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作品投下スレ

51英雄 その1 ◆yxYaCUyrzc:2016/10/03(月) 11:46:39 ID:TICpFGQQ
――ヒーロー。
そう聞いたとき、人はいったいなにを連想するだろうか。

魔王を倒すべく旅立つ勇者の血を受け継いだ少年かもしれない。
いかなるミッションも危なげなく完遂する諜報員かもしれない。
どんなトリックであろうとたやすく見抜く名探偵かもしれない。
潜んでいる妖怪変化を人知れず退治する霊能力者かもしれない。
人類の自由と平和を守るために日夜戦う改造人間かもしれない。

別に、そのようなフィクションの住人だけとは限らない。
ヒーローは、ブラウン管や紙の束のなかだけにいるワケじゃない。

一一〇番をすればすぐに駆けつけてくれる警察官かもしれない。
体調が悪い理由を的確に教えてくれるお医者さんかもしれない。
一打逆転のチャンスを決して逃さないスラッガーかもしれない。
沸き出す気持ちを思いのままに歌うロックスターかもしれない。
敵陣のゴールを正確無比に射抜くファンタジスタかもしれない。


つまるところ、この世界中の誰もがヒーローになりうるというわけだ。
ならば……だとするならば。

いったいどんな人物のことを“ヒーローと呼ぶ”のか。

皆にも考えてもらいたい――じゃあ、始めよう。


●●●

52英雄 その2 ◆yxYaCUyrzc:2016/10/03(月) 11:49:23 ID:TICpFGQQ
広瀬康一が目を覚ました時には、すべてが終わっていた。
彼自身の治療も。休息を兼ねた束の間の情報交換も。そして、決着も。

ことの顛末を耳で聞き、頭で理解することはなんとか出来た。
しかし……彼の心は『納得』することを許さなかった。

「僕は――また何もできないままだったのか」
彼の両頬を大粒の涙が伝う。
その涙は、友を失った悲しみか。守られたという悔しさか。自分自身の情けなさか。あるいはそれらのいずれもか。

誰も言葉を返さなかった。
うわべだけの慰めが意味をなさないことを理解していたし、何より自分たちも同じ境遇にあった――というより、現在進行形でその境遇にあるのだから。

重く静かな時間が周囲を包み込む。
周囲に敵がいるわけでもないのに、焼けつくような緊張感を全員が感じ取っていた。

やがて……そのチリチリとした感覚が――実際は音として静寂の中に流れていたのだが――ジャリっという足音にかき消される。
承太郎が煙草を踏み消し、デイパックを担ぎ上げたのだ。

「どこへ行くんですか?承太郎さん」
口を開いたのはアナスイだった。同時にシーラE、エルメェスも顔を上げる。互いの視線が交差する。
康一は未だに泣きながらうつむいたままだ。

「……まさかあんた、『ここで足踏みしてる暇はねぇぜ、俺は先に一人で行くぜ』とか言うつもりじゃあないですか?」
言葉を返さない承太郎の意をくみ取るようにアナスイが続けた。承太郎は黙々と準備を続けている。

沈黙のさなか、やっと康一が重い顔を上げる。良いことか悪いことか、涙は止まっていた。

「ヘイッ承太郎サンよ!これから全員で車で移動するって決めたじゃあねーかッ!
 もうちっと――待ってやったらどうなんだよ!?」
エルメェスがチラリと康一を振り返りながら声を上げる。

待ってやれ、つまり気を使ってやれと言っているのだ。
誰に――?自分にだ。そう感覚として理解できた康一はまたも俯く。

「――やれやれ。待ってほしかったら、待ってほしい奴がそう言うもんだ」
デイパックをどさりと落とし、康一の元まで歩み寄る承太郎。気配を感じて再び康一が顔を上げる。
お互いの視線がかち合う。一触即発とはいかないが、決して穏やかなものではないのを全員が感じ取った。

「今からDIOの野郎の死体を確認しに行く。さっき言った通りにな。
 が――はっきり言おう。アナスイたちはともかく、康一君、君が足手まといだから……全員を置いて一人で行く」
威圧するような口調ではない。しかしその言葉の重みが康一の全身を駆け巡る。

「僕が……弱いからですか」
「弱いというのがスタンドの強さのことを言ってるのか、泣いてることを言ってるのか、それ以外の何を言ってるのかは置いといて――そうだな、確かに今の君を連れていっても仕方ない」
淡々と事実のみを述べる承太郎に対して康一は情けなさや悔しさよりも、怒りを覚え始めた。

「だって承太郎さん!さっきの話じゃあ、時を止められないんでしょう!?そんなあなたが一人で行って何になるっていうんですかッ!」
「今の君よりはマシだと思うんだがな……
 そして――こういうのは皆まで言わせるもんじゃあないぜ、康一君」
言いながら、言われながら康一が立ち上がり、すっと距離をとる。およそ10メートル。エコーズの間合いだ。

「わかってますよ……そのセリフは僕のもんです。
 『だったら!力づくで僕を止めてみせろ!承太郎さん』ッ!!」


●●●

53英雄 その3 ◆yxYaCUyrzc:2016/10/03(月) 11:52:06 ID:TICpFGQQ
「……ねぇ」
ぼんやりと口を開いたのはシーラEだ。
今、彼女はアタシとアナスイと一緒に車に寄りかかって見物――そう、見物だ。彼らのやり取りを眺めている。

「あぁ。コウイチがまだ寝てるときに聞いた話の通りっちゃあ通りだけどよ。
 ズイブンな言い方だったよな。アタシもついブチキレそうになっちまった」
「承太郎さん的には、どっちに転がるのが正解だったんだろうな。自分自身だってヤバいってのに……」
アタシの返事にアナスイが付け加える。

「イタリアじゃあ聞かないけど、ニホンには『カワイガリ』って文化があるらしいわよ。アメリカはどうだか知らないけど。
 ま、つまりは“そーゆーこと”でいいんじゃあなくて?ていうかさっきのあなたは確実にブチキレてたわよ」

シーラが余計な一言をつけつつ話をまとめた。
そう、アタシたちは予想していたのだ。この展開になりうることを。
『たまりたまった怒りやら何やらをぶつけることが今の彼には必要だろう』なんて。
承太郎サンの口からそう提案されたときは、この状況で何考えてるんだかと半信半疑だったけど。

「しっかし……」
「お、エルメェス、お前もそう思うか?」
「あら奇遇かしら?きっと私も同じことを考えてるわ」
三人の言葉がハモった。

「「「なァんか“それだけじゃない”気がするんだよなァ」」」


●●●


わかってるさ――
「康一君、君の思いはそんなもんか?俺を止めるんだろう?」

承太郎さんが明らかに“手を抜いてる”ことくらい。
「だったら!本気で僕のことオラオラすればいいじゃあないですか!もう一度だ!Act2ッ!」

飛ばした尻尾が文字の形を作る前に弾かれる。少し離れた位置で文字がバチッっと感電する感触を地面に伝えた。
「ちくしょうッ!」

本体である僕自身も承太郎さんに向かって拳を振りかざす。スタンド頼みで足踏みしてるだけじゃあ進まない。

「やれやれ――もう一度言うぞ康一君、君の想いはそんなちっぽけなモンなのか?」
僕のパンチを避けも受けもせず、腹に受けたままで承太郎さんが放ったカウンターの蹴りが綺麗にみぞおちに入った。
息が詰まる。だけど――だけどッ!

「わかってますよ!僕が弱いことくらい!そのせいで仗助君や――シュトロハイムさんたちを死なせてしまったことくらいッ!」

54英雄 その4 ◆yxYaCUyrzc:2016/10/03(月) 11:54:21 ID:TICpFGQQ
Act1が僕の怒りを言葉にしてそこら中にぶちまける。
危険な人物を呼び寄せてしまわないように小さな音で、なんて気分には正直なれなかった。
そんな余裕なかったというのもあるけど――僕のおもいはそうやって抑え込むものじゃあない。今ここで承太郎さんにぶつけなければならない。

「そうだ――しかし君が弱いというのは半分は間違いだ。
 君は最初に、このAct1の大きな声で『ニゲロ』と叫んだはずだな?
 その時は名簿がない上に距離があったようで正確な位置と正体の把握ができなかったから無視したが、スタープラチナの耳にはかすかに届いていた」

――は?何を言っているんだ?今?このタイミングで?
「だったらなんだっていうんだ!結局その時だって……ダイアーさんをッ!」

「それは結果論だ。君は確かにあの時自分を顧みず他人のために言葉を発した」
言いながらスタープラチナが殴りかかってくる……いや、手は平手だ。ビンタだ。

ビンタ――そうだ、承太郎さんは僕のことを『しつけている』今こんな状況で!
それがたまらなくムカついてくる。手を抜かれるとか、止める止めないとかじゃあなく、“そんな承太郎さんにムカっ腹がたってくる”!
そして何よりも、“承太郎さんの手を煩わせている自分自身にもムカっ腹がたってくる”!

「痛ッッッ――クソッ!Act2!」
しっぽ文字が効かないからタックルだ。しかしそれもスタープラチナの両手に受け止められる。

「康一君。俺はこう見えても、そういう君のひた向きなところは尊敬しているんだ」
その言葉は僕の耳には入ってこなかった――入ってきてもそれを素直に受け止めるほどの理性が残っちゃあいなかった。

「だったら――だったら!この僕のおもいを受け取ってくださいよッ
 承太郎さんの――馬鹿野郎ォォォッッッ!」
おもい切り叫ぶ。じりじりとAct2がスタープラチナを押し始めた!あの無敵のスタープラチナをッ!

「やれやれ、馬鹿野郎とはずいぶんだな……
 しかし、そうだ。誰かにおもいを伝えるということは素晴らしい。それをもっとぶつけてみろと――言っているんだ!オラァッ!」

スープレックスだかバックドロップだかで思い切りAct2が吹っ飛ばされる。
スタンドのフィードバックで僕自身も吹っ飛び、背中から地面にたたきつけられてたまらずせき込んだ。
だけど――負けるもんか!

「そうだ、負けるか……負けてたまるもんかッ!食らわせろッAct2!」


ごろん


「――え?」

「来たか」


●●●

55英雄 その5 ◆yxYaCUyrzc:2016/10/03(月) 11:57:25 ID:TICpFGQQ
「お。終わりましたかい?承太郎さん、康一?」
「えっ、あっハイ。終わりました、少しスッキリできましたし」
「やれやれ――これで準備完了ってとこか。」
照れ隠しなのか、帽子を目深にかぶった承太郎はアナスイの言葉に短く返してさっさと車に乗り込む。
そう。最初から承太郎は一人でここを出ていくつもりなどなかったのだ。

「しっかし――『オモイを伝える・カッコブツリ』ってやつかい?それとも『言葉のオモミ』ってか?イカしたジョークだな、コウイチ」
「まっ、この『ヘビーな状況』で成長したんなら当然な結果じゃあないかしらね?」
エルメェスとシーラEが茶化す。
康一本人も少し照れたように頬をポリポリと掻く。涙の跡は消えないが、それでも彼の顔は晴れやかだ。

「康一君。余計なお世話かもしれないが、同じ男として、一つだけアドバイスをしよう。『男なら、誰かのために強くなれ』。
 ――今の俺には説得力なんかないのは分かってる。それでも、俺もこれからもっと強くなって見せると約束しよう。君にも、そうなってほしい」
アナスイが康一の肩を強く握った。見つめる瞳の中には確かに燃えるものを感じられる。

「そうね――さっきまでのあなたみたいに『泣いてもいいのよ。また笑えればいい』」
横から覗き込まれてたまらず頬を赤らめるところは年相応のものを感じさせる。その姿にシーラEはほんの少し安堵した。

「今までアンタがどうやってきたかをアタシたちは知ってる。だから自信もって。
 『これが正しい!って言える勇気があればいい――ただそれだけできれば英雄』なのよ。
 ……さ、これ以上ダベってると本当に承太郎サン一人で行っちまうかもよ。アタシらも行こうぜ!」

バンと康一の背を叩いて歩き出すエルメェスもシーラEと同じ気持ちであった。
復讐は彼女たちの人生にとっても、そして今の康一にとっても重要なことであるのは変えようのない事実である。
しかしその為だけに他を犠牲にするような戦いをしてはいけない。仲間であれ、自分自身であれ。
彼女を追い越して車に向かうアナスイにバレないように、シーラEとエルメェスは視線を合わせて少しだけ頷き合った。

「はっ――はいッ!ありがとうございます!」
一瞬ぽかんとし、慌てて駆け出す康一。
悲しみが言えたわけでもない。怒りが収まったわけでもない。不甲斐なさは未だに胸に残っている。
それでも今の彼の姿には“弱さ”は感じられなかった。


●●●


さて。ヒーローとは。
先にあげた改造人間だろうと、ロックスターだろうと。
『考えるより先に体が動く』『誰かのためにある』そんな人種――人種という表現が適切かどうかはさておき、そういう者のことをいうもんだ。
康一もそうだ……というより、彼の場合は最初からそうだったろう。

ディアボロと対峙したときに真っ先に周囲に警戒を発したことも。
吊られた男から由花子を守るために突き飛ばしたことも。
燃え盛る空条亭にいるかもしれない生存者に向けて叫んだことも。

これで康一君がヒーローじゃあないなんて言うやつがいたら、そりゃあ可笑しいぜ。
世が世なら、平和の象徴なんて呼ばれたかもしれないだろうな。

あ、まてよそうしたらヒーローネームを考えなきゃあならないか。
個性というか……スタンドがエコーズで、成長することをふまえると……うーん……

56英雄 状態表1 ◆yxYaCUyrzc:2016/10/03(月) 12:00:15 ID:TICpFGQQ
【D-2 /1日目 夜中(22時過ぎ)】
【チーム名:AVENGERS】

【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』 → 『エコーズ Act3』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:右二の腕から先切断(止血完了)、疲労(極小)、憤怒(極小)
[装備]:エルメェスの舌
[道具]:基本支給品×2(食料1、パン1、水1消費)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.車でどこかへ移動する
1.うわォッ!ひょっとして成長したんですかァ!?
2.ずいぶん解消はしたけど、やっぱり後悔や怒りは消えなさそう

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:健康
[装備]:ジョルノがカエルに変えた盗難車
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.車でどこかへ移動する。
1.運命への決着は誰も邪魔することはできない……
2.ジョジョ一族とDIOの因縁に水を差すトランプ使いはアタシたちが倒す?
3.にしても承太郎さん、演技にしちゃあキツすぎるぜ……

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:健康
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数70%)
[道具]:基本支給品一式×6(食料1、水ボトル少し消費)破れたハートの4
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.車でどこかへ移動する。
1.ジョースター家とDIOの因縁に水を差すムーロロ、アタシが落とし前をつける?
2.ジョルノ様の仇を討つ、と思ってたら聞いた話じゃあ生きてるっての!?キャージョルノ様アァァ
3.成長おめでとう、コウイチくん

【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』(現在時止め使用不可能)
[状態]:右腕骨折(DDによる治療済)、肉体はほぼ健康状態まで回復
[装備]:ライター、カイロ警察の拳銃の予備弾薬6発、 ミスタの拳銃(6/6:予備弾薬12発)
[道具]:基本支給品、スティーリー・ダンの首輪、肉の芽入りペットボトル、ナイフ三本
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.車でどこかへ移動する。
1.状況を知り、殺し合い打破に向けて行動する。
2.やれやれ、康一君が成長してメデタシメデタシってとこか
3.自分自身も時を止められるよう成長する必要があるってところか

【ナルシソ・アナスイ plus F・F】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン・フー・ファイターズ』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:健康、首輪の機能が『どうやら』停止しているらしいという『予測』
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:徐倫、フー・ファイターズ、F・Fの意志を受け継ぎ、殺し合いを止める。
0.車でどこかへ移動する。
1.エルメェスたちと共に行動する。
2.男なら誰かのために強くなるんだ、康一君

57英雄 状態表2 ◆yxYaCUyrzc:2016/10/03(月) 12:03:23 ID:TICpFGQQ
【備考】
全員で情報を共有しました。以下、共有した内容など

●シーラの面識がある暗殺チーム、ミスタ、ムーロロについて。
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はある・か・も。
 またムーロロについても、参戦時期の都合上シーラも全てを知っているわけではないので、外見と名前、トランプを使うらしい情報チーム、という程度。

●承太郎が度重なる精神ダメージのせいで時が止められなくなった現状。
※回復するかどうかは不明(以降の書き手さんにお任せいたします)

●アナスイと『フー・ファイターズ』が融合し、『ダイバー・ダウン・フー・ファイターズ』となったこと。
※能力は『ダイバー・ダウン』に『フー・ファイターズ』のパワーが上乗せされたこと。
 基本的な能力や姿は『ダイバー・ダウン』と同様だが、パワーやスピードが格段に成長している。
 (普通に『ダイバー・ダウン』と表記してもかまいません)
※アナスイ本体自身も、スタンド『フー・ファイターズ』の同等のパワーやスピードを持ち、
 F・F弾や肉体再生など、原作でF・Fがエートロの身体を借りてできていたことは大概可能となったこと。
 (その他、アナスイとF・Fがどのようなコンボが可能かは後の作者様にお任せします)

●アナスイの首輪が停止している可能性について
※首輪は装着されたままですが、活動を示す電灯が消えています。承太郎の『予測』では『どうやら』首輪は活動を停止しているらしい。
 (詳細は以降の書き手さんにお任せいたします)

●カーズという危険人物の存在。
※『大乱闘』にて承太郎がカーズのことを語ったときと同様の内容。もっと詳しく説明を受けているかもしれません。

●車内に放置されていたティム、噴上、シュトロハイムの基本支給品とトンプソン機関銃と破れたハートの4を全員のアイテムとして共有。
※便宜上シーラEの装備品という扱いです。

●禁止エリアについて、
この話の時間は前作からさほど経っていない(22時すぎです)ので、彼らのやり取りの間にエリア作動、ということはなかったようです。

58英雄 ◆yxYaCUyrzc:2016/10/03(月) 12:07:53 ID:TICpFGQQ
以上で本投下終了です。ずいぶん長い間お待たせいたしました。

仮投下からの変更点
・文脈の修正(内容に変更なし)
・備考欄、禁止エリアについて(本来なら書く必要すらないですが、以降の書き手の皆様に向けて、という意味合いで修正し表記)

仮投下時にも感想をいただきましたが、こんな何でもない繋ぎSSでもエコーズが進化してしまうことに反対意見が(今のところ)ないようでホッとしておりますw
無論、この先wikiに収録するまでの間にもご意見ありましたらどんどんレスいただければ幸いです。

レスを待ちつつ自身の都合もありますゆえ、収録は(もちろん問題ないと確定したうえで)1週間くらいお待ちいただければと思います。では次回作でお会いしましょうノシ

59 ◆yxYaCUyrzc:2016/10/08(土) 21:36:45 ID:ikAwivR6
えー・・・と。収録しても問題ないんでしょうかねえ?
この連休中には都合がつくかなと思っておりますが、別に感想じゃあなくても、というより問題点の指摘など後で困らないようにだけ配慮したいのですが・・・

60名無しさんは砕けない:2016/10/10(月) 01:12:23 ID:ZKLiXa9c
投下乙です。
康一君、ついに重い思い能力に覚醒…!
1stは仗助、2ndは億泰が頑張ってたし、今回残された康一君にはこれからAct3で大暴れしてほしい。
そしてどこまでも苦労人な承太郎……
現在対主催の最大勢力(だよね?)がどう動くのか、続きが気になる話でした。

収録はいいんじゃあないですか?
仮投下から合わせて十分期間はありましたし、その際の指摘も直されています。
これ以上は「後で文句はたれないで下さいよ」ってやつだと思います。

61名無しさんは砕けない:2016/11/15(火) 00:41:04 ID:wg1aEOHs
集計者様いつもありがとうございます
今期の月報です

話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
198話(+1) 25/150 (-0) 16.7 (-0.0)

62名無しさんは砕けない:2016/11/19(土) 04:21:57 ID:dksEc9I2
月報来てたことにすら気付かなかったからage

63 ◆yxYaCUyrzc:2017/05/11(木) 22:57:37 ID:FfaHblAk
ジョセフ・ジョルノの本投下を開始いたします

64地図 その1 ◆yxYaCUyrzc:2017/05/11(木) 22:58:33 ID:FfaHblAk
男には地図が必要だ。
荒野を渡り切る心の中の『地図』がな。

いやぁ、いい言葉だ。そして、もちろん、というべきか。男だけじゃあない。女にだって、赤ん坊にだってジジイにだって『地図』は必要だ。

が――だが。ここで一つの疑問が浮かぶ。

『地図』とは一体なんのことだ?何をもって心の中の『地図』を定義する?
もっとわかりやすく言おうか、『地図』ってのは『何のためのモノ』なんだ?

……ということで、今回は目の前に――心の中ではなく、現象として、大きな地図を広げた男の話をしよう。


***


「なんだこれ……地図か?」
ジョセフは目の前に広がる光景に驚きを隠せずにいた。
周囲の砂や建物の破片、仗助の血液さえも用いられて描かれた『それ』はただの絵というよりは、確かに地形のようにも見える。

「ッてことは……」
滴る冷や汗を拭う事すら忘れ、ぎこちない手つきで支給された地図を取り出す。
描かれた模様と支給品である地図に誤差はほぼ見当たらない。挙げるとするならば、数か所に付け加えられたアスタリスク記号のような印。

「じゃあ――」
「ふむ、その印はなにか重要なアイテムだか人物だかの所在を表しているようですね」
誰に言うわけでもない、ぽろりと口から洩れただけの言葉に返事が返ってきたことに勢いよく振り返る。
聞きなれた声が誰のものかであるかはすぐに理解出来たのだが、あまりのタイミングに完全に不意を突かれた。

「バッ――いやジョルノなんで起きてんだ、寝てろっつったろ」
「いやあ、職業柄というか、睡眠時間はかなり短いんですよ。でも、おかげで頭の中もすっきりしましたし、身体もだいぶ動かせます。ありがとうございました」
「な、ならいいケドよ。で……」
「この地図ですよ。あなたが作ったんでしょう?」

65地図 その2 ◆yxYaCUyrzc:2017/05/11(木) 23:00:16 ID:FfaHblAk
寝起きとは思えない応対の丁寧さがなんとも“らしい”と感じつつ、ジョルノに促されて視線を地面に戻すジョセフ。
しかしジョセフ自身にもこれがこの会場の地図を模した何か、としかわかっていない。

「いや、えっ?――オレェ?つくったー!?」
「そうですよ。その『隠者の紫』で……あぁそうか、あなたさっきスタンドを発現させたばかりでしたね」
答えを導き出せないジョセフに代わるようにジョルノが会話を引き出してゆく。

「そうだよ、それ。なんで俺だけおめーらと違ってイバラのスタンドなんだよ。仗助のやつはホラ……教えてくれないままだったしよ」
「あぁ、説明するのはそこからですか。そもそも“スタンドで殴り合う”ってのは副次的な効果なんですよ。
 スタンドの本質とは――うーん、超能力という現象をビジョンにしたもの、とでも言えばわかりやすいでしょうか。
 あなたのそれは、会場のアイテムらしきものを映してる。そこから推測できる能力はおそらく『索敵』もしくは『探索』。
 いや、この地図……会場そのもの……なにかを……映し出す。『映し出す』……ならば『念写』か?
 だとすれば撮影自体は本体であるジョセフの腕がやることだから、ビジョンも人型である必要がない、か――」
ジョルノ自身もスタンドの発現や戦闘を始めたのはつい最近なのだが、それでもジョセフとは経験値が違う。
どんどんと推測を重ねてゆくジョルノにたまらず口を挟む。

「ね、『念写』ってアレか?何でもないところカメラで撮ったのに別の場所の写真が出てきたりする?」
「そうです。心の中で見たいなと思ったものを目の前に見せる能力。今回の場合は『写真』じゃなくて『絵画』という形で写りましたが。
 しかし念写という能力が発現するとなれば……ジョセフあなた、女性の風呂場とか覗こうとしたこととか、あるんじゃないですか?」

「へっ?……ばっバカそんなこと、ああある訳ねえぇじゃねーかッ!そそそんなんで能力決まってたまるかよッ!
 大体だな、風呂場のカギ穴がそんなズサンなつくりなのがいけねーんじゃあねぇのッ!?
 とっ、ともかく俺の“これ”が念写の能力だとして、結局こっちの『これ』はなんなんだよ!?
 お前が言った通りアイテムでも落ちてんのかッ?……何か所かあるし、探しに行ってみるか?確認って意味も込めてよ」

露骨な動揺を見せながらも話題を地図のアイテム(らしき存在)に無理やりシフトさせるジョセフ。
ふむ、と少しだけ顎に手を当てて考えたジョルノの答えは、

「僕は反対です」
「はぁ?なんで」

意外!それは否定!

「あなたが本当にやるべきことはそんな『くだらないこと』じゃあないでしょう」
「あン?俺の能力がくだらねーってぇ?いくらスタンド初心者相手でもそりゃねーんじゃあねーの?」
ズバズバとしたジョルノの物言いにジョセフの語気が強くなる。
それを知ってか知らずか、ジョルノは冷静に言葉を繋ぐ。
「違いますよ。この『殺し合いゲーム』の中でわざわざ『アイテム収集』に使う時間はないってことです。
 ジョセフは最終的にこのゲームでどうしたいんですか?」

「どうって、そりゃあ主催者の――黒幕ってのか、あの大統領とかいうのをぶちのめすに決まってんだろ」
数瞬ののちにきっぱりと言い放つジョセフにジョルノも頷き返す。

「そう、僕もそのつもりです。だったらそうですね……あなたにわかる表現レベルで話しましょう。
 その大統領を『ラスボス』としましょう。とすればさっきまで僕たちが戦っていたDIOはいわゆる『中ボス』か、下手したら『小ボス』です」
「――てことは、って待ておい俺のレベルってどういうこった」
先ほどの死闘を、さらには自分の父親とも言えるDIOの事をも小ボスと表現するジョルノ。
若干イラっと来る言葉のチョイスではあったが、中身を理解できないほどジョセフの頭の中に余裕がない訳ではない。

66地図 その3 ◆yxYaCUyrzc:2017/05/11(木) 23:00:51 ID:FfaHblAk
「まあまあ。でも気付いたようですね。まだまだこの会場には『ボス』がいること。ゲーム打開を目指す僕らの――いうならば、目の上のタンコブ」
「ああ――だがその『ボス』のうち、俺の頭に真っ先に浮かんだクソヤローは“タンコブ”どころか“ガン細胞”だぜ」
ジョルノに対する意趣返しのような捕捉にふぅ、と短い溜息をつきつつジョルノが続ける。

「なんでもいいです……とにかく、僕たちが優先すべきはそちら。そして」
「そして?」
「その存在を同じように目の上のタンコブに」
「ガン細胞だっつったろ、しかも末期の」

「……目の上の、ガン細胞、に。感じている連中がいるはずです。まずは彼らと接触します」
ジョルノが折れながらも方針を明確にする。
しかし、ジョセフはどことなく信じられないような心境で眉を吊り上げる。

「放送で呼ばれてない連中で素直に信じられそうなやつらなんてもう何人もいねぇぞ」
「何も『仲間』である必要はありません。敵の敵は、ってやつですよ」
回答を準備していたかのような淀みのない返事と輝く瞳にジョルノの絶対的な自信と、ある種のカリスマ性を見たジョセフ。
視線を地面に落とし、映し出された地図を一瞥。
軽い音を立てながらそれらを手で払い、消し去った。

「つまり」
再び手を伸ばし、念じる。先ほどのような朧気なものではなく、はっきりと。
倒すべき相手の顔、そして会場に残った参加者たち。血縁者。主催者。守れたもの。守り切れなかったもの……

「そう」
ジョセフの想いに答えるように掌から無数の茨が這い出して来る。
再び形を表した地図は先ほどと変わらない。
――表示されているマークが一か所だけの「バツ」になり、その位置が変わったこと以外には。

ジョセフとジョルノ、二人の視線が重なり合い、どちらからともなく己の地図に印を書き込んだ。

倒すべき“ボス”が誰であるか――さらに言えば印の位置にいる相手でさえ素性は重要ではない。
目の上のタンコブがガン細胞であろうが、中ボスが小ボスであろうが。順番の問題だ。

今考えなければならないことは――まず彼らがやらねばならないことは。

『印の場所にいる、敵の敵。それらと同盟を結成させること』

たったそれだけの、シンプルな答えである。

無論、簡単に事が運ぶとは思えないし、思ってもいない。
しかし、この地図を念写したジョセフ。作戦を打ち立てたジョルノ。
この二人だからこその方針であり、今の彼らにしかできないことである。

頷きあい、立ち上がる。
「――行ってくるぜ、仗助」
歩き出す刹那に小さく放たれた言葉に返事をするものは今度こそおらず、闇夜の風に流れていった。

67地図 その4・状態表 ◆yxYaCUyrzc:2017/05/11(木) 23:01:26 ID:FfaHblAk
***


――と、そういう話だ。
わかるかい?地図というものは都合のいい『水先案内人』では決してない。

いいかよく聞けッ!心の中の『地図』とはッ!
自分がどこにいるのかを指し示し!
そして“自分が今どこに向かうべきかを確認させてくれるもの”の事をいうのだッ!

