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鈴扇霊

21ピーチ:2012/07/23(月) 21:36:18 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第六話・長期欠席』

授業が全て終わり、天音が教室を出ようとした直後。梓が大声で天音のその足を留めた。
「あっまねー!!」
「…どうなさいましたか?」
冗談半分で、天音は自分を呼んだ友人に目を向ける。その友人、梓に至っては。
「いや、部活入ってないよね?だったら一緒に帰ろー」
と、何の悪気もない笑顔を向けてくるわけだから、天音も天音で怒ることもできない。
「別にいいけど…私、今から校長室に寄っていくから遅くなるわよ?」
「うん、待ってるからいいよ」
そう言って、既に歩き出している天音に合わせて梓も歩き出す。校長室は、二年生の教室から一番遠い場所に位置する。従って、あまり足を運ぶ者はいないのだ。
「にしてもさー…物好きだよね、天音も。わざわざ校長室に寄っていくなんて。しかも、放課後に」
「ん…ちょっと言っておかないといけないことがあるから」
「へぇ…」
二人でそんな話をしていると、遠い場所でも近く感じる。その証拠に、話している内に校長室に着いた。
「校長先生、いらっしゃいますか?」
天音のその声で、彼女が覗き込んだ“校長室”と書かれた部屋から声が返ってくる。天音の通う学校の校長、西崎 雄途(にしざき ゆうと)の声だ。
「ん?あぁ、神代さんか。どうした?」
「少し話が…と言うより、断っておかないといけないことが」
「そうか。葬儀でも行くのかな?」
「いえいえ、縁起でもない」
軽く受け流す天音に対し、西崎は全く態度を変えず、“本題は?”と言うように、しかし優しく問いかけた。
「―――で、何の用かな?」
「…来週から、しばらく学校を休ませていただきたいんですが…」
率直に言った言葉に、西崎は当然の如く固まっている。無理もない。彼は、今年この学校に来たばかりだからだ。
「前の校長先生になら、前もって事情をお話していたんですが―――」
そう。天音だけでなく、奥平と一緒に「裏界」のことを説明し、何か事情があれば休む―――そう約束していたのだ。その話を切り出した途端、
「あぁ。そのことか」
と、西崎が妙に納得したような表情になった。
「え?」
「いや、村野さんから話は聞いていたよ。君だったのか」
納得、と言わんばかりの表情に、天音のカオには、少なからず安心と不安の両方が存在した。
「…あの、そのこと口外してないですよね…?」
「あぁ、大丈夫。村野さんから“極秘”って聞いているからね」
彼が先程から連呼している村野とは、前学校長の名前である。
「…じゃあ」
「でも、そろそろ夏休みだろう?それが終わってからでも良いんじゃないかい?」
「いえ、上のものになるべく早急に、と言われたもので」
「そうか…分かった、来週から休むんだね?」
「はい、お願いします」
「分かった」
「あ、じゃあ失礼します」
そう言って、天音は天音は梓が待っている図書室へと足を運んだ。中に入って、ついでに自分も本を借りる。
「あ、遅かったねー」
いつもと変わらぬ、そののんびりとした口調で、天音を見つけた梓が言う。天音が本を借り終えてから、二人で学校を後にする。
「じゃあ、明日行くからねー」
バイバーイ、とのんびりした口調が、天音の背中に響き渡る。何度もそれを繰り返すのは、どういった心境からだろうか。

22ピーチ:2012/07/24(火) 22:03:51 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第七話・先客』

