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仮投下スレ

1名無しさん:2015/07/15(水) 00:22:03 ID:YFA/rTa20
作品の仮投下はこのスレでお願いします

575あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:31:49 ID:XANdSxh60
「じゃあ、さっさとそいつらも始末した方があなたの身のためなんじゃないかしら」
「……考えておきます」

カタカタとパソコンに何かを打ち込む東郷。
後ろから覗けたなら、集めた情報をテキストファイルに打ち込む姿を見ることが出来ただろう。
それを抜きにしても、彼女の異常なタイピング速度は機械音痴なるう子や、ウリスでさえも目を見張るものがあった。
ともかく尋問はこれで終わったらしい。

「じゃあ、私は外の様子を見てくるわ。
盗み聞きなんて無粋な真似はしないから、お二人で積もる話でもあればどうぞ。
……ああ、小湊るう子を勝手に殺したりしたらダメよ、東郷美森さん」

そう言うと、ウリスは“スマートフォンをるう子にわざと見せるように持ちながら”部屋を出た。

「(あれって……)」

ウリスが離れたのを確認した東郷は、テキストファイルを他人に見られないよう暗号化、そしてパソコンをシャットダウン、カードに収納。
もしここが殺し合いの場でなかったなら、是非ともパソコンというもののイロハを習いたいくらいの手際の良さだった。
当の本人はといえば……顔色はお世辞にも良いとは言えず、下手をすれば嘔吐してもおかしくはなかった。

「風邪薬だけど、私持っていたんで、よかったら……」
「余計なお世話です」
「でも……」

るう子には、気になることが幾つもあった。
咲との会話を盗み聞きしていた彼女は、小湊るう子の人となりを多少は把握している。
それにウリスも居るのだから、情報は筒抜けだろう。
だがるう子は、三好夏凜から聞いている情報程度でしか東郷美森という少女のことを知らない。
人助けをする勇者の一員である彼女が何故殺し合いに乗っているのか、理由が分からない。
何故ウリスと一緒に行動しているのか、どう見ても不仲なのに、何故。
何よりも。

「携帯電話、ウリス……伊緒奈さんに取られちゃったんですか?」

目下最大の疑問点は、そこだった。

「あなたには関係のないことです」
「見ました、チャット。東郷さんが犬吠埼樹って人……同じ勇者部の人を殺したって」
「関係ないって言っているでしょう」
「ちょっとだけヘンだと思ったんです。幾らチャットが始まったのが最初の放送の後だからって、何で書く必要があるのかなって」
「だから、あなたには……」
「でも、東郷さんとウリスが居て、ウリスがあれを持ってて……」
「いい加減にして!」

東郷の声色には、隠せない動揺がはっきりと表れていた。
事実、彼女はかなり焦っていた。


*  *  *

576あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:32:48 ID:XANdSxh60

「どうするつもりかしら」
「この子から持っている情報を聞き出して、後は始末するつもりです。ところでその手紙は?」

旅館に着いた時、二人の目に真っ先に飛び込んできたのは一通の手紙。
ウリスはそれを手早く回収してざっと目を通すと、東郷に見せることなくポケットにしまった。

「殺すのは後にするわ。まだまだ利用価値があるみたいだし」

どういう意味だ、と聞いても無駄なのだろう。
ウリスが客間でるう子を縛っている間に、彼女の所持していたノートパソコンのケーブルをコンセントに繋いだ。
そして、チャット機能が午前6時に開放されたということに気付き、書き込みに目を通す。

「……」

真っ先に書き込まれていたあの一文。書き込み主は『M』。
最初は冗談だろうと思い、ウリスの顔をちらりと見た。
視線に気付いた彼女は、煽るような笑みだけを返した。

次にあった書き込みは、友奈のものだった。書き込み主は『Y』、イニシャルも一致する。
きっと私のことを心配してくれているのだと、すぐに分かった。
こんな、既に四人を手に掛けた、勇者という言葉から掛け離れてしまった私を。

最後の書き込みは、聞き覚えのある『義輝』、そして神社でるう子が言っていた『タマ』。るう子が夏凜と会っているということが、容易に想像出来た。
書き込み主は『R』。るう子のRだとしたら、全て説明が付く。

ウリスが私のイニシャルである『M』を騙り、そのスマートフォンで嘘を流したのだ、と。

頭を抱えていた矢先、るう子が目を覚ました。
嘘を吐いたと分かれば始末する――そのつもりで放った言葉が、ウリスの横槍でただの拷問に成り下がる。
しまいには、殺すべき相手にすら心配されていた。

分かっている。
この八方塞がりな状況を打破するためには、ウリスという悪意の塊を切らなければならない。
だが彼女は勇者の力をいつでも使え、自身の手には、弓矢だけ。

「(どうすればいい……どうすれば……)」

ぴしゃり、と東郷の思考をまたしても遮ったのは、襖が開かれた音。

「さて、そろそろお話も済んだかしら」
「ウリス……」
「心配することはないわ小湊るう子。タマに会えるかも知れないわよ」
「え?」

どういうことだ、東郷も問い詰める。
すると、玄関で見つけた手紙を取り出した。
さっきは見る前にウリスに取られたが、封筒には『小湊るう子へ』と書かれている。

「知ったツラした奴がタマを持っていることが分かったわ」
「それって……」
「三回目の放送までにはあなたを探しにここに戻ってくるって、ねっ!」

るう子の首筋にあてられたウリスの手から、バチバチと電流が流れ出す。

「づ、あぁっ!?」

意識を失ったるう子を抱えるウリスの手には、手袋のようなものがされていた。

「スタンガン……ではないようですが」
「用途は同じね、ガンじゃなくてグローブだけれど。そろそろ行きましょうか」


玄関を出て、スクーターに三人乗り。幸いにも車椅子は折り畳めるのでさほど荷物にはならない。
が、やはり三人だと全速力とはいかないか。

「そういや定春……例のデカい犬とやら、乗り物として使えるのかしらね」
「生き物ですから、何をするかは分かりません。今は不確定要素を増やすべきではないかと」
「ふーん……」

別に構わない。彼女はいつものように、悪意に満ちた笑みを浮かべる。

577あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:33:25 ID:XANdSxh60
手紙の主である“アザゼル”と名乗る人物。文面には、彼が悪魔であることが書かれていた。
心当たりが一つ。
高圧的な態度を取り、あまつさえ自分を放り投げた忌まわしいあの男のことだとしたら。
あの時は遅れを取ったが、今この手には勇者の力がある。

煮え湯を飲まされた相手が、“人質”の友人を手札に持っていて、更に“人質”を探している。
ここまで面白く重なった偶然を利用しない手はない。
問題は彼の行方だが、最初に出会った場所とこの旅館に訪れたという事実。
そのままの進路で、禁止エリアを避けつつ人を探しているとなれば……行く先は決まりだ。

三人を乗せたスクーターが向かうは放送局。
アザゼルが居なかったとしても、東からの追跡者から逃げるには必然的に通ることになる。
その後は島を反時計周りするか、それとも“ティッピーの巣”に向かうか……?

「(精々首を洗って待ってなさいよ、クソったれさん)」



東郷美森は考えた。
今ここで隙を付けばウリスを殺せるかも知れない。だが、無理だろう。
犬吠埼風の悪ふざけの一撃すら難なく耐えた勇者の精霊防御だ。
きっと、ただの弓矢でも結果は同じだろう。

るう子を利用してでも、主導権を取り戻す。
思考回路の大半をそこに割いた結果、彼女は気付かなかった。
このスクーターが、放送局に向かっていることに。
三好夏凜や結城友奈が向かっている、放送局に。


*  *  *

――現在チャットルームには誰もいません――

――入室者有り――


K:『友奈?友奈なの?私よ、にぼっしーよ』


――退室しました――

――現在チャットルームには誰もいません――



【G-3/宿泊施設付近/一日目・昼】
【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】  
[状態]:全身にダメージ(小)、疲労(小)、スクーター運転中
[服装]:いつもの黒スーツ
[装備]:ナイフ(現地調達)、スタングローブ@デュラララ!!
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(19/20)、青カード(18/20)、小湊るう子宛の手紙    
    黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか?
     ボールペン@selector infected WIXOSS
     レーザーポインター@現実
     東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である
     スクーター@現実
     宮永咲の不明支給品0〜1(確認済)
[思考・行動]
基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。
     0:放送局に向かう。アザゼルを見つけ次第復讐する。
     1:東郷美森、及び小湊るう子を利用する。
     2:使える手札を集める。様子を見て壊す。
     3:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。
     4:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。    
     5:蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。
     6:出来れば力を使いこなせるようにしておきたい。
     7:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける
[備考]
※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。
※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。

578あなたの死を望みます。  ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:34:10 ID:XANdSxh60

【東郷美森@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、動揺、満開ゲージ:4
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:弓矢(現地調達)
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、
    定春@銀魂、不明支給品0〜1(確認済み)
    風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか?
    ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量少し)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する
     0:早急に浦添伊緒奈を切りたい
     1:南東の市街地に行って、参加者を「確実に」殺していく。
     2:友奈ちゃんたちのことは……考えない。
     3:浦添伊緒奈と小湊るう子を利用して、始末する。
     4:どうすれば……?
[備考]
※参戦時期は10話時点です
※チャットの書き込み(3件目まで)を把握しました。

【小湊るう子@selector infected WIXOSS】
[状態]:全身にダメージ(小)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(中)、両手両足拘束、気絶
[服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻
[装備]:黒のヘルメット着用
[道具]:腕輪と白カード
    黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル
     宮永咲の白カード
 [思考・行動]
基本方針:誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。
   0:……………。
   1:シャロさん………
   2:ウリスと東郷さんに対処したい。
   3:遊月、晶さんのことが気がかり。
   4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。
   5:東郷さんとウリス、仲が悪いの……?


【スタングローブ@デュラララ!!】
宮永咲に支給。
鯨木かさねが使用していたグローブで、肘に付けたスイッチを押すと電流が流れる。

579 ◆DGGi/wycYo:2016/01/23(土) 01:34:54 ID:XANdSxh60
仮投下を終了します

580 ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:45:53 ID:ho6pdns.0
放送案を投下します

581第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:47:25 ID:ho6pdns.0
――白い部屋、大きな窓、繭。

時を告げる重厚な針が二つ、頂上で重なる。
少女は手近な窓を一つ開け、“向こう側”へと語りかけた。


『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ。
今あなたたちが何をしているかなんて関係ないわ。
大事な放送なんだもの、きちんと繭の話を聞きなさい。聞かない子はどうなっても知らない。
まずは禁止エリアの発表よ。


【B-8】
【E-5】
【H-4】


午後三時になったら、今言った三つの場所は禁止エリアになる。死ぬのがイヤならそこから離れるのをお勧めするわ。
それから、A-4に掛けてあった橋が直ったの。だからここの禁止エリアは解除してあげる。頭の片隅にでも置いておきなさい。

それじゃあ、死んじゃったみんなの名前を言うわよ。


【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】


さあこれで全員、14人よ。6時間前の分も合わせたら……残りは39人。
ふふ、まさかたった半日でこんなに死んでいくなんて思わなかったわ。
ここまで残ってきた人はとっても強いのか、誰かに守ってもらったのか、それともとっても運がいいのか、どうかしら。

でもあなたも、あなたも、そしてあなたなんかも。横に居る子に突然裏切られたりしないように気をつけた方がいいわよ。
もしかしたらその子はこの放送で大切な人が呼ばれたことで行動を変えた、なんてことがあるかも知れない。
他人が何を考えているかなんて、分かりっこないんだから。

それじゃあこの放送はここでおしまい。
次はまた6時間後、夕方6時。その頃に繭の声が聞ける子は……何人かしら。期待しているわ』


*   *   *

582第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:47:52 ID:ho6pdns.0

放送が終わり、再び部屋は静まり返る。
窓の向こうを幾つか覗いてみるが、なかなか面白いことになっている。
ここまで来たのだ。恐らく誰もが一人や二人、或いはそれ以上の知人友人等を失っていてもおかしくはない。
驚きや嘆き、その他諸々が色濃く伝わって来る。



「ふむ……」



繭のすぐ傍で、一つの声がした。

「何を見ているの?」

“男”はグラスに注いだワインを片手に、沢山の窓の中のある一つをじっと見ていた。
繭に声を掛けられた男は、にこりと微笑み返すだけだ。
ちらりとその窓を覗くと、参加者の一人である青年の姿が映っている。

「…………」

繭には、彼が何を考えているかは判らない。
この殺し合いを持ち掛けてきたのは彼なのだが、如何せん彼が何を思ってやっているのか、それが理解出来ない。

少女はただ一言、男の名前を呟いた。



「ヒース・オスロ……」



※A-4の橋が修理され、渡れるようになりました。
それに伴い、A-4の禁止エリア状態が解除されます。

583 ◆DGGi/wycYo:2016/03/02(水) 15:48:13 ID:ho6pdns.0
放送案投下を終了します

584 ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:22:36 ID:NLj2Npss0
放送案投下します。

585第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:23:36 ID:NLj2Npss0


  命が、消えていく。
  虚空に解けた夢が、消えていく。
  魂は一枚のカードに封じられ、ゆっくりと、人は死んでいく。
  
  ディルムッド・オディナが死んだ。
  その呪いで多くの錯乱を生み出し、されども前を向いたその果てに、彼の英雄譚は呆気なく終わりを告げた。
  魔王の剣に抱いた誉れも、友への誓いも切り裂かれ。
  守ると誓ったものを守れずに、無念の中で朽ち果てた。

  保登心愛が死んだ。
  同伴者の本性に気付くことなく同じ道を歩み続けたが、きっと彼女は幸運だったのだろう。
  痛みも恐怖もないままに、魔王の断頭台で首を刎ねられ。
  苦痛の芸術の矛先となるより先に、舞台から転げ落ちた。

  入巣蒔菜が死んだ。
  彼女の生き様を語ることは、あまりにも難しい。確かなのは、眠り姫が成せたことは何もなかったということ。
  眠りの園で心地よく微睡みながら、叩き切られ。
  何かを残すこともなく、無念ですらなく、ただ死んでいった。

  雨生龍之介が死んだ。
  若き青さを胸に、この箱庭でも自分の芸術へ没頭し続けた男。彼の首を絞めたのは、その芸術趣向だった。
  迂闊が招いた銃声を前に、あっさりと撃ち抜かれ。
  最後に答えらしいものを得ながら、永遠の眠りについた。

  蒼井晶が死んだ。
  深愛する少女の為にと刃を隠し持ち、状況の変化に翻弄されながらも戦った少女は、あまりに不運だった。
  父を喪った子鬼を前に、セレクターが出来ることは何もなく。
  自身の思いの行く末さえ知らぬまま、その首はあらぬ方向へねじ曲がった。

  カイザル・リドファルドが死んだ。
  誰よりも正しい騎士道精神で、箱庭の殺し合いへと刃向かった彼の末路は、予定調和。
  少女の狂乱を見抜けず、その正しさが仇となり、血反吐を吐いて。
  かつて友と呼んだ男に全てを託し、魂の牢獄へ収監された。

  範馬刃牙が死んだ。
  最強の男、範馬勇次郎の死を前にして、若いグラップラーの心は簡単に壊れた。
  勝利を目前で摘み取られ、一人の男が修羅となるきっかけを生み出して。
  その遺骸はグラップラー・刃牙としてではなく、ただの『範馬』として海の底へと投げ捨てられた。

  高坂穂乃果が死んだ。
  愛と恐怖と友情に狂い果て、多くの罪を犯した少女に立ちはだかった死神は、最強の神衣であった。
  彼女が敵うわけもなく、されども最期に――犯した全てを赦されて。
  運命に翻弄され続けたスクールアイドルは、その生き様とは裏腹の、安らかな眠りに落ちた。

  桐間紗路が死んだ。
  迷いと罪悪感で対立を招いた、どこまでも普通の少女だった彼女。
  あまりにも殺し合いの場には向かない娘は、堕ちた勇者の矢に貫かれて。
  臆病な一匹のうさぎは、独りを恐れて、孤独に死んだ。

  花京院典明が死んだ。
  目の前で殺され続けた、見えざる敵に敗北し続けたスタンド使い。
  彼が勝利を収めることはついぞなく、宿敵の養分に成り果てて。
  それでも最期に勝利を宣言し、人間賛歌を証明した。

  ジル・ド・レェが死んだ。
  信仰に狂った魔元帥は、あまりにも多くの混乱と、数多の怒りを会場中に生み出した。
  盟友の書なくして彼の本領が発揮されることはなく、神衣の怪物に一蹴され。
  怨嗟の絶叫をあげながら、その妄執もろとも、粉みじんになって死んだ。

  ジャン=ピエール・ポルナレフが死んだ。
  優しく気高い騎士は、一人の少女に気を取られた。それは、生命戦維の怪物を相手取る上で致命的すぎた。
  その報いとばかりに、その背を片太刀の欠けた鋏で貫かれ。
  かつて守れなかった、妹のところへと旅立っていった。

  折原臨也が死んだ。
  愛する、愛する、愛する。彼は心の底から、人間という生き物を愛していた。
  愛に基づき寿命を縮め、まさに蟲を踏み潰すように、情報屋は怪物に蹂躙されて。
  一足先に、彼はあるかもわからない天国を目指す。

  蟇郡苛が死んだ。
  本能字学園の生きた盾という自らの役割を貫き、彼は常に盾であり続けた。
  顔面半分を貫かれてもなお、不沈艦・蟇郡を沈めること叶わず。
  一縷の後悔も、その胸になく。最後まで忠誠を貫いて、漢は逝った。

586第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:24:04 ID:NLj2Npss0


  日輪が、箱庭の頂上へと昇る。
  数多の物語と。
  数多の無念と。
  数多の未来と。
  数多の絶望を載せて。
  時は進む、それはまるで物語の頁を捲るように。

  
 「――元気にしているかしら。定時放送の時間よ」


  白い部屋からの起爆剤が、投下される。

587第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:24:29 ID:NLj2Npss0
◯  ●


 『あれから、十四人が死んだわ。
  ある者は勇ましく、ある者は迷走の末に、ある者は無念の中で、死んでいったわ。
  残っているのは三十九人。次に日が沈む頃には、きっと盤面の駒数は半分を切るでしょうね』

  くすくすと、その声は嗤う。
  生者全ての腕輪から発せられる声。
  繭――箱庭の主であり、参加者達の絶対支配者。
  そして、打開を目指す者にとっての不倶戴天の敵。
  その声は鈴の鳴るような音色で、昼を迎える箱庭によく響く。

 『じゃあ、早速死んだ子の名前を――』

  ふふっ。
  また、繭が嗤った。
  神経を逆撫でするような、声だった。

 『――言う前に、新しい禁止エリアを教えてあげないとね。
  今回も、封鎖されるのは三箇所よ。
  ペナルティは六時間前に言ったのと同じだから、勘違いしたりしないようにね。
  

  【B-5】
  【E-3】
  【G-7】

  
  ……以上三つのエリアが、三時間後の午後三時にはもう入れなくなるわ。
  鉄道に乗っている間は入れるのは変わらないし、そこは安心していいわよ。
  
  ああ、それと。 
  時間をかけちゃってごめんなさいね。
  A-4の橋の修理が、ついさっき完了したわ。これからは普通に通れるようになる』

  どくん。
  どくん。
  どくん。
  会場中から、心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。
  すべての参加者にとって、最も大事な事項。
  すなわち――誰が死んで、誰が生きているのか。
  それを、繭の声が読み上げる。
  笑みを、浮かべた。
  にちゃあと、唾液が歯と歯の間で糸を引いた。

588第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:27:09 ID:NLj2Npss0

 「では、死者の名前を読み上げるわ。
  よく聞きなさい。そして受け止めるの。
  もう戻らない命を噛みしめて、これからのゲームに臨んで。


  【ランサー】
  【保登心愛】
  【入巣蒔菜】
  【雨生龍之介】
  【蒼井晶】
  【カイザル・リドファルド】
  【範馬刃牙】
  【高坂穂乃果】
  【桐間紗路】
  【花京院典明】
  【キャスター】
  【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
  【折原臨也】
  【蟇郡苛】


  ――はい、全部で十四人。生き残りは、あと三十九人。
  そろそろゲームも中盤で、もっと加速してくる頃かしら。
  さあ、噛み締めなさい。
  そして自分が何をすべきかを、理解するの。『選択』するのよ。
  ……ふふ。
  それができたなら、これからどう生きるかなんて、自ずと見えてくるはずよ――」


  囃し立てる声。
  それは愉快そうに嗤ってから、最後を締め括った。


 「次の放送は午後十八時――また、私の声が聞けるといいわね」

589第二回放送-Love your enemies- ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:27:42 ID:NLj2Npss0
●  ◯


 「随分とご機嫌だったではないか、娘よ」
 「…………」

  放送を終えた繭へ、そう笑いかけたのは、いけ好かない男だった。
  黄金の頭髪を逆立たせ、目が痛くなるような同色の鎧を纏った美しい風貌の男。
  古代バビロニア――繭が生まれる遥か、遥か以前の時代に名を馳せたとされる、万古不当の英雄王。
  真名・ギルガメッシュ。繭は、そう聞かされている。
  『あいつ』が呼んだ、『いざという時』の為のカードの一枚であると、聞かされている。

 「ギルガメッシュ」

  繭にはわかる。
  というよりも、こいつの笑い方を見ていれば誰でもわかることだ。
  この男は、馬鹿にしたように笑う。――嗤うのだ。
  繭のことを、いつもいつも、憐れな道化を見るような瞳で見る。