と、大きな声を出してしまったが、つまりはそういう事さ。
心の中の地図じゃあない、現実の地図でも同じだ。何を置いてもまずは現在位置の確認をするだろ?
今回のジョセフとジョルノの作戦に関してもそう言って差し支えないと思う。
あくまで彼らは『ゲーム打開の障害になりうる存在を、同志とともに排除すること』を優先させた。
それは決して遺体を――まあ彼らはそれが何かまでは現時点で把握してないが――軽んじているわけではない。
他人任せというと聞こえは悪いが……『今の自分たちにしかできないこと』を考えた場合、前者のほうが重要だった、という事だ。

まあ……安全な方向を指し示してくれたり、文字通りナビゲーションしてくれる、そんなスタンドもいないではないが、それはまた別のお話だ。
今あわてて話す事じゃあない。いずれどこかで――


【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会西の川岸 / 1日目 夜中】


【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:『隠者の紫(ハーミット・パープル)』AND『波紋』
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:全身ダメージ(中)、疲労(やや大)
[装備]:ブリキのヨーヨー
[道具]:首輪、基本支給品×3(うち1つは水ボトルなし)、ショットグラス、念写した地図の写し
[思考・状況]
基本行動方針:チームで行動
1.この『地図』を利用して『敵の敵』に接触し同盟を結成する
2.その前に空条邸に戻って仲間と合流する?
3.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる
4.リサリサの風呂覗いたから念写のスタンド、ってありえねーからな、絶対

※『隠者の紫』の能力を意識して発動できるようになりました。
※すぐ近くの地面に地図が念写されていました。現在はジョセフによってかき消されています。以下地図の詳細
 ※ジョセフが先に無意識で発動させた地図は『アイテムか何か』を『*』のような印で複数個所に示していた。こちらの記録はしていない。
 ※二度目に意識して発動させた地図は『ジョセフたちが今目指すべき場所』を『×』のような印で一か所だけ示している。その場所は以降の書き手さんにお任せします。


【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(中)、精神疲労(やや大)、両腕欠損(治療済み、馴染みつつある)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、地下地図、トランシーバー二つ、ミスタのブーツの切れ端とメモ、念写した地図の写し
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える
1.ジョセフの念写した『地図』を利用して『敵の敵』に接触し同盟を結成させる
2.その前に空条邸に戻って仲間と合流する?
3.考えるべきことは山ほどある。しかし『今やらねばならないこと』もあるから、そちらを優先させる

※先に念写された『アイテムの地図』は消されてしまいましたのでメモ等はないですが、ジョルノのこと、もしかしたら記憶している・か・も


[備考]
仗助の遺体が近くに安置されています。持ち物である基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)もその場にあります。
また周囲には花京院、ジョンガリ・A、徐倫(F・F)の遺体があります。

68地図 ◆yxYaCUyrzc:2017/05/11(木) 23:01:56 ID:FfaHblAk
以上で本投下終了です。
アドバイス、ご意見くださった方ありがとうございました。
以下修正点。
・誤字脱字の修正、表現の変更
・『カーズ討伐同盟』という表現を変更、それに伴う状態表の表記の修正
・その他少々の加筆。内容に変更はありません
さて、仮投下時にもお話ししましたが、今回のSSは没話になってしまった『カーズ討伐同盟』の案を捨てきれなかったので二人の行動の動機付けという位置で書いてみました。
もちろん、指摘があったようにカーズ一人を対象とするのはいささか軽率だったので、敵はだれか、接触すべきはだれかをあえて不明瞭にしておきました。
彼らが誰とどのように接触するか、いち読み手としても期待したいところです。
仮投下から数日で意見が出てきてくれたあたり、ジョジョロワも案外過疎じゃないのかな、と安心しております。

最後になりましたが、再度矛盾点や誤字脱字等ありましたらご指摘いただければ幸いです。それでは。

69 ◆LvAk1Ki9I.:2017/05/22(月) 22:13:47 ID:gmQKlgUA
ディエゴ・ブランドー、カンノーロ・ムーロロ
本投下開始します。

70Rule Out ◆LvAk1Ki9I.:2017/05/22(月) 22:15:31 ID:gmQKlgUA

「ところでオメー、怖いものってあるか?」
「………………?」

開口一番、急げばルーシーとジョニィに追いつけるといった矢先にこの質問。
カンノーロ・ムーロロの唐突な問いにディエゴ・ブランド―は思わず口を半開きにする。
とはいえ彼も狼狽えたりはしない――この程度で隙など見せるわけにはいかないのだ。

「……オレは、その質問に馬鹿ショージキに答えなくちゃならないのか?
 それとも――マンジュウに熱いお茶が一杯怖い、みたいな答えをお望みかい?」
「……なんでオメーがその返しを知ってんだ……」
「へえ、この答えになんか特別な意味でもあるのかい?
 故郷の味が恋しいとかほざいてた妙な爺さんの受け売りなんだがな……」
「………………」

会話のペースは握らせない、という態度に埒が開かないと判断したのかムーロロは両手を上げる。
先に振ったとはいえ、彼の方も時間が惜しいのは確かなのだから。
だが、思わず手の方に目が行きそうなその状況でディエゴは彼の足元に新たなトランプが寄ってきていたのを見逃さなかった。

「わかったわかった……ふざけるのは終いだ。
 目下、オレ達にとって一番の脅威となる参加者の話だけしておきたい」
「……?」

脅威、つまり怖いもの。
先ほどの質問はそういう意味かと繋ぎ合わせて考え込んだ後、ディエゴが口にした名は……

「ルーシー・スティール?」
「不正解だ……このまま放っておけないって意味じゃあ確かに厄介だが
 力づくでねじ伏せられる相手を怖いとは言えんね」
「……ジョースター?」
「残念、またもや不正解……奴らは満身創痍、しかも連絡手段無しで三手に別れてる……
 おまけに根っこの部分は揃って甘ちゃんだ」
「そうなると――」

いまさら話を急ごうとはせず、ディエゴは椅子に座りなおして考え直す。
ここまで来て話を中断するというのも妙な気分だし、ルーシーたちに動きがあれば目の前の男が知らせてくるだろう。
男二人以外には部屋の隅でのそのそと『亀』だけが動く部屋で、淡々と話は進んでいく。
ディエゴは残る参加者についてムーロロほど情報は持っていない。
それでも彼が知る者のうち、脅威と考えられる相手はさほど多くなかった。

71Rule Out ◆LvAk1Ki9I.:2017/05/22(月) 22:17:18 ID:gmQKlgUA

「――カーズとワムウ、ってやつか」
「三度目の正直だな、正解だ……もっともワムウはついさっき死んだから、カーズひとりってことになるがな。
 優勝か、あるいは主催者打倒か――どっちにしろ奴は現時点における最大最悪の障害……
 今のうちに取り除いておかないと後で手詰まりになる」
「……フゥ〜」

ディエゴは一息つく――溜息を隠しながら。
優先的に名前を出した通り、彼にとって厄介なのは遺体を所持するルーシーとジョニィのほうだった。
さらに言うなら彼自身カーズ、どころか柱の男すら直接見たことが無いため脅威のイメージが湧かなかったからなのだが。
とはいえ目の前の相手が持つ自分以上の情報収集力は侮れず、話を聞かずに飛び出すのは愚策と理解していた。

「フン、しょうがない、付き合ってやるか……率直に聞くがどうやって取り除く?」
「より正確に言えば取り除いて『もらう』だな。
 他の参加者を集めて奴を倒させる……単純極まりないが、これが最有力手だ」
「……おいおいおいおい、ワムウってのがどうやって死んだかは知らないが、同じようにやれないのか?」
「実行犯はひとりで正面から戦い、倒したが残念ながら直後に死亡、相討ちってやつだな……
 ついでに言うと、オレの見立てでは残る参加者でカーズと一対一で正面からやりあって殺せそうなのはひとりだけ……
 そして、そいつはオレのことを知ってるのさ……悪い意味でね」

いまいましいフーゴめ、と口ではそう呟きながらも残念そうな表情ではなかった。
ディエゴのほうもそんなオイシイ話は無いか、と逸れた話題を戻す。

「そいつはわかったが、集めるね……今まさに悪評をばらまかれているかもしれないオレたちが、かい?」

自分の意見にケチを付けられた意趣返しか、今度はムーロロの意見にディエゴが突っ込む。
依然、ムーロロは涼しい顔で返すのみだったが。

「それについては全く問題無し、だな。
 カーズは宮本ってガキを使って第四放送時に会場の中央で首輪の解除をするってふれまわってる……
 奴が現れる時間と場所が正確にわかるならそこに他の連中を動かすぐらい朝飯前だ」
「………………首輪の解除?」

気になった単語が投げかけられるも、代わりに返ってきたのは溜息。
無表情にも関わらず、『呆れた』とその顔には書かれていた。

「――今の流れでそいつを信じるのか? この際首輪解除が行われようが、行われたとして結果がどうなろうが関係ない……
 重要なのはその後発生する戦闘だ……残る参加者はそう多くない以上、確実に討ち取れる戦力を一度にぶつけなきゃならねえ。
 そのための駒が……」
「ジョースター、ってことね……
 やつらは教会でジョニィとも接触したようだし、そっちを抑えることでルーシー対策も兼ねてるってワケか……
 で、三手――ジョニィは数に入れないよな?――に別れてるやつらにいちいち声をかけて……」

と、ここでディエゴの言葉が遮られる。

「いいや、そこまでする必要はねえ……ひとり切り崩せばどうとでもなるさ」
「どいつ……いや、当ててやろうか…………『ジョータロー』だ、どうだい?」

反射的に聞き返そうとするも思うところがあったのか挑戦的な笑みを浮かべる。
そんなディエゴに対してムーロロは無表情に意味ありげな薄ら笑いを浮かべ返した。

72Rule Out ◆LvAk1Ki9I.:2017/05/22(月) 22:19:22 ID:gmQKlgUA

「おしいおしい、確かに承太郎を味方につけられりゃ最良だが、今の時点でそれは高望みってもんだ……
 正解はジョルノ・ジョバァーナ……奴を呼ぶ」
「……オレの聞き違いか? 確認させてもらうぞ?
 『呼ぶ』って言ったのか? そのジョルノってやつを、ここへ?」
「Exactly(その通りでございます)だ……まあ、場所は必ずしもここの必要はねえが」
「……おいおいおいおい」

あまりにも馬鹿げた提案……有効とかそういう次元ではない。
敵視されているであろう相手にわざわざ姿を晒す、しかも遠隔操作のスタンドによる連絡手段があるにもかかわらずである。

「やるかどうかはともかく……オレはなるべくあいつ……あいつらとは会いたくねえんだがな」
「あー、心配するな、オレだって奴らとDIOの戦いで片棒担いだオメーを奴らに会わせる気なんざない」
「その立場、そっくりそのままおまえにも当てはまるんだがね……
 じゃあ、ひとりで会うのかい?……一応言っておいてやるが――おまえ、殺されちまうぜ?」

ディエゴのあくまでおどけているような口調を気にもせずにムーロロは続ける。
……こちらも表情は変えずに。

「リスクは承知さ。だがDIOが死んだ以上、協力していたオレがこのまま何にもしなきゃあ、どのみち狙われる……
 オレのスタンスを知ってるのは切ったフーゴに逃がしたルーシーたち……
 奴らがジョースターと接触してオレのことを話される前……つまり今動かなきゃ余裕で詰みだ」
「直接会う意味は? ついでに、ジョルノって理由は?」
「ここまで来て姿は見せたくない、じゃあさすがに信用してもらえないことぐらいガキでもわかる。
 だが向こうの要である承太郎ははっきり言ってヤバイ、会ったとたんにこの世とおさらばすることになりかねねえ……
 となりゃあ、そいつとの橋渡しができてなおかつ話が通じそうな相手――それがジョルノってわけだ」
「要は踏み台ね……間違っても向こうサイドの誰かにゃあ聞かせられない理由だな」

ディエゴの瞳かそれとも脳裏には何が映っているのか……遠いような近いような何処かへと視線が向けられる。
それも一瞬で、すぐに言葉が重ねられていくのだが。

「で、肝心のジョルノを動かせるだけの材料はあるのかい?
 呼んでみたけど断られました、って展開も多分にありそうなんだが?」
「そこで、さっきの話に戻るってわけだ」

予想していた質問がようやく来た、とばかりにムーロロは足を組み替えて頬杖をつき、逆の手の人差し指を立てる。
気取りすぎた仕草で逆に絵になっていなかったが、両者ともに気にせず会話は続く。

「『カーズ討伐同盟』……や、名前なんざどうだっていいんだがこれで交渉を持ちかける……
 要するに手を組む――振りをして情報提供と最小限の労力だけ貸しつつカーズを倒してもらうって寸法だ」
「言うは易く行うは難し……ってね。うまくいくとは思えんが」

相手のブレーンを騙す――極力省略した文字だけでも無謀さが漂ってくる。
この男、何を考えているのかといわんばかりにまじまじと顔を観察するも、相手もまたそれを意に介さない。

「まあ、交渉は任せときな……ジョースターもルーシーも、カーズを厄介と考えてるとこに付け入る隙あり、だ……
 なにより一緒にいるジョセフには『貸し』があるし、あいつならカーズの情報を欲しがることは間違いねえ……
 うまく抱きこめりゃ残る参加者の半数以上と休戦状態まで持ってくことも可能っておまけつきだ。
 それとは別に参加者の誘導やこっちの手札も揃える、とやることは山積みなのが辛いとこだがな」

よほど自信があるのか、それとも口先だけのハッタリか……
判別不能のポーカーフェイスに内心気分を害しつつも、ディエゴにとってまだ確認すべきことはあった。

73Rule Out ◆LvAk1Ki9I.:2017/05/22(月) 22:21:14 ID:gmQKlgUA

「心底同情させてもらうよ……ところで、オレはその間どこで何をやってりゃいいんだい?」
「あー、オレの邪魔にならず、むやみやたらと参加者を減らさないなら何しようが構わんさ。
 ただし、今言った通りオレは忙しい……サポートは期待するな。
 カーズにうっかり出くわしちまった、なんてことのないように頼むぜ」
「わかりきってることを言うのは無駄だ……
 それと参加者を減らすなってもルーシーたちは好きにさせてもらうぜ……?」

ディエゴはこれ以上有用な情報は引き出せそうにないと判断する。
役割が無いなら何故わざわざ呼び止めてまでこの話をしたのか、とは聞かなかった。

「ああ、構わねえさ……この状況で動きが予測できない駒は、除外して構わねぇ……
 後厄介なのは味方なのに指示通りに動くかどうかわからない駒だが……オメーはどうかな?」
「……おまえ、わかってて言ってるだろう?」

質問責めに淀みなく返すあたり、既にムーロロの中でシナリオは出来上がっている。
そしてその中に自分の出番は無い――要するに相手は「しばらく出ていけ」と言っているのだ。
交渉を本気で行うかはともかく、自分がいると何か困るような事態があるのは本当なのだろう。
またしてもオレはお呼びじゃないか、と小さく呟くとディエゴは立ち上がった。

「……ま、いいさ。オレからの質問は以上だし、もう行くぜ?
 うまくいったら呼んでくれよといいたいとこだが……
 ハッキリ言うぞ――――おまえの考えてるようにはいかない」

最後の言葉だけは明らかに今までとは違う、真剣な口調だった。
言い切った根拠までは告げず、デイパックをこれ見よがしに揺らしながらディエゴは去っていく。
急ぐ様子は見られないことから、まずは支給品をじっくり見返しでもした後どこかへ行くつもりなのだろう。
やけにあっさりに見えるが、ムーロロがその動作について疑うことはしない。
彼の目当てである『遺体』について、これから呼ぶ予定の者たちは情報を持っていないことは明白なのだから。

「連絡用のを付けるぞ。ああ、そっちのジョーカーは別だ……『指示通りに動くかどうかわからない』からな……」

サポートまでは無いが連絡役という名目の監視は必要――当然それは理解している。
その証拠に後ろにトランプがついてもディエゴは何もしようとしなかったが……
まさに部屋を出ようかというその時、一度だけ振り返ると思い出したかのように言った。

「そうそう、オレにだって怖いものはあるぜ? まあ『ある』ってよりは『いる』だがね。
 どんな状況下でどんなに戦力が充実してようと、そいつとだけは関わり合いたくない、そんなやつがな……」
「おやおや、そんなことオレに教えちまっていいのかい?」
「全く問題ないね。その怖いやつっていうのは……」




                        「オレ自身、さ」




さらりと述べると、ディエゴはそのまま部屋を出て行った……ずっと控えていた、恐竜を連れて。
――二人を知る者ならわかるだろうがこの対話、信頼しあう者がくつろいで話しているような状況では断じてなかった。
微動だにしないトランプと恐竜、そして本体同士の睨み合いと口先の化かし合い……
どちらかが妙な動作をすればその瞬間に戦闘開始となりかねない、それほどまでに緊迫感の絶えない対話だった。

                    ((さて、それじゃあ……やるか))

彼らが思っていたよりは早く話は終わったが、それでも多少の時間を食ったのは事実。
支給品の確認後、ディエゴの行先は果たしてルーシーたちの元かそれとも別の何処か……?
そして、ムーロロの企む『カーズ討伐同盟』は果たして現実のものとなるのだろうか……?

74Rule Out ◆LvAk1Ki9I.:2017/05/22(月) 22:23:23 ID:gmQKlgUA


【D-3 DIOの館/一日目 夜中】

【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』+?
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康、なかなかハイ
[装備]:遺体の左目、地下地図、恐竜化した『オール・アロング・ウォッチタワー』一枚
[道具]:基本支給品×4(一食消費)鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球
    ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2、カイロ警察の拳銃(6/6) 、シュトロハイムの足を断ち切った斧
    ランダム支給品11〜27、全て確認済み
   (ディエゴ、ンドゥ―ル、ウェカピポ、ジョナサン、アダムス、ジョセフ、エリナ、承太郎、花京院、
    犬好きの子供、仗助、徐倫、F・F、アナスイ、ブラックモア、織笠花恵)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰り、得られるものは病気以外ならなんでも得る
1.ムーロロを利用して遺体を全て手に入れる。
2.ひとまず支給品を再確認、その後ルーシーたちを追う?
[備考]
※DIOから部下についての情報を聞きました。ブラフォード、大統領の事は話していません。
※装備とは別に『オール・アロング・ウォッチタワー』のカード(枚数不明)が監視についています。
※ディエゴが本来ルーシーの監視に付けていた恐竜一匹が現在ディエゴの手元にいます。


【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:健康
[装備]:トランプセット、フロリダ州警察の拳銃(ベレッタ92D 弾数:15/15)、予備弾薬15発×2セット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、遺体の脊椎、角砂糖、
    不明支給品(2〜10、全て確認済み、遺体はありません)
[思考・状況]
基本行動方針:自分が有利になるよう動く
1.ジョースターを利用するべく、ジョルノに『カーズ討伐同盟』の話を持ち掛けて呼び出す。
2.ディエゴを利用して遺体を揃える。ディエゴだってその気になればいつでも殺せる……のだろうか。
3.琢馬を手駒として引き留めておきたい?
[備考]
※現在、亀の中に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
 会場内の探索はハートとダイヤのみで行っています。 それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。

75 ◆LvAk1Ki9I.:2017/05/22(月) 22:26:24 ID:gmQKlgUA
以上で投下終了です。
指摘を受けた三点リーダ、ダッシュを偶数個に直しています。
それ以外の変更点はありません。

◆yxYaCUyrzc氏の話と合わせてご指摘、感想などありましたら遠慮なくお願いいたします。

76名無しさんは砕けない:2017/05/24(水) 21:18:57 ID:hDxoMLus
投下乙です。
仮投下時に動きが少ない話になってしまったとおっしゃっていましたが、こういう話があってこそ物語がしっかり進むと思うので全然かまわないと思います!
ディエゴもムーロロもどちらも「いかにも」な感じで氏の描写に驚かされます!
これからルーシーを追うであろうディエゴに、ジョルノの行動を読んでいるかのようなムーロロ。
近くには確かまだ琢馬もいるはずですし、どう話が展開していくか今後に期待がかかりますね〜

77際会 その1 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/25(金) 11:56:51 ID:K9OR.IT.
『考えるのをやめる』

さて、君たちはこの言葉についてどう思――いや、聞き方が悪いな。
考えるのをやめるということは“どういう状態のこと”をいうのだ?と質問しよう。

例えばそうだな、腹が減ったから飯を食うとして、何を食べるか考える。
この時点ですでに『食べたいモノ』『食べるという判断』『腹が減ったという認識』の三つを考えている、といえる。
この例に当てはめるなら、考えるのをやめるというのは相当に難しい。まぁ皆までは言わないが……


それではここで、今回の主人公を紹介しておこう。それにあたって、まず皆に確認しておきたいことが二つある。

マル1、『彼はおそらく、考えるのをやめることができない』
マル2、『彼は記憶の全てを本に依存しているわけではない』

前者に関してはほぼ全ての人間に当てはまるから……『彼にはボーっとする、という概念がない』とでも言い換えよう。
たとえ周囲からそう見えていたって、視界に入るすべて、耳に届く音すべてが本に記録され続けるということは、だ。
そりゃあボーっと、なんてしていられる訳がない。で、ここで後者だ。

彼はドーナツという食べ物の名前を憶えていなかった。もちろん本にはそこかしこに書いてあるだろう。でも自分の頭の中には必要ないと本に一任していた。
一方で、この会場で母を刺した感触、リサリサを絞め殺した感触、そして千帆が自分の手を取らなかったあの瞬間の表情。それらはすぐにでも思い出せるだろう。

つまり、何を言いたいかというとだな――

『いつの間にか琢馬も姿を消していた。二人ともそんなこと、と意に介さなかった』
『あいつは妹を失ったショックで放心状態、何をすることもない無害な置物だ』
『仮に今更あのガキが動いたところで俺たちの計画になんの支障もない』

……と。ディエゴ・ブランドーとカンノーロ・ムーロロの二人が彼の――琢馬の事をそう評価したのなら、それはまさに琢馬の思うツボ、戦略勝ち、ということだ。
このゲーム序盤、ミスタやミキタカを相手に『普通の人間のフリ』『物を知らないフリ』をしていた琢馬には、その程度は造作もないだろう。

ジョニィやルーシーたちとソファに座っていた時。確かに何気ない所作を繰り返しているだけに見えた琢馬。だが決して“ボーっとしていた”訳ではない。
本を手元に呼び出さずに己の頭の中で、やるべきこと、やるべきではないことを考案し、耳に入る会話を記憶し、それまでの記憶と合わせ推測および検証をし。
そして仕上げに、あたかも放心した自暴自棄の少年のように部屋を出るだけだった。

「少し外の空気を吸ってくる」
少しホテルの中をフラフラしつつ――無論この時も思考を止めることはなく――どこで聞いているか分からないムーロロに向かってぽつりと呟きホテルのドアを押し開けた。

78際会 その2 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/25(金) 11:57:35 ID:K9OR.IT.
さて……いくらか歩き、ホテルからたっぷり300メートルは離れたあたりで歩みを止めた琢馬。
しかしあくまでも今の彼は『スタンドは使えるが無害な無気力少年』だ。歩き方に迷いこそなかったが、過度に周囲の警戒をすることもせず。
そういう所作が琢馬にとって必要だったからだ。しかしこれには本人も流石に冷や汗をかいただろう。
殺人者による無言の不意打ちがなかったことも、ムーロロからの警告や尾行もなかったことも。ただただ幸運だったとしか言いようがない。

だが――ここがゴールではない。あくまでもここからが本番だ。

琢馬はなにも『あいつらの遺体争奪戦に巻き込まれてたまるか!逃げ出してやるぜ!』だとか『もう何でもいいや〜フラフラ』だとかのためにホテルを出たのではない。
二度ほど深呼吸をし、ゆっくりと口を開いた。


「あんたに……協力したい」


もちろん琢馬の目の前には誰もいない。傍から見れば、十人中十人が『虚ろな目をして道のど真ん中で独り言をつぶやく危ないヤツ』というだろう。
そんな風体に気付いているのかいないのか、それでも言葉は続く。

「いや、協力だなんて偉そうなことを言いたいんじゃあない。
 俺はあん――あなたに“ついていきたい”ただそれだけなんだ」

そう。これこそが琢馬の辿り着いた答え。

「あなたには何か『とんでもない目標』があるんだろう?
 それを達成したとき、あなたの目の前に何が映っているのか。
 あるいは達成できなかったとき、あなたは一体どうなってしまうのか。
 俺はそれを見てみたい。そして俺に教えてほしい」

……訂正しよう。ある意味で琢馬は答えを出すことを放棄した、とも言える。

「俺には人生を賭して果たすべき目的がある――あった。
 それは達成されたとも言えるし、達成できなかったともいえる。
 まだチャンスはあるかもしれないし、もう二度と訪れないかもしれない。
 俺は目的を失った。ずっとそのことだけを考えて生きてきた、そんな目的を。目標を」

掠れた声色でありながら、それが消えることはない。
その目は下を向きながら、輝きを失うことはない。

「あなたに『俺に目標をくれ』なんて贅沢な頼みをするつもりはない。
 教えてほしいなんて言ったが、あなたはあなたの目指すべきところに行くだけでいい。
 本当に、ただただついていきたいだけなんだ。それを隣で――いや、後ろから見られるだけでいい。
 それをあなたが受け入れてくれるなら、なんだってやってやる」

泣いているわけでも、怒っているわけでもない。
焦っているわけでも、恐れているわけでもない。
蓮見琢馬の表情は、いつもと変わらない無機質なそれだった。

79際会 その3 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/25(金) 11:58:04 ID:K9OR.IT.
「……」

言いたいことをすべて言い切ったのだろう。口を閉ざした琢馬の頬を緩やかな夜風が撫でた。

「……」

琢馬自身にもわかっていたことだった。
ただ、あの場で、あの状況で、そして自分の出来うることを考えに考え抜いた結果だった。
普段なら絶対にしないであろう、そんな賭け。

「……」

つまり――琢馬の言葉に、呼びかけに。
返事をするものは。
彼に答えを見せるものは。

「……」

「……」

「……なんてな」
琢馬が踵を返す。あの居心地が悪く、そして自分を縛り付ける連中の屯すホテルに戻るべく。


――と。少し琢馬から視線を変えよう。ここで登場人物その2についてだ。
彼について一言二言の説明をするなら……

マル1、『彼は究極の天才である』
マル2、『彼は別に人間を殺したいと思っているわけではない』
前者は改めて言うまでもないが、言っておかなければならない。問題はマル2の方、これが少々厄介だ。
彼が到達したい場所はあくまでも『自分が究極の生命体となること』である。
そのために脳を押す装置を作り出した。それだけでは足りないと赤石を求めた。それが偶々人間の手にあっただけである。
食事に関しても、自分が必要なカロリーを得ることができれば、何も人間や、その脳を押した吸血鬼を食わねばならないという訳でもないだろう。
世が世なら、死刑囚をあてがうとかして人間と共存さえできるかもしれない。

少々話が逸れたが、自分の邪魔をしなければ異種だろうが同種だろうが彼は――カーズは殺さないのだ。
逆に言えば、自分に逆らうなら同種だろうとなんだろうと、問答無用でぶっ殺すって事なんだが、まぁそれはそれとして。
崖に咲く花を踏むこともなければ、犬を見殺しにすることもない。
克服すべき太陽も、その輝きを己の瞳に映せば感動の声さえ漏らすだろう。

要するに何が言いたいかと言うとだな――

80際会 その4 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/25(金) 11:58:30 ID:K9OR.IT.
「なんだって、か」

カーズにとって、この提案は悪い話ではなかった。

「ククク……今の演説を、まさか大統領だとかいうの“だけ”に聞かせていたわけではあるまい?」

そのバケモノじみた……いや、実際に人間から見れば十分にバケモノなんだが、目と耳が道の真ん中で呟き続ける琢馬をとらえていた。
独り言を終えて元来た道を戻ろうとする琢馬の背後。つまり先ほどまで琢馬が見つめていた方向に姿を現す。

「そうだろう?だからこそ、このカーズを前にしてそんな顔でいられるのだろう?
 私ほど『とんでもない目標』を持ったものもそうは居ないだろうからな」

振り返った琢馬の目がカーズと合ったとき。
琢馬がギョッとしたのはほんの一瞬で、むしろ、その口角が少しだけ上がったようにさえ見えた。
夜の闇で誰にも分らないほどごくわずか。少なくとも俺にはわからなかったが――カーズは分かったのかもしれない。

「そして――フフ。人間はこういう時、だいたいこう言うそうじゃあないか」

笑いをこらえきれないカーズと、こちらもまた表情が緩む――安堵したような顔をした琢馬。

そう。カーズの言った通りだった。
琢馬は自分の体に吸い込まれた『遺体』のパワーが一体何なのか。
耳に入ってくるその遺体の情報。生前が“何者”であったか。なぜこんなゲームバランス崩壊のようなものが点在しているか。
なぜそれを知っているものがいるのか。なぜスティーブン・スティールが殺されたのか。なぜ遺体と遺体が引かれあるのか。
それらを踏まえての先の独り言――演説、大立ち回り。そういっても過言ではないだろう。
ある意味では、むしろ大統領には本当に“聞かせるだけ”でカーズのような“ドでかい目標を持つもの”に接触してもらうところまでが琢馬の作戦だったのかもしれない。
むろん、大統領が接触してくれたのなら、それはそれで琢馬にも動きようがあったのだとは容易に推測できるけど――

「MMM???今『なんでもする』って、言ったよヌァアァァ〜〜?」

言いながらついに高笑いを始めるカーズ。
それを静かに見守る琢馬。ほんの少しだけ洩れた溜息は安堵のものか、あるいはカーズの言い回しに引っかかるところでもあったのか。
それは本人にしか分からないだろう。敢えて言及するのは避けさせてもらうよ。


――と。
ここで最初のテーマに戻る。
『考えるのをやめる』ということについて。

何がどうあっても考えるのをやめることが出来ないであろう蓮見琢馬は、考えに考え抜いて、カーズに接触した。
だがしかし、双葉千帆のことを『考えるのをやめた』とも表現できなくもない。

一方でカーズは一族の中でも――つまり全ての生物の中でもダントツに頭がいい大天才。考えることに関して右に出るものはそういないだろう。
だが、そんなカーズが『考えるのをやめた』という話を我々は知っている。

さてさて、カーズ討伐同盟やら聖人の遺体の争奪戦やらで周囲がざわつく中。
ある意味では誰よりも早くカーズに接触したといえる……いえなくもない琢馬。
この出会いがどう転がっていくのか。皆も少し“考えて”みておくれよ。

81際会 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/25(金) 11:58:54 ID:K9OR.IT.
【D-3 路上/一日目 真夜中】

【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(小〜中に回復)、疲労(なし〜小に回復)
[装備]:遺体の左脚
[道具]:基本支給品×5、サヴェジガーデン一匹、首輪(由花子/噴上)、壊れた首輪×2(J・ガイル/億泰)
    ランダム支給品1〜5(アクセル・RO:1〜2/カーズ+由花子+億泰:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図、スタンド大辞典
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる
0.参加者(特に承太郎、DIO、吉良)を探す。場合によっては首輪の破壊を試みる
1.目の前の男(=蓮見琢馬)に興味
2.ワムウと合流
3.エイジャの赤石の行方について調べる
4.第四放送時に会場の中央に赴き、集まった参加者を皆殺しにする
[備考]
※スタンド大辞典を読破しました。
 参加者が参戦時点で使用できるスタンドは名前、能力、外見(ビジョン)全てが頭の中に入っています。
 現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのは承太郎、吉良、宮本です。
 まだ琢馬の事は詳細を聞いていない&見ていないので把握していません。
※死の結婚指輪がカーズ、エシディシ、ワムウのうち誰の物かは次回以降の書き手さんにお任せします。
 ちなみにカーズは誰の指輪か知っています。死の結婚指輪の解毒剤を持っているかどうかは不明です。
 (そもそも『解毒剤は自分が持っている』、『指示に従えば渡す』などとは一言も言っていません)
※首輪の解析結果について
 1.首輪は破壊『可』能。ただし壊すと内部で爆発が起こり、内部構造は『隠滅』される。
 2.1の爆発で首輪そのもの(外殻)は壊れない(周囲への殺傷能力はほぼ皆無)→禁止エリア違反などによる参加者の始末は別の方法?
 3.1、2は死者から外した首輪の場合であり、生存者の首輪についてはこの限りではない可能性がある。
 4.生きている参加者の首輪を攻撃した場合は、攻撃された参加者の首が吹き飛びます(165話『BLOOD PROUD』参照)
※遺体の左脚の入手経路は シーラEの支給品→シュトロハイム→カーズ です。
※カーズの首輪に「何か」が起きています。どういった理由で何が起きてるかは、次以降の書き手さんにおまかせします。
※康一たちとカーズの移動経路はE-4→ F-4→ F-3→ G-3→G-2 です。
 その間に夜(〜20時)までに発動する禁止エリアは存在しませんでした。