「…分かったから、うん。もう来た方が早いよ、うん…」
『分かったー、じゃあ今から行くねー』
その会話を最後に、天音はようやく受話器から手を離した。そう。今まで梓の電話の長話に付き合わされていたのだ。
「梓が来たら、なぁ…」
友達としては仲良く出来るが、好感も持てるが。あの話の長さは少し異様だ。彼女自身、そう思うことが何度かある。
そんなことを考えながら三十分ほど経った後、神社の方から足音が聞こえてきた。参拝客が来たのか、梓が来たのか。確率的には後者が高い。この『神代神社』は、参拝客の出入りがそこまで激しくない。要するに、参拝客が少ないのだ。極端ではないが。
「こんにちはー」
にっこりと笑みを湛えながら、神社の外から梓が顔を出す。
「あ、いらっしゃい」
天音の方は、予想していたのでそこまでの驚きはない。
「ごめんねー、いきなり押しかけて」
「いいのいいの。こっちも、泊まるなんて言われたら今日くらいしかないからさ」
そう言って、天音は冷蔵庫に入っていた冷たいお茶を差し出す。
「あ、どーも」
そう言って、梓はにこにことしながらお茶を受け取る。
「…言い忘れてたけど」
天音が、そう前置きしながら口を開いた。
「―――私、普段家に食材無いから」
「…はい?」
天音の言葉に、さすがの梓も表情を失い、必死で意味を理解しようとしている。
「…だから、何か食べたいものがある時は、自分で買ってね」
「…うん」
ようやく意味が理解できたのか、今度は恐ろしく冷たい笑みを浮かべ、勢い良く天音に詰め寄った。
「つーまーりー、天音ちゃんは普段、何も食べてないってことかなー?」
「え?あ、いや…食べてるよ?ちゃんと」
たまにだが、と、天音が頭の中で付け加える。そこに。
「―――失礼、ちょっといいかな?」
「え?」
声のした方を向いて、天音があっと声を洩らす。そう。昨日の電話の相手―――奥平がそこに居た。
「お、奥平さん…」
「準備は終わった?」
柔らかい物腰でそう尋ねる奥平に、天音は薄い苦笑を浮かべながら、
「…えぇ、大体は」
とだけ答えた。それに対し、奥平は
「あ、そうだ。柊一も一緒に行ってもらうから」
と付け足す。
「はぁ!?」
思わず、天音が声を荒げた。その反応を見て、奥平も驚いたのか、しきりに目を瞬(しばた)かせている。
「あ、いや…私一人で十分です」
そう言って、何が何でも柊一の名前を話に出さないように努めているが、彼はそれを見て、
「…喧嘩したな」
と、ぼそりと呟いた。
「…えぇ、私が一方的に怒ってるだけですけど」
「へぇ?何があったのか聞きたい所だけど―――」
そこまで言って、梓を見てから肩を竦めて言う。
「柊一に、直接聞いてみるよ」
「えぇ。どうぞ御勝手に」
しかし、天音のその言い方には耳も貸さず、柊一も一緒に行かせるから、とだけ言ってそのまま帰っていった。
…正しくは、自分に火の粉が飛ばない場所に移動したのだろう。
「…ね、ねぇ天音?」
「へ?」
呼ばれて振り返ってみれば、梓の瞳がキラキラと輝いている。そうだ。梓が居ることを、忘れていた。
「今の人、誰っ?知り合い?」
「…んー、どうなんだろ。知り合い、かな?」
「へぇ…」
なぜか、梓の瞳は依然輝いたままだ。その理由は、至って簡単であった。
「―――あの人、何かミステリアスな感じでかっこいいねぇ…」
「……」
そうだった。梓は、ミステリアスな雰囲気を持つ人間を見かけると、すぐさま飛びついていくのだ。男女問わずに。
このままだと話も長引きそうだったので、天音は一度、話題を逸らした。
「そ、そう言えばさ、梓って神社とかって好きだっけ?」
答えは、NOだった。…はず。
「ううん、あんまり好きじゃない…って言うか、はっきり言って苦手」
「やっぱり」
苦笑しながら、天音がじゃあ、と言いながら梓に尋ねた。
「寝る前、どうする?」
「…それ、考えてなかった」
家なら、一人で寝るらしい。が、ここはあくまでも神社。普通の神経をした人間ならまず夜に近寄ることはないだろう。多分。
「まぁ…いざとなったら睡眠薬あげるから」
と面白そうに笑いながら言う天音に、梓が
「それだけはご勘弁」
と訴えたお陰で、睡眠薬はなし。…普通のはずだが。
「…あ」
「え?」
「あ、いや。ごめん…ちょっと待ってて」
そう言って、天音はそのまま外に出て行った。
「あ、ちょ…天音?」

23ピーチ:2012/07/24(火) 22:25:12 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
※お知らせ

明日からしばらく更新できませーん

多分読んでる小説には一気にコメすると思いまーす。

24ピーチ:2012/07/25(水) 08:42:32 HOST:i125-204-92-164.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第八話・秘密』

