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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】

402『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:51:58 ID:J31/VQ160
 出会ってまだ何時間も立ってないけどさぁー、そろそろ捨てちゃおっかな…。
この『ロボ』。
…はぁー……っ、うっぜ。


バス内見渡した限り、参加者はどれもこれもパッとしないダサい人間ばかりだったけども、──どうせ出会うなら女子の参加者が良かったわ、ほんと。
まー、女子つっても誰彼構わずウェルカムって訳じゃあないけどさ。
対象内は私よりカーストが若干下、それか同程度くらいの女子がいい。
あんまり陽キャな奴相手だと合わせるのが疲れるし、かといって腐女子()みたいなド陰キャならつるんでる私もダサい扱いされるからNGで。
まこっちみたいな毒にも薬にもならない凡な奴と、できるものなら組みたかった感じだわ。

あっ、あと願わくばおまけ要員として、陽キャで賢くて私達を守ってくれる男子とも組みたい。
顔もねー、高望みはしないけどさ、中の上くらいの男子を私は希望だわ。いくら性格が良かろうとも、不細工とかオタク系の奴はマジで無理だから。…ほんとに、無理すぎ。

あ、話変わるけどさぁー、ダセェ男子ってなんで皆揃って黒縁メガネかけてんだろね?
視力悪いにしても、シャレた眼鏡とか売ってんだからさー、自分磨きに意識すればいいのに。
そんなんだからオタク共はモテないし嫌われんだよ、って常に思うわ。女子からしたらマジあり得ないし。


ほんと、冴えない男子って何もかもダメだし気持ち悪いわぁー……。


「………高木さんっ…!! 頼む、電話に出てくれ!! 高木さん!」



──あっ。私、そのダサ男子と今つるんでんじゃん。眼鏡はかけてないけど。

…マジ最悪っしょ、私。



「………………」

「高木さん……。高木さん……っ。……………。ダメだ、何回掛けても出てこない……」


「………ハァ…」


 えーと、西坂…だっけ。西村……だか、西田だか………。…どうでもいいか。
興味本位…っつーか。バトロワスタート後、何となく声を掛けてしまったのがチョー運の尽き。
この命名:『高木ロボ』は壊れたかのようにさっきから同じ人名をブツブツと喋り繰り返している。

…なんなの?
いや割と本気でなんなわけ?


「…美馬先輩…」


うわー、芋臭い顔でこっち向いてきたし。
何話したいわけ? 高木ロボさぁー。


「……もしかしてですけど…、高木さんって女子を見掛けたりしてませんか?」


はーい、これで二十二回目の『高木さん』。
んな奴知らねーし、バトロワ始まって移動なんてしてないから会うわけねーし。
普通考えりゃ分かると思うんだけど、高木ロボって案外思考回路欠陥品なんだね。

くだんないことで一々話しかけて来んなよ、っぜーな。


「……。…ごめんね。悪いけど西片君以外まだ誰とも会ってないからさ。分かんないや」

「…うぅっ、クソ……。…オレと同い年で、センター分けで茶髪の…。…とにかくその子…。──高木さんはオレとクラスメイトで探さなきゃいけないんですっ…!」

「…うん、…そう」

「オレ、いつも高木さんにからかわれてて…。その度に『次こそは見返してやろうっ!!』って意気込むんですけど、またからかわれて………。毎日毎日…。屈辱感でムカムカしながら、からかわれ続けるんですけど──」

「──そんな高木さんをっ! …そんな彼女だからこそ、今オレは守らなきゃダメなんです……。だから焦っちゃって……。本当にどこにいるか心配なんですよっ…!」

403『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:14 ID:J31/VQ160
はい、これで『高木さん』二十三、二十四、二十五回目ーー。
…って、私も私でなにコマメに数えちゃってんだ。…あーあ、アホらし。
まー、オタク特有の急に饒舌になる高木ロボに比べりゃアホらしさもそこまでだけどね。


「…あっ、そうだ! 今、高木さんの写真見せますから! ………………。…この子です…! 美馬先輩…、見覚えないですか?」


だから知らねーモンは知らねーっつうの。
無様な高木ロボ、安物のスマホ取り出して写真見せびらかしてきたけどさぁ…。


……はあ。

この高木って奴……、まぁまぁハイカーストそうな顔付きはしてるけど、…なーんか……田舎臭さあってダサくね?(笑)って感じ。
マジでしつけぇ奴だわ高木ロボ。この写真でシ●ってそう〜…(笑)。
…あっ。ロボの奴、ワンチャン「オレこんな可愛い子と仲良しなんですよぉ〜」って見せびらかしたいだけだったりして。
きっっしょ。


「……本当にごめんね、ロ……西片君。とりあえず今は落ち着いて様子見すべきだと私は思うんだけどさー。…ね? 落ち着かない?」

「……くっ………。うっ……──」

「──申し訳ないですが、到底落ち着けないですよっ…! 美馬先輩は参加者に知り合い居ない様ですが、高木さんは僕の……と、友達なんです…!」

「…………そうなの?」

「だ、だからっ! …無理強いはしないですが、お願いしますっ!! 僕と一緒に高木さん探しに協力してくださいっ!!! このビルから出て、彼女を探しましょう!!!」



…あ、ヤバい。なんかカチーンって来たかも。



──ちなみにいい忘れてたけど私が今いる場所、スタート地点のビルだから。
…変に動いたらやべー奴に襲われるかもだし、当然の行動だよねぇ? 普通。


…その私が冷静に見出した『普通の行動』を理解もせず、自分本位でグダグダ高木高木うっさく喚いて。


これだからカースト下層のフツメン野郎は嫌いなんだよっ……──。



「…あのさぁ、西片君。────何でそう自分中心に進めちゃうわけ? 何なの?」

「……え? み、美馬先輩………?」

「女子はさぁ、空気を読み合って協調性を保つんだけどもさ。さっきから高木さん高木さん〜って自分の事ばかり話すじゃん?」

「………………美馬、先輩……」

「西片君さ、空気読もうともしないから、私が行きたくないオーラ出してるの察せてないよねえ? どうして私に合わせてくれないのかなあ? これでプラプラ出歩いてさ、私殺されたら西片君の責任になっちゃうね。ねえー?」

「……………」


「…オレだって、自分が焦ってるのは分かってますよ」

「え、なに?」

「だけどもっ…!! オレは高木さんを探したいし、…かといって美馬先輩を一人放ったらかしなんかできないっ!!」

「…………え?」

「だから、だからっ……!! お願いします、お願いしますっ!! オレと一緒についてきてくださいっ!!! お願いしますっ!! 先輩!!」



「………………。…あっそう」

404『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:25 ID:J31/VQ160

………高木ロボってさー。
多分、普段の学校生活でも、優しい真っ直ぐな男『キャラ』で頑張ってやってってんだろね。
まじウケる………。


──こういう輩…、ぼっちやオタクよりたちが悪い。

──私が一番嫌いなタイプな、クズ……。


はあ……。
本気で、そろそろ捨てるタイミングかもしれないや。
この産業廃棄物《高木ロボ》。


死ねよ陰キャ。

405『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:38 ID:J31/VQ160


 …
 ……

 “みんなアァァァ────────!!!!!! 俺は殺人ニワトリだッ、聞いてくれエェェェェ────────ッッッ!!!!!!”



 “『新田義史』って男に気をつけろ──────────────────ッッッッ!!!!!!!!!!!!”

 ……
 …

406『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:53 ID:J31/VQ160



 真っ黒な夜空が青みがかってきた頃合い。

コ●ダ珈琲店のテーブル席にて、
──頼んだアイスティーに一切手を付けず、ただストローを回すのみの私と、

「………………………」


──能天気にカツパンセットをガツガツ燃料補給す《食べ》るウザロボットと、

「それにしてもスゴいですね…。その筋肉……! 一体どんな鍛錬を積んだのかオレには想像できないですよ………っ!」



──そして、筋肉質かつタンクトップのアメリカ人。

「…いや、大した事はしていない。ただ日々の訓練と業務で自然についただけだ、この肉体は。…俺なんかよりも西片。お前の方こそ中々の身体をしているじゃないか。その鍛えた腕に、腹筋。その歳にしては素晴らしい肉体美だ」

「え! い、いや! いやいやいや、いや〜!! そんなコト無いですよー! ──『ガイル』さん!」



「………………………ハァ」



────「お前は誰だよ」の境地だわッ。


 …遡れば十数分前。
バカカラスみたいに「タカギサーンタカギサーン」と鳴き続ける高木ロボに、もう私は限界寸前だった。
バトロワ中にボッチとか二重の意味で嫌だから、ロボの切り捨て時が見つかるまで同行してたんだけどさぁー。…ほんとにコイツ《ロボ》は生理的に無理過ぎる。
いつどこで頭のイカれた奴に遭遇するか分かんないっつーのに、……なんでコイツ、こんな大声出せるわけなの?
無警戒にウロウロ町中を行ったり来たり、探し続けてるし。
どんだけ頭が悪いの?? コイツ。

私が「声のボリューム控えて…」ってか〜なり優し〜く注意しても、一分後には鳥頭同然にまた鳴き続けやがるし。
…こんな奴さっさと殺せばいいじゃん、ってトコなんだろうけど、殺人とかクソ気持ち悪そうだから手 下したくないし。
もうどうすればいいわけ………? めちゃくちゃイライラして血管切れそうなんだけど、って感じで。


イッライラ。

イライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライラ。

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…───────って、私は眼の前のだらしない背中に呪いを飛ばしまくってたわ………。



────そんな爆発寸前の時に声をかけてきやがったのが、タンクトップの変態だった。


ガイルとか何とかって名乗るソイツは、「君達は俺が守るッ…!(一部省略)」とか偽善宣言してきたから、コ●ダで三人座る今に至るってわけ。

──一応言わなくても分かるよね? 偽善タンクトップ男を仲間に引き入れたの、当然私じゃなくてロボだから。
コイツが目輝かして「共二行動シマショウ。高木サーン」とかほざいたんだからさ。勘違いはしないでよねえ?




「……………はァ………………………」


…マジで、
……うっぜ……。

407『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:53:10 ID:J31/VQ160
「…あ、ところで美馬先輩…。もしかしてどこか具合悪いんですか?」


 ………は? なに。
どこも悪くないし。
あんたとは仲良くともなんとも無いんだから、一々こっちに絡んでくんなよ。


「……え。なんで? 西片君………」

「だって、今結構小腹空く時間帯じゃないですか。だから皆でコメダに着たのに…、先輩アイスティー一つ飲んですらいないから………。ちょっとオレ心配で…」

「……………」


また何も考えずに話してるよ…。
毒物入ってる可能性もあんのに無闇食えるかっての。
大体、私女子なんだけど。
こんな深夜にパンなんか食べたら太るでしょ。
そう言うちょっと考えなくてもできる気遣いできないから、ロボはモテないカースト三軍野郎なんだよ。
…コイツが自慢気に思ってる彼女の高木とかいう奴も、どうせビ●チでしょ。うちの学校の佐々木みたいなヤ●マンビッチ。
ちょっと顔良いからって調子乗ってそうだし。


「いや、西片。サチをそっとしといてやるんだ」


「…えっ、ガイルさん。で、でも……」

「この状況だ。彼女だって言葉には纏められない思う事が沢山あるのだろう。…それに、レディーに『食え食え』と迫るのも…。フッ、関心しないな」

「あ、そうか…。すみません! 美馬先輩……!」


いや変態タンクトップお前は良識あんのかよッ。うわぁキモッ…!
明らかに変人な服装のクセして、いっちょ前に気遣いはできてやがるし。
ロボと違ってコイツは陽キャ男子っぽいからまだ抵抗感は薄いけどさぁ…、それでもやっぱ無理だわーー…こいつ…。
(というか、今更だけどもロボの奴…完全に高木のこと忘れてるでしょ。なに呑気に飯食べてるの?……)


「あっ、いい機会だから聞いちゃおうかな…? ガイルさん!」

「…ん。なんだ、西片」

「オレ、高木さんにからかれる度に…──っというか毎日腹筋や腕立て伏せを百回してるんですけどー……。それだと言うのに誰に聞いても「全然変わってなくね(笑)」とか言われて………」

「…ふむ」

「どうやったらガイルさんみたいにムキムキの漢になれるんですかっ? …ウエートとか? オレ、もう分かんないんですよ〜っ」

「……フッ。簡単な事さ。筋肉は長年の努力で引き出していくもの。すぐ結果が出る訳じゃないんだ、西片。ただ、一つアドバイスをするのなら、まずは三角筋の鍛え上げから試せ。肩の力だ」

「……は〜、なるほど……。肩、ですか!」

「あぁ。成長期真っ只中の西片は腹筋よりも肩を重点的にした方が良い。…ましてや、ウエートトレーニングなどする価値はない。やめておけ。俺もそんな物一回もしたことはないからな」

「えぇ!? でも、テレビとかスポーツ選手は良くウエートって…」

「西片。トラやライオンはウェイトをするか? ──持って生まれた体のバランスがある。する意味などないのだ」

「あぁ〜!! 確かに! 勉強になります!」




「………………はァ」


オタクってさぁ、なんだろう。
やたら筋肉質になることに憧れてるよねぇー。
女子からしたら、許容できる範囲は細マッチョまで。全身筋肉づめなボディビルダーとかキモいしドン引くのに。

夢壊すようなこと言うようでほ〜んとごめん〜。──マッチョとかモテないから。
ウエートだか何だか知らないけど、女子から見向きされたいなら違うトコに努力しろっつーーの。

408『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:53:31 ID:J31/VQ160
まったく。
何なのコイツら………。
コイツらの会話は聞けば聞くほど、無様で、バカ全開で、ツッコミどころ満載。
一人とか絶対嫌だから無理にでもコイツらにつるんでるけど、何もしてないのに物凄い疲労感湧いてきてしょうがない。


…本当に色々終わってる二人組。



……かと言う私も。

ほんと、終わってんなー。


…性格……………。




「あ、うっ!!!!」



うわ…ビックリした。
いきなりうめき声あげないでよブスロボ。


「…え。西片君どうしたの?」

「…あ、えっと。……いや、何でもないですけど。──…って!! 何でもはあるか…!」

「は?」

「えーと……。何ていうかその…………──」

「──ちょっと、『花を摘みに』失礼したいなぁっ〜て…。………なんちゃって。 と、ととにかく行ってきます────っ!!!!!!」



「…………………」



…きっしょ。
腹を抱えながら猛ダッシュでトイレに向かうマヌケ面。
……あんな奴野垂れ死んで、ホームレスみたいに朽ち果てればいいのに。


「……緊張性胃痛か。…哀れな運命だな。俺はまだしも、闘いなんて無縁なあんな子供が……、──殺し合いをする羽目になっているのだから。………主催者…、許せんッ………」


「……………………──」





「──…はぁあ………………」

409『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:53:45 ID:J31/VQ160
 ……さて。
願うまでもなく現れたこの『高木ロボがいない』時間だけども。

アイツが戻ってくるまでのタイムリミットはせいぜい五分くらい。
その間、何の興味も関心もない、絶対に趣味も合わないこのガイルと二人きりなんて、なんて居心地の悪いこと。
間を保たす為に、コイツと何を話せばいいのかってわけだけど、会話なんて何も思いつかないし。…大体私、男と話したことなんかそんな無いし。
逃げ出したいくらい窮屈な無言の間になることは、簡単に想像できた。


「………………」

「………………………ふぅ」


かといって、本当にここから逃げるのも絶対嫌。
こんな都合の良い筋肉バカを引き連れてるというのに、一人になって殺されてたまるかって話。

私は絶対に死にたくないし、言っちゃえば最後の一人に私がなりたい。



『絶対優勝したい』っていう強い願望なんかないけど、死ぬわけにはいかないから優勝したい。



「………………」

「………………………」



──となればさ、私がコイツとする会話は。


──そんなの、一つしかなかった。



「………。…──ところで、サチ──…、」



ぶりっ子ぶって、私はガイルの胸元へとギュッと抱きついた────。



「……──ッ!? サチ、どうしたっ!! いきなり…」

「ガイルさんっ…! お願い…、…私を助けて……………」

「なっ!? どうしたと聞いているだろう!! サチっ!!」

「…さっき…言ったよね………。出会った時に、ガイルさん……。『美馬、君を守る。絶対に助ける』とか………………。…だから、だからさ…………」

「…あぁ、確かに言った。俺は力無き者を見捨てたりはせん。君も、そして西か──…、」




「だったら西片君を殺してくれない?」







「…………………………………なにっ?」

410『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:01 ID:J31/VQ160
 …ハァ…。

…コイツの体、汗臭…………。
やっぱ筋肉野郎のゴツゴツした体って耐えられないわ、無理過ぎ………。

……でも今はまだ我慢っと。演技に集中ー。



「…サチ。君は血迷っているのか? …自分が何を言ったのか、……分かっているのか」

「…………そら貴方には分からないでしょ…。会って……数分もしてないんだからさ…………。────西片、アイツの本性がっ…」

「………詳しく言え」

「私たちと……初めて会った…数分前を思い出してよ……。あの時の私、…どんな顔だった? ねえ、ガイルさん………」

「…………」

「…凄い絶望して、すっごく泣きそうで嫌な顔してたでしょっ………。私…………。…西片のやつに……、服破かれて……、ヘンなことされそうになって…………。拒んだら急に豹変して、殺されそうになって……………」

「…………さ、サチ…」

「あの時、ガイルさんが通りかかってなければ…、私殺されてたのっ…!! だから、アイツが善人のフリして貴方に近寄り……、何もなかったように食事してるのが…………。私、怖くて、たまらなくて……──」



「──だから西片をやっつけてよ。ね? ガイルさん…………」

「………。………………サチ…──」



「──君を疑うつもりは無い。…だが信じられん。信じられぬのだっ………」

「…………」

「あの真っ直ぐな瞳をした、殺しのこの字も知らん童にっ。……外道に堕ちた真似ができるとは……。………サチ」



…………チッ。めんどくせーな。
これ以上私にイタい芝居させないでよ。

…あと、さっきから私のこと『サチ』呼びってさぁ。……フランク過ぎるにも程があるでしょコイツ。


「………信じてくれないの? 私のこと」

「俺は、疑心暗鬼が苦手だ。……君のことも信じたいが、西片も同じく信じたい。…………どうすればいいか頭が痛いっ…」

「……証拠ならあるのに。…西片が、ヤバイ奴だって証拠は……………」

「…なにっ?」

「…一時くらいにさ、なんかスゴい放送聞こえなかった? ほら、『みんな、あの参加者に気をつけろ〜』……って……」

「……あぁ、聞こえたさ。それが何──…、」


「『【にしかた】って男は殺し合いに乗ってるぞ──』。──とか、………………言ってたよね?」


「……っ。………………………──」


「──いや違う。…俺もおぼろ気だが、西片ではなく【にった】と言っていたな。……サチ、君の勘違いだ」


…確かにそりゃ違うけども……。
頭使えないバカの癖に一々反論してこないでよ。
あぁもうっ…ほんとウザいわ。

411『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:16 ID:J31/VQ160
「…いいえ、違う。絶対に西片って言ったから」

「……さ、サチ。何故君はそんなに西片を──…、」

「あの放送の時、ガイルさん何してた?」

「……何とは。…俺は、泣いてる参加者を守るため街を走り回っていたが…」

「ほら、だからじゃん………。黙って聞いてないから…聞き間違いするんだって」

「…………………」

「聞こえてなかったのなら、改めて私から言い直してあげる。……【西片は危険人物】だって。……私を…信じて……、ガイルさん」

「……サチ……」


だから名前呼びしてくんなっての。呼ばれるたびに鳥肌たつわ………。
……はぁ、まっどうでもいいや。一々…。

分厚い胸筋に顔をうずめて、ギュッと力いっぱいに抱き着く。
鼻を閉じながら、私はトドメとして『泣き真似』をアイツにぶつけこんだ。



「────お願いだから、私を信じて…っ。…私だけを守って…っ。………助けて、──ガイルさん……………………………」


「…………………! ……サチ……………………」




…ちょっと目線を下に落として、確認。

……なーんだ。
私に抱かれてコイツ勃●でもしたかと信じてみたけど、全然じゃん………。
まあしてたらしてたでサブイボ全開なのは確かだけどもさ………。

どうでもいっか、そんなの。


「……サチ、…疑ってすまない。ここは俺に任せてくれ……ッ」

「え? ガイルさん…。じゃ、じゃあ………」



「君のことは俺が守る。……絶対に、……絶対にっ、だ………! ──西片から……」

「………っ! ガイルさん…………!」



──勃とうが勃たまいが、コイツを完全に『堕とせた』のは変わりないんだから。

…私のド大嘘で。
ぶふッ…!

ほんと私って性格終わってるわぁ〜〜。
なんかガイルの奴、殺意の波動に目覚めたって顔してるし。うわ、うける〜。

412『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:36 ID:J31/VQ160
 ──ガチャッ


「あ、美馬先輩にガイルさん〜…! すみません!! ほんと急にお腹が痛くなっちゃって〜…。ヤバかったですよ」

「…あっ」「………………西片…」


そうこうしてるうちに、何も知らないロボが登場〜。
能天気にヘラヘラ笑っちゃって、…めちゃくちゃ滑稽なんだけど……!


「……………」



「…あれ? な、なんだこの空気の悪さ……。み、皆さんどうかしましたかー??」


「………」


「…。…西片……」

「…はい?」

「西片………。話したい事がある。…表に出ろ。良いな」

「…え?? …良いですけど…………。……??」



「………………」





「………………………フフッ!」




あっ、やば。
つい吹き出しちゃったけどガイルにもロボにも聞かれてないよね……? …うん、聞かれてないな。ラッキー。



ほぼ羽交い絞めみたいな形で変態タンクトップに連れまわされる西片。
その背中を眺めていたら、ちょっと前の過去が頭によぎる。


 ……思い返せば、私は中学生の時からダサい男子が大嫌いだった。


私の人生史上一番ダサい男はあの時のコンビニ店員だ。
生理用品を買いにコンビニ行った時。
女の店員なら配慮で茶色い紙袋に包んで渡してくれるんだけど、男店員はそんなことしない。
だって、そんな『配慮』知る由もないんだから。するわけがないし、それに一々私は気にはしない。
それが普通だから。

でも、あの冬、会計を担当した男店員は違った。
紙袋に入れた上に「ご一緒にレジ袋に入れてもよろしいですか?」とかわざわざ聞いてきたんだって。

413『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:48 ID:J31/VQ160
分かる? めちゃくちゃ気持ち悪くない??
イケメンとかならまだしも、そいつ…何ていうかその、チー●牛丼食ってそうなのっぺり顔だったし。
その「誰も知らない女性への配慮を、俺しちゃってんだぜ。カッコいいだろ?」って透けるアピールがさぁ。
…私、思わず軽蔑の視線を刺しちゃったわ、ほんと…。



……で、そんなわけだから、私はお前が大嫌い。

バイバイ、高木ロボ。
お前さぁ、その店員と同じくらいに、生きてる価値ないからさ。


あっ。間違っても私を恨まないでよね〜?
ロボを殺す張本人はそのタンクトップ筋肉バカなんだから。

ハッハハ〜〜〜…!
うっける〜。





…あ、やば。
言い忘れてた。
ガイルのアホに、ちゃんと『即死』で殺すよう釘刺しておかないと。

下手に戦闘長引いてさ、西片と話したりでもして、矛盾とかボロ出てきたらこっちがマズくなるんだからさ…………。

414『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:55:02 ID:J31/VQ160
【1日目/B5/コメ●珈琲店店内/AM.03:19】
【美馬サチ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【優勝狙い】
1:筋肉バカ(ガイル)に引っ付く。場合によっては切り捨てる。
2:西片バイバ〜イ(笑)
3:自分とカースト同程度の女子の参加者と行動したい。
4:で、そいつと誰かの悪口言いたい。

【西片@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ガイルさんについていく………。なんだ、何があったんだ…?
2:高木さんを探したい。
3:美馬先輩を守る。

【ガイル@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:西片……………っ。
2:襲われている参加者・力なき者を助ける。
3:サチを助ける。
4:ハルオ…生きろよ……っ!

415次回 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:57:23 ID:J31/VQ160
──ボウリングやる時、ガター狙って投げる奴アいない。

──ストライク狙って投げなきゃ、始まらねえ。


【次回】
『ボウリング・フォー・コロシアイ』
【出演】
『三嶋瞳、利根川幸雄』

416 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:42:58 ID:FhP9fNKw0
──次回、ボウリング・フォー・コロシアイと言ったな

──あれは嘘だ


『意味が分かると怖いダガシ』


[登場人物]  [[小泉さん]]、[[枝垂ほたる]]

417『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:43:28 ID:FhP9fNKw0
 あれは──、私が本当に体験した出来事だったのでしょうか。
それとも幻を見ただけだったのでしょうか──。
いずれにせよ、この目ではっきりと確認したことだけは事実。
夜更けの人淋しいはずれ町にて遭遇した、不思議かつ不気味な現象がそこにはあったのです。


ええ、『怪談』です。

418『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:43:44 ID:FhP9fNKw0



「うーん。…悩みますね。日高屋で良しとするか、五百メートル先の山岡家まで我慢するか。…悩ましい、悩ましい限りです」


 屋台『とんずラーメン』という隠れた普通店を完食後、私は数分間町中を歩き続けていました。
スマホのナビアプリに身を任せ、特に何も思考せずボーっと足を進めたところ、気がついたら路地裏に。
はぁ…お腹空いた……──と、胃袋の物恋しさに悶えるのでした。
このド深夜、そしてこの渋谷で私が目指すその目的地────それは言うまでもなくラーメン店。
趣味はラーメン、そして幸福はラーメン、人生こそがラーメン。──聖典は拉麺に在りき、との私はもはや啜ってなければ呼吸をしてないも同然なくらい。
だからこそ、最寄りにあったラーメン屋へ急がねば。そして、日高屋か山岡家のどちらにするか選ばねば…と、ただただ歩いていたのです。



……。


はて、どこからか謎のツッコミの嵐が聞こえた気がしましたが、…面倒なので一片に答えておきましょうか。

『えっまた食べるの?!』『屋台のラーメン食べたあとなのに?!』『てかまだ食べるの?!』『深夜に食べて大丈夫なの?!』『大食いなの?!』『大食漢?!』『どんだけ食べるの?!』


………。
────私からのアンサーは全部まとめて『はい。以上』のみ。
私はラーメン店を二、三軒──しかもスープを完飲してハシゴするのがほぼ日課なので、これが日常。これが普通なんです。
そして、これが私なので理解したいのならどうかご理解をお願いしたいところです。
…はい。では、ツッコミの皆様さようなら。



「……うーーん。日高屋か、山岡家か、……………困りました………」


 それにしてもこの二択、
実に困ったものでこの道中なんだか足取りが重くなってくるばかりです。
「ラーメンはあっさり派か、こってり派か」なんて論ずるつもりはありませんが、私は今人生の岐路ならぬ、ラーメンの岐路に立たされています。


 濃厚な豚骨スープと太めのストレート麺が特徴のこってりラーメン────『山岡家』。
当初こそは山岡家一択で、そこに向かってまっすぐ進むつもりでした。
ええ、なにしろ時間帯も時間帯で、深夜の今に開いているラーメン屋など必然的にチェーン店しかなく。
マップで調べたところ最寄りのラーメンチェーンは五百メートルも遠いここしかないので、距離の忍耐を覚悟しながら歩を始めたのですが…。

 万人受けするようなあっさりとした味付けの「こういうのでいいんだよ」系ラーメン────『日高屋』。
よくよくスマホに目を凝らすとちょっと角を曲がってすぐに、同じく二十四時間営業のチェーン店の名前が……。
五百メートル分も空腹に耐えなくても、すぐラーメンにありつけれるとはまさに現代のオアシス《Ramen》。ならば予定変更にここにしようと一瞬判断してしまいました。


 ………ただ、ここで思い出していただきたい──そして私が不意に思い出したのは先程の『ラーメンとんず』の味でして。
チャーシュー、メンマ、スープ、麺。──全てにおいて学食を思い出させる素朴な味の、あの一杯。
あれを食べた直後にまた連チャンであっさりを食べるのも「…うーん」という感じがありまして。
だったら日高屋にて中華そば(\420)ではなく、とんこつラーメン(\500)を頼もう…とも思いましたが、身体は山岡家のようなより脂っこい物を欲している気分…。


飢えに耐えてでも中太麺でパンチの効いたあの店を行こうか、
それとも妥協して近場で済ます──チャーハンをセットに鶏ガラの効いた一杯を啜ろうか………。

こんな小さなことで私はかつてないほど苦渋に悩まされていました。


「…あぁ、ひもじさが限界級…………。一体私はどちらにすれば……………」


…と、そんなこんなでこのとき目の前が見えていなかった私。
スマホナビに釘付けされながら歩いていたものですが、ナビアプリという物はどういう訳か普通ならあまり通りたがらないような道筋で常々案内してくるもの。
気がついた時、私は──………。





「……………あっ」





 まるで闇の中に街が生えたかのような────真っ暗な商店街の中に足を踏み込んでいたのでした。

419『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:02 ID:FhP9fNKw0
 …ええ、不気味な商店街です。
一見にしてどこにでもあるような普通のシャッター街、何も変わり映えない電柱に看板、アスファルト。…それなのに『何か』が違う。

目では分からない何か不穏なオーラ、言葉では上手く言い表せない異様感。
不自然なくらい静寂っぷりが目立ち、人の気配どころか人がいた形跡もない街。──それだというのにどこからか誰かの視線を感じる異様な空間。

空気が淀んで、生乾きのような臭いが鼻をついて。
風がぴゅーっ……と、夏だというのに鳥肌が立つほどの冷たさで。
私は何故だか胸騒ぎ…といいますか、直感的にここから逃げ去りたい感情に。



…いわば霊的な何かということでしょう。

私はそんな不気味の具現化ともいえる街の真ん中に一人立っていたのでした。



「……………………………」


骨まで染み渡ってくる寒気に、

闇に包みこまれたこの不安感。


普段、幽霊や怪談なんて全く信じていない私ですが、…そんな私でも「これ以上進んではいけない」と本能的に訴えてくる、……何かがありました。

スマホを暗転させ、ゆっくり静かに。
何事も無かったかのように、身体の向きをUターンし、ここから去るよう決意した私だったのですが。


後ろを振り返って、右脚を一歩進めたその時。



 ────ガシャン………



「……………えっ」




私のちょうど真横に建つ、古びた古民家から突然。


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャン



「……っ!!!」



 ガラス戸を激しく叩く音が響き渡ったのです。

──……古民家内に潜む、『何か』による…。



 ────ガシャンッガシャンッガシャンガシャンッガシャンッガシャンガシャンッガシャンッガシャンガシャンッガシャンッガシャン


「………っ、………………………!」


徐々に、徐々に、激しさを増していくガラス戸の音と、そして比例する私の心臓の爆音。
……ドクンッドクンッ、ドクン………。
心臓が、冷えていく血液を循環させ、頭の頂点から爪先まで巡る寒気が、私の動きを完全に止めます…。
その冷水を浴びたかのような悪寒ときたら、思わず息をするのを忘れさせるほど。

420『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:19 ID:FhP9fNKw0
ヘビに睨まれたカエルは、今際、こんなに冷え切った心地だったのでしょう。

私はガラス戸越しの『何か』に魅入られていたのでした……。



 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッ、


「…………………っ………」


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッガシャンガシャンガシャン…………





 “お願い……………。………………”





「………えっ?」



 ────ガシャンッガシャンッ…………


 “……お願い…………………。…出し…て…………”



 …この怪異はまだ終わりを見せません。
延々と鳴り続ける打音の裏で、弱々しくも…確か、に。女性の『うめき声』が聞こえたのでした。
ガラス戸と共鳴するかのように、古民家の中から。………確実に……。



 “開…けて……………。ここを、開けて…。はや──…、”


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャン



「……っ。……………」



今にも消えかかりそうな、…明らかにこの世の者ではない人間の声。
家内に封じ込められている『何か』は、明らかに私に向けて言葉を発していたのです。
「開けて。」「出して。」────言われるがまま従ったらどんな恐怖と対面することになるか…。
到底想像も出来ませんでしたが、確実にまずい事態になるのは確かです。


そんな『何か』の唸りに、私が取ったアンサーは…………、────……一つ。

421『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:35 ID:FhP9fNKw0
「………………行き、…行きますか……」




 
それは、────言われた通り助けに『行く』事です。

 ……ええ、意外な行動でしょう。
正直、当時の自分も何故、古民家へと吸い込まれていったのか解せませんでした。
普通なら意のまま、飛び出すように逃げるものでしょうし、それが最適解です。
わざわざ覚悟を決めて歩み寄るなど、二郎系店で残す行為と同じくらい愚の極み。愚かな考えです。



……ただ。


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッガシャンガシャンガシャン…………



私はもう既に、未知たる『何か』に標準を合わせられている現状。
…逃げた所で、追手と化した奴から無事でいられるのか──。
…そう想定したら、私が取った行動もあながちバカなミステイクとは言えないのではないでしょうか。



…それに。
──正直言って、『うめき声』まで追加されたら、…胡散臭さというか。
──陳腐で嘘臭さもありましたから。



 ────…ガシャンガシャンガシャンガシャン

 ────…バクンバクンバクンバクン


「………………」


ガシャンガシャン………と崩れぬ打音。そしてうめき声。
両者揃って震えるその音の下、私は用心しながら静かに歩み寄って。──近づき。



 ────ガシャンガシャンガシャン…………

 ────バクンバクンバクン……


「………………」


今にも倒壊しそうな、まるで昭和中期の遺物とも言える古民家の前まで、立った時。
多少震える両手を引き戸まで伸ばして、取っ手に指をかけた私は一呼吸。



「…………すぅ…………。……………んっ!!」



 ────ガシャンッッ

 ────バクンッッ


常日頃使う機会など無い勇気を振り絞って、思いっきり力を込めるのでした……………。

422『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:48 ID:FhP9fNKw0
ガラガラガラ…と、
一気に開かれる扉。


引き戸から解放されると同時に、私に襲いかかってくる、黴臭さと湿気。

そして、家内の異様な『熱風』。





最後に、待ってましたとばかりに、ガラス戸にもたれ掛かっていたのでしょう──『何か』が、うめき声と共に勢いよく。




「あぁぁっあ〜〜〜〜〜〜っ!!! 暑かったわぁあああ〜〜〜〜〜〜っっ!!!! ばたんQぅぅえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」



「…え?」




「…げふぅ〜〜。ハァハァ……。誰かは存じ上げないけど……ハァハァ………、助かったわっ!! ありがとう!! ハァ…ハァ……、イッツ・ア・……パーフェクツ─────っ!!! アンサーよっ…!!!」



「…は?」



溶けかけのバターのように、ちゅるりんっと『彼女』は倒れ込んだのでした。


…勿論、生身の人間の。
彼女──、後に聞いた処の『枝垂ほたる』さんが。


「恐怖? なにそれおいしいのっ??!」ってくらい、幸せそうな表情かつ汗ビッショリな枝垂さん…。

…そして、古民家奥から充満してくる『豚骨』の匂いときたら……。
…ほんと……。





…何ですか…。これは。
すごいビビリ損だったじゃないですか…。

423『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:00 ID:FhP9fNKw0




────そうっ!! 今日のテーマはずばり……これよっ!!!!(By 枝垂ほたるっ!!)


 ●『ブタメン』●


…お湯を入れると『本物の』ラーメンに!!
…味の種類も豊富!!
…小腹がすいた子供達に絶大な人気の、ポピュラー駄菓子だ!!!

424『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:17 ID:FhP9fNKw0




 …ガラス戸の怪を前にして、本来の目的を完全に忘れていた私ですが、…思い返せばラーメンを求めて彷徨っていたのが始まりでした。
その起点を踏まえると、枝垂さんを助けたのも結果オーライ…というわけでしょう。


量は少なめながらも、こうしてブタメン《ラーメン》にありつけれたのですから………。



「…ずるずるずるずるずる」

「ッッ! プッハァ────────────ッ!!! 乾いた喉に瓶ラムネは〜〜っ……、最高にハイねっ!!!! 生き返るわぁ〜〜〜!!!」

「……。…ずるずるずるずる………」


 古民家…────いえ、正式には『駄菓子屋』外のベンチにて、私達は今つかの間の休息中。
夏の暑さを乗り越える、スタミナを付けるには最低の駄菓子……。そんなブタメンは、待ちに待ったラーメンだけに、それはそれは至高の味でした。
濃い目の味付けと、ミルキーな白濁スープが絡み合う温かなハーモニー…。
意外と低加水な麺は、そのワシワシした食感が結構楽しめ、満足度は非常に高かったです。

容器を傾け、最後のスープを一飲み。
…んっ、んっ。……ぷはっ!

ご馳走様でした。
古びた駄菓子屋の品ともあり、賞味期限に不安はありましたが、なんと新品で。しかもガスまで使えたので、驚き超満載です。

はー………! 美味しかった………。



「…でっ!! この真夏だというのに駄菓子屋に閉じこもって、ストーブ炊いて……。…汗だくになりながらブタメンを食べてたら、戸が壊れて出れなくなった────…ですか……。枝垂さん」

「フフッ! 説明繰り返しありがとう小泉ちゃん!!」


「………バカですか? …あっ、失礼。言い過ぎました」

「あらあら! よしてよ小泉ちゃん!! バカはバカでも究極の駄菓子バカとはこの私っ!!! ほら、よく言うじゃない? バカとマヌケは紙一重ってね!!!!」

「…そりゃ紙一重でしょう」


……そうそう。
驚きと言えばこの枝垂さんも、まさに奇天烈の域…。
信じられますか?
彼女がストーブを点けてブタメンすすった動機も、一人我慢大会とかそういうのじゃなくて、『ブタメンを美味しく食べる…ため……っ──』とかですよ。
あまり人の悪口を言う性分じゃないですが…、枝垂さんかなりどうかしてます。
全く何をやってるんでしょうか…。
……………はぁ。


ビー玉が瓶の中で転がる、清涼な音が隣から響く……。



「ブタメン………。やっぱりこの味は良い物よね〜小泉ちゃん!! 味もさることながら、七十円と比較的高価な駄菓子であるブタメンは、やっぱり特別感あるわよねっ」

「そうですか。私は駄菓子屋にはあまり…なので分かりませんけども」

「あら、そうなの? …勿体なぁ〜い……。じゃあ…仕方ないわ。小泉ちゃんにちょっとした昔話をしてあげるんだからっ!!! 以下、回想────!!!!! 遡るは、小学生時代の私…────!!!」

「いえ結構です。…あと何に託つけての『仕方ないわ』ですか………」


…って、言っても多分聞く耳持ちませんね…。

425『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:32 ID:FhP9fNKw0
 ………
 ……
 …
 
 ブタメンにも味の種類が豊富にあるわ……。(ナレーションは私よッ、ほたるッッ!!!!)

 百円玉を握りしめ、駄菓子屋へ行った私は、
 何個も買えないブタメンを前にして、別の味を試してみるなんてことはあまりにリスクが高かった………。

 「……ぅッ!!!」

 試したくてもついつい、安心の『とんこつ』を選んでしまいがち。…常にそうだったわ。

 今でこそ好きなように選んで食べられるけれど………。
 親しみ深いのは、やっぱりとんこつ味…。

 …
 ……
 ………



「…あっ、もう終わり?? 思いのほか回想短かったですね」

「フフッ…!! この感覚を共有できる人が日本中にいると思うと興奮するわねっ。ブタメンが作るとんこつの絆ってやつだわ!!」

「何を言ってるんですか?」

「いや、他愛もないただの雑談よっ小泉ちゃん!!! そんな私だけども、幼少期。一度だけ…、いや二度とんこつ以外を食べた記憶があるわ………」

「はあ」

「あれは、確か『しょうゆ』と………。え〜〜〜〜っと。あとは〜〜〜〜……思い出せないわぁ〜〜〜……──…、」


「…『タン塩』ですか?」

「えっ!!??」

「それか、『焼きそば』、『カレー』、『旨辛』、『シーフード』、『エビぱいたん』等等…。御当地限定の『味噌カレー牛乳味』や、二十周年記念の『スペシャルエディション味』なんかもありますね」

「………そ、そうっ!!! それよ、それ!!! 旨辛味よっ!!! こ、小泉ちゃん恐れ入ったわ……。凄すぎるじゃない〜〜っ!! こんなに沢山スラスラ言えて!!! 駄菓子興味ない、なんて下手なウソついちゃって、このっ!!」


…まぁ、というのも、小学生時代の私もブタメンは沢山啜りましたからね。
「駄菓子屋はあまり行ったことない」は嘘でないですが、…ブタメンに関しては網羅済みですから。
これくらいは言えて当然なんです。


「…そうね……。さしずめ……、これはもう小泉ちゃんならぬ、──『ブタ王』といったところかしら…?」

「いや違いますよ。てかしないでくださいよ?? …その呼び方。絶対断固拒否ですから……っ」


………うわ。
危ない危ない…。
危うく最悪な渾名を付けられるところでした。豚王って……M●THER3ですかッ。


「ふんふふん〜〜〜♪ これで、我が駄菓子軍団にブタメンマイスター──小泉ちゃんも加入〜〜〜♪♪ この調子で団員を増やせばバトロワも、終わらせれるわねっ!!!!」

「………。え、他にその、団員…いるんですか?」

「モチのロンッ!!!! 小泉ちゃんが記念すべき第一弾────────っ!!! おめでとう!!!!」


…………。
本当に、常に想定を超えてくる人というか…。
枝垂さんは掴みどころの全くない人でした。………全く。

426『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:55 ID:FhP9fNKw0
「…………ふう」


さて、こうして勝手に『駄菓子軍団』とやらに入れられた私ですが。
つまりは、暫定で枝垂さんと今後、この殺し合い下を共に行動することになった次第です。
枝垂さんはキャラが濃い上に、そもそも私はソロ行動をしたいスタンスなので、正直かなりの困惑と窮屈感はありますが……。

…別に気にすることはないでしょう。


「…さて!! こうしてはおれないわ小泉ちゃん!!! 行きましょう!!! 私たちと駄菓子を布教して、今こそ見せる時よっ!!!」

「……」


「駄菓子の────底力を!!! そしてブタメンの熱い情熱をっ!!!! 準備はいいわね!!! 小泉ちゃん!!!!!」


「……はい、はい」



枝垂さんが例えどう無茶に振り回してきても、何をしでかそうとも、──私は構わず、我を通す。
命尽きる最期の時まで、素晴らしい渋谷のラーメン店達を巡り……、知らない薫りに吸い込まれては、足を運ぶ。


ラーメンを求めるのが、私の『生き様』なのですから────。



空になったカップと箸をゴミ箱に投げ捨て、カランっ…────と。
ゴミ箱に着地した音が鳴ると共に、私は腰を上げるのでした……。













“お分かりいただけただろうか。”

427『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:46:08 ID:FhP9fNKw0
【1日目/F4/センター街/AM.4:00】
【駄菓子軍団】
【小泉さん@ラーメン大好き小泉さん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:殺し合いとかどうでもいい。とにかくラーメンを食べる。

【枝垂ほたる@だがしかし】
【状態】健康
【装備】???
【道具】すっぱいガムx4
【思考】基本:【対主催】
1:駄菓子の力でバトロワを終わらせるわっ!!
2:というわけで駄菓子同盟第一弾は小泉ちゃん!! 一緒に行動よっ!!!

428次回 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:50:38 ID:FhP9fNKw0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ⑥】

①最終回では9人死にます。
②第5回放送では9人死にます。
③そして、第1回放送では12人死にます。

残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!


──ボウリングやる時、ガター狙って投げるry


【次回】
『ボウリング・フォー・コロシアイ』
【出演】
『三嶋瞳、利根川幸雄』

429『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:00 ID:Et9.Y5BI0
[登場人物]  [[利根川幸雄]]、[[三嶋瞳]]

430『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:19 ID:Et9.Y5BI0
 西部劇に出てくる………──アレ…………。


風に吹かれて荒野をコロコロ転がる、ボール状の干草。
正式名称は『タンブルウィード(回転草』との事らしい。

タンブルウィードは通常、アメリカ西部の乾燥した地域にしかその姿を確認出来ぬ物だが。
どういう訳か、奴は渋谷区東部の東京湾。──西でもアメリカでもない、湿地帯にて登場し、誰に言われずとも浜辺を転がり始めた。


「………チッ! 出やせん……、誰も…、電話に………っ!! …確かに時間帯も時間帯……。山崎や権田らが応答できぬのも致し方はない…………っ──」

「──ただっ……………!! 左衛門…、堂下………。どうしたっ……?! お前らなら出れる筈だろう……………!! お前らは……、『参加者』なのだから………!!」


「………うぅー〜〜……。…ダメだ。利根川さん、こっちも繋がらないですよ…。新田さんにヒナちゃんにアンズちゃん…。社員の誰一人どころか110番さえ出ません」

「………チッ、使えんゴミ共がっ……………」

「これ…もしかして、電波妨害とかされてるんじゃないですかね? これじゃあ助けを呼ぼうにも何も役に立ちませんよ〜…」

「…クゥッ………。だとするなら、意気揚々と三本指を立てるな…………っ! スマホの電波アンテナの奴……………っ!!」


タンブルウィードは、風に動かされ海岸沿いを抜ける。
峠を転がり続け、カーブが見えても難なく進み、歩を止めない。
何処までも何処までも。どこかへ向かって回り続けた。


「…はぁ。本当にダメな人達……。特に私の社員なんか、四六時中何かある度に私に頼って来るのに……。…私がヤバい時は誰も助けてくれないわけ? 一人も……」

「……もう良いっ……。時間が経ったらまた掛け直すまでだ…………」

「その時間が経つ間に殺される可能性もあるじゃないですかぁ〜っ!! …もうっ、本当にピンチなのに〜……──」


「──…はァ。お互い、使えない部下を持つ身として大変ですよね〜〜……。利根川さん」

「……クッ、まだ子供の癖して………いっちょ前に同意を求めるな…………っ! …それにわしの部下達はお前のとは違って有能揃い………っ」

「…。………はぁ〜あ〜〜あ…」



「…さて。……もう良いだろう。お嬢、行くぞっ……………! そろそろ…………」

「…へ? 利根川さん、どちらに……?」


真夏の大冒険──。
旅するタンブルウィードは、遂には町中まで到達し転がった。
信号機が赤だろうが、青に光ろうが、ただの干草には交通法など気にも留めない。
街の灯に声援を送られながら、干草は自由に転がり巡った。


「………どちらに、か。………そんなもの、愚問中の愚問…………っ」

「え??」

「………お嬢。ボーリングは好きか…………?」

「へ、ボーリングですか? ……う〜ん…。そもそもやった事無いですねぇー………。私〜」

「んっ? やった事ない、だと……………っ? ただの一度たりともかっ…?!」

「はい。…あっ、大雑把なルールとかは普通に分かりますよ? 重い球投げて、ピン倒して〜って。でも本当経験はないですね…」

「……ほう………っ。…ならば、結構いい機会と言うわけだな………。お嬢…………」

「はあ。…。…………………──」



「────……『どこへ』っ!! 行こうとしてるんですかっ…? …利根川さんっ」


「────…言ったろう、お嬢………。『圧倒的愚問』、とな………!」

431『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:33 ID:Et9.Y5BI0
転がること、早20km。
この広大な渋谷の大地を、タンブルウィードは自由に駆け回った。
誰の視線も気にせず、そして誰にも気にされず、長い距離を転がり続けた。
ただ、旅は必ず終着点。──終わりというのがあるもの。

丸くて柔らかい草ボールは、名の知れぬ現代アート家が作った『十本の立つ枝』へ。
──たまたま路上に立っていた枝の群れへ、勢いを増し転がると────。



「行くぞっ………! 『スポ●チャ』へ……………!! ボーリングをっ………………!」


「…え? いや、え??? は…?? …えっ、なんで!??」

「…クックク。…shut up──!! 理由は後で話す。とにかく黙ってついてこい……っ! お嬢めがっ……………!」



──バランッバラン…、と一本も残さず倒し、排水溝へと落ちていった。




「…………えー、…えぇ〜〜〜〜〜……???」



──────────────────────────────────────
     ★作品No.050☆

☆『ボウリング・フォー・コロシアイ』★
 ★(原題: Bowling for BattleRoyale)☆

       ★出演★
      ☆三嶋 瞳★
     ★利根川 幸雄☆
       ☆???★


       〜Wait.〜
〜 If you wait, the opportunity will surely come... someday.〜
──────────────────────────────────────





……
………

 …という訳で、殺すか殺されるかの極限状態にいるというのに、ボーリングを遊びに娯楽施設に来たこの私。

…………。
…何してんだろ。


私…。

432『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:48 ID:Et9.Y5BI0





……
………

 拝啓。


──…とりあえず差宛はヒナちゃんへ。



 ヒナちゃん、この前仁志君とボーリング場で擬似デートみたいな事したって言ってたよね。覚えてるかなー。
今、私もラウン●ワンでボウリングさせられてるんだけども…。
ヒナちゃんが行った店も、室内はナイトモードで薄暗く、ワックスがけの床と電光掲示板のみが輝いて、そしてテーブルやら専用シューズ置き場がレトロに鎮座……。そんな感じの雰囲気なのかな。
とりあえず以下、具体的なボーリング場内の詳細〜…。

彼方先にて、十本の白いピンが舞い降り、直立不動で処刑の時間を待ち続ける…。
ガコンッ──と、ボール排出所から登場して、私の隣でゆっくり立ち止まる貸出ボール…。
そのボールの、穴の空いた三つの目とちょうど目が合った。貸出ボールは私の指を愛おしそうに見つめながら呟く。──「You、早く投げちゃいな」、と…。
電光掲示板に刻名される『H.MISHIMA』の名前。…その横にはズラーッと『▶◀』が並んでたけど、……ボウリングは詳しくないから詳しい意味は不明。

ラウン●ワンに足を踏み入れて数十分が経過。
ベンチに座る利根川さんの「早く投げろっ」というギスギスした視線を浴びる中。

私の第九球目となるボウリングが、始まりを告げた────……。





…。

……。

……いや……もう、さ……。




はぁ、ぁぁぁ…………………。



ぁぁ、ぁ……………。

………。





本当に私……。


何で………?!




こんなことやらせてるの…………………………………?




意味が…。

意味が分かんないよ………………………。




「…………ィッ。…絶対こんな事してる場合じゃないのに………」

「チッ!! どうしたお嬢………っ!! 早くしろっ………!」


「………………」

433『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:05 ID:Et9.Y5BI0

私がボソッと吐いた正論は、EDM調のBGMで完全にかき消された…………。



「…………はァ……」


 私は、顧問が勝手に企画した寺合宿に、無理矢理連れてこられた気分だった。
…やり場のない煩わしさと、激しい倦怠感。
……本当に堪らない。

不貞腐れた目付きで視線を伸ばす先には、十本のピンがある。


────形も色も大きさも、何もかも揃っているそのピンは、利根川さんの部下達を彷彿とさせられた。



……
………

 ……回想。
 数分前の会話の事。
 店内に入るや否や、利根川さんは私に趣味について尋ねてきた。


 『…え?? うーん……。やっぱ【仕事】…ですかね』

 『あぁ………? 趣味が、仕事………? くっ、なんて小娘だっ……』

 『…………えー…。何ですか…?! その反応〜……っ』


 私の答えを聞いて、利根川さんは一瞬虚を突かれたみたいな顔をしたけど、直ぐ様、実につまらなそうな表情に変わっていく。
 …そりゃ、自分でも「あ、変な事言っちゃったかも」とは思ったけども、…この利根川って叔父様。何とも分かりやすく表情に出る傾向がある気がする。
 ただ、後々解ったことだけども、利根川さんがそういうリアクションを取ったのも理由があって。
 なにしろ、彼の部下は全員揃って、趣味を聞かれたら『ボウリング』と答えるそうだった。


 『………だから、わしはあの時思わずツッコんだ……っ!! 揃いも揃ってお前ら……、高校生かッ…、と…………!』

 『……はあ』

 『その事が効いとるから………、お嬢……! お前の趣味を聞いて不意を突かれたのだ…………。余計な………』


 利根川さんの勤める帝愛の規定上、社員は全員黒スーツにサングラスの清掃が義務付けられていて、
 彼らの仕事風景は映画のマト●ックスまんまみたいらしいんだけども。
 私はこの時、二つツッコミをしたい気分だった。


 “全員見た目同じで趣味も統一って……────クローンなのっ!??”

 と、

 “ていうかラウ●ドワンで何するわけっ?! ──そこがまずツッコミポイントなんだけどっ!!!”


 ……の、二つ。
 
 もっとも、後者である「ていうかラウ●ドワンで何するわけっ?!」は口に出してツッコんだため、すぐに答えが判明する事となる。
 ………全く腑に落ちない、その『答え』が。

………
……


434『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:18 ID:Et9.Y5BI0
「…はぁ…………………。…よいしょっと……」


 傷一つない新品のボールを持ち上げて、一呼吸。
…噂には聞いていたけど正直こんなに重たい物だとは思っていなかった。
ただでさえ右腕が重たくしんどいというのに、今はもう見るだけで嗚咽が催すくらいうんざりだった。

バーテンダー時代の腱鞘炎を思い出させるその重量…。


────私の心中はボーリング球よりも重苦しく、ドンヨリしていた。



……
………


 『…いや…………』

 『ん? どうしたお嬢』


 『…どうしたもこーしたも…無いでしょうっ────────?! 利根川さんっ────!!!』

 『…………あ〜?』


 『今どんな緊急事態に置かれてるのか分かってますかっ!!? 殺し合い中ですよっ?!! 呑気にボーリングしてる暇じゃないでしょうが!!!──』

 『──こうして玉転がししてる間にも……、罪のない人達が何の理由もなく殺されていくんですって!!!! それが分からないんですかっ!!??──』

 『──それに、託されたじゃないですか…!! 黒崎さんから…、…プランAを!!!! だから早くここから出てゲームを終わらせましょうよっ!!!! ねえ!!!』


 『…………………』


 また回想…。
 ハァ、ハァ…と、正論の三連単一気飛ばしに息が上がった。…ねえ、私が言ったこと正論だよね??

 ボウリング球を片手に、直立不動で固まってしまう利根川さん…。
 私はてっきりこのラウン●ワンで。──いや、ラウ●ドワンに在る『何か』が殺し合い崩壊の鍵になり、それを求めて利根川さんは動いたのかと思っていた。
 ボウリングとバトル・ロワイアル。
 接点なんて見つからないその二つだけども、利根川さんなら、きっと何か考えがあるのでは……? って。そう信じて付いてきたわけだけど。
 ……結局のところ、彼の真意はただ遊びたいだけだった。

 ……全く以って理解ができない……っ。
 何なの………?
 もしかして、ゲーム脱出とかハナから諦めていて、「どうせ死ぬんだし最後は自分のやりたいことして終わりたい」とか考えてるわけ………?
 イライライライラ、イライライライライライラ……っ。
 利根川さんの内たる胸中を考察する度に、沸き立つムカムカが抑えきれなかった。
 

 そんな私の正論に、言われた利根川さんもすっかりと怯んで──……、


 『…………ククク………』

 『…な、何がおかしいんで──…、』

 『お嬢、追いすぎだ…………! 『理』をっ…………………!!』


 『……え?』


 ──しまう事なんて全くなく。
 蛇は、私にその鋭い牙を向けてきた……。

435『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:32 ID:Et9.Y5BI0
 『ククク…なるほどなるほど。確かにかなっている……。理には……! たかが小娘とはいえ、その主張にはわしも出んよ……………。ぐうの音もなっ………………!!──』


 『──なら、聞こうじゃないか………! お前はボーリング場を出て以降、何をするつもりなんだ? …具体的にな………………!!』

 『……えっ?』

 『何を、どう行動して、誰に会うつもりで……っ、そう動こうとする…………? 是非聞きたいものだなっ………! お前の…【策】とやらを…………!!』



 『……………え。…え、えっと……………──』


 『──………。……そ、そんなの〜……。簡単に思いつくものでもないですけども………』


 『クククッ………。案の定………っ!!』

 『い、いやっ!!! 違いま──…、』

 『否定しなくて良いっ……!! 簡単に打破できる代物ではないのだっ………!!! …いいか、舐めるなよ………? このバトル・ロワイアルを……………!』


 『……お、お言葉を返すようですがっ! だからって遊んでるのも酷く冒涜的行為でしょう!! …何人も命の危機に晒されてる……この現状下で………。そう思いませんか!!』

 『…悪いが、死なせておけ。そんな奴ら……………』

 『はぁっ!!?』

 『逆に聞こう………。お前は七十人近く……、この全員無傷で救えると…本当に思うのか? あれだけの大人数……、広いエリアで……、好き勝手に動く参加者共全員を…………っ!! あ〜〜……?』

 『…………それは…。そうですけども………』


 パンパンッ──って、参加者名簿シートを叩きながら利根川さんは続けた。


 『無論、インポッシブル………! そんな絵空事…………。合法ロリ社長だか知らんが……、キサマもなまじ経営者なのだから……。リアリストに考えるべきだろうっ………………』

 『……………』

 『今こうして死にゆく奴らに関しては………、もう諦めろ。…運命だ……、もはやなっ………』

 『…………………………』


 『……。…さて、とは言いつつも、わしは決してゲーム崩壊策を諦めてるつもりではない。……とどのつまり、頭にある計画上、第一行動としてやっているのが………これっ……! ──ボーリングなのだ………!!』


 『…は…?』


 『現状……、今はどうする事もできない………、対主催策を掲げるわしらは泥濘にハマったも同然……………!! 圧倒的無力だっ……──』

 『──だから……!! 何か、事が起こるその時まで【待機】っ…………! 待命、待構、我慢……っ!──』

 『──ただし…っ、時が来るまで何もせずボーっとするのもそれでよろしくない…………。だからこその時間潰し………《Bowling Time》なんだっ………………!──』



 『──クククッ、クク………。一番の疑問を解消できてスッキリしたか? ………お嬢…!』


 『…い、いや。そんなの…………。理屈とかそういうの抜きで……………。納得なんて、できないですよ……』

 『フンッ、お嬢。キサマはどうせ心中…《頭の固くて通じない老人》だとか…、舌を出して蔑視しとるのだろう……』

 『えっ。…そ、そ、ち、違いますけど…!!』

 『確かに……。年寄りは新しいものに馴染めず……、頭ごなしにモノを言う傾向がある…………っ。そう思われても仕方ないだろう……──』

436『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:53 ID:Et9.Y5BI0
 『──だがっ……、その頭ごなしは長年の人生経験から積み重ねて出来た産物なのだっ……!! わしは…分かっている……! もう暫く…、あと数十分後に【機】が来るとなっ………!! 根拠はない…、だが確実にっ……!──』



 『────だから、待つのだ……! 今はまだなっ………!』

 『……………』


 …私は、何も言い返せなかった。
 大手企業にその歴三十年の利根川さん…。彼と、たかがベンチャー企業の私で、遥か彼方すぎる差を見せつけられたようですごく悔しかった。

 利根川さんを説得どころか、逆に丸め込まれてボーリングをする羽目となったのだから。
 私は自分が嫌で、憎たらしくて、辛くて……。


 『よし、早速だ……っ。まずはボールの構え方から教えるぞ………? Lecture────っ。いいな、お嬢!!』


 『……はい、お願いします…』



 それで、気が重くてペラッペラになりそうだった…………。


………
……



「…すぅ……………。…………………はァー…」


 一呼吸置いて、吸った二酸化炭素をため息として出す…。


親指を十時の方向に向け、親指にあまり力をかけない。
ボールから親指が抜けてから、残りの二本の指で少しボールを回すように意識する。
腕の振り抜いた先の軌道上に、スパットが来るように、腕を真っ直ぐ振り、投じる。
────全部、この短時間の間で利根川さんから叩き込まれた『ボーリングの基本』だ。


………
……



 『スピードよりもコントロールだ…! 中腰になって下から投げるんだ…! 言うなれば、アンダースロー………っ!! 里中の様な姿勢で……、まずはやってみろ………』

 『は、はい………………』


 …あっ、あとは『片手で下げているときには、手首を曲げないようにする』とか指導してきたっけ。

 とにかく私は仕方なさそうに、言われた通りボールを投げてみせた。
 私のボーリングヴァージンが破られた、その第一球目…。
 なんか知らないけど軌道が大きく変化しながらボールはピン集団へと吸い込まれていく。

 …記念すべき……ボーリングデビューは如何なる成績となったか。
 …それはというと、


 『がぁっ………!!?』


 ────ガランッ、ガラガラガラン……

 

 ……え〜〜っと。何だっけ。
 …『ストライク』だっけ?

437『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:53:08 ID:Et9.Y5BI0
 ピン全倒しで私のボウリング戦績は幕を上げた……。

 唖然とする利根川さんの、顎の開きっぷり…。
 表情から察するに何か凄いことやっちゃった感じなんだけども、…私は嬉しさなんて全く沸かなかった。

 …だって、それどころじゃないんだし………。


 『ほう……。デビューとしては華々しい結果じゃないか………』

 『…お褒めに預かり光栄です。はぁ……』

 『………だがっ!! ククク、勘違いするなよお嬢………! 所詮は【ビギナーズラック】なのだからな…………?』

 『………はい』


 欠伸の出るような戯言を吐いた後、出番を迎えた利根川は、お手本が如くボールを投げてみせた。
 彼が倒したピンの数は…というと……。──………全然覚えてないや。
 …ほんの数十分前の出来事の筈が、遠い記憶の様に私は感じた…。


 ────ガラガラン………


 『ほれ、出番だっ………! 言っておくが、お嬢はさっき若干引けていたぞ…。腰がな……! そこを意識して……。望むと良い』

 『……………』


 はぁーーあ…………。

 教えたがりおじさんのアドバイスを背に、間髪も入れず私の第二球がスタート。
 …まるで、永遠のようなボーリング時間だった。


 ていうか、アドバイスおじさんって何で一々事細かに忠告してくるんだろ…。


 ジャンボ尾崎のホールインワンかよ………。


 ────ガランッ、ガラガラガラン……

………
……



 気怠げ限界な私の思いを乗せて転がるボール。
油濡れの道を転がる先には、何度倒されてもまた定位置に立ち上がるピンの群れがある。…無論。

…もしかして。
『このピン達のように不屈な精神で耐え抜き、立ち上がる精神が、バトロワを生きるうえで必要なんだ』…とか何とか、メッセージ性含みで利根川さんはボーリングに誘ったのかな。
…いや、…それはないかな。だとしたら陳腐で薄っぺらすぎるし、本当にバカげてるよ。


────バックで鳴り続けてるテンポの高いBGMが、背後で歯軋りをしてる利根川さんによくマッチしている…。

………
……


 …第四球目───────ストライク『▶◀』。

 …第五球目───────ストライク『▶◀』。

 …第六球目───────ストライク『▶◀』。


 そして、第七球目も……。

 ────ガランッ、ガラガラガラン……

 ────ストライクッ、『▶◀』……


 『………』

438『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:53:26 ID:Et9.Y5BI0
 どうしようもないボーリングの才能があったお陰で、完全にストライクマシンと化した私だけども、…驚嘆や歓喜なんて未だ皆無。
 というか、寧ろ絶望に近い居心地の悪さだけが増していった……。


 『チッ…………』

 『………。……』


 既に利根川さんとはダブルスコアで点差が開いている。
 連続ストライクも四回目になってきた頃合い、徐々に徐々にと口数が減ってきたアドバイスおじさんだけども……。煩わしさが失せた反面、険悪なムードがどんどん立ち込めてくる……。

 もう、私だって……。 
 私だって、好きでストライク取り続けてるわけじゃないのに………。
 ものすごい力感なく投げたり、ガーターに方向向けたりと忖度の限りを尽くしてるつもりなのに、…結果は必ずストライク……。
 地獄だった。


 …いや、ていうか…………。


 そもそもボーリングやり始めたの利根川さんだよね??
 目上である利根川さんがやるっていうから付き合ってるだけなのに……。
 なんで私…こんな憎悪を浴びなきゃいけないの……??? おかしくないっ?!

 自分が「ボーリングをやろう」とか言い出さなきゃ、イライラすることも無かったのに…。


 『チッ、血も涙もない……。機械のような……小娘っ………。楽しいか……? それで…』

 『…………………………』


 なんで私は怒られているわけなの………?




………
……



 ものすごく嫌な空気感で満ちたるボーリング場内。
もはや普通に殺し合いしてる方がマシなくらいに陰鬱とした雰囲気だった。
なんか一人勝手にギスギスイライラしている利根川さんだけど、……私だってモヤモヤな思いで一杯だしっ………。
最初は利根川さんのヤな視線にビビってた私も、…今はもうムカムカと不貞腐れ状態…。
その為、八つ当たり気味で投げたこのボールは、凄まじいスピン量と加速をしながら転がっていった。


 ────ガランッッッ、ガラガシャガラガランッッ


「……はァ」


派手にぶち撒けて、空中を舞うピン達。


────前述の通り、私はピンを帝愛の社員たちに見立てている。
────最前線に立つ一本のピンは、角張った顔の白髪オヤジに見立ててっ。


……
………


 『あぁ…………。また……ストライク………』

 『…………………。…羽生は、根暗。野茂は………うすのろ…』

 『え?』


 『ならば…、いけ好かないボーリング野郎はァ〜〜〜? あぁ〜〜〜〜〜〜〜?』


 『……………』


………
……


439『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:53:37 ID:Et9.Y5BI0
────ねえ、ボーリングって何が楽しいスポーツなの?




「チッ………! 残すところ後1フレーム……。これでラストか……」

「…………そーですね」

「…おい、お嬢……。…あまり言いたくないのだがな………、普通するだろっ…! 忖度とかっ………!! あぁ〜? キサマはビジネスでもそうなのか……?! 自分さえ目立てば後はどうでもいいと……………。そうなのかっ………!?」

「…………………」

「チッ! まぁいい…………っ。これで最後の投球だ…………。お互いに……、思い残しのないボーリングを──…、」


「……ちょっとトイレ行ってきます」

「あぁ? ……なんだと…………?」

「…いやトイレくらいいいでしょ。すぐ戻るんで。んじゃ」

「………………クッ」


利根川さんの顔を一切見ずして、私は足早にトイレへと向かった。
…まぁ、別にトイレじゃなくても。一人になれる場所なら何処だって良いんだけども……。



────私が今一番声に出して叫びたい言葉は、ad●のデビュー曲のタイトルだった…。

440『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:54:48 ID:Et9.Y5BI0




『♪…っっはぁ〜〜────────────────────────────────────ッッ!!!!!!』



『♪うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ──────わアッ!!』

『♪貴様が思うより健全でぇ────すッ!!!!』

『♪一切伐採凡人な〜〜──────、お前ぇじゃ分からないかもねぇ──────!!!!』



「……………………ィッッ」


個室トイレでっ………。
Bluetoothを大音量にしてっ…………。
ストレス発散するためにっ…………。

私は縮こまってお気に入りの音楽を聞いた……………。


『♪あぁよく似合う───────っ!!!』


…本気でアイツ、なんなの…………っ。
うっせんだよ……。
何が「機が来るのを待つ」だよ。
そんなの絶対来るわけ無いし、ふざけんなよっ。
マジで……──Seriously...!!
just die already. You've been rambling on and on...!!!!!


『♪カモ不可もないメロディズム〜〜───────っ!!!!』


Don't act so high and mighty...!!
You're just a useless old man who’s lived a little longer…!!!
You really piss me off.!!!!!


『♪うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ──────わアッ!!』

『♪脳みその出来がッ!!! 、違うからッ!!!!』


You're seriously driving me insane...!
How much more do you want to piss me off?

Ahh...
fuck,fuck,fuck,fuck...
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck...


『♪問題はナーシ───────────っ!!!!!!!』



I feel like putting a pig's ass in that dirty and shutting it upッッッ!!!!!

────fuckッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!

441『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:55:09 ID:Et9.Y5BI0


………
……


「……………」

「お嬢、遅かったじゃないか………。早くやるぞ………っ」


「………機なんか来ねぇよ」

「あぁっ…?!」


ピカピカの床、暗い室内、ボールにピン、備え付けの自動販売機まで……。
もはや何もかもが鬱陶しい。

何が「早くやるぞ」だよ、ジジイ…。
…もうっ、私はうんざりだ────っ。


「飽きました。疲れたし、ていうか全く面白くないです。はぁ………。──もうさっさと殺し合いを止める準備しましょうよっ!!!! いい加減にしてください!!!!!」

「…………」

「そら私も策なんかないですけど、ただ待つくらいなら動いた方がいいでしょっ!!? ましてやこんなつまらないスポーツやるくらいならっ!!!!! ねえっ!!!! 利根川さん!!!!!」

「……」

「ねえっ!!!!!!!!!」



「…クククッ。…楽しかったか? ボーリング………」

「はぁっ!!!!??」


楽しくなんかないしっ!!!!
そっちから楽しい雰囲気出させなかったでしょ!!!!!!


「いい加減にしてくださいよっ!!!! ほんとにっ!!!」

「…あぁ。勿論、いい加減にするさ。…これくらいになっ………!」

「え?? は、はぁあぁぁっ!!???」


うわ、急にあっさり引き下がってきたし……。
引き下がったら引き下がったで逆にその態度がムカつくんですけどっ…………!!


「お嬢……。今までは、いわばテストだ……っ。わしからのテストにキサマは無事合格したのだからっ………! もうこれで終わり……! そういうわけだな」

「て、テスト……………? なんのっ??! ボーリングのテストですかっ………??」

「………クク。いや違う……っ!! …いいか? これは──…、」

「いや良くないですからっ!!!! 『いいか?』って聞かれてももう聞きませんよ!!! ほんとにっ………」


ほんとにっ、この『とどのつまりジジイ』は…………!
──いや、元はといえばコイツと組む羽目になったのは、コイツの同僚の黒崎さんのせいだしっ…。

さすが悪評誇り高い帝愛の連中だっ…………。
帝愛のボンクラ連中……、ブラック企業の奴らは揃いも揃って………………っ。
もう、もう……爆発寸前だっ……。…もうっ……。


もうっ!!!!!



「私の言う事だけを黙って聞いて────…、」


『三嶋大先生ェッ───────────────────!!!!』



「──うわっ!!?」 「──………なっ!!?」

442『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:55:46 ID:Et9.Y5BI0
 ……爆発直前の私の声は、突如して現れた馬鹿でかい雄叫びで掻き消された。
若い成人男性って感じの、その大声。
店内放送のアナウンスか何かと、一瞬私は見回したけど………。……多分違う。
恐らく、殺し合いに参加させられてる誰かの……。拡声器を使った雄叫びなのだと推察できた。

…って、今私の名前…思いっきり叫んでなかった!!!??


『三嶋先生ぇ!!!!! 貴方様のことは───、私堂下浩次と、殺人ニワトリが絶対に救いますッ──────!!!! ノックオッ─────────ンッ!!!!』

「は??! やっぱ聞き間違いじゃなかったし…。誰????!!!」 「…ど、堂下…………!?」


『それと新田さん…、いや新田義史ッ────!!!! この殺人鬼野郎が!!! 覚悟しろやゴラァッ────!!!!』

「えっ!!!??」 「……新田??」


今度は比較的若い、別人の大声が響いた。
…いや、何これっ!??? 何話してるの!!??
新田さんが…。さ、殺人鬼って………。めちゃくちゃ誤解じゃんっ!!!!
こんだけバカでかい声量だから、間違いなく渋谷全体に広がってるんだろうけど……。
それだと新田さんものすごく大ピンチじゃんかっ!!!! なにこの放送!!???
いや黙ってよ!!!! ほんとに!!!!!!


『そうだッ────!!!! 新田ァッ────!!!! ニワトリから聞いたぞっ…!! 金髪にオールバックでヤクザみたいな風貌のお前ッ────!!!! お前には絶対負けない、負けないからなぁッ────!!!!』

「……あ、あわわ…あっ……」 「な、何を馬鹿なことを……………? 堂下………」


しかも新田さんのメチャクチャ詳細な容姿まで喋りだしたし……!??
何考えてるわけ?!! 拡声器の主は!???
今すぐにでも止めないとマズすぎるっ…!! 新田さんが危ないよ!!!!?



『『うおっ…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!』』



『『三嶋瞳大先生、バンザァァァァァァァァァァァイイイイイイイッ!!!!!!! バンザァァァァァァァァァァァイ!!!!!!!』』





『───────プツンッ』




「……」 「…がっ…………」





………なんなの。
これ………………。



────止めなきゃ、メチャクチャまずい。


まずい放送だった────………。




誰だか知らない奴に…、私がいかに素晴らしい人物かを崇拝され、新田さんが意味不明に窮地と化した……。そんな放送…………。


…わけが、分からなすぎる……………。

開いた口が、塞がらない…………。

わなわなと震えちゃう………。

耳が熱くなる……ぅ…………。顔の真っ赤さが、…止まらない……………ぃぃぃ…………。


「…ククク……! クククッ!! とうとう来たな…………!!」

「………え?」

443『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:56:04 ID:Et9.Y5BI0
「『期』が熟した………! 重い腰を上げるその時がっ……………! バカのお陰でっ…!」


…利根川さんは、見ないでほしいくらい赤くなってる私の顔に向き始めた。


「…先に詫びを入れておくか……。三嶋お嬢、ボウリングでの、わしの無礼……。すまなかったな」

「…………………へ??」

「あの態度はな。実はわざと……っ、言わば『耐久テスト』だ…………!」

「……ふぇ????」

「このバトル・ロワイヤル………。わしの見立てでは相当な理不尽…、憤慨…、絶望に…疑心暗鬼………っ!! それらが激流の如し、襲い掛かってくるものだと推察している………──」


「──とどのつまり、キサマがどれだけ耐久できるか……。わざとわしは理不尽かつイラつかせる素振りで接したのだ………!! 結果、お嬢は合格ライン……! 第九フレームまで耐えてみせた…………!! …すまないな、勝手に測るような真似をして」



え、
え…………………?



「…え、演技?」

「クククッ、圧倒的愚問…!! わしがあんな小物じみた、器の小さいクズなんかだと………! まさか思うまいな? お嬢………!」

「うぇっ!!?? え、え、も、勿論………」


「…そして、今の信じられない放送に関してだが…………。…あれはわしの部下の声だ。間違いないっ………」


え?
はっ????


「え、いやどうしてくれるんですか!!?? ──って、利根川さんに言うのもお門違いですけども…………。あ、あれのせいで……、私と…新田さんが…………」

「あぁ。間違いないな……。キサマらが大変なことになってるのは………………──」


「──だから、行くぞっ………! 声の音源……、恐らく北東に進んで1km………、渋谷公園周辺方面にっ……………!!」

「えっ!!?」


え、嘘!?
具体的な発声場所とか今ので分かっちゃったの!???



…と、利根川さん。

…なんなのこの人は……。

良い意味で……。

444『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:56:17 ID:Et9.Y5BI0
「安心しろっ…! 無論、わしはバカの発言なんかは信じていないっ………!! 新田という奴も完全に風評被害…………!! …信じるまでもないっ」

「…と、利根川さん………」


「だがっ…………!! …クククッ…、『使える』っ………! 拡声器の主は、バカが故に使える……………!! 実に優秀な駒だっ……!──」



利根川さん…………。
ほんとこの人は…────、





「────ゲーム崩壊の、『プランA』にっ…………!!」

「…利根川さんっ!!」


「だから──Chase the light……!!! 長々待ったこの鬱憤を晴らしに………。行くぞっ…………!!」

「は、はい!!」



───…さすがです!! 利根川さん……!

445『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:56:30 ID:Et9.Y5BI0
【1日目/F5/ラウンド●ン/AM.03:50】
【三嶋瞳@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:仲間を集ってゲームを終わらせる。
2:利根川さんについていく。
3:新田さんがピンチすぎる……。

【利根川幸雄@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】回転式拳銃
【道具】タバコ
【思考】基本:【対主催】
1:拡声器の主(堂下)に会うため渋谷公園まで急ぐ。
2:自身指揮の元、『プランA』でゲームを終わらせる。
3:お嬢(三嶋)をお守り。
4:会長が少し気がかり。
5:黒崎っ…。

446 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 21:01:14 ID:Et9.Y5BI0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】

①やっっっっっっと、50話行きました。
②とどのつまり漫画ロワ1/4分、新漫画ロワ1/3分といったところです
③……もしかして、これって結構テンポ悪い感じ??

【次回】
『脱出の可能性』、『言わないけどね。』、『TOKYO 卍 REVENGERS』のどれか

447 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/27(木) 19:57:14 ID:K/piMhMo0
──きこりの泉から出てきたのは。

──男と、悪魔と、悪魔。

【次回】
『言わないけどね。』

【お知らせ】
イラスト風名簿の特定のキャラを描き直します。

448『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:05:11 ID:tYEe6xyE0
[登場人物]  [[小日向ひょう太]]、[[高木さん]]、[[メムメム]]、[[兵藤和尊]]

449『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:05:43 ID:tYEe6xyE0
「わあー、すごい…。この場所…」

「……あ、うん。そだね〜………」


 Girl and “Girl”。 高木さんが驚嘆の声をあげるのも無理はない。
二人が自転車から降りた先には、狂騒とオシャレな渋谷のイメージとは程遠い──大自然の湖畔があった。
周囲は木々が環境良く立ち並び、その中心にて黒曜石のように深く、それでいて透きとおる水面が切り開かれている。
その湖の清純さときたら、服を脱ぎ散らかして飛び込み、泳ぎ疲れたらその水を躊躇なく飲もうかというくらい、美しかった。
東京都の中心地として大開発が発展する渋谷に、まさかこんな穏やかな森林湿地帯があろうとは。
知る人ぞ知る秘境地を前に、二人の女子はただ湖の前で直立不動。清らかな景色を受け続けた。

二人の『女子』は。


「まさか渋谷に湖畔があるなんて思ってなかったよ」

「…オレ………わ、私も〜。なんなんだろね、ここ」

「…ハハっ。私、なんだか懐かしい気分になるかも」

「え?? …なんで?」

「前にさ、西片と釣りに行ったんだけども。その場所もこんな感じで大自然の中ポツンと湖! …ちょっとそれを思い出した感じでさ」

「…にしかた?? っていうと、高木……ちゃんの友達?」


「うん」。その次に、「あっ」と。
高木さんは思い出したかのように、スマホから短髪の少年の画像を見せてきた。


「あ、そうだ。小日向ちゃん。もしかしてだけどさ、この男子とすれ違ったりしなかった? 西片って言うんだけど、…ゲームに参加されててさ」

「え? あっ、どれどれ……。高木…ちゃん。悪いけどスマホ貸してくれる? …み、見えづらくてさ〜……」

「うん。いいよー」


滑らかな指から差し出される、西片という少年の画像。
全く見覚えなんかない男子の顔を見て、小日向は何を思っただろうか。

────否。何も感じていない。
────それは、この広大な自然も同じ。今のひょう太にとっては、何の関心も眼中さえない。


「………………」


先程からやたら高木さんの太腿──魅惑の領域部分ばかり視線を落としている彼女。
──いや、“彼”。小日向ひょう太は、湖よりも西片よりも、隣に立つ高木さんの事しか頭には無かった。
これは恋心とか、高木さんを見ているとドキドキする…だとかピュアな思いでは断じてない。

完全なるゲスでイヤらしい目付きだった。


「…………に、西片くんねぇ〜ー…」



(………。……ヤバいっ! ど、どうなっちまったんだ、オレ………! 全く集中できない……っ──)


(──高木さんの脚に……、XXXなコトやXXXに至ることしか考えられなくなってるよ…………っ!!!!)


