したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

中・長編SS投稿スレ その2

1名無しさん:2011/02/24(木) 02:44:38
中編、長編のSSを書くスレです。
オリジナル、二次創作どちらでもどうぞ。

前スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9191/1296553892/

701earth:2011/07/30(土) 12:10:14
 耕平の指示を受け長門と朝倉は、国交樹立の準備とマブラヴ世界の調査の準備を進めた。
 特に前回とは乖離が著しい要調査対象である日米への人員(?)の派遣が2人の間では重視された。

「あの2カ国は原作、いや前の世界とは異なっている。入念な調査が必要」

 長門の言葉に朝倉は即座に頷く。

「そうね。前の世界のグダグダ振りからすれば考えられない位団結しているし、合理的に考えている。何かあったと
 考えたほうが自然ね」

 前の世界のことを知るがゆえに、彼女達はこの世界を調べれば調べるほど日米の不自然さを感じるようになっていた。 
 
(朝鮮半島から日本本土防衛戦に至るまで、日本帝国は未来を知っていたかのように消耗をできるだけ抑えている。
 それに私たちが京都防衛戦で介入すると知らなければ、米軍が無駄な消耗になるであろう戦いに戦力を投入する筈が無い。
 何かあると考えて行動したほうがいいわね。ひょっとしたら未来予知のエスパーでもいるのかしら?)  
 
 朝倉は、日米によって自分達の行動が読まれていたのではないかとさえ疑いを持った。
 勿論、考えすぎなのだが……第三計画というものがある以上、現状で否定することは彼女にはできなかった。

「国交を結んだ際も日米を重視するべき。ただし力関係から米国を第一、日本を第二とするのが妥当」
「そうね。あと問題は彼らが、こちらの高圧的な要求を聞くかってことね。飴と鞭の要領でうまくやらないと」
「いきなり高圧的過ぎると反発される。しかし引くと舐められる」
「難しいわね」

 ジレンマだった。何しろ爬虫類生命体という前例があるため、下手には引けない。しかしあまり高圧的な態度も
取りにくかった。何せマブラヴ世界の異変を受け帝国はその外交方針を転換し、宥和政策をとることになっていたのだ。

「とりあえず月攻略戦を行い武力を誇示する人類が見ている中で、ハイヴを一瞬で掃討すれば我々を露骨に敵視する政策は
 取りにくくなる」
「そうね」

 かくして月のBETAも滅亡が宣告されることになる。

702earth:2011/07/30(土) 12:10:52
 長門達が次の手を考えているのと同様にマブラヴ人類もまた次の手を考えていた。
 日米はテーブルの上で握手し、下では壮絶な足の蹴り合いもとい、駆け引きをしつつレムレス朝銀河帝国との国交樹立を進めた。
 何しろ相手はBETAを一蹴できる存在。下手に喧嘩を売っても自殺行為になるだけだというのが両国首脳には判っていた。
 だが国内には異星人(自称:異世界人)を信用することはできないと考える人間も少なくなかった。何しろBETAという前例が
ある以上、宇宙から来る勢力に警戒を抱くのは不自然なことではなかった。

「現状で銀河帝国に敵対するのは自殺行為。無視したとしても彼らは地球以外の太陽系の惑星を制圧するだろう。
 そうなれば人類は地球に閉じ込められる」
「彼らを第二のBETAにしないためにも相互理解を進めるべき」

 日米両政府はそう言って国内の反対派を説得しに掛かった。 
 加えて日米両政府は地球周辺に遊弋する銀河帝国軍艦隊との通信手段を持っており、反対派の代表や有力者も通信で長門達と
対面し直接話をする機会が与えられた。これによって多少異質ながらも、BETAと違って話し合いは出来るという印象を彼らは
持つようになった。 
 
「少なくともこれまでの行動や言動から人類抹殺という考えは無いようだ。それならまだ話し合う余地があるだろう」

 反対派の一人であった米連邦議員はそう呟き、消極的ながらも賛同に回るなど、反対派は次第に縮小することになる。
 政府や議会の反対派縮小、それにマスコミへの工作もあり、日米の世論は異世界の人類とは友好関係を築いておくほうが良いとの
意見が主流を占めるようになる。特に日本国内では一部を除いて京都防衛戦で自分達を助けてくれた恩人を無碍に扱うのはどうかと
いう意見が強かった。
 それでも尚、不信感を抱いたり反対する者もいたが、自分達の頭上を遊弋する宇宙艦隊を無視することはできなかったし、予告どおり
帝国軍艦隊が月のハイヴを一瞬で掃討したことが明らかになると誰もが沈黙した。

「連中の爆弾の威力は核やG弾なんて目じゃないぞ」
「いや、そもそもどうやって一瞬であれだけの数のミサイルを移動させたのだ?」
「空間跳躍技術という奴だろう。並行世界を渡る技術があるなら持っていても不思議じゃない」

 圧倒的、そして模倣すら適わない超技術を前に誰もが抵抗は無意味であると改めて悟ったのだ。
 こうして日米両国では銀河帝国との国交樹立に向けた動きを妨げるものはなくなった。だが2カ国の外ではそうではなかった。

「日米両国が勝手に進めてよいものではない! ことは人類全てにかかわることなのだ!」

 ソ連、EU、そして統一中華の一部(中国共産党)などの国々はそう主張しはじめた。 
 特に米国に銀河帝国の大使館を設置し、そこを交渉の窓口とする準備が銀河帝国との合意の下で進められているとの話がもれると
その口調は一段と激しくなった。
 かくして人類同士の綱引きが始まる。

703earth:2011/07/30(土) 12:12:21
あとがき
マブラヴ人類お得意(笑)の綱引きの始まりです。
管理局の出番はもう少し後になりそうです。
それでは。

704earth:2011/07/31(日) 13:00:46
少し短めですが第14話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第14話

 1998年9月。国連総会は荒れに荒れていた。
 レムレス朝銀河帝国。異世界から来た地球人類が建国に関わった(とされる)星間国家との関係をどう構築するかで各国の
意見は割れていたのだ。

「銀河帝国との交渉は、国連の下に専門の機関を設置して進めるべきだ。一部の国が独占してよいものではない!」

ソ連の国連大使の言葉に、少なくない数の国の大使が賛同する。 
 ソ連やEUは各国(主に国連安保理理事国)の代表から構成される専門機関を国連の下に設置し、そこで銀河帝国との交渉を
行う事を主張した。彼らからすれば米国によって交渉が牛耳られるのは御免だったし、さらに米国の失敗=世界の破滅という
図式は彼らを恐怖させた。 

「アメリカの失敗に巻き込まれて破滅するのは避けなければならない」

 フランスの高官がそう嘯いたと言われているほど、各国の危機感は強かった。
 一方の日米からすれば下手に国際機関を設置しても、他国からの横槍が激しくなるだけでメリットがなかった。

「そもそも、銀河帝国との交渉ができるようになったのは、日米の交渉団の命がけの行動があってのことだ!」

 日米両国からすれば、帝国を警戒するだけで何のアクションも起こさず、交渉が可能な段階になってから割り込もうとする
他の国は図々しい以外の何物でもなかった。
 尤も日本国内では米国に銀河帝国の大使館を設置するのを認めた現政権への批判が行われていた。特に本土防衛軍や他の摂家は
現政権を叩くために国粋主義者を煽りたてた。
 
「帝国も交渉団に参加していたのだから、帝国本土にも大使館を置いてもらうように交渉するべきだ!」
「米国に交渉の窓口を独占させるのは国益に反する!」 
 
 これに対して榊政権は本土復興のためには米国との関係が欠かせないこと、現状の日本では銀河帝国との交渉の窓口になっても
地球各国を纏めるのは難しいことを理由に挙げた。

「帝国との交渉の窓口になるということは、地球各国を纏める必要がある。国土の半分が焦土と化している我が国ではそれは
 不可能。それに交渉の主導権をかけて米国と争えば銀河帝国との交渉が停滞し、結果的に不利益になる」

 理路整然と反論する榊政権に対して、軍部はソ連やEUと協調して国連の下で新機関を設置し、交渉に当たるべきと主張を
開始した。さらに一部の政治家がこれに同調することで日本国内の世論は再び混乱することになる。

705earth:2011/07/31(日) 13:01:18
 相変わらずのグダグダ振りを発揮するマブラヴ世界の報告を聞いた耕平は落胆すると同時に、安堵もした。

「ああ、この辺りは何も変わっていないな」

 要塞シャングリラの円卓会議で耕平は肩をすくめる動作をして苦笑した。
 尤も参謀AIは何の感慨も抱かなかった。むしろグダグダして状況が進まない事態を如何に打開するかが問題と捉えていた。

「あまり状況が進まないと『皇帝陛下』も心配されるのでは?」
「判っている」

 やれやれとため息をつきながら耕平は次の手を考える。

「交渉の窓口はある程度開いておこう。ただし大使館を置くのは米国のみ。2国間交渉を行うのは日米のみとする。
 他の交渉、地球人類全てに関わる交渉については国連の新機関を通じて行うものとする。これを通達する」
「それで宜しいのですか?」
「それでいくしかないだろう。外交官向きのユニットは手持ちが少ないんだし。新機関を作らせても米国が主導権を
 握れば問題ない。米国が主導権を握ることを期待していることを匂わせておけば、米国も奮起するだろう」

 米国にある程度の主導権を持たせていないとグダグダになるのが目に見えている。原作ではやたらと黒幕的存在であり
悪役ポジションであった米国であったが、そんな国がないと纏まりが無いのも事実だった。

「日本も、アメリカほどではないが銀河帝国から重視されていると考えれば自尊心も満たされるだろう」
「ですが譲歩が過ぎるのでは?」
「人類の歴史や情勢に理解があるとすれば良いさ。ただし、こちらの譲歩はそれまでとも言ってやる。それと『地球人類は
 帝国との友好関係を望んでいないのか?』とも聞いてやれ」
「了解しました」 
 
 銀河帝国からの通達に対して米国や日本は戦慄した。こちらのグダグダ振りを見て、帝国政府が苛立っているのではないか
と判断したからだ。
 だが帝国政府の配慮は日本にとっては有難かった。大使館こそ招けなかったが、2国間交渉をしてくれるという銀河帝国の通達は
国内の国粋主義者を満足させるには十分だった。

706earth:2011/07/31(日) 13:01:52
 最終的に日米は各国に配慮する形で国連の下で新機関の創設に同意した。
 ソ連やEUは相変わらず銀河帝国に重視されているように見える日米に対して不満を持ったが、これ以上の譲歩は引き出せ
ないと判断して引き下がった。

「新機関で何とか主導権を握る必要があるだろう」
「第三計画で作ったのを日米に対するスパイ活動に使って情報を集めよう」
「勿論だ。あとは帝国から必要以上に不興を買わないように、どのような手を打つかだ」

 ソ連首脳部は銀河帝国に共産主義国家である自分達が必要以上に敵視されないように手を打つ必要があると考えていた。
何しろ皇帝を頂点にした帝政国家と共産主義国家というのは水と油だ。もしも向こうが共産主義国家である自分達を露骨に敵視
すればあっという間に潰されかねない。

「露骨な革命輸出は控える必要がある。それに最悪の場合は、ある程度の開放政策が必要になるかも知れん」
「しかし下手な開放政策は共産党支配を崩壊させかねない」
「拘った挙句に、ハイヴと同じ運命を辿るのは御免だ。彼らを本気で敵に回せば我々は逃亡することさえできずに、一瞬で塵になるぞ」

 共産党幹部達は雁首をそろえて対応に苦慮した。

「今は新機関を通じて、銀河帝国のメンタルや情報の収集に全力を尽くそう。そして彼らが共産主義を、我々を敵視するようなら
 表向きでもよいから政策を変更する必要もあるだろう」
「それに銀河帝国以外にも星間国家がある可能性もある。友好関係を築き、彼らの懐に入り込めればそういった国々に接触できる」
「問題はそういった星間国家が帝国並みにこちらに配慮するか、だな。それに我々のために帝国を敵に回すかどうかも問題だ」
「今言っても仕方なかろう」

 こうしてソ連は動き出した。
 そして日本、米国、ソ連、EU、オーストラリア、統一中華などの有力国から構成される新機関が樹立され、地球人類と銀河帝国
との交流が始まることになる。

707earth:2011/07/31(日) 13:03:20
あとがき
いよいよ交流開始です。長かった。
もうそろそろ管理局も少し出すことを考えています。
それでは失礼します。

708earth:2011/08/01(月) 21:33:19
相変わらず短いですが第15話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第15話

 異星人との外交関係を取り扱う国連の新機関『外務委員会』の創設が発表されるのを見て、銀河帝国は国交樹立に向けて
動き出した。国交樹立に関する交渉を行うため長門艦隊旗艦のアルテミスが、護衛の小型無人艦3隻と共にアメリカ合衆国東部、
ニューヨークの沖合いに降下した。

「あれが銀河帝国軍の戦艦か」

 出迎えた米大西洋艦隊司令長官は戦術機母艦ドワイト・D・アイゼンハワーの艦橋でアルテミスを見て、技術力の格差を肌で
感じ取った。
 幕僚達も同様に技術格差を感じたが、同時に無遠慮に大型軍艦で乗り込んでくる銀河帝国に警戒感や不信感を感じていた。
 
「しかし長官。あれほどの大型艦で乗り込んでくるのは些か度が過ぎているのでは? これでは」
「砲艦外交という奴だろう。だが相手は曲がりなりにも銀河系規模の星間国家。これに比べてこちらは太陽系を自由に
 動き回ることさえ出来ない後進国。力関係を考慮すれば十分に紳士的だろう。我々のご先祖様と同じようなことをしない
 だけでも有難いさ」
「……」

 上官の台詞に幕僚達は反論できない。実際、過去にアメリカ原住民を虐殺し彼らの土地を簒奪して国を作ったのは
自分達の先祖なのだ。彼らが同様のことを考えたら、ハイヴもろとも殲滅されていてもおかしくなかった。 

「さて、あまり無茶な要求をされなければ良いのだが」

 そんな懸念を示す長官の前でアルテミスは着水した。
 そしてモンタナ級戦艦や巡洋艦群にエスコートされながら、アルテミスはニューヨーク港に入港することになる。
 しかしこのとき、すでに地球には銀河帝国のスパイがあちこちに入り込んでいた。彼らはESPなどを使って巧みに各地に 
潜入して情報の収集を開始していたのだ。
 その結果、耕平はさらなる方針の変更を余儀なくされる。

「……銀河帝国の総人口が少なすぎか」

 地球側が帝国の規模をかなり大きく見積もっていることを知った耕平は円卓会議の席で唸った。

709earth:2011/08/01(月) 21:34:18
「本国の、いや支配層100万人の下に無数のロボット群がいたとしても、軽く見られると?」
「可能性は否定できません」

 参謀AIの言葉に耕平は天井を仰いだ。アンドロイドや人間を量産したとしても短期間で億単位で増やすのは
無理なのだ。

「しかし人口は簡単には増やせないぞ。というかそんなに人口を増やしていたら今度は国家の運営にリソースを割く
 必要がでてくる。軍拡ができなくなる。しかし舐められると外交で行き詰まる」

 悩ましかった。仮にマブラヴ人類に侮られるようなら、他の星間国家と出会った場合も同様の反応が考えられる。
 そして侮られた場合対等な関係は築くにくい。下手をすれば組みやすしと思われて戦争になる危険もある。生き残る
ための戦争は辞さないが、無闇に戦争をするつもりも耕平には無い。
 彼にとって目的は生き残ることであり、戦争そのものが目的ではない。戦争は手段の一つに過ぎない。

「……いっそのことBETAの技術を使って炭素生命体のユニットとして人間を量産するか?」

 かなり外道なことを呟く耕平だったがすぐに首を振る。

「いかん。作れたとしても、人間の皮をかぶった作業機械だ。国民とは言えない」
「果たしてそうでしょうか?」

 参謀AIの言葉に耕平は眉を顰める。

「何が言いたい?」 
「BETAのように一度に大量の炭素生命体を揃えることが出来るシステムは便利かと。利用する価値はあるでしょう」
「だが出来るのは作業機械だぞ」
「構わないのでは? 使い捨てに出来る労働力、古代でいえば奴隷と考えればいいですし。まぁ多少は自律できるように
 改良する必要はあるでしょうが」
「……」
「『それら』を国民にカウントするのは多少卑怯ですが、交渉の際には押し通すこともできるでしょう」
(BETA式に量産された人間型作業機械の上に、クローン人間とアンドロイドが君臨するか。どんな国だよ?) 

