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【オリスタ】メゾン・ド・スタンドは埋まらない【SS】

1 ◆PprwU3zDn2:2016/08/10(水) 23:03:21 ID:vIyspCZI0
SSを「ぶっ書いた」!

※注意※
このSSには以下の成分が含まれていません。
・上手な文章・構成
・ジョジョらしさ
・早くて定期的な更新

そんな感じで何卒よろしくお願い致します。それでは本編スタート。

122『黒く悪しき女王』と『多芸者』 ◆PprwU3zDn2:2017/04/29(土) 04:08:14 ID:xVP4sFYk0
「ところで薫さん、一つ疑問なんスけど」

天は薫に尋ねた。子猫のスタンド能力が「本音を引き出す」ものだと分かった。が、
それがどうして『勝負の決め手』になるのかが天には分からなかった。

薫も言った通り、子猫の能力は炎や刃といった相手に直接ダメージを与えられるモノではない。
かといって読心術に近いあの能力が勝敗を決定付ける代物になるとは到底思えない。
だが彼は言った。子猫は過去数回、この能力のおかげで姉弟喧嘩を制して来たと。

「まあ、普通だったらそう思いますよね……でもあの姉弟は違います。
子猫ちゃんの『本音を引き出す能力』。これで二人の勝負は終わるんです。何故かですって?
こればかりは実際に見てもらえば分かるかと」

薫はそう言うと子猫たち姉弟を指差した。犬人は最後の抵抗なのか、スプーンを持つ子猫に
目を合わせない様に顔を横に向けていた。


「ほれ弟、観念せぇ……あーん」

「……!」

向かってくるスプーンから顔を背け続ける犬人だったが、クイーンの両腕が犬人の頭を掴み
力づくで顔を正面に向けさせられる。犬人には天の能力が効いていたので
抵抗が出来なかった。

「なあ弟……何で頑なに拒むのか知らんけど、一口くらい食ってもいいんじゃあねーか?
お前のために作ったんだからよォー」

「……さっきから言ってるだろ、今日は食わないって……何度も言わせんな」

このやり取りも何回目だろうか。姉はカレーを食えと言い、弟は食わないと言う。
それを飽きずに繰り返し、その果てが今回の決闘な訳で。

もう試合終了の時刻はとっくに過ぎているのだが、姉弟も観客も審判である管理人すらも
そんなことはもうどうでもいいらしく、ただ事の成り行きを見守っていた。
その時である。


『……本当は今すぐ食いてぇよ、姉ちゃんのカレー』


少年の声が体育館に響き渡る。声の主は分かっている。体育館の真ん中で倒れている
犬人のモノだ。でもこれは犬人の口から発せられた声ではない。
犬人の頭を掴んでいるクイーンの口から発せられたものだ。
犬人はこの声を聞いた直後、「しまった」と言いそうな顔をして
口を両手で塞いだ。が、時既に遅し。

「『ブラック・バッド・クイーン』お前の本音を引き出したぞ……ヒヒッ」

子猫は意地悪そうに笑うと床に胡坐をかくと自分の顔を犬人に近づけた。
犬人は接近してきた姉の顔を認識すると顔を赤くした。

「それじゃあ犬ちゃんの本音、最後まで聞いてみましょうかねえ〜フフゥン」

「おまっ……!それだけはやめモゴモゴ」

子猫はクイーンに指示を送るとスタンドの口から犬人の本音の続きが再生される。
犬ちゃん(犬人の昔のあだ名なんだそうな)は抗議しようとするもクイーンの腕で口を
塞がれ何も出来ずにいた。


犬人の『本音』は結構長かった。なので一部を抜粋して紹介しよう。

まず犬人は姉の作ったカレーを本当は食べたくてしょうがなかったらしい。
今日のサッカーの試合の事などを姉に話したりと子猫との一時をイチャイチャと過ごしたかったようだ。
しかしカレーのお誘いがあった時の食堂は大勢のアパートの住人が、しかも
藤鳥天という新しく越してきた人もそこに含まれていたものだから、そんな公衆の面前で
姉の手料理を食べながら二人でイチャつくというのは流石に恥ずかしかったようだ。
(試合でも観客の前でカレーを食べさせてもらうのはやっぱり恥ずかしいらしい)
だからあの時犬人は今はいらないと言い、住人が部屋に戻って静かになった後に
姉を誘って食堂でカレーを二人っきりで食べるつもりだったそうな。


「なんか気を使わせちゃったみたいッスね、『犬ちゃん』に」
天は顔をニヤニヤさせながら犬人を見ていた。犬人は顔を両手で隠していて、
手の間から犬人の顔が真っ赤になっているのが見えた。

「アレが子猫ちゃんと犬人くんの『試合の終わり方』です。二人の喧嘩はいつも
犬人くんが子猫ちゃんにつれない態度をとり、子猫ちゃんが怒って勃発するんです。
その喧嘩がスタンドを使った決闘に発展した後はあんな風に子猫ちゃんが隙をついて
犬人くんの本音を引き出すんです。それを観客に聞かれた犬人くんが恥ずかしさで悶絶して
ギブアップ……という流れ」

「悶絶って、彼の本音っていつもあんな感じなんスか?その……『姉への想い』に
満ちてましたけど」

天の問いに薫は「いつもあんな感じですよ」と微笑みながら答えた。
もっと姉の側にいたい、もっと姉とイチャつきたいだの、犬人という少年の頭の中は
基本的に姉の事でいっぱいなんだそうだ。要するに『お姉ちゃん大好き人間』という訳。

123『黒く悪しき女王』と『多芸者』 ◆PprwU3zDn2:2017/04/29(土) 04:19:35 ID:xVP4sFYk0
「全く、素直に食いたいって言えばいいんだよ……おまけに私とイチャつきたいだぁ?
このシスコンめがっ」

本音を聞いた子猫は弟に毒づいた。が、ほんのりと頬を染めたニヤけ面を見るに
どうやらそれほど軽蔑はしていないらしい。弟相手に能力を何回も使ってるせいか犬人の本性は
既に把握済みで、最初は戸惑っていた子猫だったが今ではすっかり慣れてしまっていた。
それに子猫も弟ほど極端ではないが弟の出る試合を直接観戦しに行ったりお祝いに
料理を作ってあげたりと『弟思い』な一面を少なからず持っているのだ。


(……俺もあんな風に仲の良い弟か妹が欲しかったなあ)と、天は実家に居る
可愛げのない、兄の悪口ばかり言う女子大生の妹を思い出しながら
匠から貰ったコーヒーを啜った。


「それじゃあお望み通りお姉ちゃんが食わせてやるよ……『犬ちゃん、あーん』」

子猫はトドメと言わんばかりに甘ったるい声を出しながら、弟の口に
カレー入りのスプーンを近づけた。終わったな、と誰もが思った。
観客席ではパソコンをしまったりゴミをゴミ袋に入れたりと、いつでも自分の部屋に
戻れるように各々後片付けが進められていた。二人の仲良しぶりに観客は皆満足していた。

「今回は子猫ちゃんの勝ち。予想が外れたわね、骸くん」

管理人は欠伸をかきながら起き上がった骸にそう言った。しかし、骸は
「と思うじゃん?」と言うと試合終了間近の姉弟を指差して断言した。

「弟が勝つぞアレ。あの野郎、相当『溜まって』やがる」


「こ、今回だけだぞ……あ、あーん」
観念したのか、犬人は口を開けカレーを受け入れる覚悟を決めた……ところがその時。


『姉ちゃん、もう少し近づいて。特に顔をもっと近づけて』


「えっ?……いけね、うっかり能力を使っちまった」

クイーンの口から突如、犬人の声が発せられた。どうやら本音を引き出す能力を
意図せず発動してしまったらしい。

「まあいっか。だけど弟、これ以上近づかなくてもスプーンならもう口に入るぞ?
それに私の顔は関係なくないか?」と疑問に思いながらも言う通りにする子猫。

『そしたら、そのスプーンに乗ってるカレーを口に入れて……姉ちゃんの口に』

「はあ???何で私の口なんかに……もう、そんな子犬のような目で見るな!」
子猫は一旦は拒否をするが犬人の潤んだ、今にも泣きそうな目を見て
仕方なさそうにカレーを自分の口に入れた。

124『黒く悪しき女王』と『多芸者』 ◆PprwU3zDn2:2017/04/29(土) 04:44:57 ID:xVP4sFYk0
「さっきから何をやってるんだあの二人は……」

犬人の変な本音に従う子猫を見て、様子がおかしいと観客席の住人達も思い始めた。
天はまだイチャついてるんスかねえと薫に尋ねるが、今日の犬人は少し様子が違うと
薫は不思議そうに答えた。普段の犬人なら諦めてカレーを食べるか恥ずかしそうに
ギブアップを宣言するはずなんですが、と薫は首を傾げた。

天はまた一悶着ありそうッスねと言いコーヒーを飲んだ。

「ンンンンン!(おい、口に入れたぞ、次どーすりゃいいんだ!飲み込んでいいか!?)」

『最後にそれを……その……ボソボソ』

口にカレーを入れたせいで喋れない子猫と急に小声になり何を言ってるのか分からない
犬人の本音。「声が聞こえない」との苦情を受け、子猫はクイーンに指示を送り
本音の音量を上げた。これで犬人の本音は小声でも体育館中に響くはずだ。



『姉ちゃんの口の中のカレーを俺の口に入れて……その……口移しで……』



天は口の中に入っていたコーヒーをブーッと盛大に吹き出した。
観客席の他の人達も驚愕の表情を見せたり、大声で「はぁ!?」と叫んだりと
思い思いの「お前は何を言ってるんだ」的リアクションを披露した。

「ッッッ!!!!おおおおお前はなななな何つーことをををををを!!!???」
犬人の本音を間近で聞いてしまった子猫は口の中のカレーを思わず飲み込み、
顔を真っ赤にして凄まじく狼狽してみせた。犬人の姉好きっぷりを知っているはずの子猫も
口移しを要求されたのは今回が初めてだったようだ。

『カレー飲んじゃった?まあいいや……じゃあ口の中に僅かに残ってるカレーを食べさせて。
いや、むしろカレーはいいからみんなの前で姉ちゃんと口を合わせて舌を……(以下省略)』
犬人(本音)は諦めずに姉の口に残ったカレーを食べたがっていた。無論口移しで。
終いには観客の見てる中、姉弟でディープなアレをしたいと言い出したのだ。
その後、犬人(本音)の要求はより過激になっていったのだが、
これ以上記すのは教育上大変よろしくないので今回は省略させていただく。
……犬人の顔は見る見るうちに青ざめていった。

「けんと、ほんきで、きもちわるい!」とシャロンは犬人に軽蔑の眼差しを向け
白雪は今にも犬人をゴミ虫呼ばわりしそうな顔で彼を睨み
管理人は目を泳がせながらただ只管「あらあらあらあらあら」と繰り返し喋っていた。
女性陣の中でこの状況を笑って見ていたのはビールを飲んで酔っていた雲雀だけだった。

「……引くわぁ」と天は自分の吹き出したコーヒーを雑巾で吹きながら呟いた。
いくら姉弟の仲がいいとはいえ、姉弟でカレーを口移しだなんて『仲良し』の範疇を
大幅に越えている……というかここまで来ると変態と呼ばれる領域に
突入しているのではないか。

先程の本音では人の前でカレーを食うのは恥ずかしいと言っていたので
どうやら口を開けた犬人の心の中で覚悟を決めたというか開き直ったというか
「どうせ皆の前で姉とイチャつくならいっそのこと!」という良くない感情が
湧きあがった……のだろうか?正直これ以上考察したくないと天は思っていた。

「犬人くんがここに来てから2年……ここまで子猫ちゃんに欲情することはありませんでした。
よほど欲求不満だったのかムラムラしていたのか……いやはや、これは実に興味深い!」

薫もさぞドン引きしてるのかと思いきや、彼は彼で己の研究意欲が湧きあがったようで
ノートパソコンに犬人に関するデータをバシバシ入力していた。
犬人のスタンドパワーの秘密は姉への想いにあるとか訳の分からない事を言っていたが
天はそっとしておくことにした。

125『黒く悪しき女王』と『多芸者』 ◆PprwU3zDn2:2017/04/29(土) 05:15:01 ID:xVP4sFYk0
「あ、あの……姉ちゃん……これはその」

心の中の歪んだ欲望を晒された犬人は顔を真っ青にして子猫に弁明しようと言葉を探していたが
ここまで来るともう言い訳の余地など何処にも無い気がする。
子猫は目を閉じ、顔を真っ赤にしていた。恥ずかしさや照れといった要素もあるだろう。
しかし、彼女が顔を赤くしている原因の大部分は子猫の心が別の感情で満ちていたからである。

「この……弟が」

「え?」

子猫はボソっと小さな声を出した。それは先程のような甘い声ではなく
やたらとドスの効いた妙に低い声であった。

彼女はカレーの皿をクイーンに持たせると犬人に向かって大声で叫んだ。

『怒り』に満ちた声で!!!!!


「この……変   態   弟   が   ッ   ッ   ッ   !!!!!!!」


クイーンは犬人の顔目掛けてカレーの皿を思いきり叩き付けた。
顔にカレーを押し付けられた犬人はそのまま後方へ吹っ飛ばされた。
流石の子猫も公衆の面前で弟との口移しやディープなアレの要求は許せなかったらしい(当たり前だ)。


「こんないやらしい奴もう知らん!帰る!」
子猫は怒りで真っ赤になった顔で体育館を出ようと出入口の扉の方へ歩き出した。

「子猫ちゃん、犬人くんの口にカレーが入ったか確認するから待って!今出ていくと
試合放棄ってことで子猫ちゃんの負けになっちゃうわよ!?」

「ああ、勝敗!?どうでもいいわもう!『弟は変態』とかそんなんでいいだろ!全く、何考えてるんだアイツは」

子猫は捨て台詞を残して体育館を後にしてしまった。管理人は犬人の側に近寄ると
彼の安否を確認した。どうやら生きてはいるらしい。

「姉ちゃんのカレー……すげぇ美味い……ガクッ」この言葉の直後、犬人は気絶した。

子猫が管理人の警告を無視して体育館を出たので、今回の試合は犬人の勝利となったのだが
彼の勝利を祝福する声は全く無かった。

あるのは「な、我の言った通りだったろ?」という骸の冷笑を含んだ声だけだった。


【ブラック・バッド・クイーン vs ファンタジスタ】
STAGE:体育館

勝者及び変態……白石犬人/ファンタジスタ

126『黒く悪しき女王』と『多芸者』 ◆PprwU3zDn2:2017/04/29(土) 05:32:05 ID:xVP4sFYk0
「……色々ありすぎた一日だった」

部屋に戻った天はベッドに寝転がると今日一日を振り返った。
アパートへの引越し。粗品という名の在庫処分。
アパートに住む凄まじく濃い住人達との出会い。アパートで行われるルールを設けた決闘。
そしてY市内での銃撃事件。思い返すと非常に長く感じてしまう。


「ところでさあ……何で俺の部屋にお前らが居るわけ!?」

天は上半身を起こすと寝室に何故か居る犬人と骸に尋ねた。
犬人は体育座りで項垂れ、骸は図々しく床に寝転び本棚に入っていた漫画を勝手に読んでいた。

「……姉ちゃんが部屋に入れてくれないんです。チャイムを押しても無視されて」

「さっき転んだ時にカードキーを落としたらしくてな。トキタはもう寝てるし部屋に入れん」

「だからって俺の部屋に来るこたぁないだろ!別の所に行ってくれ邪魔だから!」

犬人は明日になれば姉に土下座でも何でもして許してもらうからそれまで居させてくれと
子犬のような目で懇願してきたので天は根負けし、明日までの宿泊を許可した。
骸に関しては彼の部屋に電話しても本当に寝ているらしく誰も出ないので、一緒に住んでいるトキタなる人物が
起きたら直ぐに自分の部屋に戻ることを条件に部屋に居させてしまった。


(嗚呼、何で引越し初日にシスコンや悪ガキと一緒に夜を過ごさなきゃいけないんだ???)

「へえ、『ショートカット美人OLうっふん白書』?年上趣味なんですね、気が合いそうだ。
……姉モノとかは無さそうですね」

「お前ん家の冷蔵庫、何で魚肉ソーセージしか入ってないんだモグモグ」

「隠してたエロ本漁るな!冷蔵庫の食べ物勝手に食うな!ああもう!!!」


205号室 雲雀の部屋

隣の部屋から天の怒鳴り声と走り回る音が聞こえて来る。リビングで酒を飲み直していた雲雀は
「騒がしい奴が越してきたもんだ」と機嫌よく笑っていた。

127『黒く悪しき女王』と『多芸者』 ◆PprwU3zDn2:2017/04/29(土) 08:37:26 ID:xVP4sFYk0
201号室 薫の部屋

「かおる、まだ、ねないの?」

午前0時過ぎ、シャロンが書斎でパソコンに向かっていた薫に声をかけた。
体育館で収集したデータを纏め、研究機関のデータベースに情報をアップロードするための作業は
いよいよ終盤に向かっていた。今仕上げているのは天のスタンド能力に関するデータである。

「あの時受けたパワーを全く感じられないパンチ。昼に少しだけ見た、荷物を持って階段を
上ってだけでヘバる体力の無さ……そして先週の出来事……それらを総合すると……
よし、出来た!」

薫は文章を一通り入力し終わると最後にエンターキーをパシーンと格好良く弾いた。
パソコンのモニターには天のスタンド・ノープランを写した画像と、ノープランの基礎能力や
天に関する情報が映しだされていた。


『今日新たに確認されたスタンドに関する仮データ』

スタンド名:ノープラン
ロボットのような外見。顔面にバーコードのような縞模様がある。
自我があり、語尾にチュミミーンと付け喋る。

能力:触れたモノの身体能力を本体の身体能力と同化させる
傾向として、対象は力や体力が著しく低下する(要検証)。


本体:藤鳥天 22歳
この春社会人になる青年。目の下にバーコードのタトゥーがある。
身体能力に難があり、特に攻撃力は子犬にも劣る可能性が有る(要検証)。
知能は大学を卒業しているので決して低くはないが
後先を考える能力に欠けている。それが災いして失敗する場面もあり
彼を一言で表現するならば「ダメ人間」と言わざるを得ない。


「……ちょっと辛口すぎましたかね?」薫は自分で入力した文章を見直してそう思った。
彼の能力が『触れた対象の体力や力などの性能を天と全く同じにする』ものだというのが
薫の立てた仮説である。今日見た引越し作業時の彼の様子や先週の出来事を聞く限り、
天は走る速度こそ人並みだがパワーや基礎体力等、『闘うための力』を
全く持ち合わせていない。そんな彼の基礎能力とスタンドで触れたモノの性能が
全く同じになる傾向が天のスタンドで触れたモノ(先週の暴漢や今日の犬人)で確認されている。
本格的な検証は後日天を研究施設に招待して調べる予定だが、
恐らくこの仮説は間違っていないだろうと薫は確信していた。

天の思考能力に関しても、物事の計画を立てたり今行動するとこの先どうなるかを考える
といった「後先を考える」分野がどうも苦手なようだ。(天自身そういう自覚はあるらしい)
薫の脳内では「体力無し、力無し、計画性ゼロ」を兼ね備えた人間は自動的に
『ダメ人間』のレッテルを貼られてしまうのだ。
とはいえ、天はダメ人間だが(決定事項)決してクズ野郎ではないので
薫は今後天を「同じアパートに住む陽気な青年」という扱いで日々を過ごすだろう。
しかし薫は何かを評価する時は決して甘さを見せないタイプの人間なので
天の人となりを評価し文章化しようとすると自然とこんな辛辣なモノになってしまうのだった。

「……まあいいでしょう。データベースの公開はまだ未定ですし、藤鳥くんが
これを直接見れる日はまだ来ないでしょうから。シャロン、寝るよ」

薫はパソコンの電源を消すとシャロンに声をかけた。シャロンは猫の姿に戻ると
薫と共に寝室に向かった。

128『黒く悪しき女王』と『多芸者』 ◆PprwU3zDn2:2017/04/29(土) 09:13:24 ID:xVP4sFYk0
その日の深夜―――


パァン!パァン!

門北町の何処かで銃声が数発鳴り響いた。

しばらくして―――

月明かりの下、拳銃を持ったスーツ姿の人間が誰もいない町を音も立てず歩く。

「今日ハ豊作ダ……。門北町……実ニ素晴ラシイ町ダ」

そいつの姿が月明かりに照らされる。表情は喜びに満ち、着ているスーツには
赤い液体が沢山染みこんでいた。

「トウトウ見ツケタカモシレマセン……私達ノ『理想郷』ヲ……!」

そいつは軽い足取りで夜の闇の中に消えていった。


静かな、風一つ無い夜。嵐の前の静けさを感じさせる
穏やかで不気味な夜であった。

【メゾン・ド・スタンドは埋まらない Episode 02 END】


翌日

部屋のチャイム音で目を覚ました天は玄関の扉を開けた。そこにいたのは
大きな段ボールを持った管理人であった。

「何スかこの大きな箱は?」と聞くと、今朝宅配便で来た荷物とのこと。
配達員が間違えて管理人の部屋に届けてしまったそうだ。
箱に貼ってある伝票を見ると確かに自分宛の荷物である。自分の名前と住所が
妙に下手な字で書かれていた。差出人は不明で、箱には太いペンで『引っ越し祝い』と書かれていた。

天は管理人から荷物を受け取ると早速リビングで開封してみた。が、中には
大量の綿と一枚のフロッピーディスク、それにA4サイズの紙が一枚入っているだけであった。

何じゃコリャと思いながらも天は中に入っていた紙を手に取った。

そこにはたった一言、赤く大きな文字でこう書かれていた。


「オ メ デ ト ウ ゴ ザ イ マ ス  JOJO」


「ッ……!何だよこれ気味がわりい!……最後のコレは何だ?JOJO……ジョジョ?」
天はその不気味な文面を見てゾッとしたらしく、全身に鳥肌を立たせた。
そして文の最後に書かれていたジョジョというワードの意味を全く理解出来ずにいた。


JOJO。それは藤鳥天という『スタンド使い』の人生にこれから大きく関わってくる言葉。
彼が生涯忘れることの無いであろうそのワードを、スタンド使いとしての人生を
歩み始めたばかりの天はこの時初めて知ったのである。


⇒TO BE CONTINUED...

129『黒く悪しき女王』と『多芸者』 ◆PprwU3zDn2:2017/04/29(土) 09:25:38 ID:xVP4sFYk0
【今回登場したスタンド】

No.7928
【スタンド名】ヘブンリー
【本体】天下原国綱
雑魚を演じる男
【タイプ】
遠隔操作型(群体型)
【特徴】本体の体から出て来るシャボン玉。何個でも生み出せる。
ビジョンであり能力でもある。スタンドビジョンなので当然操作可能
【能力】『絶対割れないシャボン玉』を生み出す能力
本体の体から生まれるシャボン玉はどのような方法でも割る事が出来ない。
壁に当たっても割れず、剣や銃弾もシャボン玉に触れた途端に弾き返されしまう。
シャボン玉の大きさやは自由に調節でき、小さいシャボン玉で拳銃の銃身を詰まらせたり
大きなシャボンで人を包んだり等、使い方は様々。

破壊力-E スピード-D 射程距離-A
持続力-A 精密動作性-C 成長性-D

No.1917
【スタンド名】ロン
【本体】望月薫
若い学者
【タイプ】近距離型
【特徴】子犬のスタンド
【能力】なし

破壊力-E スピード-E 射程距離-E
持続力-E 精密動作性-E 成長性-E

No.6792
【スタンド名】マーメイド・ガール
【本体】シャロン
人間の男に恋をした猫
【タイプ】装備型
【特徴】ハートマーク柄の首輪
【能力】「人間の女」に変身する能力
子供・大人・老人、様々な年齢・容姿の女性に変身することが出来る。
その際、耳や尾など体の一部を変身させずに「猫の状態」のまま残すことが可能。
変身中は人間の言葉を話すことが出来る・・・が、まだ簡単な言葉しか喋れないようだ。

破壊力-なし スピード-なし 射程距離-E
持続力-B 精密動作性-C 成長性-A


No.7851
【スタンド名】ファンタジスタ
【本体】白石犬人
姉大好きシスコン高校生(イケメン)。
普段は姉に対しぶっきらぼうな態度を取るが、頭の中は姉の事でいっぱい。
【タイプ】近距離型
【特徴】サッカーのユニフォームのような服を着た人型
【能力】強力で正確な「蹴り」を繰り出すスタンド
単純な戦闘能力が高く、超高速で蹴りを繰り出す足のラッシュはスタープラチナに匹敵する。
また物体を蹴り飛ばす際のコントロールも抜群で、狙った所に確実に物を蹴り飛ばせる。

破壊力-A スピード-A 射程距離-E
持続力-C 精密動作性-A 成長性-D

130 ◆PprwU3zDn2:2017/04/29(土) 09:27:53 ID:xVP4sFYk0
No.7894
【スタンド名】ブラック・バッド・クイーン
【本体】白石子猫
目の下にクマ、ボサボサ髪の不健康系女子高生。ちゃんとすれば結構美少女。
【タイプ】近距離型
【特徴】黒髪ドレッドヘアーの女性型
【能力】本音を引き出す能力
射程内で誰かが喋った時に使える能力。喋った言葉に隠された「本音」を抽出し、
スタンドの口から本音を再生させる事が出来る。本音は喋った人の声で再生される。
小さい頃からスタンドを使えた本体は能力を制御出来ず、様々な言葉から汚い本音を
引き出しまくり極度の人間不信に陥ってしまった。(今は能力の制御は出来ているが……)

破壊力-C スピード-B 射程距離-D
持続力-D 精密動作性-B 成長性-A
【能力射程】C

No.7601
【スタンド名】ルール・オブ・ローズ
【本体】黄頭白雪
女子高生風紀委員。「風紀委員といえば白い服」という自分ルールに従い、
制服も私服も全て白一色でコーディネートしている。
【タイプ】物質同化型
【特徴】紙と同化するスタンド。同化時、紙に薔薇の挿絵が浮かび上がる。
【能力】スタンドに書かれた「掟」を破った者は罰を受ける。
スタンドと同化した紙に「掟」を書き、部屋の壁や扉に貼ることで能力が発動。
(掟…『室内は禁煙』や『関係者以外立入禁止』等のルール)
掟を知りながらそれを破ってしまった者は、破った瞬間にその身に罰が起こる。
(罰…発生する罰は人によって様々。共通しているのは罰がその者にとって
『一番起きて欲しくない事』であること)
能力の範囲はスタンドを貼る場所によって決まる。部屋や扉に貼ったならその部屋全体、
屋外で木や壁に貼った場合は貼った場所から10数メートル程度の範囲が能力の有効範囲である。
なお、掟は紙にスペースがある限り何個でも書く事が可能。

No.7842
【スタンド名】ノープラン(無計画)
【本体】藤鳥天
目の下にバーコードのタトゥーを入れた青年。後先を全く考えず行動出来るダメ人間。
【タイプ】近距離型
【特徴】顔にバーコードが大きく描かれた人型
(本体のタトゥーもスタンドに影響されて入れた)
【能力】触れたモノの性能を「本体並み」に変える能力
高速で走る乗り物は最高でも「全速力で走る本体の速度」しかスピード(※1)が出ず、
破壊力Aの近距離スタンドも「本気で怒った本体が繰り出すパンチ」程度の
パワー(※2)しか出ない。

破壊力-B スピード-B 射程距離-E
持続力-D 精密動作性-C 成長性-A

※ 補足
※1:スピード-C ※2:破壊力-D

131 ◆PprwU3zDn2:2017/04/29(土) 09:31:07 ID:xVP4sFYk0
第二話をお送りいたしました。住民紹介回をノリと勢いで書いたら
物凄く長くなってしまいました。反省。

ここまで読んでくださった皆様に感謝を。本当にありがとうございました。
次回、Episode03でお会いしましょう。次回は短めなお話の予定です。

132名無しのスタンド使い:2017/05/07(日) 22:50:04 ID:8DlL5YlI0
乙です!
ほのぼの系かと思いきやバトルも結構するよねと思ってたら急にきな臭くなってきましたなー
登場人物多い割に個性がはっきりしてて頭の悪い俺でも混乱せず読めてるって地味にすごい

今後も期待してまーす

133 ◆PprwU3zDn2:2017/05/08(月) 00:36:41 ID:ICiAO7u60
>>132
ありがとうございます。
この物語は「アパート住民のドタバタ日常劇」、「その中で起こるいざこざ(時にはバトルに発展)」「K県内の事件」の3つで構成されています。
日常モノを書きたい、でもバトルも書きたい、ついでに何かサスペンス要素を…と、自分の書きたい物を思いつくまま書いたら
こんなモノが出来てしまいましたwww

登場人物も似たようなノリで、
このキャラ出したい・このスタンドいいなあ・スタキャスちゃん可愛いなど、割とノリと勢いで決めてるので自然と多くなってしまいました。
その分、キャラは書いてて混乱しないようにしっかり個性を付けていきたいと思っています。

ご期待に添えるよう、これからも頑張って参ります!