ひょう太のおさげ髪と柔らかそうな胸が、ワナワナ震えた。
もはや高木さんにさえ伝わるほど、挙動不審なひょう太だったが、彼がやたら欲情を放出寸前となっているのにも理由がある。
数十分前、魔茸『チェンジリング』の作用で淫魔♀と化してしまった彼だが、淫魔という生き物は淫靡な誘惑で魂を狩り、それで生業を為す。
【性】を全面に出し、そして【性】が前提。【性】が性(さが)の悪魔な為、Hが脳を埋め尽くす割合は常人の何倍以上だ。
その為、元より脚フェチだったひょう太が、容姿整う高木さんにスケベ心が働かない筈もなく。

──彼は心を悪魔に完全掌握されていた。

450『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:00 ID:tYEe6xyE0
(クソ、クソっ………! 高木さんの指……、高木さんの膝、ふともも…、高木さんの靴下…ぁ…………)

(お、女の子ってなんで全身あらゆる箇所がエロいんだよぉっ…………。一番エロい筈の…おま………陰部が比較的グロいってくらいに………。何もかもが刺激的すぎるぅ………)

(高木さんにXXXしたいぃっ……! XXXして、無理矢理にでもXXXして、XXXを見せつけたいっー、舐めたいぃぃ…………!!! 魂を奪いたいぃぃいい…………)


(──嗚呼……。頭の中はそんなことで一杯でっ…………!!! 高木さん以外目に入らないよっ、オレーー……………!!)


そんなわんやで、吐き気が込み上げるくらいの興奮をし続ける淫魔、ひょう太。
震える小柄な身体と、火照りあがる頭の中。スマホをただ見るだけという、単純な行動さえままならなくなった彼だが、──それ故──。


────ツルン、と。


「あ」

「あっ!!!!」


高木さんから借りたスマホが滑り落ち、湖へとダイブ。
──流石にヤバいと思ったのであろう、ここで初めて意識が高木さん以外へと向いたひょう太は、慌てて手を伸ばしていき、


「あっ! こ、小日向ちゃん!!」


────大きな水飛沫。
そのままスマホごと湖へと転び落ちていった。


割と水深があるのか、着水から暫くたってもゴボゴボと顔をあげない小日向。
幸いにも、高木さんのスマホはギリ耐水性の為そちらの心配は無用なのだが、彼女は中腰になって心配そうに湖を見つめ続ける。
こんな物凄いくだらない事で、バトルロワイアルパートナーが溺死………。
…そんなこと、高木さんは考えたくもなかった。


「──ぶはっ!!!! …ぜぇ、ぜえ………!!!」

「わっ、ビックリしたぁ…」


無論、ひょう太の方だってそんな末路まっぴら御免である。
全身ぐしょ濡れの彼は、湖に落ちてちょうど一分後、やっと顔を上げだした。
息苦しそうに掲げるは高木さんのスマホ。恐らく、それを探しに暫く潜っていたのだろうと。窶れ切ったひょう太の表情が伺える。


「はぁ、はぁ………。ご、ごめん高木ちゃん………。落としちゃって………」


「…………………。──」



「──え?」



「………? 『え?』とは……? 高木さん………」


軽いハプニングとは言え、何とか事なきを得た、助かった。──と、この時のひょう太は思っていたのだったが。


────『木こりの泉』。
もはや説明不要のこの童話は、今回のケース同様、何か物を泉に落としたら女神様が登場するというストーリー。


「……………え、」

「? …ど、どうしたの高木ちゃん? あっ、スマホなら大丈夫〜…だよ? ほら電源つくし……。…ま、とにかくごめ──…、」

「……誰?」


「へっ?」

451『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:16 ID:tYEe6xyE0
────スマホを泉に落としてしまった高木さんの前に現れたのは、女神ではなく。
────むしろ逆。



「…………誰なの。……」


「えっ」



────見知らぬ男。

────『小日向ひょう太(♂)』が、水面から現れてきた。


…………………
………………
……………
ヤパパ〜
ヤパパ〜
インシャンテン〜〜♪
…………
………
……




「…ふーん。つまり小日向……くんは冷水をかけられたら男になって………」

「…………はい……」


 靴、靴下の一式を脱いで、ひんやりとした水辺に生脚をちゃぷちゃぷ。
高木さんは『あったか〜い』おしるこ缶を小日向に手渡す。
プルタブを取ったひょう太はそいつをクイッと飲むと、──────PON!!


「温かい水がかかったら、……女子になるわけなんだね」

「………そゆことらしいです………」


「………。…まんまだね」

「うん、まんま1/2だよ………。いや何なのこれぇ────────っ!!?? 全く原理が分かんねーよォ──────!!!」


 厳密には本家とは真逆なのであるが。
冷たい湖でひょう太はバシャッ、と洗顔。
顔を拭いた後、水面に映る【男の顔】に若干彼は憂いていた。


「ところでさー小日向…くん。じゃあなんでさっきまでずっと女子なフリしてたの? ナヨナヨした口調でさ」

「えっ!!? …そ、そりゃ………変なキノコ踏んでこうなっちゃいました〜だなんて言っても信じてもらえないだろうし…………」

「それはそうだけども。正体がバレた今振り返ったら、恥ずかしいことやっちゃったな…とか思うでしょ?」

「ちょ!!! や、やめてよ──────っ!!! 高木さん──────っ!!! それ言う必要あるっ??!!」

「…あはは〜〜」


笑い声と突っ込み声が湿地帯にて飽和する。
『性転換♂♀』とは、かなり非科学的かつ信じられない現象であるが高木さんはそれなりに順応している様子。
──というか、西片代替品であるひょう太をイジるのに夢中で特に気にしていないのだろう。
けらけら笑う彼女だが、対してひょうた1/2は焦りの気持ちしか無かった。
淫欲抑えきれない悪魔から、そこそこな下心で留まってる人間に戻れただけでも良きであろうが、彼は頭を抱え続ける。

452『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:29 ID:tYEe6xyE0
魔茸『チェンジリング』の効果から戻れる方法は知れたが。
────なら、尚更これからの日常どうしていけば良いのか………、──と。

胸元のスカスカ具合に、制服の着心地の悪さを感じながら、ひょう太はボソボソ呟き始めた。


「……いやもう〜……。本気でこれからどうすりゃいいんだよ……」

「ははは〜〜……。──え? どうすりゃいい、って??」


「オレ…、これ…汗かく度に女の姿になるのかよ〜………」

「あー確かに。残念だね、体育やれなくて」

「ていうか温度の境界線は何なんだ……………。何度までが女で何度までが男判定なんだよ…………。ぬるい水かぶったらどうなるんだ…………」

「とりあえず温泉の時は女湯入れるって喜べばいいんじゃない?」

「……冬になったらマジでどうすりゃいんだよぉ…………。あの季節に冷たい食べ物縛りとか…涙無しには過ごせないって……………」

「年中冷やし中華だね」


「…オレ結構マジな感じで悩んでるのにからかってこないでよ───っ!! 高木さん!!!」

「えー。私だって真剣に対策法考えてるんだよ。そんな言われ様は心外かなー…。…あははっ」

「……〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


バシャバシャと水面を蹴る高木さんの生脚。
それにあのバひょう太が見向きもしない現状なのだから、彼にとっては相当深刻な悩みの様子だ。
自由自在、自分の思ったタイミングで好きなように性転換できるのならばここまで頭を下げなかったのだろうが。
これもまた神のいたずらなのか、悪魔の罠なのか。


「はぁーー…………………………」

「…小日向ちゃ、…くん。ほら、元気だしてさ。ここの湖冷たくて気持ちいいよ」

「……………うん…」

高木さんと交わされた『温水使用禁止例』を前に、ひょう太は人生最大級の生きづらさを味わうまでだった。



そんな折。

座る二人の間をちょうど通り過ぎていった『物』がある。



「……えっ?!」

「わっ」


チャポン、

チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ………と。
水切り石の要領で、対岸から飛んできた物は、なんと光り輝くダイヤ。
高木さん、ひょう太の二人はほぼ同タイミングで息を呑み、そして互いの顔を見合わせた。


「……」

「………」


草むらで毅然月明かりを反射するそのダイヤは【LAZARE DIAMOND】。
時価にして十億円も越すブランド物の頂点である。
色(Color)・カラット(Carat)・透明度(Clarity)の『3C』を満たしたその輝きは、ダイヤに無縁なひょう太たちでさえ魅了してしまう程だったが、────そんな物の価値なんて今はどうだっていい。

453『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:42 ID:tYEe6xyE0
「……た、高木さん…………」

「………うん」


緑豊かな湖地帯で自然発生する訳が無い物が──、
誰かに投げられでもしない限り絶対する筈のない挙動で──、
二人の間を狙ったかのように飛んできた────。
──この現象。


「………っ」

「……………」


二人がまん丸な目を合わせたのも一瞬のこと。
『渋谷での殺し合い』という現状下もあり、緊迫した面持ちで対岸に視線を移した。

半径五メートルほどの湖を挟み向こう岸にて。
月明かりに照らされる二つの影を確認。
出来ることならもう誰とも出くわしたくなかった……──とこの時ひょう太は絶望していたのだが。


「…────あっ!!!」


そこにいた二つの内、一つのプカプカ浮かぶ参加者の姿が確認できた時。

心の何処かで掬っていた『心配』と、
そして絶望と緊張感が、ひょう太から溶け消えていった。


言うまでもないが、彼の心に訪れた感情は、────『安堵』である。



「クズと……クズが…互いに陥れ合い…出し抜く……!! ククク……、生命の取り合い……バトル・ロワイヤル………!! どうじゃ……っ!! そのゲームの始球式に相応しい………、ワシのダイヤ石水切りをっ……………!!」

「さ、さすがっす!!! 兵藤さま〜!!! あたし素直に歓迎っす! マジリスペクトっすよ!! 素晴らしい!! 素晴らしい!!!」

「ククク……。のう、──メムメムよっ………!!」

「はいっ!!!! さすがは全参加者の頂点に君臨する兵藤さま!!! あたし、一生あなた様に付いていきま──……、」




「────…あっ」


「メ、メムメムッ!!!!?」

454『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:52 ID:tYEe6xyE0


 『再会』───────


 With you,

 I can escape this town.

 Take me away right now.


 my sweet sweet darling……

455『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:06 ID:tYEe6xyE0



……
………

「へぇーー…………。存在感無いからってパクリで個性出してきた感じっすかバヒョ」

「いやオレだって好きで女になってるわけじゃないしぃっ─────!!?? そんな物言いするなぁあ─────!!!!!」

「まあまあメムちゃん。そういう訳だから小日向くんの前で温水はNGね」

「うしゃーす。了解っす!」


「ヒソヒソ…(それにしてもバヒョ)」

「…ヒソヒソ(いい加減名前覚えろよ二十七歳!!! …で、なに…?)」

「ヒソヒソ…(趣向変わったんすか? こんなあまりおっぱいでかくない子を連れ回して……)」

「ッ!?? ヒソヒソ…(だ、黙れ!!! エロ目的で高木さんと行動してないわっ!!!)」

「ヒソヒソ……(まぁ巨乳見たらひきつけ起こしちゃうあたしからしたらGood jobなチョイスですがね)」

「………ヒソ(お前それほぼ死に設定だろ!!)」


「……二人して何の話してるの? こうも堂々と人前でヒソヒソ話」

「あっ!!! い、いや別に何でもないよ高木さん〜! メムメムのやつ、なんか腹減ったみたいでさ……。はははー………」

「いや減ってるのは胸の話っすよ〜〜バヒョ──…、──ゴボッ!!!!」



「………はは〜……。なんでもないなんでもない〜……」

「…ふーーん」


「もがふがもがーっ!!!」



 Girl,Boy, Girl and Oldmen.

メムメムの減らず口を慌てて抑えるバひょう太と、
口を塞がれても尚モガモガうるさい悪魔──メムメムと、
自転車を押して歩く高木さん。そして、──おじいちゃん。

軽い自己紹介と状況説明を終えた四人は湖地帯を出て、町中にて歩を進め続けた。
時刻もそろそろ朝焼けが顔を覗き始める頃合い。
疲れからか、やや眠気が襲いかかるものの、それでも高木さん達は目的地に向かって歩きを停めない。

 ──自己紹介時、ひょう太が口にした『再会』という言葉について。
 ──和気あいあいと接するメムメムと彼に、高木さんも『会いたい』という思いが一層強まった。

 ──あの春、ハンカチを拾ってくれた。
 ──隣の席の男子に、早く再会したい、と。


「………………」


本心は、西片のいる何処かを『目的地』にしたかった。
ただ、今はその気持ちもグッと奥底に沈め、指定された場所へと歩いていく。


悪魔と、元悪魔と、小悪魔と、────『圧倒的悪魔』……………っ。

456『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:19 ID:tYEe6xyE0
『圧倒的悪魔』の指示の元、面々が向かう先は────、


「……ちっ!! くだらぬ………。やれらんまだの……、やれ西片だの……、やれパクリだの悪魔だのダーリンダーリンだのっ…………!! つまらぬ会話をしおって、小童共が………っ!!!」


「…………」 「……」 「……ひっ! じいさ…兵藤さまいきなり喋りだした………!!」


「どれもこれも下らん内容………っ!! さっさと展望台まで目指すぞっ……………!! ゴミがっ…!!!」


「……は、はい……。兵藤さん……」



────最寄りのスイートホテル。
殺し合いの様子をのんびり眺められる、屋上が目的地だ。




「…………」

「…おい、メムメム………。なんだよ…この爺さん………。いつ出会ったんだよ………」

「…あ、あたしに文句は言わないでくださいよ!? 兵藤のヤローは魂集めに最適な道具なんすから」

「…魂集め…ってなに? メムちゃん」

「………その道具(兵藤さん)にお前さっきめちゃくちゃ低姿勢でペコペコしてたなっ!!」

「…。…うっう〜〜〜〜…。あたしにも事情があるんすよ!! こんなジジイにも媚売らなきゃいけない事情が!!!」

「…どうせろくでもない事情だろ!!」

「そんなメムちゃんのこと責めないでよ小日向くん。………ね、メムちゃん。私まだ聞いてないからさ、何があったか教えて欲しいかな」


「…………。…はぁー……。仕方ないっすね…………。これは遡ること数十分前なんですけどもー……」




 (^ ๑°< °๑^)  ...。。。。ooOOOOOOO(   )

  ぽわんぽわん、ぽわんぽわんぽわん………

 ……………
 …………
 ………
 ……
 …



◆遡ルハ、一時間前◆


457『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:32 ID:tYEe6xyE0
【1日目/F6/東●ホテル周辺/AM.03:53】
【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】自転車@高木さん
【道具】限定じゃんけんカード@トネガワ
【思考】基本:【静観】
1:↑えっ? メムちゃんの頭からぽわんぽわんって何か出てきたけど…。これなに?
2:小日向くん、メムちゃん、兵藤さんと行動。
3:最寄りの東●ホテルまで目指す。
4:西片が心配。

【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康、人間(←→サキュバス)
【装備】ドッキリ用電流棒@トネガワ
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:↑メムメムの奴、頭から回想出せるんだよ高木さん。ぽわんぽわんって煙みたいに。
2:高木さん、メムメム、兵藤のお爺さんと行動する。
3:なんでオレはこんなことに………。

※ひょう太は水をかけられると男、温かい水なら女(淫魔)になります

【メムメム@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→魂集め】
1:アホそうな参加者をマーダーに誘導して、魂を集める。
2:てかバヒョの奴生きてたのか……。
3:兵頭さまにご奉仕。

【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】杖
【道具】???、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。

458『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:50 ID:tYEe6xyE0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①実は没にした『ステマ棚ロワイヤル(仮)』というのがありました。当ロワの原型です。
②参加者はたしか90人。色々あって(書き溜めてたスマホが水死した)、15話書いた時点でリスタートすることに。
③以下が、そのステマロワに出ていた作品たちです。


7/7【女子高生の無駄づかい】→とみー繋がりでヤマイと伊井野タッグにするつもりでした。
 〇バカ(田中望)/〇ヲタ(菊池茜)/〇ロボ(鷺宮しおり)/〇ロリ(百井咲久)/〇ヤマイ(山本美波)/〇ワセダ(佐渡正敬)

6/6【聲の形】→ステマロワではゴッリゴリにゆずる依怙贔屓してました。この作品なーんでロワ人気ないんスかね…?植野と川井は簡単にギスギス出せるし真柴は名マーダーいけるのに…
 〇西宮硝子/〇植野直花/〇川井みき/〇永束友宏/〇真柴智/〇西宮結絃

5/5【1日外出録ハンチョウ】→平成漫画ロワでも継続予定でしたが、今もバリバリ連載中で話題にもよく上がるため、『平成感』があまりないと判断し除外。
 〇大槻太郎/〇沼川拓也/〇石和薫/〇宮本一/〇大刻屋のオムレツ大将

4/4【異世界居酒屋「のぶ」】→参加者数を70人きっかりにしたかったので除外。
 〇タイショー/〇千家しのぶ/〇ハンス/〇ゲーアノート

3/3【あそびあそばせ】→オリヴィア精神崩壊回書いて以降収拾つかなくなったため除外。
 〇本田華子/〇オリヴィア/〇野村香純

3/3【うずまき(伊藤潤二)】→超好きな漫画です。なんj夜の漫画部でアホほど話題にされました。今からでも出したいくらい好き。でも軌道修正だるい。
 〇五島桐絵/〇斎藤秀一/〇山口満

3/3【おとりよせ王子 飯田好実】→飯田が内輪弁慶過ぎて動かしづらく泣く泣く除外。
 〇飯田好実/〇主任/〇盛田

2/2【お酒は夫婦になってから】→酒を絡めた文章表現するのがめんどくさくなってきたため。千里は10行で死んで旦那がサイコキラーに。
 〇水沢千里/〇水沢壮良

2/2【食の軍師】→タマリマセブン定期
 〇軍師/〇本郷播

1/1【酒のほそ道】→70人きっかりにしたいので除外。クズで自分勝手で人を簡単に切り捨てるキャラとして動かしたかったです(只野くん喉仏へし折り回は本来宗達がkill役でした)
 〇岩間宗達

1/1【テコンダー朴】→買うのが面倒になってきたのでやめました。ハルオ登場回で襲撃者は本来ならパクの予定。
 〇朴星日

1/1【僕と野原ひろし】→ひろしを狙うサイコキラーとして出す予定が「漫画ちゃうやん」との脳内ダメ出しが。
 〇僕

1/1【ワカコ酒】→動かし方が全く思いつきませんでした
 〇村崎ワカコ

1/1【手品先輩】→動かし方が全く思いつきませんでした
 〇先輩


ちなみに平成漫画ロワ参戦作品でもつばめと石上(かぐや様)、もこっちと加藤さん(わたモテ)、園田(善悪の屑)、家庭教師(ハイスコアガール)等をリストラしました。
これらを除外して代わりに出したのが【闇金ウシジマくん】【ミスミソウ】【空が灰色だから】【古見さんは、コミュ症です。】【ダンジョン飯】【目玉焼きの黄身いつ潰す?】【悪魔のメムメムちゃん】。
果たしてこの選択が正解だったかは今はまだ闇の中…。


【次回】
『Perfect Girl(古見さん親衛隊の活動内容報告書)』、『クマとメガネとロリとヤンキーとリボンと吸血少女(札)』、『悪魔とメムメムちゃん』のどれか

459 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/08(土) 00:41:21 ID:TY79Nue20
【お知らせ】
イラスト風名簿修正にパワーを持っていかれてるので多分来週火曜日予定通り投下できません。
誠勝手ながらご理解おなしゃす。

【ステマ】
今更ながら参加者紹介MADを作りました。再生してくれたら少なくとも俺は喜びます。
ジジイキャベツ様リスペクトの動画なのでこの場を借りて感謝を申し上げます。ありゃしゃす!
『【参加者紹介MAD】平成漫画バトル・ロワイヤル』
ttps://www.nicovideo.jp/watch/sm44731686

460『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:00 ID:xEF573ek0
[登場人物]  [[チルチャック・ティムズ]]、[[本場切絵]]、[[折口夏菜]]、[[璃瑚奈]]

461『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:14 ID:xEF573ek0
マンションの屋上でリコナがギャータラ騒ぎ立てて………、

それが原因でキリエとカナの二人に出くわして…………、

んで、屋上から適当な部屋へと下り、今の俺に至る………………。


 …まあ、聞け。
家族、チーム、冒険パーティ、職場仲間………、なんだっていい。
世の中、『団体』にいる以上必ず何かしらの『役割』というものが全員に与えられる。
例えば俺の普段のパーティだと、センシは調理兼戦闘担当、マルシルは魔法・治癒全般担当、ライオスは戦闘。
──そして俺はトラップ等解除担当と。
それぞれの得意分野から振り当てられたアイデンティティ──役割が必ずあった。
足手まとい、何もしない役立たずはいちゃあいけない。つか、そいつにも何かしら役割を与えるのが団体に属するということ。
全員が各々の役目を理解し、ピンチのときは行動して皆を助けるからこそ、団体【パーティ】はより固く強硬になっていくわけだ。


………。


……然るにだ…、



 『本場切絵』ッ!!!──────役割→ただのガキンチョA!!!!

「じゃ、じゃあ夏菜師匠なにか飲み物持ってきますね〜〜!!」

「はーーい」



 『折口夏菜』ッ!!!──────役割→ただのガキンチョB!!!!

「………。ねえ璃瑚奈おねいちゃん〜。切絵おねいちゃんが描いたこの絵本、読みきかせてよ!」

「…あーー??」



 そして『和田璃瑚奈』…ッ!!!!──────役割→ただのガキC!!!(コイツが断トツに役立たず!!!)

「は? やだよ。んな面倒臭いことするかよー……。大体、お前もう小学生だろーが。一人で字くらい読めんだろ。読み聞かせとか幼稚園で卒業モンだぜ普通〜」

「なにそれ!? ねえお願いだからさあ」

「あーあーうるせーなぁ…。だったらその絵本が読んでられないくらい血塗れにグロテスクで、聞いてられないくらいレイプ描写満載で、暗いくらいダークな胸糞露悪趣味本でも最後まで聞けよな? 聞きたくなくても聞く耳は立てて聞いて聴いて効きまくれよなっ?!」

「…? れいぷ……? …そんなタッチの絵本じゃないじゃん。てゆうか、どんな本であっても璃瑚奈おねいちゃん読み聞かせる気ないでしょ!」

「おっ理解力いいな。こりゃ神童だぜ。…というわけで私はやる気が出ない。じゃ、」

「…〜〜〜〜っ」



で、俺─────役割→罠解除担当……。



…俺が言いたいこと。
もう、分かるよな?
……悪いが声を大にして言わせてもらうぜ。



「って何だこのお荷物だらけのパーティッ──────?!!!! どいつもこいつも…俺含めて戦闘で全く役に立たないひ弱な役立たずばかり───────────!!!!!!」

「わっ!!! び、びっくりした〜…!!」 「なんだよチルチャックうるせーぞ!!」


「こんなので……──」


「──こんな役立たず大集合パーティでバトル・ロワイヤルが生き残れるかぁあああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼AAAAAAAA!!!!!!!!!!!!」



嗚呼あぁ……。

ah〜ӒӔ〜〜〜ぁぁぁぁ…………あぁ…………………。


ぁぁぁ………………。

462『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:32 ID:xEF573ek0
「…………………ハァ、ハァ…………」



「あっ、チルチャックくん絶叫もう終わり?」

「……へッ。ガキは元気だな。その元気ハツラツぶりじゃあオロナミンC要らずで良いもんだぜ、風の子チルチャック!!」

「だーから俺はガキじゃねーつうの!!! ハーフフット!!! 何回言えやあ分かるんだよ!」

「…………またでた」 「ハーフフット…(笑)」


「……ちっ!!」



 はぁ……………。
はぁーああーぁぁぁぁぁあっ、ぁぁぁああ……………………。
んだよこれ……。マジなんなの、これ…………。

俺は神が大嫌いだ…。故に無神論者だよ……。
神ってヤツはいつまで俺をボロ雑巾のように扱って、臭い牛乳を浴びせ続けるんだ…。
いつもいつも俺は不安しか無い運命ばかりだよ…………。

………言っとくがっ!! 本当にっ俺は子供じゃないからなっ……!
当たり前だが、この絶望最弱チルドレンの中じゃ俺が一番年上!! 一番オヤジなんだよっ!!



……
………

 ──え〜? でも切絵おねいちゃん達みんな同じような身長だから…みんな小学生にしか見えないよー!!

 ──ち、違いますよ師匠〜〜!! 私は十六!! 高校生です!!!

 ──えっマジ? じゃあ私とタメかよ切絵………。…んじゃ、お前は?


 ────あ? 俺? …こ、今年で二十九………。


 ──………。
 ──……。


 ──は、あはは〜〜……。う、うん! チルチャック君は大人びいてて、かっカッコイイですねー……!!

 ──はいはいチルチャックの面白いギャグ(笑)が聞けたことだし出ようぜー。

………
……



 …………っ! ………。
と、ともかくっ………。
俺ァこいつらと違って成人な訳だが、それ故にこの軍団のお守り役──リーダーとして……。
率先して最前線に立たなきゃならない。

──バトるなんて専門外なこの俺がだよっ…!!

……クソぉ……………。
常日頃のライオスが実質リーダー係で、俺は戦闘を陰から見守るあの美しい構図が………。
今じゃあ涙ぐむほど恋しいよ……。


ほんとに………。クソがっ……………。


「…ハァ………。叫んだら喉乾いちまった…………。…行くか……」

「え? 台所に? 今切絵おねいちゃんがジュースもってくるってよ」

「んなガキの飲み物俺には合わねーよ……。酒だ、酒。どうせあんだろ………」


「…………ふふっ!」「ぷっ!!」


「チルチャックくんはおさけの味知っててオトナだねえ〜〜〜〜!!」

「苦かったら砂糖とミルクたっぷり入れてもいいからな〜〜〜〜〜!!!」

「うっせぇストレートだわいっ!!!!」


あーもうっ………!!
本当に…『クソだっ!!!』──だわ!!! (特にリコナの奴の減らず口!!)

463『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:46 ID:xEF573ek0
成り行きで組むことになった雑魚パーティーとはいえ…………。


この中で唯一いつでも頼りになれるのは……。

お前だけだよ…………。


俺の愛しい酒ちゃんよぉー……………………。

464『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:01 ID:xEF573ek0



んぐっ、

ぐびぐび…………。


「……ぷはー……。おっ! 中々イケるじゃねえか、この『やまざき』って酒。…支給品のエールときたらありゃ不味いったらありゃしない。酒つったらやっぱこれよ、これ」


──ガチャッ
 
「………あっ。…え、ええ、え?? ち、ちちチル……くんっ………?」

「お。……なんだよその顔……、キリエ」

「そ、そそそれ………。お酒…ですよっ………?! ま、まずいですって………」

「あー平気平気。全然不味くないし、俺もこの程度の度数じゃ酔わねえからよ。コイツの旨さが分かるようになって一端の大人ってもんだ」

「そ、そそ……そういう事じゃなくてぇ〜〜〜〜〜…」


 ……はいはい。
どうせこいつも「子供が飲酒は〜〜…!!」とかふざけたことヌカすんだろ。
…もういいから。そういうのっゴリゴリじゃい!!

薄暗い台所で、冷蔵庫に寄りかかりながら呑む俺と、コップを持つツントゲガール・キリエの二人並び。
こいつは何が哀しいんだか、看護師の格好でさっきからうろついてる変な奴だ。
コスプレ娼婦みたいなギリギリゾーンのスカート履いて、そのクセ常に自信なさげでオドオドしてんだから掴み所のない女だぜ……。

んぐ、んぐ、ごく………。


「……ぷはぁあぁぁーー……。はぁーあ…………」

「あ、あわわ……。あっ、〜〜〜〜!!!」



「…………………。──はァー……………」


……やっぱり…。
酒に頼ってみたもんだが、コイツの力をしてもどうしようもねぇもんだな…………。
はぁ……。
(あ、あとここに住んでた元の住民。勝手に私物飲んで悪ぃ〜なーー)


 …いや、そりゃ俺だってよ?
言われるまでもなく、こんな女子集団さっさと切り捨ててよ。別の強そうな奴につるめばいいってのは承知しているし。
戦闘力皆無な種族である俺もそれが最適解っつうのは重々理解してるさ。
金の払い具合と勝算の高さで人を見てる俺だ。その点は抜かりねぇーよ。


「──けどもだっ…!!」

「え、ええぇ、え?? け、毛玉??」


例えによっちゃ、飢え死にしそうな我が子を前に、お供え物があってソレを取らない親がいるか? って話よ。
そんなことするやつ、極楽浄土に行けることを信じてるヤツだけだ。
──さっき言った通り俺は神だの仏だのは全く信じちゃいない。

そろばんづくの俺だが、コイツらガキを見捨てるほど人情は薄くねぇ…。
カナやツントゲガール、憎たらしいリコナでさえ、死亡者放送だかでその名前を呼ばれたら……俺、絶対引きずるだろうし。
……何よりそんな真似をお天道様よりも俺ァまず許さねえよ。


「だからこそっ!! だからこそ………っ。悩ましいんだよなぁ〜……………」

「な、悩んでるからってお酒は、ま、NGですよっ!! NG!!」


 ガキ共を捨てちまうのは俺の心情に反する……。
だが、コイツらと行動したら自分の命を捨てることになる……。
…俺は今どちらにも踏み出せない、帰路のど真ん中にいるわけだ。
くっそ…、どっちつかずってのが一番嫌いだぜ…………。おい………。

 …そりゃよお。
出来るもんならコイツらを引き連れつつ、新しく強そうなメンバーを迎え入れる──とかな。
そんな絵空事カンタンにできるんならまた話は別だ。よろこんでその策に飛び込んで頂くよ俺は。
けども、それはまさに絵に描いた餅だ。…絵の中の餅を食えるのはライオスくらいなもんだぜ。
参加者七十人近く──大半が疑心暗鬼で今にも行動に移しそうな中、こんなシマウマの群れを目にした獣共はどう思うよ?
よっぽどのお人好し野郎か、陰で何考えてるか分からない異常者以外俺らを引き受けたりはしないのさ。
……引き受ける奴としたら、これもまた数多くの参加者の中でライオスくらいだわなっ…。

465『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:18 ID:xEF573ek0
だから、もう現状手も足も出ないよ………。
俺はもう…。


何を、
どうして、
どういう風にすりゃ………いいってんだ。


俺は、これから……………。


「嗚呼………。あ〜、やまざきぃぃー……………。どうすればいんだよぉ、やまざき〜〜〜〜っ!!!!」

「も、本場ですっ!! 私は本場!! や、ややっ山崎って………誰、ですか…………」

「って、おのれはさっきからうるさいわ──────っ!!! お前ぇには何も言ってないわい!!」

「ひ、ひぃっ!!! そ、そ、…そんなこと…いっ言ったって…………」


 あとツントゲガール!!
お前は初対面の頃からずっと睨んでて……、…怖いわっ!!!
恐ろし過ぎんだろ!? 何考えてんだ?!
…陰気なやつかと思えば、うまるさん? だのカナの話は早口になるし……。
ぶっちゃけ三人娘の中で一番接しづらい奴だよこいつっ!!


「と、ともかく!!! お酒は辞めてください!!」

「いらねー心配だな! だから俺はイんだよ酒に強いんだし」

「えっ、…せ、せせ、せ、成長期なんですから。チルくん、しっ身長…止まりますよ………」

「チッ!!! また出た!!! 好きだよなぁお前ら俺を子供扱いネタ!!! 看板ギャグにするつもりだろうがそうはいかねーぞ!!!」


ほんとに雁首揃えて〜っ……お前らはセンシかっ!!!
…なに? なんなわけ………。
トールマンとドワーフは種族について全く習わないのか???
あんまりしつこいと…俺だって堪忍の尾ってのがあるぜ?!!


「ゆ、ゆゆ……。はぁ……。こ、こまる師匠……、私に勇気をください………」

「はあ?」

「…ゆ、言っときます…けどっ!! わ、私がこの中では一番お姉さん…なんですから…………!! ゎ、私の言うことをチルくんは…聞くべき…でしょうっ………」

「ざけんな!! 二十九!! 十六!!! どっちに『>』が傾く?!」

「な、七歳の子供が……ワガママ言わないでくださいっ!」

「なっ?!!! な、なななななななななななナナナナナナナナナナナナなな…七っ────────!????????」


七はねぇーだろ!!? 七歳はっ?!!
どういう勘定してんだ!!? チクショー!!!


ほんとに、ほんとにっ……!!
どいつもこいつもアホでバカで大間抜けだ………!!!
うんざりだ!!!


もうっ、喰らえっ!!!


 ──ジュッ、ボワ………

 ──スパァーー。モクモクモク…………


「わっ!!?? チルくん何吸ってるんですか?!! さ、さそっ…さすがに冗談じゃないですよ!!!」


 ゲホッゲホゴホ!!!
あ、やべー…。久々すぎてむせちまった。格好付かね〜……。


「……ハァーーーー〜〜………。それは俺の台詞だ、ガキ扱いの冗談はもうやめろ。飽きたし執拗過ぎんだろ。スゥーー〜ー……」

「煙草は辞めてください!!! 本当に!!! ち、ちびっ子ギャングですか!!!」

466『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:33 ID:xEF573ek0
あっ!!! ムカついたわ!
マルシルですらそこまでしつこく擦らないってのに…………。
限度の知らなさエルフ以下かよっ!?
このっ!!!


「ぷはぁーーー〜〜〜〜〜〜ーー〜〜〜」

「げ、ゲホッ!! ゴホゴホ…!! や、やめてください〜!! 人の顔に向かって……ふっ吹き掛けて……………」

「あー? 自業自得だろ。どうだ恐れ入ったか? 子供がこんな大量にケムリ肺に入れて、大量に吹き掛けれるわけねーだろ」

「じゅ、じゅ受動喫煙!!! 言っておきますが……、吸う人より吸わない人のほうが肺癌率た、た高いんですからねっ!!!」

「おーおーそりゃそうかい。ひでェ喫煙者迫害思想だな。こりゃタバコーストだよ。ま、かく言う俺も娘出来て以降長らく禁煙中だったがよ…──」


「──今は別だっ!! ほれ思い知ったか! スパァーー〜〜〜〜〜〜、…はぁあぁぁぁぁぁ〜〜ーーー〜〜〜ー!!!!」

「や、やめてくだ──ゲホンッゲホ!!!」


へへへーー。ざまーみろ。
…って、なにエルフ共でもせん外道な事してんだ俺…………、とはなるが…。
まあ、仕方ないってもんだろ…。
俺も人間さ。腹が立つこともあるし、憂さ晴らしの欲が抑えきれん時もある。
こうもしつこく半ばコンプレックスをいじられりゃ、やる時はやんだよ。



ざまぁーみろ。ざまぁだぜ。
ガキ共よぉーー…────……、



『ピギィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイ─────────ッッッ』


「え?!」 「ゲホ……えっ!!??」



 …だなんてスカッと気分に愉悦浸っていた中。
台所中を、唐突に『奇獣』のような悲鳴が木霊した。


「………」

「………………え?」


……俺は最初、限度が来たツントゲガールが発狂したもんかと思ったんだが。
──キリエの奴もその『奇声』に反応した様子から、どうやら第三者の声らしかった。

俺と、キリエしかいないこの間での。
第三者の声が。


「………………」


首をひねられる直前の怪鳥みたいな奇声は、思いの外一瞬で止んだ。
声の出どころは、……間違いなくキリエから。
だが小娘の悲鳴なんかではない。


奇声の張本人は、キリエの首。
──ギンギラに光るその首輪型爆弾からニョロニョロニョロ………って。
その赤黒くてグロテスクで、口しかない。昆虫の様なソイツが、息苦しそうに這い出てくると…………。


「うわ気持ち悪っ!???」

「え、え、え????」


────ビチャンッと、冷たい床に落ちて。



 パチン。

 ボト…………。

467『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:45 ID:xEF573ek0
「「え?」」



そのキモい生き物が恐らく息絶えたその瞬間。


キリエの『首輪』が静かに外れて落ちていった…………。







え?

468『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:01 ID:xEF573ek0



………
……


「…ところで璃瑚奈おねいちゃん。れいぷ、ってなに?」

「……っ?! ……あのなぁー………………。夏菜…、忘れろ。つか察しろ。おかあさんといっしょでその言葉が発せられるの見たことあるか? ないよな? つまりはお前にはまだ早いんだわ」

「カナおかいつ卒業したんだけどっ! いいじゃん教えてくれてもさー!」

「おかいつ……………。おい忘れたか? 私は何事にもやる気が出ない人間なんだぞ。一々説明してられっかよ面倒臭い…………」

「また、そうごまかして!! カナ諦めないからねっ!! ねえねえれいぷってなにー? ねえ〜〜!!」

「…あーーもう〜っ──…、」



 ガチャッッッ──────
 バタンッッッ──────



「おいカナ!! リコナ!!! ははっ!! よく聞け、今から外に出るぞっ!!!」

「ハハ…!! あははは!!! そうですよ皆さん!! 行きますよ!!!!」

「うわびっくりしたぁー!!!」 「は? んだよいきなり…………」


 ドアを開けりゃ対面する二人のガキンチョ面。
…フッ、…ハハハハ!!!
リコナの癪に障るやる気0フェイスも、この興奮と歓喜を前じゃあどうにも気にならねぇ!!!
……いや本気でマジかよこれっ?!
ハハハハハハハ!!!! 笑いが止まらねぇよ!!! こりゃ発作だわ!!! ハハハハーーッ!!!!


「…え? お前ら二人してテンション高すぎねぇーか。キャラ変わりすぎだろ。何が琴線に触れてそうポジティバーになったんだよおいー」

「い、いやだって!!! ねえー! チルさん!!!」

「おうキリエ!!! 『これ』を目にして興奮しねぇ奴なんかねーよ!! ハハハハ、ハッハ────────!!!」


「…引くぜ」

「てゆうかキリエおねいちゃんジュースはぁ〜?? 持ってくるんじゃなかったの??」

「まぁまぁ夏菜師匠〜!! あ、そうだ。チルさん、師匠にも『やって』あげてください!!!」

「おっ! それもそうだな!! おいカナ、こっち来い!!!」

「………?? ヘンなの。…なに〜?」


「バカ、行くなっ!! あいつらクスリしてるぞ!!!」──とか何とか。
あたふた萌え袖をブラブラしてるリコナの野郎は無視して、近づいてきたカナの肩に俺はそっと手を置いた。
おうおう〜!
リコナの奴、「何をする気だ!!」とか言いたげに汗撒き散らしやがって!!
何をすんだ、つわれたらよぉー?
そりゃ勿論…………、


「な!!」 「はいっチルさん!!!」


──スパァーーー〜〜〜〜〜〜〜…………。


「!?? げほげほ!!! く、くさっ!!!? な、何を──…、」


『ピギィイイイイイッッッ』

 パチン。→ボト…………。



「………え?」 「…あっ?!」

469『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:16 ID:xEF573ek0

煙草の吹き掛け。
ただ一つに決まってんだろ?



「え?? あー?! 夏菜?! お、おま……。首輪が…外れて…………………」

「え、あれぇ〜〜〜〜〜?!! てかなにこの虫っ?!! ゾワッてするんだけどぉ!!?」


「…………ふっふふふ……!!」

「お、お前…チルチャック!!! なんだよこれ?! おい!!!」

「す、スゴイですよねっ!! 璃瑚奈さん!! ささ、さっきチルさんが見つけたんですよ!!──」



「────『首輪の解除方法』が、ですっ!!!!」



「………………え」 「………………──」



「──いや切絵お前には聞いてねー」

「あ、あぅ…ぁ……。す、すみません……………」


「なに六歳児が煙草吸ってんだとか……、なにこの遊星からの物体Xはとか…、ガキの顔に煙草吹き掛けるとかイキりすぎだろとか……。山程産まれた突っ込み卵はこいつの前じゃあどうでも良しだぜ……。おいチルチャック!」

「あ〜? ふっふ〜〜ん!!」

「何なんだよこれ?!! 説明しろよっ!!?? こいつら一体全体何が起きてやがんだ!!!??」


 …ったく! リコナめ、凄まじい勢いで詰め寄ってきやがってな!!
ま、仕方ないから説明してやんよ。

ここで脳裏に浮かんだのは、ファリンが食われてまだ幾ばくも月日が経たぬ頃。
地下深くでの、ライオスの会話だ。

以下、迴想〜。


……
………

 ──ははは。『動く鎧』…か…。


 ────…まーた始まるよ、ライオスの早口で独りよがりな魔物説明。

 ──よしなよチルチャック…。


 ──産卵…。孵化…。体長わずか5mmほどの貝類『動く鎧』は、成長と共に外郭を形成し、ある程度成長すると群れ始め、徐々に鎧の形に成体。動けるようになると他の群個体を探し移動する。…というのは俺の仮説だ。

 ──ほう。


 ──実は、コイツを見て俺、そういう類似生物がいたな…って思い出したんだ。…名前は分からない。ただ、動く鎧同様、色んな物体に似た殻を作る魔物がいるんだって、迷宮ガイドに書いてたのさ!!!

 ────あの信憑性乏しい同人本ねぇ。

 ──ライオスほんと好きだねそれ……。


 ──例えば、銅像!! 例えば、────『爆弾』!! …ただ、彼ら貝類は少し弱点があってね………。

 ──…いや銅像型や爆弾型のからは話広げないんかい!! ライオス…。

 ──まぁ聞こうではないか。…ふむ。その弱点とはなんなのじゃ。



 ──それがなんだが………。


………
……


470『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:35 ID:xEF573ek0

「────奴らはニコチン、タールを0.5mg以上含んだ『煙』に弱いっ!!! つまりコイツをかなりの至近距離で喰らわばよ…」


スパァーーー〜〜〜〜〜〜〜…………。


『ピギィイッッッ』

 パチン。→ボト…………。


「イチコロ、って訳だぜ。リコナちゃんよお!!!」




「…………………………マジかよ」

「主さい者ってばかなの?」


 かハッ〜!! おいおいカナちゃん〜!
バカに決まってんだろ?!
あのオープニングセレモニーだぜ?
バカが陣取ってるゲームなんだから、こんなもん楽勝すぎるわ!!!


「と、まぁ首輪解除法はあっけなく見つかったわけだが。それを踏まえて、俺らはこれからあることをしなきゃなんねぇんだわ」

「ある、こと…………?」

「はい師匠!! 私たち四人組は悲しいですが最弱もいいところ…。敵に出会ったら瞬殺即ENDが約束されてる……よわよわな集まりじゃないですか」

「うん…」


「例えばリコナ。お前、バス内でレイプ魔のヤバイ奴が隣つっただろ? そいつに会った日にゃ俺らは色々な意味で終わり、完封だよな」

「お、おう。つか思い出させんなよお前…………」 「………っ!(また出た…れいぷ)」


────だがっ!!!


「もし、ソイツが『仲間』に付けるとしたら?」

「え?」

「…いや別にレイプ魔に限った話じゃないぞ? 殺し合いに乗った野郎にさ、首輪解除をエサに無理矢理ボディガードにしてな! 『ゲーム終盤に外してやるから俺達を守れ』とか言ったらよお!!」

「……………っ!!」




「────この戦……。生還を諦めるのもまだ早いんじゃねぇのか? なぁ、リコナ」




「……………」 「………」



「…スカウトってわけか。それもかなり勝算の高い………。面白ぇ。面倒事は嫌いな私だが乗らせてもらうぜ………──」




「──だがあのレイプ魔だけはやめろよなっ??! アイツ絶対話なんか通じねーから!! 弁が立つ私でさえアイツを丸め込むのは無理だよ!! 難題だよしんどいよ死罪だよっ!!!」

「ま、まあまあ璃瑚奈さん! 一つの例え話じゃないですか!! そっそ、その点はチルさんも理解してますよ〜!!」

「ったりめェーだろ。勿論最低限人は選ぶぜ。ゲームに乗ってるか乗ってないかは問わず。とにかく外出て参加者をスカウトだ!!」

「そうしろ!! マジでレイプ魔だけは勘弁だ!!! レイプなんかされたくなーい!!!」

「レイプレイプうっせーよ!! てかお前その言葉言いたいだけ説あるだろ」

「んな説あるかっ!!! いいか、レイプ魔だけはやめろ!!! 釘何十本でも刺して言うからな!!! レイプ魔だけはヤ・メ・ロー!!!!!」

471『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:52 ID:xEF573ek0
「ちょっと皆さん……。子供の前なんですからぁ〜…」

「…………〜〜〜〜っ?」


レープレープと、お年頃なお嬢ちゃんはともかく。
偶然ながら、これにて俺らは『ゲーム生還の糸口』に針を通すことができたわけだ………。

勿論、まだまだ課題はある。
圧倒的武器不足だとか、バリアー問題だとか、ライオス達の安否確認だとか…、マルシルはまだ生きてるのかだとか。
無駄に奥深さあるこの殺し合いではあるが、…幸運にも主催者は浅いところで舐めていやがってのさ!!



 なあ、神様よ……。

あんたが存在するんだとしたら、トネガワをバカに作ってくれて感謝するぜっ。

そして、『動く鎧の亜種』という生物を生み出してくれたことも、心からお礼言いたいぜっ……!!



 首輪を四人一斉にゴミ箱へ放り投げ、この一室を後にする……。
俺達ガキ帝国の創設が、今歴史の始まりを刻むのだった────────。





「……で、れいぷって何!! チルチャックくん、切絵おねいちゃん!!」



「…は?」 「ひ?」 「…ふ? ──とは言わねーぞ私はよぉ〜…」


「皆ばっかり知ってて…。カナだけ知らなくて、仲間はずれでっ!!! カナかなしいんだけど!!! もうおしえてよ!!!」


「…………し、師匠……。ま、まだ早いですよ〜………?」

「なぁ、さっきからこればっかなんだぜ? この放送禁止用語乱射口を誰か黙らせてくれよー。おい〜〜」

「…………」


「おしえてくれない限りカナ動かないから!! ねっ!!!!」


「…」 「……」 「………」



 …いやいや、もう……………。



まぁ……、仕方ねぇかもう…………。

かなりなくらい早いけど、コイツにも正しい知識を教えてやんないと……ダメか…な………。


あー面倒臭え………。


「…はぁ、分かったよカナ」


「え?! ち、チルさん!!??」 「バカ!! 黙れよチルチャック!!!」




「花、あんだろ?」

「うん」



「…それには雌しべと雄しべがあってだな………………」

472『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:53:10 ID:xEF573ek0
【1日目/G5/マンション/6F/AM.03:27】
【平成少年団】
【チルチャック・ティムズ@ダンジョン飯】
【状態】健康、首輪解除
【装備】???
【道具】メビウス@煙草
【思考】基本:【対主催】
1:誰か強そうな参加者を誘う。首輪解除をエサに仲間に引き入れる。
2:リコナ、キリエ、カナを守る。
3:リコナはうぜー、キリエは常人ぶった変人、カナは問題児!!

【璃瑚奈@空が灰色だから】
【状態】健康、首輪解除
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ガキンチョ一行と行動する。
2:レイプ魔(肉蝮)には会いたくない…。

【本場切絵@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康、ナース服@うまるちゃん、首輪解除
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:チルさんたちについていく。
2:夏菜師匠をお守り。
3:うまるさんと海老名さんが心配…。

【折口夏菜@弟の夫】
【状態】健康、首輪解除
【装備】???
【道具】???(一式ランドセルに梱包)
【思考】基本:【静観】
1:チルチャックたちくんについていく。
2:『死』だけは絶対…ダメ!!
3:めしべとおしべ…?


※ナゾ1【首輪型爆弾の謎】…続報。

「参加者全員に嵌められた首輪型爆弾。この物体は一体何なのか?」
→正体は生物。『自爆型の魔物』。(※1)
 動く鎧@ダンジョン飯の亜種で、赤黒く口のみの生物。(※2)
 市販されているタバコの煙が弱点で、至近距離から吸い込むと即死してしまう。

 (※1)ライオス・トーデンが#020『[[少女と異常な冒険者]]』にて解明。
 (※2)チルチャック・ティムズ、本場切絵が#053『ゲーム生還の糸口♂♀』にて解明。

473 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:53:40 ID:xEF573ek0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①首輪解除RTA更新です。多分これがパロロワ史上一番早いと思います。(ゲーム開始3時間27分で解除)
②まぁ平成漫画ロワは会場を包む強大なバリアーがありますから脱出も無問題ですが。
③そのバリアーについては白銀会長が何か策がある様子…。その詳細はまた十数話後、『いけない太陽(仮題)』にて……。


【次回】
──幽幻道士。キョンシー。

──獣が、ヴァンパイアが、殺人鬼が血を欲する満月の今宵。二人のキョンシーが、『対峙』する。


…『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』
(※ゆりちゃんの格好の元ネタはわたモテ個展でのグッズと二年生の時の七夕回)

474『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:10:43 ID:kWnGcn6U0
[登場人物]  [[札月キョーコ]]、[[土間タイヘイ]]、[[吉田茉咲]]、[[田村ゆり]]、[[藤原千花]]、[[マイク・フラナガン]]

475『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:10:59 ID:kWnGcn6U0
──幽幻道士(キョンシー)──────!!

 それは言わば中華ゾンビ。
月の光る真夜中にのみ行動を開始し、生血を求めて人々に襲いかかる屍。
中国古来から伝聞される、日本で言うところのぬらりひょんや河童並みにポピュラーな物の怪だ。

ただ、ゾンビといえど奴等には人並みの知能がある。
そして、どの人間の鮮血が美味いかを見定める悪どい邪心がある。
吸血の為ならどれだけの実力行使も遂行する──殺人的本能があった。


今宵。
七夕真っ最中の土曜日。サタデームーンの渋谷横丁にて。
『二人』のキョンシーは吸い寄せられたとでもいうのか。
偶然にも巡り合うのであった─────。


……

「…くそォーー………。うまるの奴…何してんだ? さっきから全然電話に出てくれない………」

「あー? つーか眼鏡くんよぉ。そのうまるってヤローは知り合いなんか」

「……。(眼鏡くんって……、ヤローって………)知り合いも何も、俺の妹だよ。…たった一人だけの大切な家族さ。……うまるのヤツ、面倒事起こすタイプだから色んな意味で心配でね」

「妹? お前マジか………。そりゃ鬼電も仕方ねーわな。なぁ、札つ──…、」


「死んでんじゃないの。今頃」


「……………っ」 「……………ッ、てめぇ…………」



「うっそ〜。冗談だってば。………そんな睨みつけないでよっ吉田」


 紹介しよう。
──東側にて。

三人一列で歩く右端──真っ赤なリボンと白髪がチャームポイントの、洒落にならない発言をした彼女は、正真正銘のキョンシー。札月 キョーコだ。
見た目こそは華奢で小柄な女子生徒なのだが、キョンシー《吸血鬼》であるが故、その潜在的力は世界最高峰のボディビルダーにも勝る。
倒木した樹木を片手で受け止める、分速二千メートルで走る事が可能、一軒家をものの一瞬で廃屋化させる……等。
力加減をしてかなり慎重に行わなければ、体育の技能テストで人間離れな成績を残してしまうとの、キョーコの逸話は枚挙に暇がない。

それに何より彼女は、『血の味』が好物であった。


「……きょ、キョーコちゃん。…聞かなかった事にはする。だから吉田さんもいい加減彼女の胸倉掴むのやめなさい!!」

「あ? …………チッ!!」

「「(いや…チッ、ってさぁ……………)」」


「………ごめんタイヘイさん。…私、ちょっとイライラしててヤバいこと言っちゃったわね。……言い訳するつもりじゃないけど、血足りなかったから。…それもあって」

「…あ? …てめー、あの日か?」

「はアぁッ?! バカじゃないのッ?!!! 吉田黙れ!!!──」


「──…ともかく、いつもはお兄ちゃんの血吸って事を収めてるんだけど、生憎いないわけだし。……ほんとにごめん……」

「いやいやだからもう良いからさ。俺の方こそ、ずっとしつこく電話してたし。多少イラってくる気持ちも分かりはするよ」

「…………んん、ごめん」

「…おい、辛気臭え。無理矢理にでも話変えるぞ」

「あ、うん…」 「………」

476『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:11:13 ID:kWnGcn6U0
「眼鏡くんよぉー。さっきからずっと私は思ってたんだが。いいか?」

「…何なりとどうぞ」

「おめー絶対シスコンだろ!」

「…はァッ!!??」 「いやいやいや……。話題変えたら変えたで嫌な質問だなぁ吉田さん〜………」


そんな史上最強の吸血鬼────キョーコと。


「いやバトロワの心配云々は抜きにしてよぉ。妹のことやたら心配でこんだけ電話連打するとか、普段の日常生活なら即シスコンヤロー認定じゃあねーか」

「…まぁそりゃそうだけども。でもッ!! 一番肝心な部分抜きにはするなよなぁーー!! 吉田さんーー!!!」

「タイヘイさん、あのバカに構わないで。覚えたての『シスコン』って言葉使いたいだけわよどうせ」

「アぁあっ!?? てめーさっきから私のこと舐め腐ってんだろゴラァ!!!」

「誰が舐めるのよアンタなんか!!! アンタのドラッグと乱酒で濁ってそうな血……1ccも舐める気しないわっ!!! カルシウムでも摂って清純な血液にしなさいよこのイラチ!!!」

「てめー表出ろバケモノ女が!!!」

「いやもう表出てるし吉田さん……──…、」




「「「───って、…あっ」」」


「「「あっ」」」



もう一人のキョンシー。
────田村 ゆりと、が。



「…………」

「………」



眼と眼が遭ったこの瞬間。

不幸にも、彼女ら二人とそれぞれ同行していた一般人四名は、惨状の巻き添えとして血肉の薔薇に咲き乱れるのであった────。


…………
………
……


477『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:11:57 ID:kWnGcn6U0
「…………………………(〜♪」



「…ハァ…。タムラさん、言うこと聞いてくれない………」

「そうですよぉ〜! ねーマイク!! マイクがあれだけ『自分の後ろに隠れて歩いて』って注意したのに〜〜!! ゆりちゃんは反抗期真っ只中で、マイペース過ぎますよ〜〜〜!!!」



 紹介しよう。
──西側にて。

力強そうな大男(&リボン娘)をバックに、大胆にも一人先陣を切る──無表情でイヤホンの彼女は、田村ゆり。彼女が行きたい先は他でもない『ユニ●ロ』である。
大きく太腿が露出したチャイナドレスに、中華帽子、そして額には御札と。見た目はまんまキョンシーなのだが、あくまでこれはコスプレ。
陰キャの鏡であるゆりなら普段「智子なら似合うと思うよ。こんなバカなファッション」と蔑むくらい、性格に似合わぬ服装をしているのだがこれにも訳がある。
というのも、数十分前、魔茸『チェンジリング』にやられて以降、急激に身体がロリ化《縮んだ》彼女。
当然、普段着などダボダボで着れるはずなく、仕方無しにバーで探した小児衣服がこのバカなファッション一着だったのだ。

スカートの丈が短くて鬱陶しい、と。彼女は『まともな服屋』を求めて、辺りを見回す。


「…………………………(〜♪」


「ねぇ〜〜マイク」

「なんデスかフジワラさん」

「私分かっちゃいましたよ…っ!! ゆりちゃんがやたら私たちから離れて前を歩く理由……っ!!!」

「理由…とは??」

「それはズッバ〜〜〜リ!!! あのイヤホンです!!!」

「…………?」

「ゆりちゃんめ、もしかしたら私たちに聴かれたら恥ずかしいぃ〜っ…ような何かを聴いてるんですよ!!! 例えば〜〜動物の鳴き声集.mp3とかぁ〜、ジャ●ーズアイドル生越の癒しASMRだったりとかぁ〜〜〜!!! あははは〜!!!──」

「──いや、ヒーリングミュージックだとか?? あるいはお教とか砂嵐だったりして〜!!! 説立証ズバリあると思いませんかぁ!!!」

「タムラさんがそんな病んだ子に見えないデスがー……」

「あっ、そんなぁ〜〜!! うちの可愛い後輩であるミコちゃんをヘラってるみたいに言って〜〜〜〜!!!」

「フジワラさんの後輩を勝手に引き合いにしてたんデスか……!? …私、時々アナタの垣間見える毒がコワいデース…」


「ということで!!! おしゃれ♡探偵団切り込み隊長──藤原千花っ!!! チカっと真実を確認にいって参りま〜〜〜〜す!!!!」

「…あっ!! フジワラさーん!?!! またアザが増えるだけデスヨォーー!!!!!」


「…………(〜♪」

「ゆ〜りちゃん!!! 何聴いてるんですか〜〜!!」

「…。………何もきいてないんだけど」

「うわ!! 嘘の付き方も小学生レベルに退化してます?!! …もう〜〜っ、可愛んだからゆりちゃんは〜〜〜〜!! おねえさんにちょっとイヤホン貸しなさぁ〜〜〜〜──…、」



そんな似非キョンシーの根暗少女────ゆりと。


……

「……………最悪…です…ぅ……。あんなの、聴かなきゃ良かった……………。ゆりちゃん絶対普段あんな酷い物…聴いてないですよぉ……………………」

「何聴かされたのデスかっ??!!」

「いやもう小悪魔どころか悪魔そのものですよぉ…………。デビルマンレディーゆりですぅ………。あんなの聴いたらもう──…、」




「「「───って、…あっ!!!」」」


「「「あっ」」」

478『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:15 ID:kWnGcn6U0
キョンシー。────札月 キョーコと、が。



「…………」

「………」



眼と眼が遭ったこの瞬間。

吉田茉咲の鋭い睨みに藤原が臆し、
マイク・フラナガンの圧倒的威圧感にタイヘイが警戒心を高めたこの瞬間。

バトル・ロワイヤルという緊迫した空気感もあってか、キョーコの瞳孔が赤く見開き、ゆりもまたポーカーフェイスがやや崩れる。


血への欲と、

本能と、

幽幻道士としての矜持が、『非日常』の訪れを告げる。


「…………ちょっと、あんた……」


「…………」



──────両者、向顔。

戦慄と緊張感、行く末は絶望…か。
血を血で争う、キョンシー同士の『殺し合い』が。
そう、お手本通りの『殺し合い』が今初めて、この渋谷で行われようとしていた─────…。




「って、お前……田村か?!」

「え? 吉田さん?!」



「「「「………え?」」」」





────……………行われるかもだった。

吉田は何の警戒心もなく、友人であるキョンシーの元へと近寄る。
帽子越しにて、愛犬を愛でるようにワシャワシャとゆりの頭を撫でると、


「おいどうしたんだよ田村〜〜! なんだ〜? そんなちっさくなってよぉ!! いやそれよりもお前が元気そうで良かったよ! おいっ!!!」

「ちょっと…! 吉田さん、やめてよ…。はずかしいから…」

「ははっ〜〜!!! 田村ぁ〜〜!!!」



「…え? 吉田の知り合い??」

「いやゆりちゃん…、そのヤン……、人と…友達なんですか〜………?!」


渋谷横丁を覆った紅い緊張感など、綺麗さっぱり消え失せた。

479『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:26 ID:kWnGcn6U0

……
………
「うっし、おめーら。取り敢えず休憩とすっぞ。あの『UFO型の建物』で色々積もった話解消するからな」

「はぁあぁっ!!??? 馬鹿!! 却下よ!!! あの建物絶対なんなのか知らないでしょ!!! いややっぱりバカじゃん吉田!!!!」
「…。………………………」
「てゆうか『休憩』ですか〜…………」


「………は、ハハ…。困りマシタね…………」

「……まぁとりあえず動くとしますか…………。ね、マイクさん………」

480『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:40 ID:kWnGcn6U0


………
……

 一泊OKのデイリーマンション。
ホテルとは違いマンションには無論、キッチンや流し、そして必要最低限の調理器具が用意されている。
『男子厨房に入らず』──とは、昭和生まれ親父の決まり文句だが、キッチンに立つ二人はいずれも男。

バトルロワイヤル開始から早くも四時間が経過。
朝方近くな為、真っ暗だった街も日の出を予感させる薄暗さになっている。


「それにしてもタイヘイさん。その若さで料理もできるとは………。何とも頼もしい方デースネ」

「はははっ。うちは未成年の妹と二人暮らしですから、必然的にやれてるだけですよ」


とどのつまり、タイヘイ&マイクが作るのは少しばかり早めの朝食。
これからの行動に備え、リビングで待つ四人娘の為に何かを調理するのだった。


「いや、しかし………。やっぱり…何だろう、罪悪感はありますよね…。人ん家の冷蔵庫から勝手に拝借するわけですから…」

「……う〜ん確かにデス。マンションの元の住民サンには悪いことをしマス……──」

「──…デスが腹に背は変えられない…と言いマスか。戦に備えて腹ごなしは欠かせまセン。コンビニやスーパーで買い出す手もありマスが矢鱈な行動は危険デスし──」


「──という訳で、料理のテーマは『最低限』デスヨっ!!」

「最低限ですか。と言うとマイクさんつまり………」

「えぇ! ちょびっとの具材を使って、それでいて皆を大いに満足させられる料理!! …タイヘイさん、アナタさっき何を作るつもりと言ってましたカナ?」

「あ、カレーです。カレー。簡単に作れて大人数用も容易いですから」


「フフフっ……!! ならちょうど良いデス!! さぁ、今から作りマスよ!! ────私の母国『カナダ式カレー』をっ!!!」

「おお!! カナダ式…ですか!」


まな板上には食パン、鶏もも肉、そして植木鉢に咲く謎の野菜一つと。
カナダ式カレーに欠かせない最低限の食材が並ぶ…………。

………
……


「…ほうほう〜〜〜。つまりは怪奇!! キョーコちゃんはそのリボンを取られたら…かっなぁ〜〜りマズイんですね〜〜〜! …例えるなら──」

「──奇しくも同じくリボン娘の私ですが……。それを今ここで外して見せたらぁ〜〜〜〜……。(ポロッ)…ふっふふ…。がおおあぁ〜血をよこせぇ〜〜!!!!」

「…え。…あっ!!! まさかアンタもっ…」

「て、てめぇーもかこの野郎ッッ!!!!」


───ゴシュッ!!!

≡〇)🎀`Д゚)グハッ

【よしだ の がんめん ストレート!!】
【ふじわらしょきは、250のダメージ。こうか は ばつぐんだ!】


「ぐへぇやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!! …い、いだっ???!!!! 何でいきなり殴ってくるんですかっ?!!? 冗談に決まってるじゃあないですか!!」

「あ? …んだよ。じゃあ書記、てめぇーは普通の人間なんだな? 吸血鬼なんかじゃねぇんだな? あー?」

「当たり前でしょおっ??! もう〜〜っ!! なんで原幕高校の生徒は皆すぐ手出してくるんですかぁ〜!!」

「…いや冗談にならないから仕方ないじゃない。ほら、藤原謝りなさいって」

「……ったくよ…」

「ふっへっへ〜〜〜〜〜〜…………。被害者が謝罪しなきゃならないこの事態こそが怪奇現象ですよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜……………。しかもキョーコちゃんナチュラルに呼び捨てしましたよね〜〜〜〜…………。うえ〜〜〜〜ん…………」

481『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:57 ID:kWnGcn6U0
「…………………(〜♪」


 一方で、残りの女子四名はソファで寛ぎ中。
テーブル上には支給品確認の痕跡として、シュローの刀(@キョーコ支給武器)、熱した鉄の棒(@ゆり)、エアガン(@タイヘイ)にさくら棒(@マイク)…と、武器達が散らばっている。
彼女ら四人は、────いや三人は武器には目もくれず和気あいあい(?)と駄弁り続けた。


…それにしても、しかしだ。
エアガンやらただの鉄棒やらはともかくとして、『さくら棒』の何に殺傷能力を感じて主催者は支給武器としたのだろうか。
長さ、太さはそれなりにあるとして、このさくら棒。武器でも何でもなくただのお菓子。
静岡伝統のピンク色なただの麩菓子である。これで撲殺できるとしたら、『豆腐の角で頭ぶつけて死ぬ人間くらいだろう。
やや狙ってる感はある、酷い武器チョイス。
これには流石の表情筋10gゆりでも失笑するほどであった。


「………ふふっ…(〜♪」

「あっ! ほら見なさいって吉田!! 田村笑ったよ!! 今!!!」

「……っ?!(〜♪」


「…あ?」 「あ、あちゃあ〜〜〜……………」


「今絶対笑ったわよね? 田村、そのさくら棒見てさ。変なとこで急に初笑いとかなんなのさ〜、もうったら〜〜〜!」


「…全然わらってないんだけど………………」

「てゆーか、田村もさー。そりゃ私らと歳離れてるから接しづらい気持ちも分かるけど。…そうロンリーウルフ気取ってないでなんか話そうじゃないの」

「………気どってないから。接しづらくもないし。藤原さんはともかく、吉田さんとなら話せるから、見透かしたかのようにいわないでほしんだけど」

「結局内弁慶じゃない!! もう田村ったら〜〜〜」



「キッズ相手だからってデリカシー0発言乱射しますね〜〜………。キョーコちゃん…」

「悪意がない分タチが悪いってヤツだな」

「それはそうですけど〜…。悪そのものの吉田さんがそれ言いますかっ?!! ──あ、怒らないで〜!!!? 殴らないで?!! 千葉はともかく東京じゃ暴力は犯罪なんですよぉ〜〜〜〜!!!!!!」



「…………はあ……(〜♪」



「私は今話せませんよ」とアピールするが如く、中華ロリゆりちゃんは中華まんをパクリっ。
もぐもぐ&曲の音量爆上げで、キョーコをひたすら構わず関せずの態度を貫くのであった。



キッチンから徐々に立ちこめてくるカレーの匂い。
ほのかに苦みの隠し味が混じったその香りに、どこか懐かしさが感じる。

出来上がるカレーを前に、敵意など皆無で(──四人全員が互いに信頼しあってるかはともかく)、話に花を咲かせる四人娘。
笑い声が飽和し続けるキョーコ藤原ら四人を見て、部屋の時計は何を思うか。

時刻はAM.04:30丁度。

バトル・ロワイヤルという『非日常下』にて行なわれる、普段の日常生活と変わりない和やかな雰囲気。
額のお札が揺れる中、マンションの一室は束の間の休憩で、楽しげなムードに包まれていた。

482『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:07 ID:kWnGcn6U0



────この安らぎのムードが、『嵐の前の静けさ』であることを、六人誰一人として知らずに。


──外を見渡せば立ち込める曇り空の陰。


────あと少し経てば『惨劇』が始まる。










二日後、ふと、このカレーを待っていたときの事を思い出して。


今思えば、──あの時はまだ楽しかった。

そして、──あの時はまだ知る由もなかった。


…と。

ふと彼女は回想する。

483『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:25 ID:kWnGcn6U0



 ドクン、
  ドクン────────


 いや。
知る由もないと言うか、知る訳もなかった。



 ドクン、
  ドクン────────

 …『非日常』の始まりを告げる、『あの叫び声』のことも。


 “ぁぁあ………あ…”
 “あぁぁああアアアアアアああぁぁぁああぁぁああァぁぁぁァァァ───────ッッッ”



 ドクン、
  ドクン────────

 …後々、自分を救ってくれた『仮面ライダー』のことも。


 “俺はもう二人殺した。一人はこの手で、もう一人はこの目で。…見殺しだ”
 “もう。俺は人が死ぬ瞬間を目にはしたくない………”



 ドクン、
  ドクン────────


 …変わり果てた『アイツ』の姿も。


 “ハハッ……。だからさ、生きてよ。つか生かさせるから………。私が…………”
 “絶対に…………。絶対に絶対に絶対にっ……。うっぅ………うぇっ…………”
 “もう、全部……………。────ミコちゃんのせいなんだから……………。私を置いてかないでよ、ミコちゃん………”

484『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:40 ID:kWnGcn6U0

 ドクン、
  ドクン────────


 ──…そして、美術館での『血闘』…も────。



 “はぁぁ…はぁ……ハァハァ…、”


 “………ハァ? 何言って…んだ…テメェ……?”


 “ハァハァ…。…何が…トップよ……ッ。何が……パンケーキだっつうの……………ッ”



 ドクンッ…────────



 “つうか何…泣いてんだよテメェッ………? ……被害者ぶってんじゃねぇぞ………ぶっさい泣き面晒しやがって…ゲホッ………! ハァハァ…………。…テメェのせいで……吉田もタイヘイも…死んだッ………!! 優しかったみんなが…皆………糞みたいな理由で……………殺されたッ!!!!!”



 ドクンッ…────────



 “ハァハァ……ァアアア……ッッッ!!!! …ふざけんなッ…マジでふざけんなよテメェ…………ッ!!! ………絶対許さないッ……! テメェだけは絶対殺してッ…、負けてでもぶち殺しきってやる──────ッッッ!!!!!!”



 
 バクンッ────────


 “ァあの世で喉潰れるまで詫び続けろァアアアアアアッッッ─────!!!!!!!!!!! この人殺しがァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!”



『Vampire - The Night Warriors』


 プツン…………………─────







────────…

……最後に、

『プランA』の実態、も。



 ────“…………いいや、花火だ。”


 ────“あれは花火……”


 ────“鎮魂代わりの。…一夏の、大天火だな…………”

485『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:51 ID:kWnGcn6U0
今はまだ。

何もかも、まだ知らなかった。

知らないからこそ、まだ幸せだった。


幸せで、それでいて『不幸』だった。




焦土と化した渋谷の街を、車窓から眺めながら。
彼女は回想を終える。




 ドクン、


  ドクン────────、


………
……


486『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:14:19 ID:kWnGcn6U0
【1日目/F1/渋谷センター街・パチンコ店/4F/AM.02:31】
【チーム・キョンシーズ】
【札月キョーコ@ふだつきのキョーコちゃん】
【状態】健康
【装備】シュローの刀@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:↓以下のメンツと同行。
2:ちゃんゆりがちょっと可愛い…。
3:吉田とは犬猿の仲!!

【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】ハーフフット(ロリ化)、キョンシーの服装
【装備】熱した鉄の棒@善悪の屑
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ひとりで行動したい。
2:吉田さんと会えてよかった。
3:藤原&札月とは波長があわなく苦痛…。

【吉田茉咲@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】木刀
【道具】タイムマシンボール@ヒナまつり
【思考】基本:【対主催】
1:つか田村なんでちびっこになってんだ?
2:藤原とキョーコ、あぶねぇやつだ………。
3:うまるを探すタイヘイに同情。

【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】護身用ペン@ウシジマ
【道具】ワードバスケット@目玉焼きの黄身
【思考】基本:【対主催】
1:カレーまだかなぁ〜〜♪
2:…私、暴力娘x2に吸血娘と囲まれてるとかピンチではっ……………?

【土間タイヘイ@干物妹!うまるちゃん】
【状態】背中に痣(軽)
【装備】池川のエアガン@ミスミソウ
【道具】ボイスレコーダー
【思考】基本:【静観】
1:カナダ式カレーをマイクさんと作る。
2:うまる、大丈夫か…………?
3:なんだかリビングが騒がしいな…。

【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】健康
【装備】さくら棒@だがしかし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:全員を守る。
2:カレーをふるまう。
3:ところでこの『謎野菜』は一体…………?

487 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:19:04 ID:kWnGcn6U0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①ぶっちゃけ一部の作品キャラの動かし方・最期が全く思いつかないでいます。…やっぱり飯漫画とバトロワはミスマッチですね。これ、教訓。


【次回】
未定。
とにかく、以下の話のどれか。これら全てを終えたら参加者二巡完了です……。

『Perfect Girlです。』…小宮山琴美、古見硝子、堂下、殺人ニワトリ
『古見さん親衛隊の活動内容報告書です。』…古見硝子、堂下、殺人ニワトリ
『TOKYO 卍 REVENGERS』…伊井野ミコ、鰐戸三蔵、鴨ノ目武、相場晄
『悪魔とメムメムちゃん」…メムメム、兵藤和尊、佐衛門三郎二朗、遠藤サヤ
『野原ひろしと僕たち(仮)』…山井恋、野原ひろし、海老名菜々、クンニーヌ、うまる、マミ、デデル、マルシル、飯沼
『大好きはムシがタダノくんの』…只野、佐野
『鳥貴族』…センシ、長名なじみ、日高小春
『らぁめん再遊記 第二話〜需要と供給…?〜(仮)』…アンズ、芹沢達也、早坂、うっちー

488 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/14(金) 20:46:08 ID:7ORhDVZ20
──ふと、あの日のうまい棒の味を思い出す。

──彼は私と同じく、駄菓子が好きだった。


【次回】
『枝垂ほたるのメタルギア』…小泉さん、ほたる、???


────新キャラ、参戦。

489『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:38:01 ID:WB4mfFLo0
[登場人物]  [[枝垂ほたる]]、[[小泉さん]]、???

490『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:38:17 ID:WB4mfFLo0

 小泉さんには、『大澤悠』という女子の知り合いがいた。

もっとも、小泉さんサイドからしたら、(接する頻度はかなりなものの)彼女を友達だとは思っていない。


あれはいつの日かの、春の事だったろうか。
二郎系ラーメン店に小泉さんが並んでいる時、不意に話しかけてきたクラスメイトの──大澤悠。
その会話の中で、何かが悠の琴線に触れてしまったのだろうか。その日をキッカケにやたら彼女は付き纏うようになった。
廊下を一人歩いていたら「やっ! 小泉さん〜」とベタベタと絡み、放課後になると「小泉さんどこのラーメン行くの? 私もご一緒いいかな?! あははーっ」等と、常に常に存在してくる悠。
その度に小泉さんは、────嫌です。──お断りします。──と、ドライかつ丁重に断っているのだが、悠という女はいつまでも執着深かった。

そのストーカーぶりに嫌気が込み上げるのも早一年。
あいも変わらず、悠は飼い犬のように小泉さん一筋で愛で続け、一方で小泉さんもやや受け入れつつはあるこの頃。
その長い月日が積み重ねるに連れ、小泉さんにも『特殊能力』のような何かが身に付いた。


それは一言に、────『大澤アレルギー』というものか。


「………………──っ!!」


(……この寒気。……まさか、『来る』んですか………っ?)



 つまりは、大澤悠の気配に敏感になってしまったのである。

無論、今はバリアーに囲まれての殺し合い中。
周囲を見渡しても悠の姿はおろか、声すらも確認できない。
この渋谷に彼女が来れる筈がなかった。


だが。──だが、しかし。
確かに前進を走り抜けたこの寒気…。そして予感…。
生暖かい夏の空気に混じる、悠のラッブラブな吐息感……。


参加者でも何でもない大澤悠が、今この渋谷に降り立った。────何となくだが、そんな予感。



「……………………。寒気が酷い………」


どこからか聞こえた気がする「小泉さぁーーん……」の声に。
身体中を支配した寒気を取り払うため、彼女はひたむきに温かいラーメンのスープをすすり続けた……………。



────ただでさえジェネリック悠のような、『やたら絡んでくる』『やたらフレンドリー』『やたらしつこい』の3Yな人が隣りにいると言うのに。
────それが二人に増えるとはまっぴら御免である。



「すごい…!! すごい食欲ね……小泉ちゃんっ!!! これでもう早くも三軒目のラーメン屋ハシゴだわっ────!!! これぞまさにハイ・ヌーン…。私の駄菓子愛に匹敵するほど、あなたのラーメン愛は本物よっ!!!!──」

「──Hey! カロリーQueenっ!!! …これはもう私も負けじとベビースタードカ食いに行くしかないようね………!! 行くわよっ!! 受けて立つわ!!!」

「…………そうですか(ズルズルズル」


小泉さん feat. 枝垂ほたる────。
二人がいるこの場所は、新店なのか年季が入った店なのかよく分からない『ラーメン店・愛沢』。
町中華らしい鶏ガラベースのラーメンを啜りながら、小泉さんは一つため息を付いた。


「……はぁ………」


「……あっ。……今、『Hey! カロリーQueenっ!!!』って喋ったの………。どっちかしら、小泉ちゃん…」

491『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:38:47 ID:WB4mfFLo0
「……はい? …枝垂さんに決まってるでしょう」

「…フフ。いやはや面目ないわ。というのも私たち二人。何だか声が…、どことなく似てるじゃない?? だから、時々私が喋ったのか、小泉ちゃんが話しかけてきたのか分からなくなるのよね〜〜〜!!!!」

「…流石ですね。色んな意味で」

「そうっ────!!!! つまるところ、私たちは声が似てる者同士引き合った…ってことね。この出会いは偶然ではなく運命!!! 私たち駄菓子軍団が結成されるのは約束されてたことなのよー!!!!!!」

「……………はあ」



 ため息混じりの相槌が漏れ出た。

悠とは別ベクトルにヤバい枝垂ほたるに、小泉さんが鬱陶しさを感じていたのは確かであるが。
それとは別に、彼女がため息を漏らしてしまった理由が実はある。


殺し合い開始からかれこれもう四時間は経過。
その長いようで短い過程の中で、恐らく何人かは既に殺された現状なのだが。

──刻々と屍が積み重ねられる間、自分は殺し合いに置かれてるとは思えない『日常』を送り続けている。
──というより、殺し合いを打破・生還するための術を何も講じていない。


最初こそは、バトロワなんかに流されず我が道《拉麺道》を行こうとの考えだった小泉さんも、これだけ時間が経てば心中重かった。

自分には当然何も出来ない。
ただ、やらなきゃいけない。動かなければ死んでしまった参加者達に申し訳ない。…こんなことしてる場合じゃない、と。
積りに積もっていく、この『罪悪感』に似た感情は、もはやラーメンハシゴでは誤魔化せなかった。

それ故、どうすべきか──と、ため息が止まらない小泉さんであったが、隣りに居座るほたるは生憎これっぽちも『生死の緊張感』は持ち合わせていない様子。


(…………どうすればいいのでしょう)

(………私はっ……………。どうすれば……………っ)


思わず箸を置いてしまうくらい、彼女はモヤモヤで一杯だった。




 ────ピロロンッ♪ ピロロンッ♪



「…………えっ?」



 そんな中、我先にと先じて行動を始めた者がいる。

その彼女は携帯を耳に当てると、目的である『誰か』の応答を待ち中。
────彼女だって、バトル・ロワイヤルが遊びだとかふざけて良いものだとは一切思っていなかった。


「…………小泉ちゃん。アナタの気持ちはうんと分かるわ。…でも下手に動けないのも仕方ないことなのよ。今はね」

「………え。…枝垂、さん………」


携帯を使い始めたのは我等が駄菓子軍団隊長────枝垂ほたる。
これまでと打って変わってシリアスな面持ちをするほたるは、小泉さんに向けて言葉を続けた。

492『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:39:03 ID:WB4mfFLo0
「だって、このバトル・ロワイヤル……。分からない事だらけだもの。大小様々な謎が蠢き合い、もはやカオス《混沌》にすら達している殺し合い…………。あまりにも情報が足りなすぎるわ」

「………それで、何を………………?」

「だからこそっ…。今私達に必要なのはズバリッ『情報』よ!! この鳥籠の外にいる、外部からの客観的な情報が欲しいわけ」

「…………………」


「────私が今電話する相手は、最も信頼できる…非参加者の、あの人……………!! 『情報屋』ってやつねっ…!」

「…『情報屋』………………?」



 ────ピロロンッ♪ ピロロンッ♪

その音が、プツッ────と、『応答音』で途切れた時。
最後にほたるはニヤリと笑みを向けた。



「情報が一通り手に入れたら。…動くわよっ、…モチのロン、殺し合いを終わらせるために…………。ね、小泉ちゃん…!!」


「…枝垂…さん……………っ」



電話口から雑音混じりの男の声が聞こえだした──────。






「…いや、その携帯…。おもちゃですよね。ていうか駄菓子ですよね。……なんで鳴るんですか?」


「…フフフッ!!! イッツ・ァ・企業秘密────!!!!」



 ●【わくわくスマートフォン】●

 タッチパネル風画面をスライドさせて当たりが出るとラッキー!!
 中に入ってるお菓子を出して食べられるぞ!!
 もちろん電話はできないぞ!!!

