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ソラの波紋
1
:
心愛
:2012/09/16(日) 15:52:23 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp
こんにちは、または初めまして。
心愛(ここあ)と申します。
拙くて見るに耐えない駄文ですが精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。
感想等戴ければ泣いて喜びます。
ですが、ここあは非常に小心者です。一つの批判にもガクブルしてしまうと思われます。
なので、厳しい御言葉はできるだけオブラートに包んで戴けると嬉しいです(>_<)
また、ここあが不要と判断した書き込みは、誠に勝手ながら反応しないことがあります。申し訳ありません。
内容は完全にファンタジーで、他のスレのこともありますのであまり長引かせないように心掛けるつもりです。
【心愛(元 月波)の過去作品】
『紫の乙女と幸福の歌』
『紫の乙女と愛の花束』
【関連作品】
『紫の歌×鈴扇霊』(上記作品のピーチとのコラボ)
『パープルストリーム・ファンタジア 幸運の紫水晶と56人の聖闘士』(同じく彗斗さんとのコラボ)
34
:
心愛
:2012/10/16(火) 15:59:51 HOST:proxyag062.docomo.ne.jp
それがどうしてなのか、空牙も、果てにはミレーユ本人でさえも分かっていない。
「……実はわたくし、魔力を解放した状態でこの人形をこっそり“視(み)た”ことがありますの」
リリスがぽつりと呟く。
「はあっ!? そ、そんなの初耳ですっ! 勝手に何をしてくれやがるですかっ」
「……で、どうだったんですか?」
好戦的に食ってかかるミレーユを抑えるように、空牙はリリスに続きを促した。
「そっか。リリス姫の本来の能力は、心を読むことじゃなくて“全てを視通(みとお)す”ことだもんね。それならミレーユさんについて、何か分かるかも」
同じく魔法を使う者として知的好奇心を刺激されたのか、ユリアスが身を乗り出す。
三人の視線に後を押され、リリスはそっと艶めく唇を開いた。
「そう、ですわね。その人形は、人間に似せて造られたと言うよりも、むしろ―――」
「むしろ……?」
言いにくそうに言葉を濁し、俯く彼女を見て、空牙は眉を潜める。
彼女のことは幼少の頃から知っているけれど、こんなリリスはあまりに―――らしくない。
吸精姫(サキュバス)の肉体と色気を駆使して、ウブな空牙をからかうことを楽しんでいて。
かと思えば、強大な魔力やその知力、異能を使うことを惜しまず、打って変わって冷静に空牙を助けてくれる―――悪戯好きで、眷属に対して遠慮は一切なくとも、その実は慈悲深い主。
それが、弱冠六つにして女王の座にまで登り詰めた天才、リリス=メグ=エルゼリアだ。
「……どうしました? リリス姫」
「ごめんなさい。このお話は……今はまだ、やめておきましょう」
ユリアスの気遣いの声を聞き、リリスは力なく頭(かぶり)を振った。
そして曖昧な微笑を浮かべる。
「貴方たちは何も知らなくても……いいえ、知らない方が幸せでいられるから。このお話はこれでお仕舞い」
「なんですかそれ! ふざけるなです!」
「ミレーユ、やめとけ。姫が無駄だと判断したことは絶対言わない」
「ヘタレてんじゃないですイトミミズ! ……っそれならせめてあの牛女をぶち殺す許可を下さい! この機会にあの目障りな乳付近を重点的にボコボコにしてへこませてやるです、さっさと魔力を寄越せです!」
「そんな物騒極まりない理由聞いて渡すわけがねーだろ!?」
ぶんぶんと腕を振り回すミレーユをたしなめる空牙のやり取りを見て、リリスは安心したようにふっと笑んだ。
「姫は俺の大切な恩人でもあるんだから。馬鹿な真似はよせってこら落ち着けちょ死ぬっ死ぬから首を締めるんじゃなっ……うぐぐぐ」
空牙の紅い双眸に優しい光を見出したミレーユは途端に殺気立ち、ギリギリと彼の首を締め上げる。
ユリアスが止めるべきか止めないべきか迷って、焦ったようにきょろきょろし、護衛たちは呆れきった表情で嘆息した。
「……それにしても、不可解ですわね」
花蜜みたいに甘ったるい声が響き、大広間にいた全員が一斉に彼女の方を向いた。
リリスは妖艶な笑みと共に、可愛らしく小首を傾げ、
「それだけの魔力を持っていながら、空牙はどうして、その人形を《強制支配》してしまいませんの?」
ミレーユが空牙から手を離した。
そのまま俯き、短いスカートの裾に付いたフリルをぎゅっと握る。
「リリス姫、そんな……ミレーユさんに失礼ですよっ」
「嫌ですわ、わたくしは素直に思ったことを話しているだけですよ?」
慌てるユリアスににっこりと笑いかけ、リリスはさらに続ける。
「空牙。昔、言いましたわよね? 貴方は人並み外れた魔力の絶対量―――言うなれば《器》を持っている。わたくしには手に取るように分かるのです。それを生かしきれてはいませんし、練り上げた魔力の精度は随分劣りますが、それでもわたくしなどの王族や、もしくは……シルヴィア様を凌(しの)ぐほどの《器》の大きさが、貴方にはある」
「……シルヴィア姫っ?」
ユリアスが刮目した。
「まさか……シルヴィア姫は、ファローズでは言うまでもなく冥界最強と謳われているほどの猛者ですよ? いくら何でもそんなことが」
「あるのですよ、ユリアス様」
空牙は喋らない。
ミレーユの隣で、黙ってリリスを見つめているだけ。
35
:
心愛
:2012/10/16(火) 16:11:26 HOST:proxy10046.docomo.ne.jp
「ただし空牙には、まるでその代償のように……どう足掻いても埋めようのない『欠陥』があるのですけれど」
「……黙るです」
ミレーユが顔を上げ、怒りに燃える瞳でリリスを睨(ね)めつけた。
「……空牙の欠点は、ミレーユが補えます。余計な口を利かないで下さいです」
「黙るのはお前ですわ、“人形”」
ストロベリーブロンドの髪が妖しげに波打ち、溢れ出した薄桃色の妖気がリリスの身体を取り巻く。
「空牙に拾われたガラクタ風情がこのわたくしに刃向かうとでも言うのかしら、分からず屋のお人形さん? ……ああ、わたくしが制裁を加えずとも、空牙さえその気になれば一時的にお前の身体の自由を奪って、制御するなんて簡単なことですわよね」
「……っ!」
リリスは言外に、自分の眷属である空牙にミレーユを《強制支配》しろと命令している。
強大な魔力によって無理矢理ミレーユの意識を乗っ取り、服従させろと言っているのだ。
いつもミレーユを自由にして、されるがままになっているけれど、優れた人形遣いである空牙にはそれができる。
でも、空牙は―――
「リリス姫っ! それ以上はっ」
「うふふ、ユリアス様はお優しい。でもね……良く覚えておきなさい、人形。本来人形とは、主の命に逆らえない、絶対服従を約束されたただのモノ。お前は空牙の奴隷と同じにすぎないのですよ」
リリスはふふっと笑って空牙を流し見た。
「さあ、空牙。この不愉快な人形を今すぐに黙らせて頂戴」
「―――お断りします」
ミレーユとユリアスが、びくりと身を震わせた。
空牙は微笑んでいた。
唇の端を上げ、皮肉げに。
「まあ、空牙。わたくしのお願いが聞けないと言うの?」
「はい」
まさに一触即発。
ピリピリと空気が張り詰める。
絶対なる王者の風格を漂わせたリリスと、彼女に圧倒されることなく静かに見返す空牙。
笑みを浮かべた両者の間で目に見えない火花が散った。
空牙は縮こまったミレーユをちらりと見上げる。
「どうして? いくら美しく強力でも人形は人形、ただの木偶の坊ですわ。主人の言うことを聞くのは当然でしょう?」
「それは違いますよ、姫」
降下してきたミレーユの頭を撫でながら、空牙は言う。
「どういう仕組みだか俺なんかには分かりませんが。こいつには自我があります。痛みも悲しみも、喜びもあります。……心が、あるんです」
不安そうに見上げてくるミレーユに、空牙は笑いかける。
「ガラクタなのは俺の方です。俺が無力だから、こいつにはいつも痛い思いばかりさせている。俺はどんなに代わってやりたくても、ミレーユが傷つくのを見ていることしかできないんですよ」
空牙は魔族として、異能を持つのが当然である魔族として生まれながらも、自分の魔力を自分の為に使えない。
それが、空牙に課せられた―――致命的な、『欠陥』。
だから彼は、ミレーユを媒介として力を使う。
自分がこの冥界という過酷な世界で生き延びる為に、ミレーユを利用しているのだ。
ハンターなんてとんでもない。ミレーユがいなければ、魔獣に襲われたときの為に空牙は外をふらふらと出歩くこともできないだろう。
「いつも生意気な口を利いてても、こいつは不出来な俺の為に身体を張って戦ってくれてる。人形だろうと何だろうと構いません―――俺の相棒は、世界最高ですから」
だから、と空牙が笑ったその途端―――轟音と共に、彼の痩身から妖気の炎が噴き上がった。
ユリアスがひっ、と悲鳴を上げて後ずさり、リリスは艶(あで)やかに笑って彼を見守る。
凄まじいまでの魔力。
後ろで束ねた真珠色に輝く髪が生まれた突風によって激しく靡き、鋭く紅い双眸は餓(う)えた獣のように爛々と輝いた。
膨大な量の乳白色の妖気を纏わり付かせ、空牙は高らかに宣言する。
「俺の相棒を侮辱するのであれば―――この世界も敵に回してやりますよ」
「―――――!!」
ミレーユは赤面した。
ああ―――だから、
だから、だめなんだ。
空牙がこうだから。
ミレーユは心の底から望み、願う。
このひとの力になりたい。
自分を救ってくれたこのひとの、盾になり、剣になりたい―――と。
36
:
ピーチ
:2012/10/16(火) 18:43:42 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
空牙君やっさしー!!
ミレーユちゃんも優しすぎるよね、普段口酷くても←
37
:
心愛
:2012/10/16(火) 19:33:29 HOST:proxyag073.docomo.ne.jp
「ふ、ふふっ」
居たたまれない沈黙の末、リリスが手を口に当てて横を向き、笑い声を零した。
そのまま、何事か小さく呟く。
「……ふふ。なるほど、ね……やはり貴方はそうですわよね……」
「……俺が何か?」
「いいえ、何でもありませんわ」
くすくすと笑いながら、妖気を霧散させた空牙に近づく。
そして、腕を伸ばすと空牙の頬にちょん、と人差し指を当て、ワインレッドの瞳を細めた。
「やはり貴方は面白いですわね、と言っただけですわ」
「は、はあ……ってまた! また当たってますから!?」
「だって当てていますもの」
「あーもうそういうのほんと勘弁して下さい!」
豹変したリリスの態度を怪訝に思っていた空牙は瞬く間に赤くなり、密着してくる彼女を引き剥がそうと躍起になる。
彼で遊んだリリスはそのまま、空牙の背後に隠れてびくっとしているミレーユに視線を投げて。
「さっきは悪かったですわね、ミレーユ。言い過ぎましたわ。許して下さる?」
「……許すわけ、ないです。調子に乗るなです乳女」
口ではそう言いながらも、ミレーユはそっぽを向いて頬をちょっと赤くしていた。
きちんと名前を呼ばれて照れたらしい。
「そんなことより空牙からさっさと離れるです有害物質。尻軽は尻軽らしく人間の男とでも乳繰り合ってろです」
「だっからお前はいつもいつも!?」
リリスは余裕の表情で空牙に腕を絡ませ、挑発するようにミレーユに向けて唇の端を上げる。
「―――うふふ、そうでしたわよねぇ。本当にただの“モノ”なら、空牙を想うことなんて、ありませんものね」
「………なッッ」
ミレーユは硬直した。
淡い翠に発光する髪をわなわなと震わせ、なめらかな頬をひくつかせる。
「な、な、なっ」
「貴女に、わたくしたちと同じような心があることなんて、わたくしの能力が使えた時点で分かっていましたのに。……空牙が貴女を連れて謁見に来たあの日から、ずううっと」
「よ、……読みましたね!? ミレーユの考えてること、ずっと読んでたんですねこの覗き魔!」
「今もですわよ。ええと、なになに? 空牙にばれたらどうしてくれるんですかって? 大丈夫、空牙はこのわたくしがどんなに迫っても最後までさせる勇気はないくらい女性に免疫がなくて、しかも激ニブですから。相当はっきり言わないと気づきもしませんわ……うん? この胸の奥にある疑問は……貴女が空牙のタイプかどうかって? うーん、それは内緒かしらね。本人の口から聞きなさい」
「ひゃぁああ――――ッ!?」
「……へ? 俺を、思う……?そりゃ二人きりで旅してるんだから俺のことは嫌でも考えるんじゃ」
「空牙くん……」
本気で首を捻っている空牙に、ユリアスは残念なものを見る目を向けた。
リリスはミレーユのがむしゃらな蹴りを軽くいなしながら、空牙に呼びかける。
「空牙。今からちょっと気晴らしに外に出たいのですけれど、護衛の代わりとして付き合って下さる?」
「構いませんけど……」
「良かった。それでは街でデートしましょう。二人きりで」
「……っはぁ!?」
ミレーユは攻撃を休めると空中にひらりと飛び上がり、リリスの頭上から叫ぶ。
「デ、ー……って……! ふざっけんなです! それならミレーユも、空牙が雌牛に妙なことをしでかさないか監視する為について行きます!」
「心配しなくても何もしでかさねーよ!」
「ミレーユは乱暴で落ち着くこともできませんもの。わたくしもたまには政務から外れてゆっくりしたいのです」
「じゃあ其処のユリアスさんを連れて行けば良いじゃないですか! 毒牙に掛けるのはそっちにしろです!」
「だって、ユリアス様はからかっても反応が面白くないですし」
「面白くなくてごめんなさい……」
「でもっ」
「ミレーユ」
リリスはぴかぴかした笑顔で。
「言うことを聞いてくれないと、わたくしうっかり、誰かさんにでも理解できるような分かりやすーい言葉で、口を滑らせてしまいそう」
「ぁ、ぐ……っ! この女狐ぇ……っ!」
「何とでも言いなさいな」
空牙とリリスが連れ立って出て行くのを、残されたミレーユは歯軋りして見送った。
38
:
心愛
:2012/10/16(火) 19:36:34 HOST:proxyag074.docomo.ne.jp
>>ピーチ
基本、ここあキャラに優しくない奴はいないの法則w
ミレーユも空牙も、アレなとこもあるけど優しいんだぞ!
