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中・長編SS投稿スレ その2

1名無しさん:2011/02/24(木) 02:44:38
中編、長編のSSを書くスレです。
オリジナル、二次創作どちらでもどうぞ。

前スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9191/1296553892/

870earth:2011/10/03(月) 22:27:16
第36話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第36話

 暗黒星団帝国軍による猛攻を受けて、旧ガミラス帝国軍はガミラス本星近辺にまで追い込まれていた。
尤も精強で知るガミラス軍の必死の抵抗により、暗黒星団帝国軍も多大な被害は受けており、開戦前と比べて
その陣容は寂しくなっていた。

「何としても、ガミラシウムとイスカンダリウムを手に入れなければならない」

 メルダースはそう言って部下を鼓舞した。実際、それほどまに多くの労力がつぎ込まれていた。
 だがガミラス星の守りが堅いと見るや、メルダースはとりあえずイスカンダリウムだけでも得るべく、イスカンダルで
資源採掘を行うことを決意する。
 
「女王が居るようですが?」
「女王一人しかいない国に、遠慮する必要は無い。いや、治めるべき国民がいない国家など国家ではない。
 あれはすでに滅んだ無人同然の星なのだ」

 メルダースはそう言って資源採掘を命じる。
 この指示を受けた第1艦隊司令官データーは船団をイスカンダルに降下させる準備を進めた。

「準備を急がせろ。それと邪魔な地上構造物は破壊してしまえ。資源採掘の邪魔だ」
「了解しました」

 データーはイスカンダルの上空から容赦のない艦砲射撃を地表に加え、あらゆる人工物を灰燼にしていく。
  
「この星の動力炉(波動エンジン)は我々にとって有害だ。何も残してはならぬ!」

 イスカンダルが猛火に包まれる様は、ガミラス星上空の戦闘空母からも見ることが出来た。

「イスカンダルが! スターシアとの通信は?!」
「ダメです。繋がりません」
「くっ……予備部隊を出せ。私が直接指揮を執る!」

 これを聞いてタランが慌てて止める。
 
「しかし、それでは防衛線が崩壊しかねません! それに総統に万が一のことがあれば」
「どけ、タラン! 私は行かなければならん」
「どきません!」 
 
 総統とその副官の緊迫したやり取りが続く。その中、信じられない報告が飛び込む。

「ヤマトが現れました!」

871earth:2011/10/03(月) 22:27:50
 イスカンダルが猛火に包まれる様子は、第8艦隊でも見ることが出来た。
 メインパネルに映されるイスカンダルの悲惨な光景に、第8艦隊の宇宙戦士たちはいきり立つ。

『司令官!』『艦長!』『司令!』

 第8艦隊旗艦ネメシスに全艦から通信が殺到する。
 勿論、ネメシスの艦橋にいる人間達も全員が司令官に目を向けていた。

「司令……」

 青コートの幕僚が司令官に決断を迫った。
 イスカンダル女王スターシアは、全人類にとって恩人だ。彼女が居なければ人類は滅亡していただろう。
そんな恩人が攻撃され、イスカンダルは炎の海に沈んでいる。見過ごせる人間はいなかった。
 一方の司令官は原作と乖離した光景に少し絶句するも、すぐに最善の手を考える。

(いきなり先制攻撃をする、いやそれだと、だまし討ちか?
 開戦する予定とは言え、開戦責任を問われる事態は避けなければならない。ボラーとの関係もある。
 だが穏便な手はとれないし、下手をすればヤマトが動きかねない)

 というか、もはやヤマトは暴走寸前であった。
 ヤマトクルーはイスカンダルへの蛮行に激怒していた。古代進がまだ思いとどまっているのも、古代守が制止して
いたからに他ならない。だがその守でさえ腸が煮えくり返る思いであった。

(是非も無し、か)

 腕を組み口を瞑っていた司令官は、目を見開くと同時に命じる。

「イスカンダルを攻撃中の国籍不明艦隊に攻撃停止を勧告しろ。コスモタイガーを3機ほど差し向けろ」
「勧告するだけですか?」
「向こうが無視するようなら……友好国への攻撃を見過ごすわけにはいかん。『武力』で阻止する。全艦戦闘配備!」
「了解しました!」

872earth:2011/10/03(月) 22:28:35
 防衛艦隊出現の報告は、暗黒星団帝国軍を驚かせた。さらに攻撃停止勧告は彼らを激怒させた。
 
「くそ。ガミラス残党が居なければ、あのような艦隊、簡単に捻り潰せたものを!」
「如何しますか?」
 
 データーは兵士の問いに、当たり前だといわんばかりに吼えた。

「勿論無視だ! 全戦闘機隊発進! 我が艦隊も出るぞ!! まずはあの煩いハエを追い払え!」

 暗黒星団帝国軍艦隊が勧告を無視したどころか、こちらへの敵意を露にしたことから、第8艦隊はすぐに
攻撃を開始する。
 2隻の宇宙空母とヤマト、ムサシからコスモタイガー隊が次々に発進していく。
 暗黒星団帝国軍も攻撃隊を出したが……結果は無残なものだった。
 士気では暗黒星団帝国軍に勝り、質でも数でも原作よりも遥かに優れたコスモタイガー隊は、敵航空隊を
あっという間にコテンパンにしていった。
 コスモタイガー隊を突破した敵機は第8艦隊前方に展開していたヤマトとムサシに攻撃を加えるが、パルスレーザーに
よって返り討ちにあう。

「一方的だな……(というか強すぎてワロタ)。引き続き攻撃続行。
 我が艦は、拡散波動砲を用意。コスモタイガー隊の攻撃終了後、敵前衛を殲滅する」
 
 司令官はそう命じる。尤も拡散波動砲で始末するほどの敵前衛は残らなかった。
 第8艦隊に迫っていた暗黒星団帝国軍の巡洋艦は雷撃機仕様のコスモタイガーⅡから放たれた
対艦ミサイル(波動エネルギー入り)の飽和攻撃を受けたのだ。その結果は……言うまでも無かった。
 暗黒星団帝国軍艦隊の巡洋艦部隊は1隻残らず宇宙の塵を化した。
 あまりにあっさり前衛が壊滅して呆然状態のデーターだったが、自身が乗るプレアデスにヤマトの砲撃を
受けて我に変える。

「ははは。その程度の砲撃が効く物か!」
 
 嘲笑するデーター。だが直後、兵士の悲鳴のような報告に、その顔は凍りつく。

「敵旗艦に高エネルギー反応!」
「ま、拙い。イスカンダルを背にしろ!」
「間に合いません!!」

 かくして巨大戦艦プレアデスは大して活躍することなく残っていた巡洋艦3隻と共に拡散波動砲の直撃を受けて
消滅することになる。

873earth:2011/10/03(月) 22:30:39
あとがき
暗黒星団帝国軍涙目(爆)。
援軍が来る時間すら稼げずデーター提督の第1艦隊は塵となりました。
次回、ゴルバ登場予定です。でもどこまで抵抗できることやら。

874earth:2011/10/04(火) 21:07:28
第37話です。

 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第37話

 データーの第1艦隊が壊滅するのはガミラス本星上空の艦隊からも見ることが出来た。

「あの巨大戦艦と艦隊が10分足らずで……」

 タランがあまりの光景に息を呑む。
 この前までガミラスの宇宙艦隊に手も足も出なかった地球人類が作り上げた宇宙艦隊とは思えないほどの
戦闘力だった。
 幾らガミラスとの戦いで暗黒星団帝国軍が消耗しているとは言え、ここまで一方的な展開になると予想できる
人間はいない。

「……」
 
 デスラーは黙り込んだままだった。
 スターシアを助けられたかも知れないことは喜ばしいことだが、ヤマトを含む地球艦隊の高い戦闘力を見ては
一概には喜べない。
 しかしそれだけで凹む総統ではなく、今回の戦闘から拡散波動砲の特徴をいち早く掴んだ。

(さしずめアレは散弾銃といったところか。射程はヤマトの波動砲よりも短いだろう)

 デスラーはそう考えた後、兵士から新たな報告が告げられる。

「敵要塞、イスカンダルに向かいます!」
「我らよりも、ヤマトと地球艦隊が脅威と見做したのか」

 戦術的にはガミラスにとって好ましかったが、この扱いはデスラーのプライドを傷つけるものだった。
 しかしその直後、さらに信じられない光景が広がることになる。

「て、敵要塞、消滅しました……」

875earth:2011/10/04(火) 21:07:59

 データーを撃破されたメルダースはガミラス星の包囲を他の部隊に任せて、自らゴルバで地球艦隊に向かった。
 尤も最初は地球艦隊に撤退を勧告しようとしていた。わざわざ自分達が暗黒星団帝国の大マゼラン方面軍であること
などを名乗った挙句、先に手を出したことなど気にもせずに告げる。

「速やかに手を引け」
 
 第8艦隊の返答は、一言で言えば「寝言は寝て言え」だった。
 イスカンダルと音信が途絶し、さらに地表の多くが灰燼に帰しているため、スターシア救援のためには地上に
降下して救助作業をせざるを得ない。そのためには安全を確保しなければならない。
 また、もう一つ受託できない理由があった。
 
『我々が停戦したとしても、戦闘が継続しガミラス星が崩壊するようなことがあれば、イスカンダルは危機に陥ります。
 ガミラスとイスカンダルは兄弟星。片一方が消滅すればもう片方は軌道を外れます』

 真田のこの進言、そして原作知識からそれが事実であると知っていた司令官に残された道は暗黒星団帝国軍の完全撃滅か
暗黒星団帝国軍の完全撤退の要求しかなかった。
 そして司令官は前者を選んだ。
 
「全艦、波動カードリッジ弾を装填。あの砲口を狙え!」  

 司令官は通信を切ると同時に、イスカンダルを砲撃するため開いていたゴルバの砲門への攻撃を命じた。

「1番、2番砲塔、撃て!」
「発射!」
「砲撃開始!」
「撃ち方始め!」

 司令官の命令を受けてヤマト、ムサシ、ネメシス、加賀が波動カードリッジ弾を一点集中砲火とばかりに叩き込む。
 勿論、全てが直撃したわけではなかったが(ヤマトが放った砲弾は全弾命中)、ゴルバに破滅を齎すには十分だった。

「ば、馬鹿な! このゴルバが?!」

 誘爆に加えて、波動融合反応が起こり、ゴルバは文字通り木っ端微塵になった。 
 ゴルバが木っ端微塵になったのを見た暗黒星団帝国軍の残存艦隊は慌てて逃げ出していく。
 戦いに決着がついた瞬間だった。

876earth:2011/10/04(火) 21:08:30

「「「………」」」

 ガミラス艦隊の攻撃を弾き返してきた敵の宇宙要塞が、見事なまでに木っ端微塵に吹き飛ぶ光景を見たガミラス軍の
将兵は絶句した。
 同時に彼らは思い出す。ヤマトがどれだけ恐ろしい相手であったかを。

(これがガミラスの精鋭を蹴散らし、ガミラス星を破滅させ、大帝が乗る白色彗星を単独で砕いた実力か……)

 客観的に見ると無双どころか、ネタとしか思えないほどの活躍ぶりだった。
 勇猛なことには定評のあるガミラス兵でさえ絶句するほどの戦果と言えるだろう。

「……地球艦隊は?」
「こちらを警戒しつつ、イスカンダルへ降下していきます」

 兵士の報告にデスラーは沈黙する。これを見たタランが尋ねる。

「如何しますか?」
「今、奴らを攻撃すればスターシアを巻き込みかねない。それにこちらが消耗しすぎている」
「では……」
「奴らが手出しするまでは静観だ。まずは反ガミラス連合を叩きのめす」
「はい」

 第8艦隊はスターシアの捜索と救援に忙しく、また暗黒星団帝国軍残党による襲撃を危惧してイスカンダルを
離れなかった。このため地球とガミラスは睨みあいをしつつ奇妙な休戦状態となる。
 そして暗黒星団帝国軍が壊滅したことで、手が空いたガミラス艦隊は未だにサンザー太陽系外にいた反ガミラス連合軍に
襲い掛かった。
 纏まりに欠ける連合軍は側面を突かれて瞬く間に潰走し、サンザー太陽系周辺での戦いは一旦終局を迎える。

877earth:2011/10/04(火) 21:11:40
あとがき
ゴルバがあっという間に木っ端微塵です。
ここまで呆気なくやられたゴルバがあっただろうか(笑)。
暗黒星団帝国にとって災厄の時が訪れるのも近いでしょう。
ガミラス、ガトランティスに続いて犠牲者(?)に名を連ねる日も近いかも。

878earth:2011/10/05(水) 22:38:24
体調が悪いのに、何故かネタSSは書けてしまう不思議……。
というわけで第38話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第38話

 イスカンダルに降下した第8艦隊と空間騎兵隊は瓦礫の下から何とかスターシアを救出した。
 しかしこのとき、スターシアは重傷を負い意識不明であった。司令官は急いでスターシアを旗艦ネメシスに搬送した後に
艦隊から腕利きの軍医(佐渡先生も呼ばれた)を集めて緊急手術を行った。
 12時間もの大手術の末、スターシアは何とか助かった。

「ご苦労様。さすがだよ。ヤマト世界のブラッ○ジャックの異名は伊達じゃないな。
 ああ気分は楽にして、ソファーにでも座ってくれ。口調も気にして無くて良い」

 報告のための艦長室を訪れたネメシスの軍医(転生者仲間)を司令官は労った。
 これを聞いて軍医はソファーに座った後、ぐったりした顔で答える。

「苦労したぞ。『新たなる旅立ち』みたいなBADエンドは御免だから頑張ったが……PS版ほどハッピーじゃない」 
「そうだな。だがこれで『ガミラスと戦う』という選択肢を取らなくてすむ。陛下を抱えたまま戦うなんて出来ないからな」
「確かに」

 地球人類からすればガミラスは怨敵。実際、第8艦隊の中にはガミラス残党軍も掃討すべしという声はあった。

「『上』はデザリウム、いや暗黒星団帝国との戦いに向けて戦力を極力温存したいと?」
「あとはボラーへの備えだな。尤もあの物量を考えると、どこまで防衛軍が持ち堪えられるかは判らないが」
「ふむ。だからこそ、今回のデータが役に立つと? テレサ嬢が居るだろうに」
「外様に何時までも頼ってばかりはいられないだろう。自前で超能力者を用意できるなら、それに越したことは無い。
 まぁ彼女には遠く及ばないだろう。彼女を倒すには超人ロ○クでも連れて来るしかない」 

 スターシアを救うため手術は行った。
 だがそれと並行してスターシアの身体は徹底的に調査された。勿論、手術のためという名目があったので不審には
思われなかった。
 そして、これによって超能力者の資質を持つイスカンダル人の情報を防衛軍は入手することが出来た。

879earth:2011/10/05(水) 22:39:36

「コスモクリーナーDや波動エンジンだけでは飽き足らず、ドサクサにイスカンダルに残された技術や資源を回収か。
 全く盗人猛々しいな。問題ないのか?」
「これは救助活動と並行した調査だ。暗黒星団帝国がどのような攻撃をしたのか、という名目のな。
 その過程でいくつかのサンプルを回収するのは非難されることではない。議長も文句は言わないだろう」

 司令官は何の問題もないとばかりに言い放つ。
 暗黒星団帝国軍がこの会話を聞けば「お前達(地球人)のほうがよっぽど悪辣だ」ということは請合いだった。

「ついでに周辺宙域も調査すると? 索敵を名目に?」
「勿論だ。暗黒星団帝国軍の残骸とガミラス軍の残骸。これを回収しておきたい。
 後のデザリウム戦役のため、そして……今回の戦いでの出費を少しでも回収するために」
「財務省か?」
「ああ。輸送船があるから、ある程度なら持ち帰れる」

 第8艦隊には戦闘艦艇の他に、高速輸送船を含めた非戦闘艦が同行していた。
 勿論、持ち帰れる量は多くないが、それでも無いよりはマシだった。
 宇宙開発と防衛艦隊の整備を進める地球連邦には希少資源は1グラムでも多く必要なのだ。このためガトランティスの
遺産とも言える大量のスクラップ(元都市帝国、元艦隊)の再利用を積極的に進めていた。

「人が生きていくには、色々と金がかかるんだそうだ」
「世知辛いことで。でもヤマトクルーには関係なさそうだ」
「汚い仕事や地味な仕事で、『主人公』を支えるのがモブキャラなのだろう」

 遠い目で言う司令官。軍医も乾いた笑みを浮かべることしかできない。
 実に救いようが無い結論だった。

880earth:2011/10/05(水) 22:40:31

「話を戻そう。ガミラス艦を探せば、捕虜を確保できるかも知れない。
 うまくすればデスラーと交渉する材料になるかも知れない」
「デスラーと話し合うと? 綺麗なデスラーでないのでは?」
「何はともあれ情報は必要、そういうことだ。彼がまだ危険な人物なら相応の戦略を議長が用意しなければならない」
「それもそうか」

 ガミラス残党の驚異的粘りや通信傍受から、デスラーが生きていることを第8艦隊は掴んでいた。
 転生者としては、原作でもヤマト並に補正持ち(実際にこの世界のデスラーは都市帝国から脱出成功)であるデスラーの
様子を確認しておきたかった。 
 何しろガミラスの動向は、絶対と言って良いほど地球連邦に影響を与えるからだ。

「それにしても『総統閣下』との交渉か。全く……面倒を通り越しているな」
「頑張ってください、としか言えないな。古代弟に任せるわけにはいかないし」
「アレに任せたら後が怖い。というか外交担当者が怒鳴り込んでくる結果しか見えない」
「……ははは。確かに」

 戦闘指揮については兎に角、ほかの事では古代進は信用されていなかった。

「愚痴くらいは聞いてくれ。あとで良いから」 
「……精神安定剤か、議長も愛用している胃薬かを用意しておきましょう」

 こうしてヤマト以外の地球防衛軍が、デスラーと公式に接触することになる。

881earth:2011/10/05(水) 22:46:10
あとがき
防衛軍が原作と違って真っ黒です。
でも格上の侵略者と戦うには、強かでないと困ります。
というかすぐにやられてしまいます。原作の防衛軍のように(核爆)。

……ちなみに作者は別に黒くありませんよ。普通の善良な市民です(棒読)。

882earth:2011/10/07(金) 19:07:29
少し長くなってしまいましたが、第39話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第39話


 破壊されたり、遺棄されていたガミラス艦を調査したものの、防衛軍はガミラス人の捕虜は得られなかった。
 しかし暗黒星団帝国軍の物と思われる艦艇の残骸を調査した結果、防衛軍は有益な情報を入手できた。
 特に暗黒星団帝国がデザリアム帝国と呼ばれている国であり、デザリアム星と呼ばれる星を母星にしている
こと、そしてそれが地球から40万光年、大マゼラン星雲から57万光年離れた位置にある二重銀河にあるという
情報は第8艦隊首脳を大いに満足させた(詳細な位置についてはまだ判明していないが)。
 しかし同時に危機感も持たせる。

『かなり遠くから来たようですな』
『しかし57万光年さえ乗り越えてこられるということは地球にも攻め込めるということだ。注意が必要だろう』
『それにしても、乗員の全員が脳を除いて機械だったとは……』
『高度な機械文明ということでしょう。だからこそ、これだけの長距離侵攻が出来たとも考えられます』
 
