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避難所用SS投下スレ11冊目

1名無しさん:2014/02/18(火) 02:41:49 ID:0ZzKXktk
このスレは
・ゼロ魔キャラが逆召喚される等、微妙に本スレの趣旨と外れてしまう場合。
・エロゲ原作とかエログロだったりする為に本スレに投下しづらい
などの場合に、SSや小ネタを投下する為の掲示板です。

なお、規制で本スレに書き込めない場合は以下に投下してください

【代理用】投下スレ【練習用】6
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1279437349/

【前スレ】
避難所用SS投下スレ10冊目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/9616/1288025939/
避難所用SS投下スレ9冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1242311197/
避難所用SS投下スレ8冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1223714491/
避難所用SS投下スレ7冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1212839699/
避難所用SS投下スレ6冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1205553774/
避難所用SS投下スレ5冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1196722042/
避難所用SS投下スレ4冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1192896674/
避難所用SS投下スレ3冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1190024934/
避難所用SS投下スレ2冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1186423993/
避難所用SS投下スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1184432868/

360ウルトラ5番目の使い魔 52話 (14/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:58:58 ID:q6J2gu7Y
 襲い掛かってくるドビシに対し、本当に最後の力で立ち向かう。もう余計なことは考えない、俺たちは人間なんだ、お前たちなんかに負けてたまるか。
 
 魔法を撃ち、銃を撃ち、剣を振るい、槍を突き立て、素手の者は瓦礫を拾い、石を投げ、生きる理由のある人間たちはドビシたちを次々に仕留めていく。
 街中ではこれまで敵味方に分かれていたトリステインとロマリアの兵たちが共に戦う姿があちこちで見られた。呉越同舟も何も無い、ただ生きるために生命は全力で抗う。人間がその例外ではないということを見せているだけだ。
 
 ある街角では銃士隊が戦っていた。その姿は、まるで敗残兵のようにボロボロの有様になって、剣も刃こぼれし、なかばから折れてしまっている者もいる。
 だがその士気は天を突くように高く、アニエスとミシェルを先頭にすさまじい勢いでドビシを駆逐していっている。
「はあぁぁっ! ふぅ、どうしたミシェル? ずいぶんと調子がいいみたいじゃないか」
「ははっ、もちろんですよ。サイトが、あいつはやっぱり生きていてくれた。帰って、帰ってきてくれた。こんな、こんなうれしいことがありますか!」
 半分涙目になりながら剣を振るっているミシェルに、アニエスは微笑し、隊員たちも優しい笑みを浮かべながら剣を握りなおした。
「ようし、我々もサイトに負けてられんぞ。虫けらどもをトリスタニアから叩き出すんだ! 隊長と副長に続けーっ!」
「副長の結婚式を見るまでは、死ねませんしねっ! っと、でりゃ!」
「その次は、隊長のお婿さんを見つける楽しみもあるものね。でもこっちはちょっと難しいかしら」
「それなんですけど、お婿さんは男じゃなきゃいけないといけないってことはないですよね?」
「ん?」
 なにやらひそひそと話し合いながらも、銃士隊は的確に剣を振るい、ドビシに叩き付け、突き刺して倒していく。
 いくらでも来るなら来い虫けらどもめ。女は恋をすれば強くなる。愛することを知れば不死身になる。誰かを支えれば無敵になる。この世でもっとも強い生き物がなんであるか、とくと教えてやろうではないか。
 
 ドビシと人間たちの格闘はいたるところで繰り広げられている。人と虫とが乱戦となり、もはや戦術もなにもない混沌と原始の巷である。
 が、闘争とは本来そういうものだ。古来、人間は他の獣を狩って生きるハンターであった。食うか食われるか、それが戦いの原初であり、それをよく知るひとりの狩人は乱戦の中でも唯一冷めた目でドビシたちに矢を打ち込んでいた。
「これで二十七匹目、と……数が多いのはいいが、こいつらは煮ても焼いても食えそうにないな。これならキメラどものほうが料理できるだけマシか。いや、殻や内臓は薬になるかもしれないね。今のうちに集めておこうかしら」
 ジルという狩人の前では、人間以外の生き物は獲物としての価値があるかないかの二択でしかない。そこに善悪はなく、ジルにとってはドビシも猪や鹿と同等の存在でしかなかった。

361ウルトラ5番目の使い魔 52話 (15/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:01:26 ID:q6J2gu7Y
 いや、極論すれば、人間が生きるために善悪などというものは必要ないのかもしれない。事実、化け物の森で長年を過ごしてきたジルにはそんなものはいらなかった。ただ、それなのにジルを動かしているものがある。
「薬の試作ができたら竜のお嬢ちゃんに試し飲みしてもらうかな。手ごろな回復薬ができたらシャルロットの役にも立つかしらね」
 ジルはタバサの喜ぶ様子を想像してわずかに微笑んだ。人は生きるだけなら一人でできるが、誰かのために何かをすることでのみ己という存在に価値を見出すことができる。
 この戦いに、ジルがいる理由はそれだけだ。国がどうなろうとどうでもいい。言ってみればただの親ばかだ。
 
 そして親ばかといえば最たるところがチクトンネ街にいる。
「ふんぬぅ、うちの妖精さんたちはお触りは禁止されていますぅ。お引取りいただきましょうか、お客さんたちぃ!」
 くねくねとした動きをしつつも、鉄拳でドビシたちを吹っ飛ばしていくスカロンの雄姿? が、そこで輝いていた。
 魅惑の妖精亭、正確にはその跡地となりつつあるが、店員たちは皆そこを離れようとはせずに守り続けている。華奢な少女たちが、フライパンやおたまを武器にしてドビシに立ち向かい、その先頭にはジェシカが立って皆を鼓舞していた。
「みんな、あと一息よ! これが終われば、商売敵の店はみんなつぶれたからうちの独占商売よ。そうしたらじゃんじゃん稼ぐんだからね! がんばって」
「おーーーっ!」
 なんともたくましいものである。しかし、この若いパワーが未来を作るピースであることは間違いない。
 彼女たちにはそれぞれ、自分の家を持つ、故郷の家族のために稼ぐ、独立して自分の店を持つなどの夢がある。この戦争はマイナスだったが、終わればそれがプラスに転じるチャンスが来る。ならば、それを逃すわけにはいかない。
 スカロンは、少女たちの夢をそれぞれ応援している。血のつながった娘はジェシカひとりだが、同じ屋根の下で共にやってきた少女たちは皆、自分の娘も同然だ。それを守るためなら、無限に力が湧いてくる。
「でありゃあっ! そう、その意気よ妖精さんたち。けど顔だけは絶対傷つけちゃダメよ。ミ・マドモアゼル、泣いちゃうからねぇっ!」
「それだけは勘弁してください! ミ・マドモアゼルっ!」
 さすがの妖精さんたちも想像するに耐えない光景に身震いした。ジェシカは呆れたように笑うばかりだが、その手には得物の包丁と頑丈そうなロープが握られていて、その先には逃げ出そうとしているドルチェンコたち三人がくくり付けられていた。
「だめよー逃げちゃ。壊れたお店を建て直すのに、男の人の手は欠かせないんだからね」
「頼む逃がしてくれ、神様仏様ジェシカ様! あいつに、ダイナに見つかるのだけはすごくマズい!」
 過去になにがあったかは知らないが、三人組の焦りようはすごかった。もっとも、完璧に自業自得であるのだから仕方ない。

362ウルトラ5番目の使い魔 52話 (16/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:02:05 ID:q6J2gu7Y
 やがて、スカロンのおかげで店の周囲からドビシが一掃されると、彼女たちはウルトラマンたちに向かって手を振った。
 
 十万匹の鼠は駆逐できないとゼブブは言った。しかし、人間たちの奮闘はその常識に風穴を開けつつある。
 新たに湧いてくるドビシはアンリエッタとウェールズのヘクサゴンスペルが食い止め、その絶対数が増加することを許さない。
「大丈夫かい? アンリエッタ、さあ、僕につかまって」
「ありがとうございます、ウェールズさま。けど、国民の前でだらしない姿はさらせませんわ。大丈夫です、ウェールズさまが傍らにいるだけで、わたくしは負けません」
 ふたりとも常人の域を超えた魔法の行使でとっくに限界を超えているが、その表情は明るい。
 また、ふたりを狙ってドビシたちが襲ってくるが、それをカトレアやエレオノールたちが迎え撃っている。
「ラ・ヴァリエールの名において、お二人には指一本触れさせません。あなたがたのような命を弄ぶ人たちに、この杖は決して折らせませんわ」
「ちびルイズが目立ってるのに、私が働かなかったら後でお母様に殺されるわ。ま、たまには姉の威厳を妹たちに見せておくのも悪くないわね」
 ドビシたちは次々と叩き落され、王家のふたりは威厳を保ったまま立ち続けている。
 元凶であるカイザードビシたちも、カリーヌの奮闘や、ド・ゼッサールの率いる魔法衛士隊、名も無い兵士たちの活躍で押さえ込まれ、それでも余った連中にはブリミルのエクスプロージョンが炸裂した。
「やれやれ、いい加減疲れたから休ませてほしいんだけどな」
「なに言ってるの。私たちの子孫がピンチなんだから、頑張りなさいなご先祖様、それっ!」
 ブリミルに襲い掛かろうとするドビシをサーシャが舞うように剣を振るって切り刻んでいく。主の詠唱を守るガンダールヴの本領発揮というところだ。
 
 いまや、ドビシの活動はほぼ完全に押さえ込まれていた。街中にはドビシの死骸が無数に積み上げられ、人間たちの凱歌がそこかしこであがっている。
 まさか、こんなはずではとゼブブとビゾームはうろたえたが、これが現実であった。
 人間たちの最後の力を振り絞った悪あがき。もちろん時間が経てば、無限の物量を誇るドビシたちが再び圧倒するであろうが、それまでのこの、わずか一分程度の時間さえあれば十分だ。
〔ああ、お前たちを倒すには、一分もあればたくさんだぜ!〕
 ダイナはゼブブたちを指差して言い放った。
 人々が全力で作ってくれたこの機会。これ以上、もはやどんな手も用意してはいないだろう。このチャンスで、お前たちを倒す。

363ウルトラ5番目の使い魔 52話 (17/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:03:02 ID:q6J2gu7Y
「シュワッ!」
「テェーイ!」
 ダイナ、そしてエースの猛攻が再開された。
 空中高く飛び上がったエースのキックがビゾームを打ち、助走をつけたダイナのダイナックルがゼブブを吹き飛ばす。
 対して、ゼブブとビゾームもあきらめ悪く反撃を繰り出してきた。ゼブブの怪光線がダイナのボディを打ち、ビゾームの光の剣がエースの喉下をかすめる。
 しかしウルトラマンたちは攻撃をやめない。この一分はただの一分ではない、人々の願いのこもった世界で一番貴重な一分だ。一秒たりとて無駄にはできないのだ。
 エースのタイマーショットがビゾームの腕を剣ごと焼き切り、ダイナのブレーンバスターが見事に炸裂する。
 破滅招来体の企みも、ついにここで絶えようとしている。幾星霜を費やした遠大な計画が崩壊した理由、それは彼らがひとつのことを見落としていたからだ。
「なぜだ、なぜこうまで理不尽な偶然が重なる? なにがお前たちに味方しているというのだ」
〔お前たちにはわからないだろう、希望の持つ本当の意味を。希望は自分が歩き出すための糧じゃない、誰かと共に歩き出すために分かち合うものなんだ〕
 エースは才人とルイズ、多くの人たちを見て思った。こうしてこの世界に帰り、そして勝利を目前にしていられるのは、才人とルイズが希望を捨てずにあきらめなかったから。そしてこの場の人間たちがあきらめずに戦い、ドビシたちを追い返せたのは、ふたりのウルトラマンがいるという希望があったからだ。
 希望はつながり、連なり、より多くの人々へと拡散していく。小さな希望が大きな希望へ、そして奇跡を呼び、不可能を可能に変える。その連鎖こそが希望の本当の力なのだ。
〔うわべだけの絶望で、人間を支配できると思っていたのが間違いだ。人間はお前たちが思うような愚かな生き物じゃない。人間はこれからも、進歩し続ける生き物なんだ〕
 ウルトラマンは人間の希望と未来を信じる。そして才人とルイズも己の信念を込めて言い放った。
〔ハルケギニアはな、ブリミルさんやサーシャさんたちが死ぬ思いで旅を続けてやっと立て直した世界なんだ。お前たちなんかが勝手に独り占めしていいほど安くないんだよ〕
〔人間はバカだわ、それは否定しない。けど、お前たちなんかにバカにされたくないような素晴らしい人だってたくさんいるわ。人間の中にそんな人たちがいる限り、ハルケギニアは滅んだりしない〕
 ハルケギニアの人間の愚かさを信じた破滅招来体と、希望を信じた人間たちの対決の、これが答えであった。
 
 だが、破滅招来体は、ゼブブは違った。彼らの誇示する彼らの正義にとって、人間たちの希望の力はあくまでも理解できない、不要なものでしかなかった。
 破滅招来体は過去幾度もガイアの世界でもその意思を表示することがあったが、それらの中で共通していることがある。彼らは地球を美しい星と呼び、人類は不要と主張し続けたが、そんな彼らの要求する世界は人類では決して到達不可能な機械的な完全世界だったのだ。

364ウルトラ5番目の使い魔 52話 (18/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:04:16 ID:q6J2gu7Y
 彼らは妥協を嫌い、不確定要素を嫌った。彼らが文明を築く上でどのような進化を辿ってきたかはさだかではないが、彼らの欲する磨き上げられたダイヤモンドのような一点の傷も無いパーフェクトワールドは、感情を持つ人類とは決して相容れないものであり、そうでない世界は彼らにとって受け入れられないものだった。
 ゼブブとビゾームは敗北を悟った。しかし、彼らは破滅招来体の使者として、その最後の使命を果たそうとしていた。
「わかりません。わかりたくもありませんが、この戦いは我らの負けです。しかし、我らの主はいつか必ずこの世界を醜い人間たちから解き放ちます。我らはその捨て石となりましょう!」
 ボロボロの体でなお消えぬ殺意をみなぎらせて、ゼブブとビゾームは突撃をかけてきた。地響きをあげ、一直線にエースとダイナに向かって突進してくる。もはや小細工も戦法もなにもない、刺し違えることを覚悟した特攻だ。
〔奴ら、自爆する気か!?〕
 そうだ。奴らは、自らの命と引き換えにエースとダイナだけでも道連れにしようとしている。次に来る侵略部隊を少しでも有利にするため、恐るべき執念だ。
 避けるか? いやもう遅い。迎え撃つか? 自爆する気の相手に危険すぎる。
 引くも、受けるもできない。そしてここでエースかダイナがどちらかひとりでも倒れれば、破滅招来体は再侵略の余地があると見なすだろう。それでなくとも、ウルトラマンが倒されたという事実は他の侵略宇宙人たちも喜ばせ、我も我もと動き出させるに違いない。
 ウルトラマンが負けられない理由がここにある。奴らは命と引き換えにそこに一穴を残そうとしているのだ。
 危ない! だがその瞬間、アンリエッタとウェールズは温存し続けてきた切り札を使うときが来たことを悟った。
「ウェールズ様、あれを。今こそハルケギニアに光を取り戻しましょう」
「ああ、長かった夜を終わりに。我らの世界に再び朝を! 始祖の秘宝よ、お導きください」
 ふたりは守り続けてきた始祖の首飾りを共に空高く投げ上げた。一筋の流星となって秘宝は黒雲へと吸い込まれ、封じられていた『消滅』の魔法を解放する。
 
”光、あれ”
 
 祈りが込められた二つの始祖の首飾りの力は、トリスタニアの空を中心に一瞬にしてドビシの黒雲を消し去っていった。
 『消滅』の魔法は、ものを形作る小さな粒に、そのつながりを忘れさせることであらゆるものを崩壊させる効力を持つ。地球流に言うと、分子結合を強制解除させるとでもすればいいか。すなわち、あらゆる物質はその強度に関係なく塵に返ってしまうということだ。
 むろんドビシも例外ではなく、焼け石に落ちた水滴のように次々に消滅していく。分子結合を解くことで物体を溶解消滅させるものとしては、地球では一九五七年にほぼ同じ効力を持つ薬品が一度だけ使われたことがあるそうだが、これに耐えられるのは文字通り神の域を超えた生命だけであろう。

365ウルトラ5番目の使い魔 52話 (19/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:05:51 ID:q6J2gu7Y
 ドビシの黒雲が切り裂かれた空からは、黒に変わって透き通るような青とともに、明るく暖かい太陽の日差しが再び差し込んできた。
 一瞬にしてトリスタニアは夜から昼に変わり、数秒後には魔法学院やタルブ村も忘れかけていた太陽に照らし出され、数分後にはハルケギニア全土が光を取り戻した。
 しかし、この戦いの決着にはほんの数秒でたくさんだった。
 太陽の光がトリスタニアを、人間たちを、そしてウルトラマンと怪獣たちを照らし出す。その白い輝きは暗がりに慣れていた人々と、怪獣の目を激しく焼いた。
「ウオオォォッ、光? 光がぁぁっ!?」
 巨大な複眼を持つゼブブと、闇夜での活動を得意とするビゾームにとっては突然差し込んできた太陽の光は強すぎた。視覚を奪われ、エースとダイナの姿を見失った二体はなすすべなく立ち尽くした。
 今だ! すべての人がそう叫ぶ。太陽が与えてくれた、この黄金の一秒がすべてを決める。
 無防備な様をさらすしかないゼブブとビゾーム。対して、ウルトラマンは太陽の子、光の戦士だ。その金色の瞳はまっすぐに敵怪獣を見据え、その心は己がなすべき使命を悟っていた。
 
 これが破滅招来体との戦いの最後の一撃だ。エースのL字に組んだ腕が、ダイナの渾身のエネルギーを込めた火球が決着の時を告げる。
 
『メタリウム光線!』
『ガルネイトボンバー!』
 
 虹色の光芒がゼブブを貫き、灼熱の業火がビゾームを燃やし尽くす。
 長く続いたハルケギニアの夜。それが終わり、本当の夜明けを迎える時がやってきた。
 
 
 続く

366ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 10:07:36 ID:q6J2gu7Y
52話、ロマリア編最終決戦、お楽しみいただけたでしょうか。
3章を始めてここまで、平坦な道のりではありませんでしたが、皆様の応援のおかげで辿りつくことができました。
お礼にというわけではありませんが、少し早めのクリスマスプレゼントになれば幸いです。

では、次回は恐らく来年で。皆様よいお年を。

367名無しさん:2016/12/23(金) 15:17:25 ID:MxIuD8yg
乙です

>地球では一九五七年にほぼ同じ効力を持つ薬品が一度だけ使われたことがあるそうだが、
>これに耐えられるのは文字通り神の域を超えた生命だけであろう。

…まさか、数多くの超兵器でも完全に殺せなかった怪獣王を
殺せたアレですか?

368名無しさん:2016/12/24(土) 11:05:05 ID:5OnfRuos
ウルトラ乙。
ミジー星人とダイナ、感動の再会だなー(棒)

369名無しさん:2016/12/25(日) 14:37:37 ID:bdHU.rPo
おつです

来年はウルトラマンエース放送開始45周年
これからも応援していきます

370ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:01:02 ID:ezGi563k
メリークリスマス、焼き鮭です。今回の投下をさせてもらいます。
開始は21:03からで。

371ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:03:27 ID:ezGi563k
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その3)」
恐怖の怪獣軍団
宇宙恐竜ゼットン 登場

 才人は精神を囚われたルイズを救うべく、本の世界への旅を始めた。最初は初代ウルトラマンが
地球を防衛していた時代を描いた物語。しかし肝心のウルトラマンはゼットンに敗北したことが
原因で、失意の底にあった。才人は憧れのヒーロー、ウルトラマンを懸命に励ます。そんな中出現
したのは、日本中に出現したすさまじい数の怪獣軍団! その前にゼロも苦戦を強いられ、ピグモンが
ドドンゴの攻撃を受ける。それを目の当たりにしたハヤタは遂に立ち上がり――ウルトラマンが
甦ったのだった!

「ヘアッ!」
 今一度地球を守るべく立ち上がったウルトラマンは、颯爽と怪獣たちの間に飛び込んで
ギガス、ネロンガ、グリーンモンスにチョップを叩き込んでゼロから弾き飛ばした。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ゲエエゴオオオオオウ!」
「グウウウウウウ……!」
 更にドドンゴに飛びかかって文字通り馬乗りになり、その体勢から首を引っ張ることにより、
ドドンゴは後退させられて怪獣軍団から引き離された。
「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」
 怪獣たちがウルトラマンにひるんでいる隙に、ゼロは体勢を立て直すことに成功した。
『助かったぜウルトラマン! せぇやッ!』
 ゼロも負けてはいられない。流れるようにマグラー、ゲスラにキックを仕掛けて張り倒し、
ケムラーの吐く亜硫酸ガスを跳躍して華麗に回避。
『もう食らわねぇぜ!』
 毒ガスは代わりにレッドキングが食らう羽目になった。
「ピッギャ――ゴオオオウ!?」
 もがき苦しんだレッドキングは岩を投げ、それがケムラーの口に嵌まってガスが詰まった。
「ヘアァッ!」
 ウルトラマンはドドンゴに乗ったまま首筋をチョップで連打してダメージを与えていくが、
ドドンゴがやられっぱなしでいるはずがない。思い切り暴れてウルトラマンを振り払う。
「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」
「ダァッ! シェアッ!」
 しかしウルトラマンも振り落とされてすぐにスペシウム光線を発射。ドドンゴにクリーン
ヒットする。
「ミ―――――イ! ミ―――――イ!」
 その一撃によってドドンゴはたちまち絶命。横に倒れて動かなくなった。
 この間レッドキングを押さえつけていたゼロがウルトラマンに向かって告げた。
『ウルトラマン! ここは俺と科特隊に任せてくれ。あんたは他の場所の怪獣を頼む!』
 うなずいたウルトラマンが全身に力を込めると、その身体にエネルギーが集まっていく。
「ヘアッ! トワァッ!」
 エネルギーが最大に高まると、何とウルトラマンが五人に分身した!
 ウルトラセパレーション、分身の術。ウルトラマンの新しい戦法だ!
「シェアッ!」
 五人になったウルトラマンは、それぞれ別の方向に飛び立って怪獣の被害に遭っている
現場に急いでいった。
 その内の一人は沿岸で暴れているガマクジラを発見。
「グアアアアッ!」
 即座に飛行速度を急上昇させて、上空から一直線にガマクジラに体当たり!
 これによってガマクジラは一発でバラバラに四散した。ウルトラマンは上昇して別の場所へと
向かっていった。

372ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:05:29 ID:ezGi563k
 また別の一人はコンビナートを火の海にしているペスターを発見。
「シェアッ!」
 着地と同時にスペシウム光線をペスターの頭部にぶち込んで、一瞬で撃破した。
「キュ――――――ウ……!」
 ペスターを倒してからウルトラマンは合わせた両手からウルトラ水流を発し、コンビナートの
火災を瞬く間に消し止めた。それからまた飛行して、市街地の方角へ飛んでいった。

 五人のウルトラマンはそれからゴモラ、ヒドラ、ウー、ザンボラー、ケロニアの元へ駆けつけて
勝負を挑んでいった。
「ヘアァッ!」
「ギャオオオオオオオオ!」
 一人目のウルトラマンが空中からドロップキックを仕掛けてゴモラを蹴り倒す。
「ヘアッ!」
「ピャ――――――オ!」
 ウルトラマンの二人目はヒドラと格闘戦を繰り広げる。
「ヘアァッ!」
「ガアアアアアアアア!」
 ウルトラマン三人目はウーと取っ組み合って雪原の上をゴロゴロ転がった。
「ヘアッ!」
「ギャアアアアアアアア――――――!」
 ウルトラマン四人目は低姿勢でザンボラーにタックルして、相手の身体をすくい上げて放り投げる。
「トアアァッ!」
「パアアアアアアアア!」
 ウルトラマン五人目はケロニアに一本背負いを決めて投げ飛ばした。

 各地でウルトラマンが奮闘している間、ゼロもまた怪獣軍団相手に激しく戦っていた。
「セアッ!」
 ゼロのビームランプから発射されたエメリウムスラッシュがグリーンモンスの花弁の中心を
撃ち抜き、グリーンモンスを炎上させた。更にゼロはネロンガを捕らえて高々と担ぎ上げて
投げ飛ばす。
『せぇぇいッ!』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
 地面に叩きつけたネロンガにすかさずワイドゼロショットを食らわせて爆散させた。
これで一気に二体撃破だ。
 だがまだレッドキング、マグラー、ギガス、ゲスラ、ケムラーと五体もの怪獣が残っている。
「ウルトラマンにばかり戦わせてはいかん! 我々も戦うぞ!」
 そこで攻撃用意を整えた科特隊が援護を開始した。まずはムラマツがナパーム手榴弾を
マグラーに向かって投擲した。
「えぇーいッ!」
 手榴弾の炸裂を頭部に食らったマグラーはきりきり舞って、ばったりと倒れる。
「ギャアアオオオォォウ……!」
 イデはジェットビートルを駆って、ギガスの頭上を取った。
「今だ! 強力乾燥ミサイルを食らえ!」
 ビートル底部の弾倉が開き、爆弾が投下。ギガスに命中して爆発すると、ギガスは全身が
急激にひび割れて粉々になった。
 ルイズはゲスラをスーパーガンで撃ちながらゼロに叫んだ。
「背びれが弱点よ!」
 うなずいたゼロがゲスラの背後に回り込んで、素早く背びれを引き抜いた。
「ウアァァァッ……!」
 背びれを抜かれたゲスラはたちまち生命活動を停止し、その場に横たわった。
 アラシはマッドバズーカを肩に担いで照準をケムラーに向けた。
「こいつで泣きどころをぶち抜いてやる!」

373ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:07:31 ID:ezGi563k
 ゼロはすかさずケムラーの背後に飛びかかって、アラシが狙いやすいように甲羅を引っ張って
開き、その下に隠されている核を剥き出しにした。
「助かったぜ! 食らえッ!」
 バズーカから飛んだ弾丸がケムラーの核を見事破壊!
「カァァァァコォォォォォ……!」
 核を撃ち抜かれたケムラーだがその場では往生せず、ほうほうの体で火山まで這っていくと、
自ら火口に飛び込んで姿を消した。
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
 最後に残ったレッドキングが猛然とゼロに突進していくが、ゼロは正拳でカウンターして
レッドキングを押し返した。
『てぇあッ!』
 よろめいたレッドキングに、ムラマツ、アラシ、ルイズがスーパーガンを向ける。
「アラシ、フジ君! トリプルショットだ!」
「はいッ!」
 三人がスーパーガンを重ね合わせると、発射される光線も合わさって威力三倍の必殺攻撃と
なり、レッドキングを撃ち抜いた。
「ピッギャ――ゴオオオウ!!」
 トリプルショットをまともに食らったレッドキングは仰向けに倒れ、力尽きた。これで
この場の怪獣たちは全滅した。
「シェアッ!」
 怪獣が全て倒されると、ゼロは空に向かって飛び上がっていった。

 五人のウルトラマンたちの方もまた、怪獣との決着を順次つけていた。
「ジェアッ!」
 飛んで逃げようとするヒドラに放たれたスペシウム光線が命中し、ヒドラは空中で爆発。
「ジェアッ!」
 ケロニアにはウルトラアタック光線が決まり、ケロニアの全身を吹っ飛ばした。
 大阪ではゴモラの頭部にスペシウム光線がヒット。
「ギャオオオオオオオオ!!」
 ザンボラーにもスペシウム光線が炸裂し、全身を炎上させた。
 ウーもまた倒され、五人のウルトラマンは高空で合体して一人のウルトラマンに戻り、
そしてウルトラマンは地上に光の輪を放ってハヤタの姿に戻ったのだった。
 その場に、同じようにゼロから戻った才人が駆けつける。
「ハヤタさん! 変身できたんですね!」
「平賀君……」
 才人に振り返ったハヤタの顔つきからは、勇敢な心がはっきりと見えていた。もう陰鬱と
した表情は、さっぱりとなくなっていた。
「ありがとう。君の言葉が、僕の目を覚ましてくれたよ」
「いいえ。あなたは他ならぬ自身の勇気で復活したんです。俺はそのほんの手助けをしただけです」
 ハヤタに力が戻ったことで安堵した才人だったが、その時ハヤタの流星バッジに着信が入った。
『ムラマツだ。ハヤタ、応答せよ!』
「こちらハヤタ!」
『基地周辺にゼットンが出現! 我々は先に帰投して防衛に当たる。お前もすぐに基地へ
戻って防衛に当たれ!』
「了解!」
 バッジのアンテナを戻したハヤタは、才人と視線を合わせる。
「平賀君、僕に力を貸してくれ!」
「もちろんです!」
 二人はそれぞれベーターカプセルとウルトラゼロアイを取り出し、同時に再度ウルトラマンに
変身を遂げた!
「シェアッ!!」
 二人のウルトラマンはまっすぐ科特隊基地へと飛んでいった。

「ピポポポポポ……」

374ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:09:39 ID:ezGi563k
 科特隊基地はゼットンの襲撃を受けていた。ゼットンの顔面から放たれる光弾によって、
基地が破壊されていく。ムラマツたちが応戦しているものの、ゼットンには敵わず押されていた。
 そこに駆けつけたウルトラマンとゼロ。まずはウルトラマンが高速回転してキャッチリングを
放ち、ゼットンを拘束した。
「ヘアッ!」
 ゼットンはキャッチリングで締めつけられながらも振り返り、ウルトラマンに狙いをつける。
 しかしそこにゼロが飛び込んだ!
『せえええいッ!』
 ゼットンの身体をがっしり捕らえて、高々と投げ飛ばす!
「ピポポポポポ……」
 地面に叩きつけられたゼットンだが、それでもキャッチリングを破って立ち上がった。
その前にウルトラマンとゼロが回り込んで、にらみ合いとなる。
 いよいよ物語のクライマックス。このゼットンを打ち破れば、一冊目の本も完結だ!
「ピポポポポポ……」
 ゼットンはテレポーテーションで一瞬にしてウルトラマンたちの背後を取った。――が、
察知したゼロが瞬時に後ろ蹴りを入れてゼットンを返り討ちにした。
『てぇあッ!』
 ふらついたゼットンに、ウルトラマンが飛びかかって渾身のチョップを食らわせた。
「ヘアァァッ!」
 追撃をもらったゼットンが後ずさりした。この瞬間にゼロはストロングコロナとなる。
『でぇぇぇあぁッ!』
 強烈なパンチが炸裂して、ゼットンは大きく吹っ飛んで地面の上を転がった。
 さすがのゼットンも、二人のウルトラマンを同時に相手することは出来ないようだ。しかも
ウルトラマンとゼロは、即席のタッグとは思えないほどに呼吸がぴったりだ!
『行けるぜ、ゼロ! その調子だ!』
『おうよ! このまま一気に物語のフィニッシュだぜ!』
 ゼロが勇み、ウルトラハリケーンからのとどめを決めようと一歩前に踏み出した。
 だがその時! ゼットンが突如として真っ赤に発光!
『な、何だ!?』
 突然のことにゼロもウルトラマンも驚愕して立ちすくむ。そして赤い閃光が収まると――
ゼットンの姿が一変していた。
「ピポポポポポ……!!」
 体格はひと回り大きくなって、全身を覆う甲殻が増量して厳つくなっている。各部の発光体も
数が増えて変形し、細く尖った形をしている。この変化に合わせるように威圧感もまた増加し、
荒々しい印象を受ける。
 変わり果てたゼットンの姿を目の当たりにしたゼロが叫んだ。
『EXゼットン! 何てこった!』
『EXゼットン!? そんな馬鹿な! この時代には、まだ存在してないはずだろ!』
 混乱する才人。強化されたゼットンは最近になってから確認された存在であり、初代ウルトラマンの
時代である1960年代にはまだ影も形もないはずだ。それがどうして本の世界の中の世界に出てくるのか。
 ゼロがその理由を推察する。
『まさか、本来なら未来の存在である俺たちが本の中に入り込んだ影響でこんな事態が発生
しちまったんじゃ……』
『何だって!? そんなことが……!』
 信じられない気持ちの才人だったが、EXゼットンが出現したのは疑いようもない事実だ。
「ピポポポポポ……!!」
 変身を果たし、力を増したゼットンがゼロたちの方へ足を踏み出し――その姿が忽然と消えた!
「!!」

375ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:12:12 ID:ezGi563k
 ゼットンはまたもゼロの背後にテレポートしていた。再びキックで迎撃しようとしたゼロだが、
「ピポポポポポ……!!」
 ゼットンは出現と同時にスライドしながらゼロに突進し、手に生えた凶険な爪でゼロを
はね飛ばした! ストロングコロナゼロをも上回る凄まじいパワーだ!
『おわぁぁぁッ!』
「ダァッ!?」
 代わってウルトラマンが飛びかかっていくものの、彼も腕の一撃で軽く弾き飛ばされた。
「ウワァッ!」
『ぐッ……せぇいッ!』
 ゼロは地面に叩きつけられながらもゼロスラッガーを投擲したが、それもゼットンの爪に
弾かれてしまった。
「ピポポポポポ……!!」
 ゼットンは倒れているゼロたちに全く容赦がなく、顔面から火炎弾を連射して激しく追撃する。
『うわあぁぁぁぁぁぁッ!』
「ジェアァッ!」
 反撃の余地すらない猛攻を受け、ゼロとウルトラマンは連続する爆炎にもてあそばれる。
二人のカラータイマーが激しく点滅して危機を知らせるが、ただでさえ手強いEXゼットンに
対して、両者ともここまで連戦に次ぐ連戦で疲労が蓄積していたのだ。相手の猛攻撃により、
それが響いてきた。
『ぐッ……! まだ最初だってのに、とんでもねぇピンチだ……!』
 火炎弾に襲われながらうめくゼロ。このままでは本を完結できないどころか、ゼロと才人の
命まで本当に危ない。絶体絶命の状況!
 しかし、この時戦っているのは何もウルトラマンだけではないのだ。そう、科特隊が彼らに
ついている!
「よぉーし! 今イデ隊員がウルトラマンに、スタミナを送って……!」
 イデが携帯していたケースから特殊弾頭を取り出して、スーパーガンの銃口に装着させた。
イデの行動に気づいたアラシが振り返る。
「今まで何か研究してると思ったら、それだったのか」
「アラシ隊員! このスタミナカプセルを、ウルトラマンのカラータイマーに命中させて下さい!」
「そんなことして大丈夫なのか!?」
「大丈夫です!!」
 太鼓判を押すイデ。話している間にもウルトラマンたちはゼットンに追いつめられており、
これ以上問答している余裕はない。
 アラシはイデを信用して、素早くスタミナカプセルをウルトラマンのカラータイマーに向けた。
「行くぞ!」
 発射されたカプセルは、アラシの腕が冴え渡り、見事にウルトラマンのカラータイマーに命中! 
カプセルが炸裂し、解き放たれたエネルギーがカラータイマーを通してウルトラマンに吸収された。
「ヘアッ!」
 すると途端にカラータイマーの色が青に戻り、消耗し切っていたウルトラマン自身も急激に
力を取り戻した。いや、普段以上に力がみなぎった状態になっている!
『!! こ、これは……!』
 驚いたゼロが見上げる先で、立ち上がったウルトラマンにゼットンが火炎弾を放つ。
「ピポポポポポ……!!」
「シェアッ!」
 瞬間、ウルトラマンは八つ裂き光輪を出したと思うとそれを自分の胸の前で回転させる。
その回転が、火炎弾を反射した!
「!!」
 増強されたパワーが仇となり、ゼットンは火炎弾の爆撃を自分が食らって大きくよろめいた。
これに目を見張る才人。

376ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:14:14 ID:ezGi563k
『すげぇ……!』
『のんきに感心してる場合じゃねぇぜ! 今こそチャンスだ!』
 ゼロは即座に通常状態に戻ってスラッガーをカラータイマーに接続、ゼロツインシュートの
構えを取る。
 ウルトラマンは八つ裂き光輪をそのままゼットンへ飛ばした。ゼットンは爪で光輪を破砕したが、
その直後のわずかな隙を狙って、ゼロとウルトラマンの二大必殺光線がほとばしる!
『せぇあああぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
「ジェアッ!」
 ゼロツインシュートと、虹色に輝くマリンスペシウム光線がEXゼットンに直撃。これを
食らったゼットンは衝撃で宙に浮き上がると、そのまま壮絶な大爆発! 木端微塵になって
消滅した。
「やったぁぁぁ―――――!!」
『やった……!!』
 大喜びの科特隊。才人とゼロも、彼らと全く同じ気持ちだった。
 才人は本の主人公を立てながらも、自分たちで物語を完結に導かなければならない。そう考えて
この世界にやってきた。しかしながら、本の中のウルトラマンと科特隊は彼ら自身の力でハッピー
エンドを迎えた。物語の中でも、地球の歴史の始まりのウルトラマンと防衛チームは偉大だったと
いうことなのだろう。
 EXゼットンを撃破して、ゼロはウルトラマンと向き合った。ウルトラマンが感謝の意を
表すようにうなずくと、ゼロも同じようにうなずいてそれに応じる。
「シェアッ!!」
 そして二人は天高く飛び立ち、地上から飛び去っていく。
 ――その様子を、ピョンピョン飛び跳ねて見送る赤い影。
「ホアーッ!」
 ピグモンだ。岩雪崩に潰れそうになったその時、ゼロは一瞬ルナミラクルゼロに変身して
ピグモンにエナジーシールドを照射していたのだ。それが盾となって、ピグモンの命をつないだ
のであった。
 ゼロは上空から守った命に手を振ると、ウルトラマンに見送られながらこの地球から飛び
去っていったのだった……。

 ――『甦れ!ウルトラマン』が無事に完結を迎え、才人は現実世界に帰ってきた。
「オカエリー!」
「どうやら、無事に一冊目の本を完結させられたようですね」
 才人の帰還を迎えたのはガラQとリーヴル、それからタバサとシルフィードとハネジロー。
皆才人を待っていてくれていたようだ。
 しかし才人が真っ先にやったのは、ルイズの容態の確認だった。

377ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:15:29 ID:ezGi563k
「ルイズは!? 目を覚ましたか!?」
 バッとベッドの方へ向かったが、ルイズは未だに眠ったままで、良くなっている様子は
傍目からは見られなかった。
 落胆する才人にリーヴルが告げた。
「ルイズさんに精神力の一部が戻ったのは確認できました。しかしやはり、六分の一が戻った
だけでは目に見えた変化はないようです」
「そうか……。なら次の本の完結を……!」
 と言いかけた才人だったが、振り向いた途端にふらついて倒れそうになった。
「うッ……」
 それを慌てて支えるタバサとシルフィード。
「無茶なのね! あなたも大分疲れてるみたいなのね。本を終わらせるの、大変だったんでしょ?」
 シルフィードの言う通りだ。戦いに戦いを重ね、最後はEXゼットンとのバトル。これで
消耗しないはずがない。
「くッ……一冊終わらせただけでこんな調子で、ルイズを助けられるのか……」
 焦燥する才人にタバサが忠告。
「焦ってもしょうがない。無理は禁物」
「お姉さまの言う通りなのね。あなたが倒れちゃったら、桃髪の子だって永遠に助からないのね」
 シルフィードたちの意見にリーヴルも賛同した。
「今日はもうお休みになって、続きは明日からにした方がいいでしょう」
「そうだな……。そうしよう」
 才人は逸る気持ちを抑えて、ふぅ……とため息を吐いて肩の力を抜いた。
 そのままどっかと椅子に腰を下ろすと、タバサが告げる。
「わたしたちは一旦学院に戻る。必要なものがあったら取ってくる」
「ありがとう、タバサ。それじゃお願いするよ……」
 疲弊し切っている才人はタバサの厚意に甘え、ルイズが目覚めた時のための着替えなどの
生活用品を頼んだ。
「お任せなのねー! それじゃお姉さま、行きましょう」
「ん……」
 頭にハネジローを乗っけてシルフィードが退室していこうとする。その後に続くタバサだが、
ふとリーヴルを一瞥して、一瞬だけ訝しむように目を細めた――。

378ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/25(日) 21:18:10 ID:ezGi563k
以上です。
イデ隊員は最初の防衛なのに発明家キャラとして完成されすぎじゃないかっていう。

379名無しさん:2016/12/25(日) 21:55:03 ID:zUlzktx6
イデ隊員はアライソ班長いわく、存在そのものがメテオールだから……

このスタミナカプセル、ペンシル爆弾と間違えたら大変ですよね。

380ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/26(月) 22:18:39 ID:OzXY/cEk
こんばんは、焼き鮭です。今年最後に、短いですが幕間を投下します。
開始は22:22からで。

381ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/26(月) 22:22:04 ID:OzXY/cEk
ウルトラマンゼロの使い魔
幕間その九「学院の仲間たち」
岩石怪獣サドラ 登場

 王立図書館の幽霊騒動の解決をアンリエッタから頼まれたルイズと才人。何のことはない
事件だろうと思っていたのだが、ルイズが突如として倒れて目を覚まさなくなってしまう! 
司書のリーヴルの語ることには、ルイズは自らの完結を望む、魔力を持った『古き本』の中に
精神を捕らわれてしまったというのだ。才人はルイズを救うため、『古き本』の中へ旅立つ
ことを決意する。
 だが六冊の『古き本』はどれも、ウルトラ戦士の戦いを題材とした作品だった。才人とゼロは
一冊目『甦れ!ウルトラマン』だけでも、その中に現れた怪獣軍団とEXゼットンに大苦戦。辛くも
完結させることは出来たが、ひどく消耗したために連続して本の世界に入り込むことは不可能だった。
 才人が身体を休めている間、彼を支援するタバサは一旦魔法学院に戻っていた……。

「な、何だってー!? ルイズがそんなことになっちまったのか!?」
 学院の寮塔の、ルイズの部屋。タバサとシルフィードは荷物を取りに来たとともに、ゼロの
秘密を共有する仲間、ウルティメイトフォースゼロの三人とシエスタ、キュルケに、ルイズたちの
身に降りかかっている事態を打ち明けた。
 ちゃぶ台を囲みながら大仰に驚いたグレンに、シルフィードが首肯する。
「そうなのね。それでゼロとあの男の子が、本の中に入って『古き本』っていうのを終わらせてる
ところなのね」
「ルイズとサイトったら、よくよく厄介事に巻き込まれるわねぇ……」
 キュルケが頬に手を当ててため息を吐いた。シエスタはルイズたちの身を案じて目を伏せた。
「ミス・ヴァリエールはもちろんですが、サイトさんも大丈夫なのでしょうか……。『古き本』と
いうものを完結させるのは、相当大変なようですし……」
『うむ……どうにか手助けしたいところだが、さすがに本の中の世界では手出しのしようがないぞ……』
 参ったようにうなるジャンボット。如何に超人の集まりのウルティメイトフォースゼロと
いえども、本の中に入る術は持ち合わせていないのだ。
「ミラーナイト、お前はどうにか出来ねぇのかよ。二次元人とのハーフだろ?」
「残念ながら、無理です。正確には鏡面世界の人間ですので、鏡の中には入れても、さすがに
本の中というのは……」
 グレンが聞いたが、ミラーはそう答えたのだった。
「本の中に入る術を扱えるのは、そのリーヴルさんという人のみ。その方が、一人だけしか
本の中へ送れないと言うのでしたら、歯がゆいですが私たちには見守ることしか……」
 とミラーが言った時、何かを思案したキュルケが意見した。
「そのリーヴルって人、全面的に信用していいのかしら?」
「どういうことなのね?」
 シルフィードが聞き返すと、キュルケは己の考えを口にする。
「だって、始まりはほんの些細な幽霊の目撃談だったんでしょ? それまではたったそれだけの
ことだったのに、ルイズたちが図書館を調べ出してからいきなりそんな大事に発展するなんて。
ちょっと話が出来過ぎてるんじゃないかしら?」
『確かに……。事態が急変しすぎてるように思えるな』
 ジャンボットが同意を示した。タバサもまた、口には出さないものの内心ではキュルケと
同様の考えと、リーヴルへのかすかな疑念も抱いているのであった。
 『古き本』の視点から考慮してみれば、“虚無”の力を持った人間が図書館にやってくると
いうことなど事前に分かる訳がないはず。だからそれ以前に違う人間の魔力が狙われても
よさそうなものなのに、ルイズが最初の被害者になったというのはただの偶然だろうか。
 それにタバサは、才人が一冊目の本を攻略している間、図書館に来館した人たちを当たって
情報収集をしたのだが、誰も図書館で幽霊が目撃されたという話を知らなかった。では、何故
幽霊の目撃談などが王宮に上がったのだろうか?
「……幽霊の件を報告したのも、リーヴルさんという話でしたね……」
 ミラーが腕を組んで考え込んだのを見て、ジャンボットが尋ねかける。

382ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/26(月) 22:24:26 ID:OzXY/cEk
『ミラーナイト。お前は一連の事態を、リーヴルという人物が仕組んだものだと考えている
のではないか?』
「何!? そいつは本当か!?」
「サイトさんたちは、罠に掛けられたと!?」
 グレンとシエスタが過敏に反応したので、ミラーは二人をなだめた。
「落ち着いて下さい、何もそこまで言うつもりはありません。ただ……この一連の事態、
偶然が重なったとするよりは、何者かの意思が働いてると考える方が自然ではないかと
いうだけです。今のところ、その候補に挙がるのはリーヴルさんですが、まだ彼女がそう
だと決定する明確な根拠もありません」
『要するに、判断材料がまだ足りないということか』
「ええ。……ともかく今は、リーヴルさんの手を借りて本の世界を攻略していく以外に手段は
ありませんね」
 結論づけたミラーは、タバサに向き直って託した。
「タバサさん、引き続きサイトとゼロを支援してあげて下さい。それと、リーヴルさんは
きっと何か、あなた方に話していないことがあると思われます。彼女の動向にも目を光らせて
下さい」
「分かった」
「シルフィたちにお任せなのね!」
「パム!」
 タバサたちが返事をした後で、シエスタが名乗り出る。
「わたしも図書館に行きます! わたしはサイトさんの専属メイドです。身の回りのお世話なら
わたしの仕事です。それに……ミス・ヴァリエールの介護をする人も必要でしょうし……」
 いつもルイズと才人を巡った恋の鞘当てを展開しているシエスタだが、今回は本心でルイズの
ことを心配して申し出た。ルイズとは立場を越えた心の友でもあるのだ。
「ではシエスタさんにもお願いします。そして私たちは……」
 ミラーが言いかけたところで、ジャンボットが鋭い声を発した。
『ミラーナイト、グレンファイヤー! トリステイン西部の山岳地帯から怪獣の群れが出現し、
人里に接近している! すぐに出動だ!』
「分かりました!」
「よぉっし! すぐに行くぜッ!」
 ミラーとグレンはすぐに立ち上がり、姿見の前に並ぶ。二人にシエスタとキュルケが応援した。
「頑張って下さい! このトリステインの人たちのこと、お願いします!」
「ゼロが動けない分も頼んだわね!」
「ええ、お任せを」
「すぐに片をつけてくるぜ!」
 ミラーとグレンは姿見から鏡の世界のルートを通り、怪獣出現の現場へと急行していった。

「キョオオオオォォォォ!」
 トリステインの山岳地から現れ、人間の村に向かって進行しているのは十数体もの怪獣の群れ。
全身が蛇腹状の身体に、両腕の先はハサミとなっている。岩石怪獣サドラだ。
 そのサドラの群れの進行方向に、ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーが空から
降り立って立ちはだかった。
『これが私たちの役目。ゼロがルイズを救出している間、私たちでハルケギニアを防衛します!』
『怪獣たちよ、ここから先へは行かせんぞ!』
『どっからでも掛かってこいやぁ! 今日の俺たちは、一段と燃えてるぜぇッ!』
 戦意にたぎる三人を前にしてサドラの群れは一瞬ひるんだものの、すぐに彼らに牙を剥いて
突貫していった。
「キョオオオオォォォォ!」
『よし、行くぞッ!』
 迫り来る怪獣の群れを、ゼロの仲間たちは勇み立って迎え撃ったのだった。

383ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/26(月) 22:25:14 ID:OzXY/cEk
今年はこれで終いです。
ではどうか良いお年を。

384ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:44:14 ID:UgHbZZAM
焼き鮭さん、今年最後の投稿おつかれさまでした。
来年もよろしくおねがいします。

さて、今晩は。無重力巫女さんの人です。
何も無ければ22時48分に78話の投稿を開始します。

385ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:49:26 ID:UgHbZZAM

 ルイズは生まれてこの方十六年、これ程厄介なサプライズを体験したことは無かった。
 自分や姉、そして家族の誕生日会などでは、嬉しくも恥ずかしいと感じたサプライズなイベントを経験してきている。
 サーカスの一座が芸を見せてくれたり、御呼ばれされた手品師が誕生日プレゼントを消したり増やしてくれたりと、その方法も様々…
 時には恥ずかしい思いをしたし、嬉しいと感じた事もあった。今となっては、絵画にして額縁に飾っておきたい思い出達。
 
 けれども、今この場で―――最前線と化したタルブ村の外れで体験したサプライズは、ルイズにとって厄介であった。
 それ自体は決して迷惑ではない。何せ、過程はどうあれ結果的には思わぬ助太刀になったのだから。
 問題はそのサプライズを送ってきた四人の男女の内の一人で、恐らく残りの三人をここまで引っ張ってきたであろゔ厄介゙な隣人。
 出身地も、入学した魔法学院の寮室も隣同士という全く嬉しくない数奇な縁で結ばれている褐色肌に燃えるような赤い髪のゲルマニアの少女。

 ――――そして、今この場にいる事などあり得ない筈の彼女が姿を現した。
 連れてきた三人のうち、最も親しく背の小さい親友の使い魔である風竜のシルフィードの背に乗ってやってきたのである。


 ルイズ、霊夢、魔理沙の三人とデルフの一本にとって、それは突然の出来事であった。
 森から出てきて自分たち三人に攻撃をしようとしたキメラが、空から降ってきた青銅のワルキューレに押し潰されたのである。
 まるで薄い鉄細工の様に潰れたキメラの哀れな姿と、落ちてきたにも関わらず目立った傷が無い青銅のワルキューレ。
 ルイズは勿論、やる気満々であった魔理沙や霊夢もこれには意表を突かれ、思わず何が起こったのか理解する事ができなかった。
 そしてルイズがそのワルキューレの正体に気が付いた時、満を持して彼女は上空から現れたのである。

「キュルケ!どうしてアンタがここに…!?」
「こんばんはルイズ。てっきりギーシュのゴーレムで大変な事になってたと思ったけど…とんだサプライズになってくれたわねェ」
 シルフィールドの背の上に立ってこちらを見下ろしているキュルケは、笑顔を浮かべてルイズたちに手を振っている。
 その隣には彼女の親友であるタバサも降り、自分の使い魔である幼い風竜の耳元(?)に顔を近づけて、何かを喋っているのが見えた。 
 霊夢と魔理沙の二人もルイズに続いてキュルケ達の存在に気づき、目を丸くしながらも声を上げていた。
「ちょっと、ちょっと…あれってキュルケとタバサじゃないの…?何でここにあの二人が来てるのよ」
「おぉ本当だ!コイツは嬉しいねェ、援軍にしてはちょっと遅い気もするがな」
「――〜ッ!そんなワケ無いでしょうがッ!!――――って、ちょっと!何降下してきてるのよ!?」
 これまであの二人―――正確にはキュルケに色々と絡まれていた霊夢は鬱陶しい相手を見るかのような目つきで彼女たちを睨む一方で、
 魔理沙は何を勘違いしているのか、嬉しそうな声色でシルフィールドの上にいる少女達を見上げている。
 一方のルイズはそんな黒白に怒鳴ろうとしたが、ゆっくりと地面へ降りていくシルフィールドに気づいてそちらの方にも怒鳴り声を上げた。。

 どうやら先ほどタバサが指示したらしく、ルイズの怒鳴り声に怯むことなく風竜は三人から少し離れた場所へと降下していく。
 結果、十秒と経たずに着地したシルフィードの背からタバサとキュルケの二人がバッと飛び降り、そのまま軽やかに地面へと降り立った。
 流石にここまで来ると事情を聞かずにはいられないのか、ルイズは二人の名を呼びながら近づいていく。
「キュルケ!タバサ!」
「はろろ〜ん、ルイズ!こんとな所で会うなんて奇遇じゃないの?」
「今は夜」
 学院指定のブラウス越しでも分かる程大きな胸を揺らして着地したキュルケは、またもや手を上げてルイズに二度目の挨拶をする。
 そこへすかさずタバサが短く、的確な突っ込みを入れると、更にもう二人分の声がシルフィールドの背の上から聞こえてきた。
「す、凄い!僕のワルキューレが…何だか良く分からないモノを倒してるぞ…!」
「どう見てもただの事故に見えるんだけど…って、本当に降りる気なの?アタシは嫌よ!?」
 声色からしてキザなうえに自己陶酔的な雰囲気を放つ少年の声に、キュルケやタバサとも違う何処か神経質的な少女の声。
 その声に酷く聞き覚えのあったルイズはすかさずキュルケ達の後ろにいるシルフィードへと、視線を向ける。
 案の定青い風竜の背中から身を乗り出していたのは、『青銅』のギーシュと『香水』のモンモランシーの二人であった。

386ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:51:05 ID:UgHbZZAM
「んぅ?おぉ、ルイズじゃないか!一体こんなところで何をやっているんだね!」
「『こんな所で何をやっているか』何て…それって私達も同じような立場に置かれてるわよね?」
 先ほど青銅のワルキューレを空から落としたであろう少年は先程のキュルケと同じように手を振って、ルイズに挨拶している。
 彼の隣にいる金髪ロールが眩しいモンモランシーは周りの異様さに気が付いているのか、恐怖を押し殺したような表情を浮かべていた。

「……これは一体どういう事なんだ?というか、何でタバサやキュルケ達がこんな所へ来てるんだよ」
 流石の魔理沙と霊夢も、ギーシュやモンモランシーまで来たところを見て怪訝な表情を見せる。
 そして、本当なら全くの無関係であろう彼女たちがこんな危険な場所まで来ている事に疑問を抱かざるを得なかった。
「さぁ?私にもさっぱり分からないわ。ただ…何となく面倒くさい予感はするけど」
 黒白の言葉に対しての答えではないが、同じく何が何だか分からない霊夢も肩を竦めつつやれやれと言いたそうに首を横に振る。
『やれやれ。お前さんたち、今日は本当にツイテないようだね〜』
「そういうのは言わなくていいわよ。……とにかく、ルイズだけじゃあアレだし私達も話を聞きに行きましょう」
「えぇ〜?私もかぁ?……と言いたいところだが。生憎私も久しぶりに二人と話したいし、ついて行ってやろうじゃないか」
 デルフの嫌味満々な言葉に忌々しく思いながらも、彼女たちの方へと詰め寄っていったルイズの下へ行こうとした。
 只でさえ厄介な状況だというのに、これ以上ややこくしなってしまう前に事情を聞いておかねばならない。
 一方の魔理沙も先ほどまで森をにらんでいた時とは打って変わって軽いノリでそう言うと、クルリと踵を返して霊夢の後ろを歩き出す。

 ――――――この時、二人ば明確な敵゙がいる森に背を向けていた。
 本当ならば魔理沙か霊夢のどちらかがすぐに対応できるよう、森を見張っておく必要があるのである。
 しかし、命を賭けた戦いの経験が薄い魔理沙はそれを怠り、霊夢に関しては即時対応ができる為に背中を見せられる余裕があった。
 初戦ならばまだしも既に戦ったことのある異形の動きを把握している彼女にとって、怖れる相手では無くなっていた。
 相手が人間ならば状況は違っていただろうが、話しの通じぬ異形ならば遠慮なしで屠れる。そう判断していたのである。
 まだまだ体には『ガンダールヴ』の能力を行使した副作用で疲労が残ってはいたが、それ自体がデメリットにはならない。
 だからこそ今の様に敵にを背を向けられる余裕が出来ていたのだが…――――それが却って、危機を呼び込む結果となった。

「……?―――…ッ!?レイム、マリサッ!後ろッ!」
 二人の会話に気付いたルイズが後ろを振り向き、その鳶色の瞳を見開いて叫んだ直後…
 背後から幾つもの枝の折れ、葉が擦れる激しい音に二人は後ろを振り向き、思わず魔理沙は「うわっ!」と驚いた。
 彼女たちの頭上、丁度地上から二〜三メイル程まで飛び上がったキメラ『ラピッド』が三体、獲物を振り上げて森から飛び出してきたのである。
 闇夜に輝く銀色の薄い鎧が煌めき、鋭い刃先を持つ槍を上から突き刺そうとするかのように霊夢と魔理沙に襲い掛かろうとしていた。
「二人とも、伏せてッ!!」
 ルイズは手に持っていたままだった杖をキメラ達へと向けて、間に合わないと知りつつ呪文を詠唱し始めた。
 キュルケやギーシュ、モンモランシーは突然出てきた異形に驚いているのか目を見開いてキメラ達を見つめている。
 魔理沙は魔理沙で迎撃が間に合わないと察したのか、「うぉお…!?」とか叫びながらルイズたちの方へと倒れ込もうとしていた。

 しかし、あらかじめこうなると予想のついていた霊夢は手に持ったままであったスペルカードをスッと頭上に掲げて見せる。
 まるで興味のないパーティーで催されたビンゴ大会で、一番早くに上がった自分のカードを掲げるかのように、
 大したことではないと言いたげな余裕と傲慢さでもって、スペルカードの宣言と共にキメラ達を始末する――――筈であった。

387ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:53:28 ID:UgHbZZAM

「…霊符『夢想妙じ―――――」
「―――――ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」
 だがしかし、彼女がスペルを宣言するよりも早くに一つの呪文を詠唱し終えた少女がいた。
 まるで湖の底の様に暗く静かで、氷の様に冷たい声色を持つ少女の声に霊夢の気だるげなスペル宣言が止まってしまう。
 ここでスペルカードを宣言しなければ間違いなく彼女はキメラの持つ武器の餌食になってしまうが、それはあり得ない未来となってしまった。

 何故ならば、背後から風を切る物凄い音と共に三本の『氷の矢』が彼女の真横を通り過ぎ、
 霊夢と魔理沙を襲おうとしていたキメラ達の胴にブチ当たり、勢いよく森の方へと吹き飛ばされていっただから。
「…は?」
「大丈夫?」
 突然の事に何が起こったのかイマイチ把握しきれていない霊夢の背中に、先ほどの呪文を唱えた少女が声を掛けてくる。
 後ろを振り向くと、目を丸くして唖然としているキュルケの横にいたタバサが杖を掲げていた。
 自分の身長より大きな杖の先は、先ほど放った『ウインディ・アイシクル』の余韻なのか白い冷気を放出している。

「まさか、アンタが助けてくれたの?」
 思わず口から出してしまった霊夢の質問に、タバサはコクリと頷く。
 眼鏡越しに見えるやる気の無さそうな目や顔の表情とは裏腹に、杖を向けて呪文の詠唱と発動は驚くほど早かった。
 キュルケやルイズなんかの同年代の子たちと比べれば、明らかに゙何か゛が違っているような気がする。
 最も、今の霊夢にはそれが何なのかまだ分からなかったが。

 伏せて避けようとしていた魔理沙も状況が変わったのを知ってか、顔を上げるとタバサに向かってニヤリと微笑んだ。
「へへ、わりぃなタバサ。また返す気の無い借りを一つ作っちまったな」
「別に気にしないでいい」
「いや、そこは怒るところなんじゃ…っていうか、アレは一体何なのよ!あの化け物たちは!」
 二人のやりとりを聞いて思わず突っ込もうとしたモンモランシーが、ふと先ほどのキメラ達を思い出して叫ぶ。
 少なくとも彼女の記憶の中では、あの様な亜人や幻獣などを図鑑やホントなどで目にした記憶は無かった。
「う〜む…どうなんだろう。少なくとも動作から見て、ゴーレムやガーゴイルの類では無いと思うけど…」
 一番傍にいたギーシュはそんな事を言いながら、先ほどタバサの『ウインディ・アイシクル』で吹き飛んだキメラ達の様子を思い出した。
 頑丈にしたガーゴイルやゴーレムならばあの程度の魔法などでは、吹き飛んで行ってもまたすぐに起き上がってきているに違いない。
 けれども先ほど森の中へ戻されていった三匹は一向に戻ってこないし、あの動きでゴーレムの類と言われても信じないだろう。

 そんな風にしてギーシュとモンモランシーが、先ほどの化け物達に関する場違いな考察に入ろうとした時…、
 彼らよりも前にいたキュルケが二人の間に割りこけ様なかたちで、声を掛けてきた。
「二人とも、そんなに悩まなくたってここに証人がいるじゃないの」
 そうよね、ルイズ?最後にそう付け加えて、キュルケは目の前にいる桃色髪の少女へと緯線を向ける。
 既に赤い髪の同級生に視線を向けていたルイズは彼女の目を睨み付けると、いかにも言いたく無さそうな渋い顔つきになった。
 まぁ無理もないだろう。何せ自分たちは恐らく彼女たちだけの問題に、わざわざ首を突っ込んできたのだから。
 しかしキュルケはその事を理解したうえで、敢えて首を突っ込んでやろうという意気込みを持っていた。
 一応親友としてついてきてくれたタバサはともかく、彼女の企みに巻き込まれてる形となったギーシュとモンモランシーは違うのだろうが…


「安心しなさいな。別に貴女達の邪魔をしにきたワケじゃないんだから」
 ちっとも安心できないキュルケの言葉に、ルイズは当然ながら「信用できるワケないじゃない」と素っ気なく返す。
「何処からつけて来たのか知らないけど、アンタ達には今回の事は関係ないわよ」
「知ってるわ。でも私は最近の貴女と傍にいる二人の事が気になるから、ここまで来てあげたのよ?」
 静かに憤るルイズの事など露知らずに、今にもしな垂れかかりそうなキュルケの物言いにその二人―――霊夢と魔理沙が顔を向けた。

388ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:55:09 ID:UgHbZZAM
「私達の事、ですって?」
「お、何だ何だ。もしかして、私の直筆サインを杖に書いて貰いたいとかかな?」
「それは有難くお断りさせて頂くわ。…まぁ、貴女達の゙正体゙を知りたくてここまで来たってのは、先に言っておきましょうか」
 魔理沙のサインをハッキリと断りながらも、キュルケは笑顔を浮かべたまま二人にそう言い放った。

 瞬間、それまでキュルケを見つめていたルイズと霊夢、そして魔理沙の三人は思わずその目を丸くしてしまう。
「ふふ、その表情。…何か隠し持ってそうね?」
 三人の変化を間近で目にしたキュルケは上手く行ったと言いたげな言葉と共に、クスリと微笑んだ。
 表情こそはいつもの彼女が浮かべているような、どこか人を小ばかにした艶めかしさが垣間見える笑顔である。
 しかし細めたその目は一切笑っておらず、刺すような視線が霊夢と魔理沙の二人をじっと睨みつけていた。

「!………それって、一体どういう意味なのかしら?」
「そう睨まなくても良いんじゃないの?この前のトリスタニアで、散々変なところを見せてくれたっていうのに…そうよね?」
「あぁ、まぁそうだな。そういやあの時に色々見られてたモンなぁ〜…ははッ」
 意味深に睨み付けてくる霊夢の言葉にそう返すと、今度は彼女の隣にいる魔理沙の方へと話を振る。
 先に話しかけた巫女さんとは違い、黒白の魔法使いはトリスタニアの旧市街地で起きた出来事を思い出して呟くが、その目線は自然と横へと逸れていく。
 タバサとモンモランシー、それにギーシュもその事は事前にキュルケから聞いていたので、然程驚きはしなかった。
 しかし、そこへ待ったを掛けるようにして慌てた様子を見せるルイズが割り込んできた。

「ちょ…ちょっとキュルケ!アンタねぇ、そんな下らない事に為にこんな危険な場所まで来たって言うの…!?」
「下らない事なんかじゃあないわよ、ヴァリエール。少なくとも私にとってはね?」
 霊夢達と自分の間に入ってきたルイズの言葉に嫌悪な雰囲気を感じつつ、それでもキュルケはその口を止めはしない。
 まるで彼女の暴発を誘うかのように、得意気な表情を浮かべてペラペラとお喋りを続けていく。

「貴女とレイム、それにそこの黒白が怪しいのは前々からだったし、この前のトリスタニアでは色々と見せてくれたじゃないの。
 それに…私だけじゃない。タバサにモンモランシー…それにギーシュだって、みんな貴女が召喚した巫女さんと居候の事を怪しんでるわ。
 学院長とミスタ・コルベール辺りは何かを知っていそうですけれど、私は直接貴方の口から聞きたいのよヴァリエール…。分かるでしょう?」

 後ろにいるタバサたちを見やりながら喋り終えたキュルケに、ルイズは渋い顔をしてしばし考え込む様な素振りを見せ……首を横に振った。
「…悪いけど、今は教えられないわ。今は、ね?」
 彼女の意味深な言い方にふとキュルケは前方にある森の方へと視線を向け、あぁ…と頷く。
 確かに彼女の言うとおりであろう。今このような状況で、悠長に話をしている場合ではないのは流石のキュルケでも察する事ができた。
「ま、まさか…あんなのが二体三体もいるってワケなの…?何なのよコイツラ…」
「まだ良く分からない事が多いけど、戦わないと駄目なんじゃないかなぁ?…多分」
 モンモランシーやギーシュは慌てて杖を手に取り、霊夢と魔理沙の二人も森の方へと視線を向けて再び臨戦体勢へと移っている。
 タバサはタバサで片手持ちであった節くれだった杖を両手で持ち、呪文を詠唱し始めていた。
 シルフィードもその頭を持ち上げて、森の方にいるであろゔ敵゙に歯をむき出しにして唸り始めている。
「そうよねぇ…。あんな得体の知れない怪物に命を狙われてる中で、長々と説明しているヒマはないんですものね」
 キュルケも腰に差していたルイズのそれより細く華奢な造りをした杖を手に持ち、その先で風を切りながら森の方へと向ける。
「そういう事。少なくとも、詳しいことはコイツラを倒した後でね」
 やる気満々と言わんばかりのキュルケにそう言った後、ルイズは一人小さなため息をつく。

「まあ遅かれ早かれバレるとは思っていたけど、まさかアンタの他にも三人いたとは思わなかったわ…」
 残念そうな表情でそう言いながらも、手に持っていた杖を再び森の方から現れようとする敵に突きつける。
 計七人と一匹、そして一本という少数戦力に対し、相手は少なく見積もって計五、六体の異形達。

389ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:57:04 ID:UgHbZZAM

『へへッ、何だ何だ?険悪ムードから一転して、共闘とは心が弾むねェ』
「少なくとも、私はまだまだ険悪なままなんですけどね?」
 一触即発な空気の中、空気を読まないデルフに霊夢が軽く起こった瞬間―――――
 それを合図にして、森の中からキメラ『ラピッド』達が数体纏めて飛びかかってきた。



「――――゙試験投入゙開始から、早くも十時間越えたな…」
 船特有の揺れで、唯一の灯りであるカンテラの灯りに当たりながら学者貴族の青年クレマンは一人呟いた。
 ハルケギニアでやや珍しい茶髪にゲルマニア出身の母から受け継いだ褐色肌が、カンテラの灯りに照らされて黒く輝いている。
 彼は手に持った懐中時計で時間を確認した後、それを懐にしまいこむと思わず止まっていた書類仕事を再開し始める。
 今、この船の中―――特に今いる部屋の中は、驚くほどに静かである。今、地上で行われている事と比べて…

 そんな事を考えながらペンを走らせていた彼は、突然ドアの方から聞こえてきたノック音でその手を止めてしまう。
「おーい、紅茶淹れてきてやったぞ。両手塞がってるから、そっちから開けてくれぇ」
 木で出来たドアを軽く蹴る音と共に、外の風を吸いに出ていた同僚であるコームの声がドア越しに聞こえてくる。
「おぉそうか。じゃあちょっと待っててくれ、すぐ開ける」
 時折不安定な揺れ方をする船内の中で書類と悪戦苦闘していたクレマンは一言返してから、ここ数時間座りっぱなしであった椅子から腰を上げた。
 それから大きな欠伸と共に背伸びをしてから、しっかりと作られた板張りの床を靴音で鳴らしつつ部屋の出入り口をサッと開ける。

 開けた先にいたのは、いかにもマジメ君という風貌をした緑髪に眼鏡を掛けた青年の貴族が立っていた。
 彼が両手に持つ皿の上には、熱々の紅茶が入ったマグカップが二つに五、六切れのハムサンドウィッチを乗せた皿が乗っていた。
「サンキューなクレマン。…紅茶を淹れてくるついでにサンドウィッチも貰ってきたから、ここらで休憩といこうや」
「そりゃあいい。この゙試験投入゙が始まってからひっきりなしに報告書と戦ってたしな、バチは当たらんだろ」
 意味深な単語を口から出しつつもクレマンはコームの持ってきてくれたサンドウィッチを一切れ手に取り、勢いよく齧る。
 しっとりと柔らかく、小麦の風味が出ているパンと、それに挟まれているハムとトマトにマヨネーズという具が舌を優しく刺激してくる。
 
