人には理解しがたいものですので」


タイトなスーツスカートから覗く脚を組み替えながら、音も立てずに熱いコーヒーを啜る胸の薄い女


川д川「わ、わ、わ、私は、インドアなのよ?そ、それなのに、こ、こ、こんな汚い場所まで連れ回して……」

|゚ノ ^∀^)「ウチだってアンタみたいな陰気女とドライブなんてまっぴら御免よ」

川д川「バカスカ撃つことしか能のないトリガージャンキーの分際で……」

|゚ノ ^∀^)「あーら、色気も膂力もないオタクの僻みかしら?」

(゚、゚トソン「やめなさいみっともない。それよりサダコ、この辺りに『いる』のは確かでしょうね?」

川д川「う、う、疑うの?わ、私の『愛』を?」

(゚、゚トソン「いいえ。浮気性ではありますが、貴女の『超常保護対象』への愛は私もレモナも認めています」

|゚ノ ^∀^)「キモいけどね」

(⁼、⁼トソン「レモナ、謹んで」

|゚ノ ^∀^)「はいはい。我らが偉大なるリーダー、トソン女王陛下」

24 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:17:58 ID:9OubR0lk0
サダコと呼ばれた黒尽くめのナード女は、髪飾りの人形を取り外し、うっとりとした表情で眺める

川*д川「はぅ……『予知夢』でこの子たちの夢を見てからずっと頭から離れない……」

|゚ノ ^∀^)「『頭から離れた』じゃない」

川#д川「こんな贋作とは別物よ!!!!!!」


ヒステリックな叫びと、テーブルに拳を叩き付ける音に、まばらな客の視線が一斉に集まる


(゚、゚トソン「何か?」


しかしそれも、鋭い視線と毅然とした口調によって逸らされてしまった


(゚、゚トソン「二人とも、他のお客様のご迷惑になります。自重なさい」

|゚ノ ^∀^)「はぁーい」

川;д川「っ……これだから頭空っぽのブロンドは……」

(゚、゚トソン「サダコ、三度目はありませんよ」

川;д川そ「ヒィッ……」

(⁻、⁻トソン「ハァ……それで、まだ正確な位置は掴めないのですか?」

川;д川「ち、近いのは確かよ……もう一眠りさえすれば、確実に居場所を割り出せる……筈」

(゚、゚トソン「筈?」

25 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:19:07 ID:9OubR0lk0
グロスを塗った艶やかな唇に運ばれたマグカップがピタリと止まり、サダコは慌てて矢継ぎ早に言い訳を繰り出す


川;д川「わ、わ、私が探り出せるのは、超常保護対象の『姿』と『居場所』のみ!!の、の、能力に到っては実際に出逢うまでわからない!!そ、そ、その為に『あなた達』がいるんじゃない!!」

(゚、゚トソン「……つまり、『逃げ隠れ』が上手い可能性があると?」

川;д川「そ、そ、そうよ!!だ、だ、だから私が、わざわざ出向いてきたんじゃない!!」

(゚、゚トソン「引き篭りがちな貴女が『出動』に応じた事には素直に称賛を贈ります。ですが、我々のモットーは『迅速、確実』。時間のロスは世間の混乱を招きかねません」

|゚ノ ^∀^)「はいはいストップストップ」

(゚、゚トソン「むぐ……!!」


トソンの口に突っ込んだフォークを引き抜き、くるりと回してパイに刺す


|゚ノ ^∀^)「そりゃ焦る気持ちもわかるけどさ、『急いては事を仕損じる』とも言うじゃん?」

川д川「クソビ……レモナ……」

|゚ノ ^∀^)「今のフォロー無かったことにしてもいいのよ?」


トソンは口内に広がるホイップクリームの甘さとラズベリーの甘酸っぱさを、上品な咀嚼で噛み砕いてコーヒーで洗い流す
驚きか、それとも甘い物が得意ではない事に依るものか。眉間には皺が寄っていた


|゚ノ ^∀^)「『逃げ隠れ』が得意なら、有意は探査能力に優れるサダコがいるウチらにある。今回もきっとスンナリと終わるわよ」

(゚、゚トソン「……全てを肯定するわけではないですが、一理ありますね。サダコ、失礼を」

川д川「わ、わ……わかればいいのよ、うん」

|゚ノ ^∀^)「にしても」

川;д川そ「あっ!?」


サダコの手から一体の人形を奪い取り、彼女の手の届かない位置へと掲げる
丸めた糸で縫い付けられた小さな『黒点』の目が、面白そうに笑みを浮かべるレモナを見下ろした

26 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:20:09 ID:9OubR0lk0
|゚ノ ^∀^)「ほんっと、笑えるほど特徴の無い保護対象よねー」

川;д川「返しなさい!!返せ!!このっ!!」

(⁻、⁻;トソン「ハァ……」


四頭身あるかないかの全長に、子供の落書きのような、手足や衣服、生殖器を伴わないつるりとした四肢
頭部に髪は無く、顎や頬の輪郭は見られない『円型』。その中心部に、顔と思わしき――――



【 ( ∵) 】

【 ( ∴) 】



『三つの点』が、それぞれ上下逆さまに付けられていた

27 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:22:17 ID:9OubR0lk0
―――――
―――



「ハァ……ハァ……」


「ゴエエ!!」

「ゴェエエエ!!!!!」


なかなか酷だねキミ達も。そりゃあ私の健脚は未だ健在だがね
衰弱した少女を日が暮れるまで歩かせ続けるのは犬の私でもどうかと思うよ?


「ゴエエ」


『あと少しだ』?やれやれ、何度聞いたかなそのセリフ。もしかして、私とキミ達では時間と距離の感覚に若干の差異が生じているんじゃあないか?
それに、助けを求めたいのならもっと人気のある場所を歩くべきとも思うがね。人っ子一人いやしない道路など歩く意味があるのかい?


「ゴエエ!!!!!」


痛……くはないが、どうしたんだい急に?耳を引っ張らないでくれないか?
あの灯りを目指せ?あれは……あー、確か……そう、『モーテル』と言ったかな。人間共が交尾をする場所と聞いたことがある
違う?まぁ、なんでもいいさ。ようやくゴールなら、私も一息つけると言うものだ

28 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:23:03 ID:9OubR0lk0
「ハァ……ハァ……ハ……」


ん?オイオイ、目前で倒れてしまったよ。人間とは数が多い割に体力が伴っていないな


「ゴェエエエ!!!!!」

「ゴエエエエエエエ!!!!!」


また無茶を仰る。運べると思うかい?彼女のサイズの半分にも満たない私が
こうしていつまでも無為な問答を続けるよりも、とっとと『助け』とやらを呼びに行く方が建設的ではないかね?違うか?ん?


「クソイヌ」

「クソイヌ」


オイ今ハッキリクソ犬っつったな?餌にすんぞオラ
……時間の無駄だな。良いだろう、キミ達の案内に彼女の命運を賭けてみようじゃないか
下等な人間と言えども、目の前で死なれては私も少々目覚めが悪いからな。急ごうか

29 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:23:50 ID:9OubR0lk0















.

30 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:25:39 ID:9OubR0lk0
(;´・ω・`)「疲っっっかれたぁ……」

('A`)「そうか?」

(#´゚ω゚`)「ッメっと寝ったろっがッソアアン!!!!!??????」

<ヽ;`∀´>「どうどう……怒りのあまり言葉が追いついてないニダ」

('A`)「俺ぁオメーらが寝てる間に、デカブツと殴り合って稼いでたんだよ。文句あんなら金返せ」

(#´゚ω゚`)「あーーーーーーーーん!!!!?????ならテメーだけ歩いてセブンクロスまで向かうかオラァァァン!!!!!!??????」


埒が明かないと諦めたニダーは、必要最低限の荷物だけ持ってフロントに向かう
今晩の宿は、ブンマルまで五十キロ地点の寂れたモーテルだ。もう少し無理をして辿り着くことも出来たが
初日から疲労を溜めるわけにもいかないという判断から、早めに休みを取ることにしたのだ


(#'A`)「オンコラ……」

(#´゚ω゚`)「スッゾオラ……」

<ヽ;`∀´>「いつまでやってるニダ……メシ抜きにされたいニカ?」

(^A^)「わぁい!!ニダーのご飯大好き!!」

(´^ω^`)「僕、おかわりしちゃうぞぉ!!」

<ヽ;`∀´>「うわキツ……鍵開けてくるから、荷物持ってくるニダ」


用意された部屋は角の四人部屋。上等とは言えないが、このモーテルでは最も値が張る部屋だ
ドアプレートには『スイートルーム』と刻まれていて、余りの似合わなさにニダーは思わずクスリと笑った

31 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:35:30 ID:9OubR0lk0
『スリー・ドット』

広大なシタラバ領の内、セブンクロス山脈、アルファ密林、オッパイモミタイ海にそれぞれ点在する三つのポイントを指す

セブンクロスは『苦痛』
アルファは『平等』
オッパイモミタイ海は『快楽』

人が一生の内に請け負うこれらの要素を、人の姿を為す妖精『Rebel』が司る

また、『Rebel』は『Travel』から派生した名称という説もある
彼らは世界中を廻り、神の気紛れによって人へ『余分』に与えられた三大要素を身に引き受け、一定の周期で『スリー・ドット』から創造主に還すのだ


('A`)「で、その周期ってのが今年の夏……『Rebel』を信仰の対象とする原住民達の祭事がセブンクロスで行われると」

(´・ω・`)「ハハ、散々調べた事を何を今更偉そうにくっちゃべってんだ気持ち悪いな顔が主に」

('A`)「お前今日外で寝るか?」

<ヽ;`∀´>「まぁまぁ、復習は大事ニダよ」

('A`)「しかし、改めて見返してみると『反乱』っつーより『Pay back』って感じはするよな。ニダーこのヌードル美味えよ」

<ヽ;`∀´>「あ、うん、どうも……考察の途中で急に褒められると気持ち悪いニダ顔が主に」

('A`)「お前今日土の中で寝るか?」

32 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:37:35 ID:9OubR0lk0
<ヽ`∀´>「にしても、『平等』はともかく、『苦痛』『快楽』は穏やかじゃないというか……」

('A`)「そん中で一番物騒な『苦痛』から攻めるんだから俺ら命知らず青春ボーイズだよな」

(´・ω・`)「……まぁ、詳細は現地に行ってみねーとわからねーが、『引き受ける』っつーんだからそんなに身構えなくてもいいんじゃねーかな」

('A`)「おいおい随分と楽観的じゃねえかよ。お前『快楽』奪われて生きていけんのか?」

(´^ω^`)「死!!!!!!!!!!!!!!!!!」

<ヽ;`∀´>「『余分』って書いてるくらいだから、全て奪われるワケじゃないと思うニダ……」


大まかではあるが、ショボンが持ち出した資料から読み取れた情報はここまでであった
しかしスリー・ドットの各地点には書物やネットにも『先住民は今も実在する』という信憑性の高い情報は残されている
詳細な場所まではわからなかったが、そこから先は机よりも現地に向かって確認する他ない


(´・ω・`)「とにかく、『先住民』と出逢わなきゃフィールドワークもクソもねえ。セブンクロスに着くまでは無理せず『よく食って寝る』!!これは徹底しよう」

('A`)「だな。身体壊しちゃ元も子もねえ」

<ヽ`∀´>「おかわりいる人」

(´^ω^`)「はい!!!!!」

('A`)「はい!!!!!」


ニダーが二人から空の皿を受け取り、母直伝の『焼きヌードル』を盛りに行こうと腰を上げた瞬間
モーテルのドアから、ノックではなく『カリカリ』と引っ掻くような音が聴こえてきた

33 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:39:21 ID:9OubR0lk0
<ヽ`∀´>「ん?」

('A`)「客か?オメーデリヘルでも呼んだのかよ言ってる事とヤる事違うじゃねえか」

(´・ω・`)「馬鹿野郎だったらお前らがいねー内に済ますわ。こりゃ犬か猫の……」


頭からスッポリと抜け落ちていたが、『犬』という言葉と共に警官から受け取った『ビラ』の存在を思い出す


(´・ω・`)「……まさかな。結構進んだし、こんな場所まで逃げ出した犬がいるわけねえ」

('A`)「俺知ってるぜ?それフラグって言うんだろ。ニダー、シカトしとけ」

<ヽ;`∀´>「いやでも……ずっとカリカリされても困るニダ」

('A`)「悪い病気とか持ってたらどうすんだよ……フロントに電話するか?」

<ヽ;`∀´>「管理人さん、受付した段階でベロンベロンだったから出るかどうか……」

('A`)「どういう危機管理意識してんだよビビるわ」

(´・ω・`)「あーもー適当に追っ払っちまおうぜ」

34 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:40:18 ID:9OubR0lk0
両手が皿で塞がっているニダーに変わって、痺れを切らしたショボンがドアを開く。その瞬間


