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中・長編SS投稿スレ その2

1名無しさん:2011/02/24(木) 02:44:38
中編、長編のSSを書くスレです。
オリジナル、二次創作どちらでもどうぞ。

前スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9191/1296553892/

600earth:2011/06/18(土) 14:24:32
第19話です。


 未来人の多元世界見聞録 第19話

 
 時空管理局本局。次元の海に浮かぶ次元航行部隊の本拠地であり、次元世界最大の軍事拠点。
 故に警戒も厳重であったのだが、次元潜航艇を探知する能力は持ち合わせていなかった。彼らはあっさり
次元潜航艇の接近を許してしまう。

「それじゃあ、行ってくるわ」

 管理局の制服を纏った朝倉は、次元潜航艇から通信で長門にそう告げると瞬間移動で本局に一気に潜入した。
続けて他のESPアンドロイドが次々に瞬間移動で本局に進入していった。
 そして潜入後、ある者は変身し、ある者はダンボールで身を隠しながら本局内を移動していく。

「ザルね〜」

 朝倉は変装して顔を隠しつつ、警戒装置を00ユニットを遥かに凌駕するハッキング能力で無効化していく。
 同時に周辺の人の様子を観察する。 

「軍事組織というより、むしろ警察機構ね。裁判所と警察が合体ってどんな組織かしら……」

 色々と呆れつつも、細かい調査を開始する。

「XV級か……確かにL級よりは強いけど、防空能力は微妙ね。でもバリアがあるからコスモタイガーの
 攻撃力じゃ撃沈は難しいかも。でもF−01の小型波動砲や主力戦艦の主砲なら貫けそうだし大した脅威じゃないか」
「S級魔導士か……大気圏内では化物じみているわね。今の陸戦部隊じゃ苦戦するかも。
 ESPユニットを当てればいいけど、数が足りないわね。最悪の場合は大気圏外から砲撃で粉砕かしら。  
 あとは船ごと沈めるのが良いわね。高ランク魔導士は船に乗っているのが多いし」
「海に対して陸は戦力が薄いわね。おまけに有人世界まで植民地にしたせいで、治安活動で首が回らないし。
 そんな陸からさらに高ランク魔導士を海が引く抜く。それでも足りないから犯罪者でも、司法取引で使うと。
 ……組織のあり方としてどうかと思うけど」

 朝倉は目ぼしい情報を入手すると、すぐに場所を移動する。目的地はロストロギア保管庫、そして無限書庫だ。
 尤も後者はあまりにもゴチャゴチャしていたので、有益な情報を引き出すのに手間が掛かりすぎると判断して
諦めたが。

「さて、ここが保管庫か……何が入っているのやら」

 巨大な扉の前で楽しそうに笑う朝倉。だがその後、彼女は信じがたいものを見て、珍しく硬直することになる。

601earth:2011/06/18(土) 14:25:58
「第三次大戦前の遺物が保管されているか……」

 管理局に関する報告を聞いた耕平は唸った。
 何しろ仮に管理局がロストロギアを使いこなして反撃に出たら痛い目に合う可能性が出てきたのだ。

「次元消滅弾頭なんて使ったら洒落にならないからな」

 空間を完全に破壊し、宇宙船の航行すら難しくする空間汚染を引き起こす大量破壊兵器。現在は保有と使用と
禁止されている兵器を筆頭に物騒なものがごろごろしているとなると、耕平ですら管理局に手を出すのは気が引ける。
ちなみに他のにも色々なものがあったが、理解しがたい機能や外見をしたものがあった。朝倉はこれらをガラクタと
判断し、耕平もそれに同意していた。

「さて、こうなると『聖王のゆりかご』もかなり物騒な品物になりそうだな」

 艦隊動員して全滅なんてことになったら第8世界での行動が難しくなる。だがここで耕平は考えを変える。

「短期決戦で決着を付ける必要があるか」

 暫く考えた後、耕平はアンドロイドの参謀に尋ねる。

「……ジオイド弾はどの程度揃っている?」
「現在120発が生産済みです」
「1惑星あたり3発として、40の惑星が破壊できるか。最悪の場合、主な管理世界にジオイド弾を撃ち込んでも
 お釣りが来るな」
「まとめて吹き飛ばすと?」
「最悪の場合だ」

 耕平はそういって肩をすくめる動作をする。

「そういえばテストは?」
「まだです」
「じゃあ適当な惑星を選んで撃ちこむか」

 かくしてジオイド弾のテストも行われた。耕平はランダムで選ぶつもりだったが、どこぞのピンク髪の貴族や黒髪メイド、
爆乳のエルフにちやほやされている男がいる星を見つけると「リア充爆発しろ!」と言ってジオイド弾を3発撃ち込んだ。
八つ当たりだが、バイトで受けたストレスはそれほどまで大きかったのだ。

602earth:2011/06/18(土) 14:26:31
「悪は去った」

 実に良い顔で言うと、耕平は再び会話を再開する。

「どちらにせよ、舐めてはかかれない相手ということだ。4個艦隊で一気に攻め落とす」
「では開戦されると?」
「NPCがあんな物騒なものを持っているとなれば放置は出来ないだろう。本局については無力化のための工作を進めろ。
 ロストロギアと無限書庫は出来るだけ無傷で手に入れたい」
 
 話し合いでロストロギアの譲渡や情報の引渡しも考えていた耕平であったが、常識を超える危険な物ばかりであった
ことから話し合いを断念した。下手に管理局がロストロギアをいらって起動させるようなことがあったら目も当てられない。
 それに管理局が拡大方針を採っているといずれ他の世界に行くつく危険があった。これは阻止する必要がある。

(危険なものは闇に葬るに限る)

 だが耕平としては開戦時期は慎重に選ぶつもりだった。

(情報収集の結果、今はASのころ。97管理外世界にアースラが行っている間に電撃戦で落せば原作キャラの
 死亡は少なくて済むだろう。マブラヴと違ってASのころまでは、魔法少女の世界だからな。STSだったら容赦しないが)

 NPC(?)とは言え、見たことがある少女を木っ端微塵にするのは、さすがの耕平も気分が良くない。

(それに管理局を潰せば、あんな魔王なんて登場しないだろう。あとはスカだが……まぁ適当に技術を与えて改造させる
 のが良いか。何か使えるものができるかも知れないし)
 
 かくして開戦時期は決められた。 
 参謀本部は次元世界制圧作戦の策定に取り掛かる。また改装や建造が終ったばかりの艦艇が次々に第8世界に送られ
始める。
 改アンドロメダ級『春蘭』『三笠』、アンドロメダ級戦艦4隻、主力戦艦52隻、信濃級空母4隻、戦闘空母12隻を
中核とした大部隊が回廊から第8世界に向かう。
 そしてその総指揮は黒旗軍総司令官である耕平が執る。
 
「これが最新鋭戦艦『春蘭』か。それにしても、やっぱり艦名は感じに限るな」

 笑いながら耕平は春蘭の艦橋を眺める。アンドロメダ級よりも広い艦橋、そして充実した指揮能力。
 性能が低いAIを搭載した戦艦も、操作できる能力を持つこの艦は、次世代の旗艦に相応しい戦艦であった。
 勿論、火力も波動砲3門(拡散・収束切り替え可)、50.8cm主砲4連装5基(上甲板に前後2基ずつ。艦底に1基)を
装備するなど黒旗軍でも有数の攻撃力を持つ。
 
「時空管理局、次元の守護者の腕前、どの程度か見せてもらう」

 かつてない外宇宙からの脅威(笑)が次元世界に迫りつつあった。

603earth:2011/06/18(土) 14:27:45
あとがき
というわけで開戦です。
なのはさんやフェイトさんは生き残れそうです。
ですが『リリカルなのは』はASで打ち切りになりそうです(爆)。

604earth:2011/06/18(土) 20:17:34
というわけで戦争が始まる第20話です。


 未来人の多元世界見聞録 第20話


 第8世界の次元世界がある宙域の周辺に、大艦隊が集結していた。
 最新鋭戦艦『春蘭』『三笠』、アンドロメダ級戦艦6隻、主力戦艦60隻、信濃級空母4隻、戦闘空母15隻、巡洋艦150隻を
中心とした一大機動艦隊。その気になればマブラヴ人類を1000回は余裕で滅ぼせるこの次元世界攻略艦隊は作戦開始を今か今か
と待っていた。
 アルテミスから見える、この堂々たる大艦隊の様子を見た朝倉は感嘆した。

「壮大な眺めね」

 朝倉の言葉に長門は頷く。さすがの彼女達もこれだけの大艦隊が集まるのははじめて見るものだった。
 艦隊の様子に見入っていた2人に総司令官である耕平から通信が入る。

『そちらの準備は良いか?』

 メインモニターに映る耕平に、2人は敬礼して答える。

「全艦、出撃準備は完了」
「いつでも出れます」
『そうか。それでは予定通り行動を開始する。本隊は本局を強襲する。そちらは支局を叩いて、各世界からの増援を阻止する
 ように』
「了解」
 
 その後、耕平は作戦の開始を宣言した。

「これより、『黒旗軍』は時空管理局制圧作戦を実施する。大量破壊兵器を隠匿し、勢力拡大に注力する危険な勢力を
 放置することは出来ない。この世界の平和は諸君の双肩に掛かっている。諸君の奮闘を期待する!」

 アンドロイドばかりの軍隊なのだが、何故か演説する耕平。ゲーマー(オタク?)としての性だった。

「作戦開始!」

 総数で500隻にもなる大艦隊が次々に次元世界に侵入を開始する。
 戦争の始まりであった。

605earth:2011/06/18(土) 20:18:07
 聖王教会からの警告、そして度重なる不審船騒動から警戒態勢を取っていた管理局は、大艦隊が侵攻してきた
ことをすぐに察知した。
 勿論、本局は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。

「アルカンシェルを装備させたXV級を出せ!」
「L級もだ。全力で出撃させろ!!」

 これまで散々に苦い思いをさせられてきた次元航行部隊は、この大艦隊を撃滅すべく活を入れる。
 
「各世界に派遣していた巡航艦も呼び戻せ!」
「ですがそれでは各世界の管理が」
「この際、あの大艦隊を叩いてからだ。連中に本局を落とされるようなことがあれば、治安の維持どころでは
 なくなる!」

 かくして本局からは次々に次元航行艦が出撃していく。
 だが大世辞にも艦隊で行動することに慣れているとは思えない有様だった。そしてその様子は次元潜航艇に
よって次々に旗艦春蘭の耕平の手元に知らされていた。

「総数は約300、数は大したものだが、艦隊決戦に慣れていないようだな」

 耕平の本隊は春蘭、三笠、それにアンドロメダ、ネメシスの4隻、主力戦艦46隻を中心とした350隻だ。
このため管理局もほぼ互角と見て積極的に打って出たのだ。

「所詮は警察機構か」

 この耕平の呟きにアンドロイド参謀が頷く。 

「彼らは単艦で行動することが多いようです。さらに大規模な戦争を経験したこともありません。
 恐らくこれが最初の艦隊決戦でしょう」
「そして最後の艦隊決戦になるよ。1隻たりとも生かしては帰さない。それに良い経験値稼ぎになる」
「それでは当初の作戦通りに?」
「包囲殲滅は戦場の花だよ」

 こうして2つの艦隊は距離を詰めていく。

606earth:2011/06/18(土) 20:18:47
 双方の間隔が詰まってきたのを見た耕平は艦隊を停止させる。

「波動砲統制射撃準備。波動砲、拡散モードでエネルギー充填開始」
「了解しました。波動砲、拡散モードでエネルギー充填開始」
「収束型の艦は第二射のためにチャージ。それと相手が反転したときに備えて瞬間エネルギー位相装置も準備」
「了解」
   
 50隻の戦艦が波動砲にエネルギー充填を開始する。勿論、黒旗軍本隊が停止したのを見た管理局艦隊も
何かあるとは思ったが、あまりに遠かったので、手出ししようが無い。
 必殺のアルカンシェルもこの距離では届かない。

「接近するしかあるまい」

 管理局艦隊司令官は虎穴にいらずんば虎児を得ずとばかりに全速で黒旗軍本隊に向けて突進する。
 しかしこの様子を見ていた耕平は思わずニヤリと笑った。

「獲物がわざわざ飛び込んでくるとは。尤も、今さら後退しても直撃波動砲の餌食だけどな」

 そう余裕を示しつつも、周辺への警戒は忘れない。
 何故か波動砲を撃った直後に、防衛艦隊はフルボッコにされる場合が多い。特に完結編では拡大波動砲を
撃った直後に、奇襲を受けて壊滅している。耕平は同じことが起こるのを警戒していた。

「デスラー艦、空母部隊、水雷戦隊も準備を怠るな」
「了解」
 
 着々と進むエネルギーチャージ。そしてついに出力は120%に達する。
 ターゲットスコープが耕平の前に開かれる。耕平は同時に下から出てきた波動砲発射の引き金に指をかける。

「電影クロスゲージ明度8」
「エネルギー充填120%」

 アンドロイドの言葉に頷くと、耕平はカウントダウンを開始した。

「発射10秒前、対ショック、対閃光防御。10、9、8………」

 カウントダウンを告げる耕平の声だけが艦橋内に響く。

「3、2、1、0。波動砲、発射」

 耕平が引き金を引き、波動砲が発射される。膨大なエネルギーが次々に放たれ、管理局艦隊に向かう。
 それは時空管理局にとって最初の艦隊決戦の始まりにして、次元航行部隊創設以来の苦難の始まりを告げるものであった。

607earth:2011/06/18(土) 20:20:48
あとがき
というわけで、原作の地球防衛軍お得意の先制の波動砲攻撃です。
でも原作だといきなり波動砲を撃ったら敗北フラグ(爆)。
でも管理局に奇襲をかけれる力は……
それでは失礼します。

608earth:2011/06/18(土) 22:21:50
というわけで第21話です。


 未来人の多元世界見聞録 第21話


 黒旗軍艦隊本隊から発射された波動エネルギーは散弾銃のように分散して、雨霰と管理局艦隊に降り注いだ。
 
「か、回避しろ!!」
「ダメです!!」

 次元航行艦の艦長たちは何とか回避を試みるが避けられるものではなかった。四方八方から降り注ぐ波動
エネルギーによってシールドは食い破られ、艦内も次々に破壊されていく。

「うわぁああああ!!」

 L級が、新鋭のXV級が、次々に艦体を波動エネルギーに貫かれて沈んでいく。
 管理世界からの膨大な出資で作られ、管理世界を守ってきた艦がいとも容易く沈んでいく様は、管理局員から
すれば悪夢と言ってよかった。

「ば、馬鹿な……」

 運よく波動砲の影響を受けなかった管理局艦隊旗艦XV級『ヘクトル』では艦隊司令官が呆然としていた。

「ただの一撃で、艦隊の三分の二が……馬鹿な、こんなことが」

 勿論、周囲の部下達も似たようなものだった。次元航行部隊が創設されてから、ここまで一方的な大敗北など
経験したことがなかった。故に彼らは呆然となった。
 本来ならすぐに体制を立て直すべきなのだが実戦経験の無さがここで効いた。

「敵艦隊に高エネルギー反応!」
「何?」

 そう波動砲の第二射が放たれるときが来たのだ。

「反応が遅い」

 耕平は嘲笑いつつ、収束型波動砲を撃った。残存部隊へのピンポイント攻撃であった。
 破壊できる範囲は拡散型より劣るものの、貫通力は拡散型の比ではない。そして辛うじて残った管理局艦艇に
これを防ぐ術は無かった。

「は、反転180度! 全艦離脱!!」

 ヘクトルは慌てて逃げ出そうとしたが、間に合わない。ヘクトルと周辺に居た艦艇は根こそぎ波動砲に呑み
こまれていった。

609earth:2011/06/18(土) 22:22:27
 粗方、敵艦隊の反応が消失したのを見た耕平はオペレータに尋ねた。 

「敵の残存は?」
「残りは54隻。全艦が反転して本局に向けて後退しようとしています。また本局よりさらに5隻の艦艇が発進」
「逃げるか。まぁ全滅覚悟で突撃するよりかは賢明だが……そうはさせない。空母艦載機、水雷戦隊、前に!」 

 後方に待機していたデスラー艦の前に、F−01と巡洋艦、駆逐艦が並ぶ。 

「デスラー戦法を見せてやろう」

 瞬間物質位相装置が次々にF−01、巡洋艦、駆逐艦をワープさせていく。

「管理局が驚く顔が目に浮かぶな」

 しかし退却する管理局艦隊は驚くどころではなかった。何しろ必死に退却しようとしている最中に周辺に
前触れも無く戦闘機や巡洋艦が現れたのだ。

「馬鹿な! どこから!?」
 
 慌てて応戦しようとするが、先手を打つかのようにF−01が搭載する小型波動砲が火を噴いた。
 シールドで持ち堪えようとするが、出力を強化された小型波動砲を防ぐことはできない。次々にシールドごと
艦体を撃ち抜かれる。

「Dブロック消失!」
「Bブロック火災発生!」
「魔導炉停止!」

 次々に齎される凶報。それはすでに艦が航行できないどころか、沈む直前であることを意味した。

「総員退艦、急げ!!」

 相次いで艦が放棄される。しかしなお攻撃は止まない。巡洋艦が20.3cm連装衝撃砲を弱体化した管理局艦に
撃ちこむ。1隻のL級が衝撃砲に貫かれ爆沈した。炎を上げつつ航行していたXV級には多数の魚雷が叩き込まれる。
XV級は搭載していた小口径の砲で迎撃するも1発も撃破できず、全弾が命中。文字通り轟沈する。
 勝敗は決した。

610earth:2011/06/18(土) 22:23:08
「ぜ、全滅だと。敵艦隊に触れることさえできずにか……」

 300隻あまりの大艦隊が文字通り殲滅されたことを知った次元航行部隊の高官は本局の司令部で卒倒しそうになった。
 だがそうなるのも無理は無かった。何しろこれまで巨費をつぎ込んで建造してきた次元航行艦、そしてそれを
運用する貴重なクルー、そして宝石よりも希少な高ランク魔導士が根こそぎ失われたのだ。
 
「各世界、支局からの増援はどうなっている?」

 一途の望みをかけて高官はオペレータに尋ねるが、逆に悲鳴のような報告が戻ってくる。

「か、各支局が敵艦隊に襲撃されています! 奇襲を受けて大損害を被っているとのことです!!」
「何だと?! 別働隊がいたというのか?!」

 このとき、長門艦隊などの別働艦隊が各世界の支局に奇襲攻撃をかけていた。
 迎撃に出た次元航行船は次々に撃沈され、支局も波動砲や波動カードリッジ弾によって滅多打ちにされて
破壊されていった。

「経験値稼ぎにもならないんじゃない?」
「否定できない」

 朝倉と長門は支局や周辺の艦隊をそう酷評した。実際、酷評されても仕方ないほど一方的に管理局側は
打ち負かされていた。

「S級やA級も、宇宙空間から撃たれたら形無しね」

 朝倉の言うとおり、高ランク魔導士はここでも何の役にも立たず、黒旗軍の砲火によって次々に倒れていった。 

「次元航行部隊は事実上壊滅か……」

 誰の目から見ても、決着はついていた。管理局の大敗という形で。

「「「………」」」

 回りの人間が浮つく中、伝説の三提督たちは、管理局の大敗を冷静に受け止めていた。
 同時に彼らはこの敗戦をどう処理するかで頭を悩ませていた。もしも謎の艦隊が地上への爆撃を敢行すれば
管理世界は火の海と化す。それは次元世界の滅亡に直結する。
 生き残るには、管理世界の各政府をまとめ、降伏するしか道はなかった。

611earth:2011/06/18(土) 22:25:02
あとがき
というわけで会戦終了です。
管理局艦隊涙目ってレベルじゃありません。一方的敗戦です。
ここまで一方的にやられた管理局が居ただろうか……。
それでは失礼します。

612earth:2011/06/19(日) 10:44:00
かなり短めの22話です。


 未来人の多元世界見聞録 第22話


 管理局艦隊が消滅したのを見て、三提督が降伏を提言しようとした直後、本局にさらなる異変が襲う。
 警報とともに次々に内部のシステムがダウンしていく。

「どうした?!」
「ハッキングです! 次々に防壁が突破されています!!」
「保安部のメインバンクに侵入されました!! パスワードを解析中です!」
「何だ、この速度は!?」
 
 慌ててオペレータたちは対応するが、全く間に合わない。
 混乱する中、本局のあちこちで破壊工作が行われる。相次いで重要な通路や輸送路が爆破され、各地で
人や物の流れが遮断される。

「武装隊を出せ、不審者と不審物の発見に全力を挙げろ!」

 慌てて各所に指令が飛ぶが、本局でこのような破壊工作が行われることなど無かったために迅速な
対応がとれない。さらにESPアンドロイドは瞬間移動や変身で姿を隠すため、発見が困難だった。

「これだけの破壊工作となると、かなりの人数が侵入しているはずだ! 何としても見つけろ!」

 高官はそう厳命するが、事態は悪化する一方だった。

「敵艦隊、本局に向けて接近!」
「何?!」
 
 司令部のスクリーンには、悠々と本局に向かってくる黒旗軍艦隊の姿があった。
 管理局艦隊の3分の2を一瞬で消し飛ばした恐るべき戦略砲を搭載した戦艦が整然と進撃してくる様は、高官たちを
恐怖させた。
 あの戦略砲(波動砲)が発射されれば、本局とはいえ崩壊は免れない。

「こうなったら、ロストロギアを使うしか……」
「ですな……」

 三提督が止めるよりも早く、高官たちはロストロギアを使った反撃にでようとする。だが試みは無駄に終った。

「ロストロギア保管庫が制圧されただと?」
「はい。周辺の通路も全て爆破されました」
「………」
「敵艦隊、さらに接近」

 艦隊と切り札、そして本局のコントロールシステムの多くを失った管理局にできることは降伏しかなかった。

613earth:2011/06/19(日) 10:44:41
「管理局から降伏の申し出が来ています」

 春藍の艦橋でそう報告を受けた耕平は満足げに頷いた。

「これで少しは、この世界の真実に迫れるな……ロストロギア、無限書庫、この2つがあればかなりの情報を
 収集できる」

 第8世界のNPC文明は、かつてのプレイヤーが作った文明が発展したものとゲーム会社から説明されたが
それをそのまま受け取るほど耕平は素直ではない。
 マブラヴ、リリカルなのはと言い、1000年前の世界のフィクションに似た文明がそうそう自然に発生
するわけがない。

(誰かが介入しているとなれば、警戒が必要だ。いきなり奇襲されて大打撃なんて受けたら面白くないし)

 BETAも探索も必要だが、他のプレイヤーの存在の有無を確認することも必要だった。
 まだ出会っていないだけで、実はこの世界のどこかで活動しているとすれば、いずれ開戦ということも
あるのだ。

(あとはマブラヴ人類の調査だな。まぁ大したものは発見できないだろうけど、史実を超える技術進歩が
 成し遂げられたのも何か理由があるはずだし。ああ、それと禁止兵器は、さっさと運営に通報しておくか。
 何か報酬がもらえるかも知れないし)

 そんなことを考えている内に、長門艦隊などの別働艦隊が合流する。

『任務完了』
「ご苦労様。でも悪いけど、今から本局で交渉してきてくれない?」
『何故?』
「自分のユニットは君達のように強力じゃないんでね。騙まし討ちされたら対応できないんだ。その点、君らは
 S級魔導士とも戦えるし、何かあっても対応できる。それにリーディングで相手の考えも読める。
 交渉にはもってこいだ。勿論、他のESPアンドロイドや護衛の歩兵部隊はつける」
『……了解した。ただちに本局に向かう』

 一方、出迎える管理局員は屈辱と不安で頭が一杯だった。栄光ある管理局が良い様に叩きのめされ、犯罪者に
頭を下げなければならないのだ。

(何故、このようなことに)

 特に高ランク魔導士は忸怩たる思いだった。自分達の実力が発揮されないまま、全てが終ってしまったのだから。
 そうこうしている内に、かつて次元航行艦が収納されていたドックに1隻の大型戦艦が入ってくる。管理局が嫌う
『質量兵器』の雰囲気が漂ってくる艦だ。
 
(どんな連中が出てくる?)

