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中学生バトルロワイアル part6

1 ◆j1I31zelYA:2013/10/14(月) 19:54:26 ID:rHQuqlGU0
中学生キャラでバトルロワイアルのパロディを行うリレーSS企画です。
企画の性質上版権キャラの死亡、流血、残虐描写が含まれますので御了承の上閲覧ください。

この企画はみんなで創り上げる企画です。書き手初心者でも大歓迎。
何か分からないことがあれば気軽にご質問くださいませ。きっと優しい誰かが答えてくれます!
みんなでワイワイ楽しんでいきましょう!

まとめwiki
ttp://www38.atwiki.jp/jhs-rowa/

したらば避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14963/

前スレ
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1363185933/

参加者名簿

【バトルロワイアル】2/6
○七原秋也/●中川典子/○相馬光子/ ●滝口優一郎 /●桐山和雄/●月岡彰

【テニスの王子様】2/6
○越前リョーマ/ ●手塚国光 /●真田弦一郎/○切原赤也/ ●跡部景吾 /●遠山金太郎

【GTO】2/6
○菊地善人/ ●吉川のぼる /●神崎麗美/●相沢雅/ ●渋谷翔 /○常盤愛

【うえきの法則】3/6
○植木耕助/●佐野清一郎/○宗屋ヒデヨシ/ ●マリリン・キャリー /○バロウ・エシャロット/●ロベルト・ハイドン

【未来日記】3/5
○天野雪輝/○我妻由乃/○秋瀬或/●高坂王子/ ●日野日向

【ゆるゆり】2/5
●赤座あかり/ ●歳納京子 /○船見結衣/●吉川ちなつ/○杉浦綾乃

【ヱヴァンゲリヲン新劇場版】2/5
●碇シンジ/○綾波レイ/○式波・アスカ・ラングレー/ ●真希波・マリ・イラストリアス / ●鈴原トウジ

【とある科学の超電磁砲】2/4
●御坂美琴/○白井黒子/○初春飾利/ ●佐天涙子

【ひぐらしのなく頃に】1/4
●前原圭一/○竜宮レナ/●園崎魅音/ ●園崎詩音

【幽☆遊☆白書】2/4
○浦飯幽助/ ●桑原和真 / ●雪村螢子 /○御手洗清志

男子11/27名 女子10/24名 残り21名

416ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 16:55:44 ID:nKJI5gdQ0
『今後ともよろしく』が終わる時が来たら。
どちらかを、生かすとしたら。
浮かばれない選択だったとしても、綾波レイは自分が生きることを選べない。

生きることに不器用な自分よりも。
一人では生きていけない自分よりも。
生きていても、どうしたらいいか分からない自分よりも。
未だに、芽生え始めた『熱』の正体が分からない自分よりも。

生きてやりたいことがある彼の方が。
こちらに手を伸ばして、ともに歩いてくれた彼の方が。
たくさん持っていて、色々なことを教えてくれた彼の方が。
碇シンジの『ぽかぽか』とは違うけれど、それでも不思議な『熱』を与えてくれた彼の方が。

出会わなければよかった。
もしかしたら、出会えてよかった。



「…………私、越前くんに死んでほしくない」


【少女少年2】


天野雪輝のシャワーを浴びたいという申し出を、秋瀬或は快く許可した。
放送の前後というどの参加者も慎重になる時間帯ではあったし、
何よりグラウンド百週を経て疲労根培にあたる彼が汗を流すことさえ許されないのはあまりにも理不尽だし、
そもそも、これから恋する相手に会いに行こうという予定である。
汗だくの上にほぼ一日シャワーを浴びていない身体で向かわせるほど、秋瀬或は非紳士的ではない。

それに、天野雪輝が同席していない間にも、会話をしておきたい相手はいる。
例えば、すぐ隣で車椅子に座って、カセットプレイヤーに似た小型機器から音楽を聴いている少年だとか。
細いイヤホンを耳にあて、むっつりとした視線を階段の上へと向けている。
さきほど綾波が屋上へと向かってから、そうなった。

「何?」

こちらを観察する視線に気づいたらしく、音楽を止めてイヤホンを外した。

「いや……音楽が好きなのかな、と思って」
「そんなに。Jポップなら聴くけど」
「確か遺品だったよね、それ」

ずばり指摘すると、むっつりした顔にさらに苦味が加わった。

「綾波さんに返すつもりだった、けど……タイミング逃した」
「喧嘩でもしたのかい?」

さらに、ずばり。

417ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 16:57:27 ID:nKJI5gdQ0
「なんで……」
「さっきまで団結ムードだった君たちが、離れ際に会話をしてからぎこちなくなった。
戻ってきた君は彼女の大切な人の遺品だったものを取り出していて、扱い始めた。
探偵じゃなくても、チームを組んだ人たちがこんなことを始めたら気にするだろうね」

チームを組んだ人たち、を強調すると、さらに苦い顔。

「喧嘩は、してない……って言うか、喧嘩ふっかけて、買ってくれる人なら苦労しない」

関係ないじゃん、でバッサリ話を終わらせにかかるかと予想したが、そうはならなかった。

「つまり、相手に対して不満があるけれど取り合ってもらえない……ということかな?」
「…………あんた、探偵じゃなくて家政婦じゃないの」
「これから命を預ける同盟に亀裂があるなら心許ないからね。
それに、女性の扱いに関しては君より自信があるつもりだよ」

果たして帰国子女にも家政婦イコールデバガメという連想ができるのだろうか、それはともかく。
秋瀬の言葉の後半を聞いて、越前の目が興味を示すように動いた。

「だから、喧嘩とかじゃなくて」

まだ出会ってから時間はたっていないが、ここまでのやり取りから彼のプライドが高いことは分かる。
それなのに、弱音の一端でもこぼすということは。



「綾波さんが『明日の昼まで生きて海を見られるか分からないしね』って言った」



そのことに衝撃を受けているということだ。
この際にと他人の参考意見だろうとも、取り入れようとするぐらいには。

「俺が、綾波さんが死ぬわけないじゃんって言ったら、『俺には分からない』んだって。
俺は綾波さんや雪輝さんや神崎さんやバロウ・エシャロットみたいな人とも違うから、分からないんだって。そう言われた」

越前を理解していくためにも、秋瀬は整理する。
雪輝と出会ってから病院に向かうまでの行動や、その後の会話での気持ちの切り替えようを見た限り、彼は基本的に終わったことを引きずらない性格だ。
さらに言えば、雪輝に対しての遠慮のない話し方からは、人とぶつかり合うことを恐れる性分だとも思えない。むしろ好んでいるようにも見える。
だとすれば。

彼が誰かと諍いを起こして落ちこむとしたら、それは。

「神崎さんの時みたいに、言い方が悪かったんスよ。
碇さんも高坂さんも死んだのに、『死ぬわけない』とか言ったんだから。
だから綾波さんも俺が分かってないって言っただけで、それで終わり。
喧嘩じゃなかった。喧嘩売って、挑発して、どうにかなるものじゃないし」

自分が失言をしたせいで相手に距離を置かれたことをはっきり自覚していて、
なおかつ、そんな自分のことをどう改めたらいいか分からないケースではないか。

――越前君には、きっと分からないわ。
――私と越前君では、やっぱり違うもの。
――私とも、天野君達とも、神崎さんとも、あの敵になる人とも、違うもの。

言葉を復元してみるなら、およそそんなことを言われたのではないかと推測する。

418ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 16:59:14 ID:nKJI5gdQ0

「君は本気で、『これ以上死ぬことなんて有り得ない』と思ってるのかい?」

前提として、尋ねてみた。
単に仲直りの手伝いがしたかっただけではない。
彼にはまだ『何をしたいのか』と恒例のことを聞いていないし。
手塚や真田の遺言に殉じるならば、彼は『柱』になろうという人物だ。
自分たちの協力者となり得るだけならば、まさに猫の手だろうと借りたい状況だけれど、
これから雪輝たちを率いる立場を目指すのなら、その行動方針は確かめなければならない。

「……かもしれない、とか考えないようにしてる」

膝の上の音楽プレーヤーをぎゅっと握りしめて、越前は答える。
淡々と。

「テニスするなら……テニス以外でもそうだと思うけど、試合してる時に『勝てないかもしれない』とか考えてするものじゃないでしょ。
ちょっとでもそんなこと思ったら、絶対にプレーに影響する。動きを鈍らせる。
戦ってる時は、なくすことなんて考えちゃいけない」
「正論だね」

一言で評価すると、相手はむっとしたように顔を上げた。
意地を張る子どものような顔。

「それが悪いんスか?」
「いや、正しいよ。ちなみにその正論だけど、勝てなかった時はどうするつもりだい?」
「諦めない。次はなくさないようにすることだけ考える」
「なら、全てを奪われた後はどうするつもりだい? 負けっぱなしで終わりたくないから、奪っていった相手でも攻撃する?」
「何が言いたいんスか」

反発してくる言葉には、しかし呻くような湿っぽさがあった。
彼もまた、内心では気づき始めているのだろうと察する。
ここまでゲームが進行した現状に至るまで、それなりの修羅場は経験してきたはずなのだから。

「確かに君と僕たち――少なくとも、僕や雪輝君たちとの在り方は違っているよ」

まっすぐな瞳に視線を合わせ、対峙する。
少しずつ、理解は追いついてきた。
なるほど。
協力者になってくれたこと自体は有難い。
命を助けてくれたことには心から有難いし、まず雪輝を受け入れてくれたことだけでも万感の感謝を尽くしたいほどだ。
だがそれはそれとして、
足りない。まだ、若いし青い。

419ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:00:12 ID:nKJI5gdQ0
「僕がかつて出会った日記所有者の中にも、『自分が勝つことだけを想定して突撃する』タイプの人はいた。
でもその人の場合は、過酷な環境を生きてきて、負けることが死に直結するような生活をしてきたからそうなったんだ。守るものも失うものも自分の命だけだったしね。
あるいは、『誰も死なせない』と主張するような理想家なのかとも思ったけど、それも違うね。
君は僕らみたいに困った人を助けてくれたけど、正義の味方になりたいわけじゃないだろう?」

こくり、と頷きがあった。
平和な世界なら、これでも良かったのかもしれない、とは思う。
行くぞと声をかけて皆が付いていくような、誰もがいっしょに高みを目指してくれるような、ストイックなスポーツマンばかりの世界だったら。
すでに彼は、ひとかどの『柱』になれるぐらいの資格は満たしていたのかもしれない。
だが、この世界は違う。

「君はきっと、本当に芯からスポーツマンなんだよ。
優勝賞品が欲しくて戦ってきたわけじゃない。ただ、勝つための戦いだ」

たとえば1つだけ願いを叶えてもらえるとして、『全国大会で優勝させてください』なんて願ったりはしないだろう。
実力で手に入れたものではない勝利など、虚しいだけなのだから。
だから彼に、夢はあっても願いは無い。

「裏を返せば、誰かに叶えてもらう類の望みには慣れていない。
もっと言えば、『大切なものを、自分にはどうしようもできない理不尽によって奪われるかもしれない』恐怖なんて、すっかり想像の外だった。それだけのことだよ」

『神から与えられた意味などに価値はない』と真田が言っていたことを、思い出す。
そして、全てを放棄することを選んだ、神崎麗美の目を思い出す。
神崎麗美が、越前に対して怒りを顕にしたという話も、思い出す。

「それって、命懸けで使徒と戦わされるとか、神様を決める殺し合いをやらされるとか?」
「雪輝君たちに当てはめればそうなるだろうけど……そうだね、実感できるように例え話にしようか」

真田に秋瀬自身のことを問い詰められた時には、言い返せなかった。
その意趣返しというわけではないが、言葉に詰まってもらうのも、いい勉強になるはずだ。

「もし、君が急に難病にかかって、テニスができない体になったらどうする?
それが、どんなに治療しても努力しても、絶対に治らないものだったら、どうする?」

それでも、君は強くあれますか?
まっすぐだった両目が、急に視覚を失ったかのように凍りついた。
唾を飲もうとするように喉を動かしても、口が渇いていてごくりという音さえ出ない。

「絶対……っスか? 手術しても、リハビリしても?」
「その反応は、心当たりでもあるのかな?
どんなに努力しても這い上がれない。戻りたくて血を吐くようにがんばったけど無理だった。誰が何をしても救えない。
君のいる世界だって、そういうことは起こり得たはずだ。君もそうならなかったとは言えないよ」

本人の選択によるものでもなく、過失によるものではなく。
世界を恨みたくなるような理不尽の果てに、生きがいとなるものを奪われる。
そんなのは、どうしようもない。
歯がゆそうな顔が、そんな答えを雄弁に映し出したタイミングで、さらに問う。

「もし、願いを何でも1つ叶えてくれると言われたら、すがりつくんじゃないか?
――そういう時に、『願い』が生まれるんだよ」
「だから、殺し合いに乗ったって言いたいの? 部長を殺したアイツも、我妻由乃さんも?」

420ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:03:06 ID:nKJI5gdQ0
きっぱりと、
不機嫌さを含んだ無表情から言い放たれたのは、肯定であり否定。

「どういう意味かな?」

我妻をはじめとする殺人者達から、そして我妻による『被害者』達からも『柱』として雪輝の前に立つというのなら、
その正しさを、どう行使するつもりなのか。
ラケットさえ持たなければただの傲慢な少年に過ぎない彼に問いかけて、答えを待つ。

「……本当はあれこれ考えて動くのって苦手なんスよ」

その言葉が皮切りだった。
感情を抑えるように淡々と答えていた言葉から、ふっつりと『力』のようなものが抜けた。
理性だとか思考だとかの制御を手放すように、軽くなった。

「でも殺し合いをどうにかすることにして、『柱』になるって決めたから。
だからちゃんと考えなきゃいけないって思うようになった」

いきなり、違和感が生まれた。
答えになっていない、だけではない。饒舌になっているだけでもない。
言葉が、滑らかに流れ出した。
ずっと前から用意していた言葉が、とうとう口をついたように。

「それが、神崎さんを殺しかけてから、余計ややこしくなった。
神崎さんにも、今言われたのと似たようなこと言われたから。
『人を殺さなきゃ生きていけないようなヤツは、生きる価値もないのか』って。
綾波さんがいてくれなかったら、俺はYesって答えるとこだった」

違うと、気づいた。
本当に『いきなり』のことだったのだろうか。
そもそも、さっきまでの彼は本当に『落ち着いて』いたのか。
本当に冷静だったら、いやいやでも素直に相槌を打ったりしないのではないか。
さっき天野雪輝と話していた時のように、相手の神経を逆なでするような言葉でまぜっ返していたのではないか。
いつもの彼ならば、そういう余裕があったのではないか。

予感する。
いつもは深く考えるよりも心に従って、言葉を尽くすよりも行動で示してきた少年がいたとして。
安易にそれができない状況で、どれが正しいのか考えて、ずっと抱えこんできたとしたら。
しかも、肝心の一番にぶん殴りたい神様はどことも知らない観客席にいて、溜め込んできたとしたら。
いったいそれは、どれぐらいの総量になっているのだろう。

音楽プレイヤーを丁寧にディパックの中にしまいながら、越前は言った。



「秋瀬さん、俺、ぜんっぜん正しくなんかないよ」



泣いていない。

遠山金太郎の凄惨な遺体に遭遇した時は、涙を必死に堪えていたらしいのに。
死んでいった仲間のことを話した時は、綾波レイの手を握って泣いていたのに。
現在の『積もりに積もっていたらしき何か』をぶちまけようとする越前リョーマは、ちっとも泣いていなかった。

421ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:03:50 ID:nKJI5gdQ0
「どういうことかな」

それでも秋瀬は、その地雷を踏まずにはいられなかった。
誰か(雪輝かもしれない)に踏ませてしまう前に自分が踏んでおいた方がいいというとっさの判断と。
これ以上、崩さずに積もらせておくのが恐ろしいという直感で。
言葉を促すと。




積もっていた何かが、どっと決壊した。



「ただ、普通にテニスを好きでいたいだけだよ。
人を殺して叶えるなんて夢じゃないとか死んでもいいとか、そんなこと思ってなかったし。
ってゆーか俺、べつに人の夢が何だろうと興味ないっスよ。
神崎さんに怒ったのも跡部さんが関わってたからだし、そうじゃなきゃもっと他人事だった。
他人にそれは間違ってるとか押し付けるのも、押し付けられるのも嫌いだし、正義の味方とか興味ない。
コートでタバコ吸ったりテニスを舐めてる奴はキライだけど、それだけ。
俺、そんなお節介じゃないから、むしろ冷めてるぐらいだし。皆が俺のことを性格悪いって言うけど、自覚あるし。
そりゃ、たまにいいことだってしたよ。目の前で弱いものいじめしてる奴らがいたらムカつくし。そいつらを懲らしめるぐらい普通だったし。
いじめてる奴をいじめるのが楽しかったし。べつに、人助けをしたいとか思ってなかったし。
自分のしてることが人から見て正しいかとか、あんまり考えたことなかった。
でも、それで人から感謝されたりしたから、それも悪くないかと思ってた。
正しくなんかないよ。神崎さんの時も天野さんの時も正しいのか考えて、分からないなりに考えて、結局自分がムカつかない方を選んだだけだよ。
本当は変な理屈ばっかりで頭おかしくなりそうだったんだから」

叫ぶでもなく、ただ静かな静かな言葉で。
濁流のように、『泣いていない泣き言』が吐き出されていく。
『悪い人間』を自称していく。

思った。
皆が守るべき、弱者のための正義を貫くのが正義の味方だとしたら、
自分のわがままのために正義を貫く人間は、悪人になるのだろうか。

思った。
願いに狂い、それ以外の全てを犠牲にする者を『狂人』と呼ぶのなら。
願いに狂わない、しかし狂人から見ると悪い者は『悪人』と呼ばれるのだろうか。

422ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:05:09 ID:nKJI5gdQ0
「俺だって、『そっち側』を選んで楽になれるなら選びたかったよ。
もう絶対にテニスができなくなるなんて、嫌だよ。絶対に地獄だよ。
それぐらい分かるよ。神崎さんも、バロウって奴も、楽しいことぜんぶ忘れたみたいな顔してたから。
べつに、嬉しくて部長や跡部さんのこと背負ったわけじゃないよ。勝手に死んでバカじゃないのって思ったに決まってるじゃん。
神崎さんだってそうだよ。謝って許してもらえたからって安心して死んでどうすんだよ。
俺、アンタに『負けた』ままだったのに。俺も何か返さなきゃいけなかったのに。
でも、死んだ人だって、辛かったはずだから。
遠山だって、あんな風に斬られて、痛かったはずだし、苦しかったし、我慢したに決まってるから。
そういうのを上から見下ろして、嗤ってる奴らがいるんだよ。一生懸命我慢して、頑張ってるのを上から目線で『無駄な努力だった』って言われてるみたいで。
そんな神様がいるって思ったらすごく気持ち悪かった。許せなかった。
こんなに誰かを許せないと思ったの、初めてだった。だから、背負うことにした。
それが見てて殺意湧くって言われて、間違ってるって言われて、そういうこともあるのかって思ったけど、モヤモヤした。
俺だって、自分が死ぬこと考えたら怖い。神崎さんに脅されて、正直怖かった。
自分より強そうにしてるからって、苦しくなさそうとか楽してるとか勘違いしないでよ。
強く見えるからって、分からないからって仲間はずれにするなよ。

……明日には、もう死んでるかもしれないとか、言うなよ!!」

全てを吐き出しつくすような声が途切れたと同時に、越前の息も切れた。
長い長いラリーを終えた後のように、すーと息を吸い。
はー、と息を吐く。

天井を見上げ、浮かぶ表情は、全てを吐き出し尽くした疲労と、
言いたいことをいって、少しはすっきりしたかのような脱力と、
『言ってしまった』とでも言いたげな、羞恥のんじにだ後悔の色。

「それなら、君はどうして『柱』なんてものを目指そうとしたんだい?」

これ以上の質問を重ねることは酷かもしれないのに、それでも聞かずにはいられなかった。
なぜなら彼は、ここまで泣き言を言っておきながら。
それでも、『柱になるなんて無理だ』とか『俺はただの中学生なのに』という類の言葉を、決して口にしなかったのだ。

「勝ちたい……」

死者たちの遺言で押し付けられたのではなく、自分の意思で選んだことだとでも言うように。

「人を蹴落として、自分だけ『願い』を叶えて最後に嗤うんじゃない。
汗流して頑張ってきたことが、『無駄な努力だった』って嗤われるのが嫌だ。
一人だけで勝つんじゃない。そういう勝ち方がしたい」

やり方が良くなかったみたいだけど、と付け加えた。

423ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:05:53 ID:nKJI5gdQ0

逆ギレされるとは予想外だったな、と内心で反省する。
雪輝にグラウンド百週という無茶振りをさせた意趣返しに、本当ならもっときつい言葉を言うつもりだったのに。
秋瀬が口にしたのは、もっと甘い言葉だった。

「べつに今までのやり方を変えろと言ってるわけじゃないよ。
死を覚悟することと、死を起こさせないという気持ちで戦うことは矛盾しない。
大切なのは、最悪が起こらないなんて『油断』をせずにいこうってことじゃないかな」

そう言うと、越前が目を丸くした。

「アンタ……知ってたの?」
「何を?」
「知らないなら、別にいい」

ふい、と顔をそむけられる。
しかし、さんざん愚痴をこぼし終えた後だからなのか、喋り方には調子が戻っていた。

「無駄だったなんてことは無いよ」

そして、その中身には秋瀬或と共通している部分もあった。
だから、話しておくことにする。

「僕にも、自分のしてきたことを意味がないとリセットされたことがあったんだ。
ここに来るまでは思い出せなかったんだけど、雪輝くんから『世界が二週している』ことを知らされて、少しずつ記憶が蘇ってきた」
「リセット?」
「うん、このままだと破滅する不幸な人たちがいて、僕は依頼を受けた探偵としてその人たちを救けたんだ。
でも神様の手先がそれをなかったことにして、また元の不幸だった状態に戻されてしまった」

それは、少しずつ思い出してきた、たった数日の“逆説の日々(パラドックス)”だった。
一週目の世界とも二週目の世界とも異なる、なかったことにされた世界。

「でも、ぼくはリセットされる前の日々が無意味だったとは思ってないよ。
彼等は確かにあそこにいたし、事件が解決した後は笑っていたんだから。
たとえ消されてしまった笑顔でも、笑顔は笑顔だ。
人にどう言われようと、価値が変わるものじゃない」

意味が分かっているのかいないのか。
ふーんと相槌をうち、越前は背もたれにより深く身体を預けた。

「のど、かわいた……」
「飲み物、買ってきましょうか?」

真横から声をかけられ、その肩がびくんと上下する。
綾波レイが戻ってきたことに、越前はその時まで気がついていないようだった。
ぎこちなく言葉を交わして、また送り出す。

424ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:06:54 ID:nKJI5gdQ0
「見たところ彼女の方は、気まずさを覚えたりはしていないようだけど」
「綾波さん的には、当たり前のこと言ったつもりなんじゃないの?」

その『当たり前のこと』が、越前にとっては積もりに積もっていたものを吐き出す最後のひと押しになったわけだが。

「ずいぶん溜め込んでいたようだけど、彼女には打ち明けなかったんだね」

そこが気になった。
リハビリ室でのやり取りを見る限り、二人はずいぶんと打ち解けている様子だったのに。
越前の性格からして簡単に弱音を吐くわけがないことは分かるが、それでも泣いているところを見せるぐらいには、気を許していたのに。

「今の綾波さんに、当たれるわけないじゃん」

綾波が去っていった方向を見ていた越前が、くるりと顔を向けた。

「だって……」

『だって』から続く感情をすべて訴えるように、眼に力のようなものがある。

だって。
だって。
だって!

