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本のブログ(2013年から新規)

1korou:2012/12/31(月) 18:30:01
前の「本」スレッドが
書き込み数1000に近づいて、書き込み不可になる見込みなので
2013年から新規スレッドとします。
(前スレッドの検索が直接使えないのは痛いですが仕方ない)

369korou:2017/12/01(金) 16:40:35
西本紘奈「六兆年と一夜物語」(角川ビーンズ文庫)を予定外に読了。

ちょとだけ中身確認のつもりが
一気に最後まで読み切ってしまった。
とはいうものの
まるで詩集じゃないかと思われるほど字句がスカスカに空いていたので
普通に読み通すことができた。
276pの文庫本だが、誰でも1時間ちょっとで読破できるだろう。

内容は極端な設定のセカイ系恋愛小説で
セカイ系だけにSFっぽいネタで終わってしまう。
実体はボカロ小説らしいのだが
何せ原曲のことは知らないし
そもそもボカロ小説としての良しあしなど皆目分からないので
そのへんはなんとも言いようがない。

セカイ系としては、まずまず手順がきちんとふまれていて
そのへんんは安心できる描写になっている。
ただし、ある程度割り切って読まないと(ライトノベルっぽさとかを)
普通の小説しか知らない人には
抵抗感がある文体、構成、描写だ。

アマゾンでは
ボカロとしての出来に疑問符を抱く書評が多く
私のような評価をしている人は少ないのだが
まあいろんな読者がいてもいいだろうと思っている。

370korou:2017/12/08(金) 12:49:00
佐野徹夜「この世界にiをこめて」(メディアワークス文庫)を読了。

久々にメディアワークス文庫らしいストーリー、文体の小説を
読んだ気がする。
主人公はティーン世代で
どことなく世界とうまく折り合えない性格で
それでいて、なんとなくその主人公を気にしている女の子がいて
どういうわけかその女の子が(主人公にとっては)無意味に可愛くて
最後は主人公がちょっとだけ世界と折り合えた気になる・・・という感じ。
そういう王道のMW文庫だった。

やたら小説の意味、小説を書くという行為への意味を反復するので
そこは著者と著作という小説のお決まりの約束事を逸脱するようでもあり
そこを逸脱することによって、より深い何かを目指しているようでもあり
この小説全体の印象で言えば
そこは部分的に成功しているものの部分的には破綻している。
ただし、それらは登場人物への感情移入という側面からみれば
大きな傷ではない。
この小説の主人公、ヒロイン、そして重要な第2ヒロインすべてが
十分に魅力的だ。
この小説の美点は100%そこにある。

こういう素敵なパーソナリティを造形できる作者ーーいかにも
MW文庫にふさわしい
久々にMW文庫のそうした魅力に酔うことができた。
これが第2作だが、評判の第1作も読んでみたい。

371korou:2017/12/10(日) 17:00:39
望月衣塑子「新聞記者」(角川新書)を読了。

今年、官房長官記者会見でお約束の質疑応答の枠を打ち破って
一躍注目された新聞記者による著書である。
ただし、ジャーナリズムのことを論じた本とは言えない。
自身の生い立ち、取材の経歴などがずっと語られ
その合間合間に新聞記者としての学び、得られた職業意識、矜持などが
行間から滲み出てくるといった類の文章である。
しかも、その取材経過の記述が
本当に新聞記者かと思えるほど上手くなく
読んでいて、なぜこの記述になるのか
直前の数ページを読み直さなければならないことが何回かあり
読み通すのに予想外なほど苦労した。
また文章の端々から自然に感じられるニュアンスというものにも
意外なほど鈍感な感じを受け
これはこう書くと「自慢」として受け取られるぞという箇所で
無防備にそう書き流しているのも目立った。

ゆえに、今の職場でこの本を提供する価値は
読破前より遥かに低くなった。
ちょっとだけ功績を挙げた女性中堅記者の「自慢」話、
それもよく整理されていない、けれども書名からはジャーナリズムの話かな
と誤解されるような、でもそうではない散漫な話を
受験生には提供できない。

この本のいろいろな欠点をすべて承知して
なおかつ権力と対峙する一人の人間を応援してあげたいと思っているなら
断然オススメできる本である。
なかなか評価の難しい本であることは間違いない。

372korou:2017/12/16(土) 15:38:44
松浦哲也「母さん、ごめん 50代独身男の介護奮闘記」(日経BP社)を読了。

全く飽きずに夢中に読んだ。
介護ルポでこれほど我を忘れて読ませるものは
かつてなかったのではないかと思われる。
的確に表現される介護の実態と
できるだけ冷静に対応しようと思いつつ
一人の人間として仕方ない感情の動きも記述されていて
まさにリアリティ抜群で
あたかも読者をして「じぶんごと」の介護を体験可能なように思わせ
かつ再現されている稀有の名著だった。

自分にはここまで冷静には対応できそうもないし
もっと雑に済ませてしまいそうで
ある意味無自覚だった今までの自分が怖くなる思いだった。
親の介護はもうなくなったが
自分がそうなってしまうか、家人がそうなってしまうかという
近未来が待っている。
お金のことも、これからは期待できないので
そこも心配ではある。

自分としては、やはりガンで亡くなるほうが
人への迷惑のかけ具合が違うので望ましく思っている。
そこが自分で選択できないのが
「死」というものの不合理で厄介な部分なのだが。

とにかく今年一番といって良いドキュメンタリーだった。
誰にでも迷いなくオススメできる本である。

373korou:2017/12/23(土) 23:03:24
今村昌弘「屍人荘の殺人」(東京創元社)を読了。

新人の作品(鮎川哲也賞受賞作)ながら
今年度のミステリーNo.1の作品との高評価を得ている話題作である。
出だしは、西澤保彦の「七回死んだ男」のような独特の軽妙な筆致で読ませるのだが
展開が遅くてダレ気味なのも事実で、読み進めるのがしんどい感じがした。
しかし、どこかに凄いものがあるのだろうと期待だけを先行させて読み進め
ついに事件は起こるのだが、それがゾンビ出現というあり得ない設定であるため
面白さは増すものの、どこかで釈然としない感覚が残ってしまう。
後半はさすがに一気読みさせる筆力だったが
ありがちな結末のまま終わってしまうので
本格推理としての新味には乏しい。
実際のところ、もう一ひねりがあって、あっと驚く結末なのかと期待してしまったのだが・・・
それは何もなかった。

ゾンビが密室状態を作る重要な要素となっている点が新味かもしれない。
でもゾンビは非現実であり、空想上の産物でしかない。
本格推理にそれを持ち込むのは違反行為ではないかと思う。
本格推理の部分も、若い女性がそれだけの動機で大量殺人を計画し
実際に殺人を実行するという点においてムリがある。
細かくみれば、本人は直接手を下していないのでアリなのかもしれないが
ゾンビが出現しなかった場合、直接人を殺すことになるのだから
設定そのものにリアリティがない。

というわけで、面白く読んだ割には
読後感はすっきりとしないものが残った。
絶賛する玄人筋の感覚が分からない。

374korou:2017/12/30(土) 15:59:31
野村達雄「ど田舎うまれ、ポケモンGOをつくる」(小学館・集英社プロダクション)を読了。

ポケモンGOというものがどういう経緯で生まれたものなのかという
ごう普通の好奇心で読み始めたものの
その中心人物であるらしいこの著者の生い立ちについて
冒頭から著者自身によって淡々と語られ
人生の始まりがこれほど劇的な運命で定められていたのだという驚きで
読む前には想像もしていなかった展開となる。
中国大陸から日本に移住して
貧しさからも少しずつ脱却していくにつれ
徐々に現代日本に生きる若者らしい物語となっていくが
相変わらず、チャレンジする心なしでは何も解決しない状況は続く。
独学でパソコンのプログラミングを習得することに
半分失敗していたことに
自分と同じ体験をしているという親近感も湧くが
この人は新世代らしく、進路をそこに絞って専門の大学に進み
そこから独学の歪みを修正することができたのだから
世代の違いを思うとき、やや羨ましい気もするのは仕方ない。

あとは行動力で一気に大学院からグーグルに辿り着き
そこでポケモンGOのアイデアを実現させたのだから
今のところ悔いなき良き人生になっている。
本人の資質、幸運、その運を実現させる実行力の賜物というほかないが
そういう成功物語そのものについては
残念ながら類型的な話に終わっている。
ポケモンGOプロジェクトを推進したポケモン会社のトップが
いみじくも感動したように
この物語の肝は、やはり著者の生い立ちにあるように思える。
この生い立ちから、この大プロジェクトの成功までの経緯そのもの、経緯すべて全体が
素晴らしい物語であるように思えた。

375korou:2018/01/02(火) 15:46:43
新年最初の書評は昨年からの持ち越し読書。
NHKスペシャル取材班編「人工知能の「最適解」と人間の選択」(NHK出版新書)を読了。

NHKによる人工知能関連新書の第2弾。
前回の著作は
人工知能が単なる高性能のコンピュータというイメージにとどまらないということを
将棋の羽生名人という人類最高級の知性をうまく絡ませながら示した見事な新書だったが
今回の新書は
そこからどこまでの進展があって、今現在どんな状況なのかということを示した
まさに続編という形になっていた(読む前の推察通り)。
ただし、状況はますます分かりにくくなっていて
それに対する編集チームのまとめにも
いくらか現実に対する(「人間側」とでもいうべき)価値判断を随所に挟んできているので
全体として面白みに欠けてしまったように思われる。
まだ、価値判断を下してどうのこうのという現状ではないように思えた。
まだ、こんなことも可能になってきた、そしてその結果こんな未来が見えてきた
という驚きと興奮で現状を描き切るべきではなかったかと思う。
まあ、NHKの立場では、いつまでも面白がるというスタンスがとりにくいのだろうけど。

というわけで、期待に反して、面白い読書にはならなかった。
読んでいて眠気さえ覚えた。
まだまだ具体的なイメージを共有するにはムリがあるので
価値判断そのものが常識的な範囲になってしまう。
もっと面白く描けるはずなのに、という不満が先立ってしまう。
あと5年待てば、もっと面白い本になったはずなのに、という根本的な不満。

376korou:2018/01/05(金) 16:52:24
ジョン・ハンケ「ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険」(星海社)を読了。

「ど田舎うまれ、ポケモンGOをつくる」を読んだ直後で読了。
ただし、読み始めはこちらの本のほうが先で
年末から年始にかけて読んだ次第。
このハンケの本にも、野村達雄のことが書かれていて
ポケモンGOをめぐる日本の関係者は
上記2冊において、ほぼ重複して出てくるのが
当たり前とはいえ面白い。

ハンケという新しい世代の技術者の
その人となりとか、今までの仕事ぶりが
本人の口を通して、簡潔に語られている本である、
グーグルアースとポケモンGOを普及させただけで
もう現代の伝説上の人物と言ってよいが
いかにも技術者らしく
どことなく謙虚で、控え目ながら
自ら信じる方向については断固として譲らない。
まあ理系の人なので
その信条について不明瞭なところはほぼなくて
言いたいことはよく分かる。
それにしても、そんなに外へ出て行動することに重点を置くとはねえ・・・
ポケモンGOのブームの後では
後付けみたいに感じてしまうのだが。

分かりやすいので、安心してオススメできる本ではあります。

377korou:2018/01/07(日) 12:49:58
新海誠「小説 君の名は」(角川文庫)を読了。

TV初放映の同名の映画を観終わって
もう少しその世界観を深めてみたいという思いと
いまひとつ理解できなかった細部を確かめたいという気持ちで
監督自身によるノベライズの本を読もうと思ったのが契機。
本編読了後にあとがきを読んで
この本が映画公開前に書かれたことを知る(というか、購入時の経緯から「思い出す」)。
細部の変更はなかったので
公開後のノベライズだと言われても納得できたとは思うが。

細部の発見はあったものの(彗星の落下直前の三葉の”心”は瀧だった)
死亡リストにあった三葉が
なぜ最後に瀧と出会うのか、いまだに理解できない。
瀧は3年前に戻って過去を変えることができた、ということなのか?
パラレルワールドとして、瀧はその変更された未来に生きて
生き残った三葉に出会ったのか?
作品のテーマについて、そのへんは大きな要素ではないのだが
ストーリーとしてどうも釈然としない。
映画のノベライズのようなタッチで書かれているのだから
そのへんを理屈っぽく書いても
特にヘンな感じにはならなかったはずだから
そこはきっちり書いてほしかった(映画でそこを強調すると気分が萎えてしまうので
そこはぼかしてあったのは正解だろ思うが・・・)

まあ映画とセットで読む小説である。
単体で読んでもあまり意味のある読書にはならないだろう。

378korou:2018/01/10(水) 20:30:57
矢部太郎「大家さんと僕」(新潮社)を読了。

ごくシンプルなコミックエッセイなので
このスレに感想を書くほどでもないのだが
最近売れているこの本について
読後の感想として一つだけ書くとしたら
この本の魅力は
老婦人の佇まいの綺麗さにあるのだろうと思った。
マンガそのものは
アマチュアの人が初めて書いたものにしては
随分と達者で
少なくとも意味は十分に伝わる画力だった。
ただし、お笑いの人らしいくすぐりが乏しく
全体としてシリアスな感触が強く
本来なら言葉で語られる内容なのだがと思ってしまった。
しかし、その分、主観によるブレが最小限に止められ
大家さんである老婦人の人となりがよく伝わるのである。
そして、佇まいが控え目で、でも十分に人間的。
誰もこの感じを悪くは言えないだろうなと思った。

時間つぶしには最適なライトなコミックエッセイ。

379korou:2018/01/16(火) 12:49:53
夏目漱石「それから」(新潮文庫)を読了。

昨年末から読み続けていて
どうにも読み進めるスピードが出なくて
そろそろ2か月近くなるのではと思うほどの長期の読書となったが
最後の最後で
作品そのものの急な展開もあって
最後のあたりは結構一気読みに近くなった。

そこに至るまで
何の面白みもないというか
韜晦な主人公の勝手な理屈を延々と聞かされ
その理屈のなかで最悪なものを選択して
突如実行に移し、案の定カタストロフィーを迎えるのだから
漱石でなければ、さっさと投げ出していたに違いない。
さすがに漱石はそういう感覚にしておきながら
読者をひきつける「何か」を持っていて
読書そのものへの苦痛は一切感じなかった。