 通信機越しにネメシスからの連絡を受けた各艦の艦長たちは、予想以上に高度な文明を持つ敵国に危機感を持つ。
 そんな中、司令官は新たな事実を告げる。

「ただ真田技師長の報告では、彼らの物質は波動エネルギーと反応、『波動融合反応』とも言うべき反応を起こすそうだ。 
 これは反物質と常物質が接触した際の反応に近い。つまり、敵の防御を突破すれば、大打撃を与えられる」
『『『おお』』』
「だが向こうからすれば、その波動エネルギーを持つ我々は天敵であると言える。つまり戦争になる可能性は高い」
『……ガミラスとは戦わないほうが良いと?」

 対ガミラス強硬派だった宇宙空母『グラーフ・ツェッペリン』の艦長は顔を顰めて言う。
 この艦長は家族と親戚全員、訓練学校の同期を悉くガミラス戦役で失っていたので、特に反ガミラス感情が強かった。

「そうだ。確かにガミラスは怨敵だが、交渉は必要だろう。この情報と艦隊を無事に地球に持ち帰るためにも」
『……判りました』

883earth:2011/10/07(金) 19:08:27

 ガミラス帝国総統『デスラー』。
 ガミラス戦役で地球人類を絶滅寸前にまで追いやったこの人物は、地球人類にとっては当に『怨敵』だった。
 『原作』でもヤマトのライバルキャラとして出張った男であり、その能力(運込み)は世界有数である。 
 そんな男と正面から話をしなければならない司令官は……会談開始前に胃の痛みを感じていた。

(も、モブキャラの俺が何でこんな大仕事を……)

 議長を呪いつつ、司令官はデスラーが乗る戦闘空母との通信回線を開く。

「こちら地球防衛軍第8艦隊司令官……」

 かくして歴史に残る会談が始まった。
 司令官は最低限の挨拶を終えると、すぐに本題に入る、

「暗黒星団帝国は地球、ガミラス、イスカンダルの三者にとって共通の敵となるでしょう。
 我々は大恩あるイスカンダルとスターシア陛下を守るために、そしてこの脅威に関する情報を少しでも多く地球に
 持ち帰るために暫定的な停戦を行う事、そしてお互いに得ている情報の交換を望んでいます」
『ふっ、理解できないな。何故停戦を行うことがイスカンダルとスターシアを守ることに繋がる?』
「スターシア陛下は暗黒星団帝国の爆撃に巻き込まれ重傷を負われていました。
 緊急手術で一命は取り留めましたが、暫くは絶対安静が必要です」

 司令官はスターシアに好意を寄せているデスラー向けのジャブを放つ。 

『……』
「ですが我々は何時までもイスカンダルに留まることは出来ません。
 我々は女王陛下の回復を待った後、陛下の認可を受けてからイスカンダリウムを弄って、戦争に使えない物質にしてから
 引き上げることを考えています。
 彼らも使えない物質を得るために遥々、大マゼラン星雲に来るほど暇ではないでしょう」
『そんなことが可能なのかね?』
「可能です。私個人の意見としては女王陛下の安全を確保するために地球に来ていただきたいと思っています。
 何しろ、戦闘が続けばいつイスカンダルに飛び火するか判りません。そしてイスカンダルの軍事力はなきに等しい状態。
 これでは安全は確保できないのは目に見えています」

 言外で、『ガミラス軍ではイスカンダルとスターシアを守りきれないのでは?』と告げる司令官。

887earth:2011/10/07(金) 20:16:43
『……我々が同じ失態をするとでも?』
「するとは言いません。ですが、無いとも言えません。ならば少しでも安全な方策を採るべきです。
 貴方方も我々と同じ立場なら、陛下を守れる方法を模索するのではないですか?」
『ふむ。スターシアの安全を確保するための作業を地球人の手で安全に行いたいと』
「その通りです。それに、これはガミラスにとっても『国益』になると思いますが?」

 ガミラスも今回の戦いで消耗している。ここで地球と再度開戦するほど余裕は無いはずだった。

『確かに理解は出来る。だが我々にとっても地球は怨敵であり脅威だと思うが?』

 ガミラス本星を壊滅したことを暗に指摘するデスラー。
 だが司令官は動じない。

「それは我々も同じです。かつて100億以上を誇った人類は、貴国の無差別攻撃で今や20億足らず。
 失われた人命、財産、文化は数え切れない。だからこそ、これ以上の惨禍は避けなければならないのです。 
 そしてそれは貴方方も同様なのでは?」

 ガミラスも本星が壊滅したことで国力は衰えている。残党を集結させたものの、今回の戦いで消耗してしまった。
 大小マゼラン星雲に散らばっている勢力を掻き集めて復興を急がなければならない。

『地球のような新興国と違って、我々には星間帝国の誇りと面子がある』
「面子のために国を滅ぼすと?」
『誇りもなく、周辺国に舐められ、惨めに衰退するよりは良いだろう。それに私の矜持もある』
(プライド高すぎ……だが、新興国の戦艦1隻に負けたとなるとガミラスの面子丸つぶれだからな。
 あと多少は『1』のときより性格は丸くなったが、まだ『綺麗な』デスラーにはなっていないな)

888earth:2011/10/07(金) 20:17:15
 司令官はそう考えると再び切り出す。

「ですが暗黒星団帝国は、ガミラシウムとイスカンダリウムを狙って再び来るでしょう。
 加えて先ほどまで戦っていた勢力には暗黒星団帝国以外の勢力もあったようですが、その二者に備えることと
 我々と再戦すること、この2つを両立すると? ガミラス軍が勇者ぞろいであることは承知していますが厳しいのでは?
 勿論、我々は挑戦を受ければ断りませんが」
『大した自信だ』
「それだけの実績を上げてきましたので。勿論、貴方方、ガミラス人のように偉大な星間帝国を築くほどではありませんが
 奴隷のように卑屈になるほど弱くもありません」
『ほぅ?』

 デスラーが目を細める。司令官は胃が痛くなるのを感じる。

(こんな仕事は名前ありのキャラの仕事だろうが!)

 だが引けない。モブにはモブのプライドがある。引き立て役だけで終りたくはないのだ。
 会談は尚続いた。

889earth:2011/10/07(金) 20:17:49
あとがき
というわけでヒペリオン艦隊司令官大活躍(?)。
議長の後釜は君だ(爆)。いやまずは防衛艦隊司令長官か……。
名無しのモブキャラだって譲れない意地があるんです(苦笑)。

あと誤字について修正しました。

890earth:2011/10/07(金) 23:26:37
平日ですが連続更新(爆)。
久しぶりに議長の出番です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第39.5話

 第8艦隊が暗黒星団帝国軍をフルボッコにしている頃、地球では2隻の戦艦が産声を上げていた。
 1隻は転生者待望の改アンドロメダ級、いや実質的には超アンドロメダ級戦艦1番艦『タケミカヅチ』だ。
 議長はタケミカヅチの完成式典の中、ドックに横たわる艦体を見て呟く。

「拡散波動砲3門、51センチ砲4連装5基20門、31センチ砲4連装3基12門。排水量15万1000トン。
 地球史上最大の大戦艦か……普通ならこれで安泰と思えるんだが」
「これでも不足と?」

 秘書の問いに頷く。

「足りないだろう。そのためのクレイモア級やモーニングスター級の無人戦艦だ」

 クレイモア級はアンドロメダ級を無人化したような10万トン級戦艦。
 そしてモーニングスター級は集束型波動砲2門を搭載した改クレイモア級戦艦だった。

「あれの量産と引き換えに、アンドロメダ級は5隻で打ち止めだが」
「金が掛かりますから。それに基本的にアンドロメダ級は艦隊旗艦。今では改アンドロメダ級もあります」
「まぁ改アンドロメダ級2隻、アンドロメダ級5隻の7隻。あと旗艦用に改造された主力戦艦があれば足りるからな」

 さすがに原作より強化された地球連邦とは言え、揃えられる戦力には限りがあった。
 尤も原作を知る人間からすれば豊富すぎる戦力であった。

「戦闘空母『大鳳』、『イラストリアス』、『ラングレー』、ガトランティス軍の大型空母2隻(『プロキオン』『シリウス』)と
 中型空母2隻(『ホワイトスカウトⅠ、ホワイトスカウトⅡ)がさらに加わる。これでシナノが加われば鬼に金棒だが」
「しかし現状ではデザリアム戦役には間に合わないのでは?」
「ああ。民間も宇宙船が必要だからな。それに宇宙戦士に人材をとられたら民間が立ち行かない。
 まぁ準備だけはしておいたほうが良いだろう。イザとなれば復活編で役に立つ」

 希少資源を必要としているのは防衛軍だけではなかった。
 急速に拡大を続ける連邦の勢力圏を支える宇宙船建造のためにも資源は必要だった。勿論、人的資源も。

891earth:2011/10/07(金) 23:27:40

「あとは質を向上させるしかない」  
「『アイルオブスカイ』ですか……しかしあれは、もう実質的に新型艦なのでは?
 いえ、より正確に言えば2分の1サイズの『タケミカヅチ』と言えるのでは……」

 財務官僚の冷たい視線を思い出すと議長は乾いた笑みを浮かべる。

「気にするな。あれがうまくいけばさらにヤマトは強くなる。次の新型主力戦艦も。
 それに空母部隊の打撃力も大幅に向上できるだろう。何しろデスラー戦法を自前で出来るようになるんだ。
 まぁ艦載機を送り込むより、戦艦や破滅ミサイルでも送り込んだほうが効果的だが……」 

 『アイルオブスカイ』は大改造された上で『タケミカヅチ』と同時期に完成していた。
 当初、波動砲を撤去するというプランがあったが、真田と大山の二大マッドサイエンティストによって波動砲は撤去される
ことなく大改造された。
 拡散波動砲1門こそ変わらないものの、新型ジェネレーターによってチャージ時間は短縮。波動エンジンも巡洋艦のものが
増設され出力は大幅に強化されている。
 新型の40センチショックカノン3連装3基(1基は艦底部に設置)が搭載され、元々は第3砲塔があった部分には無人艦艇
を指揮する施設が設置された。
 だが驚くべきのはそれだけではなかった。何とデスラー艦から鹵獲し、試作段階であるがコピーに成功した瞬間物質移送装置
やディンギル帝国の恐るべき対艦ミサイル『ハイパー放射ミサイル』の存在から急遽は開発された対大型ミサイル防御兵器も
試験的に搭載している。
 尤も秘書の言うように、これらの魔改造によって艦体は大型化しており、排水量はヤマトを超えて8万トンに達している。
タケミカヅチのほぼ半分ほどの大きさだ。 

「まぁ拡張性の余地はある。万が一のときには移動する統合参謀本部としても機能できる。問題はない」

 第3砲塔を撤去して作られた司令室の能力は高く、暫定的なら宇宙を移動する参謀本部としても機能できるほどだ。
 議長からすれば万が一の場合、現場で指揮を執れるという優れものに見えた。

「……それは財務次官にも言ってください」
「……」

892earth:2011/10/07(金) 23:28:28

 こうして地球防衛軍は戦力の増強に努めた。
 一方、ボラー連邦軍もアンドロメダ星雲侵攻を目論む傍らで、対ヤマト級戦艦とも言うべき新型戦艦の建造を急いでいた。
 しかしヤマトの戦績を聞いたボラー連邦の技術者達は頭を抱えていた。

「何で6万トン級の宇宙戦艦があれだけの活躍が出来るんだ?」
「波動砲という戦略砲のおかげなのでは?」
「いや、波動砲はチャージに時間が掛かりすぎるなど欠点も多い。
 拠点攻撃には適しているかも知れないが艦隊決戦となると制約が多い兵器だ。それにあの程度なら機動要塞で防げる」
「攻撃の的確さを見るに、分析システムが優秀なのかも知れない」
「後は、あの謎の防御力か」
「ああ。普通なら轟沈してもおかしくない攻撃を受けているはずだ。にも関わらず戦闘能力を維持している」
「防御機構に何か秘密があるのかも知れない。いや、余程優秀な自動修復機構を搭載しているのかも」
「ガミラスの酸の海でも活動できた程だからな」
「むむ。否定できん。しかしあのコンパクトな艦のどこに、必要な資材を載せていたのだ?」
「何か特別な方法でもあるのだろうか?」

 転生者の間でも謎な『いつの間にか生える第三艦橋』は、ボラー人からすれば複雑怪奇だった。

「攻撃精度の高さも気になる。あれだけ被弾したなら、その影響で命中率は大きく落ちるはずだが」
「優秀なFCSがあるということだろう」
「しかし地球人は、ヤマトを越えるアンドロメダ級戦艦に加えて、さらにそれを超える新型戦艦を建造したらしいぞ」
「我々はそれらを凌駕する戦艦を建造しなければならないか……ボラーの意地にかけて」
「ということは排水量は20万トンを超えるかも知れないな」
「予算は?」
「べムラーゼ首相は確約してくれている。それに何百隻も作るわけではない。少なくて50隻。多くても100隻程度だろう」
「なら、豪華な艦が出来るな」

 議長達が聞けば卒倒しそうな会話を続けながら、ボラーは新型戦艦建造を急いでいた。

893earth:2011/10/07(金) 23:30:58
あとがき
タケミカヅチとアイルオブスカイ完成。
原作とは比較にならないほど充実した防衛艦隊です。
下手をすれば暗黒星団帝国軍は沖田、土方、山南、古代兄弟という面子の
迎撃に遭うでしょう……気の毒過ぎる(爆)。

894earth:2011/10/08(土) 09:56:42
第40話です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第40話

 
 デスラーは不遜な第8艦隊司令官の発言に目を細めたが、気分を切り替える。

『だが我々がガミラス星を放棄したらどうするのだ? ガミラス星に奴らは群がるぞ。
 ガミラシウムを採掘しすぎれば星の寿命は縮み、結果としてイスカンダルは滅亡の危機にさらされる』
「少なくとも貴方方が何もせずにガミラス星を放棄するとは思えませんが?」
『ふっ。他力本願だな』
「いえいえ。ガミラスの能力については信頼しているのですよ。我々も嫌と言うほど思い知っていますから」

 ガミラスによって多大な被害を受けた筈の地球は、特に防衛軍の一部は、対戦相手であったガミラスをよく
理解していた。
 
「それで如何されます?」
『良いだろう。我がガミラスも停戦を活かして星の安全を確保するために必要な作業を行うとしよう。
 だが情報交換だが……』
「担当者を、そちらに派遣しましょう」
『担当者の名前は?』
「……古代守と真田志郎。この2名でどうです?」
『古代守?』
「はい。ヤマト艦長代理の古代進の兄です。中々に優秀な宇宙戦士です。『弟も』優秀でしたが、引けはとりません」

 心にも無いことをシレっと言う司令官。

『良いだろう。待っている』
「それでは失礼します」

 こうして会談は終った。
 この会談が終った後、必要な仕事を終えると司令官は医務室に直行した。

「……疲れた」

 胃薬を飲んでベットに横たわった司令官は弱弱しい声色でそう零した。それほどまでに疲れていた。

「お疲れ様」

895earth:2011/10/08(土) 09:57:39
 
 軍医の言葉に司令官は頷くだけだ。
 そんな司令官を見て、言葉を選ぶように軍医は続ける。

「しかし古代兄と真田さんを担当者にするとは」
「古代兄には成長してもらわないといけないだろう。古代弟と違って政治について多少は理解があるからな」
「弟はバーサーカー。昔で言うヤ○ザの鉄砲玉が関の山と……」
「そうだ。まぁ多少成長すれば使い物になるかもしれないが、落ち着いた頃には退役なんて可能性がある」
「ははは。確かに」

 復活編を知る人間としては否定できなかった。

「女王陛下は?」
「まだ意識が戻らない」
「どの程度で意識が戻る? あまり長居はできないぞ」
「まぁここ数日内には何とかなるはず。その件については大船に乗った気で」
「悲観的に考えて、楽観的に行動するのが鉄則だよ。常に最悪の事態も考えなければならないのが司令官の仕事だ。
 君らの腕を疑っているわけではないのだがね」
「……」

 軍医はお気の毒に、とばかりに肩をすくめる動作をする。

(イスカンダリウムの無害化(?)作業を進めよう。あとは暗黒星団帝国軍の逆襲への警戒だな。
 逃げ出した艦があるから、他の部隊がいてもおかしくは無い)

 予想以上の大部隊が現れた場合には、第8艦隊は速やかに撤退するつもりだった。
 いくら何でも部隊を全滅させるわけにはいかない。まぁヤマトとムサシで無双させることも考えたが、その場合
第8艦隊は壊滅してしまう危険があった(法則的に)。
 必要なら1個艦隊を犠牲にすることもあるだろう。だがここで艦隊を1個壊滅させるのはマイナスが大きかった。

(真田さんには過労死を覚悟で頑張ってもらおう。ゲーム版でも頑張ってくれたんだ。何とかなるさ)

 本人が聞けば噴飯物の考えだったが、司令官は半ば本気だった。

896earth:2011/10/08(土) 09:58:33

 会談の後、スターシアは漸く意識を取り戻した。その彼女の了承を得たことで、作業は一気に進められた。
 こうして第8艦隊はイスカンダリウムの無害化を進めていった(ちゃっかりサンプルも獲得)。
 
「お世話になります」

 病室でスターシアに頭を下げられた司令官は慌てて首を振る。

「いえ。この程度は手間のうちにも入りません。返しきれない大恩のある陛下に、多少なりとも恩を返さないといけませんし」
「気にしなくても良いのですよ」
「いえいえ。我々を破滅の淵から救ってくださったのですから、この程度は当然です。
 それよりも陛下、提案なのですが、地球に移民されるつもりはありませんか? 暗黒星団帝国軍、いえデザリアム帝国は
 このマゼラン星雲で活動しています。ガミラスもいずれサンザー太陽系を離れ、ここは無主の地となります。
 奴らが再び来ればイスカンダルは危険です」
「イスカンダリウムは使えなくするのでは?」
「彼らがどんな思考をしているかは不明な点が多いのです。それに我々はイスカンダル救援の際に彼らと戦端を開きました。
 彼らが地球に復讐を挑むために陛下を人質として利用するということも考えられます」
「……」
「イスカンダリウムは手に入れられなかったとしても、他の資源や技術を強奪していくことも考えられます。 
 反ガミラス勢力の中にも、ガミラスに対抗できるこの星の技術を得ようと動く者がいるかも知れません」
 
 これ以上、スターシアがこの星に留まるのは戦争の元になると主張する司令官。
 しかしあまり追い詰めるのも拙いので別の方向からも攻める。

「陛下と『サーシア』殿下によって救われた地球の様子を見ていただきたいのです」
「……」
「それに陛下が共に来てくださればイスカンダルの思想や記録は、地球だけで無く他の国家にも伝わるでしょう。
 イスカンダル本星がなくなったとしても、その影響は残ります。それは望ましいことだと思います」

 司令官、そして古代進やヤマトクルーの説得によって、スターシアは地球行きに同意することになる。

897earth:2011/10/08(土) 10:01:57
あとがき
ついに40話突入。ネタSSなのに更新が早いな(汗)。
あとスターシア生存フラグ来ました。
ヤマトのメインキャラにとっては優しい世界になるかも……。

898earth:2011/10/08(土) 23:01:43
第41話です。

『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第41話


 第8艦隊はイスカンダリウムを戦争に使えない物質に変換し、さらにイスカンダルに残されていた技術や資源を
片っ端から回収した後に地球に向けて発進した(ちなみに真田さんは過労で倒れ掛かった)。