493『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:39:20 ID:WB4mfFLo0
………………
……………
…………
………
……



──【某所。】


──【某マンション。】



──【寝室にて。】



 ────ブブブブブブブッ

  ────ブブブブブブブッ
 

「うおわッ……!? …なンだよビックリさせやがって…………。ふわぁ〜あ………」

「……ヤクザ者は時間帯なんてお構い無しだからな……。俺が寝てると知らずに…」



「……はァ…、仕方ないか…………」



「はい、もしもし…────…、」


『もしもし!!! 私よ!!! あのしだれカンパニーのっ、あの枝垂ほたる!!!!!』



「……えっ??! ほ、ほたるちゃん…………?!」


『こんな時間帯にごめんなさいね。……分かるかしら? つまりはよっぽどの急用ってわけなのよ』

「……一体なんの御用で?」

『あなたの力…。是非とも情報を貸してほしいわ──』

「…うちは情報料高いよ」

『モチのロン、そんなこと重々承知済みだわ。………私も大盤振る舞い、うまい棒明太味、百五十本ってとこで良いかしら?』



「…いや逆に拷問じゃねェーのそれ? …まぁ、いいよ……。俺とキミの仲だからね。キミが納得行くまで遊びに付き合ってやるよ」


『……フフッ。あいにく、これは遊びではないのよ。……ともかく、久しぶりね──』





『────────────────戌亥くん』

494『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:40:42 ID:WB4mfFLo0
※この話に限っては、続きはwikiからお読みください。

ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/150.html


【1日目/F4/センター街/AM.05:01】
【駄菓子軍団】
【枝垂ほたる@だがしかし】
【状態】健康
【装備】わくわくスマートフォン@だがしかし
【道具】すっぱいガムx4@だがしかし
【思考】基本:【対主催】
1:駄菓子の力でバトロワを終わらせるわっ!!
2:小泉ちゃんの思い人…(?)『芹沢達也』さんに会う!!
3:戌亥くんありがとー!! また連絡ちょうだいね!!

【小泉さん@ラーメン大好き小泉さん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:芹沢さんと合流したい。
2:戌亥さんを信頼。

495 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:49:17 ID:WB4mfFLo0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①今更ながら宣言しておきます。
②ヒナまつり、わたモテ、トネガワ、ウシジマくん、ハイスコアガール。この5作は私が中学のころから愛読している本当に好きな漫画なので、キャラ再現度はかなりの自信があります。
③つまりは、この5作のファンなら間違いなく楽しんで読めると思います。自分で言うのもなんですが。

④さらにつまりは、それ以外の漫画キャラのエミュ度はもしかしたら低いのかもしれません。
⑤その為このロワを読んで頂けた皆様。「このキャラ口調おかしくない?」や、「こんな行動するわけないだろ!」と少しでも感じたら気兼ねなくご指摘お願いします。
⑥どれだけ前の話でも一切構いません。指摘後、即訂正に参ります。些細な訂正案でも構いませんので、違和感がございましたらお願いします。


【次回】
──彼女は書いた。『世界は必ずしもみんな平等とは限らない』

──彼女は書いた。『敗者と勝者が存在する』

──Perfect Girl Mishima Hitomi.


『Perfect Girlです。』
『古見さん親衛隊の活動報告書です。』…古見さん、堂下、ニワトリ、小宮山、伊藤光
の二本立て

496『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:44:26 ID:dhp0Q9MA0
[登場人物]  [[古見硝子]]、[[小宮山琴美]]、伊藤さん、[[殺人ニワトリ]]、[[堂下浩次]]

497『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:44:48 ID:dhp0Q9MA0

も・じょ【喪女】(名)[mojo]

「もおんな」とも。定義として、

①男性との交流経験が皆無。
②告白されたことがない人。
③純血であること。


ネガティブ思考で自虐的なことが多い。


「We love love love〜〜〜〜♪ マリーンズ♪!!!!──」

「──古見さん待てぇぇえええええっ!!!!!! 逃げられると思うなよぉおおおお!!!!! ストップ、ストップ───────!!!!!!!」


────一方で、喪女の対義語は、『美女』。


『本当にうちのコトがごめんなさい。古見さんもっと早く逃げて。お願い逃げて…』

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!???!?!?!!??」




 走る度に振り撒かれる髪の匂い。そして汗。
全力疾走で駆けぬける美女と、追い走る喪女(?)。
朝日が昇る河川敷にて、二人の女子高生による爽やかな青春の風が、そこにはあった────。

──……古見さんからしたら、そんな青春真っ平御免であろう。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
(だ、だだ誰か助けてください〜!!! ハァ、ハァ……。誰か〜…………………)

「いやていうか古見さん意外にも脚速いなおいっ! 是非にでもロッテの代走で契約してほしいくらいだよ……──」

「──でも、だからといって私は絶対逃さないからなぁあああああ!!!!! …代走がなんだっ、…俊足がなんだっ、うちの強肩田村捕手は捕殺率リーグNo.1なんだぞぉおおおおお!!!!!! うおおおおおおおおお!!!!!!」

「っ??!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」


この度行なわれている青春は、『捕まれば→即DEATH』という極限の鬼ごっこ。
ギコギコギコギコ…と自転車を飛ばす小宮山の片手には木製バットが。──言わずもがな、追いつかれた暁にはソイツで頭をグシャッ…である。
背後のチェーンの走る音に恐怖を感じながら、過呼吸気味に走るは古見さん。
何もかもが完璧すらも超越している彼女故に、流石は自転車でも追いつけない脚力で逃げ続けるものだが──…。
文字通りの【鬼ごっこ】開始から早くも三十分が経過。
彼女は身も心も、圧力鍋にかけたアイスクリームの様にベッチャベチャであった。



────姫(笑)は呟く。

「…すごい、今までにない何か熱い風を感じる…。なんだろ、プリ●ュアみたいなさ。魔法少女というか……、私、今主人公になってる気分だよ……っ! 伊藤さん………」


────そして姫は妖精さん(笑)に語りかける。

「全員参加者をやっつけたらさ、…智樹くんと…念願の……──rendez♡vous……!! そう思うと、ワクワクが止まらないんだよっ!! 最高の気持ちだよ!!!」

『(…rendez♡vousにかなりドン引きした。)コト、ふざけるのはもうよして。最低なことしてるよ』

「もう〜っ!! 妖精さんったら!! 私は『コト』じゃないってば〜〜!!! 私の本来の名前は『シンデレラ・オブ・5103・ナイト《闘うお姫様^^》』!! 普通の少女じゃもうないんだよ〜!! うおおおおおおおおお!!!!!!!」

『(……どうしよう、全く面白くない。真顔になっちゃう。引き笑いすらも起きない。これはもう素直に『ドン引き』だ。)…………コト…』


────最後に姫は、自身が乗る白馬(笑)をチラリ。爽やかな笑みを浮かべた。

「まぁでも私一人の力じゃここまで全力疾走はできなかったけどね。……全ては君のおかげだよ……、私の白馬…………!」

『馬? 自転車だよそれ。他人の』

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」

498『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:45:10 ID:dhp0Q9MA0
「…〜〜もうっ!! 伊藤さん私の世界観ぶち壊す発言しないでっ!!!──」

「──ほらよく見てよ!! 綺麗なユニコーンでしょ!! …脚も長くて……、目つきもどことなく智樹くんの鋭い目に似ていて……。おいおい、君は智樹くんの生まれ変わりかっ!!! ──…ってね!」

『(…いや死んでないから、智樹さん。)…ごめんなさい、コト係の私が責任持って謝ります。本当にごめんなさい古見さん………』

「〜〜〜〜〜〜〜∆∌∆∌∈√∃∑∌∬∏‰∈∂∈√∃∑∆∌∈√∃∑∌∬∏‰∈∂∌∬∏‰∈∂〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」
(もう…やだ…………。疲れた…きつい……〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!)


────そして、姫(笑)は敵を追いかけて行く……………。


【理想】
→『素敵な…笑顔!』
私は夢見がちな普通の女の子っ♪
だけど今日で冴えない自分は卒業だねっ!!♪
何せ、その『夢』が叶うのかもしれないから……………。
王子様《智樹くん》と誓う夢を果たすため、魔法少女になった私は敵を全員倒すのっ!!


【現実】
→『鬼の形相』
「うおおおおおおおおおおおっ!!!!!! 待て古゛見゛さ゛んんンんんんんんっ!!!!!!!!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!!!!!!!」


……


 小宮山琴美…───。
若干変人な部分はあったものの、出会い当初は優しかった彼女が何故【マーダー】に豹変したのか。
──そんなこと今の古見さんは考える余裕もなくどうだって良かったのだが、とにかく彼女は必死に逃げ続けた。
「ハァ…ハァ…」……破裂寸前の肺に、頭のてっぺんから爪先まで真っ赤な全身、そして息切れ。
スタミナが擦り切れる中、古見さんは思い続け、そして願い続けた。
────只野くん………、只野くん………。とヘルプコールが心中何周も駆け巡る。

ただし、マラソンには必ずしもゴールというものがある。


「………〜〜…。…ぁあ、あぁぁ〜〜〜〜っ!!!!! もういいっ!!!! ──これでオシマイっ、喰らえ古見さん!!!!」

『──あっ!』


 痺れを切らした鬼が、ぶん投げた物は、支給武器であるイチローのバット。
大リーガー直筆サイン付きの逸品は贅沢にも投げ飛ばされると、


 ドボォッ

「〜〜〜〜!!! ────きゃっ!???!」


ミット────と言うよりもミート《肉体》。
古見さんの背中目掛けてきれいに吸い込まれていった。
その硬いアオダモが頭部に当たらなかったことに関しては幸と言えるだろうが、衝撃故に古見さんは転倒を余儀なくされる。


「…………いッ…………………………………──」


「──…………ぁっ…………!!!」


「…ハァハァ──」


「──やっと…ゼェハァ………。やっと追い付いたよ古見さん…………。『バット投げとか早●のリスペクトかっ!!』 ってツッコミは禁止カードだからね…………。ハァハァ、あのプレイはロッテファンからもタブーみたいなものだからさ………………」



そして、古見さん同様静止する一つの影。
真夏の日差しで、その妖影が揺れる中、自転車から降りた鬼はバットを拾い上げる。

499『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:45:33 ID:dhp0Q9MA0
『(まるで皆知ってて当然のようにロッテネタを振ってきた。さすがコト。言動揃ってドン引きだ。)……………あぁ、こ、古見さん…──』

『──コト…。いい加減にしないと私も怒るよ。人に迷惑だけはかけない優しいコトだったのに…(…あ、普段から迷惑者の部類だった…。)…どうしてこんなことしてるの……』

「……ハァハァ…………。ハァ……、その迷惑が、……正義だったりすることもあるんだよ伊藤さん………………」

『(……あ、これ多分「例えるなら〜」に続いて、過去の迷惑かけた偉人の知識披露するパターンかも。)………………そんなわけないでしょ。怒るよ、ねえ』

「……ハァ、………例えるなら……、1997年の伊良部のメジャー挑戦に、そして例えるなら早川あおいのプロ入り──……パワプ●のね。後例えるなら…………──…、」

『(やっぱり。)…………』


 何だか有名人の名を挙げるのが止まらなくなった小宮山だが、彼女の言葉は一切古見さんには入ってこなかった。
綺麗な膝に生じた擦り傷に、打撲痕がにじむ背中………。一歩、また二歩と眼鏡が白く光る鬼の姿。

気がつけば、鬼は自分の目の前にて金棒を振り掲げている。
今にも振り下ろされそうなそのバットは、ペラペラと夢中で喋る「例えば〜〇〇」の乱射により辛うじて静止されていたのだが、
──圧倒的絶望と、未知たる『死』という体験を前にしたゾワゾワ感が古見さんを支配していた。


「………………っ………………………」


(なじみちゃん……。只野、くん………………)



「ハァハァ…古見さん」

「………ひっ!!」

「…小便は済ませたかい? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ…、…………あーもう忘れた。とにかく、もういいよね?」

『……コトッ』

「じゃ、いくよ………。ハァハァ…、全てはロッテと智樹くんの為にっ………。………夢の為には犠牲がつきものだよ…」

『コトッ!!』


「おやすみなさいませ、古見さん」


ビュッ────と、無慈悲にも風を切るバット。
直前、今際の古見さんはノートとペンを手に取り何かを書こうとした様子だが、──これは命乞いを伝えたかったのか。
──それともダイイングメッセージか、────只野への遺書か──。


白球を弾き返す為だけに作られた硬いバットは、ガキンッ────と一発。

頭蓋骨を力いっぱい粉砕して、一人の参加者の命は尽きていった──…………。







古見さんノートには一言。
シンプルにこう書かれてあった。





────────{{えっ…}}

、と。





「…えっ」

「え?」


『……えっ(…なに…──)』

500『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:45:47 ID:dhp0Q9MA0
 Sun glasses…。
バットが振り下ろされた先に居たのは、決して古見さんではない。


彼女の声にならない叫びが聞こえた──とでもいうのか。
振り下ろされる直前、古見さんの前に立ち塞がり、──そして打撃音を自身の頭で受け止めた参加者が一人。



古見さんも、小宮山も。
そして当然ながらスマホ越しの伊藤もが知らない、その彼……──いや、その『漢』の名は、



『(──この人《漢》………っ!! 誰…!?)………』



 ギギギ………

  グギギ……………



「ぐぅっ………!!!! があっ………!! …ぎぃいいいっ……………………!!!!!」



「「『えっ?!!!』」」




──────男。オトコ。漢が燃える。
──────それが運命(さだめ)よ、【漢-otoko-】。


T京大学ラグビー部元主将・『堂下浩次』。その人であった。




「……いや………。いやいやいや……、おかしいって………………。なんなの……。いや誰だよっお前はァアっ!!!!?」

「ぐうっ……………!!! うぅ、うぐっ…………!! くう………………………っ!!!」

「はぁあっ??!!!」


 突拍子もなく現れた救世主に声を荒げる小宮山。無理もなかった。
ただ、彼女のアタフタ震えるツッコミは堂下という漢には一切届いていない。
頭蓋骨にはヒビが入り、急速な脳出血。
外傷からツーーッ、ダクダク…と鮮血がこぼれ落ちる堂下の顔は見たままに真っ赤っか。
ワナワナと震えながらと堪える歯の動きは、それはもう想像も絶する激痛であっただろう。

────だが、しかし。
堂下という『漢』が小宮山の言葉を無視した理由は痛みなんかではない。
漢の血走る目からは、熱い結晶液が漏れ出ていた。


「…………白刃取り…………っ。それを…やるつもり…………だったが………、…ぐうっ…………………!! ミスっち………まったな…………………」

「は、はぁ??!!」

「はぁ…はぁ……………。ぐうっ…………。お、お前…………っ。メ、メガネ娘……………。聞かせてくれ……っ。──『スポーツ』は………好きか…………?」

「ヒッ!!? す、スポーツ…………?! わわ、わ、私は野球が好き…だけど………」

「…野球………だとっ──────?! はぁ、はぁ…………──」

「──うっ…、うう………、ぐうぅうっ…ぃぎぎぎいっ……!!!!!!」

「ひ、ひぃい!!!!」

501『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:46:02 ID:dhp0Q9MA0
『野球』という単語が漢には逆鱗だったのか。
小宮山の言葉を聞いた途端、堂下の目つきが鋭くなり始めた。
見ず知らずの男、とはいえ、奴の尋常じゃない睨みと、圧。そして「な、何で倒れてすらいないんだ…」という不可思議さ故に、小宮山はビビり散らすしかもうできなくなっている。

無論、堂下の圧に圧倒されたのは、この場に居合わせた他の者達も同じ。
膠着状態の古見さんと、「(…あのコトを借りてきた猫みたいにするだなんて………。この人、すごい…)」──だなんて開いた口が塞がらない伊藤と。

そして、遅れて駆け付けてきた殺人ニワトリと。


「あ、アニキっ??!! …テメェー何しやがるんだこのアマァァッッ!!!!! ぶち殺すぞゴラッ!!!!」

「ひいっ!!!!!!」


ナイフを振り回しながら接近してくる殺マスクの男……。
そのパッと見で分かる超危険人物の乱入に、小宮山はすっかり戦意喪失をしていたのだが、──殺人ニワトリに構わずと、堂下は怒りの言葉を発した。

バットをギュッと握りしめて────。


「ひ、ひぃいっ??!!!」


「ふざけるなよお前………………っ。野球の……どこ…が……っ、スポーツなんだ……………」


「へ?? は、はひぃ…??!!」

「あ、アニキっ……………?!」


「…あんな……二時間も……試合を…して、選手の……………大半…がっ………ただ立ってるか座ってるかだけの…………。何が…スポーツなんだっ………………!! あんなのは………スポーツなんかじゃないぃっ……………………!!!」

「へ、ひっひぃぃ…………。論点………ソ、ソコでふか…………?!」


「俺は……はぁ、はぁ、…最大に怒っている…っ。過去一番に…キレてると言っても…………過言じゃねぇ……………っ!!!」

「ひいっ!!!!!!!!」

『(す、すごい。コトが…臆している…っ!!)…』


ジリジリと交代していく小宮山。
戦況的絶望と、堂下からの圧迫感からすっかり手からはバットがこぼれ落ちていたのだが、──地面にバットが着地する音は聞こえない。
漢が握りしめる木製バット。
そいつはミシミシと音を立てていき、やがてヒビが生じる。


 ──ピシッ


「ひひゃあぁ…っ!!???」

「……いいか。スポーツっていう概念は……………、チーム全員が…互いにっ…!! 汗を流しぶつかり合い…、相手にリスペクトを持ちつつ……全力を出す……………競技のことだ……………っ──」

「──それこそがスポーツ……………!! 熱き魂のぶつかり合い…なんだっ……………!!!」


ちなみに、木製バットの硬度は公式に5,500kgf/mm2。
これは身近なもので例えると、iPhoneやリンゴと同等の硬さなのだが、『怒れる筋肉漢』にそんな細かい事は関係ない。


「分かるかっ…………!! 分かるかっ、メガネ………………!!!」

「え、ええ、ぇぇわ、まったく分からないす…………」


「そしてスマホ画面の二つ結い娘も………っ!!!」

『え、私もっ?!』

502『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:46:18 ID:dhp0Q9MA0
五本指と掌の鍛え上げられた毛細筋肉繊維が急激に膨張し、強靭な握力へと変換される。
憤慨と、悲哀と、そして何処か満足気さと。

色々な物が籠もったその手の圧力を前に、握りつぶせる筈のないバットはとうとう──、


「つまりはラグビーだっ────…………………!!! ラグビーをすればお前も……、変われたんだっっっ────……!!!!──」

「──…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!」


 ────バキッイイイッッッ、バキバキバキバキ…


「ひいいいいいやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!???!??!!!!!!」



 ──バキンッッッッ────。



──男気注入。


──とうとう、バットはただの木片と化し、

──それを合図に、小宮山は猛ダッシュで敗走へと勤しんでいった。


「…うわあああああああああ!!!! ぁぁぁぁぁぁぁ…………ひゃぁぁぁぁ………………」

『コ、コト!?』



「…あ?!! 待てやコラ!! アマァッ!!!!!」


隙だらけの背中を見せ逃げる小宮山に、負けじとニワトリも追う素振りを見せたが、単純思考な彼には珍しく行動を一旦止めた。


「…って、ンなことしてる場合じゃねぇ………!!!──」




「──あ、アニキ…………。堂下アニキ………!!!」




渋谷河川敷で発生した、地獄の鬼ごっこ。

朝焼けが包み込む中、あとに残されたのは。

503『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:46:33 ID:dhp0Q9MA0
ほぼ放心していた古見さんと、




「………ぁ、あ……………………」




殺人ニワトリと、




「ぁああ、ああっ……。アニキ………………アニキィイ…………………………」



────ゆっくりと、どこか満足げな笑みで倒れていった屍の。



 バタンッ……………。


「…………………」





三人のみであった。





「…いや……待ってくれよォ………………。目開けろや…………──」


「──…ああああああぁぁぁっ!!!!! 堂下アニキィイイイイイ───────────ッッ!!!!!!!!!!!」



【1日目/G4/河川敷/AM.04:33】
【小宮山琴美@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】恐怖(大)
【装備】なし
【道具】スマホ
【思考】基本:【マーダー】
1:やばい『漢』(堂下)から逃げる…。
2:優勝の願い事でロッテを優勝させる。自分を黒木智樹くんが惚れるような女にさせる。
3:伊藤さんと通話しながら行動。

【エリア外】
【伊藤さん@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【対危険人物→小宮山琴美】
1:コト(小宮山琴美)の暴走を止める。ついでに解説担当。
2:あの漢は一体……。

504『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:46:49 ID:dhp0Q9MA0



 ドン、ドン、ドン、ドンッ

 

頭部損傷に寄る出血多量────具体的な死因は、以上の通り。
後頭部から血溜まりが伸び、血濡れの顔面と白目を青空に向ける“漢”堂下浩次。
見知らぬ美女を損得勘定抜きで助け、そして犠牲となった英雄は、こうして全身の機能を停止していった。
彼は、バットで頭を一撃され、死にいったのだ────。


「生きろッ!!! あぁあああっ!! 死ぬな、死ぬな死ぬな死ぬな……!!! 早く直れやこのクソがッ!!! アニキぃいい!!!!!」

「…………!! っ、ぁぁ………………」


 だが、そんな死を認めてたまるものか──と。
漢の熱心な崇拝者である殺人ニワトリは、懸命な『心臓マッサージ』を続けていった。


 ドン、ドン、ドン、ドンッ


スーツを破り、大きくはだけた胸筋に向かって行なわれる強打の幾多…。
人名蘇生の基礎すらも知らない、帝辺高校問題児のニワトリ故に、その心臓マッサージはメチャクチャな手法であったが、それでもニワトリは心臓圧迫を辞さなかった。

絶対死なせない、

死なせるわけにゃいかない、

と。

しかしニワトリの必死さも虚しく。彼を嘲笑うかのように後頭部からは流血が止まらない。


「あぁもうクソがっ!!! マジやべぇ、クソやべんだよバカ野郎ッッ!!!! 生き返れ、生き返れやッ!!!!!」


もはやマッサージ如きでは話にならないと思っただろうニワトリ。
手を止めた彼は、デイバッグからインシュリン注射を取り出し、天高く掲げる。
無論、針の行く先は胸部。
ブスリッ────と、もはや刺殺する勢いでめいいっぱい心臓を串刺し、内容液の注入を開始。


「………………ぇぅっ……………!!」


針が思いっきり肉に食い込むその光景は、憔悴しきった古見さんでさえ目を逸らすほどのものだった。




 ドン、ドン、ドン、ドンッ
────心臓マッサージの再開。


「アニキ………、アニキィッ……。あんた言ったよな……。『もしもの時はこいつを使え』って……………!! 俺、忘れてねェからッ……。覚えてたからよッ……………!!!」


 ドン、ドン、ドン、ドンッ


「そ、それにィッ………。あんた言っただろ…言っただろうがッ……!!! ここから出た後は………、参加者全員で草ラグビーをするって……………。ニワトリ、お前と汗を流したいって………………!!!!」


 ドン、ドン、ドン、ドンッ


「だから死ぬんじゃねェよタコッ!!!! アニキ…アニキがいなくなったら、俺と…古見様はどうすりゃ……、ぐっ………!!! どうすりゃいいんだよォオオ───────ッ!!!!!」


 ドン、ドン、ドン、ドンッ


「答えろ、答えろよッ!!!!──」


「──アニキィイイイイイ───────────ッッッ!!!!!!」



 ドン、ドン、ドン………

505『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:47:05 ID:dhp0Q9MA0
「……頼む。答えてくれよ………、アニキ………」



後頭部の血溜まりが、涙するニワトリの膝下を赤く染め上げていった。



「くっ……………。俺は…無力だ…………。一人じゃ何も出来ねぇチキンオアビーフだぜ…………。畜生ッ…、畜生ォッ………!!!!」

「…………………っ」

「うぅ…………。もう……仕方ねぇ……………。──おいっ古見様!!!!」

「……!!」


 唐突に名指しされ飛び上がる古見さん。「本当は避けたかったが…仕方なかった」──と後にニワトリは語る。
というのも、堂下アニキの死を受けて、激しいパニックのニワトリ脳内はこの諺が支配していたのだ。
『二人集まれば文殊の知恵』。
今の状況にて要約するならば、「悪いがお前も救命に手伝え。つまりは、自分はマッサージしているから、古見様は『人工呼吸』をしろ」と。
ニワトリは色んな感情が籠もった震える声で、古見さんに命令した。


「…本当は、こんな可愛くてやべー美しさの古見様にやらせたくねんだがよ…………。あいにく…ッ、俺はホモじゃねェッ!!!」

「…………っ!?」

「……じんこーこきゅー、って要はキスじゃねェかよッ………。俺がもしアニキにそんな真似したら………、好きになっちまうッ…!! 男としてではなく、『一人の人間』として愛しちゃうんだよッ……………!!!!」

「……ーーっ…」

「そんなのアニキに失礼だから……。だから頼むッ!!! ホモを呼んでくるか、それとも力を貸してくれッ!!!!──」


「──ひっ、ぐぅ………!!! 堂下アニキに……じんこーこきゅーを………。頼む、してくれ……ッ。この通りだ古見様………………!!」

「……………………っ……。……」


古見さんとニワトリとで、面と面が向かうことは無かった。
何故なら、ニワトリが死体の胸上でズリズリズリィ──と土下座をしているのだから、合わせられる筈がないのである。
男同士でチュゥはしたくないと、殺マスクで口を覆う彼は話したが、それは女子である古見さんとて同じ。
断っても良かった上に、仮に人工呼吸をやろうと考えていても、こうも人工呼吸=キスを強調されてはやる気など削がれるものだった。


だが、断らない。
それは断る勇気がなかったとかそういう物ではなく、やらなきゃいけないという固い意志が古見さんにはあった。

──自分を助けてくれたこの人を、──見捨てられない…………。────そんな想い。


「……………っ!!」

──{{分かりました。}}



「…!! あ、ありがてぇ………っ!!! ありがてぇぜ、すまない古見さん…ッッ!!!!」


心優しく、他人の痛みは分かる気持ちの彼女だ。
何のためらいもなく、まずは一呼吸。


「…………………すぅ…」


死体のそばに跪き、長い髪をかきあげると古見さんは口元にチュっと。


「…………っ」


天使の息吹を堂下へ注いでいった────。

506『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:47:21 ID:dhp0Q9MA0


……
 “浩次。何やってるのよ。”

 “あなたはまだここに来ちゃいけない。早く戻ってラグビーをしなさい。ね。”


「………………お袋……」
……




「はっ────────」


「「………………っ!!!」」



しかし流石は見る者全てを惚れさせる特性の古見さんというわけか。
その艷やかな唇が重なった次の一瞬。
まだ息一つも吹かずというのに、堂下は永い眠りから目を覚ました。




「……ッ!!!! あ、アニキ…………。アニキィイイ!!!!!」 「……っ!?」


「こ、ここは………………。──ぐっ!!!」


 蘇生した先にて視界に広がったのは、驚きの表情を隠しきれない美女と、そして犬のように飛びついてくる弟分の姿。
感涙を撒き散らしながら抱き着くニワトリの感触と、ズキズキ鈍い頭部の痛覚を感じながらも、状況整理を試みる堂下だったが、
その点は流石帝愛の理不尽面接を通過した堂下だ。
自分が息絶えたこと、自分が蘇生を施されたことと、そして生き返らせた人物がかの二人であることを瞬時に理解し、そっとニワトリの頭を撫でた。


「……フフッ………。お前ら…………」

「アニキィィィイイ〜〜〜〜〜〜!!! うわああああんアニキィィィィ〜〜〜〜〜!!!!」


「…悪い。………迷惑、かけたなっ………、ニワトリ。そして、…う、美しすぎる貴方様もっ…………。…本当に有難う…………っ!! 有難う………っ!!」

「礼はこっちがしたいくらいだぜぇ〜〜!!! アニキぃ〜〜〜〜〜〜!!!!! おぉぉ〜〜〜〜ん………!!! おおん〜〜〜!!!!──」

「──あ、紹介するぜっ。この美女の名前は古見様っていうんだ…アニキ!! アニキは古見様のチュー一発でザオリクされたんだよっ!!! マジやべーだろ?! おい!!!」

「……あ? …古見、さま……………?」

「……!」
→{{古見硝子です。…本当に申し訳ありませんでした}}

「…………。………あぁ…、ああっ!! 気にしないでくれ、古見……様!!! とにかく古見様も…本当に有難う!!!! 有難う、みんな………………っ──」



「──…いや、待てよニワトリ。お前…、俺が死にかけてるときに済ませたのか…………? 彼女と、自己紹介を………」

「あ。…………………──」



「──まっ、いいじゃんそういうの!! なぁアニキ!!! ここで会ったのも縁ってヤツだぜ!!! 俺等で古見さんを守ろうじゃねぇか!! おい!!!」

「だなっ!!!」



 ややギクシャク感は発生したが、ともかく。
古見硝子という存在が呼び寄せた破天荒二人組。
そして、現在殺し合い下に置いて新結成された『古見様親衛隊』。

彼ら凸凹三人組がこれから一体どんな運命を歩むというのか。
加えて、古見様親衛隊はどれだけ勢力を拡大していくのだろうか。
無論、新生古見様親衛隊の行く末は、今はまだ神のみぞ知る状態に留まっているものだが。


『一つ』だけ、はっきりと断言できることがある。

507『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:47:36 ID:dhp0Q9MA0
「……あぁ〜〜〜っ!!! にしても鬱陶しいな……っ、頭の痛み……」

「あっやべぇ!!! だ、大丈夫かよ?! アニキ!!!」

「………。……面倒臭ぇけど……やるっきゃねぇよな………」

「……………?」
→{{な、何をですか?}}



────それは、堂下浩次という漢の『最強伝説』に1ページが加わったという事だ。


「…悪い、ニワトリ。そのナイフを貸してくれ」

「え? まぁいいけどよ………。一体何に…──…、」

「──なぁっ!?!????」 「!!????」


 堂下は「ぐうっ…」と強く歯軋りをしたかと思えば、鋭利な刃先を自身の頭部へ滑らせる。
溢れ出る鮮血に、とんでもない激痛。
切れ味よくスーーッと頭皮に切れ込みを入れた彼は、頭髪を両手で力一杯握りしめると─────ブチブチメリメリメリメリィッ、ブチィッ。
己の頭皮を引き裂いて、赤黒い頭蓋骨を大胆に露出し始めた。


「T京ぉおお…ぉぉ……ッ、魂ぃいいぃい………………ッ」

「………うぷっ!!!? げえ…」 「……ぃぃぃ、……ぇ……………!!!」

「いぎぎぎぎぎぎぃいいっぎぎぎいいいいいいっがああああぁぁぁぁあああああっ」


鼻息荒く、歯から血が滲むほど『気合』のみで痛みに堪える堂下は、デイバッグからアロンアルファを取り出すと、ヒビ割れた部分に直接注入。
メリメリメリ………。接着剤が乾くのを待たずして、分断された頭皮にもアロンアルファを塗り込むと、無理矢理に繋ぎ合わせていった。

これで『応急措置完了』、と言いたげな様子でふぅ〜と息をつく漢・堂下。
さすがのニワトリとはいえこの漢っぷりはドン引き以上の大ゲロを吐くこととなったが、苦悶の二人なんか堂下の目には映っていない。
血濡れの顔をタオルで拭き取ると彼は二人に一喝。


「…フゥ、ハァハァ……。大丈夫だ、『身体に受けた傷はすぐ直るが、心の傷はずっと残る』……偉大なる名言だからな………っ!!」

「……あ、アニキ……………」 「…→{{…え。どういうことですか?}}」


「うっし行くぞ!!! ワンチーム…、古見様親衛隊活動の第一歩をな……!! 休んでる暇はないぞ! うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「……お、おお。おおお!!!!」 「………………〜っ」



ラガーマンとして特攻し続けた彼の強靭な肉体、そして精神を物語る────【堂下浩次最強伝説】の伝記。
その1ページがまた追記されるのであった。

508『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:47:56 ID:dhp0Q9MA0



………
……



「それでは………三、二、一……………──」



「──ミュージック、スタート…………っ!!」


 サングラスをスチャッと。
堂下は上記の動きを見せた後、それを合図に音楽が鳴り響いた。

ニワトリのSpotifyから流れるは、まるでジムで流れているようなアップテンポの曲。
低音が地面を震わせ、ビルの窓ガラスが共鳴する。


 ♪ドゥンッ、ドゥクドゥクドゥンッ
 
  ♪ズンチャチャ、ズチャ…


「……クククッ」

「ははは、はははは…!! アニキ!!!」


「あぁ行くぞっ…! 弟よ!!」

「押忍ッッ!!!」


男二人はポキポキと指を鳴らし、一歩前へ踏み出す。


渋谷全体に響き渡るこの曲────。
この爆音の正体は何なのか────。
そして、今ここで何が始まるのか───。

荷車にて古見さんがワナワナと震える中、渋谷の朝に、ただならぬ空気が満ちていく。



唯一の常識人、古見さんがその手に持つ──いや、持たされた本のタイトルは────、


──────三嶋瞳著『私だから伝えたい ビジネスの極意』だった。

509『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:48:18 ID:dhp0Q9MA0

……
………

 ♪ズンチャッチャ、チャチャチャ、ダダン

  ♪ズンチャッチャ、チャチャチャ、ダダン

   ♪ズンチャッチャ、チャチャチャ、ダダン

 ♫ズンチャチャン↑、ズンチャチャン↑



────【FIRST TAKE】

【♫『Perfect Girl Mishima 👁️ Hitomi』】

【堂下浩次 feat.殺人ニワトリ】

ttps://youtu.be/4Bh1nm7Ir8c

-------

510『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:48:34 ID:dhp0Q9MA0
♫(三嶋書いた、情熱なくして仕事はなーしッ!!)

♫(三嶋書いた、仕事には必ず熱意と情熱が存在するゥッ!)


♫(三嶋言った、そのビジネスの頂点は自分自身ッ!! そうShow the Temple!!)

♫(彼女が法であり世界の支配者ッ、俺等はもはや三嶋先生にビビるしか無い愉快な心配者ッ)


♫(勝ち抜きたいな渋谷で死闘!! 君と見たいなお月見しよう!! 仲秋!! 郷愁!! 死臭?! I LOVE YOU!!)
♫(みんな持ってるコモンセンス!! 薬で打ってるバリーボンズ!! 俺達ゃ踊るぜコミダンス!!! 三嶋の本は神センス!!!)
♫(精神崩壊!! トネガワ新田マジ惨敗!! オーライ!! まだまだ諦めては無い!! イクラを食おうゼ、すしざんまいッッッ!!!)


♫(参加者全員崇める準備はいいか?) ♫(生還するため運気はほしいか?)

♫(さあみんな天に手を掲げて) ♫(そして今こそ読めよ、そして刮目、瞳の本ッッ!!!!)




♫(恐れるなぁ〜〜、驚くなぁ〜〜)



♫(三嶋ッ!!!)

\Three Island!!/


♫(瞳大先生ッ!!!)

\Great Teacher EYE!!! four〜!!/




♫(その気合と〜〜、魂を〜〜…──)


♫(──今ッ!!!!!)


♫(──ささげようぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお…!!!!!)





シン………。


「─────Hitomi, lolipop Perfect Girl」

511『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:48:53 ID:dhp0Q9MA0
♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)

 ♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)

  ♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)



「─────Hitomi, lolipop Perfect Girl」


♫(We〜〜〜〜、Living 渋谷!!!!)

♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)


「─────Hitomi, lolipop Perfect Girl」


♫(We〜〜〜〜、beliving new world!!!!)

♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)





「─────Mishima Hitomi, 【Perfect Girl】」






「「…うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」






「「三嶋瞳大先生、バンザァァァァァァァァァァイイイイイイイッ!!!!!!! バンザァァァァァァァァァァァイ!!!!!!!」」










スラスラスラスラ…

「…………………………?」
→{{宗教…?}}




【1日目/E4/河川敷/AM.05:00】
【古見様親衛隊〜よっしゃあ漢唄〜】
【古見硝子@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】膝擦り傷(軽)、背中打撲(軽)
【装備】コルク入りバット
【道具】古見友人帳@古見さん
【思考】基本:【対主催?】
1:なんだか漢達に振り回されています……。
2:只野君たちに会いたい…。
3:小宮山さんに恐怖…。

【堂下浩次@中間管理禄トネガワ】
【状態】背中出血(大)、頭蓋骨損傷(大)
【装備】なし
【道具】どこかから盗んだ荷車、本『私だから伝えたい ビジネスの極意』
【思考】基本:【対主催】
1:三嶋瞳大先生にお会いして、忠誠を誓う。
2:殺し合いを終わらせる。
3:Never give up。ニワトリ、古見様と共に最後まで諦めない……っ!

【殺人ニワトリ(山中藤次郎)@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】サブマシンガン、100均ナイフ
【道具】拡声器
【思考】基本:【対主催】
1:堂下アニキに一生ついていく!!
2:新田…ぶっ殺すぞっ!!
3:古見様、お美しい…………。
4:みしまひとみって相変わらず誰だ??!!

512 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:52:07 ID:dhp0Q9MA0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①平成漫画ロワではダンジョン飯を除いて全作品同一世界という設定です。
②大半の作品が現代日本を舞台にしているので、異世界設定にする意味はないと考えたためです。
③つまり、平成漫画ロワは『ダンジョン飯 異世界編』とも別名がつけられますね。

【次回】
『古見さん親衛隊の活動報告書です。』は明日20時から21時のどこかで投下。

513『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:01:54 ID:Lz7gUJNw0
[登場人物]  [[古見硝子]]、[[堂下浩次]]、[[殺人ニワトリ]]

514『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:02:08 ID:Lz7gUJNw0
『バタフライエフェクト』……。

あの時、小宮山さんに襲われなければ、こうして二人と出逢うことはなかったでしょう。



 只野くんへ。
この度、古見友人帳に新たな二つの記名が…!
バトル・ロワイヤル下において、私に友達が二人できました…!
一人は堂下浩次さん。【────堂下さんは、熱血男です】
もう一人は殺………、ニワトリくん。【────ニワトリくんは、殺マスクです】
二人とも、少し癖が強い方々なのですが、とても優しくて勇敢で、そして“夢”に向かって邁進を続ける──漢の鑑といった彼らでした。
その、堂下さん達が抱く“夢”…なんですが、参加者の三嶋瞳社長(?)に会うことを強く渇望しているそうで、私は今彼らに振り回されている……といった形です。

三嶋…瞳ちゃん……。
どのような方かはまだ分かりませんが、ここまで来ると私も会って友達になりたくなってきました。
──…もしかしたら、只野くんと一緒に行動しているの、かも…………?



…只野くん。

貴方が今どこに居て、何をしているのか。
それが分からないだなんて本当に辛くて、苦しくて、堪らない気持ちです。
友達がいなかった私に、最初に声をかけてくれて、──そして唯一無二の親友になった只野くん。貴方へ。
この広い街の中で貴方を見つけ、──それとも、見つけられることを切に願っています。



……お願いです。

只野くん………………。

助けてください……。





 一体どうやったら、彼らを落ち着かせれるのか…。

私に教えてください……………………………。





「三嶋ァ!!!! 三嶋三嶋三嶋三嶋三嶋三嶋…三嶋瞳──────!!! いるんなら出てこいやっ!!!! アニキが貴方様にお会いしたいようだぜ〜───────っ!!!!!」

「三嶋大先生ェ───────!!!!! 私ですっ……!! 私っ…!!! 貴方様の熱烈な信者であるこの堂下めに………、どうかそのお姿をぉおお──────!!!!!!!!!」


「〜〜〜〜…………………っ!!!」




 三嶋ちゃんの本で山積みの荷車にて。
…私は今や震えるしか行動できません…。

この状況…、会話が苦手じゃない一般の方なら、普通どう行動しているのですか……?
私は……どうすればいいのですか…………?


ヘルプ、ミー……。

…只野くんっ………………。

515『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:02:23 ID:Lz7gUJNw0



『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-A』




 バババババババババンッ──────


 コンビニの自動ドアガラスに走る、無数の銃弾跡。
その後、


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」」

「………〜〜〜〜〜〜っ!!!!???」


 ──ガシャァァァアアアアンッッッ!!!!───────


ガラスを粉々にタックルして、ダイナミックに堂下さんらは入店。
荷車を激しく揺らし、商品棚をたくさん倒しながら、堂下さんはコピー機へと全力疾走するのでした……。


「よし……っ!!! ニワトリ、金は俺が担当する……!! とどのつまり、俺の百円玉が尽きるその時まで………、お前はコピーし続けろ………っ!!! 灰になるまで……!!!」

「押忍ッ、大蔵省ッ!!! 俺の力の見せ所だ!!! コピーしまくって…行く末は……、コピーしまくるぜぇ!!!!!!」

「あ、それと。古見様………!!!」

「……っ!??」

「貴方様も是非、お力を……っ!! 身を粉にして玉砕する我が弟に………。声援をどうかください…………!!」

「………っ!!!? ………………──」


「──………が…ん、…がんば………ががば…………──」



「──…がばばばばばばっ、ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば…」


 ──ガーッ、シュバババババババババババババババババ…………


「おおっ!! 古見様の応援が通じてか、大量印刷が止まらねェ〜ぜ!!! まじやべぇ!! だははははっ!!!! ウケる!!!!」

「まるで確変……っ!! パチンコの…、確変………!! 喝采だっ!!! 沼が泣いてるぞ…っ!!!」



堂下さん主導のもと、ニワトリくんが印刷しているものは、…『新田義史さん』の顔写真です。
慌てた様子でカメラを遮ろうとしている、その表情の新田さん。写真下部には『この顔見たら110番。笑 こいつが新田だ!!!!』という赤い文字が……。
取り出し口から溢れ出てくるA4サイズの新田さんの波は、まさに大洪水級でした…。


「よしっ……!! もう十分だろう」

「ぁああ?!! アニキ、まだ足りねぇよ!!! もっともっと印刷して、参加者共に新田の恐ろしさを知らしめねェと……──…、」

「…いや聞け。…お前な…、どう思う………? この新田の山を見てさ……………」

「…あ? ………。……──」

516『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:02:34 ID:Lz7gUJNw0
「──確かにバリきめぇな!!! うしっ、ンじゃばら撒くぞぉ!!!!」

「ああ………っ!!!」


二人は手一杯に新田さん手配書を抱えると、たちまち外へ。
両手を大きく広げてバサッ──と。


不幸にもその時たまたま、ものすごい強風が吹き荒れたので、遠く広く。
何百枚にもなる新田さんは、渋谷中へと、夏空を舞い上がるのでした………………。

517『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:02:51 ID:Lz7gUJNw0



『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-B』


 ガラガラガラガラ…。
荷車を手押しする熱血漢二人。
渋谷駅近くに来た折、堂下さんらは何を思いついたのか。唐突に服を脱ぎだすと……、


「………………っ!??」


「…クククッ……。さすが弟分。俺と考えることは一緒だなっ………!!」

「あたぼうだ!!! それが兄弟ってモンだぜ。一連たくしょー二人っきりの〜〜♫ 運命きょーど一体〜!!!」

「よし!!! 行くぞっ…!!」


唯一肌に身に着けている、パン……、…下着に……それぞれ『三』『嶋』と筆で書いて、線路内に侵入しました。


「「うぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!──」」


「──古見様!! 俺等をスマホで撮ってくれや!!! あとでツイッターにあげるからよ!!!」

「はい……っ!! ピース………!!! にいっ!!」


「………………………〜〜〜〜〜…………!!(ガクガクガクガク」


 ────パシャッ



場面切り替わって次は吉野家。
ソースの入れ口を鼻穴に突っ込み、変顔をするニワトリさんの額には『三嶋瞳万歳』の文字が…。


「あっぷっぷ〜〜〜〜!!! はい古見様撮って撮って!!!」


「……〜〜〜〜……!!(ガクガクガクガク…」


 ────パシャッ


退店後。
燃え盛る電柱を見て……──というより、自ら放火し、文字通り炎柱と化したそれを見ながら……。
耳なし芳一のように全身『三嶋瞳』の文字で埋め尽くされたニワトリさんと、肉体美を魅せつけ汗を掻く堂下さんは先程同様ほぼ全裸……………。
ジッポライター(?)を持ちつつ、二人は満面の笑みでこちらにピースをしました…。


「渋谷の〜、」

「夏はぁ……、」


「「世界一熱いぜっ………!!」」



 ────パシャリッ……

518『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:03:03 ID:Lz7gUJNw0
……申し訳ありません…。
恐怖に負けて、言うことを従うしか私はできませんでした……。
注意をする勇気すらも出なかった自分が情けないです……。


「…ニワトリ。…俺の同僚に、海老谷ってヤツがいてな。そいつがかつて言っていたことを思い出したんだ──」

「──『悪名は無名より重い…………っ!』ってな。ヤツはツイッター運用に関してはプロだったよ…………」

「ぐうっ………。がぁ、ぐうっ………!! 感動するぜ…おいぃっ…!!!!」



……。
恐らく電柱よりも大炎上しているSNSの反響は、気が弱い私には見る勇気もありません…。

519『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:03:20 ID:Lz7gUJNw0



『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-C』




 舞台は再びセンター街、私は荷車上。



 シューッ、カランカランカラ……


──【ミシマヒトミ 最強】

──【秒速で四十億稼ぐミシマ最強伝説】

──【三嶋瞳ッッ】


…上記のような内容を、標識からアスファルト上から、建物のシャッターに至るまで……。
街中色んな箇所に、ニワトリさんはスプレーで落書きをしていました…。


「…あ? おいコラッ!! …何をやってるんだお前は………っ!! 犯罪行為は流石に感心しないぞ………っ」

「………………………………っ……」


「ぁあ? グラフィティアートだよ。れっきとした芸術だぞゴラ!!」

「……ったく。何をやってるんだお前は………………。…やった事はもう仕方ない…。この辺でやめるんだ、ニワトリ………っ!」

「……チッ!!! 報われねェ努力だぜ……」


「…まあ、ただ、気持ちは分からんでもないがな。…ハハッ。荒くれ者だったお前が……これ程までに三嶋先生を崇拝するなんて…………。やった事は褒められんが大したもんじゃないか………っ!」

「……アニキ…」

「だが、──another case………!! もっとやり方がある…………っ!! こういう風に、な?」


そう言って堂下さんが荷台から取り出したのは一冊の本。…あの、『私だから伝えたい ビジネスの極意』です。
本屋さんを数軒ハシゴして、『私だから伝えたい ビジネスの極意』のみを山程抱えた彼らは、それをドサッと荷台に………。
汗だくになりながら、本を一冊五万円で参加者達に売ろうとしていたのでした………。

…つまり、私は今、本の山に埋もれている現状です……………。


「〜〜〜〜〜〜〜〜…………っ!!!」



「つうかアニキよォ〜。一冊五万って流石にぼり過ぎじゃねェのか??? 誰が買うんだよそれをよぉ」

「………ハハッ。何も、利益が目的じゃないさ──」

「──ただ、三嶋大先生の執筆なさったこの本は…それだけの価値があるっ…………!! 美麗、癒心、感銘………! 一文字一文字がもはや光に見える………!! この御本は、五万でも失礼なくらいさっ……………!!!」

「おお!!! さすがアニキ、そして三嶋瞳先生!!! よくわかんねぇけどマジやべぇぜ!!!!!」


「…………………………………。…………」



 グシャリッ──。

車輪がどこからか飛んできた新田さん手配書を踏み潰しました……。

520『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:03:33 ID:Lz7gUJNw0



『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-D』



「おいアニキ!!! ──“【悲報】まーたバカがツイッターで犯罪自慢!!! 『ミシマヒトミ』って誰よ?www”────だってよ!!! 俺達の三嶋先生布教がまとめニュースに載ったぜ!!! うっひょやべぇ〜〜!!」

「ん? どれどれ。…おぉ、こりゃすごい……っ!! おいニワトリ、お前の顔写真がモザイク無しで至るところに貼られてるぞっ!!」

「おいおい〜、それはアニキも同じだぜ!! 有名人じゃんかよ!! 三嶋先生のお陰で俺達神じゃねぇか!!!」

「これはまさしく……。圧倒的大草原……!! ってやつだな!!」


「「ははははははははははははははっ!!!!! はははははははははははははははははは!!!!!!!!」」



 …………………………。
私もその登場人物の一人として晒されてるのでしょうか…。不安でもう涙が助けを求めてます……。


「………………〜っ(ガクガクガクガク」



 本屋、コンビニ荒らしに窃盗、器物損壊に放火………。
そして盗んだ荷車を走り倒す現在に至るのですが、私のバトル・ロワイヤルフレンズはまだまだ暴走を止める兆しは見せません…。
確かに今は『殺人』という重罪を強いられている状況ですが、だからといって何をしても許されるという訳ではないのに………。



…一体、何が彼らをここまで駆り立てたのでしょうか。

────…と、そう聞かれるとしたら、どう考えても『私だから伝えたい ビジネスの極意』が原因でしょう。



……──『ドグラ・マグラ』…。
読む者の精神を狂わせることで有名な著書を、私は連想してしまいます。
三嶋ちゃんの本もそういった部類なのでしょうか…。…一見はごく普通のビジネス本なのですが。
ニワトリくんらをここまでさせる、この本の魔力……。
どういった内容なのか一読してみたい好奇心と、「読んだら後戻りできなくなるよ!!」という本能的危険心が、私の心中で五分五分に戦いあっていて………、
…とても心が重苦しかったです。


「……………………………」


──堂下さんたちを咎められない自分にも嫌気が差して、情けなくて……。
本当に心が潰れそうになりながら、荷車の元、私はただ揺れ動かされ続けました。


「なあ、ニワトリ…。このバトロワが終わったらよ、帝愛にでも──…、」

「あ? アニ──…、」




「「…………あっ」」



 そんな折のこと。
荷車は唐突に静止…。
────『何か』を見つけた押し手二人によりブレーキがかけられたのです。

521『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:03:53 ID:Lz7gUJNw0
「……………おい。…………マジかよ……………」

「……ぐっ……。チッ、クソ……………」



「……────……っ!!!」



進路を妨げるかのように、道路上にて静かに『眠っていた』者。

………私たち三人の視界に入ったのは、名も知らない女の子の……………──亡骸でした。



「「「……………………………」」」



 ビュゥゥ────。どこからか吹いた微風。
その風により、女の子の髪が、まだ比較的『原型を留めている』顔半分を静かに撫でます。
…恐らく私や只野くん達と同い年で、恐らくごく普通の優しい女生徒で、そして恐ろしく…身体が爛れていたその子………。

硝煙の臭いと、血肉の焦げた空気……。

彼女がいつ、命を落としてしまったのかは分かりません。
ただ、ある日平穏な日常が『殺し合い』で失われた時、彼女はどう感じたのか、と。
そして、その悲惨な中で惨たらしく殺められて、最期の瞬間、彼女思ったのか、と。
……そう考えた時、主催者への義憤と女の子のへの無念さで、胸がグッ…と苦しくなり……、


「……………………」


私は声を失いました。



 …それはおちゃらけていたニワトリくんや、あの堂下さんも同様で、周囲は沈黙で押し潰されています。
私達と同じ、一人の参加者の『死』はそれ程までの衝撃と悲惨さがありました。

ニワトリくんは、暗い顔つきに変わり、黙って亡骸を眺め続け……、


「……………………」



そして堂下さんもまた静立………。
──いえ。よく見たら、彼の大きな背中は微弱に震えていました。
声は聞こえず…──恐らく歯を食いしばりつつも、堂下さんは涙を零していたのです。

志半ばに命を絶たれた────その女の子への、追悼の涙を………。


「…ぐうっ………。がぁ、ぐぐっ……………。うっ……………」

「あ、アニキ──……………、」


「ぐうぅっ、ぅうううううううううううううううううぅぅぅううっ…………!!!!!!──」

「…アニキ…?!」

522『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:04:14 ID:Lz7gUJNw0
涙を堪えきれなくなった堂下さんは、とうとう我慢出来ないといった様子で亡骸に急接近をすると。



「うぅがぁあああああああああァァァァァアアアアアアァアアアアアアアアッッ!!!!!!!!! ああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!!」




 タタタタタ………

 ────ペラッ──


「……あぁ!??」 「……ぇっ…………?!!」



──女の子のスカートをめくり上げ、…真っ白な下腹部の下着をマジマジと触り出したのです。







……。

……………すみません、嘘じゃないんです。

…本当に、彼はそんな信じられないかつ、想定する限り最悪な行動をしだしたのです………。



「テ、テメェッ?!! 三嶋の本読みすぎてイカれたか?! この腐れ外道がアアアアアァッ!!!!!! ボゲ──…、」

「俺はッ─────………!!!」

「あぁ??!」

「俺は、…彼女を……、『四宮かぐや』を知っている…………………」

「…え??」


「知り合いとか……。そういうのじゃないが………っ。ぐうっ…………!! あの時、バスで………、早坂と四宮とで………っ! 俺は話をしたんだ………」


「え?」

「………ぇ…?」

523『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:04:35 ID:Lz7gUJNw0
…『あの時のバス。』とは即ちゲーム説明中の、数時間前のこと。
以下は堂下さんが涙ながらに語った回想です。



……
………
 ────やっ! 俺は堂下浩次! 帝愛ってブラック会社あるだろ? そこで働いてるんだ…! 君らは高校生かい?

 ──………。

 ──………………。


 ────なーんちゃって!!

 ──……え、何が?

 ──…堂下さん、何が「なんちゃって」なのかはサッパリですけど………。一言も冗談は言ってないのに…。


 ────ところで君たちは何かスポーツはやってる? どこの高校なんだ?

 ──…………………。

 ──…申し訳ありません堂下さん。……もういいですかね…?


 ────はははっ……!! スポーツは良いぞ!! 最近は女性のラグビーファンも増えて来てるから…、君らもやりなよ!!

 ──……………。


 ────クククッ…!! ハハハハッ!!!!
………
……




「ぐうっ……!!! だからこそ……俺は、怒っている………っ!!! かつてないほど、怒り、激昂、憤慨………!!──」

「──四宮を殺した………あのクズめが《主催者野郎》をっ…絶対許さない…………!!!」


そう言って、堂下さんが懐から取り出したのは一本のマジックペン。
油性の漆黒を、…四宮ちゃん…? にペチャペチャ書き殴ると、彼女の下着には────『瞳』という一文字が…………。



「あ、ぁアニキ…………………」



「とどのつまりっ…………!!! 今こそ……!! 殺し合いを終わらせる程の圧倒的カリスマ……──三嶋大先生の布教を始める時だっ!!!──」


「──死んだ四宮や……。どこかで泣いている早坂………っ!!! …それだけじゃねぇ。もう命尽きてしまった者たちや、危機に瀕している参加者の想いを背負って………っ!! 皆を助けるためにっ!!!!──」


「──俺達は俺達のやり方でバトルに抗う………っ!! …違うか?! 違うかァアッッ!!? ニワトリぃ………っ!!!」



「あ、アニキ……………。う、うっす!!!!!」

524『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:04:52 ID:Lz7gUJNw0
「俺は……、猛烈にやる気に漲っている…………っ!! もうこれは遊びなんかじゃねぇっ…………!! …血と汗と涙を流してもまだ足りない…真剣モードだっ!!──」


「──やるぞっ!!! 弟よっ……!!」

「押忍ッッッ!!!!」

「──撮ってくれっ!!!! 古見様っ……!!」

「っ!!??」



「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!!」」




 ────パシャリ………。


こうしてアップロードされた──ニワトリくん、堂下さん、…痛々しい死体の三人で完成された『三・嶋・瞳』のパンツ文字ガッツポーズ写真は、
とんでもないハイパー大炎上を見せ、堂下さんのアカウントは削除されていきました………。



…只野くん………。
これを読む頃には私はもう既にこの世には居ないのかもしれません。


…現に、私は目眩で頭が真っ白になっているのですから……………。

その白さといえば、夏の陽射しよりも、轟く入道雲よりも、…この世の何よりも真っ白で、もはや夢見心地でさえありました……………。



 バタリッ



「あっ!!! 古見様?!! どうしたんだ古見様ァアアアア!!!!!!!」






(以上、古見硝子所持。『古見ノート』六頁から十七頁までを一部抜粋)

525『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:05:06 ID:Lz7gUJNw0




……
………


 ボォォ………

  ボロボロボロ……………



 “…はぁ、はぁ……。その声……。お前……か…”



 “……はい。…ハァハァ、ぐうっ………”



 “……………お前が全て…やったんだな…………?”


 “はい。…我が親愛なる…、三嶋閣下…………っ!! 古見様親衛隊隊長となる、この私は………。貴方様の書籍に、猛烈に感動…ハァハァ…………。致しました……っ!!”


 “……いや、…もはや三嶋親衛隊でしょ…。はぁはぁ…。…………痛ぃ……ッ…”



 “お会いできて光栄です…。三嶋閣下…。私が貴方様を全力で御守りします。────仰せのままに”


 “………。……はぁ、はぁはぁ……──”






 “──…………お前は一体誰なんだ?”




───────【再開】。

526『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:05:23 ID:Lz7gUJNw0


【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.05:46】
【古見様親衛隊〜よっしゃあ漢唄〜】
【古見硝子@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】気絶、膝擦り傷(軽)、背中打撲(軽)
【装備】コルク入りバット
【道具】古見友人帳@古見さん
【思考】基本:【対主催?】
1:なんだか漢達に振り回されています……。
2:只野君たちに会いたい…。
3:小宮山さんに恐怖…。

【堂下浩次@中間管理禄トネガワ】
【状態】背中出血(大)、頭蓋骨損傷(大)
【装備】なし
【道具】どこかから盗んだ荷車、本『私だから伝えたい ビジネスの極意』
【思考】基本:【対主催】
1:三嶋瞳大先生にお会いして、忠誠を誓う。
2:三嶋先生の偉大さ、素晴らしさを全参加者、…いや世界中に知らしめる。
3:殺し合いを絶対に終わらせる…っ。
4:Never give up。ニワトリ、古見様と共に最後まで諦めない……っ!
5:四宮、すまないっ………!

【殺人ニワトリ(山中藤次郎)@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】サブマシンガン、100均ナイフ
【道具】拡声器
【思考】基本:【対主催】
1:堂下アニキに一生ついていく!!
2:新田…ぶっ殺すぞっ!!
3:古見様、お美しい…………。
4:大炎上しまくって照り焼きチキンみたいにコンガリなってやるぜぇ!!!うぇ〜〜〜い!!

527 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/25(火) 20:13:09 ID:Lz7gUJNw0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①『第〇回放送』タイトルでキャラが死んだロワってありますか?
②ヘマンでは、少なくとも『第3回放送』で参加者が死にます。

【次回】
──あの日、我々は随分大きなものを掘り当てた。

──そう。この迷宮だ。

『sora tob griffin.』…センシ、なじみ、日高

528『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:12:37 ID:S3r/h/YE0
[登場人物]  [[センシ]]、[[長名なじみ]]、[[日高小春]]

529『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:12:58 ID:S3r/h/YE0

 わしの名はイズガンダの…センシ。
小さな坑夫団の一員だった。

鉱夫と言っても鉱石が目当てだった訳では無い。
戦争前の遺跡を探し、一攫千金を夢見ていた。

とはいえ、主な収穫は鉱石で、稀に歯車やレンズなどの遺物が見つかれば上々だったが、あの日────。
我々は随分と大きな物を掘り当てた。
黄金に輝く古代の城………


 そう、『迷宮』じゃった。



……

「………なじみく…ちゃん、スマホでずっと何見てるの? …一時間もスマホと睨めっ子してるけどさぁ」

「……『ボクは今渋谷肉横丁にいるよ!! 会えたら大歓迎ー!! 笑』…っと!!(ポチポチ) ──ん? 日高っち何か喋ったかい?」

「…いや、別に何だって良いんだけども………」


「あ〜メンゴメンゴ!! ほらっ、ボクってさぁ幼馴染ワールドレコーダーな訳だろう? だから、こうして『この渋谷にもいる幼馴染』達にもLINEしてるわけなんだよ!!──」

「──この多さたるや〜…もう長丁場っ!! 重労働この上なしだよ〜日高っちぃ〜〜〜」

「…(出た。なじみくん十八番の虚言癖……。)渋谷にいる幼馴染=参加者、ね〜………。…バカみたい…」

「おいおい〜ちょっと日高っち〜〜。ざっと数えただけでもボクの友達が五十人もここにいるんだよ〜? ホントだってさぁ〜!!」

「………………」

……



 闇の中で両目を爛々と輝かせ、吸い寄せられるように奥へ…奥へ…と進んでいく仲間たち。
野心家が多かったわしの仲間たちとはいえ、あの時の様子はかなり異常じゃった。
だが、そんな彼等の顔も…。──例え、おぞましく異様な目つきだったとはいえ、今ではもう見ることはない。
深い迷宮内に取り込まれたわしら坑夫団は、気が付けば食糧が底をつき。
…そして、食糧の後を追うように、一人…そしてまた一人。
胴体に『深い裂傷』を負って、故郷へと永遠に去っていった……。

 今、成長したわしならば、きっと仲間の死に嘆き果て、
きっと闘争本能と生存術を兼ねて、殺した相手に復讐を挑み、
そしてきっと、仲間を意味もなく殺戮した──忌々しき魔物『グリフィン』に斧を向けたことじゃろう。

じゃが、あの時のわしはまだ若かった。
鉱夫の中でも最年少。
成長していたとはいえ、仲間内からも子供扱いのわしだった。
それ故に、どれだけ仲間たちが息絶えようとも、何か不可解なことがあろうとも、心を支配した感情は常に──『恐怖』一色。
とにかく死への恐怖、自分の事だけしか考えれんかった。


そして、若かったが故に、『グリフィン』という魔物に関して、わしの心に今も巣食うほどのトラウマを植え付けられた────。

530『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:13:14 ID:S3r/h/YE0

……

「──……じゃあ、この、『矢口春雄』……って男子も知ってるわけ?」

「おっ!! 数ある参加者名簿の中から彼を挙げるとは…日高っち渋いチョイスだね〜ーっ!!」

「…………何それ。………別に、だけど…」

「矢口ハルオ君。彼とは幼稚園からの幼馴染さ! 矢口君はアーケードゲームのマニアでね〜〜。マニア過ぎてスト2じゃ全く敵わなかったよボク〜〜! …彼、ハメ技ばっか使うからねぇ………」

「…………!!!──」


「──え、…じゃあ…さ。…その矢口くん…って、…す、好きなモノとかあったりするのかな?」

「え? 好きなもの………? 普通に超絶倫人ベラボーマンとかディグダグとかだっけな」

「…あ、いや!! そうじゃなくてぇ〜〜!!」

「?」


「……矢口くんの…………、好きな…、…女の子のタイプとか……。どんな子に惚れてるのかな〜とか……。そういう感じを聞きたいんだけど………………──」

「──…なに聞いてんだろ、私……。はははっ……。分かるわけ無いよね…………。バカみたい……」

「……………。フッフフ………!! おい〜日高っち……。このボクの…wikipediaにも勝る情報網の広さを、あまり舐め取ったらいかんぜよぉ〜〜〜?」

「………え!!」


「人には興味なさげな矢口くんとはいえ……ズバリッ!! ──…彼はショートカットの娘が好みで………、」

「…………えっ?」

「髪色は黒髪か……、いや、どちらかと言えばブロンドカラーの娘がタイプって言ってたかな………、」

「…………………!」

「あっ、あと大人しめな性格の娘がタイプでね。例えば、学校で委員会とかを卒無く熟してく真面目系な子がさ………、」

「…………………え、え………──」


「(────そ、それって…………………──…、)」




「あとは胸も比較的大きくて〜!! フルネームは『ひ』から始まって『る』で終わる六文字のぉ〜〜、『春』って漢字が入ってる子が好きって言ってたよ〜〜〜〜〜ん」


「………やっぱり。……呆れた──」


「──ちょっとなじみちゃんふざけないでよっ!! 本気で!!!」

「あれ? …ボクなりのサプライズなつもりだったのに〜……。心外だったかい〜?? メンゴって日高っち〜〜」

「………ぃっ!! …と、ともかく………!! 今私が質問したこと絶対口外しないでよねっ?!! 特に矢口って男子には!!!」

「ラジャー!! 理解・了解・妖怪道中記〜〜!!! あ、ちなみにだけど〜。この『白銀御行』君は目に隈がある努力家、野咲ちゃんは優しい綺麗な子。根元ちゃんはアニオタで、小日向君は楽天ファン、只野くんは普通すぎる男子だよ〜〜。フフフ…、恐れ入ったかい? ボクの情報網は〜!!」

「……私が知らないの良いことに絶対嘘言ってるでしょ?」

「おっ!! ピンポーン! 大当たり〜〜!! さーて、↑の中で一人、大嘘があります! …視聴者の皆さん、果たして分かるかな〜〜〜??」

「…誰に喋ってるのっ?!」

……


531『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:13:34 ID:S3r/h/YE0
──食糧が完全に尽き、餓えで眠ることさえままならなくなった頃。

──生き残っていたのはわしを含め、ギリンとブリガンの三人のみ。

──特にブリガンは、遭難後一番役に立っていなかったわしを邪見に見ており、わしの些細な行動が原因で、あの時の彼は烈火の如く怒り出した。

──極限状態と言うこともあったろう。わしに対し面倒見の良かったギリンと、ブリガンとで激しい口論が発生し、二人はわしを置いて外へ。


──怒鳴り合う声が徐々に激しくなり、大きく争う物音と、悲鳴。

──彼らが何を口論していたか、その内容は分からない。

──ただ、……外から響く…血飛沫が飛び散る音に、わしは耳を塞いでただ縮こまって、涙と共に震えていた。



──暫くして、その喧騒は恐ろしいほどに静かになった。

──唐突なことじゃった。




 ガチャッ……


 『ギ、ギリンッ!? 一体何が……──…、』

 “じっとしてろッ!!”

 『っ!!!?』


 “…外は見ないほうがいい。…今しがた、グリフィンに襲われたんだ。──”

 “──グリフィンは俺が殺したが、ブリガンも即死した。──”

 “──………それより。グリフィンを食っちまおうか。…【アイツ】を捌いて煮込んでもすりゃ、何日かは生きられるだろう”


 “さ、食事としよう”

 『……………』


──その時のギリンの目は、今までの冗談好きだが冷静で、そして穏やかな目つきでは全く無く。

──彼の兜をよく見ると、【何か】鈍器で殴られたような凹みがあった。



 “ほれ、スープだ。──…いただきます”



 『…………──ごくりっ…』

──水で煮ただけのグリフィンスープは、獣臭と肉の硬さでそれは酷い味だったが、

──…わしは手が止まらなかった。

──夢中で咀嚼し、ゆっくりと長い時間をかけて飲み込んだ。

──…そんなわしとは対象的に、箸が止まったままボーッと放心していたのはギリン。

──小便をする、と言ってふらり出ていった彼は、



──二度と戻らなかった。




 …その後、残りの肉を食いつなぎながら、迷宮の規則性に気付いたわしは、放浪を続け。
オークに捕まりしばらくは捕虜として檻に閉じ込められた。
しかし、話してみると案外気のいい連中で、古代ドワーフ語や迷宮について講義をする代わりに、茸の見分け方や魔物のあしらい方を学んだ。
…こうしてわしは、地上へ出ることができたのだ。


────…ただ、

532『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:13:52 ID:S3r/h/YE0

……


「にしても、いいなぁ〜日高っちは!! 大当たりじゃないか〜!」

「え、何が?」

「もう〜〜!! 武器の話さ〜支給武器! 方や日本刀で、方やただの黒い中華鍋って……。格差社会ぱないと思わないかい!」

「…そんなこと言われたって〜。私だって、この刀重すぎて使えないし…、というか使う機会訪れてほしくないし………──」

「──それになじみちゃんの鍋もさ。ほら、取説あるでしょ? 『材料を入れれば【召喚獣】を出せます』〜って。すごい武器じゃん?」

「ちょ〜〜〜っと〜〜! 冗談がキツイよ日高っち〜〜!! だってさ…召喚獣だよ?(笑) 全く馬鹿にして……。そんな非現実的なもの出せるわけ無いじゃないかぁ〜──」

「────とか言いつつ試しちゃうのがこのボクなんだけどなっ…………!! どれどれ……、髪の毛と適当な肉類を入れたら蓋をし、魔法陣を書いて、呪文〜〜と…」

「………………」

「…(ガチャガチャ)……よし! これで準備OK〜!! 残すとこはあと呪文のみ!! ──アブラカタブラ〜ヤサイマシマシ〜メンヌキデ〜〜〜〜………っ──」


「──ほいっ!!!」


 ──ポンッ…


「…わっ! え、嘘…。ほんとに成功したの?!」


 シュウゥゥゥ……


「…どうやらその様だね…!! タネも仕掛もない非現実…ここにありさっ!! さて、中を覗こうじゃないか日高っち!!」

「………う、うん…」

「どれどれ〜。────さぁ、闇の炎と共に、主の前へ出でよっ!!! ボクの召喚獣よっ!!!」

「………………っ」


「…………」


 パカッ………



『キョェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッ』



「「……………へっ?」」


……


ただ、気がかりだったのは、あの時飲んだ肉スープ。
本当にあれは『グリフィン』の肉だったのか………? ということだ。

なにか物を食べる度にスープの、あの味を思い出す。

どんな魔物の肉も、記憶の味からは程遠かった。



……


『キョェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッッッッ』


「ハァ、ハァハァ………!! ちょっ…、なじみちゃん!? 何…?! 何この『鳥の化物』はっ??!! 何で私達に襲いかかってくるの?!! ハァハァ…」

「ボ、ボクだって理解不能だよっ??!! ハァハァ…、うげぇっ……。しかも何かこの鳥と視界が重なって、具合悪いし…………」

「??? ど、どどどういう意味…?? ハァハァ……、ハァハァ…、と、とにかく早く逃げなきゃ!!!」



『キョェエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッッ』

533『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:14:10 ID:S3r/h/YE0


……


………わしはあの魔物がトラウマだ。


……




『キョエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッッッッ』


 ──ッッッ、ズガンッッ


「…きゃっ?! ぃっ、ああぁぁあああああああああ!!!!!」

「ひ、日高っち!!! ハァハァ…、大丈夫かい!??」

「…………がぁ……………。うっ、うぅ…………………」



……


わしは真実を知るのがこれまで恐ろしかった。


……


「あ、あぁあ……………。なんてこったい……。使い魔の制御が効かないよ…っ!!! こ、このままじゃ………お陀仏…じゃあないか…………!! ゲホ、ハァハァ……」

「………………………な、なじみちゃ…………。逃…げ…………」


「……ひ、日高っち………。…クウッ、なんてモン支給すんだい…トネガワ大先生は……──」


「──ハァハァ……、このままじゃ本気でヤバい、ヤバすぎうわっ酔ってきた気持ち悪ぃうげえ…………オロロロ……………」



「………………ガハァッ………………。ハァ………ハァ………………」



……


髭をたくさん蓄え、そして幾多の知識を取り込み、人生経験が豊富になった今でも。

あの硬い肉の弾力が、
あの酷い匂いの油が、
そして、あんまりな出来ではあるが……、これまでの食事で一番『美味かった』あの味が……………、

年老いたわしを雁字搦めにし、いつまでも『恐怖』に抱かれ続けている。

……



『キョエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッ』



「……………ハァハァ…………………。ハァハァ………ど、どうしたら…──…、」


「──どうしたら…………、召喚獣のっ……コントロールを……………………」




……


だから、わしはこれまでグリフィンと出会すのが何よりも恐怖じゃった。


……


534『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:14:46 ID:S3r/h/YE0
 そう。
 何よりも………。








 ───────ガキンッ──


「………………………え?」






 そして、だからこそ──。
──わしはあの忌々しきトネガワとやら主催者に、感謝をしているわけだ。





 ギギギギ、ギギッ………


『…ッ、キィィィィ……キエェエエエエッ………………』


「…相変わらずじゃな、グリフィン。……と言ってもお前はわしを知らんだろう。…いや、そもそもわしとてお前の生身を見るのは初めてだから…………。──……フッ、まぁいい」

「………え?」



 斧から伝わる、かのグリフィンの力強い蹄……………。
ギリンに、ブリガン………。
…五人の仲間たちを引き裂き、頭に大穴を開けたそのパワーたるや、今までのどんな魔物と比べ物にならぬくらい尋常なまでだった。
黒い蹄は斧を殴り潰そうとばかりに揺れ動かし、…斧が、──そしてわしの腕が、震えて震えて仕方なかった。

わしの眼の前には、今まさに『恐怖』が争乱挑んでおるのだ。


──襲われ、慄いている女子二人を守る為に、と。




「……確か、出会いもこんな感じだった筈…。あの時、魔物《スライム》に襲われているお前らを見て、わしは助けた。────………そうじゃよな、ライオスよ……………」

「…………え、……え? お、おじさん…。誰……………?」



 ギギギギギッ


「娘よ、一つ問おう。何故、わし等人間は『恐怖』を感じると思うか?」

「……え?? そ、そんな哲学チックなこと聞かれてもボクは…──…、」

「答えは『食べる為』じゃ」

「ふぇ??」


 ギギッ、ギギギ…………………


「人間は感情を持つ唯一の生命体。今日一日を、そしてこれから将来、平穏に暮らしていきたいが故に、平穏の支障となる『恐怖』を避けて生きてゆく」

「……………………?」

「それは『食』も一緒じゃ。生きる為には食わねばならん。食わねば、…死のみが待つ。」

「……………」

「なんら接点のないと思われる『食』と『恐怖』は、実はイコールで結ばれる関係性だったのだ」

「…………………──」

535『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:15:06 ID:S3r/h/YE0
 ギギッ…ギギイイイイイィイイッ


『キョェェェェェッエエエエエ………………ッッッ』


「──…え、それって違うくない? とボクは思うんだけど……」

「…フッ。なに。考え方の違いじゃ。つまり、わしが言いたいことはだ…………」

「……………つ、つまり…?」



『…キョオオオオオ…………ッ、…ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッ』


 ──ガキンッ──────





──────『恐怖』は、ただ味わうのみ…ッ。




斧を力一杯振り絞ったわしは────…その勢いのままグリフィンの両脚を斬り断つッ────!!!


 スパンッ────

『ギュウッッ…、キアアアアッ─────ッッッ』


「…えっ?!」



怯んだグリフィンに構わずして、続け様高く飛びかかり────…翼を一振りで切り落とすッ────!!!


 シュンッ────
  ─────ドサッ……

『ッッッァアアアアアアアアアアアアア────────』


「ちょ、ちょっと……!! お、おじさんっ!!!」




紙吹雪のように舞い散る奴の羽と、響く雄叫び。
脚、そして翼をも失い、もはや赤子同然の戦闘力と化したグリフィンは、成す術なくままに地面へ強く追堕された。


 ドンッ──────

『ギィ……キョギエェェエ…………………ッッッ』


「あ、あっ………!! しょ、召喚獣が……!!」



 ──…正直なところわし自身、今、呆気には取られておる。
気が遠くなるような長い年月、あれだけわしにトラウマを焼き付け、…そしてあれだけの仲間達を葬り去ったグリフィンを、こうも簡単に捌けるだなんて────とな。


仮説として、もしや今闘っているこやつはグリフィンに酷似した亜種なのかもしれない。

…いいや、宿命ともいえる『恐怖』を前にして、アドレナリンという実力以上のパワーが漲っていたのかもしれない。


────……もしくは、坑夫団の仲間達が、わしに力をくれているから……とか、か。


……………フッ。
何も根拠のない考えは、よすべきか。

536『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:15:22 ID:S3r/h/YE0
「…あぁ、そうじゃった。礼を言う事を忘れておったな、主催者よ」

「…………え??」


四股を捌かれてもなおこちらに向かって、身震いのする睨みと、鋭い嘴を突きつけるグリフィン。
奴の背中上にて、わしは最後の一撃を叩きつけることで、──一つ、ピリオドが打たれる。


「…グリフィン、奴の存在は、わしの人生そのものと言っても過言ではない」


「え、ちょ!! ちょっとおじさん…!!」


「…────その人生と決着を付ける場を、曲がりなりにも設けてくれたのだから。…唯一感謝はしておくぞ、主催者……!」


「…ね、ねえおじさんっ………!!!」




────この礼は、あとでタップリと返させてもらうから、覚悟を決めておくのじゃな。
主催者………。



『キョエ…ァァァ…ァァァアアアア────…、』


 ────ザシュンッ



グリフィンの首に振り下ろした、風を斬ろうとの斧の一撃。


…別に、わしは奴を長年食いたくて食いたくて愛おしく感じておった魔物とは思っていない。




ただ、この狩りを成した『一瞬』は、尋常なまでにスローに感じて、周囲の雑多音も全く聞こえず、




これまでの回想が、まるで走馬灯のようにわしの周りを流れ去っていった。





 ─────ドサリ…………

537『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:15:33 ID:S3r/h/YE0
「………………あぁ…………」







「あぁ…………──」

「──じゃないよぉ〜〜っ!!! お、おじさんこれボクの召喚獣だよっ??! ボクの唯一の武器なんだよ!!?? …助けてくれた点はお礼言わなきゃだけどもぉ〜〜〜…」

「……む??」


「ボクは武器無しでこれからどうすりゃいいのさぁああああああ─────────────────っ!!!!!!!!!!!??????」




ああああ……、


ぁぁぁぁぁ、ぁぁぁぁぁ………………。







「………。……うむ──」


「──そうとなれば、まずは食事だな。自己紹介は後からじゃ。支度をするぞ」


「「なにが『そうとなれば〜』…だっ!!!!(…あ、日高っち生きてたんだっ?!)」」

538『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:15:47 ID:S3r/h/YE0


………
……


 さ〜〜〜て!!
ちょいと、これまでを振り返りタイムだよ!!


ボク達を…うん、まぁ、助けてくれたこのスーパーマンは、イズガンダのセンシ。
小さな坑夫団の一員だったそうだ!!

鉱夫と言っても鉱石が目当てだった訳では無いらしいんだけど……、
戦争前の遺跡を探し、一攫千金を夢見ていたそうなんだよ……!


「いやなじみちゃん!! それさっき聞いたから………」

「あっ、失礼失礼〜。でもボクもこうやって語りとかやってみたいモンでさぁ〜〜〜。気持ちは分かるだろう〜? 日高っち〜」

「……全然分かんないし………。…ていうかさ……(モグモグ…」

「……うん。ボクが代わりに君の気持ちを語るよ…………(モグモグ」

「…………」



……。


すっごい、…不味くない……………?