ただ、漱石らしい名作かと問われると
なかなか評価が難しい。
もっと書きようがあったはずだし
新聞小説という制約も感じられる。
あくまでも漱石ファンのための作品、と言ってよいだろう。

380korou:2018/01/16(火) 16:12:36
磯田道史「『司馬遼太郎』で学ぶ日本史」(NHK出版新書)を読了。

読み進めようかどうしようかと迷いながら読み始め
予想通り、自分の「司馬史観」への関心のなさに我ながら辟易しながら
なんとか最後まで読み終える。

代表作のチョイスは納得いくものだし
それについての解説も
まずまず的を得ていて全く問題ないのだが
それでいて違和感ばかりが残る。
やはり、司馬さん自身に
歴史をもとにしたなにがしかの主張があるのに
それをフィクションで描いてイメージも動員しようとするところに
矛盾があるのではないか。
司馬作品を読んでいると
どうしてもフィクションだろうという思いが強くなり
それでいて現実世界の現在と過去にコミットしていくのだから
始末が悪い。
司馬信者は、そのへんを曖昧なままにして誤魔化しているように見える。

こうして読後に振り返ってみると
案外、つまらない読書だったように思える。
本として客観的にどんなレベルかということは別にして。

381korou:2018/01/22(月) 16:19:46
眉村卓「妻に捧げた1778話」(新潮新書)を読了。

一風変わった著作であることは承知の上で
しかも、職場の蔵書にはふさわしくないことはすでに判断済みながら
ここにきて再びブーム(アメトーク?)が来たので
予算も潤沢なことだし、購入を決意。

事前チェックのつもりが
やはり内容が内容だけに身に染みてきた。
若い人が読んでも今一つピンと来ないかもしれないが
これは熟年夫婦の立場で読むと
文章の端々に敏感に反応せざるを得なくなる。
感情を抑えたトーンで書いてあるので
その場でワアーというのではなく、じわじわと沁みてくる感じだ。
ショートショートの出来がどんどん深化していくのも
意味深いものを感じる。

読む人を選ぶエッセイだろう。
感情移入できる人には大変な感動作品になる。
そうでない人には、今一つかもしれない。

382korou:2018/01/28(日) 21:23:59
望月拓海「毎年、記憶を失う彼女の救いかた」(講談社タイガ)を読了。

設定が今流行りの「記憶喪失」なので
感情移入はし易く
文体も、賛否はあるだろうが適度の軽さと特徴ある短さで
読みやすさもあって
割合とスムーズに読み進めることができた。
ただし、設定の細かいところはイマイチ雑な感じも受けたし
ヒロインの性格も不必要に複雑に書き込まれるので
徐々に「どうなのかな?」という疑問もふくらんでくる。
おまけに300ページというのは決して短くはないし。

170ページのあたりで
新たな展開が出てくるにおよんで
一気に物語は動き始める。
人によって読解力は異なるだろうが
普通程度の読者(自分も)であれば
おそらくヒロインと同時に、その真実に驚いたはずだ。

そして、最後のほうで
もう一つの真実が提示され
もはや「参った!」と言わざるを得なくなる。
こちらは結構多くの読者にとって予想外な展開だったはずで
そのまま、ハイテンションの読後感のまま物語は終わる。

見事なまでのストレート純愛物で
そこへのミステリの噛ませ方は、メフィスト賞受賞作の名に恥じないものがある。

使い古された設定を、シンプルだけど巧みに展開させた佳作。
高校生くらいの世代には文句なしにオススメできる(大人はいろいろと意見が出るだろうが)

383korou:2018/01/29(月) 16:50:50
野口悠紀雄「入門ビットコインとブロックチェーン」(PHPビジネス新書)を読了。

知的興奮という意味では
まさにAIの進化を知ったとき以来の大興奮となった。
”ブロックチェーン”という新機軸が
その概要は、読後において
ほとんど理解不能なまま終わったのだけれども
その新しい機能が書かれているとおり有効なものだとしたら
これからの社会にある程度のインパクトを与えるものであることは
確かだろうから。
AIよりもっと分かりにくい技術革新だが
野口さんのわかりやすい図表により
それを管理者側の革新とイメージすることによって
AIの進化と対比した四分法で
その概要を理解することはできる。

生半可な読後感なのに(つまり、何も分かっていないのに)
読後の高揚感は大きい。
もっともっと知りたいと思わされた近未来予測の本として
この本をとらえた自分が居る。
もはやビットコインなどはどうでもよい(笑)

384korou:2018/01/30(火) 13:54:05
村上春樹「バースデイ・ガール」(新潮社)を読了。

ごく短い小説が一つだけ。
ドイツ生まれのイラストレーターによるイラストがふんだんについている
”アートブック”の体裁だ。
イラスト混じりで60ページにも満たないので
2.30分で読了できる。

どこを切っても「春樹風味」が漂う一編。
テイストは、アメリカの作家のショートショートのようで
どこにも日本の風土が感じられない(六本木、東京タワーという固有名詞も出ているというのに)
ストーリーを引っ張っている謎、仕掛けが
読者の関心の的から微妙にズレているのも
いつも通りの「奇妙な味」を醸し出す演出に思える。
ただ、オーナーである老人のキャラが
きっちり描かれていて
さすがにこれだけの短さのなかに読後に印象が残る人物を造形し得ているのは
さすがにムラカミハルキと思った。

これ以外の感想はもう思いつかない。
あとは言葉にならない地点で思いにふけるだけ。

385korou:2018/02/02(金) 11:24:53
佐藤航陽「お金2.0」(幻冬舎)を読了。

野口悠紀雄さんの本と並行して読みつつ
さらに藤原和博さんの本にも関連していることに驚きつつ
なんとか読み終えた。
素晴らしい本だと思うのだが
読了に面倒臭さを感じてしまった理由は
随所に出てくる断定口調に思わず「うさんくささ」を連想してしまったこととか
あまりに大きなテーマなのに
その根拠が今一つ迫力不足であることなどが関係している。
ただ、そういう欠点もありながら
全体として時代の洞察という点で光るものがある著作であることも
間違いない「野心作」だ。

この本は野口さんの著作より一歩踏み込んで
資本主義の究極の修正版として「価値主義」なるものを提唱しているのだが
それは、もう片方にAI革命をイメージしていることが大きい。
ブロックチェーンというデータの正確さを保証する仕組みと
AIという自動処理の極致ともいえる手法が合わさったときに
従来の国家対個人、大資本対個人という図式が揺らいでくるという予測には
思わずワクワクさせられる。
ただし、本当にそういう方向にのみ世界は動くだろうか?
少なくとも、自然と対峙している世界、食料・燃料を確保する分野において
ブロックチェーンもAIも無力であることは間違いない。
そういうものを除いた限定的な分野だけについていえば
この本が予測している世界は、十分近未来の世界としてイメージできるのだが。
どちらにせよ、読む人に予想以上のインスパイアを与える話題作であることには
間違いない。

386korou:2018/02/07(水) 12:43:29
「マンガでわかる ビットコインと仮想通貨」(池田書店)を読了。

一連の仮想通貨&ブロックチェーンの説明本読書の一環として読む。
最初に野口さんの本を読んだときの知的興奮が
かなり醒めてきたのは否めない。
ちょうど取引所の不祥事が発生して
その信頼性に大きな疑問がついたのも大きい。
何よりも、「個」対「個」といいながら
現実には、国家レベルのスーパーコンピュータによる数式解読が必要であり
さらに不完全な取引所制度を管理する国による規制も必要であることも
分かってきた。

加えて、ブロックチェーンの正しい使い方は
国境を越えた「個」の結合が可能というところに尽きるが
現実には「根拠なく高騰する株」同様、投機向けの利用が
過熱しているだけという状況がある。

すべてを考慮して冷静に判断すれば
ブロックチェーンの構造はともかく
その運用が普通の人間にはできないようにも思える。
そこのところをもう少し慎重に吟味してほしいのだが
今回のマンガ解説本は
あまりに楽観的すぎる。
ブロックチェーンでも違法を追跡できると断言しているのには
苦笑せざるを得ない。

まあ、これについては・・・・難しい・・・(笑)

387korou:2018/02/19(月) 16:48:17
池上彰「知らないではすまされない自衛隊の本当の実力」(SB新書)を読了。

自衛隊についての具体的な知識を得たくて読んでみたが
肝心なところが曖昧に書かれていて
池上さんでもやはりこの類の本は難しいのだなと
思わざるを得なかった。
防衛についての正しい情報、詳しい情報は
どうしても外交機密となってしまうので
肝心なところはすべて推定になってしまい
さらに、理屈を並べながら様々なことを指摘しようものなら
もはやその時点でその本は政争の具として利用されてしまうという
悲しいというか仕方ない現実がある。
部分的には役に立つ知識もあったが
全体としては特に記憶すべき知見はなかったというのが
読後の正直な感想である。

こういう分野は断然「陰謀史観」の本が強い。
とりあえず偏った立場を徹底して追及することで
中立な立場では見えないものが一気に見えてくるからだ。
結局のところ、政治に絡むものはすべてそうなのかもしれない。
その意味で、常識的な池上さんには
いかにも不向きな分野の本だった。

388korou:2018/03/07(水) 20:16:40
柞刈湯葉「横浜駅SF」(KADOKAWA)を読了。

読む気がなかった本だが
某氏(内海氏)が注目していた作品だったため
ついつい読む羽目に。
読み始めは設定についていけなくて辛い感じだったものの
途中からはなぜかかつてない感覚の面白さを感じ始め
最後は一気読みに近い感じになってしまった。

本当に分からないこの面白さ。
書いてあることの半分は、本当の意味で理解できていないのに
それでいて先へ先へとページを繰ってしまったのは何故なのだろう?
あまりこの種のSFを読まないので
いかにも奇想天外な発想に驚くほかないが
それ以上に、その風変わりな世界で生きている登場人物たちの
確かな実在感が不思議すぎる。
普通ならあり得ない世界でのたわごとで終わるはずなのだが・・・

何というか
読後でさえ印象がつかめない珍作である。
他の人に薦めて感想を聞きたいが
むやみに薦めるのも憚られるマニアックな本ともいえる。
ライトノベルのランキングで第1位になっているので
案外そういう小説のファンが飛びつくジャンルなのかもしれない。
SFというより、重厚なラノベなのだろうか・・・?

389korou:2018/03/08(木) 16:14:04
村山冶・松本正・小俣一平「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と特捜検察「栄光」の裏側」(朝日新聞出版)を読了。

勤務先との関係もあって
吉永祐介の本を読むことにしたが
そもそも吉永の本など、もう入手困難な時代になっている。
現役で大活躍のときでさえ
その職種の特殊さから知名度に乏しく
ましてその生涯を追った本など売れるはずもない。
かろうじて入手可能なこの本を読み始め
その地味な足跡をたどること4ヶ月近くに及び
やっと今日読破できた(腰痛で連日年休をとったせいでもある)。

予想通りというか
もはや旧時代の遺影でしかない吉永祐介という人物。
残した業績の割には感銘を受ける部分が乏しかった。
検察官僚として、現場の最高責任者としてなら優秀だったのだろう。
それも、とびきり優秀だったのだろう。
でも、それ以外何もない人間。
そういう人たちの集まる検察庁というところ。
自分には本当に無縁な場所だと思った。

さらに鼎談を組んだ3名の記者たちの感覚も
今の我々、2018年に生きる一庶民の感覚とズレている。
でも、この時代ではスター記者だったのだろう。

というわけで
長く読んだ割には得るものは乏しい本だった。
昭和史の一つとして読むのなら、優れた裏面史なのかもしれない。
でも読みやすさに比して得るものは乏しい本である(検察の未来が書いてあるのにもかかわらず)

390korou:2018/03/11(日) 12:59:41
断念した本・・・竹中千春「ガンディー」(岩波新書)

ガンディーについて
以前から関心はあったものの
詳しくは知らなかったわけで
その意味で今回の岩波新書の新刊には期待十分で
読み始めたのだが・・・

著者が専門家であることは疑いもない。
時間さえあれば、不明な点を確かめつつ読み進めることも可能だったが・・・

なにせ入門編として読むには
不親切な記述が多すぎる。
ガンディーの業績を細かく記述するよりも
当時のインドの状況をもっと分かりやすく説明すべきだっただろう。
そもそもの前提が分からないと
その前提に向かって対決したはずのガンディーの行動、決意の尊さについても
なにも分からないというのが読書中の感想である。

Wikipediaで当時のインド独立運動の様子をまとめ読みしてみると
新書に10時間以上費やして得た情報量以上のものが
わずか1時間弱で得られた。
もちろん細部は不明だが
その細部を読む込むには
この新書は不向きである。
残念というほかないが。

391korou:2018/03/12(月) 17:50:44
S・D・ロバートソン「いま、君にさよならを告げる」(ハーパーコリンズ・ジャパン)を読了。

「横浜駅SF」に続いて、勤務先イベント(30選)用の読書。
読んでみて、前回同様30選にふさわしいクオリティだったので一安心。
外国物はなかなか難しいのだが、できれば入れておきたいので、ちょうど良かった。

内容は、SF、ファンタジーが絡んだ家族愛の物語で
あり得ない設定がどんどん出てくるのだが
描写そのものは
リアルで具体的でものすごくオーソドックスなので
物語の世界に入り込めないということはない(登場人物の性格に共感できるかどうかは別として)。

なぜおじいさんのホモ話が必要なのかという疑問はあるものの
それ以外は推進力抜群のストーリーで実に読みやすい。

読みやすさが一番の魅力で
それでいて全然雑でないというのがいいところ。
書名とか、冒頭の設定とかで泣かせる流れになっているのは
ちょっとマイナスかも。
これは泣かせるというより、分かりやすく考えさせられるというところに
美点のある物語だろう。

他にもっと同種の優れた小説があれば別だが
とりあえずこれでも全然問題ないというところ。

392korou:2018/03/18(日) 15:21:47
新井紀子「AI vs 教科書が読めない子供たち」(東洋経済新報社)を読了。

見事な著作である。
末尾に記された今後の計画についても
当節なかなかお目にかかれない「志」が感じられて
感銘するほかない。
この本に関する限り、完璧としかいいようがない。