「だって綾波さん、碇さんが死んでから、一度も笑ってない」

なるほど、と理解するしかなかった。
彼にとって最後のひと押しになったのは、綾波の言葉そのものではなかったことも。
『分からない』と言われて拒絶されたようになっていた理由も。

「さっきの『そっち側』に行く行かないの話だけど……綾波さんは、違うよ」

少しの沈黙をおいて、越前は調子を取り戻すように深く呼吸すると、そう言った。

「綾波さんは、碇さんを取り戻すために殺し合いに乗ったわけじゃないし」
「それはごめん。僕としては『誰もが君のように負けん気だけで生きていけるわけじゃない』という意味も含めたつもりだったから」

言い返せないのか、越前が言葉をひっこめて軽く唇を噛む。

「でも、綾波さんは生きてるよ。バロウ以外は、誰も傷つけてない」

そんな角度から、反論は返ってきた。

「自分のことにも自信無さそうなのに、自分にできることを探そうとしてる。
秋瀬さんが言うみたいな辛いことも遭ったけど、そこで終わりにしてない」

越前は帽子のツバを傾けて、その表情を隠した。

「ずいぶん、評価してるようだね」
「……何回も、助けてくれたから。
他人のこともあんまり関心ないように見えるけど、一緒にいるといつも優しかったし。
俺、ああいう風に素直に優しくするのってできなかったから。
『ぽかぽかする』ってどういうことなのか、なんとなく分かった」

そんな綾波に、パートナーとしてどうしたらいいか分からない。
それはきっと、悔しいはずだ。

「綾波さんが一緒なら、もっと上にいけそうな気がする。
でも、綾波さんにとってはそうじゃないのかもしれない」

425ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:08:00 ID:nKJI5gdQ0
越前は、さらに帽子を傾けた。
それはもう、帽子を深くかぶるのを通り越して顔の正面に帽子があるようなずり落ち方で、その顔はすっかり帽子で隠れてしまった。

今までで一番、力ない声で。

「綾波さんと、いっしょにいたい……」



【少女少年3】


そして、二人が二人の元に戻ってきて.
彼等は四人になった。

「跡部景吾君が残した首輪の図面から分かったこととして、首輪には盗聴器が仕掛けられている。まず、これを大前提としよう」

仕切るのは、秋瀬或だった。
ある程度の情報交換は雪輝がランニングをした時に済ませていたし、休憩から話し合いへと移行する切り替えも、スムーズなものだ。

ただし、一名を除いて。

「うん、それはいいんだけど……コシマエはどうかしたの?」

その約一名は、一同から背中を向けて座っていた。
話しかけても無言だった。
表情を確認すれば、どう見ても『しろめ』とか『しんださかなのめ』にあたる状態。
何か深刻な悩みでも抱えているのかと思ったが……どうも惚けているというか、それとも違う空気だった。
その理由を秋瀬或は知っていたから、答える。

「自分の言った青臭いセリフが、よりによって主催者に一言一句筒抜けだったのがショックだったらしいよ」

実際、さっきは『なんでそれをさっきの話をする前に言ってくれなかったんだ』という顔で睨まれた。
限りなく殺意に近い何かがあったのでヒヤリとした。
それから筆舌に尽くしがたい表情をした後、背中を向けて固まり、現状に至る。

426ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:08:46 ID:nKJI5gdQ0

「でも、盗聴されているなら、この会話は大丈夫?」

綾波が首輪を指差して、話題を切り替えた。
首輪で命を握られているとすれば、それは当然の懸念だろう。
しかし、

「その心配はいらないよ。
主催者は脱出派の首輪を爆発させるために、盗聴器を仕掛けたわけじゃ無さそうだから」

綾波と雪輝が、その意味をつかみかねた顔をする。

「雪輝君。未来日記のサバイバルゲームでは、日記所有者が盗聴されていたかな?」
「ううん、ムルムルならそんなことしなくても…………あ、そうか」

雪輝の顔に、すぐ納得が宿った。
神の領域にいたムルムルは、下界の好きな場所を好きな時に、テレビでも見るように映し出していた。
以前のサバイバルゲームでも、盗聴器など仕掛けるまでもなく、全ての所有者の動きを見ていた。
秋瀬或にも“逆説の日々(パラドックス)”の記憶がよみがえってきた今となっては見た覚えがあることだ。

「そう、本気で参加者を監視するつもりなら、ムルムルがいる時点でずっと確実な方法がある。
それに、もうひとつ。『新たな神』とムルムルたちだけで殺し合いを運営しているなら、盗聴器をしかける必要はない」
「つまり人間の『大人』が――11thみたいな勢力が、殺し合いに協力してるってことだね」

雪輝の理解は早かった。
さすが、サバイバルゲームの経験を全て覚えているだけのことはある。

「そうなるだろうね。『新たな神』の正体にもよるだろうけど、神の眷属が盗聴器を用意するとは思えない。現時点で疑わしいのは何週目かの11thだけれど」
「監視することが目的でないなら、盗聴をしているのは、なぜ?」
「可能性が高いのは、記録をするためかな。人間も使う音声機器なら、録音しての持ち運びも用意だからね。
ちなみにセグウェイで探索している時に調べてみたけど、会場内に監視カメラを仕掛けたような痕跡は見当たらなかったよ」
「秋瀬くん、そこまで調べてたの……?」

驚く雪輝に、たまたまだよ、と否定する。

「ちょっと会場に違和感を覚えたからね。ついでに気がついたんだ」
「違和感?」

首を傾げる綾波を見て、雪輝へと尋ねる。

「雪輝君は、この場所に何か感じなかったかい?」
「おかしいと言えば、ツインタワービルや桜見市タワーがあったことだけど。
それから、建物に入った時に……電気もガスも水道も普通に使えたのは、おかしいと思った。
この地図には自家発電するような発電所とか無さそうだし……どこから引いてるのかなって」

427ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:09:39 ID:nKJI5gdQ0
「そう。綾波さんもツインタワーにいたときのことを話してくれたよね。
レストレランでは食事が調理済みのまま用意されていたし、買い物売り場には開店しているかのように商品が並んでいた。
ちょっとしたマリー・セレスト号状態だね」

綾波のほうはマリー・セレスト号事件を知らないらしい顔をしていたが、結論とは関係がないので先にそちらを言ってしまう。

「まだ推測の段階だけれど……この会場は、仮想空間のようなものじゃないかと思う」

「「え……」」と二人は驚きの声を出した。

いきなり『仮想空間』などという言葉を出したのだから、突飛には違いないだろう。
だが、秋瀬の聞いた話では実例がある。

「この会場で最初に雪輝君とあった時に、聞かせてくれたよね。
前のサバイバルゲームで、我妻由乃とどう決着をつけたのか。
その時、君は不思議な世界に閉じ込められたという話をしてくれた」

雪輝が、思い出すように遠い目をした。
そこは、天野雪輝の望みがすべて叶えられた世界だった。
『我妻由乃だけが存在しない』という設定のもとに、すべての感覚が現実感を伴って存在していた。

「その世界は幻覚のようなものらしいから一概には括れないけれどね。
……でも、『神』の力があれば一から新しい世界を創るぐらいはできるんじゃないのかな」
「できると思う」

今は力を失っているけれど、おぼろげな一万年の記憶では、ムルムルから新世界を創るように促されていた。

「セグウェイで色々な場所を見て回ったけれど――この会場には『この土地の名前』を示すものが一切なかった。
道路標識や公共施設に地名は書かれているけど、ある時は富山県にある町の名前だったかと思えば、ある時は兵庫県、またある時は東京都西部の町、桜見市で見かける地名もある――といった様子だったね。
このあたりは『図書館』に郷土資料を探しに行ったという菊地君たちからも話を聞きたいところなんだけれど。
つまりほとんどの建造物が、元からあったものではなく、どこかを再現して組み合わせて創られたような格好になっている。
それだけじゃなく、電気やガス、レストランや売店の商品なんかの生活空間もすべて再現されていた。
この会場は下手なテーマパークどころの広さじゃない。
仮に国家規模の予算を持った組織だったとしても『ただ再現するためにそれだけの金を使ってたまるか』と辟易するだろうね。
つまりここは、人力ではなく神の力によって一から創造されたと考えた方が自然だ」

さすがに長々と話しすぎたと、秋瀬は一区切りおいた。
沈黙が続く間に、聞き手たちは秋瀬が言ったことを頭の中に浸透させていく。
そして、それぞれの感想を言った。

「私には『神の力』がよく分からないから、なんとも言えない」
「でも、その説が正しいとしたら、納得できることがあるよ」

そう声をあげたのは、雪輝だった。

428ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:10:20 ID:nKJI5gdQ0
「最初に、この場所に連れてこられたときのことだった。
変な壁から説明を受けて、一瞬でこの場所に移動させられて……遠山はワープでもしたみたいだって言ってた。
でも、あれはワープとはまた違っていたと思う。なんだか、眠っていたところから『目を覚ました』みたいな感じだった。
今なら思い出せるけど……あの感じは、因果律大聖堂に意識を飛ばしていた時と似ていたと思う」

なるほど、と秋瀬も思い出す。
一瞬で景色が変わった――というよりも、瞑想から目覚めて、どこかに行っていた意識が肉体に戻ってきたような、あの感覚を。

「僕たちの身体は最初からこの会場に運ばれていて、意識だけを『あの場所』へと運ばれた状態で説明を聞かされた。
そういうことじゃないかと思う。あの場所は、因果律大聖堂みたいなものでさ」
「つまり、僕たちを拉致してこの場所に運んでくることは容易だったにも関わらず、ルールの説明会だけは意識だけの場所で行いたかった。
『主催者のいる拠点』と『会場』は、物理的な距離だけでない『何か』で仕切られているのではないか。そういうことだね」

頷いた雪輝は、知っているのだろう。
世界と世界を分かつ、本来ならば見えないはずの境界線を。
三週目の世界でゲームの決着をしてから二週目に戻された時に、おそらくは何度も時空の壁を越えようとしたのだから。

「じゃあ、ATフィールドが会場を囲っているのは?」

綾波がそう尋ねた。

「発生源までは分からないが……この世界の『時空の壁』を破壊されないための障壁、じゃないかな」

秋瀬は天井を見上げる。
しかし、視線の先にあるのは建物の天井ではない。
この会場と、神の座を阻むその『壁』の天井だった。

物的証拠はないけれど、この仮設そのものに矛盾はない、と前置きして。

「仮説が正しければ、『壁』さえ打開すれば、神の座まではすぐそこだ」

言い放ったのと、同時だった。
4人分の携帯電話が、一斉にコール音を鳴らす。

午後六時。
ぴったり、第3回放送の時間に到達した。





『赤外線通信が完了しました』という文字が、それぞれのディスプレイに表示された。
この画面操作をそれぞれが三度繰り返せば、4人分の携帯電話がアドレスを交換しあったことになる。

429ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:11:11 ID:nKJI5gdQ0
学生の日常では当たり前に行われているアドレス交換だけれど、この場においては『生き延びる確率をあげるため』という目的の元に行われる行為だった。

「じゃあ連絡手段も確保できたことだし、問題のメールについて話そうか」

携帯を握りしめた全員の顔が、その言葉で引き締まった。
雪輝と綾波が、メールを受信した己の携帯を見つめる。
放送のコール音と同時に送られてきた『天使メール』なる文書は、杉浦綾乃という少女がデパートで相馬光子と御手洗潔に襲われているというものだった。

「このメールを送ったのが杉浦さん本人だという証拠はないけれど、『御手洗潔はおそらく殺し合いに乗っている』という情報を浦飯君からも確認しているし、まずはある程度の信憑性があると見て進めるよ」

ちなみに雪輝に送られてきたメールをすかさずチェックしたのは秋瀬であり、雪輝自身はまだそのメールの本文を読んですらいない。
杉浦綾乃の居場所を雪輝が目にしてしまえば、雪輝に関わる予知をする『雪輝日記』が反応して、我妻由乃にその場所を把握されてしまうためだ。
雪輝のいる場所で会話する上でも、その場所を突き止められないように『デパート』の名前は極力出さないようにしている。

「おそらく、菊地善人君とはまだ合流できていないようだね。
合流した後に襲撃されたとすれば、救援メッセージは彼ら三人の連盟で送信するはずだ。その方が情報の信頼度を上げられる」

どちらかと言えば越前と綾波の二人に対して、秋瀬は言った。
二人とも無表情であるはずなのに、どちらも同じく『助けに行きたい』と顔に出ている。
越前にいたっては(さすがに放送を聞いてから気持ちを切り替えた)、『もう問題ありません』とアピールするように車椅子から立っていた。
彼等にとって一度は友好的に接触した人物であり、しかもそれは碇シンジと行動をともにしていた少女であり、彼の最期に立ち会ったうちの一人でもある。
まして、菊地善人が『杉浦や植木をつれて合流する』と言って別れた後にこのようなメールが届いた時点で、彼等を心配させるには十分だと言えた。

しかし、安易に『では急いで助けに行きましょう』というわけにもいかない。

「ぼくらの行動は『雪輝日記』を通して我妻さんにも知られている。
我妻さんがぼくらの後を追って戦闘の現場にやってくる可能性は高い」

却って敵を増やしてしまうリスク……最悪、乱戦になったところを我妻由乃の襲撃で一網打尽にされる危険は十分にあった。

「こっちは車があるし、由乃が追いつくまでには時間がかかるんじゃないのかな?」
「さっきの戦闘からしばらく時間が立っているし、移動時間はアテにならないと思う。
売店に充電器がなかったから、レーダーもまだ使えないしね」

こちらのレーダーが機能せず『雪輝日記』が動いている現状では、未だ我妻由乃の側に主導権があることも否めない。
放送前の戦闘では、諸条件が重なって『退いた方が賢明かもしれない』と思わせることができたからこそ、撤退させることができたに過ぎない。

430ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:11:55 ID:nKJI5gdQ0
「ただし、杉浦さんとは直接の接点がない雪輝君にメールが来た時点で、このメールが無作為に送信されている可能性は高い。
我妻さんの元にも、同じ内容のメールが届いている可能性だってあるだろうね」
「そうなったら、由乃は僕らを後回しにして杉浦さんたちのところに向かうかもしれないよ。複数の参加者が乱戦してる場所なんて、由乃にとってはたくさん殺せる好機だろうから」
「我妻さんがそっちに行くなら、俺らも行かないと最悪のパターンじゃないっスか?
杉浦さんたちは今戦ってる人と我妻さんの両方に襲われることになるし、俺らは我妻さんと会えない上に仲間を見捨てることになるし」
「そう言えば、秋瀬君には浦飯さんっていう協力者がいたんだよね? その人に助力を頼めないかな」
「でも、タイミングよく合流できるかしら」
「白井黒子が実は常磐愛で、今は浦飯さんっていう人といっしょにいるのもなんか胡散臭いっすけどね」

判断材料は出揃ったが、有効な一手を打つための持ち駒は乏しい。
議論することでそれがはっきりと表出して、全員が厳しい顔をする。

「もう、どうするのか秋瀬さんが決めていいんじゃない?」

ふいに、越前が言った。
綾波と雪輝が、驚いた顔を越前に向ける。
ちらりと綾波レイを見てから、気持ちを固めたように頷く。

「この中で一番重傷のアンタに決めてもらった方が、こっちも気を遣わなくて済むし。
俺たちだと、我妻さんならどうするとか知らないし。
天野さんが決めたら『雪輝日記』とかいうのですぐバレるみたいじゃないっスか」
「それはそうかもしれないけど……」

作戦会議を仕切っている秋瀬が決定をするのは、自然な流れだろう。
しかし、綾波と越前の視点では、そうもいかないはずだ。彼等は杉浦綾乃を助けに行きたいはずなのだから。
秋瀬一人に判断を任せてしまえば、『杉浦彩乃の救助』よりも『天野雪輝を危険から遠ざけること』を優先するだろうことは、誰の想像にも難くない。

「僕に預けてしまっていいのかい?」
「『任せる』。この中だと秋瀬さんが一番作戦立てるのうまそうだから。
それに、『油断せずに行こう』ってアンタが言ったんじゃん。
『行く』なら主語は一人称の『I』でいいけど、『行こう』なら『We』ってことになるよ」

何かの思い出でもあったのだろうか。
任せるという部分を聞いて、綾波が納得したように頷いた。
そして後半の部分は遠回しな言い方だったが、伝わるのは秋瀬或を一蓮托生のくくりに入れていることだった。
もしかして皆が納得するような案を出せないから、丸投げしたんじゃないか、という疑惑はあったにせよ。
任されたのならば、探偵は信頼が第一だ。
正式な『契約成立』と認めるにはまだまだ程遠いけれど。

「わかった――その依頼を受けよう」


【G-4病院/一日目・夜】

431ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:12:27 ID:nKJI5gdQ0
【天野雪輝@未来日記】
[状態]:中学生
[装備]:体操服@現地調達、スぺツナズナイフ@現実 、シグザウエルP226(残弾4)、 天野雪輝のダーツ(残り7本)@未来日記
[道具]:携帯電話、学校で調達したもの(詳しくは不明)
基本:由乃と星を観に行く
0:秋瀬の決定を待つ。
1:やりなおす。0(チャラ)からではなく、1から。

※神になってから1万年後("三週目の世界"の由乃に次元の壁を破壊される前)からの参戦
※神の力、神になってから1万年間の記憶は封印されています
※神になるまでの記憶を、全て思い出しました。
※秋瀬或が契約した『The rader』の内容を確認しました。

【秋瀬或@未来日記】
[状態]:右手首から先、喪失(止血)、貧血(大)
[装備]:The rader@未来日記、携帯電話(レーダー機能付き、電池切れ)@現実、セグウェイ@テニスの王子様、マクアフティル@とある科学の超電磁砲、リアルテニスボール@現実
[道具]:基本支給品一式、インサイトによる首輪内部の見取り図(秋瀬或の考察を記した紙も追加)@現地調達、火炎放射器(燃料残り7回分)@現実、クレスタ@GTO
壊れたNeo高坂KING日記@未来日記、『未来日記計画』に関する資料@現地調達
基本行動方針:この世界の謎を解く。天野雪輝を幸福にする。
0:メールへの対応を決定する。
1:天野雪輝の『我妻由乃と星を見に行く』という願いをかなえる
[備考]
参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。
『The rader』の予知は、よほどのことがない限り他者に明かすつもりはありません
『The rader』の予知が放送後に当たっていたかどうか、内容が変動するかどうかは、次以降の書き手さんに任せます。

【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:疲労(中)、全身打撲 、右腕に亀裂骨折(手当済み)、“雷”の反動による炎症(ある程度回復)
[装備]:青学ジャージ(半袖)、テニスラケット@現地調達
リアルテニスボール(ポケットに2個)@現実、車椅子@現地調達
[道具]:基本支給品一式(携帯電話に撮影画像)×2、不明支給品0〜1、リアルテニスボール(残り3個)@現実
S-DAT@ヱヴァンゲリオン新劇場版、、太い木の棒@現地調達、ひしゃげた金属バット@現実
基本行動方針:神サマに勝ってみせる。殺し合いに乗る人間には絶対に負けない。
0:秋瀬の決定を待つ。
1:休んだら、菊地と合流。天野たちにはできる範囲で協力
2:バロウ・エシャロットには次こそ勝つ。
3:切原は探す。

【綾波レイ@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:傷心
[装備]:白いブラウス@現地調達、 第壱中学校の制服(スカートのみ)
由乃の日本刀@未来日記、ベレッタM92(残弾13)
[道具]:基本支給品一式、第壱中学校の制服(びしょ濡れ)、心音爆弾@未来日記 、隠魔鬼のマント@幽遊白書
基本行動方針:知りたい
0:秋瀬の決定を待つ
1:休んだら、菊地と合流。天野たちにはできる範囲で協力
2:落ち着いたら、碇君の話を聞きたい。色々と考えたい
3:いざという時は、躊躇わない
[備考]
※参戦時期は、少なくとも碇親子との「食事会」を計画している間。
※碇シンジの最後の言葉を知りました。

432ぼくらのメジャースプーン ◆j1I31zelYA:2014/11/30(日) 17:12:43 ID:nKJI5gdQ0
投下終了です

433名無しさん:2014/11/30(日) 21:49:55 ID:fjAJouv20
投下乙です!
それぞれがすごくいい味出してました…!

434名無しさん:2014/12/01(月) 20:24:08 ID:YQ78PMog0
投下乙です

うおおおっ、今回もというかこの組が織りなすドラマは本当に濃いわあ
GJ!