 だが彼らはこの直後、信じがたいファンシーな生物を目にすることになる。

614earth:2011/06/19(日) 10:48:01
あとがき
本局開城です。次回、『ボン太君(+長門と朝倉)大地に立つ』になる予定です。
マブラヴ人類の代わりに管理局のSAN値が……。
まぁいずれマブラヴ人類のSAN値も……。
実験SS(最強系)で、普段の息抜きがてらに書いているのですが
あまり評判がよくないようであれば、切りが良いいところで打ち切りたい
と思います。

615名無しさん:2011/06/19(日) 10:55:17
投稿ご苦労様です。
前のバージョンも良かったと思いますが
今の分も楽しく読ませてもらってます。

中途半端な最強系でなく原作破壊上等なところも、
相手に合わせる必要など認めなく、自分達の都合だけで動くところは
私としては気に入ってます。
次回作も楽しみにしてます。
出来れば今日中であれば・・・

616earth:2011/06/20(月) 21:30:18
いよいよ交渉(?)が始まる第22話です。


 未来人の多元世界見聞録 第22話

 長門艦隊旗艦アルテミス。拡散波動砲2門、50.8センチ衝撃砲12門という重武装を誇る
戦略指揮戦艦アンドロメダ級の3番艦は管理局員達に言い知れぬ威圧感を与えていた。
 同時にどのような勢力によってこれが建造されたのかと誰もが疑問に感じた。
 
「一体、あれほどの質量兵器をどこの組織が作ったんだ……」
「管理世界のどこかの政府が密かに建造したんじゃないのか? 次元世界の覇権を得るために」
「馬鹿な。管理局の監視を掻い潜って作れるわけがない」 

 管理局は節穴ではない。いくら何でもXV級を超えるような大型艦が建造されるなら、その
兆候は掴める。だが管理局は全くその兆候を掴めなかった。黒旗軍と名乗る勢力は突如として
現れたのだ。 
 
「これが謎の勢力の戦闘艦」

 出迎えのためにドックに来ていたレティ・ロウランはアルテミスを見て、自分達の艦とは全く
異なる理論で設計された艦であることを理解した。
 
「アルカンシェルを超える戦略砲、そしてXV級を超える機動力。どれも信じがたいものばかり」

 だが目の前で管理局艦隊が捻り潰されたのを見れば、信じざるを得ない。
 目の前の勢力は管理局を凌駕する存在であり、その気になれば自分達をいつでも抹消できる力を
持っているということを。

(うまく降伏交渉を纏められればいいけど)

 管理局はこれまで圧倒的強者と交渉したことが無い。まして次元航行部隊が壊滅し本局が降伏を
余儀なくされることなど想像すらしたことがなかった。
 管理局の要職を占めるプライドが高い高ランク魔導師が、素直に降伏(それもほぼ無条件降伏)に
同意するかレティには判らなかった。

(三提督が抑えてくれると良いけど)

 そんなことを思っている内に、アルテミスからタラップが降ろされる。
恐怖、憎悪、屈辱、様々な感情が渦巻く中、アルテミス内部から降りてくる人影が見えてくる。
 管理局員の誰もが固唾を呑んで、自分達を叩きのめした謎の勢力の代表が降りてくるのを待った。

「「「………」」」

 静まり返るドックの中、長門と朝倉は勝者としての余裕をもって姿を現した。
 2人の少女の姿に誰もが驚くが、高ランク魔導師が幅をきかせる管理局の人間は、あの2人が超高ランク
魔導師なのだろうと当たりをつける。
 だがその直後に現れた人物(?)に誰もが度肝を抜かれる。

「……着ぐるみ?」

617earth:2011/06/20(月) 21:30:50
(驚いているわね〜。まぁ仕方ないか。あんなファンシーな物が出てくるとは誰も思わないだろうし)

 内心でほくそ笑む朝倉。
 尤も彼女自身、ボン太君を歩兵として送りつけられたときは、耕平が正気かどうか疑ったが。
 長門と朝倉の後から付いてくるボン太君に誰もが唖然とする中、艦隊のTOP2は悠々とドックに
降り立った。
 尤も悠然としつつも、実際には騙まし討ちにいつでも対応できるように臨戦態勢であった。
 今はボン太君に呆気を取られているものの、ここは敵地であることに間違いは無いのだ。さらに言えば
彼らは一方的に容赦なく管理局を叩きのめしている。管理局からすれば黒旗軍は正体不明の侵略者だった。

(さっさと仕事を終らせて帰るに限るわ。まぁ仮に魔導師連中が逆上して襲ってきても叩きのめす自信は
 あるけど)

 重頭脳級を筆頭にしたBETAよりは潰し甲斐がありそう、と密かに思う朝倉だった。
 そんな戦闘狂な部分がある朝倉と違って、長門はさっさと仕事を済ませて戻るつもりだった。
 彼女は敬礼すると自身の所属と階級を述べる。

「黒旗軍BETA討伐艦隊司令官、長門有希中将。通告どおり、管理局との交渉に来た」

 出迎えたレティは慌てて答礼する。

「時空管理局本局運用部、レティ・ロウランです」

 レティは失礼が無いように長門達を本局統幕議長であるミゼット・クローベルや本局高官が待つ会議室に案内する。
 レティ自身、黒旗軍というのはどんな勢力なのか、BETAとは何かと色々と聞きたいことはあったが、ここで
彼女達に問い質す権限も資格も彼女には無かった。

(それにしても、この着ぐるみって……)

 誰もがボン太君について突っ込みたかったが、誰も突っ込めない。
 このあまりにも場の空気にそぐわないファンシーな存在は、軽快な足音を立てながら、長門達のあとを付いていった。

618earth:2011/06/20(月) 21:31:48
 長門と朝倉、そして護衛(?)のボン太君2人(2匹?)は様々な視線に晒されながらも、会議室に案内された。
 まずは最初に長門と朝倉が自分達の正体を語り始める。

「先の通信で開示したように、我々は貴方方の言葉で表現すれば『黒旗軍』と呼ばれる存在。
 そして私は黒旗軍BETA討伐艦隊司令官、長門有希中将。この交渉の全権を総司令官から委任されている」
「私は黒旗軍BETA討伐艦隊参謀長の朝倉涼子少将です。長門中将の補佐を任されています」
 
 これに対して、ミゼットが質問する。

「時空管理局本局、統幕議長のミゼット・クローベルです。質問しても宜しいでしょうか?」
「構わない」
「黒旗軍とは、どこかの次元世界に存在する国家に所属する軍でしょうか?」
「違う。我々は国家に所属してはいない」
「国家に所属しない?」 
「そう。我々はもともと1個人によって作られた私設軍隊」

 私設軍と言う言葉に管理局は驚愕する。何しろ本局と次元世界各地の支局を同時に攻撃できる
ような次元航行艦隊(?)を一個人が持っているというのだ。驚かないほうがおかしい。
 いや普通なら、そんな発言を公式の場でした人間は病院送りになるだろう。次元世界の守護者を
自称する管理局でさえ、その維持費は各世界の政府から支出してもらっているのだ。それを超える力を
個人で持つなど、常識人からすれば妄想もいいところだった。

「い、一個人がこれだけの力を持っていると?」

 長門は静かに頷いた。そしてさらに驚くことを告げる。

「そしてもう一つ。我々はもともと貴方達がいう次元世界には存在していなかった」

 これに管理局高官はどよめく。

「馬鹿な、ならば」
「静かに」
 
 ミゼットは怒鳴ろうとする高官を黙らせた後、尋ねる。

「では、貴方達はどこから来て、どうして我々に敵対するのですか?」
「まず我々は貴方たちが次元世界と呼ぶ空間の外の、さらに外の世界から来た」
「次元世界の外の外?」

 時空管理局の、いや次元世界の住人の常識を木っ端微塵にする『お話』が始まろうと
していた。

619earth:2011/06/20(月) 21:33:15
あとがき
というわけでお話の始まりです。
管理局のSAN値がどこまでもつか……。それでは失礼します。

620earth:2011/06/21(火) 22:04:00
もうそろそろ憂鬱本編を進めないといけないと思いつつ書いてしまう。
と言うわけで第23話です。


 未来人の多元世界見聞録 第23話

 時空管理局高官は目の前に広がる光景に絶句していた。かの伝説の三提督でさえ言葉がない。
 何しろ自分達は会議室にいたはずなのに、いつの間にか別の場所にいたからだ。

「……TV局のスタジオ?」

 辺りにある放送機材を見て、高官の一人が呆気に取られたような顔で呟く。
 
「幻影魔法か?」
「いや、そんな反応は無いが……」
「なら、何なんだ。これは。外部との連絡も取れん」
「奴らが何かしたのか?」

 長門達が「自分達が次元世界の外の外から来た」と切り出した後、三提督を除く高官たちは反発した。
 誰もが信じられなかったからだ。そんな彼らの反応を見て、長門達はため息をついた。そしてそのあと何事か
を呟いた。
 すると途端に会議室は変容した。彼らが今見ているようなTV局のスタジオに。
 動揺する高官たち。だがその彼らの度肝を抜くような大音響が響き、さらに目の前の床が開いて何かが下から
上がってくる。

「?!」

 誰もが身構える。だが直後、彼らは唖然とする。

「なぜなにじげんせかい、始まるよ〜♪」

 楽しそうな、というか他人を馬鹿にしたような朝倉の声。そして……

「わ〜」

 棒読みまるだしの長門の声が響き渡ると同時に子供向けの人形劇のようなセット、北高の制服でたたずむ長門、そして
黒子を被った(?)と思われるボン太君2人が現れた。

「「「………はぁ?」」」

 あまりにシュールな光景に誰もが思考停止した。

621earth:2011/06/21(火) 22:04:36
 しかしそんなことはお構いなしに、事態は進行する。
 長門の右横にある人形劇のセットに、朝倉をデフォルメしたような人形(あしゃくらさん)が現れ、話し始めた。

「長門さん、今回は次元世界の構造についてお話するんですよね?」
「そう」

 長門がそういうとボン太君が説明用の機材を台車でどこからか持ってくる。
 それはどこかの街のジオラマであった。長門はその中から、一つのビルの模型を取り出す。 
 
「次元世界とは例えるなら、団地に作られた高層マンションのようなもの」

 そう言って長門はマンションを模ったビルの模型を分解する。そして模型の中の部屋には次元世界の名前が刻まれていた。 
  
「外の世界の我々からすれば、このようになっている」
「なるほど、次元世界というのは、ある意味、建物の中で仕切られた部屋なんですね」
「そう。限られた土地の中に詰め込まれた世界」

 そういうと長門は模型をもとのジオラマに戻す。

「逆に言えば、団地の外には、街が広がっている。これが外の世界」
「なるほど。それじゃあ、外の外っていうのは、隣町ってことですか?」
「そう。我々は団地に住むマンション住人からすれば、突然現れた隣町の住人」
「でも、団地の住人だったら、外に街が広がっていることくらい判りそうですが」
「この団地は特殊な構造。簡単に内側から外を見れないし、外からも中には入れない」
「ゆりかごみたいな世界ですね」
「ある意味そうだと言える」

 ここまで来たとき、ミゼットが我に帰る。

「つまり時空管理局が認識している次元世界というのは、貴方達からすればこの宇宙の一宙域にある
 特殊な位相空間、一種の箱庭であると?」

 ミゼットの問いに、長門は即答する。

「そのとおり」
「……では貴方たちは、その宇宙のさらに外から来たと?」
「そう。我々は貴方たちを超える技術と力をもって世界の壁を超えてきた」

622earth:2011/06/21(火) 22:05:12
 誰もが絶句する。長門の発言はそれほど途方も無い内容だった。
 しかし誰もが真実であると悟った。彼らは魔法を使わず、それどころか高位ランクの魔導師である自分達に何かの
力の発動さえ感知させることなく一瞬で自分達をこの空間に閉じ込めたのだ。
 よほど技術レベルが隔絶していない限り、このような真似はできないはずだった。

「そして我々が貴方たちを時空管理局を攻撃したのは、貴方たちが集めていたロストロギアを回収するため」
「ロストロギアを?」

 このとき、多くの高官が黒旗軍のことを、ロストロギア狙いの強盗と考えた。
 だがその考えは、長門の発言によってひっくり返される。

「我々の調査の結果、このロストロギアの中に、遥か昔に我々の間で使用や保有が禁止された兵器がある
 ことが判った。この兵器が使用されるのを防ぐためにロストロギアを収拾する管理局への攻撃、そして
 ロストロギア、貴方たちの言語で表現すれば『次元消滅弾頭』の回収が決定された」
「次元消滅弾頭?」
 
 高官たちが首をかしげる中、セットの陰から現れた朝倉は一枚の写真を見せる。

「これのことです」

 高官たちは食い入るようにこの写真を見る。

「これが?」
 
 高官の問いに朝倉が答える。

「はい。遥か昔に起きた大戦で、この世界を一度破壊した大量破壊兵器の一つです。仮にこれが暴発した
 場合、広範囲の空間が完全に破壊されます。仮にここで爆発すれば管理局本局は完全に消滅し、周辺の
 次元世界にも多大な悪影響が出ることは確実です。最悪、次元世界そのものが崩壊するでしょう」

 だがこのとき、三提督の一人、ラルゴ・キールがある文言に気付いた。

「ちょっと待ってくれ。今、世界を一度破壊したと?」
「ええ。外の世界、遥か昔に一度滅んでいますから」
「「「………」」」
 
 誰もが思った。「勘弁してくれ」と。

623earth:2011/06/21(火) 22:06:25
あとがき
管理局の常識木っ端微塵。
次回以降、SAN値がさらに大変なことに……それでは失礼します。

624名無しさん:2011/06/21(火) 23:41:52
こういうある意味メタに近いネタばれは、されるほうは自己を保つのが精一杯かも。
逆にこんな世界を作った、ゲーム会社?(ゲームマスター)の思惑が楽しみです。
考えてみれば、主人公からすれば全部作られた御伽噺だものなあ。

625New ◆QTlJyklQpI:2011/06/21(火) 23:48:14
>>624 感想は未来人の多元世界見聞録について3にてお願いします。

626earth:2011/06/22(水) 23:10:17
第24話です。色々と大変なことになります。


 未来人の多元世界見聞録 第24話

 立て続けに常識が木っ端微塵にされたせいか、時空管理局の高官たちは頭を抱えて黙り込んだ。
 かの伝説の三提督でさえ、ぐうの音もでないのだから、他の人間がどんなことになっているかは言うまでも
ないだろう。
 そんな様子を楽しそうに眺める朝倉。その一方で、長門が少し時間が立ちすぎたことに気付く。

「もうそろそろ終わりにするべき」
「そうね」

 朝倉がそう言うと、TVスタジオが元の会議室に戻った。だが、もはやその程度では誰も驚かない。

「それで何か質問は?」

 朝倉の問いに対して、何とか己を奮い立たせたミゼットが口を開く。

「我々の世界では、かつてアルハザードと呼ばれる高度な文明があったとの話があります。滅んだ世界とは
 そのことでしょうか?」
「さぁ?」

 この世界がゲームのために作られた8番目の人工宇宙であり、第8宇宙と呼ばれていることを敢えて
朝倉は教えない。
 だが高官たちの多くは、目の前の存在が滅んだはずのアルハザードと同格かそれ以上の力を持っているので
はないかと考え始めた。それは彼の常識に基づく判断であると同時に、自己防衛のためでもあった。
 正体不明の謎の勢力に叩き潰されたと考えるより、伝説の存在並みの規格外の存在に負けたと
考えるほうがプライドが傷つかなくても済むし、後々、管理世界政府に弁明するのも容易になる。

「しかし個人でどうやって、あれだけの軍事力を……」

 海の高官はそう疑問を呈した。この疑問に2人はあっさり答える。

「我々の上位者、黒旗軍の統括者と同族なら、あの程度の宇宙艦隊は自力で揃えられる」
「さらに言えば統括者やその同族は外の外の世界において国家を形成していません。その必要もないですし」
「「「………」」」

 もはや誰も何もいえなかった。

(((国家に頼らず軍を組織できる個人(?)が大勢居る、外の世界とは一体……)))

 常識が音を立てて崩壊していくのを感じる高官たち。彼らは何も聞かなかったことにして家に帰って
不貞寝したい気分だった。

627earth:2011/06/22(水) 23:10:59
「……しかし、何故このような強硬な方法で回収されるのですか? 話し合いの席を設けられれば
 無用な争いを避けられたのでは?」

 三提督の一人であり法務顧問相談役のレオーネ・フィルスが尋ねた。
 これに対して長門は淡々と返す。

「調査の結果、時空管理局は勢力拡大に力を入れる危険な勢力であると判断した。またロストロギアの
 保管方法も杜撰なところがある。よって武力によって有無を言わさず回収することが決定された」

 勢力拡大に舵を切らせたのは、黒旗軍が領海侵犯を繰り返した結果であり、管理局からすれば反論の余地があった。
だが後者については紛れも無い事実であり、そこを指摘されると弱い。さらに言えば彼らは弱者の立場であった。
強者にあれこれと言える立場ではない。 
 かと言って、彼らは、特に三提督は唯々諾々と強者に従うつもりはなかった。
 黒旗軍がロストロギアを回収してそれを使用しないとは限らない。仮に朝倉の説明したように危険なものなら 
最低でも次元世界周辺で使用されるわけにはいかない。ミゼットはそんな懸念を浮かべて口を開く。
 
「しかし保有や使用を禁止されている兵器を勝手に回収してよいのですか? 
 貴方達の話を聞く限り、黒旗軍と同格の存在がいくつもあるように思われますが」 
「問題ない。回収した兵器は管理者に提出される」
「管理者?」
「そう。黒旗軍も、それと同格の勢力もすべて管理者が定めたルールの下で活動している。仮に管理者が定めた
 ルールに逆らえば即座に抹消される」 
「……」

 自分達を一蹴した存在を、さらに一蹴できる絶対的強者が存在するという話に誰もが唖然となった。
 そんな彼らに朝倉がさらに追い討ちをかける。
 
「我々の上位者、いえ黒旗軍の統括者は、この次元世界を守るために敢えて管理局攻撃を行ったとも言えます。
 時空管理局という好戦的な勢力が、次元消滅弾頭を保有していると管理者が知れば、次元世界ともども殲滅される
 可能性が高かったですから」

 この物言いに、海の高官が激怒しかかるが、ミゼットがそれを止める。

「判りました。ロストロギア、いえ次元消滅弾頭を、黒旗軍に譲渡します」
「議長?!」
「仮に拒んでも、彼らは実力で持っていきます。それなら、正式に譲渡したほうが良いでしょう」 
「ですが」  

