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都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……代理投下スレ

399台風一家:2016/08/17(水) 17:37:18 ID:TOFDvYmw


学校町

人と人ならざる者が棲む町

そして常に人ならざる者を惹き付ける町

人ならざる者は時として人に牙を剥き襲い掛かるが

しかし全てが人に仇名す存在というわけではないらしい

そして、夏

彼らは遂にやって来た




「**さ〜ん」

男は町の中央に近い東区の歩道を歩いていたが、背後から掛かる声に思わず振り向く
見慣れぬ青年が手を振りながら小走りに駆けてきた

「ああ、やっぱり**さんでしたか!」

見慣れない顔だ、だがどことなく面影のある顔
不意に男は思い出す
かつて、晩夏に学校町へやって来た一家のことを
彼らが学校町に滞在したのは短い期間だったが、男は忘れていなかった

「も…、もしかして、○○なのか?」
「本当にお久しぶりです、**さん」

彼の顔を見ている内に完全に思い出した
あの時、この青年に会った時はまだ子供だった筈だ

「すると、今年も家族そろってこの町に?」
「ええ。いえ、実は父も母も老化を理由に引退してしまって」
「てことは、キミが…」
「はい、父から役目を引き継いで今度は僕が」
「おとうさーん!」

後ろから子供が一人、走って来る

「おとうさーん、速いよー!」

更にその後ろから、子供が一人とその母と思しき女性が駆けてきた

「そうか」
「はい、僕ももう父になりました」
「そうか…」

感慨深い
あの時の子供が父になり、こうしてまたこの町にやって来たのだ
彼らはそういう都市伝説なのだ




台風を追って日本各地を移動するという家族の話

都市伝説<台風一家>はこの夏も学校町へやって来た

<了>

400とある都市伝説の野望   ◆nBXmJajMvU:2016/08/18(木) 22:44:11 ID:UDeMDesM
 やぁ!俺、野良都市伝説!
 君達は「This Man」を知っているかな?「夢の中に出る謎の男」のほうが日本では一般的だろうか
 一時期、世界的に有名になった都市伝説とは俺のことだ!
 事の発端はアメリカ、ある女性が夢で俺の顔を見たことから始まった!
 まぁ、詳しい経緯をはすっとばすんで適当にググれ。とにかく、不特定多数、世界中の人間の夢のなかで、俺の顔が出た
 つまり、世界中の不特定多数の人間が、「全く同じ顔の男」を夢の中で見た、って事さ。役割は夢ごとに違ったようだけどな
 その人数、実に実に3000人を越える!もしかしたら現在進行形で増え続けているかもな
 不気味だろ?不思議だろ?なぁんにも共通点のない人間共が、それも世界規模で同じ男の顔を、夢で見ている、だなんて!!
 これには、「ある組織が夢を操作しようとしたのが原因だ」なんておひれがついたりもする。ある組織っつか、ある大国の軍隊が、な!

 さて、説明が長くなったが、そんな俺が学校町にやってきたのは、ただひとつ
 ぶっちゃけ、今学校町、色々混乱しているらしい。「九尾の狐」が潜んでいるとか、「バビロンの大淫婦」がやってきたとか、子供帝国とかなんとか
 そんな混乱している最中に、俺が入り込む
 そして、ここで俺の「This Man」としての能力を使えばいい
 噂によって都市伝説たる俺が手に入れた能力は「夢の操作」。そして、そこからの「微弱な洗脳能力」
 狐だの淫婦だの、洗脳能力持ちが大量にいる中で使えば、あまり目立たないはず
 そうして、俺の国のために役に立つ「兵隊」を大量生産しておくのだ、いざというとき、周囲の人間を無差別に殺せるように………


『邪魔だよ、お前』


 え?
 ……あ、地元の高校生か?
 なんだ、どこぞの漫画の「大嘘憑き」みたいな、カッコ(括弧)つけて……


『邪魔なんだよ。ただでさえ、このところ忙しいのに』
『うん、邪魔だね。こちとら、「狐」で手一杯なんだ。「バビロンの大淫婦」だって、さっさと見つけて始末したいってのに』
『お前までやってこられちゃ、邪魔だ。なぁ、「This Man」』

 あれ?
 ま、待て、待て待て待て
 何で俺の正体がわかってるんだ、この餓鬼共
 一体、何故……

『お前の顔は、ある意味有名だからな』
『都市伝説について調べてる身なら、なんとなくは記憶にあるんだよね』

 ま、まさか、それだけで……

『後はまぁ』
『俺も、こいつも、都市伝説の気配には敏感な方なんだ』
『うん、だから、ごめんね』

 ………っは
 何、なん…………

 何だ?
 そっちの金髪の方はいい
 「お前」は何だ!?


『悪いけどさ、消えてもらうよ。「This Man」』
『安心しろよ。お前の所属しているとこは、俺達にお前がやられた事すら、気づかない』
『気が付いたらやられてる、ってなると思うよ』
『大丈夫』
『いつもとおり、うまくやるから』









「……あれ………!?」
「咲夜ちゃん?どうしたの?」
「あ、あれ……?うーん、気のせいかな。人が倒れてるように見えたんだけど」
「え?どこ?」
「あっちの路地……うーん、いないや。気のせいかな。なんか、すっごい殴られた死体みたいに見えたんだけど…」
「思った以上に具体的なたとえでなんか怖い!?」
「気のせいじゃない?ほら、行きましょ行きましょ。今日はフェアリー・モートがレディースデーでスイーツお得なんだから、女子みんなで集まったんだし!」
「あっ、あっ、優ちゃん、神子ちゃん、待って…」
「ほら、唯もいつまでもそっち見てないで、行きましょ」
「………えぇ」


【とある都市伝説の野望 〜始まる前に終わった話ー】 おしまい

401夢幻泡影:Re † シン・レツヤ ◆7aVqGFchwM:2016/08/29(月) 21:53:55 ID:2ecBNypM
「------だから! 俺の方が先輩だろうが!!」
「それは学年の話だろ! 契約者としては俺が先輩だ!!」

西の空が黄金に染まる、黄昏時
2人の少年-水無月清太と妹尾賢志が口論しながら歩いている
理由は、至極小さな事で

「ていうか、やっぱり師匠の弟子は俺だけで良いんだ!」
「あ゛ぁ!? 俺の先生なんだからテメェこそ破門されちまえ!」
「はぁ…とうとう決着の時が来たみたいだな!」
「上等だ、かかってこいや!!」

構える2人
漂う冷気、沸き立つ熱気
互いに火花を散らせ、今まさに戦いの火蓋が切って落とされようとした時だった

「…おい、いるよな?」
「うん、何かが…2つ」

一時休戦
僅かに感ずる小さな気配を、恐る恐る辿って早数分
道端でうずくまる、高校生くらいの男女の姿
先に声をかけたのは、賢志だった

「…なあ、どうかしたのか?」
「ん?……あぁ、ごめんな、勘違いさせたみたいだ」
「くぅーん」

鳴き声の主は、少女に抱かれた犬
ゴールデンレトリバーに似た子犬だが、首輪はついていなかった

「へぇ、子犬か。姉ちゃんの?」
「ううん、ここでフラフラと歩いてたの」
「野良犬にしちゃ大人しいな…ってか、」
「こいつ多分「「都市伝説じゃッ」」…」
「へ?」

賢志、清太、そして少年
3人の声が見事に揃った
暫しの沈黙、破ったのは少年

「君達、やっぱり契約者だったのか」
「兄ちゃんは多分、″そのもの″かな」
「敵じゃねぇのは分かった。俺等はあんたと…その子犬の気配を追ってきただけだ
 俺は妹尾賢志、こいつはチビ」
「嘘教えんな!? あ、俺は水無月清太」
「俺は中橋光陽、こっちは松葉美菜季だ。よろしく」
「よろしくね、二人とも。…ところでこの子どうしよう」
「何か元気なさそうだな…腹減ってんじゃねぇか?」
「さすが、鼻も効くし実は仲間なんじゃない?」
「うるせぇ!っつーかそりゃテメェもだろうが!!」
「(並んで来たのに仲悪いな?)…まぁまぁ、とりあえず何か食わせてやろう」
「じゃあ、一度家に帰ろっか」
「俺達もついてって良い? 心配だし」
「勿論。いつ都市伝説に襲われるかも分からないし、心強い」
「聞きてぇこともあるしな。光陽さん、あんたは一体------」

402夢幻泡影:Re † シン・レツヤ ◆7aVqGFchwM:2016/08/29(月) 21:54:33 ID:2ecBNypM
「待て」

声と共に、金色に輝く光の刃が飛来する
間一髪、4人はその刃をかわした
「っつ…テメェ!いきなり何すん------っ!?」
「な、何で…?」
「お前等。その下等生物を差し出せ。さもなくば…全員、俺が滅ぼしてやる」

そこに立っていたのは黄金の鎌を持った黒づくめの少年
腰には黒と金に輝く機械的なベルトをつけ、
風になびく長い前髪から、隠れていた右目の傷が露わになっていた

「裂邪!」「黄昏くん!」「師匠!」「先生!」
「「「「え?」」」」
「無駄話が続くような反応は止めろ。俺の話を聞いてなかったのか?」
「…黄昏くん……この子犬をどうするつもりなの?」
「殺す。跡形もなく、な」
「ちょっと待て裂邪、こいつは何もしちゃいない
 ここで腹空かせてただけだぞ?」
「だからどうした。腹を満たせば好き放題暴れられる
 お前等も気づいてんだろ? そいつは都市伝説だ
 危険因子は速攻で潰す…それだけだ」
「だからって------」
「光陽兄ちゃん、その子犬を連れて逃げて」
「っ、でも」
「何か師匠、いつもと違う。何言っても聞かなさそうだ
 でも師匠の言うことが正しいとは思えない」
「ここは俺等で食い止める、早く行ってくれ!」
「逃すと思っているのか!!」
「『ブリリアント・ウォール』!」

裂邪が放った金色の斬撃を、緻密に重なった無数の水晶の柱が受け止め、崩れた
清太と賢志の意志を受け取り、子犬を抱きながら躊躇う美菜季の手を引いて、
光陽は速やかに、その場から走り去った

「…随分と生意気なことをしてくれたな
 ″馬鹿弟子″か…東方不敗の気持ちがこの上なく理解できた」
「清太、覚悟は出来てんだろうな?」
「そっちこそ。というか、その気じゃないとさすがに逃げ出すよ」
「だよな。何せ俺等は今------」



------一番ヤバい人に喧嘩売ってんだから



「清太。俺の言うことが正しくないと
 賢志。この俺を食い止めると
 確かにそう言ったな」

403夢幻泡影:Re † シン・レツヤ ◆7aVqGFchwM:2016/08/29(月) 21:55:15 ID:2ecBNypM
息を飲む2人
裂邪は話しながら、己のスマートフォンを取り出し操作し始めた

「″正義″……70億人70億色という途方もない中で、
 誰もがたった一つのそれを求めている
 真に正しい、揺るぎない″正義″…誰が、如何にしてそれを決める?
 ″正義″と″正義″のぶつかり合い……人はそれを″戦争″と言った」

《レイヴァテイン》
スマートフォンから機械音声が響くと、
彼は、ひょう、とそれを頭上に投げた

「俺はお前等を否定しない…だが肯定もしない
 ″正義″を掲げるのであれば、この俺にその力を示せ
 お前等の″正義″…俺が見定めてやる
 ----------再解放」

落ちてきたスマートフォンがベルトのバックルを通過するや否や
スマートフォンは一瞬にして消え、代わりにバックルの水晶体を中心に、
裂邪の身体中を金色のスパークが駆け巡った
直後、彼の持つ黄金の鎌-「レイヴァテイン」が融け始め、
彼の身体を覆い尽くすと瞬時に黄金の鎧を形作る

「命を懸けてかかってこい」
「上等だ、行くぞ先生!!」

賢志の右腕が激しく燃え上がる
清太の右腕が美しい水晶になる
2人は同時に裂邪に向かって駆け出し、拳を構えた

「『フォビドゥン・ナックル』!!」
「『クリスタル・パンチ』!!」
「『シャイニング・フィンガー』」

ぴたり、と2人の拳が止まったのも、ほぼ同時
金色の稲光を放つ掌が、炎と氷の拳をいともたやすく受け止めた

「「ッ!?」」
「随分驚いてるようだな
 この程度で倒れるようなら…俺はとうに死んでいる」

勢いよく放り投げられながら、抱いていた違和感が確信となった
最初の裂邪の斬撃
寸でのところで避けられたが、何故気づけなかったのか
都市伝説と契約してから、都市伝説やその契約者の気配が読めるようになった
しかし、今の裂邪にはそれがない

404夢幻泡影:Re † シン・レツヤ ◆7aVqGFchwM:2016/08/29(月) 21:55:58 ID:2ecBNypM
「今度はこちらの番だ」

体勢を整えて何とか着地すると、裂邪の背の、剣のような4枚の羽が、
分離して宙を舞い、開いた花のようにくるくると廻る

「消し飛べ、『ウィア・ラクテア』」

花の中心から、黄金色の光条が発射され、
賢志と清太を飲み込もうとした
思わず一歩退いた賢志とは反対に、清太は水晶化した右手を差し出しながら前に出た

「『イーヴィル・ブレイカー』!!」

清太の契約都市伝説「水晶は邪気を吸収する」の真骨頂
裂邪の怨恨に満ちた光条を、右掌で受け止めた
しかし、

「あがっ!?」

ばちっ!!と大きな爆裂音が響き、清太の右腕は身体ごと弾かれた
光条は勢い衰えぬまま遥か後方へと進み、轟音と共に爆発する

「っちょ、どうなってんだ!?
 いつもなら平然としてっだろ!?」
「お、おい、セキエ!」
(…邪気ガ強スギルッ……初邂遨ノ時トイイ、此奴一体…)
「ウヒヒヒヒ、邪気が飽和しちまったみたいだな
 これで面倒な能力は封印した」

花は散り、今度は裂邪の周囲に浮かび、雷光を纏った切っ先を清太達に向けた
2人は能力でそれぞれ水晶の剣と金属バットを作り、身構えて次の攻撃に備える
寧ろ、接近して近接戦闘に持っていきたいところなのだが---

「少しは師匠らしいことをしてやろうか
 さあ始めよう、6コンボしないと地獄逝きだ
 ---『フィクス・カエレスティス』」

4つの翼は一斉に3発の光弾を、リズミカルに撃ち出した
剣とバット、得物を上手く操って″6コンボ″ずつ防いでゆく
当たればどうなるか---それは流れ弾によってえぐられた道路や塀が物語る

「ウヒヒヒヒ、さすがは俺の弟子達だ」
「先生! どうしてこんなッ…何の罪もない子犬を、どうするつもりなんスか!?」
「言ったろう? 肉片になるまで苦しめながら殺す
 この世に生まれたことを後悔するようになぁ!!」

405夢幻泡影:Re † シン・レツヤ ◆7aVqGFchwM:2016/08/29(月) 22:07:03 ID:2ecBNypM
「一体、あいつが師匠に、何したってんだよ!」
「″原罪″ってのを知ってるか?
 原初の人間である我々の父と母---アダムとイヴが犯した罪は、
 その子孫たる人類全てが背負って生きている
 たった一匹の下等生物によって、俺は屈辱を味わわされた
 その罪は種族全てで負わなければならない
 それが都市伝説だろうと例外はない!!」
「間違ってる!!…馬鹿げてるぜ、先生ェ!!」
「何度も同じことを言わせるな!!
 はっきり言うが、俺は己が正しいなどと、″正義″などと思っちゃいない!
 寧ろ、この俺こそが真の″邪悪″…正されるべき″邪″そのものだ!
 正してみろ、お前等の全力の″正義″で!!」

攻撃を止め、4枚の羽が背中に装着されると、
裂邪は地面を蹴り、猛スピードで2人に接近した
一瞬、その気迫に臆したが、またとない好機、みすみす逃す訳がない
清太と賢志は、武器を振りかざした

「「うおおおおおおおおおおおおおおぉ!!!」」
「『ジャスティスブレイカー』」

剣とバットに両掌がぶつかる
否、触れる寸前に勢いが死に、時が止まったかのように静まる

「「ッ!?」」
「終わりだ、『クェーサー』」

金色の光弾が両掌より放たれ、武器は消滅し、
賢志達は吹き飛ばされ、塀に強く身体を打ち付けた
呻き声、荒い息遣い
ハァ、と裂邪は溜息を吐いた

「つまらん。この俺にただの一撃も与えられんとは
 時間の無駄だったな、お互いに」

そう言い残すと、裂邪は弟子達に背を向け、歩き出した
邪魔者はもういない、あとは光陽達が連れている「ライラプス」を---

「ま、て…師匠…」

ざ、と足を踏ん張り、彼等は立ち上がる
貫かねばならぬものがあった
己の″正義″、そして目の前の″邪悪″

「ほう、少し見直したぞ」
「うるせぇ…まだ、戦える…」
「絶対、止める…都市伝説をやっつけるつもりで…
 本気でぶん殴るからな、師匠!!」

怒りの熱気と冷気が、辺りに立ち込める
対する裂邪は、

「…ウヒヒヒヒヒヒヒ…」

わらった

406夢幻泡影:Re † シン・レツヤ ◆7aVqGFchwM:2016/08/29(月) 22:08:19 ID:2ecBNypM
「ヒハハハハハハハハ!!」
「っ、な、何笑ってやがんだ!?」
「ヒハハハハハ…お前等、一つ教えといてやろう
 俺は7つの都市伝説と契約している
 今、俺がここで使ってるのは「レイヴァテイン」だけだ
 その意味が分かるか?」
「な…、七つ……って……」

奮い立ったが束の間、震えが止まらなくなった
全力の1/7で、この戦力差
では、彼が″本気″を出せばどうなるのか

「…ヒヒッ、だろうな」

清太も、賢志も、見送るしか出来なかった
眼前にいる、黄金の″化け物″を
彼等は本能で感じとった
人間は、″化け物″には勝ち得ないのだ、と










故に、学ぶ






「なあ、清太」
「賢志兄ちゃん、多分同じこと考えてたよ」





人間が″化け物″に勝つ為には、

407夢幻泡影:Re † シン・レツヤ ◆7aVqGFchwM:2016/08/29(月) 22:09:22 ID:2ecBNypM
(正気カ汝共!? 如何ナロウト知ランゾ!?)
「俺だって知らないよ、でも何もしないよりマシだ!!」
「その通りだぜ!…頼んだぞ、「賢者の石」!!」






---自分が″化け物″になればいい






「「はあああああああああああああああああああああああああ!!!!」」
















その一部始終をあえて表現するならば---奇跡
そこにはもう、少年達の姿はなかった
かたや清太
全身が冷たく輝く、冷気を帯びた美しい水晶となっている
戦士というよりは最早、一つの芸術作品と風貌だ
かたや賢志
右腕は血のように紅い鉱物、左腕は燃え盛る金属、
下半身は黒く、上半身は鈍い銀のような色で、まるで金属生命体のようだ

「……訂正しよう」

裂邪の表情は黄金の鎧がある為に窺い知れない
しかし、その時初めて
彼が少し、嬉しそうに笑ったのが分かった

「お前等…超絶、見直したよ」


...to be continued

408死を従えし少女 寄り道「ファザータイムと死神少女」 ◆12zUSOBYLQ:2016/09/01(木) 23:11:25 ID:ldTWe/q.
 その気配に、彼ミハエル・ハイデッガーは振り返った。
「ねぇ、君…もしかして、『あの御方』の配下?」
 すれ違った黒髪の少年こと黄(ファン)を捕まえて、こそこそと耳打ちする。
「そうだ。お前もあの御方の部下か」
 黄は頷き、にやりと笑った。
「近々、大変な獲物が手にはいる。契約者を数多含めた子供の組織だ。きっとあの御方の役に立つだろう。俺の名は黄・文蘭(ファン・ウェンラン)だ。覚えておくといい」
「だってさ」
 ファザータイムは緊張感を保ち、黄が契約者に害なすようなら刈り取る体勢を取ったが、その様なことにはならなかった。
「立ち話もなんだ。詳しい話を」
 黄はすぐ側にあるドーナツバーを指さした。
「味は保証する」

「今日は何する?」
 今日も今日とて「マジカルスイーツ」
 澪たちは蜂蜜とキューカンバーの夏らしいさっぱりしたシェイクを前にぼさっと頬杖をついている。澪と藍の手元には文庫本。今日は平和なのだ。
「まっ、その方がいっか。可哀想なコドモも、因縁付けられて引きずり回される可哀想な一般人もいない、ってことで」
 ちらりちらりと緑を見ながら、キラがつかの間の平和を有り難がる。
「どういう意味だ」
「わかんない?」
 詰まるところは暇なのだろう。キラはにっと笑うと、緑との距離を詰める。
 緑が本気で腹を立てればひきこさんとの公開スパーリング。そうならなくても緑をオモチャにするのは退屈しない、という計算だ。
「あぁ、それとも折角ヒマなんだし、澪とデートでもしたかったかな?ね、純情な緑クン?」
 澪が好きだよと云った時には認めないのなんのと騒いだキラも、今では余裕ぶって緑の反応を楽しんでいる。
「お前…本気で地獄を見たいか」
 緑が席から立ち上がった時。

「いらっしゃーい」
 オレンジの声が店内に響いた。
「珍しいわね。ひとり?」
「いや…連れがいる」
 一同は会話の方へ目をやった。藍の表情が歪む。
「黄…!」
「連れのあれ、誰だろ。見たことない子だね」

「お待たせ」
「わー!おいしそー!」
 揚げたてあつあつのドーナツにソフトクリームが乗り、フルーツソースとナッツをトッピングしたお持ち帰り不可のドーナツを前に、ミハエルは上機嫌だ。
 はじめは黄を警戒していたファザータイムも、契約者が喜んでいるのを見て、悪い気はしない。
「で?子どもの組織って?」

409死を従えし少女 寄り道「ファザータイムと死神少女」 ◆12zUSOBYLQ:2016/09/01(木) 23:12:06 ID:ldTWe/q.
 周りに悟られないよう、黄は声を低くする。
「『凍り付いた碧』という。碧という人物を頂点にした、子どもだけの組織で、上位メンバーは契約者揃いだ。南区の廃工場が根城だが、メンバーの多くがここを溜まり場にしている」
「へー。で?その上位メンバーは何処にいるの?どんな能力?」
「碧の側近で、真白という女がいる。能力の詳細は不明だが、赤マントを無限に呼び出せるようだ」
 黄は勘違いをしていた。真白の能力について。
 彼女の能力は「ネクロマンサー」赤マントと云わず、一度「死んだ」ものならなんでも操れる能力だが、黄はその現場を見たことがない。
「赤マント?なに?それ」
 日本の都市伝説だ、と黄が説明すると、ふーんとミハエルは店内をきょろきょろする。
「あそこにいる、あの連中」
 黄はそこそこ離れた、声の聞こえづらいテーブルにいた緑たちをわからないように指さした。黄とミハエル、二人の視線に気づいた藍はぷいと顔を逸らした。
「あそこにいる、黒いサマーセーターの男、緑という。奴も契約者だ。今顔を逸らした女は藍。奴らも上位メンバーだ」
 彼らをじいっと見つめるミハエル。彼の視線は、彼らのうちの一人に向いていた。
 小柄な体躯に黒い髪を赤いリボンで飾り、白い大きな襟の黒いワンピースを纏った少女。
「あれは…」
 ファザータイムも気づいたようだ。ミハエルは少女から視線を外さずに呟く。

「あの子、僕と同じだね」

410はないちもんめ:2016/09/04(日) 22:54:15 ID:FaJiccMI
組織の施設内、旅行カバンを下げた男と宙に浮いた少女が廊下を進んでいく。
かごめかごめの契約者、影守蔵人とその契約都市伝説バラバラキューピー、影守希である。

「今回は思ったより早く済んでよかったわね」
「こう、遠方への遠征続きだと中々家に帰る暇も無いからな…」
「美緒に嫌味言われるんじゃ無い?」
「美緒さんよりも美亜達におとーさん、こんどはいつあそびにくるの?って言われる方がよっぽどキツイ…」
「父親と認識されてても同居人とは認識されてないのね…あら?」

2人は廊下の先に二つの人影を見つけた。
幼い容姿の少女と黒服姿の男性。

「E-No.0、H-No.0」
「影守…そう言えば遠征に行ってたんだったか」
「町の外でも都市伝説を悪用する輩はいますから…」
「お主最近遠征ばっか行っとらんか?」
「子供達におとーさん、こんどはいつあそびにくるの?って言われて傷心状態よ、こいつ」
「「………」」
「すいません、気の毒な物見る目で見ないでください、マジで凹みますから」
「そ、それで今回はどうだったんだ?」
「いやいつも通り首落として終わりですよ、死体の処理はC-No.の黒服さんに頼みました、ただ子持ちだった上に子供の眼の前で殺っちゃったんで…」
「それはキツイのう…」
「保護は首塚の孤児院に頼みました、因果な商売ですよ…ところでウチのジジイ(K-No.0)知りません?さっき部屋見たら居なくてですね、あんなんでも報告上げなきゃいけないんですけど」

影守の言葉にエーテルとヘンリエッタは目を丸くする。

411はないちもんめ:2016/09/04(日) 22:55:39 ID:FaJiccMI
「待て、影守…お前もしかして聞いてない?」
「え、何を?」
「あー、K-No.0じゃがな……引退するとか言って組織抜けてどっか行ったのじゃ」
「は!?」
「で、上の会議で…お前が後任に決まったんだけど」
「ファッ!?」
「出世したじゃ無い、影守…」
「お前も巻き込まれてるんだが…いや、どうしろと?」
「K-No.0は前々から引退する引退する言うてたからのう、こっちもその積りだったんじゃが、K-No.を取り潰すか存続させるかで意見が割れておってな」
「先先代のクソショタがやらかした事を思えば取り潰しでも良かったんだが、No.の欠けは外部から見れば組織の弱体化でしか無い…最近は落ち着いてるがいつ荒れるかわからないこの町でそれは困る」
「なんで規模縮小でも存続でと言うことになったんじゃが…そもそも今のK-No.お主しかおらんからな、必然的にお主が後任と言うことになったのじゃ」
「聞いてないんですけど!?」
「運が悪かったのう…」
「それより影守はアンタ達と違って人間よ?人間にNo.0が務まるの?」
「人間でもNo.0になれる…組織が変わった事を外に知らせるには良い広告塔じゃろ?」
「ま、規模縮小は規模縮小だ、K-No.には今後新人の教導を任せる事になる…要は鍛えて使い物しろって事だが」
「現場には…」
「出ない方がいいだろ、K-No.ってだけで中でも外でも印象が良く無いしな」
「…………まぁ、やれって言われればやりますけど……そもそも何をすれば?」
「とりあえずNo.の再編だな、No.0しか居ないじゃ話にならんし」
「人集めですか…どうやって?」
「それは………なんとかするんだ」
「えぇぇ…」
「引き抜きとかどうじゃ?」
「まずD-No.962さんと義兄さんが欲しいんですが」
「どう考えてもD-No.が立ち行かなくなるんでアウト」

と、まぁこんな話があって数日後

412はないちもんめ:2016/09/04(日) 22:59:16 ID:FaJiccMI
「私と在処に声かけた訳か…」
「お姉さん、ケーキおかわりで」
「アンタ少しは遠慮なさいよ…」
「いや、呼んだのはこっちだ、ここは我慢しよう」
フェアリーモートの一角で影守と希、望と在処はがテーブルを囲んでいた。
「しっかし、首塚所属の私に声かけるとか思い切ったわね?」
「首塚と組織の関係は以前に比べれば良好だ…少なくともすぐ抗争になるような状態じゃないし、なっても大門家がなんとかするだろう?」
「ウチ頼られても困るんだけど…まぁ翼の嫁さんも組織だしね」
「説明した通り、仕事は新人を鍛え上げる事、現場に出る事は無いから危険は少ないと思う」
影守の言葉に2人は首を傾ける。
「そうは言っても今年は忙しくなりそうだしなぁ…」
「私もちょっと時間が…」
「ぶっちゃけ頭数がいるだけで常勤しなくて良いんだ、暇な時に小遣い稼ぎに手伝ってくれればそれで良い」
「まぁ、それ位なら…」
「私も何とかなるかなー、大樹さんが許してくれればだけど」
2人の言葉に影守は頭をさげる。
「助かる!」
「とりあえず私の方で友と詩織も声かけるわ」
「てか、アンタ達、忙しいって何かあったっけ?
望も在処も受験とかじゃないでしょ?」
「「あぁ」」
「先輩の所に嫁入りが決まりました」
「大樹さんと年内に決着つける(積り)だから」
直後希がキレて暴れかけるが望に勝てる筈がなく沈められたが割愛させていただく。

この数週間後、影守をK-No.0とした新生K-No.が発足、始動する。
が、僅か数週間でK-No.1とK-No.2、K-No.3が産休で不在となり機能不全に陥りかけた事だけは最後に追記しておく。
続かない

413はないちもんめ:2016/09/04(日) 23:04:43 ID:FaJiccMI
おまけ
希「てか、実際アンタ達良く影守の話受けたわね」
望.在処「あぁ」
望「事故に見せかけて影守排除したら大樹さんK-No.0に推薦できないかなーって」
在処「訓練中に爆破して、龍一さんを推薦しようかなって」
希「あんたら……」


おまけその2
影守「発足、始動と同時にこんなに新人が来るとは思わなかったんだが…」
希「人材不足とか嘘でしょって位新人が一気にきたわね」
望「あぁ、簡単よ」
影守「?」
望「首塚の孤児院でアンタに親殺された子達に合法的に仇打ちの機会あるわよって言ったら大量に」
影守「全員俺(の首)狙いかよ!?」

今度こそ続かない

414チキン野郎は今日も逃げる:2016/09/05(月) 00:35:47 ID:yJBURLjM
・八話 チキン野郎と仲間達

 都市伝説の死は呆気ない。
 光の粒へと変わっていく【首なしライダー】を見ながら、ボクは改めて実感していた。

「師匠、どうしました?」
「ううん、何でもないよ」

 隣に立つ彼女を見上げ言った。

「今日もすごかったよ、緋色さん。投げナイフであそこまで出来るなんて」
「刃物扱いは得意なので」

 切れ長の二重を、緋色さんは細めた。自然に、長いまつげも目に入る。
 綺麗だな、何度抱いたかわからない感想。でも、本当だからしょうがない。緋色さんは、それくらい美形だ。
 抜群のスタイル、長い黒髪、整った顔立ち。三拍子全てが揃っていた。正し、口元にはいつもマスクがしてある。大多数の人は、これを邪魔だと思うだろう。けれど、彼女にとってマ
スクはアンデンティティに近いものだったりする。着用している赤いワンピースも同じくそうだ。

「それよりも、師匠の方がすごかったです。こんな森の中をあのスピードで走るなんて。私なんて、トバさんに先導されてやっと来れたのに」

 尊敬の眼差し、そうとしか表現できなものを緋色さんに向けられた。
 ……たまにあることだけど、未だに慣れない。こんな綺麗な人が相手だから当然だ。

「じ、事前に下見をしてたしね。それに――」

 右目にそっと手を触れた。

「視えているから」

 そう、ボクには視えている。この暗い森の中が、緋色さんの姿形がくっきりと。
 我ながら人間離れした能力だと思う。……どっちかというと、オートバイと並行できていたことの方がすごいと思うけれど。ちなみに夜目が効くのも、乗り物と併走できるほどの脚力も生まれつきの力じゃない。どちらもここ最近、身につけたもの。

「ずいぶんとあっさり終わったな」

 目の前で、人語を喋っている秋田犬と出会い手に入れた力だ。

415チキン野郎は今日も逃げる:2016/09/05(月) 00:40:44 ID:yJBURLjM
「トバさん、お疲れ」
「お疲れ様です」
「おう」

 秋田犬ことトバさんは、一仕事終えたことで顔を緩めた。中年の人間とわかる顔を。
 トバさんは【人面犬】。数々の噂を持つ都市伝説だ。緋色さんも同様、【口裂け女】。二人共、超常の力を持つ非日常の住人だ。
 かというボクも、そうだったりする。二人と違い人間だけれど。ボクの場合は、契約と呼ばれる行為でトバさんの力を借りているに過ぎない。
 なぜ、ボクがトバさんと契約したか。緋色さんとはどういう関係か。その辺を話すと長くなる。
 一言で纏めると、ボクらは悪い都市伝説と戦っていたりする同盟だ。

「今日は随分と簡単に進みましたね」
「【首なしライダー】が、挑発にあっさりと乗ったからね」

 都市伝説との戦闘で、ボクは囮役を引き受けている。敵を挑発して、二人が待機している場所まで誘導するのが仕事だ。
 ……他にできることがないから、やっているだけなんだけどねっ!