とりあえず次からはミレーユ&ユリアスで、ミレーユと空牙の出会いなんか書いちゃおうかとw
それが終わったらリリスと空牙かなー。
でも一応一段落ついたから、こっちはちょっと空けようかな(・∀・)
39
:
ピーチ
:2012/10/16(火) 23:00:08 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
空牙君にミレーユちゃんにユリアス様にリリス様みんな優しいってことだよね?
あのダークエルフのおじいさんも優しいんだよね?←
空牙君……恋なんて一切免疫ないあたしでも分かるぞ、ミレーユちゃんの考え…
40
:
心愛
:2012/10/17(水) 18:10:15 HOST:proxy10037.docomo.ne.jp
>>ピーチ
脇役はどうだか知らないけどね!
レギュラーで悪い奴はいないと思うw
ここあは書きたいシーンがあるとノンストップになっちゃって困る←
……邪気眼少女の、柚木園&夕紀の秘密暴露な日常編初回か、空牙とミレーユの出会い話か、コラボどれ次に書けばいいと思う?w((こら
41
:
ピーチ
:2012/10/17(水) 21:57:56 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
まさかの脇役は放っとくの!?
あたしも一緒だー!! 書きたかったらひたすらにノンストップw
えっーと…空牙君とミレーユちゃんの話見たい←単純にファンタジー大好きなだけだからスルーおっけーですw
42
:
心愛
:2012/10/17(水) 22:54:26 HOST:proxyag076.docomo.ne.jp
「ミレーユ、さん?」
「……………」
「あの……リリス姫はああ見えて意外とガードが固いし、頭も良いから、その、大変なことにはならないと思うよ? あ、あと空牙くんの安全はリリス姫が守ってくれるんじゃないかな。体術にも優れていらっしゃるから」
「…………空牙も、運動神経だけは良いです……。馬鹿で間抜けで鈍感で、魔力だけはある癖に一人では異能も使えない、ただの能無しですけど……」
膝を抱えて顔をうずめたミレーユは小さく、すん、と鼻をすすった。
「え、……ミレーユさん、もしかして泣いて……るの?」
「……寝ぼけないで下さいです。全然泣いてなんかないです」
ひく、としゃくり上げる音まで聞こえた。
ユリアスは途方に暮れて、部屋にいた側近たちに目で合図をして退室させ、それから迷いながらも、同じようにミレーユの隣に腰掛けた。
剥き出しの肩がぴくりと震える。
ユリアスは壁に頭を預け、優しく言った。
「ちょっとでも離れるとそんな風になっちゃうくらい……君は、空牙くんのことが大好きなんだね」
「……可笑しいでしょう?」
精神的に弱っているミレーユは、否定しなかった。
ぽそりと力なく呟く。
「ミレーユは機械でできた人形、空牙は今も生きている魔族。この隔たりは、ミレーユがどんなに努力してもなくせないのですよ」
長い翠色の髪が、絨毯の上に流れ落ちる。
「たとえこのように人格があっても、ミレーユは便利な道具に過ぎません。空牙は変に優しいですから、相棒だって言ってくれますけど……それ以上の関係には、なれないのです」
ミレーユはこつん、と膝頭に額を軽くぶつけた。
か細い声が揺れる。
「本当は……ミレーユは人形なんかじゃなくて、魔族に生まれたかった。空牙と同じ、対等な立場に立ちたかった。そうしたら、空牙にこの気持ちを、伝えられたかもしれないのに……」
「……でも」
ユリアスはこの少女を傷つけまいと一生懸命に考えながら、
「でも、君が普通の女の子だったら、空牙くんは君と一緒に行動することもなかったんじゃないかな」
「…………」
「空牙くんには魔族の女の子じゃなくて、ミレーユさんが必要なんだよ。彼の能力を最大限に生かして、空牙くんの手足となって戦うことができる君だからこそ、空牙くんは君が大切なんだと思う。だ、だから、えっと……これはミレーユさんにしかできないこと……なんじゃ……な、い?」
顔を上げたミレーユの濡れた瞳と目が合って思わず動揺し、最後の方は何だかしどろもどろになってしまった。
ユリアスが自分の不甲斐なさと情けなさに肩を落としていると、
「……はい」
そっと、ミレーユが頷いた。
「そう、ですね……。ミレーユにはミレーユなりの、やり方がありますですよね……」
「うん」
「ミレーユは世界最高の機械人形(マシンドール)。空牙を一番近くで支えることができる、第一人形なんですから」
「うん!」
いつもの自信を取り戻したように意気込むミレーユを、ユリアスは微笑ましく見守る。
「空牙くんとリリス姫が帰って来たら食事会にしよう。うんと豪華なのを料理人に頼んでおくよ」
そのとき―――見事すぎるタイミングで、きゅるるるる、という音がした。
カフェテラスで軽食を摂ったものの、此処数日はろくに食べていないのだから仕方ないと言えば仕方ない。
「あー……いや、二人が帰って来る前でも良いから、できるだけ早く出来上がるように言っておこうか」
「……面目ないです」
両手で薄い腹を押さえて、ミレーユは恥ずかしそうに頬を染めた。
ユリアスは笑って立ち上がり、扉まで歩いて行って控えていた家来に話し掛け、すぐに戻って来た。
「元気な人たちがいなくなっちゃうと暇だよねー」
「……はい」
「料理ができるまで、僕らは話でもしてよっか」
「はい」
「じゃあー、……んーと」
自分から話題を提供したり場を仕切ることが極端に苦手なユリアスは、かなり頑張って頭を働かせる。
「ミレーユさんって、いつ空牙くんの人形になったのか……とか、教えてくれるかな」
「……面白くも何ともないですよ」
言い、ミレーユは瞼を閉じた。
43
:
心愛
:2012/10/17(水) 23:00:47 HOST:proxyag075.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ありがとうピーチ!
ここあは自分の欲望のままに書き散らすことにします!
結構深く突っ込んだ話になっちゃいそうだからさっさと終わらせないとなんだよ←
ちなみに『ソラの波紋』は美羽の妄想の世界観と微妙にかぶってるとこがあります(≧∀≦)
44
:
ピーチ
:2012/10/18(木) 07:03:20 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
欲望のままに書き散らしちゃってー!←
あ、なるほどw
まさかの美羽ちゃんとかぶるかw←
45
:
心愛
:2012/10/19(金) 21:16:17 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp
『………………』
廃材置き場。
それらに埋もれるようにして、翠の髪を持つ等身大の少女型人形―――ミレーユは俯(うつぶ)せに倒れ込んでいた。
美しかった髪や肌は煤(すす)け、かろうじて彼女の身体を覆っている服はぼろぼろに引き裂かれており原形が想像できない程。
華奢で長い腕や脚には、酷く痛々しい傷が残っていた。
『…………………』
魔力の供給がなければ、機械人形(マシンドール)はただの人形(ドール)。
喋ることも、動くこともできない。
前の主に捨てられた今は、奇跡的に思考を繋ぎ止められている状態だった。
……それさえも、いつまで保つか分からない。
自我が消えたらどうなってしまうのだろう。
これからどうなるのだろう。
……分からない。
何もかも、分からない。
それでも仕方ない、とミレーユは思う。
疲れた。
もう、全てが億劫だった。
ミレーユは戦闘特化型の機械人形だった。
自分が何処で、どのようにして造られたのかは記憶されていない。
ふと気づいてみれば、《人形遣い》の魔族に使役される日々を当たり前のように送っていた。
近距離、中距離、遠距離。
どのタイプの戦闘でも通用する様々な魔法のストックと物理的な攻撃力、さらに並外れた見目の麗しさによって、ミレーユはどの《人形遣い》にも歓迎され、もてはやされた。
けれど、それは長くは続かない。
ミレーユの魔術回路は複雑で、稼働させるだけでも多大な魔力―――人形を支配する強い精神力が必要となる。
魔力の消費が激しい戦闘となればそれはまた格別で、ミレーユがいくら平気でも主である操者の方が魔力が尽き、へばってしまうのが常だった。
これでは使い物にならない。
出される結論はいつも同じ。
いくら強くとも、過剰に魔力を吸い上げてしまうミレーユは、役に立たない不良品同然と見なされた。
すぐに売り飛ばされ、そしてまた誰かの所有物となり、
ミレーユの能力を知れば勝手に期待され、ミレーユの欠点が分かれば失望される。
だから、
―――……もう、終わりにしたいです。
ミレーユは閉じられない瞼を閉じるような気持ちで、そう心の中で呟く。
このまま誰にも見つからず、自分という存在が、ふっつりとこの世界から消えてしまえたら良い。
このように中途半端で、人形の癖に自我を持つようにミレーユを造った者を恨むには、あまりにも時間が経ちすぎていた。
―――……ああ……。
視界が白んでいく。
感覚がなくなった指先が冷たくなっていく。
―――やっと……死ねるんですね……。
ミレーユは最後に微笑もうとしたが、人形の身ではそれさえも叶わなかった。
死んだら、人形でも天国に行けるのだろうか。
それとも―――
『―――……おい!』
まだ高さが残る、少年の声が響いた。
ミレーユはすんでのところで、意識を取り戻す。
『おい……っ、大丈夫かっ!?』
誰かにがっしりと手首を掴まれ、瓦礫の山から引き上げられる。
それを他人事のようにぼんやりと感じながら、地面に崩れ落ちたミレーユは、相手の姿を見た。
『ええっとこういう時どうすんだっけ……そうだ、脈だ脈!』
慌てふためいている、十代の後半に届くかどうかという年齢の少年。
後ろで纏めた真珠色の髪、細身ながらも程良く筋肉が付いていることが分かるシャープな体つき。
『……あ、れ? 嘘だろ、脈な……うあ!?』
初めてミレーユの顔、不自然に開いた瞳を見て、少年が飛び退く。
柘榴の色をした双眸、鋭く整った美貌を持つその少年はしばらくそのまま呆然とし、それから恐る恐る近付いて来て、ミレーユを観察し始めた。
そっと球関節に触れ、思わずと言ったように。
『人形……っ!?』
この少年は、魔族が生き埋もれたと思ってミレーユを救出したらしい。
人形だと分かったのだから、彼はミレーユをどうするのだろう。
落胆して、やはり《人形遣い》に売るのだろうか。
だが、
『……くそ、ひっでえな……』
少年はミレーユの傷を撫で、悔しそうに、くしゃりとその顔を歪めた。
『ちょっと待ってろよ』
ミレーユに話し掛け、少年は彼女を背に負ぶう。
そして、身も軽く何処かへ向けて走り出した。
46
:
ピーチ
:2012/10/19(金) 22:37:22 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
これがミレーユちゃんと空牙君の出会い!!
空牙君がさり気なくかっこいい←
47
:
心愛
:2012/10/20(土) 10:55:23 HOST:proxyag082.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ほんとはもっとじっくり長めに書きたかったんだけど、あんまり長すぎると止まらなくなっちゃうので巻き気味ですw
違和感あるかもだけどごめんね!
さり気なくかっこいい(多分)空牙くんとミレーユの過去話はもうちょいだけ続きます(^-^;
48
:
彗斗
:2012/10/20(土) 13:27:14 HOST:opt-115-30-133-28.client.pikara.ne.jp
心愛さん>>
まさかの捨てられてたって感じですか……ミレーユちゃん可哀そうに……
それはそれとして今とは空牙の態度がかなり違ってますね(笑)
過去と現在の間に何があったのかな〜?ww
49
:
心愛
:2012/10/20(土) 15:41:53 HOST:proxy10034.docomo.ne.jp
『―――……空牙(クウガ)=迅(ジン)=キサラギ……―――』
風を斬る音と共に、ざわめきが耳に届く。
『あの』
『落ちこぼれの』
『キサラギ一族の面(つら)汚し』
『暁月(アカツキ)殿もお可哀想に』
『また、薄汚い人形など拾って―――』
『笑い者にされる訳だ』
空牙は何も言わなかった。
苛立ちも怒りも見せず、ただ、ミレーユを支える腕に力を込めて走り続けた。
*・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・**・゚゚・*:.。..。.:*・゚゚・*
『……兄様!?』
機械人形を背負って戸口から入ってきた空牙を見て、彼を出迎えに駆け寄って来た少女が紅い瞳を丸くした。
空牙は心なしかほっとしたように、彼女に優しく笑い掛ける。
『ただいま、綺紗(キラサ)』
『はい、お帰りなさいませ……い、いえ、そうではなくっ』
淡い桜色をした着物の袖をふわふわとさせ、少女が慌てる。
『兄様、その方は……どうされたのです?』
兄とお揃いの真珠の髪は品の良い幅広のリボンで飾られており、楚々として可憐な少女に華やかな美しさを添えていた。
その少女は困った様子でリボンを揺らし、愛らしく首を傾げる。
『散歩してたら、廃棄品置き場の中にこいつを見つけたから助けたんだよ。手当てしてやらないと』
空牙の言葉を聞き、少女は頷いた。
『そうですね。……余程酷く扱われたのでしょう……。お可哀想に』
眉を八の字にし、少女は空牙がしたのと同じように、細い指先でミレーユの傷にそっと触れる。
お可哀想に―――
先程も聞いた言葉だ。
でも、少女のそれは響きが全く違う。
心からの想いが感じられる、深みのある声。
『女の子に、こんな……』
『魔力がなければ、自分で治癒もできない。つらいだろうな』
本当のところ、視覚と聴覚以外の感覚が凍結しているミレーユは、もう痛みを感じていない。
けれど―――二人の言葉は、不思議なぬくもりと共に、ミレーユの心に確かに届いた。
『そうです、早く魔力を送って差し上げませんと………あ』
少女はそこで、はっとしたように兄を見上げた。
『兄様……まさか、この方を……』
『待てって綺紗、こいつを見てみろよ。このナリで戦闘型だと思うか?』
―――……?
ミレーユは意味が分からずに困惑する。
この兄妹は何を言っているのだろう。
『……そう……ですよね。こんなに綺麗なお人形ですもの。きっと小さな子の遊び相手や、愛玩用ですよね……でも、もし』
『もし戦闘型なら、俺は今すぐにでも例の話を実行できるんだけどな』
少女は肩を落とした。
『兄様……本当に、出て行ってしまわれるのですか』
『ああ』
空牙は頭一つ分背が低い少女の髪を撫でる。
『俺がいたって、キサラギの名を貶めるだけだ。良いことなんて何もない……親父だってそう言ってるだろ?』
『でもっ』
『綺紗、お前には本当に申し訳ないと思ってる。俺が不甲斐ない所為で、長男の俺が背負うべき責任を押し付けてるんだからな』
『そんなの、綺紗は全然平気です! ……綺紗はっ』
『そう。お前は《緋焔の神解け(レーツェル)》を所持するキサラギ一門の正統な後継者―――綺紗(キラサ)=凜(リン)=キサラギ。この家を生涯守っていかなくちゃいけない』
『兄様……』
『だから大丈夫だって。“神童”のお前が当主になれば、お偉いさん方も大満足だろうよ。そうと決まれば、出来損ないの俺はもう必要ない』
『………………』
『姫も、キサラギを捨てたら自分の正式な眷属になるように言ってくれてるんだ。俺の評判がこれ以上下がらないように、強力な後ろ盾が必要だからな。有難いだろ?』
『―――綺紗ッ!』
突然の太い怒鳴り声に、少女が飛び上がる。
『いつまでも何をしている!』
『……ほらほら、暁月サマのお呼びだぜ?』
『はい……兄様、また。今参ります、お父様っ』
少女がぱたぱたと走り去る。
空牙はそれを見届け、ミレーユを担ぎ直すと踵を返した。
50
:
心愛
:2012/10/20(土) 16:00:37 HOST:proxy10030.docomo.ne.jp
>>彗斗さん
多分、旅してる間にミレーユに良いように調教されたんですね☆
さてさて、空牙の本名初公開でした←
だってカタカナと漢字の組み合わせってカッコいいじゃんと美羽みたいなことを言ってみるw
綺紗(キラサ)は、一番名前を決めるのに時間が掛かった子です!
