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緊急投下用スレ

1謎のミーディアム:2006/10/21(土) 22:08:45 ID:yTGz5vT.
此処はニュー速VIPがサーバー落ちになった場合や
スレが立ってない場合などに使用するスレです
作品投下のルールは本スレと変わりありません

979謎のミーディアム:2009/04/08(水) 00:17:59 ID:KJPVofHI
>>969-978
これにて連続スレタイ物 『今そこにある未来』 編 おわり

前スレのタイトル見て途方に暮れたのはナイショ。
そっか……ニンマリの意味だったんだ、アレ。

980謎のミーディアム:2009/04/26(日) 23:25:20 ID:5xX26HYY
「・・・ドイツ語って難しいな・・・」
昼休み、小難しそうな参考書を広げる君はそう呟いた。
「そのうえ高校生だから英語も一緒に勉強しなきゃならないんだから大変ね。とりあえず糖分補給するかしら!」
私はお気に入りの甘い卵焼きを君の口に近づける。「ありがと」そう言って口を開いたので卵焼きを入れてあげる。もう少し君の反応を楽しみたくて、つい「ジュンと間接キスしちゃったかしらー♪」なんておどけてみる。
慌てて周りのクラスメートに取り繕う君の姿は小学校上がりたての時とあまり変わっていない、ふふふ、改めて考えると私達の付き合いって長いね。初めて話したのは・・・もう11年も前になるのかな?
私がクラスの男子にからかわれてた時に助けてくれたんだっけ。結局からかってた男子たちが「おまえたちデキてんだろ」なんて言い出して今見たいに取り繕ってたよね。
「な、なに笑ってんだよ」
ちょっと不機嫌そうな声で現実にもどされる。
「ごめんね、ちょっと昔のこと思い出したらおかしかったのかしら」
「変なヤツ」
む、変なヤツはヒドくない?
「涙が出るほど面白かったのかよ」
・・・え?
・・・そっか・・・
「な、なんでもないかしら!ごちそうさま」
そう言って席を立つ
「どこ行くんだよ」
「ちょっとトイレかしら、ジュンのエッチ///」
「ば、ばか!」
私は少し意地悪して歩きだした。
「あ」
「どうした?」
「ドイツ語なら真紅に教わるといいかしら」
「真紅?分かった、サンキュ」


来年、高校を卒業したら君はすぐドイツに裁縫の勉強に行ってしまう。
当然私はついていけない。
君の話しでは7〜10年は戻って来れない。
戻って来たとき、君の中に本当に私の存在が残っているか、考えるのが怖い
そして、好きな人が遠い場所に行ってしまうこと自体がもっと怖い。
「泣いちゃだめ、だめかしら、今からこんなんじゃ一年なんて持たないわよ、金糸雀」
そっと自分を鼓舞する。
ねぇ、君の笑顔を焼き付けるために、君が忘れても私が覚えていられるように
ずっと君のことを見ていてもいいですか?

【貴方を】【見ているわ】

981謎のミーディアム:2009/04/26(日) 23:27:23 ID:YZ.5gI9o
書いたら落ちてて悔しかったのでこっちに投下しました。
だってスレタイを題材にしたからつぶしようがないんだもん

982【君の名に】【咲く】:2009/06/22(月) 22:00:09 ID:y1xLmmrY
書き込みボタンを押して初めて、アクセス規制に巻き込まれたことを知ったでござる。
なんとも、やるせない。
観念して●買えってことですかね。


とまあ、ここを使うのも久々ですが、連続スレタイ物の続きを投下します。

−−−−

なにはさておき、当初の用件を済ませてしまおう。
私は気を取り直して、居住まいを正すと、額が膝に届くぐらいに頭を下げた。
「先日は酷いことして、ごめんなさいです。火傷まで負わせてしまって――」
 
「ああ……話って、そのことか。謝らなくたっていいよ、別に」
こちらが拍子抜けするほど呆気なく、ジュンは言った。
「僕にも非があったしな。言い過ぎたと反省してる。悪かった」
 