(∪^ω^)「わんわんお!!!!!!!!」

(´゚ω゚`)そ「うおっ!?」


堰を切ったかのように、一匹の野良犬が部屋の中に飛び込んだ


(;'A゚)「おい何入れてんだオメー!!」

(´゚ω゚`)「うるせえサッサと追い出せ!!」

<ヽ;`∀´>「うわわ、おっと!?」


(∪^ω^)「わんわんお!!わんわんお!!」


犬は必死な男達を嘲笑うかのように部屋を駆けずり回り、テーブルの上に飛び乗る
溢れた食事のカケラなど目にも留めず、ある『重要な物』を口に咥えた


(;´゚ω゚`)「アッーーーーーーーーーーー!!!!!!こいつクルルァのキーを!!!!!!!」

(;'A`)「ドア閉めろ!!逃すなよ!!」

<ヽ;`∀´>「わかっ……たぁあ!?」


テーブルから飛び込んできた犬を、ニダーは反射的に避けてしまう
犬はそのまま開け放しのドアから外へと一目散に飛び出した


(#´゚ω゚`)「何避けてんだテメーーーーーーーーー!!!!!!!」

<ヽ;`∀´>「避けるってあれは!!結構ビビるって!!」

(;'A`)「揉めてる場合か!!追うぞ!!」

35 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:42:41 ID:9OubR0lk0
(#´゚ω゚`)「待ちやがれクソ犬がーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

(#'A`)「保健所に引き渡すまでもなくここでぶち殺したらぁ!!!!!!!!」

<ヽ;`∀´>「ま、待ってニダーーーーーーーーーーー!!!!!」


(∪^ω^)「わんわんおwwwwwwwww」


(#'A`)「速ぇえええええええええええええ!!!!!!!」

(#´゚ω゚`)「せめて見失うなァァァ!!!!!!車がなきゃ俺らの旅は終わりだぞォォォ!!!!!!!」

<ヽ;`∀´>「待……足遅ぇなお前ら!!!!!」


外灯の少ない夜道を、野良犬は『付かず離れず』といった速度で駆け抜けていく
凡そ三百メートルほど進んだ辺りで、草むらの中へと飛び込んだ


<ヽ;`∀´>「ええー……こわ……」

(#'A`)「逃すかァァッ!!!!!」

(#´゚ω゚`)「待てオラ!!!!!!!」

<ヽ;`∀´>「ちょ、キミら躊躇いもなく……ああもう!!」


せめて明かりをと、ニダーはスマホのライトを着けておずおずと草むらを跨ぐ


<ヽ;`∀´>「つ、捕まえ……」

(´・ω・`)「……」

('A`)「……」

<ヽ;`∀´>そ「うわ急に落ち着いてる気持ち悪っ!!何が……」

36 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:44:11 ID:9OubR0lk0
散々喚き散らしていた二人が足を止めた理由は、ライトの明かりがすぐさま示していた


(# ;;- )「……」


<ヽ;`∀´>「子供……?」


生きているのか死んでいるのか、微動だにせず倒れ込む『傷だらけの子供』の側で


(∪^ω^)「ヘッヘッヘッヘッ」


舌を垂らして息を整えながら、足下に涎でベトベトになったキーを置いて
『おすわり』をして嘆願するかのように、人騒がせな野良犬はジッと三人を見上げていた

37 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:47:22 ID:9OubR0lk0
(´・ω・`)「ニダー、ドクも。照らしてくれ」

('A`)「ああ、息はあるか?」

(´・ω・`)「辛うじて、だな。救急車を呼ぶ」


(∪#^ω^)「グルルルルル!!!!!」


ショボンがスマホを取り出した瞬間……と、言うより、『救急車』というワードを聞いた瞬間
野良犬は直前までの行儀の良さが嘘のように唸り声をあげて威嚇した


(;´・ω・`)「こいっ……つ、ご主人が死んでも良いってのか!?ドク、抑えてろ!!」

('A`)「待て」

(;´・ω・`)「何だよ悠長に!!」

('A`)「よく見ろ。『見覚え』がねえか?」

<ヽ;`∀´>「っ……ビラの」


ビラに載っていた、逃げ出した犬と行方不明の少女の顔写真が三人の頭に浮かぶ
写真にはこれほど凄まじい傷跡は残っていなかったが、あどけない顔付きは一致している


(´・ω・`)「マっ……ジかよ……」

<ヽ;`∀´>「……警察に」

(∪#^ω^)「ヴルルルルルルル!!!!!」

<ヽ;`∀´>そ「わぁ!?」

('A`)「……助けを求めてるのは確かだが、然るべき機関への連絡は許さないってか。いい根性してんじゃねえか」


ドクは携帯を仕舞うと、女の子をそっと抱きかかえる
犬は唸りこそ上げなかったものの、眉間には皺が寄り、肉食獣特有の鋭い牙を剥き出しに警戒を解かない


('A`)「テメーの人選だ。最善は尽くすがどうなろうと文句は言うんじゃねえぞ犬公」

(∪^ω^)「……」


返事の代わりに、足元のキーを前脚で蹴り出す。『太々しい野郎だ』と、ドクは鼻で笑った

38 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:49:18 ID:9OubR0lk0
幸いにも、モーテルの宿泊客は彼ら以外おらず、管理人も酔って眠っていた為、誰にも見られる事なく部屋まで戻ることが出来た
ようやくまともな灯りに辿り着けた事で、女の子の身なりが明らかになる。歳は八つか九つか。泥と血で汚れたワンピースを、褐色の肌の上に纏う
頬に刻まれた網目状の刀傷跡を筆頭に、手足の末端に到るまで大小様々な傷跡が残されており、『痛々しい』以外の言葉が見つからなかった


<ヽ;`∀´>「そこのベッドに寝かせるニダ。ショボン、車から救急キットを」

('A`)「あいよっ」

(´・ω・`)「オーライ」


付け焼き刃ではあるが、多少の医学知識を持つニダーが簡単に診察を始める。やはり目を引くのは、夥しい『古傷』の痕


<ヽ;`∀´>「酷い……弾痕や刺し傷まで……縫合すらされていない……」

('A`)「ガキをここまでボロクソにするのも凄まじいが、生きてられるか普通?」

<ヽ;`∀´>「……普通、じゃないかも」

('A`)「見りゃわかる」

<ヽ;`∀´>「違う、ここを」


ニダーは土に汚れた足裏を指す。外気に触れる事が少ないこの箇所にも、細かな傷の跡が残っていた


<ヽ;`∀´>「この子、『何も履いてなかった』ニダね?」

('A`)「ああ、素足のまま歩いてたんじゃねえかな」

<ヽ;`∀´>「だったら、『生傷』があっても可笑しくはないニダ……お湯とタオル!!」

(;'A`)「お、おお」


ぬるま湯で湿らせたタオルで足の裏を拭う
汚れの下に隠されていた古傷が露わになるが『治りかけの傷』は一つも見当たらない


<ヽ;`∀´>「外傷の痕があるのに、『外傷なし』……?」

(´・ω・`)「取ってき……どうしたオイ」

('A`)「ああ、その救急キットいらねえって話をな」

(´・ω・`)「は?」

39 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:50:29 ID:9OubR0lk0
(∪^ω^)<グーペコ!!!!!!!!!


('A`)「必要なのは怪我の手当てより栄養じゃねえか?この汚え犬も含めてな」

(´・ω・`)「病人食やドッグフードなんて買ってねえぞ」

('A`)「あるもん食わせりゃいいんだよ。『わんわん物語』でもスパゲティやってただろ」

(´・ω・`)「お前そのツラでわんわん物語とか観てたの?」

('A`)「名作にツラは関係ねえだろ。ニダー、その子はどうする?」

<ヽ;`∀´>「……」


ニダーはチラリと背後を窺う。『犬』に聞かれたくない話だと察したドクは、屈んで顔を寄せた
ショボンもショボンで『ご馳走』を用意し、犬の気を引く。餌の気配を察してか、尻尾を振って配膳を待っていた


<ヽ;`∀´>「正直、手の出しようが無いニダ。この子がどれだけの期間『外』にいたかは知らないけど、『脱水』の症状が見られない」

('A`)「は?じゃあなんで意識ねえんだよ」

<ヽ;`∀´>「単なる栄養不足……だと思う」

('A`)「曖昧だな」

<ヽ;`∀´>「僕にはこれが限界ニダ。意識がない以上、食べ物や飲み物を無理に口に突っ込むワケにもいかない。最善は『点滴』による栄養補給ニダ」

('A`)「……『そこ』に任せるのが一番ってか」


あえて言葉を濁したが、彼女の身を案じるのならばやはり『病院』へ連れていくのが最善だろう
しかし、犬の態度や身体の異常が、彼らの常識に警鐘を鳴らす。『本当に任せても良いのか』と

40 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:52:58 ID:9OubR0lk0
('A`)「……s (;´゚ω゚`)「うおおおおおおおおお何こいつうおおおおおおおおおお!!!!!!!????????」


(#'A゚)「っるせぇなチンカス野郎今シリアスやってんだろうが!!!!!!!!!!!」


突然の叫び声と、キャンプ用の銀皿がかき鳴らす金属音に二人は振り返る
騒ぎを起こした本人は、突然目の前に『宇宙人』でも現れたかのように血走った目を見開いていた


<ヽ;`∀´>「どうしt……」

(#'A`)「ただのゴキブリだったらお前……」


その視線の先にいた『モノ』を目の当たりにし、二人の言葉は失われる
床にぶち撒けられたヌードルを一心不乱に、犬と


( ∵)「ゴェェェエエエエ!!!!!」

( ∴)「ゴェェェエエエエ!!!!!」


体長十センチにも満たない、『動く人形』が貪っていたのだから

41 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:54:06 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>そ「うおお何それ!!!!?????いつ!!!!!?????どこで!!!!!!!??????」

(;´゚ω゚`)「知るかよなんか知らん間に皿の上乗ってたわ!!!!!!!!」

('A`)「飯に不思議なキノコでも入れてたのかよ。ガンギマリじゃねーかオイ」

<ヽ;`∀´>「入れるかァ!!しっかりするニダ!!」


取り乱す三人を他所に、一匹と二体はお世辞にも上品とは言えない食事を続ける
内、一体は満腹になったのか。ドクとニダーの方を振り向き


( ∴)「ゴェェェエエエエ!!!!」


まるで首を絞められた鶏のような汚い鳴き声を上げた

<ヽ;`∀´>「な、何……?」

('A`)「わかんね……っとぉ!?」


二人の背後から、両脇を押し除けて


(#゚;;-゚)「っ、っ!!」


目を覚ました女の子が、一目散に『食事』に向かう
床に這い蹲り、ヌードルに手を伸ばした所を、ショボンが咄嗟に抑え込んだ

42 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:55:04 ID:9OubR0lk0
(;´・ω・`)「馬鹿野郎!!腹壊すぞ!!ニダー、他の食いもん寄越せ!!」

<ヽ;`∀´>「あっあっ、これを!!」

(#゚;;-゚)「っ……!!」


梱包紙を破ったシリアルバーを目の前に差し出すと、誰にも奪われまいと口の中へと突っ込んでいく
その姿は、およそ栄養不足で倒れていた少女とは思えないほど、野性味と力強さに溢れていた


(#゚;;-゚)「っ……ング」

('A`)「栄養問題は解決したな。今の内にもうちょい気の利いたご馳走でも作ってやれや」

<ヽ;`∀´>「わ、わかった……」


ドクはシリアルバーをもう一本、そしてコップに注いだ水を女の子に差し出す
彼女は暫し三人を見上げた後、今度は少し落ち着いた様子でシリアルバーを齧った

43 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 10:56:58 ID:9OubR0lk0
(;´・ω・`)「っ……ハァ、何から突っ込めば良い事やら……お嬢ちゃん、お名前は?」

(#゚;;-゚)「……」


ドカリと椅子に腰を下ろしたショボンに、咀嚼をしながら顔を向ける
しかし一向に、その口から質問の答えが出ることは無かった。痺れを切らしたショボンは内容を変える


(´・ω・`)「パパやママは?」

(#゚;;-゚)「……」

(´・ω・`)「どこから来た?」

(#゚;;-゚)「……」

(´・ω・`)「ウチは何処だ?」

(#゚;;-゚)「……」


(´・ω・`)「女の子にここまでシカトされんの初めてで泣きそうなんだが」

('A`)「そうか。俺は慣れてる」

(´・ω・`)「自分で言ってて悲しくならないか?」

('A`)「自虐もユーモアさ。アプローチを変えよう。お嬢ちゃん、『喋れるか?』」


(#゚;;-゚)「……」


静かに首を横へ振った。ドクは深呼吸を置き、紙とペンを差し出す


('A`)「文字は書けるか?」

(#゚;;-゚)「……」


『否定』。彼女の意思疎通の方法は『ボディランケージ』に限られる

('A`)「……参ったな、こりゃ」

(´・ω・`)「話せない、書けない……だが耳は聴こえてるし、話の内容は理解している。迂闊に猥談も出来ねえな」

('A`)「お前まだキマってんのかよ問題はそこじゃねえだろ」

44 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:00:12 ID:9OubR0lk0
詳しい事情を聞けるかと期待した分、事態は余計に混迷を極める。二人が頭を悩ませているその時、今度はニダーが驚きの声を上げた


