したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

ソラの波紋

1心愛:2012/09/16(日) 15:52:23 HOST:proxy10006.docomo.ne.jp



こんにちは、または初めまして。
心愛(ここあ)と申します。

拙くて見るに耐えない駄文ですが精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。
感想等戴ければ泣いて喜びます。
ですが、ここあは非常に小心者です。一つの批判にもガクブルしてしまうと思われます。
なので、厳しい御言葉はできるだけオブラートに包んで戴けると嬉しいです(>_<)

また、ここあが不要と判断した書き込みは、誠に勝手ながら反応しないことがあります。申し訳ありません。

内容は完全にファンタジーで、他のスレのこともありますのであまり長引かせないように心掛けるつもりです。





【心愛(元 月波)の過去作品】



『紫の乙女と幸福の歌』

『紫の乙女と愛の花束』



【関連作品】



『紫の歌×鈴扇霊』(上記作品のピーチとのコラボ)

『パープルストリーム・ファンタジア 幸運の紫水晶と56人の聖闘士』(同じく彗斗さんとのコラボ)

215ピーチ:2013/04/12(金) 05:59:28 HOST:EM114-51-151-123.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

久しぶりー!

いーやーだぁー! 何だってこのタイミングでぇー!?

シルヴィア様は優しいのー! アレックスも大丈夫なのー!

ユリアス様だって絶対大丈夫なのー!←

216心愛:2013/04/12(金) 19:02:03 HOST:proxy10029.docomo.ne.jp
>>ピーチ

役立たずな空牙を庇って数名に頑張ってもらう予定!
でも最後は決めてくれるよね、主人公…! と淡い期待をしつつ←

217ピーチ:2013/04/13(土) 19:24:31 HOST:EM114-51-187-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

役立たずじゃないよ空牙くん!

淡い期待じゃなくて頑張ってくれるよね!

……え、ちょっと待ってこれまさかミレーユちゃん関わってないよね?←

218心愛:2013/04/16(火) 20:15:52 HOST:proxy10040.docomo.ne.jp
>>ピーチ

さてさてどうでしょう(o^_^o)

なんといってもこのタイミングだからね!

219心愛:2013/04/16(火) 20:16:18 HOST:proxy10039.docomo.ne.jp





数百、あるいは数千体―――過去最大規模の魔獣がこの世界に解き放たれた。

圧倒的な戦力差、迎撃態勢が十分に整わない現状を鑑みれば、



「……エルゼリア兵の第一隊は向かわせたものの……このままでは……」




―――魔族が壊滅の危機に陥ることは、明白だった。



唇を引き結ぶリリスを見て、ユリアスが力なく俯く。

対照的に、シルヴィアは幾分冷静なように見える顔を上げた。



「とにかく、最善を尽くそう」



揺るぎない実力ゆえの自信か、この場で最も年少の彼女は大粒の瞳に、不屈の輝きを灯していた。



「ぼくの異能なら、一人でもかなりの数を始末できる。アレクや他の家来にも前線で戦わせて―――」



「……いいえ、シルヴィア様」



リリスが首を振り、艶やかなストロベリーブロンドの髪をふわりと揺らした。



「実は……シルヴィア様には他に、やって戴きたいことがありますの」



「他に?」



シルヴィアが訝しげに訊き返すと同時、




「―――失礼しますッ」




純白のロングコートを羽織る少年が、突然扉を開け放った。
擦り傷をつけた顔に汗を浮かべ、苦しそうに肩で息をしている彼。



「空牙!」



「シィ、ユリアス様!?」



空牙は部屋にいた先客に驚き、鋭い双眸を大きく開いた。



「く、空牙くんっ? その怪我は!?」



「ミレーユは? 姿が見えないが」



矢継ぎ早に質問を繰り出す二人に、空牙は「すみません、少し待ってくださいっ」と頭を下げ、改めて主君に向き直る。



「姫―――」



「……そう。知ってしまったのね」



ふっと切なそうに微笑んだリリスは手を伸ばし、空牙の傷口から滲む血を拭った。



「いくら予測ができても、わたくしの異能では未来を視ることはできない―――……ごめんなさいね、空牙。最善の選択というものが、どうしても……わたくしにも、分からなかったのです」



空牙は黙り込み、自分より幾分下の位置にあるワインレッドの瞳を見つめた。



「それも……これも。此処まで辿り着く途中、ミレーユがいなくなってしまったから身を守る術がなくて、魔獣に付けられた傷でしょう?」



互いに困惑の視線を交わすシルヴィアとユリアス。

空牙はリリスの指先をそっと外し、深く腰を折った。



「姫。こんな事態にも関わらず、馬鹿なことを言っているのは分かってます。でも、どうかミレーユを―――」



「……その話は後ですわ」



空牙が悔しげに俯く。
ユリアスが魔法で空牙の治療を始めるのを確認してから、リリスは再びその唇を開いた。



「あまりお二人を待たせる訳にはいきません。とにかく……まずは、わたくしの意見を簡潔にお話しさせて下さいませ」



「……君の、とは……何か分かったのか?」



「ええ。この件には、確かな計画性が感じられる。魔獣でなく、《咎人》が中心と考えるべきでしょう」



ユリアスが頷く。



「確かに、結界が弱まった瞬間を狙うなんて今までの魔獣とは明らかに違いますよね。僕たちが交代で結界を維持することも、把握していたということですし」



「そうです」



煉獄という名の檻にひしめく彼らは、自分たちの計画を実行に移す絶好の機会を窺っていた。
とすれば、知能の点で劣る魔獣による仕業とは考えにくい。



「それでわたくし、《散華魔鏡》で、反逆の首謀者の特徴を探ってみましたの」



あっさりと言ってのけるリリスに、驚愕の視線が集中する。

たとえ優秀な彼女とはいえ、冥界全体にその能力を広げ、意識を飛ばして膨大な情報の中から一定の人物像を特定するなど、決して簡単なことではないはずだ。

リリスは淡く微笑んでみせてから、



「……その《咎人》は、わたくしたちと同じ魔族。少し前からこの世界に潜り込んで、結界にまつわる情報を入手していたようですわね」



「その者の素性は?」



そこで、リリスは空牙をちらと見上げるようにしてから。




「……禁術に溺れた、曰く付きの魔術師、ですわ」




空牙の表情が強張る。

そして新たに宿ったのは、厳冬のように厳しく、剣呑な眼差し。




「その名を―――サミュエル=ノヴァ」

220ピーチ:2013/04/17(水) 05:14:34 HOST:EM114-51-166-96.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ミレーユちゃーんっ!! もどってきてよー!

あ、とうとうサミュエルの存在気付いちゃった←

空牙くん大丈夫? 傷っていってもそんなにひどくはないよねきっと!

221心愛:2013/04/18(木) 21:32:42 HOST:proxy10047.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、魔族はそこそこ回復力あるから、よっぽどの致命傷でない限りはすぐに治るよ! 大丈夫!


そんなこんなで黒幕だったサミュエルがしゃしゃり出てきたけど、ミレーユはどうなるのかな…?

すぐに戻ってはこなそうだね←

222ピーチ:2013/04/20(土) 21:59:59 HOST:EM49-252-202-34.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

良かったそーだよね!

そんなこんなで出て来なくていいですサミュエル…←

すぐ戻ってきてよー! 空牙くんが怪我するよー!

223心愛:2013/04/21(日) 20:39:28 HOST:proxy10004.docomo.ne.jp
>>ピーチ

捕らわれたお姫様を助け出せ! 的な意味で紫の歌要素がでてきたねw

みんなで協力してがんばってもらおう(*´д`*)

224心愛:2013/04/21(日) 20:39:53 HOST:proxy10003.docomo.ne.jp






「……あいつだ……ッ!」



ギリッと歯軋りし、空牙が拳をきつく握った。



「あいつ、まさかミレーユを使って……ッ!?」



「……空牙」



リリスがいたわるような視線で、彼を促す。



「お待たせしてしまいましたわね。わたくしたちに、全てを正直に聞かせて戴けるかしら?」



迷っている暇はなかった。


空牙はサミュエルに会い、彼からミレーユの過去、素性を教えられたこと、そして今朝からそのミレーユが行方不明になっていること、おそらくは《ネクタル》に捕らえられているだろうということを、血を吐くように苦々しい声で三人に話した。



「ミレーユさんが……」



少なからずショックを受けたようで、動揺を隠すこともせずに複雑な反応を返す二人。



「かつて冥界を混沌に陥れた魔女についての文献を読んだことがあるが……まさかそれが……」



「……とにかく空牙の話をもとに、これからの対策を考えましょう」



リリスが腕を組み、瞳を細める。




「ミレーユが、何らかの形で奴らに利用されていることは確かですわ」




彼女の明らかに確信しているような口振りからして、おそらくすでに、その事実は《散華魔鏡》で視ていることが窺えた。



「敵の目的はおそらく冥界の破壊、煉獄との同化。何かしらの方法でミレーユの強大な力を引き出して、戦況をさらに有利に導く……。勝手知ったる製作者なら、難しいことではないのかもしれません」



「……っ」



自分が不甲斐なかった所為で。


ミレーユによって、冥界が滅亡する……?



絶望感に襲われる空牙。
彼を見て、ユリアスがそっと口を開いた。




「ミレーユさんを助けに行かなきゃ」




「―――え」



思いがけない台詞に、唖然とする。

そしてユリアスに続いて、シルヴィアまでもが当然のように。



「ミレーユを奪い返すのが、解決への近道なんだろう?」



「それは、……」



「それに、首謀者がそんなに執着しているのなら、ミレーユの傍にいると考えるのが妥当だ。つまりそいつを叩けばこの茶番も終わる」



シルヴィアの言葉にユリアスがこくりと頷き、



「危険な目に遭ってるのかもしれないのに、友達を放ってはおけないよ。……あっ、ミレーユさんにとっては分からないけど、少なくとも僕はそう思ってるっていうか……っ」



わたわたと慌てる彼に、目頭が熱くなる。


意を決して、胸にあたたかく広がる感謝の念を二人に伝えようとしたとき。




「―――……わたくしは、悪と罪を見過ごすことはできない」




厳しく冷たい、リリスの声。
はっとして、空牙は己の主を仰ぎ見た。


リリスは道理を重んじる、明哲な君主。


無事にミレーユを救出することができたと仮定しても、その後の処遇は分からない。


最悪の場合、彼女の敵に回ることは―――すでに、覚悟しているけれど。


黙って空牙を見つめたのち、リリスは表情を緩め、おかしそうに笑った。



「……ふふ。冗談でしてよ」



空牙の心を読み取ったのか、そうでないのか。

そんな顔をしないで、と優しく微笑む。



「姫……?」



「確かに、わたくしは王として、公正な判断しかできない。それがわたくしの誇り」



唇の端を、僅かにつり上げて。




「つまり―――証拠がなくなってしまえば、わたくしのすることは正、ということですわ」




「ええ、と?」



混乱し始めた空牙に、リリスは詠うように言う。



「今の状況、ミレーユの秘密を知っているのは、この四人。それぞれ、口の固さはわたくしが保障します」



ユリアス、シルヴィアが顎を引き、肯定の意を示す。

満足げにリリスが微笑。



「かつてのミレーユについての書類を跡形もなく焼き尽くして、《咎人》の一味を反抗する気をなくすまで徹底的に痛めつけて。彼らを煉獄送りにしてしまえば、ミレーユは今までと同じ、ただの機械人形でいられるというわけですわ」



「はっ。何とも君らしい、物騒な意見だな」



「あら、それをシルヴィア様が仰るの?」



鼻で笑うシルヴィアに、リリスは眩しい笑顔を向けた。

225ピーチ:2013/04/22(月) 03:27:40 HOST:EM114-51-23-74.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

そういう意味か!←

リリス姫が物騒に見えるー! シルヴィア様よりもずっと物騒に見えるー!?

226心愛:2013/04/22(月) 23:01:19 HOST:proxyag069.docomo.ne.jp
>>ピーチ

結局理由つけて庇っちゃうあたり、リリスも大概空牙に甘いよね…←

言うこと物騒なのも、わざと茶化したからってのもあるw

227ピーチ:2013/04/23(火) 04:36:13 HOST:EM114-51-23-101.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

やっぱり眷属には優しいよねリリス姫!

ミレーユちゃーん早く帰ってきてー!←

茶化すために物騒なこと言うんだ!?

228たっくん:2013/04/25(木) 14:21:42 HOST:zaq31fa48ea.zaq.ne.jp
アホのピーチさん
クソスレ立て過ぎです。

今度またアホソング歌いますね。

229心愛:2013/04/29(月) 21:55:23 HOST:proxy10067.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うーん、っていうかやっぱり空牙だからってゆーのもきっとあるよねw
恋愛感情持ってる相手を見捨てられないんだよ!

で、そんな自分に自己嫌悪してぐるぐるしちゃう系?←
リリスはやっぱり普通の女の子ですw



久々だからかいつもよりさらに低クオリティな気が↓

230心愛:2013/04/29(月) 21:55:59 HOST:proxy10068.docomo.ne.jp






「空牙」



絶句する彼へと、リリスが一歩近づいた。



「ミレーユが暴走したなら、その身で喰い止めればよいのです。彼女が間違ったことをしたなら、今からでも、その手で正せばよいのです」



間違ったこと―――とは、ミレーユの身体の持ち主がかつて犯した過ちのことか、それとも。



「できないとは言わせませんよ」



柔らかに、にこりと微笑む。



「貴方とミレーユの絆は、そんなにも脆いものなのかしら?」



強く優しく背中を押す主君に、空牙は頭を垂れた。



「姫……有難う、御座います」



見放されると思っていたのに、空牙とミレーユを救ってくれると言うリリス。
どんなに感謝してもしきれない。



「本当に、貴女に逢えて良かった」



ほんの一瞬だけ、切なげな光がリリスの瞳をよぎって、しかしすぐに消えた。



「覚悟は決まりましたわね?」



「はい」



空牙から視線を放し、ぐるりと見渡す。



「ミレーユの事情を部外者に知られないよう、内密に動く必要があります。護衛をつける訳にはいかないということは、分かって下さいましね」



長い話に苛立っている様子のシルヴィアに微笑みを返してから、リリスは再度口を開いた。




「そこで、本題。単刀直入に言いますと―――わたくしは指揮を離れることができない。ですから空牙、貴方を直接助けることは不可能」




こくりと頷く空牙に対し、ユリアスが「そんなっ」と青ざめた。



「ミレーユさんがいないのに、リリス姫まで……そんな、無茶ですっ」



「ふふ。ユリアス様はやはりお優しい」



大丈夫ですわよ、とリリスはユリアスに向けた輝くような笑顔の対象を、シルヴィアへと移して。




「―――シルヴィア様。わたくしの代わりに、空牙に付いて行って差し上げて」




「……え」



予想外の台詞に、空牙とユリアスが揃って目を丸くする。



「……ぼくが?」



それはシルヴィアも同様で、訝しげに頭一つ分背の高いリリスを見上げた。



「それは……構わないが。しかしぼくの異能は魔獣相手に有効なのだから、そちらの討伐に生かした方がいいのではないか?」



「敵が魔獣を引き連れている可能性は捨て切れませんし、並大抵の戦力では勝ち目はありません。最強の名を冠するシルヴィア様であるからこそ、こうしてお願いできるのですわ」



優雅に一礼するリリスの動きに合わせ、艶やかなストロベリーブロンドがさらりと揺れる。

ふう、とシルヴィアが嘆息した。



「リリスに其処まで言われては、仕方ないな。……分かった。空牙、君に協力しよう」



「シィ……本当に良いのか?」



「ああ。ファローズ軍の統率は、アレクに任せることにする」



そう言うシルヴィアは酷く頼もしく、空牙は安堵に顔を緩ませた。

「決まりですわね」とリリスが話を纏めに入り、




「―――ぼ、僕も行くよっ」




「ユリアス?」



それを遮って、焦ったように宣言したのはユリアスだった。
きゅっと両の拳を握る。



「……ユリアス様」



すぐに立ち直ったリリスが、彼を視界に映した。



「貴方は《黎明の歌(トレーネ)》を使う、ミュシアの王族。たとえ他の誰を犠牲にしても、結界を支える為に生き延びなくてはならない存在なのですよ」



「た、確かに、そう、ですけど」



所々つっかえながらも、必死に訴えるユリアス。



「でも、皆が頑張っているのに僕だけが安全なところで、何もしないでいるなんて……耐えられない、ですから。―――戦えない僕がいたって、まるで役に立たないし足を引っ張るだけだろうけどっ」



空牙を見ながら、遠慮がちに―――しかしはっきりと、その意志を表した。




「こんな僕でも、守ることなら、できる……から」




決心は固いようだ。
仕方ない、とでも言うようにリリスが微苦笑、黙って肩を竦めて了承のサイン。



「……ユリアス様」



「ユリアスでいいよ」



淡い色の双眸が和やかに綻ぶ。



「僕たちは、ミレーユさんを助ける仲間なんだから。こんな状況で、身分なんて気にしていられないでしょう?」

231ピーチ:2013/05/01(水) 04:20:20 HOST:em1-115-125-169.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

あ、空牙くんじゃなかったら分かんなかったんだ!

