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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】

694 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:16:18 ID:cFeuEibI0
参加者二巡目、完・了!

投下終了します。
引き続き、『支給品:『アシストフィギュア』について』をお送りします。

695『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:16:51 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[肉蝮]]、[[兵藤和尊]]

696『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:02 ID:cFeuEibI0
【特殊支給品紹介】
────『アシストフィギュア』


格闘ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』に登場するアイテムを模した品。

電気ポット程の大きさを誇るフィギュアで、楕円状のカプセルケースに内蔵されている。
“共闘してほしい”──という強い意志と共にこのフィギュアを天高く掲げると、カプセルが砕け『実体化』。
頼もしい味方が召喚され、損得も信頼も関係なく、戦闘に協力してくれるという、そういった代物だ。

アシストフィギュアの中身は実にランダム。
主催者曰く、『誰が出てくるかはお楽しみに』とのこと。
参加者達の知人から無作為に選んだ人物《のクローン》が登場する為、フィギュアファイターがとんでもない化物や格闘家だったり、はたまた全くの無役な一般人等が出てくる可能性があったりと。
召喚が吉と出るか凶となるかは運次第。

フィギュアファイターは前述の通り、基本召喚者に忠実な働きぶりをするよう作られている。
ただ、一定時間を過ぎるか、または致命傷を負った場合、光と共に跡形もなく消えていくという特徴もある。
──一定時間とは基本約一分程であるのだが、これまた主催者曰く『例外もある』とのことだ。



身体的能力、ハンデ等全く考慮されず、適当に選ばれた一部の参加者に支給されし──このアシストフィギュア。
今後、各々の戦闘活動に於いて、フィギュアファイターの力が、ただの焼け石に水となるか。
それとも渋谷全体を大きく流し倒す大洪水となるか。

いわゆる『サブ参加者』達の行動に目が離せない現状である。



 ここで、アシストフィギュアの使用例について、場面転換することとしよう。

 バトル・ロワイヤル下にて観測上、初めてその使用が確認されたのはゲーム開始から三時間が経過した折。
──時刻04:12:23秒の事。
──場所は渋谷東●ホテルの十階、廊下にて。


支給者No.06『丑嶋馨』の所持していたアシストフィギュアがその芽を開花させた────。

697『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:16 ID:cFeuEibI0



「あぁ〜〜んっ!! イカせちゃうのはァ〜〜〜〜♪──」

「──馬並みの俺ェエ〜〜ッ!!! …ぎゃはははははははッ!!!──」



「──んじゃ達者でなァアアアッ!! オ●ニー尿道プレイ大好きなウシジマァアアアアアアアアア!!!!!!!」



 時刻はAM.03:56:19秒。
 真っ暗な町工場にて、ボッ──と小さな明るさが灯った。焼却炉からヘソのゴマを燃やしたかのような悪臭が漂う。


まさしく【血と金と暴力に飢えた外道】【座右の銘は強盗、殺人、SEX!!】との凶人・肉蝮は、手際よく『ブロック肉達』を焼却炉へ投げ込んでいく。
肉蝮の片手に握られるは、所々刃毀れが見られるドス黒い鉈。
鉈に血染み塗りたくったそのブロック肉は、これまでの人生を酷く冒涜するかのように、黙々と燃え滾っていた。


──ブロック肉はかつて、肉蝮にとって大切な『遊び道具』の一種であった。
──ただどんなオモチャでも思い入れが無い限り、いつかは壊れるか、飽きられ廃棄される運命。
──例にも漏れず、この『オモチャ』もわんぱく心旺盛な肉蝮は“もう使い飽きたから”という思いで。丁寧に解体された上で廃棄処分されていった。


大人になっても童心は忘れぬ、肉蝮は悪臭と共に燃え上がる火を見てこう呟く。


「……くっさ!!!──」

「──…人がせっかく子供ン頃のキャンプファイヤー思い出して浸ってた…つーのに。水差してんじゃねェぞテメェ?!! 普段何食ったらここまで臭くなンだよ?!──」

「──永沢君を見習えよなァッ?! アイツなんか家燃やされても香ばしいオニオンの匂いしかしねーつうンだからッ!!! おい!!──」


「──プッ!!! ぎゃはははははハハハハハハハはははははははハハハッ!!!! 我ながら傑作!! あーはっはっハッハッハッハッハッはははは!!!!!!!!!」



轟々と嫌な煙が昇る中。
静寂な工場にて、イカれ狂った馬鹿笑いが響き渡っていった。
純粋な少年のような目で、そのメラメラとした炎を眺める悪魔──肉蝮。
壊れてしまった肉オモチャを前にして、態度では歓喜を表す肉蝮もどこか寂し気な様子が伺えたのだが、──心配はない。

主催者がかなりの期待を込めて参加させた彼には、まだまだこれからも、沢山の『オモチャ候補』が待っている。
ゲーム強制終了までのリミットはまだ四十時間近く残す今、肉蝮が退屈する事など随分と先の話になる訳で。
今はまだ会わずとも、彼を楽しませる仲間達は十分に存在するのだ。


それに、肉オモチャが燃え切ろうとも、彼のディバッグには文字通りの玩具が一つある。



「……………つーかよォ………──」




「──トネガワの野郎、スマブラが好きなんか…………?」



最後のブロック肉を投げ捨てると同時に、肉蝮は『アシストフィギュア』を持ち上げ一言。
丑嶋から奪った支給品を眺めながら、その使用用途に「?」で一杯の肉蝮であった。

698『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:46 ID:cFeuEibI0



 AM.04:11:14。

 下劣な思考回路の肉蝮の事である。
恐らく、“ヤるといえばホテル”との考えで、彼は近くにあった東●ホテルへと足を踏み入れた。
一階から七階まで、解体中かのようにズタズタとされた内部の惨状には、彼も気になった様子だが特に深堀りはせず。
女の居そうな空間を求めて、彼は現在十階廊下を練り歩く。


「あの人の〜パパになるために〜〜♪ ふんふふふんふ〜〜ん♪ ホテルに来たの〜〜♪──」




「────………あァ?」



ただ、いくら独自の嗅覚を駆使しようとも、そう都合良く被害者女性が現れることなく。
ふと立ち止まった肉蝮が睨む先────、そこにはヨロヨロと老人が一人彷徨っていた。


「…………ジジイ…かぁ〜………。つまんねェー……」


 白髪頭に髭を蓄え、こちらに気付いてるのか否か、クキキキ…と一人で笑うその老人。
気品高い身なりはそこそこの銭を期待《強盗殺人》出来そうではあったが、一方で杖を付きながらも蹌踉めく足取りは、如何にも柔弱そうであった。
コツ、コツ、コツ、コツ………。
映画のシャイニングまんま生き写しかの如し静かで綺麗な廊下にて、杖を付く音のみが鳴る。


「うーーん。…じゃ、とりまコイツでいっか!!」


肉蝮は老人を見てそう呟いた。

彼は別に老人へ特別興味が湧いた訳でもない。
ハッキリとした殺意も無ければ、本当に素通りしてもいい存在であった。

──ならば、どうでもいい奴にはどうでもいい物をぶつけろ────と。

デイバッグからアシストフィギュアを取り出し、取説通り高々と掲げて見せる。


圧倒的戦闘力があり、殺害経験も豊富に持つ肉蝮にとって、全くの不要であるアシストフィギュア。
本来なら武器も握れぬ弱者救済の為の支給品である故、肉蝮には持っていても仕方ない物と言えよう。
彼もその事には重々理解をしていた為、このどうでもいい場面でアシストフィギュアの無駄遣いを結構。

実験感覚──
────というより、アリに妙な薬品をかけて楽しむ感覚で。


「出てこいッ!! ゴラァアッ!!!!!」


肉蝮は、フィギュアファイターNo.03を呼び起こした──。





 ポンッ─────



「よっ! …全く仕方ねェなァ。旦那と俺はボンナカ《友人》みてェなモンだしよ」



「………あァ?!!」



【アシストフィギュア No.03】
【熊倉義道@闇金ウシジマくん 召喚確認】
【概要】
→二代目猪背組理事長の極道。
 やや肥満体で顔に二箇所の刀傷が特徴的。

699『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:00 ID:cFeuEibI0
「あいつ撃てばいンだろ? ったく…こんなチンケな仕事させやがって。…もうこれっきりだからなァ??」

「ンだァ…?! テ、テメェ……マジで出てきやがったし……! どうなってンだこりゃッ?!!」


 肉蝮が目を丸くしたのも無理はない。
冗談半分で何となく出してみたら、本当にゲーム《スマブラ》通りに。
カプセルから巨漢の男が出現したのだから、これが夢なのか現実なのか判断に苦しむ程だった。

そんな主人を尻目に、熊倉は懐へゴソゴソと手を突っ込む。
フィギュアファイターは事前に己の『使命』を組み込まれたクローン達。
故に、「何故自分がここにいるのか」だとか「状況を整理したい」だなんて思考を働かせることは一切なく。


「とりあえずこれが終わったらさ、お礼としてよォ……、」

「は? は? はァ??」



「──新米700kg買ってくンない? 出所は言えねェーけど物は確かだ」




眼の前の老人へ向けて、銃口が正確に構えられた。




 パンッ────

  パンッ──、パンッ──、パンッ────

 パンッ────




「ぁあ?!!」



 リボルバーに込められた五発全てが、一直線に飛んでゆく。
扱い難い回転式銃とはいえ、狙撃者・熊倉は何十年も裏社会を牛耳ってきた熟練者。
老人の顔面を破壊すべく、正確なポイントで弾丸は走り抜ける。
老人と熊倉の距離は5メートルほど離れている。故に、弾丸の着弾時間は0.016秒ほど。
──無論、ほぼ奇襲で放たれた銃撃を、死期が近い老体が避けようものなどできる筈がなく。


彼の命は、虫のごとく簡単に散っていった。





ちなみに、フィギュアファイター『熊倉義道』の稼働時間は設定上、三分三十秒きっかり。
その間は、召喚者の命令がない限りはこの場に存在し続ける事となっている。
戦意静まり返り、僅かばかりだが戦場跡と化したこの廊下には、



──────断末魔をあげる暇もなく、ズタズタに消えゆく『熊倉』と、

────そして、気が付いた時には全身に妙な違和感が発した肉蝮と、



──肉蝮の後ろを、何食わぬ顔でヨロヨロ過ぎ去る老人の姿。

700『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:12 ID:cFeuEibI0
「ぁあッ?!!──…、」




肉蝮が振り返ろうとしたその瞬間、彼の全身に『杖による殴打』の痛みが走り切った。




 ──バシィイイッ

  ──バシィッ、バシィッ、バキバキバキバキッ、バンッッ──



「──ぎぃッ?!! ぎゃぁぁああぁぁああぁああぁああぁぁぁぁあぁぁあああああああああああッッッ!!!!!!!!!」




 腹部、四股、頭部。
何箇所にも渡って響く痛みに、肉蝮とて転がり回ざるを得ない。
痛みに悶える最中、ふと患部を確認すれば、下腿前面の脛骨──弁慶の泣き所は青く腫れ上がり、頭からは軽い傷が生じていた。


“分かんねェ…ッ”

“意味分かんねェし……ッ”


“何が一体起きたんだッ………?!”


地面に投げ捨てられた水生昆虫のようにジタバタ暴れ狂う肉蝮には、この現状が到底解せなかった。



コツ、コツ、コツ………。


またもや杖の音のみが小さく響く中、半狂乱の身とはいえ、肉蝮も唯一分かっていたことがある。
恐らく、──理解も常識も超えている事だが、恐らく。


「…最初から……生まれた時から王だったら、どれほど良かったものか……………っ」

「…ぁああ……ッ?!!」


「初めて銃を握った時……ワシはまだ十五の若造じゃった。血肉貪り、貶め合い、そして米兵を絶命に至らせる…………あの頃は殺し合いの大戦下………………っ。…まだ若かりし……兵士だった頃のワシは、実に醜く…愚かじゃった」

「ジ、ジジィ……ィ………ッ!! がぁあッ……。テ、テメェ…………」


「……まぁその『体験』のおかげで、こうして貴様を返り討ちにできたのじゃがなっ…………? …衰えたものだとばかり思っておったが、案外身体はまだ覚えているものだわい」

「……テメェ……い、一体……………」



「──…………あの幾千の、戦いの記憶がっ……!! カカカ!」




「…………『何をしやがった』…ッ?! …テメェッ……………」

701『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:31 ID:cFeuEibI0
──刹那ほどの猶予もない弾丸の雨を全てはたき落とし、
──目にも止まらぬ圧倒的スピードで、熊倉を再起不能に倒して、
──肉蝮を全身何発も叩き殴った。

────これら全てを杖一本で。しかも0.016秒以下で。



──恐らく老人は熟してみせたのだろうと。────



“こいつは一体、何者なんだ…………ッ?!”



全身の悲鳴が癒えるのを待つ中、肉蝮はもう思考崩壊寸前で唾液を漏らし続ける。




《老兵は死なず》
────制裁の乱れ打ち【武士道】。


「ききき……。負ける訳にはいかん……いかんわけなのだっ…王は………………っ!!」





エレベーターに乗り込む老人──兵藤和尊会長。
彼の手にもまた、未開封の『アシストフィギュア』が息を潜めていた。



【アシストフィギュア No.03】
【熊倉義道@闇金ウシジマくん 消滅】

702『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:44 ID:cFeuEibI0
【1日目/F6/東●ホテル/10F/AM.04:15】
【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】杖
【道具】アシストフィギュア、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。

【肉蝮@闇金ウシジマくん】
【状態】全身打撲
【装備】鉈
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:不可解の集合体である現状《殺し合い下》に頭が悩む。
2:ジジイ(兵藤)、クソガキ二人(ネモ、ヒナ)の顔を覚えた。絶対に復讐する。
3:皆殺し後、主催者の野郎とスマブラをする。

703 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:19:25 ID:cFeuEibI0
投下終了です。
ラスト、『焔のはにかみや』で締めます。

704『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:19:47 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[池川努]]、[[野咲春花]]

705『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:04 ID:cFeuEibI0
 やあ。
僕の名前は池川努。中学三年生さ。
運動不足気味で最近やや肥えてきたところがコンプレックスなんだけども、まぁその内危機感湧いて肉体改造にガチるだろう。その内。
とにかく、痩せればそこそこに顔が整っている少年。それが今宵の語り手、僕──池川努だ。
とりあえずよろしくね。

 さて、早速だけど一つ君達に訊きたいことがあるかな。
…なに。
簡単な質問だよ。身構える必要なんかない。
二択だからね。
こちらも選択次第で態度や考え方を変えるとか、そういうつもりはないからさ。
悩むことなく、本当に直感で答えてもらいたいね。
ゲームで名前決める時「ああああ」にするくらいの適当感覚で望むといいよ。ふふふ…。

では、行くよ。



QUESTION.
──『正義』の反対とは、ずばり何か?


→1:『悪』
 2:『正義』

706『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:31 ID:cFeuEibI0
 …………答えを導き出せたかな?
正直、君らがどちらの選択肢を選んだかは僕にとってどうでもいい。
…というか、そもそも質問じゃなかったね。
これ、問題だから。明確な答えがハッキリと用意されている問いかけだからさ。ははは、ゴメンよ。

 ズバリ、『正義』の反対は、二番。
────『また別の正義』であるわけだ。
これはつまり…見方を変える、ってことなのかな。
ニュースや世間一般、そして我々が思考停止で『悪』と決めつけている存在も、違う視点から捉えれば『正義』。正しく義にかなった存在となるわけなのさ。

例えば、昨今。
三年に一回のペースで、どこぞの無職が子供を無差別殺傷する事件が報じられるけども、アレも正義。
殺されたガキ共の中にはさ、普段同級生を散々に虐めてる『死んで当然の存在』がいたかもしれない。
いや、虐げられる対象が何も人間だけとは限らないよ。
クソガキは無邪気だからね。日頃、なんの意味もなく虫や小動物を踏み潰す奴が、被害者の中にいてもおかしくなかっただろうさ。
つまり、その虫共、虐げられる者達からしたら、無敵の人はまさしく『英雄』なのだ。

また、例えるなら、…これはかなり昔話になる。
第二次世界大戦で日本に、広島と…あとどっかにヤバいミサイルが落とされた事件は有名だろう?
教科書では、最大の虐殺行為だなんて恨めしく綴られている出来事だけども、アレもまた『正義』だ。
…これは何もアメリカ人からしたら正義の行動とかって言うつもりはないよ。
僕ら日本人の視点に立ったとしても、ミサイル投下は正義の行いといえるんだ。
あの……──…あ、思い出した。原爆投下だ。
原爆で焼き殺された人々の数は(授業ボイコット勢の僕は)詳しく知らないけども、何万人も死んだ中には、心から死を希望した者もいるはずなんだ。
上司に叱られるなり、家庭で嫌なことがあったりしてね。
「あぁ…死にたい…」「死にたい死にたい死にたい…」「楽にならないかな。今すぐ…」とかさ。
そういう苦しみつつも死ぬことさえままならない、彼等死亡志願者にとっては、原爆投下はまさしく青天の霹靂。
あの灼熱の光は、彼らを結果的に救えたのだから、まさしく『正義』と言えるよね。

……さて、長々とお話をした終えたところで、「結局お前は何を言いたいんだ」ってことになるんだけども。
それはだね。
まーズバリ、一言で言うと、………。

……とりあえず後回しで。
いや悪いね、なんか急に喋る気分じゃなくなったんだ。
後々、必ず…必ず話を戻すから「気まぐれな奴だなあ」と呆れるぐらいでご容赦してくれ。


 じゃ、本題に移るよ。

何となくで立ち寄ったモ●バーガー店、ガラス寄りのテーブル席にて。
今後に備え、タンパク質《てりやきバーガー》をモリモリ摂取する僕と、包み紙に一切手を付けず、今はまだ夢の中の彼女。
ぱっちり二重に柔らかそうな頬、そして長い髪が香る彼女の名は──野咲閣下。
…しみったれて退屈な田舎村に現れた、あまりにも可愛すぎる存在さ。

背もたれを寄り掛かる閣下は、実に苦しそうな様子で目を覚まし、


「……んんっ…………、ん…………………」


「…お。…お目覚めのようだね」

「………………ん…………えっ? ──」



「────……ッッ!!!!」


──彼女と目が合った刹那、僕の眉間ギッリギリにナイフが突き出される。
…正直自分の反射神経の良さに驚きを隠せなかったよ。我ながらね。
本当に気が付いたら刃先が目の前にいて、気が付いたら包丁握る彼女の手首を掴んでいたのだからさ。

それにしても美しい花にはトゲだか毒だかがあるらしく。…小柄な見た目とは裏腹に、閣下の凄まじいものだったね。
真宮君や久我のようなバカ共なら、この一瞬で簡単に命を絶たれていただろう、あんまりすぎる力だったよ。

ただ、僕は彼等愚かな者共とは違う。
刃先が命欲しさに震える『スリル』という喜びを感じながら、僕は閣下にこう申したのさ。
穏やかで、冷静な口調を意識しつつね…。(あと冷や汗をたらしつつもね…)


「…の、野咲くん。まぁ理由が理由だからね。僕に強烈な殺意が向くのも仕方ない。君を責めるつもりは全くないよ。…ふ、ふふ」

「………ッッ」

「…ただ、信じられないだろうし信じる気もないだろうけど聞いてくれ」

「……………うッ、くッ…………」



「……本当にごめん。申し訳ないよ」

707『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:44 ID:cFeuEibI0
「………………ッ、え………?」

「……謝って済まないくらいの事をしたのは分かっているさ。…それでも僕の真意を、心からの反省を聞いてくれ。……本当にごめん、悪かった」

「…………………えっ」

「……それとさ。…これまた信じられないだろうし信じる気も以下略だろうけども………。聞いてくれないかな。──」



「──僕は………君を守りたいっ…!!! 野咲くんを優勝させたいんだ………!」


「………………………………え」




「…だからさ、何となく僕を信じて、一旦話そうじゃないかな?」



「………………」



 …一週間くらい前かな。
仲間内のノリでね、僕は閣下の御自宅と、御家族を焼き殺しちゃったという過ちを犯したんだ。
アツイアツイ〜と、鬼のような目をしてのたうち回る御両親に、真っ暗な周囲を轟々と照らす大火災。…何も無いクソ田舎最大のビッグイベントだったよ。本当にあれは。

最初こそはラインを超えてしまったゾクゾク感と、なんにも悪びれてない自分に酔いしれててウキウキだった僕だけども、……後悔したよ。
野咲閣下に殺されて地獄に落ちて、経血臭い泥沼に漂いながら、僕は山程自戒させられたんだ。
…自分が嫌で嫌で仕方なくなりそうだった。
…野咲閣下の御殿に、主犯格みんなで線香とお参りをしたい気持ちだった。
どんまいだよね、野咲閣下は…。


だからね。
諸君らも、そして閣下も信じられないだろうし、…現にナイフ握る手の力は全く緩まなかったんだけども。

──野咲閣下に詫びたい────。

──そして今度こそは閣下をお守りしたい────。

僕の発言は、嘘偽りない、『正義の心』だったんだよ。


黒く淀んだ閣下の目をガッチリ合わせて、僕はニヤリと笑ったんだ。



「…だからさ、降ろさないかい? …ナイフ。なぁ頼むよ…。ふふふ………」


……とね。







「………なんで」



「…なんだい?」




「………なんで…………生き返ってるの……………………っ?」


「……え?!」




…あー、
そうかそうか。

まず話はそっからだよねー………。

708『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:56 ID:cFeuEibI0




……
………

「………………祥ちゃんのこと、…しようとしてたんでしょ…………………」

「え? 何がだい?」

「………………その………、………えっちな…こと………」

「…………え」



──“出てこいよ野咲ィ!!! 池川なんかテメェの妹犯そうとしてたんだぞ!!! ハーハハハ!!!!”



「ッ!????! ち、ちち違う!! あれは〜…誤解さっ!! 僕は決してやましい事はしてないよ!!? 信じてくれ、野咲くん〜!!!!」


「……………信じられない…。………信じられるわけないよ…。──」

「──何も…かもッ………」


「…こ、困ったなぁ……」


…僕が閣下の妹をヤろうとしたか否かは、君らの想像にお任せするよ。
本当に真宮のクズといったら……もう!!
…ふっふふふ………!


 あれから十数分。
刃先がギラギラと光を反射する中、未だ僕らは一進一退の攻防《会話》を続けていた。
…まぁ攻防といっても男女間の力の格差があるからね。
僕の太い腕と対峙して、閣下のナイフを握る力は徐々に弱まってきた様子。
比較的僕は優位な状況とはいえ、それでもナイフは怖いからさ。彼女の手をテーブル上に抑えつつ、僕は会話を試みてる現状だ。
見境なく襲い掛かる野生動物同然だった閣下もね、色々疲れてたんだろうな。…今は、少し諦めた様子で、話す気になってくれているよ。

閣下の肌白くて綺麗な手を撫でるように抑えて、僕は彼女の目を見る。
……やはり君の美しさは毒だよ。…猛毒クラスさ。
ははは……。


「…………………何が君を守る…なの。…何が優勝させる……なの。………信じられるわけないでしょ…………今更」

「…え? まだ言うかいそれ……」

「………本当は今だって、私の事殺そうとか思ってるくせに………………。…何が……、…何が目的なの………」

「そ、そんなぁ!! 目的も何も、本当に君のことを守りたいんだよ僕はぁ!! 生まれ変わったのさ、本当だよぉお──…、」


「…信じられないッ!!!」



「………えぇ〜…」



「…もう離してぇえッ!!!!! 触らないでよォッ!!!!! 池川君ッッ!!!!!! もう嫌ぁ…ぁあ、……ッ!!!!」


「………うわ!! う、う〜〜ん………」

709『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:07 ID:cFeuEibI0
 触らないでとか言われちゃったよ…。いやぁゲンナリだね。
あっ、でも僕のことを『君』付けで呼んだのはかなり心が踊るかも。…ふふふ、プラマイ0だねっ…!