<ヽ;`∀´>「ちょ、駄目ニダ!!二人とも!!」

(;´・ω・`)「なん……オイ何してんだてめえらクソが!!!!!!!」


(∪^ω^)「フンフンフンフン」

( ∵)「ゴェェェエエエエ」

( ∴)「ゴェェェエエエエ」


新たな餌を求めてか、一匹と二体はショボンのバッグに頭を突っ込んで掻き回す
慌てて犬の胴を掴んで持ち上げると、後脚で股間を蹴り上げられ悶絶した


(#´゚ω゚`)「クソ犬……ドク!!その生き物捻りあげろ!!」

('A`)「触って良いもんかこれ?」

(#´゚ω゚`)「ッメーーーーーーの身より俺の荷物!!!!!!!」

('A`)「うーん、人間クズ」


やや躊躇いはしたが、片手に一体ずつ人形を掴んで持ち上げる
しっとりと柔らかい赤児の肌のような手触りと、『骨』を感じさせない掴み心地に、ゾワリと鳥肌が立った


(;'A`)「マジで生き物かよこれ……あーあーなんか引っ張り出しやがって」

( ∵)「ゴェェェエエエエ」

( ∴)「ゴェェェエエエエ」


悪戯が好きなのか、二体は引っ張り出した紙束をばら撒き、やや高くなった声色で『笑う』かのように鳴いた
ドクは手に持ったそれを改めて観察する。皮膚に毛はなく、雄雌の判断はつかない
顔には『目』と『口』と思わしき黒点が付いているが、鼻や唇による起伏はない
違う点を挙げるならば、それぞれの肌色の違いと、黒点の位置が逆さまなくらいだろう

45 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:01:28 ID:9OubR0lk0
( ∵)「ゴェェェエエエエ」

('A`)「緑と」

( ∴)「ゴェェェエエエエカオキモ」

('A`)「ピンk……今喋った?」

(;´・ω・`)「あーあーもう大事な資料をばら撒きやがってクソが……ニダー!!『サシミ』にしてしまおうぜ!!」

<ヽ;`∀´>「え、やだ」

(;´・ω・`)「根性なしが……大体、何なんだよこの生き……」




(´・ω・`)「……『生き物』?」




驚愕の連続で、型に嵌められていた『常識』が、ショボンの頭からすっぽ抜ける
元々『伝説』を追う旅。マトモな思考の持ち主ならば、寝物語か笑い話で済ませる類のものだ

46 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:02:17 ID:9OubR0lk0
(´・ω・`)「スリー……ドット……」


資料のタイトルと、ドクの手に収まる珍妙な『生き物』を見比べる
『スリー・ドット』、『三つの点』。シタラバに位置する三つの地点
生き物の顔に位置する黒点が描く正三角形。伝説の地に生息する精霊
その場所へ向かう者達の前に現れ、数ある荷物の中からそれらを記された資料を引っ張り出した事実


(´゚ω゚`)「……『Rebel』?」


(#゚;;-゚)「……」


(∪^ω^)「わんわんお!!!!!」

( ∵)「ゴェェェエエエエ!!!!!」

( ∴)「ゴェェェエエエエ!!!!!」


『ビンゴ!!』


奇妙な御一行の鳴き声の意味が、ショボンにはハッキリと伝わったのであった

47 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:03:52 ID:9OubR0lk0
――――――
―――



<ヽ`∀´>「お水ニダ」

(∪^ω^)「わんお」


美味い食事に清潔な水。そして使える下僕共!!キミ達を信じて着いてきて正解だったよ。恩に着る


( ∵)「フンス」

( ∴)「ハンス」


調子乗っ……まぁいい。暖かい寝床に免じて今日の所は大目に見てやろう


( ∵)「ゴェェェエエエエ!!」ビチャチャチャ

( ∴)「ゴェェェエエエエ!!」ビッチャビッチャ


それ私の飲み水だぞ水浴びすんじゃねえ噛み殺すぞオモチャ共


('A`)「いやでもよぉ、そんな美味い話があるか?」

(´・ω・`)「そうとしか考えられねえだろ。現に、この子には『生傷』がねえんだろ?セブンクロスのRebelは『苦痛』を請け負う。裸足で外歩き回った怪我を治したんなら説明も付くだろ」

('A`)「これにそんな力があるたぁとても思えねえが……」

(´・ω・`)「『精霊』だぞ?お前と同じで珍妙な見た目に決まってらぁ」

('A`)「よせやい誰がティンカー・ベルだ」


ギャーギャー喧しい連中だな。こっちは疲れているんだ。少しは気を使って貰いたいものだ
まぁ人間如きの低知能生命体にそこまで求めるのは酷か。やれやれ、ここは私が我慢してやるか

48 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:07:14 ID:9OubR0lk0
<ヽ`∀´>「うーん……」

(∪^ω^)「わん?」


なんださっきからこの男ジロジロ見やがって。私の愛らしさに見惚れたのか?
悪いが男に撫でられる趣味はない。あの煩い二人と比べれば少しはマシな野郎とは思うがね


<ヽ`∀´>「汚いニダね……」

(∪^ω^)「お……?」


なんだテメェこの野郎失礼じゃねえかその平べったい鼻噛みちぎるぞオオン??????


<ヽ`∀´>「ショボン、ドク!!ちょっとこの子達にシャワー浴びさせてくるニダ!!」

(#゚;;-゚)「……」

('A`)「お?おー……」

(´^ω^`)「変な事すんじゃねえぞ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

<ヽ`∀´>「誰かと違って子供に欲情するほどクズじゃないニダ」

('A`)「真っ先にその言葉出てくる辺りマージ気持ち悪いわ。死ねよ」

(´・ω・`)「冗談じゃん……」


(∪^ω^)「わん?」


ちょっと待て、シャワー?今こいつシャワーって言ったか?

49 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:09:12 ID:9OubR0lk0
(∪;^ω^)「わんわわんわんわんわわん!!!!!!!」ダバババババ!!!!


<ヽ;`∀´>「ちょ……暴れちゃダメニダ!!綺麗にしないと!!傷だってあるかもしれないのに!!」


余計なお世話だこのダボがぁ!!!!!!!その謎の粘液を私に擦りつけるんじゃねえフレグランスな体臭が落ちるだろうがァ!!!!!!!


(∪;^ω^)「ウォウウォウォウォ……」

<ヽ;`∀´>「どんな感情したらそんな鳴き声出るニカ……?」

( ∵)「ゴェェェエエエエ♪」ワッシャワッシャ

( ∴)「ゴェェェエエエエ♪」ワシャワッシャ

<ヽ;`∀´>「キミらはノリノリニダね……ちゃんと身体洗えるんだ……」


チクショウこいつらは降り注ぐ熱湯に耐え切れるどころか楽しめると言うのか!!
人間の頭の悪い行為など良く真似が出来るものだ!!呆れて言葉も出ないな!!!!


(∪;^ω^)「ピィーーーーピィピィピィ……」

<ヽ;`∀´>「せつなっ……すぐ終わるから……」


早く終わらせろ!!!!!カスが!!!!!!!!!!!!!!!!


<ヽ;`∀´>「……」

(∪;^ω^)「ピィ?」

私の愛されボディを汚い手で弄りながら何処を見ているこの男?ああ……


(#゚;;-゚)「……」


『バスタブ』とかいう拷問器具に沈めたあの子か。子供と言えどメスだ。はしたない人間はすぐに欲情すると聞く
やれやれ、交尾に発展しようものなら少々痛い目を見てもらうとするか

50 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:10:18 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「……キミらは、一体どこから」

(∪;>ω<)そ「ギャウッ!?」

<ヽ;`∀´>そ「あっ!?」


目ぇあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?????????????????


( ∵)「ゴエッエッェwwwwww」

( ∴)「クサwwwwwwwwwwwwwwwww」


<ヽ;`∀´>そ「今喋っ……あ、泡が目に入ったニダね!?ごめん直ぐに……」

(∪#^ω^)「ギャウウウウウウウ!!!!!」ガブゥ!!!!

<ヽ;`∀´>そ「いでででででで!!!!!!」


全く人間とはロクな事をしない!!仕返しに手に噛みついてやったが、私の億分の一程度の痛みで泣き叫ぶとはなんと情けない!!
まぁ私は寛大だし?飯の恩もあるし?下僕の粗相をこの程度で済ませてやった私に感謝して欲しいみたいな?


<ヽ;`∀´>「っつ〜〜〜〜……ご、ごめんニダ……」

(∪^ω^)「……フスッ」


おや、身の程を弁えている下僕だな。これまで私が噛みつこうものなら手や足や、場合によっては棒なんかが飛んできたものだが
犬に個性があるように、人も様々と言う事だろうか。これは一つ発見だな。下等種族も日々進化しているらしい

51 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:12:04 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「あーあー……バスルームで良かったニダ」

( ∵)「ゴェ……」

( ∴)「ゴェ!!」

<ヽ;`∀´>「とりあえず洗って消毒……」


(#゚;;-゚)「!!」ザパァッ


<ヽ;`∀´>「えっ?」

(∪^ω^)「……」


おやおや、もうネタばらしか。粗相してしまったのはどうやら私のようだ
せっかく都合の良さそうな下僕が見つかったというのに、これじゃ元の木阿弥だ


<ヽ;`∀´>「ど、どうしたニカ?」

(#゚;;-゚)「……」


少女が下僕の手を掴む。私も一度救われた『力』。行く先々で何度か目の当たりにしたが
『怯えなかった人間』は一人もいなかった。これも例外ではないのだろう

52 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:12:53 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「ッ……!?」

(#;゚;;- )「っ……っっ……!!」


あの感覚は、何と言うのだろうな……『巻き戻った』か。痛みが傷を受けた直後の『最大値』に巻き戻され、すぐさま無痛となる


<ヽ;`∀´>「傷が……!!」


するとどうだ?何事も無かったかのように『消えてなくなる』
私も『事故』による致命傷を受けて、このように元気で愛らしく生きていられるのも彼女の力によるものだ。但し――――


(#゚;;- )「っ……っっ〜〜〜〜……!!」

<ヽ;`∀´>そ「ああっ!?」


その傷は全て、力を使った『彼女』の身へ還る事となる

53 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:15:44 ID:9OubR0lk0
(# ;;- )「フーッ……フーッ……」

<ヽ;`∀´>「……キミが……って、大丈夫ニカ!?」


(∪^ω^)「?」


おや、これまでの人間とは一味違う反応だな?


<ヽ;`∀´>「血が……あれ、でも、止まってる……傷もそこまで大きくない……けど」

(#゚;;-゚)「……」

( ∵)b「ゴェエエ」

( ∴)b「ゴェェェェエ」

<ヽ;`∀´>「……『苦痛』を、請け負う、精霊……」


ふむ……『コレ』の正体を見抜いたクズと同じく、異常事態に対して冷静さを欠かず頭を回せる人間のようだな
これまで声をかけてきた連中は、どれもこれも取り乱したり腰を抜かすばかりで役に立ちはしなかった


<ヽ;`∀´>「……」

(∪^ω^)「……」


( ∵)「!?」

( ∴)「ゴェッ!!ゴエッ!!」


<ヽ;`∀´>そ「うわっ!?ど、どうしたニカ!?」


おっと、どうやら今夜はゆっくりと眠れそうにない。少し怖いが、この鬱陶しい泡を取ってしまわねば


(∪^ω^)「わんお!!」ダッパァン!!


