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177レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:42:53 ID:tqRZjrQo


「これで5人だ」

絶望、
そのさらに先の虚無。闇。
それを目の当たりにしても心が折れぬ人間など――――

咆哮。それは王というよりも野獣に似ていた。
今の今まで倒れ伏していた幼き雷帝、
ゼオンが身体中の力を掻き集め、立ち上がる。

「ノール、水流をあの子とミツルの周りに展開させるんだ!」

来栖がゼオンの復活を予測していたかのような自然さで
ノールに指示を出す。

「オーケー!」

水がゼオン達の周りを龍のようにとぐろ巻く。

「少年。ミツル、ありったけの電撃をソレに流すんだ!」

意味を理解したいたのはミツルだけ。
だが、復讐に突き動かされている
ゼオンの意識は本能でそれが正しい道だとわかった。

まだだ、まだ。
誰も諦めていない。

ありったけの電撃を受けた水流が電磁石となり、
それをノールがチャンの周囲へと動かし。体内磁石を狂わせる。

風水によって築かれた異能を弾く結界は解かれ。
チャンの身体能力もまた、半減する。

針の穴よりも小さい勝機が見え始めた。

「ハハッ」

来栖が朗らかにカラカラ笑う。

――つまり君の“願い”は正義の味方になりたいってことでいいんだよね!?

短い間の同行者の言葉が来栖の脳裏をよぎる。
それに今ならなんと応えるだろうか。
決まっている。
未来日記所有者4thたる来須圭悟は確信できる。

「俺の“願い”はやっぱ」

そしてチャンは気づいている。
誰の指示でこれを成したのか。

「ああいう奴をボコることなんだよな」

178レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:44:06 ID:tqRZjrQo

来須圭悟は。
仮面ライダーナイトにカードを――
仮面ライダーオルタナティブ・ゼロに意志を――

「なんで俺が会うまともな奴はいつもテロ系なんだろうなあ」

大地を。チャンが蹴る。
重点的に強化された脚力。
それが産み出す速度は誰であろうと反応はできない。

「まあいいさ。やっちまえ、“革命家ども”」

――託す。

チャンの残る左腕が手刀の形を取り、
来須圭悟を両断する。

そして、攻撃地点が誰にでも読めていたのなら。
後手での対応は可能。

残る戦士。
仮面ライダーナイトサバイブ、龍騎、ローゼンメイデン、オルタナティブ・ゼロが
チャンを打倒せんと雪崩のように攻撃を繰り出す。

先陣を切るのは予期せぬだろう大幅な強化を果たした秋山蓮。
まだそのスペックはチャンに悟られてはいない。
闘いの決着を遅らせる理由はない。
己が分身を幾つも作り出し、チャンへと斬りかかる。

「着地点を観測した。その程度のことで私を倒せると?」

今の状況は互角にも程遠い。
魔神、魔王、魔怪、そのどれもが彼を形容するには慎ましすぎるのだから。

数多くの分身による全ての攻撃を
チャンはただ一つの動作で薙ぎ払う。

それはただの回し蹴り。
だが、仮面ライダーの力すら付与された
その足が産み出す威力と余波はいかなるものをも寄せ付けない。

秋山の後に続くのは七原とカントリーマン。

魔界の大剣を完全に使いこなすに足るスペックを得た七原が
天高く飛び上がり、天空ごと突き刺すかのように
チャンの頭頂へ落下速度を乗せて突き刺そうとする。
チャンの脚はまだ回し蹴りから戻されていない。

ならば必然、揚げられた脚は踏みしめるように勢いよく降ろし。
開いた左拳を大剣に沿えて、急激に回転させることで
接地えネールギーを分散。剣の軌道を逸らす。

179レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:45:15 ID:tqRZjrQo

「馬鹿の一つ覚えのように上からの攻撃か。温すぎる」

そして背後からはカントリーマンが新たに斬りかかる。

それにも対応しようとチャンが
足を動かそうとして。
動かない。

正確には動きが鈍い。
脚が深く埋まる地中は泥濘を超えて沼のようなネバつきを持っている。
何故、一箇所だけ土がこのようになっているのかとチャンは眉を上げる。

「来栖がただ殺されるためだけにそこにいると思ったのかい?」

膨大な電気を込められ続けた水流を周囲に蠢かせ。
ノールが我が意を得たりと大粒の汗を浮かべつつも
彼には似合わない獰猛さを秘めた表情で微笑む。


「始めから来栖に誘導されていたんだよ。
 ボクが細工した場所へね」

チャンの反応が。ついに遅れる。
如何なる力を持つ脚であろうとも、いやだからこそ。
足場の悪さが決定的な要因となる

城戸真司に託された龍騎の力と、
霧島美穂によって生かされた命を携え。

ドラグセイバーはついにチャンの右腕を切り飛ばし。
奇跡の執刀、ついにチャンの体に致命傷を負わせる。

そして、
喪った命への悲しみを堪え、
七原は叫ぶ。闘いをともにした戦友に。

「場は整ったぜ」

周囲に散乱していた支給品。
真紅はそこから彼女の持ち物を見つけた。

懐中時計。
真紅の力を元に物の持つ時間を
ほんの少し巻き戻せることができる時計。

「右ストレートパンチだ。やってやれ」

ソレを用いて、
真紅は英雄になろうとしていた男が使った銃を復元させる。

「相棒!!」

180レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:46:41 ID:tqRZjrQo

狙いを定めて。
真紅は捕鯨銃を撃つ。

右腕は先ほど切り飛ばされた右半身のまま、カントリーマンを退けるには時間が足りない。
左腕は残っているが地面に突き刺さった大剣が進路を邪魔している。
どけるにはこれも時間がない。
ならば、いっそ両方向をこの両脚で。却下だ。
着地したところを狙われるが必然。

チャンに残された防御手段は左腕のみ。
左腕に想波をコーティングしてもなお、
強大な一撃を防ぎきるには能わず。
左の掌を突き破り、腕の中。深く深くへと銛がうたれる。