435訂正 ◆j1I31zelYA:2014/12/06(土) 12:52:03 ID:Mu2XGxio0
大変申し訳ありません。
ウィキに収録する段になって、まるごと1レス分が投下されずに抜けていたことが発覚しました。

今に至るまで気付かなかったことも含めて大変申し訳ないことですが、
本スレ>>419>>420の修正版を投下したいと思います。

436訂正 ◆j1I31zelYA:2014/12/06(土) 12:54:27 ID:Mu2XGxio0
「僕がかつて出会った日記所有者の中にも、『自分が勝つことだけを想定して突撃する』タイプの人はいた。
でもその人の場合は、過酷な環境を生きてきて、負けることが死に直結するような生活をしてきたからそうなったんだ。守るものも失うものも自分の命だけだったしね。
あるいは、『誰も死なせない』と主張するような理想家なのかとも思ったけど、それも違うね。
君は僕らみたいに困った人を助けてくれたけど、正義の味方になりたいわけじゃないだろう?」

こくり、と頷きがあった。
平和な世界なら、これでも良かったのかもしれない、とは思う。
行くぞと声をかけて皆が付いていくような、誰もがいっしょに高みを目指してくれるような、ストイックなスポーツマンばかりの世界だったら。
すでに彼は、ひとかどの『柱』になれるぐらいの資格は満たしていたのかもしれない。
だが、この世界は違う。

「君はきっと、本当に芯からスポーツマンなんだよ。
優勝賞品が欲しくて戦ってきたわけじゃない。ただ、勝つための戦いだ」

たとえば1つだけ願いを叶えてもらえるとして、『全国大会で優勝させてください』なんて願ったりはしないだろう。
実力で手に入れたものではない勝利など、虚しいだけなのだから。
だから彼に、夢はあっても願いは無い。

「裏を返せば、誰かに叶えてもらう類の望みには慣れていない。
もっと言えば、『大切なものを、自分にはどうしようもできない理不尽によって奪われるかもしれない』恐怖なんて、すっかり想像の外だった。それだけのことだよ」

『神から与えられた意味などに価値はない』と真田が言っていたことを、思い出す。
そして、全てを放棄することを選んだ、神崎麗美の目を思い出す。
神崎麗美が、越前に対して怒りを顕にしたという話も、思い出す。

「それって、命懸けで使徒と戦わされるとか、神様を決める殺し合いをやらされるとか?」
「雪輝君たちに当てはめればそうなるだろうけど……そうだね、実感できるように例え話にしようか」

真田に秋瀬自身のことを問い詰められた時には、言い返せなかった。
その意趣返しというわけではないが、言葉に詰まってもらうのも、いい勉強になるはずだ。

「もし、君が急に難病にかかって、テニスができない体になったらどうする?
それが、どんなに治療しても努力しても、絶対に治らないものだったら、どうする?」

それでも、君は強くあれますか?
まっすぐだった両目が、急に視覚を失ったかのように凍りついた。
唾を飲もうとするように喉を動かしても、口が渇いていてごくりという音さえ出ない。

「絶対……っスか? 手術しても、リハビリしても?」
「その反応は、心当たりでもあるのかな?
どんなに努力しても這い上がれない。戻りたくて血を吐くようにがんばったけど無理だった。誰が何をしても救えない。
君のいる世界だって、そういうことは起こり得たはずだ。君もそうならなかったとは言えないよ」

本人の選択によるものでもなく、過失によるものではなく。
世界を恨みたくなるような理不尽の果てに、生きがいとなるものを奪われる。
そんなのは、どうしようもない。
歯がゆそうな顔が、そんな答えを雄弁に映し出したタイミングで、さらに問う。

「もし、願いを何でも1つ叶えてくれると言われたら、すがりつくんじゃないか?
――そういう時に、『願い』が生まれるんだよ」
「だから、殺し合いに乗ったって言いたいの? 部長を殺したアイツも、我妻由乃さんも?」

葉による重圧を押しのけようとするように、声が高く跳ねた。
カセットプレイヤーを握り締める手の力が、さらに強くなる。
その額を、運動によるものではない汗の雫が滑る。
しかし、続く言葉は落ち着いていた。


「だったら俺は、そっちになんか行かない。
テニスができなくなるなんて、ヤダ。でも、そのために人は殺さない」


言い切った。
その落ち着きが、それが虚勢などでは有り得ないことを証明している。
しかし、秋瀬には少し気に入らなかった。
かつての雪輝が願いのために選んだのは、『そっち』側だった。
その結果として犯したのは大量殺人の上に、願いは叶わず死んだ者は生き返らないという報われない結末だ。
それは覆されない大罪だが、当時の雪輝が被ってきた理不尽を知っている秋瀬には、『雪輝だけが悪かった』とも言い切れない。
だいいち、大罪であろうとも雪輝が精一杯に悩んで、気を張って、殺し合いゲームに勝ち残るという決断をしたこと自体は尊いと思っている。
間違える方が絶対的に悪いかのように、『なんか』呼ばわりされるのは愉快ではない。

437訂正 ◆j1I31zelYA:2014/12/06(土) 12:55:51 ID:Mu2XGxio0
「いつか、潰れる時がくるよ。生きていけなくなるかもしれない。
生きていく上で必要不可欠なものを失って、その後の一生を過ごすんだから」
「そうかもしれない。でも、……今度は、行かない」


今度は、と言う時だけ、その顔が辛そうに歪んだ。
一度は、踏み外そうとした時――それが、神崎麗美を殺しかけた時だということは、推測がつく。
秋瀬は、さらに追求することを選択した。
越前が『なんでこの人はこんなに突っかかるのだろう』と言いたげに眉をひそめているが、とことん言ってしまうことにする。


「君にとっては、自分の幸せよりも他人の命の方が重いから?
それとも、それが君にとっての正義なのかな?」
「そんなんじゃないよ」


そう否定した後で、さらに何か言おうとした。
しかし、言葉にならなかったのか、「そんなんじゃないよ」とまた繰り返す。


「なら、人を殺した手でラケットを握りたくないからかい?
人を殺して叶える夢なんて夢じゃないと、そう思う?」
「……だから、そんなんじゃないって」


べつに選ばなかった者を貶めようとするほど、秋瀬は気が短くないし子どもじみてもいない。
ただ、ここで示してほしい。
『そちら側』に行くことを間違いだというのなら。
どうして間違いだと断じて、どのように異なる考え者と相対していくのか。


「他に考えられるとしたら、チームメイトが悲しむといった理由かな。
仲間の意思を無碍にしたら、仲間たちが許さないと思うのかい」


越前が答えるのに、少しだけ時間がかかった。


「それもあるけど、そんなんじゃないよ」

438訂正 ◆j1I31zelYA:2014/12/06(土) 12:58:50 ID:Mu2XGxio0
きっぱりと、
不機嫌さを含んだ無表情から言い放たれたのは、肯定であり否定。

「どういう意味かな?」

我妻をはじめとする殺人者達から、そして我妻による『被害者』達からも『柱』として雪輝の前に立つというのなら、
その正しさを、どう行使するつもりなのか。
ラケットさえ持たなければただの傲慢な少年に過ぎない彼に問いかけて、答えを待つ。

「……本当はあれこれ考えて動くのって苦手なんスよ」

その言葉が皮切りだった。
感情を抑えるように淡々と答えていた言葉から、ふっつりと『力』のようなものが抜けた。
理性だとか思考だとかの制御を手放すように、軽くなった。

「でも殺し合いをどうにかすることにして、『柱』になるって決めたから。
だからちゃんと考えなきゃいけないって思うようになった」

いきなり、違和感が生まれた。
答えになっていない、だけではない。饒舌になっているだけでもない。
言葉が、滑らかに流れ出した。
ずっと前から用意していた言葉が、とうとう口をついたように。

「それが、神崎さんを殺しかけてから、余計ややこしくなった。
神崎さんにも、今言われたのと似たようなこと言われたから。
『人を殺さなきゃ生きていけないようなヤツは、生きる価値もないのか』って。
綾波さんがいてくれなかったら、俺はYesって答えるとこだった」

違うと、気づいた。
本当に『いきなり』のことだったのだろうか。
そもそも、さっきまでの彼は本当に『落ち着いて』いたのか。
本当に冷静だったら、いやいやでも素直に相槌を打ったりしないのではないか。
さっき天野雪輝と話していた時のように、相手の神経を逆なでするような言葉でまぜっ返していたのではないか。
いつもの彼ならば、そういう余裕があったのではないか。

予感する。
いつもは深く考えるよりも心に従って、言葉を尽くすよりも行動で示してきた少年がいたとして。
安易にそれができない状況で、どれが正しいのか考えて、ずっと抱えこんできたとしたら。
しかも、肝心の一番にぶん殴りたい神様はどことも知らない観客席にいて、溜め込んできたとしたら。
いったいそれは、どれぐらいの総量になっているのだろう。

音楽プレイヤーを丁寧にディパックの中にしまいながら、越前は言った。



「秋瀬さん、俺、ぜんっぜん正しくなんかないよ」



泣いていない。

遠山金太郎の凄惨な遺体に遭遇した時は、涙を必死に堪えていたらしいのに。
死んでいった仲間のことを話した時は、綾波レイの手を握って泣いていたのに。
現在の『積もりに積もっていたらしき何か』をぶちまけようとする越前リョーマは、ちっとも泣いていなかった。

-----
以上になります。
投下時には前後がつながっていない文章を投下してしまった形になり、本当に謝罪のしようもありません

439名無しさん:2014/12/09(火) 12:15:39 ID:gpztIZM.0
修正乙です

悪くないと思います

440 ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 20:43:53 ID:jRJhy3vw0
投下します

441ガーネット ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 20:46:45 ID:jRJhy3vw0
ざっくらばらんに言ってしまえばサザエさん時空のような。
カッコつけて言えば、時の止まらない永遠、みたいな。

そんなものだと、思っていたのに。


◆  ◆  ◆


ダメだ、今は押さえ込まなきゃいけない。
とにかく生き延びることを、そして式波と初春の足を引っ張らないことだけを考えろ。

――たとえ、知っている人の誰が呼ばれたとしても。

そんな風に、誰が死んだっておかしくないと割り切って感情をコントロールできるほどに、杉浦綾乃という少女はいきなり変われなかった。

それでも、せめて覚悟は固めておきたいと気を引き締めて、身を固くして、初春から放送のために貸してもらった交換日記を耳にあてる。
心の片隅では『本当は誰にも死んでいてほしくないんです』と祈りながら。
裏切られることは、知っていたのに。



――船見結衣



名前は、不意打ちだった。

もしはぐれてしまった『菊地善人』と『植木耕助』の名前が呼ばれたら悔やんでも悔やみきれないと恐れていたことが、衝撃を大きくしたひとつ。
『御坂美琴』と『吉川ちなつ』はすでに呼ばれることが確定していたし、初春から話も聞いていたことがひとつ。
クラスメイトであり、『元からの知り合い』の中では歳納京子に次いで交流していたことがより重要なひとつ。
しかし。

船見さんがいなくなったんだと、理解するのと同時に。
『もうひとつ』に、気がついてしまった。
それは覚悟のしようもなかった痛みと喪失感で、視界にうつっている現実と聴覚から入ってくる情報のすべてが意識から抜け落ちる。
違う、本当は六時間前の放送から気がついていたけれど、嫌だと排除していたことだ。

442ガーネット ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 20:49:25 ID:jRJhy3vw0

赤座あかり。
歳納京子。
吉川ちなつ。
そして、船見結衣。



七森中学校のごらく部が、これで終わったということ。



『前回よりも死亡した人数が少ないことに――』

放送は続いている。
その言葉を上の空にしながら、綾乃は事実を胸のうちで反芻した。
ごらく部が、終わった。
あの元茶道部の部室に行っても、もう誰もいない。
ちょっと遠くの場所まで遊びに出かけようと、誘われることはもう無い。

先の放送で名前が呼ばれた時にも、分かったつもりにはなっていた。
歳納京子と赤座あかりがいなくなった時点で、彼女らがいつもの部室でいつもと同じようにのんびりゆりゆららといられるはずが無いのだから。
分かったつもりで、受け入れたくなくて、理不尽が悲しくて泣いた。

やっと分かった。
もう、取り返しはつかない。
吉川ちなつと船見結衣までも死んでしまったのなら、もう無理だ。
誰ひとり欠けることなく、誰かが取って変わることもなく4人揃っていた彼女たちが4人ともいなくなったなら、もうあの部活動は終わってしまったんだ。
全員を失うまで実感が無かったのは、どこかで彼女たちを『4人でひとつ』のように見ていたからか。
あるいは、4人それぞれのことを思い浮かべて、受け入れたくないと未練を持つぐらいには、『ごらく部』が大きな存在になっていたから。

最初は、そうじゃなかった。
ごらく部という非正規の部活動を知って、その部室に通い始めたばかりの頃は、『歳納京子とその仲間たち』ぐらいの目でしか見ていなかった。
あの頃の綾乃にとっては、『“歳納京子が”部室の非正規使用をしている』ことだけが重要だった。

443ガーネット ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 20:51:36 ID:jRJhy3vw0
もともと綾乃は誰とでも積極的に交わるタイプではなかったし、むしろ人見知りするぐらいだったから。
池田千歳が声をかけてくれなかったら、中学で友達ができたかさえ怪しい。
目当ての歳納京子にも喧嘩腰というポーズがなければ口をきけないぐらいにはアガっていたし、
たとえば京子以外の部員とふたりきりになっても、話題に困って会話が続かなかったり噛み合わなかったりしていた。
それでも、彼女たちの方から色々な遊びに誘ってくれたりするうちに、生徒会とごらく部の『みんな』で行動することが多くなった。
一緒にプールや海に行ったり。8人おそろいの着ぐるみパジャマをもらったり。
キャンプもした。たくさん写真を撮った。お花見もした。楽しかった。
みんなとの時間を過ごすうちに、少しは肩肘張っていた力も抜けたのか、自然に話せるようになってきた。
だんだん船見結衣とも距離を縮められて、意外とお茶目で面白い人なんだと分かってきたし、
生徒会のライバルという設定も無かったことになったみたいに、ごらく部で一緒にお菓子を食べて、歳納京子がいない時に赤座あかりや吉川ちなつと談笑するようにもなっていた。
千歳のフォローも何もなしに映画を見に行こうと誘うのも、以前の綾乃ならまずできなかったことだ。
三歩進んで二歩さがるような成長だったけれど、良かったことは増えていた。

それがなければ、――悲しいことを、ここまで悲しむことはなかった。

ふっと、碇シンジを埋めた時に、桜の木の下でわんわんと泣いたことを思い出した。
昨日までは名前も知らなかった中学生同士なのに、別れを惜しんで泣いた。

なんのことは、なかった。
ずっと変わらない毎日が続くと、根拠もなく信じていただけで。
ごらく部のみんなも、そう思っていたかもしれないけど。
でも、ぜんぜん「ずっと」じゃなかった。
昨日とまったく同じ一日なんて、最初からどこにもなかった。
自然に出会って別れるか、理不尽に集められて奪われるかの違いで、後者は許せないことだけど。
これまでも、いつしか時間は流れていた。
なら、これからは――

『もっとも、6時間後には何人が生きて会えるか分からないがね』

不吉な言葉が耳朶をうって、はっと我に返った。
そこから通話音声が途切れたということは、放送が終わったということで。
放送の後半はずっと心ここにあらずだったことを悔やみながら、恐る恐る顔をあげる。

他の二人だって、動揺を堪えながら放送を聞き届けたはずだ。
途中から固まっていた自分を見て、心配したり呆れたりしていないだろうか。
しかし、視界にまず映った表情は、どちらでもなかった。

444ガーネット ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 20:53:14 ID:jRJhy3vw0
初春飾利は、死刑宣告を待つような顔をしていた。
死刑宣告をされた顔、ではない。
それしかできないように綾乃を注視する両眼と、制服のスカートを引き裂けんばかりに掴んでいる白くなった両の手は、これから出る『結果』を待つ者のそれだった。

初春さんも、知っている人の名前が呼ばれたのだろうか。
一瞬そんなことを考えたが、すぐにそれが見当違いでひどく配慮に欠けた想像だと思い至る。
放送で呼ばれた八人の名前のうち『御坂美琴』と『吉川ちなつ』を殺したのは、初春だった。
彼女自身の話によれば大勢が集まっているところに爆弾を投げたのだから、他に呼ばれた名前の中にも、爆発の犠牲者となった少年少女はいるだろう。
殺してしまったのに、名前を呼ばれたうちの誰と誰を殺してしまったのかさえ分からない。
そんな被害者を、この先ずっと背負っていくことになる。

「初春さん」

呼びかけると、初春が小刻みに震えた。
初春視点だったら、綾乃が凍りついたのはきっと知り合いの名前が呼ばれたからだと思ってしまう。
そして、少なくともその1人は吉川ちなつであり、その命を奪って悲しみの一端を担ったのは、初春飾利の罪でしかない。
私がこの人に何かを言わなきゃいけないと、綾乃は思った。

「なっ、なんでしょう?」

正直なところ、何を言えばいいのかは分からない。
ただ、正直には接したいとは思う。

「えっと……実を言うと、私もまだ実感はわいてないんです。
何があったのかは話してもらったけど、実際に初春さんが罪を犯したところを見たわけじゃないから。
よく一緒に遊んだ人が殺されたってことと、それを初春さんがやったってことは繋がってなくて」

喋っていて、『正直』な言葉の煮え切らなさにむしろ申し訳なくなってきた。
もっと言いたい言葉があるはずなのに、状況は言葉を選んでいる時間も惜しければ、悠長に相互理解をしている暇もない。
なにせ同じ建物にいる参加者から、命を狙われている。
それでも、言葉の中身に偽りはなく。
よりざっくばらんに言えば、『人を殺す初春』を想像することができなかった。
そういう善良な少女でさえ修羅に落ちかねない場所だとは理解していても、この少女と相馬光子のような『乗った者』の姿を重ねて見ることは難しい。
碇シンジが死んだ時は殺害したバロウへの怒りが無かったと言えば嘘だが、同じ負の感情を初春にも向けていいのかどうか、向けてしまえばどうなるのかもわからなかった。

「実感が湧いたら、初春さんを恨むこともあるのかもしれません。
でも、さっき初春さんが言った、『殺し合いに乗るのを止めた』って言葉は信用してます。
今はそれじゃ、ダメですか?」

445ガーネット ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 20:54:34 ID:jRJhy3vw0
居住まいを正して問いかけると、初春はどんな種類の感情によってか顔を赤くした。
それはもう擬似的な熱中症か何かで、気絶するんじゃないかというぐらいに。

「そんな……もともと答えを急かす権利なんてないですよっ。
『信用してる』なんて、もったいないぐらいです」

真剣なのにフニャフニャとした感じに聞こえる、やわらかい声。
やっぱり何人も殺したような人に見えないと感じるのは、彼女を引っ張り上げた御坂美琴の力だろうか――



やわらかい……………………声?



あ、と声が出そうになった。



『それ』に気づいたことと、何かが腑に落ちたのは同時だった。
同時であり、また同一のことだった。

「あの、杉浦さん?」

唐突に驚きをあらわにした綾乃を見て、初春は困惑ぎみに呼んだ。
その声を綾乃はしっかりと耳に入れて、たった今の『気づき』が間違っていないことを再確認する。
気がついてしまった。
そのことを、『実感』したいという気持ちが、どうしてもという言葉になる。

「初春さん。その、これはちょっと別件っていうか、今すぐお願いがあるんですけど……」
「な、なんでしょう! 私にできることなんですか?」

意気込む初春と相対すると、これから言うことがとても恥ずかしくなった。
しかし、言ってみる。



「私のことを、『綾乃ちゃん』って呼んでくれないかしら?」



言ってみた。
タメ口になった。



「そ、そんな失礼なこと!できませんよっ。目上にあたる人をファーストネームで、しかもちゃん付けで呼ぶなんてっ」



間違えた。
言い方が悪かった。

446ガーネット ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 20:55:25 ID:jRJhy3vw0

「あっ、そういう意味じゃないの! ……その、一回だけ『綾乃ちゃん』って言ってみてほしくて。
説明しづらいけど。そう呼ばれるのが、切り替えるために必要な気がするから」
「切り替え、ですか? それくらいぜんぜん構いませんけど……」
「あと、できたら発音は関西の人っぽくっていうか……そう! はんなりした感じで」
「は、はんなり?」

意味不明な要求に、初春が首を傾げる。
まるで人をオウムのように扱っているみたいで罪悪感がわいたし、理由はきちんとあるにせよ、その声を聞きたい『甘え』があることは否定できなかった。

しかし。



「綾乃ちゃん」



わざと瞼を閉ざして、聴覚だけで受け止めた。
耳に、やわらかい声が届く。

――綾乃ちゃん

ほんの、残響のような一瞬だけ。
出会ったばかりの初春の声に、ここにはいない友達を重ねることを、自分に許した。
彼女から励まされた気がすると、ずうずうしくも『気がする』ことを許した。

似ている。
ほとんど同じといっていい。
その声に、思い出した彼女に、『帰るからね』と届かない言葉を念じて。
一瞬を終わらせるために、目を開けた。
決して初春に親友の変わりをさせるために、その呼び方をさせたわけでは無いのだから。

目を開ければ、『綾乃ちゃん』と声を出したのは初春飾利だった。
メガネもかけていないし、はんなりおっとりしたニコニコ笑顔でもないし、鼻血も出さない。
頭にたくさんの花飾りをつけた、黒いショートカットにセーラー服の女の子だった。

でも、飴玉を溶かしたようにやわらかな声でしゃべる、女の子だった。
杉浦綾乃が中学生の女の子であり、声のよく似た彼女も同じ女の子であるように、女の子でしかなかった。
それが理解できれば、充分だった。

447ガーネット ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 20:56:08 ID:jRJhy3vw0

「ありがとう」

綾乃は礼を言った。初春は理由を聞かなかった。
どう接する相手なのかは、分かったから。

「もうひとつ。これはお願いじゃなくて、初春さんの気持ちが向いたらでいいんだけど」

元から、力を合わせるつもりではあった。
なら、これはお願いではなく誘いだし、そこまで図々しいことではないと思う。

「私が、まだ間に合う誰かを救けようとする時に、一緒に手伝ってくれますか?」

初春の顔が泣きそうになり、そして輝いた。

「はい。喜んで、じゃなくて」

さすがに人命がかかったことを『喜んで』という返事は不謹慎だと思ったのか、慌てて言葉を引っ込め、

「許されるなら、私も……正義(ジャッジメント)に戻りたいですから」

『正義(ジャッジメント)』と発音する時だけ、声が熱をおびたように震えた。
その言葉の意味するところは分からなかったけれど、大切な意味があるかのように。

「――それで。話はやっと終わったのかしら?」

時間にすればほんの二、三分だったにせよ、交換日記を預かって敵の接近を警戒していたもう1人からすれば、ただ焦れるだけの時間に違いなかったわけで。
アスカ・ラングレーが鼻の穴をふくらませて、ギロとした目でこちらを睨んでいた。

「「はいっ! もういいです」」

『やっと』の部分が言い訳できなかったし、怖かった。
身を縮めるように二人そろってかしこまる。

「もう、説教してる時間も勿体無いっちゅーの。とりあえずアンタたち、放送の後半で告知されたことは聞いてた?」
「「それは……」」
「はぁ……愚問だったわ。説明しなきゃいけないわけね」

初春とともに、さらに身を縮めた。
お喋りしている余裕など無かったことは極めて正論かつ切実だったので、ひたすら『申し訳ありませんでした』と反省するしかない。
でも、とアスカの説明を聞きながら思う。
『やっと』とか『勿体無い』などと言った割には、その苦言を呈したのは会話が一段落してからだった。つまり、

――私と初春さんに、話をさせてくれた?