<ヽ;`∀´>そ「おぎゃあ!?なんなのキミらさっきから!?」


バスタブの熱湯でサッと『水浴び』をして、水気を『ブルブル』で取っ払う。お?なんか毛並みが軽い
グズグズしてる場合では無くなった。これは『警鐘』の鳴き声だ。恐らく直に……

54 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:16:12 ID:9OubR0lk0






『ピンポン♪』





ほら、おいでなすった

55 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:17:43 ID:9OubR0lk0
―――――
―――



部屋に響くチャイムの音に、これからどうするかを話し合っていた二人は身構える


(;´・ω・`)「……」

('A`)「……俺が出る」


『間』の悪さ、あるいは『良さ』に、否が応でも警戒心は湧いて出るものだ
ただの強盗なら、腕に自信があるドク一人でも、『ある物』を持ったショボン一人でも対処が出来る
ドクが自ら申し出たのは、踏んだ場数が育んだ度胸によるポーカーフェイスが効力を発揮すると踏んだからである


('A`)「はいよー、どちらさん?」


平静を装いながら扉を開けると、片田舎のモーテルには相応しくない美女が二人
如何にも『あからさま』な訪問者に、彼の口角はヒクリと歪んだ


(゚、゚トソン「こんばんわ。夜分遅くに申し訳ございません」

('A`)「あー……ピザは頼んでないし、新興宗教なら興味ない。受け付けならあっちだおやすみ良い夜を」

56 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:19:31 ID:9OubR0lk0
一方的に話を切り上げ扉を閉めようとしたが、ブロンドの女が強引に足を入れてこじ開ける
右腿に吊り下げられた『ホルスター』が、ただの一般人では無い事を如実に表していた


|゚ノ ^∀^)「あらあら?こんな真っ暗闇の中、訪ねて来た女性二人を蔑ろにするワケ?」

('A`)「ホラー映画の見過ぎでな。色気に惑わされてどっかの『ホステル』に連れ去られたくはないんでね」

|゚ノ ^∀^)「ふぅん?」

(゚、゚トソン「お時間は取らせません。単刀直入にお伺いします。こんな姿をした『生き物』を拾いになられたのではないでしょうか?」


【 ( ∵) 】

【 ( ∴) 】


差し向けられたスマホの画面には、正しく議題の中心となっている珍妙な生き物の、最も特徴的な部分が映し出されていた

57 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:21:28 ID:9OubR0lk0
('A`)「最近の逆ナンは斬新だな」

(゚、゚トソン「迅速な回答を。此方も余計な時間を使ってはいられませんので」

('A`)「知らねえよ。イカレに構ってるほど暇じゃねえんだ」

(⁻、⁻トソン「……そうですか。残念です」


一軒一軒、身元も明かさず必要最低限の質問を投げかけているのではないのだろう
恐らく何らかの方法で『確証』を持って、ピンポイントで訪ねて来たに違いないと踏んだドクは
彼女たちが打つ『次の一手』を迎え撃つ心構えをした


|゚ノ ^∀^)「ふぅ……骨折り損ね。帰ろっ……か!!」


右手がホルスターに伸びる『予想通り』の行動。拳銃を抜かせない事も出来たが
正当防衛の大義名分を得るために、あえて『握らせる』所までは見逃した


(#'A`)「シッ!!」

|゚ノ;^∀^)そ「!?」


持ち上げた瞬間、肩口に容赦なく打ち込まれた拳に面食らう。腕は大きく振り下がり、掌から拳銃が離れてアスファルトを滑る
ドクは襟首と袖を掴んで身体を引き寄せ、ブロンドの頭を扉に叩き付け手早く失神させた


(゚、゚;トソン「フリーz」

('A`)「断る」


ワンテンポ出遅れたもう一人の拳銃の標準が定まるのを待たず、スライドを掴んで捻り取る


(#'A`)「そらよっ!!」


裏拳を顎先に掠めるように打ち込むと、此方も膝から崩れ落ち意識を失った

58 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:23:20 ID:9OubR0lk0
(´・ω・`)「口ほどにもない奴め」

('A`)「それ俺のセリフ。一晩と経たず追手が現れるたぁな」

(´・ω・`)「身元を調べるか?」

('A`)「いや、とっとと逃げた方が良いかもしれねえ。荷物を纏めろ。それと……まぁこれは車内で話す」

(´・ω・`)「違和感か?」

('A`)「ああ、ちょっとした相違点をな」


<ヽ;`∀´>「今の音な……ちょっと待って身体拭かせて!!」

(∪^ω^)「わんわんお!!!!!!」


騒ぎを聞いてか、バスルームから飛び出したニダーと犬に、思わず二人の気が抜ける


(´・ω・`)「今夜はゆっくり寝れそうにねえ。直ぐに出るからお前は拾いモンを連れてこい」

<ヽ;`∀´>「え?わ、わかったニダ。ドライヤー使う時間は?」

(´・ω・`)「ねえよアホ。ドク、車回して来てくれ」

('A`)「オーケイ」

59 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:23:45 ID:9OubR0lk0
投げ渡されたキーを片手でキャッチし、倒れた女を跨いで駐車場へと向かう
そこにはもう一台、見覚えのないキャデラックが停まっていた


('A`)「ふむ……」


エンジンは掛かっておらず、スモーク仕様のパワーウィンドウも閉じられている
中の様子は覗う事は出来ないが、しばらくジッと観察していると車体が僅かに揺れた
表には出てこなかった『三人目』が、見つからないよう座席の下にでも隠れたのだろうと推察したドクは


('A`)「ハァー……」


そのキャデラックに近づき


(#'A`)「オルァッ!!!!!!!」


ガラスが突き破れるほどの乱暴な『ノック』をした

60 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:24:48 ID:9OubR0lk0
川;д川「ひぃッ!?」


脅しにしては少し酷だろうか。座席の下で頭を抱えて蹲る女を見て、ドクは僅かな反省をした
しかし、身元も明かさず銃を突きつけようとした連中に向ける優しさなど持ち合わせていないと、すぐさま払拭する
ロックを解除せず、ドア越しで勘弁してやるだけ温情だが、掛ける言葉には最大限の『圧』を加えなければならない


('A`)「お仲間に伝えとけ。何の因縁で追っかけてくるかは知らねえが、ここから先は怪我だけじゃ済まさねえ。とっとと帰って『バチェラー』でも観とけってな」

川;д川「ヒッ……ハヒ……」

(#'A゚)「返事はァッ!!!!!????」

川;д川「わか、わかりましたァ!!」


声色にも態度にも『演技』の色は見えない。何故この女があの二人と同行しているのかが気になったが
今は何よりこの場から離れるのが先決と、ドクはミニバンのロックを解除して運転席に乗り込んだ


('A`)「……」


歯に物が挟まったような気持ち悪さは、拭えぬ一方であった

61 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:35:09 ID:9OubR0lk0
―――――
―――



ブンマルに到着したのは午前三時頃。女の子と犬、そして『人形もどき』はスヤスヤと寝息を立てていたが
図らずも厄介な事件に巻き込まれた三人はとてもじゃないが眠れるような状態ではなく
一先ず二十四時間営業のダイナーに身を寄せ、車内にてドクとニダーが話したそれぞれの『異常』について会議を開く事にした


(;´・ω・`)「えーと……女の目当ては女の子と犬じゃなく、あの謎の生き物……っつったな?」

('A`)「ああ、的確な似顔絵まで見せつけてきてな」

(;´・ω・`)「そんでそっちが……『Rebel』は謎の生き物じゃなく女の子の方……と?」

<ヽ;`∀´>「犬に咬まれた傷が女の子の方へ移ったニダ……あの傷跡の多さも、恐らく他人の傷を請け負ったんじゃないかって……」

(;´⁻ω⁻`)「あー……やべえ頭働かねえー……」


疲労と非現実感が集中力を奪い取る。角砂糖を五つ入れた甘いコーヒーは大した効力を発揮しなかった
何はともあれ、彼らは『受け入れ』『抵抗し』『逃げ出した』。早急に答えを出し、行動に移さねばならないのだ


('A`)「『Rebel』があの女の子として……じゃあアレはなんだってなるよな」

<ヽ`∀´>「犬と謎生物」

('A`)「……犬とはあながち無関係じゃねえかもな」

(;´⁻ω⁻`)「ハァーン……?」

('A`)「事故を起こした保健所の車の、『乗客』の一人だとしたら?」


行方不明者と、逃げ出した野良犬。ビラに載っていた、凡そ同列に扱うべきではない両名が
もしも『同じ車』に乗って、『同じ場所』に連れられようとし、『同じタイミング』で逃げ出したとしたら


('A`)「55号線沿いには保健所は無いっつったよな?つまり、犬は拘置及び殺処分以外の目的でどこかに連れて行かれようとしてたのかもしれない」

(´・ω・`)「女の子も一緒にか」

('A`)「ああ。そう考えると同じビラに載っていた理由もある程度の説明が付くし、野良犬と共に行動しているのも納得が出来る」

62 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:36:51 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「何処へ、何をしに……は、考えてもわからないから置いておくとして、あの女の人たちは『謎生物』を探してたニダね?」

('A`)「そこも解せねえ点の一つだな。捜索願が出されてる方はともかく、傍から見りゃメルヘン拗らせた探しモンを大真面目に、それこそ拳銃突き付けてまで聞き出そうとしてたんだ」


来客を告げるドアベルに釣られ、背後をチラリと振り返る。常連であろうくたびれたドライバーが、ため息交じりに店主に挨拶を投げかけていた
脅しの効果か、それともまだ目を覚ましていないのか。追手の気配は未だ感じられない。窓辺から見えるミニバンにも動きは無かった


('A`)「連中の目当てが『Rebel』の女の子だとしたら、それに付属する生き物を尋ねるのはまぁーお門違いだ。それなら警察騙って怪しい野郎三人が部屋に女の子連れ込んだ云々と問い詰めた方がマシだろうよ」

(´・ω・`)「そうしなかったのは……あのビッチ共は女の子と犬については何も知らねえのかもしれないな」

<ヽ;`∀´>「『別件』扱いになってるって事ニカ?」

(´・ω・`)「かもな。そんで、ビラの製作者とも無関係の可能性すらある。検問も怪しいぜ?薬物取締っつーんなら、荷物漁るより尿検査した方が手っ取り早いしな」

('A`)「トランクを検めたのは、『隠し子』を見つける為か。確かに混雑してるとはいえ、雑な仕事ぶりだったな」

<ヽ;`∀´>「つまり……僕らは今現在、二つの組織に追われる身になった?」

(´^ω^`)「頭賢いなお前ェ!!!!!!!!!」

('∀`)「まぁ内一つは俺が事態をややこしくしたようなもんだけどなぁ!!!!!!!!」

<ヽ;`∀´>「アハハハハハ出発して一日も経ってないのに既に拗れてる!!!!!!!!」


一頻りゲラゲラと笑った後、三人はスンと押し黙る。談笑していた店主とドライバーの訝しげな視線を感じたが、構っている余裕はなかった
未知とロマンを求める旅の筈だったが、ゴールに辿り着くよりも遥かに早く向こうから出向いてくるとは思いもしなかったのだから
そして何かしらの良からぬ事情と物騒な追手まで付いてくる。彼らの許容値を遥かに上回っている。だからこそ


('A`)「『らしくなってきたじゃねえか』」


三人は『笑った』

63 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:38:15 ID:9OubR0lk0
(´・ω・`)「全くだ。これくらいのスリルがねえとやり甲斐がねえ」


彼らは、危険が間近に迫った所で、怯えて逃げ隠れするような子供では無く


<ヽ`∀´>「何方にしろ、僕らを頼ってきたのなら応えてやらなきゃ男が廃るニダ」


厄介ごとを他所に放り投げて危機回避するほど、賢い大人でも無かった


('A`)「成し遂げて、見届けようぜ。『伝説』の行末をな」


危険とスリルあってこその『冒険』。心配や恐れといった後ろ向きな感情が入る余地などない
彼らの心身を支配するのは、『眠気』さえ吹き飛ばすような高揚感
握り締めた拳が歓喜に震えるほど、『待ち望んでいたシチュエーション』だった


(´・ω・`)「そうと決まりゃ、道草食ってる場合じゃねえな」

<ヽ`∀´>「うん。最短距離でセブンクロスに向かうニダ」

('A`)「よっしゃ、行くか」


テーブルに代金とチップを置いて、スタートラインを切るような気持ちで店を出た
白み始めた空すら突き抜けそうなほどの、期待感を胸中に抱きながら―――――

64 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:40:47 ID:9OubR0lk0
―――――
―――



|゚ノ #^∀^)「あんのブサイクよくもやってくれたわね……」

苛立たしくハンドルを指で叩き、アクセルをベタ踏みしながら吐いた悪態は
『拳で突き破ったかのように』割れた窓から吸い込まれ、朝の空気と混ざって消える
右肩と頭はまだズキズキと痛み、それが余計に神経を逆撫でした


|゚ノ #^∀^)「追いついたら徹底的に痛めつけた後に『ハロー』に引き渡してやるんだから!!クソッ!!クソッ!!」

(゚、゚トソン「窓に当たるのはやめなさい。これ以上風通しを良くしなくても結構です」

|゚ノ ^∀^)「っるっさいわねぇ!!ボスからの指示はまだなの!?」

(゚、゚トソン「たった今届いたばかりですが、そう頭に血が昇っては話もロクに理解できないでしょう?先に落ち着いてください」


助手席の相方をジロリと睨みつけたが、極めて冷静な視線に貫かれ怒りを収めようと努力を始める
鼻息荒く深呼吸を行い、法定速度を二十キロ近くオーバーしている車のスピードを緩めた


|゚ノ ^∀^)「……オーケー、フゥ、もう大丈夫。話して」

(゚、゚トソン「結構。対象確保の為に『12シスターズ』全員の出動を許可されました。配置については我々に一任されています」

|゚ノ ^∀^)「ワーォ、大ごとじゃない。そこまで躍起になるような代物なの?」

(゚、゚トソン「女性とはいえ、拳銃を持つ相手に先手を取って昏倒させるような男性はそうそういませんし」

|゚ノ ^∀^)「車まで傷物にされたしね。身元は?割れたの?」

(゚、゚トソン「はい」

65 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:43:02 ID:9OubR0lk0
タブレットには、本部に調査依頼を出した『三名』の資料が映し出されている
犯罪歴のない一般人の情報だ。検索には多少の時間が掛かると踏んでいたが、異例のスピードで送られてきた


