[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
メール
| |
堕天の歌-La canzone ai cieli-
1
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/04/04(月) 13:22:00 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
さて、ここでは二作品目となるでしょうか?
初めまして、霧月 蓮 と申します。今回もファンタジーです。ええ、ファンタジーしか書けないのです
タイトルのLa canzone ai cieliはイタリア語で空への歌……らしいです。ぶっちゃけ自信なし。
タイトルとは違って戦争形の話、かと思います。苦手な戦闘時の描写を練習しようかなぁと思ったので。
更新は非常に亀です。他のサイトでも掛け持ちしている小説もありますので。
出来るだけ更新して行こうと思いますのでよろしくお願いします。また、非常に誤字、脱字等がありますので見つけたら教えていただけると助かります。
他にも、できるだけ遠まわしに描写しますが、グロイ描写等が多々あるかと思います。もっとも文章力がないのであまり迫力はないと思いますが、そういうのが苦手な方はUターンした方がいいと思います。
また、アドバイス、要望等は随時受け付けています。すぐには反映できない可能性もありますがよろしくお願いします
では、つたない文章ではありますが……
―結末は、誰のために?―
2
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/04/04(月) 14:08:47 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
序章 始まりの歌
静かな歌声が辺りに響く。歌声の主は、ノエリア=クローチェ……この国で一番の美声を持つ、と有名な歌姫である。透き通った水色の髪に、神秘的な紫の瞳。背中には真っ白で美しい天使の翼。そんな彼女は薄いピンクのワンピースを着ている。ここ、天空都市エーテレに住む天空人の中でも有数の美しさを持った少女だ。誰にでも平等に接して、いつでも笑顔を振りまいている。いつだって前向きで、一部の者以外に涙を見せることは決してなかった。生まれはエーテレのはずれ、ディゼルターレ……見捨てられた地と呼ばれ、荒れはれた土地にある小さな集落である。
そんな歌声はいつも疲れきった人々を癒していた。争いの絶えない下界……人間や数多の動物のすむ場の人間達にとって、稀に聞こえてくる彼女の歌声がどれだけ心に響くものだったのか……。ノエリアはそんな人間達を見ては神に祈るのだった。神に近しいといわれる天空人が神に祈るのも少々可笑しいかもしれない、そう思いながらもノエリアは祈ることをやめなかった。実を言うと下界の戦いには天空人も協力をしている。それも人間側に。魔法使いや吸血鬼の人間ではないものに力を貸す、それが正しいとノエリアは思うが、人間は非力だ。そんなことをしてしまえば保たれてきたバランスが大きく崩れることになるだろう。
「ノエリア……ここにいたんだね」
寂しげな、少女のような声がノエリアの耳に届いた。気付けば目の前には肩位までの長さの明るい橙色の髪に青の瞳の少年が立っていた。背中にはノエリア同様、天使の翼。少年とは言っても顔立ちはどちらかといってしまえば少女のようで、背丈も小さい。それゆえか、ノエリアと並んでしまうと姉妹のようにも見えてしまう。そんな少年の名前はスピーリト=グランデ。ノエリアと同じディゼルターレの生まれでありながら、ここエーテレの中心部、チェントロにある戦闘、守護部隊の守護者達(ガーディアンズ)の第一部隊隊長を任されている出世頭だったりする。服装は真っ白なスーツ調のものである。この格好で戦いに出たりするのだから人は見かけによらないということだろう。
「ノエリア……私の部隊の下界入りが決定した」