 乾いた笑みしか浮かばない。

710earth:2011/08/01(月) 21:35:32
「G元素ではなく、別のエネルギーで動かす人形、いや奉仕種族を量産。それを国民、いえ臣民としてカウントすれば
 人口は短期間で億単位になります。使い捨てに出来、必要なエネルギーも最小限。非常に効率的かと」

 参謀AIとしては無駄に資源を消費する国民は作る価値を認めていない。だが逆に最小限の資源で、価値がある
『もの』が作れるなら問題は無かった。

「純粋に人間の形が取りにくいのであれば、別の形状でいくのもありかと。
 犬耳や猫耳でもつけて半獣半人の種族とすれば多少異質でも説明は付くでしょう」 

 この参謀AIの意見に耕平はため息をついた。

「銀河帝国は悪の帝国まっしぐらな気がするよ。まぁ虚構の王朝には相応しいのかも知れないな」

 やや脱力し、諦観の表情をした耕平はぐったりしたままで天井を仰ぐ。
 だがぐったりする時間はあまりない。

「総司令」

 参謀AIの急かす様な呼びかけに、耕平はわかっていると手を振って言う。

「参謀本部の提言を認める。
 BETAの生産施設を解析して帝国式の施設を作る。そしてそれを使って人型、またはそれに近い種族を順次量産していく。
 最終的には100億以上の奉仕種族、その上に皇族や貴族などの支配階級を置く」
「了解しました」
「長門中将にも、このことを連絡しておくように」

 この日を境にして、レムレス朝銀河帝国は臣民(?)の生産にも力を入れることになる。

711earth:2011/08/01(月) 21:37:34
あとがき
マブラヴ世界も振り回されますが、銀河帝国も振り回されます。
次回は長門たちの出番になる予定です。それでは。

713earth:2011/09/06(火) 20:39:37
ネタスレで載せている『嗚呼、我ら地球防衛軍』をこちらで掲載します。

『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第1話

 西暦2198年某月。日本関東地区の地下都市に置かれた地球防衛軍司令部の一室では10名ほどの
防衛軍高官、それに日本政府高官たちが集まっていてた。

「やはり、『ヤマト』建造は自力で?」
「はい。各国、特にアメリカ、中国、ロシアでは本土決戦を唱える軍部が台頭しており、こちらの
 地球脱出計画には協力しそうにありません」
「困ったな……」

 誰もが黙り込む。そんな中、一人の男が嘆息するように言った。

「まさか、こうなるとはな」

 原作では参謀と呼ばれる男。宇宙戦艦ヤマトの行動にやたらとケチをつけ、人気もなかったキャラクターで
あった男はそう嘆息した。
 ここに居る男達は全員が前世、正確には原作『宇宙戦艦ヤマト』の記憶を持つ者(以降、転生者と呼称)だった。
勿論、ここには居ない者たちもいる。彼らは各地で密かに活動していた。
 彼らは西暦2192年以前から活動しており、密かにガミラスとの戦いに備えていた。尤も何故か転生者は
日本人ばかりだったので、歴史を大きく修正することはできなかった。
 それでも原作知識を活かして、資源の備蓄、日本国内の地下都市や避難計画の早期の準備、戦場から落伍していた
ガミラス艦を鹵獲したりして必死に人類の底力の向上に努めていた。
 しかしそれでも大勢は変わらない。人類は宇宙から駆逐され、遊星爆弾によって地下都市への逼塞を余儀なくされていた。

「というか、こんな末期戦状態で出来ることなんてねーだろ!」
「地球の科学力でガミラスに勝つなんて、ルナティックを通り越してファンタズムだろう」
「沖田艦長の活躍に期待するしかない」
「むしろ、真田さんだろう。JK」

 転生者たちは挫けそうになるものの何とか己を奮い立たせる。何しろまだヤマトという希望があった。
 だが、状況はそう甘くは無かった。大量の地上軍を抱える米中露などの大国はガミラスとの地球における本土決戦を
主張していたのだ。皮肉なことに転生者の動きによって人類の底力が多少なりとも上がったことが彼らをそうさせていた。
 日本など一部の国は人類の種と独立を守るために地球脱出計画を提案していたのだが……このままでは本土決戦が
人類の方針となりかねない状況だった。勿論、それは日本が押す地球脱出計画、そしてヤマト建造が承認されないこと
を意味していた。

「長官は?」
「国連総長と話をしているが、所詮、国連事務総長は調整役に過ぎん。あの三ヶ国は抑制できんだろう」

714earth:2011/09/06(火) 20:40:10
 転生者たちは難しい顔で考え込んだ。
 参謀は苦い顔で口を開く。

「加えて地球防衛艦隊が事実上壊滅したことで、防衛軍そのものへの不信感も強くなっている。何しろ残っているのは
 日本艦隊のみという状況だ」

 アメリカ、ロシア、中国の宇宙艦隊はすでに壊滅している。これらの国々では宇宙軍の影響力が下がる一方で陸軍の
影響力が強まっていた。加えて大国のプライドもあり、本土決戦でガミラスに講和を強要するという政策が支持されていた。
 
「まぁTVの二期でも攻撃衛星なんて品物もあったからな……」
「あのあまり役に立たない衛星か」
「というか役に立ったか? ガトランティス艦隊にも歯が立たなかった気がするが」
「それどころか、ガミラスが地球に降下する必要すらないことに何故気付かないのだ?」 

 アメリカはロッキー山脈、ロシアはウラル山脈の地下に都市を建設して生き残っているに過ぎない。それも放射能に
よってこのままでは全滅は時間の問題だった。地下に逃げるといっても限界がある。
 そしてそれはガミラスも分っていた。彼らの母星であるガミラスも死に瀕しているが、それでも人類よりは長生きする。
根負けするのは地球側だ。

「こうなっては仕方あるまい。ヤマト建造を日本単独で進めるしかない」

 参謀の意見に誰もが頷いた。転生者の活躍によって日本の地下都市には原作よりも豊富な工業力、資源、エネルギーを
保有していた。それでもこの先を考えると余裕があるとは言えないのだが、ヤマトを建造するなら可能だった。

「問題は波動エンジンの始動ですが……どうやってエネルギー供給を取り付けます?」
「補助エンジンでも主砲は何とか撃てる。ヤマトを攻撃してくるだろうガミラス空母を撃沈すれば、協力してくるだろう。
 技術面の餌も用意すれば食いつく」
「やれやれ……ヤマト発進まではどれだけ労力がかかることやら」

 しかし参謀は弱気になる人間を叱責する。 

「ここで弱気になってどうする! 我々『名無しキャラ』の意地を見せるときだぞ!」

 地球防衛軍。地球圏最大の軍事力でありながらTV版2期を除いてたいした活躍をすることなく、ヤマトの引き立て役に
されてきた軍を支える男達の挑戦が始まる。
 
「でも、最後に良い所はヤマトが全てもっていきそうですけど」
「それを言うなよ……」

715earth:2011/09/06(火) 20:40:43
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第2話

 転生者たちはヤマト建造に乗り出す一方で、遊星爆弾による被害を少しでも低減させるために艦隊の温存に走った。
 冥王星にまで遠征させても自殺行為であり、無駄に艦隊と将兵と物資を浪費するだけと彼らは考えていた。

「あの三国が本土決戦を主張しているおかげで、艦隊を温存する口実が出来たな」

 参謀は防衛軍司令部でニヤリと笑いつつそう呟いた。
 米中露はさらに深い場所への地下都市建設と都市の要塞化を推し進めていた。日本が艦隊を温存し、地球近辺で
遊星爆弾の迎撃に専念させる戦略をとっても米中露は文句を言わなかった。何しろ日本艦隊が遊星爆弾を防いでくれている
間に本土決戦の準備ができるのだから。
 参謀は必要な根回しをしつつ、長官にヤマト建造が潰えていないことを耳打ちした。

「どういうことだね、参謀?」
「日本はまだ公にしていない備蓄物資があるということです。加えて出資者も集まっています」

 一朝一夕で資源が備蓄できるわけがないことを分っている長官は、参謀の台詞から日本や防衛軍の一部が長い間極秘裏に
準備をしていたことを悟った。
 
「……日本政府は、最初からこうなると考えていたと?」
「……『常に最悪の事態を想定するのが為政者としての務め』だそうです。ですがさすがに地球脱出用とは言えないので
 公式には新型戦艦ということになります。ですので」
「分った。君達に協力しよう」
「ありがとうございます」

 軽い足取りで去っていく参謀を見て、長官は久しぶりに気分が晴れた。

「防衛軍も、いや人類もまだまだ棄てたものではないな」

 かくして長官の支持を取り付けた転生者たちは、ヤマト建造にまい進した。
 尤も肝心の波動エンジンは手に入っておらず、鹵獲したガミラス艦から獲得した技術で作ったエンジンを搭載していた。
 これによって従来の地球の戦闘艦よりも遥かに強大な戦闘力を擁していた。尤もそれでもガミラス艦隊には勝利できない
だろうが……。

「まぁ波動エンジンへの換装できれば何とかなる。火星の準備も怠るな」

 そして防衛軍は、そして転生者たちは運命の日を迎える。

716earth:2011/09/06(火) 20:41:14
 転生者たちが密談のために使っている部屋で大声が響く。

「『ねんがんのはどうえんじん』を手に入れたぞ!」

 火星から帰還した古代達が提出したカプセルから波動エンジンの設計図があることを知った参謀は小躍りした。

「これで勝てる!!」

 やっと反撃の時だ、参謀は燃えた。
 一方的に撃ち減らされていく友軍を見続けてきた男はこのときを待ち望んでいた。同時に彼は自分達のような原作の
モブキャラがヤマト発進を支えるという状況にテンションを上げていた。

「確かに歴史では目立たないだろう! だが数十年後にはプロジ○クトXのような作品で紹介されて見せる!!」

 参謀の意見に他の名無しキャラが頷く。
 一部の原作では死亡確定組の人物(例:ヒペリオン艦隊司令)はさらに気合が入っていた。何しろガミラスに負けても
死亡。原作どおりでも歴史を改変しないと自分が死ぬのだからより切実だった。

「ショックカノンは他の宇宙戦闘艦にも搭載できます。早急に改装するのがいいでしょう」
「そうです。戦艦の建造は無理ですが小型艦なら建造できる余裕はあります」
「いやここは航空戦力を増強するべきだ」

 だがここで文官たちは首を横に振る。

「ヤマトで冥王星基地を叩いた後は温存していたプラントで、各惑星、特に木星などの資源地帯からエネルギー資源を
 得るべきだ。何しろヤマト建造には金と物資が掛かりすぎる」
「市民達の不満を多少は軽減する必要がある」

 この言葉に軍人組みはムッという顔をするが、市民が暴動を起こしてはたまらない。
 何しろ地下都市を建設した良いものの、市民同士の仲違いで自滅した地下都市も少なくないのだ。

「まぁ狸の皮算用をしていたも仕方ない。今はヤマト建造に全力を注ごう」

 参謀の言葉によって会議は終わりを告げた。
 そして後にヤマトは日本がほぼ単独で建造した、地球初の波動エンジンを搭載した戦艦として生まれることになる。

717earth:2011/09/06(火) 20:41:48
 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第3話

「……やはり一から作ったほうが良かったのでは?」

 財務官僚の突っ込みに対して、参謀は苦笑いしつつ答えた。

「それをやるとジンクス的に怖いだろう? あくまで『ヤマト』は『大和』でなければならない。
 下手に弄って失敗したら目も当てられん」
「「「……確かに」」」

 ヤマトは原作どおり沈没した大和を利用して建造されつつあった。
 一部の人間は一から作ったほうが早いのではと思ったのだが……ここで原作をひっくり返すと後が怖いという考えが
支持された。実際、彼らが人類のために良かれと思って行動した結果が、本土決戦支持派の拡大に繋がったのだから
慎重になるのは当然だった。

「しかし沖田艦隊は温存できた。ブラックタイガーを載せれるように一部の艦を改造しておけば、かなりの戦力になる」

 参謀の言葉に誰もが頷く。
 一部の軍人は渋い顔だが、ガミラス艦を沈められる航空戦力は確かに必要なので反対できない。

「まぁ取りあえずは、ガミラス空母の来襲に期待するしかない。ヤマトの戦力を見れば各国も少しは意見を変えるだろう」
「ですが彼らが来襲したとなれば、温存していた艦隊で迎撃せざるを得ませんが……」

 黒い制服を着た軍人の意見に誰もが頷く。
 しかし参謀は問題ないと首を横に振る。

「日本艦隊は遊星爆弾の迎撃で消耗している。空母来襲前にドック入りさせれば良い。ただ万が一に備えてブラックタイガー
 の直掩機も周辺の基地に用意しておく。ガミラスが史実以上の部隊で来てもある程度は戦えるはずだ」

718earth:2011/09/06(火) 20:42:19
 そしてガミラスの高速空母は予定通り出現することになる。
 慌てる防衛軍司令部の中で、参謀は落ち着いて部下達に迎撃を命じる。幸い、ブラックタイガーの配備が間に合っていた
ためにヤマトの被害は軽減できている。血気盛んなパイロットの中には高速空母に攻撃さえかける始末だ。 

「さすが参謀。ガミラス空母の来襲を見越して手を打っていたのか」
「ああ。さすが、日本政府や防衛軍長官の信任が厚いだけのことはある」

 防衛軍のスタッフがそんな尊敬の目で見ていることなど知らず、参謀は一人突っ込みを入れた。

「……毎回思うんだが、あの円盤型空母はどうやって艦載機を収容するんだろうな?」
「さぁ?」

 司令部でそんなやり取りがされている中、ヤマトは無事(?)に補助エンジンを稼動させて出撃した。

「ふむ、これでこそ、ヤマトだな」

 遺跡と言っても良い大和の外壁を崩して出撃していく様は、原作を知る人間にとってみれば何とも感慨深いものであった。
 それも自分があの戦艦を建造したと思うと尚更だ。

「さてあとは波動エンジンの稼動だな」

 ヤマトが持ち前のショックカノン砲9門で、ガミラスの高速空母を撃沈したのを見て参謀は次の手を考える。
 波動エンジンの作動にはかなりのエネルギーが必要だった。日本単独でエネルギーを賄うとなると、今後地下都市の維持に支障が
出てしまう。よって少しでも他の国の支援が欲しい。
 まぁ仮に日本単独でやったとしても、残っている日本艦隊で資源を回収できればエネルギー事情も少しは改善するが、それでも
負担は少ないほうが良い。

719earth:2011/09/06(火) 20:42:58
「外務省や首相官邸、長官と国連総長に頼んで動いてもらうしかないな」

 日本はヤマトの戦闘映像を国連総会に提出する。
 すると、その高い戦闘力を見て波動エンジン搭載型戦艦の量産で戦局の挽回を図るべきだと主張する国が出始めた。アメリカなどは
保管していたアイオワ級を改造して戦艦に改造する案を提出する始末だ。
 だが波動エンジンを作るためのコスモナイトなど希少資源が少ないので、その計画は没となった。

「イスカンダル星にコスモクリーナDを取りに行かせるのが人類生存につながります!」

 日本大使は議場でそう主張した。実際、ヤマトはイスカンダルにまで長距離航海が可能な戦艦であった。
 だが無謀な航海をしてガミラスに対抗可能な戦艦を無為にすり減らすことを危惧する声もある。この紆余曲折の末、3つの方針が決定された。 

①ヤマトはイスカンダルへ向かい、コスモクリーナDを受領して帰還する。
②①の過程で冥王星基地を破壊する。これによって地球本土の安全を確保する。
③②終了後、日本艦隊によってガミラス残存戦力を掃討。太陽系の安全を確保した後に資源の採掘を再開する。
 採掘した資源によって地下都市の生活環境を改善。同時に工業の復活と防衛軍艦隊の再建を進める。

 かくしてヤマトは世界中からエネルギーの供給を受けて旅たつことになる。
 勿論、各方面を宥め、脅し、賺し、騙してエネルギーを掻き集めたのは参謀達、転生者だったのだが……地味な仕事ゆえに
脚光を浴びることはなかった。

「所詮、裏方の仕事なのさ」

 そう言ってふて腐れるものの、彼の仕事は確かに評価されていた。主にお偉方から。

「彼を戦場で死なせてはならない。防衛軍再建には彼の手腕が必要だ」

 こうして参謀はさらに後方で勤務することが決定される。
 彼が脚光を浴びる日がいつになるのか……それは誰にも判らなかった。

720earth:2011/09/06(火) 20:43:38
『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第4話

 世界各地からエネルギー供給を受けてヤマトが発進した後、地球防衛軍は残された日本艦隊の補修と改装を急いだ。
 ヤマトが冥王星基地を破壊できたとしても、ガミラスの残存艦隊が跳梁跋扈する可能性は高い。これを排除するためには
艦隊戦力の強化が必要だった。
 残された希少資源で小型波動エンジンを生産し取り付けていった。出力が低いエンジンのため、エネルギー事情が悪化した
日本でも生産と稼動は可能だった。

「本当は各国にも手伝って欲しかったんだがな」

 参謀がぼやくものの、どうしようもなかった。
 何しろ多くの国は本土決戦のために宇宙船の建造よりも地下都市の要塞化と地上軍強化に力を注いでいた。おかげで貴重な
資源もエネルギーも浪費されており、宇宙艦隊を再建する余裕など無かった。
 まして三大国はヤマトが冥王星基地を突破できるか懐疑的な見方をしており、本土決戦に向けた準備を怠ることはなかった。

「波動エンジン、ショックカノン砲の技術など少なくない技術を分け与えてよかったんですか?」 

 通産省の官僚は不満そうな顔をするが、参謀達軍人は仕方ないと首を横に振る。

「仕方ないだろう。日本単独であの大型波動エンジンを起動させるのは難しかったんだ」
「地球全体の防衛力強化のためには、ある程度の技術の提供は必要だろう。我々が何から何まで独占すればいらぬ嫉妬を
 買って自滅するだけだ」
「国益の追求は必要だが、今は星間戦争中なんだ。必要以上にいがみ合っていては勝てる戦いも落す」

 地球防衛艦隊で残っているのは日本艦隊のみであり、人的資源も一番残されているのは日本だった。おかげで防衛軍で主導権を
握っているのは日本だった。
 しかしこれが米中露にとっては気に喰わないのか、色々と不満が多い。ちなみに、やたらと日本にケチをつけるはずの某半島国家は
手抜き工事のためか、地下都市が遊星爆弾で破壊されて壊滅している。今は中国の地下都市に亡命政府があるだけだ。

「まぁ今は防衛艦隊再建を急ぐのが正解だろう」

 参謀の意見によって密談は終る。

721earth:2011/09/06(火) 20:44:22
 ヤマトが紆余曲折の末、冥王星基地を破壊すると地球各国では喝采が挙がった。
 ガミラスの太陽系前線基地である冥王星基地の壊滅は、これまで負けっぱなしであった人類を勇気付けるものであった。

「今こそ絶好の好機だ!」

 参謀は防衛軍長官に直訴して、改装が終わった艦隊で資源輸送を行う事を提案する。
 後に『特急便』と言われるプランであった。また彼はこの作戦を指揮する人物として土方に目をつけていた。
 原作において艦隊決戦で唯一といってよい白星を得た男を、参謀は高く評価していたのだ。

「私より適任がいるだろうに。それに今、この学校を離れるわけにはいかんよ」

 宇宙戦士訓練学校の校長室でそう言う土方に、参謀は尚も言い募る。

「古代君はまだ若い。彼らを纏める人物が必要なのです。それに閣下なら、航空戦力を十分に活用できる、そう信じています」
「航空戦力か」
「はい。残念ながら、地球では満足に戦艦を建造するのはまだ難しい。ですので、『えいゆう』など大型艦を改造してブラックタイガーを
 載せれるようにしています。これがあればガミラス艦を早期に発見でき、対応できるでしょう。
 勿論、出撃に際しては土方校長の要望を最大限尊重します」
「……分った。いいだろう」 

 参謀の熱意に折れたのか、土方は艦隊司令官を引き受けた。
 参謀が軽やかな足取りで出て行くのを見て、土方は微笑む。

「あれが長官の懐刀と言われる男か。噂に違わぬ男だ」

 このとき、参謀は有名人になっていた(名無しキャラなのに)。
 何しろ本土決戦を主張する国々に従う振りをしつつ、裏ではヤマト計画を密かに根回しして進め、さらに日本が備蓄していた物資や
エネルギーを提供させた。
 それに加え、資源の輸送計画を入念に策定。さらに航空戦力の有用性を見抜き、それを活用する準備も進めるなど軍政家としての
才覚があると土方が判断してもおかしくなかった。
 実際、他国でも参謀の評価は高い。だがそれゆえに彼はますます前線に出るチャンスが減ろうとしていた。
 彼は目立とうとして頑張っているのに、裏方としての能力ばかりが評価されていたのだ。