髪を乱してジタバタ暴れる野咲閣下……。彼女の姿は実に痛ましく、……その態度は忌々しささえ感じたよ。
……やましい気持ちなんかない。僕は純粋に彼女を守りたいし、一緒に行動したい。…それだというのにだ……。
一度失った信頼を取り戻すのは難しい、って本当のことなんだね。
…本当に困ったよ。
彼女の心をガッチリ掴むようなイケメンワードを絞り出さないと…って、僕は頭を必死で絞り出したね。

あぁ困った。…実に悩ましい………。


「………うーーん…………。…野咲くん、考えてくれないか?」

「…な、何がッ……!! 何がなのッッ!!!! ぁぁぁあああああああああ…………!!!!」


…ごめん、ちょっとタイム。
なーんで女の子っていつもいつも皆無駄にヒステリー起こすのかなあ………。
喧しくて話にならないよ………。……正直、かなりしんどいね、もう。

…まぁそこをグッと堪えるのが男の役目なのだろうけどさー。


「君はさっき、『本当は私のこと殺そうとしてる』と言ったけども……。なら、何故君は今生きているんだい?」

「…………………どういう事…ッ」

「何せ、さっきまで君は寝てる…というか気絶したわけじゃないか。意識のない、隙だらけの姿だよ──」


…そして好きだらけのその姿……。あぁ、野咲閣下、君は美しい………。


「──…君に何があったのかは聞くつもりはないけど、君を殺す機会ならいくらでもあったわけさ。僕はね?」

「………………ッ」

「それだというのに君は眠りから無事覚め、こうして生きているわけだ。…しかも、ボロボロの君を発見し、ここまで運んだのは紛れもなく僕! いや〜〜疲れたもんだよ、あれは〜」

「……なに、なんなの………………っ」

「…そこまでして、今現在君に殺されかかっているこの僕さ──」

「──これは野咲くんへの殺意がない、立派な証明になると思わないかい?」


「…………………だから、…何なの……って聞いてるでしょ……」

「『何なの』とは?」


 野咲閣下はそう言って、カフェラテから伸びるストローに口吻する。言わずもがな、気絶中の彼女用に僕が頼んだドリンクだ。
あぁ、望むものならそのストローになりたい気分だよ僕は………。
清涼な唾液で舐め回される彼が羨ましい…。
思えば野咲閣下、あれだけ声を荒げたというの唾が下品に飛んでくることなど無いのだから驚きだ。
そういう細かい所も自然に謹んでいるから、僕は彼女に惚れたのだろうね………。
…そう思う一方で、閣下の唾を浴びたかったという欲望も僕にはあるがね。…ふっふふふふふ……。

ま、それはともかくとして、彼女がカフェラテを飲んだというこの行為。
これは即ち、僕にとっては大チャンスとも言えるんじゃないのかな?
どれだけ喉が乾いてたのかは知らないけども、この緊迫下で野咲閣下は飲み物を飲むという『余裕』を見せたのだから。

つまりは、安堵というかね。
僅かばかりとはいえ彼女は僕に気を許しつつはあるのさ。
さぁこの優位になりつつある展開、どう出るかは僕次第だ!!

710『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:19 ID:cFeuEibI0
「……本当にもうッ……………。訳が分からない…………。何なの、何がしたいの池川君はッ……………………」

「…くっ。た、頼むよ! 僕を信じてくれって野咲くん!! 君を守りたい、その一心なんだ!!! どうしてそんなに意固地なんだい!!!」


…いや、『どうしてそんなに意固地なんだい』って。
セルフツッコミするようだけど、まぁそりゃ僕のこと信じられないよなぁ………。


「…も、もう………分かったから……………」

「えっ?!」


…と言ってる間に、ついに閣下から承諾のお言葉が。
え、何で?! 何故、急に僕のキモチを分かってくれたんだ?!!
何がキッカケかは知らないけども……、僕はこの時はち切れそうなくらい絶頂の思いで──…、


「もう分かったから…手を離してッ!!!! 近寄らないで!! 嫌だから…もう嫌なんだからぁ………ッ!!!! もういなくなってぉおおおおお……!!!!」

「……………………えぇ…」


…いや、まぁ………分かってたけどね。
僕も分かってたよ、こんな反応することくらいさ…………。
…にしても、どんなイジメを受けてもションボリするだけだった閣下がここまで取り乱すとは…、ちょっと意外。
…というかギャップ萌えかなー。


「の、野咲く──…、」

「もうやめてぇええええええええッ!!! 嫌、嫌々嫌…嫌ッ!!!!!! 話しかけないでよッ!!! お願いだからぁああああああッ!!!!」

「…………………」

「ぁぁあああああああああああああああ!!!!! あああああああああぁぁぁ…ぁぁぁ………」

「………そ、その……」


「ぁぁぁ………。…………ぁ、あ………。……っ、……うっ………………ぅっ……………」

「…………」



「……もう分かったから…………。うっ………、私に…関わらないでよ…ぉ………………………」

「………………。…………」


 …唐突に怒り狂ったかと思えば、今度はシンミリ涙を流す閣下。…そのお姿…。
彼女の瞳からこぼれ落ちる結晶は、凛と咲いた花の朝露の如し、清純さだったよ…。
回想すること一ヶ月くらい前。いけ好かない相場君のやつが、野咲閣下を『ミスミソウのようだ』…だなんて呟いていたことを思い出す。
その声に、何となく気になって調べたところ、……もうね、もうね。ふざけるな!!、ってね。
あんな交通事故跡の電柱に手向けられてるような花、…陳腐なミスミソウ如きと彼女を一緒にするなっ!!! って、僕は思ったよ。
僕ならさ、薔薇とか、世界一価値が高い花に彼女を例えるのに、本当にアイツは何も分かってないよね……。
…相場、だからお前友達いないんだよ。ってもはや呆れる次第だったよ。

……………まぁともかく、その美しい薔薇は半狂乱かつ、涙ながら懇願するほどに、
────僕の事を拒絶していた様だった。

…無理もないね。
なにせ、彼女の眼の前にいるのは、自分を散々虐めた上に、家族を焼き殺した張本人なのだから。
見た目が生理的に嫌だから、とかそういう理由で僕を拒絶してるわけでは決してッ…!!! 決してッ、ないんだろうけども、…主義主張関係なく僕を嫌うのも仕方なかった。


……つまりは僕が何を言おうとも、もう無駄なわけなんだね、これが…。

711『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:34 ID:cFeuEibI0
「…ごめんよ、野咲くん」

「っ、ぅう…………。……謝らなくても、いいから………………。…もう、構わないで………………」


「…………」


気が付けば、彼女の手はもうナイフを握る力もなく弱々しい。
弱々しいといえば抵抗の時、閣下の手は微弱ながら震えていたけども、あれは純粋な恐怖の表れだったんだろね。

僕にとっての野咲春花くんはもはや天の上の存在。閣下だ。
「眼の前から消えて」との、閣下の命令があらば、従うのは下僕の使命。
それが例え不服な指示だとしても、どんなに屈辱的で…殺したいくらいの怒りを覚えたとしても……僕は従わなきゃいけない。
なぜなら、僕はどうしようもないくらいに…野咲閣下を愛してしまったからさ……。


「……………ごめんね、……野咲くん」


「……………………………っ、ぅっ………、ぅぅ…」



 彼女のスベスベした右手を離し、それと同時に僕はこの場から身も離れていく…………。
心の痛みを堪えつつも、僕が向かう先は出口付近。
ゆっくりと重い足取りで、僕は指先をまっすぐ伸ばしていった。






 ピッ

 ──『モ●バーガー 単品 330円』



「………………えっ?」


「……ふふふ! 見て驚くなよ、野咲くん!!──」

「──不思議なもんだよね。…券売機でボタンを押したら三十秒後…………こうだ!!」



 ポンッ!!


「わ!!」


野咲閣下のただでさえ大きい瞳が、さらに丸く開かれる。
…ふふふふ。無理もないね。
なんの前触れもなくテーブル上にて、自分の眼の前にポンッと!! 温かいハンバーガーが現れ出したのだからさ。



 ふふふ。
ふっふふふふふ…!!
君達、僕がこんな簡単に諦めるような男だと思ったかい?
悪いが、僕は自他共に認めるネッチネチな粘着質でね……。

野咲閣下に拒絶された位で泣く泣く後を去るようじゃ、あの時真宮君とともに野咲討伐計画は立てていないってのさ!!
ふふふふふ…。


「ほら、面白いだろう? それよりもお腹空いてないかい? よかったら遠慮なく食べていいんだよ! 僕の奢りさ」

「…え、え…………?」

「トマト入ってて、トローリとしたチーズにミートソースが合うこと!! モ●バーガーだよ。僕ら田舎者からしたら馴染みのない店だけどね。ふふ……」

「…………なに、これ…?」

712『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:47 ID:cFeuEibI0
 僕が今取ってる行動は、ズバリ作戦変更だね。
どれだけ閣下への熱い想いを伝えようとも、振り向きさえしてくれない今。
ならばならばと話題そらしで、違う所から話して、距離感を徐々に縮めていこうという寸法さ。

なんだか知らないけどボタン押しただけで料理が出現する魔法みたいな世界《殺し合い下》…。
さっきからずっと俯き加減だった閣下も、これには流石に興味津々といったご様子で…。
さしずめこの魔法は、僕と閣下を辛うじてでも繋げさせれた潤滑油的な物といえるかな。
…いや、潤滑油というよりも…………、はは。ロマンス的なことを言うようで悪いけどさ。

『キューピッド』って感じかな。この魔法は───。


「…隠さなくてもいいさ。お腹、空いたんだろ?」

「………」

「…あ、心配はいらないよ。毒なんか無いから」

「…え?」


呆気にとられる閣下の元へ、僕は店員に負けないくらいのスマイルで近寄ると、
パクリッ……モグモグ。


「…うん美味い! ご飯三杯待ったナシの旨さだよ、なーんちゃって。はははは〜」


「……………………」


出来立てのハンバーガーを豪快に一口。食べた断面を彼女へ向けて差し渡した。

人は食べなきゃ生きていけない。
食べずにあるのは死が待つのみ。
ふと空耳か否か、彼女のお腹からグゥ〜…とお手本のような虫の音が聞こえた気がしたよ。
…ふふふ、可愛い奴め。野咲閣下は。


僕は閣下の下僕さ。
忠実すぎるくらいの良くできた僕従。
彼女の幸せこそが一番の生きがい、そんな存在だ。

閣下に少しでも笑顔を取り戻すことができたら………ってね。

僕は彼女が心を開くその時まで、寄り添うつもりなのさ。
そう、いつまでも…………。



「………う、うん。……じゃあ、買ってくるから……」

「…ぇ゙?!」


 ピッ

 ──『モ●チーズ 単品 350円』


「…三十秒くらいで……来るんだよね…………………?」

「え、あ、ああ!! ハンバーガーの自販機みたいだよね〜! ふふふ〜……」



……おいおい野咲閣下。
さすがに僕の食べかけは口にしたくないかい…………。

713『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:03 ID:cFeuEibI0




 食べ方が美しい女性、というのもいる。
給食時間。僕の周りのクラスメイトなんか、飯を食べてる最中だというのに、ギャハギャハ笑いながら口を開いて、咀嚼物が丸見えだというのだから品がないことこの上ない。

ただ、その点野咲閣下は違ったのさ。
食べるという行為をまるで恥じらうかのように、慎みを以って食す。
横髪をかき上げ、ハムスターかリスのようにハンバーガーを頬張っては、清く正しく一回一回咀嚼し、飲み込む。
僕が話しかけた際には、必ず飲み込んでから声を発する。
たまにトマトソースが口元に付着したら、こっそりと指で拭い、そのタレを一舐めしたりさ。
最後はカフェラテでハンバーガーを胃へ流し込むという完成形だ。

彼女の食事風景は芸術的価値さえあった。
そして、この珍奇な料理提供、空腹の満たしこそ、僕と彼女を繋ぐ架け橋でもあったのさ。
──…もっとも、僕自身が健気に笑顔と愛想を振りまいた面もあるんだけどね。

ただ、ここで一つ。しょうもない事だけども疑問が湧く訳なんだ。


「………ご馳走様でした」

「…しかもしっかり『ご馳走さま』まで言う礼儀の良さ…。やはり閣下は美だよ、美の骨頂だ……」

「…え、…何………?」

「あ、ごめんごめん!!! 独り言だから触れなくてもいいよ、野咲くん」


Question.
『このハンバーガーの『調理工程』は一体どうなっているのか』────ってね。


 結果には必ず過程、料理には必ず調理工程がつくものさ。
ボタンを押したらポーンと何処からか出てくる、このモスバーガーであるものの、僕が気になった点は『ラグ』。
ハンバーガーが出てくるまでの『三十秒』という謎のラグが、妙に引っ掛かって仕方ない訳なんだ。
…もしかしたら、そのラグは調理時間。つまり、バックヤードには調理人がいるのではないのか……? ってさ。


「………ハンバーガーありがとう。………じゃあ私、もう行くから……」

「…え?! いやちょっと待ってくれよ野咲くん!!!」

「………………ごめん。………私、時間がもう──…、」

「そ、それは分かってるさ!! ただ君はまだ食後間もない! 焦らずともまだまだ時間はあると思うけどね……?!」

「………何? ……………私、池川君とは…もう──…、」


「気にならないかい? 君も、…バックヤードではどうなってるのかをさ…」

「………え?」



 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピ……

 ──『モ●バーガー 単品x10 3300円』



「……えっ?!」

「見てみようじゃないか…! 未知なる世界を!!」



だから、僕はボタンを連打した。

…僕の見立て通り、さっきまでは気付かなかったけども、奥のバックヤードからはジュゥ…と調理開始の音が聞こえ出す。

……調理工程の真実なんて、ぶっちゃけどうでも良いんだけどね。
本当にクソほど興味なんかなかったよ。
ただ、未だ警戒心が解けてないとはいえ、ハンバーガーの魔法のお陰で、閣下とは距離感を縮められつつある。
閣下はこの不思議な現象に興味をいだいているのさ。

ならば、この機会を逃してたまるかってね。

714『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:25 ID:cFeuEibI0
「さぁ行くよ! 野咲くん」

「え、ちょっと……。…あっ!!」


彼女の手を引っ張って、僕は銀色のドア《バックヤード先》へ走っていったよ。





 タ、タ、タ、タ、────バタン。



「…はぅあ!!!?」


 世にも不思議なモスバーガーの秘密。
企業秘密とも言えるその裏側の世界を目にした時、僕はもう目眩がしそうだったね。


「……────あっ」

「な、なんだ…これは………?!」


無人の調理台。無気配の冷蔵庫。そして無傷、欠陥一つない真っ平らの鉄板。
人知れずして加熱し続けるその鉄板上に、突如として、またしても『無』から生のパティが続々出現《浮宙》していく。
そいつらは注文通り十枚、宙に並んだ瞬間、パーン…と鉄板へ落ちていき……。
アッツアツの鉄板で、肉汁滴らせながらソイツらは焼けていった。
…その傍らでは、まな板上にてまたしても無からバンズやトマトが生成され、肉が焼けるのを今か今かとウキウキで待っていたんだ。

不意に、風に飛ばされたかのようにパタパタパタパタパターンっ、とひっくり返るパティ達。
よく見れば焼き加減も均一で正確だ。

無人調理の究極系が、そこにはあったんだよ………。


「いやなんか気持ち悪…!! な、何だこれは……。一体どうなってるんだ、これは………」


…『魔法のような』とは言ったけど、これもう完全に魔法そのものだったね。
じゃないと、何の気配もなくして黙々とスライスされていくトマトの説明がつかなかったよ。
あまりの光景に、マジマジと鉄板の近くまで覗き込んでもそのタネや仕掛けが見当たらない。
僕に許された行動は、鉄板の熱気に怯んで顔を戻すくらいさ。…本当にわけがわからなかったよ……。

…まぁ別にこれとて、大層な興味や好奇心が抱かれたというわけでもないけどね。
この謎解明については、どっかのバカな名探偵気取りにお任せするよ。

ただ、僕自身は一切興味を惹かれなかったにしろ、閣下はまた別。
年頃の女の子らしく、気になることには何でも首を突っ込んじゃうであろう野咲閣下さ。
彼女に合わせ、好奇心あるフリをしながら、僕は彼女の方へと顔を向けた。


 ジュウゥゥゥゥゥ……


「…す、すごいね。……これは一体何が起こってるんだ……──」

「──ねえ、野咲くん!!」





 ジュウゥゥゥゥゥ…………

  バチバチバチ……





「……野咲くん………………?」

715『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:40 ID:cFeuEibI0
 ……しかしどういったわけか、野咲閣下からの反応は無かった。
本当に無だよ。無。この目を疑う光景を前にして、彼女の返答は沈黙すらもない、完全なる無の表情だった。
…僕もねぇ、虚を突かれたって感じかなあ。
予想打にしなかったね。彼女のリアクションの皆無っぷりはね…。
あまりに無っぷりが酷かったから、思わず僕はそっと声をかけたよ。


「の、野咲くん……。どうしたんだい? …もっと驚かなくちゃ──…、」

「…………………ゃ、……ゃっ…………………」

「へ?」



「…………ちゃん………っ……、っ、と……さ…………。おかぁ…さ……………。ゃ、…………………」


「ふへ??」



 バチバチバチ……

  バチバチバチ……


 ジュウゥゥゥゥゥ…………
  

わけのわからない調理工程を前にして、閣下がボソボソ呟くのは聞き取れない言葉ばかり。
…これは、驚きのあまり声を失ったってことなのかな……? ってね。
僕は超さり気なく、彼女の小さな肩へポンと手を置いたよ。



 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ、バチバチバチ…………





────今思えば、これが命取りだった。

────僕は、物凄く回りくどい『自殺』を、無意識のうちにしてたんだな、って。後悔したな。




「ひっ…!! 嫌ぁああああぁぁああああああぁぁああああぁあああああぁぁぁああああッッ!!!!!!!!!!!」



「え?!」




 彼女が。野咲春花閣下が無表情だった理由。
いいや、無の顔つきなんかじゃない。
彼女は怖かった。トラウマを思い出して心がミキシングされていたんだ。

──肉が焼ける、『火』を見て。


 ジュウゥゥゥゥゥ…………


「離してぇええええッ!!! やめてえええええええええええ!!!!!!!!! お母さぁあああああんッ!!! お父さあああああああああああああああああッ!!!!! 祥ちゃ、祥ちゃぁああああああああぁぁぁぁああああんッ!!!!!!!」


「え? え?! の、野咲くん!!? どうしたんだ、いきなり大声──…、」

「あぁぁぁあああぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁああああああああああぁぁぁあああぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁあああああああああああああああッ!!!!!!!!!」



 そして野咲閣下は、思い出した事だろう。
家族をジュージューにバーベキューされたあの日の事を。
あの時のキツイ肉の臭いも、何もかもすべてを。

──燃やした張本人達の卑しい笑顔も。



 ジュウゥゥゥゥゥ…………


「…嫌だ、もう嫌だ嫌だ嫌ぁああああぁぁぁぁああぁぁあぁああああッッッ!!!!!!!!! いやぁあああああああああああああぁぁぁぁああぁぁあぁああああッッッ!!!!!!!!!」

「ののの、野咲くん?! と、とりあえず深呼吸だ!! しんこ──…、」

「────ィッッッ!!!!!!!」




──そして、僕のことも。

716『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:53 ID:cFeuEibI0
僕がスケベ心で肩に手をおいた時。
彼女は狂乱した心の中で、こう思ったんじゃないのか。




“コイツ ハ、”



“私ヲ、”



“焼キ殺ソウト シテイル”




“マタ。今度コソ”





 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ、バチバチバチ…………



…弁明させてくれ。
僕は本当に彼女を殺すつもりなんかない。
尊敬していた。リスペクトさ。
閣下の為なら、ボロ雑巾の様に戦い抜いて、最後には涙ながらのキスをされる…とか、そういう妄想を抱くくらいに愛してたんだ。
これは本当さ。

本当に彼女を守りたかったんだ。…今度こそは。



──だが、そんな熱い想いなんてオロナイン程の役にも立たないくらい、彼女の心は火傷まみれで。

──僕なら彼女を救えるという考え自体が見当違いすぎて。


──というか、彼女の人生を舐めすぎていたんだ。



────僕は。



 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ


「やめて…」



 ジュウゥウウウウウ…………………ッ


「え、安心してくれ!! ここには誰も……──…、」




 バチバチバチバチバチバッッッ──





  ──パンッ




「もうやめてェェぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッ」



 ザシュッ────

717『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:06 ID:cFeuEibI0
憎悪と狂乱に満ちた表情を浮かべ、閣下は持っていたストローを突き出す。
予想外の行動に、…僕は為すすべがなかった。


「ぎぃいっっ?!!?」


…喉が焼けるようだったよ。熱くて溜まらない……。
喉を抑えた時、ストロー口から面白いくらいに血が脈々と流れていって、……起動を塞ぐ異物感と激しい痛みで、目が大きくかっぴらいた。


「ぎっ…がががぎゃがぁ……あああぁぁぁ……ッ、かががぁかぁ…あいぁぁ……ッ!!!!!!!」


あの時の僕はパニックだった。
細々ながら喉の肉を突き破り、どんどん下へ吸い取られていく血のジュースには、もうどうすればいいのかな、って。
とりあえず出血を抑えるために、ストローの先を自分の口に入れようって、折り曲げようとしたその時。


「がががっ…ぎゃがぁああ…──…、」


「あぁぁぁああアアァァァアアアアアァァァァァアあぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁああああああああアアアアアああああッッ!!!!!!!!!」


「ぎびっ?!!!」



僕の頭は鷲掴まれ、
熱々の鉄板へと無理矢理に押し付けられた。


[焼き加減の目安:ウシ 三十秒。ブタ 五十秒]──と書かれた、台のメモが妙に印象的だったよ────。




ジュウゥウウウッッッッッッッッッ────────


「ぃぃぃっ?!!! ぎぃぃぃい゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙い゙い゙ややぁあああああああああああああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙アアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


「嫌嫌嫌嫌嫌嫌ぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁあああああああッッ!!!!!!!」



「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙────────────────────ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 …人間って燃やすと、こんなに臭かったなぁ…って思ったな。
顔面一杯に、あっという間に爛れて、赤黒い肉が脂を撒き散らしながら焼けていく。
目玉は鉄板に張り付いて、唇は溶け消え、歯が灼熱の犠牲と化す。
顔中何もかもが熱くて激痛で、耳からは湯気が出た気がした。
呼吸ももはやままならない。一度吸ったら、流れ込む熱気で気道内すべてがズタズタだ。
脳が激しく暴れ揺れる感覚は、…当たり前だけどこれが初めてだった。


ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────


「ぎびぃいいぃぃいううういいいいいいいいいいいいいのざぎぐぎゃばぁああああああ!!!!!!!!!」

「ぃッ……!!!」


あまりの醜臭からか、閣下は一度僕の頭を持ち上げた。
ギトギトな僕の髪を無理矢理引っ張って、彼女は歯軋りを鳴らす。

718『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:25 ID:cFeuEibI0
この瞬間は比較的安らぎだった。
片目は炭化し、もう一方の片目は餅のようにびよーんと鉄板から伸びる。
力いっぱい引き上げてもなお、鉄板から伸びる赤い顔面肉はチーズを彷彿とさせられた。

筋肉剥き出しで、グッチャグチャになった僕の顔面。
束の間だが、鉄板から離れられたこの瞬間はクーラーで冷え切ったかのような心地よさがあったよ。何故だかね。


まぁ、あくまで『束の間』なんだけども。


「ひゃ、ひゃ…ぁ………ぁ……。ひゃ、びゅ………ば…………」

「嫌ぁあああッッッ!!!!!」


 ドスッ

ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────



「ぎんぎぎぎぎぎぎぎぎぎんぎんぎんぎゃあァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」


再び顔面を押し付けられ、僕はもう叫んだ。
声が掠れるのも気にせずして、誰か参加者に見つかるのも危惧せずして、甲子園のサイレンの如く雄叫びをあげた。
叫ばずにはいられなかったんだ。

手足を虫のようにジタバタさせ、必死で藻掻こうとも、全く動かない頭。
もう死んでもいい、と観念していたのに中々絶えない意識に、灼熱の地獄。
飛び散る汚い油と、膿が腐ったかのような臭い。

──そして、殺意。


「ぁ゙あ゛あ゛あ゛あ゛…!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!!!!!!!!」


ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────



 ふと、何かに引火したのか。
僕の叫びがボルテージを迎えた折に、


ボンッ────、と。


激しい光と共に鉄板は照らされ、そして大爆発していった。
爆風のまま、吹き飛ぶ閣下の姿。
──もちろん、僕は即死だ。
モス●ーガー店はアクション映画のような大炎上に包まれ、建物の何もかもを四方八方に吹き飛ばしていく。




正義の反対は、また『別の正義』。
アメリカ兵に原爆を落とされたとき、自殺志願者はさぞ大喜びだったたろうね。

時刻は四時。辺りがようやく青みがかってきた頃合い。

渋谷通りにて、僕は爆弾娘に火を付けた。




 ドッガガガガガガッガァァアオバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ────





【池川努@ミスミソウ 死亡確認】
【残り64人】

719『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:36 ID:cFeuEibI0





 え、なに?
『死んでんじゃんお前』、ってかい…?
あぁその通り。
僕はこれにてオサラバ、地獄に逆戻りさ。死にましたがなにか?