その言葉がノエリアにとってどれだけ鋭い武器のようだったものか……ノエリアは実の弟のようにスピーリトを可愛がっていたし、スピーリトも実の姉のようにノエリアを慕っている。そんな家族のような存在が下界での戦争に加わる、というのだ。下手をすれば生きては帰ってこれない。見えるのは絶望……それだけである。死なないで帰ってくるなんて言う希望がないわけでも無いが、隊長クラスの者であれば危険は自然と多くなる。幸い人間は天空人に対して友好的であるし、魔法使いの一族や吸血鬼も天空人に対してそこまでマイナスイメージは持っていない。ただ戦争となってしまうとそれも別である。マイナスイメージを持っていなくても自分たちが生き延びるために天空人を平気で殺してしまう。
嘘だ……そう叫んでしまいたかった。それでも目の前で静かに笑うスピーリトを見てしまうと、それも許されないようなそんな錯覚に落ちてしまう。対してスピーリトは必死に泣くのをこらえていた。別れたくなどなかった。死ぬと決まったわけではなかったが死ぬのが怖かった、目の前で仲間を失うのが怖かった……。しかしそんなことを口に出せばノエリアは迷わずに政府に乗り込んでいくだろう。それだけは避けたかった。欲望の渦巻く汚い世界などノエリアには見せたくはなかった。天使だ、と人間は自分たちのことを言うがそれは違う、と政府を間近で見ているスピーリトは思う。
「……私の部隊にはレティアもいる……だから伝えておこうと思って」
3
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/04/04(月) 15:08:01 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
天使は美しくて、気高いものだ。政府の連中のように汚いものではない。天使というのに相応しいのは……ノエリアだ、スピーリトは素直にそう思う。ノエリアを知り尽くしているわけでは無いが、少なくても今までに汚いと思うような感情をノエリアが見せたことはなかった、素直にそう思う。……まぁ幼馴染だから、と言う理由で少々甘めの評価を下しているであろうことは認めるが、誰よりも天使を名乗るのに相応しいのは、武器を握って殺戮を繰り返す自分たち守護者達や、私欲を満たすようなことしか考えていない政府の連中ではなく、ノエリアのような誰にでも平等に接し、明るい笑顔を投げかけるそんな子だ、とスピーリトは考える。そのほかなんか堕天だ……とも。
ノエリアは今にも泣きそうになっていた。出来ることならばここで、スピーリトを引き止めてしまいたい。心からそう思うが、きっとスピーリトは首を縦に振ることはないだろう。だからこそ、ノエリアはいつものような調子で言った「絶対に帰ってきてよ。レティアや部隊の子達全員と。そうじゃないとスピーリトのこと認めないんだから」と……。スピーリトはノエリアのことを天使だという。だがノエリアにはそれが理解できなかった。正直に言ってノエリアは汚い感情を他の天空人以上に抱いていると思っているのだ。そして、さらにスピーリトのような芯の強くて意志を曲げないような者のことを天使に相応しいと思っている。どうやらスピーリトとノエリア、お互いがお互いのことを天使に相応しいと思いあっているようだ。
ノエリアの言葉を聞いてスピーリトはクスリと笑う。そして静かな声で「……我が天使様の仰せのままに」なんていって大げさに跪いてみるのだった。それを見てノエリアも小さく笑う。時間があるから、そう言って走り去るスピーリトの背中を見送りながら小さな声で「きっと会いに行くよ……医療班に志願してでも、ね」と呟いた。それなら、スピーリトたちが大怪我をしたときでも助けてあげられる。回復の力を使うのは得意なんだ、そうノエリアは考えて静かに歌った。スピーリトに向けた、励ましの歌を……。