余談にはなるが
この本についてのアマゾンの書評の酷さには驚くばかりである。
まさに「本が読めない大人たち」がよってたかって
自らの愚鈍さを表明しているようなものだ。
自分で例示しておいて、その例示がこの本で示されたものと勘違いしたまま悪評を下す人。
自分に読解力がないことに気づかず、問題例の矛盾とやらを指摘したつもりになって溜飲を下げる人。
ああ、確かに新井さんの言うとおりだ。
中学生のときの読解力のなさをそのまま大人まで引きずって
したり顔で書評する人がいっぱい居る。
げんなりもするが
この人たちはもう仕方ない。
この本では読解力はいつでも向上可能と書かれているが
新井さんは、限定つきで書いているのだから
そのことも織り込み済みなのだろう。
この人たちは、試練に遭わない限り、このまま自らの過ちに気づかないまま人生を終わるのだ。

だからこそ、この「志」は尊い。
これからの世代にはしっかりとしてほしい。
どんな方法でそれが可能になるのか誰にも分からないとはいえ。

393korou:2018/03/20(火) 11:33:38
山中伸弥・羽生善治「人間の未来 AIの未来」(講談社)を読了。

現代を代表する知性のお二人の対談本ということで
世間的にもまずまず売れたこの著作。
特に珍しいことが書いてあるわけではないものの
読んでいて気持ちよく脳がリフレッシュされる爽快さが
感じられる好著となっている。

新井紀子さんのように
純数学的にAIの未来を割り切るのではなく
もう少し意図せざる展開というものを無意識に混ぜながら
未来像を語る羽生さんの立ち位置は
現代の多くの人のイメージするAI観を代表するものだろう。
それに対して
山中教授の科学観、人生観は
個性が勝ち過ぎて、時に普遍性を欠くきらいもある。
しかし、そのあたりが対談という形式で
うまく中和されて、ほどよいテイストになっているところが
読みどころだ。

それにしても
やはり課題は教育ということに帰してしまう。
日本の未来は、改善されるべき教育ということで
どの本も一致するのだが
これほど皆のイメージが合致しない課題もないだろう。
難しい話だ。

394korou:2018/03/23(金) 11:45:29
土屋賢二「ソクラテスの口説き方」(文藝春秋)を読了。

たまたま手にして読み始め、やめられなくなり読破した。
前々からツチヤ氏の面白い語り口は了解していたのだが
初めてきっちり1冊の本を読んだように思う。
これほど読後に何も残らない本も珍しい、という
それ自体が珍しいタイプの賛辞を受けている本だが
本当に何も記憶に残らないし
そのことが通常の読書とは全然違う体験で貴重だと思う。
いちいち膨大な感想を要する読書をしていては
貧相なこと間違いない凡人の頭脳では身が持たない。
というか、すでにツチヤ氏の影響を受けた文体になっているのは
我ながら可笑しい。
これは侮れない「無駄な本」である。

哲学的な思考経路が、うまく「笑い」と出会った本である。
そういう類の本が楽しめる人には必読の本、オススメ度100%の本である。

395korou:2018/03/24(土) 22:50:06
エラリー・クイーン「ローマ帽子の秘密」(角川文庫)を読了。

仕事の必要で読み始める。
陽菜さん(JK)のおかげというのもあるのだが。
中学生時代にハマったミステリーで
ある意味、子供の読書から大人の読書へ成長していった時期の
代表的な読書となった本でもあり
そういう本を60歳になった今
再び新訳で読む(それも評価の高い訳で)というのも
感慨深いものがあった。

内容は全く覚えていなくて
再読とはいえ初めて読むのと同じだった。
あとがきで
優れた警察小説でもあると書いてあったが
納得である。
クイーン警部の描写は見事だった。
その反面、本格推理のフォーマットは踏んでいるものの
細部には不満が残った。
謎の解明に比べて
伏線部分が冗長に感じられた。
もっとも本格推理としてよりも警察小説としてなら
この冗長さは、むしろ丹念に書き込んだ佳作という評価になるわけだが。

思ったよりも長ったらしく
その反面、意外なほど味わい深い描写も多かった小説だった。

396korou:2018/04/02(月) 17:43:24
山白朝子「私の頭が正常であったなら」(角川書店)を読了。

乙一の別名義での作品。
ただし中田永一作品のような普通っぽいテイストに陥らず
初期の乙一作品に近い
ーー残虐なのにそれだけでない、狭い世界での話なのに身近に思えるという
不思議で魅力的な小説だったので嬉しかった。
短編集で、どの短編も面白く読めた。

それにしても
他の作家では味わえないこの風味がたまらない。
何がどう違うのかさっぱり分からないのだが
単なるホラーとは一線を画す暖かさとか
暗闇から抜け出せそうな仄かな光、希望、温かみを感じるので
全体の暗いタッチとの対比が絶妙で
読んだあとに、いかにも心に突き刺さる物語を味わったという実感に
浸れるのだ。
なかなか、こういう作家は居ない。
こんな年度末から年度初めの気忙しい時期でも
この小説は強い磁力をもって読書にいざなってくれる。

他の山白名義の作品も読みたくなった(買うぞ!職場で)

397korou:2018/04/08(日) 13:51:02
小野雅裕「宇宙に命はあるのか」(SB新書)を読了。

宇宙について書かれた本で
今までそれほど面白い本に出会ったことがなかったのだが
ついにめぐり合ったという感じ。
福岡伸一さんとはまた違った
サイエンス畑の人による優れた文章に酔いしれることができた。

一言で言って、この文章の魅力は「ワクワク感満載」ということになるだろう。
宇宙についていろいろなイマジネーションを働かせることによって生まれる
少年のようなワクワク感を
この著者は30代半ばになっても持ち続け
それを仕事として今活動しているわけだ。

その一方で
難しい内容を噛み砕いて
わかりやすくイメージ豊かに伝えるという
この種の入門書に求められることも満たしている。
SF小説の祖ジュール・ベルヌから
宇宙人との交信を夢見たフランク・ドレークまで
この200年近い人類の宇宙への夢、挑戦が
生き生きと描かれている。

ワクワク感に魅了されながら
知らなかった宇宙研究の世界の出来事について
いろいろと知ることができるというのは
なんという幸福なことであろうか。
優れた本というのは
こういう本のことを言うのだという見本のような名著である。

398korou:2018/04/10(火) 10:57:21
小林由香「ジャッジメント」(双葉社)を読了。

衝撃のデビュー作ということで
つい最近、第2作が発売されたのを機にその存在を知り
まず、1年半前に世に出たこの作品のほうを
読んでみることにした。

重たい。実に重い。
読んでいて辛くなる。
この年度変わりの気分が一定しない時期などには
本来なら読むべきないとも言えるが
今回は個人的事情により
そんなことは一切構わず読み進めることができた。
そして、読後の感想は「素晴らしい」の一言に尽きる。

まさに今この時代に書かれるべき小説だった。
そういう必然性を感じる小説にはなかなか出会えないのだが
これは全然違った。
細かく書いていけばキリがないが
日ごろ悲惨、陰惨なニュースを耳にするときに
いろいろと思ってしまうことが
この小説で一気に深く展開できたような気がする。
(もちろん、正解はない状況なので解決したわけではないのだが・・・)
最後のエピソードには思わず泣けてきた。

凄い。
読む時期さえ問題なければ
読書人必読の小説だと思った。

399korou:2018/04/11(水) 22:46:25
鴻上尚史「不死身の特攻兵」(講談社現代新書)を読了。

これもまた凄い本だった(最近「凄い本」に連続して出合う)
こういう日本人も居たのだという驚き。
それは「永遠の0」で知った驚きとは違う
現実の世界での話だったので
ひときわ感銘も深かった。

今、アマゾンの書評で否定的な意見を書いているものをあえて読んでみたのだが
いろいろと考えさせられた。
あながち間違いではない。
その人の言うとおり「特攻は無駄ではなかった」という論証も可能かもしれない。
しかし、それは単に歴史の検証にとどまる評価であって
それが現代にどういう意味があるのかというのとは別である。
戦争をどう思うかということは
その時代にあってどうだったのかということと
現代ではどういう意味をもつのかということとの
きわめて厳密な差異を知りつつも
あえて今現在で評価することでなければならない。
(その意味で「東京裁判」は滅茶苦茶ではあるのだが否定もできない

この本は、現代の日本人に書かれた本である。
当時「特攻」が有効だったかどうかなどということとは些細な話に過ぎない。
その意味で「否定的書評」もピントがズレているが
この本の第四章も、書かずもがなのことを書いているという側面は否定できない。
もう少しさらっと書いても、第三章までの迫力で十分伝わったのではないか。
まあ、第四章は現代日本人の多数意見であるから
論理的でないにしても罪は少ないが。

いずれにしても「凄い本」であることには変わりはない。

400korou:2018/04/16(月) 12:04:50
小林由香「罪人が祈るとき」(双葉社)を読了。

「ジャッジメント」があまりにも素晴らしい出来だったので
今回のこの第2作にも十分な期待といくらかの不安をもって
読み始めた。
すぐに不安は吹き飛び、作品世界に没入。
随所にシナリオ作家としての特徴が出ているのを
効果的で読みやすく思うと同時に
いくらか活字オンリーの世界である小説としては違和感も覚えつつ
それでも、読後の満足感は十分にあった。
これだけ書ける人はそうそう居ない。
いい作家に出会うことができた幸福感に浸っている。

前作は、重たいテーマでありながら連作短編であったので
やっと解放されたと思ったら、また重たいテーマで別の話という連続になり
いささか読み進めるのに疲労感も覚えたのも事実だが
今回は長編だったので、そういう「重たさへの疲労感」はなく
十分に作品世界に没入できた。
細かい違和感はともかく
やはりシリアスなテーマで一貫していて、いささかもブレがない上
各登場人物の造型が適格で、かつ心理描写が冗長でないことで
実に締まった感じが出ているのは素晴らしい限りだ。
ドラマ化も可能だし、そうなると作家としての人気も沸騰するだろう。
読後の満足感と充実感に満ちた小説だ。

401korou:2018/04/22(日) 18:19:55
七月隆文「ぼくときみの半径にだけ届く魔法」(幻冬舎)を読了。

このところテーマが重い本が多かったので
軽いタッチの会話中心で読みやすい本ということで
この本を選んでみた。
で、予想通り、読みやすく、かつ内容もありふれていてライトだった。

ナイーブで純粋な若い男性と
それよりも少し年下の難病の少女が
いつしか恋に落ちる物語・・というだけでありふれているが
それが最後にはすべての困難を乗り越えてハッピーエンドで終わるという
これ以上ない軽いタッチなので
逆に、重たい本に挑戦したいときには
どうでもいい小説に思えたかもしれない。
しかし、こういうタイプの本を読みたいときには
これ以上最適なチョイスはないだろうと思えるくらい
快適な読書であったことも確かだ。

いくらライトな心地よさがあっても
あまりにも内容空疎だったら読書の意味はない。
その意味でいえば
この小説には最低限の心理描写もあるので
ライトな小説の一つの極致としてアリだろう。

402korou:2018/04/29(日) 10:15:00
「昭和史の10大事件」(宮部みゆき×半藤一利)<文春文庫>を読了。

内容、対談者ともに食指が動いたので読み始める。
すぐに内容が薄いことに気付くが
そもそも深い内容を期待することが間違いだと思い直し
以降は楽しく読めた。

ストリップショーが10大事件というのは
完全に半藤さんの「趣味」と言えるが
その他の事件については妥当なところだろう。
①金融恐慌②2・26事件③大政翼賛会(三国同盟)④東京裁判(戦後改革)
⑤憲法第九条⑥ヌードショー⑦金閣寺消失(五輪参加)⑧第五福竜丸(ゴジラ)
⑨高度経済成長(公害・安保・新幹線)⑩宮崎勤事件

⑤が大きな項目として取り上げられているのが優れているところで
最近の人たちがこういう企画をやったとしたら
まず「10大事件」にはならない項目だろう。
こうしてみると
半藤さんの意向が大きく反映されているのか
戦後直後の価値喪失体験に関する項目が
④から⑧(部分的に⑨)まで該当している。
全体の半分がそうで
戦前の「戦争責任」関連と含めると
純粋に戦後日本独自の項目というのは
わずかに⑩だけという
ある意味極端な感じもするのだが
そんないびつな構造の対談に
宮部さんがうまく対応しているのも
読みどころの一つである。

403korou:2018/05/06(日) 18:05:42
折原一「異人たちの館」(文春文庫)を(約1週間前に)読了。

文庫本で1200円いう価格が示すように大部なミステリーで
読後の感想はほとんどの人が「お腹いっぱい」と言わざるを得ないだろう
まれにみる異色作だった。
伏線はほぼ回収されているとはいえ
不自然な設定が随所に見られ
ツッコミどころ満載だが
それ以上に作者が提示したありとあらゆる仕掛けに振り回され
結果として途中止めできない熱中を生み出しているのは
多くの読者共通の感想になるはずだろうから
いかに破綻していようと駄作では決してないことは断言できる。

それにしても、思わせぶりな描写が満載で
その割には仕掛けそのものは強引さが目立つわけで
その意味では文句なしの名作とは言えない。
でも・・・最低の作品なんてことは絶対にない・
・・という繰り返しになってしまうのだ。

もう具体的にどうのこうのという筋を書く気力も出てこない。
疲れる読書だし、こんな風に読後1週間も感想記入を放置してしまうような
作品であることも確かだ。
同時に、この疲労感を共有してほしいと無闇に他人に勧めたくなる作品でもある。
うーん、厄介だ。