リリス姫かわいーw

全然低クオリティじゃない! 続きすごく気になる!

というわけでこーしん待ってるねー←

233心愛:2013/05/02(木) 23:14:43 HOST:proxyag053.docomo.ne.jp
>>ピーチ

分かりにくいけど可愛いとこもあるリリスw
恋敵のはずのミレーユをやっぱり助けちゃうとこもリリスならではだよ……。


次は、空牙たちを送り出してお城に残ったリリスサイドでお届けする予定! あくまで予定!
ゆっくりいきます…w

234ピーチ:2013/05/03(金) 16:08:29 HOST:EM114-51-9-68.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

分かりにくい優しさ可愛さ、何かオスヴァルト様みたいw

リリス姫サイドか! じゃあいつもみたく楽しみにしてます!←

235黒ネコ:2013/05/05(日) 09:02:23 HOST:softbank220024115211.bbtec.net
 どうも、黒ネコです^^
 っあ、荒しとかではないのでご安心下さい←

 えぇ、私……この掲示板を使用したくてコメントをいろんな処に書き込んでいます←
 心愛さんの作品は、他にも拝見する予定です。
 そして、本日読ませて頂いたこの小説は
 時に面白くっ! 時にシリアスなっ! とっても、充実感あふれる面白みたっぷりの作品だと思います^^
 これからも、更新頑張って下さい^^

236心愛:2013/05/07(火) 22:15:08 HOST:proxy10053.docomo.ne.jp






「―――プリンセス・リリス」



ノックの音と自分の背後から発せられた声に、リリスは驚くこともなく振り返った。



「お待ちしておりましたわ、羽音様。久しいですわね」



青みの強い灰色の髪と瞳を持つその少女の名は、羽音=リン=エルミール。
冥府の辺を統べる由緒正しき家柄の令嬢―――否、姫君と称した方が的確か。

何しろエルミールと云えば、今やファローズ、エルゼリア、ミュシアの三大王家と並んで数えられる血統の名家。
領民からの絶大な支持を得る彼女らの協力は有難い、とリリスは素直に頬を緩めた。

ゆっくりと再会の挨拶をしたいところだが、この状況でそれを許す余裕はない。言葉少なに、最低限必要な会話を交わす。



「何か、私たちにできることは」



「……有難う御座います。そうですわね―――」



背筋を伸ばして立つ彼女の真摯な思いが滲む眼差しに応えるように、リリスも真剣な口振りで現在の戦況、それに対する対策などの情報を伝えていった。



「では、全面的に『そちら』は任せましたわ。頼みにしています」



「はい」



お気をつけて、と互いに慌ただしい挨拶を交わして羽音と別れる。


自身を落ち着かせたいときにいつも一人で籠もる、広々とした部屋。
膨大な情報を整理し、新たな突破口を見出す戦略を組み立てる作業に戻ろうとしたが―――リリスは複雑な思考を放棄して、ふっと宙を見上げた。


エルミール家を始めとした数々の有力者の協力を取り付けた今、一番の問題は。



……クウガ、と唇に淡く音を乗せる。
その切ない響きに、リリスは歯を噛み締めた。


彼には『あの』シルヴィア、そしてユリアスが付いている。
しかし敵の力が計り知れない以上、決してこちらにとって楽な戦いにはならないだろう。
それを承知で、既に手は打ってある、が―――




「―――……報われませんね」




突然すぐ隣に出現した姿に、動揺を顔に出す寸前で耐える。
……全く気配を感じなかった。この、リリスが。


やはり、悪魔(この男)は苦手だ―――と、リリスはシルヴィアの番犬をきつく睨みつける。



「……わたくしの許可もなく上がり込むなんて、全く無礼な男ですわね。ふらふらとほっつき歩いていても大丈夫なのかしら?」



「その心配は要りませんよ。シィからの頼み事は済ませましたし、彼女の身に危険が迫ったらすぐに分かります」



漆黒の悪魔、アレックス=リーヴィがわざとらしく優雅に微笑む。
その飄々とした態度が気に食わなくて、リリスは黙って眼光を強めた。


《散華魔鏡(フォル・モーント)》で“視”ようにも、永い年月を生きてきた彼は読み取るべき情報量が多すぎ、リリスの限界を優に超えてしまう。

リリスの異能が通じない切れ者。彼女との相性は最悪と言っても過言ではない。



「少し、気になることがあったもので」



「……手短に頼みますわ」



「そのつもりですよ」



薄い笑み。
アレックスの血塗られた紅い双眸が、僅かに細められ。




「最初から“こうなった場合”にシィの協力を取り付けるつもりで、わざわざ事前に空牙と俺たちを引き合わせて”―――つまり、“こんな展開”になることを、知恵者の貴女はとっくの昔に予期していた」




リリスが息を詰める。
酷く愉しげに、アレックスが首を傾げた。




「なのに、どうしてでしょうね? 今回のやり方は、どう考えてもスマートじゃない。予め知っていたのだから、他に策はいくらでもあるはずなのに―――頭の切れる貴女らしくもない」




揶揄うような口調で、アレックスが微笑。




「貴女が彼に、ミレーユを廃棄せよと命じて、それを断行していたなら、冥界は魔獣の侵攻に遭うこともなかった」




「……黙りなさい」




「しかも邪魔者がいなくなれば、貴女は晴れて愛しの空牙と―――」




「黙りなさいと言っているのです」




王者の誇りを傷つけられた怒りに、ワインレッドの瞳が燃える。
悪魔の囁きに屈するなど、彼女の矜持が赦さない。




「相変わらず、余計なことばかりぺらぺらと喋るお口ですわね。わたくしの決定に刃向かうつもり?」

237心愛:2013/05/07(火) 22:22:38 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ

最初だけ羽音ちゃんに御登場戴きました(*´д`*)
ちょっとだけ、だけどね!


微妙にオスヴァルトちっくなリリスさんの天敵登場ですw
アレクは思考を読もうとするとリリスの方がパンクしちゃう的なイメージ?←

なんでもお見通しアレクー!




>>黒ネコさん

初めましてー!
こんなド下手な素人小説に目を通して戴きまして有難う御座います…!
ちょっとずつ精進致します(o^_^o)

238ピーチ:2013/05/09(木) 04:47:22 HOST:EM114-51-29-243.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ありがとうございますわざわざ羽音を出してくれてありがとうございます!

あ、まさかのリリス姫の天敵さん←

…まぁ、アレックスの方がずっと永く生きてるからね! しょうがない!

何でもお見通しw

239たっくん:2013/05/14(火) 01:02:41 HOST:zaq31fa543a.zaq.ne.jp
私が書き込んだ後、回答下さい。

つかぬ事をお聞きしますが、どなたかピーチさんのウンコ
所有されていないでしょうか?在庫等御座いましたらお取引しましょう。
迅速に対応しますので宜しく。

前置きが長くなったけど
アホのピーチの小説なかなかおもろいわ

と言っても文筆業界には程遠いか(笑)

240心愛:2013/05/15(水) 16:27:23 HOST:proxy10058.docomo.ne.jp






「まさか。姫君のことは敬服していますよ」



薄っぺらい笑み。
自分を見透かされていることに、言葉にしようもない羞恥と悔しさを覚える。


報われない、とアレックスは言った。

空牙を想い、自分の信念をねじ曲げてまで、彼の望みを叶えても。
リリス本人に見返りは、ない。



「―――『彼女』に、情でも移りましたか?」



揶揄うように声を転がすアレックスを、リリスは再び睨みつける。




「ミレーユもわたくしの民。彼女を犠牲にしてこの世界を救う、という下劣極まりない考え方をわたくしは軽蔑します」




模範的すぎる答え。綺麗事。本心とは違う言葉。
それがどうした、とリリスは屹然とアレックスを見据えた。

空牙だけでなく、ミレーユ本人のことを思う気持ちだって、それがどれほどのものだとしても、決して嘘ではないから。


口が悪くて可愛げの欠片もないけれど、どうにも憎めない―――魔術師の手によって機械人形(マシンドール)にされた少女。

どんな危険を冒してでも、優しい空牙は精一杯に、リリスにとっても大切な、彼女を救い出そうと足掻いてくれるだろう。

なら、自分の為すべきことは一つだけ。



「これ以上何か言うのであれば、ミレーユとわたくしへの侮辱と受け取りますわよ」



「これは手厳しい」



完全に面白がっている表情で、アレックスが腕を組む。


何てことはない、リリスの所にやってきたのも、暇つぶしにリリスの反応を見て楽しみたかったからだけなのだろう。
つくづく悪趣味な男だ。



「これで話はお仕舞い? では、わたくしはこれから会議がありますので」



「……会議、ねぇ」



唇の端を吊り上げるアレックス。



「自分たちも戦え、なんて命令、頭の固い家臣が納得するとは思えませんが」



また、読まれている。


シルヴィアがいない今、リリス自身も参戦し、冥界全体を挙げての総力戦に持ち込むつもりだった。
その為には兵士以外の魔族、手始めに直属の臣下の協力が必須。
だが、確かにエルミール家の令嬢のように親切な者ばかりというわけではない。
相手のほとんどは自尊心の高い貴族だ、渋る輩の方が多いだろう。



「臣下の気持ちを理解するのは良いことです。でも、自分が臣下になってはいけない」



既に扉へと爪先を向けていたリリスはくるりと振り返り、口元に淡い笑みを浮かべた。



「足元ばかり見て『利益にならない』と言うことなら彼らにもできる―――けれど」



「……」



「王の立つ場所は誰のものよりも高い。だから誰よりも遠くまで見渡せる」



そう。リリスのすべきこととは。




「一度決断したらそれが正しいのだという顔をし続ける。そして、実際に正しいものにしてみせる。それが、王の役目ですわ」




この世界を守る為に必要なら、どれだけ反対されようが卑怯と罵られようが、どんな手でも使って自分の判断を現実のものにしてみせる。正しいと証明する。
それが、全てを背負う者としてのプライド。



「この冥界では、わたくしが絶対」



リリスは一度、空牙の飾らない心と言葉に救われた。

恋心なんて関係ない。
今度は、リリスが彼を信じ、助ける番だ。



「忠誠には富を、裏切りには罰を―――。良く覚えておくことですわね」



仕返しとばかりにリリスは微笑み、追い抜きざまに小さな一言を残した。
ほんの僅か、アレックスの柳眉がぴくりと動く。



―――貴方こそ。
シルヴィア様を泣かせたら、容赦しませんわよ?



「……食えない女だ」



扉が閉まる重苦しい音が、部屋に響く。

くくっと喉を鳴らし、悪魔は愉しげに笑った。

241心愛:2013/05/15(水) 16:31:40 HOST:proxy10058.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ちょっとでごめんね羽音ちゃんー!


空牙とミレーユだけじゃなく、最終的にはアレクとシィの関係が変わるとこまでなんとか書きたいのよね←

とりあえずこれからラストバトルだ! がんばってくれ戦闘員!

242ピーチ:2013/05/16(木) 05:33:44 HOST:EM114-51-35-209.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

ちょっとでも出せてもらえたからいいんだよー!

お、何か今回主従関係の変化が多いぞ?

家臣を納得させるのがリリス姫なんですアレックスさん←

243心愛:2013/05/24(金) 15:10:51 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp
>>ピーチ

家臣を口八丁で丸めこんだり、リリスはわりとしたたかでいいと思ってる←
そんなリリスを、シィとはまた違った意味で面白がってるアレクはちょっかいかけるというねw


次から急に空牙たちサイドだよあの人が出てくるよ!