好機。
ついに好機がやってきた。

七原はすぐさま距離を取り、真紅の側へ戻り。
秋山、カントリーマンも最大の一撃を繰り出すためのカードを取り出す。


――FINAL VENT――
――FINAL VENT――


チャンの今の武器はその両脚のみと言っていい。
ならば、狙うべきは上空からの圧倒的な攻撃。

同じ高さからの攻撃は片脚をスイッチすることで、いくらでも対応できるだろう。
だが高高度からの攻撃にはどうしても脚だけで迎えうつには限度がある。
引き脚。引き手。
伸ばされた手脚は威力を放った後、改めて元の位置に戻さなければ
再び十全の威力を発揮することができないのは人体の理。
頂点をも超えた武ですらそれから完全に逃れること、叶わない。


龍騎は空高く飛び。
ミラーモンスターの火炎を推進力に
チャンへと一個の槍のように突撃する。


カードの効果が明確に現れる直前。
ナイトサバイブもまた空高く飛び。
バイクへと変形したミラーモンスターと共に
マントに漆黒のミサイルへと姿を変える。

181レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:47:55 ID:tqRZjrQo

「準備は。聞かなくてもOKだよな!?」

空高く飛び上がるのは仮面ライダーオルタナティブ・ゼロとて同じ。
背に負うのは宿敵のローザミスティカの力を借りた真紅。

「当然。だから」

七原からそっと離れて。
真紅はあらん限りの薔薇の花弁の嵐を七原の背へと送り。
推進力とする。

「やりとげなさい……相棒!!」

本来なら持たぬはずのオルタナティブ・ゼロの蹴り技。
だが今、友の力を借りてここに成されるのならば。
付けるべき名はただ一つ。


――RIDER KICK――


三方向からの同時攻撃。

これを迎え討つには今のチャンには些か心もとないか。
いや、これはただの“劣勢”。
乗り越えようと奮起するに相応しい障害が
最強の前にようやく現れただけに過ぎない。