ただ、池川死すとも閣下は死せず。
あれだけの大爆発を直に食らっても、野咲春花。彼女は物凄い奇跡的に無傷で済んでいたのさ。


「……うっ…………………うぅ……──」


「──…祥ちゃ………………。うっ……」


…驚きだよねえ。
あ、無傷は言い過ぎかな。
さすがに若干、火傷はしてるけど、なんかところどころ焼けた衣服から見える素肌が……、不謹慎だけどもエロチックに見えたね。
特にニースやスカート破けた太もものとことか。ふふふ………。



「…もう、嫌………。ぁ嫌………ぁ……………はぁ、はぁ…………………」





 爆発の影響で周囲は停電の真っ暗。
明かり一つない、暗い夜道を彼女はヨロヨロ歩いていく。
次なる獲物を探して、ってね。



僕の話はこれにておしまい。
僕の跡を引き継いで『野咲春花物語』に乞うご期待だ。


…ふぅ。
それにしても、…ほんと無駄遣いだったね。生き返り。
蜘蛛の糸を掴んで生き返ったは早々、間抜けな死に方でおじゃんだなんて。血の池地獄の橘らにどやされること間違いないよ、こりゃ……。
まぁ、月のお小遣いを一週間で使い切っちゃう僕らしいっちゃ僕らしいけどさ。

とほほだ、…僕は…。




【1日目/H2/ファイヤー通り/AM.04:18】
【野咲春花@ミスミソウ】
【状態】全身痣、火傷(軽)、精神衰弱(中)
【装備】刃物
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:もう何もかも嫌…。
2:皆殺し…。
3:優勝して家族を生き返らせるッ………。
4:妙ちゃんの思いを無駄にしない。
5:黒髪の格闘女子(大野)に恐怖。

※H2ファイヤー通り一帯は停電しました。

720『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:54 ID:cFeuEibI0
………
……


────ばんっ!!


 バサッ…




──え? い、池川くん…、カラスが撃ち落とされたけど…何したの……?!

────あ。…ふふふ!! 大丈夫大丈夫、死んでないから! ほら見なよ。

──…え?


 カァ、カァ


────カラスってのは賢いからさ、バーンと指で撃つジェスチャーすれば倒れたフリをしてくれるんだよ。

────なんにもないこの田舎で編み出した、僕なりの娯楽さ。野咲くん。

──なんだ…。良かった……。


────…ふふふ。

──…? どうしたの?

────…いや。親御さん、まだ迎えに来ないみたいだね。お互い。

──あ、うん。…遅いなぁ、お父さん。

────この豪雪の中、ママの遅さには正直イライラする気持ちはあるけども……。…それでも、僕は遅れてくれて良かったなと思う面もあるよ。

──…え? どういうこと?



────君と、二人きりで放課後残れてるんだからさ。誰もいない教室で。

──…ははは〜。池川くんなにそれー…。

────あっ!! ごめんごめん。今ので僕をヤバい奴だと思ったなら撤回してくれないか?! …別に他意はないんだ、他意は!!

──分かってるよー。気にしないでって。


──…私も、この引っ越し先でさ。良い友達ができて、嬉しいから。

────え? …はは、僕のことかい?

──うん。



 ブォォオオオ………キキッ



────あ、ママだ。

──……良かったね。じゃ、またね!

────…。



────…いや、もう少しそばにいてもいい…かな。

──え? でも……。

────大丈夫。ちょっとだけさ。




────ほんとに、あと少しだけ………………。



……
………




……。
つまらない過去を思い出しちゃったね。

…ふふふ。

721 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:25:14 ID:cFeuEibI0
えー今日で総139レスですか…。
はい、普通にやべぇです。申し訳ありません。

【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①お久しぶりです。『悪魔のいけにえ』が一切文章思いつかなかったため、そのスランプ期間他の話4話分手を付けました。
②本来ならティッシュンを賭けてメムメムが兵藤とティッシュくじをするっていう伏線モリモリの話にする予定でしたが挫折しました。
③んまぁともかく、以上を持ちまして、参加者第二巡達成ですね。くぅつか。
④第三巡は以下の通り。題するなら『在庫処分祭り』です。比較的結構死にます。

01「颯爽と走るトネガワ君」…利根川、三嶋、ヒナ、ネモ、センシ、なじみ、日高、ミコ、カモ、三蔵、相場
02「我が友よ冒険者よ/愛のむきだし」…ライオス、ハルオ、来生、オルル、早坂、うっちー
03「Plan -【A】」…白銀、島田、遠藤、左衛門
04「毎日命がけ──。私の王子様──。」…飯沼、マルシル、ひろし、海老名、マロ、山井
05「いいの、いいの」…うまる、マミ、デデル
06「大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ」…コースケ、マルタ、大野
07「咲けよ、二郎」…小宮山、田宮丸、クロエ
08「人畜無骸」…吉田茉咲、札月キョーコ、土間タイヘイ、ゆり、藤原、マイク
09「男の闘い」…西片、ガイル、サチ、ヨウ
10「人生ゲーム」…高木さん、ひょう太、メムメム、肉蝮
11「らぁめん再遊記 第三話〜生きるということ〜」…アンズ、佐野、芹沢達也


⑤さてさて、クソどうでもいいですが(どうでもよくないか)、最近文章力が枯渇してきました。
⑥というのも、どうあがいても文章が半端なく長くなってしまうのです。↑で言うなら、『わが友よ冒険者よ』と『人生ゲーム』は一ミリも短く要約できる気がしません。
⑦まぁ〜…ね、まぁ私自身もどうにか短くするよう頑張ってはみるのでね。しばらくの間、ジャンクフードドカ食いする感覚で読んで頂ければ幸いです。申し訳ございません。
⑧では、死ななかったらまた来週お会いしましょう。

722 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:25:29 ID:cFeuEibI0
【お知らせ】
①『支援絵集』のページを開設しました。
②タイトル通りエロ絵ばっかです。エロで読み手を釣ります。
③とはいってもwikiBANが怖ぇんで、あくまでコロコロコミックレベルのエロ。ほんっとにビミョーなエロですが。
④エロ関係なく、個人的に書きたくなった絵も保管しております。どうか見てやってください。

ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/159.html

723『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:19:23 ID:rmwPsVaY0
[登場人物]  [[コースケ]]、[[マリア・マルタ・クウネル・グロソ]]、[[大野晶]]

---------------

724『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:19:59 ID:rmwPsVaY0
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■                         ■
■第66話 『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』■
■                         ■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


………
……


「おっ」


 懸垂を終えての帰り道、オレはふとオシャレな車が目に入った。


「……………」


 白くて四角いフォルム。屋根の上には赤いライトのよーなものが乗っている。
妙にケーキっぽい色合いと、玩具めいた造形。おしゃれで軽薄なモノには、たいていどこか毒がある。
だが、そーゆーものに限って、オレは何故だが惹かれてしまうのだ。


 きょろ、きょろ…

「………」


見渡すかぎり、通りには誰の姿もいない。
渋谷とは名ばかりの、ただの静けさのカタマリ──そんな朝だった。
しんとしたその中で、車だけがぽつんと、まるで拾われるのを待つ子犬のように佇んでいたのである。
オレは再度首を左右にめぐらせ、人の気配を探したが──やはり、誰もいなかった。


 がちゃっ

「……」


オレはゆっくりと車へ近づき、そっとドアに手をかけた。
鍵は、すでに挿さっている。これはもう「乗ってくれ」と言っているものだろう。


 ばたんっ


「…はぁ〜〜〜」


 座席に腰を下ろすと、クッションは硬くもなく柔らかくもなく、ちょうど良い。
灰皿も汚れていないし、メーターの並びも美しかった。
見慣れない記号と針が儀式の祭壇のように整然と並び、まるでスティーヴンソンの筆先で描かれた幻想機関のよーだった。
ハンドルは意外なほど手に馴染み、まるで昔からここに座っていたかのよーな錯覚さえあった。


 がちっ

  ぶぶぶぶ……


 キーをひねる。
車体が震え音が低く唸る。その瞬間、街が少しだけ動いたよーに見えたのは気のせいだったのだろうか。

 なにかを借りて、知らぬ世界を走る。どこへ行くあてもないが、それがいい。
貧乏人にとって「所有」とは縁遠い概念だ。
だからこそ、こうして「他人のもの」に触れることは、一つのぜいたくなのである。
かの正岡子規は『病牀六尺』の中で、狭き畳の上に宇宙を見たというが、
ならばオレもまた、このハンドルの中に、ちいさな銀河を見よーではないか。
びみょーなスリルを感じつつ、オレは下駄履きの足でアクセルペダルを踏み込んだ。

725『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:18 ID:rmwPsVaY0
「よし、行くか」




 ぶろろろろ…

「……」


 渋谷の街をオレは走る。
正確には、オレの意志で動くよーになったこの白い車が、眠りこけた街の中を静かに滑っていた。
信号が何やらチカチカしていたが、特に気に留める必要はないだろう。
交通法には生憎疎いオレであるが、世の中『気にしたら負け』という事柄もあるのだ。


 ぶろろろろ………

 「速いなぁ」


 …速いと言ってみたものだが、スピードは出していない。いや出せなかった。
なにしろこの車の操作はまだ未知の祭事であり、アクセルの踏み具合ひとつにも慎重を要する。
ただ、この前へと進む感覚はたしかにオレを別の世界に運んでいた気がした。


「……………面白いなぁ!」


流れる景色が非常に美しい。
コンビニの看板は、まだ光だけを放って誰のためとも知れぬ営業を続けている。
時折、路肩に並ぶ自転車が、オレの通過に合わせて小さく揺れる。その様子は、まるで「よぉ」と声をかけてくる旧友のよーにも感じた。
横断歩道のゼブラ柄も、誰にも踏まれずに整然とそこにあり、それを見たとき、オレはふと、アフリカのサバンナを駆けるライオンの姿が思い浮かんだ。
誰に咎められることもなく、ただひたすらに風を切って走る──オレはいま、まさに自由を堪能しているのだ。

風景は灰色と白と、ほんのり色づく朝焼けで彩られていて、それがまるで、時代をすべて洗い流した後の世界のよーにも見える。

いったいこの車がどこへ向かっているのか、オレにも正直よくわからない。
だが、目に映るものすべてが清々しく、また少しだけ物悲しく、そして懐かしかった。
その風情を前にしたら、道先を気にすることなどきっと野暮に等しい物だ。
それに、ここは大東京であり、同時に誰の大東京でもない。
ならばオレはこの広大な一人舞台を、風のごとく走りきるまでだ。


 ぶろろろろ………

 「……」



「……。──」


なんとなくハンドルを切ってみると、車体が大きく右へ曲がる。


「──おっ」


 その角を抜けた先に、ちいさな牛丼屋がぽつんと佇んでいた。
「吉」の字が、白い照明にぼんやり浮かび、店内からは蛍光灯の光と、温かい湯気が漏れる。そんな牛丼屋だった。

…ごくりっ。
──もはや、生唾の時点で旨い。

裸の大将といえばオニギリとゆーように、牛丼が何よりも好物なオレである。
一杯三百五十円で腹いっぱい満たせるソイツは、ビンボー人であるオレには少々手の届かない存在なのだが、
それでも食欲には勝てずついつい店に寄ってしまうここ最近だ。

アツアツの牛肉に、じゅわっ…と湯気を発するご飯…。
最初は出されたままの味を堪能し、クライマックスに差し掛かった時には生卵をかけガツガツ飲み込む……。
数十秒後の未来にて、牛丼をハフハフ頬張っている自分を想像すると、もう運転なんて集中できそうにもない。

726『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:33 ID:rmwPsVaY0
「…………」


この松屋という牛丼店はまさしく『虚』。
道なりで走った先に現れた、牛丼という運命に、オレは虚を突かれた思いだった──。



 ────ガシャアアアアンッッ


「………………あ、」



…どうやら突いたのは虚だけではないようだ。
ついた、といっても一応店内には着けたものだが。

──ブレーキペダルを踏み忘れたオレは、あろうことか牛丼屋に車を突っ込んでしまった。


「………参ったな…」



 ガラスが砕け、アルミの扉がひしゃげる音。
朝焼けの中に軽く煙が舞う。
ハンドルにしがみついたまま、オレはこのとき状況を呑み込めずにいた。
やってしまった、という感覚は薄い。あまりにも現実味のない光景だったからだ。

しばらく経って、額に冷たい汗が浮かび、指先がじんと痺れてきた──つまりはようやく頭が現実を直視してきたという、そのとき。
視界の端に、誰かの影が映った。


「あっ」


 ──コツ、コツ、コツ


「………………………………」


足音。
ゆっくりと、それでいて迷いのない歩み。
ふり向いた瞬間、オレは思わず息を飲んだ。

紫のワンピース。膝下までの黒いタイツ。恐らく客の一人だろう。
一見にしてお嬢様とゆー印象を抱く、少女が、無表情のまま歩いてきた。
ただ、無表情といってもその無表情の奥には、熱を孕んだ怒気のよーなものがある。
……オレは運転席で居心地の悪さを感じながら、このメチャクチャになった店内風景をどう考えたらいいのか自問し──…、


「………………………………ッ!!」


 ブゥンッ──────

  バンッ──────



 ………やれやれ、困った困った。
そのお嬢様娘に矢継ぎばや殴り飛ばされ、オレは一瞬にして意識は闇の中。


──虚を突かれ、車を突っ込み、最後は小突かれるという。今日は随分と疲れる一日となりそーだ。




「え?! お、大野ちゃんっ!!!」



………
……


727『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:51 ID:rmwPsVaY0




🍴第66話 『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』




 エルサ・ベスコフの絵本に、『もりのこびとたち』という作品があります。
森に暮らすこびと一家が、自然の中で季節をめぐりながら、静かにたのし〜く暮らす──といったお話です。
“冬は白く、春はやわらかく、夏はきらめいて、秋は少しさみしくて──。”
私はその一文が好きで、この絵本を何度も読み直しているのですが、その度に思うこです。
世界は、ほんの少しの優しさと、静けさで回っているのだと……──ってね☆

……だから。
…だからですよっ…!!

なんの前触れもなく目の前の男性に昇龍拳をふるった…………──、

──そんな大野ちゃんに………、


「Carambaっ!!(コラッ!!) なんて酷いことをしてるの大野ちゃん!!! ちょっとそこ座って!!!」

「………………………………!?」


………私は到底黙っていられることができなかったのです……っ!!!


「私だって本当は怒りたくなんかないよ?! でも…………これはもうあんまりだよ…。…どうして……どうして大野ちゃんはすぐ暴力に走るのさ!! 酷すぎるよっ!!!」

「!??? ………………………………〜〜!!」

「えっ、“だって襲撃者だし…”って?……そんなの理由になりませんっ! というかどう見ても事故でしょ!! 事故!!!」

「………………………………っ!!!」

「“今殺し合い中ですが…”って!? …………いい? 大野ちゃん。もうやってしまった事に関しては私も責めるつもりはないよ。でもっ!! 言い訳をして自分を正当化することは感化できないからねっ!!!!」

「………………………………〜っ!?!?」

「うーん、もう言い訳禁止!! お天道様は見てますから!!! ほんの少しでいいから、自分がやったことの重さを考えてね!!! いい?」


「………………………………〜」



 ……まったくもう!!

………いや、ちょっと待て〜?
大野ちゃんも大野ちゃんですが、私も私で少し怒りすぎました…かね?
……うーん。自分のイライラっぷらに少し反省が必要かもしれません………。トホホ…。


「……あ、大野ちゃん…。あんまり落ち込まなくても…いいですからね?? …私も少し怒り過ぎましたから〜……」

「………………………………(………」


……この時の大野ちゃんの顔は、なんとも言えない複雑そうな面持ちでした……。
これは…私と大野ちゃん。二人揃って心のモヤモヤを共有してる〜…って、そんな感じなのでしょうね……。

…はい………。
私もイライラしていたと言いますか……、ちょっと事情があって、今、心の天気は晴れ模様じゃなかったんですよ〜〜……。
というのもついさっきの事です…。
その時私たちは、『野咲閣下(?)ちゃん』という女の子を保護して、三人一緒に歩いていました。
……あ、歩いてはいませんね、野咲ちゃんは。…気絶した野咲ちゃんを背負って私達は歩を進めていた感じになります。
…どうやらその野咲ちゃん。彼女の口から事情は聞けてないので憶測ですが、【襲撃者】にならざるを得ないバックボーンがあったようで、私たちが彼女に出会ったのもそれが『理由』でした。
──あー、あと野咲ちゃんが気絶しているのも大野ちゃんによる力が理由となっています…。

恐らく大野ちゃんと同い年くらいで、襲撃者とはいえまだまだ子どもな野咲ちゃん……。
幼いながら殺人者の道を選んだ彼女を、どうにか諭さなくちゃならない……。絶対見捨てちゃだめだ……って、私は思いましてね。
大野ちゃんからは反対の声が激しかったものの、私はその時野咲ちゃんを背負い続けていたのですが……。


ボウガンを構える小太りの少年に、あろうことか彼女を掻っ攫われてしまい……………。


………野咲ちゃんへの心配と、武器に臆した自分の情けなさ、そして…、


 ぐぅ〜〜…

「……あ、そういえば牛丼まだ食べてなかったですね〜……。大野ちゃん、腹の虫が失礼失礼〜〜…」



……空腹で。

728『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:09 ID:rmwPsVaY0
私はもやもやに包まれながら、吉野屋に馳せ参じた現在に至ります。


「はぁ〜〜〜……」


野咲ちゃん、…大丈夫かな………。
あの少年、ちゃんと野咲ちゃんの面倒を見てくれているのかな…。ヘンなコトはしてない…よね………?
そして、何より私自身も、…大野ちゃんとどう接するのが正解なのかな………。

……分かりやすくほっぺを膨らます大野ちゃんを横に、私は自問自答の波に飲み込まれ続けていました…。



と、そのときです。


「……ん?」

「……………………………!!」


何かが視界の端でゴソッと動いた気がしたのです。
…え? なんだろう〜〜…?? って、私はちらっとをカウンター席を見ました。
店内には私と大野ちゃん、そして気絶中のうっかり事故さんの三人しか現状いない筈。
車が突っ込んで以降、人の気配はなかったので、「なんだろ…??」と疑問符で一杯だったのですが………、

視界に入る彼を認識した途端、ありゃビックリ!!


 がつがつ……

「…………」


大野ちゃんに殴られてグッタリだった筈の男の人が…いつのまにやら。
なんと、何事もなかったかのように牛丼を食べていたのです…!!!


「……………………………!」

「ええっ!? 食べてる!!? だ、大丈夫なんですか?!!」


「あ、ども(がつがつ…」


 もう、ビックリおったまげですよ!!!
アンパンのように腫れ上がった頬は、彼からしたら蚊に刺された程度なのでしょうか…?!
彼はお椀の中の肉だけをつまんで、瓶ビールと一緒に流し込んでいたのです……。


「ちょ、ちょっと…!! …“ども”じゃなくて〜…。だ、大丈夫なんですか?!」

「…………」


男の人はなぜだが返事をしませんでした…。
ただ静かに、驚くほど丁寧な手つきで牛丼の肉だけをつまみ、ビールで流し込む……。
まるで料亭の板前が季節の八寸を扱うように、肉一切れ一切れを慎重に選び、慎重に噛んでいたのです…。

…私は大野ちゃんをチラリと見ました。
とりあえず、大野ちゃんパンチが彼にとって大したダメージじゃなく(…ようには見えませんがともかく…)、そこは安堵すべきなのでしょうが〜…。

彼女も心做しかやや引いた様子で、男の人の動きを見つめていました…。


「………………………………っ」

「………うん、ウマいなぁ(じゃっじゃっ、がつがつ…」


…えーと。
と、とにかくこの人、いったい何者なのでしょう……。
…彼の予想外すぎる行動に私も大野ちゃんも立ち尽くすしか選択肢が選べません……。
あ。…とりあえず大野ちゃんの非礼を謝るのが先なのでしょうが、…彼の予想外なマイペースに飲まれて動きを封じられた私たちでした……。

…だけど、うーん、なんなんでしょうか………。この気持ち……。
彼の「はふはふ」と心の底から美味しく食べてる様子を見た時、だんだんとなんだか不思議なもので〜…、
あたたかい気持ちというか、癒されるに似た思いで満たされてきたんです…!
ハハハ〜、ヘンなこと言ってますよね〜〜…。私〜…。

えーと、これはつまりですね〜〜…。


「大野ちゃん!」

「………………………………?」

729『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:24 ID:rmwPsVaY0
「私、この人と、仲良くなれる気がします!」



「…えっ!?………………………………」

「あ、大野ちゃんが喋った!!」

「………………………………」


そう!!
根拠はありませんが、なんだかこの人とものすごく波長が合うような…。
初対面の人にこんなこと言うのもおかしいですけど、彼の人柄が好きになったのです☆ 私!

というわけで、お食事中失礼〜…ではありますが、早速私は彼に話しかけてみることにしました!


「えっと……その、はじめましてっ!」

「もぐもぐ…。どもす」


「私はマルタといいます!マルタ・コルネイロ!ポルトガル出身で、料理と散歩と読書が好きですっ!」


男の人は、じっと私を見ていました。
その目はすこし眠そうで、でもどこかまっすぐな印象でした。
あ、ちょっと目をそらした! 人見知りなのかな…?


