新型コロナウイルスの第3波が日本を襲うなか、政府は12月14日、「Go To トラベル」を12月28日から1月11日にかけて、全国で一斉に停止することを表明した。Go Toについては以前から専門家や医療関係者などからも停止すべきだという声が上がっていた中で、なぜ、ここまで対応が遅くなったのか。本誌の取材で、コロナ対策を担う二人の政治家の“対立”が元凶となっていた構図が浮かび上がってきた。
一方、菅首相と違って緊迫した表情で同日に記者会見したのが、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長だ。会見では、感染が急拡大する「ステージ3」相当の地域について、観光事業を支援する「Go To トラベル」の適用を一時的に停止するよう求めた。尾身氏は「さらに(対策を)加えないとだめだ」とも強調。国民に向けて年末年始の移動や会食を控え、静かに過ごすよう強く訴えた。
菅義偉氏
菅義偉首相に吹き付ける逆風が急に厳しく-。新型コロナウイルスの猛威が止まらない中、16日の衆院内閣委員会の閉会中審査では観光支援事業「Go To トラベル」の全国一時停止のタイミングがやり玉に挙げられた。首相の「人の移動では感染は拡大しない」発言も、追及を受けてエビデンス(根拠)がぐらつく。身内の与党もじわり、距離を置き始めた兆しがある。
首相は14日夜、都内のステーキ店で自民党の二階俊博幹事長ら5人以上で会食した。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は「5人以上の飲食では、飛沫(ひまつ)が飛びやすくなる」と注意を呼びかけている。折しもその日、首相は観光支援策「Go To トラベル」の年末年始の一斉停止を表明し、「これ以上の感染拡大を食い止める」と国民に訴えていた。
「Go To 迷走」や「桜疑惑虚偽答弁」などで菅義偉首相への批判が高まる中、安倍晋三前政権以来の「政治とカネ」スキャンダルで官邸と検察における関係の変化が、永田町の注目を浴びている。前政権まで際立っていた「官邸への検察の擦り寄り」(閣僚経験者)がなくなり、事件捜査の進め方などで「官邸VS検察」の構図が垣間見えるからだ。政界では「菅政権発足以来の自民党内の権力闘争が背景にある」(自民長老)と指摘する向きもあり、衆院解散と自民総裁選を軸とする「来秋までの政局展開を占うカギ」(同)ともなりつつある。
安倍氏の「桜」問題の核心とされる前夜祭の経費補てん疑惑が再燃したのは「Go To トラベル」とも絡む、コロナ感染急拡大による「我慢の3連休」(中川俊男日本医師会会長)さなかの読売新聞の特ダネ報道が発端。特捜部が安倍氏の公設秘書らの事情聴取による本格捜査に踏み切り、首相だった安倍氏の国会答弁をすべて覆すような(1)安倍事務所が計900万円超の経費補てん(2)ホテル側領収書の存在─などが明らかになったという内容だ。NHKを先頭に他のメディアの後追い取材も過熱し、次々と「新事実」の報道が続いている。
二階氏を巡る構図
新型コロナウイルス対応などを巡り、自民党の二階俊博幹事長への逆風が強まっている。多人数のステーキ会食を主催し菅義偉首相を招いたことや、運輸族有力者として観光支援事業「Go To トラベル」継続を最後まで主張したことが反発を呼んだ。吉川貴盛元農水相の現金受領疑惑など自派閥の不祥事も相次ぐ。もともと他派閥との選挙区競合で党内の不満は蓄積しており、二階氏の求心力が急落する可能性もある。