「都市伝説は、基本的に単純だからな。俺らみたいな、自我の強い個体じゃなきゃあんなもんだ。特に、今回の【首なしライダー】は相手を事故死させることにこだわっているみたいだったしな。逃げ足の速いお前は、最高のルアーだ」
「疑似餌なんだ、ボク……。あ、それよりも」

 峠道の方へ顔を向ける。

「ガードレール、どうしよう。ここへ来る前に、首なしライダーが切っちゃんだ」

 【首なしライダー】が森へ突入する時に、ガードレールを一部切断していた。やったのは、ボクじゃないといっても放っておくわけには行かない。
 ……弁償はなんとか勘弁して欲しいけれど。

「放っておけ。その内、通りかかった奴が通報するだろ」
「そういう訳にはいかないよ! 自分が関わったことなんだから責任は取らなくちゃ」
「……真面目だな、おい」
「後始末はちゃんとするのが常識だよ!」

 後始末は大事。普段から料理をしていた学んだことだ。
 例え、どれだけ綺麗に料理を作っても最後に台無しにしたら意味がない。片付けまで完璧にこなすのが、食事をするということ。これは、何にでも当てはまる。今回も例外じゃない。
 ボクが正当性を確信していると、トバさんがため息をついた。

「そうかよ。なら、公衆電話を使え」
「携帯電話じゃダメなの?」
「携帯電話だと非通知でも番号がバレる。後々、面倒くさい」
「へー」

 初耳だ。

「昼間、この峠のドライブインに公衆電話があったのを見た。そこから連絡しろ」
「うん、わかった。ありがとう」
「礼を言うようなことじゃねえ」

 トバさんは顔を背け、ぶっきらぼうな言葉を返した。
 ボクと緋色さんは、思わず顔を合わせて口元だけで笑う。やっぱり、トバさんは素直じゃない。

「それじゃ、ボクは先にドライブインまで行ってるよ。電話をかけたら、合流したいから近くまで来てて」
「おう」
「了解しました」

 頷くふたりに背を向け、再び能力を発動。
 両足が温まっていき、夜目の精度がより高まる。軽い興奮が体に湧く。能力の副作用で、気分が高揚しているからだ。 

「よし!」

 ドライブインに向けて、最初の一歩を踏み出した。

416チキン野郎は今日も逃げる:2016/09/05(月) 00:43:34 ID:yJBURLjM
「ふふふ、中々可愛い子じゃない。ご主人様は見る目があるわ」

 雀達は気づいていなかった。
 今夜、彼らの姿をずっと見つめていた存在がいたことを。

「でも、契約者だったなんてね。ちょっと面倒なことになりそうだわ」

 怪しげな雰囲気を醸し出しながら、それは微笑した。

「まっ、足を美味しくいただくことには変わりないけど」

 新たな危険が三人に迫ろうとしていた。

――続く――

417ファザータイムは思案する   ◆nBXmJajMvU:2016/09/05(月) 23:05:55 ID:JPUuBupA
 ………あぁ、「同じ」だな、とファザータイムは感じたようだった
 ただ、つ、と少し見ただけで、視線はすぐに外す
 姿は覚えた。同じであるのであれば、ヴィットリオの契約都市伝説の力があれば一瞬で無力化できる
 もちろん、油断はすべきではない
 ヴィットリオ本人には戦闘能力がないのだから、戦闘に巻き込まれたならば自分や唯、九十九が守ってやる必要性がある
 理想としては不意打ちで無力化する事だが、どちらにせよ、皓夜に食べさせる際には樽から出す必要が出てくる

(……難しいものだ)

 静かに隠れて行動し、仲間の食料を確保する事が、ここまで難しいとは
 ファザータイムがそのように思案している間も、ミハエルは黄と会話を続けている

「そのうち、皓夜……あぁ、ボク逹の仲間の一人なんだけど。その子のご飯にするか………強いやつなら、ボクらの仲間にしたいかな。あの方の居場所がわかればいいんだけれど…」
「うん?……その言い方、まさか、あの御方の居場所がわかっていないのか?」

 うん、とドーナッツもぐもぐしながらミハエルは頷いた
 そう、未だに自分達はあの御方の……「白面九尾の狐」の居場所をつかめていない
 この学校街のどこかに間違いなくいるはずだと言うのに、その気配すらつかめていない
 明らかな異常事態であり、動きにくい状況になっていたのが現状だ

「そうなんだよね……ボク逹が学校街に集まってきてるんだし、接触してくれてもいいはずなのに接触ないしさぁ……」
「本当に、一度の接触もなし?」
「うん、一切なし。ねぇ、君はどこで、あの御方に遭遇したの?」

 じーーーーっ、とミハエルは黄をじっと見つめながら、そう問うた

「…参考にならないと思うぞ。お声をかけていただいたのは、契約者になる前………三年前だ」
「あー……あの方が、前にここ来てた時かー。そん時、ボクドイツにいたし。そもそも、その頃は肉体違うよぉ…」

 ぐでぇ、とミハエルはテーブルの上に顎を置いてダレた
 流石にだらしないので、軽く体を持ち上げて起こす。むぅー、と不満そうな声を上げながらも、ミハエルはきちんと席に座り直した

「姿が違っても、あの御方がいればわかるはずだが…」
「うん、そうなんだよね。だから、明らかに「おかしい」んだ。ボクらがあの御方がどこにいるのかすらわからない、なんてさ」

418ファザータイムは思案する   ◆nBXmJajMvU:2016/09/05(月) 23:07:01 ID:JPUuBupA
「………こうして、合流できたのだ。今後、『凍り付いた碧』とやらの者に気づかれぬ程度に、情報共有をすべきだろう」

 ぼそり、ファザータイムはそう口に出した
 ミハエルも、うん、と頷く

「多分、ボクくらいの年齢なら、君と接触してても平気でしょ?なんだったら、『凍り付いた碧』にボクをスカウトしてるように見せかけちゃえば?」
「いいのか?」
「別にいいよ。大人と一緒に行動してるとこ見られたらまずいなら、他のみんなとはなるべく一緒に出歩かないし」

 ……それは、迷子になる可能性があるのでは
 ファザータイムはそう感じたが、直後、「自分が道を把握していれば良いか」と考えなおした
 自分は、常にミハエルの傍にあるのだから、それくらいはサポートするべきであろう
 そもそも、ミハエルが実際の年齢より明らかに子供っぽいのは、半ば自分の責任であるのだから、自分が責任をもってミハエルを保護するべきなのだ
 自分という存在が、「今のファザータイム」が消滅する、その瞬間まで

「………あぁ。そうだ。お前は、『凍り付いた碧』において。ある程度、隠れ家等で自由に動き回れる立場だろうか?」
「?…それを聞いて、どうする?」
「もし、そうであるならば。隠れ家などに、仕掛けて欲しいものがある」

 そう言うと、ファザータイムはさらさらと、メモに何やら書き記していく……最初ドイツ語で書いてしまい、すぐに日本語に直した。ある程度学んでいて正解だったと言えよう。学んだのは、ミハエルが日本語を読めなかった時に備えてだったのだが
 黄はそのメモにざっと目を通している
 メモに書いた、仕掛けて欲しい物。それは「ワイヤーや、鉄製やニッケル製の物」。元からそれらがそれなりの量存在するならばいいが、なければできるだけ仕掛けて欲しい、と

「…後半については、形や重量は問わないか?」
「あぁ、問題ない」
「うんうん、つくつくなら大丈夫だよね」

 形も、大きさもあの能力の前ではさほど関係ない
 ……あの男は、ある意味自分達の中で一番、契約都市伝説の能力を使いこなしていると言って良いのだから

「覚えたか?」
「あぁ、当然だ」
「そうか。なら、いい」

 渡したメモへと手を伸ばす
 そのメモは、ファザータイムが触れた瞬間、まるで何百年、何千年も一気に時間が過ぎたかのように朽ちて、かけらすら残さずに消えてしまった
 完全消滅、と言っていい。それはテーブルの上を汚すことすら、なかった

「これから、よろしくね」

 ミハエルが笑う、楽しげに
 ……この子が楽しいならば、それでいい
 ファザータイムはそう考え、ひっそりと笑ったのだった


to be … ?

419逢魔時の怪 ◆MERRY/qJUk:2016/09/07(水) 02:13:11 ID:f6m/ZTYI
【逢魔時】とは、いわゆる夕方、日没前後の昼と夜が移り変わる時刻を指す。
黄昏時とも呼ばれ、その語源は「誰そ彼」……そこの彼が、誰なのか分からないという意味だ。
夕日に照らされた人は黒い影となって表情を覆い隠される。
故にこの時間帯、人影の中に魔に属するモノが紛れ込むと、ある地方では伝えられた。

そして今日もまた、日が沈む――――

420逢魔時の怪 ◆MERRY/qJUk:2016/09/07(水) 02:14:01 ID:fvF9S2y6
日没の約六分前、西区のある廃工場付近に雷鳴が轟いた
雲の少ない快晴の茜空の下、廃工場の長い影に包まれて
対峙するのは赤いマントに身を包んだ男と、白装束の女
尋常でないところを挙げるとすれば、男の方は都市伝説"赤マント"であり――

「あら、外してしまいましたか……少々眠りすぎたようですね」

――――女の身体が半透明で、実体を伴っていないということだろう

紫電に焦がされた地面を意に介さず女に襲いかかる赤マント
だがその攻撃は空を切り、女の反撃がその身を撃ち貫く
辺りに肉の焼けた匂いが漂うが、それもすぐ風に散らされた

421逢魔時の怪 ◆MERRY/qJUk:2016/09/07(水) 02:14:32 ID:fvF9S2y6
「ああ、感じます……私のいない間にまた悍ましいモノがこの地に入り込みましたか」

誰も見る者のいない廃工場の敷地内で、女が独白する

「もはやこれまで、もはやこれまで……穏便に済ませることは、もうできない」

その様子はどこか陶然としているようで、目は中空を見つめるばかり
見ている者があればこう思っただろう。この女は正気ではないのだ、と

「この地にあるべきは人の営みだけ。それを脅かす怪異は、都市伝説は、イラナイ」

女がパンと手を打つと、廃工場の影から蠢くモノ達が体を起こす。
それはまるで、黄昏時の人の影そのもの。逢魔時に現れる、魔性のモノの姿。

「然らば全て、排しましょう。除けましょう。払いましょう。滅しましょう」

影を従えた女が、妖しく見える笑みを浮かべて宣告する

「この地を守るため、人の明日を守るため……私はどこまでも戦いましょう」

日が沈み切ると、陽炎のように女と影達は揺らいで消え去った
しかしそれが夕陽の見せた幻ではないことに、気付いた者もいた

422逢魔時の怪 ◆MERRY/qJUk:2016/09/07(水) 02:15:03 ID:fvF9S2y6
学校町某所

「んー…………こりゃマジで動き出したか?」

男は紙製の人形のようなものを机に置いて立ち上がった

「準備は万端、とも言い難いが……やることは変わらねえか」
「とうさま、ごはんできたってば」
「おお悪い。すぐ行く」

年内にケリをつけてえなあ、などと考えながら
男は女の子に手を引かれて部屋を出て行った
机の上の紙人形は、いつの間にか消えていた


学校町 東区のある墓地にて

「あの、先生?どうかしましたか?急に黙っちゃって」
「……透風さん。いえ、南の墓守」
「! なんですか、東の墓守」
「今晩にも"牛の首"を使います。心の準備を」
「いったい何が……?」
「わかりません。ですが、何かが起こるのは間違いないでしょう」

半透明の身体の男、"東の墓守"は
半透明の女の子、"南の墓守"に答えつつ、なお考える

(彼女が気づいていないということは、盟主様の気配は勘違いだったのか?)
(悩んでる先生もやっぱりいいなぁ)

どんな時でも己の欲望に忠実な彼女はさておき
彼の懸念が真実であると彼らが知るのは、もう少し先の話である……

423逢魔時の怪 ◆MERRY/qJUk:2016/09/07(水) 02:17:33 ID:fvF9S2y6
今日も学校町の一日が終わる
同時に、長きにわたった"彼女"の沈黙も破られた
それが仮初の平穏に終わりを告げる合図だったのかどうかは

 まだ、誰にも分からない――――


【Next Generation】
【Event "Strangeness of twilight"】
【Shall we play?】

424結婚前のお話   ◆nBXmJajMvU:2016/09/07(水) 23:19:04 ID:LVEODcfA
「……お前は、何を企んでいたんだ」

 在処が、現在のK-No,0……影守蔵人を訓練中に爆破して自分を推薦するつもりであった、と
 それを聞いて、龍一は小さくため息を付きながら、そう在処に問うた
 龍一のその問いに、在処はきょとん、と答える

「さっき言った通りですよ。龍一さんをK-No,0に推薦しようとですね」
「………「組」の仕事で手一杯だ。推薦されても俺は断る」

 えー、と不満そうな声を在処はあげてきたが、実際、高校卒業後に実家の家業を継いでいる龍一としては、「組」の仕事で手一杯であり「組織」の一員となりその仕事をやれ、と言われても不可能だ
 少なくとも、龍一自身はそのように考えている
 人間社会の中での「組」の仕事と、自分が継いでからは都市伝説絡みの問題も扱うようになった故、「獄門寺組」としての仕事は増えており、自然とその組長たる龍一の仕事も増えている
 よその組織の仕事まで付き合う事は出来ないし、そもそも「組織」に手を貸す義理もない

「大門 大樹さん辺りに協力要請されたら、手伝ったりしているじゃないですか」
「……こちらとしても見逃せない件が多いからだ。こちらの仕事にも関わるし。あの人個人には、あまり悪い印象もない」

 筆を動かしながら、返事を返す
 あの苦労人からの頼まれ事は、どうにも無碍にする気にはなれない
 ……こちらも絡んでいる件での頼まれ事である事例が多いのも、また事実なのだし
 確かに、と在処も頷いているので、その辺りは理解しているのだろう。理解しているふりと言う可能性も否定はできないが

「………ところで、龍一さん」
「何だ」
「さっきから、ずーーーっと書き物してますけど。何書いているんです?それも筆で」

 じっ、とこちらの手元を見てくる
 そういえば、何をしているのかは説明していなかった気がする

「……式の招待状を書いていたが」
「式?」
「………俺と、お前の。結婚式だ」

 …しばしの沈黙
 きょとんとした表情をしていた在処だったが、ようやく脳へと(恐らく)正しく情報が行き渡ったのか、あ、と声を上げた

「あ、あぁ、そうですよね。式やるんですもんね………って、龍一さん、自分で招待状書いてたんですか。しかもパソコンじゃなくて手書き」
「……普通の知り合いはともかく、家として古くから付き合いがある相手にも出すものだからな」

 効率が悪いと言われるかもしれないが、昔ながらのやり方を好む老人もいるということだ

「あまり、派手な式にするつもりはないが。それでも人数を呼ぶことになる。早いうちから書いておいた方がいいからな」
「龍一さん、夏休みの宿題とか早めにぱぱっと終わらせるタイプですしね」

 …それは、関係あるのだろうか 
 在処からすれば、関係あることなのかもしれない

「まぁ、お家の付き合いやら、都市伝説関連の付き合いやら………私は親戚らしい親戚もいないのでほぼ龍一さんの知り合いと言うか、この獄門寺家の知り合いでしょうけど、結構な人数ですよね」
「……念の為言うが。都市伝説絡みと都市伝説絡みではない者とで、式は分けるぞ」

 ………

 ………………?
 在処が「よくわからない」と言う顔をしている
 伝わりにくい言い方をしてしまっただろうか

「……都市伝説と知っている者と、知らぬ者と。分けるからな。式は」
「え?…えーっと、んんん?」
「そうなるから、必然的に式を二回やる事になる」
「あ、あぁー、なるほど。やっとわかっt待ってください龍一さん」
「どうした」
「………二回、やるんですか?」

 そうだ、と頷いてやる
 先程そう告げたのだから、その通り以外の何でもないのだが

「本来なら、都市伝説関係者以外を招待する式は、北区の神社で執り行いたかったが………問い合わせてみたところ、少人数の式でなければ不可能なようで、諦めた。結婚報告の儀は予定通り北区の神社で行うつもりだが」
「それって、かなりお客さん呼ぶって事ですよね!?どれだけ人来るんですか!?」
「……獄門寺家と付き合いがある家の者や企業の社長もしくは重役だが…………あぁ、だから。朝比奈さんは都市伝説関係者以外の方の式で呼ぶことになるな。必然的に」
「あ、あの大魔王も呼ぶんですね」

 その呼び方は止めておけ、と一応注意しておく
 今後も、付き合いがある相手なのだからなおさらだ

「……朝比奈さんは、首塚の隠れ小島で式を行う、となると参加を嫌がりそうでもあるしな」
「はい、ストップです。龍一さん」

 …………?
 何か、問題となる発言をしただろうか
 そのようなつもりは、いっさいないのだが

425結婚前のお話   ◆nBXmJajMvU:2016/09/07(水) 23:19:52 ID:LVEODcfA
「式を、どこでやるって?」
「首塚の隠れ小島だ。都市伝説関係者ばかりを呼ぶのだし、問題ないだろう」
「ありますよっ!?ってか、式はどこでやるとか、おもいっきりたった今初耳なんですが!?」
「……あぁ、たった今、話した」

 ……ぺふん、と。在処が文机の上に突っ伏した
 何故だ

「……ブライダルって、女が主役、だったような……」
「………花嫁衣装は、和装の範疇でお前に選ばせるが」
「ドレスじゃないのは確定なんだ!?」
「……着たいなら、お色直しの方で考えておく」
「やったー!でも、首塚の隠れ小島での式は確定なんですねー!!」
「…………他に。都市伝説関係者を一同に集めて式を行って問題なさそうな場所が思い当たるか?」

 こちらの問いかけに、在処は黙りこむ
 いや、恐らく考え込んでいるのだろう
 それも、だいぶ苦戦している

「……ま、マッドガッサー逹の」
「却下された」
「すでに話通ってた!?うぅ、連中、仲間内の式はあそこの教会でやった癖に……」
「……集まる人数が違う」

 なんだか、将門公が来るのを嫌がっていたのが主な理由だった気がするが気のせいだろう、恐らく
 将門公がその場に現れてのプレッシャーその他は、多少わからないでもないが

「そして、龍一さん。先程スルーしたのですが、「結婚報告の儀」ってなんですか。式以外にも何かやるんですか?」
「…式や披露宴が終わってから、だな。それは。その際に説明しておく」

 在処には悪いが、一気に全て伝えても混乱してしまう気がする
 こちらがそう考えていることを知ってか知らずか、在処はわかりましたー、と返事した後……再び、ぽってり、文机の上に突っ伏す

「……古くからの名家的お家への嫁入りって、なんか色々大変なんですね…」

 …今更気づいたのか
 とうに、気づいていたとばかり思っていたのだが
 一度、筆を止めて、在処へと視線を移す

「…どうしても、しがらみ等あるからな………めなら、嫁入りはやめておくか?」
「嫌です。何がなんでもこのまま嫁入りします」

 そうか、と答えて、再び作業を再開した
 この家に嫁入りするのだから、この程度で引いてもらっては困る
 あまり困らせるつもりはないが、多少は頑張ってもらわなければ

 後で、在処用にウェディングドレスのカタログも取り寄せてやらなければいけないな



続かない

426はないちもんめ:2016/09/12(月) 03:58:46 ID:q1hzGJl6
逢魔時…私、大門神子は全力で逃げていた。
「何なのよ!?あの影!」
多分、多分だがそんなに強くない。
数こそ多いが幼馴染達なら恐らく無双ゲーの主人公の如く立ち回れるだろう。
だが、生憎…私は彼等じゃない。
契約者でもなんでもない、ただ契約者に囲まれて育っただけの一般人だ。
この影をどうこうできるだけの力はない。
取り敢えず、取り敢えず逃げる事さえできれば…幼馴染か両親か、取り敢えず身内の誰かに接触できればこの程度何てことは無いのだ。
だから…

「うぁっ!?」
足が小石に引っかかって躓く、確かに運動が得意な訳じゃ無いけどもこんな時に…!
「あっ……」
視線を上げると影が私に手を伸ばしてきている。
何となくわかる、このままだと私はここで終わるんだって。
昔からそう、大体嫌な予感は当たるんだ。
咲李さんの時も、その事で遥達が動いた時も、何となくそうなる予感はあったのに、私は何もできなかった。
私は遥達とは違うから、何もできないし変えられない、私はただ見ているだけで遥達と同じ所に立つようにはできていない。

427はないちもんめ:2016/09/12(月) 03:59:39 ID:q1hzGJl6
影が私の首を掴んで締め上げる。
息が詰まり、視界が霞む。
意識が遠のいて………何かが軋む音がした。

パキッと

何かがひび割れる音がして

これはきっといつかの記憶
「やっぱり、何の影響も無し・・・・・・とは行かなかったか」
「えぇ、あの子に自覚があるとは思えませんが」
「・・・・・・できれば普通の人間としての生活を・・・ってのは高望みだったのかなぁ
 私の所為ね・・・ごめんなさい」
「そんな事はっ!」
「・・・そう言ってくれるから私、貴方に頼りっぱなしなのよね
 でも、これは私で何とかする」
私を抱くお母さんとお父さんは何か哀しげで…
「今度目を覚ますときにはきっと、貴女の見る世界は違う物になってるわ
 私のわがままを押し付けちゃう形になってごめんね・・・かって嬉しいはないちもんめ」
嗚咽交じり紡がれた唄がカチリと私を縛った………

あぁ、そうだ
私の見てる世界はもっと違った筈なのにあの人に奪われていたんだ。

そしてヒビは広がって…パキンッと砕けて消えた。

428はないちもんめ:2016/09/12(月) 04:01:15 ID:q1hzGJl6

「はぁっ!」
私が振るった手が私を掴んでいた影をかき消す。
いつの間にか私を囲っていた影達に僅かな動揺が走る…意思があるんだろうか?
「まぁ、良いや」
少なくともこれはきっと悪い存在で、放っておけば遥達にも害が及ぶ…だから
「消しても良いよね?」
私の体から幾つもの紙片が浮かび上がり私の周囲を飛び交う。
そこには今の私を取り巻く状況が、こうなった経緯が、そしてこれからどうなるかが記されていて
「さぁ、添削を始めましょう?」
影の一つが私に殴りかかってくる、これは文の通り。
そしてそのまま私は殴り倒され起き上がるより先に殺される…それが文に記された展開。
だからその一節を消して、影との距離を書き換える。
そう、適当で良いよね…取り敢えずそこの民家の屋根の上に私はいる。
そう記すことで、影の拳は空を切り、私は民家の屋根の上にいる。
それまで何処にいたかは関係無い、私の記した物がこの世界になるのだから。

過去から未来、すべてを見通し読み取る力。
ほんの僅かに、例えばサイコロの出目を少しだけ、己が望む方向へ引き寄せる力。
ありとあらゆる万物を己の意思で支配する力。
僅かに受け継いだそれらが合わさって私が得た力。
世界を読み取り、添削し、己が望む世界を作り出す支配者としての力。

429はないちもんめ:2016/09/12(月) 04:02:07 ID:q1hzGJl6
とりあえず、そう、そうね…
「差し当たって、アンタ達は必要無いよね?」
文から私を追ってきた影の存在にまつわる記述を削除する。
これだけで彼等はこの世界から痕跡も残さず消え去った。

何で今まで忘れていたのか、これが本来の私なのに、幼い頃、物心も覚束ない頃はもっと自然にできていた筈なのに「かって嬉しいはないちもんめ」!?
「お、母さん?」
「ゴメン、駆けつけるのが少し遅かったわね…アンタに掛けてた封印も解けてるし………逢魔時の影の所為かしら」
体が動かない。
「………忘れなさい、何もかも、そんな力…人として生きて行くには不要な物だから」
「待っ………」



気づくと私は自室にいた。
いつ帰ってきたんだっけ?
「あれ?」
なんか大事なことを思い出した気がするんだけど何かわからない……何だったかな?
「んー、何だったかな?」
「遥がまた何かやらかしたってさっき言ってたけど?」
「あ、お母さん……」
何だろうこの違和感、違和感はあるのにそれが普通みたいな…
(まぁ、思い出せないなら大したことじゃ無いか)



こうして私は日常に戻って行く。
何の変哲も無い日常に。
それが私にとっての非日常とも気づかずに。
〜終〜

430はないちもんめ:2016/09/12(月) 04:05:21 ID:q1hzGJl6
オマケ

「で、遥は今回は何やったの?」
「いや、遥が珍しく疲れてるみたいだったからさ、大丈夫?おっぱい揉む?って聞いたら『お前の板みたいなの撫でる位なら憐の揉むって…」
「これ、どっちに突っ込むべきかしらね…」
今度こそ終わり

431高校生活日記・非日常パート    ◆nBXmJajMvU:2016/09/12(月) 17:29:59 ID:PxqLR4dg
「ぶっちゃけ、どっちも悪いと思うっす」
「「何故」」
「何故も何も」

 学校の授業が終わった帰り道
 この日は、憐の部活動も委員会の仕事もなく、憐、遥、神子の三人で帰っていた
 憐は途中で教会の手伝いがあるので別行動になる予定ではあるが、こうして三人で帰っているのは神子の護衛も兼ねてのことだ