448ガーネット ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 20:57:45 ID:jRJhy3vw0
彼女にそう問えば、半端な気持ちで戦いに望まれて足を引っ張られても迷惑だからとか、怒ったように言われる気がした。
だから『本当は言葉ほどキツくない人かもしれない』という発見は、胸に秘めておくことにする。

「はい。これ使いなさい」

ずいと、目の前にごく普通の携帯電話が突きつけられた。
アスカがもう片方の手にさっきまで使っていた携帯電話を握っていることから、彼女のものではないことが分かる。

「どうして、私が?」
「だーかーら。電話とメールが使えるようになったのよ。
それで、アンタのケータイは水没で壊れちゃったんでしょうが」
「あ、はい」

頷いて、差し出された『ケータイ』(御坂美琴の持っていたものか、吉川ちなつのものかもしれない)を両手で受け取った。
戦うにせよ逃げるにせよ、ここから先は連絡を取る道具があると無いでは大違いになる。
(相馬と御手洗の二人も、今ごろアドレスを交換しあっているだろう)
ここで綾乃だけを『不携帯』のままにしておく理由はどこにもない。
理由づけとしてはそれだけのことだ。
しかし、必要な理由があってそうするに過ぎないことと、『アスカからケータイをもらってアドレス交換を切り出された』という新鮮な驚きは、また別だった。

「でも式波さん。携帯が余ってたならさっきの天使メールも、送ろうとおもえばもっと――」
「「あっ」」

余計なことを指摘してしまったらしかった。
初春の方はつい忘れていたという風に目を丸くしただけだったが、
アスカの方は、本気の失態だと受け止めたように顔を暗くしたからだ。

「式波さん、気にするようなことじゃないですよ。私も忘れてましたし」
「そう。それに、送り過ぎたらかえって殺し合いに乗った人に届く可能性も上がってましたよ」
「べ、別に気にしてなんかないわよ。それよりアドレス交換するんだから、さっさと用意しなさい」

畳み掛けるようにフォローを受けて、むくれたままケータイを操作する。
見るからに一般人丸出しな少女たちの前で稚拙なウッカリミスを見せてしまったことを悔しがり恥じるような、
けれどミスを簡単に許されてしまったことに戸惑ったようにも見えた。

449ガーネット ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 21:00:00 ID:jRJhy3vw0
赤外線通信はすぐに終わった。
『アドレスが登録されました』という作業完了を示すメッセージに、ひとまず安心する。
戦う武器にもなりはしない道具なのに、『話せるようになった』というだけで、希望がひとつ増えたみたいだった。

この道具が、世界と私を繋ぐもの――なんて。
いかにも『あの子』が、アニメや漫画で覚えてきたオシャレな語彙を使って言いそうなことだ。

(話したかったわよね……みんなと、何時間でも)

あの子なら、きっと残念がっていたと思う。
おしゃべりだった彼女なら、ケータイを支給されたからには電話したくなるはずだ。
メールじゃなくて、ちゃんと声が聞こえる電話で。
どんな話題でも、どの友達と話しても、それぞれにほっとしただろう。

(その話したい人達の中に、私はいた?
だとしたら嬉しいけど……ごめん。もう話せないし、話したくても話さない)

こちらを獲物として探しにくるのは、殺し合いに乗った二人。
どう対応するかの段取りを、三人で確認しあう。
これが、新しく出会った三人の乗り越えるべき、最初の戦いだ。

(知ってるでしょ、私は口実が無かったら会いに行かない奴だったこと。だから)

そして、最後の戦いにはしたくない。
だから、

(当分、『そっち』に行くつもりないわ。だって、理由がないんだもの)

それが、ひとつの小さいけど価値のある『歴史』に終止符が打たれた瞬間だった。


【F-5/デパート/一日目 夜】

450ガーネット ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 21:00:18 ID:jRJhy3vw0
【杉浦綾乃@ゆるゆり】
[状態]:健康(まだ少し濡れている)
[装備]: エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃、吉川ちなつの携帯電話
[道具]:基本支給品一式、AK-47@現実、図書館の書籍数冊、加地リョウジのスイカ(残り半玉)@エヴァンゲリオン新劇場版、ハリセン@ゆるゆり、七森中学の制服(びしょ濡れ)、壊れた携帯電話
基本行動方針:みんなと協力して生きて帰る
1:式波さんたちと協力して、菊地さんのところに戻る。
2:式波さんに、碇くんのことを伝えたい。
3:誰も殺さずにみんなで生き残る方法を見つけたい。手遅れかもしれないけど、続けたい。
[備考]
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。
※アスカ・ラングレー、初春飾利とアドレス交換しました。

【式波・アスカ・ラングレー@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:左腕に亀裂骨折(処置済み)
[装備]:ナイフ、青酸カリ付き特殊警棒(青酸カリは残り少量)@バトルロワイアル、
   『天使メール』に関するメモ@GTO、トランシーバー(片方)@現実 、ブローニング・ハイパワー(残弾0、損壊)、スリングショット&小石のつまった袋@テニスの王子様
[道具]:基本支給品一式×4、フレンダのツールナイフとテープ式導火線@とある科学の超電磁砲
風紀委員の救急箱@とある科学の超電磁砲、釘バット@GTO、スタンガン、ゲームセンターのコイン×10@現地調達
基本行動方針:エヴァンゲリオンパイロットとして、どんな手を使っても生還する。
1:ミツコたちをどうにかする。
2:スタンスは変わらないけど、救けられた借りは返す。

[備考]
※参戦時期は、第7使徒との交戦以降、海洋研究施設に社会見学に行くより以前。
※杉浦綾乃、初春飾利とアドレス交換をしました。

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:交換日記(初春飾利の携帯)@未来日記、交換日記(桑原和真の携帯)@未来日記、小さな核晶@未来日記?、宝の地図@その他
[道具]:秋瀬或からの書置き@現地調達、吉川ちなつのディパック
基本行動方針:生きて、償う
1:杉浦さんを助ける。
2:辛くても、前を向く。
3:白井さんに、会いたい。
[備考]
初春飾利の携帯と桑原和真の携帯を交換日記にし、二つの未来日記の所有者となりました。
そのため自分の予知が携帯に表示されています(桑原和真の携帯は杉浦綾乃が所有しています)。
交換日記のどちらかが破壊されるとどうなるかは後の書き手さんにお任せします。
ロベルト、御手洗、佐野に関する簡単な情報を聞きました。御手洗、佐野に関する簡単な情報を聞きました。
※アスカ・ラングレー、杉浦綾乃とアドレス交換をしました。

451ガーネット ◆j1I31zelYA:2015/01/14(水) 21:00:42 ID:jRJhy3vw0
投下終了です

452名無しさん:2015/01/14(水) 21:25:06 ID:.aMlrjmw0
投下乙です
そうか、これで本当の意味で「ごらく部」は終わってしまったのか……寂しくなる
せめて綾乃は最後まで生き残って友人のもとに帰ってほしい

453名無しさん:2015/01/14(水) 21:54:33 ID:KmW8jtC20
なるほど、中の人ネタか……
こういう使い方はしんみりするなぁ

454名無しさん:2015/01/15(木) 09:40:19 ID:Uyjg0VeI0
投下乙です
中の人ネタの使い方がうまいなあ…
不器用なアスカの優しさや素直じゃない態度も微笑ましい

月報も置いておきますね
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
103話(+2) 15/51(-0) 29.4(-0.0)

455名無しさん:2015/03/15(日) 00:26:46 ID:sTRZDXnY0
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
103話(+0) 15/51(-0) 29.4(-0.0)

456 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:19:34 ID:G67N34mU0
投下します

457天体観測 〜愛の世界〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:21:27 ID:G67N34mU0
パラリと、ページをめくる。

1ページにつき、1人。
顔写真と、名前と。そして学校の名前に、何年何組と。

支給品の学籍簿には、まだ生きている中学生と、もう死んでいる中学生がかわるがわるに登場する。
常盤愛にとって、知らない顔も、知っている顔も。
ページをめくり、再会した。

中川典子。
香川県立城岩中学校、三年B組。
写真うつりが良い方なのだろう、きれいな笑顔で写っている。
とびきりの美人さんではないけれど、純朴そうだとか、愛らしいという言葉が似合いそうな女の子。
いかにも男の子が守りたいと思うような、お姫様。
大嫌いだと、最初はそう思った。
でも、殺してもいいはずなんて、決してなかった。
ページをめくる手が止まりそうになるのをこらえて、次のページに進む。

七原秋也。
癖のある茶色っぽい長髪に、猫のような瞳が印象に残る、そんな写真。
同じく、城岩中学校の三年B組。
中川典子が、いちばん信頼していた男子生徒だった。
いや、信じていただけじゃない。きっとそれ以上の、いわゆる『恋人同士』だったのだろう。
まだ、放送で名前を呼ばれていない。
つまり、今でも生きている。
常盤愛のせいで恋人を殺されて、生きている。

もしかすると、これから出会うことになるかもしれない。
そんな可能性が頭をよぎり、弱気が常盤愛を蝕みかける。
こんなんじゃ、ダメ。近くで見ている浦飯に悟られないよう呟き、さらにページを繰った。

458天体観測 〜愛の世界〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:22:24 ID:G67N34mU0
探している人物に辿り着くまでに、知っている顔が次々と現れた。

秋瀬或の顔と名前を見て、こいつもいちおう中学生だったのかと嘆息し、

天野雪輝と我妻由乃の名前がすぐ後のページに出てきたのを見て、やっぱり秋瀬と同じ学校だったかと頷き、

宗谷ヒデヨシのソレが出てきたことで、それは盛大に顔をしかめ。

雪村螢子の肖像を目にしたことで、この人があの螢子さんかと、切なくなり。

神崎麗美のすまし顔を見たら、胸が苦しくなり、

そして、菊地善人の澄ました顔を見て、言いようのない苦々しさに襲われた。
憎悪しかない目で見られたことだとか、弁解らしい言葉のひとつも言えなかったことが辛いのは間違いなく。
けれど、ひっかかるのは、辛かったことそれ自体ではない。
菊地なんかに憎まれようが嫌われようが、痛くもかゆくもないはずだったからだ。
学校で楯突いてきたから軽く蹴散らしてやっただけの、どこにでもいる男子生徒Aだった。
イケメンだからとか、格闘技をちょっとぐらいかじっているとか、成績がいいとか、クールで女受けが良いからとかいった漠然とした自信にあぐらをかいて、
『僕は猿みたいな他の男どもとは違うんです。卑猥なことなんか考えてません』と言わんばかりの取り澄ましたポーズをしていたことが、あの時は気に入らなかったのかもしれない。
どっちにしても、菊地だって常盤のことは苦手にしているはずだと思っていたから、さも『信じていたのに裏切られた』という顔をされたことは意外だったし驚かされた。

――こんなことが無かったら、あのクラスに馴染むこともできたのだろうか。

「おい、大丈夫か?」
「平気だってば。ムカついたのがぶり返しただけよ」

浦飯には不毛な想像しかけたことは誤魔化して、立て続けにページをめくった。
何も、感傷にひたって座りこむためだけに『学籍簿』を開いたわけではない。
久しぶりにその名簿を広げた最大の理由は、『ある人物』の顔を確認して記憶するためである。

459天体観測 〜愛の世界〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:23:44 ID:G67N34mU0



「――いた。こいつ。杉浦綾乃」



その名前を名乗った者から届いたメールが、二人の携帯をブルブルと震わせた。
殺し合いに乗った『御手洗清志と相馬光子』にデパートで襲われていると、救けを呼ぶものだった。

「こいつが『助けてくれ』って言ってきたやつみたい」

ひょっとしたら偽名かもしれないけどね。
そう言って浦飯幽助にもそのページを広げたまま見せた。
杉浦綾乃。
富山県にあるらしい、七森中学校なる女子中学校の二年生。
外見から分かることは、せいぜい髪を染めているとかガングロだとか濃い化粧をしているような分かりやすい不良生徒ではない、ということぐらいか。
生徒写真なんてたいていは少しむっとしたようにも見える無表情で写っているから、生真面目そうな性格であるようにも、その逆の性格にも見えてしまう。

「大人しそうな女に見えるぜ? この制服は『相沢雅』って女子が着てたのと同じだし、学校のダチじゃねえの?」
「『相沢雅』ならアタシとも同じ学校だってば。知らない制服だし、たまたま相沢サンが似たような服着てただけでしょ。
宗屋だって見た目からは『猿っぽい』以外分からなかったじゃん。
もしかしたら、こいつがこっそり殺し合いに乗ってて、御手洗と誰かを同士討ちさせるために仕組んだのかもしれないし……。
あ、でも、ひとつだけ分かったかもしんない」

ありふれたバストアップの証明写真を見て、あることを確信した。
浦飯が写真をより近くで見ようと身を乗り出してくる。

「なんだ、やっぱ見覚えがあったか?」
「そうじゃないんだけど。あのね、この写真から推理したんだけどさ」
「おう、言ってみろ」
「この子は――」

460天体観測 〜愛の世界〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:25:03 ID:G67N34mU0

しごく真面目な顔をつくり、言った。



「――あってBカップってとこね。脱いでもギリギリ谷間あるかってところだわ」



『ちょっと待て、お前は誰だ、何を言っている』と言わんばかりの眼で見られた。

「……ナニよ。あんたならこういう話題に鼻の下のばすんじゃないの?」
「男子ならともかくオメーの口からそんなん言われたらビビるわ! 性格変わってんじゃねぇか!」

昔はこういう冗談も言える性格だったけれど、言ってみると恥ずかしくなった。

「ちょ、ちょっと頭を切り替えようって言ってみただけだってば!
時間が無いのにいつまでも写真見て疑ってるわけにいかないし!」

事実、『襲われている』話が本当のことだとしたら、杉浦綾乃にとっては一刻を争う問題になる。
隠れて携帯でメールをポチポチするぐらいの余裕はあるようだけれど、杉浦綾乃が何の力もない女子中学生だとして、御手洗とやらが浦飯の言うような『能力者』だとしたら、その少女が自力で切り抜けられるはずもない。

「そもそも、『御手洗』と『相馬』とかいうのがつるんでたとこはレーダーで見たんだ。
御手洗のヤローなら殺し合いにも乗ってるだろうし、このメールは真実(マジ)ってことでいいんじゃねぇか?」
「だから、その『相馬』って女が『杉浦綾乃』の偽名を使って、デパートに獲物を集めようとしてるのかもしれないじゃん。
あたし、最初の放送が終わった後に似たようなメールもらったけど、その時はガセだったもん」

このメールが天使隊の『天使メール』と同じものだとすれば、むしろ誤情報を送られている可能性の方が高いとも言える。

「だとしても、デパートに御手洗たちがいることは間違いねーんだろ? なら行かない手はねぇよ」
「ま、そうなるのよね。お腹いっぱいで全力疾走した後に戦うのはちょっときついかもだけど」
「おい。オメーも来るのかよ。いつでも電話できるようになったんだし、留守番しててもいいんじゃねえか?」

461天体観測 〜愛の世界〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:27:13 ID:G67N34mU0
躊躇いがちに、浦飯は尋ねてきた。
御手洗との戦いが危険だから、という理由だけでないことは察しがついた。
ついさっきまで打ちしおれていた常盤が見ず知らずの誰かを救けるために立ち上がろうとするなんて、まるで無理をして何かしようという自棄にも写ってしまうだろう。
事実。
何もできないまま、罪でできたドブの中に沈んでいくなんて、怖いというのが本音だった。
『中川典子たちに償うことができないから、誰かを代わりにして償っているつもりか』と問いつめられたら、否定しきれる自信もない。
しかし、

「もう、『自分』のことだけ考えるのは止めたから」

自己満足ではないかと躊躇ったり、自棄になってみようかと思ったり、結局は『自分』しか見えていない。
それは、天使隊で人を傷つけていた頃と変わらない。
世の中を良くするだとか、悪い人間を裁くことに夢中になったつもりで、自分の傷口のことしか見ていなかった。
怖くて、弱くて、誰かに頼らなかったから。
ぜんぜん見えていなかった。写真付きの名簿を広げてみて、やっと気づいた。
顔と名前を持った中学生が、51人いる。
殺し合いに巻き込まれた時には、51人がいた。
今はもう、放送を信用するならば18人しか残っていない。
常盤の他にも50人の中学生が、怖がったり悩んだり死んだりしていた。
51人いれば、51人の世界があった。
そんな当たり前のことを、ずっと忘れていた。

「それに、やれることもやろうとしないで『生まれ変われる』かどうかなんて、分かるわけないじゃん」
ニッと笑みを広げて、白い歯を浦飯に見せる。
上手く笑えたのかは分からないけれど、その表情を見て浦飯もにやりとしてくれた。

浦飯こそ大丈夫なの、と尋ねようとしてやめた。
とりあえず御手洗清志をぶっ飛ばすというのは、亡き桑原がそいつを気にかけていたという話を聞けば分からなくもない。
しかし、その桑原と雪村螢子を取り戻せないと理解してしまって(常盤が理解させたようなものだが)、生きていく甲斐も何もないとさっき打ち明けたばかりだ。
大丈夫なはずがないに、決まっている。
それでも動くのかと尋ねたら、きっと例によって単純にあっけらかんと答えるのだろう。
「何もやらんよりはマシだ」とか何とか。
浦飯が、そういう馬鹿で良かった。

「まっ、アタシじゃさっきみたいな超人バトルについて行けないのはよーく分かったから無茶はしないよ。
御手洗ってヤツは任せるから、アタシは相馬光子の相手か、一般人の避難か……あとは菊地たちが来たときも何とかしなきゃだし」
「は? なんでそこで連中が出てくるんだよ」
「あのねぇ。このメールは他の連中にも届いてるかもしれないの。
アドレスを知られてないアタシと浦飯にメールが来たってことは、皆に一斉送信されてるかもしれないでしょ?」

最初の放送後に送られてきた『天使メール』は全員が受け取ったわけではなかったけれど、このメールもそうだとは断言できない。
本家『天使メール』は、全校生徒への一斉配信だったのだから。

462天体観測 〜愛の世界〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:28:58 ID:G67N34mU0
「菊地たちもデパートにいれば、『アタシと浦飯は殺し合いに乗ってます』ってことにされてるかもしれない。
あの二人には絶対に信じてもらえないだろうし、最悪あたしたちが来たせいで、敵が有利になっちゃうかもよ?」

喋っているうちに、菊地たちの集団に冷たい眼で見据えられ、問答無用とばかりに凶器を持って追われる未来を嫌でも想像した。
先行するように歩き出そうとしていたのに、その足が三歩目で止まってしまう。
また自分は、失敗しようとしているのではないか。
宗屋ヒデヨシを躊躇せずに蹴りに行った時のように、また裏目に出るのではないか。
しかし、すぐ後ろに追いつく少年がいた。

「ココロの準備が要ることは分かったけどよ。
今から悩んどけばどうにかなるもんでもねぇだろ」

その声は、三歩の距離を一歩で縮めて並ぶ。

「信じてもらえようがもらえまいが、有りのままオメーを見せるしかねぇさ」

言うなり、ばしんと背中を浦飯の平手で叩かれた。

「きゃっ……」

たぶん彼なりに手加減はしたのだろう。
それでも、かなりの衝撃が身体を走りぬけた。

「少なくとも、『天使』とかいうのやってた頃のオメーよりはマシになったんだろ?
だったらいい加減、『今の自分』に腹ぁくくれ」

背筋を、強制的にぐっとのばされたような感覚がした。
腹をくくる。
その一言で、なけなしの意気地がさっと集まって『やるしかない』という意思に固まった心地がする。

「そうだね。行こっか」

463天体観測 〜愛の世界〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:29:56 ID:G67N34mU0
眼がしらが熱くなるほどの嬉しい気持ちと、悔しいという想いが同時に来た。
浦飯には借りを作ってばかりいるのに、
彼が喪った大切なものを、常盤愛では埋めることができない。
何かを、したかった。
自分たちは色々と間違ったことをしてきたけど、
せめて、皆が浦飯には優しくしてくれるように、どうにかしたかった。
そういうことは、男の友情だろうと女の友情だろうと違わないはずだから。



「――んじゃ、急ぐか。乗れよ」



腹をくくった常盤愛は、しかし眼前のソレを見て再停止した。

気が付けば浦飯が進行方向に回りこんでいて、
身体を前かがみにしゃがみこませ、常盤へとその背中を差し出していた。
その背中におぶされと言わんばかりに、両腕を背後へと伸ばして。

「何よそれ。なんでおんぶなの」
「一刻を争うんだろ。二人で走るより担いで走った方が速い」
「あ、あたし、そんな遅くない」
「お前に体力があるのはさっきの戦いで分かったけどよ。それでも俺が担いだ方が速いだろ」

その通りだった。
放送前の戦いでいともたやすくなぎ倒された木々のことを思い出す。
浦飯の力があれば常盤を背負ったまま走るのも、ディパックを背負って走るのと大差ないだろう。
しかし、正しいことと、それを躊躇なくできるかどうかは別だ。