…『これ』↓↓………………。




……

【ヒポグリフのスープ】
・ヒポグリフのもも肉────一塊
・水────────────適量
・塩────────────適量

1:塩をもも肉に擦り込み、よく揉む。
2:沸騰した鍋に肉を入れ煮込む。
3:灰汁を取りつつ、暫く煮込み、肉に火が通ったら完成。

[エネルギー]
[タンパク質]★★★
[脂   質]
[炭水化物 ]
[カルシウム]
[鉄   分]★★★★★★
[ビタミンA]
[ビタミンB2]★
[ビタミンC]

……


「…………(パクパク……」

「………お世辞にも食べ進めたい料理とはいえないよね……………」

「………う〜ん。……食べ手の技術が試される味ってとこだね〜〜〜〜…。……ボク、正直ギブアップ!!! イチ抜け!!」

「あっ、ズルいっ!! 『そもそもの話、なんで私たちセンシさんと食を共にしてるか〜』、って言おうとしたとこなのに!!!」


豚肉を食べてるのか、鶏肉を食べてるのか分からない……ただ、ケモノ臭さだけは確実に口いっぱい広がって……、ヤバすぎるスープだったよ。
…まぁボクとしては、あの鳥なのか馬なのか分からない召喚獣に蹴られて無事でいる日高っちの方が気になるトコだけども。


 …………まっ。
それはともかく、だね。

539『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:16:02 ID:S3r/h/YE0
「…うっ、うぅ…………。うっ………」



「…………」

「…………センシさん…」

「センシ………。…泣くほど美味いかい」



「……いや違う。違うんだっ……。酷い臭いに硬い肉…。あの時とまんま同じな料理じゃよ…………──」


「──ただ、ずっとずっと……………。この味を飲みたかった……………──」


「──…ありがとう…………。みんな…。………ありがとう………………。うっ…………」




「……センシさん……………!」

「…ははは。涙ってさ、塩っぱいよね。──……このスープに下手な味付けはいらない。その思い出の結晶粒が、…一番味を引き立たせてくれるのさ………」

「……。…………──」



「──…なじみちゃん。その謎ポエムは余計……」

「……某サンデー的名探偵ならこうオシャレに語るってことだよ。……フッ…………」



 …涙ながらに器をかきこむセンシさん。
肉を捌いてる途中、ボクが召喚(=襲った)コイツがグリフィン? ではなく、『ヒポグリフ』…という動物に、彼は気付いたらしく……。
そこから、う〜〜〜〜ん…………。まぁいろいろあって今に至るわけだけども…!

とにかく彼の語る過去を聞けば、もう涙無しには食卓を囲めないよねっ………。


一つの蟠りが溶け消えた、この食事。

ボクら日高タッグは、新たな仲間を受け入れつつ、今はただアツアツの料理を食し続けていったのさ……………………。




「………なじみちゃん残してるけどね…」

「まぁボクらは女の子だから、こんな時間にモリモリ食べるのもまずいだろう!! 二重の意味で!!」

「……まぁ、私もギブだけどさ……………」


「………。…ところで、なじみとやら。…すまぬな」

「え? なんだいセンシ〜!」
「………(なじみちゃん、呼び捨てにした……!? やば〜………)」

「お前の、その召喚獣とやら…………。事情を知らぬとはいえ斬ってしまったものでな……………。わしは償いたい思いではち切れそうだ」

「いやいや、いいんだよ〜!! センシ〜〜!! ボクにはこうしているじゃないか! 君という、頼もしい……武器が!!」
「武器呼ばわりっ?!」

「…いや、よしてくれ。わしの身勝手な判断であることは事情。……そこでお詫びと言ったらなんなのじゃが………」


「え??」

540『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:16:25 ID:S3r/h/YE0
箸を置いて、センシがリュックサックから取り出したのは…なんとビックリ!!
────『レーザー銃』だったのさ!!

…ほうほう、なるほどと〜!!

つまり、センシはボクの武器を肉にしてしまったお詫びとして、自分の支給武器をくれたわけなんだね………!!
貰っておくのもまた義理。
ボクは快く受け取ったよ!


「…あっ。そ、その銃………」

「ん? どしたんだい〜?? 日高っち」

「…え、それスペースガンの…………──」


「──いや、やっぱり何でもないや………。とにかく良かったね、なじみちゃん」

「……? う、うんっ!!」



…な〜んか、日高っちの反応が気になるとこではあるけど………まぁとにかく!!


 かくして、銃使い&ドワーフ&……小春…のパーティが、ルイーダの酒場を経由せずして自然発生した現状であるが……、
パーティには必然的に立ちはだかる相手──『敵NPC』が出現するもの…………。
できることなら、その敵NPCとは出くわさずしてグッドエンドを迎えたいゆるゲーマーなボクだが、あいにく日高っちとセンシは色んな意味でガチガチなゲーマー……。

嗚呼、この運命よ………。

果たして、ボクら三人旅の行く末はどうなるものやら……。
バトル・ロワイヤルという空前絶後のダメRPGにて、「しんでしまうとは なさけない!」のメッセージが浮かばれぬことを、今はただ願うまでだ。




「………満足した?」

「────フフッ、この程度で満足するボクじゃないよ日高っち!!──」


「──そしてセンシ!! さあ行くよ!! Partyの始まりさ!!」


「…うむっ」

「………はぁ〜あ…………」





 バトル・ロワイヤル………。


  嗚呼、よもやよもや…。


   バトル・ロワイヤル………………。

541『sora tob horse』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:16:38 ID:S3r/h/YE0
【1日目/C5/渋●肉横丁/AM.03:56】
【センシ@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】斧、料理セット一式
【道具】鍋、干しスライム@ダンジョン飯
【思考】基本:【対主催】
1:殺し合いから脱出。主催者を倒す。
2:あれはヒポグリフの肉だったのか…………。うぅ、みんな…。
3:日高・なじみとパーティを組む。
4:メガネの若者(丑嶋)が心配。

【長名なじみ@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】健康
【装備】レーザー銃@ハイスコアガール(スペースガン)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:センシ&日高っち&ボク!! 君のためのPartyさ〜〜♪^^
2:参加者の幼馴染たちと会う!! 僕はみんなの『幼馴染』だからね
3:にしてもあのスープだけは……………無理^^;。

【日高小春@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】橘右京の居合刀@ハイスコアガール(サムライスピリッツ)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:なじみちゃん、センシさんと行動。
2:矢口くん、大野さんと合流したい。
3:なんか私このパーティでツッコミポジションになってない〜?!

542 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/31(月) 21:24:39 ID:S3r/h/YE0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①残すところあと5話で参加者二巡となりました。
②あらかじめ宣言します。そのうちの一話、『北埼玉ブルース』は時系列シャッフルにしたので若干読みにくいです。
③今更ながらバッカーノのアニメにハマったので影響受けました。あらかじめご了承ください。

【次回】
──僕は、あの時チェンソーにばらばらにされ…死にました。

──悔いは正直かなりあります。いやない方がおかしいですよね……。はは………。

──次回はそんな僕…

瞳「あーもうお兄ちゃんうっさいから黙ってて!」

瞳「次回は私メイン回の『大好きがムシはタダノくんの』ですっ!参加者でも何でもない私がなんと主役に大抜擢!えっ?それってマジやばくない?どういう構成なの?いやヤバすぎてうける!あっ、ちなみに笑介は残念ながら出てこないよ〜」

瞳「ということで来週死ななかったらこうご期待!!」


その他
『TOKYO 卍 REVENGERS』…伊井野ミコ、鰐戸三蔵、鴨ノ目武、相場晄
『悪魔とメムメムちゃん」…メムメム、兵藤和尊、佐衛門三郎二朗、遠藤サヤ
『北埼玉ブルース』…山井恋、野原ひろし、海老名菜々、うまる、マミ、デデル、マルシル、飯沼
『らぁめん再遊記 第二話〜需要と供給…?〜』…アンズ、芹沢達也、早坂、うっちー

第三巡
『我が友よ冒険者よ』…ライオス、ハルオ、来生、オルル、早坂
『人畜無骸』…吉田茉咲、札月キョーコ、土間タイヘイ、ゆり、藤原、マイク
『ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』…コースケ、マルタ、大野

543 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/02(水) 20:29:57 ID:Ex510fAA0
【お知らせ】
イラスト名簿、ミコ描き直し完了につき工事完了です…
くぅ〜疲れましたw
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/12.html

544『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:11:04 ID:puUwLcSo0
[登場人物]  [[佐野]]

545『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:11:23 ID:puUwLcSo0
────朝、起きたら、




「もうなにやってんのお兄ちゃん………。鬼電も鬼LINEも一切無視………。ロンリーウルフ気取りかっ!!」




────私のお兄ちゃんが、




 ドンドンドンッ!!

「お兄ちゃん!! 絶対起きてるでしょ! ねえLINE見たよねー? 早く私と一緒にコンビニ行こうよー」


 シーン………

「…このっロンリーウルフめ!! 分からず屋っ!! ねえってば、こんな早朝に女子一人でコンビニ行かせるなぁっ! 正しく野に放たれた羊だよ私は!! ウルフ達に襲われちゃうってば!!」


 シーン………

「もう!! 入るよ!!! お兄ちゃ──…、」



 ガチャッ



「……………へ?」




────死んでいました。





「……いないし」





──…多分。

546『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:11:40 ID:puUwLcSo0




 …おかしい。

何かがおかしかった。


 時刻は現段階、四時前……。──…午前のっ…。
いくらふつつかな我が兄──只野仁人とはいえ、奴は本当に普通すぎる人間。
友達との遊び付き合いという推理もできるけど、こんな夜遅くに家にいないとは、お兄ちゃんの性格上考えられない…。
自室、リビング中、お風呂にトイレ。鞄の中も机の中も探してみたけど見つからないこの現状は、如何に…。

……あっ。
言うまでもないけど、私は逆シスコンとかじゃない。
あんな頭のトサカ以外これといって特徴がなく、成績も性格も頭脳も頭身も、スマホの壁紙でさえチョ〜普通な兄には、愛着なんてなかった…。


…そう。────ない筈だったのに…。


何なんだろう、この妙な胸騒ぎは……。

縁起でもないことを言うと、まるでお兄ちゃんはもう二度と帰ってこないんじゃ………? というような。

…なまじ同じ親から産まれた血が繋がる者同士なだけ、私はそんな嫌な予感がビシビシ脈走るのでした…………。


私のお兄ちゃんはこんな時間に──一体何処へ?──────………。



「……ま、お兄ちゃんも羽目外したい時くらいあるか。どうせ昼間には帰ってくるでしょ──」

「──コンビニは〜〜…。…もういいやっ。寝直そっと」



心の何処かで蠢く予感…。
それを奥底にしまい、私は自室へと戻っていった。









「───────っというのは第一の仮説っ!!!!!!!──」


「──もう一つの仮説はぁ〜……、そうっ!!!! 只野仁人は不運にもっ──」


 テレビ、ピッ!!


『引き続き速報です。渋谷区に発生した未確認巨大型ドーム。警察は住民の安否確認を急いでいます』


「──その渋谷の中でっ!!!」


 7chチャンネル、ピッ!!


『今日から皆さんにはちょっと殺し合いをしてもらいます』


「────【バトル・ロワイヤル】をさせられているっ……というのが仮説2にして最有力説だぁぁぁぁいっ!!!!!!!!!!!」

547『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:12:02 ID:puUwLcSo0
 テーテーテ、テレレテー♪
テー↑、テー〜〜〜っ…↓


 申し遅れました!! メンゴ★
私の名前は『只野 瞳』!!!
名字は『ただの』だけど、只者じゃないってのが私のアピールポイントだよ!! ハイ、ヨロシクゥ!!!
勉強も運動もちょ〜〜〜っと…苦手な私だけどその分アグレッシブでハイ元気!!
持ち前のスーパーテンションを活かしてもう友達の数は山の如し!!! 今は、隣の席の古見笑介くんと大親友になることを目標としてまーーす!!!!
…あっ、ねえ聞いてよね〜? その笑介くんときたらさぁ、あの子コミュ症らしくて……。自己表現が苦手みたいなんだよ〜〜。だから私が彼をクラスに馴染めるよう悪戦苦闘してるんだけど、笑介くんったら私の努力なんて一切気付いてない様子で〜〜〜………、


「──あ、はいカット──」

「──話が逸れちゃった。まずいまずい。…私…、集中────っ!!!!──」


「──というわけでテイク2!!! (…あ、ココだけの話、FI●ST TAKEってあれ普通に撮り直しあるよね??)ゴニョゴニョ」




【テイク2】

 テーテーテ、テレレテー♪
テー↑、テー〜〜〜っ…↓


 …フッフフ。名乗るのを遅れてごめん!!
私の名前は────『只野 瞳』!!! (タタンッ!!)
名字は『ただの』だけど、只者じゃないってのが私のアピールポイントだよ!!
ハイ、ヨロシクゥ!!! 以下略!!

 (元々存在感は湯気同然だったけど)突如として、湯気の如く消えてしまった私の兄──只野仁人…………。
本当にっっっ──ごく平凡な男子高校生、只野仁人は今、何処で何をしているのか…。
その事について頭を搾り取るように、ギュ〜〜〜ッと熟考…推理した時。
私はとうとう、とんでもない仮説にたどり着いてしまったのでした……。


「そう!!! バトル・ロワイヤル!!!──」

「──バトル・ロワイヤルと言ってもまだ主催側なら箔が付いたというのに……。私の兄は不幸にも参加者として招かれたのでした!!!!」


…勿論、根拠は0! ナッシング!!
イッツオーライ?!
Hey!!



そんな不幸ケッコーコケコッコーな兄だけども、時刻はもうすぐ朝焼けが昇りニワトリが鳴く頃合い。
渋谷にバリアーみたいなのが発生したのは昨日の夜十一時頃らしいから、バトロワ開始もその頃と仮定しよう……。
つまり、デスゲーム開始から五時間くらい経過している現在……。
不肖の兄・只野仁人は生き永らえているのかと考察すると………────。



「………………ま、おじゃんだよね〜………──」


「──…そりゃ私だって死んでほしくないって気持ちはあるけども……。こういうデスゲーム物は何も特徴ない人から片付けられるイメージだし? お兄ちゃんって変な人に絡まれて災難に遭うってイメージもあるしー?………──」



「──というわけでッッ!!! 『只野くんの、人生です。』、これにて完ッ────!!! うわ〜〜ん何してんのさー!! お兄ちゃぁ〜〜-ん!!!」



 はいはい!! さてさて!!
こうしてお兄ちゃんの安否確認は無事(?)済ませれたものだけども、
──ここで気になるところは、…只野仁人。彼は一体どういった死に様を見せたのか……、というトコだねっ…………。
例えば、殺人者に襲われている女子参加者を助けて身代わり死…とか?
更に具体的に挙げれば、女子目掛けて放たれた銃弾を、我が身削って被弾した…とか……?
そういう感じで、ドラマティックかつ熱い最期だったとしたなら遺族代表の私として、この上ないくらい涙物なんだけどねっ………!
英雄に敬礼っ!! 勲章贈呈っ!! って感じで…。
誇り高い死だと思うよっ………。うぅっ…、ぐすん…。


「…でも、悲しきかなっ!! 神様はお兄ちゃんを常にごく普通平凡な人生しか歩ませてくれないっ─────…………」


…というわけで、お兄ちゃんの生き様は『なんとなく歩く→殺人者に遭遇→逃げるも追いつかれ普通にYOU DIE……』で決定!!!
ついでだし、死因も鋭利なもので背中を突かれYOU ARE SHOCKに決定!!
我兄ながら正しく凡すぎる死っ…! ゆーあしょっ!!!
勿論一ミリも一ミクロンも根拠は0。
…ふっ、ただ推理において必ずしも証拠は必要だとは言えない…ってわけかな?
名探偵と化した私の脳内には、一連の考察がまるで確定事項のようにフツフツと沸き立ってるのだよ……。ふふふっ…。

548『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:12:20 ID:puUwLcSo0
「…あ、でもさすがに普通すぎて気の毒だから死に方も大ハードなモノにしとこうかな。…じゃっ、チェーンソーで斬られて死亡に決定で!!!──」


「──もちろん根拠はナッシング!!」


…いや待てよー。
…チェーンソーでバラバラ死って……流石にさぁグロすぎない…? エグすぎないっ……? ドン引きだよね……。
勝手な推理とはいえ、そんな発想に至っちゃう自分に恐怖を覚えたんだよね…………。えっ?? 私ってもしかして隠れサイコパシー…っ?!!


「……【バラバラにならない程度に脚を斬られた後、胸をギュイィィンって一突き】、で妥協しますか…。さすがにお兄ちゃん可哀想だしね…!! ぐすんっ…!!」


…私だってギタギタのミートにされたお兄ちゃんを見るのは嫌だしねぇ…………。
葬式? か、警察の人が「身元確認お願いします…」って、差し出してきたのがブロック肉とかだったら大勘弁だし………?



…………はいっ!!
さてさて、…こうして亡き者となってしまったお兄ちゃんではありますが……。
彼のバトロワ活動はこれにて終了……………。
(まったく無事じゃないけど)無事THE END………………………。


────かと思ったらさにあらずっ!!


去る者あれば、残る者ありとはこの世の常…………。
凄惨なお兄ちゃんの遺体を見つける者が一人!!!
それは不幸か、それとも幸か……。たまたま通りかかった先で、『参加者』の一人は只野仁人だった物と出逢うのでした………。



「…と、私は勝手に考える……!!!」



その参加者の名前はズバリ………。


 チャンネル、ピッ!

『佐野文吾を許さないぃっ……………』


────【佐野】さんっ!!!

そして、佐野さんの性別はズバリ………。


 チャンネル、ピッ!

『男の人っていつもそうですねっ…!!』


────男っ!!!




「…と見せかけて【女】!!! 騙されたでしょ!! …フフフッ、探偵の推理にはこういう無意味なじらしテクニックも必要なのだよ〜…」



 私は勝手に考える。
その佐野さんもまた、デスゲームに踊らされた変質者に襲われ、命からがら逃げてきた者の一人…。
彼女は奇跡的にも逃れることには成功したものの、逃れる者同士は惹かれ合うというわけか………。
既に事切れたお兄ちゃんを見つけてしまい、ショックで言葉が震えるのでした…………。

佐野さんは噛み締めます……。
死体を目に焼き付けて、思うは死への恐怖と、未来への懇願……。そして、自分の不運さの絶望視…………。


もう喋ることのないお兄ちゃんを前にして、彼女はブツブツとこう言うのだった…ってね。

549『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:12:39 ID:puUwLcSo0
「……ごほん。…『わっ。…脱落者……。…ううん、違う。自分の解放に成功した参加者だね…(裏声)』──」


「──『分かるかな? 彼らにコントロールされ本当にけしかけられかなり高価なプログラムまでけしかけられ買い込みだましたの。やつらが何か霊的な光をどろどろしたから
ね(裏声)』──」


「──『違和感がある内に止めさせてください停止の命令をあなたが聞けないのなら、とか信用できないのなら、それはあなたがコスリ感緩和膜を頭の裏に貼られているからだよ(裏声)』──」



「──とか言ってたり」



…うはっ!! 我ながら何言ってるか意味不明ー!!!

だけどもしかし!! さっき言った通り、お兄ちゃんの知り合いは一癖も二癖も強い人間達ばかり…………!! なじみ君ちゃんとか!!(あっ、硝子さんは除く!!)
だからこうして、佐野さんもまためちゃくちゃヤベー人なのであったわけだ!!
多分、見た目こそは普通の女子なんだろけどね!! 知らないけど!!!
わけのわからない電波な佐野さんを前にして、その場にいたお兄ちゃん(幽霊)も流石にドン引いたことでしょう〜…………。

ただし、かなり異常な佐野さんとはいえ…別に血も涙もない狂人というわけじゃない。
ぶつぶつイミフな一連の台詞達は、いわば彼女なりの追悼の意で……。
ちょびっと空いた心の穴を引きずりつつも、死体に一礼。
お兄ちゃんの魂が救われることを願いながら、彼女は後を去るのでした………。




────その折に、突如として鳴り出す、死体の携帯。


血濡れの胸ポケットから響く着信音に、佐野さんは一体何を考えたのでしょう…。


甲高く光る、スマホの画面に映るは妹・『只野瞳』の名前………。



そう、物語はこの鬼電ラインから急速に加速するのでした──────。







「…………と、まぁーこういった具合で上手く締めちゃったわけだけども」




 …ふふふ。
これが深夜テンションってヤツなんだね…。
バカバカしくて厨二全開でおかしな推理(という名の妄想!!!)を、我ながらしちゃったもんだよ………!

言うなれば↑の妄想は全部、──【フィクションです。実在の人間、場所、団体は一切関係ありません】!!!
どうせお兄ちゃんはコンビニかどっかに行ってるし、殺し合いなんてあるわけない。
渋谷のバリアーも多分催し物かなにかだ。


…ほんとに、バカバカしい妄想ったらありゃしない。
……こんなお馬鹿な考え事を三十分近くもしてる私は、もうきっと逆ノーベル賞受賞に値するバカヤローだろう。
ほんと、バカだなぁ。私は……。


「でもそんなバカな私……。──…嫌いじゃないぜっ」



さて、時間もそろそろヤバい頃合い。
お母さんに怒られる前に…二度寝するとしますかー!!
幸いにも明日は土曜日。

おやすみっ!! Good night!!!

550『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:12:58 ID:puUwLcSo0

 ──ブーーブーーーッ

  ──『電話です』



 ──ブーーブーーーッ

  ──『電話です』



「うわビックリしたっ!!! タイミング悪っ!!!」


 いやほんとタイミング悪すぎ!!
私リビング出て寝ようとしたところなんだけど?!!
ドアを開けようとした私を引き止めたLINEの着信………。
こんな時間に誰だよっ!! こんな夜更けにっ!! バナナかよっ!!! ──と思いつつ、スマホを見てみたら、…そこには不肖の兄・只野仁人の名前が…………。
(…それにしても我が兄。LINEのアイコンは自撮り(微笑にピースサイン)。……超普通である)


「はあーーあ……。今頃…?? なんなのさぁ〜………」


私の鬼電から三十分経って、やっと折り返してきたお兄ちゃん……。
仕方なし…と。私はスワイプして受話器を取るのでした〜〜…。
…あーあもうタイミング考えてよっ!!!


 ────スッ


「はいもしもしもしもし!!! 何お兄ちゃん今頃になって!! もういいよ私は寝るんだか──…、」



『……もしもし。……瞳さん、ですか?』





「へ?」




 …私は虚を突かれた思いだった。
……言い換えたら不意打ちだった。あと予想打にしなかった。あとは寝耳に水だった。

…私の耳に入ってきたその声。
それはお兄ちゃんの声ではなく、水のように透き通った女子の声だったのです………。


…いや、いやいや、ちょっと待てい!!!
この夜に姿のないお兄ちゃん…。そして、お兄ちゃんの代わりに出た女の人………。
こ、これって……。い、いやお兄ちゃん本気で何してるわけっ??!!
あの比較的ビビリで度胸なしのお兄ちゃんが、よ、よ、夜遊び…??!!
これじゃあ不肖の兄じゃなく不埓な兄じゃん?!! もはや兄ですらなく『乙』っ!!!
お、乙よ……、卒業…しちゃったってわけ!?
この電話はどうやら顔を赤めないと聞いてられないようでござい────…、


『……瞳…………。…三嶋…瞳さん? ですか………?』

「…へ???──」



「──み、三嶋ぁ〜〜〜…??? 私は只野ですけど…? ただのっ、瞳っ!!」

『…ただの瞳………………? …貴方はこの方の…、知り合いですか?』

「…………〜っ?? この方…とは……。兄ですけど〜……。私のお兄ちゃん」

『……あ、はい。…すみません、電話が鳴ってたので…、迷ったのですが折り返して…』

「…は、はあ……………──」

551『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:14:00 ID:puUwLcSo0
「──………。………あ、あのっ!! わ、私も家族ですし…ちゃんと知っておきたいんですけども!!! いいですか? ズバリっ!!!」

『………え、何をですか………?』

「恥ずかしいかもですけど…ズバリっ!! 貴女とお兄ちゃんはどういった関係ですか?!! てか誰?? なりそめは?? 経緯は??! どこまでしました??!!」

『………。──』

『──…私は、この人を知りません。ただ出会っただけの、そんな関係です………』

「…うぇ??」



『────…あと、私は【佐野】と…いいます』





……。



……うぇ、え???




『瞳さん………。…気を落とさず、聞いてほしいんですが………』

「えっ???」

『…………………いや。すみません、何でもないです』

「…うぇへっ????!」


『ところで瞳さん、今、どこにいらっしゃいますか? ここで繋がったのも縁なので………、…私と落ち合ったりとか…しませんか……』


「え、え、え。…家ですけど。マンションの…」

『…マンション。…ということは、渋谷マンションですか…?』

「えっ???!」

『…今向かうので、…危険が来ない限り待っててください………』

「え、え???? ちょ、ちょっと……。え、どゆこ──…、」


『…それではっ………!』




 ────デデンッ…

  ──[通話終了]







「………………………………………」

552『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:14:27 ID:puUwLcSo0

………………。



……………………え、


………え…、




…えーー…………????





 チリン、チリンと揺れる風鈴。
吹き抜ける風が私の素肌を通る…。



…とりあえず、……眠気…。
超消えちゃったんですけど……………っ??!

553『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:14:43 ID:puUwLcSo0





『──続いて渋谷の天気です。曇りのち晴れ。最低気温は28℃。午後にかけて日差しが強まる予報です────』





 気が付いた時、僕は自宅にいた。

朝焼けがカーテンの隙間から伸び、点けっぱなしのテレビ以外は無音の、いつもと変わりないリビング。
こんな朝早くだというのに、ダラダラ汗を掻きながら直立不動の妹には気になったものだけど、…それでも平穏そのものな自宅だった。


…これは、……最後に家族へ別れの言葉を残しておけ、…だなんて、神様の気遣いなんだろうか。
過程はどうあれ、僕はこうして渋谷から出ることに成功できている。


……その過程がとんでもない物だったわけだけども。



 僕は妹の頭をそっと撫でて、天からの光が差すベランダへと向かった。
足取りが重い訳では決してない。
だけども、今居るこの世を噛みしめるように、ゆっくりゆっくりと、歩くスピードは遅めでいる。





 …すみません。古見さん。
謝りきれなくても謝りたい思いです。



──あなたに会いたかった。

──…会えなかった。

──いや、会わなきゃ駄目だった。



……古見さん。
あなたは、男女問わず皆から無条件に好かれ、…いいや。好かれる以上に、物凄く愛される特性の持ち主です。
…あなたのその魅力で、悲惨なゲームを終わらせてくれることを、遠い空の上から願っています。


………どうか。
どうか古見さんの力で、闇を照らし光が圧勝しますように。
そしてどうか……、みんなに笑顔を届けますように。






…ごめんなさい。古見さん。



いつか友達として、また再会しましょう。






またいつか。


いや、『いつまでも』…────────。






-------
…………
………
……


554『大好きが瞳はタダノくんの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:14:58 ID:puUwLcSo0
【1日目/D2/住宅街/AM.04:26】
【佐野@空が灰色だから】
【状態】健康(普通の姿)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:『三嶋瞳』がいる渋谷デイリーマンションに行く。
2:来生さんにもう一度会いたい。

555 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/07(月) 20:21:27 ID:puUwLcSo0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①救急車にするか、
②マ●ックミラー号にするかで、
③迷っています。

【次回】
──惨劇の序章。

──敵は本能寺にあり。

──間もなく燃え盛るこの場にて、4人の命が奪われる。

──Baccano(バカ騒ぎの幕開け)。

『北埼玉ブルース』…ひろし、飯沼、マルシル、海老名、山井、うまる、マミ、デデル、???

556 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/11(金) 20:19:43 ID:epSE9bTo0
【お知らせ】
想像以上に長くなったので『北埼玉ブルース』保留です

【次回】
──人が人であることをやめた時。

──終焉にて待ち受けるのは。

『TOKYO 卍 REVENGERS』…ミコ、カモ、三蔵、相場

557『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:17:25 ID:Cj/PtNN60
[登場人物]  伊井野ミコ、鴨ノ目武、鰐戸三蔵、相場晄

558『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:17:39 ID:Cj/PtNN60
『Morte Alla Francia Italia Anela』────!!

(──全てのフランス人に死を、これはイタリアの叫び)


 シチリア島を中心に組織するギャング集団『マフィア』は、上記の叫びが由来。(各単語の頭文字を並べてM・A・F・I・A)
マフィアは古来から『血は血でしか報われぬ』との掟のもと、身内が殺められた際は必ず報復を為す。
血の惨劇は血の惨劇で返す、爆殺には爆殺で返す、皮を剥がされれば生皮を剥ぐのみ。このような信条で、マフィアは止まらぬ負の連鎖を二百年以上続けていたという。

────言わば、『復讐』である。

血薔薇の乱れ咲きを以て、自分の叩き潰された尊厳、または殺された大事な人間の敵討ちをする──復讐という行為。
常々、復讐とは「そんな事やっても何も生まれない」と否定されがちではあるが。
──果たして、本当に『何も』生まない所作なのだろうか。



これは三つの『復讐』の物語。



 例によって、舞台は都内の古本屋。
その店主、裏の顔は殺し屋。厳密に言えば、『復讐代行屋』である。
誰よりも愛し、何よりも大切だった妻子が外道に殺されて以降、復讐屋として稼業を立て始めた──その男。
彼が復讐完遂した死体の数は、一つの集団墓地が出来上がるほどだという。

 あるいは、誠愛の家というタコ部屋を営む──その男。
動物や弱者を拷問し、幼女の首を絞めて射精するというサディストな男には、長年憎悪し、復讐を誓っている対象がいた。
自分の頭目掛けてバットをフルスイングし、惨めな現状に陥れた丑嶋馨と、自分の唇を切り落とした滑皮秀信の二人。
奴はその二人を徹底的に復讐すべくと、日夜日夜ドス黒い邪心が揺れ動く。

 そして、あるいは雪積もる村での物語。
クラスメイトによる悲惨なイジメ、行く末には家族全員を焼き殺された少女は、刃物を片手に雪原を歩き回る。
放火事件を起こしてもなお、ヘラヘラと笑い続ける下衆達の抹殺。それが彼女の原動力であり、もはや唯一の生き甲斐であった。
いじめっ子六人を惨殺したその少女──…を付き纏う男子生徒の物語。


地域、復讐対象、復讐者の年齢。どれもバラバラな三つであるが、

──その三つの別種類がある日偶然、同じグラスに注がれ、絡み混ざった時。

────化学反応により、『予想せぬ』味を生みだしていく──。



#060 『TOKYO 卍 REVENGERS』
副題:"A vengeance that sticks like stubborn limescale."
───(洗い流されることのない、執念)





 ただ、この復讐のワインには、一つのスパイス…──というよりも不純物が。

彼ら三人に交わるその少女は、不純を取り締まることがモットーの生真面目生徒で、そして刑法に触れる『復讐』【殺人罪 第199条】が何よりも嫌いだった────。

559『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:17:55 ID:Cj/PtNN60




『とても頑張ってる。そのままの君で…いいんだ……』

「〜…♪」



「ほーーん。………………で?」

「『…で?』、……とは何だ」

「テメェは遺族に代わって犯罪者共をたくさん殺してきました…と。ンでテメェは頭のおかしな殺人鬼です…ってか? ………で? それがどうしたっつうンだ? あぁ??」

「………………」

「まさかと思うが、ンな脅し文句でこの俺がビビるとでも思ってねェよなァ〜? テメェのぼくはヤクザですアピールで、俺がコイツをレイプしたりぶっ殺すのやめると思ったかァ? グラサン坊主野郎」


「……グラサンはともかく。坊主はお互い様じゃないのかねえ………」

「………あぁっ?! ブッ…!! …ぎゃはははハハハハハ!!!! あははははははははははっ!!!!!!──」



「──くだらねェ冗談言ってる余裕なんかねェぞゴラ? 止めてみろよ、何もできねェ偽善者!」

「冗談じゃねェよ馬鹿野郎。…オレはジョークを言わないタチでねぇ……ッ」



『辛いよね。泣きたい時には泣いていいんだよ……』

「〜♪」



 一触即発。
前方──鴨ノ目武、後方──鰐戸三蔵とで、殺闘前の睨み合いが繰り広げられていた。
互いに、これまでの人生山の数ほど人を殺め、蛆蝿集る肉片に変えてきた男同士。
平穏な日常生活じゃ決して見ることのない、悪漂う緊張感は、舞台である渋谷駅前を闇深きに染め上げていた。
大小凹み目立つパイプレンチを突き出す三蔵と、懐から何かを握り臨戦態勢に入るカモ。
戦闘のきっかけは比較的大したものではない。
カモの視点からすれば、この三蔵という異型な男。眼の前の少女を強姦したいだの、殺したいだのと言い放つ為、なんとか穏便に収めたい次第であったのだが──何せ相手が相手。
逸した凶悪思考を持つ奴には何を言っても無駄で、──三蔵もまた強姦行為を止めに入るカモが鬱陶しくて仕方なかった。
────“俺に指図すンのか?”──、と。


『大丈夫………。僕は君の味方だよ』

「〜〜っ!…♪」


「…お前さん、格ゲーのフィタリティって知ってるか?」

「あぁ?? 何言ってんだテメェ」

「…モータルコンバットとかで。戦闘終了後、敗者相手に勝者がグロテスクな処刑を行うシーンをフィタリティと言ってねえ。あれは二十秒くらい残虐な演出がされるんだよ」

「……なァにが言いてェつってンだよサル」

「だけどな、オレのフィタリティは二十秒なんかで終わらないよ──」



「────屑はたっぷり苦しませるからねえ…。たっぷりと」


「あ? 拷問椅子座るのお前だけどな? ひっさびさに釘まみれの自作チェアー誰かに座らせたかったンだわ〜──」


「────ンじゃやっか? 文字通りの椅子取りゲーム」

「……『やるか?』じゃない。……殺るんだよ、屑」



「……………ッ」


「……………ぃッ」



『君には僕がいるんだから………』

560『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:18:14 ID:Cj/PtNN60
言うなれば、この現状。
『善の外道』 対 『悪の屑』という対立構造となるのだろう。

人の道から外れた者同士の殺し合いは如何に。

惨殺合戦の火蓋は、今にも飛び出しそうなくらいに暴れ狂っていた────。



『今にも飛び出しそうな君を、僕は愛してる──…』

「…あはは…♪ キス、してみたいなぁ…………」





「「………………」」




「………オイッ!!!!? つかうっせェ───ッ!!!! なんなんだ女テメェッ??!! さっきからイヤホンダダ漏れだっつぅのッ!!!!!」

「…えっ?? あ、すいません鰐戸さん。どうしましたか?」

「……伊井野。取れてるんだけども。…イヤホンジャック」

「え゙ッ??! う、嘘ッ??!!! や、やだ…。ほ、本当ですか鴨ノ目さんッ??!!!」


「……………はァーー…………。何聴いてんだよコイツ………。おいッ保護者の鴨ノ目ェ!! このバカに何再生させてンだァ?!」

「……いや、曲セレクトは彼女自身だから……」

「つーか曲じゃねェーし……」

「…色々と困ったもんだねぇ………」


「〜〜〜〜〜っ!!!!」



 ────戦闘、中断。

思えばつい数十分前も、カモvs三蔵──復讐者同士の死闘が遮られたものだが、何という天丼ネタであろうことか。
殺意波打つ緊迫感は度々、ミコ一人によってぶち壊しとなっていく。
つまりは、二人にとって『伊井野ミコ』というノイズはそれほどまでに強烈な存在であった。
──これもまた、法の天秤の元、犯罪行為は絶対許さないというミコの信念が現れた元なのだろう。
ノイズ少女は赤っ恥をかきながら、『耳元ASMR キン●リ平野のゼロ距離囁き♡ 安らぎの温かい吐息、憩いの空間へ……』の再生をアタフタ停止した。


「…ごほんっ。勘違いなさらぬよう弁論しておきますが……、私普段からこういうの聴いてませんからねっ!! た、たまたまですから!! 勉学に日々励み、司法書士を夢とする私が…ジャ●ーズ系アイドルにウツツなんて……。し、してませんしっ!!! 本当ですよ!!」


「…………チッ!!」



「………………………うーん…」

「『うーん…』じゃねェよハゲ!!!」

「………いや、オレも悪かった。…オレの責任だよ、こればかりはねえ…」

「ったり前ェだゴラッ!!! だから言っただろうがよッ?! レイプとかぶっ殺し予定は抜きにして、このバカ女は超絶邪魔だから一旦どっか行かせろってなぁ?!!」

「………うーん…」

「それをテメェーが『女の子一人は危ないから〜』とか偽善ほざいたせいで全部ぶち壊しじゃねェか??!! テメェ自身だってコイツのことうるさく感じてるから、イヤホンでノイズジャックさせたンだろ?!──」

「──…テメェと、このクソガキのせいで………。色々全部ぶち壊しじゃねェかァッ!!!??!! どう落とし前つけンだ山猿がッ!!!」

「……………だから困ってるんだろうが。オレも『うーーん』って──…、」



 ピュイ〜ッ────────────!!!



「……!!」 「…あぁもうッ!!! チッ!!!」


二人の喧騒を止めたかったのか、またもや『黄色のホイッスル』というノイズが会話を邪魔する。
たじろぐ二人を傍目に、風紀委員のミコは随分と忙しい人だ。

561『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:18:31 ID:Cj/PtNN60

「…鰐戸さんっ!! 今…。レ、レイ…プとかいう信じられないワードが聞こえましたが…………。…風紀委員として断じて許せない言動ですっ!!! 神聖なこのバトル・ロワイアルで…なんて破廉恥な………。恥を知りなさいよっ!!!」


「…神聖……ねぇ……」

「またかよコイツ…」


「いいですか? 確かに現代日本では言論の自由・発言の自由が許容されています。ですがっ!! 公共の場での卑猥な発言は、刑法175条・わいせつ物頒布等罪に該当します。親告罪ではありますが、被害届を受理されると逮捕。起訴後、懲役三年又は罰金刑が課せられる、立派な犯罪なんですよ!!」


「…ミコ、少し落ち着きなさい………」

「いや待て。一々ウザ過ぎて逆に面白くなってきたなコイツ…──」

「──おい伊井野!! テメェなぁ…風紀委員とかお固い自称してる割にゃあ、猥褻ワードに随分お詳しいじゃねェかよ〜?」

「………っ?!! えっ?」

「口では偉いことほざきつつも、どうせ頭ン中はエロスで一杯なんだろッ!! あぁそうだ!! じゃねェとあんな催眠音声なんか聴かねェもんな!!!」

「な?! ち、ち違いますよっ!!! 失礼過ぎます鰐戸さんっ!!! 撤回を要求します!!!」

「嘘こけ!!! これにて偽善者の皮破れたり!! それもそうだ、ンなデカい乳して性欲がねェとか御伽噺にも程あるぜッ!!! ぎゃはははははははハハハハハハッ!!!!! ぎゃははははははははははッ!!!!!!」

「……ちょ!! も、もうっ!! や、やめてくださ…──」


「──って、ひゃんっ………!!♡」

「………」


 お手本のような嬌声がミコの口から漏れ出た。
馬鹿笑いを繰り返す三蔵が揉みくだすは、無論ミコの黒いベールに包まれし胸や太もも。
サディズムな三蔵故に、痛いぐらい握りしめられたのだが、割と満更で無さそうな嫌がり顔をするミコには困ったものであっただろう。
カモは呆れ半分怒り半分で、三蔵を静止にかかるが、奴は気付けばニヤニヤと。
カモの股間部分に視線を落とし、ヘラヘラほざき出した。


「…つまりは偽善者山猿。テメェも本心はヤりてェで一杯なんだろ? あ〜ッ??」

「…馬鹿か? …おい、あまりふざけるなよ屑。ミコもミコだけど、お前も調子乗りすぎじゃないのかねぇ」

「はぁ??!! 『私も私だけど…』ってなんですかぁっ?!!!」

「うっせェテメェは話入ンな伊井野ッ!!! …あのなァ、いい加減自分に正直になれや? 偽善の皮剥いでテメェも楽になれよ? な?? どうせカウパー滴ってる癖によォ〜??」

「…カ、カウパーっ??! …………鴨ノ目さん、貴方までそんな性的な……。嘘…ですよねっ………?」

「…黙りなさい。嫁入り前の女の子がそんな単語言うんじゃない。…あのねぇ、鰐戸や………」

「あっ、それとも皮は皮でもまだ剥いてねェとか?! そりゃ人前でチンコ出せねェよな?!! ぶっはははははははっはっはっはっはっはははは!!!!!! ぎゃはははははははははははははははははッ!!!!!!!!!」


「……………」


念の為補足するが、カモは別に三蔵の発言が「ズバリその通り」だった為、黙った訳ではない。彼は(死別済みとはいえ)既婚者である。
ただ、もう殺し合いとか戦慄だとか、そんな雰囲気はオサラバな現状下にて。

カモの目に映る──…一人で馬鹿笑いする三蔵と、
──…支給品である『クロミちゃん特大ぬいぐるみ@マイ●ロ』をギュッと抱きしめる──、


「……もう、私…世の中が…嫌になっちゃうよ……。この風紀の乱れ……、私いつも頑張ってるのに………。なんでいつもいつも報われないの………」

「…………」


──伊井野ミコには、流石のカモもある意味戦意喪失といった訳で。

勿論、それは比較的平穏。平和この上ない現状で、カモ自身も諦めて事の成り行きを見届ければ良いのだろうが。
行き場のない戦闘欲のもどかしさというか、消化不良に終わったむず痒さというか、──とにかく色々で。
彼は呆れ返り、ただ坊主頭を搔くしかできずにいた…………。



「……………全くもって困ったもんだよ…──」



「──……ふう…………………」







「は? 困ってんのはその子だろ。クズ共」

562『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:18:50 ID:Cj/PtNN60
「「「……………………っ!!!」」」




 前触れもなくして。
ギクシャク三人一行に発せられたその一声は、当然ミコでもカモでも三蔵の物でもなく。
彼等の前方十メートル程離れて立っていたのは、恐らくミコと歳は離れていないであろう黒髪の男子であった。


「……あ? ンだよテメェ??」

「『あ?』じゃねえだろ。…っていいやもう。おまえらチンピラとは話しても無駄だしな」

「あぁッ?!」


 端正で顔の整った少年の姿は、カモ&三蔵という凶悪面ばかりと接するミコに新鮮な思いを届けただろう。
先程までか弱くながらも抱きしめていたクロミちゃん人形から、すっ…と力が弱まっていた。
そんな彼女と目が合った少年は、ニコリと微笑。
シッ、シッ、とミコへ向けて手振りをしながら、彼は『カメラ』をそっと構える。


「…キミ」

「え、…わ、私ですか?」

「うん。ちょっとばっかり離れてくんないか? レンズに入っちゃうからさ」

「………。…は、はあ」


突如として現れては、自分の監視対象兼仲間をクズ呼ばわりし、そしてまた前触れもなく撮影を整えだす少年。
そんな彼にはミコとて違和感は感じていたが、何となく彼の言う通りには従ってみせた。

少年の視点にて──カメラのレンズからミコが消えた折、彼はゆっくりとシャッターレンズを押し込む。


「……おい鴨ノ目、なんなんだコイツ……?」

「…さあねぇ…」

「…チッ。おいクソガキ!! 誰の許可得て撮ろうとしてんだゴラッ!!!! 舐めとんのかキサ──…、」


「うるせえよ。会話する気ないつっただろ?」


レンズの被写体は、二人の男。
────鴨ノ目武と、鰐戸三蔵の姿──。
睨みながら近寄る三蔵ときたら、それは写真としてブレまくったのだろうが、少年にとってはそんなことどうだって良い。

彼は「はい、チーズ」と小声で呟くと、────刹那。パシャリッ。





 ───ドッガガガバギャァァアアァアアアアアアアアアアアアアッッッ




「…………………………えっ」





爆音と、光と共に乱れ咲いた彼岸花。


唐突に鳴り響く、鼓膜を刺激するほどの爆発音に、ミコが振り返ったその時にはもう。



二人の復讐者の姿は、灼熱の炎で完全消失していた。






「…『おもふひとはあなたひとり』。綺麗だよな。彼岸花の花言葉だ」

563『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:19:01 ID:Cj/PtNN60
「……………………え」



「…いや、守ってやったんだからお礼くらい言えよ……。……って、まぁ言葉失うのも無理はないか。悪い。──」


「──俺は相場晄。……ま、とりあえず自己紹介云々も兼ねて、そこで話そうか。な?」





クロミちゃん人形が、ボトッ…と地面にこぼれ落ちた。

564『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:19:16 ID:Cj/PtNN60






……
………


 伊井野ミコは、泣く時はいつも個室空間。一人の時のみだった。
風紀委員として我が強すぎる彼女は、時としては皆が恐れるヤンキーの先輩に、時としてはクラスで人気者の男子にさえ注意を躾ける。
場の空気感、人間関係、流れなど気にせず、校則違反があれば些細でもガミガミと叱責する──そんな彼女だった。
故に、ミコを良く思わないクラスメイトが(特に中等部時代は)大半で、陰口を囁かれたり、陰湿なイジメを受ける事が度々ある。

──ミコが泣く時は、誰もいない場所で。いつも隠れて、一人の時のみだった。
今までは。



「……っ、うっ………………。っ…、…ぐっ…………………」



「『はにかみや』…。三角草の花言葉さ。…はにかむと意外と可愛い『はにかみや』…ってな──」

「──…ははっ、笑うなよ? 俺、こう見えて花とかが好きでな。ガラじゃないんだろうが…花を慈しむのが密かな楽しみなんだ──」

「──…おいおい、女々しい趣味だな〜とか思ったりしてないよな? 厳密に言えばさ、俺は花が好きというより花の写真を撮るのが好きなんだ。…いや、つか写真がそもそも趣味って感じか。ほら見てくれよ。この、二人映るうちの…お姉ちゃんの方──」

「────『野咲春花』。この子がさっき説明した三角草の花。…俺らがこれから探すその人さ」


 珈琲チェーン店二階。多人数用テーブルにて。
クロミちゃんぬいぐるみで顔を伏せ、肩を震わすミコへ。相場はポケットから『小黒妙子の死体写真』を取り出す。


「あっ! やばい間違った!! ………………ち、違うんだ…。…これは関係ないっていうか……、本当にどうでもいい写真だから…!! …き、気にすんなよ?──」

「──…ふぅー。……えーと、…あぁこれだこれ──」


 ペラッ


「──この長い髪の女子が野咲。…美しいよな……。…彼女は俺が支えてやんなきゃいけない。俺と野咲は互いにな、…唯一の友達同士なんだ。…な、キミ」


「…っ…………、ぐっ……………うぅっ……………………」



「……………………。…あのさぁ……」

「………………っ…、…ぅ…………」

「普通、学校でもなんでも…挨拶くらいはまずするよな。常識的に。………キミいつになったら名乗るわけ? あんたの名前知らんワケだから、俺はいつまでもキミキミキミキミ…って。いい加減ウンザリなんだが………。いや、マジに」

「………………っ…………」

「……会話する気0…か。てかそもそもさぁ…、泣く要素………どこ? いや泣くのが癖ってんなら俺も深堀りはしないけどよ。何か事情あったんなら相談には乗るぞ?──」



「──キミには俺がいるんだから」




“────君には僕がいるんだから………”


「………っ!!!…」



優しい口調で、そして温かな掌で頭を撫でられるミコ。

傍のガラス窓を見下ろせば、今も尚、爆裂の焔が燃え盛っていた。



「…………………ふっ、ふざけないでよ…」

「…え? …あぁ悪い。俺的には冗談話してたつもりは一切ないんだが……。何か気に触ったのならそれは──…、」


「…人殺しッ!!! ふざけないでよ……ッ、…この人殺しがぁあアァッ!!!!!」



「…………………………は?」

565『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:19:31 ID:Cj/PtNN60
 涙でグッショリと濡れるぬいぐるみ。
彼女の瞳に映る、面を喰らったといった相場の顔といったら、余計激情が堪らなかった事だろう。

ウィンクと微笑を維持するクロミちゃんとは対象的に、顔をあげたミコの表情は激しい怒りと悲しみで震えていた。


「……ぃぃッ!!」


「………いや、おまえさ……、ちょっとヤバくないか? ………人殺し呼ばわりとか………ないだろ」

「…うぐっ……うっ……、ッ……!! …ヤバいとかヤバくないとかッ………、法を遵守とかしてないとか…もう関係ないしッ…………!!」

「…は? まぁいいや。…正直俺さ、おまえが怒ってる様子見て少し安心したよ。何はどうあれ、やっとおまえは俺に意思表示したんだからな。………ははっ、いや、その──…、」

「アンタは命を奪ったッ……!! …罪のない……、二人を…………。理由もなく殺したッ…!!!」

「………ぁあ? ……おまえさぁ、人が話してるときに被せてくるの、やめ──…、」

「アンタの名前なんかどうでもいいしッ…知りたくもないッ!!! 私はアンタを絶対に許さないッ!!!! 許さないん…だからッ!!!!!」


「………………んだよそれ……──」


「──おまえなぁ、あの死んだクズ共に同情して俺を恨んでるならお門違いだからな? …あのまま野放しにしてたらおまえ今頃死んでっからな?? …いや、ただ死ぬだけならまだ不幸中の幸いだぜ…。──」

「──おまえの綺麗な顔も、貞操も。何もかもが徹底的に侮辱されて、苦しい思いさせられた後にやっと楽になれるんだぞ? 冷静に考えてくれよ、なあ?」

「クズ共って呼ばないで…ッ!!! あの人たちの名前は、…鰐戸さんに、鴨ノ目さん………ッ!!! アンタ如きが人をクズ呼ばわりできる人なんかじゃないんだからッ!!!!!」

「…………」


「……確かに私だって鰐戸さん達のことはよく知らないし…………。それに、正直…怖くて……何されるか分からないって…疑心になる節もあったわよ……………」

「……」

「…ィッ…!! でもッ…、それでも殺して良い人なんかでは決してないッ!!! 殺人は許されないッ!! 私が指導更生すれば、優しくなれる…そんな心を持つ人達だったのよ…ッ!!!」

「…」

「…それを……アンタは何も知らずして爆殺したッ!!! 蟻を踏み潰す感覚で…、適当に命を奪ったッ!!! 私はアンタと話すことなんかないわ…!!!──」


「──償ってよッ…。裁かれて…苦しんでよッ!!! この……人殺し…。人殺しがァああ──…、」


ミコが涙を撒き散らして叫ぶ時。──その時にはもう既に相場の瞳孔はどす黒く死にきっていた。
彼は熱々のブラックコーヒーを、彼女が話し終わるのを待たずして顔にぶっかけると、


「…ッ!! 熱っ…!!! い、いやぁあッ──」


「───あっ………!!!」



ミコが大事そうに抱いていたぬいぐるみを鷲掴みにし、力づくで引き奪う。



「……ごめんな、俺ビョーキなんだ。カッとなると見境なく暴力奮っちまう。…でも、自制してる方ではあるよな? おまえを殴ってはいないんだから………」

「…ちょ………。か、返して…。…返しなさいったら……、ねえっ…………!!」

「え、返さねぇよ? 何せおまえはコイツを抱けば言いたいことを言う勇気が湧くんだからな。…コイツさえいなけりゃ、おまえは正常な言動に戻れるんだッ…」


「返してったら…………。……あっ!!」


──ビリッ、ビリビリビリッ…バリッ。


 首を引き裂かれ、綿が大きく飛び出すぬいぐるみ。
口調は淡々ながらも、眉間に皺を寄せ表情が歪む相場は、ミコ唯一の心の拠り所を力一杯引き裂いた。

無惨な姿にされてもなおコチラに微笑むぬいぐるみの姿は、か弱い心ミコのをグシャグシャに押し潰していく。


「…い、いや…。いやァぁあああああああぁあああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」


「…うるさいよ……。大袈裟かっつうのッ。…おまえは……ッ…。………ハァ、ハァッ…」

566『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:19:47 ID:Cj/PtNN60
怒りのまま顔面の綿を毟り取っていく相場。
かつてズングリムックリで柔らかい心地だったぬいぐるみは、今やヘロヘロの皮のみとなる。


「やめてぇ…。やっ…やめて…ぇぇ………」

「…ハァア……ッ。うるせぇッ」


彼女の悲痛を作業用BGMのように聞き流す相場はビリビリビリビリッ──と。
ぬいぐるみの胴体から手足から、なんの見境もなく八つ当たりの引き裂きを続けた。
もはや原型を留めなくなってもなお。


「や…やめ…………」


「…………」


「やめてぇえええええええええええええええええええええええええッ──…、」

「……………ィッ!! うるせえッていっただろうがァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!」


そして、とうとう矛先はミコ自身に向けられる。
普通、どんな男であれ女子の顔を殴る事だけは御法度。──例え、怒りを堪えられなくとも最低平手打ちと。ダメージを与えるような事はしないもの。
ただし、相場晄という男は『普通』なんかでは到底無い。

──ゴシュッ…と。

白い綿を握り潰しつつ、その拳のままミコの右頬を容赦なく振るい放った。


「いッッ、きゃァアアッ──」


「──ィッ、いぃ……ッ!!」


 間髪入れずして、ミコの頭皮に襲いかかる鈍い痛み。
ミコの前髪を引っ張り上げた相場は、その恐ろし狂った形相を一気に近付ける。
彼の手の甲に付着した、ミコの汗と涙の粒。
──そんな体液の生暖かさ、か細さなんてわれを忘れた狂人には、何ら罪悪感の揺れ動きなど無かった。


「……痛いかッ? あぁ痛いよなァッ?? 」


「……‥やっ……………、ぃたいっ……ッ。…やぁっ……やめ……。離して──…、」

「…俺は今までの人生その何倍も心をズタズタにされてきたんだよッ!!!!」


グッシャクシャに髪を揺り引っ張り、激昂を叫ぶその男。


「引っ越す前の…仙台の奴らも……ッ。小黒の野郎もッ、ばあちゃんもッ、…母さんでさえもッ……………、そしてテメェもッッ!!!!!!」


「ぃぃっ…ッ、…あぁっ………」


苦悶と恐怖で涙を流すミコ相手に、男は好き勝手に独りよがりな激怒を続ける。
奴は屑をも越えた完全なる外道。
相場は、鬼であった。


「この世の『女』って生き物は全員…ッ! 誰も俺の言うことを理解してくれないッ!!!──」

「──俺をいつまでも苦しめてッ……、いつもいつも…いつも、いつも、──」

「──いつも、いつも、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもッいつもッいつもッいつもッいつもッッ!!!! 嫌われてばかりの人生だッッ!!!!!!」

「…………いぃっ…………。ぐっ…………」

「痛いのは俺の方なんだよッ!!!!! 俺ばかりがいつも苦痛なんだよオオオッッ!!!!!!!」

567『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:20:04 ID:Cj/PtNN60
相場という男は、完全に逸している。


圧倒的恐怖の存在であった。



────ただ、ミコの人格を形成した『信念』は。

──たかが恐怖ごときで、今更怯む物なんかではなかった。




「…嫌われて当然でしょうがッ………」


「………ハァハァ……。……あ? ………今なんつった」



「…嫌われて当たり前よッッ!!!! …こ…この人殺し…、人殺しがぁああああああああああッ!!!!!!!」

「………ぃ、ぃぃィイイ!!!!!!!!」



 頬と前髪の痛みに、流れ出る口元の流血。
そんな心身的激痛を超越した、ミコの正義の心。──心からの叫び。
無論、彼女の発声は悪足掻きとほぼ同等。
ブレーキーの無いイカれた四輪駆動にガソリンを注いだ様なもので、相場の激情により一層火をつけたまで。
後先を考えれば、無抵抗でいた方が身の安全であったろう。


──だが、その場の安全が保証されて何になる。


──日和見。事なかれ主義で、『無念』は晴れるものなのか。



────カモと三蔵。ミコが背負った二つの『無念さ』を、暴力なんかで屈したくは無かった。




「ハァ…ハァ……、俺がッ……」

「…………!」


「俺がテメェを守るって言ったじゃねェエかよォオオオッッ!!!!!!! 女ぁああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!」



「………ッッ!!!!」




──ただ、その強い信念を引き換えに、石直球の様な拳をひたすら浴びる迄であった────。










「あ? 男もテメェのこと大嫌いだがな?」







「…えっ」

「………あ?──…、」




「鳴けよ、ブタ。──むンばッッッ────────!!!!!」





 ──ガシャンッッッ────

  ────ボキッ

568『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:20:20 ID:Cj/PtNN60
 ミコの鼻目掛けて放たれた筈の右ストレートが、フッ…と力無く落ちる。
相場でも、ミコでもない。──第三者の声が、喧騒を遮ったその時。
気が付けば、相場の腕はテーブルに叩きつけられ、そして骨が飛び出る程へし折れており、
その異形な腕を理解した時、相場は初めて強烈な痛みを感じ、絶叫をあげた────。


「いっ…ッ!!! ぎゃぁぁあああぁぁあぁああぁあぁぁああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!!!」

「あァッ?!! おいクソガキ、テメェは豚なんだよ!! ブタは『ぎゃあ〜』なんて鳴かねェだろうがッ?!! バカかテメェ!! ぎゃはははははははッ!!!!!!」



「…え…………………?」



激しい痛みに、腕を抑えてのたうち回る相場。
──そして、パイプレンチ片手にゲラゲラ嘲笑する『その男』。


ミコは信じられなかった。
脳の処理この時が全く追い付いていなかった。


一度無くなった物はもう二度と取り返せない。

死んだ者が生き返る事だなんてある訳がない。

錬金術が当たり前なアニメ的世界ならともかく、完全に消え果てた者が再来するなんて、現実主義者であるミコは全く信じてはいなかった。

そう。
信じていないからこそ、ミコは『その男』に目を丸くして驚き──、



──先程まで流した物とは、また別の感情の涙が零れ落ちた。






「…が、『鰐戸さん』っ……………!!?」





 勿論、そこに立っていたのは幽霊ではない。
鰐戸三兄弟の極悪三男────。
──鰐戸三蔵は、微々たる火傷痕を擦りながら、ミコの元へまた、戻ってきた。


「……ぃぃいいいぎぎぎぎぎぎぃいいいいッ………!!!! ああああああッ………!!! な、なんで………ッ」

「ははは〜っ。痛そう〜、うけるわ(笑)──」

「──つーか伊井野!! 随分コイツとお楽しみの様じゃねェかよ。こんなヘニャチンよりも俺の方が楽しませてやれンのによォ〜?」

「…………あ、あ…………」


まるで何事もなかったかのようにヘラヘラ下衆な事をほざく三蔵。
その姿には、ミコは言葉が詰まりつつも歓喜を、一方で相場は脳がシェイクするほどの絶望を感じていたのだが。
二人揃って共通に思った事がある。

「何故、生きているのか」──と。

語気、声色は違えど、ミコと相場の声がハモリを見せた瞬間だった。


「…あぁッ??! 生きてちゃ悪ィかよッ!! ぁああ?!!」


「…え。いや!! 違いますよ…!! で、ですが………」

「いや…悪いに……決まってんだろ…がぁああ………………ぁああッ………いっぎゃぁあ……」


「…あ、あの時………。爆発に巻き込まれて…………。私、…それで死んじゃったと思ってて……。が、鰐戸さんっ……!!」

「あー、そっかそっか。ンまぁ普通死んだと思うよな。…テメェもすっかり殺した気になってたもんなァ〜?! ブタくん♪」

「ぎぃっいいいぃぃぃ……………………──がぁっ!!!」


豚──と罵られる程、相場は別に肥えてはいないのだが。

それはともかく、悶える彼を軽く足蹴りした後、三蔵は自らが生きている『理由』を語り始めた。
靴底で相場の頭をゴロゴロ撫でつつ語る三蔵。


──この時の彼は、先程までのおちゃらけた醜悪の表情と打って変わって、シミジミと真剣な面持ちであった。

569『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:20:38 ID:Cj/PtNN60
「………縁も絆もねェどころか、『絶対ぶっ殺してやる』って、いがみ合ってた野郎だっつうのによ。──カモ。…カモ…兄ちゃんがよ。……俺を助けてくれたんだ」


「………えっ?」

「…は、はぁ……………ッ?!」


「…爆発の直前、俺の襟首掴んで投げ飛ばしやがって。……『何すんだゴラッ?!』とか言おうとしたら、ボンッ…ってよ──」

「──笑えるよな? つーか意味分かんねェし。あの野郎の考える事は理解できねェよ。だが、とにかく奴は…、兄ちゃんは俺を救ってくれたんだ──」


「──自分はグッチャグチャに火だるま化したっつうのによ…………………」



「……………えっ……。………え、それって…………──…、」

「…それはつまりバカチンピラは犠牲になったんだろ………? コイツの枯草にも劣る命守ってさ……。…ははっ、ハハっ!! …ば、バカかよ……? ぐっ…、ははははッ…!!!」


「………………」

「……ィッ!!」



 ────鴨ノ目武。

屑を最も嫌い、そして幾多もの屑達を残虐に葬り去ってきた彼が、何故鰐戸三蔵という男を『生かした』のか。
当の本人はもういない以上、その真意を聞き出すことは無理だとミコはこの時思ったが、それと同時に、彼への畏敬の念が込み上げてきた。
カモを失った悲哀と同時に、──畏敬が一つ。

“あぁ…やっぱり私の見立て通り。”

“鴨ノ目さんは、『良い人』だった……。”

──と。

ミコはもう、涙が溢れて零れて、感情の揺さぶりが止まらなくなっていた。


「……チッ…!! 身代わりとか兄ちゃんとか……すごいどうでもいいんだよ…!! 俺はっ……! ギィッ…。良いからさっさと足どけろよチンピラ………ッ!! もう満足だろ……。な?」

「…………あァ?」


止まらぬのは、一方で相場の減らず口も同様。
腕を滅茶苦茶にされ、圧倒的不利な境地に陥っても尚、メンチを切り続ける彼は、流石サイコパシーの異常者と言えよう。


「仕方ねェなァ? おらよ、ブタ」


 ──ゲシッ…────


「ンギャッ……!!!」


そんな異常人間を称賛するかのように、言われるがまま彼を蹴り飛ばして『足をどかした』三蔵は、相場に向かってこう言葉を発した。



「……俺には兄ちゃんが二人いた。…血の繋がる兄弟が、…二人、な」


「…え、鰐戸さん…………」


いや。
彼が言葉を綴る相手は、下衆でイカれたカメラ少年向けてではなく。
──顔は向けずとも、ミコに話していたのかもしれない。


「…一兄ちゃんと二郎兄ちゃん。…固い絆で結ばれて、いつも一緒にいた俺ら兄弟は……──死ぬ時もほぼ同時だった」

「……えっ。え? …それは……。…つまり………」

「九九も五十音も言えねェような悶主陀亞連合のポン中共に散々拷問されてッ……。散々屈辱された挙げ句、歳の順でバラバラにされたんだッ…。生きたままッ……」

「……な、なんですか………?! そ、それは………」

「…二郎兄ちゃんが首チョンパされて、次は俺って時に。…気が付いたらあのバスの中にいた。………俺にはもう兄弟も家族もいねェ。失う物なんか一つもねェンだ」


「…………っ…。……」

570『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:21:26 ID:Cj/PtNN60
ふと、前方のガラス張りを見上げる三蔵。
──もしかしたら、この言葉は相場はおろか、ミコ相手に向けて話していないのかもしれない。


「だから。…だからよ。真意は知らねェが、俺を助けやがったあの野郎。──…カモの奴は、…偽善者のアイツに売り付けられた…『恩』ってのは…絶対果たさないといけねェ」


「………」


──坊主頭で、偽善煩くて、そしてサングラスで。
大嫌いだったアイツに。
三蔵はもしかしたら語りかけているのではないだろうか──。


「あの野郎こそが……。あのいけ好かねェ野郎こそが、…俺の兄ちゃん代わり。兄貴分なんだよッ……──」


「──伊井野。テメェは一々うぜェしさっさと犯してやりたいとしか思ってねェがよ………。カモ兄ちゃんはそんなテメェを大事にしていた……。…まるで本当の家族みたいに…──」


「──だからテメェは俺が守るッ……。野郎が兄貴分ならテメェは俺の妹分だッ…!!」



「へ…?! え、えっーー!!!?」

「チッ、うっせェ伊井野!! …俺だってガラじゃねェし…。こんなバカみたいなセリフ……恥ずくて馬鹿らしくておかしくなりそうなんだよッ!!!──」


「────だが俺にはもう失う物なんかねェ。恥もプライドも今更だ。……良いかァ? 伊井野。俺等が何故死なずに済んだか…」

「…は、はい」



「……答えは簡単だ。──失う物ねェ奴が一番【無敵】なんだよッッッ────!!!!──」


「──分かったか豚クソガキィィッッ!!!!」

「……………あ?!! は???」



三蔵が、らしからぬ【宣言】を送った相手は、ミコに向けてなのか、…それとも『兄貴分』へなのか。
──どちらにせよ、彼は再び相場へと睨みを飛ばした。


「…いや分かるかよ……ッ。………あー…見苦しいぜ…、異常者同士の家族ごっこ………。…つか…どうでもいいし、もう…………──」

「──んじゃ俺からも贈り物させてもらうからなッ…………!!! 太郎兄ちゃんだか何だか知らないが……、New兄妹セットであの世で再開させてやる…ッ!!!!」


「あっ!!!」


 相場はそうほざくと、懐から隠し持っていたハサミ(──小黒の盗品)を取り出し、不意打ちに背後のミコの喉元へ突き付ける。
折れてない方の手で握ってるとはいえ、三蔵の気迫に恐れてかガクガクと震えていたが、彼は容赦なく力を込めた。
カメラで爆殺という手法も選択肢にはあるが、ミコ、三蔵共に射程距離として近すぎる上に、そもそも両手持ち必須な重さの為、今は不可能。
三蔵に殺される事は覚悟であるが、せめて彼の心に傷をつけようと、ミコ殺害に足掻き始めた。


──だが、何故だろうか。



「…あ? …あ、あ??」


こんな卑劣な行動を取ろうとも、三蔵には焦りの表情は見えず。
気の抜けるくらいに、平然と眺めていた。



「…って、…あぁっ?!」


──そして、また何故だろう。

いくら力を込めようとも、健全であるはずの左手は『ビクとも動かない』。
まるで凍りついたかのように。
──いや、誰かに手を強く抑えられたかのように、全くとて身動きが取れなかった。



「…………………いや、おい………。嘘だよな…これ………………」


「……………」

──本当に、何故なのだろうか。
些細な事ではあるが、相場の額には冷や汗。絶望の玉粒が、にじっ…にじっ…と湧き出てくる。
彼は「嘘だよな」──と、今ある現実を逃避するかのような弱音を漏らしたが、一体相場は何を察したというのか。
何が起きているというのか。

571『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:21:42 ID:Cj/PtNN60
──答えは簡単である。



──【背後の『誰か』に左手を強く抑えられているから】、だ────。





「オレにも家族がいてねぇ。……って、三蔵の話と引き合いにしたら、オレの妻子も屑みたいに思われそうで嫌だけども………。ともかく、二人はもう居ないんだ。この世にはねえ…。──」



「………んだよ……………」



「オレにとって、ミコと三蔵。…そしてここには居ないが、トラは新しくできた『家族』だ」



「…………ったく、…もう………」



「どんな理由があろうと──」

「──法に触れようと、道徳も正義も倫理も関係ない──」

「──オレの家族を傷つけるやつは誰だろうと決して許さない」



「…………………もう、訳わかんねぇよ……………」


三蔵、そして『ミコ』に注目を浴びる中。
相場はとうとう力なく項垂れていった──。







「昔の中東戦争時に、戦場カメラマンを装って『爆殺機能付きカメラ』を使った国があるんだよ。お前さんが丁度持ってるソレがさ。兵士はさぞ無念だったろうねえ。民間人かと思って攻撃を避けてたらボンッ──なのだから。卑劣極まりなくて、オレはイス●エルに強烈な不快感を抱いたよ──」






「────だから、屑は許さないよ。絶対にねえッ……」








 ──ゴスッ──────







「…か、………『鴨ノ目』さんっ!!!」

572『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:21:55 ID:Cj/PtNN60




 以降、相場晄がとんでもない目に遭った事は、野暮なくらいに言うまでもないだろう。



「ハァ……、がッ……。ハァハァハァ………、ハァア…………。ミスミソウ……三角草の…花っ……──」


「──冬を……耐え抜いてぇっ……ハァハァ……。雪を割るように…じてっ…………、小さな花が……咲ぐ………──」


「──今は…苦しくても…、ゴホッ…!! ………ハァハァ………未来が苦しいとは限らない……。そう…だよな…、野…咲…。……野咲…ぃい…………………」



 片腕を抑え、そして片足を引きずり。
バッキバキに目を血走らせつつ、鼻息を荒くしながら、町中をフラフラ彷徨うは、相場の姿。
右目を大きく腫らし、止まらぬ鼻血をもう諦めて進み続ける彼は、もはや亡霊同然だった。


 数分前。
顔面をテーブルに叩きつけられて以降、気絶から覚ました時には、目隠し状態で椅子に拘束されていた相場。
この時、何故か上半身半裸にひん剥かれており、近くではヤニ臭い煙がモクモク漂っている。

──自分は何をされてるんだ…?
──俺はこれからどんな目に遭うんだっ……?!

完全なる視界不良の中、不安と絶句で冷や汗が止まらなかった彼だが、微かに聞こえるのは恐ろしい話し声のみ。
「一生物のブラジャーとブルマの刑だ、ぎゃはは」など、「いや、ガスバーナーで…」などと、想像を(悪い意味で)掻き立てる男たちの会話。
これは復讐者x復讐者による『拷問のクロスオーバー』が話し合われていたのだが、相場が彼らの素性など知る由もない。
ただ、得体の知れぬ恐怖だけが、彼を暗闇とともに包みこんでいた。


──そんな算段も、「『拷問等禁止罪』!! 身体的または精神的な苦痛を故意に与える行為は憲法違反で云々…」という口煩い女子の一声で破談となったのだが。



「野咲………。ハァハァ、……絶対俺が助けるからな…………。ガッハッ………。野咲……」


結果的に、自分が『守ろうとした』ミコに助けられるという皮肉な救いで、彼は比較的無事で解放されている。
(──とはいえ、帰り際、復讐者二人に顔面グーパン一発ずつを浴びたのだが)


プライドも身体もメンタルも、全てがボロボロにされた相場。
彼は現実逃避するかの如く、無思考でただ歩き続け、

そして無思考で、思い寄せる『三角草の花』の名前をひたすら連呼し続けた。




「…野咲……ハァハァ………。野咲………」



【1日目/G7/街/AM.03:06】
【相場晄@ミスミソウ】
【状態】精神衰弱(軽)、顔殴打(右目、右頬腫れ)、右腕開放骨折、左足打撲
【装備】爆殺機能付き一眼レフカメラ
【道具】写真数枚(小黒妙子の死体写真他)
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象:野咲春花】
1:野咲にとにかく会いたい。
2:邪魔する奴は『写真』に納める。
3:絶対に死にたくない。
4:チンピラ共(カモ・ミコ・三蔵)を許さねぇ……。

573『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:22:17 ID:Cj/PtNN60




「…わっ!! ひ、酷い火傷………っ。……鴨ノ目さん、良いですか…? 明らかに軽度のやけど以外は、皮膚科や形成外科を受診することが得策です。特に背中など広範囲に──…、」

「あ゙っ〜〜〜〜!!! 貴様は黙れゴラッ!!! ………にしても兄弟分、この火傷マジメにヤベェぞッ……。…グロ過ぎてもう俺焼肉食えねェクラスだわッ! …ぎゃはは……」


「うーーん…。…とりあえず、オレはもう二度と仰向けで寝れないねぇ…」



 一方で、ズタボロの相場とは引けに劣らず。
命からがら助かったとはいえ、カモら一行もダメージは激しい物だった。
殴られ跡を氷袋で冷やすミコ、そして同じく腕や顔の軽火傷を冷却する三蔵はまだ良い方。
相場の奇襲時、三蔵の庇護を優先したカモは、背中上部と右太腿を大きく被爆しており、──どうやってそう平静を保っているのか聞きたい程であった。


「…取り敢えずは包帯と軟膏で済ませるけども、……やはり急冷スプレーとか欲しいもんだねえ」

「…きゅ〜れ〜…ですか?」

「あ? ねェモンはねェよッ。今はスタバにある医療道具で妥協しろっつうの」


「……………。………あの、…鰐戸さんっ!!」

「はいストップ!!! テメェの言いたいことは手に取るように分かるからなッ?! 『薬局まで薬取りに行きましょう』っつうつもりだろ??!! 俺に指図すんじゃねェぞクソガキ!!! こんだけボロボロで行けるかアホッ!!!」

「…っ?!! ………ごほんっ。確かに映画のミ●トでは薬を取りに行った結果沢山の犠牲が生まれました。ですがっ!! 見てくださいよこの大火傷!!! 事は万事…極まりないですよ!!!」

「あ??? 映画の話はしてねェんだよッ」

「……初対面の時から思ってたけど知識披露したいだけじゃないのかねぇ、この子…」



ただ、皮が剥き出し状態とはいえ割と問題無く接し、あまつさえクロミちゃんの修復裁縫をする余裕まで見せるのだから、カモはやはり百戦錬磨のアウトローという訳か。
致命傷者0人という結果で、ひとまずは終わりを迎えそうであった。



涼し気な空調が珈琲の薫りを運ぶ、スター●ックス二階にて。


ミコと実質用心棒二人は、些かな休息を取りつつも、次なる事態に備える。






────【復讐】。

────それは何も生まないとは、本当か。




「…ところで、カモ兄ちゃんよ」

「…ん? 何だ」


「……………。……あのよォ、────何故、俺を助けた。…おかしいだろ、普通に考えりゃよ」

「…あ、それ私も聞きたかったです。あれだけ喧嘩をしていたというのに、…何の心境が………?」



「……………………」



────否。

574『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:22:32 ID:Cj/PtNN60
「…おい黙るなよ?! 見ざる言わざる聞かざるってか? 山猿か貴様ッ!!!」

「鰐戸さん! 正しくは『見ざる言わざる聞かざる』ですっ!! ………って、合ってましたね…」

「アホ死ね。…んで、兄弟分よ。真意はどうなんだ? あ?」



「……………──」






「──さあねぇ〜……」


「うわキモッ」

「…素敵です…っ。鴨ノ目さんっ……」

「は? 何処が?」





────復讐は、【無】を生む。




────特に何も無く、それでいて争いや恨み、悲惨さが無い一日ほど、素晴らしい物はあるだろうか。


────空のペットボトルには、何でも詰め込める力がある。


────無こそが、無限大の可能性を引き込む、最大級の一流価値なのだ。




────…きっと──。

575『TOKYO 卍 REVENGERS』 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:22:44 ID:Cj/PtNN60
【1日目/G7/ビル2階/ス●バ店内/AM.03:23】
【伊井野ミコ@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】精神衰弱(極軽)、頭部打撲(軽)、左頬殴打(軽)
【装備】???
【道具】ホイッスル、クロミちゃんの抱き枕
【思考】基本:【対主催】
1:殺し合いの風紀を正す。
2:鴨ノ目さん、鰐戸さんを信頼。
3:法律違反をする参加者を取り締まる。
4:カメラの少年(相場)がトラウマ。

【鴨ノ目武@善悪の屑】
【状態】背中火傷(大)、右足火傷(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:クズは殺す、一般人は守り抜く。
2:ミコ、三蔵と行動。
3:三蔵は屑と認識しつつも見直している様子。

【鰐戸三蔵@闇金ウシジマくん】
【状態】胴体、顔に微々たる火傷(軽)
【装備】パイプレンチ@ウシジマ
【道具】処した男達の写真@ウシジマ
【思考】基本:【静観】
1:伊井野、鴨ノ目を信頼。
2:自分に指図するクズ、生意気なブタ野郎は即拷問。
3:つか早くカモ兄ちゃんと拷問してぇなぁ〜〜。


※三蔵の参戦時期は死亡後(ただし本人は気づいていない様子)に確定しました。

576 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/14(月) 20:23:17 ID:Cj/PtNN60
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】

今回はちょっと長くなります。
…といっても、内容としては大したものではいないので、ご安心ください。

私は平成漫画ロワ以前に、「シン・アニメキャラバトル・ロワイヤル:||」というリレー物を企画していたのですが全13話でエタりました。
打ち切り理由としては、週1ペースで書いたとしても計算上最低6年間の付き合いとなるシンアニロワにて、「6年後にはオワコンになってる水星や推しの子の小説書くのはキツイいなぁ…」という思いが込み上げてきたためです。
決して飽きたとかやる気が失せたという訳ではありません。
作品のせいにするつもりはないありませんが、ただ、作品チョイスが打ち切りの最大の原因となっていました。(いや作品にせいにしてるやんけ)

この打ち切りを機に、私自身もロワ界隈から離れる志でいたのですが、
その折に流行りだしたのが春アニメ『ダンジョン飯』の存在。
実はこのダン飯。連載初期からネットの某片隅(というかなんj)で話題にされていた漫画であり、なんJグルメ漫画部で「センシすこ」とか「食べ物を食べ物で例えるのがなぁ」と(まぁ比較的)好かれ気味だった印象です。
私自身、小中高とアフィチルで、なんjでネタ(=ス〇マ)されてた漫画達は、なんというか青春というか。馴染み深い存在でした。

この時。──ダン飯に懐古を感じたこの時。
私は閃きました。
「そうだステマ棚の漫画でバトロワやらせたら新感覚やん」と。
そして「参加作品全部時代過ぎたヤツにしたら逆に長続きするんじゃね??」──と。

かくして気付けば60話を突破した平成漫画ロワではありますが、あらかじめ宣言しておきます。
このロワは私の青春です。いや、もはや人生といっても過言ではありません。
羽生は『将棋』、野茂とイチローは『野球』のことばかり考えているのと同じく、私には『平成漫画ロワ』。この平成漫画ロワという独立したジャンルを磨き上げていく熱意と自信があります。
つまり、平成漫画ロワは絶対全350話完結させます。それととどのつまり、失踪したらリアルに死んだと思ってください。(←これが一番重要)
というのも、1日1時間の執筆には毎夜メビウス10本とレッドブル2缶の注入が必須と化しているのでワンチャン人生エタるんです。

さて、長々と全く必要性のない自己顕示欲ばっきばき駄文は以上となりますが、これからも皆様、どうかよろしくお願い致します。
このお気持ち表明(?)は恐らく今回限りとなるので、不満を持った方はその点ご安心ください。
では死ななかったら、また会いましょう。



【次回】
──悪魔と悪魔が出会った夜の話か。

──あるいは、畜生が少女2人を惑わす物語か。

──それとも、ホテル大惨事の序章か。


──『バトル・ロワイヤル in 渋谷』には主人公がいない。70人各々すべてに物語がある。


『悪魔とメムメムちゃん』…メムメム、会長、サヤ師、左衛門

577 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/20(日) 20:07:38 ID:GMBXlCQk0
【お知らせ】
仕事の諸事情により、4/22(火)の投下となります。
個人的事情で投下が遅れることを深くお詫び申し上げます。

578 ◆UC8j8TfjHw:2025/04/21(月) 18:30:33 ID:k7y5XQbE0
【お知らせ】
#061『悪魔とメムメムちゃん』の出来が納得いかないモノだった為、書き直します。
従って、悪魔とメムメムちゃん改め#061『よふかしのうた』は来週月曜日の投下となります。
誠勝手ながらお詫びを申し上げますと共に、ご理解をお願いします。

579名無しさん:2025/04/28(月) 17:58:51 ID:AjveotCA0
【お知らせ】
「もう何度目のお知らせや」って感じですが申し訳ありません
完全にスランプに入りました
もう一文字も思いつきません、大した話でもないのに迷走で終わってます
というわけで書き上げるまで休止とします

どう見てもエタりフラグ立ちつつありますがご安心ください
今年中に絶対に戻ってきます、私は不死鳥の様に何度でも蘇ります
台所で詰まった油汚れのようなこのスランプが解消される、その時まで
どうか、どうかご理解下さい

【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①軽いネタバレです
②生き残るのは『実質5人』です、誰が生還するか五連単してみてください

580 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/01(日) 17:09:14 ID:.mAMloyw0
明日投下します。

581名無しさん:2025/06/01(日) 19:58:35 ID:Koxudk2Y0
お帰りなさい
新作楽しみにしてます

582 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:42:49 ID:cFeuEibI0
>>581
ありがとうございます。ただいま戻りました。
長々と失礼しますが、ぜひまたお読みください。

583 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:43:23 ID:cFeuEibI0
【お知らせ】
①お疲れ様です。1か月ぶりの浮上となります。
②スランプ期間中に書き溜めた全5話を一気投下するのでかなり長くなります。
③もちろん「長すぎ、読む側の気持ちを考えろ」というご指摘重々理解できます。
④…ただ、これだけ長い期間平成漫画ロワを放置していたため、それくらいやるのが企画主の務めだろう……という(私の独りよがりな)熱意アンド責任感をどうかご理解ください…。

584『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:44:08 ID:cFeuEibI0
**『らぁめん再遊記 第二話〜情報なんてウソ食らえ!〜』


[登場人物]  [[芹沢達也]]、[[アンズ]]、[[早坂愛]]、[[うっちー]]

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585『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:44:33 ID:cFeuEibI0
『チャララ〜ララ、チャラ、ララララ〜〜♪』

 ──1度聞いたら耳に残る、あのチャルメラの音色。
ラーメン屋台専用出囃子と言ってもいいその旋律は、まるで狙ったかのよーに、PM.10:00〜11:00の小腹が減るタイミングにて響く印象だ。
ボロいアパートで受験勉強中、「そろそろ休憩かな」と背伸びした折に、窓の外から届く『音の匂い』。

焼肉、カレー、中華……何だっていい。
料理は『香り』という五感で、我々生物の食欲を刺激するものだが。──屋台に限っては、刺激に使う五感は『音』。
チャルメラの音が、人々に空腹を思い出させ、店へ誘い込むのだ。
「こんな時間にラーメンは…」──だなんて罪悪感を抱えつつも、あの音色を耳にしたらもう振り切るのは難しい。
ついつい、足を運んでしまうものである。

時刻は深夜二時過ぎ。
ラーメン屋台『中華そば 来々軒』と共に足を運ぶ、若干十六歳の少女が一人。
彼女──アンズは我々と違い客ではない。
この若さながら、一つの店を構える、正真正銘の店主なのだ。
200kgの屋台を引いて二年。されども、味は昭和懐かしい中華そばで、しかも熟練の味。
額に汗をにじませながら、アンズは、渋谷のネオン光へと消えてゆく。



「…よしっと!」


 スッ──。

木造りの引き出しを開けば、作り置きの細麺が目に入る。
黄色艷やかに、小麦粉でうっすらコーティングされた黄色い麺をひと束掴めば、待つのは寸胴鍋。
ゴトゴト、グツグツ……。
軽く手でほぐされた後、麺は熱い湯に向かってダイブしていく。

注文は『中華そば大、麺固めで』。
麺が鍋の中で愉快に踊る間、アンズは器に醤油ダレを投入。
ラーメンは麺と醤油スープの一体感で為す代物だ。故に、この醤油ダレも麺同様、熱湯に浸されるのもまた一体感の一つか。

じゅぅあっ……こととととと………。
別鍋から鶏ガラベースのスープが、手持ちザルに漉されつつ、器をどんどん満たしていく。
あれだけ黒かった醤油ダレは、今はもうまろやかで温かみのある茶色スープに変貌。
鶏油がラーメンの海をゆったりと漂い出す頃合いには、もうすっかり仕上げの段階である。
海苔、チャーシュー、半熟ゆで卵にナルト。
アクセントにネギともやしをあしらえば、主役の登場は間近。

ざっ、ざっ、ざっ。ざっざっ。
手際よく湯切られるは真打ち登場。縮れ麺だ。
余計な水分を振り落とした後、麺はアツアツのスープとご対面。
やたらと熱い湯に御縁たっぷりな彼ら──麺ではあるが、さっきまでの釜茹でと比べれば、スープの中は居心地が良さそうだった。


「はいよ、お待ち!! ラーメン大、麺固めね!!」


さて。
カウンター席にて、待望のラーメンとうとうお出ましだ。
小雨降りで肌寒い夜中である。これはお腹いっぱい間違いなしだろう。

ほわっ……。ずるずるずる。
「その味はいかに」──と綴るつもりであったが、気が付いたら麺を啜っていた。
鼻腔を満たす、しょっぱい湯気。
それを前にしては、もはや食欲には抗えないものである。

ウェーブがかかりつつもワシワシとした食感の細麺。
良い意味で無駄な主張がなく、あっさりとしたスープに良く馴染んでいる。
そうそう。このスープもあっさり目でありつつ、コクの深さが美しい。
胡椒が醸し出す、琥珀色のうま味。そして鳥と豚骨の美学たるハーモニー。喉を通す度に、腹が減ってゆく。
味こそはシンプルかつ王道系であるものの、『シンプル』と『王道』を両立させることこそ最も難しいのである。

ごくり。…ごくごく。
店主から出された水を一口。
何だかんだで、「この世で一番うまい飲み物とは何か」と問われたら、ラーメンを食べてる時の水と推したい。
どんなに高価な酒も、どんなに世界中で売れた飲料も、この一杯がくれるひんやりとした癒やしに勝るものは、きっとない。

586『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:44:44 ID:cFeuEibI0
梅雨明け間近の深夜。
駅裏の屋台で食べた、このラーメン『来々軒』。
実に実に普通で、そして実においしかった。
なんでこういう店が東京には無くなったのだろう。今は千円以上が当たり前の店ばかり。店長さんは腕組みして睨まなくていいから。


我々はこういうラーメンを求めているのだ。
こういうのが────。



………
……


「──的な感じでしょ! ね、美味しいわよねっ!! 芹沢さん!!」

「…………何がだっ!? おい、ラーメンに髪の毛が入っているぞ! お前ふざけてるのか!!」

「あっ。………………。…サービス」

「あ?! なんだとっ!?」

「サービスよ。ほら、サービスだからサービス!!」


「……………」



………奴のチラチラした視線は、俺のスキンヘッドに向けられている………っ。
…(学食のような)懐かしさのラーメンに、実に美味(くも不味くもな)いこの味。
なにが、「こういうのでいいんだよ」…だっ。

コイツは確実に舐めているだろう……。
ラーメンも世の中も俺のことも、何もかもを……………っ。
ラーメンオタクよりも何よりも、こういう輩が一番タチが悪い。



おい小娘。
一つ聞くぞ…。




こんなのが、『殺し合いを終わらせるほどのラーメン』…なのか…………っ?

