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Tohazugatali Medical Review

7308とはずがたり:2022/05/12(木) 14:52:59
>>7307
 ◇オーストラリアで初の日本脳炎流行

 コロナ禍の中、古い感染症が新たな地域で流行拡大するという現象も見られています。これが22年、オーストラリアで起きている日本脳炎の流行です。

 日本脳炎は蚊が媒介する感染症で、日本などアジア東部の風土病として古くから流行していました。このアジア東部に隣接するオーストラリアでは、過去に最北端の島で感染者が確認されましたが本土での流行はありませんでした。ところが、22年2月からシドニーやメルボルンのある南部を中心に日本脳炎の患者が発生し、その数は4月末までに37人(疑いを含む)に上っています。

 日本脳炎はもともと、ブタがウイルスを保有しており、この感染ブタを吸血した蚊がヒトを刺して感染を起こします。このため、オーストリア各地のブタを調査したところ、国内の広い範囲で日本脳炎ウイルスが検出されました。オーストラリアはこれから冬の季節を迎えるため、流行は収束すると見られていますが、今後、同国に日本脳炎が風土病として残る可能性もあります。

 今回のオーストラリアでの日本脳炎流行と新型コロナ流行の関連は不明ですが、同国で蚊の駆除が停滞したことが影響しているのかもしれません。


人の肌に止まった蚊=AFP時事

 ◇欧米での小児肝炎の流行

 新たな感染症の流行として注目されているのが、欧米などで拡大している小児の急性肝炎です。

 22年4月上旬、英国で10歳以下の小児に急性肝炎が多発していることが明らかになりました。この肝炎は感染性と考えられますが、A型やB型など通常の肝炎ウイルスは検出されませんでした。その後、各国で調査が行われたところ、5月上旬までに英国で163人、米国で109人、EU諸国で95人の患者が確認されました。日本でも7人の患者(疑いを含む)が報告されています。患者の中には重度の肝機能障害を起こす者も多く、1割が肝臓移植を受け、米国では5人の死亡も確認されています。

 英国で確認された患者の75%からはアデノウイルスが検出されており、原因の第一候補にあげられています。ただし、アデノウイルスは通常、呼吸器症状や胃腸症状を起こしますが、肝炎の発症はあまりなく、このウイルスに何らかの変異が起きた可能性もあります。また新型コロナの感染が一部の患者で確認されており、その影響も考えられます。



 いずれにしても、今回の急性肝炎の原因や実態はまだ明らかになっていませんが、一つ気になるのが新型コロナワクチンとの関連です。主に欧米で接種が行われているベクターワクチンにはアデノウイルスが含まれています。このアデノウイルスはヒト体内で増殖しないように改造されているとともに、今回の患者から検出されたウイルスとは違う種類であるため、WHOや欧米保健当局はワクチン接種と肝炎の関係はないとの見解を示しています。なお、日本で主に使用されているmRNAワクチンにはアデノウイルスは含まれていません。

 新型コロナの流行は各国の保健医療システムに大きな負荷を掛けています。その影響により、古い感染症の再燃や新たな地域での流行、さらには新しい感染症の発生を起こしているようです。今後は、こうしたコロナ流行に併発する感染症にも注意をしなければなりません。(了)

濱田 篤郎 特任教授

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。


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