 口の中に広がる暫しの幸福を堪能しつつ、しっかりと咀嚼してから飲み込んだクレマンは満足そうなため息をついた。
「ふぅ…!流石最新鋭の艦だけあるな。こんな夜食程度のサンドウィッチでも、中々どうして美味いとはな」
「空海軍じゃあこんなサンドウィッチでも、食べられるのは士官様ぐらいなもんらしいぜ?」
 クレマンの言葉に続くようにしてコームが言うと、彼は持っていたトレイを部屋の中央にあるテーブルへ置いた。
 それから紅茶の入ったマグカップを一つ手に取ると、息を吹きかけてから慎重に飲み始めている。
 クレマンも彼に倣ってカップの取っ手を掴み、湯気の立つそれに優しく息を吹きかけていく。

 そんなこんなで、男同士の慎ましやかな深夜のお茶会を堪能しているとふとコームがポツリと呟いた。
「ほぉ…!それにしても、サン・マロンの幹部方は、随分大胆な事をし始めたもんだな」
「全くだな。新作の『ラピッド』のお披露目ついでとか言って、よりにもよってあのレコン・キスタに貸し出すとは考えてもいなかったぜ」
 若い世代の貴族らしい砕けた喋り方で会話をする光景を歳を取った貴族が見たのならば、思わずその顔を顰めてしまうであろう。
 しかし、平民が使うような喋り方を彼らは躊躇なく使っているものの、その口調とは別に中身はちゃんとした学者の卵である。
 正規の試験と面接を受けて、晴れてガリア王国のサン・マロン―――通称『実験農場』研究として選ばれた身でもあるのだ。


 そんな彼らが今いる場所は、その『実験農場』が所有している最新鋭の試験用小型輸送艦―――通称『鳥かご』の中にある一室。
 ガリア陸軍の新基準として艦隊戦ではなく地上戦力の空中輸送と偵察に特化した、この時代ではまだ変わり種と言える船である。
 今この船は『実験農場』の上層部からの命令で、『新型キメラの実戦テストを兼ねた試験投入』の為にトリステインのラ・ロシェールへと派遣されていた。

390ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 22:59:03 ID:UgHbZZAM

 船員及び駆り出された研究員たちは『実験農場』特別顧問である゙女性゙からの命令を受け、トリステイン軍に対しキメラによる攻撃を実地している。
 その為現在トリステインに侵攻しているレコン・キスタの艦隊に手を貸している状態なのであるが、それを気に留める者は殆どいなかった。
 船そのものはアルビオンの艦隊から大きく離れた場所に隠してあるし、この計画の事をしっている者はアルビオン側は指で数える程度。
 当然トリステイン王国も、まさかお隣の大国であるガリア王国の研究機関が、自分たちを攻撃しているなどと夢にも思っていないであろう。
 
「しっかし、トリステイン側もエラく粘ってるなぁ。日が落ちるまでこっちが持ってきた戦力の三分の一を片付けてるんだからさぁ」
「最初のパニックはラ・ロシェールまで続いたが、タルブ辺りで態勢を整えられたのが原因だろう。トリステインはああ見えても精鋭揃いだしな」
 熱い紅茶をゆっくりと啜りながら、コームは同僚が見ていた報告書を一枚手に取って満足げな表情を浮かべている。
 船外へ出ている゙偵察員゙による報告は、キメラのみの戦力投入によるトリステイン側とキメラ側の被害状況を淡々と綴られていた。
 最初の投入地点であるトリステイン軍側の砲兵陣地で起こったパニックが、ラ・ロシェールにいる駐屯軍にまで波及した事。
 しかし、タルブ村で態勢を整えられてしまいその結果にキメラ側がそこそこの被害を被ってしまったものの、何とか占領できた事。
 他にも、現在ラ・ロシェール周辺に複数潜伏している偵察員たちが、リアルタイムで報告書を送ってきているのだ。

 その報告書を確認し、まとめる役割を務めていたのがクレマンであった。
 彼自身の気持ちとしては研究に参加しその完成と量産決定の決議を見届けていた身として、キメラの活躍報告が届けられるのは素直に嬉しかった。
 しかし、書類仕事の専門家ではなかった彼にとって膨大な数のソレを相手にするのには、まだまだ経験が足りなかったようである。
「自分たちの研究成果が活躍してくれるのは嬉しいけど、こう報告書の数が多いとな…―――ん?」
 クレマンはそんな愚痴をボヤキながら、二つ目のサンドイッチにかぶりつこうとした時であった。

 ふと、丁度部屋の真上にある甲板が騒がしくなってきたのに気が付き、コームと共に天井を見上げてしまう。
 薄暗い天井から漏れる声は複数人あり、声から察して甲板で観測任務についていた船員たちであろう。
 その船員たちが何を言っているのかまでは分からなかったが、何やらタダ事ではないという事だけは分かった。


「何だろう?甲板が妙に騒がしいな…」
「確かに。…ひょっとして、何か地上で大きな動きがあったのかも」 
 不思議そうな表情で天井を見つめていたコームがそう言った直後、ドアの外から何人もの足音が通りすぎていった。
 やがてドア越しに幾つもの靴音が通り過ぎていき、それまで静かであった船内が一気に喧騒に包まれていく。
 二人は互いの不思議そうな表情を浮かべる顔を見合わせ、ドアの方へと視線を向けた。

「な、何だ…?」
「分からんが…とにかく、何かあったんだろう。ちょっと見てくるわ――――…って、うおッ!?」
 首を傾げるクレマンに向けてそう言い、席を立ったコームがドアを開けようとした時、
 物凄い勢いで開いたドアが彼の鼻頭を掠め、思わず後ずさろうとしたあまりそのまま背中から倒れて床に尻もちをついてしまう。
 危うく彼の鼻を傷つけようとしたのは同じ『実験農場』に所属する先輩で、ややパーマの掛かった金髪と小太りな体が特長的なオーブリーだった。
 彼は牛乳瓶の底の様な眼鏡がずれてるのにも構わない程慌てた様子で、ドアを開けて最初に見えたクレマンに捲し立ててきた。

「おいクレマン、緊急だ!緊急連絡!特別顧問のシェフィールド殿が試験の終了及び、現空域から撤退しろとの事だ!
 これからすぐに船の発進準備に移る。お前らも地上へ派遣された偵察員への撤退連絡作業に加わるんだ、早くしろ!」

 突然そんな事を捲し立ててきたオーブリーに、クレマンは目を丸くして驚くほかなかった。
 つい一時間ほど前に届いた連絡文には実験の終了や撤退を匂わせるような事は書かれていなかったハズである。、
「え…!?ちょ、ちょっと待って下さい先輩、試験終了ってどういう事ですか!それに―――」
 しかし、困惑する後輩には構っていられなぬ言いたげに彼の前に肉付きの良い右掌を突き出してから、オーブリーは口を開く。
「質問は後で聞く、今は緊急を要する事態だ!もう他の連中も動いてる、お前もそこで倒れてるコームも早く動け」
 頼んだぞ!…最後にそう言ってから、小太りの先輩は踵を返して甲板へと続く廊下を走り去って行った。

391ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:01:04 ID:UgHbZZAM

 いきなりドアを開けて来たかと思えば、物凄い喧騒で捲し立てて去っていった先輩に、二人はただただ聞く事しかできなかった。
 まるで風の様にオーブリーが現れ、消えていった一分後にようやく立ち上がったコームが口を開く。

「な、何だよ…一体、何が起こったっていうんだ?」
「…さぁ?ただ、」
 騒がしくなっていく船内の中で、二人の研究員はついていく事ができないでいた。
 まるで激しい濁流に巻き込まれたかのように、急変した状況に流されるがままとなってしまっている。
 それと同時に、先ほど慌ただしくやって来て去って行った先輩の様子と、周囲の喧騒は絶対に只事ではないという事。

 それだけが何となく分かっているせいで、妙な胸騒ぎだけを感じていた。



「―――――まぁ、私達まで首を突っ込んじゃった貴女たちの今の状況の事は…良く分かったわ」
 先程自分の火で燃やした『ラピッド』の形見とも言える左腕の切傷を睨みながら、キュルケはルイズから聞いた話を理解していた。
 ついさっき、自分に襲い掛かってきた最後の一体を仕留める前にソイツが飛ばしてきた羽根の様な刃でつけられたのである。
 六枚も飛んできて当たったのは幸運にもたった一枚であったが、彼女的には「不覚を取った」と言いたい気持であった。
 幸い傷自体は浅く出血もそんなにしてはいないし、絶対に頼もしいとは言えないが『水』系統の魔法で治療してくれる子がいる。
 薄らと血が流れる傷口を眺めていたキュルケはふと、嫌悪感を隠さぬ顔で地面に転がる異形の躯へと視線を移す。

 彼女の放った『ファイアー・ボール』によって焼き殺されたソイツは、体にまとう銀色の鎧が黒く煤けている。
 口や体のあちこちから黒い煙が立ち上っている所を見るに、恐らく本体まで焼けてしまっているに違いない。
 体の中までは流石に生焼け状態かもしれないが、まず生きていないのは確実であろう。
 他にもキュルケが倒したのを含め、計五体ばかりのキメラ――『ラピッド』達が物言わぬ死体と化していた。
 ある一体は口の中をタバサが放った『ウインディ・アイシクル』が貫かれ、別の一体はルイズの失敗魔法で黒焦げとなっている。
 これら三体のキメラ達の倒され方は、まぁルイズを覗いてメイジが使う魔法での戦い方としてはオーソドックスな方であった。


 しかし、四体目は黒白の自称゙魔法使い゙が魔理沙がその手に持っていた黒い八角形のマジック・アイテムによって倒されている。
 それも普通の倒され方ではなく、『マジックアイテムから出た極太の光線で体の三分の二を失う』という壮絶な最期であった。
 本人にあれが何かと聞いた時は「これが私の魔法だぜ!」と、自分の正体を正直バラしてくれた。
 そして五体目、ルイズの使い魔である霊夢を相手にしたキメラは『手を出す前に消し飛ばされ』ている。
 自分たちが姿を見せる前に戦っていたであろう彼女は、疲れた様子で右手に持った一枚のカードをかざして、一言呟いただけ。

「―――霊符『夢想妙珠』」
 一言。そう、たった一言だけで彼女の周りから色とりどりで大小様々な光る玉が現れたのだ。
 かつて『土くれ』のフーケがゴーレムで襲った時にそれを見ていたキュルケとタバサは、それを目にしていた。
 ギーシュとモンモランシーの二人はそれを見るのが初めてであった為、目を丸くして驚いていた。
 光る玉たちは霊夢の周囲を飛んでいたかと、彼女へ迫ろうとしていたキメラに向かって殺到したのである。
 その後の事を例えるならば――――まるで獲物を仕留めるべく、喰らいつく狼の群れの如し。
 上下左右から迫りくるその光る玉の力によって、キメラは文字通り『手を出す前に消し飛ばされ』たのだ。

392ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:03:06 ID:UgHbZZAM
「前の決闘でも不可思議な事をしてくれたが…。き、君の力は一体何なんだ…?」
 全てが片付いた後、一度彼女と戦ったことのあるギーシュがおそるおそるそんな質問をしていた。
 疲れたと言いたいような大きなため息をついた彼女はゆっくりと後ろを振り返り、視線の先にいた彼へ一言…

「コレ?霊符『夢想妙珠』っていう弾幕よ。中々綺麗でしょ?そんでもって、使い勝手も良いのよ」
 ――――ま、ホーミングの精度が良すぎるのも偶に傷なんだけどね?
 最後にそう付け加えて説明した彼女は、右手に持っていたカード―――『夢想妙珠』のスペルカードをペラペラと振って見せた。
 魔理沙と同じく、彼女もまた自分の正体を隠す気は無かったようである。

 そんな風に先程まで起こっていた戦いの事を思い出していると、すぐ傍でモンモランシーの声が聞こえてきた。 
「―――…ょっと、聞いてる?」
 その声に慌てて横を向くと、自分の真横で杖を片手に持つモンモランシーが少し怒った表情を浮かべて立っていた。
「モンモランシー?どうしたのよ、そんなにいきり立って」
「どうしたのよ、じゃないわよ。こっちは『癒し』の使い過ぎで参ってるっていうのに」 
 恐らくさっきの戦いで傷ついた皆を治療してくれているのだろう。魔法の使い過ぎで少し疲れている様な感じが見えている。
 きっとモンモランシー本人も、ここに来るまで自分の魔法で誰かを治療するという経験は無かったはずである。
「あらごめんなさい、ちょっと考え事を…それで、何?治療してくれるのかしら」
「そうよ…ってちょっと、わざわざ近づけて見せつけないでよ!」
 キュルケはややご立腹な彼女に平謝りしつつも、左腕の切傷をそっ…と自分より背の低い彼女の顔へと近づけた。
 モンモランシーは自分の目の前で見せつけられる生々しい傷を見て、小さな悲鳴を上げて思わず後ろへと下がってしまう。

 しかしまぁ直してもらえるならそれに越したことは無いと、その後は素直にモンモランシーからの治療を施してもらう事となった。
 杖から発せられる青い光がキュルケの腕の傷を癒している最中、ふとモンモランシーはそこらで倒れているキメラたちを見つめている。
「それにしても、コイツら一体何なのよ。私達まで襲ってくるなんて…」
「多分ルイズ達と一緒にいたから、味方だと思って攻撃してきたんじゃないかしら?」
 生まれて初めて見るであろう人とも幻獣ともつかない不気味な姿の怪物を見て、彼女は青ざめた表情を浮かべている。
 モンモランシー本人は先頭に参加しておらず、傍にいたギーシュも彼女と自分を守るのに必死であった。
 とはいっても自分たちが地上へと降りる前に護衛にと出しておいたワルキューレが落ちて、戦いが始まる前に出てきた一体を押しつぶしてくれたので、
 実質的に何もしてないとは言えず、モンモランシーも戦いが終わった後にこうして不慣れながらも手当てをしてくれている。

「全く…何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ…ったく、もう…。―――はい、終わったわよ」
「ちょっと!叩かないでよ――――ってアレ?…痛く、ないわ」
 今日一日起きた出来事を思い出していたモンモランシーは無事治療を終え、元通りに治ったキュルケの腕をトンッと軽く叩いた。
 てっきりそれで塞いだ傷口が痛むかと思ったキュルケであったが、驚いたことに腕の内側から突き刺すような痛みは襲ってこない。


 それはつまり腕に出来た切傷が完全に塞がっている事を意味しており、キュルケは目を丸くしてしまう。
「綺麗に治ってる…。貴女、医者にでもなれるんじゃないの?」
「フン!そうお膳立てしても、アンタが私達を厄介ごとに巻き込んだのには変わらないからね」
「あら、酷いことを言うわね?貴女だって、彼女たちの事は気になってたんでしょう?」
「私はギーシュのついでよ!つ・い・で!!」
 キュルケの賛辞を言われても、モンモランシーは不機嫌な態度を変える事は無かった。

393ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:05:05 ID:UgHbZZAM
 そもそも彼女がルイズとその周りいる紅白の使い魔に、怪しい黒白の居候の事を調べたいと言わなければ、こういう面倒事に巻き込まれはしなかった。
 最初はコソ泥みたいにルイズの部屋を漁っていた時に無理やり誘われ、その次は不便な山中で一日中王宮を監視。
 はたまたその次は、ウィンドボナで執り行われる王女殿下の結婚式についていくであろう彼女たちを尾行――と、思いきや…
 何故かラ・ロシェール方面へと単独へ向かい始めた三人を追って、霧の中シルフィードの背に乗せられて無理やり尾行に付き合わされる。
 挙句の果てには、何故かゴーストタウンならぬゴーストビレッジと化しているタルブ村で、正体不明の怪物に襲われ、
 そして極め付けは、頭上の夜空に悪夢としか思えないような悪名高いアルビオン貴族派の艦隊が、トリステインへ攻めてきている事だ。
「私、多分生まれて初めてここまで不幸な目にあった事がないわよ。…ん?」
 思い出せば思い出すほど碌な目に遭っていないモンモランシーに、キュルケが優しくその肩を叩いた。
 まるで血の滲むような思いで仕事を成し遂げた部下に「お疲れ様」と労う上司がするかのような、そんな方の叩き方。
 夏だというのに夜霧で冷えている右肩に、キュルケの温かな手の温もりにモンモランシーは彼女の方へと顔を向ける。

 視線の先にいたキュルケは笑みを浮かべていた。我が子を褒める母親が浮かべる優しい笑みを。
 いつも浮かべているような人を小馬鹿にする笑みではない事に、モンモランシーは思わず「な、何よ…?」とたじろいでしまう。
 そんなモンモランシーに優しい笑みを向けたまま、キュルケはそっと口を開き…つぶやいた。


「良かったじゃないの?後々歳を取った後に、子供たちに語れる武勇伝が一日に幾つも出来て」
「――――――…アンタって、本当に上等な性格してるわね」
 優しい笑みの内側に、最大限の嘲笑を込めていたキュルケの言葉に、
 モンモランシーは怒りより先に、どこにいても変わらぬ留学生に対して苦笑いを浮かべるしかなかった。


 そんな様子を少し離れた所から不思議そうに見ていたギーシュは、ポツリと言葉を唇の隙間から洩らす。
「…あの二人、髄分長い事話し合っているじゃないか?」
「そうね。もっとも、言ってることばお互い仲良じって感じとは程遠いけどね」
 彼の返事を期待していなかったであろう独り言に、ルイズは先程まで切り傷が出来ていた足を不安げに触っている。
 本当ならば自分で持ってきた水の秘薬を使えば良かったのだろうが、アレはアレで相当傷口に染みる代物である。
 それに対してモンモランシーの魔法なら傷口に痛む事もないので、遠慮なく治療してもらったのだ。
 最も、当の本人にその事を伝えたら…「事あるごとに私を『洪水』とか呼んで小馬鹿にしてる癖に…」と愚痴を聞かされてしまったが…。
 
(だって本当の事じゃないの。洪水並みのお漏らししたって有名な癖に…)
 助けてくれたのは良いもののどこか自分と似たり寄ったりな彼女の事を思いながら、ルイズはとある方向へと視線を向ける。
 その先にいたのは霊夢とデルフ、そして魔理沙とタバサに地に足着けている風竜シルフィードだった。
 タバサとシルフィードに霊夢は先程の戦いは無傷で、魔理沙もまた服に掠った程度で済んでいる。
 キュルケと何やら揉めているモンモランシーと違い、三人と一本と一匹の間に漂う雰囲気は…どこかほんのりとしていた。
 いつ頭上のアルビオン艦隊がこちらに砲塔を向けて来るやも知れぬ状況だというのに、である。

 
「…にしても、お前は良いよな大した怪我がなくて。私だけだぜ?ルイズにあの痛い薬を塗り込まれたのは」
「お生憎様ね。私だってその秘薬が痛いって事は大分前にルイズから教えてもらっているから」
 魔理沙は右手の甲を隠すようにルイズが巻いてくれた包帯を睨みつつ、霊夢に愚痴をこぼしている。
 それに対して霊夢も、疲れているとは思えない様な睨みと笑みを見せて魔理沙に噛み付いていた。

394ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:07:05 ID:UgHbZZAM
 一見…いかにも掴み合いが始まりそうな嫌悪な雰囲気ではあるが、丁度二人の間にいるタバサは全く動じていない。
 まるで丈夫な鉄柵の向こう側から野良犬と野良猫の喧嘩を見つめているかのように、一人の傍観者と化している。
 しかし右腕に抱いている大きな一振りの杖はいつでも使えるようにと、左手の指がしっかりと掴んでいる。
『へへッ、流石レイムだぜ。あんだけ戦いまくって、まだあんな口喧嘩できる余裕があるとはな…なぁ、お前さんもそう思うだろ?』
「きゅいィ〜?」
 その一方で霊夢が一旦地面に置いていたデルフが二人の口喧嘩を眺めながら、面白おかしそうにシルフィードへと話を振る。
 しかし人語はかろうじて通じてもその言葉を喋れぬ風竜のシルフィールドは、ただただ不思議そうに首を傾げるしかなかった。
 霊夢と魔理沙の事を見慣れてしまったルイズも別に二人が仲違いしているワケではないという事を知っているので、動じる事はなかった。
 むしろ相も変わらず元気な二人を見て、まぁまだあんな余裕があるのねぇ…と溜め息をつきたい気持ちで一杯になってしまう。

「な、なぁ…ルイズ?あの二人の口喧嘩、止めないで良いのかい?何だかイヤな事が起きそうな気がするんだが…」
 そんな彼女の耳に、ギーシュの不安げな言葉が入ってくると彼女はそちらの方へと顔を向けて言った。
「あぁ?それなら大丈夫よギーシュ。…あの二人、何か事あるたびにああして言い争う形で話し合ってるから」
「い、いつも…?君、良くそんな二人と一緒にあの狭い部屋で暮らせるもんだねぇ。したくはないけど、感心するよ」
 最後に余計な一言が混ざったギーシュの言葉に、ルイズはどうもと手を軽く上げて返事をしてから、ふと頭上を見上げた。

 ラ・ロシェールとタルブ村の上空。本来ならトリステイン王国の領空内である空を、我が物顔で居座るアルビオン艦隊。
 アルビオン王家を滅ぼしたうえに、あまつさえ今度はトリステイン王家をも滅ぼそうと企んでいる不届き者たちの集まり。
 それだけではあき足らず、おぞましい異形のキメラ達をけしかけて自分の大切な家族の一人まで傷つけようとした。
 かつて『ロイヤル・ソヴリン』号と呼ばれ、今は『レキシントン』号と名付けられている巨大戦艦がゆっくりと動き始めている。
 周囲に大小様々な軍艦を妾達の様に集結させた艦隊は、後十分もすれば自分たちの真下を通過するだろう。
 恐らく、そこからが勝負となるのだ。勝率があるかどうかすら分からないそんな危険な勝負が。

「…さてと、そろそろ準備しとかなきゃダメかしらね?」
 一人そう言って背伸びしたルイズは、腰に戻していた杖を手に取るとまるで演奏指揮者の様に軽く先端を振った。
 その行為そのものに特に意味は無い。だが強いて言えば、それは心の奥底から湧き出てくる゙恐怖心゙の裏返しとでも言えば良いのだろうか。
 やはりというか、なんというか…最終的には上空のアルビオン艦隊を止めなければどうにもならないらしい。
 疲労している霊夢と魔理沙に自分の三人だけで、あれにいざ挑むとなってくると流石に二の足を踏みそうになってしまう。
 だからこそルイズは、自分の今の心境を誤魔化すために杖を振っていた。

「準…備――てっ…。え!?ちょっと待てよ!まさか君たちは本当にあの…あの艦隊と真正面からやり合うつもりかね!?」
 ルイズの言葉と、進行方向の関係上こちらへ近づいてくるアルビオン艦隊を交互に見比べながら、ギーシュは叫んだ。
 彼の叫び声と口から出た言葉に、いがみ合っていたキュルケ達や小休止していた霊夢達の耳にも届いてしまう。
 しかしそんな事お構い無しと言いたげなルイズはギーシュが大声を上げたことを気にもせずに、振っていた杖の動きを止めた。
 ピタッと綺麗に止まった彼女の古い相棒の先端の向く先には、こちらへ近づこうとしている『レキシントン』号。
 個人の力ではどうしようもないような威圧感を漂わせるその軍艦へ、彼女は無言で一方的な宣戦布告を突きつけたのである。

「無謀だルイズ!君のやろうとしている事は、そこら辺の棒きれ一本で腹を空かした火竜と戦うようなものなんだぞ?」
「別にアンタ達に手伝え何て言ってないわよ。元はと言えば私とレイムたちで決めた事だしね」
 必死な顔で゙無謀な行為゙を止めようとするギーシュに向けてそう言うと杖を下ろし、今までずっと肩にかけていた鞄をゆっくりと地面へ下ろしていく。
 持っていく時は軽いと感じたソレも、体の中に疲れが溜まっている所為なのか酷く重たいモノへと変わっている。
 そして自分の体や髪、服と同じくらいに土埃に塗れた鞄が地面から生える雑草たちを押しつぶして地面へと下ろされた。

395ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:09:06 ID:UgHbZZAM
 荷物を降ろした途端、フッと軽くなった肩を揉みながらホッと一息つく。
 その姿を見て先程までキュルケといがみ合っていたモンモランシーが、まるで機嫌の悪い仔犬のように突っかかってきた。
「ちょっとルイズッ!アンタ馬鹿じゃないの!?いくらアンタの使い魔と居候がスゴクたって、艦隊に勝てるワケなんか…」
「勝てる勝てないの問題じゃあないのよモンモランシー。アンタだって私の話聞いてたでしょ?あの艦隊は、このまま王都を滅ぼすつもりなのよ」
「……ッ。そりゃ聞いてたわよ!だけど、だけど…こんなの相手が悪すぎるじゃないの!?」
 彼女が最後まで喋り終える前に自分の言葉でそれを止めてきたルイズに、モンモランシーは突然一択しか選べぬ選択肢を突き付けられた気分に陥ってしまう。

 あのキメラ達との戦いが終わった直後、キュルケ達四人はルイズ達から今起きている状況をある程度教えてもらっていた。
 アルビオンからやってきた親善訪問の艦隊が、突如裏切って迎えに来たトリステイン艦隊を攻撃してきた事。
 攻撃してきたアルビオンの連中はその勢いを借りてあのキメラ達を地上へ放ち、迎え撃とうとしたトリステインの地上軍を蹴散らした事。
 そして偶然にも、自分の一つ上の姉であるカトレアがタルブ村を訪問している最中で、不幸にもアストン伯の屋敷で多くの村人たちと共に立て籠もっている事。
 自分は姉を助ける為に、霊夢と魔理沙は人を襲う異形達を駆逐し、それを操っているアルビオンを倒すためにここへ来た、という事。
 そして最後に…アルビオンの艦隊は夜明けと共にキメラの軍団を率いて前進し、最終的にはトリスタニアを攻め落とそうとしている事を…、
 ルイズは四人に伝えていたのである。
   
 そして今、迫りくる最後にして最大の敵たちをルイズ達三人は戦おうとしているのだ。
 ルイズと同じくトリステイン出身であるギーシュと、モンモランシーは彼女がやろうとしている事にはある程度の理解を示している。
 トリステイン王国の貴族として生まれた以上、母国と王家に害を為す者には断固たる意志を持って戦わなければいけない。
 しかし…未だ学生の身である彼女たちにはやはり頭上に浮かぶ相手はあまりにも大きく、そしてその傲慢さを持てる程の強さを持っている。
 例え彼女―――ルイズが使い魔である霊夢と、居候の魔理沙と共に戦ったとしても勝てる確率は恐らく―――二桁の数字にすらならないだろう。
「ルイズ、悪いことは言わない。僕らじゃあアレは止められない、蟻数匹が暴れ牛に戦いを挑むようなものだ!」
 この時ギーシュは、かつて『ゼロ』と呼んで蔑ろにしていたルイズを思い留まらせようとしていた。
 特に親しい間柄というワケではないが、知り合いである彼女が…一人の女がこれから地獄に片足突っ込もうとしているのだ。
 だがそんなギーシュの説得に対し、ルイズはつまらなさそうに鼻を鳴らして鞄の蓋を止めていたボタンを外している。
「アンタらしくないわねギーシュ?いつものアンタなら、王家の為に喜んで命を差し出そう!って言いそうなのにね…」
「そりゃアンタがそこまで変わったら、流石のギーシュだって止めに入るって事ぐらい分からないのかしら、ヴァリエール?」
 蓋を開けた鞄を漁っていたルイズの言葉に対しそう返したのは、背後のギーシュではない。
 モンモランシーのいる方向から聞こえてきたその声にルイズがスッと顔を上げると、赤い髪と大きな胸を揺らして歩いてくるキュルケの姿が目に映った。

「何があったのかしらないけどねぇ、そうやって格好つけるのはやめなさいヴァリエール」
 顔を上げたルイズに対し、普段とは違う真剣味のある声色と、彼女には似合わぬ真顔で喋るキュルケ。
 いつもとは違うギャップを見せる彼女に、ギーシュとモンモランシーの二人は硬直してしまう。
 ルイズの後ろにいる霊夢達もこれまで見たことのないキュルケの様子に、思わず視線を向ける。
「…キュルケ?」 
 ルイズもルイズでまるで豹変したかのような真顔を見せるライバルに、ルイズは怪訝な表情を浮かべてしまう。
 やがて一分もしないうちに彼女のすぐ傍にまで来たキュルケは、腕を組んだ姿勢のまま淡々と喋り始めた。

「貴女、今自分が何を相手にしようとしているのか…分かっているの?」
「…貴女に言われなくても、分かってるわよ。今から私が、とんでもなく馬鹿な事をしでかそうしている事ぐらい」
「なら下手に言わなくても良いわね。でも、そこまで理解しておいて何で抗おうとするのかしら?」
 キュルケは右手の握り拳から親指を一本立てて、背後の『レキシントン号』をその親指で素早く指さした。
 ルイズが鞄を降ろす前よりも少しだけ近くなったその巨大戦艦へとルイズが視線を向ける前に、それを遮るようにしてキュルケが質問する。

396ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:11:04 ID:UgHbZZAM
「答えて頂戴ヴァリエール。―――――大方そこの怪しい二人に、何か言われたんでしょう」
「おいおい…!ちょっと待てよ。それは酷い誤解ってモンだぜ?」
 彼女のその言葉を耳にした魔理沙が聞き捨てならんと言いたげに一歩前に出て、慌てるように言った。
 魔理沙に続いて霊夢も何か言いたい事があるのか、一歩前に出る…どころかキュルケの方へとツカツカと歩き出した。

 体から薄らとした怒りの雰囲気を放ちながら、ムスッとした表情で歩いてくる霊夢の姿…。
 一方のキュルケは待っていましたと言わんばかりにその顔に緩やかな笑みを浮かべて、近づいてくる巫女さんの方へと身体を向けた。
 そしてとうとう、キュルケとの間が一メイルにまで縮まった霊夢はその顔を上げて、自分より身長が上のキュルケをキッと睨みつける。
「アンタ、もしかして私と魔理沙がルイズを戦わせるように仕向けた…って言いたいのかしら?」
「えぇそうよ?ヴァリエールは典型的なトリステインの貴族だけどねぇ、こんな事を仕出かすような命知らずやバカじゃあなかったわ」
 怒りの気配を放つ霊夢のムスッとした軽い怒り顔にも動じる事無く、キュルケは自慢の赤い髪を掻きあげながらそう返事をした。
 髪を掻きあげられるほどの余裕に満ちていると思ったのか、霊夢はそのムスッとした顔に嫌悪感を付加させて喋り続ける。

「残念だけどね、ルイズはアンタが考えてるほどバカじゃないわ。アンタだって聞いてたでしょう?アイツが元々ここへ来たのは、自分の目的があったからよ」
「それはついさっき聞いてるから分かってるわ、でもそれは単なる無謀と言う行為よ。たった三人で艦隊に挑んで勝てるとでも思ってるのかしら?」
 売り言葉に買い言葉。お互い一歩も引かぬ強気な者同士の言い争いに傍にいた魔理沙は思わずたじろいでしまう。

「お、おぉ…過去に何があったかは知らんが、霊夢の奴も相当カッカしてるぜ」
「君、君…!そんな暢気に解説してる暇があるなら、ちょっと止めてみようとかそんな努力をしてみないかね?」
「んぅ〜どちらかというとこのまま見ておきたいが…まぁ確かに、あんなデカブツがすぐ近くまで飛んできてるしなぁ」
「ちょっと!そこは悩むところなの…!?」
 すぐ傍にまで命が危機が迫っている状況の中でも、魔理沙は決して己のペースを崩すことなく、
 突っ込みを淹れてくるギーシュやモンモランシーにまだ軽口をぼやける余裕は残っていた。
 タバサは相も変わらず無口で、地面に垂らしたシルフィードの尻尾の上に腰を下ろしてジッとキュルケと霊夢を見つめている。
 そして、二人の言い争いの原因でもあるルイズは鞄の中に入れていた手を引っ込ませると、その場でスクッと立ち上がった。
 重くなってしまった腰を上げたルイズは再び軽い背伸びをした後、キュルケの方へと顔を向けるとその口から出る言葉で彼女の名を呼んだ。
 
「…キュルケ」
「あらルイズ。いよいよ教えてくれる気になったのかしら?彼女たちに何を吹き込まれたのかを…ね?」
 突如話に加わろうとして来るルイズに、キュルケは嬉しさのあまり小さく両手を叩いて笑顔を浮かべた。
 そして、喋った言葉の中にあった「吹き込まれた」というのを聞いて、霊夢は思わがその顔を顰めてしまう。
「ルイズ、アンタが出てくる必要は無いわよ。すぐにコイツとの話は終わらせるから、準備でも…―――…ッ?」
 自分の前へ出ようとしたルイズを手で止めようとした霊夢はしかし、遮ろうとした自分の腕を下げたルイズにこんな事を言われた。
「ごめんレイム、ちょっと静かにしててくれる?この分からず屋に、ちゃちゃっと説明して終わらせるわ」
 まるで聞き割れの無い生徒を諭しに行く教師の様な表情と口調でそう言うと、彼女は霊夢の一歩前へと進み出た。
 一方の霊夢は、先程までと比べて妙に落ち着いているルイズを見て一体何を喰ったのかと訝しんでしまう。
 本人が彼女の今の心境を知ったら殴られそうであったが、幸いにも口にしていない為ルイズの耳に入る事は無い。

 そんな風にして、キュルケの話し相手が霊夢からルイズへと流れるようにして変わる。
 微笑みを浮かべて腕を組むキュルケと、そんな彼女を下から睨み上げるルイズに―――動く背景の様なアルビオンの艦隊。
 あまりにも奇怪で危機的な状況の中でも二人は決して動じず、両者ともに自分のペースで話し始めた。

397ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:13:04 ID:UgHbZZAM
「さてと…アンタには何処から話して良いのやら…でもまぁ、アンタにはとりあえず言っておきたい事があるの」
「ふふん!その言い方だと…何か面白そうな事を言ってくれそうじゃないの。良いわ、言ってみなさい」
「勿論言ってあげるわよ。アンタの言ゔ無謀な行為゙をするだけの理由をね」
 未だ余裕癪癪なキュルケに対し、ルイズは瞼を鋭く細めたまま話を続けていく。
 ギーシュやモンモランシーの目から見れば、それはいつも学院で目にしている二人の言い争いの場面を思い出させた。
 だがそんな彼らの意思に反して、ルイズはキュルケの微笑みを見てもかつて程怒ってはいなかった。

