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緊急投下用スレ

984【ヘドロが】【降り注ぐ】:2009/06/22(月) 22:01:09 ID:y1xLmmrY
桜田邸からの帰り道、私はジュンのことを考えていた。
どうして、あんなにも鬱ぎ込んでしまったのか……その理由が知りたかった。
彼は、なにから逃れようとして、小さな世界に閉じ籠もってしまったのだろう。
 
周りが優しくなかったから?
たぶん違う。そもそも、取り巻く全てが苛烈だったら、大学に行く気になどならないだろう。
のりさんを始め、家族は今でもジュンの味方なのだ。
 
――なんて考えつつも、的を外しているなとも思う。
優しいとか厳しいとかの単純な理由ならば、この問題は、とっくに解決していたはずだ。
しかしながら、今だにジュンは居心地の悪さの中で、悶々と生きている。
 
 
やおら、異臭に鼻を衝かれた。そよ風の不意打ちに、私の思考が中断される。
今更ながら、私はドブ川の側道まで戻っていたことに気づいた。有栖川荘までは、もう遠くない。
 
にしても、酷い臭いだ。春先でさえ窒息しそうなのに、真夏なんて、どうなるのかしらん。
フェンス越しに覗けば、毒々しいとしか形容し得ない澱みが横たわっていた。
両岸ばかりか、水底さえもコンクリートで固められてしまった小川の、死骸だ。
動きを止めた腐り水から、ぽこり、ぽこり……得体の知れない気泡が生まれている。
不気味に隆起するヘドロには、およそ生き物の息づかいなど感じられなかった。
 
ヘドロは、自然界が処理しきれなかった栄養分の、なれの果て――
ふと、私の中に閃くものがあった。彼を腐らせているのは、与えられすぎた優しさなのではないのか、と。
さっきの短い会話からも、彼が、のりさんを疎ましく感じている気配は伝わってきた。
 
ジュンは、気づいていたのかもしれない。
自分の居る場所が、消化しきれない愛情のヘドロに埋まりつつある事実を。
大学に進んだのも、ヘドロの溜まり場から逃れたいがためで……
その試みの達成を願いながら、私は、ヘドロが生み出すあぶくの群れを眺めていた。




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