244心愛:2013/05/24(金) 15:11:26 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp






空一面に、視界を埋め尽くす無数の影。
目を凝らせば、その魔獣一体一体が放つ爛々と輝く眼光が確認できる。



「んー……リリスによると、あそこみたいだね。敵が立てこもるには分かりやすい場所だけど」



彼らに見つからないよう低空飛行する三人の先頭、シルヴィアがすっと指を差した。
その遥か先の前方には、悠々と聳える砦。



「要塞、みたいだね。この辺にあんな建物があるなんて、聞いたことないけど……」



「敵の異能のひとつかも。物質創造能力、ってとこ?」



ユリアスの素朴な疑問にシルヴィアが答え、



「とにかく、迷ってる暇はないね」



銀色の十字架を片手でくるくると回し、弄ぶ。



「ミレーユを助け出すっていうのももちろんだけど。いくらあいつらをリリスが食い止めても、親玉を叩かないことには冥界の煉獄化は防げない」



高く愛らしい声を紡ぐシルヴィアの隣で、ユリアスが此処まで乗ってきた有翼馬(ペガサス)―――ミュシアの聖獣で、彼と仲が良いそうだ―――の頭を撫でて微笑む。



「そう、ですね。……お願い、もう少し力を貸して」



同じくその背に跨る空牙が、シィ、と呼びかけた。
緊張で固く強ばらせていた頬を緩め、こちらを向いた彼女に笑ってみせる。



「頼りにしてるぜ」



「……とーぜん!」



にこりと微笑んだその瞬間。
シルヴィアの幼げな美貌から、無邪気な笑顔がスッと消える。




「―――さぁ」




十字架を再度くるりと回し、静かな決意を秘める紅い瞳を妖艶に細めた。
見る者に畏怖すら抱かせる、完全な美を体現する姫君の唇が開かれる。




「始めようか」




たっ、という軽やかな音からは想像もできない速度で、シルヴィアは弾丸の如く突進。
紫電のように空を裂き、瞬く間に門前でたむろする魔獣たちへと突撃する。




「殲滅せよ―――《赫き煉獄の宴(ローゼン・クランツ)》」




深紅の妖気が全身から噴き上がる。

雪の結晶よりも小さい光の粒。
花吹雪が覆うように、淡い輝きが渦巻いて風を起こし、裾のフリルを揺らした。



「邪魔を、するなッ!」



敵を認知した魔獣が雄叫びを上げ襲いかかるその一瞬前。シルヴィアが威勢良く吼えると同時に、彼女の妖気が一際大きく膨れ上がる。




【ッッッギャアアアァアァァァアアア!!】




シルヴィアが操る、万物を灰燼に帰す猛毒の薔薇。


降り注ぐ花弁の弾雨が群れを一度に吹き飛ばし、消滅させ、眩い閃光を生み出した。
視界が暴力的な程鮮烈な紅に染まる。



「……超破壊力と、繊細なコントロールの両立」



ぽつりと呟く、ユリアスの横顔。
厳しく研ぎ澄まされたその表情は、年下の少女であるシルヴィアへの憧憬、そして、“守る”者としての精神的な強さを感じさせる。



「それこそが、高貴な血統の証明」



シルヴィアの猛攻。
剣呑な稲妻を思わせる大量の花びらを放ちながら、飛び越え、蹴って、殴って打ち倒す。
血飛沫をかいくぐり、十字架で攻撃を弾き、薙ぎ払う。


最強の名に相応しい、一方的で圧倒的な戦いぶり。


しかし、その凶悪な力を以てしても―――



「数が、多い……っ」



シルヴィアの後についている二人は確実にじわじわと前進してはいるものの、シルヴィアが消しても消してもなお奥から新たな魔獣の群が出現する。



「くそ、キリがねーな……!」



「! ――……っ避けて!」



背後からの襲撃に、空牙が息を呑む。
極めて高い知能を持つ有翼馬(ペガサス)は、主の悲鳴じみた突然の命令にも忠実に従おうとすぐに身体を捻ったが、



「しまっ―――」



間に合わない。


完全に不意を打たれ、短くも詠唱を必要とするユリアスの結界魔法も無意味。
攻撃の術を持たない二人へと、大きく振り下ろされた鉤爪が迫る。


シルヴィアの冷たく整った顔に初めて焦燥が浮かんだ、


―――そのとき、だった。





「燃やし尽くせ―――《緋焔の神解け(レーツェル)》」

245ピーチ:2013/05/24(金) 22:36:45 HOST:EM1-114-1-127.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

まさかのシルヴィア様に多いって言わしめるか魔獣さんたち!

…え、ちょっと待って最後のこの呪文ってまさか……

何か予想つく気もするけどだとしたら何で!?←

246心愛:2013/05/26(日) 10:01:28 HOST:proxyag119.docomo.ne.jp
>>ピーチ

せっかくだし、シルヴィアにも苦戦してもらおうかとw
魔法バトルは味方が必死じゃないとつまんないしね←



…リリスに抜け目はない!

247心愛:2013/05/26(日) 10:02:12 HOST:proxyag119.docomo.ne.jp






ごうっ!


突如として現れた緋色に燃える茨の鞭が、鉤爪を魔獣ごと吹き飛ばした。
熾烈なる狂炎が燃え盛り、シルヴィアを阻んでいた群れを一気に焼き尽くす。



「なっ」



「間一髪、でしたね」



声の主は天女の如く、風に乗ってゆっくりと舞い降りてきた。

炎そのもののように猛る緋色の妖気に、透明感のある純白の髪が激しく靡く。




「―――……兄様」




滑らかな肌に、朱鷺色の唇。小動物のように愛くるしい胡桃型の瞳を縁取る真珠色の睫。
幼さが抜け、僅かながら大人びた相貌が懐かしげにふわりと和む。
レースの半衿をつけた撫子紋様の矢絣に、牡丹と菊の花丸紋。頭頂部で結んだ幅広のリボン。
爆ぜる火の粉を纏う、清楚可憐を絵に描いたような立ち姿。

こちらに向けて微笑む彼女は間違いなく、数年ぶりに目にする―――




「お前っ……綺紗(キラサ)!? どうして―――」




「はい。お久しぶりです、兄様」




空牙の窮地を救った和装の少女が唖然としているシルヴィアとユリアスの方を見て、深く腰を折る。



「非礼をお赦し下さいませ。私はキサラギ家現当主、綺紗(キラサ)=凜(リン)=キサラギと申します」



「……君が、キサラギの……。危ないところを助かったよ、有難う」



「ぼくからも礼を言わせてくれ。シルヴィア=ファローズ、そしてそちらがユリアス=イ=ミュシアだ」



「存じ上げております。お目にかかることができて光栄です」



キサラギは伝統ある古株の一つ、冥界全体でも屈指の名家。
またとない才を授かり“神童”と謳われる正当な後継者の話は、一国の君主のような立場にあるユリアスとシルヴィアにも行き届いていたようだ。



「ちょっ、待てよ! な、なんでお前が此処に!?」



当然のように挨拶を進める三人に、空牙が耐えきれず割って入る。



「そんなこと、決まっているじゃないか」



「兄様。腐ってもエルゼリア臣民たるもの、鈍いのは異性関係に関してのみで十分ですよ?」



シルヴィアに当然のように言われ、ユリアスに困ったように苦笑され、再会を果たしたばかりの妹にまでさらりと遠まわしに馬鹿にされたような気もするが、空牙はまだこの状況を理解していなかった。


「……本当に分からないのですか?」と愛らしい仕草で唇を尖らせ、綺紗が仕方なくといった様子で答えを言う。




「リリス姫の命令で、綺紗……私が、兄様たちの支援をすることになったのです」




「姫、が……そんなことを?」



「はい。間に合って良かったです」



無論、綺紗もリリスの眷属のうちの一人。
兄妹といっても、空牙は自分の意志で家を出た身。しかもミレーユを連れて旅をしていたから、今まで直接会うことも主から話を聞くこともなかったけれど―――彼女も空牙と同じくリリスに忠誠を誓い、同じ主に仕えているのだ。



「つまり、リリスが遣わした援軍というわけだな。一人ながら、下手な兵の数倍の戦力になる」



キサラギの血が持つ異能《緋焔の神解け》は、エルゼリアよりファローズの特徴に近い攻撃型。
つまり、綺紗を投入することでシルヴィア一人の負担を減らし、勝率を上げることができる。

そして何より、リリスが彼女を選んだだろう最大の理由は。




「……ミレーユさんの秘密は、守ります」




ミレーユと面識があり、空牙を慕う実妹である綺紗は、ミレーユの生い立ちを聞いても二人を裏切ることはない。
それどころか理解を示して力を貸してくれる、これ以上ない程心強い味方だ。



「黙って兄様を見送ることしかできなかった綺紗に代わって、ミレーユさんは今日まで、兄様の助けとなってくれました」



「……綺紗」



「ミレーユさんがただの機械人形(マシンドール)であろうとなかろうと、何処の誰であろうと、関係ありません。受けた恩は返さなくては」



穏やかに微笑する綺紗。
空牙が声を震わせた。



「……本当に……お前はこんなダメ兄貴には勿体ない、良くできた妹だよ」

248ピーチ:2013/05/26(日) 13:00:15 HOST:EM114-51-191-143.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

やっぱ綺紗ちゃんだった!

へー! 綺紗ちゃんもリリス姫の眷属なんだー!

……だとしたら綺紗ちゃん大変だよね←

249心愛:2013/06/03(月) 19:03:17 HOST:proxyag061.docomo.ne.jp






「……惜しいところだが、感動の再会はこれくらいに留めておこうか」



シルヴィアが肩を竦める。



「敵は待ってはくれないようだからな」



―――囲まれている。


ユリアスが空牙と自分を守るように結界を展開し、シルヴィアと綺紗が油断なく身構える。




「これ以上、悠長に話している訳にはいきませんね。……参りましょう」




数体の魔獣と共に、行く手に立ちふさがるのは研究者風の男三人。
そのうちの一人が前へと進み出る。



「申し訳ありませんが、此処は通しませんよ」



精緻で冷たい美貌に刃物のように酷薄な微笑を浮かべ、シルヴィアが彼らをまっすぐに見た。



「―――では、力ずくでどいてもらおう」



「っ!?」



威嚇代わりの、ごく単純な魔力の放出。
シルヴィアの身から溢れ出す深紅の妖気が三人の足元へ槍の如く突き刺さった。
さらにそれは龍のようにうねった軌道を描きながら瞬時に駆け抜け、内部を蹂躙―――する前に細かな粒子となって霧散。

直撃を受けた硬質の床は焼け、焦げ、深く抉られていた。


―――格が違う。


三人が一様に青ざめるが、すぐに表情を引き締める。せめてもの抵抗とばかりにそれぞれ妖気を放出し、戦意を示した。



「シルヴィア様、そちらは任せます!」



突然上がった火柱に呑み込まれ、取り囲んでいた魔獣が断末魔の悲鳴を上げた。

阻もうとする男たちが異能を使う前に十字架を振るって蹴散らし、なお追いすがろうとする者を容赦なく攻撃して地に沈め、シルヴィアが突き進む。

ひとつひとつの威力が凄まじい花弁や火の粉が飛び交い、作り出した結界に衝突するたびに、ユリアスが苦しそうな声を漏らした。



「ユリアス―――」



「だ、大丈夫だよっ。気にしないで」



額に汗を滲ませ、慌てて笑顔を取り繕う彼。



「僕より、二人の方が大変なんだから」



「……限界がきたら、見捨ててくれて構わないから。……悪いな」



周囲に意識を配りながらの高度な集中力を求められるユリアスは、肉体的な面だけでなく精神的な疲労も激しいだろう。
彼は冥界を支える柱だ、空牙などを庇ってこんなところで倒れてもらう訳にはいかない。



「綺紗、お前は? 無理はしてないだろうな」



「……いつまでも子供扱いはやめて下さい、兄様。綺紗だって、自分の限界くらいわきまえています」



彼らの後ろを守る妹が不満げに訴えた後、「ですが」と付け足して。



「普通の方より消耗が激しいので、長期戦は不利です。あくまでシルヴィア様の補佐役といったところでしょうか」



“神童”と呼ばれる彼女は、生まれ持った異能の何倍もの威力を引き出すことができる能力者。
ただし、その代償として身体に掛かる負担は並大抵のものではない。


実際、綺紗の存在は大きかった。
背後を気にせずにいられる分、シルヴィアも心置きなく自分の力を奮うことができる。



「無茶はするなよ」



「……兄様らしくありませんね。ミレーユさんを助けるのでしょう?」



和服の袖を靡かせて立つその姿は、昔のものからは想像もつかない程に凛々しく、勇ましく。



「綺紗は、一度決めたら梃子でも動かないくらい頑固な兄様の妹です。……少なくとも今は、無理はしていませんが」



燃える茨が追撃を見舞い、突進してきた魔獣の一体を叩きのめす。
頬にかかる髪を払いのけながら、綺紗は冷然と言い放った。




「必要があれば、限界などいくらでも超えてみせますよ」




不敵で頼もしい微笑みを浮かべる妹を見て、空牙は本当の意味で、肩の力を抜いた。


「……そう、か。確かに、俺らしくなかったな」



空牙とミレーユが原因となった騒ぎに三人を巻き込み、にもかかわらず自分自身が何もできずにいることに、まだ申し訳ない気持ちを感じていた。


先頭に立ち、驚異的なまでの実力差を見せつけながら道を切り開いているシルヴィア。
共に空牙を有翼馬(ペガサス)に乗せ、彼に怪我をさせないよう必死になって結界を維持してくれているユリアス。
キサラギの持つ攻撃魔性を生かして他の三人をサポートし、兄の背中を押す綺紗。


たとえリリスを介する形ででも、自分の意志で、空牙とミレーユの危機に立ち上がってくれた仲間たちだ。

250心愛:2013/06/03(月) 19:32:38 HOST:proxyag061.docomo.ne.jp
>>ピーチ

キサラギの当主様だからねw

綺紗はいつかまた登場させよーって決めてたんです(`・ω・´)

251ピーチ:2013/06/04(火) 03:41:58 HOST:em114-51-5-253.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

綺紗ちゃん強ぇ!←

あのシルヴィア様が心置きなくってよっぽど強いんだよね綺紗ちゃん!

強いだけじゃなくて優しいっていうか優しすぎないですかみなさん!

252【下平】:2013/06/04(火) 04:03:24 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【モブ共わ、零がヤッつけるからよ、ピーチちゃんわ安心しろよ。不安になるなよ、キュアピーチ。】

253心愛:2013/06/09(日) 19:14:42 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp
>>ピーチ

綺紗は強いよ!
ふんわりした大和撫子が実は強いってなんかいいよね←


それでこそここあキャラ! 基本みんなお人好し!
その数少ない例外がサミュエルさんなわけですがw

254心愛:2013/06/09(日) 19:15:12 HOST:proxy10054.docomo.ne.jp





今更何を迷っている。
冥界を守る為、空牙とミレーユを助ける為に集まってくれた、彼らの厚意を無にしてどうする。



「俺にできるのは、信じること……か」



仲間を信じる。
情けない話だが、空牙にできることはそれしかない。

だから、彼らの協力に絶対の信頼を返す。
申し訳なさや後ろめたさではなく、心の底からの信頼を。




「―――早かったね」




研究員を倒し、魔獣を撃退し、彼らが出たのは見上げる程高い天井のある、大きく開けたホールだった。



「これはこれは。随分と豪華なパーティじゃないか」



石柱に悠然と腰掛けていた深紫の髪の男―――サミュエルが乱入してきた空牙たちを認めるなり、麗しく笑む。



「やあ、空牙君。久しぶり……でもないかな。君のことだから、“彼女”を探しに来たんだろう?」



「……ミレーユ!」



彼の傍らにあるものを見て、空牙が顔色を変えた。


ガラス製の円筒の中、瞼を閉じる美しい人形の乙女。
手首を高い位置で吊られ、ぐったりと意識のない様子。滑らかさを失った肢体からは数本の配線が伸びており、その上を途切れ途切れに弱い光が伝っていく。
《ネクタル》の研究所で目にした少女の肉体と同じような有様で、ミレーユの身体は容器の中に閉じ込められていた。


全身の血が沸騰する。



「ミレーユに、何をした……っ!」



死んだように眠る今のミレーユは空牙と出逢ったときと同じく、原動力たる魔力を絶縁され。しかも他者の手によって、無理矢理機能を停止させられている状態だ。


鋭利に凍てつく視線をものともせず、サミュエルが「さあ?」と肩を竦め。



「そんなに気になるのなら……私から奪い返して、自分で確かめてみたらどうかな?」



挑発的な台詞に歯噛みする。
自分の手では何もできないことが、悔しくてたまらない。



「シィ。……頼む」



シルヴィアは全てを察した表情で一度だけ頷いてみせ、次に綺紗の方を向いた。



「綺紗は此処にいてくれ。空牙とユリアスに万一何かあったら困る」



「はい。この身に代えても二人をお守りします。……どうか、お気をつけて」



唇の端に不敵な微笑を刻んだシルヴィアが彼らから視線を外し、ふわりと浮き上がる。
空中を滑り、ホールの中央、サミュエルのもとへ。

ルビーの瞳を不穏に細め、十字架を構えた。



「空牙の怒りはぼくが引き受けた」



お相手願おう、と言い放つシルヴィアを眺め、サミュエルが僅かに首を傾けた。
その眼差しは穏やかだが、何処か剣呑な色を孕んでいる。



「やはり。ファローズの小娘……か」



「……何?」



シルヴィアが眉を跳ね上げる。
サミュエルは笑った。



「しぶといものだね。折角皆と一緒に逝けるチャンスを作ってあげたのに、勿体無いことをした」



「………」



「何を思ったのか知らないけれど、悪魔などと契約して、“最強”を気取って。まさか本当にそうだと―――」



「……待て」



相手を射殺さんばかりの眼光。
小鳥の囀りを思わせる愛らしい声が、地を這うように低くなる。



「……答えろ。何故……あのことを知っている?」



ファローズの王族全員が幼い姫君一人を残し、魔獣によって惨殺された数年前の事件。
シルヴィアが体験した悲劇の内容を、この男は手に取るような口振りで話した。


『死ぬチャンスを作った』とは、何だ。
どうしてそんな話ができる。



「まさか、」



「その通り」



肯定し、サミュエルが可笑しげに喉を鳴らす。




「あの日、内側から煉獄を封じる結界の一部を破り、王城に魔獣を差し向けたのは私だ。当時のファローズ王には世話になったし……今日の為の様子見に、ね」




シルヴィアは、その事実を黙って受け止めた。
瞼を閉じ、十字架を胸に抱く。
亡くなった者たちから受け継がれ、その身に流れるファローズの血を、感じる。




「……ではぼくは、この機会(チャンス)に感謝しよう」



ふ、と唇が綻んだ。
顔を上げる。




「―――ぼくの全てを懸けて、貴様を倒す」




プラチナの輝きを放つ美しい銀髪が翼のように広がった。


―――瞳に狂気を宿す有毒の花が、今、咲き誇る。

255ピーチ:2013/06/10(月) 02:36:09 HOST:em1-114-98-115.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

基本になっちゃったよここにゃんキャラのお人好しがー!←

数少ないどころか今まで見たことありませんよサミュエルさんほどの極悪人!

