したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

各種イノベーション・新発明・新技術など

1とはずがたり:2006/11/06(月) 22:31:36
真面目な開発から怪しげな発明迄何でも。但し対象の産業スレ等がある場合はそちらに。

497とはずがたり:2018/06/24(日) 22:56:56
日本企業の研究開発の効率性はなぜ低下したのか*
http://esri.go.jp/jp/archive/e_dis/e_dis047/e_dis047a.pdf
by
榊原 清則(慶應義塾大学総合政策学部教授) **
辻本 将晴(慶應義塾大学大学院博士課程)
2003 年 6 月

1.はじめに
日本企業の研究開発は売上げや利益につながっているのだろうか----。研究開発との関連で日本の製造業企業はいま、こういう素朴な疑問に直面している。研究開発の効率性が低下してきているのではないかという問題である。
この問題は、たとえば次の2つの観察によって確かめることができる。第1は研究開発投資と設備投資との対応関係の観察である。第2は研究開発投資と利益との対応関係の観察である。
一般的にいって、個別企業の経営の目的は事業活動をつうじて経営成果をあげることであり、端的には利益の獲得である。企業は研究開発活動によって何らかの技術をつくり、何をどう作るべきかについて一定の見極めができた時点で設備投資を敢行する。設備が立ち上がったら、できるだけ稼働率を高めるように努力し、売上げを立て利益を獲得してゆく。その結果さらに拡大投資に進むことができれば、ビジネスサイクルがポジティブに回っていくことになる。

このような流れでみると、研究開発の効率性を問題にする場合、時間的に先行する研究開発投資がその後の設備投資や利益獲得にどう対応しているかを確かめることは、個別企業を分析単位とする場合、まずは素直なアプローチであるように思われる。そこで、日本企業について、この点に関する先行研究を紹介するのが本稿の最初の作業である(2、3)。
第2に、研究開発と企業成長との関係を調べた米マッキンゼーの調査を紹介する(4)。彼らは通説に異を唱え、研究開発と企業成長との間に一般的な関係は存在しないと主張している。第3に、従来おもに経済学者が進めてきた、研究開発投資の収益率に関する分析をとりあげ、推計結果と推計をめぐる問題点を紹介する(5)。
以上のレビューで、研究開発の効率低下が疑問の余地なく確認できるわけではない。だが効率低下を示唆する研究がたしかに多いようである。

2.研究開発と設備投資
まずとりあげるのは研究開発と設備投資との関係である。この関係については有名な児玉文雄の研究(1991)がある。児玉が作成した図表1は、1980 年から 87 年までの期間における、日本の全上場製造業企業の研究開発費と設備投資額の総額を棒グラフに示して比較対照している。グラフ作成にあたっては、研究開発費は総務庁(当時)のデータが、設備投資額は通商産業省(同)のデータが、それぞれ使われている。
1980 年から 87 年までのデータがとられた理由は、児玉の著書の刊行時点(91 年)で利用できた、いちばん新しいデータが使われたからである。しかし、研究開発費が設備投資額を凌駕するという注目すべき「逆転」現象が起きたのはまさにその期間においてなので、その現象をふりかえってみる上で、このグラフは今日でも参照の価値がある。



このグラフから、どういう示唆が得られるか。導き出されるひとつの素直な示唆は、研究開発の効率が落ちてきたということである。
産業特性にもよるが、一般に製造業の発展過程をみると、その発展の当初は技術のキャッチアップ段階にあるので、後発国のメーカーは、相対的に産業化が先行した国や地域や企業から先進技術を学習し、それを活用して設備投資を実行し、売上げと利益をつくっていく。その過程では、技術をフリーライド(ただ乗り)する部分があり得るので、設備投資額が研究開発費を上回ることが多いと考えられる。しかしながら、キャッチアップ段階を経て技術フロンティアに立つと、以後は文字どおり未踏の研究開発に従事しなければならなくなり、それを支える企業の研究開発投資は高水準を保つか、あるいは増やす必要がある一方、研究開発成果を設備に実体化するのは容易ではなくなる。試行錯誤的にいろいろな研究開発を試みなければならず、いわば「ムダ玉」に終わる研究開発活動が増えて行かざるを得ないからである。
その結果、産業発展のどこかのタイミングで、個別企業の設備投資をその研究開発投資が上回ってゆく現象が起きるかもしれない。児玉のいう逆転現象である。もちろんこの現象が多くの企業で観察されるかどうかは一概にはいえず、代表的な米企業、たとえば後述する IBM やインテルでは逆転していない。が、もしも一国の多数の企業で逆転が起きれば、国レベルで集計しても逆転が起きる。この逆転現象が、図表1によれば 1980 年代後半に日本の製造業で起きたのである。