登場一回きりのモブキャラだったんだけどまた出そうかなー…どうしようかなー…
51
:
ピーチ
:2012/10/20(土) 17:09:04 HOST:nptka106.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉
空牙君の初本名!
妹ちゃんの着物の色あたしも使ってたことあるよ!←何の自慢だw
52
:
心愛
:2012/10/20(土) 19:49:34 HOST:proxyag108.docomo.ne.jp
>>ピーチ
桜色いいよね!
着物とかじゃないと、普通の服じゃなかなか出てこない色だから折角だし使ってみたw
綺紗はほんのりした桜色が似合う大和撫子のイメージです\(^o^)/
空牙も苦労してる奴だったんだよ…(^-^;
ミレーユも、しつこいくらいに伏線張りまくってるけど壮絶な過去を背負っております←
そんな二人を無理矢理ハッピーエンドに引きずっていくよー!
53
:
ピーチ
:2012/10/20(土) 22:32:08 HOST:nptka101.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉
大和撫子!
あたしは大和撫子に見せかけた和風少女←
まさかの強引にハッピーエンドか!
54
:
心愛
:2012/10/21(日) 17:36:19 HOST:proxy10063.docomo.ne.jp
『……んー……と、まずは』
一つの部屋に入ると空牙はミレーユを畳に下ろし、せわしなく廊下を行き来して何かを手に持って来た。
『手拭いでいっか。うあー……罪悪感が……半端ねーなぁ……』
幾枚かの布を重ねて置くや何故か苦悩の溜め息を吐き出し、眉間に皺を寄せる空牙。
『こういうのは綺紗にやってもらいたかったんだけど……稽古の最中なら仕方ない。ごめんなほんと。ちょっとだけ我慢してろよ』
空牙はためらいつつもミレーユのスカートに手を掛け、
そのまま―――ぺろんっと、勢い良く捲り上げた。
―――なッ……!
一瞬何が起こったのか事態を処理仕切れず、ミレーユは絶句した。
空牙はやはり微妙に目を逸らしながら、繊維が崩れかけているミレーユの服を脱がせていく。
ラバーシートの肌やすらりと伸びたふともも、シンプルな下着に腰、折れそうに細いウエストや、ささやかなふくらみがある胸部のボディパーツが露わになり―――
―――な、……っ何をしやがるですこの変態ッ!?
当然の如く、ミレーユは怒り狂う。
身体が自由な状態なら、まず問答無用で殴り飛ばしているところだ。
何という恥辱。
ミレーユは怒りや羞恥と共に沸き上がるどす黒い殺意を必死に抑え込んだ。
『み、見てない。俺は何も見てないから。うん』
―――嘘ですっ! ならどうしてそんなに赤面しているのですか!
『すみませんほんとすみません』
会話が成立しているはずもないのに、空牙は赤らんだ顔でひたすら平謝りしながら作業を続ける。
『……これで良し。あとは』
それから彼はあの少女―――綺紗のものらしい、白地に金色の蝶の柄が飛んだ和服をばさりと広げ、ミレーユの裸体を覆い隠した。
家の内装や綺紗の格好、空牙自身も着流し姿であることも鑑みると、この世界では一風変わった、少々独特な趣味を持つ家系なのかもしれない。
いや、そんな脳天気ことを分析している場合ではなく。
―――つ、次は何をするのです……!?
半狂乱になり、物凄く警戒しているミレーユにも気づく訳もない空牙は、濡れた布を手にするとせっせと肌の表面を拭き始めた。
『風呂にでも入らせてやれば良いのかもしんないけど』
どうやら、消毒を兼ねて汚れを拭き取ってくれているらしい。
彼の表情は真剣そのものだ。
―――……理解、不能です……。
この少年は、ミレーユを利用する為に拾ったのではないということは分かっている。
けれど、人形如きを相手にこんなに熱心に世話を焼く彼の本心が、ミレーユには想像がつかなかった。
先程は、手当て、などと言っていたような気もする。
優しい言葉も、眼差しも、一時の気まぐれではなかったのだろうか―――
『……ん。やっぱり』
金属繊維でできた髪の埃を落として慎重に梳き、空牙は満足そうに笑った。
『綺麗になったじゃねーか』
―――…………!
ミレーユは自分の顔が、火を噴いたかの如く一気に熱を持ったような気がした。
勿論それは気の所為に決まっているのだけれど。
一体の人形でしかない自分に対して、まるで一人の少女にするように真剣に向き合ってくれる。
話しかけ、笑いかけてくれる―――。
ミレーユは、今までこんな相手に会ったことがなかった。
恥ずかしい?
……いや、違う。
彼の目につかない何処かに隠れてしまいたいような、なのにもっとこのままでいたいと願いたくなるような、
自分の中に生まれた意味の分からない感情に翻弄され、ミレーユは戸惑う。
『……俺さ、この家を出ようと思ってるんだ』
ミレーユに和服を着せてやりながら、空牙はぽつりと言った。
―――何故……です?
『……俺は異能を授からなかった』
ふっと笑む。
『どんなに訓練しても、自分の為に魔力を使うことができなかった』
それは、普通ならばとても信じられないことだった。
《咎人》たちを幽閉した煉獄と隣り合わせの、この過酷な世界―――冥界。
其処に生きる魔族は皆、自分の血族に代々伝わる異能を受け継いで生まれる。
かつてのミレーユの主たちも、ミレーユを操るときには使わなかったけれど、当たり前のように異能を持っていた。
55
:
心愛
:2012/10/21(日) 20:22:27 HOST:proxy10063.docomo.ne.jp
>>ピーチ
和風少女いいじゃん!
ここあは至上ハピエン主義なのでw
最後に結構、『紫の歌』のクライマックスらへんに近い暗さが出てくると思うけど気合いで乗り越えるぜ!
…さて、今週は試験、今週末は塾の模試、来週は学校の模試に課題がわんさかとハードスケジュールに襲われていますのでここあの出没率がしばらく低下すると思いますがご了承下さいませ。
ああまた連載が長引くぅ……っ!○| ̄|_
56
:
ピーチ
:2012/10/22(月) 20:19:23 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
和風少女大好きー!!←和風好きw
ハピエンかw あたしは逆だなw←
主没率低下……寂しいよー…((泣
57
:
心愛
:2012/10/24(水) 20:13:58 HOST:proxy10021.docomo.ne.jp
『うちって、冥界でも屈指の、しかもかなりお堅い感じの名門なんだよね。だから当然、異端児の長男なんかに家督を継がせる訳にはいかないって話になった』
ミレーユはやっとのことで得心する。
先程此処に来るまでに聞いた噂は、家の跡継ぎとして生まれた空牙のこの致命的な『欠陥』のことを言っていたのだ。
『でも、大人たちが頭悩ませてた間に、数十年に一度って言われる天才―――“神童”が生まれたんだよ。……それがさっき会った俺の妹、綺紗。綺紗は勿論、俺と違って異能を継いでいたし、しかも魔力の波長が極めて高い水準で安定していた。だから親父は綺紗を、俺の代わりにキサラギの次期当主に任じた』
空牙の声は、穏やかで優しい。
彼の眼差しが、自らの運命も、何もかもを受け入れてきたことを物語る。
『俺がいても、綺紗への風当たりが強くなるだけ。せめて、あいつの兄貴としての最後の意地って言うのかな……情けないけど、足手纏いにだけはなりたくないんだよ。あいつには未来があるんだから、それを邪魔する訳にはいかないんだ』
空牙は、綺紗と離れることを望んでいない。
けれど彼は、自分や妹の感情よりも、綺紗の幸せを選んだ。
『だから、俺はこの家を出てく。その為には、俺の魔力を媒介して魔獣と戦ってくれる機械人形が必要なんだけど……戦闘型人形は最高級品。なかなか手が出せるもんじゃない』
へへっと笑って、ミレーユと視線を合わせながら彼女の頭を撫でた。
『いつになるか分かんないけど、そのときにはお前も一緒に来ると良いよ。三人で気ままに旅ってのも楽しそうだろ?』
―――ミレーユは、まるで稲妻に身体を貫かれたかのような衝撃を受けた。
この少年は、ミレーユが彼が探している戦闘型人形だということを知らない。
なのに―――ミレーユを連れて行ってくれると言った。
ミレーユの力を利用するんじゃなくて、ただ、一緒に旅をしようと言ってくれた。
身体の芯に、あたたかいものが広がっていく。
―――……この人の、役に立ちたい。
この人の為に戦いたい。
この人を一番近くで守る剣に、盾になりたい。
それは、ミレーユの中で初めて芽生えた―――あまりに愚かしく、我儘な感情だった。
並みの機械人形とは違う、特別な魔術回路を持つミレーユは、魔法を一つでも使えば空牙の魔力をすぐに吸い尽くしてしまうだろう。
ミレーユを救い出してくれた空牙を、ミレーユはこの手で救うことができない。
『あ、そっか。起動させないと答えられないよな』
空牙は頷いて片手を出し、少し躊躇したようにそれをぴたりと止めた。
『また……だけど、ごめん』
ミレーユの左胸に、手を当てる。
瞼を閉じ、
『……《偽りの空を歌う星》』
白い閃光が迸る。
ミレーユは驚愕した。
―――嘘、でしょうっ?
ミレーユに注ぎ込んでいるというのに、それでもまだとめどなく溢れ出す、凄まじい量の妖気。
……これ、なら。
これなら―――!
ふわりと浮き上がった肢体を、虹色の輝きが包み込む。
強大な魔力が身体の隅々まで行き渡り、力が漲るのが分かる。
硝子玉の瞳に生気が―――金に輝く光が灯る。
ラバーシートでできた皮膚はよりなめらかな、シルクのようにキメの細かい柔肌へと変わっていく。
鼻、耳、関節、爪先、全てが生けるモノのものへと変化し、心臓の位置に嵌め込まれた《核(コア)》が目覚め、プログラムが次々と活性化する。
魔力の渦によって生まれた突風に煽られ、瑞々しい光沢を放つ翠の髪が激しく靡いて広がった。
……やっと、巡り逢えた。
ミレーユは込み上げる涙を必死にこらえた。
ミレーユの力を全て引き出せる者に、ようやく巡り逢えたのだ。
空牙を、身を賭して守ることができる。
信じがたい喜びに、うち震えそうになる。
虹色の光の中心で、ミレーユは耐えるようにぎゅっと拳を握った。
空牙を見る。
みっともなく畳に尻餅をついて、目を見開いている、新しい主を、見る。
ゆっくりと、その唇を、開く。
そして―――
『……歯を食い縛りやがれですゴミ虫野郎』
『ほぐっっ!?』
―――乙女の身体を弄んでくれた不埒者に、鉄槌を下した。
58
:
ピーチ
:2012/10/25(木) 20:32:05 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
まさかの鉄槌!? それはありなのミレーユちゃん!?
いやあのね、嬉しいなら嬉しいであっさり認めるべきだと……((
59
:
心愛
:2012/10/27(土) 15:25:44 HOST:proxy10015.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ミレーユの毒舌と暴力はたまに照れ隠しにも使われるから!
どっちにしても被害者は空牙ですけどねw
60
:
ピーチ
:2012/10/27(土) 16:51:51 HOST:nptka405.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉
照れ隠し…
…あくまでも被害者は空牙君だけね!?
61
:
心愛
:2012/10/27(土) 18:48:21 HOST:proxy10030.docomo.ne.jp
「―――と、こんな感じ、ですかね」
ミレーユは照れたように無骨な編み上げブーツで包まれた爪先をもじもじと動かした。
「……ちょ、ちょっと待って! て、鉄槌って……具体的には何をしたの?」
「ミレーユ渾身の飛び蹴りを額に思いっきり」
「そ、そう……」
ユリアスはミレーユのかなり固そうなブーツを見て、密かに冷や汗を流す。
「裸を見た上に胸を触りやがったですから当然のことなのです」
「あー……うん。そうだよね」
ふんっと吐き捨てるミレーユ。
ユリアスは過去と現在、両方の空牙に深く同情を覚えながら、
「空牙くんって、リリス姫も言ってたけど……そんなに魔力があるの? 確かに、さっきのは凄かったけど」
「はい。唯一と言っても過言ではない空牙の美点ですね」
「唯一は可哀想じゃないかな……」
「何を言うです。ミレーユにとっては最大級の讃辞ですよ?」
確かに、毒を吐いてばかりいるように思えるミレーユが主を素直に褒めたということは凄いことなのかもしれない、とユリアスは納得した。
「全力を出したミレーユを支えきれる魔族は、空牙以外にミレーユは見たことがないです。そのくらいの力を持っていながら……自分を責めた空牙は当主の座を綺紗(キラサ)さんに譲り、家を出たのですよ」
言葉を続けるミレーユの眼差しが僅かに翳(かげ)る。
「本当は、綺紗さんが大切で、……心配で、大好きで仕方なかったですのに」
「異能を授からなかったばかりに、か……」
「……はい」
まるで自分のことのようにしょんぼりとしているミレーユを、ユリアスは励ますように笑った。
「それなら僕だって同じだよ。魔女の血を受け継ぐミュシアの王族は、異能を持ってないから」
「……そうなのですか?」
驚いたように、ミレーユはユリアスを見上げた。
「うん。僕にあるのは魔法だけ。全然戦いに使えるものじゃないしね」
「でも、ユリアスさんにはとても大事なお仕事があるです。他の愚民がどう足掻いてもできないことです」
「……うん。有難う」
邪気の全くないユリアスの笑顔から、ぱっと思わず目を逸らしてしまう。
ミレーユは感謝されることに慣れていないのだ。
「べ、別に大したことじゃないです。事実をそのまま言っただけですしミレーユの主観は入ってないです」
「そっか」
にこにこするユリアスの優しい視線から顔を背け、ミレーユは声を張る。
「とっとにかくミレーユが言いたいのは空牙が馬鹿で間抜けで能無しで結局ミレーユが付いていないと何もできなくて考えなしのボウフラで」
「でも、好きなんだよね?」
「ううううるさいですふざけるなです黙ってろです!」
「ご、ごめんなさいっ!」
激昂してばっしばっしと髪で壁を叩くミレーユに、ユリアスは涙目になってすぐさま謝罪。
「そ、そのー……、つい調子に乗っちゃって……すみませんでした」
「分かれば良いのです」
腕を組み、つーんとそっぽを向く少女。
それを見たユリアスは、ふっと苦笑を漏らしてしまう。
「……何ですかその笑いは」
じとりと据わった目で睨まれ、ユリアスは慌てる。
「ご、ごめん! あ、あの、……ミレーユさんと空牙くんって、お似合いだよね、って思って」
それは、完全に人形であるミレーユを同じ立場と考えた上での発言だった。
「な」
「だって、空牙くんはミレーユさんがいないと、ミレーユさんは空牙くんとじゃないと戦えないんでしょう?」
致命的な『欠陥』を互いに補い合うことができる二人。
「空牙くんとミレーユさんは、きっと最高のパートナーだよ」
空牙は、自分の相棒が世界最高だと言った。
それはきっと、彼の心からの言葉。
ミレーユも空牙も、一人では成り立たない。
二人が一緒になって初めて、この世界で戦うことができる。
「だから、……えっと、つまり、」
金の瞳をまんまるにして見てくるミレーユ。
少し迷ってから、ユリアスは屈託のない笑みを浮かべた。
「ミレーユさん、上手くいくと良いね……ってこと、かな」
「…………………」
ミレーユは何も言わずに、先程と同じように―――膝頭に額をこつん、とぶつけた。
62
:
ピーチ
:2012/10/27(土) 19:03:54 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
唯一の美点……うーん、何か可哀想←
え、じゃあ空牙君っていつミレーユちゃんが戦闘人形だって知ったの?