「だ、だからってそんな恥ずかしい運び方しなくたっていいじゃない」
「けどよ、ひと一人運ぶとなったらおぶさるか……こうなるぞ?」

浦飯は立ち上がり、大きな荷物でも抱えるように両の腕を体の正面で曲げてみせた。
女性の背中と太ももの裏をホールドして運ぶときの……いわゆるお姫様だっこのそれだ。

「もっとダメ」
「なら、こうするか?」

そう言って、右腕を体の横で半円を描くように曲げた。
いわゆる『小脇に抱える』と表現される抱え方だ。
おそらく、抱えられるのは常盤の腰のあたりだと思われる。
そして浦飯は気付いていないのだろうが、腰のあたりで抱えられたら、スカートの丈からいっても『見える』。
もっと言えば、今日のパンツはイチゴ柄である。

「……おんぶでいいです」

観念して、浦飯に体重を預けた。
生暖かく、少し汗のまじっている体温が、しがみついた手のひらとお腹のあたりに伝わる。
男の子の身体だと、思った。
浦飯がひょいっと立ち上がる。それによって常盤の視界が上方向へと傾く。
その一瞬で、突き抜けるような夜空が視界に入った。

「つかまってろよ」と、声がかけられる。浦飯が走り出す。

――空には、ちょうど一番星が輝きはじめていた。

464天体観測 〜愛の世界〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:30:43 ID:G67N34mU0
【F-6/一日目 夜】

【常盤愛@GTO】
[状態]:右手前腕に打撲 、全身打撲
[装備]:逆ナン日記@未来日記、即席ハルバード(鉈@ひぐらしのなく頃に+現地調達のモップの柄)
[道具]: 基本支給品一式×6(携帯電話は逆ナン日記を除いて3台)、学籍簿@オリジナル、トウガラシ爆弾(残り6個)@GTO、ガムテープ@現地調達、パンツァーファウストIII(0/1)予備カートリッジ×2、 『無差別日記』契約の電話番号が書かれた紙@未来日記、不明支給品0〜6、風紀委員の盾@とある科学の超電磁砲、警備ロボット@とある科学の超電磁砲、タバコ×3箱(1本消費)@現地調達、木刀@GTO、赤外線暗視スコープ@テニスの王子様、
ロンギヌスの槍(仮)@ヱヴァンゲリヲン新劇場版 、手ぬぐいの詰まった箱@うえきの法則
基本行動方針:なかったことにせず、更生する
1:デパートに向かい、メールの送信者を助ける
2:浦飯に救われてほしい
[備考]
※参戦時期は、21巻時点のどこかです。

【浦飯幽助@幽遊白書】
[状態]:精神に深い傷、貧血(大)、左頬に傷
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品一式×3、血まみれのナイフ@現実、不明支給品1〜3
基本行動方針: もう、生き返ることを期待しない
1: デパートに向かい、御手洗をぶっ飛ばす
2:常盤愛よりも長生きする。
3::秋瀬と合流する




465天体観測 〜或の世界(前編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:31:54 ID:G67N34mU0
『さて、これで未来日記『The Rader』に関する説明は終わりなのじゃ。
もっとも、お主には今さら説明するまでも無かったかの――秋瀬或』
「確かに、目新しい情報はいただけませんでしたね。
何の前触れもなく、ルールも登場人物も一新された殺し合いに呼ばれたというのに。
開口一番に『ルールに関すること以外の質問を禁止する』とは」
『嫌味を言っても無駄じゃ。お主に余計なことを教えたら要らんちょっかいをかけてくることは分かりきっておる』
「では、なぜ僕を招待したのです? サバイバルゲームの参加者でもなければ、日記所有者でもない僕を――。
いや、この『The Rader』と契約すれば所有者にはなれると」
『無駄口をたたいてないで、さっさと契約するかどうかだけ答えるのじゃ』
「無駄口とは心外な。僕は貴方がたの手間を省いて差し上げたいんですよ?
僕がただ従順に従うはずないと分かりきっていて、殺し合いに呼んだ。
つまり、僕に対して何らかの役割を期待しているということだ。
貴方達は、僕に何をしてほしいんです?」
『別に、じゃ。お主はただその日記を使ってこれまで通りに『観測』しておればよい。
役割というならデウスのいない世界に来た時点で、お主の役割は終わっているのじゃから
――まぁ良い。これ以上の会話に費やす時間もないし、切らせてもらうぞ。
『契約に同意した』と見なしても良いようじゃからの――――ブツッ、ツーツーツーツー』


それが、最初の記録。
『すべてが死に絶える未来(ALL DEAD END)』を告げられる前の『観測者』が訊ねた、自分が存在する意味についての会話。





「デパートに向かおう」

秋瀬或の決断は、それだった。

その選択をした理由は大きいものから小さいものまで。メリットもあればデメリットもある。
しかし、大きな理由をひとつあげるとすれば、『後手に回らないため』というものだ。
現時点で最大級の要警戒人物であり、デパートに向かってくる可能性も低くない、我妻由乃。
彼女は雪輝日記を持っており、こちらの動向はすべて筒抜けになっている。
しかし、こちらの手には彼女の動きを追えるような未来日記がなく、参加者の位置情報を把握するためのレーダーも携帯電話の電池切れで作動不可能となっている。
仮に当座の危険を避けるため、あるいは我妻由乃を呼びこまないためにデパートを避けたとしても、これだけ情報量の差があれば常に先手を取られ続けることになる。
だとすれば、急務となるのは『携帯電話の充電器』を確保すること。
病院の売店にもそれが見受けられなかった以上、その品揃えが期待できるのは『デパート』か『ホームセンター』ぐらいのものだろう。
さすがに一日近くが経過した今になって通話とメールを解禁しておきながら、会場のどこも携帯の充電ができないということはないはずだ。
だとすれば、ここは虎口に飛び込む危険を冒してでもデパートに向かう。
到着すれば、秋瀬或は迅速に家電売り場から充電器を調達。その一方で他の三人は杉浦綾乃の確保に専念しつつ、我妻由乃の襲撃に備えた警戒態勢を敷くこと。

466天体観測 〜或の世界(前編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:32:46 ID:G67N34mU0

そういった説明は、病院の駐車場へと降りていくまでの行きしなで済まされた。
とはいっても、三人に口頭で説明してしまえば、その会話はそのまま雪輝日記に反映され、こちらの意図(レーダーを持っていること)を読まれてしまうだろう。
よって、越前リョーマと綾波レイに対しては、カルテの余白を使ったメモ書きを渡すことで(左手で書いたのでかなり乱雑な文章になったが)、天野雪輝を経由せずに情報を渡す。
そして、天野雪輝に対しては、

「御手洗清志と相馬光子を撃破することには固執しない。
むしろ、最低限の充電と救出さえ完了すればデパートから離脱することも視野にいれていこう」

ひそひそと。
天野雪輝の、左の耳に。
愛の言葉でも、囁くように。

クレスタの助手席に座り込み、シートベルトを片手で締めながら、秋瀬或は説明を終えた。

「わ、わかったけど……『この』対策、本当に大丈夫なの?」

耳元で囁き声を聞かされ続けた雪輝はとても恥ずかしそうで、頬も少しだけ赤身がさしている。
もっとも、秋瀬或に対してドギマギしているというよりも、単純に『この手のシチュエーション』に耐性がないだけなのだろうが。
どっちにしても、とても可愛らしく好ましい顔だったので、これも役得だということにする。

「『こんな方法』で未来日記をかいくぐろうとするなんて初めてだから、確証はないけどね。
理論的には、この方法で大丈夫なはずだよ」

『雪輝日記』は、10分刻みに天野雪輝の行動を記録した超ストーカー日記だ。
つまり、『無差別日記』が天野雪輝の視点による情報を元にしているのと同じく、『雪輝日記』もまた『雪輝をストーカーする時の我妻由乃の視点』で情報を捉えていることになる。
この『ストーカーの視点』というのがどれほど雪輝のそば近くに寄り添ったものかは分からない。
しかし逆に言えば『絶対に天野雪輝の視点でしか知りえないこと』ならば『雪輝日記』では予知できないと解釈できる。
たとえば『雪輝以外の人間がそばにいても決して聞き取れないように、声をひそめて耳元でひそひそと囁いたこと』ならば、会話の内容まで伝わらないはず。
かつて雪輝を軽井沢の監禁から救けだし、我妻から引き離していた時は『雪輝日記からの情報を制限すれば、かえって我妻を刺激するのではないか』と警戒して使えなかった手段だった。
ただ、こちらとしても、雪輝に顔と顔が触れそうな距離で話せるのは嬉しい。

467天体観測 〜或の世界(前編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:33:49 ID:G67N34mU0
「もっとも、僕らが車でどの進路を選んだのかは『雪輝日記』にも隠しようが無い」

運転席に座った雪輝が、頷きつつクレスタにエンジンをかける。
こちらもちょうど、目的地に関する会話は終わったところだ。
名残惜しくも顔を引いて、話し方を元に戻した。

「そうでなくとも、さっきのメールが我妻さんにも届いていたら、彼女自身もそこに向かおうとする可能性はある。
最悪は目的地に先回りされている可能性も考慮すべきだね」

雪輝が深く頷くのと同時に、エンジンが唸り声をあげた。
かつて『大人として、クレスタに乗ろう』というキャッチコピーで売り出された壮年男性の御用達セダン車が、四人の未成年者を乗せて出発する。
後部シートに座っていた綾波レイが、最終確認でもするように隣の少年に尋ねた。

「越前君、怪我は本当に大丈夫?」
「綾波さん、心配しすぎ。もう充分すぎるくらい休んだし、腕だってちょっとヒビが入っただけなんだし」
「今、『だけ』って言った?」

助手席から視線を上げてバックミラーをのぞけば、越前の副木で固定された右手をじっと見ている綾波がいた。
先刻から右隣に付き添って、右腕を動かす必要が生じたらすぐに代わりができるよう目を配っている。

「それに、綾波さんがしっかり手当してくれたから痛みも引いてるし。足も体の打撲も、今はぜんぜん」
「良かった……どうして目をそらしながら話すの?」
「そりゃ手当てされる時にジャージ脱がされたり……ゴホン。
そ、それより聞きたいんスけど――」

病院の出口へと車のハンドルを回しながら、雪輝がフンと鼻を鳴らした。
それはそうだ。愛する人と出会いがしらに殺し合うかもしれないのに、後部座席で少年少女の仲良しごっこを見せられるなんて、まったく愉快ではないだろう。
しかし、

「綾波さんはさ、人、殺すの?」

その言葉で、会話の緊張感が変わった。
助手席にいた秋瀬或は、その言葉でやっと気がついた。
綾波の両手には、いつの間にかベレッタM92が握られている。
扱い方でも、確認しておこうとするかのように。

468天体観測 〜或の世界(前編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:35:00 ID:G67N34mU0

「戦うためなら撃つ。殺すかどうかは、その時にならないと。
高坂君に止められた理由も、よく分からないままだし」

淡々とそう言った。
バロウ・エシャロットを殺そうとして高坂王子に庇われたことは、彼女としても尾を引いているらしい。

「殺したい気持ちのまま殺そうとすると周りが見えなくなるって、あの時分かった。
でも、私は――越前君を殺そうとする人が死ぬより、越前君が死ぬ方がいやだから」

バックミラーに映る綾波は、拳銃を見下ろしながら話していた。
だから、自分の言葉を聞いて隣にいる少年がどんな顔をしたのか、気付かなかった。
気付いていたら、とても驚いたかもしれないのに。

「越前君は、怒る?」

車が50メートルほど走って病院の正門をくぐりぬけるまでの間、答えに困るような沈黙があった。
目的語を欠いた問いかけだったけれど、意味は明瞭だった。
越前が神崎麗美をギリギリまで殺さなかったことを、『そちら側』を選べない人間だったことを、綾波も秋瀬も知っている。

「だったら、綾波さんは戦わなくていいよ」

それを聞いた綾波が「えっ」とつぶやいた声にかぶせるように、越前が早口になる。

「俺が戦えば済むことじゃん。
バロウも、デパートにいる奴らもみんな俺が相手する。
綾波さん真面目だから、人を殺したら悩んだり自分を責めたりとかしそうだし。
俺の心配するより、もっと自分のこと考えた方がいいよ。だいたい、俺の方が綾波さんより強いんだし、できるだけ殺さないようにやるし――」

その少年は、本人いわく、正しくなんかない。
だから、人の行動を『間違っている』と決めつけられない。
だから、綾波から『死ぬかもしれない』と言い放たれて、動揺している。

「私は、弱いから足手まとい?」

だから、相手が『戦わなくていい』と言われて納得するはずないと、頭が回っていない。

「越前君は強いから、私を守ってくれるの?
なら、私を置きざりにした方がいいと思う。
いっしょにいない方が、いいと思う」

それは禁句だ、と秋瀬でさえ認識した。

469天体観測 〜或の世界(前編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:35:43 ID:G67N34mU0

「そんなこと言ってない!!」

車の天井が揺れるかというほどの叫び声があがり、そして沈黙が降りた。
車のエンジン音と走行音に、微かな音が混じる。
後部座席で、喘ぐように息が吸われる音だった。
吐くと同時に、絞り出すような声が出る。

「……俺だって、綾波さんを殺そうとする人が死ぬより、綾波さんが死ぬ方がいやだよ」

ここまでこじれては、横やりを入れるべきかと判断した。
だから、秋瀬は口を開いた。



「やめなよ」



そう言ったのは、秋瀬ではなかった。
意外な人物だった。
後部座席にいた二人も、驚いた顔で視線を運転席に向ける。
ただし、声をかけられたことに驚いたというよりは、
すぐ前の座席に二人ほど座っている場で言い合っていたことをやっと思い出したようなそんな驚き方だった。

「彼女に汚れ役をかぶせたくはない。
だから、彼女が『君に戦いを押し付ける役』になる分には構わない。
たとえ自分が将来的に汚れ役になったとしても、彼女の意思をねじ曲げても。
それってメチャクチャ矛盾したこと言ってる自覚ある?」

ぐぅの音も出ないほどの見事な正論だった。
後部座席の、その左側が唸った。
何も言い返せないようだった。
やがて、悔しまぎれのように言う。

「…………分かった風なこと、言うじゃん」
「これでも君よりずっと先輩だよ? 特に、『そういう事』は」

余裕のある笑みが似つかわしい声。
しかし助手席の秋瀬からは、運転手の眼が笑っていないことも見えた。

「よーするにアンタも、彼女のために危ない役をやろうとしたの?」
「まさか。僕はちゃんと由乃を叱ったり諌めたりしてきたよ」
「……あ。もしかして、逆に我妻さんに戦わせて守ってもらってたとか」
「なんで君はいちいち人の神経を逆立てるのかなぁ。
言っとくけど、途中からはしっかり由乃と力を合わせて殺すようになったからね。自慢するようなことじゃないけど」

二人の会話を聞くうちに、納得した。
要するに越前を心配したというより、彼に腹を立てて綾波の肩を持つために口をはさんできたらしい。
そりゃあ、苛々もするだろう。
『もしもの時の殺人も含めて全部自分がやるから、貴方は私を頼ればいい』と言われるのは、かつての雪輝も経験したことだし。
それを目の前で、よりによって男の子の側が、さも勇ましく女の子を守るために言い出して、
しかも『できれば殺さない方が絶対にいいはずだ』というキレイごと成分を増量して発言されたりしたら、ムカつきたくもなる。
うん、雪輝君は悪くない。

470天体観測 〜或の世界(前編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:37:06 ID:G67N34mU0

「で、彼女に何か言いたいことがあったんじゃないの?
ホラ言いなよ、僕と秋瀬君にも聞こえてるけど、それは気にしないで」
「う…………ぐ……」

しかし、色々な年季でも、経験でも、雪輝の方が圧倒的に勝っていて。
バックミラーに映った越前が悔しそうな敗者の顔だったのは、少し愉快ではあった。
『運転席にいるヤツをいつかグラウンド百周以上の目に遭わせてやりたい』と考えていそうな目で、しばらく躊躇した後、
ゴホン、とわざとらしい咳払いをひとつして。

「綾波さんに、任せる」

車の中は、外の闇に侵食されて、薄暗くなり始めていた。
だから、綾波の方を向いた越前の顔が少し赤かったのも、見間違いかもしれないが。

「だから、綾波さんも俺に任せてよ」

色々な言葉を削った言い方だったけれど、綾波は必要な範囲で理解したように頷いた。

「でも、もし綾波さんが何か間違えた時は、その時は一緒に背負うから」

綾波が、少し首をかしげることで『どうして?』と尋ねて。

「俺、綾波さんのことは…………パートナーだと思ってるから」

綾波は、声に出して何かを言わなかった。
ただ目に焼き付けるように、まばたきも忘れたように、じっと彼のことを見ていた。

運転席の雪輝は、愉快な顔から一転して、フンと鼻をならした。
会話の余韻が途切れた頃合いを見計らって、越前へと話を振る。

471天体観測 〜或の世界(前編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:38:05 ID:G67N34mU0
「でも、意外だよね。コシマエはこの期におよんで、バロウって子を殺さずにどうにかするつもりなの?」

視線はハンドルと車の進行方向を見ていたけれど、眉をひそめていた。
越前も運転席を見て、似たような表情を作る。

「綾波さんも碇さんのことがあるから、そっちを決めるのは綾波さんになるけど……まずは、決着をつけてからにする」
「でも、大切な仲間とか、知り合いとか、あと高坂だってそいつに殺されてるんだよ?
殺す気で戦わないと逆に殺されるかもしれないし、他にも犠牲者がいるかもしれない。
由乃に遠山を殺されても仲を戻そうとしてる僕が言うのもなんだけど、心が広すぎじゃない?
コシマエがそいつを殺しても、十人が十人とも責められないぐらいの事をされてるよ、それ」
「なんでアンタがそこ気にするの?」
「僕が殺し合いに慣れすぎてるのか、君の方が普通なのかどうか、気になったから。
昔の僕だったら、大切な人を殺した日記所有者は殺してやろうと思ってたし」

天野雪輝は、とても優しくて、人によっては甘いとも言われる少年だ。
自身を殺そうとしたばかりか母親を殺してしまった父親に対しても、父が涙を流しながら謝罪したことでその罪をあっさり許したという。
大切な人間がどれだけ罪に汚れていたとしても、その情が揺らぐことはない。
しかし、逆に言えば。他人に大切な人を殺され、しかも犯人がそのことを悪びれもしないような人間だったならば、良心の呵責も容赦もしない。
両親が死ぬ原因を作った11thには本気の殺意を向けていたし、仮に『勝ち残って皆を生き返らせる』という目的がなかったとしても11thだけは復讐から殺していたのではないかと秋瀬は推測する。

「天野君は、もし我妻さんを殺そうとする人がいたら、その人を殺すの?」

そう問いかけたのは、綾波だった。

「そうしなきゃ由乃が守れないなら、殺すよ。君は、違うの?」
「守りたい人が、それを望まないかもしれないから」
「そっか、そういう考え方もあるよね」

越前は、雪輝に答えるより先に、綾波に尋ねていた。

「綾波さんは? 碇さんの仇、取りたい?」

綾波は少しだけ考えるような時間をかけて、そして頷いた。

「前にも言ったけど、やっぱりまた会ったら殺したくなると思う」
「正直、俺もそう思う」

472天体観測 〜或の世界(前編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:39:38 ID:G67N34mU0
「「え?」」と。
意外な返答に、綾波と雪輝が驚いたようなつぶやきをもらす。

「部長も神崎さんも碇さんも高坂さんも帰ってこないのに、殺した方は一回倒して反省させればそれで終わりなんて、ムシが良すぎるじゃん。
しかも、本人に訊いたらそれが『ベストの方法』だって。
そんな奴を助ける義理なんてないっスよ。
ってゆーか、別に助けたいとも思えないとこまで来てる。
でも俺、アイツに『教えて』って聞いたことを、まだ教えてもらってない。
……それに、いちおう部長からも皆で何とかしろって言われたし」
「その遺言のことは、もう時効にしたっていいんじゃない?
その遺言が出てから、少なくとも三人以上が殺されてるんだよ。
そんな行くとこまで行っちゃった人を救うなんて無茶だと思う」
「かもね。でも、なんか違うんじゃないっスか。
そんなこと言い出したら、俺は我妻さんのことも仇討ちしなきゃいけないし。
それに、あの人は殺すとかこの人は殺さないとか、いちいち決めてかかるのが『柱』だったら、そんなのやってられないし」

それは、最終的に殺す以外の終わらせ方ができない相手だったとしても、
何も分からないまま、覚悟も決めずに殺したくはないということなのか。
甘い、と秋瀬は思った。雪輝も同じことを思ったのか、ため息を吐いた。

「まぁ、僕としてはその方がいいけどね。
君が由乃のことも許せない殺すとか言い出したら、僕は君を殺さなきゃいけないし」
「なんで本気かどうか分からないことをそんなしれっと言うんスか」
「本気だよ」
「アンタさぁ……」
「越前君」

喧嘩のようなそうでないようなものが勃発しかけたところを、綾波の一声が遮った。

「前から聞きたかったけど……『柱』って何?」

ずばり。

「え……それは…………だから……つまり……」

今までごく当たり前のように使ってきた言葉の意味を尋ねられて、越前はとたんに返答に窮していた。
深く考えずに使って来たのか、当たり前に使いすぎて他の言葉で説明するのが難しいのか。
しかし綾波は、「もうひとつ」と前置きしてさらに尋ねる。



「中学校のクラブ活動の『柱』だったら、殺し合いに巻き込まれたときに皆の『柱』になるの?」



実は秋瀬もひそかに引っかかったけど、指摘するのは野暮かなぁと言わなかったことを言った。言ってしまった。

「ならないよね。むしろ、なろうとする方がおかしいよね」

さらに雪輝が追い打ちをかけた。
越前が、何か言おうとした顔のままで固まる。

「君たちのテニスが普通じゃないのは遠山を見てたら察したけどさ。
それにしたって、殺し合いやってるのに『テニス部の柱だから、ここでも脱出派の柱になる』とか言われても、普通は『なんで?』って思うよね。そういう役職じゃないよね?」

