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新西尾維新バトルロワイアルpart6

1名無しさん:2013/06/10(月) 21:34:44 ID:r8aCgNWo0
このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。


【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士の殺し合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/


【ルール】
不知火袴の特別施設で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。


【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」「新本格魔法少女りすか」
「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」「めだかボックス」の八作品です。


【参加者について】

■戯言シリーズ(7/7)
 戯言遣い / 玖渚友 / 西東天 / 哀川潤 / 想影真心 / 西条玉藻 / 時宮時刻
■人間シリーズ(6/6)
 零崎人識 / 無桐伊織 / 匂宮出夢 / 零崎双識 / 零崎軋識 / 零崎曲識
■世界シリーズ(4/4)
 櫃内様刻 / 病院坂迷路 / 串中弔士 / 病院坂黒猫
■新本格魔法少女りすか(3/3)
 供犠創貴 / 水倉りすか / ツナギ
■刀語(11/11)
 鑢七花 / とがめ / 否定姫 / 左右田右衛門左衛門 / 真庭鳳凰 / 真庭喰鮫 / 鑢七実 / 真庭蝙蝠
真庭狂犬 / 宇練銀閣 / 浮義待秋
■〈物語〉シリーズ(6/6)
 阿良々木暦 / 戦場ヶ原ひたぎ / 羽川翼 / 阿良々木火憐 / 八九寺真宵 / 貝木泥舟
■めだかボックス(8/8)
 人吉善吉 / 黒神めだか / 球磨川禊 / 宗像形 / 阿久根高貴 / 江迎怒江 / 黒神真黒 / 日之影空洞

以上45名で確定です。

【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。


【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
 0-2:深夜  .....6-8:朝     .12-14:真昼  .....18-20:夜
 2-4:黎明  .....8-10:午前  ....14-16:午後  .....20-22:夜中
 4-6:早朝  .....10-12:昼   ...16-18:夕方  .....22-24:真夜中


【関連サイト】
 まとめwiki  ttp://www44.atwiki.jp/sinnisioisinrowa/
 避難所    ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14274/

727名無しさん:2016/07/15(金) 10:15:38 ID:uvx1R3BU0
月報落ちになるかと思いますが置いておきます
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
164話(+0) 9/45 (-0) 20.0(-0.0)

728名無しさん:2016/09/19(月) 03:48:08 ID:zMz6N.SE0
久し振りに来たらしばらく投下がなかった
それならそれでと溜まってた分追いついたので感想残しておきます


>>狂信症(恐心傷)
あかん、これあかん、めっちゃあかん
くまー以外がくまーになるってこういうことなのか……
あかんとしか言いようがない。そりゃ蝙蝠もドン引きだし、こんなのにされるのを恐れるわ
盾にしようと切り替えて、とがめのふりする蝙蝠の言ってることが言葉だけならまともでいいことのように聞こえちゃうのが余計に始末悪い
蝙蝠の抱いた侮蔑が伝わってきて面白かったです

>>水倉りすかの駄人間証明
>「ふ――――っっっざっけるなっ!」

これ、ここがすげえ好き。そしてここからの激昂もすげえ好き
りすかへの制限と言うかなんというかの実態にはなるほど、って思った
前にりすからをはめる時に利用した同着が逆用されるとは皮肉な
赤が蒼を飲み込み流血さえも改ざんしてこえーよ、ホラーだ
人識の最後のセリフに哀川さんの持ってくるのはニヤリとした

729 ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:37:24 ID:LVJNO3B60
鑢七実、球磨川禊、四季崎記紀を投下します

730着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:38:40 ID:LVJNO3B60

少し、前の話です。

『ねえ七実ちゃん。髪切ってみない?』

まったく唐突な言葉。
当時の、それに対するわたしの答えは決まっていました。

「いえ、別に」

理由も言われなかったもので、そう答えたのを覚えています。
何か拘りがあれば、もっと言ってくるでしょう。
その時は風に考えていたのですが特に思うところはなかったようで、と言うよりかは今なんとなく思い付いたから言っただけのようで、少し顔を動かすだけでこの話は終わりました。
そもそもの話。
いえ、別に今も特別な何かを期待していた訳ではありませんしこの先も特に期待することはないでしょうけれど。
良いのか悪いのか。
わたしとしては悪いのでしょうけど。
まあともかくきっとこの時、禊さんとしては会話の取っ掛かりになる何かさえ有れば良かったのでしょう。
話が一気に訳の分からない方に進んでいましたから。
今は興味を持って頭を働かせますけど、それで考えてみても全く分かりませんから。

『と、言う訳なんだよ七実ちゃん!』
「あ、すみません。聞いていませんでした」
『おおっと。イジメとは酷いんじゃないかい?』
「いえ、イジメ? とやらではありませんよ多分」
『差別? 差別?』
「いいえ区別です」
『はい! はい七実ちゃん!』
「却下します」
『それはそれで酷いと思います!』
「却下します」

横を窺って見た。
そんな覚えがあります。
確か、ですけど。
するとどうでしょう。
何やら愕然と、片手で口元を抑えながら白目を剥いています。
ですがそれでも普通に横を着いて歩いているのですから器用なものです。
然程見る価値を感じませんけれど。
さて。
何時までもそんな顔をされていても鬱陶しいので話を進めて頂きました。

「冗談ですので何の話だったか教えていただけます?」
『……うん』
「早く」
『はい』

731着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:40:47 ID:LVJNO3B60

『何だか七実ちゃんからの当たりが強いここ最近だなぁ』などと呟いているのは聞いていないこととして。
いえ、特に何も言いません。
少しばかり顔を見続けるだけです。
目が合ってから逸らされるまで、微笑んで差し上げながら見続けるだけです。
やがて来た微かな達成感。
ああ、こう言うのもなかなか良い。
いえ、悪いものでしたが。

「まだですか?」
「はい」
 ――不憫だな、おい。

黙殺。

『いやね。
 とてもとても単純な話なんだけどさ。
 だから前置きはあんまりしておくのも何だとは思うんだけど、大人しく聞いてくれよ。
 前置き、予定調和、与太話――その手の物があって不足はないしさ。
 さて、フェチ――そう、フェチって奴は案外侮れないものだと思うんだよ。
 いやフェティシズムって言い方でも構わない。
 萌え、とはまた違うやつ?
 股座がいきり立つとかそんな感じにさ。
 足先から足首に腓で膝、太股、まとめて足ときて尻、腰からくびれ、上がって胸から肩で少し下がって腋、二の腕からなぞって肘に手首ときたら指先だろ、戻ると鎖骨で喉でしょ、それで顎の下に歯で鼻を通って目元、耳におっとうなじもだ。
 あ、別にぼくとしては部位に限らないぜ?
 格好って言うのも良いものだからね。
 コスプレは良い文化だよ、七実ちゃん!
 今の王道と言えば巫女にナースさん、OL更には着物に追加でバニー、いやいやギャル、おっと神官とか制服、あとは天使と悪魔とか?
 ちょっとした背徳感が、いい。
 おいおい、制服とギャルが一緒じゃないかって?
 君は実に馬鹿だなぁ……それは剣と刀は一緒の物って言ってるようなものだよそれ?
 ともかく邪道とか言われるかも知れない辺りは騎士に他意はないけどビキニ、鋭く軍服、忍者でしょう、十二単でしょう、嗚呼お姫様、ちょっとした所では宇宙服とかゾンビ、追加で石器時代に着ぐるみとかかな?
 着ぐるみがコスプレに入るかだって?
 細かいことはいいんだよ!
 それよりマンガやアニメ物、ラノベなんかも悪くない。
 大定番のマミる魔法少女はもちろん、近未来的な身体に張り付いたようなのもあるし妖怪(笑)物の衣装、異世界物も素晴らしい。
 最終兵器な彼女とかセーラーな土星にロリな紐神様だとか、ゲームでいくと如何にもあかんコレな奴もあるしね。
 スリングショットとか実在するんだって感動すら覚えたよ!
 スリングショットは実在するんだよ!
 魔物に負けるためだけに存在するような忍も悪くはないけど、ああ言う元ネタがどうやってどうしたらこうなったって言うのも、良い。
 いやぁ、日本人は発想が狂ってるって言うのは真実だろうさ。
 船に城に刀って。
 ま、やってるけど意味が分からないのは何でああ言う奴は脱がしちゃうんだろうね?
 いやいや何のためのコスプレだよって感じ?

732着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:41:48 ID:LVJNO3B60
 あ。
 少し話が外れることだけど、コスプレって言うのはその存在に成り切るって言うのが重要な要素としてあると思うんだ。
 成り切る……いや、成り代わると言ってもいい。
 誰かに成ることで「自分ではない」安心感を得る。
 分かるようん分かる分かる。
 『自分じゃないから』『私ではないから』『僕じゃないから』大丈夫。
 不幸も、不運も、良心も、良識も、転倒も、転落も、不明も、不抜も、悪意も、悪気も、失態も、失敗も、全部全部全部全部全部僕は悪くない。
 彼が、彼女が、あの人が、悪い。
 悪い悪い悪い悪い悪いだから悪くない悪いのは向こうでこっちは悪くない。
 押し付けだって良いじゃないか、だってそんな人間いないんだから。
 そうさ、全部全責任全関与全良悪全部全部全部が全てさ。
 おおっとだとしたら、着ぐるみを着てる人は押し付けてるんじゃなくて身を守ってるって解釈になるのかな?
 普通のコスプレが身代わり人形なら着ぐるみは鎧、かなぁ?
 確かにあれだけの分厚さがあれば多少殴ったり蹴ったりする程度じゃあビクともしないだろうけど、うーん。
 謎だ、どうでもいいけど。
 これまた凄くどうでも良い話だけど本来のフェティシズム――フェチって言うのはかなり深い拘りを指す言葉らしいんだ。
 神仏崇拝だとか最早そう言うぐらいの、一種の信仰の域さ。
 だからフェチとか簡単に言えるものじゃないらしいぜ。
 本来の意味で使うとなると「それ以外にはどうあっても認められない」とか言うレヴェルじゃないと認められないそうだ。
 あ、別にぼくとしては別にどうでも良い話なんだけどね? 
 じゃあどう言えばいいんだよとか突っ込まれても困るからフェチを使い続けるべきだと思う。
 おっと。
 更にどうでも良い話を言わせて貰うぜ?
 単純に二つに分けると部分だとか物に対する執着をフェティシズムで、状態に対する執着はパラフィリアってことらしい。
 この理論で行くと背筋とか舌とか臍とか、あああとは髪もだね。
 その辺りに興奮するのはフェティシズムだ。
 あと巨乳は正義だ。
 七実ちゃんは――うん。
 対してサドだとかマゾだとかはパラフィリアになるみたいだ。
 一応言っておくべきことだと思うけどぼくは別にマゾじゃないぜ?
 ただ単純にボロクソにされる機会が多いだけの善良な一般人なんだから。
 七実ちゃんはーーうん。
 うん!
 あ、濡れ透けで興奮したらパラフィリアってことなんだけどぼく的に悩ましいんだよなぁ。
 濡れ透けは良いと思うよ?
 だけど裸エプロンに水をかけて胸に張り付いたのに興奮する場合ってどうなるんだろうってさ――そう言う訳でどう思う?』
「あ、はい、削げば良いんですね?」

733着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:43:55 ID:LVJNO3B60
『…………え?』
「大丈夫です、痛くしませんので」
『あ、ごめん。ちょっと命の危機を感じるのは気のせいかい?』
「ええ、大丈夫です。気のせいです。ちょっと子供を作れなくなるだけですから」
『いやいや、割と大問題だと思うんだけどそれ?』
「このためのおーるふぃくしょん」
『おっと気合いの入った握り拳……クルミぐらいなら軽く握り潰せそうだ。うーん…………これは、本格的にヤバい気配がムンムンとしてきやがったーーーー!』

と、まあ。
わたしにとってまるで意味の分からない言葉が立て板に水の如くスラスラとその口から流れ出していたのを聞き流しておりました。
聞き流していた。
聞き流していても、覚えてはいます。
ですのでこの通り、一言一句に至る子細まで思い出せているわけですし。

「…………それで、ええ、何を言いたかったんでしょうか?」
『んォ…………ちょ……っとカヒュ…………エヴッ……待……ヴッ……って、ね』

遊び過ぎて若干吐きかけているのを見ないようにしながら待ちました。
ああ、この時は実に時間を無駄にしたものです。
ともあれこの後も時間の無駄だったと、今をしても、言わざるを得ませんが。

『七実ちゃん!』
「はい、なんでしょう」
『着物の下は履いてないって本当かいッ?!』
「お死になさい」
『グワーッ!』

爆発四散南無三。

734着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:46:52 ID:LVJNO3B60



「……いえ、四散していたら生きてはいませんし」
『うん? なになに七実ちゃん?』
 ――……時々、娘のことが分からなくなります。四季崎です……
「いいえ別に何も」

あ、失礼しました。
今までの全て回想です。
その辺で浮いていた四季崎含めて全部。

「少し思い出していただけです――それで、何でしょうか?」

いえ、わざわざ少し前のことを思い返していたのですから。
全く無意味な質問でした。
聞かれるのが怖かった。
と言うわけではありません。
もちろん聞き逃していたわけではありません。
見逃していたわけでももちろんあるはずがありません。
このわたしに限って。
だからこれは。
そう。
逃避だったのでしょう。
一時はもちろん一刻ですらない。
たった一瞬に満たない逃避。
訳も分からず思わずした、逃げ。
まあ。
どうでも良いことだけれど。
どうでも悪いことだけれど。
わたしの出す答えは決まっているのだから。
わたしの返す言葉は決まっているのだから。
わたしは既に行動を決めて、いるのだから。

『ねえ、七実ちゃん……七実ちゃんは、あ、見えてきたね!』
「はい、そうですね」
『じゃ、中の探検といこうか!』
「はい、ですが」

少し足を早め掛けた所を、失礼ではありますけれど先回りさせていただいて。
踵を返して、目を、合わせます。
見る。
視る。
観る。
見ているのか、見られているのか。
真っ黒な目の底は見通すことが出来ないように深く遠く。
対するわたしの目は果たしてと、思わずには居られません。
このわたしの、

735着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:48:52 ID:LVJNO3B60

「先にお聞きします――――何でしょうか?」

底の知れた想いを見られては、いないのか。
と。
草染みた矮小なこの思いを、視られてはいないのか。
と。
禊さんに対する重いと黒神めだかに対する重いが、願いが観られてはいないのか。
見えないように。
視えないように。
観えないように。
後ろに、なぜか震えの止まない手を隠しながら。
何でもないように首を、小さく傾げて診せて。
その様子を、反応を、行動を、仕草を、視線を、看る。
一瞬。
次の時には、

『聞いていいの?』
「っ――はい、どうぞ」

常と変わらない笑っている顔が、目と鼻の先にありました。
見ていたのに。
瞬きした僅かな間に失せた姿を追って目を動かせば背後。
数歩にも満たない、間。

『ねぇ、七実ちゃん』

手をまた隠そうとして、動きが止まる。
有ったから。
三日月のように割れた口が。

『君は………………』

満月のような二つの目が。
遭ったから。
知らず固まろうとする身体を叱咤して。
何でもないように頬に片手を当てて。
隠した手のひらに爪を立てて。
ただ、次の言葉を。
待つ。
待つ。
待つ。
やがて。
月が。

『…………』

崩れる。

『………………着物の下に下着って着けてる?』
「…………見ます?」
『マジで!









 えっ、マジで!?!」

736着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:50:25 ID:LVJNO3B60

【二日目/黎明/?-?】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックス、クロスボウ(5/6)@戯言シリーズと予備の矢18本があるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『0番はやっぱメンバー集めだよね』
『1番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』
『2番は……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています
 ※黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします

【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(0〜2)、球磨川の首輪、否定姫の鉄扇@刀語、
   『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:球磨川禊の刀として生きる
 0:禊さんと一緒に行く
 1:禊さんはわたしが必ず守る
 2:邪魔をしないのならば、今は草むしりはやめておきましょう
 3:繰想術が使えないかと思ったのですけれど、残念
 4:八九寺さんの記憶が戻っていて、鬱陶しい態度を取るようであれば……
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします



 ※現在二人ともランドセルランドかネットカフェの前に到着しています。どちらかは後続の書き手の方にお任せします。

737着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:51:58 ID:LVJNO3B60









『ねえ七実ちゃん』





「髪、切らない?」

738 ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:54:59 ID:LVJNO3B60
以上です。
久しぶりの投下の上、書いた期間がツギハギのため妙な所があると思われます。
いつも通り妙な所へのご意見などよろしくお願いいたします。

失礼いたします。

739名無しさん:2016/11/13(日) 01:19:09 ID:Z.1e3q5.0
投下乙です
平和だー
(薄氷を履むなんてレベルじゃない危うさでかろうじて成り立っているいつ崩壊してもおかしくない)束の間の平和だー
混物語で平常運転な阿良々木さん見てたから忘れかけてたけどクマーも立派な(?)変態だったよ…
そしてその内容を一言一句違わず思い出せる七実も変態なのでh(踏み潰されました)
横恋慕みたいなことをしてるという自覚ありながら後ろ手になる七実が想像するとめちゃくちゃかわいい
最後の『』が外れた「髪、切らない?」がたまらなく不穏でよかったです

740名無しさん:2016/11/15(火) 00:45:32 ID:utwXllF60
集計者様いつも乙です
月報失礼します
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
165話(+1) 9/45 (-0) 20.0(-0.0)

741名無しさん:2016/11/18(金) 21:27:24 ID:bGA8JbRg0
投下乙です
球磨川の固有結界が相変わらずすぎて安堵(不安)を覚えざるを得ない
七実姉さんもなんだかんだ言いつつ乗っかるし…もう君たち殺し合いとかいいからここで暮らしたらどうよ

742 ◆wUZst.K6uE:2017/11/04(土) 22:43:41 ID:hznMXV2k0
投下します

743非通知の独解 ◆wUZst.K6uE:2017/11/04(土) 22:46:47 ID:hznMXV2k0
 

【深夜】 G-6、薬局


「手紙?」


玖渚さんが差し出した封筒を見て、僕は見たままのことを言った。ここ薬局の備品をそのまま使った何の変哲もない封筒。玖渚さん直筆の手紙が、その中に納められている。


「そ、僕様ちゃんからいーちゃんへの手紙。首尾よくいーちゃんと合流できたら、ぴーちゃんからいーちゃんに渡してほしいの。ただし、ある条件が整ったら、ね」

「条件?」

「僕様ちゃんが死んだら」


あっけなく出た言葉に、僕はふぅん、と相槌を打つ。正直なところ、意外というほどの条件でもなかった。
ついさっき、玖渚さんから「リスクを分散するために、別行動をとってほしい」との申し出を受けたところだ。水倉りすかの危険性についても、すでに説明は受けている。


「死んだら、ね。そうなると、手紙というより遺書みたいだな」

「僕様ちゃんからしたら保険みたいなもんだけどね。まあ、遺書でもあってるよ。『遺言書在中』とか表に書いたりして? ふふ」

「さすがに笑えないな……」


死。重い言葉のはずなのに、今はその重さを感じるのが難しい。
小説の中の話なんかじゃない、現実の死。それが目の前の人に迫っているというのに。
いや、『だからこそ』なのかもしれない。今の僕たちにとって、死は遠い世界の話ではなく目下の現実だ。
深く考える暇なく、次から次に「こなして」いかなくてはならない現実。


「やれやれ、荷物は常にコンビニに行くくらいの軽装でってのが僕の流儀なんだけれど、とんでもなく重いものを持たされる羽目になっちゃったな。デイパックの中身ももうパンパンだってのに」

「パンパンにはならないでしょ、そのデイパックなら」

「気持ちの問題さ。……それにしても、本当に僕でいいのかい?」

「何が?」

「いや、他に預けられる人がいないから仕方ないんだろうけど……そんな大事な手紙を僕なんかに預けていいのかなって。その、『いーちゃん』に会う前に僕が誰かに殺されたら元も子もないし――」

「……ぴーちゃんはさぁ」


ぽすん、と玖渚さんは机に突っ伏して、上目遣いで僕のほうを見る。
くりっとした大きな目。吸い込まれるような蒼い瞳。


「自分がなんで生き残ってるのか、わかる?」

「え?」


きょとんとする僕の返答を待たず、玖渚さんは続ける。


「さっきも言ったけど、私が悪平等(ぼく)になったのは、それが必要なことだと思ったから。メリットが見込めるからそれを選んだだけで、悪平等の思想に染まる気はない。悪平等(ぼく)は悪平等(ぼく)、私は私。
 ぴーちゃんもそうなんでしょ? ぴーちゃん自身の思想は、ぴーちゃんだけのもの。それを貫いていることと、ぴーちゃんが今生きてることは、きっと無関係じゃないんだよ。ぴーちゃんはぴーちゃん自身の思想に生かされてる。それに気づいてないだけ」

「……ごめん、何を言ってるのかよくわからない」

「ぴーちゃんは、自分が生き残ってる理由を一度じっくり考えたほうがいいってこと。まあ、今は考えるよりそろそろ出発してほしいけど。いーちゃんと無事に合流できることを、僕様ちゃんは信じてるよ。頑張ってね、『破片拾い(ピースメーカー)』」


そう言って、笑顔でもう一度封筒を差し出してくる。


「……激励の言葉、痛み入るよ。『死線の蒼(デッドブルー)』」


僕はそれを、ただ受け取ることしかできなかった。

744非通知の独解 ◆wUZst.K6uE:2017/11/04(土) 22:48:20 ID:hznMXV2k0
 



   ◇     ◇



 
【黎明】 F-7、図書館前


僕がなぜ生きているのかと言われたら「運がよかったから」と答えるほかないだろう。
謙遜でも卑屈でもなく、掛け値なしに僕は弱い。病院坂のように極端な虚弱体質というわけではないにせよ、人並み以上の体力は有していないし、玖渚さんのような頭脳や情報力もない。

ましてや、人識や伊織さんのような人殺しの才能など。

今まで僕は幾度となく死の淵に立たされている。そのたびに、誰かに助けられ、運に救われ、こうして生き延びている。
時宮時刻に襲われたときは、人識に助けられ。
不要湖では、火憐さんに庇われ。
真庭鳳凰を撃退できたのだって、玖渚さんの情報と、伊織さんが結果的にとはいえ囮のような役割を果たしてくれたからこそだった。

助けられっぱなしというだけならただ情けないだけの話だけれど、問題はそのたびに、僕以外の誰かが犠牲になっているということだ。
病院坂も、迷路さんも、火憐さんも。伊織さんだって無事では済んでいない。
僕の命が助かるたびに、いつも誰かが傷ついた。
「すべてが自分のせい」などと悲劇の主人公を気取るつもりは毛頭ない。すべてを運に任せてきたわけではないし、自分なりに最善の結果を得るため行動してきた自負はある。僕の働きが誰かを助けたこともあったはずだ。多分。

ただ、僕がいま生き残っているというのは、とどのつまりそういうことなのだ。
誰かが死に、犠牲になるくらいの不幸をもってしてようやく「櫃内様刻が、殺し合いのさなかで生き残っている」というありえない幸運は釣り合いが取れる。

他人の不幸を踏み台に、こうしておめおめと生きながらえている。

その事実を、僕は心に留めておかなくてはならない。

僕が生きているのは、当たり前とは正反対に位置する出来事なのだと。

……玖渚さんが言いたかったのは、つまりこういうことなのだろうか? 何か違う気がする。あの天才少女の意図を僕ごときが推し量れるとは最初から思ってないけれど。

もちろんこんな幸運はいつまでも続くまい。たとえば今、殺意ある誰かが目の前に現れたとしたら、その時点で僕の幸運と命は終焉を迎えるだろう。
デイパックの中に武器は何種類もあるし、例のダーツの矢もまだ残ってはいるが、それを扱うのが僕となれば、餓鬼に苧殻とまでは言わなくともあまりに頼りない。
僕にできることといえば、首輪探知機で周囲を警戒しながら進むことくらいだった。もはや必携となっているこのアイテムだけれど、これだって全幅の信頼を寄せるというわけにはいかない。「周囲に人がいない」というのは、決して安全を保障する文句ではないのだ。
そう、僕はこんなにも死に近いところにいる。
僕はいつか死ぬ。当たり前に死ぬ。

そのとき、僕は何を思うだろう? 後悔するだろうか。もっとうまく立ち回っていれば、死なずに済んだかもしれないのに、と。

そもそも僕は今、後悔していないのだろうか?