【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、精神的動揺(極小)
[装備]:遺体の右手、自動拳銃、アヌビス神
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る……?
0.ドでかい目標を持つものについていき、『答え』をその目で見る
1.その“もの”カーズと接触。あとはカーズの指示次第だが――?
2.自分の罪にどう向き合えばいいのかわからない=思考0へ
[備考]
※参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
※琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
 また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
 また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
※ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
※スタンドに『銃で撃たれた記憶』が追加されました。右手の指が二本千切れかけ、大量に出血します。何かを持っていても確実に取り落とします。
 琢馬自身の傷は遺体を取り込んだことにより完治しています。
※DIOの館を手ぶらで出てきましたので、以下の所持道具を館に置いてきています。カーズの指示次第では放置して立ち去るつもりです。
 基本支給品×3(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、
 不明支給品2〜3(リサリサ1/照彦1or2:確認済み、遺体はありません) 救急用医療品、多量のメモ用紙、小説の原案メモ

82際会 ◆yxYaCUyrzc:2017/08/25(金) 12:02:07 ID:K9OR.IT.
以上で投下終了です。
仮投下からの変更点は
・誤字脱字、開業位置の修正
・表現の修正と若干の追加
……このくらいです。

仮投下時に感想くださった皆様ありがとうございます。
ゲームも終盤、どんどんフラグ立てていきたいので、大きなバトルやどんでん返しは皆様にお任せいたしますよw

さて、最後になりますが、引き続き矛盾点などのご指摘がありましたらどんどんとレスいただければ幸いです。
また1〜2週間程度の時間を置いて、修正がないようでしたらwiki収録にうつらせていただきます。ではではノシ

83引力 その1 ◆yxYaCUyrzc:2017/11/20(月) 21:35:52 ID:zAcdPnQw
彼らの話をするとき、あるいは聞くとき。どうしても避けては通れない言葉がいくつか存在する。
今回はその中から『引力』というキーワードについて考えよう。

だが……今回は悠長に問答をしている場合じゃあなさそうだ。事態は刻一刻と変動しているものだからな。
まずは答えを話そう。というよりも読んで字のごとくさ。引力とはズバリ『力』だ。

力――パワーとかエネルギーと言い換えても良いかも知れない。
引き合う、引き付けあう“力”。シンプルだが、それゆえに重要な要素だと言っても良いかもな。

さて。“事態は刻一刻と”なんて言ったが今どうなっているか。
そうだな、これも結果から説明しようか。そのほうが紛らわしくないだろう。


トリッシュ一行はルーシーに出会うことが出来ずにいた。それは一体なぜか?そこに関わってくるのが『引力』だ。


まずはトリッシュ。彼女の心に直接語り掛けるような声を聴いたところから。
ルーシー……トリッシュは正体を知らないから、正確に言えばルーシー“らしき女性”の、となるが、とにかく声を聴き。
それをナランチャと玉美に問い。そこから幻聴だの罠だのという、ある意味お約束なやり取りをし。
そうこうしている内に、というのは少々違うが――彼女の耳に声が届くことはなくなった。

では話題に上がったルーシーはと言えば。こちらは改めて説明するほどでもないが……
DIOの館でのやり取りを思い出してもらえればトリッシュに声をかけている余裕なんか存在しないとわかるだろう。


つまり――トリッシュとルーシーの間にはたらく“引力”は弱まり。
もっと言うならルーシーの側はジョニィ・ジョースターというより大きな“力”に『引き寄せられた』という訳だ。

84引力 その2 ◆yxYaCUyrzc:2017/11/20(月) 21:36:20 ID:zAcdPnQw
話をトリッシュ一行に戻そう。
“メッセージ”が途絶えたとはいえ。それが罠であれ何であれ。他に行く当てがないのもまた事実。
敵も味方も数少ない現状、とにかく移動すべきだというトリッシュ自身の提案で、声が告げていた方角、北を目指すことになった。


そしてここに新たな『引力』が発生する。


目指していた方角にて地鳴りとともに突如出現した巨大な鉄塔。
玉美に曰く『地元の観光名所にそっくり』とのことだが、なぜそれが今ここに?
先の幻聴、そしてこのタイミング。何もない訳がない。無視できる訳がない。

ちなみに鉄塔それ自体もイギーに支給された紙から地球の『引力』に従って地面に突き刺さった訳だが――今回は置いておこう。
彼らを呼び寄せた“力”は鉄塔のもつ“パワー”の比ではなかったのだから。


最大限の警戒をし。最小限しか音を立てずに歩み続けるトリッシュたち。
不意に先頭を行くナランチャが手を伸ばし立ち止まる。
振り返りこそしなかったが、トリッシュにはその表情がどんなものかは容易に想像できた。

「いくつ?」
スパイス・ガールを介しての問いに、開かれた指が折られて形を作る。『3』だ。
この状況、何をもって優位とするか。これは結構重要な考え方だ。
単純に数の大小のみで語れば互角ではある。あるが――ただただ人数だけが多ければいいってもんじゃあない。

振り返れば、後方の警戒を請け負った玉美の震える足が少し後ろに引いたのがトリッシュの目に留まる。
視線を上げて目を合わせてみれば、瞳が揺れ、一瞬後には口から弱音が漏れ出しそうな表情。だが、それを軽蔑することは出来ない。
トリッシュ様をお守りします!なんて啖呵を切ったって、未知の存在を相手にすると思えば、そりゃあ当然のリアクションだから。
さっき話した優位の定義とはちょっと矛盾するようだが、この時点で数の上での不利が確定。玉美を守りながらとなればマイナスの振れ幅は一層大きくなるだろう。

玉美を安心させるように小さく頷き前を向きなおせば今度はナランチャと目が合う。
少し細められた目は、それも玉美を軽蔑する眼差しではない。『任務を全うするギャングの眼差し』だ。
しかしその“一人で行く決断”を許す訳にはいかない。首を振りナランチャを制する。

迅速な決断を求められるトリッシュ。チリチリとした緊張感が限界に達する。
自身の体調やルーシーの心配もあるからと撤退を宣言しようとした刹那。

「ふたつ先の角にいる三人組!俺たちはこのゲームに否定的な者だッ!
 今からそちらに出ていくが、対等な出会いをお願いしたいッ!」

85引力 その3 ◆yxYaCUyrzc:2017/11/20(月) 21:36:46 ID:zAcdPnQw
ここで!このタイミングでッ!?ギョッとする三人。
ナランチャがレーダーを数秒見つめ、頷く。間違いない、声の主はこっちに来る。
しかも相手はこちらの人数まで言い当てた。それが何を意味するかは想像に難くない。
真っ先に力を抜き、スタンドを引っ込めたのは意外にも――いや当然、トリッシュ・ウナ。
次いでナランチャと玉美。隊列も崩して横並びに立ち尽くす。

間もなくして現れたのは馬に跨るバンダナの男と、犬。
先ほどトリッシュが“なんにん?”ではなく“いくつ?”と問うたのはこの可能性を考慮してだったのだが、そんなことを喜んでいる場合でもなくなってしまった。

「俺の無礼な願いを聞き入れてくれてありがとう。
 さてお三方、こんな夜道にどこへ行こうというんだい?」
バンダナの男から発せられたそれは先ほどの声色と同じ。つまり――

「オイオイオイオイ、油断させようったってそーはいかねーぜ」
「そッ、そーだそーだッ!こっちは三人、てめーは一人!それともなんだ!そのウマだのイヌだのも戦力に入れるってのかァ!?」
と、トリッシュの心配を代弁するかのようにナランチャと玉美が凄む。
だがわざわざ口に出さ無くても……慌ててトリッシュが制するが、相手の男は柔らかい笑みを浮かべながら馬から降りる。
(犬のほうは警戒しつつも興味なさげに顔を掻いていた)

「まさか!もし、俺たちがゲームに乗っていたとしたら君らに声をかけずにそのまま襲ってるさ。
 それに俺は味方を探している――おそらく敵に攫われた。ならばまずは“そのどちらでもない参加者”とは会話をするのが筋ってもんだろう?

 ……ま、いずれにしても俺は女性には手を上げるなんてゲス野郎みたいな行動はもってのほかだと思っているがな。
 それで、シニョリーナたち。君らはどこかに向かっているように見うけられるが……こんな暗い夜道は危険だ。
 俺も一緒に行こう。君の力になりたい」

……ん?
と不思議がる暇さえ与えられないようだ。つくづく状況は変化し続けるものだと痛感する。
ピラピラとメモだか伝言だかの紙切れを振りながら歩み寄ってくるその男には不思議と警戒する気が起きなかった。

「オイてめー、こんな場所でナンパかよ!?」
「サラッとセリフから俺ら抜いてってるんじゃあねェーッ」

そのトリッシュの不思議さはナランチャと玉美も感じているのだろうか。戦闘前の威嚇とは少し毛色の違う敵意を自分の両サイドから感じ始める。
このままでは収まりがつかないと二人の頭に軽くゲンコツを食らわせ、口を開いた。

「その“敵”とやらが女性だったらとか考えないのかしらね?
 なァんて言いたいこともあるし、逆に答える理由もないのだけれど……ここで断ってもあなたのこと、絶対に諦めなさそうね。
 そして確かに私たちはご指摘のとおり、ある場所に向かっていた。あなたたちがやって来た方向よ。
 ま……そのへん込みで、とりあえずそこらで情報交換といきましょうか」


――と。分かったろう?
トリッシュたちに働いた『引力』はシーザー・ツェペリとイギーとの『引力』だったって訳だ。

そして最初に言った通り、引力とはすなわち“力”だ。
ナランチャのエアロスミス、つまりスタンドのパワー。
シーザーの波紋レーダー、呼吸が生み出すエネルギー。
それに比べたら、そりゃあ鉄塔が引力によって落っこちただなんて、些細にもほどがある。

おっと、最後に一つ。
俺が感じ、そしてどうしても君らに伝えたかった『引力』を彼らのセリフとともに紹介して終わりにしよう。


「ところでシニョリーナ。俺は君に会ったのが初めてな気がしないな。どこかで会ったことがあるかい?」

「「て、テメェ性懲りもなくトリッシュ(様)のこと口説いてんじゃあねえよッ!」」

「――あら不思議ね、気のせい程度なら、私もあなたの事を初対面のようには感じられないわね」

「「えっ……エエェ――――ッッ!?」」

86引力 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2017/11/20(月) 21:37:16 ID:zAcdPnQw
【D-3とD-4の境界付近 民家内/一日目 真夜中】


【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:4部終了後
[状態]:健康
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る
0.今後もトリッシュ様のお役に立つでござる
1.なんだこのナンパ野郎ッ許さんッ!が、トリッシュ殿の命令なのでとりあえず情報交換してやる
2.ナランチャは気に食わないが、同行を許してやらんこともない

【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)
    不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.なんだこのナンパ野郎ッ!?でもトリッシュがあぁ言ってるし情報交換だけすっか
1.早くフーゴとジョナサンを探しに行こう
2.玉美は気に入らないけど 、まあ一緒でもいいか

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:健康
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服、遺体の胴体
[道具]:基本支給品×4
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する
0.とりあえずこの3人組(?)と情報交換
1.さっきの声……ルーシー?今聞こえないのはなぜ?
2.フーゴとジョナサンを探しに行きたいけど、DIOの館に行くべき?
3.地図の中心へ向かうように移動し協力できるような人物を探していく

【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッツ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発(ほぼ回復済み)
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック、シルバー・バレット
[道具]:基本支給品一式、モデルガン、コーヒーガム(1枚消費)、ダイナマイト6本
   ミスタの記憶DISC、クリーム・スターターのスタンドDISC、ホット・パンツの記憶DISC、イギーの不明支給品1
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒
0.シニョリーナ一行と情報交換しよう
1.フーゴ、どこに……?とにかくフーゴに助かってほしい
2.ジョセフ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す
※DISCの使い方を理解しました。スタンドDISCと記憶DISCの違いはまだ知りません。
※フーゴの言う『ジョジョ』をジョセフの事だと誤解しています。

【イギー】
[スタンド]:『ザ・フール』
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[状態]:疲労(ほぼ回復)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する
0.こいつら(トリッシュ一行)と情報交換?勝手にやってろ、とりあえずついてくけど
1.あいつ(フーゴ)、どこ行きやがった!?
2.コーヒーガム(シーザー)と行動、穴だらけ(フーゴ)、フーゴの仲間と合流したい
3.煙突(ジョルノ)が気に喰わないけど、DIOを倒したのでちょっと見直した

[備考]
※イギーのデイパックと中身の基本支給品(食料無し)は鉄塔付近に放置してあります。
※トリッシュを中心とした地図は他の遺体の点在箇所を示しています。部位は記されておらず、持っている地図に書き写されました。
 DIOの館以外に星が記されているかどうかは以降の書き手さんにお任せします。
※トリッシュとシーザーの面識と引力については完全に“気のせい”です(ジョジョロワ1stのオマージュですので影響力はありません、あってはなりません)

87引力 ◆yxYaCUyrzc:2017/11/20(月) 21:41:59 ID:zAcdPnQw
以上で本投下終了です。
仮投下の際にいただいた『馬は?』『宮本のメモは?』について少々の加筆、それから文章表現の修正等を行いました。

どんどん人を動かして、新しく出会いやらフラグやらを作っていきたいですね。
個人的には今の参加者全員書いて「俺どこ書いても自己リレーになっちゃう!」とか言ってみたいですw
それがいいことか悪いことかは置いといて……これを機に書きたい人が増えてくれれば有難いんですがね。

それでは、引き続きご指摘ありましたらレスください。1〜2週間を目途にwiki収録も行いたいと思います。

88 ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/23(火) 21:26:00 ID:sROjq4tQ
ジョナサン・ジョースター、ジョニィ・ジョースター、ルーシー・スティール
本投下開始します。

89すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/23(火) 21:27:38 ID:sROjq4tQ

――D-2、倒壊したサン・ジョルジョ・マジョーレ教会の跡地にて。
後二時間ほどで日付が変わろうかという深夜、瓦礫の中に佇む一組の男女の姿があった。
辺りを見回して人を探す彼らの名は、先ほどDIOの館から脱出したジョニィ・ジョースターとルーシー・スティール。

「……やっぱり、誰もいない?」
「ああ、伝言でもあればと思ったけれど、本当に何も残っていなかった……
 こんな場所にいつまでもいたくないっていう気持ちはわかるけれど」

彼らの目的は第三放送直前、ジョニィが教会地下で遭遇した『ジョースター』との合流。
共通の仲間たるマウンテン・ティムは所在不明、ルーシーが呼びかけたトリッシュ・ウナもここまで来る間に遭遇せず。
そうなるとせめて、この教会跡でジョニィが遺体の中心と語るジョースターとの接触を試みたかったのだが……

「ジョニィ、わたしはその……ジョースター?
 その中の誰とも会ったことがないのだけれど……本当に信頼できる相手なの?」
「全員がそうかはわからない……けど、話が分かりそうなのはちゃんといた……
 それにぼくたちが会ったDIOという男は、似ていたディエゴと一緒で間違ってもいい奴じゃあなかった……
 だったら、ジョースターの側はぼくらの味方になると考えてもいいんじゃあないか?」

結果はまたしても空振り――目的の男たちは一人も残っていないどころかその足取りすら掴めない有様。
ムーロロの情報網、そしてその基盤であろうスタンド能力を考えると、このタイムロスは非常に痛かった。

「……聞きたいのは憶測でなく事実よ。実際会って、私が決めるしかなさそうね……
 あのムーロロが既に他の全員を私たちの敵に仕立てあげている可能性もある以上、油断はできないッ!
 …………他のジョースターはあなたよりかはましだといいのだけど」
「……わかったよ、今はそれで構わない……で、どうするんだ? ぼくにはこれ以上の案内はできない……
 地図を頼りに遺体を探す……いや、それより遺体の所有者に呼び掛けてここに来させられないのか?」

――『遺体』と『ジョースター』のどちらを優先させるべきか。
どちらも現在はわからないことが多く、しかも感覚だよりというのがなおさら不明瞭。
セッコを送り出した後二人は多少の口論を経て、結局ジョニィがルーシーを説き伏せてここまでやってきたが……
それが何の成果も得られなかったとあらば多少不機嫌にもなろうというもの。

「そんなに便利なものじゃあないわ……呼びかけても相手が聞いてくれるか……
 いえ、そもそもこちらの声がきちんと届いているのかすらあいまい……
 ただ、どこかにいることがわかるだけ…あなたこそどうなの?」
「ぼくも同じ…というより、さっきまではまるで誰かが呼んでいたようにだいたいの方向がわかったけれど……
 あの時だけが特別だったのか、今は何も感じない……
 この会場のどこかに何人かいる……それだけで、どこにいるのかは全くわからない」

不確かすぎる感覚では人探しに有力とは言えず、お互いに小さくため息を吐く。
……だが、次の瞬間ジョニィが目線を外す。

「いや、訂正する……『今』『ここに』誰かが来た……」

言いつつ一歩前へと出る――繋がりを感じるとはいえ、それが『味方』であるかは別問題なのだから。

90すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/23(火) 21:28:49 ID:sROjq4tQ

#


「きみは、ジョニィと……そちらの女性は?」
「そういうきみはジョナサン、だったな……」

やってきたのは黒髪に精悍な顔つきの青年――ジョナサン・ジョースター……!
エア・サプレーナ島で目覚めた彼は仲間と合流すべく、川沿いを北上してようやく教会へと戻ってきたのだ。
他に誰かいないかと辺りを見回しつつ歩み寄ろうとする彼に対しジョニィは――



                                  ドン!!




                       ――――何の前触れもなく『タスク』を構え、発射したッ!!



「うわっ!!?」

不意を突かれたジョナサンは録に回避すらできなかったが……爪弾はどうにか体ギリギリを掠めるだけに止まった。
反射的に掠めた箇所を確認――『穴』は、無い。
次いで驚きの表情を浮かべるとともにジョニィの方へと向き直るが……
視線の先にはジョニィが殺意の表情とともに、相も変わらず構えていた。
――下手な動きをすれば即座に再攻撃するといわんばかりに。

「質問に答えるのは構わない……だが、それ以上近づくことは許さない……
 彼女こそルーシー・スティール、あの時話したスティール氏の婚約者そのひとだ……
 さあ答えたぞ。今度はこっちの質問に答えてもらう……
 さっきここの地下にいたきみたちはいったい、どういう繋がりなんだ?
 そしてあの後、ここで何があったんだ?」

まだ困惑顔のジョナサンに冷え切った声で要求、回答、そして質問が矢継ぎ早に浴びせられる。
初対面の時と同じ、あるいはそれ以上か。
一度対話した相手――加えて、ジョナサンは知らないが先の会話内容――からすれば過剰すぎる警戒だったが……

「……わかった! 望むならこの距離で、そちらの質問に答えよう!
 その上で撃つなら撃て! ただし撃った瞬間ぼくの丸太のような足蹴りが君の腕を折る、それでもいいのなら!」

そこはジョナサン、困惑こそすれどこれしきでひるむような男ではない。
むしろ知りあいとはいえ状況がわからない中ひとりで現れた相手に対しては当然の反応。
婦女子を守りながらとあらばなおさら慎重にもなると勝手に納得、負けじと覚悟を見せつけていた。

「あの場にいた者たちは、簡単に言えば血の繋がりがあるぼくの子孫たち!
 彼らはぼくの子供に孫に、そのまた子供……皆、ぼくから見て未来から連れてこられたといっていた……
 今ならはっきり言える……ぼくらの姓が同じなのは偶然などでなく、きみもおそらくそうだからだ……!」
「……なるほど、ね。やっぱりそういう繋がりか……血統についてはやはり心当たりはないが…………?」

思うところはあったが納得まではいかず、その指先はジョナサンの方を向いたまま……
ジョニィは一瞬ちらりと明後日の方向を見てすぐに視線を戻し、ジョナサンの言葉の続きを待つ。
対するジョナサンも相手を見くびってはおらず、いざとなれば本気で相手の懐に飛び込む覚悟だった。

91すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/23(火) 21:29:53 ID:sROjq4tQ

「もう一つの質問の答えだが……ぼくらはあの後地上に出て、ディオ――きみが撃ったあの男と決着をつけた……
 教会が崩れたのは戦闘の影響……そして戦いの後、ぼくだけが川に流されてようやく戻ってきたところだ……
 気絶していたため放送も聞き逃してしまったし、ほかの皆がどうなったかはわからない……」
「………………」

返答が終わっても彼らの距離は変わらず、また向けられた指先にも動きはない。
どちらもまるで相手の次なる発言を待ち続けているかのような、長い沈黙が訪れる。
数分はそんな状態が続いただろうか……先に口を開いたのは、ジョニィだった。

「……放送を聞き逃したといっていたが、よければ教えようか?」
「いいのかい? ぜひともお願いする」
「……ジョニィ」

こちらは疑いまでは持っていないのか、狙われたままとは思えない口調でジョナサンが答える。
一方ルーシーは咎めるようにジョニィの方を見るが、彼は向き直りもせずに続けた。

「彼が答えた質問はふたつ、ぼくはひとつ……それくらいはいいだろう?
 ……それにひょっとしたら、彼は知らないのかもしれない」
「…………わかったわ」
「……?」

その様子を見てジョナサンは訝しむ。
ジョニィのみならず初対面のルーシーまで――どころか、むしろ彼女の方が――自分を警戒していることを。
そして『知らない』とは何のことか……と考えるうちにジョニィの口から第三放送の内容が告げられる。
ジョナサンにとっては悪夢……いや、夢ならどんなに良かっただろうかとさえ思える悲報が。

「そんな……ツェペリさん……それにF・F、花京院、仗助まで……
 いったいあの後何が起こったというんだ……それにほかの皆はどこへ……?」

同じ情報でも、聞く者が変われば当然反応も異なる。
スティーブン・スティールの死もジョナサンには優先度が低く、そこに対する反応はさほどでもなかったが……
話が先へ進むにつれ、ジョナサンの表情は驚愕に困惑、そして悲嘆に染まっていく。
加えて、教会近辺には仲間たちの姿が一人も見当たらなかったという事実もそれに追い打ちをかけていた。

「死者を悼むのも、仲間を心配するのも結構……だが、あんたが今やるべきことはそうじゃあないだろう?」
「……すまない、その通りだ」

さすがに見かねたのかジョニィは未だ指先を向けたままながらも彼に言葉をかけ……
ジョナサンもその不屈の精神力で顔を上げ、あらためて二人へと向き直った。

「きみらは、これからどこへ行くんだい? ……よければぼくも一緒に」
「それは――――――」

顔を見合わせた後、二人は同時に言った。


                              「「教えられない(わ)」」

92すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/23(火) 21:31:38 ID:sROjq4tQ

#


――先程の対話からしばらくして。
ジョニィとルーシーは同行を断ると何処かへと去っていき……残されたジョナサンはその場に留まっていた。
ひょっとしたら皆が戻ってくるのではないかという希望を込めて……現実は非情であったが。
そんな彼に声をかける者は誰もおらず――――



                          『随分と嫌われたものだなあ、ジョジョ?』



――――いや、いた。
『リンプ・ビズキット』の能力で蘇り、いまや彼の『そばに立つもの』―――DIO。
その胸中こそ不明だが……結局ジョナサンは、DIOとの同行を選んでいたのだ。
先ほどの対話の際、別段何かするでもなしに終始黙ったままだった彼が……ここにきて喋りはじめる。

「……誰もが会って間もない他人を手放しで信用できるわけじゃあない、彼らにも事情があるんだろう……
 それよりディオ、ここであの後何が起こったのか、きみはどう思う?」
『おや、過去のことを調べるのはおまえの専門分野だったはずだが……?
 まあいい、俺の推測でよければ聞かせてやる』

……忘れがちではあるがこの二人、数時間前お互いの全てをかけて戦った宿敵同士。
それが今、様々な意味でかりそめに近いとはいえ昔のような友人に近い立場で現状を相談している。
――本人たちの自覚通り、これほど奇妙な関係も他にないだろう。

『おまえも見ているだろうが、鐘楼にいた俺の部下――ジョンガリ・Aというが――おそらく奴が『何かした』……
 そうでなければ最後に見てから放送までの短い間に、少なくとも怪我が軽かった花京院が死ぬとは思えん』
「……!」

他二人――自らが致命傷を与えたであろう者――については一言も触れず、さらりと述べた。
良く言えば客観的、悪く言えば他人事な見方であるが、それでも自分が見えていなかった箇所を指摘してくる。
思わず耳を真剣に傾けるジョナサンだったが、さすがのDIOにもそれ以上の考えはなかったようであり……

『後は正直俺にもわからん……教会の崩落を見てやってきた何者かの対処か、他に何か理由でもあったのか……
 ともあれ生き残り全員でどこかに移動した、と見るべきだろうな。いずれにせよ確かなのは、ジョジョ――――――』


                        『おまえはあいつらに『見捨てられた』ということだ』


聞き終えたジョナサンはわずかに嘆息する。
単なる嫌味かそれとも現実を突きつけられたのか……彼ら以外には判別できない奇妙な友情もまた健在だった。

「ディオ、理解しろとまではいわない……だがわからないわけではないだろう? 彼らはそんな人間ではない」
『ほう? ではおまえが目覚めてからここに戻る途中、あいつらの誰とも出会わなかったのをどう説明する?
 まさか偶然行き違いになったなどという答えで俺を失望させないでくれよ?』
「………………」

93すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/23(火) 21:33:33 ID:sROjq4tQ

DIOの見解にうまく反論できないのが癪ではあるが。
現在地である教会跡にメッセージすら残されていない以上、可能性は限られる。
仲間たちは自分がここへ戻ってくることを想定していなかったか、あるいは急いで移動する必要があったか……
ジョナサンの出した答えは後者だったが……全く手がかりがない不安からか、やや自信なさげであった。

「その時点でぼくよりも優先すべき、なおかつ急を要する事態があったんだろう。
 重症を負った者もいたし、彼らを急いで治療するためにいったん場所を移したのかもしれない……
 ぼくは見捨てられたのではなく、ひとりでも大丈夫だと信用されていたんだ……たぶん」
『信用ときたか……その信用とやらであれだけ痛い目を見てまだそう言えるとは見上げた精神だ、敬意を表させてもらおう』
(………………承太郎)

そのやり取りでジョナサンの頭の中にひとりの男の姿が浮かぶ。
自分の想像よりもずっと危うかった彼は、無事なのだろうか。
おそらく生きてはいる、だが自分が最後に見た限り彼は相当の重傷、さらには一緒にいた花京院が――――

(いや……覚悟はしておくが、ぼくがいま考えるべき事ではない)

彼は一人ではない――生き残ったジョセフとジョルノがいる(アナスイもいるけど)。
DIOと戦う中承太郎の胸中を知った彼らが一緒にいる以上、最悪の事態は免れているはずだと自分を納得させる。

『さてジョジョ、このままでは何も進まんぞ……いい加減動くべきではないか?』
「……そうだな、それじゃあ空条邸へ向かおう。
 確かそこで第四放送時に仲間たちと待ち合わせをしたと聞いたし、皆もそこへ向かったのかもしれない」

それでいいかい、と目配せして意見を求める。
DIOはそんなジョナサンの順応性の高さに呆れつつ、面倒そうに答えた……が。

『好きにしろ、どのみち俺に選択権などないのだからな……
 ところであらためて思ったのだが――ジョジョ、おまえに隠しごとはやはり向かんようだ』
「……それは、どういう意味だ?」

……手を当てた口元はその時、笑みを浮かべていたのか不機嫌そうに結ばれていたのか。
DIOは一瞬だけ沈黙したのち、彼らの去った方角を眺めながら言った。


                         『――――あの二人、明らかに俺が『見えていた』』

                                 「……えっ?」


衝撃の発言にびくり、とジョナサンが震える。


                           ――――それ以上近づくことは許さない……


DIOの言葉が本当ならば、先ほどのやり取り全てに説明がつく……ついてしまう。
――いきなり撃たれたのも、近づくことすら許されなかったのも、行先も目的も教えてもらえなかったのも。


                         ――――ひょっとしたら、彼は知らないのかもしれない


DIOは透明ゾンビ、つまり普通なら相手に見えないということはなんとなく理解できている。
彼らに話さなかったのはそのためだが……そこから誤解が生まれたのかもしれない。
『知らない』とはすなわち、そばに立つDIOの存在を自分が認識していないということだったのではないか。

94すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/23(火) 21:34:37 ID:sROjq4tQ

                              ――――教えられない(わ)


さらに理解する……
彼らは知り合いである自分と、敵であったDIOが並んで立っているのを見て……
そして自分がそのことに一言も触れようとしないのを見てさぞ葛藤していただろうことを。
あの程度の対話では到底足りぬほどに聞きたいこと、言いたいことがあったであろう事実に。

「…………本当、なのか?」
『俺は『見られている』感触には特に敏感でな……そしてあの出会い頭の一発……
 あれの狙いが俺でなければおまえはとうに地面に転がっていただろうよ……
 何より話の途中、大げさに目線をそらせば奴らも一瞬そちらを見た以上、ほぼ確実だ……』

どちらも言われなければ偶然で済ませられる、というよりそう思っていた。
だがあらためて考えてみれば確かにその通りであり、半信半疑だったジョナサンも信じざるを得なくなる。

「…………一体、何故ッ!」
『……見えた理由か? ――――さあな。
 おまえは俺の状態について理解しているからいいだろうが……
 他のやつらに今の『俺たち』はどう映るのか、一度その無い脳みそでよく考えてみることだな……』

混乱するジョナサンはDIOの言葉が意味ありげな間を置いたことにも気づかない。
無駄だとわかりつつ彼らの去った方を向くも、既にその姿は見えなくなっていた。
状況が好転するはずもないのに呆然と立ち尽くしてしまうのは、後悔という人の性であろう。

『追うか? 今ならまだ間に合うかもしれんぞ』
「…………いや」

相手の目的地がわからない現状では合流できる可能性は低い。
例え合流できたとしても、今のままではまた撃たれるのが関の山だろう。
先程DIOについて言わなかったこともあり、どう説明すべきかジョナサンには良い考えが浮かばなかった。
結局進路は最初の考え通り、空条邸――東のままとなる。

『しかし昔を思い出すなあ、ジョジョ?
 主導権を握っているようでその実、俺に全てを奪われていき……気付けばおまえはひとりきりだ……』
「ディオ、きみというやつは……いや、ぼくは絶対に屈したりなんてしない……
 きみもぼくももう、あの時のような子供じゃあないんだ」
『フフフ、黙って立っているだけでこれでは、実際俺が口出しを始めたらどうなることやら……
 まあ安心しろ、俺はお前に逆らわん――黙っていろ、あるいはいっそ消えろと命令すれば、従ってやるさ』
「……命令なんてしない。もしおまえが人に害をなすというなら……
 その前にぼく自身の手で、今度こそ完全に消滅させてやる」

はっきりと最後の言葉に返すと、しっかりとした足取りでジョナサンは再び歩き出す。
傍目には一人で、その実傍らに一人の男を伴いながら…………

(ジョジョ、気付いていないようだな?
 おまえが俺を連れていくことを選択した時点で、その決意が全く意味などなさないことを……
 本当に度し難い甘ちゃんよ――それこそ、子供の頃から全く変わらず、な…………
 まあ、その甘さゆえに先ほども見逃してもらえたのだろうが……)

かつて死闘を繰り広げた宿敵と共闘する――聞こえとしてはこの上なく良い響きだろう。
だが、それは同時に事情を知らぬものに対して巨大な爆弾を抱えるということにもなり得るのだ。
これから彼らが出会う者たちの誰が味方となり、誰が敵となるのであろうか…………?