そんな頃下界で唯一、戦争に巻き込まれていない町、サクラーレ……には空き地の土管に腰を下ろしてオレンジ色の空を眺めている少年がいた。ここは天空都市のものが降り立つ土地とされて、ここに住んでいるものは天空人の血を引いているから襲ってはいけない、なんて言う認識が人間にも、魔法使いや、吸血鬼にもあるようだった。だからここに住んでいる人間は襲われることもなければ他の町の戦火に巻き込まれるようなことは全くなかった。まぁ、それでも天空人が加勢しているのだからと言う理由で自ら志願して戦闘軍に加わるのものいた。……くだらない、と少年は吐き捨てるように呟いた。透き通った空のような青い髪に天空人と人間が交わった証拠とされる金色の瞳……顔立ちは非常に丹精でまるで人形のようだ。全体的に黒を基調として、金や銀の糸で飾りが施されている着物のようなものを着ている。
「何で上層部が勝手に起した戦争に俺たち能力者……それも先天性型が力を貸さねばならないのさ」
そんな風に呟く少年の名は黒須 千秋(クロス チアキ)。超能力者と呼ばれるものの中でも珍しい生まれつきの能力者……つまり先天性型能力者である。先天性型能力者の特性といえば特殊な能力、一般の……こちらは覚醒型と呼ばれが、それらでは現れ難い能力を保有していたり、多数の能力を所有していたりもする。まぁ多くの場合、先天性型の能力者は天空人と人間のハーフであることが多いのでそこまでの人数はいないのだが。確かに回復も早いし、戦闘に貢献も出来る。だからと言って自分たちが引き金になったわけでもない戦いに手を貸す理由があるだろうか? その理由が天空人も力を貸してくれているから、だとしたらそれはナンセンスだと千秋は思う。
両親を魔法使いや吸血鬼共に殺されただとかそんな理由だとしたら、まぁ別にどうでもいい。それで恨みが晴れるのならば好きにやればいい、千秋はそう思う。だからと言ってサクラーレの人間なのだからこの戦争に力を貸すべきだ、そんな雰囲気を作るのはやめていただきたいものだ、そんな風に考えてため息をつく。ただでさえサクラーレの民は少数民族なのだ。これ以上人数を減らして全滅でもしたらどうするつもりなのだ。そう物申したくなってしまう。千秋は自分の一族の血に誇りを持っているし、天空人の次にサクラーレの民が優れているとも思っている。そんな優れた民族がなぜ、出来損ないであるただの人間のために滅ばなくてはならないのだ。ああ、考えているだけで腹が立つなんて言う風に呟いて手元にあった石を命一杯放り投げた。
4
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/04/05(火) 17:59:43 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
千秋の投げた石は綺麗に弧を描いて、一人の少女の頭にぶつかった。少女は肩より四、五センチ長い白い髪をツインテールにしていて千秋同様、金色の瞳をしている。真っ黒な膝の辺りまでの長さのワンピースに白のニーソをはいている。ワンピースの襟の辺りには真っ白翼が片方だけデザインされていた。少女……東郷 詩織(トウゴウ シオリ)。千秋のいとこであり、千秋が唯一恐れている人物である。その姿を捉えるや否やヤバ、なんて言う声を漏らして立ち上がる。自分の格好を考えていなかったのだろう、着物の裾を踏んで思いっきりすっ転ぶ。しかも場所は積み上げられた土管の上、まるで支えを失った人形のようにごろごろと転げ落ちる。そんなことになってしまえば逃げる何処ろではなくなってしまうわけで、あっさりと詩織に捕獲されてしまう千秋。
詩織の説教を正座で聞かされる。正座自体はきつくないのだが、詩織が時々渾身の力で頭を殴ってくるのがきつい。絶対女じゃねぇぞコイツ、そんな風に考えてため息をつく千秋。こんな風景を見ていると平和なように見えてしまうが、この町、サクラーレ以外は戦火に包まれているということは忘れてはいけない。千秋はくどくどと続く詩織の小言を聞き流しながら魔法使いってどんな奴なんだろうなぁ、だとか今日の晩御飯なんだろうなんて関係のないことを考える。こんなことだから詩織の説教が長引くのだと言うことに千秋は気付いていない。詩織はそろそろ苛立ちを本格的に表に出し始めている。それでも千秋の意識が戻ってくることはないようだ。なんと言うか馬鹿というか、なんというか……。