256【下平】:2013/06/10(月) 07:53:41 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【玄(boku)も話たいよ(・ω・)】

257【下平】:2013/06/10(月) 07:55:53 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【荒らしは全滅しろ。零わトリックスターだぞ。零の真似すんなよ。】
【心愛ちゃんマジ熾天使】

258心愛:2013/06/15(土) 19:27:46 HOST:proxyag062.docomo.ne.jp






ユリアスが、空牙と綺紗を覆う結界を展開する。

それでもなお、ビリビリと肌を刺すような刺激が空牙を襲った。
それは周囲に満ちた魔力、攻撃の意志だ。




「―――出でよ、《雷毒針(クーゲル)》」




サミュエルの声がホール全体に響き渡るその前に、地に亀裂が走った。

既に身構えていたシルヴィアは、真下から繰り出された鋼の針を危なげなくかわす。
しかし息をつく間もなく、足元から無数の針が突き出してきた。
弾丸のような速度で、彼女を串刺しにせんと繰り出される突起物。
シルヴィアは避けるのを諦め、自ら生み出す薔薇の鞭で薙ぎ払う。
鋼の針は先端から黒焦げにされ、モロモロと砂のように崩れ、塵と化して空気に溶けた。



「……成程。これが極限まで強化されたファローズの異能……なかなかに、厄介だな」



ふむ、と顎に指を当てるサミュエルを、シルヴィアはせせら笑う。



「そんなことを考えている余裕が?」



サミュエルはくすりと笑い、迫る薔薇の鞭を防ぐ為、更なる針を呼び起こす。
即座に十字架で一閃し、シルヴィアはそれらを斬り捨てた。

そうしたやり取りが数秒の間に数百回と繰り返される。
そして針の一本がシルヴィアの頬を掠め微かに傷をつけるのと、花弁の槍がサミュエルを狙ったのは、ほとんど同時だった。



「《反逆の盾(クローネ)》」



サミュエルも読んでいる。攻撃を中断し、とっさに防御に専念。新たな魔法を紡ぎ出す。
サミュエルの眼前に堅固な盾が展開され、花弁の渦はそれに激突し、軌道を変える。結局、床を焦がしたにとどまった。

両者がそれぞれ後方に跳び、距離を取る。

シルヴィアが身構える間もなく四方八方から大量の針が突き出した。
針の乱打。直撃すれば、少女の身体など即座に穴だらけだ。
が、黙ってやられる彼女ではない。機敏な反応―――左右の数本を叩き落とし、とんぼを切ってかわしにかかる。

最強を自負するシルヴィアにとって、怒りで我を忘れるなど有り得ない。
激情を凍れる殺気と気迫に変え、眉間に迫る一本を撃ち落とす。
心臓を狙う一本を十字架で薙ぎ、飛来する方向を冷静に見極め、肌に突き刺さる寸前に最小限の動きで防ぐ。さらに攻撃の隙をついて新たな花弁を放出した。

紅い奔流と鋼鉄がぶつかる。火花が散り、凄まじい轟音が生じる。
歪な蛇のようにうねった輝きは目にも留まらない速度で空間を切り裂き、迫り来る針の群れを撃ち落とし、真正面―――サミュエルへと真っ直ぐに突き進む。

これは決まるか―――とシルヴィア自身思ったが、再度盾が弾雨を弾いた。
その後ろには、流石に苦しげに顔を歪めるサミュエル。詠唱の為、唇が開く。魔力の集中。

―――この男、まだストックがあるのか。

シルヴィアは表情には出さず驚く。
生粋の王族たるユリアスでさえ、使える魔法は二種類だというのに―――




「―――《穢れ亡き幻想(シュピーゲル・シュロス)》」




その声が耳に入り込んだその刹那、ふ、と一瞬意識が急速に遠のく。
気がつけば、シルヴィアは一人、見覚えのある城の内部に立っていた。



「……何……?」



眉を潜め、周囲を見回したところで―――名を、呼ばれた。
懐かしい声。はっとして振り返る。

こちらに向けて微笑んでいるのは、亡くなったはずの父、母、兄だった。

シルヴィアは息をするのも忘れて呆然とし、彼らを見つめ―――




「……幻影、か。なかなか精度が良い」




禍々しい嘲笑を、その唇に浮かべた。


これがおそらく敵の切り札。
弱さにつけ込み、戦意を喪失させるのが目的か。
いや―――靄がかかったようにぼんやりと霞む頭では、普通の者ならあっさりと騙されて夢に溺れることは安易だろう。


だが、相手はこのシルヴィアだ。
幼い日に悪魔と対等に渡り合って契約を交わし、誰よりも誇り高く、栄えある三大王家の筆頭として君臨し続けてきたこのシルヴィアだ。




「残念だったな。その程度で、ぼくの心は揺らがない」




十字架を握る。
渾身の魔力を込めた斬撃が、愛する者たちの姿を斜めに切り裂いた。

259心愛:2013/06/15(土) 19:32:46 HOST:proxyag062.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ!((いい笑顔
サミュエルこそここあキャラ唯一の極悪人かつ明確な憎まれ役なので!


で、シィ対サミュエルは一段落ついた感じだけど…これで終わりじゃないんだな(=_=;)

260ピーチ:2013/06/15(土) 19:33:33 HOST:em49-252-234-80.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

シルヴィア様が凛々しい!←

その上強いよやっぱり!

小さい頃から悪魔と契約してただけあるよね!

261心愛:2013/06/16(日) 20:10:50 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp







「口ほどにもないな」



幻を破ったシルヴィアの冷ややかな視線の先には、うずくまるサミュエルの姿があった。
倒された魔獣と同じく、こうなれば煉獄行きは免れない。
シルヴィアは着地すると、サミュエルに降伏を宣言させる為十字架の先端を彼へ突き立てようとして。


初めて、この期に及んでも魔術師が口角を上げ、不敵な笑みを湛えていることに、気づいた。




「……これで終わりだと思った?」




くくく、と喉の奥で笑う男。



「私は強欲なんだよ、お姫様。すべてを手に入れて、すべてを壊したい」



サミュエルはふらつきながらも、手をついて立ち上がる。
ごぽ、と傷口から大量の血が溢れ、床を不吉な色に濡らした。



「私は魔術師……。もう少しだけ、この肉体を此処に留めておくことができる」



「シィ!」



いち早くサミュエルの変化に気づき、固唾を呑んで見守っていた空牙が声を上げた。
シルヴィアも危険を察し、素早く後方に飛び退る。



―――ごうっ、と音を立てて、サミュエルの肩から、瞳から、魔力の炎が噴き上がった。
同時に、容器に閉じ込められた人形の少女の身体が、強く発光し始める。魔術回路に魔力の火が入る。


まさか!




「さぁ、目覚めの時間だよ。……ミレーユ」





―――リィィィッッッィィィ……!





円筒が内側から破壊され、ガラスの破片となって砕け散った。


なめらかな白磁の肌が淡い光を放ち、翠に輝く髪が爆風に煽られて波打つ。


固く閉ざされていた瞼が今、カッと大きく開かれた。
かつて美しい金色だった瞳は一面、毒々しい紅に染まっている。



「ミレーユ!」



「無駄だよ。君の声は届かない」



手負いの身体で無茶をした為だろう。負荷に耐えきれず膝をついた体勢で、サミュエルは空牙を視界に入れて笑む。



……油断した。
この男にとって、空牙から奪い取ったミレーユこそ真の切り札。
シルヴィアとの戦闘は、最初からこの本命を生かす為の時間稼ぎでしかなかったのか。




「私による数々の調整を経て、魔女だった頃の力を完全に受け継ぐ機械人形(マシンドール)として復活したんだよ。―――嗚呼、この時をどんなに待ち望んだことか!」




時折血を吐きながら、恍惚とした表情でサミュエルがミレーユを眺める。
その愉悦に酔いしれた口調は、神を崇拝する信者のようでもあった。



「“最強”対“最凶”。是非とも、最高のゲームを楽しませてくれ」



シルヴィアは、胸中で空牙と、それからミレーユに謝罪した。


―――悪い、手加減はできそうにない。


ミレーユの全身から発せられ、ひしひしと感じる威圧感。これまで会ったどんな者よりも、強い。

感情の色をなくした瞳に映され、背筋を悪寒が這い上がる。


確かに……化け物だ、これは。
本来の力を取り戻し古より甦った、魔女。


だが、空牙たちにとっても、冥界全体にとっても、シルヴィアが最初にして最後の砦。
こんな怪物を野放しにすれば、冥界の滅亡は免れない。
何としてでも、自分が此処で止めなくては。



「面白い」



内心の焦燥と裏腹に、シルヴィアは冷え冷えとした声で告げる。




「受けて立とう」




瞬間―――ふっ、とミレーユの姿が消えた。
瞠目する。有り得ない速度。音より速い!

本能で危険を感じ取り、シルヴィアは真上に十字架を寝かせて掲げた。
その直感は正しく、頭上にミレーユが唐突に出現。一回転し、重く鋭い蹴りを叩き込む。
シルヴィアはかろうじて受け止めたが、勢いを相殺しきれず吹っ飛ばされかける。空中でバランスを取り、体勢を立て直した。

ミレーユは止まらない。拳を繰り出す。緩急自在の動きに翻弄されまいと、シルヴィアは際どく対応しながら好機を待つ。


―――アレックスとやり合ったときより格段に、速い。
けれど、リズムは掴んだ。


不意を衝き、シルヴィアは大きく十字架を振るった。
衝撃波でミレーユのボディが軋み、白い肌がざっくり裂ける。

262心愛:2013/06/16(日) 20:15:50 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うちの魔族の強さ=精神力の強さだからね!


そして、やっと真のラスボス・魔女版ミレーユさん登場(;゜ロ゜)
ミレーユを倒さない限り冥界滅ぶよどうするシィ!←

263ピーチ:2013/06/16(日) 20:28:00 HOST:nptka204.pcsitebrowser.ne.jp
ここにゃん〉〉

うそでしょミレーユちゃん!?

そしてサミュエルに対して純粋にいらっときたことは言わない←

シルヴィア様頑張って大丈夫だよねいざとなったらアレックス居るよね!

264たっくん:2013/06/18(火) 10:15:27 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
ちなみに貴方達をノックアウトするのは
アッコちゃんという女性です。

アッコちゃんが貴方達をノックアウトしてしまうんですよ。

アッコさんという方は私の味方です。
貴方達は敵です。

265たっくん:2013/06/18(火) 10:15:49 HOST:zaq31fa4b08.zaq.ne.jp
ちなみに私はアッコさんを応援します。

266心愛:2013/06/24(月) 16:02:00 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp
>>ピーチ

サミュエルは嫌われるように書いてるから遠慮なくいらっとしちゃっていいのよ?w



…………(・∀・)

267心愛:2013/06/24(月) 16:02:23 HOST:proxyag080.docomo.ne.jp






瞬間、バランスを崩したミレーユの暗い双眸が、妖しい光に満ちた。




「―――……《黒き刃の夜想曲》」




虚ろな声と共に―――大気が凍結した。

俊敏な動きで咄嗟に飛び退いたシルヴィアのすぐ目の前に、巨大な氷柱がそそり立った。
空気中の水分を瞬時に氷結させたのか。冷気と共に死の凄みを放つそれは、シルヴィアの背筋を固く凍らせる。
仮面のような無表情のミレーユが突き出した拳は何もない虚空を切り裂き、衝撃波で氷を砕いた。
破片が膨張し、鋭い円錐となってシルヴィアを八方から襲う。まさに刃。
サミュエルのときと同じ要領で、シルヴィアは飛来する氷槍を焼き尽くしていく。




「……《煌めく星の狂詩曲》」




光の乱舞。
細く収斂した光の剣に貫かれ、衣装に穴があく。
シルヴィアは薔薇の花弁で威力を相殺し、身を守った。
その隙にミレーユが素早く跳躍。一瞬目標を見失い、シルヴィアが戸惑う。



「シィ、上だ!」




「……《紅き月影の輪舞曲》」




ミレーユの手のひらから放たれた光芒、それはさながら光の大砲。
下方に位置するシルヴィアへと巨大な光線が襲いかかる。
シルヴィアはこれもまた恐るべき反射神経を以て反応し、十字架で弾いた。
射線が反り返り、ホールを縦断。分厚い石の床が砕け、巨大な亀裂が蜘蛛の巣状に走り、大穴が穿たれる。

続けざまに真正面から猛烈な蹴りを放つミレーユ。直撃すれば間違いなく、シルヴィアの背骨がへし折れるような一撃だった―――が、それを万物を灰燼に帰す猛毒の薔薇が迎え撃つ。
ずばんっ、と空気を裂き、ミレーユのスカートを掠めた花弁の鞭はそのまま進む方向を転換し、後方からミレーユへと直進。




「《凍れる残影の奏鳴曲》」




突如、氷壁が出現した。
密度が高く、固く締まっている様子だ。シルヴィアの《赫き煉獄の宴(ローゼン・クランツ)》にも、一瞬なら耐えうる。

力の拮抗は僅か一秒未満。壁が破壊され、花弁の突進を氷の破片が迎撃する。

同時に、相手の懐に飛び込み十字架を振るったシルヴィアの重い一撃が、空中のミレーユをとらえた。
ミレーユは両腕を交差してブロックするが、空中では勢いが殺しきれず吹っ飛ばされて床に転がる。が、反転してすぐに起き上がった。息をつく間もなく新たな攻撃を見舞う。