「遥々、イスカンダルに来てスクラップや資源を回収。帰りは真珠湾攻撃の『飛龍』みたいに物資山積みか」

 司令官はそうぼやいたものの、成果は大きかった。
 これらを持ち帰った暁には地球の技術力を大幅に向上できることが期待できたし、スターシアが地球に移り住むことを
決めたので、スターシアを想うデスラーが率いるガミラスと再戦する危険を多少なりとも減らすことが出来た。
 さらに地球の大恩人であるスターシアを救出し地球に連れ帰るということで、防衛軍の地位向上も期待できる。
 何しろ移民すると言ってもスターシア一人。何万、何十万人もいるなら大問題だが、彼女一人なら問題は起こらないし
世論の受けも良い。

「まぁ連邦議会と防衛会議、それに議長や藤堂長官の仕事は増えるが……我慢してもらおう」

 このとき議長は衛星軌道でテスト中のアイルオブスカイを視察していたのだが、急に猛烈な寒気を覚えたと後に語っている。
 だが今後のことを考えている司令官と違って、ガミラス軍(停戦中だが)と対峙している他の人間は気が気でなかった。

「警戒は怠るな。コスモタイガー発進。直掩機は欠かすな」

 宇宙空母『グラーフ・ツェッペリン』では艦長がそう指示を出していた。
 勿論、表向きはデザリアム帝国を警戒してのことなのだが、実際にはガミラス軍の不意打ちを警戒してのことだった。
 確かに組織的に攻撃される可能性は低いが、一部の過激分子の攻撃がないとは言い切れなかった。何しろヤマトはかつて
ガミラス本星を壊滅させていたのだ。  
 自分達がガミラスを憎むように、自分達を憎んでいるガミラス人が居ないとは言い切れない……艦長はそう考えていた。

「それにしても、これがガミラスの本気か。停戦していなかったら大変なことになっていたな」

 ガミラス軍も各地の残党や植民惑星の生き残りを集めた。集結しつつある艦船の数は彼らの想定を超えている。
ボラー、ガミラスといった星間国家の力を防衛軍の宇宙戦士たちは改めて認識させられた。
 多数のガミラス艦に見送られて、第8艦隊は地球への帰途に着いた。

899earth:2011/10/08(土) 23:02:43

 地球人からすれば怨敵と言っても良い『デスラー』。
 だがその彼の思考はヤマトや地球への復讐よりもデザリアム帝国や反ガミラス連合に向けられていた。

「盗掘者と火事場泥棒共へ鉄槌を下すのが先だ」
「しかし総統、現状の戦力では……」
「判っているよ。タラン。まずはガミラスの再興だ。これは変わらない」

 デスラーはそういうと、戦闘空母の艦橋にあるスクリーンに星域図を表示させる。

「大マゼラン星雲、小マゼラン星雲。この2つの星雲には我々を受け入れる場所はないだろう」

 反ガミラス連合が形成されることから、周辺国は敵だらけであることは明らかだった。
 実際、ガミラス本星が健在なときは小マゼラン星雲にいくつも戦線を抱えていた。
 
「そこで我々は別銀河に本拠を求める。第一の候補としては銀河系だ」
「しかし総統、銀河系にはボラーが居ます。我々はもともとガトランティスと同盟を組んで奴らと敵対しました。
 今更、我々を見逃すでしょうか?」
「判っている。しかし他の銀河となると遠すぎるし、情報も少なすぎる。
 それにボラー連邦が巨大とは言え、銀河系全てを支配している訳ではあるまい。
 もしもそうなら、地球など当の昔に彼らの配下になっているはずだ」
「つまり辺境から調査していくと」
「そうだ。そしてまず仮の本星を設置する」
「仮の?」
「仮住まいとは言え、本星があるかどうかは重要だ。仮の本星は『ビーメラ星』とする。
 銀河系への前線基地があったバラン星にも近い故に、銀河系進出の拠点にも向いている。
 遊星爆弾による改造も短期間で出来るだろう。それに奴らは裏切り者だ。叩き潰すには十分な理由だ」

 ビーメラ星の親ガミラス(傀儡)政権は革命によって崩壊していた。
 
「直ちに用意しろ!」
「了解しました」

900earth:2011/10/08(土) 23:03:34

 ガミラスが新天地獲得に向けて動き出した頃、見るも無惨に艦隊を撃滅されたデザリアム帝国も動き出していた。

「聖総統閣下。残念ながら大マゼラン方面軍はほぼ壊滅した模様です。残存部隊が応援を求めているようですが」

 側近であるサーダの報告に、聖総統は動揺を見せることなく尋ねた。

「我が軍を打ち破ったのはどこの国だ?」
「地球、銀河系辺境にある星の艦隊のようです」
「地球だと? 確かガミラスを打ち破った国であったな」
「最近ではガトランティス帝国を打ち破ったとの情報もあります。加えてかの銀河系の大国と友誼を結んだとも」
「ふむ……」

 二重銀河を支配する暗黒星団帝国、いやデザリアム帝国の頂点に君臨する聖総統スカルダートは考え込むかの
ように暫く黙り込む。

「ふむ。徹底的に調査を行え。
 ガトランティス帝国とズォーダー大帝を打ち破っただけでなく、大きな後ろ盾を得たとなると一筋縄ではいかん。
 それと大マゼラン星雲だが、現状でこれ以上戦力を投入すれば他の戦線に悪影響が出る。
 大マゼラン方面については戦線を一旦縮小せよ」
「では、そのように」

 議長達にとって第三の試練となるデザリアム戦役の開幕が迫っていた。

901earth:2011/10/08(土) 23:06:57
あとがき
連続更新……体調が良くないのに何をしているのだろうか(汗)。
さて、第三の戦役の本格的開幕が迫っています。
尤もあれだけ強化された(まだ強化中ですが)防衛軍(下手をすればボラーとも)と
戦争となると地球侵攻部隊は無事に地球にたどり着けるのだろうか……。

902earth:2011/10/09(日) 11:20:08
第42話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第42話


 イスカンダルから帰還してきた第8艦隊からスターシアがネメシスに同乗していること、そしてスターシアが
イスカンダルを離れざるを得なかった理由が連邦政府に告げられると、連邦政府及び防衛会議は大混乱となった。
 新たな敵・デザリアム帝国の存在はそれほどまでに大きなショックを彼らに与えたのだ。

「騒いでいても話は進まん。
 とりあえず、サーシア殿下への墓参りとして、スターシア陛下が乗られているネメシスを火星に誘導。
 残りの艦はただちに月の防衛軍基地に帰還させる。物資や資源については細かい調査を月でした後に
 地球に持ち込むのが良いだろう」
 
 防衛会議の席での議長の提案はすぐに承認され、ネメシスと護衛のパトロール艦1隻、駆逐艦3隻の5隻は火星へ
向かい、残りの艦は月面の防衛軍基地に向かった。
 議長は必要な仕事を終えると、すぐに転生者たちとの密談を行った。尤も最近はレストランで密談をするよりは
連邦議会ビルの一室で行うのが主流になっていた。

「報告にあったとおり、いよいよデザリアム戦役が迫っている」

 議長は室内に入るや否や、そう告げる。

「幸い、デスラーとの間に暫定的ながら停戦を結ぶことが出来た。
 あとスターシア陛下を確保できたおかげで、彼女を仲介にすればある程度の交渉は可能になったと言えるだろう」

 これには財務次官が喜び、外交担当者はため息を漏らす。

「無駄な戦争が減らせるかもしれません。それにイスカンダルから得られたものも大きい」
「おかげでこちらの仕事は倍増ですが……まぁ仕方ないか」
「……まぁそのあたりは耐えて欲しい。
 問題はガミラスの横槍を恐れることなく、デザリアム戦役に専念できるということだ。尤もボラーの目があるが」
「ボラーを共に諌めてくれる国がないのが痛いですね」

 ボラー連邦は露骨に軍事演習を行い、さらに新型戦艦の建造も進めている。
 表向きはアンドロメダ星雲侵攻のためなのだが、実際には地球への牽制が含まれていることを彼らは察していた。
 地球連邦はこれに対応するために戦力増強に努める傍らで、ボラーの傘下の国家に接触していた。銀河系中心に
ある国々の中には、内心では反ボラーの国も少なくなかったが、実際に手を取り合えるかどうかは別だった。
 ボラーと地球では地力が違いすぎた。また方や超大国、方や漸く宇宙に進出した新興国。ブランドが桁違いだ。

903earth:2011/10/09(日) 11:20:58

「二重銀河を吹き飛ばせば銀河交差が起こる。それまでの我慢だ。
 まぁ戦力は充実している。原作ほど無様なことにはならないだろう」

 議長の言うとおり、防衛軍の戦力は大幅に拡充されていた。
 ヤマト、ムサシという2大戦艦に加え、タケミカヅチやアンドロメダ級5隻。8隻もの戦略指揮戦艦が揃っている。
 ガトランティス戦役で1隻も戦没することなかった主力戦艦もある。これに10万トン級の無人戦艦も加わる。
 まぁ主力戦艦の装甲はダンボールなので、正面から撃ち合うとなればどれだけ犠牲がでるかは判ったものではなったが。

「防衛拠点や哨戒網も充実しているから奇襲されることもない。重核子爆弾さえ対処できれば何とかなる」

 都市帝国の残骸、もとい下半分の小惑星は地球を守る最終防衛拠点となっている。
 コスモタイガー隊が配備されるだけでなく、ガミラスの冥王星基地にあった反射衛生砲を再現したものを搭載しており
防衛能力は高い。
 さらに遺棄されたガトランティス軍艦艇を資材にしてパトロール艦や哨戒機、各種索敵用機材が生産され、濃密な哨戒網が
太陽系に張り巡らされている。

「これだけあれば何とかなるでしょう。いや何とかしてもらわないと予算が無駄になる」

 財務次官の言葉に議長は頷く。

「判っている。まぁアイルオブスカイについては問題が多いが、迎撃や万が一の保険になるとなれば、そちらの不満も
 解消されるだろう」

 この言葉を聞いて前ヤマト艦長が思い出したかのように口を開く。

「エアフォースワンならぬ、コスモフォースワンと?」

 この言葉に誰もが納得する。幾ら勝算が高くなっているかと言って保険を用意するのは重要だった。

「しかしここまで充実すると敵が来ない可能性があるのでは?」

904earth:2011/10/09(日) 11:21:32

 外交担当者の言葉に一部の人間が凍りつく。
 だが議長が首を横に振ってそれを否定する。

「こちらを調査すればするほど、奴らは早期に地球を攻めようとするだろう。
 何しろこちらは天敵の波動エネルギーを使う文明だ。自分達の肉体を手に入れたいことも考慮すれば放置は出来ない。
 それに我々は太陽系の外に向けて膨張を続けている。ゆえに今のほうがまだ手薄と判断するだろう」

 シリウス、プロキオン、αケンタリウス等の新領土の防衛、それに地球と新領土を結ぶ輸送船団の護衛も防衛軍の任務であった。

「集団疎開を兼ねた移民計画も良いかも知れませんね」

 財務次官の言葉に誰もが頷く。
 特に復活編でブラックホールが来ることを知っている者からすれば、わざわざ他国の領土を間借りするなど御免被る事態だった。

「妨害がないうちに進めよう。銀河交差の混乱も利用できれば、SUSに対抗できる勢力を築ける」
「輸送船が大量に要りますね。やれやれ造船業界がまた儲けるのか」
「建設業界もだ。いやインフラ全般というべきか。しかしこうも忙しいと、潤いを与える娯楽産業も必要か」
「パンとサーカスを与えれば、市民は政府を支持しますからね」

 新たな儲け話に転生者たちは盛り上がる。軍隊と違って、投資すれば大きなリターンが期待できるのだ。
 掛け捨ての軍事予算より実入りが大きいと言える。

「レギュラー陣には見せられん様子だな」

 議長の言葉に財務次官は肩をすくめる仕草をする。

「汚い仕事をするのもモブの仕事ですよ。
 いっそのこと、我々のことは『舞台裏モブキャラ同盟』とでもしたらどうですかね」
「……開き直っているな。あとそのセンスはどうかと思うが」
「冗談の一つでも言わないと、やってられませんよ」

 こうして地球もデザリアム戦役に向けて着々と準備を進める。

905earth:2011/10/09(日) 11:24:34
あとがき
デザリアムは飛んで火にいる何とやらになる可能性が……。
しかしこうなると復活編はSUS、地球連邦、ガミラス帝国の三国志のような
光景が広がりそうです。
いやいっそのことSUSは早期にガミラスに潰されて、第二次ガミラス戦役と
いうこともあるかも……。
それでは。

906earth:2011/10/09(日) 18:54:14
続けて第43話です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第43話

 サーシアの墓参りを済ませたスターシアは、ネメシスに乗って地球に向かい、連邦首都メガロポリスに降り立った。
 スターシアは余り派手な歓迎は好まなかったのだが、連邦政府や司令官の懇願もあり、連邦にとって恥かしくない
セレモニーがひらかれた。
 地球最大の巨大戦艦であるタケミカヅチが、国家元首であるスターシアを迎えるための21発の礼砲が放つ。
 さらに軍楽隊による演奏が始まる。報道陣は数こそ少ないが、入場を許可された記者達はこぞってカメラをネメシスに
向けてシャッターチャンスを逃すまいとする。

「こんなに大規模な式典なんて……」

 ネメシスの艦橋で様子を見ていたスターシアは眉を顰める。
 これを見た司令官は深々と頭を下げて詫びた。

「真に申し訳ございませんが、必要なのです。
 地球人全員の大恩人であるイスカンダルの女王陛下を歓迎しないなど、連邦政府の威信と信用に関わります」
「……」
「陛下がこのような式典をお嫌いなのは判っております。ですが、どうかご容赦の程を」

 スターシアがネメシスから降りると防衛軍、連邦政府高官が次々に頭を下げて彼女に礼を言うと同時に地球への
移住を歓迎した。 
 
「このたび、地球にとっての大恩人である陛下をお迎えできたことを光栄に思います」

 連邦大統領の演説に始まって、連邦首相、主要政党政治家、防衛軍高官(議長と藤堂長官)の挨拶が入る。
 尤も長旅の陛下のためとして挨拶は非常に短いものであったが。

907earth:2011/10/09(日) 18:54:57

「陛下を迎賓館へ」
「了解しました」
「マスコミは国営放送を除いてシャットアウトしろ。これ以上陛下に心労は掛けれん」
 
 大統領の指示によってスターシアはメガロポリスにある迎賓館に向かった。
 一方、この様子を見ていたヤマトクルーはお疲れ気味のスターシアを見て、連邦政府のやり方に不満を抱く。

「もう少し静かに迎えれば良いのに」

 古代進の意見に何人かのヤマトクルーが頷く。
 これを近くで聞いていた(というか聞き耳を立てていた)議長は目をむく。

(こ、この連中は……)

 議長は少し心を落ち着かせると、ヤマトクルーに声を掛けた。

「ご、ご苦労だった。ヤマトの諸君」
「議長?」

 議長の姿を見た古代弟や島、南部などが慌てて相次いで敬礼する。

「ま、まぁ君達の気持ちも判らないでもない。陛下もお疲れなのだから」
「だったら」
「最後まで聞いてくれ。
 次々に侵略者を迎え撃たなければならない連邦政府としては、威信や求心力を高めるものが必要なのだ」
「それがこの式典だと?」
「そうだ。国民の士気を上げるためには重要だし、ボラーや他の国家へのメッセージにもなる。
 少なくとも地球はイスカンダルの女王陛下が身を預けるに十分と判断する力をもっていると思ってくれるだろう」
「それは利用しているというのでは?」
「確かにそういった面もあるだろう。
 だがデザリアム帝国なる侵略者さえ地球に来る可能性があるのだ。
 そして彼らがガトランティス帝国以上の軍団を持っていないとは断言できん」
「……」

908earth:2011/10/09(日) 18:55:29

「もしも地球が弱いと思われたら、その隙に付け込もうとする輩もいるかも知れない。それは防がなければならない。
 君達が強いことは十分承知している。頼りになることも。だが物量に物を言わせて全方位から地球を攻撃されたら堪らない。
 敵は分断し各個に撃破する。これは戦場の基本だ。諸君も訓練学校で習ったはずだ」

 島や南部は納得した顔をする。古代も少し不満そうだが文句は言わなかった。

「私達年寄りが非力だから、こうなった。それは申し訳ないと思っている。だからこそ、君達若い世代に期待している。
 これからも『頑張ってくれ』」

 議長はそういうと敬礼する。古代はこれを見て慌てて答礼すると同時に元気よく答える。

「勿論です。お任せください!」
(いや、君達が負けるとは思っていないさ。
 でもこちらが全力で、誠心誠意で処理すれば、何とかなる範囲で勝負をつけてもらうと非常に助かるんだ。
 って言っても判ってくれないだろうな〜)

 議長が乾いた笑みを浮かべる理由など露も知らない古代弟だった。
 一方、古代守はこの式典の意味を察していた。

「土方さん。ボラーはどうでると思います?」
「私のような船乗りには判らん。だが地球という国家への箔が付くのは間違いないだろう」
「……第8艦隊司令や議長を見ると、これからの防衛軍は政治への理解も必要になるのが判ります」
「私もそうだ。今後のためにも訓練学校のカリキュラムを変更する必要がある。山南とも話をしてみる」
「時代の流れ……でしょうか」
「そうだな。だが君はまだ若い。頭の切り替えも早いだろう。議長が言うように次は君達、若者の時代だ」
 
 そういった後、土方の頭に有望な若者達の顔が浮かぶ。

「だが彼らが成長するまで、負けるわけにはいかん。私も沖田も次世代のためなら命を投げ出す覚悟だ」

 それは古い人間である土方の揺ぎ無い覚悟であった。

909earth:2011/10/09(日) 18:57:37
あとがき
ヤマトクルーも少しは成長していくでしょう。
まぁ古代弟が成長して使い勝手が良い指揮官になってくれれば言うこと無しですが。
もうそろそろ沖田艦長復帰です。
デザリアム帝国は防衛軍の豪華メンバーでお出迎えになるでしょう。

910earth:2011/10/10(月) 19:00:58
第44話です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第44話


 デスラー率いるガミラス帝国残党はビーメラ星に無差別攻撃を敢行した。
 もはや嗜好品など嗜んでいられる余裕が無くなったガミラスにとって、この星を温存しておく意味などなかった。
 革命によって体制をひっくり返した者たちは、かつて自分達を支配していた主人が帰ってきたことさえ知る事無く
ガミラス軍が無慈悲に落としてくる遊星爆弾によって消し炭と化していく。

「何故、このようなことが……」

 漸く自由を勝ち取ったビーメラ星人たちは己の不幸を嘆くが、どうしようもなかった。
 弱かった。それゆえに彼らは滅ぶのだ。
 ヤマトクルーが何と言おうと、この世界は弱肉強食だった。

「所詮は通信機さえ使えない原始人と言うわけか。地球人とは比較にならん」

 デスラーはそう嘲笑する。だがすぐに表情を引き締める。

「ビーメラ星人の遺伝子情報は残っているのだろう?」
「はい。いずれ余裕ができれば、『家畜』として復元させるのも可能でしょう」

 タランは人類が考えている『人道』とはかけ離れた報告を平然と行う。だがそれを咎める者はいない。

「なら良い。今度は余計なことを考えることもなく、ただの食糧として生かしといてやろう。
 環境改造をした後は、すぐに『臨時』帝都建設を行う。準備を急げ」
「了解しました」