498とはずがたり:2018/06/24(日) 22:57:20



4.研究開発と企業成長:マッキンゼー調査

研究開発の投資効率の低下は、日本企業に特殊な問題ではない。一般に企業がなぜ研究開発に投資するかというと、結局のところ研究開発は企業成長のエンジンであると考えられているからであり、この点を支持する研究は多い(たとえば Morbey=Reithner 1990)。
しかし経営コンサルティング会社のマッキンゼー社は、米企業のデータベースに基づき、企業成長への研究開発の意義が一般にいわれるほど明らかではないと主張している(Foster=Kaplan 2001)。

しかし経営コンサルティング会社のマッキンゼー社は、米企業のデータベースに基づき企業成長への研究開発の意義が一般にいわれるほど明らかではないと主張している(Foster=Kaplan 2001)。

分析に使われたのは、マッキンゼー社が独自開発した 1,008 社の米企業データベースである。「マッキンゼー企業業績データベース」(the McKinsey Corporate Performance Database)とよばれるこの企業データベースには、日本企業は含まれていないと推測される。1962 年から 98 年までの長期間におよぶ、この米企業データベースを用いて、各企業の研究開発費(研究開発に投入された費用あるいは資源の大きさ)と、株主が獲得したトータルの利回り(total return to shareholders)との間の相関関係が計算されている。

ここで「株主が獲得したトータルの利回り」というのは、中長期的にみた場合の企業成長の代理変数という位置づけだろう。中長期的にみた場合、企業が成長すれば株価の上昇によるキャピタルゲインや配当ゲインが見込まれ、株主リターンが増大すると予想されるからである。
このような変数を用いて相関を調べた結果、マッキンゼーは産業別に大別して3つの発見を得たと報告している(同、pp. 216-218)。

第1に、製薬産業では両者の間に強いプラスの相関がある。製薬会社においては、研究開発に資金を投じて新製品を出せば、会社の成長を促し、投資家に報いることができるといえそうである。同じプラスの相関は、製薬産業の場合より弱い相関だけれど、パルプ・製紙、日用品(commodity)、特殊化学、航空宇宙・防衛、石油の諸産業でも見いだされる。

第2に、石鹸・洗剤、医療・手術用機器、情報通信の3つの産業では、相関がない。このうち石鹸・洗剤は「ローテク」産業なので、相関がないのも意外ではないが、医療・手術用機器と情報通信は「ハイテク」産業なので、予想外の結果かもしれない。しかし、理由はともかく、これらハイテク産業においてさえ、研究開発に注力すれば投資家への報酬が増えるわけではないのである。

第3に、コンピュータのハードウエア、ソフトウエア、および半導体の3つの産業では、驚くべきことに相関はマイナスである。これらの産業に新製品やイノベーションをもたらすのは、他の企業からライセンス供与された技術や企業買収であり、「社内の研究開発」(internal R&D)ではないからだろう、とマッキンゼーは推測している。
この推測には、研究開発費というものをマッキンゼーがどうみているかがよく現れている。年次報告書に記載される研究開発費とは、要するに「社内の研究開発」に対応した費用であり、技術獲得のための企業活動全体のなかで、おもにその社内的活動を支えるために費消されるリソースの大きさであると彼らはみているのである

以上の3つを要約すると、米企業を対象とするマッキンゼー調査は、研究開発への資源投入と投資家が獲得できる利回りとの間に一般的な相関関係が見いだされないことを示している。そして、投資家から見た企業価値を経営者が高めていこうとするとき、技術は不可欠だとしても、社内的な研究開発努力のみでそれを達成するのは今や不十分であり、分野によっては不適切ですらあると主張している。