(゚、゚トソン「『ドク・オーツ』。シタラバ最大の格闘道場を構えていたオーツ家の三男ですね」

|゚ノ ^∀^)「あ、それヒートから聞いたことあるかも。確か三年前に閉館したんじゃなかったっけ?」

(゚、゚トソン「ええ。経営方針の転換が主な理由と囁かれていますが、実際は『身内による道場破り』に依るものです」

|゚ノ ^∀^)「……つまり、そいつが家族全員叩きのめしたって事?」

(゚、゚トソン「進路について揉めていたらしく、会長である祖父、師範の父、免許皆伝の二人の兄を、心が折れるほど徹底的に『説き伏せた』そうです」

|゚ノ ^∀^)「とんでもない脳筋家族ね……もう一人の色男は?」

(゚、゚トソン「『ショボン・バーデラス』。シタラバでも有数の大牧場『バーデラスファーム』の次男です」

|゚ノ ^∀^)「さっきからビックネームが続くわね……」

(゚、゚トソン「驚くべきはそこではありません。兄の『シャキン・バーデラス』はイエローリストに登録されている要注意人物です」

|゚ノ ^∀^)「っ……なるほど、ボスが『変人集団』の総動員を許可するわけね」

(゚、゚トソン「あら、まるで自分は違うとでも言いたげな口振りですね」

|゚ノ ^∀^)「そーいうとこ意地悪だなぁ」


単に返事が愉快だったのか、自嘲が込められていたのか、『変人集団』のリーダーはクスリと微笑みを漏らす
しかしすぐさま何時もの涼しい表情を取り戻し、話を続けた

66 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:44:23 ID:9OubR0lk0
(゚、゚トソン「彼に関しては二年前に消息を絶っています。上層部は『死亡』扱いにしていますが、ボスは水面下で活動していると確信しているようですね」

|゚ノ ^∀^)「イエロー止まりなのは、お上のボンクラ共による慢心ってワケね。これじゃウチらも報われないわ」

(゚、゚トソン「あの三人の行動がシャキン・バーデラスの指示に従ったものである可能性は高いでしょう。サダコが目覚め次第、待ち伏せを配備させます」

|゚ノ ^∀^)「追うウチらと待ち伏せる子達。挟み討ちの形になるわね。シャワーを浴びていたもう一人は?」

(゚、゚トソン「顔こそ見ていませんが、ルームシェア相手の『ニダー・コクソン』に間違い無いかと」

|゚ノ ^∀^)「変わった名前ね。シタラバ人じゃないの?」

(゚、゚トソン「いえ、国籍はシタラバです。血筋は南コリャーですが」

|゚ノ ^∀^)「ふーん。で、その子は?」

(゚、゚トソン「ごく普通の家庭に産まれた、ごく普通の男です。経歴はね」

|゚ノ ^∀^)「じゃー、他に何かあるワケ?」

(゚、゚トソン「面白い特技をお持ちのようでしてね……あら?」

67 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:46:05 ID:9OubR0lk0
川д川「……」

|゚ノ ^∀^)「おはよう眠り姫さん。馬車の揺れ心地はいかが?」

川д川「スピード出し過ぎ……」


後部座席で眠っていたサダコが、掛けられていた毛布を丁寧に畳んで座席に置く
トソンはいつものように、タブレットの地図アプリを起動させて、タッチペンと共に手渡した


(゚、゚トソン「目的地は?」

川д川「セブンクロス……経由地はここ、ここと、ここ……」


丸で印を付けられた街は『ブンマル』『ブンゲー』『オムライス』の三地点
タブレットを受け取り、確認したトソンはもう一点、オムライスからセブンクロス山脈へ向かう唯一のルートにチェックを入れた


(゚、゚トソン「ブンマルには既に到着済みでしょうね……」

川д川「でも……発ってはいないんじゃないかしら……多分……」

(゚、゚トソン「それは朗報です。幸い、近くに待機班がいるので対応を依頼しましょう。立ち寄る場所などはわかりますか?」

川д川「ええ……私からしょ、詳細を伝えるわ……」


『12シスターズ』随一の予知能力に、レモナは関心したかのように口笛を吹く
これまでも行方知れずの超常保護対象を見つけ、その道取を予め『夢』で見てきたのだ
魔法もファンタジーも幻想の生物もいない、退屈で平穏な世界を維持する為には無くてはならない人員だった


|゚ノ ^∀^)「さっすがぁ☆これで見た目が根暗のナードじゃなきゃ様になんのにね」

川#д川「一言多い!!」

(゚、゚トソン「二人とも、気を引き締めなさい。私たちは彼らに一度出し抜かれているのです。これ以上の失態を重ねればボスに顔向けできません」


表情は険しく、視線は獲物を狙う『狩人』のように鋭く前を見据える
抑え込んでいた静かな『怒り』が漏れ出し、サダコは思わず寒気に身震いをした


(゚、゚トソン「反撃開始です。人々の安寧を護る者の挟持を、思い知らせて差し上げましょう」

68 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:51:13 ID:9OubR0lk0
―――――
―――



成功と破滅が同居する、シタラバが誇るギャンブル都市『ブンマル』
かつては『金塊を求める者』達が足を休める砂漠のオアシスに過ぎなかったこの土地は、賭博合法化による莫大な収益を目論んだマフィア達によってカジノやホテルが乱立
後に法律と取り締まりの強化により、裏社会の人間はそれらの経営から手を引くが、大手不動産や大富豪が引き継ぎ現在に到る
賭博、観光、ホテルによる利益は世界でもトップクラスであり、ある者は一晩のスリルと幸運を求めて。ある者は人生の一発逆転を目論んで
煌々と光るネオンは、年中無休で人々の歓声と悲鳴を聴き続けている


('A`)「こんなもんかな」


その中心街から少し離れた商業エリア。日頃から世話になっている大手チェーンマーケットで買い物を済ませたドクは、両手いっぱいの紙袋を抱えて自動ドアを潜った
主に女の子の衣服や野良犬の餌。予定外の出費だが、懐は大して痛まなかった


('A`)「異常なしっと」


両腕からずれ落ちそうになった荷物を抱えなおす。立体駐車場へ踏み出す前に、軽く辺りを見回したが特に目立った異変は見当たらない
行動するにあたって、街中では出来るだけ人気の多い場所を行こうと決めたのは彼だ。古い言葉にもあるように、『木を隠すなら森の中』だ
加えて、人の目が集まる往来では騒ぎは起こしにくいだろうという魂胆もある

69 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:52:11 ID:9OubR0lk0
<ヽ`∀´>「ほい、お帰り」

('A`)「おう、サンキュー」


車内から後部座席のドアが開かれ、ニダーに紙袋を渡す。ショボンは運転席でアイマスクとイヤホンを付け眠っていた


('A`)「異常なしか?」

<ヽ`∀´>「御覧の通り」


(∪^ω^)「グフーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!グフーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

(#゚;;-゚)「……」

( ∵)「ゴエエエエエエエエエエ」

( ∴)「ゴエエエエエエエエエエ」


('A`)「いやわかんない」

<ヽ`∀´>「いびき」

('A`)「ああいびき……太々しいなこいつら」

70 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:53:54 ID:9OubR0lk0
暢気な『拾い物』達とは裏腹に、三人はこれから襲い来る大きな負担に頭を悩ませていた
得体の知れない組織に追われ、逃げるという経験など、恐らく殆どの人間が経験したことのない事態だ
計画の変更に休憩時間の配分。どこから現れるかわからない刺客への警戒。四六時中気を張り詰めなければならない緊張感
どれもこれも三人にとっては未知の領域だ。一晩明けてようやく、この『チャレンジ』の過酷さが身に染みていた


('A`)「奴さんは今頃躍起になって俺らを探し回ってる頃かね……」


紙袋からモンスター・エナジーを取り出し、一息に煽る。独特な匂いと強烈な甘みに、思わず顔を顰めた


(;'A`)「まっじぃ……」

<ヽ;`∀´>「なんで買ったニカ……」

(;'A`)「効くかなって……所でお嬢の服だが、こんなもんでいいか?」


七分丈の夏物ジーンズに、コンバースのスニーカー、無地のTシャツと長袖のサマーニット、鍔広のブリムハット
やや厚着ではあるが、全身の傷跡を隠すには必要最低限と思われる服装を見繕っていた


<ヽ`∀´>「上々ニダ。いつまでも男物のシャツ着せるわけにもいかないしね」

('A`)「俺らなんか悪い事してるんじゃねえかって思えてきた」

<ヽ`∀´>「それを言うな。『ディ』、自分で着れるニカ?」


(#゚;;-゚)「……」


女の子、『ディ』は買い与えられた服を胸元に引き寄せ、小さく頷いた
着替えを見るのは野暮と、男二人は目を逸らし、ドアを閉めようとする。すると―――


(∪^ω^)「ウォフッ」

('A`)「おっと、オメーもか『ビィ』」

( ∵)「ゴエエエエエエエ!!!!!!!!」

( ∴)「ゴエ!!!!!!」

<ヽ;`∀´>そ「キミらは出ちゃまずいって!!『ビコ』、『ゼア』!!」


不思議な生き物、『ビコ』と『ゼア』を背に乗せた『ビィ』が、スルリと車を降りた

71 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 11:55:26 ID:9OubR0lk0
女の子と犬の『仮名』の由来は、シリアルバーのメーカー『B&D』から
生き物たちは顔の三つの点が、それぞれ数学記号の『∵(何故ならば)』『∴(故に)』に見えることから
気に入っているのかどうかはわからないが、それぞれが自身に付けられた名前であると認識はしていた


('A`)「ジッとしてろってのも酷だぜ?こいつらだって小便もクソもしてえだろうしな」

<ヽ;`∀´>「そ、それもそうニダね……ディも着替えたら連れて行かないと」

('A`)「俺が見とくよ。オメーはこいつらとちょっと息抜きしてこい」

<ヽ;`∀´>「……体よく面倒を押し付けようとしてない?」

('A`)「おおよくわかったな。フンは持ち帰れよ」

<ヽ;`∀´>「ハァ……アイ・サー」


(∪^ω^)「フスッ」


『行くぞ』とでも言いたげに鼻を鳴らしたビィに続き、ニダーは助手席から自身の手荷物を持って街へ向かう
その背中を、ドクは車にもたれ掛かり姿が見えなくなるまで見送った


('A`)「……」


買い物客が車に乗って、出口のスロープまで走らせる。入り口側からは、駐車スペースを探す別の買い物客がカーブを曲がった
賑やかな街の喧騒と、店内から漏れ出すポップなオリジナルBGM、出ては入る車のエンジン音に耳を傾け


('A`)「……そろそろ良いだろ」


他人の姿が見えなくなった時を見計らい、ドクは『何者か』に語りかけた

72 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:03:05 ID:9OubR0lk0
('A`)「どうやら、俺に御用のようだな。話なら手短に頼むぜ?寝不足が祟って居眠りしちまうかもしんねえからな」


階を記す『3F』のパネルが貼り付けられた柱の影が揺れ、『何者か』はゆっくりと姿を現せた

ノパ⊿゚)「……」


跳ねっけが強く、炎のような赤髪に、気合の入った鉢巻を締め
同じく赤いタンクトップと短いボトムを、女性特有のしなやかな筋肉に纏っている
一見、コスプレイヤーの類にも見えるが、拳のバンテージの巻き方は素人に容易く行えるものでは無かった


('A`)「……」

ノパ⊿゚)「押忍!!」

('A`)「押忍じゃねえ」


多少の変人である事は覚悟の上だったが、『ストリート・ファイター』にでも出てきそうな女だったのは想定外で
いつもの軽口も頭からすっぽ抜けてしまい、ごく普通の返ししか出来なかったのを悔いた


('A`)「あいや、失礼。コミコンの会場はここじゃねえぞ」

ノパ⊿゚)「ドク・オーツ!!!!!!!!」


見ず知らずの他人、それもあからさまに『格闘技やってます』とアピールしているような手合いに本名を呼ばれる
ドク個人にとって、それは面倒ごとの前触れであった。不快感を洗い流そうとモンエナで口内を満たすが、気に入らない味はより一層の増長を促した