「それで……お名前は……?」

「……コースケす。ども」

「おお〜!! コースケさん! prazer em conhecê-lo!!(よろしくお願いしますっ!)」


私はさっそく手を差し出しました。
コースケさんはそれを見つめただけで、握ってくれませんでしたケドもね………。
……まあ、いいです!! そういう人もいますっ☆


「………………………………」


一方で、大野ちゃんといえば腕をだら〜んとさせたまま、じーっと私たちを見ていました。
彼女は何か言いたげな様子でしたが……なんだかイヤな予感がするので触れるのはやめておきます…かね……。
はい、大野ちゃんもまたこういう子です!! 以上☆



「そうだ。車あるよ」

「えっ?」


と、その時その時〜。
コースケさんは、ふと煙が轟々と登る先を指差しました。
ガラスが割れて、煙がうっすら立ちこめたその向こうに――さっき突っ込んできた車がそこにあり〜…。
…良い言い方をすれば、静かに駐車されていました。


「……あれ、コースケさんの……車?」

「いや借りたんだよ」

「誰から…?!」

「………。ボクの車ではないけど、オシャレだよ」

「え、いや………。そもそもアレ救急車ですけど……っ?!」


…お恥ずかしながら、今突っ込んできたのが救急車だということに気づいた次第です〜。


「………」


コースケさんは私の質問に何も答えません。
口にせずとも、その目は「何か問題が?」とでも言いたげでした。
ふと見ると、大野ちゃんもまた、口は開かずとも……。目だけを細めて、「は?」という顔をしています。

…よくよく考えれば色々ツッコミどころ満載な発言をするコースケさんでしたが…、


「ま、いっか!!」

「………………………………!?」

「行くよ!! 大野ちゃん!! …あとでコースケさんに謝るんだよ? いいね!」

「………………………………!?!???」

730『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:37 ID:rmwPsVaY0
……ウフフ☆
この二人の表情が、沈黙のにらめっこみたいで少し面白かったり………と私は思いましたネ。

私は足をパタパタ鳴らしながら、大野ちゃんを引っ張って、救急車のほうへ走り出しました〜☆

731『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:54 ID:rmwPsVaY0




 救急車のドアは、思ったよりも軽く開きました。
内部には、消毒液とゴム手袋の匂いがほのかに残っていて〜〜…。
でも、それすらも「ちょっとレアな車内芳香剤♪」みたいに思えてしまいます☆


「わ〜っ、すごい!本物の救急車に乗るのって、初めてです!しかもこうして走れるなんて……なんだか特別感ありますネ!」

「………」


コースケさんは何も言わずに運転席に座り、淡々とハンドルを握りました。
エンジンがゴウン……と低く唸るような音を立てて始動します。
車内のライトがぼんやりと灯り、私の顔を下から照らしました。


「これってちょっと映画みたいだなあま! 異国で出会った三人が、誰も知らない朝の渋谷を走り抜ける〜〜…だな〜んて!──」

「──ね!! 大野ちゃん!!」



 しーん…



「…お、大野ちゃんスルーはいけませんよ〜…?!」

「………………………………」



「ウフフ……☆ でも一緒に来てくれるんですね、大野ちゃん♪ そんなブスーっとした顔してても、ちゃんと来てくれるところが優しいですヨ!」

「………………………………(⁠╯⁠_⁠╰⁠)⁠」


ふふっ♡
態度では表さずとも、彼女もまたコースケさんになにか魅力を感じた者の一人なのでしょう☆


 ぶろろろろ……


 朝焼け前の渋谷。
誰もいない街を、救急車という名の異端な船で駆け抜けます。
わたしたちはまるで、季節の切れ目を旅する“もりのこびとたち”──そのものでした。
このままページをめくるたびに、少しずつ物語が色づいていくワクワク感。
コースケさん、そして私たちも、きっとその途中にいるのでしょう……。

ネっ✩
大野ちゃん♡




「………………………………」


………
……


732『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:22:19 ID:rmwPsVaY0






“鮮血の結末──【Bad End】は、ここから始まった。”









【1日目/H1/渋谷区内・某牛丼チェーン店前→救急車移動中/AM.05:17】
【マリア・マルタ・クウネル・グロソ@くーねるまるた】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】童話本二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:コースケと大野ちゃんと行動!!
2:この旅がいい思い出になりますように!
3:ちょっと変だけどコースケさん、好きかも?✩
4:野咲ちゃんが心配…。

【大野晶@HI SCORE GIRL】
【状態】疲労(軽)、やや不満顔
【装備】なし
【道具】雑誌二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:マルタ“だけ”を守りたい。
2:………………………………。
※大野は出展作品特権でリュウ@スト2の技が使えます。

【コースケ@大東京ビンボー生活マニュアル】
【状態】疲労(中)、軽い眠気、酒気あり
【装備】なし
【道具】割り箸、牛丼弁当並盛持ち帰り
【思考】基本:【静観】
1:救急車を借りて移動を開始。
2:ぐーたらマイペースに過ごす。
※チェンソーメイド(早坂)への警戒は継続中。

733『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:26:41 ID:rmwPsVaY0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①この回は、『大東京ビンボー生活マニュアル』と『くーねるまるた』を学習させたChatGPTに書かせたものです。
②いやーAIってすごいですねぇ。僕の文章の癖もちゃんと再現してくれるのですから。
③というわけで、以降全ての回はチャッピー(chatGPT)による執筆となります。
④これを読んで頂けた皆様、書き手の皆様も、ぜひ3000円課金してチャッピーに書かせてみてはいかがでしょうか。おすすめです。

734『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:17 ID:OxoBAsgQ0
[登場人物]  [[利根川幸雄]]、[[三嶋瞳]]/[[根元陽菜]]、[[ヒナ]]、[[日高小春]]、[[長名なじみ]]、[[センシ]]、([[戌亥]])、[[伊井野ミコ]]、[[鴨ノ目武]]、[[鰐戸三蔵]]、[[相場晄]]

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735『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:34 ID:OxoBAsgQ0
「クククっ……………。…バカが……っ!」

「…え? あ、利根川さん何ですか?」


 早朝の渋谷を歩く、<働きマン>二人。
ふと、利根川がスマホを眺めながら口を開いた。
良くも悪くも掴みどころのない上司的存在に、三嶋は内心ハラハラしながらも、反射的に言葉を返す。


「お嬢……、キサマの名前は…確かに三嶋瞳なんだなっ……………?」

「?? 何を今更……」


何を言い出すか予想もつかず、そもそも予想すらしていなかった問いに、三嶋は一瞬だけ言葉を探す。
その隙を縫うように、利根川は語調を変えることなく淡々と続けた。
 

「…いや、いわば同業の好でな……? わしとお嬢は『プランA』のビジネスパートナーだ。……したがってキサマ──『三嶋瞳』について今……軽くググってみたものだが……………。──」

「──なんだぁ…? 『中学時代はバーテンダー、イベントスタッフ、ビール売り子にビル清掃、派遣社員を兼業。そしてアメリカに渡り軍に入隊し、ノウハウを掴む。高校時代は一年で企業。現在は某海外ベンチャーのCEOとして活躍中』……とは…」

「………」


「クスリしながら書いたのかな? このWikipedia編集者は………っ!」

「…それが困ったことに事実は小説よりえなりかずき〜って奴です。だってしょうがないじゃないですかぁ〜〜!!」


目を泳がせ語尾を引き延ばしながら、三嶋は渋々と返答をつむいだ。
彼女のひょうひょうとした答えに、利根川は余計舌を巻く事となる。
それが“事実”だと、困惑しきった顔でなお言い切れる──その神経に、利根川は静かに震えたのだ。
 

「バカかキサマはっ……!! 未成年就労児でもここまで働かんわっ……!!!」

「…私だってそう言われても〜ってわけですし…」

「…いやキサマが貧困家庭ならまだ納得がいくもの……。きっかけはなんだっ!? 何がキサマをそうさせたんだ……!? 何が目的でここまで働くっ!!? 答えろお嬢……っ」

「…な、なにがってぇ〜〜………。…イチローさんや野茂さんは野球、羽生さんは将棋…じゃないですか……」

「あ……っ?」

「…つまりは私は仕事…みたいな? 最初っからそうって訳じゃなかったんですけど、好きなんですよ。──」


「──『働くことが』が」

「……………なっ……。──」

 

「──………とりあえず、来るなよ………?」

「…へ?」


“なにに来るな”と言いたいのか──。
三嶋は一瞬迷い、口を開く。


「…とりあえず利根川さん、倒置法で話すのやめません……? 主語言わないから一々聞くの大変で──…、」

「<ウチ>帝愛にだっ……!! ビジネスがどのような流れになろうが……ウチには絶対近づくな…小娘っ………!!」

「えっ!? そ、それは何故で──…、」

「──…あっ」

736『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:56 ID:OxoBAsgQ0
勘の良い三嶋である。
彼女はふと、利根川の言いたい事を先読みさせられた。

なるほど。自分が帝愛に関わろうものなら、利根川の狙うNo.2の座が揺らぎ──水泡。三嶋自身がそこに座ってしまう可能性すらある。
“はは……お互い社会人人生、大変なんだなぁ〜……”──と。三嶋は小さく息を吐いた。

そんな三嶋の隣で、利根川はといえば──口横にて怒りの唾液泡をブクブクと。絶え間なく湧き上がっていた。


「水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡………っ!!」

「……」


………
……


 【死のゲーム】────…っ!

これは…、疑心暗鬼と裏切りの連続が絡み合う…──『バトル・ロワイヤル』にて………。
主催者が自分と瓜二つな男な故に、とんでもない運命に遭うという…………。
帝愛グループNO.2候補のエリートにして、サラリーマン一筋で戦い続けてきた中間管理職………『利根川幸雄』の………。


「──水泡水泡水泡水泡水泡………っ!! 水の…バブルっ……!!! 来るな……絶対に来るなっ……!!! 悪魔めがっ………!!!」

「………はあ」



…いや、どちらかといえば『三嶋瞳』の………っ。
苦悩と葛藤の物語である。




第 (六)(十)(六) 話

ヒナまつりx中間管理録トネガワ

『颯爽と走るトネガワくん』

〜酒と泪と男と女といくらとツインテと小春と幼馴染と戦士と唯一の味方と893と893と、そして……。登場人物定員オーバー・ロックンロールフィーバー〜
………
……




737『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:33:17 ID:OxoBAsgQ0
分割投下以上です。
以降、今週中に4分割で全て投下します。
書きあがり次第随時wiki編集するので、「早く続きを」という方はwiki本ページからのアクセスをオススメします。

ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/169.html

738『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:38:53 ID:cs1/aZKQ0



 【限定ジャンケン】──………っ。

 それは、希望の船・エスポワールで行われた1対1のゲーム。
手札はグー・チョキ・パー各四枚、持ち点は『星』三つ。
勝てば星を奪い、負ければ失う。十二枚のカードをどう使うか──運否天賦と駆け引きの応酬が、勝敗を分ける。

裏切りが約束された場所では、信頼こそが最も貴重な札となる物。
だからこそ三嶋は、疑う余地すらない『知人』との再会を心の底から願っていた。

この時────。



「ククク…っ!! 『私だから伝えたい ビジネスの極意』…──圧倒的名著………っ!! 次回作はいつぞやかな…? 三嶋大先生よ………っ!!!」

「…ぃっ!!! 黙れいじるなっ!!! …あ、失礼しました……。もうっいじらないでくださいよ〜っ!!!」

「ほう、なになに…? 『情熱を無くして仕事はできない』…とは……っ!! 同感の極み…!! クククっ…!」

「……はァ……っもう〜〜〜っ…!! 言っておきますが超適当に書いた本ですからねコレっ?! こんなの…精神異常者しか読んでませんよ……。──」

「──まったくっ…。…なんなの…もう………」

「クククっ……!!」



 神南の並木道。
まだか弱い日光がビルの谷間から差し込み、カフェのシャッターが音を立てて開き始める、そんな時刻。そんな渋谷の一角にて。
利根川は一冊の書籍を片手に、厭味ったらしくページを繰りながら歩いていた。
──言わずもがな、(バカ)堂下のお陰で今や渋谷中知らぬ者はいない三嶋大先生の著・『私だから伝えたい ビジネスの極意』である。

二人が目指す先は、拡声器を手に『三嶋万歳っ!!!』と叫び回る──そのバカ本人の元。
もはや三嶋にとって、殺し合いよりも利根川の嫌味よりも何よりも、
──余りにも理不尽な狂信者の存在が、最も神経をすり減らす災厄だった。


「利根川さん………、堂下って人、普段からあんな感じなんですか?」

「あ?」


そんな異常崇拝者の素性について、三嶋はふと質問を投げる。


「…大変失礼ながら、アイツのせいで私もう…歩くのさえやっとな位赤っ恥ですよぉ………。なんなんですか、あの人…」

「……。……そうだな……。──」


「──…My Answer────ワシからの答えは、『そうっちゃそう』……っ」

「……はあ」

「そして『そうじゃないっちゃそうじゃない』………だっ…………!」

「え?? はいぃ…?」


Answerはまさかの二段構え。

三嶋は思わず足がガクッとさせられた。
『そうっちゃそう』と『そうじゃないっちゃそうじゃない』──。彼の口にした曖昧な返答には、一体いかなる意図が潜んでいるのか。
噛み合わぬ二つの答えが曖昧な靄を残して空に浮かぶ中、利根川は本を静かに閉じた。



「とどのつまり……確かに堂下の奴は…圧倒的脳筋………っ。ワシとて、目に余る程の…要注意人物……判定:Eだ………っ。──」

「──だがその要注意判定も…あくまで常識の範囲内……っ! 破綻はあれど……まだ……っ…まだ『一般人』の括りに入れていい………。優秀な奴ではあったのだがな…………」


「………」

739『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:10 ID:cs1/aZKQ0
「…これまではワシという操縦者……っ。ワシの制御下にいたから…まだ暴走には至らなかったのか…………。………とにかく……このバトル・ロワイアルが発端であることは…確かっ………。奴が狂い出したのは…………っ」

「…出会ったら責任持ってきっちり操縦し直してくださいね。その壊れたラジコンを……」

「クク………。さっきから聞き流してみれば…キサマも中々のモノじゃないか……毒吐きが………っ!」


三嶋からしたら、文字通りの『毒』を壊れたラジコンにぶち注いでやりたいものなのだが。
テトロドトキシン、トリカブト、ベラドンナetcetc……。古今東西の毒物名が脳内で流れ続けるが、ここで思い出す諺は『バカにつけるクスリはない』。
(別の意味で)毒されていく脳裏に三嶋が苦しむこの最中、──今度は自分が問いを投げる番だと言わんばかりに、利根川がゆるりと口を開いた。


「さて、お嬢よ……。こうしてキサマからの質問を律儀に…答えてやったわけだ。ワシからも当然……っ、一つ良いよな………? 軽い質問を……っ!」

「ほんとに軽くしてくださいね? …どうぞ」

「ああ……っ。それは紛れもない…キサマ自身についての疑問だが──…、」




「あっ」 「あ?」


「えっ?」 「え」


ただ、利根川の問いが発せられることはなかった。
まさに言の葉がこぼれようとしたその瞬間──、通りの向こう、ビル角の影からふいに現れた二人の女子。
次の一音を押し出す前に、『出会い』が言葉を遮ったのである。

ほぼ同時に共鳴した、4つの声──「あっ」と「えっ?」。
空気をピンと張りつめさせる合図代わりの、小さな驚きのハーモニーは、並木道の空気感を固めてくる。


「あ、ヒナちゃん!!」

「…あ………っ??」


ただ、女子二人組のうち──青髪の女子に、三嶋は反射的に声がこぼれた。
特徴的な無表情と、のんびりとした空気感。紛れもない、級友の新田ヒナ──その人だ。
(バトル・ロワイヤル)殺し合いとは、出会いのすべてにまず疑念が差し込む世界下だが、その一瞬──少なくとも三嶋にとっては、張りつめていた神経が緩んだ瞬間だった。


「なんだお嬢…知り合いか…………っ?」

「ええ! …あ〜〜、実家のような安心感ですよ〜……。とりあえず、あの子はヒナちゃん。私のクラスメ──…、」

「ヒナちゃんッ!!! (アイツ)主催者にサイコキネシスだ!!!」

「はぁ〜い」


「……………………………え?」


──その安堵も、『念動力』という風で速攻吹き消される事となるのだが。



「ほいよっと」


 グイッ………

  ぎぎ、ぎぎ…


 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッッ



「ぎいっ……!? ぐががががががぁああああああぁあっ…!!!!!!」

「え…。え、ぇ…、え゙っ!?? ちょ、ちょちょ何?!!」

740『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:27 ID:cs1/aZKQ0
 利根川の悲痛な叫びと三嶋の慌惑の声が、並木道に木霊した。

 刹那、ありえない方向へ向かって捻じ曲げられる利根川の右腕。
それは、誰かの手による直接的な圧力ではない。言うなれば、『目に見えぬ意思により、骨を追い詰めていた』という様な。
目に見えぬ『圧』が、利根川の腕を逆へ逆へと捻り上げていく────。
──説明は不要。サイキック少女・ヒナの『(サイコキネシス)念動力』である。

骨がねじ切れそうな感覚に、本能のまま絶叫を上げる利根川。
突然かつ突飛、突拍子もない先制攻撃に、「あわゎわわわわ」で脳内泡まみれとなる三嶋。
そして、片手を利根川に向けるヒナ。

まるで起き抜けの猫のような顔をする彼女は、実にマイペースに、隣のツインテールへと話しかけた。


「ところでさぁ陽菜〜、あのおじさん誰?」

「いや分からないで攻撃してたわけっ?!! …ほら。『主催者』だよ、アイツ! さっきのバスで、トネガワって主催者がいたでしょ?──」

「──その御本人が今目の前にいるってわけなんだよ…ッ! …何考えてるのか知らないけどさ………」

「ほ〜〜。なるへそなるへそ」


「いや、なるへそじゃないでしょっ?!!!」


 まるでピントの合わない悪夢を、白昼に見せられているかのようだった。
利根川の右腕はどんどんどんどんと捻じ曲がり、悲鳴は風に引き裂かれるように並木道へ響く。
一方で──当の加害者本人は、どこか他人事のような目で、ふわりと掌を掲げているだけ。

「あわわわ、あわわわ……」脳内に吹きこぼれた泡を、ふと味見してしまったのか。
すぐさま、三嶋の脳内は「──まずいっ……」の一言ループに支配されだす。
舌の上に残った苦みは、まるで状況の悪化そのもの。
『誤解』による取り返しのつかない暴走劇で、三嶋の顔からは、わずかな安堵の色もすっかり消え失せていた。


(……マズイマズイマズイっ!!! つまりはこれ…利根川さん腕折られそうになってるんじゃんっ……!──)


(──ヒナちゃんの力で…………!!──)

(────しかも…あらぬ誤解でっ…!!──)



(──…あー。なんか利根川さんの倒置法喋り乗り移っちゃってるし……私ぃ〜………──)



(──……って、そんなことはどうでもいい!! とにかく……は、早く説得しなきゃ〜〜っ……!!!)


三嶋は、喉の奥から突き上げる焦燥のままに、必死で声を張り上げる。
言葉を選ぶ余裕を辛うじて保ちながら、ただひたすらに、誤解をほどこうと、慌てて説得を始めた。


「ち、違うからっ!! この人は主催者じゃないし!!! い、一旦話を聞いてよっ、ねえ!!」

「あ、瞳だ」

「ヒナちぁゃんんんんんん〜っ…!!!!」


三嶋の必死の呼びかけに、ヒナは休日に友達を見つけたかのような無邪気さで答えた。
その声を聞いたツインテ女子──根元陽菜は二人の関係性にピンと反応する。


「え? なに?? ヒナちゃん、あの子と知り合いなの……?」

「うん、三嶋瞳。瞳はわたしのクラスメ〜トで、わたしが授業中寝てたらヨダレ拭いてくれたり、わたしの給食運んでくれたりさ、優しいんだよ」

「…なにその世話係みたいな感じ……。──」

741『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:45 ID:cs1/aZKQ0
「──…じゃあさ。…えーと、三嶋さん…でいいんだよね…? …………え、あの?」

「そうですっ、私があの悪名高き三嶋大センセーですっ!!! …そ、それはともかく早く力を止めるよう言ってくれないかな!!? 利根川さんは本当に悪い人じゃないんだってぇ!!!」

「………どこまで事情説明すればいいか分からないけど…、とりあえず後回し! 今ヒナちゃんの…『力』で、そいつを食い止めてるからさ。…三嶋さん、ゆっくりこっちに来て!」

「いやなんでっ!?」

「………なんで、って…。三嶋さんを助けたいからだよ。──」


「──そのトネガワ《主催者》からッ………!!」



「なんかまんじゅう食べたいなあ〜」


 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッッ

「ぐいぎぎががががががががががががががぁぁぁぁっっ…!!!!!」



「…………………」


もっとも、今一番助かりたいのは、他でもなく利根川本人なのだが。



「…………誤解」

「え?」 「まんじゅう?」


何かが腑に落ちたような、あるいは底抜けに落ちていくような誤解の渦中で、三嶋はそれでも必死に言葉を尽くした。


「誤解だからそれっ!! い、いいかな…?!」

「………?」 「まんじゅうの話?」


「結論から言うと風評被害なんだって!!! 主催者とこの利根川さんはすごく顔が似てるだけの別人なの!! 中身なんてIQの差が歴然なんだからぁ!!」

「………んん??」 「あんまん」


「そ、そそ、そりゃ信じられないのも無理はないけど……でも、本当に別人なんだからぁっ!!! だからお願い……私を信じてよ!!! その子も…──」

「──そしてヒナちゃんもっ…!! ね……? ねっ…??!」


「………………」 「まんじゅう…」




「…うん、分かった」

「えっ!!」


口を開いたのは、陽菜だった。
ぽつりと漏れた「…うん、分かった」の一言に、胸はほぐれる。
目に見えない緊張が少しほどけ、小さく息つく三嶋。
信じてくれた──その事実が、今はただ嬉しかった。


「ヒナちゃん、あの『三嶋さんモドキ』にもサイコキネシス!! …一応女子だからさ、足動かなくするだけでいいからね」

「まんじゅー」

「はいぃぃいいいっ!!!?? ──って………があっ!!」


 ただ、その安堵も、束の間もいいとこの即オチニコマだったが。
希望の芽を握りしめたその手が、次の瞬間には地雷を踏んでいたようなものだった。
三嶋の両脚は、ふいに地面と一体化したかのようにピクリとも動かない。
柔らかな風すら足元を通り抜ける中、彼女の膝下だけが異様な静寂に閉ざされていた。

742『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:03 ID:cs1/aZKQ0
「……何をどう、分かったつもり…なの…でしょーか…………っ?!」

「正直偽物がどうとか……似てるのがどうとか…。意味分からないし、関係ないよ。それはトネガワも、あなた自身にも」

「いやいやいやいや関係あるからっ!!?」


ちなみにだが、この時すでに三嶋は二人を──、


「でもハッキリと言えることはさ。『人を信じる』ってとてもじゃないけど簡単にはできない事でしょ?──」

「──…現状、私が信頼できる参加者はヒナちゃんだけ。だからさ、ヒナちゃんに結論出させる事にするね」

「まんじゅ………、──…えっ」



(いやソイツなんかに判断委ねるなよなぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ)


──完全にバカを見る目で見下していた。



「ねえ、どう思う? ヒナちゃん。…簡単には結論出さないでね。ヒナちゃんなりにじっくり考えて、あいつらの命運を決めて。…お願い」

「……え…。──」

「──う、うーーん…」


(うーんじゃねぇぇえわっ!! 絶対なんにも考えてないでしょぉおおおっ!!!)


「うーん、うーん…」


三嶋のツッコミは、ズバリその通りだ。
事実、根元からの突飛なフリに、ヒナの思考回路は見事ショート。──心なしか、その耳の穴からは本当に煙が上っているように見えた。


(で、でもワンチャンはある……!! ヒナちゃんだってたまにはマトモになる可能性が…)


それでも三嶋はただ、祈るように両手を胸の前で握りしめ続ける。
頼むから、ボケないで…。
今だけは、せめて一瞬だけでも『まとも』でいて…。
バカの脳みそが、奇跡的な化学反応でマトモな結論に辿り着いてくれることを──、それだけを信じて。


「……う〜〜ん…」

(お願いぃ……ふざけた事を話さないでぇええ………)


淡い希望を胸に灯し、ただ一縷の奇跡を信じて三嶋は祈り続けた。


(お願いいぃいいいぃぃぃぃぃっ)


奇跡の、価値は──────。
この時の三嶋の姿は、まるで自身が最も忌み嫌う堂下さながらの信仰者。

神へ一心の願いを祈り続けていた──。



「とりあえず瞳さ……哀しきモンスターを必死で庇う村娘みたいで…ウケる?(笑)」

「はいっ!! じゃあ攻撃続けて!! ヒナちゃん!!!」




「…………………。──」

(──言っても分からないバカばっか……)

743『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:18 ID:cs1/aZKQ0
《大衆は限りなく愚かだ。》
《大衆の圧倒的多数は、冷静な熟慮でなく、むしろ感情的な感覚で考えや行動を決める。》
《獲得すべき大衆の数が多くなるにつれ、宣伝の純粋の知的程度はますます低く抑えねばならない。≫

 ────アドルフ・ヒトラー・著『我が闘争』より



 ギギギギギギギギギギギギギギギギ……

「…どうせ今出会ったばっかの薄っい関係性の癖に。ちょっと話したぐらいでヒナちゃんと信頼関係あるとか言わないでよ………」



利根川の叫び、そして彼の腕からの嫌な音が途切れなく続く中、三嶋からボソッと毒を漏れ出た。
その毒を吐き出した矢継ぎ早、矛先をヒナへ向け、言葉を放つ。

ヒナと三嶋の付き合いは、中学時代からの長きにわたる物。
根元よりも長く、誰よりも深く──ヒナの本質を理解しきっている三嶋は、攻略の一手をシンプルに差し出す。


言葉を紡ぐその直前、呆れながらの彼女の脳裏には、以下の名文が蘇っていたという──。



《バカとハサミは使いようとは圧倒的愚ことわざ。》
《とどのつまり、バカはハサミよりも扱いに容易いものなのである。》


────利根川幸雄・著『お説教2.0』より




「ヒナちゃーん、あそこにイクラの赤ちゃんがいるよーー」

「え? まじ??」


三嶋が指を伸ばしたその方向に、ヒナはあっさりと首を向けた。


「な?!!」


「がぁあはぁぁぁ………っ!!」

 バタリ…


「大丈夫ですか! 利根川さん!!」


反射的な動作──彼女の注意が逸れた瞬間、指先に集まっていた超常の力がふっとほどける。


「よし、今ですよ利根川さん!!」

「……グっ………。なんだ……っ。なんなんだこれは…一体ぃ〜〜っ……!!!」



「イクラの赤ちゃんどこだろ〜」

「なっ、なな何をしてるのヒナちゃん?!!!」

「え、だって陽菜。イクラベイビーが〜…」

「そもそもイクラの時点で赤ちゃんでしょ?! バカじゃないっ!!??──」


「──って、あっ!!!」


根元が気づいたときには、もう既に遅し。

744『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:34 ID:cs1/aZKQ0
三嶋と利根川──二人の背は、疾風のごとく並木道の奥へと向かっていた。
風を裂いて逃げるその背中は、もはや手の届かぬ距離。追う者の焦燥すら置き去りにして、二人は朝の渋谷に溶けていった。


「……あぁ…ッ。も、もうっ!!!」


そんな二人を逃がすまいと、大慌ての根元はポケットから支給武器──ダーツの矢。その一本を握りしめ、腕を振るう。
ビュンッと、鋭く空を裂き、利根川の背中目掛けてホップアップし続ける矢。
ダーツの矢とは、たとえ軽く投げられたとしても時速200kmを超える速度に達しうる、小さく鋭利な凶器である。
しかもその弾道は細く、速く、静かだ。目で捉えるのすら難しい。
ゆえに避けることなど、ほとんど不可能に近かった。



(何が『もうっ』だ…っ!!)