473天体観測 〜或の世界(前編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:40:15 ID:G67N34mU0
秋瀬視点で捕捉すると、最初にそう言った手塚国光は、月岡彰にも『お前たちが』柱になれと言ったそうなので、別にテニス部限定で柱を指名したわけではないのだが。

「い、いいじゃん別に……や、やりたくてやってるんだし?」

微妙に綾波から目をそらし、というかほとんど目を泳がせながら、越前は言う。

「じゃあ、『柱』って何をするの?」

そう問いかけられて、改めて考えるように遠くを見る目をした。

「少なくとも、俺にとっては――」

集団の精神的支柱。みんなの頼れる牽引役。チームの仲間を勝利へと導く存在。
普通はそういう意味合いだし、だから秋瀬もそういう答えが出ると思っていた。
しかし、

「――『新しい世界』に、連れて行ってくれる人」

少年はそう言った。
しかし、「違うな……」とつぶやき、すぐに言い直す。

「『新しい世界』に行ってみたいって、思わせてくれる人。
なんか、綾波さん見てて、そう思った」

その『新しい世界』が、彼のいた場所では全国優勝だったり、海の向こうだったりしただけなのか。

「皆で、『油断せずにいこう』って」
「どこへ?」
「どこかっ」

474天体観測 〜或の世界(前編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:40:55 ID:G67N34mU0
きょとんとする綾波を見て、「たぶん楽しいところ」と付け足した。
綾波は、「どこか」と、「楽しいところ」と、おうむ返しのように復唱する。
まるで生まれて初めて『楽しい』という言葉を聞いたかのようだった。

「……ふーん。僕は由乃がいて一緒に星を見られたらそれでいいよ」

雪輝が口を挟んで、初々しい余韻を壊しにかかった。

「別にアンタのためにやってるわけじゃないし」

バックミラーから見られていることを知らない越前が、『べー』と舌を出す。

よく喋るようになったかと思えば、かえって犬猿になったようでもあり、おかしな二人だった。
お互いに、お互いへの対応が一貫していないこともある。
二人のこじれた関係を正したかと思えば、仲直りしたらしたでむすっとしたり。
『柱』として接したかと思えば、『アンタのための柱じゃない』と言ったり。
おそらく、うかつに「ずいぶん仲良くなったね」などと空気の読めない台詞でも吐けば、
二人ともから息ぴったりで「「仲良くなんかない」」と唱和されるだろう。

実際、この二人を険悪にしかねない要素ならば色々とある。
天野雪輝の恋人が越前の友達を殺害して、しかも雪輝がそれを見殺しにしたとか、そういう事情もあるし。
目の前で仲睦まじい二人を見せつけられていることもあるし。
かたや平穏な日常を望みながら、傍観者として生きていたのに、クソッタレな戦火に放り込まれてすべてを失った身の上だったり。
かたや日常の中で変化を望みながら、チームの柱として、危険ではあっても楽しい戦場ですべてを獲得してきた身の上だったり。
かたや自分に自信がない少年で、かたやたいそうな自信家で。
かたや思慮深く、しかし急場になるとたいそう肝が据わった殺し合い経験者の中学生で。
かたや考えるより行動で、しかし急場になると人を殺す覚悟もなにもない、ただの中学生で。
あの高坂王子なら、ばっさり「元ぼっちとリア充だろ? そりゃ気が合わねぇよ」とか身も蓋もなく言ってしまうかもしれない。
それでも、今のところは一蓮托生としてここにいる。

彼が望んでいる役割は、『柱』だった。
ある意味では、ある少女(?)が回答した『遺志を継ぐ者』とも似通っているかもしれないが。

どうやら、己の役割をあらかじめ持たされた中学生は僕だけであるらしい。
車内での会話が鎮火してきたことを契機として、秋瀬或はそうひとりごちた。
ここ一日の記憶を検索し、これまで会った少年少女のことに意識を潜らせていく。

475天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:41:43 ID:G67N34mU0
たった一日だけれど、今まで会ったこともないような人間と何人も出会った。
世界は広い。
否、並行世界だから、世界は多いと言うべきなのか。
宇宙の星の数くらい、それらは存在するのだろうし。



最初に出会った少女は、自分は特別なんかじゃない、何もやるべきことなんかないと言っていた。
そして、彼女が知っている同じ世界の少女たちも、非日常など知らないただの女の子達だったとも。
会話をしていくうちに、彼女の世界を察することは容易だった。
きっと彼女たちは、
そして、今になって振り返ると彼女たち『だけ』が、
出会った者の中で、彼女たちだけが、誰とも戦ったことなど無かったと言っていた。
あってせいぜい、青春らしい胸ときめかせる同級生との痴話喧嘩だとか、部活動でのゲーム対決だとか。
しかし、それはそれでトクベツだ。
奇跡的に平和な日常。時の止まらない永遠のように、ずっと変わらない毎日。
秋瀬のいた世界にも平穏なスクールライフを送る少年少女はいたけれど、そんなものはゴスロリ服を着た国際テロリストが爆弾をひっさげて襲来すればあっさり壊れてしまう、たいそう脆いものでしかなく。
すべてがキレイな、何の痛みもない、ハッピー『エンド』でさえも存在しない世界なんて、希少なものだ。
彼女――船見結衣もまた、秋瀬或を特別なものであるように見ていたけれど。

476天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:42:06 ID:G67N34mU0



船見結衣とともにいた少女は、違っていた。
助けを求めている人を助ける、『ヒーロー』でありたいと答えを出した。
彼女はおそらく、戦いを知っていた。
眼が違っていた。
彼女は人が死んだことを嘆いていた。おかしいと、こんなはずじゃなかったと、言っていた。
しかし、戦うことを拒んでいなかった。
目の前に『人を助けた結果として死体になった少女』がいながら、そのことに涙を流していながら、『人を助けたい』と言うことを恐れを抱いていなかった。
助けられることを、知っていたのだろう。
助けることを、知っていたのだろう。
少なくとも、人が死ぬなんておかしいと言える世界であったことは間違いなく。
だからきっと、彼女たちのいた物語は、『ハッピーエンド』だ。
仲間と力を合わせて助けて助けられ、誰かが死なないように大きな理不尽を打倒する。
そんな世界だろう。

477天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:42:38 ID:G67N34mU0



次に出会った少年は、それとも少女だったのかは。
最初から、『バッドエンド』を定められた存在だった。
既に、文字通りの意味で『デッドエンド』を経験していたと言うべきだろうか。
次代の神を選定するためでもなく、未来ある中学生の『才能』を競い合わせるでもなく。
ただ、大人たちの安寧と余興のためだけに、日常を破壊されて殺し合いをさせられる中学生。
将来なりたい夢は、とても限られていて。
大好きだったはずの仲間は信じられなくなり。
大人たちが身勝手に作り上げたレールの上を歩き、少しでもレールを外れたら処分された。
心のどこかで引け目を感じて、なるべく災厄をこうむらぬように、日陰に身を寄せて暮らしていたという。
一方で、そんな世界をクソッタレだと断じながら、自由を手に入れるために足掻いて、戦っていた少年たちもいたという。
永遠に続けばいいと願うようなスクールライフも確かに存在しながら、
どこかで崩れ落ちるという諦めが混在していた世界。
そういう意味では、『先に出会った二人の少女』とは極めて近く、限りなく遠かったのだろう。
そんな世界で死んだ後に、奇跡的に第二の人生を手に入れて、
『遺志を継ぐ者』になると宣言した彼――月岡彰は、その六時間後に放送で名前を呼ばれた。

478天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:43:26 ID:G67N34mU0



そのカノジョとともに歩いていた男は、『反逆者』志望だった。
月岡彰が言うところの、キラキラ輝いている世界の人物。
彼らにとっての戦場は、縦78フィート横27フィートのテニスコートの上だった。
望まない強制された戦争ではない、自ら望んで立つことができる、自由なフィールド。
話によれば決して呑気なスポーツではなく、なぜか命を賭けることもあったらしいが。
それでも、根本的に賭けるものは青春であり、プライドであり、硝煙の臭いも腐った死体の臭いもしない競争だった。
だから己の力で何かができるはずだと信じるし、負けん気も発揮する。
彼ら――真田弦一郎にせよ、遠山金太郎にせよ、勝利することがすなわち『ハッピーエンド』であり、仮に敗北したとしても、その悔しさの中でも何か生まれるはずだと、『バッドエンド(行き止まり)』だとは考えていなかった。

――その叛逆が敵わなかった時に、彼らが何を思ったのかを、察することはできないが。

479天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:44:38 ID:G67N34mU0



その一方で、本当の意味での『戦場』と『日常』を行き来する少年もいた。
彼のいた世界はおそらく、集められた中でも最も強い世界だろう。
戦場にいた時はまさに地獄と天国の境界であり、人間を糧にして食らうような妖怪も、人間を審判するあの世の使いもゴロゴロいたという。
強い者はどこまでも思うがままに振る舞い、弱い者は奪われても仕方がない。
それでも、皆がみんな、悪い者ばかりでも決してない。
鮮血も死体の山もある。ただし、意地と誇りを賭けた男同士の決闘だってある。
そんな戦場に、時には『霊界探偵』の任務として関わり、時には大切な者を守るために関わり、
そしてある時は『戦いたい』という欲求を満たすためだけに飛びこんでいく。
そんな戦場の厳しさを味わいながらも、最後には必ず日常の世界へ、幼なじみのいる帰る場所へと戻っていく。
そんな、代わり映えのしないようであり、でも少しずつ変わっていく日常へと帰ることが、彼にとっては『ハッピーエンド』だったのだろう。

彼――浦飯幽助のなりたいものは何であるのか。
案外、なりたいも何も、今も昔も未来も浦飯幽助でしかないと、そう答えるのかもしれない。

480天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:46:32 ID:G67N34mU0



浦飯幽助とともに出会った彼女は、『日常』こそが『戦場』そのものだった。
暴力問題だとか、非行だとか、いじめだとか、異性問題だとか。
どこの学校にも皆無だとは言えない日常の闇が、彼女たちのいた場所では極端に集中していたと、それだけのことかもしれないが。
後になって、彼女たちのクラスメイトだった菊地善人が言っていたそうだが、ここに呼ばれた者もみんないじめていた側だったりいじめられた側だったりで、
時には死人や殺人者が出そうになったこともあったらしい。
しかし、ある教師がジャーマンスープレックスのごとき力強い辣腕を振るったこともあり、今では傷つけあったこともひっくるめて、大切な仲間になったのだとか。
少なくとも彼女たち――常盤愛も、神崎麗美も、その中にいた一人で、
そして常盤愛には、なかったことにしてはならないと意地を張るだけの過去があり、
そして神崎麗美には、失ってはならない白紙の未来があったはずで、
彼女たちは、一歩を間違えた先にある『バッドエンド』の味を知っていた。
『なりたいものなんてない』と答えた彼女にも、『なんにでもなれる』と思っていた頃があったのだろうから。

481天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:47:04 ID:G67N34mU0



『戦場』で戦うことこそが存在意義だったと、名乗った少女がいた。
明確な理由を得られないままに戦場に送り込まれたという意味では、それはプログラムのように過酷だったかもしれないけれど。
世界や人類を守るという大義の元に戦わされていたという意味では、それは雪輝たちの経験した戦いとも似ていた。
だからなのかもしれない。
彼女――綾波レイは、自分のこともさほど好きそうじゃないという点において、雪輝とは意気が合ったように話していた。
定められた戦いの他には何もないと思いながら、
もしかしたら、他に何かがあるのかもしれないと感じながら。
ハッピーエンドの形を知らないままに、ただバッドエンドに値する終わりを迎えないために、戦っていた。
『求められたいから』だとか、『一人で生きていくため』だとか、きっとそれぞれ存在意義に関わる理由を抱えて。

482天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:48:45 ID:G67N34mU0



すでにゲームから退場し、なりたい自分にもなれずに死んでいった者達がいる。
まだ生き残り、どこかに散っていたり、ともに行動している者達もいる。

戦って何かを為そうとする者がいた。何もできないと嘆く者もいた。
死なせようと戦う者がいた。死なせまいと戦う者がいた。
戦う力を持つ者がいた。力を持たない者もいた。

――違う。戦う力を持たない者の方が多かった。

秋瀬はそう、己が思考を訂正する。
確かに、一般的な中学生とは言い難い能力を持った者も相当の数がいた。

直接に対面した者を除いても、高坂は時間を操る能力を持つ傭兵少女と戦ったと話していたというし、
菊地たちや月岡たちを襲ったバロウという少年は、身体を兵器のように変形させたというし、
浦飯とその知り合いが人間離れした力を持っていたことは言うまでも無く、
また能力者とまではいかずとも、一般人とはかけ離れた者なら何人もいたけれど。

『本来ならばもっと強い人間だけを集められたはず』ということを踏まえれば、その数は少ない。

聞けば浦飯のいた世界には、とても人間の手には負えないB級ランク以上の妖怪たちがゴロゴロと暮らす魔界があり、そういった妖怪たちと雇用契約を結んでいた権力者も数多くいたという。
また人間界の中にも、ある日能力に目覚めた若者たちや、修行を積んだ霊能力者がいたらしいことがうかがえた。
浦飯のいた世界に限ったことではない。
たとえば菊地がバロウ・エシャロットとの戦いを経た後に、バロウに匹敵する『植木耕助』なる参加者を呼んでくると言っていたこと。
また、主催者が第二回放送の時点で『人間になりたいという願いを持つものは、それを叶えられる』と発言していたこと。

おそらく主催者には、『人間をはるかに超えた能力者がごろごろと存在する世界』に、いくつもの心当たりがある。
しかし、これまでに菊地が確認できた八つの世界のうち、その半数以上がそういった世界ではなかった。
戦いを知らない船見結衣とその友人や、それなりに格闘技をかじっているだけの常盤愛たち。
我妻由乃のように、常人離れはしているが、あくまで神としての能力などを封じられた『人間』として戦わされる中学生。
それだけでなく、浦飯幽助のいる世界からも、雪村螢子のような一般人が参加させられている。

よって、この会場にいる中学生たちは、純粋な『強さ』や『能力』を基準として選考されたわけではない。
未来日記が支給品として配られたように、『何かの能力を持ったものを参加させてみよう』という試みとして浦飯たちが拉致された可能性はあるにせよ、それは根本的な選考基準ではない。

483天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:50:15 ID:G67N34mU0

むしろ、数々の『世界』に目をつける個性があったとすれば、彼らを培ってきた環境の差異だろう。

そもそも最初に殺し合いを宣告した人物は、『全員に必須アイテムとして携帯電話を支給する。
ただし、携帯電話を知らない者にも、その使い方が分かるように調整している』と説明した。
逆に言えば、携帯電話が普及している時代から参加者を連れてくればいいという発想はなかった。
つまり、子どもたちは『その時代、その社会に生きている中学生』でなければならなかった。

現代の日本に生まれて、戦場を知らない中学生たち。
少し昔の、携帯電話にも疎い世代の、日本という国さえ知らない、戦場を知っている中学生たち。
この二つはあまりに大雑把な分類だとしても、秋瀬の出会ってきた彼らは、一つとして同じ『戦い』を経験していなかった。
戦いが違うから、戦場と日常が違う。
戦場と日常が違うから、なすべきことが違う。
なすべきことが違うから、なりたいものが違う。
なりたいものが違うから、『ハッピーエンド』と、『バッドエンド』の形が違う。
世界が違うということは、『ハッピーエンド』と『バッドエンド』の定義が違うと言うことだ。
違うから、皆が違う『願い』のために戦って、殺し合ってここまで来た。

単に、強力な能力を持った者と、能力を持たないものを同じ舞台に放り込んだ、
余興としての殺し合いを見せるためだけの舞台ではなかった。
なぜなら、神の仲間は『願いを叶える』と言ったのだから。
もっとも強い『願い』を持つ者がいれば、それを叶えるという条件を出したのだから。

元はと言えば『未来日記計画』が生まれたのも、『さまざまな人間が神の力を手にした時にどのような選択肢が生まれるのか』という可能性の探究だった。
それは、高坂王子が見つけてきた『未来日記計画』の文書にも記されている。

そして、未来日記があらかじめ指定した最終到達地点は、全員が願いを叶えられないという『ALL DEAD END』だった。
だとすれば。



――『ALL DEAD END』を覆し、最後まで勝ち残って『HAPPY END』を獲得する者はいるかどうか。

484天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:51:11 ID:G67N34mU0

この舞台に降ろされた50人は、それを試されているのではないか?

死に絶える未来を予期していながら生き残ってみせろとは、ずいぶんと人を嘲笑するかのようなやり口だ。

思索の海から一瞬だけ現実へと浮上した秋瀬は、助手席に身を預けたまま苦笑を浮かべた。
左手は絶えず動かし、その思索を書きとめることに費やされていた。

そして次の瞬間、自覚する。
はて、と首をひねる。

『50人』と、結論づける時に、秋瀬はそう数えた。
そう、51人とはあまりにも半端な人数だ。
50人ならばとてもキリの良い人数になるが、果たして秋瀬或は、ついさっき、無意識にいったい誰を除外したのか。
時間をかけて、考えるまでもない。
仮に、中学生が例外なく実験されているのだとすれば。

――『ただ観測していればいい』と神の小間使いから示された秋瀬或とは、何を為す者か。

当初は、欲求の赴くままに、謎を解きたいという気持ちにしたがって、歩いていたつもりだった。

謎と事件のあるところに、秋瀬或あり。
参加者と次々に接触しては別れてを繰り返したのも、一つでも多くの『謎』を収集するためだと自覚していた。

しかし、『自分がいる意味についてどう思う』と問いかけながら、
秋瀬自身がいる意味について、疑念を抱き始めたのは、遅れてのことだった。

疑念が決定的となったのは、『パラドックスの日々』を思い出してきた時から。
思い出したきっかけは何だと問われたら、雪輝と再会した後に、『我妻由乃は世界を二周させていた』という真実を聞かされたことだったのだろう。

ともあれ、少しずつ蘇ってきた記憶の中でも、秋瀬或は未来日記のサバイバルゲームに関わっていた。
最初は、雪輝がやってきたことを代行するだけの埋め合わせとして。
しかし、結果的には秋瀬の望んだ形で事件を解決する、ただの探偵として。
だからこそ。
数日間のパラドックスワールドで、ムルムルはすっかり秋瀬或を警戒していたと記憶している。
パラドックスが終わる頃には、因果律に関することには近づけないようにと妨害を怠らなくなっていた。

485天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:52:03 ID:G67N34mU0
そんな秋瀬或が、なぜ、日記所有者でもなくなった身分で、殺し合いに関われたのか。
天野雪輝のクラスメイトになったとはいえ、10thの事件が終わった時点でムルムルからそれとなく追いやられるなり、関われない程度に記憶を改ざんされるなり、有りそうなものだったのに。
秋瀬或は、神に連なる誰かの手によって、殺し合いに関わり続けられるように、ひそかに保護されていたのではないか。

謎と事件のあるところに、秋瀬或あり。
秋瀬或はいた。いることができた。

誰のために?