404korou:2018/05/07(月) 22:57:38
宮崎駿(インタビュアー・渋谷陽一)「風の帰る場所」(文春ジブリ文庫)を読了。

図書委員会文化祭展示企画の参考資料として一気に読了。
いろいろと気難しい感じの宮崎駿に対座して
あの(70年代DJ界のヒーローだった)渋谷陽一がいろいろと聞き出すといったテイストの
なかなか一筋縄ではいかない対談集である。
あまりに多くの要素が気まぐれに点在して
しかしその雑多な諸々の要素が
宮崎駿という確固とした表現者のなかできちんと位置づけされているので
読者としては、その整頓具合までちゃんと正確に把握して読み解かなければならないという
大変しんどい読書だったのだが
その反面、マルクス主義も手塚治虫も里山主義もアニメーション映画そのものについても
その他のことも全部含めて
一気に一つの人格のなかに統一してイメージするという
他の本ではなかなか体験できない、言い換えれば実に面白い読書であったことも事実である。
もちろん、これはマニアックな作業でもあるので
仕事の一環としてこの本を読まざるを得なかった自分は
自然とそういう方向で読書できたわけだから
ある意味ラッキーだったと言えるのだ。

宮崎駿は韜晦だけど
ちょっと前の知識人は皆こうだったのかもしれないとも思う。
今の高校生にはムリだろうなあ・・・(遠い目)

405korou:2018/05/16(水) 22:25:02
磯田道史「素顔の西郷隆盛」(新潮新書)を読了。

一度だけ西郷隆盛という人の生き様を通して把握したいと思い
読み始める。
磯田さんの本だけに叙述が淀みなく
文明批評風な隆盛評もそれほど苦にせず読めた。
何よりいいことは
本が面白かった上に、その内容がきちんと頭に入ったことで
あまりに面白すぎて、その割には後で内容が思い出せないという本も
少なくないので
そういう意味で良書と言えよう。
今振り返ってみて、大体、西郷の生き様が辿れるような気がする。

ただし深い意味では、なかなか掴めない人物で
その思想を的確にまとめるのは難しい作業だ。
何でも西洋風に思考してまとめようとすると
こういう東洋の傑物の場合
何か大きなものが抜けてしまうような気がする。

とりあえず
大河ドラマ「西郷どん」の年でもあり
当面はオススメできる本であることは確か。

406korou:2018/05/22(火) 09:11:42
宮崎駿「シュナの旅」(徳間アニメージュ文庫)を読了。

かなり前に読了していたが
今回の委員会行事に合わせて再読することに。
やはり、というべきか
以前読んだ印象は全て幻だったかのごとく
再読ではなく、新規の読書でした(笑)
ストーリーは全然記憶になくて
今回知ったストーリーは
まさに「ナウシカ」のルーツのようなもので
それは「ナウシカ」解説本に書いてあったとおり。

なぜ、宮崎サンが
そのようなストーリー、設定に惹かれるのか
その感覚自体が自分には全く無いので
こういうアニメをどう評価していいのか難しいのだが
宮崎アニメとしては確かに完結しているし
宮崎サンの思いそのものは伝わってくるので
これはこれで良しというほかない。

誰にでもむやみにオススメはできないが
まあ高校生程度であれば大丈夫かな、というレベルの軽いストーリーアニメ。

407korou:2018/05/22(火) 09:15:10
池上彰「池上彰の世界の見方 朝鮮半島」(小学館)を読了。

池上さんが、地域別にその歴史を深く語るシリーズの朝鮮半島編。
中身については安心の叙述に読みやすさ抜群で、いつも通りの仕上がり。
さすがに、今現在一番の話題なので
こちらとしても読んでいて集中度が違うわけで・・・

(時間がないのでここで一度中断)

408korou:2018/06/12(火) 10:58:16
豊田隆雄「本当は怖ろしい韓国の歴史」(彩図社)を読了。

偶然、韓国関係の歴史の本を連続して読むことになった。
池上さんの本の書評を放置したまま3週間経過したが
その間、特に他の本を読破することもなく
やや健康状態が悪化したこともあり(視力も含め)
この3週間の間、読んだ本はこれ1冊だったが
読破するのに労力が要ったということではなく
むしろ、あまりの読みやすさに感心したくらいである。

池上さんの本は
どこかで現時点の状況を意識しているところがあって
それは戦後史に限定された著作である以上
当然ともいえるが
こうして豊田氏の著作と比較してみると
実に公平かつ客観的に叙述されていることが分かる。

豊田氏のこの著作は
近現代史に至るまでは気がつかないというか
あまりに昔過ぎて気がつきようがないのだが
近現代史に突入するや否や
一気に保守化した史観を展開して
いかに韓国が無責任かつ無節操な動きをしていたかを
これでもかこれでもかと指摘してみせる。
ただ、そういう類のおバカ本と違って
読むに値する「保守史観」本であるところに着目したい。

409korou:2018/06/12(火) 11:03:54
具体的な引用部分は皆無だが(手軽なサイズの文庫本では仕方ないところ)
巻末の参考文献を見てみると
一定の傾向が読み取れる文献ばかりで
これだけの文章が書ける人であれば
もっと幅広く文献を参照して
より客観的な叙述をしてほしかったと思うのである。
とはいえ、偏った資料ばかりとはいえ
論の展開は的確で
これはこれで一つの見識と言ってもよいだろう。
そして、近現代史以前であれば
ややこしい朝鮮半島の歴史について
これほど要点を読みやすくまとめた本には
今までお目にかかったことがないわけで
タメになる本だった。

なかなかリテラシーが必要な本で
うっかり推薦はできないが(司書仲間には推薦してしまったが・・・)
分かる人には分かる快著である。

410korou:2018/06/13(水) 20:54:40
猪木正実「人見絹枝の世界」(日本文教出版)を読了。

岡山文庫の一冊(職業柄の役得でタダで読める)。
郷土関係でしかも伝記とくれば読まないわけにはいかない。
読書欲が急速に落ちているとはいえ
さすがにこれだけ大きな活字で、内容もそうであれば
実質2時間程度で完読できた。

特に目新しい話はないのだが
せいぜい東京での二階堂体育塾の話とか
女子オリンピックなどの詳しい様子などが詳しいので
面白く読めた。
生家の福成がどのあたりか見当がつかないのが残念。

まあ、趣味の読書なんで、こんなところでおしまい。

411korou:2018/06/24(日) 12:06:33
中途断念記録。

藤岡陽子「満天のゴール」(小学館)を読了断念(293pの本で176pで断念)。
せっかく半分以上読んだのだから読了したかったのだが
作者に都合のいい登場人物の振る舞いを
これほど延々と見せられると
読み進めることは難しい。
かつて司馬遼太郎「花神」で
あまりにも作者が都合のいいところで顔を出し過ぎて
フィクションの世界に浸れないことに腹を立てて
半分近く読んだのに読了を止めたことがあったが
半分ほど読書して止めるのは、それ以来かも。

優れた描写も多いのだが
考えてみると
人物の出し入れについては
作家として基本的な才能に違いないので
そこが安易な流れになるのは
結構致命的ではないかとも思ってしまう。

今後注目し続けるかどうかは微妙な感じ。

412korou:2018/07/01(日) 09:49:18
是枝裕和「万引き家族」(宝島社)を読了。

(この文章を入力中に「このサイトは詐欺サイトです」という警告ページに切り替わるという事件発生。
 何でやねん。個人のレンタルサーバ上に20年近く使用している掲示板を置いてるだけやろ)

カンヌのグランプリを獲った映画の原作を
監督自身が執筆した小説で
正直あまり期待せずに読み始めたのだが
すぐに、普通のノベライズとは全然違うことが判明。
細部では映像化を前提にした描写もあるのだが
全体として、淡々とした書き込みすぎない描写が貫かれ
それでいて、人物の造形などは揺るぎなく書き込まれているので(映像化しているので当然かも)
何が書かれているのかわからないというような曖昧さが
一切ないのが素晴らしい。

そして、それぞれが家族について、血のつながりについて
安易に正解を出すでもなく、かといって日々の暮らしに流されっぱなしになるでもなく
その意味ではびっくりするくらい誠実に生きている人たちであることが胸を打つ。
それぞれの心の動きが、こうあってほしいという読者の願望とシンクロし始める後半部分からは
一つ一つの場面で想像力をかきたてられ
思わず感涙する箇所に何度も出会った。
読み終わって、読む前とのギャップの大きさに驚くとともに
映画のノベライズでこれほどの感動が得られるものなのかと畏怖の念すら抱いた。

紛れもなく今年読んだ本のなかで最高の感動傑作、

413korou:2018/07/09(月) 21:32:26
吉田麻也「吉田麻也 レジリエンス――負けない力」(ハーパーコリンズジャパン)を読了。

あたかも、ロシアW杯で日本中が盛り上がるのを予期したかのように
先月出版された日本代表センターバックの半自叙伝。
文章は適度に卑俗で適度にインテリジェンスで
そのバランスが程よく、最後まで飽きずに読める本になっている。
もちろん、文章がどうこうというより
日本人なので体格面では圧倒的に不利といえる
サッカーのディフェンスの選手として
世界屈指のリーグであるプレミアで準レギュラーとして長年活躍している
というその事実そのもので読者を圧倒する本なのだ。

分かりやすく書いてあるので
Jリーグ下部組織からJリーグ、オランダの下部リーグ、プレミアリーグという各段階で
それぞれどんなレベルで、どのくらい困難で、しかしどのくらいの努力でそれを克服できるのかという
一番知りたいところが、なんとなく分かるようになっている点が素晴らしい。
なかでも、最後のプレミアにおいて
もはや日本人の不利な面はどうしようもないと判断した上で
そこからさらに生き残る道を探っていく過程が
一言で言って「凄い」。
これこそ今回のW杯で、テレビの画面を見ていて一番感じていたことなのだが
やはりその方向が正しい一歩、とりあえず一番有力な一歩なのだろうと思った。

今が旬の本です。オススメできるレベル。

414korou:2018/07/12(木) 16:40:26
恒川光太郎「滅びの園」(KADOKAWA)を読了。

イメージとして
星新一のショートショートを長編にした感じ。
乾いた感性で世界が淡々と描かれ
ただしそこにうごめく人としての情念は揺るぎがなく
世界は明確な意思で動いているという前提。

それを設定としての面白さととらえるなら
超短編であるなら
そのまま突っ走って読者を驚かせる効果を持つのだが
ここまで長編になってくると、果たしてどうか。
少しだけ読者を選ぶかもしれない。
こんな絵空事に長時間付き合うのはムリという人も居て当然。

自分は恒川ワールドにハマりやすい体質なので
快適な読書タイムだった。
絶望と希望について
こんな側面から考えることになろうとは
思いもよらなかった。
いや、そんな具体的な感想は二の次で
ただ、ひたすらその世界が心地よかった。
ある意味、自分には
この本を批評する資格がない。

415korou:2018/07/19(木) 11:26:35
中途断念記録。

早坂吝「探偵AIのリアル・ディープラーニング」(新潮nex文庫)を読了断念(3643pの本で89pで断念)。

決して面白くないわけではなく
むしろ人工知能の最新知見を巧みに小説に応用しているところが
そこそこ魅力的に感じられたくらいだが
何せこの酷暑と視力の衰えのダブルパンチで
「そこそこ魅力的」程度だと
読書を控えなければならないコンディションなのだから仕方ない。
春・秋なら完読できたはず。
早坂吝氏の才能はやはり侮れない。

416korou:2018/07/26(木) 12:16:17
山里亮太「天才はあきらめた」(朝日文庫)を読了。

間違いなく、今年度の「でーれーBOOKS」の
自分の中での圧倒的受賞作。
文章は意外と韜晦で
最初のうちはスラスラとはいかないが
一度リズムにハマったら、その韜晦さも魅力になり
そうなれば
もはや”天才”山里の独壇場となる。
とにかく、負のエネルギーをどう処理して
とかく生き辛いこの人生を乗り越えていくかという点に
どの文章を読んでも、その一点に集中していて
最期まで迷いがない。
負のエネルギーを、その負の原因となった人物への復讐という形で昇華させ
そのことを肉筆のメモで見せているページなど
なかなかの圧巻で
本来なら読みにくい肉筆ながら
思わず読んでしまう。
実にパワーのもらえる本である。

解説の若林もすごくいい。
山里とは違ったタイプの文才の持ち主だが
さすがに書くに値する中身があって
この文才なのだから、面白くて当然だ。

以上、総括して今年のベスト・ノンフィクションで決定!

417korou:2018/08/09(木) 23:22:23
ペドロ・マルティネス「ペドロ・マルティネス自伝」(東洋館出版社)を読了(県立図書館本)。

ペドロ本人への興味というより
自分がリアルタイムで詳しくチェックできたMLBの時代を回想する意味で
ちょうどピッタリだと思い、図書館で借りてきた。
読み始めて、やはり面白く、500ページほどのぎっしりと活字が詰まったこの本を
一気読みしてしまった。

前半部分は、成功を手にするまでの過程で
青年らしい未熟さが好ましく描かれていたが
後半は、すでに成功を手にして
これから大人の紳士になろうかという時期であるのに
相変わらず激怒する性格が直らないまま
いろいろな誤解と悲劇を生み続けるので
全面的な同情は持ち得なかったというのが読後の感想。
ただ、前半の叙述から
どれだけ繊細で傷つきやすい性格なのかよく分かったし
それを念頭におけば、後半部分の出来事も
多少は納得もできるし
今まで伝えられてきた彼の”虚像”について
理解は深まった。
それだけでも、この本は読む価値があった。

MLBファンなら必読、そうでない人には
やはりオススメしにくい本。
ペドロがいかにMLBファンに敬愛されたか、それを知っていないと
単なるワガママアスリートの独白と取られかねないので。

418korou:2018/08/11(土) 12:13:42
宇佐美まこと「骨を弔う」(小学館)を読了。

未読の著者だったが
出だしが読みやすく淀みなく進行する感じだったので
そのまま読み続けた。
100ページを過ぎるあたりまでは
丁寧な叙述、とリアルな心理描写で満足できたものの
シンプルすぎるミステリー風味を全体に漂わせていながら
怪奇な事件が一切起こらないまま淡々と進められるストーリーに
飽きが来ていたのも事実。
150ページから200ページまで、読み通すのが辛く
どうなることかと思っていたら
200ページを過ぎてから俄然展開がスムーズになり
最後のオチまで一気読みできたのは
ある意味意外だった。

不本意な人生から再生のきっかけを掴む物語としてなら秀逸。
ただし、ホラーとかミステリーなどで売り出している作家の新作と思えば
この中途半端な読後の印象、不完全燃焼といわざるを得ない。
文章力は十分なので
何でも書けそうだが
この一作を読んだだけでは何とも言えない。
他の作品も読みたい、そう思わせるだけでの才能は
十分に感じられたので
また読んでみたい。