 バンッ──

 

「え…?!」

「なっ……!?」



その矢をいとも容易くエイム。
的確に銃撃し、命中させ、破壊しきった者がいる。
──他でもない。三嶋瞳、彼女本人だ。

即座に振り返り、まるで呼吸するような自然さで銃を構えると、無駄のない動きで一撃放つ。



「お………お嬢………………。キサマ………!? 今………っ」

「ちょ、話しかけないでくださいよ今は………。ほら走ることに集中しましょう!! 利根川さん!!」



007のジェームズ・ボンドさながらのアクションは、根元の動きを、そして利根川の驚顔を完全に静止画化していった。



【1日目/C3/並木道/AM.04:41】
【根元陽菜@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】ダーツx15
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:ヒナちゃんを守る。他の参加者は基本話し合いで解決。
2:田村さんたちが心配。
3:フードの男(肉蝮)に恐怖。
4:主催者逃がしちゃったし………。てかあの三嶋さん何者!?

【ヒナ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:いくらの赤ちゃんを探す。
2:まんじゅう食べたい。
3:よくわかんないけど瞳必死でなんかウケる。(笑)
4:陽菜はやさしい。なんでもおごってくれるから大好き。


………
……




745『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:41:44 ID:cs1/aZKQ0
続きは明日以降お送りします。

746『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:06 ID:MLDmdjmU0


 【勇者達の道〔ブレイブ・メン・ロード〕】──。
──別名・『鉄骨渡り』────…っ。

 高層ビルの間に架けられた細い鉄骨を、命綱なしで渡らされるという狂気のギャンブル。
落ちれば即・地獄。
己の恐怖心とバランス感覚を天秤に賭けた、人間競馬の極致である。

三嶋と利根川。
二人の身を撫でる風は、果たして希望を運ぶ追い風か、それとも単なる絶望の強風か。
息も絶え絶えな三嶋らが辿り着いた丸井デパート一階にて、乾いた風が吹き抜ける──。


「ハァハァハァ………ぐうっ………………」

「はぁはぁ………、はぁ…………。間一髪でした…ね…………」


「……。……ククク……なるほど………。どうやら…本物のようだな…………、お嬢……………っ」

「はぁはぁ………。な、何が…ですか…………?」

「『──そしてアメリカに渡り軍に入隊し、ノウハウを掴む。』────Wikipedia……っ! [三島瞳-の項より]…出展……っ!!」

「………」

「あれだけ小さな矢を…針の穴を通すかのように撃ち抜いた……キサマの銃コントロール………っ! …流石のワシも、アメリカ仕込の銃扱いには圧倒的感服……。頭が上がらん…。Congratulations……! ──………とどのつまり、三嶋お嬢よ…………」

「はあ」


「…何故、わざわざアメリカ軍に入隊した…?」

「………英会話を習いたかったから…です」

「あ…………? 禅問答かっ! キサマ……!!」



 禅問答かッ――と声を荒げられても、三嶋としては困ったものである。
なにせ、『英会話を習いたかったから』とは誇張抜きの事実。ド真ん中153km/hストレートの事実なのだから。

三年前。まだバーテンダー時代の三嶋はふと「英語くらい話せた方が、カウンターも映えるだろう」と思い立つ。
バーテンダーは英語で注文されても返せなければ話にならない。そう考えた彼女は、迷わず英会話留学を申し込んだ。
わずか二週間の短期、場所はニューヨーク。軽い気持ちの渡米留学のはずだった。
しかし、どこでどんな手違いが起きたのか、彼女が辿り着いたのは米軍訓練基地の本場──フロリダ州。
案内された施設の看板には、『LIVE FIRE TRAINING ZONE!!』の文字。すぐ隣でカモフラージュ姿の大男たちが発砲訓練を続ける。
パスポートを手にうろたえる間もなく、彼女はそのまま基礎体力演習コースに放り込まれたのだった。
結果、二週間後――三嶋は、英会話以前に銃の照準をマスターしてしまったという次第に至る。

ただ、そんな行く先先で酷い目に遭うという三嶋の体質を、利根川は知るはずもなく。
彼女の曖昧な回答を煙に巻く詭弁とでも思ったのか、口角を引きつらせたままゆっくりと息を吐いた。


「……………。──」

「Then let's see what you've got in terms of English conversation skills.」
(ならばキサマの英会話力を……お手並拝見……! いこうじゃないか……)

「え…!?」


饒舌かつ嫌みを含んだネイティブが、利根川の口から飛び出る。
どうやら英会話テストが始まるご様子だった。


「えー…。あーー…。──」


「──Ah? The hell you say, p*g」
(あ? 何だブタ野郎)


「あ………!??」

747『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:23 ID:MLDmdjmU0
「Don’t start babbling in English outta nowhere, a*shole」
(突拍子もなく英語でベラベラしゃべってんじゃねぇよクソッタレ)

「…あぁ…っ!? ──...You—how exactly do you plan to survive this Battle Royale?」
(──…これからこのバトルロワイアル。キサマなりにはどう生き抜くつもりだ?)

「Like I give a sh*t. Whether I live or croak depends on the goddamn scene. But you? You better keep that fat a*s movin' and try not to slow me down, got it, d*ckhole?」
(さぁな。生きるも死ぬもその場の流れ次第だろーよ。ただなァ……てめぇはあたしの足引っ張んなよ? そのでけェブタケツ引きづってなぁあ〜? わかったかこのチン──【不適切なフレーズの為以下翻訳不能】)


「なっ…………。…米軍仕込みすぎるだろ英会話力……っ!! ハートマン軍曹かキサマっ…!!!」

「はーとまん…? すみません、まだ英語が板についてないものでして…」

「その小汚い板を取り外せっ……!!! 大至急っ…!!!」


どうやら英会話テストは、わずか会話二ターンで合否が出たようだ。
米兵隊仕込みの美しいネイティブスピーカーに、利根川の顎はわずかに緩んだまま戻ってこない。さしずめ、口の中で小型爆弾が炸裂したかのような衝撃だったろう。
利根川評して『小汚い板』との、その板裏には、三嶋の意図せずとも星条旗と弾薬と罵詈雑言がみっしり貼り付いていた。


「…あ、あの〜。具体的にどこが英文法おかしいんですか? 私も一生懸命頑張ったつもりなんですけど……上手くいかなくてぇ〜──…、」

「黙れ…! もう既にパーフェクツ・ネイティブだ……!! 違う意味でな……っ?!!! ……ちっ…。さて、お嬢よ…………」

「えぇ…なんでしょうか……」


「…改めて、一つ良いよな………? 軽い質問の件を……っ!」


──誤解なきよう何度でも念を押したい。三嶋は本当に、『意図せずして』酷いスラング交じりの英会話をしているのである。
──彼女にとって、本当に普通な英会話をしているつもりなのだ。

──ただ、そんな(違う意味で)あんまりな英会話力は見なかった事にして。


────再演。
利根川は、先程ヒナ&陽菜に遭遇したせいで遮られてしまった『軽い質問』を、捨て牌をふと切るように投げかける。
タイミングを逃したまま切り損ねていた言葉の断片が、今になって熱を帯び、舌先へとせり上がった。


「……一つ聞くぞ。いいか………?」

「Keep the heavy sh*t limited to that flabby-ass body of yours」
(【不適切なフレーズの為以下翻訳不能】)

「黙れ死ねっ…! ……ともかくキサマ自身についての疑問だ。…何故、キサマはワシを…──…、」




「「…あっ……」」

「あっ」




 ただ、またしても質問は遮られる事となる。
言葉の続きが喉に引っかかったまま、二人の視線が角に張り付く。
壁の向こうから、まるでタイミングを測ったかのように、ふらりと顔を覗かせる金髪ショートの女子生徒。

言うまでもなく、見知らぬ参加者。
そして言うまでもなく、立ち込める『災いの予感』である。

軽い質問から始まり、対面した人物と出会い頭「あっ」がハモるというこのデジャブ。
再演再演再演再演再演再演再演…、再演の連続。──『災炎な再演』――──。
ヒシヒシと火の粉が舞い込む中、金髪娘はその再演の幕を躊躇なく引き上げるのであった────。

748『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:38 ID:MLDmdjmU0
「…な??! …い、いやァァアアアアアアアアア──…、」

「──ふがっ!!??」


「あっ、危っな〜…!!! なにこの一難去ってまた一難!?? …も、もうっ〜〜…またまたまたまたまたまたまたぁああ〜〜〜〜〜〜〜…!!!!」

「………………クソ……っ!! …はぁ……やれやれだ………」


 女子生徒──日高 小春の叫び声が漏れるその寸前。
三嶋は反射的に一歩踏み出し、目の前の少女の口を勢いよく塞ぐ。
先程の対ヒナ戦の経験ゆえ、出会う参加者すべてを信じる権利をとうに停止させられていた利根川タッグだ。先手必勝と、とりあえず日高の動きを封じることに先じた。

三嶋の手のひらに日高の唇が触れる――指先を擽る湿った感触。甘やかな唾液。
暴れる彼女の体を押さえつける三嶋を傍目に、我先にと『再演』の上映中止に動いたのは利根川であった。


「…もが…ッ、もが……も…が……ッ──…、」

「Shut-up…!! 黙れ…ぶち殺すぞ……!! 小娘めが………っ」

「……っ!!」


ビクッ──、と。
利根川の低い唸り声で、日高は肩を小さく震わす。
刃物よりも冷たい視線が頬をかすめ、「……っ」と喉の奥で悲鳴が噛み殺される。
補足として、「……いや、殺しはしないからね? 殺しは……」と囁いた後、三嶋は硬直下を見て取るや言葉を継いだ。

 
「あの……いい、かな…?」

「…………ッ………!」

「…私だってこんな安っぽい脅し気が進まないけどさぁ……。ごめん…大声出さないで…。──」

「──仮に叫んだら……、こうだから!! こうっ!!」

「っ!!!」


三嶋はそう言って、二・三回トントン…と、日高の肩に銃を突きつける。
それは軽い仕草のようでいて、否応なく状況を理解させるには十分だった。


「だから、…お願い。私もそんなのしたくないから〜…、何も見なかったことにして去ってくれる…かな………? ね?」

「…………………」


「…ね……?」


「……………」



 日高からのアンサーは、コクリっ────、と一つ。

三嶋のプチ脅しに、今にも涙が零れそうな潤んだ眼で、日高はそう小さくうなずいた。
その仕草に、三嶋の胸の奥から長い息がこぼれ落ちた。
張りつめていた空気が、氷の表面にひとすじの亀裂が走るように、わずかに緩んでゆくという。
三嶋は安堵の思いのまま、そっと対面の柔らかい唇から手を緩めそうになった。


「……はぁ〜〜………、良かっ──…、」


「フっ……青二才が……っ」

「えっ?」

749『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:52 ID:MLDmdjmU0

その横からぬるりと差し込んできたのは――"蛇"こと利根川幸雄。
まるで安堵という名の糸が張られた瞬間──その瞬間の真ん中を躊躇なく断ち切るように。
静かに、だが確実に響く声で彼は再び、三嶋の『甘さ』へ刃を向けた。


「黙って聞いていればお嬢……。貴様はビジネスでは一流なのかもしれんが…、……出とるぞ……っ。──」

「──いざ説得となった際……年相応の甘さが…………っ!!」


「え、え、…利根川さん、な、何が不満と…?」


「良いか……? この小娘のように──こちらへ強い警戒心を抱き……、かつ自らが不利な立場にある者には……完全なる『納得』……っ! 納得を与えねばならないもの…………。ワシらは……っ」

「えぇーと…とどの〜つまり〜〜…?」


三嶋の『とどのつまりイジリ』にコンマ0.005秒だけ眉をひそめたが、利根川は意に介さず結論を突き付ける。


「そう…とどのつまり……Win-Win…──『対価』だ……っ。双方が得をする形を提示する……この小娘にも利益があるような……そんな対価の提示をせねばなるまい………!!──」

「──それをせねば、叫ばれて終わり………っ!! 人は納得を得たとき、初めて従う……それこそが…プロの駆け引きなのだっ……!」

「あーなるほど…。……じゃあ、お手本。お願いしますよ……? てか自分がやりたいんですよね? 説得」

「…ククク……っ!! その言葉を待っていたものよ…………!!」



 利根川が一歩、日高ギリギリまで歩を進める。その足取りはまるで将棋の飛車。直線的で迷いがない。
視線を正面から受け止めた日高の肩が、小さく震えた。


「…………っ…」

「おい……小娘……!!!」

「っッ…!」

「…ワシが……主催者ではない……何度そう訴えたとて……っ、まぁキサマら(馬鹿共)には……理解できまい事……。なぁ? 小娘よ……っ」

「…………」


「──ゆえに…仮にで構わん。“ワシが主催者である”という体《てい》で……話を進めるぞ……っ。体《てい》で……っ!」


「……え?」

「………?」


日高。そして抑える三嶋、と。
彼の言葉にキョトンとする二人を前に。利根川は唐突に右手を上げ、


「…ククク…………。──ドガアァァアンッ!!!」

「……っッ!?」

「わっ!?」


パチンっ────と指を鳴らした。

そう、これもまた『再演』。
あのオープニングセレモニー時の偽主催者の第一声、ならびに首輪起爆の指パッチンが、静まりかけた丸井デパート内を切り裂く──。

──とはいえ、彼はあくまで『偽物』の主催者《トネガワ》。
その指先に宿るはずの死神の契約も実体を伴うことはなく。音だけが虚しく響き渡ったという結果に留まる。

750『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:09 ID:MLDmdjmU0
「……だなーんて。ワシの指パッチン一発で…首と銅がララバイになることは承知の筈だ……。キサマも重々………っ──」

「──ましてや、キサマが叫んで…仲間を呼ぶとなればな………? こちらも渋々強硬せざるを得なくなるもの………。分かるか…っ」

「………っ……………」


利根川の口から漏れた『仲間』という一語に、日高の肩がわずかに反応する。
震え続けていたその身体が、ほんの一瞬だけ別の感情に触れたかのような。
そんな微細なしぐさを、利根川は一切見逃さず――そして間を置かず、声の刃をさらに深く突き立てた。


「ククク…………。小娘、連れがもうできてるようだな………? 参加者の…仲間が……」

「………………」


──こくりっ。


「ほうほう………! …なら尚更丁度いいっ……! ちょうどワシとて調子が悪かったものだからな…指鳴らしの不安定さがっ……。──」

「──ほれ、もってけ…っ! セーラー服娘………!」

「…………っ……?」


「出血大サービス………っ!! 『悪魔的特別支給品』をくれてやる………!! 出会った縁に…特別だ………っ!!」


「……っ!」

「え………?」



 そう言うなり、利根川は背後のデイバッグに手を差し入れる。
ゴソリ…と布が鳴り、気づけば一冊の『書物』がその手の中に。
『出血大サービス』とは、いかなる贈り物か――。全身の血潮が波打つ日高に、差し出されしその本。

何を思ったか、なんとも言えない表情をする三嶋をスルーしつつ、利根川は一切の間を置かずに言葉を継ぐ。
まるで呼吸と同じくらい当然の所作として、説得と支配の『次の一手』を置いていった。


「記憶に新しいものだなっ………。先ほどのバスにて、ワシ…が蘇らせたろう…? 首の離れた…見せしめの…小娘を………っ」

「………」

「…………と、とね…」


「あの信じられぬ光景の原理はこの本………!! 見ろ……二百ページ目の『魂を蘇らせる〜』の記述………。ここを詠唱するだけでどんな肉片もカムバック………!! 何度でも蘇生させれるのだ………っ!──」

「──いわば、魔導書…とやつだな…………っ!!」


「…………っ……………!」


「……いや…、いや……利根…川さぁん……。──」

「(──いやソレ私の本やんけぇええええええ…ええ……ぇぇ…………)」


無論、その魔導書は『私だから伝えたい ビジネスの極意』。
著者である合法ロリ社長の顔写真入り。
帯には『堀江氏絶賛!! 【バカと政治家はこれを読め!! 日本復活の鍵となる本!!】』との詭弁が躍る、魔法の如しビジネス本である。


「そんな本をキサマに…無条件でやるというのだからまさしく悪魔的………! もはや犯罪っ………!!──」

「──…無論…信じるか信じないかはキサマ次第……っ。キサマには自由が保障されておるわけだ…。選択の自由がな……?──」

「────まぁ違う意味で『自由になりたい』というのならっ…今すぐ大声をあげるといい…………っ!! ククク…!!」


「…………………ッ」

 ──ビクッ

751『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:30 ID:MLDmdjmU0
「Are you Alright? ──さぁ…ワシからの縁、受け取ってもらえるかな………? 小娘……っ」


「……。……………」


 視線という矢が四方から突き刺さるなか、日高の前に差し出される蘇生本。
頁の重みより利根川の声の圧が重く、恐怖と奇妙な期待が胸の奥でせめぎ合う。
胸の奥ではまだ怯えがざわめいていたが、それでも信じてみたくなるような熱が、心の奥に滲んでいた。
逃げる余白も、否と告げる勇気も見当たらず、せめてもの意思表示に喉がひとつ震える中、


静かに彼女の身体は応えた。



「……………ッ」

 ──こくり………



「クククっ……!! 圧倒的賢明な判断………っ! キサマの将来が非常に楽しみだよ…。ククク……」



 ────勝利。
──結果的に、完全勝利。

利根川の説得は通るに至った。

それはまるで、タンヤオすら見えないゴミ手で始まった配牌が、ツモるごとに不思議と形を成し────混一。
ドラドラ──、三色同順まで乗って――倍満。
そんな逆転の巡り合わせだった。
ブラフも押し引きも冴えわたった、完璧な一局。
その和了牌を、短い会話の中で利根川という『天才雀士』は完璧に引いたのである。

利根川の見事な和了に、三嶋は祝杯の声をあげざるを得なかった。


「…私の本を勝手にどんどん神格化してきやがるのはさておき………。──」


「──さすが利根川先生!! デメリットを逆手に取って窮地を脱するとは……。さすがですよ!!」

「クク……。トネガワ主催者と呼びなさい…! 今はな…。三嶋よ……。──」

「──しかしキサマも中々酷な女だ…。ほれ…、もう解決したのだから、小娘の口から手を放すんだ………」

「あ、そうでしたね…。ご、ごめんね……! そしてありがとね!!」


「…………──ぷはっ…」



日高の口から、そっと三嶋の手が離れる。
その瞬間、張りつめていた糸が静かにほどけ、利根川と三嶋の胸に、歓喜と安堵がゆるやかに満ちていった。
まるで長い局を制したあとの和了の余韻――。


静かで、

確かな、

そんな勝利の余韻がそこにはあった────。



「まぁお嬢、これはキサマの本にも助けられた賜物だっ………。クククっ……」

「…うーん、それに関してはとりあえずノーコメントで〜…!!」

「…しかしワシも考えものかな……? 『私だから伝えたいビジネス』一冊で秒速億を稼ぐ…激アツビジネスを──…、」



「早く助けてぇえええええエエエエエエエエエエッッ──────!!!!!!!!! なじみちゃァ──────ん!! センシさん──────ッ!! 主催者がいるよぉぉ────────────っっ!!!」

752『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:52 ID:MLDmdjmU0
「「なっ」」





 ──ただし、勝利の味は『水』の味。
利根川ら二人の余韻に水を差したのは日高の絶叫。その声の大きさたるや、まるで館内アナウンスさながらの通達だった。
溜まった物を全て吐き出すかのような。日高の血気溢れる絶叫は、デパート内の空気を突き破り、三階の天井までも震わせるほどの凄まじいデシベルで響き渡る。

利根川も三嶋も、一瞬で言葉を奪われ、ただその空虚な余韻の中に立ち尽くすしかなかった。



「むっ。…聞こえたか、なじみ」

「…当然! ボクの耳に入らないのは授業だけだよ!! ……よ〜くは分かんないけど日高っちピンチっぽいし、さぁダッシュだDASHダッシュ──────!! センシィ──────っ!!!!」

「ゆくぞっ!!」



タ、タ、タタタ、タタ、タ………。



「「あっ!??」」


その叫びを合図にしたかのように、奥まった通路からと靴底が床を刻む二つの速足音が近づく。
続いて硬質な金属が引きずられる不協和音が重なり、静寂の廊下へ不気味なリズムを奏で始めた。




 利根川の和了ももはや水の泡。
ツモの直前――日高が放ったのは、麻雀界における禁忌の奥義、『つばめ返し』。
あらかじめ欲しい十四枚を一列に積み上げ、己の手牌と瞬時にすり替えるという、禁断の反則技。

『サムライスピリッツ』──橘右京使いの日高による『ツバメ返し(↙↓↘→+斬り)』は、利根川のプライドをズッタズタにまで切り裂いていった。


──日高の足元にて、魔導書(笑)がゴミのように転がり、風に吹かれて行く…────。



(このクソボケカス女ァ……)

「この…クズがぁあああああああぁあああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」


………
……



【1日目/H1/OIデパート/1F/AM.04:59】
【日高小春@HI SCORE GIRL】
【状態】恐怖(軽)
【装備】橘右京の居合刀@ハイスコアガール(サムライスピリッツ)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:なじみちゃん、センシさんと行動。
2:主催者とその助手(?@三嶋)の顔を認識。
3:矢口くん、大野さんと合流したい。
4:なんか私このパーティでツッコミポジション…?!

【センシ@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】斧、料理セット一式
【道具】鍋、干しスライム@ダンジョン飯
【思考】基本:【対主催】
1:日高を助ける。
2:殺し合いから脱出。主催者を倒す。
3:日高・なじみとパーティを組む。
4:メガネの若者(丑嶋)が心配。

【長名なじみ@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】健康
【装備】レーザー銃@ハイスコアガール(スペースガン)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:日高っち今助けにいくぜえええええ!!!!
2:参加者の幼馴染たちと会う!! 僕はみんなの『幼馴染』だからね
3:…あれ? センシとボクの出番もしかしてこれだけっ?!

753『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:44:42 ID:MLDmdjmU0
あとは伊井野出てくるパートと相場出てくるパートをパパパっとやっておわり!
続きは明日以降です

754『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:27:27 ID:9Fifyl5Y0
 【Eカード】──…っ!!