134 ◆PprwU3zDn2:2017/05/26(金) 22:56:40 ID:yICE5xe.0
【次回予告】うらない

天「こんな気味悪い荷物はクローゼットの奥にしまって……と。これでよし。
朝のニュース番組でも見るかな……お、占いやってる」

『……続いて3位は天秤座の貴方、今後の人生を左右する出会いがあるでしょう!
でもソレは恋愛的なものではないので自惚れないように!4位は乙女座の……』

天「俺は3位か……人生を左右する出会い、ねえ」

犬人「……おはようございます。昨日はありがとうござ……あ、占いやってる。魚座何位かな」

『最下位はごめんなさい……魚座の貴方!恋愛運がとにかくダメ!好きな人に
想いを伝えるのはまた今度にしたほうがいいかも!』

天「……だってよ。恋愛運がダメダメって、今日子猫に謝るんだろ?大丈夫か?」

犬人「……」

『そんな魚座の貴方と今日相性が良いのは【実の姉】、二人の絆が強まるかも!?なんてね』

犬人「実質一位だッ!!!!」

天「あっ待て!……満面の笑みで出て行きやがった、大丈夫かねえ……?しかしアレだ、
外は快晴、風も心地良い。実に清々しい朝じゃあないか……」


⇒NEXT EPISODE「幕間 -緑の風-」

近日投稿予定

1352話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/06/01(木) 01:17:05 ID:.FAI/szc0
【朝】


「うーん、実に清々しい朝だ」

スタンド使いだらけのアパート、メゾン・ド・スタンドに来て最初の朝を迎えた天は
起きて早々変な荷物を受け取り気分が滅入りかけていたが、窓から差し込む朝日を浴びて
メンタル力(MP)を回復することに成功した。朝食(魚肉ソーセージ3本)を済ませると
外の空気を吸いに部屋を出た。

階段を降り、外の澄んだ空気を吸っていると地区センターの窓から食堂のおばちゃんが
「ちょっと、ちょっと天ちゃん」とこちらに来るように手招きをした。

「どうしましたか?」と聞くと、おばちゃんは食堂の中を指差した。

「私、昨日は夕方に帰っちゃって何も知らないんだけど、あの子達何かあったのかい?」

「あの子達?……ああ」

天は窓から食堂の中を覗いて今起こっている状況を直ぐに把握した。

食堂の隅で、白石子猫が腕組みをして頬を膨らませながら下を睨み付けていた。
そんな子猫の足元では彼女の弟・犬人が土下座の姿勢で必死に謝り倒していた。
そんな犬人の頭を足で踏み付け、「頭が高い!地べたに頭を付けんかこのゴミ虫が!」と
アパートの副管理人、黄頭白雪が犬人に罵声を浴びせながらさらなる謝罪を要求していた。

(なに朝から清々しく無いモノを見せつけてるんだコイツら!?)
『犬人ノ奴、本当ニ土下座シテマスネ。感心感心チュミミーン』

昨晩必死に考えたであろう謝罪の言葉を述べる犬人だったが、子猫の背後に立つクイーンに
本音を引き出され、『頬で我慢するから』だの『部屋で二人きりの時なら舌を(以下略)』
だの、反省どころか姉とのアレをまだ諦めていないどーしようもない心を暴露され、
顔を真っ赤にした子猫や白雪に変態・ゴミ虫呼ばわりされながら土下座している最中の体を
ゲシゲシと足蹴にされていた。どうやらあの夜以降、犬人の心の奥底に眠っていた
邪でピンク色な感情が完全に目覚めてしまったようだ。

「痛い痛い!ごめんよ姉ちゃん!」『ありがとうございます!もっと踏んで姉ちゃん!』
犬人はそんな状況に寧ろ快楽を感じてるようなので、天はおばちゃんに

「大丈夫だよ、ああ見えてじゃれあってるだけだから!徹底的に無視して構わないよ!」
と言い残し部屋に戻る事にした。

(……今日は何の予定もないし寝てよう!一日中!)
回復したはずのメンタル力(MP)が再び激減してしまった。


メゾン・ド・スタンドは埋まらない
Episode 2.5 「幕間-緑の風-」

1362話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/06/04(日) 01:46:25 ID:.e1gEQ.w0
【骸と『ディザスター』】

「お待ちしておりました、お隣の藤鳥様」

「……はい?」

階段を上ると自分の部屋の前に一人の老人が立っていた。
銀色の首まで伸びた髪と立派に蓄えた顎鬚が遠くから見ても目立つこの男は
天に気付くと深々とお辞儀をして上記の言葉を述べた。

「昨日はお坊ちゃまが貴方の部屋に一晩泊めてもらったと伺いましたもので、
今日はそのお礼に参りました」

「お坊ちゃま?昨日泊めた……ああ、骸か!てことは貴方が『トキタ』さん?」

「いかにも、私がお坊ちゃまの忠実なる僕・時田潮でございます、ふぉっふぉっ」

「はあ……忠実な僕、ねえ」

時田は自己紹介を済ますと天の手を両手でしっかりと握った。
天もお辞儀をするが、自分の事を何の恥ずかしげもなく『忠実な僕』とか言ってしまう
この老人に気圧されかけていた。


「骸の大叔父さん……骸の爺ちゃん婆ちゃんのご兄弟ってことですか?」

「如何にも。私はお坊ちゃまの祖父の兄でございます。ふぉっふぉっ」

あれから天は時田からお礼にケーキを2つ頂いたので、一緒に食べませんかと彼を部屋に招いた。
コーヒーを淹れリビングで天が用意した座布団に座る時田に渡すと、
いい機会だからと骸の事について聞くことにした。


まずあの悪ガキ・我修院骸という名前はやはり本名ではないようだ。
本当の名は『時田次郎(ときた じろう)』。今年の春に高校生になる15歳だ。
我修院とかいう格好付けた名は組織用に考えた「ボスっぽい名前」なんだそうな。
彼が生まれた時、既にその体にはスタンドが宿っていたようだ。

骸は小さい頃からの悪ガキで、持ち前のスタンド能力を悪用してのイタズラは
日常茶飯事、常日頃から両親達を困らせていたらしい。
そんな彼が小学校に入学した頃には、既に『ディザスター』という組織の構想が
頭の中で練られていたという。

1372話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/06/04(日) 01:57:22 ID:.e1gEQ.w0
「そうそれ、その『ディザスター』ってのがよく分からないんスよ。どういう組織なんですか、
ディザスターって?」と聞くと、時田から返ってきた答えは実にシンプルなものであった。

『【無法】【無政府】【無秩序】がモットーの悪の組織』。それを聞いた天は思わず
「テレビの見すぎだ」と言ってしまいそうになったが、子供の頃に考案した組織らしいから
実際その頃見ていた番組の影響なんだろうと思い黙っておくことにした。

「とにかく目立ちたい、世界を驚かせたいという欲が坊ちゃまの心に常にありましてな、
スタンドを使って何かデカい事をしたいと言っていました。昔からテレビの特撮モノが大好きな
坊ちゃまは最初ヒーローチームを結成して世界を守りたいと仰ってましたが、その内
自分の能力がヒーロー向きではないと気付きまして、寧ろ悪役(ヴィラン)が使ってそうな
能力だと悟ってからは『悪の組織を作って世界云々』と言い出して……」

「で、数年後実際に悪の組織をアパートの中に作っちゃったと?いやーすげー実行力だこと」

天は内心かなり呆れていたが、どんな形であれ夢を実行に移すポテンシャルの高さに
感心していたのも事実であった。時田曰く、骸は構想から現在に至るまで、ずっと
『仲間』を探していたのだという。

「幹部や団員は全員スタンド使いと決めていたようですが、まず『自分以外のスタンド使い』が
全く見つからなかったようでして、3年前このアパートに住んでいた私の元を訪ねるまで
スタンド使いとは遂に一人も出会えなかったと言ってました。その後、努力のかいもあり
私と坊ちゃまの他に二人のスタンド使いが加わり、今年やっと悪の組織としての
活動を本格的に始めたわけなのですじゃ」


「高校生にして悪の組織の親玉ねえ……ってそんな組織に入りたい奴が二人もいるんスか!?」

「みんな坊ちゃまと同年代と聞いてますよ。皆先ほどの理念に共感した
素晴らしい方々です。今度の決闘の時に紹介しますから、是非一度戦ってみてくだされ」

「うーむ」と天は唸ってしまった。恐らく中学生〜高校生(思春期)にありがちな
悪とか闇とかそういう類のモノに憧れる、というものなのだろう。

1382話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/06/04(日) 02:36:46 ID:.e1gEQ.w0
水曜の決闘に新手のスタンド使いも加わることを知り、気を付けなければと決意を新たにした
天。時田から貰ったケーキをまだ食べていないことに気付いた天は早速食べることにした。
大きい苺が乗ったショートケーキ。その苺を最初に食べようとフォークを近づけた
その時であった。

苺をフォークで取る前に、手が勝手に持っていたフォークを天の口に入れようとしたのだ。
さらに口も勝手に開き、何も刺さって無いフォークは開いた口に勝手に入り込んだ。
口が閉じられるが、その後は何もなく、当然ながら苺の爽やかな風味は欠片も味わえなかった。


こんな不可思議な現象、催眠術でなければ答えは一つしか無い。
『このアパート』なら尚更だ。


「スタンドの『呪い』!時田さん、アンタ!」

「ふぉっふぉ、坊ちゃまを泊めてくれたお礼と、爺のちょっとしたお茶目ですじゃ、
ケーキと苺は紛れもなく貴方のモノですから次は遠慮せずお食べくだされ……
ついでに言うと、スタンドはこーんな形をしてるのですじゃ」

時田は自分の背後にスタンドを出してみせた。黄色の鎧を身に纏った逞しい姿であった。

天の手はその後自動的に持っていたフォークを苺に再度近づけ……今度は無事に苺を取ることに成功したようだ。
能力はそこで終わり、それから天の手が勝手に動くことはなかったので、天は安心して苺を口の中に運び
口の中にはやっと甘酸っぱい苺の味が広がったのであった。


時田は昨日の礼として能力の一部をイタズラの形で見せてくれた。詳細は秘密だったが
彼は礼儀正しく、そして義に厚い男のようであった。……骸が居なければ天は
彼を善人と認識していただろう。だが彼は骸の『忠実なる僕』。歴とした悪人……らしいのだ。
過去に何があったか知らないが、天はあまり深く探らないことにした。


ケーキを食べ終えた時田は部屋を出る直前、骸から預かっている伝言を天に話した。

水曜の朝、アパート近くの『門北自然公園』で天と国綱を待つ。
相手は新たに入った団員二名。皆恐るべきスタンドを持った精鋭である。
もしこの二人を退けることが出来たなら、骸と時田の二人と戦える権利を与える……とのことだ。

時田が部屋を出た後、天は国綱に電話を入れ、今起きたことをありのまま話した。

だが国綱は時田を良く思っていた天に警告をした。彼に心を許してはいけない、と。


「兄さん……あの時田潮って男、気をつけた方がいいッスよ。
礼儀正しいし、いつも物腰は低そうに見えますけど、自分にはアレは仮の姿に見えて
仕方がないッス。兄さんも見たでしょ、あの能力?アレ、悪意を持ってる奴が使えば
とても酷いことになりそうな気がするんス……自分の勘ッスけど。
あまり気を許さないで下さい、相手はあのガキの右腕的存在なんスから……それじゃ」

その声は昨日聞いたお調子者の明るい声ではなく、疑心に満ちた暗く、鋭い声であった。

1392話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/06/17(土) 01:17:23 ID:KpCTe8Fg0
【パソコンを探せ】

「え?古いパソコンはないかですって?」

「はい。それもフロッピーディスクを読み込めるくらい古ーい奴を」

時田の訪問から数時間後、天は電話で管理人に旧型のパソコンはないか尋ねていた。
目的は朝届いた謎のフロッピーディスクの中身を調べるためである。

天があの得体のしれないフロッピーの中身を見る義務は当然ない。
誰が送ってきたのか不明だし(そもそもここの住所を教えてあるのは家族と友人、それに
恋人の咲良だけのはずである)、同封された手紙も気味の悪いものであったことから
フロッピーの中身もどうせロクでもない代物なのは間違いないだろうと思っていた。

あの手紙に戦慄を覚えた天は手紙とフロッピーを段ボール箱に乱暴に入れ直すと
「気持ち悪りぃ」とクローゼットの奥に放り込んでいたのだが、
いざこうして何もすることもなくベッドでゴロゴロしていると
あの奇怪な荷物のことが頭に浮かんで消えないのだ。

(……ああ気になる!少しだけ調べて見るか?でもなあ……)

フロッピーが昔のデータ記録メディアだということは天も知っているし
中学校時代、パソコンの授業でも学校のパソコンが古かったためか
作成した文章や表計算のデータを保存するのに使った記憶もある。
しかし技術の発展でフロッピーは殆ど見かけなくなり、昨今のパソコンには
フロッピーを読み込む装置など内蔵されていない。天のパソコンもそうである。
肝心の読み込む装置が無い以上、手に取って眺める以外に天が出来ることといえば
フロッピーを読み込めるパソコン若しくは外付けのフロッピーディスクドライブを
探すことしかなかった。

パソコンを大量に所持している国綱に聞いてみたが、フロッピーディスクを読み込めるような
古いパソコンは無かったし、フロッピーディスクドライブも生憎部屋に無いそうだ。


「そうねえ……確か図書館の倉庫に古いノートパソコンが一台あったはずよ」

「図書館……ああ、地区センターにあるっていう」

「そう。そこの倉庫に昔先代の管理人が使ってたパソコンが置いてあって
確かフロッピーとかも使えたはずよ。もう10年くらい誰も使ってなくて埃をかぶってるはず
だから壊れてなければ使っていいわよ」

「!ありがとうございます!」

誰も使っていないパソコンと聞いて天は正直ほっとしていた。
差出人不明のフロッピーディスク、ウイルスが混入している可能性もあると思っていた。
もし誰かが使っているパソコンでフロッピーを読み込み、ウイルスを感染させてしまったら
使っている人に申し訳が立たない訳で。でも誰も使っていないのなら話は別だ。
遠慮なく調べられる。

倉庫の鍵を用意するから先に図書館に行っててほしいと管理人に言われた天は
その言葉に従いフロッピーを持って地区センターに向かった。

1402話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/06/17(土) 02:01:21 ID:KpCTe8Fg0
「この通路をまっすぐ行けば……おお、あったあった」

地区センター入口の案内図の通り進むと、正面に「門北図書館」と書かれた大きな自動ドアが現れた。
この図書館、どうやら地区センターの中でもメインを張る施設のようで、
ガラスの自動ドア越しから図書館が昨日の体育館の数倍以上の広さだと確認出来た。
天は自動ドアを抜けて図書館に入った。

「おおーっ、中も綺麗じゃあないか」

天は室内の公共施設にも劣らない本格的な造りに感心した。
白く塗られた壁や掃除の行き届いた木の床、それに本棚には埃一つなく
どれも清潔感を感じさせる。
自動ドアの横にある案内図を見てみると本は勿論、CDやDVDも借りられるようだ。
子供を遊ばせるスペースやインターネットが出来るパソコンも数台あるらしい。
辺りを見回すと老人から学生服を着た若者、さらには子供を連れた女性など様々な人が
図書館の中にいた。恐らくここは娯楽のない門北に住む人達の数少ない憩いの場の一つに
なっているのだろう。

本やパソコンはこの階にあり、CDやDVDは地下1階に専用のコーナーを設けてあるとのことだ。
1階しかない施設だと思っていたが、地下があるとなるとココは想像を遥かに越えるの広さの施設
なのだと改めて思った。天はネット用のパソコンが置いてある場所に向かった。


「残念、これは使えないな」と天は設置されていたパソコンを見て少々落胆した。
図書館に設置されていたパソコンのOSは最新、オンラインゲームも出来るようで高画質の3Dも
滑らかに動くプロ仕様(?)だ。そんな最先端のPCにフロッピーを読み込む装置など
あるはずもない。天は大人しく管理人が来るのを待った。

横を見てみると数人がパソコンの前に座り、各々キーボードやマウスを操作していた。
まるでネットカフェだなと思っていると、その中の一人に見覚えがあることに気が付いた。

セーラー服にショートパンツ。赤い眼鏡をかけた女の子。
昨日食堂で見かけた子だ。確か名前は『ナルミちゃん』。管理人はそう言っていた。
服装は形こそ同じだが白のセーラーだった昨日に対し今日は上下黒のセーラー服……色違いだ。

ナルミはパソコンのモニターを食い入るように見つめ、一心不乱にキーボードやマウスを
動かしていた。そんな彼女の表情は真剣というか何か怒ってるような険しい顔をしていた。

何をしているのだろうかと思っていると、彼女の居る机から何かが落ちたような音がした。
見ると缶ジュースが床に落ち、中からオレンジ色の液体が流れ出していた。

(ジュースか……あの子は気付いてないみたいだ。よし、アレを取れ『ノープラン』!)

『チュミッ!』 天はノープランを出現させるとナルミの足元に転がっている缶ジュースを拾わせようとした。
別にスタンドに頼らずとも自分で拾えばいい話なのだが、天は『訓練』と称して
一日一回はスタンドを呼び出し動かす練習を続けているのだ。
自在に動かせるようになったとはいえ、訓練を怠るとスタンドの動きも鈍くなるのでは、と天は思っているらしい。

もう少しで缶ジュースを掴める所まで近づいたその時、こちらの気配に気付いたのか
ナルミが天の居る方に顔を向けた……その直後。

「……ヒィッ!!??」

ナルミは先ほどの強張った表情から一変、何か恐ろしいモノと遭遇したかのような
恐怖に満ちた怯えた表情を見せ、その拍子に座っていた椅子から転げ落ちてしまった。

「ッ!?大丈夫かい!?」天は床に倒れこんだナルミに手を貸そうとした……が
ナルミはその手を払いのけて「来ないでッ!」と大声で叫ばれてしまった。
パソコンコーナーにいた人達が一斉に天に視線を向ける。非常にまずいと天は焦った。

(周囲の人々のあの冷たい目……絶対何か誤解してる目だ!あの子に何かしたんじゃあないか
って疑ってるよ絶対!俺はただ転んだ女の子に手を差し伸べただけなのにィー!)

天が混乱しかけてる時にナルミは我に返ったようで、一人で立ち上がると天に向かって
何回も頭を下げ小声ではあったが謝罪をしてみせた。

「……アアッ!ごめんなさいです!悪気はなかったんです!ええっと……失礼しますですッ!」

ナルミは顔を真っ赤にして涙目でパソコンコーナーを離れていった。その後自動ドアが
開く音がした。恐らく図書館を後にしたのだろう。彼女が何故あんな顔をし、
あのような行動をとったのか今となっては分からないが、今はそれどころではない。

天に向けられた、パソコンを利用していた数人の軽蔑に似た視線をどーするか!?
今、天に向けられた一番の問題はソコなのであった。

1412話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/06/17(土) 02:14:15 ID:KpCTe8Fg0
「おいおい、アイツ何したんだ……」「誰か呼んだ方がいいんじゃあないか……」
「女の子に何て事を……」

怪訝な顔でヒソヒソと小声で言葉を交わす人々。ナルミの小さな声の謝罪は全く耳に
届いていないようだ。あまりの気まずい空気に引越し2日目にして
もう別の場所に引っ越したくなってきた天……この最悪な空気を打ち破ったのは
後からやってきた管理人であった。

「……あらあら、また兄妹ゲンカ?相変わらず妹に嫌われてるわね、このお兄さんは。
ダメでしょ、妹を泣かせたりなんかしちゃ。後でちゃんと仲直りしなさいよ?」

「……へ?兄妹?お兄さん?」

いきなり妙な血縁関係を設定させられ戸惑う天だったが、周囲の人々はというと
ヒソヒソ声で「ああ、あいつら兄妹だったのか」「あの人があの子に変なことを
したのかと思った。ケンカしてたのね」「なーんだ、つまらん」と各々納得したような様子で
パソコンに向き直り作業を再開した。管理人の機転のおかげでどうやら誤解は解けたようだ。
……兄妹っていう設定は嘘なのだが。まあいいかと思った天は一息吐くと
管理人と共に地下にある倉庫に向かった。


「図書館に入ろうとした時にナルミちゃんとすれ違ったの……今にも泣きそうな顔をしてたわ。
どうしたのかしらと思って藤鳥くんを探したらあの辺りの人達が全員藤鳥くんに
ガンを飛ばしてたから、これは二人に何かあったなと思って慌ててあんなこと言っちゃった
けど大丈夫だったかしら?」

「本当に助かりましたよ、実はかくかくしかじかで……」

天は管理人にあの時パソコンコーナーで何があったのかを説明した。

「そう……藤鳥くんを見た瞬間に怯え出して……ナルミちゃんは口数は少ないけど
そんな臆病な子じゃあないはずよ?何かあったのかしら」

「幽霊でも見たかのような顔をしてましたよ。パソコンをしてた時も怖い顔をしてましたから
ホラーチックなサイトでも見てたんじゃあないスかね……お、ここが倉庫ですね」

二人は地下の階段を降り、DVDが置かれている棚を通り過ぎると「倉庫」と書かれた
ドアの前に到達した。ここにフロッピーを読み込める古いパソコンがあるらしい。
管理人は持ってきた鍵で扉を開けると、二人は倉庫の中に入って行った。


「……久しぶりね、ここに来るのも」管理人がそっと囁いた。

1422話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/06/30(金) 16:12:59 ID:yBkO9RWs0
【フロッピーの謎】

倉庫の中は意外と狭く、電気を付けてもまだ薄暗かった。図書館の倉庫なのだから
てっきり百科辞典などの普段は借りられない本が所狭しと並べられているものだと
思っていたのだが、そういう本は別の場所で大切に保管されているようで
この倉庫には古い掃除道具や何が入ってるかよく分からない埃塗れの古びた段ボールの山……
そして役目を終え、埃をかぶって静かに眠る一台のノートパソコンが置いてあった。

「おお、これが昔使われてたパソコン……ってゴホゴホ!埃がッ!」

積み重なった段ボールの上に置かれていたパソコンを持ち上げようとした天だったが、
動かした際に舞い上がった埃を迂闊にも吸い込んでしまい、涙目になりながら
豪快に咳き込んでしまった。その拍子にまた埃が舞い再び天がそれを吸い込み……
そんな繰り返しが数分程続いたので、二人はパソコンを使う前に倉庫の掃除を
行うことにした。倉庫には窓がないので換気扇の電源を入れると
ハタキや雑巾を使い倉庫を綺麗にしていく……これだけで数十分の時間を費やしてしまった。

「ふう……これで良し、と。随分埃が溜まってましたけど、誰も使ってないんスか
この部屋?」

「……この図書館には倉庫が2つあるの。本やCDに関係のものが保管されてるのは
一階にある大きな倉庫で、ここにあるのは図書館とはあまり関係のないガラクタばかり。
掃除道具も一階に新しいのがあるから、余程のことが無い限りここに来る人は
いないんじゃあないかしら」

埃を取り除き、綺麗になったノートパソコンを手に取りながら管理人は言った。
誰にも使われない倉庫の中、そこに放置されていた机の上にパソコンを置くと
コンセントやマウスなどを繋ぎ、何時でも起動出来るように準備をしてくれた。

「さあどうぞ、藤鳥くん」と促され、天はノートパソコンの電源を入れた。

パソコンからカリカリカリという音が鳴り響いたのでどこか故障してるのかと心配になったが
画面ではエラーが起きている様子もなく、順調に起動が進んでいた。

「windows98……相当古いパソコンッスね、実物を見るのは初めて……ってウオ!?」

画面にデスクトップが表示された。それを見た天は大きく目を見開き、驚愕した。
デスクトップの壁紙が、胸の大きな女性の一糸纏わぬセクシーな姿……
直接的・お下品に言えば女性の無修正なアレだったのだ。

1432話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/06/30(金) 16:33:48 ID:yBkO9RWs0
「すげぇ!お宝写真だ……ってオホン!いやはや、なんつーけしからんパソコンだ!」

壁紙を見た天は一瞬歓喜したが、管理人の冷たい視線に気付くと正気に戻ったように装う。

「全くお爺ちゃんったら、性欲だけは最期まで衰えてなかったのね……」

管理人曰く、これは先代の管理人……彼女の祖父が使っていたものだという。

「アパートを建て替えた3年前まで、このアパートはお爺ちゃんが管理していたの。
私も暇な時に管理を手伝っていたわ。お爺ちゃんが亡くなった後は私が
アパート管理の役目を継いだのよ」

そういえばこのアパートは20年前に建てられたと資料に書いてあったことを
思い出した。その頃のアパートにはまだスタンド使いは住んでいなかったようだが
祖父はスタンドを持っていたようだと管理人は語った。

「お祖父さんのスタンドってどんなのだったんスか?」と天はパソコンの画面を見ながら
何気なく聞いてみた……が。数秒間、管理人は何も返答しなかった。「管理人さん?」と
何も言わない管理人を呼んでみると、後ろから「……ああ、ごめんなさい!
今思い出そうとしてたんだけど、どうしても思い出せないわ!ド忘れって奴かしら?
ごめんなさいね!」と管理人の慌てた声が聞こえてきた。

「ああ、そういう事ってありますよね。気にしなくていいッスよ、また今度聞かせて下さい」

肝心な時に思い出せない。天にも覚えがあったし、それで損をした経験も多々あったので
管理人の祖父の話はここまでにして、本来の目的であるフロッピーの解析を開始すべく
天はポケットからフロッピーを取り出した。天は管理人にこのフロッピーが
今日来た箱に入っていたものだと教えた。

「ふうん、それが今朝届いた荷物にねぇ……興味あるけど、昼からまた面接があるから
そろそろ屋上に戻らなきゃ。倉庫の鍵は渡しておくから、調べ終わったら閉めて帰ってね。
それじゃあ、ごゆっくり」

管理人は天に倉庫の鍵を渡すと部屋を後にした。倉庫に静寂が訪れる。一人になって分かったが
ここは窓もない狭く薄暗い部屋で妙に気味が悪い……息苦しさを感じてしまう。
天はこの倉庫にはあまり長居したくなかったので、さっさと目的を済ませることにした。


フロッピーディスクドライブに持ってきたフロッピーを挿入。パソコンを操作して
フロッピーを読み込むよう指示を送った。古いパソコンだからか中のデータを読みこむのに
数十秒ほどかかったが、無事にフロッピーの中のデータを見る事に成功した。

……といってもフロッピーの中にはテキストファイルが一つと詳細不明のファイルが一つ。
計2つのファイルがポツンと置いてあるだけであった。

「随分小ざっぱりしてるな……ん?このテキストファイル……」

天はメモ帳の形をしたアイコンのファイルに注目した。ファイル名は

【Readme-初めにお読みください-】。

2つあるファイルの内、まずはこれを読めとフロッピーの方から指示された。
勿論その指示を無視しても構わないだろう。しかし得体の知れないファイルに
使い慣れないOS……変に玄人ぶって失敗しては元も子もない。
初心者は大人しく指示に従えばいい……失敗続きの人生の中で学んだことの一つである。
天はメモ帳のアイコンをダブルクリックした。

1442話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/06/30(金) 16:47:56 ID:yBkO9RWs0


テキストファイルの中身。その文面は非常に短く、非常に不可解なものであった。


You win!!!
貴方は勝ちました!貴方はこの地に居座る権利を得ました!
ぜひ隣のアイコンを押し込み、共に勝った人達に貴方のことを知ってもらいましょう!

