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法学論集

2201名無しさん:2015/06/24(水) 23:23:04
>>2200

 私が彼に脳の機能不全がある、と確信している理由はもうひとつある。

 それは、これも当時の精神鑑定にある「直観像素質」という映像記憶の能力だ。彼は見たものをそのまま記憶し、正確に再現してみせる能力があると言われており、それもまた今回の手記では「反省していないから詳細に記憶しているのだ」と批判の対象になっている。しかし、これも脳機能の問題である発達障害の人の中に、この特殊な記憶の能力を持つ人がいる。元少年Aは発達障害の枠内では考えられないケースだとは思うが、彼の脳機能に何らかの特殊性があったことを示すサインである。

 もちろん、脳に機能不全があるから何をしてもよい、何を書いてもよい、ということではない。また「サイコパス」という呼び名じたいがレッテル貼り、差別だとして一時、使われなくなった時期もあり、私も今回、その名前を使うのをためらった。しかし、脳研究の進歩によりサイコパスの実態が科学的にわかるようになってきて、同時に彼らに有効な心理療法の可能性も出てきたのだ。そのため今回は、あえてその単語を使った。

 ただ残念ながら、現在の医学ではサイコパスの脳の機能不全を、本質的な意味で治療する方法はない。集中的な心理療法を行っても、社会のルールを逸脱したり犯罪を起こさないよう衝動をコントロールできるようになるだけで、完全に他者の気持ちに配慮したり共感したりできるようにはならないだろう。そういう意味で加害男性は「治っていない」と言えるかもしれない。

 男性はもともと高い知的能力があり、冒頭でも触れたように、心理療法での“学習”はかなり成功した、と考えられる。また、彼に残っていた祖母や愛犬との情緒的交流の記憶が、その後の回復に一定の役割を果たしていることも事実だ。しかし、本書を通して読むと、とくに前半の子ども時代の残虐行為の詳細で客観的な記述のあたりからは、「ああ、本当の意味では同情、憐憫、共感などの感情は持てないままなんだな」と思わざるをえない。

 私が気になるのは、社会で生活しているこの男性は、いま何らかの心理的サポートや医療のケアを受けているのかどうか、ということだ。もちろん、これだけの事件なのだから何もフォローがないとは思えないが、手記にはその記述が一切ないのがやや気がかりだ。

 また、これは研究者としての関心なのだが、彼は脳の画像検査や機能検査をどれほど受けたのだろう。もちろんプライバシーの問題もありそれをつまびらかにするのはむずかしいのかもしれないが、手記まで発表して何らかの社会的貢献をしたいと考えているのであれば、ここはいっそのこと、研究者とともに自らの心理テストの所見、脳画像検査の所見なども発表する、という手もあったと思う。

 これはぜひ強調したいのだが、もちろんサイコパスにも生きる権利はあると私は考えており、強力なサポートがあれば彼らが社会の中でほかの人たちと共存したり、少しずつでもいわゆる“人間らしさ”と一般的に言われるものを獲得していったりすることも不可能ではない、と私は自らの臨床経験や先行研究の調査などを通じて確信している。

 そのためにもぜひ、この男性にはサイコパスへの教育プログラム作りに積極的に協力する、くらいのことはしてもらいたいと考える。

 いずれにしても、程度の差こそあれ、「素行障害(非情緒的特性タイプ)」の子どもや少年は確実に一定数、存在しており、より効果的(社会にとっても本人にとっても)なプログラムの開発が早急に望まれる。犠牲になった方々や遺族のためにも、少年法に守られ、いまは社会で暮らす元少年A自身そして今回の手記が、せめてプログラム作りの一助になることを願いたい。 <文/香山リカ>

日刊SPA!


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