419korou:2018/08/12(日) 17:42:39
河合雅司「未来の年表 2」(講談社現代新書)を読了。

いつでも読めそうな気がして
ほぼ1ヶ月半ほど持ち歩いていた。
さすがにもう読了しなくてはと思い
本日読了。

前作については
飛ばし読みながら
すぐに名著であると判断し
多くの人に推薦した。
今回も同じクオリティを保っていて
多くの人に読んでもらいたいし
実際よく売れている。

今回は、より身近な例を挙げて
個人レベルでの未来像を提示している。
少子高齢化時代の個人レベルの話だから
どうしても60代以降の人生設計の話になり
そこに書かれていることは
今の自分が予定していることとほぼ合わないので
読んでいて気詰まりな箇所が多かった。
とはいえ、それは個人的事情なので
この本の客観的な価値とは無関係なことだが。

前著のインパクトが強かったので
そこまでのパワーはないものの
やはり国民必読の未来指南書になっている。

420korou:2018/08/23(木) 21:57:23
三秋縋「君の話」(早川書房)を読了。

今一番好きな作家の最新作。
そして、その期待は全く裏切られなかった。
それどころか、期待以上だった。
やや微妙な出来と言えなくもない最近の作品と比べて
設定の絶妙さが全体を支配していて
何の不満もない読後感、心地よかった。

本当に切ない恋愛、切ない女の子を描くのが上手い。
主人公はどこかで作者の分身なのだろうけど
文体が独特で全然嫌味がない。

文体といえば
村上春樹からの影響を指摘しているアマゾン書評があったが
まさにそのとおりだと思う。
春樹氏と違うところは
主人公の屈折に普遍性を持たせていないところだけだ。
春樹氏は、時代背景もあって
学生運動という共同体からの逃避という普遍性をもたせて
主人公の屈折を描いているのだが
2018年の現在、そういう普遍性のある屈折は存在しないわけで
まさに2018年にハルキ的感性で小説を書いたら?という想定についての
最上の答えとなっている。

もう何を書いて賛辞すればいいのか分からないほど
幸福な読後感。
多分、司書として読む最後の三秋作品となるだろう、感謝。

421korou:2018/08/26(日) 16:23:56
堤未果「社会の真実の見つけかた」(岩波ジュニア新書)を読了。

自分の職場(高校図書館)では
生徒への必読書として
常に最有力候補となる”青少年のためのバイブル”のような本として
必須の存在ともいえる本である。
なのに、いまだに読んでいなかった。
ほぼ退職間際になって、ふと読まなくてはと思い立ち
今更という思いもありつつ
読んでみた。
面白いものとはいえず
しかも内容の大半は同じ著者の他の本と同じようなことだし
楽しい読書とはならなかったが
最後の第4章を読んでみて
やはり青少年のための必読書という感想を新たにした。

現実はこうだというのが第1章から第3章、それに対して
希望をもつにはこういうことを知っておこうというのが第4章。
現実はなかなか普通の高校生には伝わらず
しかし希望のなさ加減だけは空気として伝わっているはずなので
第4章だけでも読んでほしいと切に思った。

これから3月までの間に
この本を紹介するに足る生徒に出会えるかどうか
楽しみに待ってみたいと思う。

422korou:2018/09/05(水) 21:23:50
秋吉理香子「ガラスの殺意」(双葉社)を一気に読了。

怒涛の一気読み必至。
これだけの緊迫感で最後まで読者を引っ張っていく力量たるや
他には絶好調時の東野圭吾くらいしか思いつかない。
凄いし、面白いし、いろいろな感情を揺さぶられるし
このところ、いろいろな方向に飛び散っていたこの作者の作品としては
これは決定打とも言ってよい傑作となっただろう。

細かいキズは2箇所。
いくらフィアンセの危機とはいえ
若い女性に対してその殺人鬼と対決せよと真剣に願うのは不自然だし
その動機で最後まで行動するのももっと不自然。
最後は、悪人を投げ捨てるかのように
あっさりと作中で殺してしまうのも乱暴。
また、男女刑事コンビなのだから
いくら女性がリードしていたとしても
男性の容疑者を取り押さえる状況で
女性が単独で部屋に向かう想定からコンビで向かう想定になっていく過程にもムリがある。
ここは、男性が部屋に向かい、女性が念のため下を見張るというのがセオリーで
その設定でも、このストーリーは成り立つはず。

しかし、それらをすべて忘れさせる最後の場面の強烈なインパクト!
以上のムリな設定でなければこの場面は成り立たないし
その最後の儚さ、哀しさが作品を際立たせているのだから
文句は言えない。

文句なし今年No.1小説の1つ。
「君の話」は読者を選ぶが
この小説にはどんな読者をも満足させてしまう魔力がある。

423korou:2018/09/09(日) 15:52:22
立石泰則「戦争体験と経営者」(岩波新書)を読了。

戦争体験の話と経営者の話は
ともに大好物(語弊もあろうが)なので
さっそく読んでみた。
読後の感じでは
経営者のミニ伝記に戦争体験の話がくっついている印象で
戦争に関する著者の見解には
とってつけたような違和感があった。

ただし、塚本幸一(ワコール)とか加藤馨(ケーズデンキ)のミニ伝記などは
そうそう読めるものではないので
なかなか面白かった。
戦争との強引な結びつけではなく
こうしたミニ伝記の総集編のようなものが著者の手によって書かれるとしたら
それはぜひ読みたいと思った。
むりやり岩波新書の夏特集の本になった感が強い。

末尾の追記で
塚本幸一が日本会議の初代会長である云々を岩波書店から指摘された件を書いているのが
なかなか興味深い。
これは岩波書店としては失態だっただろう。
でももう後へは引けない状況だったので
こういう追記を掲載することを条件にしたのだろう。
いろいろな意味で、岩波新書としてみればという前提で言えば
失敗企画と言わざるを得ない。

424korou:2018/09/15(土) 14:33:46
月刊「創」編集部編「開けられたパンドラの箱」(創出版)を読了。

2016年、19人の障害者を刺殺した「やまゆり園障害者殺傷事件」は
その確信犯的振る舞いも異様なら
危険な思想でありながら
ひょっとして世の中の多くの人がそういう情念を共有しているのではないかと
思わせる普遍性を感じさせる点で
まさに「パンドラの箱」のごとく封印したくなる事件だった。
そんななか、この本は
その封印を解いて
事件の真相に切り込もうとする勇気ある著作となった。

意思をもたなくなり物理的に存在するだけになった「人」は
他の人にとってどういう意味をもつ存在なのか?
およそ哲学上の命題のなかで最も困難なこのテーマについて
ほとんどの人が明快な回答を持ち得ないでいるのは確かだ。
障害者福祉と一言で言っても
いろいろな段階があって
すべて同じ理解で済ませることはできないはずなのだが
そこを同じ理解で済ませている現実がある。
そして、こういう事件に直面したとき
その判断を壊されたくないために
人は「偽善」に走る。
これでは植松容疑者と同じレベルでしかない(続く)

425korou:2018/09/15(土) 14:40:45
いや、皆、植松と同じレベルであり
彼の思想に根本的間違いはないのである(実際的意味において。倫理的には間違っているが)
ただ、我々は
その思想に基づき、29人もの無抵抗な何ら罪もない人間を一気に刺殺したりしない。
この場合、行動するかどうかの有無は
決定的に違うのだ。
犯罪の原因となる思想は
生身の人間の場合
どうしても、純粋に倫理的に正しくあることは難しい。
そのことを自覚しておいて
それと行動を切り離す、そして感情と倫理を整合させ止揚させ発展させていく営みが
「人間」そのものなのだと思う。

行動にもいろいろあって
刑法の構成要件そのものの行動は犯罪になり
その反倫理的思想を大声で表明すればヘイトスピーチになる。

我々は
正しい人間になろうと努力するときに
まず行動を慎み、同時に自らの脳内の暗い情念を昇華させないと
いけないのだろう。

そんなことを思わせた深い、厳しい書物だった。
いつもいつもそういうことを考えては居られないが
どこかできちんんと整理しておかなければならないテーマであることは確かだ。

426korou:2018/09/18(火) 11:58:42
村田沙耶香「地球星人」(新潮社)を読了。

「コンビニ人間」以来の村田沙耶香作品。
「コンビニ人間」には圧倒的な読みやすさというか
ごく日常の世界を扱った親しみやすさがあったのだが
今回は冒頭からやや異常な環境で異常な発想を持った女の子が登場し
最初の3分の1は、客観的に言えば、家庭内虐待と性的虐待を受けているという
かなりおぞましい世界が描かれる。
そして、妄想を現実化した行動により破局が生まれ
そこから一気に30代となった主人公が登場するのだが
そのあたりは、まあまあ普通の生活に若干違和感がある程度で
そこまでの修羅場続きの展開からすると
幾分ホッとした気分になるのだが・・・

徐々に主人公の夫の異常な思考回路によって
その周りの人たちもその異様さに巻き込まれることになり
最後の3分の1、特に最終数ページは
異常の極みというか、小説でなければ描けない「非現実的な現実」に覆われていく。

凄い、圧倒される、という読後感がピッタリの狂乱小説。
村田沙耶香は異才であるという評価は揺るがないだろう。
人を選ぶ小説だが、ハマる人、最後まで読める人には
強烈なインパクトを残す小説であることは疑いない。

427korou:2018/09/25(火) 21:50:05
保坂正康「昭和の怪物 七つの謎」(講談社現代新書)を読了。

ベストセラーになっているので読んでみた。
相変わらずの保坂流で
見事な取材ぶりと、イマイチよく分からない分析が同居していて
いかにも歯がゆい。
こんなのでベストセラーでいいのだろうか。
保坂氏にとっても良くない感じだが。

東条英機の章は読みどころが皆無。
石原莞爾についてはかなりのペース数を割いており
分析の不徹底な面は否めないものの
それなりに読ませる文章だ。
次の犬養毅については、あまりに分析がひどくて
何を書きたかったのかよく分からない。
渡辺和子の章も同じで
犬養道子と渡辺和子への取材で何かを学んだのだろうけど
この文章では個人的メモと同じで
伝わってくるものが何もない。
麻生和子への取材も含めた最終の吉田茂の章は
まあまあの出来栄え。
でもこれでは褒めすぎだろう。
取材ソースへの配慮は、もっと別の形で示すべきだ。

というわけで
とてもオススメできるクオリティの本ではないのだが
取材の内容そのものは優れているので
そこの部分だけに着目すれば
得るものも大きい本であることは確かだ。

428korou:2018/10/04(木) 22:47:27
葉室麟「散り椿」(角川文庫)を読了。

知人が「一気読み」して読後の高揚感がハンパないことを伝え
映画化もされ、しかも葉室さんの作品となれば
読了はともかく最低限の賞味は必須となった。
で、「一気読み」は納得で(自分は視力の関係でそれはムリだったが、そういう気持ちにはさせられた)
映像化したくなる映画人の心情も十分に理解できた。

非の打ちどころのない小説である。
テンポもよく、構成も巧みで、人間描写も抜かりない。

ただし、これほど情を尽くした物語なのに
終盤で涙腺を刺激しないのはなぜなのか?
「哀しみ」よりも「満足感」のほうが強いのはなぜなのか?
読後直後の感想はといえば、そうなってしまう。
葉室さんの芯の強さなのか?

多分、自分にとって読むに足る唯一の時代小説のように思えるが
たとえば、現代の小説の良質な「不安」と対比すると
何か物足りないものがあるのも確かである。
完璧なのだけど、自分の本質とは違うように感じる。
他人には安心してオススメできるのだけれど・・・

429korou:2018/10/15(月) 22:38:45
乙野四方宇「ミウ skeleton in the closet」(講談社タイガ)を読了。

「僕が愛したすべての君へ」「君が愛したひとりの僕へ」の連作が
かなり面白かった記憶があって
またまたこの作家の新作に手を伸ばした。
読後の感想を言えば
さすがに前作ほどのインパクトはなく
実にライトなノベルだったという印象。
それでも
読みやすさ、雑な展開をうまくまとめて印象良くさせるテクニック(論理の力?)などは
他の作家にはなかなか感じることのできない
乙野氏独特のものだった。
いつもいつも傑作を書き続けることはできないわけだから
これはこれでいい仕事をしていると言えるだろう。
なかなか侮れない作家だと思う。

とはいうものの
てだれの読者に言わせれば
穴だらけの甘い小説ということになるのだろうか?
高校の図書館だよりで紹介するくらいなら
大丈夫だろうけど。
そして、ついに本格的な小説に馴染まなかった自分にとっても。

430korou:2018/10/22(月) 08:21:22
東野圭吾「沈黙のパレード」(文藝春秋)を一気に読了。

東野圭吾の新作ということで、迷いもなく読み始める。
オーソドックスな出だしで順調に作中世界にハマり
そのまま(いつものように)一気読み。
テレビの録画をだらだらと見て”ノルマ”を消化する休日になるはずが
他のことに構うことなく、ひたすら読み続け、夜11時を大きく過ぎても
あと少しで終わりという段階なので読み続けるという
まあ、これ以上ない至福の時を過ごした。

たしかに細かいアラは探せば出てくるのだが
これはガリレオシリーズなんだから
こういう設定でないと面白くないだろうと考えれば
逆に欠点は一切ない小説だ。
そして、どんなにアラが気になったとしても
それを上回る筆力、魅力、惹き付ける力が
この小説には十分過ぎるほどある。
さすがは東野圭吾という書評を多く見たが
私も激しく同意する。
こういうストレートなミステリーもので
まだまだこれだけのものが書けるのだから
本当に凄いという他ない。
凄い、以外に言葉が見つからない。

でも、個人的には
これで終わりだなという思いもあって(もうタダで読めることはないだろう。退職なので)
東野圭吾作品の最後がこれで本当に良かったというのが
一番の感想。

431korou:2018/10/28(日) 22:35:26
堤未果「日本が売られる」(幻冬舎新書)を読了。

日本の現実がペシミスティックなイメージで暴かれている本なので
読み進めるのに気が重く、なかなかページが進まなかったが
「図書館だより」でこっそり推薦したせいで
数人の教員にリクエストされてしまい
とりあえず読破を急ぐ羽目となった。