 尚も言い募る高官。これを見た朝倉は嘲笑するように言う。

「問題があるようなら、最高評議会の三人にお伺いを立てたらどうです? 止めはしませんよ」

 この言葉に事情を知る高官は絶句した。そんな反応を見て楽しそうに朝倉は続ける。

「まぁあの老人たち、いえ、その成れの果ても、ここで否とは言えないでしょうけど」

628earth:2011/06/22(水) 23:11:32
 朝倉に名指しされた最高評議会は、この事態に苦悶した。
 彼らの手駒であった時空管理局の実働部隊は事実上壊滅。管理局本局も黒旗軍がその気になればいつでも
破壊される状態。おまけにロストロギア保管庫も黒旗軍に抑えられている。反撃しようが無い。

「黒旗軍、これに対抗できる勢力と接触できれば良いのだが」
「無理だな。仮に接触しても、我らを守ることは無かろう。利用された挙句に潰される可能性が高い」
「それに両者が争えば、次元世界は壊滅しかねない。人が足元の蟻に注意を払わぬように、彼らが争ったときに
 次元世界への影響を考慮するとは思えない」
「聖王のゆりかごの起動が間に合っていれば」
「間に合っていても勝てるとは限らないだろう」
「ではどうする?」

 答えは決まっていた。しかしそれを出すことは彼らの人生を否定することに他ならない。

「「「………」」」

 結論を下せぬ最高評議会。だが彼らが躊躇っている間に、トンでもない事態が起こる。
 そう、質量兵器を極度に嫌う一部の高ランク魔導師が勝手にロストロギア保管庫を奪還しようとしたのだ。
 Sランク以上の魔導師が束になってESPアンドロイド達に戦いを挑む。勿論、黒旗軍も黙っておらず反撃に
出た。このためあちこちで派手な戦闘が起こる。

「あらあら……」
「……」

 この様子をモニター越しに見て呆れる朝倉と長門。これに対して三提督を含め、高官一同は顔面蒼白だった。

「す、すぐに止めますので、少々、お待ちを!」 

 慌てて出て行く男達を見て朝倉は嘲る。だがその余裕も、保管庫を占拠していた部下の報告によって
かき消された。

「……次元消滅弾頭が起動した?」

 それは黒旗軍にとって最悪の事態を告げるものであった。

629earth:2011/06/22(水) 23:13:06
あとがき
次元世界大ピンチといったところでしょうか。
もうそろそろ憂鬱も進めないと……。
それでは失礼します。

630earth:2011/06/23(木) 23:09:02
というわけで第25話です。


 未来人の多元世界見聞録 第25話

 次元消滅弾頭の起動、この報告を聞いた朝倉は文字通り血相を変えた。
 自身に搭載された通信機能すべてをフルに使って、全てのESPアンドロイドに次元消滅弾頭の起動を止める
ように指示する。 

「止めなさい。すぐに!」
『ダメです。こちらの操作を受け付けません』
『操作不能』
『爆発まで、あと3分』 
『次元消滅弾頭、防壁を展開。近くに居た3名が消失』

 この報告を聞いて朝倉は長門に顔を向ける。長門はすぐに決断を下す。

「交渉は中止。総司令に連絡を。総員は直ちに脱出。アルテミスは緊急出航」

 この言葉に管理局の人間達が口を挟む前に、長門と朝倉はボン太君ごとアルテミスの艦橋に瞬間移動で移動した。
 そして移動するや否や、アルテミスを出航させる。 

「機関最大出力。主砲、1番、2番用意。ゲートを破壊する」

 非常に荒っぽい方法であり、艦体に被害がでる可能性もあったが、時間には換えられない。
 
「撃て!」

 周辺で突然の事態に右往左往する管理局員など構うことなく、アルテミスは6門の50.8センチ衝撃砲で
ゲートを砲撃した。ゲートは粉砕されるが、周辺にも衝撃波と破片が吹き荒れた。武装隊を含めて多数の
局員たちが衝撃波を受けて吹き飛ばされる。
 勿論、超近距離射撃のためにアルテミスにも被害が出る。

「1番、2番砲塔使用不能!」
「艦首ブロック中破」

 他のアンドロメダ級と違って強制波動装甲に改装できなかったアルテミスは、この大爆発に無傷という
わけにはいかなかった。だが長門は問題にしない。

「問題ない。機関最大出力。アルテミス出航」

 他の障害物を強引に突き破ってアルテミスは本局から脱出する。
 一方、連絡を受けた耕平は慌てて運営に連絡した。何しろこれ以上下手な手を打てば自分のアカウントが危ない。
 
「困ったときの運営頼みだ」

 だが運営だけに頼るつもりも無い。万が一間に合わなければ艦隊が全滅してしまう。それは避けなければ
ならない。

「全艦、全速力で次元世界を脱出せよ。陣形が崩れても構わない。全速で逃げろ!!」

 この命令を受けて、全ての艦艇が反転して管理局本局から離れていく。

631earth:2011/06/23(木) 23:09:38
「次元世界崩壊とその余波に備えて、次元世界周辺宙域には留まるな! 次元世界離脱後、ワープで太陽系の土星宙域に
 集結せよ! 宙域周辺の部隊も離脱しろ。基地は放棄しても良い!!」

 管理局に完勝したはずの黒旗軍は、総崩れになったかのように陣形を崩して遁走していく。

「クソッタレ! 完勝したと思ったのにこれかよ!!」

 耕平は艦長席で歯噛みするがどうしようもない。だが同時に自分の中に驕りがあったことも認めざるを得なかった。
 
(勝ちすぎたせいで、傲慢になっていたか……たとえ、相手が弱くても最後まで気を抜かずトドメを刺さなければ
 ならない。戦争ゲームの基本を忘れていた)

 この様子を見ていた本局司令部の人間は唐突な展開に呆然とする。 

「何が起こっている?」

 冷静な人間は、自分達を叩き潰した艦隊が逃げ出していくのを見て何かトンでもないことが起こったのでは
ないかと考えた。
 そしてその考えはロストロギア保管庫に突入した魔導師たちによって裏付けられることになる。

「ロストロギアが暴走?」
「しかも暴走しているのは、黒旗軍が回収しようとしていた次元消滅弾頭だと」
「では、連中が撤退したのは……」

 事情を知る管理局高官たちは顔面蒼白となった。

「止めるんだ! 何としても!」

 本局どころか、次元世界そのものが危険にさらされかねない次元消滅弾頭の爆発は阻止しなければならない。
 彼らは残っている全ての高ランク魔導師をすべてつぎ込む決断をする。だが展開されている防壁によって
まともに近寄ることもできない。

「ダメです! 逆に周辺のロストロギアが連鎖反応を起こして暴走!!」
「保管庫周辺のブロックが消滅!」

 暴走したロストロギアから放たれる魔力があたり一体を破壊していき、ロストロギア保管庫が吹き飛ぶ。
さらに周辺の区間も次々に破壊されていく。隔壁が降ろされ、結界が形成されるが何の役にも立たない。

632earth:2011/06/23(木) 23:10:24
 管理局本局が崩壊しつつある頃、耕平が乗る春蘭は主力部隊の大半と共に次元世界を離脱した。

「周辺にいるのは?」 
 
 この耕平の問いに、アンドロイド参謀が淡々と答える。

「278隻です」
「約半分か……」

 耕平は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「長門艦隊や別働艦隊は?」
「遅れています。ですが最終的に戦力の8割は脱出できるでしょう」
「逆に言えば2割は失うというわけか。大損害だな……それに足の遅い初期型の戦闘空母は巻き込まれるだろうし。
 やれやれ、ミッドウェー海戦で空母4隻を失った日本海軍の気持ちがよく判る」

 31世紀の人間からすれば超古典的な例えを出す耕平。だがここにそれを突っ込む人物はいない。

「まぁ運営が間に合えば何とかなるかも知れない。希望を棄てるのは早い」

 だが耕平の希望は、直後に送られてきた運営からのメールによって打ち砕かれる。

「複数のロストロギアの連鎖反応のせいで、停止が間に合わない?」

 耕平の顔が引きつる。通常ならすぐに停止させることもできるが、運営の予想を超えるロストロギア群の暴走の
影響よってコントロールができないのだ。時間があれば停止も不可能ではないのだが、短時間で停止することはできない
というのが運営の回答だった。

「そして被害を食い止めるために、爆発直前に当該宙域を封鎖するか。戦闘空母を最低4隻は失うな。
 まぁ良い。全ての責任は管理局に押し付けられたし、この程度の被害はむしろ許容範囲か」

 巻き込まれるかも知れない『リリカルなのは』の主要キャラを思い浮かべると心苦しいものの、アカウント停止
などという最悪の事態にならずに済んだことに耕平は安堵する。

「今後は、もっと慎重に動くようにしよう……」

 耕平がそう呟くと同時に、春蘭はワープで太陽系に向かった。
 そして長門が乗るアルテミスが離脱した後、周辺宙域は管理会社が作り上げた防壁によって封鎖される。

633earth:2011/06/23(木) 23:11:00
「全く、これで色々とパァね」

 間一髪、脱出に成功したアルテミスの艦橋で朝倉はぼやいた。
 この戦いで黒旗軍は折角建設した前線基地、そして戦闘空母4隻、虎の子のF−01を100機を中心に
200機以上の航宙機を失った。大打撃と言える。
 
「第8世界探索も、BETA討伐も、戦略の建て直しが必要になるわ」
「それ以前に総司令が我々を処分する可能性もある」
「確かに。これは失態だからね〜」

 長門の言葉に頷く朝倉。さすがの彼女も処分がないとは思えなかった。

「もう少し、歯ごたえがある敵と戦いたかったな」
 
 しかし耕平は彼女達を処分するつもりはなかった。今回の一件は事故であると考えていたし、下手にここで 
彼女達を処分するような真似をするのは、八つ当たりになると感じていたからだ。
 尤も引き換えに、これまで以上に彼女達を扱き使うつもりだったが。

「それじゃあ、戻りますか。あの太陽系に」

 アルテミスがワープした直後、次元消滅弾頭が起爆した。まずロストロギアの暴走によって半壊していた
本局は空間ごと根こそぎ吹き飛ばされた。
 続けて周辺の世界、管理世界群が影響を受けた。ミッドチルダの首都クラナガンの市民達は、空が裂けていく 
のを見て恐慌状態になった。それは現地政府、そして地上本部も同様だった。

「何が起こっている?!」
「本局との連絡が付きません!」
「一体、どうなっている?」

 地上本部は大混乱に陥る。地上本部の高官の中には、最高評議会と連絡をつけようとする者もいたが
それさえ出来なかった。

「何がどうなっている?!」

 レジアスはそう叫んだ。だがそれが彼の最後の言葉であった。この直後、ミッドチルダは崩壊した空間の
隙間に呑み込まれ、崩壊していった。
 その悲劇はミットチルダだけに留まらない。各地の管理世界も次々に成す術も無く消滅してく。そして
最後に支柱を失ったように次元世界は、いや特殊な位相空間は崩れていった。
 かくして揺り篭の世界と、その守り手は消え去った。

634earth:2011/06/23(木) 23:12:53
あとがき
と言うわけで管理局消滅です。
でも黒旗軍も戦闘空母4隻など多数の戦力と基地を失う大打撃を
被ります。蛮族相手と侮って手痛い目にあった某ゲームのプレイヤーの
気分でしょうか……。
それでは失礼します。

635earth:2011/06/25(土) 00:01:25
何か色々と微妙っぽいですが、第一部完という形にさせて頂きます。
(面白くないといわれる方もいらっしゃるようですし)
というわけで第26話です。


 未来人の多元世界見聞録 第26話


 次元世界の崩壊という悲劇が発生した頃、地球でも小さな悲劇が起きようとしていた。

「目を開けてくれ、純夏!」

 命からがら帰ってきた武は、病院のベットで横たわる純夏に必死に呼びかけた。
 
「畜生、折角生きて帰ったのに。内戦も終ったのに。何で……」

 汚染された日本の環境は、彼の幼馴染である純夏の命を今、奪おうとしていたのだ。
 各国からの支援はあるものの、十分ではなく、目の前の命を救うことはできない。彼に出来るのは
必死に呼びかけることだけだ。
 もはや医者も匙を投げる状態であったが、彼の必死の呼びかけが天に通じたのか、彼女は目を覚ました。

「武ちゃん……」
「純夏!」
「私、夢を見たの……BETAに捕まって、その中で必死に武ちゃんを……た……」

 声が途切れ、段々と小さくなる。 

「でもね、最後には……」

 最後まで言うことなく、彼女は事切れた。彼女が最後に残した物語。それは耕平が知る
『あいとゆうきのおとぎばなし』であった。しかしそんなことを武が知るわけが無かった。  

「……畜生、俺達が何をしたって言うんだ! こんなことがあって良いのかよ!?」

 神を呪う武。だが人類から見て天上にあり、神に等しい力を持つ者たちは、NPCの悲劇など気にも
止めなかった。
 次元消滅弾頭が起爆して数分後、ゲーム世界で13人のプレイヤーが秘匿通信網で今回の事態に
ついて話し合っていた。

『あ〜あ。保管庫が消えちゃったね』
『まぁ別に消えても良いだろう。もともと俺らの恥部の置場所兼トラップだったわけだし』
『むしろ、あそこまで被害を抑えたプレイヤーの幸運を驚くべきさ。艦隊ごと消滅するのを免れたんだから』
『確かに』
   
 プレイヤー達は耕平の幸運(?)を賞賛する。

『消えたNPCはトータルで100億いくんじゃないか?』 
『三次大戦では、2000億以上のNPCが一週間で消えたんだ。100億人のNPCが消えても問題ないよ。
 必要なら、また作れば良いさ』
『それにしても、誰だ? あんな世界を構築したの?』
『時空管理局か? さぁどうでも良いだろう。NPCがどんな文明を作っても関係はないさ。定めた役割さえ果たせば』
『いやBETAだったけ? あの醜悪な資源回収ユニットもだって』
『どうせ、廃棄工廠が作ったものさ。気にすることもないって。それに第8世界は物置みたいなものさ。
 物騒なアイテムを隠したり、冒険家気取りの馬鹿を罠にかけたりするには丁度良い』
『ははは。確かに。精々、あのプレイヤーには頑張って、無駄な労力を注いで欲しいね』
『いや他のプレイヤーにもだよ』
『確かに』

 第1から第3世界で名を馳せる上級者達はそう言って他のプレイヤーを嘲笑する。

636earth:2011/06/25(土) 00:02:14
 しかし彼らが余裕を保っていられたのもそれまでだった。 

『……他の保管庫が?』
『馬鹿な。十分な距離があったはずだ。トラップが発動するはずがない』

 管理局が保管していたロストロギアの暴走の余波は、次元消滅弾頭が爆発する寸前に他の次元世界のロストロギアに
いや彼らが存在を知らなかった別の大量破壊兵器、恒星間弾道弾も及んでいたのだ。
 これが通常のものであれば、そこまで問題はなかった。だがこれには大威力の超新星爆弾が搭載され、さらに確実に
目標に命中するためにプレイヤーによって亜空間潜行能力が備えられていた。
 
『馬鹿な。そんな偶然が……』

 だがもはや事態を収拾する術を彼らは持っていなかった。破壊につぐ破壊。それは急速に第8世界の天の川銀河を
覆う勢いで広がりつつあった。
 そのころ、黒旗軍艦隊主力が土星圏に集結したのを確認した耕平は、春蘭の艦橋でため息を漏らした。
 
「さてと今のところ、手がかりは無し。どうしたものかね?」

 1000年前の作品が多数出てくるゲーム。前世の記憶を持つ耕平からすれば興味が引かれて当然の
ものであったが、手がかりは無し。
 今後、マブラヴ世界の調査に取り掛かるつもりだったが、現状では手がかりが得られるか判らない。

「……管理局は吹っ飛んだし、他の惑星の探索も当面は諦めざるを得ないし。全く踏んだり蹴ったりだ。
 何か面倒になってきたな。それに全て運営が仕込んだみたいに思えてきた」
 
 当初は誰かが何かの意図をもって、NPC文明の構築を図ったと考えた。だが艦隊に大打撃を受けた
ことで冷静さを取り戻した耕平は壊滅した第8世界を取りあえず再建するために著作権がとっくに切れた
1000年前の作品を参考にしてNPC文明を作ったのではないかとの考えが脳裏に過ぎるようになった。
 しかしその考えには穴があった。 

「でもマブラヴ世界を構築するために、あんな広範囲にBETAみたいな害獣を宇宙にばら撒く理由はないし。
 さてさて、どうなっているのやら」

 プレイヤーに快適なプレイ条件を提供するのがゲーム会社の仕事だ。わざわざBETAみたいな醜悪な物を
宇宙に無数に送り込む理由はない筈だった。

「……まぁ良いさ。リアルの生活に支障が出ない程度に付き合ってやるか」

 しかしそう言った直後、耕平は強制的にログアウトさせられる。

「何が起こった?!」

 PC画面には緊急事態を告げるメールが表示される。

「あの銀河が吹き飛んだ?!」

637earth:2011/06/25(土) 00:03:04
 後に『第8世界天の川銀河崩壊事件』と呼ばれる事件で、第8世界の天の川銀河は崩壊した。
 そしてその余波は回廊を通じて、耕平が支配する第6世界の支配領域にも及んだ。耕平の管理するユニットと
工廠はすべて失われたのだ。
 勿論、ゲーム会社はこの事態を受けて耕平が所有していた物を無償で提供しただけでなく、お詫びの品も送った
が、耕平にもう一度、第8世界を探索する気力はなかった。何しろ全てが失われたのだ。

「……結局、あれは何だったんだ?」

 後日、彼の疑問は解消された。ゲーム会社は第8世界の再建を急ぐため、そして戦争を彩るためのNPCを急いで
育成するために著作権が切れた古典作品を試験的に使っていたのだ。そして色々なイベントも用意されていた。
 だが予算不足やプレイヤーの減少、他の世界のイベントの成功によってお蔵入りになり、それらは半ば放置されていた。

「何てことは無かった、そういうことか」

 そして耕平は日常に戻っていった。彼にとってそれで事件は終わりだった。そう、少なくとも31世紀の現実世界に
住む彼にとっては。

「……ここはどこだ?」

 ゲーム世界から消えたはずの戦艦・春蘭の艦橋で、一人の男が声をあげる。

「不明です。座標も滅茶苦茶で……」
「馬鹿な」

 そして男は気付く。ログアウトできないことに。さらに言えばゲーム会社にも連絡できないことに。

「何が起こった?」

 男は混乱しつつも、周辺の艦隊と共に周辺を捜索する。すると、いつの間にか移動していた自軍の本拠地を発見した。
困惑しつつも細かい調査を行った末、男は理解した。自分がある意味、二度目の転生を遂げたことを。

「……神というのは、本当に残酷だな。それとも、これが報いって奴か?」

 耕平、いや正確に言えばゲーム世界に残された存在は呻いた。そして数日、艦長室に閉じこもった。
 自殺することも考えた。しかしもう一度死ぬ決断は下せなかった。ここで死んだら、次に何が起こるか
判らなかったからだ。

「他にも吹き飛ばされたプレイヤーがいるかも知れない。それを探してみるか……」

638earth:2011/06/25(土) 00:04:04
 耕平は即座に艦隊を銀河系のあちこちに派遣するが、他のプレイヤーを発見したとの報告は中々届かない。
焦る耕平は他の銀河にさえ艦隊を送ることを決める。

「俺だけなのか?」

 焦る耕平。だが他の世界に続く回廊を複数発見したとの報告に愁眉を開く。

「他の世界とまだ繋がっているのかもしれない」

 淡い期待を旨に偵察艦隊が送り込まれる。だがそこにあったのは、希望ではなかった。

「また、お前らか……」

 地表を這う醜い化物たち。そして聳え立つ異質の建物。2回の人生でよく見たもの、BETAとハイヴの
姿がメインモニターに映し出されると、耕平は疲れたようなため息をついた。

「あの大破壊によって並行世界が生まれたとでも言うのか?」

 だが同時に恐怖した。複数の世界が存在する以上、BETAよりも遥かに凶悪な存在がいる世界があるかも
しれないのだ。

「……俺は死なないぞ。今度こそは絶対にだ!」

 機械に宿る自分が死んだら、次はどんなことになるか判らない。その恐怖が彼を動かした。 
 彼は軍の拡張を図ると同時に、黒旗軍を世界各地に派遣することにした。未知は死を招く。故に彼は様々な
世界に出城を作るつもりだった。そして同時に自分と五感をリンクさせたアンドロイドを派遣する。

「未知や未熟は死を招く……見聞を広めないと」

 こうして(元)未来人の見聞録が始まる。

639earth:2011/06/25(土) 00:06:48
あとがき
主人公最強物は難しいというのがわかりました(爆)。
さてこの主人公は今度こそ、何の制限もなく行動できます。
このあと第二部を書くかは……未定です。
とりあえず憂鬱を書く予定なので。

それにしてもリアル(会社)でストレスが貯めた状態で書くと作品にも
影響するものですね……それでは。

640earth:2011/06/30(木) 22:24:10
色々と反応があったようですが……取りあえず第二部のプロローグをUPします。
あまり連続更新ができないと思いますのでご容赦を。


 未来人の多元世界見聞録 第2部 プロローグ

 31世紀世界に存在したオンラインゲーム『汎次元大戦』。このゲームで起きた『第8世界天の川銀河崩壊事件』は
ゲーム会社、そして一部のユーザーに大きな損害を与えた。
 この事件を引き起こしたプレイヤー達は罰せられ、被害を受けた人間はその被害に相応しいものを受け取った。
 だが事件はそれで収束した。31世紀世界に住む人間達からすれば、崩壊したと言っても所詮はゲームのために作られた
人工宇宙。そこの銀河が一つ崩壊したからと言って問題にはならなかった。
 