 『皇帝』『市民』『奴隷』の三種のカードを用い、勝者と敗者の立場を極限まで強調した心理博打。
皇帝は奴隷に勝ち、奴隷は市民に勝ち、市民は皇帝に勝つ──ただしカード配分は不均衡。
一方は皇帝1枚・市民4枚、もう一方は奴隷1枚・市民4枚。立場の圧倒的差こそが、勝負の本質。

ゲームマスターが負ければ金銭を失い、挑戦者は耳や目といった尊厳そのものを賭ける──それがEカード。
三嶋らが命からがら逃げた先──S●INNS SHIBUYA109《服屋》には今、異様な熱気が満ち溢れている。
まるで焼き土下座の鉄板を眼前に据えられたかのような、息苦しいまでの緊張感が空間を支配していたのだ──。


「………さて…お嬢よ…」

「…うーーん。…そうだな……。…利根川さん、このアロハシャツ着てもらえます?」


 カラフルなアロハシャツ、もじゃもじゃと膨らんだアフロカツラ、そしてつばの広いパナマ帽──。
鮮烈な色と形が交錯する店内を、三嶋の指先は迷いなく渡り歩いていく。
まるで舞台衣装を選ぶ演出家のように、彼女の手は一つひとつの奇抜なアイテムを拾い上げていた。


「あ、はい。…そうだ、とりあえずサングラスも試着してみますか」

「……………『桶狭間の戦い』を知っているか………?」

「え? ……信長の…ですか?」

「…………クク、愚問だったな…。──」

「──今川義元の軍勢三万に対し、信長軍は僅か五千ぽっち…。誰がどう見ても圧倒的負け戦……窮地に立たされるな中………休憩中の今川軍を奇襲し──GIANT KILLING………っ! 織田信長は以降一躍乱世の寵児……っ。歴史の表舞台に駆け上がったのだ………」

「まさに運命を分かつ一戦ってわけですね」

「…信長は立派だ……。『殺すなら殺せ………っ』…その精神で駆け込める…剣槍乱舞する前線に…………っ!」


「──…同じ民族…同じ日本人の筈だ、あの人達と…ワシも………っ」


 利根川はそう言うと、ふっと視線を落とし、静かにうつむいた。

――1560年(永禄3年)。『桶狭間の戦い』。
圧倒的劣勢下の最中、家臣から「すぐ前方で今川軍が油断し、酒を酌み交わしている」との報を受けた織田信長は、この機を逃すまいと即断。
土砂降りの雨の中、わずかな兵を率いて奇襲を仕掛け、瞬く間に今川義元の首を討ち取ったいう──ビジネス戦略としても『ランチェスター戦略』の典型例に語られる痛烈一戦である。
そんな先人・織田信長の偉業を語り、利根川は何を思うか――。
彼の視線は、三嶋──いや、厳密には三嶋の腕にかかっていたアロハシャツやらカツラへと、実に恨めしそうに沈んでいった。


「そんな弱音吐いて…らしくないですよ利根川さん………。じゃ、一旦服脱いで、カツラを被っていただけ──…、」

「信長がするかあっ…?!! 仮に…家臣から『殿、逃げ延びる為にこれを………』と言われても……」

「…え?」

「変なコスプレをして…我が身を偽装しようとは……!!! するわけがない…っ…!!! しないんだよ信長はっ………!!!! …ふざけよって………。──」

「──この…三流スタイリストがぁあああああああっ……!!!」

「え…。えーー………」


 まるで風林火山が如し。
利根川は、三流スタイリスト《三嶋》に着せられた巨大なアフロウィッグ、袈裟のような僧衣を乱暴に脱ぎ捨てる。
「佐藤蛾●郎かッ」「パパ●ヤ鈴木かッ」とでもツッコみたくなる奇抜な装いが、彼の憤りを視覚化するようにぐったりと床に沈んでいく。

無論、このセンスの悪さも甚だしいスタイリングに、三嶋には悪意や悪ふざけの意図は全く無く。
あくまで利根川が『トネガワ《主催者》』として他の参加者に認識されるのを避けるため、彼女なりに考えた末の『変装プラン』なのだ。
その選択がどれほど彼の美学に反し、プライドを逆撫でしたとしても――少なくとも、命を守るという一点においては理にかなっている。


「…お気持ちはお察しします。ですがっ、…もうプライド捨ててくださいよ〜〜…。生身じゃ平穏に過ごせないんですってぇ〜利根川さんはぁ〜〜〜!!!」

「着るかっ…!!! 教示は命より重いっ………!! ワシをリカちゃん《着せ替え人形》扱いするなっ…!」

「もう〜〜〜…」

755『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:27:44 ID:9Fifyl5Y0
──勿論の事、利根川本人にとってソレは納得のいく作戦ではないものだが。


「…ちっ!!──」



毒づく不良人形は、箱からタバコを一本取り出し火を点けた。


「──…………お嬢よ。一つ軽い質問…良い──…、」

「…うぇっ?! あっ!!!!!! ストップストップストップ〜っ!!!! ダメですよそれ以上はっ!!!」

「………あ?」

「考えてくださいよっ!? そのセリフ言う度に参加者《野郎》共と出くわしてるじゃないですか〜!!! もはやフラグ化してますからね!!! だから絶っ対言わないでくださいよっ?!!!」

「…………安心しろっ…。白旗《フラグ》はもう振ったわ…っ! 満足なくらいにな……」

「いや全然返し上手くないですからね?! …あっ。そうだ、利根川さんに旗持たせてみるのもアリかな〜──…、」



「Question──…っ! キサマは何故…ワシが『本物』だとわかった………?」




「え゙っ。…あーあ、とうとう封を切られちゃったしぃ…………軽い質問《死亡フラグ》」

「いいから答えろっ……!!──」


とうとう切って出された死亡フラグに、三嶋は恐る恐る辺りをキョロキョロと。
照明の隙間、服の陰、レジカウンターの向こう――どこかから突然参加者が飛び出してくるのではないか、そんな妄想じみた緊張が背筋を走っていた。
経験則が告げていたのだ。
利根川が『軽い質問』を発した瞬間、この世界はいつだって騒がしくなるのだと。


「──…キサマは何故…他の愚民共とは違い……ワシを信じて、そして行動してくれるという…………? …そればかりが気になって……むず痒くて仕方ないわ…………さっきから……っ」

「…あー、その事ですか…。──」


「──………。…………ええ、簡単な事ですよ」


その簡単な事、とは。
再度入念にキョロキョロと見渡した三嶋は、不穏な気配がないことを確認した後、静かに背中のデイバッグへと手を伸ばす。
幼子同然の小柄な体つきゆえ、三嶋が背中のデイバッグの中身をあさる姿は、まさしく“むず痒いところに手が届かない”。
肩越しに手をねじ込んでは指先が届かず、少し体をよじってはまたも空振り――小さな悪戦苦闘の末、ようやく彼女の手が目的の『ソレ』に触れた。

彼女が取り出したのは一冊。
使い込まれた背表紙が、そのページが何度も開かれてきたことを物語る────『圧倒的名著』。


「読ませて頂きました、愛読書ですっ!!」

「なっ………!?」


────利根川幸雄著・『お説教2.0』。その本であった。


「…ど、読者………………?」

「はいっ。経営者界隈で…一目置かれている幻の存在…──『利根川幸雄』先生っ!! 皆口々に疑問に思ってますよ。そのバイタリティを保持しながら、何故彼は起業しないのか…ってね。利根川さん…!!」

「…読んだのか………っ? それを………」

──ペラペラ、ペラッ

「『信じられない事柄を目にした時まず疑うべきは世界ではない。とどのつまり自分の目と判断力だ。(126頁目参照)』────…ほんと、みんな《参加者達》ダメだなって感じですよ……。利根川さんとアイツの違いなんて、一目瞭然なんですから!」

「……あ?」

756『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:02 ID:9Fifyl5Y0
「あくまで私の洞察によるものですが。利根川さんとトネガワ《あの無能》はこれほどまでに違うんですからね!! ほら!」↓↓


……
………
ttps://img.atwiki.jp/heiseirowa/attach/171/400/%E3%83%88%E3%83%8D%E3%82%AC%E3%83%AF%E3%81%A8%E5%8E%9F%E4%BD%9C%E7%89%88%E5%88%A9%E6%A0%B9%E5%B7%9D%E3%81%AF%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%A0%E3%81%91%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%21.png
………
……


↑↑「この通り内面は勿論、外見にも大きく差があるというのに…。ねぇ〜利根川さん」

「サイゼの間違い探しかっ…!!」

「『成功とは、大きな一歩ではなく、小さな“気づき”の積み重ねである(221頁目あとがきより)』──圧倒的名文です…。ハッとさせられちゃいますよ」

「…まさかとは思うが、いじっとらんよな………!? ワシが散々キサマの奇書を皮肉った……仕返しに…………っ」


三嶋大先生が、正気とは思えぬ信者読者《堂下》に粘着されていた件は、記憶にも新しい事であるが。――まさか、堂下と同様の熱狂的な崇拝者が自分のすぐ隣《三嶋》に潜んでいようとは。
まったくの盲点。唖然と、言葉の喪失。利根川は完全に茫然とさせられる。
ただ、その間もまるで熱は冷めることがないかのように、三嶋は畳みかけるように言葉を紡いだ。


「とどのつまり、成功《生還》の為にはコツコツ細かいところから積み重ねなくちゃダメなんですって!! だから…お願いします。着ましょう? ね…?」

「…キサマァ〜〜………。『とどのつまり』の特許出願でもしようものか………っ」


三嶋はそれで話を上手くまとめたつもりなのか、と。
眼前に差し出されたダサいマジシャンスーツを、利根川は害虫を扱うように手で払いのけた────、


「いいか!? 着ないと言ったら着な──…、」



その時。

ガチャリっ──。




「「あ…」」


「…えっ?」



────『フラグ』から少々遅れて、またも再演。

 カウンター奥、スタッフルームと思しき扉から不意に登場したのは、三嶋とほぼ同じ背丈程の、小柄な少女だった。
店内をかすめた風が、彼女の肩にかかる茶髪のおさげをふわりと揺らす。
赤い結い目《アクセサリー》からこぼれる細い毛先が宙に舞い、やがて静かに落ちるまでの一瞬──、


「…渋谷って、広いようで狭いんですね……。はァ……………」

「…ハァ………。もうワシは…疲れた………っ──」


──利根川と三嶋は、ほぼ同時に諦めのため息をついた。



「──…おい、そこの二つ結い娘……」

「………はい」

「せめて最期にさせろ……一服くらい…………っ。後は煮るなり焼くなり好きにしていいが…………武士の情けを………っ、かけれんものか……おい…」


(武士……。どんだけ武将が好きなのコイツ……)──三嶋が心中で一々毒づく中。
目の前の茶色いおさげの少女は静かに口を開いた。
その声音は風に揺れる髪とは対照的に、凛としていた印象だという。


「……やはり、利根川さんのようですね…」

「……おっ。この子脳みそいっぱい積まってますよ〜利根川さ〜〜ん。さすがですねーー…ハァ………」


「それに、──ミシマコーポレーションCEO。三嶋瞳社長」

「…え?」 「…あ?」


二人は少女の言葉に思わず虚を突かれる。
まっすぐに三嶋を見据え、言葉をひとつひとつ丁寧に紡ぐ少女――その眼差しには、幼さを超えた確かな意志と、揺るがぬ信念が宿る。

757『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:16 ID:9Fifyl5Y0
「…お会いできて光栄です。不肖ながら私、伊井野。読ませていただきました」

「あ…?!」


少女は言い終えると同時にすぐさま──『再演』。
ほんの数分前、三嶋が見せた動きとまったく同じように、背中のデイバッグへともどかしく手を差し入れる。
やや苦戦の末、ようやく引き抜かれたその手には────言うまでもない。『再演』となる一冊の本。


「貴方様の本を。『本物の』利根川幸雄……。利根川先生の御本を……!」



───凛、時として奇跡。

それは、伊井野 ミコという――──初めて、話の通じる参加者に出会った瞬間だった。




………
……


758『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:33 ID:9Fifyl5Y0
「やっと………会えた…………。──」



 感涙──。



「──話の…分かる……参加者………」

「…はい?」



 三嶋の、心からの感涙──。



「ありがとぉ伊井野さん────っっ!!!! もう…ほんっとにすっごく大変だったんだからああぁ〜──…、」

「──ぐへがあっ!!!」



 三嶋の感涙は、拒絶の一撃と共に宙へと弾け飛んでいく────。



「不純同性行為…っ!! 貴方様という御方が…気安く抱きついてこないでくださいっ……!!」

「…え、えぇ……?!! …不純要素……どこ…?!」

「よせお嬢……。自分の身体に触れられるのが嫌という…そういう人間もいるのだ………っ。というか一番不順なのは…圧倒的にワシ………っ!!!」

「え、えーー……。と、とりあえずごめん…ね……? 伊井野さん……」

「……失礼。私も私でつい取り乱してしまって。…三嶋さん、申し訳ありません」


 事情説明・兼・自己紹介タイム割愛。
根元&ヒナ、日高と──これまでまるで話が通じない、信頼の通路すら築けぬ参加者共と出会いを重ねてきた道中。
そんな旅路の果てに、ようやく現れた《理解者》ミコの存在に、三嶋と利根川は心の底から歓喜していた。
それは言葉が通じるというだけで、これほどまでに救われるのかと。──――異国の僻地で日本人旅行者を偶然見かけたかのような、それに似た安堵に二人は酔いしれる。

自分たちの味方が現れたという事もさることながら、利根川がなによりも感心さえられたのは、彼女の経歴。学力。
自己紹介の間にてミコが口にした肩書等に、利根川は顎に手を添え感服する。


「(ククク…。…ほう……。──)」


「(──裁判官の父を持ち…、名門・秀知院学園で風紀委員を務めるという……原理原則主義者、伊井野ミコ………っ。──)」

「(──将来は司法関係の仕事を勤めたいだか……そのナンダカカンダカという夢は心底どうでもいいが……。…だが流石は……秀知院現役生徒なだけあるじゃないか…………!──)」

「(──凡人共とは頭一つかけ離れた…洞察力……っ。力が………!! ……コイツは使える………っ!──)」


「(──さしずめ両腕が揃ったものだな………。右腕には三嶋…、左腕には秀才の卵《伊井野》とやらがっ…!! ククク……っ)」


ミコの圧倒的な肩書き、そして名門校に在学していることをほのめかす、端的で洗練された自己紹介。
その語る姿からにじむ育ちの良さと、場の空気をわきまえた品のある教養。利根川は、その全てを一瞬で見抜いた。
「これほど“使える”参加者は、もう二度と現れまい…」――そう確信した彼の口元に浮かぶは期待の笑み。
『逆境』の予感をまるでミコに見せつけるが如く、利根川はじっとミコに視線を注ぎ続けた。


「…そうだ。三嶋さん、良い機会ですからお伺いしたいのですが…、貴方の著書である『私だから云々』………あれ、全文パクリですよね? はっきり言って」

「……。(どんな風向きになろうが結局そのゴミ本の話に巡るのかよッ……)……え〜と……。それが…なにか…?」

「良いですか? 盗作罪は著作権侵害に当たり、刑事罰の対象となる可能性があります。ただし、著作権侵害は親告罪であるため著作権者が告訴した場合にのみ、公訴を提起できますがね。…見損ないましたよ。何開き直ってるんですか?」

「…私だって、あんなの……。小宮って野郎《編集者》に無理矢理書かされたもんだし〜…」


「おい、話は済んだか……? 小娘共…………っ」


「…お気遣い無く。利根川先生との対話に比べれば塵芥同然の会話ですので」

「……塵芥…。まぁ、事実だけどさぁ………」

759『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:50 ID:9Fifyl5Y0
 小宮《編集者》同様、三嶋の愚本(──の話題に──)ピシャっと冷や水をかけた利根川は、今度はミコへと顔を向ける。
彼の目に宿るは、まるで試すかのような光。
問いかける内容は一つ――ミコなりの『解決策』についてだった。


「さて、伊井野よ……。秀才のキサマは…どう考える……?」

「…利根川先生が、今後参加者対策としてどうすべきか……についてですね?」

「ほう! クククっ……! 本当に将来が楽しみな小娘を呼びよって…!!──」


「──…その通り……っ! …かの棚ぼた成り上がり娘は…ワシに変装させて事を済まそうという……圧倒的凡骨な発想しか思いつかぬものだったのだがな………。是非とも……っ、キサマの代案を参考にしたいものだ………!」

「何この毒の飽和状態……。利根川さんもしかして私に見切りつけてませんっ?!」


「…………そうですね……、利根川先生…。──」


一旦はそう答え、ミコはしばし静かに思考の淵へと沈む。
眉間に軽く皺を寄せ、言葉にならぬ答えを探すように――考え、また考え、さらに考え続ける彼女。
だがやがて、まるで諦念と表すかのように、正面へと顔を上げた。


「……申し訳ありません利根川先生。…想像以上の難題ゆえに、今私の口から即席で案を出す事は不可能です」

「………。いや、いい………。ワシとて今ここで…過度な期待はよせておらんかったからな………。あまり責めるな…、自分を……伊井野……っ」


もっとも、『期待などしていない』というのは大嘘。
ミコの返答に落胆を隠せない、利根川の実に分かりやすい表情を見て、三嶋は内心でふっと嘲笑を浮かべる程だったが。

──だが、そこで終わらない点が、利根川が惚れ込んだだけのことはある才媛・ミコであった。


「…ですが、三人集まれば文殊の知恵。…とどのつまり、『五人集まれば』…どうなるものか、です」

「あ…?」 「…!!(出た?! 利根川さん十八番の『とどのつまり』!! やっぱこの子ホンモノ《熱烈な読者》じゃん〜!!)」

「私にも同行者が二人…。確かにいますので、彼らを交えて……自己紹介も兼ねてその解決策を導き出しましょうか。──」


「──私が藤原先輩よりも唯一尊敬するお方……利根川先生…!!」

「…なるほど……っ!! 素晴らしい……。キサマは圧倒的だな……人脈面もっ……!!」


ミコの口から飛び出した、まだ見ぬ協力者の存在。
この状況下にて、たった一人さえ参加者を信頼させ、引き入れることすら中々至難なはずだ。それにもかかわらず、彼女は二人も連れていると言うのだ。
人を見る眼、統率力、そして何より信頼を得る才――。やはりこの少女は只者ではなかった。


「私達もちょうど今この服屋に野暮用がありましてね。奥のスタッフルームに、鴨ノ目さん、そして鰐戸さんが待機してますので、ご同行お願いします」

「…鴨ノ目に鰐戸か………。ククク…………」

「………やりましたね、利根川さん…!!──」


──ヒソヒソ、

「──……。(ここに来て立ったのはまさか『成功フラグ』とは……。やはり偉大な作家は神も見放さないんですよ!! 利根川さん〜〜っ!!)」

「……。(クク……、月面に旗《フラグ》を立てた時…きっと奴等も同じ高揚感だったろう……アポロ13号の宇宙飛行士連中も………っ!)」

「………!(ほんとミコちゃんに会えて良かった〜…。聞きましたか利根川さん、秀知院ですよ!! あの秀知院!! もうベタ惚れしちゃいますよ〜〜…!)」

「………。(クク……! 程々にしておけよお嬢…? 羞恥淫……不純同性行為《百合》も……っ!)」


「…いやその発言はさすがに笑えませんから。」

「……………あ? なんだあっ……? ワシは今何か喋ったかぁ……? あぁあ〜っ??」

「…………。(……………)──」


「──ともかくこれで一安心ですねっ!!」

「圧倒的同感…!! …ぐぅっ……! 思えば…しんどい…苦行の道のりだったものよ………っ」



茨の道の末、ズタボロの身の前に咲いていたのは、聡明な一凛の百合花。──ミコ。
伊井野ミコという名の若き才媛に、確かに薫る戦略性。

利根川は、期待と確信に胸を膨らませ、伊井野のあとを歩んで行くのだった─────。


奥へ、奥へと。スタッフルームの元へ────。

760『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:11 ID:9Fifyl5Y0
────ゾッ………。



「…ぐううっ…!!??」






「え…? 利根川先生、どうなさいましたか…?」





 不意に、正体不明の悪寒が利根川を襲った。
何が原因かは分からないが、それは首にネットリとまとわりつく大蛇のような、嫌な予感。
無論、あくまで『予感』である。何の根拠も気付きも一切ない、なんとなくのその予感。


「……やっぱり……。…ワシは降りる。行くぞ、お嬢《三嶋》………」

「えっ?! な、なんでですか??!! き、気を確かに………」 「………」


 Eカード、パチンコ『沼』、十七歩麻雀、そして社会という名の終わりなき競争──。
利根川幸雄は、これまで幾度となく死線を渡ってきた。
不条理に満ちた勝負の場にあって、ただ勝つのではなく、勝ち抜くということ。それを可能にしてきたのは、決して運ではない。
一手、一秒の『気づき』であった。
絶望の中に差し込む一筋の光を見逃さず、他者が見落とした『違和感』をいち早く察知し、踏み込む勇気と見極める冷静さを併せ持つ──。
それが、利根川という男の本質だった。

その勝者ゆえの独特の嗅覚。勘というわけか。
もはや本能。野生の勘に近い。数々の修羅場を越えてきた者だけが持つ静かなる警鐘が彼を支配していたのだ。


「…利根川先生、疑心暗鬼になる心中はお察しします。ですが、私をどうか信じてください!! 罠…口八丁の方便……そんなのでは決してありません…!! 利根川先生、どうか…──…、」

「予感だっ……!!」

「「え?」」


 利根川は語る。
一見すれば、何の変哲もなく、明るい照明に照らされるスタッフルーム扉。
だがその奥に潜み隠され────どす黒く澱みきった『予感』について、利根川は説明を始めるのであった。


「危険な…危ない雰囲気とは……普段の日常ならば…得……っ。女共はその危ない雰囲気の男に……、ヤバそうな男に惹かれるのだ……心をっ………。──」

「──だがっ………、ワシが今…感じる危険な雰囲気とは…────文字通りの『キケン』ッ……!! 悪い予感しかせんっ……!!」

「………いやそういうのいいですから。バカなこと言ってないでついていきますよ……」

「…危険とはつまり。『私の同行者が信じられない』、と。そう仰るつもりですか?」

「……察しが良いな………っ。勿論…、この件はキサマには一切非はない……。ないがっ…………──」


利根川はこの折、一瞬言葉をつまらせる。
スタッフルームの曇りガラス越しに、ぼんやりと二つの人影が浮かんだ為だ。
言わずもがな、その人影はミコの言う『同行者』なのだろうが、その輪郭を視界の端に捉えた瞬間、利根川の中にあったただの『予感』がそして確信へと変わっていく。

大人の体格の、二つの影。
曇りガラスの向こうで、ゆっくりと輪郭を濃くしながら、静かに、確実に近づいてくる。
『鴨ノ目』、『鰐戸』という、そんな影は──。



「…伊井野、キサマは優秀だ…。ワシが出会った小娘達の中じゃ……文句無くナンバーワンの切れる女………。実に優秀だっ………。──」

「──そんな優秀なキサマに…人生の年長者であるワシから………別れ際、アドバイスをくれてやる………」


「え…?」

761『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:27 ID:9Fifyl5Y0
──ガチャッ…



「ミコ、誰と話してるん──…、」

「さっきからガタガタうるせェぞ伊井──…、」




「「……ぁあ?」」


「え゙」





──姿を現したその瞬間、彼らは視界に捉えた『主催者の男』めがけて、迷いなく一直線に駆け寄った。

──それぞれ手には、重たげな鉄器――まるでバールのような物を握りしめ、鬼気迫る形相を貼りつけたまま。


パっと見で分かる明らかに『アチラの《やべー》世界の人間』な坊主頭の二人。
世にも恐ろしいふたつの恐相を前に、身動きひとつ取れず硬直する三嶋を無理やり引き寄せ、利根川は踵を返す。
別れ際、彼は伊井野ミコ《実に惜しい人材》に向け──『ワンポイントアドバイス』を残し、泣く泣くこの場から疾走していった──。





「友達選びはよく考えろっ……………伊井野…っ!!!」

762『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:39 ID:9Fifyl5Y0
【1日目/G7/ビル1階/S●INNS SHIBUYA109店内/AM.05:10】
【伊井野ミコ@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】頭部打撲(軽)、左頬殴打(軽)
【装備】???
【道具】ホイッスル、クロミちゃんの抱き枕、利根川著『お説教2.0』@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:ど、どこに行くんですか!? 利根川先生!!
2:殺し合いの風紀を正す。
3:鴨ノ目さん、鰐戸さんを信頼。
4:法律違反をする参加者を取り締まる。
5:利根川先生を助けたい。
6:カメラの少年(相場)がトラウマ。

【鴨ノ目武@善悪の屑】
【状態】背中火傷(大)、右足火傷(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:目の前の主催者野郎を追いかける。拷問後、即殺害。
2:クズは殺す、一般人は守り抜く。
3:ミコ、三蔵と行動。
4:三蔵は屑と認識しつつも見直している様子。

【鰐戸三蔵@闇金ウシジマくん】
【状態】胴体、顔に微々たる火傷(軽)
【装備】パイプレンチ@ウシジマ
【道具】処した男達の写真@ウシジマ
【思考】基本:【静観】
1:目の前の主催者野郎を追いかける。拷問後、即殺害。
2:伊井野、鴨ノ目を信頼。
3:自分に指図するクズ、生意気なブタ野郎は即拷問。




763『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:30:05 ID:9Fifyl5Y0
タブアシ(続きは多分明日)です

764『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:10 ID:kyzqnuMU0




……
………

「はぁはぁ………。…うっ、ひぐっ……、うぇ……ん……っ」

「………」

『羞恥心〜〜♪ 羞恥心〜〜♪ オレ達は〜〜〜〜♪』



「うっ…もう…な、なんなのぉお……もう………。うぅっ……………」

「………………」

『もういつもどんな時も負けやしないっSAァ〜〜〜〜♪』



 【羞恥心】─────…っ!
それは、2008年に結成されたユニットによる、かつて一世を風靡したデビュー曲。
渋谷の路地裏、公園前にて。
たまたまそこに落ちていた古びたラジオから、その懐かしきメロディが流れ出す──…、



『どんまいどんまいどんまいどんまい〜〜♪ 泣かないで〜〜〜(笑)♪』

「「ぃいッ!!!──」」

「「──煽んなボゲッ!!!!!」」



 ガシャンッ──。
蹴り上げられたラジオは、宙を舞う刹那──『渋谷区の天気、今朝は三十度を越える見込……』とニュースキャスターの声を響かせ、

 バンッ──。
遺言を言い終えることなく、アスファルトに叩きつけられた。


「……死ね…っ!!…………」


 無論、ラジオはこの時すでに死亡している。



 ニュースキャスターの予報通り、突き刺すような陽射しの下の大疾走。
今どき野球部ですら避けるというこの炎天下での走り込みは、利根川と三嶋を汗でぐっしょりと濡らし、ベタついた不快感と特大疲労で包み込む。
“よりによって……夏に…バトロワ開催しやがってぇ…………”────。
──公園の水道水をがぶ飲みしながら、三嶋は天高く眩しい太陽を恨めしく睨んだ。