ムルムルとは敵対する動きをして。
所有者に対しては、天野雪輝を除いて中立的に観察し。
天野雪輝を神にするために、彼の敵を排除するように動く。
これらの行動は、誰にとって益になったのか。
ムルムルや我妻由乃ではないことは明らかだ。
かといって、天野雪輝の望みに叶った行動でもない。
天野雪輝は生き残ることを望んだが、両親のことが無ければ神になることを望んでいなかったし、
何より、我妻由乃を殺すぐらいなら死を選ぶような少年が、我妻由乃と秋瀬或の殺し合いを望むはずがない。
では、誰にとって有益な行動となったのかと結論を出せば。

――月岡彰は言った。
――それはまるで、神様の使い走りとして戦場を観察しているかのようだと。

秋瀬の行動によって助けられたのは、デウス・エクス・マキナしかいなかった。
デウスが期待したことは、雪輝の保護だったのか。あるいは所有者を色々な角度から観察する観測者がいることで、何らかの中立性が保たれると読んでいたのか。

ムルムルが言うには、このたびの殺し合いにデウスはいない。
『神』を名乗る、しかしデウスとは別の、それに匹敵する存在がいると、契約の電話は示唆していた。
そして、『The rader』を渡されて自由にされたということは、新たな神もまた『観測者』として秋瀬或を連れてきたということなのか。

50人の実験動物から『願い』を言葉として聞き出すための、観測者として。
そして、もしかすると何らかの事情で参加させた天野雪輝を、最低限は中盤まで保護することさえも期待して。

全て、推測だ。

暫定的にそう結論して、秋瀬は現実の車内へと意識を戻した。
秋瀬自身のことについて立証する手段は現時点で見当たらないし、立証したとしてもすぐに好転させる何かができることではない。
『そういう可能性がある』ことを気に留めておくぐらいしか、対処はできないだろう。
決して精神衛生上プラスにはならない、むしろぞっとしない話なのだから。

それに、誰かの手のひらの上のことだったとしても、変わらないし、変えられないことだ。

「雪輝君、今のうちに訊いてもいいかな」

天野雪輝の、力になりたいということだけは。
これから迎えに行く彼女に、嫉妬や羨望なんて無いと言えば、大ウソになるけれど。

486天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:52:47 ID:G67N34mU0
「我妻さんと仲直りするのは良い。
殺さずに彼女を無力化することも、彼女とよりを戻してから主催者の手を逃れて脱出することもね。
でも、その後はどうする?」
「その後?」

だから、問いかけなければいけない。
天野雪輝が、この先も生きていくために。

「我妻さんを連れて一万年後――君にとっては現在か。二人でそこに帰ることはできないんだよ。
我妻さんが元いた場所に、君と殺し合っていた元の時系列に戻らなかったら、『雪輝君が我妻さんを殺して神になった』という歴史に反してタイム・パラドックスが起きる。
平たく言えば、我妻さんが過去に戻ってやり直した時のように、並行世界が生まれるだけの結果になるよ」

それは、かつて神崎麗美にも問いただされ、答えを返せなかった問題だった。

仮に、我妻由乃を生還させることができたとしても。
彼女は、もといた、『雪輝と殺し合っていた時点』に帰さなければならない。
そうしなければ、その時点からイフの世界が生まれてしまう。
それは、『天野雪輝と我妻由乃が殺し合っている最中に、我妻由乃がどこかに消えてしまった』ことになる四周目の世界だ。
四周目の天野雪輝は、我妻由乃を失ってしまう。
天野雪輝は、自分を犠牲にすることになる。

しかし、我妻由乃を、もといた彼女は、もといた、『雪輝と殺し合っていた時点』に帰したとして。
どちらかが死ななければ、神様は決まらず、二人ともひっくるめて世界に居場所を失くす。

どちらを選んでも、天野雪輝にハッピーエンドは訪れない。
秋瀬或は、その時点で行き止まりに突き当たっていた。
行き止まりを、今こうして雪輝に突きつけなければいけないことが、ひたすら歯がゆかった。

しかし。

「別に、由乃と一緒に一万年後に帰ればいいんじゃないかな?」

秋瀬が訊ねてから、たった五秒のことだった。
雪輝は、あっさりと答えた。

「もし、並行世界の僕が由乃を失いたくないって言い出すようなら
……その時は、由乃を取り合って喧嘩すればいいんじゃない?」

さも、何でもないことのように。
喧嘩をすればいい。
以前の雪輝からはあまりにもかけ離れた台詞を口にした。

「そうじゃなくても、その四周目ってところに行って事情を話せば、四周目の僕だって納得するんじゃないかな。
少なくとも『由乃を神にするために死のうとしてた頃の僕』だったら、折れると思うよ。
由乃がどこかで居場所を見つけて生きていてくれたら、それだけでも良いって思うようなヤツだったから。
最終的に喧嘩になったとしても、昔の僕が相手だったら負ける気はしないし」

487天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:53:24 ID:G67N34mU0
笑みさえ浮かべて、そう言った。
「少なくとも、由乃と戦うよりはずっと楽だと思う」と照れたように付け足して。

あまりに即で返答されたアンサーには、あっけにとられるしかなかった。
秋瀬はよほど間抜けな表情をしていたらしく、雪輝が何かおかしなことを答えただろうか、と不安そうな顔をした。

しかし、数瞬の驚きが通過してしまえば、その場所は理解がとってかわるしかなく、

「なるほど」

秋瀬にも、笑みが伝染した。

雪輝が笑って答えたことを喜ぶ笑みでもあり、そして自分自身に向けた呆れの笑みだった。
一人でぐるぐると考察して、勝手に限界を感じていたことが滑稽でおかしかった。
本当に死者の蘇生が可能なのだとしたら、それにすがろうとか考えていた自分が、とんでもない馬鹿みたいに思えてきた。
いや、『みたい』ではなく立派な馬鹿者だった。
その発想に行きつかなかっただけでなく、天野雪輝を、舐めていた。

「だから僕は由乃にもそう言って、彼女を連れて帰る。
由乃を殺さずに止めて、しかも他の人が怒って由乃を殺さないように守らなきゃいけないから、大変なことに変わりないけどね」

その挽回というわけではないのだが、
せめて少しぐらいは良いところを見せたいと、秋瀬は人差し指を立てた。

「そのことについてだけど……安全策とは言えないけど、一つ手を打ってあるよ」
「え?」

いつの間に、と言わんばかりの雪輝の顔。
それはそうだ。前回の戦いは凌ぐだけで精いっぱいで、秋瀬自身も右手を持って行かれたのだから。

488天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:53:58 ID:G67N34mU0
「――とは言っても、狙って成ったことじゃない。
僕は戦っている間に、我妻さんとそれなりに会話をしたんだ。
ほとんど僕が一方的に話すだけだったけどね。
その中で、君と我妻さんの間にある『ズレ』を説明したんだよ。
雪輝君は、我妻さんより一万年も先の未来からやってきたこと。
ムルムルと一緒に、救いのない一万年を過ごしたこと。
そして、ついでに『そのムルムルも、今は主催者の側にいるらしいこと』にも触れたんだ」

元はといえば、我妻由乃の勘違いと押し付けを指弾するための説明だった。
しかし、戦いが終わった後に、その勘違いを是正したことが、また別の意味を持ってくると気づく。

「まず違和感を持ったのは、支給品を確認した時だね。
高坂君が持っていた、NEO高坂KING日記は致命傷を受けた時に壊れてしまっていたけど。
僕の未来日記にはあった『契約する電話番号のメモ』が荷物の中に無かった。
高坂君の性格から考えて、電話番号を隠滅するために破いたとも考えにくいし、
綾波さんたちの前でも、まるで最初から自分の持ち物だったみたいに使っていたというし。
だいいち、壊れた携帯電話の機種も色も、高坂君がいつも使っている携帯と同じものだった」
「それって……高坂は最初から、自分の未来日記を携帯ごと支給されていたってこと?」
「そう。高坂君が、というよりも『自分の未来日記を支給された人は、契約するために電話をかけるような回りくどいことをしなかった』と考えたほうがいいね。
きっと、高坂君の日記だけじゃなく、雪輝日記もそうなっていたはずだよ。
殺し合いに乗って暴れる可能性が高い我妻さんだけをひいきするならともかく、高坂君だけを特別にひいきする理由はどこにもないからね」

とはいえ、この仮説が通るとすれば、見えてくる事実もある。

「つまり、由乃は、雪輝日記の所有者になっているけれど、
『電話をかけて、ムルムルと会話した』わけじゃない……」
「そういうこと。むしろ、それこそが『我妻さんたちに電話番号を配らなかった理由』だろうね。
新たな神が主催する別の殺し合いに呼ばれたと思ったから殺し合いに乗ったのに、
雪輝日記は使えなくなっている。再契約するために電話をかけてみれば、小間使いにしていたはずのムルムルが主催者側にいる。
これで主催者に疑念を持たないほうがおかしいし、そうなったら最悪、我妻さんが『願いをかなえる』という言葉を信じなくなってしまう」
「でも……ムルムルの存在を隠したって、そのうちばれるんじゃない?
たとえば、由乃が殺した相手のディパックを回収して、その中に電話番号のメモが入ってたりしたら、電話しようとするだろうし」
「最終的に露見する分には構わないと思うよ?
『新たな神には願いを叶えられるだけの力がある』と我妻さんが信用した後なら、むしろ向こうからムルムルの存在を明かして、誠意をアピールする振りをした方がいいぐらいだと思う。
ほかの参加者と戦えば支給品なり能力なりを見て、主催者の力は知れるだろうし。
盗聴なり監視なりしているなら、それぐらいのタイミングは図れるだろうしね。
ムルムルに殺意ぐらいは向けるかもしれないけど、『やっぱりムルムルならその立場にいてもおかしくないか』ぐらいで済ませてくれると思うよ」

489天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:54:31 ID:G67N34mU0

我妻由乃自身、一週目のムルムルを従えていたことはあったが、決して信頼する主従関係などではなかった。
使い魔が主催側にいたところで、裏切られたとも感じないだろう。

「えっと……つまり。
主催者はもともと、タイミングを見て自分から由乃のところに電話するなりほかの方法なりで、接触するべきだった。
でも、結果的に秋瀬君が『ムルムルが主催者側にいる』ことをばらしてしまった」
「ネタばらし……というほど大げさでもないよ。
僕と我妻さんが接触することは充分に想定できるしね。
ただ、ムルムルとしては『接触するならこのタイミングだ』と考えるはずだ。
我妻さんの性格上、『電話をかければムルムルと話せる』ことを知ってしまえば、
彼女の方からムルムルを捕まえかねないからね。
『自分が優勝したあかつきにはこうすると確約してくれるなら、殺し合いを盛り上げるための何かをする』と取引を持ちかけるとか。
ただでさえ我妻さんは一週目の世界で『願いがかなう』と信じて裏切られているから、隙あらば主催者を出し抜いてやるぐらいの覚悟はある。
つまり、接触をするなら主催者の側から先に仕掛けたほうがいい」

雪輝が後を引き取って、結論を言った。

「なら、今頃はその接触が行われているはず、だよね」

肯定して、しかし秋瀬或は首を傾げた。

雪輝が、すぐ結論にたどり着いている。
秋瀬が知っている彼は、確かに機転だとかとっさの判断などに極めて優れていた。
だがしかし、たとえば過去に8th陣営への対抗策を議論していた時だとかに、ここまで雪輝と打てば響くような会話だとか、積極的な応酬をしたことがあっただろうか。

そんな違和感を胸中で転がしながら、秋瀬は会話を続ける。

「我妻さんは、既に主催者――少なくともムルムルと接触している可能性が高い。それも、契約の電話以外の方法で。
正直、半分以上はハッタリだけどね。こう言えば、たとえ『殺し合いに乗っている人間には容赦しない』という方針の人物でも、彼女を生かしてもらう交渉材料くらいにはなるんじゃないかな」
「うん、すごく助かるよ……でも、手札としては弱い感じがするよね。
あるかわからない情報より、身の安全のほうが大事だって言われたらそれまでだし。
ただ、由乃と話すことができれば、主催者と接触したことが聞けるかもしれないっていうのは僕らにとってもメリットだと思う」
「本格的に牙城を揺るがそうとなれば、もっと決定的なアプローチは必要だろうね」

この雪輝が不愉快なのかと聞かれたら、むしろその逆であり。
かわいいだけでなくカッコいい側面が見られたようで喜ばしいような、子離れの寂しさにも似た気持ちさえあるぐらいなのだが。

「アプローチって言えばさ。僕からも秋瀬君に頼みたいんだけど」

ひそかに浸っている秋瀬の方をちらりと見て、雪輝が話題を変えた。

490天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:55:15 ID:G67N34mU0

「秋瀬君に預けてる僕のディパック。そこから携帯を取ってくれる?」
「これかい?」

運転の邪魔になるからと、雪輝のディパックは秋瀬の膝の上にあった。
左手でチャックを開けて、その左手で該当の携帯電話を取り出す。
ハンドルを握り、それを横目に見ていた雪輝は言った。

「僕の電話番号とメールアドレスを、読みあげて僕に教えてほしいんだ。
『雪輝日記』でも予知されるぐらい、はっきりとね」
「それは……」

正気か、と問い返していたかもしれない。
雪輝が、笑みだけでなく、頑固そうな眼と、かすかな冷や汗を見せていなければ。

「それが何を意味するのかは、分かるんだね」
「分かってる、つもり。二週目で秋瀬君と最後に会った時だって、由乃がかけてきた電話に騙されて、日向たちを殺すことになったし」

それは、好きな人に、雪輝日記を通して電話番号とメールアドレスを教えるということ。

それは、最大の脅威に、生命線である直通の連絡手段を、一方的に晒すということ。

雪輝の顔は、ごく真剣だった。
そうすれば、我妻は一方的に電話を利用したブラフを仕掛けるなり罠を張るなりすることが可能となり、一方でこちらは相手の連絡先を持っていない。
それがどれほど危険なのかを分からないわけではない。
それでも、我妻由乃へ信号を送ると言う。

「由乃だったら…………昔、僕の作戦参謀をやってた頃の由乃だったらって意味だけど、ここは連絡先をあえて公開するべきだって僕に指示するんじゃないかな。
ここで消極的になったら、ジリ貧で追い詰められていくだけだとか何とか言ってさ」

考えながら喋るようにたどたどしく、しかしはっきりとした声で。
彼女はこうしていた、と。



ああ、そうか。



心のうちで、そんな呟きが漏れていた。

我妻由乃のことを想像しながら語る雪輝を見て、何かが腑に落ちた。

491天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:56:36 ID:G67N34mU0

「それに、由乃から電話なりメールなりが来たら、由乃のアドレスは確実に分かるってことだよね。それだけでも収穫になると思う。
ただでさえ、こっちは由乃がどこまで迫ってるか分からなくて緊張してるんだし」

さっきから、良い意味での違和感があった。
秋瀬の知っていた雪輝は、『ここまで』ではないと感じていた。

やっと、その理由が分かった。
なぜなら、ここにいる雪輝君は、『秋瀬或が知らない時』の天野雪輝だったから。

秋瀬は、10thから差し向けられた犬たちに襲われて、おびえていた雪輝なら知っている。
秋瀬は、日野日向と友達になるために泣きながらでもがんばった雪輝なら知っている。
秋瀬は、由乃の監禁から逃れたところを8thの手先に狙われて、『助けて』と言った雪輝なら知っている。
秋瀬は、両親を生き返らせるために泣きたいのを我慢して11thや8thと戦っていた雪輝なら知っている。
秋瀬は、日向やまおや高坂を殺してしまい、後に引けなくなった眼をした雪輝なら知っている。
秋瀬は、枯れ果てた顔で一万年ぶりに再会した雪輝なら知っている。
けれど、秋瀬が知らない雪輝がいることだって、知っている。
知っているけれど、知らなかった。
見られなかった。

「あの由乃に『必ず迎えに行く』って言ったからには、連絡先を教えることさえ出来ないようじゃ、どのみち出し抜けっこない、と思う」

秋瀬は、崩れ落ちる崖を血塗れた手でがむしゃらに這い登りながら、『君を救う』と言った雪輝を知らない。
復活した9thに向かって『僕はすべてを救う』と宣言した雪輝を知らない。
神も同然となった『彼女』を相手に一歩も退かずに戦いながら、『愛してるからだ!』と叫んだ雪輝を知らない。
『彼女』の名前を大声で呼びながら、しあわせな幻覚空間を打ち破った雪輝を知らない。
神崎麗美に向かって、そこを退けと啖呵を切った雪輝を知らない。

話には聞いていても、
雪輝は秋瀬に守られている時に、その顔を見せたことがなかった。

「それにさ、彼女が電話したくなった時のために連絡先も寄越さない奴が、何を言ったって本気が伝わらないと思うんだ」

だから。
『この』雪輝は、秋瀬或にとって、とてもまぶしい雪輝だった。

「きっと、僕の知ってる人だったら、そんな『愛(ラブ)』はなっちゃいねぇって怒るところだし」

だからこそ、がむしゃらで、真剣で、かっこいい姿のように映る。
秋瀬或ではないヒトのために、覚悟を決めた顔だった。

492天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:57:08 ID:G67N34mU0

「だから、リスクがあることは承知で由乃に伝えたいんだ。
もちろん、秋瀬君たちの危険度も引き上げちゃうから、一存では決められないけど」

優しい目で、少し不安そうにほほ笑むところは変わらない雪輝だった。
そこにいるのは、間違いなく、天野雪輝だった。
だとすれば、

「構わないよ」

敵わない。

何が敵わないかって、もう色々なことが敵わない。

『彼女に敵わない』とは言いたくないから、『雪輝には敵わない』ということにしておいて。

「雪輝君が、決めてくれ」

『彼女』よりもずっと、雪輝を大切にしてきた自信ならあるのに。
雪輝を「愛していない」と言い切るような少女に、彼を任せておけないと激しい怒りに駆られたりもしたのに。
秋瀬には決して引き出せない『男』の顔をする雪輝を、ここにきて見せるなんて、ずるい。

『僕では絶対に作り出せない君の顔』を見て惚れ直してしまうのだから、もうどうしようもない。

「きっと――勝てるか勝てないかは、君が決める」

――どうして君は、こんなにも片思いのしがいがあるんだろう。

「「『君たちが』、じゃないの?」」

まぜっかえす少年の声がふたつ、運転席と後部席とで、ぴったり重なった。
その二人が、ハモりを披露してしまったことに極めて嫌そうな顔をするタイミングも、これまたぴったりと同時であって。

可笑しかったけれど、噴き出してしまうと恨みがましげに睨まれそうだったから、聞こえなかったふりも兼ねて視線をそらし、車窓へと向いた。

夕刻から闇の色へと落ち始めた空は、星の光をひとつふたつと増やしつつあるところで。
満天の星がよく見える、夜が始まろうとしていた。

【H-5/一日目・夜】

493天体観測 〜或の世界(後編)〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:58:13 ID:G67N34mU0
【天野雪輝@未来日記】
[状態]:中学生
[装備]:運動服(ジャージ一式)@現地調達、スぺツナズナイフ@現実 、シグザウエルP226(残弾4)、 天野雪輝のダーツ(残り7本)@未来日記、クレスタ@GTO(運転中)
[道具]:携帯電話、火炎放射器(燃料残り7回分)@現実、学校で調達したもの(詳しくは不明)
基本:由乃と星を観に行く
1:やりなおす。0(チャラ)からではなく、1から。
2:デパートに向かい、救出とレーダーの充電を済ませ、由乃に備える。

[備考]
神になってから1万年後("三週目の世界"の由乃に次元の壁を破壊される前)からの参戦
神の力、神になってから1万年間の記憶は封印されています
神になるまでの記憶を、全て思い出しました。
秋瀬或が契約した『The rader』の内容を確認しました。
秋瀬或、綾波レイ、越前リョーマとアドレス交換をしました。

【秋瀬或@未来日記】
[状態]:右手首から先、喪失(止血)、貧血(大)
[装備]:The rader@未来日記、携帯電話(レーダー機能付き、電池切れ)@現実、マクアフティル@とある科学の超電磁砲、リアルテニスボール@現実、隠魔鬼のマント@幽遊白書
[道具]:基本支給品一式、インサイトによる首輪内部の見取り図(秋瀬或の考察を記した紙も追加)@現地調達、セグウェイ@テニスの王子様
壊れたNeo高坂KING日記@未来日記、『未来日記計画』に関する資料@現地調達
基本行動方針:この世界の謎を解く。天野雪輝を幸福にする。
1:天野雪輝の『我妻由乃と星を見に行く』という願いをかなえる
2:デパートに向かい、救出とレーダーの充電を済ませ、我妻由乃に備える
[備考]
参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。
『The rader』の予知は、よほどのことがない限り他者に明かすつもりはありません
『The rader』の予知が放送後に当たっていたかどうか、内容が変動するかどうかは、次以降の書き手さんに任せます。
天野雪輝、綾波レイ、越前リョーマとアドレス交換をしました。(レーダー機能付き携帯電話ではなく、The raderを契約した携帯電話のアドレスです)

【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:疲労(中)、全身打撲 、右腕に亀裂骨折(手当済み)、“雷”の反動による炎症(ある程度回復)
[装備]:青学ジャージ(半袖)、テニスラケット@現地調達
リアルテニスボール(ポケットに2個)@現実
[道具]:基本支給品一式(携帯電話に撮影画像)×2、不明支給品0〜1、リアルテニスボール(残り3個)@現実 、車椅子@現地調達
S-DAT@ヱヴァンゲリオン新劇場版、、太い木の棒@現地調達、ひしゃげた金属バット@現実
基本行動方針:神サマに勝ってみせる。殺し合いに乗る人間には絶対に負けない。
1:デパートに向かい、救出とレーダーの充電を済ませ、我妻由乃に備える
2:バロウ・エシャロットには次こそ勝つ。
3:切原は探したい

[備考]
秋瀬或、天野雪輝、綾波レイとアドレス交換をしました

【綾波レイ@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:傷心
[装備]:白いブラウス@現地調達、 第壱中学校の制服(スカートのみ)
由乃の日本刀@未来日記、ベレッタM92(残弾13)
[道具]:基本支給品一式、第壱中学校の制服(びしょ濡れ)、心音爆弾@未来日記 、
基本行動方針:知りたい
1:デパートに向かい、救出とレーダーの充電を済ませ、我妻由乃に備える
2:落ち着いたら、碇君の話を聞きたい。色々と考えたい
3:いざという時は、躊躇わない
[備考]
参戦時期は、少なくとも碇親子との「食事会」を計画している間。
碇シンジの最後の言葉を知りました。
秋瀬或、天野雪輝、越前リョーマとアドレス交換をしました。




494天体観測 〜世界の終りの始まり〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:59:03 ID:G67N34mU0


























「――みんな、みーんな、終わらせましょう」



【18:30 ユッキーが携帯のアドレスと電話番号を教えてくれたよ!
これでいつもみたいにメールができるね。さっそくアドレス登録しなきゃ。
アドレスは――】

495天体観測 〜世界の終りの始まり〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 21:59:32 ID:G67N34mU0

即座にアドレスを登録し、歩みを再開する。
一度だけ振り返れば、先刻までいたツインタワーが夜闇にのまれて天辺から黒く染まりつつあった。
もう、戻ってくることは無いだろう。
すでに用意されていたものは頂いた以上、未練など何もないけれど。

「わたし、分かったよ」

他にも秋瀬或が何か考察をしているらしきことが書かれていたが、雪輝に直接に関わる情報ではないため日記にはほぼ割愛されている。
とはいえ、現時点ではさほど不自由は感じていない。
ムルムルからは納得いく範囲で『褒美』への信憑性について聞かせてもらった。
しいて言えば、ムルムルが出現したタイミングが、当人の理由づけを差し引いても唐突だったのは腑に落ちないけれど、どうせ『秋瀬が存在を仄めかしたからあわてて出てきた』とかそんな理由だろう。
『あの宝物』を譲ってくれたことを考えると、秋瀬のことが無くとも遠からず『あの宝物』を見つけさせる狙いも込みで接触してきたことは違いないだろうし。

「もう分かってるのよ、ユッキー」

ムルムルが肩入れをしたがる理由は、簡単なものだ。
我妻由乃なら、『ALL DEAD END』の前提を知っても、なお勝ち残ることを目指すから。

「やるべきことが分かった。
もう迷わなくていいって、分かった」

大半の中学生なら、まず茶番だと怒る。
予知を覆したとしても、元いた世界には帰してもらえないのだから。
しかし、我妻由乃にとっては、そんな事情など埒外の些事でしかない。

「本当は、ずいぶん前から頭の中がぐちゃぐちゃしてた。
でも、ひとつだけ分かったよ。これだけは絶対に言える。」

優勝者をもといた世界に帰せない理由は、なぜ?
それは殺し合いの目撃者を、生還させる道理がないから。
大東亜共和国と市長の敵対勢力となりえる者に、目撃者を発見、回収されてしまっては第二、第三の実験が潰えてしまう。

「ユッキーは、まだ私と仲直りするつもりでいるのかしら。
『死んだ人は帰ってこないけど、生き残った皆で力を合わせて脱出しよう』とか、そんな風に」

だから、我妻由乃はどんな世界にも安心して帰せるうちの一人だし、もう金輪際関わらないと約束さえできる。
だって由乃は、世界がどうなっても構わないから。
いくら滅ぼうが、星の数ほど死人が出ようが、心底どうなってもいいと思っているから。