「じゃあ教えてもらおうじゃないの。この二人に何を吹き込まれて…命知らずな事をしようと思ったのかを」
「ちょっとアンタ。いい加減にしないと前の時みたいに蹴飛ばすわよ」
 あくまで彼女の使い魔と居候を敵視しているキュルケに、その使い魔である霊夢がいよいよ怒ろうとした直前、
 彼女を睨み上げていたルイズはふぅ…と一息ついてから……キュルケの言ゔ命知らずな行為゙をする理由を告げた。

「―――ムカつくのよ。ただ単純に」
「………はぁ?何ですって?」
「単純にムカつくって言ってるのよ。あの空の上でふんぞり返ってるレコン・キスタの連中がね」
 キュルケは予想していなかったであろうルイズの口から出た言葉に、思わず自分の耳とルイズの口を疑ってしまう。
 しかしそんな彼女に聞き間違いではないという事を教える為に、ルイズは目を鋭く細めてもう一度言った。
 細めた瞼の隙間から見える鳶色の瞳は気のせいか、キュルケの目には激しい怒りを湛えているかのように見えてしまう。
 そして彼女の言葉はキュルケの傍にいた霊夢や魔理沙にタバサ、そしてギーシュやモンモランシーの耳にも届いていた。

「む…ムカつくからってだけで、あの艦隊に戦いを挑もうとしてたの…?」
「ま、まぁ…怒りっぽいルイズらしいと言えば言えるけどね」
「怒りの気持ちで、人はどこまでも強くなれる」
 モンモランシーとギーシュは、どこかルイズらしいその理由に呆れつつも苦笑いし、
 相も変わらず無表情なタバサはポツリと、何処ぞの偉い人が言ったような格言みたいな言葉を呟いた。

 一方で、キュルケに敵視されていた霊夢と魔理沙もルイズの告白に反応を見せていた。
「…ここに来て、ようやっとぶちまけてきたわねぇ」
 先ほど露わにしていたキュルケへの怒りはどこへやら、霊夢はやれやれと言いたげに肩を竦めて見せた。
 しかし実際のところ、ここに至るまでやりたい放題やってきた連中を倒す目標としては一番お似合いである。
 本人は家族を助ける為だったりと、アンリエッタの為に戦おうと色々理由付けはしていたが本心では色々とムカついていたのだろう。
(まぁでも、私としてはそれを咎めるつもりはないし…ムカつくから戦り合うってのは至極単純で悪くはないわね)
 霊夢がそんな風にしてぶっちゃけたルイズを見ていると、後ろにいた魔理沙がニヤニヤと笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「まぁ良いんじゃないか。そっちの理由の方が流石お前さんを召喚した人間らしいと思うぜ」
「それ、どういう意味よ?」
「いや、別に気が付かないならいいさ。心の中にそっとしまっておいてくれ」
 人を苛つかせる様な二ヤついた顔で意味深な事を呟いた魔理沙に、霊夢はキッと鋭い睨みをお見舞いする。
 しかしそんな睨みは普通の魔法使いには全く利かず、ニヤついた顔を反らしただけに終わった。

 そんな風にして五人が様々な反応を見せている間、ルイズとキュルケの話は続いていた。
「ヴァリエール、貴女…さっきのは本気で言っているのかしら?」
「本気に決まってるじゃないの。じゃなきゃアンタになんか自分の本音をぶちまけたりはしないわよ」
 ルイズの睨みに対し、その顔から微笑を消して真剣な表情を浮かばせるキュルケが彼女と口論を始めている。
 二人の間に漂い始めた近づきがたい気配は周囲に散り出し、周りの者たちは皆口が出せない様な雰囲気を作っていく。

398ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:15:03 ID:UgHbZZAM

 そんな事露も知らないキュルケは、ルイズの口にした『自分の本音』という言葉を聞いてフンッと鼻で笑いながら言った。
「へぇ…?じゃあ家族を助けるっていうのは単なる口実って事に……」
「誰も口実だなんて言ってないわよツェルプストー!私はねぇ、ちぃ姉様も助ける為にここへ来てるのよ!!」
 自分の言っている事をイマイチ理解できてないであろうキュルケに、ルイズは強く言い返す。
 突然大声で怒鳴ってきた彼女に思わず口をつぐんでしまうものの、すぐに気を取り直して喋り出した。
「……じゃあ何?アンタはここにいる家族の一人を助けて、ついでにムカつくアルビオン艦隊を倒しに来たって事なの?」
「バカだと思うでしょう?無理だと思うでしょう?残念だけと゛、私は大マジメなのよ。ツェルプストー」
 キッチリと自分の今の意思を伝え終えたルイズは、自分と見つめ合うキュルケの表情が変わっていくのをその目で見た。
 真剣な眼差しと真剣な表情が一瞬で変わり、目を丸くさせて信じられないと言いたげな怪訝なモノとなっていく。
 
「どう、分かったでしょう?私はレイムとマリサに誑かされてるワケじゃないって事を」
「……まぁね、大体分かったわ。けれどルイズ、貴女―――変わったわね?」
 両手を小さく横へ広げてハイ話は終わりと言いたげなルイズに、キュルケも肩を竦めながらポツリと呟いた。

 キュルケとしては、ただ『ムカつく』から圧倒的すぎる相手と戦おうとするルイズの事が信じられないでいた。
 かつてのルイズは名家であるヴァリエールの生まれでありながら、魔法の才能に恵まれず常にそのことで頭を抱えていた苦悩者。
 多少怒りっぽいところと高いプライドが珠に瑕であったが、それでも一人の貴族としては彼女ほど出来た者は二年生には指で数える程しかいない。
 魔法では勝てても乗馬の技術や運動神経ではあと一歩の差を空けられ、座学に関しては自分よりも一歩も二歩も先を歩いている。
 『土くれのフーケ』のゴーレムと戦った時の様な発作的な無茶をする時はあったが、基本的には体と頭が同時に動くのがルイズであった。
 例えるならば自分は頭よりも先に体が動き、タバサは体より先に頭が動く。しかしルイズは頭で考えつつ体も的確に動かしていく。
 もしも魔法の無い世界で生まれていたのならば、彼女…ルイズは天才と呼ばれる人間にまで成り上がっていたかもしれない。

 少なくとも自分のライバルとして彼女の右に出る者はいないだろう。キュルケは今までそう思っている。
 だからこそこれまでツェルプストーの者として彼女を馬鹿にしてきたものの、基本的には良きライバルとして彼女を見ていた。
 もしもルイズがまともな魔法が使えるようになった時、いつかは決闘を申し込んでみたいと望んでいる程度に…。

 しかし今目の前にいるルイズは、少なくとも自分が見知ってきていた彼女とは何処か別人のように見えていた。
 戦地に取り残された家族を助ける為に…というのならともかく、ただ単純に『ムカつく』からアルビオンの艦隊を戦おうとする無茶振り。
 だがそれを宣言してくれた彼女の怒りは驚くほど冷静であった。いつもなら火山が噴火するかの如く怒り散らすあのルイズが。

 無論性格は自分が知っているままだ。だけども、今の彼女ば何かに影響されている゙かのように自らの感情に従いつつ冷静に動いている。
 自分に悪口を言われて突っかかった時や、フーケのゴーレムに単身挑んだ時のような発作的な怒りではない。
 まるで我に必勝の策ありとでも言いたいかのような、そんな絶対的な『強気』を今のルイズから僅かに感じられるのだ。 
 ……では一体、何が彼女をここまで強気にさせているのか?キュルケは無性にそれが気になって仕方が無かった。
「ねぇルイズ、一つ聞いても良いかしら?」
「あによ。もうアンタに今話す事は話し終えたと思うけど?」
 一度気になれば聞かざるを得ない。そう思ったキュルケは喋り終えて一息ついていたルイズに再び話しかける。
 ルイズもルイズでまた話しかけてきたキュルケに軽くうんざりしつつも、彼女の質問に付き合う事にした。
 
「一つ聞くけど……貴女がそこまであの艦隊を倒すって言って聞かないのなら―――当然あるんでしょう?」
「……何がよ?」
「あのアルビオン艦隊を倒すことのできる、俗に゙必勝の策゙ってヤツ」
 ほんの少しもったいぶってからルイズにそう告げたキュルケの顔には、笑みが戻っていた。
 それはルイズを小馬鹿にする類のものではなく、いつか話のタネになりそうな面白そうな事を見つけた時の笑顔。
 ヒマを持て余していた荒くれ者が、美しい女を見つけた時の様な無邪気と邪悪が入り混じったようなそんなニヤついた表情である。

399ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:17:14 ID:UgHbZZAM
「さてと、そろそろ時間も無いようですし答えを聞かせて貰おうかしら?」
 更に悩んでいる所へ追い打ちをかけるようにして返答を促してくるキュルケ。
 もはや悩んでいる暇はない。断崖絶壁から飛び降りるような気持ちで、モンモランシーは目を瞑って叫んだ。
「良いわよ!やってやろうじゃないの!?どうせ乗り掛かった船よ、最後まで突きあってあげるわよォッ!」
 もはやヤケクソとしか言いようの無いモンモランシーの意思表示に彼氏のギーシュはたじろぎ、キュルケは「最高ね!」とコロコロ笑った。
 それを離れた所から見ていたタバサはホッと小さなため息をついて、後ろで休んでいたシルフィードに目配せをする。
 ―――準備しておいて。主からのサインと判断した幼き風竜は「キュイ」と短く鳴いて、コクリと頷いて見せた。

 ひとしきり笑った所で、キュルケは自分の後ろで様子を見ていたルイズ達三人の方へと振り返った。
「さてと、これで全員参加だけど、アンタの言う作戦が少人数で事足りるって事あるワケないわよね」
「…キュルケ。何で今更になって手助けしてくれるのかしら?」
「何で…って?そりゃ貴女アレよ、私の性格と家名を知ってれば自ずと答えが出てくるってヤツよ」
 キュルケからの確認を質問で返してきたルイズに、キュルケは考える素振りも見せずにそう答えた。
 しかしそれでもイマイチ分からなかったのか、不思議そうに小首を傾げるルイズを見て彼女は説明していく。

「私はツェルプストー。常にヴァリエール家のライバルとして、その隣で生きてきた。
 領地も隣り、そして所有する農場や牧場も隣で保有している兵力の数で争っているそんな仲。
 ヴァリエールの事なら何でも知っているし、知らない事があってはならない。戦じゃあ情報も大切だしね。
 だから私も知らなきゃいけないのよ。そこの紅白ちゃんを召喚して以来、変わってしまった貴女の事を…ね?」
 
 さいごの「ね?」の所で軽くウインクして見せたキュルケを見て、ルイズは感動と軽い怯えを感じていた。
「そ、それってつまり…アレよね?俗にいうストー…」
「はいはい、これ以上話してる時間は無いでしょうに。とっとと始めちゃいましょう」
 あと少しでキュルケを怒らせそうになった言葉を言いかけたルイズを遮りつつ、彼女の後ろにいた霊夢が大声を上げる、
 霊夢としては空気を読んで止めたワケではなかったものの、彼女が言うように残された時間は少ない。
 頭上を見上げてみれば、もうすぐあの『レキシントン』号が頭上を通過してくるほどまでに近づいてきている。

「おぉ〜おぉ〜、コイツはでかいな!こんなに大きいのなら、潰し甲斐があるってモンだぜ」
「言うのは簡単だけどさ…、いざこうして間近で見てみると中々迫力があるわね」
 近づいてくる巨大戦艦を暢気に見上げる魔理沙と、場違いな発言をする霊夢の二人は既に戦闘態勢を整えていた。
 魔理沙はいつでも箒に乗って飛べるように身構えており、霊夢も万全とはいえないもののある程度体力を取り戻している。
『レイム、分かってるとは思うが『ガンダールヴ』の能力を使うのは流石に無理そうだけど…いけるか?』
「私を誰だと思ってるのよ。地上では散々剣を振るったけど…次は私の十八番で戦うから問題ないわ」
 デルフの言うように『ガンダールヴ』能力は使えないが、恐らく次の戦い舞台はあの戦艦の周囲――つまりは空中。
 地上からでも既に随伴している竜騎士の姿が見えており、艦隊の間を縫うようにして飛び回っている。


「大物に程よい小物…こりゃ間違いなハードだが、楽しいステージになりそうだな」
「とりあえず、あの竜に乗ってるのは人間だろうし…何だか面倒な事になりそうね」
 二人して、向こうから迫りくる戦いに気合を入れていざ飛び立とうとした―――その時であった。

400ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:20:44 ID:UgHbZZAM
「ちょっと待ちなさい二人とも。悪いけど、突撃はちょっと待ってくれないかしら」
「えッ?」
 いざ地面を蹴ろうとしたその時になって、こちらに背中を向けていたルイズが制止したのである。
 突然の事に霊夢は思わず体の動きを止めて、何やら鞄を漁っているルイズの方へと視線を向けた。
 魔理沙の方は既に箒で宙を浮いていたものの足が地に付くギリギリの高度を保ちながら、止めてきたルイズへと声を掛ける。
「お?何だ何だ?どうしたんだよルイズ。私達でアレを相手にするんじゃな無かったのか?」
「まぁ確かに、最初の作戦の時はストレートにそれで行くつもりだったけど…ちょっと試してみたい事ができたのよ」
 急にそんな事を言ってきた彼女に霊夢と魔理沙はおろか、キュルケ達も思わず不思議そうな表情を浮かべてしまう。
 ついで霊夢たちがやろうとした事をルイズがサラッと認めた事に、思わずギーシュとモンモランシーはその顔が青くなった。

「何だろうね?ルイズの言う「試してみたい事」って」
「さぁ、分かるワケないでしょうに。―――まぁ、正面突破よりかはマシだと祈りたいけどね」
 純粋に不思議がっているギーシュとは対照的に、どこか投げ槍的なモンモランシーは先ほど飛び上がろうとした霊夢達を思い出して身震いした。
 いくらなんでもあの二人が異様に強い力を持っているとしても、無数の竜騎士とアルビオン艦隊へ突っ込む事なんて考えてもいなかったのだ。
 例えるならば、ちょっと戦える程度の強いメイジが「今ならだれでも倒せる筈!」と叫んで、エルフたちのいるサハラへ突っ込むようなものである。
 そんな恐ろしい例えが頭の中へ浮かんだ時に、丁度突っ込もうとした二人の内黒白の方が話しかけてきた。
「お、どうしたんだよそんなに身震いさせて?風邪でもひいたのか」
「別に風邪とかひいてないわ。むしろ平気な顔して突っ込もうとしたアンタたちの方が、何かの病気なんじゃないの?」
「生憎だが、私は健康的な魔法使い生活をしてるから。そういう心配は御無用だぜ」
 ――――そういうことじゃ無いっての!心の中で叫びつつも、モンモランシーは勘違いしている魔理沙をキッと睨む。
 そして、ルイズの言う「試したい事」が自分たちにとって安全なものでありますようにとひたすら願っていた。

 その一方で、霊夢はゴソゴソと鞄を漁っているルイズにキュルケと一緒になって問い詰めていた。
「で、どういう事なのよ?『試してみたい事』って…私はそんなの聞いてないんだけど?」
「まぁ確かに、アンタには話してないわね。…けれどまぁ、何て話して良いのやら…」
 いざ参る!というところで止められた霊夢はやる気を削がれてしまったのか、気怠そうな表情をルイズを睨んでいる。
 一方のルイズも、その『試したい事』をどういう風に説明すればいいのか悩んでいた。
「ふ〜ん…ってことはつまり、貴女が言った「試したい事」って即ぢさっき言ってたら゙出来たてホヤホヤの作戦゙の事ね?」
「はぁ?何よソレ。折角好き放題やってた連中の鼻頭を叩き折ろうって時に、わざわざ水を差すだなんて…どういう了見よ」
「伝達ミスによる指揮系統の混乱」
 そんな二人の間に割って入るようにしてキュルケがおり、彼女の隣にはようやっとこっちへ来たタバサもいる。
 二人は霊夢と魔理沙は知らず、ルイズだけが知っているその「試したい事」が…彼女が先ほど言っていだ出来たてほやほやの作戦゙なのではと察していた。
「まぁそう怒るもんじゃないわよ紅白ちゃん?で、ルイズ…貴女の言う「試したい事」で、私達はなにをすれば良いのかしら?」
 一方のキュルケは内心突撃を敢行しようとした好敵手が一歩手前で止まってくれたことに、内心ホッと一息ついている。
 いくら今のルイズが恐ろしいくらい勝ち気だからといって、敵のど真ん中へ突っ込むなんて命がいくつあっても足りないだろうからだ。
 だから突撃をやめた事に関して特に何も言うことなく、ルイズがこれからしようとしている事を笑顔で見守っている。
 何をするかによっては自分も手伝うという意気込みを交えながら、鞄を漁り続ける彼女に話しかけたのである。

401ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:22:13 ID:UgHbZZAM
 だが、話しかけてきたキュルケに対してルイズが返した言葉は予想外のモノであった。
「いや、多分これは…ワタシ一人で出来ると思うから、周囲に敵が来ないかだけ見てくれれば良いわ」
 鞄を漁っていた手を止め、中に入れていたであろう道具を一つずつ両手で取り出したルイズからの返答に、キュルケ達は驚いた。
 無理もないだろう。彼女が言った事を解釈すれば――あの魔法が使えない『ゼロ』ルイズが、一人でアルビオン艦隊を止めて見せる。という事なのである。
 まだ霊夢や魔理沙…それに協力を申し出たキュルケやタバサ達の力を借りれば、一桁であっても勝率と言うものはあるかもしれない。
 だが彼女はそれを自らの手で大丈夫といって跳ね除けた。一桁だった勝率を限りなくゼロにまで下げる行為を、いとも容易く行ったのである。

「ちょ…ちょっと、馬鹿言いなさいなルイズ!いくら何でも、貴女一人だけじゃあ…」
「そうよルイズ!いくら失敗魔法が爆発だからって、空の上にいる戦艦を撃ち落とそうとか考えてるんじゃないでしょうね!?」
 すかさずキュルケとモンモランシーが、とち狂った(ようにしか見えない)ルイズを再び説得し始めた。
 その二人に背中を向けているルイズは「…うん」や「そうだけど…」と先程の威勢の良さはどこへやら、歯切れの悪い相槌を打っている。
 しかし…そんな相槌を繰り返す裏で、彼女は右手で鞄から取り出していた指輪を左手の薬指にゆっくりと嵌めていく。
 指輪に台座に嵌った宝石は、まるで澄んだ海の水をそのまま固めたような青く神秘的な輝きを放っている。
「モンモランシーの言うとおりだよルイズ。『レキシントン』号クラスの戦艦じゃあ…ちょっとやそっとの爆発じゃ大したダメージにはならないぞ!」
「………?」
 自分のガールフレンドに同調するかのようなギーシュの隣にいたタバサは、この時ルイズが指にはめた指輪の事に気が付いた。
 そして、彼女の左腕には…同じく鞄へ入れていたであろう古ぼけた一冊の本が抱えられている事にも。
 まるでお化け屋敷の中で拾って来たかのような、誰からも忘れ去られて朽ちていくしかない現れな運命に晒された一冊。
 そんな本をまるで腹を痛めて産んだ我が子の様に腕で抱えているルイズの姿は、タバサの目には何処か奇妙に映っていた。

 そして…素っ頓狂な事を口にしたルイズに、当然の如く霊夢と魔理沙の二人も反応していた。
 何せ、正々堂々と突っ込もうとした矢先に急に止めに入られたかと思いきや――今度は自分一人で倒してみるという始末。
 別にこの二人でなくとも、気が狂ったとしか思えないルイズにちょっと待てと言いたくなるのも無理はないだろう。
「ちょっとアンタ、馬鹿にしてはいないけどさぁ、…何処かで頭でも打ってるんじゃないの?」
「それを言うなら、毎度毎度トチ狂ったような弾幕をヒョイヒョイと避けてるお前さんのも相当なモンだぜ?」
『このバカッ!今はそんな事いってる場合じゃねぇだろ。…にしても一体どうしたってんだ娘っ子、急にあんな事言うなんてよぉ?』
 霊夢と魔理沙だけではなく、デルフからも問い詰められてから、ルイズはようやっとその顔皆の方へと向ける。
 目前に迫りつつあるアルビオン艦隊を倒せると豪語し、今度はソレを他人ではなく自分の力だけで倒して見せるという狂言を放ったルイズ。
 ついさっきまで、皆に背中を向けて何かをしていた彼女の顔には――――二つの表情が入り混じっていた。
 まるで十六歳まで平和に生きていた少女が、ある日天からの導きで始祖の生まれ変わりだと告げられたかのような…信じられないという驚愕。 
 そして自らの始祖の力を用いて、これから多くの人たちをその力で導かなくてはいけないという――否応なしに受け入れるしかない決意。
 
 二つの表情が入り混じり、どこか泣き笑いか苦笑いとも取れる表情を見せるルイズは霊夢達に向かって口を開いた。
「レイム―――信じてくれないだろうけどさぁ?……あの吸血鬼の言葉、本当に当たってたみたい」
 そう言ってルイズは、左腕に抱えていたボロボロの本―――『始祖の祈祷書』を右手に持ち、左手でページをゆっくりとひらいていく。
 青い宝石の指輪―――『水のルビー』を嵌めた左手で、触れただけで壊れてしまいそうなその本のページをひらいた直後―――
 
 まるでこの時を待っていたかのように…『水のルビー』と『始祖の祈祷書』が眩く光り出したのである。

402ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:24:03 ID:UgHbZZAM
「何、ワルド子爵が戻ってこんだと…?」
 空いた手持ちのグラスに、秘蔵のワインを注いだばかりのジョンストンは伝令が伝えに来た情報に首を傾げた。
 先程帰還した偵察の竜騎士隊から伝令を承った水兵は、お飾りの司令長官の言葉に「ハッ!」と声を上げて報告を続ける。
「偵察隊の一員として加わったワルド子爵は、他の者たちが気づいた時には姿を消していたとのことです!」
「んぅ…、一体どういう事だ?誰も子爵が消えた所を見ていないというのか」
「それに関しては、子爵は竜の調子が悪いと言って最後列を飛んでいた為に確認が遅れたとのこと!」
「成程、……まぁ良い。子爵も祖国への情が湧いたのだろう、放っておきなさい……ンッ」
 一水兵として、模範的な敬礼を崩さぬまま報告する若き水兵とは対照的なジョンストンはそう言って、グラスに注いだワインを飲み始めた。
 既に酔っているのか彼の頬はほんのりと赤く染まっており、水兵の鼻は彼の体から仄かなアルコールの臭いを嗅ぎ取っている。
 
 グラスに並々注いでいたワインの半分を一気に飲み込んだジョンストンは、そこでグラスを口から離した。
 「プハァッ…!」と場末の酒場で仕事の後のワインを煽る労働者の様な酒臭い息を吐いて、伝令に話しかける。
「この状況、もはや子爵一人裏切っただけでは戦況など覆らん!我々を止めるモノなど一人もおらんからな!」
「りょ…了解しました!伝令は以上です!」 
 半ば酔っぱらっているジョンストンに怯みながらも、伝令は最敬礼した後自分の持ち場へと戻っていく。
 まだまだ入って間もない若者の背中を見ながら、赤ら顔の司令長官はブツブツと独り言を呟きながら残ったワインをちびちびと飲み始めた。

「全く、これだから外国人は…何を考えているかわからんわい…まぁよい、これでワシは…閣下に英雄として称えられて…フフフ…」
  既に酔いの段階が爽快期に突入しているジョンストンの姿は、『レキシントン』号の甲板の上では異様な存在に見える。
 事実周りでキビキビと動きまわる水兵や下士官、士官や出撃直前の竜騎士たちは彼を奇異な目で見つめていた。
 そんな中でただ一人、『レキシントン』号の艦長でボーウッドはお飾りの司令長官に背を向けてただひたすらに夜空を見ている。
 彼の思考は既にこの艦隊の進む先にいるであろう敵――ゴンドアで籠城するトリステイン軍とどう戦うか、その方法を練っている最中であった。
「…その報告は確かか?」
「はい、偵察から帰ってきた竜騎士の話によれば間違いなく王軍の増援が来ているとの事です」
 ジョンストンへ報告した者とは別の水兵が、ジッと夜空を見つめているボーウッドに淡々と報告していく。
 ワルド子爵がいなくなった後も偵察隊は任務を続行し、見事その務めを果たしていた。
「ふぅむ…、街で縮こまっているというトリステイン艦隊が死にもの狂い攻撃してくれば、こちらも無傷で勝てるという戦いではないな…」
 果たしてこの艦を含めて、何隻生き残るか…。心の中で呟きながら、彼はようやく背後で酔っている司令長官の方へと視線を向けた。

 トリステイン艦隊がゴンドアで縮こまり、キメラにより止むを得ず撤退した地上軍からの攻撃も無い故に順調な進軍。
 最初の交戦で何隻か失ったものの、未だ神聖アルビオン共和国の艦隊が今この周辺にいる戦力の中で最も強い事は変わっておらず、
 有頂天になったジョンスントンは先ほどの進軍開始の合図として打ち上げた花火で更にテンションを上げてしまい、とうとうワインを飲み始めたのである。
 最初こそそれを諌める者はいたが、あろうことか彼は杖を抜いて「司令長官のささやかな一杯に口出しする気か!」と逆上したのだ。
 こうなっては誰も止める者はおらずボーウッドも、そのまま酔っていてくれれば作戦に口出ししてくる事はないと放置している。

(まぁ最も、トリステイン軍との交戦が開始したら…酔いなど吹っ飛んでしまうだろうけどな)
 精々今の内に喜んでいるといい。軽蔑の眼差しを司令長官殿に向けながら、ボーウッドが心の中で呟いた直後―――
 『レキシントン』号の見張り台から、地上の様子を見張っていた水兵が双眼鏡を片手に大声を上げた。

「タルブ村の高台にて、謎の発光を確認!繰り返す、謎の発光を確認!」

403ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:26:04 ID:UgHbZZAM
 ルイズの指に嵌められた『水のルビー』と、古ぼけた『始祖の祈祷書』。
 彼女が鞄の中にこっそりしまっていたとのステイン王家の秘宝が、まるで地平線から顔を出す太陽の様に眩い輝きを放っている。
 あまりにも激しいその輝きは、当然の様に周囲にいる者たちの目を容赦なく眩ませていく。
「ちょ…!?ちょっと、ちょっと!今度は何?何が起きてるのよ!?」
 突如、ルイズの手元から迸った激しい光にモンモランシーは手で目を隠しながら悲鳴を上げた。
 しかし彼女の疑問に答える者は誰もいない。いや、正確に言えば皆が皆それに答える程の余裕が無かったと言えばいいか。
 ギーシュとキュルケも彼女と同じように突然の光に目が眩み、あのタバサさえも目を瞑って顔を光から反らしている。
 シルフィードは器用に前足で顔を隠して、きゅいきゅいきゅい〜!?と素っ頓狂な鳴き声で喚いていた。
 
「うぉっ!眩しッ…っていうか、何だこりゃッ!?」
「くっ…ルイズ、アンタ…!」
 そして霊夢と魔理沙の二人もまたルイズが手にした二つの秘宝から発する光に目をつむるほかなかった。
 だが、それでも光は防ぎきれず魔理沙は両腕で目を隠したうえで更に顔まで反らしている。
 霊夢もこの黒白に倣って同じような事をしたかったが、それを敢えて我慢して彼女はルイズの様子を見守っていた。
 それは彼女が先ほど…『始祖の祈祷書』と呼ばれていたあのボロボロの本を開く前に呟いた言葉が気になったからである。 

 ――――……あの吸血鬼の言葉、本当に当たってたみたい
 
(あの吸血鬼…もしかして、レミリアの事?)
 久々に聞いた様な気がする紅魔館の幼き主人の名前が、ルイズの口から出たのには少し驚いてしまった。
 そして思い出す。かつて彼女と共に一度幻想郷へと帰ってきた際の集会で、あの吸血鬼――レミリア・スカーレットが言っていた事を。

 ――霊夢の左手には貴方達の種族が『伝説』と呼んで崇める存在が使役した使い魔のルーンが刻まれているんでしょう?
     という事は、貴女にはそいつと同等の力をもっているという事じゃないかしら。貴女がそれを自覚していないだけで

 かつてこの地に降臨し、この世界を作り上げた始祖ブリミル。その始祖が使役した四つの使い魔の内『神の左手』ガンダールヴ。
 そのルーンは今や霊夢の左手の甲に刻まれ、かつては千の敵を屠ったという力でワルドとも互角に渡り合えた力。
 そして…そのルーンを持つ霊夢――ーひいては使い魔を使役するルイズは、つまり―――――…。
 レミリアの言葉を思い出して、思考の波へ埋もれかけた霊夢はハッとした表情を浮かべると首を横に振る。
(でも…ルイズの事と今の光には何の関係が――――…ん?)
 霊夢が心の中で呟いていた最中、それまで周囲を乱暴に照らしていた光がスゥ…と小さくなり始めた。
 まるで東から昇ってくる太陽が、ゆっくと西の空へと沈んでいくかのように光はゆっくりとその激しさを失っていく。 
 そして一分と経たぬうちにあんなに激しく迸っていた乱暴な光は姿をひそめ、それに気づいたキュルケ達がようやっと目を空けられるようになった。

「な、何だったのよ今のはぁ〜…?」
「さ、さぁ…。けれど、ルイズが手に持っている本から光が出てきた様に僕には見えたが…」
 もうウンザリだと顔で叫んでいるモンモランシーが落ち込んだ声で放った質問に、未だ困惑から抜け出せないギーシュが曖昧に答える。
 彼の言ゔ光の源゙であろう『始祖の祈祷書』は今や、ルイズの顔を寂しく照らす程度の光しか放っていない。
 それでも、ページが光っているだけでもボロボロの本は今やその見た目以上の価値を持っている事は明らかであろう。

404ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:28:04 ID:UgHbZZAM
「ちょっとちょっと…!ヴァリエール、今の光は何なのよ?…っていうか、その光ってる本は一体…」
「う〜ん…ちょっと待って頂戴キュルケ。…こればっかりは、私もどう説明したら良いか…――――ん?」
 光が収まった事でようやく目をつむるのをやめたキュルケが、真っ先にルイズへ質問する。
 しかし、光を発した二つの道具をカバンから取り出したルイズもいまいち把握してない様な事を言おうとしたとき、その表情が変わった。
 眩い光を放った二つの秘宝の内の一つ―――『始祖の祈祷書』の開いたページ光に目がいったのである。
 否、正確に言えば何も書かれていなかったページに現れていた『発光する文字』に。
「何…?これ?」
 本来なら結婚するアンリエッタ王女とゲルマニアの皇帝へ送る詔を清書するために用意された白紙のページ。
 ゴワゴワで少しページの端を引っ張っても破れてしまいそうな紙の上に、光文字がいつの間にか綴られていたのである。
 しかも光っている事を抜きにその文字は、普段ルイズたちが目にするどの文字とも似て非なるものであった。
 
 ルイズの怪訝な言葉に気付いたのか、ルイズが左手に持っている『始祖の祈祷書』のページを横から見た。
「ん…?ちょっと待って!…これってもしかして……文字が光ってるの?」
 一番近くにいたキュルケが声を上げると、モンモランシーや霊夢達も何だ何だと周囲に集まってきた。
「えぇ、ちょ…何よ?このボロボロの本はマジックアイテムか何かっていうの?っていうか、何で光ってるの?」
「いや、だから僕に聞かれても答えようが…」
 モンモランシーの目から見て使い方も分からないそのボロボロの本が見せた意外な一面に驚き、
 彼女に次々と疑問を吹っかけられているギーシュは首を横に振りながら、ただただ呆然とした表情で祈祷書を見つめている。
「おっ?ルイズ、これってお前が中々出来なかったて言ってた詔か?中々良さそうじゃないか。全然読めないがな」
「違うわよこの黒白!」
「今は魔理沙の事なんか放っておきなさい。で、ルイズ…これって一体どういう事なのよ?急にあのボロボロな本がこんな事になるなんて」
 魔理沙は魔理沙で何かを勘違いしているのか、的外れな感想でルイズを怒らせていた。
 そんな二人の間に割り込む形で霊夢がルイズの前に出て、彼女に何が起こったのかを聞こうとする。
 ルイズは一瞬言葉を詰まらせるものの、やがて決心がついたのかフゥッと一息ついてから淡々と話し始めた。

「レイム…それがちょっと、私にも良く分からないのよ。…さっき気絶している時に変な夢で誰かが『指輪を嵌めて、祈祷書を開け』って…」
「気絶しているときに見た夢?あぁ、ワルドに攫われた後の事ね」
「何、何々?何か面白そうな話が聞けそうな気がするんだけど?」
 ルイズの言う事に心当たりのあった霊夢がその時の事を思い出し、キュルケのレーダーが二人の話に気を取られた時…
 霊夢の少しだけ蚊帳の外にいたタバサがルイズの持つ『始祖の祈祷書』のページへと目を向けると、ポツリと呟いた。


「これ…もしかして古代のルーン文字…?」
 タバサの言葉に祈祷書を持っていたルイズは再びページへと目をやり、コクリと頷いた。
 彼女の言うとおり、ページの上で光る見慣れぬ文字は全て古代の人々が文字として使っていたルーン文字である。
「確かにそうだわ…これって大昔…つまり私達のご先祖様が使ってたっていう文字だわ」
「古代ルーン文字って…ちょっとちょっと、何で貴女がそんなスゴイモノを持ってるのよ?」
「おいおい何だ。詔かと思ったら、これまた随分とスゴイものが書かれていたじゃないか!」
 マジック・アイテムの蒐集が趣味である魔理沙はここぞとばかりに目を輝かせている。
 何せ魔導書にもなりそうにないボロボロの本が一変して、古代の貴重な文明の一端を記しているマジックアイテムへと早変わりしたのだから。

405ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:30:03 ID:UgHbZZAM
 黒白が喜んでいる一方でルイズはゆっくりと、人差し指で文字を追いながらゆっくりと読み始めた。
 幸いにも古代史の授業をしっかりと真面目に受けていた事と、祈祷書に書かれている文字の状態が良かったからなのだろう。 
「『…序文。これより我が知りし真理をこの書に記す。』…」
 その一文と共に、ルイズは自らの世界にのめり込んでいく幼子の様に祈祷書の文字を読んでいく。
 背中で見守る知り合いたちを余所に、…そして唯の一人険しい表情で自分の背中を見つめている霊夢の事など露知らずに…。