587『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:44:57 ID:cFeuEibI0



 …これは…………、一体どこから説明すれば良いのか。
クソっ……。


「………はい、もしもし。芹沢です」

「ふんふふんふ〜〜ん♫」


辿る『元凶』が多すぎて…頭がおかしくなりそうだ………っ。
今日はクライアントとの打ち合わせ予定日。北海道へ出張する筈だった。
本来なら今頃、何処かのビジネスホテルで程よく酌を取りつつあるものを………。


「…ええ。はい。はい。…誠に恐れ入りますが、代わりまして部下の河上を伺わせますので、何卒ご理解賜りますよう…。…はい」

「困った困ったバトルロワイアル〜♪ アンズが助けてあげますよ〜〜♫」

「……………っ。…はい。…伺えない理由について、でございますか………。…それは……──」


俺は今、顧客に詫びの電話を入れる羽目となっている……。
──バカの歌声が響く中で、だ……っ!


「──………渋谷。…はい。大変な騒ぎになっている、渋谷のバリアーについて。…実は私、その事に巻き込まれている形でして…──…、」


 ガチャッ!! ツーツーツー……


「………クソっ………。“ふざけるな”、か……………。これで一件依頼がパーだ……クソっ!!」

「お腹をすかしたおおかみさん〜〜♪ 子鹿を見つけてむしゃむしゃ〜〜♫」

「〜ぃっ……!!」


 現時刻深夜の三時。
…こんな時間の、断り電話なもの故に、相手が怒るのも無理はない。

得意先から暖簾分けしたという、味噌専門の新規店舗。
先方には長い時間かけて、たっぷりとコンサル料をせしめた事もあり、「この金のなる木を無駄にしまい」と俺も意気込んではいたのだが…。
バトル・ロワイヤルという『ふざけた理由』のお陰で、何もかも全てが水の泡…失墜だ……っ。
俺の評判もっ…、清流企画の評価もっ……、信頼性も金も努力もっ………。
愚にも付かぬ理由で俺の矜持はズタボロだ…………っ!


…一体何故……俺は怒られ…、
そして一体何をさせられているんだ…? この俺は………っ。


「…………くっ……、ふざけるのも大概にしろ……………ッ」

「子豚を見つけてムシャムシャ〜〜♪ たまごさんからぴよぴよぴよ〜〜〜♫ お腹いっぱい〜〜〜♫」

「……………ぃぃっっ!!!!──」

「──おい黙れっ!!! お前が一番に大概にしろアンズ!! なんなんだそのふざけた歌は…。脳が破裂しそうだ…!」

「え? 別にいいじゃないの。──」

「──それよりも芹沢さん、試作品やっと完成したから、ほら食べて食べて! あなたのアドバイスに従ったら魔法みたいにどんどん上手くいくわ!!」

「いらんっ!!! あと何杯同じようなモンを食わせりゃ気が済むんだ、お前は」

「はぁ?! 何よっ!!! …私だって……おじさん達の変わらぬ味を守りたい、それでいて芹沢さんの言う至高の一杯に仕上げたい…。その思いで、頑張ってるんだから…!!! ほら、食べなさいよ!!!」

「………………こいつっ……。…まるで話にならん………」

588『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:45:11 ID:cFeuEibI0
 …ズタボロ同然なのは何も俺のプライドに限った事ではない。──胃の調子も崩壊気味だっ…。
得体の知れないループに陥ってるのか知らんが、アンズという小娘にかれこれ十杯近くも、全く改善も進歩もないラーメンを食わされ続けている…。
…コイツはもしや…俺をアンチラーメンにさせたいのか? ──そう邪推してしまうほどだ。
ただでさえ学食のばぁさんが作るようなクオリティだと言うのに、これ以上しつこい試食を受けようものなら…──もはや恐怖症が植え付けられる。


 これほどまでに我が強い上に、成長や期待も見込めない小娘…。普段の俺なら、こんな奴、即切り捨てたことだろう。
…当たり前だ。金の見込みができん店主の面倒など見れるものか。
おまけに、喧しく社会的常識もない小娘は、既に十分すぎるほど抱えている。
…ただでさえストレスの源である汐見のような女が、二人もいるとなれば、…酒がいくらあろうと足りないくらいだ……。


…だが。




……
………
──芹沢さんには、その殺し合いを参加者という身ながら食い止めてほしいんです。

────…俺が、か……?

──バトルロワイヤルには『アンズ』という超能力者がいるので、彼女を上手いこと頼りに、なんとかAの野望を崩壊してほしいんですよ。

………
……



 奴。────数日前、未来から来た『ハル』という小僧の、忠告の元。
俺にとってこの小娘は、切りたくても切れない……、命綱のような存在と化している訳だ。
分かるか?
あの全裸の小僧が、俗に『全ての元凶』といった訳なのだ────…。


「…もう!! 食べないならいいわよ!! 私が食べるんだから!!! ……新田なら喜んで三杯は啜ってくれるのに…」

「馬鹿舌かそいつは……」


…ただ、奴一人が元凶ならまだ話は簡単だったものを。
ハルがわざわざ未来から飛んできて、そして数ある参加者の中から俺宛に忠告を伝えてきた理由……。
それは『全ての元凶の元凶』──『汐見ゆとり』が原因だからだ。



……
………

────汐見が、閣下だぁ…!?

──はい。『汐見ゆとり』閣下。──ならびにバトル・ロワイヤル終身名誉ゲームマスター『A』大統領。この二人が出会わさった結果が……この惨状なんです。

………
……



汐見ゆとり………。
基より、頭のネジが外れたパッパラパー女ではあったが、五十年後の未来ではテロ組織のリーダーとして政権奪回に成功した『英雄』とのことらしい…。
拉麺党党首だかタリメンだか知らんが、…奴の才能を見込んで入社させたのは紛れもなく俺自身。
別にラーメンの道を選ばずとも、他の料理業種で通用できた汐見を、このレールに敷いたのは俺……。

俺の選択が馬鹿で、俺が何もかもを間違えていたのだっ…………。


「(ズルズル)うん、美味しい!! …そうだ、ねえ芹沢さん聞いてくれる? 知り合いにヒナって奴がいるんだけど…、そいつ、私のラーメンにイクラ乗せて食べるのよっ!? 信じられないでしょ!!」

「乗せたところで台無しになるほどのラーメンじゃないだろ!」

「はぁ〜?!」


………信じられない。
いいや、『信じたくない』のは俺が一番だ。

589『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:45:24 ID:cFeuEibI0
つまりは、元を辿れば起源は…俺──。
──芹沢達也が『全ての元凶の元凶の元凶』という────…。



……
………

──ですから、健闘を祈ります。芹沢さん。あなたの麺の力で、誇りをかけて…。どうか。

────…お、お前………。

──では。

────ま、待て!! おいっ…!!!

………
……



「………………っ」


……いや、もう考えるのはよそう。
取引先の信用が一つ失われ、それどころか自分の命が危機に瀕している現在。
俺の身体中、至る所に元凶の大群が纏わりついて鬱陶しいものだが、『過去』に構ってる暇はない。
大切なのは『今』。
この元凶娘・アンズを利用し、俺は何としてでも生き抜かねばならないのだ。
無論、ラジコンとしての操縦は困難を極める上に、波長の合わない小娘ではあるが、奴の『力』は本物。
──ラーメン自体は贋作同然だが、『超能力』だけは頼もしい存在なのだ。

したがって、俺は今のみを見据えなくてはならない。


「………あ、芹沢さん!!」

「………」


無理やり背負わされた運命を、
同時に、狂った未来をも破壊するために………っ。


俺は………………。




「あ、…危ないっ!!!!」

「あ?──」


「────……あぁっ?!!!」






 ドンッ────…………





────などと、本来なら響き渡る筈であっただろう、その音。
アンズの念動力により、俺は『ソイツ』からギリギリ回避できた訳だが。
……それにしてもハルの奴。
どこまで『殺し合いの内容』について知っていたかは分からんが、…予め説明はできなかったのか…………っ。


 シャ────────ッ

  ──キキィッ

590『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:45:39 ID:cFeuEibI0
「…あーもうっ! …ごめん早坂、外した」

「謝る必要はありませんよ。ていうか凄い軌道で避けましたねこの人……。今の見ました?」


「……ちょっと!!! 危ないじゃないのっ!!! 気をつけなさいよ!!!」


「…え? 嘘、もう一人いるわけ?! キモっ」

「まあ避けようが攻撃外そうが、もう一人いようが関係ありません。内さん」


「はぁ?!! 何いってんの?! とにかく芹沢さんに謝りなさ──…、」



「────追撃あるのみ、ですから。」



──…俺が、キックボード乗りの小娘【マーダー】二人に襲われるという……っ。
未来の説明を…………。



「………殺る気なわけ? あんたら……ッ………」


「だろうな。…チッ、早速厄介事か……」



…これだから俺は電動キックボードが嫌いなんだっ。

591『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:45:52 ID:cFeuEibI0



……
………


 シャ────────ッ



 海が盛況しだすこの季節。
この長い長い下り坂を、軽車両に二人乗りで。
操縦者の背中にぎゅっと抱きつきながら、夏の夜風を浴び進む。
ゆっくり、ゆっくり……、下ってゆく………。


…はあ。
願わくば、在学中一度はこういう青春を体験したかったものだ。
中々恋愛が発展していかないかぐや様とはいえ、一度や二度、絵に描いたような青春を味わっただろうに。あの方と。

本当に、私も、理想的な青春を送りたかった………。


「……誠にキモい……。早坂胸の弾力を感じながら…女子二人夏風を浴びる…。女子同士のイチャイチャであるこの現状………。まさしくキモさ堪らない青春だ…」

「…はい?」

「ただ、早坂はキモいか? ──となると話はまた別。早坂は確かにキモいっちゃキモいけども、あの黒木と比べたら段違い。……というよりも別ベクトルのキモさがある」

「………だから、…はいぃ?」

「つまりは早坂。アンタはキモいならぬ『グロい』っ!!!! そう、グロいこそが早坂を表すピンポイントな表現なんだよ!!」


「…また始まりましたか、それ………」



あと、…願わくば『男女間』でそういう青春を送りたかった………。



 シャワーを浴びた後、私は目的の人物と会うため、キモい連呼女(以下:絵文字)の支給武器に乗せてもらっている。
絵文字に支給された武器というのが、この電動キックボード。
ただでさえ一人乗り様、おまけにバランス力が求められる物ゆえに、乗り心地は(…色んな意味で)悪かったが、まぁ歩くよりマシ。
これを走らせてでも迅速に再会したい人物が、私の中にはいた。


──金髪の除き魔。私たちの裸を見た、…あの忌々しいオヤジが……………。


「……って違う違う!! そうじゃないっ!!!」



訂正。
────私の仕える四宮家令嬢。かぐや様の姿が、…もうすぐそこに…………。


 絵文字の腰を片手に、私はふと手中のスマホアプリに目を落とす。
『らくらく安心ナビ』──GPS連動で、家族の居場所を簡単に探せる見守りアプリだ。
かぐや様に襲い掛かる、ありとあらゆる脅威…凶悪から、彼女を護るのが私の使命であり、存在意義。
かぐや様にスマホを買い与えられたと同時に入れたこのナビによると、ここから1km範囲以内に確かにいるようだった。

ただ、このアプリ自体…決して性能が良い物とは言えない。
アプリ起動時、『GPS連動には多少の時差が生じます』という小さい注意書きがあった点から、嫌な予感は漂っていたけども。
超大雑把なマッピングに、かぐや様の位置ポインターがあっちに行ったりこっちに行ったり……そしてエラーでアプリが再起動したり…と。
verは最新版と表記されているにも関わらず、中国会社が作ったのか? ってぐらいに酷い出来だった。
…あとやたら胡散臭い広告も頻出するし。


それでも、私はこの安心ナビを唯一頼りに、彼女を探さなければならなかった。

何故なら、かぐや様のスマホは、この終わってるナビアプリが精一杯の安物泥スマホ。
…あの最低な父親が、娘に買い与えた……──チンケなスマホを唯一頼りにしなきゃいけない。

そんな彼女なのだから………………っ。

592『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:46:05 ID:cFeuEibI0
「…………………かぐや様」



 うろちょろバグの様な挙動をしていたポインターは、ついさっき突如として全く動かなくなった。──この付近にて。
チカチカと点滅するポインターが、まるで危険信号の様に見えて……。

…………遅ばせながらお迎えに上がりますから、待っていてくださいね。
………かぐや様────と。


…嫌な想像で心臓が沸き立つ中、それでも可能性を信じて、私は今絵文字の運転に身を委ねている。


「………早坂…。そのかぐやって子に、そんなにも思い入れがあるんだね。グロテスクな思い入れが………」

「…私とかぐや様とでドロドロした変なのがあるみたいなニュアンスじゃないですか……──」

「──って、まぁ良いや一々……。…かぐや様とは物心付く前からの主従関係でしてね。軽い昔話になりますが聞きますか?」

「…うん、いいよ。早坂……」


……どうでもいい補足だけど、この絵文字女…。
話を聞く限り、どうやらヤバいとかスゴいを使う感覚で、『キモい』という言葉を発するらしく………。
かぐや様含め私は、さっきからコイツにキモい(=グロい)と散々に言われてきたけども、悪意的な意味は無いらしかった。
…いや、むしろ好意的に使っているというか………、つまりは私はグロいッグロいッと絵文字から大称賛を浴び続けているわけで……。

…なんの悪意もなく多用されるグロいに、苛立ちとむず痒さは感じるが、一々指摘するのも野暮ったい。というか面倒臭い。
絵文字は『そういう人』と受け入れつつ、私はスルーすることを決めていた。


 住宅街を走り抜けるキックボードに、ノーヘルの女子二人。
吐息のような風を浴びる中、私はナビアプリをギュと見つめた。
かぐや様再開までの移動時間。余暇潰しとして、私が口を綴った昔の話。

それはまだ私達が六歳の頃の、ベッドでの体験だ。


「………就寝前、明かりを消そうとした時に、かぐや様が急に話しかけてきたんですよ。弱々しい声で、本を片手に」

「うん。……本?」

「ええ。今夜は寝付きが悪くなると彼女は予感したんでしょうね。私に読み聞かせをしろと差し出してきて──…、」

「あっ!! …ごめん、早坂。…ところでどうする………?」

「……何がですか………。──」



「──って、あっ……」



 …話し始めも良いところだけども、かぐや様との幼少話はまた別の機会になりそうだ。

絵文字の視線の先。彼女が話を遮ってくるのも無理はない。


坂道を下った先にて、かぐや様とは全く関係ない────『参加者』が一人突っ立っていた。
出会うものならかぐや様一択であったが、そこにいたのは坊主の眼鏡リーマン、ただ一人。


「……どうする?、って。愚問じゃないですか、内さん」

「…ま、そうだよね。………キックボードでやれるかどうかは不安だけども」


私はそのサラリーマンに会った経験はない。
本当に見ず知らず。どんな名前かも、どんな声なのかも、どんなスタンスで殺し合いに望んでいるのかも知らない。
言ってしまえば、どうでもいい人間の一人でしかなかった。

593『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:46:20 ID:cFeuEibI0
「……やれるかどうかじゃないですよ」

「………やるんだよ、って言いたいわけ?」

「いえ違いますよ。ていうかあの人の生死は今眼中にありませんから。…何はどうあれ──」


いや、寧ろどうでもいい人間だからこそだった。



「──今轢いておけば、後々ゲーム展開的に楽でしょう」


「…………うん、分かった」


「では申し訳ありませんが、お願いしますね。…内さん」



急加速していくキックボード。

────私はあの男を奇襲《轢き逃げ》するつもりでいる。


運転者の絵文字とは何だかんだで意気投合した仲。
私の『ゲームのスタンス』を理解した上で、尚も付いてくる彼女は、ブレーキを完全に放棄し真っ直ぐ進み続ける。

急速に縮まる距離。
こちらの殺意に気付いてか否か、ボーーっとある意味では隙一つなく突っ立っているサラリーマン。
…別にこのサラリーマンには恨みとかそういう嫌な感情はない。
頭がつるっパゲだからといって、嫌悪感とかも特には生じていなかった。
それに、奴を無視して突っ走るという選択肢もあるにはある。


「行くよっ、早坂……!!」

「…ええ」



ただ、『四宮かぐや優勝』という完成図に他参加者たちは、────十分すぎる程に邪魔だった。




ドンッ────、と。
思いの外あっけない音と共に、サラリーマンは宙を舞う……。

スキンヘッドが満月と重なるほどに、高く……────。








…飛ぶ筈だった。

594『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:46:36 ID:cFeuEibI0
………
……



「ほう。『ライオン一頭 脱走か。渋谷区』………おいアンズ。仮に遭遇したとなっても、お前の力なら対処できるんだろうな?」

「……ちょっと話しかけないでよ!! 今集中してるんだからッ…………」

「あ? まあいい。話が通じる相手ならともかく、さすがの俺も猛獣と出くわしたのならくたびれるからな。その時は頼むぞ。──」


「──………それで、『お前ら』はどうなんだ。会話は可能なのか? おい」



 ギギギギッ…


  ギギギギッ…


「ぐっ…………」

「…なに……、これ…………っ。…キモっ………」




 …なにが、ライオンだっ……。
私自身も、襲う参加者相手皆が皆、猛獣のように何の知性も感情もないNPCだったらどれほど良かったことか………っ。

始末する筈『だった』リーマン。
椅子に腰をこけ、呑気に新聞を広げるソイツの視線を感じながら、私と絵文字は今、跪いている……。
──いや、違う。
跪か『されて』いる感じだ………っ。
言葉に形容するのも難しい…見えない力で無理やり地につかされて、屈まされて……。


バカみたいなことを言うなれば、────『念動力』で、抑えつけられ………。
身動き一つ取ることさえできないでいる…………っ。


「…は、早坂…………っ…」

「なんな…っ……………。これは……」


「もう…呆れて怒る気もしないわ……。ねえアンタ達っ!!!」

「「……っ…」」

「危ないじゃないの!! 危うく芹沢さん怪我するとこだったでしょっ!!! …本当にっ、殺し合いに乗るなんて……反省しなさいよっ!!!!」

「…バリバリ怒ってるじゃねえか」

「ねえ芹沢さん! …私、これからどうすればいいのっ…? いつまでも『力』で抑えてるわけにもいかないし。…この子達、どうすればいいのかな……」

「知るか。この件に俺は関係がない。………ただ、独り言を呟くとするのならな……」

「……?」


「────とっとと始末した方が身のためではあるだろ。…これはあくまで独り言だからな? これからお前がどう行動し、結果的にどうなろうが俺は一切関与していない。以上」



「……は………? はぁ……っ?!! …き、キモっ……………」

「………っ」



「…芹沢さん。…始末…って……………」



 屋台から身を乗り出し、こちらへ近づいてくる金髪女…。ソイツの困惑した目と、ふと合う。
どうやらこの訳の分からない『圧力』は、ソイツ──アンズという女によるものと察せるが………私的にはそんな事もうどうだっていい…っ。

595『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:46:55 ID:cFeuEibI0
奇襲を仕掛けるも即返り討ちにされ、…文字通り手も足も出せず屈しているこの現状。

何の意味もなくただ時間だけが浪費して……、成り行き次第では絵文字共々処刑される…この現状……。

……自分の誤判断で、再開以前の問題に………。
かぐや様とはもう二度と会えなくなるかもしれないという……──このっ……、現状…………っ。


…彼女のせいにするつもりは無いが、かぐや様という存在。
彼女の安否が、私をここまで判断ミスに狂わせたのかもしれない。

……それ程までにかぐや様というエナジーは、私の原動力だった。
私にとって、かぐや様はどれだけ輝く宝石よりもブランド品よりも四宮家の全財産よりも……。大切で護らなきゃいけない存在だった。

彼女のことで頭が一杯だった。

もはやかけがえのない存在……。絶対に手放したくない物、それが四宮かぐやだった。



…従って、生死がアンズの手中にある今、改めて冷静な判断をさせてもらう………っ。



この勝負………──私達の負け【敗北】だ。
…私は降りることにする。



……
………

──早坂ー…。これ、よみきかせてよ…。

────珍しいですね。あなたというお人が……。

────…仕方ありません。できるだけ迅速に…! 早く!! 寝てくださいよ………。


────かぐや様………。

………
……



“出来るだけ迅速”にっ…………。




「…………あの…………、…申し訳…ありません……でしたっ……。深くお詫び…申し上げます…」


「え?」

「は、早坂………っ!?」


「芹沢…様で宜しかった……ですよね………」

「……なんだ、小娘」

「…信じられない気持ちは…重々理解できますが……、私共、貴方様に敵わないことを身に沁みて………、もう襲撃も関与もせぬことを…心から誓います…………」

「ほう」


「……は、早坂?! な、何言ってるの…………!! こんな奴らに頭下げなくても………」

「…そうですよね………? 内さん…」

「いや…! おかしいって!! ね、ねぇ早さ──…、」

「ですよね………ッ」

「……! ………………………」

596『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:47:11 ID:cFeuEibI0
「…我々のだいそれた過ちを詫びるとともに………、お願いできますでしょうか……………──」

「──どうか私達にご容赦と、慈悲を………。力から解放され次第、即退散しますので…………………。どうか、この願いを承知できますでしょうか………………。芹沢様に、アンズ様…………」


「……何言ってるのよ! 『人を憎んで罪を憎まず』──おじさん達から習った教訓だわ! 芹沢さんの独り言なんか知ったこっちゃない!! 最初から許すつもりよ!!」


「…………真ですか……?…」

「ええ!!」

「…………」


正直なところ予測できた返しではあった。
徐々に身体を抑えつける力が弱まっていく中、ニコリと微笑んだアンズは、私達の前に丼を置く。


「…『人を憎んで罪を〜』じゃコイツらを許してない事になるだろうが……………」


眼の前に鎮座する、湯気立つそいつ。
……仲直りの証としてこれを食べろと言うのか、彼女は屈託のない笑顔で箸を差し出してきた。

言うまでもないがこれを食している暇はない。
──…かといって、芹沢達に申した謝罪や敗北の意思表明も嘘というわけではない。

絵文字は未だ闘争心が鎮火していない様子だけれども、私は彼らに構い、ここで道草を食う暇も余裕もなかった。
…そう、余裕がない。
……私はかぐや様に早く会わなければいけないのだ。


「……寛大な御心、感謝します。………私を信じてくださりありがとうございました、アンズ様………──」

「──行きますよ、内さん。…早く……」

「えっ……。いいの…? 早坂…」 「いや私のラーメン食べないの?!」

「……私の、いや私達の『最優先事項』を…お忘れですか。内さん」

「……………そう。早坂が良いならそれに従うよ」


「いや食べてから行きなさいよ!! 美味しいわよ?!」


アンズがバカ正直な純粋者で助かった面もある。
念動力が弱まった折、立ち上がった私は絵文字を起こし、ヨタヨタ、キックボードへと歩を進めた。


私は本当に……。
こんなことをしている場合じゃないんだっ……………………。




 ペラっ──────


「おい待てメイド」

597『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:47:22 ID:cFeuEibI0
「…………。………ご心配なく。再度轢きにかかることは決して行いません…………。…決して」

「いや違う。その事に関してはどうだっていい。一つお前に聞こう。…なに、簡単な質問だ。時間は取らせん」

「…………なんなりと」

「お前は何故殺し合いに乗っているんだ? 返答次第ではこちらも態度を変える…だなんてするつもりはない。ただ、その真意を純粋に問いたいのだ」

「……え。は、早坂!!」

「…………畏まりました。真意…単刀直入に言えば奉仕です。…センター分けで、私と同い年の女子──…、」







「そいつは『四宮かぐや』の為か?」










……………………………………………え。




 奴の。
芹沢の。
全く予測していなかったその発言で、足が急速冷凍されたかのように動けなくなる。






…奴は、



「えっ?」




…今、



「え?? 四宮??」






…何と言った……………………?





「え……………………」






「……御名答か、そいつは運が良い。お前も時間が無い様だからな、手短に説明するぞ」

598『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:47:35 ID:cFeuEibI0
…時間が…、確かに止まったかのような感覚だった。

静止して、何もかもが静寂に死にきっている中、


新聞の巡る音が異常に大きく感じた。



 ペラっ────────────




何故…、

ヤツはその事を知っているんだ………………………?



「“何故知ってるか”……、か。答えは単純だ。十数分前、丁度この場所であたふためいた娘と出会してな。センター分けで、制服姿の。大した会話は交わさなかったが、妙に印象深い奴ではあったよ。四宮はな」


「………えっ」


「暫くして、その四宮は突拍子もなくバタバタ走り去っていった。恐らく奴にも考えがあってのことだろう。……いや、四宮が走り出したのにも明確な理由があった」

「…え」



「ほら、アレを見ろ」



「………アレ……………」



私は芹沢の方へと振り返る。
奴の指差す先には遠く向こう側、

ピンク色の小さなホテルが建っていた。



「ああアソコだ。…これは後になって解った事だが、四宮のお嬢が去った後、血相を抱えた連中が四人、その後を追ってきてな。従って、四宮は奴ら【マーダー集団】から逃げていたと推測立つわけだ」


「……………かぐや様が、…………追われて………………?」

「…え?? ちょっと待ってよ芹沢さん!! 確かにあのホテルには四人組がいたけど──…、」

「…ぃっ!!! 口を挟むなアンズ!! お前は食器洗いを済ませたのか?! 口より手を動かせ、手を!!!」

「……はぁ?! な、なによ。今やるところだったわよ!!!」


 ガチャ、カチャ………


「…申し訳ないなメイド。事情を知っていたら俺も四宮を匿ったものだが。…巡り巡った運命は今重なり合ったというわけか。すまない」

「……………………………」

「まぁ、信じようと信じまいとお前の自由だがな。信じたくない気持ちは重々理解できる──」

「──ただ、信じて動いた所でお前にデメリットが無いと、俺は考えるがな」

「…………」

599『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:47:51 ID:cFeuEibI0
「想像してみろ。怒り狂った野郎共が、一人の幼娘を追い回して。しかも、逃げ込んだ先が『そういう』ホテルと来たものだ。これから何をされ、どんな目に四宮が遭うかはもう……。…すまん、これ以上言う必要はないな。──」

「──だが、そんな下衆な推測が立てられるほどの事態であることには間違いない。どうだメイド、信じるか信じないか。…いや、信用するか悩む程の暇はあるか? お前には」



「……なに、それ………。…ホテル…キモっ……」

「……………………」



…信じるも、なにもない。
芹沢。奴の発言を鵜呑みとするのならば、


──かぐや様は、
──ラブ………ホテルに逃げ込んで、
──取り敢えずの安否確認。生存の確認はできている。


但し、安否と同時に彼女は、

こうしてる間にも、

現状。
今、まさに。



──危機に瀕している。




「……うそ………。信じられない、キモ………」



…………………。
…私も『ウソ』だと思いたかった。
いや、嘘と決めつけて縋りたかった。


「手短に説明……とは言ったが随分長いこと話してしまったな。ついついお喋りが過ぎるのが俺の癖でね。…困った物だ、まったく…」

「…………………。…芹沢様」

「ん。なんだ」



ただ、その信じたくもない情報に縋っていた方が、まだ希望が見えていた。
少なくとも、何とかできるという可能性はあった。
…従わずにいるなど、それこそ愚の骨頂だった。



……それが、かぐや様の順従たる、…私の使命なのだから………。




「貴重な情報、誠に感謝します──」

「──…その一方で、貴方がかぐや様を保護しなかった責任について。身勝手ながら有事の際、徹底的に『追求』するつもりでおりますから──」


「────ご覚悟を。では、失礼します」


「……やれやれ、喋る必要のないことまで説明したようだな俺は。…全くこの悪癖は早治を検討せねばなるまいものだ………。──」

「──それじゃあ俺からも以上だ。『急がば回れ』、今度ばかりは安全運転を願うぞ。メイド」


「……飛ばしてくださいね、内さん」

「…う、うんっ。行くよ!!」

600『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:48:05 ID:cFeuEibI0
 絵文字に引っ付き、目指すは離れのホテルまで。
キックボードを走らせ、私達はこの場を後にしていく。

時間を大幅ロスした芹沢襲撃タイムではあったが、その分何よりも欲しかった情報を得たので結果はオーライか。
…この失った分の時間は、絶対に取り戻してみせる。

かぐや様も……っ。何もかもをっ…全部…………………。




 シャ────────ッ……………



不安と半端じゃない憂苦をグッと噛み殺しながら、私は再び夜風を浴びていく……。



「あぁそうだ。おい待て、絵文字の娘!!」


キキッ──


「え。私?! 何?」

「メイドはともかく。お前に是非とも渡したいものがある。…この割り箸なんだがな、一本五千円ってところでどうだ?」

「…はー??! いやキモ!! キモ高っ?! ただの割り箸でしょそれ!! 普通にいらないしキモっ!!!」

「…(キモキモ何だこいつは……。)あぁそうだ。これは何の変哲もないただの割り箸。五千円の値打ちに合うかで言えば、ボッタクリもいいところ。別に無理に買えとは言わないさ──」


「──だが、いいか? お前はバトル・ロワイアルについて『何も知らない』。お前も……、メイドも……、そしてお前らは『四人連中』の事さえも、何一つ情報がないわけだ」

「…………」

「買うか買わないかは自由だがな。もっとも、懐に収めておいて損だけは無いと言っておこうか」


「………………………わ、分かったって…!!」




去り際、割り箸と五千円札が夜空を交差。

それぞれの元へとトレードされていった。




「…くははっ! 毎度!」


【1日目/B2/ラブホテル前/AM.04:18】
【早坂愛@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】精神不安定(軽)
【装備】チェンソー
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰四宮かぐや】
1:かぐや様、古見硝子以外の皆殺し。(主催者の利根川含む)
※:マーダー側の参加者とは協力したい。
 →同盟:山井恋
2:ホテルにいるかぐやとのいち早い合流。
3:かぐや様が心配。
4:変態覗き男(新田)を警戒。
5:後々来るであろう『個室にてヤバイ女と出会う未来』に警戒…。

【うっちー@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】電動キックボード@らーめん再遊記
【道具】割り箸
【思考】基本:【静観】
1:早坂についていく。
2:黒木が『キモい』なら、早坂は『グロい』!! グロメイド!!!

601『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:48:17 ID:cFeuEibI0


………
……



 暴走娘二人組が去って以降、幾ばくか刻が経つ。
情けないくらいに凡庸なラーメンの匂いが漂う中、俺は相変わらず新聞を読んでいた。


「…ねえ芹沢さん。あの割り箸さ、一体どんなすごい物なの?」

「なに? 割り箸に凄いもクソもあるか。本当にただの箸だアレは」

「はぁ?!!」


俺は夕刊新聞が好きだ。


「つまりはゴミで五千円をぼったくったわけ?!!!」

「ああ。人間ってのは想像深い生き物だからな。意味有りげに言えば、信じてしまうものだ。──」

「──なにはともあれ、軽い臨時ボーナスこれにて頂きだ…! ふふふっ、人の金で飲む酒が一番美味いってものよ!」

「詐欺じゃないのっ!!!! もう、信じられないっ…!!!!」


新聞という読み物は実に興味深い。

新聞記者という輩は、常に論客気取りで、一面に政治関係の罵詈雑言を掲げ、スポーツ面も悪意に満ちた記事を書くことが多い。
情報を判別せずそのまま掲載することから紙面の殆どは憶測記事とネタで大半。まるで個人アフィブログのようなレベルを平気で売り出す。
悪評。誤情報。印象操作のデパートだ。


「あっ。…そうだ、あのメイドさんがかぐや(?)って人追っていたの……なんで分かったの? 私たちそんな子と会ってないじゃない」

「あー。あれも適当だ。参加者名簿の中から目についた名前を話した。それだけだな」

「え、え、…はぁあっ?!! …たまたま当たったからいいものを………。外してたらどうする気だったのよ!!!」

「その時は『そいつがセンター分けの女生徒を追っかけていた』だとか言えばいいだけだ。…ただ、そのケースの場合、信憑性にやや欠けるものだから、今回は幸運が働いたな」


「……信じられない……っ。最低………」

「ほう。何が最低と感じた?」

「あんたが適当に大嘘こいたせいで、あの人達…迷惑に振り回されたじゃないっ!!!! メイドさん、改心する一歩手前だったのに……!! なんでそんな酷い嘘流すのよっ!!!!」

「……バカか。あの娘共は間違いなく再襲撃に掛かっただろう。メイドは知らんが、絵文字の変な女は間違いなく殺意が鎮まっていない。そんな危険な連中を、口八丁適当丁で退けられたのだから、感謝してほしいぐらいだ」

「そんなわけないしっ!!!! それに、あのホテルには確かに四人連れがいた…。──子供のよっ!!! 何も野蛮なんかじゃないちびっ子たちが!!! …メイドさんがあの人達を襲撃したら……どうすんのよっ!!!!!」

「知るか。俺達に幸運が作用した分、そのガキ共に不幸が渡る。そう考えろ」

「ぃっ!!!! もう、アンタって人は……もうっ──…、」



「お前こそ『もう〜』…だ。聞け」


「…えっ?!」


俺は新聞を愛してやまない。

こんなしょぼい紙切れで世論を動かせると勘違いしている、マヌケな記者共を想像するのが、何よりの笑いの肥やしとなるのだ──。

602『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:48:34 ID:cFeuEibI0
「────いいか? お前のお花畑脳はやたら悪を毛嫌っているが、ラーメン店において『悪』は時として強い味方となるのだ」

「……は?」


「悪は時として富を産む。お前の今後の…、殺し合い脱出後の経営についての話をしよう。──」

「──アンズ。お前の『来々軒』は食べログ評価星4の優良店らしいが、例えばこいつの評価を意図的に下げるとする。つまりは自演だ。自分や知人に協力してもらい、悪評を流したくって星1まで下げるのだ」

「いや絶対嫌よ!!! そんなの…馬鹿じゃないの!!」

「うるさいっ黙って聞け。…今はSNS最前線時代。星1の屋台ともあれば、頭の悪いインフルエンサーが店に集まり動画を撮る。バズり狙いに悪評を垂れ流すレビュー動画というわけだ──」

「──しかし、奴らYouTuberは無能ゆえにその職を選ばざるを得なかったバカばかり。一度麺を口にした途端、こう思うだろう。『あれ、悪評ほど不味くなくね』とな」

「……え?」

「その動画が拡散され再生される度に、同じく頭の悪い視聴者共が店に集まる。怖いもの見たさで来店し、その度『思ったより美味い!!』と勘違いし、次第に食べログ評価は元の高さまで戻っていく。売上も鰻登りになった上にな」

「………………………え、それ……」


「ラーメン作りにおいて一番重要な事は味であるが、『ラーメン店経営』においては別だ。味よりも、悪。悪を味方につけることこそ成功の秘訣……! 聞くぞ。お前にとっての成功とはなんだ? アンズ」

「…成功って。…それは、今は──…、」

「『殺し合いを終わらせるほどのラーメンを作ること』、だよな?」

「…………っ!」



「何事も綺麗事で済むほど、この世の中も、バトルロワイヤルも、人生も甘くない。『悪』こそが、お前の一杯に足りない最大の要因なのだ」


「………………」



 …だとか、適当なことを言ってみたが。
──流石はハル曰く単細胞の小娘だ。
こんなめちゃくちゃな主張にぐうの音も出なくなったぞ。

俺の言った台詞。要約するならば、『つまり僕は何も悪くないよーん』という正当化でしかないのにな……。


「……ごめんなさい芹沢さん。私が間違っていたわ」

「なんだどうした」

「私、考え方を改めてみるわ!! 悪こそが大事!! 悪い奴らは大体トモダチ!! その考えで挑んでみるわね!!!」

「はいはい、そうかそうか」



…だが、これだからバカは堪らない。
しかも、コイツのような『実力あるバカ』は俺らからしたらこれ以上ないくらいの好都合なカモだ。

バカと何とかは使いよう、とよく言ったものだが。
俺はアンズのラーメン革命(笑)で絶対生き延びてみせる。
(行く末は、無許可営業に衛生法、未成年就労や殺し合いの件、超能力の件で、アンズの親から脅迫グレーに金をゲット。これでコンサルがパーになった件は埋め合わせだ!!)


ラーメン店で一番大切な物。
それは悪でも味でもない。バカな客の存在だ。


バカこそが俺を潤わせ、そして生存競争を勝ち抜かせる可能性を大いに沸かせるのだ…────。

603『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:48:46 ID:cFeuEibI0
「というわけで食べてみて!!」


 ドン


「…あ? ……………何だ……これは」





「廃油マシマシ醤油濃いめ添加物増量賞味期限切れブラックラーメン!! 新商品よ!! 今までは化学調味料は体に悪だから控えてたんだけども……。芹沢さんのアドバイスで、新たな一歩に踏み出せたわ!!!」


「…………………お前…」


「ほら、たーんと試食して!! ねっ!」





……ただし、コイツや汐見のようなホンワカパッパはお断りである。

604『らぁめん再遊記 第二話』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:48:57 ID:cFeuEibI0


【ラーメン界の第一人者・芹沢達也 〜本日の名言〜】
──いいか。ラーメン店において悪は時として強い味方となるのだ。



〜バトル・ロワイヤルを経て学んだ『ラーメン道』 アンズメモ〜

①悪評は経営において有効活用すべし。逆ステマは絶対バレない自演方法!!
②最初は悪評まみれでも成り行き次第では向上される! 未来を信じて頑張ろう。
③ラーメンの隠し味に悪は必須。ただし加減はほどほどに……。






【1日目/B2/屋台『とんずラーメン』前/AM.04:23】
【アンズ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】中華包丁
【道具】寸胴鍋
【思考】基本:【対主催】
1:芹沢さんと協力して打倒主催!!
2:必要悪ってことなのね……。
3:ホテルの四人組(ライオス一行)が心配。

【芹沢達也@らーめん才遊記】
【状態】満腹限界(大)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【生還狙い】
1:アンズの念動力を利用し生還。
2:どんな卑劣な手段を取ってでも生き残る。
3:殺し合い開始数日前、俺は未来から来た『ハル』にゲーム崩壊を託された。……なんなんだコイツは。
4:それにしてもアンズのラーメンは冷食同然だっ!

605 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:49:36 ID:cFeuEibI0
投下終了です。
引き続き、『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』をお送りします。

606『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:50:26 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[メムメム]]、[[兵藤和尊]]、[[佐衛門三郎二朗]]、[[遠藤サヤ]]

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607『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:50:39 ID:cFeuEibI0
………
……



 満月。
──それは夜空唯一の単眼。
深海の如く淀む真っ暗闇が見せた、刮目。
刮目、刮目、刮目……。身震いを催す光。

まんまるな眼球に一点集中で睨まれた、あの夜。あの山中にて。 


あたしは、一人の悪魔と目が合うのでした………────。

608『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:50:54 ID:cFeuEibI0




 …よくよく思い返してみたら、魔界の周りにはあたしみたいな二頭身を全く見かけなくて〜…。
──…もしや、あたしはそもそも悪魔ですらないのではっ?
──悪魔学校時代のクラスメイトは全員、あたしのことを動物実験で入学した天才チンパンジーを見る目で接してたのでは………っ??
……自分を懐疑的に見ちゃう、そんな悲観的さで涙ぐっしょぐしょな今日この頃です……。


 こんちゃす、あたしメムメム。一応悪魔をやらせてもらってるっす。

いやぁ〜、あたしね?
日頃から、バビョの奴とかレース先輩とか…悪魔だの人間だのと種族関係なく、色んな人からクズ扱いされて困ってるんですがね〜……。
…この際だからはっきり言いますよ!!
そうです! ごもっともっすよ!!
あたしはクズです!!
人間性はめちゃくちゃ劣悪っすよ!!! まさに小悪魔って感じすわ!!
性格カスですがそれがなにか? …もう開き直っちゃってるくらいの極カスがこのあたしですっ!!!

…え?
“クズな性格を直そうとは思わないの?”──って??
……ふんだっ。
あたしだって別に、好きでカッスい性格を送ってるわけじゃないんすよ。
最初期の頃こそは、それこそ純粋な心の持ち主で…、ついてくのも大変な仕事を一生懸命努力し、輝き頑張っていたんすからね。

……でもね。
…もう……ね。
ここまで自分が『魂略奪』をできないとなるんなら…………。……もう不貞腐れて開き直るしかないじゃん………、ってのが結論っすわ〜〜……。



 ────そんなあたしが一人目に選んだ、『悪魔代行』の参加者。



 ブロロロロロ……

「……」


 バン、バンッ…

「………をぉぉ……、さぃぃ……………………っ」

「…んっ……?」


 ──渋谷山の峠で。
 ──風で吹き飛ばされそうになる中、窓ガラスにへばり付くあたしを、…何十分も運転してやっと気付いたソイツ……。


 バンッ、バンッ


「びょおおぁぁ゙ああぁぁああぁぁぁあああっ!!!! 開けてくださいぃいぃぃぃいいいぃぃ〜〜!!!! とゆーか停まってくだざい゙ぃいいぃい〜〜〜っ!!!! お願いじまぁあ゙ぁぁあずぅ〜〜〜〜っ!!!!!!」

「う、うわっ!!?」



 キキィ────────────────ッッ



 ──車をガードレールにアタックした、『さえもん三四郎』だなんてふざけた名前のソイツは、
 ────カス程にも役に立たない参加者でした……。




  ──バンッ…


「んびゃっ!!!」

609『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:51:09 ID:cFeuEibI0
…………
………
(じじょーせつめー、割愛〜。めむめむ〜)

……




 ブロロロ……


 ──ポチッ!!
 ♫Spotifyにて、西野カナの『トリセツ』から→米津玄師の『lemon』にチェンジ♪


「は……っ?」



 (前奏略)
 『♫夢だったら、どれだけ〜〜良かったでしょう〜……』


「……………」


 『♬未だにアナタ〜の〜、ことを〜、夢で見る〜〜〜……』




「────うぇ…っ♡」



「……………」

「………」




しーん………



「…今のでムラっときたりしてないすか?」

「え?? …どこで?」

「…ど、どこで…って。……あたしの歌声でですよ」

「別に…だけども…………? というか普通歌わないだろ、『うぇっ』のとこ………。しかもそこだけを…………」


「………………。………………はぁ──」

「──……あたし…えろいことで誘惑して魂を奪うのが仕事なんす………。でも、あたし自身おっぱいとかえろいことが苦手で………。だから〜、…全然魂ゲットできなくてぇ…………」

「……急に何の話を……………?? 一体君はなんなんだ──…、」


「──って!!! い、いや待てよっ………!? とどのつまり君は今、淫靡な(つもりの)歌声で僕の魂を…狩ろう《殺そう》としたのか…………っ?!!」

「あーもういいすよ? その話は。できないで片付いた事なんすから、もう」

「いや良いわけあるかっ!! 殺意を向けてきたんだな……!? 君は僕に…!!??」

「……うるさいですね………。何でもいいから前向いて運転してくださいよ。これでまた事故ったんならアンタ人としてやべーすから」

「起きる事故全て君が起因だろ………っ!!」


 …はぁ〜。
↑この様に、三四郎というヤローは一言一句ツッコんできたりと、まるでバヒョみたいな男だったんでぇ〜。
…ワンチャン誘惑できるかなぁ〜? と試してみたんすが……。……ビギナーにはあたしの美惑が難しいようですね。…はぁーあ。

610『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:51:27 ID:cFeuEibI0
 助手席下の駄菓子を開くこと、四袋目。
あたしは今、この三四郎運転の元、のんびりと商談しているって現状っす。

…あんむ。ム〜シャムシャ……。うん、美味しい〜…! 幸せ〜〜!

ゴクリ。
……んで、その『商談』の内容ってゆーのがですね。
まぁこの三四郎というヤロー……、サングラスに黒スーツと「ブルースブラザーズかっ!!」てツッコみたくなるくらい馬鹿な服装してて、…まぁその見た目通りバカそうだったんすが。

そんなあたしと多分同じ無能であろう三四郎にしか、頼めない──。
──…とゆーよりも、こんなヤツをアテにしなくちゃならない。
…こんなバカでもできる仕事ってゆーのがありましてね。
それをこれからコイツに話すって感じっす。

………にしてもこのサングラスのび太ヤロー。
いつまでこの山ん中走るつもりなんですかね〜……。ドラえもんの裏山みたいなココをさっきからぐ〜るぐるすよ。コイツ…。
ま、別にどうでもいいんすけどねぇ〜…。


「……これで分かりましたか。見ての通りすよ三四郎。あたしはこんなカス一人の魂すら奪えない。チョー非力悪魔なんっす…」

「見た目に反して毒吐きが酷いな……。まるで利根川先生の如し……もう毒蛇だよ………っ。──」

「──…。(というか僕の事…三四郎呼び………)」

「という訳で三四郎!! お前には一つ、あたしから頼みがあるんです!!! どうか聞いてくださいぃっ〜!!!」

「………え? た、頼み………? う、うーん………。──」



「────…まさかじゃないが……っ、僕にやれと言うんじゃないよな………っ?! 魂集めとやらの……『人殺し』を…………っ!!??」

「何がまさかなんすか?」


……むむむっ、って思いましたよ。
三四郎のやつ、意外にも結構頭が回るようなんすから。
やっと「あたしより駄目なやつと出会った〜!!」って心の底でウキウキだったってゆーのに。
…やっぱりあたしが見下せる対象ってこの世にはいないんすかねぇ〜……。


「…ぐっ……………、はぁ…………。……まず、僕は男だ。…どう誘惑すればいいと言うんだよ。この僕に………っ」

「あ、あぁ〜。いや別に淫魔的誘惑とかもうアウトオブ眼中っすわ! 三四郎には刺すなり轢き飛ばすなり絞めるなり、自由なやり方で魂奪ってほしいんす」

「……君ねぇ…………」

「いやもうあたしだって形振り構ってらんねーすわ!! …あ、ほら!! このピストルで運転中、窓からバーンバーンってのもいいすよ!! グラ●フみたいに!!!」


そう言ってあたしが握ったのは、助手席に置いてあったコイツの支給武器──『ヘルペスの銃』ってタグが貼ってあるピストルっす。


…え、待って。

…ヘルペス………?
ヘルペスって、あの口周りに水膨れができる…人間特有の、あの病気の………………??

…………。
…コイツに触るのは控えたほうが身のためかもっすね。…感染対策ですわ。


「…言っておくが僕は違う……っ!! その銃が、ヘルペス銃って名前なだけだ………!!」

「…………あたし何も言ってないのに察し良すぎません?」

「顔に思いっきり出てるんだよ…君は………。バイキン見る目を向けるな……僕にっ…………!!」

「…人の顔をあんまりジロジロ見ると嫌われるっすよ〜? 三四郎〜〜」

「………勝手にほざけばいいさっ…。──」



「──ぐっ………。うっ………。何故よりにもよって、引き合う…………っ。今、こんな時に………………っ。僕はこんな性格の子と…………っ」


「は? …え、なんすか」


 キキッ────

611『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:51:41 ID:cFeuEibI0
 アホの三四郎は…バカなりに思い詰めたのかなんなのか。
唐突にブレーキペダルを踏んで走行停止。…頭を抱えながらハンドルに向かって顔をうずめてきました。
…いやリアルになんなんすか? こいつ。
全くあたしにはワケワカメだったすよ。もしゃもしゃ、コリコリ……(あっ、この茎ワカメって菓子おいし!!)


目をギュ〜っと閉じて、アホみたいに自分の髪を鷲掴む三四郎のヤツ。
気付けばソイツは壊れたラジオのよーにブツブツブツブツ…独り言を唱えてたんす。
この時、あたしはヤツの突飛な行動にドン引きしつつも、「あれ?? もしかして時間差であたしの淫歌声に効いてきた……!?」とか軽くウキウキだったんすが〜。


「…インポッシブル…インポッシブル、インポッシブル………っ。自分にはできない……そう分かっていても、なお覚悟を決めるか思い悩む……………っ」

「え……? イ●ポ………? …ひぃ、なんすかその急な卑猥ワード!?」

「……………一線を越えるか…否か………っ。……決断をやっと心に焼き付ける…その時まで………ずっと一人でいたかった。……一人で悩みたかったというのに……………。そんな僕を茶化すように……運命はなぜこんな軽薄な子と引き合わせたんだ………………っ」

「あーもしもし〜、三四郎? 聞こえてるすか……?」

「ぐっ……………………!──」



だけどもね。
三四郎のボソボソ独り言をよ〜く聞いた時。

──奴の口から、魂よりも貴重な内容が飛び出ていることに、気付かされましたわ……。



「──僕がっ………、会長を『殺そうか』…悩み苦しんでいるって……………そんな時にっ………………!」



「え…?!」



…というか、コイツの発言が予想外過ぎて、あたしの方から魂が出かかったすわ。ほんと。

 聞きましたか?!
三四郎のヤツ、グダグダ理由つけて魂狩りを断ってくんだろなぁ〜と思ってたら……、…いたんすよ!!
──奴にも、どうしても殺したい参加者の一人が!!!

──つまりを魂を手に入れる目処が!! あたしの目の前に!!!
────今ここにっす!!!


「…さ、三四郎……! お前………」

「………ぐぅっ…」


…ま、人間どんなアホな奴でも、一人くらいは心から憎んでる存在ってのいますからね。
いや、むしろ三四郎みたいな無能なら、辛く当たってくる人間は身近にたくさんいるわけっすから。
その会長(?)ってゆーのにどんな仕打ちされたかは知らないですが、殺意が湧くのも仕方ないことでしょう。

……ふふ……っ!!
…気持ちはまぁ分かりますよ、三四郎。
…かく言うあたしも、同類《無能》すからね……………!


「……ぐぐぐっ……………………」


さて、そう来るとなったら同類同士、助け合うというのが筋です!
あたしはポンッ、と縮こまる三四郎の肩に手を当て、

612『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:51:56 ID:cFeuEibI0
「………。…なんだい…………っ」

「………言えたじゃないすか! 三四郎!!」

「………………何がだ。君には関係のないこと──…、」


ズバリ一言!!
こちらに情けない顔を向けたコイツへ、

──悪魔のささやきを、耳元にて呟くのでした────…。


「じゃあチャンスじゃないすか…!」

「…え?」


「会長の魂を刈っちゃいましょう!! …あなたは一人じゃない。周りにはあたしがついてるすから…!! ねっ!! 魂回収はあたしに任せて、三四郎は思う存分恨みを晴らしてください!!! よろしゃっす!!!!」

「………………」


…『一言』ではなかったすね。て〜せ〜。
ま、そんなことはどーでもいいっす。


 ………今のうのうと生活し、チンタラ平穏に料理を食べ進める愚かな権力者、パワハラ上司共へ。
あたしは言いたいっすね。
いいですか?
バカを怒らせた時が一番怖いんすからね?

アンタらは日々何も考えず、あたしらサンドバッグ《無能達》に怒りのままにイヤな言葉をぶつけ続けてきやがりますが…。
丸々と肉ついた顔面のアンタらが偉そうにできるのも、『社会的立場』があってこその特権なんすよ……?
もし、あたしら無能がすべてを失い、社会的立場という雁字搦めから解き放たれた時……、果たしてアンタらはどうなるものか…………。
…ふふふ。…分からないことでしょう。
バカのしでかす恐ろしい惨状なんか………。

…ただ、分からないのなら、見せてやるまでっす……。


「ね!! 三四郎!!!」

「……………………っ」


後悔してももう遅い!!
目に焼き付け、そして満月のよーに目をかっ開いてくださいな!!

憎悪と逆襲の後、まるで虹のように晴れやかな気持ちになる────そんなスカッと劇《復讐の魂狩-レクイエム》。

あたしと三四郎の二人三脚で、そいつの御手本を見せさせてやりますよ……!!


今っ…──。

ここで────……。





「…いや黙っててくれ。だから、君には関係ないことだよ…………っ」




………。



「…………………えーそう来ちゃいます……?」

「…とりあえず君は……預けるから…………、誰か優しそうな保護者のもとに……っ。それまで黙って乗っててくれないか」

「……………マジでそう来ちゃいますか………」


「子供には関係のない話だよ……………っ」

「…………」

613『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:52:14 ID:cFeuEibI0
 …はいはい、我関せずっすか。
ドライな奴っすね、三四郎は………。
……全く。本当に役に立たない奴ですよ、こいつは……。



 ────というわけで、あたしは次なる『悪魔代行』の参加者目掛けてひとっ飛び。



「えっ……!? と、飛んだ………?──」

「──いや、待ってくれ!! …待つんだ、メムメム………っ!!」

「はいはいどーせあたしは子供ですよ。子供に見えるんでしょ子供にっ!! ありゃーした〜〜…」


 ──車が停まっていた場所にて、真横にはちょうど光灯る休憩所。公衆トイレと自販機があり。
 ──ペンキの剥がれかかったベンチにて、まるであたしを待っていたかのよーにポツンと一人。



 ふわ、ふわ〜

「…モグモグ。…げぇ〜。このハッカって飴はあたし好みじゃないすね………。ブタのエサっす」

 ペッ

「危ないぞ……っ! こら、メムメム……!!!──」


「──…ん? ………あっ…!」




 ──第二の『悪魔代行』参加者。
 ──…なんたらサヤという、……ベンチに座る女子。
 ──そいつは、淫魔にうってつけで、なおかつあたしが接しても全く平気なくらい色気0だったっす。

 ────名前忘れたんで、以下、呼称『ぺったん子ヨーヨー』を、この時スカウトするのでした……。



…………
………
(じじょーせつめー、割愛〜。めむめむ〜)

……





「…だからヤだって。メムちゃん」



「……え、えぇ………。──」

614『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:52:27 ID:cFeuEibI0
「──そ、そりゃお前はおっぱい無いから色々出来損ないではありますよ〜…? で、でも心配なく!! お前にはあるじゃないすか!! その露出された脚が…!! 太ももこそ最大のえろだって、魔界の──…、」



「ところで佐衛門さんー、悪いけどもう少し待ってくれるかな…? アタシの連れが今トイレでさ……。お願い!! もうちょっとだけだから!!」

「…ふふっ。何も急いでなんかいないさサヤさん………! それにしても、圧倒的災難だったね……。この山の中、一人でその人を背負ってたんだろう……?」

「うん…。ほんっとしんどかったし!! もう身体中ベットベトでさぁ〜。熱中症寸前だったよ〜〜! アイツ、本当に最低!!」

「オアシス……! ここを見つけた時は砂漠の中の湖だったろうね………!!」

「あーね。あはは〜っ」





「……………。──」


……あたしの存在ガンスルーで、やたら仲良し気に接するペッタンコと三四郎の二人…。


ねえ。

この会話、何が楽しいんすか。




「──うぇっ…♡」


「…ん? どしたー? メムちゃん」 「…またlemonの変なトコか………っ」

「…いや、ワンチャン三四郎の魂これで誘惑できるかな〜って。それだけっす」

「………会話に入れないことを逆恨みして、僕を殺しにかかったな…………っ!」

「てかもう淫魔やめたら? アンタ向いてないと思うよ」


「…くそっ……。くそぉお…、ちくしょぉおおおおぉおおおっ!!!!!」


「……」 「………あ、それで佐衛門さんさぁ〜…」



 その白いエプロンは真っ平らな胸を隠す為の物なんでしょうか…。
でっかい髪ピンでセンター分けにして、バカみたいなミニスカートを吐く、ヨーヨー片手の嫌な女。
そのスカートの丈ゆえに、バヒョなら絶対鼻息を荒くするようなえろい脚で…、
そしてそのバカみたいなスカート同様の頭のレベルでしたよ、こやつは…。

はい、ハズレくじの連チャンっす。
このぺったん子ヨーヨーも、三四郎同様何にもあたしの役に立たないバカでした。
……はぁ……。


…今思えば、ラムネをグビグビ飲んでる最中を、あたしが急に話しかけたのが原因だったんでしょうか。
ワッ、と水を噴き出した後の、ヨーヨーガールの顔はものすごい変な顔で………、──多分第一印象から「なにこいつ…」って思われたかもしれないす。
んで、その後あたしの魂狩り説明を始めたら、…もう言葉を重ねる度に、どんどんどんどんコイツは嫌な顔をしていって…………。


「…え〜っ?! それ絶対ほたるちゃんじゃん!! どこで?! どこで見たの!!!?」

「なんだ知り合いなのか…………。そこの、海沿いで話したっきりさ。…彼女の方から急に飛び出していってね……」

「わー…、ほたるちゃんらしいアクティブさ〜……。んじゃさ、後でほたるちゃん探しも…いいかな?」

「はははっ………! 君は枝垂さん、僕は…会長。さしずめ僕らは探し人同盟だね………っ」


…気付けばこの有望な淫魔候補《ヨーヨーガール》は、あたしの後を追ってきたジョン・ベルーシ😎野郎ばかりと打ち解け合い。
あたしよりも、こいつに懐ききってるわけって感じっすわ……。

615『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:52:41 ID:cFeuEibI0
なんすか…。
シダレホタルって…。
火垂るの墓の話…っすか………?

…もうっ、お前らを墓にしてやろうかってんだちくしょおこのおおおぉぉっ!!!!! あの映画も清太が普通にクズっすよね!!! もうおおおおおおおっ!!!!!

興味ないわ!! アンタらのイチャイチャお話シーンとか!!!!
人の苦労も知らずに……こんちくしょおおおおおおおおおおおっっ!!!!



「……はぁ………」



「…にしても遅いなぁ〜おじいちゃん。何してんのさ〜…」

「おじいちゃん………っ?」

「うん、アタシの連れ。…もう三十分近くだよ。…トイレで格闘しすぎじゃんっての!!」

「………おじいちゃんか。……──」


「──って…、あっ!」


 ふわふわ〜

「………………」


「…メムメム……、どこに行くつもりだ……っ?! 危ないからサヤさんに引っ付いててくれなきゃ………っ」


…はぁ。


「……老人って便器冷たいだけですぐ心筋梗塞になるんすよね?」

「…なっ!? き…君……殺す気かっ……!? サヤさんの連れをっ………?!」

「あたしはね〜…もうスケジュールが分刻みなんすわっ! お前ら人間のくだらない会話聞く暇あったら魂っすよ!! タ・マ…シ✡イ!! そんだけです」

「……なにそれ。はいはい、言われてみれば確かに心配だしね。ちゃんとおじいちゃん死んでないか見てきてね〜メムちゃん」

「うしゃーす」


「おいおいサヤさん……っ。何故行かせるんだ………っ。あの子なら本気でやりかねないよ……、普通じゃないんだメムメムは………」

「え、大丈夫だと思うよ。…虫も殺せないじゃんメムちゃんは。ほら、まさに…」

「…え?」


 …はぁ。
ほんとにバカデカため息っすわ。はぁ…………。

そりゃ、魂狩り《殺人》に加担しない人ってのは、…ほんとに褒められた存在で。
世間一般じゃ良い人になるんだろうけどさ〜…。
………なんで、こういういらない時に限ってそんな『優しい人』ばっかりに出会うんすかね、あたしは……。
…普段あたしが絶望してる最中なんか、誰一人とて優しくしてくれないっていうのに…………。


「メムちゃんの周り、すごい蚊たかってるでしょ?」


 ぷーんぷん…
  ぷーん、ぷーん…


「『虫も殺せない』とはこのことか………っ。はは…!」


「ぐぅっ〜〜〜〜……!!──」

616『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:53:08 ID:cFeuEibI0
世の中って、なんでこうもあたしに不都合に回るんだろ…。
地球の自転どういう回りっぷりしてんすか。ほんと…………。


「──うっさいわムシケラ!!! …あ……、ひっひぃい〜!! さ、刺さないでよぉおお!!! しっ、しっ、おねしゃす〜〜〜っ!!!」

「あはは!」



…ま、こーしてあたしがフワフワ吸い込まれた先は、便所近く。
入口からアンモニア臭の渦中へと潜り込むに連れ、あたしの周りでは蚊に加えて蝿というムシケラの二重奏が展開……。…あたしはどうやら変な生き物にばかり好かれる性質のようっす。

電灯がバチバチッ…と切れかかる、辛うじて明るい公衆トイレ内。
一応、日頃掃除はされてるのかキレイっちゃキレイでしたが、汚物感を隠しきれないその男子トイレにて。



「…くくくっ………!! ききき…………!!」


「…あっ!! コイツか……。ヨーヨー娘のジジイは…」



 ────最後の『悪魔代行』の参加者が一人。




……
………

「……ところで、サヤさん。……君の…、そのおじいちゃんって人の話なんだけどさ…………っ」

「あ。別にアタシのガチ祖父ってわけじゃないからね、一応。…あんなのがリアルにおじいちゃんだったら、多分今頃アタシ少年院だわ…」

「……。……──」

「──…もしかしてだが……………っ。その人の名前さ」

「ん?」


 ──そのジジイは、用なんか足してなく。
 ──手洗い場で何がしたいのか、ティッシュ箱からティッシュを取り出しペラペラ…→グシャリと。
 ──…かつて『ティッシュン』ってゆう、あたしには最高の使い魔(ティッシュ)がいたから、ジジィのわけのわからない行動は妙にムシャクシャした。


 ──ジジィは後に、『ティッシュ箱くじゲーム』をしたかったと。この耄碌じみた行動の意図を語る。



……
………

「その人の名前…『兵藤和尊』…とかじゃないのか…………っ?」



「……え? ………………あの、質問で質問返すようだけど…さ、佐衛門さん」

「………なんだい……」

「…その、佐衛門さんが探してる『会長』ってのも……。もしかして……」

「……愚問だね………──」



 ──ジジィの足元には杖が落ちてあった。
 ──あたしはひたすら「それに気付かず転べ〜」と念じていたこの時だけども。




……
………

「──……兵藤会長。僕が殺す……唯一の参加者だっ……………!」

「えっ…!?」



 ──このジジィこそ、

 ────『兵藤和尊』様こそが、あたしの追い求めていた本物の悪魔だった────。



「……還るか…? 海…深海に漂う…藻屑…泥や砂…澱みに…!!」

「は…? 何の話すか? とりあえずお前、そこの杖で転んでみて──…、」

617『悪魔のいけにえ(漸ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:53:21 ID:cFeuEibI0
 カチャリッ


「…え?」



 ──そんな圧倒的悪魔に向かって、銃口が向けられたのでした………。



…………
………
(じじょーせつめ…──…、



「あぁぁあ〜〜〜〜〜〜〜っ?! なんじゃ貴様はっ………!!」

「…ひっ!! め、めむめむ〜〜〜…」



「…………………っ」


「……犬っころめがっ……! 噛みよるというのか…?! 主人に向かって…黒服如きの分際で…………!!! あぁっ〜?!」


「…………………お迎えに上がりましたよ…っ。──」




「──会長…………っ!!」




 …事情説明挟む間もなく、矢継ぎ早矢継ぎ早の展開っすよこりゃまた!!

618『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:54:07 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[メムメム]]、[[兵藤和尊]]、[[佐衛門三郎二朗]]、[[遠藤サヤ]]

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619『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:54:18 ID:cFeuEibI0
 突然便所に入って来たのは愚鈍な三四郎、そいつ本人。
……思い返せば、野郎は『会長』を殺したいだか何だかで…、一瞬あたしと気が合った仲ではありますが、……奴の標的は割とあっさり見つかったわけか。
ヘルペスピストルを、多分その『会長』御本人に向けて、目を血走らせるのでした……。


「…へ?! お、おい三四郎!! な、何を………」

「あぁ、勘違いしてほしくないんだがね…メムメム。…僕は別に会長へ恨みを持っていたりとか………、そういう怨恨、復讐心はないのさ………………」

「は?」


「…ちぃっ………!! とどのつまり……貴様は特に意味もなく……王へ反逆精神………っ!! 造反をするというのか……………っ! 気の触れた……救いようのないゴミめがっ……──…、」

「…いや。…大義名分は薄いにしろ僕だってありますよ。…貴方を殺す、意味がねっ………!」

「あぁ………!?」


「…いいですか。日本は極めて平和な国です……。汚職政治家に、権力を盾に暗躍する犯罪者、捕まらないバカ息子…………、そしてブラック企業経営者……っ。ソイツらは日本国民何千万人から何度も殺されています……──」

「──ただし、それはあくまで空想の中でのみ…………っ」


「あ?」 「…あくまで? 悪魔??」


「その空想は…決して現実化しない……っ。空想と現実の垣根は意外に高いのですよ………っ。頭の中だけで完結する殺人なんです…………──」




「──ただ、ある日突然…自分の目の前に銃が湧いたら………──」


 カチャリッ



「──そして同時に、今住んでいるこの場所が…法もクソもない無秩序………っ。治外法権地帯になったら………………っ──」


 にじりっ…


「──権力も何も通用しない………、そんな自由を限界突破した世の中で、人々はどう生きるか………っ──」




「──…一線っていうのはですね、……こういう奇跡の積み重ねで簡単に超えられちゃうんですよ………っ──」


「────なにせ、殺人っていうのは誰でも簡単にやれるんですから……っ! やろうと思えば…誰でも………っ!!」



「…あぁ? …貴様………」 「…なんすか急に…三四郎………?!」




「あ、言い忘れてましたね。…僕が会長を殺す理由。それは、貴方が悪評高い経営者だからです………。貴方の命日は貴方の誕生日よりも祝われる……。喜ぶ人はたくさんいるんだ……………っ──」

「──理由はそれだけです………──」





「────終わらせましょう、何もかも………………っ!!」

620『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:54:31 ID:cFeuEibI0
「ぃっ…………」

「………」


 人も百人殺せば英雄になる、だか。
放たれた弾丸、命中するが悪ならば即ち無罪、だか……。
要するに、この三四郎野郎は、英雄気取りでジジィを襲ってるみたいっすね。
…コイツを同じパワハラ被害者無能《仲間》だと思ってたあたしが酷く惨めっす…。
結局は独りよがりな考えで殺意を抱いてたんすから…もう同情もできないっすわ、コイツには……。

まぁコイツがどーゆー動機でジジィを襲おうがあたしとしては、どうでもイーグルす。

 …ふふふっ。
……この時はまだワナワナ震えていたあたしですが、…実は心の奥底では踊り狂ってたんすよ。…あたし……!!
え? 何でって?? 言うまでもない!!! 念願の魂ゲッツの時到来なんすから!!

三四郎が弾丸を放ったその時、その瞬間…、
……こんな老いぼれがヴァージン破りとは何となく不服ではありますが……、とにかく魂を手に入れれるんすよ!!
魂を!!!

レース先輩に褒められるだろな〜♪
周りのみんなは悔し涙でハンカチを噛みしめるだろな〜♫
所長からお菓子(ご褒美)たくさん貰えるだろな〜〜♪
あたしは人生最大の転機を前に、妄想が膨らんで仕方なかったんすから!!
フィーバーっすよ!!!



 ──……まぁ、ただ。



「……クククっ…………!」

「……な……?」

「カカカ……っ……、キキキ…!!! クゥ、クゥクゥ…!!!」

「何が…何がおかしいんですかっ………!!! 会長っ……………!!!」



「思い出した…………。貴様はたしか…、…利根川グループの…、何やらいけ好かぬ…小僧じゃな…………?」

「……………っ。王の最期の言葉にしては随分締まらないですね…………っ」

「カァーーっ!!! キキキキキっ!!! かぁーカッカッカッカッカカッカカッカッカッカッカ!!!!!、ぐききき……っ!!!」

「………だから、何がそんなに笑えるというのですかっ………!! 貴方は死ぬんだ……、殺されるんだよ──…、」



 ──多分〜…。魂が飛び出る相手は…。



「キキキ………っ。おい小僧、震えてるぞ…………? 手が……!!」


「…!! ぃッ…………………!!! ………」


「その手で撃てる自信があるというのなら、大した腕前じゃないか…………!? あぁ〜? 小僧…っ!」

「…くっ、…ならお望みどお──…、」



「本日をもって利根川グループ社員は全員地下行き確定………っ!!!! ────やれ、『小娘』がっ………」




 ──『三四郎』の方になるんすがね…………。

621『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:54:46 ID:cFeuEibI0
 バシッ────


「がぁっ………!!!?──」



「──……………えっ…?」



 シュルシュル〜…と勢いよく伸びていって…ばしんっ!!!
三四郎の右手目掛けて飛んできたプラスチック製の球は、奴の持つヘルペス銃をはたき落とし……。
紅脹して痛む右手を抑えながら、三四郎は後ろを振り返って、…………絶句。



「……ごめん」



「え………。…………え?」




「…ごめんなさい。佐衛門……さん……………っ」



「………え」






「くぅっ!! きぃーっききききき!!!! かかかかかかかーかっかっかっかっかっかっかァ─────っ!!!! ききききききききっ!!!!!」






「さ、サヤ…………さん…………………?」


「………………」




 ……印象的だったすよ。
『兵藤和尊』名義のバカみたいな桁が書かれた手形を片手に、何とも言えない表情をするヨーヨー娘は。
…そして、まさかの裏切りを前にして、腫れたかのように目をまんまるとした三四郎の顔は……。



「……サヤ、さ……………」


「…本当にごめんなさい。…ねえ、これでいいよね…。──」



「──兵藤様……………」




……本当に三四郎の表情は記憶に残るくらいだったっす。


アイツの『絶望』を一瞬で理解したっていう…その顔は、ものすごい異色放っていたっすから………。

622『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:54:58 ID:cFeuEibI0
「かーーっかっかっかっかっ!!!! ききききかかかかかかっ……!!!!──」


「──これでいいか、じゃと………?! バカがっ…!! 足りんわ……!! ききききっ……………」

623『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:55:10 ID:cFeuEibI0




 満月。
そう、満月。
狂犬病に感染した生物は月光を浴びると、カミソリの如く激しい痛みに悶えるらしい。
──月はまさしく悪魔の眼光でした…。



 バシィン────ッ

   バシィン────ッ


「ぐぅっ…………!! がぁっ………!!!」

「制裁っ……!! 制裁、制裁、制裁っ…………!! この塵芥……ゴミ……っ…ゴミ以下のカスがっ……!!──」


「──制裁っ…!!!」



 バシン────ッッ


「がぁっ……………!!!」


 公衆トイレ外にて、響く嫌な打音。そしてうめき声……。
……まるで調教っすよ。
出来の悪いウマを鞭でビシバシ叩きのめして………、ウマはウマでデカい図体してるのに調教師には反撃すらもできずただ叩かれ続ける…………。
ヨーヨーガール曰く、ジジィ改め兵藤のヤローは『人間競馬』っていう…全く想像もつかない遊びをするのが好きらしいんすが。

サングラスを弾き飛ばされ、杖で好き放題背中を叩かれ続けるウマ──三四郎と…。
そのウマを一切人間扱いせず、涎を垂らしながら怒り殴る調教師──兵藤のジジィ………。

…今あたしが見てるこの光景こそが『人間競馬』みたいなモンでしたわ……。



 バシィン────ッ

   バシィン────ッ


「ぐぅっ……………!!」

「分を弁えろ……っ!! たかが黒服が…っ!! たかが黒服がぁっ……!!! 制裁…!! 制裁…!!」


「あ、ぁ、わ…………。ひ、ひ……ひゃっ…………」


……正直ね。めちゃくちゃ震えまくって、もう金縛りって感じだったすよ。
…この時のあたしは………。



「…ちょっと………っ。……お、おじいちゃん…もう……やめてよっっ!!!!」

「あ〜……っ?!」


「……さ、サヤ………さ…ん…………………」


…あっ。
言っときますけど別にあたしは兵藤のヤローに…び、ビビり倒して震えてたんじゃないすからね?! …こ、こんな耄碌、全〜然怖くないし何も思ってないすよ……!!
…この時あたしがいた場所は、ヨーヨーガールのえっろい胸の中……。
──つまりこの女に抱かれ持たれてる感じだったんすから!!
ほら、あたしってオッパイ恐怖症じゃないすか!! それが原因でビビリまくってたんすからね!!! こ、こんなジジィの制裁なんか余裕だったんすから!!!


「お願いだからもうやめてって!!! ねえおじいちゃん……っ!!!!」

「あんじゃ小娘がっ………!! 女の癖に……しゃしゃり出るなマヌケ………っ!!」

「いやふざけないでって!!! …もう十分でしょうが…………」

「…ぁあ〜〜〜〜〜〜っ??!! あぁ〜〜〜〜????」


「ひ、ひ〜ひぃ………。あ…ぁ……ぁ……!!」

624『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:55:25 ID:cFeuEibI0
……へ? なんだって??

──『そのヨーヨーガールは胸がペッタンコなんだろ?』
──『だからお前が彼女にビビるのはおかしいじゃねぇか』…って………………?

…………。
……まぁそんな細かい話はさておき…。
さておきっすよ。もうっ!!