あれ? なんだろう。この前のピリピリした感じとは、雰囲気が違う。憑き物が落ちたような穏やかさだ。 
訝しげな私の目つきを察知したらしく、ジュンは気まずそうに目を伏せた。
 
「なんて言うか……いきなり未知の領域に連れてかれたんで、テンパってたんだよ。
 あのアホ姉貴にしつこく勧められてて、苛ついてたのもあったけどさ」
「それなら、今日は違うですか?」
「住み慣れた家だからな。ホームグラウンドなら、気持ちにも、ゆとりが生まれるさ。
 もっとも、うるさいアホ姉貴がいるから、安息の地とは言い難いけどな」
 
なんとなく、得心がいった。たぶん、ジュンは他人より少しだけ理想家肌で、ナイーブなのだ。
高望みや社会的な名声を欲してはしても、傷つくのを恐れて一歩を踏み出せないタイプ。
もしくは、もう胸の奥に深い傷を負っていて、痛みのあまり動けないのか。
必死に虚勢を張って、自分の周りを防護壁で固めてしまおうとするあたり、後者のような気が、しないでもない。
 
「大学は、夜学だと聞いたです。そこは、居場所じゃねーですか?」
「違うな」電光石火の即答。
「それを期待して進学してみたけど、なにか違うんだよ。僕の居場所は、もう現実になんか存在しないのかもな」
 
その唾棄するような物言いに、私は危うさを感じた。極限まで引き延ばされ、切れる寸前のゴムを想って、胸が騒いだ。
よくないことが起きる予感。このまま、放置しておいたらいけない。
別に、ジュンなんて、どうでもいいけれど……こいつの名に不名誉な徒花が咲けば、のりさんが深く悲しむ。
だから――私は膝を進めた。のりさんのためにも。

983【お願い】【忘れないで】:2009/06/22(月) 22:00:37 ID:y1xLmmrY
「じゃあ、どこなら居場所になるですか」
 
訊いた私に返されたのは、言葉ではなく、無気力で弱々しい笑み。
ジュンは大仰に肩を竦めた。「樹海……とでも言って欲しいのかよ」
 
また、ひねた受け取りかたをする。いったい、なにが原因で、こんなにも性根が捻れてしまったのだろう。
それについて更に疑問を投げ返すと、今度は微かな怒りを孕んだ視線と声が、私にぶつけられた。
 
「なんなんだよ、おまえ。ウザイな……。もう、ほっといてくれよ。
 くだらない説教なんか聞きたくないね。用が済んだのなら、もう帰れって」
 
ジュンの陰湿な想念が、前のめりになっていた私を押し戻す。正直、近寄りがたい。
少しはマシな人かと見直しかけていたけれど、ただの誤解だったらしい。
根が腐ってしまった樹は、もう救いようがない。緩やかに枯死するのを待つだけだ。
 
「……そうですね。お邪魔したです」
ソファーから腰を浮かせる。しかし、そこで、私の中の負けん気に火が着いた。
帰れと言われて、素直に従うことへの反撥。多少なりとも言い返してやらないと、気が済まなかった。
  
「だけど――変わろうとする気持ちは、忘れないで欲しいです。
 いつか、居場所が見つかるといいですね。じゃあ……アバヨです」
「余計なお世話だっての。もう来なくていいからな」
 
背中に、弱々しい呟きが届いたけれど、私は振り返らなかった。
ジュンも、それは望んでいないだろうと思ったから。
そう。私は気づいていた。この人は、どこか私と似ている。
引っ込み思案な性格とか、ペースを乱されると弱い点とか、素直じゃないトコロとか。
もしかしたら……さっき感じた私のイライラは、同族嫌悪だったのかもしれない。
 