 「『あいつ』は、何をするつもりなの」
 「くく――流石の貴様でも気付くか。あれが、おまえの望みとは違う方へ歩もうとしていることに」
 「……答えて」

  繭にとっての命の恩人。
  繭だけでは追い付かない部分を、補ってくれた協力者。
  タマヨリヒメを支給品に混入させた、張本人。

 「さてな。それには未だ時期が早い――今はそう答えておこうか」

  だが、と、黄金の男は付け加える。

 「我(オレ)に言わせれば、貴様も奴も、等しく愉快な見世物だ。
  存分に躍るがよいぞ、我がそれを許す」

  くつくつと笑い、霊体になって消え去る姿を見送って…… 
  繭は、ぎりっと歯を噛み締めた。
  やっぱり、こいつは嫌いだ。
  そう、改めて思うのだった。

  ――事態は、少しずつ、少しずつ……彼女の手を離れて、どこかへ向かい始めている――

  黄金は笑う。
  己を呼んだ者。
  紛れもない邪悪へ。
  人類種の仇敵へと。
  その在り方を心の底から嫌悪しつつも、さりとて、彼女達の奏でる音色はあまりにも愉快であったから。
  今はまだ、協力する。
  サーヴァントらしく、従属に預かって。
  黄金の王は、事態を俯瞰するのみ――。

 「何を夢見る、鬼龍院羅暁」

590 ◆gsq46R5/OE:2016/03/02(水) 16:28:09 ID:NLj2Npss0
投下終了です

591 ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:04:32 ID:4lDIj7gE0
放送案投下します

592第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:09:39 ID:4lDIj7gE0
白い部屋。このゲーム二度目となる死の宣告を下すべく、口を開いたのは主催者の『一人』である繭だった。

「ごきげんよう。皆、ゲームを楽しんでくれているかしら」

繭の声には自らが加害の立場にあるという優越感が含まれていた。
元の世界でどれだけ圧倒的な力を持つ人物であろうとも、この会場では等しくゲームの駒でしかない。
繭という絶対的な存在の前に成すすべもない塵芥にも劣る虫けら共である。
にもかかわらず、身の程知らずにもゲームに乗らず脱出を目指しているものがいる。
最初の内は見逃していたが、いい加減あの駒たちには自分の立場を分からせなければならない。。

「でもね、楽しむのは結構だけど、あんまり生意気な態度を見せて私を不快にさせない方がいいわ」

歌うように、けれども若干声のトーンを落として繭が言う。

「ここからの脱出なんて、できるわけがないんだから。脱出なんて無駄な事を考えるのはやめなさい」

それはあまりにも残酷な恫喝であった。お前らはここから出られない、ここで殺しあうしかないという呪いのい言葉。ゲームの過酷な現実を再度参加者に突きつける悪魔じみた宣言である。

「例えゲームに乗っていても、繭に露骨な反抗心を持ってる奴は気に入らないわ」

ギリッ、と歯をかみ締める。

「まさかとは思うけど、優勝した後、繭を倒そうと考えてる奴なんていないわよねぇ?」

反抗心を持つのは構わないにしても、それを隠そうともしない一部の参加者の態度は非常に不愉快だ。
ここでは繭が支配者であり、参加者はゲームの駒でしかない。駒が支配者に生意気な態度をとるなど許されることではない。

「もう一度、思い出した方がいいわ。今あなた達の命を握っているのが誰なのか」

再び声に加害の立場にいる人間特有の優越感が宿る。

「優勝しても、繭の機嫌を損ねたら、その場でカードにすることも、できるってことを、理解しなさい」

命を握られている人間の立場からすれば恐ろしいことこの上ない発言。それが分かっているからこそ、繭はその言葉を一言一言、刻みこむように参加者たちに告げた。

593第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:11:28 ID:4lDIj7gE0
「それじゃあ、禁止エリア……今回も発表してあげるから感謝しなさい」


【B-7】
【C-2】
【G-7】


「次は脱落者ね」


【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】


「さっきはキツイ言葉をかけたけど、あなた達には期待もしているわ。その期待を裏切らないように、ゲームに励みなさい」

594第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:12:54 ID:4lDIj7gE0
◆◆◆


放送を終えた繭は背後に控える協力者に向き直り言葉をかけた。

「それで、聞きたいことは分かっているわよね」

協力者は男であった。整った顔立ちに真紅のスーツを見事なまでに着こなした中年男性はオルゴールを片手に握っている。

「さて、まずは怒りを静めてもらえないかな。君に怒った顔は似合わない」

猫なで声で繭を宥めながら男性は繭にチョコレートを差し出した。
繭はそれを乱暴に受け取ると、ビニールを破って中身を取り出し口に運び、もきゅもきゅと租借する。

「君が何を言いたいのかは理解しているとも。タマヨリヒメが何故、参加者の支給品に紛れ込んでいるかだろう」

男性は、まるで舞台役者のような素振りで両手を翳しながら、繭の疑問を言い当てる。

「そうよ、私の質問に答えてくれるわよね……ヒース・オスロ」

その男はヒース・オスロと名乗る人物だった。

「非常に申し上げにくいのだが、あれは私の手違いだ。君には大変申し訳ないと思っている」

全く焦った様子もなく、オスロは淡々と告げた。

「ッ! 手違いで済む話ではッ!」
「落ち着くんだ、繭。腕輪がある限り奴らは我々に反抗できない。それに例の保険もあるだろう」

子供に言聞かせるような調子でオスロ。

「それは、そうだけれど」
「タマヨリヒメを誤って支給品に紛れ込ませてしまったことは改めて謝罪する。すまなかった」
「……もう、いいわ」

言いながら手のひらを差し出す繭。その意を汲み取ってオスロは再びチョコレートを手渡す。

「一つじゃ足りないわ」

更に三つほど受け取ってから、繭は満足げに頷き、その場を後にした。

595第二回放送 -その老人は黒幕- ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:14:35 ID:4lDIj7gE0
◆◆◆


繭が去った後、オスロの周りに一匹、また一匹とおぞましい何かが集まり始めた。
その正体は蟲だ。ゲーム参加者の一人である間桐雁夜が使役していたのと同種の蟲であった。
しかし、これはおかしい。間桐雁夜は既に脱落しており、現在はカードになっている。
そもそも、仮に脱落していなかったとしても、参加者の一人でしかない間桐雁夜が、この部屋の中に入ってこれるはずがない。
となればこの蟲を使役するのは、間桐雁夜とは別の人物であることになる。
ならば蟲が同種であることには、どう説明をつければよいのか。
その答えは至って単純である。蟲を使役する人間が間桐雁夜の関係者であれば説明がつく。

「カカカ、クカカカ、娘の世話が随分と板についているようじゃな」

姿を現したのは老人であった。
名を間桐臓硯。否、マキリ・ゾォルケンと呼ぶのが適切であろうか。
500年の時を生きる、正真正銘の妖怪であり、この舞台を整えた黒幕とも呼べる人物だった。
元の世界ではテロリストでしかないオスロが繭にこの舞台を提供できたのも、裏でこの老人が動いたからである。

「順調、順調、実に順調に儀式が進んでおる」
「全てこちらの目論見どおりですね」

グラスを二つ用意してそれにワインを注ぎながらオスロはそう口にした。
『タマヨリヒメ』が参加者の手に渡ったのも計画通り、言外にそう言い含める。

「ゲーム、いやあなたの言葉を借りるなら儀式か。その儀式が完成すれば、貴方は願いを叶える」

優勝者にはどのような願いも叶えるというのは欺瞞であった。
それはある意味では聖杯戦争やセレクターバトルと同じような仕組み。
勝ち残れば願いが叶うなどといったふわふわした言葉など、本気で信じる方が間抜けなのである。
単に願いが叶う、叶わないで言えば叶う、セレクターバトルではなく聖杯戦争寄りなこのゲーム。
しかし、その願いを叶えるのは優勝者ではなく間桐臓硯なのだ。

ではオスロはどうなのか。願いを叶えられるのは一人だけである。隙を突いて臓硯を出し抜くつもりなのか。
否である。あの妖怪を自分がどうこうできると思うほど、オスロは自意識過剰ではない。
確かにオスロは戦闘のプロであり、特にナイフによる近接戦に秀でているが、あの怪物を殺しきる自信はなかった。
オスロが欲したのは願いを叶える権利ではなく優勝者の肉体である。優勝者を元の世界に返すつもりなど初めからありはしなかったのだ。
臓硯は願いを叶え、オスロは優勝者の体を手に入れる。利害の一致によって両者は手を結ぶことができた。

「ご子息については残念でしたね。早々に退場することになってしまって」
「所詮あれは生き残れる器ではない。が、死に方が気に入らんがな」
「というと?」
「あれはもっと無様に見苦しく足掻いて死ぬと思うとったが、期待はずれにも程がある」

カッ、と臓硯が不愉快そうに白い床に杖を付く。

「そんなことより、貴様はどうなのだ。確か目をかけていた小僧がいただろう。風見雄二だったか」
「正直なところ、期待以上ですね」

雄二に殺しの技を仕込んだのはオスロであり、彼の戦闘技能の高さはオスロ自身が一番よく分かっていた。
しかし、このゲームには人間を超越した化け物たちが参加している。どれだけ一般レベルで強かろうと、あれらにその常識は通用しない。

「あの環境で雄二はここまで生き残った。他人と共闘したとはいえ針目縫を相手にして生存しているのも評価に値する」

優勝者として雄二が再び手元に戻ってくるのであれば、それはそれで良いかもしれない。
そんなことを思いながらオスロは自らがグラスに注いだワインに口をつけた。

596 ◆DbK4jNFgR6:2016/03/02(水) 17:16:15 ID:4lDIj7gE0
放送案投下終了します

597 ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:32:31 ID:8YOKizEM0
遅くなりましたが、自分も放送案を投下させていただきます

598第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:34:49 ID:8YOKizEM0



踊るように、少女が跳ねる。
バレエのように美しく舞うその身体は、重力を感じさせない動きで空を横切り。
黒い背景に映えていた彼女の姿は、やがて壁が保護色の白となって部屋へと溶け込んだ。

「ふふっ」

少女━━━━━繭の機嫌は悪くなかった。
殺し合いの中で生き残った人間の数は、既に当初の半数に近い。
この分ならば、もうすぐ行われる自分の放送が終わって間も無く半数を切るだろう。


少女は思い出す。

自らの行いに悔いながら、無惨に死んでいった少女を。

何も出来なかった自らを呪い、最後にはただ捨て台詞を吐いて死んでいった青年を。

自分の最期の行動となったそれが根本から間違っており、救われた筈の少女を人殺しにしてしまった青年を。


思い出す度に、彼女の昏い心は嗤う。
堕ちていく魂の行く先である、自分がいた永遠の孤独。
絶望と失意に塗れそこへ叩き込まれる魂が、孤独で傷付いた彼女の心を歪ながらも癒している。


だが、同時に少女は思い出す。

悲惨な現実に何度も何度も打ちのめされ、最早何も信じられなくなりながら、最期の最期でほんの僅かに救われた少女を。

自分の愛する存在へとその身を捧げ、末期の意識の中で自分の全てに決着をつけ、最期の瞬間までその愛を貫いた青年を。

目の前の少女を救う事も斃す事も出来ず、それでも尚その生き様に一切の悔いは無いと言い切り、仁王立ちのまで逝った漢を。


それらを思い出す度に、繭の心はざわざわと揺れる。
魂をカードに閉じ込めて、永久に孤独を味合わせる。
嘗ての少女と同じ境遇で、嘗ての少女と同じ生涯の孤独に陥れる。
その言葉に偽りはないにも関わらず、希望を抱いて現世を去った彼等が、繭の心を揺らめかせている。

或いは、その言葉を信じていないのか。
死んで尚、天国へと導かれ、そこで救いがあるなんて思っているのか。
それとも、カードに閉じ込められて尚、誰かに希望を残したのか。
死ねば皆独りの筈なのに、まるでその先に誰かがいるとでもいうのか。

そして、繭が何より腹を立てているのは。
まるで、見せつけられているようだった事だ。
お前には、これが無いと。
お前には、こんな細やかな希望すら許されていないのだと。
お前には━━━━━救いも何もない孤独しか知らないお前には、分かるまい、と。

腹立ちを紛らわせるように、彼女はその足を進める。
向かう先は、決まっていた。






「やあ〜、こんにちは〜」

間延びした声が、広い部屋に響く。
部屋の中には、一つだけポツンと置かれているベッド以外には特に物が存在していない。

「こんにちは、乃木園子さん」
「園子でいいよ、まゆゆ〜」

気の抜けたような間延びした声で、更に変な呼び名で呼ばれた事にむっとしながらも、すぐに表情を元に戻す。

この場所に来た理由は二つ。
一つは、この少女が何らかの行動を起こしていないか確認する為。
乃木園子━━━━━彼女自体が殺し合いに賛同するような人物ではない事は分かっている。
ゲームの維持の為には居て貰わなければ困る存在だが、核心に近い分下手な謀反を起こされる訳にもいかない。
そう言っていたのは「あいつ」。
その顔が脳を過ぎったが、特に気にする事もなく意識から消した。

そして、もう一つは。

599第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:36:24 ID:8YOKizEM0

「ねえ、あなたもそろそろ、殺し合いの会場は見飽きたかしら?」
「…………まあね〜。これだけ見てれば、見覚えのある景色ばっかりにもなってくるかな〜」

その言葉に、繭は顔を歪める。
にやりと笑う彼女を見返す園子に、繭は小さく囁いた。




「━━━━━それじゃあ、面白いものを見ましょうか」

そう言うと同時に、幾つもの窓が壁に現れる。
ふわふわと浮かんでいるそれを、薄笑いを浮かべて眺める繭と、顔色一つ変えないまま━━━━━尤も顔自体は包帯に隠れているのだが━━━━━見据える園子。
そうして間も無く、その窓が開く。
その中に移るのは、一人の少女。
ポニーテールに纏めたオレンジ髪の少女が、虚ろな目で何処かを見ている姿。



『…………ねえ、ちゃん……………』



ふと漏らしたその言葉から、園子も彼女の境遇を察する。
恐らくは姉が巻き込まれ、命を落としたのだろう。
二人はそうして暫く眺めていたが、全くと言っていい程動きのない彼女に飽きたかのような表情の繭が腕を振ると同時にその窓は閉じた。

「あの子は、あんまり動かなかったけれど…………他の子も見るかしら?」
「…………ううん、いいや」
「そう」

つれない返事に呆れながら、窓を全て消していく。
様々な柄や色で彩られた窓枠の中からは、全て今のように『観客』の姿が眺められるようになっている。



━━━━━『観客』を呼ぶにあたって、「あいつ」が制限したのは一つだった。

戦いに秀で、肝も据わっているような、そんな「強者」を呼ばない事。

それさえ守れば、何人呼ぼうが構わない、と言われた。

結局、『観客』として招いた人として選ばれたのは、平凡な毎日を生きているような少女達だった。

例えば、喫茶店で働く先輩や同級生に憧れる少女達。
例えば、廃校となる母校を救う為に歌を歌い踊りを踊る事を決意した少女達。
例えば、当たり前の平和になった世界で、当たり前のように平和な格闘技を行う少女達。
『観客』として招かれたのは、そんな少女達だった。

だが、それでいい。
繭にとって最も我慢ならない人種は、そういった「当たり前の日常を謳歌する人々」だったから。

険しい道程の中で、親しい仲間を殺される、或いは失った、そういう運命の中にいる、だとか。
得てして「強者」は、そういった不幸な環境に身を置く事が多い。
或いは、そういった不幸な環境にあったからこそ、「強者」となれたのか。

何であれ、そんな彼等だから、繭はまだ我慢出来た。
あの殺し合いに閉じ込めたほんの一部だけで、まだ十分だった。

けれど。
そんな残酷な現実など何処吹く風と、日常を謳歌する少女達。
或いは安穏と。
或いは平凡と。
そうやって過ごしていた少女達に対しては、それだけで済ませたくはなかった。

殺し合いとは別に、閉じ込めた部屋の中でひたすら殺し合いを鑑賞させる。
先輩や後輩や仲間や、そんな人々が打ちのめされ、死んでいく様を、まじまじとその目に焼き付けさせる。
悲しみに咽び泣く姿、激情に駆られ叫ぶ姿、ただ放心する姿━━━━━様々な彼女達の姿は、殺し合いとは別に繭の心を満たしてくれた。

600第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:38:43 ID:8YOKizEM0

ふと改めて、目の前の少女を見る。

目の前の少女、乃木園子は『観客』ではない。
あの世界を保つ為に用意された、歴とした舞台装置の一つだ。
だが、その境遇に、繭は僅かに興味を覚えていた。

一人の仲間が死に。
もう一人の仲間には忘れられ。
動かない体で、二年間延々と縛られている少女。
その境遇に、僅かに親近感を抱いていたのかもしれない。

だから、と。
繭は、園子へと口を開いた。

「ねえ、あなたはどう思う?
とっても可哀想なあなたは、この殺し合いをどう思っているのかしらね?
あなただって、本当はあの子達に嫉妬して━━━━━」



「━━━━━それ以上何か言ったら許さないよ?」

その言葉に、繭の身体は一瞬硬直した。
園子の言葉遣いや表情は、一切変化していない。
だが、その言葉に込められた怒りは、繭の心を押し潰す程に激しく煮え滾っている。

想定の範囲内、ではあった。
怒りを向けられて当然だし、その反応を楽しむ為にそう言ったとも言えるのだから。
下手に繭に手出しをすれば、何もかもがおじゃんになるのは園子にも分かっているだろう。
それを見越して煽るような言い方をした。

だから、それでも。
一時的に恐れこそすれ、繭はその言葉に心を変える事はなかった。
話は終わったとばかりに立ち上がり、そのまま放送に向かおうかと考え始めた。


それで、終わりのはずだった。





だが。
激情が収まった様子の少女が、ふと目を伏せて。
小さく、呟いた、言葉は。





「…………でも、うん。
━━━━━しょうがないよね、あなたも。
だから」




その、言葉は。



「私は、あなたを責めたりはしないよ」



繭の心に、一つの楔となって突き刺さった。



「……………ふ、ふふ、そうね、そうかもね」

ぎこちなく振り返り、口角を吊り上げて笑顔を形作る。
その表情のまま園子を見据えながら、逃げるように彼女はその部屋を後にする。
再びそこに残るのは、暗闇と小さなベッド、そしてそれに横たわる少女だけだった。

「……………だって、私がどうこう言える訳じゃあないからね」

ぽつりと。
友の思うままの世界の滅亡を、何をするでもなくただ見届けようとした事。
それを思い出しながら、残された少女も呟いていた。



部屋から出た瞬間に、繭は壁に拳を叩きつけた。

「何で…何でよ………!!」

苛立ちをそのまま口から吐き出すように、そんな言葉がついて出る。


それは、或いは望んでいた言葉なのかもしれなかった。
「同情」。
自分と同じ孤独にある少女に、自分を理解して欲しかったという感情が皆無だったとは、彼女自身も言い切れないかもしれなかった。


けれど、実際に彼女から言われたそれは。
自分と同じ、孤独な少女からのそれは。
気が変になりそうな程に、繭の心を打ち砕いた。

601第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:42:36 ID:8YOKizEM0


人の善意に触れる事が無かった、永遠の孤独の中にあった少女への。
人の善意を信じ、自らも善行を積む世界で、孤独になってしまった少女の言葉。
元が同じ孤独であるからこそ、繭はそこから生まれる心の違いに気付かされてしまっていた。

許せる、という事が。
許せてしまう、という事が。
繭には、どうしようもない程に見せつけられているように感じた。


自分が手にする事が無く、与えられる事もなかった━━━━━優しさだとか温もりだとか、そんな「当たり前」を。


「━━━━━許さない」

そして。
だからこそ、彼女は更に募らせる。
自分がそれを手に出来なかった事への怒りを。
それを手に入れて、輝かしい日々を送っている人々への憎しみを。
彼女の騒めく心が、更に加速していく━━━━━その時。

「繭様」

不意に、少女の背後から声が掛かる。
少女が振り返ると、そこにいるのは一人の女性。
黄色のスーツに身を包んだキャリアウーマンのような彼女━━━━━鯨木かさねは、繭に対して言葉を続ける。

「そろそろ放送の時間です。準備の方を━━━━━」
「…………ねえ」

鯨木の声を遮って、繭が口を開く。
そこから紡がれる言葉の内容に、鯨木は僅かに眉を顰めた。

「頼み事があるの」

より、絶望を加速させる為に。
自分という存在の道連れに、共に絶望に堕ちる人々の姿を見る為に。

「あいつには、内密にしてほしいんだけど━━━━━どうかしら?」

繭は、そんな言葉を言い放つ。
まるで、苛立ちを吐き棄てるように。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


『お待たせ。
ふふっ、良かったわね。前の放送から六時間、無事に私の声を聞けて。
もしかしたら、全く無事じゃないかもしれないし、私の声なんてむしろ聞きたくないなんて怒っている人も多いかしら?
でも、私のこの話を聞き逃して勝手に自滅なんてしたくないでしょう?
だったら、しっかり聞いておいた方が良いわよ。

まずは報告。
前の放送でも教えた、A-4の橋だけど……ついさっき、修理が終わったわ。
それと一緒に、A-4の禁止エリア設定もおしまい。また最初と同じように、島を行き来出来るようになったわよ。
お互いの島に、もしかしたら気になる人もいるんじゃないかしら?
探す為に、あるいは━━━━━殺す為に。
せっかく直したんだもの、ちゃんと使ってくれると助かるわ。

じゃあ、次。
とっても重要な、禁止エリアの発表よ。


【B-5】
【E-3】
【G-5】


今回の禁止エリアは以上よ。
今そこにいるって人は、急いで出ていった方がいいんじゃないかしら?
近くにいる人も、うっかり入っちゃってカードに閉じ込められたくはないでしょうから、気をつける事ね。

602第二回放送 -EXODUS- ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:43:43 ID:8YOKizEM0

そして、お待たせ。
多分皆お待ちかねの、この六時間での死者の発表よ。
ふふっ、皆不安かしら?好きな人が、仲間が、呼ばれちゃうかもしれないって?
それじゃあ、発表するわよ。



【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】



以上、おしまい。
今回は。前回と合わせれば………ふふっ、もう半分を切りそうね。
たった半日でこれなんて、皆頑張っているみたいね。
それに、半分だから………そろそろ皆一人くらい、知り合いが呼ばれちゃったんじゃないかしら?