「これで事件も終わりだな」 

 多大な被害を受けた耕平は、アンドロメダの艦橋から見える艦隊を見て呟いた。
 そこにはあの事件で失われた艦隊が揃っていた。長門、朝倉といったアンドロイドも復活している。
 
「さて、また実物大のプラモ作りに励むか」

 耕平はお気楽にそう言うと、再びゲームを満喫するべく工廠に必要な指示を出した。
 だがこの時、彼は知る由も無かった。自分の意識が宿ったアンドロイドが31世紀の人間が存在を掴んでいない並行世界で
活動していることなど。そしてそのもう一人の自分が死の恐怖から軍備拡張に奔走していることを。

 黒旗軍本拠の人工惑星『シャングリラ』。ゲーム世界に取り残された耕平にとって生命線とも言える白銀の惑星の深層にある
会議室で議論が行われていた。
 円卓に座った将官たちが今後取るべき行動について議論している。そしてそれを聞いているのはその場で数少ない未成年
の少年だった。
 少年は腕を組み目を瞑って静かに議論を聴いていたが、ある程度、議論が収束したのを見ると口を開いた。

「ということは、当面は本拠地防衛と軍備拡張が優先。そういうことか」
「はい。参謀本部、そして各艦隊司令官は現状で他世界に本格的に進出するのは危険が多すぎると判断しています」

 そう答えたのは土方だった。

「……しかし、情報収集のために偵察部隊は出すべきだろう」
「それについては問題ないでしょう」    
「なら、それでいこう」

 そして会議は解散となった。少年、いや黒旗軍総司令官である元帥・桜坂耕平は一人会議室に残ってため息をつく。
 少年がつくにしては重々しいため息。だがそれほどまでに彼の置かれた状況は悪かった。何しろ親や知り合いなどから
強制的に離れ離れにされ、場合によっては命に危機にさらされることも考えられるのだ。
 彼が本来の姿である黒髪、眼鏡の平凡な少年の姿になっているのも、この異常事態で自分が桜坂耕平であると同時に
子供であり未熟者であることを忘れないようにするためであった。

641earth:2011/06/30(木) 22:24:48
 探索の結果、多くの世界が発見された。中には危険な世界もあった。
 だが他世界にチョッカイを出す前に、自分達の体制を立て直すことが優先なのは当たり前の意見だった。
 そして今度は慎重に行動しようと思っているため、耕平も部下達の意見に対して否とは言えなかった。

「……まぁ自分の身も守れるか判らないのに、異世界に本格的に手を出す愚は犯せないよな」

 また黒旗軍は人工惑星であり移動可能なシャングリラを太陽系の酷似した恒星系に移動させた。他の惑星に
影響が出ないように必要な措置を行うと第3惑星と第4惑星の軌道の間にシャングリラを固定した。
 
「ここを中心にして防衛陣地を構築するのが良いな。それに第3惑星は地球と似た惑星だし、ダミーの本拠地を置いて
 おけば目くらましにもなる」

 しかし彼はそれだけで終わりにするつもりはなかった。
 大量の暗黒ガス(元々はカモフラージュ用)を使ってガス雲型ダイソン球殻をこの恒星系に施した上、内部の恒星系を
異相次元の中に隠してしまうつもりだった。これによって、この恒星系の発見はさらに困難になる。
 勿論、次元構築に膨大なエネルギーがいるが、ダイソン球殻を作ることで恒星のエネルギーを存分に利用できるので
問題はなかった。

「……ゲーム版暗黒星団帝国かよって気もするが、背に腹は変えられないからな」

 耕平は着々と自身の保身のために準備を整えていく。そして耕平は艦隊の整備には特に力を入れるつもりだった。

「まぁこの異常事態のせいで艦船の保有制限が解除されたのはよかったが」 

 耕平の言うように工廠の数によって保有できる艦艇が制限されるシステムは消滅していた。ゲーム内マネーも
消滅しており、事実上、必要となるのは資源だけとなっていた。
 しかしそれでも高性能な兵器に必要となる資源の量は尋常ではなかった。Rシリーズ等が高コストであることは
変わらない。よって数の面での主力は相変わらずヤマトタイプをベースにした艦船とF−01シリーズだった。
故に耕平は戦力の充実には手を抜かない。

「艦隊旗艦として改アンドロメダ級やその改良型を生産。さらにアンドロメダ級を文字通り量産か。
 ……滅茶苦茶豪華な艦隊だな。ヤマト世界から見れば」

 黒旗軍は春蘭や三笠を含めて10隻もの改アンドロメダ級、36隻のアンドロメダ級を配備することを決定していた。 
勿論、新規の建造は資源地帯の開発と防衛拠点建設後のことだったが、それでも生産され、戦力化されればトンでも
ない打撃力を持つことになる。また他銀河、異世界探索のためにアリゾナ級戦艦の建造も決定されていた。

642earth:2011/06/30(木) 22:25:21
 しかし全ての戦線に強力な艦艇を振り当てるのは難しいと参謀本部は判断し、耕平もその判断に同意していた。
 このため、一般の無人戦艦とは違った無人戦艦、一言で言えばラジコン戦艦とも言うべき艦船の配備を進める
ことも決定していた。

「真田さんが見たら、噴飯ものだな」

 耕平は自分の机の上に置かれた2枚の写真を見て苦笑した。そこには劇場版ヤマトで暗黒星団帝国の奇襲によって
呆気なく全滅した2種類の地球防衛軍無人艦の姿があったからだ。
 複雑な事態には独自に対応できないし、コントロール施設やコントロール艦が撃破されればボロ負けするのは
確実な艦であったが、普通の戦艦よりも安く揃えられた。
 
「まぁBETAみたいな連中相手に、普通の艦を向かわせるのは勿体無いからな」

 ちなみにこの無人艦艇は真っ先に長門艦隊に配備され、運用実験が行われることになる。
 耕平としてはさっさとBETAなど不愉快な害獣は叩き潰してしまいたいが、前の失敗がそんな衝動を抑制していた。

「……今は自重のときだな。軽々しく動いて前回の二の舞は避けないと」

 自分が二度目の死を迎えることになった原因を思い浮かべて耕平は苦い顔をする。
 だが同時に頭を振って憂鬱な気分を振りほどく。マイナス思考は不運を呼び寄せかねないと考えたからだ。

「今度こそは……」

 耕平の呟きは誰にも聞こえることなく、部屋の中に消えていった。

643earth:2011/06/30(木) 22:27:11
あとがき
息抜き兼主人公最強物実験SSである未来人の多元世界見聞録第二部のスタートです。
自重する主人公は取りあえず軍備拡張に奔走します。
しかし暗黒ガスでさらにカモフラージュした恒星系。さらに量産される無人兵器。
他人からすればまさに悪の帝国ですね(笑)。それでは。

644earth:2011/07/02(土) 00:12:18
というわけで何とか書き上げた第1話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第1話

 太陽系そっくりの恒星系を一つ入手した耕平は、そこを拠点として自身の勢力圏の拡大を急いだ。 
 幸い耕平が居る世界の銀河は、天の川銀河と同じであったために恒星系の外の開発も、そこまで困難なものでは
なかった。あちこちの星に資源採掘施設を置き、そこから回収した資源を元素変換装置などで必要なものに加工していく。
 無数の無人機械が資源のために無遠慮に惑星を掘り返していく様は、姿形が違うとは言え、BETAを彷彿とさせる。
だが耕平にそんなことを気にする余裕は無い。

「防衛拠点の建設、そして資源地帯の開発は順調。何とか艦隊整備計画も進められるな」

 耕平は自室に持ち込まれたレポートを見て安堵した。だが採掘される資源の量は耕平を満足させられるものではない。

「でも資源が少ないのは変わらないな……以前の勢力圏よりも遥かに狭いし」

 敵がいないので、勢力圏の拡大は容易であった。しかしそれでも以前の勢力圏には及ばない。
  
「銀河系一つを支配できれば、もっと強力なユニットが……いや、でもあんなの大量生産して大丈夫か?」

 イデオンのような反則な兵器さえ現状では生産は出来る。だが必要となる資源の問題で現状で生産は難しい。
さらに耕平としてはあまりにも強力なユニットの生産には二の足を踏む。二度目の死は強力な兵器の暴走によって
起きている。下手なことをして、自分で揃えたユニットのせいで再び死ぬのは勘弁だった。

「……まぁ安全装置をつけて暴走しないように注意しておけば大丈夫だろう」

 取りあえずそういって耕平は自身の不安から目をそらす。強力なユニットの予期せぬ暴走には不安を感じるが
強力なユニットを作らずに外敵に負けては元も子もない。

「取りあえず当面の敵はBETA。それにその創造主の珪素生命体。まぁ運営が作っていた特殊ユニットってこと
 も考えられるけど……本当にそうなのかは判らない。叩くとしたら、取りあえずはアンドロメダ級の量産がある
 程度終ってからだな」

 10万トン級戦艦であるアンドロメダ級の生産に必要となる期間はそう長くは無い。建造期間、価格ともに戦力的
な価値から考えるとかなりお得な部類に入ると言える。まぁ改造しているだけコストは上がるが許容範囲であった。
  
「余裕が出来たら兵器の生産だけじゃなくて、工廠自体も生産する必要があるな……超大型工廠は中々作れないが
 中小のなら生産して各地に配備できる」

645earth:2011/07/02(土) 00:12:53
 黒旗軍が艦隊整備計画に基づいてアンドロメダ級を量産し、配備し始めた頃、BETAと戦い続けている
人類では史実には無い動きが広がっていた。
 西暦1997年8月。BETAとの戦いによって多くの列強が没落する中、世界の覇者として君臨する
アメリカ合衆国の首都ワシントンDCの一角にあるビルに背広姿の男達が集まっていた。
 彼らは表向き様々な派閥に属する者たちであり、本来なら反目しあう存在であったが、この建物の中では
そんな様子は全く無かった。
 男達は盗聴の危険が無い地下の会議室に集まるとすぐに口火を切る。 

「『あの世界』と同じようにユーラシア失陥は時間の問題だな」
「並行世界とは言え、歴史は繰り返すというわけか……日本は?」
「あの国もそれなりに足掻いているようだ。我々の『同類』がいるからな」
「我々だけが『情報』をもっていれば、もっと楽だったのだが……なかなかうまくいかないな」

 男達は苦笑するが、すぐに議論に戻る。

「しかし、よい事もある。あの国の軍、特に陸軍で反米感情が『あの世界』ほど露骨ではない。一部の有力者の
 間ではソ連や統一中華を警戒する動きさえある」
「WWⅢとクーデター事件のせいか」
「それと本土を蹂躙されたせいだろうな。西日本が灰燼に帰す可能性があるとなれば、少しでも我々との関係を
 維持しようとするのは当然だろう」
「あの雌狐は?」
「AL4と並行して、別の計画にも携わっているようだ。やはり連中も先駆けて接触したいのだろう。あの
 宇宙船の持ち主に」
「やはりか……あれだけの力の持ち主が現れる可能性が高いとなれば手を打つのは当然と言える。我が国は
 どうなっている?」
「監視体制の強化に加えAL5計画の一環で、太陽系航路の開発のためとしてG元素を利用した宇宙船の建造を
 進めることになった。これがあれば連中よりも早く接触できる可能性が高くなる。『伝言』の作成も順調だ」

 新たに出現するであろうBETAに敵対とする異星人とのいち早い接触は国益に直結した。
下手に他国に抜け駆けされては目も当てられないことになる。
 
「しかしBETAへの対処も問題だ。G弾、あれの大量運用に問題があるとなると面倒だな」
「詳しいことは今後、再検証する必要がある。ことがことだからな。だがソ連領へユニットが落着するのを
 防ぐために宇宙への配備は急ぐべきだろう。我が国の覇権を揺るがすような事態はさけなければならない」
「尤も、あの異星人が本格的に介入してくれば、我が国の覇権など吹っ飛ぶがな」
「だからこそいち早く接触する必要がある。そうだろう?」

 この言葉に誰もが頷いた。

646earth:2011/07/02(土) 00:13:34
 ワシントンDCで密談が繰り広げられている頃、日本帝国でも一部の有力者が京都の老舗料亭に集まって
密談を繰り広げていた。

「不本意だが、米国との関係は密にせざるを得ない」
「部下達の不満もあるが、補給の問題で米国との関係が必要なことを周知させるしかない」
「だな。あとは大侵攻にどう備えるかだ。正直、あの大侵攻を水際で退けるのは難しいぞ。時期も悪い」
「どうやっても、西日本は焦土と化すか。財務官僚が卒倒するな……」

 彼らは今後起こるであろうBETAによる日本本土侵攻の対策に頭を悩ませていた。
 尤も事情に詳しい者ならすぐに気付いただろう。彼らがBETAの侵攻時期や規模をすでに知っているか
のように話していることを。

「やはり海軍は展開できないのは痛い」
「日本海から侵攻されたら挟撃されて潰滅するのは確実。だが参謀本部は水際防御を諦めないだろう」
「侵攻がどの時期に起こるかがわかっていれば多少は打てる手もある。
 今回は四国への侵攻は阻止できるだろう。四国からBETAの側面を突ければ戦局も多少は好転する」

 だがそんな楽観的な意見が述べられた後、冷や水を被せるように一人の男が言う。

「『あの世界』の出来事どおりにいけばな」
 
 この言葉に他の人間は苦い顔をする。

「それを言っては元も子もないだろう」
「それにこれまでの歴史の動きは『あの世界』の歴史に沿っている。多少のズレはあっても丸っきり
 違うということはないはずだ」
「……全く、あの雌狐のいうことに縋ることになるとは」
「仕方ないだろう。あの理論に沿えば、我々の体験も説明できる」

 ワシントンDC、京都。この2つの都市で密談を繰り広げている人間達は、崩壊前の第8世界であった
出来事を覚えていたのだ。何故そのようなことが起きたかは正確には判らない。
 彼らと同じように記憶を持っていた香月夕呼は「因果の流入」と言っていた。彼らとしては釈然としない
思いもあったが、最終的にその結論を受け入れた。そして因果の流入で未来を知った男達は今後訪れるであろう
惨劇を回避するために日々動いていたのだ。

647earth:2011/07/02(土) 00:14:11
 そんな男達の中でも、頭痛の種の一つが今後現れるであろう新たな異星人であった。

「あとはあの異星人ですね」
「あの2隻の宇宙船の持ち主。彼らとの接触は急務だろう……他国に遅れるわけにはいかない」
「しかし米国はやる気です。分が悪い勝負になりそうですな」
「判っている。だがやるしかないだろう。これ以上、米国にでかい顔をさせるわけにはいかない。あの連中は
 誰よりも早く接触したら勝手に人類代表を自称してもおかしくないぞ」
「……まぁ彼らの国力で考えると、そう名乗っても問題ないのが痛いですが」
「茶々を入れるな。これ以上、米国の支配力が強化されるなど考えたくもないぞ」

 この意見に出席者達の多くが頷いた。尤も一部の人間はそんな米国を利用して日本の立場を強化するべき
ではないのかと考えたのだが、ここで言うと場が必要以上に荒れそうなので黙った。

「博士の計画は?」
「航空宇宙軍も巻き込んで進められている。表向きは監視体制の強化で何とかしている」
「伝言の作成は?」
「順調だ。言語学者を密かに動員している」
「そうか。他国に気付かれないように」
「判っている」

 その後、彼らは幾つかの質疑応答の末、散会した。そして一人の城内省の役人は散会の後、京都の御所に
向かった。男は一人の女性と合流した後、彼女に案内され、御所の一室に入る。
 その純和風の部屋に正座して待っていた少女に、男は平伏すると密談の内容を話す。 

「これが今回の結論でございます」
「そうですか。順調のようですね」
「はい。それと『あの世界』で反乱を起こした者たちへの対処、どうされます?」
「監視はつけてあります。それに、『あの世界』で反乱を起こした者たちの中に居た人間のうち、何人かを
 こちらにつけました。彼らから情報を入手できるでしょう」
「……判りました。それでは失礼します。殿下」

 殿下と呼ばれた少女。政威大将軍・煌武院悠陽は微笑みながら言った。

「今後も頼みますよ」
「命にかけて」

648earth:2011/07/02(土) 00:15:45
あとがき
主人公以外に逆行者(?)がいるお話です。
……第一部をもっと続けていれば、もう少し増えたんですけどね。
勿論、マブラヴ世界がこれなら、もう一方の蹂躙されたあちらも……。
それでは失礼します。

649earth:2011/07/02(土) 19:07:48
というわけで第2話です。
皆様から大人気(笑)の三脳も出番です。

 未来人の多元世界見聞録 第二部 第2話

 資源地帯の開発、そして防衛拠点の建設が終った黒旗軍は、(第一次)艦隊整備計画を推し進めた。
黒旗軍は資源とエネルギーを全て兵器製造につぎ込むことで普通の国家なら不可能な軍備の拡張を短期間で
成しえたのだ。
 その結果を確認するため、そして自身の恐怖を和らげるため、耕平はシャングリラ周辺で大規模な観艦式
をひらいた。

「ヤマト世界、まぁそんなのがあったらだが……この光景を見た防衛軍関係者は卒倒するだろうな」

 改アンドロメダ級2番艦『三笠』の艦橋から見得る宇宙艦隊の姿を見て耕平は満足げに頷いた。
 三笠の周辺にはまず改アンドロメダ級の『春蘭』、『モンタナ』、『バーミンガム』が展開していた。 
(ちなみにガンダム世界のバーミンガムは不要ということで処分済み)
 この4隻だけでも、恐るべき打撃力を持っているが、さらにその外周にはアンドロメダ級戦艦が24隻 
展開している。この28隻だけで波動砲60門という大火力だ。
 さらに主力戦艦(以降マゼラン級と呼称)が75隻、完結編での防衛軍戦艦(以降ヴァンガード級)が30隻に 
アリゾナ級戦艦10隻が周辺を航行している。
 戦艦だけでも143隻。これに加えて巡洋艦(巡洋艦改造のパトロール艦含む)が412隻、駆逐艦824隻、
戦闘空母15隻、空母12隻、他にラジコン戦艦や補給艦、輸送艦、工作艦など合計して2000隻近い大艦隊が
集結している。
 ただしこれはヤマトタイプの艦に限ればだ。R−TYPEやマクロス等の艦を含めればその規模はさらに
膨れ上がる。

「ここの艦隊だけでガミラス帝国と正面から勝負できるな」

 これにR戦闘機が加われば、ガミラス帝国やガトランティス帝国が敵になっても、簡単に負けることはない。
 だがそれは星間国家と戦う場合だ。
 
「でも、あの連中はまだ可愛いほうって事実がな〜」

 宇宙怪獣のような勢力が襲ってきたら禁止兵器を連発するか、それとも無理にでもイデオンクラスの機体を
量産してぶつけるしかない。尤もそれをやったら勝てたとしても甚大な被害がでることは確実なので、あまり
物騒な連中(?)と積極的に関わり合いにはなりたくはない。

「改アンドロメダ級、アンドロメダ級の生産は完全には終っていないが……もう、そろそろ動いても大丈夫だろう。
 この艦隊、そして本拠地防衛の超兵器部隊。この二本柱で当面は何とかなる」

 観艦式の後、耕平は会議を招集し参謀本部、各艦隊司令官と意見交換を行った。だがその会議で他世界への
進出については否定的な見解が多数出される。

650earth:2011/07/02(土) 19:08:31
 黒旗軍の勢力圏はオリオン腕にあるこの恒星系を中心にして、天の川銀河の25%の領域に及ぶ。ヤマト世界の国家で
例えでいうならガルマン・ガミラス帝国に勝るとも劣らない領域であり、星間国家としては大国と名乗れるほどの勢力圏だった。
勿論、得られる資源も相応のものであった。故に耕平は動いても問題ないと考えたのだが、参謀本部は輪にかけて慎重だった。

「参謀本部は、その必要性は薄いと判断します」

 円卓の会議でのダメだしに耕平は渋い顔をするもすぐに反論する。

「しかしBETAの創造主である珪素生命体がどのような存在かは判らない。奴らが次元間航行能力を会得して侵攻して
 こないとも限らない」
「現状でBETAに喧嘩を売るのは非効率的かと」
「そうです。現状では銀河全土の併合とその開発に注力するべきです」
「幸いBETAは次元間航行能力は保持していません。あの世界で放置しておけば実害は無いかと」
 
 会議ではむしろBETAよりも、禁止兵器を隠し持っているかも知れない時空管理局が重視された。

「では管理局、いや次元世界探索に力を入れると?」
「それが妥当かと。発見した場合、戦力の集中も容易です」

 さらに言えば前回の経験から、管理局の勢力圏はBETAよりも遥かに狭いので、大兵力を集中させれば一気に制圧できる 
と誰もが判断していた。
 耕平も地を這う害獣よりも、宇宙怪獣みたいな勢力や次元や宇宙を平然と航行できる勢力への対処のほうが優先されるべき
と考えるようになる。

(わざわざマブラヴ世界を助けに行く価値はないか?)