6.日本企業の技術戦略
ここではまず、本稿の出発点でとりあげた研究開発と設備投資の関係に改めてたちかえり、日本との対比でアメリカの実態を瞥見することによって、1980 年代後半から 90 年代にかけて日本企業の技術戦略に何が起きたのかを考えてみたい。

499とはずがたり:2018/06/24(日) 22:57:40
>>497-499

(1) アメリカの実態
既述のように、日本では設備投資が研究開発投資以上に減少しており、研究開発が設備投資をつうじて事業化、ひいては経営成果の獲得に結びついていないことを明らかにしてきた。この点でアメリカはどうなっているか。はっきりしていることは、同じ問題はアメリカでは起きていないということである。日本とは対照的に、アメリカでは研究開発と設備投資との好循環が観察されている。国レベルで集計した値の推移をみると(本稿では図表は省略)、90 年代のアメリカでは、活発な研究開発投資が、それを上回る設備投資の伸びに確かにつながっている(経済産業省 2002b、21 頁の図 121-12)。
個別企業のレベルでも同様のことが観察できる。たとえば、IBM とインテルはその代表的事例である。

推測するに、1980 年代後半に、日本企業は「基礎研究ただ乗り」批判に反応し、当時は金も自信もあったので、一部の企業は基礎研究所をつくり、事業化に結びつかない研究開発費を増やし、研究開発の自己充足性を高めていった。研究開発費が設備投資を上回るのはその当然の帰結であると考えられたのではないか。
それだけではない。「基礎より」の活動が拡充され、研究開発活動の自己充足性が高まるのと同時に、日本企業において技術戦略の内向き志向と閉鎖性が強くなったともわれわれは推測している。オープンな技術戦略が世界的に活発化するなかで、むしろ逆に技術戦略の閉鎖性を高めていった疑いがある。そして、もしもこの疑いが事実であれば、それは過剰反応であるばかりか、技術融合の時代に逆行する間違った反応でもある。
日本における 80 年代の「基礎研究所設立ブーム」というのは、だいたい 1980 年代中葉に始まり、80 年代末で終わった現象である(榊原 1995)。ブームが起きたちょうどそのときに、日本企業の技術戦略が「クローズ」のほうへ振れたことを示すデータがある。技術提携(technology alliances)の件数ベースの国際比較によれば(OECD 1997)、ハイテク分野における日本企業の技術提携は 80 年代前半には増大していたが、86 年をピークに減少に転じ、今日に至っている。
国際的な戦略技術提携(international strategic technology alliances)の件数ベースの比較(図表6)でも、日本企業の提携件数は 1986 年をピークに減少している。活発な提携をはかる米欧企業とは違った動きである。
(グラフ略)
これらのデータが示唆することは、「基礎研究ただ乗り」批判に応えて日本企業の間に基礎研究所設立の動きが起きたときに、同時平行して技術戦略の閉鎖性が日本で強まったということである。
日本企業の技術戦略は、80 年代後半以降今日に至るまで迷走したのである。迷走は2つのかたちをとって現われた。第1は「基礎より」の研究拠点を作ったものの、一過性のブームに終わり、90 年代前半には閉鎖・縮小したことである。この動きの影響については藤村(2002)と山口(2002)が詳しく論じている。第2は「基礎より」の研究に着手するだけではなく、技術戦略の閉鎖性を高めていったことである。



児玉文雄、『ハイテク技術のパラダイム:マクロ技術学の体系』、中央公論社、1991 年。

藤村修三、「研究開発における知識創造力」、『一橋ビジネスレビュー』、第 50 巻第 2 号、2002年 8 月、46-58 頁。

山口栄一、「定量的データに基づく問題提起(第 1 回「企業における基礎研究は終焉したか?」)」、『フォーラム「持続可能な新産業創生のシナリオ」記録』、21 世紀政策研究所、8-13
頁、2002 年。

Foster, Richard N., and Sarah Kaplan, Creative Destruction, Pearson Education, 2001.

Morbey, Graham K., and Robert M. Reithner, “How R&D Affects Sales Growth,
Productivity and Profitability,” Research-Technology Management, May-June 1990, pp.
11-14.


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板