63
:
心愛
:2012/10/27(土) 19:21:11 HOST:proxy10070.docomo.ne.jp
>>ピーチ
被害者は『主に』空牙だよ!
たまに他のひとまで及ぶかもw
ミレーユが戦闘特化型機械人形だって知ったのは、書いてない場面だけどミレーユと落ち着いて話ができる状態になってからです(≧∀≦)
いや、むしろ飛び蹴りの時点で、威力で分かってたかもしれない←
というわけで、とりあえず『ソラの波紋』はまた一段落です(・∀・)
次はリリスと空牙のデート(偽)ですけどそれはもう少したってからにしようかなと。
色々と哀れな空牙ですが、ちゃんと見せ場は用意してありますのでごゆるりとお待ち戴けたらと存じます\(^o^)/
64
:
ピーチ
:2012/10/27(土) 20:18:34 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
主に、空牙君なんだ!? たまに他の人に影響行くんだ!?
……ミレーユさーん? 飛び蹴りはかなーり危険だと思いますよー…?
ここにゃんのだったらゆるーりと待てる←え
65
:
心愛
:2012/10/28(日) 20:32:55 HOST:proxyag116.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ミレーユは歩く災害なのでw
ありがとう!
ゆるーりと待っててくれ(^-^)/
66
:
ピーチ
:2012/10/28(日) 20:53:38 HOST:i121-118-222-157.s11.a046.ap.plala.or.jp
ここにゃん>>
あ、歩く災害……?
怖い、怖いよミレーユちゃん!?
ゆるーりと待つ!←
67
:
心愛
:2012/12/24(月) 20:03:53 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
>>ピーチ
長らくお待たせしましたリリス&空牙編です!
なんかまた時系列ぐちゃぐちゃだけど許してね…。
次からちょっと、空牙がミレーユに会う前の過去話挟みますー!
68
:
心愛
:2012/12/24(月) 20:05:00 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
【姫はまだ幼い】
―――大人たちは皆、小さなリリスを利用しようとした。
まだほんの幼い頃から、血族の中でも突出してエルゼリア王として相応しい程の実力と知力に恵まれていたリリスは、すぐに年老いた母から王位を譲り受けた。
母は既に、この世界を支えきれる程の余命を持ってはいなかったから。
右も左も解らぬ未熟な姫など格好の傀儡。
有力な臣下や野心を持つ親族たちは、我こそがエルゼリア―――果てにはこの冥界の政権を握ろうと躍起になった。
彼らは優しく笑う。
心の中では馬鹿な子供だと見下しながら、気持ち悪いくらい丁寧に、笑う。
『姫は何もせずとも良いのです』
『難しいことはお考えにならず、どうぞ全て私たちにお任せ下さい』
悔しかった。
子供だからと蔑視され、それなのに口先だけのおべっかを使われる。
悔しくて仕方がなかった。
だから、リリスは持ち前の器量や頭脳を存分に使った。
相手に気取られないよう細心の注意を払って異能で思考を見透かしながら、小さな頭で考えた。
どうしたらすり寄ってくる輩の裏を掻き、逆に利用し、さらに“幼く頼りないお姫様”の体を保っていられるか―――王族の筆頭として恥ずかしくない、愛らしく美しい微笑を浮かべながらも腹の中では必死に計算をする日々。
でも、時折―――どうしようもなく、寂しくなった。
疲れて、泣き出したくなった。
もう嫌だと、全て放り捨てて叫びたくなってしまって。
―――そんなときは人間界へ赴き、男たちとの遊びに耽った。
人間は良い。
単純で、純粋で、リリスの美しさだけを見てくれる。
まだ幼さを残す吸精姫(サキュバス)の少女。
彼女を取り囲む魔族は皆、遜(へりくだ)りながらも、陰で軽蔑し、嘲笑う。
そう。
自分は穢れた、卑しい覗き魔の一族―――。
『姫様。本日の客人、空牙(クウガ)様がお見えです』
侍従の声にハッと我に返ったリリスは、すぐさまわざとらしい大人びた笑みを取り繕った。
ぱたんと広げていた本を閉じる。
『通しなさい』
今日は、新しい眷属との契約を交わす日だ。
まだ子供だが、上手く事を運べば『あの家』との結びつきがさらに強まる。
反逆を目論める程の力のある名家とは、できる限り温厚な関係を築かねばならない。
リリスの思惑もつゆ知らず、謁見の間へと入って来たのは一人の少年。
透明感のある純白の髪に同色の肌。
緊張でこわばっていた口元が、唖然としたようにぽかんと開く。
エルゼリアが誇る古くからの名門、キサラギ家の―――曰く付きの、子息。
リリスはすっとワインレッドの瞳を細める。
相手の表層意識程度ならこうして見つめるだけで、簡単に読み取ることができる―――。リリスが編み出した独自の方法だ。
魔力を解放せずとも、いついかなる時でも異能の一部を意のままにコントロールし続けるというこの荒業。
魔族でもおそらくほんの一握りの、天賦の才を持つ者―――おそらくリリスにしか不可能な芸当。
すぐにリリスの脳内に、少年のものだろう狼狽した声が響いた。
【む、胸、でか……っ】
『ぷっ』
リリスは噴き出した。
『っふ、ふふふ』
笑いが止まらない。
それは。
それは確かに、年頃の少女にしてはリリスの体つきはかなり豊満な部類に入るだろう。
でも、第一印象がそれ、って。
『ふふ……初対面なのに、それは流石に酷すぎだとは思いません?』
『え? え?』
少し赤らんだ顔の少年はと言うと、目を白黒させている。
【し、失礼……? 意味が分か……ってぅーわ……笑っても美人……!】
『ふふふっ……それは有難う』
意味が分からずに狼狽える少年―――空牙(クウガ)に、リリスは顔を近づけ、とっておきの種明かしをするように囁いた。
69
:
心愛
:2012/12/24(月) 20:07:46 HOST:proxy10017.docomo.ne.jp
『わたくしは心が読めるの』
『……心?』
『そう。心の声を聴くことができる。全てのものが視える』
リリスは万人が褒め称える、艶っぽく麗しい笑顔で言った。
『わたくしの異能ですわ、落ちこぼれさん?』
空牙はしばし黙って紅い双眸を大きく開き、彼女を見つめていたが、
【……つらく、ないのかな】
ぽつりと、そう胸中で呟いた。
『……どういう意味ですの?』
それを聞き流すリリスではない。
問い詰めるように、身を乗り出した。
『つらい、とは』
『えっ……あ、あの、すみません』
空牙は慌てたようにまくし立てた。
『ひがんでるわけでも、馬鹿にしてるわけでもなくて。ただ、その……俺だったらつらくて頭おかしくなるだろうなっ……て、思って』
それが彼の、偽りなき本心だというのは―――思考を読まなくても、明らかなことだった。
一生懸命に考えながら、たどたどしく説明する彼。
『全部視えるっていうのは、この世界の全部を知る……全部を一人で背負い込むってことでしょう? それは、凄くつらくて、大変なことですから』
『……そんなこと』
『ありませんか?』
言葉に詰まる。
らしくもなく、リリスは狼狽していた。
それに、と空牙は不意ににこりと笑って。
『姫はとても努力家なのですね』
『……だから、何を言っていらっしゃるの?』
『これだけの本―――全部専門書ですよね。俺を待つ時間まで惜しんで、勉強していたのでしょう?』
机に積み上げた本を見て、空牙が感心したように言う。
そんなことか、とリリスは肩を竦めた。
『王として当然のことですわ。冷静で公平な判断には、あらゆる知識が不可欠ですもの』
『凄いですね』
リリスは眉を潜める。
本気で。
本気でこんなことを言う、この少年の意図が全く分からない。
『俺とそんなに変わらない年齢なのに、つらい思いをして、それでも民の為に努力して下さっている。やっぱり姫は、凄くて―――優しい方です』
リリスは目を見開いた。
『や……優しいだなんて! わたくしは、そんなこと考えたこともありませんわ!』
声を荒げる。
努力しているのは確かだけれど、そんな立派な理由じゃない。
こんな発言をしたことが知られたら、自分の今後にとって不利なのに―――それでも、何故だろう―――言わずにはいられなかった。
『わたくしはただ、自分の立ち位置を守りたいだけでっ―――』
『でも、結局そうでしょう?』
彼の前で、リリスは一人の少女だった。
ただの、……本当にただの子供にすぎない、か弱い少女。
『父も母も、街のひとたちもみんな言ってます。新しくエルゼリア王になったお姫様は、まだ小さいのに凄い方だって』
そして、空牙は、きっとリリスが生涯忘れることができないような―――そんな、眩しく晴れやかな顔で。
『お姫様が頑張っているお陰で、このエルゼリアは平和でいられるんだって』
―――だから、有難う御座います。
じわ、と熱くなった目もとを誤魔化すように。
頭を下げた彼を視界に入れないように、とっさに俯いた。
……そう思ってくれているひとが、いる。
勿論全員じゃないけれど、
それでも。
リリスが必死にしてきたことで、喜んでくれる。
有難うと、言ってくれる。
そんなひとがいる。
いた、のだ。
『俺は、異能が使えないし……キサラギでも発言力も何もない、一番の役立たずですけど』
極めて真剣に、空牙はリリスを見据えた。
『ずっと、俺が尊敬し続けている貴女の為に―――この俺に、どうか力を貸させて下さい』
70
:
名無しさん
:2012/12/24(月) 20:27:46 HOST:EM114-51-208-89.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
リリス姫と空牙君の出会い編!
……空牙君って最初っから素直且つ優しい子だね←
71
:
心愛
:2012/12/25(火) 09:13:19 HOST:proxy10017.docomo.ne.jp
>>ピーチ
空牙は女殺しです…。
無自覚なのがね…。うん。
リリスがちょっとでも好きになってもらえたらいいなーw
72
:
辰魅
:2012/12/25(火) 11:25:29 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
心愛さん
初めましてっ! 初めから読ませて頂きましたっ!!
お話の展開とかこれからのコトとか、空牙君のコトとか全部気になりますっ!!!
第6スレ目は空牙君のミレーユさんに「食うんだ!?」といった所が面白かったですっ!
これからも頑張ってください! 応援してますっ!!
73
:
心愛
:2012/12/25(火) 18:03:17 HOST:proxy10055.docomo.ne.jp
>>辰魅さん
初めまして!
こんな読みにくくて意味分からん話に目を通して戴いてありがとうございます…!
「食うんだ!?」はなかなか好評のようで嬉しいです(笑)←
空牙やミレーユ、他のキャラたちのこともゆっくり明かしていきたいなと思っております。
これからも宜しくお願い致します(〃▽〃)
74
:
辰魅
:2012/12/25(火) 19:04:07 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
心愛さん
正体不明の人ってなんかそそられますよね……(笑
そしてソレを暴いていくのも面白いですよねぇ…(笑×2
心愛さんは、ギャグや作文力がすごくて惹かれますっ!
今後とも応援していきますので、頑張って下さいっ!!
75
:
ピーチ
:2012/12/25(火) 23:20:18 HOST:EM1-114-215-92.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
リリス姫と空牙君の出会い編!
やっぱり相変わらず神文章だー! スムーズに読めるー!