「楽しい。楽しいぞ諸君!!」

チャンは渾身の力をこめた蹴り技でそれら
全てを一度に退けんとする。

瞬間。チャンの身体中に雷を伴った水龍が巻きつかれる。
チャンの動きが止まる。

「もう、限界なんだ」

ノールが、ミツルが、ゼオンが膝を付きながらも。
チャンを睨みつける。

「全力をくらえ」

そして三人のライダーの攻撃が、
チャンを。


「見事也!
 戯れではなしに私の本気を真っ向から引き出すとは。
 無双の孤独を耐え忍び続けた甲斐があったというもの!」


両の手が使えなくなろうとも。
奥の手が使えないことには決してならない。
言葉遊びにすらならない道理。


――天地開闢 有為転変――

182レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:49:14 ID:tqRZjrQo

封印魔法、発動。
ありとあらゆる周囲の想波がチャンへと集められていく。
八卦鏡の助けがないとしても、
産み出される威力は会場丸ごと滅ぼすことすら可能だろう。

破壊が、周囲のエリアごと彼らを包み。
断とうとする。

それでも退かない防人の全力攻撃。
三人の仮面ライダーの同時攻撃。
余波が周囲一帯を吹き飛ばして彼らはまだ攻撃を打ち砕かれてはいない。


「膝を屈することを良しとはせず。
立ち向かい続けるか勇者達よ!」


チャンは喝采する。
まだ誰も諦めてはいない。
最強を倒すことを。
“願い”へ、未来へ進むことを彼らは諦めてはいない。

だから、

「受けて死ね」

力を使い果たしたミツルは既に変身が解かれ。
普段の姿に戻っている。
それでも。
彼は闘い続ける。


――エターナル・エンド――


ミツルの封印魔法も加わり。
エネルギーのせめぎ合いはさらに激化する。

チャンのベルトにあるデッキはとうに壊れ。
仮面ライダーの意匠は消え失せている。

残るは己の鍛錬のみで辿りついた想波の闘法たる悟りのみ。
そして、チャンの攻撃はついに破られ。

仮面ライダー達の攻撃がチャンを打ち砕く。


ハズだったのに。


カントリーマンが手駒にした不死人達に守られていた朧が。
度重なる精神への負担に耐え切れず心を無くした者が。
あまりの衝撃に眼を醒まし。

起き上がり、戦場を破幻の瞳で見つめる。

183レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:50:14 ID:tqRZjrQo

破幻の瞳があらゆる異能から身を守り。
彼女の諦めが全てを台無しにする。

諦めが。
勇者達を殺す。

変身が解かれた仮面ライダー達はそのまま落下し地面を転がる。
立っているのはぶつかり合いにより、
インペラーのデッキを壊されていたチャンのみ。

だが仮面ライダーの運命であるミラーモンスターの襲来はない。
ミラーモンスターの乱入ごと消し飛ばす苛烈なる激突。決闘。

それを最悪の形で邪魔されたチャンは特に動じることもなく
一足飛び出朧の眼の前へと現れる。

「やめろ!」

カントリーマンの懇願にも似た制止の声も虚しく。
チャンはあっさりと朧を蹴り飛ばす。

全ての水を使い果たしてしまい。
合体すら解かれてしまったノールに
内蔵の全てが壊された朧が肉の弾丸となり。
体内からから突き出た骨がノールの身体中を突き刺す。

死体となって崩れ落ちるノールと朧を尻目に
異能殺しの軛から解放されたゼオンが真っ先にチャンへと突進する。

魔本を用いての術ブースト。
それに頼ることはできない。
側にいたノールは死に、
ミツルも疲弊で動くこともできずただチャンを睨みつけている。

心の力をありったけ振り絞った術で己の体を強化し、
チャンへと殴りかかる。

だが、消耗が。ダメージが大きすぎた。

「まだだ。俺は! 俺はガッシュを殺した貴様を必ず殺す!」

復讐の念すべてをこめての攻撃をチャンは足裏で受け止める。

「ガッシュ?」

チャンがゼオンの怒りを目の当たりにして言う。

「誰だそれは?」

それはただの言葉。
ブラフである可能性も十分にあった。
だが、ゼオンは。
王の素質と資質を十二分に兼ね備えたゼオンは理解してしまう。

その言葉に、嘘はないと。

ゼオンの眼から光が喪われる。
己の徒労を知り。力が抜ける。

184レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:52:21 ID:tqRZjrQo

そして、
諦めてしまったゼオンの体をチャンの足裏が拳ごと押し返し。
踏み潰す。

真っ赤な血の塊となった三人。

地面を転がっていた七原達はようやく立ち上がる。
疲労の影を隠しきれなくとも。七原は憤り、叫ぶ。

「どうしてだ!
 どうしてそんなことができる!?」

七原に眼を向けたチャンは先の中断された
問答の続きであるかのように嘲笑う。

「無意味だからだ。
 幾億の“願い”も、信念も。
 その全てが虚でしかないだからだ。
 死ねば、裏切られれば全てが無へと変わる」

チャンは七原達の方へと歩き出す。
握る拳がなくとも溢れんばかりの闘気が対峙する者達へ突き刺さる。

「だから私は想うのだよ。
 闘争だけが実。
 “願い”のためであろうと復讐のためだろうと、
 それによって突き動かされた戦士の織り成す闘争は」

そこにあるのは空虚な最強に残されたほんの少しの郷愁か。
チャンは続ける。

「闘争だけは。真実で在り続けると」

恐らくは、これがチャンの心。
これに真っ向から触れた者は既に死した勇者ワタルだけだろう。

たしかな重みを持った言葉。
受け止めるには殺意もなく、真摯過ぎて、灼かれそうなその想い。
ある意味で潰されそうな純粋さ。常人は触れることすら厭うであろうソレ。

だが、今の彼らは違う。
カントリーマンは言う。

「『私』の中には生きている。
 医師としての『私』が救った命が、『私』達を救おうとした際の言葉を憶えている。
 『生きろ』。
 旅人として殺し合うことしかしてこなかった『俺』はその言葉で、
 医者として行動してきたこの世界での『私』が救われたように想えた」

 秋山は言う。

「アンタの願うソレは。求めるソレは。
 真実じゃない。ただの地獄だ。
 闘い続けなければ生き残れない。
それは確かだ。だが…………」

185レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:54:06 ID:tqRZjrQo

秋山は確信をこめて告げる。

「殺しあい続けなければ生き残れない“願い”は。
 きっとそんなに多くないんだ。
 殺し合いを産むほどの“願い”は。
 そんなにあっていいものじゃない」

何を言われようともチャンは動じない。
ただ自らと闘ってくれるだろう者達へ歩み寄るだけ。

「良い意志を感じる」

そして、間合いに入り。
チャンは攻撃へと移る。

「だが。意味はないがね」

最大の好機を逃したがゆえの脱力は
秋山とカントリーマンの力を、意志を疲労以上に奪っている。
体が。チャンに立ち向かう力を与えてくれない。

「お前達もまた、諦め。ここで死ぬのだから」

前蹴りが秋山へ繰り出される。
それを七原が前に出て庇う。
ただ一人、欠片たりとも諦めておらず。
体を動かす力を持っていた七原が大剣で受け止める。

受け止めきれなかった衝撃が。
オルタナティブ・ゼロのデッキをついに壊す。

仮面ライダーの運命が七原を襲う。
ミラーモンスター、サイコローグが現れ、七原へと襲いかかる。

七原が、喰われようとする。

「お前は本当に諦めないんだな。七原」

それを阻むのは、
七原と真紅の生き様を短い間だが共有した
仮面ライダーナイト、秋山蓮。
サイコローグの腕が、秋山蓮を貫く。

「一度殺したらもう戻れない、か」

清々しい顔で
秋山は、最期の言葉を遺そうとする。

「それでも、同じ道を歩むことはできるんだな」

そして、渾身の力でサイコローグの首を跳ね飛ばし。

秋山蓮が最後にその眼に映すのは。
親友のデッキを受け継いだ男の姿。

「願わくば……俺のナイトを受け継ぐ者も。
 いや、これは俺には過ぎた――」

186レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:54:57 ID:tqRZjrQo

羨望混じりの言葉。最後までは述べられず。
カードデッキを握り締めたまま、膝をつき。
秋山蓮もまた、死ぬ。

倒れ伏していく者達の命が。
意志が、“願い”が、七原の心を震わせて。
人知れず引き継ぎを終えていたハルワタートを呼び寄せ。
ハルワタートに選ばれ。
闘志が“願い”のインストールを終わらせ。

破裂しそうな程の数多の“願い”が七原の脚を、更に前へと動かす。
生身で。一振りの大剣を手に。
チャンへと挑む。

「愚行なり。革命家、七原秋也よ」

けれども。
どれほどの意志が宿ろうと、“願い”が宿ろうとも。

それはチャンの攻撃が
七原の胴体を突き破る妨げにはなってくれない。

だが。だが、それでも。

「アンタは死んだら意味がないって言うけどさ」

七原は大量の血を吐き出しながら、
力の抜けた手から大剣を落としながらもチャンを見つめる。

「俺は知っているんだ。
 短い間しか一緒にはいられなかったけど。
 悲しい別れもたくさんあったけど。
 少ししかわかり合うことが出来なかったとしても。
 俺は知っている」

187レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:56:50 ID:tqRZjrQo

意志が七原の手に銃を握らせ。
チャンの顔へと狙いを定める。
零れ落ちる命を。必死に繋ぎとめながら。
震える手で。

「死んだんじゃない。
 みんな生きていたんだ!
 ここでも! どこでも! 命が続くまで、必死に!!
 未来の為に生きてきたんだ!!」

だから。
七原は血まみれの顔で笑みを浮かべる。

「アンタもたしかにここで生きていたって憶えてやる。
 背負ってやる。そして、一緒に死んでやる。
 けど未来に繋げてやる」

震える手を鼓舞して七原は引き金を振り絞る。
チャンは動くことができない。
七原の胴体を貫いている脚を抜くことも。
地面に置かれている脚を動かすこともできない。
彼の体を渾身の力でカントリーマンが羽交い締めにしているから。