「これでヤマトが帰ってくれば、防衛艦隊は早期に再建できる。うまくすれば、私も艦隊司令官になれる!」

 軽い足取りで皮算用をする参謀。
 彼の野望が叶えられるかは神のみぞ知る。

722earth:2011/09/06(火) 20:44:53
 かくして小型で低出力とは言え、波動エンジンやブラックタイガーを搭載した日本艦隊はガミラス残存艦隊の妨害を撥ね退けつつ
各惑星や小惑星帯から資源を採掘し、必死に地球に資源を輸送する。

「エネルギー事情を改善すれば地下都市の衛生状態も良くなる!」

 参謀や転生者たちはそう発破をかけた。勿論、新たに得たエネルギーを市民生活の向上のみに当てるつもりはなかったが
それでも何らかの餌は必要だった。
 また防衛軍首脳部は強化された防衛軍艦隊とガミラス艦隊が互角に戦う様子を流して、必死に市民を鼓舞した。
 
「人類はまだ戦える!」
「故に市民の協力が必要なのです!」
「欲しがりません。勝つまでは!!」

 防衛軍が戦える様を見て、絶望の淵にあった市民も多少は希望を取り戻した。
 また若干ながらも生活環境が改善されたことも、士気を上げた。

「負けるものか!!」
「ヤマトが帰ってくるまでは持ち堪えるぞ!!」

 特に我慢強い日本人達は一致団結した。おかげで日本にある地下都市の治安は大幅に改善することになった。
 残った市民はお互いに助け合い、生活を守った。また宇宙戦士への志願者も増えていった。
 少しずつであるが好転しつつある状況に誰もが未来を信じられるようになっていったのだ。

「暴動も減っている。食糧事情も好転している。ふむふむ、これなら何とかなる」
 
 自宅で朝食を取りながら、新聞を読んでいた参謀は非常に満足げだった。
 また米中露、それに欧州も宇宙艦隊再建に乗り出していた。勿論、駆逐艦や護衛艦が中心であるものの戦力が回復するのは
好ましかった。

「あとは頼むぞ、ヤマト。地球は……我々が守っておくからな」

 こうして地球は参謀達の努力もあり、原作よりは多少はマシな状況でヤマトの帰還を迎えることになる。

723earth:2011/09/06(火) 20:45:31
 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第5話
 
 ヤマト帰還後、地球各国は復興に向けて動き出した。
 コスモクリーナーDによる放射能除去、そしてテラフォーミング技術による地球環境の修復は急ピッチで進められた。
 もともと資源的、エネルギー的に余裕があったことで地球の復興は驚異的なスピードで進んだ。また放射能が除去されたこと
で各惑星に残されていた生産施設が使用可能になったので、生産力も次第に回復していった。
 
「復興は順調のようだな」

 参謀の言葉に官僚達は頷いた。
 ちなみに彼らは相変わらず地下都市の防衛軍司令部を密談の場にしていた。

「皮肉なことに、戦前に比べて人口が激減したのが大きいでしょう」

 使えるようになった生産力や資源で十分に地球人類を養える状態だった。何しろ戦前は100億を越えた人口が今では
20億をきっているのだ。残された人口を養うのは難しくは無かった。

「それに、人口が激減したおかげでこれまで問題だった宗教問題や民族問題、貧富の格差は大分、スッキリしました」

 寒気のするような意見だったが、実際そのとおりだった。
 ガミラスの遊星爆弾は地球各地に降り注いだ。このせいで貧困地域は真っ先に滅亡した。また地下都市を建設しても
民族、宗教問題で内輪もめを起こして自滅した都市も多々ある。

「ガミラス戦前まで人類が抱えていた問題を、ガミラスが解決してくれたということか」

 参謀の意見は人道の観点からは問題だったが、事実だった。

「しかしそれでも残された国の統合は大変だな。まぁ地球連邦そのものは結成できそうだが……主導権争いを考えると
 頭が痛いな」

 宇宙艦隊や各種生産施設が最も充実しているのが日本であること、日本が建造したヤマトがコスモクリーナーDを持ち帰ったこと
から日本の影響力は大幅に拡大しており、日本は人類復興の中心的役目を果たしている。
 片や本土決戦のために準備をしていた国は、宇宙艦隊再編に手間取り、制宙権の維持を日本艦隊に頼らざるを得ないという状況に
陥っていた。
 勿論、史実より多少は余裕があるので国家再建は急ピッチで進められているが日本には遠く及ばない。故に嫉妬も強い。

724earth:2011/09/06(火) 20:46:03
「海外の連中は日本の奇跡とまで呼んでいそうですよ」
「新興国におされて斜陽だった我が国が再びここまで隆盛したんだ。まぁ奇跡といわれても仕方ないさ」
「まぁ奇跡と言うよりカンニングの賜物なんだが……それは言えないよな」 
 
 誰もが苦笑する。

「何はともあれ、地球連邦の創設、そして防衛軍の再建は急ぐ必要があるだろう。
 何しろ白色彗星帝国、暗黒星団帝国、ディンギル帝国と、一歩間違えれば死亡確定の敵が待ち構えている。
 人類が団結しなければ、この国難は乗り切れない」
 
 参謀の意見に反対意見はない。すぐにアンドロメダ星雲から白色彗星帝国が来るのだ。
 宇宙艦隊だけでも強大なのに、都市要塞、巨大宇宙戦艦まであるのだ。星間国家としては新興国にすぎない地球が
相手にするには荷が重い。だが交渉の余地は全くなく、戦うしかないのだ。
 
「日本一国で、原作ほどの宇宙艦隊は整備できまぜんからね……世界各国に負担してもらうしかないでしょう」

 財務官僚の言葉に誰もが頷く。

「とりあえずは巡洋艦以下の建造を急ぐ。そして各国に余裕が出来た段階で戦艦の建造に取り掛かる。これが妥当だろう」

 参謀はそう結論付ける。
 
「ただし、これからやってくる敵を全て地球のみで対処するのは負担が大きい。よって友好国を増やして、多国間による
 共同戦線を張れるようにする。これが地球の歩むべき道だと思う」

 これを聞いて外務官僚が尋ねる。

「どこと交渉するおつもりで?」
「穏健派の国ならシャルバートやアマールが適当だろう。しかし直接援軍は期待できない。だとすれば」
「ボラー連邦、ですか?」
「そうだ。少なくともあの国は話し合いの余地がある。原作では古代弟がぶち壊してくれたがね」

725earth:2011/09/06(火) 20:46:35
 参謀は苦い顔をする。
 史実におけるヤマトクルーの暴走は、結果として人類を救ったが、一歩間違えれば人類を破滅させかねない
危険なものも少なくなかった。
 特にボラー連邦を敵に回したのは、手痛い失敗だった。ガルマン・ガミラスを味方に出来たと言っても
デスラーが表舞台からいなくなったあとも、友好関係が続くとは限らない。何しろヤマトはガミラス本星を
壊滅させているのだ。恨まれていないわけが無い。
 
「ソ連をモチーフにしたあの国を信用するのは難しい。おまけに長く続いた平和のせいで、軍は弛緩している。
 しかしそれでも、かの国と友誼を結ぶのは決してマイナスではない」
 
 デスラーによっていいようにやられたことから、参謀はボラーが長らく続いた平和によってかなり呆けて
いると判断していた。
 だが機動要塞やマイクロブラックホール砲、各種戦略兵器は地球には無い魅力的なものばかりだ。
これらを擁する国家を後ろ盾に出来れば、今後の戦争も少しは楽になる。

「特に波動エネルギーが天敵である暗黒星団帝国は、地球を制圧しても人類の残存戦力とボラー連邦が結びつくことを
 考慮して、そうそう軽挙には及べないだろう」

 参謀は戦争で全てを解決するつもりはない。というか派手な活躍はしたいが、避けられる戦争は避けたいという
のが本音だった。

(防衛軍が消耗しすぎると人的資源が払底する。艦隊司令官になったは良いが、急造の戦艦と新米ばかりの兵士で
 戦争という事態は避けたい)

 輝かしい出番を用意するには、それなりの準備が要るのだ。

「とりあえずボラーと手を結び、国力を充実させるべきだ。それにボラー連邦のような強大な星間国家があることが
 外圧となる。それは原作にあった油断を打ち消し、人類を団結させるのに使える。それに星間外交の経験も積めるだろう」

 かくして彼らの暗躍が始まる。

726earth:2011/09/06(火) 20:48:05
 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第6話
 
 西暦2201年1月。残された国々はガミラス戦役の反省から国連を強化した地球連邦政府の樹立を決定した。
残された有力国を中心として、地球は幾つかの州に再編されることになる。
 人類同士でいがみ合っていては異星人に対抗できないという考えは誰しも持っていたので、極端な反対はなかった。
しかし主導権を手放すかどうかは別だった。
 原作以上に力を蓄えてしまった日本はアジア州へ編入されることはなかった。他国は日本の生産力と科学力がアジアと
結びつくことを恐れたのだ。
 アメリカは日本と中国と手を組むのを警戒した。ロシアも隣国であり、伝統的に覇権思想の強い中国が日本と
同じ州になるのを嫌がった。中国は日本を取り込むことを目論んだものの、米露欧の反発で頓挫する。

「ここまで異星人にボコボコにされたのに、まだ隣国と争うか?」

 防衛軍司令部で報告を聞いた参謀は呆れ顔だった。同席していた艦長服を纏った男は肩をすくめる。
 
「まぁ史実よりも余裕があるせいでしょう」
「全く……それにしても復興スピードが速いな。さすが、ヤマトの世界のだけはある」

 各国は確かに主導権争いに血眼になっているが、参謀達が根回しした防衛艦隊再建は承認していた。ガミラス帝国の
残党が襲撃してくる可能性は否定できなかったのだ。彼らも再び地球を焼かれるのは御免だった。
 すでに巡洋艦クラスの軍艦の建造と配備に並行して、太陽系各所で防衛拠点の建設も行われていた。

「まぁあれだけ壊された戦艦がすぐに直り、毎年壊滅する宇宙艦隊がすぐに復活する世界ですので。
 23世紀の脅威の科学力といったところでしょうか」
「人的資源の補充は無理だがな。正直、20年は必要だろう」

 そう言うと参謀は話題を変える。

727earth:2011/09/06(火) 20:48:35
「日本政府はアジア州への編入ではなく、極東州の形成という形に持っていくことにしたそうだ」
「極東州ですか?」
「ああ。まず弱体化したロシアから樺太と北方領土を買い取り日本領に編入。そして日本と台湾で極東州を形成する」

 日本政府は近隣諸国の合併に熱心な国を横目にして、自国周辺の再編を最小に留めた。
 彼らが目指す先は地球ではなく宇宙の彼方だった。勿論、地球復興のために努力はするが州を必要以上に大きく
するつもりは皆無だった。むしろ太陽系の再開発、そして外宇宙探索を重視していた。

「連邦の首都はどこに?」
「当面は日本。メガロポリスだろう。だがあまりこちらが独占しすぎると外野が煩い。首都の名誉はいずれ欧米に譲る
 必要があるだろう。特にアメリカは、かつての地位にご執心だからな」

 旧アメリカ合衆国を中心とした北アメリカ州は虎視眈々と復権の機会を狙っていた。 
 ロシアとEUが主体となったユーラシア州は復興を優先しつつも、弱体化しているアフリカ州や無人と化した地域へ介入する
チャンスを伺っている。アジア州ではインドと中国が綱引きを繰り返していた。
 
「地球防衛軍は宇宙軍と空間騎兵隊のみになる。恐らく陸海空軍は各州の州軍という形になるだろうな」
「緩やかな連邦制、夜警国家が関の山ですな。アメリカ合衆国程度に団結できれば御の字だ」
「そうだ。当面は日本人にとって負担が大きい世界になりそうだ。何しろ防衛軍は一番被害が少ない日本人が主力を担う必要がある。
 産業界、その後押しを受ける政治家とも喧嘩することになる」
「だとすると無人化、省力化は不可避ですな」
「ああ。ラジコン戦艦、いや自動戦艦を採用しないといけないだろう。景気が回復し民間の活力が増せば増すほど、軍人を削れという
 声が大きくなるのは目に見えている」

 復興が加速し、人手が足りなくなる状態では軍拡など不可能だった。産業界から総スカンを買うし、市民も反対するだろう。
彼らはより良い生活を求めているのだ。
 しかし今後、幾度も異星人に襲われることを知っている転生者としては軍拡に手は抜けない。そうすると行き着く先は原作同様の
省力化、自動化、無人化だった。

728earth:2011/09/06(火) 20:49:11
「原作の防衛軍はそれなりに合理的だった、というわけですな」
「相手が悪すぎたのだろう。何しろ相手はディンギルを除いて全て強大な星間国家だ。勝てたのだけでも奇跡に等しい」
「さすがヤマトといったところでしょうか」
「だろう。だがヤマト1隻のみに期待することは出来ん」
「では?」
「新兵器開発を急ぐと同時に、戦艦整備を中心とした次の防衛艦隊整備計画とは別枠で、新型戦艦と新型戦闘空母建造を
 司令部に上申する」
「……『ムサシ』と『シナノ』ですか」
「大和型戦艦三姉妹が揃えばかなりの打撃力になる。それにボラー連邦との接触のためには長い航続距離を持つ船が要る」
「外宇宙探索任務も兼ねると」
「そうだ。不測の事態は避けなければならん。それに……うまくすれば将来、ヤマト3姉妹のうち、どれかに乗れるかも知れん」
「……それが本音では?」

 発足した地球連邦政府は戦艦整備を主眼とした新たな防衛艦隊整備計画を採択した。
 復興のために必死な各国からすれば、乾いた雑巾を振り絞るかのような負担であったが、大きな文句は言えなかった。
何しろ人類の80%以上がついこの間死んだのだから。
 そして何より日本が『ムサシ』と『シナノ』を復活させることを発表したことも、防衛軍再建に関与させた。何しろ今や 
地球を救ったヤマトは防衛軍の象徴であると同時に日本の躍進の象徴でもある。
 日本が大和型戦艦三姉妹を全て復活させるというのは途方も無いインパクトであった。

「いつまでも日本に地球の守護者を気取らせられん!」

 各州、特に北アメリカ州は負けてられんとファイトを燃やす。
 かくして参謀も意図せぬところで急速な軍拡が実現することになる。

729earth:2011/09/06(火) 20:50:36
ネタスレで載せていた6話まで載せました。
あと短めですが7話が完成したので載せます。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第7話
 

 転生者たちは来るべきガトランティス帝国との決戦に備えて、地球防衛艦隊整備計画を力強く推進した。
 尤も一部の人間は「ダンボール装甲の艦隊で大丈夫か?」と危惧する者もいたが、アナライザーの簡易量産型の
ロボットをダメコン要員として大量配備すること、さらに万が一の場合はマニュアル操作によって艦を操作することが
できるようにすることで誰もが妥協した。

「凝った艦を作っていたら間に合わん」

 参謀が全てだった。何しろガトランティス帝国はすぐに来る。現状の地球で大量生産できる艦でないと意味が無いのだ。 

「アンドロメダがやられたのは、中枢が破壊されて操作不能に陥ったからだ。逆にマニュアル操作に切り換える
 ことが出来れば、タイタン基地には帰還できた可能性はある。この戦役で、2隻のアンドロメダ級が生き残れば
 後の戦役も随分と楽になる」

 余裕が出来たこともあり、アンドロメダ級戦艦は2隻が同時に建造されることになった。  
 転生者たちとしては2番艦であるネメシスには収束型波動砲を搭載したかったのだが、波動砲の大火力による
敵艦隊撃滅に拘る人間を説得し切れなかった。
  
「何はともあれ、原作よりも戦力は強化できる。ムサシには収束型波動砲を積めたからよしとしよう」

 しかしこのとき数名が、特に防衛軍の関係者が顔を顰める。これを見た参謀は嘆息する。

「……まだ根に持っているのか? 仕方ないだろうに」
「それは根に持ちますよ。ムサシを航空戦艦にするなんて」

 ヤマト級2番艦となるはずのムサシは、連邦内部の取引でキエフ級空母をモデルとした航空戦艦として
建造されることが決定された。設計図を見た転生者は「PS版かよ」と謎の突っ込みを入れたという。 

「純粋な宇宙戦艦となると他の州が煩かったんだ。それに次世代の空母の実験という名目があれば予算も得やすかった」
「ではシナノは?」
「ムサシの運用経験を基にして本格的な宇宙空母にすることにしたそうだ。建造は……早くともガトランティス戦役後だ」
「下手したらペーパープランで終りそうですね」

730earth:2011/09/06(火) 20:51:17
 防衛艦隊再建が進められる中、参謀は人事部に艦隊勤務を希望した。
 何しろこれから来るのはあのガトランティス帝国。そしてこれを迎え撃つのは最盛期の地球防衛軍。大艦隊決戦になる
のは目に見えている。

「今こそ、目立つとき! この目に優しい緑色の軍服から、黒色の渋いコート(艦長服)にクラスチェンジするときだ!」

 しかし彼の望みは敢え無く却下される。

「な、何故ですか、長官!?」
 
 長官室で参謀は防衛軍長官である藤堂に詰め寄るが、返答は非情だった。

「防衛軍再建のためには、君のような宇宙戦士が必要だからだ」
「ですが防衛艦隊再建は順調です。私が居ないからと言っても……」
「私は君の軍政家としての能力を買っているのだ。逆風の中、ヤマト計画を根回しして実現。人類復興の第一歩となった
 『特急便』、さらに太陽系の治安回復や防衛軍再建に大きな貢献を果たした君を戦場に出すのはリスクが大きすぎる」

 一言で言えば「お前はこれからもデスクワークをやれ」であった。 
 
「し、しかし前線は指揮官が……」
「古代君(兄の方)が居る。それに温存していた日本艦隊の指揮官もいる。いずれ沖田君も復帰できる。
 君が出て行く必要はない」
「……」
「それに彼らも言っていたぞ。君のような頼りになる人間がいるから、自分達は安心して戦っていられるのだ、とな」

 ダメだしだった。参謀は肩を落として長官室を後にする。
 この様子を見ていた古代(進)や真田は意外そうな顔をしていた。

「真田さん、あの人が?」
「ああ、ヤマト建造を実現させた名参謀だ。ガミラス戦役のころから切れ者参謀として名を馳せている」
「しかし安全な司令部に務めているのに、あんなに前線に出たがる人がいるなんて」
「彼も立派な宇宙戦士、そういうことなんだろう。沖田艦長や土方教官も彼のことは褒めていたよ。前線の言うことに
 真摯に耳を傾けて、自分達をサポートしてくれる人物だと」