「おい、千ぃ? 電気と水の組み合わせと、炎と風の組み合わせどっちがいい?」
ゴゴゴゴなんて言う効果音が似合いそうな剣幕で言う詩織。その言葉と威圧感でやっと意識が戻って来た千秋は慌てて「待て、どっちも下手したら死ぬじゃねぇか!?」と叫ぶが、詩織はにっこりと笑って「大丈夫。アンタ神様に嫌われてそうだから、追い返されるよ」なんて言う風に言う。うぁぁぁぁぁッと叫び声を上げて千秋が頭を抱えるのを見れば詩織は満足そうに頷く。どうやら根っからのいじめっ子体質のようだ。
「……ネーロ、何か聞こえませんでした? ここは確かサクラーレの地。戦争には巻き込まないという約束のはずですが」
キョトンと首を傾げながら銀色の髪に透き通った紫の瞳。薄水色の踝ぐらいまではあるロングワンピースを着て、真っ白なケープを羽織っている少女が呟く。ケープを止めている黒いリボンには赤い薔薇の飾りがついている。少女の名前はローザ=フィオッカ。魔法使いの一族では優秀なものの一人でここ、サクラーレの守護を任されている。あわわ、と聞こえた叫び声の示す意味が分からずに慌てるローザの頭を優しく撫でて「能力者同士の喧嘩だそうだ。気にしなくてよい」と言う青年はネーロ=ファルファッラ。ローザと同じくサクラーレの守護を命じられたものであり、まだ幼いローザの保護者役でもある。
ネーロは肩より僅かに短い程度の真っ黒な髪に紫の瞳。白のTシャツにローザのものと同じデザインで黒いケープを羽織っている。ケープを止めるリボンには白薔薇の飾りがつけられていた。その手には一枚の紙が握られていてその紙には僅かに崩れた文字で、泉と刻まれていた。この紙は式紙と呼ばれるものであり、魔力を流すことによって人や、動物などさまざまなものに形を変えて情報収集などを行ったりするものだ。もっとも式紙は所有者から一定距離離れてしまうと使い物にならなくなってしまうので、常に便利、というわけでもない。
5
:
◆REN/KP3zUk
:2011/04/23(土) 14:40:50 HOST:i121-116-177-173.s04.a001.ap.plala.or.jp
小さくため息をついてローザはその場に腰を下ろす。ネーロの同様にローザの横に腰を下ろした。ぼんやりと空を眺めれば思い浮かぶのはサクラーレの子供たちの笑顔だばかりだ。実はこの二人、魔法使いでありながらサクラーレの地で保護され、育てられたのである。それ故に魔法使い側に味方しようとも思わないし、人間の味方をしようとも思わない。永久にサクラーレの民の一員として生き、サクラーレのために力を振い、サクラーレの地で朽ちることを誇りだと思っているのだ。他の魔法使いたちには裏切り者扱いをされてもいるが、別になんとも思わない。自分たちはサクラーレの民だ、とただそれだけを考えていた。
そんな二人の考えを知ってか、またはただ単に一緒に暮らしてきているのだから当然となっているのか、サクラーレの人々は二人を煙たがったりはしなかった。むしろ暖かく見守り、必要以上にサクラーレの地から外に出したりはしようともしなかった。もちろん今のようにサクラーレの地を守ってもらったりもしているのだが。それでも決して見捨てようとはしないし、必ず近くに先天性型の能力者を配置していつでも助けに行ける状態を作っている。配置される能力者は先天性型の中でも、天空人の血を濃く引くもののことが多く、魔法使い達ともほぼ互角に渡り合ってきた。
「あー……さっきの叫び声、黒須の坊ちゃんだ。また東郷の嬢ちゃんを怒らせたようだよ」
自分の肩にとまった小鳥をちょこんと指でつついた後そう言うネーロ。それを聞いたローザは少し首をかしげた後、明るい笑みを浮かべて「あの二人は仲良しさんですから」と言った。なぜ怒らせたという言葉から仲良しにつなげられるのか、ネーロには理解できなかったが普段見ている限り詩織と千秋が仲良しなのは事実なので、フッと笑って頷いておく。戦いが激化していく中、平和なサクラーレの地で生活していると、外の世界でのことがまるで夢のようにも思えてきた。せめてサクラーレの地だけでもこのまま何もないまま進んでいけばいい、二人はそう考える。