 降り注ぐ遊星爆弾によって吹き飛ばされ、直撃を免れても重度の放射能汚染によってビーメラ星人は次々に死に絶えていった。
 そして瓦礫と死体(又は肉片)の上にガミラス艦隊は降下し、かつてあった文明の痕跡を消し去って新たな文明を構築していく。

「これなら、数ヶ月で仮帝都は建設できるな」

911earth:2011/10/10(月) 19:01:32

 ビーメラ星が呆気なく死滅し、ガミラスの第二帝都(仮)が建設されつつある頃、銀河系調査のために派遣されたガミラス艦隊は
予期せぬ勢力と接触することになった。

「ガルマン民族だと?」
「はい。我々に非常に近い民族のようです」

 兵士の報告を聞いたガミラス艦隊司令官は逡巡した後、決断を下す。
 
「むむむ、銀河系辺境にそんな民族がいたとは。よし接触と調査を続けよ。ガミラス復興の手がかりになるやも知れない」

 ガミラス星人はもともと銀河系中心部から移民してきたガルマン民族の末裔だった。
つまりガミラス人は遠いご先祖様と遭遇したことになるのだ。勿論、接触当初は眉唾ものであったが各地でガルマン民族とガミラス人を
関係付ける証拠(主に遺跡)が発見されるにようになると、疑いを持つ者は急速に減っていた。
 だがすると次の問題が浮上した。そうガルマン民族の現状についてだ。

「ガルマン民族はボラー連邦の圧政下に置かれており、母星は完全に植民地化され市民は奴隷階級に落とされている。
 抵抗していた者たちは辺境に築いた拠点に逃れていたが、どれも消耗している……か」

 デスラーは眉を顰めた。
 何しろ彼にとって第一に復讐するべきはデザリアム帝国軍、そして火事場泥棒を働いた反ガミラス連合の者たちだ。
 ここで地球と付き合いがあるボラーと争えば、ヤマトを再び敵にしかねない。それは好ましくない。物事には順序というものがある。

「ガルマン民族を出来る限り脱出させよ。辺境地域には幾つか拠点がある。そこに収容するのだ。ただしボラー連邦に気付かれるな」

 こうしてガミラス帝国は銀河系中心部で零落していたガルマン民族を配下に加えていった。
 さらにこの件で、ガミラス人はガルマン民族の遺伝子情報から、自分達が放射能がない状態でも生きていける方法を発見した。
 こうしてガミラス人は放射能汚染なくして活動できるようになっていった。
 
「これなら新天地を獲得しやすくなる」
 
 デスラーは久しぶりに上機嫌だった。

912earth:2011/10/10(月) 19:02:03

 だがこの動きは、ボラー連邦軍によって察知されつつあった。

「ガミラス軍残党だと? 『ガトランティス』と同盟していたあの男が率いる軍勢か」

 側近からの報告にべムラーゼは苦い顔をする。何しろガトランティスと言ったらボラーの面子を潰した怨敵。
 そしてその同盟国となればボラーにとっては大敵だった。

「叩き潰せ。ガルマン民族とガミラス人が組むのなら、情け容赦はいらん! 本国艦隊も出して叩き潰すのだ!!」
「はい!」
「ああ、それと例の新型宇宙戦艦がロールアウトするころだと思うのだが」
「『スターレン』級ですか」
「あのテストを行いたまえ。実験には丁度良い相手だ。ガミラスはかつてヤマトに負けた。
 これを打ち破れば、少なくとも『スターレン』級がヤマトと互角以上に戦える船であることが証明できる。そうだろう?」
「ですが『スターレン』級はまだ初期タイプが6隻あるだけですが」
「構わん。6隻あれば十分だろう? ヤマトはただの1隻でガミラスを滅ぼし、白色彗星さえ砕いたのだ。
 それと互角以上の艦が6隻。これだけあればガミラスを完全に滅亡させても尚、お釣りが来るはずだ。そうだろう?」
「わ、判りました。『スターレン』級6隻を出撃させます」
「吉報を期待しているぞ」

 こうして超ヤマト級を目指して建造されたボラー連邦軍期待の超大型戦艦『スターレン』が発進していく。
 そのシルエットはボラーの艦とは異なり、むしろ地球の艦に近かった。
 大口径(56センチ)の砲を3連装5基(前後に2基、艦底に1基)に加え、中央には丸みを帯びた塔型の艦橋が備え付けられている。
 艦首には威力の強化とチャージ時間の短縮化を両立させた新型のボラー砲が搭載されており、艦底部には艦載機発進口が設置されている。
この他にも50門ものミサイル発射管があり、火力面ではアンドロメダどころかタケミカヅチを超えるものだった。
 加えて艦橋周辺には多数のセンサーやレーダーが設置され、高い索敵能力があることが判る。
 この排水量21万トンもの巨大戦艦、いや戦闘空母は関係者に見送られ、ガルマン民族とガミラス軍が居ると思われる宙域に向かった。

「我がボラーがその気になれば、ヤマトなど比較にならない戦艦を揃えられることを思い知るが良い」

913earth:2011/10/10(月) 19:04:20
あとがき
というわけでガミラスVSボラーです。新型戦艦も出撃します。
しかし相手はデスラー総統。どうなることやら……。
『スターレン』は……まぁ元ネタはお分かりですから敢えて言いません(爆)。

914earth:2011/10/11(火) 06:19:29
第46話です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第46話


 ボラー連邦とガミラス帝国が戦端を開こうとしていた頃、デザリアム帝国は地球に関する情報の収集を必死に行っていた。
 その結果、地球がトンでもない国であることに気付かされていた。

「地球人類は狂戦士の集団なのかね?」
「……否定できません」 

 スカルダートの冗談半分(半分は本気)の言葉を、サーダは否定できなかった。
 何しろ地球人類は人口の8割を失っても抗戦し、波動エンジン関連技術を得た途端にガミラス相手に逆転勝利(相手の本星壊滅)。
さらに最近ではガトランティス帝国の移動首都(白色彗星)を1隻の戦艦で葬り、残った艦隊も無傷で殲滅したというのだ。 
 
「確かに、あの適合率と生命力とバイタリティは惜しいが……」

 さすがの聖総統閣下も躊躇する。
 機械化によって殆ど失われた筈の本能が告げるのだ。「彼らに手を出すべきではない」と。

「しかし聖総統、彼らを放置しておけば後に禍根になるかと」
「ふむ」

 今は自国のほうが技術レベルでは上回っている。しかしそれが続くとは断言できない。
 何しろデザリアム人は種として衰えつつある。一方の地球人は信じがたいほどのバイタリティで星間国家への道を突っ走っている。
 逆転されないと言い切るほど彼は楽観的ではなかった。

「ボラー連邦は?」
「支配している星の数に見合った生産力を持っています。ガトランティスに大敗したにも関わらず、戦力を回復させています。
 ですが内政面では問題が多いようです。付け込む隙はあるかと」
「ふふふ。『魔女』のお前らしいな。地球やボラーを正面から攻めるのではなく、搦め手でいくと?」
「はい。策はあります。ただしさらに情報の収集が必要ですが」
「判っている。存分にやれ。必要なものがあれば参謀本部に私の名前を出して言えば良い」

915earth:2011/10/11(火) 06:20:54

 デザリアムに対抗するべく地球防衛軍も軍拡を急いでいた。
 イスカンダルから得た技術や資源に加え、デザリアム帝国軍やガミラス軍の残骸は連邦にとっても色々と有益だった。
 強固な偏向シールドや装甲版などを回収したことで、従来の宇宙戦艦の砲撃力が非力であることが明らかに出来た。
議長と藤堂は防衛会議を動かして臨時の防衛予算を調達し、防衛艦隊の大改装計画を進めた。

「完成した戦略攻撃用潜宙艦は訓練航海を。ただし新規建造は遅らせて、その分の資材を戦艦群の改装に当てるのが良いだろう」
「了解しました」
「それと、藤堂長官、ヤマトはイカロスで改装させるのが良いかと。万が一のときも考えると……」
「ふむ。確かに」 

 議長の意見に藤堂は頷く。何かあったときの保険、それがヤマトの意義だった。

「ムサシはタイタン基地のドックで改造を急げ。本土防衛の穴はアイルオブスカイと実験艦隊で埋めれる」
 
 かくして防衛艦隊の艦船は順次ドックに入り、必要な工事を受けていった。
 特に主力戦艦の初期生産型は新型砲への換装や機関部の大改造(もはや新造)を受けることになった。
 一部の艦はヤマトと同様に46センチショックカノンを搭載(連装3基6門)すると言う魔改造が行われた。
 これによって敵の巨大戦艦の装甲を確実に撃ちぬける砲撃力や連続ワープにも耐えうる航行能力が手に入る。

「コスモタイガーⅡにかわる新型機の配備も急ぐ必要がある。制空権の有無こそ戦いの趨勢を決めるからな」

 ガトランティスやイスカンダルの技術を多く得ていたこと、ボラーという仮想敵がいたことにより、航空機の開発は急ピッチで
進められていた。
 これによってコスモタイガーⅡにかわる新型機、原作には無かった『コスモファントム』が配備されることになった。
 コスモパンサーほどではないが、高い戦闘能力と汎用性、そしてステルス性を兼ね備えた機体だ。
 これによって防衛軍空母部隊の攻撃力は大幅に向上することになる。尤も空母については艦の分類が変更されることになった。
 宇宙空母と呼ばれていた艦を攻撃型空母と分類することにしたのだ。

「いずれ配備される本格的な宇宙空母(正規空母)と混同されるのは拙いからな」

 議長はそう理由を述べた。

916earth:2011/10/11(火) 06:27:18

「あとは敵巨大要塞の攻略だが、ハイパー放射ミサイルの技術をボラーから得るのが良いだろう。
 引き換えに我々が得たガトランティスの技術や情報を提供する。まぁ出すものはこちらのほうが多くなるだろうが」

 このように新兵器開発を進める一方で、人的資源の保全も急がれた。
 デザリアム帝国のサイボーグ技術は医療において非常に価値があった。このためこの手の技術開発が急がれた。
また被弾した場合、従来の戦闘服では生存性が低いことも問題視された。

「これ以上、人が減ったら堪ったものじゃない」

 防衛軍高官の意見は、後方を担当する者にとって真理だった。
 一部の人間はあまり装備をすると迅速な戦闘行動に支障が出るということで反対したのだが、最低でも被弾した際に
発生するかも知れない毒ガスなどから身を守るためとして、戦闘時にはヘルメットだけでも着用することが決められた。
 さらに空間騎兵隊用にパワードスーツの開発も進められた。

「今の装備じゃ『死んで来い』と言ってるも同然だろう」
「でもこれって元ネタはボト○ズじゃ……」
「気にするな。使えるんだったら問題ない。モビ○スーツは大きすぎて使えないし、バル○リーは整備が大変になる」

 転生者たちはそう話し合いつつ(一部の人間は血涙を流したが)、新兵器開発を急いだ。 
 この新兵器開発と並行して、超能力の実験も進められた。
 尤もあまり露骨な人体実験はできないので、細々としたものだったが、それでも将来的には防衛軍の一翼を担う分野で
あると思われていた。 

「沖田艦長、土方艦長、山南艦長といった歴戦指揮官。さらに戦死していないヤマトクルー。
 これで新装備と超能力者があれば、ボラーともある程度張り合えるだろう……これだけ強化しても、私の華やかな出番はないのか」
「諦めてください。観艦式くらいなら出来ますよ」 

 秘書の突っ込みに議長は沈黙した。

「………世知辛いな」
「議長は後方で必要にされる人ですから。何せ防衛軍は前線も後方も人がいないので」
「……畜生〜!」

 議長の苦闘は続く。

917earth:2011/10/11(火) 06:29:17
あとがき
強化(もはや狂化(?))されつつある防衛軍。
一方、デザリアムは原作とは少し違った手を打つ可能性が出てきました。
べムラーゼ首相の上に死兆星が見える気がするのですが気にしない(笑)。

919earth:2011/10/12(水) 21:19:06
第47話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第47話

 一言で言えばガルマン・ガミラス連合軍は初戦から一方的な敗退を余儀なくされた。
 6隻のスターレン級に加えて、自軍の5倍以上の兵力を叩きつけられては、いくら精強で知るガミラス軍も一溜まりもなかったのだ。
 ガルマン民族の抵抗拠点は次々に潰滅し、脱出途中だった大勢のガルマン人は冥府に追いやられた。

「ボラーに逆らう者の末路だ!」

 機動要塞を預けられたボラー連邦軍参謀総長であるゴルサコフは、非戦闘員に対しても容赦なかった。
 多数の難民が乗る輸送船団に向けてマイクロブラックホール砲を撃ちこみ、周辺の少数の護衛部隊諸共根こそぎ殲滅。
さらに惑星の拠点にはワープミサイルとプロトンミサイルを撃ち込んで粉砕していった。 

「本星(仮)の本隊が銀河系に展開していれば……」

 ガミラス艦隊司令官は悔しがったが、どうしようもない。
 元々、銀河系に展開しているガミラス軍はあくまでも安全に調査を行うための部隊なのだ。ボラーと真っ向から勝負を
するのは分が悪すぎた。
 機動要塞とスターレン級戦艦6隻を中心とした大艦隊は物量を生かしてガルマン・ガミラス連合軍を押し潰すかのように
襲い掛かった。
 
「一旦、引け! 銀河系外縁にまで撤退し、本隊からの援軍を待つぞ!!」

 こうしてガルマン・ガミラス連合軍は後退していく。
 戦艦スターレンに乗るボラー連邦軍前衛艦隊司令官バルコムは、撤退していく連合軍を見て嘲笑すると追撃を命じる。

「追うのだ! 奴らを逃してはならない!!」
「了解しました」
  
 こうしてボラー連邦艦隊による猛烈な追撃戦が始まった。

920earth:2011/10/12(水) 21:19:45

 ボラー軍は量での優越に加え、新規に開発した航空機を投入して各地で優位に立った。尤も新型機の姿を見たら議長が吹き出した
のは間違いなかった。何しろその新型機はディンギル軍のそれに酷似していたからだ。
 可変翼の単発戦闘機はガミラス軍戦闘機と互角に戦い、水雷艇を小型化したような攻撃機は俊敏な動きで連合軍艦艇にミサイルを
見舞っていく。
 これらは、本来なら喜ぶ光景なのだが、バルコムは苦い顔だった。

「多少格好はつかないが、仕方あるまい」
 
 ボラー軍はディンギルに勝った。だが受けた損害も少なくなかった。故に彼らはディンギルの優れた点を取り入れたのだ。
 強化された圧倒的航空戦力、さらにスターレン級の新型ボラー砲が連合軍に振り下ろされていった。  
 しかしガルマン人も意地を見せる。

「反撃しろ!」

 ガルマン民族の抵抗組織の幹部であったダゴン(連合軍結成に伴い将軍になっている)は、驚異的粘りで戦線の完全崩壊を防ぎつつ
起死回生の切り札として辺境の抵抗拠点で開発された次元潜航艇がボラーの側面を突く。
 突如として行われた亜空間からの攻撃にボラー艦隊は大混乱に陥った。

「どんな手品を使ったというのだ?」

 バルコムは歯噛みするが、対抗手段がない以上、どうしようもない。
 だがそれでもスターレン級は撃沈されなかった。技術者達が太鼓判が押した防御力が発揮された瞬間だった。
 従来の戦艦なら最低でも大破、下手をすれば轟沈していてもおかしくない攻撃を受けても尚、戦闘能力を継続する姿はボラー軍の
意地を見せ付けるものだった。

「素晴らしい、これがスターレン級か。ふふふ、この艦が量産された暁にはガトランティスや地球など物の数ではないな」

921earth:2011/10/12(水) 21:20:18

 一方の連合軍にとっても。このスターレン級の打たれ強さは驚きだった。

「何と言う防御力だ」
 
 フラーケンは驚嘆するが、すぐに思考を切り替える。

「奴らの後方を徹底的に撹乱し、味方を援護する」

 後にガルマンウルフと称されるようになる活躍によってボラー連邦軍前衛艦隊は少なからざる打撃を被り、進撃速度を
落さざるを得なくなる。
 
「小癪なガルマン人共め!」

 報告を受けたゴルサコフは忌々しげに、はき棄てるように言った。
 だがそこには粛清に対する恐怖も見え隠れしていた。ディンギルを潰して多少は面目を取り戻したとはいえ、所詮相手は
一恒星系の国家に過ぎない。ボラーからすれば格下も良いところなのだ。
 ここで再び躓けばボラー連邦軍は三流の烙印を押される。そうなれば軍制服組のトップである彼は粛清対象になる。

「バルコムを急かせろ! いや機動要塞も前に出せ!! 力押しだ!!」

 一方、デスラーは本星(仮)からガミラス艦隊主力を引き連れて出撃し、銀河系に急行していた。

「奴らの鼻っ面を叩き折り、味方を救出する」
 
 デスラーはボラー軍の大軍や戦いぶりを見て、士気を喪失するどころか逆に戦意を高めた。
 要塞攻略のために威力を高めた新型デスラー砲の試作品(ハイパーデスラー砲のプロトタイプ)を搭載したデスラー艦、ボラーの
物と同等の威力を持つプロトンミサイルなどを装備したガミラス艦隊が銀河系に来襲しようとしていた。

922earth:2011/10/12(水) 21:23:57
あとがき
ボラーに色んなフラグが立っている気がするが……多分、気のせいです(爆)。
次回、デスラー参戦。銀河大戦前倒しでしょうか……。
それでは。

923earth:2011/10/13(木) 23:58:42
短めの閑話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第47.5話

「タケミカヅチに続いて、北米州の戦艦アリゾナ、アイオワも配備された。主力戦艦が改装に回されている状況では有難い」

 執務室で報告を受けた議長は、久しぶりに機嫌がよさそうな顔で頷いていた。
 
「それに、これらの艦のデータがあれば、次世代の戦艦建造にも弾みが付くな」

 ボラー連邦がガルマン・ガミラス連合軍を押し潰している頃、地球防衛軍は次世代の戦闘艦艇の開発に余念が無かった。
 ガミラスとは一時的に停戦したが再戦する可能性はゼロではないし、ガトランティス帝国は侵攻部隊主力と首脳部が壊滅したとは
言ってもアンドロメダ星雲の本国は健在。今は友好国だがボラーだって何時、敵に回るか判ったものではない。

「平和は次の戦争への準備期間に過ぎないのです」

 防衛会議の席で議長が言った台詞は真理だった。
 連邦政府は防衛予算の際限のない増額には歯止めを掛けつつも、外患に対応するために可能な限り予算を出していた。
加えて『原作』よりも消耗が少ないことも、防衛軍に余裕を持たせており、十分な時間を掛けた設計や試験運用を可能にしている。
 
「これで新型戦艦はダンボールどころか、風船みたいに爆発しないで済みそうだ」

 集束モードと拡散モードを使い分けられる『拡大』波動砲を搭載した新型戦艦。
 完結編ではディンギルの奇襲戦法によって呆気なく殲滅され、一部の転生者にとってはトラウマ物のこの艦は、防衛軍の期待の星だ。
 何しろ拡散波動砲搭載艦と集束型波動砲搭載艦を両方配備し続けていくのは面倒だったのだ。
 既存の戦艦の改装は、この戦艦で使われる各種装備のテストという一面もある。
 一方で巡洋艦についてはひと悶着起きていた。
 イスカンダルへの航海から「既存の巡洋艦以下の艦艇は遠洋航海には適していないのでは?」と言う意見が台頭していた。
 波動エンジンによって長大な航続距離は確保できたが、長距離航海は乗組員への負担は大きいのだ。