 事情を知る人間からそれば突っ込みどころが満載だった。
 しかし事情を知らない人間からすれば、参謀はまさに後方で働くために生まれたような人間であったのだ。
 かくして参謀は、これまでやったことが原因で前線に出る道を閉ざされることになる。

731earth:2011/09/06(火) 20:52:54
あとがき
参謀の野望木っ端微塵。それも自業自得で(笑)。
それも微妙に勘違いされております。
彼が前線に出る日は来るのか……。

732earth:2011/09/07(水) 23:21:56
第8話投下です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第8話

 防衛軍再建の功績で参謀は参謀長にクラスチェンジした。
 これによって防衛軍総司令部では確固たる地位を参謀(元)は得た。だがそれは同時に防衛会議などの上位組織と
駆け引きする時間が増えることを意味しており、彼が希望した晴れやかな舞台とは真逆の仕事だった。

「来る日も来る日も、書類と会議ばかりか」

 参謀長は相変わらず密談の場として使っている地下都市の防衛軍司令部でため息をついた。

「仕方ありません。軍隊というのはそんなものです」
「いいじゃないか、君は。新しい概念の戦術の研究に余念がない。ガトランティス艦隊が来ても活躍できるだろう」
「命がけですよ。数分で『ヒペリオン艦隊壊滅!』なんて言われる可能性だってあるんですから。尤も防衛艦隊を
 壊滅させた戦術で、敵を迎え撃つっていうのは燃えますが」

 眼鏡をかけた男はそう不敵に言った。参謀長は一瞬、彼の背後に謎の踊りを踊る老人の姿を幻視したが気にしない
ことにした。

「防衛会議では楽観的なお偉方が多くて、こっちは大変だよ。
 あの長官は人望は厚いし、決断力もあるが……政治力については心もとないからな〜」
「そこをサポートするのが参謀、いえ参謀長の仕事でしょうに」
「ふん。体のいい、厄介ごと処理だ。全く、どいつもこいつも文句ばかり言いやがって。まぁここで不満を言っても
 仕方ない」
  
 そう言って彼は気分を切り替える。

(取りあえず目の前のガトランティス戦役を乗り越えることに全力を注ぐことにする。これを乗り切ればまだ
 華々しく活躍できる機会はあるはずだ)

 彼は諦めが悪かった。

733earth:2011/09/07(水) 23:22:30
「経済状況は? 防衛艦隊を強化するには、経済の再建が必要不可欠だ」
 
 参謀長の質問に、連邦政府高官となった元日本政府高官が答える。

「各州の再建は急ピッチで進んでいる。また防衛軍再建にも意欲的だ。おかげで次の防衛艦隊整備計画も予算が確保できる
 見込みだ。しかし……」
「その代わりに、横槍も煩いと?」
「ああ。まぁ何とか押さえているが……やはり外圧であるガミラスが消えたことは大きいな。ボラー連邦のような国家が
 あることが判れば、危機感を煽れるし、防衛軍強化ももっとスムーズにいくだろう」

 次の週、防衛会議では防衛軍長官の藤堂と参謀長から太陽系外の星域の探索が提案された。

「我々は太陽系外の情報は無知に等しい。もしもガミラス、いやそれ以上の敵対勢力が居たら目も当てられない」
「ガミラス帝国の残存艦がゲリラ攻撃を仕掛けてくるとしたら太陽系外に基地を作る可能性が高いでしょう」
「万が一に備えて、地球外で移民できる惑星を探索させるべきです。出来なくとも新たな資源を発見できれば大きな利益になる」
「備えあれば憂い無しとも言う。危機管理の重要性はガミラス戦役のことからお分かりでしょう?」

 参謀長はそう言って出席者を説得した。太陽系の開発こそ最重要と考える人間も少なくなかったが、ガミラス戦役の恐怖を
逆手にとって参謀長は説得した。何しろガミラスは本星こそ壊滅したものの残存戦力は侮れない。
 また全く未知の敵対勢力がいる可能性も否定できず、藤堂の強い要望と事前の参謀長の根回しもあって防衛会議は太陽系外の
探索を承認した。この任務にはガミラス戦役の武勲艦であり、長距離航海が可能なヤマトが当てられることになった。
 ちなみに艦長には暴走の危険がある古代進ではなく、完結編では地球艦隊司令官を務めていた男が就任することになった。

734earth:2011/09/07(水) 23:23:01
「栄転おめでとう」

 参謀長は軽い嫉妬交じりでそういったが、本人(勿論転生者)は激怒した。

「お前は俺を殺すつもりか?! ヤマトの艦長なら古代兄にでもやらせればいいだろう! PS版じゃ大活躍じゃないか!」
「彼には別の任務がある。それにヤマトはTV版のように改装して出撃させるぞ。旧式化はそこまで気にしなくても」
「違う。ヤマト艦長そのものが死亡フラグじゃないか。歴代ヤマト艦長は、古代弟を除いて殆ど死んでいるんだぞ!」

 劇場版を含めるとヤマトの艦長というのは死亡率が高い。第一艦橋が被弾しない代わりの人柱ではないかと思えるくらいだ。
死ななくても大怪我する可能性が非常に高いポストと言えるだろう。まぁ第三艦橋勤務に比べれば遥かにマシと言えるが……。

「くそ、俺にも主人公補正があれば!」
「そんなものは名無しキャラにあるわけないだろう。ああ、それと間違えるなよ。爆雷波動砲はまだ無いからな」
「言っておくが、あれは『拡大』波動砲だ。聞きづらいが……」
「そうか……しかし普通の波動砲と何が違ったんだ?」
「知らん。あっという間に全滅したからな、地球艦隊。完結編の戦艦は結構好きだったんだが」

 何はともあれヤマトは再び地球から飛び立つことになる。

735earth:2011/09/07(水) 23:24:42
あとがき
参謀は参謀長に進化しました(爆)。
ますます前線が遠のいていき、デスクワーカー一直線です。
このままだと後世では調整型軍人として名を馳せるでしょう。本人には不本意ですが。
次回でヤマト発進です。

736earth:2011/09/07(水) 23:29:31
すいません。調整型軍人ではなく、『軍政家』です。

737earth:2011/09/08(木) 20:59:04
第9話投下です。

『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第9話

 原作同様に改装され戦闘力を大幅に強化されたヤマトは、未知の世界である銀河系中央を目指して飛び立った。
 と言っても艦長は最初から目的地や状況を知っていたが……。 

「バース星か」

 ヤマトの艦長室でヤマト艦長となった男は原作を振り返る。

「バース星はボラー連邦の保護国となっていたな。まぁラム艦長のように、バース星人も軍人として起用されていたから
 奴隷化まではされていないようだが……」

 ガミラス帝国やガトランティス帝国は人類の奴隷化か絶滅を突きつけたし、ディンギル帝国は人類殲滅、デザリウム帝国は人類の
肉体を手に入れようとしていた。この四ヶ国については交渉の余地がない。

「まぁ新興国家だから舐められるのは間違いないだろうが……ガミラスを打ち破ったという実績を強調すれば、何とか
 なるやも知れん。しかし相手はあの気難しい独裁者だ。少しでも機嫌を損なえば大変なことになる。全く面倒な仕事だ。
 まぁ古代弟は、兄と沖田艦長が生きているおかげで、少しは気性が穏やかだ。私が気をつけていればあの首相と口論する
 ようなことはないだろう」
 
 そういった後、彼は艦長室を後にした。
 何しろヤマトは改装を受けたものの、その後の訓練は十分とは言えないのだ。
 不測の事態に備えて、練度を高める努力は必要だった。

「私が人柱にされないためにも頑張らなければ」

 ヤマト艦長という死亡フラグを押し付けられた男は割を必死だった。

738earth:2011/09/08(木) 20:59:34
 一方、地球防衛軍はアンドロメダ、ネメシスを完成させた。2隻はただちに訓練に取り掛かる。またアンドロメダ級の
3番艦以降の建造も進められている。
 また航空戦艦(転生者の間では機動戦艦と呼称)であるムサシの建造も進められていた。ヤマトに比べて太くなった
艦体を利用して60機もの艦載機を搭載できる。また飛行甲板が広いこともありヤマトよりも余裕を持った運用が可能
となっている。
 武装もほぼヤマトに準じるものであり46センチショックカノン砲こそ前部2基6門に減じたが、パルスレーザーは
針鼠のように搭載されている。さらにアンドロメダ級と同様にダメコン要員として簡易量産型アナライザーが多数搭載
されており、ヤマトに迫る防御力を持っている。ちなみにヤマトでは何故か第一艦橋の上にあった艦長室は撤去され
変わりにレーダーやセンサーなどの索敵用の機材が詰め込まれた。
 総合的な能力ではヤマトを超えるのではないかとさえ、関係者の間では囁かれていた。

「あとは長距離航海任務に適した巡洋艦が建造できれば完璧なのだが」

 ドックでムサシを見上げて参謀長はため息をつく。
 地球防衛軍はこの時点では沿岸海軍に過ぎない。
 またイスカンダルまでの航海で波動砲が活躍したこと、また拡散波動砲が実用化できたことで防衛軍の戦術は波動砲
に依存している。おかげでやたらと波動砲を艦に搭載したがる風潮があった。

「空間磁力メッキと同様の技術を敵が持っていた場合に備えて、航空戦、砲雷撃戦の研究、それに新たな対艦、対空兵器の
 開発が急務だな。他の新兵器も開発を急がなければ」

 波動カードリッジ弾、コスモ三式弾の開発は急ピッチで進められていた。 
 ガトランティス帝国戦までには何とか間に合う見込みだ。だがそれでもガトランティス艦隊とは絶望的な差がある。

「前衛艦隊に勝てても、次は都市帝国、それに巨大戦艦が相手。些か荷が重い。
 やはり……可能ならばボラー連邦を、ガトランティス戦役に引きずり込むのが望ましい」
 
 戦術で勝つための算段をしつつも、参謀長は戦略で状況の打開を目論む。

「だが……太陽系に来る、無礼な客人を歓待する用意もしないとな。我々のホームに入り込んでただで帰れると思うなよ」

739earth:2011/09/08(木) 21:00:04
 太陽系に侵入して防衛軍の撹乱を行うであろうナスカ艦隊の早期の捕捉と撃滅は必須だった。
足元の安全なくして決戦はない。

「それにしても金星基地を叩かれただけで、エネルギーが全ストップはないな」 

 原作で金星基地を叩かれただけで、あっさり機能が停止した地球の体制のもろさを思い出して参謀長は頭痛を覚えた。
 勿論、この世界では万が一に備えてバックアップを取っているし、地下都市に臨時のエネルギー供給施設もセットして
いる。仮に地上の施設が爆撃されても何とかなる。

「まぁ金星基地襲撃を防げれば言うまでも無い。コスモタイガーⅡの早期警戒機仕様を配備しておこう」

 コスモタイガーⅡの早期警戒機の生産は急ピッチで進んでいる。
 有利に戦うには、まずは先に相手を見つけなければならない。これはこれまでの戦訓から明らかであり、反対はなかった。
また地球側に余裕があることもこのような装備の充実を可能にした。
 参謀長としては11番惑星にも艦隊をおきたかったのだが、さすがに人員と予算の面から無理だった。しかしそれでも
定期的にパトロール艦が派遣され周辺を警戒するようにし、非常時に備えて偵察衛星、通信衛星も多数設置している。
 
「参謀長は心配性ですな」

 防衛軍司令部ではそう囁かれるほどなのだから、どれほど力を入れているか分る。

「当面やることだけでも太陽系防衛体制の強化、テレサの通信の傍受の準備、ボラー連邦との交渉の用意、他にも色々と全く
 地味な仕事ばかり増える」

 彼の地味な仕事(重要度は高い)に終わりが来るのかは、誰にも分らなかった。

740earth:2011/09/08(木) 21:02:03
あとがき
というわけで第9話でした。
次回、ボラーとの接触の予定です。
ガトランティスも迫ってくるので参謀長も大変になるでしょう。
地味な仕事で(笑)。

741earth:2011/09/09(金) 23:07:14
第10話です。少し展開が速すぎたかも(汗)。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第10話

 紆余曲折の末、ヤマトは取りあえずバース星にたどり着いた。
 途中でトラブルで遭難していたボラー連邦船籍の輸送船のクルーを保護していたこと、そしてボラー連邦の警備隊の
攻撃に反撃せずに通信を呼びかけ続けたことで、ある程度信用され、ヤマトは総督府から寄港の許可を得た。
 ヤマトクルーは新たな宇宙人(それも人型)との遭遇や人が住める惑星の発見から、少しテンションを上げていた
ものの彼らの上司である艦長は気が気でなかった。

「さて、いよいよか」

 ヤマト艦長は己を奮い立たせる。ファーストコンタクトは何とかなったが、相手はソ連みたいな国なのだ。
油断などできるはずがない。

「蛇が出るか、鬼が出るか」

 艦長がそう覚悟した後、輸送船のクルーを助けてくれたことへの感謝の印として総督府での会食へ招待された。
最初、艦長は古代のみを連れていくつもりだったのだが、古代の提案で第一艦橋のメンバーや佐渡先生まで連れて
行く破目になった。所詮、名無しキャラでは主人公の押しには勝てなかった。

「これが補正とでも言うのか……それとも歴史の修正力とでも言うのか?」

 嘆息しつつも、艦長は彼らを連れて総督府に赴いた。勿論、不用意な発言は慎むように厳命していたが。 
 バース星総督府の会食でヤマトクルーはボラー連邦についての説明やバース星が保護国になった経緯について
説明を受ける。

「ようするに侵略したってことじゃ?」
「胡散臭くないか?」

 非常に小さな声でであったもののヤマトクルーの発言に顔を引きつらせそうになる艦長。彼らの発言が聞こえて
いたらと思うと気が気でない。

(こ、この連中は……そういえば原作でも命令無視はよくあったよな……はぁ〜原作で防衛軍首脳がヤマトクルーを
 厄介者扱いした理由が判るよ)

 だが何とか場の空気を悪くすること無く、会食は終った。

742earth:2011/09/09(金) 23:08:23
「次に想定されるのは、囚人による襲撃だな」

 原作の設定どおり強制収容所がある場合は、囚人達による襲撃が予想される。警戒は必要だった。 
原作との乖離によって、相手が持っているのが衝撃銃だけとは断言できない。ここで下手にヤマトクルーを死傷
させるとガトランティス戦役に支障が出る可能性がある。

「戦闘班、及び空間騎兵隊は警戒体制をとれ」

 ヤマトには万が一に備えて空間騎兵隊も同乗していた。勿論、斉藤はいないが、陸戦になっても十分に戦える
ようになっている。 

「ここで囚人達の暴挙を口実にすれば、交渉の糸口になるか?」

 そして予想通りやってきた囚人達は、古代率いる戦闘班と空間騎兵隊の攻撃によって成す術も無く撃滅される
ことになる。何しろ相手は衝撃銃、こちらはコスモガンやレーザー自動突撃銃なのだ。勝負にならない。さらに
陸戦のプロである空間騎兵隊さえ居る。大人と子供の喧嘩だ。

「彼らは一体、何だったんでしょうか?」

 古代はそう疑問を呈する。勿論、艦長は知っていたが教えるわけにはいかない。

「装備や練度からして正規軍ではない。だとすれば犯罪者か、テロリストだろう。どちらにせよ、軍服を着用せずに
 戦闘行為をした以上、テロリストとして処分するしかない。生き残った者は尋問する。準備をしておけ」
「は!」

 生き残った囚人の尋問の最中に、ボラー連邦軍バース星警備隊隊長であるレバノスが訪れて謝罪した。またその後に
刑務所(本当は強制収容所)からの脱走者の引渡しを要請した。
 勿論、艦長は断ることは無かったが、囚人達による被害について話し合いをしたいと伝える。レバノスは少し逡巡した後
頷いて艦を後にした。

「何とか交渉の取っ掛かりになれば良いが。ああ、それにしても頭と胃が痛い……全く、何でこんな面倒なことを」

 この不幸な艦長は不平不満を漏らしつつ、自室で薬を飲んで暫く休んだ。

743earth:2011/09/09(金) 23:09:10
 だがヤマトからの報告を受けた地球連邦政府は休むどころではなくなっていた。何しろ銀河系の半分を支配する
広大な星間国家が居ることが明らかになったのだ。
 ガミラスが居なくなったことで気を緩めていた政治家や防衛軍高官は無様なまでに慌てふためいた。一部の
高官は「ヤマトを超える戦艦を持っているのだから恐れる必要は無い」と主張したが、防衛軍司令部の会議の席で
参謀長はそんな意見を切って捨てる。

「相手がガミラスより強大であったらどうする? それにガミラスは多方面に戦線を抱えていた。だが彼らには
 それが無いのだ。地球より優勢な生産力を背景にして、大量の物量で押し寄せられたら大変なことになる」
「では、手が無いとでも?!」
「ないことはない。そのためのアンドロメダ級の大量建造だ。それに太陽系の防衛計画の策定も進めてある」

 参謀長は万が一に備えて(実際はガトランティス戦役に備えて)、土星空域での決戦を考慮した防衛計画を
策定していた。これがあればガトランティス艦隊が攻め込んできても、土方が独断で戦力を土星に集めなくても
済む。

「しかし敵を攻め滅ぼすのは難しい。何しろ、こちらは太陽系周辺での戦いを想定しているのだ」
「ですが敵を撃退しつづければ」
「防戦一方となると息切れする可能性があるぞ。それに再度の総力戦は地球経済にも悪影響を与える。
 こちらにできるのは、地球は簡単に滅ぼせるような勢力ではないことを向こうに示し、相手が戦争しようとする気を
 なくすことだろう。幸い、ガミラスに勝ったという実績もある」

 実際には言った以上のことを考えていたのだが、それは口に出来ない。

(さすがに、いきなり彼らと同盟を組むとか、最悪の場合は傘下に入るとは言えんからな〜)

 そんな参謀長の考えを知ることなく、藤堂は深く頷いた。
 
「参謀長の言うことは最もだ。今の地球は戦争よりも復興と成長が必要だ。
 万が一の事態に備える必要はあるが、最初から喧嘩腰になるのは拙い。しかし必要以上に弱腰になることもない」
 
 藤堂の言葉に不満そうな人間も黙り込む。それは参謀長にないカリスマのなせる業だった。

744earth:2011/09/09(金) 23:10:01
 こうした地球防衛軍の姿勢から連邦政府も次第に落ち着きを取り戻す。
 一部の高官はガミラス戦役の悲劇を繰り返さないために不可侵条約のような条約を結べないかとさえ主張する。