まあ、とにかく大変な労作だ。
本質的に重要なことなのに皆が知っていない諸々の事実を
丁寧にデータを挙げて具体的に説明しているという
ジャーナリストとして最も大切な仕事を誠実に果たしている点で
著者の近年の仕事と同様、大いに敬意を払うほかない。
素晴らしい著作だと思う。
「知ってはいけない」と同じ地点に立つ名著だと
(最初の数ページだけで)直感できた。

もっとも、この悪化する一方の現代日本の状況を改善するために
何をどうすればいいのか、いくつか海外の改善事例も書かれているが
現代日本にはそのとっかかりすら見当たらない。
ただし、少数派だと思うが、党派性をもってこの著作を批判することで
現実にフタをする逃避の哲学だけは
御免蒙りたい。
とにかく、一般市民は
「正しい意見に賛同」、これしかないのではないか。

432korou:2018/11/13(火) 13:40:01
安田浩一「『右翼』の戦後史」(講談社現代新書)を読了。

以前から「右翼」の歴史には興味があったので
安田氏の著作ということも含めて
大いに期待しながら読み始めた。
さすがに取材中心の著作が多い人だけに
過去の文献の孫引きのような記述は少なく
その分、初心者の自分としては
概説部分への期待をそがれることとなった。

もっとも、著者でないと書けない部分が多いということは
この本のオリジナリティを保証するもので
それだけでも貴重な著作となっている。
ギリギリで間に合ったインタビューがある一方で
間に合わなかった例も多くみられ
その意味では
今後、この種の近現代史の一次資料を書くことは
非常に難しいというか
不可能になった感が強い。

逆に、最近の数年間の動向については
安田氏でないと書けない明快さに満ちている。
示唆に富んだ記述はさすがである。

とはいえ「右翼」に興味が薄い人には
全然意味のない本だろう。
読む人を選ぶ好著である。

433korou:2018/11/18(日) 18:49:08
中田永一「ダンデライオン」(小学館)を読了。

乙一名義ならともかく
中田永一名義のものは
青春真っ只中ストーリーが多くて敬遠していたのだが
今回はミステリー風味ということで
久々に読んでみた。
読み始めると一気に引き込まれ、
あっという間に読み終えることになった。
さすがの筆力である。

ただし感銘度は、読書メーターに書いている人もあるように
短編小説を読み切った感覚に近い。
あまりに面白すぎて、
そして普通程度のストーリーのひねり具合で
ラストも手練の読者からすれば物足りない感じなので
読んでいるときの面白さと対比したとき
読後の感銘はそこまではいかない人が多数だろう。
でも、これだけスッキリと書き切れる作家が
どれほど居るかと考えれば
さすがの「乙一」と言わざるを得ない。
山白朝子名義も含め、近年復活の兆しアリと言える筆力だ。

「たんぽぽ娘」へのオマージュになっているらしいのだが
それについては未読なので、ここでは何も書けない。
検索すると、うち(西高)に蔵書があったので(驚き)
チェックしてみようか。

434korou:2018/11/19(月) 13:47:21
ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」(復刊ドットコム)を読了。

わずか34ページ(しかも1ページが14行!)のごく短い小説。
中田永一「ダンデライオン」を読んだ直後に
とりあえず「ビブリア古書堂」の第3巻の該当短編をチェックして
それからこの小説を読んだ。
何はともあれ、まず、描写の美しさに感銘。
ラストが分かりにくく思えたので
ネットで検索し、なんとか理解することができた。
主人公は先に若い頃のアンに出会っていて
その後の変化を自分の愛情だけで記憶しているので
今となっては
今目の前に見ているアン(44歳)の姿を
出会ったときのアン(24歳)と信じている(愛情による事実のすり替え!)

だから、タイムマシンでやってきた24歳のアンと偶然出会ったとき
44歳の主人公は、それが24歳のアンと気づかなかったのだ。
逆に、アンは、主人公への愛情を抱いたまま
過去の主人公の前に現れ(過去の主人公がアンの愛情を裏切らない存在だったことは幸運!)
そのまま結婚できたのだが
自分(アン)の記憶では
このタイミングで主人公は24歳の自分と出会うはずなので
・・・・うーん、この辺のアンの心理の真実が今一つつかめない。
なぜ、主人公が迎えに来てくれたことで、アンは安心したのだろう?

まあ、美しい小説なので、超短い小説をご希望の向きには断然オススメだ(そして細部で悩んでもらおう)。

435korou:2018/12/09(日) 18:34:27
角幡唯介「極夜行」(文藝春秋)を読了。

今年の本屋大賞ノンフィクション部門受賞作ということで
以前から名前だけは知っていた角幡氏の著作を初読み。
出だしからセンスのいい言葉のチョイスと
迫力ある筆力に魅せられ
あとは、とにかく異次元の体験である「極夜」の描写に
ひたすら圧倒されっぱなしで
この結構長いノンフィクションを一気に読み終えることになった。
読んでいる間の夢中の程度でいえば
近来にないほどだった(少なくともノンフィクションに限れば随一かも)

あまりにも都合よくアクシデントが起こり
これまた都合よくギリギリで解決していくので
著者によるフィクションも入っているのではないかと思ってしまうが
ここは、この筆力、描こうとした世界の正しさ、美しさを信じて
ほぼすべて真実と信じたい。
一般人が体験できない世界を
的確な表現で読者に疑似体験させる力は
相当なものである。
数々のノンフィクションの賞を過去に受賞しているのも
頷ける。

著作のなかで著者自身も言っているように
年齢から考えて、これ以上のクオリティの探検は
これからは難しいように思うのだが
これだけの筆力があれば
特に冒険ものでなくても期待できそうである。
やや読者を選ぶが
まあ読書好きであればOKな作品ではないかと思った。

436korou:2018/12/14(金) 10:38:20
池上彰「高校生からわかる資本論」(集英社<ホーム社発行>)を読了。

資本論について関心が高まり(ある意味、I先生の影響)
なかなか全体像までたどり着かないので
池上解説でアウトラインだけでも知っておこうと思い読み始める。

大体知っている内容が続き
それほど新しい知見は得られなかったが
逆に、それでも入門書として池上著作の1つとして成り立つのだということも分かり
これまでの自分の理解でそう間違いはないのだという
確証をもつことができた。

ソ連の崩壊により
遂に(前々から怪しいと思われた)マルクス経済学が
世界から捨て去られた20世紀末の状態から
いろいろな格差が生まれて
労働問題が頻発する21世紀初めの今に至ったことで
再びマルクスの思想は生々しく蘇りつつある。
後は、そのカオスをいかにして次の秩序ある状態に止揚させるか
という具体論に尽きるのではないか。
展望のないマル経だと
今までと何ら変わらない。
誰かが画期的な思想でマルクスの思想そのものを止揚すべきなのである。

この入門書を読みながらそう思った。
時代の影響ということ。
あとは、思想そのものをもう少し深く知りたいので
家にあるあの本を読み続けることにしよう。

437korou:2018/12/24(月) 09:56:56
安田純平「囚われのイラク」(現代人文社)を読了。

今年、突如解放されたこのジャーナリストに対して
世論、特にネットを中心とした意見は冷たかった。
何でこんな男を救うために
国家単位でみて少なくはないお金と労力を使い
恐らくは支払われたであろう(推測に過ぎないが・・・)巨額の身代金を
費やさなければならないのか、という怒り。
平和ボケした国らしいのどかな感情論が支配するのは
ある意味仕方ないとしても
そもそもの安田氏の仕事についての評価が
全く為されていない状況には
(予想はついたものの)改めて驚かされ、呆れる思いだった。

当県レベルでいえば
県立図書館にあるこの本がいつも「貸し出し可能」となっていた。
誰も借りないのである。
ネットショッピングレベルでいえば
この本は品薄状態から品切れ状態となり
事実上絶版となっている。
安田氏の新しい著作の企画の話も皆無である。
要するに、正面きって安田氏をきちんと評価しようという姿勢がないのである。
ジャーナリストを評価する際に
その著作について触れずに語ることなどあり得ないわけで
その点で
今年の安田氏糾弾のニュースほど
不毛で無意味で低レベルな話はなかった。
なんという国なのだろう、今の日本という国は。

438korou:2018/12/24(月) 10:07:05
県立図書館蔵書であるこの本が
あまりに「利用可能」なので
ついに我慢できなくなり、借りて読むことにした。
そして・・・読後の感想はといえば
ほぼ安田氏の主張は正しい、批判する人はバカ、ということになる。

もちろん、何の非もない完璧なジャーナリストということではない。
少なくとも、危険な場所に立ち会いたいという自らの願望を実現させるにあたって
可能な限り、事前に打てるべき対策は打っておき
衝動的に行動することは慎まなければならないのだが
その点で、いくつか軽率な点も見られるし
単独行動になりがちとはいえ
少なくとも、国内で自分の行動を的確に説明してくれる同志を確保しておく
慎重さもあってほしい。

とはいえ、逆に言えば
そういう条件を満たせた場合のみ行動して良いとまでは言い切れないのではないか。
ある意味、仕方ない面もある。
それだけの価値のある報道の可能性があるのだから。
危険を恐れて安全な場所からだけで
世の中の真実を伝え得るとは
良心的なジャーナリストであれば
誰も思っていないだろう。

439korou:2018/12/24(月) 10:10:26
その意味で安田氏のこの著作は
米国が仕掛けたイラク戦争前後のバグダッド周辺の市民生活を
リアルに伝える必読の書であるとともに
これだけのクオリティは
安田氏のジャーナリストとしての良心がもたらしたものであることを
実感させるものとなっている。

せめて、この本くらいは読んでから
批判したいのなら批判してもらいたい。
でも、恐らく、読んでしまったら
批判などできないだろう。
批判する人は、その意味でいえば
臆病であり可哀想な人たちなのだ。

「彼の仕事など他の人が伝えていることの繰り返しで価値がない」
と断じていたネット人の感想が本当かどうか確認したくて
読んでみたのだが
やはり、それは臆病者の遠吠えだったことが分かった。

安田氏には
もっともっと理解者を増やして
自分の仕事をより多く知ってもらえるよう努力してほしい。
読めば、すべてが分かるのだから。

440korou:2018/12/26(水) 14:07:03
矢部宏冶「知ってはいけない2」(講談社現代新書)を読了。

前著「知ってはいけない」が衝撃的な内容だったので
今回も相当期待して手に取った。
予備知識なしに読み始めたので
しばらくは話がどこに落ち着くのかわからなかったが
3分の1ほど読んだあたりで
これは「日米安保+地位協定などの補足」を論じた本だと判明。
成文化している米国側の文書が公開されたのを機に
同じものがなぜか成文化されない日本側の対応の不可解さと
条文内容についての日米の理解のギャップなどを丹念に説明しつつ
結果として、日本の立場からは主権侵害に近い内容が「密約」として
処理され続けてきた戦後の経緯が明らかにされている本である。

さて、だからどうすればいいのだろうか?
官僚というものは
自律では過去の間違いを修正しない種族だ。
かといって政治家にも期待できない。
国民一人一人がこの状況に及ぼす力は微々たるものだ。

結局、カタストロフィーに至るまで修正されないのではないか。
いつまでもこのマズい現状が更新されるだけではないのか。
そんな悲観的な気持ちにさせられる本である。
本当にこれは「知ってはいけない」本だった。
決定的に破綻する前に死ぬしかないだろうな、これは。

441korou:2019/03/18(月) 16:52:05
2019年になって本を読む義務が事実上消滅。
実際、本当に本を読まなくなった。
視力の関係もあり、今後とも本を読むことは少なくなるだろう。
特に小説類は。

それでも上田岳弘「ニムロッド」(講談社)
関眞興「EUやらイスラムやら ここ100年くらいの世界情勢をマンガでチラッと振り返る」(宝島社)などは
なんとなく読み終わる。

次の1冊は、退職後になりそうだ。

442korou:2019/04/04(木) 09:24:57
小林信彦「黒澤明という時代」(文春文庫)を読了。

本を読む習慣をいったん終了させて
再び読み始める瞬間はどうなのかと待機していた。
その合間に、以前からゆっくりと読み続けていたこの本について
たまたま録画していた番組などを全部観終えた結果
まとまった時間がとれたので
読み終えることができた。
つまり、これは、この数か月だらだらと読んでいた本を
単に読了させただけのこと。

とはいえ、小林信彦さんだ。
面白くないわけがない。
まして題材は黒澤明だし。
映画を観て確認しながら読み進めようかと思った時期もあったので
予想外に読了まで時間がかかった。
そもそも、祐季に本を買ってみたあの時期に
同時に買った本なので
相当前に入手した本だ(ブックオフで)。
小林さんの本でどうして未読なのだろうと思ったが
2009年の単行本の文庫化(2012年)なので
それはあり得るわけだ。

本の内容については
評価など今更だ。
いろいろと示唆を受けることが多かった。
ただし、喜劇人のそれと違って
再読のタイミングは
やはり実際の映画を観終えたときに限定されるはずだ。

443korou:2019/04/07(日) 11:00:02
中川右介「阪神タイガース 1965-1978」(角川新書)を一気に読了。

自分の興味ある分野のど真ん中だから
一気に通読した。
最近、これほどハマって読んだ本はないくらいだ。
やはり興味の赴くまま読む読書は面白い。
それに値する本を見つけるまでは大変だが。

知っているつもりでも
細かいことは全然記憶と違っていたりする。
そういう知的楽しみを含みながら
記憶の中の幸福な野球観戦のイメージをふくらませながら
どんどん読む進めていける愉楽。
それ以上に、この本の読後感を語る言葉は
今現在思いつけない。
中川さんの興味分野が
自分のそれと信じ難いほど重なるのが
不思議なくらいだ。
文章も自分のそれとよく似ているし。

まあ、読後の感想はこのへんでいいだろう。
深堀りする意味はもうないんだし。

444korou:2019/04/07(日) 22:46:21
近藤正高「タモリと戦後ニッポン」(講談社現代新書)を読了。

これも前回に続き県立図書館本。
図書館の棚で”タモリ”本を物色していて
これが一番客観的でより多くの事実を書いているように思え
借りてみた。
読んでみて、そういう印象通りのしっかりした本だった。
実に多くの文献を当たっていて
さらに不明な点については
まさにその出来事の中心人物に近い当事者に直接インタビューしているので
今のところ、ハンディな本としては
タモリ本の決定版といってもよいのではないか。

