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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第五章

103崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/11/01(金) 20:00:52
「やっ。ここいいかな? 笑顔きらきらのお兄さん」

なゆたが夜哨を明神に代わって、三十分ほどが経過したころ。
ふわりと風が揺れたかと思うと、大きな翼を広げたマホロが城壁の歩廊へと舞い降りてきた。

「星の綺麗な夜には、こうしてよく空の散歩をするんだ。
 綺麗だよね、アルフヘイムの夜空は――あたしのいた東京の濁った空とは、全然違う」

翼を収納し、よいしょ。と歩廊の壁の上に腰を下ろし。
深くスリットの入ったロングスカートから惜しみなく太股を覗かせて脚を投げ出す。
はー。と息を吐き、マホロは空を見上げた。

「お兄さん、せっかくだからあたしとお話ししようよ。
 明日になったら、もうお話しもできなくなっちゃうだろうから……」

無邪気な、ネット上で見るものと同じ人好きのする笑顔を明神へと向ける。

「ねえ……お兄さんは、楽しい?
 このアルフヘイムに『異邦の魔物使い(ブレイブ)』として召喚されて、楽しいことはあった?」

ぱたぱたと脚を交互に揺らしながら、マホロは訊ねる。

「……あたしはね。この世界に来てよかったと思ってるんだ。
 この星空だけじゃない。あたしたちの世界がとっくに無くしちゃったものが、この世界にはある。
 そりゃ、アルフヘイムにはインターネットもなければパソコンもない。いつでも冷え冷えのジュースが飲める冷蔵庫も、
 ぬくぬく快適なエアコンもない。ベッドだってただ木の台にシーツを敷いただけの、酷いものだよ。
 でもね……それがすっごく新鮮なんだ。何より――この世界は、あたしに思い出させてくれた。
 あたしが一番最初にVtuberをやり始めた頃の、あの気持ちを……」

今でこそ500万人を超えるフォロワーを擁するユメミマホロだが、最初からそうだったわけではない。
むしろ、いわゆる動画配信者としては遅咲きだった。最初は配信に注目する者もいなかった。
Vtuberなどキワモノに過ぎないと、白けた目で見られ続けていたのだ。
しかし、それでもよかった。自分の好きな話題を、面白いと思う内容を配信し、たったひとつでも共感を得られれば嬉しかったのだ。
だが、ユメミマホロの名が売れ始め、スポンサーが付き、会場を借り切ってコンサートまでするようになったとき。
ユメミマホロはいつの間にか、一番最初のユメミマホロとは別物になっていた。
スポンサーに配慮し、あまり尖った内容の配信はできない。
まず視聴者ありきで、どんな話題が登録者を稼げるか? どうすれば視聴数が伸びるか? そればかりを考える。
分単位のスケジュールをこなし、歌を歌い、ラジオに、配信に、果ては声優の真似事までこなした。
気付いた時には、ユメミマホロはユメミマホロのものではなくなっていたのだ。

「この世界では、あたしは本当に自分のやりたいことができる。
 スポンサーのために歌うんじゃない。お金儲けのために配信するんじゃない。誰のためでもない――
 あたしが、あたしとして、あたしのために行動できるんだ。だから……」

ぎゅ、とマホロは自分自身を両腕で抱き締める。

「だから。あたしは守らなくちゃならない。
 この壁を、ファンのみんなを。あたしをあたしでいさせてくれる、このアコライト外郭を――守備隊の人たちを!
 あたしはここが好き。みんなが大好き! だから……その恩を返さなきゃいけない。返したい!
 そのためなら――あたしはどんなことだってする。『戦乙女の接吻(ヴァルキリー・グレイス)』だって捨ててやる!
 ――そう、覚悟を決めていたつもりだったのに。実際にジョンさんに事実を突きつけられると、何も言えなかった。
 あたしは臆病者だね……。
 ……庇ってくれてありがとう。嬉しかった」

この世界には、ユメミマホロに素行がどうのと口出ししてくる厄介なスポンサーはいない。
マホロは自分が自分らしくあるため、『異邦の魔物使い(ブレイブ)』として戦う道を選んだ。
その覚悟は生半可なものではない。マホロは命を懸けてここでアイドルをしているのだ。

「心配しないで、明日の戦いではうまくやるわ。あたしの歌で、みんなに加護を与えましょう。
 地球でも、そうやっていろんなレイド級を討伐してきたんだから!」

ぐっ、と右の拳を握り込んでみせる。
『笑顔で鼓舞する戦乙女(グッドスマイル・ヴァルキュリア)』の歌は強力だ。彼女は間違いなく自分の仕事をこなすだろう。

「……お兄さん。さっき庇ってくれたお礼と言ってはなんだけど、あたしもひとつ秘密を話すよ。
 聞きたがってたでしょ? あたしが、どうしてキングヒルと連絡を絶っていたのか――」

ひょい、と壁から降りると、マホロは明神に向き直った。
そして――まっすぐに明神を見据えながら、口を開く。

「バロールのことが信用できないからよ」


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