「さようならだ。最強」


虚闇のような銃口を目の前にし、
チャンは笑みを浮かべた。

銃声が虚無に響く。

その笑みの意味を知ることは誰にもできないだろう。



………………………………………………………………………………………………。

188レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:57:39 ID:tqRZjrQo

暗い。寒い。砂のように生命が零れていくのを七原は感じていた。
視界は闇で覆われて。体の先から熱が喪われていって。

側にいるハルワタートが教える。
次の防人を。

――いや、俺1分も防人やった気が全くしないんだけども。
   まあ、いっか。チクショウ。いや、チクショウじゃないか。
   ああ、でもやっぱりやっぱりコンチクショウ。
チャンにはカッコつけたけどまだまだ生きてえよ俺――

けれども、
自分の頭が小さな小さな膝の上にあることだけはわかった。

――よかった。
   どこに吹き飛ばされたんだと思ってたけど無事だったんだな――

友の無事を知り、七原は安堵する。
押し寄せる悲しみと無念を抱きながら。

――ごめん。ごめんな典子。俺、帰ることできないみたいだ。
   すまない、すまないノブ。俺、約束破っちまったよ。
   川田。俺、俺。お前みたいに戦えたのかな?――

顔に雨があたる。
温かい。そしてとても優しい雨が。
大粒で、なのに、不思議なほどにささやかな雨が。

――悲しませちゃったよな。
   でも、でもさ。俺は伝えたいんだ。お前に――

必死に七原が真紅の顔があるであろう所へ手を伸ばす。
小さな手がそれを強く強く握りしめる。

「俺、最期に――――」

言葉が出ない。
出るのはもう、血だけで。
ヒュウヒュウとした呼吸音だけが七原の口から流れる。

引き継ぎの時間がやってくる。
七原の体を雨ではない水が包み、砕き、溶かす。
そして、ハルワタートの口へと吸い込まれる。

七原秋也もまた、革命の志半ばで死ぬ。

だが。

新たな防人、真紅が彼の“願い”、知識を全て受け継ぐ。
“願い”は、七原の意志はローザミスティカに刻まれた。

189レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:58:25 ID:tqRZjrQo









――俺、最期にさ。
   良い友だちを守ることができて。
   本当に良かった――






七原秋也との消えない絆とともに。

190レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 19:59:08 ID:tqRZjrQo

【猿谷甚一@銀齢の果て】
【来須圭悟@未来日記 死亡確認】
【朧@バジリスク〜甲賀忍法帖〜 死亡確認】
【ノール@waqwaq 死亡確認】
【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!! 死亡確認】
【秋山蓮@仮面ライダー龍騎 死亡確認】
【チャン@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 死亡確認】
【七原秋也@バトルロワイアル 死亡確認】
【残り 28名】


【B-4/1日目/午前】

【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]: 疲労(極大)、“願い”インストール、七原の戦闘技術と知識継承
[装備]: ハルワタート@waqwaq、真紅の懐中時計@ローゼンメイデン
[道具]:基本支給品、ホーリエ、ハリセン@現実 、ローザミスティカ(水銀燈)、
     レミントンM870(8/8) 、レミントンM870(8/8)、
     ヴァルセーレの剣@金色のガッシュ、レミントンM870の弾(16発)
    カードデッキ(ナイト)、不明支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:七原秋也の意志と共に 。
1:???

【カントリーマン@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:全身ダメージ(極大)疲労(極大)
[装備]:奇跡の執刀(ハイブリッド・メス)@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、カードデッキ(龍騎)
[道具]:基本支給品×2、不明支給品×2、首輪(是方昭吾) 、首輪(相馬光子)、
     桜田ジュンの裁縫道具セット@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本行動方針:生きる。
1:???
[備考]
※是方昭吾、相馬光子の死体をアンデッドとして従えました。
※陽炎、相馬光子の武器を毒と判断しました。

【ミツル@ブレイブ・ストーリー〜新説〜】
[状態]:疲労(極大)
[装備]:ミツルの杖@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、 
     仮面ライダーファムのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品、不明支給品×1、BIM(爆縮型)@BTOOOM (7/8)
[思考・状況]
基本行動方針:妹を生き返らせる。手段は選ばない
1:???
[備考]
参戦時期:ゾフィが虚になった後。
魔法を使うと体力消耗。

※B-4に落ちてた基本支給品×6、捕鯨砲の残骸@銀齢の果て、
壊れた鉈@バトルロワイアル、BIM(クラッカー型)×5@BTOOOM!、
は放置されて消し飛ばされました。BIMくらいなら無事かもしれません。
カードデッキ(ナイト)、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
由乃の日本刀@未来日記、不明支給品(ノールの)、勇者の剣(ブレイブレード)@ブレイブ・ストーリー〜新説〜、ノコギリ@現実、救急箱@現実、ニューナンブM60(3/5)@現実、
不明支給品×2〜4(ゼオン、三村(武器ではない)が落ちています

191レボリューション  ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 20:00:05 ID:tqRZjrQo


……………………………………………………………………………………………………。
……………………………………………………………………………………………………。
……………………………………………………………………………………………………。




〜〜誰だって世の中を変えたいと思ってる。
   だけど、殺し合いに頼ろうというなら。
   悪いが俺は加担する気はない。
   そんなことするまでもなく、今に何とかなるさ。
   大丈夫。何とかするよ〜〜

  お、拍手をくれるのかい。ありがとう。
  けどこれ。盗作なんだけどね。いやはや。

歌い終わった後、そう言って彼は恥ずかしそうに笑った。
その姿も、私はきっと忘れない。

192 ◆1yqnHVqBO6:2011/06/17(金) 20:01:09 ID:tqRZjrQo
以上で再投下終了です
なにかあるようでしたら議論スレにてお願いします

193 ◆1yqnHVqBO6:2011/06/18(土) 00:02:58 ID:mwaOlYys
追加したのは
・来栖とノールが闘いに至る過程
・秋山の目覚めたあとの描写
・龍騎を見た秋山の反応

