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避難用作品投下スレ4

555十一時四十八分/あなたがいる:2009/02/20(金) 14:50:07 ID:WUwc3v1o0
 
考えるのをやめようとすればするほど、あの人が私を侵していく。
甘い化粧の匂いと猫なで声と、私を哀れむような、見下ろすような眼だ。
胸が詰まるような、臓腑を裂いて残らず掻き出してしまいたくなるような、どろどろと粘つくもの。
この膨らみかけた脂肪の固まりも、痛みと憂鬱しかもたらさない、汚い血を吐くだけの器官も。
全部を掻き出して挽いて潰して水で洗えば、この嫌なものは流れて落ちるのだろうか。
そんなことを思う。
裂いて流れるのは綺麗な赤い雫だけだと、知っているのに。

戻らない。
何も戻らない。
何をしても、どれだけ泣いても、なくしたものは戻らない。
そんなことはわかっている。
わかっているから、動かずにいた。
動かなければ、変わらなければ、何もなくさずに済むかもしれないと、思っていた。
そんな、馬鹿なことを、思っていた。

変わっていく。
変わっていくのだ。
私が止まっても、他の全部は動いている。
動いているから、変わっていく。
変わってしまって、なくなっていく。
私のたいせつなものはもう何も残らずに、変わらずにいる私だけが取り残されている。

それでよかった。
それでもよかった。
変わらずにいる私は、変わってしまったものたちを、なくしてしまったものたちのことを、
ずっと変わらない姿で覚えていられる。
それはとてもしあわせなこと。
それだけが世界を、私の大好きだったものたちを大好きなままで留めておく、たったひとつの方法。

だと、いうのに。
あの人の匂いを吸い込むたびに。
あの人の猫なで声が耳に入ってくるたびに。
あの人の眼が私を厭らしい色で見下ろすたびに。
どろどろとしたものが、私を這い登ってくるのだ。
ずるずると糸を引きながら、てらてらと濡れ光る跡を残しながら、それは私を這い回る。
そうしてそれは、私の中に染み透ってくるのだ。
私を、変えるために。


***


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