「もー…何でこんなに広いのよ、この神社は…」
そうぼやきながらも、しばらく歩き続け、ようやく天音を探し出した。速攻で引き摺ってでも中に連れ戻そうとしたが、天音の声が、それを阻んだ。
「…迷えし魂よ。今還れ、己の行く道へ」
そう呟いた天音に続くかのように、彼女の手首に巻きつけられた鈴が鳴る。りん―――…と、涼しげに、軽やかに。
「…はぁ…」
ため息を吐いた天音が何気なく後ろを振り返ると、そこに梓が居た。驚いて、思わず全身がびくん、と痙攣する。その拍子に、手首に巻きついた鈴がりんと鳴る。
「あ…梓…?」
「今の…何?」
まるで、独り言だよね?と確認しているようにも聞こえるその声は、しかし嘘や偽りは通用しない。
それを悟った天音は静かに鈴を眺め―――そして重々しく口を開いた。
「…あのさ、このこと、誰にも言わないでくれる?」
「え?」
「今、梓が聞いたのは独り言なんかじゃない。それを教える代わりに、誰にも言わないでくれる?」
「…うん」
いつものように、にっこりと笑みを湛えた友人を見て、天音が自分の能力について話し出した。梓は途中、何度か声をあげることはあっても、それ以上のことは無かった。
「―――で、今この鈴を私が受け継いだ…ってこと。理解できた?」
別にできなくていいが。というより、できない方が助かるが、と思いながらも念のために確認したら、彼女は、「うん」とにこにこしながら答えた。
「じゃあ、さっきの人も?」
「うん、あの人は裏会を仕切ってる人」
「仕切ってる…」
「そ。だから何かと信頼の置ける人ではあるわよ」
「へぇ…」
「あ、それと」
「へ?」
「私、今夜ちょっと…」
「どこ行くの!?」
天音の一言に、梓が敏感に感応する。
「…いや、この敷地内にはいるから」
その言葉を聞いて、梓がほっと安堵の息を吐く。
「…それから、神社の中だから。ほんとにたまにだけど、参拝客も居るかもしれないから」
「…たまに?」
「そう。たまに」
神代神社にあまり参拝客が来ないのは、今に始まったことではない。彼女が幼い頃から、既に神社に来る人間は少なく、天音自身も、しれが当たり前だと自覚するようになっていたのだ。
「じゃあ、私ちょっと部屋行くから」
「え?部屋?」
「うん、ここは神社。家は隣。敷地内だけど」
つくづく分からない少女であると、梓の顔から思わず苦笑が洩れた。
「…来たかったら、来てもいいよ」
「ありがとう」
にっこりと笑みを湛えながら、しかし梓は速攻で天音にくっつく。
まぁ、仕方ないかと思いながら、天音はそのまま部屋へと足を向けた。

25ピーチ:2012/08/26(日) 11:40:08 HOST:i118-18-142-51.s11.a046.ap.plala.or.jp
鈴扇霊 〜初めての世界(いばしょ)〜




『プロローグ』




―――「のうりょくしゃ」だって、しられたくなかった。




しったら、みんなきっとおびえるから。




おれがわるいわけじゃないのに。




―――でも。




「はじめまして」




そういってくれた人がいた。




それが、はじまりだった―――。

26ピーチ:2012/08/26(日) 11:56:43 HOST:i118-18-142-51.s11.a046.ap.plala.or.jp
『第一話・出会い』

「だーかーらっ!ちかよるんじゃねぇって!!」
そうどなりながら、おれがうしろをふりかえる。そして、おれがタイショウにしてるザコれいをなぐりつけた。
まわりでは、クラスメイトやそのおやたちがきみわるそうにおれをみてる。
まぁ、とうぜんだろうな。こんなものがみえるやつ、いるわけが―――。
「あれ?どうしたの?」
……いきなり、うしろからこえをかけられた。そっちをみたら。
―――かたよりもすこしながいくらいの、まっくろなかみ。それとおんなじ、まっくろなひとみ。
かみはうしろで一つにくくってて。やさしそうなかおからは、ジャキなんてまるで見つからない。
そうおもって、おれがこたえずにむししてたら。
「…あ」
いきなり、そういっておれが見てたほうとおなじほうを見た。
「……きみ、あれが視えるの?」
しばらくぼうぜんとした後、そいつがいった。それをきかれて、おれのほうこそびっくりして、
「お、おまえこそ視えるのか!?」
と、おおごえできいた。まわりから、よけいにへんなシセンをおくられる。けど、そんなのきにしてるひまもない。
「うん。まぁ、いちおう」
にがわらいみたいなかおでつぶやいたそのかおは、どこかこまったような。
「でもさ、きみさっきなぐってなかった?あれを」
そいつのことばに、
「あぁ。うざかったから」
ってかんたんにかえした。するとそいつが、
「…へぇ…すごい、ねぇ…」
なんか、わらいをかみころしながら、そういわれた。
「…るせ」
おれがそのままかえろうとしたとき、そいつがいった。
「ねぇ、そういえばさ。なまえ、なんていうの?」
「へ?」
そういえば、たしかにおたがい、まだなまえもしらなかった。
そのかんがえにおもいいたって
「飛鳥井 昇」
なまえだけ。ほんとうになまえだけをいって、そいつにきく。
「で、おまえは?」
そいつの口からつむがれたなまえは。
「そういえば、まだいってなかったよね。はじめましてって。おれは天神 柊一」
―――それが、であいだった。


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