 「逢魔時の影」の出現
 よりいっそう、学校町が物騒になってしまった以上、契約者ではなく、戦闘手段を持たない…少なくとも、遥と憐はそう考えている…神子の護衛は必要だろう

「まずは、みこっち。女の子なんだから、気軽に「おっぱい揉む?」とか言っちゃ駄目ー、っす」
「えー、最近流行ってるし…」
「そういう問題じゃねーっす」
「まな板が多少膨らんでるみてぇな胸とは言え、お前も女なんだからよ。気軽にそういうこと言うな」
「はるっちははるっちで、女の子にそういうこと言っちゃ駄目っす」

 ………まぁ、そのような真面目な理由での三人での帰路なのだが
 会話内容は、限りなく馬鹿馬鹿しい、と言うか日常そのものだ
 遥と神子のやりあいに、憐が一生懸命フォローをいれると言うか、たしなめると言うか
 …普段通りだ。どこまでも

「…と、言うか。遥、この間珍しく疲れてたけど、どうしたの?」
「珍しくは余計だ。バイトが忙しかったんだよ」
「あぁ。あのパン屋のレジのバイト……そう言えば、こないだカレーパンフェアだかってやってたわね。そんなにお客多かったの?」
「俺っちが買いに行った時、店に入るの大変なレベルだったっすよ」
「そんなに?……買いにいけばよかったかしら。遥の仕事増やすためにも」
「おいこら」

 神子の言葉に、遥が突っ込む
 二人のやり取りに、憐はどう止めたらいいものかな、とちょっと困ったような表情を浮かべていた
 遥と神子が言い合っている際、こうして憐が少し困ったような表情を浮かべるのは昔からだ
 三年よりも昔から、そこは変わらない

 憐の変化は、大きく分けると二回あった
 少なくとも、神子はそう認識していた
 一度目は、だいぶ昔……小学校に入る少し前だっただろうか。、まだ、龍哉と憐しか都市伝説と契約していなかった頃だ
 あの時、事件に巻き込まれ。能力を使ったせいで都市伝説を知らない子供達から「化物」呼ばわりされて、憐はひどく臆病で、遥をはじめとして誰かの後ろに隠れてばかりになった
 二度目は、三年前。土川 咲李が死んでから
 彼女が死んでから、今までの臆病さなど消え去ったかのように、へらへらと軽薄な笑みを常に浮かべるようになった
 泣きじゃくり、周りを心配させないように常に笑っていようとしているかのように
 自分に手を伸ばしてくれた人があぁやって死んでしまったから、必要以上に親しい相手をこれ以上増やそうとしないように、軽薄な笑みで何もかも隠そうとして
 ……どちらにせよ、遥を始めとして自分達には、その感情の内を見ぬかれる事も多いが

 …それでも、自分達だけの時はこうやって、一番の素に近い部分が顔を出している
 その事実には、ほっとする
 自分達にまで完全に仮面を被った状態になってしまったら、憐がずっと遠い存在になってしまうのではないか、と

(……そう考えてるのは、私だけじゃあないんでしょうね)

 遥が憐に構いたがるのは、そういう理由もあるのだ
 神子とて、それはわかっている
 わかっている、が

「じゃ、俺っち、教会の方、向かうっすね。ジェルトヴァさんのお手伝いしてくるっす」
「……別に、あのおっさん一人でやらせりゃいいんじゃねぇの?実力的に充分だろ」

 ……わかってはいるのだが
 今、憐を引き止めるのに、肩を抱く必要はない
 そう判断し、無言で遥の向こう脛を蹴り上げた自分の判断は間違っていない
 神子は、そう信じて疑わなかった

「いってぇ!?」
「みこっち。もうちょっとはるっちへのツッコミ優しくてもいいんじゃないかな?って思うっす」
「遥相手はこれくらいでちょうどいいの………ぞれじゃあ、憐。気をつけてね。教会につくまでに「逢魔時の影」に遭遇するかもしれないんだから」
「大丈夫っすよ。母さんから「シェキナーの弓」借りてるままっすし。いざとなれば逃げるっすから」

 へらり、そうやって笑って見せて、憐は教会への道を駆けて行く
 向こう脛を蹴っ飛ばしてやったのと言うのに、遥は即座に復活して、その憐を見送っていた
 さすが、「ベオウルフのドラゴン」と言うべきか。復活が早い

「まったく……遥、あんまり憐を困らせないの」
「だってよ。実際、あのおっさんの戦闘力は、神子も知ってるだろ?」

432高校生活日記・非日常パート    ◆nBXmJajMvU:2016/09/12(月) 17:30:34 ID:PxqLR4dg
「昔、ちらっと見たくらいだけど………確かに、強いわよね。でもあの人、周囲への物理被害あんまり気にしないでしょ。「組織」の某ハッピートリガー並に」

 ……あぁ、と。とある人物の顔が浮かんだらしい遥が頷いた
 何故、広範囲攻撃を得意とするものは、周囲への被害をあんまり考えないのだろうか
 そういえば、遥の祖父である朝比奈 秀雄も、時として周囲の被害ガン無視でブレス吐くと聞いたし、遥の叔父であるカラミティも………………

「どっちも遥の親戚筋だしっ!!??って言うか、秀雄おじさんにいたっては私にとっても叔父さんだ!?」
「突然叫んでどうしたんだよ」
「自分達の親戚筋の豪華さと言うか周囲への被害考えなさに頭かかえてるだけよ、気にしないで」

 …自分の父親である大樹や、遥の母親であるセシリアは良心枠なんだよなぁ、と思う
 いや、遥の父親も周囲への被害で言えばあんまりださないでくれる方だが………うん

 うまく言葉にできない謎のもやもやを感じつつも、そのまま帰ろうとしていた
 ……帰るつもりだったのだ

 ただ
 今の時間は逢魔時

 ーーーー「影」が、出る

「…出やがったな」

 現れたそれらを前に、遥は神子を庇う位置に立った
 ……だいたい、いつだってそうだ
 ここにいるのが例えば神子ではなく、憐だろうと、龍哉だろうと、直斗だろうと
 他の誰であったとしても、遥はこうして、一歩前に出ただろう
 こいつは、そう言う性格なのだ。おそらくは、彼の父親譲りの一面
 遥の目が、金色に輝いたのを神子が見逃さなかった

「遥、暴走しないでよ?」
「こんな連中に、そこまで力使う必要ねぇよ」

 人によっては自信過剰ともとられる言葉だろうが、遥の場合事実なのだから仕方ない
 蠢く「逢魔時の影」に向かって、遥は軽く息を吸い込んで

 ひと吹き
 ……ほんの、ひと吹きだった

 遥の口から漏れだしたドラゴンの息吹は、そのまま炎となって「逢魔時の影」逹へと襲いかかった
 容赦のない炎が、「逢魔時の影」達を焼き殺していく

「ほら、終わった」

 ちょろり、遥の口元から、一瞬蛇の舌のように炎が漏れて……「逢魔時の影」は、一体残らず消えていた
 ほんのちょっと、地面が焦げたような気がしないでもないが、この程度なら些細な被害だろう
 某ハッピートリガーや、手加減なしの異端審問官が戦うよりは格段に被害が少ない

「やっぱ、ついてて良かったな。しばらくは、誰かしらついてる方がいいな」
「……悔しいけど、安全面的にはそうなのかしらね……と、なると。遥達と同じクラスの………咲夜。彼女にも誰かついた方がいいんじゃない?」

 高校生になってから、みなでつるむ事が多い彼女
 都市伝説契約者ではないどころか、存在すら知らないのだ
 正直、巻き込まれたら神子よりも危険だ

「大丈夫、あっちにゃ、龍哉と直斗がついてるから」
「あぁ、それなら大丈夫ね。主に龍哉がついてるなら」

 直斗は契約者ではないが、龍哉がいるなら大丈夫だろう
 ……直斗も、なんだかんだ都市伝説相手はなれているなら、うまく逃げ出す手伝いはできるだろうし

 2人はそのまま、家路へとつく
 …少しずつ、非日常が日常側へと侵食してきている現状を、苦々しく思いながら



to be … ?

433 ◆MERRY/qJUk:2016/09/13(火) 00:16:47 ID:oVMki5kk


これはまだ、この街が彼らに干渉され始めた頃の話
――――彼らと殺人鬼の交戦、その推移をまとめた資料


 閑話【契約者対処事例***号0**項】

434 ◆MERRY/qJUk:2016/09/13(火) 00:17:21 ID:oVMki5kk
その黒服の今日の仕事は、古い資料の再編纂だった。
基本的に資料は記録年代毎に整理されていることが多い。
しかし事件発生数が増えるにつれ資料や記録の数も増えていき
片端から閲覧して参考資料を探すというのは困難になってきた。
それに伴って都市伝説の種類・系統といったもので
記録を分類した新たな資料の必要性を訴える声も増えたのである。
そうして始まったのがこの再編纂という作業だ。
以来交代制でこの作業は常に行われているのだが、
なにせ記録は膨大な量であり、分類を決めるのも
難しい判断が要求される事例が多々見受けられる。
それゆえに未だに手をつけられていない記録も山のようにある。

そんな未分類資料から黒服は1つの文書を取り出し
分類を決める参考にするべく内容を閲覧し始めた。
年代は……19XX年。"組織"がこの街に人員を派遣し
常駐させるようになって間もない頃のものだ。

435 ◆MERRY/qJUk:2016/09/13(火) 00:17:51 ID:oVMki5kk
読み進めていく内に、この資料はどうやら
当時街を騒がせていた殺人鬼が契約者であることが判明し、
その討伐作戦を決行した際の推移を記録したものらしいと分かった。


殺人鬼はまだ年若い少年と少女の二人組。
以下それぞれ対象A、対象Bと記載する。
対象Aの名前は紫崎琢磨。両親を都市伝説の能力で殺害し
強盗殺人を繰り返しながら街に潜んでいる模様。
契約都市伝説は『ムラサキカガミ』と推測される。
対象Bの名前は石井泉。両親が変死体で発見されており、
恐らく都市伝説の能力で両親を殺害した可能性が高いと考えられる。
対象Aと接触した経緯は不明だが共犯関係であることは間違いない。
契約都市伝説は『水晶ドクロ』と推測される。

初めに黒服を2名送るも失敗。黒服2名は失われた。
次に黒服を8名に増員し向かわせるも失敗し全滅。
二度の失敗と交戦情報からの相手の能力の精査が行われ
想定よりもかなり戦闘能力が高いことが明らかになった。

436 ◆MERRY/qJUk:2016/09/13(火) 00:18:21 ID:oVMki5kk
対象Aの能力は『言霊を用いた目標物の破壊』
現在確認されている言霊は"死"のみであり
これを含む言葉を発生することで意図した効果を発生させる。
効果範囲は声の届く範囲であると推測される。
計10名全ての黒服を体の複数箇所の壊死という形で破壊している。

対象Bの能力は『呪詛』『予知』『念動』等がある模様。
なお呪詛は前述の対象Bの両親の変死から
予知は監視中の対象Aと対象Bの会話から推測されたものである。
念動は対象Bが水晶ドクロを空中で動かしたほか
黒服の動きを不可視の力で阻害した形跡があるため
ほぼ確実に有しているものと思われる。

対象Aと対象Bの危険度を上方修正し
戦闘に長けた契約者2名による対象の討伐計画を申請する

【認可】

437 ◆MERRY/qJUk:2016/09/13(火) 00:18:51 ID:oVMki5kk
計画に参加する契約者は【******】【******】の2名
以下、契約者イ及び契約者ロと記載する

初戦は恐らく予知による待ち伏せを受け失敗
対象Aにより契約者イが喉に、契約者ロが腕に攻撃を受け撤退した
治療効果を持つ都市伝説を用いて回復を早めるものとする
対象Aと対象Bの危険度を上方修正し
次作戦にて陽動のため黒服10名の増員と
契約者【******】の計画参加を申請する

【認可】

以下、追加要員である契約者【******】は契約者ハと記載する

次作戦においては黒服を用いて誘導を行い、対象Aと対象Bの分断を行う
対象Aの担当を契約者イ及び契約者ハとし、対象Aの足止めを試みる
対象Bの担当を契約者ロとし、可及的速やかに対象Bの討伐を遂行する

438 ◆MERRY/qJUk:2016/09/13(火) 00:19:23 ID:oVMki5kk
第二次作戦において対象Aと対象Bの討伐に成功した

黒服による対象Aと対象Bの分断は期待通りの成果をあげ
対象Aの『ムラサキカガミ』は契約者ハの
『白い水晶』にて破壊効果の大幅な低減が確認された
対象Bとの戦闘により契約者ロが負傷したものの
大きな支障が出るものではなく、自然治癒で問題ないと考えられる

この結果から今後は戦闘能力だけではなく
都市伝説の相性や対抗都市伝説の効果を鑑みて作戦を遂行することで
都市伝説及び契約者への対処が効率化されるものと考えられる

439 ◆MERRY/qJUk:2016/09/13(火) 00:20:00 ID:oVMki5kk
ここで黒服はこの討伐作戦の記録に、まだ続きがあることに気がついた
やや事務的な討伐推移の記録と共にまとめられていたのは
この討伐作戦に参加した契約者が書いたと思われる走り書きだった
こんな主観に彩られたものでも一応資料の一部として保存するべきなのか……
黒服は頭を悩ませながら、もう一度走り書きに目を通した


この記録を読む誰かのためにこれを残します
私は彼の姿を直接見て彼の怒りを直接聞きました
彼は両親に虐待を受け、都市伝説で両親を殺害したといいます
次に路地裏で犯されそうだった彼女のため、また殺人を行いました
彼と彼女は大人を信用していませんでした
彼の硝子のようにひび割れた背中に無数の火傷跡が見えました
彼女の背中にはミミズ腫れが幾つもあると彼は言っていました
そして浮浪児である彼らを助ける者もいませんでした
だから彼らは大人を、世界を憎んでいると言いました
信じて助けたいのはお互いだけだと言っていました

440 ◆MERRY/qJUk:2016/09/13(火) 00:20:31 ID:oVMki5kk
それでも危険だから、私たちは彼らを消そうとしました
どんな事情があろうと罪は罪であり、罰があるべきでしょう
そのことに異存はありません。それでも思うことはあります
******さんは首を断ち斬った彼女に反撃されました
私たちも彼の最後の足掻きに意識を失いました
でもその間際、私は確かに女の子の声を聞いたのです
「生きて。私の力を使って、もう一度だけでも」という懇願を
気づけば彼らの死体は消えていました
黒服さんは討伐が完了したと淡々と告げました
しかし私は思いました。討伐したなんてとんでもない
私たちはこの世に悲しい怪物を生み出したのではないか、と

だからどうか、これを読んだ人に教えてほしいのです

私たちはどうすれば彼と彼女を救えたのですか?
両親を殺した直後に彼を捕まえる?
それとも彼と彼女と出会った時に?
あるいは、私たちはもっと彼らの話を聞くべきでしたか?

441 ◆MERRY/qJUk:2016/09/13(火) 00:21:09 ID:oVMki5kk


――――私たちが彼と彼女を討伐したのは、正しい対処でしたか?


 閑話【了】

442はないちもんめ:2016/09/13(火) 22:40:19 ID:q/30Hbc6
K-No.の事務所にて
「と、いう訳でウチの神子が襲われたわ」
「言っちゃ何だけどよく無事だったわね?1人だったんでしょ?」
「封印が解けてたのよ、不意をついて再封印したけど、失敗してたら色々終わってたわ」
「死んでも厄介ごと押し付けてくんだから勘弁してほしいわあのクソ親父」
望の報告に影守と希は疲れた様に息を吐く。
「誰かに勘付かれた可能性は?」
「それは無いでしょ、先先代K-No.0のアカシャ年代記自体は結構知られちゃってるけどそれが遺伝する事は私とアンタ達、後は大樹さん、翼、美緒さんの6人しか知らないし、あの一瞬で勘付いた奴がいてもそれを見落とす程アカシャ年代記は甘く無いわ」
「ならそちらは気にしなくて良いか…むしろ問題は」
「逢魔時の影…面倒ね、被害は着実に増えてる」
「現状じゃ原因もよくわかってないしなぁ…気が滅入る」
「何かパーっと明るいイベントとか無いかしら」
3人が深くため息を吐くと外からK-No.2…獄門寺在処が書類を抱えて戻ってきた。
「在処ぁ…こんな気が滅入ってる時に書類なんて…」
「と言われると思って明るい話題もってきましたよ!」
「?」
「じゃーん!」
そう言って在処が広げた書類に書かれていた文字は

「「「合同戦技披露会!?」」」
「数年ぶり開催許可!しかも今回はフリーランス枠も有りですって」
「………運営は?」
「モチロンウチ(K-No.)ですよ」

在処の言葉に影守は改めて深くため息を吐いた。

続く?

443逢魔時にて  ◆nBXmJajMvU:2016/09/15(木) 00:37:39 ID:6Ub8aBU6
 学校町
 ありとあらゆる意味で結構特殊な町である
 たとえば、狼やガスマスクをつけた男といった、他所では通報物の存在が歩いていようが通報される事はない
 たとえば、工場地区にあった廃工場が一夜にしてなくなろうとも、あまり気にしない

 ……そのような町である
 不思議と、それが当たり前になっている
 そのような街、なのだからこそ

 夕方から夜へと変わりゆく逢魔時
 あまり人気のない場所で、豪快に銃撃戦を思わせるような音が響き渡ろうとも
 それを気にかける者は、他所の住人が思う以上に少ないのである



「……よし、大方仕留めたか」

 きゃいきゃいと騒ぐ天使達を従える天地は、「逢魔時の影」が残っていない事を確認し、そう口にした
 突如、大量発生した「逢魔時の影」の討伐に天地は自ら名乗り出て……そして、それが通ってしまったのだ
 なにせ、今の学校街は「組織」から見れば非常事態と呼んで良い状況だ
 20年前以降の久々の事件同時発生に、天地のようにやや上層部の人間も積極的に前に出るべき事態となっている
 そもそも、天地が契約している「モンスの天使」の能力は、多数を殲滅する事に適している
 「逢魔時の影」のように、大群で現れる相手には相性がいいのだ

「これ、俺達が同行する意味なかったんじゃねぇの?」

 天地の無双っぷりに、思わずそう口に出したのは慶次だ
 幹部クラスとはいえ、一人で出撃して何かあっては大変なので、一応付き添いでついてきていたうちの一人だ
 ……天地の場合、当人の身に何かあったら、と言うより攻撃をやり過ぎて周辺に何かあったらと言う意味で一人で出撃できない事実は、当人には一応内緒である

「まぁ、そう言っちゃ駄目よ。幹部クラスの戦闘を見ることで、お勉強にもなるんだから」

 ころころと笑いながらそう言ったのは、A-No,4649……愛百合だ
 慶次と同じく、天地の付き添いでやってきたのである
 ANo所属の2人がCNoの幹部である天地に付き添っている、と言うのもひと昔前ならば妙な光景であっただろうが、今現在はさほど気になる事でもない
 そもそも天地自身が昔はANo所属であった事も関係し、強行派や過激派の動きがおとなしくならざるを得なくなった現状、ANoのみでは穏健派のような仕事のノウハウがないと言う事態があり、CNoやDNoがANoに穏健派の仕事のやり方を教えることも増えているのだ

 ……そのような事実はさておき、今回の仕事が天地向きの仕事であり、天地一人で片付いた事実に、何の代わりもない
 そもそも、慶次が契約している「カブトムシと正面衝突」は、多数との戦いにはあまり向いていない。どちらかと言うと、一対一での一撃必殺や暗殺向きの能力なのだ

(……それでもまぁ、愛百合の言う通り「勉強」って事か)

 今の自分は、ANpの古いノウハウが目立つ愛百合だけからではなく、他のやり方も学ぶべきなのだ
 戦えなかったのは不満だが、仕方あるまい

「それで、ひとまず見つけた一団はなんとかした、と。ここからはどうするんだ?」
「現時点で、「逢魔時の影」が特定の時間にのみ出現する事はわかっている。俺の「モンスの天使」で広範囲探して回って、見つけ次第潰す」
「思った以上に雑だな!?」

 思わずツッコミを入れる慶次だったが、天地のやり方ならそうなるか、とも同時に納得してしまう
 最も、この男の事なので同時に本部と連絡を取り合いながら最も近い「逢魔時の影」出現場所へと急行して、見つけ次第潰していく戦法を撮るのだろうが

「調査は俺の仕事じゃない。俺の仕事は出現した「逢魔時の影」の殲滅だからこれでいいんだよ。調査は、担当の奴に任せりゃいい」
「それはそうなんだが………うん。もういいや」

 「逢魔時の影」が出現した原因も気になると言えば気になるが、思えば自分とて、調査や解析向きではない
 今日は、万が一天地が打ち漏らしたらそれを潰す、くらいの気持ちでついていったほうが良いのだろう

 ………と、散らばっていた「モンスの天使」逹が戻ってきた
 また、「逢魔時の影」が見つかったのだろう
 天地に続き、慶次と愛百合も「モンスの天使」の先導に従い、現場へと向かう事にした



 影が蠢く
 昼から夜へと移り変わるこの時刻、元から都市伝説が出現しやすい時間
 出現した「逢魔時の影」は、活動を開始する
 ……と、それらは、自分達の頭上に影がさした事を感じた
 頭上から、何かが迫ってくる、と
 ……感じ取ったとしても、それから「逃げる」という選択肢は「逢魔時の影」には存在しない
 降りてきたところを攻撃しようと、上へと視線を上げて……

 直後
 彼らの「背後」からの攻撃に、その場にいた「逢魔時の影」は一瞬にして殲滅された

444逢魔時にて  ◆nBXmJajMvU:2016/09/15(木) 00:38:34 ID:6Ub8aBU6



 ぞくり、と
 確かに、はっきりと、慶次は悪寒を感じた

 ちらり、愛百合と天地を見れば、愛百合は「あらあら」と少し困ったような表情を浮かべ、天地は露骨に舌打ちしていた
 「モンスの天使」逹にいたっては、天地の背後に隠れている者までいる。と、言うか、慶次の背後にまで隠れている者もおり、慶次としては多少落ち着かない
 ……そう、本来契約者である天地を守る存在であるはずの「モンスの天使」が、怯えた様子で契約者の天地や、契約者ですらない慶次の背後に隠れているのだ
 恐らくは、自分と同じ悪寒を、この威圧感を感じているのだろう、と慶次はそう認識した

「…………貴様らも、来たのか」

 低く、他者を威圧するような声
 向けられた視線は酷く冷たいものであり、見下してきているようにも見えた
 その男から感じる印象は「冷たい」「冷酷」といったものが強いのだが、その男が手にしているそれから感じるのは、「熱」
 教会の司祭といった出で立ちのその男が手にしているのは、幾又にもわかれた燃え盛る鞭だった

 「異端審問官」ジェルトヴァ。その名前は慶次も聞いたことがあった
 この男が「教会」から派遣されて学校街に来た直後に「出来れば関わりあいになろうとするな」と天地から釘を差されたせいだ
 …こうして遭遇してしまったからには、嫌でも関わりあいにならなければならないのかもしれないが

「あ、はぁい。「組織」の皆さん。ここに出現した「逢魔時の影」は殲滅したんで、「逢魔時の影」狙いなら他所探した方いいっすよー」

 と、ひょこりっ、とジェルトヴァの背後から、高校生程度の少年が顔を出した
 ……荒神 憐だ
 そう言えば、彼は「教会」所属だった
 ジェルトヴァのお目付け役として行動しているのだろうか

(そうだとしても、このおっさんを止めるられるだけの影響力あるのか?こいつ)

 この、人のいうことを高確率で聞かなさそうな、頭の硬そうな「異端審問官」相手に、このへらへらした軽薄そうな少年でなんとかなるのか
 そんな疑問が、慶次の頭をよぎる
 ……とはいえ、他に学校街に常駐している「教会」所属となると、憐の母親か、「セラフィム」の契約者であるカイザーか、「クローセル」たるメルセデスとなる
 ちょうどいいお目付け役が、憐しかいなかったのだろう、と慶次は納得しておく事にした

「あぁ、憐もいたのか………わかった。じゃあ、そっちはお前逹に任せる」

 そして、どうやら。天地も憐には少々甘いようだった
 普段の天地ならば、ジェルトヴァ相手に引くことはしないだろうが、憐に言われたならば譲るらしい

「あら、いいんですの?」

 愛百合としても、天地のこの反応は意外だったようで、そう声を上げた
 いい、と天地は頷く

「憐がいるんなら、そこの異端審問官も多少は気を使うだろ。一人で戦われるよりはマシだ」
「………人を貴様のように周囲の迷惑を考えずに攻撃するハッピートリガーのように言うな」
「うっせぇ。てめぇ、学校街で建築物やら道やらに損害が出ても「組織」がなんとかすると思って加減なしで力使う事多いじゃねぇか」

 ……なるほど、と。天地がジェルトヴァとは関わるなといった理由の一つを理解する
 どうやらこの2人、仲が悪い
 お互い、嫌い合っている様子が、今はっきりと伝わってきた
 過去に何かあったのだろうか
 酷く険悪な空気が流れるが、これは止めるべきか

 ちらり、愛百合の様子を伺えば、彼女は「あらあら」と少し困ったふりをした笑顔を浮かべながら、止めようとする様子はない
 ……まるで、このまま喧嘩してしまえばいい、とでも感じているような

(俺がなんとかするしかねぇのか、これ)

 愛百合に止める気がないのなら、自分がやるしかない
 彼女が止められないのだとしたら、自分がとめられるかわからないが、やらないよりはマシなのだろう

 そう、慶次が天地とジェルトヴァに言葉をかけようとしたその瞬間

 ざわり、と
 ジェルトヴァ相手に感じたのとは、別の悪寒を感じた
 それは、自分達の背後の方からの、気配

 半ば反射的に、慶次は「カブトムシと正面衝突」の能力を発動させ、気配の主へとそれを放った
 硬い鉄板すら撃ちぬく、一撃必殺のカブトムシは狙い違わず、そこにいた人影の脳天へと閃光の如きスピードで飛んでいった
 しかし

「……っな!?」

 手応えは、なかった
 そこにいたのは、半透明の女性……その姿からして、実体を持っていない

445逢魔時にて  ◆nBXmJajMvU:2016/09/15(木) 00:39:10 ID:6Ub8aBU6
 慶次が契約している「カブトムシと正面衝突」の弱点は、肉体を持たない相手には効果が及ばない、ということだ
 肉体……実体さえ伴っているならば、それが機械であったとしても重要機関を破壊さえすれば倒せるが、実体の伴わない相手となるとそうもいかない
 ようは、今、自分達へと敵意を向けているあの女性に対して、慶次では手も足も出ないのだ

「……本当に、困ったものです」

 その女は、薄く笑う
 その目には正気の色が見えなかった

「相手を確認もせずに、攻撃してくるだなんて………やはり、全て排しなければ」

 バチ、バチ、と電流が走っている
 女が、軽く、片手をあげた

「……!てめ、まさか、あの影はてめぇの仕業か!?」

 この女性が何者なのか、天地は理解したのだろうか
 「モンスの天使」に警戒態勢を取らせながら、そのように問うた
 女は、その問いかけに笑う、嘲笑う
 正気を失った眼差しで、じっと、この場にいる者達を見つめながら

「この地を守るためならば、人の明日を守るためならば。人ならざるものは全て、すべて、スベテ、滅ぼしましょう」

 女の周囲に、影が蠢き出す。「逢魔時の影」が

「……まぁ、大変。逃がしてくれそうにないかしら?」

 周囲に隙間を探しながら、愛百合が呟く
 女から感じるのは、強い敵意、そして殺気
 そうやすやすとは逃がしてくれないだろう事は、明らかだ

「仕方ねぇな……っ」
「……憐、危ないから、後ろに……」

 天地と、ジェルトヴァが、バチバチと電流を放とうとしている女へと、攻撃を仕掛けようと

「…………危ないから、どいて」

 それよりも、早く
 静かに響いた声は、この場で一番年若く、幼い者の声

 思わず、慶次はそちらへと視線を向けた
 そこでは、ジェルトヴァの後ろの方にいた憐が、「シェキナーの弓」を構えている姿が、あって
 つがえた矢の出力が、普段より明らかに、強い
 まるで、あの半透明の女性が出現した瞬間から、弓を構えて集中し、威力をためていたかのように

「……っうわ!?」

 太陽のように光り輝く「シェキナーの弓」の矢に思わず意識を奪われていると、ぐいっ、と両腕を掴まれて引っ張りあげられた
 どうやら、「モンスの天使」の2人ほどが、慶次の体を持ち上げたらしい

 憐と、女性との射線上に、障害物がなくなった瞬間

 どんっ!!!と、大きな音が、響き渡った
 まるで、大砲でも撃たれたかのような、そんな音
 ゴォウ、と轟音とともに光り輝く矢は半透明の女性へと飛んでいった

 バチバチと、音
 矢を受け止めようとしたのだろうか
 何かとぶつかり合った矢はさらに鋭い光を放ち、もはや目を開けていることすら、難しくなった
 酷く長く感じたが、恐らく時間としては数秒程度
 光が収まり、慶次が目を開くと

「………っく」

 そこに、半透明の女性は、いた
 矢が直撃しなかったのか、それとも直撃こそしたがあまり影響がなかったのか、深手を負っているようには見えなかった
 心臓位置を抑えながら、女性は小さく、うめいて

 一瞬
 一瞬では、あったが
 その瞳に、正気の色が、灯って

 苦しげにうめいたまま、その女性は、ふっ、と、姿を消した


.