 ―――この世のすべての物質は、小さな粒より為る。
 ――――四の系統はその小さな粒に干渉し、かつ影響を与え、変化せしめる呪文なり。
 ―――――その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。

「つ、つまりどういう事なんだい…?」
「私達がいつも使ってる魔法は、この世界にある小さな粒を刺激して行使できてるって事を書いてるのよ?」
 分かりなさいスカポンタン。イマイチ分かっていないギーシュに、マジメに聞いているモンモランシーが文句と共に補足する。
 そんな二人をよそに、ルイズははやる気持ちを何とか抑えて次のページを捲っていく。
「っていうか、何でこんなボロボロの本なんかにそんな御大層なことが書かれてるのよ?」
「それは、すぐに分かると思う」
 キュルケが最もな疑問を口にし、タバサはそれに短く答えつつもルイズの横に立って文字を目で追っていた。
 一方のルイズはまるで耳が聞こえなくなったかのように周囲の喧騒に惑わされる事無く、祈祷書の内容を読んでいる。

 ―――神は我に更なる力を与えてくれた。
 ――――四の系統が影響を与えし小さな粒は、更に小さな粒より為る。
 ―――――神が我に与えし系統は、四の何れにも属せず。
 ――――――我が系統は更なる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。

「……゙我が系統゙?つまりコレを書き残したヤツってのは四系統の魔法よりも更に上位の魔法使…メイジだったって事か」
 ルイズが読む『始祖の祈祷書』を聞いていくうちに、最初はおちゃらけていた魔理沙も真剣な表情へと変わっている。
 本の状態から考えてこの著者が存命していたのは大昔―――それも、人間なら気の遠くなる程の。
 そんな大昔にこの分を後世の者達へ遺して死んでいった者は、なんの意図を込めているのだろうか?
 魔理沙の頭の中に浮かんだ知的好奇心はしかし、祈祷書を読むルイズによって解決されてしまう。

 ―――――四にあらざれば零。
 ――――――零すなわちこれ『虚無』。
 ―――――――我は神が我に与えし零を『虚無の系統』と名づけん。

 ルイズの口からその一節が言葉として出てきた瞬間、四人のメイジは一斉の目を丸くした。
 まるでジグソーパズルのピースのように、前の一節と合致するその文章。
 平民すら知っているこの世界でメイジが仕える四つの系統魔法に属さぬ、もう一つの魔法。
 その実態は果てしなく遠い過去へ取り残され、今や誰もその正体すら知らぬ謎のベールに包まれている『五つ目の系統』。
 かつてこの地に降臨した始祖ブリミルしか使いこなせ無かったと言われ、神の力とも呼ばれた『虚無』

406ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:32:04 ID:UgHbZZAM


「ねぇギーシュ?今、虚無の系統ってルイズ言ったわよね?」
「あ、あぁ…僕も聞いたよ間違いない」
 目を丸くしたモンモランシーは、同じような目をしたギーシュに自分の聞き間違いでないかどうかを確認している。
 タバサは無言であったもののその口はほんの少し開かれ、丸くなった目と合わせてどこか間抜けな表情を浮かべていた。
 そしてキュルケは、突然光る文字が現れ、伝説の系統が書かれていたそのボロボロの本と、それを持っていたルイズを交互に見比べている。

 先程まで成長したなと感心し、手で触れるもののほんのちょびっとだけ離れた彼女が、一気に手の届かぬところへ行ってしまったかの様な喪失感。
 今、光文字で覆い尽くされた古びた羊皮紙の本へと視線を向ける彼女の背中は、まるでルイズとは思えぬ程別人に見えてしまう。
 ルイズのライバルであり、常に彼女の隣りに付き纏う筈だった自分は、とっくの昔に置いて行かれてしまっていたのだろうか?
「ルイズ、貴女は一体…」 
 キュルケが何かを言おうとする前に、ルイズは更にページを捲って新しい文を読み始める。
 まるでそれが今の自分がするべき使命だと感じているかのように、キュルケの声は届いていない。
 ただ、己の鼓動だけがやたらと大きく聞こえた。 

―――これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐ者なり。
――――またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱う者はこころせよ。
―――――志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。
――――――『虚無』は強力なり、また、その詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。
―――――――詠唱者は注意せよ。時として『虚無』はその強力により命を削る。

―――したがって我はこの書の読み手を選ぶ
――――たとえ資格なき者が指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。
―――――選ばれし読み手は『四の系統の指輪』を嵌めよ。さればこの書は開かれん。


 そこまで読んだところで、ルイズは深呼吸をした。
 まるで戴冠式に臨む王位継承者のように、自分を待ち受けているだろう運命を想像したときのように…。
 そして自分の言葉一つで国の生き死にを左右する程の力を得る事の覚悟を、受け入れるかのように――――
 深く、そして長い深呼吸の末にルイズは序文の最後に書かれた者の名を、ゆっくりと告げた。

「―――――――ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・・ヴェー・バルトリ…」

 ルイズとシルフィードを除く、その場の誰もが驚愕を露わにした。
 モンモランシーとギーシュは言葉も出せないのか、互いに見開いた目を合わせながら硬直している。
 無理もないだろう。何せこれまで歩んできた人生の中で最も刺激的な体験を既に幾つもこなしているうえで、更に超弩級的な話まで聞いてしまったのだ。
 限界まで回っていた頭の中の歯車がとうとう煙を上げてしまい、ただただ驚くことしかできない状態なのである。
「マジかよ…?ルイズのヤツ、確かに他の連中とは違う魔法を使うとは思ってたが、正に『みにくいアヒルの子』ってやつだな…」
「…………」
 一方で、以前にルイズの゙失敗魔法゙を間近で見ていた魔理沙は思わぬ事実を聞いて目を丸くしていた。
 そして子供の頃に聞いた外の世界の童話を思い出し、話の主役であるみにくいアヒルの子―――もとい白鳥と今のルイズの姿を重ね合わせていた。
(成程ね…、レミリアや紫の言っていた通りだった…という事ね)
 霊夢は霊夢で、怪訝な表情を浮かべつつもルイズが『始祖の祈祷書』を開く前に言っていた言葉に納得していた。

407ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:34:02 ID:UgHbZZAM
「る、ルイズッ!ちょっと、これは一体どういう事なのよ……ッ!?」
 驚愕と同時にルイズの肩を掴んだキュルケは、余裕を取り繕う暇も無く彼女に問い詰めようとする。
 しかしルイズは口を開くことはせず、自分の肩を掴むキュルケの手を優しく取り払うとスッと軽い動作でその腰を上げた。

 この時、タバサは気が付いた。ルイズがあらかじめ指に嵌めていた指輪の正体を。 
 最初にそれを目にした時は似たようなアクセサリーの類かと思ってはいたが、あの文章を聞けば誰もが彼女と同じ答えに達するであろう。
 青く光る宝石の指輪。それはトリステイン王家に古くから伝わる『四系統の指輪』の一つ、『水』のルビー…だと。
 唯一の疑問は、何故名家と言えどもまだまだ子供でしかない彼女がそれを持っているのかという事だが、それは本人に聞かねば分からない。

「ルイズ、それはもしかして――――…゙『水』のルビー゙なの?」
「タバサ…!」
 もう一人の親友が口にしたその言葉にキュルケは思わず大きな声を上げてしまう。
 彼女は認めたくなかったのだろう。本に書かれていた内容を思い出し、これからルイズに降り掛かるであろう運命を。

 したがって我はこの書の読み手を選ぶ
 たとえ資格なき者が指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。
 選ばれし読み手は『四の系統の指輪』を嵌めよ。さればこの書は開かれん。

 彼女が指に嵌めている、本と同じく青色に輝く宝石が台座に嵌った指輪。そしてその通りに開かれた本。
 そしてそれを開き、読みし者がこれから受け入れるしかないであろう運命が、決して楽ではないという事。
 だからキュルケは不安だった。いつも自分の事だけで精一杯で、それでも必死に背伸びして頑張ってきたルイズの゙これから゙が。

 しかしそんなキュルケの大声も空しく、立ち上がったルイズは二人の方へと顔を向けると、
「―――ごめん、二人とも。詳しい話は私達の頭上にあるアイツらを片付けてからにして頂戴」
 二人に向かってそう言ったルイズは、右手に持った杖を頭上のアイツラ―――もといアルビオン艦隊へと向ける。
 この十六年、苦楽を共にし、異世界へも一緒に行った古い友人の様な杖をルイズはしっかりと握り、魔力を込めていく。
 何度呪文を唱えようとも失敗し、その度に大きな爆発を起こしつつも決してその爆発で折れる事は無かった。
 そして今は、今までそうしてきた様に魔力を込めているが…これから唱えていくであろう呪文は初めて詠唱するもの。
 今まで見てきた呪文の中で、恐らく最も長いであろうその魔法が何を起こすのかまでは良く知らない。
 けれども…唱え終わり、杖を振った後に起こり得るべき事象はルイズには予測できた。
 何故ならば、左手に持った『始祖の祈祷書』にはその魔法の呪文の横に名が記されていたのだから。
 その名前を見た時、彼女は確信した。今まで自分が爆発させてきたのは、決して失敗では無かったという事を。 
 
 ただ、やり方が分からなかっただけなのだ。
 魔法の才能があると見出された子供が、いきなりスクウェアスペルの魔法にチャレンジするかのように。

 ―――――以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。
 ――――――初歩中の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』

(私の魔法は失敗じゃなかった…!ちゃんと唱えるべき呪文があったんだ!)
 ルイズは胸の内で歓喜の叫び声を上げると、ついではやる気持ちを抑えようと軽い深呼吸をする。
 『始祖の祈祷書』に書かれていた事が確かならば、指輪を嵌めて祈祷書の内容を読むことのできた自分は、まさに『虚無』の担い手ではないのか?
 幻想郷で出会った吸血鬼のレミリア・スカーレットが言うとおりに、自分の本当の力はこれまで目覚めていなかったのかもしれない。
 あの世界では一際強力な力を宿した人間の霊夢を召喚し、あまつさえ彼女は伝説の使い魔『ガンダールヴ』となっている。

408ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:36:06 ID:UgHbZZAM
 そして、ワルドに眠らされた時に見たあの変な夢。
 あの時、夢の中で自分に話しかけてきた男の人は確かに言っていた。『水』のルビーを嵌めて、『始祖の祈祷書』を開け、と。
 見ていた時にはハッキリと聞こえなかったあの言葉が、今になって鮮明に思い出せる。
 確かに、鞄の中にはお守りの代わりにアンリエッタから貰った『水』のルビーと『始祖の祈祷書』を入れていた。
 その事を何故、あの夢の中にいた男の人は知っていて、それを身につけページを開けと伝えてきた理由までは知らない。
 所詮は夢の中…と言えばそれで良いのだろうが、ルイズにはあの男の人が『単なる夢の中の存在』だとは思えなかった。
 今にして思い出してみると、耳に入ってくるあの人の声色やしっかりとした靴音は、夢とは思えないくらいに生々しかったのである。
 まるでワルドの魔法で気を失った自分の意識だけが、どこか別の空間に移っていたかのような…。
 そして夢から覚める前に、彼はこんな事を言っていた。
 
 ――――君ならば…―――制御でき―――る…。
 ――――使い道を、間違え…――――あれは、多くの…人を――――無差別に…―――――――殺…せる

 君ならば制御できる。そして、多くの人を無差別に殺せる…と。
 目覚めた直後は何を言っていたのか分からなかった。
 しかし夢で言われたとおりに指輪を嵌め、ページを開いた祈祷書に書かれている゙エクスプロージョン゙の名と呪文を見て、確信した。
(どうしてかは知らないけれど、きっとあの男の人はこれの事を言っていたんだ。私が上手くその力を制御して、アルビオン艦隊を止めろって…)
 頭上に迫るアルビオン艦隊。その進む先には大好きなカトレアがいるであろう屋敷に、王都トリスタニア。
 後退したトリステイン軍ではあれを防ぎきれるかどうか分からない、もし破られればトリステインは一方的に蹂躙されるかもれしない。

(なら、私がやるしかない。こんなタイミングで、『虚無』の使い手だと発覚した私が…止めるしかないのよ)
 だからこそ彼女は祈祷書に猿された呪文を唱えるのだ。その小さな背中にあまりにも大きすぎる荷物を背負って。
 杖を振り上げ、遠い遠い歴史の中に冴えて言った伝説の呪文を唱えるその後ろ姿はあまりにも危うげで、しかしどこか勇猛さえ垣間見えた。

 ―――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ

 ルイズの口から低い詠唱の声が漏れ出している。
 その声は妙に落ち着いていており、子供のころから唄っている子守唄の様にしっかりとした発音。
 キュルケやモンモランシーもその詠唱を聞いて口を閉ざし、今やそれを静聴する観客の一人となっている。
 既にアルビオン艦隊は間近にまで迫ってきており、近づけば近づくほど船の周囲で警戒にあたっている竜騎士たちに見つかりやすくなる。
 タバサはその時の為に呪文を耳に入れつつもその視線は上空へと向けて、近づいてくる艦隊と竜騎士に警戒していた。
 一応この中で唯一の男子であろうギーシュも警戒に当たっていたが、恐らく一番頼りないのも彼なのも間違いない。
 何にせよ気づかれれば一触即発。ハルケギニア一の竜騎士とうたわれるアルビオンの竜騎士隊との戦いは避けられないであろう。
 
「全く、あっちはあっちで盛り上がってるぜ。私のこの逸る気持ちを放っておいてさぁ」
 ルイズの落ち着いた声と聞き慣れぬ呪文の詠唱が周囲に聞こえる中、魔理沙は口をとがらせて上空を睨んでいた。
 森の中では上手く戦えず、ワルドには眠らされた挙句にようやく自分らしい戦いが出来ると思いきや…ルイズからのお預けである。
 本当ならばルイズはルイズで呪文を唱えている間にひとっ飛びでもして、あの艦隊と竜騎士たちに喧嘩を売りに行きたい気分だというのに…。
 まるでエサ皿を前に「待て」と言われた飼い犬の様に大人しくしていた魔理沙であったが、彼女がそう易々という事を聞くはずがなかった。

409ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:38:07 ID:UgHbZZAM
 ルイズが艦隊へと杖を向けて詠唱し、キュルケ達がそんな彼女の背中を黙って見ている状況。
 五人の後ろにいた魔理沙はキョロキョロと辺りを見回すと、音を立てずにそっと箒に腰かけようとする。
「まぁいいか。ルイズはルイズで頑張れば良いし、私はちょっくらちょっかいを掛けにでも…―――…って、うぉっ!?」
 そして、そんな事を呟きながら飛び立とうとした彼女は…後ろにいた霊夢に襟を掴まれて強制着陸してしまう。
 幸いにも飛び立とうとする直前であった為に、地面にしりもちをつくという情けない姿を掴んできた相手に見せる事はなかった。
「全く…アンタは何、そう他人事みたいに言って、一人で突っ込もうとするのよ?ったく、世話が焼けるわね」
 世話の焼ける子供を相手にする年上のようなセリフを言ってきた霊夢を、魔理沙は苦虫を噛んだ様な表情で睨み付ける。
「……おい霊夢、コイツは一体どのような了見かな?自分一人だけ満足するまで戦っておいて、私の時だけ邪魔するのは良くないと思うぜ?」
「アンタとは違って私は別に戦いが好きってワケじゃないわよこの弾幕バカ」
 ルイズの詠唱を邪魔せぬ程度の声量で、二人は喧嘩にならない程度の口げんかと会話を同時に進めていく。
 一方でルイズの詠唱を見守っていたタバサがチラリと霊夢たちの方を垣間見るが、二人はそれに気づかずに会話を続けていた。

「にしたってよぉ、本当は私等三人でアレを倒すつもりだったっていうのに…まさかルイズ一人に取られるとはなぁ」
 霊夢に止められて一旦は諦めが付いたのか、箒に腰かけるのをやめた魔理沙が未練がましく呟く。
 そんな彼女を見ていた博麗の巫女は、相も変わらずドンパチ好きな知り合いにため息をつきつつも話しかけた。
「別に邪魔するつもりじゃあ無かったのよ。ただ、今ルイズが唱えているあの呪文の事で、ちょっとイヤな予感を感じただけよ」
「……!ちょっと待て、お前さんの言ゔイヤな予感゙ってのはあまり耳にしたくは無いんだが…私を引きとめたって事はそんなにヤバイのか?」
 勘の良さに定評のある霊夢の口から出た言葉に、魔理沙が物騒なモノを見るかのような表情を浮かべてしまう。
 しかしそんな魔法使いに構うことなく、彼女は上空の艦隊を見上げながら呟いた。

「何が起こるのかまではまだ分からないけど…これはちょっと、洒落にならない事がおこるかもね?」
「マジかよ…」
 いつも暢気にしている霊夢が真剣な表情で呟いた言葉に、魔理沙はようやく大変な事が起ころうとしている事に気が付く。
 事あるごとに鋭い勘を働かせ、異変解決に勤しんできた霊夢の真剣な様子と物言いは決してバカにできないと知っているからだ。
「まぁアンタも私も、何かあったときはお互い動ける様にはしときましょうか」
「何か私だけお預けを喰らった気分だが、しゃーない!これは借りにしておくからな」
 ルイズの口から漏れ続ける、失われし系統『虚無』の呪文が耳に入ってくる状況の中、魔理沙はふと気が付く。
 霊夢の左手の甲に刻まれたルーン―――今は休眠状態にある『ガンダールヴ』のルーンが、薄らと光り出した事に。



「んぅ〜…?何だぁ、船首が騒がしいぞぉ…」
 お気に入りのワインを五分の二ほど飲んだジョンストンが騒ぎに気付いたのは、それ程遅くは無かった。
 最初の奇襲が失敗し、待ち伏せしていたトリステイン軍の伏兵に地上から攻撃された後、彼は気つけ薬として酒を飲んでいた。
 最初はエールを軽く一杯チビチビと飲んでいたが、切り札であるキメラ軍団の活躍を聞いてから、エールの入った瓶はすぐに空になった。
 部屋にあったエールを一瓶飲み干し、タルブ村一帯まで占領したという情報が入ってきてから、彼はとうとう秘蔵のワインに手を出したのである。
 それから後はトントン拍子に酔ってしまい、花火を打ち上げてそれを進軍の合図にしたりと既に気分は勝利者の状態なのであった。
 今の彼は周りの水兵や将校達からは放っておかれている状況であったが、程よく酔っている今の彼にはどうでも良いことでしかない。
 
 しかし、そんなジョンストンではあったが船首に集まっている何人かの将校を見つけることは出来ていた。
 『レキシントン』号に乗船したている士官や艦長のボーウッドまで船首から首を出して、望遠鏡で何かをじっと見ている。
 まるで子供の頃に親に買ってもらった望遠鏡で星空を眺めるかのように、一生懸命右目をレンズに当てて地上の様子を観察しているのだ。
 大の大人…ましてやボーウッド程の軍人が子供じみた真似をしているのを見て、思わずジョンストンは口の端をゆがめて笑ってしまう。

410ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:40:17 ID:UgHbZZAM
(全く、この私の前であれ程偉そうなに振舞っておいて、自分は部下たちを引き連れてトリステインの田舎観察とはな)
 既に頭の中も酒気に中てられたジョンスントンは、そんな事を思いながら「ハッ!」と小さな笑い声を上げる。
 しかし、笑うと同時に気にもなった。あのボーウッドや士官たちは自分たちの仕事ほ放っぽり出してまで、何を必死に見ているのだろうか?
「……うぅ〜む。一体なんだ、何を見ているのだ?…気になる、気になるぞ」
 呂律が回らなくなってきた口で一人ぶつぶつと呟きながら、ジョンストンは少し危なっかしい足取りで艦長たちの方へと歩いていく。
 途中何人かの水兵が彼の背中に声を掛けてきたものの、それ等を無視してお飾りの司令長官はボーウッドの下へとたどり着いた。

「おぉうボーウッドよ、夜空の上から眺める地上とやらは綺麗かな?」
「……!サー、ジョンストン司令。一体何用でございますか」
 背後から酔っ払いのジョンスントンに声を掛けられたボーウッドは、慌てて彼に向かって直立し、次いでビシッと敬礼を決めた。
 他の士官たちも酔っぱらった司令長官が来た事に気が付いたのか、皆望遠鏡を下ろしてから急いで敬礼をしていく。
 相変わらず生真面目なヤツらだと思いながら、ジョンストンは赤くなった顔でニヤニヤ笑いつつボーウッドの左手の望遠鏡を指さして言う。
「いや何、アルビオン共和国が王国だった頃から働いてると君たちが子供の様に望遠鏡を覗く姿に興味が湧いてね。…で、どうだい?星でも見えるのかい?」
 酔いの勢いもあってか、朝方の弱気な態度が消えたジョンスントンへの苛立ちを隠しつつ、ボーウッドは敬礼の姿勢を崩さぬままこう答えた。
「いえ実は…先程からタルブ村の小高い丘の上で、怪しい動きを見せている者たちがおりまして」
「何だと?少し借りるぞ」
 ボーウッドの報告を聞いて笑顔が一転怪訝な表情へと変わったジョンストンはそう言った後、彼の手から望遠鏡をひったくった。
 お飾りとはいえ司令長官の命令には逆らえず、他の士官仲間たちが残念に…と言いたそうな表情を向けてくる中、ボーウッドはひたすら冷静を装っている。
 アルビオン王国時代から空軍が愛用し続ける望遠鏡を手に取った司令長官は、他の者達かしていた様に船首から地上の様子を観察した。
 最初こそどこにいるか探る為に十秒ほどの時間が掛かったものの、森へと通じる小高い丘にボーウッドの言ゔ者達゙の姿を発見する。

「おぉ、あヤツらか…。ふむ、確かに怪しいな…ひぃ…ふぅ…合わせて七人…おぉ小さいが風竜もいるなぁ」
 ジョンストンが望遠鏡越しに覗く先には、怪しい七人と一匹の青い風竜――――ルイズたちが見えていた。

 その内五人がマントを羽織っているのを見て貴族だと気が付くが、望遠鏡越しに見ても軍人とは思えないほど身の細い者達ばかり。
 更に残りの二人の内一人…黒髪の少女は異国情緒漂う変な格好をしており、紅白の衣装は夜中と言えども酷く目立っている。


「あれは一体何のつもりだ?まさかたったの七人で我が艦隊を止めるとでも…いや、まさかな」
 ジョンストンの独り言から、彼も自分たちが見ていたモノを発見した事に気が付いた士官の一人が、咄嗟に説明を入れた。
「実は船首で地上警戒に当たっていた水兵が彼女らを見つけまして…我々も何た何だと見ていたのです」
「そうか……ん?」
「どうしました?」
 望遠鏡は下ろさず、そのまま士官の説明を聞いていたジョンストンは、ふとある事に気が付く。
 その七人の内唯一男子であろう派手なシャツを着た少年を覗き、六人がそれなりいい年の美少女だという事に。
「ふぅむ、ここからだと顔は良く見えんが。流石はアルビオン謹製の望遠鏡!この距離でも相当綺麗な乙女ばかりと辛うじて分かるぞ!」
「……そ、そうですか」
 聞いてもいないのにそんな事まで言ってくるジョンスントンに、士官たちは声を上げなかったものの皆呆れた表情を浮かべている。
 ボーウッドもボーウッドで冷静を装いつつも、自分に絡んできた酔っ払いをこれからどうしようか考えあぐねていた。
 そんな風にお荷物な司令長官に呆れてしまっていた時、その司令長官であるジョンストンが怪訝な表情を浮かべて言った。

「いや…待てよ、七人の内の一人だけ…ピンク色?の頭の少女…あれは何を…杖を向けて、呪文を唱えているのか?」
 実況するかのように望遠鏡越しに見える少女の様子を喋っていたジョンストンの言葉に、ボーウッドたちは再び船首から身を乗り出した。

411ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:42:04 ID:UgHbZZAM
 目まぐるしく状況が変化しているのは、何もアルビオンやトリステイン軍、そしてルイズ達だけではない。
 霊夢や魔理沙たちもまた、この戦場と呼ぶにはあまりにも静かすぎる空間の中で目まぐるしい状況の変化を味わっていた。

 ―――オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド

「……何これ?一体どうなってるの?」
 『始祖の祈祷書』に現れた虚無のスペルを唱えるルイズの声が響き渡る中、ふと雑音の様な巫女の声。
 薄らと光り出した左手の甲に刻まれた使い魔の証――『ガンダールヴ』のルーンを見て、霊夢が怪訝そうに呟いたのだ。
 今のところ持てる力を使い切ってお休み状態になっていた筈だというのに、まるで息を吹き返したかのように光り始めたのである。
「おいおいどうしたんだよ霊夢?何だか知らんが、使い魔のルーンがやけに調子良さそうじゃないか」
 霊夢よりも先に気が付いていた魔理沙は、元気?を取り戻していく使い魔のルーンを見つつ、面白いモノを見るかのような目で言った。
「まるで他人事みたいに…まぁアンタには他人事だろうけどね。……って、うわッ…ちょ…何これ、力が…」
 そんな黒白を無視せずに悪態をつこうとした霊夢はしかし、ルーンの発光と共に自分の身に異変を感じ、思わず驚いてしまう。
 気のせいなのだろうか。否、気のせいと思いたいのか、ルーンからほんの僅かだが力が湧き出しているののに気が付いたのだ。
 まるでスコップで掘った地面の穴から温泉が徐々に滲み、湧き出てくるようにゆっくりと自分の体の中をルーンから流れる力で満たされていく。

(ちょっと嬉しい気持ち半面、気持ち悪いわねェ…―――でも、そういえば一度だけ…)
 一体どういう気まぐれなのか、恐らく体力を使いすぎた自分を労わってくれているであろうルーンに、霊夢は複雑な気持ちを感じてしまう。
 そもそも使い魔のルーンに感情何てあるのかどうかすら知らなかったが、ふと彼女は思い出す。一度だけ、今と似たような状況に遭遇したことが。
 ルイズに召喚されたばかりの頃、まだ紫が迎えに来る前の事。あのアンリエッタが持ってきた幻想郷録起を手掛かりに、アルビオンへ赴いた時の事。
 偶然見つけた浮遊大陸の底に出来た大穴、そこを通って辿り着いた森で出会った長耳に金髪の少女。
 昼食を頂いた後で襲い掛かってきたミノタウロスに止めを刺そうとした直前、杖を手にした彼女が唱えた呪文。
(あの時とは違うけど…似ている。彼女の呪文は心が安らいで…消えてたルーンがまた戻ってきて…そしてルイズのこの呪文は…――――…ッ!?)
 『ガンダールヴ』のルーンを通して、自分に力を与えてくれている。そこまで考え付いた時、霊夢は気が付いた。
 呪文を唱えているルイズの体から漂ってくる魔力が、際限なく膨れ上がっていくのを。

 ――――ベオーズス・ユル・スヴェエル・カノ・オシェラ

 ルイズが詠唱を続けていくごとに、彼女の体の中に蓄積していく魔力が膨れ上がりつつも一定の形へと姿を変えていく。
 まるで地面から盛り上がった膨大な土の山に緑が生い茂り、巨大な霊峰へとなっていくかのような、魔力の突然変異。
 そうとしか言いようの無い魔力の形成が、年端もいかぬルイズの体内で起こっている事に、霊夢と魔理沙は――いや、キュルケ達も薄々気が付いていた。
「霊夢…!こいつは…」
「一々言わなくても良い、分かってるわよ」
 先ほどルーンが光っていた事を小馬鹿にしていた魔理沙は、真剣な表情でルイズを見つめている。
 魔法使いであるが故か、この世界の魔法使い…もといメイジであるルイズの魔力に気付いて、額から冷や汗が流れ落ちた。
「お前さんの勘が当たったなぁ?何が起こるかまでは分からないが…もし、あれだけの魔力を攻撃に使ったら…」
 そこから先の言葉を唾と一緒にグッと飲み込んだ彼女を見て、霊夢は思わず背中に担いでいたデルフに喋りかける。
「ちょっとデルフ、これ一体どういう事よ?ルイズのヤツ、虚無の魔法がどうたらとか言って、呪文を唱えてるだけどさぁ…」
 始祖の使い魔について妙に詳しかったこの剣の事だ、きっと何か知っているかもれしない。そんな期待を抱いて、話しかけた。

412ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:44:03 ID:UgHbZZAM
『……………。』
 しかし、ワルドと戦いだしたときはあんなに饒舌だったインテリジェンスソードは、その口?を閉ざしていた。 
 眠ってるわけではないのだろうが、あのお喋りな剣が黙りこくっていることに霊夢は不安を感じてしまう。
「――……ちょっと、聞いてる?デルフー?」
『―――…え?あ、あぁ悪りぃ悪りぃ!俺とした事が久々の『虚無』の呪文を聞いて呆気に取られちまったぜぇ…!」
 念のためもう一度声を掛けた直後、まるで止まっていた時が動き出しすのようにデルフが喋り出した。
 暫しの沈黙を破ったインテリジェンスソードの声には抑揚がついており、その言葉からは嬉しそうな響きが混じっている。
 霊夢はため息をつきつつも、変に嬉しそうなデルフを鞘から抜くと面と向かって彼に話しかけた。
「ちょっとアンタ、その様子だとルイズが今唱えてる『虚無』とかいうのに詳しそうじゃないのよ。何か知ってるの?」
 彼女の質問はしかし、テンションが上がっているデルフの耳?には入らず、彼は一人捲し立てている。
『いやー何!あの娘っ子が『虚無』の担い手だったとなはぁ…、まぁ人間のお前さんを召喚して『ガンダールヴ』にしちまったんだから…当然―――ッウォ!』
 ダミ声と金属音が一緒くたになって重なり合い、下手くそな音楽になりかけた所で、苛立った霊夢が思わずデルフを地面へと突き刺した。
 雑草を切り裂き、程よく固い土と土の合間に入り込むようにめり込んだところで、ようやっとデルフは我に返る事ができた。

「だぁーかぁーらぁーッ!私はその『虚無』とやらを詳しく知りたいワケ!アンタの一人語り何てどうでもいいのよ!」
 ハッキリとした苛立ちを顔に浮かべた霊夢の怒気を感じ取った魔理沙が、「おぉ、怖い怖い」とデルフと彼女を交互に見つめて笑っている。 
 その間にも詠唱を続けるルイズの体から漂う魔力は先鋭化していっており、魔理沙の笑顔もどことなく硬い表情であった。
『わ、分かった分かったって…ったく、おっかねぇなぁレイム。ちゃんと説明するつもりだったんだよ』
「だったら今質問するからそれに答えなさい。…ルイズが今唱えてるのが『虚無』だとして、『エクスプロージョン』ってどういう魔法なのよ」
『えぇ?……あぁ、思い出した。確かにそうだな、この呪文は確かに『エクスプロージョン』のだな。『虚無』の中でも初歩中の呪文だ』
 霊夢の質問にデルフがそう答えると二人からちょっとだけ離れていた魔理沙がふらりと近づき、デルフに質問を投げかける。
「なぁデルフ。ルイズが今唱えてる呪文…名前からして爆発系の魔法なんだろうが、あの魔力の貯め方だと相当な威力が出るんだろ?」
 普通の魔法使いからの質問には、なぜか数秒ほど考える素振りを見せてから、金具を動かして喋り出した。

『あぁ…―――まぁそうだなぁ〜…。娘っ子が『虚無』を初めて扱うにしても、手元を狂わせる事は…しないだろうなぁ』
「手元を狂わせる…?何だよ、何かヤケに不吉な言い方だな?」
『不吉って言い方は似合わんぜマリサ。もし娘っ子が『エクスプロージョン』の制御に失敗したら…』
 そこでまたもや喋るのを止めたデルフの沈黙の間に入るようにして、

 ――――ジェラ・イサ・ウンジューハガル・ベオークン・イル…

 ルイズの詠唱が辺りに響き渡った直後、意を決した様に言った。
『―――――俺もお前ら全員。跡形も無く消えちまう…文字通りの『死』が待っているんだぜ?』 
 直後、そこで詠唱を止めたルイズは一呼吸置いた後にアルビオン艦隊へと向けた右手の杖を軽く振り上げた。
 すると彼女の体内で溜まっていた魔力の塊が一気に杖へと流れ込み、ルイズの体内から魔力を削り取っていく。
 
 そして…体内に溜まっていた魔力をほんの僅かだけ残し、残りが全て杖へと注がれた瞬間。
 ルイズは振り上げたその杖で、頭上のアルビオン艦隊を斬り伏せるようにして―――振り下ろす。
 直後。詠唱と共に練り上げられたルイズの魔力は『エクスプロージョン』として発動し、その効果を発揮した。

413ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:46:03 ID:UgHbZZAM
 
「ん…―――――ッ」
「うぉ…――――ッ!」
『おぉッ…!』
 眩しい、眩しすぎる。
 ルイズが発動した『エクスプロージョン』を一目見ようとした霊夢と魔理沙は、偶然にも同じ感想を抱いていた。
 最も、それを言葉として出すよりも先に二人して小さい悲鳴が口から漏れ出し、目の前を覆い尽くす白い閃光に目を瞑らざるを得なかったが。
 魔理沙はともかくとして霊夢は目の前を覆う白い光に目をつぶり、顔を背けつつも何が起こったか把握しようとしている。
「何これ…!眩しい…、ちょっと魔理沙!」
「私に聞かないでくれ!今は目ぇ瞑ってるだけでも精一杯なんだからさぁ…!」
 しかし、彼女の目で見えるのはすぐ横にいる魔理沙と地面に突き刺したままのデルフだけで、ルイズとその近くにいたキュルケ達は見えない。
 魔理沙も魔理沙で直視すれば失明の危険すらある程の眩しい光と対峙する勇気はないのか、必死に顔を背けていた。
「ちょ…ッ!何よこれ、何が起こったっていうの!?」
「!…キュルケ、アンタ…さっきまで立ってた場所にいるの?」
 その時であった。彼女たちのいた場所からあのキュルケの叫びが聞こえてきたのは。
 姿は見えないにしても会話を邪魔するような騒音が無いために、姿は見えずとも彼女と自分の声だけは鮮明に聞き取れていた。

「れ、レイム…何だか、大変な事になっちゃっってるわねぇ…!?」
「こんな時に楽しそうに喋れるアンタの気楽さを見習いたいもんだわ…!」
 ギーシュやモンモランシーと一緒に、ルイズの傍にいたであろう彼女は自分達よりもっと大変な目に遭っているかもしれないが、
 珍しいモノが見れたと思っているのか、抑揚のついた声で話しかけてきたキュルケに霊夢は思わず苛立ちの声を上げてしまう。
「で、ルイズはどうなの、無事なのッ!?」
「大丈夫!ルイズはいる、僕たちの傍にいるよ!モンモランシーは気を失っちゃったけどね!」
「タバサも大丈夫、私の傍にいるわ!」
 ついで確認したルイズの安否にはギーシュが答え、自分のガールフレンドが倒れた事も報告してくる。
 キュルケも無口であるタバサの安否を確認し、彼女の使い魔であるシルフィードが返事替わりに「きゅいー!」と一鳴きした。