95すれ違い ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/23(火) 21:36:37 ID:sROjq4tQ


【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会跡 / 1日目 真夜中】

【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:波紋法
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:左手と左肩貫通(応急処置済)、疲労(中〜大程度に回復)
[装備]:リンプ・ビズキットのスタンドDISC、透明なDIOの死体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒
1.第四放送までに空条邸に向かい、そこで仲間と合流したい
2.蘇った(?)ディオと共に行く、ただし何かあれば即座に対処
3.ジョニィたちと再会したらディオのことを説明したい

※ジョニィから第三放送の内容を聞きました。
※DIOとどの程度情報交換したかは次の書き手さんにお任せします。

【透明になったDIOについて】
0.能力は原作に準拠。スタンドビジョンはなく、死体を透明ゾンビとして復活させ使役する。
1.あくまでもリンプ・ビズキットによって生み出されたものなので『世界』は使用できない。
2.同様の理由で吸血もできないと予想されるが、ゾンビの本能での『食らいたい衝動』はある。ただしDIO自身の精神力で抑制中。
3.原作の描写から、遺体が動いているわけではないが、透明DIOにダメージがあれば遺体にフィードバックする模様。つまり大統領が回収したDIOの遺体に変化がある。
4.リンプ・ビズキットに課せられた制限は『使役できる人数』のみ。ただし詳細は不明。
5.DIO自身はなかなかハイな状態。しかし尊敬するジョナサンの命令には(能力を抜きにしても)従うつもりなので、彼が死ねといえば喜んで自殺するだろう……



【D-2→??? / 1日目 真夜中】

【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1 → Act2 → ???
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:右頬に腫れ
[装備]:ジャイロのベルトのバックル、遺体の右目
[道具]:基本支給品、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロの無念を――
1.ルーシーと共に行動。当面の目標はジョースター一族と合流すること。ただしDIOは避ける。
2.遺体を集める

※Act3が使用可能かどうかは次の書き手さんにお任せします。

【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:処女懐胎
[装備]:遺体の頭部
[道具]:基本支給品、形見のエメラルド、大量多種の角砂糖と砂糖菓子
[思考・状況]
基本行動方針:??
1.ジョニィと共に行動し、遺体を集める。身の安全を最優先。DIOは避ける。


【備考】
・ジョニィとルーシーは透明ゾンビのDIOが視認できていました。
 一度全ての遺体を取り込んだり遺体の『眼球』を所持していたからなのか、部位関係なく遺体を所持していたからかは不明です。
・この後二人がどこへ向かうかは後の書き手さんにおまかせします。

96 ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/23(火) 21:44:35 ID:sROjq4tQ
以上で投下終了です。
反対意見は結局なかったため文章は仮投下時からほぼそのままです。

仮投下スレで感想、ご意見くださった方々、ありがとうございます。
感想等はいつでも、どれだけでも大歓迎です。

透明DIOの件だけでなく、ジョナサンがDIOと一緒に行くと決めた理由もぼかしていますが
不明瞭、ということは後で好きに書いていいということ……と逃げ道を作ってます。
スタンド側の制限は特に考えていませんでしたが、いいアイデアがある方がいたらぜひとも読んでみたいですね。

進行はゆっくりなので収録も数日待ってからする予定です。
意見等は引き続きお待ちしております。
それでは。

97名無しさんは砕けない:2018/01/24(水) 23:11:50 ID:7V.LbkhA
投下乙です!
ジョニィとルーシー、DIOのこと普通に見えてた!?
死んだはずの敵がジョナサンの横に平然と立ってたらそら怖いわな
しかし深く追求せずに立ち去るとか本当7部勢は人を信用しない奴ばかりだw

一点指摘ですが、ルーシーはスティールの婚約者ではなく妻ですよ

98 ◆LvAk1Ki9I.:2018/01/25(木) 19:57:03 ID:xRZdzv3Y
感想、ご指摘ありがとうございます。

婚約者については164話 血の絆でジョナサンがそう発言しているためそれに倣っています。
とりあえず補完として>>94の結局進路は最初の――の後に以下のような文章を追加する予定です。


『謎のジョースターに今は亡き主催者の妻……
 ひょっとしたら、おまえは今とんでもない大物を逃がそうとしているのかもしれんぞ?』
「……その時になれば、きっとぼくらはまた巡り合えるさ……あの教会の時のように――
 ――待て、妻だって? ぼくは婚約者だと聞いたが」

――この食い違い、原因はジョナサンとジョニィが初めて会った直後の情報交換まで遡る。
14歳の女性が妻と言えばスティール氏が妙な印象を持たれかねないためジョニィはそこをぼかして伝えた。
その結果、ジョナサンが勘違いしたというのが真相である。

『いつどこでそれを耳にしたのかは知らんが、俺の場合は本人から直接聞いた……
 ふむ、これも時間の違いというやつか?』
「それはわからないが、なるほど……ルーシーときみは、既に会っていたか……
 通りで彼女のほうも、あんな態度をとるわけだ」

とはいえ違いとしては些細なこと、特に大きな影響があるわけでもなかった。
一応、ここにきてDIOから情報を引き出せたという意味では有意義だったかもしれないが。


これでいかがでしょうか?
他にも意見などありましたら遠慮なくお願いいたします。

99 ◆LvAk1Ki9I.:2018/02/04(日) 23:57:49 ID:sRzHI2ec
ひとまず新しい意見は無いようですが
ちょっと時間が取れないため収録はもう少しお待ちください。
だいたい水曜あたりにはwikiの方に収録する予定ですので、それまでなにかありましたら意見お願いいたします。

100名無しさんは砕けない:2018/02/06(火) 10:25:23 ID:SJbUPRWA
補完文章読ませていただきました。読んでみた感じ問題はなさそうです。
しいて言うなら
通りで(どおりで)は、道理で(どうりで)
の誤字ではなかったでしょうか。・・・どっちだったっけ?
ともあれDIO見える現象についてはのちの話の伏線にもなるでしょうから慌てて修正することもなさそうですし、ここまでの補完もしていただければ充分だと思います。

101名無しさんは砕けない:2018/08/12(日) 20:05:35 ID:RyMvmr.g
更新 ペース遅いよ

102名無しさんは砕けない:2018/08/28(火) 01:32:55 ID:AGbA/CI.
最近読み始めたんだけど更新止まってる?

103名無しさんは砕けない:2018/09/09(日) 12:33:51 ID:vXBkTCAE
更新遅すぎる

104名無しさんは砕けない:2018/09/09(日) 19:50:06 ID:sYjgAZGU
楽しみにしてる

105名無しさんは砕けない:2018/09/23(日) 14:03:31 ID:YzDEEtdk
更新ペースをあげるための策を練るべきだと思われる

106名無しさんは砕けない:2018/10/10(水) 09:57:06 ID:PtJ8rw6g
管理人は生存報告をしなさい

107名無しさんは砕けない:2019/01/08(火) 23:44:35 ID:LDhwTByw
wiki読んだけどあくまで透明ゾンビのDIOはDIO本人ではないから追跡表には入らない、って扱いなの?
ジョナサンを追跡すればいいといえばまあそうなんだけどDIOを追おうと思った時ちょっと面倒臭くって

108名無しさんは砕けない:2019/01/09(水) 19:47:52 ID:ptrFuGT.
本人ではないというより、生存している間の追跡をするのが追跡表だからでは、と推測。
仮にこの後ジョナサンがDISC取り出してディオの主が変わったりすればあるいは追加しても良いかもしれないけど・・・

109 ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 22:58:00 ID:pwqg9dZk
ジョセフ・ジョースター、ジョルノ・ジョバァーナ、カンノーロ・ムーロロ
本投下開始します。

110Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 22:59:41 ID:pwqg9dZk


――ボスが姿を現した。

その噂はギャング組織、パッショーネ内を電撃のように駆け巡り、多く……いや、ほぼ全ての者に驚愕をもたらした。
さらにその正体が若干15歳の少年とくれば、すさまじい混乱の渦が巻き起こったであろうことは想像に難くない。

そんな混乱を意にも介さず……むしろそれに乗じたというべきか。
若きボス――ジョルノ・ジョバァーナは大胆に、且つ迅速に組織を統率していったのだが……
その手腕を見てなお、全員が納得したわけではなかった。
わかりやすい例を挙げれば、組織の設立は何年前で当時彼は幾つだったと思っているのか、といったもの。
そんな声が密かに、しかしあちこちで上がるのもある意味当然なほどジョルノは『若すぎた』。

そのような声が『不信』に変わり、真実か否か探ろうとする者が現れるまで時間はかからなかった。
無論、組織においてボスの正体を探ることが何を意味するかは周知の事実。
だがこの一件はそれを踏まえてなお、調べる価値があると判断されたのである。
万が一ジョルノが『偽物』だった場合、個人の立場どころか組織全体がひっくり返りかねないのだから。

飛び交う噂やその出所から真実を突き止めようとした者。
部下や情報屋に金や権力を使って探らせた者。
自らボスへと近づいて探りを入れた者。
手段は様々だが、ボス側に悟られぬよう密かに……それだけは共通して、決して少なくない人数が動き出した。
しかし、彼らの『調査』は早々に行き詰る。

――ジョルノ・ジョバァーナ、これはイタリアで名乗っている名前であり本名は汐華初流乃。

   現在ネアポリス地区の高校に在学、同学校の寮に住む15歳の学生。

   一見普通の少年だが裏では『いろいろ』やっており、他ならぬパッショーネに目をつけられたこともある。

   母親は日本人、父親はイタリア人だがこちらは義父。

   どちらも碌に面倒を見なかったため親でさえ彼の細かい行動についてはよく知らない――

そんな公言されている当たり障りのない事実だけで満足できるはずもないが、そこから先が出てこない。
手掛かりといえそうなのは「理由は不明だが、彼は幼い頃からギャングと関わっていた」という程度。
結局、深入りを避けた者は関係あるんだかないんだか……そんな宙ぶらりんな情報しか入手できなかった。

ならば、と幾人かは別方面からの調査を試みた。
彼のルーツ……本来の父親から何か足取りを掴めないかとはるばる海外まで足を運んだのである。

だが、この父親も父親でまた謎の存在であった。
単にネアポリスでの聞き込みだけで、顔も名前も住んでいた地域もあっさり判明する。
にもかかわらず、現地の人間からも記録からも何故かその父親の情報がまったく出てこない。
そして、手間取っているうちに彼らはその地で妙な集団に囲まれ、こう質問されるのだ。

                    「――何故、『彼』のことを調べているのですか?」

その相手が最近組織と提携した、とある財団の人間だとわかればそこまで……泡を食って逃げ帰るほかない。
即座に身を隠す、あるいは依頼主へ調査結果と「これ以上は無理だ、オレもあんたもヤバイ」という言葉だけ残して去っていった。

111Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:00:53 ID:pwqg9dZk

……とまあ、だいたいの者は何の成果も得られずに終わったのだが、これらはあくまで一般的な調査の範疇。
組織の一部において重要視されていた『スタンド能力』を扱う者たちを忘れてはならない。
無論ほとんどの者はそもそも動かないか、または能力的、立場的に独力で動かざるを得なかったのだが……

カンノーロ・ムーロロも動いた人間、そのうちの一人。
自分の命すら惜しくない彼は大胆にもそのスタンド能力でジョルノ本人をマークするという手段に出た。
物陰や地面、壁の隙間から……気づかれないようにではあったが、逐一彼の行動を監視させたのである。

結論から言えば、ムーロロもまた決定的な証拠は得られなかった。
それどころか逆に暗殺チームに情報を流していた事実をつかまれ、後に彼はボスから呼び出される。
そこで「ぼくにもプライベートはある」と告げられたことで彼の監視は終わりを迎えるのだが……
その対峙が行われたのはこの殺し合いが起こらなかった、まったく別の世界での話。


――――結局、少なくない人数が動いたにもかかわらず『真相』にたどり着いた者はひとりとしていなかった。
だが逆にその事実でこれまで通りの『謎のボス』に箔がつき、次第に本物だ偽物だという声も消えていった。

カンノーロ・ムーロロは、これからそんな謎のボスと『初めて』顔を合わせることになる―――


#



C-3、DIOの館……その門前。
D-2から近くの橋を渡り、そのまま北東へ進んできたのはジョルノ・ジョバァーナとジョセフ・ジョースター……
彼らは先ほど探知した『敵の敵』と接触するべく、回復も兼ねてやや時間を掛けつつもここに来ていた。
完全に同時というわけではなかったが、C-3とD-3の境目にある橋を南下したジョニィ達とすれ違って。

「――――よう、待ってたぜ」
「「……!」」

だがいざ館内へ入ろうとした矢先に彼らは出鼻を挫かれる。
中から無造作に門を開け、姿を見せたのは彼らの来訪を既に察知していたカンノーロ・ムーロロ。
目的の人物があまりにも堂々と登場したことに二人は一瞬気を取られ、相手に口を開く隙を与えてしまう。

「あー、言いたいことは山ほどあるだろうが、堂々と密会ってのもアレだ、こいつの中で話そう」
「……それは」

差し出されたのはムーロロ自身がここまで持ってきた『亀』。
説明しようともせず、さっさとその中へ吸い込まれるように入っていく。
返事すら待たない一方的、されど断れない提案により即座に会話のペースはムーロロに握られた。
……しかし。

「いかにも罠ですってカンジだが……脳ミソ足りてねーな。ケケケ、それじゃあさっそく亀ごと――」
「待ってくださいジョセフ、ぼくはこの亀を知っている……入るだけなら何も問題ないでしょう。
 彼についてはまだわかりませんが――周囲には誰もいませんよね?」
「ん? おう、そりゃあ問題ねーぜ」
「……では、ここはあえて相手の懐に飛び込んでみましょう。
 おそらくですが、相手がこうして姿を見せたこと自体追い詰められている証拠でしょうから」

残された二人だったが、これしきのことではうろたえない。
頭脳派な彼ららしくまずは意見交換と周囲の警戒、同時にそれでいて迅速に行動を決めようとする。
……それすら、ジョルノは亀を知っているという事実を逆手に取ったムーロロの策とも知らず。
さらに、続くジョセフの言葉が思考をより複雑にしていく。

112Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:02:29 ID:pwqg9dZk

「いや、そうとは限らねえぜ……おれ、あいつと前に一度会ってる」
「……前に、ですか?」

ジョセフにとってはあまり思い出したくない出来事ではあったが……
無念な結果に終わってしまったものの、負傷した祖母エリナを救うため助言をもらったのは事実。

「夜が明けた頃だ……名乗りもしねえで勝手なこと言ってたが、おれを助けてくれた……ことには一応なる。
 おかげで仗助たちとも会えたし、ちっとばかし借りが出来ちまってんだよな……
 それとあいつはおめー……いや、おめーだけじゃなく仗助やDIOのことまでよく知ってるようだったぜ」
「成程……ぼくらを『待っていた』ようですし、あなたの借りも含めて一筋縄ではいきそうにないですね……
 ですが、そうなるとなおさらここで退くわけにはいきません。さあ、僕についてきてください」
「出たとこ勝負ってわけか、チト不安は残るが……よーし、乗ったぜ」

自分たちの素性も、ここへ来ることも知られていた――情報戦に関しては既に完敗。
さらにこのまま交渉に入ってもジョセフの借りがある以上最初から不利であることは否めない。
しかし、だからこそ敵か味方かもわからぬ彼を放置しておくわけにはいかないと二人は決断した。

まずジョルノが亀の中へと入り、真似してジョセフが続く。
中に広がる空間にジョルノは多少の警戒、ジョセフはそれに物珍しさも合わさって視線を動かしていたが……
すぐに彼らの視線は正面のソファーにどっかりと腰掛ける伊達男――ムーロロへと移る。

「ようこそ……ここには上座も下座もねえから席はご自由に。
 飲み物は……あー、さすがに飲んでる場合じゃあ――」
「おれはコーラで」
「………………おう」

互いに臆すような気配など微塵も見せず、ジョルノとジョセフは揃ってソファーに腰を下ろす。
まずはどちらも沈黙……ムーロロの出方を待っていた。

「もう知ってるかもしれんが、フェアということで一応名乗らせてもらうぜ。
 オレはカンノーロ・ムーロロ。組織の情報分析チームを任されてる……あー、この辺の説明はいらねえかな」
「「……」」

返事すらせず、黙って睨む……というより胡散臭い目で見ているといった感じだろうか。
亀の外での話し合いで、ジョルノもジョセフもこの相手に自己紹介など必要ないと理解していた。
それを裏付けるかのように、ムーロロ側に警戒は最小限しか見られない。
何もしないうちにいきなり自分が殺されはしないという確固たる自信があるかのようだった。

「さっそくだが本題に入らせてもらうぜ……カーズを倒すのに手を貸してほしい」
「理由は」
「残る参加者の中で、積極的に殺しまわってるのはもうあいつひとりだけ……
 つまりあいつさえなんとかしちまえば、あとは全員で協力して……わかるな?」
「戦略は」
「まず、やつは第四放送時に会場の中央に現れる――こいつは確かな情報だ。
 そして戦力の提供はできるんだが、策はない……むしろそっちにあるんじゃあないか、なあジョセフ?」
「……え、おれ?」

ジョルノの無駄を削ぎ落した質問と、予測しているかのようにすらすら返すムーロロ。
そんな二人が織りなす超スピードの会話の最中、突如話を振られてジョセフは面食らう。
だがそれでも、カーズの話題となれば自分以外に語るものはいないということで頭に手を当てつつ喋り始める。
柱の男についてほとんど知らないジョルノも一旦口を閉じ、そちらに注意を向けた。

「……あいつは、ひとをだますのが得意なスンゲー悪趣味なやつだぜ……
 だから事前の戦法は決めねえ方がいい……決まった動きしかできねえんじゃあ速攻やられちまう……」
「もう少し具体的に……弱点とかねえのか?」
「そりゃ簡単、あいつはズバリ太陽の光に弱いぜ…もっとも、この時間じゃあ無いものねだりだけどよ……
 おれの波紋はそれと同等のエネルギーだから、そいつを叩きこめりゃ有効だ……叩きこめりゃ、な」
「……オメー、質問の意味わかってるか? 結局オレたちにはどう戦えってんだ?」

あれも駄目、これも駄目……素か挑発かは不明だが建設的な意見が出てこない。
うんざりした声で問われたジョセフはしばし逡巡する。
一度は勝利した彼といえど、カーズ相手に楽勝!となるような方法などまったく思い浮かばなかった。

113Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:05:23 ID:pwqg9dZk

「そこなんだよなあ……なあ、こっそりあいつの首輪爆破できたりしねえ?」
「……それができるなら、わざわざオメーらにこんな話持ちかける必要なんざねーだろ」
「ケッ、偉そうにしといて結局人任せかよ……
 はっきり言っとくけどあいつに波紋無しで挑むのは無謀だぜ、触っただけでアウトだからな……
 そっちが提供する戦力に波紋を使えるやつは?」

ジョセフの質問に、ここで初めて考え込むようなしぐさを見せるムーロロ。
今現在ジョセフを除けば残る波紋使いは二人、彼らの居場所もだいたいわかっている。
だがジョナサンはムーロロ側が提供するわけではないし、シーザーはそもそもフーゴの味方で協力は難しい。
それらを正直に言うこともできない以上、ムーロロの回答は――

「…………いねえな、今のところひとりもいねえ……残念ながらな」
「では、正面からの接近戦は避ける方向で――」
「オイオイジョルノくん、だれかお忘れでないかね? 具体的にはきみの目の前にいるナイスガイとかねぇ……」

……一瞬の沈黙。

「……何?」
「……ジョセフ、それは――」
「心配ご無用! 知ってんだろ? こう見えてもボクちゃん、あいつに一度勝ってるもんねぇ〜」

ジョセフの提案を理解したうえで、なお納得しかねるムーロロとジョルノ。
彼は単なる(で片づけるにはいささか疑問だが)吸血鬼であるDIO相手にすら苦戦している。
今度の相手はより上位の存在である柱の男、しかも今はジョナサンを欠いてひとりきり。
過去の実績は聞いているものの……やはり、実際見るのと聞くだけなのでは受け止め方が違うのだ。

「なんだねその目は、ひょっとして疑ってる? 自慢じゃあねーが、元々柱の男は四人とも俺が倒したんだぜ!
 それに今なら奥の手もあるし、ダイジョーブよぉ〜ん」
「…………奥の手ってのは?」
「チッチッチッ、わかっちゃいないねえ……秘密だからこその奥の手だぜ?」
「……やれやれ、まあだいたい予想はつくけどな……今はそれに賭けるしかねえか」

見ている方が不安になるほど軽い態度に疑惑のまなざしが突き刺さるが、ジョセフは意に介さない。
何か言いたそうなジョルノに対しムーロロは先手を取り、言った。

「それじゃあ後の細かいことはこっちで話し合っとくから……
 ジョセフ、オメーは外に出てこの亀を持って会場の中央に向かってもらおうか」
「……オイ待て、なんでおれが――」
「カーズの時間指定は第四放送時、あと一時間ちょっとしかねえ。
 ところがこの亀は自力じゃあ文字通り亀の歩みなのさ……
 オレはジョルノと策とか連携とか話し合わなくちゃならねえし、亀をもって走れるのはオメーだけってわけだ。
 ほら、急がねーと間に合わねえぜ? さっきの情報提供と合わせて貸しのひとつは無しにしてやるからよ」

さっさと行け、とばかりに手で追いやるような仕草を見せるムーロロ。
当然そんな扱いにジョセフが黙っているわけもなく――

「てめー、このおれを顎で使おうって――」
「ジョセフ、言う通りにしてください」

――横から口をはさんだのはジョルノ。
相手の思惑はともかく、下手すると時間どころか全てが『無駄』になるのは彼としても避けたかった。

114Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:06:20 ID:pwqg9dZk

「カーズが現れるのは第四放送時の会場中央、つまり空条邸の近く……この意味が分かりますね?」
「……チッキショ〜! 揃って澄ました顔で労働強制しやがってっ!
 これから敵と戦いますって人に無駄な体力使わせんじゃねーッ!」
「おう、落としたりすんじゃあねーぞぉ?」

ジョルノの最低限のフォロー――自分たちが間に合わなければ待ち合わせをした仲間たちが危険に晒される。
それを理解したジョセフは文句を言いながらも亀の外へと出ていった。
……残ったのは、二人のギャング。

「――――あー、話はまとまった。今現場に向かってる……オメーも第四放送までに来い」
「…………盛り上がってるところすみませんが」

ムーロロは帽子からトランプのカードを取り出すと、それに向かって喋る……勿論一人芝居ではない。
もはや能力を隠そうともせず、おそらくは先ほど言った『戦力』の誰かに連絡しているのだろう。
ジョルノはそんな彼を黙って眺めていたが、連絡が終わったのかカードを離したムーロロに向かい――


           「――――ぼくらはまだ、あなたに協力するなんて言った覚えはありませんよ?」


――平然とそう言い放った。

「…………おいおいおい」

さすがにムーロロも驚くが、確かにジョルノもジョセフも協力を承諾などしていない。
だがなし崩し的とはいえ、どう見ても協力する流れだったのも事実。
このタイミングでの拒絶は完全に予想外……でもなかった。

(やりかえされた……ってわけか)

今はちょうど仲間に「交渉がうまくいった」と連絡した直後。
このまま何もせず交渉がご破算になれば……少なくとも仲間内でのムーロロの面目は丸つぶれになる。
退くに退けない状況を作り出し、相手を強制的に同じテーブルにつかせる……まさに先程彼が使った手だった。

(有効ではあるが、嫌らしいやり方だ……計算高いうえに最初から人を信じていねえな……
 正直、こんな状況でもなきゃ相手にしたくねえタイプだが……)

必然、ムーロロもまた同じように会話の主導権が相手に奪われたと感じつつも反論せざるを得ない。
……だが、同時に彼にはこの先の展開もある程度予測がついていた。
ジョルノが「あるもの」を要求するであろうことが。

「……ここまできて、そりゃ無いんじゃあねえか? あんたは柱の男を知らないからそんな事が――」
「いえ、協力してカーズを倒す……その考え自体は悪くありません。問題は――――」

一呼吸置くと同時にジョルノの目つきが変化する。
今までも鋭く睨みつけるようではあったが、さらに険しく――『敵』を見る目へと。

「あなたを信用していいのかどうか、です。自分のケツに火が点いているのはわかっていますよね?」
「あー、やっぱりそう来るよな……当然、理解してるさ」

115Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:07:13 ID:pwqg9dZk

持っている情報の異常なまでの多さと新鮮さ――情報収集能力に長けているということ。

これまで一切戦闘などしたことのないかのような小奇麗な身なり――後方支援に徹してきただろう証。

そしてたった今見せた、離れた相手への情報伝達が可能なスタンド能力。

全ての情報が以前ジョナサンから聞いた『DIOの部下』へとつながっていく。
会場のほとんどの参加者の位置を知ることができる者とはこの男だと、ジョルノは確信していた……!

「それは、認めるということでいいですね」
「……ああ、オレは嘘もつくし隠し事もするが、いくらなんでもあんたや承太郎を騙しきる自信はねえ」

『裏切り者』……DIOが死亡した以上その表現は過剰かもしれないが、鞍替えしたのは事実。
いざというときに裏切られ、スマンありゃ嘘だったでは済まされない――
ジョルノの言葉にムーロロは大きく息を吐くと、やはりすらすらと話し始めた。

「確かにオレはDIOの野郎に脅される形で手を貸して、あんたらの情報を喋っちまったさ。
 オレのスタンドはお世辞にも戦闘向きとは言えねえ。
 コウモリ野郎と思うかもしれないが、そうしなきゃオレが殺されてたからな……
 許してくれなんてありきたりな言葉じゃあ納得できねえだろうが――――」
「……おい」

――走りつつも聞き耳を立てていたのか、ムーロロが言い終える前にジョセフの声が降ってくる。
先程までの調子の良いそれとはまるで異なる、底冷えするような声。
外にいなければおそらく相手の胸倉をつかむくらいはしていただろう気迫だった。

「てめえ……それじゃあ……てめえのせいで仗助たちは……!」
「ジョセフ、制裁は後回しです……口だけなら何とでも言えますよね」
「…………」

バッサリと切り捨てるジョルノに悪態すらもつかずに外の声は止む。
だがジョセフの怒りをそのまま示すかのように彼の移動スピードは上がっていた。
そのやり取りを見届けると、ムーロロは再び口を開き言葉を続ける。

「DIOが死んだ今、オレがあんたらと敵対する理由はねえ。
 持ってる情報は包み隠さずやるし、気が済まないってんなら何発かブン殴ってもらってもかまわねえ……
 罪滅ぼしなんて大層なもんじゃあねえが、オレはあんたらと『協力』したい……
 オレは、生きてここから出たいんだよ……」
「……フゥーッ」

……無念そうではなく、また自嘲するようでもない喋り方。
先のジョセフとは対照的に、声から感情が全くと言っていいほど読み取れない。
ムーロロの声は、よほど心理に長けた者でなければ真実か否か判別できそうもないほど無機質だった。
聞き終えたジョルノは静かに息を吐き……


                            「今の話は、本当ですか?」



――――そう質問した。

116Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:08:13 ID:pwqg9dZk

それは一見何の変哲もない質問であった。
だが言ってしまえば、この質問こそがある意味この話し合いの全てを決定づけたといってよい。

まずはジョルノ、彼にとってこの質問は彼らしからぬことに、無駄を多分に含んでいた。
答えが返ってくればいいな、とその程度の気持ちでした質問。
気の緩みとかではない、傍から見れば本当に些細で、同時に重大な質問をしてしまったのだ。

一方のムーロロは、まさにこの質問でジョルノを『見限った』。
彼としては、今すぐ潔白の証明として何かけじめをつけさせられるとでも考えていたところにこれである。

(こりゃダメだな、甘さに付け込んで利用してやるつもりではあったが……いくらなんでも度を越してる)

この質問、答えなど最初から決まりきっている。
例えるなら相手に「前のボスを殺して組織を乗っ取ったんじゃあないのか」と聞いたとして。
真実がどうであれ、「ええそうです」なんて答えるやつがどこにいるというのか。

(質問自体が『罠』の可能性は……ねえな)

一時的に彼の上司だった男、ブローノ・ブチャラティは相手の汗を見て嘘を見抜けたそうだが……
もしジョルノがそれに類する何かを持っているのなら、自分の本心などとうに見抜かれているはず。
ならばこの質問に裏はない……つまりは、この状況でそんな程度の駆け引きしかできない男だということ。

ジョルノが組織のボスかどうかなどもはや興味すらなかった。
確かに感じるものはなくはない、だがそのカリスマはDIOに遠く及ばない……
この殺し合いにおいて自分を導きたるボスの器ではなかったと、顔には全く出さずとも失望していた……!

とはいえ質問に質問で返したり、あるいは答えないわけにはいかないと思考を戻す。
返された答えは、どこまでもシンプルな一言だけだった。







                                 「嘘だ」

117Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:09:16 ID:pwqg9dZk


――次の瞬間、ムーロロは吹っ飛んでいた。
体ごと部屋の壁に叩きつけられ、そのままずるずると床に崩れ落ちる……!

(――――!!? ッ……ぁ……な……く……やら………れ…………)

自分が攻撃を受けたことに今更ながら気が付く。
殴られたのは腹……! 防御するどころかそんな思考をする暇さえなかった。
まるで内臓ごとブチ抜かれたような……あるいは本当にブチ抜かれたのかもしれないすさまじい痛みに動けない。
だがそれすら気にならないほど、頭の中はある疑問でいっぱいだった。
その疑問とは…………



                      (――――今……『答えた』のは誰だ……!!?)


自分ではない。
ジョセフでもない。
ましてやジョルノであるはずもない。

それなのにどこからか声が聞こえてきたという、不可解極まりない現象。
誰がどうやって、そして何故あんなことを言ったというのか……?
状況を知るべくどうにか顔を上げたムーロロの目に、疑問の答えはすぐ飛び込んできた。

(なん……だと?)

それでも信じがたい……直接現場を見たわけではないが、彼は既に死んでいるはず。
その死体でさえ、今ここにあるわけがない。
だが事実、その人物はそこにいた――――



                        (――――こいつの名は……そうだ……)











                     (――――ジャン・ピエール・ポルナレフ……ッ!!)






                     ――――片目に眼帯を付けた、銀髪の男が……!

118Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:09:58 ID:pwqg9dZk




――ボスが姿を現してからしばらく後、その正体云々とは別の噂が流れたことがある。
組織には『秘密のナンバー2』がいるのではないかという噂が。

いわく、ボスは若すぎる、交渉などの際表に出る代理人あるいは相談役となりうる年長者がいるはずだとか。
実質的な副長であるはずの拳銃使いがふと「ナンバー2はオレじゃない」と言ったとか言わなかったとか。
そんな小さなことから出てきた、出所さえもはっきりしない噂。
結局噂のナンバー2が姿を見せることは一切なかったため、すぐに立ち消えていった……その程度の話。

ボスを調査する際、ムーロロもその件について調べてはみた。
だがジョルノの外出時、いくら尾行させてもそれらしき人物とコンタクトをとっている様子はない。
直接会わずに指示しているとも考えたが、使用した電話にもメールにも記録がまったくない。
最終的には周囲と同じく、そんなナンバー2は存在しないという結論に達していたのだが……

(ありえねえ……こいつは第一放送前に死亡して、しかも承太郎に埋葬されたはず……
 死んだ後に発動する能力……? だとしても、いったいいつ……この亀の中に……?)