 一瞬、「切り捨てるか」と耕平は考えた。彼にとって生き残ることこそが重要であり、それ以外は些事であった。
 
「……新兵器の実験テストや訓練の代わりというのはどうだろうか?」
「実験場ですか?」
「そう。いずれ本格的な戦争になるだろう。そのために実戦データを収集する。幸い標的としては申し分ない(数的な意味で)。
 それに……あの世界の人間と交渉させることで、こちらのアンドロイドの実地経験も積めるだろう」
「……確かに演習には丁度いいかも知れません。だとすると派遣する規模は?」
「長門艦隊を送る。それに万が一に備えてもう1個艦隊を予備として待機させる。これなら防衛線に大きな穴は開かない」

 この耕平の意見に誰もが同意する。かくして黒旗軍は長門艦隊をマブラヴ世界に派遣することを決定する。
同時に次元世界探索のため長距離の単独航海が可能な虎の子のアリゾナ級を各地に送ることが決定される。

651earth:2011/07/02(土) 19:10:33
 長門艦隊の派遣が黒旗軍で決定された頃、次元世界の守護者を自称する時空管理局は来るべき黒旗軍来襲にどう対応
するべきかで意見が真っ二つに割れていた。

「このままでは再び敗北を喫するでしょう。軍備を増強し、今度こそ返り討ちにするべきです!」
「加えて次元消滅弾頭などのロストロギアを解析し、同様の兵器を作れるようにするのがよいかと!」
「最悪の場合は、質量兵器を解禁するべきだ!!」

 強硬派はそういって軍備拡張を主張した。彼らを強気にさせたのは黒旗軍が危険視した次元消滅弾頭がロストロギア
保管庫に眠っていたからだ。
 これらの意見に三提督を筆頭にした穏健派は口々に反対した。

「黒旗軍とどれだけ技術力が隔絶していると思うんだ。勝てるわけが無い!」
「ロストロギアのせいで、本局どころか、次元世界が崩壊したんだ。そのことを忘れたのか?!」
「質量兵器の解禁など簡単に出来るわけが無い。下手に解禁すれば魔導師が猛反発するぞ!」
「この際、話し合いの席を設けるべきです。向こうは我々のロストロギアの管理体制の杜撰さや、管理局の拡張主義に
 警戒していました。ここを改善して話し合いに持ち込めれば」

 時空管理局の人間達も、京都やワシントンで密談をしていた者たちと同様に前の世界の記憶を持っていた。
 そして前回の敗戦を記憶していた者たちは、未来(?)の記憶を持っているのはロストロギアの暴走のせいということで
納得すると即座に黒旗軍来襲に対してどのような手を打つかで日々激論を交わしていた。
 何しろ何も手を打たなければ前回の二の舞。管理局は崩壊し、黒旗軍によって次元世界は制圧されるかもしれない。
そのことが彼らの危機感を煽っていた。

「手ぬるいですぞ。他所者に容易くロストロギアを引き渡すとなれば、管理世界政府がどんなことを言い出すか判った 
 ものではありません」
「質量兵器の解禁は確かに心苦しい。ですが負けるよりはマシでしょう」

 先の屈辱的な敗戦を記憶していた者たちはこのままでは勝てないと考え、技術革新と質量兵器の解禁を目論んだ。
勿論、法の番人である管理局がいきなり質量兵器を解禁することはできない。さらに質量兵器が長らく禁止されていた
ためかその技術も乏しい。
 故に管理外世界からの技術の入手さえ彼らは考えていた。もはや形振り構っていられないというのが彼ら強硬派の 
本音だった。
 そして最終的に最高評議会は軍備増強を行うが、積極的には戦わず、可能な限り話し合いに持ち込むことを決めた。

652earth:2011/07/02(土) 19:11:17
「人造魔導師の開発、戦闘機人の本格投入」
「さらに聖王のゆりかごの起動を急がねばならない。聖王のクローンの準備もだ」
「左様。あの者たちが持つ宇宙船には、管理局の艦は全くの無力。ゆりかごの跳躍砲撃は必要だ」
「だが新型艦の開発は急務だろう。ゆりかごばかりに頼るわけにはいかない」
「そうだ。外交というものには軍事力の裏づけがいる」

 三脳は次元世界を一蹴できる黒旗軍と真っ向から戦うつもりはなかった。双方が凶悪な質量兵器を携えて開戦すれば
世界は再び破壊される。最悪の場合は、前のように次元世界が崩壊。よくても秩序が崩壊し無法状態になる。それだけ
は防がなければならない。
 しかしかといって唯々諾々と従うつもりもない。少なくとも制圧するには骨が折れると思わせる位の力が必要だ。 
そうでなければ再び虫けらのように扱われ蹂躙される……彼らはそう考えた。

「質量兵器を解禁すると言っても、その整備のためには管理外世界と交渉することになるな」
「不本意だが仕方あるまい」
「だが完全な質量兵器を配備するのも問題がある。運用には若干でも魔力がいるようにしたほうが良いだろう」
「黒よりも灰色のほうが良い、そういうことか」
「政治とはそういうものだ。それにレジアスも大喜びだろう。これで地上の戦力不足は少しは解消されるのだ」
「海の魔導師が煩いのでは?」
「黙らせるしかない。改革には多少の痛みはつきものだ。愚か者を切り捨てなければ、今度こそ我らは破滅するぞ」

 三人とも黙った。あの超越者が次元の壁を乗り越えて侵攻してくる……それを思うだけで彼らは恐怖に支配される。

「最終的には黒旗軍の上位者や対抗勢力とも接触する必要があるかも知れません」
「次元世界さえ乗り越えられない我々に、そんな真似はできないだろう……出来たとしても当分、未来の話だ」
「研究は進めておく必要はある。我らの世界を、今度こそは守らなければならぬ」

 だがこの軍備拡張は管理世界の各政府に重い負担を強いることは確実だった。故に彼らは新たな手を打つ。
 最高評議会はレジアスの改革を後押しすると同時に半質量兵器(少しの魔力で起動する重火器)の導入を認めて
陸を質の面から梃入れした。これによって各世界の検挙率は大きく向上。治安の改善によって経済も上向いていく。
さらに無人の管理世界の資源地帯の開発や、植民都市を建設するなどの公共事業で市場の開拓を進めるなどして
経済を活発化させた。
 しかし同時にロストロギアと目される物が発見された場合は、即座に次元航行艦を急行させ強引に接収すると 
いう強攻策も取り始めた。魔導師の素質がある人間での勧誘もより強引なものとなっていく。
 黒旗軍への恐怖が、管理局を突き動かしていた。

653earth:2011/07/02(土) 19:12:51
あとがき
というわけで第2話でした。
長門艦隊出撃。ついでに管理局探索が始まります。
管理局は管理局でぴりぴりするでしょう。
それでは。

654earth:2011/07/03(日) 22:43:45
と言うわけで第3話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第3話

 アンドロメダ級戦艦『アルテミス』を旗艦とし、マゼラン級戦艦2隻、大型無人戦艦6隻、巡洋艦4隻、小型無人艦
16隻、戦闘空母2隻、パトロール艦10隻を中心とした長門艦隊と輸送船団は一路、マブラヴ世界の地球に向かった。
 戦闘能力だけで言えば、太陽系のBETAを滅ぼしてお釣りが来るものだったが、朝倉は陣容に不満たらたらだった。

「主力戦艦、いえいまはマゼラン級か。あの船を取り上げられて、換わりに配備されたのがラジコン戦艦とはね……
 おまけに護衛艦も大半がラジコン艦」

 アルテミスの艦橋ではぁ〜とため息をつく朝倉。美少女のため息というのは傍目に見ると絵になるが、見るのが
同性(?)の少女とアンドロイド将兵ばかりなので何の感動も与えられない。

「ため息をついても仕方ない。それに相手はBETA。宙対地爆撃がメインならこの艦隊でも問題ない」
「それはそうだけど、ね。正体不明の勢力と交戦状態になったら、どこまで臨機応変に戦えるやら」

 大型艦は拡散波動砲こそ2門とアンドロメダと同じだが、主砲は50.8センチ砲3連装2基6門(艦前半部に配置)で
しかない。ただ小型艦は拡散波動砲1門と20センチ砲10門(艦前半部の上下に3連装1基。艦後半部に連装1基)と
巡洋艦並みの火力を持っているため、前衛部隊の火力が期待できるのが救いと言える。

「そのときはラジコン艦を特攻させて時間を稼ぐ。総司令もラジコン艦は最初から捨て駒と割り切っている」
「曲がりなりにも戦艦1隻を鉄砲玉か。豪華な弾ね」
「次元消滅弾頭に比べれば低コスト」 

 朝倉は長門の言葉に若干、顔を引きつらせる。
 
「……あれを引き合いに出す?」
「でも事実」

 時空管理局との交渉で起きた失態、そしてその後の大惨事。朝倉は処分を覚悟したが、耕平は朝倉や長門を処分すること
なく使い続けた。
 朝倉としては意外だったが、耕平は曲がりなりにも崩壊前から配下にいた者を今更処分するのは躊躇ったのだ。まぁ今度
大失態をしたら本当に処分するつもりだったが。

「会議では管理局捜索も決定された。今回の任務を終えた後、そちらに志願する道もある」
「……そうね。リベンジはしないとね」

 耕平が聞けば「失敗フラグ乙」と言うかもしれないことを呟く朝倉。
 何はともあれ、長門艦隊はマブラヴ世界へ向けて順調に航行中だった。

655earth:2011/07/03(日) 22:44:44
 長門艦隊が地球に向かっている頃、耕平は自身を鍛えるべく鍛錬に励んでいた。普通のプレイヤーなら
あまり使わない軍事教練用の機材を持ち出して、自身のスキルアップを図る。

「戦略、戦術、そして戦場について本格的に学ばないと」

 31世紀のオリジナルと切り離されたものの総司令官としての権限は残っていた。このため耕平は軍の総司令官であった。
故に戦略、戦術を徹底的にマスターする必要があった。総司令官が戦略、戦術に疎いのでは大問題だったからだ。
加えて精神面も鍛え上げる必要もあった。脆弱な精神では、悪戯に判断を誤りかねない、彼はそう考えた。

「……本当はやりたくないんだけどな」
 
 嫌々ながら耕平はヘルメットのようなものを被り、さらにケーブルでPCと接続する。
 この教練用の機材と言っても実際に体を動かすのではなく、仮想空間で教練を行うものなのだが、本物
そっくりであり実際の戦争を体験するには丁度よいものだった。
 勿論、その分、ハードな面もある。故にプレイヤーでこれをするのはよほどの物好きだった。耕平も
今回のことが起こる前までは、見向きもしない機材だった。だが今は、それが必要だった。 

「まだ時間があるうちに、マスターしないと」

 こうしてシャングリラの片隅で、時折、耕平の絶叫が聞こえるようになる。
 耕平が絶叫しつつも己のスキルを向上させ、何とか総司令官と名乗っても笑われない程度の力量を見につけた
頃に、銀河を動き回っていた黒旗軍艦隊が未知の異星人との接触した。 

「……異星人のタイプは?」
「純粋なヒューマンタイプではありません。爬虫類から進歩したような連中です」

 総司令部のメインモニターには緑の肌を持った爬虫類面(敢えて言えばカエル)の異星人が映っていた。
 これを見た耕平は内心で(ネタ的に美少女タイプの宇宙人が相場だろうJK)と思ったが、それを表に出すことは無かった。

656earth:2011/07/03(日) 22:45:16
「向こうの要求は?」

 この問いにアンドロイド参謀が答える。

「彼らの母星がある恒星系周辺宙域からの黒旗軍の即時退去と謝罪、そして賠償です。彼らは自分達の縄張りを荒らして
 いると主張しています」
「……恒星系外に、向こうがたどり着き、領土化していたか?」

 主権が及ぶ地域なら、向こうの言い分が正しい。

「いえ。彼らは恒星系内部の開発はしているようですが、恒星系の外にまでは」
「しかし連中からすれば今後、自分が開発する地域によそ者が来ていると思って不快に思っている、そういうわけか」
「あと、ファーストコンタクトにも問題があったようです。こちらは敵意がないことをジャスチャーで伝えようとした
 のですが、どうも宗教的に問題があったようで……」
「……」

 31世紀でも宗教問題は尽きなかった。ここでもそれに悩まされるのか、そう思った耕平は頭痛を覚えた。

「……連中の技術レベルは?」
「22世紀初頭といったところでしょうか」
「……戦争を仕掛ければ楽勝かも知れないが、軽はずみに仕掛けるわけにもいかないか」

 耕平は謝罪と賠償は兎に角、黒旗軍を後退させることを伝えた。だが向こうはそれだけでは満足しなかった。
 どうやら向こうにとって宗教というのは非常に厄介な問題のようで、こちらが譲歩するか開戦するしか道はなかった。

657earth:2011/07/03(日) 22:45:48
「連中からすれば爬虫類こそが至上の生き物であり、他は下等生物。ましてアンドロイドの我々など異端の生き物。
 そういうことか」 

 会議の席に持ち込まれた調査の結果を見て耕平は改めてため息をついた。 
 同時に自分達がアンドロイドで構成された軍隊であるということ自体が、場合によっては火種になるということも
理解した。全く持って頭が痛い問題だった。

「NPCと同じように、人間でも作るか? でも人間だけ作ってもな」

 入れ物は作れる。だが作ったNPCに文明を構築させ発展させるには相応の時間と労力が掛かる。
自分の命が掛かっている状態で、そんな悠長なことをやっている余裕は無い。

「総司令、いまは目の前のことに集中するべきかと」
「ああ。爬虫類の文明のことだろう。あんなマジ○チと話し合いなんてしたくも無いんだが」
「ですがやらなければならないかと」
「……連中に同盟国は?」
「存在は確認されません。連中の宇宙艦隊が恒星系外縁部に集結していますが、外から援軍が来る気配はありません。
 援軍を要請した気配もありません」
「そうか」
「如何されます?」
「もし開戦した場合、制圧できるのに掛かる時間は?」
「ジオイド弾の使用を許可していただけるのなら、敵軍撃滅を含めて1週間あれば終ります。母星を正攻法で
 制圧するとなればさらに時間が掛かります」
「どちらにせよ、こちらの勝利は揺るがないと?」
「はい」
「………」

 暫く考える耕平。圧勝できると言っても軽々しく知的生命体相手に開戦するのは躊躇してしまう。
 さらに、もしも連中が隠し玉を持っていた場合を考慮すると軽々しく開戦を選択できない。

「不満だが、暫くは睨みあいで済ませよう。交渉で妥協点を探りたい。一応、こちらにも非はある。
 ただし交渉を有利にするための示威行動は必要だ。艦隊を集めて軍事演習を行う」
「了解しました」
「やれやれ、こんなことになるんだったら長門艦隊を残していたほうがよかったかも知れないな」

 かくして黒旗軍は演習のための艦隊を集結させると同時に次の使者を送ることにする。
 だがその結末は惨憺たるものだった。

「使者が殺された?」

 かくして戦争が始まる。

658earth:2011/07/03(日) 22:47:31
あとがき
というわけで異星人登場です。
昨今の流れなら猫耳美少女とか犬耳美少女がでるのでしょうが……
敢えて逆でいきました(爆)。
でも向こうからすれば、主人公のほうがある意味でBETAなんですよね〜
それでは。

659earth:2011/07/04(月) 21:35:22
さて戦争ですが、描写は薄いです(爆)。
反応に戦々恐々としつつも第4話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第4話

「自分達の基地に使者が付いた途端に重火器まで持ち出して殲滅って……連中、正気か?」

 テロリストもびっくりのやり方に絶句する耕平。そんな耕平にアンドロイド参謀が冷静に助言する。

「正気かどうかはわかりませんが、本気であることは間違いないかと。
 すでに恒星系外縁部に集結していた『敵』艦隊はこちらの艦隊の集結地点に向けて進撃を開始した
 とのことです」
「……」
「決断を」

 司令部に集まっているアンドロイド参謀、モニターに映る各艦隊司令官の視線が耕平に集中する。

「……」

 もうはやゲームではない。曲がりなりにも知的生命体と殺し殺されする戦争。それを開始するかどうか
の決断を耕平は迫られていた。21世紀と31世紀、両方の世界で過ごした時間を考えれば精神年齢は
30をとっくに超えている。だが耕平は一般市民である自分が国家の命運を決するような決断を下したり、
そんな場面に立ち会うなど想像すらしたことがなかった。
 確かに教練でスキルや擬似的経験は体験した。しかし教育を受けたからと言って即座に決断ができる
わけではない。

「……」

 沈黙する耕平。だが刻一刻と敵艦隊は味方の艦隊に向かっている。 
 技術格差からすれば、仮に防戦一方になっても問題はない。だが無為に犠牲を出すことになる。
総司令官が決断を下せなかったという理由で犠牲を出すのは馬鹿げている。ゲームなら許されるかも
しれない。だが耕平にとって、この世界はゲームではない。この世界こそ『リアル』だった。
 そして耕平は決断を下す。

「……は、派遣艦隊全艦に命令。敵宇宙艦隊を撃滅せよ」

660earth:2011/07/04(月) 21:36:00
 改アンドロメダ級『春蘭』を旗艦としアンドロメダ級『イシュタル』『アスタルテ』『テミス』を
中心とした派遣艦隊は総司令官の命令を受けて整然と進撃を開始した。

「漸く開戦か」

 派遣艦隊司令長官に任じられていたレビル中将(正確にはレビルを模したアンドロイド)は髭をなでた後
帽子を被りなおす。

「それでは征こうか、諸君」

 敵艦隊の様子は、すでにステルス艦から届けられていた。
 爬虫類生命体の艦隊は、旗艦と思わしき巨大な円柱型の艦、4つの球体を串刺しにしたような構造の艦から構成
されている。総数は60隻。さらに周辺には艦載機と思わしき円盤が飛び回っていた。

「……スペースコロニーをそのまま航行させているような艦だな」

 このレビルの呟きにアンドロイド参謀が同意するように頷く。

「移動する拠点といったところでしょう。動きは鈍そうですが、その分、攻撃力はあるかと」
「素直に連中と砲撃戦をすることも無いだろう。航空戦力で先制攻撃を仕掛ける」
「了解しました」

 派遣艦隊には戦闘空母4隻、空母2隻(信濃級)、そしてデスラー艦が配備されている。
 前の世界で管理局艦隊残存艦隊を一方的に殲滅した戦術をもって、敵艦隊に先制攻撃をかける。それが
派遣艦隊司令部の方針だった。

「それにしても、高々60隻で我々に挑むとはな」

 派遣艦隊だけでも総数は240隻。相手の4倍あった。

「交渉の際に、腰を低くしたことが原因かと。それに連中はこちらの規模を正確に知らないようですし」
「張子の虎と見られたか。まぁその傲慢の対価は、彼らの命で償ってもらおう」  

 レビルの言葉に嘘偽りはなかった。

661earth:2011/07/04(月) 21:36:35
 F−01、コスモパルサー(コスモタイガーⅡの後継機)が何も無い空間から突然現れると、敵艦隊は
大混乱に陥った。
 戦闘機の役割を担うらしい円盤が邀撃に向かったが、あっという間に叩き落される。円柱型の艦からは
盛んに円盤が発進したものの、各個撃破されていく。
 F−01の攻撃(ミサイル、小型波動砲)で、周辺の艦が脱落すると、あっと言う間に敵の旗艦と
思わしき巨大艦は丸裸となった。

「艦隊戦に慣れていないようだな。陣形の建て直しが遅い」
「恐らく、ここまで大規模な会戦をしたことがないのでしょう」
 
 F−01の小型波動砲、そしてコスモパルサーの対艦ミサイルの集中攻撃によって巨大艦は瞬く間に
火達磨となる。

「脆いな」
「さすがに、あれだけの攻撃を受ければ、仕方が無いかと」
「ふむ……このままなら、完勝できそうだな」

 アウトレンジ攻撃によって敵艦隊は一方的に打ちのめされていた。
 第二次攻撃隊の攻撃が終わった頃には、敵艦隊は3分の1以下にまでその数をすり減らされていた。 
それも健在な艦は皆無であり、どの艦も(黒旗軍から見れば)這うような速度で航行していた。

「……時空管理局の艦隊よりも弱いかも知れないな」

 司令部で様子をモニターしていた耕平は唖然となった。先ほどまで悩んだ挙句、決断を下した自分は 
何だったんだ……と思ったものの、すぐに頭を振って自身を戒める。

「だが闘志は彼ら以上か。全滅寸前にも関わらず撤退する気配はないし。敵巨大艦も辛うじて持ち堪えている。
 まぁこの場合は蛮勇というべきか?」
「降伏を勧告しますか?」

 参謀の問いに耕平は首を横に振る。

「降伏したと思って近寄ったら自爆されるかも知れない。ここは心を鬼にして殲滅するべきだ」

 管理局相手に交渉して、その後どうなったかを知っている耕平は、容赦が無かった。
 その後、爬虫類生命体の艦隊がどうなったかは言うまでも無い。彼らはアンドロメダ級戦艦、マゼラン級戦艦の
集中砲火を受けて1隻残らず、宇宙の塵と化した。
 1時間足らずの会戦で黒旗軍が失ったのは4機のコスモパルサーのみ。完全勝利であった。

662earth:2011/07/04(月) 21:37:11
「このあと、どうされます?」  

 アンドロイド参謀の問いに耕平は少し考えると決断した。

「補給を済ませた後、敵の恒星系へ侵攻を開始する。ただし罠や伏兵にやられないように、念入りに偵察は
 行うように」

 戦争は長々とするものではない。素早く侵攻して敵に対して城下の盟を強要しなければならない。
 かといってことを急いで背後を取られては元も子もない。

「まぁ、いくら何でも母星周辺を丸裸にされたら、負けを認めるだろう」
 
 だが耕平が思っていたより、宗教国家というのは頑迷であった。
 彼らは各地の基地や防衛艦隊が潰滅しても尚も抗戦の意思を崩さなかったのだ。それどころか恒星系の
他の惑星周辺を航行していたら、非武装らしき民間船が特攻さえ仕掛けてくる始末だった。
 