 ひとまずこの場に居た全員の安否を確認した霊夢は、光の発生源であろうルイズの事を思って舌打ちした。
「くっそ…!ルイズのヤツ、こんな事が起こるっていうなら先に言っておきなさいよ!」
『なぁに、この閃光は長くは続かないぜレイム。娘っ子のヤツは無事に『エクスプロージョン』を成功させたぜ!』
 思いっきり理不尽な物言いをする霊夢を励ますかのように、唯一目を瞑る必要すらないデルフが、嬉しそうな様子でそう言った直後―――光が晴れ始めた。
 まるで霧が晴れていくようにして薄まっていく光が彼女たちの視界から消え失せ、周囲は再び夜の闇に包まれていく。

「…光が消えた?………――ん?…―――…ッ!」
 光が晴れた事で、無事に視界が元に戻った霊夢はふと頭上を見上げ―――――目を見開き絶句した。 
「お、やっと光が晴れ……て…――――…はぁッ!?―――えぇ…ッ?」
 彼女の隣にいた魔理沙もようやく視界を取り戻した直後、彼女に倣うかのように頭上を見上げ、驚愕する。
 そして信じられないと言わんかのように何度も両目を擦り、もう一度頭上を見上げて驚いて見せた。

414ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:48:02 ID:UgHbZZAM
「………ははっ、何よコレ?」
「―――――…どういう事なの」
 キュルケは目立った反応こそ見せなかったものの、明らかに引き攣った笑みを浮かべて夜空を見上げていた。
 タバサもまた動揺を抑える事ができず、丸くなった目でゆっくりと地面へと落ちていぐソレ゛を見つめている。
「る…る、る…ルイズ…?ま、まさか君が…君がやったのかい…゙アレ゙を」
 気を失ったモンモランシーを抱きかえているギーシュは限界まで見開いてしまった目で、すぐ横にいるルイズを見つめた。
 アルビオン艦隊が゙いだ場所へ杖を向けたままの姿勢で固まっている彼女は、ジッと夜空を見上げている。
 暗い闇に包まれていた地面を照らす太陽の様に激しく燃え盛る炎が幾つも舞い、落ちてくる夜空を。

『ほっほぉ〜?奴さんたちの被害を見るに…娘っ子のヤツ、相当溜めてたみたいだねぇ?』
 ルイズとモンモランシーを除いた皆が驚きを隠せぬ中で暢気に喋るデルフは、夜空に浮かぶ炎へと視線を向ける。
 夜空に浮かぶ炎の正体。それは見るも無残に炎上するアルビオン艦隊であった。
 全ての艦の帆に、甲板に火がつき、その灯りで地上を薄らと照らしてしまうほどに燃え盛っている。
 そして不思議な事に、あれだけ快調に進んでいた艦船群全てが、艦首を地面へ向けて墜落していくのだ。
 まるで火山灰に巻かれ、成す術も無く地上へ落ちていく渡り鳥のように。
「冗談だろ…?まさか、これ全部、ルイズのあの魔法一発で…」
「少なくとも、幻想郷であんなの使ったら…大変な事になるわね」
 自分たちを照らしつつ緩やかに墜落していくアルビン艦隊を見つめながら呟いた魔理沙に、霊夢が相槌を打つ。
 魔理沙も魔理沙で破壊力のある弾幕を放つことはあったが、ルイズが発動したであろう『エクスプロージョン』は格が違った。
 あれはあくまでも弾幕ごっこで使う弾幕であり、それ以上でもそれ以下でもない。しかし、目の前の艦隊を全滅させた『エクスプロージョン』は違う。
 弾幕ごっこは人と妖が対等に戦える遊戯かつ幻想郷流の決闘でもあり、どんな弾幕でも避けれるチャンスはあるが、あの『虚無』にはそれが無かった。
 一方的な攻撃かつ徹底的な破壊、それが一瞬で行われる。妖怪ならまだしも、人間の少女であるルイズがあの魔法を幻想郷で放てば一大事になるだろう。
 均衡を保っていた人間と妖怪のパワーバランスが崩壊してもおかしくはない、ルイズが見せてくれた『虚無』はそれだけの力を持っていた。


『そう、これが『虚無』の一端。かつてこの地に降臨して、今の世の礎を築いた始祖ブリミルが使っていた第五の系統さ』
 唖然とする二人を見ていたデルフがまるで自慢するかのように言った直後、キュルケが悲鳴を上げた。
「ルイズ!ちょっと、大丈夫…!?」
「う、うぅん…ん…」
 見れば先ほどまで二本足で立っていたルイズは糸が切れた人形の様に、地面へと倒れている。
 悲鳴を上げたキュルケは彼女の傍に寄り添い体を揺するが、ルイズ本人は呻き声を上げるだけで一向に目を開けない。
「ルイズ!」
 霊夢の隣にいた魔理沙も気になったのか、ルイズの使い魔である知り合いよりも先に彼女の下へと走る。
 一方の霊夢も一足遅れて近づこうとしたが、ふと甲板と帆を炎上させて墜落していく『レキシントン』号を見て、苦々しく呟いた。

「何が魔法よ…!こんなの、魔法のレベルを超えてるじゃない。私から言わせれば……強いて言わせれば―――――」

――――――『粒を操る程度の能力』だわ…!
 最後の言葉を心の中で叫んだ彼女は、デルフをその場に突き刺したままルイズの下へと駆けていく。

 霊夢は思い出していた、ルイズが読んでいた『始祖の祈祷書』に書かれていたであろう内容を。
 この世の物質は小さな粒から為り、四系統の魔法はその粒に干渉し、『虚無』はそれより更に小さな粒に干渉できる。
 ならばルイズが放った『エクスプロージョン』は、その小さき粒を刺激し変化させ、艦隊の周囲で爆発させたのだ。

 だから彼女はルイズの゙魔法゙を、幻想郷で言ゔ能力゙と位置付けた。
 使い方次第では神にも大妖怪にも為り得る、強大過ぎるルイズの『虚無』を。

415ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/12/30(金) 23:51:35 ID:UgHbZZAM
以上で、78話の投稿は終了です。
今年も大晦日に投稿する予定でしたが、帰省の都合で前日の投稿となってしまいました。

なにはともあれ、もう2016年も終わりですね。
どうか皆様、来年もよろしくお願いいたします。
ではこれにて。ノシ

416ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:07:10 ID:dfGzk3W6
皆様、明けましておめでとうございます。新年最初の投下を致します。
開始は20:10からで。

417ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:10:31 ID:dfGzk3W6
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十一話「二冊目『わたしは地球人』(その1)」
蛸怪獣ガイロス
恐竜
地球原人ノンマルト 登場

 トリステイン王立図書館にあった六冊の『古き本』に精神力を奪われ、目覚めなくなって
しまったルイズ。才人はルイズを救うために、司書リーヴルの力を借りて本の世界の攻略を
始める。そして一冊目の『甦れ!ウルトラマン』を激闘の末に、完結に導くことに成功したが、
残念ながらルイズに変化は見られなかった。
 それから一夜明け、才人は二冊目の攻略に臨む。

「……シエスタ、ルイズの様子はどうかな」
 ルイズを寝かせている図書館の控え室で、才人は昨日からルイズの看護に加わったシエスタに、
ルイズの容態を尋ねた。が、シエスタは残念そうに首を振った。
「昨日から、同じままです。悪くなる気配もなければ、目を覚ます気配もありません」
「そうか……。やっぱり、残る本の世界を完結させて、ルイズの精神力を取り戻す以外に
方法はないってことか」
 つぶやいた才人が依然変わらぬルイズの寝顔に目を落とし、改めて誓った。
「ルイズ、待っててくれ。必ず、お前を本の世界から助け出してやるからな」
 それから待機済みのリーヴルの方に振り返る。彼女は才人に告げる。
「こちらの準備は完了してます。次に入る本をお選び下さい」
 テーブルに並べられている五冊の『古き本』。才人はそれらを手に取りながら、心の中で
ゼロと相談する。
『ゼロ、次はどの本にする? 結局は、全部に入らなきゃいけないんだろうけど……』
『……次は、その左端の奴にしてくれ』
 ゼロが指示した本を手に取る才人。
『これか? この本は……ウルトラセブンが主役……!』
『次は親父の物語を完結させたい。やってくれるよな?』
『ああ、もちろんだ』
 相談が終わり、才人は手に取った本をリーヴルに差し出した。
「次はこいつにするよ」
「お決まりですね。では、そこに立って下さい」
 これから二冊目の本の旅に出ようとする才人に、シエスタたち仲間が応援の言葉を向けた。
「サイトさん、どうかお気をつけて!」
「俺がいなくとも、しっかりやんな! 油断すんなよ!」
「がんばってなのねー!」
「パムー!」
 ただ一人、タバサだけは目だけをリーヴルに向け、一挙手一投足を観察していた。彼女は
昨日のミラーたちとの話し合いの通り、行動に不審なところの多いリーヴルを、密かに監視
しているのだった。
 だが今のところ、リーヴルに怪しいところは見られなかった。
「では、どうぞ良い旅を……」
 昨日と同じようにリーヴルが才人に魔法を掛け、才人は本の中に入っていった……。

   ‐わたしは地球人-

 中国奥地の砂漠地帯。断崖絶壁と、その崖に彫り込まれた巨大な仏像に囲まれた地に、
中国軍の一部隊が到着した。彼らはこの地の地下に発見された、謎の遺跡の調査にやって
来たのだ。
 地下に潜った部隊を迎えたのは、仏のような壁画や石像で構成された遺跡。だがこのような
遺跡は、ありえないはずだ。何故なら、

418ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:14:27 ID:dfGzk3W6
『殷の文明より古い……』
『この地層から言うと、一万五千年以上前……』
『そんな古い時代に……考えられない……』
 一万五千年前というと、仏教伝来どころか稲作すら始まっていない。そのような時代に
こんな高度な遺跡が築かれていたということを、こうして実際に目にしなければ誰が信じる
だろうか。
 兵士たちが呆気にとられていると、突然の地震が発生し、遺跡の天井から礫岩がこぼれ落ちてきた。
身の危険を感じた兵士たちは後ずさると、震動によって遺跡の壁の一部が崩れて穴が開いた。遺跡が
その奥に続いているのだ。
 調査隊はその穴を潜っていくと……そこは部屋のようになっており、内部には恐竜型の
怪物が刻まれた石板と、謎の紋様が刻まれた棺らしきものだけが置いてあった。
 これら出土品――オーパーツは、ウルトラ警備隊が護送することが、地球防衛軍上層部により
決定された。

 1999年。三十年余りもの時を隔てて、地球防衛軍は、その有り様を全く変えてしまった。
カジ参謀の主導する、かつてのR1号計画を拡張した、地球への侵略者になり得る宇宙人の
生息する星に先制攻撃を仕掛けて破壊することを目的とした「フレンドシップ計画」を掲げ、
宇宙に対して牙を剥くようになったのだ。計画反対派のフルハシ参謀が死去してからは、
その傾向は強まる一方。
 ――ウルトラセブンは、かつての地球が外宇宙からの侵略者の脅威に晒され、滅亡の危機に
あったがために、無力だが美しい心を持つ地球人に代わって侵略者と戦っていた。だが今の
地球は、強大な力を背景に他の星を脅迫している。少しでも間違えれば、地球の方が侵略者に
なってしまうような状況になっていた。……今の地球を守護することが、宇宙正義足りえるのか……
心に迷いを抱えながらも、セブンはそれを振り切るように怪獣、宇宙人と戦い続けていた。
 そんな中での、オーパーツとはいえ単なる出土品を護送し、防衛軍のトップシークレット
「オメガファイル」として封印するという不可解な任務。訝しむセブン=カザモリの周囲には
謎の女が出没し、「オメガファイルを暴き、地球人の真実を確かめろ」と囁く。女に導かれる
ようにオメガファイルに接近したカザモリだが、カジ参謀に発見され、拘束された末にウルトラ
警備隊の任から外されてしまった。
 頑なに隠されるオメガファイルの正体とは何なのか……。それが封印されている防衛軍の
秘密施設に、怪獣が迫り出した。

「ギャアアオウ!」
 秘密施設に最も近い海岸から上陸し、まっすぐ施設に向かっているのは、八本の足と身体中に
吸盤を持った怪獣。頭頂部にある二つの眼が黄色く爛々と光る。蛸怪獣ガイロスである。
 また陸を横切るガイロスの近くの土中から土煙が勢いよく噴出し、また別の怪獣が地表を
突き破って出現した。
「グイイィィィィィ!」
 体長こそガイロスと同等であるが、見た目はずばり恐竜そのもの。これはメトロン星人が
二度目の地球侵略をたくらんだ際に、恐竜を生体改造して怪獣化したものである。
「ギャアアオウ!」
「グイイィィィィィ!」
 ガイロスと恐竜。この二体の怪獣が森の中を練り歩いていく様を、カザモリと『サトミ』が
見上げた。
「例のオーパーツが運び込まれた施設のある方向に向かってるわ! これって偶然なのかしら……?」
「……」
 カザモリは懐に入れているウルトラアイに手を添えたが、側には『サトミ』がいる。彼女の前で
変身することは出来ない。
 そうでなくとも、今セブンに変身して戦うことが出来るのか……自分がどうすべきか決めかねる
ところがあった。
(偶然ではない。あの怪獣たちは、確実にオーパーツに引き寄せられている。だが何故怪獣が
古代遺跡の出土品を狙う? 防衛軍がひた隠しにすることと言い、あれは何だというのだ……)

419ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:16:53 ID:dfGzk3W6
 考え込んでいると、『サトミ』が不意に大きな声を発した。
「あッ! ウルトラセブンだわ!」
「えッ!?」
 そんな馬鹿な、とカザモリが顔を上げた。
 その視線の先、ガイロスと恐竜の進行先に、青と赤の巨人――ウルトラマンゼロが巨大化して
現れた。怪獣たちは驚いて一瞬足を止める。
「セェアッ!」
 ゼロは登場直後に前に飛び出し、ガイロスと恐竜に全身でぶつかっていく。ゼロを警戒していた
怪獣二体も、ゼロの行動を受けて腕を振り上げ迎え撃つ。
 怪獣たちと戦闘を開始したゼロを見上げ、『サトミ』は怪訝に目を細めた。
「……いえ、セブンじゃない。別の巨人だわ! どことなく似てるけど……」
「……」
 カザモリもまた、ゼロを見つめて神妙な顔つきになる。
「シャアッ!」
 一方のゼロは二体の怪獣の間に割り込み、巧みな宇宙空手の技で数のハンデを物ともせずに
善戦していた。触手を振り回すガイロスの胴体の中心に掌底を打ち込んで突き飛ばし、その隙に
恐竜の首を抱え込んでひねり投げる。
「ギャアアオウ!」
「グイイィィィィィ!」
 ガイロスも恐竜も必死にゼロに抗戦するが、この二体は肉弾しか攻撃手段がなく、特別破壊力に
優れている訳でもない。そんな怪獣は、二体がかりでも宇宙空手の達人のゼロの敵ではないのだった。
「ハァッ!」
 怪獣両方に打撃を連発して弱らせたところで、ゼロはとどめの攻撃に移る。
 まずはゼロスラッガーを投擲し、ガイロスの六本の触手を根本から切断。
「ギャアアオウ……!!」
 腕となる部分を失ったガイロスは仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
「セアッ!」
 ゼロは振り返りざまに、恐竜にエメリウムスラッシュを撃ち込んだ。
「グイイィィィィィ!」
 恐竜はレーザー攻撃で爆破炎上を起こし、ガイロスと同じく絶命したのだった。
「シェアッ!」
 あっという間に怪獣たちを撃破したゼロは、流れ星のような速さで空に飛び上がってこの場から
去っていった。それを見届けた『サトミ』がポツリとつぶやく。
「行ってしまったわ……。あの巨人は何者だったのかしら? やっぱり、セブンと同じように
この地球の守護者なのかしら」
 一方のカザモリ=セブンは、突如として現れた怪獣のことを気に掛けていた。
(これで終わりだとは思えない。オーパーツへまっすぐ向かう怪獣たちの行動……それに、
奴らは一度私と戦い、倒されたものたちだ。それがどうして復活したのか……。しかも片方は、
あのノンマルトと関係があった怪獣のはずだ。……もしそうならば、私の周りに現れたあの
女性は、まさか……)
 それから――ゼロのことも、次のように考えた。
(……あの戦士は、M78星雲人なのか? 何者なんだ……)

 ガイロスと恐竜を倒し、森の中で変身を解除した才人は、ゼロに話しかけた。
「この本の世界には、一冊目のウルトラマンみたいに、セブンしかウルトラ戦士がいないみたいだな」
 ウルトラセブンは、今となっては初代ウルトラマンと同じM78星雲人であるということが
周知の事実となっているが、地球に姿を現したばかりの頃は、ウルトラマンとは大分異なる
容姿であったために同種族だとは思われていなかった。この世界は、その当時の説を採用した
ような、地球を守る戦士がウルトラセブンのみという歴史で成り立っているようだ。地球の
防衛隊も、セブンとともに活躍していたウルトラ警備隊が現在に至るまで存続しているという
設定のようである。

420ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:19:30 ID:dfGzk3W6
「……でも、一冊目とは違って何だか重苦しい雰囲気の世界だな……」
 才人はそのことを考え、眉間に皺を寄せた。一冊目の科学特捜隊は、ハヤタがスランプに
陥っていた以外は終始明るく和やかな雰囲気であったが、この世界の地球防衛軍は正反対に
ひどくきな臭い様子である。「フレンドシップ」とは名ばかりの、行き過ぎた地球防衛政策を
推し進め、またそれが何なのかは知らないが、ある事象を頑なに隠そうとし、非人道的な手段に
まで手を染めている。人間の負の面が前面に出てしまっているような世界だ。おまけに、主人公
カザモリの周りには怪しい女の姿が見え隠れしている。こんな物語を無事に完結に導くのは、
一冊目よりもずっと困難かもしれない。
『ああ、そうだな……』
 そんな才人の呼びかけに、ゼロはどこか気のない返事で応じた。
 彼は、「自分の父親ではない」ウルトラセブンのことを考えていたのであった。

 怪獣たちが倒された後、カザモリは『サトミ』に連れられて北海道に向かった。そこには、
ヴァルキューレ星人事件の際に殉職したフルハシの墓があるのだ。
 カザモリ……ダンは、フルハシの墓に向かって、今の自分の抱える悩みを吐露したのだった。
「私があなたと出会った時代、地球人は今のような強い力を持っていなかった。もっと美しい
心を持っていた! 地球人は変わってしまったのか……それとも……」
「いいえ。地球人は変わっていないわ、ウルトラセブン」
 ダンの前に、またしても例の女が現れた。女はダンに、今の地球人の姿こそが地球人の
本性であること、自分たちは今「地球人」を名乗る者たちに追いやられた地球の先住民で
あることを訴えた。その証拠は、防衛軍が隠している例のオーパーツ……。
 女がそこまで語ったところで、ウルトラ警備隊が現場に駆けつけた。カザモリが一度拘束
された際に調べられた脳波から、現在のカザモリはダンが姿を借りている姿、つまり宇宙人で
あることが発覚してしまったのだ。そしてウルトラ警備隊は、カジ参謀の命令で、カザモリを
拿捕するためにやって来たのだ……。
「動かないで!」
 墓地でカザモリは、『サトミ』――一冊目のフジと同じようにその役になり切っている
ルイズに、ウルトラガンを突きつけられた。
「カザモリ君が、異星人だったなんて……」
 カザモリの背後からはシマとミズノも現れ、カザモリは退路を塞がれる。
「いつから……いつからカザモリ君に入れ替わったの!?」
「待ってくれ! 君は誤解している!」
「近づかないで!」
 ルイズに歩み寄っていくカザモリを、ルイズは恫喝した。
「これ以上近づくと、撃つわ。脅しじゃないわ!」
 ルイズの指が、ウルトラガンの引き金に掛けられる――。
 その時に、才人が林の中から飛び出して、カザモリの盾となった!
「やめろッ!」
「!? あ、あなた誰!?」
 突然のことに動揺するルイズたち。それはカザモリも同じだった。
 才人はその隙を突いて、ゼロアイ・ガンモードの光弾でルイズたちの手に持つウルトラガンを
弾き落とした。
「きゃッ!」
「な、何をするんだ!」
「テメェ、侵略者の仲間か!?」
 血気に逸ったシマが才人に殴りかかっていくが、才人の素早い当て身を腹にもらって返り討ちに
された。
「うごッ……!?」
「この人に、手出しはさせないッ!」
 才人の鬼気迫る叫びに、ルイズとミズノは思わずひるんだ。
 ルイズたちが立ちすくんでいる間に、才人はカザモリの手を取って引っ張っていく。
「さぁ、こっちに!」
「あッ! き、君!」

421ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:23:24 ID:dfGzk3W6
 ウルトラ警備隊からカザモリを連れて逃げる才人。追ってくる彼らをまいたところで、
カザモリは才人と向き合った。
「君は……怪獣と戦った、あの戦士なのか?」
「……」
「どうして僕を助けたんだ?」
 カザモリの問いに、『才人』は答えた。
「理由は、「あなた」には分かりませんよ……」
「……?」
 今の『才人』は――ゼロであった。カザモリ=セブンの危機に、才人と交代して助けたのだ。
 だが自分が、あなたの息子である、ということは話すことが出来なかった。何故ならば、
この本の世界ではセブンに『ウルトラマンゼロ』という息子がいるという『設定』はないからだ。
「ともかく、助けてくれたことはありがとう。でも……僕は行かなくちゃ」
 カザモリが踵を返して、ウルトラ警備隊のところに戻ろうとするのを呼び止めるゼロ。
「待って下さい! 駄目です、危険ですッ!」
「いや、このまま逃げ続けることは、自分が侵略者だと言ってるようなものだ。僕は自分の潔白を、
この身を以て証明しなければ」
 と言うカザモリを、ゼロは説得しようとする。
「潔白を証明したとしても……あなたがウルトラセブンだということが知られても! オメガファイルに
近づいたというだけで、今の防衛軍はあなたを殺すかもしれないんですよッ!」
「……!」
 その言葉には、カザモリも流石に足を止めたが……。
「……僕は、自分が守ってきた地球人を、信じる……!」
 そう言い残して、再び歩み去っていった。ゼロも、今の言葉を聞いてしまっては、これ以上
カザモリを止めることは出来なかった。
「……」
 取り残されたゼロの背後に、例の女がどこからともなく出現した。
「お前は何者だ。何故我々の邪魔をする」
 振り返ったゼロは、女に言い返した。
「それはこっちの台詞だ。あんたこそ何者だ? どうしてあの人を、オメガファイルに近づけようと
するんだ。怪獣を操ってたのはあんたか? だとしたら、怪獣を使ってまで暴こうとするオメガファイルの
正体は、何だ!」
 問い返された女は、ゼロに端的に回答した。
「我々は、真の地球人。一万年以上も前に、今地球人を名乗る者たちによって追放された。
オメガファイルの中身は、その証拠だ」
「!! ノンマルト……!」
 ノンマルト。それは1968年、一時地球防衛軍を騒然とさせた謎の集団が名乗った名前である。
海底に居を構え、人間の海底開発の全面中止を訴えて地上を攻撃してきたのだが……彼らは、
元々地球に栄えていた種族は自分たちであり、今の地球人は後からやって来て自分たちに成り
代わった種族だと主張したのである。
 その言葉が真実であったか否かは、本来のM78ワールドの歴史では、ノンマルトが二度と
姿を現すことがなかった故に不明のままで終わった。しかしこの世界では……それが『真実』
として取り扱われているのかもしれない。
「このことが白日の下に晒されれば、今の地球人はこの星を出ていかなければならなくなる。
それ故に、防衛軍はあの棺をオメガファイルとして封印しているのだ」
 女――目の前にいるノンマルトもまた、そのように主張した。そしてそれは筋が通っている。
ノンマルトの語ることが全て真実ならば、今の人間は全て、この地球に暮らす権利を全宇宙文明
から認められなくなるのだ。
「……」
 ゼロは一切の言葉をなくす。するとノンマルトは畳みかけるように告げた。
「お前が何者かは知らないが、軽率な行動は慎むべきだ。たとえ誰であろうと、侵略者に
加担したならば、お前もまた全宇宙から罪人として扱われ、居場所を失うのだ」
 そう言い残して女はいずこかへと去っていく。ゼロはその場に立ち尽くしたまま。
 才人は彼に呼びかけた。
『……とんでもない物語の中に来ちまったな。俺たち、これからどうしたらいいと思う? ゼロ……』
「……」
 ゼロは才人の問いかけに、無言のまま何も返さなかった……。

422ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/04(水) 20:24:09 ID:dfGzk3W6
以上です。
新年一発目から暗い!

423名無しさん:2017/01/04(水) 23:17:15 ID:2G1OT/tU
平成セブン! うわーゼロがこの世界に来るのはつらい……!

424名無しさん:2017/01/09(月) 00:57:52 ID:DPHQNaxI


425ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:16:01 ID:iyLiJ5JY
こんばんは、焼き鮭です。また続きの投下を始めます。
開始は1:18からで。

426ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:18:22 ID:iyLiJ5JY
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十一話「二冊目『わたしは地球人』(その2)」
地球原人ノンマルト
復活怪獣軍団
守護神獣ザバンギ
カプセル怪獣ウインダム
カプセル怪獣ミクラス 登場

 『古き本』に精神を囚われたルイズを救うため、本の世界への旅立ちを決意した才人。
一冊目の『甦れ!ウルトラマン』を完結させ、次に入ったのはウルトラセブンの世界。
……だがそこは正史の歴史から枝分かれした、地球防衛軍が過剰防衛に走ってしまって
いる危うい世界であった。更に中国奥地から発掘され、何故かトップシークレットとして
封印されたオーパーツを巡り、セブンの周りにノンマルトを名乗る女の影が見え隠れする。
果たして才人は……ゼロは、己の父ではないセブンを導き、この世界を無事完結に至らす
ことが出来るのだろうか。

 地球防衛軍に宇宙人であることが知られてしまった、カザモリの姿を借りているセブンは、
一度はゼロに助けられるものの、己の潔白を証明するために自らウルトラ警備隊に捕まった。
カザモリは防衛軍の隔離施設で、シラガネ隊長に地球の未来を救うには、地球人自身の手で
オメガファイルの封印を解き、侵略者の過去から文明人に進化したことを宇宙に証明する他は
ないことを訴えた。
 しかし、そのカザモリ=セブンに命の危機が迫っていた……。

「カザモリ隊員の処刑が決定した、だと……!?」
 防衛軍基地の周辺で、身を潜めながら超感覚で防衛軍の動向を見張っていた、才人の身体を
借りているゼロが、基地内の発表を盗み聞きして愕然とつぶやいた。
 オメガファイルの秘密を隠し通そうとしているカジ参謀は、相手が何度も地球人を守ってきた
ウルトラセブンと知ってなお、秘密を闇に葬ることを優先したのだ。残念ながら、ゼロの危惧した
通りになってしまった。
 才人が焦り気味にゼロに呼びかける。
『ゼロ、これはまずいぜ! セブンが処刑されたら、ルイズも助けられなくなっちまう……!』
「ああ、分かってるぜ……!」
 ゼロは固い決意を表情に示し、踵を返した。
「それがなくても……本の中の別人といえども、俺の親父は殺させやしねぇぜ!」
 ゼロが向かう先は、カザモリの囚われられている隔離施設――ではなく、ウルトラ警備隊基地であった。

 ウルトラ警備隊の司令室では、カザモリの処刑を知らされた隊員たちが重苦しい空気の中、
相談をし合っていた。
「わたしたち、これでいいの? このまま、仲間を見捨てて……」
 ルイズが声を絞り出すようにつぶやくと、シマが奥歯を軋ませながら言う。
「奴はカザモリじゃなかった……。侵略者だったんだ……」
「それはカジ参謀の下した結論でしょ!? わたしたちは、もっとカザモリ君のことを知っている
はずじゃない!」
 ルイズが立ち上がって反論した。すると、
「ああ、そうだ。他人から与えられた結論じゃなく、あなたたち自身で答えを出してもらいたい」
 司令室の扉が開き、ゼロが当然のように入ってきたことに隊員たちは仰天した。
「君は、北海道の……!」
「お、お前! どうやってここに入ってきた!?」
 シマが血気に逸ってウルトラガンを抜こうとしたが、それをゼロは手で制する。
「待て! あなたたちに危害を加えに来たんじゃない。今防衛軍に捕まってる……カザモリ隊員を
一緒に助けてほしいと、お願いしに来たんだ」
「助けてほしい? 俺たちに侵略者の手助けをしろって言いたいのか!?」

427ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:20:04 ID:iyLiJ5JY
 敵意を向けてくるシマを正面に置いて、ゼロは冷静に隊員たちに訴えかけた。
「口で侵略者ではないと言うのは簡単だ。けどそれじゃあ納得しないだろう」
「当たり前だ!」
「だから、あなたたち自身で考えてほしい。カザモリ隊員のこれまでの行いを振り返って、
彼が本当に侵略者なのかどうかを」
 ゼロの頼みに、シマたちは戸惑いを見せる。
「俺たち自身で、考えろと……?」
「仮にあなたたちの助けがなくとも、俺は一人でもあの人を助けに向かうつもりだ。だがその前に、
確かめたいんだ。あの人の気持ちが、あなたたちの心に届いてるかどうかを」
 ゼロの言葉を受けて、最初に口を開いたのはミズノだった。
「……僕は、カザモリを信じたい」
「ミズノ!」
 振り返るシマ。ミズノは続けて語る。
「カザモリはいい奴だ。あいつに、何度も命を救われたよ……。カジ参謀がどう言おうと、
あいつが侵略者だとは信じられないんです」
 ミズノに続いて、ルイズもこう言った。
「その子の言う通り……カザモリ君が宇宙人だったとしても、侵略者だとは限らないわ」
「このまま上に任せとくんですか!? それで後悔しないんですか!」
 ルイズとミズノの説得を受けて……シマは、デスクの上のヘルメットを手に取った。
「シマ隊員……!」
 一瞬身を乗り出したゼロに、シマが告げる。
「俺は、お前やカザモリを信じた訳じゃない。しかし仲間として、カザモリ自身から本当の
ことを聞きたいんだ」
 隊員たちは互いに顔を見合わせると、重い表情から一転して、微笑みながらうなずき合った。
「ありがとう……!」
 ひと言礼を告げたゼロが踵を返したところ、ルイズがその背中に問いかけてきた。
「一つだけ教えて! あなたはカザモリ君の仲間なの?」
「……いや、そういう訳じゃない」
「だったら、どうしてそんなにカザモリ君のことに執着するの? あなたは一体……」
 それにゼロは、次のように答える。
「……あの人は、俺の大切な人なんだ。あの人自身も知らないことだが……」
「それはどういう……」
 ミズノの聞き返しを最後まで聞かず、ゼロは司令室を飛び出していった。

 防衛軍の隔離施設では、拘束されているカザモリが防衛軍兵士に連行されながらどこかへと
向かわされていた。
「極東基地に輸送されるんじゃないのか? 軍法会議に掛けられるのなら、あそこに行くはずだろう」
「違うわ!」
 カザモリが聞いたところ、ルイズの声が響いて、彼らの行く先から姿を出した。
「この通路の行き止まりは、粒子レベル分解システムルーム。どんな物質も、分子、原子に
バラバラに分解して破壊してしまう!」
 驚くカザモリ。ルイズは小銃を向けてきた兵士たちにウルトラガンを構えるが、
「銃を捨てろ」
 横から、こめかみに拳銃の銃口を向けられた。カジ参謀だ。
「異星人に美しい友情など必要ない」
「――それがあんたの出した結論かよッ!」
 その時ゼロがバッと跳躍しながらカジに飛びかかり、拳銃を叩き落とした!
「何ッ!?」
「あんたみたいな人間がいるからッ!」
 兵士も反応が出来ていない内に、ゼロは当て身を食らわせてカジを昏倒させた。
「ぐあッ……!」

428ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:22:03 ID:iyLiJ5JY
 更に兵士たちは、シマとミズノが撃った麻酔弾でバタバタ倒れていった。
「大丈夫ですか!? 危ないところだった……!」
「君は……!」
 ゼロはカザモリの拘束を手早く解いていく。そこに騒ぎを聞きつけた警備兵が駆けつけて
くるのを察知して、シマがゼロとルイズに首を向けた。
「ここは俺たちに任せろ! お前とサトミ隊員はカザモリを!」
「分かりました!」
 シマとミズノが警備兵を足止めしている間に、ゼロとルイズはカザモリを連れて防衛軍施設から
脱出していく。
 外にも防衛軍の兵士が待ち構えていたが、ルイズとゼロの手によって無力化されていった。
ほとんどはゼロの格闘技によるものであった。
「はぁッ!」
「ぐッ!?」
「ぐあぁッ!」
 瞬く間に兵士を気絶させていくゼロに、ルイズとカザモリは驚いていた。
「やるわね。屈強な防衛軍の隊員を、まるで子供扱い……」
「すごい腕前だな……」
「……あなた譲りさ」
「えッ?」
「いや、何でもない」
 ポツリと漏らしたゼロがごまかした。
 空が夕焼けに染まり出した頃、外の兵士を全員無力化すると、シマとミズノが追いついてきて
合流した。
「大丈夫だったか?」
「はい。そっちこそご無事で」
 落ち着いたところで、ルイズがカザモリに呼びかける。
「あなたが何者であっても、わたしたちはあなたを信じるわ」
「ウルトラ警備隊は家族みたいなもんだ。何があっても、一蓮托生さ」
 ミズノも、シマもカザモリにうなずいてみせた。
「ありがとう、みんな……!」
 礼を述べたカザモリに、ゼロが告げた。
「シラガネ隊長の方も、オメガファイルの封印を解き、真実を突き止める努力をしてます。
どうか、地球人をまだ信じてやって下さい」
「ああ。君もありがとう……。僕のために、また力になってくれて」
 カザモリがゼロにも礼を言った直後、ルミからの通信をシマのビデオシーバーが着信した。
『外部からの通信が入ってます! ビデオシーバーにつなぎます!』
 ビデオシーバーの映像が切り替わると、覗き込んだカザモリとゼロの目の色が変わった。
「君は……!」
 映っているのはノンマルトの顔だった。ノンマルトはカザモリに向かって告げる。
『あなたなら、秘密を探り出してくれると思った。でも……あなたの力は頼らない!』

 ノンマルトはテレパシーで、防衛軍の首脳部に呼びかけた。
「地球防衛軍に要求する! 隠蔽している証拠を解除せよ! さもなくば、我々は実力を以て、
これを全宇宙に公開するだろう!」
 その言葉の直後に、オメガファイルを封印している秘密施設の周辺区域の地面が突然裂け、
地中から鳥型の怪獣が出現した!
「キャッキ――――イ!」
 翼の部分は鋭利な刃物状になっているが、眼光はそれ以上に鋭く、憎悪に煮えたぎっている……。
地球人の惑星破壊爆弾の最初の犠牲となったギエロン星、その星の生物が放射能で変異してしまった
再生怪獣ギエロン星獣である!