心の裡で、私は繰り返した。前に進もうとする気持ちだけは、忘れないで――と。

984【ヘドロが】【降り注ぐ】:2009/06/22(月) 22:01:09 ID:y1xLmmrY
桜田邸からの帰り道、私はジュンのことを考えていた。
どうして、あんなにも鬱ぎ込んでしまったのか……その理由が知りたかった。
彼は、なにから逃れようとして、小さな世界に閉じ籠もってしまったのだろう。
 
周りが優しくなかったから?
たぶん違う。そもそも、取り巻く全てが苛烈だったら、大学に行く気になどならないだろう。
のりさんを始め、家族は今でもジュンの味方なのだ。
 
――なんて考えつつも、的を外しているなとも思う。
優しいとか厳しいとかの単純な理由ならば、この問題は、とっくに解決していたはずだ。
しかしながら、今だにジュンは居心地の悪さの中で、悶々と生きている。
 
 
やおら、異臭に鼻を衝かれた。そよ風の不意打ちに、私の思考が中断される。
今更ながら、私はドブ川の側道まで戻っていたことに気づいた。有栖川荘までは、もう遠くない。
 
にしても、酷い臭いだ。春先でさえ窒息しそうなのに、真夏なんて、どうなるのかしらん。
フェンス越しに覗けば、毒々しいとしか形容し得ない澱みが横たわっていた。
両岸ばかりか、水底さえもコンクリートで固められてしまった小川の、死骸だ。
動きを止めた腐り水から、ぽこり、ぽこり……得体の知れない気泡が生まれている。
不気味に隆起するヘドロには、およそ生き物の息づかいなど感じられなかった。
 
ヘドロは、自然界が処理しきれなかった栄養分の、なれの果て――
ふと、私の中に閃くものがあった。彼を腐らせているのは、与えられすぎた優しさなのではないのか、と。
さっきの短い会話からも、彼が、のりさんを疎ましく感じている気配は伝わってきた。
 
ジュンは、気づいていたのかもしれない。
自分の居る場所が、消化しきれない愛情のヘドロに埋まりつつある事実を。
大学に進んだのも、ヘドロの溜まり場から逃れたいがためで……
その試みの達成を願いながら、私は、ヘドロが生み出すあぶくの群れを眺めていた。

985【あの橋の】【向こうで】:2009/06/22(月) 22:01:46 ID:y1xLmmrY
「こんなところで、道草を食ってらしたのね」
 
不意に間近で話しかけられて、私はビクンと身体を震わせた。
どうやら、ヘドロの溜まりを眺めている間に、すっかりドロロの脳髄になっていたらしい。
我に返ってみれば、雪華綺晶さんが腰に手を当てて、呆れ顔をしていた。
 
「暢気ですこと。先程から、白崎さんがお待ちですわよ」
「はい?」
「はい? じゃなくて――」むぎぎ……と、雪華綺晶さんに、頬を摘まれた。
「今日が、理事長に回答する期限の一週間でしょう。もしかして、忘れてましたの?」
 
言えない。すっかり忘れてたなんて、口が裂けても言えない。
けれど、沈黙は肯定と同じ。私は雪華綺晶さんに襟首を掴まれ、引きずられていった。
――が、ドブ川に架かる小さな橋を渡った、まさにその時。
 
「あ! ちょ、ちょっと待ってです! 待ってってば! お願い!」
 
慌てて雪華綺晶さんを止め、私は渡ってきたばかりの橋の向こうに目を遣った。
そこには、全速力で追いかけてきたのだろう、肩で息をするジュンが立っていた。
 
私たちを隔てる川。川や辻は昔から、現世と異界の境界とされてきた。
ふたつの世界を繋ぐのは、橋。川を渡る――かわる。もうダジャレでも言霊でも、どうでもいい。
私は、橋の向こう側へと、手を差し伸べていた。
 
「来るです、ジュン! 居場所は、きっと見つかるですよ! 私も手伝ってやるですから!」
 
ジュンが、僅かに後ずさる。表情にも、見る間に怖れの色が表れてくる。
でも、決して踵は返さなかった。気持ちを鎮めるように、暫し瞑目、そして……
双眸を見開くや、ジュンは走り出した。私たちの居る、こちら側へと。
繋いだ彼の手は、女の子の手かと思うほど柔らかく、しっとり潤っていた。