最後に、二つ言いたい事があるわ。
でも、どっちも直接言っちゃうのはつまらないわね。
まず、一つは………そうね、ヒントは学校よ。
もう知っている人も少しいるみたいだから、分からない人は実際に行ってみるか、その人達に聞いてみるのはどうかしら?
もう一つは━━━━━もう忘れちゃってるかしら?それなら、思い出して、とだけ言っておくわね。
それとも、まだ知らないだけなら━━━━━もう一回、自分の手札を見直しておきなさい。カードバトルなら、自分の手札を把握する事はとっても大事なんだから。

━━━━━それじゃあ、今回の放送はここまで。
もしもまだ生き残れていたら、六時間後にまた会いましょう』




そうして。

様々な思惑を乗せて、ゲームは更に加速していく。

その終着点も━━━━━その最深部に蠢く存在すらも、未だ明かさないままに。






※A-4の橋の修理が完了し、同エリアの禁止エリア設定が解除されました。
※繭が鯨木に頼んだ頼み事の内容は後続の書き手さんにお任せします。

603 ◆NiwQmtZOLQ:2016/03/02(水) 23:44:27 ID:8YOKizEM0
投下を終了します。

604 ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:11:21 ID:b2ZrrbAM0
少々加筆修正したものを再投下します 一応指定はなかったので修正スレではなくこちらで。

605第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:12:10 ID:b2ZrrbAM0
――白い部屋、大きな窓、繭。

カードに閉じ込められた魂は一度この部屋に送られ、すぐに別の窓へと再び閉じ込められる。
バタンと大きな音を立て、また一つの窓が閉じた。

やがて時を告げる重厚な針が二つ、頂上で重なる。
少女は手近な窓を一つ開け、“向こう側”へと語りかけた。


『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ。
今あなたたちが何をしているかなんて関係ないわ。
大事な放送なんだもの、きちんと繭の話を聞きなさい。聞かない子はどうなっても知らない。
まずは禁止エリアの発表よ。


【B-8】
【D-3】
【F-6】


午後三時になったら、今言った三つの場所は禁止エリアになる。死ぬのがイヤならそこから離れるのをお勧めするわ。
それから、A-4に掛けてあった橋が直ったの。だからここの禁止エリアは解除してあげる。頭の片隅にでも置いておきなさい。

それじゃあ、きっと一番欲しがっているお話、ここまでに死んじゃったみんなの名前を言うわよ。
大事な人が死んだなら……この後の身の振り方は、当然分かっているわよね?


【ランサー】
【保登心愛】
【入巣蒔菜】
【雨生龍之介】
【蒼井晶】
【カイザル・リドファルド】
【範馬刃牙】
【高坂穂乃果】
【桐間紗路】
【花京院典明】
【キャスター】
【ジャン=ピエール・ポルナレフ】
【折原臨也】
【蟇郡苛】


さあこれで全員、14人よ。6時間前の分も合わせたら……残りは39人。
ふふ、まさかたった半日でこんなに死んでいくなんて思わなかったわ。
ここまで残ってきた人はとっても強いのか、誰かに守ってもらったのか、それともとっても運がいいのか、どうかしら。

でもあなたも、あなたも、そしてあなたなんかも。横に居る子に突然裏切られたりしないように気をつけた方がいいわよ。
もしかしたらその子は大切な誰かが死んだことで行動を変えた、なんてことがあるかも知れない。
他人が何を考えているかなんて、分かりっこないんだから。

それじゃあこの放送はここでおしまい。
次はまた6時間後、夕方6時。その頃に繭の声が聞ける子は……何人かしら。
半分? もっと少ない? 期待しているわ』


*   *   *

606第二回放送 -カプリスの繭-  ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:12:27 ID:b2ZrrbAM0

放送が終わり、再び部屋は静まり返る。
窓の向こうを幾つか覗いてみるが、繭にとってはなかなか愉快な光景が広がっている。
既に半日が過ぎたのだ。誰もが一人や二人、或いはそれ以上の知人友人等を失っていてもおかしくはない。
現に誰もが驚き、嘆き、涙を流し、放心する。彼も、そして彼女も。


「ふむ……」



繭のすぐ傍で、一つの声がした。

「何を見ているの?」

金髪の“男”はグラスに注いだワインを片手に、沢山の窓の中のある一つをじっと見ていた。
繭に声を掛けられた男は、にこりと微笑み返すだけだ。
ちらりとその窓を覗くと、参加者の一人である青年の姿が映っている。
名前は確か『風見雄二』だったか。

男の傍には、いつからそこに居たのか風見雄二に瓜二つな青年が立っていた。
白髪赤眼の彼もまた、沈黙を崩さない。

「…………」

繭には、彼らが何を考えているかは判らない。
この殺し合いを持ち掛けてきたのは金髪の男であり、ルール調整や舞台となる島の準備等をお膳立てしたのも彼だ。
だが何がそこまで彼、若しくは彼らを駆り立てるのか、どうしても理解することが出来ない。


ヴヴヴ、と何かが振動する音。
その発生源であるスマートフォンをポケットから取り出すと、男は誰かとの会話を始めた。


「ああ、君か――」



少女はただ一言、憎しみの混ざった声色で男の名前を呟いた。



「ヒース・オスロ……」



※A-4の橋が修理され、渡れるようになりました。
それに伴い、A-4の禁止エリア状態が解除されます。

607 ◆DGGi/wycYo:2016/03/04(金) 15:13:11 ID:b2ZrrbAM0
以上で修正版を投下終了します
ダメだ、ということでしたら様子を見て破棄という形で構わないです

608名無しさん:2016/03/04(金) 16:28:05 ID:KGnSVus.O
乙です
問題はないと思います

609 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:15:12 ID:3jm/cueA0
一旦、仮投下させていただきます。

610 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:15:53 ID:3jm/cueA0


 人との出会いは一期一会。


 時期や出会い方が違うだけで……最高にいい出会いもあれば。
 どんな相性のいい相手同士でも――最悪の破滅に導いてしまうこともある。

 だからこそ、彼女は人と人との出会いを大切にしていた。

 
 ――――『ここ』に連れて来られるまでは。



 ◆ ◆ ◆

611 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:16:51 ID:3jm/cueA0



 あれから、しばらく歩いた。

『あの場から逃げた自分は間違っていない』
 
 そう何度も心の中でいい聴かせながら歩く。
 自分の行為の正当性を肯定するかのように。
 

(近くには人は……いないようやね……)


 地図の示す通りであれば間違いはないはずである。
 希は大きく溜息を吐き、辺りを見渡す。
 ……人の気配は感じられない。

(中に誰かおるんかな……)

 左手で研究所の扉を開ける。
 ゆっくりと……出来る限り気配を消して、音を立てずに。
 左手に縛斬・餓虎を持ち、いつでも護身は出来るように準備はする。

(……ッ!?)

 最初の部屋で希が見たのは破壊された痕跡。   
 思わず、目を瞑りたくなるような光景。
 しかし、希は決して目を逸らしたりはしない。 
 
 あの化け物たちならばこれくらいの惨状を作り出すくらいはできそうだ。
  
 あの守護霊? 幽霊?のようなもので戦っていたポルナレフ。
 そのポルナレフの仲間らしき学ランの男――承太郎。
 その二人相手を手玉に取っていた名前がわからない眼帯の少女。
 そんな奴らの戦いを目の当たりにしたら、そんな考えに至ってしまった。
 
(……そんな人らには学校に近づいて欲しくないわ……)

 国立音ノ木坂学院。
 最初から決めていた絶対に行かないと決めていた場所。
 希は3年間その学校に通っていた。
 一度の転校もせずに、同じ学校に通い続けた。
 そこが自分の『場所』と初めて思える所だった。

 その『場所』で出会えた『奇跡』。

 この殺し合いでその『場所』も『奇跡』を奪われた。

「ホンマ……勘弁してほしいわ……」
 
 思わず、声に出てしまった。

 溜息を吐いて、希は思もう。
 あの少女―――繭と言ったか。
 あの化け物どもばかり集まるここにただの少女達を呼んで彼女は何がしたいのか?
 狩られるための小動物(ターゲット)として呼ばれたのか?
 必死に生きるために戦って死ねとでも言いたいのか? 
 だが今、そんなことを自分が考えても埒が明かない。
 ただ、あの繭という少女が非常にスピリチュアルな雰囲気を醸し出していたのはよく覚えている。


(……絵里ち、穂乃果ちゃん……ウチは『穢れた奇跡』にもう縋るしかないんよ……)


 この汚れてしまった手ではどんなに綺麗な『奇跡』を掴んでも汚れてしまう。
 ましてやこんな殺し合いで叶うような『奇跡』だ。
 
 だが……今はそれでも構わない。

612 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:17:35 ID:3jm/cueA0

 
 一人で研究所の奥をどんどん歩いていく。
 非常に静かな自分の足音だけが反響しているのだけがわかる。
 人の気配どころか、奥はまだ綺麗な状態であった。
 そして、未だにここが何を研究している研究所なのかもわからない。

(…………どういうことやねん)

 思わず声に出してツッコミたくなった。
 そう考えた時、ふと時間が気になった。
 放送の時間が近づいて、もうそろそろのはずだ。
 
 希は一先ず、近くの部屋に入った。
 その部屋にあったのはテーブルと椅子と一台のコンピューターだけであった。
 
(このコンピューター使えるんかな……?)
 

 腰を掛ける前にコンピューター周りを調べてみる。
 コンセントは差さっている。
 しかし、ディスプレイは真っ黒で自分の貌しか映さない。
 電源のスイッチらしきものは見当たらない。
 あるのはカードの挿入口らしきものだけ。

「………ほんまわけわからんわ……」

 ここに着いて何度目かの溜息が零れそうだった時であった。


  『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら。二回目の定時放送の時間よ』

 
 ――二回目の放送が始まってしまった。

「…………」

 まずは禁止エリアが発表された。
 この研究所の隣のエリアが指定されていた。
 ここが禁止エリアでない、今はそれだけで十分だった。
  
  
  『それじゃあ、きっと一番欲しがっているお話、ここまでに死んじゃったみんなの名前を言うわよ』

 希は大きく息を呑む。

(絵里ちと穂乃果ちゃんは大丈夫やろうか……)

 会いたくない二人の顔が過る。
 それと同時に別のことを思ってしまった。

(……出来ればあの眼帯の女の子が神父さんや承太郎と呼ばれた人を殺してくれてるとええんやけどな)

 初めて人の不幸を願ってしまった。
 自分の胸の中で罪悪感に似たようなドス黒い感情が沸き上がっている。  

 固唾を呑み、繭の声に耳を立てる。

613 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:18:20 ID:3jm/cueA0


『ランサー』

 知らない名前。

『保登心愛』

 知らない名前。

『入巣蒔菜』

 知らない名前。

『雨生龍之介』

 知らない名前。

『カイザル・リドファルド』

 知らない名前。

『範馬刃牙』

 知らない名前。


『高坂穂乃果』


「……………え?」


『桐間紗路』

 ……………。

『花京院典明』

 ……………。

『キャスター』

 ……ことりの仇で自分の右手をこんなにした男。

『ジャン=ピエール・ポルナレフ』

 ……自分が見殺しにした男。

『折原臨也』

 ……………。

『蟇郡苛』

 ……………。

 その名前で死者の発表は終わった。
 もうその声を聴きたくなかった。

614 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:19:07 ID:3jm/cueA0

 だが、太陽が沈んだ。
 太陽が無ければ星や月はもう輝くことはできない。
 
 虚ろな目には黒いディスプレイに反射したただただ弱く惨めな自分の顔だけが映る。
 自身の頬に涙が伝っていくのが、はっきりとわかった。


「…………穂乃果ちゃん…………」


 μ'sのリーダー。
 自分の大切な友達。
 
 いつもひたすら真っすぐで皆を引っ張っていた。
 
 彼女には言葉に出来ないほどの感謝している。
 
 あの伸ばした手には皆が救われた。


 絵里もにこもことりも……。


 ここにはいない、海未も花陽も凜も真姫も……。


 自分だって。


 ――――彼女の大切なものはこの理不尽な場所でまた奪われてしまった。


 零れ落ちる涙が止まらない。
 溢れ出る感情を抑えきれない。


 色々な感情がぐちゃぐちゃに混じり合って自分でも分からない。
 
 
 放送が終わって数分経ってもその場を動けなかった。


 ただただその場から動きたくも何もしたくなかった。


「絵里ち……ウチはどうしたらええんや………」


 親友の名前が自然と出てしまった。
 会いたくないはずなのに今は無性に会いたい。
 会って何をしたいのか? 何を話したいのか? 
 それは自分でもわからない。

615 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:19:51 ID:3jm/cueA0


 その時である。
 

 彼女の目の前に突然起動し始めた。

(放送が終わって……動き始めたん……?
 最初からそう言う設定されてたんかな……?)

 しばらく、じっとコンピューターを眺める。
 すると、ディスプレイにこう表示された。

『IN
 RED……5
 BLUE……5
 BLACK……1
 WHITE……1

 OUT
 BLACK……1』

「………なるほど、カードの交換機っちゅうわけか………」

 ディスプレイに表示される文字列で希は理解した。
 恐らくは第二回放送までオミットされていたのだろう。

(ウチがいたからスイッチが入ったんかな? 偶然か? それとも……)
 

 そんなことはわからない。
 だが、それでも彼女は欲しかった。


 ―――力が欲しかった。


 ―――私たちの夢を守る力が欲しかった。

616 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:20:32 ID:3jm/cueA0
 

【D-4/研究所内/日中】

【東條希@ラブライブ!】
[状態]:精神的疲労(大)、右手首から先を粉砕骨折(応急処置済み)
[服装]:音ノ木坂学院の制服
[装備]:縛斬・餓虎@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)、ヴィマーナ@Fate/Zero(4時間使用不能)
基本方針:μ's全員を生き返らせるために優勝狙い。
  0:カードの交換機を使う?
  1:集団に紛れ込み、隙あらば相手を殺害する。
  2:にこと穂乃果を殺した相手に復讐したい。
  3:絵里ちには会いたくない……?
[備考]
※参戦時期は1期終了後。2期開始前。



【カードの交換機について】
・研究所に配置されており、一人あたりのカードの交換上限はない。
・赤カード5回分or青カード5回分or黒カード2枚or白カード1枚で新たな黒カード1枚と交換できる。
・出てくる黒カードは完全にランダム。超当たりアイテムもあれば超ハズレアイテム、重複もありうる。

617 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 19:22:04 ID:3jm/cueA0
以上で仮投下終了となります。
問題点等がありましら、ご指摘ください。

618名無しさん:2016/03/08(火) 19:43:48 ID:yqs5xVlE0
仮投下乙です
カード交換機の「重複もありうる」は消した方がよろしいかと
ただでさえ書き手の意思次第でいくらでも贔屓が出来るシステムなのに、例えば神威純潔にエアにアヴァロンが一気に出た、のような超強化が簡単にされるようになるのは困りますので
もっと言うならカード交換機自体がキャラへの贔屓等の荒れる原因になりかねないので、ない方が良いのではとも思いました

本投下時にどうされるかは書き手氏に一任します

619 ◆KKELIaaFJU:2016/03/08(火) 21:36:48 ID:MgQz1tlc0
ご指摘ありがとうございます。
カードの交換機の件は全カットし、誤字等を修正したものを後ほど投下します。

620 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:51:41 ID:4/9DJ61M0
遅くなりました 一旦仮投下します

621記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:52:54 ID:4/9DJ61M0
香風智乃という少女は幼い頃に母を亡くし、父と祖父、そして一匹のウサギと共に育ってきました。
友達と呼べる存在に出会えたのは中学の頃で、やがて自宅兼喫茶店には一人、また一人とバイトの少女がやって来ました。

チノの全てを変えたのは、その二人目のバイト――保登心愛であると言っても過言ではありません。

ココアはあっという間にチノに馴染み、血縁関係でもないのに馴れ馴れしく「姉と呼んでくれ」と頼んできたりもしました。
人懐っこい彼女は次々と友達を増やし、やがてチノを含めて全員の繋がりを作り上げました。

そんな彼女に対し、チノも最初はそっけない態度ばかりを取っていましたが、季節が過ぎ、徐々に心を開き始めていました。
ココアのことを、たった一度だけれど「お姉ちゃん」と呼ぶくらいには、チノ自身も知らず知らずのうちに懐いていたのかも知れません。

そんな矢先のことでした。


保登心愛が、死んだのは。



*    *    *

622記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:53:56 ID:4/9DJ61M0


二階にあるチノの部屋に集まった六人は、テーブルを囲むように座った。
行われているのでは合コンなどではない。情報交換だ。

とりわけ言峰綺礼の持っていた情報は、ほとんど市街地の範囲内から動いていない残りの彼らにとって非常に有用なものばかりだった。

一つ、殺し合いが始まって早々、DIOの館にてDIO本人と出会ったというもの。
ゲームセンターで起こった越谷小鞠殺人事件――その容疑者の一人であると折原臨也が示していた男。
ここでポルナレフとも出会い、館を破壊した上での逃走。もう彼は別の拠点に移っているだろうと綺礼は語る。

二つ、綺礼がポルナレフから聞かされていた『敵』の話。
正体不明のスタンド能力を使うDIOと、その配下、ヴァニラ・アイス。
吸血鬼であるDIOの血を分けてもらっていたが故に日の下に出られないが、空間を一瞬で飲み込む凶悪なスタンド使いだと言う。

三つ、逃げられてしまったが、東條希に出会ったこと。
元々はごく普通の学生だったにも関わらず、今は繭の思惑通りに“仕上がってしまい”その手を血に染めた少女。
そして彼女の友人の中には、キャスターの放送で呼ばれた者も居るという。
キャスターのことを知る綺礼が言うには、もう――。

四つ、今なお生き残っていてかつ綺礼の知る者たちに関して。
雨生龍之介とキャスター……残虐な連続殺人鬼。
ランサーにセイバー……誇りを持った騎士たち。
衛宮切嗣……手段を選ばないフリーランスの傭兵であり、平和島静雄とDIOに並ぶ、越谷小鞠殺人事件のもう一人の容疑者。

雄二はそれらをメモに手早く書き出すと、数枚の束になっている、びっしりと書かれたメモを手渡した。

「俺たちが持っている情報や仮説を全て書き記している。役に立つ筈だ」
「すまないな。しかし、これだけのものを書いて肩の傷は大丈夫なのか」
「ほとんど針目縫が来る前に書き終えてある。それに傷の手当はした。さっきのメモ程度ならどうということはない」

ならば良し、と綺礼もメモの束に視線を走らせる。

「そう言えば君の持っていたアゾット剣や紅林の持っていた令呪についての話がまだだったな」

その言葉に誰もが、特に雄二の意識が綺礼の方に向き――


――遮るように、第二回放送が始まった。





「……え」

最初に口を開いたのは、チノだった。
その意味は、この場に居る誰もが理解していた。

「リゼ、さん……」
「チノ……」

勿論リゼもよく分かっている、が。

「縁起でもないようなこと、言わないでください」
「!?」

623記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:54:40 ID:4/9DJ61M0
リゼと遊月が困惑する中、男たちは彼女の言っていることを瞬時に把握した。

確かに“似ている”。
すぐそこに居る天々座理世と先ほど放送を行った繭の声は、どういうわけか少々似通っていた。
そして、チノにとって大切な人が死に……それを、彼女は受け入れられなかった。
だから彼女は――

「あ、おい!」

横に居た遊月を押しのけ、部屋から走り去るチノ。
誰か追えばいいのに、そう思いつつ周りを見るが。
皆が同じだ。リゼは勿論、他の皆もどこか重苦しい雰囲気を漂わせている。

「くそっ」

仕方がない、と遊月はチノの後を追った。
少し遅れて、思い出したようにすっと立ち上がった雄二も部屋を発つ。


「……はぁ」

三人が部屋を出た後、リゼは仰向けに寝転がる。
そして目元を隠すように顔に腕を乗せ、誰ともなしに語り始めた。

「ココアは、何というか……ヘンな奴だった」

二人は黙って話を聞いている。

「私も、チノも、シャロも、千夜も、マメの二人も……みんなに分け隔てなく接してさ。
しかも出会ってすぐからそうだ。傍から見れば、馴れ馴れしいもいいところだ。
……私とのファーストコンタクトは、ちょっとアレな形だったけど」