 ゼロは険しい目つきで、防衛軍の秘密施設に向かっていくギエロン星獣をにらんだ。
「怪獣にオメガファイルを暴かれたら、地球人は……!」

429ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:24:02 ID:iyLiJ5JY
 地球人の手ではなく、ノンマルトによって真実を公開されれば、今の地球人は侵略者のままに
なってしまい、地球に留まる権利を失ってしまう。それだけは何としても阻止せねばならない。
 そう考えたゼロは、カザモリに向き直って申し出た。
「ここは俺が時間を稼ぎます! あなたは、どうか地球人の助けになってあげて下さい! 
……ウルトラセブン!」
「えッ!?」
「カザモリが、セブン……!?」
 ルイズたちはカザモリの顔に振り返った。その間に、ゼロはギエロン星獣の方向へ駆け出していく。
 その背中を呼び止めようとするカザモリ。
「待ってくれ! 君は……!」
「……」
 ゼロは一瞬だけ立ち止まったものの、すぐにまた駆け出して彼らの前から離れていった。
 そしてウルトラゼロアイを顔面に装着して変身を行う。
「デュワッ!」
 才人の身体からウルトラマンゼロに変身を遂げて、巨大化しながらギエロン星獣の正面に着地した。
「シェアッ!」
「キャッキ――――イ!」
 戦闘の構えを取ってギエロン星獣に立ちはだかったゼロに、ノンマルトがテレパシーを向けてきた。
『青き戦士よ、この期に及んでまだ我らの障害になろうというのか。その怪獣を見ろ!』
 ノンマルトはギエロン星獣を示す。
『その怪獣は、今の地球人の横暴な行いによって理不尽に故郷の星を奪われた。それが地球人の
真の姿なのだ! それでもかばおうというのか!』
 見せつけられる、地球人の残酷性を前に、ゼロは答える。
『たとえそうであっても……俺は、あの人が信じる地球人を、最後まで信じるぜッ!』
 覚悟を決め、ゼロスラッガーをギエロン星獣へと飛ばした!
「セアァッ!」
「キャッキ――――イ!」
 だがスラッガーは刃状の翼によって弾き返された。ギエロン星獣は翼を閉ざすと、手と手の
間をスパークさせてリング光線をゼロに放つ。
「グッ!」
 ギエロン星獣の攻撃を素早く回避するゼロだが、ギエロン星獣の口から黄色いガスが噴射された。
ギエロン星を爆破したR1号の放射能が大量に含まれたブレスだ。
「グゥゥッ!」
 ギエロン星獣のガスを浴びせかけられたゼロが胸を抑えて苦しんだ。そのガスには放射能のみ
ならず、ギエロン星獣の苦痛の記憶と憎悪の感情も乗せられている。その負の力がゼロを苛む。
 だが、ゼロはここで退く訳にはいかないのだ。
『おおおおおッ!』
 スラッガーを片手にして、全身に力を入れ、毒ガスを一気に突き抜けていく。そしてギエロン
星獣の喉笛を見据えると、
『すまねぇッ!』
 すれ違いざまに、喉をひと太刀で切り裂いた!
「キャッキ――――イ!!」
 仰向けに倒れ込んだギエロン星獣は、そのまま目を閉ざし、再びの永遠の眠りに就いていった。
 地球人の所業のせいで、散々に苦しみ抜いたギエロン星獣をこれ以上苦しませることはないと
考えた、急所の一点のみを狙った捨て身の一撃であった。
 これでギエロン星獣は倒されたが、ノンマルトの攻勢はこれで終わりではなかった。
『あくまで地球人の側につくというのか。だが我々とて諦めはせん! 地球人によって葬られた
ものたちの、怨念の声を聞け!!』

430ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:25:55 ID:iyLiJ5JY
 その言葉の後にまたしても地割れが発生して、今度は一気に五体もの怪獣がゼロの前に
姿を現してきた。
「キイイイイイイイイ!」
「ギャ――――――ア!」
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
「ウオオオオッ!」
「グオオォォォ!」
 トリステインにも現れたことのあるエレキングを中心に、発泡怪獣ダンカン、硫黄怪獣
サルファス、太陽獣バンデラス、植物獣ボラジョが出現してゼロと対峙した。
『ちッ……! どれだけ怪獣を復活させようと、こっちだって負けるつもりはねぇぜ!』
 一度に五体を前にしてもひるむことはないゼロだが……離れた場所で土煙が柱のように立ち上った。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 そしてまた新たな怪獣が地上に姿を現した。今度のものは再生させられた怪獣ではなく、
棺と一緒にあった石碑の壁画の生物とほぼ同じ姿をした怪獣であった。胸には棺にもあった
紋様――ノンマルトの印が刻まれている。
 ノンマルトの直接の配下であり、守り神でもある神獣ザバンギである。
『! あっちが本命かッ!』
 一心不乱に防衛軍施設に向かい始めるザバンギの方へ回り込もうとしたゼロだったが、
それをエレキングたちにさえぎられた。こっちが足止めされてしまった。
『くそッ、邪魔だお前ら!』
 どうにか怪獣たちのディフェンスを抜けようとするゼロだが、五体の怪獣はしつこくゼロの
前に立ちふさがる。このままではザバンギが施設を襲ってしまう。
 しかしその時に、カザモリの声が響き渡った。
「ウインダム、ミクラス、行け!」
 同時に二つの光がザバンギの前で膨らみ、二体の怪獣の姿に変化した。
「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
『カプセル怪獣……!』
 ゼロもよく見覚えのあるウインダムとミクラスの姿。しかしゼロが出したものではない。
彼のカプセル怪獣は、デルフリンガー同様に連れてこられないので現実世界に置いてきている。
 このカプセル怪獣は、本の世界のセブンのものだ。ゼロの応援として、送り出してくれた
ものに違いない。
「デュワッ!」
 そしてカザモリ自身もまた、ウルトラアイを装着してウルトラセブンに変身したのであった。
 変身を完了したセブンは等身大のまま一旦空に飛び上がり、垂直落下して防衛軍施設の
地下に突入。そのままオメガファイルの元まで向かっていく。
 これを見届けたゼロが、一層の活力に溢れて怪獣軍団に向き直った。
『ウルトラセブンが頑張ってるんだ……。そいつを無駄にはさせねぇぜ! 来るなら来やがれッ!』
 ザバンギにぶつかっていくウインダム、ミクラスとも同調するように、ゼロは一気に怪獣たちの
間に切り込んでいった!

431ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/09(月) 01:28:02 ID:iyLiJ5JY
ここまでです。
明日を懸けた対決。

432ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 20:54:57 ID:LzEFD1MA
あけましておめでとうございます、皆さん。ウルトラ5番目の使い魔、53話できました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。

433ウルトラ5番目の使い魔 53話 (1/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 20:56:56 ID:LzEFD1MA
 第53話
 始祖という人
 
 未来怪獣アラドス 登場!
 
 
 長い、本当に長かった夜が明けようとしていた。
 
『メタリウム光線!』
『ガルネイトボンバー!』
 
 ウルトラマンAとウルトラマンダイナの必殺技が、ゼブブとビゾームに炸裂する。
 陽光取り戻したトリスタニアにあって、二大怪獣の最期が、そして破滅招来体の陰謀の終幕がやってきたのだ。
 まずはビゾームがガルネイトボンバーの灼熱の奔流に焼かれ、微塵の破片に爆裂しながら焼き尽くされた。
 そしてゼブブもメタリウム光線に貫かれ、断末魔の叫びをあげながら最期を迎えていた。
「ぐわあぁっ! ま、まさかぁっ。で、ですが覚えておきなさい。我らはただの使いに過ぎないということを。人間たちが愚かな行為を続ける限り、いずれ主がこの星をーっ!」
 捨て台詞を残し、ゼブブもまた大爆発を起こし、微塵の破片になってトリスタニアの地に舞い散った。
 破滅招来体の二大怪獣の最期。それと同時に、残っていたドビシやカイザードビシもすべて活動を停止した。
 構えを解くふたりのウルトラマン。爆発の轟音が収まると、辺りは静寂に包まれ、ふたりのカラータイマーの音だけが規則的に流れる。
 終わったのか……? 人々は、長く続いた悪夢のような戦いがこれでやっと終わったのかということがすぐには納得できず、押し黙った。しかし、ドビシの黒雲が取り払われて青さを取り戻した空からさんさんと降り注いでくる陽光に肌を温められ、穏やかな風がすっとほおをなでていったのを感じると、困惑は一転して歓喜の叫び声に変わった。
「やった、ついに、ついに、これで、これで」
「トリステインに、ハルケギニアに朝が戻ってきたんだ。ばんざーい!」
「これで戦争も終わる。生きて帰れるのか、夢のようだ」
 ドビシに空が覆われてから今日まで、何ヶ月もの間人々は二度と朝が来ない恐怖に耐えてきたが、それがついに終わりを告げたのだ。

434ウルトラ5番目の使い魔 53話 (2/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 20:58:07 ID:LzEFD1MA
 太陽は再び空に輝き、雲は白く空は青い。そんな当たり前のことがこんなにうれしいとは、多くの人々にとって想像したこともなかった。太陽とは、まさに自然が与えてくれる最高の恵みであり、光とは人間にとってなくてはならない支えだったのだ。
 失ってみて初めて人はそのものの価値を知ることが出来る。今度の戦いでは、多くの人がそれを実感したに違いない。太陽しかり、大切な人しかり、国や信仰しかり、なにげなくあるそんなものでも、まさに『タダより高いものはない』のだ。
 そして、これで俺たちの役割も終わったと、エースとダイナはうなづき合うと、共に青空を見上げて飛び立った。
「ショワッチ!」
「デュワッ!」
 自然の輝きを取り戻した空へ飛んでいく、銀色の巨人と赤い巨人。それが真に戦いの終幕を告げ、人々は太陽に向かって消えていく平和の使者を見送った。
 
 だが、戦いは終わっても、まだ戦争は閉幕ではない。後始末が残っている。むしろ、そちらのほうが難題かもしれない。
 ロマリア教皇が侵略者であり怪物だったという事実は、人々の拠り所であった信仰心を根底からひっくり返すものだった。ブリミル教はハルケギニアの人間の精神の根幹を成す土台であり、簡単に代替の効くものではない。想像してみるといい、あなたにとって長年尊敬してきた親や教師が本当は悪人だったとしたら、はたしてあなたは平静でいられるだろうか?
 ブリミル教は正しいのか? それとも悪魔の造形物なのか? その答えを教えてくれる人は、この世界にひとりしかいない。人々の眼差しは自然と、トリスタニアの城壁の上で立っているブリミルその人に向けられ、やがてブリミルのところにアンリエッタとウェールズが飛竜に運ばれて駆けつけ、その前にひざまづいた。
「始祖ブリミル、お目にかかることができ、心から光栄であります」
「いやいや、よしてくれ。僕はそんな、人に頭を下げられるような立派な人間じゃないよ。まあ、君たちの立場じゃ対面上仕方ないかな。なら、せめて顔くらいは上げてもらえるかい?」
「は、はい……」
 ブリミルの穏やかというか、暢気ささえ感じられる声に、アンリエッタとウェールズは緊張しつつも顔を上げてブリミルの姿を見た。
 そこにいたのは、どこにでもいるような普通の青年だった。教皇のような聖人のオーラなどは微塵も無く、美男子でもなければたくましくもない。衣服も何度も繕い直された跡が見えて、どちらかといえばみすぼらしいとさえ言えた。
 しかし、この平凡な青年こそがハルケギニアの基礎を築いた偉大な男なのだ。声も以前始祖の首飾りから聞こえてきたものとまったく同じ。とてもそうは見えなくても、先ほどの戦いで見せた、人知を超えた虚無の力がなによりの証拠。だが始祖ブリミルといえば六千年も昔の人物だ、それがどうして今の時代に降臨なされたのか、ウェールズが畏れながらそれを尋ねると、ブリミルは複雑な表情をしつつ答えた。
「うーん、説明は難しいけど……一言で言えば、僕は時を越えてやってきたんだ」
「時を、でありますか?」
「そう、僕は昨日まで、今から六千年前の世界を旅していたんだ。けど、未来で子孫たちが大変なことになってるってお告げを受けてね。神様の奇跡でこの時代にやってきたってわけさ」
 これはブリミルがとっさに思いついた方便であった。聡明な彼は、本当のことを話すのはなにかと面倒だと判断し、奇跡という名目で、そのあたりのお茶を濁したのだった。要は、大切なところが伝わればいい。

435ウルトラ5番目の使い魔 53話 (3/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 20:59:13 ID:LzEFD1MA
「すると、あなたは我々の知っている始祖ブリミルとは……」
「察しが早くて助かるね。正確に言えば、僕は君たちが信仰してる始祖ブリミルであって、そうではない。君たちの知っている始祖ブリミルというのは、なにもかもを終えて亡くなった後のものだろう? 僕はまだ、このとおりの若造さ。君たちが子孫なのはなんとなくわかるけど、僕自身はまだ子供のひとりもいないよ」
 若かりしころの始祖ブリミル……ウェールズとアンリエッタは、目の前のブリミルが自分たちと同じくらいの年齢である理由がまたとんでもないことを知って驚いた。このブリミルは化身でもなければ幽霊でもない。生前の始祖ブリミル、ご本人なのだ。
 だが、まさかブリミルがこんな平凡な容姿の人間だったなどとは誰が想像しただろうか? ブリミルの素性に関してはロマリアが独占していたので、ハルケギニアの基礎を築いた偉大なメイジということ以外はほとんど知られておらず、その素顔についても、始祖の姿を偶像化することは不敬だということで、始祖像は意図的に形が崩されているために伝わっていない。地球で、ブッダがパンチパーマみたいな頭をしていたり、イエスが某有名ミュージシャンみたいな顔していたりみたいなイメージがあるのと違って何も無いのだ。
 これが素の始祖ブリミル……アンリエッタは、すがるように尋ねかけた。
「始祖ブリミルよ、どうか、お教えください」
「どう、とは、どういうことかな?」
「わたしたち、この時代の民は、ハルケギニアを築いたとされるあなたの教えを心のよりどころとして今日まで生きてきました。けれど、その教えを伝えてきた教皇は悪魔の使いで、わたしたちは何が真実なのかわからなくなってしまったのです。どうか、始祖ブリミルご本人の口からお教えください。我々は、いったいなにを信じればよいのでしょう?」
 それは、全ハルケギニア人の懇願の代表であった。教皇の作った幻影の魔法の効力はまだ残り、世界中の人々がこの場を注視している。
 崩れてしまったブリミル教の信頼。しかし人は心になんの支えも無く生きていけるほど強くは無い。何百万もの人々が答えを待ち望み、そしてブリミルは口を開いた。
「うーん……僕にはもう、君たちに教えることは残ってないと思うよ」
「えっ、それはどういう」
「君たちはもう、僕らの時代で夢見た世界を実現してくれている。僕らの時代、ハルケギニアには本当になにもなかった。それを、ここまで繁栄した世界にしてくれたんだ。感無量だよ」
「ですがわたくしたちは、まだあの教皇のような悪魔の甘言に乗り、愚かな戦争を繰り返す未熟な者たちです。正義と平和には、ほど遠い世界です」
「そうだね。けど、僕のような過去の人間から見れば、今のこの世界は夢のようなところだ。大切なのは、そこじゃないかな? 君たちは、今の世界で自分の信じるものを信じて、昔の人間から見たらすばらしいと思える世界を作った。つまりそれは、君たちのやってきたことが、全部ではないにせよ正しかったということだと思うよ」
 ブリミルの言葉を受けて、アンリエッタとウェールズの顔に少し赤みが差した。

436ウルトラ5番目の使い魔 53話 (4/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:01:12 ID:LzEFD1MA
「もし君たちのやってきたことが間違いなら、世界はとっくに滅んでいてもおかしくないだろう。でも、君たちは今こうして破滅を乗り越えている。それが証拠さ」
「しかし、我々の信じてきたブリミル教の教えは、悪魔の使いたちが広めていたものです」
「それでもさ。例え言い出したのが悪者でも、それで救われて、自分を不幸じゃないと思えるようになれる人がいるなら、それはいい教えだってことだよ。逆に、たとえ僕が言い出したことでも、それで迷惑してる人がいるなら、それは間違った教えだってことだ」
「教えは、誰が言い出すかは問題ではないということですか?」
「僕はそう思うよ。この世には、救う人もいれば救われる人もいる。たとえ救おうとする人に下心があっても、それで救われた人にとってはその人は神様さ。そうだね……ちょっとしたたとえ話をするけど、僕の率いているキャラバンに、小さな子供のいるお母さんがいるんだ。ある日、その子供がお母さんのためにと、ちょっとしたお手伝いをしたことがあった。その子は、お母さんに褒められたいという下心があったかもしれないけど、お母さんはとても喜んだ。だから僕は、その子供のやったことをとても尊いと思っているんだ」
 その言葉に、世界中で神父やシスターが泣いていた。
「教えはしょせん言葉さ。誰が言い出したものでも、正しく使えば人を救えるし、悪用すれば不幸にしてしまう。だから君たちは、無理に考えを変える必要なんてない。これまでに、よいと思ってきたことは続ければいいさ。今日より明日がよい日になるよう、努力し続けながらね」
 これで、ハルケギニア中のブリミル教の関係者たちが救われた。教皇が侵略者であったとしても、世界中のほとんどの神父やシスターは善意で働いていたのだ。ブリミル教の根幹が否定されて、彼らは絶望の淵にいたところを救われた。人のためになるのなら、今の教えを変えなくてもいい。彼らの存在意義は、消えなくてすんだのだ。
 だが、もうひとつ重大な疑問が残っている。
「我々も、子孫がよりよい世界を築けるよう努力します。ですが、我々は始祖のため、神のためとすでに争いを起こしてしまいました。同じ過ちを繰り返さないために、もうひとつお答えください。あなたは、その……そちらのご婦人とはどういうご関係なのですか?」
 非常に言いづらそうながらもアンリエッタが問いかけた先には、話を見守っていたサーシャがいた。
「ああ、僕の使い魔だよ。もっとも、使い魔らしいことはほとんどしてくれないけど」
「なによ、救世主らしくない救世主に言われたくないわね」
 むっとして、サーシャはブリミルの隣に並んだ。すると、平凡な容姿のブリミルに対して、美貌のサーシャの姿が映えて輝くように見えた。

437ウルトラ5番目の使い魔 53話 (5/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:05:37 ID:LzEFD1MA
 けれども、サーシャの長い耳は、ハルケギニアの人間が長年畏怖してきたエルフのものである。それが、どうして始祖ブリミルと……? その疑問に対して、ブリミルはアンリエッタたちにこう答えた。
「彼女は、使い魔であると同時に僕のパートナーでもある。僕らの時代に、世界はほとんど破壊されつくして、あらゆる種族はほんの一握りしか生き残れなかった。彼女も、エルフの数少ない生き残りのひとりなんだ」
「そんな……いったい、始祖の時代に何があったというのですか?」
「巨大な侵略さ。僕らの世界を、ある日突然正体不明の悪魔のような敵が襲ってきた。数え切れないほどの怪獣や怪物に蹂躙されて、僕らの築いた文明は一度完全に滅ぼされてしまった。僕らはその攻撃に耐えながら、なんとか世界の復興を目指して旅をしているんだ」
 そんなことが……そういえば、始祖の首飾りにあったメッセージでもそれを知らせていた。ヴァリヤーグと呼ばれる強大な勢力との戦い、人々はそれを思い出した。
 すると、サーシャが「見せたほうが早いわよ」と言うと、ブリミルは杖を振るって『イリュージョン』の魔法を使った。そうすると、空に六千年前のハルケギニアの世界が映し出された。
 
 以前に始祖の首飾りに残されていた『記録』の魔法が見せてくれたものと同じ、完全に滅亡した文明の光景。それは人々を再び戦慄に陥れた。
 だが、そこを旅する一行の姿が映し出されると、人々は別の驚きに目を奪われた。
 ブリミルの率いるキャラバン隊……それは、あらゆる種族が共に生きている姿だった。翼人もいればエルフもいる。獣人や、ほかの亜人、まったく見たことも無い生き物も含めて、むしろ人間のほうが少ないのではと思うくらいに、異種族が混ぜあって助け合いながら旅をしていたのだ。
 今のハルケギニアではとても考えられない姿。あらゆる種族が、始祖ブリミルとともに助け合って生きている。これが、六千年前の真実だというのか。
 
 ブリミルは杖を振って幻影を消すと、再びアンリエッタとウェールズを見た。
「僕は、君たちのこの時代では伝説扱いみたいだけど、僕自身は僕の仲間たちと平和な世界を取り戻したくて戦っているだけさ。だから僕が君たちに望むのはただひとつ、君たち子孫が平和な世界で仲良く生き続ける。それだけさ」
 それを聞いて、ウェールズやアンリエッタだけでなく、多くの人々が涙を流していた。
「も、申し訳ありません。始祖の時代には、すべての生き物が手を取り合い生きていたというのに、わたくしたちは何千年も人間以外はすべて敵だという歴史を歩んできてしまいました」
 アンリエッタは嗚咽を漏らしながら懺悔した。自分もエルフとの和解を求めて、サハラに使者を差し向けたりもしたが、それはヤプールの攻撃に対抗するためという理由があってのことだ。
 しかしブリミルは咎める様子も無く言った。
「気にすることは無いさ。親子や兄弟だって争うことはあるんだ、ましてや違う種族同士が共存するのは難しいのはわかってる。僕らのときは数十人でも、何千何万と多くなれば軋轢も増えるよね」
 ブリミルはすべてを才人から聞いて知っていた。未来が理想郷などではないことを。けれど、彼はそんな未来を否定してはいなかった。

438ウルトラ5番目の使い魔 53話 (6/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:06:29 ID:LzEFD1MA
「人間ってさ、できることよりできないことのほうが多いからこそ素晴らしいんだと僕は思う。誰かと仲良くしたいけどできないってのもそれさ。僕だって、サーシャはすぐ怒るし」
「九割方あんたが原因でしょうが」
 こつんとサーシャにこづかれて、ブリミルは照れたような表情を見せた。
「でもね、できないことがあるからこそ、できることを夢見れるし、できたときにそれを大切にできると思うんだ。今、人間と人間以外が分かれているとしても、だからこそ結ばれたときに強い絆が生まれるかもしれない。それはとてもうれしいことじゃないか」
「では、ではもう我々は、エルフとも誰とも、戦わなくてもよいのですか?」
「それは僕が決めることじゃあない。人間という種族だって善人がいれば悪人もいる。何より僕の子孫だって、君たちのような者もいればさっきの教皇のような連中だっているのは見てきただろう? 今のエルフがどういうものなのかは君たちが見て決めるんだ。それで、友とできるなら手を取り合えばいい。無理だと思うなら離れればいい。ただ、エルフと人間はそんなに遠いものじゃない。君たちは僕の子孫であると同時に、おそらくサーシャの子孫だ」
 えっ? と、ウェールズとアンリエッタだけでなく、話をじっと聞いていた人々も思った。
”自分たちが、エルフの子孫? 自分たちの中に、エルフの血が流れている?”
 すると、ブリミルとサーシャは少し恥ずかしそうに言った。
「まあ、正直に話すと、僕とサーシャはその……もう、付き合ってるんだ。実は」
「し、しょうがないじゃない。こんなマイペースで能天気な男、私が守ってあげなきゃどうなるかわかんないもの」
 それは単純に、若いカップルの姿そのものであった。
 だが考えてみれば当然のことだ。始祖ブリミルに子孫がいるということは、当たり前だが伴侶がいないといけない。ただ、それがまさかエルフだったとは、想像を絶していた。
「僕らだけじゃないさ。君らもさっき見たろ? 僕らのキャラバンでは、もう種族を超えた恋仲や夫婦はたくさんいる。遠い時間で、この時代では血が薄れてしまったかもしれないけど、種族そのものが変わりきるなんてことは早々ないよ。無理にとは言わないけど、勇気を持って手を差し伸べてみてほしい。それでダメなら別の誰かに握手を申し込めばいい。そうしてるうちに、いつか君の手を握り返してくれる誰かに巡りあえるだろう。少なくとも僕は、君たち子孫に無駄な血を流してもらいたいなんて思ってないよ」
「はい……始祖ブリミル、やはりあなたは偉大なお方です」
 感涙しているウェールズに、ブリミルは照れくさそうにするばかりだった。

439ウルトラ5番目の使い魔 53話 (7/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:08:20 ID:LzEFD1MA
「そうかしこまらないでくれよ。僕はむしろ、君たち子孫に大変な役目を押し付けてすまないと思ってる。でも、もしも壁を乗り越えられたときには、君たちの未来はもっと広く羽ばたけるはずさ。もしもくじけそうなときは、遠い昔にあった小さなキャラバンのことを思い出してくれれば、僕は満足だよ」
「お心に添えるよう、ハルケギニアの民を代表して約束します。今は無理かもしれない、百年後でも無理かもしれない。けれど、いつかハルケギニアに、いかなる種族であろうと手を取り合える理想郷を作り上げるために、努力を怠らないことを!」
 ウェールズの言葉に、人々のあいだからわっと歓声があがった。
 もうエルフとの戦争なんかしなくてもいい。意味の無い恐怖に怯える必要はないんだ。
 これからブリミル教の経典から、エルフを敵視する記述は削除されていくだろう。いや、教皇が消えた今、ブリミル教自体が大きな変換を余儀なくされていくに違いない。
 時代は変わる。その中で、人もものも変われなければ生き残ってはいけない。
 トリステイン、アルビオン、そしてロマリアも新たな息吹を得て生まれ変わる。しかし、まだそうはいけない国がある、ガリアだ。
「我々はこれから、いったい誰を王とあおげばいいのだろう?」
 ガリア軍は教皇をあおぎ、教皇の認定したジョゼフを王として戦ってきた。しかし教皇は敵で、ジョゼフの権威も同時になくなった。ガリアの将兵たちは君主を失い、どうしていいかわからなくなってしまったのだ。
 もうジョゼフを王とはあおげない。ならば他国に吸収されるしかないけれど、彼らにもガリア人としての誇りがあった。
 始祖ブリミルよ。我々はいったいどうしたら……? ガリア人の哀願する眼差しが向けられるが、ブリミルにもそれはどうしようもなかった。
 ところがである。竜騎士たちも全員地に降りてひざまずいているところへ、かなたの空から一頭の竜がすごい速さでこちらへ近づいてくる羽音が聞こえてきたのだ。
「風竜? こんなときに一体誰だ?」
「まさか、始祖に仇なさんと無能王が送り込んできた刺客では」
 場が騒然となり始める。しかし、飛んでくる竜の姿が鮮明になってくると、アンリエッタははっとして迎撃態勢に入っていた者たちに命じた。
「待ちなさい! あれは敵ではありません。どうやらこちらに降りてくるようです。そのままで、手を出してはいけません」
 メイジたちが杖を下ろすと、こちらに撃ち落す意思がないことを確認したのか、竜はまっすぐに彼らのいる城壁の上へと降りてきた。
 それはアンリエッタの思い出したとおり、青い風竜シルフィード。その背からはキュルケと、アンリエッタも行方を心配していた青い髪の少女が降りてきたのだ。

440ウルトラ5番目の使い魔 53話 (8/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:11:24 ID:LzEFD1MA
「ミス・タバサ。いえ、ミス・シャルロット殿、あなたもご無事でしたか」
「アンリエッタ女王陛下、お久しぶりです。わたしも、つい先ほどハルケギニアに舞い戻ってきました。事情は理解しています、失礼ながら話は後で」
 タバサはアンリエッタに対して、彼女らしからぬほどの早口であいさつを済ませると、ブリミルのもとにひざまづいた。
「始祖ブリミル、お初にお目にかかります。わたしは……」
「いいよ、僕に気を使わなくても。君は君の役割があって来たんだろう? 僕の権威が役に立つなら好きにしなさい。今のうちだよ」
 後半部分を小声で告げたブリミルに、タバサは思わずびくりとした。やはりこの人はただのお人よしではない、自分と同様に、数多くの修羅場をくぐってきた洞察力を持っている。
 しかし、味方だ。タバサは後ろめたさを感じながらも、ブリミルの言葉に全面的に甘えさせてもらうことを決めた。自分には似つかわしくない仕事かもしれないが、父と母の愛した祖国であるガリアを滅亡から救えるのは自分しかいないのだ。
「ここに集まったガリアの民よ、わたしの話を聞いて欲しい」
 城壁の上からタバサはガリア軍に呼びかけた。すると、ガリア軍の視線がタバサに集まる。今のタバサはこの世界に戻ってきたときのXIGの制服ではなく、ベアトリスに貸してもらった社交用のドレスを身にまとっている。急いでいたが、幸いサイズが近くて助かった。
 その身をさらしたタバサの姿を、ガリアの将兵たちはまじまじと見つめた。
 
”誰だ? あれは”
”可憐な令嬢だ。どこぞの姫君か? いや、まてよ、あの青い髪は……まさか!”
”思い出した! あのお顔、若かりしころのオルレアン夫人とそっくりだ”
”いいや、俺はヴィルサルテイル宮殿で何度も見た。イザベラ様から口止めされていたが、あのお方は”
 
 ざわざわと、ガリアの将兵たちに動揺が広がっていく。
 そしてその波がある一点に達したところで、タバサは意を決して口を開いた。
「わたしは、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。現ガリア王ジョゼフ一世の弟、故シャルル大公の一子です」
 どよめきが驚愕に変わり、その機を逃さずにタバサは一気に畳み掛けた。

441ウルトラ5番目の使い魔 53話 (9/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:12:34 ID:LzEFD1MA
「わたしは今日までジョゼフの手により幽閉されていましたが、心ある人々の手で解放されてここに来ました。そして今ここで、始祖の命を受けてわたしは宣言します。ガリア王国を凶王の手から解放し、正当なる持ち主の手に取り返すことを」
 地を揺るがすほどの歓呼の叫びがガリア軍からあげられた。
 故・オルレアン公の子女がまだ生きていた! かつて神童と呼ばれたオルレアン公の名声を覚えていない者はガリアにはいない。先王が亡くなった時に、オルレアン公が跡継ぎになればと願ったのはガリア国民のほとんどであったろう。しかしオルレアン公は不慮の死を遂げられ、あの無能王ジョゼフの治世になってしまった。
 だが、神はガリアを見捨ててはいなかった。オルレアン公の子ならば、きっとガリアを正しい方向に導いてくださるに違いない。シャルロット姫万歳という叫びが次々とあがる。
 けれども、タバサはその歓呼のうねりを冷めた目で見ていた。我ながらなんとらしくない台詞を言っているのだろうとという気恥ずかしさもあるが、これはガリア王国が本当にギリギリまで追い込まれてしまっているという証拠の光景でもあるのだ。もし誰かがまとめなければ、ジョゼフに従わないガリアの貴族や軍人は互いに主導権を争って分裂し、ガリア王国はいくつかの小国に分裂した後に周辺国に吸収されて消滅するのはタバサなら容易に予想できた。
 だからこそ、不本意でもやるしかない。イザベラがいない今、ガリアの正当な血統を主張できるのは自分のほかにいない。
「ガリアの民たちよ。これまでの理不尽な仕打ちに耐えて、よく今日まで生き残ってくれました。申し訳ありませんが、もう少しの辛抱をお願いします。ですがこれよりは、わたしがあなた方と苦難を分かち合います。そして遠からぬ日に、平和なガリアを取り戻しましょう」
 ガリアの将兵たちは涙を流しながら喜びに打ち震えた。いまやタバサの姿は彼らには女王そのものに見え、その凛々しい姿を街の一角からジルも頼もしそうに見ていた。
 もちろん、タバサの姿はイリュージョンのビジョンを通して世界中、むろんガリアにも映し出されており、グラン・トロワではジョゼフがシェフィールドを前に呵呵大笑していた。
「シャルロットめ、やはり生きておったか。まったく、なんという強運、いやなんという才能か。シャルルよ、見ているか? お前の娘はすごいぞ。俺の姑息な策略で始末するのはやはり無理だったようだ。そして今、すべての運命が俺に死ねと言って迫ってきているようだ。その上無い愉快だと思わんか、なあミューズよ」
「はい、ジョゼフ様。これは聖戦などよりも、よほど楽しみがいのあるゲームになってきたようですわね。それだけでも、教皇と組んだのは正解だったでありましょう」
「まったくだ。この世は俺などの乏しい想像力では計りしれん理不尽で満ちている。さあミューズよ、シャルロットのために舞台を整えようではないか。次が正真正銘、俺とシャルロットの最後のゲームになることだろう」
「はい、御心のままに」
 シャルロットが来る。亡き弟の忘れ形見が、かつてない力で自分の首を取りに来る。素晴らしい、さあいつでも来るがいい。俺は逃げも隠れもしない。俺とお前の死、どちらでもいい。すべてを失ったその先に、俺の欲するあれを見せてくれ。
 ジョゼフの形無き挑戦状。タバサはここに立ったときから、それを受ける決意を固めていた。
 どのみち遅かれ早かれ、あの男とは決着をつけねばならないのだ。父の仇を取るためにも、もうこれ以上、ガリア王家のために運命を狂わされる人を作ってはいけないためにも。
 そのためには何でもしてやる。タバサは、アンリエッタとウェールズに向かい合うと、軽くだが頭を垂れて言った。