ノパ⊿゚)「並びに、ショボン・バーデラス!!!!!!ニダー・コクソン!!!!!我らがボス『C』の名において、速やかな投降を求める!!!!!!!」

('A`)「知らねえカノジョに着いてっちゃいけねえってママに教わったんでな。そりゃ聞けねえよ。それに、ニダーは今し方散歩に出かけたばっかだぜ?」

ノパ⊿゚)「承知!!!!!!!我に下された指令はドク・オーツ!!!!!!!!お前の無力化だからだ!!!!!!!後の事は『ハイン・タカオカ』に任せてある!!!!!!心配無用!!!!!!!!」

('A`)「……仲間の名前、ベラベラ喋ってもいいんか?」

ノハ;゚⊿゚)「しまったあああああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」


『なんでこんなアホを俺に寄越したんだろう』。ドクは自身が軽く見られているように思えて酷く心外であった

73 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:04:53 ID:9OubR0lk0
ノハ#゚⊿゚)「おのれェ!!!!格闘家にあるまじき卑劣な誘導尋問!!!!!恥を知れ!!!!!!」

('A`)「格闘家なんざ名乗った覚えはねえし、今のはアンタの自爆だろうが」

ノハ#゚⊿゚)「問答無用!!!!!!」

('A`)「最初から問答する気には見えなかったがなぁ」


彼女の顔は見る見るうちに髪と同じ色に染まっていく。煽り易い人間だった。それ故に、大した面白味も無い
『やぁ、困ったぞ』と旋毛を中指で掻きながら、ドクはこのけったいな女を送った組織について推理をする
正直な話、人海戦術に任せて多勢で攻められた方が此方としては厄介であった。そうしなかったのは、単純に『人数が少ない』から
『少数精鋭』とも言い換えられる。モーテルでの出来事にしろ、現状にしろ、これほど的確に居場所を特定出来るなら、それほど人手を割く必要もない


ノハ#゚⊿゚)「悪党はよく口の廻るモノ!!!!!!これ以上貴様のお喋りに付き合ってやる義理もなし!!!!!!!」


ダン、と一歩踏み締め、空手の構えを取る。コンクリートの床に僅かなヒビが走った
頭は賢くないようだが、自身の生い立ちを知って挑むだけの実力と自信はあるらしい
『少数精鋭』の線は濃くなった。ニダーを追う『ハイン・タカオカ』とやらも、何かしらの特技を持っているに違いない


('A`)「ちょっと待て」

ノハ#゚⊿゚)「命乞いか!?」

('A`)「ちげーよ」


ドクはポケットからスマホと財布を取り出し、助手席のドアを開いて投げ入れる
ついでに、飲みかけのモンエナをドリンクホルダーに納めた。ふと、運転席に目をやると、アイマスクから寝ぼけ眼が覗いていた

74 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:06:18 ID:9OubR0lk0
(´・ω・`)「……異常か?」

('A`)「いんや、別に?」

(´・ω・`)「そうか」


短くそれだけ交わすと、ショボンは再び仮眠へと戻る。後部座席では、着替えを済ませたディが行儀良く座っていた


('A`)「少し待ってな。野暮用済ませたらアイスでも食いにいこうぜ」

(#゚;;-゚)「……」


相変わらず返事はなく、女のいる方とは逆の窓に目を向けて、代わり映えしない景色を眺めた
何事に対しても興味は薄いらしい。ドクは気まずそうに瞳を流すと、助手席のドアを軽く閉じた


ノハ#゚⊿゚)「その少女は何者だ!!!!?????ゆ、誘拐したのか!!!!!?????」

('A`)「悪いな。ガッコのセンセじゃねえもんで、なんでもかんでも教えてやれねえんだ」

ノハ#゚⊿゚)「っ……戯言をッ!!!!!!!」


『やはり』。頭は悪いが、彼女は有力な情報を与えてくれた
ディとビィについては認知されていない。追っているのは、ビコとゼアに絞られる
的確な探索能力も、恐らくあの二体を起因にしたものだろう

75 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:08:01 ID:9OubR0lk0
('A`)「とっとと済ませちまおうぜ。この後、デートの予定があるんだ」

ノハ#゚⊿゚)「フン!!!!!貴様のような醜男に、靡く女がいるものか!!!!!」


心無い言葉に、ようやくドクの神経がピキリと苛立つ
売り言葉に買い言葉と言ってしまえばそれまでだが、気の合う友人でもない初対面の女に容姿を貶されるのは、誰だって快いものではない
頭も悪ければ、礼儀すら知らない。『女性だから』という理由で手心を加える義理はたった今失くなった



('A`)「ハァー……聞いてるか聞いてないか知らねえけどよ、俺はアンタらのお仲間に『追ってくるなら容赦しねえ』って忠告してやったんだぜ?」

ノハ#゚⊿゚)「フン!!!!!!容赦しないのは此方のセリフだ!!!!!!大人しく身柄を引き渡せば痛い目に遭わず済んだものを!!!!!!」

('A`)「ハハ、恐いねえ。一度も拳を合わせてない相手に対して、根拠の無い自信を振りかざせる傲慢さがよ」

ノパ⊿゚)「……根拠が無いかどうか、試してみるか?」


意外にも、彼女の血の気は急激に引いていく。このまま激昂させようとしたが、オンオフの使い分けは出来るらしい
『少数精鋭』。人数の少なさをカバーし、更に凌駕するだけの実力を持った選ばれし部隊。只者ではないのは、肌感覚で伝わってくる


('A`)「……ああ、それも良いかもな」

76 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:09:18 ID:9OubR0lk0
車から離れ柱を背にすると、右腕を前、左腕を後、掌は握らず自然に開かせた
肩幅と踵を揃え、腰から背骨にかけては真っ直ぐ伸ばし、膝はやや曲げる
『空手』と同じく東洋の武術。世界最大の人口と歴史を誇る『チャイニー』発祥の――――


ノパ⊿゚)「『詠春拳』」

('A`)「……まぁ、それを元にしたオリジナルだけどな」


移民国家であるシタラバには、血と同じく多くの文化も流れ着く。『格闘技』もその中の一つであり
ドクの曾祖父が独自の解釈を加えて編み上げたのが『オーツ流格闘術』である


ノパ⊿゚)「……偉大な格闘家の血を引き継ぎながら、先祖代々築き上げた道場の幕を引いた男が」


ズリ、ズリと、互いに摺り足で距離を詰める


ノハ#゚⊿゚)「この期に及んでッ!!親兄弟より授かった技を使い続けるなどッ!!恥さらしも良いところだ!!」

('A`)「アンタの価値観なんざ知ったこっちゃねえしどうでもいい。聞く気もねえしすぐ忘れるからな」

ノハ#゚⊿゚)「……今だけは、『仕事』よりも優先しよう。貴様の師とッ!!『武』を学ぶ居場所を奪われた格闘家候補生達の無念を晴らすことをッ!!!!!」

('A`)「そりゃご立派で」

ノハ#゚⊿゚)「『ヒート・バニング』ッ!!参るッ!!!!!!!!!!!!」

77 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:10:57 ID:9OubR0lk0
拳の射程圏内に入るとすぐさま『ヒート』が仕掛ける。中段、正拳突き


('A`)「……」


真正面から受け止めるようなことはせず、大きく真横へ逃げる
鋭い『拳筋』がTシャツと、その下の薄皮を切り裂く。通り過ぎた拳骨は、鉄筋コンクリートの柱に小さなクレーターを作った


('A`)「ヒュゥッ!!やるじゃねえか!!」

ノハ#゚⊿゚)「フン!!今のはほんの小手調べに過ぎない!!上手く逃げたようだが、次の一撃で貴様は我が『鉄塊拳』によって地獄へ墜ちるのだからな!!!!!!」

('A`)「なるほど」


なんと口の軽い女だろうか。それも自信の裏付けなのだろう
『鉄塊拳』。気を練り上げ、人体に行き渡らせることで筋肉を『鉄』のように硬化させる武術。当然、格闘技の世界に身を置いていたドクもその名に聞き覚えはあった
しかし『気』などという曖昧なエネルギーを真に理解する者は少なく、実戦で使用するには莫大な歳月を要するとも聞く
才能もあるだろうが、やはり鍛錬によって積み重ねられた納得の一撃。ドクは素直に称賛を贈りたい気分だった


('A`)「いや、思わず避けちまうほどの迫力だったんでな。次は真面目に食らってやるよ」

ノハ#゚⊿゚)「……『傲慢』など、よくも嘯けたものだな!!貴様に似合いの言葉だ!!」

('A`)「さっきから待ってんだけどまだ打たないの?」

ノハ#゚⊿゚)「ッ……この一撃でッ!!!!!その減らず口ごと打ち砕いてくれるわッ!!!!!!!!!!」


再び、中段正拳突き。肋骨中央部に向かって真っすぐ進んでくる。宣言通り『真面目に食らえば』、ドクと言えど重傷は免れない
だが彼は誇り高い格闘漫画の主人公でもなければ、試合中のアスリートでもない。頭にあるのは無傷で、労力を使わず、最短で、この『無駄な時間』を終わらせる事だけ

78 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:11:19 ID:9OubR0lk0
('A`)「シッ!!」

ノハ;゚⊿゚)そ「!?」


右手で手首を掴み、力と速度に逆らわず身体を捻りつつ斜めに『流す』。ヒートの身体はズルリと引っ張られる形となった
引いた右腕の遠心力により、左肩は前に出る。伸びきった彼女の右肘に、自身の左肘を当て――――


('A`)「よっ」

ノハ; ⊿ )そ「うっ……!!!!!」


『押し出す』。ポコポコンと気の抜けた音に反して


ノハ; ⊿ )「あああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!」


『脱臼』により肘が逆方向に曲がったヒートは、悲痛な叫び声を上げた

79 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:12:28 ID:9OubR0lk0
('A`)「……オーツ流武術、『骨抜き』」


手首を放すと、外された橈骨の先端が、肉と皮膚を下から突き上げ隆起を形成していた
踏み込みによる体重移動を、小さな『支点』に集中させて間接を外すオーツ流のサブミッションである


:ノハ; ⊿ ):「なっ……ハッ、ヒィ、なっ……」


浅い呼吸を繰り返し、蹲って力の入らなくなった右腕を抑える彼女に、先ほどまでの威勢は全く見られない
『何故?』という言葉一つすらまともに話せないヒートに向かって、ドクは変わらない声色でネタばらしをした


('A`)「鉄塊拳。いや、見事な出来栄えだったよ。だがアンタ、『鉄』っつーもんを理解してねえ」

:ノハ; ⊿ ):「……?」

('A`)「案外な、脆いんだよ。硬ければ硬いほど、力を加えれば簡単に折れちまうほどにな。アンタ真面目そうだから多分、徹底的に『硬さ』を追求したんじゃねえのか?」

:ノハ; ⊿ ):「っ……うう……!!」

('A`)「鉄塊拳は『サムライ・ブレード』のように、硬い外の『皮金』と柔らかな内の『心金』が揃って初めて他に類を見ない攻撃と防御が可能になる。つまり、『良い加減』で硬さの鍛錬は止めとくべきだった」

:ノハ; ⊿ ):「うううううう……!!!!」


痛みか、それとも軽蔑していた相手に教えを説かれる悔しさからか。足下にはポツリポツリと水玉が出来上がる
ドクはヒートに近づくと、屈んで視線を合わせた。それは決して、スポーツマンシップに則った言葉を贈る為では無く

80 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:13:04 ID:9OubR0lk0






('A`)「よくもまぁ、その程度の腕前で『無念を晴らす』とイキれたもんだ」


ノハ; ⊿ )そ「ッ!!」








宣言通り、『怪我だけでは済ませない』為であった

81 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:14:21 ID:9OubR0lk0
('A`)「ご立派だよ。格闘家を代表して『恥さらし』の俺に目に物を見せてやろうした姿勢はな。相手の力量も計れず、根拠のねえ自信を抱いて、テメーの手の内をベラベラとくっちゃべりながら、それでも勝てると踏んだんだろう。尊敬するよ、その厚顔無恥な生き様に」

:ノハ; ⊿ ):「違っ……」

('A`)「いるんだよなたまに。俺のクソ家族と直接の関わりもねえ『誇り高きファイター』が、アンタと同じように『無念無念』と息巻きながら喧嘩売ってくんの。足りねえ頭じゃ、他所の家庭事情にズカズカと踏み込んでくるのはタブーだってわかんねえか?なぁ?」

:ノハ; ⊿ ):「……」

('A`)「逆に教えて欲しいんだがよ、やりてぇ事を否定され、親兄弟が決めた将来を強制させられたら、アンタらならどうする?黙って言いなりになるか?ならねえよな。人を殴る事しか能のねえ連中が、素直に聞き入れるわけねえもんな」