どこかで選択を間違えていなければ、救えた命があったかもしれないのに、と。

あのときにああしていれば、誰かを殺すこともなかったかもしれないのに、と。

……いや、やめよう。こんな仮定はただの感傷だ。たとえ間違いがあったとしても、過剰に贖罪や後悔を己に課すつもりはない。冷たいかもしれないが、僕がどれだけ過去を省みたところで、死んだ者は一人だって帰ってはこない。

そう、僕は過去の話がしたいわけではない。

問題は、『今』。

『また』なのかもしれない、ということだった。


「これは……」


いま僕は、図書館の前にいる。すでに見慣れてしまった感のあるこの建物だが、ランドセルランドまでの道程に存在する以上、また通りかからざるを得ない場所だった。
おかしいと思ったのは、首輪探知機の表示を見た時だった。
人識と伊織さんがこの図書館へ情報収集に向かったことはわかっていたし、時間的にまだ中にいてもおかしくないと思ってはいた。禁止エリアの発動まで、まだ若干時間はある。
探知機の画面にも、二人の名前はしっかりと表示されてはいた。『零崎人識』、『無桐伊織』と。
妙なのは、その表示が『図書館の外』にあることだった。しかもその表示のどちらも、まったく『動いていない』。



そして今現在。



図書館に到着した僕が見たものは、建物の前に停車してある二人が乗ってきたであろうベスパと、地面に乱雑に放られたふたつのデイパック。



そして同じく地面へと転がった、ふたつの首輪だった。

745非通知の独解 ◆wUZst.K6uE:2017/11/04(土) 22:49:34 ID:hznMXV2k0
 



   ◇     ◇



 
『死体がない』というのは、この場合、喜ぶべきことなのだろうか?
正確を期すなら、図書館の中に伊織さんが屠ったショートヘアの女の子の死体が転がってはいるが、そんなことを描写したところで何か意味があるわけではない。
死体はないが、首輪はふたつ。デイパックもふたつ。
首輪探知機の表示が示すとおり、人識と伊織さんの首輪で間違いはないだろう。デイパックもおそらくは同様だ。中身を見るまで断定はできないけれど。

なぜ首輪だけが?
疑問符をはさんではみたものの、その回答を得るのに大した思考は必要なかった。
頭の中でアラートが鳴り始める。最悪の想像であり、同時にこの状況から考え得る最も妥当な判断。
僕が今、単独で行動している最大の理由。玖渚さんたちにとっての最重要の懸念事項。


「水倉、りすか……」


とっさにスマートフォンを取り出し、玖渚さんの携帯へコールする。数秒のラグののち返ってきたのは、電話が通じない旨を知らせる電子音声だった。
電源が切られている? 玖渚さん自身がなんらかの理由で切っているのか、それとも。
伊織さんは――しまった、伊織さんの連絡先を聞いておくのを忘れていた。人識と玖渚さんの番号さえ分かっていればいいという慢心があったせいか。やむなく人識の携帯にかける。こっちは玖渚さんからのメールに番号が載っていたはずだ。


――prrrrrrrrrrrrrrrrr。


突然近くから鳴り響いた音に一瞬ぎょっとする。しかし、音の出どころはすぐにわかった。地面に落ちたデイパックの片方からくぐもった電子音が鳴り続けている。
電話を鳴らしたまま、デイパックを手に取り中を探る。あった。出てきた携帯電話の画面には、僕の持つスマートフォンの番号がはっきりと表示されていた。
このデイパックは人識のものに間違いない。そして持ち主である人識はどこにもいない。携帯電話すら放置したまま。

誰ひとりとして繋がらない。

誰ひとりとして、電話に出ない。

電話に出ることが、できない?

二度と?


「嘘だろ……」


こうなると、『死体がない』というのはもはや絶望を後押しする材料にしかならない。僕は話でしか聞き及んでいないことだが、水倉りすかの使う『魔法』という概念は『そういうこと』を可能とするものらしい。

要するに、人間を『跡形もなく』消し去ることのできる能力。

初めから、この世界の『時間』に存在していなかったのごとく。

『魔法使い』、『赤き時の魔女』。

水倉りすか。

なんてことだ。人識と玖渚さんの話から、いつかこういう事態に直面する可能性については留意していたが、まさかこんなに早くその時が訪れるとは。
玖渚さんの先見の明にはまったく恐れ入らざるを得ない。「リスク分散のために別行動をとる」というあの判断は、恐ろしいほど的確だったということになる。
僕はまた、誰かに助けられたというわけだ。
また無様に一人だけ、幸運にも生き残って――いや、待て、違う。

馬鹿か。まだ玖渚さんたちが死んだと決まったわけじゃないだろうが。そもそも水倉りすかが本当に現れたかどうかも定かではないし、仮にそうだとしても、電話に出られない理由は他にあるかもしれない。
悪い方向に想像を巡らせるだけ時間の無駄だ。今は僕が何をすべきか考えるのが先じゃないのか。

呼吸を整え、意識を落ち着かせる。
僕は『いつも通りの自分』でいればいい。ただそれだけだ。

首輪探知機をもう一度見て、周囲に他の人間がいないことを再確認する。大丈夫だ、とりあえず危険な様子はない。今のところは。
スマートフォンをしまい、地面に捨て置かれたデイパックを拾う。人識たちの安否が不明である以上、これは回収しておかなくてはならない。少し考えたが、首輪も回収してそれぞれのデイパックにしまう。
できればここら一帯を他になにかの痕跡が残されていないか調べたいところだったが、時間がない。ここは次の禁止エリアの真っ只中だ。三時までにこのエリア内から脱出しなければ僕のほうが無事では済まない。

ただ、その前に。

どうしても手に入れておきたいものを探すため、僕は図書館内に足を踏み入れた。

746非通知の独解 ◆wUZst.K6uE:2017/11/04(土) 22:51:40 ID:hznMXV2k0
 



   ◇     ◇



 
【黎明】 F-6


一人で三つのデイパックを抱えて歩くのは、当然ながら体力がいるし、歩みも遅くなる。
急いで移動しなければならないと言った矢先に落ちていた荷物を余さず拾っていくというのは、傍から見れば欲の皮が張って見えるかもしれない。
もし移動手段が徒歩しかないという状況であれば、さすがに自分の荷物以外は諦めていただろう。

人識の乗っていたベスパが残されていなかったら。

運よくキーが刺さったまま放置されていた、このスクーターが手に入っていなかったら。

原付の免許なんて僕は持っていないが、どっこいここは公道ではない。そして運転するだけなら免許がなくてもできる。
事故さえ起こさなければ何も問題はない。ようは自己責任だ。

かくして僕は、三つのデイパックを身体に括り付けたまま悠々と禁止エリアからの脱出に成功した。まだ陽の昇らない時間、視界の暗い中での運転なので速度は抑え目だが、この調子なら予定より早くランドセルランドへたどり着けそうだ。


「これもまた、人識に助けられたってことなのかな……」


無意味に発した独り言はエンジン音にかき消される。さすがにそれは都合のいい考え方かもしれない。やってることだけを見ればただのバイク泥棒だ。
こんな時ではあるけれど、誰もいない夜の道路を他人の原付でひた走るというやや背徳的な行為に静かな高揚感を覚えている自分がいた。単なる現実逃避かもしれないが、こういうのも悪くはない。

時間と気持ちに余裕が出てしまったことで、再び暗澹とした疑問が頭をよぎる。
玖渚さんと、人識たちは無事なのだろうか。それとも番狂わせなく、水倉りすかの凶刃に斃れたのだろうか。
人識と伊織さんの二人に関しては、正直なところ後者の可能性が高い。そうでなければデイパックはともかく、二人の首輪だけが残されていた理由が説明できない。
図書館の中も一応ざっと探してはみたが、人の気配どころか、僕と伊織さんが立ち寄ったときから新たに誰かが中に入った形跡すら見られなかった。時間的に、あそこへの来館者は僕が最後になるだろう。禁止エリアを越える手段でもあれば別だが。

玖渚さんは……どうなのだろう。電話に出ないというだけでは判断材料としては薄い。
このベスパで薬局へ取って返すという選択肢もあったが、僕はそれを選ばなかった。
逃げと言われたら、それを否定する言葉はない。しかし、もし玖渚さんがまだ生きていて何らかの危機に直面している状態だったとしても、僕が戻ることによって事態が好転するとは思えなかった。むしろ彼女の提案した「リスク分散」の配慮を無碍にしかねない。
ならばせめて、この『遺書』を届けるべき相手に届けるのが僕の役割だと、そう判断した。
『遺書』にならなければいいと願ってはいる。ただ「電話に応答しない」という、この手紙を「いーちゃん」に渡すための条件はすでに満たしたと言っていい。残念ながら。


「……悪い想像ばっかりしても仕方ないよな。真実がどうかは、あれを見てみればわかることだし」


そう、玖渚さんたちの生死を確認する方法はすでに確保してある。
ついさっき、図書館内から回収してきた8枚のディスク。
数時間前にも一度、同じ場所で手に入れた死亡者DVD、その最新版だった。
できれば図書館全体をもう一度総ざらい的に調べたいところだったが、さすがにその時間はなかった。こればかりは「重要な手掛かりがあるかもしれない」という玖渚さんの予測が当たってないことを願うしかない。
図書館が禁止エリアになったあとでも、あのDVDは作成され続けるのだろうか? 『足りない4枚分のスペース』といい、謎を残したままの部分がいくつかあるけれどもうそれは仕方がない。
新たに手に入ったディスクが8枚、僕のデイパックにある。事実はそれだけだ。

747非通知の独解 ◆wUZst.K6uE:2017/11/04(土) 22:53:43 ID:hznMXV2k0
 
8枚。つまりは8人の死者の映像。
うち5人については、さっきの放送の内容が正しければすでに割れている。戦場ヶ原ひたぎ、宗像形、黒神めだか、そして人識が殺した真庭鳳凰と供犠創貴。
つまり放送をまたいで3人、新たな死者が出ているということになる。
ちょうど3人、という数字にはもはや悪意すら感じてしまう。このDVD自体、悪意以外の何物でもないという話だけれど。
本来なら伊織さんたちが入手する手筈だったこのDVDで伊織さんたちの生死を確認するというのは皮肉もいいところだが、見ないわけにはいかない。もしそこに水倉りすかが映っていたとしたら、それは重要な情報だ。

玖渚さんたちの遺志を継ぐために。


「……いや、だから『遺志』はまだ早いって」


どうにもさっきから、死を前提に考えすぎている節がある。
こんな非常時であることを思えば、仕方がないといえば仕方がないことだが。


それとも、僕はもともとこうだっただろうか。
誰かの死を、こうも簡単に受け入れる人間。
自分が殺したときは、ああも取り乱していた癖に。


ともかく事実の把握が先決だ。安全が確保できるような場所に着き次第、DVDを再生してみよう。幸いというか、手持ちの支給品にはノートパソコンがある。再生するための機材を探す必要はない。

……仮に、玖渚さんが本当に脱落してしまったとしたら、この殺し合いの打破を試みようとしている僕たちにとっては相当な痛手だ。彼女の機械工学の知識とスキルは常人の域をはるかに超えている。
すでにある程度首輪の解析は進んでいるらしいが、その解析結果さえ、玖渚さん以外の者に理解するのは容易じゃないだろう。僕が聞いたとしても、用語の意味すら理解不能に違いない。
『死線の蒼(デッドブルー)』。
凡人たる僕たちには、越えることすら許されない一線。
その玖渚さんでさえ一筋縄ではいかないこの首輪を解除することが、彼女なしにはたして可能なのだろうか?

あるいは、すでにいるのか。

何らかの方法で、首輪の解除に成功した者が。

もし僕が今、この首輪を外すことができたらどうするだろう。首輪さえなくなれば、今しがた僕がいた場所ももはや禁止エリアとしての脅威はない。どころか、この空間からの脱出も可能かもしれない。
ただし玖渚さんはこの空間を『非現実の閉鎖空間』と仮定していた。それが的を得ていたとしたら、首輪を外しただけでは脱出は不可能だろう。どうしても主催サイドへのアプローチが不可欠になる。
空を見上げる。時間はもはや夜より朝の領域に入っている。月はもう隠れて見えないが、次の夜もまた満月なのだろうか。

繰り返す満月。

閉鎖空間。

脱出不可能の非現実。

ふざけている。しかし、すべてはいま起こっていることだ。

首輪にそっと触れてみる。これひとつ外すだけでも、すでに四苦八苦の様相だ。ここから脱出することなど、僕たちの力だけでできるものなのか……?



「だったら、いっそのこと――」















――優勝を、狙ってみるか?















どくん。

心臓が妙な感覚を訴える。

風が頬を撫でつけ、その感触がいっそう肌を粟立てさせる。薄闇の中、ヘッドライトが照らす景色が妙にゆっくり流れていくのを、どこか他人事のように見ていた。

748非通知の独解 ◆wUZst.K6uE:2017/11/04(土) 22:55:45 ID:hznMXV2k0
 
何だ?

僕は今、何を考えた?












――『持てる最大の能力を発揮して最良の選択肢を選び最善の結果を収める』。それが僕の持論のひとつだったはずだ。ならば必然、あらゆる選択肢を念頭に置いておかなくてはならない。












そうだ、その通りだ。
だからこそ僕は、こうして殺し合いに抗うという選択を――












――ならば、『最後の一人まで生き残る』という選択肢は、十分に現実的なはずだ。少なくとも、主催に盾突いてまで脱出を図るよりは、ずっと。












「…………」


ゆっくりとブレーキをかけ、その場に停車する。
自分では落ち着いているつもりだが、心臓だけは早鐘を打っていた。ヘッドライトを消し、エンジンを切る。周囲に静寂が戻ってくる。
頭によぎった考えをもう一度反芻する。『優勝を狙う』。『最後の一人まで生き残る』。確かに今、僕はそう思った。誰に唆されたわけでもない、自分自身の発想で、だ。
……いや、その考え自体はもっと前から思いついていたのかもしれない。意識しなかったのは、それを考えないようにしていたからだ。
目の前の目的に専念することで、その考えから目をそらしていた。
当然だ。僕が他の参加者を押しのけて優勝しようなんていうのがどれだけ無謀な考えかは、僕自身がよくわかっている。僕がまだ生き残っていること自体が奇跡だと、ついさっき心に留めたばかりだ。
それでも、意識してしまった。目をそらしきれなかった。
きっかけになったのは、さっき図書館で死亡者DVDを回収したときだった。
今のところ作成されたDVDは、僕を含めた玖渚さんの協力者がすべて回収している。必然、その枚数もわかっているし、DVD自体にナンバリングが成されているから何枚目のDVDかも間違えようがない。
それはつまり、死者が何人で、生存者が何人か、最新のDVDさえ所持していれば明確であるということ。
僕の持つDVDの最新ナンバーは『36』。差し引きで、生存者の数は残り9人。
たったの9人。
45人いた参加者が、今や9人。そしてそのうちのひとりが、この僕であるという事実。

あと8人が死ねば優勝。

望む望まざるにかかわらず、残り8人の死で勝者が確定する。

今まで「自分が優勝する」というイメージは、おぼろげにすら掴めないほど完全皆無のものだった。それが「あと9人」という具体的な数字を知ってしまったことで、自分の中で形を成してしまった。
もしかしたら、自分の手に届く範囲にあるのもかもしれない、と。

苦笑とため息が同時に漏れる。我ながらなんて酷い考えなのだろう。『人数が少なくなってきたから、とりあえず優勝を狙ってみよう』などと。火憐さんあたりが聞いたら激怒するに違いない。僕のせいで死んだ人たちへの贖罪はどこへ行ったのか。
それでも、その思い付きについて考えないという選択肢は僕にはなかった。もしそれが、僕の最大の能力をもってして得られる最善の結果なのだとしたら、僕はおそらくそれを選ぶだろう。

それが、最も辻褄の合う解答なのだとしたら。



――『辻褄合わせ(ピースメーカー)』。



いつだったか、くろね子さんが自分のことをそう呼称していた。自分自身の悪癖への自虐と、おそらくは僕への皮肉として。
『辻褄が合わない状態が不安で仕方ない』――それに似た不安は、少し前から僕の中にも募っているのを自覚していた。ただし僕の場合、正確に言うなら『何が辻褄が合った状態なのか分からない』という不安に近い。
『優勝を狙う』という考えも、おそらくその不安から出てきたものだ。今の僕は、明確な解答を欲しがっている。「これが最適解だ」と誰もが認めるような解答を。
時宮時刻が死んだと知ったときから、それはずっと続いていたように思う。だけど欲してはいたものの、それについて考えること自体を放棄していた。「分からない」という不安からすらも、ずっと逃げていた。

749非通知の独解 ◆wUZst.K6uE:2017/11/04(土) 22:59:12 ID:hznMXV2k0
思いついてしまった今、僕は僕自身に問わなくてはならない。


優勝を狙うというのは、はたして最適な解答か?


それを目指すことが、僕にできるのか?


その選択はつまり、必要に迫られればまた誰かを殺すことになるかもしれないということだ。できるできないの話ではない。「やる」という決意が、この選択には必要になるということ。
二度と人を殺したくなどない。それは偽らざる本音だ。
でも、それ以外に最善の方法が見つからなかった場合、その本音を守り通すことができるだろうか。


そもそも、こんな選択が本当に最善だと言えるのか?


万が一、最後の一人まで生き残ったとして、そのとき僕は何を願う?


何を願えば、最適な解答だと認められる?