 …『叩けば直る』だなんて、まるでのび太ン家のテレビかっ!! てぐらい、三四郎をボコボコにするジジィ…。
そんなヤローの邪智暴虐っぷりには、流石のヨーヨーガールも黙っていられなかったのでしょう……。
若干涙ぐみながら、コイツは静止に駆け付けて来ました。

一方で、当のジジィといったら、…まぁ孫の年ほど離れた娘に「もうやめて」と言われたわけっすからね。

『チッ』──…

って、舌打ちを飛ばした後、思う事があったのか。
物凄く嫌な目つきをしながらも、杖を振るうのを停止しだしました。


「………クソっ……。……………虫けらにも劣る…奴隷………っ。自由を知らない、ボウフラ同然の奴隷如きがっ……………。王であるワシに……楯突くとは………………」


「ぐうっ…………………。がぁ……あっ………………………」




さっきね、三四郎が公衆トイレ内からほっぽり出された時、ジジィが「向こうの自販機からなんか買ってこい」って小娘に命令したこともあって、
ヨーヨーガールとジジィとの距離は今、まぁまぁに離れてはいたんすけども。


小娘が泣きながら(──あとあたしを抱えながら──)ジジィの元へと近づいていく間。

三四郎の胸ぐらをシワクチャな手で掴んだジジィは、


「おい……っ!! どのくらいじゃっ………!! 貴様の……視力は………っ!」

「ぐぅうっ……。……な、何故…今………その話を………」

「あぁ?! バカがっ……!! 淀み…濁り…腐りきり……っ!! 貴様の目はあまりにも酷すぎるっ……。──」

「──高価な品……本当に価値のある一級品………。普通の人間には…素晴らしき品を見定める彗眼が備わっとるものじゃが…………。…圧倒的価値…巨万の富である王……このワシを襲うとは………。貴様には見る目がなさすぎるわいっ……!! ──」


「──これを見ろ……っ!!! ゴミっ…!!」

「…え………?」


懐から、折り目一つない新札のお金。
…どこの国のお金かは分かんないっすが、それを一枚取り出し、三四郎に見せつけると、


「おいっ……!! 分かるか……この貨幣の価値がっ………!! 一体コイツは何円じゃっ…!! 答えろ…、答えろゴミ……っ!!!」

「え。………い、一万………ペリカ…………。…地下で通用する……お金の──…、」

「ちぃぃっ…!! 黙れっ……!! …やはり…貴様はゴミ………!!──」



三四郎の右目を無理やり開かせて、



「────…刮目せよっ………!! クズめがっ……!!」






貨幣の切れ目を、眼球に、────シュッ────────。




「ひッ」

「ぁ」



「がぁッ────」




──今夜は満月。

真っ白でまんまるなお月様へ、一筋の黒い雲が横切っていました────。

625『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:55:38 ID:cFeuEibI0
「ぎい゙ぃぃぃいがぁ゙あ゙あぁぁッ…!!!!!!! ぐがぁ゙ああああぁぁぁあああぁぁあああぁああああああああああああああああああ────────ッッッ!!!!!!!!」



「ぐうっききき! きききぃっ……!!」




「…ぁっ………左衛門……さ………………………」




「あ゙がぁあああ゙ぁぁぁああぁぁぁあぁぁああぁあぁぁあぁぁあぁぁぁあああぁぁあああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ」






「カ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカァ───────ッ!!!!! クゥクゥクゥーカッカッかっかっかっかカッカッカァーー!!!!」




…異常な光景を前に、ヨーヨー娘は絶句しきって。
…あたしだってもう魂が抜けたんじゃないかってくらい頭が空っぽになって。
……三四郎は我を忘れて地面を転がり狂う…。


──あの場にいた四人の中で、楽しかったのは兵藤和尊。奴だけでした。



 ────奴だけだったんす。

 ────人間のフリをした………『真の悪魔』は……………。





「カァ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカ!!!!!! カ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカァ───────ッ!!!!!」

626『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:55:54 ID:cFeuEibI0
…………
………
(ぽわんぽわん、めむめむ〜)
(回想終了〜)
……




「…以上が事のあらましっす!!」


「…」「…う、うげぇ…」


「いやぁ〜思えば長旅だったすわ…。アホの千花にデカ外国人、それに三四郎とヨーヨーガール……何人もの使えない参加者達に出会い続け…三時間近く!! 誰一人とて魂回収に協力してくれない中……、やっとあたしの努力が報われたんですよ……!!──」

「──今はお休み中の兵藤様ですが…奴こそが!! 奴こそが最強の悪魔であり、あたしのナイスバーディ!!! 勿論奴とは手形で契約したのでね!! 奴を以ってして、取れぬ魂はないときたもんすわ!!!──」

「──うふふ…♫ あたしもついに一流の悪魔の仲間入り!! もう讃美歌をカラオケしたい気分っすね♪ ふふ…!!──」



「──というのに…っすよ」

「お、お前ぇ…………………」



………はぁっ……。


「なんで兵藤のヤローを部屋から追い出したんすかぁああぁぁぁああっ??!!! 寝てる隙にポイ〜って………!!!!!! 酷いじゃないすか〜あんまりすよ、バヒョぉおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

「バカヤローっ!!!! なんて回想をオレらに見せつけるんだっ??!!! そんな危険思想なじーさん連れてくるなぁあああ!!!! どこまでバカなんだお前はぁあああああああ!!!!!!」

「せっかく魂をゲットできるチャンスだったのにぃいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」


「…とりあえず一つ。メムちゃんは淫欲(?)な方法で魂を集めるのが仕事なんでしょ?」

「あぁぁああっ???!!! なんすか高木んんんん〜〜〜っ!!!!」

「…本当に殺しちゃう手段取ったらさ、そのレースさんに…逆に凄い怒られると私思うんだけども」


「え…………………」



………………………。



「と、とにかくジジィを連れ戻しますよっ!!!!? あたしはヤツの財源と力が必要なんすからぁあああああああ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!」

「あっ!!! ま、待て!!! やめろメムメムぅ───────っっ!!!!!!」




 ジタバタジタバタ…


「もがぁあああぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」



 ……東●ホテル、十一階・2106号室。

……超後悔っすよ。マジ。
…高木とバヒョの奴にあたしの回想を見せてなきゃ……、魂集め計画はオジャンにならなかったんすからね……………。

627『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:56:05 ID:cFeuEibI0
…はぁ。
こっちの気も知らずに、ジジィは時間帯が時間帯なだけあって、廊下のどっかでむにゃむにゃ呑気に睡眠中っすわ。



もう、ちくしょぉめぇえ〜〜…………っ。



「こくりこくり……。あぁ〜〜〜………。むにゃむにゃ…」



【1日目/F6/東●ホテル/11F/2106号室/AM.04:30】
【メムメム@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???、兵藤からの手形百万円
【思考】基本:【奉仕型マーダー→魂集め】
1:アホそうな参加者をマーダーに誘導して、魂を集める。
2:……というわけで、ベストプロフェッサー・兵藤様を連れてきたというのにぃ〜…。作戦失敗だチクショー!!
3:どっかに魂、落ちてないすかね………。

【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】自転車@高木さん
【道具】限定じゃんけんカード@トネガワ
【思考】基本:【静観】
1:兵藤さんに警戒。
2:メムちゃん、小日向くんと行動。
3:西片が心配。

【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康、人間(←→サキュバス)
【装備】ドッキリ用電流棒@トネガワ
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:兵藤に警戒。
2:高木さん、メムメムととりあえずは行動。
3:…メムメムと関わったばかりに、あのサングラスの人の人生はメチャクチャ……。

※ひょう太は水をかけられると男、温かい水なら女(淫魔)になります


【1日目/F6/東●ホテル/11F/廊下/AM.04:30】
【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】睡眠
【装備】杖
【道具】???、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:こくり、こくり……。
2:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。
3:王に逆らう者は制裁っ………!!

628『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:56:20 ID:cFeuEibI0



 …佐衛門さんの崇拝する、利根川センセって人曰く。
『金は命より重い』────とのことらしいけど…。


…冗談じゃないッ………。


金が全てなわけがあるかッ…………。
この世の全ての物に金がかかるだけで、あんな紙切れが何よりも大事な訳が無い………ッ。


…決別の意として、兵藤の手形をビリビリに破いた時。
……アタシは後悔なんか一ミリも湧かなかった…………────。



「……はぁ、はぁはぁ……。ぐうッ………。はぁ……」

「…さ、佐衛門さん…大丈夫……なの…!?」

「はぁ、はぁ…………。大丈夫にッ………見えるのか…………ッ?」

「あ…い、いやごめん。そういう事じゃなくてさ……──」



「──ソレ、…『違法』な奴……だよね………?」

「………ノープロブレム………っ。コイツは『医療用』と銘打ってるんだから………脱法ドラッグだよ…………ッ。……吸わなきゃ、痛みでやってられないさ……………ッ──」


「──スゥ…ハァッ………。…フゥ………ハァアァッ…、ッ………。」

「……………………ほ、程々にね………」


 サングラス越しで眼帯を付ける彼。
唯一露わになっている彼の左目は、…もう鬼ってぐらいに怒りで血走っていた。
…真っ暗な病院にて、お目当ての『ソイツ』を探り出した彼は、一心不乱に袋の中身を吸い続ける。
………さっきまでの優しくて、比較的まともだった佐衛門さんはもういない。……そんな気がして堪らなかった。



「…………ハァハァッ…………──」



「──…申し訳ないね。……サヤさん」

「えっ…。い、いや…!」


「………もう痛みはだいぶ……和らいできたとは思うからさ……………っ。……そろそろ、行こうか………」

「……え…。だ、大丈夫なの……?」

「…そりゃ、大丈夫…ではないさ………っ。…ただ、君こそ大丈夫なのかい………。こんな不気味な病院で……長居するのは………」


「…………うぅっ…! …そ、それは確かにだけども…」

「……よし、なら出ようか……。…ねっ………!」

「…うん………分かった」



…金なんか要らなかった。
恐怖も、絶望も、文字通り『こんな目に』遭うのももう嫌だった。

金なんかよりも……、たった十円ぽっちで大分満足できる……平和であまい菓子の方が何倍もいい。
……もう二度と金に惑わされてたまるか、って…ッ。

629『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:56:55 ID:cFeuEibI0
「…ねえ、…………ごめんなさい。私の方こそ」

「………」

「……あの時、佐衛門さんにヨーヨーぶつけなきゃ…………裏切っていなきゃ………ッ。貴方は今頃──…、」

「……ははっ………。僕が謝ったものだからゴメンナサイ返しか………………。いいよ気にしなくて。罪悪感なんて最も非生産的な感情だ…っ。もうよしてくれ…。──」



「──…ありがとうね、サヤさん…」



……
………
────“金さえあればなんでもできると思うなッ……!! ジジイッ……!!”

────“……。行くよ、佐衛門さん…”
………
……




「──…あの時……、こんな僕を庇ってくれてさ………っ」

「…………うん」



 …アタシには兄貴がいる。

頭が悪くて、ダメダメで、スケベ心だけはいっちょ前の愚兄だけども、…それでも大切な。

──『サングラス』がトレードマークの兄がいた。



佐衛門さんの肩を支えながら、アタシらは病院を後にする。




……一応補足。
アタシアタシ〜って一人称だから勘違いしちゃったかもだけど、アタシはメムちゃんじゃない。
…そしてヨーヨーガールぺったんこって名前でもない………。

アタシは、──────遠藤サヤだ。



【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.04:31】
【遠藤サヤ@だがしかし】
【状態】健康
【装備】あやみのヨーヨー@古見さん
【道具】フエラムネ10個入x50
【思考】基本:【静観】
1:佐衛門さんと行動、そして互いに助け合う。
2:ジジイ(兵藤)を絶対許さない…っ。
3:ほたるちゃんを探したい。

【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ】
【状態】右眼球切創、背中打撲(軽)
【装備】ヘルペスの改造銃@善悪の屑(外道の歌)
【道具】???、医療用●麻x5
【思考】基本:【静観】
1:サヤさんを守る。
2:会長に激しい憎悪。
3:……メムメム、アイツについていって大丈夫だろうか………っ。

630 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:58:32 ID:cFeuEibI0
以上で二本目終了です。
引き続き、『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』をお送りします。

631『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:58:53 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[飯沼]]、[[山井恋]]、[[マルシル・ドナトー]]、[[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]

632『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:59:15 ID:cFeuEibI0
**短編01『迷走家族F(ファイアッー!)』
[登場人物]  [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[飯沼]] / [[マルシル・ドナトー]]、[[山井恋]]

『時刻:AM.04:56/場所:東●ホテル3F』
『────現在』
---------------

633『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:59:27 ID:cFeuEibI0
 ガガガガガガ────ッ…


  バキバキバキ────ッ…



「…ぼっ、僕には……、妹がいるんですよ。歳の離れた…夏花っていう…………」


「………」 「…い、ひぐっ…うぅ……」



 飯沼がふと口を開いた。
豪華な扉を、静かに綺羅びく灯りを、誇り一つない床を。
小学校低学年の版画が如くウンディーネが無作為に切り裂く中。──ひろし等は縮こまりながら、飯沼に耳を傾ける。
ウンディーネ【水先案内人】──。水の精霊である奴が居る場所は階下なのか、階上なのか。そもそも今、何体に分裂したのか。
どちらにせよ、ウンディーネの繰り出す『ウォーターカッター』はレーザービームそのもの。
岩、鋼、人体に人骨。何であろうと簡単に真っ二つにする威力な物だから、奴が暴れ狂うこの場──東●ホテルの長居は危険極まりない自殺行為である。


奴と闘っても勝ち目などなかった。
ましてや、戦闘どころか喧嘩すらも無縁なひろし、飯沼、海老名の三人なら、即刻退避が望ましいだろう。



ただ、三人には。

──厳密には、飯沼には残らざるを得ない『使命』という物があった。



「うぅっ……ぼ、僕は一人暮らしをしていて…。……たまになっちゃんが遊びに来て……料理を振る舞って…やるんですが…………。『美味しい…!』って歓びを共有するあの時間が……凄く好きで…………………」

「……………」

「…僕、人と話すのは…苦手で………。…昔から…人にはあまり興味もなかったん……ですが…。…なっちゃんの面倒は…よく見たんですよ………。…アイツ、お兄ちゃん、お兄ちゃんっていつも……………──」


「──そんな妹に……、マルシルさんはよく似ている……っ。…彼女、僕のことを慕って…なついてくれるんです…──」

「──こんな卯建が上がらなく、……暗い…魅力がない僕なんかに………。彼女は………、…マルシルさんは接してくれた…………」



「…飯沼君………っ」



ガシャンッ────、と。窓ガラスが真っ二つに切れ落ちた。



「ヒィッ……!!! ………ひぐっ………──」



「「──あっ!!」」



否。
切断されたのは窓ガラスのみではない。
水の精霊による無差別乱射は、天井の照明にも及んだのか、三階廊下は薄暗さに包まれる。

暗闇が、怖かった。
無は恐怖だった。
無は何もかもを不安と絶望に覆い包んでくれる。
死への絶句と視界不良から、海老名はもうパニックで、二重の意味で眼の前が見えなくなっていた。

ただ、唯一、はっきりとこの目で捉えれた事がある。
それは、水圧による斬撃と。
そして頭を地面につけて懇願する、飯沼の姿。──涙だった。

634『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:59:40 ID:cFeuEibI0
「…い、飯沼君っ!!」

「………だ、だからぁ……っ!!! …お願いしますっ…、野原さん!!! …一緒にマルシルさんを…………。お願いします…………!!」

「………っ!!」



「ここで逃げたら………僕は…………自分のことが…堪らなく嫌いになる………。だ、だからぁ…野は──…、」


「もういい。飯沼君」




「ひ、ひろしさん……!!」


「………………」



 ガガガガガガガガガガガ────ッ…


  ガシャン────ッ…



 曲がり角奥から、何かが大破する音が響いた。

縮こまって頭を上げない飯沼の背中へ、ポンと置かれる掌。
手を置いた張本人──野原ひろしは、この時何を考えたのか。
辺りは目を凝らさざるを得ない程暗闇だったため、その表情は飯沼、海老名共に把握できなかったが。

────無論。
ひろしという男は双葉商事係長を勤め上げ、これまで幾多のビジネス的困難を昼メシの力で挑んできた人物。
心の底から懇願する若者へ、「諦めろ」等とドライに言い放つ男ではなかった。


「…喋ってる暇があれば足を動かせ──社会人のモットーだぜ、飯沼くん……!!」


「………っ!! の、野原さん…っ」




「……確かにオレたちはそのマルシルさんを知らねぇさ…。…だが、それがどうしたってんだっ…!!──」


「──オレらサラリーマンはどれだけ身が削れても…どれだけ心が減っても…耐え忍びっ…。社会という大きな壁に向き合ってきたんだ…………──」


「──バトルロワイヤルだぁ…? 生死の戦いだぁ? ンなもん知らねェッ!! サラリーマン人生を歩んできたオレらに……今更怖いものなんかねェんだよッ!!!」




「………っ!」




「…マルシルさんのいない世界に未練なんてあるかってんだッ………!! ……行くぞ……。た、助けに行くぞオイッ!!!」


「の、野原さん…!!」

「ひぐっ……、ぐっ………………う……」

635『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 19:59:52 ID:cFeuEibI0
──それが野原ひろしという男の『流儀』だった。

飯沼に鼓舞を打った後、ゆっくりと立ち上がっていくひろし。
彼は、半ば巻き込まれ状態である海老名に一言詫びを入れると、前へ向いた途端、その目は一変。
覚悟を決めたその眼、その魂のまま、マロが向かったであろう十一階。──即ち、移動手段であるエレベーターへと歩んでゆく。
あとに続くは、怯えつつも勇気を振り絞って立ち上がる海老名、飯沼の両名。

────奇しくも三人は飯好き。美味しい物好き。グルメ大食いという共通点を持つ。


空腹よりも辛い、惨劇のホテルにて。
三人は1421号室で身を縮こませるマルシルを救いに、恐怖と抗う。
ひろし等が第一目標として、その姿を探すは、自分らをこんな目に遭わせた戦犯の内ともいえる──マロ。


「オレが…絶対に皆を……。責任持って守ってやるからなッ……」


「………はいっ…」 「ひっ、ひっ…………。ひろし、えぐっ…さん…………」




「……。………野原一家ッ……F【ファイアーッ】………!!」



ただ、この絶望へ抗うにあたって、三人合わせて武器一つのみとは、あまりにも心細かった。

636『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:00:18 ID:cFeuEibI0
………
……




「…はっ、はっ、はっ、はっ」



 ─────パッ


「……きゃっ………──ぁ…っ?!! 何ここ…?」

「…え!? うわっビックリした?!!!」

「……は? は?? は? はぁっ?! って、あの時のバカ犬っ!!! て、てんめっ…」


「…はっ、はっ、はっ、はっ」



「…え。血、大丈夫………? というか、だ、誰なの、あなた…………??」

「………は? 私山井恋。これで満足? ていうかアンタ何してんの? バカ犬にペロペロ股間舐めさせて………。こんな事態に発情期……?」

「なっ、ち、違うわいっ!! この子が部屋に入ってきて…急にスカートに突っ込んできたんだけどっ!!!──」

「──あ。あと私はマルシル。マルシル・ドナ──…、」

「あーどうでもいいよアンタの名前なんか。別に仲良くする気はないし、興味ないって感じ〜〜?」

「…は、はぁ??!」

「ま、何はどうあれ…。そのクソカスが眼の前にいるんだから結果オーライって感じ…かな。私が用あるのはその犬だからさ〜」

「…??」






「────だからアンタは死ね。…バイバイ、マルシル何たら」






 ガガガガガガッ………………






*『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』
〜パルプフィクション。短編を時系列シャッフルで綴る、群青劇〜

[総登場人物]  [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[飯沼]]、[[山井恋]]、[[マルシル・ドナトー]]、[[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]

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637『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:00:39 ID:cFeuEibI0
**短編02『古見八犬伝』
[登場人物]  [[山井恋]]

『時刻:AM.04:08/場所:桜丘の森』
『────『←』巻き戻し/話は16分前に遡る。』

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638『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:00:50 ID:cFeuEibI0
 『犬』という動物は、──血統、種類にもよるが──知能面に関して人間の二歳から三歳程度。
つまりは、IQ90程の知能を兼ね備えているらしい。
動物学的研究結果によると、ニンゲンを除いて平均知能の最も高い生物は犬とのこと。
遡ること古代エジプトから、犬は人間の一番のパートナーとして可愛がられて来ているが、その頭脳は計り知れない物なのだ。
従って、躾も訓練を熟せば容易に覚えさせられる。


下衆な例となるが、例えば────『バター犬』だとか。



「はっ、はっ、はっ、はっ、」



 渋谷サクラステージの一角にて、舌を出す大型犬が一匹。
この犬の名前はマロ。
そして、飼い主の名は今江恵美────と、本来なら説明する所だが、マロは殺し合いにおいて『支給品』。
参加者の一人──佐野が連れ忘れた犬であり、バトロワ的には彼女こそが飼い主であった。

そっと吹き付ける夏風の指示の元、マロは一人でに動き出す。
犬の視線が捉えた先には、呆然と膝をついて座る女子生徒がいた。
血溜まりと嫌な死臭が立ち込む中、それでも身動きを取らない彼女の放心っぷりたるや凄まじい物ではあっただろうが。



「……はぁ…はぁ、はぁ………………。…何してんだろ、私…………」


マロは、


「はっ、はっ、はっ、はっ、」



いや、『クン●ーヌ』(命名:黒木智子)は、



「はっ、はっ、はっ、……」


「……ごめんなさい。……只野…く──…、」



「はっ、はっ!!!!」



 ズボッ────



「んおわっ!!???」




誰に教わった躾なのか。
女子生徒のスカート内へと顔を突っ込み、ベロベロと股ぐらを舐め出していった。

639『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:01:02 ID:cFeuEibI0
**短編03『北埼玉ブルース』
[登場人物]  [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[山井恋]]

『時刻:AM.04:10/場所:渋谷駅前』
『────通常再生』
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640『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:01:17 ID:cFeuEibI0
「はっ、はっ、はっ、はっ、」


 ペロペロペロペロ……



「わっ!! ちょ、ちょっと…!!! えっ?!! ひ、ひろしさん…た、助けてくださぃ…〜〜!!!」

「なっ、なんだこの犬は〜〜っ?!!! …くっ……。や、やめなさいっ!!!! …この破廉恥野郎〜っ!!!!」


 ────ボコッ


げ    ん   こ    つ!!




 シュゥゥゥゥ〜……と、倒れたマロのたんこぶから湯気が出る。

 渋谷駅待ち合わせ場にて、唐突に現れては海老名の股ぐらへダイビングしたこのバカ犬。
海老名の同行者──ひろしは、色んな意味で突飛な襲撃者に、思わず手が出てしまった。


「え、海老名ちゃん大丈夫か〜っ!!?」

「うっ、え…は、はい………。…あの、いくらなんでも…殴るのは酷いですよ〜……。わんちゃんを……」

「…う、うぅ………。…自分の行いを正当化するつもりはないが、仕方ないってもんだぜ〜…?」

「し、仕方なくなんかないですよぉ〜!!」

「海老名ちゃん、考えてみるんだ! SASという部隊では軍事犬という攻撃専門の犬がいると聞いたぜ。…今は殺し合い中だ……。この犬も、もしかしたら誰かが送り込んだ刺客という可能性もあるから…警戒を──…、」


「はっ、はっ、はっ」


し〜〜〜ん……



「流石にないと思いますよ………?」

「……………ああ、オレが馬鹿だったよ。すまない!! …さしずめ、一人暮らしのOLからの刺客…かなぁ……。この犬は………」



 見れば見るほど間抜け面のマロ。
ひろしは脱力感でくたびれそうなほど呆れ返った。


 時刻は午前三時。──普段なら騒ぎ足りない若者達が踊るこの時間帯も、今や閑散とした寂しさが漂う。
つい先程の、何処ぞの参加者によるバカでかい拡声器発声もまるで嘘のような静けさだった。

新田義史追放以降、男手一つで海老名菜々を守るは、双葉商事のスーパーサラリーマン野原ひろし。
ローン十年。三十五歳。これまで幾多ともなるトラブルに立ち向かってきたひろしだ。
治外法権下と化した渋谷区で、彼が何もしないなどある訳がなく────、


──という訳はなく。
現時点では、海老名を連れて渋谷駅を出ることしか行動を取らずにいる。

待ち合わせ場所まで出て早数十分。
未だ、彼ら一行は基本スタンス通りの【静観】を貫き続けている。


「はっ、はっ、はっ、はっ、」

「はは…あははぁ〜…。それにしてもめんこい犬だべな〜〜……」

「…言うほど可愛いか〜? そいつ……。まぁ人それぞれだけどよ〜」


「待て!」────と、犬の躾の如く待機を貫くひろし等。
これは当然ながら誰かに指示されてのスタンスではない。
──そして、何も考えず愚鈍にただ突っ立っている、という訳でもなかった。


 言わば、『何もしない』という策である。


 軽く遡るは、数カ月前のランチタイム。
束の間の休息を釜飯屋にチョイスしたひろしは、あろうことかスマホを会社に忘れてしまっていた。
本格的釜飯店ともあり、出来上がるのにも数十分掛かる。
その窮屈すぎる長い待ち時間、暇を潰す道具も持たずして一体何をすれば……と。
熟考に頭を働かせたひろしが辿り着いたのが──『何もしない』事なのである。

641『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:01:31 ID:cFeuEibI0
“待てよ…。なんでオレは何かをやらなきゃいけないと思ってるんだ…!?”


“思い返せばちょっと時間が空くといつもスマホをいじっていた…”


“何もしないでいるのを時間を無駄にしていると思っていた……”



“──けど本当にそうなのか────?”



この思い付きは結果的には得。
ひろしのこれまでの考え方をリライトする、新たな価値観となった。
何もせず、店の中をぼんやり眺めてみれば、雰囲気の出る竹ザルやアンティークな掛け時計、囲炉裏の上にある魚の飾り等…古民家風な凝った装飾が発見できる。
その温かみのある内装にひろしは心から落ち着いた様子であった。
もしもスマホを会社に忘れてこなかったら、これら店の雰囲気には一つも気づかなかった事だろう。

情報だらけの昨今。
ひろしは、こんなにも落ち着く気持ちになったのは久々な気がしていたのだ。


「かわいいな〜えへへ〜〜!! あ、ひろしさんもよかったら撫でますか…? わんちゃん」

「え? いや、いいぜ。うちはもうシロで散々撫で飽きたモンだからな〜〜」

「あ、そうですか〜。…めんこいな〜〜」

「はっ、はっ、はっ、」



────ただ待つという贅沢。

何もしないことにより、今まで目に付かなかった物がハッキリと感じれるようになるから、と。
今はまだゲーム開始から三時間も経っていない。四十五時間も短いようで長い時間が有り余っているのだ。
従って、以上の経験の元。ひろしは海老名を説得し、ただ何もせずにい続ける。
本当に、何にも──。


「はっ、はっ、はっ、はっ、」

「んん〜〜〜!! かわいい〜〜〜! …………──」


「──……………。…………」


「ん? どうしたんだ海老名ちゃん」

「あっ!! い、いや…何でもないです……!」

「…そうか〜? なら良いんだが…」


「……………ははは…」


もっとも、海老名からしたら今すぐにでもうまる等知人たちを探したいのであるが。


 満月。
映像広告看板が目まぐるしく文字移動し、誰も乗っていないにも関わらず尚も働き続けるエスカレーター。
ひろし達は、何もしないという攻防策を身に置いて、静観をただただ続けていた。

まるで、何かを待っているかのように。

642『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:01:47 ID:cFeuEibI0
「はっ、はっ、はっ、はっ!!!」


 ズボッ


「んおわっ!!! きゃっ!!!!!」




「「え…?!」」


二人の「え?」が同時に重なる。──ということは、『第三者』の声が発生したとの次第だ。

少しばかり向こう、青ガエル電車模型前にて響いた、女子の声。
海老名と同年代頃であろうその女子は、声が飛び出る今の今まで気配を察せず。二人揃って振り返った時、初めてその子の存在に気付かされた。
──それと、マロがその女子のスカートに頭を突っ込んでいたことにも、今更。


「あっ!!! あのおバカ……、い、いつの間に…!!!」


女が目に付けば見境なしに襲うのだろうか、随分と『躾』がなった犬だなぁ…、と。
脳裏に我が息子が思い浮かびながら、ひろしは海老名と共に大慌てで静止にかかる。


「す、すみません〜!! …こらっ、離れなさい! もう…一体どうなってんだお前は……!!」

「すみません!! うちのわんちゃんが〜…ご、ご迷惑を〜…!!!」

「…は?」


バカ犬を無理やり引き剥がし、ひろし等は被害者の女子に平謝りを始める。
対して、虚を突かれた様子で地面に座り込むその女子。
肩までかかる茶髪のミディアムヘアに、同じく茶色のセーターで制服を覆う。イメージ的には、キャピキャピした感じといった顔立ちの女子生徒であった。


「……またこのバカ犬………。…なんなわけ………?」

「えっ? また、って…。君こいつを知っているのか〜?」

「は? …あー、こいつ名前マロだから。…ほら、首輪に書いてるでしょ?」


「首輪……?──」


待ち合わせ場所にて、誰かを待つかのように静観し続けたひろし等が出会った、その女子。


「──あっ、確かに!! 今まで気づかなかったぜ〜…。ごめんよ、うちの〜…っていうか君の…かな? マロのやつ、なんかこう…女の人見かけると暴れちゃうタイプで〜〜…」

「いや知ってるから。私もさっきそのバカ犬に頭突っ込まれたし。やだよね〜ほんと。獣くっさくて敵わないってーの。──」

「──本気で死ねばいいのに。…そう思っちゃう感じ〜? ね〜〜」


「「………」」


「お、オレは野原ひろし! で、こっちは海老名ちゃんだ」

「あ、はい!! よ、よろしくお願いします〜…」

「取り敢えず君に怪我なくて良かったぜ……。ところで君は──…、」

「あ、私パスで。自己紹介」

「え?」

「だってさ〜、普通に面倒臭いし。自己紹介で終わるならまだしも、これまでの経緯とか仲間の話とか色々しなきゃダメでしょ? そんなのダルいしキツイじゃん〜──」

643『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:02:03 ID:cFeuEibI0
もしかしたら、ひろし等は本当に待ち続けていた。
──いや、待たされていたのかもしれない。



「──それに、やる意味なんかないし」


「…え?」



武器も乏しい、戦闘力も皆無、無害、──殺人者としては格好の餌。
待ち続けていたのだ、──死神はひろし等を。

ひろし等の身体から魂が離れる、その瞬間を。


「バカ犬は…とりま保留。対象はそこのオッサンと脂肪の塊みたいな女だから。よろしくね♫」

「……えっ」



「────『ウンディーネ』っ!! 皆殺しにしてッ!!!!!!」



女子生徒──山井恋が、ペットボトルのキャップを外した瞬間。
飲み口からまるで水晶のような透明の塊が宙に浮かび、

刹那。
レーザー《ウォーターカッター》が飛び掛かる。



 ガガガガガガ──────ッッッ



「えっ!!??」

「え、海老名ちゃん!!! 逃げ──…、」




 グシュッ──




────死神がその黒いベールを脱いだ。






644『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:02:24 ID:cFeuEibI0
**短編04『マミの使い魔』
[登場人物]  [[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]

『時刻:AM.04:10/場所:渋谷駅前』
『────同時刻』
---------------

645『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:02:39 ID:cFeuEibI0
 使い魔には、使命がある。


使い魔には、主【マスター】の命令に従い、護衛や補助などの役割を担う義務がある。

使い魔には、どんな不条理や理屈であっても、どんなに頼りなくか弱い主であっても、その主の存在を。
いや、主の生命を一番に考えなくてはならない運命がある。

例え、自分の身に危機が迫ったり、戦いの末、自らの魂が犠牲になろうとも、守り続けたい『存在』があった。


それが、使い魔として産まれたが故の、天命だった。



──ただ、その半透明化した身体は、使い魔と呼ぶにはあまりにも脆弱な姿だった────。





「(……保って半日…いや二時間ほどか。…クッ……。──)」

「(──…主がいかにもオツムの弱そうな小娘ときたものだからな。奇天烈かつ無駄な願いを連発することは多少目に見えていたが………。…あまりにも酷い、酷すぎる………──)」

「(──OK,siri感覚で私を酷使するとはっ………。お陰で私の充電は5%未満だ…………。──)」


「(──…魔力が欲しい。……一刻も早く、魔力が………………)」



「あっ!!! ゆ、UFOだ!!! ほら魔人さん、うまるちゃんも一緒に!! アーメンソーメンヒヤソーメン〜〜っ!!! アーメンソーメンヒヤソーメン〜〜っ!!! わたし達をどうか助けにきてぇ〜〜〜〜!!!! 宇宙人さん〜〜〜〜〜!!!!!!」

「いやただの飛行機じゃんアレ。…でももう一途の望みにかけるしかないよーー!!! アーメンアーメンアーメ──────────ンっっ!!! うまるをここから連れ出してぇえーー!!!! あとついでにダラダラしてても文句言われない星に連れてってぇええーー!!! お願い宇宙人様ぁ─────────っ!!!!!!!」


「……………はぁ」



夜空を一つの赤い輝きが通過した頃。
必死こいて天にお祈りをする二人の小娘に、魔人・デデルはため息が漏れる。

──なんて愚かな光景だろう。
──そしてなんて馬鹿な主《マスター》なのだろう。

地面上にてジャンプーSQ雑誌や月刊マー、お菓子等が乱雑に散らばる中、デデルは赤い星(──と言うか普通に飛行機)に向かって指パッチン。


 パッ


「「あっ!!??──」」


「──き、消えちゃった?! どうして!!? なんで!!! わたしを見捨てないで宇宙人さん〜っ!!!」

「いや魔人が消したんでしょ絶対! …何してるのさもうーーっ!!!! ワンチャンUFOだった説あるんだよ!!? ワンチャン〜〜〜〜っ!!!!」


「バカな信仰をしてる暇があったら行きますよ。……全く…」

「ば、バカって……。別にうまるは本気で心からUFO信じてたわけじゃないよ! …バカは、その………マミちゃんだけだし」

「なにそれっ?!!!」


「………………はァ。困ったモノだ…」


魔人のただでさえ消えかかっている姿が、余計スケルトン度を増すこととなった。





646『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:02:50 ID:cFeuEibI0
**短編05『制服少女に踏まれたい』
[登場人物]  [[山井恋]]

『時刻:AM.04:03/場所:桜丘の森』
『────『←』巻き戻し/話は7分前へと遡る。』
---------------

647『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:03:03 ID:cFeuEibI0
 S極とN極は、その磁力でまるで運命のように引き寄せ合う。
ただ、どれだけ強い磁力を発そうとも──山井恋は、意中のあの子に未だ出会えずにいた。
【S】hoko──Komi極。
彼女の為なら、こんな下劣で全てが終わっている厨二デスゲームでも喜んで乗ってやろう。
そう意気込んでいたというのに──。


「…ひっ!!! ………あれ。………え…。嘘っ………──」



「──…………只野くん…」



 渋谷高校から徒歩数時間。
どれだけ歩こうとも歩こうとも、先程から山井が出会す参加者は、『既に参加者で無くなった者』──【死体】ばかりである。

 渋谷サクラステージの歩道橋を進み、道なりに足を踏み入れた先は桜丘の森。
ライトアップされた木が閑散と光るこの公園。
死臭に飛びついたのか、さっきからカラス達の声が酷く喧しかった。


「……………早っ。…早すぎでしょ…………。何してんの、…うげっ………。只野くん……………」


ベンチ下の地面にて、まるで寝返りを打ったかのように仰向けのクラスメイト。
知り合いの遭遇ともあり、山井は思わず前屈みで座り声を掛けたが、当然返事など無い。
赤黒く胸を染め、鼻と口からは歌舞伎のペイントのように紅の軌道を綴る、白目の死体。
下半身の断面からは、どこかに失った両足を探すが如く、血の噴水が水溜りを伸ばして続ける。


「……。(…早坂ちゃん説ある? ワンチャン…)」


 死体の傷口を眺めながら、山井は不意に犯人像を思い浮かべた。
三時間前、校舎内にて互いに不可侵条約【古見/四宮接近禁止令】を交わした、早坂という女。
条約締結の記念品として、所持武器をそれぞれトレードしたものだが、山井に比べて早坂は参加者遭遇率が高かった様子。
早速目についた只野を即襲撃──逃げられない様脚を切断してから──トドメを刺したのだろう、とスプラッターで嫌な想像が頭に浮かんだ。

山井に重い現実を突きつける、知り合いの死。
──ただ、かと言って彼女は別に早坂を恨んだり復讐心を抱いた訳でもなく。
よくしてもらった親戚の葬式と同程度の悲しみで、山井は涙を浮かべながらそっと鎮魂の想いを念じた。


「………っ、……うっ……………。は、はは…。おかしい…よね。…そんな仲良くも友達でもなかった………っていうのに…。──」

「──いや、違うや。…………こうなると分かってたら、もう少し仲良くしてれば良かった。……っ……、そうだよね、只野くん………──」



「──…………………。」


 ジィィィィィ……

 涙を袖で拭きながら、山井は返り血で染まるデイバッグを開いた。
中に詰まっていたのは生徒手帳やらノートやら、食べる気なんか起きない血染めの菓子パンやらがズラリ。


「……何これ? …『うんでぃーね』………?」


その数ある遺品の中から、彼女が取り出したのは一本の飲料水。
──いや、只野仁人の『支給武器』であった。
ラベルには【只野仁人様専用武器 ウンディーネ】とデカデカにラッピング。
一見役立たずそうなデイバッグ中身群の中から唯一、彼女がソイツに興味を惹かれたのも、『武器であるから』が理由である。
今はまだ詳しく取説を読んでいないため、その飲料水が毒物なのか硫酸のようなものなのかも不明。
効果がどう作用する武器なのかは不明なものの、

648『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:03:15 ID:cFeuEibI0
「…ごめん。ちょっと借りるから………」


取り敢えず持っていて損はないと、山井はNEW武器として拝借をした。


屠殺場のような血の匂いが立ち込める公園地帯。
羽虫の存在が鬱陶しい中、山井は吐き気を催した事によるものでない──悲哀の涙を確かに流す。

山井恋は、病んでいます──。
──古見さんが関わる事以外であれば、至って普通の女の子である山井。
【マーダー】タイプの彼女とはいえ、同級生の死には堪えられない物なのだ。


「…………もう行くね。…バイバイ、只野くん…」


 去り際、彼女はそっと掌を只野の顔へ向ける。
白目をかっ開いたまま眠る死体には、誰だって目を閉ざさせたくなるものだろう。
山井もその想いのまま、ゆっくりと瞼を閉じさせにかかった。




 フワッ




「…え?」




 それが、悪かった。



 掌から感じる、奇妙さ。
只野の顔にいざ触れたとその時、羊の毛のようなふわふわとした感触が伝わる。
体毛に覆われた野生猿ならまだしも、人間の素肌に触れて普通、毛のような感触が伝わる筈など無い。
その突飛たる違和感に山井がふと手を止めた時。
彼女はよくよく注視してみると、




「…………………………………は?」





只野の顔中至る所、蚊の大群が蠢いていた。




鼻、耳、額、唇、頬。何十匹。

どこもかしこも無数に。
羽。羽。羽。
手足の細い蚊達が、大小群れを成して夢中に吸血を続ける。

視点を移せば、損傷の激しい胸部には羽虫共に混じってカナブンや蛾が血肉を舐め。
両足断面から湧き出る水溜りには、蚊や蟻の溺死骸が馬鹿のように漂う。


山井が涙ながら語りかけていた只野。
乾いた白目をむくコイツはもう、死体ですらない。
夏の虫たちへの贅沢なディナー。大きな大きな食料と化していた。

649『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:03:27 ID:cFeuEibI0
血臭につられた黒虫が一匹、山井の鳥肌を通り過ぎて行く──。




「──────…ィ気持ち悪ィんだよッッッ!!!!!!!」




 グシャッッ


  ドシャッ、グチャグチャッ、グシャッ……


   グチャグチャグチャグチャ………………



 我を忘れて虫共を踏み潰す頃合い、気が付けば靴も、靴下も、太腿に至るまで、返り血でベチャベチャになっていた。
嫌悪感という激しい怒りで容赦なくぺしゃんこになっていく蚊達。
──そして崩壊が止まらない只野の顔面。


これが古見さんの死体ならば、ここまでの地団駄は踏まなかったことだろう。


「ふざけんなッて!!! ふざけんなッ!!!! 死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ!!!!!──」


「──気持ち悪いんだよッッッ!!!!!!」


 グチャッ────



只野くんという、比較的どうでもいい人間が、山井恋の本性を曝け出していく。






650『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:03:39 ID:cFeuEibI0
**短編06『しんのすけ、網膜を"焼け"』
[登場人物]  [[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、[[山井恋]]

『時刻:AM.04:15/場所:渋谷横丁』
『────『→』早送り/話は12分後へと進む。』
---------------

651『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:03:54 ID:cFeuEibI0
♫山井ちゃーん!!


「はァ〜〜い!!」


♪何が好きぃ〜〜???


「チョコミント!! …よりも古・見・さん❤️💕💕」



「(はい♪ ここで自己紹介タ〜イム! と言っても、私の紹介は別にいいよね?)」

「(今回は、私のNewフレンド!! 只野くんから奪…貰った、ウンディーネちゃんについてご紹介しまーす! 可愛いでしょ? 皆ウンディーネちゃんのことよろしくね〜!!)」

「(ほら、ウンディーネちゃんも挨拶して!)」


シーン……


「(…もうっ寡黙な子なんだからっ…!! ほらって!! してよ挨拶!)」


シーン…………



「──いや挨拶しろって言ってるよね────。──」


………、
…………………。


「──…まぁいいや」


「(この挨拶すらもできない人見知りな子!! …っていうか喋れないか、口ないし。……ともかく、このウンディーネはいわゆる私の武器!! ポケ●ン的な使い魔って感じだよ!)」

「(見た目はなんていうか…水晶玉みたいな? 真ん丸の水、宙に浮いてる…ってそういう感じかな)」

「(正直なところ、コイツ話すことできないからお喋りも退屈だし〜? しかも全然オシャレな見た目じゃないから、私的にはかなり無理なタイプなんだけどもさ〜…)」

「(でも、そんな些細なこと全然許せちゃうくらい……この子は物凄く強いのっ!!)」


「(…ん? 何がどう強いの?──だって? えーと、それは〜……取説取説と)」



【支給武器紹介】
【ウンディーネ@ダンジョン飯】
湿地帯に生息する魔物。
厳密には精霊(の集合体)。
圧縮した水をウォーターカッターのように高速で打ち出すことで──…、


「(あー堅苦しくい説明で滅入るわ。ということで、私の口から説明するねっ☆)」



「(小学生の頃プール入る時にさ〜、目洗う専用の蛇口みたいなのあるでしょ? あの、やたら水圧強くてめちゃくちゃ痛いやつ)」

「(それのハイパー強化版が、ウンディーネの攻撃《ウォーターカッター》なわけ!! つまりは〜〜)」


ガガガガガガガガ──────ッッ

高くはビルの看板から電柱にかけて、低くはアスファルトなり店の扉なり路上駐車した車と。
レーザーは規則性無く、街の至る箇所を切り刻んで行く。


「(↑そうそう〜こんな感じで!! どんな物でも切断できちゃうの! 窓ガラスでもコンクリでも、レーザーみたいな奴でスッパスパ!! 凄いでしょ?! バイオの映画に出たアレみたいだよね〜〜)」

652『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:04:09 ID:cFeuEibI0
「(あとさ〜、取説には『意思がない魔物』って書かれてるけど、私の命令なら何でも聞いてくれんだよ! バカそうなのに意外と賢いんだよね〜〜!!)」

「(OK,Siriする感覚で〜、『アイツとコイツだけは攻撃するな』みたいに命令すれば従順に行動してくれるの!!)」

「(ほら、この通り! さっきから色々切りまくってるのに、私だけはま〜ったくの無傷!!)」



ガガガガガガガガ──────ッッ

盗んだ自転車に乗り走る、山井の頭上には二つの水晶玉が浮かぶ。
主人のスピードにピッタリ合わせて進むウンディーネは、一切攻撃の手を緩めることなく。
山井が過ぎ去った後の道は、どこもかしこも戦場跡かのように、ズタズタに切り拓かれていた。


「(──…まぁ私を攻撃したらしてきたで、『楽しい』調教タイムが始まるんだけどさ────。)」



「(ともかく! このふしぎなお友達と仲良くなった私はスーパーエンジョイタイム!! とってもハラハラして、それでいて楽しいわけ☆)」

「(…はぁ。……早く…見せたいな、古見さんにも。私の強いパートナー・ウンディーネを………)」


「(こんなクラスの隅っこ界隈が昼休みに妄想するようなデスゲームで…、)」

「(産まれたてのチワワのように震えてる古見さんの元を…、)」

「(私が颯爽、駆け付ける……。ドラマみたいなシーン…‥…)」

「(…ねっ? だから、こっちを振り返って…。早く会いたいよ…。ずっと私だけのことを見ていてよ…)」


「(私だけの…………────古見さんっ」




「(──水の精霊が祝福の雨を降り注ぐ中、私達は幸せ一杯にずぶ濡れる。…そんな時間の訪れは、もしかしたら割とすぐなのかもしれない……)」




ガガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッ
バキバキバキバキバキバキバキバキガシャンッッッ



「………いや空気読めって。ロマンスなときめきの予感してる時に、ガガガ〜じゃねーよ。うっさすぎるし。……やっぱコイツとはオトモダチ無理。ほんと使えないわ………。──」

「──…はァ。……てかいつまでやってんのコイツ? 私、アンタに街破壊しろだなんて頼んでないし。さっさと殺ってよ。つか脚狙えよ、まず脚。──」


「──……たかが水に大活躍期待した私がバカだったかな…………。はぁ〜ア最悪………。もう……──」




“死ねよッ。古見さん優勝計画に邪魔な、無能達がッ──────”

653『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:04:33 ID:cFeuEibI0
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
切る切断きキ切創斬切る切ったがきる切って切るを切るお切りますきるきってきったきろう切る切ってkillキルキル切る切断きキ切創斬切る切ったがきる切って切るを切るお切りますきるきってきったきろう切る切ってkillキルキル
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切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切
切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切切………



「ぎょえぇええええええええええ〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!!! ハァハァ…え、海老名ちゃぁあああ〜〜〜〜〜〜んんッ!!!!!!」

「はぁ、はぁ…は、はいぃ〜!! ひ、ひろしさぁあん────────ッ!!!!!!」

「チクショぉおおおおお!!!! みさえ、みさえぇえええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!」


「はっ、はっ、はっ、はっ、」



 ここ、渋谷横丁通りを駆け抜ける三つの影。──追いかけるは自転車の影と水晶二つ。
今思えば、渋谷駅前にて放たれた奇襲《ウォーターカッター》は「よーい、ドン」のピストル代わりと言えようか。
ひろしと海老名は人生最大級の危機を背負いつつ、人生最大級の激走を続けていた。
ひろしの手から伸びる長いリード。──彼らを引っ張るかのように、マロもまた四足の脚で大地を蹴る。

ボイラーのように熱くそして膨張する太腿に、どんどんと切れていく息。
ただでさえ全身汗だくだというのに、いつ自分の方へ飛んでくるか分からないレーザー攻撃には、冷や汗が混じり入った。

先頭を走る犬は、今の危機的事態を理解しているのか否か。
苦悶の表情で走るひろし等とは対象的に、さぞ愉快に尻尾を振るソイツの尻は、必要としていない苛立ちをどんどんどんどん沸かせに来た。
“お前がアイツに飛びついたせいでこうなっているんだぞッ!??”────。
──ツッコミを入れる分の体力が勿体ない為、この叫びは心の中のみに押し留めるひろしであった。


汗と、涙と、男と、女。──と、犬一匹。
ひろし史上最走となる犬の散歩が、油臭い横町で開幕する────。


「うっえええぇえ〜〜〜〜〜んんっ!!!!! はぁはぁ………!!! 誰かぁ〜〜〜っ!!!!!」

「…ぜぇはぁぜぇ……はぁああっ!!! あぁあ〜お慈悲を〜〜!! お慈悲をくださいぃ〜〜〜〜っ!!!!! 助けてくれみさえ〜〜〜〜〜っ!!! みさえ〜〜〜〜!!!!!!!」


ポポン♪

『畏まりました。野原みさえさんに電話をかけます』


ひろしの懐から機械音声が響いた。

654『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:04:49 ID:cFeuEibI0
「いやこんなタイミングで反応するな!!!! siriぃ〜〜〜〜〜〜!!!! くそぉおおおお〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」

「はぁはぁ……。ひろしさんん〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

「は? うわウケる。丁度いい機会でしょ? 最期の電話したらいんじゃない〜?」

「「最期とか言うな(言わないでくださいっ)っ!!!!!」」

「…うわウッザ〜…。…息ピッタシすぎ」


「…ゼェハァ……ゼェゼェ……。…お前なんかには…絶対分からないだろうなっ…………。ハァハァ……」

「え、何が? あとウンディーネ、そのオッサン集中狙いに作戦変更で」


ガガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッ


「うおっ!!? ひ、ひ、ひぃいいぃいいいいっ!!!!!!! 話してる途中に攻撃すんじゃね〜〜っ!!! 武士道の風上にもおけない卑劣さだぞちくしょおおおおおおおおおお〜〜ッ!!!!!!」

「? ウシ道?? 牛は早坂ちゃんだよ?」

「…はぁはぁ……、な、なんの……話ですかぁ………」


 ウォーターカッターの二重攻撃。──もはや螺旋化。
ただでさえ深夜の全力疾走は三十代の齢男を蝕むというのに、二重ともなるレーザーの全力回避は、満員電車の何倍もキツかった。
回避→ジャンプに、かがんで→回避 x ∞…。
ふたば商事に勤めて早十年近く。営業で鍛えた足腰を自慢に思っていたひろしとはいえ、体力消耗は著しい様子。
願わくば、風呂に入ってパァ〜〜っとビールを飲み干したい気持ちだった。
というか、限界超越した今、頭の中はソレ《現実逃避》のことしか無かった。


「……ハァハァ…──」

「──おい、聞けよ……。ウンディーネ娘……!!」


そんなひろしの目つきが、ふと変わる。


「…カチーン。その呼び方めちゃくちゃムカついちゃったー。でもアンタら如きに本名言うのもヤだからもどかしいって感じ〜──…、」

「聞けつってんだろッ!!!! おいぃッ!!!!」

「………」


立場上優位な事もありヘラヘラ減らず口が止まらない山井であったが、『圧』。
ひろしのエナジー籠もる『圧』を受け、思わず押し黙ってしまった。

現状、ビールのことしか考えれていない華金頭のひろしではあるが、コレを良く言うとするのなら。
──いや、逆に言えばだ。
この絶望の中。
彼は、“絶対、マイホームに帰ってやるッ”──という強い意志が有るということなのだ。


「……いいか…ハァハァ……。家に帰れば既に風呂は沸かしてある……ッ。子供たちとゆったり湯船に浸かりながら疲労を癒やし……ッ! 風呂上がりには酒とつまみ、…大好きなジャイアンツ戦が待っているッ!!!」

「……は?」


「…しんのすけらが眠った後…たまには妻とのんびりコーヒーさッ!! みさえの入れたインスタントは…工夫も拘りもない癖して何よりも美味くッ…!! 温かくッ……!!!」

「…ねえ通訳お願い。そこの脂肪の塊みたいな女!! このオッサン何が言いたいわけ??」

「……はぁはぁはぁ、ひぃい〜〜〜〜!!!!」

「はぁ? 無視はなくない〜?! …ムカついたわ、罰ゲームとしてウンディーネ分裂。そいつにも追加制裁で」


ガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッガガガガガガガガガガガガガガガ──────ッッ

655『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:05:01 ID:cFeuEibI0
「え…。ひっ──…、」


 分裂。──水の精霊 x 4。

 一々苛立ちを表してくる山井の命令の元、水晶体は四体に増殖。
その事も束の間、間髪入れずに右二体は水圧の槍をぶち飛ばした。
狙いは無論、命令通りたわわな胸の美少女へ。

運動が苦手で、自他共に認めるおっちょこちょいな海老名である。
秒知らずの螺旋レーザーが迫り来たこの瞬間、避けるどころか反応すらも当然敵わず──。



「あっ────…、」

「海老名ちゃん危ないッ!!!!」



ズザッザァ───────…


その小さい身体は為す術なく、衝撃から一瞬宙を舞った。







グイッ

「きゃいんっ」







──リードを無理矢理引っ張りつつ、海老名を抱きかかえ攻撃を避けた、ひろしの手によって。




「あ…ひ、ひろしさん!!!」

「…ハァハァ……。あ、危ねぇ〜〜。間一髪すぎるだろうが〜〜っ……」

「くぅぅぅん〜〜…」


 首が締まったことで顔が真っ青になるマロと、違う意味で青ざめていくひろし。
彼が「あぶねぇ〜…」と口にするのも無理はなかった。
倒れ込むひろしの靴先数センチの距離にて、道路がズタズタに亀裂走る。
これも営業で鍛えた恩恵というわけか。後一歩遅ければ、海老名ごと真っ二つのブロック肉と化していただろう。
海老名の死、そして自分の死をもギリギリに回避したひろしは、気を抜けば失禁しそうなくらいだった。

ただ、そこまでしてでも守りたい物がある。
命に変えてでも──いや、否。

何一つ失わずして守護りたいという信念が、ひろしにはあった。


「…武士道……ッ。一旦、刀を置け…! な? ウンディーネ娘!!!」

「だからウシは早坂かそいつ。で、私をそんな呼び方しないでちょうだい。…つかいい加減死ね──…、」

「なぁッ!!!!」

「…っ!! …………」

656『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:05:17 ID:cFeuEibI0
「チッ」と舌打ちと共に、自転車から降りた山井へ一睨み。
ウンディーネの攻撃でまたも遮られた『熱弁』を、彼は息が上がるのを忘れて吐き飛ばした。


「…しんのすけにひまわり、そして愛する妻のみさえ……ッ。久しぶりの日曜日には、家族皆で釣りに出かけるんだ…。あんたの漕いでるような自転車でッ、オレら四人はよッ!!!!」

「………」

「…ちょうど明日…、本来ならそういう予定だった。…しんのすけの奴に、釣りの流儀ってもんを教えたくてウズウズしていたよ……──」


「──だが、予定変更だッ…!! オレは明日、海老名ちゃんを家族に紹介するんだッ!!!」

「は?」

「はぁはぁ……。えっ、ひろしさん…?!」


「…きっとしんのすけの奴は言うだろう…『お姉さんいくつ〜?』とナンパしてな……ッ。みさえはこう叱るに違いない……『あなたその子何っ?! 離婚よ離婚!!』ってなぁッ!!! ご近所迷惑なくらい大騒ぎ間違いなしだろう!!」

「…」


「…だが、それで良い…ッ! それが家族なんだ…、それがオレの愛する…帰るべき家族なんだッ!!! 今想像している家での未来が…オレを待っているんだよッ!!!」


この時。
ひろしは海老名(とマロ)を庇いつつ、右足で地団駄を踏んだ。


「…娘。お前には分からねぇ〜だろうな…。家族が待つ温かさがッ、…無事に帰って来れた心地よさがッ!!」

「………」


ガシャンッ──

この時。
たった一人の地団駄では揺らせれる筈がないというのに。
確かに、自転車が倒れた。


「だから…もうよせっ。いや、攻撃なんかやめたほうがいいんだよッ…!!──」

「──さいたま春日部生まれッ…、双葉商事二課…、係長……ッ、ローン十年…中年……ッ、三十五歳ッ…!!──」

「──オレは野原ひろしだッ……!!!!」


「……」


「あっ…!」


この時。海老名は気付いた。
自転車が一人でに倒れた理由。それはどこぞの風による自然発生なんかではない。
地面が確かに、確かに揺れ動いていたことを。


「大して責任も、罪悪感も、背負う物も無いお前が……ッ。お前なんかがッ………」


「………」



そして、この時。
ひろしはゆっくりと立ち上がった。
珈琲臭い口に、ジョリジョリの無精髭、全身親父の汗でフラワーに香る中年サラリーマン・野原ひろしであったが。
──彼の熱い魂は、渋谷横丁を揺れ動かす。

657『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:05:28 ID:cFeuEibI0
ひりつく周囲。
この暑さは真夏の気温とは別の、熱意籠もる『熱さ』。
絶対に家に帰るという信念は、周りの環境を確かに変えていく。



「愛する家族がいるオレに………………ッ」



野原ひろし、FIRE──。

彼の炎燃え滾る思いは、サバンナクラス。

もはやウンディーネの攻撃とて焼け石の水であろう。



「お前なんかがッ……………」



時はまだ深夜。

太陽いらずのこの夜に、ふと眩しさが灯る。



「オレを倒そうだなんて…ッ」


僅かばかり一呼吸置いて。

漢・焼け野原ひろしの魂の叫びは、ウンディーネを確実に蒸発へと掛かる───。





「──誰がなんと言おうとッ、百年早ぇんだよオオオオオオオオオオッッ──…、」







『あなたー!! ちょっとどこにいるのよ!? こんな時間に電話して!!』




「…げっ。み、みさえ〜……」


「は?」 「えっ?」





──…このとき、ひろしからしたら冷水を浴びせられた思いであったろう。
懐のスマホから鳴り響くは、愛する妻の怒りの声。


“あー。そう言えばsiriのやつ、連絡しやがったんだよな〜…。さっき……”──と。


『早く帰ってきてちょうだい!! 話はそれからです!!! もうっ…』


「…………………み、みさ…──…、」

658『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:05:41 ID:cFeuEibI0
ガチャッ…

ツーツーツー


「…………………」

「……」 「………」


「はっ、はっ、はっ」




「…………………………──」


「──こんな時くらい、カッコよくさせてくれよ〜〜〜…みさえ〜……。…やれやれ、海老名ちゃん」

「…は、はい………」



一気にトーンダウンした渋谷横丁にて。
マロを持ち上げ、海老名の手を握ったひろしは一呼吸分ため息。



「熱く語ればなんとかなるとは思っていたんだが〜〜…」

「…ウンディーネ。はい準備〜」



「うしっ、逃走再開だ!!! えひゃああぁああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!」

「もういやぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

「あいつらバカ三人を切り刻んで!!! 本気で死んでよねもうッ!!!!!!!」



ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ




三人は絶望の鬼ごっこを再開するのであった。


戦士《サラリーマン》に休息はない────。





659『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:06:13 ID:cFeuEibI0
**短編07『恋の記憶、止まらないで』
[登場人物]  [[山井恋]]

『時刻:AM.04:17/場所:東●ホテル前』
『────通常再生』
---------------

660『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:06:26 ID:cFeuEibI0
Never donna give you up.
(──決して諦めないよ。君のことは)



Never gona let you own.
(毛の一本たりとも無駄なく、綺麗な放物線を描く髪の毛に、整い過ぎている顔)

Never gona run arund an desrt you.
(スタイルは高校生にしてトップモデルの如し、それだというのに彼女を見ても卑猥な欲情が不思議と湧かない、品のある風格)

Never gonna mke you cr.
(おまけに性格も良く、コンマ一秒でも視界に入れば誰もが振り向いてしまう)

Never gonna ay goobye.
(古見様って人類史上もっとも優れた人物だよね。アインシュタインやニュートンも古見様と比べたら小物だわ)



Never gona tell a lie an hurt yu.
(貴方を傷つけるなんて、私は絶対にしないよ)


(絶対…)




「………ック──」

「──鬱陶しいところに隠れてッ…………。あぁーー……もう…もうッ!!!!──」


「──ファアアアアアッックッッッッ────…ション。…あはは〜、くしゃみ出ちゃった。風邪かなぁ? ごめんね、カス精霊ちゃん〜──」



「──アンタも発熱したい感じ? …コントロール【F】野郎がッ………」



 大きな壁を前にして、呆然と立ち尽くす山井。
暗くうつむいた表情の山井と反比例するかのように、その壁は喧しいほど綺羅びやかで、豪華だった。

 反り立つ壁の名は──『東●ホテル』。
『桜丘町の金閣寺』とも言えるその建物は、光眩しい優雅なスイートホテル。
全十四階。全三百室を完備。宿泊者専用のプールやトレーニングルーム、バーが特設されており、中でもテラスラウンジは、夜景による安らぎの一時を送れる。
某米国俳優が来日時、施設内のレストランを大層気に入り七泊も延長したという、そんな逸話が残るセルリアンタワー東●ホテル。

──殺し合い下の現状に限った話では、野原ひろし・海老名菜々が逃げ込んだホテルとしても名高かった。


「ィィィッッ!!! 【F】uuuuuuuuuuuuuuuuckッッ!!!!──」

「──カスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカス役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁!!!………」


 ウンディーネの耳元(?)にて、恐ろしい呪詛が延々と。
取説欄の【──ウンディーネは熱に弱い】という記述をネジネジ指差すは、恋する16歳♡山井恋。
彼女の瞳は、今まさに病みきっていた。

無論、仕方ない。
彼女がストレスに沸き立つのも当然であろう。

 振り返ること何十分間。
長時間に渡る追いかけ回しは、明らかに弱そうな獲物二匹を狩り逃したという徒労に終わったのだから、山井の精神的屈辱はいざ知れず。
百発零中、十中ファッキュー、コイツのせい。
──ノーコンウンディーネを戦犯と見立て、行き場のない怒りに彼女は苦しみ続けている。

これだけの抹殺力を持つウォーターカッターを武器にしながら、ヘナチョコ親父と胸だけ脂肪の塊女(──おまけに舐め犬野郎)の三匹を取り逃がした、ウンディーネ。
責任の所在として、使い魔に九割近く負担となる件については、訂正の余地もないのだが。

661『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:06:39 ID:cFeuEibI0
それよりも何よりも、


……
………
────ハァハァ……ッ。おい!! ウンディーネ娘!! 一つ聞くぞ〜ッ…!!

──…だーかーらー、そのキモい呼び名やめてって言ったよね〜私〜〜? はい、追加制裁。ウンディーネ、また分裂して〜…、

────グっ!! ふふ、ふふっ…!! い、いやすまんっ…!

──は? はい再度分裂〜。ウンディーネ倍増マシマシで〜…、


────年頃の女の子が……。…その…『ウンディーネ』連呼は……どうなんだよ〜〜?? …な〜。

──…?? 意味分かんないんだけど。…ほら早く!! 分裂しなさいってば、ウン…、



──ディ……………………………。………………。




────よしっ、怯んだぞ!! 今だ喰らえっ!!!!


 ポーンッ

  バンッ


──ぎゃっ!!??


   バタリ……
 
………
……



「カスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカスカス…。あんな奴ッ、あんな奴ッ、嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ嫌な奴ッ!!!!──」


「──『讎《Kill someone with kindness》』ッ!!!!! ヤな奴ッッッッ!!!!!!!!──」



「──あ、これだと私とあのクソ親父で恋愛劇《カントリーロード》始まるみたいになるじゃん。…気持ち悪ッ…。カスカスカスカスカスカスカス……」


──ひろしから、本来なら触れるのも禁止カードにすべき『ウンディーネという名前の響き』を突きつけられた上、
──ディバッグを顔面目掛けてシュートされ、山井自身が転倒してしまったことが。

ひろし逃走成功の最大要因であり、本人にとってもそれが一番の痛手だった──。


「…本気でッ…、カス…………」


 ぶつけようのない腹立たしさと、
痛む膝の擦り傷、鼻先。
そして水の精霊をもう正式名称で呼ぶことのできないもどかしさ。

あの最悪なリーマン共は、今、このホテルの何回の、どの部屋に逃げ込んだというのだろう。
疲れた身体を癒やしながら、「…それにしても機転効きましたね〜ひろしさん」→「ウンディーネは流石にねぇよな〜(笑)」等と雑談に花咲かせてると想像したら、ドス黒い反吐が出そうになる。
渋谷横丁をズタズタにした分の報いというのか、山井のプライドはズッタズタの切り裂かれ放題。


「……もう死ねよっ………。もう……」


ウンディーネの群れが必死に「こっち! 左っ!! ⇐!!」と、『左マーク』に変化し主をホテルへ誘導するのを傍目に、

山井はとうとう諦めて、この場を去って行く。

──もはや面白いくらい程ズッタッズッタ《八つ当たり》にされた、変わり果てた姿の自転車が、寂しく転がった。

662『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:06:54 ID:cFeuEibI0
「…………………古見さん…」


 タップリとお礼参りをしたい復讐心があるのだが、『本来の目的』から考えればそんな怒りなど些細な事。
山井の目的はまず一番に古見さんと会うことであり、古見さんを優勝《皆殺し》させることであり、古見さんと幸せな生還を描く事だ。
ホテルでチマチマ文字通りの虱潰しをしてる暇があったら、目的遂行をしなければ、と。


自分に言い聞かせながら去る山井の足取りは、重く鈍かった。


「……今会いに行くからね…。待っててね、古見さん………………」









「────ね、ねえ!! きみっ!!!」






「………………ぁ?」





663『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:07:05 ID:cFeuEibI0
**短編08『ホワイトアウト・メモリー』
[登場人物]  [[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]

『時刻:AM.04:11/場所:東●ホテル周辺街』
『────『←』巻き戻し/話は6分前へと遡る。』
---------------

664『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:07:49 ID:cFeuEibI0
 軍資金を借りる為には何か高級な私物を担保にしなければならない。
 スマホを動かすには充電をしなければならない。
 生物は、食わなきゃ生きてゆけない。

人間界、異世界、魔界問わず。この世に存在するありとあらゆる物は、エネルギー源無くして動く事は叶わない。
『永久機関』が絶対に誕生しない訳も、その通り。
物を動かすには消費せざるを得ないエネルギーが必須だった。


 ほとんど薄れ消えた記憶の中で、鮮明に憶えている過去が、デデルには一つある。
それは確か二十年ほど前。当時の主による『家を豪邸にして、親父の安月給も十倍にして、あとプレステとドリキャスを出せ』という欲望まみれの申出をされた事だ。
如何にも子供じみたバカな願いではあったが、魔力のその消費量たるやかわいいものではなく。
流石の魔人とて心労著しい労働であったという。

ただ、要望通りその願いは忠実に叶えられた。
そして魔人もまた、姿を保ったまま《透明化する事なく》事を終えている。
何故なら、その時の主が、莫大な願いを実現できる程の魔力を蓄えていたから。
代償に見合った対価を支払えた為、デデルは何の支障もなく、願いの遂行に至れたのである。


──即ち、主が何の魔力もないただの変人娘という現在。
──酷使に重なる酷使で、デデルの身体が徐々に消滅しかかっている《魔力消耗》のも必然であった。



「うっ…うぅ……うわぁあああ〜〜〜〜ん!!!」


「…………」


「ごべんっ…、ごめんなざい〜っ!! わたしが…お願いを無駄遣いするせいで……魔人さんこんな事に………。知らなかったんだよ〜〜〜っ!!!!」

「…そう自分を責めないでください、…と言いたい所なんですがね。…流石に『バリアー↑にミステリーサークル書いて』とおほざきになられた時は………正直…」

「ごめん〜ごめんなさい〜〜〜消えないでよぉお〜〜〜!! うへぇ〜〜〜〜〜んんん!!! …魔人さんが消えちゃったら…わたしクラスで自慢できなくなるよぉ〜〜〜〜!!!!」

「…結局自分のことかいなっ!!!」


 ガラス張りの高層ビル群が頭上を覆い、無数の広告モニターが無音の映像を流し続けている夜。
東京メトロ・副都心線が駆け抜ける宮益坂方面、TSUTAYA前にて、デデル並びにおさげの中学生・マミとその相棒(?)・うまるらは練り歩く。
涙ながらに自責を続けるマミと、西洋風な服装のデデル。一行の姿は、まるで渋谷ハロウィンパーティー後、酔いしどれながら帰路につくようであった。
号泣しながら抱きつくおさげの主には、デデルも大変歩き辛そうであったが、
──彼女よりも気がかりだった存在は──背負うデイバッグ内の『ソイツ』。

“三人は練り歩く”──とは、表現に語弊があった。
三人の内一人。珍妙でまん丸な姿のソイツは、ポ〜〜ンとポテイトを投げては──、


「あんむっ。バリバリ……──」

「──まぁデデルが心配なのは分かるけどさ〜マミちゃん。その魔力(?)ってのがあればどうにかなるんだから、あんま気にしなくていんじゃな〜い? あんむっ、バリバリ……」


──口に入れる。
二頭身のソイツ・うまるはデイバッグから顔を出し、コーラとポテイト袋を両手に実に寛ぐ様子だった。
──無論、そのポテイトはデデルによって生み出された願いの産物。
──そしてまた無論、一行がネカフェを後にしたのも、『お兄ちゃんや海老名ちゃん達を探したいから(建前)(──本音は、無人で夜の渋谷街とかエモイから散歩したい)』という、うまるの頼みから来た物である。


「…………………」


お気楽・能天気・グータラリン。
小動物ほどの重さと比例して中身もスッカラカンな、デイバッグ内のモルモットには、冷静なデデルもやや苛立ちがある様子だった。

665『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:08:04 ID:cFeuEibI0

「バリバリ。あ、これ食べる? 少しでも魔力の足しになれば──…、」

「…なる訳ないだろ、土間の小娘」

「ど、土間………っ。ねえ魔人怒ってるの……? うまるだってさ〜こうなると知ってたら願いポンポン言ってなかったてぇ〜〜!!」

「ぐすっ…うぐ………。そうだよ〜、うまるちゃんが悪いんだ全部〜〜……!! わたしは十個、うまるちゃんは二十個!! どっちが悪いかといったらうまるちゃんじゃん〜〜〜っ!!!」

「うぅ〜…!! はいはいどっちもトントンに悪いよ!! 五十歩百歩だよ!!────…と、魔人は言いたいようで……」

「ほう。頭が働くようだな土間。…それにしても貴様はなんなんだ? 人面ハムスターか? 少なくとも人間ではない様だが。…貴様を喰らわば少しは魔力補給にはなりそうだな、土間」

「…え゙っ?! それマジな感じで言ってるの………?!」

「……くだらん。冗談に決まってるだろ。貴様の肉で腹を壊す私の身にもなってみろ、土間」

「もう〜〜うまるが腐肉前提で言うなァ〜!!!」

「うえ〜〜ん……、ダメだよぉ〜魔人さん〜〜! 宇宙人の可食部は内蔵の汁のみ、って月刊マーに書いてたんだよ〜! 食べたら病気になるって〜!! 土間るちゃんは宇宙人なんだから……」

「だからマスター。こんなチンケな土間、食べる勇気なんて私には到底ありませんよ」

「……うっへへ〜〜え〜〜ん…土間ぁあ〜〜〜〜…」

「おたくらさっきから土間って言いたいだけでしょっ!!! …あんむ、バリバリ……」


ポテチカスがデデルの首元へボロボロと溢れていく。
ただでさえ彼の身体は限界に近いというのに、ストレスが溜まる一方。──マミから「あっストップ!! ストップ!」と静止されなければ、無意識のうちに『指パッチン』を鳴らす寸前であった。

──本当に何なんだ、この生物は。こんな見た目の生物、今まで見たこともない────と。

ふと目を閉じて髪をかき上げるデデル。
古代エジプト時代から生き永らえし百戦錬磨との魔人でも、流石にこの珍妙な土間には頭を悩ました様子だった。


「…………。…くっ」


「あ、そうだ! エイリアン食といえばメン・イン・ブラック3だけどさ〜!! 魔人さん、缶コーヒーのボスの宇宙人ジョーンズって知ってる???」

「うわ何マミちゃん…。急に元気だなぁ〜〜…」

「あのCMはさ〜、宇宙人が地球の調査に来たんだけど、映画見て人間になりすましたからトミー・リー・ジョーンズそっくりって話でね!! …もしかしたら、うまるちゃんもソレなんじゃないかな〜〜ってわたし思うんだよねえ………っ!」

「いや『チラッ→ニヤリ…』じゃないわマミちゃん!! …確かにうまるは普通の人間モードにはなれるけども〜…けどもだ──…、」



────…いや待て。───


───本当に、『今まで』このような生物を見たことはなかったか?───

────……私は…………っ?───





「…うッ…………!!」



「「え……?!」」



うまるとマミで下らぬ問答が繰り広げられた折、デデルへ不意に頭痛が押し寄せて来る。
その頭痛は脳が直接激しく揺れ動いたかのような。兎に角、脳内から響き渡る鈍い痛みであった。


「…うぅ、くっ…………!!」


「え?! ちょ、ちょっと魔人さん!!」

「だ、大丈夫!??」


「ぐうッ……………………!!!」


頭を抱えて膝を地面に着く、デデルの唐突な体調不良にマミらは心配の声をあげる。
電撃が走ったかのような頭の痛み。そして滲む脂汗。
二人があたふた心配する傍ら、彼女らを無視してデデルはひたすらに、『記憶の回路』に藻掻き続ける。

デデルは分かっていた。

────頭痛の正体は、『既視感《デジャヴ》』。

666『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:08:17 ID:cFeuEibI0
 魔人。
彼には記憶が無い。
記憶喪失という現象は、外傷的、または精神的激しいショックから引き起こされる病であるが、彼が記憶を失った起因についてはいざ知らず。
自分がランプの魔人であることという実績、経歴までは残っているものの、ある『一部分』だけが抜けている。

その一部分とはつい直近。──と言うよりも、ここ『一年近く』の記憶がゴッソリと無くなっていたのだ。
誰かに呼び出された所までは記憶に残っている。
モクモクと煙が立ち込める中、“さて、今度のマスターはどんな強欲者か………”と諦めた顔つきで、
『我が魂を呼び起こし者よ──』『魔神の掟に乗っ取り願いを叶えてしんぜよう──』『さぁマスター望みを…──』とお決まりの言葉を口にする。
そこまでは憶えているのだが、────以降。『誰』に呼び出され、その後一年も『何を』していたのかは全くの靄がかかっていた。


巡る記憶に、鎖が掛けられた脳を呼び覚ます『土間るちゃん』という名の鍵。



「(……………思い出せない。何もかも……………)」


「(だが、確かに『いた』。……………私にはうまるという生物の様な奴を、見た記憶があった………………)」



「(何故だが、『忘れてはいけない筈の』………。得体の知れぬ者が、頭の片隅で揺れ続けている…………ッ)」



モノクロで断片的、乱れの多いものであったが、それでも『記憶の映像』が、サイレントながら流れていく。




ソイツは、【二頭身】で────



“じゃあ〜〜……。一生分のお菓子とかは…‥……?”





ソイツは、【減らず口】ばかりで────



“やりたくない仕事はやらなくてもいい。あたしが伝えたいのはそれだけすかね……ふふっ♪”





ソイツは、なんの役にも立たず【駄目】なやつで────



“す、さ、さーせんしゃしたぁあ!!! あ、あたしうっかり壊しちゃって…ぇっ…………”






──それでも、ソイツは大切な存在だった気がして──────────。

667『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:08:30 ID:cFeuEibI0
………
……

『…まったく。貴方一人で何ができるというのですか』

“…え……えっ………?!”