亀の入口は一か所のみ、しかも入るときはトランプのサイズだろうと必ず内外両方から丸見えになる。
つまりさすがのウォッチタワーといえど亀の中までジョルノの追跡は無謀と判断。
ジョルノが留守の際に侵入を試みたことはあったが、中には誰もいない……そうとしか確認できなかった。
招かれざる客には決して姿を見せない者がいるなどとは夢にも思わずに。

結果、実在した噂のナンバー2――ポルナレフの存在にはたどり着けなかったのだ……!

(……ち…き……しょう……)

手足に力が全く入らず、反撃どころか逃げることすら叶いそうもない。
それを理解したうえでとどめをさすつもりもないのか、既にジョルノたちはムーロロに見向きもしなかった。
……映画のワンシーンか何かだったか。
壁際にてライトで照らされ、追い詰められたスパイが撃たれて斃れる場面が自分の状態に重ねられる。
ただひとつ、異なるのは――



                ――――自分には、何のスポットも当てられていないことだった。




#



「よかったです……あなたがここにいてくれて」

多少ながら緊張が解けた顔でジョルノが言う。
わかってみれば単純……彼が先ほどした質問はムーロロではなくポルナレフに向けたものだったのだ。
時間のずれなどでポルナレフが亀の中にいなかった場合、無駄どころか信頼を失いかねない危険な『賭け』……
だが、ジョルノは見事それに勝利した……!

119Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:11:00 ID:pwqg9dZk

「確証まではなかったのか? だとすると少々、危うい質問だったな……
 もしわたしの答えがなかったら、どうするつもりだった?」
「その時は見限られていたでしょうから、実力でねじ伏せる……やることは同じです。
 同盟を組みたかったのは事実ですが、彼を本気で信用するつもりなんてありませんでしたから」

いつも通りしれっとした顔で物騒なことを言うジョルノだが、ポルナレフが嫌悪感を示すことはない……
長い付き合いとまではいかないがジョルノのことはよく知っていたし、彼はずっと『見ていた』のだから。

「それが正解だ……ヤツは裏で密かに厄介な連中と組んでいるしな。
 まずはDIOによく似た、恐竜を操るディエゴ・ブランドー……
 それに蓮見琢馬……こいつはミスタともう一人、ミキタカという者の殺害に関わっている」
「……!!」

早速出てきた新たなる情報……ジョルノ自身はどちらも関わったのはチラッと程度。
だが同時に因縁深い敵の存在に彼の眉がピクリと動く。
とはいえ口振りから察するに今すぐその二人と何かあるわけではないと判断し、話の続きに耳を傾ける。

「幸い、この部屋をよく使っていたおかげでヤツの持っていた情報はすべてここにある。
 カードを会場中に散らばらせることによる情報収集能力は大したものだが……
 ただ一点、すぐ傍にいたわたしの存在に気づけなかったのが致命的となったな……」
「灯台もと暗し、というやつですか――――んっ?」

唐突に亀が微妙に揺れる。
二人が見上げると、いい加減様子がおかしいことに気づいたジョセフがのぞき込んでいた。

「ジョセフ、どうかしましたか?」
「いや、ちょっと寒気が……じゃなくてそっちだよ、なんか知らねーおっさん増えてるし、何が起こってんだ?」
「おっさん、か……フッ、心配ない。わたしは味方だよ……『ジョースターさん』」
「???」

怪訝な表情のジョセフを見ながら、微かに笑ってポルナレフはジョルノへと向き直る。

「しかし、本当に待ちわびたぞ……
 この亀は開始からずっとヤツが持っていたし、信用できそうな者はひとりとして中に来なかったからな……
 DIOと出会ってしまったときには正直、既に肉体がないというのに背筋が凍るような感覚すら覚えたよ……
 まあ、そのあたりの話は後にして――――ム!?」

言葉途中で表情が変わったポルナレフにつられ、ジョルノも彼の視線の先へと振り向く。
そこにいたムーロロが――――


                「ジョルノ! ヤツが……いないッ!! どこに行ったッ!?」
                             「……なっ!?」


                      ――――忽然と姿を消していた。



「……ジョセフ! 鍵を外してください!」
「え……鍵? こ、これかッ!?」

中から飛ばされた指示にほぼ反射的に亀の背中についている鍵を外すジョセフ。
すると目の前に、ジョルノが引きずり出されてきた……ジョルノひとりだけが。
周囲を素早く見渡し、次いでジョセフに目を向けるジョルノ。
その目は、先読みに長けた彼でなくてもすぐわかるほど質問の内容を雄弁に語っていた。

「……い、いや、さっきから他には誰も出てきてねーぞ……?」
「……!!」

近くにムーロロの姿はない――つまり亀の中に隠れていたわけではないし、外のジョセフも見ていない。
何をどうやったのか、手段はわからないが彼らは完全にムーロロを見失った……!
ここに来て初めてジョルノの額に汗が浮かぶ。

「まずいぞ……! 今ヤツに逃げられたのなら、ヤツの仲間も全員敵にまわるのは時間の問題……
 そうなったら、一時的な同盟どころの話じゃあないッ!」


なぜならそれは、この一件におけるジョルノの唯一の誤算だったのだから……!

120Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:11:34 ID:pwqg9dZk



【C-3とC-4の境目 橋上 / 1日目 真夜中】



【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:『隠者の紫(ハーミット・パープル)』AND『波紋』
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:全身ダメージ(小)、疲労(中)
[装備]:ブリキのヨーヨー
[道具]:首輪、基本支給品×3(うち1つは水ボトルなし)、ショットグラス、念写した地図の写し、ココ・ジャンボ
[思考・状況]
基本行動方針:チームで行動
1.どこかに消えたムーロロを探す?
2.それともこのまま空条邸に向かって仲間と合流する?
3.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる
4.第四放送時に会場中央へ行き、カーズを倒す
5.リサリサの風呂覗いたから念写のスタンド、ってありえねーからな、絶対

※『隠者の紫』の能力を意識して発動できるようになりました。



【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(小)、精神疲労(中)、両腕欠損(治療済み、馴染みつつある)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、地下地図、トランシーバー二つ、ミスタのブーツの切れ端とメモ、念写した地図の写し
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える
1.どこかに消えたムーロロを探す?
2.それともこのまま空条邸に向かって仲間と合流する?
3.ポルナレフと情報交換したいが……時間がない
4.第四放送時に会場中央へ行き、カーズを倒す

※先に念写された『アイテムの地図』は消されてしまいましたのでメモ等はないですが、ジョルノのこと、もしかしたら記憶している・か・も



【備考】
・亀の中にムーロロの所持品(基本支給品、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、角砂糖、
 不明支給品(1〜8、遺体はありません))が放置されています。

【ポルナレフについて】
 参加者とは別のポルナレフ。
 ココ・ジャンボが五部終了後の時点で支給品にされたため、最初からずっと亀の中に幽霊として潜んでいました。
 ムーロロの行動を始め、亀の中の出来事及び亀から見えたものは全て彼も見ています。
 ひょっとしたら主催者に連れてこられて支給品にされるまでの出来事も見ているかもしれません。

121Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:12:31 ID:pwqg9dZk


#


(ここは……オレは……いったい)

同時刻、ムーロロはどこかの街中にいた。
先程壁に叩きつけられた時と同じ体勢のまま、無数に並ぶ電柱のひとつ……しかもそのてっぺんに腰掛けて。

何故?という疑問が真っ先に出てくることだろう。
今のムーロロは動くことすら困難な状態。
そんな彼がどうしてこんなところにいる――もとい、移動できたというのか……しかも一瞬で。
本人すらも理解していないその理由は、彼の背中にあった。

遺体の脊椎部分、それが奇跡を起こして彼を瞬間移動させた……純然たる事実だけ言えばそうなる。

とはいえ、それでもなお疑問は尽きない。
確かに敵から逃れられたという意味ではムーロロにとって有益と言えるだろう。
だがジョルノは攻撃を行ったものの、敵と認識していたにもかかわらずムーロロにとどめを刺さなかった。
つまりあのまま殺されはしない――どころか、彼を『利用』するために治療していた可能性まである。
こんな人気すらない場所にわざわざ移動させられ、果たして助かったといえるのだろうかという話だが……

(どうする……まずオレの腹はどうなってる……?
 助けを呼ぶか……そうだとして、誰に……治せそうな奴は…………
 くそっ、駄目だ……声が……出せねえ……)

当のムーロロにとっては現状把握とその打破で精一杯……理由まで考えている余裕はなかった。
あるいは、どうにか逃げられた……その程度くらいは頭のどこかにはあったかもしれないが。
だが、彼は大きな勘違いをしていた。


     『君の無敵さは実のところ、無駄だ。どんなに強くとも、君は禁止エリアに入っているんだから。無駄無駄……』


苦難は終わらない……それどころか、さらなる試練がすぐさま襲い掛かることを……!

(……ッ! ウソだろ!? おい!)

誰もいないとすっかり油断しきっていた所に浴びせられる静かで、それでいて威厳を感じさせる声。
だが今の彼にとっては単に耳障りで、しかも聞きたくない事実を告げる声にしか感じなかった。

今のムーロロはまともに歩けないほどの重体。
しかも自分が会場のどこにいるのか、どちらにどれだけ移動すれば禁止エリアから逃れられるかもわからない。
おまけに大半の道具はデイパックと共に亀の中に置き去りという三重苦。

何かの拍子にもう一度場所が移らないものか、などとは考えもしなかった。
遺体が起こす奇跡のことをムーロロは知らないし、知っていたとしても不確かなものをあてにはできない。
ムーロロが助かるには運と……彼自身の生への執着力に賭けるほかなかった。

(……冗談じゃあ……ねえ!)

122Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:13:24 ID:pwqg9dZk

失って困るものは命すら含めて持っていないはずの彼だったが、この時ばかりは『目的』があった。
それが、この土壇場における行動につながったのかもしれない。

(どうにか……しねえと……)

電線――通電の有無に関わらず、移動経路とするには無謀が過ぎる。
そうなると電柱からなんとしても降りなければならず、事実ムーロロはそうしようとしたのだが――

(う……グッ……!)

腹に受けたダメージのせいでうまく手足にも力が入らず、彼の場合はスタンドで踏ん張ることもできない。
結果、碌に動かぬうちにバランスを崩し、あわや爆死を待たずして転落死かと思われたが……

(いや……これでいい……これしかねえ……)

ムーロロはあえて上半身から、スカイダイビングのごとく大の字の体勢で空中に身を投げ出した。
見ようによってはまるで自殺するかのように、胸から地面に飛び込む形で。
そして……激突の瞬間。


                         ボ  ヨ  ヨ  オ 〜 ン


間の抜けたようにも聞こえる音と共に、ムーロロの体が弾き飛ばされる。
垂直ではなく、低めの角度で……なるべく遠くへ離れるように。
当然、着地地点にはまたしても地面への激突が待っていたが……一切逆らおうとせず、思いっきり転がったッ!
少しでも距離を稼ぐための、いわば悪あがき。
幸い建物などにぶつかることはなく、勢いも体力もなくなり本当に動けなくなったところで地面に寝転がる。

(…………どうだ……?)

これで駄目ならもはや打つ手なし、覚悟を決めて耳を澄ます。
はたして首輪は――











                        ――何の音も発していなかった。

(……………………)

そのまま寝転ぶ彼の懐から転がり落ちたのは、ボヨヨオンの文字が書かれた岩のかけら。
ジョルノたちと戦闘になった場合を考え、保険として心臓を守るため胸に忍ばせておいた支給品。
惜しむらくは相手が狙ったのが仕込んだ胸でなく腹だったことだが。
役目を果たした文字はそのまま消え去ってしまったが、ムーロロは見てもいなかった。

123Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:14:32 ID:pwqg9dZk

(……………………)

ひとまず禁止エリアからは脱出した……とはいえ、助かったとはまだまだ言い難い。
それでも一息だけはつける状況だったが……そうはしなかった。
彼の精神は、そんなことすら忘れるほどに乱れていたのだから。

(…………クソッ!!)

ジョルノは何故自分を殺さなかったのか……答えは簡単、利用価値があったからだ。
おそらく交渉の早い段階から自分を動けず喋れずの状態にして『戦力』だけ乗っ取るつもりだったのだろう。
そう考えればあのタイミングでの協力否定も納得がいく。

(どいつも……こいつも……)

そして自分を現在の状況に追い込んだ、もう一人の『犯人』。
こんなところに自分を連れてきたのは何故なのか。
何か用があった――だとしても何故、姿を見せない?
禁止エリアで始末するため――ただでさえ瀕死で、今まさに無防備な自分を放置して?
いくら考えようとも答えの出ない不可解な現象に苛立ちばかりが募る。

(……ナメやがって……ッ!)

無性に腹が立っていた。
自分をまるで相手にしなかったジョルノたちにも。
無責任にワープさせ、自ら手を下さずしかも死すら見届けようとしない『誰か』にも。
誰からも相手にされない……今までの人生において当たり前だったはずのそれに、彼は酷く腹を立てていた。
数秒後、ムーロロはふっ、と息をつく――――



            (ああ、わかったよ……そんなにオレの相手をしたくないなら……



                            相手にしないまま殺されても、文句はねえよなあ…………?)



                                          ――それは、ひとりの暗殺者が誕生した瞬間だった。



もし、ムーロロがDIOに味方したりしていなければ。
もし、ムーロロがジョルノに『敵』とみなされていなければ。
そうすればジョルノとの対面により、彼は真に『恥』を知っていたかもしれないのに。
たったひとつ、出会う順番が違っただけでムーロロの運命は変わってしまった。


彼の人生は、目先の怒りや苛立ちを晴らすことだけがすべて……『恥知らず』のままなのだから――――

124Tangled Up ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:15:48 ID:pwqg9dZk


【B-1とB-2の境目付近 / 1日目 真夜中】


【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:腹部ダメージ(大)
[装備]:トランプセット、フロリダ州警察の拳銃(ベレッタ92D 弾数:15/15)、予備弾薬15発×2セット
[道具]:遺体の脊椎
[思考・状況]
基本行動方針:目先の怒りや苛立ちを晴らす
1.他のことなんて知ったこっちゃない、ジョルノたちに「復讐」する

※腹部のダメージは肋骨が折れて腹筋を傷付けている程度で、それに伴い声が出せません。
 長く放置しすぎると死ぬかも。
※現在、手元に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
 会場内の探索はハートとダイヤのみで行っています。 それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。


【備考】
・23時に設定された禁止エリアはB-1でした。
・ムーロロが誰かに「第四放送までに(会場中央に)来い」と連絡しました。
 具体的な相手や人数は不明です。


【支給品】
ボヨヨン岬の岩のかけら(第四部)
元はペットショップの支給品。

広瀬康一のスタンド「エコーズ」のしっぽ文字ボヨヨオンが張り付けられた岩のかけら。
原作では尖った大岩に張り付けられていたが、ロワ仕様で手のひらサイズ程度の大きさ。
何かが激突するとすごい勢いで弾き飛ばすが、弾かれたもの自体は無傷。
ロワでは弾くのは一回きりで、使ったらただの岩に戻る。

125 ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/20(日) 23:20:01 ID:pwqg9dZk
以上で投下終了です。
仮投下から大筋に変更はありませんが
亀に入る前のジョセフとジョルノの会話に追加、他数か所追加・修正しています。
結果としてちょっと冗長になったかも……
ご意見、矛盾などありましたら遠慮なくお願いいたします。

ジョジョロワの宣伝ってどこでやればいいんでしょうかね……
ツイッター上で投下されたと呟いてくれる方々には本当に感謝です。

126名無しさんは砕けない:2019/01/21(月) 15:30:07 ID:qgpHXtmw
投下乙です!

感想ですが、まずは、まさかのカメナレフw
ありそうでなかった発想に驚かされましたし、原作(と恥知らず)の時点で「そういうもの」として存在している以上これはアリだと思います!
謎のボスの正体を探る者たち、という導入も、こちらは原作に描写がなくても自然に感じ取れる内容でしたし、
そこにDIOがホンノリ絡むあたりも血縁の妙という感じで、読んでいて緊張感が伝わってきました。
今までワルい連中とばかり付き合っていたムーロロがいよいよ正義の心を持つものとの関わり合い。
脊椎でのワープを行ったのは誰なのか?ジョルノたちはムーロロを放置してカーズの元に向かうのか?
早くも次の話の期待をしたくなる一話でした。

追加された部分については、読んでいて不自然にも感じませんでしたし、冗長とも思えませんでした。

改めて乙でした!

127名無しさんは砕けない:2019/01/27(日) 03:09:03 ID:bn8EIRCc
うわあああ
投下が来てるゥ〜〜〜〜ッ(JOJOが生きてる的な勢いで)

いやほんと久しぶりにジョジョロワssが読めて感無量です
しかも面白い!文句なしです
ジョルノの組織掌握期への考察、知略派ジョジョの的確な立ち回り、
対カーズ体制への協力交渉、心理的なマウントの取り合い、ポルナレフの登場、
そしてムーロロがゲスの心に落ちる展開、どれも「ジョジョらしく」、そして「ロワイアルらしく」まとまっていたと思います

◆LvAk1Ki9I.ッ!
あなたの素晴らしい作品投下、ぼくは敬意を表するッ!

128 ◆LvAk1Ki9I.:2019/01/27(日) 20:12:40 ID:MIf7VzdY
>>126 >>127
感想ありがとうございます。
久々の投下でしたがこうして面白いと言っていただけると書いた甲斐があるというものです。

導入部分はアニメでここまではやらないだろうと思い切って入れて見ました。
裏(ジョジョ的には表)事情を知っていればニヤリとできるようにしたつもりので楽しんでいただけたのなら幸いです。

ポルナレフについては以前ロワ内にジョージⅡ世が二人いるとかいうレスを見ていつかやりたかったネタだったりします。
今後どう絡んでいくかは私も楽しみです。

修正が必要そうな箇所を見つけたので収録はちょっと遅れるかもしれません。
だいたい一週間を目安に意見など待ちつつのんびり行く予定です。
引き続き意見、感想などお待ちしております。

それでは。

129化身 その1 ◆yxYaCUyrzc:2019/05/21(火) 22:15:54 ID:WOEZGFfY
ある漫画家がこういうセリフを言っている。
いわく、『キャラクターにはシンボル化が重要だ』と。
なるほどなるほど。確かにその通りだ。
黒い丸を三つ並べれば何故だかネズミに見えてくるように。
あるいはギャンブルをするときの心境といえば“ざわ・・・”であるように。

――という前置きをして、次の説明をされたら、それは『何』だと思う?

まずは顔。上下の唇は鋭く長く伸び。
後頭部には舟の舵を思わせる大きなトサカ。
わき腹から手首まで、身体の側面に伸びた一対の薄い膜は翼を思わせる。

さあ、一体これは『何』だ?

多少の知識がある人ならそれを『プテラノドン』と呼ぶだろう。
仮にそんな専門的な固有名詞を知らなくとも、多くの人が『怪獣』とか、あるいは。
『恐竜』と――そう言うだろう。

では、地面に潜る彼がなんでまたこの姿になってしまったのか。
“根拠”を問われたのなら……まあ、飛ぶように泳ぐ姿から、といったところだろう。
“原因”を問われたのなら……それは彼がこれから会う男にある。

130化身 その2 ◆yxYaCUyrzc:2019/05/21(火) 22:17:54 ID:WOEZGFfY
「よう」


それは返事を求めて発したモノじゃあない。発言した男自身が――ご存知、ディエゴ・ブランドーが――よくわかっている。
相手がまともに言葉を発するとも思っていない。

ただ、ほんのチョッピリの反応があれば充分だった。

――皆は知ってるだろうけど、一応補足をしておこう。
これはディエゴ・ブランドーがスタンド使いだから云々といった理屈ではなく、持って生まれた才能だ。
農場にいる暴れ馬たちを手懐けていた彼にとっては、たかだか頭の弱い恐竜一匹の言わんとしていることくらい容易に分かる。
動揺と警戒をしつつ、若干の威嚇を含んだその姿勢を見て、また方角と時間から察するに――作動した未知の禁止エリアに迷い込んだといったところだろう、と。

――ちなみにもう一つ補足するなら。
さっきのスキルとは違い、こちらはディエゴ・ブランドーが身に付けたスタンド能力で成しえたことだ。
夜のジョギングというにはいささか速すぎるペースで“同族”の匂いをたどっていけば、他者に遭遇することなく相手を追跡することも容易も容易だろう。

もっとも、こんなことをドヤ顔で解説してやるような相手も近くにはいないのだが。
いや、いた――あ、いや、解説するかどうかという意味でなく、“相手が”という意味で。
その正体はどこからともなくひょっこりと現れた一枚のカード。


「あー、話はまとまった。今現場に向かってる……オメーも第四放送までに来い」


簡潔極まりないそのセリフに対してフム、と小さく漏らすディエゴ。
今、このタイミングでの報告は互いにとってどう影響するものなのか。言葉の内容とその裏に潜む意図はどうなのか。
わざわざムーロロが(ジョニィとルーシーはともかく)自分を放ってセッコだけを尾行をしていたとは思えないし、かといってこの“合流”を無視するようなマヌケを晒すこともまたないだろう。
言うことだけ言っていつの間にか視界から遠ざかっていくトランプを追うべきか追わざるべきか。あのトランプは最初から自分の速度についてきていたのか?それとも他で何かを見てから此処へ来たのか?
などなど――考えるべき問題は決して少なくない。

だが、ここで急にディエゴは思考を遮られることになる。
つい先ほど自分の呼びかけに反応し、それ以来ずっと俯いていたセッコノドン……変なネーミングだな、やっぱり素直にセッコ恐竜と呼ぶか。
とにかく――そいつが今このタイミングで、低い声で唸りながらぶつぶつと呟き始めたのだ。

「……タイ……アマ……
 クイ……タ……ツク……イ……」

131化身 その3 ◆yxYaCUyrzc:2019/05/21(火) 22:20:34 ID:WOEZGFfY
何言ってんだコイツは、と目線を向ける。
恐竜化してなお喋ることは決して珍しい現象ではないが、その言葉は本当に文字通りの意味で『何言ってんだ』だったから。


ここで、先ほどの漫画家からもう一つ言葉を借りよう。
いわく、『キャラクターの行動には何かしらの動機が必要である』と。
たとえ“なんとなく”であろうが、キャラクターが動くということは、そこに何かしらの動機がなければならないそうだ。

――という前置きをして、今のセッコの動機は、一体『何』だと思う?

だらしなく開かれた口からは止まることなくヨダレが溢れ。
指先は柔らかな肉を揉みほぐすような手つきで握り、開きを繰り返し。
ギョロギョロと動かしていた視線がディエゴのそれと一瞬だけ交錯し、瞳孔が一際大きくなった。

さあ。彼の『動機』は一体どこにある?

“根底”を考えるのなら……まぁ、彼自身が生み出した好奇心、といったところだろう。
“原因”を考えるのなら……それは彼がかつて出会った男にある。


「ディ……っディDIOオオォォオッッ」


それは返事を求めて発されたモノじゃあない。
――セッコの言う“ディオ”は自分の事ではないのだろう。
話にこそチラリと聞いていたがディエゴ自身は直接セッコと関わった時間など僅かも僅かだったのだから。
そういう意味では、ルーシーのところから呼び寄せておいた名も知らない恐竜のほうがよっぽど付き合いが長い。

さておき。いくら突然のことと言えど、猛獣使いのスキルがあろうと、いくら素早く反応が出来ようと。
この顛末を予め想定出来無かったのは迂闊だった――いや、言い直そう。ディエゴ・ブランドーほどの男が想定していなかったわけでは、決してない。
純粋に、ただただ純粋に。ディエゴの想像以上だったのだ。

『DIOの残したモノ』の大きさが。異常さが。

132化身 その4 ◆yxYaCUyrzc:2019/05/21(火) 22:21:47 ID:WOEZGFfY
「――おいッ!」
予備動作もなく着水……おっと、着地かな?羽根を器用に使って泳ぎ出すセッコを逡巡ののちに追うディエゴ。
護衛を先に動かすあたり、まだディエゴにも戦略的余裕が見受けられるが、それでも動揺は彼の腹の中にだって少なからずある。

直感だがアレを放置したらヤバい。
恐竜化したキッカケこそ自分ではあるが、その火の粉が降りかかってくる可能性が僅かにでも存在するのなら。
自分が悪だと思ってもいない、最もドス黒い悪。そんなヤツの!ブレーキが!壊れてしまったのならッ!


『飼い主』のなくなったセッコの能力は
――もはやとどまる所を知らない!


暴 走 “スタンビート” す る ッ !


「クソッ……一体『DIO』は何をしたのか!何なのだあの“置き土産”は!
 あんな“邪悪の化身”をほっぽり出したまま死にやがって!
 ムーロロの野郎もッ!何が『DIOの事は完全に忘れた』だッ!
 ――あれじゃあ俺が“思い出させてやった”みたいじゃあないか!
 『クズどもを上から支配する』なんて存在はこのDio一人で十分だッ!クソッタレどもめッ!」

そんな悪態をついてやる相手は今度こそおらず――三頭の恐竜が街中に消えていく。


……今のディエゴには考えてる余裕なんかなくなってしまったが。
『ハッキリ言うぞ――――おまえの考えてるようにはいかない』
そうムーロロに言い放った自分自身にも、まさかこんな展開が待っていたとは。
まったく、なんという皮肉だろうかね。自分の生み出した恐竜が原因という意味ではある意味ムーロロ以上かもしれないな。

そして。その余裕のなさが一つ、決定的なことを見落とした。
『話はまとまった』ってのは、実際には全く『まとまって』いないことを。
ディエゴ自身だけでなく、ムーロロもまた抜き差しならない状況に陥り、そして“ブチ切れた”ことを。

――え、一つじゃないじゃあないかって?まあ、そういうなよ――

133化身 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2019/05/21(火) 22:23:13 ID:WOEZGFfY
【E-3 川沿い / 一日目 真夜中】

【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』+?
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康、なかなかハイ、動揺(小)
[装備]:遺体の左目、地下地図、恐竜化した『オール・アロング・ウォッチタワー』一枚
[道具]:基本支給品×4(一食消費)鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球
    ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2、カイロ警察の拳銃(6/6) 、シュトロハイムの足を断ち切った斧
    ランダム支給品11〜27、全て確認済み
   (ディエゴ、ンドゥ―ル、ウェカピポ、ジョナサン、アダムス、ジョセフ、エリナ、承太郎、花京院、
    犬好きの子供、仗助、徐倫、F・F、アナスイ、ブラックモア、織笠花恵)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰り、得られるものは病気以外ならなんでも得る
1.暴走したセッコに何かしらの対処をせねばヤバイッ!
2.ムーロロを利用して遺体を全て手に入れる
3.ルーシーたちを追う?カーズ討伐同盟のもとに向かう?支給品確認するタイミングはあるのか……?
[備考]
※DIOから部下についての情報を聞きました。ブラフォード、大統領の事は話していません。
※装備とは別に『オール・アロング・ウォッチタワー』のカード(枚数不明)が監視についています。
※ディエゴが本来ルーシーの監視に付けていた恐竜一匹が現在ディエゴの手元にいます。

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、恐竜化(進行:ディエゴに近づいたためほぼ100%)
[装備]:カメラ(大破して使えない)
[道具]:基本支給品(元はジョニィの所持品)、死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]
基本行動方針:??
0.暴走状態。喰いたい、作りたい、角砂糖ほしい
1.ルーシーのところへ戻り、甘いのいっぱいもらう……?
2.禁止エリアに引っかからない誰かに変な自分の体、いったいどうなってんだ?
3.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。新しい死体が欲しい
4.吉良吉影をブッ殺す

※ディエゴと接触したためほぼ完全に恐竜化しました。見た目はプテラノドンのようです(空を飛べるかは不明)
 →このため思考力がほとんど低下し、本能のままに自分の欲望を叶えるモノになりました。
※『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。
※千帆の事は角砂糖をくれた良いヤツという認識です。ですがセッコなのですぐ忘れるかもしれません。
 DIOのことは完全に忘れ去りました。
 →DIOに与えられた影響は精神の根底に残っています。
  見た目が似たディエゴを見て(プラス恐竜化の思考力低下で)フラッシュバックした……?
※ルーシーから不明な禁止エリアを調べてくるよう頼まれていました。
 それに伴いジョニィの基本支給品一式を譲り受けました。
 ルーシーたちとどこで待ち合わせしているかなどは次回以降の書き手さんにお任せします。
 →セッコ自身が覚えているかどうかは不明です。
 →恐竜化した感覚で匂いをたどって彼らの元へ向かえる、かも?

134化身 ◆yxYaCUyrzc:2019/05/21(火) 22:25:29 ID:WOEZGFfY
以上で投下終了です。

……SS書くのってこんなに難しかったっけ?w
相変わらずの短い繋ぎ話ではありますが、どんどんキャラ動かしてフラグ立てていければなあと思っております。
5部アニメも盛り上がってますし読み手も書き手も増えてくれると良いですね。

誤字脱字や矛盾点などありましたらご連絡ください。それでは。

135名無しさんは砕けない:2019/05/22(水) 00:13:26 ID:NMug7uSM
投下乙ゥ!
こういうつなぎ話を着実に書いていける書き手様は尊敬しております
ディエゴの悪のくせして地味に孤立無援&苦労人っぷりに吹いた
セッコをどうやって抑えるのか、そもそも抑えられるのか
場合によってはこのまま他の誰かとの遭遇もありとか
そしてムーロロの言った待ち合わせ場所に行けたとしてもお先真っ暗感にはさすがに同情を禁じ得ないw
本当に先が気になって面白かったです

矛盾点は特にみられませんでした
誰かに見つかるなとかのセッコへの細かい命令についても、思考力が低下しているなら無理はないと思います
…もともとセッコだし

136名無しさんは砕けない:2019/05/22(水) 01:25:58 ID:pozshcCc
投下乙です!いつもありがとうございます!
セッコ恐竜がプテラノドンでスタンドオアシス・・・もはやモンスターですな!理性的な意味でも
展開・文面的にも問題はないと思います

137 ◆yxYaCUyrzc:2019/05/23(木) 21:00:38 ID:2uWpwF5Q
早々のレスありがとうございます。
ジョジョの敵はたまに小物っぽいところあるから動かしやすくて気に入っておりますw

セッコなのですが、状態表にも以前から書いてあった通り「DIOの事は完全に忘れた」ということになっていたので、
それを否定しちゃっていいものかと悩みもしましたが、何かしら大きなフラグを立てないと過疎が進行していきそうなので思い切って暴走させてしまいました。
個人的にはその辺が矛盾点として指摘されないだろうかと思っておりましたが、おおむね好評のようでありがたい限りです。

もうしばらく皆様のご意見をいただいたらwikiに持っていこうと思います。

138名無しさんは砕けない:2019/09/25(水) 08:39:25 ID:hJNurs16
一体いつになったら
完結するんでしょうかね〜

139名無しさんは砕けない:2019/10/14(月) 14:16:45 ID:PTXj7rRM
何かしら対策をうったほうがいいんじゃあないか〜?