「戦争にならないように、交流を深める必要はあるだろう」
「相手が格上の存在として交渉するしかあるまい。幸い、ガミラスのように『絶滅か、奴隷化か』を要求して
 きているわけでもない。多少は話が出来るだろう」
「それに広大な星間国家と交流ができれば外需が見込めます。いきなり大規模な貿易はできないでしょうが、我が国の
 産業を強化した上で交流を重ねれば……」
 
 大統領を含めた連邦政府の高官たちは、大統領府でボラー連邦に関する情報の収集を行う事、そして国交を開く
準備をすることを決定する。
 だがその後、一人の軍人についての話題になる。

「しかしあの男、やりますな」
「ああ。彼が言ったように探査計画をしていなかったら、あのような国家があることなど分らなかった。
 アンドロメダ級戦艦を建造しただけで宇宙の守護者を気取っていた自分が恥かしい」
「こうなると、ボラー連邦以外にも広大な星間国家がある可能性は否定できませんな。参謀長が進めていた
 太陽系防衛計画が役に立ちそうです」
「何にせよ、恐るべき先見性だな。政治家の能力もある。防衛軍の参謀長に留めておくのは勿体無いかも知れん」

 参謀長が前線で華々しく活躍する日は、また遠くなりそうだった。

745earth:2011/09/09(金) 23:12:07
あとがき
と言うわけでボラー連邦との接触でした。
もうそろそろムサシも完成する予定です。
ヤマトも早めに帰らないと拙いかな……それでは。

746earth:2011/09/10(土) 09:45:03
第11話です。

 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第11話

 ボラー連邦のべムラーゼ首相は、首相官邸でバース星に収容されているシャラバート信者の囚人達が蜂起したこと、
そして彼らが地球連邦という新興国家の戦艦を襲撃したという報告に激怒した。

「即刻、囚人達を処刑せよ!」

 宇宙の神を自称するべムラーゼからすれば、シャラバート信者の蜂起というだけでも気に食わない。
 それに加え彼らが他国の戦艦を、それも自国の国民を救助してきた船を襲撃したことでボラー連邦の面子を傷つけたとの
事実は怒りを煽るのに十分だった。新興国家の戦艦『ヤマト』は被害について苦情を言っている。

「弱小の新興国家の分際で、偉そうに」

 べムラーゼは不機嫌そうな顔をするが、さすがに無視はできなかった。そんな彼に側近が自身の意見を述べる。

「閣下、彼らはこの事件を口実にして連邦との交渉の糸口にするつもりかも知れません」
「ほう? このボラーと対等に口を利こうというのか?」
「彼らは銀河系辺境で発達した文明圏に属しています。我々のことを詳しく知らないのでしょう。口頭で説明しても
 完全に信じるのは無理かと。また未確認情報ですが、彼らは『あの』ガミラスに勝った国家とのことです」
「ほう?」

 ガミラスが敗れたという情報はボラーにも届いていた。

「信じられんな。だがそれが事実だというなら……利用する価値はありそうだな」
「はい。オリオン、ペルセウス腕への進出の口実にもなります」
「バース総督府に、丁重に扱えと伝えておけ。それと……特使と艦隊を派遣する用意を進めよ。我がボラーの偉大さを
 地球人に見せ付けるのだ」

 べムラーゼは戦争をするつもりはなかったが、新興国家に舐められるつもりはなかった。

747earth:2011/09/10(土) 09:45:34
 ヤマト艦長はバース総督府と交渉の末、相応の補償を得た。また同時に交渉の取っ掛かりを得た。
 ヤマトがやったような人命救助に関する話や船の寄港に関する話し合いに持っていくことに成功したのだ。
最終的に外交官の仕事になるものの、ヤマト艦長の功績は大きいと言える。

「さっさと帰るぞ」

 交渉でクタクタになった艦長は、用事が済んだとばかりに地球への帰途につくことにした。
 だがこの際、ボラー連邦はバース星艦隊と特使も同行したいと申し込む。

「べムラーゼ首相も地球との友好関係の構築を望んでおられるのです」

 バース星総督の言葉に、艦長は独断で判断できないとして連邦政府の指示を仰いだ。 
 勿論、この話を聞いた連邦政府は困惑した。何しろ無碍に断れないが、まだ友好的とは決まったわけではない
勢力を地球本星にまで招くわけにはいかない。
 
「外惑星のどこかで会談できないだろうか?」

 大統領の意見は安全保障上当然だった。
 防衛軍首脳部も太陽系防衛の要であり、最終防衛線と考えている土星、そしてそれより内に招くのは危険が大きい
と判断した。その結果、天王星での会談を打診することが決定される。
 また会談の護衛のために天王星の第5艦隊に加え太陽系外縁を受け持つ第1艦隊、空母部隊が護衛に付き、万が一の
事態が起きた場合、すぐに応援にいけるように土星基地には他の艦隊から抽出された艦から構成される部隊が集結する
ことになる。

「確か西洋占星術では、あの星は支配星。確か意味の中には『変化』もあったな……可能な限り地球にとって
 好ましい変化にしたいものだ」

 参謀長は防衛軍司令部で、天王星で地球とボラーの特使が会談をするという決定を聞き、そう呟くと
すぐに書類に目を向ける。

「あとは……ムサシ。この機動戦艦を戦力化せねば」

 古代守を艦長に頂く新型戦艦の完成は目の前だった。

748earth:2011/09/10(土) 09:46:07
 こうして地球防衛軍が歓待の準備を進めている頃、参謀長達転生者にとって目下最大の敵であるガトランティス帝国軍は
太陽系外縁で活動を活発化させていた。
 地球侵攻の尖兵であるナスカ艦隊は積極的に周辺の探索を進めていた。

「ナスカ司令、件の戦艦『ヤマト』がどこにいるか分りました」

 高速中型空母『エウレカ』の艦橋で報告を受けたナスカは副官に顔を向けて尋ねる。

「どこだ?」
「銀河系中心方向から地球に向かっています。ですが、我が国が知らない勢力の艦隊が同行しているとのことです」
「何だと?」

 この予期せぬ報告は直ちに都市帝国に居る大帝ズォーダーに知らされる。
 参謀長であるサーベラーは予期せぬ報告に眉を顰めるが、ズォーダーは余裕綽々だった。

「構うことはない。征服の楽しみが増えたではないか」
 
 ヤマトやそれを超える戦艦を多数保有する地球。そして地球とは異なる別の星間国家。
 アンドロメダ星雲を征服したズォーダーからすれば相手に不足は無かった。
 こうしてガトランティス帝国はボラー連邦さえ敵にして地球侵攻と銀河の征服を行うべく動き出した。

『では手始めに、奴らの実力を量るためにヤマト、そして同行する艦隊に攻撃を仕掛けます』

 この後、ナスカ艦隊はヤマトとボラー連邦艦隊に対して攻撃を開始する。
 それは大規模な星間戦争の開幕を意味するものでもあった。

749earth:2011/09/10(土) 09:47:27
あとがき
というわけでもうそろそろ開戦です。
べムラーゼの性格上、ズォーダーとは相容れないでしょうし、面子を
傷つけられたボラーも積極的に動くでしょう。
それでは。

750earth:2011/09/10(土) 21:20:04
第12話投下です。


『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第12話


 ヤマト艦長はガトランティス帝国軍による襲撃を警戒して、コスモタイガーⅡで常に艦隊周辺の索敵を行っていた。

(原作どおりなら、もうそろそろ奴らが仕掛けてきてもおかしくない。警戒は必要だ。
 不意打ちを喰らってお陀仏という事態だけは避けなければ……)

 ヤマトの艦長に就任するのは死亡フラグ①。そのことを理解しているが故に艦長は慎重だった。 
 片や、ヤマトクルーは艦長の気合の入れぶりに違和感を感じていた。
 特にそれを感じていた古代は食堂で真田に話しかけた。 

「真田さん、艦長は何者かによる襲撃を警戒しているんでしょうか?」
「総督府や囚人達の情報からボラー連邦は戦争はしていないし、対抗する国家もない。だとすればガミラス残党だろう」
「ガミラスですか」
「ああ。これから国交を結ぼうとする相手の国の特使を襲われたら大変だ」
「……あんな国と国交を結ぶことになるんでしょうか」 

 バース星で捕まえた囚人から得た情報は古代たちにとっては衝撃的なものだった。
 特に青臭いところがある古代にとっては、ボラーの政治体制は危険なものに見えた。

「だからといって喧嘩するわけにもいかない。まだ、ガミラスのように喧嘩を吹っかけてきているわけじゃない」
「……」

 原作の古代なら過激な行動にでるところだったが、兄と沖田艦長が生きていることが、そんな行動を抑止していた。 
 
「今は特使を太陽系に送り届けることに集中しようぜ、古代」

 近くで話を聞いていた島が、そう纏めるように言うと、古代は頷いた。

「そうだな」

 だがその直後、周辺を警戒していたコスモタイガーⅡが謎の飛行物体から攻撃を受けたとの情報が入り
ヤマトは戦闘配置が敷かれることになる。

751earth:2011/09/10(土) 21:20:36
 ヤマトとボラー連邦艦隊が攻撃を受けたとの報告は直ちに地球防衛軍司令部にも伝えられた。

「状況は?!」

 参謀長は問いにスタッフは慌てて答える。

「はい。本日、地球時間1210に謎の飛行物体から攻撃を受けました。コスモタイガー隊が応戦中とのことですが
 数が多く対処しきれないと。ボラー艦隊からも戦闘機が緊急発進しましたが……」

 参謀長はすぐに藤堂長官に顔を向けた。 

「長官」
「分っている。太陽系外惑星艦隊で動ける部隊を直ちに向かわせてくれ。それと太陽系の各艦隊に警戒態勢を」
「了解しました」

 地球防衛軍は全部隊を直ちに警戒態勢に移行させた。参謀長達の事前の準備もあり、その移行は非常にスムーズであった。

「新たな敵が現れるかも知れんな」
「長官、幸いムサシの就役も間近です。長距離航海ができ、多数の艦載機を搭載できるムサシがあれば、太陽系外の調査も
 スムーズにいくでしょう」
「ふむ(さすが参謀長だ。やはり彼には司令部で頑張ってもらわないと)」

 自分がどのように思われているかなど露も知らず、参謀長は今後のことを考える。 
 
(ガトランティスが仕掛けてきた、ということだろう。だとすればボラーは自動的にこちら側につくことになる。
 あの気難しい首相閣下が大人しく引き下がるわけがないからな。ボラーの空母部隊が来てくれれば非常に助かる。
 盾代わりにはなるだろうし)
  
 参謀長は自分の目論見が成功しつつあると見て内心でほくそ笑む。
 
(さて後は……生きて帰って来いよ、艦長)

 だが参謀長がそう願っているころ、ヤマトは激戦の中にあった。

752earth:2011/09/10(土) 21:21:34
「敵機、3時の方向から接近!」

 森雪の報告を受けて艦長は迎撃を命じる。

「パルスレーザー、撃ち方開始! ボラー艦隊は?!」
「迎撃機を出しています。ですが劣勢のようです」
「くっ」  

 ボラー連邦艦隊やバース星艦隊からも迎撃機が出ているが、状況は良いとは言えなかった。 
 何しろボラー連邦軍は実戦経験に乏しい。加えて平和が長く続いたせいで、将兵も弛緩している。訓練こそ積んでいた
ものの練度では防衛軍よりも劣る。まして……。

(ラジェンドラ号を除けば名無しキャラで、ダンボール装甲。これでは……)

 ミサイル数発で次々に轟沈するであろうボラー連邦の軍艦の姿を幻視して艦長は焦った。
 コスモタイガー隊は必死に防戦しているものの、すでに少なくない数の攻撃機がボラー艦隊にも攻撃を仕掛けている。
 ヤマトにも先ほどから何機もの攻撃機が取り付いて攻撃を浴びせている。ヤマトは過剰と思えるほど搭載した対空用の
パルスレーザーで攻撃機とミサイルを叩き落し、残ったミサイルも島の神業的操縦で回避していた。
 だがボラー艦隊に同じ真似はできなかった。いや、ヤマトを比較にするのは間違いなのだが、それでも彼らの機動は
防衛軍の通常部隊と比べてもお粗末だった。

(回避運動が遅い! 何をやっている!)

 火力で支援しようにも、艦隊周辺は混戦状態。下手に撃ったら同士討ちになる。原作では味方に当ることはなかったが
この状況ではボラー連邦軍の艦載機に当る可能性が高かった。

「……古代、コスモタイガー隊の3分の2をボラー軍の支援に当ててくれ」
『ですが』

 この直後、遂にボラー連邦軍の戦艦1隻、駆逐艦1隻が多数のミサイル攻撃を受けて轟沈する。

「(やはりダンボール装甲だな)命令だ。このヤマトは簡単には沈まん」
『了解』

 古代のコスモゼロを含めてヤマト艦載機の3分の2がボラー艦隊の支援に向かう。

753earth:2011/09/10(土) 21:22:11
 これによってボラー連邦軍の被害は軽減される。しかし同時にそれはヤマトが被弾する危険性が増すことを意味していた。 
 実際、コスモタイガーが離れた後、5発ものミサイルがヤマトに命中。うち1発が第三艦橋に被害を与える。

「技術班は修理を急げ! 防衛軍司令部からの返答は?!」
「応援を派遣したとの事です!」

 相原の言葉に、艦長は頷くとクルーを鼓舞する。

「そうか。諸君、もう暫くの辛抱だ。ここを凌げれば反撃に出れる!」

 一方、司令官ナスカは相手の防空能力を量ることが出来たとして艦上機による攻撃を停止し、続けて戦艦4隻と駆逐艦8隻を
差し向け砲撃戦を行おうとしていた。

「ヤマトはデスラーの言ったとおり手強い。だが、あの艦隊は大したことはないな」
「はい。どうやら銀河系制覇の最大の障害は地球になりそうです。それと通信傍受の結果、あの艦隊はボラー連邦と言う
 国の艦隊であることが判りました」
「ふむ。大帝へのよい土産になりそうだ」

 こうしてヤマトにとって久しぶりの砲撃戦が始まる。

754earth:2011/09/10(土) 21:26:07
あとがき
ボラー連邦軍ボロボロ。ヤマトも相応に被害を受けます。
これだと太陽系についてもボラーは大きな態度はできないかも。
まぁそれ以前に首相閣下がお怒りでしょう。恥の上塗りだし。
次回、砲撃戦の予定です。

何故か、こちらのほうがサクサク進むのは何故だろうか?
あと申し訳ございませんが、憂鬱本編は少し遅れるかも知れません。
リアルで色々と精神的に来ることが多かったので……胃が痛い。

755earth:2011/09/10(土) 21:37:36
あと、『嗚呼、我ら地球防衛軍』を纏めてHTML化してHPのほうに
掲載しようと思うのですが、どうでしょうか?

756名無しさん:2011/09/10(土) 23:28:32
未来人の多元世界見聞録も一緒にお願い

757earth:2011/09/11(日) 10:32:31
第13話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第13話

 ナスカ艦隊による航空攻撃でボロボロになったボラー連邦艦隊は艦隊の立て直しに懸命だった。
 喪失艦は戦艦1、駆逐艦1のみであったが戦艦1隻、戦闘空母1隻、駆逐艦3隻が大破(後に自沈処分)、他の艦も軒並み
被害を受け、無傷の艦は皆無。また艦載機の消耗も少なくない。このため立て直しは難航した。 

「壊滅ではないか!」

 旗艦である空母の艦橋でボラー連邦艦隊司令官は呻くが、実際にその通りだった。

「恥の上塗りどころではないぞ……」

 ヤマトが居なかったらボラー艦隊は全滅していたかも知れなかった。この失態を知られたら彼は破滅だった。  
あの冷酷な独裁者であるべムラーゼが、このような失態を犯した人間を生かしておくはずが無いからだ。

「くそ。何としても報復しなければならない。偵察機を出して何としても犯人を見つけ出すのだ!」

 身の破滅を避けるには、何としても落とし前をつける必要がある。そのため司令官はそう厳命した。
 だがそれにレジェンドラ号のラム艦長が反発する。

『今は艦隊の立て直しを優先するべきです。また沈んだ艦の乗組員の救助も』
「放っておけ! 今は反撃が先だ!! これはボラー連邦軍司令官としての命令だ! それともバース星軍人の君は
 私の決定に従えないと?」

 司令官はラム艦長の反対を押し切るどころか、立場を利用して脅した。
 ボラー連邦の保護国であるバース星の軍人であるラム艦長に逆らう真似は出来なかった。

『了解しました』
「では頼むぞ」

 しかしその直後、下手人であるガトランティス艦隊が姿を現すことになる。

758earth:2011/09/11(日) 10:33:14
 ヤマトのメインスクリーンに12隻の艦隊が映し出される。

「敵艦接近。距離10.5宇宙キロ!」

 森雪の報告を受けて艦長は頷くと攻撃を命じた。

「砲雷撃戦用意。目標、前方の敵艦隊。敵大型艦を先に叩く」
「了解! 主砲発射用意。ターゲットスコープオープン!」
 
 古代の指示は直ちに第1砲塔、第2砲塔に飛ぶ。
 そして南部が詳細な指示を出す。

「方位−5度、上下角+3度」

 この指示をもとに主砲が旋回し、砲身が持ち上がる。  
 さらに敵艦隊が10宇宙キロにまで近づくと、細かい微修正が行われる。だがこの光景を見ていた艦長は心のうちで
呟く。
   
(大和の本来の運用方法がベースになっているというべきか……普通はマニュアルよりも機械にやらせたほうが
 間違いが無いんだが……いや職人芸は未だにコンピュータを凌駕することもあると考えたほうが良いのだろう)

 そんなことを考えている内に、照準のセットが終る。 

「発射!」

 古代がそう言った直後、第1砲塔、第2砲塔が斉射した。46センチショックカノン砲から放たれたエネルギーは
寸分違わずガトランティス帝国軍の戦艦に命中し、目標を轟沈させた。

「一撃か……(やはりダンボール装甲だな。いやこちらの攻撃力が高すぎるだけか?)」
「続いて発射用意」

 艦長の内心など露知らず、古代は攻撃を続ける。
 ガトランティス艦隊も回転速射砲で応戦するが、こちらには当ることはなかった。逆にヤマトの反撃を呼び
次々に撃破されていく。

759earth:2011/09/11(日) 10:33:49
 ガトランティス軍は駆逐艦で接近戦を仕掛けようとするが、すでに3隻の戦艦が撃沈されており、勝ち目がない
のは明らかだった。
 一方のボラー連邦軍は未だにガトランティス軍を射程に捉えておらず、ヤマトの長距離砲(衝撃砲)の攻撃に
唖然となるだけだった。 
 