貴方の名前はW-O-F。

鍵は貴方を愛してる JOJO


「……へ?勝ち?居座る?ええっ???」

テキストを読んだ天はその支離滅裂な文面を全く理解できずにいた。
英文を出来の悪い翻訳ソフトで無理矢理日本語に直したような歪な言葉の羅列。
自分が一体何に勝ったというのか、この地に居座る権利とは何か、
共に勝った人達とは誰のことか、またしても出てきたJOJOとは何か……などなど
疑問は尽きない。

この文章からかろうじて分かることと言えば、これを読んだ後に
テキストファイルの隣のファイル……黒色のハートマークが描かれた気味の悪いアイコンを
クリックしてくれということだけだ。わざわざコレを読ませる必要性が全く無い。

しかもその指示に従いハートのアイコンをクリックすると突然インターネットのブラウザが
開いたのだ。どうやらこのファイルはURLのショートカットのようだ。

しかしブラウザが開いた直後、指定されたサイトには行けず画面にはこのような
文面が出ただけであった。

【このページを開くことは出来ません。ネットに接続されているか確認してください。】

「ああそっか、ネットに繋がってないのか」と納得し、天はブラウザに表示されている
URLをスマホのカメラ機能で撮った。このパソコンをネットに繋げようとも考えたが
この倉庫にはLANケーブルはおろか、電話線すらない。それに古いパソコンだと
ネットに繋ぐだけでも色々と面倒な手順を踏まなければいけないと
昔読んだPC関連の本に書いてあった記憶があった。

フロッピーの中身も知れたことだしとPCの電源をオフにした天は
倉庫の電気を消すと倉庫を後にした。


(あのパソコン……デスクトップの壁紙以外にも『お宝画像』ありそうだな……また見に来るか、ニヒヒ♪)

1452話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/07/14(金) 00:16:29 ID:TXzFTey.0
【天の知らない『今日の話』】

パシャッ、ウィーン、パシャッ。

「……ん?」

天が地区センターを出た直後であった。出入口の門の辺りから、パシャパシャと
カメラのシャッター音が聞こえて来たのだ。見ると門のすぐ側で
インスタントカメラを天に向けてパシャパシャとシャッター音を鳴らす
スーツ姿の女性の姿があった。

「……何か御用ですか」とカメラの女性に近づこうとすると女性もそれに気付いたようで
チッと舌打ちをすると一目散に逃げて行ってしまった。


「……何だあアリャ」
天は許可無く人にレンズを向ける非常識な女性に不快感をあらわにした。

「あら、また来たのねあの人」アパートの方から階段を降りる音と管理人の声が聞こえた。
どうやら面接は終わったようで、階段を降り終えた管理人は天に近寄ると
他人に聞かれないようにと小声で話しかけた。

「最近よくこのアパートに来るのよ。昼夜問わず、ただ只管にアパートや地区センターの
写真を撮りにね。建物だけならいいけど、ここに来る人にまでレンズを向けちゃうから
注意しようとすると今みたいに直ぐ逃げられちゃうの。困ったものだわ」


「前言ってた敷地に入り込む奴ッスね、フーム……って管理人さん、お出かけですか?」

天は管理人が大きな買い物カゴを持っていることに気が付いた。管理人は
これから買い物に行くのだと言った。今日の夕飯の材料……ではなく、明後日行われる
『お花見』で食べるお弁当の材料を買いに商店街のスーパーへ行くのだと。

「毎年この時期にアパートの皆でお花見をするの。門北自然公園って所なんだけど
そこの桜が凄く綺麗なのよ、藤鳥くんも良かったら参加しない?楽しいわよ?」

「(門北自然公園……決闘に指定された場所だ)いいッスねえ、行きます行きます!
近くにあるんスか、その公園ってのは?」

「歩いて5分くらいの所にあるわ、広くて花が一杯咲いてる素敵な所よ。
何なら今から案内しましょうか?商店街に行く途中に公園があるから
商店街の場所も教えられるわよ?それにお弁当の材料とかも沢山買うから
荷物を持ってくれる人も欲しいのよねぇ〜フフッ」

「いいんスか?じゃあ案内お願いします」

天は管理人の申し出を快諾した。二人そのまま門を出て、商店街へ通じる道を並んで歩き出した。


彼の『今日の話』はここまで。この後天は管理人の案内のもと、公園に行ったり
商店街にある店を一通り見て回ったり、管理人の買い物に付き合ったりしてる内に
日は落ち、アパートに戻った後食堂で夕飯を食べ一日を終えるのだ。


これから語ることは天がアパートを外出してる間に起こった話。天が何気なく過ごした
日常の裏で起きた話。現時点で天とは繋がりの薄い人達……だけど彼にとって、
そしてこのアパートの住民達もこれから深く関わるであろう、そんな人達の『今日の話』。

1462話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/07/14(金) 00:33:52 ID:TXzFTey.0
―ある者は

「ハアッ、ハアッ……」

アパートから徒歩5分程離れた場所にある家の一室に、汗だくで息を切らした少女が
入ってきた。彼女はそのまま壁際に設置されていた本棚に向かうと陳列されていた本を数冊
乱暴に取り出し、その中の一冊をパラパラとめくり始めた。少女の顔は興奮と恐怖が
入り混じったような表情をしていた。

「見ちゃった……『お化け』!ハハハ……なっちゃった……おかしくなっちゃった!!」


この日、少女・鳥海鳴海(ちょうかい なるみ)は見てはならぬモノを見てしまった。

鳴海が図書館のパソコンで調べ物をしていた時のことだった。
自分の席の真横からこちらへ『何か』を向かわせている、今まで感じた事の無い
不可思議な気配を察知した鳴海は誰かに見られてるのではないかと
視線を気配のする方向へ向けた。そこで見たのだ。


自分の足元に手を伸ばす……人ではない『何か』を。


まるでSF映画に出てくるCGのロボットの姿をしたソレを見た鳴海は
驚きのあまり情けない声を出しながら椅子から転げ落ちてしまった。
『予想外』だったのだ。てっきり変な人に見られてるのかと思って振り向いたら
子供くらいの大きさの『機械』が自分の足元を探っていたのだから。

単純な驚きが恐怖に変わったのはその直後、ロボットのような異形の側にいた男性が
「大丈夫かい」と自分に向けて手を差し伸べてくれたのだ。そこまでは良い。怖くない。

怖かったのは足元の異形がその男性の体に煙のように吸い込まれ、消えてしまったことだ。
先ほどの異形は『幽霊』もしくは『妖怪』だったのだろうか?どちらにしろ、それらに属するであろう
怪奇なモノを鳴海は今、初めて目の当たりにしたのだ。怖くない訳がなかった。
そして今、そんな恐ろしい存在を体に取り込んだ男が自分に手を差し出してくる……


「来ないでッ!!!」


鳴海は今、手に取った本のページを勢いよくめくっていた。
本のタイトルは『おばけ大百科』。題名こそ子供向けの本を連想させるのだが
本の内容はどのページも細かい文字で世界各地の妖怪や悪魔の情報が紙いっぱいに
書き込まれていた。挿絵など一切無く、小難しい漢字や言い回しで埋め尽くされていた。
最期のページを見終わった鳴海はその本をポイっと床に投げ捨て、深い溜息を吐いた。

「さっきの幽霊といい、昨日の『アレ』といい……おかしなことばっかり!
どうしちゃったんだろう私……こんなの誰に相談すれば……」


「ナルミー、誰かから荷物が来てるわよー」

「……今忙しいからリビングに置いといて!」

下の階から母親の声がしたが鳴海は大きな声で拒絶した。
今、鳴海の精神は自分に起きた異変に注ぎこまれており
荷物の受け取りなんかに使うエネルギーなど欠片もないのだ。


「全くあの子ったら……それにしても何なのかしらこの荷物、無駄に大きい割に軽いわね……」

1472話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/07/14(金) 01:42:57 ID:TXzFTey.0
―ある者は


「え〜〜〜っ!?次のバス来るの2時間後ォ〜〜〜!?」

アパートから徒歩15分。Y駅に向かうバスの停留所の時刻表を見たスーツ姿の女性は
バスの本数の無さに思わず膝から崩れ落ちてしまった。

髪は金色、黒のスーツに緑色のコートを羽織った彼女は先刻
天に向けてカメラのレンズを向けていた女性である。


ほんの些細なミスであった。本来なら今日で『あのアパート』やそこに住む人物を
全て撮り終え、直ぐにバス停に向かい15時30分のY駅行きのバスに乗って
自分の『任務』は完了するはずだった……が。

運が悪かった、と言うしかない。
まだ撮っていない『ある人物』が現れるまであのアパートの入口で待機していたのだが、
人が殆どいないはずの門北は今日に限って人が多く、アパートに隣接する施設に人が次々と出入りしていて
肝心のターゲットがどれか区別が付かなかったのだ。

数時間後、目的の人物によく似た男が隣の施設から出てきたので
シャッターを押しまくったのは良かった。男がカメラに気付き、不機嫌そうな声を出しながら
こちらに近づかなければ。
『バレたら即退散』の掟に従いその場を立ち去りバス停まで走ろうとして……

誰かが捨てた空き缶に躓かなければ。転んで顔面を強打しなければ。
あまりの痛さに大泣きしながらその場で数分間悶絶しなければ……

バスに乗り遅れるなんて失態を犯さなかったのに。

「……まあいっか、任務は終わったんだ、時間はたっぷりある……いや、本当はないんだけどさ」

彼女はポケットの中に入っていた写真を全て取り出した。

そこに写っていたのはメゾン・ド・スタンドの写真と、管理人や白石姉弟など
そこに住む住民達を隠し撮りした写真。地区センターを利用する人の写真もある。
その写真の束の中に、先程撮ったばかりの天の写真も含まれていた。

「……この中に『いればいいんだけど』……」

女性は写真をポケットにしまうと今度はスマホを取り出した。どうやらバスが来るまでの間
スマホをいじって過ごすつもりのようだが……


「あ〜〜〜〜っ!スマホにヒビが!さっき転んだ時に割れちゃったんだ!
うえ〜〜〜〜ん、もう嫌だ〜〜〜〜〜最悪〜〜〜〜〜!!!!」

女性はその場でワンワン泣き出してしまった。
……彼女はとてつもなく運のない人間のようである。

1482話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/07/14(金) 02:00:25 ID:TXzFTey.0
―ある者は


『門北に留まる……と?』

日も沈み、門北にも仕事等で町の外に出ていた人々が戻ってきた頃。門北の端にある小さな公園で
全身黒ずくめの人間は携帯電話で誰かと話していた。
電話の相手は黒ずくめの発言に少々戸惑い気味であった。

「エエ……昨日マデニ門北デ見ツケタ『同士達』の数ハモウオ耳ニ入ッテマスヨネ?」

黒ずくめはたどたどしい日本語を喋っていた。フードを被り顔を隠しているからなのか
声が若干こもり気味であった。

『……昨日だけでも四人、だったな。今まで無かったことだ。それに全員……』

「『女性』……トウトウ辿リ着イタンデスヨ!我々ノ目指シテイタゴールに!」

『ふむ……』

興奮ぎみに話す黒ずくめに対し電話の向こうで考え込む人物。そして……


『分かった。1週間そこに滞在しろ。ペースは変えるな、今まで通りやれ。
来週またこの時間に報告、結果次第では……私も門北に行く』

「ハイ!オ待チシテオリマス!失礼シマス!」

通話を終えた黒ずくめは興奮が冷めないのか、その場で奇妙な舞を踊り、歌いだした。
フラメンコに似た振り付けにオペラのような高い声で歌うその姿は実に異様であった。


「何あれ……変な踊りに変な歌」

公園の外から声がした。黒ずくめは声の聞こえた方を振り向く。
そこには物影からこっそりと公園を覗いていた少女がいた。

踊りと歌声は一瞬で止んだ。辺りに静寂が訪れる。
聞こえてくるのは春の風の音だけであった。


「……ヤッパリ、私ノ勘ハ間違ッテイナカッタヨウデス……『同士』!」


黒ずくめの顔はフードに隠れハッキリとは見えなかった。
ただ辛うじて見えたのは、少女を見て大きく笑った口だけであった。

1492話と3話の間の話 ◆PprwU3zDn2:2017/07/14(金) 02:21:04 ID:TXzFTey.0
―こうして今日という日は終わっていく。


ある者は己に起きた異変に恐怖しながら。

ある者は自分の不甲斐なさと運の無さを呪いながら。

ある者は新たな同士の誕生に歓喜しながら。

そしてある者達は―


「今度のお花見、咲良さんも誘ってね!こういうのは多い方が楽しいから!」

「いいッスけど、その日って平日でしょ?OLの咲良は来れるかなあ……?」

「あれ?藤鳥くんの彼女って年上なんですか?てっきり同い年かと思ってましたが」

「ええ、自分の一個上なんスよ匠さん。しかし今日のコーヒーは美味いッスねえ」

「今日のは一味違うんですよ……100円で買ったインスタントコーヒーです」

「……うん、どうりで馴染み深い味なはずだ」

食事を終え、アパート内の喫茶店で和気藹々と談笑を楽しみながら。


「コーヒーごちそうさまでした、おやすみなさい……ふぅ」

団欒を終え、自分の部屋に戻ろうとした天に春の心地よい夜風が当たる。


今日も一日、平穏に過ごせた。天はそう思った。
明日もその次の日も、ずっと穏やかに過ごせたらいいのに。

「……まあ、何も起こらない訳ないわな」天はアパートの方に顔を向けた。
2階の廊下からこちらを見つめる2つの影があった。暗くてよく見えないが
誰なのかは察しが付く……骸と時田だろう。影は何か笑っているかのように
体を揺らした後、スッと消えて行った。


骸率いるディザスターとの闘い及びアパート主催のお花見まであと2日。
「明後日がすげー楽しみだよ……部屋に戻るか」天はそう呟き部屋に戻っていった。


【メゾン・ド・スタンドは埋まらない Episode 02.5 END】

⇒TO BE CONTINUED...

150 ◆PprwU3zDn2:2017/07/14(金) 02:33:32 ID:TXzFTey.0
メゾン・ド・スタンドは埋まらない 登場人物紹介(第1回)

・藤鳥天(ふじどり てん) 203号室
本作の主人公。1ヶ月前に「拳銃で撃たれる夢」を見てから何故かスタンド能力に目覚めた
計画性の無い青年。勢いで物事を決める性格で、近々社会人になるにも関わらず
目の下にバーコードのタトゥーを入れてしまった。
バトル描写が多いはずのジョジョSS界隈において圧倒的な戦闘能力の無さを誇る。
スタンドは触れたモノの性能を本体並みにする「ノープラン(無計画)」。


・足柄真由美(あしがら まゆみ 管理人さん)屋上小屋
メゾン・ド・スタンドを管理する女性。普段はおっとりとした心優しいお姉さん。
だが屋上にある彼女専用の花壇(通称:幻想花園)を荒らされると性格は一変、
元レディース総長の血と魂が悪い奴らを殲滅せよと今(鬼が)目覚める。
ぶっちゃけスタンドより本体の方が強い気がする(某住人談)。
スタンドは様々な花を咲かせる「パストアンド・プレゼンツファンタジー(古今幻想郷)」。


・小鳥遊匠(たかなし たくみ)101号室 喫茶店『Jack』
アパートの一室を改装して喫茶店を作った男。顎鬚が渋いナイスガイ。
彼が営む喫茶店『Jack』は落ち着いた雰囲気が魅力の純喫茶。
オススメは挽きたてのコーヒーと熱々のトースト・新鮮なサラダがセットになった
「モーニングセット」。また、自信のスタンド能力を利用した「快眠サービス」も好評である、
スタンドは眠気と驚異的な治癒力を与える砂糖を生み出す「ワン・シュガー・ドリーム」。


・霧島雲雀(きりしま ひばり) 205号室
大手運送会社「シマウマ通運」で働く女性。
スタンドをフル活用して空から荷物を運ぶ姿が度々目撃され、近隣住民からは
実は魔女なんじゃあないかと噂をされている。
管理人とは幼い頃からの親友で、よくどちらかの部屋に集まっての部屋飲みを楽しんでいる。
スタンドはジェット噴射が出来る箒のスタンド「スター・キャスケット」。


・白石子猫(しらいし こねこ)103号室
近くの高校に通う女子高生。弟の犬人と同居している。
オシャレや化粧には無頓着、寝癖だらけの髪・目の下の濃いクマに加え
怒ると口調が男のようになり口も悪くなるからか、よく背の小さい男と間違われることがある。
素材はいいのだからと、彼女の高校では子猫にオシャレやお化粧をさせようと企む
謎の集団がいるとかいないとか。あと最近弟の様子がおかしいと悩んでいる。
スタンドはあらゆる言葉から本音を引き出す「ブラック・バッド・クイーン」。

⇒第2回に続く。

151 ◆PprwU3zDn2:2017/07/14(金) 02:38:53 ID:TXzFTey.0
2話と3話の間の話をお送りしました。次回以降の予告編みたいな話です。
3話より先、この話に出てきた人物やワードがちょくちょく出てきます。

あれも書きたい、こんな話も書きたい。
色々書きたい事があるけど思いついたまま書いていくと話がどんどん逸れてしまう可能性があるので
『書かなきゃいけない話』を予告編としてちゃんと書き、以降忘れないようにする……
そんな個人的事情が入り混じった話でした。

ここまで読んでくださった皆様に感謝を。本当にありがとうございました。
次回3話は骸率いるディザスターとの決戦という名のただのケンカ話です。

それでは次回、Episode03でお会いしましょう。次回こそEpisode03です。

152名無しのスタンド使い:2017/07/18(火) 17:53:33 ID:GGPw5ZDs0
乙でーす
また登場人物が増えてきたな!楽しみ
次回も期待してまっす!

153 ◆PprwU3zDn2:2017/07/18(火) 20:55:12 ID:SAqs5av20
>>152
ありがとうございます
登場人物がかなり多いSSですが何卒よろしくお願い致します(汗)

154 ◆PprwU3zDn2:2017/09/11(月) 18:52:39 ID:cjseoc1c0
【次回予告】誘ってみよう

咲良「有給はたっぷりあるから明後日のお花見は行けるわよ。天は場所取りとかそういうのするの?」

天「アパートの人と一緒に買い出しとかはするけど、俺は朝から花見が始まる昼頃まで
別件の用事があるから場所取りは他の人に任せてあるよ」

咲良「別件の用事って?」

天「決闘」

咲良「決闘!?」

天「悪の組織との決闘」

咲良「悪の組織!?アンタって二十歳を越えてもロクな人生を歩めてないのねぇ!」

天「色んな奴に絡まれる人生を送ってるからな。こないだも大男に顔面殴られたし」

咲良「子供の頃から殴られてばっかで生傷の耐えない人生だったわよねえ。嗚呼可哀想な天」

天(子供の頃俺を毎日ポカポカと殴ってたのは他でもない咲良なんだけどな)

咲良「何か言った?」

天「うんにゃ。それじゃ明後日の昼にまた会おうな」


⇒NEXT EPISODE「桜サンライズ」
近日投稿予定

1553話 ◆PprwU3zDn2:2017/09/26(火) 02:39:17 ID:Aj6EmCfw0
門北名所案内 第1回


【門北自然公園】

門北で一番広く、一番華やかな場所……それが門北自然公園である。
東京ドーム数個分の広さを誇る敷地にはブランコ・滑り台といった遊具の他に
サイクリングコースや野球やサッカーが楽しめるグラウンドがあり
住民達の数少ない憩いの場となっている。
また公園内は様々な種類の花が咲き、中でも公園の中央にある桜の木々
通称『十本桜』はこの季節見事に咲き誇っており、知る人ぞ知る花見の穴場スポットとして
毎年町民を楽しませている。

(月刊辺鄙な町を歩く・4月号より)

1563話 ◆PprwU3zDn2:2017/09/26(火) 02:49:10 ID:Aj6EmCfw0
(変な雑誌とはいえ、記事になるほど評判なんだな、ここの桜って)

「お待たせ藤っち。必要なモンは一通り買ったからそろそろ行こう?」

「はーい」

三月某日早朝(水曜日・快晴)。アパート主催のお花見当日。
オーソン門北店でマイナーな雑誌を立ち読みしていた天は一緒にコンビ二に来ていた
雲雀が『必要なモノ』をあらかた購入したことを確認すると雑誌を本棚に戻し
コンビ二を出た。入口の横では国綱が二人の帰りをスマホをいじりながら
待っていた。二人が出てきた事を確認した国綱と合流し、三人は
目的地・門北自然公園に向かうのであった。


メゾン・ド・スタンドは埋まらない

Episode 03 「桜サンライズ」


アパートの住人・霧島雲雀が「花見の場所取り」を引き受けたのは昨日の夜の事だ。
「場所取り」とはご存知の通り、花見のために朝早くから良い場所を事前に確保しておく
事であるが、今回の花見は春休みとはいえ平日……それも門北という陸の孤島にある
公園の桜。場所取りが必要な程花見客で賑わう人気スポットなんスかそこ、と
管理人に聞いてみたが別にそんなことはなく、花見スポットといっても
東京の上野公園みたいに沢山の桜の木があるわけではなく、公園の真ん中に
大きな桜の木が十数本ほど植えられている所だから、毎年町内の団体客が2〜3ほど
集まるくらいで別にお昼ごろに行っても良い場所は余裕で確保出来るのだと。

だが雲雀は場所取り役を引き受けてくれた。
国綱曰く、場所取りは毎年雲雀が進んで引き受けるのだという。何故か?


「朝から生ビールにチューハイ!幸せええええええ!うーい♪」

「皆が来るまでの間、酒が飲みたかっただけッスか雲雀さん!」

場所取り役を引き受けた人には待ってる間
少しならお酒を飲んでもいいということでアパート側から
待っている間の酒代を支給されるのだ。その額は缶ビール十数本とおつまみが買える
値段である。


グビグビゴクゴク。「プハーッ最ッ高!」

(全然『少し』じゃあない!既に缶ビール数本空けてるんだけどこの人!?)

霧島雲雀(女性・独身)。三度の飯よりお酒が大好きな25歳なのであった。

1573話 ◆PprwU3zDn2:2017/09/26(火) 02:59:36 ID:Aj6EmCfw0
門北自然公園、その中央にある桜の木々「十本桜」の側に来た天達は
雲雀の主導のもと、花見に最適な場所に大きいシートを敷き四隅に重石を置いた所で
花見会場のセッティングは早々に完了してしまった。
あとは昼頃来る管理人達を待つだけなのだが……

「あそーれ♪真由美っちが来るまで酒飲みほーだい♪ヒック!」

「雲雀さん飲むペース速すぎ!なんでものの5分でもう出来上がってるんスか!?」

天達が先程オーソンで買ってきた『必要なモノ』……大量の缶ビールや缶チューハイ、
それにスルメやチーズといったおつまみは雲雀が次々に飲み食いしていく。

「ココはあたしが確保しておくからさー、藤っちと国っちは他所行ってもいいぜー♪
あるんだろ?花見とは別の『用事』がさー♪」

「……そうですね、雲雀さんに任せてそろそろ行きたい所なんですが……国綱サン、この人
一人にして大丈夫ッスかね?見た感じベロンベロンに酔ってるんスけど……」

「ああ大丈夫ッスよ兄さん、雲雀の姐さんはこうみえてまだそこまで酔ってないッスから。
本気で酔った時はワンワン泣き出してお家に帰りたがるので」

「泣き上戸なんですね雲雀さん……それじゃあウチら行ってきますから。
昼頃には戻るんでそれまでよろしくお願いしますねー」

天と国綱は雲雀にそう言うと公園の北の方へ歩き出した。
雲雀は大きく手を振ると盆踊りの様な妙な踊りで二人を見送った。



水曜早朝、門北自然公園の北側にある駐車場にて二人を待つ。



それがディザスターの長、我修院骸が二人に伝えたメッセージである。

1583話 ◆PprwU3zDn2:2017/09/26(火) 03:16:07 ID:Aj6EmCfw0
門北自然公園は今でこそだだっ広い公園だが、バブル期にはプールやミニ遊園地など
様々な娯楽施設が建っており、連日多くの人で賑わっていた。

これから向かう駐車場はその当時の名残。大勢の観光客の車を停めるために作られた
広大な駐車場。バブルが弾け、施設も取り壊され閑静な自然公園に生まれ変わった後も
未だにそこに在り続け、誰も車を停めることもない広く寂しい場所。

それが今回骸が「決闘の場」として選んだステージなのである。


AM 7:00 門北自然公園 北側駐車場

「……坊ちゃま、南から2つの人影が。恐らく藤鳥様と天下原様かと」

「ん……来たか。時間ぴったり、律儀な奴らだ」

駐車場に停めてある一台の車。我修院骸はその車内の後部座席で
毛布に包まっていた体を起こした。
運転席に座っているディザスターのNo.2・時田潮は双眼鏡を目に当てながら
南方から来る『挑戦者』たちをじっくりと監視していた。

「お坊ちゃま、今回戦うのは新人団員の二人……我々は戦いませんので
お坊ちゃまはもう少し寝ていてもいいのですよ?」

「いや大丈夫だ、我も『あの二人』の戦いを見ておきたいからな……ふあああ」

骸は大きく欠伸をすると車の窓を開けた。骸が窓から外を見回すと、
そこには南からこちらに向かってくる小さな影が2つ……それしか見えない。
あとはアスファルトの地面と棄てられたと思われるナンバープレートの無い車が
数台あるだけで、他に人影は……自分達の味方であるはずの
新人団員の姿はどこにも見当たらなかった。

「……オイオイオイオイオイオイ!仲間が何処にもいないじゃあないか、
今日ここに集合ってちゃんと言ったよなあトキタ?今日あの二人に会ったか?」

「今日はまだ見ていませんがご安心をお坊ちゃま……二人は既に此処に来ているはずです。
恐らくどこか……廃車の影にでも隠れているのでしょう。……多分」

「多分ってトキタ……!しょうがない奴らだよ全く」
骸は溜息を吐くとポケットからスマホを取り出すと素早く画面をタップし、誰かと連絡を
取り始めた。その顔には焦りの色が見えた。


「お、骸からだ……【新人共がまだ来てない、来るまでその辺で休んどけ】だってさ。
どうやら俺らの対戦相手は遅刻しているようですぜ国綱さん」

「なーんで骸の奴に連絡先を教えてるッスか兄さん、悪用されるッスよ?」

日曜の夜・部屋に来た骸とメッセージアプリの連絡先を交換しあった天は
昨日骸から直接、新入団員の情報を事前に教えてもらっていた。
二人は対戦相手が来るまでの間駐車場隅のベンチに座り、骸から送られてきた
情報を見る事にした。


「……決闘の相手の画像も送ってもらったんスか!中々やるッスね兄さんも!」

「骸から一方的に送ってきたんスよ、仲間の存在をアピールしたいらしくて……コレだ」

天は骸から送られてきた団員の画像が映ったスマホを国綱に見せた。
画像はアパートの室内で時田が撮ったと思われる骸を含んだ若者三人が写ったものであった。

三人の内、真ん中でピースサインをしているのが骸だ。とても悪の組織のボスには見えない。
右側で唇を突き出しウィンクをしている女の子は幼く見える。
骸と同年代(高校生前後)の若者だと時田は言っていたが、そう聞かされていなければ
中学校低学年、下手をすれば小学生に見えてしまう程の童顔だ。
やはり悪の組織の一員には見えない。

「まあそこまではいいッスよ?問題は左側の彼……本当にアイツと同年代なんスか?このおっさん!?」

国綱は画像の左側に写る少年というか男を指差し困惑した。
身長は見た感じ180以上はある。その体は分厚い筋肉の鎧に覆われ、その顔は
高校生には見えない……老けている。下手をすれば国綱より年上に見えてしまう。
以前屋上で戦ったコウとかいう大男のような雰囲気を漂わすこの少年(?)は
画面の中で両手の中指を立て、舌を出して大笑いしていた。
……彼については悪の組織に相応しい悪人面をしてると言えるだろう。

相当な老け顔だと天も率直に思ったが、「そういう子も居るッスよ、言っちゃ可哀想だ」と
天は国綱を嗜めた。天は自分の学生時代にもこの男まではいかないもののかなり大人びた顔を
した同級生がいたもんだと思い出していた。

1593話 ◆PprwU3zDn2:2017/10/20(金) 00:10:49 ID:cAhCGdXI0
「……遅いッス!もう15分経つのに!」

7時15分。今日来るはずの二人は未だその姿を見せていなかった。
国綱がスマホの時刻を見ながら段々とイライラし始めていたのは天にも分かった。

「わざと遅れてウチらをイラつかせる作戦ッス!卑怯な奴らッス!」と国綱は言うが
スマホのメッセージアプリ内で骸が露骨にイラついたメッセージという名の愚痴を
天に送りまくってる所を見るに恐らく違うのだろう。
上司(ボス)をイラつかせてどうするのだ。


一方、骸のスマホには事の真相が団員の一人から送られてきていた。

「【今起きた、すぐ向かう】だとォ〜〜〜!?寝坊しておきながら悪びれもせず!
なんてアマだ!時間厳守だとあれほど……」

「結構な事ではございませんかお坊ちゃま。約束を平気で破る……悪の組織に相応しい
クズっぷりでございます。『ディザスター』はこうでなくては」

決戦当日に堂々と寝過ごす団員に怒りを露にする骸に対し、時田は冷静に
彼女の悪の素質を称えた。だが肌寒さが残る3月の朝、早々にこの場に来ていた
骸はたまったものではない。

「我は6時には此処に来てたというのに全く!しかしコイツはまだいい……『タマ』は何だ!
来る気配もないにも関わらす連絡の一つもよこさないとはッ!」

「『タマ』ですか……彼は既に駐車場の何処かに潜んでるはずです。彼はあの2人より前に
この場所に入り、2人が自分に気付かない内に行動を始める……と前もって彼から
聞かされていますから」

我は聞いてないぞそんな事と骸はスマホを眺めながら愚痴った。直後、
その『タマ』と呼ばれる男から骸のスマホにメッセージが届いた。


【TAMA:対戦相手を発見、一人で勝手に始めちゃっていいか?】


「ほら、既に準備は出来ているようです」

だったら事前に言っとけと骸は呟いた。骸はスマホをタップしタマに返信した。


【我修院:OK 戦闘開始】

1603話 ◆PprwU3zDn2:2017/10/20(金) 00:46:41 ID:cAhCGdXI0
「……一人か二人、既に来てたみたいッスね」

「?人影は見当たらないけど……」

骸がスマホに指示を送った直後。国綱は駐車場から向けられた強い視線を感じ取ると
ベンチから立ち上がり表情を一気に強張らせた。その顔は真剣そのもの、
戦闘体勢に入ったといっていいだろう。一方天はというとその視線を一切感じることが出来ず、
ただ呑気にベンチに座ったまま駐車場を見回し誰かが来たのかと確認していた。

国綱は両手を大きく開くと掌から大量のシャボン玉スタンド「ヘブンリー」を放出し
天に向かって言った。直に戦いは始まると。いつでもスタンドを出せる状態にして欲しい、と。

国綱の周りを浮遊している幾多のシャボン玉、その中の2つが動き出し天と国綱の側に近付いた。
直後、2つのシャボン玉はまるで大量の空気が入り込んだかのように突如膨らみ始めた。

人が一人入れそうな程大きく膨れ上がったシャボン玉。それは天と国綱に接触すると
そのまま二人を自らの中に飲み込んだ。二人はそれぞれのシャボン玉に包まれる形となった。


「バリアにもなるシャボン玉に包まれて防御体勢は万全だけど……
フライングはズルいんじゃあないスか国綱さん?」

「こないだの姉弟みたいに対面してからよーいドンでスタンドを出し合って試合開始とは
いきませんよ今回は……相手は自称とはいえ悪党ッスよ?そんな奴に礼儀だのルールだのって
言ってる余裕はないし相手も遵守する気など更々無い……気付かないッスか?
この場が今、『おかしなことになってる』って」

そう言う国綱の頬には一筋の汗が流れていた。
彼だけではない。天の顔からも大量とはいかないものの、複数の汗が流れ出ていた。

『暑い』……3月下旬、暦の上では春とはいえまだ寒さの残っているはずの早朝。
数十分前まで雲雀と「花見だってのに少し冷えますね」と会話していたはずなのに……

「確かに変だ……まるで高温のストーブが近くにあるみたいに『暑い』!」

「兄さん、これだけは覚えて欲しいッス。この先、自分の身の回りに『奇妙な事』が起きたら
十中八九『スタンドの仕業』と考えていいと。そしてそんな時はすぐにスタンドを出して
周りをよく見ないと……」


ボンッ!ボンッ!ボンッ!


国綱が言葉を終わらせる前に、駐車場の北、大きな4WDの廃車から大きな音が3発響いた。
まるで大砲から砲丸が発射されたような音だった。

何事かと周囲を見渡すと、天と国綱の真上、遥か上空に三つの赤く大きな『何か』が
天達に向かって落ちて来るのが見えた……いや、今にも落ちて来るソレに当たりそうだ!


「……!!よく見ないと大怪我するッスよ!『ヘブンリー』、弾き飛ばせッ!!」

国綱が命じると同時に二人を覆っていたシャボン玉が更に一回り大きく膨らんだ。
瞬間、国綱を包んでいたシャボン玉と上空から落ちてきた『何か』が激突、ソレは
シャボン玉に弾き返され四方に『飛び散っていった』。
……まるで液体のように。

1613話 ◆PprwU3zDn2:2017/10/20(金) 01:06:52 ID:cAhCGdXI0
(!?石礫か砲丸でも飛んできたと思ったら水みたいにそこら中に飛び散った!
液状の……何だったんだ今のは?)

天は飛んできたモノの正体を探るべく辺りを見回した。落ちてきたモノは
シャボン玉に当たった後、コンクリートの地面や周囲に放置されていた車にかかったようだ。

鮮やかなオレンジ色の液体がかかった廃車はドジュウウウという音と大量の煙を出し……
焼け焦げていた。液体が付着した箇所が赤黒く……

(オレンジ色のかかったら焼け焦げる程の熱い液体……これってまさか!?)