その他にも色々ありますが本筋に関わるものはこれくらいです

194 ◆1yqnHVqBO6:2011/06/18(土) 19:52:49 ID:mwaOlYys
指摘を受けて考えた結果。



>>177

> 「少年。ミツル、ありったけの電撃をソレに流すんだ!」
>
> 意味を理解したいたのはミツルだけ。
> だが、復讐に突き動かされている
> ゼオンの意識は本能でそれが正しい道だとわかった。



「魔本をよこせ少年!」

高ぶった心はそのままに。
王として相応しい修羅の心を十二分に備える
ゼオンはそれが正しい指示として来栖に魔本を投げ渡す。

その速度。まさに豪速球。

だがそれを空中で見事にキャッチした七原が来栖へとそのまま放る。

魔本を手に持った来須圭悟。

叫ぶ。ゼオンと同じように。
咆哮する。

最高の。雷の術を。

ミツルの電撃と同じタイミングで。


――ジガディラス・ウル・ザケルガ ――

水流が。水龍へと変わる。
まるで、ゼオンの弟である彼の『あの術』のような強大さを持って。

まだだ、まだ。
誰も諦めていない。

ありったけの巨大な龍が一つの電磁石となり。
それをノールがチャンの周囲へと動かし。体内磁石を狂わせる。



に変更します。
ご指摘ありがとうございました!!

195 ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 01:55:46 ID:MgNh.C8k
投下します

196金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 01:58:24 ID:MgNh.C8k


そこは遊園地の待合室。
けれど置かれた質素な備品はそこをまるで監獄かのように見せていた。
あるのはベンチとテーブルと安物のパイプ椅子。
そして鏡だけ。
普通ならばありそうな
子供のための着ぐるみや人形、おもちゃのたぐいは一切ない。

窓からさす陽が少しでも
部屋を明るく見せるのではないかと思っていたが、
現実はただ四隅を照らし、物品の少なさを際だたせるだけだった。

放送が流れるまで。
光が入ってくる窓から、
杉村は何度も外を見渡しあの少年を待っていた。

仮面ライダーの力を調べ、
カードなるものの効果を知ることができたのは大きな収穫だった。

それでも幾度となく火の海へと飛び込み探しに行こうか迷ったが、
ここには気絶したままの少女の形をした人形がいる。
逃げる場合、キャンチョメが彼女を抱えて逃げるのは
彼の術を見ても少し酷だろう。

それでも杉村弘樹は少年とまた会いたかった。
親友であるキャンチョメと会わせてやりたいというのももちろんある。

少年の死を知らされてもまだ。
火の中に飛び込み。
友を、命を、
助けに行こうとした彼の姿が瞼に焼きつき離れない。
あの迷いのない眼。小さくても力強い背中。

ガッシュ・ベル。
もう二度と会えないと放送により知らされた少年。
ほんの短い出会い。
彼が杉村に伝えた言葉は杉村の心から離れることはなく。

「牙でも、爪でもない武器。か」

同時に知らされた親友の再度の死。
どちらも杉村にたしかな衝撃を与え。
けれども我を忘れるほど悲嘆にくれるということもなかった。

つくづく薄情になったものだと杉村はため息をつく。
ガッシュ・ベルの死に悲しみ大声をあげて泣いていた
キャンチョメを見つめながら思う。

「それで。これからどうするヒロキ?」

赤い眼をこすりながらもキャンチョメは杉村にそう聞く。
鼻水だらけだった顔で、涙を流しきって乾いた眼でキャンチョメはそう聞く。

「お前はどうすればいいと思う?」

パイプ椅子にだらしなく背を預けながら
杉村は質問に質問で返す。

197金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:00:14 ID:MgNh.C8k

杉村の中で何度もリピートされるのは
先程の乱入したあとに起こった一部始終。
己の心に背くことをしたとは思わない。

けれども、あの馬、ウマゴンもまたキャンチョメの親友であり、
生きてはいるようだが詳しい状態を知ることはできない現状にしてしまった。
キャンチョメはそのことを教えられても杉村を怒り、憎むことはしなかった。

いや、こんな今だからかもしれない。
共にいる杉村を否定するのはこの殺し合いに独りで立ち向かうのと同義だから。
唯一の同行者を突き放すのはこの糞ったれなゲームでは大きく死に近づく。

俺は何をしたいんだろうか。
杉村は繰りかえし己の心に問う。
キャンチョメの友を攻撃し。見殺しにして。心に傷を負わせ。
俺が得たものはなんなのだろうかと。

杉村の脚は動こうとしてくれない。
杉村の心は挫折から奮い立とうとはしてくれない。

「考えたんだけどさ」

そこにあるのはどこか杉村を勇気づけようとするような。
気遣うような響き。

キャンチョメも同じくパイプ椅子に座っているが
そもそも背の高さからして違う。
向かい合う杉村からはテーブルに
アヒルのクチバシが乗っているだけのように見えてしまう。

その愛らしく、幼い姿。杉村はあらためて認識する。
目の前の奇妙な姿をしたアヒルの彼も間違いなく子供だ。

子供から親友を奪う原因の一つと自分はなってしまった。
その思いは罪悪感となって
茨のようにじくぅりじくぅりと杉村の心を苛む。

「聞いてる?」

キャンチョメの言葉で弱く堕ちそうな心を立て直し、
だらしなく崩れていた姿勢も改める。

「すまない。えっと、どこへ行くかという話だっけ?」

「うん。さっきの放送を見て思ったんだけどさ」

キャンチョメは待合室に置かれている鏡を指さす。

「当然と言えば当然なんだろうけどさ。
 放送のとき、鏡に写るのと首輪とか小さなものに映る影じゃあ。
 映すものが大きい方が大きく見えたんだよね。
 鏡だとほとんど全身が映ってたりさ」