『ここは私にお任せ下さい。──』


『──行きますよ。…マス─────……、』

……
………



「(…ター────────………………)」




「…人さん……!! 魔人さんしっかり〜!!!」

「え、ええ、え、と、とりあえず水!! 水飲むっ?!」


「……………」



 巡る。巡る、存在しない筈『だった』記憶。
頭を抑えてから三分ほど経過。
この時には既に、けたたましかった頭痛は緩やかな波打ちに収まっている。

また同時に、脳を駆け巡ったあの無声映像《記憶》の続きはもう霧中状態。
二頭身の『彼女』の姿は、完全に消え失せていた。

結局、デデルは失っていた記憶を取り戻すことは出来なかった。
いくらテープで補修しようと努力しても、これ以上頭は稼働しそうにない。
彗星の如く過ぎ去っていった、『走馬灯』に似た何かはもう見つからず。
通り過ぎた記憶の痕を舐めるしか今はまだ出来そうにない。

彼は重たそうに目をゆっくり開き、そして乱れた呼吸をフゥ…と整え出す。


「…………………。…申し訳ありません、マスター」

「え?! だ、大丈夫……?」

「ええ。……それに土間の小娘も、申し訳ない。…心配は無用だ」

「…え、うん……。…ダイジョブならいんだけどさ………」


やや涙ぐむマミの肩へ、優しく手をおいたデデルは、ゆっくりと前を向く。
やがて、また彼はゆっくり立ち上がると膝の汚れを祓い、汗を拭いて乱れた髪を整える。

ふと、懐からひび割れた自身のランプを取り出すと、何を思うか、じっとただ見つめた。
ただ、じっと。

失いかけていた記憶の名残惜しさに、魔人も思う節があるのだろう。
頭に引っ掛かる取りづらい何かに、きっと心中もやもやで一杯だった筈だ。


だが、記憶と同時に自身の身体も薄れゆく現在。


「……さて。マスター、そして土間」

「え、何…??」 「…苗字で呼ぶなしぃ〜〜………」

「自意識過剰な事を申すようでしたらお恥ずかしいですが、…貴方がたは私が必要不可欠な存在。…そういうわけですよね?」

「…そ、そりゃそうだけども……」

668『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:08:44 ID:cFeuEibI0
「いやそうだよ!! 今殺し合い中だよ〜っ?!! 魔人いなくなったらうまる達ゲームオーバーだよ!!──」


「──………それで、何が言いたいの?」

「左様ですか。そうとなれば少し名案が思い付きましてね。『魔力』もまた、私にとって必要不可欠な物。そこでですよ。──」



魔人・デデルは、過去ではなく『今』。
取り敢えずは、『今ある目の前』を見据える事とした。




「──マスター、少しばかり私の我儘に付き合ってもらいたいです」




「え???」



デデルの十数メートルほど前にて浮かぶ、『魔力の源』八体。
──トボトボと後ろ姿を見せる少女・山井恋を指し、デデルはマスターの肩へ手を置く。







669『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:09:04 ID:cFeuEibI0
 追憶。


私が飲んだ、水の精霊は────────、



シチューでした──────。



**短編09『スマイル・アンド・ティアーズ!』
[登場人物] [[マルシル・ドナトー]]/ [[新庄マミ]]、[[山井恋]]、[[魔人デデル]]、[[うまるちゃん]]

『時刻:AM.04:17/場所:東●ホテル周辺街』
『────通常再生』
---------------

670『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:09:25 ID:cFeuEibI0
「はっ、はっ、はっ、」

「もうコラーってばぁ〜! あはは〜!!」


 1405号室。スイートルーム。
犬が大好きな魔術師・マルシルは突然の訪問者であるマロに随分とお戯れな様子であった。
マロのほっぺをモ〜チモチと引っ張ったり、大型犬なその身体を胸一杯に抱き締めたり。
事態が事態である事を気にしていないのか──と聞かれたら、恐らくマルシルは緊迫な現状下を忘れているのだろう。
同行のチルチャック曰く、『賢ぶってるけどヌけてるヤツ』との彼女らしい、実に平和なひと時を送っていた。



【モンスターよもや話】
…………………
 そんなマルシルさんであるが、かつてウンディーネに襲われ、体力と共に『魔力』を失った際、機転の効いた回復方法を行使した事がある。
それは他でもない。──ウンディーネを飲む事だ。
仇をもって薬となす。
精霊は魔力を捕食して生きる生物の為、魔力が豊富に含まれていることは間違いない、と。

ナマリら他パーティ同行者に苦言を呈される程の策であったが、もう色々な意味で後が無かったマルシルらは『水先案内人捕食作戦』を決行。
鍋に閉じ込め、煮沸(ウンディーネは熱に弱い)。
ジャガイモ等と共に煮て、味を整えた『ウンディーネシチュー』の御賞味結果ときたら、
──それはそれは暖かな優しい味であり、────そしてマルシルの魔力も僅かながら回復に至った。

魔物食とは、現代社会で日常生活を送る一般人からしたら、昆虫食やゲテモノ食いに値するのだろうか。
兎に角、マルシル一行の食生活は常識はずれなものであり、ナマリ等がやや引くのも無理はなかったが、結果的には。
──結果的にはサバイバル精神が活きた物と言えるだろう。
…………………
…………
……



「はっ、はっ」

「かわいいんだから〜…っ!! もう!」


とどのつまりは、再演、か。
彼女が泊まるホテルにて、迷宮探窟家狩りの精霊が水飛沫を撒き散らしていることなど。
今は、まだマルシルは知る由もない様子である。




 ドンッ


「……きゃっ………──ぁ…っ?!! 何ここ…?」

「…え!? うわっビックリした?!!!」


そんな彼女の背後にて、額を真っ赤に染めた女子生徒が何処からともなく降り落ちて来た────。



………
……


671『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:09:37 ID:cFeuEibI0



 笑顔にも種類がある。


「…ふ〜〜ん。つまりその水の精霊さえ手に入ればどうにかなるんだね?」

「その通りだ土間。…とは言っても水先案内人《ウンディーネ》の魔力は微々たるものであるが。……まぁ二、三体ほど確保できればランプを満たすことができるだろう」

「……二、三体…ねぇ…………。…ところでさぁ魔人〜…」

「なんだ」


 魔人デデルと暇人うまるに陰から見守られる【マスター】新庄マミ。
彼女の表情はパッパラパーな程にスマイル。不安や恐怖といった不純物が一切ない、心からの笑みであった。
そんなマミと対面するは、負けじと笑顔の山井恋。
──光と闇の対極という訳か。山井の一目で分かる作り笑いは、笑顔では隠しきれないドス黒い邪悪さが漂っており、


「……マミちゃんかなりピンチじゃないっ…?! …なんで一人で行かせたのっ!!??」


「……」


────マミの周囲一帯では八体のウンディーネが、今にも吹き出しそうな位にウォーターカッターを構えている。


「主の見せ場を作るのもまた使い魔の役目」

「ハァっ!!?」


「言わばマスターの力量の見せ所だな。これは」



ギギチチ……っ。
放たれる直前の弓矢のように、発射寸前を維持するウンディーネ達。邪悪の笑顔な山井。
取り囲まれたマミに、絶体絶命のマミ。
そして、この状況を全く理解していないのか、「あはは〜」と笑顔が咲き乱れるマミ。──junior high school girl。

 魔力をそこそこに蓄えているウンディーネ狙いで、我が主・マミへ「あの水の精霊所持者と交渉してくれ」と頼み込んだのは数分前のこと。
何故、デデルは自分から表立って交渉しにいかないのか──。
そして何故、よりにもよって『こんな子』に無茶な交渉代理人の白羽を立てたのか──。

魔人はその意図を語る。


「…何故……か。私がわざわざ出る幕でもない、それだけだ。それに、半透明かつ、貴様らの観点からしたら異様な服装と言える私よりも、ごく平凡なマスターの方が相手も警戒しないだろう」

「……い、いやそりゃそうだけどもさぁ〜っ!!」

「そしてなによりも、マスターは…『歩』だ。土間の小娘」

「え? 『ふ』って……???」

「どんな優秀な棋士も、第一手は必ず歩。歩で相手の実力を見るものだろう。…となると、うってつけはマスターと言える。……奴には願いを酷使した贖罪もあるからな…」

「あ、あーー…。歩って歩兵のことね〜。将棋の………。──」


「──マミちゃんの扱い…歩兵レベル……………」

「…ふふっ。……あ、失礼。私とした事がつい……」


 僅かながらだが、魔人からも笑みが漏れた瞬間だった。

 嘲笑、満面の笑み、暗黒笑み、──笑顔の絶えないウンディーネの群れ。
四者四様、四方八方から笑顔が咲き乱れるホテル前にて、マミの頭は花畑。
返答によっては、花大盛りな頭のマミも血薔薇化することは言うまでもなくだが、果たしてこの危機的状況、彼女はどう収めれるだろうか。
何十本にもなる視線が痛いくらいに突き刺される中、マミはへらへら口を開く。

672『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:09:49 ID:cFeuEibI0
 ギギギギッ……


「………えーと。それで〜山井ちゃん…だよね?」

「そだよー? マミちゃーん。…ついさっき名乗ったばっかなのに確認いちいち必要かなぁー?」

「わたしさ!! …実はオカルトとかUFOに関しては人並み以上に深堀りしててさ……! …自分で言うのもアレだけども…、結構やばい領域に足踏み込んじゃったりしてるんだよね……!! フフフ…!」

「なーに? それは」

「だからさ、ほら見てよ!! このUFOの破片!!」


 ゴソゴソ…


「………で、なーに?」

「これは月刊マーの付録にあった奴なんだけど…すごいんだよ!! あのロズウェル事件で極秘流出したもので、なんと重さがないんだって! 0gらしいんだよ!! この世の物じゃないからさ!!」

「………ごめんねー、マミちゃん──」


「──言いたいことそれじゃないよねー? 絶対」

「え?」

「もっとな〜んかさー、私に要件あるから話しかけてきたんでしょ? そこからまず話そうよ〜〜。──」

「────ねぇっ、…マミちゃあぁ〜ん?」

「あ、うん。ゴメン…」


対面相手が自分より年下で、かつおつむの弱そうな女子である為か、お姉さん的態度で優し〜く宥める山井。
勿論、彼女に優しさなんかこれっぽっちも無い。
マミへの思いやりの精神があろうものなら、出会い頭、即「はい水の精霊、構えて」と敵対心を見せつけないものである。
とはいえ、そんなギチギチ…と鳴り響く水の槍達も、後に偏差値30台の帝辺高校に通うマミには知らぬ存ぜぬか。
頭上のウンディーネ達を見渡した後、マミは例のUFOの破片だかを差し出した。


「それで〜〜山井ちゃんにお願いなんだけど〜…。…これあげるっ!!」

「…だからどーゆーことなのかな?」

「だから交換ってことで!! このウンディーネさんを…一つか二つ…私にくれないかな?」

「…………ん〜? なーにそれ?」

「本当はこのUFOの破片……わたしの宝物で……。将来的にはなんでも鑑定団に出したいってくらい…大切なものなんだけどさ…」


──“結局手放すんかいっ!!”
と、うまると山井で心中ツッコミがハモる。


「今はもうそれどころじゃないんだ…。ウンディーネさんが何よりも必要で、欲しい人がいるから……。…その人の為にっ……。お願い山井ちゃんっ!! トレードってことでお願いだよ〜っ!!」

「……」

「ねえ、どうにかならない………?」


「やばー。やば谷園」


 消えかけのデデルへの思い、そして自分が彼の命綱となってる責任感からか。
マミの目からも水先案内人《涙》が一粒零れ落ちる。──その涙には恐怖も緊張感も含まれていない。どうやら未だ自分が殺される寸前だということを理解していないようだった。
ただ、形はどうあれ年下の少女の涙は、相手の感情を揺さぶる効果がある。
涙を堪えながらもフルフル震えるマミへ、山井はどう心が揺れ動いたか。
彼女は笑みを維持したままそのアンサーを突きつけた。

673『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:10:04 ID:cFeuEibI0
「嫌」

「えっ!? えぇ………」


──無論、邪悪が張り付いたかのようなその笑みで、である。


「ごめんねーマミちゃーん。マミちゃんの想いは伝わるけどさぁーー、私UFO興味ないしいらないって感じかなー? …いらないものを押し付けられたらさ、どんな気持ちになるか、考えれるかな?」

「で、でもっ!! わ、わたし本当にウンディーネさんが──…、」

「うん、分かるよ。でもいらないしあげたくない。…ほら、あんまり無理しないでよマミちゃーん」

「え…?」

「マミちゃんってさー、アレでしょ? 本当は誰かに言わされてるんだよねー? 誰だかワルイ大人にさー、『それ言ってこい』って操り人形させられてるだけなんでしょ? あはは〜」

「……ぎ、ぎくっ…。そ、そんなことは──…、」

「うわ、『ギクッ』って口に出す人初めて見たし…。もうーマミちゃんったらバレバレなんだから〜〜。ね? だからマミちゃんがいくら頑張ろうと私は譲らない。…バックの人じゃないと話にならないからねーー」

「…や、山井ちゃん〜〜。お願いだからぁ〜──…、」


「ねぇ────? バックの誰かさーーん。どうせ近くにいるんでしょー?」




「………バレてるし魔人」 「………………………やれやれだな」



 『歩で相手の実力を図った、その結果』。
──敵意剥き出しのウンディーネは、思ったより只者ではなかったこと。
────そして、我がマスターが予想以上に使えない事が判明となった。

デデルは軽く頭を抱えた。
そしてうまるも蛇に睨まれたかのような、ズッシリと重たい物を抱えさせられた。


「…さて。マスターがお困りとあらば……仕方ない。行くぞ、土間の娘」

「…うへ…マジ〜…?」


歩兵が使い物にならなかった今、ならば大将直々にお出ましと。
ビル陰でモニタリングしていたデデルはMPを消費し、しょんぼり気味のマミの隣へテレポート。


 ────パッ


「うわっ!!! ………………は?」 「あ!! 魔人さん〜…!!」

「申し訳ありません。…山井さん…でしたよね? うちのマスターは会話が下手なもので、接していてさぞ大変であったでしょう」

「………え。何…それ」 「……か、会話下手じゃないよっ!!!」



「ここからは出来の悪い傀儡人形のパペッティア────私、デデルが代わりますので、どうか説明を聞いていただきたいです」

「……ふーーん。とりまさ〜アンタがマミちゃんの保護者ってわけねー。──」


「──てゆうか、何か…透けてない? アンタ………。幽霊…?」

「ええ。気になりますか? …私のこの姿。……こちらも時間が無いのでね、矢継ぎ早説明に入りますよ」

「あっそう」

674『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:10:17 ID:cFeuEibI0
異様な姿の来訪者を前に、流石に山井も『喜怒哀楽』の『楽』に表情が戻る。

魔力消費故に余計透過度が増したデデル。
彼による、交渉part2が始まりを見せた。

落ち着いた素振りで魔人が対話する中、舞台から降ろされたマミは何だか不満げな様子で。
デイバッグのうまるへひっそり語りかける。
「(……なんかわたしの扱い皆ひどくないっ?!)」──と、ヒソヒソ。
──対してうまるの、「(…どんまい!)」と何のフォローにもなっていないヒソヒソ返しには、マミも地団駄を踏み鳴らしたが、ポンコツ少女にはこれ以降一切構わず。
ウンディーネの鋭先に怯えまくる中、うまるは戦況を黙って見守っていた。


「このランプ、分かりますか?」

「……え? いや知らないし。それをなんでも鑑定団に依頼するわけー?」

「いえ精神鑑定に出す予定はマスターと土間の娘だけです。それはともかく、」

「…って、おいっ!!」 「ひどくないもうっ?!」


「このランプは私ら魔人にとっては言わば心臓。…魔力を貯める必需品であり、掛け替えのない品物なのです。……ええ分かりますよ。『自称魔人とかコイツあたおか?』と御思いでしょう。ただ、半透明なこの私やウンディーネという非科学的な存在を前にした貴方なら、どうか鵜呑みにして聞いて頂きたいです」

「………………あーうん。思春のヤツのお陰でこーゆー《厨二臭い》の慣れてるからそこんとこオーケー」


「…私が消えかかっている理由もこのランプが全て。圧倒的魔力不足が原因なのです」

「………」

「普通の主ならば魔力で満たせるこのランプ内も……。見て下さい、このスッカラカンぶりを。…主の友達である『超能力者』の魔力を遠隔で利用してみたのですが…もはやこの有り様。…今の私には足りないのです、魔力が……」

「……………」

「……そこで、貴方の力を借りたい…という発想に至ったのです。山井さん」


「……代用になるってことなの? 私の可愛いウン…水の精霊達がさー、ランプの魔力に」

「…代用どころか半端なく助かりますね。勿論、全部とは言いません。一、二体でもう十分。……マスターは先程『わたしが話せば分かるよ〜!』と私に言ったのですがね、どうでしょう。──」


 ギギギギッ…
 
  ギギギギッ……


「──話せば、分かりましたか? 山井さん」

「…………」



 冷たい水が恋しい灼熱夏の夜。
とは言っても殺意剥き出しに先端を向ける水先案内人達には、心底ヒヤヒヤするうまるであったが、緊張を感じるのは彼女のみではない。
綺羅びやかなホテル玄関前、いや東●ホテルがシンボルマークの周囲。この周囲一帯が、確かに緊張感で包まれていた。
ツララのようにいつ落ちてくるか分からないウンディーネの刃。
生と死の狭間が生じた街角。
緊張感がボルテージに昇り詰める中、未だほげぇ〜としているのはマスター・新庄のみ。
そんな現状となっている。


「……ご、ごくりっ」 「…」


「…………」

「貴方にデメリットがあるという話ではないと思いますが…、如何に? 山井さん」

「……」

675『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:10:29 ID:cFeuEibI0
デデルの発言も理には適っている。
言わば砂漠に水をやるのと同じで、魔人と自称する阿呆共にウンディーネを渡しても特に不都合は無し。
それどころか、彼らのスタンスは基本【対主催】である為、ウンディーネを用いて山井に危害が加わる心配も無い。
たった一、二体。それっぽっちをくれてやるだけで満足なのだから、断る理由は存在しなかった。

少しの沈黙の間。──山井が思考整理の末、考えを導き出した時──。
彼女はやれやれと仕方なさそうに、ニコリと微笑んだ。


「ふーーん。…まぁ確かにね。よく話はわかんなかったけどもー、アンタも色々大変なんでしょ? そうならー、…ま、仕方ないか」

「………ほう」



 山井が選んだ決断。
それは『承諾』であった。

近くにいたウンディーネ二体を、ホイホイ〜と指で引き寄せ、山井は口角を上げる。


「はい、水の精霊。困ったことがあったらお互い様だからねー。遠慮なく使っていいよ〜」

「…………」


 警戒心を解き、デデルの元へとゆったり近づいていくウンディーネ二体。
思いの外あっさりと引き渡された魔力の元であるが、この味っ気のないあっさりさに魔人はどう感じたか。
「…なんか、結果オーライ?」→「だね!! さすがわたしの魔人だよ〜!!」と平凡女子二人は胸を撫で下ろす中、

山井はぶりっ子というくらいに満面の笑みを見せた。


「…さて、マスターに土間の娘。……やれやれですね」

「ほーんと……。一時はどうなるかと思ったよ〜〜〜」 「まぁよかったじゃんこれで〜」

「……」


「え。何それカワイ〜!! ねえ魔人…だっけ? アンタの抱えてるその子、…何これハムスター? チョーかわいんだけどーー!!」

「えっ。うまるのこと〜…??」

「…………」

「えーー、ちょっと魔人〜無視ぃ〜? 何それうけるー。…ともかく、その子…うまるちゃん?? あんまりにキュートだからさ、私もサービスしよっかな〜…みたいな?」

「え?」 「へ??」



主《山井恋》の言葉に、その意図を汲み取ってかウンディーネ八体全てが動きを取る。


「二体とは言わず全部あげちゃう! 出血大サービスだからね〜??」

「…え??」

676『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:10:42 ID:cFeuEibI0
山井の笑み。

可愛らしく純朴なその微笑みは、




「……………さて、行きますよ、土間とマスター。あぁ、あと山井さん………いや、もう敬語すらも煩わしい……。」




常に、



「────今度こそ確実に殺ってよ、水の精霊。──」




────真っ黒で邪悪なスマイルである。




「おい山井。このお礼は後でタップリ支払わさせて頂く。…人間の…たかが小娘がっ…………」




 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────

────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ 
────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ 
────────────ッッッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ



「ぎゃっ?!!」 「わっ!!!?」


 分裂。
そして螺旋のように迫りくるウォーターカッターの十六奏。
躱しようのない、切断の雨あられ。

普段のデデルならばたかが魔物の攻撃如き、赤子の手を捻るよりも簡単に対処できるものだが、生憎、魔力の枯渇ぶりが激しい今。
テレポートもバリアーも無駄遣いできなくなった今現在、マミを無理やり抱えた彼は手も足も出せない…──否。手足をフル活用するしかない。


「ほーら!! もっと速く走れ、走れって☆ フォレスト・ガンプーー!!」

「ぐぅっ…」

「な、なななにこれえええええ!!!!!」 「びええええええええぇえええ!!!!!!!」


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────



光の彼方──ホテル内へ逃げ込むデデル一行。
彼らを見送る山井には、今度こそ正真正銘の微笑みが表れていた。



「あははっ☆」

677『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:11:08 ID:cFeuEibI0
**短編10『奇跡の味は』
[登場人物]  [[飯沼]]、[[野原ひろし]]、[[海老名奈々]]、

『時刻:AM.04:42/場所:東●ホテル3F』
『────『→』早送り/話は25分後へと進む。』
---------------

678『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:11:22 ID:cFeuEibI0

“奇跡は起こらないようで、よく起こる。”


 1962年の創立以来、ずっとお荷物球団と言われていたメジャーリーグのニューヨーク・メッツが、ボルチモア・オリオールズを破って、初のワールドシリーズ制覇したあの年。

勝敗が決まる最後の試合にて、投げていたのはエースのトム・シーバー。
──実は彼、本当はアメフト選手で活躍する未来もあったが、五歳の時の誕生日に、父が間違えて購入したグローブをプレゼントされ、野球の道を選んだという経緯がある。

そのシーバーが最後の打者に投じた内角低めのストレート、百二十球目のボール。
──あのボールは製造会社のミスにより、一球だけ紛れた反発数の低い物だった。
打った相手打者はこれをジャストミート。ただ、濡れたスポンジ同然のボール故に、打球はみるみる失速。

左翼手であるクリオン・ジョーンズのグローブの中へと収められることとなる。
──このジョーンズも、妊娠前母親がワインを口にしなければ女の子に産まれ、名前はクララだった。

(引用元:メン・イン・ブラック3)


 まるで、『風吹いて桶屋が儲かる』という言葉そのものだが、こういう奇跡の連続は、実際に世の中でもたくさん起きているのだろう。
私たちがそのすべての過程を知らないだけで。確実に。
普段生活している上では忘れがちだが、今この瞬間は多数の奇跡の上で成り立っているのだ。


例によっては、ホテル三階にて。



 ピロンっ
(♪ライン〜!)


「……あ、…………なっちゃん…」


無人の購買にて、カップ麺をかごに入れるサラリーマン──飯沼の話。
自身の空腹を満たす為、そして成り行きで連れとなったマルシルにご馳走するため、七階からわざわざ降りてきた彼は、物色を続ける。
何となく目についた、魚肉ソーセージを取り出した時、不意に鳴るはLINEの通知。
妹・夏花からの心配の言葉であった。


「…………」


夏花──『どこ??』 既読

夏花──『いないよ!! 家に!!』 既読

夏花──『(心配〜😢のスタンプ)』 既読


「……なっちゃん………」


一人暮らしである自分の家に、たまに遊びに来て。
そして美味しい手料理を、光悦の表情で共にする──飯沼の大切な妹。
友達よりも食。ほとんど人に興味がないと言っていい飯沼が、マルシルという謎の初対面女へドライにほっておかないのも、この妹が理由か。
血の繋がる夏花を見ているようで、なんだか無視してられない──といった具合で、彼はマルシルを気に掛け続けていた。


「………………うわぁ、……ごめんね。なっちゃん…」


妹のラインが胸に刺さってどうしようもない。
飯沼の、そんな様子が見受けられた瞬間だった。

──ただ、一方で、飯沼は「…それにしても何故なっちゃんは、こんな時間帯に僕の家へ……?」と心の奥底、不審に思う点もある。

679『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:11:38 ID:cFeuEibI0
──これは、夏花がサークルの帰り道。大学に忘れ物をした事に気付き、山手線をゴチャゴチャ往復した結果、終電を逃したという経緯の元である。

──そして、その忘れ物に気づいた経緯も、乗客であるアフロのサラリーマンが「パチンコまた負けた…。『雑誌』読んだのに…」と呟いたのが起因となっている。

──また更に巡ること二時間前。本来なら高設定だった台は、たまたま隣にいたじいやという老人の台パンによりバグらされてしまっていた。
──この八つ当たりさえなければ、台を選んだアフロは大勝ちし、ウキウキ気分の元、タクシーで家に帰っていた筈だった。

──普段は温厚な性格のじいやが、この日この時間に限ってたまたま怒りを露わにしたのも、業田萌美という家庭教師に詰られた事が理由となっている。

──ただ、萌美が厳しく当たるのも無理はない。
──なにせ、自らが専属し指南する令嬢・大野晶が行方知らずとなったのだから、気が気でいられなかったのだ。



「………『大丈夫だよ、安心して』……と──」


「──…あぁ。ごめん、ごめん………。なっちゃん…」


もしかしたら、これが最期の返信になるかもしれないという、悲しみ。悲哀。
飯沼はこの時、確かに指が震えていた。



──震えていたのは何も飯沼のみではない。
──場所、時刻は違えど、昨日の午後一時、カツ丼屋にて。
──大盛りを頼んだ川口の奴というサラリーマンは、その量に心底震えざるを得なかった。
──店の名は、『かつ澤』。
──サイズは、『キッズ用』→『レディース』→『普通盛り』→『大盛り』との四段階だが、レディースサイズが他店でいう大盛りサイズに値する。
──故に、そこから二段階量が増えた『大盛り』たるや、もはや山の如し重圧と高さであったといい。

──ただ、その悪魔的量にもバックボーンがあり。
──数年前、街を歩いていたかつ澤店長はたまたま。
──「カツ〜♪ カツといったらビッグカツ〜♫」と歌う、紫髪の少女とすれ違った。
──この時の何気ない歌声が、この理不尽なドカ盛りの発案につながったという。

──紫髪の少女は、後にしだれカンパニー社長の娘と知る。
──駄菓子店からの帰り道にて、お好み焼き屋の親父から「気に入った!! 今日はとことん付き合ってやるよ!」と突然絡まれた。
──虚を突かれた思いの少女であるが、その親父から響く謎の「じゅわっ…」という音が何だか嫌で、嫌で。
──見て見ぬふりをしつつ、来た道を戻り返す。

──そのお好み焼きの親父から発せられた「じゅわ…」音は、厳密には裏の家からの音。
──汚れた室内にて、鰐戸三蔵が豚塚に根性焼きをした音が、たまたま漏れ出たのだ。



 ポチッ

『送信エラー。時間を置いてから再度送信してください』


「…あれ…………? おかしいな…」


妹へのラインを送信し、購買から出ようとした飯沼。
彼を立ち止まらせた要因は、LINEアプリへの違和感。
すなわち、普通ならまず目にしない謎のエラーメッセージが表示されたのである。


──このエラーが発生した原因は、案外単純。
──新田ヒナの超能力が暴走し、ラインのサーバーが攻撃されたから、が理由となる。

──ヒナがまるで漏れ出たかのように超能力を発動した理由も単純。
──歩きスマホをして前を見ずにいたところ、フラフラと食い倒れ寸前の川口にぶつかり、「つい…」という具合だ。

──そして、この川口。
──過剰な暴食が原因となって、ケアレスミスを犯してしまい。
──ストレス発散として、つい公共の場で雄叫んでしまった。


──小太りのサラリーマンが発狂するという異様な光景を目の当たりにして、夏花は講義室に置いた『雑誌』の存在を忘れてしまった。

680『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:11:52 ID:cFeuEibI0
────そう、『忘れ物』はこうして出来上がる事となる。





「まぁ、いいか………。マルシルさんも待っているし……そろそろ行くかな…………」



あの時、夏花が忘れ物をしなければ。
アフロのリーマンがパチンコで負けなければ。
大野晶が『参加者』に選ばれていなければ。
川口が叫ばなければ。
かつ澤の店長が大盛りを異常なボリュームにしなければ。
しだれコーポレーションの令嬢が帰り道を引き返してなければ。
お好み焼きの親父から「じゅわっ…」と音が出なければ。
豚塚が鰐戸三蔵から逃げ押せていれば。
ヒナが前を見て歩いていれば。


どれか一つでも無ければ。


飯沼は無駄な時間を過ごす事なく、スムーズにマルシルの部屋へと戻って行き。
何の災いも危険も負うことなく、とりあえずは平穏でバトル・ロワイヤルを過ごせたことだろう。


ましてや、エレベーターに向かった際、



「……ん?──」




 シュッ────




「──え?」



階段から現れたウンディーネに鉢合わせることなどなく、




 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────────────


「え────…、」




──妹への無念を最期の意識に。
──鋭利なレーザー光線で肉体を切り刻まれるなど。


──無かった筈なのに。




 プツンッ…──

681『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:12:04 ID:cFeuEibI0
 “奇跡は積み重ねでできている。”
(メン・イン・ブラック3──グリフィン)







本来ならここでページが終了するはずだった、飯沼の物語は、




「はっ、はっ、はっ!!」


 ドンッ


「う、うわ!!」





奇跡の犬。マロ。
『マロ』が突進したという、一つの奇跡のお陰で、まだまだ連載が期待できそうものとなる。

この駄犬が飯沼に目がいった理由。



──彼の腰ポケットには、犬の好物である魚肉ソーセージがあったのだ。




 タ、タ、タ、タ


「あっ!! だ、大丈夫かぁ〜?! 君!!」

「え……!?」

「ひ、ひろしさん!! この人…は………!?」

「わ、分かんねぇ!! 知る訳ないし、…そりゃ失礼ながらゲームに乗った参加者な可能性も…あるかもさ……──」


「──だが、敵の敵は味方…!! …つったらこの人に失礼だけどよ〜〜……。ウンディーネが攻撃対象にしてる以上、この人も大切な仲間だぜ!! さぁ、早く逃げるぞ!!!」

「え、は、はい……………!!」





奇跡の【味】は────。
三人はこうした経緯の元、出会う事となった。

682『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:12:29 ID:cFeuEibI0
**短編11『雨ニモマケズ』
[登場人物]  [[山井恋]]、[[魔人デデル]]、[[新庄マミ]]、[[うまるちゃん]]

『時刻:AM.04:36/場所:東●ホテル3F』
『────『←』逆再生/話は6分前へと遡る。』
---------------

683『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:12:43 ID:cFeuEibI0
 ガガガガガ………────ッ


「レイミーブルー、もう〜〜〜♫」



 スイートホテル一階・ロビーにて、噴水の縁に座った女子生徒は──雨に唄う。
満面の笑みで身体をユラユラ…リズムに揺らせる彼女は、このあまりにも酷いホテルの内部を全く気にしていないのか。
グーグルレビュー曰く星四つ。多くの人々から高い評価を受けていた豪華宿舎、その内装は、あんまりなまでに崩れ散らかっていた。

まるでペインティングで切り裂かれた失敗作の絵画のような、辺り一面斜線まみれのズタズタなロビー。
十五階建てである筈なのに、何故か天井から至る所降り注ぐ雨漏り。
床は水浸しのウォーターワールドであった。
そして、何よりも問題のある箇所は、上階から鳴り止まない騒音の嵐。
──現在進行系で増築中なのか、先程から『ガガガ────ッ』とけたたましい地鳴りが響いて安息も糞も無い。
他にも多々問題点は抱えているが一先ずはこれにて割愛。

まだ未完成状態だというのに、何故意気揚々と『OPEN!』の看板が立てかけられているのか不思議で堪らない。
客を全力で追い返すスタイルの、訳の分からないホテルであったが、ならば「そっちがそういう態度ならこちらも」との考えか。
ふとこの場に足を踏み入れた女子──山井恋は、開き直ったかのように讃美歌を歌い続けた。

傘を差しながら、水溜りを無邪気にビシャビシャさせ、山井は歌う。

小天使のような愛しい鼻唄は、まだまだ降り注ぐ雨粒に向かってのメロディ。


「変わっ〜た〜〜、はずなのに〜〜♪──」


雨に唄えば────。
──彼女は水の精霊へ言葉を続ける────。




 シュ────ッ……

「あ、ちょっと〜ストップ!! ──…おいアンタだよ。止まれって」


 ……ピタッ

「うん、追加命令ね。今思いついたんだけどさ〜、ついでだしあの魔人(笑)以外にも何か参加者見かけたら即片付けヨロシクね! 手当たり次第殺っちゃっていいからさ。分かったー??」


 ……………………


「………とりあえず分かったんなら反応くらいしよっか。ねぇ〜??」


 ……………………


「…はぁ。無反応、だっる……。…ま、いいや。あとこれ一番大事な事だからさ。ちゃんと頭に入れておいてよ? ね?」

 ………………

「誰でも彼でも好きなだけ攻撃していいとは言ったけどさ〜──」


「──私とっ!!!──」

「──古見さんっていう物凄く可愛くてロングヘアーの女子とっ!!!──」

「──…………あと、首輪にマロって書いてるゴミ犬。──」


「──この三つだけは絶対に攻撃しないでね? 絶対だよ? 分かった?? 他の連中にもちゃんと伝達してよね!」

 ………………

684『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:12:57 ID:cFeuEibI0
「────アンタらクソッカス水如きの命握ってんのが誰なのか──。よ〜く肝に銘じて、約束守ってね♪ それじゃ、よろしくー!!」


 ……

 シュ────ッ……



「………ったく。…レイミーブルーなぜ追い詰めるの〜〜♪」



山井が喋り終えた後『水の塊』はズタボロの階段奥へと高速移動。
その姿が完全に視界から消えた折、上階の工事音のような喧しさはより一層激しい物と化す。

ガガガガガ─────ッ
 バキバキバキ、ガガガ────ッ
  ガシャン────ッ

全ては、主人に尽くす為。
山井の心とろける歌声に、雨もまた答える──。



「あなたの幻〜〜ふんふん〜♪…………あーもう歌詞分かんないからいいやっ!」




────────【言うまでも無く、ホテルをここまで斬撃し尽くしたのは『雨《ウンディーネ》』。ならびに『山井恋』による犯行である】────。





 山井の小さな肩へ、ポツポツと零れ落ちる『ウンディーネの一部』。

彼女にチャプチャプ…と靴で踏み躙られても一切の文句を言わない水たまり──即ち、『ウンディーネの一部』。

鼓膜が痺れるほどの暴音に紛れて、耳を澄ませば感じ取れる男女複数の悲鳴。上階の犠牲者達。
そんな血生臭い叫び声など端からノイズジャック済みなのか、山井はゆったりとペットボトル水を口に含む。──『伊賀の天然水』。


 夏の暑さにやられた喉を潤した彼女はほっと一息。
束の間のみ和んだ後、鋭い菜箸の先をツンツン触ると、やがてさぞ面倒臭そうに立ち上がった。
右手にはやたら鋭利な金属の箸、左手にはやや黄色味がかったビニール傘を持ちつつ、山井はエレベーターへ歩を進める。
──この土砂降り下にて、仮にぐしょ濡れの誰か参加者に出会した際。──彼女は躊躇なく右手の物を、『さし出す』事だろう。


「さーて、アイツら喋んないから当てにならないし。私も探しますか〜、クソカスわんちゃんを!! あはっ☆」


 野原ひろし等がこのホテルに逃げ込み──現在二十分経過。
魔人デデル一行がまた同様に、ホテルに吸い込まれ──ウンディーネが追い回して以降、十五分経過。
二組それぞれの逃亡者を東●ホテルに追い込んだ張本人・山井は、満を持してとホテル内の探索を開始する。


「ふんふふふ〜〜〜ん♡」


攻撃担当は山井のポケモン──ウンディーネである以上、主人がわざわざ戦場に立つ意義など全くとて不要なのだが。
それでも彼女はホテル内に立ち寄る理由があった。
例え、怒り狂ったひろしや魔人が襲い掛かろうとも、
そして行く末。自分の身に危険が生じようとも、山井は立ち寄らなければならない。
『捜さなければいけない』という、固い決意があった。


「ふんふふふ〜〜〜ん…──」


その、山井恋が求める相手というのが、先程ウンディーネに「“この三つだけは攻撃すんな”」と釘を差した対象の一人。



「──早く会いたいよ、…古見さん…………」


────古見硝子。
──自分と家族全員の命よりも大切な、彼女であった────。

685『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:13:24 ID:cFeuEibI0
「…あはは。…複雑な気持ち……かな……。──」



────…という訳ではなく。





「──あのクソ犬が神聖な古見様を舐め回すとかめちゃくちゃ勘弁。で〜も〜……それでいて、舐められて思わず感じちゃう古見さんの光悦顔も見てみたい……って気持ちもあって………。──」

「──もどかしいな…、この気持ち……。貴方のこと、ほんとにほんとに…舐めたいのは……私なのに……ね…」


 山井が探す対象は、野原ひろし等の飼い犬。
自分の股ぐらに顔をうずめてきた──クソ犬(正式名称:マロ)である。
誰彼構わず、若い女子を見かければ躊躇なく飛び付いてくるマロだ。
一生舐めても溶け消えないような宝石であるあの子────古見さん探しには、バカ犬がうってつけであろうと。
山井がホテルに入った目的は、その考えから来るものであった。
──無論、探知犬が古見さんを見つけた暁には、ご褒美の殺処分が待っている。


「…もしかしたら、この中にいるのかな………古見さん──」


「──はぁ〜……」


 恋ひしがれる山井の指先は疲れを見せていたのか、微弱の震えが続く。
無理もない。
早坂と別れて以降、何百通にも渡る古見さん宛のラインを送り続け──現状既読すらも付いていないのだから、疲労は確かにあった。
そんなか弱い人差し指を、力を込めて押すはエレベーターのボタン。


「私も今日はそっと……♪ …雨…………っ♪」


下降マークが白く光る。

山井はエレベーターの迎えを、そして古見さんの姿を(──それとクソ犬を)、胸一杯に待ち続けた。





ただ、待てども待てども。
やって来るのは求めていない物ばかり。
人生とは難しい物で、自分の思い通りに事が進む人間なんか才能がある極一部のみである。



心の中しっとり雨の山井に訪れる者。
──それは、



「生憎だがエレベーターは今故障中だ。…くたびれるものだな、この何階建てにもなるホテルを階段で上がるとは…」

「え──…、」



 バンッッ─────────ッッ



「──ぎゃッ──」


──エレベーター扉に顔面を打ち付けられたことによる、額の鈍い痛みと。
──目元から弾ける白い星。
──涙粒と共に爆ぜる、おでこからの流血。

686『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:13:37 ID:cFeuEibI0
「いっぎゃぁああぁぁああァアアアアアア──────────ッッ!!!!!──…、」

「──ンッ、ぐえッ!!!」



「ただ、ポジティブに考えればだな。映画のディパーテッドではないが、エレベーターは乗った際、開きざまに即銃撃を食らうというケースも考えられる。…マスターに倣い、ポジティブ思考をしてみたが、そう考えるとコイツが故障中な事もまた利だろう」


「ぇ……い…ががッ…………。…は、…はぁ………ッ……!?」


──額から溢れる血でポツポツとペインティングされる、白い手袋。
──いや、白いという割にはあまりにも透明過ぎる。
──山井の首を持ち上げ、宙吊りにする、その半透明な右手と。


「……とはいってもエレベーターを壊したのは貴様。…というよりウンディーネ共なのだがな。最後に一つ、チャンスをくれてやる」

「…が…ぁッ…………………。な、なん…………で…………」

「『何で』とは。私は確かに言ったはずだが。後でお礼を支払うとな。まぁ良い小娘」


──ダメージジーンズか、とツッコみたくなるぐらいボロボロのジャケットと。

──冷たく氷切った目。


──そして、顔面前に突き出される、指パッチンの左手。




「………な、…ぁ…………んでッ………………………」



──────“何故、生きているのか………………?”

青筋がぶち破れたかのような痛みで、瞼の痙攣が止まらない。
息がとにかくできない。
いくら白いグローブ越しの手を引っ掻こうとも、びくともしない。

2cm程の額の裂傷に悶える山井へ、待ってましたとばかりに現れたその男。


「──二択だ、選べ。このエレベーターに[故障中]という張り紙を書きたいか、それとも『書けなくなりたい』か。お前にチャンスをやろう──」


「────魔界流の出血大サービスだ──────。」




『魔人』。
デデルは、まだ生きていた────。




「…ず…………随分と、また……………透明にッ…………なった…じゃん……………ッ」

「そうだな。『限りなく透明に近いブルー』…という小説があるが。貴様の顔も随分青くなってきたぞ?──」


 ポタ、ポタ…


「──…いや赤か」

687『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:13:52 ID:cFeuEibI0
「…………死………ねよッ……!! …つ…か、敬語……使え……っ……………て…………」

「敬語を求めるならいくらでもしてやる。ただ、魔人に対価を求めるなら願い主もまたそれなりの対価を差し出す物だがな。いいか?──」



「──今すぐウンディーネ全ての稼働を停止しろ。貴様へのチャンスはこれのみだ。…どうだ、引き受けるか?」


「…グ…ウッ…………………………!!!」



 上階のウンディーネの暴れっぷりたるや、それは耳障りな程騒がしかった為、デデルの顔は極至近距離。──山井の視界には、魔人の顔のみが映っていた。

何もかも、わけが分からなかった。

いや、冷静に考えれば、何故自分がこのような事態に陥ってるかは理解できそうものではあるが。
矢継ぎ早に次ぐ矢継ぎ早の急展開という事。
額の激痛を凌駕する絞苦と。そして、ダメージで麻痺しかける頭痛脳。
これらが要因で山井は全く理解が追い付けずにいた。

ウンディーネに追うよう命じて長時間経った筈──。
それだというのに、一体どうやって──。
何故、無傷で──。
この透明な化物は生存に事を終えているのか────?


ウンディーネの片割れを呼ぼうにも、首がしまって大声が出せる現状ではない。
援護には来てくれない。
何の役にも立たないポツポツ雨のみが、山井を湿らせていく中、切羽の詰まった彼女はもはや思考を放棄。
デデルが与えた『チャンス』に、山井は、


「…おいどうした小娘。YESかNO。貴様が選択を──…、」

「ィイイッ………!!!」


 ザシュッ─────
辛うじて手放さなかった菜箸を奴に突き刺す。
そんなアンサーで返したのだが、




結果は焼け石。




 ────ガキンッ




「………………は………………………?」




「やれやれ…。コレは『バリアー』だ。ユニークだろう? 私とて、お荷物二人を抱えるとなったらコイツを使う他あるまいものだった。しかしこれでまた無駄に使ってしまったな……魔力を…。これでは後先が思いやられる………。──」

「──しかし、小娘。貴様も負けじとユニーク…面白い奴だな。やはり人間の悪足掻とやらは実に興味深い…………」


「は…………? ッ、は…………………? ち…ょっと………待っ、て…。は………?──…、」



「貴様のユニークさは今後の参考にさせてもらう。さらばだ、小娘────」


「いや…、テメッ──…、」




ただ、焼け石に水とは言っても、雨が降っていた為もう十分だったのだが。

688『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:05 ID:cFeuEibI0
 パチンッ────



親指と中指を組み合わせて、パチンと響く小刻みの良い音。
そいつが鼓膜を振動した瞬間、山井の姿は蒸発したかのように消え失せた。
綺麗サッパリと、この場から。






「さて、…もう出てきても良いですよ。──マスター」



………
……



 ザザッ…

  ザザッ──……

689『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:18 ID:cFeuEibI0
『──臨時ニュースをお伝えします。──』


『──先ほど、アメリカ・マディソン郡にて、日本の民間航空機が墜落したとの情報が入りました。墜落現場は観光名所としても知られるマディソン郡の橋付近で、多数の死者が出ている模様です。──』

『──現地メディアによりますと、機体は突如現れた後、墜落。そして激しく炎上。周辺一帯には現在も救助隊が多数出動し、懸命の救出活動が続けられています』



「と、突如現れた……ねぇ…‥」

「…ま、…まま、魔人さん、もしかしてこの飛行機って………。さっきの……」


「……さっき、とは?──…、」

………
……


地面上にてジャンプーSQ雑誌や月刊マー、お菓子等が乱雑に散らばる中、
デデルは赤い星(──と言うか普通に飛行機)に向かって指パッチン。


 パッ


「「あっ!!??──」」


「──き、消えちゃった?! どうして!!? なんで!!!」

「いや魔人が消したんでしょ絶対! …何してるのさもうーーっ!!!!」


……
………


「…あぁ、あれですか。…普段こそは任意の場所の設定もできるのですがね。……如何せん、今日は何だか調子が悪いようです。…私が不甲斐ないばかりに…申し訳ない」

「も、もも、申し訳ないじゃないでしょ魔人〜〜っ??!! あ、あぁ〜〜!!! ほら死者推定五千だって!!! 五千だよっ〜!???」

「……喧しいな。土間、喉の渇きはどうだ? 貴様の好きなコーラならまだあるが」

「飲んでる場合かぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

「ど、どどどどうしよう〜〜〜〜〜〜もう〜〜〜〜〜〜!!!! う、うぅ…うへっええぇ〜〜〜〜ん!!!!!」



 ガガガガ──ッ……

  ガガガガ──ッ…………



「…だから喧しいと言っているだろう…………っ」



 フィルムを剥がしたアクリルフィギュアのような、もはやギリギリその体を維持してる程の、透明魔人・デデル。
貴重な魔力を消費してでも鳴らした、指パッチン一発でどれだけの人間が『透明化』した事だろうか。
紳士的態度とはいえ、所詮は【魔界】の住民。悪魔と同たぐいである彼。
故に、壊れかけのテレビから流れる臨時ニュースには、つまらない授業を受けるかの如し退屈な目で眺めていた。

本当に、彼からしたら自分と関係のない人間如きの死滅など、全くの眼中外だったのだ。
それ故、喧しく騒ぎ立てる二人の女子。──自分の、一応の仲間に向かって、彼はドライに話し出す。


 ピッ──


「あっ!!」 「(テレビを)消した!!?」

690『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:33 ID:cFeuEibI0
「…さて、くだらない事は後回しです。早く事を収めようではないですか、マスター」

「く、くだらなくなんかないでしょっ??!! 人が死んでるんだよ〜〜っ??!! 魔人のせいで〜!!!」

「…そうだな土間の小娘。願うとあらば、後でこやつらの慰霊の森でも作るとしよう。これで一応の解決にはなる」

「なるかっ!!! 何その自殺した子の墓に苛めっ子達がお線香供える〜的な舐めた発想は??!!」

「フッ。的を得たツッコミだな。流石は火星人だ」

「それでおだてたつもりかっ??!!! こんなので──…、」



「そんな貴様と、マスターにまた手伝って貰おうと思うのだが」



「え゙っ?!」 「え?!!」



「虫取りといこうか、夏らしくな。…宜しいですね? マスター。『ウンディーヌ』というムシケラを………っ」




「………う、うん……………」

「…はぁ〜あ…………」



アメリカ政府が、日本へ報復措置を取るのは実に数時間後。
そしてまた、薄れゆく魔人のタイムリミットも、──蝉の寿命程のか細さ。
──いや、蝉よりももう後が無い。炎天下に置かれたアイスキャンデー程度といったところであろう。


階段をせっせと登っていく中、デデルに背負われている身のうまるはユラユラと。


「…………ぼくなつでカブトムシコンプリートしたから…それで代用できないもの…かなぁ…………。はぁ…………」



随分と大長編になるかもしれない『うまるの夏休み』──。
そんな悪い予感でもう溶け出したい気分だった。

691『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:14:47 ID:cFeuEibI0
【1日目/F6/東●ホテル/1F/階段/AM.04:36】
【魔人デデル@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】記憶喪失、魔力消耗(残り8%)、半透明化(95%)
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【奉仕→対象:新庄マミ】
1:ウンディーネで魔力を補給。
2:マスター(マミ)に従う。
3:土間の小娘(うまる)には協力してもらう。
4:小娘(山井)に敵対。

【新庄マミ@ヒナまつり】
【状態】焦燥
【装備】ランプ@メムメムちゃん
【道具】UFOの破片
【思考】基本:【静観】
1:ウンディーネを捕まえてデデルさんを助ける!!
2:この水の塊をランプに入れたら魔力が回復するんだって!
3:それにしても『指パッチン』…恐ろしい………。
4:みんなしてわたしの扱い酷過ぎない?!

【うまるちゃん@干物妹!うまるちゃん】
【状態】焦燥
【装備】うまるがやってるFPSのマシンガン
【道具】ジャンプラやら雑誌色々、ポテイトチップスとコーラ
【思考】基本:【静観】
1:死にたくないからデデルを助ける。
2:どうやって助けるって? なんかウンディーネ?っていう攻撃性ヤバいやつを捕まえなきゃならないんだよ〜。
3:あ〜〜しんどいよぉ…。死にたくないよぉおお〜〜〜。

692『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:15:00 ID:cFeuEibI0
【1日目/F6/東●ホテル/3F/廊下/AM.04:50】
【飯沼@めしぬま。】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:7階にいるマルシルさんを助ける。
2:ひろしさんと共にこの窮地から脱出する。

【野原ひろし@野原ひろし 昼飯の流儀】
【状態】疲労(軽)
【装備】銃
【道具】なし
【思考】基本:【対主催】
1:海老名ちゃん、飯沼くんを守る。
2:マルシルさん?を助けてホテルから脱出。
3:ウンディーネに恐怖心。
4:新田、ウンディーネ娘(山井)を警戒。

【海老名菜々@干物妹!うまるちゃん】
【状態】疲労(軽)
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:飯沼さん、ひろしさんと共にホテルから脱出。
2:ウンディーネが怖い…。
3:新田さん、あの女の子(山井)を危険人物と認識。


【1日目/F6/東●ホテル/7F/室内/AM.04:37】
【マルシル・ドナトー@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】杖@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:えっ、何この子……!?(山井に対して)
2:え〜っ何このコ〜〜♡(マロに対して)
3:飯沼、まだかな………。

【クン●ーヌ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【静観】
1:はっ、はっ、はっ、はっ…

【山井恋@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】額に傷(軽)、鼻打撲(軽)、膝擦り傷(軽)
【装備】めっちゃ研いだ菜箸@古見さん、ウンディーネ@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰古見硝子】
1:古見さん、四宮かぐや以外の皆殺し。
※マーダー側の参加者とは協力…かな?
2:目の前の変な金髪女を殺害。
3:こんなドブネズミの巣から古見さんを早く脱出させたい。
4:ホテルにいるクソカス共をとりあえず全員皆殺し。
5:クソ犬(マロ)を使って古見さんを見つける。トリュフ探すブタみたいにね☆
6:クソ親父(ひろし)、脂肪だけの女(海老名)、魔人(笑)(デデル)とその仲間共(うまる、マミ)に激しい恨み。

693『Pulp Fiction<三文小説・第一集>』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:15:11 ID:cFeuEibI0
※支給品説明…『マロ(クン●ーヌ)@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』
→佐野の支給品。(現所有者マルシル)
 大型犬。女性を見かけると股座に顔を突っ込む。

※支給品説明…『ウンディーネ@ダンジョン飯』
→只野人仁の支給品。(現所有者山井)
 湿地帯に生息する魔物。
 厳密には精霊(の集合体)。
 圧縮した水をウォーターカッターのように高速で打ち出すことで攻撃する。
 現在、16体に分裂。ホテル2F〜6Fにかけて、『山井恋』・『マロ』・『古見硝子』以外の参加者を無差別に攻撃中。

694 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:16:18 ID:cFeuEibI0
参加者二巡目、完・了!

投下終了します。
引き続き、『支給品:『アシストフィギュア』について』をお送りします。

695『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:16:51 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[肉蝮]]、[[兵藤和尊]]

696『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:02 ID:cFeuEibI0
【特殊支給品紹介】
────『アシストフィギュア』


格闘ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』に登場するアイテムを模した品。

電気ポット程の大きさを誇るフィギュアで、楕円状のカプセルケースに内蔵されている。
“共闘してほしい”──という強い意志と共にこのフィギュアを天高く掲げると、カプセルが砕け『実体化』。
頼もしい味方が召喚され、損得も信頼も関係なく、戦闘に協力してくれるという、そういった代物だ。

アシストフィギュアの中身は実にランダム。
主催者曰く、『誰が出てくるかはお楽しみに』とのこと。
参加者達の知人から無作為に選んだ人物《のクローン》が登場する為、フィギュアファイターがとんでもない化物や格闘家だったり、はたまた全くの無役な一般人等が出てくる可能性があったりと。
召喚が吉と出るか凶となるかは運次第。

フィギュアファイターは前述の通り、基本召喚者に忠実な働きぶりをするよう作られている。
ただ、一定時間を過ぎるか、または致命傷を負った場合、光と共に跡形もなく消えていくという特徴もある。
──一定時間とは基本約一分程であるのだが、これまた主催者曰く『例外もある』とのことだ。



身体的能力、ハンデ等全く考慮されず、適当に選ばれた一部の参加者に支給されし──このアシストフィギュア。
今後、各々の戦闘活動に於いて、フィギュアファイターの力が、ただの焼け石に水となるか。
それとも渋谷全体を大きく流し倒す大洪水となるか。

いわゆる『サブ参加者』達の行動に目が離せない現状である。



 ここで、アシストフィギュアの使用例について、場面転換することとしよう。

 バトル・ロワイヤル下にて観測上、初めてその使用が確認されたのはゲーム開始から三時間が経過した折。
──時刻04:12:23秒の事。
──場所は渋谷東●ホテルの十階、廊下にて。


支給者No.06『丑嶋馨』の所持していたアシストフィギュアがその芽を開花させた────。

697『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:16 ID:cFeuEibI0



「あぁ〜〜んっ!! イカせちゃうのはァ〜〜〜〜♪──」

「──馬並みの俺ェエ〜〜ッ!!! …ぎゃはははははははッ!!!──」



「──んじゃ達者でなァアアアッ!! オ●ニー尿道プレイ大好きなウシジマァアアアアアアアアア!!!!!!!」



 時刻はAM.03:56:19秒。
 真っ暗な町工場にて、ボッ──と小さな明るさが灯った。焼却炉からヘソのゴマを燃やしたかのような悪臭が漂う。


まさしく【血と金と暴力に飢えた外道】【座右の銘は強盗、殺人、SEX!!】との凶人・肉蝮は、手際よく『ブロック肉達』を焼却炉へ投げ込んでいく。
肉蝮の片手に握られるは、所々刃毀れが見られるドス黒い鉈。
鉈に血染み塗りたくったそのブロック肉は、これまでの人生を酷く冒涜するかのように、黙々と燃え滾っていた。


──ブロック肉はかつて、肉蝮にとって大切な『遊び道具』の一種であった。
──ただどんなオモチャでも思い入れが無い限り、いつかは壊れるか、飽きられ廃棄される運命。
──例にも漏れず、この『オモチャ』もわんぱく心旺盛な肉蝮は“もう使い飽きたから”という思いで。丁寧に解体された上で廃棄処分されていった。


大人になっても童心は忘れぬ、肉蝮は悪臭と共に燃え上がる火を見てこう呟く。


「……くっさ!!!──」

「──…人がせっかく子供ン頃のキャンプファイヤー思い出して浸ってた…つーのに。水差してんじゃねェぞテメェ?!! 普段何食ったらここまで臭くなンだよ?!──」

「──永沢君を見習えよなァッ?! アイツなんか家燃やされても香ばしいオニオンの匂いしかしねーつうンだからッ!!! おい!!──」


「──プッ!!! ぎゃはははははハハハハハハハはははははははハハハッ!!!! 我ながら傑作!! あーはっはっハッハッハッハッハッはははは!!!!!!!!!」



轟々と嫌な煙が昇る中。
静寂な工場にて、イカれ狂った馬鹿笑いが響き渡っていった。
純粋な少年のような目で、そのメラメラとした炎を眺める悪魔──肉蝮。
壊れてしまった肉オモチャを前にして、態度では歓喜を表す肉蝮もどこか寂し気な様子が伺えたのだが、──心配はない。

主催者がかなりの期待を込めて参加させた彼には、まだまだこれからも、沢山の『オモチャ候補』が待っている。
ゲーム強制終了までのリミットはまだ四十時間近く残す今、肉蝮が退屈する事など随分と先の話になる訳で。
今はまだ会わずとも、彼を楽しませる仲間達は十分に存在するのだ。


それに、肉オモチャが燃え切ろうとも、彼のディバッグには文字通りの玩具が一つある。



「……………つーかよォ………──」




「──トネガワの野郎、スマブラが好きなんか…………?」



最後のブロック肉を投げ捨てると同時に、肉蝮は『アシストフィギュア』を持ち上げ一言。
丑嶋から奪った支給品を眺めながら、その使用用途に「?」で一杯の肉蝮であった。

698『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:17:46 ID:cFeuEibI0



 AM.04:11:14。

 下劣な思考回路の肉蝮の事である。
恐らく、“ヤるといえばホテル”との考えで、彼は近くにあった東●ホテルへと足を踏み入れた。
一階から七階まで、解体中かのようにズタズタとされた内部の惨状には、彼も気になった様子だが特に深堀りはせず。
女の居そうな空間を求めて、彼は現在十階廊下を練り歩く。


「あの人の〜パパになるために〜〜♪ ふんふふふんふ〜〜ん♪ ホテルに来たの〜〜♪──」




「────………あァ?」



ただ、いくら独自の嗅覚を駆使しようとも、そう都合良く被害者女性が現れることなく。
ふと立ち止まった肉蝮が睨む先────、そこにはヨロヨロと老人が一人彷徨っていた。


「…………ジジイ…かぁ〜………。つまんねェー……」


 白髪頭に髭を蓄え、こちらに気付いてるのか否か、クキキキ…と一人で笑うその老人。
気品高い身なりはそこそこの銭を期待《強盗殺人》出来そうではあったが、一方で杖を付きながらも蹌踉めく足取りは、如何にも柔弱そうであった。
コツ、コツ、コツ、コツ………。
映画のシャイニングまんま生き写しかの如し静かで綺麗な廊下にて、杖を付く音のみが鳴る。


「うーーん。…じゃ、とりまコイツでいっか!!」


肉蝮は老人を見てそう呟いた。

彼は別に老人へ特別興味が湧いた訳でもない。
ハッキリとした殺意も無ければ、本当に素通りしてもいい存在であった。

──ならば、どうでもいい奴にはどうでもいい物をぶつけろ────と。

デイバッグからアシストフィギュアを取り出し、取説通り高々と掲げて見せる。


圧倒的戦闘力があり、殺害経験も豊富に持つ肉蝮にとって、全くの不要であるアシストフィギュア。
本来なら武器も握れぬ弱者救済の為の支給品である故、肉蝮には持っていても仕方ない物と言えよう。
彼もその事には重々理解をしていた為、このどうでもいい場面でアシストフィギュアの無駄遣いを結構。

実験感覚──
────というより、アリに妙な薬品をかけて楽しむ感覚で。


「出てこいッ!! ゴラァアッ!!!!!」


肉蝮は、フィギュアファイターNo.03を呼び起こした──。





 ポンッ─────



「よっ! …全く仕方ねェなァ。旦那と俺はボンナカ《友人》みてェなモンだしよ」



「………あァ?!!」



【アシストフィギュア No.03】
【熊倉義道@闇金ウシジマくん 召喚確認】
【概要】
→二代目猪背組理事長の極道。
 やや肥満体で顔に二箇所の刀傷が特徴的。

699『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:00 ID:cFeuEibI0
「あいつ撃てばいンだろ? ったく…こんなチンケな仕事させやがって。…もうこれっきりだからなァ??」

「ンだァ…?! テ、テメェ……マジで出てきやがったし……! どうなってンだこりゃッ?!!」


 肉蝮が目を丸くしたのも無理はない。
冗談半分で何となく出してみたら、本当にゲーム《スマブラ》通りに。
カプセルから巨漢の男が出現したのだから、これが夢なのか現実なのか判断に苦しむ程だった。

そんな主人を尻目に、熊倉は懐へゴソゴソと手を突っ込む。
フィギュアファイターは事前に己の『使命』を組み込まれたクローン達。
故に、「何故自分がここにいるのか」だとか「状況を整理したい」だなんて思考を働かせることは一切なく。


「とりあえずこれが終わったらさ、お礼としてよォ……、」

「は? は? はァ??」



「──新米700kg買ってくンない? 出所は言えねェーけど物は確かだ」




眼の前の老人へ向けて、銃口が正確に構えられた。




 パンッ────

  パンッ──、パンッ──、パンッ────

 パンッ────




「ぁあ?!!」



 リボルバーに込められた五発全てが、一直線に飛んでゆく。
扱い難い回転式銃とはいえ、狙撃者・熊倉は何十年も裏社会を牛耳ってきた熟練者。
老人の顔面を破壊すべく、正確なポイントで弾丸は走り抜ける。
老人と熊倉の距離は5メートルほど離れている。故に、弾丸の着弾時間は0.016秒ほど。
──無論、ほぼ奇襲で放たれた銃撃を、死期が近い老体が避けようものなどできる筈がなく。


彼の命は、虫のごとく簡単に散っていった。





ちなみに、フィギュアファイター『熊倉義道』の稼働時間は設定上、三分三十秒きっかり。
その間は、召喚者の命令がない限りはこの場に存在し続ける事となっている。
戦意静まり返り、僅かばかりだが戦場跡と化したこの廊下には、



──────断末魔をあげる暇もなく、ズタズタに消えゆく『熊倉』と、

────そして、気が付いた時には全身に妙な違和感が発した肉蝮と、



──肉蝮の後ろを、何食わぬ顔でヨロヨロ過ぎ去る老人の姿。

700『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:12 ID:cFeuEibI0
「ぁあッ?!!──…、」




肉蝮が振り返ろうとしたその瞬間、彼の全身に『杖による殴打』の痛みが走り切った。




 ──バシィイイッ

  ──バシィッ、バシィッ、バキバキバキバキッ、バンッッ──



「──ぎぃッ?!! ぎゃぁぁああぁぁああぁああぁああぁぁぁぁあぁぁあああああああああああッッッ!!!!!!!!!」




 腹部、四股、頭部。
何箇所にも渡って響く痛みに、肉蝮とて転がり回ざるを得ない。
痛みに悶える最中、ふと患部を確認すれば、下腿前面の脛骨──弁慶の泣き所は青く腫れ上がり、頭からは軽い傷が生じていた。


“分かんねェ…ッ”

“意味分かんねェし……ッ”


“何が一体起きたんだッ………?!”


地面に投げ捨てられた水生昆虫のようにジタバタ暴れ狂う肉蝮には、この現状が到底解せなかった。



コツ、コツ、コツ………。


またもや杖の音のみが小さく響く中、半狂乱の身とはいえ、肉蝮も唯一分かっていたことがある。
恐らく、──理解も常識も超えている事だが、恐らく。


「…最初から……生まれた時から王だったら、どれほど良かったものか……………っ」

「…ぁああ……ッ?!!」


「初めて銃を握った時……ワシはまだ十五の若造じゃった。血肉貪り、貶め合い、そして米兵を絶命に至らせる…………あの頃は殺し合いの大戦下………………っ。…まだ若かりし……兵士だった頃のワシは、実に醜く…愚かじゃった」

「ジ、ジジィ……ィ………ッ!! がぁあッ……。テ、テメェ…………」


「……まぁその『体験』のおかげで、こうして貴様を返り討ちにできたのじゃがなっ…………? …衰えたものだとばかり思っておったが、案外身体はまだ覚えているものだわい」

「……テメェ……い、一体……………」



「──…………あの幾千の、戦いの記憶がっ……!! カカカ!」




「…………『何をしやがった』…ッ?! …テメェッ……………」

701『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:31 ID:cFeuEibI0
──刹那ほどの猶予もない弾丸の雨を全てはたき落とし、
──目にも止まらぬ圧倒的スピードで、熊倉を再起不能に倒して、
──肉蝮を全身何発も叩き殴った。

────これら全てを杖一本で。しかも0.016秒以下で。



──恐らく老人は熟してみせたのだろうと。────



“こいつは一体、何者なんだ…………ッ?!”



全身の悲鳴が癒えるのを待つ中、肉蝮はもう思考崩壊寸前で唾液を漏らし続ける。




《老兵は死なず》
────制裁の乱れ打ち【武士道】。


「ききき……。負ける訳にはいかん……いかんわけなのだっ…王は………………っ!!」





エレベーターに乗り込む老人──兵藤和尊会長。
彼の手にもまた、未開封の『アシストフィギュア』が息を潜めていた。



【アシストフィギュア No.03】
【熊倉義道@闇金ウシジマくん 消滅】

702『支給品:『アシストフィギュア』について』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:18:44 ID:cFeuEibI0
【1日目/F6/東●ホテル/10F/AM.04:15】
【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】杖
【道具】アシストフィギュア、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。

【肉蝮@闇金ウシジマくん】
【状態】全身打撲
【装備】鉈
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:不可解の集合体である現状《殺し合い下》に頭が悩む。
2:ジジイ(兵藤)、クソガキ二人(ネモ、ヒナ)の顔を覚えた。絶対に復讐する。
3:皆殺し後、主催者の野郎とスマブラをする。

703 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:19:25 ID:cFeuEibI0
投下終了です。
ラスト、『焔のはにかみや』で締めます。

704『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:19:47 ID:cFeuEibI0
[登場人物]  [[池川努]]、[[野咲春花]]

705『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:04 ID:cFeuEibI0
 やあ。
僕の名前は池川努。中学三年生さ。
運動不足気味で最近やや肥えてきたところがコンプレックスなんだけども、まぁその内危機感湧いて肉体改造にガチるだろう。その内。
とにかく、痩せればそこそこに顔が整っている少年。それが今宵の語り手、僕──池川努だ。
とりあえずよろしくね。

 さて、早速だけど一つ君達に訊きたいことがあるかな。
…なに。
簡単な質問だよ。身構える必要なんかない。
二択だからね。
こちらも選択次第で態度や考え方を変えるとか、そういうつもりはないからさ。
悩むことなく、本当に直感で答えてもらいたいね。
ゲームで名前決める時「ああああ」にするくらいの適当感覚で望むといいよ。ふふふ…。

では、行くよ。



QUESTION.
──『正義』の反対とは、ずばり何か?


→1:『悪』
 2:『正義』

706『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:31 ID:cFeuEibI0
 …………答えを導き出せたかな?
正直、君らがどちらの選択肢を選んだかは僕にとってどうでもいい。
…というか、そもそも質問じゃなかったね。
これ、問題だから。明確な答えがハッキリと用意されている問いかけだからさ。ははは、ゴメンよ。

 ズバリ、『正義』の反対は、二番。
────『また別の正義』であるわけだ。
これはつまり…見方を変える、ってことなのかな。
ニュースや世間一般、そして我々が思考停止で『悪』と決めつけている存在も、違う視点から捉えれば『正義』。正しく義にかなった存在となるわけなのさ。

例えば、昨今。
三年に一回のペースで、どこぞの無職が子供を無差別殺傷する事件が報じられるけども、アレも正義。
殺されたガキ共の中にはさ、普段同級生を散々に虐めてる『死んで当然の存在』がいたかもしれない。
いや、虐げられる対象が何も人間だけとは限らないよ。
クソガキは無邪気だからね。日頃、なんの意味もなく虫や小動物を踏み潰す奴が、被害者の中にいてもおかしくなかっただろうさ。
つまり、その虫共、虐げられる者達からしたら、無敵の人はまさしく『英雄』なのだ。

また、例えるなら、…これはかなり昔話になる。
第二次世界大戦で日本に、広島と…あとどっかにヤバいミサイルが落とされた事件は有名だろう?
教科書では、最大の虐殺行為だなんて恨めしく綴られている出来事だけども、アレもまた『正義』だ。
…これは何もアメリカ人からしたら正義の行動とかって言うつもりはないよ。
僕ら日本人の視点に立ったとしても、ミサイル投下は正義の行いといえるんだ。
あの……──…あ、思い出した。原爆投下だ。
原爆で焼き殺された人々の数は(授業ボイコット勢の僕は)詳しく知らないけども、何万人も死んだ中には、心から死を希望した者もいるはずなんだ。
上司に叱られるなり、家庭で嫌なことがあったりしてね。
「あぁ…死にたい…」「死にたい死にたい死にたい…」「楽にならないかな。今すぐ…」とかさ。
そういう苦しみつつも死ぬことさえままならない、彼等死亡志願者にとっては、原爆投下はまさしく青天の霹靂。
あの灼熱の光は、彼らを結果的に救えたのだから、まさしく『正義』と言えるよね。

……さて、長々とお話をした終えたところで、「結局お前は何を言いたいんだ」ってことになるんだけども。
それはだね。
まーズバリ、一言で言うと、………。

……とりあえず後回しで。
いや悪いね、なんか急に喋る気分じゃなくなったんだ。
後々、必ず…必ず話を戻すから「気まぐれな奴だなあ」と呆れるぐらいでご容赦してくれ。


 じゃ、本題に移るよ。

何となくで立ち寄ったモ●バーガー店、ガラス寄りのテーブル席にて。
今後に備え、タンパク質《てりやきバーガー》をモリモリ摂取する僕と、包み紙に一切手を付けず、今はまだ夢の中の彼女。
ぱっちり二重に柔らかそうな頬、そして長い髪が香る彼女の名は──野咲閣下。
…しみったれて退屈な田舎村に現れた、あまりにも可愛すぎる存在さ。

背もたれを寄り掛かる閣下は、実に苦しそうな様子で目を覚まし、


「……んんっ…………、ん…………………」


「…お。…お目覚めのようだね」

「………………ん…………えっ? ──」



「────……ッッ!!!!」


──彼女と目が合った刹那、僕の眉間ギッリギリにナイフが突き出される。
…正直自分の反射神経の良さに驚きを隠せなかったよ。我ながらね。
本当に気が付いたら刃先が目の前にいて、気が付いたら包丁握る彼女の手首を掴んでいたのだからさ。

それにしても美しい花にはトゲだか毒だかがあるらしく。…小柄な見た目とは裏腹に、閣下の凄まじいものだったね。
真宮君や久我のようなバカ共なら、この一瞬で簡単に命を絶たれていただろう、あんまりすぎる力だったよ。

ただ、僕は彼等愚かな者共とは違う。
刃先が命欲しさに震える『スリル』という喜びを感じながら、僕は閣下にこう申したのさ。
穏やかで、冷静な口調を意識しつつね…。(あと冷や汗をたらしつつもね…)


「…の、野咲くん。まぁ理由が理由だからね。僕に強烈な殺意が向くのも仕方ない。君を責めるつもりは全くないよ。…ふ、ふふ」

「………ッッ」

「…ただ、信じられないだろうし信じる気もないだろうけど聞いてくれ」

「……………うッ、くッ…………」



「……本当にごめん。申し訳ないよ」

707『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:44 ID:cFeuEibI0
「………………ッ、え………?」

「……謝って済まないくらいの事をしたのは分かっているさ。…それでも僕の真意を、心からの反省を聞いてくれ。……本当にごめん、悪かった」

「…………………えっ」

「……それとさ。…これまた信じられないだろうし信じる気も以下略だろうけども………。聞いてくれないかな。──」



「──僕は………君を守りたいっ…!!! 野咲くんを優勝させたいんだ………!」


「………………………………え」




「…だからさ、何となく僕を信じて、一旦話そうじゃないかな?」



「………………」



 …一週間くらい前かな。
仲間内のノリでね、僕は閣下の御自宅と、御家族を焼き殺しちゃったという過ちを犯したんだ。
アツイアツイ〜と、鬼のような目をしてのたうち回る御両親に、真っ暗な周囲を轟々と照らす大火災。…何も無いクソ田舎最大のビッグイベントだったよ。本当にあれは。

最初こそはラインを超えてしまったゾクゾク感と、なんにも悪びれてない自分に酔いしれててウキウキだった僕だけども、……後悔したよ。
野咲閣下に殺されて地獄に落ちて、経血臭い泥沼に漂いながら、僕は山程自戒させられたんだ。
…自分が嫌で嫌で仕方なくなりそうだった。
…野咲閣下の御殿に、主犯格みんなで線香とお参りをしたい気持ちだった。
どんまいだよね、野咲閣下は…。


だからね。
諸君らも、そして閣下も信じられないだろうし、…現にナイフ握る手の力は全く緩まなかったんだけども。

──野咲閣下に詫びたい────。

──そして今度こそは閣下をお守りしたい────。

僕の発言は、嘘偽りない、『正義の心』だったんだよ。


黒く淀んだ閣下の目をガッチリ合わせて、僕はニヤリと笑ったんだ。



「…だからさ、降ろさないかい? …ナイフ。なぁ頼むよ…。ふふふ………」


……とね。







「………なんで」



「…なんだい?」




「………なんで…………生き返ってるの……………………っ?」


「……え?!」




…あー、
そうかそうか。

まず話はそっからだよねー………。

708『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:20:56 ID:cFeuEibI0




……
………

「………………祥ちゃんのこと、…しようとしてたんでしょ…………………」

「え? 何がだい?」

「………………その………、………えっちな…こと………」

「…………え」



──“出てこいよ野咲ィ!!! 池川なんかテメェの妹犯そうとしてたんだぞ!!! ハーハハハ!!!!”



「ッ!????! ち、ちち違う!! あれは〜…誤解さっ!! 僕は決してやましい事はしてないよ!!? 信じてくれ、野咲くん〜!!!!」


「……………信じられない…。………信じられるわけないよ…。──」

「──何も…かもッ………」


「…こ、困ったなぁ……」


…僕が閣下の妹をヤろうとしたか否かは、君らの想像にお任せするよ。
本当に真宮のクズといったら……もう!!
…ふっふふふ………!


 あれから十数分。
刃先がギラギラと光を反射する中、未だ僕らは一進一退の攻防《会話》を続けていた。
…まぁ攻防といっても男女間の力の格差があるからね。
僕の太い腕と対峙して、閣下のナイフを握る力は徐々に弱まってきた様子。
比較的僕は優位な状況とはいえ、それでもナイフは怖いからさ。彼女の手をテーブル上に抑えつつ、僕は会話を試みてる現状だ。
見境なく襲い掛かる野生動物同然だった閣下もね、色々疲れてたんだろうな。…今は、少し諦めた様子で、話す気になってくれているよ。

閣下の肌白くて綺麗な手を撫でるように抑えて、僕は彼女の目を見る。
……やはり君の美しさは毒だよ。…猛毒クラスさ。
ははは……。


「…………………何が君を守る…なの。…何が優勝させる……なの。………信じられるわけないでしょ…………今更」

「…え? まだ言うかいそれ……」

「………本当は今だって、私の事殺そうとか思ってるくせに………………。…何が……、…何が目的なの………」

「そ、そんなぁ!! 目的も何も、本当に君のことを守りたいんだよ僕はぁ!! 生まれ変わったのさ、本当だよぉお──…、」


「…信じられないッ!!!」



「………えぇ〜…」



「…もう離してぇえッ!!!!! 触らないでよォッ!!!!! 池川君ッッ!!!!!! もう嫌ぁ…ぁあ、……ッ!!!!」


「………うわ!! う、う〜〜ん………」

709『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:07 ID:cFeuEibI0
 触らないでとか言われちゃったよ…。いやぁゲンナリだね。
あっ、でも僕のことを『君』付けで呼んだのはかなり心が踊るかも。…ふふふ、プラマイ0だねっ…!

髪を乱してジタバタ暴れる野咲閣下……。彼女の姿は実に痛ましく、……その態度は忌々しささえ感じたよ。
……やましい気持ちなんかない。僕は純粋に彼女を守りたいし、一緒に行動したい。…それだというのにだ……。
一度失った信頼を取り戻すのは難しい、って本当のことなんだね。
…本当に困ったよ。
彼女の心をガッチリ掴むようなイケメンワードを絞り出さないと…って、僕は頭を必死で絞り出したね。

あぁ困った。…実に悩ましい………。


「………うーーん…………。…野咲くん、考えてくれないか?」

「…な、何がッ……!! 何がなのッッ!!!! ぁぁぁあああああああああ…………!!!!」


…ごめん、ちょっとタイム。
なーんで女の子っていつもいつも皆無駄にヒステリー起こすのかなあ………。
喧しくて話にならないよ………。……正直、かなりしんどいね、もう。

…まぁそこをグッと堪えるのが男の役目なのだろうけどさー。


「君はさっき、『本当は私のこと殺そうとしてる』と言ったけども……。なら、何故君は今生きているんだい?」

「…………………どういう事…ッ」

「何せ、さっきまで君は寝てる…というか気絶したわけじゃないか。意識のない、隙だらけの姿だよ──」


…そして好きだらけのその姿……。あぁ、野咲閣下、君は美しい………。


「──…君に何があったのかは聞くつもりはないけど、君を殺す機会ならいくらでもあったわけさ。僕はね?」

「………………ッ」

「それだというのに君は眠りから無事覚め、こうして生きているわけだ。…しかも、ボロボロの君を発見し、ここまで運んだのは紛れもなく僕! いや〜〜疲れたもんだよ、あれは〜」

「……なに、なんなの………………っ」

「…そこまでして、今現在君に殺されかかっているこの僕さ──」

「──これは野咲くんへの殺意がない、立派な証明になると思わないかい?」


「…………………だから、…何なの……って聞いてるでしょ……」

「『何なの』とは?」


 野咲閣下はそう言って、カフェラテから伸びるストローに口吻する。言わずもがな、気絶中の彼女用に僕が頼んだドリンクだ。
あぁ、望むものならそのストローになりたい気分だよ僕は………。
清涼な唾液で舐め回される彼が羨ましい…。
思えば野咲閣下、あれだけ声を荒げたというの唾が下品に飛んでくることなど無いのだから驚きだ。
そういう細かい所も自然に謹んでいるから、僕は彼女に惚れたのだろうね………。
…そう思う一方で、閣下の唾を浴びたかったという欲望も僕にはあるがね。…ふっふふふふふ……。

ま、それはともかくとして、彼女がカフェラテを飲んだというこの行為。
これは即ち、僕にとっては大チャンスとも言えるんじゃないのかな?
どれだけ喉が乾いてたのかは知らないけども、この緊迫下で野咲閣下は飲み物を飲むという『余裕』を見せたのだから。

つまりは、安堵というかね。
僅かばかりとはいえ彼女は僕に気を許しつつはあるのさ。
さぁこの優位になりつつある展開、どう出るかは僕次第だ!!

710『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:19 ID:cFeuEibI0
「……本当にもうッ……………。訳が分からない…………。何なの、何がしたいの池川君はッ……………………」

「…くっ。た、頼むよ! 僕を信じてくれって野咲くん!! 君を守りたい、その一心なんだ!!! どうしてそんなに意固地なんだい!!!」


…いや、『どうしてそんなに意固地なんだい』って。
セルフツッコミするようだけど、まぁそりゃ僕のこと信じられないよなぁ………。


「…も、もう………分かったから……………」

「えっ?!」


…と言ってる間に、ついに閣下から承諾のお言葉が。
え、何で?! 何故、急に僕のキモチを分かってくれたんだ?!!
何がキッカケかは知らないけども……、僕はこの時はち切れそうなくらい絶頂の思いで──…、


「もう分かったから…手を離してッ!!!! 近寄らないで!! 嫌だから…もう嫌なんだからぁ………ッ!!!! もういなくなってぉおおおおお……!!!!」

「……………………えぇ…」


…いや、まぁ………分かってたけどね。
僕も分かってたよ、こんな反応することくらいさ…………。
…にしても、どんなイジメを受けてもションボリするだけだった閣下がここまで取り乱すとは…、ちょっと意外。
…というかギャップ萌えかなー。


「の、野咲く──…、」

「もうやめてぇええええええええッ!!! 嫌、嫌々嫌…嫌ッ!!!!!! 話しかけないでよッ!!! お願いだからぁああああああッ!!!!」

「…………………」

「ぁぁあああああああああああああああ!!!!! あああああああああぁぁぁ…ぁぁぁ………」

「………そ、その……」


「ぁぁぁ………。…………ぁ、あ………。……っ、……うっ………………ぅっ……………」

「…………」



「……もう分かったから…………。うっ………、私に…関わらないでよ…ぉ………………………」

「………………。…………」


 …唐突に怒り狂ったかと思えば、今度はシンミリ涙を流す閣下。…そのお姿…。
彼女の瞳からこぼれ落ちる結晶は、凛と咲いた花の朝露の如し、清純さだったよ…。
回想すること一ヶ月くらい前。いけ好かない相場君のやつが、野咲閣下を『ミスミソウのようだ』…だなんて呟いていたことを思い出す。
その声に、何となく気になって調べたところ、……もうね、もうね。ふざけるな!!、ってね。
あんな交通事故跡の電柱に手向けられてるような花、…陳腐なミスミソウ如きと彼女を一緒にするなっ!!! って、僕は思ったよ。
僕ならさ、薔薇とか、世界一価値が高い花に彼女を例えるのに、本当にアイツは何も分かってないよね……。
…相場、だからお前友達いないんだよ。ってもはや呆れる次第だったよ。

……………まぁともかく、その美しい薔薇は半狂乱かつ、涙ながら懇願するほどに、
────僕の事を拒絶していた様だった。

…無理もないね。
なにせ、彼女の眼の前にいるのは、自分を散々虐めた上に、家族を焼き殺した張本人なのだから。
見た目が生理的に嫌だから、とかそういう理由で僕を拒絶してるわけでは決してッ…!!! 決してッ、ないんだろうけども、…主義主張関係なく僕を嫌うのも仕方なかった。


……つまりは僕が何を言おうとも、もう無駄なわけなんだね、これが…。

711『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:34 ID:cFeuEibI0
「…ごめんよ、野咲くん」

「っ、ぅう…………。……謝らなくても、いいから………………。…もう、構わないで………………」


「…………」


気が付けば、彼女の手はもうナイフを握る力もなく弱々しい。
弱々しいといえば抵抗の時、閣下の手は微弱ながら震えていたけども、あれは純粋な恐怖の表れだったんだろね。

僕にとっての野咲春花くんはもはや天の上の存在。閣下だ。
「眼の前から消えて」との、閣下の命令があらば、従うのは下僕の使命。
それが例え不服な指示だとしても、どんなに屈辱的で…殺したいくらいの怒りを覚えたとしても……僕は従わなきゃいけない。
なぜなら、僕はどうしようもないくらいに…野咲閣下を愛してしまったからさ……。


「……………ごめんね、……野咲くん」


「……………………………っ、ぅっ………、ぅぅ…」



 彼女のスベスベした右手を離し、それと同時に僕はこの場から身も離れていく…………。
心の痛みを堪えつつも、僕が向かう先は出口付近。
ゆっくりと重い足取りで、僕は指先をまっすぐ伸ばしていった。






 ピッ

 ──『モ●バーガー 単品 330円』



「………………えっ?」


「……ふふふ! 見て驚くなよ、野咲くん!!──」

「──不思議なもんだよね。…券売機でボタンを押したら三十秒後…………こうだ!!」



 ポンッ!!