僕はくろね子さんのような名探偵ではない。たとえ正解を手に入れたとしても、『この解答は、はたして正解なのだろうか』という不安に取り憑かれ続けるだろう。
僕の目的とは、いったい何なのか?
僕が生きている意味とは、いったい何なのか?
分からない、分からない、分からない。
分からないから、考えないようにしていた。
考えても考えても、正解など出ないような気がしたから。
正解が出たとしても、それが本当の正解かどうか分からないから。










「……だったら、分からないままでもいいじゃないか」










そうだ、結局のところ僕は、僕にできる限りのことをするしかないのだ。正解が分からないなら、最大の能力をもって最善を尽くす。今まで通り、僕の流儀を貫けばいい。
僕のやるべきことは『殺し合いを打破するために行動すること』だ。やることは何も変わらない。玖渚さんの指示通りに「いーちゃん」と合流し、この手紙を渡す。それが今の僕に課された役割だ。
目的があるうちは、それを全うする。それだけでいい。
それが僕の生きる理由であり、贖罪だ。
ベスパのエンジンをかけ、アクセルを入れる。東の空からうっすらと夜明けが降ってくるのを背に、再び僕は目的地へと向けて走り出す。

せいぜい足掻いてみせよう。死ぬまでは、生きて自分の役割を果たし続けよう。

最終的に、誰かを裏切ることになろうとも。

僕の世界に、辻褄の合った解答を見つけるために。



『辻褄合わせ(ピースメーカー)』として。

750非通知の独解 ◆wUZst.K6uE:2017/11/04(土) 23:00:09 ID:hznMXV2k0
【2日目/黎明/F-6】


【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン、首輪探知機、無桐伊織と零崎人識のデイパック(下記参照)、ベスパ@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×8(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、玖渚友の手紙、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜36)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)、 誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、
   金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、 ノーマライズ・リキッド、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット、
   首輪×4(浮義待秋、真庭狂犬、真庭鳳凰、否定姫・いずれも外殻切断済)、糸(ピアノ線)@戯言シリーズ、ランダム支給品(0〜2)
   (あとは下記参照)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 1:「いーちゃん」達と合流するためランドセルランドに向かう
  2:玖渚さんの手紙を「いーちゃん」に届ける
 3:死亡者DVDの中身を確認する
[備考]
  ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形、零崎人識(携帯電話その1)が登録されています。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は29〜36を除き確認済みです。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。



【その他(櫃内様刻の支給品)】
 懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
 シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵チョウシのメガネ@オリジナル×13、
 小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁、 中華なべ、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、
 鍋のふた@現実、出刃包丁、おみやげ(複数)@オリジナル、食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、
 『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』(「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)


【零崎人識のデイパック】
零崎人識の首輪、斬刀・鈍@刀語、絶刀・鉋@刀語、携帯電話その1@現実、糸×2(ケブラー繊維、白銀製ワイヤー)@戯言シリーズ
支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
千刀・ツルギ×6@刀語、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数

※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています


【無桐伊織のディパック】
無桐伊織の首輪、支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ




※零崎人識、無桐伊織、玖渚友の死体、及び三人が身に着けていた物品等(首輪とデイパックを除く)は水倉りすかの魔法により消失しました

751 ◆wUZst.K6uE:2017/11/04(土) 23:01:01 ID:hznMXV2k0
以上で投下終了です

752名無しさん:2017/11/05(日) 01:26:57 ID:HmdfQnBs0
投下おつー
そうか、もう5分の1なんだよな……
色々と自覚や認識は進んだけど果たして合うべき辻褄はあるのか
なければ合わせれるのか

753名無しさん:2017/11/05(日) 02:12:08 ID:y4J2qcF20
投下乙です
そう来たか、というのが素直な印象
ですが思考の端々から様刻らしさが滲み出ていてマーダー化フラグが立ったときのシーンには思わずこちらもドキリとさせられました
だが様刻よ、生き残りの9人の中には強さランキング2位と3位がいるし3位とは遭遇ワンチャンあるぞ…

754名無しさん:2017/11/15(水) 16:09:48 ID:CoY2rlKQ0
お久しぶりです
月報失礼します
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
165話(+1) 9/45 (-0) 20.0(-0.0)

それと最新話Wiki収録しました
確認はしましたが見落としがあるといけないので何かありましたらお願いします

755名無しさん:2017/11/15(水) 16:11:56 ID:CoY2rlKQ0
…失礼、コピペミスりました
こちらが正しい月報でございます


話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
166話(+1) 9/45 (-0) 20.0(-0.0)

756名無しさん:2021/06/13(日) 01:40:12 ID:a7794f6M0
てす

757 ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:42:21 ID:a7794f6M0
投下します。パソコンからの書き込みができなかった為、スマホ投稿になりますが、ご了承のほどよろしくお願いします。

758おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:44:08 ID:a7794f6M0

  ◇


 鑢七花――真庭蝙蝠に拾われたあの人物を七花とあえて呼ぶならば――彼の惨状たるや、口にするのも憚られるほど極まっているが、しかし、しかし。改めて考えてみると奇妙な点もある。『混沌よりも這い寄る混沌』球磨川禊と、『天災』鑢七実の複合体が奇妙でないわけがないが、それを踏まえても――なぜ、鑢七花は眠っていた?
 刀が人を斬った代償としてはあまりにも大きい代償を負い、仕合に負けて、不貞腐れていた。不貞寝し、腐っていたのも、間違いない事実ではあろう。一方で、『誰の心境』が、そうさせていたのか。これも質さなければならないことだ。
 鑢七実の性質か――いや、いや。さながら死体が生命を得てしまったような、押したら崩れてしまいそうなほど儚げな七実ではあるが、彼女はその実、目的意識の塊だ。かつて、七花に七花八裂の脆弱性を指摘するために島から出たことも、七花を研ぎ直すための場をわざわざ設けたことも、七実の機能性を象徴している。今この場における刀としての彼女の行動など言わずもがなだ。彼女が刀――道具であればこそ、己が機能、目的を果たさんとするのは必然とも言える。
 では誰だ。決まっている。『却本作り』の出自を辿れば、球磨川禊しかあり得まい。
 しかしそれこそ本来はあるはずがないのだ。負け戦なら百戦錬磨、敗北すること一騎当千、そして、立ち上がること無二無三。たかだか致命的な挫折ぐらいで不貞腐れるなど、矛盾と言わず何という。

「■■■、■■■■■■■■■■■■」

 かつて、あるいは未来。『彼女』は言った。生徒会戦挙の会長戦。『人間比べ』のその果てにて。『彼女』は問うた。球磨川禊の負けても這い上がる姿について、負けてなお、立ち上がる球磨川禊の『強さ』について。『彼女』は説いた。球磨川禊が、弱くも果てしなく強かだからこそ、『却本作り』に制されてなお、立ち上がれるのだと。
 では、鑢七花は?
彼が立ち上がれなかった理由とはなんだ?
そして、『とがめ』という新たな『拠り所』を見つけた彼が曲がりなりにも――刀身も刀心も折れてなお、立ち上がれた理由とはなんだ?

759おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:45:30 ID:a7794f6M0

 ◇


 これもまた、少し前の話。

『ふわぁ……』

 夜。草木の匂いも薄く、虫の音も、鳥の声もない。生命感の乏しい閑静な街中にあくびがこだまする。殺し合いの最中というにはあまりにも不釣り合いなほど呑気で、かつ退屈極まる大きなあくびだった。

「お疲れになられましたか」

 虚刀流、鑢七実が振り返りざまに尋ねる。虚弱さ薄幸さが形を成したような女に体調を心配されるとはまことに奇怪ではあるものの、七実の容態を加味してなお、あくびの主、球磨川の気は緩んでいた。

「禊さんにも眠たくなることなんてあるのですね」
『おいおい、そもそも人は夜に寝るものだぜ』

 過負荷、球磨川禊は当然のことをさも当然のように言う。いくら弱く、図抜けて弱く、果たして弱かったとしても、生物学上球磨川は人間だ。人である以上、眠気を抱くというのもおかしくない。ただそれは、おかしくないというだけだ。球磨川が眠たいだなんて寝言をほざくのは、なんとも奇妙な話のようにも思えた。奇矯でこそあれ、奇妙であるとは――。

「でしたら少し、お休みになりますか」

 夜の帳が下り、周囲一帯は暗い。灯りはついていないものの、このあたりには家屋がちらほらと並んでいる。休める場所くらいはあるだろう。ランドセルランドまではもうまもなくであるはずだが、逆に言ってしまえば、十分に休むなら機会はこれが最後になるはずだ。

『七実ちゃんがそういうなら、ちょっと休もうか』

 別に急ぐ理由もないしね、と。適当な民家を見繕うために、のらりくらりと歩き始めた。そんな彼の背中をじぃと見つめ、七実は省察する。これまでと、これからを。

 見て、観て、視て、診て、看る。持ち手の様子を、様態を、容態を。

760おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:47:06 ID:a7794f6M0


 ◇


 探検と称して薄暗い家屋に突撃したわけですが、案の定何があるわけでもなく、ちぇーと不貞腐れた禊さんは横になられました。上等な布団に包まる禊さんの顔ときたらあまりにも安らかなものですから、見たことないほどに満たされておりますから、張り手のひとつでもお見舞いしたくもなりますが、閑話休題。
 
「さて、さて、さて」

 さて、と。思考を切り替える。思考を、あるいを趣向を。従者として、そして刀として、わたしがなにを研ぎ澄ませばいいのか、研ぎ、済ませばいいのか、今一度整理をする必要がある。これからについての、精査を。

「よく眠っていらして」

 眠る禊さんの頬を撫でる。七花よりも幼く、まだ張りを残した柔らかな頬からは、緊張感のかけらも感じられない。すやすやと眠るさまはさながら子どものようだ――いや、間違いなく禊さんは子どもなのでしょう。肉体的においても、精神的においても。
 さながら虫を潰す幼児のように、彼の中には良いも悪いもない。無邪気な狂気とでも申しましょうか。彼がしきりに申し開く、僕は悪くないという言葉。なるほど、言い得て妙かもしれません。文字通りに、悪くもなければ良くもない。何をしたところで彼の中では、何事もなく台無しで完結してして、自分勝手で、他人任せで、どうしようもなく、どうにもならない。他者と価値観を共有できず、まるごとに全てをおじゃんとする、群れを好みながらも群れに厭われる様をどうして大人と、人間と言えましょう。

「人間未満――幼きもの」

 しかし、群れに嫌われながらも、負けながらも、それでも禊さんは群れを成していたと聞きます。群れを率いていたと仰りました。マイナス十三組、『ぬるい友情・無駄な努力・むなしい勝利』の三つのモットーを掲げた泥舟の頭に、禊さんはいたらしい。曰く、わたしも所属しているそうなので、伝聞のように表すのも的確ではないでしょうが、良しとしましょう。悪いとしましょう。ともあれ、あまりにも幼く、世界が己で閉じている彼が、集団行動に向かない彼が、それでも人を率いることが出来でいたとするならば、彼にあるのは幼さだけではなかったということでしょう。

「目的――目標。モットー」

 勝ちたい。
 常敗無敵である禊さんの悲願は、その一言に尽きる。彼の持ちうる最大限の人間らしさであり、彼の人間性を担保するものであり、唯一にして無二の、他者と共有できる価値観だった。だからこそ、群れることをかろうじて許された。成し遂げた。
 先刻禊さんも仰られた通り、生憎とわたしは共感できない価値観ではあります。ただし、共有することはできましょう。負けたいと願っていたわたしの願いは、方向性は真逆であれど、故にわたしの願いこそ他者に理解はされないでしょうけれど、その内実は同じようなものなのですから。隣の芝生は青いだけと指摘されれば、返す言葉も見つからないので返す刀で斬りつけてしまいそうなほど、言葉にしてしまえば存外に陳腐な願いです。禊さんには『可能』がないから、わたしには『不可能』がないからこそ、自分にできないことをしたい――。ええ、当たり前の思いでしょう。

761おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:48:04 ID:a7794f6M0

「…………」

 先程、禊さんは勝ちました。黒神めだかに、念願の相手に。詭弁であれ、奇策であれ、勝ちは勝ち。幼き混沌が掴む勝利としてはふさわしい、むなしくも誇らしい勝利を得ました。
 故に、でしょうか。禊さんの士気が著しく低下している、ように見えるのは。彼は大嘘吐きですから気のせいかもしれません。念願の勝利を掴んで次なる目標を失ったというならば気の毒かもしれません。――いえ、いえ。

「それも戯言、ですか」

 誰よりも弱いからこそ、厭世の念に埋まるように浸かっていたからこそ、誰よりも現実を省みず、現実味がなく、夢みがちで少年のような精神を持ち合わせていたはずのあなたが、あれなる勝利で満足する道理はありますまい。週刊少年ジャンプなる絵巻ような現実を切望していたからこそ、あの結末に絶望していたのに。
 そもそも禊さんの記憶は、他ならぬわたしが封印しているというのに、勝利の記憶も何もないだろう。

「殊の外、深く螺子が刺さっておいでで」

 だとしたら、やはり原因は黒神めだかということになるでしょう。彼女との果たし合いを望んでいた時のあなたは、それはもう思春期のように――思春期相応にうきうきとした様子でしたのに。わかってはいたことだ。これもまた、他ならぬわたしが言ったことですから。

「あなたは黒神めだかに縛られています」

 いや、黒神めだかの亡き今、――無き今あなたを縛るものなどないというのに。だとしたら、もはや自縄自縛と言う他にないでしょう。目標を、目的を、黒神めだかの打倒のみに据えてしまった、あなたの間違い。勝てば良かったはずなのに、踏み外してしまった過ち。唯一の人間性を失って、何をどうしたいのか。それを導くのが良いのか、悪いのか。

「いっしょにだめになる。ええ、ええ」

 想いを違えることはありませんとも。
 眠る球磨川の髪をあやすように梳く。本当に幼児のような寝顔だ。閉じた瞼の裏にあるのは、あの底知れない闇のような瞳なのでしょうか。はたまた、底抜けの空虚だとでもいうのでしょうか。今、禊さんは何を見つめているのでしょう。もはや人と決して分かり合えない、混沌の子。球磨川禊さん。
 わたしは――。

  ◇


 ■■■。
 ■■■■■。
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

「■■■■■■■■■■■■」

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

762おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:48:51 ID:a7794f6M0



 四半刻も過ぎない頃。仮眠から起こしてランドセルランドに着きました。仮眠をとってなお眠たそうにしていたものの、まばたきをする間にはけろっとしておられます。「眠気」をなかったことにしたのでしょう。でしたら先の言葉はなんだったのかということになりますが、彼の言葉にいちいち荒波を立てることもありません。

「おはようございます」
『うん、おはよう。今日も清々しい夜だね』
「良い夢は見れましたか」
『そりゃあもう、幸せな夢がいっぱいさ』
「左様で」
『さっきあんな話をしたばっかりだからかな、七実ちゃんがいろんな姿で出てきてさ。七実ちゃんだけに七変化、なんて――おいおいそんな冷たい目で見つめてなんだよ? 可愛い可愛いギャグにいちいち目クジラ立ててたらこの世の中死にづらいぜ。夢でもそんな目をした七実ちゃんがいたよ。あの子はナース服を着ていたかな。弱った身体に最も近く、弱った心に寄り添う白衣の天使が、射殺さんばかりの視線を――死線を投げかけている。そのアンバランスさと言ったら名状しがたき興奮を覚えるけれども、別段僕の被虐性が飛び抜けているというわけじゃあないんだ』
「はい」
『本来あるべき姿とのギャップ――乖離、剥離、別離。やっぱりトキメキの原点ってそこにあるよね。七実ちゃんはツンデレって知ってる? あれも典型的な類型さ。一世代築いただけあって、あるいは今も連綿と続く文化なだけあって、ギャップ萌えとしてのお手本のような形とされているんだ』
「博識なことで」
『でもさあ、本来あるべき姿ってなんだよ』
「…………」
『あなたはかくあるべし、なんて一方的に決めつけておいて、レールから外れれば「あなたも人間らしいところがあるのね」なんて安心感を覚える。完璧な人間なんかいないんだと安堵する。――一方的で、差別的で、侮蔑的で、醜悪さに起因する萌え、それがギャップというものだけれど、もっとも黄金的な属性なだけに人によって定義が違うんだよね』
「よかったですね」
『とはいえ、とはいえさ、落差が萌えの基本なのは疑いようもない。『優等生然していた子のパンツが実はいちごパンツだった』なんていうも、取っ掛かりの一つだよね。ああっ! 夢の中にはセーラー服な七実ちゃんもいたんだぜっ!? 落差っていう意味ではこれ以上ないかもしれないね!』
「はい」
『ラブコメチックな七実ちゃんを見てたら投影しちゃったのかな。セーラー服こそラブコメのメッカ、ラブコメこそセーラー服! 軍事力のモチーフが今となってはコメディの、日常性の象徴なんてとんだ笑い話だけど、そんな滑稽さも僕は好きでね。僕が意地でも学ランを着ている理由も青春ラブコメがしたいからなんだぜ、知ってた? いやあ、箱庭学園にも出会いを求めて入学したけど、まったく全然だ。食パン咥えて走る女子がいないのなんのって。せっかく普通科なんてものがある学校に編入したんだからそんな普遍的なイベントに参加したかったものだけど、やっぱり僕にはだめだったよ』

763おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:49:41 ID:a7794f6M0
「そうでしたか」
『僕の悲劇を抜きにしてもセーラー服ってブレザーにはない味があるよね。だってブレザーってエリートって感じがするだろう? やれやれブレザーが一般化した今でも放たれるブレザーの主張の強さにはさしもの僕でも辟易するよ』
「困りましたね」
『それで、なんでさっきの七実ちゃんはあんな楽しそうにしてたの?』
「――」
『あっ』

 省略。

『まあでもさ、ラブコメにも落差って必ずある――むしろ落差こと主眼といってもいい』
「……」
『『ビデオガール』や『宇宙人の王女』みたいな位相(リアリティ)の差も然り、平々凡々と『グラビアの同窓生』なんていう、ありきたりな位相(カースト)の差も然り。相手と違うからこそ見てしまう、見惚れてしまう』
「……」
『あくまでこれはプラスに生きる奴らの考え方さ。『主人公(プラス)』と『ヒロイン』――『勝ちヒロイン(プラス)』による舞台の話。舞台にすら上がれない僕みたいな負け犬は同族で群れるしかない、あるいは同族嫌悪で対消滅するしかない。話は逸れちゃったけど、めくるめく七実ちゃん大変身には僕も『包丁人味平』もびっくりな実況をしてしまったほどだけれど二話連続同じ話で紙幅を誤魔化すほど僕も優しくないぜ。だから、夢の映像は僕の胸の内に秘めるとするよ』
「そうですか」
『まったく、これが週刊少年ジャンプなら読者アンケートの集計結果を公表するとともに七実ちゃんのあられもない絵姿を描画することができたんだけど。第一位、第二位、第三位、エトセトラエトセトラ――みんなの願いが、みんなの想いが、みんなの期待が、そのページに詰まっているわけだから』
「ええ」
『人気投票――人気の数値化。よくあるシステム、ありきたりなストア商法、しかし夢を売る週刊少年ジャンプの一番根底にあるシステムが現実をまざまざと突きつけるアンケートだなんて、酷な話だと思わない? 弱肉強食、自然淘汰――なんて聞こえはいいけど、敗者は敗者のまま、あなたの作品は不要ですという世論を持ち出されて退場するしかない。あなたの作品が、あなたの思想が、あなたの信念が、あなたの理想が、あなたの現実が、あなたの存在が、世の中に噛み合わず、世の中に適合せず、世の中に爪弾かれ、世の中に疎まれ、世の中に蔑まれ、世の中に嘲笑われ、世の中に抹消され、不要で、不毛で、不当で、不敬で、不能で、不快で、どうにもならないほどどうでもいいと負け組レッテルを貼られるだなんて、なんとも奇縁なものだよ』
「はぁ」
『そういう意味では打ち切りリベンジに二作目を引っ提げて帰ってきた作家――あるいは連載を細々と続けているような作品にしたって、嫌われないために努力しているんだろうね。趣向を変え、初心に返り、社会を顧み、あまねく試行錯誤の末、結果は期待に適応することを選ぶ。なんてたって、枠は三つもあるからね。一番じゃなくても二番でいい、二番になれずとも三番ならば。皆様が望むのならばこのキャラを出しましょう、皆様が望むのならばこのキャラを殺しましょう、そう、あなたの望む姿に成り代わりましょう。夢の極地、憧れの最果てにあるのが嫌われないための努力だなんて、なんともナンセンスな話だとおもわない?』
「いえ、なんとも」
『そう、そうだぜ。世の中大半の人はどうでもいいと思っている。だって、そんな涙ぐましい努力なんて、好かれる才能をもった作品が一瞬で掻っ攫っていくからさ。好かれる才能と嫌われない努力――プラスとマイナス。持つべきものが持ち、勝つべきものが勝つ必然。敗者に待ち構えるのは、だらだらとした惰性。やれやれ、夢を見せるジャンプにしたって、夢を見せてくれないね』
「はあ、それで、なにが言いたかったのです」
『七実ちゃんのクラシカルロングのメイド服が第三位だったという話さ』

764おしまいの安息(最後の手段) ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:50:51 ID:a7794f6M0

 冥土? めいど? なんだか可愛らしい響きですね。禊さんのこういった類の話は半分ほど聞いておけばいいとして、しかし、望まれた姿――に変質する話ですか。先程もそういえば、そんな話をされていたような。こすぷれ――成り代わる、確かそんな話を。
 話の途切れ目。わずかな呼吸の音が、一拍分。息をしたのはわたしだったか、彼だったか。息を呑んだのは、果たして。間隙を縫うように、わたしは言葉を投げかける。

「ひとつ、お尋ねてしてもいいですか」
『ん? どうしたの?』
「禊さん、あなたの目的――この戦場での目的を、改めてお伺いしても、よろしいですか」

 じぃ、と。
深く、深く、深く、見て見られて、観て観られて、目が合った。いつものように、嘘のような微笑みを湛えて。

『なんだと思う?』

 今度こそ、わたしは息を呑む。なにかはわからないけれど。なにかに圧倒されたような、不思議な心地で、だからわたしの胸は高まったような気がして。
 ですが次の瞬間には、禊さんはすっきりとした風に破顔しました。

『なーんて冗談冗談! 僕の目的は相変わらず、あのじいさんを串刺しにすることだよ。だって偉そうに偉くてムカつくだろ?』

 やっだなー、と。おどけた調子で笑う禊さんの顔を。わたしはじぃと、ずっと、見つめている。愛くるしい顔立ちの裏を見ようと、目を背けまいと、彼の瞳を認め、あなたの心が焦がれるよう見惚れていました。
 大袈裟な哄笑をやめ、おっかしーなんて嘯きながら、何気なしに禊さんは口を開きます。

『ねえ、七実ちゃん』
「なんでしょう」
『いい夢見れた?』
「……はい」

 いえ、悪い夢なのかもしれませんけれど。見つめても見惚れても、禊さんの瞳はどこまでも真っ黒でした。


  □


 それから間も無くのことです。
ごちゃごちゃとしたこの憩い場を徘徊するがらくたと遭遇しました。
がらくたの、がらくた、おもちゃの成れの果てです。

「―――人間・認識」

765 ◆xR8DbSLW.w:2021/06/13(日) 01:53:35 ID:a7794f6M0
投下終了です。
状態表は前回登場時と現在地以外変わりまりません。
細々とした修正とともに、wiki収録の際に訂正させていただきます。