杉村はキャンチョメの言葉に放送の時を思いだす。
そうだったろうか?
いや、あのときは三村達の死の衝撃でそこまで
注意してみることなんて自分にはできなかった。

198金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:01:45 ID:MgNh.C8k


「すごいな。キャンチョメは」

心から感心して杉村は賞賛する。

「え、えへへへへ。やめてよ照れるから!」

涙にかすれた声でキャンチョメは胸を張って笑みを浮かべる。

ああ、この子は強い。
少なくとも俺よりはずっと。
杉村は無力な結果しか産まなかったデッキを知らずに握りしめる。

「でさ。地図をよく見なおして見たんだけども。
 砂漠にはオアシスがあるみたいなんだよね」

そこまで言われて杉村もようやく合点がいく。

「なるほど。鏡としての広大な水か。
映すものが大きければ大きいほど
こちらからも相手が見えるんだもんな」

「どう思う?」

杉村は微笑みながらキャンチョメの提案を首肯する。

キャンチョメは手を上げて喜ぶ。
その手にあるのはガッシュの形見とも言える紙粘土が握られていて。
まだなんの形にもなっていないソレが
キャンチョメとガッシュの絆の強さを教えてくれる。

それと共に渡されたガッシュの言葉。

きっと、ガッシュとはまた会うことができる。
そう思って、信じていた杉村は
キャンチョメにまだその言葉を伝えていない。

「とりあえずは」

杉村はベンチに横たわる少女人形を見る。
気休め程度に布団替わりに調達してきたカーテンを敷いてその上に寝かせた少女。
安らかに眠ることができているように見える少女。

「この子が目を覚ましてからだな」

199金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:03:13 ID:MgNh.C8k


………………………………………………………………………………………………………。


ここは雛苺の世界。
第82633世界。
お菓子と、おもちゃ。
たくさんの楽しいものにあふれた世界。

だからみんな楽しく遊んでいる。
ここでは何も辛いことはない。
真紅達と殺しあわなければいけない絶望も。
全てを焼き、喰らい尽くす恐ろしく巨大な龍も。

なにもかもがいない。

「だってここは夢だもの」

たくさんの大好きな人に囲まれながら雛苺は独りつぶやく。

「だって夢は楽しいものだもの。
 明るくきれいなものだもの」

ほんの僅かに目を伏せ、睫毛に影を宿す。

「いつかヒナの眼が醒めて。
 みんなはまた殺し合いを強制されるの」

けれど。
せめて。どうかせめて。
時が経ち。瞼が開かれるその瞬間までは。
この安らかな世界で――――

暗転。焼失。消失。
そのどれかであり、そのどれもである現象が雛苺の世界を覆う。

目覚めの時が来たのだろうか。
そう雛苺は思ったのだけれど。
闇と呼べそうなほどの暗がりに光が射す。

そこは、広いお屋敷の中。
ほんの少し昔。
一緒に遊んでいたマスターが雛苺の前にいる。

悲しそうな顔。
憐れむような顔。

ああ、この顔は知っている。

「かくれんぼしましょう。雛苺。
 静かに。見つかるまで。
 鞄の中で待っていてね」

かつてのマスター、コリンヌは雛苺に諭すように言う。

「わかったわ。
 ずっと待っているわ」

200金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:04:00 ID:MgNh.C8k

だめ。これはだめ。
知っているの。あなたがどういうつもりでいるのか。
これが決して終わることのないかくれんぼになるって。
あなたは決して見つけてくれることはないんだって。

そう、雛苺はコリンヌに言おうとして。
ここは夢のなかでも、この過去を今、見せられるのは苦しくて。

雛苺は、手を前に伸ばす。
コリンヌを引きとめようと手を、ただ前に。

けれども手は動いてくれず。
口は少し開いても音を出してはくれず。

雛苺が今いるのは楽しかった夢のなかではなく。
苦しかった過去の幻影。

知らぬ間に横たわっていたのは鞄。
寝心地のよいそこは。
これから起きる……起きたことを知っていると
棺にしか思えず。

雛苺は懸命に声をだそうと。手を伸ばそうと。

コリンヌはゆっくりと鞄を閉める。
降りてくる暗がり。
狭くなっていく光。

だめ。お願いやめて。
独りにしないで。
もう開くことのない暗闇にいるのは嫌。
雛苺はただそれだけを願って。
それでも、体は動いてくれなくて。

閉じられる瞬間。
ようやく雛苺の手はほんの少し動き。
コリンヌを引きとめようとして――――

なのに、どうしてか。
雛苺の小さい手。指先。
そこから白い白い茨が、肉を突き破るかのように飛び出し。

「さようなら。雛苺」

閉じられる瞬間。
コリンヌの顔は巴へと変わり。
無情な顔で、光を閉ざす。

「いや。いや。嫌。」

違う。この茨は違うの。
あの白薔薇はもう離れているのだから。
だからこれも夢。夢。
みんな、夢なの。

指を突き破り、蠢く触手めいた茨のソレ。
引き抜こうとしても掴む指を傷つけるだけで動きはせず。

201金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:05:57 ID:MgNh.C8k

「出して」

雛苺は叫ぶ。
鞄の裏を必死に叩きながら。
体内から己を食い破ろうとする触手の脈動に意識を犯されながら。

「おねがい! だして!
 ここからだして! こわい! いたい!」

雛苺。ローゼンメイデン第6ドール。
最も幼い少女の形に作られたドール。
触れることすら躊躇われる。
笑顔ふりまくのが相応しい彼女。

その雛苺の胎を陵辱する白薔薇の棘、白薔薇の蔓。
雛苺の胎内でゆっくりと収縮しながらそれは動き出し。

「……ぁ。
 痛っ! …………いや! いや!
 ひとりにしないで! のり! 真紅! 翠星石! かな!」

白薔薇はここにはいない。
これはかつて起きた出来事の再生にすぎないのだから。

夢。夢。
なのに、触手はゆっくりと内側で領土を広げ。

「いやっ…………!」

202金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:06:33 ID:MgNh.C8k


――雛苺はもうずっと鞄にしまっとこう。
――そうしましょう。
――いらないものね。
――おまえなんかいらない。
――だれがおまえを必要とするものか。

大切な人達の声が、否定の言葉をかたどって。

「あ、あぁ。あああああああああ!!」

茨は突き破りながらも皮膚の下を食い進み。
次第に顔へとそれは伸びて。

ついには右眼へと。

「助けて! 助けて!!」

鞄をいくら叩いても。声を張りあげても。
応えてくれるものは誰もいなくて。

茨はゆっくりと、静かに雛苺のアイボールを抉り、摘出して。
アイホールに白い薔薇が咲く。

「トモエ!」

夢のなかでも。
雛苺の精神は確実に壊されていく。

「ジュン!!」

残る左眼が茨に包まれていく彼女の右眼を捉える。

それでも。
鞄が開けられることはなく。

203金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:07:45 ID:MgNh.C8k

…………………………………………………………………………………………………………。


「これは!?」

部屋を埋め尽くすかのように発生した茨を見て
杉村は驚愕の声を上げる。

決して広くはない。
10歩も歩けば壁についてしまうようなそんな部屋。
その中で嵐のように茨が暴れる。

「キャンチョメ!」

よく見ればところどころに苺を実らせている棘の鞭が
キャンチョメに襲いかかる瞬間。
杉村は茨を背中で受け止め、キャンチョメを抱え大きく跳ぶ。
体内の肉が弾けるような衝撃が杉村の意識を揺らす。