「さてさて、どうするべきか……」

924earth:2011/10/13(木) 23:59:13

 大型艦のほうが長距離航海には適しているし、今後、防衛軍では合理化のために戦闘艦の自動化、無人化も進められる予定だ。
実際、自動戦艦と自動駆逐艦の整備が進んでおり、実験部隊である第01任務部隊では試験運用が開始されつつある。
 さらに将来、特に復活編あたりの年代になり、コスモパルサークラスの艦載機が開発されると、艦載機が駆逐艦の仕事を代わることができるようになる。
それを考えると、わざわざ有人の小型艦を艦隊用(それも外洋向け)に大々的に整備するのは効率が悪いとも言えた。

「巡洋戦艦、いや大型巡洋艦のような艦を作るか?」

 現実だったら中途半端と言って却下されるだろう。
 だが議長はそれなりに有効なのではないかと考えた。
 しかしあまりに高価な艦を揃える事に夢中になると、今度は数が確保できないという恐れがある。

「……自国勢力圏外を長期間行動する可能性がある部隊には、2万トン級以上の巡洋艦を配備するか……。
 戦艦と大型巡洋艦、空母の周りを自動化した駆逐艦が固めれば良いだろう。
 いや、自動駆逐艦から構成される水雷戦隊を指揮できれば、より活用できるかもしれん。小艦隊旗艦にも使えるだろうし。
 自国領土警備等の任務には数が揃えられる従来のような1万トン以下の艦が良いか?」
 
 領土や通商路が拡大している状況では、数の確保も重要だった。 
 故に議長はハイローミックスでいくことを考えた。

「少なくとも、完結編の駆逐艦は要らないな。艦体が大きい割には武装が貧弱すぎる。
 確かに劇中だと活躍したけど……正直、あれだけの艦体があるんだったら、もう少し火力を充実させて弾幕を張ることくらいできないと困る。
 自動駆逐艦なら居住スペースがないから、もっと重武装化できるし無茶な機動もできるし……益々要らないな、あの船」

 こうして議長は参謀本部や防衛軍司令部、防衛会議とも協議して次世代の巡洋艦の開発を推し進めることになる。

925earth:2011/10/14(金) 00:00:42
あとがき
防衛軍巡洋艦についてです。
原作と違って外洋海軍への脱皮が急がれています。
ガミラスとボラーの戦争について知ったら色々と設計が変更されるでしょう。

926earth:2011/10/14(金) 23:53:33
第48話です。戦闘は難しい……。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第48話


 デスラー率いるガミラス艦隊は連続ワープで一気に距離を稼ぎ、ボラー軍には信じられないほどの短期間で銀河系にたどり着いた。
 デスラーは乗艦のデスラー艦でボラー軍の詳細な情報を知らされると、スターレン級がヤマトを意識して作られた戦艦であると即座に断じた。 

「ボラーはヤマトの力を恐れたのだろう。だが、所詮は物真似だ。恐れる必要はない」
「それでは……」 
「そうだ。タラン。奴らを叩きのめす」 

 かくしてデスラー自らが指揮するガミラス艦隊(後の親衛艦隊)はボラー軍との決戦を求めて進撃した。
 一方のボラーもまたガミラス軍の増援が来たことを察知して、ガルマン軍と纏めて撃滅しようと目論み、銀河系東部に向けて進んだ。

「数で押し潰す!」

 ゴルサコフはべムラーゼの支持を取り付けてボラー各地から更なる増援を呼び寄せた。
 非常に太っ腹に見えるべムラーゼの決定だったが、その決定が下されたのはそれはガルマンの軍事技術、次元潜航艇の獲得をボラーの
政府首脳部が望んでいたからだ。

「あれがあれば、開戦初頭に地球を吹き飛ばすことも出来るだろう。そうなれば地球など一捻りだ」
「それだけでない。各地の反政府組織の掃討にも役立つ」
「アンドロメダ星雲のガトランティスと戦うのにもな」

 狸の皮算用と言っても良いのだが、彼らの中ではボラー軍の勝利は既定事項だった。
 ガルマン・ガミラス連合軍が増強されたと言っても、兵力差はまだ5対1と考えられていた。
 これだけの兵力で負けると考える人間はいない。

「銀河の神がシャルバートなどの過去の遺物ではなく、このべムラーゼであることを思い知るが良い」

 べムラーゼはこの決戦で一気にガルマン・ガミラス連合軍を撃滅し、さらに小うるさいシャルバート教信者の抗戦意欲を撃ち砕こう
と考えていた。
 こうして決戦の幕が上がる。

927earth:2011/10/14(金) 23:54:18

 デスラーはまず機動要塞と宇宙艦隊を引き離そうとした。
 何しろただでさえ宇宙艦隊が手強いのに、機動要塞まで相手にしていたら手が足らない。

「奴らをハロにおびき寄せる」

 デスラーはボラー連邦軍艦隊と会敵すると、巧みに敗走しているように見せかけて彼らを『ハロ』と呼ばれる領域に誘導していく。
 このハロというのは銀河系中心核と渦状腕の銀河円盤の外側に存在するこの領域のことであり、ここには暗黒物質やブラックホールによる
航路の難所が数多く存在した。
 デスラーはガルマン人や、これまでの調査部隊の情報を基にして、この難所を決戦の場に選んだのだ。
 一方、ボラー軍はこのデスラーの意図を認識できなかった。

「馬鹿な連中だ。わざわざ、あのような場所に逃げ込むとは」

 バルコムは嘲笑しつつ、即座に追撃を命じる。

「あそこを奴らの墓場にしてやるのだ!」

 こうしてスターレン級6隻を先頭にした艦隊は、次々にハロに突入していく。
 だが暗黒物質によるレーダーの索敵能力の低下、加えて多数の障害物(ブラックホール含む)によってボラー軍は思うように
進撃できなかった。
 逆にガミラス軍はその高い練度を存分に活用して、あちこちでゲリラ攻撃を繰り広げてジワジワとボラー軍に出血を強いていく。

「多少の犠牲は構わん、偵察機を出して奴らを見つけ出すのだ!」

 バルコムはそう言って多数の偵察機(一部はディンギルの水雷艇もどき)を放ち、必死にガミラス艦隊を探した。
 その結果、彼らはブラックホール周辺に展開していたガルマン・ガミラス連合艦隊を見つけることに成功する。

「急行するぞ!」
「しかし、バルコム司令、味方で急行できる艦はそう多くはありません」
「構うことはない。数だけでも3倍以上。包囲していけば奴らをブラックホールに押し込める。それに我らにはこのスターレン級戦艦がある」

928earth:2011/10/14(金) 23:55:38

 急行してきたボラー艦隊を見て、デスラーはほくそ笑んだ。

「盛った獣のような連中だ。地球人ならもう少し芸があるのだが……」
「油断は大敵かと」
「判っているよ、タラン。窮鼠猫をかむとも言う。それでは行くとしよう」

 こうしてガルマン・ガミラス艦隊はブラックホールを背にして砲撃を開始した。

「小癪な、一気に叩き潰せ!」

 スターレン級の新型ボラー砲の一斉発射から始まったこの大攻勢をデスラーは見事に防ぎきった。
 新型デスラー砲は一撃でボラーの戦艦をダース単位で吹き飛ばし、新型戦闘機で構成される航空隊はボラー軍戦闘機と互角以上に戦った。
 そしてこの戦いではガルマン艦隊の活躍も目立った。

「我らの子孫であり、救世主であるデスラー総統閣下に無様な真似は見せられないぞ!」

 原作では東部方面軍司令を勤めていたガイデル提督はそう言って部下を叱咤激励し勇戦した。
 唯一、ヤマトに勝利できた指揮官の名に相応しく、彼の部隊は獅子奮迅の活躍ぶりを見せ、数倍ものボラー軍を食い止め、その進撃を
遅らせた。
 そしてこれに業を煮やしたバルコムはさらなる攻勢を決意する。何しろこれだけの兵力を与えられて勝利できなかったとなれば自分が
粛清されかねないのだ。

「怯むな、敵は少数だ!」  
 
 だがこの直後、ガルマン・ガミラス艦隊がさらに後退を始める。それも整然としてだ。

「何だと?」
「閣下、奴らはブラックホールを重力カタパルトにして逃げ出すつもりなのでは?」
「ふっ、何を今更。奴らが腹を見せたら逆に葬ってくれる!」

929earth:2011/10/14(金) 23:59:05


 しかしガルマン・ガミラス艦隊を追撃しようとした頃、ブラックホールに巻き込まれようとうする惑星や小惑星が現れる。

「ええい邪魔な!」

 だがその直後、バルコムは凍りつく。
 辛うじて生きていたレーダーがトンでもないものを捉えたからだ。

「あれは……プロトンミサイルだと?! 拙い、全艦分散しろ!!」

 そう、それは巧みに偽装され、その存在を隠匿されてきたガミラス製のプロトンミサイルだった。
 通常なら見つけることも出来たのだが、暗黒物質による索敵能力の低下、加えて戦力を前方の敵艦隊に向けすぎたことで発見が
遅れたのだ。そしてその遅れは致命的だった。
 バルコムの指示を受けてボラー艦隊は混乱する。何しろ攻撃を開始した直後に、いきなり分散を命じられたのだ。
 この混乱するボラー艦隊の動きを見たデスラーは勝利を確信した。

「作戦は最終段階に移る。気を抜かないように」

 そしてガルマン・ガミラス艦隊の将兵が見守る中、ガミラスのプロトンミサイルがボラー艦隊の近くを通りかかった惑星や
小惑星に次々に命中した。
 その結果、ボラー艦隊は大爆発と衝撃波に襲われることになった。

「た、体勢を立て直せ!」

 だがそんな暇をデスラーは与えない。
 全艦を反転させると即座にデスラー砲によって混乱するボラー軍の陣形中心に穴を開けた。

「突破する。全艦、続け!!」

 ボラー軍の中央を突破したガルマン・ガミラス連合艦隊は、ボラー軍の背面に展開。逆にボラー軍をブラックホールに追いやっていく。  
 
「馬鹿な、このスターレン級が、この私がこんなところで!?」

 バルコムが絶叫した直後、機関部を撃ちぬかれた戦艦スターレンは、ブラックホールに飲み込まれていった。

930earth:2011/10/15(土) 00:02:10
あとがき
というわけで艦隊決戦はほぼ終了です。
ボラー軍上層部は大変なことになりそうです(笑)。

931earth:2011/10/15(土) 12:14:31
第49話です。
 

『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第49話


 バルコムがブラックホールに飲み込まれて死亡するという悲惨な最期を遂げた後、残されていたスターレン級5隻諸共、ボラー艦隊は
宇宙の藻屑となった。さらにデスラーは救援に駆けつけてきたり、ハロでうろうろしていた残存部隊を片っ端から殲滅していった。
 
「これであとは、あの機動要塞のみだ」
「しかし総統、奴らの手足となる艦隊は撃滅しました。これ以上、長居は無用です」

 タランはデスラーに早期の撤退を促した。

「ふむ。我々の目的は味方の救援。足の遅い機動要塞は放置しておけば良いと?」
「その通りです。一人でも多くのガルマン人を救出した後に、仮本星、いえ第二帝星に一旦引き上げるべきかと」

 タランの言うとおり、目的はほぼ達せられた。
 だがデスラーはここで引く気はさらさら無かった。

「いや、ここであの機動要塞も攻略する。あれは奴らにとっても切り札だ。ここであれを沈めておけば、後が楽になる」 

 デスラーが次の獲物としている機動要塞で指揮を取っていたゴルサコフは、信じられない敗戦の報告を聞いて狼狽していた。

「ぜ、全滅、いや前衛艦隊が文字通り消滅したと?」
「はい。バルコム司令は戦死し、スターレン級6隻も全て撃沈されたとのことです」
「そんな馬鹿な……」

 だがゴルサコフは何とか頭を切り替える。

(拙い。これでは、私が全ての責任を負わされてしまう……こうなれば、何としてでも奴らを撃滅するしかない)

 ゴルサコフは何とか残っている艦で護衛艦隊を編成すると即座に追撃に乗り出した。

932earth:2011/10/15(土) 12:15:07
 
 だが機動要塞を中心とした部隊は、ハロ領域手前でガミラス軍機の波状攻撃に遭う。
 デスラー戦法によって送り込まれてくる無数の攻撃隊に、ボラーは手を焼いた。

「蛆虫どもめ! 追い払え!!」
 
 だが当初動員した艦の大半がハロの戦いで潰えたため、護衛艦隊による対空砲火は疎らだった。
 戦闘機も出たが、ガミラス機を追い払うことはできない。そんな中、次元潜航艇が現れ、護衛部隊を攻撃していく。

「第5駆逐隊全滅!」
「第2戦隊から救援要請が入っています!」

 相次ぐ凶報。機動要塞こそ目立った被害はなかったが、このままでは護衛部隊が機能不全に陥る可能性が高かった。
 味方の不甲斐無さにゴルシトフは怒ると同時に焦った。何しろこのままでは作戦の失敗は確実なのだ。
 粛清の2文字が頭の中にチラつく。

(拙い……この要塞は落ちないだろうが、艦隊が全滅するようなことがあればボラー軍は大打撃を受ける)

 そんな彼の前にガルマン・ガミラス艦隊が現れる。それは彼にとって絶好の好機に見えた。

「マイクロブラックホール砲で発射用意!」

 このとき、機動要塞の正面に展開した艦隊を指揮していたのはガルマン軍でシャルバート教徒の纏め役であるハイゲル将軍だった。

「奴らをかき乱すぞ。ブラックホール砲には気をつけろ」
「了解」

 兵士の返事を聞くとハイゲルは頷き黙り込んだ。

(ふっ、信心深かったシャルバート信者も減ってしまった。最近では新参者であるガミラス総統デスラーへの信仰に鞍替えする者もいる。
 だが私はめげない。宇宙の神はべムラーゼでも、デスラーでもないのだ)

 原作では全面戦争中に宗教上の理由でクーデターを起こそうとした人物だったが、今はデスラーの体制を支持していた。
 何しろこれまでシャルバート教を散々に弾圧していたボラーを叩くほうが優先だった。

933earth:2011/10/15(土) 12:15:41

 ハイゲル率いるガルマン・ガミラス連合艦隊はボラー連邦艦隊を引っ掻き回した。
 加えて機動要塞がブラックホール砲を搭載していること、これまでの戦いから尋常ではない防御力を持っていたことから要塞への
対応も十分に行われていた。
 これにゴルサコフは苛立つ。

「ええい、素早い連中だ。マイクロブラックホール砲を連続発射、命中しなくても良い。奴らの足を止めるんだ!」

 機動要塞が次々にブラックホール砲を撃ちこみ、周辺に小型のブラックホールを形成する。
 この重力場に囚われて連合艦隊は足を止めてしまう。

「今だ、全部隊前進! トドメを刺せ!」

 ゴルサコフが護衛部隊を前進させ、ハイデル部隊を撃滅しようとした。
 だがこれこそがデスラーが待った好機だった。

「瞬間物質移送装置起動。艦長、戦果を期待しているぞ」
『お任せください。総統!』
 
 モニター越しに総統直々の言葉を聞いた重爆撃機のパイロット(戦闘空母艦長)はそう言って敬礼する。

「では、作戦開始」

 ハロに漂う暗黒物質で隠れていたデスラーは、デスラー艦の前に待機させていたドリルミサイルを装備した爆撃機(七色星団で
ヤマトにドリルミサイルを撃ちこんだ機体)を機動要塞の正面に送り込んだ。
 それは奇しくも、ヤマトを葬るためにドメルが採用した作戦と同じだった。

「何?!」

 慌てたのはゴルサコフだ。

「応戦しろ!」
「ダメです、間に合いません!!」

934earth:2011/10/15(土) 12:16:15

 突然、至近距離に現れた重爆撃機に機動要塞は対応できなかった。
 そしてその隙を突くように、重爆撃機は搭載していたドリルミサイルをマイクロブラックホール砲の発射口に打ち込んだ。

『我、奇襲に成功せり!』

 パイロットは鼻高々にそう報告しつつ、戦場を離脱していく。
 そしてボラーご自慢のマイクロブラックホール砲が封じられたことを見たデスラーは、隠れていた艦隊で全面攻勢に出る。
 
「いまだ、全軍進撃開始!!」 

 暗黒物質から出現した連合艦隊は一気にボラー艦隊に襲い掛かった。
 ゴルサコフは何とか体勢を立て直そうとするが、マイクロブラックホール砲を封じられた上、奇襲された護衛部隊は大混乱で
どうすることも出来なかった。
 
「早くあの邪魔な物を撤去しろ!」

 そう叱咤激励するしか彼にはできなかった。
 だがそれも実を結ぶことは無く、ドリルミサイルは爆発して、発射口に大穴が生じる。それは鉄壁を誇った機動要塞の防御に
大穴が開いた瞬間でもあった。

「ま、拙い。応急修理を……」

 そして、それを見逃すデスラーではない。

「デスラー砲発射!」

 デスラー艦から放たれたデスラー砲は寸分違わず目標に命中した。
 波動砲にさえ耐え切る装甲を持つ機動要塞も、内部に高エネルギー砲を撃ちこまれては堪らなかった。ブラックホールを生み出す
ためのエンジンが、要塞を支えるエネルギーが、各所に置かれていた弾薬が次々に誘爆を起こしていく。

「そ、総員退避!!」

 ゴルサコフは逃げ出そうとするが、それは適わず、機動要塞の爆発の中に消えた。

935earth:2011/10/15(土) 12:17:38
あとがき
総統閣下無双です。
ボラー涙目ってレベルじゃありません(笑)。
というか、これだけ派手にガミラスが暴れたら、防衛軍も慌てるかも知れません。

936earth:2011/10/16(日) 11:15:44
第50話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第50話


 ボラー連邦建国以来最悪の大敗北を喫したとの情報はボラー連邦を揺るがした。
 機動要塞、スターレン級戦艦6隻、それに各地から引き抜いた宇宙艦隊が悉く失われたのだ。
 それは軍制服組の責任追及だけでは終らない重大な問題であり、ボラー連邦のトップであるべムラーゼも苦境に立たされた。

「ボラー連邦が保有していた宇宙艦隊は大打撃を受け、自由に動ける部隊は殆ど無くなった」
「今回の敗北は戦術的な問題に留まらない。戦略的、政治的な大問題だ。首相の責任は重大だ!」
「この度の敗戦は首相の指導力不足、いや決断の誤りによるものが大きい。べムラーゼ首相は指導者の器ではないのでは?」
「首相の解任を要求する!」

 べムラーゼの政敵達は次々に彼の責任を追及し、首相の解任を要求した。
 勿論、べムラーゼは潔く失脚するつもりはなく、あらゆる手段を用いて対抗し、ボラー上層部は政争に明け暮れることになる。
 軍でも主流派であった人間達が悉く戦死するか今回の敗戦の責任を追及されて失脚していった。そして主流派に代わって軍の
要職に就いた者たちは軍の再建に頭を抱えた。

「スターレン級を量産するより、まずは安価な従来艦を量産して戦力を回復させなければならない」 
「まずは数だ。正直、数がないと話にならない」
「場合によっては地球防衛軍がやっているような無人艦を導入するべきだろう」