そういう”事実の交通整理”的要素が強いので
それ以上のものを求める向きには物足りないかもしれない。
それ以上のものを求めなければベストの本だ。
そして、それは題材が「タモリ」である以上
深堀りのコスパは低いはずで
その意味で、自分としては十分に面白かった。
読書する楽しみを十分に味わえた。

445korou:2019/04/15(月) 14:14:58
松本直也「音楽家 村井邦彦の時代」(発行:茉莉花社 発売:河出書房新社)を読了(県立図書館本)

村井邦彦氏の今までの業績をもっと具体的に知りたくて読み始めた。
基本的な叙述について、ややバランスを欠いた本ではあったが
知らないことも多く、タメになる本でもあった。
文庫本になったら買ってもいいなと思ったのだが
単行本としての非常識な高価設定(2700円)とか
発行元の零細さを考えると
なかなか文庫にならない予感がする。

内容について今更記すこともないのだが
メモだけは残しておこう。
(村井邦彦作品)
エメラルドの伝説、廃墟の鳩、白いサンゴ礁、或る日突然、虹と雪のバラード、夜と朝のあいだに、経験、
ざんげの値打ちもない、翼をください、忘れていた朝、恋人(森山良子)、スカイレストラン、
(「アルファ」ミュージックらしい作品)
学生街の喫茶店、あの日にかえりたい、夢で逢えたら、フィーリング、Mr.サマータイム。
ユー・メイ・ドリーム(シーナ&ロケッツ)、ライディーン
ひこうき雲、中央フリーウェイ、アメリカン・フィーリング

446korou:2019/04/16(火) 18:06:35
小林信彦「『あまちゃん』はなぜ面白かったか?(本音を申せば)」(文芸春秋)を一気読み。

県立図書館本。
これから2013年をスタートとして「本音を申せば」を最新刊まで借りて読む予定。
その第1弾としてまずこれを読んだ。
小林さんのエッセイについて
今更書き加えることもない。
面白いに決まっている。
今回も、全体の4分の1を少しずつ読んだ後
さきほど一気に残りの4分の3を平らげた。
文字通りの一気読み。
なんだか、また映画をしっかりと観たくなってきた。
でももう夜が近くて、今日はムリみたいだ。
それにしても、何から観ようか、と
ずっと迷っている。

80才近い著者が
”こじるり”の写真集を速攻で買う記述には驚いた。
まあ、自分も同じようなものだが(世間への活躍度合いは別として)

447korou:2019/04/24(水) 11:51:45
中川右介「松竹と東宝」(光文社新書)を読了。

自分は中川右介氏の著作のファンである(趣味・嗜好がドンピシャだ)
これも興味深い題材で、分厚い新書ではあるが(377p)
一気読みに近い感じで読み終えた。

おもに歌舞伎界の動向を中心にした記述で
映画のことも書いてほしい気もしたが
それはそれで面白く読めた。
歌舞伎の世界の閨閥図、系図、閥については
ややこしさ極まりないが
小谷野敦氏の「日本の有名一族」(幻冬舎新書)などを片手に
情報を整理しつつ読書することになり
かなり面白い読書になったのは確かである。

六代目菊五郎の立ち位置が常に一定でブレがなく
かつ人間味あふれること。
初代中村鴈治郎と松竹の発展が一心同体であり
かつ明治末期〜昭和初期における鴈治郎の存在感が
(特に関西において)絶大なものであったこと。
その初代鴈治郎の芸風は
意外にも養子でもあった長谷川一夫に最も継承され
そこから現在の坂田藤十郎に伝授されていること、等々。

あとがきにもあるように
これは初代鴈治郎と長谷川一夫の師弟愛を描いた本でもある。
七代目幸四郎の子たちの物語も面白いはずだが
途中で鴈治郎物語に力点が移ったのは
それはそれで大正解で
この本を単なる演劇経営史以上のものにしている、

448korou:2019/04/24(水) 16:26:52
小林信彦「女優で観るか、監督を追うか」(文藝春秋)を読了。

今回は2014年のクロニクルを小林さん流にまとめた本。
やたら訃報関連の話が多いのは仕方ないこと。
古い話がスムーズに導かれて出てくるのが
たまらなく懐かしく思え
自分もこういうものが書けるのであれば
書いてみたいと思わせるほど。

堀北真希の映画を観たくなった。
「麦子さんと」などが佳作らしい。
綾瀬はるかの「きょうは会社休みます。」(NTV)も
面白いらしい。

あと、ニコール・キッドマンの魅力とか。

449korou:2019/05/02(木) 18:20:29
マリアーノ・リベラ「クローザー マリアーノ・リベラ自伝」(作品社)を読了。

翻訳は金原瑞人・樋渡正人の2名の共訳。
MLBのレジェンドの自伝なのに
ベースボールマガジン社でなく作品社からの出版で
しかも金原さん名義の翻訳であるのが珍しい。
もっとも、内容もそれにふさわしく
リベラの人柄そのものの誠実さにあふれた佳作であり
読後がこれほど爽やかなMLB本は滅多にあるものではない。
同時代を生きたペドロ・マルティネスの本に比べて
感銘の度合いにおいて遥かに勝る。
書いてあることに真実味が感じられるのが素晴らしい。

一番感銘を受けたのは
2001年のレギュラーシーズン、9/11の様子、そこからの野球への盛り上がり、
そして奇跡的なポストシーズン、最後の予想外の出来事・・・敗北して帰宅するまでの描写、
そして、息子からのささやかなトロフィー・・・これには読んでいて感涙した。
他にも、自球団の選手はもちろん、他球団の選手であっても
尊敬に値する選手には当たり前のように賛辞の言葉を惜しまない姿勢。
いろいろな気持ち、姿勢、見解が、さりげなく語られ
それらが知らず知らずのうちに、この本を優れた自伝にしているのである。

久々に出会ったMLB関係の名著だった。

450korou:2019/05/02(木) 22:04:55
中川右介「1968年」(朝日新書)を読了。

これも県立図書館本。
中川さんの本とはいえ
特定の年代に特化した本ということで
過大の期待はせずに普通の面白読み物として読み始めたのだが
意外にも他に借りた本のどれよりも優先して読みたくなっていき
最後まで面白く読み終えた。

1968年の出来事が「音楽」「マンガ」「野球」「映画」の4つの話題に限定されて
それぞれの経緯が語られる形式で
まさに中川氏の少年時代の興味を
そのまま大人になって再現していくかのようで
それはそのまま自分にとっての少年時代の興味と重なるわけである。
この本の出版自体、そういう効果を狙って出されたはずであり
その意味で、特定の年代層にはたまらない本になるわけだ。

ただし、まえがきにもあるように
「マンガ」への関心は他の3つのジャンルに比べてはるかに強い。
この時代、マンガから離れていった自分としては
なかなか興味深い記述でもあった。
もちろん、「音楽」「野球」「映画」も興味深く
それぞれドキュメンタリーとしての面白みもあったので
ますます面白く読めたわけである。
中川本の真骨頂とでもいうべきか。

451korou:2019/05/06(月) 12:53:02
小林信彦「古い洋画と新しい邦画と」(文藝春秋)を読了。

今回は2015年のクロニクルを小林さん流にまとめた本。
あとがきによると、健康状態がすぐれないらしく
本来なら今の安倍政治への不信、不安などを
きっちり調べて書きたいらしいのだが
とても体力がもたないとのこと。
結局、昔の洋画の話が中心になり
小説とかの話も後回しになった模様。
まあ、それはそれで面白いわけで
小林さんにのみ許される裏事情ともいえる。

さすがに、小林さんの心の琴線に触れる名作の類は
年代が古すぎて自分には手におえない。
強いていえば
自分の好みと違うと決めつけていた映画が
小林さんの手にかかると違う魅力に見えてくるので
そういう視点から何か見えてくるかもしれないという
期待感は出てきた。

とはいえ、映画を観るのは
今の自分にとっては
そこそこしんどい行為なのだけれども。

452korou:2019/05/08(水) 16:45:43
田窪潔「デーブ・ジョンソンをおぼえてますか?」(彩流社)を読了。

特にそういう立場、経歴があるわけではなく
ただ単にプロ野球観戦が好きで
それが高じてこのような本を出してしまった、という類の本である。
極端に言えば、私と同類項のような人が書いた本であり
随所に見られる素人っぽい脱線ぶりを示した文章を読むにつけ
なんだか自分はこういう失敗はしたくないという観念にかられてしまったのは
自分のことに寄せすぎか。

そういう軽いタッチの読み物だけに
また文章そのものは流暢で淀みないだけに
あっという間に読み終えた。
特に新しい知見はなく
ジョンソンのプロ入りまでの生い立ちと
巨人入団後2年間の事細かな経緯くらいが主なところ。
後はうまくまとめたなという感じ。
最後のほうは著者のエッセイになりきっていて(確信犯!)
読むのがだるかったのも事実だが
まあこういう本もアリでしょう。

そうそう・・・2年目のジョンソンが張本の英語で救われたというのは驚き。
あまり他で聞かない話だったので。

453korou:2019/05/10(金) 16:46:33
中川右介「阿久悠と松本隆」(朝日新書)を読了。

中川さんの本にしては
あまりにまとまりがなくだらだらとしていて
途中、オリコン順位を月ごとに記録しているだけの叙述も多く
なかなか読み通すのに苦労した。
いよいよ最後のほうで
松本隆についての簡潔な総括を見つけ
こういうのを読みたかったのだと
読み前の期待感をやっと思い出した次第。

とはいえ、さすがに中川さんだけに
時代を象徴する重要な動きのなかでその核心に触れる「知られざる事実」について
さりげなく叙述の中にちりばめてあるので、読後の満足感は十分にある。

松田聖子のスタッフに続々とはっぴぃえんど人脈のメンバーが集まったのは
偶然ではなく、松本隆の意図したことだったこととか
ピンクレディーの紅白ボイコット、米国進出は
素人集団の所属事務所が、芸能界のドン的存在だった井原高忠に相談した結果
井原の提案によるものだったことなどは
重要な事実だけれども、あまり知られていない話だと思う。

自分のようなJ-POPファンにとっては。十分面白い本だった。

454korou:2019/05/11(土) 18:01:09
連城三紀彦「悲体」を60ページほど読んで
やや物足りなさを覚え中断。
書評を検索すると微妙な感じなので
このへんで止めておくことにした。
小説は
読書のなかでも結構エネルギーが要るジャンルだと痛感する。

455korou:2019/05/12(日) 11:25:14
小林信彦「わがクラシック・スターたち」(文藝春秋)を読了。

今回は2016年のクロニクルを小林さん流にまとめた本。
小林さんは、このエッセイの連載の直後に自宅で脳梗塞のため倒れた。
(さきほどこの次の巻を確認しようとして、改めてその事実を確認した。
 そのことはなんとなく覚えてはいたが、もう忘れていた。大変なことだ)
レギュラーなエッセイとしては、この巻が最後になるようだ。
相変わらず、映画中心のエッセイとなっているが
たまにかつての喜劇俳優論の「あとがき」風の文章にも出会えるので
そうなると俄然楽しくなる。
ということで、なかなかやめられない。
とはいえ、これで最後かもしれないと思うと寂しい。

いろいろと見たい映画もチェックできた。
ジョン・フォードの「荒野の決闘」はいい加減もう観るべきだ。
ダーティー・ハリーも、確認したら第5作まで録画済みだ(1と3がいいらしい)
「海街diary」はもちろん、他の綾瀬はるかの映画も録画ができているだろうか?
ニコール・キッドマンの悪女ものも面白そう。
まあ、それ以前に、13時からのBSブレミアムの映画を
そのまま生で観るというのも
今の生活なら十分可能だし。
そうやって掘り出し物を探すのも悪くない。

その流れでトリュフォーの「ヒッチコック映画術」が読みたくなった。
これから県立へ行って借りることにしよう。
小林さんの闘病生活をまとめた「生還」も、さっき予約した。
いろいろと小林さんにはお世話になっている感じ。
まあ一方的なんだけど・・・訃報だけは聞きたくないが、こればかりは・・・・

456korou:2019/05/14(火) 22:46:34
井原高忠「元祖テレビ屋ゲバゲバ哲学」(愛育社)を読了。

小林さんの推薦を知って。県立図書館で書庫から引っ張り出して借りた本。
かなり期待して読み始めたが、面白いのは最初のほうだけで
後半は、昭和のおっさんのグダグダのお説教という感じで
意外なほど面白くない本だった。
思うに、この方は、1990年代以降の日本の新しい姿を
本質的に理解できていないのではないか。
その意味では、1980年に50歳でリタイアするというトリッキーな選択は
意外なまでに本人にとって正解だったのではと思わせる。
そのまま日本のテレビ界に居ても、管理職ではどうしようもないし
むしろ老害の対象になったに違いないので。

小林信彦「テレビの黄金時代」のような面白い裏話満載を期待すると
100%裏切られる。
これはあくまでもモーレツ世代の自慢話であり
しかも出自が戦前のハイソサエティという庶民には縁のない話で
逆にそういう設定に弱い世代(テレビ初期の主役たち)には
絶対的な存在として君臨する人なのである。

2019年の今、この本の価値は半減している。
やはり、それなりに頑張っている今のテレビ芸人たちを
全否定するわけにはいかないだろうし
残念ながら、井原さんが目指した方向とは別の向きで
今のテレビ界はそれなりに成長していると思うので。

そこは小林さんの柔軟さとは違うところだと
この本を読んで痛感する。

457korou:2019/05/16(木) 23:08:17
中川右介「山口百恵」(朝日文庫)を読了。

間違いなく今年読んだ本のベスト。
今更百恵ちゃん?と思ったのが大きな間違いだった。
中川さんという稀代のノンフィクションライターの手によって
漠然とした山口百恵伝説が
厳密な事実の積み上げで粉砕され更新され
新たな輝きを獲得することになった。
この著書の続きとなる「松田聖子と中森明菜」も見事な作品であるが
明菜の部分が物足りないという欠点があるので
やはりこの作品が、今のところ、中川さんの著作の白眉となるだろう。

