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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第五章

312崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2020/03/10(火) 19:49:32
代償を支払ったのは、ジョンだけではない。
エンバースもだ。エンバースは我が身を燃やし、その力をもってして魔剣を生み出し魔皇竜の臓腑を貫いた。
ほとんど真っ白になっていたエンバースだが、なゆたがジョンを見ている間にその姿は元の黒装束に戻っている。
思わず、なゆたはほっと安堵の息をついた。

>俺の望みも、お前が継いでくれ――死ぬな。それと、フラウを頼む

切り札を使用する際のエンバースの言葉が、どうしようもなく別れを想起させるものだったからだ。
だが、彼は依然としてそこにいる。なゆたの傍に立っている。
確かにエンバースの切り札は、失敗すればその消滅を意味するものだったのかもしれない。
けれど――そうはならなかった。彼は賭けに勝ち、そしてその喪われた命をも繋げることができた。
彼の死体ならではの捨て身の戦いぶりは心臓に悪い。

「エ……」

右手を伸ばし、なゆたはエンバースの名前を呼ぼうとした。

>……辺りの哨戒をしてくるよ。戦場のモンスターが全て消滅したか、確認が必要だ

しかし、その手が、声が、エンバースに届くことはなかった。
エンバースは踵を返すと、ひとりで周辺の残敵の確認に歩いていった。
その背を追えばよかったのかもしれない。
エンバース、と。
待って、と。わたしも一緒に行くよ、と――
そう言えたのならよかったのかもしれない。
だが、言えなかった。
エンバースの背中が、何者をも拒絶するように見えたからだ。

「………ッ………」

おず、となゆたは伸ばしかけた手を引くと、軽く胸元に添えた。

「さぁて、と! では我々もそろそろ撤収しようか!」

ぱん! と手を叩き、バロールが〆に入る。
なゆたはその音に反応してびくり、と一瞬身体を震わせ、エンバースから視線を外した。

「そうだね、夜になる前に戻らなきゃ……」

帝龍を撃破した今、もうこの場所に用はない。件の帝龍は拘束され、気絶したジョンの隣に転がされている。
日が暮れれば気温は下がるし、何よりスマホを狙撃した正体不明の存在も気になる。
一刻も早くアコライト外郭まで撤退するのが賢い行動というものだろう。
とはいえ、ここ帝龍の本陣に来るために使った魔法機関車は今やボロボロになって横たわっている。どう見ても使用不可能だ。
300人の守備隊を引き連れて徒歩でアコライト外郭まで戻るとなれば、丸一日はかかる。
激戦を潜り抜けた兵士たちにそれは酷であろう。何よりなゆたたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の体力が持たない。
しかし、バロールには策があるらしい。

「では、みんな一列に並んでくれたまえ! これから『扉』を作るからね――」

トネリコの杖を大きく振るうと、バロールの目の前の空間に巨大な黒い穴が出現する。
『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』。ミハエル・シュヴァルツァーや兇魔将軍イブリースがたびたび利用した転移の門だ。
ゲームの中では敵キャラが撤退する際に使う都合のいいギミックで、プレイヤーは使用できなかった。
だが、バロールはさすが元魔王なだけあって使用できるらしい。

「この門をくぐれば、一瞬でアコライト外郭へ帰れる。
 うん? 魔法機関車なんて使わないで、最初からこれを使っておけばよかっただろう……って?
 この魔法は転移魔法の常で、一度行ったことのある場所にしか行けないからね! 仕方ないね、はっはっはっ!
 さあ、帰ってごはんにしよう! わたしもヘトヘトに疲れてしまった、いやー働いた! 働いた!」

そう言うと、バロールはさっさと『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』をくぐって姿を消してしまった。
それから、守備隊の兵士たちも続々と門をくぐりアコライト外郭へと帰ってゆく。

「………………」

全員が門の向こうへと姿を消すと、最後までその場に残ったなゆたは軽く戦場跡地を見渡した。
そして最後に、マホロが活路を開くために自爆した場所へと視線を向ける。
ひょう……と広大な平地を冷たくなり始めた風が通り抜け、なゆたのサイドテールにした髪を撫でてゆく。
風は、まだかすかに焦げ臭いにおいがした。

「……さよなら……マホたん」

我が身を捨てて皆の命を護った、先輩『異邦の魔物使い(ブレイブ)』。
その挺身に感謝を、そして別れを告げると、なゆたは『形成位階・門(イェツィラー・トーア)』へ足を踏み出した。


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