思い出す。あの時は下着姿に拳銃という、あまりにも奇抜すぎる対面の仕方だった。

「でも……あいつが居て、シャロが居て、みんなが居て。
ちょっと平和ボケしてるって言われるかも知れないけど、それが当たり前の日常だった」

図々しいとは分かっていても。

「正直さ、ここでチノがいつものようにコーヒーを淹れていて、最初の放送で誰も呼ばれなかった。
もしかしたらこのまましばらくしたら千夜がシャロを連れて来てさ、ココアはいつもみたいに迷子になりながらもここに来て。
そうしたら、みんなで一緒に帰れるって――」

思っていたのに。言葉の端は、嗚咽で途切れた。

畜生、私はあいつらの中では一番年上なのに。一番しっかりしなくちゃいけない筈なのに。


「……すまない、一人で色々喋ってしまった」

気にするな、と返す承太郎。
彼とて同じだ。

「(ポルナレフ、花京院……それに……)」

承太郎とて仲間を喪うことは初めてではない。けれども、決して慣れているわけでもない。
ただ目を閉じ、奥歯を噛み締め、彼らの顔を思い浮かべた。
目の前で針目縫に殺されたポルナレフ。どこで誰に殺されたのか、肉の芽に操られていたかさえ分からない花京院。それに、蟇郡苛に折原臨也。
……最後の一人は思い浮かべるべきか少し考えたが、気にしないことにする。

泣き叫びはしない。どうして死んでしまったのかなどとは問わない。
ただ、心の中で別れを告げた。今はそれだけだ、と判断した。

目を開けた承太郎は、そのまま綺礼に視線を移す。
ペンを走らせているそのメモは、恐らく魔術についての記述だろう。

「なあ、神父さん――いや、言峰綺礼」
「改まって何だ」

筆を止め、承太郎に顔を向ける。

「この放送で色々気になることはある」

蟇郡苛が死んだ。
折原臨也が死に、一条蛍が生きている。
キャスターも、蒼井晶も。他複数の危険人物が死んだ。
そして、衛宮切嗣や平和島静雄の名前はまだ挙がっていない。

これからどうするだとか。
『DIOが平和島静雄を洗脳した』という臨也の推理についてだとか。
臨也が死んだ今、蛍の安否はどうなっただとか。

「だがその話は後でする。……天々座、少し席を外すぞ」
「ああ、分かった」

来い、と綺礼に促し、承太郎は部屋を出た。

624記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:55:32 ID:4/9DJ61M0

「……千夜はどうしてるんだろう」

一人になった部屋で、リゼはボソリと呟いた。
千夜にとって、ココアは親友、シャロに至っては幼馴染だ。

たまにネガティブ思考になる彼女だ。もしかしたら。

「(考えないでおこう)」

今はしばらく、一人で居たい。


*   *   *


チノの向かった先は、リゼたちの居る部屋のちょうど真上――ココアの部屋。
息を切らせ、扉を開ける。

「ココア、さん」

誰も居ない。

「居るんですか」

ベッドが膨らんでいる。

「ココアさん、起きてください」

布団を捲る。

「っ……」

うさぎの人形が入っていただけ。

ガチャリ。誰かが入ってきた。

「居た……」

息を切らせて、彼女は入ってきた。
涙でぼやけた視界が、その姿を捉える。

「ココアさん、今までどこに居たんですか!」
「お、おい……」
突然チノに抱きつかれたココア――ではなく紅林遊月は、少し考えて、理解した。

自分が今着ている服は、ラビットハウスの色違いの制服。
バータイムの服を除けばチノの水色、行方不明のココアのピンク、リゼに借りている紫。
更に、自分の声は“保登心愛”と少し似ているとチノは言っていた。
まさか、私を“ココアさん”だと――?

「違う、私は“ココアさん”じゃない」
「今度は何の冗談ですか……私の部屋にリゼさんたちも居ます。早く会ってあげてください」

落ち着け、と言わんばかりにチノの顔を真正面から覗き、手をあてる。
私は紅林遊月だ。決して保登心愛ではない。

「私の顔に、何か付いてますか」
「付いてるも何も、私は……」

「その辺にしておいた方がいい」

開きっぱなしの扉の外から、第三者の声が聞こえた。

「ちょうど良かった。風見さん、チノが……」

焦る遊月を制止するように、雄二は言う。

「チノ、部屋に戻っていてくれ。彼女を連れてすぐに戻る」
「でも、ココアさんが」
「五分だ。五分だけ、時間をくれ」

彼がそう言うとチノは大人しく引き下がり、部屋を出た。
パタンと扉が閉まると、雄二は遊月に向き直った。

「遊月、少しの間でいい。チノに合わせてくれないか」
「……え?」
「何かおかしいところでもあるか」

おかしいも何も。
何故私がそんなことをしなければいけないんだ、というのが本音だった。
チノ自身に僅かな苦手意識を持ってしまっている私が。

「私に、ココアさんの代わりなんて務まらないよ」
「判っている。それでも頼みたいんだ」

冗談だろう、と言いたくなる。
だが、彼の目は冗談を言う人のそれではない。

「……もしかしてだけど風見さん」
「何だ」

今から思い返しても、何故そんな質問が出たかはよく分からない。

「風見さんにも、姉か妹、居たの? それに、入巣蒔菜って確か」

その質問に対し雄二は、と短く肯定した。

625記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:56:38 ID:4/9DJ61M0

妹、というより娘にあたるのだろうか。
自分のことを『パパ』と呼んでいた蒔菜は、もう居ない。

訓練を受けている彼女は、人並みには強い。
……恐らく、承太郎のスタンドや針目縫のような“常人ならざる力”に遭遇したのだろう。

何が『もう自分は一人前だから十人救う』だ。
蒔菜は死んだ。守ると誓った五人の少女たちも、その二人が命を落とした。

だがまだ自分は生きている。まだ死ぬことを許されていない。
だったらせめて、雄二の傍で“壊れた”少女を救うことくらいは。
それが、風見雄二という人間に科せられた、罰なのだろうか。


紅林遊月の心境は複雑だった。

桐間紗路の名前が呼ばれた。
喧嘩さえなければ、きっと今頃彼女はここに着いていただろう。
彼女が死んだ原因は、元を辿っていけば自分に来る。

そんな自分が、シャロと仲の良かったチノとリゼの居るこの場所に居て、いいのだろうかと。
二人に責められれば、すぐにでもここを出て行こうかと思っていた。
チノを追いかけたのも、そんな思惑があったからかも知れない。

返ってきた言葉は、予想の斜め上を行くものだった。
ココアの幻影扱いされ、しばらく幻影を演じろというもの。

どうしてこんなことになったのか。
およそ半日前の、シャロと喧嘩した時の自分を問いただしても、答えは見つからない。




荒れた喫茶店に、二人は立つ。

「わざわざここまで来て、一体何を話すつもりなんだ」
「夜中にDIOと会ったって言ってたよな」

承太郎の鋭い眼光が綺礼を捉える。

「ああ。気になることでもあったか」

――極限状態における、人間の本性、魂の輝きを見ること。
――分かりやすく言うなら、他人が苦しんだり、必死になったりしているところを見てよろこ……。

青いカードの口から飛び出た、彼の“根源的な願望”。

放送が終わって、幾つかのゴタゴタがあった。
その中で彼は、堪えてこそいたが笑っていた。“愉悦”の笑みを浮かべていた。

言峰綺礼は歪みを抱えている。
どうにかそれを断ち切るには、今しかない。

「なあ、言峰綺礼」

かつて、肉の芽を埋められる直前のポルナレフがそうであったように。

「手前はDIOに何を言われたんだ」




626記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:58:07 ID:Sv9lOze.0


ココアの部屋を出たチノは、バルコニーに足を運びました。
下を覗いてみると、先程の戦闘の跡が生々しく残っています。

はぁ、と小さなため息。

彼女は分かっていました。
ココアやシャロは既にどこかで息を引き取っているのだと。
もう、生きている彼女たちには会えないのだと。

でも、それを認めてしまうと、自分が“壊れてしまう”気がして。
だから彼女は、自分から壊れた『演技』をすることにしました。

香風智乃という少女を保つために、わざとココアの幻影を作り上げたのです。
もし紅林遊月が居なかったら、彼女はきっと天々座理世を幻影に仕立てていたことでしょう。

喫茶店を失い、最初に自分を支えてくれた蟇郡苛も喪い、桐間紗路も、大切な義姉さえも喪った彼女には、それしか出来なかったのです。
そのくらいには、今の香風智乃は、脆い存在でした。



「助けてください……お姉ちゃ…………“ココアさん”」



【G-7/ラビットハウス/一日目・日中】
【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、現実逃避
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
   黒カード:果物ナイフ@現実、救急箱(現地調達)、チャンピオンベルト@グラップラー刃牙、グロック17@Fate/Zero
[思考・行動]
基本方針:皆で帰りたい……けど。
   0:……。

[備考]
※参戦時期は12羽終了後からです。
※空条承太郎、一条蛍、衛宮切嗣、折原臨也、風見雄二、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。

※紅林遊月の声が保登心愛に少し似ていると感じました。
※紅林遊月を保登心愛として接しています。



【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、精神的疲労(中)
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
     0:ココア、シャロ……。
     1:ここで千夜を待つ? 探しに行く?
     2:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい
     3:平和島静雄、DIO、針目縫を警戒
[備考]
※参戦時期は10羽以前。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。

627記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:59:40 ID:4/9DJ61M0
【天々座理世@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:健康、精神的疲労(中)
[服装]:メイド服・暴徒鎮圧用「アサルト」@グリザイアの果実シリーズ
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:不明支給品0枚
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
     0:ココア、シャロ……。
     1:ここで千夜を待つ? 探しに行く?
     2:外部との連絡手段と腕輪を外す方法も見つけたい
     3:平和島静雄、DIO、針目縫を警戒
[備考]
※参戦時期は10羽以前。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、一条蛍、香風智乃、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。


【紅林遊月@selector infected WIXOSS】
[状態]:口元に縫い合わされた跡、決意、不安
[服装]:天々座理世の喫茶店の制服(現地調達)
[装備]:令呪(残り3画)@Fate/Zero、超硬化生命繊維の付け爪@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/20)、青カード(20/20)
黒カード:ブルーアプリ(ピルルクのカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[思考・行動]
基本方針:叶えたい願いはあるけれど、殺し合いはしたくない
   0:情報交換を兼ねてラビットハウスで休憩。特に魔術の話を注意して聞く。それから……。
   1:シャロ……。
   2:るう子には会いたいけど、友達をやめたこともあるので分からない……。
   3:衛宮切嗣、針目縫を警戒。
   4:私は、どうしたら……。
   5:“保登心愛”としてチノと接するべきなの……?
[備考]
※参戦時期は「selector infected WIXOSS」の8話、夢幻少女になる以前です
※香風智乃、風見雄二、言峰綺礼と情報交換をしました。
※ピルルクの「ピーピング・アナライズ」は(何らかの魔力供給を受けない限り)チャージするのに3時間かかります。



【風見雄二@グリザイアの果実シリーズ】
[状態]:疲労(小)、右肩に切り傷、全身に小さな切り傷(処置済)
[服装]:美浜学園の制服
[装備]:キャリコM950(残弾半分以下)@Fate/Zero、アゾット剣@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
   黒カード:マグロマンのぬいぐるみ@グリザイアの果実シリーズ、腕輪発見機@現実、歩狩汗@銀魂×2
[思考・行動]
基本方針:ゲームからの脱出
     0:情報交換を兼ねてラビットハウスで休憩。特に魔術の話を注意して聞く。
     1:天々座理世、香風智乃、紅林遊月を護衛。3人の意思に従う。
     2:宇治松千夜の保護。こちらから探しに行くかは全員で相談する。
     3:外部と連絡をとるための通信機器と白のカードの封印効果を無効化した上で腕輪を外す方法を探す
     4:非科学能力(魔術など)保有者が腕輪解除の鍵になる可能性があると判断、同時に警戒
     5:ステルスマーダーを警戒
     6:平和島静雄、衛宮切嗣、DIO、針目縫を警戒
     7:香風智乃の対処をどうしたものか……。
[備考]
※アニメ版グリザイアの果実終了後からの参戦。
※折原臨也、衛宮切嗣、蟇郡苛、空条承太郎、紅林遊月、言峰綺礼と情報交換しました。
※キャスターの声がヒース・オスロに、繭の声が天々座理世に似ていると感じました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。
※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。
[雄二の考察まとめ]
※繭には、殺し合いを隠蔽する技術を提供した、協力者がいる。
※殺し合いを隠蔽する装置が、この島のどこかにある。それを破壊すれば外部と連絡が取れる。

628記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 00:59:59 ID:4/9DJ61M0

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中)、胸に刀傷(中、処置済)、全身に小さな切り傷、針目縫への怒り
[服装]:普段通り
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、噛み煙草(現地調達品)
[思考・行動]
基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。
   0:体力が回復するまで、情報交換を兼ねてラビットハウスで休憩。
   1:その後、これからの行動を決める。
   2:平和島静雄と会い、直接話をしたい。
   3:静雄が本当に殺し合いに乗っていたなら、その時はきっちりこの手でブチのめす。
   4:言峰、お前は――
[備考]
※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦。
※折原臨也、一条蛍、香風智乃、衛宮切嗣、天々座理世、風見雄二、言峰綺礼と情報交換しました(蟇郡苛とはまだ詳しい情報交換をしていません)
※龍(バハムート)を繭のスタンドかもしれないと考えています。
※風見雄二から、歴史上の「ジル・ド・レェ」についての知識を得ました。
※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。



【言峰綺礼@Fate/Zero】
[状態]:疲労(中)、全身に小さな切り傷
[服装]:僧衣
[装備]:神威の車輪(片方の牛が死亡)@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(18/20)、青カード(17/20)
黒カード:不明支給品0〜1、各種雑貨(ショッピングモールで調達)、不明支給品0〜3(ポルナレフの分)、スパウザー@銀魂
    不明支給品1枚(希の分)、不明支給品2枚(ことりの分、確認済み)、雄二のメモ
[思考・行動]
基本方針:早急な脱出を。戦闘は避けるが、仕方が無い場合は排除する。
   0:体力が回復するまで、情報交換を兼ねてラビットハウスで休憩。魔術について教える。
   1:その後、これからの行動を決める。
   2:DIOの言葉への興味&嫌悪。
   3:希への無意識の関心。
   4:私の、願望……。
   5:空条承太郎と話をする



[全体備考]
※針目縫が落とした持ち物は、風見雄二と紅林遊月が回収しました。
※ポルナレフの遺体は、ラビットハウス二階の部屋に安置されています。
※ポルナレフの支給品及び持ち物は、言峰綺礼が全て回収しました。まだ確認していないものもあります。
※神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)は、二頭のうち片方の牛が死んだことで、若干スピードと火力が下がりました。
※二階のチノの部屋に、言峰綺礼の書きかけの魔術に関するメモがあります。

629 ◆DGGi/wycYo:2016/03/15(火) 01:00:36 ID:4/9DJ61M0
仮投下を終了します 指摘等ありましたらお願いします

630名無しさん:2016/03/15(火) 03:54:19 ID:ZkyafNhQ0
仮投下乙です
承太郎、ここで言峰の歪みに突っ込むかあ
遊月はここからが本番って感じですね、原作同様に成長できるかどうか
チノはやばくなってる感じだけど、喚いたり飛び出さなかったあたりあまり足を引っ張らなさそう
雄二が一番痛々しかったです
本投下に問題はないと思います

631名無しさん:2016/03/15(火) 10:54:48 ID:B/XQqpt60
仮投下乙です
男性陣は言峰以外は安定してるし、その言峰も承太郎が説得するのならなんとかなりそうかな
ただ女性陣、特にチノちゃんはヤバいな…
近くにマーダーがいないうちになんとか立ち直ってほしいけど…

一つだけ指摘を

>>624
その質問に対し雄二は、と短く肯定した。

返事の部分が抜けていますね

632 ◆X8NDX.mgrA:2016/03/15(火) 12:58:26 ID:2h9.07uY0
遅くなりましたが、仮投下します。
また、リアルの都合により本投下は二日後になることを先に伝えておきます。

633 ◆X8NDX.mgrA:2016/03/15(火) 12:59:04 ID:2h9.07uY0
 魔王ゴールデンウィンドは、セイバーとの同盟を受けることにした。
 悩みこそしたが、自身の力不足を補うための手段と考えれば、断る理由などない。
 しかし、一時間ぶりに対面したセイバーから掛けられた言葉は、予想外のものだった。

「そうか、同盟を組むか。……ならば今から、ショッピングモールへ行け」
「えっ?」

 一緒に行動する内に戦闘の技術を盗むつもりでいたのに、まさか単独行動を命じられるとは。
 困惑するゴールデンウィンドに対して、セイバーは淡々と言葉を続ける。

「男が一人、女が三人。女の二人は幼い。
 徒党を組んだ参加者たちが、その辺りにいるはずだ。
 首級を挙げろ、などとは言わない。奴らの実力が知りたい」

 ゴールデンウィンドは、セイバーの言う四人に心当たりがあった。
 セーラー服の女と、侍の格好をしたヅラみたいな男、それと二人の女の子。
 一度は襲撃をしようとした参加者たち。彼らを襲撃していたらどうなっていただろうか。
 それはそうと、実力を知りたいも何も、セイバーなら大抵の参加者は相手にならないだろう、と思いながら、皮肉気味に問いかけた。

「それって、さっきあんたが見逃した相手?」
「知っているなら話は早い。私も遅れて向かい、貴様の戦闘の様子を見てやる」

 同盟関係とはいえ、セイバーは上からの姿勢を崩さない。
 力量差は歴然、同盟もあくまでセイバーが妥協した形となれば、それも当然か。
 早く行けと言わんばかりの視線を向けて、ゴールデンウィンドはセイバーに背を向けた。
 跳び出そうとするが、ふと思い止まり背後に尋ねた。

「もし居なかったらどうするの?」
「そのときは合流して、南の市街地に向かう」
「了解っと!」

 ゴールデンウィンドはスマホを取り出して変身した。
 そして、膝を曲げた反動で空中に跳び上がると、ショッピングモールを目指して屋根伝いに北上し始めた。





634 ◆X8NDX.mgrA:2016/03/15(火) 12:59:57 ID:2h9.07uY0



 鬼龍院皐月を先頭に、コロナたち四人はC-6を南下していた。
 C-7にはDIOの館が存在したが、現状で訪れる意義はないというのが桂の判断だった。
 DIOが危険極まりない存在だということは、全員が理解していた。
 放置すれば、無残にも殺された園原杏里のように、多くの犠牲者が出る。
 本能字学園で戦闘を繰り広げ、圧倒的な力を見せつけられたコロナは、とりわけその脅威を深く感じていた。
 そう感じていたからこそ、確実に打倒できるまでは手を出すべきではないと説く桂の言葉にも素直に頷いた。

「今は万事屋に行き、仲間と合流するのが最優先だろう」
「学校にもいくのん!」
「そうですね!」

 今はただ、一人でも多くの、信頼できる仲間と合流する。
 意見が一致した四人は、更に南下していき、やがてショッピングモールへと到達した。
 雑貨店、書店、寝具店など、通路の両側に店が立ち並んでいる。
 大勢の顧客を集めるための商業施設であるが、人の気配は微塵もない。

「人気がないですね」
「怯え隠れている可能性はあるが、虱潰しに探すのは骨が折れそうだ」
「皐月殿、時間も惜しいことだ。二人ずつに分かれて探索するのはどうだろうか」
「……うむ、それが良いだろう」

 四人は二組に分かれて、それぞれ探索を始めた。
 桂とコロナの二人は、フードコート、つまり飲食店が中心のエリアへと足を踏み入れた。
 きょろきょろと店を見渡しながら、コロナは桂に話しかける。

「そういえば、探索らしい探索はしていませんでしたね」
「確かにそうだな」

 数時間前に二人が出会ったのも、このショッピングモールだ。
 とはいえ、その頃は深夜で暗かったこともあり、ここでは桂がトイレに行き、次の目的地を決定しただけで、探索などはしていなかった。
 コロナは思う。空が明るくなると、場所の印象も些か変わるものだと。

「…………」
「桂さん、どうしたんですか?急に立ち止まって」

 桂が立ち止まり見つめている方向に、コロナも視線を向けた。
 「ら〜めん」の暖簾に、その両脇の赤い提灯。やや上には『北斗心軒』と書かれた看板。
 年若いコロナでも、その場所が何かくらいは分かった。

「ラーメン屋さん、ですよね?」
「ああ」

 桂は短く返事をすると、ガラガラと引き戸を開けて店内に入っていった。
 その動きはあまりに自然で、迷いがない。
 突然の行動に意表を突かれたコロナは、少し焦りながら、ひょいと首だけで覗いた。店内の様子は、普通の飲食店と変わりない。
 しかし、カウンター席に座る桂の表情は見えなかった。

「あの、ここに何か?」
「……いや、なんでもない。時間を取らせてすまない」

 桂は振り向きながら席を立った。
 そのときコロナは、桂が居た場所にそばが置いてあるのを見た。
 赤カードで出したもののようだが、手を付けた様子はない。
 意図を尋ねようとしたものの、真剣な桂の表情に、開けようとした口を閉じた。

(なにか、思い入れがあるお店なのかな……?)