「凄まじい……」

 ラム艦長はこの長距離にも関わらず、敵を余裕で撃破するヤマトの姿を見て衝撃を受けた。
 これほどの高火力を持ち、高い防御力と多数の艦載機を搭載する戦艦はボラーでもあまり見たことがないのだ。

「彼らのような国と早めに友誼を結べば、バースもあのようなことにならなくて済んだんだろうか……」

 そんなラム艦長の呟きを他所に、ガトランティス艦隊は足早に撤退していく。
 さすがのナスカもこれ以上の被害は耐えられなかった。

「ヤマトは確かに恐るべき敵だ」

 瞬く間に大戦艦3隻を沈められたナスカは、改めてヤマト、そして地球防衛軍を難敵と見做した。

「だが、あのボラー連邦軍は大したことはない。我が軍は全力で地球攻略を行うべきだろう」

 ナスカの意見はこの場のガトランティス軍人の共通認識であった。

「これ以上の長居は無用だ。引き上げる!」

 しかし、地球防衛軍は敵を見逃してやるほど慈悲深くなかった。
 
「敵機接近!!」
「何?!」

 救援のために派遣された地球艦隊から発進したコスモタイガーⅡが彼らを発見したのだ。

760earth:2011/09/11(日) 10:34:24
「あれが下手人か!」

 地球艦隊司令官はコスモタイガーⅡから届けられた映像を見て立ち上がった。

「攻撃隊発進! 金剛と榛名は全速で接近し砲撃戦に持ち込む!!」

 このときいち早く到着したのは主力戦艦『金剛』『榛名』と戦闘空母『サラトガ』『レキシントン』、巡洋艦2隻、駆逐艦8隻から
なる艦隊だ。ヤマトとの戦闘で消耗していたナスカ艦隊からすれば死神に等しい陣容だった。 

「だ、脱出だ! 急げ!!」

 慌てて脱出しようとするナスカだったが、早期警戒機仕様のコスモタイガーⅡまでがナスカ艦隊周辺をうろつくようになると
どうやっても逃れることができなくなった。
 さらに敵艦隊発見の報告はヤマトにも齎される。

「反撃の時だ!」

 加藤の言葉にヤマトのコスモタイガー隊も士気を上げる。

「いくぞ!!」

 こうしてナスカ艦隊は哀れにも(自業自得とも言えるが)防衛軍艦隊とヤマトから発進した攻撃隊によって袋叩きにあうことになる。
 戦艦は1隻残らず沈没。ナスカが乗る高速空母エウレカは沈没こそ免れたものの、ミサイル攻撃で速度が半減。護衛の駆逐艦も満身創痍
という状況になる。

「くっ……た、大帝に何と言ってお詫びをすれば良いのだ」

 だが彼が言い訳を考える必要はなかった。このあと全速で急行してきた金剛と榛名のショックカノン砲によって彼の乗るエウレカは
集中砲撃を受け轟沈したかだ。
 かくして太陽系外縁部で行われた会戦は地球防衛軍の勝利で終ることになった。
 だがそれは同時に、新たな敵が現れたことを克明に示していた。地球連邦に残っていた楽観論は完全に一掃され、地球は新たな脅威に
備えて軍拡を進めることになる。

761earth:2011/09/11(日) 10:36:36
あとがき
地球防衛軍大勝利です。
ナスカ艦隊は金星基地を攻撃する前に壊滅してしまいました。
ボラー連邦軍は……いいところがなかったですが、まぁ本気を出せば
何とかなるでしょう。彼らの地力は地球を遥かに超えますし。

あとHTML化を進めることにしました。
元ネタSSの拙作ですが楽しんでいただけているようで幸いです。

762earth:2011/09/11(日) 22:46:09
第14話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第14話

 満身創痍とも言うべきボラー連邦艦隊は、地球防衛艦隊の護衛の下、太陽系に到着した。
 当初は強硬な姿勢を貫こうと考えていたボラー連邦特使であったがガトランティス帝国軍によって一方的に味方艦隊が叩かれた上に
ヤマトの圧倒的戦闘力を見せ付けられたことから、強硬な姿勢など取れるわけが無かった。
 天王星軌道で開かれた会談の席(会場は地球側が用意した豪華客船)でボラー連邦の特使は、防衛艦隊の健闘を褒め称えた。

「地球は素晴らしい戦艦や軍人をお持ちのようだ。羨ましい限りです」
「いえいえ奇襲にもかかわらず、ボラー軍も健闘したと聞きます」

 地球側の特使はそう言ってボラー連邦の面子をつぶさないように努力した。
 尤も新興国家の小国から配慮されても、ボラー連邦が失った面子が戻るわけがなかった。実際、べムラーゼは怒り狂っていた。

「何だ、この醜態は!」

 ボラー軍高官は揃って震え上がった。目の前の怒れる独裁者の機嫌をさらに損なえば、首が物理的に飛ぶのだ。

「これは奇襲であったのが原因かと」
「奇襲されること事態が無能の証拠だ、馬鹿者が!」

 言い訳を切って捨てるべムラーゼ。

「軍は気を緩めすぎているのではないのかね?」
「そ、そのようなことは……」
「ふん。だがこの失態は大きいぞ。ボラー連邦軍が大したことがないと思われれば反体制派が勢いづく。
 まして地球の戦艦がボラー連邦の1個艦隊に匹敵する実力があるなど知られたら、地球と連携しようとするかも知れん」
「で、ですが本国艦隊を派遣すれば地球など一撃で下して見せます」
「当たり前だ。だが、問題は我がボラーの体面を傷つけた愚か者だ。連中の正体は?!」
「ふ、不明です。地球側は捕虜を取ったようですが」
「何としても情報を引き出せ!」

 軍の高官は転げるように部屋を後にした。それを冷たい視線で見送った後、べムラーゼは小声で呟く。

「……ガミラスに勝ったのは伊達ではないということか。地球の評価を改める必要があるな」

 こうしてボラー連邦は、新興国家であるはずの地球連邦をある程度認めるようになる。

763earth:2011/09/11(日) 22:47:04
 地球防衛軍は正体不明の敵艦隊を撃滅したことに鼻高々だった。
 味方の損失艦は皆無。一方で空母3隻、戦艦6隻を含め21隻を撃沈していた。3隻の駆逐艦を逃したが完全勝利だった。
 参謀長もこの結果に安堵した。

「漂流していた敵機のパイロットを尋問した結果、敵はガトランティス帝国軍ナスカ艦隊であることが分った」

 この参謀長の報告に、転生者たちは遂に来たかと頷いた。
 ちなみに密談の場所は関係者が忙しくなったので、集まりやすいメガロポリスにあるレストランの一室になった。勿論、貸切だ。
 
「だがこれでナスカ艦隊は壊滅だ。潜空艦こそ撃破できなかったが、取りあえずは先手を取ったのでは?」
「そうだ。これで太陽系内の安全は当面は確保できた。資源とエネルギー供給も安定する」
「あとは艦隊増強です。無人艦隊整備も前倒しすべきかも知れません」
 
 これらの意見を聞いてから、参謀長は堪える。

「まずは奴らの出鼻はくじけた。だが安心は出来ん。何しろ相手にはまだ前衛艦隊が居るし、デスラー率いるガミラス残党もいる。
 あと無人艦隊はまだ無理だ。色々と試行錯誤する必要がある」
「では従来のとおりに?」
「そうだ。アンドロメダ級3番艦、4番艦、5番艦の建造を急ぐ。6番艦以降は間に合わんが、建造の準備は進めておく」
「『しゅんらん』建造のため、ですか?」
「そうだ。デザリウム戦役になった場合、改アンドロメダ級は必要だ」
 
 参謀長は次の戦役も見据えていた。

「もうそろそろ、テレサの通信が来るだろう。土方総司令や藤堂長官と連携して防衛会議を動かす。皆も協力を頼むぞ」
「そういえばヤマトの艦長はどうするつもりです? 本人はかなり疲れていましたが」
「彼は今回の功績から、艦隊司令官に転任してもらうことにした。ガトランティス戦役のヤマトは……古代艦長代理に任せる」
「主人公補正に期待ですか」
「あんな無茶な運用ができるのは彼しか居ない。それに……何れはムサシと組ませることを考えている。
 これで悪い意味での暴走は抑えられるだろう」
「ムサシと?」
「ああ。ヤマトとムサシを組ませて、独立部隊『α任務部隊』を作ろうと思う」
「……スパ○ボですか」

 そしてこの密談の後日、予定通りテレサの通信を傍受することになる。

764earth:2011/09/11(日) 22:47:47
 転生者たちは再び動き出した。
 捕虜から得た『ガトランティス帝国がアンドロメダ星雲を支配する帝国であること、その艦隊が銀河系にも進出してきている』
との情報は防衛会議にも衝撃を与えていたので軍備増強に関わる話し合いで反対意見は出なかった。

「ボラー連邦、ガトランティス帝国。どちらも強大な国家です。これに対抗するには今の防衛軍では戦力不足です」

 土方の意見を否定できる人間は居なかった。
 ボラー連邦軍は確かに無様であったものの、ただ1戦のみでボラー軍恐れるに足らずと判断するのは危険であった。
 またガトランティス帝国軍の艦載機は、地球側の機体よりも遥かに多くのミサイルを搭載できるとの情報も危機感に拍車を掛けた。

「ガトランティス帝国軍の戦艦や空母は、地球のそれより遥かに大型。また速射砲の発射速度も速く火力も侮れん」

 土方の意見に参謀長はすかさず頷く。   

「また大型空母があるということは、恐らく我がほうよりも遥かに多くの艦載機を運用できることを意味します。
 航空戦に敗北すれば波動砲を撃つ機会さえない。ですが、幸いにもボラー連邦は多数の空母を持っています。
 彼らの力を得られれば助けになるでしょう」

 しかし、防衛会議出席者のうち数名が渋い顔をする。 

「だが恐怖政治を敷く国だ。下手に招き入れたら大変なことになるのでは?」
「判っています。ですが毒は毒をもって制すという言葉もあります。幸い、先方はガトランティス帝国への報復を望んでいます」 

 異星人を異星人に嗾けることを主張する参謀長に、何人かが顔を顰めるが積極的な反対意見はなかった。 
 相手の政治体制がどうであれ、国益に適うのであれば利用するために手を結ぶ……それは当然のことだった。
 
「それと謎の通信を傍受しました。ガトランティス帝国に関する情報かも知れません。ヤマトを調査のために派遣しようと思います」 
「しかしヤマトを派遣して防衛体制は大丈夫かね?」
「ムサシが就役するので大丈夫です。それに、何か情報を得られればボラーとの取引に使えるかも知れません」

 かくして防衛会議は大幅な軍備増強を急ピッチで進めること、そしてヤマトを調査のために派遣することを決定した。

765earth:2011/09/11(日) 22:50:10
あとがき
ボラー連邦は落とし前をつけるために動きます。
ムサシもいよいよ完成。防衛軍は大幅に強化されるでしょうが……本気に
なったボラー艦隊が来たら出番があるかどうか(笑)。

あと改行については、今後できるだけ改善していこうと思います。

766名無しさん:2011/09/12(月) 01:27:21
未来人の多元世界見聞録も一緒にHTML化をお願いします

767earth:2011/09/13(火) 23:15:48
非常に短めですが第15話です。
見聞録のHTML化ですか……少しお待ちください。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第15話

 ヤマトがテレザートに向かって発進するころ、いよいよ防衛軍というか参謀長期待の星である機動戦艦『ムサシ』が就役した。
 収束型波動砲1門、46センチショックカノン6門という火力を持ちながら、60機もの艦載機とヤマトを超える航空機運用能力を
持ち、さらにヤマトの打たれ強さを受け継いだこの戦艦なら、来るべきガトランティス戦役で活躍できると転生者たちは考えた。

「まぁ昔なら航空戦艦なんて中途半端な品物でしかないんだが」
「気にしたら負けだよ。そういう世界と思ってくれ」
「……参謀長、もう少しオブラートに包んで言ってくれ」

 まぁ何はともあれ、ムサシは艦長古代守の下で猛訓練に励む。
 ヤマト並のマニュアル操作ができるということは、逆にそれだけの高い技能を要求される。
 一部の人間からは「ただでさえ人手が足らないときに、やたらと高スキルの乗り手を要求する艦なんて作るなよ」と言われるほどだ。
 だが勿論、転生者たちは気にしない。

「(原作の過密スケジュールに対応するには)この程度の無茶ができなかったら何も出来ん」

 参謀長はそう嘯き、ひたすらに幕僚達と訓練計画について協議した。
 いくらハードが優れていても、ソフトが脆弱だったら意味が無いのだ。 

「土方総司令には頑張ってもらわないと」

 勿論、この参謀長の姿勢は土方や宇宙戦士訓練学校の山南には好感触だった。
 ヤマトの勝利を機械力の勝利と謳う馬鹿政治家や、拡散波動砲に依存する防衛軍の戦術を懸念していた男達にとっては、このような
男が後方に居るのは心強いことだったのだ。

「あの男は前線の人間のことをよく判っている」

 見舞いに訪れた土方の言葉を聞いて、病室のベットに横たわっていた沖田は頷く。

768earth:2011/09/13(火) 23:17:55
「でしょうな。彼ほど頼りになる男はいない。それに前線に出るのも厭わない勇気がある」
「彼には長官のサポートをしてもらわないと。防衛会議のお偉方と遣り合うには彼のような存在が必要だ」
「防衛軍は連邦政府が統制する。だが政府が正しい統制をできなければ意味がない」

 本土決戦に傾いていた頃を沖田は思い出す。
 ガミラスとの本土決戦を主張する人間達に引きずられ地球各地で本土決戦が叫ばれている頃、参謀長は将来のことを憂い、ヤマトの
建造を根回しした。またイスカンダルにヤマトを送り出す手筈を整えた。加えて地球復興や防衛軍再建でも大きな功績を残している。
また今回は新たな脅威、ガトランティス帝国に対抗するためにボラー連邦という一大星間国家と手を結ぶ切っ掛けを作った。
 常識的に考えると途方もない政治手腕と先見性だった。

「我々もある程度、政治家と付き合うべきなのでしょう。ですが私には到底そんな真似は出来ない。私は船に乗るのが仕事です」
「私もです。鬼教官などと言われているが、政治家との付き合いとなれば参謀長の足元にも及ばない」

 二人の男は自分が戦場で戦うことしか出来ない職業軍人でしかないことを理解していた。
 故に参謀長のような男は非常に重要だった。いくら彼らが艦隊を整えても、政府や司令部が無能では悪戯に死者を増やすだけだ。

「だが彼にも敵はいる」
「でしょう。藤堂長官やこれまでの功績によって押さえられているが」
「それゆえに、我々のような前線の人間が彼を支えることも必要だ。だが私はまだ動けない」
「勿論、我々が支える。古代艦長も同意見だ」

 勿論、これは土方だけの意見ではなかった。宇宙艦隊の主流派、今の実戦部隊を支えているのはガミラス戦役の末期を生き抜いた
男達だ。その彼らは誰もが参謀長の功績を理解していたのだ。

「……頼みます」

 沖田はそう言って頭を下げる。
 かくして、参謀長の発言力はさらに増すことになる。
 引き換えに彼の希望である輝かしい出番が回ってくる可能性はさらに低くなったが……。

769earth:2011/09/13(火) 23:19:46
あとがき
爺2人にやたらと手腕を買われ、参謀長はますます前線に出づらくなります。
彼に華やかな出番が来る日は来るのだろうか(爆)。
もう諦めて後方で栄達を望んだほうが楽な気が……
それでは失礼します。

770earth:2011/09/14(水) 23:08:54
第16話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第16話

 ヤマトがテレザートに向かっている頃、太陽系ではナスカ艦隊の数少ない生き残りと言える潜空艦(ステルス艦)が
地球側の輸送船を襲おうとする事件が多発していた。
 防衛軍司令部では連日、潜空艦の対策会議を開いていた。

「『海上護衛戦』再びと言ったところだな」 
「ですが、参謀長の主張で配備された一式偵察機(コスモタイガーⅡ早期警戒機仕様)による哨戒網によって
 敵艦の動きは封殺できています」 
「だが撃沈できたのは1隻だけだ。まだ何隻かが太陽系に潜んでいる」

 当初は手間取っていた防衛軍だったが、参謀長が予め手配していた哨戒網が機能しだすと、輸送船団への被害は激減した。
護衛空母に改装された旧式の大型艦(『えいゆう』など)、ソナー(殆ど閃光弾)や爆雷を装備した護衛艦が護衛につくように
なると、ますます潜空艦は手出しが出来なくなった。
 だが後方で暴れられるのは、防衛軍としては面白くない。

(全く小うるさい連中だ。敵の策源地を叩いておきたいが、どこにあるのやら……)

 だが参謀長の懸念はすぐに解決されることになる。そう、ボラー連邦軍によって。
 ボラー連邦軍上層部は前回の太陽系外縁での大失態を雪ぐべく、ボラー連邦建国以来有数の大艦隊を編成して、太陽系周辺に
派遣することを決定した。

「侵略者のガトランティス帝国軍を叩き潰すのだ!」
 
 ラム艦長から聞けば「お前が言うか」と突っ込まれそうな台詞を吐いたべムラーゼの厳命を受けたボラー軍の本気であった。
 しかし大艦隊を一気に送り込めないため、まずは先遣部隊が派遣された。

771earth:2011/09/14(水) 23:10:23
 勿論、ボラー連邦の動きを地球連邦は警戒したが、ボラー連邦の面子を立てる形で派兵を黙認した。ボラー連邦ほどの大国なら
わざわざ地球連邦の黙認など必要ないのだがヤマトをはじめとした地球防衛軍の力、そして新たな脅威であるガトランティス帝国の
存在が地球連邦への宥和政策を是とした。

「地球人にボラー軍の真の実力を見せてやる」

 ボラー連邦軍先遣部隊司令官のハーキンス中将は、先遣部隊の空母艦載機を使って太陽系周辺のガトランティス帝国軍の所在を
調べ上げた。そして潜空艦を見つけるや否や、全力で叩き潰していった。
 先遣部隊であるものの、その空母や戦闘空母の数は防衛軍が保有する戦闘空母を凌駕しており、その攻撃力も圧倒的だった。
かくしてナスカ艦隊の数少ない潜空艦は撃滅されてしまった。
 勿論、その報告は多少脚色された形でべムラーゼに届けられる。

「次は侵攻してくる敵の主力艦隊と白色彗星本体だな」
 
 べムラーゼは少しは機嫌を持ち直すも、すぐに厳しい顔で軍部に派兵を急かした。

「必要なら機動要塞も投入せよ。不足するものがあれば私の名前で関係部署に通達すれば良い」
「了解しました!」

 ブラックホール砲を搭載し、波動砲を超える収束率を持つデスラー砲さえ弾き返す防御力を誇る機動要塞ゼスバーゼはボラー連邦に
とっても貴重な兵器だ。しかし今回はそれを投入するだけの意味があった。 