766名無しさん:2021/07/15(木) 01:41:58 ID:zmmq06Jg0
Tesu

767名無しさん:2021/07/15(木) 01:43:42 ID:zmmq06Jg0
投下来ていた、お疲れ様です。
くまーはめちゃくちゃ喋ると思ったら省略されててわろた。
でも全然省略されてないってくらい喋りっぱなしですよね?
その辺りも含めて、なんというか安心したというかホッとしたというか、久しぶりの投下ながらも我が家に帰ってきた気分でした

768 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:35:03 ID:LwlWjwEc0
投下します。
前回と同様にスマホ投稿になりますがご了承ください。

769「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:37:59 ID:LwlWjwEc0


  ×

「なあ、とがめ」
「触るな」

  ×

「ごめんな、とがめ」
「いいから進め」

  ×

「懐かしいな、とがめ」
「知らぬわ」

  ×

「ごめんよとがめ。おれが不甲斐ないばっかりに」
「いいから。わたしに不用意に触るでないわ」

 再三再四繰り返される謝罪にほとほと嫌気が閾値に達しているおれではあるが、活用できるものはしていかねばあるまいよ。
身体も性根も、まるごと全て腐ったこいつにそれでも価値があるとするならば、残った価値を根こそぎ使い果たしてやろうではないか。まったく――まったく、本来価値すらないこいつに、生かすだけの価値を見出したのだ。
『冥土の蝙蝠』と謳われたおれの優しさには我ながら驚嘆を覚える。
接待好きもここまで至れば堂に入ったものということか。
まるで期待はしていないが、おれにわずかでも貢献しろ。迷惑をかけるな。そして死ね。

「だいたいわたしの髪になにを執着しておるというのだ。いいか、もう一度だけ命じてやる。わたしに触れるな」
「そうはいってもとがめ、せっかくまた髪が伸びたんだ。昔みたいに手入れをさせてくれないか」

 なんだ『この女』、おれの知らない一年の間で髪なんか切っていたのか。
恋する乙女じゃあるまいに。ろくでもない女という認識はしていたが、いよいよ気でも触れたか?
髪を切ったぐらいで、あの女の中でぐつぐつと煮えたぎっていた怨嗟の念は消えるはずなどないのに。
愚かしい――あまりに愚かしい、相変わらず。
人がーー人の願いが簡単に変わるわけがない。
本来、変わってなどいけないのだ。
『歴史』上の為政者が『人が変わった』かのごとく美女に溺れ、傾国至らしめたように。
変わるということは――死ぬことだ。変わりたいだなんて、なんと愚かしい。
先の殺人鬼ならぬ正義の味方――宗像形にしろ、どうしてそう、変わりたがるのかね。
理解に苦しむ。
思い返せば真庭蝶々――あいつも鴛鴦のやつと仲睦まじくなってから、やたらと死にそうに感じるんだよな。
――ああいや、死んだのか。おれの知らない――というか虚刀流も知らない中で。
そういう意味では、あの刀。――完成形変体刀。
件の業物を手にしたときのおれも、何かに狂っていたように思う。
魔性――魅力――『毒』。なるほど然り。
そして同時に、あの威風堂々たるがき、都城王土が渡してきた木刀の真価もこの辺りにあるというのだろう。

いずれにせよ、人は変われないし、変わったとして良いことなんかあるはずもない。
この国において――あるいは史上もっとも『人が変わる』柔いしのびとして、おれは断言する。

いや、ちがうか。
そもそも、目の前のこれ、――人だったもの、刀だったものの成れの果てを見て、
変わりたいだなんて思うばかがどれほどいるってもんだ。

「なあ、とがめ――」
「ええい鬱陶しい! そなたの仕事は! わたしの従者でないと言っとろう! いるだけで良いのだ、しゃきっとせんか!」

 なおも縋り付かんとする阿呆を、毒に触れないように足蹴にし、がつがつと前へ進む。
思いの外短気で、淑女と程遠いこいつの姿――もとい顔に相応しい大股歩き。
何度言えばわかる? 下僕としての価値すらないお前に、おれの従者が務まるとでも?
いくら絶刀ならぬ絶島暮らしの阿呆とはいえ、ここまで痴呆ではなかったはずだ。
聞いたところによれば、今の虚刀流は、姉の生き様が混濁した状態らしいが――。
これの姉――最悪の女、鑢七実がこれより思考能力が下だったとは思えない。
であれば、球磨川とかいうがきの影響か。
がきは、所詮がきだったということか……?

「…………むつかしいな」

 都城が警鐘を鳴らすまでの相手に、そこまでの過少な評価を下していいものか。
当然、甘い考えは捨てた方が良いと、あの時、寺小屋ならぬ学園から遁走したときに、供犠創貴なる小僧と結論付けた。
おれの忍法が無から産み出せないように、嘘もまた、無から産み出せないものだから。

770「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:40:46 ID:LwlWjwEc0
実際問題、一見しただけでえも言われぬ不快感を抱いたあいつの本質は頭の出来の悪さ――ではないだろう。
頭の悪さではなく性質の悪さ。問題はこちらであろうことは容易に想像がつく。人のことは言えねえが。

「うぅ……とがめ……! おれ、がんばるから。こんなおれでも必要だって言ってくれるんだもんな」
「…………」

 ちら、と。
おれの足蹴に感涙している気味の悪いやつを観察する。
口走る理解不能な言葉の意味を噛み砕くことをおれはしないにせよ――。
そういえば、と。

「そなた、ずいぶんとおしゃべりになったな」

 思い浮かんだ疑問を、おもむろに投げかける。
今のこいつに駆け引きなど不要だ。
その点だけ見れば手っ取り早くて助かる――まあ、『冥途の蝙蝠』の名折れと言われれば閉口せざるを得まいが。
さておき、そうだ。
基本的におれ自身が『接待』好きだからあまり気にしてはいなかったが――、
こいつは、そんな口の回る男ではなかったはずじゃなかったか?

「……、そうかな、確かに面倒なことは嫌いだけどさ」

 自己申告の通り、こいつは面倒事、厄介事を厭う傾向があった。
不承島の山小屋で盗み聞いていた会話を見るに、推測は大きく外していないだろう。
奇策士の言葉に返すばかりで、姉しか人間を知らないこのばかに、会話の崇高さなど理解できていなかったはずだ。
おれの知らない1年とやらで、会話の楽しさでも学んだっていうのか。
十分あり得る話だが――ぐちぐちと口煩い『奇策士』さまとの会話で目覚めるたぁ、ずいぶん被虐趣味なことだ。

 しかし、どうだろう。
生憎、おれの観察眼は鑢七実の『見稽古』とは異なり、肉体の観察に留まる。
虚刀流に刺さった大螺子の理屈や効果の細かいところは判じかねるが、
――この口の軽さはあいつらの影響もあるのではないか。
鑢七実、球磨川禊――先ほどの会話の様子を鑑みるに、とりわけ球磨川禊の軽薄さの影響が。
理屈というより、おれの観察結果に過ぎない。
それでも数えきれないほどの人間を精査したおれの観察眼には、我ながら自負がある。

「とがめ――?」

 虚刀流は一丁前に心配するように、こちらを覗きこむ。
近寄るなというのに、まあいい。
ついでだ、おれも接待してやるよ。

「なあ、虚刀流」
「なんだ、とがめ」
「しゃべるのは好きか?」
「……いや、別に好きじゃないよ。知ってるだろ。そういうのはとがめの管轄だったから」

 そうだな。
 この答えは、鑢七花、鑢七実、球磨川禊、誰のものでもいい。
 大して変わらん。
 だから、真に訊くべきは。

「じゃあしゃべるの、めんどうか?」

 ものぐさであることは把握している。
子猫ちゃんが変体刀の話をしているときも、会話を厭っているように見えた。
例え、おれが死んだという後の1年でこいつに変化が訪れたとしても――本質はやはり、ものぐさであることに変わりはない。
変質とは死である。
当然死とは並大抵ではない。
悲劇があり、変化を余儀なくされた奇策士が、かつての己を殺し、髪を白く染め上げたように。
こいつのものぐさを変えるとしたら、殺したというのであれば。
『それだけの出来事』があるはずだが――。

「――めんどう、……あれ、どうなんだろう、おれ……」

 虚刀流は困ったように首を傾げる。

771「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:41:32 ID:LwlWjwEc0
少なくとも、この子猫ちゃんとの思い出がとっさに出てくることはない。
心当たりは、ないのだろう。つまりは、それが答えなのだった。

「――いや、良い。変なことを訊いたな。忘れてよいぞ、七花」

 時に。
人がおしゃべりになる理由というのは、いくつかある。
おれのようにもともとがおしゃべりな気質であるにせよ、方向性はまちまちだ。
楽しいから、悲しいから、吐き出したいから、共有したいから、近寄りたいから、離れたいから。
――当然おれは、相手を『歓待』するためにぺらぺらと舌を回す。
相手を悦ばし、地獄に引きずり下ろした時に得られる、己の悦楽のために、おれは喋る。

 ならばこいつは。
鑢七花を通して窺える――球磨川禊と鑢七実のおしゃべりな理由は。

「――――」

 ……。
最悪だ――考えうる限り最悪だ。
虚刀流がやたら喋りたがるのは、やはりこいつらが原因じゃないか?
あるいはこれを好機――と見てもいいのだろうが、兎にも角にも最悪だ。
すぐさま考えられる可能性は二つ。
鑢七実の『高揚』と、球磨川禊の『不安』――あいつらの会話を聞くにこの辺りが妥当だろう。
――いや、その二つのない交ぜが、こいつの心理を作り上げているのやもしれない。

「まあなんていうかさ、やっぱりとがめの横にいるとおれも安心するっていうかさ――――」

 鑢七実の高揚は話が簡単だ。
こんな殺し合いも真っ只中、道端で口吻を交わすような精神状況だ。
『今のわたしは気分がいいので』、ね。正気かよ。
とんでもなく異常であることに違いはないが――それだけ意気軒高と昂っているのだろう。
昂っているときというのは、自然、口数も多くなる傾向にある。
あのさまで、あんな病弱貧弱脆弱を重ねたようなざまで、それでいて、おれの仕掛ける隙を見せなかった。
少なくとも球磨川のために尽くすつもりでいるのだろう。大人しく野垂れ死ねばいいのに。

「――――やっぱりおかしいよな、おれの隣にとがめがいないだなんてありえなかったんだ」

 対して、球磨川禊。
こいつがなかなかどうして難しい。
生来の気質――もあるのだろう。
だが、どうも本調子ではないようだ。

――『なんかまた頭がぼーっとしちゃって』『何か忘れてるような気がする』
『黒神めだかって、真黒ちゃんの妹だったのかも』『善吉ちゃんに、それに何よりめだかちゃ――』

おれもこの辺りで離脱はしてるが、しかしなかなかどうして、球磨川の口振りは異様ではあった。
まるでめだかちゃん――黒神めだかを忘れさせられているかのような、そんな口ぶり。
いや、『ような』なんて曖昧なことは言うまい。
なんらかの事情で、球磨川禊は黒神めだかを『忘れている』。

「――――あれはきっとなにか悪い夢だったんだ」

忘れなければならないほどの、事情があった。
――人為的に変わらなければならないほどの、何かが。

772「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:42:20 ID:LwlWjwEc0
 真庭川獺の『記録巡り』然り、関連するところでいえば鳳凰さまの『命結び』然り。
人や物の記録――記憶を辿る『術』はいくらでもある。
ましてや、規格外だという『大嘘憑き』。――記憶ぐらい『なかったこと』にするだろう。
ゆえに、出来る出来ないの話は無意味だ。
 問題があるとするならば、なぜそうなったのか。
あの様子では、そう、鑢七実が記憶を消していたように見える。
球磨川禊に心酔する鑢七実が記憶をわざわざ消去させているのだ。
のっぴきならない事情が覗いているが、中身については一度捨て置こう。

「おれもとがめも悪くないんだ」

 本題について。
鑢七花が小うるさいことについて。
諸々含めて結論付けるに、球磨川の『不安』が占める割合も相当に高いとみてもいい。
『忘れている』といっても、球磨川自身、どことなく自分の状態に居心地の悪さがあるようだ。
言葉の端々から察するに余りある。
精神と記憶のずれ、ねじれ、乖離。
あるべき姿と、今ある現実との相違。礎なき牙城。
とりもなおさず、深層心理に根付いた違和感が、球磨川を、ひいては虚刀流を不安に誘っているとするならば――。

「よいよい、七花。これ以上喋らんで良いわ。
 そうだな、ある意味においておぬしは悪くないのだろうよ」

 算数と逆算。始点と終点。現実と理屈。――本質を推し量る虚構の推理。
最悪だ。本当に最悪だ。
上辺を変えないために、根底を変えるようなやつらを、どうしておなじ人間と言える?
気色悪い、気味が悪い。気違いにも程があろう。
なにより最悪なのが、その変態ならざる変質行為がこいつらに生まれた最大の隙というのが、最悪だ。
『だとしたら』、どうする――?
こいつを拾った時、おれは胸に刻んだはずだ。

――『とがめが生きていてくれたら』。こいつが見ているのは、そんな願望が作り出した儚き幻想だ。
こいつに刺さった四本の大螺子によって人為的に植え付けられたものだったとしたら、これほど恐ろしいことはあるまい。

 甘く見ていたつもりもないが、正味、現実はいかにも世知辛い。
球磨川禊の心の空白、鑢七実の肉親の情――おれはこの手札を使って、なにをすべきだ?


  ×


 さて、そうは言っても残り十二名。
たかだか十二ととるか、されど十二ととるかはわかれるところであろうが、
球磨川と七実のことばかりを考えていても仕方がないといえば仕方がない。
早く始末をした一方で、本音を言うのであれば、二度と会いたくない。
ああいった、使う『言語』が違う人外どもには――おれさまお得意の『接待』技術も無用の長物となりうる。
勝手に死んでくれれば、越したことはない。頼むから死んでくれ。

 おれの最終目的はあくまで生還であり、欲を言うのであれば真庭の里の復興である。
ゆえに他の参加者とやらにも意識を向ける必要だってあろうよ。
ところが、だ。

773「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:43:57 ID:LwlWjwEc0
問題となるのは、おれの『手持ち』の弾が少ないことだ。
奇策士の背後を探ったように――虚刀流の有様を観察したように――。
おれの基本方針は相手のことを探ったうえで仕掛けるもの。
その方が当然、『骨肉細工』が有効に働くからだ。

 反して、今、おれの持つ材料は少ない。
あの青髪の天才――玖渚友という小娘を引き合いに出すまでもなく、だ。
 供犠創貴の意識はどちらかというと裏方を探る方に向いていた。
これについてとやかく愚痴を垂れるつもりはない。
おれとしても納得して着いていたのだ。結果として見えたものも多少なりともあろうよ。
結局のところいまなお行橋なる人間に遭遇できていないが、さておき。
都城王土の身体も、使いようによっては使えるところも多かろう。

 他方。ここに至ってなお、戯言遣い、無桐伊織、櫃内様刻、羽川翼、八九寺真宵、
五人についてとんと分からないというのは、きわめて劣勢に追い込まれていると言わざるを得まい。
携帯電話――といったか。
不思議な絡繰りがばらまかれている現状、誰がこちらの情報を掴んでいるとも分からない中、
一方的に情報が不足しているというのは、懸念するに余りある。
畢竟、おれの忍法を十全に活用するとなれば、全員の知識が不足しているともいえる。
だからこそ、与えられた情報で、球磨川禊や鑢七実の現状を推察しなければならないわけだが。
 そう、懸念というのであれば、水倉りすか。
小僧なりに目的に向かった邁進していた供犠創貴が信頼を置いていた、あの『駒』。
結局のところ、あいつについてわかったことも、実のところ少ない。
あくまで利害関係で結びついていたため当然だが、小僧はその辺りの情報管理は徹底していた。
虚刀流も一度会ったというが――瞬間移動的な術で逃げられたという。
瞬間移動的な術ならおれにも覚えがある。『省略』だかなんだか、細かい理屈は分からんが、そんな説明だったはずだ。

 都城王土の警告じゃないにせよ、
少なからず肝っ玉だけなら大物だった供犠創貴が惚れる『異能』使いだ。
瞬間移動なんて小手先の術が精々なんてことはないだろう。
まあ、あいつのことだ、見栄っ張り、虚勢だけでおれに張り合っていた可能性も否定しきれないが――、
実際として、おれたちと遭遇するまで生き残っていたという現実は、覆せない。
あの凶悪無比で悪名高い真庭喰鮫があっけなく死んだ殺し合いにおいて、何食わぬ顔で、生きていた。
『能力』の賜物か、『天運』によって導かれたのか。
どちらでも同じことだ。警戒に値する、という事実に変わりはない。

 球磨川たちが向かった方向は分かる。
それを直ちに追いかけるのが得策か。あるいは、時間の許す限り体勢を整えるのが先決か。
考え、考え、考え――――。


「――――」
「――――」
「――――」


 ――――考え、考え、考え。
そういえばこんな道、前にも通ったなと悟ったあたり。

 そこに赤色はいた。
唐突というにも足りない、あまりにも虚の間隙を縫う、瞬く間に。
溶け込むように、炙り出たように、自然に不自然に、
当然のように赤色はそこにいた。幽鬼のような感情を湛えた表情で。
その様子は、まるで人が変わったようで――

「――――七花っ!」
「ああっ!」

 弾けるように叫ぶ。
それが合図だった。
『時間』との勝負だった。

774「柔いしのびとして」 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:44:30 ID:LwlWjwEc0
【2日目/早朝/E-5 】

【鑢七花@刀語】
[状態]右手欠損、『却本作り』による封印×4(球磨川×2・七実×2)、病魔による激痛、『感染』?
[装備]袴@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:『おれは悪くない』
 0:『とがめの言う通りにやる』
 1:『とがめが命じるなら、誰とでも戦う』
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※寝てる間に右手がかなり腐りました。今更くっつけても治らないでしょう

【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]身体的疲労(小)、頭部のみとがめに変態中
[装備]軋識の服全て(切り目多数)
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残り、優勝を狙う
 1:虚刀流を利用する
 2:強者がいれば観察しておく
 3:鑢七実は早めに始末しておきたい
 4:行橋未造は……
[備考]
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、
  零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、宗像形(144話以降)、鑢七花(『却本作り』×4)、元の姿です
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実と球磨川禊の危険性を認識しました。
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません
 ※体の一部だけ別の人間の物に作り替える『忍法・骨肉小細工』を習得しました


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]魔力回復
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:優勝する
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかの時に限り、制限がなくなりました
 ※それ以外の制限はこれ以降の書き手にお任せします
 ※大人りすかから戻ると肉体に過剰な負荷が生じる(?)

775 ◆xR8DbSLW.w:2021/09/28(火) 15:44:57 ID:LwlWjwEc0
投下終了です

776 ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:18:07 ID:cixHN0Dc0
先んじて感想を失礼致します。

>>非通知の独解
いよいよもっての終盤の雰囲気に呑まれている雰囲気を漂わせる様刻。
何でも望みが叶う。
それが嘘か真かはともかくとしても、生き残りを掛けてと言う意味ならどうあっても見てしまう部分ではありましょう。
その考えが良いか悪いかは別としても。

>>おしまいの安息(最後の手段)
様々な情動。
様々な思惑が混ざり合いながらもランドセルランドに到着。
黒神めだかに縛られていると称する鑢七実ではありますが、その鑢七実は球磨川禊に縛られていると言う印象。
いや、自縄自縛のように自ずから、ではありますけども。
そして現れた日和号。
ただまあ、日和号は、ねえ?
相手が悪いとしか思えないと言う。

>>「柔いしのびとして」
真庭蝙蝠による現状の考察。
鑢七花に起こった異常。
危険因子としか思えない球磨川禊と鑢七実への考察。
本当に何と言うか、鑢そのものが鬼門やね蝙蝠。
そして来たぜ、ぬるりと。
水倉りすか。
どちらにとっても恐らく分水嶺となったのはモチロンにしても、次の話を通してどうなるかこそがある意味では三人にとっての分水嶺だろうと思うとワクワクしますねぇ!