 次の瞬間、ガラスが割れるような音が、コロナの耳に響いた。
 それを皮切りに、次々と物が破壊される音が聞こえてくる。

「桂さんっ!」
「ああ、皐月殿とれんげ殿がいる方角だ」

 コロナは桂と顔を見合わせた。
 皐月もれんげも、意味もなく物を破壊するような人間ではない。何者かに襲われたと考えるのが自然だった。
 二人は頷き合うと、皐月たちと別れた方へと走り出した。
 放送まで、そう時間はない。





635名無しさん:2016/03/15(火) 13:00:29 ID:2h9.07uY0


 勇者の身体能力を以てすれば、一キロ程度の距離は疲労せずに駆け抜けられる。
 ゴールデンウィンドが問題の四人を発見したのは、十数分後だった。

「さて、どうするか……」

 高所から四人を監視するゴールデンウィンド。
 標的は捉えたが、すぐには手を出せない。
 セイバーが実力を懸念する相手ともなれば、数の差がある状態で挑むのは無謀。
 欲を言えば全員バラバラに、せめて二人ずつに別れてからでないと、襲撃も難しい。

「って、ホントに別れた!?」

 四人の動向を追って数分、実に都合のいいタイミングで、二人ずつに別れた。
 ゴールデンウィンドは一時間ほど前に嵌められていることもあり罠を疑ったが、どうやら探索のために別れただけらしい。
 この機を逃す手はない。

「狙うのは、女二人!」

 即断即決も女子として大事な要素だ。
 ゴールデンウィンドは勢いよく飛び降りると、セーラー服の女に大剣で斬りかかった。
 しかし、俊敏な動きで回避された。やはり常人ではない、とこの時点で察した。

「殺気は感じていたが、まさか少女とはな。
 しかし、殺し合いに乗ったとなれば、容赦するわけには行かんな――」

 鋭い眼差しを向けられながら、ゴールデンウィンドは相手の一挙手一投足に注目する。
 相手の動きを見切る。簡単な話ではないが、それができれば強くなれる。
 人間相手の闘いを覚えなければ、優勝は難しいと理解したが故の行動だった。
 セーラー服の女は自身の背中に少女を隠すと、左手で握りこぶしを作り、右手を左手首に近づけていく。

「――ゆくぞ、鮮血!」
「応ッ!」

 叫んだ女に応えて、セーラー服が声を上げた。
 思わぬ事態に混乱していると、女が光に包まれ、次の瞬間には痴女もかくやという衣装に変身していた。
 その過剰な露出度もさることながら、身に纏うオーラが強大なものへと変化している。

(まさか、相手も『勇者』みたいな存在?)

 心中で冷や汗をかきながら、それでも相手からは目を逸らさない。
 ひしひしと感じる闘気に負けまいと、ゴールデンウィンドもまた大剣を構え直した。





636名無しさん:2016/03/15(火) 13:01:14 ID:2h9.07uY0



 放送を前に、結城友奈は全力で駆けていた。
 犬吠埼風の居所が分からないままでいることに、尋常ではない程の焦りを感じながら。
 今までになく激しい動悸に襲われながら、友奈は辺りを見回した。

(風先輩、どこに……)

 そう問いかけても、街並みは何も答えてくれない。
 道中DIOの館にも立ち寄ったものの、既に崩壊した館に人影は存在しなかった。
 友奈はショッピングモールの入口をくぐりながら、もしこの場所にも風がいなかったら、と軽い恐慌に襲われた。
 その不安は、剣戟の音が吹き飛ばした。

「この音って……!」

 勇者の強化された聴力は、普段なら聞き逃す音も漏らさない。
 戦闘が行われていることを確信した友奈は、急いで音のする場所へと走り出した。
 角を曲がった瞬間、目の前に飛び込んできたのは、同じ勇者の姿。



「――風先輩!」



 コンマ数秒、思考を停止させた後で、友奈は大きく叫んだ。
 その声に反応して、戦闘が止まる。戦っていたのは、桂小太郎と鬼龍院皐月、そして声に振り向いた、勇者の姿である風。
 かたや数時間前までの同行者、かたや勇者部の先輩。
 どちらが仕掛けたのか、それは友奈の持つ情報を考慮すれば明白なのだが、しかし友奈にとっては信じたくない事実だった。

(まさか、本当に――)

 二人の参加者を殺害したのは、部活の先輩なのか。
 既に理性は事実を弾き出していたが、それでも疑問に思わずにはいられない。
 何かの間違いであるならば、それに越したことはないのだから。

「ゆうなん!」
「友奈さん!どうしてここに!?」

 コロナとれんげが、友奈の名を呼んだ。
 その問いに冷静に答えることが出来ないまま、友奈は風に近づいた。
 誰もが黙ったまま、ただ一つの足音だけが響く。
 そして数秒後、友奈と風が対面した。

「風先輩……っ!」
「……」

 風は口を開かない。眼帯で塞がれていない方の眼は、正面を見ていなかった。
 皐月も桂も、警戒態勢ではあるが、相手が大剣を降ろしている今は戦うつもりはないようだ。
 友奈は気づかいに感謝しながら、更に風へと問いかけた。 

「どうしてですか……?」

 返答は言葉ではなく、振るわれた大剣だった。
 周囲の空間が唸りを上げた。

「くっ……!」

 友奈は腕を重ねて防御する。
 互いに変身した状態であるため、一方的に吹き飛ばされることはない。
 しかしそれでも、気迫や圧力という要素は侮れないのか。
 力で押し切られた友奈は、後ろに数歩よろめいた。

(っ、やられる!!)

 誰が見ても明らかなその隙を、風も逃しはしなかった。
 大剣を振りかぶり、気合と共に薙ぎ払う。当たれば胴体が持って行かれることは明白。
 精霊による防御は間に合うだろうか。それとも死ぬ気で回避をするべきか。
 そうした刹那の逡巡は、またも予想外な出来事で無為になる。

『――正午。こんにちは、とでも言えばいいかしら』

 二回目の定時放送。
 誰が死亡して、誰が生存しているのかを知る機会。
 殺し合いに乗った――もはや確定事項だろう――風も放送は確認したいのか、ピタリと攻撃が停止した。
 そして、踵を返して跳躍すると、屋根伝いに逃走していった。

「私、追います!!」

 友奈は焦燥を隠そうともせず、皐月たちに宣言した。
 風に話を聞くために、ここまでひたすら駆けてきたのだ。
 一度や二度、逃げられたくらいで諦めるのは違う。それは勇者ではない。

「……ああ」

 皐月の了承を受けるが早いか、友奈も跳躍した。
 自分が説得をすれば、元の先輩に戻ってくれると信じて。





637名無しさん:2016/03/15(火) 13:01:53 ID:2h9.07uY0


『まずは禁止エリアの発表よ』
「風……犬吠埼、風か」

 放送が現在進行形で続いている。
 そんな中、鬼龍院皐月は重々しい声色で呟いた。
 皐月は友奈のことを、幼いながらも立派な勇者であると認めていた。
 また、その友奈から聞かされた、勇者部のメンバー全員が、友奈と同じような強さの持ち主だと考えていた。
 物理的な強さだけではない、精神的な強さも含めてだ。
 しかし、そうした勇者も殺し合いに乗っているという事実は、対主催者のスタンスを取る皐月としては心苦しいものだった。


――願いに釣られ己の欲を駆り立てられた人間は何処かで道を踏み外す。


 雁夜への宣言を思い出す。
 風という勇者もまた、願いに釣られて道を踏み外した人間ということになる。
 勇者ですらも、と言うべきか。
 神樹様とやらに選ばれ、世界の敵となるバーテックスと必死に戦う、勇者ですらも。
 繭の思惑通りに、殺し合いに乗ってしまうのだ。
 人の弱さを否定することはできない。
 犬吠埼風が優勝を目指す理由を、皐月は察していた。

『それじゃあ、きっと一番欲しがっているお話、ここまでに死んじゃったみんなの名前を言うわよ』

 もったいぶる繭の口調に、皐月は眉を顰めた。
 六時間前の放送で呼ばれた名前に、犬吠埼樹があった。
 友奈からも詳細は聞いていた――犬吠埼風と犬吠埼樹は、とても仲のいい姉妹だと。

「喪った親族を生き返らせたい、というわけか」

 隣では桂小太郎が、真面目な口調で呟いた。
 皐月は歯噛みする。仮初めの幸福を享受する、服を着た豚になるなと皐月は説いてきた。
 であればこそ、真実の幸福を奪われた者の怒りを、嘆きを、悲しみを、どうして否定することができようか。

「もはや外道の所業と言えるな」
「ああ……繭、そしてその裏に居るだろう黒幕よ。
 貴様たちの邪知暴虐は、例え天が赦そうとも、この私が許さない……!」

 そう呟く皐月の瞳には、静かな炎が燃えていた。


『蟇郡苛』


 その名前が呼ばれた瞬間、僅かに揺らぎはした。
 腹心たる蟇郡を喪ったことに、満艦飾マコの名前を聞いたときよりも遙かに大きな重みが圧し掛かってきた。
 それでも、あの男が無為に死ぬ筈はないと思えた。
 ましてや、無念の内に死ぬ筈がないと確信していた。
 絶大な信頼を置く四天王の中でも、特に忠臣として仕えた男の顔を浮かべながら。


『半分? もっと少ない? 期待しているわ』
「……十四人。また多くの命が失われたな」


 放送が終わる頃には、普段通りの態度で話すことができた。
 桂たちを振り返り、これからの行動について確認しようと口火を切ったとき。

「危ないのん!」

 れんげが皐月のことを突き飛ばした。
 体格差のある皐月にとっては、それは抱き着きと変わらない威力ではあったが。
 それでも後ろに十数センチは移動した。
 するとその直後、皐月の眼前の地面に、刀が突き刺さった。

638名無しさん:2016/03/15(火) 13:02:13 ID:2h9.07uY0
【鬼龍院皐月@キルラキル】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)、こめかみに擦り傷
[服装]:神衣鮮血@キルラキル
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)、 黒カード:神衣鮮血@キルラキル
[思考・行動]
基本方針:纏流子を取り戻し殺し合いを破壊し、鬼龍院羅暁の元へ戻り殺す。
0:この刀は――?
1:万事屋へと向かう。
2:ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を調べてみたい。
3:鮮血たちと共に殺し合いを破壊する仲間を集める。
4:襲ってくる相手や殺し合いを加速させる人物は倒す。
5:纏流子を取り戻し、純潔から解放させる。その為に、強くなる。
6:神威、DIOには最大限に警戒。
7:刀剣類の確保。
8:金髪の女(セイバー)へ警戒
[備考]
※纏流子裸の太陽丸襲撃直後から参加。
※そのため纏流子が神衣純潔を着ていると思い込んでいます。
※【銀魂】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました。
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。


【桂小太郎@銀魂】
[状態]:疲労(中)、胴体にダメージ(中)
[服装]:いつも通りの袴姿
[装備]:晴嵐@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
    黒カード:鎖分銅@ラブライブ!、鎮痛剤(錠剤。残り10分の9)、抗生物質(軟膏。残り10分の9)
[思考・行動]
基本方針:繭を倒し、殺し合いを終結させる
0:その刀は――?
1:万事屋へと向かう。
2:コロナと行動。まずは彼女の友人を探し、できれば神楽と合流したい。
3:神威、並びに殺し合いに乗った参加者へはその都度適切な対処をしていく
4:金髪の女(セイバー)、犬吠埼風へ警戒
[備考]
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※友奈が左目の視力を失っている事に気がついていますが、神威との戦闘のせいだと勘違いしています。
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。


【コロナ・ティミル@魔法少女リリカルなのはVivid】
[状態]:疲労(小)、胴体にダメージ(中)
[服装]:制服
[装備]:ブランゼル@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)
     黒カード:トランシーバー(B)@現実
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを終わらせたい。
0:危なかった……。
1:みんなの知り合いの話をしたい。
2:桂さんたちと行動。アインハルトさんを探す
3:金髪の女の人(セイバー)、犬吠埼風へ警戒
[備考]
※参戦時期は少なくともアインハルト戦終了以後です。
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。


【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
[服装]:普段通り、絵里のリボン
[装備]:アスクレピオス@魔法少女リリカルなのはVivid
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10)
     黒カード:満艦飾家のコロッケ(残り四個)@キルラキル、バタフライナイフ@デュラララ!!
[思考・行動]
基本方針:うち、学校いくん!
0:危なかったのん……。
1:うちも、みんなを助けるのん。強くなるのん。
2:ほたるん、待ってるのん。
3:あんりん……。
4:きんぱつさんが二人、どっちも危ないのん?
[備考]
※杏里と情報交換しましたが、セルティという人物がいるとしか知らされていません。
 また、セルティが首なしだとは知らされていません。
※魔導師としての適性は高いようです。
※【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【銀魂】【結城友奈は勇者である】の世界観について知りました
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※金髪の女(セイバー)とDIOが同盟を結んだ可能性について考察しました。

[備考]
※罪歌@デュラララ!!が皐月たちの目の前にあります。

639名無しさん:2016/03/15(火) 13:02:47 ID:2h9.07uY0

 セイバーは嘆息した。ランサーもキャスターも、この地で二度目の死を迎えた。
 放送によれば、参加者の残りは半分近くになっている。
 DIOや神威、纏流子といった実力者は流石に脱落していないが、それでも先行きは暗くない。
 魔力も僅かながら回復したこともあり、セイバーは幾分か調子を回復していた。

「WIXOSSについては大体把握できた」
「物覚えが良いのね」

 風を待つ時間で、WIXOSSという遊戯についてもルールを理解しつつあった。
 セイバーは花代の言うセレクターでこそないが、万能の願望機と同等の価値がある遊戯ともなれば、ルールを覚えるのも無駄ではあるまい。
 そうした考えが後に何を生むのか、セイバーも花代もまだ知らない。

「そういえば、蒼井晶はセレクターだったな?」
「ええ。性格は良くなかったわ……実力はまあまあね」
「ふむ……」

 セレクターは無力な少女だと聞いている。
 この島に呼ばれたセレクターは、花代が知る限り四名。
 それにもかかわらず、六時間を過ぎて死んだのは一名だけ。
 単に運が良いからと取るか、それとも、セレクターに選ばれるに足る理由がそこにあるのか。
 セイバーは未だ見ぬセレクターに、少しばかり興味が湧いていた。

「さて、フウをどうするか……」
「逃げ出したみたいね」
「ああ。おそらく元の仲間なのだろうが、戦闘を中断して逃げるとは。
 だいぶ動揺しているようだ。後を追うのは容易だが、そこまでする理由があるか――」

 同盟を結んだとはいえ、あくまでセイバーの目的は優勝。
 風に固執する理由も必要も全くない。

「悩みどころね」

 ルリグ・花代は何も提案しない。
 次の行動を選ぶのは、セイバー自身だ。



【セイバー@Fate/Zero】
[状態]:魔力消費(大)、左肩に治癒不可能な傷
[服装]:鎧
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Zero、蟇郡苛の車@キルラキル
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)
    黒カード:レッドアンビジョン(花代のカードデッキ)@selector infected WIXOSS、キュプリオトの剣@Fate/zero
[思考・行動]
基本方針:優勝し、願いを叶える
 0:今後の動向について考える。風については……?
 1:島を時計回りに巡り参加者を殺して回る。
 2:時間のロスにならない程度に、橋や施設を破壊しておく。
 3:戦闘能力の低い者は無理には追わない。
 4:自分以外のサーヴァントと衛宮切嗣、ジョースター一行には警戒。
 5:銀時、桂、コロナ、神威と会った場合、状況判断だが積極的に手出しはしない。
 6:銀時から『無毀なる湖光(アロンダイト)』を回収したい。
 7:ヴァニラ・アイスとホル・ホースに会った時、DIOの伝言を伝えるか、それともDIOの戦力を削いでおくか……
 8:いずれ神威と再び出会い、『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』を破壊しなければならない。
 9:WIXOSS、及びセレクターに興味。
[備考]
 ※参戦時期はアニメ終了後です。
 ※自己治癒能力は低下していますが、それでも常人以上ではあるようです。
 ※時間経過のみで魔力を回復する場合、宝具の真名解放は12時間に一度が目安。(システム的な制限ではなく自主的なペース配分)
 ※セイバー以外が使用した場合の消耗の度合いは不明です。
 ※DIOとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
 ※魔力で車をコーティングすることで強度を上げることができます。
 ※左肩の傷は、必滅の黄薔薇@Fate/Zeroが壊れることによって治癒が可能になります。
 ※花代からセレクターバトルについて聞きました。WIXOSSについて大体覚えました。

640名無しさん:2016/03/15(火) 13:03:14 ID:2h9.07uY0


 バランスの悪い屋根を伝いながら、友奈が叫んだ。

「風先輩!どうして逃げるんですか!」

 風は頑なに返答をしようとしない。
 それどころか、振り向くことすら考えていないようだ。
 明確な拒絶を感じながらも、友奈は再び声をかけた。

「みんなのためになることを勇んでやる、それが勇者部の活動ですよね!?先輩!」

 しかし、その言葉は流される。
 友奈の言葉がどれだけ正しいものだろうと、風の胸には届かない。
 優勝するという魔王の決意は、もはや勇者の呼びかけでは揺らがない。

「っ!」

 キン、と甲高い音がした。
 友奈の拳が、前方から飛来した刀を打ち払ったのだ。刀はあらぬ方向へと飛んで行った。
 言葉を発しない拒絶の次は、攻撃を加えるという拒絶。

「先輩……!」

 挫けそうな表情を一瞬浮かべながら、それでも友奈は諦めない。
 ひときわ強く屋根瓦を踏みしめて、前に向けて跳躍した。

「はあああああぁぁぁぁっっっ!!!」

 もはや実力行使しかない。
 力で倒してでも、話をしてもらうしかない。

「うおおおおおぉぉぉぉっっっ!!!」

 そして、風もまたそのことを理解したのだろう。
 しつこい勇者を倒すには、やはり撃破するしかないのだ。
 振り向きざまに、大剣を切り払う。


 ここに、勇者と魔王が激突した。


【結城友奈@結城友奈は勇者である】
[状態]:疲労(小)、味覚・左目が『散華』、前歯欠損、顔が腫れ上がっている、満開ゲージ:5
[服装]:讃州中学の制服
[装備]:友奈のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(8/10)、青カード(10/10)、黒カード:なし
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止め、主催者を打倒する。
0:風先輩を、止める。
1:勇者部のみんなと合流したい。
2:早急に東郷さんに会いたい。
[備考]
※参戦時期は9話終了時点です。
※ジャンヌの知り合いの名前とアザゼルが危険なことを覚えました。
※【銀魂】【キルラキル】【ラブライブ!】【魔法少女リリカルなのはVivid】【のんのんびより】の世界観について知りました。


【犬吠埼風@結城友奈は勇者である】
[状態]:健康、優勝する覚悟、魔王であるという自己暗示
[服装]:普段通り
[装備]:風のスマートフォン@結城友奈は勇者である
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(39/40)、青カード(39/40)
    黒カード:樹のスマートフォン@結城友奈は勇者である、IDカード、村麻紗@銀魂、不明支給品0〜2 枚
     犬吠埼樹の魂カード
[思考・行動]
基本方針:樹の望む世界を作るために優勝する。
 0:魔王ゴールデンウィンドとして、勇者を倒す。
 1:南下しながら参加者を殺害していく。戦う手法は状況次第で判断。
 2:市街地で東郷と会ったら問い詰める。
 3:一時間後、セイバーの元へ向かうか、あるいは……。
[備考]
 ※大赦への反乱を企て、友奈たちに止められるまでの間からの参戦です。
 ※優勝するためには勇者部の面々を殺さなくてはならない、という現実に向き合い、覚悟を決めました。
 ※東郷が世界を正しい形に変えたいという理由で殺し合いに乗ったと勘違いしています。
 ※村麻紗と罪歌の呪いは、現時点では精霊によって防がれているようです。
 ※村麻紗の呪いは精霊によって防がれるようです。
 ※罪歌はただの日本刀だと考え、黒カードにして詳細を確認せずしまい込んでいるようです。
 ※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという情報(大嘘)を知りました。

641 ◆X8NDX.mgrA:2016/03/15(火) 13:03:49 ID:2h9.07uY0
投下終了です。タイトルは後で決めます。

642名無しさん:2016/03/17(木) 20:15:35 ID:AS.QkpsQ0
投下乙です。特に問題はないと思います。

643 ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 01:54:29 ID:3vBKHcMg0
一旦仮投下します

644EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 01:54:57 ID:3vBKHcMg0
「ったく、マジか……勘弁してくれよ」
鼻の良い者ならば潮の香も嗅げるであろう海辺近くの道。
そこに、少女を背負って進むアフロの青年―――ファバロ・レオーネがいた。

「気絶して重くなったガキ背負って情婦みてぇな格好の化け物女から必死に逃げて、やっと一息付けそうな場所が見えてきたってのによ……。
禁止エリアだぁ?そういう重要なことは最初に言えってんだよ」
ひとまず基地で腰を落ち着けようとしていたファバロだったが、放送にて禁止エリアという聞きなれない言葉を聞いて腕輪で調べたところ、なんでも放送の度に禁止エリアが増えていき、参加者が禁止エリアに入ると魂が引き剥がされ死亡するそうだ。

そして運悪く、ファバロの目的地だった基地は禁止エリアに選ばれてしまった。
基地でゆっくり今後のあれこれを考えようとしていたファバロの見通しは狂ってしまったことになる。
せめてファバロ一人ならば放送前に基地に着いたかもしれないが、気絶した人間一人背負っての移動は思いの外時間がかかってしまった。