「ねぇ、ネーロ……。なぜ人は争うのですか?」
ネーロはローザの問いに思わず顔をしかめる。そして小さな声で「私欲のため、守りたい何かがいるから……理由は人によって様々さ」と呟いた。ローザも納得とはいかないものの、小さく頷いて膝を抱える。争いなんて、無駄だ。そう考えても、争いがなくなることはないのだ。小さな規模でも大きな規模でも……。静かに空を見上げればいつの間にか日は暮れかけている。昔は群れを成して飛んでいた鳥達もここ最近は姿を見ることさえない。
「これから、どうなっちゃうんでしょうね……私達」
幼き少女の口から、そんな弱音が零れた。ネーロは思う。戦いのない平和な世界へ誘って欲しい、と。
NEXT Story〜始まりの悪夢〜
6
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/05/14(土) 13:40:38 HOST:i118-21-90-104.s04.a001.ap.plala.or.jp
第一章 始まりの悪夢
白い羽根が舞い散って、まるで雪のように見えた。ノエリアは無言で遠くなっていく群れを眺める。その手に握られているのは金色のネックレス。蝶と月を模った飾りがついていて、光を受けるたびに不思議な光を見せた。これは幼い頃にスピーリトから貰ったものであり、ノエリアが生まれたディゼルターレの民たちにとっては最高級のアクセサリーだった。もっともチェントロではそんなことは無く、千円も貰っているような子供のお小遣いであれば、お釣りが出るようなおもちゃにしか過ぎない。ノエリアの家族はディゼルターレでは裕福な方であったものの、チェントロの富豪たちと比べてしまえば大したこともないレベルでしかない。
逆にスピーリトといえばチェントロであろうとディゼルターレであろうと楽に通用するような富豪である。単純に言えば元々中枢部の管理を任されている一族であり、見捨てられた地を救おうとしてディゼルターレに越してきただけなのである。だから、ディゼルターレでは高級とされるブレスレットをスピーリトが楽に手に入れ、ノエリアにプレゼントすることが出来たわけだ。しかし由緒正しき一族の子供であろうと、ディゼルターレで生まれたというだけで蔑まれることも多い。……神に見捨てられた悪魔だと。しかし幸いなことにスピーリトには強い力が宿っていたし、頭脳も良い方だ。学校を卒業して落ちるところまで落ちたと思えば、当時富豪の使用人をしていたノエリアをあっという間に追い越して、チェントロの守護者達の隊長を任されるまでになっていた。
そして気付けば人間界に派遣しても大丈夫だと判断されるまでの実力を……。ノエリアは思う。今までは慕い信仰してきた神でさえも憎めてしまいそうだと。ディゼルターレではエーテレに住む天空人には珍しく神を信仰するものが多い。ノエリアもその一人である。時々疑問を抱いたりするも、多くは自己解決してしまっていた。神が与える運命なんて残酷なだけじゃないか、小さくそう呟いて歌を紡ぐ。神へと向けた少しだけの悪意を。ここでスピーリトが無傷で帰ってくればまた神に感謝しよう、そう考えて目を閉じる。そして、スピーリトが帰ってくるまで祈り続けようとも……。羽ばたく翼の音はどんどん遠くなってゆく……。
「雪……? いや、羽根だ」
そんな頃、サクラーレの守護の当番の時間も終わり家に帰ろうとしたローザの頭に、真っ白の羽根が乗っかった。少し顔を顰めた後ヒョイッとローザの頭から羽根を取ったネーロが無言で空を見上げれば降り注ぐのは無数の白い羽根。夢でも見ているのだろうかそう思い、頬を抓ってみれば確かな痛み……ということはエーテレからの援軍だろうかそう考えて一人納得する。ローザの方は目を輝かせて降り注ぐ羽根を追いかけては掴もうとしている。それを見て、ネーロは僅かに苦笑いを浮べた後、まぁ天空人が来るときローザは必ず寝ていたし、年齢が低いこともあるし、はしゃぐのも仕方がないだろと考えた。