「連中は現実というものが見えないのか?」

 司令部のモニターに映る爬虫類が「神の恩寵を受けている我々が機械生命体に屈服することはない!」などと言って
喚いている(本当は画像の下側に字幕が出ている)姿を見て、耕平はため息をついた。

「ひょっとして銀河にはこの手の連中が沢山いるのか?」

 今回は弱い相手だったので何とかなったが、もしも自分を圧倒する力を持つ者が、この手の勢力だったら
と思うと耕平は寒気を覚えた。

「宗教や価値観で衝突したら目も当てられないな……」

 同時に自分達がロボット文明とも言えるものであることに気付かされた。

(俺も、他の連中からすれば、黒旗軍のほかのアンドロイドと同じか……二回死んだ挙句に、人ではすらなくなるとは)

 耕平は嘆息する。そして、自分が今では人間ですらないという事実に顔を歪ませる。
 
(だが俺は生きている。少なくとも意思はある。コピーや残滓かも知れないが、俺は俺だ。誰が何と言うおうとだ。
 そして俺は三度は死なない。いや死ぬとしてもムザムザとは死なない) 

 戦争が続く中、耕平は絶対に生き残ってやると再度誓った。

663earth:2011/07/04(月) 21:38:35
あとがき
爬虫類ボコボコです。
一方で主人公は自分達が、有機生命体からすれば異質の存在であることを
理解します。
それがどう影響するかは……まぁ後のお楽しみということで。
それでは失礼します。

664earth:2011/07/05(火) 21:40:58
第5話をUPします。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第5話

 黒旗軍は爬虫類生命体の母星を丸裸にした後、再度の降伏勧告を行ったが向こうは頷く気配がなかった。
 
「……連中とは対話不能だな」

 総司令部で報告を聞いた耕平も処置無しと首を横に振った。 

「どうしましょう?」
「ジオイド弾で皆殺し……といきたいが止めておく。連中の宇宙港、主要軍事施設、政府施設を片っ端から
 吹き飛ばしておこう。原始時代に逆戻りさせてやれば無視しても構わない。
 ああ、ついでに衛星軌道に攻撃衛星でも置いておこう。一定の高度以上を飛ぶ物体を撃ち落せるのを」
「宜しいのですか?」
「……汚物は消毒だ〜って勢いで殲滅したいところだが、これからのことを考えると下手な手は打てない」

 いかに相手が自分達基準でマジキ○と言っても過言ではない連中でも、知的生命体を一つ完全に絶滅させた
というのは些か外聞が悪い。何しろこれから自分達は他の生命体とも遭遇するかも知れないし、他世界で交流
するかも知れない。
 そんなときに、知的生命体を星ごと吹き飛ばしたという事実は相手の警戒を煽ると耕平は考えていた。

(ただでさえ、俺達ってロボ文明だからな。そうすると、さしずめ俺はロボット軍団の親玉か?
 何か、劇場版ドラ○もんで出てきそうだな。悪役のボスとして)

 自嘲しつつも耕平は再び口を開いた。 

「今後は事前の探索に力を入れて、基本的に恒星間航行能力を持たない文明がある惑星や星系は避けるように」
「相手がその能力を有していたらどうされます?」
「……慎重に調査を行った後に接触するかどうかを判断する。あと向こうから喧嘩を売ってきた場合も
 向こうの力量を見てから判断する」
「了解しました」
  
 このあと爬虫類生命体の母星は、大規模な宙対地爆撃に晒された。
 大規模なEMP攻撃の後、宇宙港、各種ドック、軍事基地や各種工廠、エネルギー供給施設、政府関連施設などが
片っ端から吹き飛ばされ爬虫類生命体は事実上無力化された。
 
「これで静かになるだろう」

665earth:2011/07/05(火) 21:41:42
 かくして戦争に決着をつけた耕平だったが、今回の件からアンドロイド軍団というのはかなり警戒されると
言うことを自覚した。

「このままだとマブラヴ世界に干渉したときにも酷く警戒されそうだな」

 向こう側の事情など露も知らない耕平は本気でそう考えた。

「前回、BETAを駆逐してやったのに、内ゲバして自滅した連中だからな……何か姿を現してもBETAの親玉扱い
 されそうな気がしてきた」

 爬虫類ならイザ知らず、人間に敵意を向けられるのは辛い。だが今後のことを考えるとやらなければならない。   

「……余裕が出来たら、気晴らしに平和な21世紀世界でも探しておくか。平和な光景を見るのも気分転換にはなるかも
 知れない。何せ24時間ずっと戦争のことばかり考えていたら気が滅入る」
 
 いくら機械の体となったとは言え、メンタルまで鋼にはならない。
 何かしらの息抜きは欲しいというのが本音だった。

「でも見つかったのがエヴァ世界だったら笑えないな……EOE後だったら余計に気が滅入りそう。ハルヒだったら
 異世界人扱いで何か色々と巻き込まれそうだし……よく考えると20〜21世紀でも十分面倒な世界が多いな」
   
 耕平はため息を漏らす。

「まぁ全ては未来の話だ。今は生き残るための方策に全力を注ごう。アンドロイドによる軍団、いや機械軍団か。
 これの警戒を和らげるには、やはり有機生命体、人間が必要になるな。
 解決策は2つ。自分で作るか。それとも別の世界から連れて来るか、だ」
 
 後者の場合、つれてくると言っても、拉致するわけではない。滅びつつある世界を適当に見繕い、その世界の
人類を救済の名の下に黒旗軍の勢力圏下の地球型惑星に移民させる、それが耕平が考えているプランだった。

「でもつれてきても、世代交代したらあっさり反抗されそうだよな……アンドロイドに支配されるなんて嫌だろうし。
 NPCを地道に作るか? いやもう面倒だし、いっそアンドロイド用の人格ソフトを弄って人間の素体にダウンロードするか? 
 少し手間かも知れないが、反抗される恐れは無いし、別に何億人も作る必要は無い。精々、数百人いればいいし」

666earth:2011/07/05(火) 21:42:15
「でも一応、国民(?)が存在するとなると黒旗軍より、国家を名乗ったほうがいいか。今の勢力圏からすると『銀河帝国』?」
   
 昔のスペオペだなと苦笑いしつつも、昔の漫画を思い出す。

「おまけに帝国を支配しているのがコンピュータか。ジオイド弾といい、超人ロックと共通点を作るにも程がある。
 尤もこの場合だと、コンピュータ同士の相打ちで帝国崩壊になるけど」

 遥か昔に読んだ漫画を思い出して耕平は笑う。
 いや笑うしかない。何しろ自分がライガー1のような立場になると考えたこともなかったからだ。いやそうなると考える
ほうがどうかしている。

「まぁ人間が上層部にいるとなれば、少しは警戒も薄れるだろう。他の人間も連れてくるかはそのあとに考えれば良いさ。
 何かフィクション物のラスボスみたいになっているような気もするけど……まぁ気にしないようにしよう」

 かくしてたった一人の手によって銀河帝国が建国されることになる。
 生物学上は人間に分類される300人、そして多数のアンドロイドから構成される星間国家(?)が誕生することになる。
 
「主星(仮)は第3惑星に置くか。ああ、一応、帝都とか主要都市らしきものも建設しておこう」

 どこにどんな街を作るか考える耕平。

「……何か実物大のジオラマでも作ってる気分だな。まぁ気晴らしにはいいか」

 かくして銀河帝国は急速に体裁を整えられていく。
 勿論、今後、黒旗軍は銀河帝国と名乗るとの連絡は長門達にも届けられる。

「……正気かしら?」

 朝倉は目を丸くし、長門も僅かながら驚いたような顔(殆ど無表情だが)をする。

「今後、国家との交流と考えれば理解できないことではない」
「それでも銀河帝国って……まぁ良いか。とりあえず今後は帝国軍ということでいきましょうか」

 少し疲れたような顔をした後、朝倉は頷いた。
 かくして黒旗軍改め、銀河帝国軍はマブラヴ世界の太陽系第三惑星地球に向かう。
 かの世界が、前の世界とは若干異なるとも知らずに。

667earth:2011/07/05(火) 21:45:17
あとがき
主人公がラスボスっぽくなっているが気にしない(笑)。
それでは失礼します。

668earth:2011/07/08(金) 23:55:27
短めですが完成しました。日本本土決戦直前の第6話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第6話

 『黒旗軍』改め、『銀河帝国軍』地球派遣艦隊は何の妨害も受けることなくあっさり太陽系に侵入した。
 前回同様、BETAによる迎撃は無かった。

「……地球に関しては今回も一方的な爆撃になりそうね。重頭脳級も前回同様だったとしたら訓練にもならないんじゃ?」
「ラジコン艦の実戦データの収集には使える。ハイヴは核にも耐えられる構造。標的には丁度良い」
「まぁ対地砲撃訓練のための標的にしては十分かしら……あとは交渉の練習か」

 管理局と交渉した際の失態を思い浮かべて、朝倉は多少苦い顔になる。 

「本格的な大使には有機生命体ユニット、いや人間が任じられる。だが我々も経験を積むために交渉に赴く必要がある」
「人間ね……」

 元人間の耕平が人間と交渉するために人間を作る。実に皮肉が効いていた。
 以前の朝倉ならすかさず突っ込んでいただろう。だが今の彼女は、そんな非生産的なことをすることはなかった。

「前と同じような失態がないようにしないとね。本格的な交渉に取り掛かる前に万全の情報収集と次善の策も用意して
 おかないと」

 耕平と同様にその手の学習ソフトでスキルを向上させている彼女達であったが勉強と実践は違う。
まして相手は31世紀の常識からはかけ離れた連中(それも滅亡の瀬戸際で内ゲバする連中)でもある。考えられる
限りの方策を練るのは当然と言えた。

「でも爬虫類生命体のことを考えると、相手に侮られないように基本的には砲艦外交でいくしかないわね」
「それは否定しない」

 異民族相手に安易な譲歩は危険であることは、この前の戦いで認識されていた。

「取りあえず国交の樹立と大使館の設置を認めさせる」

 今回の太陽系進出は訓練と実験、外交交渉の練習とゲームで言うならチュートリアル的な意味が強かった。
故に交渉の窓口となる大使館の設置は必要であった。
 
「武力を背景とした強面で脅す傍らで、資源や技術力などの餌を与える。どれだけ最小限のコストでメリットを
 引き出せるか、これが課題ね」

 長門と朝倉は顔を突き合わせて色々と話し合った。地球の事情など知る由も無く。
 そして艦隊のナンバー1とナンバー2が話し合っている中、派遣艦隊はワープ航法で一気に地球に向かった。彼女達に
とって二度目の対BETA戦は目の前だった。

669earth:2011/07/08(金) 23:55:59
 銀河帝国軍が地球に向かっている頃、その地球では日本本土での決戦が目の前に迫っていた。
 参謀本部や日本本土防衛軍上層部は水際防御にこだわり、前の世界どおり西日本へ戦力を配備した。
 前の世界で西日本方面の部隊がBETAの奇襲で敢え無く壊滅した事を知る人間達は、西日本壊滅が時間の問題
と考え、次善の手として国民の避難計画の推進、そして西部方面隊が壊滅した後の軍の建て直しのための根回しを
急いでいた。

「そうですか。やはり……」

 悠陽は御所で男の報告を聞いて憂鬱そうな顔をする。

「政府や軍では楽観的な意見も少なくありません。こうなった以上は京都で持ち堪えるしかないかと」
「この街はやはり戦場になると?」
「ですが今回は四国への侵攻は阻止します。これによってBETAの側面を脅かし、犠牲を減らすことは
 できるでしょう。さらに『前の世界』より米軍の支援も期待できます」
「……私たちにできるのは、その犠牲を無駄にしないこと。それしかないでしょう」

 すでに西日本壊滅の責任を追及する形で、今の上層部を追いやる準備も進められていた。光州作戦の悲劇を
防いだことで将軍に近い軍人である彩峰中将を含め、かなりの人数の軍人が協力する姿勢を見せていたので、準備は
順調だった。
 勿論、彼女達は権力を握るために悲劇を利用しようとしている訳ではない。全ては真の挙国一致体制を構築する
ため、そして日本内乱を防ぐためであった。

「ですが京都決戦では私も出陣します」

 この言葉に月詠真耶が血相を変えるが、悠陽は譲らない。

「将兵を鼓舞するため、そして私が『国を守る政威大将軍』の地位を全うできることを、示さなければなりません」
「ですが殿下の御身になにかあれば……」
「私たちは帝国の命運を左右する賭けをしているのです。そして、賭け事に多少の危険は付き物です」

 そう断言する悠陽に、その場にいた2人は反論できなかった。

「他の摂家が私を捨て駒にしようと積極的に出陣を後押しするなら、それを利用するまで。
 彼らも出しゃばった真似をしたとは、口が裂けても言えないでしょう」

 こうして政威大将軍自らが斯衛軍を率いて出陣することが決定された。

670earth:2011/07/08(金) 23:56:30
 本土決戦の準備を進めつつも、前の世界を記憶を持つ者たちは、新たに出現する異星人へ接触するべく
動き出していた。

「異星人へ期待せざるを得ないとはね」

 研究室で香月夕呼は自嘲した。
 彼女としてはそんな他力本願なやり方には心から賛同できない。何しろ新たな異星人が第二のBETAでない
という保証は無いのだ。だが人類の状況はそんな異星人に頼らざるを得ないほど悪かったのだ。
 
(仮に連中の介入が無ければ、日本本土が陥落していた可能性もあったし)

 正史では横浜ハイヴが築かれることを知らない夕呼は、『前の世界』の状況では日本本土の陥落も時間の問題
だったのではないかと考えるようになっていた。
 
(どちらにせよ、日本が陥落すればAL5が、バビロン作戦が発動する。時間がない)

 『前の世界』を知る人間は、大量のG弾の使用で発生する重力異常が地球全体に途方も無い悪影響を及ぼす
ことを理解していた。しかしそれはまだ科学的に証明されていない。故にAL5、いやバビロン作戦は未だに健在だった。
この発動を防ぐにはAL4を達成し成果を出すしかないのだが、AL4を達成するには絶望的なまでに時間が無かった。
 故に彼女も得体の知れない異星人を頼りにした上で、彼らと交渉するという普通なら考えられない方策に手を貸したのだ。
 実際、彼女は対宙監視システムの強化、そして宇宙人との交渉のためのメッセージ作成やその送信方法の構築に
協力している。
 尤も実際に送信が行われるのはあの異星人達が介入してからになるが、それでもいち早く接触する体制を構築
しておくに越したことは無い。

「まぁ良いわ。あのふざけた真似をした連中に興味はあるしね」

 ふざけた口調で呟きつつも、彼女の目は真剣そのものだった。
 有無を言わさず全てのハイヴを吹き飛ばしたBETAと敵対する異星人。今の人類にとっては救世主ともいえる
存在かも知れない。だが彼らが第二のBETAにならない保証はどこにも無いのだ。AL4が期待されていないからと
言って彼女は不貞腐れるつもりはなく、最悪の事態も想定して動こうとしていた。
 だが日本がこのように準備をするのと同様に、アメリカも日本本土決戦への準備をしつつ、異星人とのコンタクトに
力を入れていた。
 日米が異星人との接触競争を行う中、日本本土決戦の幕は上がる。

671earth:2011/07/08(金) 23:58:53
あとがき
本土決戦直前の一幕でした。
いよいよ次回は介入となる予定です。それでは。

672earth:2011/07/10(日) 11:31:55
短めですが帝国側からの視点で話が進む第7話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第7話


「まぁこんなものか」

 培養液が満たされた透明のタンクに入っている『人間』を見て、耕平は取りあえず満足したとばかりに頷く。
だがすぐに培養液の中で眠る『人間』いや『少女』の容姿を見て苦笑する。

「アンドロイド、いや機械の身である俺が皇帝を名乗るわけにはいかないからな……それに下手に名乗ると
 うかつに動けないし」

 帝国軍における耕平の立場は宇宙艦隊副司令長官兼宇宙要塞『シャングリラ』司令官(階級:上級大将)。
要職についていると言えるが、銀河帝国の実態から考えると地位は低いほうと言える。だがそれはむしろ
耕平の望むものであった。

「スタンダードな黒幕なら帝国宰相が一番良いんだろうが、そんな面倒な役職は丸投げにするに限る。
 それに……これである程度は自由に動ける」

 所詮、銀河帝国など耕平の都合によって作られた虚構の王朝に過ぎない。たとえ表向きの地位は低くとも
実際の権限は彼に集中しているので問題はない。しかしその実態を声高に喧伝するつもりはない。むしろ政府の
影に隠れて動き回るつもりだった。

「ああ、そういえば王朝の名前、まだ決めていなかったな」

 皇帝となる少女の顔を見ながら、耕平はふと思い出す。

「……ふむ」

 公式では銀河の4分の1以上を支配下に置く王朝であるため、さすがに名無しではまずい。
 さてさてどうするかと暫く考えた後、耕平は一つの名前を思い浮かべる。

「『レムレス』。レムレス王朝と名乗らせるか。名は体をあらわすというし、ピッタリじゃないか」

 レムレス王朝。こうして強大な軍事力を保有しつつも、『この世に存在しない』という意味を持つ王朝が
誕生することになる。

673earth:2011/07/10(日) 11:32:25
「さて、次は……」

 耕平が次に打つべき手を考えている時、『SOUND ONLY』と書かれた映像が耕平の右横に表示された。

『派遣艦隊が地球に到着しました。作戦を開始するとのことです』
「そうか。長門中将は他に何か言ってきたか?」

 今の耕平からすればマブラヴ世界の重要度は高くない。故に淡々と質問したのだが参謀AIの返答は予想を
超えたものだった。

『はい。前の世界、そして原作とは若干、状況が異なるようです』 
「……は?」

 時は少し遡る。
 帝国軍艦隊は地球を射程に捉えようとしていた。朝倉はすかさず現在の状況を尋ねる。

「地球の様子は?」
「前の世界どおり、日本本土へ侵攻が行われています。ですが前と違って四国への侵攻は阻止。四国の部隊が
 東進するBETAの側面を突いています」
 
 アンドロイド参謀の答えに長門と朝倉の2人は意外そうな顔をする。

「四国を守りきったと?」
「橋の爆破が間に合ったのが大きい模様です」

 長門は少し考えた素振りをした後、ぽつりと呟くように言う。

「……この世界は、『前の世界』とは違うのかも知れない」
「運がよかったのか、それとも何か原因があるのか……判らないけど、さらに警戒する必要があるわね」

 マブラヴ人類が前史よりも健闘しているのを見て、2人は警戒心を露にした。  

「どうされますか?」

674earth:2011/07/10(日) 11:32:58
 アンドロイド参謀の質問に2人は僅かながら沈黙した後、口を開く。

「……予定通り行う。爆撃準備」
「ただし直掩機を増やして警戒を厳に。全艦、対艦対空戦闘用意」

 朝倉の指令で派遣艦隊は本格的な戦闘態勢に入る。
 ラジコン艦が周囲の警戒を行い、戦闘空母からはF−01や早期警戒機が発進していく。人類の技術力や
前の世界でのBETAとの戦闘を考えれば過剰と言ってもよい警戒振りであったが、一度失敗している彼女達
からすれば当然の措置であった。
 護衛艦隊が警戒する中、輸送艦に搭載されていた超大型ミサイル、そしてドリルミサイルが射出される。 
だがこれらは今回はデスラー艦ではなく、それぞれがワープして地球に向かった。

「新型のワープユニット。きちんと作動したようね」
「そうでないと困る。通信参謀、地球への通告は?」
「完了しました。最大出力で送っているので、傍受できない国は無いはずです」

 この言葉を聞いて2人は頷く。

「あとは総司令、いや参謀本部への報告ね」 

 チュートリアルとして、現場の裁量は認められているものの、報告は必要だった。

「場合によっては再調査、そして各国の再評価も必要になる」

 彼女達は厳しい視線を地球に向けた。

675earth:2011/07/10(日) 11:33:56
あとがき
次回、地球側の視線になる予定です。
それでは失礼します。

676earth:2011/07/11(月) 23:43:23
地球側からの視点での日本本土決戦です。
尤も戦闘描写は薄いというか、殆ど無いですけど(爆)。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第8話

 1998年7月。前の世界どおり日本帝国はBETAの大侵攻に見舞われた。
 九州、中国地方は瞬く間にBETAによって制圧され、西日本方面に配備されていた帝国軍部隊は
次々に文字通り『全滅』していった。
 だが国民の犠牲は若干ながら減少していた。将軍、そしてそれに近しい軍人や政治家、官僚たちが
密かに策定し根回ししていた避難計画がある程度機能したためだ。
 さらに四国へのBETA侵攻を食い止めたことで、帝国軍はBETAの側面を突くことが可能となり
本土決戦で『前の世界』よりも有利に戦えるようになった。しかしそれは比較論に過ぎない。
 圧倒的物量で迫り来るBETAによって、帝国軍はジリジリと後退を余儀なくされ、結果的には帝都
である京都周辺に追い詰められていた。

「速やかに京都を放棄し、首都を移転させるべきだ! 軍はこれ以上、帝都を維持することは出来ない!」

 帝国軍本土防衛軍の富永大将は、皇帝も出席する御前会議の席で速やかな首都の移転を主張した。 
 このときすでに首都機能の移転は進められ、市民の脱出も順調。故に京都の放棄は可能だった。前の世界よりも
時間を稼げたことが大きかった。
 だがそれは本土防衛軍首脳部にとって屈辱でもあった。自分達の無策振りを、戦略的な失敗を将軍に近い人間が
フォローする。それは彼ら(以後将軍派と呼称)が得点を稼いでいることに他ならない。

(何故だ、何故、連中はここまで先を見て動ける?! あの雌狐の研究の成果か?)