「いつの間にか聖女さんも死んじまってるしよぉ……。
さっきの化け物女といい、どんだけ化け物が溢れてるんだっての」
悪魔ともサシでやりあえるような聖女、ジャンヌ・ダルクも死んでしまった。
先ほどの放送で呼ばれなかったにも関わらずマスターカードの情報では死亡扱いになっていることから、自分が聞き逃した一回目の放送の時点で死んでいたということになる。

「だからよ……俺らみたいな真っ当な人間は、いつくたばっても不思議じゃねぇよな」
アザゼルのような悪魔や、アーミラのような半神半魔に比べれば、普通の人間の力は取るに足らない小石のようなものだ。
一応自分達はかつてそのアザゼルに勝利したが、その勝利も神から賜った武器を使う聖女の力あってこその勝利だ。

「そういやさ……お前も成長したよな。
視野が狭くて後ろの橋にも気づかなかったようなお前がよ、あの時は後ろから聖女さんが来てるのに気付いたんだろ?
大したもんだよ」
あの時は自分たちの武器が全く有効打にならず、ジリ貧状態だった。
正直もうダメかと覚悟したが、まさか頭の固いあの男が機転を利かして戦うとは夢にも思わなかった。


「なぁ、カイザル……!」
いくら前より成長しても、馬鹿正直な本質は変わらない。
どこぞの悪人にいいようにあしらわれたのかもしれないし、化け物に敵わずに殺されたのかもしれない。
どちらにせよ、こういう悪意の溢れる場で長生きできるタイプの人間ではなかった。

そもそも、賞金稼ぎに身を窶した時点で、いつ死んでもおかしくなかったのだ。
そしてカイザルが賞金稼ぎになったのは……ファバロの父親のせいだ。
裏で悪魔が絡んでいようと、ファバロの父がカイザルの父を襲ったという事実は変わらない。
そのせいでリドファルド家が没落したという事実は変わらない。

「ちくしょう……!」
陰鬱な気持ちを抱えながら、ファバロは北へと進む。
基地が禁止エリアになった以上、来た道を戻るか北上するしかないが、まだ先ほどの女が近くにいるかもしれないのに来た道を戻るなど自殺行為だ。
とにかく進むしかない……のだが、その足取りは遅い。
基地以外に近場で休めそうな場所といえばガソリンスタンドだが、残念なことにファバロはガソリンスタンドがどんなものか知らない。
ならば少し遠くまで足を伸ばすかと言えば、長々と少女を背負って行動すれば、その分危険も増す。

「ああ、重いなちくしょう……いっそ捨てちまうか?」
そもそも、こんな小娘一人のために自分が苦労する必要などないはずだ。
確かに戦力として見れば有用だが、逆に言えばそれだけだ。
労力に対しての見返りが小さすぎる。
そもそもこの娘がアーミラのようなナイスバディでもないのに重すぎるのだ。
まぁ、重いと言っても比較対象がそのアーミラと―――

「お前しかいないわけだがな、リタ!」
「……何の話よ?」
「こっちの話だ」



(まったく、運が良いのか悪いのか……)
殺し合いに乗って早々に知り合いと遭遇してしまったリタは、舌打ちの一つでもしたい気分になった。

リタは殺し合いに乗っているとはいえ、表立って動く気はなかったのだ。
本当に繭に願いを叶えるような力はあるのか。
囚われたカイザルの魂を救い出すことはできるのか。
その確証が持てるまでは、行動は下準備に留めるつもりだった。

645EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 01:56:56 ID:3vBKHcMg0

というのも、もし繭の言っていることがハッタリだった場合には、繭を打倒しようとする者たちに混ざるつもりだからだ。
あまり派手に暴れまわると、いざ他の参加者と合流しようとした時に不利益が起こることは確実だ。

あくまで下準備。
確実に殺せると判断した相手にしか手を出さない。

では、この男―――ファバロ・レオーネとその男に担がれている少女は確実に殺せるだろうか?

まずは担がれている少女。
重傷を負っている上に気絶しているので、その気になればココアでも殺せるくらいの存在だ。
計算に入れる必要すらない。

しかし、ファバロはそうもいかない。
この男は歴戦の賞金稼ぎであり、カイザルとアーミラもいたとはいえ自分のけしかけたゾンビを危なげなく殲滅したこともある。
決して勝ち目がないわけではないが、確実に殺せるかと言われれば疑問が残る。
疑問が残るのだが……。

「リタ、お前―――やる気か?」

気付く頃にはもうyou're in a coffin
it's too late if you want to do something




ファバロがリタが殺し合いに乗っていることに気付けたのは何故か?
リタのカイザルへの入れ込み具合を元々知っていたこともある。
アーミラとカイザルがアザゼルに攫われた時には一も二もなく助けだそうとしたし、アザゼルとの会話から一時休戦の取引を持ち掛けてまで自分たちの身を守ろうとしたらしい。
そんなリタがカイザルの死を知って、外道へと堕ちるのを想像するのは容易だった。

だが、一番の要因は……目だ。
かつてアーミラに散々自分の目が嘘を付いている人間の目かと嘯いてきたが、実際良からぬことを企んでいる人間というのは目に移る。
今まで賞金稼ぎとしてたくさんの人間のクズの目を見てきたファバロは、リタの瞳に卑しい光が宿っている事を見逃さなかった。

「ええ、そのつもりよ」
ばれた以上、下手に取り繕う必要もない。
リタはあっさりとその事実を認めた。
分かってる。
こんな馬鹿げた殺し合いに乗るなど、鬼畜にも劣る所業だ。
今ならまだ引き返せる。
まだ誰も傷つけていない今なら。

「悪いけど……カイザルの魂を救うことにしたの」
だけど、それはできない。
村が魔獣に襲われ、自分一人だけ生き残った。
それを認められなくて、死人に鞭打ってまでくだらない家族ごっこを続けた。

「けっ、所詮賞金首だったってことかよ」
今引き返したら、自分はもう進めない。
二百年も引きこもっていた自分と―――カイザルに救われる前の自分と同じになってしまう。
そんなのは御免だ。

ファバロは背負っている少女に何か話しかけながら慎重な手つきで地面に降ろした。
その間も、決してリタから目を離さない。
ファバロはああ見えて意外とお人よしな所もある。
気絶して足手纏いになった少女も、なんだかんだ言いながら見捨てるようなことはしないのだろう。

646EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:00:09 ID:3vBKHcMg0

(アスティオンは戦闘には使わない方が懸命ね……
機械のくせに意思があるみたいだし、最悪手を貸してくれなくなるかもしれないわ)
アスティオンは支給品だが、人殺しをする時に使われて良い気分はしないだろう。
いざという時に飼い犬(猫だけど)に手を噛まれたら目も当てられない。
バトルロワイヤルという長期戦において、一時的なハイリターンと恒久的なローリターンのどちらが重要かは言うまでもないことだ。
白のマスターカードによればアスティオンは攻撃補助をしないが、ダメージ緩和と回復補助能力に特化しているらしい。

これでもし戦闘に特化していたらもっと迷ったかもしれないが、戦闘で使用する際の利益と戦闘以外で使用する利益はトントン。
ただ戦うだけなら相手を無力化した後にカードに戻してから殺せば済む話だが、今回は相手が悪い。
気絶した少女を庇う男と戦っていれば、どう取り繕ってもこちらが悪玉だとバレてしまう。
とりあえず今回は、戦闘後の回復に使うに留めなければならない。
と、なれば……

「……ファバロ、手を組むつもりはないかしら?」
「なにぃ?」
「私だって、できればあんたを殺したくはないもの。
あんただって、カイザルとアーミラを助けたいでしょ?」
リタが行ったのは、勧誘。
勝てるかどうか五分五分の上、心情的にも戦いたくない相手に対する行動てしては妥当な所だろう。

「へっ、俺が?あいつらを助けたいだって?
俺に呪いをかけやがった悪魔の女と、年中俺の命を狙ってる商売敵をか?」
「前もそんなこと言ってたけど、結局賞金稼ぎの腕輪を壊してまで助けにいったじゃない」
彼はお人好しだ。
憎まれ口を叩いたり、良からぬことを企んだりはしても、根っこの所は善人なのだ。
だから―――

「はっ、お断りだ」
こう言われることは、心のどこかで分かっていたかもしれない。


「俺は俺のために生きる」
この殺し合いが始まってすぐ、ファバロはアザゼルと遭遇し、少し話をした。
その時の葛藤を思い出す。
復讐に縛られた生き方なんざ真平ゴメン。
ならば、生かすための生き方はどうか?
アザゼルには教えてやらなかったが……リタには少しだけ胸の内を明かしてもいいかもしれない。

「他人を蹴落としてまで誰かを助けるような生き方ができるんだったら、俺はとっくに親父の後を継いで義賊にでもなってるっての」
結局、ファバロ・レオーネとはこういう男だ。
他人を頼りにしない、他人に寄生しない。
自分を守れるのは自分だけ。
だから、自分らしく生きられる。
友の死に悲しみはしても、畜生にも劣るような所業に手を染めてまで助けたいとは思わない。

「じゃあ、優勝する気……はないわよね、わざわざそんなお子ちゃま背負ってたくらいだし」
「別に義理人情だけで助けたわけじゃねぇよ……ま、殺し合いに乗らない程度の義理人情はあるつもりだけどな」
軽口を叩くファバロだが、その殺し合いに乗っているリタからすれば笑えない話だ。
ここまでくれば、流石にリタも腹をくくる。
リタとファバロは戦うしかないのだ。
しかし、悲壮感はない。賞金首と賞金稼ぎが結局、戻る所に戻っただけ。

「仕方ないわね……!恨むんじゃないわよ!」
カイザルの剣を構えて突っ込む。
彼我の距離は20メートル足らず。
剣を持ちながらでも、全力で走れば数秒で詰められる距離だ。
自分は訓練など受けていないし、型もまるでなっていないデタラメな斬りつけ方しかできない。
それでも、杖でスケルトンをバラバラにできる程の力によってそこそこの脅威となる。
ゾンビとはいえ、銃撃をモロに喰らえば無事ではすまない。
剣を両手で水平に構えて防御の構えを取りつつ、横に平行移動して可能な限り銃弾を避ける。

647EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:01:16 ID:3vBKHcMg0

(やはり、簡単にはいかないわね……
でも、あの妙な武器、火力自体はそれほどでもないみたいね)
見たこともない武器だが、戦闘の後にアスティオンで回復できることも考えれば多少の無茶は聞く。
自分の獲物が剣である以上、近づかなくては始まらない。
腕を飛ばせば一応遠距離攻撃も可能だが、飛ばした後にしばらく片腕で戦わなければならなくなるので却下。
多少のダメージは覚悟して突き進もうとするリタ。
しかし―――

「おらよっと!」
戦闘においては、ファバロが一枚上手だった。
なんとファバロは、自分からリタとの距離を詰め、水平になった剣の切っ先側に身を晒したのである。

「!」
慌てて切っ先を突き付けるが、ファバロの予想外の行動に意表を突かれ、動きが僅かに鈍る。
さらに言えば、突きというのは難しい技だ。
右手に少しでも力を入れてしまうと、太刀筋が簡単にぶれてしまう。
動きも鈍く、太刀筋もぶれた突きを躱すことなど、ファバロにとって朝飯前だった。

斜めに袈裟切りするならば剣の腕が悪くても腕力さえあればかなりの脅威となったであろう。
ゾンビであるリタならば真横、それも切っ先側に回り込まれてしまっても人体の構造を無視して腰を曲げ、袈裟切りを放つことだってその気になれば可能だった。
しかし咄嗟の行動故に、袈裟切りではなく出の早い突きを放ってしまった。

どこまで計算していたかは分からないが、自分は突きを放って腕が伸びきってしまって隙だらけなのに対し、ファバロは身を捻って剣を躱したことで、完璧な体重移動をしている。
そのまま身体のバネをフルに使って繰り出してきた蹴りを、リタは躱すことができなかった。

「ガハッ!」
元々、ファバロとリタにはかなりの体格差がある。
蹴りの一発だって脅威だ。
踏ん張りきれずに後ろへと吹っ飛んでいくリタ。
ファバロは糸巻き型の手榴弾のピンを抜き、容赦のない追い打ちをかける。

「く……!少しは死人を労わりなさいよ。これだから若造は」
軽口を叩きつつバックステップで手榴弾を躱すも、爆風に煽られて身体が熱い。
ゾンビは炎に弱いというのが通説だというのに容赦のないことだ。

(まずいわね……結局、気絶してるお子様とも大分離されたわ。
利用できるかと思ったのだけど、上手くいかないものね)
この攻防によって自分は後退せざるを得なくなり、気絶している少女との距離も離されてしまった。
ファバロにとっては一石二鳥の攻防だったが、自分にとっては骨折り損のくたびれ儲けだ。

と、爆発による煙の中からファバロが突っ込んでくる。
横薙ぎに剣を振るうも、ファバロはナイフで剣をいなしながら懐に潜りこんできた。
近付かれすぎるとナイフの方が強い。
慌てて距離を取ろうとするも、ファバロに右手を掴まれる……と思ったら、次の瞬間には視界が反転し、背中に強い衝撃が走る。

648EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:02:10 ID:3vBKHcMg0

背負い投げ……というには少々大味すぎるが、ファバロが行ったのは確かに背負い投げだった。
掴んだ右腕を振り上げ、そのまま反対側の地面に叩きつける。
普通は右腕だけ掴んで背負い投げなどできない……が、リタは普通ではない。
かつてアザゼルに捕まったアーミラとカイザルを助けようと、アザゼルの空飛ぶ城グレゴールに突入したことがある。
その時にリタを背負ったことがあるファバロは、リタの体重が異常なまでに軽いことを知っていた。
故にファバロは大味な背負い投げを行う大胆な行動に移れたのである。

「ぐぁ……!」
それでも、リタはカイザルの剣を決して手放さない。
必ず返すと誓った、この剣だけは!

起き上がりざまに剣を振るうも、ファバロは飛び退って簡単に避ける。
そのまま剣を支えに起き上がり、ファバロを睨み付ける。

「おー、怖い怖い。でもな、一つ忠告してやる。お前の欠点はカイザルと同じだ。とにかく視野が狭い。
もっと周りに目を向けないとな」
「……?何を言っているのかしら?」
「俺がなんでわざわざお前に背負い投げしたんだと思う?」
急に語りかけてきたファバロに対して訝し気な表情を作るリタ。
ファバロは勝ち誇ったようなムカつく顔をしたかと思うと―――


「今だ緑子ぉおおおお!!」
「う、うわあああああ!」

「な!?」
しばらくは気絶したまま動かないと思っていた少女の方向から、突如鬨の声が響く。
まずい。
今自分は少女にガラ空きの背中を晒している。
咄嗟に後ろを振り返るが―――そこには誰もいない。
否、厳密に言えば離れた場所に少女がいるのだが、その少女は依然として気絶したままである。
そして鬨の声は、少女の近くに置いてあるカードから響いている。

「かかったなアホが!」
罠だ、と気付いた時にはもう遅い。
既にファバロは光る剣―――ビームサーベルを取り出して目前に迫っている。
咄嗟に剣で防御するが、ビームサーベルはまるでバターを切るかのように剣をスライスする。

(カイザルの剣が……!)
必ずカイザルに返すと誓った剣が、あっさりと両断された。
そのことにショックを受ける暇もない。
返す刀でリタを両断しようと迫るビームサーベルをなんとか避ける。
しかし、その避け方は先ほどファバロがしたような次に繫げる避け方ではない。
足さばきも体重移動もめちゃくちゃな、避けた後に隙だらけになるような避け方だ。

「まさか、『あの時』に……!」
絶体絶命のピンチの中、先ほどの罠のからくりに気付くリタ。
後から思い返せば、とても単純なことだった。

「察しが良いな、そう、『あの時』だよ」
背負った少女を地面に降ろした時、ファバロは何か呟いていた。
てっきりその少女に語りかけていると思ったのだが……
実はその時にリタからは見えないように緑子のカードを取り出し、合図をしたら鬨の声をあげるように指示していたのである。
やけに慎重な手つきで地面に降ろしたのも、多少説明に時間がかかっても不信感を与えないため。
リタは最初から、ファバロの術中にはまっていたことになる。

「ま、今さら気付いたって遅いけどなぁ!」
無理な避け方をして体制の崩れたリタにトドメを刺すべく、ファバロはビームサーベルを振るう。
剣をバターのようにスライスするあの光の剣に貫かれれば、いくらゾンビとはいえ致命傷だ。
元々二百年前に潰えるはずだった命だ。今さら死ぬのは怖くない。
だが、今ここで自分が死んだら、カイザルはどうなる。
自分は二百年もの間、寂しさに耐えられずにたった一人でくだらないおままごとを続けた。
それでも嫌になるくらい苦しかったというのに、カイザルは寂しさを紛らわすおままごとすらできずに、永遠に―――

「う、」
そんなことはさせない。
繭に本当に願いを叶える力はあるのか、それはまだ分からない。
それでも、この男は今殺さなければならない。
殺し合いに乗っていることがばれた上、自分の情報をばら撒かれたりしたら、せっかくの幼い見た目とゾンビの特殊性の利点が薄くなってしまう。

「うああああああああああああああああ!!!」
そして何より、何より自分自身にけじめを付けたい!
最初にファバロを殺せれば、自分はもう絶対に迷わない。
残った知り合いは敵のアザゼルと胡散臭いラヴァレイのみ。
腐った行動を心情的に阻害するものはなくなる。
我ながら似合わない叫び声をあげながら、最後の意地で左腕をビームサーベルへ突き出す。

649EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:03:25 ID:3vBKHcMg0


ビチャリ、という嫌な音が聞こえた
リタの左腕が切断された音……ではない。
切断されたリタの左腕から飛び出た液体が、ファバロの顔面にかかった音だ。

「んな!?」
流石のファバロもこれは予想外だったらしく、ビームサーベルを振りぬこうとしていた動きが一瞬止まった。
その一瞬の隙を逃さず、リタは右腕の腕輪でビームサーベルを抑えにかかる。
SFチックな音を立てながらも、ビームサーベルは腕輪を切断できない。
ファバロの攻撃を防ぎつつ、隙を作る。
ゾンビの左腕一本にしては十分すぎる対価だ。

リタの左腕から飛び出した液体とは、ガソリンである。
そう、リタはカイザルの遺体を見つけてから、すぐには南下せずに近くのガソリンスタンドへと立ち寄ったのだ。
ガソリンスタンドにて発火性も強く、燃料としても非常に優秀な液体を見つけたリタはなんとかその液体を持ち運ぼうとするも容れ物を持っていなかった。
そこで彼女が選んだのは、自分の体内にガソリンを入れるというゾンビならではの行動だった。

自分の左腕を外し、ホースでガソリンを注入。
右腕も外そうとしたが、こちらは何故か外れなかった。
おそらく、右腕を腕輪ごと簡単に取り外せるリタに対しての繭の制限だと当たりを付けたのだが、そこまでするということは当然腕輪自体にも細工を施しているだろう。
軽い耐久テストをした結果、腕輪はかなり頑丈な素材で作られていることが判明した。
そう、いざという時の盾にもできるくらい頑丈な素材で。

ここに来て、放送までの空き時間を有効に使ったリタと無為に使ったファバロの差が如実に現れた。
殺し合いに乗り、一人で行動したが故に気軽に探索へ動きだせたリタ。
殺し合いに乗らず、気絶した少女を背負ったが故に行動範囲が狭まったファバロ。
道徳的にはファバロが善でリタが悪だろうが、お生憎様リタはゾンビだから道徳など気にかけない。
おそらくリタにとって最大かつ最後であろうチャンスが生まれたことの方が重要だ。

懐に隠し持っていた元々は龍之介の支給品だったブレスレットを取り出す。
龍之介本人の腕輪ではなかったせいか曖昧な情報しか記されていなかったが、白のマスターカードによれば強力なマジックアイテムらしい。
こんな曖昧で不確かな手段に頼るなんて、自分も焼きが回ったものだ。


焼きが回ったついでに、もう一つ柄でもないことをやってみよう。
この男との決着に相応しい台詞がある。
それをカイザルへの手向けとしよう。
気の利いた台詞の一つも出てこないが、そんなものは必要ない。
さぁ、叫ぼう―――あの騎士のように。


「ファバロォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」



(のりピー……!)
神楽が目を覚まして最初に思い浮かべたのは、あの白い女にその身を貫かれた花京院のことだった。
しかし、周囲の光景は先程までの放送局ではなく、野外だった。
近くにはファバロが突っ立っている。気絶した自分を助けてくれた後、上手くあの女から逃げられたようだ。
そのことには素直に感謝するが、やはり花京院は助からなかったらしい。
自分があの女に勝てていれば、花京院を早いうちに手当できたかもしれない。
花京院は死なずにすんだかもしれない。

『てめえ、弱すぎんだよ。
何もかも、兄貴の劣化でしかねえ』

『夜兎の本能を抑えようとするあまり、拳が俺に届く前に死んじまってんだよォ!』

あの白い女の言葉と、かつてとある夜兎に言われた言葉が自分の中で重なる。
結局、自分は誰かを傷つけるのが怖い臆病者だ。
血と戦うと言えば聞こえは良いが、いざという時に本気を出せずにむざむざ仲間を殺させてしまった。

(強くなりたいアル……!)
今まで幾度となく思ってきたことだが、今はひと際強くそう思う。
夜兎の血に頼らずとも、みんなを守れるくらい強くなりたい。
あの白い女にも、馬鹿兄貴にも負けないくらいに……強く。

650EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:04:25 ID:3vBKHcMg0
「ファバロ!」
急に耳元で響いた声にハッと我に帰る。
何故か自分のすぐそばに遊○王みたいなカードが置いてあり、その中で緑子がファバロの名を叫んでいる。

(そもそも、あのハナ○ソ頭はさっきから突っ立って何をやってるアル……え?)
突っ立ったまま動こうとしないファバロに痺れを切らして首を伸ばしてファバロの方を覗き込んだ神楽は、絶句する。
夜兎である自分すらも霞む程異常なまでに青白い肌をした少女が、短剣をファバロに突き刺していた。


ドクン、と心臓が波打ち、血が滾る。

「やめろ……」
ファバロは動かない。
ただ、少女にされるがままになっている。
何をやってるのだと緑子が叫ぶも、ファバロはまるで動かない。

「やめろ……!」
神楽は動けない。
白い女にやられた傷のせいだ。
何をやってるのだと自問するも、身体はまるで動かない。

『どいつもこいつも、やれ意地だ、救いだと。
地獄でやってろ』

『人を傷つけたくない、人を殺したくない、大層立派な考えだ。
このぬるま湯地球ではな』


「やめろぉおおおおおおおおおおおおお!!」



グシャリ、という嫌な音がした。
リタが折れたカイザルの剣でファバロを突き刺した音……ではない。
気絶していた少女が突如起き上がり、リタを殴り飛ばした音だ。

その人ならざる腕力によってありえない程吹き飛ばされたリタは、何が起こったのか理解できなかった。
それはそうだろう。
重傷を負っていた少女が急に起き上がるなど予想できるはずもない。
起き上がった少女が常識外れの腕力を発揮してくるなど予想できるはずもない。

(一体……何が……)
なんとか状況を把握するため起き上がろうとするも―――
次の瞬間、肩を踏みつぶされた。

思わず悲鳴をあげるリタだが、目の前の獣は止まらない。
執拗なまでに何度も何度も、リタの肩を、足を、腕を、腹を踏みつけ続ける。

(見誤ったわね……!ファバロは後回しにして、どうにかして先にこのお子様に対処しておくべきだったわ)
どうせ気絶しているから計算に入れる必要もないと侮っていた少女は、手負いの獣だった。
情け容赦ない、夜の兎が解き放たれた。

こうなっては四の五の言っていられない。
虎の子のアスティオンを使おうと黒カードを取り出そうとして―――腕を蹴り飛ばされた。
嫌な音を立てながら千切れた右腕があらぬ方向へと飛んでいく。
左腕は先ほどのファバロとの戦闘で使い物にならなくなった。

両腕を失い、目の前には獣……いや、化け物がそびえ立つ。
ああ、自分は死ぬんだな、と他人事のように思う。
カイザルの魂を救うこともできずに、ただ無為に死ぬ。
結局、外道は何をしても失敗するようだ。

そう、自分はただの外道だ。
ネクロマンサーとして、ゾンビとして、人殺しに乗った危険人物として。
真っ当な人間というには、余りにも道を踏み外しすぎた。
それでも、ネクロマンサーとしての、ゾンビとしての、危険人物としての生き方は―――全部ひっくるめて自分の性。

(腕輪ごと腕が飛ばされたから捕まらない……なんてお気楽なことにはならないわよね)
これから殺されるというのに、妙に晴れやかな気分だ。
誰も手にかけないうちに死ねるのは、それはそれで悪くないようにも思う。
カイザルの魂を救えずに死ぬのは心残りだが、逆に言えばそれぐらいしか無念はない。
自分は長く生きすぎた。
そろそろ年貢の納め時だろう。


(カイザル、魂が囚われた先で―――私はあんたに呼びかけ続けるわ。
向こうで喋れるかは分からないし、喋れても届かないかもしれない。
それでも、ずっとずっと、呼びかけ続けるわ。
だから、もし私の声が聞こえたら―――ちゃんと返事してよね)

化け物の足が振り上げられる。
狙いはリタの首だ。

(向こうに行ったら、ちょっと今までとは違う私になってるかもね。だって―――)

足で首を撥ねられた。
死ぬのは二度目だが、どうにも慣れないものだ。

(死んだらもう、私はゾンビじゃないから)

【リタ@神撃のバハムートGENESIS 死亡】

651EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:05:01 ID:3vBKHcMg0


我に帰ったファバロの目に移ったのは、立ち尽くす神楽と変わり果てたリタの姿だった。
別にリタが死んでるのはいい。
思う所がないと言えば嘘になるが、リタは殺し合いに乗っていた。
普段より生き死にをドライに今のファバロにとってみれば、死んでも仕方ない存在だと割り切れる。

「おい、神楽……」
だが、神楽の様子がおかしい。
思わず声をかけたファバロは、ゆっくりと振り返った神楽の目を見て絶句する。
目が完全にイッている。

思わずファバロが後ずさった時―――
神楽は声にならない叫びをあげ、北へと走って行ってしまう。

「ちょ、おい……!いってぇ……!」
反射的に呼び止めようとしたファバロだったが、急に腹部が痛み出してきた。
見ると、血が滲んでいた。

「リタの奴、また妙なマジックアイテム使いやがったな。
……なぁカイザル、お前が助けてくれたのか?」
リタのブレスレットによって意識が飛び、抵抗もできずに刺されたファバロが何故こうも元気なのか?
それは、リタがカイザルの剣を使ってファバロにトドメを刺すことにこだわったからである。
ビームサーベルによって壊れたカイザルの剣は、殺傷力が著しく低下していた。
騎士として剣でファバロと決着を付けようとし続けたカイザル。
その姿を知っているが故に、リタは壊れていてもカイザルの剣でファバロを殺すことにこだわった。
つまり、カイザルに助けられたと言っても過言ではない。

「ねぇファバロ、神楽を追いかけないと!」
「あー?」
すっかり忘れてたが、近くには緑子がいたのだった。

「あんな目がイッてる女、わざわざ追いかけてどうすんだよ」
「ファバロ!神楽は君を助けるためにああなったんだよ!」
確かに、リタに殺されかけた自分を助けたのは神楽だ。
だが、明らかにあの神楽はまともではない。
下手に刺激してなにかの拍子にこっちにまで被害が飛び火しないとも限らない。
限らないのだが―――

「ねぇ、ファバロ!」
「だぁもう分かったよ、追いかけりゃいいんだろ追いかければ!」
結局、ファバロ・レオーネとはこういう男だ。
なんだかんだ言いつつ根っこの所はお人よしである。

「そこらへんにちょうどリタが持ってた医療道具があることだし、ちょっくら応急処置したら神楽を追いかけるか」
腹部を押さえつつ近くに散らばったリタの持ち物を回収しながら、ファバロは思う。
これでよかったのかと。
本気で説得すれば、リタは殺し合いに乗るのを止めてくれたかもしれない。
そうすれば死なずにすんだかもしれない。

そんなたらればを考えながら、リタの遺品を回収し続ける。
一瞬、リタの死に顔でも見てみようと思ったが……やっぱり止めた。

明日へとそよぐ風の中、心の中には、ぽっかりと穴が空いたようだった。

【C-2とC-3の境目/一日目・日中】

【ファバロ・レオーネ@神撃のバハムート GENESIS】
[状態]:疲労(大)、腹部にダメージ(小)、精神的疲労(中)
[服装]:私服の下に黄長瀬紬の装備を仕込んでいる
[装備]:ミシンガン@キルラキル グリーンワナ(緑子のカードデッキ)@selector infected WIXOSS
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(8/10)
    黒カード:黄長瀬紬の装備セット、狸の着ぐるみ@のんのんびより、小型テレビ@現実、、カードキー(詳細不明)、ビームサーベル@銀魂
[思考・行動]
基本方針:俺は俺のために生きる。殺し合いに乗る気はねぇ。
   0:リタの遺品を回収し、傷の応急処置をする。
   1:神楽を追う。
   2:カイザル……リタ……。
   3:『スタンド』ってなんだ?    
   4:寝たい。
 [備考]
※参戦時期は9話のエンシェントフォレストドラゴンの領域から抜け出た時点かもしれません。
 アーミラの言動が自分の知るものとずれていることに疑問を持っています。
※繭の能力に当たりをつけ、その力で神の鍵をアーミラから奪い取ったのではと推測しています。
 またバハムートを操っている以上、魔の鍵を彼女に渡した存在がいるのではと勘ぐっています。
 バハムートに関しても、夢で見たサイズより小さかったのではと疑問を持っています。
※今のところ、スタンドを召喚魔法の一種だと考えています
※白のマスターカードによって第一回放送の情報を得ました。
※C-2とC-3の境目にリタの持ち物が散乱しています。

652EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:05:48 ID:3vBKHcMg0


鎖が外れ、夜兎の本能に呑まれた神楽。
ファバロの怯えたような目を見た瞬間、本能はファバロから逃げるかのように身体を北へと動かした。
彼女は知らない。
本能に呑まれた自分をかつて止めてくれた少年は、もうこの世にいないことを。
彼女は知らない。
自らの進む先に、大切な仲間の侍や相容れない兄がいることを。

彼女は考えられない。
理性と知性の吹っ飛んだ神楽には、この先に何が待っているかなど―――想像すらできない。

【C-2/一日目・日中】

【神楽@銀魂】
[状態]:暴走、疲労(中)、頭にダメージ(大)、胴にダメージ(大)、右足・両腕・左足の甲に刺傷(行動に支障なし)
[服装]:チャイナ服
[装備]:なし
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10)、黒カード:不明支給品0〜2枚
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らないアル
   1:………………(ひとまず北上する)。
   2:神威を探し出し、なんとしてでも止めるネ。けど、殺さなきゃならないってんなら、私がやるヨ。
   3:銀ちゃん、新八、マヨ、ヅラ、マダオと合流したいヨ
[備考]
※花京院から範馬勇次郎、『姿の見えないスタンド使い』についての情報を得ました。
※第一回放送を聞き流しました
どの程度情報を得れたかは、後続の書き手さんにお任せします

653EXiSTENCE ◆45MxoM2216:2016/03/21(月) 02:07:13 ID:3vBKHcMg0
仮投下終了です。
長くなってしまったので、本投下時には前後編にするかもしれません。

何か問題点などございましたら、ご指摘お願いします。

654名無しさん:2016/03/21(月) 10:44:26 ID:5PMyP8X60
乙です
互いの駆け引きが、それぞれらしい心理描写光る話でした
腕輪やカードについて言及したのも良かったです
緑子ルリグの中で一番活躍してるなあ、リタの魂が吸い込まれたのを見ていたら何かヒントを掴めるかも?
本投下に問題はないと思います

655 ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 19:58:25 ID:BdiowsKo0
仮投下します。

656悪意の種、密やかに割れて ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 19:59:40 ID:BdiowsKo0

B-7にあるホテル、その一室。
東側に窓があるその部屋は既に日光が差し込む危険もなく、カーテンが閉められている。
かといって室内の照明器具が点いている訳では無く、結果として部屋の中は、普通の人間が辛うじて活字を読めるか程度の明るさで満たされていた。
薄暗闇に包まれたそんな部屋の中で、唯一ひっそりと自ずから光を放っているものが一つ。
ありふれたサイズの液晶画面であるそこに反射する姿は、先程のシャワーのお蔭で殺し合いの場であるにも関わらず清潔感に溢れる一人の男。

帝王DIO、その人だった。





あれから。
麻雀に快勝し気分を良くしたDIOは、尚も他の娯楽で暇を潰そうとして、娯楽場の案内図を見に行こうとした。
しかし、実際に案内図を見て―――――正確にはその横にあるホテルの案内図を見て、より有意義な時間の過ごし方を発見した。

―――――ホテル内の、綿密な探索。
もしも敵が強襲してきた時、そしてその敵が万が一にでも日光というDIOの弱点を把握し、外に面する場所へ誘導するなどといった姑息な手を使ってきた場合。
こちらも流石にホテルの中を、単に地図で掴んだ概要以上にしっかり把握しておかなければいけない。
吸血鬼としての身体に『世界』という最強のスタンドを持つ自分だが、あのクソッタレの侍共のように、必死に小さい頭を捻って考え付いたなけなしの策が、「偶然」このDIOの域に達することが「万が一にでも」存在するかもしれない。
だが、帝王が完全に地の利を理解しているのであれば、そんなちっぽけな偶然すらも水泡と帰す。
そう、これはこのDIOの勝利をより盤石にし、虫ケラごときがあろうことか二度も勝利するような、間違ってもあってはならない事態を防ぐもの。

DIOの持論の一つに、「恐怖を克服する為に生きる」というものがある。
名声、支配、金、友人―――――それらのものは全て人間が生きている上で安心するために手に入れようとする、という論。
DIOが今しているのは、まさに今「万全を期す」という形で安心を得るという行為だった。

「ふむ、ここは…」

DIOが開いた扉は、そのほかの部屋のような豪奢さがなく、シンプルにデザインされた机が並ぶ事務室。
整理整頓がきちんとなされている―――――というより、机の奇妙なまでの小奇麗さや、ペン立てに入った使用した形跡がほとんどないように見えるペンを見るに、実際には一回も使用されていないのだろう。

「つまりは、このDIOが初めに使うことができるということか」

東向きの窓に念入りにブラインドとカーテンを掛け、部屋を物色しようとして、少し奇妙な事に気付く。
どの机にも、テレビに似た画面が嵌め込まれた、見慣れないものが並んでいる。
しかし、DIOが知るテレビはこんなに薄くないし、そもそも一つあれば十分といった代物の筈だ。
それがいちいち個人の為に用意されているというのは奇妙だし、そもそも娯楽である筈のテレビがこんなに遊びが無いように見える場所に大量に設置されているというのもおかしな話だ。

「面白そうだな…調べてみるとするか」

そう言って机に近寄り、慎重にディスプレイを調べてみる。
間もなく裏面にあるコードが、下にある何やら大きな箱のようなものとつながっていることがわかり、興味の対象はそちらに移る。
手で触ること数十秒、そちらにランプが併設された小さなボタンがあることを知り、迷いなくそのボタンを押しこむ。

―――――途端、先程まで暗転していた液晶が輝きだした。

やはりテレビのようなものだったのか、と思うDIOの前に現れたのは、しかし彼の興味を引くには十分な一文。




『殺し合いサポート専用パーソナルコンピュータ システム起動』




という、そんな一文だった。

657悪意の種、密やかに割れて ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 20:00:11 ID:BdiowsKo0

「ほう……?」

疑問符と好奇心が同時に顔を擡げる。
薄暗闇の中にぼんやりと浮かぶディスプレイを愉快そうに眺める。
恐らくはテレンスがやっているゲームを司るという、『コンピュータ』というものだろう。
触れた事はなかったが、幸いにもこういった物を扱った事が無い参加者への気遣いか、取り扱いを説明するマニュアルが立ち上がるようになっていた。
もちろんスキップも可能となっており、分かる人間も気分を悪くしない仕様だ。

「随分と親切だな」

小さく呟き、一人になると口が軽くなっていけないなとふと思う。
そして同時に、口元に僅かな笑いが浮かんだ。
無条件な親切―――――そんなものを、こんなに悪趣味な殺し合いを開いた者共に求めるなどもっての外だ。
わざわざ殺し合いのサポートとまで書かれているのだ。殺し合いを促進させるためのものだとは容易に想像がつく。
となると、あるのもホテルだけではないだろう。ここ以外の施設にも、恐らくは設置されている筈。
或いは、脱出の為に活用できないかと考える輩もいるだろうが―――――無駄。
もしここに穴があるのならば、主催は態々自分達から弱点を晒しているという事になる。
よっぽどの馬鹿か、或いは何か理由がない限りは、そんなことをやるとは思えない。

そうこうしているうちにパソコン操作のノウハウもその大部分の説明を終え、マニュアルが表示されていたウィンドウが閉じる。
整理されたレイアウトや専門用語を用いない解説からなる説明はそれなりに分かりやすく、全くパソコンを弄ったことのないDIOも流し見で充分内容を理解できた。
そうして彼にも一通りこのパソコンの扱い方が分かったところで、それまで白塗りだった画面に一文が現れた。
それは、これまでの解説のようなポップな自体ではなく、最初に殺し合いサポート云々と書かれていたものと同じような印象を受けるようなもの。

「『白カードを提示してください……』か」

白カード、というのは、この忌々しい腕輪に取り付けられたこれの事だろう。
てっきりただの首輪代わりかと思ったが、なるほど本人認証にも使えるとは面白い。
どこに見せればいいのかと机を見ると、妙なオブジェのようなものが楕円形の光を出していた。
その中心にカードのような四角が描かれているのを見て、ひとまずそこに腕輪に嵌った白カードを翳してみる。
画面に一本のゲージが現れ、数秒でそれが満たされた後、画面にウィンドウが改めて開かれた。

『認証終了 参加者・DIO』

そんな文字列が浮かび上がり、またその数秒後には通常のデスクトップ画面へと変わる。
表示されていたのは、幾つかのアイコン。
『チャットルーム』、『メール機能』、そして『DIO・個人ファイル』と書かれた一つのフォルダ─────合計四つのアイコンが、画面上に表示されていた。
ざっと

「個人ファイル………なるほど」

その内容は、少し考えれば一瞬で分かる。
恐らくは、DIOのこれまでの行動やらなにやらが記録されているのだろう。
このカードにそれだけの機能があるのかは不思議だが、よく考えてみればその記録が腕輪に残っているという可能性もあったと思い直す。
ともあれ、ここに入っているのは一人の参加者がここまでどうやって過ごしてきたのか、というもの。

658悪意の種、密やかに割れて ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 20:01:04 ID:BdiowsKo0

「見る必要は無いな」

だが、ここにあるものはDIO自身のもの。
如何に時間があるとはいえ、わざわざ見る必要のないものに割く時間はない。
というよりむしろ、そんなに大した事に使えるような情報もないだろう。
その内心は、或いは先の戦闘で慢心により敗北した、そして地下通路で自分の末路を見てしまったという、苦々しい事実を改めて見ることをよしとしなかったというのもあったのかもしれないが─────。

「それより、本題はこっちか」

そんなことを自覚している様子は一切なく、DIOは残る二つのアイコンに交互にカーソルを合わせる。
現在解放されていると思しき二つの機能。
メールはともかく、この『チャット』なるものが何かは全く分からない。
恐らくは海の底で眠っている間に出来た文化の一つだろう。
外界のことについては書籍やエンヤ婆による伝聞だけなので、自分で仕入れた情報といえば深夜にカイロを出歩いた時に目にしたものくらいだ。
ともあれ、チャットというらしきこれの利用価値を確かめないことには話にならない。
二連続でマウスを押す、ダブルクリックというらしい技術を駆使して、『チャットルーム』を開いてみる。
途端に先程と同じようなウィンドウが立ち上がるが、その背景は打って変わって黒塗りのそれ。




M:『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』

Y:『私、結城友奈は放送局に向かっています!』

R:『義輝と覇王へ。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ』

K:『友奈?友奈なの?私よ、にぼっしーよ』




「………ふむ」

そこにあったのは、アルファベット一文字に続く文字列。
結城友奈や東郷美森、犬吠埼樹は確か名簿にもあった名前だが、果たしてこれはなんだと首をかしげる。
幸いすぐにヘルプがあることに気付き、チャットの仕組みも先と同じように簡単な解説を受けて内容を理解した。
要するに、匿名で情報を流す為のツールという事だ。
余談だが、これはDIO自身には気付きようがないことだが、これはDIO用にカスタマイズされたアカウントの為名簿などと同じようにDIOにも読めるように翻訳もされている。

「情報、か………ホル・ホースが寄越したものがあったな」

危険人物・一条蛍の存在。
それと反対の事を伝えて混乱させるか、と思い立ったが、しかしそれは違うなと首を振る。
対主催を掲げる集団をバラバラにしているのだから、嘘を吐いて信用を上げてやっても自分からそれを壊していく野蛮なタイプなのだろう。
そんな人間の為に態々このDIOが手を煩わせてやる必要性はほんの少しも感じない。

それに、少し気になっている事がある。
このMという人物の書き込み─────『東郷美森は犬吠埼樹を殺害した』。
先程出会ったホル・ホースは、これまでに二人の参加者を殺害したと言っていた。
その二人とは、志村新八と、そして犬吠埼樹。
だが、ここに書き込まれている情報はそれとは食い違うもの。
犬吠埼樹という人物を殺した犯人は、果たしてどちらか。
―――――実際にはこの二人のどちらでもないのだが、それはDIOが知る由もない事実だった。

「ホル・ホースとここの情報、か…」

659悪意の種、密やかに割れて ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 20:02:30 ID:BdiowsKo0

このチャットルームの情報は、お世辞にも簡単に信じられるとは言えない。
何処の誰とも知らぬ人間が書いたものを容易に信じるなど、不用心にも程がある。
しかし、ならばホル・ホースは完全に信用出来る人間かと言われると、こちらもそう簡単に肯定出来はしない。
あの男は良くも悪くも人間的だ。常に強い方に味方し、殺し屋という職業に就きながら己の命に拘る。
その熟練度も並大抵のものではなく、自分を暗殺しようとした時も、常人なら殺気どころかその一挙一動にすら気付かないだろうと言うほどに見事な手際だった。
そんな男が、この殺し合いを生き抜く為に必死で考えを絞らせている―――――そんな時に、帝王と出会ってしまったとするなら。
狡猾な思考を持つ彼は、口から出任せでもどうにか「貢献している」というアピールをこちらに見せつけ、未だに忠誠を誓っているように思わせることで、無事に切り抜けようとしてもおかしくない。
仮にも暗殺者としては逸材だ、このDIOに嘘を吐き信じ込ませるというのもやってのけられないとは言い切れない。
どこか挙動不審な態度も、そう考えれば一応は納得がいく。