446逢魔時にて  ◆nBXmJajMvU:2016/09/15(木) 00:39:51 ID:6Ub8aBU6

 慶次の体が、ふわり、地面へと降ろされた
 先程まで漂っていた、あの女性の気配は完全に消えている
 女性の周囲に出現しようとしていた「逢魔時の影」は綺麗に消え去っていた
 先程の憐の攻撃で、まとめて倒されたのかもしれない

「…っと、と」
「!憐、大丈夫か」

 ふら、とふらついた憐の体を、ジェルトヴァが支えている
 大丈夫っすー、と憐はへらり、いつもとおりの笑みを浮かべてはいるが、少し、顔色が悪い
 先程の威力の高い攻撃には、反動があったのかもしれない
 そもそも、憐の使う「シェキナーの弓」は憐の母親の契約都市伝説であり、憐はそれを「借りている」身なのだから、あまり高火力を出そうとすると負担がかかるのかもしれない

「………憐、今日はもう、帰っとけ。きついだろ」
「えー、俺っちー、まだまだ平k「私が送る」

 ぐ、とジェルトヴァが憐の腕を掴み、さっさと歩き出した
 憐は、少しだけ困っているような、戸惑っているような表情になったが、すぐにいつものへらりとした笑顔になって、こちらに手をふってきた
 ずるずると引っ張られていく姿を、見送る

「…慶次君、大丈夫?」
「あ?……あぁ、俺はなんともねぇ」

 駆け寄ってきた愛百合に、そう答える
 彼女も、先程の攻撃の巻き添えはくっていないらしい
 うまく、隙間に逃げ込んでいたのかもしれない

 ……ちらり、天地を見る
 どうやら、「組織」本部と何か連絡をとっているらしい。「「怪奇同盟」に話を」などという言葉が、ちらり、聞こえた


 あの女性が、何者だったのか、慶次にはわからない
 ただ、どちらにせよこの学校街が厄介なことに陥っている事を再確認する羽目になった、と溜息をつくしかなかった



 そして、角田 慶次は気づかない
 自分の担当黒服が、酷く、冷たい眼差しを己へと向けていた、その事実に







to be … ?

447山の話 ◆HdHJ3cJJ7Q:2016/09/15(木) 13:42:41 ID:XKvIGpi.
北区にある小さな雑貨屋。
店内にはフランス人形やアジアン雑貨、奇妙な形のオブジェなどが雑然と並んでいて、店と言うよりは物置という印象だ。
事実、店主が趣味で収集したり買い取ったりしたものを並べているため物置と呼んでも間違いではない。

「来たぞー、爺」
「いらっしゃい葉ちゃん、夢魔ちゃん」
「うぃーす」

引き戸に取り付けられたチャイムを派手に鳴らしながら入店する葉、そして静かに続く夢魔。
葉は手ぶらなのに対し、夢魔は唐草模様の風呂敷包みを手にしている。
夢魔は風呂敷をカウンターに置いて広げると、そのまま店内を物色し始めた。
爺と呼ばれた店主は広げられた荷物を一つ一つ手に取り整理する。
それらは木の蔓、糸や羽根で丁寧に作られた
御守りだった。

「最近何か変わったことはあったか?」
「そうじゃなあ、近所の畑が荒らされとった事くらいか……後は犬がうるさいとか……」

葉と店主が雑談をしている時、夢魔は店内に飾ってある人形を見ていた。
古びてはいるが、よく手入れのされたビスクドールだ。

「……」
「…………」

夢魔はただじっと、人形の透き通るような碧眼を見ている。

「………………」
「……………………」

正面から、まっすぐに、覗き込むように。
その視線に堪えきれず、人形が、目をそらした。
夢魔はそらした先に回り込んで、なおも覗き込む。
人形の顔は変わっていないはずなのに、最初よりも表情がひきつって見える。

「葉、葉。このビスクドール、シャイガール」
「そうか、ならそれも持ってこい」

店主との世間話は終わったらしく、葉は買い物をして会計を済ますところだった。
御守りを入れていた風呂敷で、今度は買った物を包んでいく。
人形も隙間に詰め込む。

「むぎゃ」
「渡したやつ、大きいのは店先に吊るすやつだからな。古いのは燃やしていいから」
「何かすごい重そうなんだけど、あたしが持つの?」
「いつもすまないねぇ、御守り、わりと売れてるから」
「ねえ、あたしが持つの?」
「御守り以外売れてるの?」
「ねえったら」

結局、夢魔が荷物を持って店を出た。

448山の話2/2 ◆HdHJ3cJJ7Q:2016/09/15(木) 13:45:49 ID:XKvIGpi.
店を出て山の方へと、道なりに歩く二人。
この辺りは、学校町の他の場所に比べて自然が多く人通りも少ない。
だからと言ってまったく無いわけでもないので、夢魔は翼も角も隠したままで、飛ぶなんてもっての他である。
しばらく進んでいると、三差路に差し掛かった。

「よし、夢魔。少し待ってて」
「早くしてねー」

そういうと、葉は道の脇にある岩へ近づいた。
岩には文字が彫ってあり、それが道祖神であることを示していた。
子孫繁栄や、厄を遠ざける目的で設置されるものである。

「最近は信仰する奴も少ないからなぁ。片付けとかないと」
「荷物重いよー」

愚痴をこぼしつつ、片方は掃除、もう一方は待ちぼうけ。
夢魔に関しては元の膂力から考えて、実際に重い訳ではなく気分の問題であり、要するに退屈なのだ。

しばらくした頃、夢魔の後ろから犬の鳴き声がした。
夢魔が振り向くと足下に黒い色の小型犬がいた。

「キャンキャン!」
「ん? 野良か? よーしよし」
「夢魔ー、あんまりそれに構うなよー」

掃除しながらも注意を促す葉。
それを聞き流して、夢魔は犬を撫でる。
犬も嬉しいのか、しっぽを振っている。

「付き纏われるぞー」
「ねーあんな意地悪言っ……ぅおう」

犬の違和感に気付いて、一歩離れた。
その犬の足が、全て後ろ向きになっていたのだ。
まるで足を取り外して、180度回転させてから、また取り付けたように。
しかしその犬は、まるで普通の犬のように、鳴いて飛び跳ねている。

「森へお帰り、こっちはお前の場所じゃない」
「キャンキャン!」

葉に促され、犬はしばらく駆け回った後、山の方へ駆けていき、茂みに潜り込んで見えなくなった。

「……心臓に悪い」
「ああいうのが来ないように、これが設置されてるんだが……みんな忘れてるんだ。
  まぁ今のは弱ってるみたいだからすぐに消滅するだろう。
  普通は山の主とかが、変なのが発生したり山の外に出たりしないようにしてると思うんだが……」
「居ないんじゃないの?」
「山に流れてる力を見る限り、居ない訳ではないだろう、居ないならもっと枯れてるはずだから。
  上手く管理出来てないのか、あるいは別のところから地脈が流れてるのか……よその山だから、その辺は分からんし管理もできん」
「ふーん」
「用事もすんだし早く帰るぞ」
「じゃあ荷物……」

夢魔の返事を聞く前に、葉はすたすたと先に行く。
夢魔の呟きは空しく風に流されていった。

449逢魔時を終えて  ◆nBXmJajMvU:2016/09/16(金) 23:22:25 ID:wi/l6vP6
 夕日が、地平線の向こう側へと沈み切る
 夕暮れが、逢魔が刻が終わり、夜が来る

「……あぁ、わかった」

 本部との連絡を終えて、天地がふぅ、と深く息を吐きだした
 「逢魔時の影」が姿を消したことを確認したようだ
 あの存在は、決まった時間帯しか出現しない事はすでにわかっている
 誰が呼び出したか「逢魔時の影」。その時間帯しか出現しないからそのように呼ばれているのだろう。昼から夜へと移り変わるその時刻にしか、出現しない
 すでに日が暮れきったこの時刻には、もう出現しない

「さて、戻るか……報告書面倒くせぇ」
「あんたはどっちかと言うと、報告書読む側だろ」
「俺も出たからには書かないと駄目なんだよ。あの異端審問官と遭遇した件と、その後のあの件も含めてな」

 面倒だ、といいつつ、この男は書類事務能力は有能だ。さっさと片付けてしまうのだろう
 K-Noにほしい、と言われたその手腕は、C-Noにおいて人間………「飲まれていない契約者」でありながら幹部クラスにまで上り詰めた要因でもある
 最も、当人は現場に出る仕事を好む性格のようで、事務能力の有能さを見せれば見せるほど現場に出る機会が失われているのだから、皮肉としか言いようがないのだが

「私も、報告書を書けば良いのかしら?」

 愛百合がそう言いながら、首を傾げてみせる
 その問いに、天地はいいや、と首を左右にふってみせた

「俺が書きゃいい事だ。そっちは書く必要ない」
「あらあら、楽させてもらっちゃってるわね」

 いいのかしら、ところころと笑っている
 内心は楽ができた、と喜んでいるのだろうが、そこは表に出そうとしない

「……ま、どちらにせよ報告書の前に飯だな。慶次、お前らはどうする?フォーチュン・ピエロかフェアリーモート、六華でよければおごってやるぞ」
「!六華のチャーシューと餃子頼んでいいなら甘える」
「100円プラスでの杏仁豆腐食べていいなら、お言葉に甘えようかしら」
「遠慮ねぇなお前ら」

 骨好堂のラーメンも美味いが、六華のラーメンも美味い事走っている
 特に、あそこはチャーシュー麺と餃子が美味い
 奢ってくれるというのならば、それを逃すのは惜しい
 慶次は迷う事なく、天地に甘える事にした

「……それにしても。「教会」の人間まで、「逢魔時の影」の討伐に動いているのかしら?」
「いや。多分「バビロンの大淫婦」探しているついでに、見かけたから討伐したってとこだろ。傍に憐が居たから余計な。あのおっさん、憐に甘いし」

 天地のこの言いようからすると、ジェルトヴァに憐が付き添っているのは憐ならばブレーキになり得るから、と言うことらしい
 なんだかんだ言っても、「組織」以外の人物とも適度な付き合いがある分、他組織の人間の情報も入っているからわかるのだろう

(やっぱ、「組織」以外の連中とも、敵対以外で接触したほうが情報は手に入りやすいか]

 自分に一番足りないのは「情報」だと、慶次は近頃実感してきている
 「組織」所属ではないどころか、都市伝説契約者ですらない直斗の方が、「狐」絡みの情報を多く持っていた事実
 それが純粋に悔しかったという思いと、「組織」所属の契約者でありながら、どこかの組織に所属している訳でもなく契約者でもない者に情報面で劣っていたと言う事実への不甲斐なさ
 二つの思いを、同時に抱える
 そして、それら二つを同時に解決するには、やはり「組織」以外の者とも積極的に情報交換等した方がいいのだろう

(過激派や強行派がやるような、脅しつけて聞き出すようなやり方だとうまくいく気がしねぇし……普通に聞き出す方法……)

 ……どうやれば、良いのだろうか
 「組織」の親しい者以外との友好的な付き合いがあまりないせいで、よくわからない

(迷惑になんねぇ程度に、かなえに聞いてみるか……?)

 年下に頼る事は情けないとは思うが、背に腹は代えられない
 情報不足で敵対者相手に遅れをとるよりもずっといい

(そもそも、天地はあの半透明の女の正体、わかってるみたいだしな。「怪奇同盟」………最近、あまり聞かない名前だからって、完全にノーマークだったし、そこから調査を………)
「ねぇ、聞いてもいいかしら?」

 と、慶次が思考に沈んでいると
 愛百合が、何やら天地に問いかけているようだ
 何だ?と天地は少し面倒くさそうに対応している

「貴方、さっき「怪奇同盟」と連絡を取ろうとしていたわね?………あの半透明の女性、そちらの関係者かしら?」
「………断言はできない。ただ、姿は似ている。確認がとれたら、改めて伝える」

 慎重に答えているように感じた
 断言しきるには、判断材料が足りない、と言うことか

450逢魔時を終えて  ◆nBXmJajMvU:2016/09/16(金) 23:22:55 ID:wi/l6vP6
 もしくは、本当はすでに確信がもてる段階であったとしても、「組織」と「怪奇同盟」の関係が険悪にならないよう、慎重に発言せざるをえないのか
 天地のそのような回答に、愛百合はころころと笑う

「あら、姿が似ていると判断したのなら、早く動くべきじゃないかしら?早くしないと、対応が後手後手になってしまうでしょうし。手遅れになってからじゃあ、遅いと思うの」

 まるで、「白い服についた醤油は早く落とさないと染みになるからさっさと対処するべき」と言っている時と同じ口調でそう告げている
 …愛百合は、つまり、「あの半透明の女が「怪奇同盟」の関係者であれば、「怪奇同盟」が危険な存在を野放しにしているも同然。処分すべき」と言っているのだ
 「逢魔時の影」は、あの半透明の女が出現させているようにも見えた
 愛百合は、「逢魔時の影」出現の原因をあの半透明の女であると確信を持ったのだろう

 ただ
 だからと言って、「怪奇同盟」そのものを処分対象とし、「組織」が敵対して良いものか
 慶次は、考えて

「……いや、動くにしても。あの女が「怪奇同盟」の関係者だったとしても、当人が独断で動いてんのか、「怪奇同盟」全体の方針で動いてんのか、それくらいは確認するなり調べるなりした方がいいんじゃないのか?」

 そう、思ったことを正直に口に出した
 あら、と、愛百合はほんの少し、驚いたような表情をして
 しかし、すぐにいつものおばさんくさい笑顔を浮かべてきた

「あら、そんな事言っても。きっと、「怪奇同盟」相手に話を聞く、なんてしたら、知らぬ存ぜぬで誤魔化そうとしてくるんじゃないかしら?もし、あの半透明の女性が独断で動いているのだとしても、「怪奇同盟」としてはそんな独断でこの街を危機に陥れようとしている人と関わりがある、なんて知られたくないでしょうし」
「そこら辺、まずは聞いてみないとわからないだろ?少し調べて、相手の態度とか見りゃいいんだろうし………その辺も、あんたの仕事なんだろ」

 愛百合に答えながら、天地へと視線を向けた
 天地は、慶次と愛百合のやり取りにじっと耳を傾けていたようだったが、慶次からの視線を感じたのか、答える

「俺が交渉に行くとは決定してないけどな。行くとしたら、俺よりも「怪奇同盟」に関わっていて、かつ、俺よりも穏健に話し合える奴だろ」
「あらまぁ、「怪奇同盟」とと関わりが深い人だなんて。裏で手を組んでいたら怖いわ」
「お前、その台詞。大門 大樹の関係者の前で言えるか?」

 ……あぁ、なるほど
 あの大門 大樹なら、穏健に話し合えるかもしれないか
 あの、「組織」最強格筆頭の一人ではあるものの、性格の関係でものすごく、ものすごく扱いづらいと言うあの契約者の担当を20年以上に渡って続けているという、あの男ならば
 大門 大樹の名前を出されて、愛百合は苦笑した

「なるほど、あの方なら、大丈夫かしらね………もしかしたら、「組織」に対して愛想を尽かしているかもしれないけれど。もし、そうなっていたら彼のこと、とうに「組織」を抜けているでしょうしね」
「そういうことだ。あいつの仕事増やすのは悪いが。その分、書類事務ある程度こっちが引き受けて差し引き0になるようにする」

 そういった調整も天地が行うとなると、総合的に天地の事務仕事は増える
 自分で自分の事務仕事を増やす羽目になっているが、その方が効率が良いと考えれば、天地はやるのだろう

(ハッピートリガー野郎でも、戦闘以外の仕事をここまで出来るんだ)

 ………自分だって
 負けず嫌いにも似た何かを感じながら、慶次は天地のあとを付いて歩く
 少しずつ、歩み寄るようにしながら














(……そろそろ、捨て時かしら?)

 全く、困ったものだ
 ちゃんと、自分の言うことだけ聞くように育てていたつもりだったのに
 以前のように洗脳するのが手っ取り早いのだが、それをやるとそれこそ天地に目をつけられてしまうため、できなかった
 そのせいで、結局、慶次一人しかこうして確保できていなかったが………

(私が欲しいのは、「駒」。自分の意志で動かれては、面倒だわ)

 幼いうちから育てていけば、うまくいくと思ったというのに
 少し、自分が目をはなした隙に他の者の影響を受けてしまった
 せっかく、「都市伝説に襲われている人間を見捨てる」と言うリスクを背負ってまで確保したのに、台無しだ

(周りに不自然がられないように、始末しないと)

 冷たく、冷たく、慶次を見つめながら
 愛百合は憂鬱ゲに、ため息を付いたのだった


to be … ?

451逢魔時の怪 ◆MERRY/qJUk:2016/09/19(月) 19:09:07 ID:k2/eH4kg
昼と夜が移り変わる逢魔時。出歩く者が少ないのはどこも変わらない
繁華街を有する南区であろうと、人目につかない場所というのは存在する
そんな場所で――たとえば廃ビルの裏の少し広い路地裏――何が起ころうと
都合よく助けが来るなどということは、期待できないのだ

「きゃああああああ!!」

上半身だけの女の子が、飛んでくる壊れた看板に弾かれ壁に叩きつけられる
人間であれば既に死んでいてもおかしくない姿だが、彼女は必死に体を起こす
なぜなら彼女は都市伝説"テケテケ"であり――目の前の敵と交戦中なのだから

「テケテケッ! くそ……なんだっていうんだよ!!」

落ちていた金属製のパイプのようなものを振り回して
周りを囲む人型の影のようなものを牽制しながら、テケテケの契約者は叫ぶ
しかし彼らを襲った敵は、幽霊のような半透明の女性は答えない
代わりにテケテケに向け突き出された半透明の右手が放電を始める
テケテケも危険を感じて動こうとするが、ダメージから体が思うように動かず

「やめろおおおおおおおおお!!!」

少年の叫びも虚しく、路地裏に紫電が迸った。

452逢魔時の怪 ◆MERRY/qJUk:2016/09/19(月) 19:09:54 ID:k2/eH4kg
「……え?」

テケテケは我が目を疑い、思わず声を漏らした。
自分がやられれば契約者が危ない……その一心で最後まで足掻くため
彼女は紫電が自分に向かって放たれる瞬間まで目を閉じなかった

だから彼女は目撃したのだ。都合のいいヒーローの、都合のいい登場シーンを

上から落ちてきた誰かは目の前に何かを突き出し、そこに紫電が吸われていった。
それは板のようなもので、よく見れば誰かの頭の上にも二枚ほど
板のようなものが突き出ていた。わずかな光を反射するそれは……

「鏡……」
「かめん、らいだー……?」

ハッとして契約者である少年の方に目を向け、また目を疑った
少年を囲んでいたはずの影は消え去り、代わりに大きな黒い犬が佇んでいる
赤く燃えるようなその瞳は、半透明の女性に視線を向けていた

「お久しぶりです美弥さん。消えてください」
「ザクロ、彼らを頼む」

453逢魔時の怪 ◆MERRY/qJUk:2016/09/19(月) 19:10:52 ID:k2/eH4kg
半透明の女性の周囲に火の玉が現れ仮面ライダー(?)に降り注ぐ
しかしライダーは誰かに話しかけると、逆に火の雨の中へ駆け出した

「今のうちに逃げますわよ」
「え?あ……は、はい……?」
「テケテケ!大丈夫か?!」

テケテケに声をかけ、左手で首根っこを掴んで引っ張り上げたのは
黒いスーツを身に纏った長い黒髪の女性だった
彼女の右腕には少年が抱え上げられており、心配そうに声をかけてきた

「あの、あなたたちは……」
「これから跳びますので、口を閉じないと舌を噛みますわよ」

とぶ、とはどういうことか……と聞く前に女性は跳躍した。
1.5人分の重量など意に介さぬように壁を蹴り上に向かう。
彼女は近くのビルの屋上に飛び乗るとようやく動きを止め、二人を下ろした

「被害者、回収してきましたわ」
「お疲れ様ですザクロさん。義姉さん、行っていいですよ」
「オッケー!新技『結界武装』を試してくるわ!」
「ほどほどにお願いします」

テケテケがグロッキーな契約者を心配する横で
屋上に居た活発そうな女性と小学生くらいの女の子が
黒髪の女性と何かを話すと、活発そうな女性がいきなり飛び降りた
その体が何故か光っていたのは、おそらく見間違えではないのだろう

454逢魔時の怪 ◆MERRY/qJUk:2016/09/19(月) 19:12:09 ID:k2/eH4kg
「すみません。助けるのが少し遅くなってしまったようで」
「い、いえ……あの、あなたたちは一体何者なんですか……?」

声をかけてきた女の子に、テケテケはようやく質問する
女の子は少し考えた様子を見せ、口を開いた。

「……ただの都市伝説と契約者ですよ。あなたたちと同じです」


一方、路地裏での戦闘は仮面ライダーこと篠塚美弥が押されていた。

「やっぱりパンチやキックは効かないか……そらっ!」

左手から紫電を放とうとした半透明の女性……盟主の前で
美弥がおもむろに両手を打ち合わせると、ガシャンと音がして
盟主の左腕が二枚の鏡によって食いちぎられるように消し去られた

都市伝説"マスクドヒーロー"と化した人間である
篠塚美弥は、戦闘形態への変身能力を有している
また契約している都市伝説と一体化することで
さらに異なる戦闘形態へ変化することもできる
今の美弥は"合わせ鏡の悪魔"であるアクマと一体化した
ツインミラーフォーム……パワーと装甲性能に長けており
鏡を操った特殊攻撃を駆使する戦闘形態になっていた
物理攻撃もエネルギー攻撃もまるで効かない盟主の前では
鏡を介した特殊攻撃くらいしか有効打にならないとを考えての選択だ

455逢魔時の怪 ◆MERRY/qJUk:2016/09/19(月) 19:13:17 ID:k2/eH4kg
だがツインミラーフォームすら盟主の前では力不足だった
左腕が消失したことにも動揺せず、即座に右手が放電を始める
美弥は一歩引き放たれた紫電を構えた鏡に吸わせることで凌いだ

「粘りますね。ではこれでどうでしょう?」
「(うわ、あれはマズいよ契約者!)」

盟主を囲むように八ヶ所で放電が始まる
精度よりも数を重視した同時攻撃に、アクマが焦る

「街の被害はなるべく避けるんじゃなかったのか?」
「これくらいしなければ貴方は倒せそうにありませんので」

そう答え攻撃を開始しようとした盟主を――

「どぉりゃあああああああああああ!!!」

――――弾丸のように突っ込んできた彼女の蹴りが穿った

"超人"篠塚瑞希。夫と肩を並べる契約者だった彼女は
元々優れていた身体能力が人間の限界を超え、ついに都市伝説と化した
その動きは音すらも置き去りにし、ソニックブームが身体を傷つける
それに対して彼女が見つけた答えが、契約都市伝説であり義妹である
篠塚文……都市伝説"座敷童"の境界を定め、結界を作る能力であった
身体と外の境界に結界を纏って装甲と為す……名付けて『結界武装』

456逢魔時の怪 ◆MERRY/qJUk:2016/09/19(月) 19:14:14 ID:k2/eH4kg
この新技の嬉しい誤算として、結界の霊体すら遮る性質が上手く働き
彼女は実体のない都市伝説すら殴ることができるようになっていた
音速に迫った彼女の蹴りは盟主の胴体を消し飛ばし
盟主は苦々しげな表情のまま消えていった。恐らく撤退したのだろう

「悪い、助かった」
「いいっていいって!美弥が救助しなきゃ私も突っ込めなかったし」

篠塚瑞希の高速戦闘は周囲に被害が出やすい
さらにいえば結界を全身に纏うまで少し時間がかかる
そのため先に美弥達が駆けつけて被害者を救助し
装甲性能に優れた美弥だけが残って盟主を惹きつけることで
瑞希がより良いパフォーマンスを発揮できる環境を整えたのだ

「でさ、どう思う?」
「確かに盟主様だったが……様子がおかしいのは確かだな」

かつては怪奇同盟の主力として肩を並べて戦った身だ
あの頃の盟主と比べると、あまりにも攻撃的になりすぎている

「東の墓守さんに報告はするにしても、まあ今後やることは決まってるな」
「どんな敵が相手でも、街と人々の平和は私たちが守る!」
「ああ。それがヒーロー、そして怪奇同盟のやり方だ」

決意を新たにした夫婦は、夜の帳に閉ざされた路地裏から
仲間が待つ屋上へと跳び上がっていった。不運な被害者を家に帰すために


――――その路地裏から紙の鳥が静かに飛び立ったのを、見た者はいなかった


                             【続】

457はないちもんめ:2016/09/19(月) 23:28:21 ID:TiM3E1jQ
戦えて、守れるだけの力があって、その上で目の前で友達がバラバラにされたとして。
色んな物が崩れ落ちて、何もかも分からなくなった死の間際に…より強い力を求めるのは間違いでしょうか?


黒く焦げた裏路地。
プスプスと煙を上げる焦げたアスファルトの匂いが鼻に付く。
「まーたアンタか、新島」
「影守の娘サンじゃないか、久しぶりだな」
私の視線の先にいるのは新島愛人、本人は何一つ悪行を成したわけではないがその在り方や異常性から悪名高い新島友美の息子。
「もう少し綺麗にやれって神子に言われなかった?」
「言われたから綺麗に焼いたつもりだったが…」
道ごと焦がすなっての
「まぁ、逢魔時の影…雑魚相手にこれはやり過ぎだったか」
「厄介な相手に違いはないけどね…」
「数だけの雑魚だとアンタの趣向には合わないか」
「止めてよ、人を戦闘狂みたいに」
「どの面下げその台詞言ってんのかな…」
私、ディスられてる?

「今この場で討伐してやろうか?ファイアドレイク」
「手加減して俺に勝てると思ってるのか?」
「アンタごときに奥の手出す必要があるとでも?」

新島愛人の体から炎が上がる。
私の周囲に包丁が浮かび上がる。

「「!!」」

お互いの放った攻撃は、されどお互いに当たる事は無く、共にその後方にいた影を貫いた。

「ここじゃ邪魔が入るな」
「だね…あぁ、そうだ」
ポケットから姉貴分からもらった広告を取り出す。
「ほら」
「………合同戦技披露会…またやるのか」
「今回はフリーも参加自由だ、来なよ、遊んだげる」
「ここなら邪魔せずにやり合えると…良いだろう」

弱い人が嫌いです。
弱い自分がもっと嫌いです。
弱いと自分は自分でいる事すら許されないのだから…


続く

458とある女子高生とナチュラルホモ共の高校生活日記  ◆nBXmJajMvU:2016/09/20(火) 01:06:12 ID:7Lm2zYPw
 本屋自体は嫌いではない
 いくつもあるファッション雑誌の中から、どれを買おうかな、と選ぶ時間はなかなか楽しいものだ
 …最終的には、気になる付録がついている物を全部選んでしまったとしても、私はあまり悪くない、はずだ
 魅力的な付録をつける出版社が悪い。ほぼ付録がメインになっているのとかは、どうかと思うけれど
 とりあえず、今日は一冊だけ選んで買うことにした
 ブランドとコラボした限定のバッグが付いているだなんて、買うしか無い

「あぁ、咲夜さんも、何かお買いになられたのですね?」
「えぇ、ちょっとファッション雑誌を……龍哉君も、何か買ったの?」

 はい、と頷くR
 Nの方は、今丁度カウンターでお支払しているところだ

 今日は、RとNと一緒に帰っていた
 最近物騒だからと、2人が私を送ってくれる事になったのだ
 ……以前だったら、物騒じゃなくても私と一緒に帰りたいと男逹が殴り合いになるとかもあったのに、ここではそういうことはない
 本当、高校の男共おかしいと思う。どこに目をつけているんだろう

「おまたせ。じゃ、帰るか」

 と、そうしているとNもお会計が終わったようで戻ってきた
 それぞれ、買った本をカバンに入れて店を出る

 夕暮れ時の道を、三人で歩いて行く
 伸びた影がゆらりゆらりと揺れ揺れる

「直斗は、何買ったの?」
「ん?ライトノベルだよ。「ゴブリンスレイヤー」って。やつ。新刊出てたからさ」

 特典目当てじゃないからあそこで買った、と口にしている
 なるほど、ライトノベルか。自分はあまりライトノベルは読まないのでピンと来ないのだが、もしかしたら有名な作品なのだろうか
 直斗は、そのあたりの流行にはちょっと詳しいようだし

「どんな話なの?」
「え?……そうだな。咲夜は、ファンタジー系のTRPGってわかるか?」
「TRPG………は、前にみんなでやった、くとぅるふみたいな奴?」

 クトゥルフTRPG、とやらは、前にみんなでちょっとやらせてもらった
 ……うん、あれ、怖かった
 突然、見覚えのない人と一緒に見覚えのない部屋に閉じ込められていて、だなんて。想像するとなかなかに怖い
 最後のシーンとか、本当、怖かった
 私は、あんなにも想像力豊かな方だっただろうか?と思うくらいに、色々と想像してしまったものだ
 もっとも、KPとやらをやっていたAを始め、他のみんながうまく盛り上げてくれたおかげなんだろうけれど
 ………あの日の夜、ちょっと怖くて眠れなかったのは、秘密だ
 怖かったけど、楽しかったのも事実だし

「そうそう。で、あん時俺達がやったのはクトゥルフだから現代ベースだけど、TRPGは他にも色々あるんだ」
「俗に言う、剣と魔法のファンタジー、というものですね」

 Nの言葉に、Rがそう言葉を続けてきた
 なるほど、そう言われると、ちょっとわかるかも
 自分はやった事ないけれど、RPGゲームなんかはそういうのが多いとは聞く

「つまり、そういうファンタジーな世界のお話?」
「そうだな。かつ、TRPGでの世界なんだな、って感じもするよ。TRPGやってる人間だと「あぁー」って思ったりするし」
「うーん、それだと。私だと、まだちょっとピンとこないかな」
「かもなぁ」

 それだと、自分だとまだ、読んでもピンと来ないのかもしれない
 …これからも、みんなと色々遊んでいれば、わかるだろうか
 TRPGは、またやろうね、って言っていたし
 多分、クトゥルフ以外にもやる機会があると思う……こう、出来れば、あんまり怖くないやつ

「クトゥルフは、また今度の休みにやるか。今度は俺がKPで」
「直斗がKPをやるとなりますと………わかりました。キャラロストの可能性を考慮しておきます」
「えっ、なにそれ怖い」

 待って、今、Rの言葉でなんか怖い言葉聞こえた
 キャラロストって何

「大丈夫大丈夫。まだ初心者の咲夜がいるんだから、キャラロストの可能性は低いのにするって」
「ないとは言ってないわよね、それ」
「……咲夜さん、二枚目のキャラシートを用意しておきましょう。賽の目は、時として無情であり非情です」

 待って、待って
 ますますなんか怖い!?
 キャラロストって何。あの作ったキャラ、死ぬの?死ぬ可能性あるの!?