「大丈夫かい弘樹!?」

身を案じるキャンチョメの言葉に杉村は頷くと
茨の海へと眼を向ける。

その動きはそう、渦に似ていて。
周囲のテーブル、椅子、鏡を粉砕し。
壁に深い傷をつける。

全てを壊すような茨。
その中心にいるのはガッシュから託された人形の少女。
その顔はよく見えず。
何か悲鳴のような苦鳴のような声が
聞こえるような気がしなくもないが
部屋を満たす破砕音が判別を困難にさせている。

「あの子に何が起こってるんだ!?」

困惑しながら破砕音の中、杉村は叫ぶ。

「わからない!
 けど…………」

震える脚を抑えつけるかのようにキャンチョメは
大きく足を踏み鳴らす。
その手にある紙粘土はまだどんな形をとってもいないが
確かな勇気をキャンチョメに与えている、

「とめないと。
 ガッシュみたいに……死んじゃう前に」

204金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:09:34 ID:MgNh.C8k

その声は震えていて。
今にもその場から逃げ出しそうな弱々しさを持っていて。
けれども奥底にあるのは強い勇気。

「もう、怖いことから逃げるのはいやだ」

杉村はその言葉に応える代わりに
キャンチョメの隣に並び、魔本を受けとる。

ガッシュとの出来事から知ったこと。
パートナーでなくとも行使可能な魔本を通じての術。

「フォウ・スプポルク!」

魔本を開き、
異世界の言語を心で解読した杉村は高らかに
読み上げる。

相手へダイレクトに術の停止を命じる新たな術。
ガッシュの死が新たな扉を開けたのか。
少女を止めようとする意志がキャンチョメを奮い立たせたのか。
初めて発動した彼らが正しい効果を知らなかったとしても
動かない相手ならこれ以上ないほど有効な一手。

だが茨はさらに勢いを増し、壁に大穴を開け。
杉村達の皮膚を傷つけていく。

「外したのかキャンチョメ!?」

「たぶん違う!」

己の直感に確信を持ったキャンチョメは強く拳を苦悩に握りしめる。

「あの子の力が暴走しているんだ」

暴走。
ならこれは彼女の意志を超えたものなのか。
それとも彼女の意志が壊れた証なのか。
杉村には判断がつかない。
ならばどうするのか。
いや、どうにかできる選択肢があるのか。

眼に浮かぶ火の海に飛び込んだ
ガッシュはこんな時どうするのだろうか。
誰よりもCOOLな三村はこんな時、どんな手を打つか。

鋼の鎧を纏い、白銀の爪を生やし、牙を持つ化物を従えて
少女を討つしかないのか。

わからない。
なにもかもが。
無力感がまた杉村の心に重くのしかかる。

205金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:13:09 ID:MgNh.C8k

「……あれ?」

眼が眩みはじめ、天と地の区別がつかなくなるような大渦の中。
キャンチョメの声が杉村を現実に呼び戻す。

「なんでボクたちは無事なんだろう」

杉村はその言葉に眼を見開く。

そうだ。
こんなに狭い部屋の中で、
こんなにも荒れ狂う茨に打ちつけられ、
そんな中、当然のようにあらゆる物が破壊されているのに。
なぜ杉村とキャンチョメは無事でいられるのか。

「キャンチョメ。
道をつくってくれ」

「だ、ダメだよ弘樹!
ここは僕が」

「俺たちの武器は牙でも爪でもない。
 君の親友はそう伝えて欲しいと俺に言った。
 ……本当にそうだって心から信じられるか?」


杉村の言葉にキャンチョメは瞳を揺らがせる。

「俺はきっとそこまで強くはいられない。
 けれど、せめてそれが答えの一つになれるって証明したいんだ」

二人同時に気づいたありえる事実。
だがまだ一つの可能性でしかないもの。
それに賭けるには無手で望まなければいけない。
命を死地にさらさなければいけない。

だが。

「君の親友ならきっと諦めなかったと思う。
 思いたい。だから、キャンチョメ。
 俺に力を貸してほしい」

「……わかった!
 やってやろうぜ弘樹」

キャンチョメは親指を立てながら杉村に応える。
何度も茨に打たれ。
それでも死なぬ二人の男の眼。
その先にあるのは、何か。

「目指すは茨の海の中心だ」

魔本を片手に、ライダーデッキはキャンチョメに預け。
クラウチングスタートに近い前傾姿勢をとる。

206金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:15:09 ID:MgNh.C8k

「ディマ・ブルク!!」

再度、術を高らかに読み上げると杉村は魔本を
キャンチョメに放り、走る。

その前を行くのは8体のキャンチョメの分身。
だがそれは全てはっきりと実体を持っており。
身を呈して杉村を茨から守る。

走る。走る。
茨の与えるダメージが大きくなろうとも
杉村は決して足を止めない。

3歩。
筋肉がちぎれかける音がその耳に聞こえても
進んだ距離はまだそれだけ。

だが止まってはいない。
四歩目、五歩目。
さらに、さらに!