442ウルトラ5番目の使い魔 53話 (10/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:17:01 ID:LzEFD1MA
「お聞きのとおりです。ウェールズ国王陛下、アンリエッタ女王陛下。わたくしはガリア王家の正統後継者として、ガリア王国を凶王より奪還する使命を負いました。つきましては、両陛下にお願いしたきことが」
「わかっている。ガリア王国に秩序と平和を取り戻すためならば、我らは協力を惜しむものではない。ただし」
「援助は、資金および食料医薬品などの物資に限っておこないます。兵力、武器の提供は一切いたしません。それでよろしいですね?」
「アルビオンとトリステインの友情に、ガリア国民を代表して感謝いたします」
 三人とも、国政に触れたことのある身ならばわかっていた。ハルケギニアの安定のためにガリア王国の奪還が急務だとしても、ガリアの内戦に他国が直接的に介入しては後に遺恨を残すであろう。もしトリステインやアルビオン軍がガリアに入れば、抜け目ないゲルマニアが干渉してきて戦後の政治的にもガリアが不利になる。ガリアはなんとしてでも、ガリア人のみの手で奪還しなくてはならない。
 それでも、トリステインとアルビオンの後ろ盾が得られるのはありがたい。あのジョゼフに対して、正攻法の戦力がどれほどあてになるのかはわからないが、少なくとも将兵や国民たちの安心感は増すだろう。
 もちろん、トリステインとアルビオンにとってもガリアが安定して友好国になるのは望ましいことだ。ここに、暫定的、簡易的ながらも三国の同盟が結ばれ、アンリエッタ、ウェールズ、タバサの三者が手を取り合うと、今度はトリスタニア中から歓声があがった。
 人々は戦争の終結と、新たな秩序の到来の予感に沸き、希望という光が世に満ち満ちていく。
 そして、それを見届けると、ブリミルはサーシャを促して、三人の王族に告げた。
「さて、それじゃ僕の役目もこれまでのようだね。そろそろ僕らは、ここらでお暇することにするよ」
「えっ? お、お待ちください始祖ブリミル! わたしたちは、まだあなたはお教えいただきたいことがあるのです」
「僕が全部言って、君たちはそれを守るだけで、君たちはそれを子孫に誇れるのかい? 僕らはしょせん、大昔の人間さ。この時代の行く先は、この時代の君たちが考えて作るんだ。わかるだろ?」
 ブリミルが杖を振ると、彼の前に光る鏡のようなゲートが現れた。始祖の奇跡はここまで……三人はそれを認め、ひざまずいて最上級の礼をとると、ウェールズが代表して最後のあいさつをした。
「わかりました。始祖ブリミル、わたしたちは、あなたの残してくださったハルケギニアを、未来永劫守り続けていくことを誓います」
「がんばってくれよ、子孫たち。まあ僕は、人を傷つけたり、奪ったり、騙したり、そうした悪いことはしないで生きてくれれば大体なにやっても気にしないよ。じゃあね、僕らは過去でがんばるからさ」
「こいつの面倒は私たちでちゃんと見るから気にしなくていいわよ。それじゃ、期待してるからね。さよならっ」
 ブリミルとサーシャが鏡をくぐると、鏡はすっと消えうせて、あとには三人の王族のみが残された。
 まるですべてが長い夢であったかのようだ。だが、夢ではない。その証拠に、今の彼らは白い陽光をその全身に受け、誰と争う必要もない平和の穏やかさの中に包まれている。

443ウルトラ5番目の使い魔 53話 (11/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:18:54 ID:LzEFD1MA
 そう、目を開けたまま見る夢。長い悪夢がようやく終結したのだ。もはや太陽をさえぎるものはなにもなく、冷え切っていたハルケギニアに暖かさが帰ってきた。
 しかし、これはエピローグではない。むしろプロローグなのだ。アンリエッタは立ち上がると、空で消えかけているイリュージョンのビジョンにも届くように、あらん限りの声で叫んだ。
 
「トリステインの、アルビオンの、ゲルマニアの、ガリアの、ロマリアの、ハルケギニアのすべての人々に告げます。長く続いた偽りの夜は、今ここに終わりました。我らの頭上に、再び朝が帰ってきたのです。ですが、これは終わりではありません。偽のブリミル教によって狂わされた流れを正し、本当の始祖の御心に答えられる世界を作り上げるための戦いがこれから始まるのです。恐れることはありません。始祖は道を示してくれました。しかし道を歩まねばならないのは我々です。全世界の皆さん、皆で歩きましょう、共に汗を流し、苦労しましょう。六千年前に無人の荒野を歩んだ始祖ブリミルに習い、始祖の夢見た恐怖と破壊なき世界を、わたくしたちの子孫に残すための旅路を始めようではありませんか!」
 
 全世界からどっと歓声があがった。心ある者たちは始祖に感謝し、その御心に応えることを誓った。
 だが、その道筋はたいへんに険しい。教皇を失ったロマリアでは大混乱が起こるだろうし、これまで富を独占してきた神官たちも無事ではすまないだろう。
 世界中でもブリミル教の教義の切り替えで論争が起こるであろうし、信者たちに作り直した教義を納得させるのも大変だ。
 しかし、困難が待っているからといって何もしないのでは永遠に迷いから抜け出すことはできない。どんな不幸のどん底でも、自分で自分を助けようとあがきもしない人間は、芽を出さない種に水をやる人がいないように誰からも見放されていく。世界は、優しくはあっても甘くはないのだ。
 
 アンリエッタに続いてウェールズとタバサからも戦争の終結と未来への抱負が宣言され、続いてガリアとロマリア軍の武装解除が指示された。
「平民は剣を、メイジは氏名明記の上で杖を提出してください。帰国までの期間、トリステインが責任を持って預かります」
 戦争は終わったが、武器を持った人間はそれだけで脅威となる。今日までの戦争で互いに恨みつらみが重なってもいるので、面倒だがこれは必要な処置だった。
 ガリアとロマリアの将軍たちに命令されて、兵たちは続々と装備を捨てていった。始祖の威光がじゅうぶんに効いているので、秩序は保たれて混乱はほとんどない。メイジの命とも言える杖を手放すことについても、食料の配給券と引き換えであるので、ほぼ全員が素直に従った。
 この他にも、細かな指示はいろいろあるが、落ち着いたらロマリア軍は順次帰国、ガリア軍はトリステインの管理下に置かれつつ、いずれ起こるガリア奪還までの間、奉仕活動をしつつ再編に励むことになるだろう。
 平和の足音は聞こえてきた。しかしまだドアの先までやってきただけで、もてなしの準備を怠ればノックすることなく去っていってしまうだろう。

444ウルトラ5番目の使い魔 53話 (12/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:21:14 ID:LzEFD1MA
 本当に、すべてはこれからだ。我々が努力すれば、始祖はきっと見守っていてくださる。逆に努力を怠り愚行を繰り返せば、ゼブブが言い残したように破滅招来体によって今度こそハルケギニアは滅亡させられてしまうだろう。
 
 
 偉大なる聖人、始祖ブリミルへの信仰は消えるどころか強まってハルケギニアに広まっていった。
 六千年前の過去へと帰られた始祖ブリミルに誓って……と思われた始祖ブリミルだったが……実は、まだ帰っていなかった。
 あれからざっと半日後。ブリミルとサーシャは王宮の一室で夕食のもてなしを受けていた。
「うまいうまいうまい、こんなご馳走何年ぶりだろう。ああ、もう手が止まらない。涙が出てきたよ」
「ちょっと、もっと品よく食べなさいよ。私まで恥ずかしくなるじゃない。あ、おかわりお願いね、もう面倒だから鍋ごと持ってきてーっ」
「あ、あの。料理はまだありますから、どうか落ち着いて落ち着いて」
 普段は王族の食事で使われるホールで、ブリミルとサーシャは大量の料理をかきこんでいた。
 あっという間に、テーブルいっぱいの料理の皿が次々と空になっていく。その傍らでは、アンリエッタがルイズといっしょにそれをなかば呆然と見守っていた。
「す、すごい食欲ですわね。あのルイズ、ものすごく不敬に当たるとは思うのですが、あの方々はわたくしたちのご先祖様で間違いないのですよね?」
「は、はあ……なんとなくそんな感じはするんですけれども。自信なくなってきました」
 ふたりとも、始祖ブリミルが自分たちのイメージする聖人の形とはかなり懸け離れた人物なのは飲み込んだつもりでいたが、やっぱり身近でまじまじと見ると信仰が揺らぎそうになるのを感じていた。
 なお、食客はこの二人だけではない。
「てかサイト! あんたもいっしょになっていつまでバクバク食べてるのよ」
「モグモグ……仕方ねえだろ。あっちの時代じゃまともな料理なんて滅多に手に入らねえんだから、食えるときに食いだめする習慣がついちまってるんだよ」
 もう何ヶ月もいっしょにいたせいで才人もすっかりブリミルたちと同じ習慣に染まってしまっていた。行儀が悪いとは思っても、六千年前では本当にわずかな食料も無駄にできなかったし、食べ物を残すなどはもってのほかであったのだ。
 戦中の城であったので、あまり豪勢にとはいかなかったものの、それでも三人で十人前くらいはたいらげてやっと食事は終わった。
「ふぅ、食べた食べた。満腹で苦しいなんて、ほんともう何年ぶりかなあ。こんないい時代に連れてきてくれて、サイトくんには感謝しなくちゃねえ」
「なに言ってるんですか? てっきり帰ったのかと思ったら、物影から出てきて「サイトくん、ちょっとちょっと」って声かけられたときはびっくりしたぜ。そんで「おなかすいた」だもん。みんなに説明したおれの身にもなってくれよ」
 才人が、苦労したんだからなとばかりに肩をすくめると、ブリミルもすまなそうに頭をかいた。

445ウルトラ5番目の使い魔 53話 (13/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:22:40 ID:LzEFD1MA
「いやあごめんごめん。でもいくら僕でもタイムスリップする魔法なんかないもの。でもあの場にい続けたら確実に面倒なことになるじゃないか。なんとかいい具合で場をまとめた僕の努力も評価してくれよ」
 実は、あのときブリミルとサーシャが消えたのは小型の『世界扉』で、ふたりは城壁の上から街の路地に移動しただけだったのだ。
 タイムスリップしてきたのは、あくまで未来怪獣アラドスの力で、ふたりが帰るにはやはりアラドスに乗っていくしかない。そのアラドスはまだ眠り続けており、ブリミルはサーシャに目覚めるまであとどのくらいかかるのかを尋ねた。
「そうね、生命力の回復のきざしは見えるから、あの大きさの個体だと、あと半日から……遅くても一日くらいだと思うわ」
「よかった、そのくらいで済むのか……帰れなかったらさすがにまずいもんね」
 ブリミルはほっと胸をなでおろした。あっちの時代には多くの仲間を残している。万一戻れなかったり戻るのが遅れたらえらいことになるところだった。
 
 しかし、ということは最低あと半日はこちらの時代にいなければいけないということになる。ならばと、ルイズたちはこれまで謎に包まれてきた数々の事柄をブリミルに直接正していくことに決めた。
 
「ううん、あまり話したいことではないんだけどなあ。どうしても言わなきゃだめかい?」
「だめです。始祖ブリミル、この時代で起きている異変のほとんどはあなたの時代に端を発しているんです。聖地もヤプールに制圧されて久しいし、あなたが本当に子孫のことを思うのであれば、帰る前に洗いざらい説明していってください」
 ルイズに強い剣幕で押し捲られて、ブリミルはすごく困った様子であった。
 六千年前に、ブリミルが文明崩壊以前になにをしていたのか、何ヶ月もいっしょにいた才人にさえブリミルは何も語ってはくれなかった。それほどまでに語るのははばかられることなのだろうが、ルイズもここで引くわけにはいかなかった。
 聖地、虚無、あらゆる謎の答えを知っている人がここにいる。こんな機会は、逃したら絶対に二度とやってこない。
 そしてブリミルは、悩んだ末にサーシャに了解をとって、一度大きく深呼吸をするとルイズたちに答えた。
「わかった。すべてを話そう。ただ、本当におおっぴらにしては欲しくない話なんだ。聞くのは、本当に重要な人だけにしてほしい」
「わかりました。わたしたちの、信頼できる人だけを集めます。女王陛下、人払いの徹底をお願いします」
 アンリエッタはうなづき、すぐさまアニエスに命じるために室外に出て行き、ホールにはブリミルとサーシャ、才人とルイズだけが残った。

446ウルトラ5番目の使い魔 53話 (14/14) ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:28:34 ID:LzEFD1MA
 ブリミルは決断したものの、思い出したくない過去に悩んでいるようにじっと考え込んでいる。いったいどれほどのことが彼らの過去にあったのだろう? 才人とルイズは、これから聞くことがもしかしたら「聞かなければよかった」と思うことになるかもという予感に背筋を寒くした。
 
 そして一時間後、ホールにはブリミルとサーシャの前に、才人とルイズ、アンリエッタとウェールズにタバサ。それからカリーヌ、アニエス、ミシェル、キュルケ、ティファニア、最後にエレオノールとルクシャナが固唾を呑んで立っていた。
「これはまた、けっこう大勢集まったねえ」
「すみません、これでも絞ったほうなんですが。でも、みんな口の硬さは保障します」
 やれやれと、ブリミルはため息をついた。しかし秘密厳守は徹底していて、盗聴がないように室内は調べ上げたし、入り口はアニエスとミシェルが神経を張って立っている。むろん室外も、銃士隊と魔法衛士隊が蟻の這い出る隙間もないほど固めていた。
 集まった者たちは皆、一様に緊張している。才人やルイズとの再会の喜びも冷めやらぬ間に、始祖から重大な秘密が語られようとしているのだ。
 長い間謎だった伝説が、ここに。ブリミルは集まった面々を見回すと、最後にサーシャに目をやって訪ねた。
「じゃあ、話すけどいいかな?」
「いいわ、私もサイトに未来のことを聞いたときから、いつかこの時が来るんじゃないかと思ってたの。話して、すべての始まりになった、あなたたちの一族の悲劇を」
「わかった」
 ブリミルは短く答えると、椅子から立ち上がり、その口を開いて語り始めた。
「要点から最初に話しておこう。僕は、いや僕の一族は、元々この星に住んでいた種族ではないんだ」
 
 えっ……?
 
 場を冷たい空気が包んだ。どういう、意味だ? という色が皆の顔に次々と現れ、ブリミルは沈痛な面持ちでゆっくりと続きを語っていった。
「僕は君たちに謝らなきゃいけない。とても贖罪になるようなことではないが、すべてを話すよ。僕らの一族が犯した罪と、その顛末を。なにもかもは、この時代から六千年前に、この時代では聖地と呼んでいる場所から始まった。ある日、聖地に流れ着いた一隻の船、そこに乗っていたのが僕と僕の一族、マギ族だったんだ」
 
 ブリミルの昔語り……それは、ひとつの星ならず、宇宙全体をも揺るがす大厄災のプロローグであった。
 すべては六千年前に、ほんの数千人くらいでしかないある種族が犯した罪から始まる。
 物語の暗部、伏線、裏……隠され、忘れられてきた歴史が蘇る。閉ざされた部屋の中で、灯りの炎が揺らめいて、静かにゆっくりと燃え続けていた。
 
 
 続く

447ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2017/01/14(土) 21:31:04 ID:LzEFD1MA
決戦すんで、今回はまとめの回となりました。
自分はあまり宗教には詳しくはないのですが、なんとかまとめたので納得していただるとうれしいです。
しかし今回はネタ仕込むすきまがほとんどなかったです。まあ真面目な話ですから、ね。

では、次回は大きく伏線回収いきます。
本年度も、完結目指して頑張ります。よろしくおねがいいたします。

448名無しさん:2017/01/15(日) 00:47:57 ID:Vgintyy.
ウルトラ乙。
ここまで凄い長かったですね。そろそろ第3部も終わりでしょうか?
ところで、アスカどこ行ったんだ?

449名無しさん:2017/01/15(日) 17:25:50 ID:Meedbyhc
おつ

450ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:10:18 ID:ztVJl3Jg
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下をさせていただきます。
開始は23:14からで。

451ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:14:11 ID:ztVJl3Jg
ウルトラマンゼロの使い魔
第百三十三話「二冊目『わたしは地球人』(その3)」
地球原人ノンマルト
復活怪獣軍団
守護神獣ザバンギ
カプセル怪獣ウインダム
カプセル怪獣ミクラス 登場

 精神を囚われたルイズを救うため、本の世界への旅に出た才人とゼロ。二冊目は地球防衛軍が
暴走してしまっているウルトラセブンの世界。その世界は現行地球人と地球原人ノンマルトの
対立の真っ最中であった。今の地球人が外宇宙からの侵略者の子孫だという証拠であるオメガ
ファイルの開示を迫り、ノンマルトは怪獣軍団を差し向けてくる。セブンは地球人の手で真実を
明らかにし、今の地球人が地球に留まれる権利を与えるべく行動する。ゼロは彼の助けになる
べく、それまでの時間稼ぎのために怪獣たちに立ち向かう。果たしてこの世界の明日はどの方向へ
向かうのであろうか。

「キイイイイイイイイ!」
 ゼロを取り囲む五体の怪獣がいよいよ攻撃を開始してきた。一番手のエレキングが口から
楔状の放電光線を、ゼロの足元を狙って撃ってくる。
『おっと!』
 飛びすさってかわしたゼロに向かって、ダンカンが前のめりに飛び出してきた。
「ギャ――――――ア!」
 そのまま丸まって転がりながらゼロに突進していく。
 しかしゼロはダンカンが迫った瞬間に振り返ってがっしりと受け止めた。
『そんな手は食らうかッ!』
 遠くへ投げ飛ばして地面に叩きつけようとするも、そこにサルファスが硫黄ガスを噴出する。
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
『うわッ!』
 高熱のガスを顔面に浴びせられて視界をふさがれたダンカンを手放してしまった。更に
バンデラスの全身がまばゆく発光し、強力な熱波を繰り出す。
「ウアアアア―――――ッ!」
『ぐッ!』
 高熱攻撃の連続にうめくゼロだが、これを耐えてビームゼロスパイクで反撃。
『せいッ!』
「ウオオォッ!」
 食らったバンデラスが麻痺して熱波が途切れた。今の内に反撃に転じようとしたゼロであったが、
「グオオォォォ!」
 ボラジョが高速できりもみ回転して砂嵐を発生させ、それをぶつけてきたのだ。
『くぅッ!』
 足を踏み出しかけたところに砂嵐に襲われ、踏みとどまるゼロ。が、砂嵐が収まった瞬間に
ボラジョの蔦とエレキングの尻尾が伸びてきて、己の身体に巻きつく。
「グオオォォォ!」
「キイイイイイイイイ!」
 二体の怪獣は拘束したゼロに高圧電流を食らわせる。
『ぐああぁぁッ!』
 二体がかりの攻撃にさすがに苦しむゼロ。更にバンデラスの胸部に並んでいる球体から
撃たれる怪光線も浴びせられる。
『ぐううぅぅぅッ……! さすがに苦しいぜ……!』
 五体の怪獣を同時に相手取るのはやはり、ゼロにとっても厳しい戦いだ。しかも怪獣たちは
ノンマルトの現地球人に対する積年の恨みが乗り移っているかのように猛っている。その勢いは、
簡単に抑えられるようなものではない。
 ゼロが手を焼いている一方で、ウインダムとミクラスもまたザバンギを相手にひどく苦戦を
していた。

452ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:16:34 ID:ztVJl3Jg
「グワアアアアアアア!」
「グアアアアアアアア!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 カプセル怪獣たちは同時にザバンギに激突していくものの、ザバンギの規格外の怪力の前に
弾き飛ばされてしまった。ザバンギはオーソドックスなタイプの怪獣であるが、ノンマルトの
守護神と称されるだけあって、その力の水準は通常の怪獣を大きく上回っているのであった。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ザバンギは倒れ伏したウインダムを、無情にも踏み潰そうと足を振り上げる。
「シェアッ!」
 だがその時に飛んできたゼロスラッガーがザバンギの身体を斬りつけた!
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ダメージを負ったザバンギは後ずさり、ウインダムから離れた。その間にウインダムと
ミクラスは体勢を立て直す。
 今のスラッガーはもちろんゼロが放ったものだ。彼はボラジョとエレキングに捕まりながらも、
カプセル怪獣たちを助けるために力を振り絞ったのだ。
 そしてゼロの力はまだそんなものではない!
『あいつらが頑張ってるんだ! 俺がこんくらいで根を上げてちゃいられねぇぜッ!』
 拘束されたままストロングコロナゼロに変身すると、跳ね上がった筋力により蔦と尻尾を
振り払った。
「セェアァァッ!」
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
「ウアアアアァァァッ!」
 自由になったゼロにすかさずサルファスとバンデラスが硫黄ガスと怪光線を放ってきたが、
ゼロはその身一つで攻撃を受け止めた。
『どぉッ!』
 そして片足を地面に振り下ろすと、凄まじい震動が起こって周囲の怪獣たちのバランスを
崩した。戦いの流れを変えることに成功した!
「ギャ――――――ア!」
 ダンカンが転がりながら突進してきたが、ゼロはカウンターとして燃え上がる鉄拳で迎え撃つ。
『せぇぇあああぁぁぁぁぁッ!』
 燃える拳がダンカンを一発で破裂させ、遂に怪獣軍団の一角を崩したのであった。
『よしッ!』
 ぐっと手を握り締めるゼロだが、その時に超感覚で防衛軍秘密施設の地下に潜行していった
セブンの様子をキャッチした。
 ゼロたちが戦っている間、セブンはオメガファイルの真実を確かめるため、棺が封印されている
最奥のシェルターに近づいていたのだが……その前に、最後まで抵抗するカジ参謀が兵士の一団を
引き連れてセブンの前に立ちはだかったのだ。
 地球防衛にこだわりすぎて、あくまで強硬姿勢を崩さないカジは、兵士たちに攻撃命令を
下したのだ。
「目標は、ウルトラセブン!」
 地球人から放たれる銃弾が、セブンに浴びせられる――。
『ぐッ……!』
 それを感じて、ゼロは己が撃たれているかのように胸を痛めた。
 超人たるウルトラ戦士にとって、地球人の携行火器など豆鉄砲にも劣る威力。……だが、
あれほど地球人を愛し、命を燃やして戦い抜いてきたセブンが、その地球人から攻撃される
という事実……本人の心はどれほど痛いのだろうか。想像が及ばないほどであろう。
 しかしゼロはセブンを信じ、セブンが信じる地球人の心を信じ、戦いに集中する。
『はぁぁぁぁぁぁッ!』
「グオオォォォ!」
 ボラジョがまたも砂嵐を発してきたが、ゼロは力ずくでそれを突破。ボラジョに飛びかかって
鷲掴みすると、無理矢理地面から引っこ抜く。

453ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:19:13 ID:ztVJl3Jg
『ウルトラハリケーンッ!』
 竜巻の勢いでボラジョを頭上高くに投げ飛ばし、右腕を突き上げる。
『ガルネイトバスターッ!!』
 灼熱の光線がボラジョを撃ち、空中で爆散させた。
「グルゥゥゥゥゥゥ!」
 体当たりしてきたサルファスをいなし、ブレスレットからウルトラゼロランスを出す。
『どおおりゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!』
 それをストロングコロナの超パワーで、サルファスに投擲した!
 ランスは頑強な表皮を貫いてサルファスを串刺しにし、痙攣したサルファスの眼から光が
消えて爆散した。
「キイイイイイイイイ!」
「ウオオオオオ―――――!」
 エレキングの尻尾の振り回しをかわしたゼロだが、バンデラスの念力に捕まって宙吊りにされる。
『はぁッ! ルナミラクルゼロ!』
 しかしゼロはルナミラクルになってこちらも念力を発し、バンデラスの力を打ち消して
自由になった。そして振り返りざまにエレキングへゼロスラッガーを投げつける。
『ミラクルゼロスラッガー!』
 分裂したスラッガーがエレキングの角、首、胴体、尻尾を瞬く間に切り裂き、エレキングも
たちまち爆裂する。
 五体の内、最後に残ったのはバンデラス。ゼロは戻したスラッガーを手に握り締めると、
地を蹴って宙を飛行していく。
『はぁぁぁぁぁッ!』
 そうしてスラッガーを構えて高速でバンデラスに突撃する。
「セアァッ!」
 すれ違いざまに目に留まらぬ速度でスラッガーを振るい、バンデラスは全身が切り刻まれた。
更に着地したゼロが振り向くと同時にバリアビームを浴びせて、バンデラスを覆う。
 内に秘めた太陽のエネルギーに引火し、凄絶な大爆発を起こしたバンデラスだったが、
覆われたバリアが衝撃を封じて被害は外に拡散しなかった。
『残るはあいつだ!』
 五体の怪獣を撃破したゼロはすぐに駆け出し、ウインダムとミクラスの救援に回ってザバンギの
前に立ちはだかった。
「シェアッ!」
 左右の手のスラッガーを上段、中段に構えてザバンギを威嚇するゼロ。ウインダムとミクラスも
うなり声を発して、それに加勢した。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 さしものザバンギも足を止めて警戒していたが、この時にゼロの意識にノンマルトからの
テレパシーの声が響いたのだった。
『そこまでだ! 真実は白日の下に晒された。正義は我々にある! これ以上の戦いは、
宇宙正義に背くものとなるぞ!』
「!!」
 振り向くと、ウルトラセブン……モロボシ・ダンが地上に戻ってきていた。彼はウインダムと
ミクラスをカプセルに戻す。
「ミクラス、ウインダム! 戻れ!」
 同時にザバンギも活動を止め、ダラリを腕と尻尾を垂らした。これを見てゼロも、一旦変身を解く。
「ジュワッ!」
 才人の姿に戻ってゼロアイを外し、ダンの元へと駆けていく。
「セブン! オメガファイルの真実を確かめたんですね」
「ああ……疑いようのない人の口からね」
 オメガファイルの棺の中身は……フルハシ参謀であった。ヴァルキューレ星人事件の際に
殉職したかに思えたフルハシだったが、彼を最も信頼できる証人として選んだノンマルトに
よって、タキオン粒子に乗せられた情報体となって数万年前の地球に送られてそこで再生
されたのであった。

454ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:22:14 ID:ztVJl3Jg
 そしてフルハシは見届けた。かつて地上に栄えていたノンマルトを宇宙からの侵略者が
追いやり、その侵略者が徹底的に原住民族に扮して地球人として成り代わったのを。今の
地球人は、確かに侵略者の子孫だったのだ。
 真実を知った二人の前に、ノンマルトの女が現れる。
「分かったか! 地球人は、侵略者だった。この地球は我々のものだ!」
 そう主張するノンマルトに、ダンは訴えかけた。
「聞いてほしい! この星には、既に百億の民が住んでいる。彼らに、かつての君たちと
同じ悲しみを味わわせたくない!」
 しかしノンマルトはダンの訴えを聞き入れようとはしなかった。
「セブン。地球人に味方をすることは、宇宙の掟を破ることになる。それがどういう結果に
なるか、君なら知っているはずだ」
 そう告げられても、ダンはあきらめずに説得し続ける。
「彼らを、許してやってほしい。彼らは悔い改め、今宇宙に向かって、真実を発信し始めた!」
 地球人のために戦っているのは、ゼロやセブンだけではない。ウルトラ警備隊もまた、
上層部を説得してオメガファイルの情報を宇宙へ発信し、真実を受け入れて地球人を救う
行動を取っているのだ。
 だが、ノンマルトの回答は、
「それは出来ない! 故郷に戻ること、それは、我々に認められた権利だ!」
 頑ななノンマルトに、ゼロも説得に乗り出した。
「ともにこの星で生きていけばいいじゃないか! 地球人にも過ちを認め、平和を愛する
心がある。どっちかが星を去るとかじゃなく、同じ文明人として同じ土地で共存していく
ことは十分に出来る!」
 しかしそれでも、ノンマルトの姿勢に変化はない。
「滅びてしまった仲間たちは、もう蘇らない。彼らの無念を忘れ、地球人との共存など出来ない!」
「過去に囚われて何になる! 仲間の遺志を受け継ぐことも大切だ。けど恨みを継いでも、
何も得るものはない。虚しいだけだ! 本当に大切なのは、今を生きる人間がどうしていくか
だろうが!」
 精一杯の感情を込めて説くゼロであったが、ノンマルトは、
「我らが守護神によって、発信装置を壊す! そうすれば、地球人がオメガファイルを解放した
証拠は残らない!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ノンマルトの言葉を合図とするように、ザバンギが再び動き始めた。その足が向けられる先は、
オメガファイルの情報を宇宙に発信しているパラボラ塔。
「やめろッ! それはもう正義じゃねぇ!」
「ああそうだ。復讐のための復讐は、宇宙の掟も許してはいない!」
 ゼロとセブンでノンマルトに考え直すよう呼びかけたが、やはりノンマルトは翻意する
ことがなかった。
「たとえ復讐であろうとも、我々は散った仲間の無念を、あの日の侵略者の子孫に思い知らせるのだッ!」
 暗い情念に染まり切ったノンマルトの瞳を覗き見て、ゼロは理解した。ノンマルトは既に、
『人間』ではなくなっている。故郷を追い立てられ、滅ぼされた憎悪に取り憑かれた『怨霊』と
化してしまっているのだ。こうなってはどんな言葉が投げかけられようとも、どれだけの血を
吐こうとも、復讐の足取りを止めることはないだろう。
 地球人を救うには、ザバンギを力ずくにでも止める以外はない。故にダンは宣言した。
「これ以上力を行使するなら、私はこの星の人々のために戦う!」
 するとノンマルトが脅迫してくる。
「同じ星の民族同士の争いに介入すれば、全宇宙の文明人を敵に回すことになる!」
「……!」
 それを突きつけられても、ダンの考えは変わらなかった。彼はフルハシと、己が守り続けた
地球人を信じてウルトラアイを取り出す。
 その隣で、ゼロも再度ウルトラゼロアイを出した。
「セブン、あなただけに戦わせはしません」

455ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:23:49 ID:ztVJl3Jg
「……下手をしたら、君まで宇宙の漂流者となるかもしれないんだぞ」
「承知の上です」
 ダンはゼロの顔に振り向いて問う。
「どうしてそこまで……私の力に」
「……」
 ゼロは何も答えないまま、ダンとともに変身を行う。
「「デュワッ!」」
 巨大化したセブンとゼロ、二大戦士がパラボラ塔を背にして、ザバンギに対する盾となった。
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 ザバンギは二人を排除しようと肉薄してくるが、ゼロの横拳が返り討ちにした。
「ゼアッ!」
 更にセブンのミドルキックが入り、ザバンギは後ろに押し出される。
「デャッ!」
「ギャアアアアアァァァァァ!」
 セブンとのコンビネーションで、ゼロが一回転しての裏拳をザバンギに見舞った。
「ハァァッ!」
 ノンマルトの守護神ザバンギも、さすがにセブンとゼロの両者を同時に相手できるほどの力を
持ち合わせてはいなかった。
 だが、二人はなかなかザバンギにとどめを刺そうとしない。ノンマルトの代表たるザバンギに
それをすることは……侵略者への加担を決定づけることになるのだ。そうなればもう言い逃れする
ことは出来ない。
「……!」
 しかしゼロはスラッガーを手にして、ザバンギの頸動脈に目をつける。そんなゼロを才人が
呼び止めた。
『待て、ゼロ! お前の手で決着をつけてしまったら、本の世界が完結しない可能性があるぞ!』
 『古き本』を完結させる最低条件は、その本の登場人物によって物語に幕を下ろさせること。
ゼロが本来の主役を差し置いて最後の怪獣にとどめを刺すことは、それに反する行いだ。どうなって
しまうものか、分かったものではない。
 しかしそれを承知してなお、ゼロは迷っていた。
『けど、たとえ本の中の存在でも……あのセブンに、暗闇の中を歩かせるのは……!』
 ゼロがセブンを、宇宙の全ての光から追放された身に落とさせることなど出来るものだろうか。
……自分の父親なのだ。
『だから……俺はッ!』
 ゼロがスラッガーを振り上げる!

456ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:25:26 ID:ztVJl3Jg
『ゼロぉぉぉッ!』
「――デュワーッ!」
 ゼロの手が振り下ろされるより早く……セブンの握るアイスラッガーが、ザバンギの首筋を
切り裂いていた。
『えッ……!?』
「ギャアアアアアァァァァァ……!」
 裂かれた傷口から血しぶきが噴き出し、ザバンギはがっくりと倒れ伏した。そのまま胸の
模様から光が消え……絶命を果たした。
『セブン……どうして……』
 ゼロは呆然としたまま、本物のカザモリをウルトラ警備隊の基地に返還したセブンに叫ぶ。
『どうしてそんなことを! これであなたは、宇宙から居場所を……!』
 セブンはゼロに振り向き、答えた。
『いいんだ。私には、このことに関して何ら恥じるところはない。私はこの地球を、地球人を
愛している。愛する地球人のために戦った……何の後悔もない』
 語りながら、目を合わせたゼロに告げる。
『君が私を守ろうとしてくれた気持ち、それだけで十分だ。私は心の底から嬉しく思う。
ありがとう。本当に、ありがとう……』
『息子よ』
 最後のひと言に、ゼロはハッと息を呑み――。
 視界がまばゆい光で覆われていく――。

 ――気がつけば、才人は一冊目の時と同じように、現実世界に帰ってきていた。初めの時の
ように、ガラQが元気のいい声を発する。
「オカエリー!」
「お帰りなさいませ、サイトさん! ご無事で何よりです!」
 シエスタも安堵しながら才人に呼びかけたが、才人は立ったままぼんやりしている。
「サイトさん……? まさか、どこかお怪我をされたのでは!?」
 シエスタ、タバサたちが心配すると、才人は我に返って手を振った。
「い、いや、怪我なんてどこにもしてないよ。大丈夫だ、ありがとう」
 シエスタたちを落ち着かせると、才人はこっそりゼロに呼びかけた。
「ゼロ……セブンのことは助けられなくて、残念だったな。でも、最後にお前のことを……」
『……なぁ才人』
 ゼロは才人に、こう言った。
『俺の親父は、本の世界でも偉大な人だった。……お前も見てくれたよな?』
 才人は一瞬虚を突かれ、次いでやんわりと微笑んだ。
「ああ、しっかりとな」
 こうして二冊目の『古き本』も終わらせた才人とゼロ。だがルイズはまだ目覚める様子がない。
残る本は四冊。まだまだ彼らの戦いは続くのだ。

457ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2017/01/16(月) 23:26:06 ID:ztVJl3Jg
以上です。
息子の愛にむせび泣く男、ウルトラセブンッ!

458名無しさん:2017/01/17(火) 00:40:24 ID:5P5tbEFw
乙です

そういえば昔、ダーマが召喚された小ネタあったなぁ…
レオパルドンのソードビッカーでどんな敵も瞬殺w

(本家のアメコミで、レオパルドン込みでなら
 あらゆる世界のスパイダーマンの中で最強扱いされた東映版凄えwww)

459名無しさん:2017/01/21(土) 23:16:47 ID:H7w8IsIU
遅ればせながら五番目の人もウルゼロの人も乙
敵が神に等しい力を先に得てなければあっという間に事件は解決してたかもしれない
というレオパルドンw


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