76
:
チェリー
:2012/12/26(水) 10:50:43 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
おう、
>>1
は天才やで。結婚したい。
77
:
心愛
:2012/12/26(水) 15:08:36 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
『……っ、今から結ぶのはあくまで仮初めのもの。正式な契約ではないのですから、そんなに大袈裟なものではありませんわ』
熱くなった頬をさり気なく手のひらで冷ましながら、リリスは必死に平静を装った。
『儀式を始める前に、貴方の魔力の波長を見させて貰いますが、よろしくて?』
『はい』
軽く息を吸い、未だ動揺の残る感情を切り替える為に瞼を閉じる。
『顕現なさい―――《散華魔鏡(フォル・モーント)》』
解放序詞(ちからあることば)。
封じていた膨大な薄桃色の妖気が外界へと解き放たれ、それに空牙が息を呑む気配がした。
眩い光の奔流が轟音を立てて荒れ狂い、リリスの身体を覆い尽くすように纏わりつく中、カッ、とより深みを増した瞳を開く。
思考だけではなく、対象の“全て”を視通(みとお)すことができるようになった状態で、空牙を視界に映した途端。
彼に関するあらゆる情報が怒涛の勢いで流れ込む。
今までの記憶の波や様々な感情を掻き分け、押し流されそうになる自我を保つようその一点に集中し―――
『っ……!』
額に汗が滲む。
―――彼の内でとぐろを巻く、猛烈な“気”の、流れ。
ふ、と息を吐き出した。
『……驚き、ましたわ。貴方は、魔力に優れている』
人並み外れた魔力の絶対量。
潜在的な、才能。
精神力。
『此処までの大きさの《器》、冥界全体でもどれだけいるかどうか』
自身の魔力に絶対の自信を持っているリリスや、莫大な力を有す彼の父親にも決して引けを取らない程の。
『そう……なんですか?』
疑うように首を捻り、空牙は白い妖気を放出する。
『でも、俺はこの通り十分な魔力も外に出せませんし……。異能が発揮できないんじゃ意味がないです』
『人形を使えば良いのですわ』
知恵者であるリリスはくすっと笑って助言する。
空牙は思ってもいなかったように瞬きして。
『人形?』
『そう。戦闘用の機械人形(マシンドール)……。普通なら、異能の力量が足りない者が補佐で使うものですけれど』
するり、と彼の頬に指先を滑らせる。
『貴方の力を媒介して戦える。使い様によっては、貴方にとっての最高の武器になり得ますわ』
『でも』
『心配は要りませんわよ。後で、キサラギの―――《緋焔の神解け(レーツェル)》とはまた別の、貴方だけの特別な解放序詞を授けましょう』
至近距離で―――本心から、にっこり微笑(わら)う。
『……そんな、ことが』
『このわたくしを甘く見ないで下さる?』
そう、彼女はまだ年端もいかない少女にして誉れ高き女王、リリス=メグ=エルゼリア。
ちょっとした不可能を可能にするくらい―――可愛い臣民を一人助けることなんて造作もない。
今までの処遇から、空牙は劣等感を植え付けられてしまっていて。
それを完全になくすことはできないけれど、彼のこれからを良い方向に向かわせることならできるのだ。
この、リリスなら。
78
:
心愛
:2012/12/26(水) 15:09:54 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
『それで、解放が出来るようになったら経験を重ねて。段々に慣れてくれば、大分調整が利くようになりますわ』
『姫……。有難う、御座います』
『ふふ。お喋りはお仕舞い―――空牙、目を瞑って』
言われるままに瞼を閉じた空牙に、ゆっくりと顔を近づける。
ほんの、一瞬。
―――リリスの柔らかな唇が、空牙のそれを掠めた。
「……………………」
リリスが離れた後も、彼はたっぷり数秒間はピシッと凍りついたように硬直していたが、
『ひ、……!? ひゃ、ひゃわっ』
覚醒した刹那真っ赤に茹で上がって手で口を押さえ、ずざざっと飛び退る。
『な、なん、……何するんですか!』
『え? 新しい眷属からの口づけが契約に必要だからしたまでですけれど?』
『聞いてませんよそんなの!』
『……まぁ、普通は手の甲などで済ませてしまいますが』
『じゃあ俺もそれで良いじゃないですか!』
『魔が差しましたの』
『それ女が言う台詞じゃないですよねぇっ!?』
涙目で拳を握り、うち震える空牙。
リリスはころころと笑った。
今まで生きてきて、こんなに何もかも忘れて笑うことができたのは初めてかもしれない。
いつも荒んでいた胸の中に、あたたかな感情が満ちていく。
心を読む必要がないくらいに素直な彼が、可愛くて仕方がなくて。
―――愛しい、と思う。
『もう、黙って目を閉じていなさい。進まないではないですか』
でも。
彼の秘められた魔力と共に、もう一つ、悟ったことがあった。
リリスの能力では、その未来だけははっきりとその形を視ることができない。
できないけれど、ぼんやりとは分かる。……分かってしまう。
いずれ空牙が選ぶ、たった一人の大切なひとは、このリリスではない―――ということを、もう、彼女は予感してしまっていて。
それが誰なのかまでは分からない。
彼が今から出逢うであろう、誰か。
……確かに。
聡(さと)すぎるというのもつらいものですわね―――と、リリスは内心苦笑する。
初めて恋をしたその日に失恋、なんて。
この、数多の男を虜にしてきた絶世の美貌を持つリリスが。
とんだ笑い種だ。
……もし、その娘に逢ったなら。
彼女の素性をこっそり調べ上げて、空牙に害を及ぼさない、彼に相応しい娘だと自分が判断したのなら。
賢い自分は笑顔で身を退くだろう。
何もないような顔をして、空牙をからかって。
当たり前のように祝福できるだろう。
だったら。
―――たった一度のキスくらい、許してくれたって良いでしょう?
コゥゥゥゥ……!
リリスが生み出した光がくるくると廻りながら空牙の薬指に蛇のように絡みつき、それがやがて硬質な指輪へと変わっていく。
『汝、空牙(クウガ)=迅(ジン)=キサラギ』
彼が、自分から離れられないように。
今は―――今だけは、契約という名の鎖で繋ぎ留めておきたくて。
『我が名、我が命、我が冠(ほまれ)』
嬉しくも虚しい、主従の関係。
リリスは一抹の寂しさを感じながら―――その始まりを、そっと告げた。
『朽ちて滅ぶ其の刻(ひ)まで、汝との契約を誓う―――』
79
:
心愛
:2012/12/26(水) 15:25:12 HOST:proxy10053.docomo.ne.jp
>>辰魅さん
徐々に暴いていきたいですねーw
空牙はけっこう出尽くしてるんで最終目標はミレーユかな。
リリスの裏話がそこそこ進んだので、ワンクッション挟みつつ次は新キャラ…という流れで!
ギャグ多すぎですけどね←
ありがとうございます!
>>ピーチ
神じゃないけど最下層だけどスムーズに読めたなら良かったー!
すらすら読める、っていうのはここあの目標なので(´ー`)
余裕ぶってましたが、実はリリスは空牙のことが好きなのでした←
なのにわざとふざけてミレーユや空牙をからかったり。……切ないなー。
まず人形を使うよう教えたのもリリスですしね。
こういう目で、もう一度リリスの登場回を見直して戴けるとまた違った感じで受け取ってもらえるかもです(つд`)
80
:
名無しさん
:2012/12/26(水) 21:25:48 HOST:EM114-51-172-214.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
最下層はあたしだぁー!!←
リリス姫お優しい……←おい
確かに無茶苦茶賢いよねリリス姫!
81
:
心愛
:2012/12/26(水) 23:08:36 HOST:proxy10059.docomo.ne.jp
>>ピーチ
頭が良いゆえに損しちゃう優しい子なんです(T^T)
なのに女二人の気持ちに微塵も気づいてない空牙です。
しかも無意識にやさしー言葉吐いちゃうから、二人にとっては生殺しという←
ミレーユが特にリリスに敵意剥き出しなのは、リリスの好意が行き過ぎてることを知らずのうちに悟ってるからなのね(~_~;)
あ、邪気眼少女の契約のとき、美羽が勝手に想像して赤くなってたのはこのエルゼリア式の契約方法を思い浮かべたからなんだ(^-^;
82
:
ピーチ
:2012/12/27(木) 14:02:00 HOST:nptka405.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉
気付け空牙君ー!
女二人のこと考えろー!
83
:
心愛
:2012/12/27(木) 19:14:03 HOST:proxyag094.docomo.ne.jp
>>ピーチ
こういうモテる鈍感主人公っていうのも書いてみたかったんだ←
気づく日は来るのかね…?
ミレーユはともかくリリスの感情には一生気づかなそうだ(~_~;)
ただこれは恋愛メインじゃなくて異世界バトルファンタジー(のはず)だから、早くバトルやりたいよー(つд`)
84
:
ピーチ
:2012/12/27(木) 23:02:41 HOST:EM49-252-69-209.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
無自覚主人w
だってリリス姫隠してるじゃん! ミレーユちゃんに譲ってるじゃん!
あたしもバトルみたいよー! 気長に待ってるよー!
85
:
心愛
:2012/12/28(金) 16:12:31 HOST:proxy10049.docomo.ne.jp
>>ピーチ
そうなのよー、本人以外知らないから、リリスがカミングアウトしない限りはありえないよね(~_~;)
ありがとーう!
そう言ってくれると嬉しいです(〃▽〃)
そろそろリリスの能力をバトルに生かしたい←
86
:
ピーチ
:2012/12/28(金) 17:23:13 HOST:EM1-115-30-179.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
リリス姫カミングアウトしちゃえー!←
あ、あれ? リリス姫って確か人の心が読めるだけじゃ……
87
:
心愛
:2012/12/29(土) 16:07:07 HOST:proxy10009.docomo.ne.jp
>>ピーチ
魔力解放前→心を読むだけ
魔力解放後→ありとあらゆるものを「視る」
これがどう戦闘で生きるかって感じだよね。
リリスは王様らしく、知覚系異能では最強&無敵です!
88
:
ピーチ
:2012/12/29(土) 16:09:17 HOST:EM49-252-63-97.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
なるほど!
最強かー、色んな意味で凄いよね!
89
:
心愛
:2012/12/30(日) 13:05:37 HOST:proxyag062.docomo.ne.jp
「……姫」
「なぁに、空牙(クウガ)」
靴屋、洋服屋、骨董店、宝石商に魔術用品の店。
空牙は建ち並ぶそれらを横目に、
「その服装はどうかと……。せめて隠すとかしたらどうですか」
幻想的な色合いをしたストロベリーブロンドの髪を揺らす麗しの姫、リリスが振り返る。
「あら。どんなに着込んだところでわたくしの美しさを隠しきれるとでもお思い?」
「自分で言いますか……」
「事実ですもの」
けろりと言ってのける彼女。
妖艶な裸身を包むのは薄地のドレス一枚。
それなのに厭らしさが微塵もないのは、奇跡と彼女自身の完成されすぎた肉体の為せる技だと空牙は思う。
今にも零れ落ちそうに盛り上がった、しかし綺麗な楕円形を保つ見事な二つの膨らみ。
きゅっと引き締まった細いウェストの下には扇情的で豊満な、それでいて無駄な肉は一切ない腰回りが続く。
絢爛たる美貌と相俟って嫌でも人目を惹きつける容姿のリリスを連れる空牙は、先程から羨望と嫉妬の視線をこれでもかというくらいにザブザブと浴びまくっている。
ひっそりと陰口を言われることには慣れていても、これは居心地悪いことこの上ない。
「はぁ。……で、姫」
「ミュシアもなかなか良い場所ですわね。この平和的な雰囲気は是非とも見習いたいところで」
「姫!」
空牙はむっとして半ば無理矢理彼女を呼び止める。
「いい加減はぐらかすのはやめて下さい」
こちらについ、と視線を投げるリリスを真っ直ぐ見つめた。
「俺を連れ出したのは、話したいことがあるからでしょう?」
「……流石は腐ってもエルゼリアの民、鋭いですわね。たまに、ですけど」
リリスはくすりと笑い、
「でも、貴方と一緒にデートがしたかった、というのは本当でしてよ?」
う。と空牙は赤くなる。
拗ねたように言うリリスは問答無用で可愛らしく、こほんこほんっと思わず目を逸らして咳払いをしてから。
「冗談はやめて下さい。……あのとき……ミレーユの中に、一体何が視えたっていうんですか」
空牙はこれでも一応、ミレーユを使役する人形遣いだ。
主として、それを知る権利がある。
「ミレーユにあんなこと言って誤魔化す程のことなんですか」
本当にミレーユを《強制支配》させたかったなら、それに逆らった空牙を咎めるはず。
空牙がいくら強がってみせたところで、リリスなら空牙一人を捻り潰すことなんて指先一つでできてしまうのだ。
なのに、リリスは満足そうに、安心したように笑っただけだった。
「教えて下さい。姫は、何を隠しているんですか」
二人の間に沈黙が立ち込め、
……やがてリリスが根負けしたように瞼を閉じた。
「……今はまだ、その時ではありませんわ」
儚い笑み。
幾つもの痛みを隠し持ち、それに耐える者の笑みだった。
「貴方も、そしてあの子も。全てを知るにはまだ早すぎる。……でも、これだけは話しておかなくてはと思いましたの」
ふ、と艶やかな唇が告げる。
「あの子は、記憶していないだけで……人形として使われる前のことですけれど―――壮絶な過去を背負っている」
「……それは、どういう」
「その過去が、いずれ……あの子の未来をも縛り付けることになる」
わざと空牙の言葉に重ねるように言い、美しく孤を描く長い睫を伏せたリリスは、
「でもね」
ふわり、とふくよかに微笑んで。
「空牙、貴方がいればきっと大丈夫」
心からの信頼が伺える、はっきりした口調で、リリスは続ける。
「貴方なら、深い深い絶望の闇から……あの子―――ミレーユを、救うことができる」
黙ってリリスを見つめていた空牙は―――やがて、はあっと溜め息をついた。
「……姫がそう言うなら、間違いないでしょうね」
「当然ですわ。わたくしを誰だと思っていらっしゃるの?」
「俺の尊敬する主君ですよ。……悲しいかな、あいつと一緒にいると厄介事には慣れっこなんで」
空牙は笑った。
「これ以上、無理に聞き出すことはしません。―――安心して任せて下さい、姫」
90
:
ピーチ
:2012/12/30(日) 15:58:49 HOST:EM114-51-157-47.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
空牙君&リリス姫ー!
……空牙君も可哀そうにね←
やっぱりここにゃんキャラって優しい人しかいないよねー!
91
:
心愛
:2012/12/30(日) 18:09:06 HOST:proxyag105.docomo.ne.jp
>>ピーチ
あはは、どうしても優しくない人は書けない←
極悪非道で完全に根性ねじ曲がってる人……にこの最後で挑戦してみようかと画策中だけどねw
92
:
ピーチ
:2012/12/30(日) 18:18:11 HOST:EM114-51-44-25.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
だーよねー! ここにゃんは優しい人しか書けないよねー
極悪非道で完全に根性ねじ曲がってる人…頑張れここにゃん!!