986【仲良く】【喧嘩しな】:2009/06/22(月) 22:02:10 ID:y1xLmmrY
私とジュンは、雪華綺晶さんに牽引されながら、有栖川荘への帰還を果たした。
取るものも取り敢えず、白崎さんの待つ食堂へと向かう。住民の全員が、顔を揃えていた。
 
「やあ、おかえりなさい。ふむふむ……そこの彼が、管理人代理ですか」
「え? いや、僕は――」
 
この期に及んで、まだキョドるか。こうなれば、回りくどいことは抜きだ。
余計なことを出さない内に、強引にでも話を進めてしまおう。
 
「ですぅ! 私とこいつで、ちゃちゃっと勤めちまうですよ、イーッヒッヒッヒ!」
「なっ?! おま――」 
「承知しました。それでは、早速こちらの契約書にサインしていただけますか」
「だから、僕――」
「はいですぅ! ほれ、おめーもサインしやがれです。変わるためですよ!」
 
安っぽい殺し文句に、どれほどの効果があったかは定かでない。
けれど、ジュンは渋々ながらもペンを取って、「契約します」と誓った。
 
「やば……ハンコ持ってこなかった」
「拇印で結構ですよ、拇印で。ああ、翠星石さん。胸のことじゃありませんからね。出さないでくださいね」
「なに言いだすですかぁ! そんな、おバカな間違いしないですぅ!」
 
……危なかった。素で勘違いしてた……ボイン。 
ともあれ、無事に契約は交わされ、ジュンは正式に有栖川荘の管理人代理として雇われることとなった。
学生だけどいいのかな、との疑問に、白崎さん曰く。
「大丈夫ですよ、学長は放任主義ですからね。よきに計らえとのことです。これにて一件落着」
 
この嬉しい誤算には、しかし、嬉しくない誤算もセットで付いていた。
契約書を熟読したところ、ひと回り小さなフォントで『管理人代理は住み込みに限る』との記述が!
そのことでジュンと言い合いになったが、後の祭り。暫くは口喧嘩が絶えそうもない……。

987謎のミーディアム:2009/06/22(月) 22:03:34 ID:y1xLmmrY
>>982-986
ここまで。

心をかさねて  編 おわり


どなたか、本スレに転載をお願いします。

988謎のミーディアム:2009/06/25(木) 14:20:19 ID:0wRe5pd.
久しぶりに来て久しぶりに描いて、久しぶりに貼ろうとしたときのテンションの、
アク禁で弾かれたときの下がりっぷりは異常。


真紅「ま……まさか!」
ttp://w3.abcoroti.com/~hina/files/2009062211260364.jpg



転載をお願いします。

989謎のミーディアム:2009/06/26(金) 01:08:52 ID:/uDjk.EU
>>988
ふとしんく萌えすなぁ

990謎のミーディアム:2009/07/05(日) 22:17:18 ID:QIScmkeM
>>雑談377
こちらこそツボなSSありがとうございます。

ところで、翠星石のしっぽは何のしっぽなんでしょうか…?
いや、伏線だったら無視してくださいなw



今日はスレが立たなかったのでこちらに。
次にスレ立ったときにどなたか貼ってもらえればと思います。
来れないかもなので。


ttp://w3.abcoroti.com/~hina/files/2009070514502912.jpg

991謎のミーディアム:2009/07/06(月) 21:18:48 ID:/hikBzVQ
>>990
甜菜しますた。

992謎のミーディアム:2009/07/07(火) 15:56:48 ID:TTv2Vm9s
>>990
またしても!?ありがとうございます!!!
書いている者です。
許可が貰えたのでwikiに真紅の絵を貼らしていただきました。

翠星石の尻尾は、大きくてふかふかで、嬉しいとブンブン動く、犬っぽい尻尾です。
伏線とか難しい事は一切考えてません。

あと、これまでの支援絵もwikiのページにまとめたいのですが宜しいでしょうか?