 かくしてボラー連邦軍は各地の造船所をフル稼働させて艦艇の建造に勤しんだ。
 デスラーも補給の問題から一旦兵を引いたこともあり、ボラー軍は再建の猶予が出来たかのように見えた。
 だがその猶予もデスラーの気分次第でどうなるかわからない。
 故にボラー軍は手っ取り早く艦艇を補充する方法として地球から艦船を購入することを考えていた。実際、ボラー軍は政府に
働きかけてその旨を地球連邦政府に打診した。
 この打診を受けた連邦政府は勿論、困惑した。

「今の防衛軍に譲れる艦艇はありません」
「それにショックカノンを輸出するとなれば、地球の優位を崩しかねません」

 藤堂と議長はそう言って反対した。
 だが議長としてはボラーから色々と技術を得たいと思っていた。このためボラーに借りを作るべく防衛軍の艦ではなく、サルベージした
旧ガトランティス軍の艦を提供することを提案した。

「大戦艦や駆逐艦、それに大型空母を提供しましょう。資源としては惜しいですが、使いようによっては十分な対価が期待できます」

 この議長の意見は防衛会議や大統領府でも審議された末、承認された。

937earth:2011/10/16(日) 11:16:19

 波動砲が搭載されていない大戦艦、もう搭載できる艦載機がない大型空母など持て余すだけだった。
 解体して資源にするよりはボラーに恩を売るのに使ったほうが良いかもしれないと政府は判断したのだ。勿論、議長はこれらの艦艇の
提供と引き換えに即座にボラーに対価を求めさせ、ハイパー放射ミサイルなどの各種技術を入手させた。

「全く、相手の弱みに付け込むと後が怖いですよ?」

 連邦ビルの一角で行われた転生者たちの密談で、外交担当者が議長に苦言を呈した。
 これに議長は堂々と反論する。

「だが今しておかないと、技術の提供なんて無理だろう。それに我々も貴重な資源を提供したんだ。文句を言われる謂れはない」
「そうですね。確かに資源を手放したのは痛いですが、引き換えにディンギル系統の技術を得られるでしょう。
 要塞や大型戦艦攻略のための新型ミサイルの開発に弾みが付きます」

 財務次官は満足げだった。

「それに例のアイルオブスカイで開発中の新装備があれば……防衛軍の戦闘力は大幅に強化できる、そうでしょう?」
「ああ。火炎直撃砲を参考にして開発が進められている新型の『波動直撃砲』。あれがあればディンギルのように小ワープして
 逃げられることもない」

 この言葉に誰もがニヤリと笑う。

「波動砲にエネルギーをチャージした状態の自動戦艦を相手の背後や側面に送り込むのも良いが、そのたびに戦艦1隻を危険にさらす
 のも大変だからな……まぁ必要ならするが」
「確かに、デザリアムは恐ろしい相手ですからね」
「それとガミラスもだ。連邦政府や防衛会議がすんなり艦艇の売却を決めたのはボラーを使ってガミラスを弱体化させたいからだろう」

 これに外交担当者が頷く。

「ガミラスは地球人類にとって仇敵ですからね。彼らが銀河に来て暴れているとなれば何かしら手を打ちたいと思うでしょう」

 この世界の人類にとって、ガミラスは不倶戴天の敵であることは変わっていなかった。
 
「それにしても暴れすぎだ。新型戦艦どころか機動要塞まで討ち取るのだから。『Ⅲ』と『永遠に』を同時進行なんて冗談じゃないぞ。
 まぁ議会も慌てて防衛艦隊整備計画の前倒しをしてくれるだろうから、少しは対応できそうだが」

938earth:2011/10/16(日) 11:16:58
 
 地球連邦政府はボラーに旧ガトランティス軍艦艇を譲る傍ら、地球防衛艦隊の整備をより進めることを決定した。
 デザリアム帝国に加え、ガミラス帝国が暴れるとなれば軍事力の整備は必要不可欠だった。ましてボラー軍が大打撃を被った以上は
自分の身を守るための力は少しでも必要になる。

「十十十艦隊計画か……野心的な計画だな」
「ですが必要です」

 藤堂と議長は今後の防衛艦隊整備について2人きりで話し込んでいた。

「アンドロメダ、改アンドロメダ級あわせて10隻、戦闘空母と正規空母10隻、さらに拡大波動砲搭載型戦艦10隻を揃える。
 これと並行して既存艦艇の改装も進めるか……これだけあれば防衛軍の戦力は飛躍的に向上するだろう。だが可能なのか?」
「議会対策は問題ありません。ガミラスがトラウマの方々はその恐怖から逃れるために賛同するでしょう。
 ガミラスは今回暴れすぎました。誰もがボラーではガミラスを止めることはできないと思うでしょう」
「……」
「デザリアムにも備えなければならないことを考えれば、これでもまだ足りないと思っています」
「君はまだ軍拡をすると? 今でも負担を強いているのに?」
「表向き、地球は復興しました。ですがその立場はガミラス戦役のときより少しよくなった程度と私は思っています。
 楽観するのはまだ早いのです」

 ガミラス戦役、ガトランティス戦役勝利の立役者であり、地球最高の軍略家とされる議長の言葉には重みがあった。

「これからも前線部隊には負担を掛けると思いますが宜しくお願いします」
「……判った。それと言葉遣いはもうそろそろ改めたほうが」
「いえ、私にとって長官は長官です。2人だけのときや、気心が知れた人間しかいないときは今までのままで十分です」

 これに藤堂は苦笑した。

「君も変わっているな」
「ははは、ユニークな知人が多いので、染まったのかも知れません。それでは失礼します」

 こうして防衛軍は動き出した。
 だが動いていたのは防衛軍だけではなく、彼らが仮想敵と見做していたデザリアムも同様だった。

「ボラーと手を組むと?」
「はい。現状ならそれも可能かと」

 スカルダートの問いに、サーダは自信たっぷりに頷いた。

939earth:2011/10/16(日) 11:19:57
あとがき
いよいよ50話です。
デザリアムも動き出します。さて地球は耐えることができるか……。

それにしても青の軌跡よりも長くなってしまった(苦笑)。
いや閑話を含めると話数だけなら憂鬱よりも長くなっています(汗)。
ちなみに憂鬱本編は完成率50%です。もう少しお待ちください。

940earth:2011/10/18(火) 22:21:53
第51話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第51話


 艦艇不足に苦しむボラーは地球と取引を行い、旧ガトランティス帝国軍艦艇と引き換えにハイパー放射ミサイルの技術を含む
ディンギル帝国製の技術を地球側に提供した。
 詳細な内容が書かれた書類を議長室で読み終えた議長は、書類を机に置くと苦笑した。
 
「また真田&大山コンビの仕事が増えたわけだ。まぁ仕事がないよりはマシと思ってもらうしかないな」

 お疲れ気味の本人達が聞いたら激怒しそうな内容をのたまう議長に、秘書はすかさず突っ込んだ。

「増やしたのは議長でしょうに……このままだと真田さん、過労死するのでは?」
「万が一の事態に備えて医療体制は整えている。それに名無しの技術者だって頑張っているから、負担も極端には増えないだろう。
 それに……」
「それに?」
「不幸というのは皆で分かち合うものだろう?」

 議長の前にはこれから読まなければならない書類が積まれていた。
 これでも可能な限り減らされたのだが、それでも防衛軍の三軍(宇宙軍、空間騎兵隊、地上軍)を統括するとなると仕事量が
半端ではないのだ。
 
「私が幸せだったら、少しは他人を思いやる余裕もあるんだが……」
(うわ、この人、最悪だ……)

 黒い笑みを浮かべる議長を見て秘書官は腰が引けた。
 
「……冗談だ。そう引くな」
「冗談には見えません。むしろ本気に見えます」
(半分は本気だがな。くそ、この地獄から逃れるためには、仕事の効率をもっと向上させなければならないか)

 そう小さく呟くと、議長は右手にある書類に目を向けた。  
  
「第9艦隊の新設と3個艦隊を基幹とした攻性部隊の創設……これを進めないと」

941earth:2011/10/18(火) 22:23:07

 十十十艦隊計画と並行して、議長は遠隔地にある敵本拠地への侵攻を考慮した攻性部隊の創設を提唱していた。
 第7艦隊、第8艦隊(臨時編成から常設へ)、第9艦隊(新設)の3個艦隊を中核とし、これにα任務部隊等の独立部隊を加えた
遠征軍をもって敵本拠地を攻略(又は殲滅)するというのが議長の主張だった。

「それやったら、もう防衛軍とは言えないのでは?」

 日系の実力者からはそんな声が出たが、北米や欧州出身の白人層からは高い支持を受けた。
 彼らは殴られっぱなしで泣き寝入りする民族ではない。

「一発ぶん殴られたら、百発以上殴り返して、相手の足腰が立たなくしてやる!」

 それが彼らのクオリティだった。
 北米州は必要ならアリゾナやアイオワなどの新造戦艦を攻性部隊に加えることも躊躇わないという始末だ。 
 尤もそこには些か生臭い理由もあった。そしてその理由を議長は悟っていた。

(ヤマトやムサシ並の活躍をさせて、連邦内部での発言力を強化したいのだろう……)

 極東州、いや日系が連邦政府内部で幅を利かせるのはヤマトの活躍による物が大きい。
 日本がガミラス戦において力を温存させることに成功させていたこと、日本の宇宙艦隊が地球復興の立役者になったことも大きいが
やはりガミラス本星を滅ぼした上、イスカンダルからコスモクリーナーDを持ち帰ったという功績は誰も否定できないものだった。
 さらに最近では日系人が主流を占める防衛軍がガトランティス帝国をほぼ無傷で撃退するという戦果を挙げている。 
 かつての大国群が、「この辺りで自分達の立場を回復させたい」と思うのは当然の流れだった。 

「まぁ良い。この際、何でも利用してデザリアムを二重銀河ごと滅ぼしてくれる。何しろボラー軍は当面役に立たんからな」

 議長としてはボラーを対デザリアム戦役で盾に使おうと考えていたのだが、その目論見は水泡と帰した。
 故に防衛軍を少しでも強化するしかなかった。

「ま、3個艦隊と言っても自動艦が多いから、引き立て役にされて壊滅しても被害は最小限に抑えられる」
「黒すぎますよ、議長……」
「多少、黒くないとやってられないぞ。
 まぁ転生者仲間には、いや一人でも多くの宇宙戦士たちに、生きて地球に帰ってきてもらいたいとは思っているよ。
 そう、今後のためにも」

942earth:2011/10/18(火) 22:23:50

 一方、仮想敵とされたデザリアム帝国は極秘裏にボラー連邦に接触を行っていた。
 尤もボラー連邦は、イスカンダルで防衛艦隊によって一方的にボコボコにされたデザリアム帝国軍の実力を疑問視しており
頼りにならないかも知れない国と一緒になって地球と敵対するつもりはないと伝えた。
  
「あの狂戦士共と戦いたいのなら、自分でやってくれ。(今は)そちらに味方する気はない。
 ただ、地球に与して積極的に敵対するつもりも(今のところ)ない」

 これがボラーの本音だった。
 だがサーダはそれでも十分と判断した。

「対地球戦争で邪魔をしないというだけでも十分でしょう」
 
 スカルダートはこれを聞いて嘲笑する。

「それにしても、何と薄情な連中だな。友好国をこうも簡単に見捨てるとは」
「いえ、むしろ彼らは地球ならば単独で我々を退けることが出来ると思っているのでしょう。
 兵を引くのも、下手に巻き込まれて被害を受けるのを避けたいというのが本音かと」
「そして、ついでに我々と地球が消耗すれば良いということか。舐められたものだ」
「ですがここで短期間で地球を占拠できればボラーは手のひらを返して勝ち組に乗ろうとするでしょう。彼らもガミラスとの
 戦いで受けた損害を補填したいと思っているようですし。そして仮にそうなれば他の星系にいる地球軍を始末しやすくなります」

 この言葉を聞いた時、スカルダートは一瞬だが逡巡した。地球を叩くべきかどうかを。
 だがボラーが弱体化し、地球が事実上孤立無援となっているのは絶好のチャンスとも言えた。
 波動エネルギーを使う天敵を一刻も早く叩き潰し、加えてその生命力を手に入れるというのは、種として衰えつつある
デザリアム人にとって余りにも魅力的だった。 

「……よかろう。参謀本部に命じて、短期間で地球を陥落させる作戦を立案させる。情報は集まっているのだろう?」
「はい。ですが地球を制圧した後、次はボラーが脅威になるのは事実です。工作を進めておく必要はあるかと」
「良いだろう」

 こうしてデザリアムは地球攻略に向けて本格的に動き出す。

943earth:2011/10/18(火) 22:26:47
あとがき
デザリアムは開戦を決断しました。
一方、地球側は着々と準備を進めています。
沖田艦長もいよいよ復帰します。
完結編では寂しい艦隊で出撃でしたが、ここだと沖田艦長(司令?)の下で
多数の戦略指揮戦艦を含む大艦隊が出撃するかも……。

944earth:2011/10/23(日) 19:55:10
第52話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第52話


 議長の必至の根回しもあってか、第9艦隊の新設と、第7〜9艦隊の攻性部隊化が決定された。 
 そして転生者たちにとっては究極の切り札である『あの男』が現場に復帰することになった。
 その人物は防衛軍司令本部の長官室で、長官直々に辞令を受けることになる。

「沖田君、病み上がりですまないが、地球のために再び頑張ってくれ」
「判っています。藤堂長官」

 沖田十三。イスカンダルへの航海を成功させた英雄。
 どんな不利な状況においても不屈の闘志と冷静さを失わず戦い続け、デスラーさえも一目置く男が長い入院生活を終えて戻ってきたのだ。

「沖田君には第7艦隊司令官兼タケミカヅチ艦長に就任してもらいたい。これに伴い、古代進艦長代理を正式にヤマト艦長に任命する」
「了解しました」
「第7艦隊には自動戦艦や、ガトランティス帝国軍の艦艇などが配備されている。
 自動戦艦は実験部隊である第01任務部隊で問題点を可能な限り潰しているが問題が発生する可能性はある」
「判っています。初めての試み故に問題は多いでしょう。しかし解決できないものはないと思います」

 沖田はこのとき、デザリアムとの戦いは不可避であると判断していた。
 故にいずれ訪れるであろう大反抗では、乗員の消耗を気にしなくても良い無人艦や、遠征に適している旧ガトランティス帝国軍の艦が
必要になると考えていた。 

「とりあえず第7艦隊は訓練漬けでしょう」
「必要な資材については優先して送る。これは議長や防衛会議も同意している」

 かくして第7艦隊は土方の訓練並にハードな訓練を課されることになる。
 この一方で、改装中のヤマトとムサシの下に、2隻の戦艦が送られることになった。

946earth:2011/10/23(日) 20:01:13

「新しい艦を配備すると?」

 α任務部隊司令官である古代守は、ムサシの第一艦橋のメインパネルに映る藤堂長官に尋ねた。
 この質問に藤堂はすかさず頷く。

『そうだ。議長はα任務部隊に大きな期待を掛けておられるそうだ。
 一部では過剰との意見もあったのだが、α任務部隊には主力戦艦2隻、『アーカンソー』と『ロイヤル・オーク』が配備されることになった」
「これで戦艦3隻、攻撃型空母(ムサシ)1隻の4隻。かなりの打撃力ですが、護衛艦は?」
『主力戦艦2隻が護衛艦のようなものだ。この2隻は波動砲を搭載せず、引き換えに装甲を厚くしている』
「波動砲を搭載しない?」
『そうだ。波動砲を撃つ前と撃った直後、艦は無防備になる。それをフォローするための艦だ。試作として2隻建造された。
 何しろ波動砲に頼り切るのが危険ということがこれまでの戦役、特にガトランティスとボラーの戦いで誰の目にも明らかになったからな。
 勿論、波動カードリッジ弾などの波動兵器も多数揃えている。火力は十分だろう』
「しかし、石頭たちがよく納得しましたね」
『心底納得はしていないだろう。だが何かしら手は打たなければならない。その一環だ』
「正規艦隊で大々的には取り組めない。だから独立部隊のα任務部隊でテストをしてみると?」
『そういうことだ。新装備のテストは第01任務部隊でも出来るが、やはり実戦データも必要になる。君達なら使いこなしてくれると
 議長も考えているようだ。それとコスモファントムも優先して送ると言われている』
「了解しました。議長の期待に応える為にも、全力を尽くします」

 こうしてα任務部隊はさらに強化された。 
 だが梃入れはそれだけではなかった。何とこの度、ズォーダー大帝さえ脅威と見做していた超能力者・テレサが正式にヤマトクルーとして
乗り込むことになったのだ。尤も表向きは超能力者と言うことは伏せているが……。
 また空間騎兵隊も強化され、斉藤を筆頭に『2』の主要な面子が送り込まれた。
 沖田艦長復帰やα任務部隊への梃入れの状況に関する詳しい報告を、議長室で聞いた議長は満足げに頷いた。

「山南さんは植民地星防衛の指揮を執ってもらわないといけないし、土方長官は太陽系防衛の任務から外せないが……まぁフルキャストだな」

 議長の言葉に秘書は頷く。しかしすぐに懸念を口にする。

「ここまで充実すると、あとが怖そうですが……」

947earth:2011/10/23(日) 20:01:54

 この言葉に議長は少し固まった。

「……二重銀河が吹き飛ぶ以上のことでも起きると?」
「否定は出来ないのでは?」
「ははは、まさか。銀河が消えてなくなる以上の大惨事なんて起きないだろう。いくら何でも……」

 そう言いつつも、議長は不安に駆られた。何しろ彼らは色々と前科がありすぎた。

「……いや、さすがに無いだろう。波動融合反応がいくら凄くても宇宙を崩壊させるようなことはないだろう」

 さすがに銀河が吹き飛ぶ以上の大災害を想像できなかった。そして議長はそこで話を切る。

「あとは重核子爆弾だな。出来れば太陽系外で迎撃したいが……」
「難しいのでは?」
「いやこちらに何時到着するかがある程度判れば何とかなる可能性はある。
 劇中では太陽系の各惑星の基地が次々に叩かれていたことから、地球を含む各惑星が直線上に並ぶ時期と考えることができる。
 重核子爆弾の能力からしても、正しい選択と言えるだろう」
「では?」
「その時期に特に警戒態勢を敷く。
 もしも太陽系に侵入されて一部の惑星の基地が全滅しても、基地に配備したロボットが詳細な報告を行うようにする。
 そうすれば各基地の要員を退避させる口実にもなる」

 そこまで読まれていることを知る由も無いデザリアム帝国は、地球の速やかな占領のために重核子爆弾を地球に向けて発射した。
 さらに地球本星攻略を担う地球攻略艦隊も出撃していく。ただしその艦隊はゴルバこそないが、当初の予定より大幅に増強されていた。

「一気に叩くのだ。油断はならん」

 スカルダートは通信機越しに、巨大戦艦ガリアデスに乗る攻略艦隊司令官カザンにそう命じた。
 命令を受けたカザンは自信満々に答える。

「お任せください。あの星をすぐに我が帝国の版図に加えてみせます」

 かくしてデザリアム戦役が始まる。

948earth:2011/10/23(日) 20:04:02
あとがき
さて防衛軍は可能な限りの戦力を集めてデザリアムを迎え撃ちます。
このままだと迎撃戦は山南さんを除いたヤマトのフルキャストでお送りすることになるでしょう。

949ひゅうが:2011/10/29(土) 18:32:13
二次創作もOKとのことなのでお目汚しをば。

最初に諸注意だけ書いておきます。
※ 本作におけるいかなる描写も、作者は特定の民族・国家・団体・人物その他を貶める意図をもっているものではありません。
また、そういった描写、または二次創作作品に対し不快感を覚えられる方は本編を読まれないことをお勧めします。
元ネタについては、末尾において記述いたします。