ボンッ!ボンッ!

天が液体の正体に気付いた時、先程液体が発射された場所から再び何かが発射された音が
聞こえた。見上げると2つのオレンジ色の塊が、今度は自分の方めがけて
落ちてくるのが分かった。天は自分がシャボン玉の盾に包まれている事が分かっていながら
反射的にその場にしゃがみこんだ。塊がシャボン玉に衝突したのはその直後の事であった。

ジュウウウウウ……

シャボン玉に当たった液体は先程と同様に飛び散った。液体は先程座っていたベンチにかかった。
ベンチからは黒煙が上がり、そして炎が出ていた……そう、ベンチが『燃えていた』。

「『溶岩』!やっぱりだ、あの野郎俺達に向かってマグマを発射して来やがった!
クソッ、マグマがかかったからか、シャボン玉の中が熱されて暑い!」

「兄さん、ここから離れるッス!シャボンで防げるとはいえ、あんなのが大量に
シャボンにかかったら自分達蒸し焼きにされるッスよ!」

天の横から国綱が呼び掛ける。彼を包むシャボンには結構な量の溶岩が付着していた。
シャボンの中は相当な暑さになっているのだろう、国綱の顔からは大量の汗が流れ出ていた。

二人はここから離れることを決めると一目散に駐車場を後にしようとした。その時であった。
マグマが発射された廃車の裏から突然大量の灰色の煙が上がり、天と国綱に向かって来たのだ。
煙はあっという間に二人を覆い、彼らの視界を完全に遮ってしまった。

「(クソ、煙で何も見えない!近くに居るはずの国綱さんすら目視出来なくなった!)
国綱さん、何処に居ますか!?公園ってどっちの方角でしたっけ!?」

「わ、分からないッス!この煙もどこまで広がってるのか……少し待つッス!」

1623話 ◆PprwU3zDn2:2017/11/23(木) 02:52:48 ID:XdufJAJ.0
「あっけねえものだぜ」

煙で満たされ窮地に追い込まれた二人の様子を駐車場に放置された廃車4WDの裏から
双眼鏡で眺めていた大柄の少年は己の勝利を確信すると手にしたスマホで
自身が属する組織の長に連絡を取るべく、メッセージアプリを起動しメッセージを送った。

【TAMA:ごらんの有様。この状態なら次の一発で終われるけど、どうする?】

メッセージには先程カメラで撮った煙に包まれていく天達の動画も添付してある。
トドメか静観か。この後どうするかはボスである骸の一声で決まる。
その時が来るまで少年はこの圧倒的有利な光景を眺めて楽しむことにした。


(しかし何だってジローは俺とあいつらを戦わせようとしたんだ?貰った情報を見ても
俺のスタンドと互角に戦えるって話がまず信じらんねー)

数日前、この厳つい少年……多摩圭(たま けい)は骸(本名:時田次郎)から
天と国綱が持つスタンドの情報を二人に無断で提供して貰っていた。
圭はこの情報を元に数日前から二人との勝負のシミュレーションを脳内で何回も行っていた。
結論は何時も同じ……『自分側の圧勝』であった。

(二人を覆っていたバリアみたいなのが破壊不可能のシャボン玉『ヘブンリー』で、
また見てないけど触れた奴を弱体化させるのが『ノープラン』だったっけか?
ヘブンリーとやらは俺の出したマグマを防げる程の高い防御力……だけどそれだけ。
攻撃も出来ない防御一辺倒のスタンドなんぞいくらでも対処は可能だ。
もう一つの方も『触れられたら』どんな屈強な奴もヘナチョコに出来るらしいが、
だったら『触られなければ』いい話……遠距離からの攻撃で一方的に倒せる。
……本当ならアイツも一緒に戦うはずだったんだが、この勝負
俺一人でも負ける要素が全く無いし、負ける気もまったくしないな)

圭はそう考えながら鼻息も荒く勝ち誇っていた。
骸から返信メッセージが届いたのはそんな時であった。

【我修院:……昨日も言ったけど、シャボン玉使いは倒してもいいがもう片方はまだ倒すな。
奴は貴重な『幹部候補』だ。戦力を見極めたい。それに奴はこんな所で音を上げる程
ヤワじゃあないから油断はするなよ】

幹部候補……?ああ、そんな事言ってたっけと圭は先日骸が言った言葉を思い出していた。


奴……藤鳥天には近い内にディザスターの『幹部』として組織に入って貰うつもりなのだと。

1633話 ◆PprwU3zDn2:2017/12/17(日) 02:18:42 ID:0o/g0x.s0
「いいかお前ら、今送った画像の男が近々我が組織の幹部となる。よく覚えとけ」

決闘前日。組織の本部(メゾン・ド・スタンド202号室)に集まった骸と(時田以外の)組織の
メンバー2名は骸から送られてきた天の画像データを各々のスマホにて確認していた。

画面には今週の日曜に骸が撮った写真……ファンタジスタに蹴飛ばされ悶絶している
天の画像を見た二人は共に自身の眉をひそませた。

「……このマヌケそうな面をした男が?」

「私達の仲間……それも幹部クラスの人間?嘘でしょ?」

面識の無い男が床に転がっている、威厳とかカリスマとかを一切感じさせない画像を見た
二人は口々に不満を露にする。これしか画像が無かったんだよと骸は頭を掻きながら続けた。

「名前は藤鳥天、今週の頭にこのアパートに越して来た男だ。こいつが中々の小悪党でな、
来月には働きに出るというのに顔に刺青を入れたり、1対1の決闘の場に平然と乱入したりと
引越し初日に悪いことばかりした逸材だ。悪の組織として放っておく手はない」

「ああ、なるほど。爺さん以外の『大人の悪人』組織に欲しがってたもんなジロー」

「でも幹部クラス名乗れる程の悪では無いわよ……第一強いの?」

少しだけ納得した圭と半信半疑のもう一人のメンバーの少女。ある程度の強さは保証すると骸。

「スタンドの名はノープラン。こいつはこのアパートの中でも随一の強者を
あっという間に非戦闘型のスタンド使いにも劣る存在にしてしまったのだ。強いぞコイツは」

「こないだ送ってきた明日の決闘相手のスタンドでしょ?触れた奴を弱くするっていう……
でも能力の条件が『スタンドで触れる』なんて。私達のスタンドの敵じゃあないわ。
明日の決闘は30分もかからずに終わっちゃうんじゃあないかしら」

少女の余裕の見える言葉に骸は「それでも構わない」と返した。

「今回の決闘の目的はこの男が組織に相応しいか見極めることにある。戦力にならないと
判断したらこいつの入団は先送りにするし、強ければお前らもこの男の幹部待遇には
納得するだろう。今度の戦いはメンバー同志の顔合わせも兼ねてるからな……まあ実力は各々で直接確かめてくれ」

1643話 ◆PprwU3zDn2:2018/01/16(火) 03:24:31 ID:d1rRn3as0
(戦力を見極めると言ってたが、この分だとどうやらアイツの入団は当分先になりそうだな。
だがあれから5分……逃げるでもなくずっと煙の中で何してるんだあいつら……
仕方ない、もう少し揺さぶってみるか。行くぜ『T-REX』!)

スマホをポケットにしまうと圭は拳を握り締めた。瞬間、圭の身体を周りに
岩石のような黒き『鎧』が現れ、彼の身体を包んだ。数秒もしない内に圭は
黒い鎧を装着した異形と化した。


T-REX。圭が装着した鎧の名である……この鎧こそ彼が持つ『スタンド』なのだ。
スタンドの中には本体の側に現れるタイプの他に、鎧やスーツの形をし
本体がそれを「身に纏う」ことで完成するタイプのスタンドというものがあるのだ。
圭はこの着るタイプの自身のスタンドをいたく気に入っていた。曰く、黒く禍々しい
その姿は特撮ヒーロー番組やアメコミ映画に出て来る悪役のようで格好いいから、とのこと。
そして何より、この黒いスーツが持つ「凶悪なる力」に心底惚れたのだ、とも言った。

「煙でいまいち正確な位置が分からんが……この角度でいいだろ」

圭は身を屈め、鎧の背の部分にある無数の突起を上空へ向けた。
この山の如く隆起し、先端に大きな穴の開いた背中の突起こそT-REXの力の象徴なのだ。

--------------------------------------------------------------------------------------
T-REXの能力は『火山活動』!その黒き鎧の中で火山活動を起こさせ、己の意のままに操る!
背中にある穴の開いた突起は正に『火口』!その穴からは黒き噴煙や
火山弾と称した溶岩の塊を放出することが出来る!
鎧は『熱の鎧』であり『鋼の鎧』!外面は高温に熱されており、触れたら最後
火傷では済まない!
耐久性にも優れており、猛スピードで走る大型トラックと正面から衝突しても本体には傷一つ付かなかった!

この恐るべき力は組織の長たる骸も一目置いており、曰く彼が組織に来てくれた事こそ幸運、
ディザスターが運命に愛されている証であると言わしめた程である!

(以上、圭自身が作ったスタンドの紹介文より引用。近日オープン予定の
ディザスター公式サイトに載せるつもりらしい)
------------------------------------------------------------------------------------
「溶岩装填完了・発射角度良し……喰らえ火山弾!FIRE!!!」

圭の叫びと共に背中からドンという轟音が鳴り、砲丸サイズの溶岩が発射された。
天高く舞い上がった溶岩は天高く舞い上がった後、天達が居るであろう煙の中へと
落ちていった。その直後、煙の中からドジュウウウという音が聞こえてきた。

(何かに当たったらしいが煙で何も見えん……マグマでビビらせて噴煙で視界を封じれば
おとなしく降参するかと思ったけどその気配も無いし、こりゃ煙出したのは失敗だったか?
……ん?)

ポンッ ポンッ ポンッ
圭が次の一手をどう打つか考えていた時。煙から数個、拳サイズの『何か』が
天高く飛んで来たのだ。溶岩ではない。それは綺麗で・透き通っていて
限りなく球体に近い……『シャボン玉』であった。

1653話 ◆PprwU3zDn2:2018/01/20(土) 02:50:17 ID:N40wYpUU0
(シャボン玉か……攻撃にも使えないモノを飛ばしてどうする……いや、これは)

圭は何かに気付くと一旦スタンドを解除し、ポケットの中にある双眼鏡を手にすると
レンズを上空を漂うシャボン玉へと向けた。双眼鏡を通じてシャボン玉を見た圭は
ある事に気付いた。それは天達を包んでいたシャボン玉には見られなかった『特徴』であった。

(あのシャボン玉、表面が変にデコボコしてると思ったら……『目』だ。
あのシャボン玉には目があるんだ!クソッ、どのシャボン玉の目も俺の事を
ジロジロと見てやがる……恐らく本体と視界を共有してるんだろう。
俺の位置が相手にバレちまったか!)


圭の上を漂う全てのシャボン玉に大きな単眼が現れていた。
目玉のあるシャボン玉……これが国綱のスタンド「ヘブンリー」の本来の姿である。
シャボン玉の目で見た光景は国綱も見ることができ、シャボン玉を遠くに飛ばして
シャボン玉が見た光景を国綱も見る「遠隔カメラ」の様な使い方も可能なのだ。
(尤も、バリアとして使う時は目が邪魔になるため、その時は目を閉ざすことで
普通のシャボン玉と同じ姿することも出来る)

圭は考える。敵の位置を把握した者が取る行動は二つ、尻尾を巻いて逃げるため又は
一旦策を練るためにこの場を離れるか、若しくは万全の準備と覚悟を持ってこちらへ
向かってくるか。天達はどちらの選択肢を選ぶのか?それに対し、自分はどう動くべきか?

(……もし奴らが立ち向かう事を選んでも返り討ちに出来る。奴らに出来る事といえば
こちらに接近しつつ隙を見て能力を使い俺を弱体化させてから反撃、って所か。
だがそれなら俺も奴らから距離を取って火山弾を放ち、また接近してきたらまた離れて……の
ヒットアンドアウェイ戦法を採用するだけだ……この勝負、近距離戦しか出来ない
お前らの負けだ!)

圭は再び己の勝利を確信すると前述のヒットアンドアウェイ戦法を行うため
この場を離れるべく移動を開始した。上空のシャボン玉達は相変わらず圭を見つめていたが
構う事はないと圭は放置することにした。自分の位置を知られた所で敵は
ただ追う事しか出来ないのだから……と思っていた。

ここまでは。


「おい待て!ケイ・タマ!!」


駐車場に響いた突然の怒鳴り声に圭は動きを止めた。
俺のことを言ってるのか、何故俺の名を知ってるんだ!?と圭は声が聞こえた方向に
顔を向けた。そこは未だ黒い噴煙が漂っている場所。天と国綱がいた所から声は聞こえたのだ。

(俺を呼び止めたということは向かってくるつもりか!準備は整ったようだな、ならせめて
煙から出て来る姿だけは見ておくか、距離を取るのはその後でも充分――)

圭がそう思っていた次の瞬間。

確かに煙の中から出てきた「モノ」があった。

ただし、それは天ではなく、国綱でもなかった。

出てきたのは一つの「塊」。

細長く、所々赤黒く焼け焦げている塊。

相当な重量はあるであろう「コンクリートの塊」が、まるで野球ボールのように、
もの凄い勢いで圭の顔面めがけて「飛んできた」!


ブォンッ!!!!
(コンクリートを投げてきた!?まずい、スタンドを解除したまま)ドグシャァッ!!!


圭が「解除したままだった」と思い終える前に。
猛スピードで飛んできた塊と圭は凄まじい音と共に正面衝突した。
圭はぶつかった衝撃で後方に数メートル吹っ飛ばされた。

1663話 ◆PprwU3zDn2:2018/01/22(月) 01:07:28 ID:F37mmea20
「…………投擲か、ハハハ……あったわ近距離以外の攻撃方法」

コンクリートの塊と衝突し、後方に吹っ飛ばされてから1分。圭はうつ伏せに倒れながら
小さく呟いた。その体には黒い鎧T-REXを纏わせていた。
圭は塊にぶつかる直前にT-REXを瞬時に装着させていた。故にぶつかった衝撃で
吹っ飛ばされはしたが幸いにも怪我はせずに済んだのだ。

(完ッ全に油断してた……装着が0.1秒遅れていたら確実に顔の骨が砕けていた……)
圭は息を整えると衝撃で未だにフラついている体を起こした。周りを見ると先程ぶつかった
コンクリートの塊を発見した。

(この塊、もしかして駐車場にある『車止め』じゃあないか?普通なら強力な接着剤とかを
使ってて簡単には取れないはずだが……スタンドを使って無理矢理引き剥がしたか!
クソッ……ということは)

圭はあることを懸念しながら再び辺りを見回す。恐らくもう『居るだろう』と考えながら。
圭が吹っ飛ばされ、衝撃から立ち直るまでの1分間。その間に対戦相手である天達が
煙から出てきてすぐ近くまで接近しているという予感は「半分」当たっていた。
確かに圭が倒れている間に接近していた人物はいた。だがそこに天はいなかった。

圭のすぐ側に立っていたのは天下原国綱ただ一人であった。


「……シャボン玉使いか。一人だけか?もう一人はどうした」

圭の問いかけに国綱は指を後方に差し向けることで答えてみせた。圭が指先を見ると
天が公園に向かって走っているのが見えた。

「なるほど、二手に分かれたか。今の投擲、お前さんの入れ知恵か?」

「……シャボン玉からお前を見てた。バカみたいにスタンドも出さずに突っ立ってたから
兄さんのスタンドを使って車止めを剥がしてぶん投げてもらった。
装着するタイプのスタンドじゃあなかったらガードが間に合わずに
確実にダメージ負わせてたのにな」

圭の目の前にいる国綱は天の知っている国綱ではなかった。
普段のお調子者のような明るい口調ではない。低く、暗い声。いつも語尾に付けている
「ッス」も今は付けていない……まるで別人のようだ。

「(……何かジローから聞いてた人物像とは大分違う気がするが、まあいいか)しかし
なんで相方じゃあなくお前さんが残った?正直に言うと今回の戦い、お前さんじゃあなくって
天って奴に脅威を感じてたんだ。あいつのスタンドで触れられて弱体化させられたら
流石の俺も勝ち目は薄くなっちまうからな。でも天はどこに行かせたか知らんが駐車場を後にしている……
ここに居るのは防御一辺倒のスタンド使いであるお前さん。今からでも遅くはないから呼び戻した方がいいんじゃあないか?
ハッキリ言ってお前さんが今目の前にいてもなーんも恐くねーんだわ」

圭はすぐ近くに国綱を立たせておきながら余裕の表情を浮かべていた。
そんな圭に対し、国綱は表情一つ変えることなく冷たい声で返した。

「……兄さんは公園の方に居る仲間のスタンド使いを呼びに行かせた。お前の相方、
まだ来てないんでしょ?だから来てない内に戦力を増やそうと思ってね。それに……」

「アァ?助太刀を頼みに行かせただと!?反則じゃねーのかソレ……ん、それに?」

圭が聞こうとした瞬間。国綱の体のあちこちから無数とも言える大量の小さなシャボン玉が
一斉に飛びたしてきたのだ。数秒後、国綱と圭の周りは沢山のシャボン玉で覆われた
メルヘンチックな場所に早変わりした。



国綱は微かに笑うとこう言った。
「それにね……兄さんはここにいなくていいんだよ。テメーみたいなガキ、俺一人で充分だから」

1673話 ◆PprwU3zDn2:2018/02/18(日) 00:34:32 ID:fermqCXk0
国綱と圭が対峙している頃
天は―

トォルルルルル……
「……雲雀さん、電話に出ないしメッセージアプリも反応無しか。やっぱ直接行かなきゃ
ダメだな、はぁ」

天は公園の十本桜の下で酔っているはずの雲雀の元へ小走りで移動していた。
……国綱からの指示で。


「あのマグマ使いは自分に任せて、兄さんは雲雀姐さん所に行って欲しいッス!そして
こう伝えるッス、『駐車場が大変なことになってるから一緒に来て欲しい』って!」


数分前、あの黒い煙の中で国綱に頼まれた『任務』である。無事雲雀の元に辿りつき、
前述の言伝を聞かせること。そうすればこの戦いも丸く治まるのだと。

(『援軍要請』ってことなのかな……確かに今回の決闘はマグマ使いの他に、もう一人
スタンド使いが来るはずなんだ。マグマ使い一人なら二人がかりでどうにかなるかもって
国綱さんは言ってたけど、未知の呪いを持ったスタンド使いが戦いに加われば
下手したら全滅の恐れも十分あるよな……、だから万が一に備えて雲雀さんに
応援を頼むのも悪くない……のか?決闘に関係の無いスタンド使いの参戦なんて
何か卑怯な気もするけどおおおっとっとっと!)

ズデェェン!

天が色々と考えながら走っていた時であった。「何か」に躓いて地面に倒れてしまったのだ。
体を起こし、躓いた要因である何かを見た。しかしそれは非常に不可解で
非常に不気味なモノであった。


結論から言えば躓いたモノの正体は『子猫』であった。同じアパートに住む白石子猫ではない。
正真正銘・子供の猫=子猫である。しかしその体の周りには……沢山の蝿が群がっていた。
体の所々は毛が抜け落ちており、皮膚も剥がれてた。その箇所は膿んでいて、
蛆が湧いてる所もあった。それを見た天は顔をしかめた。

(猫の……死体か?死後数日経ってるのかな、随分と腐敗してるけど……!?おかしい、
この道は今日国綱さんと一緒に駐車場に行くために通った道!その時は道のド真ん中に
こんな猫の死体なんか無かったはずだ!!)

異変に気付いた天は自分が進もうとしていた道の先を見た。
天は思わず「何だこれ……」と言ってしまった。



十本桜へと続く道、その至る所に、『腐った猫の死体』が何体も転がっていたのだ。
勿論、最初ここを通った時には無かったモノである。



おぞましい光景を見た天は体中に鳥肌を立たせた。それと同時に先ほど聞いた国綱の言葉を
思い出した。

『兄さん、これだけは覚えて欲しいッス。この先、自分の身の回りに奇妙な事が起きたら
十中八九スタンドの仕業と考えていいと。そしてそんな時はすぐにスタンドを出して
周りをよく見ないと……大怪我するッスよ』


「『奇妙な事』はスタンドの仕業……か。どうやらもう一人の対戦相手が動きだしたようだな」

天は猫の死体から離れると深呼吸をした。恐怖で強張った体を落ち着かせるためである。
体の鳥肌が治まったと同時に天は己の横に自身のスタンドを発現させた。

「……スタンド使いとの初タイマンだ、油断するなよ『ノープラン』!」

「了解シマシタマスター、チュミミーン!!!」



国綱と圭、天とまだ見ぬスタンド使い。

3月下旬の朝、2つの『決闘』が今始まろうとしていた。

1683話 ◆PprwU3zDn2:2018/03/05(月) 03:49:10 ID:5VJTwlsQ0
天がスタンドを出し、臨戦体勢に入った頃
駐車場では―

「ほほう、天下原と圭の一騎打ちか。だが天の奴がどっか行っちまったが大丈夫なのか……
お、『あいつ』からメッセージが来たぞ……って何だコレ」

天という今一番戦いを見ておきたい人物がこの場から離れることに不満を漏らしていた
骸のスマホに、まだ姿を見せていないもう一人の団員からメッセージが届いた。

【えれにゃん☆:ヤッホー、公園に到着したら早速ターゲットを見つけたよ☆
ここ駐車場じゃないけど別にぶちのめしてもいいでしょ?そんなわけで
戦闘開始しまーっす☆】

「……よし。時田、ちょっと車降りるわ」

「なりませんお坊ちゃま!すぐ近くでタマが戦ってるのですよ?今降りたら
巻き添えを喰らいますぞ!」

時田は毛布を剥いで車を降りようとする骸を制止した。しかし骸は抵抗する。

「我は幹部候補たるあの男の戦いが見たいんだ!ここからその戦いが見れないんじゃあ
何のために今日早起きしたか分からん!あとえれにゃん☆とかいう
ふざけたネーミングセンスを持つ女に色々言いたい!」

骸がだだをこねる。骸は天がどのくらい強いかを見るために決闘を企てたのだ。
正直言って国綱の戦いはおまけなのである。時田はそんな骸を穏やかに諭した。

「安心してくださいお坊ちゃま。あと数分で『降りられます』から。知ってるでしょう?
タマが本気を出せば、あっというまに勝負が付くことは」

「……それもそうか。ならばすぐ終わる戦いを見届けてからでも遅くはないな」

時田の言葉を聞いた骸はニヤリと笑った。

【ヘブンリー vs T-REX】
STAGE:門北自然公園 駐車場


「『俺一人で十分』だとぉ!?言ってくれるじゃあねえかシャボン玉使い!」

国綱の言葉に反応し声を荒げる圭。声を放った直後、両手の全ての指をピンと伸ばすと
両腕を突き出し指を国綱に向けた。T-REXに覆われた指の先端には穴が空いていた。

(指先に穴……まるで銃口みたいだが……まさか)

指先の穴に気付いた国綱は大量に飛ばしたシャボン玉の内、一つを大きく膨らまし自身を
入り込ませた。先程も作った巨大シャボン玉のドーム状バリアである。

「ほう、それが俺の火山弾を防いだバリアか!だがこっちにはソレを破る手段なんざ
いくらでも思い付くぜぇ!?まずは小手調べだ……FIRE!!!」

圭が叫ぶとピンと伸ばした指先から数十発の『小さい何か』が国綱に向かって発射された。

ドガガガガガガッ!!!!
「ッ!やはり何かを撃ってきたか!」

飛んできた何かはシャボン玉と接触し、ソレを誰もいない方向に弾き飛ばした。
弾き飛ばされた何かは地面や廃車に当たり、ドジュウウウという音と共に
それらを焼き焦がした。

(例のマグマ攻撃か!だが最初のデカいマグマ砲に比べると……)

「ククク……『さっきよか威力は低いし溶岩も少量』って思ってるだろ?
確かに背中の山より小さい火口だから一発一発の火力は小さいし量も少ない……だが
その分連射が効くんだぜぇ!?もう少し受けてみるか、火山連弾!」

ズドドドドドドドドドドドドッ!!!

T-REXの10本の指の先から発射される小威力の火山弾。だがそれは背中から発射される
火山弾と比べての話である。小さいながらもそれは立派な溶岩であり、触れたら最後、
大火傷は必至なのである!そんな溶岩を今、圭は高速で何百発も撃ってるのだ!!!

(クソッ、至近距離からのマグマ攻撃でもの凄い熱気だ!しかもシャボンにマグマが
沢山こびりついて、いつ熱さでぶっ倒れてもおかしくないぞコレ……それが狙いか?
恐らくあのスーツの中でマグマを沢山生成してるだろうから弾切れも期待出来ない……なら!)


溶岩の熱で滝のような汗を流す国綱を見て、こりゃ倒れるのも時間の問題だなと
余裕を見せる圭。これが圭の考えたシャボン攻略法その1「蒸し焼き作戦」である。
だが彼はこの時まだ気付いていなかった。自分の真上に漂う
シャボン玉。その内の2つが圭に向かって静かに近づいていることを。

「オラオラ!最初の威勢はどうした!防ぐのに精一杯じゃあねえか!……お!?」

圭が気付いた時には既に2つのシャボン玉はバスケットボールの大きさまで膨らみ
スポッという音と共に圭の左右の掌を包んでしまったのだ。

1693話 ◆PprwU3zDn2:2018/03/18(日) 01:03:19 ID:nrRmEnkE0
「クソッ!何だコレ、邪魔くせぇッ!」

圭は両手を包み込んだシャボン玉を振り払おうと両腕をブンブンと降り回した。が、
シャボンが圭の両手から離れる事はなかった。

「……分かってると思うけど、マグマでシャボンを壊せると思わないことだ。
俺の『ヘブンリー』は俺の意思以外では絶対割れないから」

「指の火口が使えないってか!?やってみなきゃわかんねぇだろうが!」

意地の悪そうな笑みを浮かべる国綱に腹を立てたのか、圭はシャボンに包まれたままの両手を
国綱に向けてマグマを発射したが、指から飛び出た溶岩はシャボンに接触する度に
そのまま弾き返され、数回跳ね返った後にシャボンの底へと落下していった。

「……なるほどなあ。俺の手を封じやがったってか、クソッ!」

圭は溶岩を2・3発発射しただけでシャボンの破壊を諦めたようだ。
国綱は「意外だな」と言った。

「アホみたいに何十発も撃ち続けてシャボンを溶岩で満たしてくれれば面白かったんだけど」

「そんなことしたらスタンド解除した時に手がマグマで黒焦げになるだろーが。
マグマの重みで腕も満足に……FIRE!!!」

圭は国綱と話してる最中、突如身を屈めると背中の火口から溶岩の塊を発射した。
溶岩は真上へと舞い上がり、圭の頭上から音も無く近づいていた
人間が一人入れる位に膨らんだシャボン玉に当たるとどこかへと弾き飛ばされた。
シャボンもまた、近距離の火山弾との衝突で何処かへと飛んでいった。

「……バレてたか」

「お前の考えてることなんざお見通しなんだよ、デカいシャボンで俺を包めば
俺のスタンドを丸ごと封印出来ると思ったんだろうがそうはいかねえ。あんなにデカいのが
近づいてくれば誰でも分かるっつーの」

「……じゃあコレはどうだ?」

国綱はそういうと圭の頭上を指差した。圭が上を向くと、頭上を漂っていた
十数個のシャボン玉が一斉に大きく膨らみ始めたのだ。そして巨大化したシャボンは
圭を包み込もうと近づいて来た。

「!一個じゃダメなら複数個ってか!甘ぇんだよ考えが!」

圭は頭上のシャボンの意図に気付くと体勢を変え、一目散に遠くへ走り出した。
シャボンから離れる気かと巨大シャボン達にに命じ圭を追わせるが、シャボンが圭に近づくと
圭がまた走り出し……を繰り返し、シャボンと圭の距離は広がるばかりであった。

「図体の割にすばしっこいね。キリがないや」

「中学の頃は陸上やってたからな。ノロいシャボンなんかに捕まるかよ……
行くぜ、今度はこっちの番だ」


ノロいシャボン玉……それはヘブンリーの欠点の一つである。
伸縮自在のシャボン玉を同時に何個も操れる国綱だが、そのシャボン一つ一つの動きは遅い。
そのスピードは正に宙をのんびりと漂う「普通のシャボン玉」レベルだ。
故に足の速い人ならシャボンの追跡を容易く振り切れる。シャボンで人を包みたいなら
隙だらけで無警戒な人間の背後からそっと近づくしかない。
だが今の圭はそうではないようだ。


圭は自分の番だと言うと再び身を屈めた。マグマ攻撃が来ると身構える国綱だったが
どうも圭の様子が違う。先程みたいにただ単に両膝を曲げただけの屈み方ではなく、
まるで陸上競技で見るクラウチングスタートのような、『今にもこちらに走ってきそうな』
体勢に入ったのだ。

何か仕掛けてくる。そう感じた国綱は念のためシャボンのドームを更に別のシャボンで覆い
自身の守りを強化しようとした。しかし、それは叶わなかった。

圭の背中や足から勢いよく噴射された『白い煙』。
やはり今までの攻撃とは違うと認識した次の瞬間。国綱と離れた場所にいたはずの圭が
一瞬でシャボンドームの目の前に迫っていたからだ。

1703話 ◆PprwU3zDn2:2018/04/06(金) 01:40:09 ID:07lwSBA60
火山活動で得たエネルギーをスタンドエネルギーに変換!貯めたエネルギーを火口から一気に噴射
することにより、自身のスピードを超高速に、T-REXのパワーは拳で殴れば砕けぬ物が無い
怪力に!ただでさえ強力なT-REXのパワーとスピードを短時間だが更に高め、
目標に向かって一目散に突撃!これがT-REXの大技「火山突」である!
(圭作のスタンド紹介文より引用)


グググググッ!
(バカな……触れればどんなものでも弾き返せるはずのヘブンリーが……
押されているッ!?)

どんなものでも『弾き返せる』。例え弾丸だろうとチェーンソーの刃だろうと。
暴走する車でさえシャボンに触れた途端に遠くへ跳ね返せた。

そのヘブンリーが、突進してきた黒い鎧を跳ね返せずにいる。鎧に押され、酷く歪んでいる!