777 ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:20:31 ID:cixHN0Dc0



――待つのは、得意だった。





破壊の音に、目を開ける。
ゆっくりと意識が覚醒させる。
驚いている真宵ちゃんと、薄目を開けている翼ちゃん。
二人を視界に入れながら体を伸ばす。
良くも悪くも予想通り。
下部を失った日和号は、想定通りに動いてくれた。
言い方が悪いかも知れないけど、目覚まし時計として。

「…………さて」

行きますか。
伸びをしながら二人を見る。
翼ちゃんは変わりなく、真宵ちゃんは、少し怖がってるみたいだけど問題はなさそうだ。
事前に話していた通り。
隠れてても良いと言う言葉を気にせず、着いてくるらしい。
上々、上々。
つっかえ棒代わりに置いていた椅子を退かせば、すぐに外。
起き抜けに確認してなかったメールを確認し、

「……ッ…………」

止まり掛けた足を進める。
スクロール。
スクロール。
スクロール。
しながらも、一分と掛からずランドセルランドの中心まで向かえる。
そしてそこに居た。

「――――――人間、未満」
『そうだよ。僕が、人間未満だよ』

閉じて、向く。
一目見て、分かった。
ああ。
失敗したんだな、と。
勝てなかった。
いや、違う。
負けることさえ、出来なかったのか。
深みの増した、混沌のような瞳を見て思う。
それを憐れむことはない。
それを悲しむことはない。
それで、侮ることもない。
だけど、それにしても、

「人間未満」
『なに?』
「なにがあった?」

何かおかしい。
それは確信できた。
雰囲気が違う。
違い過ぎる。
根源的に何かあったと確信出来るほどに、何かが、違った。

778待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:21:56 ID:cixHN0Dc0
題名を入れ忘れていたので一回投下をやり直します。

戯言遣い、八九寺真宵、羽川翼、球磨川禊、鑢七実、日和号、櫃内様刻の投下を開始します。

779待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:23:15 ID:cixHN0Dc0



――待つのは、得意だった。





破壊の音に、目を開ける。
ゆっくりと意識が覚醒させる。
驚いている真宵ちゃんと、薄目を開けている翼ちゃん。
二人を視界に入れながら体を伸ばす。
良くも悪くも予想通り。
下部を失った日和号は、想定通りに動いてくれた。
言い方が悪いかも知れないけど、目覚まし時計として。

「…………さて」

行きますか。
伸びをしながら二人を見る。
翼ちゃんは変わりなく、真宵ちゃんは、少し怖がってるみたいだけど問題はなさそうだ。
事前に話していた通り。
隠れてても良いと言う言葉を気にせず、着いてくるらしい。
上々、上々。
つっかえ棒代わりに置いていた椅子を退かせば、すぐに外。
起き抜けに確認してなかったメールを確認し、

「……ッ……」

止まり掛けた足を進める。
スクロール。
スクロール。
スクロール。
しながらも、一分と掛からずランドセルランドの中心まで向かえる。
そしてそこに居た。

「――――――人間、未満」
『そうだよ。僕が、人間未満だよ』

閉じて、向く。
一目見て、分かった。
ああ。
失敗したんだな、と。
勝てなかった。
いや、違う。
負けることさえ、出来なかったのか。
深みの増した、混沌のような瞳を見て思う。
それを憐れむことはない。
それを悲しむことはない。
それで、侮ることもない。
だけど、それにしても、

「人間未満」
『なに?』
「なにがあった?」

何かおかしい。
それは確信できた。
雰囲気が違う。
違い過ぎる。
根源的に何かあったと確信出来るほどに、何かが、違った。

780待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:24:39 ID:cixHN0Dc0
『……? なにが?』

だけどそれを、認識していない。
当の本人が認識していない。
あるのか、そんなことが。
いや、有り得るか。
そんなことも。
視線をずらす。
一歩分、後ろに佇んでいる彼女。
鑢七実ちゃん。
黒曜石のような瞳が僕を映す。
彼女にはそんな能力は、異能とでも言うべき力はない筈だ。
ない筈だった。
だけど、目の前に居る。
丁度良く、『記憶をなかったことにした』存在がすぐ傍に。
どちらがそうしたか。
何て言うのは考えるまでもないことだ。
球磨川禊――人間未満は弱い。
それはきっと、今まで彼と遭ったことのある誰でもそう言うことだろう。
だけど。
不条理を。
理不尽を。
堕落を。
混雑を。
冤罪を。
流れ弾を。
見苦しさを。
みっともなさを。
嫉妬を。
格差を。
裏切りを。
虐待を。
嘘泣きを。
言い訳を。
偽善を。
偽悪を。
風評を。
密告を。
巻き添えを。
二次災害を。
いかがわしさを。
インチキを。
不幸せを。
不都合を。
受け入れて、しかし。
だけど。
何より。
敗北と失敗だけは受け入れず、成功と勝利を求めて止まない。
その人間未満が、失敗の記憶から逃げるとは思えない。
逃げ続けられると思えない。
逃げ切れるとも、思えない。
その弱さは受け入れない。
受け入れられないのが。
受け入れられないから。

「なら、いいさ」

『人間未満』なんだから。

「話し合いを始めようか」

781待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:25:54 ID:cixHN0Dc0
適当な椅子を起こす。
プラスチック製の、よくある椅子を。
序でに転がってるテーブルも起こして促せば、気にすることなく座った。
一応、周りのよく見える場所だから警戒くらいされる可能性は考慮していたけど。
どうやら雰囲気に反してそこまで捻くれてる訳じゃあなさそうだ。
七実ちゃんは、座るつもりはないらしい。
二人に目を向ければ、翼ちゃんは躊躇いなく、真宵ちゃんは少し下がって、それでも勇気を振り絞るように目を瞑って座った。
そこはかとなく威圧感を感じさせてくる七実ちゃん。
鋭さと湿り気を感じさせるじっとりとした目を、人間未満の目が向いてないのをいいことに向けてくる。
別にその辺り、ぼくが言う必要があることでも、言う理由があることでもない。
少し目を合わせただけで察してくれたらしい。
向こうから視線を切って周囲へと向け始めた。
正直、七実ちゃんなら目を向ける必要自体ないと思うけど、傍から見れば警戒している素振りがあるかないかで印象は変わってくる。
周りに目を向けてたせいで聞いてなかった、なんてことはないだろうから気にする必要はないか。

『それでどうしたんだよ欠陥製品? 僕たちの間に、言葉なんて不要じゃないか?』
「正直そうだとは思うけど、擦り合わせってのは必要じゃない?」
『それもそっか。じゃ、どうぞ?』
「首輪の解除に目途が付きつつある」
『おっ、やったぁ! 七実ちゃんの首輪を外せるってことだね!』
「ああ。本来なら自分の首を気にする場面のはずなんだけど……外れてるからな。とは言っても正直、詳しい所は翼ちゃんに任せてる」
『さっすがは翼ちゃん! 伊達におっぱいおっきくないね!』
「あ、あはは……まあ、正直まだ理解し切れてない所もあるから何とも言えないけど、まあ、理論は分かって来たって感じかな?」
「期待出来る、と考えてくれて良いと思う。と言っても現状だと翼ちゃんしか分解できる可能性はないんじゃないかな?」
『あっ、ふ〜ん……そう』
「どうした?」
『え〜? いや〜、べっつに〜? そ〜んなあからさまに七実ちゃんのこと〜、人質に取ぉ〜るなんて傷付いちゃうな〜、って』
「うるさい」
『はい』

若干、鬱陶しいムーブをしてきたのを両断。
と、言っても。
その面があったのは否定できない。
正直な話、ぼくが理解できなさそうな内容を理解できそうな翼ちゃんが脱落すると困るのは本当だ。
幾ら人間未満でも、ここまであからさまに言っておけば何もしないだろう。
しないよな。
しないと信じる。
しないと思うことにした。
それよりも、だ。
引っ掛かってたことがある。
引っ掛かったことがあった。

782待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:27:10 ID:cixHN0Dc0
「七実ちゃん」
「…………なんでしょうか」

他所にジッと目を向ていた七実ちゃんに声を掛ける。
まあ、大した用事じゃないけど。

「さっき壊した人形の頭、ある?」
「その辺りに転がってるんじゃないですか?」
「持って来てくれない?」
「……いいでしょう。いえ、人を使い走りにするなんて悪い人、とでも言っておきましょうか」

何でもないように。
と言うか迷いない足取りでどこかへ足を進める。
その後ろ姿を眺めながら、真宵ちゃんが口を開き、閉じる。
言いたいことがあるんだろう。
でも、言う勇気が湧かないんだろう。
何せ本人はまるで気にする素振りすらないんだから。
何か言おうにも、本当に自分の言ってることが正しいのかも分からなくなると言うものだ。
最もらしく言われると特に。
まあ。
閑話休題。
人形だ。
そう、人形。
日和号。
あれは割と、ドン引きだった。
翼ちゃんによって下側を丹念に破壊し尽くされた訳だから、もう動けもしないだろうと油断していた。
人間未満が来るまでの間、待機する。
その方針を定めて適当な、遠過ぎず近過ぎないスタッフ用らしい控室を見付けて一人でトイレに向かっていた時。
普通に移動してる日和号と遭遇した。
まあ、あれだ。
最初はクモか何かかと思った。
刀四本。
それらを器用に使った四足移動。
どこの一繋ぎの大秘宝の金獅子だ。
見えた瞬間に変な声が出たぞマジで。
心構えはともかく、日和号がまだ動けると言う情報とそもそも想定されてないはずの移動方法だったようでかなり動きが遅かった情報とが手に入ったのは幸いだった。
正直、遠くから物を投げ続けてれば何とかなりそうな気配もなくはなかったから人間未満達が来る前に排除しておくことも考えたけど、目覚まし代わりに利用させてもらった。
だけじゃない。
もう一つ。
七実ちゃんならキレイに壊してくれる公算もあったからだ。
無意味と見放して軽く。
無価値と見過ごして楽に。
そうこう思い返してる内に、後ろ髪を文字通り引き摺るようにして持って来た。
予想の通り。
ギリギリ引き摺ってはなかったから顔は綺麗だ。
まあ、それもあと少しなんだけど。

「…………これです」
「ありがとう。そのまま悪いんだけど、外殻だけ外せる?」
「微刀のですか? 出来ますけど」

なぜ? と無言の問い掛け。
多分だけど、と前置いて、

「この中に主催者の居場所に関する情報がある」

783待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:28:48 ID:cixHN0Dc0





「可能性がある。
 そもそもおかしなことだった。
 日和号――微刀の最初の居場所は地図で言う、E‐7の不要湖。
 これだけだったらおかしくはない。
 そもそも、不要湖には日和号が居る。
 そう言うギミック。
 そう言う構成都合。
 それで話は済んでいた。
 でも、それが変わった。
 不要湖から此処、E-6のランドセルランドに居場所を変えた。
 これがおかしい。
 ステージギミックはそのステージにあってこそだ。
 いや、そこに居ないと意味がない。
 にも関わらず、なぜ、移動した。
 いや、移動させた?
 いや、そもそもだ。
 なぜ、移動させる労力を割いた?
 不要なはずだ。
 このバトル・ロワイヤルには。
 あるいは一番初めなら、意味があったかも知れない。
 何も知らない参加者を惨殺する仕組み。
 そこから始まる勘違い。
 誰も積極的な者が居なかったとしても、そうでない者が居る可能性。
 それを醸し出すのに使えたかも知れない。
 だけど、無意味だ。
 この考えは無意味だ。
 なぜなら、全然普通に殺し合いを是とする存在ばかりだったんだから。
 それならステージギミックとして在り続けるのが正解のはずだ。
 正統のはずだ。
 なのになぜ。
 移動した?
 移動させた?
 殺し合いの加速?
 させる必要がない。
 目的があるとしても、それを日和号にさせる意味はない。
 嫌がらせ?
 この殺し合い自体がまさにそれだ。
 ならなぜ?

 一つ。
 そうする必要があったから。
 二つ。
 そうしたかったから。
 三つ。
 そうしなければならなかったから。

784待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:30:19 ID:cixHN0Dc0
 そうする必要がある要素なら、そもそも必要な場所にずらして置くはずだ。
 そうしなければならないなら、それ相応の理由付けが必要になるはずだ。
 だから――消去法になるけど――そうしたかったから、で考えさせてもらう。
 なぜ、そうしたかったのか。
 恐らくは、周知されてしまったから。
 掲示板に、不要湖を巡回しているロボットだと言う情報を広められてしまったからだ。
 わざわざ殺しに来るロボットの居る場所に行く理由もなければ、殺す――壊す必要のないロボットを壊しに行く奴は居ない。
 でも――多分。
 それだと困る誰かが居た。
 日和号と接触して欲しい、あるいは不要湖に誰かが来るようにしたい何者かが居た。
 でもそれなら、日和号が此処、ランドセルランドに留まり続けていた理由がない。
 留まり続ける理由がない。
 好きなようにウロウロ移動し続けていれば、不要湖に誰かが行けるようになったはずだ。
 にも関わらず、此処に居た。
 居続けて、居た。
 どれだけ軽く見積もっても三時間。
 四時間。
 偶然に遭遇して、放送を跨いだ上での時間まで考えたら。
 その倍の時間は居てもおかしくはない。
 だったら、おかしい。
 なんで、居続けているのか。
 つまりは極論。
 遭遇させたかった。
 その上で戦わせたかった。
 もっと言うなら、壊させたかった。
 そう言う誰かが居た。
 んだと思う。
 まだ居るのかも分からないけど。
 それであれば、説明がまだ付く。
 好き勝手に動いていない理由が。
 此処から離れてなかった理由が。
 一応の説明がつく。
 まあ。
 実際の所、主催者側の用意した自立兵器が移動してるんだ。
 地図のデータぐらいはあるだろう、って。
 それなら重要施設の情報もありそうだなって。
 本音はその辺りかな?
 これ以上に関しては実際に中を見ないと分からない。
 だけど、それも見て視れば分かるはずだ。
 どこまで合ってるのか。
 どこまで、間違っているのかも――――――戯言に過ぎないかも、知れないけれどね」

785待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:31:49 ID:cixHN0Dc0




無言。
皆の視線が無造作に置かれている日和号に注がれる。
中。
風が吹いた。
同時に、日和号の髪が無造作に千切れ飛んでいく。
手が伸びた。
七実ちゃんの手が。
それが何でもないように日和号の頭、その頭頂部に触れた。
瞬間。
割れる。
頭部。
球体。
その上側半分がいわゆる、くし切り。
そうしたかのようにバラけて広がる。
ゴチャゴチャ詰まった内部機構。
友が色々してるのを見たことがあるぼくでもあまり見慣れない物、と言うか見たことのないような物しかないのは所謂ロストテクノロジーとでも言うべき古っぽい機械だからだろうか。
そう考えている中で、変わらず七実ちゃんの手は動く。
まるで勝手知ったるオモチャにでも触るかのように。
慣れ親しんだ物を弄るように。
無造作に。
それでいて丁寧に。
何処に何があるのか分かり切っているような手付きで、時々何か考えるように手を止めはするものの分解していく。
ちょっと驚く。
そこまで応用の利くのかと。
内心で驚いて見るけど、どこか顰めっ面な、不機嫌そうな顔をしているから止めた。
無言のまま。
次々と内部を分解されていく様を眺め。
やがて。
その手が止まった。
明らかに違う。
明らかに異なる。
何処か見知った、それで居て日和号の中にあるとは思えない。
プラスチック。
見掛けたことのあるような、小さな電子機器がそこに在った。

「……………………これですね。これは、本来の微刀には組み込まれていない――だろう部品でしょう」
「そうだね」

786待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:35:07 ID:cixHN0Dc0
手を伸ばし、止める。
他のパーツに線が繋がってる辺り、変な取り方をして良いのか。
逡巡。
軽く見回し。
外れそうな部分に爪を引っ掛けてみれば、紛失防止らしい半透明のプラスチックに繋がった状態で外れた。
これでまず、間違いない。
一ミリほど出ている部分を爪で掴んで、抜く。
抵抗らしい抵抗もなく引き抜けたのは、これこそよく見るデーターメモリー。
日和号の頭部やプラスチックの部分が衝撃を吸収するような何かだったのか単に丈夫だったのか、割れたり欠けたりしてる様には見られない。
皆に見えるように掲げるようにして、もう要らないと判断したらしく残ったパーツを諸共テーブル上から排除して何故かまた顔を顰めた七実ちゃんはスルーしつつ、空いたテーブルの中心に置く。
全員が無言。
無音。
誰かが息を飲む音が、イヤに響いた。

「――これだね」
「これ、ですか?」
「これが、ね」
『これみたいだね』
「これが?」

疑問の声もある。
それでも。
嫌が応にも期待は高まる。
明確な、異質。
主催者側が用意していた、本来、中身を探る等と想定されていない筈の物から出て来た、明らかに他とは異なる物。
面積にして四センチ平方メートルにも満たないだろうパーツ。
これの中を見れれば、あるいは、と。

「――――――――」
「――――――――」
「――――――――」
「――――――――」
「――――――――」
「――――――――」

誰も。
手を伸ばさない。
パーツを置いて手を引っ込めたぼくも。
不安そうに周囲を見回す真宵ちゃんも。
興味深そうに見詰めている翼ちゃんも。
変わらずへらへら笑ってる人間未満も。
再び周囲の警戒に戻った七実ちゃんも。
誰も。
それに手を伸ばそうとはしない。
それでも。
努めてか、あるいは本当にそうなのか。
人間未満が口を開いた。

787待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:37:07 ID:cixHN0Dc0
『やったね欠陥製品! あとはこれを君のフィアンセの友ちゃんに見せれば万事解決だぜ!』
「いや、それは無理だ」
『え、なんで?』
「もう居ないからね」
『――――は?』
「もう居ないからね」

訝しげな顔をする人間未満、と二人に対して携帯を取り出す。
少し操作して、テーブルに置く。
メール。
データ容量の問題か。
あるいは見易いようにした配慮からか。
いや、配慮はまずないだろうから容量問題一択だろう。
そんな幾つもの題名のないメールの中。
一番最初にして唯一の題名付き。
起き抜けのぼくが確認したメール。
その題名は、

「『このメールが届いた場合、僕様ちゃんは既に死んでいる』……ッ?」
「ど、どう言……ッ! どう言うことですか戯言さん!」
「どう言うも何も。多分、書かれているままの事なんだと思うよ」
「違う! ……そうじゃない。そうじゃないわ、いーさん。一体、いつ、これを読んだの?」
「ついさっき。起きて部屋を出てここに来る最中に。友から何通もメールが来てた中の一番最初がそれ」

絶句。
声を荒げて立ち上がった真宵ちゃんと翼さん。
辛うじて翼さんは抑え込んだみたいだけど、動揺著しい。
さしもの人間未満も口を開けたまま固まっている。
この中で唯一反応らしい反応がないのはやっぱりと言うかなんと言うか、七実ちゃんだけ。
それでも一瞬、ぼくに目を向けただけ気にはなったんだろう。
それでもぼくは、ぼくは、言葉を止めない。

「デスノートって知ってる?
 まあ、人間未満は間違いなく知ってるだろうけど。
 その中の名探偵Lが一定時間操作する人間が居なかったら自動的にメッセージを送るようにしていた。
 言ってしまえばそれだけの、一部のラストから二部に繋げるための場面だけど、それに近い仕組みだろうね」

788待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:38:09 ID:cixHN0Dc0
さっきのメールを開き直してスクロールさせれば、一定時間操作がなかった場合に自動的に纏めておいたデータが送られる。
その一番最初のメールがこれだ、と書かれてあった。
一定時間。
それが一分なのか、五分なのか十分なのか。
それはわざわざ書かれてはいない。
それでも。
それでも友なら、トイレに行くにしても仮眠を取るだけにしても軽い操作だけでこんなシステムを止めることが出来るはずだ。
にも関わらずメールが送られて来た。
と言うことは。
そう言う事なんだろう。
電話は、してはいない。
することは即ち、その場に誰かが居たなら、繋がっているぼく達の存在を知らしめることになるからだ。
この場で、この状況で、そんな危険は犯せない。
ぼく一人ならあるいは、そんな危険を顧みずに電話していたかも知れない。
だけど。
出来ない。
出来なかった。
生きようって、言ったのに。
友の現状と、二人の命。
だけじゃない。
残った全員。
ぼくを含めたこの場の全員。
その命を天秤に掛けて、天秤に載せてしまって、載せてしまえて、出来なかった。

『…………………………大丈夫? 翼ちゃんのおっぱい揉む?』
「え……? なんでわたし……あ、いえ、それで落ち着けるのなら吝かではないですけど」
「戯言さん…………」
「大丈夫。落ち着いてる。落ち着けてる――――多分、まだ実感がないからだろうけど」

実感がない。
そう。
実感がない。
まだ。
そう、まだ。
まだこのメールが来ただけだ。
まだ、これ以降の連絡がないだけだ。
多分、電話しないのもその辺りがあるんだと思う。
本当に電話をしてしまって。
出なかったら。
ほとんど確定してしまう。
だけどまだ分からない。
天才であっても失敗はする。
プログラミングのミスか何かでうっかり勝手に送られてきただけの可能性もなくはない。
万にも、あるいは億にも満たない可能性ではあっても。
だからまだ、可能性はある。
生きている可能性が。

『欠陥製品』
「なんだい、人間未満」
『なかったことにしちゃおうよ』

789待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:40:45 ID:cixHN0Dc0



『なかったことにしちゃおうよ』
『こんなこと、あっちゃいけないことだって』
『なかったことにしちゃおうよ』
『こんなこと、起きていいはずがないんだって』
『なかったことにしたいって』
『思ってるんだろう?』
『考えてるんだろう?』
『感じてるんだろう?』
『だから』
『全部全部』
『僕と一緒に』
『僕達みんなで』
『なかったことにしちゃおうよ』
『あれも』
『これも』
『それも』
『どれも』
『なにも』
『全部』
『全部全部』
『全部全部全部』
『なかったことにしちゃおうよ』
『正も』
『否も』
『良いも』
『悪いも』
『嫌も』
『応も』
『何も』
『かも』
『嘆きも』
『悲劇も』
『惨劇も』
『喜劇も』
『仄かで』
『微かで』
『僅かで』
『幽かで』
『不明に』
『朧気に』
『曖昧に』
『漠然に』
『不鮮明で』
『不明瞭で』
『不分明で』
『不明確で』
『曖昧模糊で』
『有耶無耶に』
『戯言のまま』
『傑作なまま』
『虚構のまま』
『何も分かってないままに』
『なかったことにしたいって』
『だから、一言――言ってくれ』
『僕は味方だ』
『僕は』
『味方だ』
『こんなこと』
『あっちゃいけない』
『起っちゃいけない』
『有り得て良いはずがない』
『そう言ってくれればそれでいい』
『そう言ってくれれば、そのために動いてあげる』



『さあ――――――――僕の手を掴んで』

790待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:42:44 ID:cixHN0Dc0
「人間未満」
『ッ、ああ! 欠陥製品』
「君の前提が完全に間違っているという点に目を瞑れば概ね正解だ」