「そう怖がるなって。ちょっとコミカル色あるシナリオ選ぶし大丈夫大丈夫。ただしダイスの女神がいじけた場合を除く」
「うん、だから怖い」

459とある女子高生とナチュラルホモ共の高校生活日記  ◆nBXmJajMvU:2016/09/20(火) 01:07:08 ID:7Lm2zYPw
 ダイス……サイコロ………

 みんなとTRPGをやってみて、私は一つ、わかった事がある
 それは、どうやら自分はサイコロ運がイマイチらしい、と言うことだ
 サイコロを振って判定する時の失敗率自体は飛び抜けてひどかったワケじゃない
 ただ、その失敗がファンブル……「致命的失敗」と呼ばれるものが多かったのだ
 逆にすごい、と言われたけど、あんまし嬉しくない

「賽の目ばかりは、仕方ありませんからね」
「だよなぁ……クリティカルとファンブルばっかりは仕方ないからな。それがTRPGのいいとこなんだし」
「うー……こう、サイコロ振るのは楽しいのよね。こう、ワクワクする、と言うか。ドキドキする、と言うか……」

 成功するも失敗するも、勝つも負けるも賽の目次第
 …楽しいけれど、己の運の悪さに泣きたくなったりもするのだ

「ま、いいんだよ。クトゥルフは失敗とか発狂楽しんでなんぼな面もあるし」
「そうなんだ!?」

 待って、N、それ初耳なんだけど

「どうしても勝たなきゃ駄目、生き残らなきゃ駄目ってもんでもないしな。散り際楽しむのもゲームならではだよ」
「そうなんだ……?……そう言えば、直斗、発狂ロール楽しそうだったような」
「直斗は、発狂要員キャラを作りたがりますので」

 ……あ、いつもあぁなんだ
 通りで、みんな慣れてると思ったら

「ゲームだからこそ、さ。咲夜もやるか?発狂要員」
「心から遠慮するわ」
「えー………まぁ、俺も自分がゲームキャラだったとしたら嫌だけどな、発狂要員」

 うん、それはそうだよね
 あくまでも「これはゲームだから」と言うことで楽しんでいるのだし
 自分自身がゲームの中の登場人物だったら、発狂しそうになったり死にそうになったり、どちらも勘弁だ

「もしも、私がゲームの登場人物だったら、発狂しそうな現場とか死にそうな現場とか、絶対回避するわ……」
「咲夜さんは、プレイ中もそんな様子で行動なさってはいましたね」
「うん、いやね。だってね、死にたくないし。発狂も勘弁だし」

 だからこそ、あの鍋の中味をあえて見せてきたNちょっと許さない
 お鍋の中味見た結果、ファンブルしたし

「………最終的にゃ、ダイス振らないのが一番強いからな」
「?どういうこと?」
「口プロレス、っつーか……ダイス振るまでもなく勝てるような前準備を徹底してやる、とか。まず失敗しないって状況を作り上げると言うか」

 どう説明したらいいもんかな、などとつぶやきながら、Nはそう説明してくる
 「ダイスを振るまでもない状況」「ダイスを振らずとも勝てる状況」
 そんな状況に持ち込むのも、手ではある、と

「ただ、買った負けた楽しむゲームとは違うからな。TRPGは。KPやらGM合わせて、みんなで楽しんでこそだ」
「多少の口プロレスならばともかく、あまりにそればかりですと、TRPGの意味がありませんから」
「う、うーん………まぁ、自分自身の運命をサイコロに委ねるならともかく、ゲームでのキャラだしなぁ。そこまでしなくてもいい、かな」

 ……それでも、負けたら悔しいけど!
 負けず嫌いだからね、うん

「俺も、ゲームじゃなくて自分や周りの運命だったら、サイコロには委ねないさ」

 からからと、Nが笑う
 それに合わせるように、ゆらりゆらり、Nの影が、揺れた

「……現実で、そんな事に巻き込まれそうになったら。そんな危機が迫ったら。俺は、ダイスを振らなくても勝てる方法を選ぶな」

 なんて、冗談めいた様子で口にしてきて



 なんでだろうか
 ただの冗談のはずなのに
 ただの、ゲームの話のはずなのに


 妙に、強い決意を感じたように、聞こえたのは




to be … ?

460情報交換の時間  ◆nBXmJajMvU:2016/09/20(火) 22:40:57 ID:mcH9XrQQ
「……以上。「組織」所属の者が遭遇した、「逢魔刻の影」を呼び出していた、半透明で電撃を放ってきた女性に関する資料です」
「わかった、受け取らせてもらおう」

 夕暮れ時を過ぎた、夜の学校町・東区
 その墓所で黒いスーツ姿の男性が、まるで幽霊のように半透明な体の男性と話していた
 スーツの男性はこの暗い中だと言うのにサングラスをかけており、見ようによっては怪しく見えるのだが、不思議と目立っては見えない
 半透明の体の男性は、スーツの男性から受けとった資料に目を通し
 ……そして、深々とため息を付いた

「…「組織」に調査協力をお願いしたいのですが」
「それは、つまり」
「………実物をこの目で確認した訳ではないので断言はしかねますが。盟主様である可能性は、高いです」

 あぁ、やはりそうなのか、と。スーツの男………大門 大樹は小さくため息を付いた
 そうであってほしくない、と言うのが本音であったが、彼からのこの返答となれば、やはり、そうなのだろう

「大門さんは、直接は見ていないのですね」
「はい。このところ、後任の育成の仕事が増えてきて、代わりに現場仕事が減っていたので………ただ、このところの騒動を見ますと、そろそろまた現場に呼ばれそうです」

 大変ですね、と言う言葉に、慣れています、と笑って返す大樹
 そう、慣れている………20年以上前は、わりと日常だったのだから

「ひとまず、盟主様が暴走しているらしい件に関しましては、「首塚」や「獄門寺家」等にも連絡しておきます」
「それは助かる………やはり、貴方が一番、様々な組織に通じていますね」
「学校町に関わる全てのそしきに、とはいきませんけれどね。「教会」や「レジスタンス」等は、私から直接と言う訳にもいきませんので」

 それでも、間接的に連絡する手段はあると言う事だ
 相変わらず、この大門 大樹と言う男は人脈に恵まれていた
 一時期、「火薬庫」とまで言われた人脈は、今もってなお成長し続けているのだ………当人、自分自身の人脈が「火薬庫」になりえるという自覚はさっぱりないのも相変わらずだが

「学校町の様子を見ていると、しばらくぶりに「組織」が忙しくなっているようですね」
「……「狐」の件がありますからね。かと言って「バビロンの大淫婦」の件も見逃せませんし、「赤マント」の大量発生も………」
「そこに今回の盟主様が暴走しているらしい件………胃は無事ですか?」
「まだ大丈夫です」

 そう、まだ大丈夫
 優れた人材も「組織」内で育ってきたのだし、問題を起こす者も20年前と比べると格段に減ったため、それほど胃が痛む事態にはならない

461情報交換の時間  ◆nBXmJajMvU:2016/09/20(火) 22:41:52 ID:mcH9XrQQ
 ……そんな事態には、もうなってほしくないと言うのが本音でもあるが
 ここ最近で、一番胃が痛くなったのは三年前のあの件の時きらいだし

「ついでなので、お尋ねしますが。そちらで「狐」らしい気配、感じ取ったりしていませんでしょうか」
「………残念ながら。学校町に妙な気配……と言いますか。三年前に一度入り込んで出ていった気配がまた入りこんだのだ、と言う事だけはわかっています」

 しかし、それだけだ、と。半透明の男性………東の墓守は、頭を振った

「ただ、妙なんです。今年になって入ってきた「狐」らしき気配の消え方が」
「……?妙、とは?」
「気配が、「突然消えた」……そう、感じたのです。町から出たと言う訳ではない。街の真ん中で「突然消えた」ような………」

 東の墓守の言葉に、大樹は考え込む
 突然、消えた
 「狐」が空間転移系の能力を持っている、と言う話は聞いたことはない
 また、「狐」の配下にもそういった能力を保持している者はいなかったはずだ……少なくとも、こちらでわかっている範囲では、であるが
 よって、転移によってどこかに移動した、と言う説はかんがえなくとも良さそうだ
 他に可能性があるとしたら

「……死亡、もしくは消滅………いえ、そうなっていた場合、「狐」に誘惑されていた者逹が、その効力から解放されているはず……」
「であれば。死亡もしくは消滅の可能性なし……何なのでしょうね」

 東の墓守も、突然気配が消えたと言うその現象には戸惑っていたらしく、こちらも思案してみたようだが断言できる結果は導き出せなかった

 …何故、「狐」の気配が突然消えてしまったのか
 その理由が何であるにせよ、「狐」の配下が学校町に入り込んでいる事実は変わりがなく
 どちらにせよ、対処していくしか、ないのだが

「「怪奇同盟」の方々でしたら大丈夫とは思いますが、念の為、警戒しておいてください。今回の「九尾の狐」は誘惑能力特化。その誘惑能力は「リリス」に匹敵するとも言われていますので」
「わかりました。警戒はしておきます」

 夜が更けていく
 逢魔が刻が過ぎ、夜の闇の時間へと



 都市伝説逹が活発になる時間が、今宵も又、始まっていく





to be … ?

462はないちもんめ:2016/09/20(火) 23:36:50 ID:vdQPjGjU
「よくこんなの作ったわね…」
「鏡の中にも鏡は持ち込めるからね、試してみて正解だった」

合同戦技披露会の会場、鏡の中に作られた仮想空間には闘技場と言うべきか大勢の観客を収納できるスタジアムがそびえ立ち、その中央には複数枚の鏡が円形に並べられている。
上空には巨大なモニターが複数吊るされており、戦場の様子が映し出されていた。

「一般人の目に付かないように大人数を収納できる空間を鏡の中に、更に鏡の中に持ち込んだ鏡を使ってその中に模擬戦用の広大な戦場を構築、前回の経験生かしてこの数年間色々試してたけど役に立って良かったよ」

鼻を書きながら笑う詩織に望も眼を細める。
思えば自分をコピーした都市伝説でしかなかった存在が、契約者も持たずに単独で成長と進化を遂げ続けている。
(まぁ、私をコピーした時点で私と擬似契約に近い状態になってたんでしょうけども)

「ま、そういう事なら今後も頼らせてもらうわ、こっちで管理できる空間は貴重だもの」
「この中なら変なのが紛れ込んでもある程度の察知できるしね」
「実際は?」
「怪しい行動をとれば分かるってレベル」
まぁ、セキュリティとしては及第点だろう。
でだ、後ろを振り返れば夥しい数のゾンビ達が右往左往しながら屋台を組み立て続けている。
「…アンタ達は何やってんの?」
「人がたくさんくるんですよ!」
「儲け時ですよ!」
「今回は俺らは参戦しませんし賑やかしと飲食担当させてもらいます!」
「第5〜9小隊買い出し!1〜4で設営いそげ!!」
「ゾンビがやってる屋台って客来るのかしら」
「衛生面に不安が残るわね…」

「撮影は前回同様希のキューピーが、観客の誘導は?」
「そっちも希がK-No.の黒服を動かすって言ってたわ、ほら」
望が指差す先にはメイド服姿の女性の一団の姿が、眼を引くとすればその衣装よりも各関節に走った分割線だろう。
「医療班にも回すって言ってたけど…あんだけのマネキンを同時に操作してるんだから影守と希もいよいよ化物ね」
「いんや、あれ殆ど自立させてるみたいよ?希の制御下なのは確かみたいだけど…司会実況はウチの神子を出すわ、後はあの子が何とかするでしょう」
会場、人材必要な物は大体揃えた。
後は………

「ここに集まる連中からどれだけ情報を引き出せるか」
「狐か大淫婦か、盟主さんの尻尾位は掴みたいよね…」

第二回合同戦技披露会…その開催は目前まで迫っていた。

続く

463合同戦技披露会開始とその前  ◆nBXmJajMvU:2016/09/21(水) 20:41:45 ID:zqmq2lR6
「……それじゃあ、籠を運ぶ役目、頼んだよ」
「へぇ。責任重大なお仕事任せてもらえて光栄やわぁ……しっかり務めさせていただきます」
「相手が相手だしね。慎重にやらせてもらうよ」

 まだ寒い季節でもないだろうに薄手のマフラーを身に着けた男性が、二人の男性に指示を出している
 一人は、二メートルをも越える、体格もいいお男。もう一人は対照的に細く、重たいもの等持ったら腕どころか体の芯がぽっきりオレてしまいそうな体格をしている
 二人の返事を聞いて、マフラーの男性……鮫守 幸太はよし、と頷く
 そうしてから、今度はもうひとり、控えていた女性へと声をかけた

「夢塚さんも。協力してもらって悪いね」
「いえ、保護されている立場なんですし、これくらいは」
「保護しているからこそ、なるべくならもっとゆっくりしてもらいたいんだけど」

 夢塚と呼ばれた女性は、幸太の言葉にそう苦笑して返した
 彼女は一年前、学校町外で「狐」からの誘惑をギリギリのところではねのけ、その結果「狐」の駒に襲撃されていたところを、たまたまそこを通りがかった「首塚」の構成員によって救出され、そのまま「首塚」に保護されている契約者だ
 「忠犬ハチ公が渋谷の街を守っている」の契約者であり、結界を作り出す能力がある
 今回、その能力が必要となり協力してもらう事になったのだ
 用意された籠に、彼女の能力が発動されている

「どうする?合同戦技披露会は見学していく?」
「あ、いえ。そっちは遠慮しときます。「首塚」で保護している子供逹に絵本を読んであげる約束しているので」
「わかった。それじゃあ、子供達待たせるのも悪いね。戻ってていいよ」
「リリカちゃん、鴆はんもいるから大丈夫とは思うけど、後でわてらも行きますね。みんな、やんちゃそやしえらいでしょうし」

 大柄な男がそう言うと、夢塚ははーい、と返事をして、ぱたぱたと戻っていった
 さて、と幸太は視線を、「首塚」の中でもひときわ暗い、ある場所へと向けた

「……じゃ、あの方を呼んでくるよ。籠に入ったら君達を呼ぶから。離れてて」
「鮫守さんは大丈夫なんですか?」
「平気。あの方とは、将門様と一緒にいる時に会った事あるし。将門様の加護が僕には効いているから」

 細身の男にそう答え、幸太はその暗闇の向こうへと、足を踏み入れる
 自分達が所属している「首塚」の首領たる、平将門がこの度誘った、ある人物を迎え入れるために


 「第二回 組織 首塚 その他 合同戦技披露会」
 今回はフリーランス………特にどこぞの組織に所属していると言う訳ではない、と言う者も参加可能であるが故、参加者は以前よりも多くなりそうだ
 そして、それを見学しに来る者も、以前より多いということである

「こんにちは、神子さん」
「よぉ」
「あ、龍哉、直斗。来たのね」

 司会実況を任されたため、その準備をしていた神子のもとに龍哉と直斗が顔を出した
 直斗の方は契約者ではないものの、興味を持って龍哉についてきたらしい
 ……直斗らしい、と神子はこっそりと思った
 この幼馴染は、都市伝説と契約するには器が小さすぎて無理であるのだが、その反動なのか都市伝説や契約者への興味は人一倍、強い

「後で遥や憐、灰人も後で来るはずだぜ。あと、優は参加するつってたな。晃は見学に回るつってたけど」
「え、優参加するの?………うん、まぁ優らしいけれど。ちなみに、龍哉。龍一さんは?」
「お父さんは、お仕事が忙しいので、本日は来られないそうです」

 あらら、と苦笑する
 忙しいものは、仕方ない
 龍哉の父親である龍一は、「獄門寺組」と言う組の組長であるため、常に忙しいのだから

「……あ、それと。鬼灯さんは?」
「興味を持ってはいらしたのですが。「首塚」主催ということで、将門様と遭遇するのが嫌だ、とおっしゃられまして」
「鬼灯、将門様の事苦手だもんな」

 仕方ないさ、と肩をすくめてみせる直斗
 …そう言えば、鬼灯は昔から……少なくとも、神子逹が知っている頃から、将門の事を苦手としていた
 なるべくなるべく、関わらないように遭遇しないようにしていたのを覚えている

「他、誰来るかわかってる?」
「…そう言えば、診療所の先生がいらっしゃる、と灰人さんがおっしゃっていたような」
「かなえは、今日は薙刀の教室あるっつってたから来ないだろうし……」

 戦技披露会が始まるまで、しばし、情報交換を始める
 今回の戦技披露会で、どのような人物が出場するのか
 …情報を集める、と言う意味もあるとはいえ、楽しみなのも、また事実なのだ

.

464合同戦技披露会開始とその前  ◆nBXmJajMvU:2016/09/21(水) 20:42:21 ID:zqmq2lR6
 ちゅっちゅちゅー、と。ノロイが気配を感じ取ったのか、声を上げた
 次いで、望と詩織も近づいてくる気配に気づき、そちらに視線を向ける

「やぁ、こんにちは」

 足音と気配を隠す様子もなくやってきたのは、フリルたっぷりの黒いゴシックロリータ衣装に身を包んだ男性
 覚えのある姿に、望はその人物の名前を口にする

「小道 郁、だったかしら。何かご用」
「おや、名前を覚えてもらっていたとは光栄だ………上司に言われてね、これを渡しに来たんだ」

 はい、と郁が詩織に渡したのはタブレット型PC
 どういうことか?と説明を求める視線に郁は言葉を続けた

「学校町に在住している事がわかっている、フリーランスの契約者のデータだ。まぁ、「組織」………CNoが把握している範囲のものだから、完全なデータではないけれどね」
「なるほど。KNoである私が、それを受け取ってもいいの?」
「構わないよ。そもそも、CNoが所有している情報は、SNoが持っている極秘情報なんかと違って申請許可もわりとかんたんに降りる資料が多いのだしね」

 ふむ、と詩織はタブレットPCを起動させて、データを確認する
 契約都市伝説が完全に知られている者から、何と契約しているのかはっきりしない者まで、結構な数が記録されている

「フリーランスの契約者も今回は参加可能、との事だからね。そういうデータがあった方がいいんじゃないか、というのが上司の言葉だよ」
「貴方の上司は、確か門条 天地だったわね……一応、跡でお礼をいうべきかしらね。ちなみに、肝心のその上司は?」
「ものすごく参加したがっていたのだが、書類仕事が山ほどあってね」

 恐らく、周囲に止められたのだろう
 仕事があるのなら、仕方ない
 と、言うか。天地が参加したら会場派手にぶち壊した可能性が高いため、ある意味助かったといえるのかもしれない

「それじゃあ、僕は見学に回らせてもらうよ。かなえは来ていないけれど、慶次君は来ていてね。見学に回るそうだから、そっちについておくよ」
「あぁ……「カブトムシと正面衝突」の契約者だっけ?あれ、そいつの担当黒服は?」
「わが上司が仕事に巻き込んだよ」

 …彼なりに「見張る」ためだろうな、と郁はこっそりとかんがえていた
 このところ、天地は愛百合の動向を見張っている様子だったから

「……無事、何事もなく終わるといいね」
「不吉なフラグたてるのやめてくれる?」

 失礼、と笑って、郁はこの場を後にした

 ……さて、どのような契約者が参加するのか
 とても、とても、楽しみだ



「……それでは。「第二回 組織 首塚 その他 合同戦技披露会」、これより開始します」

 その開始の音頭を取ったのは、「首塚」所属で側近組の一人である幸太
 ……将門の姿は、その場にはいない

 かわりに、何やら御簾によって四方を囲んだスペースが作られており、その横には籠が置かれている
 どうやら、籠に乗って運ばれてきた人物が御簾の中にいるらしい

 ……そして、気付ける者は気づくだろう
 御簾と籠に、かなり強い結界が貼られている事に
 それは、中に入る者を守るためと言うよりも………その中に入る者から、周囲を守るために貼られたもので、あるような

「「首塚」首領将門公は、本日所用により欠席となります。よって、代わりに……」

 御簾の中からの圧倒的な威圧感を気にしている様子もなく、幸太はにっこり微笑み、言葉を続けた

「将門公がお呼びしました、「長屋王」が。この度の合同戦技披露会を観戦なさります」

 「長屋王」
 きちんと日本史を勉強した者ならばわかるだろう
 それは、かつての実在の人物
 そして、日本最古の怨霊
 将門に勝るとも劣らぬその圧倒的な気配を御簾の中から漂わせながら、それは小さく、笑った



 ……これにて
 「第二回 組織 首塚 その他 合同戦技披露会」が、開始された





to be … ?

465夢幻泡影Re:eX † 第二回合同戦技披露会―プロローグ ◆7aVqGFchwM:2016/09/22(木) 14:30:54 ID:js/rP/kQ
203X年某日―――

「もしもしローゼちゃん?」
《ごきげんよう、裂邪さん♪
  例の催し物の件はお聞きになりましたかしら?》
「あぁ、少し前に漢から聞いたよ
  まさかフリーの契約者まで参加させるとは思ってなかったが」
《前回同様、ワタクシ達「組織」の構成員は参加不可ですけど》
「そりゃまぁ、妥当だわな
  とりあえず清太と賢志と、あと光陽と輝虎、誘っといたわ」
《あら、弟さんを誘うかと思いましたけど》
「断られた、色々忙しいんだろうよ
 代わりに特別ゲストを用意しといた」
《それは楽しみですわ♪
  実はワタクシの方もご用意させて頂きましたの》
「……ローゼちゃんが呼べるフリーの契約者ってあいつだけだろ」
《裂邪さんのいけずぅ! 余計な詮索は無しですわ!》
「分かった分かった
  とりあえず俺ん時の戦場は異空間でもジオラマでも良いから広くてぶち壊せるとこな
  どうせやるなら派手にやんないと」
《ええ、こちらで依頼しておきますの
  それとお子様方もVIPルームにご招待致しますの♪》
「悪いねー、あいつら育ち盛りだから結構食うぞ」
《そちらもお任せですの!》
「おう、んじゃ当日に」
《あ、それと裂邪さん》
「ん?」
《例の話、お考えになって頂けたかしら?》
「あー……お引き受けしたいのは山々なんだがね
  何せ小さいガキの面倒も見なきゃならん
  もしガキ共が立派に成長して巣立っていって、
  ローゼちゃんの気持ちが変わらなければ…改めて返事をしよう」
《おほほほ、裂邪さんらしいですわね
  それでは、また》
「おう」




「…父さん、仕事の電話にしてはえらく大勢の名前が」
「おお未來(みくる)、丁度良かった」
「え?」
「お前、俺やシェイド達とやったことないだろ
  舞台は用意してくれるからまた今度な」
「ちょっと待て父さん話が見えない」
「いやー前回は設定中途半端な状態だったから、
  書き直しも兼ねて一戦やれると思うと楽しみだな!
  タブレットが打ちにくいのが欠点だが」
「見えない話にメタを盛り込むのはやめろ!!」
「まぁまぁ、そんな訳で……都市伝説と契約してからどれだけ成長したか
  俺や母さん達に見せてくれ」
「っ……分かった」
「よし、それじゃ… 第二回 組織 首塚 その他 合同戦技披露会で」



   to be continued...