140名無しさんは砕けない:2019/10/14(月) 21:43:23 ID:/FVNQosY
対策といってもねえ
自分で書き手になってみるとか

141名無しさんは砕けない:2019/10/27(日) 10:01:33 ID:PA.iwsLM
>>140
文才がないからなぁ〜

142名無しさんは砕けない:2019/10/28(月) 21:33:41 ID:mbzj.KBw
この際、というとアレだが文才なんか問わないよ
クオリティ云々よりも話をちょっとでも進めれば次につながる。リレー小説なんだからね

143始動 その1 ◆yxYaCUyrzc:2020/08/16(日) 19:07:10 ID:gEpKHij6
絶対的な強者として現れた敵が味方サイドについた途端に弱体化――

なんてことはフィクションの世界ではよく話題にあがる現象だ。
これは何もインフレがどうのとか、ご都合主義でどうのとか、そんなくだらないモノじゃあない。
いつか君らに話した“曲げないやつが強い”という俺の持論で言うなら当然起こりうるものだと思う。

そして……そういった意味ではカンノーロ・ムーロロはかなり『強い男』だといって良いだろう。少なくとも俺はそうだと思う。
だってそうだろう?

ハラワタが煮えくり返る思いをしながら。激痛の走る身体に鞭打ちやっとの思いで立ち上がりながら。
――それでも銃をぶっ放して会場を走り回るような馬鹿な真似は絶対にしない。
襲撃に備えて簡単にではあるが身を隠し、同時に自らのダメージを確認。スタンドの動きに意識を戻す。
そうやって自分がどういう状況にあるかを俯瞰した視点で見ることができる。まごうことなき暗殺者だったからだ。


ところで。


暗殺と聞いてどんなイメージを持つだろうか。
辞書を引き、本来の意味に目を向けてみるとこう書いてある。
『主に政治的、宗教的または実利的な理由により、計画を立てて要人を殺害すること』
……つまり、語源の意味を考えれば、なにも必殺シゴトニンのように暗闇に紛れて殺害をすることが暗殺というわけではないんだそうだ。
パレード中の車上で顔を出してるところを狙撃してもいいし、レストラン前の路上で腹から自動車を飛び出させてもいい。
相手の死が周囲に大きな影響を及ぼす殺人、それこそを暗殺と呼ぶ、ということである。

もちろん、ターゲットが要人であればあるほど周囲の警備も固くなる。要人が用心するってな……オホン。
ま、まぁそんなだから結局は闇夜に紛れて、とか、病死を装って、とかいう手段や結果になり、勘違いされたほうの意味で広まってしまったのだろうけど――

144始動 その2 ◆yxYaCUyrzc:2020/08/16(日) 19:09:45 ID:gEpKHij6
まあ、どっちでもいい。
重要なのは、カンノーロ・ムーロロが『どちらの意味でも強い暗殺者』だということだ。
先ほどの意味合いを考えると、暗殺という言葉に強い弱いという概念はないんだが……

索敵、追跡に優れたスタンドを携え。
自分の命を含めて物事を損得の二択で考えることができ。
それでいてアドリブにも対応できる頭と舌の回転の速さがあり。
やる時には『やる』という躊躇のなさを持つ。

これだけの要素を詰め込んだ暗殺者が『弱い』訳がないだろう。

え?何が言いたいかって?うーん……一言で言うなら。
評価してるんだよ、彼のとった行動について。


カンノーロ・ムーロロはこの状況に立たされてなお、他の参加者のそばに立つ選択をした。

団結、利害、主従と。それぞれ名目はともかく多くの人間が徒党を組んでいる現状。一対多というのはそれだけで不利である。
自分の身体の具合を鑑みても、単独で行動するのは最後の最後、その一瞬だけでいいと判断した。判断できるから流石だよ本当。
となれば問題は“誰のそばに立つか”だが。この取捨選択でさえも間違えることをしなかった。
現在会場を飛び回っているカードは約半分で、そのうえ先ほどのゴタゴタで情報の整理に多少のラグこそあれ、それでも現在生存者がおよそどの位置でなにをしているかはわかるからな。


――せっかくだ。皆もムーロロの立場で選んでいってみよう。ハイ名簿。


それでは順番に見ていこう。
さてまずは『暗殺』のターゲットから。
最終的に狙うのはジョルノ・ジョバァーナ――主催の大統領はとりあえず置いておこう。それはそれ。
……となれば同行してるジョセフ・ジョースターと合わせてギリギリまで対峙したくはない。ってことでバツ。
ではカーズはどうだ。カーズ側についていれば、ほぼ間違いなくジョースター一行と対峙し、全滅とは言わずともダメージを受けるのを相手側の視点から見られる。それを考慮すれば弱ったところを狙うのには最適だ。
だが『カーズ討伐同盟』を持ち掛けた自分がそちらについている、という画はさすがに誰が見てもまずい。ゆえにこれもバツ。百歩譲っても限りなくバツに近いサンカクだろう。

145始動 その3 ◆yxYaCUyrzc:2020/08/16(日) 19:13:15 ID:gEpKHij6
次に顔見知り連中。ムーロロの場合は一方的に知ってる相手がほとんどだろうけど。とにかく。
フーゴと同行していたシーザー・ツェペリは対カーズという意味で手元に置いておきたいが、ここでフーゴと自分に関りがあるというのがネック。
何を吹き込まれているかわからないうえ、間の悪いことに今まさにジョルノの同僚であるナランチャ一味と合流しようとしている。これも決め手になってバツ。
ということでシーザー、イギー、トリッシュにナランチャ、ついでに玉美がリストから外れる。
ちなみにフーゴ本人はといえば死にかけてるのでもはや監視すらしていない。これを今引き入れて何になると?ということでハズレ。

顔見知りといえばさっきまで一緒だったルーシー・スティールもそうだな。とはいえこちらはフーゴたち以上に悪評を振りまいている可能性が大。
同行しているジョニィ・ジョースターとの直接の面識は少ないが、それでもあの黒く燃える瞳は危険だとわかる。利用価値云々とはまた別の脅威がある。どちらかといえばアレは暗殺『する側』だろう。

もう少々、顔見知りとは言わないが関りのあった双葉千帆周辺。
琢馬は外の空気を吸いに行くとか言いながらどこかに消えた。アレにもう価値は見いだせない。
同様の理由で千帆もバツ。戦力的にも使いどころがない。プロシュートは組織の暗殺チームだが、それゆえこちらを早々に切り捨ててくる可能性も少なからずある。

先ほど連絡をしたディエゴはビジネスライクな付き合いだから……今の自分の状況、そして奴の腹の底を考えてみても、手ぶらで出会うにはリスキーが過ぎる。
連絡したタイミングで接触していたのはセッコだったが、コレもコレでなんだか危うい感じがしていた。
いかにこの猛獣たちをつかず離れずの位置でコントロールできるかという意味で監視は解けないが、早急に接触する必要はない。

エニグマの少年と吉良吉影はどうか。
ムーロロとの関わりが限りなく薄いから付け入るスキは多分にあるが、カーズのために動いているというのが少々引っかかる。
カーズ本人をNGにしている以上、そちらと接触する可能性もまた限りなく避けたいところだ。

さて、となれば残るはジョースターの血統とその仲間たちだ。
とは言っても残るはジョナサンか承太郎で……承太郎はDioに話していたように『出会った瞬間にオラオラ』の危険性が少なくない。
という訳で承太郎および取り巻きの康一、エルメェス、アナスイにシーラEは無条件でバツ。
付け加えるならシーラEに至っては尾行していたカードを破かれている。自分がどう動いているかをよく理解しているだろう。

146始動 その4 ◆yxYaCUyrzc:2020/08/16(日) 19:15:54 ID:gEpKHij6
結果として消去法でもあったのだが――ムーロロはジョナサン・ジョースターとの接触を当面の目的に据えた。
だがムーロロ自身、この選択は最良だと思っているし、俺もこの判断力は流石だと思う。だからやっぱり『強い暗殺者』なんだなと。
さて、ジョナサン・ジョースターといえば根本的に甘ちゃん連中が多いジョースター一族の中でも、随一の大甘ちゃんだといって差し支えないだろう。
しかも、同じ『敵だろうと怪我してたら治療する』でも、そこに利用価値の有無を勘定に入れるジョルノとは訳が違う。上手くすればノーリスクで傷の治療をしてもらえるだろう。

何より彼がスタンド使いではないというのが大きな要因だ。
スタンドを視認しているような言動があったのはバトルロワイアル運営側のハンデか何かだろう。だがたとえスタンドとの戦いを経験していたとしても波紋法のような“技術”とスタンドは根本的に異なる。
このロワイヤル終盤に来て自分のスタンドについてシラを切るつもりはもはやないが、そのリスクを冒してでもなおジョナサンのそばに立つことには利があると踏んだ。


荷物をまとめ――るほど持ってないんだよな。
腹に入れておいた石……元ボヨヨン岬の岩の欠片をポイ捨てしつつ、同時に懐の銃をサッと確認だけして重い身体を引きずり歩き出す。
カードの情報で自分の現在位置がダービーズカフェ付近である事、そしてジョナサンもそこからエリア二つ程度と比較的近い場所にとどまっていることはムーロロにとって幸運だった。
決して早くないが、明確な目的を持ったその足取りに迷いはない。


が。ここでひとつ、ムーロロは“知らなかった”。いや、恥知らずだとかそういう意味でなく……

彼が目指したジョナサン・ジョースターが今まさに『絶対的な強者として現れた敵とともに歩んでいる』ことを。
そして、その『強敵』が能力に制限こそあれど、間違っても目に見えるような弱体化なんてしないであろうことを。

流石にこれを責めるのは酷だろう。
なにより、この決断で彼らにどんな運命が訪れるのかは、俺たちだってまだ知らないんだから。

147始動 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2020/08/16(日) 19:16:47 ID:gEpKHij6
【B-2南部中央、ダービーズカフェ付近 / 1日目 真夜中】


【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:腹部ダメージ・大(患部確認、応急手当済)
[装備]:トランプセット、フロリダ州警察の拳銃(ベレッタ92D 弾数:15/15)、予備弾薬15発×2セット
[道具]:遺体の脊椎
[思考・状況]
基本行動方針:他のことなんて知ったこっちゃない、ジョルノたちに「復讐」する
1.復讐のために自分ができることを。まずはジョナサン・ジョースターと接触する

※腹部のダメージは肋骨が折れて腹筋を傷付けている程度で、それに伴い声が出せません。
 移動ができる程度には手当しましたが、長く放置しすぎると死ぬかも。
※現在、手元に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
 会場内の探索はハートとダイヤのみで行っています。 それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。


【備考】
ムーロロが「第四放送までに(会場中央に)来い」と連絡したのはディエゴ(とセッコ)でした。
他にも同時中継で誰かに連絡していた、かも?

148始動 ◆yxYaCUyrzc:2020/08/16(日) 19:17:47 ID:gEpKHij6
以上で投下終了です。
久しぶりの投下ということで実質的な現状確認回をムーロロにお願いしてしまいましたw
備考欄に書くかどうか迷いましたが、意外と監視が行き届いてなかったりするところ(フーゴとか)もあるのでムーロロ自身もどうなることやら。

聖人の遺体とか主催サイドの話題が出てきてハードル高い気もしますが、グループ同士の出会いだけとか、めいっぱいバトルだけとかでもいいので、
これを機にジョジョロワ書こうかなと思ってくれる人が少しでもいればありがたいなと思います。

投下後1週間程度でしょうか、時間をおいて誤字脱字や話の矛盾点等のご指摘や問題がないようでしたらwikiに掲載したいと思います。
それではまた次回にノシ

149名無しさんは砕けない:2020/08/16(日) 19:29:16 ID:orj6ixxI
投下乙です!
タイトルに願いが込められてて好き

150名無しさんは砕けない:2020/08/16(日) 20:54:31 ID:QhVurjFk
投下乙です
ムーロロ、あれだけやられてまだ冷静なのはさすがだけど味方いないな…
ババ抜きのごとく不要なものを捨てていってそれで最後に選んじゃったのがジョーカーなのが笑える
彼にはDIOが見えていないのかたまたま見てないだけなのか…どちらにしてもニヤニヤが止まらない

誤字脱字、矛盾などは特に見られませんでした
ジョジョロワの再始動は私も願っております
あらためて乙でした!

151名無しさんは砕けない:2020/08/23(日) 17:27:50 ID:qzAAvwRw
投下乙です!!
久しぶりの投下なのであ〜そうだったと一緒に確認してしまいました笑
ここまできて尚コウモリを続けるのかよ⁉と思いましたがそこがムーロロの強さなんですよね…
でもジョナサンに会えなければある意味詰んでしまいかねない状況、今後がワクワクです

152始動 ◆yxYaCUyrzc:2020/08/23(日) 22:39:35 ID:Q1V5MYYE
皆様ご感想ありがとうございます!
ジョジョロワ読んでる人が未だに残っていてくれて本当にうれしい。
感想が一番のモチベーションになるので、読者の皆様にはいつも本当に感謝しています。
さて、誤字脱字や矛盾のご指摘がなかったので、『始動』をwikiに収録いたしました。
wiki編集も久しぶりだったので過不足ありましたらご指摘ください。

これを機に書き手さんも増えていただけるとありがたい、そのうち冗談抜きで「全員自己リレーになるから私もう投下できません」になりかねませんからw
私自身もジョジョロワの再始動を目指して動いていこうと思います!ではまたノシ

153 ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:03:35 ID:1vtLf/uI
あけましておめでとうございます。
2021年は投下ありませんでしたね……寂しいので投下させてください。

154どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:05:43 ID:1vtLf/uI


「氷を使った時限装置、か」
「こういうのはシンプルでいいんだ……それよりさっさとここを離れよう」

空条邸の近く、吉良吉影と宮本輝之助は再びバイクに乗って出発しようとしていた。
その背後には氷と紙、そして拡声器がなにやら組み合わされて設置されている。
人を集めたいが、同時に目立ちたくはない……
そんなジレンマを抱える彼らは拡声器を安全に使うべく細工を行っていたのだ。

(うまく動作する……よな? まあ、失敗しても致命的な問題にはならないからいいか……)

作った仕掛けは単純……まず近くの壁に二つ折りにした『紙』の一方の端に糸を付け吊るす。
その下に、理由は不明だが近くにあった巨大な氷塊から採取した氷の破片を設置し紙を置く。
後は紙の前にスイッチを入れっぱなしで固定した拡声器を設置する――これだけだった。
こうしておけば時間と共に氷が解け、二つ折りの紙は重力に引かれ自然と開く。
すると紙の中に閉じこんだ宮本の『声』が拡声器に向かって喋り、勝手に放送を行ってくれるという寸法。
この方法なら声を聞きつけた危険人物がやってきても、その頃には安全圏まで離脱済みというわけである。

「それで、どちらの方角に向かえばいいのかね?」
「当てがないのなら、とりあえず真北――シンガポールホテルに向かってほしい。
 そこから地図で見てここから一ブロック離れた地域を一回り……」

所要時間を計算でもしているのか、真剣な表情を崩すことなく続けていく。
吉良からすれば、必要以上に考えすぎていて内心呆れるほどだったが。

「基本は地図にある主だった建造物だけ軽く捜索していき、時間が近づいたら戻ろう。
 不測の事態があるかもしれないし、遠くへ行きすぎて肝心な時に間に合わないなんてのは御免だ」
「……了解した」

かくして、二人はカーズとの待ち合わせ場所である会場の中央から一旦離れることとなる。
彼らの道中はひとまず、他の参加者に出会うことはなく……
事件らしいことといえば禁止エリアとなっていたE-5で一瞬泡を食ったぐらい。
束の間の平穏……だがそれは同時に、嵐の前の静けさであった。

155どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:06:58 ID:1vtLf/uI
#

D-3にある民家のひとつ。
先程出会った二つのチーム、計六名はここで情報交換を行っていた。

主に話しているのはここまで両チームを引っ張ってきたトリッシュ・ウナとシーザー・アントニオ・ツェペリ。
同郷の人間であること以外特に共通点などないはずの二人だったが、不思議とスムーズに話は進んでいく。
もちろん、話す内容は真剣そのものだったが。

外部への警戒を任されているのはナランチャ・ギルガ。
民家の屋根付近にエアロスミスを待機させ、レーダーで索敵を行いつつ会話に参加している。

小林玉美もとりあえず真剣な面持ち――内心気に食わないナンパ野郎を睨みつつ話を聞いていた。
彼はこれまでほとんどトリッシュと行動していたため、付け足すこともなくただ聞いていただけだったが。
なお、トリッシュ本人からは黙ってくれていて助かると思われていることを彼は知らない。

イギーは……平常運転である。
会話の中に自分の知っている名前が出てこないため、近くで寝そべり休憩を決め込んでいた。
当然、ちょっかいをかけられようものなら迎撃するつもりであるが。

シルバー・バレットはさすがに家の中に上げるわけにはいかず外につないであるため、これで全員。
互いにこれまでの経緯を話しつつ、危険人物などの情報を交換していく。
彼らの話し合いに一石が投じられたのは唯一共通となる知り合い――フーゴの話になった時だった。

「……いなくなった、ですって?」
「本当にすまない……応急処置はしたが、彼をそのまま置いて行ったおれの責任だ」
「てめえ、責任なんて軽々しく言うんじゃねえぞ……
 フーゴに何かあったら、具体的にどう責任取るってんだ!?」

自分たちの元からいなくなったフーゴがシーザーと会っていたことに安堵したのも束の間。
最後まで聞いてみればフーゴは重症を負っていたうえにまたもや消え、現在行方不明という始末。
食ってかかるナランチャに対しシーザーは申し訳なさそうにうつむき返す。

「目を離した隙に消えちまった……としか言えない。
 自力で動けるような状態じゃなかったから、誰かが来て何かしたとは思うんだが……
 連れ去られたのか、死体すら残らず殺されちまったのか、それすらわからない……」

ゲーム開始からこれまで、出会った者のほぼ全員が命を落としている……
そんな境遇にあるシーザーの頭から最悪の可能性が離れないのは無理のないことであろう。
だが同時に、それでもへこたれないのがシーザー・アントニオ・ツェペリという男である。

「ただ、これだけは約束する。フーゴを見つけるために、おれにできることはすべてやる。
 もう遅すぎたというのなら……必ずや犯人に報いを受けさせてやる。必ずだ……!」
「犯人、か……その、残されていたメモにあるカーズってのは?」

そう言い切った彼の表情は、初対面時の軽そうなそれからは想像できないほど決意に満ちたもの。
それを見たナランチャも一応の納得はしたのか追及を止め、先程彼が見せてきたメモについて尋ねる。
カーズなる人物が『第四放送時、会場の中央に来たものは首輪を外してやる』という内容の怪しげなメモ。
シーザーは答えながらも同時に悩むようなそぶりを見せはじめた。

156どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:07:37 ID:1vtLf/uI

「……おれの宿敵の中に同じ名前のやつがいる。
 名簿にはカーズの仲間三人の名前もあったから別人とは考えにくいんだが……
 いろんな意味であいつがこんな書置きを残していくはずがないんだよな……
 罠か、何かのきまぐれか、それとも別の誰かが勝手に名前を使ったのか……?」

ひとりで考え込んでしまうシーザー。
聞いた側はむしろ首輪の解除について気になったのだが、シーザーはそこはまったく信じていないようだった。
トリッシュは『宿敵』という言葉からむやみに触れるべきではないと判断し質問を変える。

「もうひとついいかしら……フーゴと一緒にいたのは本当にそこのイギーって犬だけだったの?
 他に誰かいなかった? 例えば黒髪で背の高い――」
「……待った、誰か来たぞッ!」

フーゴと共に消え、放送が確かならいまだ健在なはずの青年、ジョナサン・ジョースター。
さすがにフーゴに重傷を負わせた犯人だとは思えないが、行方が分からないのはやはり気にかかる。
だがその質問は、レーダーの反応に気づいたナランチャの報告で中断されることとなった――


「数は二つ……外に出て向こうの角の先だッ!」


#

「…………」
「あの――」
「少し黙ってろ、どうしてもって時は大声を出せ」

集団が潜む民家の外、そこから少し離れた位置に件の二人――双葉千帆とプロシュートはいた。
始まりはプロシュートが民家の窓にチラッと灯った明かりを見つけたこと。
持っていた双眼鏡で注意深く観察してみると、外からは見えにくい位置に馬がつながれているのを発見。
ここまで揃えばもう疑いようがない――あの家の中に誰かがいるのだと。

『男の人が三人と女の人が一人……後、犬も一匹いますね』
『見せてみろ――――!?』

はたして双眼鏡で民家の中を覗き込んでみると、中にいたのは男女動物が入り混じった集団。
だがそれを交代で確認していくうちに、プロシュートが眉をひそめながら黙りこくってしまったのだ。
双眼鏡に目を当て、中の様子を窺いながら考え込み続ける……即断即決の彼にしては珍しい光景。
千帆も思うところはあるものの、こういう判断はプロシュートに任せたほうがいいと考え、従っていた。

(……何か、あるんでしょうか?)

千帆には、プロシュートが悩んでいることについて全く思い当たる理由がなかった。
……彼女は、知らないのだから。

157どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:08:29 ID:1vtLf/uI

(チッ、ここにきてこれか……!)

集団はその数の多さと纏う雰囲気から危険な連中である可能性は低そうだった。
だが、プロシュートにとって重要なのはそこではなく……その中にいた一人の少女。
ほかならぬ自分たち暗殺チームが狙っていたボスの娘――トリッシュ・ウナ。
加えてその近くにはブチャラティの部下であるナランチャ・ギルガの姿もあった。
少し前ならば絶好の機会と言える遭遇だったが、今はあまりにも状況が違いすぎる。

(あいつらがオレを知っているかどうか……知っている前提で動くべきだな)

直接の面識はないが、暗殺チームが組織を離反した話はさすがに伝わっているだろう。
自分の顔か、最悪名前だけでも知られていれば十分にありうる――『敵』と認識されている可能性が。
プロシュート自身はこの場でトリッシュを捕まえてボスのことを探ろうなどとは思っていない。
自分たちの誇りと無念が千帆の存在に劣るわけでは決してないが、今すぐその件に手を付けるのは愚策なのだから。
とはいえそんな事情を洗いざらい話したとしても、信用してもらえる確率は低いだろう。

(そうなると、オレは迂闊に顔を出すべきじゃあねえんだが……)

かといって千帆を一人で行かせるというのもまた不安が残る。
千帆も自分の素性は知っているものの、それを上手いことぼかして説明してもらうのは難しいだろう。
流れによっては名前が出るだけでも誤解で攻撃を受ける可能性すらある。

(適当に理由をつけて離れる、ってのも骨が折れそうだな……)

さらに自分と彼女らの関係を千帆に話していないのも地味に響いてくる。
すなわち、千帆には彼女らと接触を避けて離れる理由が全く無いのだ。
実際今もプロシュートの判断を待ってはいるが、その目は『彼らのところに行かないんですか?』と物語っていた。

(最適解はねえ……こうなったら――)

プロシュートが腹を決めようとしたその時――民家から集団が全員揃って出てきていた。
出発する気か、と思ったのもつかの間。

「おい、さっきからそこの角に隠れてるやつ! いるのはわかってんだぞ!
 二人ともいい加減出てきやがれッ!!」

ナランチャが声を張り上げ……他の者も全員角の先へと視線を向けてくる。
プロシュートは瞬時に自分たちの存在が露見していたことと、その原因を悟った。

(マズった……あいつらのうち誰かのスタンドかッ!?)

双眼鏡で見ていて目が合った、なんてヘマなど当然していない。
第一、この距離で何も使わずに正確な人数まで把握するなどほぼ不可能。
そうなると何らかの能力あるいは道具で探知されたと考えるのが自然だ。
迂闊だったというのは酷な話だが、これで自分たちが取れる選択肢は確実に狭まったといえる。
今はまだ推定無罪だが退いたり不動を貫こうものなら即座に有罪認定、容赦なく攻撃されるだろう。

「……行くぞ」
「……はい」

158どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:09:29 ID:1vtLf/uI
タイムアップ、もはや相談する時間もなし。
千帆もそれを察したのか、余計なことは一切聞かず歩き出す。

(しかし本当に、こう聞き分けがいいと苦労しねえ……『あいつ』とは大違い――)

そこまで考えてふと、脳裏にとある男の顔が浮かんだ。
聞き分けのない『あいつ』…………ではなく、彼と同行していた時に遭遇した男。
知っている相手に素性を隠して近づき、結局退けず相容れず、最後は自分が始末したあのギャングの顔が。

(……今度は、オレがその立場ってわけだ)

願わくば、彼と同じ末路を迎えることだけはないように――などとは考えもしなかった。
頼りにすべきは神などではなく己のみ……プロシュートにとって未来とは、自分の手で掴み取るものなのだ。

#

「そこで止まれッ! 妙な動きするんじゃあねえぞッ!」

およそ10mほど――だいたいの近距離スタンドならば射程外となる距離で制止される。
殺し合いをここまで生き残っている者からすればこの程度の警戒は当然、誰も異は唱えない。
お互い、緊張の面持ちで相手の出方を見ている様子だったが……最初に口を開いたのは千帆。

「皆さん、私は双葉千帆といいます。私も、この人も殺し合いには乗っていません」
「……それが本当ならよぉ〜、あんたのスタンドを見せられるか?」

集団の先頭にいる少年をまっすぐ見据え、全員に対して呼びかける。
脅すような声色で放たれた彼の返答にも、決して揺らいだりはしない。
その姿はもう、死の恐怖に怯えるだけの無力な少女ではなかった。

「……私は、スタンドという力は持っていません。ただの人間です」
「…………」

少年は疑わしい目のままである……千帆が正直に答えたとはさすがに思っていないようだった。
千帆も黙って相手の反応を待っている……こちらも最初から信じてもらえるとは思っていない。
二人の後ろでは、それぞれの同行者があちこちに視線を動かし異常がないか探っていたが……
とりあえず会話は可能ということで警戒を緩めたのか、少しだけ空気が和らぐ。
そんな中、彼らの後ろに控えていた男のひとりが……ポケットに手を突っ込んだまま前へと歩み出てきた。

「ちょっと――」
「いえ、ここはひとつあっしにおまかせを……」
(この人、日本人だ……それに)

女性が窘める風に口にするも男は止まらない。
千帆が思考する間に男はそれなりに距離を詰めると彼女の顔をまじまじと見つめ……神妙な顔つきで言った。

「……ふむ、この嬢ちゃんは…………ええ、間違いありやせん」

ぞく、と妙な寒気が千帆の背中に走った。
間違いないとは何のことか、ひょっとして自分は何か失敗したのだろうか。
それとも相手のスタンドで何かを探られたのか。
どうにせよ目をそらすわけにもいかず、次なる言葉を待つ。
すると……

159どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:11:01 ID:1vtLf/uI



「間違いなく――


            ――トリッシュ様のほうが美人でございます」



                   ド  ゴ  オ  ッ  !



鈍い音とともに少年、そしてトリッシュと呼ばれた女性の拳が男へと叩き込まれる。
千帆はもちろん、プロシュートですら一瞬唖然としてしまうほど鮮やかな流れの動きだった。

「イ、イデデ……ジョーダンですって! 彼女、たしか俺と同じく杜王町に住んでた子です!
 少なくとも、俺が知る限り妙な事件に関わってたなんてことはありません!」
「……本当に?」
「ええまあ、町でチラッと見た程度で名前までは知りませんが結構カワイイ子で……いや、なんでもないです」

先程までの空気はどこへやら、突如始まった寸劇にどう反応すればよいのかわからなかったが……
呆れつつも目配せしてきたプロシュートに千帆は小声で返す。

(確かに、見かけたことがあるような気がします。怖そうな人だなって……イメージとずいぶん違いましたけど)

こういう時『彼』ならば正確に記憶していられるのだろうが、千帆はそんな能力は持ち合わせていない。
ともあれ、彼らの雰囲気から危険人物の集団ではなさそうだとようやく一息つけていた……千帆だけは。

「……それで、貴方は?」

そこへトリッシュの一言……聞かれたのは当然、プロシュート……!
警戒はしているが明確な敵意まではなし――声色だけで判別できたのはそこまで。
流れとしては至極当たり前、だが聞かれる側にとっては来てほしくなかった質問が遂に投げかけられる……!
返答は一拍だけおいたものの、迷いや淀みは一切なしで放たれた――!

「……プロシュートだ」

偽名を使おうなどとは考えもしなかった。
既に覚悟は完了……どのような結果になろうが最善を尽くすのみ。
何かあるならば真っ先に反応するだろうトリッシュとナランチャへ視線を向けながら一息で名乗り、出方を待つ。
ナランチャはほぼ無反応、トリッシュは……再び口を開いた。

「プロシュート……? ねえ、貴方って「ワンッワンッワンッ!!!」――?」

だがその言葉は、おそらくは肝心であろう部分にたどり着く前に遮られる。
彼らの近くにいた犬が突如吠え始め、その顔を向ける先に――――

160どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:12:37 ID:1vtLf/uI



            「――どこの虫けらも、群れを成したがるのは変わらんか」


                 「「「「「「――――!!?」」」」」」




――鍛え上げられた巨躯、珍妙な恰好……新たなる闖入者、柱の男カーズの姿がそこにあったのだから。


#


「――ッ!! みんな下がれッ! 絶対にヤツに近づくなッ!!!」

いち早く動いたのは唯一彼を知るシーザー。
危険を促すと同時に、最前列へと躍り出て構えをとる。
他の者も状況は理解しきれずとも、その鬼気迫る表情から反射的に従っていた。

「オイナランチャ!なんで気づかなかったんだよッ!!」
「う、ウソだろ!? レーダーは確かに見て――――えっ……?」

後ろのほうでは玉美が未知なる相手の接近に気づかなかったナランチャの失態を責める。
だがこの件に関してはナランチャにとっても想定外の出来事があった。

「あいつ、反応が……ねえ……?」
「「「「…………!!」」」」

『エアロスミス』のレーダーにカーズの呼吸が映らないという異常。
その呟きを受け、何らかのスタンド能力を行使されたかと勘繰る者もいたが……事実はもっと単純。

少し前、ナランチャが索敵のためエアロスミスを上空に飛ばし……カーズはそれを目撃していたのだ。
周囲が闇に包まれた中、しかも遠方からはっきりと視認できたのは闇の種族と呼ばれた所以だろう。
プロペラ機の実物すら見たことのないカーズだが、彼はスタンド大辞典にてその外見と能力を把握しており……
瞬時に自らの行動を決定すると、そこから一呼吸もせず一気に距離を詰めた――ただそれだけ。
スタンド能力を把握しており、尚且つ人間離れした身体能力を有する彼だからこそ成しえた方法であった。

「……」

もちろん、それをカーズが懇切丁寧に説明してくれるなどということはなく……動揺する皆の反応を楽しむのみ。
ひとり前へと出て対峙するシーザーはそんな彼を静かに見据え、口を開いた。

「戦う前にひとつだけ聞いておくぜ……フーゴをどうした」
「……何を言っているのかわからんが?」
「とぼけるなよ……! ここから少し西へ行ったところにいた重症の男のことだッ……!
 おれたちが目を離した隙にあいつは消え、お前が首輪を解除するとか書かれたメモが残されていた!」
「知らんな……そちらへ行った覚えもないうえ、人間の存在などいちいち記憶に留める必要はなかろう?
 しかし、戦うとはな……どうやらきさま、このカーズが何者かまったくわかっておらぬようだな?」

161どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:14:24 ID:1vtLf/uI

質問……いや、問答自体に全く興味がないと言わんばかりの尊大な態度だった。
シーザーもフーゴの消失がカーズ本人の仕業かは半信半疑だったものの、それで対応が変わるわけではない。
加えてカーズの視線が憐れむようなものになったことがシーザーの怒りを加速させる……!