「忘れたのかよ人間未満」
「格好よくなくて」
「強くなくて」
「正しくなくて」
「美しくなくて」
「可愛げがなくて」
「綺麗じゃなくて」
「恵まれてなくて」
「頭が悪くて」
「性格も悪くて」
「落ちこぼれで」
「はぐれもので」
「出来損ないだ」
「それでも」
「こんなこと」
「あっちゃいけない」
「起っちゃいけない」
「有り得て良いはずがない」
「思ったよ」
「思ってるさ」
「考えたよ」
「考えてるさ」
「感じたよ」
「感じたに決まってるだろ」
「それでも」
「受け入れるのが」
「受け止めるのが」
「在るべきなのが、ぼく達だろ?」
「いやだから」
「覚えない」
「いやだから」
「忘れる」
「いやだから」
「なかったことにする?」
「らしくないなぁ、人間未満」
「不条理も」
「理不尽も」
「不幸せを」
「不都合も」
「愛しい恋人のように受け入れる」
「自分で言ったことも忘れちまったのか?」

791待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:44:44 ID:cixHN0Dc0



『うん。忘れた!』
「あっそう。ま、いいよ。少なくともまだ強がってる訳じゃないから気にしないで」
『そっか。そっかあ…………ま、でもいつでも言ってくていいんだぜ? 球磨川禊は二十四時間三百六十四日大体何処でも君のことを待ってるからさ! だって僕は、弱い者の味方なんだから!』
「さりげなく休みを作るな――でも、良かったよ人間未満。本質はそのままみたいでさ」
『? ――おいおい。分かったような口を利くじゃないか』
「悪い?」
『うんうん。悪くないよ』

軽い戯言。
そのやり取り。
でも、収穫はあった。
やっぱりどこまで堕っても、変わっていない。
人間未満は変われていない。

強者の害敵/弱者の味方

人間未満は変わっていない。
それが分かれただけで十分だ。
ただ、軸がないからブレている。
大切な軸がないからブレて見える。
今の七実ちゃんの軸が人間未満であるように。
人間未満にとって軸が黒神めだかだったのだ。
それだけだ。
それだけだった。
つまり。
方針は変わらない。
何時の間にか画面が黒くなっていたから付け直して、メールを更にスクロールする。
そしてそれを、テーブルに見えるように置き直した。

「まあ、一先ずの確認だ。
 首輪の解除方法は分かって来た。
 主催者の居場所もこれで目途も立ちそうだ。
 届いたメールの中には他にも情報はあるだろうしね」
「あ、だったらわたしはそっちを確認するわ。
 だから、この――タブレットは戯言さんに渡しますから交換しましょう?」
「ありがとう。
 それで、そっちだけど。
 それぞれジュースでも飲みながら確認しつつで共有してよ。
 日和号のデーターメモリーについてはこれからぼくが確認する」
『あ、それだったら七実ちゃんが携帯二つ持ってたからそっちにも送ってよ!
 って、勝手に言っちゃったけど七実ちゃんは別に問題ないってことで良いかなぁ?』
「――禊さんがそう仰るのでしたら」
「これ?
 って言うか持ってたのかよ……ちょっと待って。
 ……………………………………待ってね………………よし、送れた。
 これは人間未満と、真宵ちゃんに……で、良いみたいだね。
 あとは、間もなく最後のピース――友からの『手紙』が、此処に届く」

あるいは主催者にどうあっても見られたくない事柄か。
『青色サヴァン』の防御をも潜り抜けられる可能性を。
僅かなソレすら排除した、紙面での文章。
それを持った、櫃内様刻が向かっている。
真宵ちゃんが顔を左右に動かす。
翼ちゃんも、落ち着いている風ではあっても視線が周囲を舐める。
七実ちゃんは、何かに納得したように頷いて。
人間未満は、

『でも届くって、それさ』

嗤って、

『櫃内様刻が裏切らない保障があるの?』

言った。

792待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:46:15 ID:cixHN0Dc0




声が漏れていないか。
息が聞こえていないか。
思わず。
口を抑えながらそう思った。
尻から登ってくる床の冷たさも、気にする余裕はない。
気にも出来ない。

『だってここに居るのは五人だぜ?』
『君の友ちゃんが、仮に、本当に、仮定として、もしかしたらば、一つの仮の可能性として、そうだっととしてさ』
『残り人数が何人かなんて僕でも計算できる』
『十一人だ』
『僕と欠陥製品、七実ちゃん、翼ちゃん、真宵ちゃん』
『居ないのは』
『七実ちゃんの弟くん、人間失格、無桐伊織、真庭蝙蝠、水倉りすか』
『そして――――櫃内様刻』
『おいおい。おいおいおい、欠陥製品!』
『なんてこった!』
『此処に居る! 僕達が! 殺されてしまったら! 優勝がもう目の前じゃあないかッ!!!』

そう、目の前だ。
そう、考えたことだ。
集まってる五人が知らないだけで、零崎人識と無桐伊織の二人も恐らく死んでいる。
残り。
九人。
改めて、あまりにも生々しい数字が脳裏の浮かぶ。
居ないのは、鑢七花と真庭蝙蝠と水倉りすか。
文句なしの武闘派三人。
だけどそれ以上に、鑢七実と言う存在が際立っている。
だが、だ。
言ってしまえばその四人だけ。
その四人さえ何とかなれば、何とか出来るんじゃあないか。
最後の一人に成れるんじゃあないか。
幸か不幸か、その内の一人はそこに居る。
銃もある。
出来るんじゃないか。
普段なら。
絶対に過ぎらないだろう無謀な考えが脳裏を過ぎる。

「――――いや、大丈夫」
「きっとちゃんと来てくれる」
「味方として来てくれる」
「『手紙』を届けに来てくれる」
「友がそんな無責任な人間にモノを頼むとは思えない」
「増してやそれが、対主催の切り札かも知れない情報だぜ?」
「そんな重要な代物を持ってる相手が裏切る?」
「おいおい。おいおいおい、人間未満」
「それはいくら何でも侮り過ぎだ」
「それにだ」
「万が一、もしも、ほんのちょっと、僅かばかり、裏切ろうと思っちゃっても」
「仮に先制を打たれたとしてもだ」
「五人に勝てると思えるか?」
「仮に拳銃――爆弾でも良いけど、持ってたとして」
「投げられて爆発するまでの間に散らばって」
「その逃げてる相手の中から負傷してない人間を狙って撃つ」
「それが出来なければ後は数の暴力がある」
「出来るはずがない」
「やれるはずがない」
「道理にあってない」

793待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:47:35 ID:cixHN0Dc0
そうだ。
そうだ。
そうだ。
そもそも僕は一人なんだ。
だから五人に勝てるはずがない。
道具がある?
そんな物は同じ条件だ。
向こうも五人分の持ち物が最低限でもあるはずだ。
僕が持ってる物だって、向こうが持ってない保障はない。
考えるまでもないことだ。
当然の事じゃないか。
何を考えていたんだ、僕は。
ゆっくりと、息を落ち着かせる。
落ち着かせようと、息を吐く。

「でもまあ――見付かってもすぐには出て来ないかも知れないね」
「確証が持ててないのかも知れない」
「ぼく達が、友の味方だって言う確証が」
「でも」
「だったら分かるはずだ」
「放送が流れれば」
「自動的に十一人は下回る」
「その上で」
「ここに集まってる五人は自動的にチームだと分かってるはずだ」
「そして半分以上が集まってるのは友と組んでる以外に現状有り得ない」
『それでも出て来なかったら?』
「……………………敵、かなぁ?」

タイムリミットは放送後。
そのすぐ後。
それまでに決めないといけない。
『対主催であり続けるか』。
『優勝を狙いに行くのか』。
二つに一つを、選ばなければならない。



辻褄は、まだ合わない。



無意識に。
無為式に。
彼は狂っていた。
そもそもその場を離れると言う選択肢が抜けていた。
放送前には辿り着き、放送後には出てくる。
そう、決定付けられた話の流れを耳にして。
この場を離れると言う選択を消されていた。
虚言を。
戯言を。
耳に入れてしまったばかりに。
裏切るのか。
裏切らないのか。
そのタイミングすら、操られていると言うことに。
潜り込んでから時機を見て裏切ると言う選択肢を。
『遺書』を隠して交渉すると言うような選択肢を。
気付かない。
気付けない。
一見、正しそうな「正解」二つ聞かされたことで。
そのどちらかを選ぶしかないのだと思い込んでしまっていることに。
分からない。
分かれない。
陰に隠れたその姿を。
見透かされてしているとも知らないまま。

794待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:49:07 ID:cixHN0Dc0
【二日目/早朝/E-6 ランドセルランド】

【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康、右腕に軽傷(処置済み)
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、解熱剤、フィアット500@戯言シリーズ、
   タブレット型端末@めだかボックス、日和号のデーターメモリー
[思考]
基本:「■■■」として行動したい。
 1:これからどうするかを考える。
 2:不知火理事長と接触する為に情報を集める。その手始めに日和号のメモリーを確認する。
 3:その後は、友が■した情報も確認する。
 4:友の『手紙』を、『■書』を、読む。読みたい。
 5:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※日和号に接続されていたデーターメモリーを手に入れました。内部にどのような情報が入っているかは後続の書き手にお任せします
 ※玖渚友が最期まで集めていたデータはメールで得ました。それを受け取った携帯電話は羽川翼に貸しています。


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]体調不良(微熱)、動揺
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語、携帯電話@現実
[思考]
基本:変わらない。絶対に帰るんです。
 1:一先ず頂いたデータを見せてもらいますけど。
 2:あの、球磨川さん……? 私の記憶を消しといてスルー……?
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※玖渚友が最期まで集めていたデータを共有されています。


【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、動揺
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、毒刀・鍍@刀語、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、真庭忍軍の装束@刀語、
   ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス、戯言遣いの持っていた携帯電話@現実、
[思考]
基本:出来る手を打ち使える手は使えるだけ使う。
 0:殺し合いに乗らない方向で。ただし、手段がなければ……球磨川禊は要警戒。
 1:情報を集めたい。ブラック羽川でいた間に何をしていたのか……メールを確認すれば分かるかも。
 2:メールを確認して、首輪に関する理解も深める。
 3:いーさんの様子に注意する。次の放送の前後は特に。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、相手が玖渚友だということを知りません
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※零崎人識に関する事柄を無桐伊織から根掘り葉掘り聞きました
 ※無桐伊織の電話番号を聞きました。
 ※戯言遣いの持っていた携帯電話を借りています。なのでアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています。

795待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:50:50 ID:cixHN0Dc0
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ。ただ、ちょーっとビックリしてるかな』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックス、クロスボウ(5/6)@戯言シリーズと予備の矢18本があるよ。
    後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本かもあって、あ、あと七実ちゃんのランダム支給品の携帯電話も貰ったぜ!』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『0番はやっぱメンバー集めだよね』
『1番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』
『2番は欠陥製品に気を配ることかな? あんまり辛そうなら、勝手になかったことにしちゃおっと!』
『3番は……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』
『4番は、そんなことよりお菓子パーティーだ!』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています
 ※黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします
 ※玖渚友が最期まで集めていたデータを共有されています。


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、球磨川の首輪、否定姫の鉄扇@刀語、『庶務』の腕章@めだかボックス、
   箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:球磨川禊の刀として生きる
 0:禊さんと一緒に行く
 1:禊さんはわたしが必ず守る
 2:邪魔をしないのならば、今は草むしりはやめておきましょう
 3:いっきーさんは一先ず様子見。余計なことを言う様子はありませんから。
 4:羽川さんは、放っておいても問題ないでしょう。精々、首輪を外せることに期待を。
 5:八九寺さんの記憶は「見た」感じ戻っているようですが、今はまだ気にするほどではありません。が、鬱陶しい態度を取るようであれば……
 6:彼は、害にも毒にもならないでしょうから放置で。
 7:四季崎がうるさい……
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします

796待ち人は来ず ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:52:08 ID:cixHN0Dc0
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、極度の緊張状態、動揺、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン、首輪探知機、無桐伊織と零崎人識のデイパック(下記参照)
[道具]支給品一式×8(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、玖渚友の手紙、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜36)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)、 誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、
   金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、 ノーマライズ・リキッド、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット、
   首輪×4(浮義待秋、真庭狂犬、真庭鳳凰、否定姫・いずれも外殻切断済)、糸(ピアノ線)@戯言シリーズ、ランダム支給品(0〜2)
   (あとは下記参照)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(崩壊目前)
 1:「いーちゃん」達と合流するか、しないか? 対主催であり続けるか、優勝を狙うか?
 2:玖渚さんの遺言を「いーちゃん」に届ける?
 3:どうする?
[備考]
  ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形、零崎人識(携帯電話その1)が登録されています。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は29〜36を除き確認済みです。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。
 ※ベスパ@戯言シリーズが現在、E-6 ランドセルランド付近に放置されています。
 ※優勝を目指すか、目指さないかの二択を突き付けられたと勝手に考えています。選択にタイムリミットがあり、それが次の放送のすぐ後だと思い込んでいます。

【その他(櫃内様刻の支給品)】
 懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
 シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵チョウシのメガネ@オリジナル×13、
 小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁、 中華なべ、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、
 鍋のふた@現実、出刃包丁、おみやげ(複数)@オリジナル、食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、
 『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』(「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)

【零崎人識のデイパック】
零崎人識の首輪、斬刀・鈍@刀語、絶刀・鉋@刀語、携帯電話その1@現実、糸×2(ケブラー繊維、白銀製ワイヤー)@戯言シリーズ
支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
千刀・ツルギ×6@刀語、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数

※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています

【無桐伊織のディパック】
無桐伊織の首輪、支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ


※放送まではまだ時間があります。





こうして。
日和号の長い長い待ち惚けは、幕を下ろしたのだった。



【日和号@刀語シリーズ 解体】



――     。

見えない誰かと出逢えたことで。

797 ◆mtws1YvfHQ:2021/10/22(金) 21:54:13 ID:cixHN0Dc0
以上です。
大分久し振りのため抜けやミスなどがあるかも分かりませんので、ありましたら修正致しますのでご報告願います。
よろしくお願いします。

798名無しさん:2021/10/23(土) 00:24:52 ID:dIpVxf5M0
投下お疲れ様です!
数年越しとは思えないほどの安心感で、すごい楽しかった!
そして、話が進む進む。
日和号の役回りに関してもなるほどなーと思わされるし、
そこがキーアイテムになるとはなー。
首輪解除もそろそろもって目処がたったようですが、どうなるのかなー。
そんでいーちゃん。お、探偵してると思ったら思わぬ告白されて、八九寺じゃなくてもひっくり返るよ。
思ったよりあっさり流してるー!? と思ったら状態表が不穏な感じだし、
一人称で語られてるとはいえ信用できないなー、さすがというか。
遺書の中身、あるいは放送後の対応。そして様刻の今後の動向。
爆弾ばっかで今後が楽しみです!

まったく関係ないですけど、
>『…………………………大丈夫? 翼ちゃんのおっぱい揉む?』
ここすき。

799 ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:09:23 ID:EvvJFjH60
特に反対意見などもありませんでしたので。
鑢七花、真庭蝙蝠、水倉りすかの投下を開始します。

800Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:11:07 ID:EvvJFjH60




鑢七花に在る選択肢は速攻のみ。
よく、その肉体を観察していた。
否。
するハメになったからこそ、真庭蝙蝠は理解した。
理解していた。
故にこそ。
遭遇戦。
その瞬間。
一瞬でケリを付けるつもりだった。
あるいは、鑢七花を――一種の切り札を使い潰す――巻き込むつもりで手裏剣砲改め永劫鞭を使った永劫砲を放つのにも躊躇するつもりはない。
なかった。
水倉りすかが、刃物を構えるのも見るまでは。

「――――七花っ!」
「ああっ!」

弾けるように叫ぶ。
それが合図だった。
『時間』との勝負だった。

「逃げよ!」
「あ――あ?」

驚いた表情を浮かべているのを、無視する。
足を止めた鑢七花を追い抜いて。

「ランドセルランドに――」

心底。
絶対的に。
言いたくなかった言葉を吐き捨てる。
だが、それが間違いなく正解だと頭ではなく体が理解していた。
真庭蝙蝠は。
暗殺者である。
虐殺者である。
殺戮者である。
コト、尋常な果し合いでの実力においては鑢七実と対すれば敗北し、通常の鑢七花と対しても辛勝出来るか出来ないか。
その程度だと、理解している。
しかし。
であるが。
真庭蝙蝠は。
暗殺者である。
虐殺者である。
殺戮者である。
コトが殺しのみであるのなら。
経験が違う。
年季が違う。
回数が違う。
密度が違う。
故にこそ。
鍛え上げられて来た勘がある。
勘があった。
勘が言った。
目の前に居るのは死であると。
大穴のように。
大淵のように。
大空のように。
大海のように。
大地のように。
避けようのない代物であると。
死の数々を見て来た直観が告げる。
ウダウダと何か言いそうなのを眼で制す。
あの女が真庭忍軍を生き返らせると言わないのであれば、こう言うしかない。

801Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:12:56 ID:EvvJFjH60
「わたしのために行って、勝て! そして」

ここまでは良し。
であるならば。
どうするか。
刃を己の腕に突き立てようとする水倉りすかを眺めながら。
冷静に。
冷徹に。
冷酷に。
瞬時に可能性を計算する。
片方を囮に片方を生き残らせる。
本来なら。
鬱陶しさ極まる鑢七花を切り捨てて己のみで逃げるのが。
正答だっただろう。
正解だっただろう。
正統だっただろう。
だが。
鑢七実が計算を狂わせる。
球磨川禊が計算を狂わせる。
この組み合わせに勝てるのか。
結論。
勝てない。
おれでは、勝てない。
正道も邪道もどちらでも。
だからこその鑢七花だった。
それを此処で捨てるのはどうか。
結論。
一瞬しか持たない。
そして水倉りすかの出来る瞬間移動があるのなら、稼げる時間が一瞬では駄目だ。
一瞬ではいけない。
片方なら納得できた。
片方なら妥協できた。
だが両方なら駄目だ。
両方では、いけない。
勝利と、時間稼ぎを。
その両方を満たせない以上は自分でやるしかない。
絶望的に低い可能性であってもそれに賭けるしかない。

「全員を生き返らせるのだ!」

躊躇い気味に、走っていく姿を眼で追う。
クソが。
遅い。
死ね。
そんな悪態が出て来そうになるが、そんな時間も惜しい。
喉に手を当て、視線を戻す。

『のんきり・のんきり・まぐなあど』

おぞましい光景だった。
血の海。
間欠泉の如く溢れ湧くそれを、見たことがない。
今まで幾十、幾百を殺してきた真庭蝙蝠をして、人体からあれほどの血が出てくる様を知らない。
いや、ハッキリ言おう。
出るはずがない。
だが実際に起きている以上は、あれは水倉りすかが原因だ。

802Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:14:31 ID:EvvJFjH60
『ろいきすろいきすろい・きしがぁるきがぁず』

何があればああなるのか。
見れば見るほど訳が分からねえ。
理解し難い。
見え隠れする何かが頭蓋骨に染みる。
痛む。
軋む。

『のんきり・のんきり・まぐなあど』

だから。
理解を放棄する。
放棄してただ、考える。

『ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず』

考察の材料は幾つかある。
まず一つ。
瞬間移動の能力だ。
瞬間移動。
瞬間的に移動する。
移動範囲は何処から何処までか。

『まるさこる・まるさこり・かいきりな』

は。
正直、然程に重要じゃあない。
移動。
それには二つの壁が立ちはだかる。

『る・りおち・りおち・りそな・ろいと・ろいと・まいと・かなぐいる』 

距離と時間だ。
逆に言えばこのどちらかを解消できれば瞬間移動は可能になる。
『省略』出来る。
だろう。
としか流石に思えない。

『かがかき・きかがか』

そしてもう一つ。
おれ達が近寄らなくなった途端、自分に刃を突き立てた。
自分から近寄らずに、だ。
忍法・骨肉細工で過去に見た姿を真似出来なかったような制限があるはず。
自分から寄ろうとしなかったなら、その能力にあるのは範囲制限じゃあない。

『にゃもま・にゃもなぎ』

恐らくは、骨肉小細工での相乗りで生じたような時間制限。
ならばすべきは時間稼ぎか。
だが、距離を無視できる相手にどれだけ稼げる。
稼ぐ必要が出てくる。
分からないのは、酷く困る。

『どいかいく・どいかいく・まいるず・まいるす』

頭から手を放す。
暴君の頭脳は乗せた。
青く染まる髪を見られたところで気にもしないだろう。
何せ奴は、おれを見ていない。
見ているのは所詮、生き残りの一人程度の価値だ。
己が上位で居ると言う確信だ。
その余裕は利用出来る。

『にゃもむ・にゃもめ――』

賭けは、後に回せれば回せるほどいい。
喉に触れる。
暴君の相乗りはクるが、一分も掛からないだろう。
おれの体とは言え、我慢してもらうとしよう。
痛いのは別に好きじゃあないが仕方ねえ。

803Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:16:09 ID:EvvJFjH60
『――にゃるら!』

女が、笑った。
いかにも水倉りすかが成長したような女が。

「ふぅぅぅ…………三十秒だけ話に付き合ってやるぜ、真庭蝙蝠」
「きゃは。どんな手妻だ、お嬢ちゃん?」

三十秒。
ならばその倍を稼げれば見込みはある。
逃げさせられる見込みが。

「手妻じゃねえよ、魔法だよ。
 色々と世話を掛けた礼もある。
 何より冥途の土産ってヤツだ。
 薄々勘付いてそうだから言ってやるが…………『時間』だ!」

三十秒。
その重みが増した。
が、口が軽いのはやはり余裕か。
なら虚を突ける。
時間の操作。
なのに三十秒。
ならば操作出来るのは絶対的に流れている時間じゃない。