466帰還する者達 ◆MERRY/qJUk:2016/09/23(金) 00:07:28 ID:CzLXH4xQ
某都市の空港で、一人の女性が電話をかけていた。

「もしもし篠塚さん?オレオレ、相生澄音。さっき帰国したんだわ」

怪奇同盟の一員、相生澄音。レミングという鼠の群れを手足のように操る
都市伝説"死の行軍"の契約者である。彼女は夫であり戦友である相生森羅こと
"相対性理論の理解者は世界に三人"という都市伝説の契約者と共に世界を巡り
各地でフリーランスの契約者として都市伝説と戦う旅をしていた
もっとも名目上は各地の遺跡の発掘を手伝う、考古学者としての仕事なのだが

「真理は元気?え?ああ……いやいやそんな、迷惑じゃないって。たぶんな」
「真理がどうかしたのかい?」
「あ、ちょっとゴメンな。……おいもやし、話は後にしろよ」
「苛立つとその呼び方になるのやめてくれない?……しかし結ちゃんと同棲中とはね」
「くっそ教える前に知ってるのほんと腹立つ!……あー、お待たせ篠塚さん」

話を再開した澄音に背を向けて、森羅は同行者と話を始める

「でも本当にいいんですか?寄り道に付き合わせてしまうことになりますが」
「久々の学校町ですからね。できれば固まって動きたいのですよ」
「私も妻に同意見です。用心するに越したことはありませんよ」

467帰還する者達 ◆MERRY/qJUk:2016/09/23(金) 00:08:00 ID:CzLXH4xQ
相生夫妻と同行するのは向こうの空港で再会した時任開司と時任夜空……
"ソニータイマー"の契約者と、"サンチアゴ航空513便事件"の契約者だ
彼らも怪奇同盟の一員であり海外(主にアメリカ)の情勢を
調査するという名目で若い頃から日本と海外を往復している同志であった
一応表向きは日本と海外両方で輸入雑貨を扱った商売をしているらしいが
二人共意味深な笑みを浮かべて黙ってしまうので詳しいことは森羅にも分からない
森羅の能力は耳で聞いた言葉に反応するので、彼らも分かっていて黙るのだろう
森羅自身も深入りするつもりはさらさらなかった。命に関わりそうなので

「それじゃあ、それまで真理をよろしくお願いします。はい、また後日……ふう」
「話は終わったかい?」
「ああ、終わったよ。しっかし久しぶりに真理の顔が見れるなあ!」
「その前に仕事だけどね」
「……おう」
「じゃあ、行きましょうか。まずは食事からかな?」
「ええ、そうしましょう。いい時間ですからね」
「寿司食おう寿司!」
「澄音、落ち着きなよ……寿司でいいですか?」
「構いませんよ。私も食べたいですし。夜空は?」
「私も寿司は久しぶりなので。楽しみです」
「じゃあ適当な回転寿司でも探しましょうか。それでいいよね?」
「おう!早く寿司食おう!」

子供のようにはしゃぐ妻を見て、森羅は苦笑しながら店を探し始めた。
彼らが学校町に入るのは、もう少し先の話である――――

468帰還する者達 ◆MERRY/qJUk:2016/09/23(金) 00:08:35 ID:CzLXH4xQ
ある日の逢魔時、学校町東区にて

「やってきました学校町!でもなんか嫌な感じがするような?」

首をかしげたのは匂い立つような美しい女性
男なら生唾を飲み込むであろうメリハリのある肢体を包むのは
艶めくレザーらしき質感の黒いスーツとスカート、そして黒のハイヒール
豊かな金髪は西日を浴びて第二の太陽であるかのように輝いている
赤茶色の瞳でキョロキョロと周囲を見渡す彼女の背後で
"逢魔時の影"がゆっくりと身をもたげ、白磁のような首に手を伸ばすが

「ほいっ」

一閃。女性の手に現れた鞭が目にも止まらぬ速さで影を打ち据えた
襲いかかる影の集団をまるで舞い踊るような動きで躱しつつ
女性は口笛を吹きながら右手の鞭を振るって影を散らしていく
やがて日が落ちきる頃には、彼女を襲った影の集団は片付けられていた

「此処も相変わらず……なのかな?生身じゃなかったのが残念
 ま、今は元気いっぱいだし。じゃなかったらこんなとこ来ないけどね」

469帰還する者達 ◆MERRY/qJUk:2016/09/23(金) 00:09:08 ID:CzLXH4xQ
一年ほど前の話だ。中東のとある紛争地帯で
睨み合う二つの勢力の大部隊が一夜にして両者壊滅という事件があった
彼らは命に別状こそないものの生気を失い数週間寝込むことになったという
この地域を監視していたある組織はこれをある種の都市伝説の仕業と断定
彼らを"捕食"したとみられる存在を危険視し同業組織に警鐘を鳴らした
そしてまた別の悪魔祓いを専門とする欧州の組織が
事件の犯人と思われる都市伝説をルーマニアで補足し討伐にあたった

――――だが、この討伐作戦はあろうことか失敗した

彼らの誤算は二つ。討伐対象が近年発生した若い個体であると見誤ったこと
そして敵を侮った結果、戦力を逐次投入してしまったことである
作戦の失敗によりこの組織は内部の腐敗が浮き彫りとなり解体され
その人員は他の集団、組織へと吸収されたらしいが、これはまた別の話である

さて悪魔祓いを片っ端から返り討ちにしていった犯人がどうなったかといえば
無事に欧州から逃げおおせて現在は極東のとある街を訪れていた
彼女がいまだ無名でありながら悪魔祓いをあしらえるほど強くなったのも
特定の界隈では魔境、特異点と忌まれる彼の地に一時期滞在していたことと
まったく無関係というわけでもないだろう

470帰還する者達 ◆MERRY/qJUk:2016/09/23(金) 00:09:58 ID:CzLXH4xQ
そう、彼女は学校町に帰ってきたのだ。よりにもよってパワーアップして
彼女こそは名無し宿無し文無しの三重苦を抱える永遠の放浪者
戦場を無に返す平和と性愛の使者。そして獄門寺在処のかつての敵

「と・り・あ・え・ず……久しぶりにアメちゃんに会いにいきますか!」

女性の瞳が赤く輝いたかと思うと、その背中に蝙蝠のような黒い羽が生える
かくして夜の空に一人の悪魔が飛び立った
彼女の今の目的はただひとつ。かつての旧友との再会である

"サキュバス"……新たなトラブルメーカーが街を訪れたことを
皆が(主に獄門寺在処が)知る時は、そう遠くなさそうである――――


                            【了】

471ある試合の一幕  ◆nBXmJajMvU:2016/09/23(金) 01:02:26 ID:/JUdt9VM
「……ね、憐」
「んー?どしたっす?あきっち」

 ひとまず、いつでも治療班に回れるように備えておきながらも、今は見学席にいた憐
 晃に声をかけられ、首を傾げた
 手にスマホを持ったまま、晃はぽそ、ぽそ、と問う

「…「教会」、からは誰が来たの?……付き添いで来た、って、聞いた」
「あ、俺も気になってた。学校町に滞在している「教会」面子って数少ねぇだろ。こういうの出たがるような奴いたっけか?」

 遥も、く、と憐に近づいて問う
 ここに神子か咲夜がいればツッコミをいれそうな距離だが、残念ながら二人共いない
 ついでに言うと、優も参加枠の方に入っているため、ここにいない。ツッコミが深刻に足りない

「えっと、参加するのはー………あ、今から、試合始まるっすよ」

 憐の言葉に、その場にいた皆の視線がモニターへと集まった
 ……そして、遥が「げっ」とでも言いたそうな表情を浮かべる

 そのモニターに映し出された光景は、試合開始と同時に試合会場全体が、一気に凍りついていっている様子だった



 逃げたい
 その青年は、心からそう思った
 あ、なんかのハリウッド映画でこんなシーンあった気がする。とも同時に思っている辺り、ちょっとは余裕がある
 あくまで、ちょっとだ。ちょっとでしかない

 全力疾走している彼が通った後の道が、左右の壁が、バキバキと凍りついていっている
 恐らく、放置すればこの会場全体が凍りつくのではないだろうか

「じょうっだんじゃねぇ!」

 叫びつつも、走る、走る、走る
 フリーランスの契約者である彼が合同戦技披露会に参加したのは、己の実力をアピールするためだった
 そのつもりであったのだが、それが叶う予感は、あまりない
 対戦相手がどうやって決まったのかは彼にはわからないのだが(案外、あみだくじとかなのかもしれない)、とにかく自分は運が悪いようだ
 当たった相手が、悪い

 氷で出来た翼を羽ばたかせ浮かび上がっているその男は、司祭のような服装をしていた
 その翼もあって天使を連想させるかもしれない。が、天使があんなサド顔浮かべるとは思いたくない
 試合開始と同時にふわりと浮かび上がり、そしてあの司祭を中心点として、辺りが凍りつき始めたのだ
 手加減も何も合ったものではない

「……せめて、一撃っ!」

 だが、逃げてばかりでは参加した意味もない
 ざわり、契約都市伝説の能力を発動させる

 体が、動物の毛で覆われていく。筋肉が肥大化し、爪が伸びていく
 遠吠えのような声を上げると、彼は勢い良く地面を蹴って跳び上がった。直後、その地面もびしり、と音を立てながら凍りつく
 壁を蹴り、どんどんと跳び上がり、空を飛ぶ司祭へと向かって、豪腕を振り下ろそうと……

「なるほど、人狼か」

 それは猫のような目を細めて、嘲笑った

「それじゃあ、届かねぇな」

 振り下ろした爪先が、司祭に当たるその直前
 ぴしり、とその爪が凍りつき出した時にはすでに遅く
 「狼少年」の契約者であるその青年の意識は、氷の中に閉ざされた




「……なんで、よりによってあの氷野郎が来たんだ」
「カイザー司祭とジェルトヴァさんは、こういうの興味なくって。で、メルセデス司祭が「暇つぶしだ」っつって出る気満々だったんで。俺っちがお目付け役としてつかされたっす」

 先に名前を出した二人は仕事で忙しく来られなかったのだから、仕方ない
 ……とは言え、憐があの男相手にブレーキになれるか、と言うとなれるはずもなく

 「クローセル」という悪魔そのものである男、メルセデスは、試合会場を完全に凍りつかせながら楽しげに笑っていたのだった






続かない

472九十九屋九十九の戦技披露  ◆nBXmJajMvU:2016/09/24(土) 00:24:38 ID:r2rx.gQg
 試合と試合の合間、神子は参加者の資料に目を通していた
 その横に、郁が持ってきたフリーランスの契約者の資料のデータが入ったタブレット型PCが置かれている
 試合の実況を任せられたため、こちらの資料も参考に実況しようという試みである

「次の組み合わせで出るフリーランスの契約者は………」
「あぁ、こいつだろ。「九十九屋 九十九」」

 ほら、と隣りにいた直斗が、勝手にタブレット型PCをいじってそのデータを出した
 ここに直斗がいるのは、実況の手伝いでだ
 神子の幼馴染グループのうち、誰に手伝ってもらおうか、となった際に直斗が「面白そうだから」と立候補したせいである
 …もしかしたら後で誰かに交代するかもしれないが、ひとまずは直人が担当だ

「どれどれ……契約都市伝説は「不明」。まだわかってないのね」
「契約者なのはわかってても能力分からない、とかはよくあるんじゃないのか?特にフリーランスの奴だとさ。契約都市伝説がバレてると、弱点もバレたりするし」

 それもそうね、と頷く神子
 直斗の言う通り、どこの組織にも所属していないような一匹狼タイプの契約者には自分の契約都市伝説をあなるべく明かさないようにする者も多い
 特に、その契約都市伝説を利用して「仕事」するようなものであれば、なおさらだ
 都市伝説との契約によってどのような力を発揮できるかは、たとえ同じ都市伝説であろうとも個々によって変わってくる
 能力の使い方によっては、契約都市伝説が何であるのかわからないというのもざらだ
 だが、その都市伝説特有の「弱点」と言うやつはどうしても共通しがちであり、都市伝説がバレれば弱点も見抜かれ、対策されるという可能性が高い
 特定の組織に頼らず、能力を仕事に活かして生活しているような者であれば、契約都市伝説がバレるのは避けたいところだろう
 この、「九十九屋 九十九」と言う青年も、そういったタイプなのかもしれない

「えぇと、表向きは針金アートの展示と販売の店を経営………「表向き」。ね」
「そう、表向きだな」

 九十九屋 九十九に関する資料
 それには、この一文が記されていた

『暗殺等に関与の疑いあり。完全な証拠はまだないが、報酬次第でそのような仕事も請け負うらしい』



.

473九十九屋九十九の戦技披露  ◆nBXmJajMvU:2016/09/24(土) 00:25:34 ID:r2rx.gQg
 試合会場は、町中を思わせる作りとなっていた
 隠れながらの戦闘も可能なフィールドである
 彼女、篠塚 瑞希は油断なく、前方で微笑んでいる青年を見据えた
 茶色い髪をオールバックにし、薄手のセーターにジーンズと言うラフな服装をしている
 両手をジーンズのポケットにつっこんで、特に構えた様子もなく立っている
 しばし、相手の様子を警戒していたが………あちらから攻撃してくる様子も、ない
 …恐らく相手もまた、動くのを待っているのだろう
 
「仕掛ける気がないのなら、こっちから!」

 「超人」と呼ばれる所以を、この若者に見せてあげるとしよう
 すぅ、と一呼吸
 すでに、全身に結界を纏い終えている
 前方にいる青年……九十九屋 九十九へと向かって、一気に距離を縮めようとした

 薄く、九十九屋が笑って見えて
 きらり、何かが……

「………っ!!」

 ぞくり、と悪寒を感じて
 っば、と後方へと大きく跳んで再び九十九屋と距離を取る

 瑞希と九十九屋の間
 そこにいつの間にか細い、細いワイヤーが何本も張られていたのだ
 そのまま突っ込んでいたら、このワイヤーによってずたずたに引き裂かれたことだろう

「流石に気づくか」

 相変わらずポケットに両手を突っ込んだまま、九十九屋は笑った
 つい一瞬前まで、そこにワイヤー等なかったはずだ
 つまり……あのワイヤーは、九十九屋が出現させた、と言うことなのだろう
 見れば、九十九屋の周囲に、まるで結界でも貼っているかのように無数のワイヤーが張られていた
 これをかいくぐって攻撃するのは、少々骨か

「……それなら!」

 だんっ、と地を蹴り飛び上がる
 そして、勢い良く、すぐ傍の壁を蹴り壊した
 九十九屋の頭上から瓦礫が降り注ぐ。たとえ、ワイヤーを貼っていようとも重量で押しつぶせるだろう

 さぁ、どうでるか

 瑞希としては、これで九十九屋を倒せるとは思っていない
 ただ、これで相手がどう動くか、見るだけだ

 かくして、九十九屋は瓦礫の下敷きになどならなかった
 くんっ、と、まるで何かに引っ張られるように斜め上へと跳び上がり、瓦礫を避ける
 そうして、とんっ、と、空中に「立った」

(……違う。あれ、ワイヤーの上に立ってる?)

 そう、張り巡らせていたワイヤーの上に立っている
 ワイヤー自体が九十九屋の体重に耐えられるのかという疑問はあるが、よくよく見れば九十九屋自身の体にもやや太めのワイヤーが絡みついており、恐らくワイヤーを使って自身を宙吊りにしているような状態なのだろう

「なるほど、ワイヤー使い、と」
「そういう事だね」

 空中から見下ろし、九十九屋は笑う
 …両手はまだポケットの中に入れたまま。隠し玉でもあるのだろうか

 …思考する時間等与えない
 そうとでも言うように、四方八方、建物の影から太いワイヤーが飛んできた
 恐らく、試合開始前に申請を出して仕掛けておいたものなのだろう
 襲いかかるワイヤーを、瑞希はひらひらと避けていく

「それで、あなたはそこで高みの見物?」
「そりゃ、接近されたらヤバそうな相手にわざわざ接近するほどバカでもないしな」

 ッガ、ッガ、ッガ、ッガ、ッガ!!と、九十九屋が操っているのだろうワイヤーが地面へと突き刺さり、辺りを切り裂いていく
 嵐のような猛襲をさばきながら………視界の端にうつった物を、瑞希は見逃しはしなかった
 先程、九十九屋の頭上に落とそうとした瓦礫
 それに、くるくる、くるくるとワイヤーが巻き付いていっていて
 ぐぅんっ、と。全面にワイヤーが巻きつけられた大きな瓦礫が持ち上げられた
 それはそのまま、ごうっ、と轟音を上げて、まるで巨大なハンマーのように瑞希へと叩きつけられた




to be … ?

474狩人と猛獣 ◆MERRY/qJUk:2016/09/25(日) 11:56:27 ID:a8S4B/NE
(危ない危ない……)

ワイヤーに包まれた瓦礫を大きく避けて、瑞希と九十九屋の距離がさらに開く
反射的に手が出そうになったが、今日までの都市伝説との戦闘経験がそれを押しとどめた
突然その場に張られたことといい瓦礫に巻きつく器用な動きといい
ワイヤーが技術ではなく都市伝説によって操作されているのは明白である
下手に接触すればこちらを絡めとるくらいのことはすると考えるべきだ

(これが結なら引っ張り合いに持ち込むんだけど、ワイヤーじゃちょっとね)

瑞希の娘である篠塚結は、契約した都市伝説"機尋"で細い布や縄を自在に操る
しかし九十九屋が操るのはワイヤーだ。細いため掴みにくく切断力がある
義妹にして契約都市伝説の彼女がこの場にいれば物の数ではないだろうが
あいにくと今回は自力のみでの結界武装だ。本職と比べれば強度は数段劣る
ワイヤーには極力触れないよう立ち回るしかない、と瑞希は結論づけた

ワイヤーを避けつつも瑞希は再び壁を蹴り壊して瓦礫を作り出す
そして手頃な大きさのものを掴むと九十九屋に向けて投擲した
両手を使って二個同時。しかし飛来する瓦礫を九十九屋は危なげなく対処する
迎撃するように瓦礫にワイヤーが巻きつき、勢いを殺したうえで放り捨てられた
その様子を確認すると瑞希は再び手近な建物を蹴り壊して瓦礫の山を作る
両手で掴んだのは人の背丈にも届く大きな瓦礫。流れるような動きで
瓦礫を投げると、迫るワイヤーを避けるためすぐにその場から飛び退いた

(これは避けるか。最初と同じね)

流石に重量があるとそう簡単には防げないようだ
その割にはワイヤーが巻きつく動きを見せていたのが気になるが……
少し開きすぎた距離を詰めようと追いかければ、簡単にその答えは出た
先ほど投げた瓦礫がワイヤーに巻き包まれて横合いから殴りかかってくる
地面がひび割れるほど踏み込んで、迫る即席ハンマーの横を高速ですり抜ける
単純に反対方向へ避けなかったのは鈍く光る即席の罠を目の端に捉えたからだ
まったく油断も隙もない。ここまでやりにくい相手は久しぶりである
もっとも、攻め手の尽くを避け続けられている向こうも同じ気持ちかもしれないが

475戦技披露会 狩人と猛獣 ◆MERRY/qJUk:2016/09/25(日) 11:59:37 ID:a8S4B/NE
(とはいえこのままじゃジリ貧よね)

小出しにして時間を稼いでいるが、瑞希が全力を出せる時間はそう長くない
具体的には急速にカロリーを消費していくので長引くと空腹で倒れるのだ
一応申請したうえで懐にチョコレートを忍ばせているものの
多少行動時間を延長したところで事態が好転するということはないだろうし
食べるところを見られればあからさまな持久戦に持ち込まれる可能性もある

(せめて彼の、接近された時の札くらいは切らせたいところだけど)

流石に遠隔攻撃と持久戦で完封されるのは戦う者としての矜持が許さない
目標は至近距離で一撃入れること。そのためには無理をしてでも
相手の意識を逸らして距離を詰め切るための"一拍"を作り出さなければならない
整理しよう。遠距離でこちらが使える手は2つだけ
大きめの瓦礫を投擲すること、そして距離を詰めること。とてもシンプルだ
まずは瓦礫を用意する必要がある。ワイヤーの結界を押しつぶせて
相手が避けることに集中したくなるような大きなものをだ
例えば家屋が丸ごと向かってくれば流石に驚くことだろう
できればそれを連続で行えればより効果的だ。他に投げられそうなものは……

「あ」

思わず声が出る。なんで思いつかなかったのだろうか
周囲にある大質量をぶつけるのであれば、何も横ばかり見る必要はない
  ・
 下から抜き取ってしまえばいいのだ

(なんにせよ仕込みが必要ね。バレないように動けるかしら?)

チラリと九十九屋の表所を伺うが、不敵な笑みを浮かべるばかり
対抗するようにニッと笑ってから強く地面を踏み砕き走り出す
ワイヤーを避けつつ、原型を留めるように家屋の下側を破壊する
巨大な瓦礫を投げつけながら、地面を踏み割り駆け抜ける
たまに物陰でチョコレートを貪ってカロリーを補給しつつ―――準備は整った

「反撃開始といきますか」

口元を拭った瑞希の顔には獰猛な笑みが浮かんでいた
      ケモノ         カリウド  
凶暴な都市伝説が熟練の契約者に牙を剥かんと迫る――――

                                         【続】

476血塗れないなら殴り砕け  ◆nBXmJajMvU:2016/09/25(日) 22:07:29 ID:iB.r0Kgs
 第二回 組織 首塚 その他 合同戦技披露会
 死ぬまで戦うわけではないが、当然のごとく負傷者は出る
 そして、その負傷者を治療する治療班と言うものが当然の如く、存在しているのである
 治療班には「組織」や「首塚」の構成員だけではなく、他組織やらフリーランスの治癒能力持ち契約者も参加していた
 治癒能力を持つ都市伝説契約者は貴重だ
 都市伝説やらそれに類する存在は数多存在すれど、その中で治癒能力を発動できる者は一割にも満たないと言われている
 同じ治癒能力にしても、個々によってどれだけ治癒できるかも変わってくる
 戦技披露会においては、怪我人が出るにしてもただの切り傷打撲だけですまない場合もあるため、様々な状況に対応できるよう、人材が集まっていた

「いやぁ、だとしても。ここまで見事に氷漬けとは」
「芯まで凍ってたらアウトだよな、これ」

 じゅわぁ
 メルセデスによってかっちんこっちんに凍らされた狼少年を解凍する灰人と診療所の「先生」
 灰人は治療系都市伝説ではないものの、「切り裂きジャック」との契約の影響にプラスして診療所の手伝いもしているせいか治療技術はある
 よって、「先生」の助手として治療班に参加していたのだ

 戦技披露会の出場者になるつもりは灰人にはなかった
 未だ、油断すると「切り裂きジャック」として暴走しかねない自分が出場しても、他者の迷惑になるだけだ
 それなら、治療班に回っていた方がいい
 性格的に色々と問題がある「先生」ではあるが、治療技術については本物だ
 契約都市伝説に頼らない治療技術も持っているのが、ありがたい。性格に問題はあるが

「…そう言えば、「先生」。あんたも試合に参加するんじゃなかったのか?」

 予備の包帯を取り出しながら、灰人は「先生」に問うた
 だいぶ解凍されてぷるぷるしている狼少年の治療を続けつつ、「先生」が答える

「正確には、私ではなく私の作品が参加、だね」
「………ちょっと待て。猛烈に嫌な予感がしてきたぞ」
「なぁに、大丈夫大丈夫。自立行動するし、殺さない程度の加減するように設定してあるから」

 …それでも嫌な予感しか無い
 ちょうど手が空いていた事もあり、灰人は試合会場を映し出す画面へと視線を移した


 戦闘のための空間が広がる
 町中を思わせるフィールド………では、ない
 それは荒野を思わせる舞台だった
 少し風を感じるが、突風と言う程ではないため、特に問題はない

「……先生も、またすごいもの作ったわね」

 それを見上げて、優はそう口にした

 でかい
 説明不要と言いたくなる程に、でかい
 それは、土で形作られたゴーレムだ
 ヘブライ語で「胎児、未完成、不完全」を意味する名を持つそれは、「生命なき土くれ」とも呼ばれる
 無機質な材料に生命を吹き込み作られる魔法生物とも言われる
 ユダヤの伝承によるとラビ(律法学者)がカバラの秘術によって作り出すとされており、ユダヤ人を差別や圧政から守るために創造されたと言う
 ……最も、今ではゲームで魔導師が作り出す存在として、広く知られているのだろうが

 戦技披露会に参加した優の対戦相手
 それが、このゴーレムだった
 診療所の「先生」が作ったゴレームだ
 ……あの人は医者として働いてはいるが、元々本業は「創り出す」存在だった。それを思い出す

「まぁ、幸いにして材料は土みたいだし……それなら、いける!」

 っば、と能力で出現させた赤いちゃんちゃんこを羽織る
 「赤いちゃんちゃんこ」としての戦闘能力を引き出し………一気に、ゴーレムへと接近した
 ゴーレムの動きは、とろい。スピードでは圧倒的に優が勝っていた

「どぉんっ!!」

 ごがぁんっ!!と、優の拳がゴーレムの頭を木っ端微塵に粉砕した
 頭を失いながらも、ゴーレムはぶぅんっ、とその太い腕を振り回したが、優は己へと襲いかかったゴーレムの右腕を安々と蹴り崩す
 頭と右腕を失い、ゴレームはふらふらとバランスを崩し

 粉々に砕け散っていたその頭と、腕が。破壊された事によってまき散らかされた土を吸い寄せていきながら、再生していく
 しかも、ただ再生していくだけではない
 この荒野のフィールドの地面の土をも少し削り取っていっており、右腕が先程よりも一回り大きくなっている

「そう簡単には終わらないか……おぉっと!!」

 重力に任せて振り下ろされたゴーレムの腕を、両腕をクロスさせて受け止めた
 ミシミシミシッ、と、地面が重量によってヒビ割れていく

「せぇいっ!!」

477血塗れないなら殴り砕け  ◆nBXmJajMvU:2016/09/25(日) 22:08:12 ID:iB.r0Kgs
 がごしゃぁあああん!!
 受け止めていたゴーレムの腕を、ぽんっ、と弾き飛ばした後、そのままアッパーカットで破壊
 そうしてから、とんとんっ、とゴーレムと距離を取った
 闇雲に破壊していても、辺りの土を使って再生してしまう
 ならば、どうするべきか
 ゴーレムの「弱点」を、知識の中から引っ張り出す

「……確か、特定のワードの頭部分削ればいいのよね。ロレーナさんが言うには」

 そこさえ壊せば良いのなら、どうすれば良いのか
 優は静かに拳を握りしめ、ゴーレムを睨みつけた



「どこだと思う?「אמת」の文字が刻まれているのは」

 モニターから試合の様子を見ながら、遥がそう口にした
 はて、と、龍哉は首を傾げる

「どこなのでしょう?少なくとも、表面上はどこにあるのか、わかりませんね」
「……内部に隠している、のだと思う。ゴーレムの弱点だから」

 珍しくスマホには視線を落とすこと無く、じっとモニターを見つめる晃がそう続けた
 そう、「אמת」の文字はゴーレムの弱点だ

「「אמת」の一文字、「א」を消して「מת」にしてしまえば、ゴーレムは活動が止まるっすからね」

 ゴーレムの体には、「אמת」と刻まれており、それが原動力となる
 しかし、その一文字を削り「מת」(死んだ)にしてしまえば、活動を停止
 ゴーレムは、ただの無機物へと戻るのだ
 つまるところ、攻撃されるとまずい弱点である
 本来の伝承であれば額にその文字が書かれた羊皮紙が張られていると言うが、診療所の先生が作り上げたゴーレムは、ゴーレム本体のどこかに文字を刻んでいるタイプらしい
 すなわち、戦いながら文字を見つけるしかないのだ

「確かに、表面上見えねぇが……なんでだろうな」
「すっげー、嫌な予感を感じるっすね」

 憐の言葉に、遥が頷く
 直斗や神子がこの場にいたら、同じく頷いていた事だろう

 そして、モニターに映し出されているゴーレムは、優の攻撃によってあちらこちらに穴が空いたりしつつ再生を繰り返し

『ーーーー見つけたぁ!!』

 優の声が、モニター越しに響き渡った



 おい
 おい、ちょっと待て

「おい、そこのセクハラの権化。どこに文字刻み込んでいるんだ」
「確かに私はおっぱいと太ももの観察者であるという自覚はあるがセクハラはせんぞ。YESおっぱい、NOタッチだ」

 違う、今言っているのはそういうことじゃない
 とりあえず、後で一発殴ろう、と灰人はそう心に誓った

 モニター越しに見えた、「先生」が作成したゴーレム
 その………人間で言うと、股間の部分。そこに「אמת」の文字が刻まれていたのだ
 セクハラと言いたくなっても悪くないだろう

「場所的に、女性は触りたがらんだろうし、男性は攻撃を躊躇するだろう?」
「ナイスアイディアみたいに言うな」

 確かに、言われてみればその通りなのかもしれない
 かもしれない……………が

「たった今、優がゴーレムの股間の「אמת」の「א」を打ち砕いたぞ」
「おや」

 うん
 優に、そんな事を気にするデリカシーがあるか、と問われれば、「ない」と断言するのが幼馴染である灰人の意見である
 きっと、他の幼馴染組も、全く同じことを考えただろう

 優は、男の急所くらい、平気で攻撃する

 まぁ、どちらにせよ、「先生」は一発殴ろう
 もう一度、そう心に誓いながら、崩れたゴーレムの残骸踏みつけながら勝利のポーズを取る優の姿をモニター越しに眺めたのだった

終われ

478その頃、「首塚」離れ小島にて  ◆nBXmJajMvU:2016/09/25(日) 22:54:44 ID:iB.r0Kgs
「「ごん、お前だったのか。いつもくりをくれたのは。」。ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなづきました。兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました…………」

 おしまい、と
 絵本を読み終えてリリカはぱたんっ、と絵本を閉じた
 ……それを合図に、リリカの読み聞かせを聞いていたちみっこ逹の目に、ぶわっ、と涙が浮かぶ

「ごん、かわいそう……」
「かわいそうー……」

 ぴぃいいいいいい、と泣き出してしまった子も出た
 その状況に、リリカはあわわっ、と慌てる

「あ、あれ?ど、どうして!?」
「リリカちゃんの読み聞かせ、上手やったからね」

 あわあわしているリリカの様子に、大男……舘川 無(なし)は苦笑した
 そう、リリカの絵本の読み聞かせがあんまりにも上手だった為、ちみっこ逹が感情移入してしまって泣き出したのだ
 ……読み聞かせに「ごんぎつね」を選んだ時点で、予測しておくべきだった事態かもしれないが

 ぴぇえええええ、と泣いている子供逹を、鴆がそっと撫でる
 そうしながら、リリカと無にしせんを向けた

「勝手元にお菓子と飲み物あるから、子供達の分、持ってきてくれる?」
「あ、は、はい」

 勝手元……つまりは、台所だ
 「首塚」所有の離れ小島に匿われるようになって一年、この館の構造もだいたいは覚えている
 リリカは立ち上がると、無と共に台所へと向かった

「うーん……「忠犬 ハチ公」の絵本の方が良かったでしょうか」
「どちらにせよ、同じ結果になったと思うんやけどもなぁ……にしても、リリカちゃんは犬が好きやね」
「はい!大好きです!!」

 それはもう、と笑うリリカ
 だからこそ、「忠犬ハチ公が渋谷の街を守っている」の都市伝説と契約したようなものだ
 ……そのせいで、大変な目にもあったのだが
 台所で子供逹用のお菓子を取り出しつつ、リリカは一年前の事を思い出し、小さく、震えた

「…結界を張る能力って、貴重なんですね」
「そうやね。都市伝説契約者の中でも結界を張る能力は、治癒系能力者と同等に貴重だと聞いとるよ」

 飲み物と人数分のコップを取り出しながら、無が教えてやる
 リリカは、今まで他の都市伝説契約者とはあまり接触してきていなかったのだ
 学校町の都市伝説発生率と契約者の数が異常なのであって、学校町ではない場所で生活していたリリカにとっては、それが当たり前だったのだろう
 「首塚」に匿われるようになってから、契約者の数に驚いていたのだし

「聞いた話では、「怪奇同盟」の関係者で「座敷童」の契約者の子が、結界に関してエキスパートらしいけど……他にいたかなぁ」
「なるほど……私も、結界能力がなければ襲われなかった………うぅん、でも襲われたけど、結界能力のお陰で助かったし……」
「リリカちゃんは、「狐」の誘いを断って襲われたんやったね」

 そうなんです、とリリカはちょっぴり、ぐでり、とした
 ……アレは、本当に怖かった

「妾の配下になれ、って言われたけど。嫌な予感が拭えなくて断って……その瞬間には以下の人に襲われて、怖かったです」
「栄ちゃんと藤沢君と一緒に、あそこ通りすがらなかったら危なかったなぁ……」

 リリカを保護した時の事を思い出し、しみじみと無はそう呟く
 たまたま、転移系能力者と一緒にあの場を通りすがってよかった
 そうじゃなければ、結界を張る能力があるとはいえ、危なかっただろう

「軽自動車だのバイクだの、びゅんっびゅん突撃してきて……あれ、結界なかったら、死んでたのかな」
「……そうかもなぁ」

 ぞわわわわっ、とリリカは体を震わせた
 できれば忘れたいが、そうそう忘れられる事でもない


 記憶に刻まれたあの顔は、なかなか忘れられない
 あの時の「狐」が使っていた人間の少女の顔と、「狐」の命令によってリリカへの攻撃を開始した、あの契約者の、顔を




to be … ?