「………っく、ぅ」



呼吸が荒い。骨がしなり、筋肉が悲鳴をあげている。
それでも、シルヴィアは魔力の収束を緩めない。限界を超えて、力を絞り出そうとする。



「………っ、!」



薔薇の渦が天を衝いて猛り、轟音を立てて荒れ狂う。荒れ果てたホールの中を旋廻し、爆風が砂礫を飛ばす。

僅かに怯み、ミレーユが身を退いた。
暴力的で圧倒的な美貌を体現するかのような深紅の奔流が、シルヴィアを中心に猛烈な激しさで渦巻く。



「……悪い、な。一方的にやられるのは性に合わないんだ」



ミレーユへ向け、凝集された花弁が解き放たれた。
シルヴィア渾身の一撃には流石のミレーユも無傷という訳にはいかず、ガードはしたものの少なからずダメージを負った。ふらりと身体の重心が揺らぐ。


華奢な肩を上下させながら、憔悴に歪む表情をぐっと引き締め、シルヴィアが再度魔力を練る。


その間に反撃に転じようと体勢を整えたミレーユの鼻先で―――
不意に、炎の花が咲いた。
緋色の猛火が一瞬にしてミレーユを包み込む。
予想外の事態に、シルヴィアが瞠目した。



「なっ」



背後を振り返れば、―――綺紗だ。
真珠色の髪と和服の袖とを風に煽らせ、手のひらを突き出し遠距離から炎をコントロールしている。

さらにその後ろでは、ユリアスが申し訳なさと心配が入り混じった眼差しで、空牙が厳しい顔で、こちらを見ていた。


ユリアスの結界を一旦解き、綺紗の力で奇襲をかけ、シルヴィアを援護しようというのか。
これ以上はシルヴィアの命に関わるという、彼らにとっても苦渋の判断だろう。

シルヴィアは悔しさに歯噛みした。



「ふぅん……それは少し、困るな」



ある程度まで回復し、今までミレーユに魔力を供給していたサミュエルの唇が、その形に動く。


その視線の先には、今度は空牙と自身だけを覆う結界を展開し始めたユリアスの姿があった。

268ピーチ:2013/06/25(火) 06:53:56 HOST:em114-51-24-71.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

あ、りょーかいですw

ていうかちょっと待ってユリアス様危ないじゃん!

逃げてぇー! 二人ともとりあえず逃げといてー!←

269たっくん:2013/06/25(火) 12:08:27 HOST:zaq31fa50e8.zaq.ne.jp
  [もしもピーチさんがお亡くなりになられたら]

ピーチさんが死んであの世へ旅立ったら・・どうしますか?
本人はおそらく自分が天国へ行けない・・。きっと地獄だろう・・?と思っているのでしょう。
しかし!しかしですね・・どうか御安心下さい。

もしピーチさんが地獄へ落とされそうになった
私が閻魔大王様に『閻魔様・・お願いします!どうかピーチさんを許してやって下さい。
ああ見えても根はいい奴なんです。お願いします!天国へ行かせてやって下さい』と
頼んであげます。

270心愛:2013/07/02(火) 15:42:29 HOST:proxyag057.docomo.ne.jp






「ふふ、そうだね。そちらが邪魔をする気なら」



つい、と、サミュエルは人差し指を上げて。




「こちらも、遠慮なくそうさせてもらおうか」




地面が割れた。
鋭い棘を持つ巨大な重量の塊が、此方へ向けて雪崩のように押し寄せる。


空牙は目を剥いた。
なんという力業。ミレーユの稼動に魔力の大半を割きながら、同時に自身の異能を発動させるとは!



「ユリアス!」



「ユリアス様っ」



狙われているユリアスは結界の構築途中で、集中する為に一切の物音を排除している状態だ。
立て続けにシルヴィアたちが激しく消費した所為でホール内のマナが薄く、魔法を発動させるのに時間がかかっているのだろう。
綺紗が慌てて炎の茨を差し向けようとするものの、彼女の攻撃系の異能では二人を巻き込む可能性がある。その、一瞬の迷いが命取りだった。


回避は不可能。
空牙は咄嗟にユリアスを自分の後ろへ突き飛ばし、全てを覚悟して固く目を閉じた。


肉を切り裂く鈍い音。

一秒、二秒……まだ痛みを感じない。
不審に思い、恐る恐る目を開く。

最初に視界に飛び込んできたのは、黒い影だった。それが少女の背中だと気づくのにさらに数秒を要する。




「―――シィ!」




シルヴィアの細い身体が、文字通り身を盾にして、空牙を庇っていた。
何本かの針が背中を破り、顔を出している。傷口からは鮮血が溢れ、衣装をぬらぬらと濡らす。


綺紗が声にならない悲鳴を上げ、瞼を開けたユリアスがその場に凍りついた。



「う……、っぁ」



小さな身震いと共に血を吐き、シルヴィアの瞳が焦点を失う。

銀色が儚く閃き。
ぐらりと傾いた身体は、為す術もなく針に貫かれたまま―――深い亀裂の中へと、吸い込まれた。




「シィ―――ッッッ!!」




眼下を見る。
一面に広がる闇。怪我の上にこの断崖から落ちては……到底助からないだろう。



「……な、んだよ、それ」




シルヴィア相手にやってのけたのだから、ユリアスや空牙の足元から針を出すこともできたはずだ。油断を狙うのならその方が確実に仕留められる。
にもかかわらずわざと隙を作ったのは、シルヴィアが空牙たちを守る為に動き、その身を犠牲にすることを計算に入れていたということだ。


全身の血が燃えたぎる。
頭が灼熱し、怒りと嘆き、感情が荒れ狂い、空牙を翻弄する。



「ふざけんなよ! ……シィ! シィ……っ!」



取り乱し、シルヴィアの後を追うように身を乗り出す空牙を、鋭い声が止めた。



「空牙くん!」



先ほど空牙に突き飛ばされたユリアスだった。
青ざめた頬を引き締め、つい、と人差し指を突き出す。



「……あれ、見て」



光を纏い、不意に出現したのは漆黒の羽。
シルヴィアの消えた闇へふわふわと落ちていくそれには、見覚えがあった。



「ア……レックス、さん?」



ミレーユと空牙を圧倒した美貌の青年悪魔。
彼の双翼から放たれた羽根それと、目の前のそれは明らかに酷似していて。



「彼がついてる。だから、シルヴィア姫はきっと大丈夫。……今は、そう信じよう」



やはり声は震えていたけれど、それでも、淡い紅の双眸には確かな信頼の輝きが灯っていた。

猛る心が、徐々に鎮められていくのが分かる。



「……そう、だよな。シィが、このくらいでくたばるわけねぇよな……」



一筋の希望を見いだし、精一杯平静を取り戻そうと努力しながら空牙が頷く。
流石は王族、窮地に陥った際の切り替えが見事だ。


今はとにかく、シルヴィアなしでこの最悪な状況を切り抜けなくてはならないのだから。




「……綺紗が、行きます」




動揺と身体の震えを必死に押し殺し、宣言する綺紗。
妥当で当然とも思える判断だったが、空牙は「いや、」と首を振った。




「俺にやらせてくれ」




予想外の台詞に呆ける綺紗とユリアスにも構わず、ミレーユと、その向こうに控えたサミュエルに向き直る。



「……まさか君が、ミレーユの相手を?」



驚いたように、または揶揄(からか)うようにサミュエルが笑う。
無言で返し、空牙は指輪に口づけた。





「導きを…………《偽りの空を歌う星》」

271心愛:2013/07/02(火) 15:44:51 HOST:proxyag057.docomo.ne.jp
>>ピーチ

二人は無事だったけど…(´・ω・`)


急ぎ足だけど、シルヴィア救済回も後でちょこっとやるんで大丈夫だよ!

あとはマジギレした主人公が頑張ってくれるはずさ! …異能魔法使えないけど!

272ピーチ:2013/07/05(金) 03:18:50 HOST:em1-114-73-103.pool.e-mobile.ne.jp
ちょっと待ってぇー!?

なんでシルヴィア様なのなんでアレックス羽しかないの!?←落ち着け

大丈夫だよね! 異能使えなくても空牙くんとミレーユちゃんの絆があるもんね!

273心愛:2013/07/05(金) 22:16:50 HOST:proxy10007.docomo.ne.jp
>>ピーチ

アレックスのあれは一応後から補足するからね!
羽根だけかよ!って感じだけどもw


空牙とミレーユなら大丈夫さ、きっと!

274心愛:2013/07/05(金) 22:17:17 HOST:proxy10007.docomo.ne.jp





空牙を案じ、自らの身を投げ出したミレーユを無理矢理操り、空牙たちを攻撃させるという仕打ちを与えているサミュエル。
それだけではない。
怨敵に対しても気高く堂々とした態度で挑んだシルヴィアの、仲間に対する真っ直ぐな想いを利用し、誇りを踏みにじった。
たとえ己の悲願を達成する為だとしても、その手段は卑怯で、下劣で、赦されるべきことではない。




「……俺もいい加減、我慢の限界なんだよ」




身体の奥、魂の根源から、膨大な量の魔力が溢れ出す。
体内で熱を持ち暴れるそれを、空牙は一気に解き放った。


轟ッッッ―――!!!


妖気の放出。
空牙を中心として突風が激しく渦巻く。暴力的なまでに眩しい白に、空間と視界とが塗り潰される。

サミュエルが息を詰め、
ミレーユは警戒してか紅く染まった瞳を細めた。


シルヴィアとミレーユ。いや、もしくはそれ以前か。仲間が戦闘をしている間ずっと、空牙は密かに少しずつながらマナを溜め、魔力を練り込んでいたということだ。

しかも、空牙の足元に花が咲くが如く拡(ひろ)がった金の紋様は輝きを増し、次第に濃くなっていく。
彼を取り巻く妖気の勢いも衰えるどころか、ますます大きく、強まっていく。



「まさか」



魔力の源たる周りのマナが薄まっていく感覚に、ユリアスがはっとして目を見開いた。

この魔力は、空牙が溜め込んでいた量だけではない。


このホールに満ちた残り全てのマナを、吸収している……?


獣が獲物を喰らい尽くすように荒々しく。
空牙は絶え間なくマナを取り込んで魔力に変換し、妖気として空気中に出していく。

それは途方もなく、作戦とも呼べない、あまりに単純で、そして無理が過ぎる筋書きだった。


―――この場のマナを使い果たしてしまえば、ユリアスと綺紗、だが例に漏れず、サミュエルも戦闘不能になる。



「そんなっ、無茶だよ! 空牙くんの身体の方が……っ」



先に限界を来(きた)し、壊れる。
そう叫ぼうとしたユリアスを、綺紗がそっと遮った。



「私も兄様も、こう見えてエルゼリアの眷属です」



真珠色の髪が暴風に煽られて激しく踊り、兄を見つめる真剣な横顔を彩る。



「主と同じく行動力と度胸、そしてそれに見合う知能を備えています。相応の覚悟や自信がなければ、無理はしないはずです」



それに、と綺紗が続ける。口元にはごく淡い笑み。




「―――生身の身体能力に関しては、他の臣民を遥かに超越している」




とんっ。
空牙が軽く地面を蹴って助走、そこから徐々に加速。
風の悲鳴が耳をつんざき、周囲の光景が流れるように移り変わる。


サミュエルの指示を受け、ふわりと舞い降りたミレーユが空牙の行く手を阻んだ。


やはりサミュエルは相当手練れの術者だ、まだ余力があるのか。
シルヴィアとの戦いで消耗し、さらにミレーユを稼働させ続けた上にこの環境下でも動けるとは、驚異的な実力と言っても良い。
が、流石に派手な魔法は使えないらしい。ミレーユは傍にあった石柱を思い切り蹴りつけ、それを粉々に砕いた。


鎌鼬にも似た衝撃波。がら空きの腕、肩、脇腹、両脚に尖った破片が突き刺さる。
身体を貫通するかの如き激痛に、空牙が顔を歪めた。
異能も魔法も使えない、だからブロックすることはできない。
空牙はそれらを全て受け止め耐えていたが―――その刹那、全力で地面を蹴り、高く、高く飛び上がった。
宙で身を捩り、砕けた石の欠片のひとつを爪先で蹴る。



「な……っ?」



浮力も何もないただの小さな破片は、少年の体重を支えるには質量が足りない。
とんっ、その僅かな、一瞬の跳躍が次なる石へと空牙を届ける。
それが落ちるより早く、速く、空牙は飛ぶように足場を跳び移り、空中でひたすら前へと駆けた。

ついにミレーユの真正面に辿り着き、追い抜きざまに声を発する。



「ミレーユ」



直接攻撃を仕掛けようと構えていたミレーユの動きがぴたりと止まる。
感情の消えたはずの瞳の奥にごく弱い葛藤を見つけ、空牙は笑った。




「言ったよな? お前は俺の、ただ一人の相棒だって」




きっと声は届かない。
けれど―――想いは、届く。




「俺はお前を信じてる」

275たっくん:2013/07/06(土) 14:06:18 HOST:zaq31fa4955.zaq.ne.jp
【昔のVHSをピーチに買い取ってもらうスレ】


平成元年のビデオ販売です。
89年、90年に撮影したVHS(ビデオ)の販売です。
お求めの方は【YES】と、ご記入下さい。

価格=100円 送料290円〜320円


1990年5月〜現在に至るまでの新幹線映像です。

【1990年 8ミリビデオ撮影】
この時点ではまだ300系はデビューしていません。
当時の花形は100系、グランドひかりでした。
16両編成の0系新幹線、100系共食堂車ビュッフェを連結してました。
山陽新幹線こだまの一部に6両編成、東海道新幹線こだまの一部に12両編成がありました。


【1994年】

94年になると、300系のぞみがデビューしてます。
当時の主な新幹線は、0系ひかり、100系グランドひかり、300系のぞみ

【1996年】
新大阪〜京都間で高速走行シーンが鑑賞できる、阪急京都線との供走区間。
新幹線と阪急の中間フェンスが、現在とは異なり若干低いのが分かります。

96年当時の新幹線
0系こだま、0系ひかり、100系グランドひかり、300系のぞみ

VHS価格=100円
発送料金=290円〜320円

本体価格ですが
今回は特別に無料で差し上げます。

送料だけはご負担下さい。

276たっくん:2013/07/06(土) 14:06:38 HOST:zaq31fa4955.zaq.ne.jp
平成元年のビデオ販売です。
89年、90年に撮影したVHS(ビデオ)の販売です。
お求めの方は【YES】と、ご記入下さい。

価格=100円 送料290円〜320円


1990年5月〜現在に至るまでの新幹線映像です。

【1990年 8ミリビデオ撮影】
この時点ではまだ300系はデビューしていません。
当時の花形は100系、グランドひかりでした。
16両編成の0系新幹線、100系共食堂車ビュッフェを連結してました。
山陽新幹線こだまの一部に6両編成、東海道新幹線こだまの一部に12両編成がありました。


【1994年】

94年になると、300系のぞみがデビューしてます。
当時の主な新幹線は、0系ひかり、100系グランドひかり、300系のぞみ

【1996年】
新大阪〜京都間で高速走行シーンが鑑賞できる、阪急京都線との供走区間。
新幹線と阪急の中間フェンスが、現在とは異なり若干低いのが分かります。

96年当時の新幹線
0系こだま、0系ひかり、100系グランドひかり、300系のぞみ

277ピーチ:2013/07/07(日) 00:55:14 HOST:em1-114-140-221.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

うっわサミュエルここまで使える術者だったの!?