993990:2009/07/08(水) 01:10:12 ID:7uYq9xBA
あーいつの間にかスレが立ってて落ちてたw

>>992
なるほど理解>翠しっぽ

支援絵をwikiに貼るのはいくらでもどうぞ!
てかむしろ気に入ってもらえて嬉しいですw

994謎のミーディアム:2009/07/08(水) 18:10:38 ID:brgiftIw
去年書いた七夕用保守短編。投下し損ねたし、ちょっとあれだけど悔しいから投下

ねえ、知ってる?
天の川から地球の方を見るとね、そこにもやっぱり天の川があるんだよ。
そのなかの星屑の一つが太陽で、まわりを塵みたいな地球が回ってるんだ。
織姫と彦星は何光年を離れていて、たとえ光速でも翔けても会うのに何年もかかるんだ。
塵の上に乗っかってる願い事なんて見えるわけ無い。
光よりも早く翔けている二人が塵に気づくわけ無い。
だからね…。

「願い事を笹にかけるのをやめて、叶えるために最大限行動する事にしたんだ。」
「んー。なんだか凄まじく夢が無いけど、それはいい事なんじゃないか?」
「でしょ?だからね、ジュン君。」
「なんだ?」
「僕の恋人になってほしいんだ。」
唐突な告白に、僕は言葉を続けられなかった。
「だめかな?」
そしてダメ押しのその一言に、僕はあっけなく惚れてしまった。
ああ、本当に。天の川が遠くてよかった。
蒼星石の願いに、恋人達が気づかないぐらいに。

995謎のミーディアム:2009/07/12(日) 05:02:49 ID:49MvjLLs
 
 
「今年も、見れなかったね」
 
夜空を見上げながら、君は呟いたんだ。
つまらなそうに。でも、ちょっとだけ嬉しそうに。
そんな天の邪鬼ぶりが、いかにも君らしくて……
あの時、僕が浮かべた苦笑いを、君は気づいていただろうか。
 
 
「うん。結局、晴れなかったな」
 
僕も、隣に佇む彼女に倣って、想いを虚空に放った。
病院の屋上から、どんよりと曇った夜空へと。
 
「折角、ここまで天体望遠鏡を担いできたってのにさ」
「ごくろうさま」
 
彼女――柿崎めぐは、いつになく優しい笑顔を作った。
自然に生まれただろう微笑なのに、僕には、それが文字どおりの作り物に見えた。
やっぱり、天の川を見ることができなかったから、怒っているのかな。
そのときの僕は、まだ人間的に幼稚で、そんな野暮な見立てしかできなかった。
 
「ねえ、知ってる? ここ数年、七夕の夜は曇ってばかりなのよ」
「そうだっけ? 去年は曇ってたって憶えてるけどさ」
「去年も、一緒に見ようとしたものね」
 
そう。だから、はっきりと憶えていたんだ。
水銀燈を……共通の友人を介して知り合った僕らが、初めてデートっぽい事をした記念日だったから。
あれから、もう1年が経ってるなんて、つくづく不思議な気分がしたものさ。
 
 
「本当に、残念だよ」
 
僕は心から、口惜しく思っていた。めぐに天の川を見せてあげられないことを。
まあ、昨今の日本は夜空が明るすぎて、見える星の数は、高が知れてるけど。
 
吐息混じりに言った僕の左手を、君は、そっと握ってくれたよね。
そして、静かに肩を寄せてくれた。
冷えてゆく夜気の中で、君がくれた温まりを、この左肩はいまも憶えている。

996謎のミーディアム:2009/07/12(日) 05:03:24 ID:49MvjLLs
>>995
 
「でも……これはこれで、いいと思わない?」
「どうしてさ。めぐだって、楽しみにしてたじゃないか」
「そりゃあね、見られるに越したことはないわよ」
「だったら、なおさら――」
「言わないで」
 