(ここまで突っ込んでも割れる気配無し……どうやら絶対割れないって言葉は
ガチだったようだな……だがもう少しで奴に手が届く……ムッ!?)

火山エネルギーを利用して超強化されたスタンドの突進でシャボンを無理矢理歪ませ
国綱に強引に迫ろうとしていた圭だったが、あと数歩で国綱に接触出来る所まで
接近した所で急にスピードが遅くなった……というより止まってしまった。

戻されているのだ。自分が突撃し、形を歪ませているはずのシャボンが
正しい形に『戻ろうとしている』。その戻る力に、T-REXのパワーが追いつかない!

ボヨンッッ!!!

シャボンの押し戻る力が急激に高まり、圭はその場に留まることが出来なくなった。
瞬間、圭は恐ろしい勢いで空中へと吹っ飛ばされ、放置されていた廃車に激突した。


「ハァッ……ハァッ……」
己の精神エネルギーを振り絞り圭を弾き飛ばしたのだろう。
国綱は膝から崩れ落ち、その場に倒れこんでしまった。


(……火山突ですら壊せないシャボンか。いいぞ……『それでこそ』だ)



跳ね返された衝撃が強かったのか、圭は半壊した廃車の上で仰向けに倒れ動けなかった。
スタンドを纏っていたおかげでダメージは無かったが、彼の大技をもってしても
国綱のスタンドを破ることは出来なかった。その事実が圭の心を支配していた。


ショックや悔しさなどではない。『嬉しかった』のだ。
自分の目の前に、久々に『倒しがいのある強敵』が居る。それが堪らなく愛おしかった。



目の前の敵を倒し、自身の強さを証明する。それが多摩圭の全てであった。
生まれた時から体が大きく力も強かった圭は幼い頃から周りに「自分こそが最強」と公言していた。
それを証明するかの如く、彼は身近な『強敵』にケンカを売って
己の拳で倒してはまた次の強敵にケンカを売って……という日々を送っていた。

ガキ大将・不良・学校の番長……あらゆる強敵を倒してきた圭の名は
いまや門北の悪ガキ共の間では知らぬ者はいない。


スタンドがその身に宿った時、圭は「最強たる俺が更に強くなった」喜んだ。
火山のチカラを操る最強の鎧のおかげで圭は目上の連中……高校生の不良グループや
暴走族の集団にも一人で立ち向かい、勝てるようになった。

おかげで彼の世界は退屈なモノになってしまった。
もう自分より強い奴はいない。タイマンで歯ごたえのあるケンカが出来る奴も居なくなってしまった。
早々に最強になってしまった圭はそれから数ヶ月間、ケンカを全くせず、スタンドも一切出さずにダラダラと過ごした。

ディザスターのNo.2 時田潮と出会ったのはその頃であった。
圭は潮に教えられる。鎧はスタンドと呼ばれる超能力だということ、世界には同じ力を持った者
『スタンド使い』が大勢居ること、ディザスターという組織がそのスタンドという力を使って
何かデカいことをしようと企んでいることを。

圭は聞いた。
「ディザスターとやらに入れば、俺より強い奴と闘えるのか!?」

潮は答えた。
「もちろん。悪を倒そうと奮起する正義のスタンド使いが大勢挑んでくるでしょうな」


もう自分と闘える奴はいないと思っていた彼の未来が明るくなった。
スタンド使いという異次元の強さを持った奴がゴマンと居る。そんな奴らを倒し、今度こそ
真の最強になれる!


そのためなら、悪の組織でも何でも入ってやる!確かにこの鎧悪役ぽくって好きだけど!

1713話 ◆PprwU3zDn2:2018/04/19(木) 05:07:39 ID:VqShxZKQ0
「ハァ……ハァ……ゼヒ……ゼヒ……」

国綱はあれから体を起こすことすら出来なかった。
超高熱のスタンドが自分の目の前まで迫られたせいで彼の肌は真っ赤になり
汗が滝のように流れていた。この戦いで国綱は大量の水分を失っていたのである。
その状態で精神エネルギーを振り絞り圭を弾き飛ばした……国綱の体は今
大量のヘブンリーを維持することも出来ずにいた。先程まで国綱を守っていた
シャボンのバリアや圭の拳を包んでいたシャボンは消え、宙を漂っていた無数のシャボンも
半分が消滅していた。

(アホらし……なーにが『俺一人で十分』だよ、格好つけといて死にかけてるじゃん俺……
何?最近のガキってあんなに強いの?少し挑発すれば怒って無策に突撃してきて
そのまま返り討ちに出来るもんじゃあないの?まだ一回も『アレ』成功出来てないし
兄さんに援軍を呼んでくるように頼んでおいて良かったよブツブツ……)

国綱は圭の予想以上の強さに思わず心の中で愚痴っていた。
とにかく今は圭より先に行動しなければならない、故に国綱は息を整え体力を回復することに
専念していた。この調子なら数分あれば起き上がれる。そう思っていた矢先に。


圭の声が聞こえてきたのだ。


「おいシャボン玉使い!聞こえるかァ!?」

国綱は今起き上がることも出来ない。なので宙に漂うヘブンリーの一つを操り
圭が何処に居るかシャボンの目で探した。

すぐに見つけることが出来た。
圭は廃車の上に仁王立ちし国綱の方を向き叫んでいた。彼はもう回復していたのだ。

(最悪……)と国綱は半分負けを認めてしまっていた。
自分を守るバリアが消えてしまった今、最初のようなマグマ攻撃を喰らってしまったら
炭になって死んでしまうのは確実であった。
かといって今の疲労困憊の状態では降参の一言すら満足に言えない。国綱は今
どうしようもなくピンチなのであった。


「『3分』!3分待ってやる!それまでに立ち上がってシャボン玉を張り直しな!」


圭はどうやら直ぐには動かないつもりのようだ。3分という回復の猶予を貰い
目前の危機は脱したはずだったが、国綱の表情は晴れなかった。

(今でも十分トドメを刺せるはずなのに敵の回復を待てるほどの『余裕』……
これ絶対俺を充分回復させても確実に倒せる手段を持ってるってことじゃあないか……)

更にヘブンリーの目は悪いことに圭のスタンドの変化を見つけてしまった。

先程まで真っ黒だったはずの鎧が真っ赤に変色していたのだ。
さらに鎧の隙間からは白色の煙がモクモクと漏れ出ていた。

国綱は理解する。あれはスタンド鎧が急激に熱されたことによって赤くなっているのだと。
鎧の下では恐らく大量のマグマを生成しているのだろう、そこで生じた超高熱が
スタンドを熱し赤く見せ、鎧の間から大量の煙を出しているのだと。


そこまで大量にマグマを生成して『何に使うのだろうか』?

決まっている。最初に国綱達にお見舞いしたように『飛ばしてくる』。

それも最初の比ではない位に大量に……『降り注いで来る』!

1723話 ◆PprwU3zDn2:2018/04/21(土) 01:43:59 ID:/GQI2StI0
「見ろ時田!圭のスタンドが真っ赤になってる!」

「……火山突が効かなかったからですね。出しますよ……タマの正真正銘、本気の大技
『火山雨』を。どういう技か、タマから教えてもらってるでしょう?」


圭達から離れた場所に停まっている車の中では、時田と骸がいよいよ終盤に差し掛かった
決闘の様子を双眼鏡越しに観戦していた。

「聞いてるよ……要するに背中の火口から沢山の火山弾をいっぺんに発射して、
それが雨が降ってるみたいに大量に落ちてくるって技だろ?だから今そのために
スタンドの中でマグマを大量生産してるって訳だ……んで、いっぺんに何発くらい
ぶっ放せるんだっけか?20発くらい?」

「……確か最近、100発同時までいけるようになったとのことです」

骸は飲んでいたジュースを盛大に吹き出した。咳き込む骸の背中を時田が
優しくさする。

「ひゃ、ひゃひゃひゃ100発!?バカかアイツ、そんなことをしたら……」

「ええ、天下原様はただでは済まないでしょう。仮に距離を取ろうと離れても広範囲に
降ってくる火山弾からは決して逃れられません。恐らく駐車場の端から端まで火山雨の
射程範囲内……対策は先程のように自分の周りにシャボンのバリアを張って
雨が止むまで耐えるくらいですが今の天下原様にそれが出来るかどうか……」

そういうと時田は双眼鏡を国綱に向ける。国綱は今仰向けに倒れ身動き一つとれない有様だ。
時田曰く、この技を使用するにはスタンドの中にマグマを最大限まで貯める必要があるらしく、
空の状態からマグマを生成し満タンまで貯めるには最速でも3分の時間が必要とのことだ。
さらに一度この技を使ったら次に火山弾を使えるようになるまでに最短でも
5分はかかるという超ハイリスク・ハイリターンな大技なのである。

「発射までに復活してバリアを張り直せるかどうかが勝負の分かれ目って訳か……!!
それより時田、我等なんだが」

「分かってますお坊ちゃま。この戦い、ここまで来たら最後まで見届けましょう。
もしタマの本気をしのげるようなら、天下原様も幹部候補として視野に入れるべきなのかも
しれません……本人は絶対に拒否するでしょうけど」


「そうじゃなくて!駐車場全部が火山雨の射程範囲内なら我等の車も当然範囲に
入ってるだろ!この車マグマを大量に浴びても大丈夫なように作られてるのか!?」


「あ。」と時田が小さく呟いた。直後、時田はエンジンをかけハンドルを回すと
車を駐車場から出すために大急ぎで運転を開始した。


「……と、とりあえずアパートに戻りましょう!大丈夫です、あの戦いは後10分もすれば終わると
聞きましたからその後落ち着いて駐車場に戻りましょう!ね!」

「……結局誰の戦いも最後まで見れなかったではないか!なんのために早起きしたんだ我は!
こんなことなら今日は寝てればよかったわ畜生!!!」

骸の叫びが駐車場に響き、時田達の車は駐車場を後にした。

1733話 ◆PprwU3zDn2:2018/04/22(日) 23:21:29 ID:oiy.yoeA0
「(急いで立ち上がらないと……間違いなく炭になっちまう!)ゼェ……ゼェ……」

次に来る攻撃が恐ろしい物になることくらいは国綱も理解していた。
だが急いで回復しようにも体がついてこない。
呼吸を整えようと慌てて呼吸を早めても苦しくなるだけであった。こういう時は慌てず
ゆっくり呼吸して安静にしてれば自然に体力は戻るだろう。……だが今は時間が無い!



「あれから2分……もう2割ほどマグマを作れば準備完了だ!お前さんはどうだァ、
シャボン玉使い!」

圭のスタンドの色は更に赤くなり、赤とオレンジが混ざったような色の鎧に変貌していた。
恐らく彼のスタンドの内部はマグマで満たされかけているのだろう。

……国綱はまだ地に伏していた。
まだ動けないという訳ではない。今の状態ならフラつきながらも立ち上がることは出来るし
シャボンのバリアもサイズを一回り小さくすれば張る事も出来るはずだ。
だが彼はそうしなかった。それでは次の攻撃を『防ぎきれない』ことを予感していたのだ。

国綱が今先程と同様に出来る事といえば、今なお宙を漂っているシャボン玉の群れを
操ることくらいであった。だから彼は今、地に伏せながら人知れずシャボンの一つを操っている。
そのシャボンの目から圭を見て分かった事がある。

一つ、圭はマグマを貯めている間、廃車の上で立ったままそれ以外のことを
『何もしない』。腕を組んだり指の骨を鳴らしたりといった動作はしてることから、
チャージをしている間は一切動くことは出来ない、という訳では無いようだ。

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(……今のアイツなら小さいバリアくらい張れるだろうが……それじゃあダメだ。
それじゃあアイツを『倒したことにはならない』。万全の状態のアイツを倒してこそ
俺は『アイツより強い』って証明出来る……それで初めて最強に近づける)

火山突を防がれてから圭は国綱を自分より強い『強者』と認定していた。
そんな強者を『動けない内に攻撃』などというみっともない真似を
圭はしたくなかった。何なら時間を延長したっていい。体力をしっかり回復させ、
万全の状態にしてから万全の力を持って倒す。それが圭のケンカの仕方であった。
故に圭は今、マグマを溜めながら国綱の回復をただひたすらに待っている。それだけである。
もし圭が国綱の事を初めの頃のように天のオマケ扱いの『雑魚』と見たままだったら
彼の行動も違ったものになっただろう。倒れてる国綱に黒煙を浴びせて
回復を阻害したりといった卑怯なマネも平気でやっていたに違いない。
圭は生意気な雑魚には厳しいのだ。
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そしてもう一つ国綱が気付いたこと。
圭は今、シャボン玉の動向を『全く気にしていない』。
流石に人間サイズに膨らませた巨大なシャボンにはすぐ気付き警戒をするが、それ以外の、
圭の頭上に漂っているような野球ボールサイズのシャボンを動かしても何も反応しない。
試しにシャボンの一つを圭の肩に軽く接触させてみたが、圭は見向きもしなかった。
もしかしたらチャージに集中していて視野が狭くなっているのかもしれない。
シャボンがくっついても何も感じていない可能性もある。

(……コレなら『アレ』がイケるかもしれない)

国綱は何かを思い付いたらしく、ふらつきながらもその体を起こし立ち上がった。
そして宙を漂うシャボン達を操りはじめた。
……圭はそのことに気付いていない。

1743話 ◆PprwU3zDn2:2018/04/28(土) 19:04:39 ID:l3TLiPEY0
「3分、タイムリミットだ」

廃車の上で圭は静かに呟いた。正確に時間を計っていたわけではないが、スタンドの中の
マグマが頭のてっぺんからつま先まで満ちている事がその時が来た事を証明していた。

T-REXは今、溜まりに溜まったマグマの熱で鮮やかなオレンジ色の鎧と化し、
鎧からは白い煙が止まることなく立ち上っていた。


そして国綱はというと、廃車から少し離れた場所に『ただ立っていた』。
自身の周りにはシャボンは一個も無かった。頭上にも、彼を守るはずのバリアも
……シャボンは何一つ無くなっていた。


「……まさかのノーガードか。何時の間にか周囲のシャボンも消えて無くなってらァ」

圭は辺りを見回したが、あの沢山あったシャボン群は彼の視界からは全て消えていた。
彼は国綱に問うた。時間の延長は必要か、せめてシャボンを貼り直す時間は
くれてやってもいいぞ、と。だが国綱はそれを拒んだ。

「悪いけど時間が無くてね……花見やるんだ。そろそろアパートの人達が弁当を持って公園に
来る頃だから、お前みたいな奴と長々と戦ってる暇がないんだよ。だから頼む、
『さっさと済ませてくれ』、お前もこれが最後の攻撃なんだろう?」

国綱は大きく欠伸をかきながら余裕たっぷりに答えた。
天と国綱が駐車場に来てから1時間近く経過していた。太陽が上空に上り、気温も
春の訪れを感じさせるような暖かさになっていた。

アパートの人達が公園に来る時間にはまだ早かったが、国綱は敢えて
「予定があるから早めに終わらせろ」と言い放ち、圭に最後の攻撃を促したのだ。
無論挑発の意味も込められていたが、国綱の一番の目的は。

(アレの準備は出来た……さあ来い……アイツがアレに『気付く前に』!!)


「バリアを張っていないにも関わらずあの余裕……どうやらお前さんには
俺の火山雨を防ぎ、尚且つ俺の最強の鎧を打ち破れる秘策があるようだな!
そうかそうか!いいねぇ、楽しいねぇ!!!」

国綱の挑発とも取れる発言に対しそう言って返した圭の表情は実に嬉しそうであった。
国綱はまだ圭に勝てる算段を持っている。圭も当然国綱を倒せる技を持っている。
両者まだまだ存分に戦える。最後の最後まで渾身のケンカが出来る。
圭はそれが堪らなく嬉しかった。

(……本当に戦いづらい相手だよ、あのマグマ野郎)


「それじゃあ遠慮なくぶっ放させてもらうぜ!?その余裕の顔をしてられるのも
あと10秒までだ!行くぜ、Countdown...10!」

圭は身を屈め背中の火口を空へ向けると大きな声で数字を叫び始めた。
それに合わせて防御の姿勢をとる国綱。無論、スタンドも無しに防げる攻撃では
ないことは重々承知の上だ。

(……どうやら『気付いてない』ようだな。後は俺が巻き添えを喰らわない様にしなくては)



「…8!…7!…6!」

カウントダウンは進む。圭はまだ気付いていない。
あの沢山あったシャボン玉は実はまだ消えてはいないということを。


「…5!…4!…3!」


終わりの時が近づく。圭はまだ気付いていない。
T-REXの鎧は「触覚」に非常に鈍感で、鎧に軽く触られても圭には何も伝わらないこと、
そして今まさにT-REXに『触れている』モノが居ることに。


「…3!…2!…1!」
最後のカウントまで1秒を切った。



圭はカウントダウンと発射の準備に集中し、全く気付いていない。



T-REXの背中にある無数の火口。
その火口一つ一つに、先程まで宙を漂っていたシャボン玉が入り込み
火口からマグマが出ないよう、完全に『塞いでいる』ことを!



「0……溶岩装填完了・距離よし・角度よし!行くぜ火山弾最大出力……
『火 山 雨』!FIREEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」


圭が大きく叫んだその直後、彼の体は凄まじい轟音と共に廃車の上から消えた。
同時に乗っていた廃車は粉々に砕け、コンクリートの地面には巨大な隕石が
落ちてきたかのような大きなクレーターが出来ていた。


そのクレーターの中心で、圭はコンクリートにめり込み倒れていた。

1753話 ◆PprwU3zDn2:2018/05/12(土) 02:23:33 ID:Y1e.dvlE0
圭が声高々に叫んだ瞬間!
鎧に蓄積されていたマグマは火口を通じて勢いよく空へ放たれ……る前に
火口を塞いでいたシャボンに衝突!圧縮されたマグマ=火山弾は
シャボンに弾き返され勢いそのまま元いた鎧の中へ!
先程までマグマを鎧の中に溜めていたT-REX、マグマの熱による火傷などのダメージは
皆無といえど、凄まじい勢いで放った火山弾(それも100発!)をほぼ零距離で受けた
その『衝撃』の大きさは無警戒のT-REXには防ぎきれなかったようで、
圭の体は背中からの予期せぬ衝撃に耐え切れず真下へと吹っ飛ばされることとなった!
結果、乗っていた廃車は圭に押し潰される形で崩壊、その下のコンクリートに
大きなクレーターを生成し、圭は無惨な姿で地に伏せることとなったのである。


「何とか上手くいってくれたようだ……ふぅ。だが流石に『効いた』ぜこれは……!」

コンクリートにめり込んだ圭を見て、国綱は膝をつき弱々しく呟いた。

一度に複数のスタンドを出現させる『群体型』スタンド。
数が多い分、スタンドを攻撃されても本体に送られるダメージは分散され
あまり被害を受けないのが群体型の特徴なのだが、流石に高熱の鎧の中に入り込み、
灼熱の塊である火山弾を100発分至近距離で受け止め、弾き返したのだ。
当然無傷では済まなかったようで、国綱の体には小さな火傷が100箇所に出来ていた。
後で小鳥遊さんの所へ行かなくては、と国綱は火傷の痛みに耐えながら考えていた。

「……それにコイツ。今のでくたばってくれりゃあいいんだけど……」

だが彼を覆うは無敵の鎧T-REX。そう思い通りには行かないようで。
一分も経たない内に圭の体はピクピクと震え始め、十数秒後には彼の腕が上がりだしたのだ。

「……まあそうだろうなあ。化け物め」

腕が動き、脚も動き出し……そしてとうとう圭の体は満身創痍になりながらも
なんとか立ち上がってしまったのだ。その顔に満面の笑みを浮かべて。

「まさか……シャボンを仕込んでたとはなぁ……おぉ……俺さァ……本当に……
ディザスターに入って……良かったと……思うぜェ……スタンド使いってぇのは……
こんなにも……強ェんだな……ハハハ……」

「……そんなボロボロになりながら言う台詞かそれ?自分を見ろよ、『無くなってる』ぞ」

国綱は呆れた顔で圭の体を指差した。圭の体を覆っているはずのT-REXが徐々に透明になり、
終いには消えてなくなってしまったのだ。

「……折角放った火山雨が……自分に返ってきてな……
流石に……スタンド出し続ける余裕……ねぇわ……ハハハ」

足をガクガク震わせながらそう言う圭の腕はスタンドを出さないまま、
『ファイティングポーズ』の体勢を取っていた。……どうやらまだ
この決闘を終わらせる気は圭にはないようだ。


「まさか素手で戦おうっての?嘘だろ?」

「……俺もお前も……もうスタンドは出せない……かといって……
今更『引き分け』なんて……ゴメンだろ……?ならやるこたぁ一つ……
拳で……語り合おうじゃあないか……へへへ……」

別に引き分けでもいいんだけどな、と国綱は思ったが、圭の目は真剣そのもの。
本気で『殴り合い』で決着を着ける気なのだと理解した。

圭はこの戦い本気でを楽しんでいる。強い者同士のケンカを
一秒でも長く味わおうとしているのだ。


(……これだから嫌なんだ、こういうタイプの輩は)

1763話 ◆PprwU3zDn2:2018/05/17(木) 00:06:34 ID:UQlTWHMk0
「行くぜシャボン玉使い……ファイナルラウンドだ!!!」

「いやどす」ピンッ
圭との最後の戦いを何故か京都弁で拒否した国綱は圭に親指を向けた。
直後、国綱の親指からパチンコ玉サイズの小さなシャボン玉が飛び出した。
そしてソレは……圭の『口の中』へと入り、そのまま喉へと入っていった。


「!!ゲホッゲホッ!てめえ、何しやがった!」

「……俺が今出せる、最後の『ヘブンリー』だよ。もうアレ以外のスタンドは
一個も出せない……けど、『決着をつける』には充分なんだよ……
分かってると思うが、ヘブンリーは今『お 前 の 体 内 に 入 っ た』」

圭はそれを聞くと、首を傾け自分の胴体をジッと見つめた……数秒後、彼の顔は
みるみる内に青ざめていった。その内、自分の体をまさぐったり、胸をドンドンと
叩く仕草を見せた。

「……何処だ!シャボンを何処へ送った!言え!」

「何処だっていいだろう?今送ったのは極小のスタンドだが、それを思いっきり
膨らませれば何処だろーとお前は負ける……『物理的』に、な」

「何……だと!?」

「簡単だろ?お前のマグマをもってしても割れないシャボンが止まることなく
一気に膨らむ……そしたらどうなるか分かるよな?」

「……!!!」

圭の顔から大量の汗が吹き出る。直後、右手の指を口に突っ込もうとしたので
国綱はそれを制止した。

「吐いてシャボン玉を出そうとしても無駄だ。スタンドだから自分の意思で動かせるんだ。
ゲロに巻き込まれない安全な場所にスタンドを避難させるけどいいか?ただの吐き損だぞ?」

「……クソッ!」

口から指を抜いた圭の体は小刻みに震えていた。
体の中で『絶対に割れないシャボン玉』が膨らみ続けると何が起こるか?圭にはその末路が
理解できてしまっていた。


「……マグマ使い、さっきも言っけど俺には花見しにココに来たんだ。場所も取ってある。
もうソコに戻りたいからさっさと終わらすぞ」パチンッ

国綱は右手を上げ、軽く指を鳴らした。その直後、圭が何かに気付いたようで、腹の辺りを
大慌てで弄り始めた。

「……さっきの問いに答えてやる。ヘブンリーは今、お前の胃の中に居る。
だから少しだけ膨らませた。『胃が少し張ってる』と実感出来る程度にな」

「や……やめろ!いますぐシャボンを出せ!」

「出したらまた拳で抵抗してくるだろうが。……これでラストだからな」

そう言うと国綱は疲れきった表情で再び右手を上げ、何時でも指を鳴らせるよう
親指と中指を合わせた。


「ま……まいった!降参、降参するから!お願いだからシャボン玉を
胃から出してくれえええええ!!!」

圭は声を震わせ、涙を浮かべながら懇願した。だが、披露困憊の国綱には
その声は届いていないようだった。


「……本当に嫌なんだよ、手加減せずに力の限り戦う、お前のような人間は!」

国綱はそう言うと右手の指を……パチンと鳴らした。



「や……やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

1773話 ◆PprwU3zDn2:2018/05/18(金) 03:40:46 ID:QBwt9cxg0
「そこまで」

指を鳴らしたその直後、国綱の背後から年老いた男性の声が届いた。
聞き覚えのある声に振り向こうとした瞬間、国綱は自分でも信じられない行動をしていた。

自分の脳内。そこでスタンドに『大きさを元に戻し、体内から脱出』するよう命じていたのだ。
そしてその指示通り、スタンドは元のパチンコ玉サイズに戻り、圭の口から飛び出した。

(……!?俺は本気で『膨らませる』つもりだった!なのに何故ヘブンリーを戻した!
俺は何でこんな……!……こいつは!?)

自分の行いを信じられないと驚愕しつつ振り返った国綱が目にした者。それは
金色のスタンドを背後に立たせ、穏やかな表情で微笑む時田潮であった。


その手には、黒く光ったオートマチック型の拳銃らしきモノが握られており、
その銃口は国綱の頭に向けられていた。


「……本物(モノホン)ッスか、それ」国綱は頬に一筋の汗を長し問うた。

「ふぉっふぉっ、悪の組織らしい『小物』でしょう?」潮は表情を変えず答えた。

圭は国綱の指パッチンに慄き、気絶してしまっていた。


「タマはこの通りもう戦えないでしょう。この爺に免じて、この辺りで
勘弁してやってもらえないでしょうか。といってももう既にスタンドを
タマの中から出してくれていますな。ふぉっふぉっ」

「……フン」
国綱は仕方ないといった表情でヘブンリーを消した。


……こうして駐車場で繰り広げられた決闘は、圭の気絶による戦闘不能をもって
静かに幕を閉じたのであった。


【ヘブンリー vs T-REX】
STAGE:門北自然公園 駐車場

勝者……天下原国綱/ヘブンリー



決着から数分後、潮と国綱の二人は圭のマグマ攻撃を免れたベンチに座り、缶コーヒーを飲んでいた。
その周りでは、どこからやってきたのか……生コンを乗せたトラックミキサや重機・
廃車を乗せるためのレッカー車などが十数台とそれに乗ってきた数十人の工事作業員らしき
人々が戦いの跡を消すが如く懸命に『作業』をしていた。

「……『彼ら』もディザスターのメンバーッスか?」

「いえいえ、彼らはディザスターとは別、この爺の知り合いの方々です。言わば
ディザスターの『協力者』と言った所でしょうか。こうしてディザスターが残した
傷跡を元通りに直してくれる優秀な人々です、ふぉっふぉっ」

(協力者とは、簡単に言ってくれる)と国綱は作業をする面々をみて思った。

圭の最後の大技こそ不発に終わったものの、此処には飛び散ったマグマや
ソレを浴びて炭になったベンチ、さらには粉々になった廃車や
圭がめり込んで出来たクレーターといった惨状が所々にあるのだ。
それを何の疑問も持たず何も聞かず、淡々・黙々と修復作業をするこの者どもは
一体何者なのか?

(……恐らくコイツらは裏社会の人間。こういう派手な争いが起こった現場を
速やかに『無かったことにする』その道のプロ。それを気軽に呼べるこの爺さんは)

「……坊ちゃまの周りには優秀なメンバーが集まりつつあります。しかし彼らは
『後始末』に弱い。特にタマの破壊力抜群のスタンドの後片付けは
お坊ちゃまやもう一人のメンバーには到底無理なのです。そこでこの爺の出番です。
爺が一声かければ修復は勿論、決闘場所の管理者や目撃者との『取引』も
この者達がしてくれるのです。……これらは今日中には終えてくれるでしょう」

(……やはりただ者ではない。コイツもまた裏社会の人間……それも
このような奴らを容易く操り、指揮出来る程の地位に立つ者……!)

国綱の顔から冷や汗が流れる。隣で穏やかな顔で缶コーヒーを熱そうに飲む老人。
その体からはドス黒いオーラが止め処なく溢れている……そう国綱は感じていた。

1783話 ◆PprwU3zDn2:2018/05/27(日) 23:49:16 ID:BlS8VeH.0
「さて天下原様。藤鳥様から聞いているかもしれませんが、タマを倒した貴方には
坊ちゃまやこの爺と戦う権利が与えられますが……」 「断る」

缶コーヒーを飲み干した潮が国綱に自分達との戦いを望むか聞いた……が
1秒もしない内にキッパリと拒否されてしまった。

「元々俺はケンカとかの争いごとは好きじゃあないんスよ……負けりゃ奪われ、
勝ってもそれを聞いた別の誰かが挑んでくる……キリがない。
そういう人生が嫌だから、普段から『絡まれるほど強くない男』っぽく見えるように
生きてるッス……正直言って、アンタらのような奴らとは極力関わりたくないんスよ」

国綱は露骨にうんざりとした表情を浮かべた。それを見た潮は
「……分かりました」と言い、立ち上がった。


「坊ちゃまにも伝えておきましょう……当分の間、天下原様にちょっかいを出すのは
控えるように、と。タマを倒した貴方にはそれを命じる権利がある」

潮はそういうとスタンドを操り、気絶している圭を担ぐと
駐車場の出口に向かって歩き出した。どうやらここを去るつもりのようだ。


「……ああ、そうそう。そういえば藤鳥様は今どちらですかな?」

「……兄さん!すっかり忘れてた」

国綱は潮に尋ねられたおかげで天の存在を思い出した。
万が一に備え、十本桜に居る雲雀を連れてここに戻るよう伝えていたのだった。
(自分と天、それに雲雀の3人なら2人相手でも対抗出来ると思ったからだ)

しかしあれから数十分以上経つというのに戻ってくる気配が全くない。


「……エレナ・マース」

「?何ですって?」


「今日の決闘に参加する『もうひとりのメンバー』ですよ。タマはスタンドの力でガシガシ
攻めてきますが、彼女はスタンドを使って『時間をかけてじっくり追い込む』戦い方を
好みます。エレナから連絡は来ていませんが、もしかしたら藤鳥様はもう……」

「!!どういうことだ!?兄さんはもう何だって!?」

国綱が潮を問いただそうと思った次の瞬間、潮と気絶していた圭は煙のように
消えてなくなってしまった。


(これもスタンド能力か……!?いや、今は兄さんの安否が先だ!ヘブンリー、
公園にいるはずの兄さんを探せ!)