だったらいい方向に使えばよかったのに!

どーしたらいいと思うここにゃん、名ゼリフ多すぎるよ……!?←

278【下平】:2013/07/08(月) 16:46:11 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【ジャクソンかよ】

279心愛:2013/07/09(火) 17:26:45 HOST:proxyag085.docomo.ne.jp
>>ピーチ

魔女ミレーユを崇拝するあまり変な方向に突っ走っちゃったんだねサミュエルw
台詞……そ、そうかなぁ(;゜ロ゜)


そんなサミュエル戦もやっと終了です←
邪気眼少女更新の前に完結させちゃうかも!

280心愛:2013/07/09(火) 17:27:44 HOST:proxyag085.docomo.ne.jp







仮面のようだったミレーユの表情に、一瞬、躊躇と困惑の色が浮かんだ。
空牙はそれを見ずに空中で立ち尽くす彼女をその場に置き去りにし、さらに疾走して―――そしてついにサミュエルの正面へ躍り出る。
地に足がつくと同時、今自分の持てる全ての魔力を引き出し、解放した。




「っっあああああああああ!!」




純白の輝きが迸り、凄まじい轟音がホールを揺らす。

爆風の中心で、喉を嗄らして叫ぶ少年。
狂気じみた迫力に、サミュエルが一歩後退した、
そのときだった。


突如として何かが空牙の腕、背中、足元の床を突き破り、その姿を現した。



―――茨だ。



大樹の幹のようなそれは無数の茨が絡み合った、綱のようなものだった。その表面には鋭い棘が刃を光らせ、丈が急激に成長し分厚い天井をやすやすとぶち抜く。


衝撃から立ち直り、いち早く、その正体に気づいたのは綺紗だった。





「……《緋焔の神解け(レーツェル)》!?」





空牙の生み出した茨は抜けるように白く、緋色の炎を宿してはいないものの、キサラギに伝わる異能そのままの姿で。



「そんな、馬鹿な……っ」



サミュエルが絶句する。



空牙は異能を使えないのではなく、その才は《散華魔鏡》でも視通せぬ程の奥底に眠っていた、と。
空牙が異能を起動するには、その化け物じみた《器》に見合った莫大な量の魔力が必要で。己の限界を突破することで、今ようやく初めてその条件が満たされた……と、そう、云うのか?



空牙にとっても、この結果は完全に予想外だったらしい。
自分自身でも意味が分からず呆けたのは一瞬、不敵で野性的な笑みを浮かべる。




「……コレで一発、ぶん殴ろうかと思ってたけど」




特大の魔力の炎を纏う拳をぶらりと下げ、全身に漲る独特の感覚を確かめる。

どんなに願っても手に入れられないものなのだと、ずっと思い焦がれてきた。
不格好で不完全な、けれど確かに存在する、空牙の異能。





「テメーを倒すには、これで十分だ!」





茨の槍が叫びに呼応してほどけ、軍勢と化して魔術師の男に殺到した。

281ピーチ:2013/07/10(水) 04:57:39 HOST:em114-51-2-136.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

どうしようここにゃん空牙くんがとんでもなくかっこいいよっ!

やっぱり凄いよ空牙くんとミレーユちゃんの絆!

むしろ名ゼリフしかありません! 何か凄く羨ましいですそんなに才能ある人が!

邪気眼少女の前! ……でもなんか寂しいな…

282ピーチ:2013/07/10(水) 09:22:49 HOST:zaq31fa5a1a.zaq.ne.jp
【もしピーチさんの祖母がお亡くなりになられたら・・。】


作詞・たっくん   

さよならするのはツラいけどの替え歌です。ではお聴き下さい。



ババアが死んだ〜♪ババアが死んだ〜♪
いい死に顔だ〜♪いい死に顔だ〜♪
さよならす〜するのはつら〜いい〜けど〜♪

寿命だよ♪仕方がない
ピーチが逝くまでごきげんよう♪

ババアが死んだ〜♪ ババアが死んだ〜♪

ピーチ
『私もいつかあの世へ旅経ちます。その日までごきげんよう!』


ピーチさんもそのうち逝くと思いますが
その時までごきげんよう!

283【下平慎(シン)】:2013/07/10(水) 13:05:37 HOST:ntfkok293007.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
【いじめんなよ、ピーチを。】

284心愛:2013/07/10(水) 21:55:30 HOST:proxyag033.docomo.ne.jp
>>ピーチ

かっこいい…かな!?
頑張ってかっこよくかっこよく…って念じてたんだけど、ちゃんとそうなってればいいなw
やっと空牙、主人公の意地見せました!


ここあもちょっと寂しい…(´・ω・`)
でもピーチがうっすらとでも覚えててくれるかぎり、空牙とミレーユたちは不滅さ!

285心愛:2013/07/10(水) 21:55:48 HOST:proxyag034.docomo.ne.jp






―――やった……の、か?


茨の輪郭が崩れ、光の粒子となってきらきらと輝きながら、上空へと昇っていく。死者の魂が天に帰っていくような、美しくも幻想的な光景だった。
その中に、魔術師の姿はない。

……果たして、サミュエルは無事に煉獄へ送られたのだろうか。


そこまで考えて―――空牙はふつりと糸が切れたように、力尽きて膝から崩れ落ちた。



「兄さ―――」




「空牙っ!」




すぐさま飛んできたミレーユが空牙の身体にすがりつく。
操者のサミュエルが消えたことで、自我を取り戻したようだ。機械人形の少女の金色に輝く瞳から、ぽろぽろといくつもの涙が零れ落ちた。



「ごめんなさい……ごめんなさい……っ」



手で顔を覆い、しゃくり上げるミレーユ。



「ミレーユが馬鹿なことをしたばかりに、空牙も、……シルヴィアさんまで……っ」



サミュエルに支配されていたときのことも記憶してしまっているらしい。
カタカタと震える背中に、近づいてきていたユリアスと綺紗が声を掛けようとして言葉に詰まる。



「どんな処分を受けても足りません……。ミレーユは……ミレーユは、どうやって償えば……!」




「……お前が何度、俺の命を救ってくれた?」




空牙が笑む。
淡い翠の髪を手で梳き、ミレーユの濡れる瞳と視線を合わせた。



「俺を守ってくれたのは、いつもミレーユ……お前だろうが」



波紋のように、空牙の声色が弱々しくも優しく広がる。




「俺の相棒はお前だけだ。だから、俺を捨てないでくれ」




刹那、ミレーユの表情が崩れた。
くしゃりと顔を歪め、また涙を溢れさせる。



「なんですかそれ……何なんですか」



ひく、ひくっ、と小さな嗚咽。



「捨てないで、なんて、格好悪いです……」



「ああ」



「格好悪いし……空牙は馬鹿です。空前絶後、前代未聞の大馬鹿野郎です」



「知ってるよ」



コートの中からリボンを取り出し、そっと結んでやる。
一度は捨てた、空牙との繋がりのようなそれに手で触れ、ミレーユは泣きながら微笑んだ。



「本当に……後悔、しませんか」



「するわけねーだろ、バカ」



ミレーユの緩んだ頬を、またひとつ、ぽろりと水滴が転がった。
彼女の頭を最後にくしゃくしゃと撫でてやり、空牙がほっとしたような表情の二人に礼を言う。



「綺紗、ユリアス。お前らのお陰で、本当に助かった。有難う」



「ううん。とにかく……ミレーユさんが無事で良かったよ」



「当然のことをしたまでですよ、兄様」



言い、綺紗が小さく縮こまっているミレーユに向き直る。
こちらも数年ぶりの再会だ。



「お久しぶりです、ミレーユさん。御無事で何よりです」



「いえ……迷惑を掛けました、です。他の方々にも」



殊勝に目を伏せるミレーユは、やはりまだ相当堪(こた)えているのだろう。
綺紗は膝を折って、柔らかな口調で話しかける。



「……ミレーユさんには何一つ非はありません。ですから、どうかご自分を責めないで下さいね」



「、………!」



「ミレーユさんだからこそ、兄様を安心して預けられるのですから。本格的に愛想が尽きたらいつでも綺紗のところに来て下さって結構ですが」



「おい綺紗!?」



「は、い。……有難う御座いました、です」



それでいい、と微笑み、空牙と同じように綺紗も頭にぽんぽんと手を乗せる。
兄妹で変なところが似ているな、とミレーユはふやけた思考でぼんやりと思った。



「いつまでも過ぎたこと気にしてんなよ、ミレーユ。それより、今は―――」



言いかけて、空牙の身体からかくりと力が抜けた。



「く、空牙っ?」



「おそらく魔力の負荷に耐えきれなくなったのでしょう。大丈夫、気を失っているだけです」



むしろ良く保ったと言うべきか。
かなり無理をしていたらしい兄の姿に、綺紗が苦笑する。



「とにかく、今は戻ろう。この要塞も崩れるかもしれない」



ユリアスが足元の亀裂に目をやりながら言う。
今まで誰も敢えて口にはしなかったが、ずっと気になっていたこと。



「魔獣の軍も退いてる頃だよ。シルヴィア姫のことも含めて、リリス姫ならきっと、全て分かっているはず」

286ピーチ:2013/07/11(木) 03:35:23 HOST:em114-51-3-85.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

大切な人のために力使い切って結局気絶するってかっこいいよね! ていうかかっこいい人しかできないよね!

ミレーユちゃんお帰り! 大丈夫だよきっとシルヴィア姫なら大丈夫だよ!

ねーここにゃーん……空牙くんとミレーユちゃんの台詞に泣きかけてるんですけどー…←

287心愛:2013/07/12(金) 22:22:54 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとう色々とありがとう!

空牙とミレーユの会話は割と大事なとこのつもりだったのでそう言ってもらえると嬉しいw
お帰りミレーユ!


↓のシィ&アレク回は分割してるから、分かりにくいとこあってもちょっと我慢してくださいな(=_=;)

288心愛:2013/07/12(金) 22:23:55 HOST:proxyag044.docomo.ne.jp






―――ごめん、



―――ごめんね、シィ。




微睡みの淵で、そんな声が聞こえた。
子供をあやすように優しく、何度も、何度も。



……何故君が謝る。



なんだか釈然としない。

彼女は曖昧なものが嫌いだから、きちんと尋ねる為に口に出そうと―――



「!」



―――したところで、シルヴィアは寝床から跳ね起きた。
眩しい光に思わず目を瞑り、もう一度時間をかけて開ける。するとすぐに、黒髪の従者が視界に入った。



「気がついた?」



捕らえどころのない妖艶な笑みを向けてくるアレックス。
その背で漆黒の翼が揺れる。



「ぼくは、一体……」



ぐるりと周囲を見回す。
昔から使っている気に入りのベッド。豪華絢爛な薔薇模様のカーテン、絨毯。そして、アレックスの姿。
そのどれもが、嫌という程見慣れた光景だ。

が、おかしい。自分は確か、空牙たちと共に要塞にいて……戦って、不本意ながらもサミュエルに倒された、はずで。

訝しみながら記憶を探るうちにひとつのことに気がついて、掴みかからんばかりの迫力でアレックスに尋ねる。



「ミレーユは!? ミレーユはどうなったんだ!?」



「無事だよ」



アレックスはシルヴィアを落ち着けると、実際に体験してきたかのように事の顛末を話す。
シルヴィアもそれには驚かず大人しく聞き入り、話が終わると「……良かった」と小さな呟きを漏らした。

しばらく黙ってシーツを見つめた後、ぽつりと言う。



「………ぼくは、負けたのか」



シルヴィアが授かり、アレックスによって威力を増大させた異能《赫き煉獄の宴(ローゼン・クランツ)》は絶対的な“強さ”を約束するもの。
ならば、このような結果になったのは自身の異能を使いこなせなかったシルヴィアの責任だ。


思い詰めた顔で俯くシルヴィアに、アレックスが微笑んで。



「そう言って良いのかどうか。小細工なしの真剣勝負なら、シィは文句なしに最強だよ? あの魔女は特別としても」



ひょい、と肩を竦め、



「第一、あの男にトドメを刺さなかったのはシィでしょう?」



変なところで甘いんだから、と言われれば黙るしかない。
シルヴィアはむっとして、拗ねたように唇を引き結んだ。



「まぁ、気にすることはないんじゃない? シィが相手を消耗させたからこそ、『彼』の切り札も生きたんだし」



「……次の質問だ。ぼくは何故、無傷で此処にいる?」



実を言えば、一番最初に浮かんだ疑問がそれだった。
シルヴィアの身体に怪我は一切なく、全く痛みを感じない。怖いくらいに不自然だ。



「俺が運んだんだよ。気取られないようにこれを使って」



己の双翼を指差すアレックス。あいにくその意味はシルヴィアには分からなかったが、彼をじっと見ているうちにある違和感に気づいた。



「君……魔力の波長が弱くないか」



「あー、うん。脱出したは良かったけど、魔獣にやられてね。シィを庇いながらだから力も上手く使えなくて、流石に大変だったよ」



「怪我は!」



前のめりになるシルヴィアに、アレックスが苦笑。



「全然大丈夫だって。俺より、自分の心配をした方が良いんじゃない?」



「……ぼくには嘘をつくな、アレク。絶対にだ」



厳しい声で言い放ったシルヴィアが、服の上からアレックスの腕を掴む。途端、白磁の美貌が痛々しく歪んだ。



「……っこの馬鹿!」



シルヴィアはすぐに手を離し、目の前の眷属を怒鳴りつける。



「自分の魔力を、ぼくの治療に使っただろう!?」



「……」



無言が肯定の証だ。
この悪魔が自分の怪我を回復できなくなる程に、シルヴィアの治療には魔力を必要としたらしい。

相変わらず大事なことを言わない、と心の中で毒づき、シルヴィアはベッド脇にある呼び鈴の紐に手をかけた。



「ユリアスを呼ばせる。異論はないな?」



―――話はそれからだ。


怒りの表情のシルヴィアに、アレックスがすかさず茶々を入れる。



「ユリアス様はお疲れの上に、結界譲渡の時間でそれどころじゃないと思うけど?」



「君が平然と言うな! ならミュシアの王族を片っ端から当たるまでだ!」

289ピーチ:2013/07/13(土) 09:57:00 HOST:em114-51-137-187.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

アレックス優しいよね! シルヴィア様も!

え、ちょっと待って悪魔って不死だよね? 魔力使い過ぎてもすぐ直るよね……?

シルヴィア様怖いよー! 闘ってないのに怖いよー!?←

290名無しさん:2013/07/13(土) 10:57:12 HOST:zaq31fa5a1a.zaq.ne.jp
       【ピーチの顔面を殴りつけるスレ】

しまいに顔面、潰すぞアホピーチ

291心愛:2013/07/15(月) 18:12:14 HOST:proxyag103.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、ちょっと自分の魔力使いすぎて身体に負担かかって、一時的に新しく作れないようになってるだけですぐ治るよ!


