また、研究プロジェクトにこそ参加していないが、ドイツにあるAcademic Hospital Munich-Bogenhausenの病理医、アンドレアス・ネルリッヒ氏も「転移性の前立腺がんであると認めざるを得ません。よく研究されています」と追従した。
研究者はこれまで、古代人の骨やミイラ化した肉体からがんの証拠を見つけるのに長年苦労してきたが、記録に残っている古代人のがん症例は非常に少ない。実際、1998年に 『Journal of Paleopathology』で発表された研究では、何万もの古代人を調べた結果、骸骨に腫瘍が見つかったケースはたったの176件とされている。この症例の少なさにより、食品や環境に発がん物質が蔓延し、人類の寿命が延びたことで腫瘍が繁殖する時間が増えた近代産業化時代にがんが増え始めたという説が浮上した。
しかし、 イタリア、ボルツァーノにあるInstitute for Mummies and the Icemanの生物・人類学者アルバート・ジンク氏は、古代人は発がん物質と無縁なわけではないと述べる。例えば、薪を燃やした暖炉や煙突から出るすすには人体にがんを引き起こす成分が含まれているし、古代の船大工が船に耐水コーティングを施す際に熱していたビチューメンは、肺がん、および呼吸器、消化管の腫瘍につながる。ジンク氏は「がんは過去においても流行していたと考えています。私たちの所見よりも、はるかに広がっていたでしょう。」と述べている。
写真:エジプトで発見された2150歳のミイラの上腕付近を高解像度CTスキャンで撮影したところ、小さく丸い腫瘍を発見。古代エジプト人では最古の転移性前立腺がん症例となった。(MNA/DDF – Instituto dos Museus e da Conservação, I.P., Lisbon; (CT, inset) LMP/IMI – Imagens Médicas Integradas, Lisbon)