では、「英国無双かく戦えり」はじまります。

950ひゅうが:2011/10/29(土) 18:33:44
※最初は原作から。



ネタSS――英国無双かく戦えり〜HELLSINGにあの人たちを突っ込んでみた〜


「ハンッ。」

彼は侮蔑の笑みを漏らした。
額からは血が滴り落ち、首元のヘッドセットへと垂れている。
部下たちは、すでに「あの世」とやらへ徒党を組んで進撃してしまっていた。
さて、そろそろ私もいかなければ。

大英帝国海軍中将にして大英帝国安全保障特別指導部 本営の長という長ったらしい役職についている男、サー・シェルビー・マールヴァラ・ペンウッドは、一世一代の会心の笑みを浮かべる。
目の前にいるやたら犬歯の多い男――いまどき流行らない黒い髑髏の制服の男は、その様子に少し怪訝げになり、ルガーを彼の方に向けた。


「何がおかしい。人間?」

「無能な、こ、このわ、私より、無、無能な、貴、きッ様らがだよ!」

この、廃墟となりつつある本営へ乱入してきた武装SSの者どもはその時、異常に気づいたらしい。
慌てて周囲の至る所に仕掛けられた爆弾類を見渡し、驚愕の表情を浮かべる。
ペンウッドは、ますます口元の彫りを深くした。

そう。その顔が見たかった。

栄光を失い、衰退し続けるロイヤル・ネイヴィーを守り続け、現状維持という名の没落を続ける中、ただ仕事をこなしてきた一生だった。
そんな人生の・・・生まれついた地位で与えられた職務を忠実に果たすだけの人生、負け続けの人生で、ただ一度。

そう、死ぬ前にただ一度の勝利を得た。いや、得つつある。
そう思うと、ペンウッドは今まさにこの帝都大ロンドンを焼き尽くし、殺戮し尽くしつつある哀れな敗残兵――吸血鬼どもになぜか親近感を抱いている自分に気がついた。

「さ、さよ、さようなら。イ、インテグラ。わ、私も楽しかったよ。」

全周波数帯に向けて放っている電波の波に乗せて彼は、彼の娘のような親友の愛娘に向かって別れをつげた。
そして、ペンウッドは、左手のじんわり湿った手袋に握りしめていたスイッチをゆっくりと胸の前に持ち上げる。

「やッ やめろォ!」

五月蠅い吸血鬼のSS将校が拳銃弾を放つ。
続けざまに右腕、そして肩へと命中するものの、慌てているせいか一発で意識を失わせるには至っていない。
素人め。

「嫌だ!」

少し体を倒しながら、ペンウッドは言ってやった。
先ほどまで思い出していたあの娘、インテグラ卿を思い出しつつ。

「そんな頼み事は、聞けないね!!」

951ひゅうが:2011/10/29(土) 18:35:57
Side ペンウッド

――ボタンを押した。
漂白される視界。体が持ち上がるのを感じた。

一生の思い出が早送りで流れていく。
最初の記憶は、ロンドンの一室。
そして、父に認知され、屋敷に引き取られた。
スパムばかりの生活に飽きていた頃、冷戦というものを知った。

ほどなく父は亡くなり、うら若き女王陛下のもと大英帝国は解体されていく。
東西冷戦のさ中、海軍に入った。

家柄からか、自分でもびっくりするくらいに大事にされた。
やはり、あの父の子だということが助けになったのだろう。お偉方のつきあいには出席させられた。
あの労働党ですら、自分がいるから艦隊航空隊の解体をしばらく待って特殊部隊へ飛ばす措置をとった。


ベルファルストでは死にかけた。
チェルネンコが書記長をはじめた頃には、アフガンに送り込まれた。
といっても後ろの方で椅子を暖めているだけだったが。そういえば、あの越境して子供を助けた特殊部隊は自分の口ききというやつで助かったのだろうか。
シベリアに送られるのだけは阻止してやりたかったが・・・

そして、あのフォークランド。
寒中水泳をしながら空飛ぶモンティパイソンの歌を歌っていたらなぜか中将になっていた。
妻は・・・あの見合い結婚をさせられた彼女は、義務を果たしたからといってずいぶん遊びまわっていたが、呆気なくこの世を去ってしまっていた。

年上の友人だったアーサーは短い間だったがデスクワークの私にずいぶん無茶をいってくれたものだった。
ああ、そういえば、あの頃だったか。あの娘にはじめて会ったのは。
ウォルターに連れられて、当主就任を「通告」してきたあの娘。
思えば、あの頃があの娘の笑顔を見た最後だった気がする。



いつのまにか、視界だけが回復したようだった。
いや、これは夢を見ているのだろうか。現実感はあるが体は動かせない。
当たり前か。もう私は死んだのだから。

ああ。あの娘だ。

ああ。そうか。
そうか。ああ、泣くんじゃないよ。
ほら。


そこで、目が覚めた。
そこは――






――1984年 アフガニスタン中部 ヒンドゥークシ山脈山中


Side 彼女

不覚だった。
あの大隊長が強硬策を採らなければ・・・なぜあの山岳要塞にヘリボーンのみでの攻撃を行うんだろう。
おまけに狙撃兵を使って敵の指揮系統を分断?
われわれ狙撃兵は特殊部隊じゃない!

「おまえ、ひトじち。」

神は偉大なり、と唱える宗教的情熱などまったく考えられないような男がニヤりと笑う。

952ひゅうが:2011/10/29(土) 18:37:46
ゲスが!

ソ連空挺軍 第318後方攪乱旅団第11支隊に所属する中尉は奥歯を噛んだ。

あのモスクワ上がりの中佐殿が怒るのも分かる。
こいつは、こいつらは戦士じゃない!
あの憎むべき米帝も鼻白むような、死の商人に成り下がった奴らの手下だ!

奴隷貿易に薬物、武器密輸にテロールその他なんでもござれ。
長期化するアフガン侵攻作戦の主敵戦力たる中東圏の戦士たちに武器を売るかわりに、この国のあらゆる者を奪い尽くす。
そんな黒い欲望にまみれた連中がベイルートやテヘラン経由で入っていることは知っていたが、まさかそのアジトを発見するとは。

そこまではよかった。

が、血気盛んなモスクワのボンボン――私も人のことをいえないが――が怒りにまかせて強攻策をとったのがいけなかった。
ここは、この山岳をくりぬいて作られた地下要塞をみれば、あのゲスどもが護衛を雇っていないなんてわけはない。

ここは、ベトナムじゃない。
守る民兵(聖戦の参加者)は後方の少年兵で武器商人どもを一網打尽にできるなんてことはない。
ここを守っていたのは南アフリカ共和国軍の不正規部隊。あのアパルトヘイトにまみれた国の黒い闇に生まれた正真正銘の人でなしどもだ。
奴らがボツワナで何をやらかしたのか、古参の情報通である軍曹は語ってくれた。
今度はこのアフガンで人の生き血をすすっているのか!


「だガ、ソの前に、アの部隊ガ撤収したくナルくらイは警告しテおクヨ。」

下手なロシア語で、口髭をたくわえた男たちは下卑た笑いを洞窟陣地に響かせた。

――このイオー・ジマなみの陣地に蓄えられていたのは、女。
わがロジーナ(祖国)に対抗するムスリムの中でも一番過激で、極悪な連中の、そう、女をただの財産としか考えていない連中から買い取り、売り飛ばす。
村の畑はケシ畑となっているし、住人は中毒を起こし逆らう気力も残っていない。

あの坊ちゃんが怒る気持ちも分かる。
だが、想定以上の敵戦力により強襲は失敗。先行配置されていた狙撃兵部隊は撤退する空挺兵たちを援護するために山腹に踏みとどまり…運悪く私だけが生き残った。

ムカつくことにこの男どもは戦域司令官に「取引き」を持ちかけようと考えているらしい。
そのために何かやろうというのだが・・・
私の脳裏に、悪夢のような何文字かがよぎる。

「安心シナ。中身ニはキずハ付けナい。ヤれレば何デもイイって御仁も多イ。アンタの大好キな祖国の連中モな。
知ってイるか?ォ前、余程モスくワから嫌わレてルらしいナ。イや、お前ノ親父ガ、か。」

「父が何を・・・ぐっ!」

縛り付けられたまま、蹴りを入れられた。

「心配スるナ。殺しハしナい。どんなニなってモ、あんタを飼いタいってさ!親父サんもいヤな政敵持っタな。いや、性的カ?」

ぎゃはははは。
周囲でマチェットを弄んでいた男たちが下卑た笑い声をあげる。

そんな。
こいつらは、モスクワにまで連絡ルートがあるのか?
そして、私は・・・

「ま、アンタの上司ガ取引キを受け入レたら止めテやル。お前ノ顔ハあノ無神論者次第っテことサ。」


私の周囲の男たちは、何やら準備をはじめていた。
火かき棒を暖炉――アフガンの寒さの中では必須の練炭炉――に突っ込み、かと思えば別の男が日本製の小型カメラを三脚にセットしている。

「お前も無神論者じゃないか!ただ金でだけ動く薄汚い――」

今度は銃床で殴られた。
密造カラシニコフ・・・いや、中共製か。

「映画デもいっていタな。日本人はイイかめらヲ作ルって。」

男は赤熱した火かき棒を取り出した。
確か、その台詞は・・・そうだ。あの映画で、キューブリック・・・英軍将校・・・リッパー将軍・・・皆殺し装置・・・いや、泰麺鉄道?


「1分おキに皮膚ヲ焼く。さア。どれダけ耐えらレるかな?」

「ひっ。」

953ひゅうが:2011/10/29(土) 18:40:25

いつの間にか繋いでいるらしい司令部間TV回線の向こうから、「やめろ!それでも」という声が聞こえてくる。
ああ、そうか。こんな軍事機密の塊にまでアクセスできるってことは、私の運命なんて、党の上層部でもう決定されているんだろうな。

「記録ハ48分が最高ダ。」

ぺろり。
左手に握ったナイフを男は舐めた。右目の目蓋をつ・・・となぞってくる。
血が流れるのが分かった。

「おマエ、そういエばオリンぴックに出タイっテな?」


怒りが体を満たした。
私は、そいつをにらみつけた。
体は震えている。
私をどうしても、いい。だが、私の夢だけは、夢だけは・・・

だが、ヤツは笑い、左手に握られた火かき棒が近づいてきて…


爆発。

閃光。

悲鳴。

そして銃声。

トンネルは土煙で満ち、裸電球の光もほとんど見えなくなった。


私の意識は、そこでいったん途切れた。


「ああもう。こきつかいやがって。アーサーのヤツめ!フォークランドから帰ったら今度はこれか!?
ベルファルストで和平会議の護衛してた方がまだ楽だぞ。というかなんで俺は現場に出されているんだ!」

そんな、英語の声で、目が覚めた。


――そして、帝都ロンドン

Side 副官(従兵)


パン!

間抜けな銃声を立てて頭が飛び散った。吸血鬼信奉者だ。隠れていたらしい。

「ふん。矢張りこうなるか…」

ペンウッド卿が溜息をついた。

「司令。移動大本営のウォルシュ閣下と連絡がつきました。陛下は脱出を完了。近衛第1連隊およびロンドン師団は健在!現在封鎖線から孤立した市民の救出に向け『突撃』を敢行中との由!」

「そうか。『疎開船団』は無事河口に達したか?」

「は。すでに。機甲部隊はロイヤル・オックスフォード連隊が、それに臨時編成した3個武装ヘリ小隊が打撃線を構築しつつあります。現在は『生存する』市民の約半分が市街地より脱出したと・・・!」

さすが、閣下の肝いりで整備された部隊です。とスタッフは付け加えた。

「うん。だがこの本営もまぁ、持つまい。『ここ』だけを守っても意味はないが、だが通信管制はもう意味を成していない。さすがに救援は間に合わない…か。」

卿は、報告をした私にやわらかに笑いかけた。

「私の指揮能力では…そして今の英国軍では、これが限界なのか…」

「閣下。」

私は居住まいをただした。

「閣下がいなければ、ここまで戦えなかったでしょう。近衛第1連隊がバッキンガムを枕に防衛戦を展開することも、空軍が限定的ながらもエアカバーを成し遂げ敵の空中巡洋艦1隻を撃沈、1隻を撃破することも・・・そして大英博物館や大英図書館の防衛に成功することも!」

大英帝国帝都防衛「臨時」司令官にして、「SASの英雄」、「フォークランドの獅子」の異名をとる私の上司、サー・シェルビー・M・P・ペンウッド海軍大将は苦笑するように笑った。

「やれることは、まだあった筈だ。50万余の市民が殺され、今や残った100万あまりを殺しつつある。この地獄を避けるために、私はあらゆる手を尽くしたつもりだった。
こうまでして・・・いや、ここまできて――」

「閣下。」

ペンウッド閣下は顔をあげると、踵をならした。

「ここを放棄する。伝令!大ロンドン東部は放棄。これより司令部はテムズ河の指揮艦『サンダーチャイルド』へ移動を試みる。連絡途絶の後は指揮権は移動大本営に移管する!」

「了解しました!」



――大西洋上の改インヴィンシブル級VTOL空母「イーグル」の通信途絶にはじまった危機は、南米方面から出現した超大型飛行船団による帝都ロンドン強襲、そして武装SS部隊の着上陸により頂点に達した。
緊急招集をかけられていた安全保障特別指導部は、市内で健在だった近衛第1連隊、ロンドン連隊を基幹として敵「吸血鬼」の襲撃を排除しつつ、テムズ河に突入したグランドフリート第2戦隊と空軍残存部隊による火力支援をもって戦力を糾合。
警察官はもちろんのこと、一版の警備員、果ては軍隊経験のある市民を武装させてのなりふり構わぬ防衛戦は一定の効果を発揮し、大ロンドン都市圏の総人口350万余のうち120万あまりを「死都」と化したロンドンより脱出させることに成功しつつあった。

954ひゅうが:2011/10/29(土) 18:41:47

だが、予想をはるかに上回る敵部隊の戦力や、ミサイルをはじめとした戦術打撃能力を徐々に失っていく味方部隊に対し、最後は「盡力」で劣る味方部隊は各個に撃破されていった。
敵は、攻撃目標をこの本営へ向け収束。
すでに本営の指揮能力は限界に達しつつあったのだ。

いかに、海軍入隊以来研鑽を怠らず、特殊部隊を転々としながらベルファルストではIRAと死闘を繰り広げ、アフガニスタンでは壊滅の危機にさらされていたソ連軍の一部部隊とともに麻薬・人身売買ジンケートを壊滅に追いやり、フォークランド紛争ではわずか2個中隊で師団規模の攻撃に17日間にわたり耐え抜いたペンウッド卿といえども、今回ばかりは厳しかった。






今回は少しだけ、撤退の決断は遅かったようだった。
頷き、走り出した伝令(ケーブルの断線や無線妨害によりオートバイ伝令兵が主力となっていた)と入れ替わりに駆け込んできた伝令は

「敵第3挺団、突撃を開始!正門防御陣地が突破されました!」という報告を持ってきた。


「全員、着剣!私以外のスタッフは、脱出せよ!」

「司令!」

「なあに、心配はいらんよ。」

ペンウッド卿は鍛え上げられた右腕をポンと叩いた。

「徒手格闘戦には『いささか』自信がある。さ。速く。」

「ですが閣下!」

「くどいッ!」

バン!

恐ろしく近くから、爆発音と悲鳴が聞こえてきた。
防弾チョッキとヘルメットを身につけた本部スタッフと参謀たちは、一瞬顔を見合わせた後、敬礼を捧げた。
慌てて私もそれに従う。

「さらばだ。諸君。いずれ『また』あっちで会おう。」

「閣下も!」

スタッフが、先ほど乱入してきた吸血鬼(元同僚)の死体を踏みつけながら走り去ってゆく。非常用地下道は確保されており、彼らが脱出した後でこの本部もろとも爆破される手はずになっていた。


「君は、行かないのか?」

「いえ。私は、閣下の従兵ですから。それに、閣下を見捨てて逃げたなんてことになれば、『あの』奥方に何をされるのやら・・・」

ペンウッド卿は、ああ、「あれ」か・・・と思い切り脱力していた。

「まぁ、あいつのことだ。この死都でも鼻歌を歌って切り抜けそうだな。どこにいるのかは分からんが。今日はたぶん息子の誕生日プレゼントを買いにいっているはずだが・・・」

「吸血鬼でも、あの方には・・・ね?」

「そうだな。」

ペンウッド卿・・・閣下は、笑った。
閣下と奥方については、わが軍内部でも様々な噂が飛び交っていた。
ダートマス出の朴念仁の典型といわれていた閣下に、年下の奥方ができたと知れた時はちょっとした騒動が巻き起こったものだった。

噂では、女王陛下までもが奥方に会いたがったとか。
もっともそのおかげで、出自が特殊すぎる奥方と結婚した閣下も奥方も今は何もいわれない。
まぁあの方が特殊すぎるというのもあるが。


「さて・・・来るぞ!」

閣下の言葉とほぼ同時に、指揮室の扉が爆破された。

955ひゅうが:2011/10/29(土) 18:42:41

そして、時代がかった黒い軍装に身を包んだ集団が、コートを羽織った髑髏の軍服のSS将校を先頭に入ってきた。

「手こずらせたな。能なしども。・・・おまえが司令官か?」

「そうだ。だが私が死んでもまったく問題はないぞ。すでに指揮権は別のところに引き継がせてある。」

ほう?と、SS将校は少し怪訝そうな顔になった。

「お前らになびいた売国奴どもは処刑済みだ。もう少し歯ごたえのあるものかと思ったぞ。吸血鬼というのは!」

「言ってくれるな。人間!」

どうやら怒ったらしい。
SS将校や周囲の武装親衛隊員(ヴァッフェンSS)から怒気が上がる。

「さぁ。かかってこい。怪物(ミディアン)ども。この時を50年も待っていた!
夜はもはやお前たちのものじゃないことを教えてやる。」

閣下が銃剣付きの小銃を構えた。
私も・・・






「・・・おやおやおやぁ?」

いきなりだった。
爆発しそうだった殺気を打ち消すような、女性の声が指揮室に響いた。

「今日は一緒にあの子の誕生日プレゼントを選んでくれるって言うからずっと待っていたのに、何をやっているのかしら?」

怜悧な声は、確かな殺気を放って、小さな体育館なみの大きさの指揮室にこだました。
見ると、吹き抜けになっている二階のキャットウォークに、スーツを着た女性が立っていた。
銀髪をポニーテールにし、右手にスチェッキン・マシンピストルを持ち、肩には何やらいろいろと武器を詰め込んでいるらしい背嚢が、そして頭には赤い星の徽章が入ったベレー帽がのっている。

表情は、もちろん満面の笑み。

「げっ!!」

ペンウッド卿が後ずさった。


「何をしているのかしら?あなた?」

「いや。見てわかんない?戦争。」

「あなたは、こんな戦争ごときで私との約束をすっぽかしたのかしら?」

右目の古い傷跡を歪め、彼女、ソフィーヤ・I・P・ペンウッド夫人はシベリアなみの極寒の怒気を発していた。
見れば、彼女の周囲には戦闘服を着た連中がいつの間にか集結している。