「……きさまこそおれを覚えていないとは、留められるほどの記憶力すらないようだな……
 それともJOJOばかりでおれのことはまるで眼中にないと、そういいたいのか……!!
 なめるなよ……一族の誇りにかけ、このおれの波紋がきさまを倒すぜッ」
「JOJO? ふむ……なにかわからんがきさま、波紋の一族か。まさか生き残りがおったとはな。
 ……ならば、この後どうなるかなどわかりきったこと」

未だ時間軸の違いについて聞き及んでいない両者のすれ違いはあれど、さらに空気が張り詰める。
シーザーが何者か理解したカーズが凄まじい殺気を放ち……戦闘態勢に入ったのだ。
ひっ、と誰かの短い悲鳴が後ろから聞こえたシーザーも気を引き締めなおす。

(やれるか……? 正直、守らなきゃならねえ人数が多すぎるぜ……
 カーズが素直におれひとりとやりあってくれるんならいいんだが……!)

一触即発、もはや誰の目にも戦いは避けられぬものであり、ついにその火蓋が切って落とされる――




              ――誰もがそう思っていた……一人を除いて。



「だが見逃してやらんでもない」
「――――!!?」

次の瞬間、カーズが何故か戦闘態勢を解いた……!?
相対していたシーザーのみならず、全員が驚愕する中……カーズはさらに驚くべきことを口にした。

「運のいい奴らよ……このカーズ、元よりこんな下らん殺し合いとやらに乗ってやるつもりなどない……
 主催者とやらもなにやら妙な状況になった以上、優勝することに意味があるとも思えんしなァ〜〜?
 加えて首輪解除の『伝言』を知っているのなら争う必要がないことなど明白であろう?
 たとえ波紋戦士であってもな……無論、どうしても皆殺しにされたいというなら別だが」
「……っ、きさまッ――!?」

そちらに戦う気がなくとも、と続けようとしたシーザーの口が手でふさがれる。
横目で確認すると相手はプロシュート、さらに彼は耳元に顔を寄せ小声で囁いてきた。

「お前、なにやらあいつに思うところがあるようだが……今だけは黙ってろ……
 それとも、確実に勝てるといえるスタンド能力でも持ってるってのか?」
「またスタンドか……悪いが、おれはそのスタンド使いってやつじゃあねえぜ」

162どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:15:14 ID:1vtLf/uI

怖気づいている風ではなかったが、彼の真意までは計りかね……意見を求めようと周囲を見渡す。
だがシーザーの目に飛び込んできたのはカーズの凄まじい殺気に呑まれたのか、皆の自信なさげな目であり……
話し合いで済むなら、そうしたい――全員の顔にそう書かれていた。

「……おれはやつを知ってる。やつは話し合いでどうにかなる相手じゃない!
 なによりこれはおれの血統の問題でもある! 一族の因縁に決着をつけるためにおれはやつをブッ殺すッ!」

同じく小声で言い返すも……『それ』は彼にとって禁句であった。
奇しくも似たようなことを言ったシーザーが、直後ジョセフに最も触れられたくない部分を触れられてしまったように。

「そうかい、じゃあてめーは『負け犬』だな……!」
「なっ、なんだと――ッ!!?」

聞き捨てならない一言に激高しかけるも、シーザーにとって信じられない事態が起こる。
体格上は負けていないどころか、鍛え上げられた彼の体がプロシュートによってたやすく地面へと倒されたのだ。
さらに押さえつけてくる相手を振りほどこうとするがうまくいかない。
妙に手足が重いのに加え……常時行っているはずの波紋の呼吸に乱れが生じていたのだから……!
わけがわからず戸惑うシーザーにプロシュートが語り掛けてくる。

「効きが悪い……てめー、『アレ』を持ってやがるのか? まあいい……
 いいか、よく聞け。てめー、ある程度場数は踏んでるようだが……
 人を殺したことはないだろう?」
「……確かにないが、人の命を奪わないことが負け犬だってんなら――」
「そうじゃあねえ」

この時、プロシュートは『グレイトフル・デッド』を発動していた……気づかれないように。
血気盛んすぎるシーザーを押さえつけるためある程度老化させるつもりだったが、想定より老化の速度が遅い。
体を冷やす氷か何かをシーザーが持っていたのかと考えていたが、事実は異なる。
シーザーが行っている波紋の呼吸、それがある程度老化を抑えていたからであった。
とはいえ身体能力が落ちたのは事実、現状が理解できないのもありシーザーは会話を続けざるを得なかった。

「『ブッ殺す』なんてやる前から大口を叩くだけなら誰にだってできる……
 だがてめーはスタンドも使えず、殺しの経験もないのにエラソーにほざいてるだけ……
 そういう、そこら辺にいるチンピラみたいな口だけ野郎だから負け犬ってことだ……」
「……!!」

(こいつ……いや、他のみんなも誰一人『わかってない』のか……!!)

確かにシーザーには殺人の経験はない――昔の荒れていた時期でも、それだけはやっていない。
だが今の彼の使命は『人間を殺す』のではなく『怪物を倒す』こと。
そして目の前にいるカーズこそがその怪物であり……当然、倒すのにためらいなど一切ない。
むしろそのためだけに修業し、強くなったといっても過言ではないのだから。

つまるところプロシュートの説教は、波紋戦士であるシーザーの能力を完全に度外視したもの。
すなわちシーザーからすれば的外れもいいところである。
だが、そんな彼の事情を知る者がいないのもあり……周囲の者から助け舟が出されることはなかった。

「一族の因縁だったか? 仇討ちは別に否定しねえが……今てめーの後ろには誰がいる?
 吠えるだけな負け犬の勝手な都合に、あいつらまで付き合わせるわけにはいかねえんだよ……!」
「……プロシュートさん!」
「……チッ」

163どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:16:10 ID:1vtLf/uI

やりすぎと判断したのか千帆が窘めるような声を出し……プロシュートは一旦拘束、そしてスタンド能力を解く。
彼からしてみればまだまだ言い足りなかったが、じっくり説教していられる状況でもない。

一方、シーザーもあくまで侮辱されたのは血統でなく己のみ、しかも勘違いなのが幸いとなったか。
納得こそできなかったものの、むやみにカーズへと突撃することもなかった。

(敵とはいえ戦意のない相手に対し、他の者を巻き込んでまで戦闘開始するのは得策ではない……
 その言い分自体はわかるが、相手は柱の男カーズ……和解という道など無いも同然ッ!)

詳しく説明できる時間はなし、現時点での議論は不毛な争いとなるのが確実……
これに関しては情報交換が不十分、しかもどちらも退く気なしというのが厄介な点だった。
とはいえ味方がいないことで一時黙らざるを得なくなったシーザーに代わり、トリッシュが問いかける。

「それで、ただ見逃してくれるってわけじゃないでしょう……? そちらの条件は?」
「なに、単純なことよ……第四放送までの間このカーズにきさまらのうち二人ほど同行してもらおうか」
「――!?」

先程とは違う意味で空気が変わる。
同行……すなわち、共に行動してほしいと言っている?
この、どう見ても誰かの助けなど必要としなさそうな相手が?
カーズの要求の意味、そしてその不可解さによる二重の混乱が全員に襲い掛かったが……
当の本人はざわつき始めた彼らをつまらなさそうに眺めつつ、無情にも宣告を下す。

「このカーズも暇ではない。『三分』やろう……それで決まらぬのなら皆殺しを望んだと判断させてもらう。
 さあ、どうした? 相談でもなんでもしたらどうだぁー?」

その言葉で我に返った各々が円陣を組み顔を突き合わせる。
当然、カーズ本人への警戒は続けながら。
最初に口を開いたのは……千帆。

「私は、提案を呑むべきだと思います。
 第四放送まではもう一時間もありません。それくらいなら……」
「すまないがそういう話じゃあないんだよ、シニョリーナ」

提案に賛成の意を示すも、当然のごとくシーザーが反対してくる。
彼としては提案を呑む選択肢などないが、これ以上邪魔が入らぬよう説明しておくべきだと判断していた。

「きみも聞いていただろう? あいつは最初、おれたちのことを虫けらと言った……
 あいつにとって人間とは本当にその通り……たいして力を込めずとも簡単に潰せちまう存在なんだ。
 普通の人間なら一時間どころか一秒でね……そんな、命を捨てるような真似はさせられない……!」
「…………」

その真剣な眼差し、そして先程受けた殺気から彼の言葉が冗談ではないことが分かったのだろう。
ひとまず千帆は押し黙り……続いてトリッシュが周囲を見渡し、言った。

「確認しとくわよ。あいつの提案、絶対呑めるわけがないって人は?」

トリッシュの質問に挙げられた手は二本――シーザーと、プロシュート。
迷いなく挙手した彼らを、千帆が困惑するような目で見つめる。
シーザーはともかく、彼を制止したプロシュートまで反対なのは彼女にとって予想外だった。

164どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:17:30 ID:1vtLf/uI

「千帆、おれはお前の選択には付いていく……
 だが意見はキッチリ言わせてもらうぜ。どう考えてもこいつは『罠』だ」
「おれも同意見だ。今のカーズは単独! こっちは非戦闘員も含むとはいえ六人!
 だが向こうの提案を呑んだりしようものなら確実に人数は減る……
 なにより、あいつは人間じゃあないんだ。素直に約束を守る理由がどこにもない」
「……」

千帆は何も言い返せない。
おそらくこういう状況において自分よりもよほど慣れているであろう二人相手では分が悪すぎた。
他の者の意見を求めるべく表情を確認していくが……
トリッシュはまだ悩みのある顔、残る二人は青ざめていたり震えていたりで援護は期待できそうにない。
先程挙手こそしなかったものの、賛成といっても消極的……カーズの条件もふまえればなおさらだった。
だがそれでも――



          「他に意見がないのなら、ここはやつを知るおれに任せて――」
              「……でしたら、同行者には私がなります」


                  ――千帆は、譲らなかった。


「銃はプロシュートさんに返します――これなら、戦力的に痛手にはならないでしょう?」
「……おまえ」
「待ちな」

思わず絶句したプロシュートに代わり、反対派の筆頭たるシーザーが割り込んでくる。
チラリと時計を確認すると、既に一分が経過しようとしていた。

「忘れちゃいないよな? カーズの指定は『二人』だ……
 きみが行きたいとしても、もうひとりはどうする?」
「……っ」

正面から説き伏せるのは困難と判断したのか、シーザーは別方向からの攻めに変えてきた。
事実、痛いところを突かれた千帆の目が泳ぎかける。
そう、いくら彼女が意地を張ったとしても一人では要求を満たせない。

シーザーとプロシュートは元々反対。
トリッシュ、ナランチャ、玉美もさすがに今回ばかりは千帆と目を合わせてくれない。
犬や馬は……賛成とかそれ以前の問題があるだろう。

戦いは避けたい、だが自分が同行者になりたくない――当然の理屈ゆえそこを責めるわけにもいかない。
彼らの意見を変えるためには、生半可な説得では不可能……
そう悟った千帆は表情を引き締めなおすと、はっきり喋り始めた。

「私、双葉千帆には夢があります……それは『小説を書く』こと……
 そのために、主催者をなんとかしてこの殺し合いから脱出するのに全力を尽くします……
 皆さんのように特別な力なんて持っていなくとも、一人の人間としてやれることはすべてやるつもりです」
「…………」

165どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:18:14 ID:1vtLf/uI

無言――こいつは何を言っているんだという視線が刺さりながらも、千帆の言葉は続いた。
リアリティにおいてはどんな想像や推測にも勝る『体験談』を用いて。

「……これは、チャンスなんです。
 少し前、私は怪物と言うべき存在と数時間一緒にいましたがその人と対話し、無事に生きています。
 シーザーさんが言うとおり、あの人が人間ではないのだとしても、会話も意思疎通もできるんです。
 一時的に、協力とはいかなくても休戦できるならするべきです……一番の目標は、主催者なんですから」
「……」

(千帆、そいつは机上の空論、なにより自信過剰だ……)

口にこそ出さなかったものの、それがプロシュートの評価だった。
言っていることは正しいが、あくまで理想……いつかジョニィに言われた『夢見る少女』そのものだ。
同じ柱の男であるワムウとの対話がうまくいった、それだけでカーズにも同じ理屈が通用すると勘違いしている。
人間同士ですら、考えの違いなどいくらでもあるというのに。

(だが……)

無謀だ、と切り捨てることは簡単だった。
しかしそれは……それだけは、プロシュートにはできない。
大いなる目的のために命の危険も顧みず、勝算などほとんどない戦いに身を投じる――
その行いを否定するとはすなわち、プロシュート自身を含む暗殺チーム全ての否定を意味する。
だからこそ、常に物事をはっきり言う彼ですらすぐには反論できなかった。

(こいつは甘い判断だろう……だが、オレはもう『賭けた』)

「……カードゲームで、そこそこいい手が来た時、さらに上を狙ってチェンジするかどうかに正解はねえ。
 人生で似たような選択なんざ腐るほど遭遇するってのに、どうすりゃいいかなんてわかりゃあしねえんだ。
 そいつらがどんな道を選び、どんな結末を迎えたかなんざいちいち知ったこっちゃあねえが――」

この一件に明確な正解はない……あるとしても予測は不可能。
ならば、彼が選んだのは――

「――お前があえてチェンジを望むなら、それもまた一つの道だ。乗っかってやる」
「……プロシュートさん」

選択に後悔はない……現時点ではだが。
自分は意志を汲んでくれたプロシュートを、間違っても後悔させないようにしなければならない。
決意した千帆は『彼』の方へと向き直る……先に口を開いたのは相手からだった。

「……正直に言ってくれないか。きみは、おれが信用できないかい?
 やつと戦ったとしてもおれが負けてしまうと、そう思っているのかい?」

残るは彼――シーザーただ一人。
彼は自身とその血統に誇りを持つ男――先程の発言からそれが窺い知れた。
そんな彼に戦わずして退いてくれというのは、考えようによっては彼への侮辱ともとれるだろう。
だからこそ、千帆は本音でぶつかるしかなかった。

「私はあなたとあのカーズという人、どちらの戦う姿も見たことはありません。
 ですからどちらが勝つのかなんて、私にはまったくわかりません……
 でも決着がついたときに二人のどちらか、あるいは両方が命を落とすことになるとは思っています」
「ああ……それは確実だろうな」

166どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:19:18 ID:1vtLf/uI

シーザーの目には『刺し違えてでもあいつを倒す』と言わんばかりの意志が宿っていた。
やるといったらやる――そんな目を、千帆は知っている。
……そして、その目をしていた者がどうなったかも。

「一度だけでいいです……その前に、私にチャンスをください」
「……さっきも言っただろう。奴には、言葉は通じても話は通じない。
 ききわけのないなんて話じゃない、価値観そのものが違うんだからな……
 はっきり言うが……なにをどうしようと、奴の説得は『不可能』……だ!」

元からカーズを知るシーザー、その彼を何も知らぬ千帆が説き伏せるなどできるわけがない。
まともに考えたならば、だが。

「それが真実なら……同じく人間である主催者たちとも、カーズが和解する可能性はないことになりますよね?」
「……なん、だって…………まさか!?」

シーザーには千帆が何を言いたいかわかってしまった。
利害の一致、逆に考える――人間と敵対しているならば、無理に味方に引き込む必要はない。
敵対したまま、同じく人間であろう主催者たちと争ってもらえばいいのだということ……!

「無茶だ……! 第一結果的にそうなるとしても、その過程で参加者の誰かが犠牲になるかもしれない!
 きみがカーズに同行したとして、やつの凶行を防げるとでもいうのかッ!?」
「…………言いましたね」
「えっ?」

正面から見た千帆の目に、シーザーは一瞬気圧されてしまった。
一般人の少女が持つはずのない、深き漆黒を湛えた目に。
――目的のためなら、殺人も厭わないほどの『覚悟』を秘めた漆黒の意思に。

「今あなたは言いました。『無理』ではなく『無茶』、それに『結果的にそうなる』と……
 つまり『不可能ではない』と、あなた自身が認めたということです。
 限りなく低いけど、ゼロではない……その可能性を実現するチャンスをくださいと言っています」
「……おれの質問に答えてもらっていないが?」

揚げ足をとる形ではあったが、一応の論破とはなった。
正直なところシーザーとしても、カーズを味方に引き込むよりは……と一瞬思ってしまったことは事実。
だが冷静に考えれば結局は理想論、おおよそまともな案ではない。
それがわかるからこそ、残された手段――カーズを野放しにするリスクで反撃する。
彼も理解している……本来これは、間違っても彼が女性にするものではない意地の悪い質問だと。
カーズが実力行使に出た場合、千帆に打つ手などない……それが彼女の『限界』だと。

「力づくで止めるのは不可能でしょう。ですが、それ以外でできることはすべてやってみせます……!」
「…………無責任な答えだな」

目を逸らしこそしなかったものの、返答は予想通りでしかない。
シーザーはそんな彼女の瞳をじっと見つめ続け……考えた。

――なぜ、彼女はここまで意地を張るのか。
――彼女を死なさないために、自分はどうすべきか。

167どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:20:16 ID:1vtLf/uI

少なすぎる時間の中で可能な限り思考し、やがて……

                  フッ、と笑みを浮かべた。

「まったく、頑固なお嬢さんだ……だが、そんなきみに朗報があるぜ。
 いざってとき、カーズをなんとかできるいい方法がな……!」
「……えっ?」

その発言に二重の意味で驚く。
協力してくれるのか、そして何か秘策でも授けてくれるのかと。
密かな期待を抱いた千帆に、シーザーは言った……柔らかだが、同時にしっかりとした口調で。

「おれがもう一人の同行者になる……これで解決だ」
「……!!」

あれほど提案を呑むのを拒否していた彼が、同行者になることを肯定した……
それは、千帆がシーザーの説得に成功したことを意味していた。
もはや険しい表情すら消えた彼は、驚きの表情を浮かべる周囲を順に見渡していく。

「悪いがこれは決定事項だぜ……あいつの体は普通の人間じゃあ、触れただけで抉られるように食われちまう……
 対処するには『波紋』を使うしかないが……誰か、できるやつはいるかい?」

聞いておきながら答えはわかっていたのだろう。
全員の返事がないのを確認するとそのまま言葉を続けていく。

「一緒に行き、カーズが変な気を起こすようならその時こそおれが奴を倒す……それだけの話だ。
 そうなったら悪いが全力で逃げてくれ。きみを守りながら戦えるほど余裕のある相手じゃない」
「……ありがとうございます」
「お礼ならまだ早いぜ、始まってすらいないんだからな……」

シーザーの提案は、彼からすれば妥協したと言えるものだろう。
だがそれでも、認められたのは千帆にとってこの上なく嬉しいこと。
あらためて、周りの者の顔を見渡すもこれ以上の反論は無く……議論に一応の決着はついた。

「待たせたな、お前の提案、呑むぜ。同行するのはおれと――」

あくまで相手は危険な存在、ということでシーザーが代表して前へと進み意向を伝える。
その背中を見ながら、千帆は再び決意をしていた。
彼の言ったとおりまだ何も始まっていない、大事なのはこれからなのだと。

168どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:21:59 ID:1vtLf/uI

だが……


「何を勘違いしている?」


そんな彼女の決意は……


「まさか、誰が同行するかきさまらに選ぶ権利などあると思っていたのか?」


いともたやすく、そしてえげつなく踏みつぶされた……!


「きさまらが選べるのは『同行する』か『しない』かのみ……
 そして同行してもらうのはきさまと、きさまよ」



カーズに指名された二人、それは――



                     「……私と」


                    トリッシュと――



                  「オレ、だと……!?」


                   プロシュート……!!



カーズが何故この二人を指名したのか、その理由が分かった者は誰一人としていなかった。
一瞬の静寂の後、当然うろたえる……ドイツ軍人でもないのでうろたえる。
額に汗を浮かべる者、カーズや指名された二人を交互に見る者、震えている者……
程度の差はあれ、全員が目に見えて動揺する中……黙っていられなかった男が叫ぶ。

「て、て、て、てめえェェェ―――!よ、よりによってトリッシュ様を連れてこうなんて
 そ、そ、そんな狼藉が「行くわ」――って、トリッシュさまァァァーーー!!?」

どもりながらも精一杯の玉美の絶叫……
だが言葉途中でトリッシュ本人によるまさかの発言に再びうろたえる。
そしてアワレにも叫んだ彼自身は気にも留められず、トリッシュは千帆へと言った。

169どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:23:09 ID:1vtLf/uI

「さっきあなたが言ったこと……夢がある、だったかしら? よく似た口癖の知り合いがいるの。
 おかげで思い出した……道を切り開くには、危険なことだろうと挑む『覚悟』が必要だって……
 あなたの覚悟は見せてもらった。私もやるだけやってみる……貴方は、どうなのかしら?」

話を振られたもう一人の指名者、プロシュート。
千帆もさすがに不安そうな目でそちらに向き直るが……

「言ったはずだ、乗っかってやるってな……だが期待はするなよ。
 奴との休戦だけじゃない、オレたちと無事に合流できるかってこともだ……」
「ま、待ってくれ! きみたちは波紋を――」

はっきりとした返答、だが同時に我に返ったシーザーが割り込んできた。
再度告げられる――波紋を使えぬ二人では、カーズに同行するなど自殺行為に等しいことだと。
だが、それを聞いてなお二人に動揺はなかった。

「考えならある……こいつは自己犠牲の精神ってやつでもなけりゃ、ヤケを起こしたわけでもねえ」
「まだ出会って間もないけど、あなたは『信頼』できる……こっちは任せて。
 その代わり、残る皆のことはあなたにお願いしたい……こんな押し付けるような頼み方で、ごめんなさい」
「クッ、だが……だが……」
「時間だ」

律儀に数えていたのか、それともこれ以上時間を与えても無駄と判断したのか、カーズが告げる。
指定された二人はカーズの方へ歩き出す。
この時点でまだやれることがあるといえる者は、シーザーただひとり。

(今、カーズに攻撃を仕掛ければ提案を蹴ったことになり……二人が連れていかれることもなくなる。
 そうすべきだろう……あいつが信用できるわけがないッ……!)

頭では間違いなくそう考えている。
そしてシーザーは本来、進むか退くかの場面では進むことを選ぶ男である。
にもかかわらず、彼は動けない……
常人ならば間違いなく恐怖するだろう境遇に立たされたはずの二人……
彼らの瞳に、それぞれ異なる決意に満ちた光を見たのだから。

(お、おれにはできない……さっきのお嬢ちゃんといい、この二人といい……
 一度進むと決めた者のゆるぎない意志を、ねじまげるというのは……!)

それはある意味、とてつもない皮肉ともいえた。
かつて柱の男が潜むゲスラーのホテルに、彼が制止を振り切り一人で乗り込んでしまったように……
シーザー・アントニオ・ツェペリには、前進する思いは止められない……それがたとえ自分自身であっても。


#

「……これで、よかったんでしょうか」
「…………いいわけがない、ないんだが……クソッ!」

170どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:24:46 ID:1vtLf/uI

残された者たちに『納得』している者などひとりもいない。
シーザーは、宿敵というべき存在をみすみす見逃してしまった。
玉美はトリッシュを、千帆はプロシュートを連れていかれ、かつての自分の決意が踏みにじられるような感覚だった。
イギーは……そっぽをむいてはいたが、不機嫌そうな以上彼もまたそうなのだろう。

カーズの目的は何なのか、その上で連れていかれた二人はどうなるのか……
考えてもわからぬことだらけの現状に、冷静でいられる彼らではなかった。
そして敵がいなくなった以上、抑えきれぬ苛立ちは当然周囲の者にぶつけるしかない。

「て、てめー……あいつのことなんか知ってるんだろ!?トリッシュ様は本当に大丈夫なのかよ、おいッ!!」
「……わからない。おれの先生は、カーズはやつらの仲間内で一番高い知能を持つと言っていた……
 そいつがわざわざ連れて行ったってことは、すぐに殺すつもりは無い……そう、思いたいが」
「んだよそりゃ!? そんなテキトーでトリッシュ様になにかあったら責任取れんのかッ!!
 おいナランチャ、てめーからも何か言って……ん?」

他にどうすることもできずシーザーに文句を言う玉美だが、ふとナランチャの様子がおかしいことに気づく。
彼は地面にうずくまり……頭を抱え、震えていた。
思い返せばカーズが探知できなかった件以降、彼が意見を言っていないことに気づく。

「お、おい……どっか痛いのか? それとも、誰かになんかされたのか!?」
「…………俺、前にあのカーズとよく似たやつに会ってんだ」
「……似ている、だって? そいつは、どんなやつだ?」

その相手とはまさかワムウかエシディシでは、と思い当たる可能性からシーザーは話の続きを促す。
いまだに顔を伏せて震えるナランチャは、それでもぽつりぽつりと話し始めた。

「そいつは、アバッキオ――俺の仲間の仇で、俺たちはみんなで戦ったんだけどあっさりやられちまった……
 その時はただ、悔しかった……それだけだったんだ」
「やられた……ほかのやつらは、死んじまったのか……?」
「いいや、全員大したケガもなく無事だった……無事だったんだよォッ!!」

絞り出すような声。
聞いた側は、命があったのなら何が問題なのか不思議だったが……

「今、カーズってやつを見て気づいちまった……アバッキオの仇は、まるでやる気がなかったってことに……
 本当ならあの時、全員殺されててもおかしくなかったのに、わざわざ生かしてくれてただけだってことに……」

ナランチャが顔を上げる――その顔は一目でわかるほど絶望が見て取れた。
かつて彼の上司が組織を裏切った時のように、強大すぎる力を持つ相手を敵に回したことを認識したのだった……!

「なあ……俺、どうしたらいいんだよ……? スタンドだって通用しない、ブチャラティだってもういない……
 遊び感覚で俺たちを軽くブチのめしちまう、そんな化け物相手に本当に勝てるのかよ……?」
「…………勝てる」

シーザーはそんな彼に向き合い、はっきりと言う。
常人ならともかく、波紋戦士たる自分が強大な相手にしり込みなどするわけにはいかない。
もしそうなったら笑われ……はしないだろうが、ニヤケ顔で嫌味を言ってきそうな男の顔を思い浮かべながら。

「やつらだって生物……おれたちが使える波紋のように、弱点だってあるんだ……
 それにおれの親友は、やつと同等以上の力を持ってる仲間をたったひとりで倒しちまったんだぜ……
 はは、言ってておれのほうが情けなくなってきちまった……おれも、あいつに負けてられないってのにな」

171どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:25:54 ID:1vtLf/uI

シーザーも本当はすぐにでもカーズを追いかけたかったのだが……
だが同行者に指名された二人の覚悟の目と、現状がそれを許さなかった。
すなわち、トリッシュとプロシュートが抜けたことでこの場に残る戦力の問題である。

――スタンド使いですらない千帆。
――情緒不安定なうえに腰が引けている玉美。
――戦意喪失しているナランチャ。
――戦力としては数えられないシルバー・バレット。

結果、シーザーから見て一番頼れるのが犬のイギーという有様。
そのイギーにしても、先程フーゴの見張りを失敗しているためこの場を任せるには不安が過ぎる。

(まさか、俺がこうして動けなくなるのを狙ってあの二人を……? さすがに無いと思いたいが)

その推測が正しいとすれば自分はまんまといっぱい食わされたことになる。
結局、連れていかれた二人の無事については彼らの機転とカーズの気まぐれに祈るしかないという歯痒い展開。
だが、今のナランチャを説得する過程はシーザー自身も己を奮い立たせることにつながっていた。

「……よし! ここでこうしてたって何も始まらねえ!
 おれたちはおれたちにできることをやるだけだ……ワムウのやつもまだ生き残ってるしな!」
「……ワムウ、ですか?」

答えが出ない問題はひとまず置いておき、新たに動き出そうと発破をかけるものの……
千帆にとって忘れようもない名前がその中にはあった。

「ああ、ワムウってのはさっきのカーズの仲間で――」
「いえ、あの……ワムウさんなら、もういません……倒されました」
「……何だって!?」

数時間前、異形の力を持つ青年がワムウと一騎打ちの末、相打ちになったことを話す。
詳しい話を聞いたシーザーは――



            ――突如千帆の肩を掴み、必死の形相で詰め寄った。



「……だったら、あいつが付けてた輪っかがあっただろ! そいつはどうした!?」
「え……その、すみません、首輪ならプロシュートさんが持って――」
「違う!首輪じゃなくて口元につけてたピアスだよッ!!」
「……えっ?」
「お、おいてめーいい加減にしやがれ!嬢ちゃんが怖がってるじゃねえかよ!
 だいたいそのピアスが何だってんだッ!?」

焦り気味なためか要点が抜け落ち中々話が進まない。
ここまで女性に優しかったシーザーらしからぬ剣幕にビビりつつも、見かねた玉美が助け舟を出す。
返ってきた言葉は……ある意味想像を絶するものだった。

「おれの親友が体内に毒の指輪を仕込まれてて、その解毒剤がワムウの付けてるピアスの中に入ってる!
 はやくあいつに持ってってやらねえと、もうほとんど時間も残ってねえんだッ!!」
「え、ええっ!!?」

172どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:26:54 ID:1vtLf/uI

――リーダー不在。
今まで先導してきたトリッシュとプロシュートの離脱に加えてシーザーの混乱がここにきて響いてくる。
さらにはカーズが指定した第四放送まで、既に一時間もない。
指導者もなく、明確な目的も不明瞭、時間すらも満足に持たない彼らはこれからどこへ行くのか。
それとも――

(クソッ! こいつら誰も気づきやがらねえ……それにこのにおい……『あいつ』、近くにいるのかッ!?)

――迫りくる『何か』により、どこへも行けないのか……?