「属性は『水』。
 種類は『時間』。
 顕現は『操作』。
 成長したあたしの前に、時の流れなんて何の意味も持ちやしない!」

そうじゃなけりゃあ、ずっと今の姿のままのはず。
何の意味も持たないってのは大言だな。
出来るのは自分に関する時間への干渉のみって所か、負荷が大きいか。
ともあれ、おれの時間で三十秒。
その時間。
冥途の土産に、

「っと――ここまで」

貰って行こう。
顔を伏せたまま。
声を発す。

804Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:18:32 ID:EvvJFjH60
「だッ……?!」
「《跪け》」

三十。
膝を付いた。
隙に喉を弄る。
二十九。
少し驚いた顔をし。
二十八。
力を入れようとして。
二十七。
だが立てない。

「あたしの時間を」

二十六。
小細工する。
二十五。
一瞬でバレて良い。
一瞬だけ騙せればいい。
二十四。
要所は、既に押さえてある。
喉を抑えたまま顔を上げる。

「少し戻したぜ――」
「ぼくを殺すのか?」

二十三。
おれの顔を見て止まり。
二十二。
口から出る、供犠創貴の声。
それを聞いて。
二十一。
驚き。
二十。
固まり。
十九。
歪み。
十八。
歯軋りし。
十七。
憤怒に染まる。

「蝙蝠ィィィィィィィイイイイイ」

十六。
十五。
十四。
十三。
その間だけで十分だ。
叫んでくれて有難う。
喉の調整が済んだ。
出力は怪しいが。
出来る。

「《爆ぜろ》」

十二。
ピー。
と。
鳴った。

「イイ!!!!! ――え?」
『禁止エリアへの侵入を確認』

十一。
誤作動。
望んだ物じゃない。
だが、良い。
十。
意識が逸れた。
九。
おれから、首輪を見た。
八。
この一瞬は想定外。
その一瞬も頂いた。
七。
三秒掛けて吸い上げた空気と。
冥途の土産を、
六。

『30秒以内にエリア外へ』
「――手裏剣砲!!!」

五。
喰らうが良い。
改め、永劫砲。
四。
無闇無数の鞭がバラけながら、水倉り






時間は僅かに戻る。
鑢七花が背中を向けて逃げ出したばかりの頃に。

805Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:20:27 ID:EvvJFjH60



「とがめ――っ!」

一切の躊躇なく。
鑢七花は走っていた。
全盛の頃より遅い。
それでも走っていた。
何故か。
簡単だ。
命じられたから。

「ランドセルランドに、わたしのために行って勝て」

そう。
命じられたから。
走っていた。
何故。
何故、走っているのか。
鑢七花に疑念が尽きない。
何故、走っているのか。
とがめを置いて、何故。
分かっている。
分かっている。
ランドセルランドには、あの人が居る。
姉ちゃんが、居る。
勝てるのか。
おれに、勝てるのか。
勝てるのか、じゃあ駄目だ。
勝たないといけない。
どうやって。
どうやれば勝てる。
いやそもそも。
とがめがいないのに。
隣にとがめがいないのに。
おれの隣にとがめがいないのに。
勝つ必要が、あるのか。
意味が分からない。
意味が見当たらない。

「おぬしは悪くないのだろうよ」

ああ、そうだ。
おれは悪くない。
そうだろう。
おれは悪くないんだ。
仮に姉ちゃんに勝てないとしても。
初めから、おれじゃあ勝てないって言ってたのに。
だから負けたとしても、おれは悪くない。
悪いのはおれじゃない。

「おれは初めから言ったんだ」

とがめが一緒に居てくれるなら。
そう言ったのに。
だから。

『おれは、悪くない――悪いのは、とがめだ』

806Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:22:04 ID:EvvJFjH60
【二日目/早朝/E-6】
【鑢七花@刀語】
[状態]右手欠損、『却本作り』による封印×4(球磨川×2・七実×2)、病魔による激痛、『感染』?
[装備]袴@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:『おれは悪くない。だって、おれは悪くないんだから』
 0:『とがめの言った通りランドセルランドに向かう』
 1:『とがめのために戦う。そして全員生き返らせる』
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※寝てる間に右手がかなり腐りました。今更くっつけても治らないでしょう











「ジャスト――ゼロ秒」
『この首輪は爆発します』

何かが。
抜け落ちる。
鑢七花はそれを見た。
己の胸から突き出、萎びるように細まっていく腕。
その先で脈動している、何かを。

「見れたのは、良い夢だったの?」
『禁止エリアへの侵入を確認』

細まった腕が抜ける。
同時に、その体が崩れ落ちる。
ギリギリのところで、間に合った。

『30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

結論から言おう。
水倉りすかは間に合った。
真庭蝙蝠を消し去り。
鑢七花も殺す。
ギリギリのギリギリ。
高々二人を殺し切るのに三十秒も要らないと侮って。
大半の時間を真庭蝙蝠一人に消耗させられながら。
ギリギリのところで間に合った。
そこで。
前へと倒れた鑢七花とは対照的に。
後ろへと、水倉りすかは倒れた。

「ゥ、ぁァァゥぁァぐァアぁァァああッ……!」

肉体へのフィードバック。
過剰極まった能力の代償。
辛うじて。
周りに聞こえてしまえば危うくなる。
その意識が働いて声を抑えてはいた。
しかしそれも、

『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

まるで無意味。
鳴り響く首輪の音が、情け容赦なく居場所を知らしめる。
そして悶え苦しむ水倉りすかをそのままに。
『時間』は容赦なく。
三十秒を、超えた。



【真庭蝙蝠@刀語 死亡】
【鑢七花@刀語 死亡】
【水倉りすか@新本格魔法少女りすか 生存】

807Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:23:43 ID:EvvJFjH60













『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』











『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』









『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』







『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』





『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』



『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』
「…………生きて、る……?」

悶え苦しむこと、暫く。
ようやくそれらを飲み下すことに成功した水倉りすかが呟いた。
同時に。
口から溢れた血が喉に詰まろうとするのを横に向いて垂れ流し、辛うじて気道を確保する。
胸の上下。
それに合わせて出てくる咳と鮮血。
痛みが、まだ生きていることを自覚させた。
何故。
その言葉が過ぎる。
鳴り続けている首輪の警告が、己の死のリミットだと思った。
思ったから、無理矢理にでも殺しに掛かったと言うのに。
生きている。
生きている。
生きている。
生きている、と言うことはつまり。

「間違いなの。この言葉は――?」
『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

808Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:25:49 ID:EvvJFjH60
禁止エリアに侵入していない。
以上は、退避する必要がない。
当然の理屈だ。
なら、この首輪が発しているのは、本来は侵入した場合に発せられる警告。
その警告の誤作動。
それだけだった。
何ともなしに首輪を撫でていた手が、血溜まりに落ちる。
気が抜けたのだ。
最早間に合わない。
そう思ってしまったが故の決死行。
一念が、幸か不幸か外れたことに。
気が抜けた。

「は、ぁ゛……ぶ、ぐゥづ」

それでも。
睡眠による逃避も許されない。
全身を蝕む痛み。
腹底から喉元を過ぎていく血の味。
喧しく鳴り続けている、首輪の音。
それらが、僅かな逃避を許さない。
だが水倉りすかはそれを甘受する。
己の身に、限界が近いと察しても。
そう。
水倉りすかは止まれない。
留まるつもりもない。
気怠げに。
泥から身を起こすようにその上体を起こし、足元を見た。
自分とは違って俯せに倒れ、動かない肉。
腹が痛んだ。
空腹に。

「…………」
『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

立ち上がらぬまま。
躰を捩るようにその背に乗りかかり、ゆっくりと口を開く。
触った感じは、硬い。
筋肉質で、キズタカのように、軟らかくはない。
だけれども。
食べれないほどでは、ない。

「いただきます」

の言葉もなしに。
水倉りすかは大口のまま。
ガブリ、と。
ズブリ、と。
グチリ、と。
食らい。
飲み。
喰らい。
呑む。
キズタカのモノのように効率的ではなくとも。
少しでも。
僅かでも。
木端でも。
ちょっとだけであったとしても。
回復させなければならない。
空腹と言う本能に駆られて。
失った血肉を求めて血肉を貪る。

『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

809Time Remaining ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:27:21 ID:EvvJFjH60
もしも――が、あるとするならば。
それはこの時だったかも知れない。
目の前の肉に喰らい付かなければ。
真庭蝙蝠の肉体を残していたなら。
自分の血の匂い以外感じられれば。
己が口を付けようとした死肉から発せられる、病毒と腐敗の薫を感じられていたならば。
鑢七実の『却本作り』によりオマケ感覚で加わっていた『病魔』。
江迎怒江の『荒廃した過腐花』によって塗りたくられた『感染』。
その二つに侵された肉を。
己の腹に詰め込もうなどと、思わなかっただろうに。

「     ぅヴぃぃぐぐがァァああが、ギがァァあォィっが、ァ、ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

良くて即死。
悪くて悶絶。
その悪を引いたのは偶然とは言えないだろう。
幾度も訪れた死の痛み。
それを乗り越え続けてきてしまったが故の弊害が、恩恵か。
あるいは。
血が独りでに、無意識的に働いているのか。
動けた。
動けてしまえた。
動けてしまえば、動くしかない。

「キズ、タカ……キズタカァ……!」
『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

痛々しさを乗り越えて。
禍々しさが身を乗り出す。
血涙と血泡を零しながらも。
新本格魔法少女は歩き始める。
向かう先は、ランドセルランド。



終局の『時間』は近い。



【二日目/早朝/E-6】
【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]身体的損傷(内外両方・中)、魔力回復、経口摂取による鑢七実の『病魔』と江迎怒江の『感染』の両方を罹患
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:優勝する
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです。
  現在の再利用までの時間は約50分です。
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかの時に限り、制限がなくなりました
 ※それ以外の制限はこれ以降の書き手にお任せします
 ※大人りすかから戻ると肉体に過剰な負荷が生じる(?)
 ※『感染』しました。腐敗しながら移動しています。
 ※肉体が限界を迎えつつあります。
 ※首輪から延々と、
  『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』
  と鳴り続けています。



※E-5に不自然に繰り抜かれた地面と、その真ん中に真庭蝙蝠の首輪が残されています。
※E-6に食べ掛けの鑢七花の死体があります。
 死亡時に所持していた支給品一式はそのままです。

810 ◆mtws1YvfHQ:2021/10/29(金) 23:30:05 ID:EvvJFjH60
以上となります。
当初の予定とは違いますが、これにてランドセルランドに参加者全員集合で決戦の地はほぼ確定となったかと思います。

抜けやミスなどがあるかも分かりませんので、ありましたら修正致しますのでご報告願います。
なお、途中の一か所で水倉りすかの名前の途中から先がないのは仕様です。
よろしくお願いします。

あと、感想をありがとうございました。

811名無しさん:2021/10/31(日) 17:33:49 ID:HbCAT1UU0
投下乙です
りすか、人食に慣れすぎてたせいで最低最悪の食中毒起こしちゃったねぇ…

812 ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:21:11 ID:Bt7Dj9I60
投下お疲れ様です。

直近の話の感想を先んじて。

真庭蝙蝠、1面ボスの汚名返上と申しますか、
真庭忍軍としての面目躍如として色々動いていたキャラですが、
ここにきて脱落とは。お疲れ様としか言いようがない。ある意味ではバトル・ロワイアルに真摯に向き合っていた数少ないキャラとも言えるでしょう。水倉りすかの脅威的な力に屈してしまったわけですが、それでも迫るものがあり、ここまで生き残ってきた底力を見せてくれました。キズタカの声を出すシーンなどはいかにも真庭蝙蝠って感じでとても好きです。

鑢七花、蝙蝠に対してなかなかの不運に見舞われた彼にとって、
ここで死ねたことはあるいは救いだったかもしれません。
死が救いというのはなんともな話ですけれど。
彼にとってとがめの命令の最中に死ねたのは、ある意味不幸中の幸いなのでしょうか?
とはいえ、彼が残した土産物も、りすかに多大な影響を与えているようで。

というわけで、様刻、りすか、投下します。
例によって慣れないスマホ投稿で申し訳ありません。

813Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:22:41 ID:Bt7Dj9I60



/ くえすちょん編


 ◇


 後悔はしない。意味がない。
その時々に応じて僕は最善の行動をしているはずだった。
病院坂に言わせてみれば『誰だって人は最善だと思う行動をしているものだ』なんて講釈を垂れてくれるだろうが、
いないものは仕方がない、いきさつがどうであったとして僕が殺してしまったのだから彼女の長話にはおさらばだ。

 振り返れば稚拙だったかもしれない。
直面してみれば愚行だったかもしれない。
だが、結果が仮に悪かったとして、反省こそすれども、後悔をする必要がどこにあろうか?
後悔だなんて言うのは考えなしに行動する無軌道な馬鹿のすることであって、僕は違う。僕は人だ。
『人は考える葦である』なんていうのは今更得意げに語るまでもなく著名なパスカルの一節である。
人は考える――当たり前に、あるべきように。風に揺れ動くだけの雑草と一緒にされては困る。
僕が、僕たちがか細い葦だとしても、目の前に取捨選択の権利があるなら、
将棋の最善手を模索するのもさながら、選択した後の結果を考えるのが人として当然のことだ。
妹の夜月がいじめられてると知ったあの日、夜月の足の骨を折った。
思考の果。選択の末。僕は夜月を物理的に不登校にすることを選んだ。
失敗はあった。反省はあった。
でも、失敗ばかりに固着するほど僕も暇じゃあないんだ。
苦慮の結果として上々に着地したのだ。それが事実だ。十分じゃないか。
熟考の末に導かれた結果であるならば、良しであれ悪しであれ、受け入れるべきだ。

814Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:23:32 ID:Bt7Dj9I60
 平和だった世界。
暴力があって、死者があって、犯人があって、平和な世界。僕の世界。
あーあ、夜月元気かな。
丸一日僕に会えてないなんて夜月が心配だ。
変な気を起こさなければいいけど。
夜月はまだ精神的に幼い。幼く、拙い。
無桐伊織、もとい零崎舞織は馬鹿を演じていた節があった。
それも一つの生き方――処世術なのだろうか。
反して夜月は一手先の展開を読むことを知らない。将棋にしろ、生活にしろ。
件のいじめが原因かは断言できないけれど、それでもやはり僕が傍にいてやらないと。
ほっといたら琴原あたりに喧嘩を売りに行っちゃうかも。
強い気概が夜月にあるとも思わないけれど、そこはそれ、僕たちは兄妹だから。
窮地に追い込まれた時にする行動は案外似通っていたりする可能性もある。
ああいや、それ以前に。
数沢くんはもう死んだけれど可愛い可愛い夜月を付け狙う不徳な輩は多くいる。
世界に巣食う害悪に意地悪されないか心配だ。
我が妹ながら、夜月の愛らしさと言ったら世界一だぜ。

 そういえば琴原、あいつも今頃どうしてるのかな。
僕に一日会えなかったぐらいで騒ぐようなやつじゃないけど、もしかすると電話の一本でもくれているかな。
ほら、あいつってあれでいて僕にメロメロ、
いやもうメロメロ通り越してモワモワだから電話に出なくて泣いちゃってるかもしれねー。ははは。
――なんて、そんな戯言、箱彦に話したら呆れたような表情をするだろうけれど、否定はしないだろう。
そこに僕の責任もないし、僕の後悔も全くないけれど、
僕を起点として世界を壊してしまったあの幼馴染コンビ、
もとい僕の恋人や僕の親友の姿を思い返すとやはり胸に迫るものがあった。
今だったら英語のノートだけじゃなくって今まで見せたことのない数学のノートだって見せてやりたいよ。
肩甲骨だって触って弄って狂ってやるのにな?
箱彦、おまえは知らないだろうけど琴原の肩甲骨ってすげえんだぜ?
あいつの異名は『肉の名前』じゃなくって『骨の形』の方が案外ぴったしだったりするかもだ。
文学チックな馨りがして結構結構。

 …………えっと。
 …………んー。
 …………あー。

「――ほんと」

 どうかしてる。
何回目だ。いい加減に目を覚ませ。過去を追想することに今は意味がない。
『今』、考えるべきことはそんなことではないだろうに。
『楽しかった』思い出に馳せる時間はもう終わったのだ。
病院坂を弔ったあの時に。あいつらの世界を見送ったあの時に。
ずるずると思い出を引き摺り生きていくと決めて、それでも前に進むと決断して。
ならば僕には生きていくしかないと言うのに。

「思考を止めるな、止めるな、止めるな」

 口に出す。無駄ではない。言葉にして、言霊にして。
僕は、決断する。
簡単なことだった。
単純なことだった。
純粋なことだった。
自明なことだった。
明快なことだった。

「――優勝」

僕の世界は音も立てずに壊れ果てる。
グッバイ、常識。ハロー、混沌。
さようなら、世界。こんにちは、新世界。

815Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:24:43 ID:Bt7Dj9I60


 ◇


 道は二つに一つ。
主催の打倒か、参加者の打倒か。
二者択一。そのはずだ。
冷静に考えてみれば――そう、努めて怜悧に考えてみれば極めて簡単な構造だ。
鑢七花にしろ、鑢七実にしろ、球磨川禊にしろ、『いーちゃん』にしろ。そして当然僕にしろ。
一度、主催と名乗るあの集団に敗北している。正確を期すならば負けてすらいない、文字通りに勝負にならなかったのだ。
言い逃れ出来ないほど完膚なきまで、徹底的に徹頭徹尾。
『バトル・ロワイアル』と称される計画に連行された時点で、勝敗は喫している。
寝込みを襲われたのか、催眠術でも仕掛けられたのか。
到底僕には及びもつかないような手段をもってして、気付かぬうちに僕たちは不知火袴の演説会場にいた。
これを敗北と、不戦敗といわずに何という。

 分かっていたことだ。
ずっと前に、始めから。その一点においてはこの期に及んで殊更あげつらう必要はない。
満場一致の共通認識。絶対の力関係。首輪という束縛の象徴を持ち出すまでもなく。
僕たちはもれなくまぎれもなく、一様のモルモットに過ぎないのである。
不知火袴らを主として、僕たちを従とする関係であることに、異を唱えるものもいないだろう。
――いや、それは僕に逆らえるだけのスキルがないから自虐的に考えているだけか?
自罰的とも取れるけれども――しかしそこの諧謔にはさしたる意味などなく、
僕の思考経路がこうであったという事実は疑いようもない。

 ならば、だ。
『いーちゃん』を取り巻くあの五人の集団に交じり、主催の打倒を考えるというのは、あまりに迂遠が過ぎるのではないか?
日和号を解体して何かを見つけたらしい。
『死線の蒼』こと玖渚友が解析した結果がある。
それこそ僕の内には『遺書』なるものが控えている。
首輪の解除ももうまもなくだ。なるほど、終局はもうすぐそばまで迫ってきいる。
いいじゃないか、素晴らしい。
 ――それがどうした?
だから、それが、それらが、『破片(ピース)』が、結果として何へ導くというんだ?
パズルをしてるんじゃないんだぞ。
僕たちが強いられているのは、演じているのは、殺し合いだと、始めから分かっている。理解している。突きつけられている。
パズルがしたけりゃ大人しく死んで地獄で石積みでもしてろよ。いい頭の運動にでもなるんじゃないか?
『破片』を拾って、組み立て、ジグソーパズルよろしく図面を完成させたとしよう。
その破片は誰が用意したものだ?
僕たちか? ――まさか。
全部、主催がご丁寧に用意したロードマップに過ぎないじゃないか。
よもやそれが救いになるとでも?
玖渚友が集めた情報だって、突き詰めれば主催が用意した『電子機器』を介して手に入れたものなんだろ?
玖渚友を本当に恐れているというならば、そんな電子機器廃しておくことだって可能だったんだ。
極論、一部参加者に課されているという『制限』をかければ良い。

816Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:25:45 ID:Bt7Dj9I60

 あるいは、外部からの助けか? 参加者にも、主催にも属さない第三勢力。
もしくは主催と一口に言っても一枚岩ではなく謀反を企てている人物がいるのだろうか?
――冗談じゃない。それこそお話にならない。
仮にそのようなら人物がいたとして、主催にとって慮外の出来事が起こっているとしよう。
だが、計画に支障をきたすような大事なこと、主催も把握しているはずだ。
首輪には盗聴器が仕込まれているかもだなんて話が一時期あがっていたように、
僕たちが常に主催の監視下にあることはある種の前提として機能している。
 そして、その前提は限りなく正解に近い。
第二回放送の少女にいわく、
――『何人か疑っている方がいるようなので先に言っておきますが、内容に嘘はありませんよ』
第三回放送の不知火袴にいわく、
――『今回は少しばかり、会場内で通常ならぬ事態が発生しているため、加えて報告しておこうと思います』
 必ずしも二人が、真実起こったことをそのまま伝えているわけでもないだろうけれど、
曲解も過ぎればただの頓馬、額面通りに受けって差し支えない言葉だと思う。
彼らは僕たちを監視し、支配し、滞りなく運営している。
この計画が実験と称される以上、ぽいと放り込んではいおしまいとはならないことは、
小学校の理科を履修していれば誰でも察せられる。
実験とは観測し結果をあげてこそ。
実験とは計測し結末を仕上げてこそ。
僕たちはどこまでいっても、主催の掌の上なのだ。