しかも全員が、旧東側の、もっといえばソヴィエト空挺軍の軍装に身を包んでいた。
火器に一部西側のものが混じっていたが、それがどこかおかしかった。

「戦争ごときってなぁおまえ。」

「結婚する時約束したわよね?お互いに秘密はなしにしようって。予定はきちんと守ろうって。」

「そりゃカラシニコフを頭に突きつけられながら三日三晩を過ごしたあと精根尽き果てたらそうなるって。というか、なんでここにいるんだよ!?」

「あら?私を愛しているって・・・それは嘘?いつも一緒にいようって言ってくれたじゃない?」

「嘘じゃないよ!・・・って今はそれは――」

「おい!」

顔を真っ赤にしたSS将校が怒声をあげた。


「いつまでも乳繰りあってないで・・・というか何なんだお前たちは!」

うんうん。と周囲の吸血鬼たちも頷いている。
彼女は、ようやく彼らに気付いたかのようにゆっくりと首を回すと、

「黙れ、クラウツ(ドイツ人)。それはこっちの台詞だ。」

怖い。

これがあるからこの人は怖い。

956ひゅうが:2011/10/29(土) 18:46:59
※ わかりやすいように最後にリンクをのせておきます。
earth閣下のヤマト第52話>>944-948
本作>>949-956



ゆらり。
彼女の姿がゆらめくと、次の瞬間彼女は我々がいる地面へ降り立っていた。

「よほど学習能力がないと見える。せっかく白ロシアからライン川までお前らを殺し、燃やし、ベルリンを焼き尽くして懲罰を加えてやったのに。
偉大なるソヴィエトの味をもう忘れたのか?豚ども。」

「黙れ!劣等人種が!ソヴィエトの亡霊がなぜロンドンにいる!?」

「ほう。ということは筋金入りのナチか。なるほどなるほど。ならば我々がいなければいけない筈だ。
忘れたのか?モスクワで、スターリングラードで、スモレンスクで、ダンツィヒで、ベルリンで、誰がお前たちに敗北を与えた?
1000万のドイツ豚もろとも伍長の狂った夢想を打ち砕いたのは?」



カツカツカツ。



信じがたいことに、彼女はハイヒールにスーツ姿だった。
彼女の後ろには、アフガン侵攻時のソヴィエト空挺軍そのままの男たちが続く。


「ナチあるところに赤軍あり。なるほど私はついてる。沿ドニエステルみたいな偽物じゃなくて、このロンドンでナチを存分に鏖殺できるんだから。
――どうやら今日はお祭りみたいねあなた?
なら、楽しみましょう。大祖国戦争以来のダンスのお相手、お願いできるかしら?
ミスター『英国無双』?」

くるり、と顔だけ後ろを振り返り、夫の姿を見た彼女は、そう言った。

ペンウッド卿は少し溜息をつき、そして言った。

「ああ。喜んで。アフガン以来の共同戦線(ダンス)だ。やってやるさツイストでもタンゴでも。お前と一緒なら、どこまでも行けそうだよ。」



何とかなるかもしれない。と私は思った。
この奥方が率いているのは、かつてアフガンでその名を馳せた「後方撹乱部隊」。
ふざけたアメリカ人が肥え太らせた悪魔の組織を壊滅させるため水面下で英国と協力し、あまりに強すぎたがためにモスクワの権力闘争の結果部隊ごとなかったものにされそうになり英国へ「亡命」した連中だ。
雲の上での取引で儀礼部隊である近衛第2連隊所属として軍籍には載っているものの、その実態は今やすっかり有名になってしまったSASと並ぶ英国最強の特殊部隊。

その構成員のほとんどがロシア人であるため、人は彼女らをこう呼ぶ。
「ホテルモスクワ」と。



――ある男がいた。
後悔と、来るべき時の記憶をその身に宿しながら、男は夢を見る。
そのためだけに彼は足掻き、もがき。

その身は舞踏会ではなく戦場で鍛え上げられ、その頭脳は才能のかわりの努力で磨き上げられた。
人呼んで、「英国無双」。

そして、彼はいつしか「夢の続き」にたどり着く。

そんな話。


〜続かない〜


元ネタ 平野耕太氏 著 「HELLSING」より
    広江礼威氏 著 「BLACK LAGOON」より



【あとがき】某サイトでママライカというものを発見したら思いついた。
元のままでも格好いいペンウッド卿を本当に「英国無双」にしたいと思って書いていたら彼女に全部もっていかれた気がする。
たぶん飛行船を道連れに爆死はしそうにないでしょう。
(彼の「M」の中身や作中のエピソードは創作です。)
最後に、こんなゲデモノを読んでくださってありがとうございました。
なお、一回でも笑ったら、同志書記長の命によりスターリングラードへ出征することになるらしいです。というわけで弾丸5発持って逝ってきます。

957名無しさん:2011/10/30(日) 16:39:29
うおおおおおおおおお!!!!さすがは、ひゅうがさん!
この勢いで是非、ブログのSSの方も書いてほしいなー(棒)

958名無しさん:2011/10/30(日) 16:58:59
>>957
書く所を間違えました、すみませんでした。

959earth:2011/10/31(月) 20:17:26
53話です。

 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第53話

 天体観測の結果、議長は太陽系の各惑星がほぼ直線上に並ぶ時期を特定した。
 これを受けて議長は様々な理由をつけて(でっち上げて)、その時期にあわせて特別警戒を行うように根回しをした。
 一部の人間はこれに不審に感じたものの、その理由を理解している転生者たちは、ガトランティス戦役を上回る戦乱に
なるであろうデザリアム戦役がいよいよ始まることを理解した。
 連邦政府ビルの一角で行われる転生者たちの密談も、デザリアム戦役の話題でもちきりだった。 

「いよいよですな」

 転生者たちは、迫り来るデザリアム戦役に緊張を隠しきれなかった。
 
「議長、防衛軍はどのように彼らを迎え撃つおつもりで?」
「まずは情報収集だ。太陽系外で重核子爆弾や敵の侵攻艦隊を察知するためにパトロール艦隊を増派する。
 発見次第、艦隊を派遣して目標を破壊。艦隊決戦は基地からの支援が期待できる太陽系外縁で挑む。
 太陽系外で訓練中の第7艦隊も呼び戻しているから、タイミングを合わせれば敵艦隊を前後で挟撃できる。
 ただし重核子爆弾によって派遣した艦隊が無力化される可能性もある。
 もしも乗員の生体反応が消滅すれば、コンピュータに自動報告させた後、簡易量産型アナライザー(以降、Mライザー)と
 自動操縦システムで土星基地に帰還させる」
「太陽系外での発見や迎撃に失敗した場合は?」
「不本意だが、外惑星基地に犠牲になってもらうことになる。
 11番惑星基地や冥王星基地などが潰されたら、即座に各艦隊を出撃させて迎撃だ。波動砲で叩き落す。
 仮に重核子爆弾の攻撃可能範囲が波動砲の射程以上だった場合は、アイルオブスカイの波動直撃砲やデスラー艦の瞬間物質移送装置で
 波動砲をチャージした状態の自動戦艦を送りつけて叩き潰す。そして残存艦隊を集結させ、敵侵攻艦隊に決戦を挑む」
「なるほど……勝算はどの程度ですか?」
「状況が流動的なので一概には言えない。ただ太陽系各惑星の基地や防衛艦隊の戦力を考慮すれば……5割以上と判断している」
「これだけ準備して5割ですか……」
「戦争は水物だ。まぁ仮に防衛軍が壊滅してもヤマトがあれば、地球は生き残れるだろう」

 この言葉に誰もが複雑な顔をする。
 自分達の努力を嘲られているような感覚を覚えたのだ。

「まぁ犠牲を少なくし、一人でも多くの将兵が家族の元に帰れるように努力しよう」

960earth:2011/10/31(月) 20:17:56

 こうして地球防衛軍は厳重な警戒態勢を敷いて重核子爆弾を迎え撃つ体制に入る。
 各艦隊は訓練の名目で出港準備を急ぎ、各基地も防空体制を強化していく。準戦闘配備と言っても良かった。

「さぁ来るなら来い。今度こそ、防衛軍主力で叩き潰してくれる」

 しかしそんな議長の思いを他所に、予期せぬ事態が起きようとしていた。
 それは相変わらず土星で訓練中のヤマトから始まった。

「地球に危機が?」
「はい」

 テレサはその超能力でもって地球に迫り来る危機(重核子爆弾)のことを察知したのだ。
 さすがに具体的には何かとまでは断言できなかったが、それでも島を始めとして主なヤマトクルーの面々はテレサの言葉を
信用した。

「古代」

 島は古代に顔を向ける。これを見た古代は頷くとすぐに口を開く。

「判っている。参謀本部や防衛軍司令部が各惑星の艦隊を訓練の名目で出航させているのも、何か関係があるのかも知れない」
「つまり政府は何かを知っていると?」
「その可能性はある」

 この古代の意見を聞いた真田は頷く。
 
「確かに。ボラーか、それとも何か公表できない情報源から情報を得たという可能性はある。
 危機について何も公表しないのはパニックを警戒しているのか、それとも危機が本当に来るかどうか断言できないか……
 いずれにせよ何か事情があると考えたほうが良い」
「『政治的判断』という奴ですか。しかしそれで犠牲が出たら」
「その辺りは議長もわかっているはずさ。そうでないなら、ごり押しして訓練を名目にした警戒態勢なんて敷かないだろう」

961earth:2011/10/31(月) 20:18:44

 この真田の言葉にヤマトクルーも納得した。
 ヤマトのよき理解者(笑)であり、後援者でもある議長の評価はヤマトクルーの中ではすこぶる高かったのだ。

「守の奴からも聞いたのだが、議長は防衛軍司令本部とも話をして、パトロール艦隊を太陽系外に増派している。
 あと噂なのだが、議長が警戒しているのはデザリアム帝国らしい。二重銀河を支配する帝国だから、帝国の威信にかけて
 復讐戦を仕掛けてくるのではないかと踏んでいるようだ」

 そこで南部が納得したかのように頷く。

「だから、うちに戦艦を護衛する戦艦なんて送ってきたと?」
「だろう。議長はどうやら、我々を扱き使うつもりのようだ。全く人使いが荒い」

 真田は苦笑する。
 しかしそんな真田とは対称的に、古代は渋い顔だった。

「ですが真田さん、パトロール艦隊は危機のことを知らないんですよね? そんな彼らに本気で敵が襲い掛かったら……」
「……犠牲は避けられないだろう」
「ヤマトとムサシなら」
「無理だ。防衛軍司令本部はα任務部隊は練度の向上に務めることを命令してきている。それに新型機の訓練だって十分ではないだろう?」
「それは……」
「ふむ……だが確かにパトロール艦隊が報告する前に包囲殲滅されるという可能性は否定できん。
 救援に出れるように手は打っておくべきかも知れないな。よし守にも話をしてみよう」

 こうしてα任務部隊は動き出す。

962earth:2011/10/31(月) 20:20:20
あとがき
世の中には「因果応報」という言葉があります(笑)。
そして次回、いよいよ接触です。

964名無しさん:2011/11/06(日) 17:50:27
巨大戦艦に波動砲が通用した事に驚きを感じた。
波動砲の防御法は真田さんがあっさり開発しているし、他の宇宙人も保持している(要塞級の巨大艦船でないと装備出来ないっぽいが)割とありふれた技術です。
ガトランティスには彗星の防御スクリーン(ガス帯)以外の防御方法はなかったのだろうか。

965名無しさん:2011/11/08(火) 15:43:26
本文良く読め。
動かす前に都市要塞ごと吹っ飛んでる。
何より、大帝もよくわからんうちに死んでるのに防御も何もないだろ。
あと、感想は感想スレに書けよ。

966名無しさん:2011/11/09(水) 20:13:31
読んだ感想だよ。
ガス帯をテレサの超能力で吹き飛ばせたのは良い。テレサ自体がガトランティスと単身で渡り合えるチートだし。星爆弾、波動砲のコンボで大帝戦死もまあ良い。
ガス帯の消滅、軌道変更と巨大戦艦の撃破はテレサでも本気で当たらなければならなかった。地球艦隊の波動砲の一斉砲撃が本気テレサの惑星爆弾と同じ。
惑星都市は描写を見る限り、拡散波動砲でもイチコロだろうけど巨大戦艦は正直、波動砲では火力不足で効く気がしない。
テレサが波動砲の発射に合わせ能力一点集中で巨大戦艦の装甲に穴でも開けたのだろうか。

967名無しさん:2011/11/09(水) 20:37:48
ここは投稿スレです
感想は専用の感想スレがあるのでそちらに書きましょう

968ひゅうが:2011/12/01(木) 22:22:20

提督たちの憂鬱支援SS 中編版――「リバティベルが鳴る日には」

プロローグ

――西暦1962年4月 日本帝国 帝都東京 日比谷公園

「老けましたね。嶋田さん。」

「そういうお前もな。辻。」

帝都東京。
この地球でも最強といわれる国家の中心は、杜である。
鬼門に靖国神社を配し、かつて天海大僧正が作り上げた霊的な防御機構をも取り込み、恐れ多いところを中心とした衛星軌道を配したこの都市は、発展の真っただ中にあった。

皇居が南面する東京駅の周辺は超高層ビルの建築ラッシュであるし、明治時代以来営々と年を重ねてきた霞が関の官庁街は化粧直しを施され、1930年代のモダニズムから明治時代の赤レンガ街に色彩的には近づきつつある。

しかし、この都市の――世界最大の海洋である太平洋とインド洋をその実質的な支配下におく超大国の中心は微動だにせず、今も日本人の帝国とそれに次いで世界の(当然だろう。日本帝国は「日本人のための」国なのだ)安寧を祈っている。

あの太平洋の戦い以前に比べて主上にかかる負担は減っており、たまにはこうして昔の臣下を呼んで世間話をする時間があるのは結構なことだと嶋田は思った。

その帰りしな、いつも寄る公園の屋台で一服していると、彼の周囲には、何人かの学生が集まり、彼にサインをねだってきた。
先ほどまでは快くそれに応じ、引退したとはいえ帝国の政界に絶大な影響力を持つ嶋田を取り込もうとやってきた野心のある政治家を(わざわざ歩いてきてやったという態度が丸出しだった)面前で一喝し震えあがらせていたが、予定通りそこへ辻がやってきた。

彼は、周囲を騒がせてしまったことをガーデンテラスで談笑する人々に詫び、辻と向き直った。
友邦であるインド連邦産のアッサムにミルクをたっぷり入れた嶋田は、二重橋を横目に一服した。
彼は「神崎将人」だった頃から煙草は苦手であり、こうした紅茶を好んでいたのだった。
その点でドイツのヒトラー元総統から「国際嫌煙学会」への協力を要請されて苦笑いしたりするが、現在の彼は基本的に自由人という扱いだった。

「なに、俺は史実では80年代まで生きるらしいからな。せいぜいお前の目をぬって暇を堪能するさ。」

「それは重畳。この資料をお渡ししても問題ない程度にお暇ということですね?」

嶋田は、にやりと笑う辻に、露骨に溜息をついてみせた。

「お前な・・・。」

口を開きかけた嶋田は、辻の様子が少し変わっていることに気づく。
いつもの黒さが少しだけあせ、何か思いつめているようだ。

この表情を辻が見せたのは、もうずいぶんと前――あの衝号の一件以来だった。


「どうした?帝国は問題多いながらも発展している。核兵器管理体制はしつこいくらいに万全。国際防疫に関しては先日西ナイル熱の封じ込めに成功したばかりだろう?まさか東米で何かあったのか?」

嶋田は、周囲を素早く見渡す。
彼の周囲を固めている特殊警備課の警護官たちはわざわざ自分の彼女と談笑するようにして自然さを演出し、話を聞こえないようにしている。

周囲200メートルのクリーニングは済んでいるはずだ。


「いえ・・・少し昔のことをね。今回お渡しする資料に関することです。」

「お前がその言い方をするということは、俺に昔話を聞かせるつもりなのだろう?」

嶋田はあえておどけてみせた。
やれやれ。これから山本のところに寄るつもりだったが・・・あいつの孫だくさんの相手は少し待ってもらわねばならないらしい。

「では、これを・・・。」

辻が差し出した冊子の表題には、こう書いてあった。

「リバティ・ベル計画に関する調査報告書 閲覧厳禁」。

969ひゅうが:2011/12/01(木) 22:23:06

――西暦1943年3月 北米大陸 カリフォルニア市

フランクリン・D・ローズヴェルトは、温かな日差しの中ゆっくり深呼吸していた。
元大統領である彼は、崩壊したアメリカ合衆国の様子に心を痛めてはいたが、あの大恐慌の収拾にあたった日々に比べれば体調はすこぶるよかった。

妻のエレノアとはじめたオレンジ農園は紆余曲折の末に軌道に乗りなかなかの評判だったし、だからこそこの混乱する西海岸経済の中にあって彼は安定した老後を過ごせていたのだった。

だが、そんな彼の平穏な日々はつい一昨日唐突に終焉を迎えた。
だからこそ彼は久々にスーツに袖を通してオレンジ園の真ん中で客人を待つということをしていたのだった。

「閣下。」

「グルー君か。」

ローズヴェルトは笑みを浮かべた。
元駐日大使であり、現在はカリフォルニア政権と呼ばれる西海岸諸州のゆるやかな同盟の外相をつとめるジョセフ・P・グルーがそこにいた。

彼の横には、東洋人の男性がいる。
ローズヴェルトに珍しい切手(最近再独立を宣言したタンヌ・トゥヴァのものだった)を送ってきて以来の付き合いである男、岩崎久弥だった。
日本を代表する財閥の総帥である岩崎は、日本政府から特使としてこのカリフォルニアにわたってきていたのだった。

日本人にいささか偏見のあったローズヴェルトが得た、はじめての日本人のペンフレンドでもある。

「やあ。久しぶりですな。」

年上である岩崎をローズヴェルトはにこやかに迎えた。

「閣下。急に御用とは。」

ローズヴェルトの顔が曇った。
あの恐ろしい――計画。
それについて彼に話さねばならない。
でなければ、彼や、彼をはじめとするアメリカ合衆国国民は、永遠にあの悪夢を恐れ続けなければならないのだ。

自由の鐘が鳴らされる時、合衆国は・・・いやその残骸は人類の悪夢を凝縮した存在になってしまうだろう。
それを避けるためには、ローズヴェルトは悪魔とでも手を結ぶ覚悟だった。

それが、実質的な「最後のアメリカ合衆国大統領」となった彼の責務だと、彼は考えていたのだから。



――同日 旧イリノイ州 シカゴ近郊 海軍作戦本部

廊下の落書きを見ながら、ジョセフ・F・エンライト「大佐」は暗儂たる思いにかられていた。
先ごろまでこのシカゴを支配していた旧連邦軍臨時第2軍が実質的に崩壊して2週間あまり。
現在は「五大湖同盟」を称する旧イリノイ州軍の残党がアメリカ合衆国非常事態軍政指揮本部を名乗ってこの都市を維持しているが、その実態たるやごろつきとなんら変わりがない。
春だというのに気温が10度を下回りみぞれが降る天候状況の中で、「連邦陸軍」はケンタッキーへの侵攻とロッキーを越えて西海岸を「併合」する準備にいそしんでいるらしい。
かつては大学の講堂だったこの場所は、現在も続くわけのわからない「内戦(シビル・ウォーⅡ)」の中で爆撃を受け、下卑た落書きを残した同盟の兵士もろともずたずたになった後のままだ。

まったく、一時的にしろノーフォークを回復し、停止されたはずの鉄道網を一部とはいえ掌握しているのが奇跡のようなものだった。




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