そんなことを考えながら、遠くに見える丘に目をやる。そこには淡い光を放つ気がぼんやりと見えた。天空人ならばあそこに降り立つのだろう、そう考えてネーロはローザの手を引いて歩き出す。まだ羽根を追いかけていたいなんて言うように不満げな表情をしてローザが顔を見上げてくるが、そこは無視。サクラーレの民を守るために力を振るっているとはいえ、ネーロやローザは魔法使いだ。ローザは多くの場合家の中で寝ていたから被害はなかったが、ネーロは新しい援軍が来るたびに勘違いされて攻撃を受けているのだ。自分一人なら守れるが、ローザのことを庇いながら戦う自身は正直ない。下手をすればローザを巻き込んで吹っ飛ばしてしまうかもしれないのだ。ローザは自分の身など容易には守れるはずだが、年齢のことを考えると不安が頭をよぎる。
幸い家への距離はそう遠くなかったし、丘の天空人が降り立つとされているという地までは距離も遠い。今回の天空人がどんな速さで飛ぶかは知らないが、まぁ見つからない限りは楽に逃げ切ることが出来るだろう。音を聞くに天空人が落り立つまで約三十分程度だろう、そう考えながら歩くスピードを上げる。ローザは訳が分からないというような表情をしながらも、ネーロに手を引かれるまま歩いている。
7
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/06/17(金) 21:27:22 HOST:i121-113-56-162.s04.a001.ap.plala.or.jp
ネーロ一人で急ぐ分には構わなかった。しかし今回はローザもいるのである。ローザとは年齢の差のせいもあってか歩幅が全く違った。だから普通に歩いているつもりでもローザにとっては妙に早歩きな用に感じてしまうのである。そんな状態で急いで歩けばローザもしだいについていけなくなってしまうわけで、思いっきり転んでしまった。両目に涙目を溜めてネーロを睨みつける。はっとしたようにローザの涙を拭いながら丘のほうに目をやれば、ぼんやりと翼がある人影が見えたり、音は次第に大きくなって天空人が近づいていることを示していた。
僅かに焦りを見せながらも、ローザの頭をなでる。急がないといけないのは事実であるが、大泣きされては他の住民に迷惑なのである。頭をなでても全然機嫌がよくなるような気配は全くなかった。……その辺まだローザの扱いを理解していないのかもしれない、とネーロは苦笑いを浮べた。仕方ないかと呟いてしゃがんでローザに背中を向ける。負ぶってやると言う意味であるが、ローザは理解しているのだろうかと首を傾げれば、そっと首に細い腕が回されて重さがかかるのが分かった。そのままローザの足を押さえることなく立ち上がれば、ちゃんと足を押さえろと言うかのようにローザが足をばたつかせた。
「ローザ、お前歩きたくなかっただけだろ」
なにやら自分の背中で上機嫌なローザに向かってネーロは言う。しっかりとローザを負ぶって走り出す。迫る音から考えるに猶予はあと十五分のみ。低く舌打ちをして家までの道を急ぐ。ここで天空人との衝突なんて冗談じゃねぇぞそう考えて顔を顰めた。と言うよりローザを背負った状態ではまともに戦えるわけがない。魔方陣の形成に十秒の遅れ、呪文にロスがなかったとして術式の構築に十秒のロスだとするとかなりの痛手となってしまう。それだけは避けたいな、とネーロは走る中で思考を巡らせていく。
魔法なんて言うのはスピード、正確さ、威力があってこその物だとネーロは思う。いくら正確で威力があろうと、スピードがなければ読まれて、その後は避けられて終わりである。そんなの意味がない。威力、正確さについても同じ話である。
「っ!?」
