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法学論集

2140名無しさん:2015/04/19(日) 16:33:44
>>2139
 しかし、京都大学大学院の河合潤教授が中井鑑定の中身を検証した結果、この裁判では中井鑑定に対する大きな誤解があることが判明した。中井鑑定は事件の関係先9箇所から採取したヒ素がいずれも同じ起源であることを示しただけで、それはその地域で流通するヒ素がほぼ同じドラム缶に入って中国から輸入されたものだったために、当然のことだった。
 中井鑑定はむしろ、林家から発見されたヒ素とカレーにヒ素を混入されるために使われた紙コップに付着していたヒ素とは、軽元素の不純物の含有量が一致しておらず、まったくの別物であることを示していた。しかも、林家のヒ素よりも紙コップに付着していたヒ素の方が、3倍から7倍も純度が高いものだったことから、林家にあったヒ素を発見された紙コップを使ってカレーに投入するというストーリーがあり得なかったことを、中井鑑定は示していたのだった。
 河合教授の指摘と、裁判で使われた中井鑑定を実施した東京理科大の中井泉教授の間では、その後、学会誌の誌上などで激しい論争となっている。一見、素人には難解な専門的な論争に見えるが、その中身を詳しく見て見ると、実は非常に初歩的な問題点が議論されていることが分かる。
 要するに中井教授は、検察から依頼された9つのサンプル中に含まれるヒ素の「異同識別」という鑑定嘱託書の意味を、ヒ素の起源が同一だったかどうかを鑑定して欲しいと依頼されたものと理解し、それを行ったまでだった。しかし、その起源が同一であることは、先述の通りむしろ当たり前の結果であり、それではまったく林真須美氏の犯行の裏付けにはならない。しかし、にもかかわらずマスコミはその鑑定結果を「林宅と紙コップのヒ素が一致」と大々的に報じ、特に化学などに特別な素養があるわけではない裁判所も事実上、その報道と同レベルの解釈によって、鑑定結果を林真須美犯人説の裏付けとしてしまったのだった。
 そして、河合教授が弁護側からの依頼で、単純に中井鑑定の結果を「林真須美氏が犯行を犯していない可能性」を裏付けるために再度検証した結果、不純物の組成などから、中井鑑定はむしろ真須美氏が犯行をしていないことを裏付けるデータを提供していたことがわかったのだという。
 林真須美氏が逮捕された当時、捜査機関は夏祭りの炊き出しカレーに猛毒のヒ素が混入し4人が亡くなるという、社会を震撼させるような大事件に直面しながら、容疑者を特定することができずにいた。そうした中、マスコミが、事件が発生した現場のすぐ隣に住む林真須美夫妻が怪しいという報道を始め、真須美氏に対するインタビューなどを報じ始めていた。
 確かに、林夫妻はそれまでに保険金詐欺を働いたことなどがあり、その行動に怪しい点があったのは事実だったが、カレー事件と夫妻を結びつける証拠は見つかっていなかった。そこで林家にあった、夫の健治氏がかつて使用していたシロアリ駆除用のヒ素と、紙コップのヒ素の起源の共通性を調べる鑑定を中井教授に依頼し、その結果をもってとりあえず真須美氏を逮捕した上で、自白を取り付けるというシナリオを描いた。それが9つのヒ素の「異同識別」の鑑定依頼だった。
 ところが、真須美氏が一貫して否認を貫いたため、検察はとりあえず逮捕容疑を裏付けるための口実でしかなかった中井鑑定を、公判の最後まで引っ張らなければならなくなってしまった。そして、マスコミや裁判所の科学鑑定結果に対する無知と無理解ゆえに、それがそのまま死刑判決につながってしまった。
 今、そのような疑いが濃厚になっているのだ。
 「異同識別」だのヒ素の「同一性」などといった、実際には科学的ではない微妙な言い回しが、このような誤解を招き、それが死刑という取り返しの付かない判決に行き着いていることを、果たして検察や鑑定を行った中井教授はどう理解しているだろうか。確かに「自分は起源の同一性の鑑定を頼まれてそれを行っただけ」との釈明は成り立つのかもしれないし、検察も「鑑定の通りにその同一性を主張しただけ」と強弁することは可能なのかもしれない。その場合は、無知な裁判所やマスコミが、勝手に誤解をしたということになるのだろう。
 しかし、これこそが正に「科学の民主化」の問題であり、「司法の民主化」の問題なのではないだろうか。マスコミもこの問題を大きく取り上げにくいのは、事件当時真須美氏を犯人扱いするひどい報道をしてしまった手前、今さらそれに疑義が生じているというようなことが報じ難いことは想像に難くない。しかし、今やそれは人一人の命が懸かった、取り返しのつかない重大な問題になっている。
 河合教授の指摘によって今、ボールはわれわれ市民のコートにある。今こそ、「市民の科学化」が問われている。河合潤教授とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。


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