('A`)「俺は格闘家じゃなくて『学生』で、『冒険家』だ。世界で一番強くなりたいわけじゃねえし、熱いバトルとライバルとの友情も望んじゃいねえ。格闘術は手段の一つであって目標じゃねえ。お家を潰したのも、俺が俺のしたいようにする為に『仕方なく』やったに過ぎねえ」

('A`)「わざわざ説明すんのも面倒だから、二度と歯向かう気が起きねえくらい完膚なきまでに叩き潰すんだがよ。アンタしつこそうだし頭も悪いから懇切丁寧に教えてやるぜ」


ドクはヒートの髪を鷲掴みにし、無理やり顔を上げさせる
涙と鼻水でグチャグチャになった顔面に、唾でも吐きかけんばかりの侮蔑の表情を向けてこう言い放った


('A`)「喧嘩の一つもマトモに出来ねえ雑魚が、俺らに関わってくんじゃねえ」

:ノハ ;⊿;):「ッ……う、あああああああああああああ!!!!!!」


『格闘家』のプライドは、全て自らの強さに乗っかるものだ
彼らの心を折るには、『敗北』だけでは事足りない。そこに『言葉』を上乗せしなければ、更に強くなろうと研鑽するからだ
ヒートがもしも、対戦相手に敬意を払い、謙虚な精神を持っていたならば、言葉による効果も薄れただろう。だが


:ノハ ;⊿;):「あ、あ、ああああああああああああ!!!!!!」


傲慢な『心』で臨み、付け焼き刃の『技』に傲り、努力の方向性を違えた『体』で挑んだ彼女にとって
ドクの言葉は、脱臼の痛みを遥かに上回る『激痛』となって、プライドをズタズタに切り裂いた

82 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:15:55 ID:9OubR0lk0
('A`)「失せろコスプレガール」


投げ棄てるように髪を放すと、シャツの切れ具合を確かめながら車へと戻る。お気に入りではないが、もう着れそうには無かった
ドアを閉めると、ショボンはアイマスクを取ってエンジンを吹かす。長居すれば面倒になる
現に、ちらほらと野次馬は増えていた。警備員が駆けつけるのも時間の問題だろう


(´・ω・`)「相変わらずえげつねえな」

('A`)「安静にしてりゃ直に治る怪我だ。後遺症だって残らねえよ」

(´・ω・`)「モテねえワケだよ」

('A`)「やかましい」


スマホを手に取って簡単なメッセージをニダーへ送ると、窓辺に肘を突いて小さく蹲るヒートを眺めた
心を折った手応えはあった筈だが、意外にも此方へ向けてくる視線は怒りと怨嗟が込められている
だからと言って、特に深い感慨もない。ドクにとっては路端の石ころを蹴飛ばしたら、爪先に跳ね返ってきたようなものだからだ
冷めた表情を崩さぬまま、彼はマーケットから出た時と同じ言葉を呟いた


('A`)「異常なしっと」


『くわ』と欠伸をして、残ったモンエナを流し込み、しかめ面をした
分かり易い待ち伏せをしていた刺客より、不味い飲料の方が彼にとっては脅威であった

83 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:17:33 ID:9OubR0lk0
―――――
―――



車は好かない。乗っていなくとも、アレは尻から嗅ぐに堪えない『屁』をずっと放き続けているからだ
それにデカくて速くてすぐには止まれない。前に一度、喧嘩相手が車に衝突されて二度と動かなくなった
奴の迂闊さによる自業自得ではあるが、あの時ばかりは少々不憫に思えたものだ


(∪^ω^)「ヘッヘッヘッ」

<ヽ`∀´>「あっついニダね……」


当然、賢い私はそのような無様を晒すような真似はしないし
首輪とリードを着けられないとまともに外も歩けないような駄犬とも違う
ビュンビュンと通り過ぎる車を横目に、初めて通る街並みを優雅に散歩するなど造作も無い


( ∵)「ゴエエエエエエエ!!!!」

( ∴)「ゴエッエ!!!!」


テメーらは自分で歩けよ


(∪^ω^)「フスッ」


「やだー、何あの子かわいいー♪」

「よく出来た人形だなぁ」

「お兄さん、写真撮っていい?」

<ヽ;`∀´>「えっ、あっ、ごめんなさい!!」


と、ここで私の愛くるしさに魅了された見る目だけはあるクソ人間共が何人か話しかけてきたが
この不躾な男は慌てた様子で私達を抱き上げ走り出す。なんだお前私を独り占めする気か?


<ヽ;`∀´>「ヤバいヤバい堂々と歩いてたら大丈夫と思ってたけど絶対SNSに投稿される!!」

(∪#^ω^)「ヴルルルル……」

<ヽ;`∀´>そ「ちょっと我慢して!!」

84 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:18:18 ID:9OubR0lk0
人気のない路地裏に身を隠すと、ニダーと名乗る男は息を切らせながら腰を下ろした
車以上の乗り心地の悪さだった。不快感を振り払う為に身震いをする。毛が軽いな水責めも悪くない


<ヽ;`∀´>「ちょっと油断し過ぎニダね……ビコ、ゼア、鞄に入ってて貰えないニカ?」

(∵ )ミ「ゴエッ!!」プイッ

(∴ )ミ「ゴエッ!!」プイッ

<ヽ;`∀´>「嫌そう……」

(∪^ω^)「フヌッ……」


私はウンコをした


( ∵)「エンガチョ」

( ∴)「センエンガチョ」


なんだその鳴き声

85 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:19:30 ID:9OubR0lk0
(∪^ω^)「わんお」


砂は無いが、一応脚で地面を掻き上げて『儀式』を済ます
ウンコが原因で人間に追われる事もあるのだ。したら、隠す。これが出来る名犬の嗜みだ


<ヽ;`∀´>「よいしょっ……すげーするじゃんキミ」


なんでこの男は私のウンコを袋に入れたのだろうか。後で食べるのだろうか
私はとんでもない変態共を下僕にしてしまったようだ。これは教育の必要があるな


( ∵)「ゴエッ!!」

( ∴)「ゴエゴエ!!」


(∪^ω^)「?」


なんだ急に?空なんて見上げて。フライドチキンでも降ってくるわけじゃあるまいし……


「いっただきぃ!!」


<ヽ;`∀´>そ「えっ!?」


雌の声と共に、砂埃が巻き上がる。目が痛い!!!!!
前脚で必死に拭って彼らに向き直ると、先程までいた場所から忽然と消えていた


<ヽ;`∀´>「な、ななななな……」


「フフ、フハハハハ!!何者かと問われれば、答えぬワケにはいくまいな!!」


人間の『毛皮』に疎い私でも、この騒々しい街中に似合わないとわかる格好をした頭の可笑しそうな女は
手に持つ『友人』を高々と掲げて、呆気に取られる私と下僕に向かってこう吠えた

86 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:20:28 ID:9OubR0lk0




「闇に生き、闇に溶け、闇を愛する暗黒のアサシン!!ジパング産まれシタラバ育ちの俺の名を、とくと心に刻み込め!!!!!」



从 ゚∀从「我こそはニンジャ、『ハイン・タカオカ』!!!!!明日の平和を守る為、この超常保護対象は頂戴致す!!!!!!」ドッカァァァン!!!!!!!!!!



<ヽ;`∀´>「……」

(∪^ω^)「……」


変態のお手本みたいな奴が出た

87 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:21:56 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「いや、あの……今、お昼過ぎニダ」

从 ゚∀从「そうだな!!!!!」

<ヽ;`∀´>「ごめん思った以上に混乱してる今の無し。ご用件は?」

从 ゚∀从「用件ならたった今済んだ所だ!!!!呆気なかったがな!!!!ノコノコとお散歩なんてしてるからだヴァーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!!!!!!」

<ヽ;`∀´>「どうしようビィ、返す言葉がない」


知らんがな


从 ゚∀从「我々にとって一番の脅威である『ドク・オーツ』と目標が分断されたのは幸運だった!!と言っても、今頃『12シスターズ』屈指の燃えて萌える格闘ガール『ヒート・バニング』にコテンパンにされているだろうがな!!!!」

<ヽ`∀´>「えっ?もしかして、ドク相手に刺客送った?」

从 ゚∀从「その通りさ!!!!ざまぁみろヴァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!!!」

<ヽ;`∀´>「今すぐ呼び戻した方が良いニダ!!」

从 ゚∀从「世迷い言をほざくくらいならお友達の心配した方が良いぜ!!」

<ヽ;`∀´>「ドクを喧嘩が出来るだけのブサイクだと思ってるならお門違いニダ!!あいつの一番ヤバい所は顔m……二度と立ち上がれないくらい心をバキ折る口の悪さニダ!!」


(∪^ω^)「……」


確かに奴は犬の私からしてみても可哀想なくらい醜いが、仮にも友人の事をすげー罵るじゃんこいつ


从 ゚∀从「そっか!!!!あの子『奴には格闘家としてわからせないといけない』ってメスガキに舐められる竿役おじさんみたいな事言ってたけど逆に……」

从;゚∀从そ「み……操の危機!!!!!!?????」

<ヽ;`∀´>「そこまでクズじゃないニダ!!」


喋ってねえで早くあいつら取り戻せよ

88 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:23:13 ID:9OubR0lk0
从;゚∀从そ「ハッ!?そもそもあの子が勝てば何の問題もない話じゃんか!!危うく薄い本展開に発展してしまう所だ!!」

<ヽ;`∀´>「ねぇキミさっきから何の話してんの!?ジパングの呪文!?」

从;゚∀从「ちょ、ちょっと待ってろ!!電話して確認するから!!」

<ヽ;`∀´>「え、あの、その子たち返して……」


( ∵)「……」

( ∴)「……」


何を顎杖着いてんだあいつら余裕か?


<ヽ;`∀´>「ど、どうしようか……?」

(∪^ω^)「ウルン」


私に訊くなよ

89 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:23:46 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「と、とにかく、こっちからも連絡を……」


下僕はポケットから『スマホ』と呼ばれる板を取り出すと、一目見て瞼を閉じた


<ヽ;´∀`>「遅かった〜〜〜〜〜……」

(∪^ω^)「わんお」


どうやら危惧していた事態は既に終わっていたらしい。ブサイクにボコボコに打ち負かされて言い負かされるのってどんな気持ちなのだろう


从;゚∀从「ひ、ヒーちゃん!?ねえ大丈夫!?酷い事されてない!?え!?脱臼!!!!?????」

<ヽ;´∀`>「わぁ……」

(∪^ω^)「ウォウ?」

<ヽ;´∀`>「すげー痛い怪我ニダ」

(∪^ω^)「フスッ」


多分まともな方法で『つがい』は見つからないんだろうなあの男

90 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:25:27 ID:9OubR0lk0
从;゚∀从「うん……うん……わかった。こっちは上手くやるから」


向こうの話も終わったらしい。さっきまでのやかましさは何処へ行ったのだろうか
そんなに酷い目に遭わされたのだろうか。顔も酷ければやる事も酷いとは。やはり人間はクソ


从;゚∀从「……」

<ヽ;´∀`>「その……お気の毒に……」

从;゚∀从「いや……此方こそ失礼があったみたいで……」


(∪^ω^)「……」


何だこの時間


从;゚∀从「申し訳ないんだけど急いで戻らないと……ごめんね!!今度埋め合わせするから!!」

<ヽ;`∀´>「う、うん!!気にしないで!!此方こそご迷惑かけてごめんニダ!!」

从;゚∀从「じゃっ!!」ビャッ!!

<ヽ;`∀´>「その方に謝っといてー……って」


<ヽ#`∀´>「ビコとゼアは置いてくニダァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」ダッ!!!!!!!


<チクショウこのままビャッと逃げられると思ったのによォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!


(∪^ω^)「……」


なるほど、これが『茶番』か。私はまた一つ賢くなった

91 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:26:07 ID:9OubR0lk0
(∪^ω^)「グゥ」


人間どもはあっという間に走り去り、見えなくなる。どんくさい男だと思っていたが、存外足が速い
さて、私はどうするか。正直な話、義理は果たした。これ以上彼らの面倒を見ずとも責められはしまい


(∪^ω^)「……」


反対側へと歩き出そうとしたが、何故だか前足は進まない
私ともあろう犬が、情に絆されたか?フン、まさか。ただもう少し―――――


(∪^ω^)「わんわんお!!!!!」


もう少しだけ付き合ってやった方が、『面白そうだ』と思っただけさ!!!!!!