突然、何の前触れもなく突風が吹いた。不自然に舞う無数の“白”。気付けば回りには青い目の天空人を初めとして、紫、橙、桃色とそれぞれ別の目を持つ天空人が立っていた。ネーロを取り囲み、静かに西洋式の剣を抜き放つ。一まとめに西洋式と言っても、ロングソードのような騎士が使うような物から、ブロードソードと呼ばれる、幅の広い片手剣のようなものもある。
ネーロは辺りを見渡してため息をつく。最悪な状況だな、と呟いてローザを降ろす。スイッと構えた手には幾重にも不思議な模様が浮き出ていた。単純に魔法を制御し、その上で強化するための物である。多くの魔法使いが施している物であり、足に入れるもの、ネーロのように手に入れるようなものが多い。勿論見えないようなところに、精密に施すものもいる。多種多様な物で、言ってしまえば面倒である。
「さぁて……この人数は流石にきつい、な」
8
:
霧月 蓮_〆
◆REN/KP3zUk
:2011/07/06(水) 20:53:38 HOST:i121-115-45-73.s04.a001.ap.plala.or.jp
そういうネーロの表情には余裕があった。僅かに視線をローザに向ければローザはすでに防御用の術式の組み立てに入っているようだった。今回の天空人相手に自分の魔法が通じるか、それは多少不安だったが、今までが大丈夫だったのだから何とかなるだろうと考えてネーロも術式を組み始める。ローザは守りに回らせれば心配はない。それほどローザが紡ぐ防御術式は強固な物だった。攻撃の術式は時間が掛かるようだが、防御術式はほぼ一瞬で組み上げてしまうし、やはり得意不得意の問題かとネーロは考えて息を吐く。
考えながら、轟音を響かせてネーロは手から光線が放った。天空人たちには直接的なダメージはないようだったがそこはネーロも予想済み。そもそも今使った魔法は攻撃というよりは目潰しに近いものである。そこからすばやく別の術式を組み上げる。光線のときとは違い今度は魔法陣を一瞬にして形成した。光線は暴走を起すほど強力な魔術じゃないが、本格的な攻撃魔術となると話は別である。少しでも暴走すれば、最悪村一つ消し飛ばしてしまうほどの威力を持つようなものもあるのである。
魔法陣はなんて言うのは術者の魔力を増幅させたり封じたり、魔力の調節弁の働きをするものであり、実際のところはなくても魔法を発動することは可能なのである。まぁ召喚の時などには異界へのドアとして扱われる場合もあるのだが。しかしそれも稀なわけで、本来魔法陣は術者、つまり魔法使いの呪文や魔力があってやっと作動するものである。もっともその術式を使うのに必要な“知識”が欠落していれば魔法は意味を成さない。むやみに乱用したりすれば術者に多大な負担がかかることとなるのである。
「斬れ!!」
呪文を紡ぐネーロの声と、甲高い少女の声が重なった。周りで息を呑んでいた天空人が切りかかると同時、ネーロの形成した魔法陣が淡い光を放ち始める。ローザが叫ぶのが聞こえたが、下手に返事をすれば呪文への付属ととられてダメージを負うことになってしまう。だからただただ黙り込んで術式の完成に全力を注いでいた。
刹那、ひらりとより一層白い羽根が降り注ぐのが見せた。現れたのはスピーリトである。その表情は妙に焦ったようで剣を構える天空人を必死に止めようとしていた。ちなみにネーロを囲む天空人に比べて身長は低めで、華奢という言葉が良く似合う。大きくその青色の瞳を見開いたと同時に黒い蝶が舞った。光る粉を落としながらひらひらとスピーリトたち天空人の周りを静かに舞う。スピーリトは咄嗟に右手を突き出して大声で何かを叫ぶ。まばゆい光に包まれて魔法陣と舞っていた蝶の姿が消える。
「な!?」
魔法はまだ完成段階には入っていなかった。それでも他人に消されるような術式ではないはずである。逆算されたのだろうか? そう考えてネーロは目つきを鋭いものへと変える。スピーリトは大きく息を吐いてすっかり泣きそうになっている。話を聞いてくれとでも言いたげに、今にでもネーロに飛び掛っていきそうな天空人たちを必死に制していた。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板