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欧州情勢・西洋事情
2242
:
チバQ
:2017/09/03(日) 11:42:12
「4時間の壁」クリアにハードル
もう一つの問題は「4時間の壁」だ。
すでに定説になっている高速列車の4時間の壁とは、高速列車か航空機か、そのどちらを利用するかの選択の分かれ目が4時間、といわれているからだ。
開業当初、英国内の高速新線(HS1)の開業が遅れたために英国内では在来線を走行していたユーロスターは、ロンドンからパリまで3時間を要していた。だが、高速新線開業後の現在は2時間15分と45分も短縮され、ブリュッセルは2時間を切って最速1時間51分に。いずれも圧倒的に航空機よりユーロスターが有利で、値段で勝負の超格安LCC以外、この区間でユーロスターには太刀打ちできない。
しかし、アムステルダムまでの所要時間は4時間を超えることが予定されている。現在、ロンドンとアムステルダムを鉄道で結んだ場合は最速で約4時間10分と試算されているが、この数字は航空機と比較して、完全に劣勢といわざるをえない。ロンドンからアムステルダムまでは航空機で約1時間、待ち時間や空港への移動時間を考えても4時間はかからない。
パリ北駅のユーロスター待合室。出入国審査を終えた後、列車を待つ待合室は、空港のゲート前と変わらない。免税店が並ぶ様子も国際空港と同じ(筆者撮影)
さらに、ユーロスターにはもう一つ難題、前述の「出入国審査」がある関係で、出発時間の30分前に改札を閉められてしまう。つまり、実質的には最低4時間半の時間が必要になるのだ。鉄道の航空機に対する最大の利点は、乗車するまでの手間が少なく、発車時間の5分前に駅へ行っても間に合う手軽さにあるが、ユーロスターは乗車前にして、すでに航空機と同じような面倒な手続きをしなければならず、手軽に乗れるものではないのだ。
ビジネスプレミアなど、最上級クラスの乗客は、発車の10分前まで乗車を受け付けているが、それでも発車直前の飛び込み乗車はできない。取引先との商談が長引けば、例え列車がまだホームに停車していたとしても、乗り遅れてしまうことだってあるかもしれない。
大陸への運行拡大は前途多難
ユーロスターとしても、アムステルダムへ直通運転を開始したからといって、航空機から利用客がどんどん流れてくるとは思っていないようだ。最初は2往復でスタートし、好調ならもう1往復増やすという、かなり控えめなダイヤが検討されていることからも、それが推察できる。また、ドイツのケルンやフランクフルトを結ぶルートについても、同じような理由で計画に進展がなく、現状のままでは、この先具体的な話が出てくるかどうかも不明だ。
もともと、単一通貨ユーロを導入せず、シェンゲン協定へも加盟してこなかった英国。そんな英国は2016年、EUからの離脱というパンドラの箱を開けてしまった。これによって、ほかにもEU離脱を考える国が出てくるかと懸念されたものの、その後の景気回復により、むしろEU各国の結束力は高まりつつある。
先の総選挙で、英国保守党のテリーザ・メイ首相は敗北を喫し、英国内ではEU離脱そのものを撤回すべき……という声も出始めたが、EU側としては何を今さらという話で、英国はこの先もますます、EU諸国から孤立を深めていくことになるだろう。
そんな英国と欧州を結ぶユーロスター。統一ヨーロッパの象徴といわれた、同列車の運行拡大計画は前途多難といわざるをえない。
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