 内心焦っているのか?
存外既に破綻しているのか?
もう取り返しがつかないほど、主催が壊滅しているのか?
もう取り戻しがきかないほど、主催は破滅しているのか?
――それでも、それでも、僕たちはまだここにいる。殺し合いをしている。
主催たちは逃げ出すわけでもなく、淡々と、着々と、計画を推し進めている。
僕たちに必要な事実といえば、結局のところこれに尽きる。
これもまた、不知火袴の伝達の一部だが、
――『改めて言いますが、この実験の内実は「殺し合い」であり、「最後の一人になるまで」続けられます。』
――『それ以外の終わりはありません。それ以外に終わらせる方法はありません』
 論点はここに帰着してしまう。
たとえどれだけ主催を打開したところで、僕は僕の世界へと帰ることが出来るのか?
知るかよ、知らねえよ。いい加減にしろよ。大体ここはどこなんだ? 帰るっていったいどこへ?
土台がアンフェアな条件で始まった殺し合いにおいて、推察のしようもない。

 話を戻す。手がかりすら手がかりと断言できない現状で、僕は何をすべきなんだ?
リスクを恐れて行動できない愚昧であるつもりはなかったが、しかし、リスクしかないのに飛び込む蒙昧でもない。
それでは飛び降り自殺と変わらないじゃないか。
自殺なんてものはもっとも愚かな行為の一つだ。
僕たちは林檎じゃないんだ、叩きつけられる謂れなどない。


 ――親愛なる様刻くん。


 ああいいよ、別に。僕も優勝が絶対の正解だなんて言わない。
それでも今の僕に出来る最大で最良で最善は――優勝に針を合わせてしまう。
違うというなら違うと言ってくれよ病院坂。
説教じみた情報の提供なら今ならいくらでも聞いてやるというのに。
ああもう、誰か、辻褄を――あわせてくれ。

817Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:26:56 ID:Bt7Dj9I60


 ◇


 もう一つの論点であるところの、僕の過小戦力について。
ただ『生かされていた』僕が、『生き抜く』ために必要な方策――結論を先に告げておくと、別にそんなものはない。
当然の帰結にさしもの僕でも言葉はない。

 自分のことながら、自分が取れる手段の中に『暴力』を挙げられる人間は稀有と思っていた。
『キレた奴』と思わせることは、自衛行為として時として有効である。
しかし当然この場において無用の長物もいいところだ。
素人の僕とは違う武芸者が残っている。
僕に凄まれたとて、平然と殴り返してくるやつらばっかの環境で、僕が取れる行動なんて限られよう。
流石に少女や並の女子高生に押し倒されるほど柔に育った覚えはないとはいえ、
これもまさしく先程と同じ議論、『五人』に一人で勝てるはずもない。
弱者を狙う――こんな見え透いた『隙』を残りの面々が見逃すか。
ありえない。
銃を向けたとて、影を縛ったとて。
僕に許された道はただ一つ、返り討ちだけだ。
 だから、算数の話だ。
五引く一の差が大きいのであれば、
せめて差を小さくするべきであり、
であれば――僕がしなくちゃいけないことも自ずと決まってくる。

「水倉りすか、鑢七花、真庭蝙蝠――」

 誰でもいい、誰でもよかった。
こいつらが少しでも互いに戦力を削ってくれれば、あわよくば共倒れしてくれることを僕は祈るしかないのだ。
神ならぬ、運命に。
主義や主張を跳ね返すだなんて厚顔無恥にも程がある。
人を数値で換算して、あまつさえ足したり引いたり――ああ、恐ろしい。
あるいは愚かしいとも言えるだろうに、それでも僕はその選択を選ぶ。

818Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:27:55 ID:Bt7Dj9I60
 ゆえに僕は、踵を返す。決まれば行動は早かった。
郵便配達の仕事を達成の目前で放棄して、
先の三人と遭遇するべく。――都合よく、首輪探知機には『誰か』の名前がすぐ傍に浮かんでいる。
故障か? 事ここに至って?
鑢七花や真庭蝙蝠であるならばまだ話は通じる可能性が残っている。
交渉の余地はあろう。種はある。
水倉りすかだったらどうするべきか。
零崎兄妹や玖渚友の仇に思うところがないと言えば嘘になるけれど、しかし割り切れるといえば割り切れる。
夜月の仇敵ともなれば話は変わるだろうけれど、所詮は赤の他人――真っ赤な他人だ。
仮にも『悪平等』という奇怪な肩書きを名乗っている。情に絆される僕ではない。
 大丈夫。大丈夫。

 ――親愛なる様刻くん。

 ただ。
結局のところこれは、問題の先延ばしだ。
優勝を狙うというのであるならば、どこかのタイミングで必ず僕は『敵』と直面する。
討たなければならない敵と。
僕は殺せるか? 情や動機なんて瑣末な事情でなく、それだけの力――討つ力を持ちうるか?

「――ほんと」

 呟いて何度目か。
気分は最悪だ。
持てる最大も、持てる最良も、持てる最善も。
全てを良しとして選択しても、気分はどこまで行っても最低だ。
どこまで重ねてもリスクヘッジの効かない賭け――賭けですらない。
賭け事には勝利があるとはいえ、この殺し合いで行く着く先はどちらも地獄。選択をする時点で敗北なのだから。

「誰か……――騙されてくれ」

 聞く者はいない。
どん詰まりの思考はすでに朦朧で。
天国に一番近い遊園地の煌びやかなアトラクションを仰ぎながら、僕は――。

819Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:28:48 ID:Bt7Dj9I60


 ◇


 水倉りすか。
『赤き時の魔女』。
『魔法使い』。
いくら彼女のパーソナリティを連ねたところで、正直なところ意味がない。
水倉と協力を結べる手筈がない以上、僕に可能なことといえば彼女の様子を遠巻きに眺めることに尽きる。
とうの昔に彼女との協定は決裂しているため、僕が何を言ったところで『魔法』の餌食になるだけだ。

 いた。
赤い――赤い。
赤い少女が、いる。
ランドセルランド園内。入り口付近。
ただ、その姿は僕の想像していよりもよっぽど――。

『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

 響く。
無機質な声が。
機械的な音が。
反射的に自身の首輪を一瞥するが、静かなものだ。
ここは禁止エリアではないから当然。あれが首輪探知機が正常に作動しなかった要因か。
ではなぜ?
いや、今問うべきはそこではない。

「…………」

 水倉の姿は、傍目から見ててもぼろぼろだ。
目尻からは血を流し、歩く姿はよろよろで、
身体の数箇所、とりわけ酷く惨いのは口元か――腐敗と再生を繰り返している様は、『死線の蒼』から聞いていた姿と食い違う。

 預かり知らぬ事情があったのだろう。涙あり血ありの物語を謳ってきたのだろう。
 関係ない。僕には関係ない。
 けれど、――彼女の容態から導き出される真実から目を背けてはいけない。

「……ふぅ、……ふぅ」

 大きく息を吸って、吐く。
落ち着け。僕は至って冷静だ。
至って冷徹、オールグリーン。
おーけーおーけー。
水倉りすかの『魔法』については知っている。
だから、――だから。
『今』、眼前にいるりすかがどれだけ満身創痍だとしてもまったくもって意味がない。
彼女の身体に流れる『血』。
血に刻まれた『魔法式』。
魔法式によって編まれた『魔法陣』。
多量な血が流れた時発動する『魔法』、変身魔法。

820Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:29:35 ID:Bt7Dj9I60
 それでも。
それでも、僕はこいつを無視することが出来なくなった。なってしまった。
だって要するに、まとめると。
鑢七花か真庭蝙蝠、――いや、言葉を濁すのはやめよう。
この二人は、すでに死んでしまっていて、おそらく水倉りすかに殺されたのだ。
『いーちゃん』たちの元を離れてすぐ、首輪探知機を調べていたら鑢七花と真庭蝙蝠の名前を捉えることは出来た。
ゆえに、傍まで迫っていたのは水倉りすかとすぐに判明した。
ただ、不審な点はある。
見ている限りずっと、鑢と真庭がまったく動かない。
こんな夜分、寝ているだけだ。様々に推測を立てることは可能であったし、何事もないことを祈っている。
しかし、水倉の様子を観察して、僕の希望は儚く潰えた。

 すでに三人の間で一悶着があり、生き残ったのが水倉だった。
あの腐敗は、鑢か真庭のどちらかが遺した置き土産ということになるのだろう。
少なからず、玖渚さん、零崎、伊織さんらに、あの惨状を可能とする手段はなかったのだから。

 だったらもう、行くしかないじゃないか。
水倉の意志にもはや協調などないとしても、
退くも地獄、進むも地獄、ならば僕には進むしかない。
そう、『決めた』からには、僕は――やるしかないのだ。

 左手に零崎のカバンからよく斬れそうな刀を。
右手に『銃』を。
そして懐には残った『矢』を。

 朝日が昇り始めて、影も薄い。しかし薄いと言っても影はある。
真庭鳳凰の時はある種のアドバンテージがあった。
火事現場。影に濃く強く長く写し出される場所で、ダーツの矢を打ち込むのは簡単だ。

 あの時と状況は異なる。
ならば、近づく他にない。
説得が無理でも、せめて話を聞いてもらわなければ。
この『矢』を影に縫い付けて、動きを止める。
口元も腐乱した状態では舌を噛むことも難しかろう。
最悪、ここに放置しても構わない。
『五人』のうちの誰かがりすかに傷をつけてくれれば、りすかの『魔法』は発動するのだから。

 そのためにはまず。
この『魔法』を完遂させるしかない。
僕は物陰から物陰へ移動し、水倉の背後を見据える。
彼女の遅々とした歩みは変わらず、ゾンビ映画さながらだ。

 いける。
今しかない。
行くしかない。

ひとつ息を吸って。
両手の得物を握りしめて。
右足が地面を蹴って。
水倉に向かって一直線に走る。
奔る! 奔る! 奔る!

――『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

音声に僕の足音は多少紛れる――そう踏んでいたけれど、
存外に水倉の反応は速かった。

「――っ!!」

 水倉は振り返り、僕の姿を捉える。
構えた。彼女の右手にはいかにもスパッと斬れそうなナイフ。
水倉の視線が、僕の持つ刀へ向かう。
構えが少し、変わる。
僕から向かって左手側――太刀筋の軌跡がわざと空けられた。
そう、それでいい。
刀はフェイク。
お前を斬るぞと主張したいがための刀。
そして水倉としては斬ってほしいのだろう。
『魔法』を発動させるためには、流血が必要だから。

当然、僕は水倉を斬ったりしない。
『銃』も撃たない。銃声が響いて『五人』に集まられたら面倒だ。
本命はあくまで、この『矢』――。

一歩、
状況変わらず、
二歩、
状況変わらず、
三歩、
この距離なら、いける!
僕は『銃』を雑にポケットにしまい――すり替えるように『矢』を取り出した。

「――そ、れは」

 見覚えでもあるのか。
僕の『矢』を認めた瞬間、彼女の動きが変化する。
彼女はナイフを己の左手首に押し当てた。
厄介だ。
決断が早い。
水倉りすかは『魔法使い』だ。
『魔法』の『矢』の存在ぐらい知ってるものなのか。
いや、そのぐらいの想像はついていた。
だから真に驚くべきことは――『自殺』にここまで躊躇いがないものなのか!

 僕は水倉の影へ向かって『矢』を投げる。
ほぼ同時、水倉りすかは手首に当てた刃を勢いよく引いた。
いわゆるそれは、リストカットと呼ばれる行為であった。

821Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:30:40 ID:Bt7Dj9I60


 ◇


 血が流れる。
血が、血が、血が!
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、
血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、血が、


 血が流れる!
――血は流れる。ただただ、だらだらと。

822Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:32:26 ID:Bt7Dj9I60


 ◇


――『禁止エリアへの侵入を確認。30秒以内にエリア外へ退避しない場合、この首輪は爆発します』

 そしていつしか、水倉の血は止まった。
脅威的な治癒力で、彼女の傷口は塞がる。
僕は呆然と――誠に不覚ながら呆然と、一部始終を間近で見届けた。

「な、なんで――どうし、て発動し、ないのが、『魔法』なの!!」

 錯乱したように、爛れた口を動かして水倉は喚く。
まあ――他人事ながらに気持ちは分からないでもない。
切り札が意図せず、原因不明のまま不発に終わったのだ。
叫びたくもなるだろう。
彼女の足元、影のある場所に、僕の投げたダーツは申し分なく刺さっていた。
水倉の姿も、手首を切った姿から彫刻さながらに固まっている。
しかし毎度のことながら、結果として生きているだけで勝った心地が全くしない――まるで、全然。

 経緯と結果について、僕が断言できることはまるでないけれど。
敢えて理由を考慮するのであれば、やはり彼女の腐敗にすべての原因があるのだろう。
属性(パターン)を『水』、種類(カテゴリ)を『時間』、顕現(モーメント)を『操作』とする『魔法』。
魔法式で編まれた魔法陣による『変身魔法』。
水倉りすかの『魔法』には一言でまとめると、斯様なものになるらしい。
人づてに聞いた話だ。正味、馴染みのない単語の羅列で辟易してしまうけれど、
そういうものなのだという理解をしている。
 さて、そんな水倉りすかだが、決して彼女も無敵というわけではないらしく、天敵がいたらしい。
食物連鎖のサイクルの一部に、水倉も属している。
その天敵の一人が、参加者の一人でもあった『魔法使い』の『ツナギ』だ。
属性(パターン)を『肉』、種類を『分解』とする『捕食魔法』。
ひとたび彼女が捕食してしまえば、あらゆる『魔法』は『魔力』へ還元されて胃に収まる。
換言するに、一七年後の姿に変身するための『魔法陣』が、解呪(キャンセル)されて飲み込まれてしまうということだ。
魔法少女が変身できないだなんて、日曜の朝も形無しであるけれど、対策としてはこれ以上なく合理的だ。
変身ヒーローの変身を待つ悪役は馬鹿ぞろいといったよくある揶揄と似たようなものなのだから。
 結局似たようなことが、今、彼女の身に起こっているのだろう。
口元に微かに残る『泥』が原因なのかは分からないけれど、彼女の身体は『腐敗』と『再生』が繰り返されている。
つまりは、『分解』と『新陳代謝』が過剰に発生していることに他ならない。理由は知らないけれど、結果は目の前にある。
身体の『分解』は『再生』されよう。
では、もし仮に、『魔法式』『魔法陣』が分解されていたら?
決まっている、決まってしまっている。そんなものは『再生』されるはずがない。

「勝た、なければ、いけな、いのが――わた、しなのに!」

 腐敗した口で、そんなことを言う。
僕は水倉の姿を無感動に眺めていた。
どうするべきか。どうするべきか。
どういう選択肢が今僕につきつけれらているか。
考えて、考えて。
考えて、考えて。
考えて、考えて。
どれだけ考えても、行きつく結論は一つしかなかった。

「殺すしか、ない」

 僕の小さな呟きが聞こえたのか。
水倉の言葉は止まった。息を飲む音がする。
動きはない、動けない。けれど確かに、言葉は止まる、
けれどもしかすると僕の呼吸の音だったかもしれない。
やるしかない。
水倉りすかが、あの『五人』の対抗馬にならない以上。
僕は彼女を排除しなければならない。
優勝するためには。
一人生き残るためには。
生き残るためには。
生きるためには。
僕のためには。
殺すしかない。
乗り越えるしかない。
ここで怖気づいていては、先はない。
人質にすることも考えた。
玖渚さんの仇だと謳って。
でも、そこからの進展がない。
水倉を引き渡すから鑢七実を殺してくれとでも?
まかり通るかそんなもの。
それに放置しておく意味ももはやない。
だから、ゆえに、しかし、それでも、ただ、もしも。
殺す。
僕は冷静だ。
殺す。
水倉りすかを見据える。
殺す。
僕は無感動に水倉りすかを認めて。

「キズタカぁ……」

 僕は斬刀を振るう。
胸を目掛けて、一直線に。
気が付いたころには、首輪から音はしなくなっていた。


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか 死亡】

823Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:34:00 ID:Bt7Dj9I60


  ◇


 目論見は破綻した。
ものの見事にあっけなく。
鑢七花、真庭蝙蝠、水倉りすか――。
計三名の死亡とともに、僕の企みは未完に終わった。
残念賞。落第だ。

 水倉を殺す前、案のひとつとして考えた。
今までの思考実験をなかったことにして、
何食わぬ顔で、『五人』と合流することを。
多分一番、生を長引かせることが出来よう。
だけど、それでも、僕は選ばなかった。
必要なのは延命ではなく、生存。
これを主軸に置いている以上、僕にはもう――選択肢が――。

「……悪いね、玖渚さん」

 懐から、『遺書』を取り出す。
燃やしてしまおうかとも考えた。
この選択も選ばなかった。ただの感傷に過ぎないから。
仮に僕が死んだあと、誰かが読むことになったら、それはそれでいいじゃないか。
優勝したいという気持ちとは矛盾しない。

「でもまあ、一応」

 先ほどまでは遠慮していたが、遠慮する理由も欠けてしまった以上、
僕は容赦なく手紙の封を切った。悪趣味で結構。僕は手段を問わない男だ。
正直、僕はこの手紙に然したる期待はしていない。
電子機器を介さない伝達として手紙は確かに有効だが、
今更な対策ではあるし、そもそも玖渚さんが手に入れた手掛かりのほとんどは電子の海に埋蔵してあったものだ。
それに、よしんば電話の盗聴などを警戒していたとしても、僕に話さない理由が特にない。
確かに水倉りすかの襲撃を危惧して急いでいたとはいえ、だ。
道中読んでもいいよと一言言ってくれさえすればいいものなのに。
僕が信用に足る人物でなかったと言われれば、その通り。玖渚さんの慧眼には感服の至りだ。
とはいえあくまで表面的には協力体制にあったのには違いないわけなのだから、
あくまで私的な内容の『遺書』なのだろう、と。
僕はそう捉えていた。

「…………」

 僕は目を通した後、『遺書』を仕舞いこむ。
気が付けば、放送はもう間もなくであった。


  ◇


 なるほど、きわめてきみは冷静だ。
並外れた緊張を抱えてなお、きみの心は不動に終わった。
きみの視界には確かに水倉りすかがいて、恐るべき仇敵『時宮時刻』の姿はなかったからね。
久しく怨敵の姿を見てないことから察するに、きみの持ち味であるところの冷静沈着は活かされているのだろう。
随分と頑張っているじゃないか。親友としてこれほど誇らしいことはない。
さすがだ、様刻くん。すごいよ、様刻くん。きみも胸を張って誇っていいとも。
もっとも、僕みたいな立派な胸がきみあるかというとどうだろうね。琴原りりすはきみの胸骨について言及していないのかな。

 まあ、そんなどうでもいい話をしたいわけじゃない。

 ――親愛なる様刻くん。
 質問がある、様刻くん。
分からないことがあるから是非とも教えてほしいものだぜ。


 優勝を狙う。
 水倉りすかに近付く。
 水倉りすかを殺す。


 うだうだと君は理由や指針、根拠をそらんじていたわけだけれど――本気であんな風に考えていたのかい?
あんな愚の骨頂が正しいと、信じて疑わなかったのかい?


 まさかとは思うけれど、よもやとは思うけれど――あの櫃内様刻が死に場所を求めていただなんて、いうわけがないよね?

824Q&A(12+1) ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:35:04 ID:Bt7Dj9I60



  ◇



「――ほんと」

 呟いて何度目か。
気分は最悪だ。
持てる最大も、持てる最良も、持てる最善も。
全てを良しとして選択しても、気分はどこまで行っても最低だ。
どこまで重ねてもリスクヘッジの効かない賭け――賭けですらない。
賭け事には勝利があるとはいえ、この殺し合いで行く着く先はどちらも地獄。選択をする時点で敗北なのだから。

「誰か……――騙されてくれ」

 聞く者はいない。
どん詰まりの思考はすでに朦朧で。
天国に一番近い遊園地の煌びやかなアトラクションを仰ぎながら、僕は――。



「死にてえよ」



【二日目/早朝/E-6 ランドセルランド】

【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、極度の緊張状態、動揺、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン、首輪探知機、無桐伊織と零崎人識のデイパック(下記参照)
[道具]支給品一式×8(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、玖渚友の手紙、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜36)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)、 誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、
   金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、 ノーマライズ・リキッド、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット、
   首輪×4(浮義待秋、真庭狂犬、真庭鳳凰、否定姫・いずれも外殻切断済)、糸(ピアノ線)@戯言シリーズ、ランダム支給品(0〜2)
   (あとは下記参照)
[思考]
基本:優勝する?
[備考]
  ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形、零崎人識(携帯電話その1)が登録されています。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は29〜36を除き確認済みです。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。
 ※ベスパ@戯言シリーズが現在、E-6 ランドセルランド付近に放置されています。
 ※優勝を目指すか、目指さないかの二択を突き付けられたと勝手に考えています。選択にタイムリミットがあり、それが次の放送のすぐ後だと思い込んでいます。

【その他(櫃内様刻の支給品)】
 懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
 シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵チョウシのメガネ@オリジナル×13、
 小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁、 中華なべ、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、
 鍋のふた@現実、出刃包丁、おみやげ(複数)@オリジナル、食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、
 『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』(「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)

【零崎人識のデイパック】
零崎人識の首輪、斬刀・鈍@刀語、絶刀・鉋@刀語、携帯電話その1@現実、糸×2(ケブラー繊維、白銀製ワイヤー)@戯言シリーズ
支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
千刀・ツルギ×6@刀語、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数

※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています

【無桐伊織のディパック】
無桐伊織の首輪、支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ

825 ◆xR8DbSLW.w:2021/11/08(月) 02:36:00 ID:Bt7Dj9I60
投下終了です。
指摘感想などありましたらお願いいたします。

826 ◆xR8DbSLW.w:2021/12/01(水) 22:24:34 ID:S7QegMTs0
投下します。
予定が変わり、前半後半というほどつながりがあるわけではなくなったので二話投下する形になります。
よろしくお願いいたします。
例によって携帯からの投下失礼致します。


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