92 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:28:36 ID:9OubR0lk0
―――――
―――



https://res.cloudinary.com/boonnovel2020/image/upload/v1588208777/47_rxablb.jpg


<ヽ;`∀´>「ごめんなさいごめんなさい!!通して!!」


お気に入りの革靴は、全力疾走に向いていない。ニダーは『ハイン・タカオカ』たる女性を見失わないので精いっぱいだった
言い訳をしても仕方が無いのは重々承知だが、せめていつもの『シューズ』に履き替えておくべきだったと後悔する
ギャンブルで稼いだ金を回収するブランド店が立ち並ぶショップ街を、『忍衣装』の女は場違いな恰好も気にせず駆けていた


从 ゚∀从「案外しつこいアンちゃんだねぇ……ついて来れるもんならッ!!」

<ヽ;`∀´>そ「赤信号っ……!!」


歩道の信号が『赤』に代わり、値段と燃費がバカ高い高級車が環境に悪臭を吐いて左右から発進する


从 ゚∀从「追いついてみなァッ!!」


『勝手に赤になった信号が悪い』とでも言わんばかりに、遠慮なく横断歩道を通り抜ける
クラクションと怒号が鳴り響き、急ブレーキを踏んだ車が新たな障害物となって立ち塞がった


<ヽ;`∀´>「ったく!!」


ニダーは速度を落とさず、車のボンネットに手を突き飛び越える
目を丸くさせる運転手と目が合うが、一言謝罪する間も無く対向車が迫る


<ヽ;`∀´>そ「うわわっ!!」


着地と同時に強く踏み込み、大きく跳躍。踵がバンパーに掠ったが、歩道へと無事に辿り着く
その代償として、慌ててハンドルを切った車が消化栓に衝突し、破損部から激しく水が噴き出した


<ヽ;`∀´>「ま、待てーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」


誰もが目を引く派手な事故だったが、『盗難』を大義名分にニダーはその場から更に早く走り去ったのであった

93 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:29:54 ID:9OubR0lk0
从 ゚∀从「やるぅ!!そんじゃあお次は……!!」


街灯のポールに飛びつき、スルスルと上る。頂上に辿り着くと、建物の屋根に飛び移った


<ヽ;`∀´>「猿じゃあるまいし……!!」

从 ゚∀从「じゃーなー!!!!!!」

<ヽ;`∀´>「クソッ!!」


『ニンジャ』の恰好と名は伊達ではないらしい。多少のロスになるが、テラスのあるカフェテリアのタープを使って後を追おうとして


<ヽ;`∀´>「ッ!?」


ピタリと立ち止まった。彼女が登った街灯の根元に、見覚えのある色が転がっていたからだ


( ∵)「……」

( ∴)「……」

<ヽ;`∀´>「えっ……?」

( ∵)「アホゴエ」

( ∴)「アホ」

<ヽ;`∀´>「……」


落としてた


<ヽ;`∀´>「アホで助かった!!!!!」

<あああああああああああああああああああああああああああああああ落としちまったああああああ!!!!!!」

<ヽ;`∀´>そ「ほら早く逃げるニダよ!!」


立場は一瞬にして入れ替わった。ビコとゼアを胸ポケットにねじ込んで、今度は逃げる為に走り始めた

94 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:31:17 ID:9OubR0lk0
从#゚∀从「この野郎!!人の物を取ったら泥棒なんだぞ!!」

<ヽ;`∀´>「どの口が言うニダ!!」


盗人猛々しいセリフに言い返すついでに、ニダーは振り返って距離を確認した
間隔は十メートル強。足の速さは向こうが若干勝る。その上身軽で臆さないと来た


<ヽ;`∀´>「捕まるのはっ……時間の問題ニダね」


ただ道を突っ走るだけではいずれ距離を詰められるだろう。完全に撒くためには『立体的』な逃走経路が求められる
土地勘が無い場所では出たとこ勝負でやるしかない。幸いにも、目星は間近に迫っていた
改修工事中であろう四階建てビル。『組立足場』が張り巡らされたそこはニダーにとっては得意なステージだった


<ヽ;`∀´>「失礼します!!」


コーヒーとタバコで休憩中の作業員に謝りを入れ、鉄パイプに手と足を掛け外側を這い上る
瞬く間に三階まで到達すると、両足から骨組の隙間に身体を滑り込ませ内側へと侵入し、開け放しの窓からビルの中へと入った


从#゚∀从「待てオラ!!」

<ヽ;`∀´>そ「うわぁやっぱ速い!?」


中はレストランのリフォーム中なのだろう。若干のシンナー臭と、壁の保護の為にビニールが貼られている
バーカウンターを飛び越し、奥にある観音開きのドアを体当たり気味に開く。ここはまだ手がつけられていないのか、油と食材の臭いが染みついたままだった


从#゚∀从「食らえ!!」

<ヽ;`∀´>そ「ッ!?」


咄嗟にコールドテーブルに身を隠すと、頭上を特徴的な『星形』が通り過ぎる
三つほど飛翔したそれは、壁に刺さってキンと甲高く空気を震わせる


<ヽ;`∀´>「手裏剣!?殺す気ニカ!?」

从#゚∀从「死にゃしねえよ!!ただちょっと毒で身体の自由が利かなくなるだけだ!!」

<ヽ;`∀´>そ「どっちにしろタチ悪い!!」

从#゚∀从「とか言ってる間に確保ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

95 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:32:55 ID:9OubR0lk0
当たりはしなかったが、結果的に足は止めてしまった。追い付いたハインの手にはいつの間にか鉤爪が装着されている
『死にはしない』と言った割には全力で殺しにきている。身の危険を更に感じたニダーは、タイミングを合わせ


<ヽ#`∀´>「させるかァッ!!」

从;゚∀从そ「あ痛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーだぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!???????」


コールドテーブルのドアを勢いよく開け、脛にぶち当てた


<ヽ#`∀´>「ヴァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!!!!!!!」

从; ∀从「ぐおお……俺の台詞だぞ!!!!!!」


従業員用の厨房出入口へ駆け込み、階段を駆け上る。ハインも追ってきているが、脚のダメージからかやや引きずっている
一気に最上階まで駆け上がり、屋上に続く扉を開ける。乾いた風がシャツの内側に入り込み、汗ばむ身体を冷やした


<ヽ;`∀´>「よし、よし!!」


隣の建物とは三メートルほどの間隔が置かれている。ただし高低差は五メートル。人が一息に飛び越えられる高さではない
外階段やバルコニーはなく、排水パイプと幾つかの小さな窓が等間隔ではめ込まれているだけの、ほぼ断崖絶壁に近い壁が反り立っている

96 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:33:19 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「おおおおおおおおっしゃあああああああああああ!!!!!!」


助走を付け、一片たりとも躊躇せずビルの縁から跳躍


<ヽ;`∀´>「っとォ!!」


窓辺を両手で掴み、両足で壁を踏みつけブレーキを掛ける


<ヽ;`∀´>「フッ!!」


今度は右側にあるパイプに飛び移り、抱き着くようにしっかりと掴む。すると


从#゚∀从「逃がさねえぞダボがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

<ヽ;`∀´>そ「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!!??????」


跳躍し、鉤爪を振り上げるハインがすぐ背後まで迫っていた

97 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:35:00 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「いっよいしょぉ!!!!!!!!」


パイプから更に右側の窓枠へと跳び移り、ギリギリの所で回避。繰り出された鉤爪はビルの壁に深々と刺さる


<ヽ;`∀´>「殺す気ニカ!?」

从#゚∀从「乙女だから勢い余る事もあるんだよ!!!!」

<ヽ;`∀´>「それで殺されちゃ堪ったもんじゃねえニダ!!!!!!!」

从#゚∀从そ「あっやべえ抜けねぇ!!ちょっと待ってろ!!」

<ヽ;`∀´>「誰が待つかヴァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!!!!」

从#゚∀从「ムカつく〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」


千載一遇のチャンスだったが、パイプを伝って階下に降りるプランは潰された
再び工事中のビルへと戻るのも手だが、騒ぎを起こした後だ。作業員に捕まる可能性もある
結果、ニダーは窓を伝ってこのビルの屋上に上がることを選択。斜め上の窓辺へと跳躍し、右、左とジグザグに上がる


从;゚∀从「クソッ、聞いてた通り『パルクール』じゃ名の馳せたユーチューバーだってのは嘘じゃねえみてえだな!!」

<ヽ;`∀´>そ「わぁ黒歴史!!!!!人の事情どこまで把握してるニカ!?」


かつてのハイスクール時代の思い出が蘇り、ニダーは表情を渋くさせる
ハイスクール時代にイキって危険な場所や立ち入り区域で撮影を行い、匿名で動画を投稿していたのだ
結局、特徴的な口調から身元がバレてしまい、親や教師にボロクソに叱られあわや退学寸前まで追い込まれたのは今でも苦い思い出だ


<ヽ;`∀´>「昔の趣味が……こんな形で役立つと……はっ!!」


屋上の縁を掴み、上半身を乗せて転がるように登りきる。階下を確認すると


从#゚∀从「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!忍術、壁登り!!!!!!!!!!!!」


鉤爪を壁に突き刺しながら、気合と根性、そして力業でハインが迫ってきていた

98 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:36:07 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「怖ぇよもう!!」


休む間もなく立ち上がり、階段室の扉へと向かうが


<ヽ;`∀´>「Fack!!!!」


内側から鍵が掛けられているのか、ドアノブは硬く回らなかった


( ∵)「ゴエ!!」

( ∴)「ゴエエ!!」


<ヽ;`∀´>「何!?」


パニックになりかけたニダーの胸を、小さな生き物はポンポンと叩く
二体は同時に、同じ方角へと腕を指し伸ばしていた。ハインが上る壁とは、反対側の位置


<ヽ;`∀´>「っ……この際何でも!!」


神にも縋る気持ちで走り寄り、下を覗く。そして


<ヽ;`∀´>「は……はは」


乾いた笑いが漏れ出した


从#゚∀从「オラァ甘寧一番乗りィ!!」


苛立ちで疲労をかき消しながら、登りきったハインへとゆっくりと振り返る
呼吸を整えながら、即席で『台本』を考える。安っぽくても構わない。目の前の女を『慌てさせれば』良いだけだ

99 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:37:11 ID:9OubR0lk0
从#゚∀从「なんだァ?もう観念したのかよ?」

<ヽ`∀´>「別に。ただ、飽きちゃっただけニダ」

从#゚∀从「そーかいそーかい。だったらサッサとそいつを寄越しな」

<ヽ`∀´>「フゥ……」


胸ポケットから、ビコーズとゼアフォーを抜き取る。二体はしっかりと手を繋ぎ合い、ニダーに向かって『頷いた』
この『お膳立て』を予想していたかのような素振りに、抜け目のない奴らだと鼻で笑い―――


<ヽ`∀´>「取りに行けよ」

从;゚∀从そ「なっ……お前!!」


空き缶でも投げ捨てるかのように、階下へと放り投げた


从;゚∀从「馬鹿野郎ォォォーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」


地上まで凡そ二十メートル。人ですら落ちればタダでは済まない高さだ
彼女の脳裏には地面と激突し、破裂した二体のイメージが鮮明に浮かび上がっているに違いない
現に、彼女はニダーに脇目も振らず、全力疾走で屋上から飛び出した。が


<ヽ#`∀´>「フンッ!!」

从;゚∀从そ「おわっ!?」


足首を掴まれ、決死のヘッドダイビングは空中で止まる。そして――――


从; ∀从・'.。゜「ガビラッ!?」


振り子運動の要領で、顔面から壁に激突。逆さまの状態で気を失った

100 ◆UYqRtHH4DY:2020/05/06(水) 12:38:27 ID:9OubR0lk0
<ヽ;`∀´>「重っ……ぐぬぬぬ!!」


勿論、このまま頭から落ちれば命は無い。引き上げるのに、この日一番の気合と体力を使った


<ヽ;`∀´>「ふぅ……恨むなよ。勝手に飛び込んだのはアンタの方ニダ」


クタリと力の抜けた彼女を、エアコンの室外機にもたれ掛からせる
すると、忍装束の懐から覗いていたスマホがポップな着信音と共に震え始めた
画面には『トソン・バートン』の名前と、顔写真が表示されている。ドクが気絶させた女の顔と一致していた


<ヽ`∀´>「……」


まさか追手がここまで愉快な連中だとは思っていなかったが、苦戦は強いられた
それに、ハインは属するであろう組織を『12シスターズ』と名乗っていた。単純にこれがメンバーの数だとしたら


<ヽ`∀´>「残り七人……?」


『道行く先々でこのように面白い格好した危ない女に襲われるのか』。暑さの所為では断じて無い、ささやかな頭痛に襲われた


<わんわんお!!


<ヽ`∀´>「おっと」


『立役者』の鳴き声に呼ばれ、ニダーは階下を覗き込む


(∪^ω^)「わんわんお!!」

( ∵)「ゴエエエエエエエエエエエエ!!!!!」

( ∴)「ゴエエエエエエエエエエエ!!!!!」


<ヽ`∀´>「ハハ……ナイスキャッチ」


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