 内心で渦巻く疑問。だがいくら考えても答えなどでない。

(今更、将軍などカビが生えた者に国の大権を預けるわけにはいかん! 国家は軍が統帥してこそ生き残れるのだ!)

 そんな富永の内心を見透かすかのように、一部の出席者は冷たい視線を富永に向けていた。
 
(((どうせ『今回』も碌でもないことを考えているんだろう)))

 そんな中、皇帝が口を開く。

「もはや帝国軍に帝都を守る兵はないのか? 京都を含め近畿を放棄するしかないのか?」
「残念ながら……」
 
 かくして京都の放棄が決定される。だが同時に時間稼ぎと後の東日本での決戦に向けて京都でBETAを消耗
させることが富永から提案される。

677earth:2011/07/11(月) 23:44:00
「京都放棄はやむを得ません。ですが東日本での戦いを有利に行うために、京都でBETAを足止めする必要は
 あります」

 この提案に海軍大臣が反対する。

「京都で戦う必要はない。口惜しいがBETAが京都に侵攻してきたら、京の街ごと砲撃で粉砕したほうがよい。
 一兵でも多く撤退させたほうが決戦には有利だ」
「ですが集結には時間が必要です」
「準備は進んでいるはずだが?」

 将軍派の根回しで東日本の部隊の集結が進んでいることを指摘された富永は、少し顔を歪ませるもすぐに反論する。

「より多くの兵を集める必要があります!! 次の決戦で破れれば帝国は蹂躙されます!!」
「……だが西日本にいた部隊の多くは全滅。どうやって兵力を工面するつもりだ?」
「非常に心苦しいですが斯衛軍にお願いしようかと」

 これに出席者の多くが反発する。だが煌武院家以外の摂家に近い人間は沈黙していた。
 これを見た将軍派は彼らが富永と結託していることに気付く。

(やはり連中は殿下を囮にする、いや混乱に乗じて……)

 煌武院家出身の将軍である悠陽を戦乱の隙に亡き者にし、軍と結託して次の将軍の地位を我が物とする。そんな下種な
ことを考えているな、と将軍派の人間は考えた。そしてそれは外れてはいなかった。

(((この際、小娘には京都諸共消えてもらおう……)))

 現状ではお飾りに近い将軍の地位。それを狙う者たちは悠陽を消すつもりだった。さらに彼女を悲劇のヒロインにした
上で仇討ちとして次の決戦での士気を上げて勝利する……それが彼らの目的だった。 
 しかしそんな考えすら悠陽は利用するつもりだった。 

「……判りました。私自らが指揮を取り、時間を稼ぎましょう」

 この悠陽の言葉に、富永は内心で嘲りつつも大げさに感謝する素振りをする。しかし悠陽はそんな彼の内心を見透かしていた。

(私を利用するつもりなのですから、私に利用されても文句は無しですよ)

 こうして津波のように押し寄せるBETAを少しでも食い止めるために斯衛軍が出撃する。

678earth:2011/07/11(月) 23:44:38
 斯衛軍専用機である『瑞鶴』。この近代軍としては「あり得ないだろうJK」と言われることが確実な機体と武家から
選ばれた衛士たちは京都市街地に布陣した。
 死兵同然なのだが、千年の京での決戦ということで将兵の士気は高かった。加えて米軍も側面支援を行う事を通達して
いた。本土防衛軍首脳部からすれば「余計な真似を」と言われることが確実なのだが、この行動は米軍からすれば日本に
恩を売ると同時に、今後現れるであろう異星人に対するメッセージでもあった。

「『BETAと戦う覚悟がある』ということを示す必要がある」

 前の世界の記憶を持つ米高官はそう言った。
 一般の米軍将兵からすれば各国への支援などで十分に対BETA戦争に貢献しているのだが、前の世界で異星人がわざわざ
大気圏に宇宙船を降下させて真っ先に日本に侵攻するBETAを掃討したことから、一部の高官は異星人が日本に対して関心を
持っている可能性を考慮していた。
 故に異星人の目が向いているかも知れないこの京都の決戦に曲がりなりにも参加することを決めたのだ。ただし犠牲が多すぎる
と世論が煩いので、側面からの支援となったのだが、それでもかなりの援護となる。
 
「火力自慢の米軍戦術機が支援に加わるのは大きい」

 国粋主義者が多い斯衛軍の人間も後方からの支援が厚くなることは歓迎した。
 まぁ自分達の血を流したがらない姿勢に腹を立てる者もいたが、やはり支援があるとないとでは大きな差があることは理解して
いたので余り大きな声で米軍の悪口は言えなかった。
 だが雌狐だの魔女だのと悪名が響く香月夕呼の私兵も加わると聞くと少し顔をゆがめた。 
 
「何故、あの連中まで?」
「何か狙いでもあるのか?」
「判らん。それとも何か取引があったのかも知れん」 

 A−01が加わるのは大きい。だがあの『魔女』が無償で帝国に貢献するはずがないと誰もが思った。
 そして実際、彼女はただで部隊を参加させるつもりはなかった。

「前の世界から因果流入を招いた原因かも知れない異星人。連中が彼らに興味を持つかしら?」

 A−01は00ユニット候補の集まりでもある。その彼らに異星人が興味を示すかという実験は彼女にとって実施する
価値があった(まぁ実際には政治的取引で色々と利益も手に入れていたが)。
 さらに今回、A−01には『特別な』新米衛士が加わっていた。

「白銀武。前の世界の記憶持った人間もいるし」

679earth:2011/07/11(月) 23:45:50
 94式戦術歩行戦闘機『不知火』。それに白銀武は乗っていた。
 新米でありながらA−01に編入されたという異例の衛士として。

「いよいよ戦場か」

 前の世界の記憶が流入してから混乱したものの、それが事実と考えた武はあの悲劇を繰り返さないためとして軍に
入った。だが軍というのはそんなに甘いものではなかった。加えてあの悲劇を経験している武は上層部というものに
対する不信感が強かった。
 故に周りや上官と衝突する始末だった。だがそんな問題児だったが故に、彼は偶然、夕呼の目にとまった。
夕呼は得意の交渉術で武が前の世界の記憶持ちであることを引き出すと、00ユニット候補として A−01に放り込んだ。
 まぁそこでさらに武は地獄を見たのだが……その地獄の経験を代価として武はこの戦場に立つことができた。

「見ていてくれよ。俺達の意思と覚悟を」

 これから現れるであろう異星人。地球や月、火星のBETAを瞬く間に掃討していった存在は彼にとって救世主で 
あった。軍隊生活を送ることで、異星人が清廉潔白な救世主とは思えなくなっていたが、それでもBETAや前の世界
で日本を内乱に陥れた馬鹿よりはマシな存在と考えていた。少なくとも彼らは地球や人類を、自分達を救ってくれた。
奪うだけで何もしなかった連中と比べれば雲泥の差だった。
 そんな彼らに、人類の覚悟を示すまたとない機会と武は考えていた。そんな考え事をしていると、先輩の鳴海孝之
から通信が入る。

『ほかの事は考えるなよ。気を抜くとあっという間だぞ』
「! 了解!!」

 そんなやり取りがされる中、京都決戦の幕は上がる。迫り来る圧倒的な数のBETAに対して斯衛軍、そして
米軍は決死の抵抗を行った。

「千年の京。ここで恥かしい戦いは出来ません!」

 紫の瑞鶴に乗って、悠陽は各戦線で将兵を鼓舞する。さらに時には実際に戦場で戦い、BETAを撃破していった。
 勿論、要塞級のような大型は撃破できないが、中小のBETAを多く倒し、将兵を感嘆させた。お飾りであり、これ
まで戦場に出ることがなかった将軍が自分達と共に戦う。これは将兵に力を与えた。

「俺達の娘くらいのショーグンが戦っているんだ。後れを取るな!」

 米軍もこれに刺激されたのか、側面から激しい攻撃を加える。
 本来ならとっくに京都全域が焼け野原になっていてもおかしくないにも関わらず、両軍の奮戦によって京都は
丸焼けになることを防がれた。だがこのままでは京都の陥落は時間の問題。誰もがそう思った。
 そんな中、前の世界を知る人間達にとっては二度目の、そして何も知らない人間からすれば最初の宇宙からの介入が
起こる。尤もその前に、前の世界を知る人間にとっても予期せぬことが起こったが。

680earth:2011/07/11(月) 23:46:30
「銀河帝国?」

 悠陽は司令部で報告を聞いて驚いたような顔をする。だがそんなことに構わず通信参謀は話を続ける。

「はい。地球全域で観測されました。銀河帝国軍はこれより地球上の全てのハイヴを掃討する。そのような通信が
 行われています」
「銀河帝国……」

 悠陽は前の世界では決して名乗らなかった彼らが、自ら名乗ったことに驚いた。だが同時にこれはチャンスでも
あると感じた。

(名乗りを挙げるということは、私たちと話をする意思があるということ。確かに武力では天と地ほど離れている
 ものの、交渉となれば我が国にも機会はある)

 米国の先を越せないものの、越される恐れも無い。さらに多少は事情を知る自分達なら、他の国よりもスムーズに
交渉に入れる。そう悠陽は考えた。
 彼女が思考の海に沈む中、一般の将兵には信じられない報告が次々に飛び込む。

「世界各地のハイヴが吹き飛んでいるそうです!」
「カシュガルのオリジナルハイヴも消滅したとの報告が!」

 実質的にこのときをもって地球上での対BETA戦争は終った。だが悠陽は気を緩めることはなかった。彼女にとって
戦いはこれからだった。

「気を抜いてはなりません。ハイヴは消えても目の前のBETAは健在です」
「は!」

 米国は全ハイヴが消滅したことを確認すると支援に留めていたはずの部隊を正面に回した。さらに日本も彩峰中将の
部隊が参戦。日米連合軍は一気に攻勢に出た。加えて四国の部隊も後先考えない攻勢に出る。
 この急展開に慌てた本土防衛軍が部隊を回すころには、BETAは京都から追い散らされてしまう。 
 こうして京都決戦は日本の、いや人類の勝利で終った。だがそれは次の戦いの開始を告げるものでもあった。

681earth:2011/07/11(月) 23:49:32
あとがき
駆け足でしたが、本土決戦終了です。
次回以降、接触になる予定です。
管理局の出番は・・・もう少しお待ちください(爆)。

682earth:2011/07/14(木) 22:05:07
風邪でダウンしていましたが、何とか復活しました。
と言うわけで接触直前の帝国側の様子を描く第9話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第9話


「彩峰中将が健在で、四国が陥落しなくて、さらに京都防衛戦に米軍が参戦? どんなカオス世界ですか?
 むしろ何の二次創作?」

 シャングリラで開かれた会議の席で耕平は頭を抱えた。
 マブラヴ世界の『前の世界』からの、そして原作からの乖離は、それほどの衝撃を耕平に与えていたのだ。

「…まぁF−18やF−15とかの雄姿が見られたのはよかったけど」

 ぼそっと呟く耕平に参謀AIたちは心なしか冷たい視線を送る。
 参謀AIたちは如何にもプロの軍人と言った壮年男性の外見をしている。故にそんな彼らの冷たい視線(?)を
受けた耕平は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

(まぁさすがに美女美少女で回りを固めるつもりはないが、もう少し増やすか?)

 帝国軍の元になった黒旗軍のアンドロイドやAIは男性型がメインだった。最近になって女性タイプのものが
増えているが、それでも比率で言えば男が圧倒的に多い。耕平からすれば戦場に華は必要であっても、華で満たす
必要はなかった。

(いやいや、気分を切り換えなければ)

 耕平はわざとらしく咳をして気分を切り替える。 

「正直に言って、あの世界の調査が必要になると思う」

 あれが何故原作から乖離したのか、その原因が偶発的なものか、それとも何かしら別の要因があったのか。それを
見極める必要があると耕平は考えていた。そして参謀AIたちもそれに異論は唱えなかった。

「参謀本部としても賛同します。あの世界に何者かが干渉したのなら早急に調査し、正体を割り出す必要がある
 でしょう」

 この意見に耕平は頷く。だがすぐにそれに冷や水を浴びせる意見が参謀AIから出される。

「ですが最悪の場合は、あの世界からの撤退も考慮していただく必要があります。全面的な次元間戦争をするのは
 時期早々です」
「判っている。だが大規模な調査のためには頭数がいる」
「…予備兵力のパトロール艦を回しましょう。それと今後、巡洋艦改造の軽空母又は航空巡洋艦の建造を行うことを提案します」
「信濃や戦闘空母では不足と?」

683earth:2011/07/14(木) 22:05:46
 信濃級空母はアンドロメダ級の艦体を利用した飛行甲板を持つ大型空母だ。各種設備も充実し航空機運用能力はずば抜けている。 
 戦闘空母も前期生産型は航空戦艦伊勢のように後部を改造し艦載機を搭載できるようにしたものであるが、後期生産型は
飛行甲板を有しており、より多数の艦載機を搭載、運用できる。
 
「質ではなく、数の問題です。僅かであっても航空戦力の傘があるとないとでは大きな差となります」
「ふむ…今後、さらに手広くやるとなると必要か」
 
 まさかマブラヴ世界への介入が軍備にも影響するとは、と耕平は苦笑した。

「何はともあれ、取りあえず外交ルートの確立だな。長門中将の手腕に期待するとしよう。
 ああ、それと外交官も可能な限り急いで送らないと」
「帝都や各都市の建設は行っていますが、住み人間はまだいません。仮に早期に正式に国交を樹立し交流するように
 なると面倒なことになるのでは?」
「大使館を向こうに置くだけだ。連中をこの恒星系に、いやこの世界の銀河に招くつもりはさらさらないさ」

 公式上、銀河帝国帝都が置かれている主星のある恒星系は機密ということで秘匿することにしていた。
 
「せいぜい、前線に建設する要塞に招く程度だ。皇帝陛下と直接会談することもない。まぁ通信で会談することは 
 あるかも知れないが」

 この耕平の言葉に、参謀AIたちは取りあえずマブラヴ世界への対応に関しては納得して引き下がる。
 だが彼らの追撃は終わりではなかった。

「格下の地球が相手ならそれで良いかもしれませんが、出会う相手が格下ばかりとは言えません」 
「判っている。とりあえず300人の人間は作っている。アンドロイドも作れるだけ作る。多少は賑わうだろう」

 同時に帝国(笑)の実情を思い浮かべて耕平はため息を漏らす。
 
(領土は広いけど、よく考えると人類の感覚で言えば地方自治体が帝国を名乗っているみたいなものだよな……)

 少しと遠い目をする耕平。だがそんな状況でも参謀AIは容赦が無い。

「ですがイレギュラーを考えると不足なのでは?」
「仮に早期に交流を迫られる事態となると問題が起こります。帝国の構築計画を前倒しするべきかと」

 手痛い意見に耕平は思わず憮然とするが、自分にとって耳の痛い意見に怒っても意味が無いとして耕平は
気分を切り替える。

684earth:2011/07/14(木) 22:06:20
「アンドロイドや人間の『生産』を増やせと? だとしたら生産プラントの拡張が必要になるが…・・・」
「計画中の中規模兵器工廠の建設を断念すれば可能です。これによって領土拡張スピードが若干落ちますが
 挽回は可能な範囲であると参謀本部は判断します。詳細については後ほどレポートで提出します」 

 この言葉に少し逡巡した後、耕平は頷いた。だが同時に苦笑する。

(何か、昔の某作品を思い出すよ。あれも軍の将兵を工場で生産していたからな。まぁあれは女性ばかり
 生産していたから、その点は違うけど……気のせいだろうか、何か悪の帝国軍って感じがしてくるな。
 クローン兵士を増やすとなると、ボン太君よりもあの帝国軍の装備のほうがいいかも知れない)

 そこまで考えた時、耕平は頭を振って雑念を振りほどく。

「クローニングによる人間の量産、アンドロイドの大規模な量産体制の構築。これで1年以内に100万の人口を揃える。
 あと入力するソフトは単純な奴にしておく。感情豊かなのは構築するのが面倒だし。能力があれば当面は問題ない」
「了解しました」 
 
 こうして帝国の構築は前倒しされ、さらに当初考えられていたものより規模を拡張される。
 
「後はNPCの生産だが、こちらは当面先だな。さすがにそこまで労力は割けない」

 この意見に参謀AIは同意する。資源地帯の開発、そして帝国軍の拡張が最優先である以上、必要以上に資源を消費
する国民を作る理由はない。

「長門中将には、銀河帝国主星の総人口は100万と言うように命令しておこう。
 100万の人口で銀河の4分の1を支配できる高度な文明と考えてもらうほうが都合が良いし」
「詳しい歴史を聞かれたらいかがします?」
「その辺りはアドリブで任せるさ。まぁ第三次汎次元大戦は映像付きで教えてやれば良い。
 人口が少ないのも勝手に納得するだろうし」

685earth:2011/07/14(木) 22:06:52
 銀河帝国を名乗る勢力によって地上の全てのハイヴが掃討されたことが知られると、各国(日米除く)の指導部は
喜ぶよりも驚愕した。そして次に誰かの悪戯か、米国の陰謀ではないかとさえ考えた。
 だが帝国軍と思われる宇宙艦隊が地球周辺に遊弋していることが明らかになると、彼らは警戒態勢を取った。
 
「第二のBETAかも知れない」

 これまでBETAによって散々な目に合った人間達からすれば当然の反応であった。
 だがそんな中、日本とアメリカは国内の慎重意見を押し切って銀河帝国との接触を開始した。彼らはあらゆる手で
帝国艦隊にメッセージを送った。
 尤も前々から彼らが作っていた『伝言』を受け取った2人は呆気に取られることになる。
 
「…ラブレターかしら?」
「ある意味、恋文と言えなくともない」 

 日米両政府からは会談を要望するメッセージが多数寄せられていた。 
 警戒されているのではないかと考えていた長門と朝倉からすれば、この2国の反応は驚きであった。しかし素直に
喜ぶほど彼女達は純朴ではない。

「私たちが敵でないと判断しているのか、それとも罠か……」
「むしろ正体が判らないからこそ、積極的に接触を試みているとも考えられる」
「無知こそ罪と?」
「正体不明の艦隊がこのまま遊弋するよりはマシと考えたのかも知れない」 
「だとしても思い切りがいいわね。いや、この世界の動きからすればあり得なくはない?」

 朝倉は少し黙ると長門のほうを向いた。 

「このままじゃ埒があかないわ。代表団を招いて交渉、いえ顔見せといきましょう」
「彼らを招くと?」
「そう。連中が何か企んでいても、こちらのホームベースでなら対処は楽。それに銀河帝国が地球側に配慮している 
 ともアピールできるわ。いくら技術的に劣っているからと言って悪戯に怒らせて暴発させるわけにもいかないし」

 彼女達はマブラヴ世界の調査、そして情報の持ち帰りを命令されていた。故に必要以上に地球が騒乱状態になる
のは好ましくない。それを理解しているのか、長門は静かに頷く。

「判った。それでいく」

 かくして日米両政府に対して、宇宙で会談を行いたいとの通信を彼女達は送った。
 勿論、この返答を受けた日米両政府は承諾。彼らは再突入駆逐艦を使って会談場所として指定された月軌道、いや
月軌道に停泊している帝国軍艦隊に向かった。

686earth:2011/07/14(木) 22:09:20
あとがき
夏風邪で寝込んでいましたが何とか復活しました。
今も本調子ではないのですが(苦笑)。
というわけで次回、宇宙で会談です。
日米の担当者のSAN値がどうなることやら……。
それでは失礼します。

687earth:2011/07/15(金) 22:16:00
風邪がぶり返してきて少しグロッキー気味ですが何とかできました。
短めですが第10話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第10話

 銀河帝国軍地球派遣艦隊旗艦『アルテミス』。
アンドロメダ級の三女であるこの艦は排水量10万トンを誇る超大型戦艦であった。この原子力空母並みの大型艦が
宇宙に浮いている姿は、再突入駆逐艦の日米交渉団の団員に言い知れぬ威圧感を与えた。
 
「これが『アルテミス』……大きいですな。さらに速度も我々のものとは比べ物にならない。
 これだけの宇宙船を宇宙に浮かべるとは……」

 米国交渉団の人間達は、これほどの艦艇を宇宙の彼方から派遣してきた帝国の力に畏怖と警戒感を抱く。
 地球上のハイヴを一瞬で消滅させたその力、アルテミスやその周辺の宇宙船を見れば銀河帝国がどれほど強大な国家で
あるかが判る。

「しかし『アルテミス』という名前は本当なのでしょうか?」
「判らん」

 尤も会談場所として指定された艦の名前に首をかしげる者も多かった。一部では地球人に正確な情報を教えたくない
から偽名を言っているのではないかとさえ考える者もいるほどだ。
 だが判っていることは一つだけあった。

「攻撃しなくて正解だったな」
 
 交渉団長の男の台詞に誰もが頷いた。
 米国内部では、トラブルの種になりかねない新たな異星人を追い払ったほうが良いとの意見もあった。
 追い払うといっても退去を願うという穏健なものから、核ミサイルやG弾で攻撃して撃滅するという過激な案まで様々
であった。しかしレーザー種の迎撃をものともせず、BETAを一瞬で消滅させたことから、軍事力で対抗するのはまず
不可能との結論が下り、米国は交渉を求めることになったのだ。無論、影では前の世界の記憶を持つ者の後押しがあった
のは言うまでも無い。
 