国綱は右手を掲げると掌から数個のシャボン玉を空へ発射した。
天を探すために目を開いたシャボン玉は四方に拡散していった。



天を発見するのにそう時間はかからなかった。

天は走っていた。その方向には雲雀の居る十本桜はない。

その天の後ろを足早に歩く者達がいた。ソイツらは全員で天を『追っていた』。

ソイツらは体の至る所が腐り、傷んでいた。奴らには生気が全く感じられない。


天は今、複数の腐敗した動く死体……『ゾンビ』に追われていた!!


「!!!何でゾンビが……スタンド能力か!兄さんがヤバい!!」

国綱は立ち上がると大急ぎで天が居る公園へと走り出した。




―エレナ・マース 駐車場に現れなかったもう一人の決闘の相手。

その彼女が今、藤鳥天を追い詰めようとしていた。

179 ◆PprwU3zDn2:2018/05/27(日) 23:52:06 ID:BlS8VeH.0
長くなったのでここまでを前編と致します。
次回、天ともう一人のディザスター団員・エレナの戦いをお送り致します。


今回登場したスタンド

No.4219
スタンド名】T-REX
【本体】多摩圭(ディザスター所属)
【タイプ】纏衣装着型
【特徴】黒い岩石で構成された、火山をイメージさせる猛々しいフォルムのスーツ型スタンド
【能力】
『自身のスーツで火山活動を発生させ、その火山活動を自在に操ることができる』能力。
マグマを火山弾として猛烈な勢いで放ったり、
火山ガスや火山灰を発生させたりなど、多彩な攻撃方法を持つ。
また、スーツの耐久性は極めて高く、鋼鉄やダイヤモンドを凌ぐ硬度を誇る。
スーツの外面は超高温だが、スーツの中はポカポカあったかくて快適らしい。

破壊力-A スピード-B 射程距離-E
持続力-A 精密動作性-C 成長性-C

1803話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/06/06(水) 13:09:27 ID:SQtgLBXY0
国綱がヘブンリーで天を発見してから数分後――


天を追っていた腐敗した者・ゾンビ達は彼を見失ったらしく、標的を再び見つけるべく
「オアアアアアア……」とおぞましい声を上げながらそれぞれ別の方角へと歩き出した。

その光景を天は、公園の隅にある朽ち果てた公衆トイレの窓越しに見ていた。

「……やっと撒いたか」と外の安全を確認すると、天は息をゼェゼェと切らしながら
その場に座りこんでしまった。そしてポケットからスマホを取り出すと画面を捜査し、
ある1枚の画像を表示させた。

「……もう体力もヤバい。早いとこコイツを『見つけないと』……」


スマホに表示されていたのは青い髪の女の子であった。
-----------------------------------------------------------------------------------
話は国綱と分かれた時間まで遡る……


国綱の指示で十本桜の下で酔っている雲雀の元へ向かっていた天。その途中
猫の腐敗した死体を『何匹も』目撃してしまう。そのあまりにも異常な光景に
スタンドの関与を確信した天は自身のスタンド・ノープランを発現させ
これから始まるであろう戦いに備えた―――
備えたのだが。


………スタンドを出してから数分、特に何かが起こるでもなく、
ただ風の音が響くだけであった。

『コノママ何カガ起コルマデ待チマスカマスター?チュミミーン』

「うーむ」

天の脳内では、スタンドを出した瞬間に敵とスタンドが颯爽と現れ、何か恐ろしい能力で
自分を苦しめるが、最終的になんやかんやあって知恵と勇気で逆転し
敵をギャフンと言わせるといういい加減なシナリオが完成していたのだが、最初の段階でそのシナリオは
破綻してしまった。
……まさか何も起こらないとは。天は安堵と落胆が混じった溜息を吐いた。


「……とりあえずこのまま雲雀さんの所へ向かおう。猫の死体は踏まないように気を付けろ」

『ラジャー・チュミミーン』

天はこのまま待機しても仕方ないと判断し、雲雀の所へ向かうことにした。
道中に散乱していた死体には触れないようにと慎重に避けた。

5匹目の猫の死体を避けて通過したその時である。



『みーつけたっ!!!!』
天の真上で甲高い女の子の声が突如鳴り響いてきたのだ!

1813話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/06/06(水) 21:09:27 ID:SQtgLBXY0
「な、何だ何だ!?」
いきなりの大声に驚いた天はノープランを側に寄せ警戒しながら上空を見上げた。


そこにいたのは長い円柱型の尻尾を生やした、ピンク色の『異形』であった。


「人型の化け物(スタンド)!お前がもう一人の決闘の相手か!」

『ぴんぽ〜ん!だいせいかーい!』

ピンク色のスタンドはアニメに出てきそうな可愛らしい女の子の声を発すると
天の目の高さまで降りてきて、パチパチと大げさに拍手をしてみせた。

『ということは、アナタが対戦相手の……えーっと、藤鳥……てん?でいいんだよね?』

「ああ……って、スタンドだけか?本体もでてこいよ」

現れたのはスタンドだけで本体は何処にも見当たらなかった。
だが天の言葉にスタンドは何も答えず、ただ首を横に振るだけだった。
どうやらこのスタンドの本体は姿を現すつもりは無いらしい。


直後、天のスマホが振動した。天もスマホを取り出すと画面を確認する。
どうやらメッセージアプリにメッセージが届いたようだ。

今はそれどころではないとスマホをしまおうとする天。だが目の前のスタンドは
両腕をクロスさせて大声でダメ!と言ってきた。その声に驚く天に対し、スタンドは
天のスマホを指差し、操作してメッセージを確認するよう指示してきたのだ。
……どうやらメッセージの送り主はこのスタンドの本体のようである。


【えれにゃん☆:天くん初めましてー☆私が今回アナタと戦うディザスターの紅一点・
えれにゃん☆どぇ〜っす☆!よろしくね☆】

(!?何だこのメッセージは!?それにこの名前!えれにゃん☆って!)

無駄に可愛らしい文面・所々に散りばめられている星印、
明らかに本名でもスタンドの名前でもなさそうな名前での自己紹介。
その後何個も送られてくるピンク色のカバのイラストスタンプに自撮りと思われる
女の子の写真……

アプリに送られてきたメッセージの数々を見た天は少々……否、かなり戸惑っていた。

(また中々強烈なキャラがやってきたぞ……だがわかった。俺の決闘相手は女性!
骸から送られてきた写真に載ってた女の子だ!てことは国綱さんの相手はあの大きな奴か!)

マグマという凶悪な能力、本体は筋肉ムキムキの大男。中肉中背の国綱一人で戦うのは危険だ。
ここは急いで雲雀を呼び、国綱の元に急がねば!


「えれにゃん☆だっけか!悪いが俺にはやるべきことがある!速攻で倒させてもらうぞ、
行けノープラン!」

『チュミミーン!!!』

天の命に従い、ノープランの右腕ががえれにゃん☆のスタンドを殴ろうとした時である!


『だめーっ!!!』 「ッ!?」


スタンドの口からアニメ声の叫び声とノープランの目の前に突きつけられた円柱状の尻尾。
それにビビりノープランの拳はスタンドに触れる前に止まってしまった。

呆気に取られていると、天のスマホが再び震えた。画面には新着メッセージの通知が。


【えれにゃん☆:コラッ☆!レディにいきなり手をあげるなんて格好悪いぞ☆!
いい大人なんだから落ち着けってのこのスカタンが☆】


敵からの挑発的なメッセージだった。カチンときた天は目の前のスタンドではなく
スマホの向こうに居る本体の方へ反論のメッセージを送った。勿論アプリで。


【天:決闘なんだから攻撃するのは当たり前だろうが!あと一々スマホにメッセージを
送ってくるな!直接喋れ!】


メッセージを送って十数秒後、えれにゃん☆からアッカンベーをしたカバのスタンプが
送られてきた。……完全におちょくられている天であった。

1823話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/06/24(日) 19:46:47 ID:QHytJNJk0
どうやらえれにゃん☆と名乗る女の子はスマホにかなり依存している人物のようだ。
中毒と言っても良い。彼女は天に語る言葉の大半をスマホアプリを通じて発してきた。


【えれにゃん☆:私のスタンドはこの公園の隅々まで飛んだり、能力も強くて面白いのを
持ってるんだけど、その分パワーが無いから殴り合いは不向きなの☆天くんも
この手のバトルって初めてでしょ☆?さっき無警戒にスタンドを殴ろうとしたけど、
もしあのままスタンドの尻尾に触れてたら天くんもう『死んでた』よ☆?
そんなのであっさり勝っても私は面白くないの☆分かる☆?】


(あの尻尾に触れてたら死んでただぁ!?確かに自信満々にノープランに突きつけてたけど、
このスタンドもそんなヤバい能力を持ってるだなんて……どんだけだよあの組織)

悪の組織(自称)ディザスター。片やマグマを操る巨漢。片や接触即死能力(仮)を持つ女。
組織メンバー達の思わぬ『充実さ』に天の額から一筋の汗が流れる。

(……だったら組織の長である骸の能力はどうなるんだ……?まさか時を止めたり
パラレルワールドを行き来するんじゃあないだろうな……勝てないぞそんなスタンド)

天が骸の能力を考えている間にスマホには彼女からの新たなメッセージが届いていた。
その内容は「提案」であった。


【えれにゃん☆:そんな殴り合いが苦手な私とバトル初心者の天くんのために、
とっておきの決闘ルールを用意したよ☆どう☆?やってみない☆?】


決闘に不慣れな天に対する特殊ルールの提案。これにどう返答するかを天は思案した。

なにか目論みがあるのは明らかだし
スタンドに触れてたら……という話も彼女のハッタリの可能性もある。

だが先程、彼女のスタンドがノープランの拳に突きつけたあの尻尾に何かがあるのは
間違いないだろう。それくらい堂々とした、尻尾に絶対的な信頼を置いているかのような
立ち振る舞いだった。あの尻尾に触れたら最後、死なないとしても
『再起不能』に陥る可能性を天は拭いきれなかった。

1分程考えた後、天はえれにゃんに「OK」と書かれたスタンプを送った。
いくら考えてもキリの無いことだし、今の天には長考している時間はなかった。

その十数秒後、ありがとうとお辞儀をした例のカバのスタンプが送られてきた。
交渉成立である。


【えれにゃん☆:決まりだね☆……といっても別に小難しいことをする訳じゃあ
ないんだよ☆要するに……私と『かくれんぼ』しーましょ☆】

(……はぁ!?かくれんぼって……子供の頃やってたアレ!?)

特殊ルールというから何か頭を使う(天の超苦手分野)ゲームでもさせられるのかと
考えていた天はそのあまりにも子供じみた、頭をあまり使わなそうなゲームを提案され
少々拍子抜けしてしまった。彼女は天の返信を待たずにメッセージを続けた。


【えれにゃん☆:天くんの目の前にはスタンドしかいないでしょう☆?
これから1時間以内に、この公園のどこかに居る『本体の私』を見つけて捕まえたら
天くんの勝ち☆!出来なかったら私の勝ち☆!どう☆?簡単でしょう☆?】

(……確かに簡単だけど)と天は思った。これならえれにゃん☆も公園内で隠れるだけで
いいし、天も彼女を探し見つけるだけでいい。だが……


【天:いいけど、それってスタンド使う必要なくないか?】


そう、スタンドの関与が非常に薄い戦いになってしまうのだ。
天はえれにゃん☆を見つければ、えれにゃん☆は見つからなければ勝ち。
……そこにスタンドの関与できる隙はあまり無いように思える。……少なくとも、
ノープランの能力では介入の余地はあまりにも少ない。
……だが。


【えれにゃん☆:だいじょーぶ☆私はバリバリ使うつもりだし☆天くんも
対抗して使えばいいんだよ、てゆーか『使わざるを得ない』から☆】

どういうことだと天が思った直後であった。天の背後から、「オアアアアアア……」という
何者かの呻き声のような音が聞こえてきたのだ。


振り返るとそこには子猫が2匹……皮膚が剥がれ、蝿に集られた、
先ほどまで地面に斃れていたはずの可愛い子猫の死体が起き上がり、
天をじっと睨んでいたのだ!


「さっきまで死んでた猫が……何で」 「ニ゛ャアアアアア!!!」

天が異常な光景に唖然としていた……刹那、猫達は天めがけて襲いかかってきたのだ!!!

1833話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/07/06(金) 02:06:00 ID:/S6QtpY.0
「うわあああああ!ノープラン、何とかしろッ!」

『チュミッ!』

腐った猫の一匹が天の顔に飛びつき、彼の顔を引っ掻こうとした!だが
猫の爪が天の皮膚に触れる直前にノープランの掌が猫の胴体をビタァン!と
叩いた。猫は天の真横に吹っ飛び、公園の芝生の上に転がっていった。
猫は「アアア・・・」と痛そうな声を出してはいたが、骨や臓器が痛んだ訳では
無さそうであった。


【えれにゃん☆:どうよ、私の『キャント・ユー・セレブレイト』ちゃんの力は☆
尻尾に触れた者はみーんなゾンビになって私のいいなりになるんだから☆!】


キャント・ユー・セレブレイト……彼女のスタンドの名であろう。
スタンドの尾に触れた者をゾンビに変え、意のままに操る……
確かに触れたら最期、死んだも同然の状態になっていた。

「やっぱとんでもない能力を持ってたか……って!」

天は後方からまた例の呻き声を聞いた。振り向くと先程芝生に飛んでいったゾンビ猫に加え
新たに起き上がって来た新たなゾンビ猫……計5匹のゾンビ猫が天を威嚇していた。

『キャハハ!それじゃあゲームスタートだよッ!』

天がゾンビ猫に囲まれている隙に天の前にいたスタンド『キャント・ユー・セレブレイト』が
ゲーム開始を宣言すると空高く上昇し始めた。

「あっ待て!」とスタンドに呼びかけるも時既に遅し。スタンドは天の遥か上に舞い上がり
そのまま何処かへと飛んで行ってしまった。……恐らく本体の元へだろう。

急がなくてはならない。今から1時間以内に公園の何処かに居る本体を見つけ出さなくては。
だがその前に……

「「「「「オァアアアァァアアア……」」」」」

周囲に居るこの腐った猫の群れ……こいつらを何とかしなくてはいけなかった。
天は深い溜息を吐いた。


【ノープラン vs キャント・ユー・セレブレイト】
STAGE:門北自然公園


「「「「「シャアアアアアア!!!!」」」」」

天を囲っていた猫達が一斉に天に飛びかかってきた。天は身を屈めると迎撃の指示を送った。

「ノープラン、回転して薙ぎ払え!」

『チュミッ!』

ノープランは側に立ち両腕を横に広げると、グルっと勢い良く回転し始めた。
所謂「ダブルラリアット」である。

飛んできた猫は顔や胴体にノープランの腕が直撃し、次々に周囲の芝生や木の繁みに
吹っ飛ばされていった。

天のパワーは人より劣るが、ノープランのパワーは人以上。
飛びかかってくる猫達を追い払うことなど朝飯前であった……が。

「オ゛ァアアァアアァアアアァアァ……」
ノープランに吹っ飛ばされた猫が再び起き上がり天を睨みつける。
いくらパワーに優れているスタンドでも、倒しても倒してもすぐ復活する
不死のゾンビ相手では分が悪い。……ならば。

「悪いが猫にかまってる暇はないんだ……よッ!!!」

天は地面の砂利を手に取るとゾンビ達に向かって放り投げた。
ゾンビ猫が怯んだ一瞬の隙を突いて天は一目散に走り出した。すかさずゾンビ猫は
天の後を追った。

(えれにゃん☆とやらを探す前に……まずは雲雀さんの所に行こう!十本桜は近くだ!)


こうして、天とえれにゃん☆&ゾンビ達のかくれんぼは慌しく開始されたのだった。

1843話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/07/15(日) 22:41:16 ID:5Np2HQpI0
――公園内の何処か


「……戻ってきたわね、セレブレイト」

古びた自動販売機の横にあるベンチに座っていたえれにゃん☆ことエレナ・マースは
目線の先・上空から自身のスタンドが飛んでくるのを確認すると、手招きをして
スタンドを自身のすぐ近くまで接近させた。

「『かくれんぼ』でなんて言ったけど……天くんは今頃、猫ちゃんとの『鬼ごっこ』で
かくれんぼどころじゃあないはずよ。俊敏な猫ちゃん相手に何処まで逃げれるかしらね……
まずは高みの見物と行きましょうか……セレブレイト、例の『準備』の方お願いね」

エレナのスタンド、キャント・ユー・セレブレイトはエレナの指差す方向へと再び
飛んで行った。エレナもベンチから立ち上がると、手にしたスマホをいじりながら
公園の奥へと消えていった。

「……あ、このギター担いだ猿のスタンプ可愛いー☆!買っちゃお☆」ポチポチ


一方天はというと、ゾンビ猫5匹相手に鬼ごっこを繰り広げていた。
ゾンビになったとはいえ人より俊敏に動く猫相手に、天はあっという間に
距離を詰められていた……と思いきや、天と猫の間に空いた距離は
いくら経っても縮まることはなかった。『遅い』のだ。ゾンビ猫は全速力で
天を追っているが、猫のスピードは人並み……それも足の遅い小学生並の速度しか
出せていなかったのだ。


「『ノープラン』……さっき攻撃した時、猫全員に触れた。あいつらの速度は『俺と同じ』だ」


ゾンビの猫達の額や胴体には大きいバーコードがクッキリと現れていた。
天と猫達の速度は全く同じ……ならば、猫の隙を突いて先に行動した天の方が
猫よりも前に進めるし、天が転ばない限り猫達が天に追いつくことも出来ない。
更に猫達は天を追う前に攻撃を仕掛け、ダメージを受けているので
体力面でも差が出来ていた。なので……

「ニャ……ニャアアア……」

天に追いつく前に猫達のスタミナが無くなってしまったのだ。天と猫は体力も同格、
少し走っただけですぐに音を上げる程度の体力になった猫はその場に止まり
座りこんでしまった。

(……よし、今だ!)天はへばった猫達の視線が自分から逸れている事を確認すると、
側に生えていた大きな樹へ大急ぎでダッシュし、そのまま樹の後ろに身を隠した。


「ッ!?オアアァァアアアァアア……???」


体力が回復しきれていない猫達は天の全力の逃避に気付けなかったようで、
全ての猫が天を見失ってしまったようだ。猫達は辺りをしばらく見回すと、
互いの顔を合わせ何かを話し合い、そのまま散り散りになるよう移動を始めた。

(ゼェ……ゼェ……どうやらゾンビ達の行動には法則があるようだな。
目の前の標的を『攻撃』、少し距離が離れたら『追跡』、そして見失ったら『探索』
って所か……)

天はゾンビ猫が全て遠くへ行ったことを確認すると、息を整え大樹から離れ歩道へと戻った。
そしてそのまま歩道を進み、雲雀の待つ十本桜の元へ急いだ。

1853話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/07/16(月) 02:39:07 ID:NyCrr29Q0
天が雲雀の元へ急ぐ理由。
国綱からの指示を受けているのも勿論ある。国綱の窮地を救うためにも
雲雀の協力は必要不可欠だ。
更に雲雀は今回の『かくれんぼ対決』にはうってつけの助っ人になり得るのだ。
雲雀のスタンド、スター・キャスケット……その『飛行能力』を天は求めていた。

(空から公園を見下ろせばゾンビ猫達の動向も楽に分かるし、上手くいけば
本体も見つけられるかもしれない!……まあ木陰やトイレみたいな室内に隠れてると
上からじゃみつけられないだろうけど……お、着いたぞ!)


1分程歩いた所で天は目的地・雲雀が飲んだくれているはずの十本桜に辿り着いた……が。
そこには朝、天達が設置したシートや買ってきた酒やつまみが散乱しているだけで
肝心の雲雀の姿が何処にもない。

まさか酔っ払って何処かへ行ってしまったのか?えれにゃん☆だけではなく
雲雀も探しに公園を彷徨わなくてはいけないのかと天が危惧していると、
十本桜の中で一番太く大きい桜の樹の後ろから、高い声で誰かが泣いていることに気が付いた。

(……飲み過ぎると泣き出すって国綱さんが言ってたっけ……やれやれ)

天は雲雀の存在を確認し安堵した。
だがこれから天は雲雀の酔いを醒まさなければならない。酔ったままでは
駐車場に連れて行っても協力してくれるか分からないからだ。

「ひぐっ、ぐすぐす……」

「雲雀さん……大丈夫ッスか?……雲雀さん?」

天は樹の後ろへ回ると、泣いている雲雀に恐る恐る話かけた……が、様子がおかしい。
朝着ていた白と黒のTシャツに黒のハーフパンツ、横に転がっている酒の缶。
木の下で泣いているのは間違いなく雲雀のはずだ。だが……

背が低い。朝見た雲雀の身長は160cm程だったはずだ。
だがここに居る女性のは125cm……小学生程度の身長しかない。
着ている服も彼女には大きいようで、Tシャツの中に体全体が納まってしまいそうだった。


「ひぐっ……お腹空いたよぉ……食べたいよぉ……」

雲雀(のはず)は声をかけてきた天に自分の空腹を訴えてきた。
天は朝コンビ二で買ったお菓子を食べるよう薦めたが雲雀は首を横に振って拒否した。


……その時天は見た。見てしまった。
首を振った瞬間、雲雀の髪がなびき、髪の間から見えた首……その皮膚が

所々剥がれ、中から赤黒い肉とそこから湧き出た蛆が見えてしまったのだ。

天の目の前で泣いていた雲雀らしき小さな女性は……『腐っているのだ』!!!
まるでゾンビのように!!!


「ひ、雲雀さんッ!?」




「食べたいよォ……肉を……『お前のお肉』を食べたいよォ〜〜〜〜〜!!!」



「う、うわあああああああああああああ!!!」

雲雀は振り向き、天に顔を見せた。確かに雲雀の面影はあったが『幼かった』。
まるで小学生時代まで遡り若返ったようだった。
しかし顔の皮膚は剥がれ、腐敗した蛆まみれの血肉が露出していた。

(さっきの5匹の『子猫』、それに『子供のような』雲雀さん……やりやがった!
アイツのスタンド能力は尻尾で触れた者を『子供のゾンビ』に変え操る能力だったのか!
あの女、よりにもよって雲雀さんをゾンビに変えやがった……って痛え!)

雲雀が敵の毒牙にかかったことに戦慄している天の肩に激痛が走った。
噛まれたのだ。振り向いたゾンビ雲雀が天に飛びかかり、空腹を満たすため
天の左肩に思いっきり噛みついたのだ!

「し、しまった!ゾンビに噛まれたッ!ノープラン、どこでもいいから奴を『つねろ』!」

『チュ、チュミ!』

天の左肩から血が流れる。一刻の猶予も無かった。
ノープランの腕が天の左肩から出現すると、食事に夢中な雲雀の頬をギュっとつねった。
「痛い!」と雲雀が悲鳴をあげ、肩から口を離した。その隙に天は雲雀を突き飛ばし、
左肩を押さえながら大急ぎで逃げ出した。


「あーっ!待でー!食べがげのお肉が逃げだーッ!!!」

雲雀ゾンビの声が辺りに響いた。

1863話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/07/30(月) 03:41:31 ID:2D2POW8Y0
キャント・ユー・セレブレイトの能力はスタンドに触れた者を『ゾンビ化』し使役すること☆
スタンドの尻尾の部分で触れられた者は体が腐り、見た目や頭脳も子供になっちゃうのだ☆
更にゾンビはえれにゃん☆の命令で自在に操ることも可能なのだ☆すっごいでしょー☆!
でも安心して☆私が気絶するかスタンドに能力解除を命令すればゾンビは元の姿に戻るから☆
あとゾンビは人の肉や脳味噌が大好きなだけで噛まれたからってゾンビにはならないよ☆
デカい体で威張り散らしてる大人達ー、えれにゃん☆の能力で子供のゾンビにしてやろーか☆!
どーだ恐いだろー☆がおー☆

(以上、えれにゃん☆自身が作成したスタンド紹介文より引用☆近日公開予定の
ディザスター公式サイトに載せるつもりで書いたんだけど、リーダーに見せたら
書き直せって言われちゃった☆文体や語尾の『☆』がムカつくんだって☆余計なお世話だゾ☆)
--------------------------------------------------------------------------------
「な〜にが『がおー☆』だよ、ふざけやがって……」

十本桜を離れ、天は水道の水で傷口を洗いながらスマホの画面を睨み付けていた。

先程えれにゃん☆からスマホに彼女のスタンドに関する説明文が送られて来たのだが
その独特すぎる文体に天はいい加減イラついていた。
ゾンビになった者は元に戻せること、噛まれてもゾンビにはならない事を知って
ひとまず安堵はしたが、そんな人肉大好きモンスターが徘徊する公園内に隠れている
一人の女性を探さなくてはならない。更に駐車場で戦っている国綱に
『雲雀さんは敵の能力を受けて援軍にはこられない』と報告もしなければならない。

・・・・・・この2つの重い現実。肩に歯型の傷を負った天には受け入れ辛いものであった。


(さて……まずは国綱さんの所へ戻って二人であのマグマ野郎を倒してその後……ん!?)

ドグオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!

駐車場の方角から凄まじい轟音が聞こえて来た。
音源は察しが付く。あのマグマ使いだろう。駐車場で先程聞いたマグマの発射音の比ではない。
マグマ使いが『何かをした』のは間違いないだろう。それもとてつもない大技の類を。

(今の音は……!国綱さんが危ない!)
天は国綱の窮地を察すると大急ぎで駐車場へ続く道へ戻ろうとした……が。


「ウォォォアアア……ポチ……あそこに餌が歩いてるよ……」 「ヴヴヴ……ワ゛ンワン……」

「……おいでなすったか、『二人目』と『六匹目』……チクショウ」

1873話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/07/30(月) 03:45:47 ID:2D2POW8Y0
察するに『朝の散歩』の途中だったのだろう。
天の目の前にいたのは、犬用リードを握った子供のゾンビと、リードに繋がれた子犬のゾンビ。
その一組のゾンビが天を『美味しそうに』睨み付けていた。

(この道にはゾンビ……元は一般人と犬だから下手にスタンドを使う訳にもいかない……
仕方ない、別ルートで駐車場へ)「ヴォォアアァァオォァア」

背後で呻き声。振り返るとジャージを着用し、首にタオルをかけた子供のゾンビが
近寄ってきていた。恐らく『朝のジョギング』の最中にやられたのだろう。

「アアア……部活の練習に行がなぎゃアアァアァ……」
「ねえカズぐん……あぞこに美味そうなお肉がアアアア」


ジャージ姿のゾンビだけではない。公園の至る所からゾンビの呻き声が近づいてくる。
周りを見ると、制服を着たゾンビにカップルのゾンビ、ボールを持ったゾンビ。
その他諸々・20人以上の子供ゾンビが天を美味しそうに見つめながら迫って来ていたのだ!!!

(ううううう嘘だ嘘だ嘘だ!あのアマあああ!公園に来てる罪も無い人達を片っ端から!
いや公園だけじゃあない、公園の近くを歩いてた人にも能力を使ったな!
あいつには節操ってえもんがないのか!!!)

様々な理由で公園に来た人達を己の兵隊に変えたえれにゃん☆に天は怒りを覚えた。
……が、その感情はすぐに絶望へと変化してしまう。

「みんなー!お肉は駐車場に続ぐ道に居るよぉぉぉぉぉ!集まれえええええ!!」

天の真上から子供の声が聞こえてきた。えれにゃん☆の声では無い。しかし
『先程聞いた声』だ。

猛烈に嫌な予感がした天は大量の冷や汗をかきながら上を見上げると、そこにいたのは
スター・キャスケットに跨ったゾンビの雲雀であった!

「ハハハ……ゾンビになってもスタンドは使えるのな……おかげで俺の動きは
上から全部筒抜け……こんな……こんな状態でどうやって
アイツを探せばいいんだよおおおおおおおおおお!!!」

天の腹の底からで絶叫しながら今居る場所から全速力で走りだした。
ゾンビ達は一斉に天の後を追い、雲雀も空から追跡を開始した。


(……フフ、これで天くんは私を探すことは出来なくなった。
20体の『鬼』に追われて何時まで体力が持つのかしら?それに、ゾンビ達から逃げて
必死に私を探そうとしても、私は『絶対に見つけられない』……
残り時間半分、もう勝ちは決まったも同然ね。にひひ☆)
----------------------------------------------------------------------------------

――同時刻 門北地区センター 食堂

「おむすび良し・揚げ物類良し、煮物類・野菜類良しっと。料理は全部重箱にいれたぜ」

「ありがとう子猫ちゃん、これでお花見のお弁当は出来上がりね」

食堂内の厨房では管理人率いるアパートの女性陣が分担してお花見用の弁当を作っていた。
管理人と白雪が料理を作り、子猫が料理を重箱に綺麗に詰める。
猫のシャロンは足元で料理を物欲しそうに眺めていたが、猫が厨房に入ってはいけないと
食堂のおばちゃんに追い出されてしまった。
雲雀は「飲み物担当」ということで、酒やジュースを沢山買うよう
管理人に指示されていた。

「そういえば管理人さん、今日はウチら以外にも人が来るんだったよな?
藤鳥さんの彼女だっけ?確か……」

「咲良さんね。彼女なら先に公園に行って藤鳥さんと一緒に場所取りを
してくれるそうよ。もう公園に着いた頃じゃあないかしら」



そう。天の彼女・大河原咲良の来訪によって、天は最大のピンチを迎えようとしていた。


「全く天ったら、いくらメッセージを送っても全然反応しないんだから!十本桜というのは
何処にあるのかしら……しかし何か騒がしいわねえ……」



「……ああああ……新しいお肉……」

1883話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/08/20(月) 00:34:27 ID:k1r5P0Hs0
公園をあてもなく走る天。それを追いかけるゾンビ達。その数20体!
「オ゛アアァア゛アアァ゛ァァアア゛……」

その光景を宙に浮かぶシャボン玉を通して見ていた者がいた。
圭との戦いに勝利した国綱である。


「ゾンビを作り操る能力……兄さんが危ない!今助けに行くッス!」

国綱は天のピンチを察し駐車場を後にすると、大急ぎで天の元へ向かおうとした。
その時であった。


「キャアアアアアアアアアアアア!!!」


何処か遠くの方から、女性の悲鳴が小さく聞こえて来たのだ。

(今の悲鳴は……雲雀の姐さんじゃあない。別の誰かの声だ。
……まさかあのゾンビ共、無関係の人を!急がなくては!)