479続・九十九屋九十九の戦技披露  ◆nBXmJajMvU:2016/09/26(月) 22:28:46 ID:gEc2WR2g
 相手が慎重に動いている様子に、九十九はふむ、と思考を巡らせた
 ひとまず、高所から相手の動きを観察してはいるが………どうやら相手は地面にヒビを入れ続けているようだ
 一体、何をしようと言うのか

(……まぁ、せっかくだ。利用させてもらうか)

 前もって、この戦闘部隊に仕掛ておいたワイヤーの量はかなりのものである
 ワイヤーの質量で押しつぶせなくもない、とは思うが……

(相手は身体能力強化系に見えるな。皓夜ほどの怪力かどうかまではわからないが)

 どちらにせよ、質量で押しつぶすと言うのもつまらない
 もう少し「遊んで」、相手の能力を観察させてもらおう

 ……いつか、あの女性が。自分達にとって脅威となるかもしれないのだから
 備えておく事に、こしたことはないのだ


 ……カリ……………カリ、カリ、カリ………

「………?」

 今、何か聞こえた?
 瑞希は警戒し、辺りを見回した
 目視できる範囲に、ワイヤーは見えないが

 ……カリ、カリ…………ガリガリッ、ガリ

 本当に、本当に小さな音
 油断していれば聴き逃してしまうような、それほどまでに小さな
 その音を、瑞希は聴き逃しはしなかった
 そして、数多の都市伝説と戦ってきた経験が告げる。「跳べ」、と
 本能からの警告に従い、一足でその場から一気に跳んで移動した

 ほんの一瞬前まで瑞希が立っていたその、足元から
 ガリィッ!!と、何かを削るような音と共に、ワイヤーが飛び出してきた
 瑞希を貫くことに失敗したワイヤーは、また地面の下へと戻っていく

(いつの間に………、まさか、これ、私が作ったヒビを通って?)

 そう、瑞希が自身の作戦の為に割り続けていた地面のヒビ
 ワイヤーは、そこから飛び出してきたのだ
 つくもが瑞希の作戦に気づいたかどうかはまだわからないが、どうやら彼は、瑞希の作り出したヒビを逆に利用しようと考えたらしい
 恐らく、地面を割り続ければ割り続ける程に、そのヒビをワイヤーが這っていき、そこから攻撃してくるのだろう

(聞こえてきていた音は、ワイヤーが地面の中を進んでいる音だったのね)

 微妙にヒビがつながっていなかった箇所は、削るようにして繋いでいたのだろう
 元から拾い九十九の攻撃範囲が、更に広がったということだ

 それでも、瑞希は不敵に笑う
 すでに、こちらの支度は整っている
 …仕掛ける事は、出来る
 ぽんっ、と口の中に一口大のチョコレートを放り込み、もぐもぐっ、と飲み込むと
 仕掛けるべく、動き出した


「………!」

 ごぉおおおおお、と轟音が聞こえた気がした
 投げつけられた、二つの家屋
 …家を投げつける等、非常識極まりない攻撃だ
 この空間だからこそ許される荒業といえるだろう
 だが、このくらいならば、避けられ………

「は?」

 瑞希がとった行動を前に、九十九は思わず、魔の向けた声をあげた
 …思えば、先程の家屋もこちらに投げつけられた訳ではなかった
 ただ、彼女は、烏賊置く二つほぼまるごとを、「上空に放り投げた」のだ
 そしてその直後、地面へと手を突っ込み、地面をまるでちゃぶ台返しでもするかのように、宙へと放り投げてきたのだ
 
「これは、ちょっと洒落にならな……っ!!??」

 ごがががっ!!と
 滞空していた家屋二つが、連続で蹴り出される
 己に巻きつけていたワイヤーを操り、それを避けるべく移動した
 あれは、流石にワイヤーで受け止めきれる質量ではない
 家屋を避けながらも、更にこちらへと向かう攻撃を補足する
 先程ちゃぶ台返しされた地面が、そのまま突っ込んできているのだ

480続・九十九屋九十九の戦技披露  ◆nBXmJajMvU:2016/09/26(月) 22:30:31 ID:gEc2WR2g
 ……不意打ち用に隠していたワイヤーも使ってしまうが、仕方ない

 ぎゅるるるっ、と、ワイヤーがあちらこちらの地面から、建物から、一気に飛び出す
 そしてそれらは、まとめて、九十九に向かってきている地面だった物へと巻き付いて
 ギャリギャリギャリギャリギャリ、と耳障りな音を立て………地面だったその塊は、バラバラになった
 これであれば、ワイヤーでじゅうぶんに防ぐことが出来る

「……なるほど」

 ふと、口を出たこの言葉
 果たして、どちらが発したものか

 恐らく、地面を「抱えて」突進してきていたのだろう
 破壊したそれの向こう側から、瑞希が飛び出してきた


 危なかった
 大きな塊は避けていたから受け止めきれないのだろう、とは思っていた
 ……が、「破壊できないとは言っていない」と言うやつだったのか
 嫌な予感を感じて、とっさに少しだけ後ろに引いてよかった

 どちらにせよ、接近は出来た
 すぅ、と息を吸い込んで

「            !!!!」

 肺に蓄えた空気を、口を通して一気に外へと撃ち出した
 モニター越しに見ている人逹にも結構な大音量として聞こえたかもしれないが、仕方ない。ちょっと我慢してもらおう

 大音量による一喝
 至近距離でのそれに、さしもの九十九もポケットに突っ込んでいた両手を出して耳をふさいだ
 多分、鼓膜は破れてない………だろう、多分、きっと、恐らく
 万が一破れていても、治療班の人が頑張ってくれると信じるまで

 本命につながるための。「一泊」が生まれた
 そのまま、攻撃の体勢へと入る

「ハリネズミは、好きか?」

 ……ふと、耳をふさいだままの九十九がそう呟いた

 気づく。九十九がポケットから手を出したことで、辺りにばらまかれたものに
 きらきらと、宙に投げ出された、無数の針
 いや、これは針ではない
 正確にはこれも「ワイヤー」だ。先端を尖らせ、短く切った
 重力に従い、地面へと落ちていこうとしていたその無数の短いワイヤーは、九十九の、未だ不明の契約都市伝説の能力によって操られて

 四方八方から、一斉に、瑞希に向かって発射された






to be … ?

481戦技披露会 ワイヤー使いと超人の決着 ◆MERRY/qJUk:2016/09/27(火) 01:17:04 ID:GFDdkfjU
辺りにばらまかれたのは、無数の針状に加工されたワイヤー
それが四方八方から、一斉に、自分に向かって発射された

――――それがどうした?

迷わず脚に力を込めて空を蹴る。"超人"の脚力がそれを可能にしている
射出された針の雨と九十九屋に向かって進む体が衝突する
主に体の前面が針に覆われたようになるが、大した問題ではない
どころか運のいいことに両目とも無事だ。左耳はちょっとちぎれたようだが
肉薄したところで九十九屋の服から不意打ちのようにワイヤーが飛び出した
まだ接近用の札があったようだ。さらに体にワイヤーが突き刺さる。だが、

「届いた……!」

九十九屋の右肩を瑞希の左手が掴む。即座にワイヤーが出てきて
左手をズタズタに切り裂いていくが、肩の骨がビキッと音を鳴らすほど
強く掴んだ左手はそう簡単には外れない。というか外さない
"超人"篠塚瑞希は満身創痍だった。土埃に塗れ、無数の針が突き刺さり
左耳は欠け、ワイヤーに巻きつかれ、体力は残り少なかった
しかし彼女は知っていた。どれだけ周囲に被害が及ぼうが
ここは他に人もいない仮初の空間であって大したことにはならない
どれだけ怪我をしてしまおうが治療だって受けられる
ましてや彼女は"超人"である。そもそもこの程度の傷、時間があれば治る
そうした取り返しのつく諸々を使い尽くして得ることができた
現在の彼女と九十九屋の距離は――――紛れもなく、彼女の間合いであった

ワイヤーに邪魔されつつも大きく振りかぶられた右腕を見て
笑みが引きつった九十九屋九十九が何かを言おうとして口を開く

482戦技披露会 ワイヤー使いと超人の決着 ◆MERRY/qJUk:2016/09/27(火) 01:17:52 ID:GFDdkfjU
しかし

「引き分けね。いい勝負だったわ」

少し遅かったようだ
掴まれて逃げ場のない九十九屋の鎖骨付近に瑞希の右拳が叩き込まれ
痛みゆえか衝撃で揺さぶられたか、九十九屋の意識は闇に沈んでいった
九十九屋の意識が無くなったということは、あれほど手ごわかったワイヤーが
一時的に制御を失うということでもある。つまり二人は落下を始めた

「あー……私が下になるべきよね」

実のところもう少し強めに殴るつもりだったのだが
カロリー切れで最後の一撃はちょっと弱まってしまっていた
つまり空を蹴って落下を和らげるとかはできないので
せめて頑丈な瑞希が下になっておけば多少彼へのダメージは軽減されるだろう
チラッと九十九屋を見るが、フリではなく完全に気絶しているようだ
とはいえ死なないようにギリギリ手加減したのが弱まった一撃
おまけにワイヤーの仕込まれたセーターだ。防御力は多少あるはず
せいぜい鎖骨にヒビが入ったかちょっと折れたくらいだろう
治療を受ければすぐに健康体になれると思う。まあ推測でしかないが
そんなことを瑞希が考えているうちに瓦礫の山に落下した二人
ところがモニターに映る二人はまるで動く様子を見せなかった

「…………お腹が減って動けない。助けて」

フリーの契約者「九十九屋九十九」 VS 怪奇同盟所属「篠塚瑞希」
二人の戦技披露は両者行動不能で幕を閉じたのであった

                          【治療風景に続く】

483治療の時間  ◆nBXmJajMvU:2016/09/27(火) 15:55:36 ID:ERoBzTWI
 さーて、と言うように、その「先生」は瑞希の負傷具合を見つめ、こう結論づけた

「治療してもらえる事わかっていたからと言って、人妻がここまで怪我を顧みないのはどうかな、って思わなくもない」
「それって、人妻関係あるの?あと、お腹減って本当動けないので何かください」
「おおいに関係ある………我が助手よ、こちらのご婦人の為に何か食べ物持ってきてくれ。確か、「夢の国」が屋台出していたと思うから、そこから。間違っても……」
「わかってる。間違っても死人の屋台で買ってはこない」

 衛生上問題ありまくりだろ、等と言いながら灰人が治療室を後にした
 先程の篠塚 瑞希と九十九屋 九十九の対戦は引き分けで終わった
 が、怪我の具合から言えば、明らかに瑞希の方が重傷だ
 あちらこちらにワイヤーによる刺し傷切り傷。ついでに言えば地面に落下した時の全身打撲
 左耳はちぎれているし、しかも、ワイヤーの弾丸は刺さりっぱなしである
 ワイヤーの弾丸は深く刺さってしまっているものは、そう簡単に抜けるような状態ではなくなってしまっている為、仕方ない部分もあるが

 まずは突き刺さったままのワイヤーを外さなければ、と「先生」が考えていると……ぱたぱたと、治療室に近づいてくる足音
 その足音から誰が来たのか感じ取ったのか、「先生」は扉が開くと同時に告げる

「すまんが、こちらのご婦人の治療を頼めるかな?我が助手の従兄弟よ」
「わかってるっす、その為に来たんすから」

 治療室に飛び込んできたのは、見学者席で試合を見ていたはずの荒神 憐だ
 試合の結果から、重傷者が出たことがわかって急いでやってきたらしい

「うむ、頼む………っと、その前に。人妻の上に乗っかるというある意味役得だったそちらの青年、もう意識はあるね?」
「役得も何もないと思うが、意識ならある。どうかしたか?」

 ぱちり、と
 負傷者用の寝台に寝かせられていた九十九が、目を開いた
 どうやら、試合が終わって少しして意識が戻っていたらしい
 起き上がるのはまだ億劫なようで、首だけ動かして「先生」を見る

「今、君が問題なく能力を使える状態なのであれば、こちらのご婦人に突き刺さったままのワイヤー、全部一気に抜いて欲しいのであるが、できるかな?」
「………出来るが、その瞬間に出血が始まるぞ」
「構わん。我が助手の従兄弟な少年よ。ワイヤーが抜けたらすぐに治癒出来るね?」
「はぁい、出来るっすよ」

 寝台に寝転がったまま動けません状態の瑞希に憐は近づいていき、す、と手をかざした
 その様子を見て、九十九が能力を発動する
 瑞希に突き刺さったままだった針のようなワイヤーが、一気に全て、抜ける

484治療の時間  ◆nBXmJajMvU:2016/09/27(火) 15:56:50 ID:ERoBzTWI
 血が流れで始めるよりも先に、憐が治癒を開始した
 ばさりっ、と憐の背中に光り輝く天使の六枚翼が出現し、瑞希にかざした手のひらからぽぅ、と淡く白い光が溢れ出す
 暖かな光が注ぎ、瑞希の傷が治癒されていく
 全身の刺突による傷を、ワイヤーで切り裂かれた傷を、落下時の全身打撲を
 ……そして、千切れた左耳まで、治癒によって再生していく

「うむ。やはり「ラファエル」の本気の治癒はすごいな」

 憐のその治癒の腕前を見つめながら、「先生」はしみじみとそう口にした
 彼もまた人ならざる力によって他者を治癒する事ができるが、それは薬等を使っての治癒である
 憐のように、直接癒やすのとはまた違うのだ

「俺っちは、まだまだっす。腕一本再生しろー、とか言われたらすげー時間かかるんで」
「最終的に再生させられるんなら、十分にすごくない?」

 痛みが消えた自身の体の様子に少し驚きながら瑞希がそう問うたが、憐は首を左右にふる

「俺っち自身がまだまだ未熟なせいで、「ラファエル」の力なら歩Bらい治せるはずの傷を治療できない、とかもよくあるんで。もっと、力使いこなせるようにならないと」

 へらり、と笑いながらそう答える
 謙遜している、と言う様子でもなく、心からそう考えているように

「……………君は。自分の力を、少し重たく受け止めすぎだと思うがねぇ」

 ぽそり、と、「先生」が口にしたその言葉が、憐に届いていたかどうかは、わからない




 ……なるほど、これはすごい
 九十九は素直にそう感心していた
 こちらには治癒の力は向けていなかったのだと思う
 だが、治癒の力の余波なのだろうか。あの六枚翼が展開されると同時に辺りに飛び散り、その羽根が届いていた九十九の体のまた、治癒されていたのだ
 よくてヒビが入っていたはずの鎖骨の辺りの痛みが、完全に消えている

(貴重な治癒能力者、しかも能力も高い………「聞いていた通り」だ)

 その、高校生にしては少し小柄な憐の姿を、九十九ははっきりと記憶したのだった






to be … ?

485戦技披露会 幕間:2016/09/27(火) 20:58:14 ID:wJnpkwQ2
第二回合同戦技披露会の会場にマイク越しの音声が響き渡る。
「決着!決着です!!九十九屋九十九VS篠塚瑞希!!
 結末は両者起き上がれずドロー!!」
「二人共医務室に運ばれていくな、舞台の修復も始まった」
「この辺自動化されてるから良いわよねー、さぁここまでで三試合どれもコレもドハデな試合だった訳ですが!!」
「派手と言うか被害が尋常じゃないな・・・」

スピーカーを通して響く声は実況籍の神子と直斗の物、契約者と都市伝説犇くこの会場では貴重な一般人となる。
実況とはいう物の実際の所実況しようにも参加者の動きが激しく追いつかない為、試合と試合の間の間を持たせるのが主な仕事になっているが。

「あのクラスの契約者同士がぶつかるとそうもなるわねー、それを隠蔽してる組織の苦労が察せられるわ・・・・・・しっかし、これまでの勝者を見るとメルセデス司祭に優に第三試合に関してはドローだけど・・・組織が一寸情けないぞー!」
「組織と首塚がメインだが、確かに今のところ組織と首塚がそれほど目立ってない」


「フフフ、言われてるわよ、大樹さん」
「いや、それよりもですね・・・」
会場の一角、限られた人間しか近づかないVIPルームの傍に敷かれているブルーシート。
その上には弁当の類が広げられ、一組の男女が座っていた。
いや、座っていたと言うよりも正確には・・・
「そろそろ退いてもらえないでしょうか?」
「嫌よ」
ブルーシートに座っていた大門大樹を逃がさぬ様にと、その膝の上に大門望が陣取っている状態だ。
「一応仕事中なのですが・・・」
「奇遇ね、私もよ・・・・・・ハイ、大樹さん、アーン」
大樹の膝に納まりながらも器用に弁当箱から中身を大樹の口へと運んでいく。
「・・・あーん・・・・・・こんな事してて良いんでしょうか」
「良いのよ、ってかコレも仕事の内よ」
「と、言いますと?」
「各組織の交流の場を設け友好を深め、いざと言う時の連携を密にしつつ、お互いの戦力を披露し、己が勢力を誇示、更には後進に先達の力を見せる・・・と言うのが表向き」
甘える様な素振りで大樹の胸に頬を寄せる望・・・端から見れば子供がじゃれてる様にしか見えないがコレで30超えてるのだから質が悪い。
「・・・表向きと言うのは?」
「こういう場に参加するフリーランスは興味本位の輩も多いでしょうけど、選手として参加しているとなると話は別・・・己の力の誇示か、腕試しか、それとも別の目的か・・・好戦的な奴等よね、そういうのでこちらが見落としていた存在を認識するいい機会だわ」
「我々が見落としていたフリーランスの脅威を表に出すと?」
「在処の発案よ、最近狐だとか影とか世間が騒がしくなってきているから、ここで活躍したフリーランスで、組織が把握してなかった奴が居れば、そいつはかなり怪しいって事にならない?」
「成る程」
「あの子なりに子供達の危険の目を少しでも摘みたかったんでしょうね
 だから大樹さんはここで私を甘やかしつつ試合を観戦するべきだわ」
「あの・・・・・・見回りや情報収集を行いながら観戦と言うのは・・・」
「別に良いけどその代わり私が欲求不満で夜が凄いわよ?
「・・・・・・・・・次の試合が始まるようですね」


「ここらで一寸良い所見てみたい!そんな訳で次の試合は組織からこの人!!」
神子の言葉と共に舞台に現れたのは黒いスーツ姿の女性
「C-No.所属の契約者!影守美亜!!」
「続けてもう一人はフリーランスだ」
直斗の言葉と同時に少年が飛び込む。
「・・・新島愛人!!」
「コレより、第四試合開始!!」

続く

486死を従えし少女・寄り道「合同戦技会」 ◆12zUSOBYLQ:2016/09/27(火) 22:12:18 ID:Yn20xX1.
「黄。ここで何をしてるの?」
 嫌悪感も露わに声を掛けてきたのは藍。
 ここは南区の廃工場。「凍り付いた碧」のアジト。
「お前たちは知らなくていい」
 黄はそれだけ答えると、また黙々と作業に戻る。
 先日接触した、「あの御方」の配下の者たち。初めて会った、志を同じくする者…悪くはない。
(これぐらいでいいか)
 廃工場だけに、金属類には事欠かない。ワイヤーだけは近くの別の廃工場から調達してきたが、鉄やニッケル製の物品は、工場内のものでほぼ賄えた。
「なになに?」
「黄じゃない。藍の部屋で何してるの」
「鉄材に、金属塊…こんなものを人の部屋に運び込んで、何してるんだ」
「いずれ知ることになる。今はまだいい」
 その時にはもう手遅れだがな。黄は藍たちに気取られぬようにほくそ笑んだ。
「お前等こそ、いつも飽きずにつるんで、今日は何処へ行くんだ」
 黄が皮肉めいた笑いを向けると、キラは黄の目の前に一片の紙片を差し出した。
「合同戦技会…なんだこれは」
 訝しげな様子の黄に、キラが薄い胸を反らして答える。
「だれでも参加できるんだってさ。一応トモダチいないあんたにも教えてあげるわよ」
「あいにく俺は興味ない」
「そう?じゃあ」
 澪の一言を残して、一行はアジトから出て行った。
「…ふん」

 ところはかわって戦技会会場。
「慶次さん」
「なんだ、ο(オウ)-Noのところのガキ共か」
「強硬派」と「穏健派」凡そ相容れない者同士の会話など、いい雰囲気になりそうもない。こういう場を取りなすのが得意なのは真降だ。
「チビ達が出るって言い出して。僕たちはお目付役兼手合わせ役です」
「ってことは…」
「ええ。次の試合は僕と澪ちゃんです」
「ふーん」
 慶次はま、がんばれやとだけ答えて、眼前の試合に集中している。
「それじゃ、僕たちはこれで」

 慶次から離れた轟九と真降は、互いに目線を交わした後、慶次に視線を戻した。
 …正確には、慶次を冷たく見つめる、彼の担当黒服に。
「…兄さん」
「…ああ、相当ヤバいな、あれ」





487はないちもんめ:2016/09/27(火) 23:25:55 ID:wJnpkwQ2
「コレより、第四試合開始!!」

実況席から流れた試合開始の一言。
その言葉が終わるが早いか、新島愛人の両腕が飛んだ。

「!?」

驚愕に見開かれた目が、僅かに後方を確認し、見えたのは背後の建物に包丁で縫いつかれた自信の両腕、そして・・・

「遅い」

両腕を落とすのとほぼ同時に自身の背後に移っていた、影守美亜の足が、腹に叩き込まれるのとほぼ同時に両の足が自身から切り落とされる瞬間だった。

『ま・・・まなとぉぉぉぉぉ!?』
『見えなかったな・・・』
『え!?ちょッえぇ!?龍哉!居るよね?!一寸こっち来て解説ー!!』

実況席が酷く混乱している様子が聞こえてくるが無視して良いだろう。
そう結論付けて切り落とした足を踏みつける。
コレで両腕と両足を取った、胴体は蹴った際に勢いをつけ過ぎて前方の建物に激突、そのまま瓦礫の下敷きに。

「戻れ」

突き刺した手足の返り血を浴びた12本の包丁が自身の周囲を囲むように浮遊する。
内の4本は刃渡りが凡そ70センチ程、ここまで来ると刀にしか見えないがマグロの解体等で使われる立派な包丁である。

「これで、私の勝ちで良いよね?」
「流石にそれは困るかな」
「・・・何?都市伝説発動する前に斬っても駄目なわけ?」

愛人を沈めた瓦礫の下から火柱が噴出し徐々に人の形へと整っていく。

「行き成り四肢切断とは品がないな」
「手足切られたなら大人しく死んでろよ」

愛人を中心に周囲に炎が燃え移る。
美亜の周囲を刃物が12、24、48、96、192とその本数を膨れ上がらせ愛人へと打ち出されるがその全てが炎と化した愛人の身体をすり抜けていく。

「炎を斬れると思っているならお笑い種だ!!」

愛人の体から放たれた炎は意思を持つかの様に美亜を囲み

「その程度!!」
「まだあるのかよ!?」

美亜を中心に追加で展開された包丁が250本
その全てを無作為に射出し炎を掻き揺らし、その一瞬を突いて飛び出す。

「次!!」

更に追加で200本程を展開。
宙に浮いている包丁を足場に上へ上へと高度を上げていく。

「空に逃げる気か」
「いやだって、アンタ能力的に下は危険域だからさ・・・」

新島愛人の都市伝説ファイアドレイク、ドラゴンの一種とされその体は炎でできていたと言う。

「ま、確かに炎さえあれば俺は無敵だ」
「その炎を自前で用意できるから質が悪い・・・」

最早地上は火の海で、言い換えるならその燃え盛っている火全てが新島愛人だ。

「さぁ、俺を攻略できるか?影守サン?」
「正直詰みに近いけどさ・・・ま、奥の手はあるし足掻くよ」

フィールドに散らばってた刃物が美亜の元へと集まっていき、更に虚空から後続の包丁が排出される。

「おいおいおいおい、いくつ溜め込んでやがった・・・」
「父さんにも見せた事のない、これが私の限界一杯・・・4000本!!」

4000の包丁が空を覆い・・・

「土台ごと刻み潰す!!」
「全て焼きつくす!!」

まるで天井が落ちていくかのように同時に地に向かって放たれた包丁と、フィールド全体から湧き上がった火柱がぶつかり合った。

続く

488治療室にて  ◆nBXmJajMvU:2016/09/28(水) 00:10:38 ID:Y86M2Qfs
「はい、お呼ばれしたのでお邪魔させていただきます」
「うん、ごめんね、龍哉。私達じゃちょっと見えないからさ……」
「確かに、美亜さんは素晴らしいスピードですね」
「すごくのんびりしたテンポで言ってくれてるけど見えてるのね、やっぱり」

 ややぽわん、とした様子で勝負の様子を見ている龍哉
 が、愛人と美亜、二人の戦闘を一瞬たりとも見逃している様子はない
 生まれついての才能と今までの戦闘経験によって培われた動体視力なのだろう

「愛人の奴も無茶するよな。まぁいつものことだが」
「はい、ですが。その件について、治療室にいる「先生」から連絡が。憐さんが泣きそうになっているそうで」
「……愛人ー、後で遥に睨まれる覚悟しとけー」

 愛人の実力はわかっているつもりだ
 あの程度で怯むはずがないということもわかっている
 …それでも、あの優しい幼馴染は泣きそうになっているのだろう
 直斗はその事実を理解する
 ちゃらちゃらとした軽い調子の仮面をいくら被ろうとも、その根っこが変わることはない

 ……ずっと知っている
 だからこそ、その危険性も、よくわかっているつもりなのだ



 あぅあぅあぅ、と画面に映し出される戦いにおろおろしている憐
 瑞希の治療が終わっても、また大怪我する人がいるかもしれないから、と言って治療室に残っていたのだ
 愛人の契約都市伝説の能力の性質上、腕や足がもげようともどうと言うことはない、と言うことは憐もわかっているはずだ
 そうだとしても、幼い頃から見知っている相手が傷つく事を悲しんでいる

(こういうところを見ていると、本当、戦闘には不向きな子なのだがねぇ)

 それでも、いざ戦闘となれば母から借りている「シェキナーの弓」で容赦なく敵対者を撃ち抜けるのが憐だ
 心を痛めていない訳ではないのだろうが、それを押し殺して戦える
 遥や、「教会」のあの異端審問官は憐の優しい面を思い、なるべく戦わせないように動くらしいが……

(あの凍れる悪魔の御仁は、それを「馬鹿げている」とでも言うのだろうね)

 さて、今のうちに次の治療の準備をするとしよう
 瑞希に渡すための食事を買いに行った灰人も、そろそろ戻ってくるだろうし
 愛人と美亜の怪我の具合によっては、憐にだけ任せるのではなく、自分も働かなければならない
 微妙にスプラッタ感あふれるその戦いを、特に怯えた様子もなく驚いた様子もなく眺めながら、「先生」はどこまでもマイペースだった


 だから、気づいていたとしても気づいていなかったとしても、何も言わない
 泣き出しそうな顔で試合の様子を見ている憐を、さり気なく観察している者がいた、その事実に




to be … ?