繋いだ君の手に、ほんの僅か、力が込められた。
「もう、いいのよ。これで、いいの」
 
だって、と。君は嘲るように、鼻を鳴らした。
『類は友を呼ぶ』と言うけれど、その仕種は、水銀燈とよく似ていたよ。
いまなら解る。それが、センチメンタルなことを言う照れ隠しだったんだと。
 
「なにが、だって――なんだ?」
「1年に一度きりの、恋人たちの逢瀬だもの。そっとしておいてあげたいじゃない」
「……まあ、な。野次馬に邪魔されたくないだろうし」
 
恋人と呼べる人を得てから、めぐは変わったし、僕も変わった。
自分たちが幸せになって初めて、心から他人を思いやれる余裕が生まれたんだろう。
 
「織姫と彦星も、今頃は再会して、触れ合える喜びを満喫してるかな」
「その言い方……なんか、やらしいね」
「邪推しすぎだっつーの。って言うかさ、そういう発想自体、やらしいと思うぞ」
「あははっ。そうだよね……私、やらしいなぁ」
 
朗らかに笑う君を見ていたら、胸に募る想いを止められなくなって。
僕は、めぐを抱きしめて、その薄い唇を塞いでいた。
つきあいだしてから1年目にして、初めてのキスだった。
奥手すぎるにも程があるよな、まったくさ。
 
しかも、僕としては、文字どおりのファーストキスだったんだぜ。
正直、不安で胸が潰れそうだったよ。上手にできていたのか、解らなかったし。
それに……君はものすごく強く、僕の左手と服を握りしめていたからね。
まるで、全身全霊をもって、僕の想いを受け止めようとするみたいに。
 
 
「初めて……だったの」
 
めぐは、離れたばかりの唇を指でなぞりながら、はにかんだ。

997謎のミーディアム:2009/07/12(日) 05:03:55 ID:49MvjLLs
>>996
 
僕もだよ。そう言ってしまいたくなる衝動を、すんでの所で抑えつけた。
男が言うセリフじゃないよな、なんて……ケチなプライドかもしれないけど。
 
「桜田くんに逢えて、よかった」
 
君は、後に言ったよね。
いいムードなのに、恥ずかしがって気の利いたことも言えない僕に痺れを切らしたと。

まったくもって、弁明のしようがないよ。
僕は、君が水を向けてくれるまで、キッカケさえ見出せないほどウブだったんだ。
それにしては、いきなりキスだなんて、思い切ったことをしたもんだけどさ。
 
「僕も、そう思ってる。柿崎と出逢えて、よかったって。
 でも…………もう、やめないか」
「……なにを?」
 
僕が切り出すなり、笑っていた君の瞳に、険しい光が宿った。
君の想いの強さを測りたくて、誤解させるようなことを、わざと言ったんだ。
あのときは、ごめん。ちょっと意地悪が過ぎたよな。
 
僕は、焦らすように長い沈黙を並べた。
そして君も、黙りこくっていた。僕の瞳を、ぐっと睨み付けたまま。
見つめ合ったまま夜明けを迎えるのも悪くなかったけれど、僕は口を開いた。
 
「やめるっていうのは、その……そういう意味じゃなくてさ」
「じゃあ、どういう意味? はっきり言ってよ。ぐずぐずしたのは嫌いなの」
「つまり、他人行儀なのは、もうやめようってこと。
 恋人同士なんだしさ、名前で呼び合っても、いいんじゃないか」
 
そう告げたときの、君のポカンとした顔ったら、傑作だったよ。
どうしてカメラを持ってこなかったのかと、本気で悔やんだくらいさ。
だけど……結果的には、よかったのかもしれない。
呆気に取られた君の表情は、美しいまま、僕の記憶に焼き付けられたから。
 
「なぁに、今更。ばかみたい」
「ホントにね、我ながら、ばかみたいだって思うけどさ。やっぱりイヤなんだよ。
 親しみが感じられないって言うか、よそよそしいって言うか」
「ふぅん……そこ、拘るんだ?」