「――ふざけないでよ」

496天体観測 〜世界の終りの始まり〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 22:00:14 ID:G67N34mU0
たとえば、人間社会から弾かれて、人間になりたいと望んでいる少年。
たとえば、社会の犠牲者となり、社会を食い物にして生きていこうとする少女。
たとえば、全ての人間を滅ぼすべきだと志向している少年。
彼ら彼女らも、条件しだいでは大人たちと敵対することはないだろう。
もといた世界にもそれなりに愛着を持つものはいるだろうが、彼や彼女の『願い』は元いた世界を維持しなくとも達成できる。
人間になることを望む少年は、大切な人さえ与えてやれば、残りの世界など見放すだろう。

だから、彼ら彼女らに望みがないわけではない。
ただ、我妻由乃だけは『だろう』や『条件』を付けるまでもなく、
無条件で世界を見殺しにするというだけのこと。

「昔のユッキーなら、きっとこう言ったはずよ。
『やり直せば全部元通りになるのに否定するなんて』って」

彼女は全てを殺し、手にとりたいものだけを救い上げる。
一週目では失い、二周目では諦めていたそれを、今度こそ掴み取り、取戻し、離さないために。

「だから……私はあの時、あなたの隣で言ったよね」

私はユッキーを失いたくない。
そのためにはユッキーが邪魔。
だからユッキーも殺す。

……殺した後で、『あのユッキー』に未練が残れば生き返らせる。

うん、どこもおかしなことはない。

「ユッキーが頑張らなかったら……その時は、由乃は許さないって、はっきりそう言ったよね?」

由乃はいつでも、ユッキーのために死ねる。
だからユッキーは、最後に由乃も殺す。そして生き返らせる
そう約束したのに、破ったのは雪輝の方だ。
だからこの世界では我妻由乃が、それを代行する。

「許さないよ」

497天体観測 〜世界の終りの始まり〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 22:00:54 ID:G67N34mU0

雪輝がいて、由乃がいて、雪輝の両親がいて、由乃のパパとママもいる、
その幸せを侵略する者は絶対にいない、
そんな世界を、掴みとる。
他人なんて不純物は、消え去ってしまえ。
そいつらから幸福を補完してもらえるなら、由乃はそもそも『こんなこと』になっていない。

「私はユッキーに支えてもらったけど、
でも、約束をやぶったことは、絶対に許さないよ」

腰には、血を吸ってきた刀を。
両腕には、撃ち尽くしてしまった拳銃の代わりとしてPDW(個人携行武装)を。
取り回しがずいぶん重たくなってしまったが、その重さは人を殺す弾丸の重さだ。
スタンガン、催涙弾、軽機関銃……すべての武装は点検を済ませ、我妻由乃の一部として収納される。

雪輝日記には、ユッキーの電話番号とメールアドレス。
折りを見て、陥れるために利用させてもらえばいい。

雪輝を殺しに行くつもりではあるが、先に『いただいたもの』を使うとしたら、向かう先は中学校だ。
デパートに行くか、中学校に行くか。
切り札を先にさらしてしまうのは少し惜しい気がするが、
『それ』を使えば楽に生き残りを掃討できることも事実だ。
さらに言えば、放送と同時に受信した『デパートに一定数の参加者がいる』という情報も考慮すべきだろう。
雪輝も同じメールを受信していれば、おそらくそこに向かう。
回り道をして切り札を動かすか、争いを利用して掃討すべく最短で戦場に駆けつけるか。
歩みを進めながら、考えればいい。

「それに、今の私はひとりじゃない」

大金庫の中に収蔵されていた薄い金属のプレート。
プレートの表面には、刻まれる11桁の電話番号。
電話番号のアドレス登録を済ませ、役割としては不要になったそれを、
しかし彼女は大事そうに撫でて、愛おしそうに笑う。



「ママがいる」

498天体観測 〜世界の終りの始まり〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 22:01:18 ID:G67N34mU0
地図の中心地。
作為を感じさせるかのように配置されている、中学校。
もちろん、そのことに意味はある。
子どもたちにとって馴染みのあるそこが中央にあれば、自然と参加者同士の出会いが起こるだろう、とか。
意外といろいろな機能を備えた施設だから、中央に配置するには適している、だとか。

しかし、最大の理由は、『ひとつづきに存在する広い校庭と運動場とプールとテニスコートの存在によって、広範囲の人工的な平地を自然と確保できることにある』とムルムルが言っていた。
つまり、地下に眠っている巨大な『それ』を射出することができて、
なおかつ地上からはそれを隠すために、ごく適した施設だったからだ。

『それ』のもとにたどり着くためには、校庭で電話をかければいい。
電話の相手が、地下に降下するための入り口へと案内してくれる。

地下何十メートルか、何百メートルか、もしかしたら何キロメートルかはわからないが、
ともかく地下だ。

地下には、船がいる。
『それ』をいくつも格納できるだけの、大きな、がらんどうの船がいる。

『奇跡』の名前を与えられた船が鉄壁の壁を精製し、この舞台を外部から守っている。



そして、『それ』が見つけられるのを待って、眠りについている。



『それ』は、人の願いを叶えるもの。

そして、人が造りしもの。

そして、大事な人が眠りしもの。

499天体観測 〜世界の終りの始まり〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 22:02:37 ID:G67N34mU0

「そしてパパ」

同盟を組むための誠意とは、『先払い』だと帝王学を学んだ際に教わった。
言いえて妙だ。
ムルムルはしっかりと、先に返してくれた。
本来は特別な子どもにしか操れない『それ』を、
心を開ける子どもなら、乗れる可能性を与えるために。

未だ掘り当てられていない宝物の隠し場所から、最も入手が難しい位置にある『数か所』を選定して。
ひとつの隠し場所には、ひとつの電話番号を刻んだプレートがあり。
着信を受けた電話番号によって、かりそめの船を管理する者が、いくつかある『それら』のひとつを指定し、コアを書き換える。
その子どもの母親が顕在であれば、『ダミー』を用いるしかない。
その子どもに母親がいなければ、その魂を『そこ』へと移しかえることになる。
魂なら、ある世界の『霊界』に由来する道具を用いることで、事前に収集しているのだから。



「ぜんぶ終わったら、改めて、私の未来の旦那様を紹介するね」



由乃の母親は、戻ってきた。
母の胎内にいるかのごとき、その場所に。

「わたし、頑張るから。何 を 犠 牲 に し て も」

それは由乃にとっての切り札であり、
それは秘蔵された宝の中でも最大のものであり、
それは皆の魂を取り戻せるという証左でもあり、

500天体観測 〜世界の終りの始まり〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 22:03:15 ID:G67N34mU0



「エヴァンゲリオン――私が必要とする、その時まで待っててね」



そして、肉親を失った少年少女が、喪われた魂を媒介として動かす、巨大な鋼の人造人間。



「私は行くよ。誰かのためじゃない。私自身の願いのために」

笑え、我妻由乃。





紛い物の星空を塗り替えるための、進撃/新劇を始めよう。





【F-6/一日目 夜】

501天体観測 〜世界の終りの始まり〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 22:04:32 ID:G67N34mU0
【我妻由乃@未来日記】
[状態]:健康
[装備]:P90(予備弾倉5個)@現実、雪輝日記@未来日記 、詩音の改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に、真田の日本刀@テニスの王子様、霊透眼鏡@幽☆遊☆白書 、『ある電話番号』が書かれたプレート@現地調達
[道具]:基本支給品一式×5(携帯電話は雪輝日記を含めて3機)、会場の詳細見取り図@オリジナル、催涙弾×1@現実、ミニミ軽機関銃(残弾100)@現実
逆玉手箱濃度10分の1(残り2箱)@幽☆遊☆白書、鉛製ラケット@現実、滝口優一郎の不明支給品0〜1 、???@現地調達 、来栖圭吾の拳銃(残弾0)@未来日記
基本行動方針:真の「HAPPY END」に到る為に、優勝してデウスを超えた神の力を手にする。
1:すべてを0に。
2:雪輝を追ってデパートに向かう? 先に中学校に向かう?
3:秋瀬或は絶対に殺す
4:他の人間はただの駒だ。
※54話終了後からの参戦
※秋瀬或によって、雪輝の参戦時期及び神になった経緯について知りました。
※ムルムルから主催者に関することを聞かされました。その内容がどんなものか、また真実であるかどうかは不明です。
※天野雪輝の電話番号とメールアドレスを、一方的に知りました。

※中学校の地下に空間があり、AAAヴンダー@エヴァンゲリオン新劇場版が存在しており、会場のATフィールドを発生させています。
汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンも、何体か存在する可能性があります。

【ある電話番号が書かれたプレート@現地調達】
見た目にはテレホンカードか何かのような形をした薄い金属片であり、電話番号が刻印されている。
中学校の敷地内で電話をかければ、応答する音声が会場の地下まで案内してくれるらしい。
(上記のことや、会場の地下にあるものについてはプレートとともに説明書きが付属している)

【FN P90@現実】
天野雪輝に支給。その直後に我妻由乃に奪取される。
が、彼女がメインウエポンを軽機関銃と日本刀に頼り、かつサブウエポンとして拳銃も使用していたために、終盤まで死蔵されていた。
もっともポピュラーなPDWのひとつ。(形状や用途は短機関銃と類似しているが、短機関銃が拳銃用の弾丸を使用するのに対し、PDWは貫通力を重視したそれ専用の弾丸を用いる。そのため短機関銃とアサルトライフルの中間に位置する武器と捉える事ができる)予備弾倉5個も付属。

502天体観測 〜世界の終りの始まり〜 ◆j1I31zelYA:2015/06/03(水) 22:05:03 ID:G67N34mU0
投下終了です

今後とも中学生ロワをよろしくお願いします

503名無しさん:2015/06/03(水) 22:49:16 ID:EKbdyn8U0
投下乙です!
愛と幽助は順調に青春してるなあ…末永く爆発しろ少年少女!
秋瀬君はなんか親御さんみたいになってるw ユッキー、こんなに立派になって(ホロリ
リョーマとレイは今回もお互いの距離を縮めてるようでニヤニヤ。ユッキーからしたらイラっと来るのも分かるなあw
そして最後に、これは遂に来ましたねえ……嵐の予感しかしない。いったいどうなってしまうんだ

504名無しさん:2015/06/03(水) 23:10:34 ID:IvekRI4Q0
投下乙です!

悲惨だけどどこか清涼感のあるこの雰囲気……どいつもこいつも青春してるなあ、
彼ら彼女らはALL DEAD ENDを越えて、HAPPY ENDに到達できるのだろうか

505名無しさん:2015/06/03(水) 23:24:41 ID:YIiOrq/.0
投下乙です。

ではこの物語のENDとは、如何に。
その答えを心待ちにしています。

506名無しさん:2015/06/04(木) 01:22:05 ID:kZhSO5fI0
投下乙

ユッキーの想いはユノに届くだろうか
そして明かされるエヴァの存在
不穏だぜ

507名無しさん:2015/06/04(木) 04:11:35 ID:kF4.Be6k0
投下乙
色々感想あったはずなのに最後に持ってかれた
すげえな、これ
単にエヴァ出す、巨大ロボ出すくらいならどこでもある話なんだけど
エヴァという符号がぴたりと全てに当てはまるというか
神だとか綾波だとかもあるんだけどそういうの抜きにしても、由乃だけでも完結するくらいにぴたりときてすげえってなった
あれは確かに魂保存できますよって言ってるようなものだし、由乃に親のこと持ってくるとは
うわーってなった

508名無しさん:2015/06/06(土) 15:33:51 ID:BOIx2i.Y0
投下乙です

久々にキター

509名無しさん:2015/07/15(水) 00:09:03 ID:z7qWgsAc0
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
104話(+1) 15/51(-0) 29.4(-0.0)

510名無しさん:2015/09/15(火) 07:29:27 ID:tVQax1nc0
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
104話(+0) 15/51(-0) 29.4(-0.0)

511名無しさん:2015/10/07(水) 20:24:07 ID:WB352f1Y0
その頃誰かがATフィールドの外側から中を双眼鏡で見ていたり…しないか。

512 ◆sRnD4f8YDA:2015/10/12(月) 17:13:42 ID:lhrTcDrE0
ゲリラ投下します。

513スノードロップの花束を  ◆sRnD4f8YDA:2015/10/12(月) 17:17:13 ID:lhrTcDrE0
―――それは、ちいさなころの、くだらないやくそく。ちいさなころの、ちいさなおもいで。


どうしようもなく空っぽでも、鼻で笑われるような下らない代物でも、この島では何の役にも立たないガラクタでも。
きっと、きっと己の信念に従い、正しいと感じた行動を取った先にあるものなら、嘘だって、中身がなくたって、自分にとっては本物になるはずだ。
罪も罰も、悪も善も無いこの大地の上で、踠いて、足掻いて、転んで、間違って、誰かを殺して、何かを失って。喪って、うしなって。
それでも、それだけは残る。
だってどれだけ意味がなくても、それは確かに私の始まりで、本物で。全部が終わるまで、絶対に手離さないから。
手離せば、その瞬間私は私じゃなくなってしまう。生きる理由を失くしてしまう。
だから私が私である限り、それは絶対に消さない。消させない。
そういったものは多分、誰しも一つは心の奥に持っていて、それを守る為に誰も彼もが剣を手に取り、戦うのだ。
その形は百人いれば百人が違う事だろう。色も違って、光り方も違うのだろう。大なり小なりもあるのだろう。
けれどそれをきっと……“正義”と、そう呼ぶのだ。

だからどんなに醜くても、笑われても、滑稽でも。

喩えそれが腐ってたって、間違ってたって―――――――――――――――――――――これは、正義の物語。







最初は、ただ、言い訳が欲しかった。







何もない日常、当たり障りのない生活。模範的な行動、目立ったことは何もしない。変化なんてありはしない。
当たり前の平穏、当たり前の日々。それ以上も以下もない、とことん中庸な生き方。
ただ少しだけ、ほんの少しだけ他人より機械に対して興味があっただけ。
それが私、初春飾利です。
思えば、普通である事への疑問なんてこれっぽっちも持った事はなかったように思います。
何故って、自分がレベル5になれるだなんて考えたことすらなかったですし、そんな才能が自分にない事は理解していましたから。
それに何なら、このままなんとなく生きていければ良いとすら思っていたくらいなんです。
それなりの生活、それなりの身丈。それなりの友達、それなりの学力。
なんの起伏もない、映画のワンシーンで交差点を歩くモブキャラクターの様な、よくある人生。大多数の人間が歩むドラマの無い普通の道。
それが普通に生きてきて、これからも同じ様に普通に生きていくであろう自分に合った人生だと思っていました。

でもそんなある日、ふと思ったんです。

514スノードロップの花束を  ◆sRnD4f8YDA:2015/10/12(月) 17:19:17 ID:lhrTcDrE0

そんな生き方しか出来ない自分、自身のない自分、能力もない自分。でも、それって自分に甘えているだけなんじゃないかって。
それだけしか、出来ないって決めつけていただけなんじゃあないかって。
えっ? どうして、かって? そうですねえ……。可能性という言葉を、私も少しだけ信じてみたくなったんです。

“私は、少しでも変わろうと努力したことはありますか?”

私は自分の中の自分に問いました。彼女はかぶりを振ります。答えはNoというわけです。
……でも、それは本当に悪い事なんでしょうか。目立たずひっそりと、深海に漂う目の退化してしまった魚の様に、
ただ流れの止まった潮の中で餌だけを食べて平凡に生きたいと思う事の、一体何が悪いと言うのでしょう。
それでいいじゃないですか。違いますか? 彼女はそう言うと、眉を下げて悲しく笑いました。

“だけど、それは正しい生き方ですか? 綺麗な海を泳ぎたいと望む事が、悪い事?”

私は、そんな私に問いかけます。彼女は少し考えましたが、俯いてかぶりを振ります。その答えもNoでした。
嗚呼、と私は胸の中で失笑しながら座ります。分かってしまったからです。
つまるところ結局の話、怖かっただけじゃないか、と。
何もない静かな深海から、或いは平和な瀞から、敵も多く、努力して餌を取り環境と格闘する様な意識と覚悟が、私にはどうしようもなく欠けていたのです。
私は続けて問いました。“その覚悟が無いのは、貴女が全部、悪いのですか?”
彼女は答えます。“違いますよ。悪いのは……私じゃ……ない、です”

―――私じゃない。

こんな自分になったのは私のせいじゃない。私は悪くない。私はそう言ったようです。
“でも、じゃあ誰のせい?”
私は自分の中で蠢く溝色のなにかに訊きました。
“先生? 環境? 社会?”
違います。
“学校? 両親? 超能力?”
どれもいまいちしっくりきません。
私は、薄々答えを理解していながら、その質問に答えることができなかったのです。環境や、誰かのせいじゃないって、解ってるはずなのに。
ただ、それを考える度に茫漠と心の中を漂っていた暗く重い闇雲が、私の肺の中でぐるぐると巡り、私の気分を逐一害してきました。
だから私はいつもそこで考える事を止めていたのです。
無性に息苦しく重い空気と、鉛の様になってしまった足と、酷い頭痛と得体の知れない吐き気だけが、いつも後に残りました。
一言で言えば、私はきっと不安だったのです。今と、そしてこれからが、ただただ不安だったんです。
けれどその不安に手を伸ばして掴もうともがけばもがくほど、まるでそれは私をからかうかの様にぐにゃりと形を変え、私の指の隙間から溢れていきました。
胸の奥に、言いようのない不安だけがありました。煙、光……或いは水の様に形を持たない、ただ漠然と漂う、未来への得体のしれない不安だけが。

ええ、確かに深海で碌に動かずに漂うのは得も言われぬ心地良さがあります。
でも、ずっとそのまま数年数十年過ぎてしまうかもしれない未来を考えれば考えるほど、心臓が荊で締め付けられるようでした。

暫くして、私はその形容し難い不安を払拭するべく、或いはそう、“言い訳”に出来る何かを求めるように、風紀委員になろうと思いました。
突拍子もない考えかもしれません。でも、超能力の大小や有無を問われない風紀委員は私にとって好都合でした。
風紀委員に入る事で、何かが変わってくれないだろうか。私は自分勝手にも期待しました。
こんなにもとろくって、能力だって碌に無い役立たずな私でも、綺麗な珊瑚礁が浮かぶ水面で、優雅に泳ぐ事ができるのだと。
大地の上に根を張り咲き誇る事ができるのだと、何かに証明して欲しかったのです。

自分なりに答えらしきものを見つけるのは、それから少しだけあと、少しだけ暖かかった冬の日。
銀行強盗と出会った後で、燃える様な茜空の下で約束した、あの瞬間。








あの日あの時あの場所で、私の“せいぎ”は出来たのです。








黄昏が、落ちてゆく。陽が、沈んでゆく。黄金の海原の向こうへ、天蓋の終わりへ、地平線の彼方へ、世界の反対側へ。

515スノードロップの花束を  ◆sRnD4f8YDA:2015/10/12(月) 17:20:40 ID:lhrTcDrE0
まるで落ちる光の残滓に染められた様に、積乱雲の輪郭は藤色にぼんやりと輝いている。
雲達はじっと見ていないとわからないくらいにゆっくりと、重なり合う様にして空を泳いでいた。
その向こう側には、鈍く白銀に光る小さな小さな一番星が見える。
闇が、宙から降りてこようとしていた。日が暮れようとしていた。血濡れた1日が、終わろうとしていた。
森が、廃墟が、街が、海が。暗く、質量のある静寂に沈んでゆく。息を吸うと、胸が詰まりそうだった。
吸い込まれそうなくらい漆黒に染まった影と、深海の様に暗い藍色の闇が満ち、世界は緩やかに夜に抱擁されてゆく。

―――夜が、来る。

少女は静かに、“瞼の裏側で”瞼を閉じる。闇に誘われる様に、黒い何かが二枚目の瞼の裏側で騒いでいた。
それはざわざわと草叢を蟒蛇が進む様な、百足が蠢動する様な、気味の悪い音。
言うなればある種の予感の様なものであり、別の名前を“不安”と言った。

不安は、化け物だ。
人の心を食う邪鬼だ。やがてそれは心から、じわじわと水が岩を浸食してゆく様に、表情と言葉に浮き上がる。
闇は恐怖の権化たり得て、転じて不安となる。そして何よりげに恐ろしきは――――――不安は“伝染”する、という一点に尽きた。
まさに、今の彼女達のように。


「どうしますか」


紫がかった黄昏色に染まったフードコートの中、キッズコーナーのソファにとりあえず逃げてきたものの、荒々しい息と共に浮かぶ一抹の不安。
縦の木ルーバーの入ったテラス席越しの窓ガラスを背に座り込み、誰も彼もがその顔に黒い影を落とし、口を噤む。
そこに水を打つ様に浮かんだ一言が、それだった。
杉浦綾乃はその声がする方を見る。口を開いたのは初春飾利だった。彼女が先ず、立ち込めていたその暗雲を振り払う為にそう切り出したのだ。
……いや、違う。違った。
何故って、それは明確な意思が裏に潜んでいる様な、僅かなしこりを感じさせる様な声色だったのだから。
その言の葉には、棘こそあれど疑問符が無かったのだ。
少なくとも飴玉を転がす様な、なんてメルヘンチックな例えはその声からは想像できないであろう事は、一度聞けば誰にでも理解できる。

「……確認するけど、それは“や”りたくないって意味?」

式波・アスカ・ラングレーは僅かに初春の言葉に口をへの字に曲げたが、やがて肩を竦めながらそう尋ねる。
それらの言葉が言わんとする意味は、ただ黙って聞いていた綾乃にも理解出来た。
詰まる所、問題は一つ。彼女達は明らかな殺意を持って此方を追う“敵”をどうするのか、その意思統一を計っていなかったのだ。
自分達ではあの水の異形には敵わない。だから逃げるか、助けを待つ必要がある。それが三人の共通の結論だった。
しかしそれでも“最悪”と、“これから”は考える必要があるのだ。
“もしも助けが来なかったら”。“もしも見つかったら”。“逃げられない状況で同じ事になったら”。
可能性だけ並べればそれこそ幾らでもあるうえ、仮に誰かが助けに来たとして、敵と戦って“どうするのか”。

とどのつまり、一言で言えば彼女、初春飾利は“敵を殺すのか”と二人に訊いているのだ。


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