93
:
心愛
:2013/01/04(金) 17:57:51 HOST:proxyag091.docomo.ne.jp
「……ええ」
切なげにワインレッドの瞳を細めたリリスに、空牙はさらに言う。
「姫―――あまり、お一人で抱え込まないで下さいね」
また、こうだ。
リリスは自分たちを守るために、こうして笑みを浮かべながらも一人で無理をしていて、なのに守られている自分たちは何も分からなくて。
重圧に耐え、華奢な双肩に責任を背負い、音を上げることもせず。
「わたくしはそんなに柔(やわ)ではありませんわよ」
空牙の思考をわざわざ視透かさずとも、この程度なら簡単に想像がついてしまうリリスは不服そうな顔をした。
「王とは全てを背負うもの。弱音を吐くなんて以ての外―――ですけれど」
一旦言葉を止め、空牙を見て。
それから悪戯っぽく、ふふっと笑った。
「……承知していますわ」
安心して僅かに力を抜いた空牙へと、リリスはにっこり微笑みかける。
「さて、あんなことを言ってしまった手前、ミレーユにもお詫びをしなくてはね。空牙、何か買って差し上げなさいな」
「話の筋が通ってませんよね!?」
油断したところに、自然な流れでさらりと丸め込まれそうになり、空牙は慌てて抗議する。
「何で俺なんですか!」
「これだからミレーユに馬鹿にされるのですよ。あの子に嫌われているわたくしにものを貰ったって嬉しくも何ともないでしょう」
「いや、俺に貰ったらもっと嬉しくも何ともないんじゃ」
ふう、とリリスは哀しげに眉を下げ。
「空牙。過ぎた鈍感は美徳にもなりませんわよ」
「哀れまれた……!?」
「とにかく命令です。ミレーユへのお土産を選びなさい」
屹然とした口調。
空牙は目を逸らして頬を掻き、
「あのー……俺、金持ってないんですけど……」
「………はー………」
これだからこの馬鹿は、という顔をするリリス。
「し、仕方ないじゃないですか! あの通りミレーユが依頼客を片っ端から追い払うから」
「そちらではありませんわよ」
「へ?」
言いながら、リリスは一つの露店へちらりと視線を投げて男の店員を確認。
「空牙。あの中で、何か良いと思うものは」
「はい?」
美しく並べられているのは色とりどりのリボン。
言うまでもなく空牙はこういう女物にはさっぱりだが、品の良い光沢からしてなかなか上質なもののようだ。
「強いて言うなら……あれですかね、左から三番目の白のやつ」
少し迷った後、中央に宝石が付けられているのか、遠目にもキラリと光るのが分かる一品を指し示す。
「ふぅん。趣味は悪くないですわね」
「あの、だから俺は」
「黙って。邪魔だからあっちに行ってなさいな」
邪険に追い払われた空牙はすごすごと大人しく退散。
リリスは彼の姿が見えなくなるのを確かめてから、目をつけた店へと近づいて行った。
「ど、どうしましたお嬢さん」
エルゼリアはともかくミュシアの民には、まだリリスの顔は知れ渡っていない。
女神の如く眩い美少女の登場に、若い店主が見惚れて挙動不審になってしまうのもむべなるかな。
自分がどうしたら一番美しく見えるか知り尽くしているリリスは、うるうるっと瞳を潤ませて力なく俯く。
さりげなく胸の谷間を強調しつつ、青年から見える角度もばっちりだ。
「素敵なものばかりね。……でも残念。わたくし、お財布を忘れてしまって」
しょぼん、としてみせる。
若者は赤い顔で両手をぶんぶんと振り、
「いやいやそんな、お代なんか取れないよ!」
「まあ……!」
リリスは驚いたようにパッと顔を上げる。
それからトドメとばかりに必殺上目遣い。
「本当に良いんですの? どれでも?」
「もちろん!」
「ああ、なんて優しい人! ありがとう!」
キラッキラした笑顔を向けられた青年は、真っ赤になってしまいながらもリリスに目的の物を手渡す。
リリスは何度も振り返ってお礼を言い、空牙が隠れた場所までやって来ると、
「―――と、いう具合ですわ」
「最低ですね!?」
けろっとした顔でウインクするリリスに、耐えきれず空牙が突っ込んだ。
94
:
心愛
:2013/01/04(金) 18:00:02 HOST:proxyag092.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ここあがんばる!
でもすぐ極悪人になっちゃったわけとか書きたくなるのがここあだから耐える!←
……主従って似るんだね!(お金ケチる的な意味で)
95
:
ピーチ
:2013/01/04(金) 20:35:34 HOST:EM1-114-144-142.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
ここにゃんがんばれ! 耐えて!
……最早家族とか兄弟とか?←
96
:
心愛
:2013/01/04(金) 21:35:29 HOST:proxy10046.docomo.ne.jp
>>ピーチ
家族? 兄弟?(?_?)
次くらいからやっとバトル入りまーすw
魔法バトルやりたくて始めたのに全然書けてないという。
ミレーユなしの空牙はリリスの足手まといになるだけなのか! そしてあとでミレーユに馬鹿にされまくるのか!
乞うご期待((しねぇよ
97
:
ピーチ
:2013/01/04(金) 22:46:24 HOST:EM1-114-144-142.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
家族ってケチなこととか簡単に許せることとか似てない? ってことで←おい
……ここにゃんのキャラってなんかさー、男キャラに必ず一人は馬鹿にされない?(ひでぇ
98
:
心愛
:2013/01/05(土) 17:10:00 HOST:proxy10028.docomo.ne.jp
>>ピーチ
なるほど!w
馬鹿にされるというか哀れなポジションの奴が一作品につき必ず一人はいるというw
だいたいツッコミ役だよね←
99
:
ピーチ
:2013/01/05(土) 23:22:03 HOST:EM49-252-160-154.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
哀れなポジション………あ、分かるかも←
ヒース然り空牙君然りヒナさん然りw
空牙君はともかく、二人はツッコミも交じってるしねw
100
:
心愛
:2013/01/06(日) 10:44:19 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp
「色仕掛けも実力の内ですわよ? 授かったものは生かしませんと」
「それ買うって言いませんから!」
「食い逃げ犯に言われたくはありませんわね」
「う」
返す言葉もない。
「では、これは空牙が渡してあげなさい」
―――素直じゃないなぁと空牙は思う。
空牙に買わせる気などなくて、最初から、自分で用意するつもりだったのだろう。……手段はどうであれ。
それなのに意地でも自分で渡そうとしないのは、彼女のプライドゆえか。
「空牙。余計なことを考えているようでしたら、これに相当する金額を次の依頼の報酬から前引きして」
「滅相も御座いません」
笑顔が眩しいリリスの脅しに、大人しく受け取ってコートのポケットに突っ込む空牙。
リリスは満足したように前に向き直り、
「―――あらあら」
すう、と瞳を眇(すが)めた。
その奥に冷徹な光が閃く。
「……どうやら、わたくしたちと遊びたがっている方がいるみたい。無謀ね」
複数の不穏な気配。
気取られないよう注意しながら、背後へ視線を走らせる。
街のごろつきだと思われる男が、喧騒に紛れて確実に二人の後を追って来ていた。
その周りに浮遊するのは、ゴーレム型の無骨な機械人形たち。
「ミュシアにも物騒な輩がいるのね。貴方のお仲間が五人、かしら」
「あんなのとミレーユを一緒にしないで下さいません?」
「まあお熱い」
軽口を叩きながらも二人は歩みを止めず、気づいていない風を装い徐々に彼らを人気のない場所へと誘導していく。
「ああ……美しいって罪ですわね」
「少しは謙遜したらどうですか」
「わたくしくらい美しいと謙遜は逆に嫌みになるの。こんな美人とデートしている男が絡まれるのはごく自然な流れね」
やがて、人通りの少ない路地裏に出た。
くるりと振り向けば案の定、酷薄な笑みを浮かべた男たちが。
「なあお嬢さん、ちょっとオレたち金に困ってるんだけどさ、貸してくんないかな」
「護衛連れ歩くお貴族様なら、ちょっとぐらい恵んでくれても困んねーよなぁ」
いかにも育ちの良い令嬢然としたリリスを見て楽勝だと高を括ったのだろう。
残念なことに、そのお貴族様とやらはエルゼリアを細腕一本で治め、纏め上げるいと畏(かしこ)き女王様であったのだが。
「生憎、わたくしも彼も無一文でしてよ」
威圧的な態度にもびくともしないで可愛らしく小首を傾げ、
「その代わり、腕には少しばかり自信がありますの」
怪訝な顔をした五人が行動を起こす前に。
「行きますわよ――――《散華魔鏡(フォル・モーント)》!」
リリスは異能を全面解放、とんっという音と共に空中へと舞い上がる。
魔力を瞬発力に変え、目標へと凄まじい速さで突撃。
「なっ」
鋭い蹴り。
リリスの何倍かというゴーレムの巨体が、まるでゴム鞠のように吹っ飛んだ。
衝突したゴーレムが壁を勢い良く抉る。
「くそっ」
慌てて人形遣いの男たちが魔力を集中させゴーレムを操作する。
全方位から彼女を押し潰さんと飛んできたゴーレムたちを、軌跡を“読んで”いたリリスは難なく、鮮やかに回避。
一体ずつ蹴り、殴り、叩き落としていく。
「…………」
男たちが余裕の表情を消し去り空中戦に気を取られ始めた頃合いを見て、空牙は下肢に力を込めた。
距離はほんの数メートル。
敵が並みの人形遣いなら―――魔力を練る前に、蹴りが、届く!
「俺のことも忘れんなっての!」
「なっっ」
強烈な一撃が突き刺さり、男の身体が宙に舞う。
集団に動揺が走り、目に見えて士気が崩れる。
すれ違いと同時に鋭く息を吐いて止め、力を抜いた両脚を全力で踏み込む空牙。
一歩で最高速度へ達した彼は男たちへと躍り掛かり、抵抗する間もなく組み伏せられた彼らの操るゴーレムのボディまでもが傾ぐ。
「《核》は流石に勘弁してあげる」
その隙に人形にとっての心臓、《核》の位置を把握したリリスは同時に、狙うべきゴーレムの弱点を幾つも視界へと浮かび上がらせて。
にこり、と微笑んだ。
「ごめんなさいね。……わたくしを狙った己の愚かさを呪いなさい」
101
:
心愛
:2013/01/06(日) 10:50:54 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp
>>ピーチ
多分ここあが一番書きやすいタイプなんだろうなw
そんな可哀想且つ激ニブな空牙だけど、一応頑張ったよ!
肉弾戦しかダメだけど!
102
:
ピーチ
:2013/01/06(日) 19:17:33 HOST:EM114-51-207-43.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
まさかの実力にしちゃう!?
リリス姫強いー! 空牙君も強いね!←
103
:
心愛
:2013/01/07(月) 10:07:00 HOST:proxy10004.docomo.ne.jp
>>ピーチ
エルゼリアは知能と体術に秀でた人が多いし、その王様のリリスは異能の種類的に結構何でもありだからねw
空牙はイレギュラーなんで生身で戦うしかないんだけど←
で、次からやっとミレーユとユリアスが出てくるよ!
長かった……!
104
:
匿名希望
:2013/01/07(月) 13:57:49 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
ウンコしてもいいですか?
ウンコスレ
105
:
匿名希望
:2013/01/07(月) 14:33:02 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
分けの分からないスレですが宜しく
106
:
ピーチ
:2013/01/08(火) 14:41:43 HOST:EM114-51-155-248.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
知能と体術かー…いーなー!←
ミレーユちゃーん! ユリアス様ー! 頑張ってねー!
107
:
たっくん
:2013/01/09(水) 12:16:04 HOST:zaq31fa4b53.zaq.ne.jp
↑何の話ですか?
メテオスマッシュとかないんですか?
108
:
心愛
:2013/01/11(金) 18:01:26 HOST:proxy10053.docomo.ne.jp
>>ピーチ
ただいまー!
うん、ミレーユと空牙が揃えば喜劇ならぬ悲劇は避けられないけどねw
109
:
心愛
:2013/01/11(金) 18:03:45 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
「リリス姫、空牙くん! お帰りなさい!」
淡い色の金髪をそよがせ、ぱたぱたと走ってきたユリアスが嬉しそうに出迎えてくれる。
つい新妻みたいだなと思ってしまった空牙だった。
「遅かったですね」
「申し訳ありません。少しばかり野良犬の躾(しつけ)をしておりまして」
「野良犬?」
「いえいえいえ気にしないで下さい!」
不思議そうに首をちょこんと傾げていたユリアスは、空牙の必死な形相を見て素直に追及をやめて。
「とにかく大事がなかったならよかった。ミレーユさんがずっと待って」
「はっ。ふざけるなです何故ミレーユが汚染物質と乳牛を待たねばならないのですか。ミレーユには到底理解不能ですね。むしろ汚いツラを視界に入れずに済んで清々していましたです」
「ついに無生物にまで落とされたっ!?」
「まぁ。わたくしたちに嫉妬する子が此処にも一人いたわね。すっかり忘れていたけれど……あらごめんなさい、悪気はありませんの」
「悪気ありありの癖に何をとぼけていますですか極悪肉女」
「あぁん空牙、わたくし下劣な人形の暴言にとっても傷ついてしまいましたわ! 慰めて下さるでしょう?」
「いやあのだから当たってますってば!」
「空牙から離れるですこの変態雌牛がっ!」
「あっあの皆さん、冷めちゃいますし食事にしましょうよっ! ねっ?」
これは自分が放っておいたらいつまでたっても終わらないと、勇気を振り絞ってユリアスが三人に呼び掛ける。
「わたくしの分まで? 却って気を遣わせてしまったようで申し訳ありません」
「せっかくですから、みんなでの方が楽しいですよ。 空牙くんも掛けて、ほらミレーユさんも!」
「……仕方ないですね」
ユリアスにいなされ、流石のミレーユも大人しく席に着く。
「おおぅ……! 数ヶ月ぶりのまともな食事……!」
「え、えと……、一杯、食べてね?」
テーブルに並ぶ皿に盛り付けられた料理たちを見て滂沱の涙を垂れ流している空牙に、ユリアスが少し引いていた。
「こほん」
「うう……美味すぎて死ぬ」
「こほん!」
「あー本当に美味いいいってぇぇぇ!?」
テーブルの下、ミレーユにガシッと足を踏まれた空牙が悲鳴を上げる。
「何すんだよ!」
「まったく愚鈍で愚昧で間抜けな水虫菌ですね。このいっそ天才的とも言える絶望的な間抜けぶりにはミレーユはうんざりです。失望しましたです」
「うん、食事中に罵倒すんな飯が不味くなる。結局何が言いたいんだお前は」
「……ですから……その」
恥ずかしそうに、ほんのりと頬を染めるミレーユ。
「ミレーユも、空牙に食べてほしくて……空牙がいない間、料理に挑戦してみたのです」
「えええっ!?」
驚愕した空牙はぎゅいんっと首をミレーユの方へ向ける。
「お前、料理なんかできたの!?」
「……言いたいことは色々ありますですが」
ミレーユは席を立ち、それから手に皿を乗せててくてくっと小走りに帰ってくる。
「どうぞです。空牙の大好物、魔界トマトの―――」
「あ、なんだサラダか。まぁ無難だけど安全圏だな」
ことん。
「―――ヘタの盛り合わせです」
「食えと!? これを食えと!?」
「飲み物はこちら。ミレーユ特製“まよねーず”です。はいどうぞどうぞ、遠慮なく」
「やーめーてぇー! 黄色っぽい何かが入ったグラスを無理矢理俺の口に近づけるの、やーめーてぇー!」
激しく無駄な攻防戦。
リリスは和やかに笑い、ユリアスは一人怯えた顔をしていた。
110
:
ピーチ
:2013/01/11(金) 22:41:01 HOST:EM114-51-196-240.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
おかえりー!
…ヘタの盛り合わせ? それはいったいどんな?←
ち、ちょっと待て、“まよねーず”ってあのまよねーずか………?