「ふむ」

ならば、どうするべきか。
既に先の邂逅から時間は経ちすぎており、ホル・ホースも地下通路からは脱出して地上にいることだろう。
未だに日が沈むには早い時間であり、外に出る事が叶わない身としては追って問い詰めることも出来ない。
一見、この件でDIOが打てる手は存在しないようにも見える。

だが、目の前にあるチャットでならどうか。
これを用いれば、出来ないことは決して皆無ではない。
しかし、かといって不用意な発言をすると、取り消しのできないこのチャットは反対に命取りになりかねない。
慎重に考える事数分、DIOは一つの短い文を流れるように打ち込んだ。


『犬吠埼樹を殺したのはホル・ホース』


思考の末、DIOが最善手として選んだのはその文章だった。
この一文、単純なように見えて面白い効果を齎す可能性があると彼は睨んだのだ。

先程の説明で、イニシャルが表示されることは既に分かっている。
しかし、DIOと同じ「D」を持つ参加者はもとより参加すらしていない。
となると、承太郎や先程出会った侍たち、更には死亡した花京院やポルナレフからDIOについての情報を得た者達は、当然このイニシャルには警戒する筈だ。
例えば、『ホル・ホースは信用できる』という一文なら、きっとホル・ホースに対する警戒は高まるだろう。
だが、その内容がこれならばどうか。
ホル・ホースについての人物評は、恐らくはDIOと同じく伝わっている事だろう。
そして、それならば「わざわざ手下が信用ならないという情報を流すのか」という疑心暗鬼に勝手に陥ってくれる可能性が高いと言える。
承太郎などは、「ホル・ホースがDIOを怒らせた」なんて風に受け取ってくれる可能性すらある。
無論、承太郎たちと何の関わりもない人間にはホル・ホースは警戒の対象として見られるだろう。
だが、それはそれでただ単に根も葉もない噂にしかなり得ない。
東郷美森というもう一人の容疑者が同時に開示されているのだ。暗殺のプロである彼ならば、その程度の疑念があろうと潜り込むのは決して不可能にはなり得ない。
総じて、彼が集団に潜り込もうとすれば、恐らくは「信用しきってはいけないが、かといって無条件で追い払うにも証拠が足りない」程度の信用に落ち着くはず。
その程度の状況ならば、暗殺者である彼は手慣れている筈だ。
もしも彼が未だに忠実な僕であるならば、このDIOの為に人を殺すチャンスはきっと見誤るまい。

660悪意の種、密やかに割れて ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 20:03:15 ID:BdiowsKo0


仮に、の話だが。
もしも、あの男が本当に虚偽の報告をし、帝王を騙そうとしたのならば。
その時は─────惜しい人材だが、次にこのDIOの目の前に現れた時が、奴の命運が尽きる時だ。
せめてもの餞に、もう一度『世界』の能力を見せて葬ってやるのも悪くないか。
そう考えながら、邪悪の化身はにやりと口角を吊り上げた。





─────これは、DIOが気付かなかった、気付きようがなかった事実。
尤も、気付いてもどうしようもなかった事でもある、事実だが。

白カード。
パソコンが個人認証の為に求めたのは、あくまで白カードだけ。
別に、そこにいる人間の白カードを使わなければならないという制約はない。
尤も、カードは基本的に腕輪に嵌め込まれたまま。
遠くにいる人間の白カードを使う事は、基本的には出来ない事だろう。

─────その腕輪を持つ人間が、命を落としていなければ。

つまり、それは。
死者の白カードも、使用が可能だという事だ。

例えば誰かの白カードを持っている、というのならともかく、ホル・ホースへの疑念でテンションが下がる前、麻雀に勝って浮かれていた彼が気付く筈もなかった。
一見利用価値が少ないようにも見える個人ファイルの存在は、この為。
その中に隠されているものが何かは─────未だに明かされず。
パンドラの匣になり得る何十枚ものカードは、開示される時を待っている。



ともあれ。
ラヴァレイという男が蒔いた種は、こうしてゆっくりと育ち始めた。
結実の時は、そう遠くない。




【B-7/ホテル/一日目・日中】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、麻雀に勝ってテンションが高い
[服装]:いつもの帝王の格好
[装備]:サバイバルナイフ@Fate/Zero
[道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(9/10)
[思考・行動]
基本方針:主催者を殺す。そのために手っ取り早く他参加者を始末する。
0:さて、この後はどうするかな。
1:夕刻までホテルで体を休める。その後、DIOの館でセイバーと合流。
2:ヴァニラ・アイスと連絡を取りたい。
3:銀髪の侍(銀時)、長髪の侍(桂)、格闘家の娘コロナ、三つ編みの男(神威)は絶対に殺す。優先順位は銀時=コロナ=桂>神威。
4:先ほどのホル・ホース、やはり信用する訳にはいかないかもしれんな。
5:衛宮切嗣を警戒。
6:言峰綺礼への興味。
7:承太郎を殺して血を吸いたい。
8:一条蛍なる女に警戒。セイバーやヴァニラ・アイスと合流した時にはその旨も一応伝えてやるか。
[備考]
※参戦時期は、少なくとも花京院の肉の芽が取り除かれた後のようです。
※時止めはいつもより疲労が増加しています。一呼吸だけではなく、数呼吸間隔を開けなければ時止め出来ません。
※車の運転を覚えました。
※時間停止中に肉の芽は使えません。無理に使おうとすれば時間停止が解けます。
※セイバーとの同盟は生存者が残り十名を切るまで続けるつもりです。
※ホル・ホース(ラヴァレイ)の様子がおかしかったことには気付いていますが、偽物という確信はありません。
※ラヴァレイから嘘の情報を教えられました。内容を要約すると以下の通りです。
 ・『ホル・ホース』は犬吠埼樹、志村新八の二名を殺害した
 ・その後、対主催の集団に潜伏しているところを一条蛍に襲撃され、集団は散開。
 ・蛍から逃れる最中で地下通路を発見した。
※麻雀のルールを覚えました。
※パソコンの使い方を覚えました。
※チャットルームの書き込みを見ました。
※ホル・ホースの様子がおかしかった理由について、自分に嘘を吐いている可能性を考慮に入れました。



・施設備え付けのパソコンについて
スキップ可能のマニュアルが起動時に立ち上がります。その後、白カードをスキャンする事でパソコンの使用が出来るようになります。白カードについては本人のものでなく、死者のものも使用できます。
使用出来るのは携帯電話やスマートフォンと同じチャット機能・メール、及び個人ファイルの閲覧です。
個人ファイルの細かい内容については後の書き手さんにお任せします。

661 ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/08(金) 20:05:09 ID:BdiowsKo0
仮投下を終了します。
施設のパソコンについて結構踏み込んでしまったので、指摘があれば是非お願いします。

662 ◆NiwQmtZOLQ:2016/04/10(日) 13:02:27 ID:U4XvQGNI0
特に指摘がないようなので、本投下してこようと思います。

663 ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:43:30 ID:D9Yha4U20
仮投下します。

664飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:44:27 ID:D9Yha4U20
放送局の一室。
勇者、セレクター、騎士団長、デュラハン、そして悪魔。
年齢も性別も、種族さえ違う5人が、食事を摂り、顔を突き合わせて話し合っている。
ちなみにフードカードを奪われていたるう子は、多く持っている夏凛から10枚ほど分けてもらっている。
それは奇妙な光景だった――この場が、幾多の世界から集められた人々が殺し合う舞台だということを知らなければ、だが。

話し合いは意外にも円滑に進んでいった。
少なくとも、未だ倒れているウリス――浦添伊緒奈を除けば、この場にいる者は全員、今すぐ事を荒立てるような意図はない。

(ふむ――杞憂だったか)

ラヴァレイは内心で一人ごちる。
賞金首が考えた最悪の可能性は、アザゼルが何らかの形で自分の真の正体を看破しているケースだった。
「見知った顔がいる」と言われたときは少しヒヤリとしたが、副騎士団長「ラヴァレイ」と悪魔「マルチネ」と賞金首「ジル・ド・レェ」が同一人物であることは知らないようだ。
また、今の自分は悪魔と敵対していた「ラヴァレイ」の顔であることからして、揉め事に発展する可能性も考慮していた。
が、多少の挑発的な言葉はあったものの、今の状況では戦意はないことと、大人しく恭順する意思を示すと、アザゼルもそれ以上やり合うことはなく引き下がった。
敵対する勢力の一員であったとはいえ、直接交戦したことはなかったことも幸いしたのだろう。

665飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:44:43 ID:D9Yha4U20
5人のうち三好夏凛、セルティ・ストゥルルソン、アザゼルは元から行動していたこともあり、情報交換は手短に終っていく。
ラヴァレイは己の行動を少しずつ伏せながら語った。
具体的に隠した部分は、本部以蔵との顛末、DIOとの邂逅、そして地下通路で見た「ジョースターの系譜」。
どれも、単独で行動していた時の出来事であり、迂闊に話せば自分に不利をもたらしかねないことだからだ。
6時間以上前に別れた本部が未だ生きているのにも関わらずここにおらず、戦闘の痕跡もないということは、途中で何らかの戦闘に巻き込まれた可能性がある。
もしも今さらのこのことこの場に登場してきて、紅桜のことを責められたときは、「そんなに危ない代物だとは思わなかった」、「本部なら扱えると思った」と言えばよい。
事実として、黒のカードには「妖刀」としか書かれておらず、意識を乗っ取るような感覚にはラヴァレイ自身手にしてみるまで気付かなかったのだから。
また、後に地下通路から映像が見つかり、なぜ話さなかったのかと咎められた場合は、「その時はまだ灯りがともっておらず、映像も流れていなかった」とでも話せばよい。

小湊るう子が、三好夏凛、アインハルト・ストラトス、桐間紗路と散りぢりになった後のことを話し終える。
すると次にアザゼルが興味を示したのは、車椅子の少女――東郷美森が持っていた、今は夏凛が持っている白い犬の姿が描かれたカードだった。

「出してみろ」

アザゼルに促された夏凛が黒いカードをかざすと、巨大犬・定春が姿を現した。
どうやらカードの中で寝ていたところを起されたらしく、寝ぼけつつもかなり不機嫌な様子を見せている。
2人の少女が慌ててなだめに走り、ふわふわした毛を撫でてやる。

「ほう、ケルベロスの一種ですかな」

動物の登場にラヴァレイでさえも、纏う雰囲気をわずかに弛める。

666飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:44:59 ID:D9Yha4U20
(かわいい……!)

口にこそ出さない、いや出せないが、セルティも定春の愛らしさに一瞬で魅了されてしまった。
セルティは可愛いものがわりと好きだ。少なくとも、普段から使用するヘルメットに、猫耳のついたデザインを選ぶくらいには。
少しくらいは触ってみても大丈夫だろう、と思い、2人の少女に混ざろうとして。

「面白い。余興に芸の一つでも見せてみろ、犬」

そんな和みかけた空気を見事にぶち壊したのは、またもこの悪魔だった。
定春は飛びのき、歯をむき出しにしうなり声を上げて露骨に警戒心をあらわにする。

(――まったく)

この悪魔は、動物とすらまともにコミュニケーションというものが取れないのか。
もう何度目か分らない呆れを感じながら仲裁に入ろうとして。

事件は起こった。

アザゼルが、ほれほれ、とばかりに不用意に定春に手を伸ばし。
鋭い鳴き声と共に、定春はその手を噛んだ。


場の空気が凍り付いた。


「――ふむ」

アザゼルは、呆けたような顔で手から流れる血と定春を見比べた後。

667飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:45:19 ID:D9Yha4U20
「主人に刃向かう犬は要らん」

おもむろに、片太刀バサミを振り上げた。


「「――!」」


夏凛が、セルティが、悪魔を止めるべく動き――しかし。


「やめて!!」


悪魔を止めたのは、予想外の人物だった。

「やめて下さい!――お願い!」

少女――小湊るう子が、振り上げかかったアザゼルの腕に全身で飛びついていた。

「ええい、離せ!」

左手に走る痛みにも構わず、るう子は悪魔の腕にしがみついて離れない。
これには予想外だったのか、アザゼルは犬の存在も、手の怪我も忘れたかのようにるう子を振りほどく。

「軽い冗談だ――いちいち本気にするな。
 小湊! その犬は貴様が躾けておけ!」

噛み痕から流れる血を拭いながら、ややきまり悪げにアザゼルがぼやく。

668飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:45:38 ID:D9Yha4U20
「ごめんね、怖い思いさせて――もう大丈夫だよ」

るう子は定春のもとに駆け寄り、その首筋に抱きついてなだめながら、黒のカードに戻す。
一連の光景に、セルティは肩を落とし、ため息をつきながら(実際には息はしていないのだが)。

『笑えない冗談だ』

心底からの言葉をPDAに打ち込み、悪魔に突きつける。

「ふん」

悪魔は憎々しげに横を向いた。





『――それで。この後はどうするんだ? 全員揃ってここで人を待つのか?』

そんな騒動があった後。
主導権を握られるのは危険と判断したセルティは、多少強引にでも会話を進めていく。

「うむ――当然、考えている」

その文面に、アザゼルは倒れているウリスを含む5人をじろりと見渡す。

「この俺と小湊はここに残り、4人は残るセレクターの紅林遊月、ひいては役に立つ参加者や情報、アイテムを集めてもらおう。
 連絡の手段も、移動の手段も豊富な現状だ。これだけの戦力、6人そろって待ちぼうけているのは意味が薄い。
 そう思うだろう、なあ三好?」

突然名を呼ばれ、夏凛の頬がピクリと動く。

「……なんで私を呼ぶのよ。私は別に、待っていてもいいけど」

669飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:46:08 ID:D9Yha4U20
「とぼけるなよ。お前の仲間――おおかた先ほどの放送で俺に断りもなくここに呼んだのだろうが、探しに行きたくて仕方ないという顔をしているぞ」

図星を突かれ、夏凛に再び動揺が走る。

「まあ、今さら探しに行っても無駄かもしれんがな」

「……どういう意味よ。友奈は――」

「結城友奈、だったか」

悪魔の顔に、またしても愉悦の笑みが浮かぶ。

「そいつがチャットとやらに言葉を残してから、今の今までいったい何時間が経ったかな?」

ただでさえ疲労の色が濃い夏凛の顔が、一層青ざめる。

「それに返答をして、さらに放送で呼びかけ――ここに現れるどころか、まともな返事の一つすらよこさないではないか。
 つまり考えられるのは、最初に言葉を残した輩が偽物だったか、連絡の手段を失ったか、あるいは既に」

『やめろ』、何度目かすら分らない苛立ちを覚えながらセルティがそうPDAに打ち込み、割って入ろうとして――

「いいの」

夏凛は、それを制する。

「分ってるわよ、そんなことは……! でも、だけどね」

670飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:46:31 ID:D9Yha4U20
そしてアザゼルに向き合い、言い放つ。

「勇者部にはね、こんな掟があるの。
 『なるべく諦めない』ってね……!」

「ほう」

青ざめた顔の中でも、その目に宿る炎。

「……好きにするがいい」

それを品定めするように見ると、アザゼルはそれ以上の興味を失ったかのように顔をそらす。

「それでは、私は騎士としてこのお嬢さんをお守りしましょう。
 別れると仰りましたが、道はどういたしますかな」

夏凛の傍らに、ラヴァレイが立つ。

「うむ、2人は先ほど別れたホル・ホースどもに追い付き合流し、そのまま東の市街地を探索し、遅くとも次の次の放送までには戻ってこい。
 デュラハンはそこの女と2人、北の島を同様に探索し、戻ってこい。
 全員、有事の際はこのPCに連絡をしろ」

『私はそれで構わないが、セレクターを手放していいのか?』

当然の疑問を、セルティは打ち込んで見せる。

「そいつは確かに重要人物なのかもしれんが、同時に俺を殺そうとしてきた危険人物でもある。
 あくまで保険にすぎん爆弾など、あえて手元に置き続けるものでもあるまい?
 それから、既にくたばったという蒼井晶の死体も回収しておきたい所だしな。生きてはいなくても何らかの役には立つかもしれん」

『白のカードか』

671飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:46:49 ID:D9Yha4U20
「ああ。より蒼井に詳しいこいつなら適任でもあるだろう。
 ――小湊! いつまでも寝かせておくな。そろそろ水でも掛けて起こせ」

「は、はい」

アザゼルが青のカードから出した水瓶を受取ったるう子が、伊緒奈さんごめんなさい……と謝りながら水を掛けて起こす。

「う……」

冷たい感触に目覚めたウリスが、頭を抱えながら周囲を見渡す。

「ここは、――っ!」

アザゼルの存在を視界に認め、憎々しげな表情を露わにする。

「ようやくお目覚めだな、女」

アザゼルがウリスを見下す。

「この悪魔……!」

睨み付け、くってかかろうとし――そこで、自分の腕が黒い影に拘束されていることに気付く。
それだけではない。5人もの男女が、自分を取り囲んでいる。

「起きて早早だが、貴様には仕事をしてもらおう。そこのデュラハンと共に行動し、役立つ連中を連れてこい。
 せいぜい、ない悪知恵でも働かせるがいいぞ」

「何を勝手に――」

672飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:47:05 ID:D9Yha4U20
そう言いかけて、再び周囲を見渡し、諦めたようにうつむく。
ウリスは、異常者ではあっても馬鹿ではない。
今の状況で下手にあがけば、即、死に繋がることくらいは十二分に理解できる。

「……何だか分らないけれど、分ったわよ」

「うむ、阿呆は物分りが肝心だ。三好、そのスマートフォンとやらはデュラハンに預けておけ。
 最低限の餞別だ。敵に襲われたら渡してやるがいい。そんな時なら寝首をかく余裕はあるまい」

伊緒奈の危険性を知っている夏凛は、少しためらった後、セルティにスマホを渡す。

『それじゃあ、いい加減にそろそろ行くぞ。
 それから、ここにあった遺体を2つともを埋葬しておきたいが、構わないか』

「……私も、東郷をちゃんと弔ってあげたいんだけど。いいかしら」

「好きにしろ。小湊、忘れずにホル・ホース共に連絡を入れておけ」

命令を受けたるう子が、ノートPCを立ち上げてメールを送る。
文面はこうだった。「夏凛さんたちがそっちに行きます。合流したら、詳しい話を聞いてください」


――こうして、紆余曲折を経て。
放送局に集った6名は2人ずつに分れ、しばし別の道を行く。





2つの遺体を埋葬し、白のカードは集めているという小湊るう子に託した後。
数刻後、デュラハンと少女の姿は島と島を結ぶ橋の上にあった。

「ねえ」

疾走するバイク。

「ねえったら」

673飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:47:28 ID:D9Yha4U20
相変わらず影で括り付けられたままのウリスが、セルティに執拗に話しかける。
始めは無視していたセルティだが、バイクを急停止させる。

『何だ』

「本当にいいのかしら? あの悪魔の言いなりになって私なんかと来て。
 もしも残してきたあの子に何かあったら――」

『余計な気を回さなくてもいい』

ぴしゃりとPDAを叩きつける。

『スマホを奪おう、なんて考えても無駄だよ。仕事柄、君のような危ない女の子には慣れっこでね』

そして、ヘルメットをとって空っぽの頭を見せる。

『それと、私は見ての通りだからな。運転の最中に話しかけられても話せない。
 落ちて怪我なんかすることのないように、しっかり掴まっておくことだ』

「へえ、怖ぁい」

それを見ても、ウリスは依然として飄々としたまま。
やがてバイクは再び走り出す。

(――やれやれ)

674飼い犬に手を噛まれる ◆3LWjgcR03U:2016/04/16(土) 11:47:46 ID:D9Yha4U20
内心で、またしてもため息をつく。
アザゼルの支配下から一時だけでも逃れたのは僥倖だが、彼に比べたらいくぶん御しやすいとはいえ、新たに火種を抱え込んだ。
悪魔と共に残してきてしまった小湊るう子については――もちろん心配ではあるが、実を言えばそれほど不安ではない。
彼にとっては少なくとも、るう子は待ち望んでいた保護する対象であり、必要もなく追いつめる意図はないということが、会話の端々から理解できたからだ。
巨犬を斬り捨てようとした所を止められた際に、彼女が傷付かないように振り払ったことを見ても分る。
ついでに言えば、自分には扱いづらいと言って自分に銃を渡しもした。
むしろ、不安なのは。

(夏凛ちゃん)

騎士とともに、東の市街地に向った勇者の少女。
出会った時からずっと、彼女が無理をしていることは明らかだった。
そして、仲間だという結城友奈。これも、正直に言ってアザゼルの言う通り、生存の望みは正直いって薄いと感じた。
今の彼女は、僅かな希望にすがりついていることで何とか自分を保っているような状態だ。
……そして、悪魔と同類だというあの騎士。
出会った直後から紳士然とした態度を貫いていたが、彼は本当に信頼のできる人物だったのか。
そもそも、どんな理由があろうと、この殺し合いの場で正体を隠していること自体が、疑わしいといえば疑わしい。

(今さら考えても仕方ないが――無事でいてくれ)

手の届く場所にいる人々を守るために、そして愛する人の元へ戻るために。
不安を抱えながらも、首なしライダーは進んでいく。


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