まず冒頭で、ナベプロ、ホリプロ、サン・ミュージックの概要
記されている点が素晴らしい。
歌謡曲の本はいろいろあれど
こういう基本的なことに触れていない本がほとんどなのだから。
さらに、スター誕生をめぐる山口百恵の動きも
微に入り細に入り的確に描写される。
そこからはもう中川マジックの世界で
もうこれは記述を信じるしかない。信じたいし、そうでありたい。
あとは音楽スレに感動のポイントを書いたとおりだ。

部分的には2019年の今でも通用する音楽だと思う。
そのことを確認できただけで十分読んだ価値はあった。

458korou:2019/05/22(水) 17:13:37
中川右介「月9」(幻冬舎新書)を読了。

500p近い新書で定価も1300円(税抜)もする大部な本だ。
しかし、中身はユニークそのもので
本来ならネットで断片的に紹介されるような軽いエピソードを羅列しながら
その反面、こういうテーマでは挿入されることのない政治の話題を挟んで
延々とフジテレビの月曜9時のドラマを
1987年から1996年の10年間にわたって
その企画、出演者、1話ごとのストーリー、世間の反応、視聴率、他への影響度などを
逐次紹介していくノンフィクションになっている。
自分としてもリアルタイムでありながら
そのほとんどを見ていなかったので
30年近く経った今になって
その粗筋を初めて知って
当時はそういうことだったのかと
改めて知ることばかりだった。
それにしても
同じような企画、ストーリー、配役などを
延々と読み続けることは
そうした知的興味を満足されるとともに
ある種の心地よい退屈さをも催すことにもなり
なかなか摩訶不思議な読書体験だった。

自分としては満足度100&だが
人には薦められない本でもあった。
リアルタイムで体験できなかった人のための本かもしれない。

459korou:2019/05/23(木) 07:40:29
田中正恭「プロ野球と鉄道」(交通新聞社)を読了。

なかなか珍しい視点の本である。
最初に日本プロ野球全体の歴史が概略として書かれていて
なかなか上手くまとめていて感心させられるのだが
すぐに書名どおりの展開になり
まず、交通の発達していなかった時代の
プロ野球選手たちの移動の厳しさが記される。
また、球団を所持あるいはかつて所持していた球団について
個別に語られ
実際の交通の便について現在の全球団についてコメントがある。
最後は。実際にもいろいろとアクティブにファン活動を続けている著者の
いろいろな人脈を駆使しただろうと思われる
プロ野球の名選手OB数名への直接インタビューとなり
これも交通関係中心の談話ということで
興味深いものとなっている。

部分的には、そこまで興味が湧かないと感じた箇所もあり
全体を詳しく読み通したわけでもないが
こういう著書は、その存在自体貴重ではないかと思われた。
誰も書きそうにもない分野でありながら
「昭和50年の広島カープの優勝は、山陽新幹線の博多までの開通直後で
 優勝への重要な要因」といった指摘など
なかなか含蓄に富んでいるからである。
売れそうにもないが、こうした貴重な本を企画・実現させた著者と出版社に
敬意を表したいと思う。

460korou:2019/05/28(火) 10:05:25
濱口英樹「ヒットソングを創った男たち」(シンコーミュージック エンタテイメント)を読了。

副題に「歌謡曲黄金時代の仕掛人」とあるように
昭和30年代後半から平成初期にかけての
いわゆる”歌謡曲黄金時代”における
各レコード会社(音楽出版社)のディレクター、プロデューサー14名について
インタビュー中心にまとめた本になっている。
あまりに多くの事実が、その関係者によって独白されているので
ある程度信用できる方々とはいえ
その事実をすべて網羅しつつ
全体像を把握していくのは
読み進めていくなかで容易なことではなかった。
結局、350ページ2段組みという膨大な情報量のうち
その数パーセントでも記憶に残れば上出来、といった読書になってしまった。

インタビューの相手は、ほとんどが1940年前後の生まれの方々で
80才前後という高齢者であることを考えると
この種の本がこのタイミングで出版された意義は大きい。
素晴らしい企画で素晴らしい内容の本ができたと言えよう。
さらなる続編が別の機会に別のスタッフで作られるべきだろう。
21世紀初頭という時代は、20世紀文化の裏方を探る時代なのかもしれない。
そう思わせるほど、この種の本は面白い。

461korou:2019/05/29(水) 10:37:27
スージー鈴木「1979年の歌謡曲」(彩流社)を読了。

「カセットテープ・ミュージック」の視聴で
個人的にはお馴染みになってしまった著者の本を県立で見つけたので
お試しで借りてみた。
まずまずの内容ながら
やはり、歌謡曲のような個人の趣味で語ってよい音楽について
他の人の趣味を延々と聞かされるのは
あまり心地よいものではない、ということも分かった。
もちろん、これをテレビ画面で、いろいろなニュアンス付きで知るとしたら
話は違ってくるのだが・・・いかんせん、文字だけで
いかに(1979年の)ミッキー吉野や(80年代の)沢田研二を絶賛されても、うーむ!

最初のうちは、鈴木さんだからということで
いろいろとyoutubeで視聴(試聴?)しながら読んでいたので
結構時間のかかる読書となった。
途中から、鈴木さんの好みに終始付き合う必要もないなと気づき
あとは一気だった。
もともとは一気に読める類の本だから、まさに一気だった。
もう1作、県立にあるのだが、借りるかどうかは迷っている。
まあ、今回は保留して、借りる本に困ったときに頼ることにしよう。

462korou:2019/05/29(水) 10:46:26
片山右介「サブカル勃興史」(角川新書)を読了。

目次を見て、仮面ライダー、マジンガーZ、宇宙戦艦ヤマト、ガンダムと並ぶ項目なので
いかに片山さんの本とはいえ
楽しく読むことができるだろうかと躊躇したのは事実だが
やはり片山さん、さすがは片山さんだった。
それぞれの項目について
よく知る人だけが楽しめるマニアックな記述などは皆無で
よく知らない人も理解できるきちんとした歴史背景の叙述を中心に語られていて
今までほとんど知らなかったこういう世界について
最低限の知識を得ることができたのだから
大変ラッキー、感謝感謝である。

70年代を取り上げた本なので
たとえば、ドラえもんなどは、どんな風な経緯で
現在のテレ朝系放映のアニメ番組実現に至ったのか
まさに「そこを聞きたい」という裏話を知る思いになる。
ガンダムに至っては、この本のおかげで全体像が初めて理解できた。
司書時代に読んでおきたかった気もするが、発行日からしてそれはムリか(2018年11月)。
まあ、隠れた名著ですね、これは。

463korou:2019/06/03(月) 23:02:07
中川右介「角川映画」(KADOKAWA)を読了。

音楽に関する著作の多い中川氏の著作だが
「山口百恵」などで
音楽以外にもやはり十分な調査が伺える記述をされていたので
今回も十分に期待し、まさにその期待通りのクオリティだった。
本当に何でも書ける人だ。
今回は、角川発行の「バラエティ」という雑誌も重要な出典なのだが
その雑誌を創刊号以来ずっとコレクションできているのも
中川氏の強みである。

全体に角川映画に好意的な見方で書かれていて
リアルタイムで角川映画のイメージがある自分などは
やや褒め過ぎではないかと思えるくらいだが
たしかに映画全体の構造的なレベルでいえば
「二本立て興行の見直し」とか「スターシステムの復活」とか
「意欲的な映画監督とのコラボ」とか
いつのまにか当時の日本映画界が見失っていたものを
角川春樹がストレートに復活させたという意味においては
当時は気がつかず、後になって考えれば
それは大きな功績と言わざるを得ないだろう。
もっとも、これはもう少し緻密な批評も必要であることは確かだ。
ただし、それは中川氏の今回の仕事ではない。
この著作のようなものがまず書かれるべきで
それから批評が始まるということだろう。
その意味でまた優れた著作にめぐり合えたということになる。

464korou:2019/06/04(火) 22:56:55
小林信彦「生還」(文藝春秋)を読了。

県立図書館で初めて予約をして借りた本。
闘病記のようなもので
もともと小林さんの著作を愛好するきっかけとなった類の本ではないのだが
ここまでお世話になった著者への敬意を込めて
あえて読むことにした。

突然の脳梗塞から話は始まる(2017年4月)。
そこからしばらくの叙述は
本人もあまり記憶がハッキリしていないだろうし
そのことを承知で強引に書き切るので
小林さんの文章としては極めて異質である。
文章の脈略が滅茶苦茶で、時系列も怪しい。
現実なのか幻想なのか曖昧な書き方で
かつ時系列が乱れてくるとなると
もはや何を読まされているのかイメージすらつかめない。
いつもの小林さんではないのだ、と心に念じつつ
そういうものを読むのは率直に言って悲しかった。
・・・・終わったのだ・・・・終わった?という感じ。

アルジャーノンではないが
後半にいくにつれて叙述がだんだんとしっかりとしてくるのも
読んでいて不思議な感じだった。
それにしても、脳梗塞は恐ろしいと思ったし
家族の支えがないと一気に進行して死に至るとさえ思えた。
良い家族をお持ちで小林さんも幸せだ、というのが一番の感想である。
一気読み、さすがにこのへんはいつもの小林さんのようだった。

465korou:2019/06/15(土) 15:46:35
黒岩比佐子「パンとペン」(講談社)を読了。

松岡正剛さんのブログで知ったこの本を
県立図書館で借りてきて
この3週間ほどずっと読み続けていた。
やや小さめの活字で、老眼用メガネを使用しても少しキツい感じで
最初のうちは、この本が原因でこのところの眼痛になってしまったかと後悔したが
ものの100ページほども読み進めると
さすがの面白さで、別に眼痛だろうと気にならなくなった。
著者はこの本の執筆中に膵臓がんが見つかり
書き終えてまもなく亡くなった。
同世代で悲しいことである。
しかも裏表紙の折り込みにある著者の近影は
私好みの魅力的な表情に富んでいて
生前にお目にかかりたかったという思いも強い。
何度も何度も見返して、一緒に喫茶店などで語り合いたかったと
見果てぬ夢に空想を広げた。
まあ、それはそれとして。

466korou:2019/06/15(土) 15:56:01
400ページに及ぶ長さに加えて
近代史上に名を残す逸材たちの名前が連綿と出続けるので
そのたびにWikipediaを参照しなければならず
WikiはWikiで別の人名を導き出して
わが脳裡を刺激するので
それ自体、連想ゲームのように関係人名項目をサーフィンすることになり
さっぱりページが進まないという
まさに理想的な読書の瞬間が続いていたのだった。

多くの社会主義者たちが登場するなかで
この本の主役たる堺利彦の人間的な大きさは別格で
平和主義、人民主義、純粋なマルクス主義という世界観も
今の世の中で理想とするにたるものだろう。
逆に、あまりに常識人だったので
革命を目指す人たちの群像が
実際以上に極端なイメージで描写され
それは、著者である比佐子さんの堺への愛着が為せることだっただろう。
それをふまえて読むとすれば
これは「冬の時代」を解読する最上のノンフィクションということになる。

読み終えて、あまりにいろいろな知識が脳裡に追加されたので
それを端的にまとめて記述することは、今のところ困難である。
ただ、明治後期から昭和初期にかけて
軍部が台頭するまでの間
社会主義者への弾圧、世間の厳しい視線というものが
日本近代史を読み解く大きな1つの軸であることはよく分かった。
大杉栄とか甘粕正彦なども
そういう視線で理解していかなければならないことを
新しく知った思いである。

467korou:2019/06/22(土) 18:33:23
中川右介「SMAPと平成」(朝日新書)を読了。

著者自身もあとがきで記しているように
これは「月9」の姉妹編のような本であり
それゆえ1996年のロンバケ&スマスマ開始のところで
叙述が終わっている。
新書という制約と著者自身の関心度から
SMAPの初期の出来事、活躍に絞った著作になっている。
例によって、参考文献を徹底的に駆使し
サブカルとはいえきちんとした検証を踏まえた「通史」が
出来上がっている。
かくして
「サブカル(漫画。アニメ)」「角川映画」「山口百恵」「聖子と明菜」
「月9」「SMAP」という流れで
昭和戦後期後半から平成前半までの大衆文化が
見事につながって語られることになった。

知らないことも多かったが
今回に関していえば
やや中川氏の思い入れが入り過ぎた感もある。
人から勧められた企画で自分自身のそれではないということが
大きいのだろう。
政界の動きと連動させる叙述も
特に効果的とも思われない。
あまり中川氏のことを知らない人には
奇異な本に思えるかもしれない。
とはいえ、こうしてきちんとしたサブカル史が語られることは
それ自体、大いに意味のあることだ。
あとは、提示された「素材」を安心して使いながら
優れた「料理」が披露されるのを待つだけだ。

468korou:2019/06/24(月) 17:03:25
長谷川晶一「虹色球団 日拓ホームフライヤーズの10か月」(柏書房)を読了。

昨日、県立図書館で借りて、今日の午後3時頃に読み始め、午後5時前に読み終えた。
とにかく、あっという間に読むことができた。
あとがきで、著者の長谷川さんの関心が
小さいころに触れた不思議な短命球団のことにあり
それが、高橋(トンボ)ユニオンズ、クラウンライターライオンズ、日拓ホームフライヤーズという
3球団の歴史をまとめる三部作となり
この本がその最後を飾る本となったことを知った。
高橋(トンボ)を読んだ記憶が今一つ定かでないが
クラウンは2年前に読んでいるので
おそらくこれで全制覇したはずである。

前回のクラウンの著作でも同じ思いだったが
こうして日拓球団についてまとまった著作を読む機会はなかったので
もうそれだけで貴重な本と言える。
インタビューの相手だった大下選手が
「ありがとう。こうしてくれると歴史が残る」と感謝の言葉を残したのも十分頷ける。
田宮監督の苦悩、新美投手の奮闘、金田留広投手の激情、張本勲の(意外な?)チームプレーなど
なかなか印象的な「侍伝説」でもあった。
それと同時に、当時のパ・リーグにあって
金田正一の果たした役割の大きさを改めて感じた。
パの歴史は、この金田の「中興の祖」としての功績抜きでは語れない。

そんないろいろな読後感を残す本である。


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