489 ◆HdHJ3cJJ7Q:2016/09/29(木) 15:18:49 ID:.mVjXOQE

昼と夜とが入れ変わり、そして混じり合う逢魔時。
夕焼けによって赤く染められる風景。
影は濃くなり、内に含まれるものを覆い隠していく。


「都市伝説……いや、契約者ですね」
「こんばんは。今日は夕焼けが綺麗だね」

半透明の女性、誰が見ても幽霊と判断するであろう存在に声をかけられ、
しかし詠子は楽しそうな微笑みを浮かべたまま、まるでご近所に挨拶する調子で応えた。

「都市伝説は、全て排除しなければ」
「えーそうなんだ。わたしはみんな仲良くしてほしいと思ってるから、それは困っちゃうな?」

女性が腕を詠子へ向けて突き出す。
腕の先からは放電が始まり、それと共に殺気が膨れ上がっていく。
それを感じていないのか、もしくは気にしていないのか、詠子の微笑みを浮かべたまま変わらぬ調子で問いかける。

「ふふっ、じゃあ、わたしとちょっと遊ぼっか?」
「都市伝説の戯れでどれ程の犠牲が出たことか……!」

詠子は後ろへ跳んで、雷撃の発射直前に同じ姿形の4人に分裂したが、1人は直撃して消滅した。
3人はそれぞれ距離を取り、左右に散った2人は女性の上空へ向けて投石する。
ちょうど石が女性の真上に差し掛かった時、それらは真下へと進路を変えて高速で落下し始めた。
しかし石は女性の身体をすり抜けて地面と衝突し粉々に砕け散り、女性には傷ひとつ与えられていない。

「やっぱり透けちゃうね。ならこれはどうだろう?」

詠子はバッグから取り出した光線銃の引き金を数度引いた。
幾つもの光線が女性に向けて放たれるも、接触した瞬間に光線は消滅し、投石と同じく何の効果もなかった。

「光線銃……組織の黒服ですか。都市伝説の管理などする前に全て消し去ればよいです」
「あれ、もしかして吸収してるの?」
「ねえ、どうしようか」
「”トビオリさんっ”」
「これ幽霊にも効いたっけ」

女性が周囲に目を向けた時、いつの間にか詠子の数は10人以上に増えていた。
相談したり、移動し続けたり、逢魔時の影の相手をしたり、それらの中で目に止まったのは、目を瞑り大きくジャンプしている個体だった。
タンッと地面を強く踏む音が響き、その余韻が消え去る前に女性は反射的に複数の雷撃を飛ばし、数人をまとめて消し飛ばした。
音が響いた瞬間に、その個体が一番危険だと感じたからだ。

「”トビオリさん”」
「あ、弾切れちゃった」
「”トビオリさっん”」
「”トビオリさんっ”」
「羽虫のようにわらわらと、切りがない……!」

しかしいくら消しても詠子の数は減らない。
消えた分だけ分裂したり、物陰から現れたりして増えているからだ。
さらに攻撃や撹乱、何もせず空を見上げていたりとバラバラに動き、それぞれのタイミングでジャンプを繰り返す。
撃ち漏らした個体の着地音が、周りの音に紛れてしまう小さな音にも関わらず、女性まで響いてくる。

そして3回目の着地音が響いたとき、いきなり視線の高さが下がった、と女性は感じた。
女性が自身を確認すると、幽体である自分の足が圧縮されたかのように潰されているのを認識したが、それでも雷撃は止めることはしなかった。

「あっすごいね、半分潰すくらいしたつもりだったんだけど、あなた強いのね。でもこれで終わりかな」

詠子が視線を上げたのに釣られ女性がそちらに目をやると、キラリと光るものが見えた。
その形は銃弾、その色は銀色で、紛れもなく退魔の力を持った銀の銃弾だった。
真上から身体を貫かれ、女性は苦しみの表情を浮かべたまま、ふっと姿を消した。

「消滅……逃げた、のかな?」

女性の消えた場所まで歩いて行き、周囲を見回すが、気配は感じられない。
その場でしゃがんで地面にめり込んだ銃弾を確認する。

「あ、これもう退魔の力使いきっちゃってる。うーん、光線銃も調子悪いから組織寄って行こうかなぁ」

詠子は、前に連絡を取ったのはいつだったかな、と思い出しながら、電話で組織に連絡し事後処理の連絡を入れた。

続かない

490はないちもんめ:2016/09/29(木) 22:14:52 ID:UeA078dM
もともと不利な試合という事は承知している。
物理攻撃しか使えない自分と、物理無効の新島愛人。
部の悪い賭けなのはわかっていたから野鎌達は今回連れてきていなかった。
が…

「ここまで!?」
「抜いた!」

ぶつかり合った包丁と炎、しかし炎の勢いは止まず壁を抜いて正確に自身へ向かってくる。
咄嗟に体を振って避けた…と思ったが

「クソ…」
「まずは一本、さっきのお返しだな」

左腕の肩から先が無い。
気の遠くなる様な痛みが逆に意識を失う事を許してくれない。

『腕が!腕が!?』
『消し炭ですね』

実況の声で大体の状況はわかる。

「全力だったんだけどな…」
「相性が悪かったな、にしても追い詰められてる割には顔が笑ってる様に見えるが」

当然じゃないか

「このままじゃ死んじゃうよね、私」
「早めに治療しないと危険だな」
「でも、負けるのヤだからまだ続けたいんだよね」
「なら、その意思が取れるまで焼き尽くす」
「なら、焼き尽くされる前にアンタ倒さないとね」
「できるか?」

愛人から放たれた炎が今度は右腕を焼いた。

「これで二本」

痛い痛い痛い、ホント痛い。
しかも腕が無くなったからバランスも取りづらい。
父さん怒ってるかなぁ…母さんは確か見に来ては無いはず無いよね?無いと言って、こんな姿見られたら何言われるか…

「追い詰められてるなぁ、私」
「まだ折れないのか?」
「トーゼン」

だってさ

「こんなに楽しくなってきたのに?」
「……」
「このままじゃ、負ける、負けて運が悪けりゃ死ぬ、助けは期待できない、てかいらない、私1人で何とかしたい、ほら、今私こんなに試されてる、これで終わりか?お前はどこまでやれるんだ?まだやれる事はあるんじゃないか?って、勝つも負けるも生きるも死ぬも私次第」

こんなに楽しい事あるか。

「そういうのは勝ち目がある時だけだろ?あんたの攻撃は俺には届かないぞ?」
「そーだね」

一応、新島愛人の能力に攻撃を通せる契約者は結構いる。
実際3年前、望さんははないちもんめでこいつを縛ったし、翼さんの能力でこいつは本体を直接焼かれた、そうでなくとも例えば炎熱を無力化する獄門寺在処、水を操る獄門寺龍一、父さんのかごめかごめなら炎化してても本体の首を切り落とすだろう。

「けどさ、私の目指してる所に行くならこれくらい乗り越えなきゃさ」
「何?」

さぁ、勝負だ、勝つか負けるかは多分五分五分。

「はぁ!」

生き残っていた包丁で地面を突き刺し土を跳ね上げ瓦礫を砕き砂埃を上げる。

「目潰しのつもり…!?」

放たれた炎が私の足を貫くがそれよりも包丁が円陣を組んで私を囲う方が早かった。
父さんにも誰にも見せた事のない本当の切り札、行くよ…

「かごめかごめ」

491はないちもんめ:2016/09/29(木) 22:15:34 ID:UeA078dM
騒めく観客席、会場は影守美亜が起こした砂煙で何も見えない。

『ちょっとちょっと何も見えないんだけど!カメラさん音声も拾えないの!?』
『無茶言うな!』
『………あっ』
『こんどはなに!?』

龍哉の上げた驚きの声に会場に目をやると煙から何かが勢いよく放り出され…

『おい、アレは…』
『愛人……愛人!?』

地面に落ちて転がる愛人。
そして煙の向こうから現れたのは…

『影守美亜!』
『あ、腕治ってる』
『………神子さん、愛人、あれ意識完全に飛んでます』
『えっ?マジで?んーじゃあ勝者影守美亜ー!!ちょっと影守さん!観客席に見えない状態で決着とか勘弁してくださいよ!!』

医務室に運ばれる愛人とキューピーに引きずられていく美亜。
何も見えなかった件で観客に謝罪する神子と直斗。
それらを尻目に龍哉は先ほどの光景を思い返す。

煙の中でぶつかり合った何か、愛人と美亜だとしか思えない。
しかし

(あれは、人間だったのでしょうか…?)

僅かに捉えた輪郭。
それには…

(翼に尾があった)

疑問は尽きない、しかし隣を見れば神子達は次の試合の準備に移っている。

(今は飲み込んでおくべきですか)

龍哉は疑問を口にする事なく、意識を次の試合へと切り替えた。

続く

492治療室にてりたーん  ◆nBXmJajMvU:2016/09/29(木) 23:02:01 ID:hrQ3f5G6
 はらはらと、輝く羽根が舞い散る
 それは、この治療室全体を覆うかのように………

「えーっと、腹パン?腹パンだけっすよね?腕とかまたうっかりぼろっとちぎれた状態にはならないっすよね?」
「OK、落ち着こうか、少年。とりあえずダメージは腹パンだけっぽいから治療もそこだけでいいと思うよ。だからその天使の翼しまおう?私の仕事無くなりそうなレベルで治療室に治癒の力ばらまかれまくってるよ?後で倒れるからやめよう?」

 えぅえぅと、泣きそうになりながら憐が愛人の治療を行っている
 モニター越しに戦闘の様子を見ていたとはいえ……と言うよりも、見ていたからこそ余計にこの有様なのだろう
 決着の瞬間がよく見えなかった
 そのせいで、愛人が見た目はせいぜい腹パンされた程度の怪我に見えるが、内部はボロボロなんじゃないかとか心配してしまっているのだ

「美亜さん、本当にほんっとうに、腹パンだけっすよね?実は内臓ドログチャぁになってるとか、ないっすよね?」
「うん、大丈夫。大丈夫だから、泣きそうな顔で言わないで。なんか後が怖い」
「……なら、いい……いや、腕やら脚やらずばずば切ってた時点であまりよくねーっすけど………とりあえず、美亜さんの怪我も愛人の怪我治療し終わったら治療しますね。美緒 さんに、美亜さんの戦いっぷりはお知らせ済っすから」
「私は、疲れ切ってるだけだから治療はいらな……」

 …………………

 Why?

「待って、さっきなんて」
「え?腕やら脚やらずばずば切ってた時点であまりよくねーっすけど…って」
「そこじゃなくて!最後!」
「美緒 さんに、美亜さんの戦いっぷりはお知らせ済っすから……ってところっす?」

 あぁああああああ、と言う心境に陥る美亜
 いつの間に、本当にいつの間に!?

「あえて言うなら、私が少年に頼まれて試合の様子をフルスペックハイビジョンな感じで君の母君へと動画でLIVE中継しておいた!母親として、娘の様子は心配だろうしね!!」
「ちょっとぉおおおおお!?」
「ちなみに、つい先程、父君の方にも動画で試合の様子は送りつけたから安心したまえ!!」

 良い笑顔で親指たててくる「先生」
 いや、安心できない、と美亜は頭を抱えるしか無い

「いや、泣きそうな顔の少年にお願いされると私も弱くてねぇ、後が怖い意味で」

 等と呑気に笑いながら、「先生」はこれっぽっちも悪く思ってない様子で言い切った
 跡でお覚えていろ、と恨みがましく睨みつけた

「あ、ちなみに服ボッロボロでちと再生は難しいね。予備の服としてナース服とバニーガールスーツとメイド服g」

 ずごすっ!!
 あ、戻ってきた灰人に背後から蹴り倒された
 めきゃっ、とちょっと背中を踏まれている先生から視線を外しつつ、美亜は治療室のベッドの中に潜り込んだのだった


終われ

493溶け融ける  ◆nBXmJajMvU:2016/09/30(金) 21:48:12 ID:mbX0Ww2E
 愛人と美亜の試合が終わって、次の試合までの休憩時間の事
 二人の試合開始前にその姿を見つけていた晃は、とことこ、と近づいていった
 そうして、くっくっ、真降の服の袖を引っ張った

「え?……あぁ、晃君ですか。こんにちは」
「……こんにちは。真降君も、試合を見に?」
「はい。まぁ、出場するチビ逹のお目付役兼手合わせ役かねてですが……そちらは」
「………試合、見に来た。優は出るけど、自分含めてみんなは、出ない」

 試合に出ないのだから、神子の手伝いで実況の方に……とも、ちょっと考えていたのだが
 そもそも、自分ではうまくしゃべれないから無理だろう、と晃は実況係は辞退していた
 TRPGでGMをやっている際はすらすらと喋る事ができても、それ以外では少し、喋るのは苦手だ
 ………TRPGやる時のように、誰かになりきっていれば実況が出来ただろうか。流石に、試す気にはなれないが

「……さっき」
「?」
「愛人と美亜さんの試合の、前。慶次さん逹、見てた?」

 そう、愛人逹の試合が始まる前
 真降が慶次と郁の様子を見ていた辺りから、晃は真降逹の姿に気づいていた
 …遥の方は、気づいていたかどうかわからない。治療室に向かった憐の事で頭の半分以上が使われていたはずだから
 事実、今も遥はまだ真降の方に気づいていないようだ

「気になること………あった?」
「……まぁ、少し」

 ちらり、真降がもう一度、慶次と郁を見る
 二人は、試合の合間にフリー契約者の資料に目を通しているようだった
 あの契約者は来ていないらしい、等と話しているのが少し、聞こえてくる

「彼の担当黒服が彼を見る視線が、少し……」
「………?………慶次さんの担当黒服、郁さんじゃ、ない」
「あれ?」
「………慶次さんの担当、は。赤鐘 愛百合の方。ANo」

 少し考えている様子の真降
 納得がいったのか、あぁ、と声を上げる

「そうだ、郁さんはかなえさんの担当でしたね」
「ん、そう………郁さんも、慶次さんと一緒にいる事、結構多いけど」

 ややこしい、とは晃も思う
 強行派である愛百合からの影響を少しは薄めようとしているのか、慶次はかなえと郁と共に行動する事も多いのだ
 最近では、その二人どころか天地と組むことすらあると言うが

 ……と、真降が「あれ?でもそれじゃあ……」と、新たな疑問が浮かんだようではあったが

「…あ、次の試合、始まる」

 そう、次の試合が始まる
 遥が「げ」と言う声を上げているのが聞こえてきた

 次の試合の出場者の片割れは、遥が「絶対にかなわない」と常に言っている、あの人だ

494溶け融ける  ◆nBXmJajMvU:2016/09/30(金) 21:48:57 ID:mbX0Ww2E



 対戦相手であるその女性を、キラはじっと観察した
 長い黒髪は頭の天辺でポニーテールにされており、銀色のリボンで結ばれている。翡翠色の瞳は、まっすぐにキラを見つめ返してきていた
 武器らしい武器は持っていない。服装はパーカーにジーンズと、戦闘用なのか地味な格好だ

(……日景 アンナ。「首塚」所属……日景 翼とセシリアの娘にして長女。日景 遥の姉)

 キラがすでに持っている情報は、それくらいだろうか。確か、遥より二つ年上……今年で18歳だったはず
 対してアンナの方は、どの程度キラの情報を持っているのだろう
 実はお互い、契約都市伝説に関する情報は与えられていない
 試合の中で、相手の契約都市伝説を見抜け、と言うことなのだろうか

『それでは、第5試合、開始っ!!』

 開始の合図
 小さく、アンナが笑った

「はーい、それじゃあ………年下相手でも、容赦はしないわよ?」

 アンナが、静かに構えた
 あれは、何の格闘技の構えだったか………どちらにせよ、戦闘方法は接近戦か
 契約都市伝説も、接近戦闘向きのものなのだろうか
 油断なく、キラは手元に氷の剣を作り出そうと………

「え?」

 ……どろり、と
 氷の剣の表面が、溶け始めた
 それに驚いた瞬間、アンナが地を蹴り接近してくる
 繰り出された拳を避け、一旦、距離を取った
 もう一度、氷の剣を作り出しながら、ちょうどよい距離を保とうと

 ぐちゃり

「っ!?」

 地面の感触が、おかしい
 見れば、どろり、と、地面が溶けてきているような……

(これは……彼女の契約都市伝説の正体と、能力を把握しないと、危ない)

 アンナもアンナで、キラの契約都市伝説を見定めようとしている気配がある
 どちらが先に見抜くことが出来て対応できるか、まさに、それが求められようとしていた



to be … ?

495死を従えし少女 寄り道「キラの戦い」 ◆12zUSOBYLQ:2016/10/02(日) 21:38:13 ID:JXGv8HoQ
 観客席では、試合に出る準備をしていた澪や、試合観戦をしていた藍が、異変に気づいていた。
「変だね。いつものキラなら、迷わず突っ込んで行くのに」
「同士桃に考えがあるとは思えないし、相手の能力に足止めされてるのかも」
 酷い言いようだが事実だ。実際、今のキラに策らしい策はない。だが闘志は損なわれてはいなかった。
(地面のこの様子…ぬかるんでるのか、あるいは…溶けてる?)
 そう判断したキラは地面に向けて吹雪を放つ。
「凍れ!」
 ぴきぴきと音を立て、融けかけた地面がアンナに向けて凍り付いていく。
「だぁあああああ!」
 すかさず凍った地面の上を全力疾走。アンナとの距離を詰めて氷の剣を振りかざす。

 どろり

 またしても、氷の剣が溶け出すが、キラは構わず振り下ろした。切れ味は犠牲になっても、打撃には使えるはずだ。
「っ!」
 氷の剣を紙一重でかわしざまに、アンナの蹴りがキラの脇腹を掠める。
「…っ!ととっ」
 蹴りのダメージ自体は大したことはないものの、融けた地面に足を取られてよろめいた。
「隙あり」
 キラの体勢が崩れたのを見逃さなかったアンナの、続けざまの蹴りがキラを襲う。
「わっ!っよっと!」
 キラも紙一重で続けざまの蹴りをかわしていくが、融けた地面に足を取られる自分の方が接近戦では不利と悟り、距離を取ろうと下がる。
「さーて、どうしたもんかな…」
 物を溶かす都市伝説。「コーラは骨を溶かす」を拡大解釈しているか、はたまた他の都市伝説か。
「これならっ!」
 アンナに向けて吹雪を放つ。
「!」
 正確には、アンナの足下に向けて。
「これは…」
 アンナの両足が、地面に氷で封じ込められている。
「いまのうちっ!」
 どうせ溶かされてしまうのだ。その前に速攻で片を付けなければならない。
「いっけえええ!」
 じゅっ

 嫌な音を立てて、アンナの足下の氷が溶ける。間一髪、氷の剣をかわした。


 観客席では。
「ね、藍、あの都市伝説なんだと思う?」
「そうね…いくつか候補はあるけれど」


続く

496続・溶け融ける  ◆nBXmJajMvU:2016/10/02(日) 22:57:16 ID:Lk2.KPeU
 ……なるほど、凍らせる能力なのだろう
 何度溶かしても、氷の剣を出してくる。それだけではなく、足元も凍らせてくる

(相性の問題で言うと、普通に考えればこっちが有利なんでしょうけれど)

 それでも、油断はしてはいけない
 アンナは、そう考えていた
 勝負において最も危険なのは、油断、慢心、そして軽率
 慎重たれ、しかし大胆たれ
 慢心していても勝負に勝てるのは、「首塚」首領たる「将門」様のような圧倒的な存在だけ
 そして、自分にはまだ、それだけの圧倒的な力はない
 だから、油断しない。慢心しない。軽率な考えは抱かない
 本当であればもう少し距離を詰めて攻撃を続けたいところであるが、あまり接近し続けるのも危険だろう
 ……一瞬で凍りつかされてしまえば、そこまでなのだから

(あの子の能力の効果範囲がわかればいいんだけど……)

 こちらの能力が届く範囲は「視界が届く範囲」……自分の父親と同じだ
 彼女、桐生院 キラの能力が視界が届かない範囲まで届く場合、こちらは不利となるだろう

(それでも、相手の動きはまずは封じたいわね)

 だから、発動する
 自身が契約している都市伝説による能力を
 先程までは足元を「溶かす」ことで動きを封じようとしていたが、そちらはすぐに対処される
 ならば、別のものを溶かすとしよう
 幸いにして、この銭湯ステージは町中をイメージした作りになっている
 …町中以外のステージだったのは、優とゴーレムの試合くらいだろうか
 戦いを魅せやすいステージとなると、町中の方がいいのだろうかと勝手に考えながら………見た先は、キラの周辺の建物

 能力を使い、効果が発動するまで少し時間がかかってしまうのがこの能力の欠点だ
 前もってある程度能力を発動させていた地面に、先に効果が現れる

「っわ、わわ……!?」

 キラの対応は早い
 すばやく地面を凍らせて溶けた地面に足がめり込むのを防ぎ、こちらへと氷の剣を生成しながら接近してくる
 その攻撃を避けながら、能力の発動を続ける

 ……そろそろ、いける!

 キラが作り出した地面の氷を利用して、滑るように移動してキラから距離を取った
 そして、能力により「温度をあげていた」建物へと止めを刺すように強く、能力を使った


 溶けた、融けた
 キラが立っている位置の左右の建物が、地面が
 ほぼ同時に、溶け融ける
 足元のバランスを崩した上で、建物のいち部を溶かし、崩した建物の上層を彼女に向かって崩していく
 一歩間違えば下敷きになって大惨事だが……恐らく、大丈夫だろう
 彼女も契約者なのだから


 溶かす事、融かす事
 それが、アンナが契約した「人肉シチュー」の能力だ
 見える範囲の者の、物の温度をあげていき、融点に達した時点で溶かし融かす
 その都市伝説で語られている、長時間風呂で煮込まれ煮崩れた女性のように溶かし崩すのだ
 本来、人間にしか効果が及ばないその能力を契約によって人間以外の物体にすら効果が及ぶようになった
 ……もっとも、元から実体のないものには効果が及ばないのだが


 ………さぁ、どう動く?
 圧倒的質量をキラの頭上へとふらせながら、アンナは次のキラの動きを警戒した



to be … ?

497治療室にて・りみっくす  ◆nBXmJajMvU:2016/10/05(水) 22:01:37 ID:C7fvhPJE
 はらはら、はらはらと
 何か、羽毛のようなものが降り注いでくる感触
 羽毛のようなそれはふんわりと暖かく、優しく

「………まな?」

 呼んできた声は、かつてそう呼んできた声よりもう少し成長した声だった
 …昔からそうだった。優や晃、神子の事はそのまま呼んでいたが、他の面子の事は「なお」とか「はる」と少しだけ縮めて呼んできていた
 怖がりで臆病ではあったけれど、信じた相手には人懐っこかった
 それは、三年ぶりに会って、話し方も雰囲気も、「表向き」が全て変わっても同じだった
 そうして

「………っ」
「あ、ま、まだどっか痛い?大丈夫?どこ、痛い?」

 はらはら、はらはらと
 輝く羽根が舞い散る
 憐の「ラファエル」の能力によるものだろう
 この舞い散る羽根にも治癒の力があると知ったのは、目の前で怪我した誰かを見て憐がパニックになり、能力を暴発させた時だった
 あの時、怪我をしたのは誰だったか………

「少年、ストップー。本格的に私の仕事がなくなると言うか、一歩間違ったらこの治療室が君の羽根で埋まるからやめよう?」

 ……聞き覚えあるようなないような大人の男性の声
 ようやく意識がはっきりしてきて、目を開く
 こちらを見下ろし、泣き出しそうな顔をしている憐と、目があった
 やはり、背中から「ラファエル」としての天使の翼が出ている
 先程まで……否、今現在まで降り注いでいる羽根は、やはり憐の治癒の羽根だったようだ
 それは、まるでこちらを埋めるように降り注ぎ続け………
 …………………待て

「憐、待て、待った。埋もれる。窒息する」
「窒息はせんと思うけれど、ふっわふわのものに埋もれたある意味幸せ状態かもしれんよ?」
「そこのおっさんは憐を止めたいのかもっと能力使わせ続けたいのかどっちだ!?」

 先程にも聞こえた声の男性に、相手が誰かも確認せずにツッコミを入れた
 がばっ、と起き上がる。体の痛みは消えている。が、急に起き上がったせいか、くらり、目眩がした

「まな、まだ寝てないと……」
「いや、憐、大丈夫だ」

 えぅえぅと泣き出しそうになっている憐の様子は、昔と何も変わっていない
 ……何年経とうとも、その根っこはそのままなのだろう

「……本当に?本当に、大丈夫?我慢とか、していない…?」
「していない。大丈夫だ。そこまで心配しなくてもいい」

 そうだ、憐は昔から心配しすぎだ
 ……いや、昔よりも、心配性になっているような?

「………なら、いいんだけど」

 うつむくその顔と、喋り方は、昔と同じかそれ以上に弱々しく

「……………咲季さんみたいにいなくなってしまうのは…………嫌だよ」

 そう呟いた声は、小さく、震えていた



「……あの少年は、本当に怖がりであるねぇ」

 ちくちくと、美亜用の服を作りながらそう口にした「先生」
 …なお、彼女の体のサイズは測っていない。「目測でわかっているから大丈夫」との事だが、そちらの方が大丈夫じゃないのではないだろうか

「怖がりにも程があると思うけど……後、服は穴だらけなだけだから別に作らなくとも」
「失った恐怖が大きすぎたから仕方ないのだろうね。そしてお嬢さんの服に関しては、年頃のお嬢さんがそんなボロボロの服ではいかんよ……っと、できた」

 す……と、「先生」が完成させた服
 それは腰部がコルセット状になっているハイウエストの暗色のスカートに、白いブラウス
 腰のクビレを際立たせ、胸が大きい場合ボンキュッボンを強調させ、ブラウスで清純な雰囲気を醸し出させる………

 ごがすっ!!

「普通の服にしろっつったろ」
「はっはっは。我が弟子よ、後頭部踏みつけられると流石にちょっと痛いぞ」

 みししっ、と灰人に後頭部踏みつけられている「先生」の様子に、「あぁ、いつもこうなんだな」と謎の納得をした美亜であった

to be … ?

498見下ろす者逹  ◆nBXmJajMvU:2016/10/09(日) 01:10:23 ID:TJ4L6PiE
 御簾の向こう側の気配が、小さく笑ったのがわかった

「楽しまれているようですね」

 幸太が声をかけると、「あぁ」と短く、返事が返ってくる
 御簾越しであっても、モニターに映し出される試合の様子ははっきりと見えているらしい
 楽しんでいるのならば、何よりだ
 なにせ、将門公からの頼みとは言え、無理に来てもらっているのだし………

「……他の連中から、見物の権利を勝ち取ったかいがあったと言うものだ」

 …………
 …どうやら、将門の知り合いの祟り神の中から、誰が試合の見物に来るかでちょっとした勝負事があったらしい
 どこで勝負したのかわからないのだが、勝負の現場が大変な事になっていそうである
 もっとも、幸太にとっては学校町での出来事でないならば、あまり関係ない事だが

(今のところ、おかしな動きをする者もなし、か)

 白面九尾の狐、バビロンの大淫婦、「怪奇同盟」の盟主
 これらのうち、いずれかの尻尾をつかめたら
 そのような目的もあって、今回の第二回合同戦技披露会は開催された訳だが

(どこまで、尻尾を出してくるだろうね)

 そして、尻尾を出してきたとして
 「その情報を掴んだ者がどれだけ、情報を流してくる」だろうか?

(……どう転んだとしても。「狐」に関わる物語の結末は、変わりはしないのだろうけれど、ね)

 ほんの一瞬だけ、「鮫守 幸太」ではなく「ハッピー・ジャック」としての顔になり
 しかしすぐに元に戻って、幸太は試合を映し出すモニターへと、視線を戻した



 御簾の中で、長屋王はくつろいだ様子で試合を見ていた
 「もにたー」とやらは彼が生きていた時代からすれば妖術の類にも見えるものだが、流石に時代が移り変わっている事は理解している
 今の時代にはそのような技術もあるのだろう、と言うことで納得している
 そもそも、自分達のような存在が「都市伝説」と呼ばれている時点で、自分逹の時代とは違うのだ

(……しかし、なかなかに面白いものだ。これならば、「曾我兄弟」にでも譲ってやってよかったか………】

 …いや、ここで馬鹿な騒ぎを起こさすような輩を牽制する意味では、自分が来るのが正解だっただろう
 己は、大きな問題が発生しないようにとの抑止力なのだから

 ちらり、御簾の隅に置かれた、小さな犬の像を見る
 この御簾の中から、己の祟り神としての力が漏れ出さないための結界を張るために、何だったかの契約者が置いていった物だ
 ここに来るまでの籠の中にも置かれていたところを見ると、これが結界能力発動の鍵となるらしい

(…結界を張った者は、「狐」から逃げていて将門の元に保護されたのだったな………「狐」め、随分と暴れたらしいな)

 幸い、己の膝下は「狐」に荒らされていない
 あちらも祟り神や神に相当する者が守護する土地にはあまり積極的に手を出さなかったのか、それともたまたま、狙われなかっただけか
 …どちらにせよ、将門の完全な膝下ではないとはいえ、あの男が執着している学校町と言う土地に手を出した時点で、今後さらに派手に動くことに違いはない

(学校町に入ってからは、「狐」当人の動きは一切ないようだが………何か企んでいるにしても、妙だな)

 気配も何もかも消え失せ、配下すらも「狐」を見つけられずにいるらしいとの話も聞く
 …まるで、「狐」自体が消え失せてしまったかのような状況

(………何者かに、「封印」でもされたかのような)

 だとしたら、封印したのは誰なのか
 何故、封印した事実を他者に話していないのか………


 「長屋王」には、現状推察しか出来ない
 なにせ、彼はこの「物語」のゲストキャラに過ぎず、「物語」に深く関わるわけではないのだから
 ただ、彼はこのように考える
 何者かが「狐」を封じているのだとして、しかし、それを「首塚」や「組織」等にも一切知らせていないのは、その者に何か考えがあるのだろう、と




to be … ?


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