「今に見ておれ」

 怒りに燃えるべムラーゼ以下のボラー連邦首脳陣に対して、ガトランティス帝国側はボラー連邦軍の評価を少しながら上方修正した。

772earth:2011/09/14(水) 23:10:56
「地球艦隊と比べると練度は高くは無いな。だが数は多い。地球を越える星間国家なのだろう」

 攻撃されてからすぐに大規模な部隊を派遣してきたボラー連邦軍を見て、ズォーダーはそう判断した。

「それに太陽系外縁に進出してきている。このままだと地球艦隊と戦う前に、奴らと戦うことになりそうだな」
「小癪な!」

 帝国ナンバー2であるサーベラーはヒステリックに叫ぶ。

「あのような軍、速やかに踏み潰すべきです!」
「勿論叩き潰す。だが地球艦隊は思ったより侮れん。奴らと本格的に協調されると面倒なことになる。
 それにナスカ艦隊が壊滅したせいで太陽系に前線基地が作れなかったのも問題だ」

 ズォーダーの台詞に遊撃艦隊司令長官ゲーニッツは頭を下げる。

「も、申し訳ございません」
「前衛艦隊はどうなっている?」
「主力はシリウス恒星系に集結、再編中です。バルゼー司令官を急かすこともできますが」
「全面攻勢はまだ行わん。だがゲリラ攻撃を仕掛けて奴らを撹乱する。ナスカ艦隊の二の舞は許さんぞ」
「承知しました」

 話は終わりだと席を立とうとするズォーダー。だがそれをサーベラーが引き止める。

「それと大帝、デスラーのことですが……」
「サーベラー、ヤマトのことは、ヤマトのことをよく知っている者に任せる」
「……」
 
 かくして地球艦隊は蚊帳の外に置かれたまま、太陽系の外ではボラー連邦とガトランティス帝国の熾烈な戦いが繰り広げられる
ことになる。

773earth:2011/09/14(水) 23:13:10
あとがき
ガトランティス帝国とボラー連邦は勝手に殴りあいます。
地球連邦と地球防衛軍としては願ったり適ったりでしょうけど。
ヤマトこそ被害を受けますけど、他の被害は原作よりも少ないですし。
それにしても、下手したら名前ありのキャラの出番も削られそうだ(爆)。

774earth:2011/09/15(木) 23:34:08
第17話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第17話

 11番惑星はボラー連邦軍と地球防衛艦隊の最前線基地となっていた。
 ボラー連邦艦隊や地球防衛艦隊の艦船の整備と補修ができるように次々に大型ドックが建設され、それを守るために必要な
航空隊や空間騎兵隊が配備された。

「最前線の砦たる11番惑星、そして防衛艦隊の根拠地である土星基地。この二重の守りがあれば太陽系は守りきれる」

 参謀長の言うとおり、11番惑星に建設された基地群はボラー連邦と地球防衛艦隊の双方を見事に支えた。
 ガトランティス帝国軍の空母部隊がゲリラ攻撃を仕掛けてきたものの、11番惑星周辺に張り巡らされた防衛線を突破する
ことはできなかった。

「やはり数は偉大だな」

 ボラー連邦軍の圧倒的数は参謀長からすれば羨ましい限りだった。
 
「空母群も本格的だし……うちの空母とは大違いだ」

 防衛軍司令部のモニターに映る地球防衛艦隊の『宇宙空母』を見て、参謀長は内心でため息をつく。
 主力戦艦の後ろに強引に空母機能をつけたこの艦は、本格的な空母とは言いがたかった。ムサシはさらに発展させているが
本格的な空母より劣る。汎用性は高いだろうが……。

(シナノはあのような中途半端な艦ではなく、真の、本格的な『空母』にしたいものだ)

 しかし正規空母というのは作っただけでは意味が無い。
 むしろ艦をきっちりガードするための護衛艦隊が必要となる。ワープ技術の発達によって咄嗟砲撃戦が多くなると
脆い可能性は否定できない。

(アウトレンジ攻撃か。ガミラスの瞬間物質位相装置が欲しいな。あれがあれば……いやボラー連邦からワープミサイルの
 技術を得られれば小型のワープユニットが作れるかも知れん)

775earth:2011/09/15(木) 23:34:39
 色々と新戦術の構想を練りつつも、参謀長は他の仲間と共に次の手を考えていた。

「ボラー連邦軍の登場で戦力比は大幅に改善された。またボラー連邦の大使も本格的に参戦すると言ってきているので
 ガトランティス戦役は何とかなる可能性が高まった。そこで反攻作戦についても話し合いたい」
「まさかと思いますが、アンドロメダ星雲へ侵攻するとでも?」
「あり得んよ。まぁボラーが出兵すると言ってきたら付き合い程度に艦を出す必要はあるかも知れないが……
 真の狙いは太陽系の外の宙域、そしてシリウスなどのガトランティス帝国軍によって占領されている地域の確保だ」

 参謀長の意見に連邦政府高官が頷く。

「復活編に備えて、第二の地球の確保は必要だ。アマールに頭を下げて移民するよりも自前の植民地惑星があったほうが楽だ」

 この言葉に賛同者が相次ぐ。
 
「それに銀河系中心部とは離れている。赤色銀河との衝突があっても被害はない」
「ボラー連邦の弱体化とSUSの台頭に対応するには必要でしょう」
「開発特需も期待できる」
「安全保障面でもメリットはある。いつまでも太陽系だけを生存圏にするわけにはいかない。
 というか原作だと、何で太陽系のみに住んでいたのか分らないが……まぁ気にしないで置こう」

 勿論、これらの決定は目の前に迫り来る白色彗星や前衛艦隊を撃滅しないことには意味が無い、狸の皮算用になる。
 しかし終ってから決めていたのでは、ボラー連邦によっていいようにガトランティスの占領地を奪われ、地球人類は太陽系へ
閉じ込められてしまう。それは避けなければならない。

「では白色彗星撃滅後、ただちにボラー連邦と協議を行おう」

 こうして地球防衛軍と連邦政府は手薬煉を引いてガトランティス軍の本格的な襲来を待ち受けた。

776earth:2011/09/15(木) 23:35:21
「名無しキャラがメインの地球防衛艦隊が如何に手強いか見せてくれる……まぁ私の出番はないが」
 
 参謀長が嘆息する傍らで、前線部隊は意気軒昂だった。

「死亡フラグを叩き折って生還してやる!」
「ついでに地球防衛軍がやられ役じゃないってことを思い知らせてやる!」
「ヤマトとムサシだけに美味しい役はさせないぞ!」

 原作ではヒペリオン艦隊司令官だった艦長以下、多数の名無しキャラ達はそう士気を上げた。
 彼らの勢いと、ガミラス戦役での消耗が抑えられたこと、早めに軍拡に舵を切っていたことで地球防衛艦隊の実力は
非常に高かった。何しろ波動カードリッジ弾、コスモ三式弾、波動爆雷などの新兵器も配備されている。
 これらはテレザートに向かっている途中にガトランティス軍と戦ったヤマトから送られてきた実戦データを基にして
さらに改良が進められており、高い戦果が期待できた。

「ふむ。これなら何とかなるかも知れん」

 土方でさえもそう言うのだから、地球防衛艦隊の充実振りが分る。
 かくして地球防衛軍の出番が回ってくる……筈だったのだが、彼らの目論見は大きく狂うことになる。

「……もう一度言ってくれないか、古代艦長代理」

 防衛軍司令部のスクリーンに映る古代に、参謀長は顔を引きつらせながら再度尋ねる。
 だが答えは変わらない。

「はい。ヤマトは先ほど白色彗星を奇襲。これを撃破しました」

 原作が木っ端微塵になった瞬間だった。

777earth:2011/09/15(木) 23:36:16
あとがき
所詮名無しキャラに華やかな出番は……詳細は次回に。

778earth:2011/09/16(金) 23:14:07
18話です。短いですがご容赦ください。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第18話

 時はさかのぼる。
 ヤマトはガトランティス艦隊やデスラー艦隊を退けてテレサが閉じ込められているテレザートに到着した。
 ここで原作ならテレサは自分の力を振るうことを嫌って、最初ヤマトクルーの協力要請を拒否するのだが
この世界では会談の末、ヤマトと地球連邦への協力を是としたのだ。
 切っ掛けを作ったのは原作にはいない人物だった。

「祈るだけでは何も解決しない! 実際に銀河系中心部ではシャルバート教の信者は祈りを捧げているにも
 関わらず、恐怖政治を敷くボラー連邦に弾圧されている!」

 そう言ったのは、会談に同行していた名無しの空間騎兵隊隊長(斉藤ではない&転生者ではない)だ。
 斉藤と違って彼は理路整然と反論していく。バース星では、命を掛けてヤマトの乗っ取りを図らざるを得なかった
囚人達と戦い、後に彼ら尋問をしただけにその言葉には重みがあった。 

「ですが……」

 ゆれるテレサ。これに古代や島が追い討ちをかける。

「協力してもらえないでしょうか? 仮にガトランティスを退けることができたとしても、ボラーが出てくれば結局は
 同じことになりかねない」
「そうです」

 結果的にテレサは折れ、ヤマトクルーと話し合った上、テレザートを自爆させることで白色彗星を食い止めることになる。
 勿論、テレサ本人が死なないようにした。ここまでなら原作に近かったかもしれない。だがヤマトを不沈艦とする要因①で
ある真田がここで口を挟む。

「白色彗星を効率的に食い止めるにはタイミングが重要だ」

 かくしてタイミングを見て、テレザートは自爆する。
 それが第二の分岐点となった。

779earth:2011/09/16(金) 23:14:40
 テレザートの自爆によって大打撃を受けた都市帝国は、防御スクリーンでもあった本体周辺のガス帯を完全に
吹き飛ばされた。さらにその帝国の機能そのものが一時的に麻痺状態に陥った。
 あちこちから黒煙があがり、都市の機能は麻痺した。摩天楼の集合体のような都市は真っ暗となっていた。

「全ての回線を速やかに立て直せ!」

 大帝であるズォーダーは混乱する帝国上層部を叱責して、事態の収拾を図った。
 だがその隙を見逃すほど、ヤマトは甘くは無かった。伊達にガミラス帝国を滅ぼした船ではないのだ。

「波動砲発射!」

 機能不全に陥った都市帝国に奇襲を仕掛けた上、ヤマトは容赦なく波動砲を撃ち込んだ。
 何とか迎撃しようとしたガトランティス帝国軍部隊は、コスモタイガー隊によって悉く阻止されてしまったので
成す術がなかった。
 都市帝国の本体は直径15キロ程度。波動砲の破壊力を持ってすれば破壊することは容易だった……かくして
都市帝国は巨大戦艦諸共、元々テレザートがあった宙域で崩壊してしまった。
 
「ば、馬鹿な!」

 大帝は巨大戦艦に乗り込むことも出来ず、他の帝国首脳と共に都市帝国の崩壊に巻き込まれ、爆炎の中に消えた。
 ちなみにサーベラーの策略でヤマトとの戦いで敵前逃亡をしたとの濡れ衣で監禁されていたデスラーは、相変わらずの
不死身振り、もとい悪運と副官であるタランの手で何とか脱出に成功。そのままガミラス残存艦隊に拾われることになる。
 しかしデスラー艦は失われており、支援者であるガトランティス帝国が崩壊。加えて地球のバックには他の星間国家が
付きつつあるという状況では、さすがのデスラーもヤマトへの復讐を挑む決断はできなかった。

「暫しの別れだ。だが……私は必ず戻ってくるぞ」

 こうしてデスラーは雌伏の時を過ごすことを決意した。

780earth:2011/09/16(金) 23:15:11
 デスラーのことはヤマトの乗組員も知らなかったが、取りあえず白色彗星は撃破できたのは事実。
 このためヤマトのメンバーは鼻高々に防衛軍司令部に白色彗星を撃破したことを報告したのだ。

「……そうか。よくやってくれた」

 詳細な報告を聞き、誰もが喝采をあげる中、参謀長は少し乾いた笑みを浮かべつつヤマトの奮戦と戦果を称えた。
 いや称えるしかなかった。何しろ彼らは表向き、新たな脅威であるはずのガトランティス帝国の本拠地を最小限の
犠牲で撃滅したのだ。
 ましてヤマトを派遣するように防衛会議に提案したのは参謀長自身。ヤマトは与えられた任務をこなしたにすぎない。
表向き、彼らには非難される理由はなかった。

「と、とりあえず都市帝国の残骸を調査してくれ。何か有益なものが見つかるかも知れない」

 参謀長はそう言って後は別の人間に任せた。
 そして防衛軍司令部の指令室を後にする。彼は暫く廊下を歩き、周囲に誰も居ないのを確認すると叫んだ。 
 
「……何だ、そりゃあ!?」

 これまで準備した入念な計画や戦略を、名前ありのレギュラー陣によって容赦なくぶち壊された男の魂の叫びだった。

781earth:2011/09/16(金) 23:19:06
あとがき
テレサ&真田さん無双といったところでしょうか。
ガトランティス艦隊は都市帝国壊滅で浮き足立つでしょう……
まぁボラー連邦も唖然呆然でしょうけど(爆)。

782earth:2011/09/18(日) 00:19:38
第19話です。

 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第19話

 ヤマトは防衛軍司令部の指示を受けて、都市帝国の残骸を細かく調査した。
 波動砲によって都市帝国は滅茶苦茶に破壊されていたが、破壊を免れた部分もあったし、崩壊の際に生まれた大量のデブリは
宝の山でもあった。
 巨大戦艦の残骸や、比較的損傷が少なかったデスラー艦は最優先で確保された。ただしあまりにも確保しなければならない
物品が多いので、地球防衛軍司令部はただちに高速艦を急行させることを決定した。

「目ぼしいものは全て奪うのだ!」

 参謀長の台詞は些か非道だったが、ガミラスに続いて、侵略の危機にさらされた人類からすれば当然であった。
 また今後の過密スケジュールを知る転生者たちにとって、都市帝国の残骸から得られるであろう資源や技術は垂涎の的であった。

「暗黒星団帝国、いやデザリウムと接触する前に地球連邦の国力と防衛軍をさらに強化しなければならない」

 形振り構っていられる余裕は地球に無かった。
 彼らは広大な宇宙においては地球連邦が小国に過ぎないことをよく認識していたのだ。
 
「あとはテレサ、彼女の扱いだな……何しろ彼女の力が公になれば争いの火種になる」

 参謀長の意見に対して、転生者仲間からは彼女の存在を公にして、ボラー連邦に対する抑止力としてはどうかという意見もでたが
参謀長はこれを否定した。

「あのボラーが簡単に引き下がるとでも? ただでさえ警戒されるのに、火種を増やしてどうする?」

 ガトランティス帝国から技術や資源を収奪すると同時に反物質を操るテレサについては、その存在を隠匿することが決定された。 

「下手に公表したらボラー連邦との関係が揺るぎかねない」

 防衛会議の席で放たれた連邦高官の台詞は正鵠を得ていた。
 地球連邦首脳部も、心の底からボラー連邦を信用したわけではない。彼らは敵対するより協調するほうがメリットが大きいと判断した
からこそボラーと付き合っているのだ。勿論、ボラー連邦とて同じこと。
 そのメリットを悪戯に失わせる意味は、今のところなかった。

783earth:2011/09/18(日) 00:20:23
「厄介な存在だ。だがこの際、彼女には色々と地球に協力してもらう。島という丁度良い餌もある」

 防衛軍司令部の自室で、参謀長は転生者仲間(表向きは部下)にそう告げる。

「……悪役みたいな顔をしていますよ、参謀長」
「何とでも言え。全く」
「まぁこれで防衛艦隊はほぼ無傷です。良かったのでは?」
「戦術的にはな。だが戦略面では問題が大きい。
 何しろ地球が単独でガトランティスを撃退したとなれば、銀河の盟主を自称する困った大国が煩い。
 彼らの怒りを何としても前衛艦隊にぶつける必要があるだろう……地球が迷惑を被らないためにも」
「では?」
「そうだ。シリウス、プロキオンの攻略作戦を提案する。
 本来は前衛艦隊と都市帝国撃滅後に提案するつもりだったんだが、こうなってしまった以上、止むを得ない」

 だが地球が単独で白色彗星撃滅に成功したとの情報を受け取ったボラー連邦の動きは予想以上に早かった。
 勿論、べムラーゼなどボラー首脳部も報告を受けた際には唖然となったが、即座に頭を切り替えた。

「銀河系に展開するガトランティス帝国軍を撃滅するのだ!」

 べムラーゼの厳命を受けたボラー連邦軍は、集結を待たずして大攻勢に出ることになる。
 前線指揮官の中には十分に兵力を集中させた後に攻勢に出るべきと主張する者もいたが、政治の事情がそれを許さなかった。 
 
「このままでは面子が丸つぶれではないか!!」

 ボラー連邦の威信をかけて、ボラー連邦軍はシリウス、プロキオンへの攻勢を開始した。
 その一方で彼らは対地球戦争も想定しはじめる。地球がボラー連邦にとっても脅威になりえる国家と認識された瞬間だった。

784earth:2011/09/18(日) 00:21:05
 地球とボラーの動きが慌しくなっている頃、ガトランティス帝国軍前衛艦隊も俄かに騒がしくなっていた。
 
「馬鹿な! 大帝が戦死され、都市帝国が崩壊だと?! そんなことがあってたまるか!!」

 バルゼー提督は旗艦メダルーザの艦橋で、副官にそう言って何度も事実を確認させた。
 そしてそれが真実であることを知ると頭を抱えた。

「大帝が戦死……」

 自軍の根拠地である都市帝国が崩壊し、政府首脳が根こそぎ全滅したことで銀河系に展開している前衛艦隊は根無し草に
なったと言っても良い。
 さらに情報が拡散すれば兵士達の動揺も予想される。何しろこれほどの一方的な大敗など帝国建国以来始めてのことだ。

「ヤマト、ただの戦艦1隻に帝国が敗れるというのか……」
「提督、この際、アンドロメダ星雲に引き上げ、態勢を整えるべきでは?」

 副官の提案は正論だったが、バルゼーは簡単に首を縦に振らない。

「ここまでやられて何もせずに引き返すことなどできるか! せめて地球に一撃を与えなければならん!!
 情報を秘匿せよ。それとプロキオンのゲルンに通信回線を繋げ!!」
「了解しました!」

