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法学論集

2200名無しさん:2015/06/24(水) 23:22:54
>>2199

「じゃ、いわゆる不良やウソつき、万引き常習犯か」という話になるはずだが、元少年Aはそのどれにもあてはまらない。2013年に発表された最新の精神障害ガイドライン(DSM-5)には、この素行障害に「冷淡で非情緒的特性型」というサブタイプが加わった。これは「感情的体験の欠如、傲慢で他者を操作しがち、自己愛的、衝動的で無責任」を特徴とする素行障害で、まさに元少年Aを思わせるものである。

 さて、この素行障害が大人になったものが反社会性パーソナリティ障害、と先ほど述べたが、この新しいタイプ「冷淡で非情緒的特性型」も大人になるとそうなるのだろうか。このあたりは専門的な話になって恐縮だが、どうもそうとは言い切れないのだ。

 というか、現在のガイドラインでは反社会性パーソナリティ障害としか診断できない人たちの中に、「ちょっとほかとは違う」というタイプがいる。つまり、「ただのワルや詐欺師(の大人)」というのではなく、一見、知的で人あたりも良いのだが、実は心の中が冷え冷えとして一切の良心を持ち合わせていないような人たちだ。これこそ「サイコパス」で、この人たちは従来の「反社会性パーソナリティ障害」から区別すべきだ、というのが最近の議論なのだ。

 話が込み入ってしまったが、私は元少年Aはこの「サイコパス」に相当しており、それが犯行当時には「素行障害(非情緒的特性タイプ)」と診断されたのではないか、と考えている。「サイコパス」は医学的、臨床心理学的かかわりでその攻撃性や衝動性をコントルールすることはできるはずだが、本質的な意味で「完全に治る」ということはない。

 脳の研究は、その動きをリアルタイムで画像検査することができるような装置ができて、画期的に進んだ。最新の研究では、自分の感情にも鈍感で他者に共感することができないサイコパスの人たちでは、その脳の奥まったところにある帯状の組織(傍辺縁系と呼ばれるひとまとまりの馬蹄形の部分。眼窩前頭前野、前帯状回、後帯状回、島、側頭葉極、扁桃身体という部分からなる)がうまく機能していていないことが明らかになりつつある。この組織は、情動のキャッチや調整、衝動の抑制、社会的規範の認識などに重要な役割を果たしている。ある論文には、これが「サイコパスの脳の画像検査では、この傍辺縁系組織が顕著に薄くなっていることがわかっており、弱い筋肉と同じように脳のこの部分が十分に発達していない」とわかりやすく説明されていた。

 しかし、元少年Aの場合、完全なサイコパスかといえばそれも違う気がする。彼は自分の中に「魔物」が住んでいると当時の作文に記し、今回の手記にも「本当は誰よりも自分で自分の異常性に気付いていたのではないか?」と書いている。また、サイコパスは自分の感情にも他人の感情にも気づけないはずだが、元少年Aは少なくとも祖母や飼い犬とは情緒的な交流ができていた。また母親に対しても「自分のやったことを、母親に対してだけは知られたくなかった」と述べている。さらに、少年院で勧められるがままに古今東西の文学作品を読み漁ったのも、自分には感情や他者への共感に関するセンサーが欠けており、何とかそれを取り戻さなければという気持ちはあったのだろう。完全なサイコパスであれば、いくら感情に無自覚でも不安になったりあせりを感じたりもないのだ。

 おそらく今回の手記は、彼なりの情緒に関する“学習の成果”なのだろう。生来の生真面目さもあって彼は一生懸命、本を読み、近くにいた人たちを観察し、「人の痛みを感じるとはこんなこと」と学んで、それを手記に書いたのだ。しかし、そんな努力をしなくても生まれつき「かわいそう」「かわいい」「わあ、喜んでくれてうれしい」といった情緒を持っている人たちから見ると、不自然さだけが前面に出た世にも奇妙な回想であり説明でしかなかった、というわけだ……。

 そういう意味で私は、今回の本にはやはり専門家の解説をつけるべきだったのではないか、と思う。彼がなぜこういう手記を書こうと思ったのか。そして、なぜこのような内容になったのか。それは彼の脳の問題やそれに由来する情動障害という問題を抜きにしては、理解できないだろう。


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