ゾンビが女性を襲おうとしている。国綱は自分の予感が外れている事を祈りながら
女性の声が聞こえた方へ走り出した。


その声はゾンビの群れからかろうじて逃れ、公園内の男子トイレの個室に隠れていた
天とノープランにも聞こえていた。

『……!女性ノ悲鳴デス。コノ町ノ人デショウカ?マズイデスヨ、公園ニゾンビガイルト
騒ギニナッタラモウ決闘ドコロデハ……マスター?』

「……咲良?」

天はこの悲鳴に聞き覚えがあった。
自分の彼女である咲良が上げる悲鳴によく似ていたのだ。

(……確かに咲良は今日花見のために来てくれる……が、咲良には昼頃来るよう
一昨日言っておいたからこの時間はまだ来ていないはずだが……?)

天はスマホを取り出すと咲良に電話で今何処に居るか確認しようとした。
すると画面に『新着メッセージが5件あります』と表示されていた。
どうせえれにゃん☆からだろう。残り時間も少ないから挑発メッセージでも送ったかと
アプリを起動すると、これらのメッセージはえれにゃん☆からでは無いことが分かった。
その送り主は……

「…………」

『マスター?手が震エテマスヨ?チュミミーン』


30分前
【咲良:おはよう天!本当はお昼ごろ門北に行くつもりだったんだけど、
私もお花見の場所取りをすることにしたから早めにそっち行くね!
(昨日管理人さんと電話で相談して決めたの)あと30分で門北に着くと思う】

10分前
【咲良:今門北に着いたから公園に向かうね!ところでお花見をする十本桜って
公園の何処にあるの?】

5分前
【咲良:そろそろ公園だけど……今までのメッセージちゃんと見てる?】

3分前
【咲良:通話着信あり】

1分前
【咲良:さては読んで無いわね天!しかたない、もう着いたから自分で調べるわ!
しかし何か公園が騒がしいけど公園で何かあったの?】


「咲良が……公園に来てる!あの悲鳴は咲良のモノだ!!!!!」
天が大きく叫んだ。その顔からは血の気は無く、真っ青に染まっていた。

「咲良ッ!まさかゾンビにッ!?」

天が再び叫ぶと個室のドアを大きく開けた。
扉を開けるとそこには数体の子供ゾンビが個室を囲んでいた。
既に数体のゾンビに居場所を気付かれていたのだ。
だが。

「そ こ を ど け !」『チュミッ!』

ゾンビの群れを見るや否や、天はノープランをゾンビの群れに思いっきり体当たりさせた。
ゾンビ共は当たった衝撃で吹っ飛ばされ、トイレの壁に激突した。

「お前らに構っている暇なんか無い!咲良アアアアアア!!」

天は公園のトイレを出ると、大急ぎで悲鳴の聞こえた方へ走り出した。

1893話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/09/11(火) 03:29:33 ID:JTrSu4G60
「キャアアアアアアア!子供のゾンビ可愛い!何コレ映画の撮影!?
ゾンビのメイクすごいリアル!蛆まで湧いて超ヤバいんですけど!
ちょっとキミたち写真撮って良い?あとで天にも見せよーっと♪(パシャパシャ)
キャアアアア!凄いたくさーーーーん!撮りきれなーい!」

「アアアァァァアァァ……何だごいづゥゥ……」

公園の入口近く。徘徊するゾンビ達を目撃してしまった咲良は悲鳴を上げた。
恐怖による悲鳴ではない。アイドルや映画俳優を生で見た時に発する
所謂『黄色い悲鳴』を咲良は上げていたのだ。(実に嬉しそうな表情で)

一方、予想外の光景にゾンビ達も少々戸惑っていた。
自分達を恐れず、むしろ会えて感激みたいなリアクションをする人間を食っていいのか?
子供の知能しか持ち合わせていないゾンビ達には判断が出来ずにいた。
結果、ゾンビは咲良の周りを囲み様子を見るだけでソレ以外のことは一切しなかった。


(何よコイツ……いい年して子供みたいにキャーキャー言っちゃって、みっともない。
私のゾンビを見てこんなリアクションしたのコイツが初めてじゃあないかしら……
でも面白いわね。今こいつ『天にも見せよう』って言わなかった?もしかして
天くんの知り合いかしら?まさか恋人だったりして?だったら……)

咲良とゾンビ達の様子を『どこかで』見ていたえれにゃん☆ことエレナ・マースは
何かを思い付くと自身のスタンド、キャント・ユー・セレブレイトを出現させ
咲良の背後に接近させた。……いつでも『尻尾で触れる』距離まで。

(天くんも必死に足掻いてるようだけど、大切な人ををゾンビなんかにされたら
心もポッキリ折れるんじゃあないかしら……それじゃあセレブレイト、
その心の幼いレディをゾンビに)


「ノープラン!!!」 『チュミッ!!!』


キャント・ユー・セレブレイトの尻尾が咲良の背中を突こうとした寸前、
エレナの臀部に激痛が走った。まるで誰かに殴られたような衝撃だった。

見ると、ノープランの拳がキャント・ユー・セレブレイトの臀部……つまり尻を
思いっきり殴っていたのだ。セレブレイトは殴られた衝撃で
数メートル程吹っ飛んでいった。

あまりの痛さに思わず声が出そうになるが、エレナは歯を食いしばってそれに耐えた。
……その形相は醜く歪んでいたが。


(危ない所だった……あのアマ、やっぱり騒ぎに乗じて咲良をゾンビにしようとしてやがった!
雲雀さんや他の人達……コイツには対象をゾンビに変えるという
恐ろしい能力を使う事に一切の『ためらい』が無いらしい!駐車場のマグマ野郎といい
ディザスターに属する奴らは『こんなの』しかいないのか……?まあとりあえず……
咲良が無事で良かった……ゼヒ……ゼヒ……)

エレナのスタンドを撃退した天は安堵の表情を浮かべた……砂利道にぶっ倒れながら。


咲良の悲鳴を聞き、大急ぎで自身の体力を一切考慮せず全速力で悲鳴の聞こえた方へ向かい
そこで咲良と彼女に尻尾を触れさせようとしているスタンドを発見、大急ぎで
スタンドの臀部をノープランで攻撃し、そこで体力が尽き現在に至る……という訳である。

1903話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/09/28(金) 00:29:57 ID:akra3omc0
「ちょっと天、大丈夫?いきなり走って来たかと思えば輪に入ってきて急に叫んだりぶっ倒れたり。
体力もロクにないのに全速力で走るもんじゃないわよ、はい冷たいお水」

咲良は満身創痍の天に水を渡すと彼の息が整うのを待った。その間
咲良はゾンビ達に囲まれ幸せそうな表情を浮かべていた。

(……咲良の奴、やっぱりゾンビ達相手にキャーキャー言って迷惑をかけてたか。
咲良のホラー映画好きにも困ったものだ。この手のモンスターを『可愛い』とか言って……)

「なんか言った天?いやいやそれより見てよこのゾンビ達!Jホラーもここまで来たのよ!
ほら、この子なんか蛆が可愛くウネウネと……」

「……咲良、そのことについてちょ〜っと話がある。とりあえずこの輪から出よう。
ここに居続けるのはマズいからな……ホレ」グイッ

「ああっ、急に引っ張らないでよ天!」

天は立ち上がると咲良の手を握り、ゾンビ達の輪から抜け出そうとした。
困惑の表情を浮かべていたゾンビ達も二人が輪から出たがっていることを理解すると
少しだけ移動して二人を輪の外へ出そうとした。


……それを『彼女』が許す筈もなく。


(なあ〜〜〜〜〜〜にボーッと逃がそうとしてんのよこの腐れ兵隊共があああ!
『食べる』のよッ!あの新鮮な肉を!図体ばかり大きくてトロそうな肉、
これを逃したらもうチャンスは無いんだからッ!!!)


「「「あ゛あぁ……分がっだ……あ゛の゛肉を゛……『食えばいいのがぁ』……」」」


二人が輪から出た時。天は彼らの声が聞こえたのか、ゾンビの群れの方に振り向くと
咲良に言った。


「………咲良、悪いけど俺の背後に回れ、俺から離れるな」

「??どったの天?まあそこまで言うなら従うけど」


咲良が天の指示に従って彼の背後に回った直後であった。

ゾンビ達が『何者か』の命を受けたかのように、天と咲良目掛けて
一斉に襲いかかって来たのは!!!

「キャアアアアア!あの子達ったらサービス旺盛!この演技なら観客も大満足よ!
てゆーか動きもすごく可愛い!キャー!」


(やっぱそうなるよなぁ……まあいいや、薫さんに教わった『あの技』を試してみるか!)


ゾンビ達が二人に迫ろうと飛びかかる。その時であった。

ボグォ!!
「ヴェエエエェエェ!?」

ゾンビ達の中の一匹、その顔面にノープランの右ストレートが直撃した。
ゾンビは衝撃で遠くへふっ飛んでいった。

直後、別のゾンビのボディにノープランの左ストレートが炸裂。地面に叩き付けられた。
そのまた直後、ゾンビの顔に右ストレート、別のゾンビに左ストレート……
ノープランの拳によって、ゾンビ達が凄まじい『速度』と『勢い』で殴られ、
次々にふっ飛んでいった!


「両拳を使っての高速の連続突き……成程、これが『ラッシュ』か!」

1913話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/09/28(金) 01:44:32 ID:akra3omc0
数日前。天はスタンド研究者である望月薫に『ラッシュ』の仕方を教わっていた。
薫曰く、これはパワーやスピードのあるスタンドが使う技の一つで
これを覚えれば工夫次第でどんな敵ともある程度は戦える、とのことだった。

ラッシュをしている間は何らかの『掛け声』を叫ぶのが効果的という
薫の言葉に従い、天も何らかの声を挙げようとした……が。
スタンドのことを知らない咲良が背後に居る。ここで大きな声で何かを叫ぶのは
恥ずかしい。なので自分ではなくノープランに掛け声を叫んでもらうことにした。


『ゾンビノ皆サン、シバラク寝テテクダサイ……チュミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミ
ミミミミミミミミミミミミミmmmmmイテテテテテテ舌噛ンダ!
マスター、コノ掛ケ声ハ無理ガアリマス、チュミミーン!デモコレデ全員ッ!』


いつもチュミミーンと言ってるノープランだから、チュミミミ言いながらの
ラッシュも出来るのでは無いかと実践してみたが、『ミ』を連呼するのはキツかったらしい。
舌を噛んだ痛みが本体の天にもしっかりと伝わってきた。
「スタンドにも舌はあるんだな」と天は舌を出しながら痛そうな表情を浮かべていた。

だがゾンビ達への攻撃は無事完了したようで、襲いかかってきたゾンビは皆
ノープランの拳によって吹っ飛ばされ、公園の地面に呻き声を上げながら倒れていた。


「何とか倒したか……だけど相手はゾンビ、すぐに起き上がってくるだろうから
急いでここから離れないと……ん!?」

この場から離れようと試みる天のスマホが振動した。
画面を見るとえれにゃん☆から怒りのメッセージが届いていた。


【えれにゃん☆:このスカタンがああああああ☆!!!
よくも私の可愛いスタンドをブン殴ったわね☆!?もう許さないんだから☆
アンタもそこの彼女っぽい女も仲良くゾンビにしてやるんだから☆!!!】


文面から若干だが本性が見えて来ていた。それでも語尾に☆を付けるクセ(キャラ付け)は
徹底しているのに少し感心しながら、天はえれにゃん☆に返信した。

【天:テメーが咲良をゾンビにしようとしたからだ!お前を見つけて
絶対にギャフンと言わせてやるからな!】

天はメッセージを送信し終えると咲良を連れて再び公園の奥へ入っていった。
……決闘の終了時刻まで残り15分。天達はえれにゃん☆を見つけられるだろうか?


ブーッ
「……あら?何かしら、今の『音』?」


公園の入口から離れる最中、咲良がふと呟いた。

1923話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/10/10(水) 21:44:14 ID:iBu7knQ60
「えっ、町興しのイベント?あのゾンビ、近所の子供達のメイクなの!?」

「そうそう、ホラーで町を活性化ってことでね……」


よくもまあ、こんなデタラメを平然と言えるものだと天は心の中で自虐した。
だが流石に「スタンドという超能力で子供のゾンビにさせられている」なんて
(それが事実だとしても)何も知らない咲良に言える訳がない……言った所で
信じてもらえる訳もない。でもゾンビはしっかりと目撃されてしまった。
下手に騒ぎを拡大させず、穏便に済ませるにはこの言い訳しかないのだ。

更に天は咲良と離れることがないよう、エレナの捜索を咲良と一緒に行うことを考えた。
「今イベントの一環でかくれんぼゲームを開催していて、この画像の女の子を見つけたら
素敵な商品が貰える」とエレナの写真が映ったスマホを見せ、
咲良に「一緒に景品をいただこう!」と嘘に嘘を重ねたのだ。


急ごしらえの見え透いた嘘。だが
「素敵な商品!?参加する!不逞の輩をひっ捕らえよう!」とあっさり信じて貰えたのは
二人の絆の深さ故か、あるいは単に咲良が騙されやすい性格だからか?


「それで、この青い髪の女の子を探せばいいのね!?制限時間残り15分?
じゃあ私は女子トイレとかを探してみるわ……キャア!」

咲良がスマホを見ながら鼻息を荒くしていた時、公園の入口方面から
先ほど倒したばかりのゾンビの集団がこちらに向かってノロノロと歩いて来たのだ。
犬を連れた者、ボールを持った者、スマホをいじっている者……
それらを見た咲良は目を輝かせ黄色い悲鳴を上げた。


(やはりすぐに復活したかゾンビ共……だがノープランの能力で
俺以上の力は出ないから咲良でも抵抗は可能だろう。下手すりゃ倒せるかも。
……しかし『女子トイレ』か……確かにそこに隠れられたら男の俺では絶対に
見つけられない場所だ。一応アイツに問い質してみるか?ロクな返答は期待できないが)

天はスマホを操作するとえれにゃん☆にメッセージを送った。

【天:まさかとは思うが、女子トイレなんかに隠れてはいないだろうな?
せめて俺が堂々と立ち入れる場所に隠れて欲しいんだけど】

メッセージを送ると天は咲良に「ゾンビに捕まったら失格だからここを離れよう」といい
公園の奥へ進むよう促した。咲良は頷き、共に公園の奥へ移動しようとした。


ブーッ
「……まただ。なんの『音』なんだろう?」

1933話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/10/27(土) 02:04:49 ID:2ojY3GXw0
【えれにゃん☆:安心して☆そんな所には隠れてないから☆!でも大丈夫☆!
どう足掻いても天くんの頭では絶対見つけられないから☆!ほらほら、あと15分だよ☆
にぱー☆】


「なーにがにぱー☆だ、あのアマ……完全に勝ちを確信して挑発してやがる!」

「ところで天、さっきからスマホで何してるの?何か物凄い顔で画面を睨み付けてるけど」

咲良にそう言われた所で天は我に返った。聞けば鬼の形相でスマホを操作していたらしい。
例の女の子(ゾンビを操る黒幕という設定と咲良には言ってある)から定期的に送られてくる
挑発的なメッセージを見ていたと説明していると、ブーッという振動と共に
新着メッセージが送られてきた。またアイツからかと見てみると、
送信元はえれにゃん☆ではなく国綱からであった。

【クニツナ:兄さん大丈夫ッスか!?こっちはマグマ野郎を倒して
そっちに向かってたんスけど、途中で厄介な人?に襲われまして……
兄さん、この姐さん?どーすればいいッスかねえ? ( ;´Д`)】

メッセージには画像が添付されていた。見るとそこには、真っ赤な顔をして
スヤスヤと眠っているゾンビ雲雀の姿があった。なんでも、いきなり空から
「新しいお肉だ!」と叫びながら箒に乗って突進して来たので、咄嗟にヘブンリーで
雲雀を包み動きを封じ、シャボンの中で思う存分暴れさせた後、疲れてしまったのか
そのままシャボン玉の中で眠ってしまったとのことだ。

国綱の安否を確認出来たことに天はまずホッとした。そして
(そういえば国綱さんに雲雀さんのこと言ってなかったっけ)と考えながら
国綱に事情を説明し、【多分今も酔ってて、このこともすぐ忘れると思うんで
花見用のシートにでも置いといて下さい☆にぱー☆】というメッセージを送信した。
……送った後、えれにゃん☆の文体が自身に感染ってしまったことに気付き、苦笑した。



……あれから10分。

「咲良、そっちの自販機の裏はどうだ!?」

「ダメ、誰も隠れてない!」

「そうか……」

天と咲良はゾンビ達に追われながら公園の大半を探し尽くしていた。
ベンチ・自販機・木の繁み・遊具の中……
隠れられそうな場所は一通り見て回ったが、エレナはもちろん
猫や鳥の姿すら確認出来なかった。

(マズいぞ……残り5分!探せる所はあらかた探したがアイツの姿がどこにも無い!
奴のスタンド能力は姿を消す類のモノではないから何処かに隠れているはずなんだ!
なのに何故何処にもいない……ん?)

残り時間も僅かとなり焦りだす天のスマホがブーッブーッと振動しはじめた。
スマホを取り出すと管理人からの電話であった。

「もしもし……ええ、あと5分で公園に着く!?分かりました、お待ちしてます……
ハイ、では」

もうすぐアパートの面々が公園に来ることを知った天は更に焦った。
場所取り担当の一人がゾンビと化していたからだ。管理人達が来る前に
一刻も早くえれにゃん☆を見つけて決闘を終わらせ、雲雀の体を元に戻してもらわねば!

1943話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/11/17(土) 23:25:44 ID:ZsrNwD320

「あーっ!分かった!」

突然、咲良が大きな声を上げて何かに気付いたかのように手を叩いた。
何事かと聞いてみると、咲良は天の持っていたスマホを指差してこう言った。

「振動よ、バイブレーション!いやね、さっきから公園でブーッブーッって鳴ってたから
何の音かなーって思ってたんだけど、今天のスマホから聞こえた振動音と同じなのよ!
そっかそっか、『あの子』から聞こえて来たのね!あースッキリした!」

とびきりの笑顔で一人納得した咲良。天は「そ、そうか」と相槌を打った。
このご時勢スマホは老若男女に行き渡っており、門北にもスマホを持っている人は
沢山いる(と思う)。公園のどこかでスマホの音が鳴っていてもおかしくはない。

「ん?『あの子から』ってことは咲良、公園のどこかでスマホを持ってる奴を見たのか?」

「うん、ゾンビの中にスマホ持っていじってる子がいたの。いやよね、
イベントの最中だってのに演技もせずに自分のスマホを夢中でいじっちゃってさ」

(演技ではなく本当にゾンビにさせられた人なのだけど)と天は心の中で思った。
ホラー映画好きの咲良はその演技の出来ないゾンビに不満があるらしく、
えれにゃん☆捜索も忘れ愚痴を言い出してしまった。
こうなると語り尽くすまで止められないのは天も分かっていることなので
黙って聞いていたが、その途中で咲良は妙なことを言い出したのだ。


「……それでね、そのゾンビの子のメイクもダメだって私思う訳よ!
他の子は蛆とかも湧いてて超不気味なのに、その子だけメイクが適当というか
低クオリティなの!メイクさんが手を抜いたのかしら?ゾンビを舐めてるというか……」


……ゾンビの『メイク』が一人だけ下手。
これはどういうことだろうか?と天は思った。アレらが『ゾンビのメイクをした人間』
だという話は天が咲良に言った作り話でしかない。本当はスタンド能力で化物に変化させられた
『本物のゾンビ』なのである。故に、身体から湧く蛆も腐った肉も全てが本物で
断じて特殊メイクで変装している訳ではない。


「……そのゾンビ、どんな姿をしてるか分かるか?」

「分かる分かる!さっき写真撮ったもん!ほら、この黒髪の女の子!」

咲良は画面を指差しながら自分のスマホを天に見せた。
画面には困惑の表情を浮かべながらこちらを見つめるゾンビ達の姿があった。
その中で咲良が指差した所には、確かに背の小さい黒髪ロングヘアーの女の子がいた。

(……確かにこのゾンビだけ造詣が違う。彼女の顔には蛆や剥き出た肉は無く
目の周りがパンダのように黒くなっていて、口や額から血が流れているだけで済んでいる。
身体も蛆が湧いておらず、ボロボロの服が血液で汚れているのみだ。
逃げるのに夢中で気付かなかったが、こうして冷静に見てみると差は一目瞭然だ……
なんだ?ゾンビ達に生じたこの『差』は?)

天は画面の女の子をジッと見つめ考え込んでいた。かくれんぼには関係の無い事柄な上
残り時間も僅かで思案に暮れている暇などないのだが、そこは後先考えず生きる男・天。
自分の気になることをついつい最優先してしまうのであった。

「……!ちょっと天、またゾンビ達よ!早く逃げなきゃ……あ!」

咲良の声を聞き顔を上げると例のゾンビ達が迫ってきていた。

……その群れの中に、蛆の湧かない『スマホをいじる少女ゾンビ』もいた。

それと同時に、えれにゃん☆からのメッセージが届く。文面を見るに、
これが最後のメッセージのようだ。

【えれにゃん☆:残り5分☆もう私を見つけるのはもう無理だね☆今私の兵隊達を
天くんの所へ集めてるから、大人しくみんなに食べられてね☆バイバイ☆負け犬クン☆】

1953話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/12/19(水) 00:59:36 ID:oGXhVmtA0
(マズいッ!あのアマ最後の仕上げにかかりやがった!このままだと俺ら
ゾンビに食べられちまう!……もう決闘ごっこはやめだ、さっさと逃げよう!)

ゾンビ達の主はこの場にゾンビを集結させ、ゾンビ達に『食事』をするよう命じたようだ。
命の危機を感じた天は咲良の手を掴むと一目散に公園から離れようと走り出した……が!

『ダメダメ!逃げようったってそうは行きませんよ〜だ!』

逃げる天達の上空からキャント・ユー・セレブレイトが甲高い声を上げ手を叩き笑っていた!
さらに前方・横からもスタンドに呼び寄せられたゾンビの群れ!
……天達は四方をゾンビ達に囲まれてしまった!
人間のゾンビの他に最初に戦った子猫のゾンビ、子犬のゾンビに鳥のヒナのゾンビまで
多種多様、様々な子供ゾンビが天達を味わおうと集結していたのだ!

「ちょ、ちょっと天!この猫や犬もメイクなの?鳥のヒナにまでゾンビのメイクなんてさせて
ちょっと引くんだけど……」

流石の咲良もこのゾンビの品揃えに違和感を覚えたようで、顔を青くしながら天の後ろに回る。
恐らくかくれんぼの制限時間を過ぎた瞬間、えれにゃん☆の指示でゾンビの群れが一斉に
天と咲良に襲いかかってくる仕組みなのだろう。

(こいつら、咲良を助けた時の数倍の数がいやがる!スタンドのラッシュで
ある程度は倒せても、こんな数に一斉に襲われたら攻撃が間に合わない!
おまけに後ろには咲良!守りながら戦うにも限界がある!クソッこうなったら……)

えれにゃん☆の放った人海戦術に対抗する術が無いことを悟った天は
スマホを手にすると大急ぎでメッセージアプリを起動し操作する。

【天:緊急事態ッス国綱さん!今ゾンビに取り囲まれて喰われそうッス!
今からじゃあ間に合わないかもしれないッスけど来て欲しいッス!
場所は十本桜の南、赤い自販機のある所ッス!】

国綱への緊急援軍要請である。かくれんぼ終了までもう3分もない。
それでも大急ぎで来てくれれば間に合うかもと天は考えたのだ。
国綱のマグマをも防ぐシャボンがあればゾンビ達の猛攻も凌げる。
少なくとも咲良は公園から逃がす事はできる……そう信じた。

ブーッ
天がメッセージを送った直後、例のスマホゾンビのスマホから大きな振動音が鳴った。
少女は画面を見ると素早い指の動きで何かを操作しているようだ。

ずいぶん大きなバイブ音が鳴るスマホだなと思いながら天はいつ襲ってきてもいいように
ノープランに迎撃の態勢をとらせていた。


ピロン♪
天のスマホから音がなる。メッセージが届いたらしい。国綱さんからの返事だろうかと
スマホを見るとスタンプが一つ送られてきたようだった。その絵は。


ピンク色のカバがアッカンベーをしているものであった。


(ちょっ、国綱さん!?)天は目を見開いた。
まるで『誰が助けになんか行くもんか』と言わんばかりのスタンプのチョイスに
天は怒りを覚えた……が、その感情は一瞬で引いていく。

差出人はえれにゃん☆からだったからだ。
何故急にこんなスタンプを?と確認してみると、天は自分がとんでもないミスを
してしまったことに気がついた。


(し、しまった!さっきの援軍要請……間違えて『えれにゃん☆』に送っちまってた!!)

1963話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/01/15(火) 03:14:51 ID:Y61lMXdg0
『キャハハハ、バーカ!慌てて送信相手もロクに見ないで送ったでしょ!カッコ悪〜い』

天達の上空でキャント・ユー・セレブレイトが手を叩きながら大声で笑っていた。
その甲高い声に加え、彼女の勝ち誇った……勝利を確信し安心しきったようなその声が、
今の天には非常に腹立たしく聞こえていた。

『コイツが幹部候補だなんてリーダーも見る目ないわねー!こんな奴問答無用で不合格よ
不合格!罰としてゾンビ達のごはんに……』

「……はぁ?」

突然出てきた『幹部候補』なる言葉に思わず天は反応してしまった。
そしてその後に続く『不合格』……自分は何か試されていたのだろうか?
不審に思った天は自然とメッセージアプリに率直な疑問をぶつけていた。

【天:待て待て待て!幹部候補って何の話だ!?】……返事はすぐに来た。

【えれにゃん☆:無論天くんの話だよ☆キミは今回の戦いぶり次第で
ディザスターの幹部になれるはずだったんだよ☆?でもこの様じゃあ合格は無理ね☆!】


……少しの間、天の口は開いたままになっていた。

骸が勝手に自分をディザスターに入れようとしていたこと。勝手に幹部候補に選ばれていたこと。
今日の決闘が自分の力を試す場であったこと。

色んな事をいっぺんに知らされた天は、戸惑いや怒り等の様々な感情を胸に抱きながら
えれにゃん☆にメッセージを返した。

【天:……アンタらのリーダーに直接言いたい事があるから
試合時間ちょーっとだけ止めてもらっていいかな?】
------------------------------------------------------------------------------------
「全く圭の奴、天下原相手に負けやがって……エレナはエレナで何処に居るんだか」

同時刻……門北自然公園にあるベンチの上でディザスターのボス・骸は
ジュース片手にボヤいていた。
圭と国綱の戦いを最後まで見る事ができず(圭の敗北は時田から聞かされた)、
天とエレナの戦いを見ようと再び公園に来てみればエレナの姿はなく、代わりに彼女が
スタンドで作った猫ゾンビ達に追われまくり、結果顔にはひっかき傷だらけ……
今日の骸は散々であった。

そんな骸のスマホに天から電話が来たのはついさっきのことであった。

「(天からだ。そういえばこないだ番号も教えてたんだった)はいもしも……」
『もしもしじゃあねーよこのガキ!!!』

電話に出た直後、スマホの向こう側から大声が響いてきた。どうやらお怒りのご様子。

『なんだ幹部って!人を面接試験みたいに試すマネしやがって!』

「ああそのことか……まあそのまんまだよ。お前はスタンド使いだし悪の素質もある。
もしエレナを倒すことが出来たら我等の組織に入る権利や我と戦う権利を……」

『そんな権利いらんって言ってるだろ!こっちは就活のせいで試験って概念が
嫌いになってんだ!今度組織に誘うマネをしたら……ん?何だ咲良……いや電話の相手に
言ったんだ。いいから俺の後ろに……』

天の怒鳴り声の後、小さな声で誰かと会話をする天の声が聞こえて来た。

「……?誰か近くにいんのか?サラ……お前のツレか?」

『……お前のおかげで無関係の咲良までゾンビに喰われそうになってんだよ!
どうしてくれるんだ!』

ああ、なるほどな。と、骸はスマホの向こうで何が起こっているかを理解した。
彼女の得意とする戦法にまんまと嵌ってしまっているのだな、と。


「なあ、今エレナとかくれんぼしてるんだろ?教えてやろうか?『今アイツが何処に居るか』」

1973話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/03/03(日) 04:19:45 ID:FSj9nKHE0
『なっ!?なんで分かった、今かくれんぼしてるって!?』

やはりな、と骸は思った。ゾンビが蠢く中でのかくれんぼ勝負……
それがえれにゃん☆ことエレナ・マースの得意とする戦術なのだ。
となると公園で今何が起こっているか骸には手に取るように分かる。

「今お前は……『エレナのスタンド』からかくれんぼ勝負を挑まれて
ゾンビに襲われながらも必死にエレナを探すも全く見つからず、現在敗北寸前……
って所だろ?」

受話器の向こうから『見てたのか?』と聞こえてくる。
エレナは『あの頃』から戦い方を変えていないのか、と骸は昔を思い出していた。
「ゾンビを操る子供が隣町の不良共を倒した」……その噂から
スタンド使いの匂いを感じ、組織にスカウトすべく噂の主に会いに行った数ヶ月前の事を。

何処に居るか教えてやろうか。その問いに天は沈黙していた。
窮地に追い込まれてはいるが、敵に答えを直接教わるのも借りを作ったようで癪だ。
そう考えているのだろう。

ならば、と骸は答えではなく『ヒント』を与えることにした。
「……いいか、エレナはかくれんぼをする度に毎回『同じ所』に隠れる。今は公園だが、
それが学校の校舎内でも家の中でも変わることはない。……極端な話、
『砂漠のド真ん中』でかくれんぼをしてもエレナは同じトコに隠れるだろうよ」

『はぁ?場所は違うのにいつも同じ所に隠れるだと?矛盾してないか?』

「それともう一つ。エレナは非常に往生際が悪い。例えエレナを見つけたとしても
奴は平気で『しらばっくれる』。確実にエレナを見つけたという証拠を見せつけてやれ」

『いやいやいや!見つけたらそれで終わりだろう!何でしらばっくれることで勝負が
長引くんだよ!?』

受話器の向こうから聞こえてくるツッコミに骸は気持ちは分かる、と心の中で思った。
だが今までのヒントは全て事実だ。これは数ヶ月前、入団前のエレナとのかくれんぼ勝負で
敗北寸前まで追い込まれた骸だからこそ出せる『ほぼ答えのヒント』なのだ。

「……長話するとエレナが怒るかもしれないからこれで最後だ。お前、今に至るまで
エレナ『本人』と会ったことないだろ?会話はスマホかスタンドを通じての二つのみ、
エレナの顔も我が送った画像か本人から送られてきたアプリで加工しまくりの自撮り写真でしか
確認できない、違うか?……何故奴はお前に姿を見せないのか、その理由を考えるんだ。
それじゃあ、健闘を祈る」

『おい、ちょっと待……』

天の言葉を待たず骸は通話を終了させた。

(組織に来る気がないと分かれば、試験も兼ねていた今回の決闘は
さっさと終わらせるに限る。奴の力量はいずれ我が直々に測るとしよう。
なあに、時間はまだ沢山ある……ん?また着信が?)