998謎のミーディアム:2009/07/12(日) 05:04:33 ID:49MvjLLs
>>997
拘るに決まってる。好きな女の子のことなら、なおさらじゃないか。
もはや開き直って、僕は君の痩身を掻き抱いた。
 
「大好きだ。柿…………めぐ」
 
人の習慣は、そうそう変えられるものじゃないらしい。
慌てて言い直したことで、却って、君の失笑を買ってしまった。
 
「まったく。そんな調子で、大丈夫なのかしら」
「あ、当ったり前だろ。いまのは練習だからノーカンな」
「ずるいのね」
「キニシナイったら、キニシナイ」
 
歌うように茶化して、仕切り直し。
僕は、抱きしめたままだった君の耳元に、そっと囁いた。
 
「大好きだ、めぐ」
「……私も。大好きよ、ジュン」
 
どうして、君は一度目でさらっと言えてしまったのかな。女の子だから?
それとも……独りきりのときは、僕を名前で呼んでくれていたのかな――なんて。
いまでもね、ちょっと自惚れては、独りでニヤついているんだよ。
 
 
   ▼   ▲   
 
あれから、ずいぶんと月日が流れたよ、めぐ。
君と僕が、とんでもなく遠く隔てられてから、もう7年が経ってしまったんだ。
17歳だった僕は24歳になって、駆け出しの社会人さ。
 
1年に一度、この七夕の夜に、僕はここを訪れる。
めぐが入院していた、有栖川大学病院の屋上に、天体望遠鏡を担ぎながら。
 
 
「よく続くものねぇ。ホぉント、呆れるわ」
 
僕の傍らで、腕組みしながら吐息するのは、めぐの一番の親友だった女の子。
いまでは立派な看護士になって、有栖川大学病院に勤務する水銀燈だ。
僕が、毎年こうしてここに来られるのも、彼女の協力あってのこと。

999謎のミーディアム:2009/07/12(日) 05:05:46 ID:49MvjLLs
>>998
 
「水銀燈には、感謝してるよ。言葉じゃ安すぎるくらいにね」
「あっそ。別に、興味ないわぁ」
 
まーた始まった。
昔から素直じゃなかったけれど、最近は、ひねくれ度合いが増してる気がする。
僕は苦笑しながら、水銀燈へと向き直った。
 
「今年は、すっきりと晴れて見られそうだよ、天の川」
「……そう」
 
水銀燈は、ふっと睫毛を伏せた。「めぐにも、見せてあげたかったわね」
それは、言わずもがな。だからこそ、言うべきではない。 
 
「一緒に見ないか」
「……えっ?」
「見て欲しいんだ、誰かに」
「私は――」
 
言い淀んだセリフをかなぐり捨てるように、水銀燈は望遠鏡を覗き込んだ。
そして、「綺麗ね」と。
同じ感想は、繰り返されたとき、湿り気を帯びていた。
 
三度目はなくて――
身を翻し飛び込んできた水銀燈を、僕はしっかりと胸で受け止めた。
それから、憚ることない彼女の嗚咽に紛れて、僕も少しだけ泣いた。
 
星の川が流れる夜空の下で。
僕たちは、涙の川を流し続けていた。
 
 
 
めぐ――
僕らもいつか、織姫と彦星のように再会できると、信じてるよ。
ただ……それは、断言できないけれど、まだずっと先の話になると思う。
もしかしたら、寂しさに負けて、君の親友と浮気をしてしまうかもしれないけどさ……
 
 
そのときは、赦してくれよな……めぐ。

1000謎のミーディアム:2009/07/12(日) 05:06:37 ID:49MvjLLs
>>999
 
 
   『七夕の季節に君を想うということ』
 
 
 
思いっきり時期を外した七夕ネタでしたが、これにて〆
ここも、めでたく>>1000と相成りました。
 
 
それでは皆様、ごきげんよう。




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