「…クク……っ!! ケキャっ…! キキキ………」

「……え?」

「分かった……っ! とうとう…気付いてしまった……っ!! キキキ…………っ」


 そんな三嶋の隣でふと響く不気味な笑い声。
三嶋は一瞬、それがラジオからの音声かと錯覚させられた。
というのも、隣から聞こえた笑い声は、まるで機械のような感情皆無の声。完全に狂い切った笑い声だった故に。──まさか隣にいる利根川の声だとは、思いもしなかったのだ。


「…と、利根川さ──」


「──ぁ………………………っ」


恐る恐る横を向いた三嶋は、この時。灼熱下の暑さを相殺するような悪寒に襲われたという。

765『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:29 ID:kyzqnuMU0
 ムシャムシャッ……──

「…ククク……。よくよく考えれば……バトル・ロワイヤルだの…超能力だの…蘇生だの………っ。全てが荒唐無稽……! まるでバラエティ番組……っ!! クズ視聴者共が見る…ドッキリ番組なのだっ………!! なにもかもが…………!!」

「……と、とねが……ぁ……………」

「ククク……!! 見ろ…、お嬢…………っ!!」

「…え?」


 バリバリ、ムシャムシャッ……──

何せ、隣に広がるのは地獄絵図。
かつて『理想の上司』、『圧倒的ビジネスカリスマ』…と日本中の経営者から尊望されていた利根川は、


──正気を欠いた眼を漂わせながら、地面の土や草を次々頬張り、



「バレバレじゃないか…………! 隠しカメラ…………っ!!」



──公園に設置された防犯カメラを、狂気の笑みで指差していた────。




「スタッフ…出てこいい──────っ!! 出てこいぃぃ──────っ…!!! さっさと持ってこんかぁあああ────っ…!!! 『ドッキリでした〜』ボードをっ…!!!──」

「──どうしてくれるっ…!!! ほれ、キサマらのせいで泥まみれじゃないか…っ!! ワシのスーツが………っ!!!──」

「──おいスタッフスタッフスタッフィっ………!!! …山崎かっ…?! 黒崎…キサマもどうせ見てるのだろっ…?!! それとも海老谷…もしやキサマかっ…!?? 出てこいぃいっ…!!!──」


「──出てこいスタッフぅうぅうぅ────────────っ………!!!!!!!」



「…あ、あわ……わわ…………」



 三嶋が利根川をラジオの声かと勘違いするのも無理はなかった。──道端で部品散らすラジオ同様、彼もまた、壊れてしまっていたのだから。

防犯カメラへ向かって一人、狂気じみた怒声を浴びせる中年男。
三嶋が心中(なんで私がこんな目に遭ってるの……? よくよく考えればこれ全部利根川さんに巻き込まれてる形じゃん……)と呟きかけたその矢先の出来事である。
完全に常軌を逸した光を眼に宿し、もはや理性の灯など微塵も感じさせないその中年男は、わんぱく全開に土を食らう。
今目の前に広がる狂い切った現実に、三嶋は言葉という概念すら見失っていた。

──『想定上の最悪』という言葉はあるが、これは『想定外』かつ『最悪』。

三嶋はもはや願わずにはいられなかった。
今すぐにでも、ドッキリ大成功!!の札を掲げた軽薄なスタッフ共がニタニタ飛び出して。


この狂夢を終わらせてくれることを────。




「おいおい…早朝から発狂するなってオッサンさぁー。ラジオの曲聴こえないじゃないかよ…」


「「……え?」」


「…って、ぶっ壊れてるし。…ラジオ」



 ──ただいくら願おうとも、現れてきたのはスタッフではなく『カメラマン《参加者野郎》』。
一眼レフを手にした一人の少年がスタスタとこちらへ歩み寄ってきた。
中性的な美貌を湛えたその顔には、何があったのか痛々しい傷や打撲痕がいくつも走り、右手に巻かれた包帯はグロテスクに濡れ切る。
その白い右手で、彼はカメラの『シャッターボタン』に指を添えていた。



「……ん? …は? …いや、ちょっと待てよ……。──」

「──……オッサンさ、……え、何? …主催者……………??」


「「……」」

766『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:42 ID:kyzqnuMU0

もう、正直。
ここまで来たら怖いものなしである。



「…何でここに………いるんだ……? のんきに…………」


「…………」 「………」



完全に終わりきった表情の三嶋。
そして気がつけば、彼女と同じく諦念の色を顔に宿していた利根川。

──カメラの少年の存在は、利根川の理性を呼び戻す引き金となったというわけか。
少年がカメラのスイッチを『戦闘用』に切り替えた折、利根川は静かに口を開いた。



「……小僧、このお嬢からキサマに一つ………『軽い質問』があるとのことだ………。いいな……?」

「…………なんだよ」



「軽い質問」────。もはや注釈は要らないであろう。
死神を呼び起こす呪文のような一語《死亡フラグ》である。


ふと浮かぶ二つの笑顔。
三嶋と利根川は顔を見合わせ、ほんの一瞬、静かに微笑みを交わし、



「クク……。おいお嬢……忘れるなよなっ…………? ワシの常套句をっ……!」

「え、あ、…あー。分かりました。──『とどのつまり』……そこのキミに一つ質問ね……。──」



本当に軽い質問。
それでいてキレがあり『答え』が分かり切ってる質問《直球130km/h》を、三嶋は少年へ──。
────相場 晄の内角目掛けてゆるやかに投じた。




「──キミは敵か? それとも味方になるか?」

767『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:58 ID:kyzqnuMU0



………
……




──もう少し自然な笑顔でお願いしまーす。



 パシャリッ……




ドガァンッ──

 
 ドッガァァァァンッッ──


  ドッガバッガァッァアアアアアアアアンッッッ──


   ドッッッガバッガァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ──



………
……


768『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:16 ID:kyzqnuMU0


 
 ───ドッガガガバギャァァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ



 背後で爆発音が鳴り響く。それも断続的にボンボンボンドガンドガンっと。
閑静な住宅街に不釣り合いな轟音が全くの間髪を入れずに炸裂する中、利根川と三嶋は振り返ることなく、ただひたすらに逃げ続けていた。


「はぁあぁぁぁぁあぁああああああああああああああああ!!!! もうもうもうもうもうっ、もうううううううううぅうううう〜〜〜〜っ!!!!!!」

「ガキ使年末のラストかぁああああああああっ…!!!!!!」


 爆ぜる爆炎に何度も足をすくわれそうになりながら。
二人はただ夏を、


「はぁあぁぁぁぁあぁぁ……もう〜〜〜〜熱いよきついよしんどいよお〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!! ……あの時ミコちゃん無理矢理にでも連れ出してればこんなことにはならなかったのにぃい〜〜〜〜〜〜!! もうこれどうすりゃ…どうすりゃいいんですか利根川さぁあああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!」

「ハァハァ………。バカがっ……、どうした《堂下》もこうじたもあるかっ………………!!!──」

「──今はただ止まらずっ………馬の様に駆けるのみ………っ!! 本能だ……っ、本能のまま走るのだお嬢っ…………!!」

「……はぁはぁ…。………この緊迫下でも…──…、」


 ───ドッッッガバッガァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ


「うおっ!? うっさい! 私の言葉遮んなっ!!! せめて空気くらい読んで爆発攻撃してよイカレポンチィイ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!──」

「──はぁあ………はぁはぁ………。…この…緊迫下でも……その倒置法喋りに利根川節を維持するとは………はぁ……さすが先生ですよ……。利根川さんん〜〜………っ。──」

「──私…頭おかしくなって……土とか食べだしたら…止めてくださいねぇ〜………。利根川先生ぇええ〜〜…ん……………」

「ハァハァハァ…ハァハァ……。おあいにく様だっ……三嶋大先生よっ………!」


 灼けるような季節を、


「ハァハァ………。…キサマも食ってみろ…土くらい…………」

「……はぁはぁぁああ………、ところでお味はいかが……で……………?」

「ハァ…ハァ…。……ックク……!! 気になる土の味は…キサマ自身で試すといい………っ!! なまじ『作家』ならば……!」

「………作家なら何事も経験が命…ですかぁ………」

「……ククク…、さすがは三嶋大先生………っ!!」



 ──命がけで駆け抜けた。

 この様子は傍から見れば…。まるで、シンクロ………。
長い長い『利根川逃亡劇』を経て、二人に生まれた一体感……………っ。
利根川ら両名は逃げることに必死で気づかずとも、二人の足並みはこのターン……完全に揃い切っていたのだ………っ────!


無論、利根川らの逃走……。ならびに、これまでの、やれ説得だの…やれWinwinを踏まえたプチ脅しだの…才媛を招き入れるだの……軽い質問だのと…すべては悪あがき………っ!
利根川が主催者にソックリな以上、もうどうすることもできない……。奇跡的に災難を先延ばしにできただけの…虚しいあがきでしかない……………っ。
あがけばあがくほどに、深みにハマっていき………。
奈落の底へとアクマが手招きしている……………。
どっちに転ぶか分からない……悪あがきなのだが………………っ。



 ────それでいて、今が三嶋らのラストチャンス………………。



「楽しめ……っ。むしろこの経験を……楽しむのだっ………!! ワシに関わってしまった以上……キサマはもう開き直るしかないっ……!!」

「……はぁはぁ……(息切れ)…。………ハァ…(ため息)」



 ────あきらめるんじゃない………。変わるのは自分自身……………っ。



「考えてみろ……っ! これだけ悲惨な目に遭ったのであれば………きっと重厚なものになるだろう……………」

「………もうやめにしませんか?──」

769『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:34 ID:kyzqnuMU0
 ────誰も情けなんてかけちゃくれないのだからっ…………。



「──…『本』の話はっ!! …はぁはぁはぁハァアアアア〜〜〜………」

「…そう……っ! キサマの最新著『バトロワ体験記』は………重厚にっ………!! …中々、先読みができるじゃないかお嬢……!!──」



「──先読みのプロである…キサマとは是非とも…詰将棋をしたいもの……っ!!! だから今は…逃げぬくぞっ………!! 生きて帰るぞ………っ!! スリルを楽しめ…! ──」

「──圧倒的文豪…三嶋大先生っ……………はぁはぁ……!!──」

「──ピース…又吉……著………『火花』っ…………!!」



 ──ドッガンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン──────ッッッッッ……!!!!!!!



「クククッ!!! クククッ!!! ククククククッ──────!!!!! 狙うぞ…芥川賞をっ……!!!!」

「あぁあああああああああああああぁぁぁぁああああああああ〜〜っ!! これだから本とか大嫌いなんですよ私はああああああぁ〜〜〜〜〜〜っ!!! もうがぁああああああ〜〜〜〜っ!!!!!!!」



嗚呼…。

あぁ…。

ぁぁぁ………。


………
……




『人間は考える葦である。』
────詩・作家。ブレーズ・パスカルの名言。




 今…負け犬たちの勝負の時が始まる…………。



 今……っ、

 負け犬たちの……勝負の時が………始まる…………っ。

770『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:52 ID:kyzqnuMU0
【1日目/G7/街/AM.05:30】
【相場晄@ミスミソウ】
【状態】精神衰弱(軽)、顔殴打(右目、右頬腫れ)、右腕開放骨折、左足打撲
【装備】爆殺機能付き一眼レフカメラ、鉄製のハサミ
【道具】写真数枚(小黒妙子の死体写真他)
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象:野咲春花】
1:主催者共を追いかける。んで、殺す。
2:野咲にとにかく会いたい。
3:邪魔する奴は『写真』に納める。
4:絶対に死にたくない。
5:チンピラ共(カモ・ミコ・三蔵)を許さねぇ……。



【利根川幸雄@中間管理録トネガワ】
【状態】疲労(大)、熱中症(軽)、右腕捻挫(軽)
【装備】回転式拳銃
【道具】タバコ
【思考】基本:【対主催】
1:とにかく逃げる………っ!!
2:伊井野にはいつかまた会いたい……。
3:自身指揮の元、『プランA』でゲームを終わらせる。
4:お嬢(三嶋)をお守り。
5:会長が少し気がかり。
6:黒崎っ…。

【三嶋瞳@ヒナまつり】
【状態】疲労(大)、熱中症(軽)、精神衰弱(軽)
【装備】ハンドガン
【道具】『お説教2.0』@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:仲間を集ってゲームを終わらせる。
2:ミコちゃんがいたらこんなことにはならないのにぃいいい〜〜〜〜!!!
3:利根川さんについていく。
4:新田さんがピンチすぎる……。
5:利根川さんがこの先生き残る方法を模索…。

771 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:41:19 ID:kyzqnuMU0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①このスレッドが埋まり次第次回から、『【なんJ】ステマ棚漫画バトル・ロワイヤル』に改題します。
②略称はステロワとかですかね。
③大変ご迷惑をおかけしますが、どうかご理解をお願いします。


【次回】
──中日ドラゴンズのレジェンド・山本昌投手の焼き肉の食べ方をご存じだろうか。
──焼いた肉を、生の肉が浸かっていたつけだれにチョンチョンとつけて食べるという、なかなかに胃袋の鍛えられる流儀である。
──本題の元ネタは、まさしくそれ。

──……ところで、あなたは『お茶漬け』。
──スプーンで食べる?それとも箸で食べる?

『山本昌の焼き肉の食べ方、やっぱおかしい?』…田宮丸二郎、クロエ、???(アシストフィギュア)、小宮山琴美
(『目玉焼きの黄身いつ潰す』事前に鬼把握したためエミュ度自信ありの巻)

772『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:22:41 ID:DKOnC83.0
『山本昌の焼き肉の食べ方、おかしい?』

[登場人物]  田宮丸二郎、クロエ、小宮山琴美、伊藤さん

773『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:03 ID:DKOnC83.0
『男には強固で積極的な殺意はなく、計画的な犯行でもない。殺意のグラデーションの中では最も淡い』


 ──死刑執行部屋にて、裁判官から言われた言葉を思い出す。
蝉の声がやけに五月蝿く、対象的に周りの刑務官達は沈黙のまま俺を囲い込む。そんな執行室にて。
俺はただ、ぼんやりと追憶をなぞっていた。


 ハジメさんと……、それに、クロエ…。
正直、殺した数はわずか二人。その上精神異常を理由に、酌量もあるはずだと思っていたのだが。…裁判官の俺を見る目は、氷よりも冷えきっていた。

退廷前、俺は傍聴席の最前列──みふゆと一瞬目が合う。
……彼女はその時どんな顔をしていたのか、か。
…みふゆは静かに笑っていたさ。普段の日常生活と変わらない穏やかな笑顔で。
白木の額縁に収まれて。みふゆの写真はいつまでもいつまでも、笑っていて……。
自殺した愛娘の遺影を抱えた……みふゆの父さんの目を、…俺は一瞬たりとも合わせることなんかできなかった。


 裁判最終判決から、三年が経つ。
渡された遺書の用紙は、一文字すらも綴ることないまま。
木偶人形同然と化した俺を、刑務官二人は実にしんどそうに引っ張り上げ、絞首台へと向かわせに行く。
俺の足取りは重かったが、これは生に執着しているからというわけでは決してない。
生きようとする気力も、死を恐れる感情も、…俺にはもう無かった。



──ただ、


──一つだけ。


──それでもなお最後まで、俺の心に引っかかっていたことがある。


それは、執行室に入った際、最後の晩餐として出された──お茶漬けについて。
………その妙な食事チョイスも気になったものだが、それ以上に俺を惑わせたのは、盆の上に置かれた二つの食器。


『箸』。

そして、『れんげ』についてだ。


 なぁ……。
お茶漬けって…、どっちで食うものなんだ…………?
箸か? れんげか?
何故……、……「どうぞお好きな方で」と言うかの如く…二択を出してきたんだ……………?

俺はずっと、…これまでの人生常に……お茶漬けを箸で食べてきた……。
……理由なんて大したものじゃない…。
ガツガツかき込むように食うという……、それが一番旨いと思うし、それが『普通』だと思っていたからだ……。
…それだというのに………。
お茶漬けという『和食』をスプーンなんかで食べる奴が、いるというのか…………?
…当事者に聞くぞ。いいのか……? 本当に、それが“アリ”だと思っているのか……………?

…それが気になって、気になって……、どうしようもなくて………、


首に縄を掛けられた時……、俺はその『最期の言葉』を迷う事なく口について出た…………────…。



「ぉ、お茶漬けって……箸で食べるのが……普通で──…グフガッ────」



………………
……………
…………




“…い、ろー……。”


“…おい、二郎……。”


“…きろ……二郎……っ!!”

………
……


774『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:22 ID:DKOnC83.0




「起きろ、二郎っ!!」

「はっ!! …………………え?」


ひたすらに青い空に、白く膨らむ入道雲。
湿った風に混じった耳を撫でるミンミンゼミの声に。
場違いなほど鮮烈なモジャモジャアフロヘアー……。


「……とりあえず、おはよう!」

「お、おはよう……。──」

「──近藤さん」


近藤さんの声で、俺は目を覚ます。


「……おいおい。そっちは『ございます』だろ」

「あっ、あぁ……ございます、近藤さん……」

「まったく。呑気に眠りこけやがって……お前、疲れてるのか? とにかくもうすぐ出番だ。早く準備しろ」

「は、はい……!」


 アフロヘアとサングラスがトレードマークの、近藤雄三……。近藤さん。
俺の上司であり、初代どくフラワーの中の人。現場ではカリスマ的な存在だ。
いつも何かに悩み迷っている俺のよき相談相手であり、こんな俺のことを常に気にかけている…。
イチローにとっての仰木さん。錦織圭にとっての松岡修造。──近藤さんは、そういう存在だ。

……やれやれ。
それにしても、なんてとんでもない夢を見てしまったんだろう……俺は。
背中にはじっとりと寝汗。額にもまだ汗の名残があるから気持ち悪いったらありゃしない……。
休憩中、ほんの軽い仮眠のつもりで眠ってみたら、夢内容はとんでもない内容……。

ハハハ…。なんだろうな。
せっかくだし近藤さんに夢の話をしてみるか。
ちょっとした雑談のつもりでこの奇妙な夢の話を持ちかければ、さすがの近藤さんだって、驚く顔のひとつやふたつ見せてくれるに違いないだろう……。


「………近藤さん、僕…うなされてたりしてませんでした?」

「ん? …まぁ、随分と寝苦しそうな表情はしていたけどな。どうした? そんなに見た夢の話でもしたいのか?」

「ははは。変な夢見ちゃったんですよ。…気が付いたらバスの中にいて、たくさん乗客がいて、……それでバスガイドが現れたかと思ったら…何言いだしたと思います?」

「『右手をご覧くださいませ』とかだろ?」


この時思わず、俺の視線は自分の右手へと吸い寄せられていた。


「…いやいや。そんなんじゃ普通の夢じゃないですかー。…違うんですよ。『これから皆様に殺し合いをしてもらいます』って…そう言われたんです」

「…………!」

「驚きですよね…? 僕ももう、声なんか失っちゃいましたよ。…それでまた気が付いたら、殺し合いの会場にいて……。──」

「──そこで、ハジメとクロエという…同じく参加者の女性に会ったのですが、……あっ、言っておきますが僕殺し合いなんか乗る気じゃなかったですよ? 当然ですがね。…ただ。──」

「──その女性の食べ方を見て…僕はもう…取り返しのつかな──…、」


「おっとSTOP! それ以上は言うな二郎」

「…………え?」


近藤さんはそう言ってシーの指のジェスチャーを差し出した。
…シーと、『静かにしろ、シー』の。
あの人差し指だけを出すジェスチャーだ。


「これより先を聞いたら、多分俺…お前を殺す」

775『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:42 ID:DKOnC83.0
「え…………?」

「Kill Jiroだよ。オ・キル・ジロー!」

「……ぇ……?」


…『死ーー』のジェスチャーを決めたまま、脅迫罪スレスレの口ぶりで近藤さんはそう言った。
……何を言っているんだ? 近藤さんは……。もし俺が精神的に不安定な人間だったら、通報されてもおかしくないレベルの物騒発言なのだが………。
…まあ、とにかくこれ以上喋るなと言われたものだ。
俺も着ぐるみをkill<着る>準備をしなくちゃな……──……、


「待て二郎。…多分だがな、お前は重大な勘違いを二つしているぞ」

「………え? あ、すみません…。“十大・勘違い”ってことなのか、“二つ勘違いしてる”って意味なのか、どっちの話で──…、」


「一つ目、まず俺は近藤雄三じゃない」


「……え?」
(『え?』counter 5回目)



…え?
(『え?』counter 6回目)



「『クローン』だよ」

「く……クーロン?」

「はは、それじゃあプレステの怪作になるが、ゲームの話はまた今度の機会だ。──」

「──俺は近藤雄三の『クローン』だよ。──」


…えぇ??
(『え?』counter 7回目)


「──そして二つ目なんだがな……。殺し合いは『夢』じゃない」

「……え?」
(『え?』counter 8回目)


…え?(『え?』counter 9回目)




「つまるところ…まぁ簡潔にいったらだな。──見ろ」

「……ゑ?」
(『ゑ?』計測装置 八回目)



…近藤さんにうながされるまま、俺はゆっくりと後ろを振り返る。
そこには……………、



「……誰がお主に殺されたというのだ、オロカモノ──」

「──お主がやっていることは、現実逃避。自分の過ちから、贖罪から、目を背け続ける卑怯者だ。──」「──『夢』というものは本来、目標として掲げ、人が努力の糧とするもの。逃げ道に使うべきものではない。──」

「──……まったくッ…。木枯し紋次郎に憧れた私が……お主なんかに殺されてたまるものか……!! 夢見がちなオロカモノよ……」



「…A?」
(『A?』→すなわち『え?』。counter 10回目)



……俺は全身の血が逆流するかのような感覚に襲われた…。

振り返った先に立っていた彼女。
顔じゅうに殴られた痕がくっきりと残り、それでもまっすぐにこちらを睨む鋭い目。
金髪が朝の光を反射し、富士山のような口元がわずかに歪んでいる。

……クロエ……。
『夢』で俺が殺した……、
…あの…………『参加者』の女性が立っていた…………。


「……フフッ、二郎。すなわちな…」

「え?」
(『え?』counter 11回目)



「俺は、クロエに召喚された『フィギュアファイター』だ!」

776『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:57 ID:DKOnC83.0
その言葉の意味は、一瞬で理解できなかった。
いや、理解できなかったというより……俺の脳がそれを理解するのを拒んだのかもしれない。



──…多分、この時の俺は、塗られていない塗り絵のように真っ白になっていたと思う。

777『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:24:40 ID:DKOnC83.0
「……夢なのに」

「…ん?」


「夢じゃなかった……。夢だけど…夢じゃ…なかった…」

「……そうだな…。夏だし、俺も久々にみたくなってきたよ…。──」



「──…となりのトトロ」




限りなく広がる空は、まるで少年の頃に見上げた夏の午後のように。

ただひたすらに青かった────………。



………………
……………
…………
以上、田宮丸二郎『え?』記録11回。世界記録は276回。)
………
……


778『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:24:56 ID:DKOnC83.0



【アシストフィギュア No.11】
【近藤雄三@目玉焼きの黄身 いつ潰す? 召喚確認】
【概要】
→二郎の仕事先「フラワー企画」のイベントチームリーダー。
 風貌は細目の身体つきで大きめの黒い眼鏡を掛けたアフロヘア。
 いつも何かに悩み迷っている二郎のよき相談相手であり、常に彼のことを気にかけているが、二郎の行動にあまりにも問題がある時には鉄拳制裁をくらわすこともある。優しくも厳しい上司。


………
……


バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ────

 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ──、ガンッ────



「あああぁぁぁぁあああああぁぁああぁぁああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああ──────────────っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「な、なにをしているっ?! オロカモノ!!?」



 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ────、ガンッ────────


 …修行僧は心を無にするため毎朝木を打ち続ける…だかなんだかって話を聞いたことがある。
俺は今、無心でひたすらに近くにあった木に頭を打ち続けた。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「何の真似だ?! …いきなり?! オロカモノ!!」

「………あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ………!!!」



 バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ──


……皮膚が削れ、血が滲み、頭蓋の奥にじかに響くような鈍痛が走っても、俺はなお何度でも何度でも木に額を打ちつけた。
皮膚の痛みなど、とうに感覚の外に置き去りだった。ただ脳の奥底で、鈍い悲鳴が反響しているだけ。もう容赦のないバイオレンスの連続さ。
流石にドン引きしたクロエが腕を掴んで止めようとするが、俺は動きを止まることを知らず。

理性も羞恥もどこかへ飛び、ただひたすらに自傷を繰り返していた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「何の真似だと言っているだろう!!! ジロ殿っ!! ジロ殿!!!!」