骸はスマホに来た着信を確認すると電話に出た。
「もしもし……え?花見用の弁当を運ぶの手伝え?何で我が……分かりました分かりました!
そんな大声でゴミ虫連呼しないで下さい!今すぐ行きますから!はいはいそれじゃ」

骸は通話を終えた後、電話の相手……白雪の命に従うべく、渋々アパートへ戻って行った。
「ままならないものだな、世の中」骸は不満そうにそう述べた。

1983話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/03/26(火) 00:25:18 ID:iIwyjmo20
(いつまで話してんだか、天くんったら)

えれにゃん☆は天が骸とスマホで話しているのを『その目』で見ていた。
彼女は天がこの場所に来てから、彼のことをスタンド越しではなく、『自分の目』で
じっと見つめていた。彼女は天のすぐ近くに居るのだ。
天が通話を終えたのはそのすぐ後であった。


「おい、ちょっと待て!……クソ、終わっちまった」

「どうしたの天、いきなりスマホで話しこんじゃって、誰に電話かけたのよ?」

「かくれんぼイベントの関係者だ……おかげでヒントを少々貰えたぜ」

「???」


えれにゃん☆は天と咲良の会話を聞き、こめかみに青筋を立てていた。

(ヒントぉ?さてはリーダーの奴、アイツに入れ知恵したわね!?ディザスターに
来る気がないからさっさと終わらせようってこと!?私の許可なく冗談じゃないわ!
リーダーは自分勝手で生意気なのよ、私より2つも『年下』の癖に!!!)

えれにゃん☆本名エレナ・マース。悪の組織(予定)ディザスターに所属。
幼い顔立ちと低めの身長で子供とよく間違われるが、実際は
Y市内の高校に通う17歳の高校生。組織のメンバー、骸・圭・エレナの三人の中では
一番の年上なのだ。


一方天は電話で貰ったヒントを咲良に伝えていた。
「フンフン……かくれんぼって今日みたいなイベントのことでしょ?
……なら簡単よ!えれにゃんだっけ?その子あそこに隠れているのよ!」

「ええ!?分かったのか!?俺聞いててもさっぱり分からなかったのに!」

「ったく、アンタって昔からこういう謎解き苦手だったもんねえ。ほら、耳貸して……
ゴニョゴニョ」


咲良が天に耳打ちで自分の考えを伝えている様子を見るエレナの顔からは
一筋の汗が流れていた。

(ほら見なさい!隣の頭良さそうな彼女に気付かれたじゃあないの!
……でも私には必勝法ならぬ『必不敗法』があるのよ!
残り時間も僅か……思い知るといいわ天くん、私の最後の秘策を……
今まで戦ってきた奴らが誰も破ることの出来なかったこの作戦の恐ろしさをね☆!)


エレナは心の中でスタンドを経由してゾンビ達に指示を送った。
『私を守れ』と。数秒後、天を囲っていたゾンビの群れはその包囲を解き
別の人物……スマホをいじっていた少女のゾンビの周りを行く手を塞ぐかのように
囲い始めたのだ。


咲良からの耳打ち、そしてゾンビ達の不自然な行動に流石の天も気が付いただろう。
自分が今まで避けてきた、なるべく会わないよう気を付けていたゾンビ達……その中に。
自分の前に立つ、スマホを無心にいじるゾンビの少女こそが。

今日自分が戦っていた決闘の相手、えれにゃん☆ことエレナ・マースだと!

1993話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/05/12(日) 02:07:27 ID:7py7NnqY0
(咲良の言った通りだ……『ゾンビに紛れて公園を徘徊していた』なんて分かるかっての)

何処だろうと隠れる場所が同じなのはゾンビ達という『隠れ場所』を用意していたから。
天が今までエレナと対面できなかったのは『かくれんぼ開始前に既に隠れていたから』
且つ『天と会うわけにはいかなかった』から。

恐らくエレナは公園に来る前、時間をかけて体中にゾンビ風のメイクを施したり
ホラーな服を着込む等をして万全の体制でここへ来たのだろう。
そんな格好で天の前に現れれば折角の作戦が一発でバレてしまう。
故に彼女は今まで天に姿を見せることが出来なかったのだ。

ではどのゾンビがエレナなのか?
咲良は『メイクのクオリティの差がヒントになっていた』と言っていたが
正確には『人間の力とスタンド能力の差がヒントになっていた』だろう。
『本物のゾンビに変える能力』の前ではどんな精巧なメイクでも差は出てしまう。
ましてや素人の女の子が自身に施したメイクでは差は広がる一方だ。


エレナの居場所が分かった以上、もう躊躇をしている暇も時間もない。
天は咲良に合図を送るとエレナに向かって歩き出した。
『時間内にエレナを見つけ捕まえたら勝ち、捕まえられなかったら負け』。
見つけるだけではダメなのだ。彼女を捕まえ、見つけたと宣言して
初めて決闘に勝ったといえるのだ。
だが。

「い゛……行がぜな゛い゛ぃぃぃぃぃ……『女』の゛方だ……女の゛方をおぉぉぉぉ」

天の合図でエレナの元に歩き出した咲良に向かってゾンビが数体襲ってきたのだ!
恐らくエレナの指示だろう。エレナを守っていたゾンビの輪の一部が
彼女めがけて飛びかかって来たのだ。

(へへーん☆私の兵隊達は子供な見た目に反してかなりのパワーがあるの☆
力のある近距離型のスタンドには劣るけど、ただの一般人な彼女さんは満足に抵抗できずに
『食べられる』んじゃあないかしら☆さあどうする天くん、恋人ならとーぜん
貴重な時間を彼女を守るために使ってそのままTIME OVER……)

「……!咲良!子役とは言えそいつらは本気で来る!
でもまあ適当にあしらってくれ!お前なら出来る!!」

「えっ!?う、うん、やってみる」

天は咲良にこう伝えた後、すぐにエレナの方へ顔を向け歩き出した。

(はああああ!?子役じゃなくって本物だってえの!!コイツ恋人を何だと思ってるワケ!?」もう頭来た、みんな遠慮なく食べちゃいなさい☆!)

自身に噛み付こうとするゾンビの一人の肩を咲良は掴んだ。そしてそのまま
勢いよく投げ飛ばす動作を行った。
ブゥン!!!という音と共に、ゾンビは近くの草むらへ飛んでいってしまった。

(……ええ!?何であっけなく飛ばされてるの!?)

咲良は向かってくるゾンビを次々に蹴散らしていった。
……といっても、咲良はただゾンビの身体を軽く小突いたり突き飛ばしたりしただけである。
ただそれだけでゾンビ達は悉く吹っ飛ばされるのだ。

無論、咲良が異常に強いわけではない。ゾンビが劣っているのだ。

身体のどこかに『バーコード』の紋様が現れたこのゾンビ達は咲良の力より劣っている!


(今咲良と戦ってる奴らは、ノープランのラッシュを喰らわせた連中の一部だ。
あの時、ノープランで攻撃した全てのゾンビ達にバーコードを付けておいたのさ……
今のお前らじゃあ咲良には勝てねえ……俺自身、咲良には全く勝てないんだからな!)

威張ることじゃない、寧ろ情けないことを考えながらエレナの元へ着実に近づく天。
咲良に人員を割いた分守りは薄くなり、残りのゾンビも身体にバーコードがある。
捕まえるのも容易だと天は考えていた。

だがその考えは、自分の足に生じた痛みによって甘い物だと知らされた。
「ヴヴヴ……ワ゛ン!ワ゛ン!」
「オ゛アァァァアァア……ニ゛ャア゛!」

皮の剥がれたゾンビの子犬数匹に噛みつかれ、ゾンビ子猫に足を引っ掛かれたからだ!

2003話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/06/02(日) 23:16:33 ID:KxXDTV0E0
「(まずい!この猫たちとは最初戦っていたからバーコードが付いているが、この犬達には
まだ攻撃をしていない……バーコードがついていないッ!)ノープラン、こいつらに
触れろ!引き剥がすぞ!」

『チュミッ!』

ゾンビ子犬数匹による足への噛撃。思わず体勢を崩しそうになるが何とか堪え、
発現させたノープランの素早い攻撃によってゾンビ犬達の身体に
バーコードを出現させ弱体化させた天は、足を素早く降り回し、ゾンビ犬達を
自分の足から離させることに成功した。

ホッとしたのも束の間、天の頭上からガザガザと葉が激しく揺れる音が聞こえて来た。
見るとエレナのスタンド、キャント・ユー・セレブレイトが木の枝を掴み
激しく揺らしていたのだ。直後、揺らしていた木から何かがポトポトと落ちてきて、
その内の十数個かが天の身体にくっついたのだ。

「何だ今の……細長い何かが肩や手に……痛ってぇ!」

身体に落ちてきたモノの正体を知る前に走った激痛。エレナからの攻撃と知った天は
急いで腕を確認する。そこにいたのは、天の腕を美味しそうに食べる
数匹の体の腐った『芋虫』であった!

(オイオイオイオイオイオイオイオイ何だこりゃあ……ゾンビな芋虫ってことは
元は蝶か蛾かぁ!?聞いた事がないぞ虫のゾンビなんて!葉を食べるみたいに
美味そうに俺の腕喰いやがって、急いで剥がさなきゃって痛でぇ!!!)

自分の体を貪る虫を排除すべく腕を振り回したり虫を一匹一匹摘んで
放り投げている時であった。隠していたのか、先程はいなかった犬種のゾンビ数匹に
再び足を噛まれたのだ。……足を2回も、更に腕の肉も喰われた天はたまらず
地面に膝をついてしまった。

「天!ちょっと、やりすぎよ!怪我してるじゃあないの!すぐに手当てしなきゃ……って
ちょっ、離しなさいってば!」

咲良は天の傷に気付きすぐに彼の元に行こうとするが、沢山の子供ゾンビ達に腕や足を捕まれた。
先程みたいに振り払おうとしたがここいたゾンビを総動員されては
多勢に無勢、身動きができずにいた。


【えれにゃん☆:私の勝ちね☆恋人はゾンビに捕まり、キミは手足がボロボロ
満身創痍☆そんなカラダじゃあもう私を捕まえられないでしょ☆
もう楽になりなよ☆みんなおんなじ……『ゾンビ(へいたい)』にさ☆】
(……送信っと☆)

天や咲良の姿を見ながら、ゾンビに扮したエレナは作ったメッセージを天に送った。
正体に気付かれた時は流石に焦ったが、いざという時のために造っておいた
腹ペコゾンビ犬やゾンビ虫が役に立った……間にあったのだ。
もう決闘の時間は終わり……正確にはあと1分あるのだがもうどうでもいい。

天の背後に浮かぶキャント・ユー・セレブレイトの尻尾が天に触れた瞬間、
ゲームは『天のゾンビ化』によるエンディングを迎えるのだ。

(それじゃあセレブレイト、終わらせてちょーだい☆)

キャント・ユー・セレブレイトの尻尾が天に迫る。天は痛みでそれに気付いていない。
決闘は終わりを迎えようとしていた。

2013話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/08/12(月) 21:03:33 ID:Ef5i7fZ.0
キャント・ユー・セレブレイトの尻尾が天に触れる……その直前!!

ボヨヨンッ

尻尾と天の間にある『何か』にぶつかり、弾き返される形で天との接触を阻まれたのだ!


『ちょっ……何よこの……膜!?シャボン玉のような壁……いつの間に!?』


『よっぽど兄さんの事で頭がいっぱいだったみたいッスねぇ……兄さんが倒れた時に
とっさに張ったシャボンのバリアに全く気付いてないんだから!』

尻尾をを弾かれ慌てた様子のセレブレイトの声と聞き覚えのある男性の声が
天の背後から聞こえてくる。振り返るとそこには、自分への攻撃を阻まれ
悔しそうな表情を浮かべるキャント・ユー・セレブレイトと
その周囲を浮遊する目玉のあるシャボン玉。そして自身を覆う
巨大なシャボンであった。

「大量のシャボン玉……国綱さんか!来てくれたんスね!」

『兄さん!危ない所だった、今兄さんの背後からスタンドが攻撃しようとしてたんで
咄嗟にシャボンの一つで兄さんを包ませてもらったッス!』

目のあるシャボン玉・ヘブンリーは自身の本体である国綱の声を発した。
国綱がスタンドを通してこの光景を見ていることを理解した天は
急いで自分に噛みつくゾンビ犬を先ほどの方法で引き離した。スタンドに触られたゾンビ犬は
『足を怪我した天』と同じ状態にまで弱体化し、全員その場に座りこんだ。

「油断も隙もないなあのアマ……急いでアイツの元へってマズい!逃げようとしてる!」

何回も噛まれ、沢山の血が流れる足をなんとか立たせようとする天の視界に
入ったのは、慌てた様子で手にしていたスマホをしまい、この場を離れようと
走り出したゾンビに扮したエレナであった。


「国綱さん!今逃げてる人を!」 

「!了解ッス、兄さんを覆っているシャボンを『膨らませる』ッ!」


天を守っていたシャボンが膨らみ、人間が二人以上入れるまでの大きさになったのは
国綱の発言の直後であった。

(ッ!アイツを包んでたシャボン玉が更にデカく!急いでこの場を……キャッ!)

シャボンがここまで大きく膨らむ……その速度は流石に一瞬という訳にはいかない。
今回の場合は数秒かかってしまった……天から逃げていたエレナなら
この膨らむシャボンからは余裕で逃げれるはず……だった。

エレナがうっかり自身の履いていたゾンビ扮装用オンボロロングスカートの端を踏んでしまい、
ド派手に地面にスッ転ばなければ……この勝負はエレナの逃げ切り勝利という形で
終わっていただろう。

だが彼女は転んでしまった。ヘヴンリーは膨らみ続け、シャボンの膜は
エレナに追いつき、天と一緒にシャボンの中にスッポリと閉じ込めることに成功した。


「ゾンビに追われたり囲まれたり噛まれたりと散々だった……
これがスタンド使い同士の戦いなんだな、学ばせてもらったよ、ふぅ」


血だらけの足をなんとか立たせ、ふらつきながら……天はエレナの目の前まで歩く。
そして自分の手を……ゾンビの格好をしたエレナの肩に置いた。


「これで決着だ……隠れていた【えれにゃん☆】……みーつけたッ!!!」

隠れているエレナを見つけ捕まえたら勝ち……天は自身の勝利条件を満たすことに成功したのであった。

2023話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/10/20(日) 00:07:12 ID:vU84l70E0
「これでかくれんぼはおしまい……なあ、そろそろ雲雀さんや公園の人達を元に戻して」

「あ゛あ゛あ゛あ゛……人間……美味じぞう゛……」

「……へ?いやいや、もう決着は付いたんでゾンビにした人達を元に戻してねと」

「い……いだだぎまずぅぅぅぅぅ……(噛み噛み)」

「痛たたたたた!俺を肩を、やめろこのアマ!……まさかコイツ!」


天が勝利条件を満たし、戦いは終わった。はずだった。

だがエレナは自身の負けを認めなかった。それどころかまるで自分はエレナではない、
別のゾンビであると言わんばかりの行動をとりだしたのだ。
他のゾンビのような唸り声を出したり人肉を欲しそうに振る舞い、
終いには目の前の肉を噛もうと試みたり……。

そう、『目の前のゾンビがエレナである』と証明しない限り、この戦いは終わらないのだ。
だがエレナと天は直接対面したのが今が初めて。貰ったエレナの自画像と比べようにも
ゾンビ風メイクで顔を覆われて上手く判別出来ない。メイクを落とそうにもこの辺りには
水道も池もメイク落としも無い。この場に審判や立会人がいれば公平に判断を下してくれるが
ここにはそんな人材はいない……!

そう、これがエレナに残された最後の「必不敗法」……要するに『すっとぼけ』である!
自分が捕まりそうになった時、又は万が一捕まってしまった時。
「自分はエレナではありません、彼女に作られたただの子供ゾンビです。あ゛ー」
的なことを延々と言っていればいいのだ。彼女の身長がゾンビ達と同等の低さ
だからこそ出来る荒技である。あとは証明に手間取る相手にゾンビやスタンドをけしかければ
詮索は中断・試合続行。上手くいけば逆転勝利すらもぎ取れるだろうという算段だ。
……だが。

「これが骸の言っていた『しらばっくれ』か……けど見分ける方法なら思い付いてるぜ」


エレナが今まで行ってきたかくれんぼには無かったモノが今回二つある。


一つはエレナと天を覆うシャボン。これがあるおかげで、エレナは対戦相手に
ゾンビを送ることができなくなっている。現にゾンビ達はシャボンの壁を破ろうと
シャボンを爪で掻いたり両手で引っ張っているが……ヘブンリーは割れないシャボン。
どうしてもシャボン壁の向こう側へ行く事は出来ない。


そしてもう一つ。
「確か『アレ』は右側のポケットに入れてたよな……ノープラン行け!」

『チュミッ!』

ノープランはエレナに接近すると彼女が履いていたスカートに付いていた
ポケットに手を入れた。急に何をするのと叫びそうになるエレナをよそに
ノープランはポケットから手を抜くと天の元に帰っていた。
彼女は気付いた。右のポケットが軽くなったことに。慌ててポケットを調べると
中は空……無くなっていたのだ。さっきまでポケットに入れたはずのモノ……
彼女にとって命より大切なもの無くなっていたのだ。そして理解した。
ポケットの中のモノをノープランに『盗られてしまった』ことを!


『マスター、アリマシタヨ例ノモノ。チュミミーン』

「おーよくやった。ってコレこないだ発売されたばかりの新型じゃん、いいなー」


(ああああああああああああああ!私の『スマホ』!なんてことすんのよあの野郎!!!!)

厳格な両親の許しを貰い、必死にバイトをしてやっと手に入れた初めてのスマートフォン。
それを天のスタンド・ノープランに盗られてしまったのだ!

2033話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/01/27(月) 02:08:18 ID:JZfZe87o0
『人のモノは盗んじゃダメなんだぞ!だからそのスマホはその子に返しなさい!
返せッ!返せッ!返せッ!返せッ!返せッ!返しなさあああああああい!!!』

シャボンの外側でキャント・ユー・セレブレイトが必死に天に呼びかける。
天は「分かってる!後で返すからちょっと待ってろ」と己の行為に
多少の罪悪感を感じながら、エレナのスマホを左手で持つと自身のスマホを
右手を使い取り出した。自身のスマホを片手で操作をし始め、メッセージアプリを開くと
【えれにゃん☆】に向けて短い文章やカニのような髪型の女の子の
イラストスタンプ等を数回送信した。

その直後。

ブーッという振動音が数回エレナのスマホから発せられた。

彼女のスマホの画面にはメッセージが届いた旨の通知が表示されていた。


【新着メッセージ  天:このメッセージはえれにゃん☆宛に送ったものだ】

【新着メッセージ  天:つまりこのメッセージを受け取ったスマホこそ】

【新着メッセージ  天:他ならぬえれにゃん☆のスマホだということだ】

【新着メッセージ  天:もはや言い逃れはできんぞ☆】

天はエレナに向けて彼女のスマホを見せつけた。
エレナの顔が青ざめ、大量の冷や汗が流れていた。

「ついさっきまで……ゾンビ犬に襲われて倒れてた時もこのアカウントからメッセージが
送られてきたからな。【えれにゃん☆】から急にスマホを渡された、なんて言い訳も通じない……
勝負あったな」

『そ、それは……そう!決闘前に事前に渡しておいたのよ!一定時間ごとにメッセージを
送るようにって!メッセージも前もって用意してたんだから!ねーっ☆』

「ぞ、ぞの゛通り゛……ごれ゛ば私の゛モ゛ノ゛でばな゛い゛……ね゛ーっ゛☆゛」


エレナとキャント・ユー・セレブレイトは最後の悪あがきを続ける。
メッセージは事前に用意していた物というが、天からの質問にはキッチリと答え
ノープランに攻撃された際には怒りのメッセージを直ぐに送ってきた。
ゾンビ化、しかも子供に戻された人間が咄嗟に出来ることとは思えない。
さらにディザスターに属していなければ分からない幹部云々という話も
メッセージで送られてきている。
彼女の最後の言い訳は明らかに嘘……だがそれを突っ込む時間はもうない!


「……こんな手、本当は使いたくなかったけど……仕方無い、か」

天はエレナのスマホをノープランに手渡した。ノープランは彼女をスマホを
キャント・ユー・セレブレイトに見えるように掲げ、片手で軽くギュッと握った。

「……兄さんまさか」と国綱は嫌な予感を胸に、苦笑いを浮かべていた。

『ちょっと、なにするつもり……ねえったら!』キャント・ユー・セレブレイトの声は
震えていた。


「数日前なんスけどね、薫さんにノープランのこと調べてもらったんスよ。
そしたらコイツのパワーは人並み以上なんですって。脆い壁なら拳で
壊せるらしくて……だったらコレも、リンゴみたいに軽く『握り潰せる』んじゃあ
ないッスかねぇ〜〜〜なんて」

その直後であった。
彼女のスマホから「ミシッ」という音が聞こえて来たのは。

2043話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/01/27(月) 02:08:58 ID:JZfZe87o0
「やめてええええええええええええええええええええええ☆☆☆☆☆☆☆☆!!!!!!!」



天の鼓膜が破けそうな程の泣き叫ぶ声が響いたのはミシッという音のすぐ後であった。

直後、眼から大粒の涙を浮かべたエレナが天に向かって突撃してきた。
無警戒だった天は突撃をモロに食らい、コンクリートの地面めがけて吹っ飛ばされたのであった。



「私のスマホ……買ったばっかり……壊さないで……グスッグスッ……フエエエエエエン」

「あ、あのー……エレナさん……でいいんスよね?」

ノープランからスマホを取り戻し、それを抱きしめながら大泣きするエレナに
国綱はシャボンの外側から恐る恐る声をかけた。いくら敵同士だったとはいえ相手は女性、
しかもメイクが少し落ちて素顔が見えるほど泣いている相手に
乱暴な言葉遣いは出来ない。

「ヒック……何よ」

「えーっと、途中から来たんで確認なんスけど……アンタは『ゾンビに扮して隠れていた』
ってことで、それを捕まえた兄さんの勝ちってことでいいッスね?」

「ズルいわよアンタ達……途中から2対1になるなんて……大人のクセに卑怯者…‥グスッ」

「悪の組織相手にキレイゴトだけじゃ勝てないッスよ……それに今まで『1対1+ゾンビいっぱい』
だったじゃあないッスか」

「うるさいうるさい……大人なんて嫌いだぁ……」

やれやれ、と国綱は溜息を吐いた。エレナは認め、天は彼女を捕まえた。これで決着である。
部外者である自分が決闘の最後を決めるのはどうかと国綱自身思った……が、
エレナはスマホがちゃんと動くか半泣きで確認中でそれどころではなく。

(兄さんに至ってはアレだからなあ……これじゃあ俺が何とかしないと終わらないよなぁ。
しかし今日は災難でしたね……可哀想な兄さん)

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
吹っ飛ばされた後コンクリートに頭を強く打った天は、頭の周りを
小さな天使と無数の☆マークがグルグルと回る幻を見て
(今日はやたらと☆に縁がある日だ)思いながら意識を失ったのであった。


【ノープラン vs キャント・ユー・セレブレイト】
STAGE:門北自然公園

勝者……藤鳥天/ノープラン




咲良(……どーなってるのコレ???)

2053話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/07/17(金) 11:28:35 ID:QulsmiFM0
「ううん……ええっ!もう部活始まってんじゃん、急がなきゃ!」
「ポチや、そろそろ家に戻ろうか……なんでこんな所歩いてたんじゃろうかワシ?」
「いつの間にか1時間も経ってる!?何も覚えてないんだけど、カズくんは?」
「……記憶にねえ」

今日、門北自然公園では「朝の1時間の記憶の無い人」が何人も現れたようだが
彼らがその原因を知る事は無いだろう……「子供のゾンビにされ1時間も操られていた」
などという荒唐無稽な事実を。

そしてこの女性も……今は真実を知らない。


「……っち、藤っち!」
天が夢の中で存在しない兄としていた会話は雲雀の酔っ払った声で終わりを告げた。

「あ、あれ?雲雀さん?それに管理人さんたちも」

目を覚ました時、天の周りは桜の花びらが舞い、美味そうな料理が詰まった重箱・
酒やジュース等が並べられていた。そしてそれを飲み食いし、上機嫌で
歌を歌い歓談を楽しむアパートの住民達がそこにはいた。

「あ、やっと起きた!藤っち、どっかで転んで気絶してたらしいな?
あたしもさっきまで酔って寝てたんだけどさ、目が覚めたら国っちがでっかいタンコブを拵えた
藤っちを背負ってきたからビビったビビった!でも大したことなくてよかったよ。うーい♪」

どうやら雲雀はゾンビになっていた時のことを全く覚えていないようだ……安心した。
よく見ると天の手足……ゾンビ犬達に噛まれた箇所には包帯が巻かれていた。
気絶している間に手当てを受けていたらしい。聞けば国綱も火傷の治療を施され
花見の後で匠の元で治癒を受けるとの事だった。
雲雀は「藤っちも飲もうぜ!真由美っちが追加のビール持ってきてくれたんだ♪」と
天の頬に冷えた缶ビールを酔った勢いで押し付けた。

「冷たっ!……分かりました、飲みましょう。せっかくの花見ですもんね」
「そうこなくっちゃ!咲良っち、彼氏起きたよー、一緒に飲もう!」

雲雀は天の手を引っ張り、天が気絶している間に仲良くなった咲良の元へ走った。


……こうして。メゾン・ド・スタンドの面々は毎年恒例の花見を始めたのであった。

料理に舌鼓を打つ者。酒に酔いしれる者。歓談を楽しみ歌い踊る者。

姉の膝に頭を乗せる者にそいつを赤い顔で追い払う者。



そして。住民が花見を楽しむ様子を遠くから眺める者。

2063話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/09/22(火) 23:29:25 ID:ABYI4mGg0

「……お二人とも、実にいい顔をしてらっしゃる」

十本桜から少し離れた場所から、時田潮は双眼鏡越しに花見に興じる天と国綱を見ていた。

「いい顔っつーか、呑気だよなあ……さっきまで俺らとガチで闘り合ってたってのによぉ」
「【悪い奴にスマホ壊されかけたー!☆朝からもう気分サイアク☆】と……くすん」

その横には先ほどまで天達と戦っていた圭とエレナがいた。
圭は同じく双眼鏡で花見の光景を覗き、先程の戦いなどすっかり忘れているような
二人の浮かれ顔を見て呆れ顔を浮かべていた。エレナに至っては花見など見もせず
スマホが壊れかけた愚痴を☆を散りばめてSNSに投稿していた。

「いいではありませんか。辛い出来事は出来るだけ早く忘れ、楽しめる時はしっかりと楽しむ……
それが長生きする秘訣ですぞ、ふぉっふぉっ」

潮は双眼鏡を細かに動かしアパートの住民達を眺めていく。
管理人の真由美と彼女の昔からの友人である雲雀は共に酒を楽しんでいた。
喫茶店のオーナー匠と弁当を食べながら会話しているのはスタンド研究家の薫。
子猫と犬人の白石姉弟はしょーもない言い争いを始め、側で見ていた白雪は
その様子をにこやかに眺めていた。骸はというと弁当に入っていたリンゴをかじりながら
シートに寝転がっていた。

そんな光景を見て、潮はフフっと穏やかに笑った。
そしてふと、こんな言葉を漏らしたのだった。

「……このアパートも良い面々が揃ってきてる……『クレハ』も喜んでることでしょう」

「……クレハ?誰だいそりゃあ」

潮の声をたまたま聞いた圭は聞き慣れない名前であるクレハについて
何の気なしに聞いてみた。その時、潮の顔が一瞬だけ強張ったが圭はその瞬間の顔を
見逃していた。圭が潮の顔を見た時、表情は既に元の穏やかなものに戻っていた。

「……いえいえ、爺の知り合いですじゃ。それより皆様、爺はこれから
花見に合流する予定ですがいかがですかな、皆さんも一緒に」

「花見か?俺は興味ないからパス。エレナは……(ピロン♪)
【メイク落としたり着替えたりで忙しくなるから行かない☆】だってよ」

圭はスマホに届いたえれにゃん☆のメッセージを潮に見せる。
こうしてディザスターの面々は朝の決闘を終え、一旦解散することとなった。



「クレハか……女みたいな名前だけど、もしかして爺さんの彼女かぁ!?
……まあどーでもいいけど」

圭は公園を出る前にふとこんなことを考えたが、すぐにその名を頭の片隅にしまい、
今朝の戦いの反省会を脳内で開きながら帰路に着いた。

どうせ明日になれば忘れることだ……圭はそう思っていた。
この時はまだ。


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