111
:
心愛
:2013/01/11(金) 23:30:33 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp
>>ピーチ
マヨネーズ=卵黄・酢・塩・胡椒に油を加え、とろりとするまでかき混ぜてつくるソース。サラダなどに用いる。(by広辞苑)
…これを何の予備知識もなしに作っちゃったミレーユはなにげにすごいと思ふw
あ、ミニトマトの実を取り除いてヘタだけぶちこんだ緑色のサラダ(つまりただの生ゴミ)をイメージしてくれればわかりやすいかもです(*´д`*)
112
:
心愛
:2013/01/11(金) 23:33:36 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp
「そういえばユリアス様、《煉獄の扉》の管理はまだよろしいんですの?」
「は、はい。今は兄が担当していますのでしばらくは大丈夫です。僕にできることは少しでも体力を温存しておくことくらいですね……ってリリス姫っ?」
平然とフォークで温野菜を切り分けているリリスに、ユリアスが『止めてあげましょうよっ』と目で訴える。
リリスはふう、と優雅に一息。
「あの子、厨房を借りたのでしょう」
「え? は、はい」
自分がいなかったときの出来事でさえ、リリスには全てお見通しだ。
空牙と怒鳴り合っているミレーユを見てにっこり微笑む。
「でも、空牙の為に色々試してみたけれどみんな失敗して黒コゲになってしまって、だからヤケになっているのですわよ。あの程度のお茶目、可愛いものではありませんか」
「そうで……しょう、か」
可愛いで済ませて良いものなのだろうかと、ユリアスは本気で首を捻った。
+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+.。.:*・゚+
「ミレーユ」
もう遅いからこのまま泊まっていったら良いというユリアスの勧めに有り難く乗り、王宮内のやたらと立派な部屋に通された空牙はミレーユに呼び掛ける。
「何ですか」
「こっち来て。目ぇ閉じてじっとしてろ」
「……………はい!?」
顔の下から上にかけて、しゅぼぼぼっと勢い良く白い肌に朱が走る。
「あう、わ、ど、どういう心境の変化ですかっ?」
「いーから」
わたわたしている彼女の腕を引き、強引にベッドに座らせる。
ゆっくり顔を近づけながら真剣な眼差しで見下ろすと、ミレーユはびくんと身を竦ませて。
やがて覚悟を決めたように、ぎゅっと瞼を閉じた。
空牙は彼女の細い肩に手を掛け、
「大人しくしてろよ」
……そのまま、何故かミレーユの髪を弄り始めた。
やっぱりかと落胆半分、自分は何を勝手に妄想していたのだろうという羞恥が半分。
だから、空牙が一体自分の髪に何をしているのかというごく単純な疑問は、そのときのミレーユの思考回路には全くなかった。
「―――はい、お土産」
ほら。と指さされた鏡の中、ミレーユが驚いたように金の瞳を丸くしている。
そのまま流していた髪をツーサイドアップに纏めているのは清楚な純白のリボン。
それぞれに控えめな大きさの、虹色のスワロフスキーを散りばめた蝶が中央の位置に留められている。
「二つセットなんだってさ。絶対ミレーユに似合うと思って」
「……これ、空牙が?」
「あ、あああーうん俺が選んだ」
ちょっと気まずそうに顔を逸らした空牙は、すぐにへへっと笑った。
「お前、綺紗(キラサ)に憧れてるんだもんな。これでお揃いだろ?」
図星を指され、ミレーユは思わず動揺してしまう。
「……そんな、こと」
からかうような眼差しの温かさと仄かな甘さに、どきどきと音を立てているような感じがする《核》を、胸の上から手で押さえる。
「ミレーユは……綺紗さんの代わりになれたらって、思ってただけで……」
空牙の大切なものになりたかった。
機械人形の分際でおこがましい、なんて、十分すぎるくらい分かってる。
それでも、そう願わずにはいられなかった。
口を開けば可愛くない言葉ばかりで。
迷惑をかけて嫌な思いばかりさせている。
だけど。
ミレーユを救ってくれた、このひとは。
「バーカ」
こつんっ、とミレーユの額を軽く指で弾く。
「代わりなんて言うな。綺紗は綺紗、お前はお前だ」
ミレーユが一番、ほしいと思っている言葉を、くれるのだ。
「俺が必要としてるのはミレーユ、お前なんだから」
「………っミレーユはもう寝ますです! おやすみなさいです!」
かああっと熱を持った頬を隠そうと、ベッドに勢い良く寝転がるミレーユ。
「……リボンつけたまま寝んのかよ」
苦笑しながら空牙もベッドに潜り込んだ。
大きな寝台に、距離を置いて、お互いに背を向けて。
「……一応、礼は言っておきますです。特別にクズからカスに格上げにしてやるです感謝するです」
「いやそれどっちが上か分かんないから」
113
:
ピーチ
:2013/01/12(土) 13:29:02 HOST:EM114-51-186-68.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
やっぱりそれだったか!
…確かに凄いよね、ミレーユちゃん
緑色のサラダ…見栄えだけはよさそうに見えると思うのはあたしだけか←
114
:
心愛
:2013/01/12(土) 20:37:50 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp
>>ピーチ
食べれないけどね!
緑色は普通だけど←
もうすぐずどーんっと重い話入れるんで反動でアホやらせてみたw
そろそろまじめに頑張るよ!
115
:
ピーチ
:2013/01/12(土) 21:22:05 HOST:EM114-51-132-35.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
食べれないよねそうだよねっ!←
ずどーんっと重い話かー……頑張れここにゃん!
116
:
心愛
:2013/01/13(日) 17:40:31 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
「色々すみません。迷惑かけるだけかけちゃって」
「ううんっ、たくさんお話できて楽しかったよ」
そして迎えた翌日、ミュシア王宮の門前で頭を下げる空牙の姿があった。
「でももう、森を荒らしちゃだめだからね?」
「心から申し訳御座いませんでした」
「……同じく、です」
空牙だけでなく、ミレーユも一応そっぽを向きつつ謝罪。
「わたくしだって、王宮を抜けてまで見送りに来てあげたのですから。感謝なさい」
「そんな頻繁に遊びに出掛けてて良いもんなんですか。悪さを企むひとがいてもおかしくありませんよ」
「あら。空牙はわたくしが理由もなしに遊び呆けていると思っていたの? 悲しいわ」
リリスは物憂げに頬に手をやって溜め息をつく。
「違うんですか?」
当然。と肩を竦め、
「そんなもの、好きなだけ泳がせておけば良いのですわ。わたくしの留守を狙う不届き者を潰す人材は、とっくに手配してありますもの」
「……俺、姫だけは敵に回したくないです」
「最高の讃辞を有難う」
麗しく微笑む切れ者の女王は、次にミレーユへと視線を移した。
「まぁ、素敵なリボンね。似合っていましてよ」
ミレーユは風に靡くリボンを手で押さえてふんっと華奢な顎を突き上げる。
「雌牛が人形如きに下手な気を遣う必要など欠片もないのです気色悪い」
「あぁ。もしかして、わたくしが言ったことをまだ気にしているの?」
「まだとは何です!」
「ミレーユ、落ち着けって」
ワインレッドの双眸には軽蔑の色も嘲弄の色もない。
「確かに空牙が本気で命令すれば、操り人形の貴女は絶対にそれを遂行するでしょうね」
でも、と小さく言い、リリスが華やかに笑む。
「それは貴女が優秀であることの、何よりの証でしてよ」
きょとん、と一瞬、ミレーユは不思議そうな表情をした。
今自分が何を言われたのか分からない、とでもいうように。
「空牙を頼みましたわよ、ミレーユ」
「……ふん。どうしてもと言うのでしたら非常に不本意ですが頼まれてやるです」
どうやら一時休戦、らしい。
空牙は安堵に笑みを浮かべ、
「……姫」
ゆっくりと振り向く彼女。
「俺、キサラギに生まれて良かったと思ってるんですよ」
生まれ持った無力さゆえに、名門の一族から冷遇され、排斥されてきた異端児は言う。
「もしそうじゃなかったら、こいつと出逢うこともなかったし、家のしきたりで、姫の眷属になることもなかった」
彼が歯を見せて笑えば、新雪の如く輝く長い髪が蒼穹に踊る。
「―――貴女に逢えて良かった」
リリスはしばらく、言葉を失って空牙を凝視していたが、
「……はぁ。そんなことはどうでも良いのですが」
「え、どうでも良いって酷くないですか!?」
「空牙くんって罪作りだよね……」「天然でやってますですからね」などという外野の声も聞かず、頭を切り替えるようにぱんぱんと頬を叩いたリリスは、
「―――わたくしたちから、正式な依頼ですわ」
空牙とミレーユが、自然と顔を引き締める。
「実は、結界を抜けた魔獣がまた暴れ回っているみたいなんだ」
「場所はファローズ領、東の森付近。討伐、お願いできますわね?」
「確かに承りました」
随分とまともなハンターとしての仕事。
自然と気分が浮き足立つ。
「……“あの方”が向かうという情報も入っていますし……」
「姫?」
「……何でもありませんわ。空牙、ちょっと耳を貸して」
「? はい」
少し間を置いてから、内緒話をするようにリリスがそっと囁いた。
―――“ネクタル”に気をつけて。
不可解そうに顔をしかめた空牙に微笑み、身体を離してひらひらと手を振る。
「では、また」
「……はい。お世話になりました」
段々小さくなる二つの背中に、打って変わって何処か弱気な雰囲気になったリリスの声が掛けられる。
「これで、良かったのかしら……」
117
:
心愛
:2013/01/13(日) 17:53:00 HOST:proxy10069.docomo.ne.jp
>>ピーチ
うん、ここあ史上最も流血が多い回になる予定だよ←
でもずっと書きたかったんだよねこのシーン!
明日あたりに更新しますw
118
:
ちー
:2013/01/13(日) 20:10:39 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
更新楽しみー^^私の、君江届も、読んでみてください^^
(なんか、ナルシストみたいですね…w私。)
119
:
ちー
:2013/01/13(日) 20:11:29 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
君江じゃなくて、君へでした…届け
120
:
ピーチ
:2013/01/13(日) 20:54:48 HOST:EM114-51-209-35.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
まさかの流血!?
でも楽しみなのはあたしの頭が腐ってるからだw
121
:
ちー
:2013/01/13(日) 21:08:47 HOST:p3078-ipbf1807marunouchi.tokyo.ocn.ne.jp
更新楽しみ^^
私もこういう文章が書けるといいのに…
122
:
心愛
:2013/01/14(月) 09:48:39 HOST:proxyag096.docomo.ne.jp
>>ちーさん
初めまして!
読んで下さってありがとうございます(o^_^o)
分かりにくいところがあったら遠慮なく言って下さいね(^-^;
>>ピーチ
流血楽しみなのか!
ちなみにここあも、書きたかったシーンだったら流血も結構好きだったことが判明した←
じゃ、載せちゃいますw
123
:
心愛
:2013/01/14(月) 09:49:05 HOST:proxyag095.docomo.ne.jp
それは遠い遠い、昔のこと―――
『……?』
数え年で十にも満たないだろう、幼い少女が暗雲の立ち込める空を見上げた。
透明感のある冴え冴えとした白い肌に、すっと細く通った鼻筋。花びらみたいに薄い唇。
さらりと零れる繊細な髪、瞼に淡い影を散りばめる長い睫は魔性の銀色。
ほっそりした指が触れる、花の女王たる薔薇でさえも消えて霞むその麗しさ。
美の化身というものがこの世に存在するのなら、きっとこのような姿をしているに違いない―――美しすぎて造り物めいた容貌は優美で危うく、砂糖菓子のように甘い。
雷鳴が響き、黒に澱む天空を稲光が走る。
少女は丁寧に棘を抜いた白薔薇の花束を大切そうに抱え、幾何学模様の宮廷庭園を抜け出した。
自身が暮らす離宮の中に入ると、すぐに青ざめた侍女が飛んでくる。
『姫様! 出歩いてはいけませんと散々申し上げたでしょう!』
『どうして?』
『どうしてもです! ご自分の部屋に戻って下さいませ、早くっ』
今日は自分の部屋に籠もっているように言われたのにもかかわらず、彼女の目を盗みこっそり庭園に行っていた少女は唇を尖らせる。
『そんなのつまらないもん。あとはお父様たちにこれを届けに行くだけだから、ね?』
『姫様ッ!』
するりとくぐり抜けて走り出すと、侍女は悲鳴を上げて追い掛けてくる。
『何をしているのです! 貴女も早く逃げなさい!』
『違うんです! 姫様が! ……っ離して!』
後ろで何か揉めているようだったが、その喧騒や、辺りに響く異常に切羽詰まった怒鳴り声は少女の耳には届かない。
何だか騒がしいな、くらいの気持ちでそのまま駆け抜けた。
回廊を通れば、すぐに王宮の大広間へ繋がる扉へと辿り着く。
『お父様、お母様、シリル! いらっしゃいますかっ?』
いつもの見張り役がいないことにもさして気を留めず、重い扉を苦労して開いた少女は笑顔で声を弾ませる。
『薔薇が咲きましたよ! 綺麗でしょう? ほら、薫りもこんなに―――』
その言葉が、止まった。
『………』
べっとりとした、どす黒い赤―――鮮血の色がこびりついた壁。
床一面に広がる同色の液体。
鉄のようにきつく、鼻を刺す独特な臭い。
小さな手から、花束が、ぱさっ、と乾いた音を立てて滑り落ちる。
血だまりに倒れ込んだ兵士の亡骸の中、少女が見たもの。
それは。
―――父の死体、だった。
まさか―――たちの悪い冗談だろう、と少女は笑おうとして頬を痙攣させたが、ひく、という音が僅かに漏れただけだった。
『お……父さ……』
隣に寄り添うように臥した母の透き通った銀髪が血にまみれ、床に散らばっている。
力を入れることを忘れたかのように固まった足を叱咤して一歩踏み出すと、靴の下で、ぴしゃ、と赤い水が跳ねた。
『……お母、様……?』
呼び掛けても、瞼を閉じた女性は二度と目覚めぬ深い眠りに落ちたまま。
そして。
ようやく、少女は“それ”の存在に気づく。
124
:
心愛
:2013/01/14(月) 09:49:54 HOST:proxy10035.docomo.ne.jp
傷を負った兵士たちに囲まれ、先程から耳障りな奇声を上げている、“それ”。
濁った眼、凶悪な牙、見上げなければ視界に入りきらない巨体を持つ、“それ”。
混沌と悪夢、無尽蔵の原初が渦巻く猛毒の都―――煉獄の、恐ろしき使者。
―――魔獣。
【グガァアアアアアアアッ!!】
ぐったりと弛緩した、少年の華奢な身体。
その心臓の位置を串刺しにした針の如く鋭い爪から、夥(おびただ)しい量の血が滴り落ちる。
ひっ、と青ざめた頬を引き攣らせる少女。
美しい顔が今にも泣き出しそうに、発狂しそうに歪む。
『シリル……っ! いやぁっ、シリルッ!』
掠れる声で彼の名を呼んだと同時、魔獣が無造作にその腕を振り上げた。
明らかに、既に絶命している少年―――兄の体躯が宙を舞って勢い良く壁に叩きつけられる。
ごぽ、と色を失った唇から赤黒いものが零れるのを、少女の大きく見開かれた、柘榴(ガーネット)の瞳がまるで鏡のように映す。
『う……ぁ』
温かくて少し硬い、父の大きな手の感触。
頼りないけれど優しい、母の笑顔。
気高く強く、少女の憧れだった、兄の声。
今はもう過去のものとなってしまった、この瞬間までの記憶が急速に少女の頭の中を駆け巡り、
―――こいつ、が。
こいつが!