シルヴィアも、一応アレックスも優しいといえば優しいんだけど……?↓

292心愛:2013/07/15(月) 18:13:21 HOST:proxyag104.docomo.ne.jp






「……そろそろ、本当のことを吐いたらどうだ」



「うん?」



「とぼけるな。まだ、ぼくに隠していることがあるだろう」



アレックスに半ば無理矢理回復魔法を受けさせた後、シルヴィアは再び、呑気に部屋をぶらつこうとする彼を問い詰めた。
それでも、アレックスの飄々とした態度は変わらない。
シルヴィアは嘆息し、そして、この不利な局面を打破する一言を告げる。




「『ごめん』とは何だ」




初めて、アレックスの紅い双眸がちらりとシルヴィアを見た。



「……どういうこと?」



「君が言ったんだろう。ぼくが覚えているのに、君が覚えていないとは言わせない」



立場は対等とはいえ眷属に遠慮など、シルヴィアにはする気はない。
顔を上げ、相手を屹然と見据える。

ひとまずこれで相手の興味を引いた。
なら、自分の話に持ち込むのみ。



「君がぼくを、自分を犠牲にしてまでこの状態にしてくれたことは分かった。……だが、」



一瞬だけ、躊躇う。
けれどシルヴィアは決意を固め、最後まで言い切った。




「ぼくは死んだ。……死んだ、はずなんだ」




空牙とユリアスを守って全身を針に貫かれ、深い亀裂に落ちた。
いくら回復力に長けた力ある魔族といえども、此処まで徹底的に痛めつけられれば死から免れることはまず不可能。
致命傷に夥しい量の出血、さらには猛烈な勢いで地底に叩きつけられたのだ。あまりの痛みに意識が攫われる直前、シルヴィアが感じたのは紛れもなく、死という名の恐怖だった。



「いくら悪魔の力でも、容易に死者を甦らせることはできないはずだ」



今この瞬間も、鼓動を刻み続ける心臓を胸の上から押さえる。


アレックスが誤魔化そうとしているのは、多分このこと。
シルヴィアはさらに言い逃れできないよう付け加える。



「そして全快したはずなのに、君からは今までのような魔力を感じない。……答えろ。ぼくをどうやって甦らせた?」



……嫌な予感がするのだ。


シルヴィアの至極真剣な様子に、茶化すのをやめて微苦笑を漏らすアレックス。


いつまでも隠し通せるわけじゃないしね、と小さく笑った。



「その通り」



一言も聞き漏らすまいと神経を尖らせるシルヴィアの様子を見て、アレックスはまた、ふふっと笑みを零す。




「俺はシィを生き返らせた。ちょっとだけ、特殊な手段を使って」




「……はぐらかすな。率直に言え」



「酷いなぁ。最初から、ちゃんと言うつもりだよ?」



本人曰く“規格外”の悪魔であるアレックスは自身の異能の他に、他者の回復を含む一通りの術を扱うことができる。
だが、神の領域に手を出すにも等しい蘇生術となれば話は別。もっと複雑なものが絡んでくる。


天と地をひっくり返す。不可能を可能にしてしまう。
そんな常識破りの方法が、あるとするならば。


やはりと言うべきか、アレックスはこう告げた。





「―――魔力を使って、俺は、俺自身と契約したの。本来ならかなり無茶なことだけど、何と言ってもこの俺だし、」





「代償は!?」



彼を遮り、シルヴィアが叫ぶ。


―――相応の代償を支払った上での、悪魔との取引。


運命に逆らい、一度死んだ者に命を与えるのは、この世界全体の倫理、掟に反すること。禁忌と言い換えても良い。
その罪に釣り合うだけの価値のあるものを、差し出さなくてはならないはずで。



そして無慈悲にもシルヴィアの耳が捕らえたのは、彼女が想像していた中で最も悪い、残酷な返答だった。




「……俺の、命」




脳が理解するのを拒否するように、いや、理解しているのに受け入れることを心が拒む。
蒼白になるシルヴィアに対して、アレックスはいつも通り余裕綽々といった様子だ。




「うーん、そう言うと誤解があるかな。永遠の命……つまり、不死って言った方が分かりやすいか」




「……それ、は」




「俺も死ぬようになった、ってこと」




にこやかに言ってのけるアレックスに、絶望と怒りに染まるシルヴィアの理性が切れた。

293ピーチ:2013/07/15(月) 18:15:50 HOST:em49-252-59-192.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

だよね大丈夫だよね!

優しいよね! たまに方向性が代わることがあるだけだよね!←

294たっくん:2013/07/16(火) 00:31:50 HOST:zaq31fa5a6f.zaq.ne.jp
アホのピーチは今日もゆく

295たっくん:2013/07/16(火) 00:32:03 HOST:zaq31fa5a6f.zaq.ne.jp
アホのピーチは今日もゆく

296心愛:2013/07/18(木) 19:30:01 HOST:proxy10008.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うん、本当に方向性おかしいけどね!

最後の最後にさらっとアレクが主役攫ってた気がするけど気のせいだ気のせいw

297心愛:2013/07/18(木) 19:30:39 HOST:proxy10008.docomo.ne.jp







「……ふざけるなっ!」




彼の服を掴み、声の限り怒鳴りつける。
が、無意識のうちにその声音が震えた。



「君という奴は……! どうして、そんな……っ」



「別に不自然な代償ではないよ。シィがあのとき家族を生き返らせてたら、そのまま地獄に連れて行くつもりだったし。女の子一人の命なんて、いくつ要求しても足りないからね」



「そういう問題じゃない!」



悲鳴じみた叫びを上げるシルヴィアの瞳には、小さな雫が溜まり始めていた。
目の前で惨劇を見せつけられても涙一つ落とさなかった鋼の心が、今、確かに揺らいでいた。



「そんな顔しないで、シィ。これは俺が望んだことなんだから」



彼女の滑らかな頬に指を滑らせ、アレックスが淡く微笑む。



「俺は、永劫に続く苦しみから解放されたんだよ」



「、…………?」



困惑して見上げてくるシルヴィアに、そっと語り聞かせるように。
いつも本心を見せようとしない彼が、胸の内をさらけ出す。



「愛する者が死んでいくのを、何度も見てきた」



愛。
この男と無縁なように思われる単語が口から出たという事実にシルヴィアが一瞬固まると、「そこ、驚くところじゃないんだけど?」とアレックスが笑った。



「地獄で意地汚い罪人ばかり見てると、たまに気分が荒むんだよね。昔から良く、気分転換を兼ねて魔族や人間を眺めていたよ」



血のように紅い双眸が、懐かしげに細められる。



「……でも俺が恋した女の子は皆、他の男と添い遂げて、すぐに老いて。俺のことを知らないまま、儚く消えていくんだ」



それが悔しくて、つらくて……少しだけ、羨ましかったんだよね。


少し照れたように、唇の端を上げる。



「数千、数万、数億。面倒だから一々数えてもいないけど、気が狂いそうになるような年月を、俺はそうして生きてきた」



不死とは、孤独。
何度地獄の業火に灼かれても、その身を滅することはない―――裏を返せば、どんなに望んでも死ぬことができないということ。
大抵のものが手に入っても、本当に大切なものは、その両の手から滑り落ちていく。



「悪魔は愉悦を感じることはあっても、嬉しさ、喜びを持つことは滅多にない。幸せというものから遠ざけられた種族なんだよ」



シルヴィアの瞳に溜まりかけていた雫は、いつの間にか綺麗になくなっていた。
耳を澄ませ、一言一句を聞き逃さないように声を拾う。

298心愛:2013/07/18(木) 19:31:24 HOST:proxyag049.docomo.ne.jp






「そして、何度も何度も自分の運命に絶望することを繰り返して―――やがて俺は、俺を呼び出した小さなお姫様の、気高く美しい魂に魅せられた」





“ぼくはシルヴィア。天より紅薔薇の紋章を戴く、誇り高きファローズ王家の末裔―――シルヴィア=ファローズ”





「……もう沢山だ。俺は自分の意志で、シィの命と引き換えに、俺の不死の身体を捨てることを選んだんだよ」





“―――仰せのままに、俺の姫君”





あのときと同じ、何処か含みのある微笑で、アレックスが告げる。





「これで、本当の意味で君の隣で生きられる」





―――“悪魔の命は永遠。その全てを、貴女の為に捧げよう”





「……そう、だったのか」



元から端正な顔立ちの男だ。
優しげな眼差しで微笑まれれば、胸の奥で変に気恥ずかしいような、いたたまれないような、じんわりとしたくすぐったいものが生まれる。



シルヴィアの為とはいえ勝手に命を捨てるような真似をしたのは許し難いが、それも当の本人が強く望んだ結果なら仕方ない、のかもしれない。


照れるべきか怒るべきか、それとも悲しむべきなのか、シルヴィアは真剣に迷った。


が、それを決める前にこれだけは確かめておこうと口を開く。



「……アレク」



「うん? 何、感動しちゃった?」



アレックスの混ぜっ返すような発言は無視することにする。
一旦思考を切り替え、シルヴィアは彼に疑いの目を向けて。



「ぼくの杞憂だと良いんだが……この話、偶然にしては出来すぎていないか?」



黙ったままにこりとする悪魔の笑み。

シルヴィアは自分の考えが正しかったことを確信した。


アレックスは今回の事件の流れのことをあらかじめ全部分かっていて、サミュエルの動きもリリスの決断も、全て最初から知っていて。
それでも敢えて手を出さず、自分の“利益”の為に事態を傍観していたのだ。

事前にシルヴィアに知らせていたなら、このような大事に発展する前に回避できたにもかかわらず。



「だから、ごめん、って言ったでしょう? 自分の欲の為に、シィに痛い思いさせたんだから」



……確かに負傷の点で見れば、今回の一番の被害者はシルヴィアだ。

シルヴィアはわなわなと震えた。



「優秀な指揮官のお陰で奇跡の犠牲者ゼロ。シィも復讐の機会を得られたし、あいつはこれで、地獄行きが決定されたし。何より、これが一番面白くて、最も盛り上がる展開だろう?」



「こ、の悪魔……っ! ミレーユたちに土下座して詫びてこい!」



やはり怒るべきだ。

シルヴィアはようやく決断すると、迷わず傍にあった枕を悪びれない眷属に叩きつけた。

299ピーチ:2013/07/19(金) 03:14:28 HOST:em114-51-161-122.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

この際方向性は気にしない!←

気のせいだよ主役はちゃんと居るから!((

300心愛:2013/07/20(土) 21:33:06 HOST:proxyag054.docomo.ne.jp





とん、と窓枠を踏む小さな物音が、客人の訪れを知らせる。
月影の下、夜風に煽られ輝くストロベリーブロンド。



「おや。いと畏きエルゼリアの姫君が、こんな時間に何の御用ですか? 女性から夜這いとは大胆ですね」



「それ以上頭の悪いことを仰ると殴りますわよ」



冷ややかなワインレッドの視線をくれるリリスを見て、アレックスは軽やかに笑った。

自身の城を抜け、ファローズ王宮までお忍びで来たらしい。
あのときとほぼ真逆の状況だ。


リリスは我が物顔で当然のように部屋へ上がり込み、アレックスと向き合った。
面白いことを好むアレックスは疑問を呈することなく、流れに身を任せることにする。



「……お怪我は治ったようですわね」



小さく呟いたきり、ふっと黙り込む。
こちらを見透かすような静かな眼差しにも臆することなく、アレックスは笑みを返した。



「夜遅くに申し訳ありませんわね。貴方に、是非とも言っておきたいことがありまして」



「俺に、ですか?」



彼女の心を読み取ることはできなくはないけれど、敢えてスリルを楽しむ為にアレックスは自然体のままでいることにする。



―――さあ、どう来る。



リリスは唇で弧を描いた。
挑むような目つき、表情。
そして甘い毒を含んだ、嫌みたっぷりの猫なで声を発する。





「―――良かったですわね、長年の片想いが叶って。それで、今のは何人目の“シルヴィア様”なのです?」





動揺は一瞬。
高速で巡る思考を経て、そしてだんだんと、胸の奥から歓喜のようなものがせり上がってきた。

……面白い。

しかし決して顔には出さない。にこやかな笑顔を保ちながら、黙って続きを促す。



「お怒り心頭のシルヴィア様から、色々とお聞きしましたの」



―――何が『俺が望んだこと』ですか、白々しい。

腕を組むリリスはアレックスを糾弾するかのようだった。



「へぇ……驚きましたね。話を聞いただけで、そこまで?」



「正確には違いますわね。お話だけではありませんから」



小首を傾げ、愛らしくにっこりとする。




「わたくしに貴方の心は読めなくても、貴方に関するシルヴィア様の記憶を視させて戴くことは容易ですわ。お陰で全部繋がりました」




全部、とは。
最初の発言から鑑みるに、この騒動の件だけでなくシルヴィアと出逢った時点の過去にまで遡って、彼女の記憶を“視た”ということ。


逆に言えば、それ以前のアレックスについては分かるはずがないのだから、後は完全に彼女の推理だと言って良い。



「覗き見ですか?」



「ミレーユのようなことを仰いますのね。無論、本人の許可のもとです」



くすくす笑うリリス。



「ご安心を。シルヴィア様には適当に誤魔化しておきましたから、貴方の重すぎる愛情については言っていません」



「………」



「『愛する者が死んでいくのを、何度も見てきた』―――何度生まれ変わってもたった一人の存在を愛し続けるなんて素敵ですけれど、思いに任せて事に及ばなくて正解でしたわね。ファローズの王位継承者が、危うく地獄に連れ去られるところだったのですから」



「……この数億年余りの間に、俺はすっかり、綺麗で純粋すぎるシィの魂に惚れ込んでしまいましたからね。色々と限界だったんですよ」



アレックスをやり込められることが嬉しくてたまらないらしい。
仕返しですわ、とウインクを決めてみせる。


アレックスは降参の意を示して肩を竦めた。



「まさか、魔族の身で転生のことまで知っているとは」



「わたくしの知識量を甘く見ないで下さる? どんな時でも、努力は怠らない主義ですの」



常にその気概を以て、冥界を纏め上げているのだろう。
改めて、好い君主だ、と思う。



「……とは言っても、肝心のシルヴィア様はお気づきになっていないようですがね。最低限の条件は揃いましたけれど、あのシルヴィア様が相手では報われるかどうか」



「はは。姫君こそ、不毛な片恋は諦めてしかるべき相手を見繕うお年では? ……ああ、そういえばユリアス様も適齢期でいらっしゃいますね」



「余計なお世話ですわよ性悪男」



月下、若き女王と悪魔は笑顔で毒の応酬を交わしていた。

301ピーチ:2013/07/20(土) 23:10:32 HOST:em114-51-159-112.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

怖いよリリス姫ぇー!? いや殴っちゃ駄目だって可哀そうだよ!

毒の応酬って、しかも笑顔でって!

……何だかふたりとも怖いと思うのはあたしだけですかね?←

302心愛:2013/07/21(日) 09:32:32 HOST:proxyag024.docomo.ne.jp
>>ピーチ





二人とも頭脳派だから衝突しちゃうんだよw
お互い賢いから、口だけで大事にはしないけどね!


複雑な上にここあの書き方に問題があるからごちゃごちゃしてるんだけど…
アレクの事情、わ、分かった…か、な?