「…ぁぁぁぁああああああああああああああ…………。ぃいいっ………!!──」


「──………、巨人の星の………真似っ………」

「はぁ?!」



 バンッ……。

…『巨人の星』の主人公、星飛雄馬。
彼が生涯でただ一人愛した女性──日高美奈が病に倒れ、帰らぬ人となったとき。
飛雄馬は深い悲しみのあまり、心を失い、目の前の木に己の頭を何度も打ちつけたという。
……そんな、魂の慟哭を描いた一場面がある。


「とにかくやめろ!! やめろ…やめろと申しておるだろジロ殿っ!!!!!!」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

779『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:12 ID:DKOnC83.0
……俺の幼少期に、多大な影響を与えた漫画──『巨人の星』。
未読の人には、ぜひとも読んでほしい名作だ。
梶原一騎の計算し尽くされたストーリー構成に、巻を重ねるごとに迫力が増してゆく川崎のぼるの作画。
自分の棺桶に入れてほしいくらい、俺にとって大切な作品だ……。


だから俺は今すぐ死ぬ為に、こうした自殺行為を続けて………、



バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ────

 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ──、ガンッ────

「ああああああああああああああああああああああああああああああ──…、」


──ぶーん

「──あっ。…………………」


頭を打ちつけていた木のちょうど一点に、変な虫が止まった時………俺は頭を打つのをやめた。




「………………はぁ…………はぁはぁ…………」


全身から力がすうっと抜け落ち、膝から崩れ落ちる……俺…………。
頭の奥でくぐもった痛みだけが鼓動と重なり、静かに鳴り続けていた。


 ドクンッ…バクン……ドクン…………────






「………近藤殿。失礼ながら、こやつはいつもこういう有様なのか……?」

「いや……。…まぁ確かに二郎は、食が絡むとすぐ感情的になって、しばしば人と衝突していたよ。…でも、それでも二郎は人の話に耳を傾け理解しようとしてきた。これまで、ちゃんと自分の中に取り込んで……成長する…進化を続けてきた男だったんだがな………」


「はぁ………………はぁ…………………」



「……ここにきて何で急激に退化した……?」

「……………………………………はぁ……」



………正直今、めちゃくちゃバファリンと絆創膏が欲しかった。
──………それくらいの痛みで、俺は心身ともにズタボロだった………。


 朝の歌舞伎町。
ゴミが道に散らばり、あちこちに空き缶やタバコの吸い殻が転がる。足元ではカラスがぬるく乾いた『地面上のもんじゃ』をついばみ、どこかやる気のない鳴き声をあげる。
…そんな美しい景観の、町の片隅にて。
左から…クロエ。
右に俺……。
そしてクローン藤雄三さんがその間に挟まって座り……。並んだ三人の影が、夏らしく実に長く地面に伸びていた。


 …俺は、………俺…は……仕事前の『朝の匂い』が好きだった……。
カリカリとベーコンと目玉焼きが焼ける音で目を覚まし…、顔を洗うころにはホカホカのご飯の香りが鼻をくすぐる……。
リビングに行けば、みふゆが笑顔で待っていて、しょうもない会話を交わしながら、珈琲の苦々しさが部屋中に広がっていく……。
そんな何気ない時間が………俺にとって一番幸せだった。
好きな人と、好きなものを共有する朝。……それが、ずっと続けばいいと願っていた。
守りたかった。あの何でもない、でも確かな幸せを……未来永劫守備固めしたかった……。
……本来ならちょうご今ごろも、ブレックファストの最中だったはずなのに……。

780『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:29 ID:DKOnC83.0
その筈なのに……俺は………。



「……それで、今度はどうしたっていうんだ。二郎」

「…………近藤さんは……」

「ん?」

「お茶漬け……箸で…食べますか…………? そ、それともれんげで……食べますか………?」

「……お茶漬け、か…」

「………はい……………。…考えられますか………? 俺……今まで知らなかったんですが……いるらしいんですよ…………。お茶漬けを…レンゲで食う……和食の風情も何もない…そんな人間が…………。──」

「──…………そんな…………人間……がぁっ……………。……うぐっ………うっ…うぅ……………」


「「……………」」



──俺は涙が止まらなくて、止まらなくて…………。
──…よくよく考えたら…何の涙なのかわけがわからなかったが………、



「……まるでつかみどころのないヤツ…。近藤殿…こやつは一体………」

「面白いヤツだろうクロエ? 我がどくフラワーが誇る逸材、二郎さ。勿論誰にも引き抜かせんがな」

「……………ぶぶ漬けはいかがだ? ジロ殿に近藤殿………」



………………涙が止まらなくて仕方なかった。



「…………そうだな…。クロエ、君はどっちの派閥に入る?」

…ふと、近藤さんが口を開く…。


「…む。派閥…とは……? なんの話だ近藤殿」

「お茶漬けは──A:『箸派』か──B:『れんげ派』か。A or B。究極の選択さ」

「…………A…だ。…箸派だな、私は」
(『A』→すなわち『え?』。クロエcounter 1回目)


……………。
…不思議と、涙が一瞬で引っ込んだ気がした。まるで強力な掃除機に吸われたかのように……ズルズルズルッ…っと。
俺は頭を抱えつつ、クロエの方へと顔を向ける…………。


「………君も…箸派………。やっぱり箸で食うものだよな…っ!! なあ!!」

「『君も』……。………お主なんかと同じ派閥とは…私としてもいささか頭が痛くなるものだ……」

「なぁに。頭が痛いのは二郎も一緒だ。…はは、さしずめ箸兄妹めっ。お前らは案外気が合うのかもな。──」

「──で、クロエ。君はなぜ箸で食べるんだ? 俺としては、あの水中でバラバラに泳ぐ米粒を、箸で拾い上げるってのは……正直、めちゃくちゃ食べづらいと思ってるんだがなぁ」

「……オロカモノ。愚門だ近藤殿。──」

…クロエはほんの一瞬、空を仰いだ。
白くまぶしい陽射しが、髪の隙間をなぞっていって………。やがて富士山のような口を開き始めた……。

781『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:42 ID:DKOnC83.0
「──私の場合は『憧れ』だ」

「「憧れ……?」」

「『木枯し紋次郎』。──大昔の時代劇ドラマだ。その主人公、紋次郎は必ずご飯に味噌汁をぶっかけ、猫まんまにして食すという『紋次郎食い』なる作法を行う。──」

「──私は、時代劇というものが好きでな。…あの侍の生き様と飾らぬ食い方に心を奪われたもの。以来、私はずっと紋次郎食いだ。…あの侍のように、箸で静かに、かき込む。それが私のお茶漬けの流儀につながるわけだ」


「………そんな理由………なのか………? ただのかっこつけじゃないかっ!!!」

「……なに? お主とて箸を使う理由など大したことないであろうに……。ドアホウが………」



 …………っ。
富士山みたいな口してるくせに、芯食ってきやがって………っ。
そ、そりゃ…俺だって『箸でかきこんで食べるのが旨いから』という…しょうもない理由で派閥入りしているが………。
……だが、だ……っ。
たかがドラマの影響で自分の食い方を決めるような、そんな流されやすさはどうにも気に入らない…………。
同じ箸派として……クロエを除名処分にしたいくらいだっ……。

俺は軽蔑をにじませた視線で、じっとクロエを睨みつける……。
……くっ。だが当の本人は、俺のジリジリとした怒りなどどこ吹く風といった様子で……。
レジ袋から「さけるチーズ」を取り出すと──

──……裂かずに、モシャモシャと丸かじりしはじめた。



「って………。ふ、ふざけるなァアアア!!!!!!! なんだその…ふざけたさけるチーズの食い方はァアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「……むっ?!」 「……ん?」



 ……………見なきゃ…よかった。
…ここのところの俺は、人の変な食べ方を見るたびにサイコパス化してしまう。
まるでスイッチが入ったみたいに……完全なる沸点と化しているのだ………。

…それだというのに……。そんな自分の性質など分かっていたはずなのに……。



「まるで……まるでサラダチキンスティックのように…………さけるチーズを食べやがって……………。──」

「──生産者に対して冒涜じゃないかァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!」


俺は………もう頭真っ白になって………。
……クロエに対して怒鳴り散らして………………。

もはやブレーキ知らず。制御ができなくなって………………。


「……ま、またか……。…ジロ殿………」

「……また、だとッ?!!」

「ぴぎっ?!」

「…お前が悪いんだろうが………………」



気が付いたとき、俺は……。



「お前がさけるチーズを裂かないのが悪いんじゃないかァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



クロエにグーの拳をふりかざして────……………。

782『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:57 ID:DKOnC83.0
「いや待て二郎。『パー』✋」


「「………え?」」




「お前の負けだ。ジャンケンポン!」



 ──…近藤さんのジャンケンに負けていた────。
………『ふりかざす』で終われてよかったと思う。
顔いっぱいに広がる、近藤さんの掌………。
発狂した奴にバケツの水をぶっかけて頭を冷やす──とはよくある漫画の典型的シーンだが…、…俺は近藤さんに敗北したことでギリギリ寸前冷静さを取り戻せた………。


……やばい。

……ったく、なんなんだ………………俺は…………。

完全に……壊れかけてる……。いや──もう壊れてる………Radio……………。


なぜこんなにも、自我が保てなくなってるんだ……?
完全に狂い切っているじゃないか………俺は………………。
何故こうも自我を保てなくなってるんだ………………俺…はッ…………………。

…………俺は………………………。



「…………怒らずに、俺の話を聞けるか? 二郎」

「………うん」

「そっちは『はい』だろ?」

「……敗《はい》…………」


……近藤さんはため息を吐いた後、口を開き始めた……。


「………俺はな。れんげ派だ」

「……敗《はい》……………。──って、はいぃいっ??!!!」

「お、…こりゃまずいな。…今からずっと『パー』見せつけながら話すから俺の無礼を許してくれよ。…普通に殴られたくないからな、二郎」

「……ハっ!! …………敗《はい》……」


……そう言って近藤さんは、隣のクロエをチラリとみると、彼女の(かじり痕残る)さけるチーズを右手に取った。


 ──バクリっ。

「…あっ! 近藤殿?!」


……もちろん、彼女には許可なくである。



「俺はな、お茶漬けを和食とは思っていない。れんげを使う理由は『チーズ入り』! ──チーズお茶漬けにして食べるからだよ」

「…え?!」 「な、なに………?──」


「──和食をぶち壊す恥知らずめ、このドアホウ……。いいか、近藤ど──…、」

「悪い。こんな早朝に説教は俺的にお腹いっぱいだクロエ。『パー』✋!」

「──もがっ!!」

783『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:12 ID:DKOnC83.0
…近藤さんは、説教魔クロエの口を左手で塞いで……俺に説明を続けた。
……俺とクロエはこれでじゃんけん敗者同士。…正直気に食わない女子ではあるが、なんだかんだ彼女と惹かれ合うものはあるのかもしれない。


「きっかけはテレビでな。今流行りの…T君という子役が、お茶漬けにスライスチーズを入れるのがオススメと言っていたんだ」

「『T君』………寺田心くんですね………? ………こ、近藤さんも、そんなすぐ影響受けて脳死しちゃうタイプだったなんて……見損ないましたよ……。…お茶漬けにチーズとか……合うわけないじゃないですかっ!!!」

「おい実名を出すな二郎。……いや俺も最初は合わないと思ったよ。良い言い方をすれば子供らしい無邪気な食べ方…。悪い言い方をすれば……やめておこう。お前が実名出したせいで誹謗中傷になりかねん。……まぁともかく俺も呆れたものだったさ」

「……………」


「だが────『チーズおかき』!」

「…………っ!!! ………チーズ…おかき……………?」

「それと同じさ。食欲がそそられない見た目だが、熱湯でふにゃふにゃに柔らかくなったチーズがお茶漬けに妙にマッチしていて………。…あれは一口目ではまだわからん。…『まっず』と思い、仕方なく二口目を入れたら……もう気が付いたら完食だ。よくよく考えたら大体の料理チーズかけたら美味いからな。──」

「──…だから俺はお茶漬けをレンゲで食う。俺にとっては、お茶漬けは『リゾット』なんだよ」


「………………………だから、れんげ………………?」

「フっ………。『パー』✋。今度はあいこだ、二郎」

「………あ」


 ……気が付いたら、俺は力が抜けて手が開ききっていた✋。

理解できない…理解もしたくない……。……そんな食べ方を聞いたというのに。
俺の拳は開ききっていて、暴力性のかけらも見せていなかった…………。
掌が震えていた。微弱だけども確かに俺の掌は震えていた………。。
汗にじまみ、しわがはっきりと見える。

俺の年季こもった掌は、確かにこの時震えていた……。


「……なっ?! オロカモノ!! 私の朝食っ!!!!──…、」

「…ん?」


……あと…近藤さんが右手を開いた✋以上、クロエから奪ったさけるチーズが必然的に地面に落ちたことにも……今気づいた。(一応、チーズはあとでちゃんと水で洗って食べた)



「つまりな、二郎」


近藤さんは軽く肩をまわして、ポキポキと首を鳴らす……。


「…うまいこと言うつもりはないんだがな。俺もアシストフィギュアとして召喚された以上、お前…そして主であるクロエにも、一つだけアドバイスを送らなきゃならん。──ちょっとだけ気づいたことがあるんだ」

「……………ア、アドバイス…?」 「………なんだ…近藤殿」

「二郎、お前はこれまで食べ方について色んな人と対立し、まさしく気狂い沙汰をみせてくれたものだが……。どんな時も最後は相手を理解し、自分自身も変われた。──それが、俺とお前の歩みだっただろう?」

「……はい……」

「だが今のお前はどうだ。バトルロワイヤルっていう土壇場になった途端、全く他人の食い方に理解を示さなくなっただろ。……何故か。何故お前はここまで狂ったのか。…その答えは単純だ。──」



「──『みふゆさん』だよ」

784『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:31 ID:DKOnC83.0
 俺は……。
まるで全身に雷を落とされたかのような……そんな衝撃を受けていた………。

近藤さんの――心の奥まで見透かすような、その雷鳴のごとき指摘………。

空気は静まり返り、耳に届いたのはただ一言、クロエの「…こやつ…結婚しているのか……?」という的確なツッコミだけだった。



「……みふゆさんがこの場にいない今。………つまりはお前に。そしてクロエはどうすべきか………。それは…つまり──…、」


「ほう。『私』──…と言いたいのだろう。近藤殿」

「ん?」


「…いわばズワイガニ代わりのカニカマ。私がみふゆ殿の代わりとなり、このオロカモノのサポートをする。──」「──そして、またコヤツも私をみふゆと思って、私を守る。──」

「──私とてもちろん本望ではないのだがな。ただ、こやつと『箸派』という同派閥となった以上、運命に従うのは私の使命。──」
「──………フッ。まぁ確かに、考えてみればここまで破綻した人間…。私とて説教のし甲斐がありそうものだからなっ……!──」

「──…近藤殿、お主の提案……、承るぞ……! ズバリ、お主はそう言いたかったのだな?」



「…………………ん?」



…この時、近藤さんは『鈴木雅之の十七枚目のシングル』といった表情をしていた。
…どういう意味かは各自お調べに任せる。


 ただ、近藤さん、そしてクロエの言葉を重ね合わせ、これから先のバトルロワイヤルを生き抜く術を、俺なりにも考えてみた結果……。
……たどり着いた結論は一つ。この狂った舞台で、俺がまず信じるべきは──クロエと共に歩むという選択だった。

…思い出すのは、彼女…クロエとの最初の出会い。
俺は激情のままにクロエを車内へと引きずり込み、暴行し──そして、首を絞めて殺した……はずだった。
頭のネジが吹き飛んだ暴力魔。そんな男と手を取り合って進もうとする者など、常識で考えればどこにもいない。
……それでも彼女は、余裕いっぱいで笑い飛ばし(…富士山のような口を開いて)、平然と俺の隣に腰かける……。
ノリノリで、やる気まんまんで、…自分を殺そうとした相手を隣に…さけるチーズを咀嚼しながら──(…富士山のような口を開いて)。

…近藤さんもそうだ。
こんな俺を『進化する人間』とまで呼び、まるで父親のように導こうとしてくれている……。


俺は、そんな二人を──この手で遠ざけるわけにはいかなかった……。
……たとえ俺が、何度過ちを繰り返したとしても……………っ。たとえ俺が、何度正気を手放しそうになったとしても……。

この二人がいる限り、俺はまだ……、人間に戻れる気がした…………。


「……………近藤さん………。俺………俺は……………」

「……二郎。結論はもう出たぞ。なら行け………!」

「…………え?」


近藤さんが指すその先──そこには、ぽつねんと佇む一軒の焼き肉屋があった。
『焼き肉じゅうじゅう』。
赤提灯がまだ薄明るい早朝の空に、妙にあたたかく灯っていた。

…………不覚にもこの田宮丸二郎…。
俺はこの時緊張感もなく………………空腹が鳴った。


「朝から焼き肉は普通ヘビーだが、お前にはちょうどいいだろ。色んな意味で」

「…………」

「焼き肉の本場、韓国では──焼き肉屋は『出会い』の象徴らしい。見知らぬ者たちが、煙をくぐらせ、酒を酌み交わし……心を交わす。──」

「──今こそお前たちピッタリじゃないのか? クロエに、そして二郎……!」


「………」 「……焼き肉…」

785『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:46 ID:DKOnC83.0
俺とクロエは互いに顔を見合わせた。──…いや、今はもうクロエ《みふゆ》…なのかもしれない。
じゅうじゅうと焼ける音と、香ばしい炭の匂いが鼻腔をくすぐる……。

…………近藤さんはいつも俺を助けてくれた。
言葉に毒を含ませながらも、…時には毒のような鉄拳制裁をしつつも………導いてくれて……そして、見捨てなかった。

あの時だってそうだ。羅生門社長の言葉で色々と精神的不安定になっていた俺を、何も言わず焼き肉屋にハシゴしてくれて…………、
「割り勘な」とか言いながらも、実際は多めに払ってくれた…………。



……俺も…上手い事を言うつもりはないが……、



────近藤さんは、いつだって俺の『最後の一枚の肉』だったのかもしれない………。







(………………すまない。全く上手くないどころか意味不明だった)





「それじゃあな。…クロエ、悪いが今後しばらく頼むぞ」

「…え?」 「近藤殿、どこへ……?」

「言ったろう? 俺はフィギュアファイター。活動時間『15分』が限度のようだからな。最期にちょっくら目玉焼き定食でも食べに行っておさらばとするよ」

「………え?」


 近藤さんは唐突にそう言って、背を向け始める。
その後ろ姿は歩くごとに少しずつ薄れていき………、
──なぜか、サングラスの輪郭だけが最後まで大きく、はっきりと見えたような気がした。


「……二郎、本物の俺に…よろしくな?」

「近藤さん………」


その言葉を最後に、近藤さんはゆっくりと去っていった……。
………俺がこの先、生還し、…すべてをやり直せることを当然のように信じているかと………そんな口ぶりで……。



……そうだ………! …ハジメさんも。みんなも……この手で、どうにかして生き返らせばいいんだ………。
全てをやり直して、生きて帰ればいいんだ………! 俺は………!

自殺なんて…バカ抜かせだっ………!! 俺はまだやり直せる…!
取り返しのつかないことなんて、きっとない。
信じられる。そう、自信をもって言えるよ……俺は……。


…………なんだ?
…『その自信の源はなんなんだ』…か…………。


簡単さ。


………近藤さんの言葉を信じて動いた時、俺の人生はいつだって前に進んだのだから────。

786『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:02 ID:DKOnC83.0
「……何をしている。行くぞ、ジロ殿」

「………え、あ。ああ!」



──疲れてヘトヘトな時はカルビ→カルビ→カルビときて。落ち着けばハラミ。気が向けばロース……。
──近藤さんはいつでもこんな俺を助けてくれる。


────近藤さんと言う七輪が、俺の悪い脂を焼き落としてくれるんだ。いつも………。




(──今度こそは上手い事を言えたつもりでいるよ。俺は────………………)




【アシストフィギュア No.11】
【近藤雄三@目玉焼きの黄身 いつ潰す? 消滅】


………
……


787『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:29 ID:DKOnC83.0
 ガラガラガラ……


  ジュウジュウ………


『…コト。なんで朝から焼き肉なの? どういう体力をしてるの?』

「だ、だってしょうがないじゃないかぁ!! あんな…頭のおかしいグラサンに…私負けちゃったんだよ!! やけ食いも仕方ないでしょ伊藤さ〜ん!!!」

『……それよりも、その食べ方はなに?』

「あぁ。これチュニドラの山●昌がやってた食べ方でね。ほら、焼いた肉を、生の焼き肉の漬けダレにちょんちょんってつけて、──」

「──豪快にバクリッ!! これがおいしい食べ方なんだよ。今度一緒に試してみてよ伊藤さん」

『(……コトの変な食べ方を生で見てドン引きしたいけど、その場合は他の客に私がコトと同類だと思われて引かれる。行こうか行くまいか悩ましい)………………ん?──』


『──あっ。コト、お客さん』



「え………?」




「「あっ」」



──焼き肉屋の扉を開けたとき、そこにはすでに、ひと組の先客がいた────。

──スマホで誰かと会話しながら、そのメガネの女は焼けたカルビをパクリと────。


──…俺はこの時、生肉の漬けダレ絡む…箸先のカルビにしか目が行っていなかった────。

──釘付けだった────。

──クロエのことも、近藤さんとのことも完全に頭から消え去っていた────。



──香ばしい煙が鼻をくすぐった、その瞬間────、






俺は、思わず口について出た。







「お前………バカか?」

788『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:42 ID:DKOnC83.0
────第67話◎─────。
──『山本昌の焼き肉の食べ方、おかしい?』───────。
──To Be Continued……─────────。

………
……


789『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:02 ID:DKOnC83.0











【1日目/G1/】

790『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:15 ID:DKOnC83.0










【歌舞伎町→ミニバン車内・走行中/AM.05:25】

791『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:31 ID:DKOnC83.0
【小宮山琴美@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】恐怖(激)、右頬殴打(軽)、手足拘束、頭にレジ袋被せられて「ヘコーヘコー」
【装備】なし
【道具】スマホ
【思考】基本:【マーダー】
1:なになになになに???!! これなに???!! この人(ジロちゃん)なんでいきなりブチギレたの?! なんでこの人に私誘拐されてるの??!! 伊●勤の采配より理解不能なんですけどっ?!!
2:誰か助けて!? 誰か…だれかぁ!??? 伊藤さぁーーん!!! 里●ぃーー!!!!!
3:死ぬ前にロッテ五十年ぶりの優勝が見たいぃい…!!!!!
4:やばい『漢』(堂下)がトラウマ。
5:優勝の願い事でロッテを優勝させる。自分を黒木智樹くんが惚れるような女にさせる。
6:伊藤さんと通話しながら行動。

【クロエ@クロエの流儀】
【状態】恐怖(激)、右頬殴打(軽)、手足拘束、頭にレジ袋被せられて「ヘコーヘコー」
【装備】フランスパン@あいまいみー
【道具】タバコ@クロエの流儀、さけるチーズ
【思考】基本:【静観】
1:息苦しい…。へこーへこー……
2:ジロ殿を説教しまくって更生させたい(建前)
2:見境なく説教して気持ちよくなる(本音)

【伊藤さん@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【対危険人物→小宮山琴美】
1:コト(小宮山琴美)の暴走を止める。ついでに解説担当。
2:…このレジ袋集団はなに? …やや引く。



【田宮丸二郎@目玉焼きの黄身 いつつぶす?】
【状態】放心状態
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:気が付いたら、
2:俺は、
3:クロエと小宮山という子を
4:拉致誘拐していた。

5:……………………え?

792 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:38:23 ID:DKOnC83.0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①あと十数話後に書く『巡り合う二人の会長』と『会長と、呼ばせたい。(仮)(もしくは、天才たちの頭脳戦)』という2ピソードがありますが
②正直めちゃくちゃ良い話に書ける自信があります。
③どんな話になるかお楽しみに。
④『あの会長』と『あの会長』をここまで活躍させれるロワは恐らくここだけだろうと、自信持って言えるくらいです。


【次回】
──うるさい

──女ごときが邪魔をするな


──男同士の闘い。その行く末は。

『男の闘い』…西片、ガイル、サチ、北条
(あるいは、『プランA』…白銀、島田、左衛門、サヤ)

793『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:12 ID:TQm/ytFw0
『【ℙ𝕝𝕒𝕟 𝔸】 - 𝕗𝕣𝕠𝕞 𝕂𝕒𝕘𝕦𝕪𝕒'𝕤 ℝ𝕖𝕢𝕦𝕚𝕖𝕞』

[登場人物]  白銀御行、島田虎信、佐衛門三郎二朗、遠藤サヤ


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