『………ぁぁあああああああああああああああああッッ!!!』
理性が焼き切れる。
喉が壊れる程の絶叫が脳天を突き抜け、怒りが、悲しみが、愛しさが、恐怖が、狂気が、破裂する。
少女は目を血走らせ、床を蹴って我を忘れた獣のように突進しようとしたが、
『姫様っ!』
やっとのことで追いついた侍女に、背後から強く抱きすくめられる。
彼女は涙を零してカタカタと震えながら、それでも歯を食い縛り、必死になって少女を阻んでいた。
『いやぁああああああっ!!』
羽交い締めにされた少女は悲鳴と怒号が入り混じった、最早激昂と呼ぶにも生温い怨嗟の叫びと共に激しく暴れる。
『姫様、……姫様……!』
顔を涙でぐちゃぐちゃにしてしゃくり上げる侍女。
『おねが、……お願いです、おやめ下さい……っ!』
すぐにでも、一秒でも早く、こんな恐ろしい場所から逃げ出したいだろうに。
もしそうしたとしても、もう咎める者は誰もいないのに、自らの命を賭して主を守り抜こうとする彼女の懇願が耳元で切なく響く。
『姫様まで……、たら、王様も、哀しまれます……っ』
その余韻は鉛のように、ずしん、と重い感触を少女の薄い胸に残した。
『…………』
抵抗をやめた少女の腕が、だらりと力なく下がる。
『将軍! 応援が到着しましたッ!』
そのとき、荒々しく向かいの扉を開け放ち、雄叫びを上げながら新たな兵隊が突入した。
『王の……王家の仇だ! 死ぬ気で討て!』
朱が染み付いた左半身を庇い、頬を熱く濡らした老年の指揮官が声を嗄らして叫ぶ。
『やれ!』
返り血を浴びた醜い化け物へと数百もの毒矢が突き刺さり、死に物狂いで戦う兵士たちの妖気の炎が一斉に噴き上がる。
【ガァアアアアアアアアアッッッッ!!】
猛り叫ぶ魔獣の声と雷の轟きが、血に濡れた城を震わせる中。
不吉な程に美しく。
穢れなき純白の花片が、絶望の淵に立ち尽くす少女の足元で、ただ、深い紅へと染まっていた。
125
:
心愛
:2013/01/15(火) 17:30:08 HOST:proxy10059.docomo.ne.jp
ふわり、と何かが、月明かりの差し込む窓辺に降り立つ気配がした。
『―――……好い表情(かお)をするね』
“彼”の姿は、夜の黒に浮かんでいた。
闇の中に溶けきれない程の輝きを持つ肌は淡く発光し、その容(かんばせ)をさらに美しく彩っている。
切れ長で、血塗られたように紅い瞳に暗色の長い睫が柔らかな甘さを与える、性別という概念を超えた不可思議な美貌。
妖しく艶麗な微笑を湛えたその男の背で、ばさり、と漆黒の双翼が優雅に広がる。
魔界に棲むと云う、地獄の守りびとにして残虐なる断罪者。
―――悪魔。
空っぽの部屋の中心で、少女はその侵入者を真っ直ぐに見上げた。
『泣きたいのに、泣けない。……いや、泣かないと覚悟を決めた表情(かお)だ』
そう。
彼女は。
―――あの惨劇の間でさえ、たった一雫の涙も、零してはいなかった。
くす、と笑う少女の囀(さえず)るような、それでいて決して弱くない、はっきりとした声が響く。
『……王は泣くことを赦されない。だから、泣かない』
『流石だね。歴史上最強個体の侵攻に耐えた、ファローズ王家唯一の生き残り』
この青年はおそらく、少女が皆の優しさに守られただけで、何もできずに死んでいく家族を見送ったことを既に知っているのだろう。
『いや、死に損ない、と言った方が適切かな』
彼の口振りには、分かりやすい皮肉の色があった。
けれど、少女はその挑発に乗る程馬鹿ではない。
『どちらでも、貴方のお好きなように』
『……揶揄(からか)いがいのない娘だ』
楽しそうに笑う。
嫌いではない、と少女は思った。
軽薄そうな見た目とは裏腹に、芯の強さが窺える物言い。
頭の回転も良さそうだ。
どうせなら、話は早い方が良い。
『俺を呼んだのは、君?』
『そうよ』
昨日までの、子供らしく無邪気な様子とはまるで別人のように、悠然と構えた少女は鮮やかな唇の両端を上げた。
その手元で、ぱたん―――と、分厚く黄ばんだ本が音を立てて閉じられる。
悪魔を呼び出す儀式の手順が記された、正真正銘の禁書だ。
『悪魔である俺と、契約を結びたいということだね。その意味は分かってる?』
『代償のことなら承知してる』
悪魔は双眸を細めた。
『願いを聞こうか―――……いや、訂正。わざわざ聞くまでもない』
見透かすような視線を、少女は恐れることなく、強い眼差しで見返す。
悪魔が笑う。
彼女を誘惑するように、濡れた瞳に、薫り立つ媚態と僅かな知性の光を滲ませて。
『君の大切な家族のことだろう? 勿論、生き返らせることはできるよ。対価はその分―――』
『見くびるなッ!』
少女は吠えた。
目の奥に冷たい刃を閃かせ、憎しみに凍りついた瞳で、虚を衝かれたような顔をしている悪魔をきつく睨みつける。
『死者を辱めることは、たとえ誰であっても絶対に赦さない……ッ!』
誰よりも深く愛していた者たちを、死者と呼び。
痛みに耐えるように頬の内側を強く噛み締めながらも、甘言を撥(は)ね除けて。
己の、いや、王族としての矜持(ほこり)を優先したのだ。
この、幼姫は。
『……ふ、っははははは!』
嘲笑とは全く異なる、純粋な、可笑しくてたまらないとでも云うような笑い声を上げる悪魔。
少女の目つきが、真冬の月光のように鋭くなる。
126
:
矢沢
:2013/01/16(水) 12:23:45 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
下着
127
:
ピーチ
:2013/01/18(金) 20:03:35 HOST:EM114-51-30-88.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
おっひさー! 実力の訂正に追われていたピーチでございますです←
いや何かしばらく見ない間に進みまくってる神文章を一気読みできるのが最高に幸せだね! 一週間近くパソコンに触れなかったけど!←
128
:
心愛
:2013/01/18(金) 20:43:16 HOST:proxy10037.docomo.ne.jp
>>ピーチ
おつかれー!
ここあはピーチがこんなカス文章を読んでくれてることが最高に嬉しいよっヽ(≧▽≦)/
そんなわけで、美羽がリスペクトしてるあの人がやっとのことで登場でございます。
美羽と比べてみると面白いかも?
129
:
心愛
:2013/01/18(金) 20:44:16 HOST:proxy10038.docomo.ne.jp
『大したものだよ、君は。まだ幼いのに、こんなにも強い心を持っている』
『……わたしを愚弄しているの?』
『まさか』
不愉快そうに眉を跳ね上げた少女を宥めるように。
『君の覚悟に敬意を示して、一つだけ良いことを教えてあげる』
悪魔は彼女の耳に、その薄い唇を近づけて低い囁きを落とす。
『随分と酷い亡くなり方だったみたいだけど、君の御両親と兄上は、無事に天国へ運ばれたよ。これから永久に、神に愛されて幸せに暮らし続けるだろうね』
『……当然、よ』
ほっとして一瞬だけ緩んだ表情を誤魔化すように、少女はわざとらしく声を取り繕う。
宙に浮いた青年が微笑ましそうに表情を和らげ、空中で頬杖をついた。
『……それで? 君の、本当の望みは何?』
少女が顔を上げる。
『――――強さを』
悪魔の瞳が、濁った血の色から、熾火(おきび)の色に変わった。
鈍い光が灯る。
『兵の本隊が到着するまで、父も母も、兄も勇敢に戦ったと聞いたわ。それでも、敵を倒すには及ばなかったの』
おぞましい魔獣。
愛しいひとたちの命を奪ったあの化け物の姿を思い起こす。
怒りに狂い、哀しみに沈みたくなる過去の自分を必死に心の奥へと封じ込め、少女はさらに言葉を紡ぐ。
『……わたしは―――』
言いかけて。
少女は首を横に振り、
『―――ぼくは、兄に代わって、ファローズの家督を継承しなくてはならない』
今は亡き兄の、屹然とした口調を真似る。
いずれは王位を継ぎ、立派な王となるはずだった兄。
少女は、彼の務めるべきだった役割を全て引き受け、完璧に彼の代わりを果たそうとしていた。
『だから、託されたもの……ファローズの民を守れるだけの―――あの化け物を、滅すことができるだけの、強さを』
復讐の姫と化した少女は、凛然とした決意が輝く瞳を上げた。
『……大それた夢だね、と笑いたいところだけど』
優しく、悪魔が笑む。
『君なら案外、難しくないことかもしれないな。魔力的な強さ、とは、本人の精神力に左右されるから―――鋼のように強靭な、不屈の心を持つ君なら、ね』
悪魔が窓枠に腰掛け、巨大な翼を広げる。
黒い羽根がひらひらと舞い散り、少女の胸を軽く叩いた。
『俺はその成熟を早める手伝いをしようか』
少女の頬に手を伸ばす。
ぐい、と自分の方へと引き寄せ、口元を綻ばせた。
『絶対的な、この世界で一番の“強さ”を君に与える』
尖った爪が滑らかな肌に微かな傷をつけるが、少女は眉一つ動かさず、目の前の美しい青年を見据え続ける。
『じきに、この世界の誰もが君に跪くだろう』
『……そうなるよう、期待しているよ』
不敵な笑みを返す少女。
130
:
心愛
:2013/01/18(金) 20:45:18 HOST:proxy10065.docomo.ne.jp
部屋に満ちた闇でさえもが、彼らの美しさを畏れたかのように。
対峙する二人の姿は、自身から発せられる燐光に包まれ、くっきりと浮かび上がっていた。
『で、その代償として、何を俺に差し出してくれるのかな?』
『ぼくの力を使えば良い』
反論は赦さない。無言のうちにそう告げる。
『これから、ぼくが手に入れるだろう富、権威、名声。それを好きなだけ利用しろ』
男の表情から余裕のある微笑が掻き消え、
『……俺に、君の眷属になれと?』
その響きには僅かながら、確かな憤慨が感じられた。
『悪魔に、魔族の僕(しもべ)になれと、そう言うのか?』
『あくまで形式的な主従関係だ。立場は対等ということで構わない』
だから付いて来い、と。
お前の居場所は此処だと。
自分の傍にこそ、お前の安息があるのだと。
幼いながら、既に絶対なる王者の風格を備えた姫君は強烈な光で悪魔を射抜く。
『君の処遇は約束する』
長い、永(なが)い、沈黙の後。
『……面白い』
チロリ、と赤い舌が覗いた。
『気に入ったよ。君を、俺の主と認めよう』
尊大に言い、悪魔は心底楽しそうに長い脚を組む。
『俺の名はアレックス。魔界一の大悪魔、ついでに魔界一の色男だ』
『……良く言う』
張り詰めた緊張が解け、少女の唇から、ふっ、と小さな笑みが零れた。
『そのうちぼくから、君が冥界で生きていく為の名を贈ろう』
そして少女は息を吸い込み、厳かに己の名を明かす。
『ぼくはシルヴィア。天より紅薔薇の紋章を戴く、誇り高きファローズ王家の末裔―――シルヴィア=ファローズ』
『……シルヴィア、か。好い名前だね』
それはどうも、と冷たくあしらう少女。
『ファローズでの眷属との契約は―――』
『知ってるよ。主となる者の血を媒介とするんだろう?』
悪魔が軽く手を振ると、その中に細身の長剣が出現した。
刀身が月明かりを浴び、青みがかった淡い銀光を放つ。
『刺突剣(レイピア)か。剣技の心得が?』
『まあ、一応護身用にね。俺って魔界の中なら文句なしに最強なんだけど、冥界では今一調子出ないみたいで』
『……大丈夫なんだろうな?』
不審そうに軽く睨む少女に、悪魔は飄々と肩を竦める。
『信用できない?』
『愚問だな。信用するしか、道はないだろう?』
平然とした彼に同じく平然と言い、少女は涼やかな声を張る。
『なら、君を信じる。それだけだ』
『……ふふっ。やっぱり君は最高に面白いよ』
少女が差し出した指へ、悪魔がスッと刃を滑らせる。
走る疼痛に少女が顔をしかめたが、それも一瞬。
気高く、美しく、荒野(ヒース)に咲く一輪の薔薇のように。
少女は面(おもて)を上げ、透き通る声で告げた。
『汝、奈落の淵より来(きた)る者。我への従属を誓え』
指先に唇が寄せられる。
傷口から溢れた血を拭い取る熱い舌の感触に、少女の背が微かに震えた。
『―――仰せのままに、俺の姫君』
上目遣いに、嫣然と微笑む。
『悪魔の命は永遠。その全てを、貴女の為に捧げよう』
131
:
ピーチ
:2013/01/18(金) 23:04:08 HOST:EM49-252-50-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
いやカスどころか神だよ一文字違ってるぞここにゃん!
シルヴィアさんご登場しちゃったw
確かに口調とか一人称が同じだね、あと美羽ちゃんがなりきってるキャラの名前とw
何気に悪魔君が優しそうに思えたのはあたしだけか←
132
:
心愛
:2013/01/19(土) 12:14:43 HOST:proxy10027.docomo.ne.jp
>>ピーチ
シルヴィアは美羽の“理想”にとっても近いキャラなのです←
悪魔さんは基本優しいけど、ブラックな面もあるかもだよ(o^_^o)
美羽が自分の手切ろうとしてたことがあったのはこのシーンをパクろうとしてたからなんだぜ(^-^;
流血シーンがんばった!
こういうの苦手なここあにしてはがんばったんだよー!(涙)
133
:
ピーチ
:2013/01/19(土) 23:53:26 HOST:EM114-51-41-177.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>
悪魔さんブラックないと悪魔さんじゃないよねw←
流血シーンお疲れ! 頑張ったよここにゃんいつもだけど!
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