(上は、新たな異星人と友好的な関係を構築したいと思っているようだが……難しそうだな。下手をすれば不平等条約の
 締結、いや占領、併合さえあり得る。全ては彼らの匙加減次第か)

 超大国として世界に君臨していたアメリカが、力自慢の田舎者、いや原始人に過ぎなかったことを思い知らされた交渉団で
あったが、ここで凹む彼らではない。この場においても国益を手にするべく頭をフル回転させる。

「何はともあれ、彼らが何を欲して地球に来ているのかを探ろう。
 取りあえずこれまでの彼らの行動から、人類の殲滅などと言う目的ではなさそうだからな」

 しかし米国以上に気合が入っているのが日本側だった。交渉団には、何と将軍の代行として御剣冥夜がいたのだ。

688earth:2011/07/15(金) 22:16:32
 京都決戦後、事実上復権を果たした悠陽によって彼女は表舞台にでることを許されていた。そしてその初の大任として
この銀河帝国との交渉に加わることになった。少なくない人間が妹に華を持たせたいためではないかと穿った見方をしたが
それは大間違いだった。

(前の世界での彼らの振る舞いから、我々を滅ぼそうとするつもりはないのは判る。
 ならば、彼らが何を目的として地球に来たか、これを探るのが我らの仕事になるだろう……) 
 
 彼女自身も前の世界の記憶もちであった。よって初めて帝国軍艦艇を見る人間よりは気圧される恐れが無いこと、さらに
身分も高いために交渉団の人間に選ばれたのだ。若さからの未熟を指摘する者もいたが、前の記憶を継承していることで 
それもある程度はカバーできている。
 だがそれ以上に驚くのは、香月夕呼、そして社霞がいたことだろう。
 AL4という国連の計画の中枢を担う存在でありながら、交渉団に彼女が選ばれたときには多くの人間が驚愕した。魔女が
また何か裏技を使ったとの噂が駆け巡ったほどだ。
 尤もそんなことなと露も気にかけない夕呼は、霞という切り札と共に交渉団に平然と加わり、今後のことを考えていた。

(彼らが第二のBETAかどうか見極めないと)

 夕呼からすれば信じられないほどの航行速度を持つ宇宙船を多数建造したり、BETAを一蹴できる超技術を持つ帝国が
何も野心がないとは思えなかった。
 国家である以上、国益を求めてわざわざ太陽系に来たことになる。無償で他国に奉仕する国家などあるはずが無いのだ。

(もしも何かが欲しいのなら、実力で手に入れていることができる。それなのにわざわざBETAを先に掃討した後 
 交渉に応じるということは実力行使ができない理由があるということ。
 軍事的なものか、政治的なものか、はたまた宗教的な理由か。うまく突き止めることができれば何らかのカードになる
 かもしれない)

 そう考えた後、夕呼はドレスのような軍服を着た霞に顔を向ける。

「私が言うまで何もしなくていいわ。ただし相手が何かしてきたら言って」
「はい」 

 彼女が霞を同行させたのは意外なことに相手の思考を読むためではなく相手のリーディングを警戒してのことだ。 

(さて連中はどんな手を打ってくることやら……)

 さすがの夕呼も緊張せずにはいられない。勿論、緊張しているのは彼女だけではなく、交渉団全員に当てはまる。
 しかしそんな彼らは予期せぬ歓迎を受けることになる。

689earth:2011/07/15(金) 22:17:06
 再突入駆逐艦からアルテミスに乗り込んだ交渉団を格納庫で出迎えたのは、多数のボン太君だった。
 
「……着ぐるみ?」

 誰もが唖然とする中、敬礼の号令と共に儀仗隊らしき多数のボン太君が捧げ銃の敬礼を行い、歓迎のためにボン太君が
楽器を演奏する。
遊園地なら子供が喜ぶかもしれない光景であったが、異星人との交渉で乗り込んできた交渉団からすると理解不能な光景
であった。
 だが呆然となったのも極僅かな時間であり、彼らはすぐに我に戻る。だがそんな彼らにさらなる追い討ちが襲う。
 
「始めまして、地球の皆様」

 誰もが声が聞こえた方向を見る。だがそこには、さらに信じがたい光景があった。 

「「「……」」」

 そこにいたのは、軍服を着たロングの髪を持つ日系の少女だった。  
 想像の斜め上をいく光景に、さすがの夕呼も少し硬直する。何しろBETAのような醜悪な侵略者のあとにきたのは
宇宙船に乗ったファンシーな着ぐるみと少女(それも美少女と言えるレベル)なのだ。
 これで驚かないほうがおかしい。だが彼らはすぐに現実に戻る。伊達に修羅場は積んでいない。日米交渉団の団長は
自身の名前を告げる。
 だが彼らの動きを見て朝倉は精神的な不意打ちに成功したことに満足した。  

(さて、次は……)

 しかしその彼女も不意を突かれる。交渉団の中に、トンでもないVIPがいたからだ。

(御剣冥夜に、香月夕呼、それに社霞? 何とまぁ豪華な……)

 勿論、不意を打たれたのは彼女だけではなかった。この様子をモニターしていた耕平は朝倉や長門よりも大きな
衝撃を受けた。

「……いきなり魔女と遭遇ですか」

 いきなりあのやり手と交渉かよ、とぼやく耕平であったが、すぐに開き直る。

「まぁ良い。多少失敗しても、この世界の人類なら脅威じゃない。良い経験にはなるさ」

 かくして日米交渉団からすれば国家の、いや人類の命運を掛けた交渉が、帝国からすればチュートリアルとしての
交渉の幕が上がる。

690earth:2011/07/15(金) 22:21:28
あとがき
夏風邪はきついですね。喉が痛いし咳も酷い。早く直さないと。
もうそろそろ憂鬱も進めないといけないか……。
次回、交渉に入ります。長門&朝倉VS夕呼になる…かも(爆)。
それでは失礼します。

691earth:2011/07/16(土) 22:16:25
というわけで交渉というか顔見せに近い第11話です。

 未来人の多元世界見聞録 第二部 第11話


 朝倉は自身の内心を悟らせないようにポーカーフェースで、微笑みを浮かべながら自己紹介する。

「申し遅れました。私、銀河帝国軍地球派遣艦隊参謀長を務める朝倉涼子少将です。宜しくお願いします」

 この言葉に交渉団全員が驚愕する。 

(参謀長? 艦隊の参謀長が彼女?!)
(朝倉涼子? 日本人?)
(しかも見た目はどうみてもハイスクールの学生だぞ。それが少将?)
(我々を欺くための擬態か?)

 色々な憶測が飛ぶ。何しろ出向けたのが着ぐるみと女子高生位の年齢の艦隊参謀長(自称)となると
混乱しないほうがおかしい。
 しかしいつまでも混乱してはいられないので、彼らは朝倉に案内されて大会議室に向かった。
だがそんな中でも彼らはアルテミスの中を観察するのを怠らない。

(通路が広いな。仮に戦闘になっても戦闘員が余裕を持って動ける)
(それに重力もある。1Gの重力を発生させるとは)
(我々で同じ真似をしようとすれば、この艦よりも遥かに大型になるな。移民船が良い例だ)
(しかし行き来するのが着ぐるみとロボットだけだ。人間はいないのか?)

 交渉団の中でも、科学者である夕呼の驚きはさらに大きかった。帝国軍がいかに技術面で優れているかが
よく判るからだ。だが同時に帝国軍への分析も人より進めていた。

(あのロボット達は何らかの連携をしていた。それも遠隔操作ではない。ある程度の判断が可能な人工知能
 が積んであるってことか。帝国とやらは高度な機械化で軍の省人化を進めているのかも知れないわね。
 だとするとこの艦隊も、乗り込んでいる人間は思ったよりも少ないかも知れない)

 当たらずとも遠からずのことを考える夕呼。もしも彼女の思考を除けたら耕平は魔女の頭脳に畏怖すると
同時に賞賛することは間違いない。
 そんな風に彼女が考えていると、交渉団はついに交渉の場となる会議室の前に着いた。

「艦隊司令官がお待ちです」

 この言葉に襟を正す交渉団。しかしあけられた扉の向こうにいる人物を見て再び硬直した。

692earth:2011/07/16(土) 22:17:00
 どうみても小柄な日本人(日系)の少女が座っていたのだ。
 周辺には大人もいたが、回りの態度からして彼女が一番階級が高いことがわかる。

(((我々は銀河帝国を名乗る国家と交渉に来たはずなのだが……)))

 しかし頭を抱えるわけにもいかない。彼らは長門の正面側に用意された席につく。
 そして交渉団が人数分用意された席に全員が座ると武器を使わない戦い(帝国側からすれば練習でしかないが)が始まる。

「……初めまして。私は銀河帝国軍地球派遣艦隊司令官を務める長門有希。階級は中将。
 皇帝陛下から艦隊の指揮に加え、地球各国との交渉を行う権限も与えられている」

 事実を知る者からすれば失笑物の台詞だったが、事実を知らない地球側は真剣に受け取っていた。 
 そんな中、夕呼が手を挙げる。

「質問を宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「銀河帝国と名乗られましたが、貴方達はどこから来られたのですか?」

 色々と突っ込みたいことはいくらでもあった。だが相手の正体を知らないのでは話にならない。
 夕呼は相手が銀河帝国と名乗る以上、この銀河のどこかにある星間国家ではないかと考えていた。
だが帰ってきた答えは彼女の想像を超えたものだった。

「銀河帝国『レムレス王朝』の主星がある銀河は、この世界ではなく、別の世界にある」

 前の世界を知らない人間は混乱したが、夕呼を含め一部の人間は長門が何を言おうとしているのか理解した。 

「つまり銀河帝国はこの世界の銀河ではなく、別の世界、つまり並行世界の銀河系にある国家であると言うことですか?」

 この言葉に長門は頷く。

「そのとおり」

 取りあえず並行世界の国家であることを確認した夕呼は、さらなる情報を得るべく質問を続ける。

「銀河帝国というのはどのような国家なのでしょうか?」
「現在、主星がある銀河の3割近くを支配する星間国家。今は他の銀河や他の世界への進出も進めている」

693earth:2011/07/16(土) 22:17:43
 この言葉に交渉団たちの多くは危うく卒倒しそうになった。
 相手が嘘を言っていなかったとしたら、銀河帝国とは文字通り『銀河を支配する帝国』を自称しても何の問題もないのだ。
 銀河の3分の1を押さえ、銀河間どころか、他世界へさえ移動できる科学力を持った化物国家。自分達が逆立ちしても
敵う相手ではない。

「この艦の名前の『アルテミス』、それに貴方達の氏名を見る限り、地球の文化に近いものを感じられるのですが」
「帝国の建国には地球人類が関わっていた。その名残」

 この言葉に誰もが驚愕する。何しろ銀河帝国の建国に並行世界の地球人類が関わっていたと言うのだから
驚かないほうがおかしい。尤も真の事情を知る長門や朝倉は内心で苦笑していたが。

(嘘は言っていないわ。嘘は、ね)

 内心でそう呟くと朝倉はセンサーを使って日米の交渉団の血圧や筋肉の動きの変化からを見る。
そして交渉相手が少し安堵したと判断した。

(ESPを使えばもっと楽なんだけど……それじゃあ練習にならないし)

 朝倉たちはESPを使って相手の脳裏を覗く真似はしていなかった。
 勿論、向こうがしてきたら対抗措置はとるが、それまでは極力ESPは使わないようにしていたのだ。 

「……しかし何故、銀河帝国が太陽系に来られたのですか?」

 米国交渉団の質問に長門は淡々と答える。

「我々は太陽系外で貴方達がBETAと呼ぶ存在と遭遇した。帝国政府はBETAの詳細な調査を開始すること
 そして敵対勢力として掃討することを決定した。そしてBETAの調査を続けた結果、太陽系にたどり着いた。
 その際、先行させた偵察部隊の報告で地球人類が危機的状態になっていることを知った帝国政府は介入を決定した」
「人類を助けるために太陽系に艦隊を送った。そういうことですか?」
「肯定する。我が艦隊は月と火星のBETAも掃討する予定」    

 人類を助けるためにBETAを掃討するとの言葉は、一般人が聞けば喜ぶものであったが、交渉団の人間からすれば
一概に喜べるものではない。何しろ彼らは未だに本音を語っていないのだ。さらに言えば彼らは事前の通告はしたが
人類の同意を得ることなく地球への爆撃を行っている。簡単には信用できなかった。

694earth:2011/07/16(土) 22:18:14
「政威大将軍の代行として銀河帝国のご好意にお礼を申し上げます。
 しかし折角のご好意ですが、今の人類は帝国に御礼をするような余裕はありません」

 残念そうに言う冥夜。勿論、それは素振りだけだ。彼女はそういうことで向こうがどうでるかを伺っていた。
しかし長門は判っているとばかりに頷く。

「今の人類の状況は承知している」
(大人しそうな顔で中々に狸ね……)

 耕平からすれば「お前が言うか」と突っ込みが入ることが確実なことを考える夕呼。
 だがそんな内心を正確に知ることなく、長門は話を続ける。 

「詳細については大使着任後に再び話になる」
「大使ですか?」
「そう。双方のコミュニケーション不足や相互理解の不足で衝突が起こるのは好ましくない。話し合いの席を
 設けるために地球に大使を赴任させることを政府は考えている」

 銀河帝国と地球人類の実力差を考えれば、それは命令に近い。
 しかし交渉も出来ない状況に追いやられるよりはマシだった。何しろBETAとは対話すら不可能だったのだから。
 
(国家の規模や技術力からすれば、容易に第二のBETAとなり得る。でもうまく利用できればBETAの脅威を宇宙から
 払拭できるし、人類の飛躍的発展も可能になる)

 夕呼はこの新たな国家とどう接するかで人類の命運が分かれることを理解した。だが理解できないこともあった。
 
(それにしても、あんなふざけたもの(ボン太君)を作るなんて、並行世界の人類は何を考えているのかしらね?
 それとも何か大きな出来事でも起こって思考が変わったとでも?)

 交渉団は日米両国の状況について説明した後、本国に帰って政府と相談したいと願い出た。勿論、それを長門達は了承した。

(取りあえず反応は悪くない。今回はこれでよしとする)
(そうね。あと爬虫類の件もあるし、私たちが人間でないことはまだ話さないほうが良いわね)

 こうして銀河帝国と地球人類の顔見せは終わり、交渉は次の段階に入る。

695earth:2011/07/16(土) 22:20:13
あとがき
顔見せ終了です。
次回、地球側の動きになります。
銀河帝国『レムレス王朝』とどう付き合うかで各国は頭を抱えるでしょう。
特に共産国家は……。
それでは失礼します。

696earth:2011/07/17(日) 23:08:10
顔見せ後の日米の様子を書く第12話です。


 未来人の多元世界見聞録 第二部 第12話

 『アルテミス』から戻った交渉団の報告を受けた日米両政府は、銀河帝国の強大さに驚愕すると同時に
友好関係を如何に築くかで頭を捻った。
 向こうがハッタリを言っているのではないかと言う者もいたが、長門艦隊はそんな彼らを嘲笑うかの
ように宇宙を我が物顔に動き回った。
 さらに火星方面から来襲したと思われる降下ユニットを、偵察衛星や再突入駆逐艦が見る前で粉砕する
ことで宇宙艦隊が恐るべき力を持っていることを示した。
 だが同時に通信で日米と連絡は取り合うなど一定の配慮は見せていた。 

「彼らの言うとおり国交を開くしかないだろう」

 米国大統領はそう決断を下した。
 
「あれほどの軍事力を持った国の要求は無視できない。何より、他の国に遅れは取れない」

 大統領の決断に誰も反対しなかった。軍人達は軍人であるが故に、帝国軍との戦力差を認識していたし
閣僚達もあれほどの超技術の持つ主達と喧嘩するという意見は言えなかった。

「帝国軍と戦った場合、我が国の宇宙軍は対抗できません。G弾を使っても帝国軍が
 本格的に反撃すれば全ては終わりです」 
「むしろかの帝国と如何に友好関係を築くか、これが重要でしょう」
「そのためにはさらに接触する機会を増やし、相手のメンタルや内情を探るのが必要です」
「左様。本格的交渉は大使が来てからと言われたが、それでは他の国にチャンスを与えるようなもの。
 今のうちに我が国が世界の、いや地球の中心であり、地球の代表と見做してもらわなければ」

 米国大統領は閣僚達や軍人達の意見に頷く。

「幸い、銀河帝国建国には異世界の人類が関わっていたという。ならばそのメンタルが理解不能という
 ことはないだろう。しかし艦隊司令官や参謀がハイスクールの学生にしか見えないとは……」
「あれだけの超技術の持ち主達です。外見を自由自在に変えられてもおかしくありません」
「だとすると、実際には我々よりも年上だったという笑えないこともあると?」
「はい」

 本人達(特に朝倉)が聞けば憤慨しそうなことを言い合う男達。しかし女性の年齢についての話題を
避けられるほど彼らに余裕は無い。

「何はともあれ、さらに接触を続けろ。失礼がないようにな。それと日本、ソ連、それに統一中華の動き
 にも気を配れ」

697earth:2011/07/17(日) 23:08:46
 米国が銀河帝国への接近を目論んでいる頃、日本帝国政府は方針を決めかねていた。

「レムレス朝銀河帝国。この帝国と敵対することになれば我が国だけでなく、人類そのものが滅亡する
 ことになるでしょう。何としても友好関係を構築するしかありません」

 夕呼の意見に閣僚達は顔を顰めた。

「しかし相手は些か人類の主権を軽視しているのではないかね?」
「銀河の3分の1を押さえる星間国家ゆえに、我々のことを蛮族として軽く見ている証拠では?」
「確かに爆撃は助かったが、もしも帝国国内にハイヴがあったら周辺地域への被害は途方も無いことになっていた」

 この言葉に夕呼、そして冥夜など交渉に参加した人間は呆れた。 

(彼我の実力差からすれば地球人類は未開の蛮族。向こうの態度は、紳士的なほうよ)

 夕呼は侮蔑の感情を悟られないようにポーカーフェースを心が得て話を続ける。

「BETAやハイヴを掃討したのは、彼らの武力を誇示するのが目的だった可能性が高いかと」
「示威行為ということか」
「はい。彼らは大使館を設置し、本格的に交流を持ちたいと言っています。
 その際、武力を背景にして有利にことを進めたいと考えているのでしょう」

 閣僚達はどうするかと頭を突きつけあう。そんな中、榊が口を開く。

「つまり彼らは武力を背景にした外交交渉を仕掛けていると?」
「はい。彼らが何を欲しいのかは判りません。ですが何かを欲してきているのは間違いないでしょう。
 その気になれば武力で奪えるにも関わらず」
「何か理由があって武力を行使できないということか……だが向こうの逆鱗に触れれば話は違ってくる。
 その辺りを見極める必要がある。だがそのためには極力、彼らと接触して彼らのメンタルを理解する
 必要があるな」

 榊の意見を聞いて外務大臣が尋ねる。

「大使館を誘致すると?」
「出来れば、だ。しかしそうなると米国との誘致合戦になるだろう。AL計画を巡る競争よりも
 厳しくなる」

698earth:2011/07/17(日) 23:09:18
 巨大星間国家との交渉の窓口になる。
 それは大きな利益を日本帝国に与えるだろう。だが失敗すれば人類を危険に晒すことになる。

「アメリカはこの地球の盟主とも言える存在だ。彼らならある程度の無茶な要求に答えられるだろう。
 だが我が国では、もしも何かを求められたとき、迅速に対応できない場合も考えられる」
「ですが艦隊司令官は日系人です。何とか」
「情で何とかできる相手ではないだろう。それに本格的に着任する大使が親日とも限らない」
「「「………」」」
 
 沈黙する閣僚達。
 そんな中、悠陽が尋ねた。
  
「それでは銀河帝国の大使館誘致を諦める、と?」
「殿下、『急いてはことを仕損じる』とも言います。この際、米国に華を持たせることも必要でしょう」
「米国を地球の代表と認めるのですか!?」

 陸軍や本土防衛軍の人間が特に反発する。京都防衛戦で米軍の陰に隠れてしまった彼らは米軍を敵視する
機運が高まっていた。勿論、将軍派はこれを抑えようとしているものの、本土防衛軍は頑なだった。

「では帝国が地球代表を名乗ったとして、他の国が納得するかね?
 我が国は国土の半分が焦土なのだぞ。そんな状態で地球の代表として責任が果たせると?」
「それは……」
「アメリカを地球代表として矢面に立ってもらう。勿論、こちらがあっさり引き下がる代償も引き出す。
 米国も『統一中華』や『ソ連』に情報が流れるのは面白くないだろう」  

 前の世界を知る者たちは、中ソの名前を聞いて内心で嫌悪感を覚える。だがこの場合は止むを得なかった。

「……その方針でいきましょう」

 政威大将軍が賛同したことで日本帝国の方針は決した。
 かくして日本は米国を地球代表に推すことになる。

699earth:2011/07/17(日) 23:10:57
あとがき
というわけで日本政府、あっさり米国を地球代表に推します。
勿論、引き換えに色々な譲歩を引き出すでしょう。
憂鬱第50話は完成率約30%。早ければ今月中。遅くとも8月には
掲載したいと思っています。




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