【D-3とD-4の境界付近 / 一日目 真夜中】


【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッツ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発(ほぼ回復済み)、焦り気味
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック、シルバー・バレット
[道具]:基本支給品一式、モデルガン、コーヒーガム(1枚消費)、ダイナマイト6本
   ミスタの記憶DISC、クリーム・スターターのスタンドDISC、ホット・パンツの記憶DISC、イギーの不明支給品1
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒
0.ワムウのピアスを手に入れ、ジョセフに渡さなければ!
1.第四放送時に会場の中央に赴き、カーズを倒す?
2.フーゴ、どこに……?とにかくフーゴに助かってほしい
3.ジョセフ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す
※DISCの使い方を理解しました。スタンドDISCと記憶DISCの違いはまだ知りません。
※フーゴの言う『ジョジョ』をジョセフの事だと誤解しています。


【イギー】
[スタンド]:『ザ・フール』
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する
0.近くに誰かがいる……新手の敵か?
1.あいつ(フーゴ)、近くにいるのか!?
2.コーヒーガム(シーザー)と行動、穴だらけ(フーゴ)、フーゴの仲間と合流したい
3.煙突(ジョルノ)が気に喰わないけど、DIOを倒したのでちょっと見直した

173どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:27:28 ID:1vtLf/uI

【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:4部終了後
[状態]:健康
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る
0.トリッシュ様をなんとかして助け出したいでござる
1.なんだこのナンパ野郎ッ許さんッ!が、どうにもできないのでとりあえず一緒にいる
2.ナランチャは気に食わないが、同行を許してやらんこともない


【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:戦意喪失
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)
    不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.柱の男には勝てない……?
1.早くフーゴとジョナサンを探しに行こう
2.玉美は気に入らないけど 、まあ一緒でもいいか


【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:健康、強い決意
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、ノート、地下地図、応急処置セット(少量使用) 、顔写真付き参加者名簿、大量の角砂糖
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く 。その為に参加者に取材をする
0.ワムウのピアスを取りに行く?
1.第四放送時に会場中央に赴く?
2.大統領に悟られないようジョニィに接触する
3.主催者の目的・動機を考察する
4.次に琢馬兄さんに会えたらちゃんと話をする
[ノートの内容]
プロシュート、千帆について:小説の原案メモ(173話 無粋 の時点までに書いたもの)を簡単に書き直したもの+現時点までの経緯
橋沢育朗について:原作〜176話 激闘 までの経緯
ワムウについて:柱の男と言う種族についてと152話 新・戦闘潮流 までの経緯
188話 風にかえる怪物たち のくだりはプロシュートが書きましたがホッチキスで留められて読めない状態です

174どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:28:20 ID:1vtLf/uI

#


集団から離れたカーズ、トリッシュ、プロシュートの三人、その先頭を悠々と進むのはカーズ。
一見無防備にも見える背中には、その実まったく隙が無い。
少なくとも二人がかりの奇襲程度でなんとかできそうにないのは明白だった。

「……私たちを拘束したりしないの?」
「おかしなことを聞く……このカーズは『同行』と言ったはずだが?」

連れてこられた二人にとって最大の懸念は相手の思考、目的がまるで読めないこと。
今のトリッシュの質問にもどこ吹く風の態度を崩す様子がない。
無論本心ではないだろうが、それ故何を考えているのかまるでわからないという不気味さがあった。

「もっとも、きさまらが逃げるとは先程出した条件を違える……
 すなわち奴らの元に戻り皆殺しにしてもよいということ。
 それでかまわぬのなら、どこへなりとでも行くがよかろう」
「…………」

人質――真っ先にその言葉が脳裏によぎる。
ただ、連れてこられた自分たちではなく残されたほうが人質というのもおかしな話だったが。
断じてこれは『同行』などではない……トリッシュがそんな思考をしているとプロシュートが口を開いた。

「手っ取り早く済ませようじゃあねえか……オレたちに何の用だ」
「ふむ?」
「てめえのヤバさはどうやら本物だ……それこそ、さっきのオレたち全員が相手でも十分すぎるくらいにな……
 そんなてめえが必要もない同行者、しかも指定をしてきた以上、最初からオレたちが狙いだったんだろう?」

殺害が目的ならあの場で仕掛けてきている……そう踏んだのか強気な発言。
目的は果たして何なのか探りを入れようとするも、聞かれたカーズはあっさりとそれを口にした。

「少しは頭が回るようだ、よかろう――


                ――『干からびた遺体』と言えばわかるな?」

「……」
「……!」

――そう、カーズも含めたこの三人の共通点……それは『遺体の所有者』だということ。
カーズの言葉にプロシュートは無表情のままだったが、トリッシュは微かに反応してしまう。
当然、相手がそれを見逃すはずもなかった。

「誤魔化すのなら、もう少し上手くやるのだなぁ〜?……それで、この遺体はいったいどういうものなのだ?」
「……私にもわからないわよ」

隣から聞こえる舌打ちも気にせず、トリッシュは答える。
正直、というよりはそれ以外に選択肢がないゆえに率直な答えを。

175どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:29:17 ID:1vtLf/uI

「……」

カーズは気分を害した風もなく、プロシュートのほうへと視線を移し……
彼が無言を貫くのを見て興味なさげに顔を戻した。
質問が終わると同時に襲い掛かってくる可能性を危惧していた二人は各自で内心一息つく。

「まあ、よかろう。きさまらが本当に知らぬ可能性もあるとは思っていた……
 だが隠し立てしているのだとしたら、早めに喋ったほうがよいかもしれんぞ?
 このカーズが次に同じ質問をする者は、きさまたちより素直だとよいのだがなぁ〜〜?」
「……!!」

同じ質問――それはすなわち、自分たちと同様に遺体を持つものに対して行われるということ。
トリッシュの脳裏には自然と『彼女』の姿が浮かぶ。

(ルーシー……おそらくだけど、彼女はこの遺体について何かを知っている……!
 あなたは今、どこにいるの? 私たち――カーズが向かう先にいるの……?)

結局、自分は彼女を助けには行けなかった。
無事なのか、そして遺体について確かめるためもう一度会いたかった……こんな状況でさえなければ。

「首輪を解除するとか言っときながら、一方でわけのわからんもの集めか?
 それとも、解除にその遺体が必要だってのか?」

一方で再度探りを入れるプロシュート。
連れてこられた目的は明らかになった……では何のために遺体を必要としているのか。
するとカーズは……

「見くびるなよ? このカーズ――


               ――首輪の謎など、とうに解けておるわ」

「嘘ね」
「嘘だな」

質問自体の答えははぐらかしたものの、出てきたのはまたしても意外な言葉。
だがそれを聞いた二人は反射的にそう口にしていた。
偶然にも返答が一致してしまったことで一瞬だけ視線を合わせ……トリッシュが引き継ぐ。

「それが本当なら、あんたはとっとと自分の首輪を外してこんなところ出てってるはず……
 そうしてないのは、解除ができないっていう証拠よ」

殺し合いに興味のないものが首輪解除の手段を持つのなら、現状を打破しないはずがない……
言葉に多少の差こそあれど、概ねプロシュートも同意見だった。
一方、言われたカーズはというと……

「まあ、見ているがよい」

         不敵……見ようによっては不気味ともいえる笑みを浮かべていた――!

176どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:30:07 ID:1vtLf/uI

カーズの性格からして素直に全員の首輪を解除するはずもないのだが、謎の自信は策略かそれとも……?
さらに言うなら何故遺体に興味を示すのか、二人から力づくで遺体を奪わず同行させた真の目的は……?
いずれも本人のみがそれを知るところであろう。

そしてもう一つ、トリッシュとプロシュート。
この二人、共通の敵たるカーズの存在で表面化こそしていないものの、元は決して仲間とは言えない間柄。

トリッシュは隣で歩く男が暗殺チームの一員だと認識しているのか、仮に覚えていたのならどうするのか。
プロシュートは計らずも目標としていたボスの娘と一対一に近いこの状況になったことで、動くのか否か。

これもまた、いずれも本人のみがそれを知るところであろう……


【D-3とD-4の境界付近→??? / 一日目 真夜中】


【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(小〜中に回復)、疲労(なし〜小に回復)
[装備]:遺体の左脚
[道具]:基本支給品×5、サヴェジガーデン一匹、首輪(由花子/噴上)、壊れた首輪×2(J・ガイル/億泰)
    ランダム支給品1〜5(アクセル・RO:1〜2/カーズ+由花子+億泰:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図、スタンド大辞典
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる
0.トリッシュとプロシュートを連れて……?
1.参加者(特に承太郎、DIO、吉良)を探す。場合によっては首輪の破壊を試みる
2.ワムウと合流
3.エイジャの赤石の行方について調べる
4.第四放送時に会場の中央に赴き、集まった参加者を皆殺しにする
[備考]
※スタンド大辞典を読破しました。
 参加者が参戦時点で使用できるスタンドは名前、能力、外見(ビジョン)全てが頭の中に入っています。
 現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのは承太郎、吉良、宮本です。
 まだ琢馬の事は詳細を聞いていない&見ていないので把握していません。
※死の結婚指輪がカーズ、エシディシ、ワムウのうち誰の物かは次回以降の書き手さんにお任せします。
 ちなみにカーズは誰の指輪か知っています。死の結婚指輪の解毒剤を持っているかどうかは不明です。
 (そもそも『解毒剤は自分が持っている』、『指示に従えば渡す』などとは一言も言っていません)
※首輪の解析結果について
 1.首輪は破壊『可』能。ただし壊すと内部で爆発が起こり、内部構造は『隠滅』される。
 2.1の爆発で首輪そのもの(外殻)は壊れない(周囲への殺傷能力はほぼ皆無)→禁止エリア違反などによる参加者の始末は別の方法?
 3.1、2は死者から外した首輪の場合であり、生存者の首輪についてはこの限りではない可能性がある。
 4.生きている参加者の首輪を攻撃した場合は、攻撃された参加者の首が吹き飛びます(165話『BLOOD PROUD』参照)

※カーズの首輪に「何か」が起きています。どういった理由で何が起きてるかは、次以降の書き手さんにおまかせします。
 カーズ本人も異変には気づいていますが、どの程度まで理解しているかも次以降の書き手さんにおまかせします。

177どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:31:17 ID:1vtLf/uI

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:健康
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服、遺体の胴体
[道具]:基本支給品×4
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する
0.とりあえずカーズについていくが……?
1.さっきの声……ルーシー?今聞こえないのはなぜ?

※プロシュートが暗殺チームの一員だと知って(覚えて)いるかは不明です。


【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:健康、覚悟完了、戦士たちに感化された(?)
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 28/60)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾×2)、遺体の心臓
[道具]:基本支給品(水×6)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具、露伴のバイク、打ち上げ花火
    ゾンビ馬(消費:小)、ブラフォードの首輪、ワムウの首輪、 不明支給品1〜2、ワルサーP99(04/20、予備弾薬40)
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.とりあえずカーズについていくが……?
1.大統領に悟られないようジョニィに接触する
2.育朗とワムウの遺志は俺たち二人で"繋ぐ"
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する


【備考】
・進路はカーズ任せです。どの方向、あるいは誰の元に向かうかは次の書き手さんにおまかせします。



#


――溜息を吐く。

(ああ、確かに望み通りだ……)

再会自体は偶然。
カーズについて歩きだしてしばらく、彼が何やらブツブツとつぶやき始めた。
確認してみると自分からはまだ見えてもいない前方に参加者の集団がいたようで、口にしていたのはその内訳。
問題は……その中に千帆、そしてプロシュートらしき人物の特徴があったこと。
さらにカーズがこんな内容のことを言い出したのだった。

『用があるのであの集団に接触する』

178どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:32:20 ID:1vtLf/uI

この場合、行動する前に言ってくれたのは感謝すべき事項なのだろう。
蓮見琢馬はこの怪物らしからぬ言動を受け、カーズに頼み事をしていた。
目下、千帆との対話にあたって最大の邪魔者――プロシュート。
千帆から彼を殺してでもいいから引き離し、尚且つ千帆には一切手出ししないでほしい、と。
正直、カーズに何の得もない以上断られるのもやむなしと思っていたが……

『よかろう』

幸運なことに、この望みはカーズの目的と相反するものではなかったらしい。
然程興味すら示さず、たったそれだけ述べると目にもとまらぬ速さで自分だけ集団へと近づき……
実際、要求通りプロシュートともうひとり女性だけを連れて行ってしまった――余計な連中を残したままで。

(あいつは、絶対にわかっててやっている)

自分が置いて行かれたことについては問題ない、第四放送時に会場の中央へ赴く話は聞いている。
だがそこで文句をつけたとしてもおそらくどうにもならないだろう。
逆にこの要望の対価として何を要求されるか分かったものではないが……それより今はこちらだ。

(あの男――杜王町の借金取り立て屋、加えて外国人の青年と少年がひとりづつ、犬一匹に馬一頭)

なんともまとまりのない集団だが、数よりも初めて見る顔が多いというのが厄介だった。
さすがに自分の素性が割れているとは考え難いが、誰がどんな能力を持っているのか分かったものではない。
小細工で『本』を見せようにも、下手を打てば千帆まで巻き添えになる――

(……何を考えている)

それならそれで問題ないのではないか。
彼女がいなくなれば、もう自分は何の憂いもなくあの緑色の草原へと出発できるのではないのか。

(いや……違う)

――『罪』からは逃れられない。
千帆とこのまま何も話さずに終わるのは決着ではなく逃げだ。
最後の山場が丸ごと欠けている冒険譚など、読んだ者誰ひとりとして納得しないことは明白。
再度の対話……自分にとってそれは必要なことだった。

(最初から手荒な真似をする必要はない……プロシュートさえいないなら、後はどいつもこいつも――)

――その時。
青年が千帆へと詰め寄り、彼女の肩を掴んで何やら捲し立てはじめる姿が視界に入った。


              ――その子からさあ、きたない手をはなせよ。


……そんな思いがよぎったかどうかまでは、定かではない。

179どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:33:12 ID:1vtLf/uI

【D-3とD-4の境界付近 / 一日目 真夜中】


【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、精神的動揺(極小)
[装備]:遺体の右手、自動拳銃、アヌビス神
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る……?
0.ドでかい目標を持つものについていき、『答え』をその目で見る
1.千帆と決着をつける……?
2.その“もの”カーズと接触。あとはカーズの指示次第だが――?
3.自分の罪にどう向き合えばいいのかわからない=思考0へ
[備考]
※参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
※琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
 また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
 また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
※ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
※スタンドに『銃で撃たれた記憶』が追加されました。右手の指が二本千切れかけ、大量に出血します。何かを持っていても確実に取り落とします。
 琢馬自身の傷は遺体を取り込んだことにより完治しています。
※小林玉美の顔(と職業)は記憶していました。



#


遠方から何やら叫び声を聞きつけて一旦バイクを停め……徒歩でこっそり近づいた先には男女と動物の集団。
二人――宮本と吉良がそこに近づいたとき、既に『事件』はひと段落した後だった。
だが彼らに声をかけるべきか否か……そんな思考をする間もなく、耳に入ってきた会話が衝撃をもたらすことになる。

「おれの親友が体内に毒の指輪を仕込まれてて、その解毒剤がワムウの付けてるピアスの中に入ってる!
 はやくあいつに持ってってやらねえと、もうほとんど時間も残ってねえんだッ!!」
(――――――――!!)

毒の指輪、解毒剤、そしてワムウ。
断片的な情報だけでも、まぎれもなく自分と同じ状況と推測できる。
そして肝心の解毒剤があるかもしれない――しかもカーズが関わらないところに。
確定ではない、だがようやく掴んだ一筋の希望。

(横取り……いや、先回り……? どうする……どうする!?)

詳しく聞いたわけではないが、内容からして素直に譲ってもらえそうにないことぐらいはわかる。
どうすべきか……さらなる情報を得るべく耳を澄ましながら、彼らを出し抜くべく手段を考え続ける。

(やれやれ……どうしたものかね)

そんな思考の渦に入り込んで周りが見えなくなりかけている宮本を尻目に、吉良は自分たちの立ち回りについて考えるのであった――

180どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:34:03 ID:1vtLf/uI

【D-3とD-4の境界付近 / 一日目 真夜中】


【宮本輝之輔】
[スタンド]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:左耳たぶ欠損(止血済)、心臓動脈に死の結婚指輪
[装備]:コルト・パイソン、『爆弾化』した首輪(本人は気付いていない)
[道具]:重ちーのウイスキー、壊れた首輪(SPW)、フーゴの紙、拡声器
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男を倒す、自分も生き残る、両方やる
0.解毒剤の話!聞かずにはいられないッ!
1.柱の男や死の結婚指輪について情報を集める、そのためにジョセフとシーザーを探す
2.1のため、紙にした少年を治療できる方法を探す
3.吉良とともに行動する。なるべく多くの参加者にカーズの伝言を伝える
4.体内にある『死の結婚指輪』をどうにかしたい

※フーゴをシーザーではないかと思っています。
※思考1について本人(ジョセフ、シーザー)以外に話す気は全くありません。
 従って思考1、2について自分から誰かに聞くことはできるだけしないつもりです。
 シーザーについては外見がわからないため『欧州の外国人男性』を見かけたら名前までは調べると決めています。
※第二放送をしっかり聞いていません。覚えているのは152話『新・戦闘潮流』で見た知り合い(ワムウ、仗助、噴上ら)が呼ばれなかったことぐらいです。
 吉良に聞くなど手段はありますが、本人の思考がそこに至っていない状態です。
 第三放送は聞いていました。
※カーズから『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』という伝言を受けました。
※死の結婚指輪を埋め込まれました。タイムリミットは2日目 黎明頃です。
※夕方(シーザーが出て行ってからルーシーが来るまで)にDIOの館を捜索し、拡声器を入手していました。
 それに伴い、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会の倒壊も目撃していました。


【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:左手首負傷(大・応急手当済)、全身ダメージ(回復)疲労(回復)
[装備]:波紋入りの薔薇、空条貞夫の私服(普段着)
[道具]:基本支給品 バイク(三部/DIO戦で承太郎とポルナレフが乗ったもの) 、川尻しのぶの右手首、
    地下地図、紫外線照射装置、スロー・ダンサー(未開封)、ランダム支給品2〜3(しのぶ、吉良・確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
0.自分の存在を知るものを殺し、優勝を目指す
1.近くにいる集団への対応について考える
2.宮本輝之助をカーズと接触させ、カーズ暗殺を計画
3.宮本の行動に協力(するフリを)して参加者と接触、方針1の基盤とする。無論そこで自分の正体を晒す気はない
4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい

※宮本輝之助の首輪を爆弾化しました。『爆弾に触れた相手を消し飛ばす』ものです(166話『悪の教典』でしのぶがなっていた状態と同じです)
※波紋の治療により傷はほとんど治りましたが、溶けた左手首はそのままです。応急処置だけ済ませました。
※吉良が確認したのは168話(Trace)の承太郎達、169話(トリニティ・ブラッド)のトリッシュ達と、教会地下のDIO・ジョルノの戦闘、
 地上でのイギー・ヴァニラ達の戦闘です。具体的に誰を補足しているかは不明です。
※吉良が今後ジョニィに接触するかどうかは未定です。以降の書き手さんにお任せします。
※宮本と細かい情報交換は(どちらも必要性を感じていないため)していません。

181どこへ行かれるのですか? ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:35:11 ID:1vtLf/uI

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:紙化、右腕消失、脇腹・左足負傷(波紋で止血済)、大量出血
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.……(思考不能)

※フーゴの容体は深刻です。危篤状態は脱しましたが、いつ急変してもおかしくありません。
 ただし『エニグマ』の能力で紙になっている間は変化しません。
※第三放送を聞き逃しました。


【備考】
・D-5中央付近に拡声器を設置してきました。
 時限式で宮本の声で四放送時、カーズが会場中央で首輪解除を行うという内容を放送します。
 いつ放送されるか、あるいは放送自体がされるかどうかは不明です。
・イギーは周囲にいる人間(琢馬、宮本、吉良、紙にされているフーゴ)のにおいをかぎとっています。
 宮本組と琢馬はシーザー一行を補足していますが、他の者が別のグループに気づいているかは不明です。

182 ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/01(土) 00:40:47 ID:1vtLf/uI
書き込むところ間違えた…
以上で投下終了です。
ご意見、矛盾などありましたら遠慮なくお願いいたします。
見ている人がどれくらいいるかはわかりませんが新年ということもありますし気長に待ちます。

183名無しさんは砕けない:2022/01/04(火) 17:28:43 ID:uOFeQeCo
ブラボー!おおブラボー!
投下乙です!新年早々壮大な話が読めて最高にハイってやつですッ!

これで今年のジョジョロワが盛り上がってくれればいいですね!

話の感想ですが、どのキャラも「らしい」動きで最高です。トリッシュ様の方が美人ですドゴォは新年初笑いでしたw
カーズの動きもまっすぐルーシーに向かうのか、それとも…?と期待が膨らみますし、残された皆の立ち回りもハラハラが止まりません。
琢馬は琢馬で千帆に再度接触しそうですし吉良達も接近するとなれば、と一話で大きく話が動いて今後の話が楽しみになりました!

184名無しさんは砕けない:2022/01/06(木) 23:54:07 ID:FyrAPkS2
と、投下がきた!?2022年はいい年だ!

固定化されつつあった双葉とプロシュートのコンビをあっさり引き裂くカーズの怪物感やばいっすね。
まとめ役のトリッシュが抜けたグループでシーザーの「考えなきゃいけないこと」が積み重なってますが、そこに追い打ちをかけそうな来訪者たち……。
読み応え抜群でした。投下乙です!

185 ◆LvAk1Ki9I.:2022/01/08(土) 19:00:41 ID:xKOnPHbk
感想ありがとうございます。
二年近くあけておいてもう誰も見ていないんじゃないかと不安でしたがキチンと感想いただけて感謝の極みです。
6部アニメのテレビ放映も始まりましたし、こちらも少しでも進んでほしいですね。

wiki収録は状態表で宮本が拡声器まだ持ってたりなど細かい部分の手直しを予定しています。
とりあえず一週間ほど待ってのんびりやるつもりです。
ご意見などありましたら引き続き遠慮なくお願いいたします。

186 ◆yxYaCUyrzc:2023/11/12(日) 00:40:08 ID:J4o6mBSI
大変ご無沙汰しております。
ゲリラ投下ではありますが久々に作品を投下しようと思います。
お付き合いいただければ幸いです。

187 ◆yxYaCUyrzc:2023/11/12(日) 00:42:22 ID:J4o6mBSI
大変ご無沙汰しております。
ゲリラですが久々にSS書けたので投下しようと思います。
お付き合いいただければ幸いです。

188邂逅 その1 ◆yxYaCUyrzc:2023/11/12(日) 00:42:53 ID:J4o6mBSI
皆に聞くまでもなかったことなんだが――つい最近まで勘違いしていたことがあってね。

『エニグマの紙の中では意識があるのかどうか?』という問題について。

冷静に考えればなんてことはなかった。
意識があれば体を動かそうとする、自力で紙から脱出しようとする。
だが、それはできない。そういうスタンド能力だ。
しかもだ……体は動かせないのに恐怖やら痛覚やらは意識として存在する、だなんて。
とてもじゃあないが“そんな訳がない”だろう。きっとショックや疲弊で死んでしまう。人質としても使い物にならない。

つまり、エニグマの紙の中に閉じ込められた人間に意識はないという訳だ。ずっとあるものだと思っていたんだ、恥ずかしい。

では――紙の中の人間は何もできないのか?と聞かれれば、必ずしもそうではないようだ。
今回はそんな話をしよう。

*****

浮遊感があるようで、しかし地面に寝転んでいるようで――いや、立っているのかもしれない。
真っ暗なブラックホールが目の前にあったかと思えば、次の瞬間に視界すべてが極彩色でいっぱいになる。

これはアレだ。風邪ひいて寝込んでる時に見るやつだ。だが、なんでまた……

どのくらいの時間が経ったのだろうか。一瞬かもしれないし、二週間かもしれない。

「神ってよォ〜〜、どんなカッコウしてると思う?」

不意に響いてきたその声がした方を――どこから聞こえたかわからない。
振り向くべきなのか見上げるべきなのか……?

「白いローブでよォ、ヒゲ生やして?革表紙の本とか持ってんのか?」

こちらの様子を知ってか知らずか話を続ける声の主。

「でもよォ、ロベルト・バッジオの神業シュートとか、『マディソン郡の橋』の神懸かり的なカットとかよ。
 “そういう神”が“そういう外見”には思えねェんだよな、俺には。
 意外とさァ、Tシャツにジーパンとか?バッシュとか履いてたりして?

 居てもいいと思うんだけどな、そういう神がよォ〜〜」

パリパリと貼りついた唇がうまく動かない。
だが、動いたとて何を言えば良いものか……

「まっ、どっちも見たことねぇんだけども。会えるもんかね、俺らみてえな連中が」

言いたいことを言い切ったのか、迷っているうちに声が遠ざかり、そのうち聞こえなくなってしまった。

189邂逅 その2 ◆yxYaCUyrzc:2023/11/12(日) 00:43:39 ID:J4o6mBSI
「話したことはなかったが――俺は『重力』ってもんに一目置いているんだ。
 落ちに落ちて、堕ちまくった人間が言うと説得力あんだろ」

さっき、と言っていいのか。どれくらいかわからない時間が経ったのち、違う質感の声が響いてきた。
やはり正確な位置は分らない。ふわふわした体感と意識を両足に込めて姿勢を正し、思い切って口を開く。
想像以上にスッと声を発することができた。

「いい加減にしろよッ!
 さっきのミスタといい、人の夢に出てきておいてなんなんだアバッキオ!
 なんの暗喩だ!?言いたいことがあったらハッキリ言えッ!」

――言葉の中身は全然スッキリしたものではなかったが。
そして、アバッキオの名を出したとたん、パッと周囲の景色が一変した。
いつか立ち寄ったリストランテの一角に似ていた、ような気がする。

「……」

声の主、アバッキオの顔が窓からの日差しに照らされる。
相変わらずムッツリとした、機嫌が良いんだか悪いんだか、そんないつもの表情だった。
返事はない。

「そうだぜェ〜アバッキオよぉ〜、俺にもわかるように説明しろって!
 いや?俺がバカだとかそういう訳じゃねえぜ?5歳児にもわかるように説明できなきゃいいプレゼンじゃねェって読んだことあるぜ〜?」

いつの間にか居たミスタが手元でカチャカチャと食器を奏でつつ口を開く。
ちらりと目をやると、こちらにバチンとウインクをしてきた。“どうだ?いいアシストしてやったろ?”と言わんばかりだ。

「……」

そんなミスタを一瞥しつつもアバッキオは口を開こうとしない。
沈黙は嫌いではないが、質問に答えてこないというのは気に食わない。
ちっ、と短く舌打ちをしたのは僕か、ミスタか、それともアバッキオ自身か――

「全員落ち着け。俺の意見を聞かせてやる」

チリン、とドアのベルとともに聞こえてきたその声は。
もう二度と聞くことはできないとあの時決意し嘆いた、あの声だった。


「つまり『どうしようもない力(パワー)はどうしようもなくこの世に存在する』ということだろう。
 避けることのできない事象。重力、時間、太陽の輝き、そして死」

最後の単語が耳に入ってきたとき、堪らなくなりそちらを向く。
凛々しくもどこか乾ききったような、かつて見ていたその目と視線がかち合った。

「ということは僕は死んだと?だからここで皆と再会して会話が出来てるって?
 そういうことですか、ブチャラティ」
「相変わらず頭の回転が速いな」

その言葉に理解した。そうか、そういうことだったのか――
フンと鼻を鳴らすアバッキオ、大ゲサにあーあ、とため息をついて僕を見やるミスタ。
頭が重い。それこそ重力に逆らえなくなり、ゆっくりとうなだれた。

「だが違う」

190邂逅 その3 ◆yxYaCUyrzc:2023/11/12(日) 00:44:03 ID:J4o6mBSI
「……」
アバッキオは何も言わなかった。
「……」
ミスタも何も言わない。
「……え?」
長い長い沈黙の末にあげた声は、今までにないほど素っ頓狂なものだった。

「だが違う、と。そう言ったんだよフーゴ」
それが当然とばかりに手をひらひらとさせるブチャラティ。
理解が追い付かない。喜ぶべきなのか惜しむべきなのか、それとも恐怖すべきなのだろうか。

「さっき自分で言っただろう。そうフーゴ、これは君自身の夢の中だ。明晰夢ってヤツだな。
 そこで死んだはずの人間と会話している。つまりオレ自身も死んじまったんだ、だからこうして会話できているんだ、と」
狼狽する僕の様子から言葉に困っていると察してくれたのか、ブチャラティが続ける。

「だとしたら“なぜここにジョルノがいないのか”?気にはならなかったか?
 おまえはジョルノが死んだと考え、絶望し、恐怖したからこそ今ここにいるんだろう?」

ハッとする。弾かれたように上げた顔を風が吹き抜ける。いつの間にかミスタが窓を開いていたようだ。

「つまりそれって」
「さてアバッキオ、レコードをかけてやってくれ」
「ああ」

やっとのことで口を開いた僕の言葉を遮ったブチャラティと、それを聞きてきぱきと準備をするアバッキオ。
ブチャラティがレコードをかけるとき。それはつまり一人にしてほしいという合図。
だが“かけてやってくれ”ということは……

「ま、待ってくれブチャラティ。僕はいったいどうすればッ」
慌てて言葉を繋げる。行ってほしくない。いっそこのまま、と思ってしまったのだ。
ついて来いと言ってほしかった。もう休んでいいと肩を抱いてほしかった。

「どうすれば、いったな――なら『準備』をしておけ」

言いながらドアに向かうブチャラティ。アバッキオはさっさと、ミスタは手を振りながら……すでに向こうに行ってしまった。

「『覚悟』をする、その準備な」
ちらりとこちらを振り返ったその目は少し細められたように見えた。
憂いたのか呆れたのか――いや、きっと笑ってくれたんだろう。そう信じたい。


レストランに残された僕の視界がゆっくりと暗転していく。
遠くなるレコードから流れてくるトランペットの音がいつまでも耳に残っていた。


*****

そう――意識のない人間が出来ること。それは夢を見ることだ。

もっとも、これはあとになって聞いた話だし、見た夢の中身なんて本人にしか知りようがない。
これが事実かどうかはフーゴ自身にしかわからないことだろう。

ともあれ、フーゴはこれから覚悟の準備をすることができるのだろうか?それはまた別の話になりそうだ――

191邂逅 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2023/11/12(日) 00:44:22 ID:J4o6mBSI
【??? 紙の中 / ??? 1日目 夜〜深夜】

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:紙化、右腕消失、脇腹・左足負傷(波紋で止血済)、大量出血、恐怖(?)
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ
0.???(思考不能)
1.『覚悟』の『準備』をする……?

※フーゴの容体は深刻です。危篤状態は脱しましたが、いつ急変してもおかしくありません。
 ただし『エニグマ』の能力で紙になっている間は変化しません。
※第三放送を聞き逃しています。

192邂逅 ◆yxYaCUyrzc:2023/11/12(日) 00:45:42 ID:J4o6mBSI
以上で投下終了です。
久っっっ々にジョジョロワ書きました。
ジョジョ9部も始まったことですし、書き手さんも読み手さんも戻ってきてほしいですねえ。

誤字脱字や矛盾点ありましたらご指摘ください。それでは

193 ◆yxYaCUyrzc:2023/11/12(日) 00:50:33 ID:J4o6mBSI
あ、最初の投下開始レスが連投になってる、申し訳ない・・・

194名無しさんは砕けない:2023/11/13(月) 23:10:08 ID:C2hQpxXA
投下乙です、ひさびさのジョジョロワが乾いた体に染み渡る……。
「『覚悟』の準備」なんてワードの印象を激エモssの余韻で上書きできるのはこの企画を追ってるヤツだけの特権だな。
恥パで設定されたブチャラティのレコードの描写もニヤリとさせられましたね。

195 ◆yxYaCUyrzc:2023/11/20(月) 05:35:45 ID:LHTCdDJI
感想ありがとうございます!
誤字脱字等もないようなので、今週中にはwikiに収録しようと思います。


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