「くっ……ううおぉ!!」

視界は既に棘の鞭が作った傷と血で埋まっている。
何も見えない。

それでも杉村は駆ける。賭ける!
少女が己の絶望に抗っているからこそ
自分たちは死なずにいられるのだと信じる。

あらゆる物を砕く茨が杉村達を破壊できないはずがない。
生身はそれほど強いものではない。

ならば、答えはきっと。
少女が懸命に傷つけまいとしているからだと
杉村とキャンチョメは信じる。
ガッシュはそう信じただろうと信じる。

目を閉じ。
あらゆる痛みが五感を叩いても、
杉村はただ前を見て。

閉じた瞼の先にも宝石のように尊く美しく輝くような光にむけて。
ただ前へ、両手を伸ばして――

手を伸ばし、脚を動かし。
全身で海を掻きわける。
ガッシュ・ベルが命を救うために炎の海に飛び込んでいったように。

そして、ついにソレを掴む。
守ってくれていたはずのキャンチョメの分身は全て消え。
剥き出しの攻撃が手加減なしかのように襲いかかる。

爪が剥がれ、体中が押し潰されるように悲鳴をあげる。
そして、その光が杉村の内にと直接触れて。
感情が濁流のように流れこむ。

207金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:16:48 ID:MgNh.C8k

それは内に蠢く食い破る者への恐れ。
それは殺し合いへの強い忌避感。
あの遊園地を喰らった火の海が、混沌が、
彼女の中の何かを呼び起こしたのだろう。

だがその感情はきっとまだ対処できる。
懸命に抗おうと淡く輝くそれを感じることができるから。

彼女の恐れの元は、内に蠢く者は今はいないのだから。

茨の棘が体中を傷つけても杉村は構わず
人形の少女、雛苺を抱きしめる。
爪をもって引き裂かぬよう優しく、
爪に恐れを抱かぬようそっと。

そして、牙を剥かぬ口で力強く、
牙をもたない口だからこそ穏やかに言葉を伝える。

「俺達は」

感情の奔流が杉村の心までも壊そうとする。

だが、彼の瞼には炎の中で煌めく金色が色褪せず残り。

「君の味方だ」

その言葉、水面を伝う波のように雛苺へと送り。
波紋するかのように彼女の心を震わせる。

208金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:17:42 ID:MgNh.C8k


天井を埋め尽くしていた茨は幻だったかのように消え失せ。
雛苺を抱きしめたままの杉村は力が抜けたのか床へと仰向けに倒れこむ。

キャンチョメが歓声をあげながら杉村へ駆け寄ってくる。

「やったよ弘樹!!」

全身に傷を作ったキャンチョメは
同じく傷だらけの杉村に笑顔をむける。

「何やったか全然覚えてないんだけどな」

疲れきった顔の中に達成感を浮かべて杉村は応える。

「いや、もう凄かったんだよ!」

「どんな風に?」

ぼやける頭を起こすように頭を大きく振って、
杉村は尋ねる。

「ええっとねえ……」

顎に手を当ててキャンチョメは相応しい言葉を探す。

「足を動かして。
 両手を前に伸ばした……かんじ」

苦心してひねり出したキャンチョメの表現に
杉村は苦笑する。

「それ、誰でもできることなんじゃないか?」

「いや、違うんだよ!
ああ、もうなんて言えばいいかなあ!」

もどかしそうに手を振るキャンチョメを微笑ましそうに見ながら。
杉村はほんの一瞬の邂逅だった少年の姿に想いを馳せる。

――きっと君との出会いがなかったらこうすることはできなかった。
   だからこれは君への手向けだ。

眼に浮かぶのは誇り高き金色の眼差し。
暴火に負けない眩しき金色の髪。

「牙も爪も。
俺たちの武器じゃないんだよなやっぱり」

静かに、杉村は独り呟き。

――さようなら。
   やさしい少年王ガッシュ・ベル。


そして、雛苺の瞼が開く。

209金色の彼に花束を  ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:18:58 ID:MgNh.C8k

【A-7・遊園地の待合室/一日目/午前】

【杉村弘樹@バトルロワイアル】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(中)、心の力消費(中) 、全身裂傷、
     指の爪剥離
[装備]:英雄の証@ブレイブ・ストーリー〜新説〜 、仮面ライダータイガのカードデッキ
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針:七原と合流 
1:少し休んだあと、オアシスに行くことを考える
2:時間を見つけて仮面ライダーとしての力の使い方の練習をしたい。
3:城戸真司に会えたら霧島美穂からの伝言を伝える
4:もし、桐山が琴弾を殺したのだとしたら、俺は……

[備考]
この殺し合いを大東亜帝国版プログラムだけでなく、
それとよく似た殺し合いの参加者も集められていると暫定的に推測しています。
仮面ライダーへの変身の仕方を理解しました。
カードの使い方も大体把握しました。
参戦時期:琴弾と合流後、桐山襲撃直後

【キャンチョメ@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康、力への渇望、全身裂傷、疲労(中)
[装備]: キャンチョメの魔本@金色のガッシュベル!! 、粘土@現実、ポップコーン@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を探す
1:ちょっと休んだあと、オアシスに行くことを考える。
2:あの女の人はなんだったんだろ?
3:フォルゴレがいないのになんで呪文が使えたんだろう?

[備考]
何故かパートナーがいなくても術が使えることは理解しました。
本がフォルゴレ以外でも読めると知りました。
フォウ・スプポルクを修得
参戦時期:ファウード編以降

【雛苺@ローゼンメイデン】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、クレヨン@現実、人参@現実
[思考・状況]
基本行動方針:誰も傷つかない世界が欲しい。
1:???
※シュナイダーの愛称はウマゴンでいいよねと思っています。

210 ◆1yqnHVqBO6:2011/07/27(水) 02:20:38 ID:MgNh.C8k
以上で投下終了です。
問題ないようでしたら手間をかけてしまいますが
代理投下をお願いします

211 ◆1yqnHVqBO6:2011/07/28(木) 07:51:03 ID:y/ZWSN4A
申し訳ない。
本スレ>>702

>全てを焼き、喰らい尽くす
>ザーバウォッカのような巨大で恐ろしい龍も。

全てを焼き、喰らい尽くす
ジャバウォックのような巨大で恐ろしい龍も。

の間違いです。
修正します。


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