 かくしてガトランティス帝国軍は事情を知って浮き足立つ人間を押さえつつ、攻勢に出ることになる。

「大帝の敵討ち、そして帝国の威信にかけて地球艦隊を撃破するのだ!」
「侵略者共を逃がしてはならん! ボラーの威信にかけて撃滅するのだ!」

 かくして相変わらず地球防衛艦隊は蚊帳の外に置かれたまま、大艦隊決戦が生起しようとしていた。
 この動きを見ていた防衛軍の某高官はボソリと呟く。

「防衛艦隊は壊滅しないで済んだが、引き換えに出番が壊滅した気がするのは何故だろうか……」

785earth:2011/09/18(日) 00:23:18
あとがき
というわけでボラーVSガトランティスです。
ボラーは当初想定されていた戦力より少ない戦力で出撃します。
それでも大艦隊ですけど……。
地球防衛艦隊は見事なまでに出番がなくなっています(笑)。
戦略面でみれば正しいのですが。

787earth:2011/09/18(日) 10:30:39
第20話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第20話

 西暦2201年12月7日、ガトランティス帝国軍とボラー連邦軍による大艦隊決戦が生起した。
 地球防衛軍を撃滅するべく太陽系に向けて侵攻するガトランティス帝国軍に、ガトランティス帝国軍撃滅を目論む
ボラー連邦軍が襲い掛かる形で発生した艦隊決戦は、地球人類にとってはじめて見る大規模な空母決戦から始まった。

「100隻以上の空母、戦闘空母による大決戦か」

 参謀長は司令部で報告を聞くと感心したような、羨ましがるような顔をした。
 何しろ史上稀に見る大決戦なのだ。華やかな出番を願う参謀長としては複雑な思いを抱くのも無理は無かった。 

「……偵察部隊に情報収集を怠るな、と伝えろ。他国の戦争でも、色々と参考になるからな」
「はっ!」

 史上稀に見る航空戦は数で勝るボラー軍の辛勝で終った。
 ガトランティス帝国軍は保有空母全てを撃沈、或いは飛行甲板をズタズタにされ空母としては役立たずとなった。
 ボラー連邦軍も保有空母の大半がやられてしまったが、空母2隻が辛うじて戦場に踏みとどまることに成功。これによって 
ボラー連邦軍は限定的ながらも制空権を握ることが出来た。
 しかしバルゼーは容易に引き下がることはなかった。

「ゲルン、お前の艦隊は下がれ! 主力は密集隊形をとり前進する!!」
 
 バルゼーは旗艦メダルーザを先頭にしてボラー艦隊に向けて突撃した。
 勿論、ボラー艦隊司令官のハーキンス中将は空母2隻でガトランティス艦隊を攻撃したが、ガトランティス艦隊を阻止する
ことは適わなかった。
 密集隊形をとり、さらに回転砲で応戦するガトランティス艦隊によって航空戦力は少なくない打撃を受け取った。
 
「こうなれば艦隊決戦で叩き潰す!」

 ハーキンス中将は航空攻撃を切り上げると、艦隊を再編した後、ガトランティス帝国軍との艦隊決戦に臨んだ。
 数の面ではボラー連邦軍はガトランティス艦隊を上回っていた。正面勝負なら互角以上に戦えるはずだった。
 だがその目論見は、原作で地球防衛艦隊に大打撃を浴びせた『火炎直撃砲』によって覆される。

788earth:2011/09/18(日) 10:31:11
 拡散波動砲の2倍の射程を誇る火炎直撃砲は、ボラー連邦艦隊を滅多打ちにした。
 戦力の中核であった空母2隻が撃沈され、続いて戦艦が一方的にアウトレンジ攻撃で撃沈されていく。
 
「これが敵の切り札か!」
「ど、どうされますか?」
「浮き足立つな! 距離を詰めるぞ!!」

 ハーキンス中将はそう言って全速力でガトランティス艦隊に接近していった。だがそれは致命的な事態を引き起こした。
 距離を詰めていく途中、ハーキンス中将が乗る旗艦が火炎直撃砲の直撃を受けたのだ。
 地球防衛軍が誇るアンドロメダ級戦艦でさえ撃沈できるエネルギーの前に、旗艦の装甲は意味を成さなかった。

「ボラー艦隊旗艦撃沈!」

 この報告は地球防衛軍司令部にも衝撃を与えた。

「信じられん」
「あの威力で、あの射程。そして高い連射能力……防衛艦隊も唯ではすまないぞ」
「これがガトランティス帝国軍の実力か」

 地球では考えられないほどの物量のぶつかり合い、そして今の地球の科学力では到底実現できないであろう超兵器の
存在は白色彗星を撃破したことで少し天狗になっていた地球防衛軍高官たちの鼻をへし折った。
 同時に波動砲に依存することが危険であることも明らかになり、参謀長の新戦術構築の主張を鼻で笑っていた人間達は
真っ青になった。

「もしもあそこにいるのが防衛艦隊で、波動砲発射隊形をとっていたら、一方的に滅多打ちになっていただろう」

 参謀長の言葉に誰もが沈黙した。
 全てのエネルギーを波動砲に回すということは、身動きが取れなくなるということであり、的同然なのだ。

「戦術の見直しが必要だろう」

 藤堂の言葉に反対意見は無かった。

789earth:2011/09/18(日) 10:32:48
 ボラー連邦軍は旗艦が撃沈されたことで浮き足立った。
 そしてこれを見逃すバルゼーではなかった。伊達にアンドロメダ星雲で戦歴を重ねたわけではないのだ。
 大戦艦や駆逐艦、ミサイル艦などが一斉に砲門を開き、その圧倒的火力をボラー連邦艦隊に叩きつけた。

「反撃する! 全砲門開け!!」

 ラジェンドラ号のラム艦長は混乱する部下達を叱責した後、周りの艦を統制して反撃を開始するが、そのようなことが
出来た艦長は少数だった。多くのボラー連邦軍部隊は、混乱した状態のままガトランティス軍によって蹂躙されていった。
 その光景に、会戦をモニターしていた地球防衛軍司令部の面々は沈黙した。

「「「………」」」 

 かくしてボラー連邦軍艦隊は壊滅した。
 だがガトランティス軍も少なくない消耗を強いられていた。

「くそ。敵の数が多かったせいで、エネルギーや弾薬が消耗しすぎた。それに損傷した艦も少なくない」

 バルゼーは報告を聞いて顔を顰めた。
 
「数だけが取り柄の三流軍隊が、手間取らせおって」
「どうされますか?」
   
 艦隊決戦に勝利したものの、バルゼー艦隊が受けた損害は少なくない。さらに空母部隊は事実上壊滅している。

(都市帝国をただ1隻で撃滅したヤマト、そしてそれを超える戦艦を持つ地球艦隊が待ち構える太陽系にこのまま向かう
 のは危険すぎるか)

 バルゼーは勇猛な武人であったが無謀ではなかった。彼は補給のために一旦艦隊をシリウスに引き上げていった。

790earth:2011/09/18(日) 10:34:42
あとがき
機動要塞があればボラーが勝てたのですが……急ぎすぎて失敗しました。
というわけでボラー軍再び面子丸つぶれです。
何人の首が物理的に飛ぶだろうが……
何とか防衛軍にも出番が回ってくるかも知れません(笑)。

792名無しさん:2011/09/18(日) 11:34:58
>>791
ここは投稿スレ

793名無しさん:2011/09/18(日) 11:38:24
男は黙って削除依頼、原則として、だけど

794earth:2011/09/18(日) 18:23:59
第21話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第21話

 ボラー連邦軍艦隊がガトランティス帝国軍に大敗を喫し、壊滅したという情報はボラー連邦上層部に衝撃を与えた。
 有利な条件(数で勝り、さらに敵の根拠地である白色彗星を撃破している)にも関わらず、このような大敗北を喫した
ことはボラーの威信を失墜させるものだった。 

「首相、お待ちを。も、もう一度だけチャンスを!!」
「お前のような無能者は要らん! 連れて行け!!」

 首相官邸に弁明に訪れた軍高官は、べムラーゼの指示を受けた秘密警察の人間によって逮捕され、処刑された。

「機動要塞、それにプロトンミサイルも投入せよ。何が何でもガトランティス帝国軍を撃滅するのだ!
 いや、ここまでコケにされては銀河系にいる奴らを潰すだけでは足りん。アンドロメダ星雲への大遠征も準備せよ!!」

 怒れる独裁者べムラーゼの言葉に逆らえる人間はいなかった。
 尤もべムラーゼの介入で、戦力の結集が終っていない状況で攻勢を余儀なくされた軍の高官達の中には、大敗の責任の幾らかは
べムラーゼにあると思っている者も多かった。
 だがそれを口にするのは、自分の処刑執行書類にサインするに等しい。このため彼らは必死にガトランティス帝国軍殲滅のの準備を
進めた。

「今度こそは勝利して見せます!」

 だがべムラーゼの機嫌は直らない。
 
「地球人は二度も勝ち星を挙げているというのに、我が連邦はいいところ無し。何故かね?」
「ち、地球人は宇宙に進出前から同族同士で戦ってた、戦闘民族といってもよい連中です。
 それがガミラスにさえ勝ち、このたびの活躍の理由になっているのかと……」
「加えて彼らはこの前までガミラスと戦っており、準戦時体制といってもよい状態です。準備の差は大きいかと」

 軍人達の言い訳を聞いたべムラーゼは「ふん」と鼻を鳴らす。

「我が軍の軍人が得意なのは言い訳だけだな。次は必ず勝利せよ。星ごと破壊してもかまわん」

795earth:2011/09/18(日) 18:24:31
 一方、地球防衛軍ではボラー連邦軍の敗因を分析していた。

「敵の新型長距離砲。都市帝国の調査で『火炎直撃砲』という名前であることが判明しましたが、これが問題です」

 防衛軍司令部の会議室では多数の名無しキャラ達が、この新兵器にどう対処するかで話し合っていた。
 しかし波動砲の2倍もある長距離砲となると正面からの対処は難しいという結論がそうそうに出た。
 
「幸い、敵空母部隊は壊滅している。我が軍の宇宙空母やムサシを総動員すれば航空攻撃でしとめることは出来るだろう。
 それに鹵獲したデスラー艦についていた瞬間物質位相装置で奇襲することも可能だ」
 
 参謀長の意見に大艦巨砲主義者(特に波動砲を過信していた人達)がムスッとした顔をするが、反論は無かった。
 
「それとプロキオンの攻略作戦を政府に提案したいと思う。何か意見は?」
「参謀長、ガトランティス帝国軍は空母部隊こそ壊滅しましたが、打撃部隊は健在です。危険なのでは?」
「確かに危険な作戦だ。だが、このままだとボラー連邦がこの地域を制圧するだろう。連邦の今後を考えると好ましくない。
 それに……ボラー連邦が態勢を整える前に、奴らが態勢を整えて太陽系に押し寄せないとは断言できないだろう?」
「積極的自衛権の行使……ですか」
「そういうことだ。また今回、ヤマトとムサシを組ませたα任務部隊を結成し、シリウスでの独立任務に当てたいと思う」
「……ヤマトをですか?」

 何人かは嫌な予感しかしないという顔をするが、参謀長はどこぞの特務機関司令官のような黒い笑みを浮かべ言い放った。

「そうだ。ガミラス本星を滅ぼし、白色彗星さえ撃破して見せた、彼らの活躍に期待しようじゃないか」

796earth:2011/09/18(日) 18:25:38
 ここに至り、参謀長はヤマトの主人公補正を存分に使うことにしたのだ。
 勿論、それだけに頼ることはしないが利用できるものとして作戦に組み込むつもりだった。

(馬鹿とハサミは使いようだ。ガン○ムのホワイトベース隊みたいな活躍を期待するとしよう)
 
 藤堂と参謀長は防衛会議の席で、プロキオン攻略作戦を提案した。紆余曲折の末、防衛会議はこれを承認。
 地球防衛艦隊の機動戦力の半数をつぎ込んだ大作戦が行われることが決定された。
 加えて防衛軍のさらなる戦力の強化のために波動砲3門、51センチショックノン砲4連装5基という凶悪な打撃力を持った
『改アンドロメダ級』とも言うべき戦艦を速やかに建造することが決定された。

「『しゅんらん』の建造が可能になったな」

 幸いというか参謀長の根回しもあり、アンドロメダ級の建造のために多数の部品が調達されていたので、建造は比較的早く
できると考えられていた。
 これによって地球防衛艦隊はアンドロメダ級5隻に加え、来年中には改アンドロメダ級を2隻手に入れることになる。
 戦闘空母の建造も進められており、既存の宇宙空母と併せると原作では考えられないほど充実した戦力を地球防衛軍は
持つこととなった。  

「個人的には自分が乗って指揮を取りたいが……くっ何故、私は前線に出れないんだ!?
 いやここで連邦の支配地域が広がれば前線ポストにも増えるはず。諦めるのは早い」

 参謀長は気合を入れて、このたびの作戦を成功させようと決意する。
 だがそれが、さらに自分の希望を遠ざけることに彼は気付くことはなかった。

797earth:2011/09/18(日) 18:27:12
あとがき
第21話でした。
いよいよプロキオン攻略戦です。シリウスは……ボラー連邦に譲ります(笑)。
参謀長は執念強く動きますが、もう『試合終了』にしたほうが楽ですね。

798earth:2011/09/19(月) 21:43:23
第22話です。


 『嗚呼、我ら地球防衛軍』 第22話

 ボラー連邦艦隊は大敗したが、勝利したガトランティス帝国軍も消耗していた。特に空母部隊は壊滅的打撃を受けた。
 航行不能になった艦は機関部を爆破後に遺棄されたが、地球防衛軍からすれば宝の山であった。都市帝国で得られた
数々の技術や希少資源で味をしめた防衛軍上層部は、ただちにこれらの回収を命じた。
 勿論、ガトランティス帝国軍の攻撃を受けることを懸念して、反対する意見もあったが参謀長はこう言って退けた。 

「うち(地球)は金と資源が無いんだ。仕方ないだろう」
「「「………」」」

 世知辛かったが、軍というのは金食い虫なので、何かしらの臨時収入があるとなれば見逃せなかった。
  
「ボラーは良いな。金と資源と人的資源が有り余るほどあって……」
 
 密談の席で零れる参謀長のぼやきに、他の転生者が肩をすくめる。

「仕方ないですよ。こちらは零細の恒星系国家。彼らは銀河を支配する超大国。地力が違いすぎます」
「正直、金持ちとはあまり喧嘩したくはないですよ。というか何とかうまく付き合って、旨い汁を吸いたいものです」
「人口が減ったせいで市場も縮小していますからね……復興特需とイスカンダルやガミラスから得られた技術による
 技術革新で経済成長していますが、ボラーと比べると市場は小さい」

 『ずーん』と重たい空気が漂う。何はともあれ時代は変われど、世の中、金だった。  

「何はともあれ、敵から資源と技術を収奪し、それを連邦の強化に役立てよう」

 こうして防衛軍はデブリ回収業者のごとくガトランティス軍艦艇や航空機の残骸を回収していった。
 この際、一部の将校から懸念されたガトランティス軍による攻撃はなかった。
 彼らもボラー連邦軍との戦いで消耗しており、攻撃に出る余裕がなかったのだ。

「都市帝国や巨大戦艦の残骸、さらに今回回収したデブリを利用すれば1個艦隊以上の艦を楽に揃えられる。
 有人艦隊を計画以上に拡張するのは難しいが、無人艦隊の整備には使える。それに太陽系内の防衛線の構築も捗る」
 
 参謀長は上機嫌だった。

799earth:2011/09/19(月) 21:44:02
 地球防衛軍はデブリ回収業者の真似事をする傍らでプロキオン攻略作戦を急いだ。
 土方総司令自らが指揮をとるプロキオン攻略艦隊(戦艦24隻、巡洋艦48隻、宇宙空母5隻が中核)とヤマトと共に独立任務に
当る予定の機動戦艦ムサシが11番惑星基地に集結していた。
 隻数こそガトランティス艦隊に劣るものの、相手は空母機動部隊が壊滅し、主力部隊も消耗していることから十分に戦えると
判断されていた。
 アンドロメダの艦長室で報告を受けていた土方は険しい顔で口を開く。

「ガトランティス帝国軍の大機動部隊が壊滅していなかったら、職を賭してでも反対したな」

 土方の座る机の前に立つムサシ艦長の古代守は頷く。

「確かに」
 
 ガトランティス帝国軍が強敵であることはボラー艦隊の敗戦を見れば明らかだった。
 敵旗艦が持つ火炎直撃砲も怖いが、大戦艦が持つ衝撃砲も侮れない。また駆逐艦の機動力も馬鹿にできない。   
  
「しかしヤマトが白色彗星を潰してくれたにも関わらず、これだけ手強いとは……」
「そうだな。もしも敵艦隊がボラー艦隊と戦わずに太陽系に押し寄せていれば、苦戦は免れなかっただろう」
「敵主力だけでも脅威ですが、あれほどの空母部隊と戦うのはぞっとしません。我が軍も航空戦力を強化していますが」

 機動戦艦の指揮を執る故に、古代守は航空戦力の重要性を理解していた。
 
「やはりボラーと手を結ぶという参謀長の考えは外れではなかったな」
「はい。もっとも進はボラーを毛嫌いしているようですが」

 土方は苦笑した。
 
「あの男は頑固だし、少し青いところがある。古代艦長、いやα任務部隊司令官。頼むぞ」
「お任せください」

800earth:2011/09/19(月) 21:44:47
 ヤマトとムサシはα任務部隊を形成し、シリウス恒星系でガトランティス軍を撹乱する任務を与えられていた。
 たった2隻で後方撹乱という、どこぞのホワイ○ベース隊のような任務だが、ヤマトは艦隊で動くことに慣れていないので  
この任務は適当と思われていた。
 加えてヤマトは白色彗星を撃破したことで、ガトランティス帝国軍にも名前が轟いている。このため、ヤマトがシリウスに
入り込めば、間違いなく食いつくとも予想された。 

「相手からすれば仇敵であるヤマト、そしてその準同型艦であるムサシを何としても討ち取ろうとするだろう。
 厳しい任務になる」
「判っています。ですがこれほどの重要任務を拒否するつもりはありません。それに我々の任務は敵の撃滅ではなく霍乱。
 やりようはあります」
 
 古代進こそ目立たないが、古代守はヤマトがイスカンダルから帰ってくるまで、地球を守りきった地球防衛艦隊の一翼を担った
一流の、そして歴戦の宇宙戦士だった。
 その男の言葉には重みと説得力があった。

「そうか。期待しているぞ」
「吉報をお待ちください」 

 惚れ惚れとする敬礼をして、古代守はアンドロメダの艦長室を後にする。
 ムサシの初陣はもうすぐだった。




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板