太古の昔、アレクがシィに惚れる
→シィが転生を繰り返す(人間だったり魔族だったりするシィが死んでいくのを、そのたびに歯がゆく思いながら見てた)
→ファローズの姫として生まれ変わったシィがアレクを召喚して契約成立(初対面みたいに振る舞ってたけど、シィが家族甦らせようとしたら代償と称して攫ってやろうと思ってた)
→サミュエルにやられてシィが一回死んだけど、アレクが不死を捨てて生き返らせる(狙ってた)
→これで先立たれずに、シィと一緒に生きられるよ良かったね



っていうw
まあとりあえずアレクはずっと昔からシィが好きで、傍にいる為なら周りもシィ本人も利用して、自分の命だって犠牲にしちゃうよ、って奴だったってことで!

アレクの誤魔化しと本人の鈍さの所為でシィは微塵も気づいてないけどな!

303たっくん:2013/07/21(日) 10:56:21 HOST:zaq31fa59cb.zaq.ne.jp
昨日まこちゃんとお話してました。
ちなみに、まこちゃんというのは私の愛人(彼女)の名です。
御紹介が遅れて申し訳御座いませんピーチさん

304たっくん:2013/07/21(日) 10:57:05 HOST:zaq31fa59cb.zaq.ne.jp
当スレは私の知り合いを
ピーチさんに紹介するスレで御座います。

305ピーチ:2013/07/21(日) 18:38:10 HOST:em49-252-192-63.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

その衝突で火花が散ったように思えたんですが!?

アレックス一途すぎる! やっぱ不死ってそういう意味では羨ましい!

攫ってくつもりだったのかアレックス……←

306心愛:2013/07/21(日) 20:35:30 HOST:proxyag068.docomo.ne.jp
>>ピーチ

うーん、ここあはどんなにつらいことがあっても死ねないって嫌だなあとか思っちゃうんだよね。焼かれても埋められても死ねないとか…

アレクも好きな相手が死ぬのを見るのが耐えられなってこういうことになっちゃったし! 寿命あっても、大切な人と最期まで一緒にいられるのが一番幸せだと思うのよね!

…でも不老ならいいな←(ぇ


リリスも割と寛容な方だよ、アレクのせいでかなーり危ない橋渡ったのに、腹いせに弄るだけなんだからw



あと二回、全員でわいわいして完結になります! ここまで本当にありがとう!
……邪気眼少女……番外編込みで終わるか……?(絶望の顔)

307ピーチ:2013/07/22(月) 05:25:46 HOST:em1-114-73-120.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

焼かれてもまたすぐ再生するってことなんだよね…確かにそれは可哀そう

確かに! ……不老は羨ましいけど←

腹いせに弄るだけって寛容な方の部類に入るの!?

空牙くんミレーユちゃん始めとする皆様方ー! 寂しいよー!

308心愛:2013/07/23(火) 16:18:44 HOST:proxyag098.docomo.ne.jp
>>ピーチ

痛いのつらいのやだけど不老なら大歓迎w


ありがとう!
今までで、空牙もミレーユも一回り成長したんじゃないかなw


次で本当に最後になります、二人の結末を見届けてやってください(`・ω・´)

309心愛:2013/07/23(火) 16:23:36 HOST:proxyag098.docomo.ne.jp






「空牙! ミレーユ!」



エルゼリア王宮の門前。
満面の笑顔で駆け寄ってくるシルヴィアを、空牙たちは驚いて出迎えた。



「シィ! だ、大丈夫なのかよ、そんな走って」



「うん、もうすっかりいつも通りだよ!」



ほらほら、と軽快なステップでくるりと回ってみせる。

確かに『こちら』の人格がでているのだから、ある程度余裕がある状態なのだろう。
リリスから無事だと聞いていたけれど、改めて良かったと胸を撫で下ろす。



「……それでも、シィには一人で危ない目に遭わせた。ごめんな」



「ううんっ、ぜーんぜん大丈夫だよ! 空牙が謝ることなんかないって! ……むしろ、悪いのは全面的に……」



「シィ?」



「全くですわね」



一瞬だけリリスと共に、素知らぬ顔をしているアレックスにじとっとした目を向けたような気がしたが、シルヴィアはすぐに視線を戻すと愛らしい微笑みを美貌に浮かべた。



「ミレーユも無事で良かったね」



「……です」



ミレーユがぺこりと頭を下げる。
まだ苦手意識はあるらしいが、これでもミレーユなりの努力の現れだろう。
シルヴィアの意識が他に逸れた途端、空牙の背後にささっと隠れた。



「有難う。こうしてまたミレーユが戻って来れたのも、シィのお陰だ」



「戦ったのはぼくだけじゃないけどね。ほんのちょっとでも役に立てたなら良かったよ……あれ、綺紗は?」



「綺紗ならさっき挨拶しに来て帰った。色々ミレーユの世話焼いてったんだけど……すれ違いだったみたいだな」



「そっか、それは残念」



そのとき、ぱたぱたと忙しない足音が聞こえ、空牙たちがそちらを見る。
此処まで走ってきたのか、肩を上下させているユリアスだ。



「ま、間に合った……!」



「ユリアス様」



一息つくと、にっこり笑う。



「良かった。まだ出発してなかったんだね」



「わざわざ来てくれたのか」



申し訳ないような嬉しいような、と空牙もつられて苦笑した。



「これは、ユリアス様。結界の方はもうよろしいのですか?」



「あ、アレックスくんっ?」



アレックスに声を掛けられるなり、ユリアスはぱっと嬉しそうに表情を輝かせた。



「うん、さっき兄と交代してきたから」



「それは御苦労様です」



尊敬、いや、憧れのようなものを滲ませ、キラキラした眼差しでアレックスを見上げるユリアス。



「アレックスくんこそ、やっぱりシルヴィア姫を助けてくれたんだよね! 凄いよ!」



「いえ。大したことではありませんよ」



ぽかんとする空牙に、リリスが呆れたように声を潜めて。



「……何故か、ユリアス様はアレのことを酷く気に入っていらっしゃるのです。穢れなき心の持ち主は、真逆のものを魅力的に感じるのでしょうか」



「魔族と悪魔と言うより、天使と悪魔だな。……悪い影響を受けなければ良いが」



がらりと口調を変えて、シルヴィア。

確かに清らかな金髪の貴公子には、ダークエルフよりも天界の住人の肩書きの方がしっくりくるような気がする。
対して優しげな、また見ようによっては裏のありそうな微笑を湛えるアレックスは翼の色も相俟ってなんとも悪魔らしい。
……それにしても酷い言われようだが。


と、空牙は不意にある疑問に思い当たって首を捻った。



「……あれ? そういえば、アレックスさんがいれば大丈夫、みたいなことユリアスが言ってたけど、本当に何かして」



「深く突っ込まない方が身の為ですわよ?」



「は、はあ」



リリスの笑顔とシルヴィアの無言の圧力に押され、空牙は素直に黙った。




「―――……それより、空牙」




リリスのその一言で、全員の顔が空牙へ向けられる。



「本当に、行くのですね?」



「はい。……俺たちはこれからも、旅を続けようと思います」



ぴくりと身動ぎしたミレーユに『大丈夫だ』と伝え、空牙は背筋を伸ばした。

310心愛:2013/07/23(火) 16:25:56 HOST:proxy10003.docomo.ne.jp







「覚醒したとはいえ異能もないようなものだし、コントロールも利かない。ミレーユのことだって、色々不安はあります」



そして、飾らない笑顔を見せる。




「―――でも、やれるだけやってみようと思うんです。こいつと二人で戦って、助け合って生きていくのが、俺にとっては一番大切なことだから」




戦闘特化型の機械人形(マシンドール)、それが今のミレーユにとっての存在意義。
欠陥はあれどそれを含めて受け入れてくれると言う空牙の言葉に、照れたミレーユはもじもじと爪先を動かした。



「うん。空牙くんにとってもミレーユさんにとっても、それが一番良いと思う」



「ぼくたちも、もしまた何かあったら喜んで助けるよ。いつでも頼ってくれていいからね」



「……有難う、二人とも」



じーんと感じ入る空牙。
リリスが微笑んで、皆の意を纏めるように口を開く。



「安心なさい、空牙。貴方は才能より、もっと大事なものを持っているのですから」



不思議そうに瞬いた空牙に、リリスはふふっと小さく笑う。




「お人好しであること。貴方ほど、打算抜きで機械人形の―――ひとの為に親身に、真剣に、身を投げ出せる者をわたくしは知らない」



空牙たちを囲む全員が、優しく微笑んでいる。
二人にとって、新たな意味を持つ旅立ちを祝福するかのように。



「その気持ちは誇るべきもの。いつかきっと、かけがえのない財産となります」



リリスはそこで空牙へと一歩近づき、ミレーユと視線を合わせると。



「貴方たちなら、大丈夫。……本当に、良いパートナーを持ちましたわね、ミレーユ」



「……ふん。言われるまでもないです」



ミレーユは頬を染め、ふいとそっぽを向きつつも。



「どうも、この件では世話になりましたですね端た女。礼を言ってやるです」




「有難く受け取っておきますわ。あと、あまり空牙を振り回さないようにね」



リリスの対応も慣れたものだ。
最後ににっこりとすると、二人からすっと離れる。



「それでは。いつでも帰っていらっしゃい、わたくしは此処で待っていますからね」




「が、頑張ってね!」



「お気をつけて」



「またねー! 次会ったら、今度こそぼくと力比べしよっ!」



「の、望むとこ―――」



「それは勘弁して!」



彼らに見送られ、手を振ると空牙とミレーユは前へと進み出した。



「色々大変だったけど、あのひとたちと逢えて良かったよな」



「……ですね」



そしてしばらく歩いた後、ミレーユが何度も話しかけようとして口を開いたり閉じたりを繰り返した末に、やっとのことで小声で尋ねた。



「あの、それで……一緒に生きる、ってことは、空牙は、み、ミレーユを、大切に思ってる……ん、ですよね?」



「ああ。勿論、凄く大切だ」



「そ、それは、どういう意味で……」



緊張に所々突っかかりながらもなんとか言い終え、僅かな期待を込めて隣の少年を見る。



「うん? どういうって、大切な相棒だからに決まってるだろ?」



「………そうですか………」



やっぱりです、と肩を落とすミレーユ。
きょとんとしていた空牙は、可笑しそうに笑うと沈み込む彼女の背中をぽんぽんと叩いた。




「良く分かんないけどさ……そんな暗くなんなよ、ミレーユ。可愛い顔が台無しだぜ?」




「だ、誰がかわ………………え?」



不意打ちの一撃に、ミレーユの肌がぶわわっと赤らむ。

相棒の明らかな異変には気づかず、それに、と空牙は首を傾げて。




「ミレーユが笑ってた方が、俺も嬉しいような気がするんだよな。……何でだろ」




「………こ、この天然! ドニブ! 無自覚たらし! ふざけんなです!」




「何で蹴るのっ!? 妙なエラーでも起こしたか!?」




「虫ケラ! タコスケ! 腐れ犬! 空牙なんか、空牙なんかっ、とっとと行き倒れて鳥に啄まれて菌や虫に分解されて土に還りやがれですーっ!」




「え、今度は魔法っ!? 三途の川にプチ旅行は遠慮させてくれ!」




―――人形遣いと機械人形の賑やかな、いや、やや賑やかすぎる叫び声が、今日も遥かな空へと響き渡る。

311心愛:2013/07/23(火) 17:02:56 HOST:proxyag042.docomo.ne.jp


*あとがき的な何か



一日二桁時間勉強って…つらいよね…(´・ω・`)
えー、それはともかく。ソラの波紋、ようやく完結致しました! いやー長かったね! 短めに抑えるとか言ってたのどこのバカだろうね! ここあだけど!


そんなこんなであんまり時間も余裕もないんで、ちょっとだけ喋って終わろうと思います。


で、ソラの波紋は人形遣いと人形の魔法バトル書きたいなーと思ったここあが、中二心と遊び心のままに書きなぐったお話でございます。ぶっちゃけ最後のバトル書きたかっただけですえへ。

あと異能とかのルビは全部超にわか知識のドイツ語を無理矢理当てはめた。

フォル・モーント(リリス)…満月
シュテルン(ユリアス)…星
トレーネ(ユリアス)…涙
ローゼン・クランツ(シルヴィア)…薔薇の十字架。まんまだな!
フリューゲル・ヴェルト(アレックス)…翼の世界
レーツェル(綺紗)…謎
シュピーゲル・シュロス(サミュエル)…鏡の城

って感じです。すごいテキトーなんで使っちゃダメ絶対。
空牙とミレーユの異能&魔法は、異端アピールってことであえてカタカナつけてないんですよー。


邪気眼少女と微妙にリンクさせるため、あと設定だけ作って放置してた話からシィとアレク、リリスとユリアスを引っ張り出すために書いたいわばおまけ的な話だったんですけど、こうして終わってみるとやっぱり愛着はわいてしまうもので。これで空牙たちとお別れなのか…と思うとちょっと寂しいです(つд`)

でも、紫の歌のときも思ったけど、放っておいてもみんな、何だかんだでうまくやっていくんじゃないかな。
空牙とミレーユも、シィとアレクも恋愛的には全く進展してないんだけどそれなりにわいわい楽しくやってそうだし。
空牙たちは相棒カップル(?)のジルとユーリエみたいになればいいと思うよ!
空牙とられちゃったリリスがユリアスに励まされて微妙にいい感じになったり、それをアレクにからかわれてリリスがぷっつんしたり。
ふらっと立ち寄る空牙とミレーユを、綺紗がリリスと一緒にお城で待ち伏せしたり…うわあん短編できそうな勢いだよー!(>_<。)
でも書かない! 妄想だけ!


だってまだ邪気眼少女が残ってるんです。ええ。どうしようね。終わる気がしないよね。
忙しい身の上なんで、夏で小説終わりにする! と宣言しているここあですが、どうしてもだったら美空と昴の話はカットするか…と泣く泣く考えております。
でも、いくら短く圧縮してもやりたいな。これだけ引っ張ったし…


とか何とかつぶやいていても仕方ないのでそろそろ。


紫の歌に引き続きコラボもやってもらって、ソラの波紋は本当に幸せな作品でした! ピーチありがとう! 愛してる!(ぇ
話としては終わってしまいましたが、まだまだ空牙たちの旅は続きます。
本当に今までありがとうございました!

ではまた、邪気眼少女でお会いしましょう!

312ピーチ:2013/07/24(水) 07:14:56 HOST:em114-51-134-142.pool.e-mobile.ne.jp
ここにゃん>>

終わっちゃったよ……とうとう終わっちゃったよー……←

読者としては長い方が嬉しいんだよ! 終わっちゃったのは寂しいな…

紫の歌に引き続きコラボやらせてもらったあたしの方が幸せだよ! あたしだって愛してるもん!

空牙くんもシルヴィア様も早く気持ちに気付いてあげればいいのにね! アレックスはポーカーフェイスだからだけど!

邪気眼少女も待ってます!

313心愛:2013/07/25(木) 16:27:33 HOST:proxy10015.docomo.ne.jp
>>ピーチ

ありがとううう…!

そう言ってもらえると、本当に今まで書いてきて良かったなって思うよ…!
ここあは幸せだー!

アレクはポーカーフェイスなぶん損しそうですが頑張ってもらおうw



邪気眼少女は、ここに来て大忙しで伏線回収しまくります! 新しい人出てくるし!
あともうちょい(だと思いたい)お付き合いくださいませ(`・ω・´)

314たっくん:2013/07/25(木) 18:49:23 HOST:zaq31fa59cb.zaq.ne.jp
↑貴方も頭悪いです。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板