「わ!!」


野咲閣下のただでさえ大きい瞳が、さらに丸く開かれる。
…ふふふふ。無理もないね。
なんの前触れもなくテーブル上にて、自分の眼の前にポンッと!! 温かいハンバーガーが現れ出したのだからさ。



 ふふふ。
ふっふふふふふ…!!
君達、僕がこんな簡単に諦めるような男だと思ったかい?
悪いが、僕は自他共に認めるネッチネチな粘着質でね……。

野咲閣下に拒絶された位で泣く泣く後を去るようじゃ、あの時真宮君とともに野咲討伐計画は立てていないってのさ!!
ふふふふふ…。


「ほら、面白いだろう? それよりもお腹空いてないかい? よかったら遠慮なく食べていいんだよ! 僕の奢りさ」

「…え、え…………?」

「トマト入ってて、トローリとしたチーズにミートソースが合うこと!! モ●バーガーだよ。僕ら田舎者からしたら馴染みのない店だけどね。ふふ……」

「…………なに、これ…?」

712『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:21:47 ID:cFeuEibI0
 僕が今取ってる行動は、ズバリ作戦変更だね。
どれだけ閣下への熱い想いを伝えようとも、振り向きさえしてくれない今。
ならばならばと話題そらしで、違う所から話して、距離感を徐々に縮めていこうという寸法さ。

なんだか知らないけどボタン押しただけで料理が出現する魔法みたいな世界《殺し合い下》…。
さっきからずっと俯き加減だった閣下も、これには流石に興味津々といったご様子で…。
さしずめこの魔法は、僕と閣下を辛うじてでも繋げさせれた潤滑油的な物といえるかな。
…いや、潤滑油というよりも…………、はは。ロマンス的なことを言うようで悪いけどさ。

『キューピッド』って感じかな。この魔法は───。


「…隠さなくてもいいさ。お腹、空いたんだろ?」

「………」

「…あ、心配はいらないよ。毒なんか無いから」

「…え?」


呆気にとられる閣下の元へ、僕は店員に負けないくらいのスマイルで近寄ると、
パクリッ……モグモグ。


「…うん美味い! ご飯三杯待ったナシの旨さだよ、なーんちゃって。はははは〜」


「……………………」


出来立てのハンバーガーを豪快に一口。食べた断面を彼女へ向けて差し渡した。

人は食べなきゃ生きていけない。
食べずにあるのは死が待つのみ。
ふと空耳か否か、彼女のお腹からグゥ〜…とお手本のような虫の音が聞こえた気がしたよ。
…ふふふ、可愛い奴め。野咲閣下は。


僕は閣下の下僕さ。
忠実すぎるくらいの良くできた僕従。
彼女の幸せこそが一番の生きがい、そんな存在だ。

閣下に少しでも笑顔を取り戻すことができたら………ってね。

僕は彼女が心を開くその時まで、寄り添うつもりなのさ。
そう、いつまでも…………。



「………う、うん。……じゃあ、買ってくるから……」

「…ぇ゙?!」


 ピッ

 ──『モ●チーズ 単品 350円』


「…三十秒くらいで……来るんだよね…………………?」

「え、あ、ああ!! ハンバーガーの自販機みたいだよね〜! ふふふ〜……」



……おいおい野咲閣下。
さすがに僕の食べかけは口にしたくないかい…………。

713『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:03 ID:cFeuEibI0




 食べ方が美しい女性、というのもいる。
給食時間。僕の周りのクラスメイトなんか、飯を食べてる最中だというのに、ギャハギャハ笑いながら口を開いて、咀嚼物が丸見えだというのだから品がないことこの上ない。

ただ、その点野咲閣下は違ったのさ。
食べるという行為をまるで恥じらうかのように、慎みを以って食す。
横髪をかき上げ、ハムスターかリスのようにハンバーガーを頬張っては、清く正しく一回一回咀嚼し、飲み込む。
僕が話しかけた際には、必ず飲み込んでから声を発する。
たまにトマトソースが口元に付着したら、こっそりと指で拭い、そのタレを一舐めしたりさ。
最後はカフェラテでハンバーガーを胃へ流し込むという完成形だ。

彼女の食事風景は芸術的価値さえあった。
そして、この珍奇な料理提供、空腹の満たしこそ、僕と彼女を繋ぐ架け橋でもあったのさ。
──…もっとも、僕自身が健気に笑顔と愛想を振りまいた面もあるんだけどね。

ただ、ここで一つ。しょうもない事だけども疑問が湧く訳なんだ。


「………ご馳走様でした」

「…しかもしっかり『ご馳走さま』まで言う礼儀の良さ…。やはり閣下は美だよ、美の骨頂だ……」

「…え、…何………?」

「あ、ごめんごめん!!! 独り言だから触れなくてもいいよ、野咲くん」


Question.
『このハンバーガーの『調理工程』は一体どうなっているのか』────ってね。


 結果には必ず過程、料理には必ず調理工程がつくものさ。
ボタンを押したらポーンと何処からか出てくる、このモスバーガーであるものの、僕が気になった点は『ラグ』。
ハンバーガーが出てくるまでの『三十秒』という謎のラグが、妙に引っ掛かって仕方ない訳なんだ。
…もしかしたら、そのラグは調理時間。つまり、バックヤードには調理人がいるのではないのか……? ってさ。


「………ハンバーガーありがとう。………じゃあ私、もう行くから……」

「…え?! いやちょっと待ってくれよ野咲くん!!!」

「………………ごめん。………私、時間がもう──…、」

「そ、それは分かってるさ!! ただ君はまだ食後間もない! 焦らずともまだまだ時間はあると思うけどね……?!」

「………何? ……………私、池川君とは…もう──…、」


「気にならないかい? 君も、…バックヤードではどうなってるのかをさ…」

「………え?」



 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピ……

 ──『モ●バーガー 単品x10 3300円』



「……えっ?!」

「見てみようじゃないか…! 未知なる世界を!!」



だから、僕はボタンを連打した。

…僕の見立て通り、さっきまでは気付かなかったけども、奥のバックヤードからはジュゥ…と調理開始の音が聞こえ出す。

……調理工程の真実なんて、ぶっちゃけどうでも良いんだけどね。
本当にクソほど興味なんかなかったよ。
ただ、未だ警戒心が解けてないとはいえ、ハンバーガーの魔法のお陰で、閣下とは距離感を縮められつつある。
閣下はこの不思議な現象に興味をいだいているのさ。

ならば、この機会を逃してたまるかってね。

714『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:25 ID:cFeuEibI0
「さぁ行くよ! 野咲くん」

「え、ちょっと……。…あっ!!」


彼女の手を引っ張って、僕は銀色のドア《バックヤード先》へ走っていったよ。





 タ、タ、タ、タ、────バタン。



「…はぅあ!!!?」


 世にも不思議なモスバーガーの秘密。
企業秘密とも言えるその裏側の世界を目にした時、僕はもう目眩がしそうだったね。


「……────あっ」

「な、なんだ…これは………?!」


無人の調理台。無気配の冷蔵庫。そして無傷、欠陥一つない真っ平らの鉄板。
人知れずして加熱し続けるその鉄板上に、突如として、またしても『無』から生のパティが続々出現《浮宙》していく。
そいつらは注文通り十枚、宙に並んだ瞬間、パーン…と鉄板へ落ちていき……。
アッツアツの鉄板で、肉汁滴らせながらソイツらは焼けていった。
…その傍らでは、まな板上にてまたしても無からバンズやトマトが生成され、肉が焼けるのを今か今かとウキウキで待っていたんだ。

不意に、風に飛ばされたかのようにパタパタパタパタパターンっ、とひっくり返るパティ達。
よく見れば焼き加減も均一で正確だ。

無人調理の究極系が、そこにはあったんだよ………。


「いやなんか気持ち悪…!! な、何だこれは……。一体どうなってるんだ、これは………」


…『魔法のような』とは言ったけど、これもう完全に魔法そのものだったね。
じゃないと、何の気配もなくして黙々とスライスされていくトマトの説明がつかなかったよ。
あまりの光景に、マジマジと鉄板の近くまで覗き込んでもそのタネや仕掛けが見当たらない。
僕に許された行動は、鉄板の熱気に怯んで顔を戻すくらいさ。…本当にわけがわからなかったよ……。

…まぁ別にこれとて、大層な興味や好奇心が抱かれたというわけでもないけどね。
この謎解明については、どっかのバカな名探偵気取りにお任せするよ。

ただ、僕自身は一切興味を惹かれなかったにしろ、閣下はまた別。
年頃の女の子らしく、気になることには何でも首を突っ込んじゃうであろう野咲閣下さ。
彼女に合わせ、好奇心あるフリをしながら、僕は彼女の方へと顔を向けた。


 ジュウゥゥゥゥゥ……


「…す、すごいね。……これは一体何が起こってるんだ……──」

「──ねえ、野咲くん!!」





 ジュウゥゥゥゥゥ…………

  バチバチバチ……





「……野咲くん………………?」

715『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:40 ID:cFeuEibI0
 ……しかしどういったわけか、野咲閣下からの反応は無かった。
本当に無だよ。無。この目を疑う光景を前にして、彼女の返答は沈黙すらもない、完全なる無の表情だった。
…僕もねぇ、虚を突かれたって感じかなあ。
予想打にしなかったね。彼女のリアクションの皆無っぷりはね…。
あまりに無っぷりが酷かったから、思わず僕はそっと声をかけたよ。


「の、野咲くん……。どうしたんだい? …もっと驚かなくちゃ──…、」

「…………………ゃ、……ゃっ…………………」

「へ?」



「…………ちゃん………っ……、っ、と……さ…………。おかぁ…さ……………。ゃ、…………………」


「ふへ??」



 バチバチバチ……

  バチバチバチ……


 ジュウゥゥゥゥゥ…………
  

わけのわからない調理工程を前にして、閣下がボソボソ呟くのは聞き取れない言葉ばかり。
…これは、驚きのあまり声を失ったってことなのかな……? ってね。
僕は超さり気なく、彼女の小さな肩へポンと手を置いたよ。



 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ、バチバチバチ…………





────今思えば、これが命取りだった。

────僕は、物凄く回りくどい『自殺』を、無意識のうちにしてたんだな、って。後悔したな。




「ひっ…!! 嫌ぁああああぁぁああああああぁぁああああぁあああああぁぁぁああああッッ!!!!!!!!!!!」



「え?!」




 彼女が。野咲春花閣下が無表情だった理由。
いいや、無の顔つきなんかじゃない。
彼女は怖かった。トラウマを思い出して心がミキシングされていたんだ。

──肉が焼ける、『火』を見て。


 ジュウゥゥゥゥゥ…………


「離してぇええええッ!!! やめてえええええええええええ!!!!!!!!! お母さぁあああああんッ!!! お父さあああああああああああああああああッ!!!!! 祥ちゃ、祥ちゃぁああああああああぁぁぁぁああああんッ!!!!!!!」


「え? え?! の、野咲くん!!? どうしたんだ、いきなり大声──…、」

「あぁぁぁあああぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁああああああああああぁぁぁあああぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁあああああああああああああああッ!!!!!!!!!」



 そして野咲閣下は、思い出した事だろう。
家族をジュージューにバーベキューされたあの日の事を。
あの時のキツイ肉の臭いも、何もかもすべてを。

──燃やした張本人達の卑しい笑顔も。



 ジュウゥゥゥゥゥ…………


「…嫌だ、もう嫌だ嫌だ嫌ぁああああぁぁぁぁああぁぁあぁああああッッッ!!!!!!!!! いやぁあああああああああああああぁぁぁぁああぁぁあぁああああッッッ!!!!!!!!!」

「ののの、野咲くん?! と、とりあえず深呼吸だ!! しんこ──…、」

「────ィッッッ!!!!!!!」




──そして、僕のことも。

716『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:22:53 ID:cFeuEibI0
僕がスケベ心で肩に手をおいた時。
彼女は狂乱した心の中で、こう思ったんじゃないのか。




“コイツ ハ、”



“私ヲ、”



“焼キ殺ソウト シテイル”




“マタ。今度コソ”





 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ、バチバチバチ…………



…弁明させてくれ。
僕は本当に彼女を殺すつもりなんかない。
尊敬していた。リスペクトさ。
閣下の為なら、ボロ雑巾の様に戦い抜いて、最後には涙ながらのキスをされる…とか、そういう妄想を抱くくらいに愛してたんだ。
これは本当さ。

本当に彼女を守りたかったんだ。…今度こそは。



──だが、そんな熱い想いなんてオロナイン程の役にも立たないくらい、彼女の心は火傷まみれで。

──僕なら彼女を救えるという考え自体が見当違いすぎて。


──というか、彼女の人生を舐めすぎていたんだ。



────僕は。



 ジュウゥウウウウウウウウウウ…………………ッ


「やめて…」



 ジュウゥウウウウウ…………………ッ


「え、安心してくれ!! ここには誰も……──…、」




 バチバチバチバチバチバッッッ──





  ──パンッ




「もうやめてェェぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッッ」



 ザシュッ────

717『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:06 ID:cFeuEibI0
憎悪と狂乱に満ちた表情を浮かべ、閣下は持っていたストローを突き出す。
予想外の行動に、…僕は為すすべがなかった。


「ぎぃいっっ?!!?」


…喉が焼けるようだったよ。熱くて溜まらない……。
喉を抑えた時、ストロー口から面白いくらいに血が脈々と流れていって、……起動を塞ぐ異物感と激しい痛みで、目が大きくかっぴらいた。


「ぎっ…がががぎゃがぁ……あああぁぁぁ……ッ、かががぁかぁ…あいぁぁ……ッ!!!!!!!」


あの時の僕はパニックだった。
細々ながら喉の肉を突き破り、どんどん下へ吸い取られていく血のジュースには、もうどうすればいいのかな、って。
とりあえず出血を抑えるために、ストローの先を自分の口に入れようって、折り曲げようとしたその時。


「がががっ…ぎゃがぁああ…──…、」


「あぁぁぁああアアァァァアアアアアァァァァァアあぁぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁああああああああアアアアアああああッッ!!!!!!!!!」


「ぎびっ?!!!」



僕の頭は鷲掴まれ、
熱々の鉄板へと無理矢理に押し付けられた。


[焼き加減の目安:ウシ 三十秒。ブタ 五十秒]──と書かれた、台のメモが妙に印象的だったよ────。




ジュウゥウウウッッッッッッッッッ────────


「ぃぃぃっ?!!! ぎぃぃぃい゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙い゙い゙ややぁあああああああああああああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙アアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


「嫌嫌嫌嫌嫌嫌ぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁあああああああッッ!!!!!!!」



「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙────────────────────ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 …人間って燃やすと、こんなに臭かったなぁ…って思ったな。
顔面一杯に、あっという間に爛れて、赤黒い肉が脂を撒き散らしながら焼けていく。
目玉は鉄板に張り付いて、唇は溶け消え、歯が灼熱の犠牲と化す。
顔中何もかもが熱くて激痛で、耳からは湯気が出た気がした。
呼吸ももはやままならない。一度吸ったら、流れ込む熱気で気道内すべてがズタズタだ。
脳が激しく暴れ揺れる感覚は、…当たり前だけどこれが初めてだった。


ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────


「ぎびぃいいぃぃいううういいいいいいいいいいいいいのざぎぐぎゃばぁああああああ!!!!!!!!!」

「ぃッ……!!!」


あまりの醜臭からか、閣下は一度僕の頭を持ち上げた。
ギトギトな僕の髪を無理矢理引っ張って、彼女は歯軋りを鳴らす。

718『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:25 ID:cFeuEibI0
この瞬間は比較的安らぎだった。
片目は炭化し、もう一方の片目は餅のようにびよーんと鉄板から伸びる。
力いっぱい引き上げてもなお、鉄板から伸びる赤い顔面肉はチーズを彷彿とさせられた。

筋肉剥き出しで、グッチャグチャになった僕の顔面。
束の間だが、鉄板から離れられたこの瞬間はクーラーで冷え切ったかのような心地よさがあったよ。何故だかね。


まぁ、あくまで『束の間』なんだけども。


「ひゃ、ひゃ…ぁ………ぁ……。ひゃ、びゅ………ば…………」

「嫌ぁあああッッッ!!!!!」


 ドスッ

ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────



「ぎんぎぎぎぎぎぎぎぎぎんぎんぎんぎゃあァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」


再び顔面を押し付けられ、僕はもう叫んだ。
声が掠れるのも気にせずして、誰か参加者に見つかるのも危惧せずして、甲子園のサイレンの如く雄叫びをあげた。
叫ばずにはいられなかったんだ。

手足を虫のようにジタバタさせ、必死で藻掻こうとも、全く動かない頭。
もう死んでもいい、と観念していたのに中々絶えない意識に、灼熱の地獄。
飛び散る汚い油と、膿が腐ったかのような臭い。

──そして、殺意。


「ぁ゙あ゛あ゛あ゛あ゛…!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!!!!!!!!」


ジュウゥウウウウウウウウウウッッッッッッ────────



 ふと、何かに引火したのか。
僕の叫びがボルテージを迎えた折に、


ボンッ────、と。


激しい光と共に鉄板は照らされ、そして大爆発していった。
爆風のまま、吹き飛ぶ閣下の姿。
──もちろん、僕は即死だ。
モス●ーガー店はアクション映画のような大炎上に包まれ、建物の何もかもを四方八方に吹き飛ばしていく。




正義の反対は、また『別の正義』。
アメリカ兵に原爆を落とされたとき、自殺志願者はさぞ大喜びだったたろうね。

時刻は四時。辺りがようやく青みがかってきた頃合い。

渋谷通りにて、僕は爆弾娘に火を付けた。




 ドッガガガガガガッガァァアオバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ────





【池川努@ミスミソウ 死亡確認】
【残り64人】

719『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:36 ID:cFeuEibI0





 え、なに?
『死んでんじゃんお前』、ってかい…?
あぁその通り。
僕はこれにてオサラバ、地獄に逆戻りさ。死にましたがなにか?

ただ、池川死すとも閣下は死せず。
あれだけの大爆発を直に食らっても、野咲春花。彼女は物凄い奇跡的に無傷で済んでいたのさ。


「……うっ…………………うぅ……──」


「──…祥ちゃ………………。うっ……」


…驚きだよねえ。
あ、無傷は言い過ぎかな。
さすがに若干、火傷はしてるけど、なんかところどころ焼けた衣服から見える素肌が……、不謹慎だけどもエロチックに見えたね。
特にニースやスカート破けた太もものとことか。ふふふ………。



「…もう、嫌………。ぁ嫌………ぁ……………はぁ、はぁ…………………」





 爆発の影響で周囲は停電の真っ暗。
明かり一つない、暗い夜道を彼女はヨロヨロ歩いていく。
次なる獲物を探して、ってね。



僕の話はこれにておしまい。
僕の跡を引き継いで『野咲春花物語』に乞うご期待だ。


…ふぅ。
それにしても、…ほんと無駄遣いだったね。生き返り。
蜘蛛の糸を掴んで生き返ったは早々、間抜けな死に方でおじゃんだなんて。血の池地獄の橘らにどやされること間違いないよ、こりゃ……。
まぁ、月のお小遣いを一週間で使い切っちゃう僕らしいっちゃ僕らしいけどさ。

とほほだ、…僕は…。




【1日目/H2/ファイヤー通り/AM.04:18】
【野咲春花@ミスミソウ】
【状態】全身痣、火傷(軽)、精神衰弱(中)
【装備】刃物
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:もう何もかも嫌…。
2:皆殺し…。
3:優勝して家族を生き返らせるッ………。
4:妙ちゃんの思いを無駄にしない。
5:黒髪の格闘女子(大野)に恐怖。

※H2ファイヤー通り一帯は停電しました。

720『焔のはにかみや』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:23:54 ID:cFeuEibI0
………
……


────ばんっ!!


 バサッ…




──え? い、池川くん…、カラスが撃ち落とされたけど…何したの……?!

────あ。…ふふふ!! 大丈夫大丈夫、死んでないから! ほら見なよ。

──…え?


 カァ、カァ


────カラスってのは賢いからさ、バーンと指で撃つジェスチャーすれば倒れたフリをしてくれるんだよ。

────なんにもないこの田舎で編み出した、僕なりの娯楽さ。野咲くん。

──なんだ…。良かった……。


────…ふふふ。

──…? どうしたの?

────…いや。親御さん、まだ迎えに来ないみたいだね。お互い。

──あ、うん。…遅いなぁ、お父さん。

────この豪雪の中、ママの遅さには正直イライラする気持ちはあるけども……。…それでも、僕は遅れてくれて良かったなと思う面もあるよ。

──…え? どういうこと?



────君と、二人きりで放課後残れてるんだからさ。誰もいない教室で。

──…ははは〜。池川くんなにそれー…。

────あっ!! ごめんごめん。今ので僕をヤバい奴だと思ったなら撤回してくれないか?! …別に他意はないんだ、他意は!!

──分かってるよー。気にしないでって。


──…私も、この引っ越し先でさ。良い友達ができて、嬉しいから。

────え? …はは、僕のことかい?

──うん。



 ブォォオオオ………キキッ



────あ、ママだ。

──……良かったね。じゃ、またね!

────…。



────…いや、もう少しそばにいてもいい…かな。

──え? でも……。

────大丈夫。ちょっとだけさ。




────ほんとに、あと少しだけ………………。



……
………




……。
つまらない過去を思い出しちゃったね。

…ふふふ。

721 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:25:14 ID:cFeuEibI0
えー今日で総139レスですか…。
はい、普通にやべぇです。申し訳ありません。

【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①お久しぶりです。『悪魔のいけにえ』が一切文章思いつかなかったため、そのスランプ期間他の話4話分手を付けました。
②本来ならティッシュンを賭けてメムメムが兵藤とティッシュくじをするっていう伏線モリモリの話にする予定でしたが挫折しました。
③んまぁともかく、以上を持ちまして、参加者第二巡達成ですね。くぅつか。
④第三巡は以下の通り。題するなら『在庫処分祭り』です。比較的結構死にます。

01「颯爽と走るトネガワ君」…利根川、三嶋、ヒナ、ネモ、センシ、なじみ、日高、ミコ、カモ、三蔵、相場
02「我が友よ冒険者よ/愛のむきだし」…ライオス、ハルオ、来生、オルル、早坂、うっちー
03「Plan -【A】」…白銀、島田、遠藤、左衛門
04「毎日命がけ──。私の王子様──。」…飯沼、マルシル、ひろし、海老名、マロ、山井
05「いいの、いいの」…うまる、マミ、デデル
06「大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ」…コースケ、マルタ、大野
07「咲けよ、二郎」…小宮山、田宮丸、クロエ
08「人畜無骸」…吉田茉咲、札月キョーコ、土間タイヘイ、ゆり、藤原、マイク
09「男の闘い」…西片、ガイル、サチ、ヨウ
10「人生ゲーム」…高木さん、ひょう太、メムメム、肉蝮
11「らぁめん再遊記 第三話〜生きるということ〜」…アンズ、佐野、芹沢達也


⑤さてさて、クソどうでもいいですが(どうでもよくないか)、最近文章力が枯渇してきました。
⑥というのも、どうあがいても文章が半端なく長くなってしまうのです。↑で言うなら、『わが友よ冒険者よ』と『人生ゲーム』は一ミリも短く要約できる気がしません。
⑦まぁ〜…ね、まぁ私自身もどうにか短くするよう頑張ってはみるのでね。しばらくの間、ジャンクフードドカ食いする感覚で読んで頂ければ幸いです。申し訳ございません。
⑧では、死ななかったらまた来週お会いしましょう。

722 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/02(月) 20:25:29 ID:cFeuEibI0
【お知らせ】
①『支援絵集』のページを開設しました。
②タイトル通りエロ絵ばっかです。エロで読み手を釣ります。
③とはいってもwikiBANが怖ぇんで、あくまでコロコロコミックレベルのエロ。ほんっとにビミョーなエロですが。
④エロ関係なく、個人的に書きたくなった絵も保管しております。どうか見てやってください。

ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/159.html

723『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:19:23 ID:rmwPsVaY0
[登場人物]  [[コースケ]]、[[マリア・マルタ・クウネル・グロソ]]、[[大野晶]]

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724『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:19:59 ID:rmwPsVaY0
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■第66話 『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』■
■                         ■
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………
……


「おっ」


 懸垂を終えての帰り道、オレはふとオシャレな車が目に入った。


「……………」


 白くて四角いフォルム。屋根の上には赤いライトのよーなものが乗っている。
妙にケーキっぽい色合いと、玩具めいた造形。おしゃれで軽薄なモノには、たいていどこか毒がある。
だが、そーゆーものに限って、オレは何故だが惹かれてしまうのだ。


 きょろ、きょろ…

「………」


見渡すかぎり、通りには誰の姿もいない。
渋谷とは名ばかりの、ただの静けさのカタマリ──そんな朝だった。
しんとしたその中で、車だけがぽつんと、まるで拾われるのを待つ子犬のように佇んでいたのである。
オレは再度首を左右にめぐらせ、人の気配を探したが──やはり、誰もいなかった。


 がちゃっ

「……」


オレはゆっくりと車へ近づき、そっとドアに手をかけた。
鍵は、すでに挿さっている。これはもう「乗ってくれ」と言っているものだろう。


 ばたんっ


「…はぁ〜〜〜」


 座席に腰を下ろすと、クッションは硬くもなく柔らかくもなく、ちょうど良い。
灰皿も汚れていないし、メーターの並びも美しかった。
見慣れない記号と針が儀式の祭壇のように整然と並び、まるでスティーヴンソンの筆先で描かれた幻想機関のよーだった。
ハンドルは意外なほど手に馴染み、まるで昔からここに座っていたかのよーな錯覚さえあった。


 がちっ

  ぶぶぶぶ……


 キーをひねる。
車体が震え音が低く唸る。その瞬間、街が少しだけ動いたよーに見えたのは気のせいだったのだろうか。

 なにかを借りて、知らぬ世界を走る。どこへ行くあてもないが、それがいい。
貧乏人にとって「所有」とは縁遠い概念だ。
だからこそ、こうして「他人のもの」に触れることは、一つのぜいたくなのである。
かの正岡子規は『病牀六尺』の中で、狭き畳の上に宇宙を見たというが、
ならばオレもまた、このハンドルの中に、ちいさな銀河を見よーではないか。
びみょーなスリルを感じつつ、オレは下駄履きの足でアクセルペダルを踏み込んだ。

725『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:18 ID:rmwPsVaY0
「よし、行くか」




 ぶろろろろ…

「……」


 渋谷の街をオレは走る。
正確には、オレの意志で動くよーになったこの白い車が、眠りこけた街の中を静かに滑っていた。
信号が何やらチカチカしていたが、特に気に留める必要はないだろう。
交通法には生憎疎いオレであるが、世の中『気にしたら負け』という事柄もあるのだ。


 ぶろろろろ………

 「速いなぁ」


 …速いと言ってみたものだが、スピードは出していない。いや出せなかった。
なにしろこの車の操作はまだ未知の祭事であり、アクセルの踏み具合ひとつにも慎重を要する。
ただ、この前へと進む感覚はたしかにオレを別の世界に運んでいた気がした。


「……………面白いなぁ!」


流れる景色が非常に美しい。
コンビニの看板は、まだ光だけを放って誰のためとも知れぬ営業を続けている。
時折、路肩に並ぶ自転車が、オレの通過に合わせて小さく揺れる。その様子は、まるで「よぉ」と声をかけてくる旧友のよーにも感じた。
横断歩道のゼブラ柄も、誰にも踏まれずに整然とそこにあり、それを見たとき、オレはふと、アフリカのサバンナを駆けるライオンの姿が思い浮かんだ。
誰に咎められることもなく、ただひたすらに風を切って走る──オレはいま、まさに自由を堪能しているのだ。

風景は灰色と白と、ほんのり色づく朝焼けで彩られていて、それがまるで、時代をすべて洗い流した後の世界のよーにも見える。

いったいこの車がどこへ向かっているのか、オレにも正直よくわからない。
だが、目に映るものすべてが清々しく、また少しだけ物悲しく、そして懐かしかった。
その風情を前にしたら、道先を気にすることなどきっと野暮に等しい物だ。
それに、ここは大東京であり、同時に誰の大東京でもない。
ならばオレはこの広大な一人舞台を、風のごとく走りきるまでだ。


 ぶろろろろ………

 「……」



「……。──」


なんとなくハンドルを切ってみると、車体が大きく右へ曲がる。


「──おっ」


 その角を抜けた先に、ちいさな牛丼屋がぽつんと佇んでいた。
「吉」の字が、白い照明にぼんやり浮かび、店内からは蛍光灯の光と、温かい湯気が漏れる。そんな牛丼屋だった。

…ごくりっ。
──もはや、生唾の時点で旨い。

裸の大将といえばオニギリとゆーように、牛丼が何よりも好物なオレである。
一杯三百五十円で腹いっぱい満たせるソイツは、ビンボー人であるオレには少々手の届かない存在なのだが、
それでも食欲には勝てずついつい店に寄ってしまうここ最近だ。

アツアツの牛肉に、じゅわっ…と湯気を発するご飯…。
最初は出されたままの味を堪能し、クライマックスに差し掛かった時には生卵をかけガツガツ飲み込む……。
数十秒後の未来にて、牛丼をハフハフ頬張っている自分を想像すると、もう運転なんて集中できそうにもない。

726『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:33 ID:rmwPsVaY0
「…………」


この松屋という牛丼店はまさしく『虚』。
道なりで走った先に現れた、牛丼という運命に、オレは虚を突かれた思いだった──。



 ────ガシャアアアアンッッ


「………………あ、」



…どうやら突いたのは虚だけではないようだ。
ついた、といっても一応店内には着けたものだが。

──ブレーキペダルを踏み忘れたオレは、あろうことか牛丼屋に車を突っ込んでしまった。


「………参ったな…」



 ガラスが砕け、アルミの扉がひしゃげる音。
朝焼けの中に軽く煙が舞う。
ハンドルにしがみついたまま、オレはこのとき状況を呑み込めずにいた。
やってしまった、という感覚は薄い。あまりにも現実味のない光景だったからだ。

しばらく経って、額に冷たい汗が浮かび、指先がじんと痺れてきた──つまりはようやく頭が現実を直視してきたという、そのとき。
視界の端に、誰かの影が映った。


「あっ」


 ──コツ、コツ、コツ


「………………………………」


足音。
ゆっくりと、それでいて迷いのない歩み。
ふり向いた瞬間、オレは思わず息を飲んだ。

紫のワンピース。膝下までの黒いタイツ。恐らく客の一人だろう。
一見にしてお嬢様とゆー印象を抱く、少女が、無表情のまま歩いてきた。
ただ、無表情といってもその無表情の奥には、熱を孕んだ怒気のよーなものがある。
……オレは運転席で居心地の悪さを感じながら、このメチャクチャになった店内風景をどう考えたらいいのか自問し──…、


「………………………………ッ!!」


 ブゥンッ──────

  バンッ──────



 ………やれやれ、困った困った。
そのお嬢様娘に矢継ぎばや殴り飛ばされ、オレは一瞬にして意識は闇の中。


──虚を突かれ、車を突っ込み、最後は小突かれるという。今日は随分と疲れる一日となりそーだ。




「え?! お、大野ちゃんっ!!!」



………
……


727『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:20:51 ID:rmwPsVaY0




🍴第66話 『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』




 エルサ・ベスコフの絵本に、『もりのこびとたち』という作品があります。
森に暮らすこびと一家が、自然の中で季節をめぐりながら、静かにたのし〜く暮らす──といったお話です。
“冬は白く、春はやわらかく、夏はきらめいて、秋は少しさみしくて──。”
私はその一文が好きで、この絵本を何度も読み直しているのですが、その度に思うこです。
世界は、ほんの少しの優しさと、静けさで回っているのだと……──ってね☆

……だから。
…だからですよっ…!!

なんの前触れもなく目の前の男性に昇龍拳をふるった…………──、

──そんな大野ちゃんに………、


「Carambaっ!!(コラッ!!) なんて酷いことをしてるの大野ちゃん!!! ちょっとそこ座って!!!」

「………………………………!?」


………私は到底黙っていられることができなかったのです……っ!!!


「私だって本当は怒りたくなんかないよ?! でも…………これはもうあんまりだよ…。…どうして……どうして大野ちゃんはすぐ暴力に走るのさ!! 酷すぎるよっ!!!」

「!??? ………………………………〜〜!!」

「えっ、“だって襲撃者だし…”って?……そんなの理由になりませんっ! というかどう見ても事故でしょ!! 事故!!!」

「………………………………っ!!!」

「“今殺し合い中ですが…”って!? …………いい? 大野ちゃん。もうやってしまった事に関しては私も責めるつもりはないよ。でもっ!! 言い訳をして自分を正当化することは感化できないからねっ!!!!」

「………………………………〜っ!?!?」

「うーん、もう言い訳禁止!! お天道様は見てますから!!! ほんの少しでいいから、自分がやったことの重さを考えてね!!! いい?」


「………………………………〜」



 ……まったくもう!!

………いや、ちょっと待て〜?
大野ちゃんも大野ちゃんですが、私も私で少し怒りすぎました…かね?
……うーん。自分のイライラっぷらに少し反省が必要かもしれません………。トホホ…。


「……あ、大野ちゃん…。あんまり落ち込まなくても…いいですからね?? …私も少し怒り過ぎましたから〜……」

「………………………………(………」


……この時の大野ちゃんの顔は、なんとも言えない複雑そうな面持ちでした……。
これは…私と大野ちゃん。二人揃って心のモヤモヤを共有してる〜…って、そんな感じなのでしょうね……。

…はい………。
私もイライラしていたと言いますか……、ちょっと事情があって、今、心の天気は晴れ模様じゃなかったんですよ〜〜……。
というのもついさっきの事です…。
その時私たちは、『野咲閣下(?)ちゃん』という女の子を保護して、三人一緒に歩いていました。
……あ、歩いてはいませんね、野咲ちゃんは。…気絶した野咲ちゃんを背負って私達は歩を進めていた感じになります。
…どうやらその野咲ちゃん。彼女の口から事情は聞けてないので憶測ですが、【襲撃者】にならざるを得ないバックボーンがあったようで、私たちが彼女に出会ったのもそれが『理由』でした。
──あー、あと野咲ちゃんが気絶しているのも大野ちゃんによる力が理由となっています…。

恐らく大野ちゃんと同い年くらいで、襲撃者とはいえまだまだ子どもな野咲ちゃん……。
幼いながら殺人者の道を選んだ彼女を、どうにか諭さなくちゃならない……。絶対見捨てちゃだめだ……って、私は思いましてね。
大野ちゃんからは反対の声が激しかったものの、私はその時野咲ちゃんを背負い続けていたのですが……。


ボウガンを構える小太りの少年に、あろうことか彼女を掻っ攫われてしまい……………。


………野咲ちゃんへの心配と、武器に臆した自分の情けなさ、そして…、


 ぐぅ〜〜…

「……あ、そういえば牛丼まだ食べてなかったですね〜……。大野ちゃん、腹の虫が失礼失礼〜〜…」



……空腹で。

728『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:09 ID:rmwPsVaY0
私はもやもやに包まれながら、吉野屋に馳せ参じた現在に至ります。


「はぁ〜〜〜……」


野咲ちゃん、…大丈夫かな………。
あの少年、ちゃんと野咲ちゃんの面倒を見てくれているのかな…。ヘンなコトはしてない…よね………?
そして、何より私自身も、…大野ちゃんとどう接するのが正解なのかな………。

……分かりやすくほっぺを膨らます大野ちゃんを横に、私は自問自答の波に飲み込まれ続けていました…。



と、そのときです。


「……ん?」

「……………………………!!」


何かが視界の端でゴソッと動いた気がしたのです。
…え? なんだろう〜〜…?? って、私はちらっとをカウンター席を見ました。
店内には私と大野ちゃん、そして気絶中のうっかり事故さんの三人しか現状いない筈。
車が突っ込んで以降、人の気配はなかったので、「なんだろ…??」と疑問符で一杯だったのですが………、

視界に入る彼を認識した途端、ありゃビックリ!!


 がつがつ……

「…………」


大野ちゃんに殴られてグッタリだった筈の男の人が…いつのまにやら。
なんと、何事もなかったかのように牛丼を食べていたのです…!!!


「……………………………!」

「ええっ!? 食べてる!!? だ、大丈夫なんですか?!!」


「あ、ども(がつがつ…」


 もう、ビックリおったまげですよ!!!
アンパンのように腫れ上がった頬は、彼からしたら蚊に刺された程度なのでしょうか…?!
彼はお椀の中の肉だけをつまんで、瓶ビールと一緒に流し込んでいたのです……。


「ちょ、ちょっと…!! …“ども”じゃなくて〜…。だ、大丈夫なんですか?!」

「…………」


男の人はなぜだが返事をしませんでした…。
ただ静かに、驚くほど丁寧な手つきで牛丼の肉だけをつまみ、ビールで流し込む……。
まるで料亭の板前が季節の八寸を扱うように、肉一切れ一切れを慎重に選び、慎重に噛んでいたのです…。

…私は大野ちゃんをチラリと見ました。
とりあえず、大野ちゃんパンチが彼にとって大したダメージじゃなく(…ようには見えませんがともかく…)、そこは安堵すべきなのでしょうが〜…。

彼女も心做しかやや引いた様子で、男の人の動きを見つめていました…。


「………………………………っ」

「………うん、ウマいなぁ(じゃっじゃっ、がつがつ…」


…えーと。
と、とにかくこの人、いったい何者なのでしょう……。
…彼の予想外すぎる行動に私も大野ちゃんも立ち尽くすしか選択肢が選べません……。
あ。…とりあえず大野ちゃんの非礼を謝るのが先なのでしょうが、…彼の予想外なマイペースに飲まれて動きを封じられた私たちでした……。

…だけど、うーん、なんなんでしょうか………。この気持ち……。
彼の「はふはふ」と心の底から美味しく食べてる様子を見た時、だんだんとなんだか不思議なもので〜…、
あたたかい気持ちというか、癒されるに似た思いで満たされてきたんです…!
ハハハ〜、ヘンなこと言ってますよね〜〜…。私〜…。

えーと、これはつまりですね〜〜…。


「大野ちゃん!」

「………………………………?」

729『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:24 ID:rmwPsVaY0
「私、この人と、仲良くなれる気がします!」



「…えっ!?………………………………」

「あ、大野ちゃんが喋った!!」

「………………………………」


そう!!
根拠はありませんが、なんだかこの人とものすごく波長が合うような…。
初対面の人にこんなこと言うのもおかしいですけど、彼の人柄が好きになったのです☆ 私!

というわけで、お食事中失礼〜…ではありますが、早速私は彼に話しかけてみることにしました!


「えっと……その、はじめましてっ!」

「もぐもぐ…。どもす」


「私はマルタといいます!マルタ・コルネイロ!ポルトガル出身で、料理と散歩と読書が好きですっ!」


男の人は、じっと私を見ていました。
その目はすこし眠そうで、でもどこかまっすぐな印象でした。
あ、ちょっと目をそらした! 人見知りなのかな…?


「それで……お名前は……?」

「……コースケす。ども」

「おお〜!! コースケさん! prazer em conhecê-lo!!(よろしくお願いしますっ!)」


私はさっそく手を差し出しました。
コースケさんはそれを見つめただけで、握ってくれませんでしたケドもね………。
……まあ、いいです!! そういう人もいますっ☆


「………………………………」


一方で、大野ちゃんといえば腕をだら〜んとさせたまま、じーっと私たちを見ていました。
彼女は何か言いたげな様子でしたが……なんだかイヤな予感がするので触れるのはやめておきます…かね……。
はい、大野ちゃんもまたこういう子です!! 以上☆



「そうだ。車あるよ」

「えっ?」


と、その時その時〜。
コースケさんは、ふと煙が轟々と登る先を指差しました。
ガラスが割れて、煙がうっすら立ちこめたその向こうに――さっき突っ込んできた車がそこにあり〜…。
…良い言い方をすれば、静かに駐車されていました。


「……あれ、コースケさんの……車?」

「いや借りたんだよ」

「誰から…?!」

「………。ボクの車ではないけど、オシャレだよ」

「え、いや………。そもそもアレ救急車ですけど……っ?!」


…お恥ずかしながら、今突っ込んできたのが救急車だということに気づいた次第です〜。


「………」


コースケさんは私の質問に何も答えません。
口にせずとも、その目は「何か問題が?」とでも言いたげでした。
ふと見ると、大野ちゃんもまた、口は開かずとも……。目だけを細めて、「は?」という顔をしています。

…よくよく考えれば色々ツッコミどころ満載な発言をするコースケさんでしたが…、


「ま、いっか!!」

「………………………………!?」

「行くよ!! 大野ちゃん!! …あとでコースケさんに謝るんだよ? いいね!」

「………………………………!?!???」

730『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:37 ID:rmwPsVaY0
……ウフフ☆
この二人の表情が、沈黙のにらめっこみたいで少し面白かったり………と私は思いましたネ。

私は足をパタパタ鳴らしながら、大野ちゃんを引っ張って、救急車のほうへ走り出しました〜☆

731『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:21:54 ID:rmwPsVaY0




 救急車のドアは、思ったよりも軽く開きました。
内部には、消毒液とゴム手袋の匂いがほのかに残っていて〜〜…。
でも、それすらも「ちょっとレアな車内芳香剤♪」みたいに思えてしまいます☆


「わ〜っ、すごい!本物の救急車に乗るのって、初めてです!しかもこうして走れるなんて……なんだか特別感ありますネ!」

「………」


コースケさんは何も言わずに運転席に座り、淡々とハンドルを握りました。
エンジンがゴウン……と低く唸るような音を立てて始動します。
車内のライトがぼんやりと灯り、私の顔を下から照らしました。


「これってちょっと映画みたいだなあま! 異国で出会った三人が、誰も知らない朝の渋谷を走り抜ける〜〜…だな〜んて!──」

「──ね!! 大野ちゃん!!」



 しーん…



「…お、大野ちゃんスルーはいけませんよ〜…?!」

「………………………………」



「ウフフ……☆ でも一緒に来てくれるんですね、大野ちゃん♪ そんなブスーっとした顔してても、ちゃんと来てくれるところが優しいですヨ!」

「………………………………(⁠╯⁠_⁠╰⁠)⁠」


ふふっ♡
態度では表さずとも、彼女もまたコースケさんになにか魅力を感じた者の一人なのでしょう☆


 ぶろろろろ……


 朝焼け前の渋谷。
誰もいない街を、救急車という名の異端な船で駆け抜けます。
わたしたちはまるで、季節の切れ目を旅する“もりのこびとたち”──そのものでした。
このままページをめくるたびに、少しずつ物語が色づいていくワクワク感。
コースケさん、そして私たちも、きっとその途中にいるのでしょう……。

ネっ✩
大野ちゃん♡




「………………………………」


………
……


732『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:22:19 ID:rmwPsVaY0






“鮮血の結末──【Bad End】は、ここから始まった。”









【1日目/H1/渋谷区内・某牛丼チェーン店前→救急車移動中/AM.05:17】
【マリア・マルタ・クウネル・グロソ@くーねるまるた】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】童話本二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:コースケと大野ちゃんと行動!!
2:この旅がいい思い出になりますように!
3:ちょっと変だけどコースケさん、好きかも?✩
4:野咲ちゃんが心配…。

【大野晶@HI SCORE GIRL】
【状態】疲労(軽)、やや不満顔
【装備】なし
【道具】雑誌二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:マルタ“だけ”を守りたい。
2:………………………………。
※大野は出展作品特権でリュウ@スト2の技が使えます。

【コースケ@大東京ビンボー生活マニュアル】
【状態】疲労(中)、軽い眠気、酒気あり
【装備】なし
【道具】割り箸、牛丼弁当並盛持ち帰り
【思考】基本:【静観】
1:救急車を借りて移動を開始。
2:ぐーたらマイペースに過ごす。
※チェンソーメイド(早坂)への警戒は継続中。

733『大東京ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/11(水) 00:26:41 ID:rmwPsVaY0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①この回は、『大東京ビンボー生活マニュアル』と『くーねるまるた』を学習させたChatGPTに書かせたものです。
②いやーAIってすごいですねぇ。僕の文章の癖もちゃんと再現してくれるのですから。
③というわけで、以降全ての回はチャッピー(chatGPT)による執筆となります。
④これを読んで頂けた皆様、書き手の皆様も、ぜひ3000円課金してチャッピーに書かせてみてはいかがでしょうか。おすすめです。

734『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:17 ID:OxoBAsgQ0
[登場人物]  [[利根川幸雄]]、[[三嶋瞳]]/[[根元陽菜]]、[[ヒナ]]、[[日高小春]]、[[長名なじみ]]、[[センシ]]、([[戌亥]])、[[伊井野ミコ]]、[[鴨ノ目武]]、[[鰐戸三蔵]]、[[相場晄]]

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735『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:34 ID:OxoBAsgQ0
「クククっ……………。…バカが……っ!」

「…え? あ、利根川さん何ですか?」


 早朝の渋谷を歩く、<働きマン>二人。
ふと、利根川がスマホを眺めながら口を開いた。
良くも悪くも掴みどころのない上司的存在に、三嶋は内心ハラハラしながらも、反射的に言葉を返す。


「お嬢……、キサマの名前は…確かに三嶋瞳なんだなっ……………?」

「?? 何を今更……」


何を言い出すか予想もつかず、そもそも予想すらしていなかった問いに、三嶋は一瞬だけ言葉を探す。
その隙を縫うように、利根川は語調を変えることなく淡々と続けた。
 

「…いや、いわば同業の好でな……? わしとお嬢は『プランA』のビジネスパートナーだ。……したがってキサマ──『三嶋瞳』について今……軽くググってみたものだが……………。──」

「──なんだぁ…? 『中学時代はバーテンダー、イベントスタッフ、ビール売り子にビル清掃、派遣社員を兼業。そしてアメリカに渡り軍に入隊し、ノウハウを掴む。高校時代は一年で企業。現在は某海外ベンチャーのCEOとして活躍中』……とは…」

「………」


「クスリしながら書いたのかな? このWikipedia編集者は………っ!」

「…それが困ったことに事実は小説よりえなりかずき〜って奴です。だってしょうがないじゃないですかぁ〜〜!!」


目を泳がせ語尾を引き延ばしながら、三嶋は渋々と返答をつむいだ。
彼女のひょうひょうとした答えに、利根川は余計舌を巻く事となる。
それが“事実”だと、困惑しきった顔でなお言い切れる──その神経に、利根川は静かに震えたのだ。
 

「バカかキサマはっ……!! 未成年就労児でもここまで働かんわっ……!!!」

「…私だってそう言われても〜ってわけですし…」

「…いやキサマが貧困家庭ならまだ納得がいくもの……。きっかけはなんだっ!? 何がキサマをそうさせたんだ……!? 何が目的でここまで働くっ!!? 答えろお嬢……っ」

「…な、なにがってぇ〜〜………。…イチローさんや野茂さんは野球、羽生さんは将棋…じゃないですか……」

「あ……っ?」

「…つまりは私は仕事…みたいな? 最初っからそうって訳じゃなかったんですけど、好きなんですよ。──」


「──『働くことが』が」

「……………なっ……。──」

 

「──………とりあえず、来るなよ………?」

「…へ?」


“なにに来るな”と言いたいのか──。
三嶋は一瞬迷い、口を開く。


「…とりあえず利根川さん、倒置法で話すのやめません……? 主語言わないから一々聞くの大変で──…、」

「<ウチ>帝愛にだっ……!! ビジネスがどのような流れになろうが……ウチには絶対近づくな…小娘っ………!!」

「えっ!? そ、それは何故で──…、」

「──…あっ」

736『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:30:56 ID:OxoBAsgQ0
勘の良い三嶋である。
彼女はふと、利根川の言いたい事を先読みさせられた。

なるほど。自分が帝愛に関わろうものなら、利根川の狙うNo.2の座が揺らぎ──水泡。三嶋自身がそこに座ってしまう可能性すらある。
“はは……お互い社会人人生、大変なんだなぁ〜……”──と。三嶋は小さく息を吐いた。

そんな三嶋の隣で、利根川はといえば──口横にて怒りの唾液泡をブクブクと。絶え間なく湧き上がっていた。


「水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡水泡………っ!!」

「……」


………
……


 【死のゲーム】────…っ!

これは…、疑心暗鬼と裏切りの連続が絡み合う…──『バトル・ロワイヤル』にて………。
主催者が自分と瓜二つな男な故に、とんでもない運命に遭うという…………。
帝愛グループNO.2候補のエリートにして、サラリーマン一筋で戦い続けてきた中間管理職………『利根川幸雄』の………。


「──水泡水泡水泡水泡水泡………っ!! 水の…バブルっ……!!! 来るな……絶対に来るなっ……!!! 悪魔めがっ………!!!」

「………はあ」



…いや、どちらかといえば『三嶋瞳』の………っ。
苦悩と葛藤の物語である。




第 (六)(十)(六) 話

ヒナまつりx中間管理録トネガワ

『颯爽と走るトネガワくん』

〜酒と泪と男と女といくらとツインテと小春と幼馴染と戦士と唯一の味方と893と893と、そして……。登場人物定員オーバー・ロックンロールフィーバー〜
………
……




737『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/16(月) 21:33:17 ID:OxoBAsgQ0
分割投下以上です。
以降、今週中に4分割で全て投下します。
書きあがり次第随時wiki編集するので、「早く続きを」という方はwiki本ページからのアクセスをオススメします。

ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/169.html

738『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:38:53 ID:cs1/aZKQ0



 【限定ジャンケン】──………っ。

 それは、希望の船・エスポワールで行われた1対1のゲーム。
手札はグー・チョキ・パー各四枚、持ち点は『星』三つ。
勝てば星を奪い、負ければ失う。十二枚のカードをどう使うか──運否天賦と駆け引きの応酬が、勝敗を分ける。

裏切りが約束された場所では、信頼こそが最も貴重な札となる物。
だからこそ三嶋は、疑う余地すらない『知人』との再会を心の底から願っていた。

この時────。



「ククク…っ!! 『私だから伝えたい ビジネスの極意』…──圧倒的名著………っ!! 次回作はいつぞやかな…? 三嶋大先生よ………っ!!!」

「…ぃっ!!! 黙れいじるなっ!!! …あ、失礼しました……。もうっいじらないでくださいよ〜っ!!!」

「ほう、なになに…? 『情熱を無くして仕事はできない』…とは……っ!! 同感の極み…!! クククっ…!」

「……はァ……っもう〜〜〜っ…!! 言っておきますが超適当に書いた本ですからねコレっ?! こんなの…精神異常者しか読んでませんよ……。──」

「──まったくっ…。…なんなの…もう………」

「クククっ……!!」



 神南の並木道。
まだか弱い日光がビルの谷間から差し込み、カフェのシャッターが音を立てて開き始める、そんな時刻。そんな渋谷の一角にて。
利根川は一冊の書籍を片手に、厭味ったらしくページを繰りながら歩いていた。
──言わずもがな、(バカ)堂下のお陰で今や渋谷中知らぬ者はいない三嶋大先生の著・『私だから伝えたい ビジネスの極意』である。

二人が目指す先は、拡声器を手に『三嶋万歳っ!!!』と叫び回る──そのバカ本人の元。
もはや三嶋にとって、殺し合いよりも利根川の嫌味よりも何よりも、
──余りにも理不尽な狂信者の存在が、最も神経をすり減らす災厄だった。


「利根川さん………、堂下って人、普段からあんな感じなんですか?」

「あ?」


そんな異常崇拝者の素性について、三嶋はふと質問を投げる。


「…大変失礼ながら、アイツのせいで私もう…歩くのさえやっとな位赤っ恥ですよぉ………。なんなんですか、あの人…」

「……。……そうだな……。──」


「──…My Answer────ワシからの答えは、『そうっちゃそう』……っ」

「……はあ」

「そして『そうじゃないっちゃそうじゃない』………だっ…………!」

「え?? はいぃ…?」


Answerはまさかの二段構え。

三嶋は思わず足がガクッとさせられた。
『そうっちゃそう』と『そうじゃないっちゃそうじゃない』──。彼の口にした曖昧な返答には、一体いかなる意図が潜んでいるのか。
噛み合わぬ二つの答えが曖昧な靄を残して空に浮かぶ中、利根川は本を静かに閉じた。



「とどのつまり……確かに堂下の奴は…圧倒的脳筋………っ。ワシとて、目に余る程の…要注意人物……判定:Eだ………っ。──」

「──だがその要注意判定も…あくまで常識の範囲内……っ! 破綻はあれど……まだ……っ…まだ『一般人』の括りに入れていい………。優秀な奴ではあったのだがな…………」


「………」

739『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:10 ID:cs1/aZKQ0
「…これまではワシという操縦者……っ。ワシの制御下にいたから…まだ暴走には至らなかったのか…………。………とにかく……このバトル・ロワイアルが発端であることは…確かっ………。奴が狂い出したのは…………っ」

「…出会ったら責任持ってきっちり操縦し直してくださいね。その壊れたラジコンを……」

「クク………。さっきから聞き流してみれば…キサマも中々のモノじゃないか……毒吐きが………っ!」


三嶋からしたら、文字通りの『毒』を壊れたラジコンにぶち注いでやりたいものなのだが。
テトロドトキシン、トリカブト、ベラドンナetcetc……。古今東西の毒物名が脳内で流れ続けるが、ここで思い出す諺は『バカにつけるクスリはない』。
(別の意味で)毒されていく脳裏に三嶋が苦しむこの最中、──今度は自分が問いを投げる番だと言わんばかりに、利根川がゆるりと口を開いた。


「さて、お嬢よ……。こうしてキサマからの質問を律儀に…答えてやったわけだ。ワシからも当然……っ、一つ良いよな………? 軽い質問を……っ!」

「ほんとに軽くしてくださいね? …どうぞ」

「ああ……っ。それは紛れもない…キサマ自身についての疑問だが──…、」




「あっ」 「あ?」


「えっ?」 「え」


ただ、利根川の問いが発せられることはなかった。
まさに言の葉がこぼれようとしたその瞬間──、通りの向こう、ビル角の影からふいに現れた二人の女子。
次の一音を押し出す前に、『出会い』が言葉を遮ったのである。

ほぼ同時に共鳴した、4つの声──「あっ」と「えっ?」。
空気をピンと張りつめさせる合図代わりの、小さな驚きのハーモニーは、並木道の空気感を固めてくる。


「あ、ヒナちゃん!!」

「…あ………っ??」


ただ、女子二人組のうち──青髪の女子に、三嶋は反射的に声がこぼれた。
特徴的な無表情と、のんびりとした空気感。紛れもない、級友の新田ヒナ──その人だ。
(バトル・ロワイヤル)殺し合いとは、出会いのすべてにまず疑念が差し込む世界下だが、その一瞬──少なくとも三嶋にとっては、張りつめていた神経が緩んだ瞬間だった。


「なんだお嬢…知り合いか…………っ?」

「ええ! …あ〜〜、実家のような安心感ですよ〜……。とりあえず、あの子はヒナちゃん。私のクラスメ──…、」

「ヒナちゃんッ!!! (アイツ)主催者にサイコキネシスだ!!!」

「はぁ〜い」


「……………………………え?」


──その安堵も、『念動力』という風で速攻吹き消される事となるのだが。



「ほいよっと」


 グイッ………

  ぎぎ、ぎぎ…


 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッッ



「ぎいっ……!? ぐががががががぁああああああぁあっ…!!!!!!」

「え…。え、ぇ…、え゙っ!?? ちょ、ちょちょ何?!!」

740『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:27 ID:cs1/aZKQ0
 利根川の悲痛な叫びと三嶋の慌惑の声が、並木道に木霊した。

 刹那、ありえない方向へ向かって捻じ曲げられる利根川の右腕。
それは、誰かの手による直接的な圧力ではない。言うなれば、『目に見えぬ意思により、骨を追い詰めていた』という様な。
目に見えぬ『圧』が、利根川の腕を逆へ逆へと捻り上げていく────。
──説明は不要。サイキック少女・ヒナの『(サイコキネシス)念動力』である。

骨がねじ切れそうな感覚に、本能のまま絶叫を上げる利根川。
突然かつ突飛、突拍子もない先制攻撃に、「あわゎわわわわ」で脳内泡まみれとなる三嶋。
そして、片手を利根川に向けるヒナ。

まるで起き抜けの猫のような顔をする彼女は、実にマイペースに、隣のツインテールへと話しかけた。


「ところでさぁ陽菜〜、あのおじさん誰?」

「いや分からないで攻撃してたわけっ?!! …ほら。『主催者』だよ、アイツ! さっきのバスで、トネガワって主催者がいたでしょ?──」

「──その御本人が今目の前にいるってわけなんだよ…ッ! …何考えてるのか知らないけどさ………」

「ほ〜〜。なるへそなるへそ」


「いや、なるへそじゃないでしょっ?!!!」


 まるでピントの合わない悪夢を、白昼に見せられているかのようだった。
利根川の右腕はどんどんどんどんと捻じ曲がり、悲鳴は風に引き裂かれるように並木道へ響く。
一方で──当の加害者本人は、どこか他人事のような目で、ふわりと掌を掲げているだけ。

「あわわわ、あわわわ……」脳内に吹きこぼれた泡を、ふと味見してしまったのか。
すぐさま、三嶋の脳内は「──まずいっ……」の一言ループに支配されだす。
舌の上に残った苦みは、まるで状況の悪化そのもの。
『誤解』による取り返しのつかない暴走劇で、三嶋の顔からは、わずかな安堵の色もすっかり消え失せていた。


(……マズイマズイマズイっ!!! つまりはこれ…利根川さん腕折られそうになってるんじゃんっ……!──)


(──ヒナちゃんの力で…………!!──)

(────しかも…あらぬ誤解でっ…!!──)



(──…あー。なんか利根川さんの倒置法喋り乗り移っちゃってるし……私ぃ〜………──)



(──……って、そんなことはどうでもいい!! とにかく……は、早く説得しなきゃ〜〜っ……!!!)


三嶋は、喉の奥から突き上げる焦燥のままに、必死で声を張り上げる。
言葉を選ぶ余裕を辛うじて保ちながら、ただひたすらに、誤解をほどこうと、慌てて説得を始めた。


「ち、違うからっ!! この人は主催者じゃないし!!! い、一旦話を聞いてよっ、ねえ!!」

「あ、瞳だ」

「ヒナちぁゃんんんんんん〜っ…!!!!」


三嶋の必死の呼びかけに、ヒナは休日に友達を見つけたかのような無邪気さで答えた。
その声を聞いたツインテ女子──根元陽菜は二人の関係性にピンと反応する。


「え? なに?? ヒナちゃん、あの子と知り合いなの……?」

「うん、三嶋瞳。瞳はわたしのクラスメ〜トで、わたしが授業中寝てたらヨダレ拭いてくれたり、わたしの給食運んでくれたりさ、優しいんだよ」

「…なにその世話係みたいな感じ……。──」

741『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:39:45 ID:cs1/aZKQ0
「──…じゃあさ。…えーと、三嶋さん…でいいんだよね…? …………え、あの?」

「そうですっ、私があの悪名高き三嶋大センセーですっ!!! …そ、それはともかく早く力を止めるよう言ってくれないかな!!? 利根川さんは本当に悪い人じゃないんだってぇ!!!」

「………どこまで事情説明すればいいか分からないけど…、とりあえず後回し! 今ヒナちゃんの…『力』で、そいつを食い止めてるからさ。…三嶋さん、ゆっくりこっちに来て!」

「いやなんでっ!?」

「………なんで、って…。三嶋さんを助けたいからだよ。──」


「──そのトネガワ《主催者》からッ………!!」



「なんかまんじゅう食べたいなあ〜」


 ギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギッッッッ

「ぐいぎぎががががががががががががががぁぁぁぁっっ…!!!!!」



「…………………」


もっとも、今一番助かりたいのは、他でもなく利根川本人なのだが。



「…………誤解」

「え?」 「まんじゅう?」


何かが腑に落ちたような、あるいは底抜けに落ちていくような誤解の渦中で、三嶋はそれでも必死に言葉を尽くした。


「誤解だからそれっ!! い、いいかな…?!」

「………?」 「まんじゅうの話?」


「結論から言うと風評被害なんだって!!! 主催者とこの利根川さんはすごく顔が似てるだけの別人なの!! 中身なんてIQの差が歴然なんだからぁ!!」

「………んん??」 「あんまん」


「そ、そそ、そりゃ信じられないのも無理はないけど……でも、本当に別人なんだからぁっ!!! だからお願い……私を信じてよ!!! その子も…──」

「──そしてヒナちゃんもっ…!! ね……? ねっ…??!」


「………………」 「まんじゅう…」




「…うん、分かった」

「えっ!!」


口を開いたのは、陽菜だった。
ぽつりと漏れた「…うん、分かった」の一言に、胸はほぐれる。
目に見えない緊張が少しほどけ、小さく息つく三嶋。
信じてくれた──その事実が、今はただ嬉しかった。


「ヒナちゃん、あの『三嶋さんモドキ』にもサイコキネシス!! …一応女子だからさ、足動かなくするだけでいいからね」

「まんじゅー」

「はいぃぃいいいっ!!!?? ──って………があっ!!」


 ただ、その安堵も、束の間もいいとこの即オチニコマだったが。
希望の芽を握りしめたその手が、次の瞬間には地雷を踏んでいたようなものだった。
三嶋の両脚は、ふいに地面と一体化したかのようにピクリとも動かない。
柔らかな風すら足元を通り抜ける中、彼女の膝下だけが異様な静寂に閉ざされていた。

742『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:03 ID:cs1/aZKQ0
「……何をどう、分かったつもり…なの…でしょーか…………っ?!」

「正直偽物がどうとか……似てるのがどうとか…。意味分からないし、関係ないよ。それはトネガワも、あなた自身にも」

「いやいやいやいや関係あるからっ!!?」


ちなみにだが、この時すでに三嶋は二人を──、


「でもハッキリと言えることはさ。『人を信じる』ってとてもじゃないけど簡単にはできない事でしょ?──」

「──…現状、私が信頼できる参加者はヒナちゃんだけ。だからさ、ヒナちゃんに結論出させる事にするね」

「まんじゅ………、──…えっ」



(いやソイツなんかに判断委ねるなよなぁぁぁぁああぁぁぁぁぁっ)


──完全にバカを見る目で見下していた。



「ねえ、どう思う? ヒナちゃん。…簡単には結論出さないでね。ヒナちゃんなりにじっくり考えて、あいつらの命運を決めて。…お願い」

「……え…。──」

「──う、うーーん…」


(うーんじゃねぇぇえわっ!! 絶対なんにも考えてないでしょぉおおおっ!!!)


「うーん、うーん…」


三嶋のツッコミは、ズバリその通りだ。
事実、根元からの突飛なフリに、ヒナの思考回路は見事ショート。──心なしか、その耳の穴からは本当に煙が上っているように見えた。


(で、でもワンチャンはある……!! ヒナちゃんだってたまにはマトモになる可能性が…)


それでも三嶋はただ、祈るように両手を胸の前で握りしめ続ける。
頼むから、ボケないで…。
今だけは、せめて一瞬だけでも『まとも』でいて…。
バカの脳みそが、奇跡的な化学反応でマトモな結論に辿り着いてくれることを──、それだけを信じて。


「……う〜〜ん…」

(お願いぃ……ふざけた事を話さないでぇええ………)


淡い希望を胸に灯し、ただ一縷の奇跡を信じて三嶋は祈り続けた。


(お願いいぃいいいぃぃぃぃぃっ)


奇跡の、価値は──────。
この時の三嶋の姿は、まるで自身が最も忌み嫌う堂下さながらの信仰者。

神へ一心の願いを祈り続けていた──。



「とりあえず瞳さ……哀しきモンスターを必死で庇う村娘みたいで…ウケる?(笑)」

「はいっ!! じゃあ攻撃続けて!! ヒナちゃん!!!」




「…………………。──」

(──言っても分からないバカばっか……)

743『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:18 ID:cs1/aZKQ0
《大衆は限りなく愚かだ。》
《大衆の圧倒的多数は、冷静な熟慮でなく、むしろ感情的な感覚で考えや行動を決める。》
《獲得すべき大衆の数が多くなるにつれ、宣伝の純粋の知的程度はますます低く抑えねばならない。≫

 ────アドルフ・ヒトラー・著『我が闘争』より



 ギギギギギギギギギギギギギギギギ……

「…どうせ今出会ったばっかの薄っい関係性の癖に。ちょっと話したぐらいでヒナちゃんと信頼関係あるとか言わないでよ………」



利根川の叫び、そして彼の腕からの嫌な音が途切れなく続く中、三嶋からボソッと毒を漏れ出た。
その毒を吐き出した矢継ぎ早、矛先をヒナへ向け、言葉を放つ。

ヒナと三嶋の付き合いは、中学時代からの長きにわたる物。
根元よりも長く、誰よりも深く──ヒナの本質を理解しきっている三嶋は、攻略の一手をシンプルに差し出す。


言葉を紡ぐその直前、呆れながらの彼女の脳裏には、以下の名文が蘇っていたという──。



《バカとハサミは使いようとは圧倒的愚ことわざ。》
《とどのつまり、バカはハサミよりも扱いに容易いものなのである。》


────利根川幸雄・著『お説教2.0』より




「ヒナちゃーん、あそこにイクラの赤ちゃんがいるよーー」

「え? まじ??」


三嶋が指を伸ばしたその方向に、ヒナはあっさりと首を向けた。


「な?!!」


「がぁあはぁぁぁ………っ!!」

 バタリ…


「大丈夫ですか! 利根川さん!!」


反射的な動作──彼女の注意が逸れた瞬間、指先に集まっていた超常の力がふっとほどける。


「よし、今ですよ利根川さん!!」

「……グっ………。なんだ……っ。なんなんだこれは…一体ぃ〜〜っ……!!!」



「イクラの赤ちゃんどこだろ〜」

「なっ、なな何をしてるのヒナちゃん?!!!」

「え、だって陽菜。イクラベイビーが〜…」

「そもそもイクラの時点で赤ちゃんでしょ?! バカじゃないっ!!??──」


「──って、あっ!!!」


根元が気づいたときには、もう既に遅し。

744『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:40:34 ID:cs1/aZKQ0
三嶋と利根川──二人の背は、疾風のごとく並木道の奥へと向かっていた。
風を裂いて逃げるその背中は、もはや手の届かぬ距離。追う者の焦燥すら置き去りにして、二人は朝の渋谷に溶けていった。


「……あぁ…ッ。も、もうっ!!!」


そんな二人を逃がすまいと、大慌ての根元はポケットから支給武器──ダーツの矢。その一本を握りしめ、腕を振るう。
ビュンッと、鋭く空を裂き、利根川の背中目掛けてホップアップし続ける矢。
ダーツの矢とは、たとえ軽く投げられたとしても時速200kmを超える速度に達しうる、小さく鋭利な凶器である。
しかもその弾道は細く、速く、静かだ。目で捉えるのすら難しい。
ゆえに避けることなど、ほとんど不可能に近かった。



(何が『もうっ』だ…っ!!)



 バンッ──

 

「え…?!」

「なっ……!?」



その矢をいとも容易くエイム。
的確に銃撃し、命中させ、破壊しきった者がいる。
──他でもない。三嶋瞳、彼女本人だ。

即座に振り返り、まるで呼吸するような自然さで銃を構えると、無駄のない動きで一撃放つ。



「お………お嬢………………。キサマ………!? 今………っ」

「ちょ、話しかけないでくださいよ今は………。ほら走ることに集中しましょう!! 利根川さん!!」



007のジェームズ・ボンドさながらのアクションは、根元の動きを、そして利根川の驚顔を完全に静止画化していった。



【1日目/C3/並木道/AM.04:41】
【根元陽菜@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】ダーツx15
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:ヒナちゃんを守る。他の参加者は基本話し合いで解決。
2:田村さんたちが心配。
3:フードの男(肉蝮)に恐怖。
4:主催者逃がしちゃったし………。てかあの三嶋さん何者!?

【ヒナ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:いくらの赤ちゃんを探す。
2:まんじゅう食べたい。
3:よくわかんないけど瞳必死でなんかウケる。(笑)
4:陽菜はやさしい。なんでもおごってくれるから大好き。


………
……




745『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/20(金) 23:41:44 ID:cs1/aZKQ0
続きは明日以降お送りします。

746『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:06 ID:MLDmdjmU0


 【勇者達の道〔ブレイブ・メン・ロード〕】──。
──別名・『鉄骨渡り』────…っ。

 高層ビルの間に架けられた細い鉄骨を、命綱なしで渡らされるという狂気のギャンブル。
落ちれば即・地獄。
己の恐怖心とバランス感覚を天秤に賭けた、人間競馬の極致である。

三嶋と利根川。
二人の身を撫でる風は、果たして希望を運ぶ追い風か、それとも単なる絶望の強風か。
息も絶え絶えな三嶋らが辿り着いた丸井デパート一階にて、乾いた風が吹き抜ける──。


「ハァハァハァ………ぐうっ………………」

「はぁはぁ………、はぁ…………。間一髪でした…ね…………」


「……。……ククク……なるほど………。どうやら…本物のようだな…………、お嬢……………っ」

「はぁはぁ………。な、何が…ですか…………?」

「『──そしてアメリカに渡り軍に入隊し、ノウハウを掴む。』────Wikipedia……っ! [三島瞳-の項より]…出展……っ!!」

「………」

「あれだけ小さな矢を…針の穴を通すかのように撃ち抜いた……キサマの銃コントロール………っ! …流石のワシも、アメリカ仕込の銃扱いには圧倒的感服……。頭が上がらん…。Congratulations……! ──………とどのつまり、三嶋お嬢よ…………」

「はあ」


「…何故、わざわざアメリカ軍に入隊した…?」

「………英会話を習いたかったから…です」

「あ…………? 禅問答かっ! キサマ……!!」



 禅問答かッ――と声を荒げられても、三嶋としては困ったものである。
なにせ、『英会話を習いたかったから』とは誇張抜きの事実。ド真ん中153km/hストレートの事実なのだから。

三年前。まだバーテンダー時代の三嶋はふと「英語くらい話せた方が、カウンターも映えるだろう」と思い立つ。
バーテンダーは英語で注文されても返せなければ話にならない。そう考えた彼女は、迷わず英会話留学を申し込んだ。
わずか二週間の短期、場所はニューヨーク。軽い気持ちの渡米留学のはずだった。
しかし、どこでどんな手違いが起きたのか、彼女が辿り着いたのは米軍訓練基地の本場──フロリダ州。
案内された施設の看板には、『LIVE FIRE TRAINING ZONE!!』の文字。すぐ隣でカモフラージュ姿の大男たちが発砲訓練を続ける。
パスポートを手にうろたえる間もなく、彼女はそのまま基礎体力演習コースに放り込まれたのだった。
結果、二週間後――三嶋は、英会話以前に銃の照準をマスターしてしまったという次第に至る。

ただ、そんな行く先先で酷い目に遭うという三嶋の体質を、利根川は知るはずもなく。
彼女の曖昧な回答を煙に巻く詭弁とでも思ったのか、口角を引きつらせたままゆっくりと息を吐いた。


「……………。──」

「Then let's see what you've got in terms of English conversation skills.」
(ならばキサマの英会話力を……お手並拝見……! いこうじゃないか……)

「え…!?」


饒舌かつ嫌みを含んだネイティブが、利根川の口から飛び出る。
どうやら英会話テストが始まるご様子だった。


「えー…。あーー…。──」


「──Ah? The hell you say, p*g」
(あ? 何だブタ野郎)


「あ………!??」

747『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:23 ID:MLDmdjmU0
「Don’t start babbling in English outta nowhere, a*shole」
(突拍子もなく英語でベラベラしゃべってんじゃねぇよクソッタレ)

「…あぁ…っ!? ──...You—how exactly do you plan to survive this Battle Royale?」
(──…これからこのバトルロワイアル。キサマなりにはどう生き抜くつもりだ?)

「Like I give a sh*t. Whether I live or croak depends on the goddamn scene. But you? You better keep that fat a*s movin' and try not to slow me down, got it, d*ckhole?」
(さぁな。生きるも死ぬもその場の流れ次第だろーよ。ただなァ……てめぇはあたしの足引っ張んなよ? そのでけェブタケツ引きづってなぁあ〜? わかったかこのチン──【不適切なフレーズの為以下翻訳不能】)


「なっ…………。…米軍仕込みすぎるだろ英会話力……っ!! ハートマン軍曹かキサマっ…!!!」

「はーとまん…? すみません、まだ英語が板についてないものでして…」

「その小汚い板を取り外せっ……!!! 大至急っ…!!!」


どうやら英会話テストは、わずか会話二ターンで合否が出たようだ。
米兵隊仕込みの美しいネイティブスピーカーに、利根川の顎はわずかに緩んだまま戻ってこない。さしずめ、口の中で小型爆弾が炸裂したかのような衝撃だったろう。
利根川評して『小汚い板』との、その板裏には、三嶋の意図せずとも星条旗と弾薬と罵詈雑言がみっしり貼り付いていた。


「…あ、あの〜。具体的にどこが英文法おかしいんですか? 私も一生懸命頑張ったつもりなんですけど……上手くいかなくてぇ〜──…、」

「黙れ…! もう既にパーフェクツ・ネイティブだ……!! 違う意味でな……っ?!!! ……ちっ…。さて、お嬢よ…………」

「えぇ…なんでしょうか……」


「…改めて、一つ良いよな………? 軽い質問の件を……っ!」


──誤解なきよう何度でも念を押したい。三嶋は本当に、『意図せずして』酷いスラング交じりの英会話をしているのである。
──彼女にとって、本当に普通な英会話をしているつもりなのだ。

──ただ、そんな(違う意味で)あんまりな英会話力は見なかった事にして。


────再演。
利根川は、先程ヒナ&陽菜に遭遇したせいで遮られてしまった『軽い質問』を、捨て牌をふと切るように投げかける。
タイミングを逃したまま切り損ねていた言葉の断片が、今になって熱を帯び、舌先へとせり上がった。


「……一つ聞くぞ。いいか………?」

「Keep the heavy sh*t limited to that flabby-ass body of yours」
(【不適切なフレーズの為以下翻訳不能】)

「黙れ死ねっ…! ……ともかくキサマ自身についての疑問だ。…何故、キサマはワシを…──…、」




「「…あっ……」」

「あっ」




 ただ、またしても質問は遮られる事となる。
言葉の続きが喉に引っかかったまま、二人の視線が角に張り付く。
壁の向こうから、まるでタイミングを測ったかのように、ふらりと顔を覗かせる金髪ショートの女子生徒。

言うまでもなく、見知らぬ参加者。
そして言うまでもなく、立ち込める『災いの予感』である。

軽い質問から始まり、対面した人物と出会い頭「あっ」がハモるというこのデジャブ。
再演再演再演再演再演再演再演…、再演の連続。──『災炎な再演』――──。
ヒシヒシと火の粉が舞い込む中、金髪娘はその再演の幕を躊躇なく引き上げるのであった────。

748『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:38 ID:MLDmdjmU0
「…な??! …い、いやァァアアアアアアアアア──…、」

「──ふがっ!!??」


「あっ、危っな〜…!!! なにこの一難去ってまた一難!?? …も、もうっ〜〜…またまたまたまたまたまたまたぁああ〜〜〜〜〜〜〜…!!!!」

「………………クソ……っ!! …はぁ……やれやれだ………」


 女子生徒──日高 小春の叫び声が漏れるその寸前。
三嶋は反射的に一歩踏み出し、目の前の少女の口を勢いよく塞ぐ。
先程の対ヒナ戦の経験ゆえ、出会う参加者すべてを信じる権利をとうに停止させられていた利根川タッグだ。先手必勝と、とりあえず日高の動きを封じることに先じた。

三嶋の手のひらに日高の唇が触れる――指先を擽る湿った感触。甘やかな唾液。
暴れる彼女の体を押さえつける三嶋を傍目に、我先にと『再演』の上映中止に動いたのは利根川であった。


「…もが…ッ、もが……も…が……ッ──…、」

「Shut-up…!! 黙れ…ぶち殺すぞ……!! 小娘めが………っ」

「……っ!!」


ビクッ──、と。
利根川の低い唸り声で、日高は肩を小さく震わす。
刃物よりも冷たい視線が頬をかすめ、「……っ」と喉の奥で悲鳴が噛み殺される。
補足として、「……いや、殺しはしないからね? 殺しは……」と囁いた後、三嶋は硬直下を見て取るや言葉を継いだ。

 
「あの……いい、かな…?」

「…………ッ………!」

「…私だってこんな安っぽい脅し気が進まないけどさぁ……。ごめん…大声出さないで…。──」

「──仮に叫んだら……、こうだから!! こうっ!!」

「っ!!!」


三嶋はそう言って、二・三回トントン…と、日高の肩に銃を突きつける。
それは軽い仕草のようでいて、否応なく状況を理解させるには十分だった。


「だから、…お願い。私もそんなのしたくないから〜…、何も見なかったことにして去ってくれる…かな………? ね?」

「…………………」


「…ね……?」


「……………」



 日高からのアンサーは、コクリっ────、と一つ。

三嶋のプチ脅しに、今にも涙が零れそうな潤んだ眼で、日高はそう小さくうなずいた。
その仕草に、三嶋の胸の奥から長い息がこぼれ落ちた。
張りつめていた空気が、氷の表面にひとすじの亀裂が走るように、わずかに緩んでゆくという。
三嶋は安堵の思いのまま、そっと対面の柔らかい唇から手を緩めそうになった。


「……はぁ〜〜………、良かっ──…、」


「フっ……青二才が……っ」

「えっ?」

749『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:42:52 ID:MLDmdjmU0

その横からぬるりと差し込んできたのは――"蛇"こと利根川幸雄。
まるで安堵という名の糸が張られた瞬間──その瞬間の真ん中を躊躇なく断ち切るように。
静かに、だが確実に響く声で彼は再び、三嶋の『甘さ』へ刃を向けた。


「黙って聞いていればお嬢……。貴様はビジネスでは一流なのかもしれんが…、……出とるぞ……っ。──」

「──いざ説得となった際……年相応の甘さが…………っ!!」


「え、え、…利根川さん、な、何が不満と…?」


「良いか……? この小娘のように──こちらへ強い警戒心を抱き……、かつ自らが不利な立場にある者には……完全なる『納得』……っ! 納得を与えねばならないもの…………。ワシらは……っ」

「えぇーと…とどの〜つまり〜〜…?」


三嶋の『とどのつまりイジリ』にコンマ0.005秒だけ眉をひそめたが、利根川は意に介さず結論を突き付ける。


「そう…とどのつまり……Win-Win…──『対価』だ……っ。双方が得をする形を提示する……この小娘にも利益があるような……そんな対価の提示をせねばなるまい………!!──」

「──それをせねば、叫ばれて終わり………っ!! 人は納得を得たとき、初めて従う……それこそが…プロの駆け引きなのだっ……!」

「あーなるほど…。……じゃあ、お手本。お願いしますよ……? てか自分がやりたいんですよね? 説得」

「…ククク……っ!! その言葉を待っていたものよ…………!!」



 利根川が一歩、日高ギリギリまで歩を進める。その足取りはまるで将棋の飛車。直線的で迷いがない。
視線を正面から受け止めた日高の肩が、小さく震えた。


「…………っ…」

「おい……小娘……!!!」

「っッ…!」

「…ワシが……主催者ではない……何度そう訴えたとて……っ、まぁキサマら(馬鹿共)には……理解できまい事……。なぁ? 小娘よ……っ」

「…………」


「──ゆえに…仮にで構わん。“ワシが主催者である”という体《てい》で……話を進めるぞ……っ。体《てい》で……っ!」


「……え?」

「………?」


日高。そして抑える三嶋、と。
彼の言葉にキョトンとする二人を前に。利根川は唐突に右手を上げ、


「…ククク…………。──ドガアァァアンッ!!!」

「……っッ!?」

「わっ!?」


パチンっ────と指を鳴らした。

そう、これもまた『再演』。
あのオープニングセレモニー時の偽主催者の第一声、ならびに首輪起爆の指パッチンが、静まりかけた丸井デパート内を切り裂く──。

──とはいえ、彼はあくまで『偽物』の主催者《トネガワ》。
その指先に宿るはずの死神の契約も実体を伴うことはなく。音だけが虚しく響き渡ったという結果に留まる。

750『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:09 ID:MLDmdjmU0
「……だなーんて。ワシの指パッチン一発で…首と銅がララバイになることは承知の筈だ……。キサマも重々………っ──」

「──ましてや、キサマが叫んで…仲間を呼ぶとなればな………? こちらも渋々強硬せざるを得なくなるもの………。分かるか…っ」

「………っ……………」


利根川の口から漏れた『仲間』という一語に、日高の肩がわずかに反応する。
震え続けていたその身体が、ほんの一瞬だけ別の感情に触れたかのような。
そんな微細なしぐさを、利根川は一切見逃さず――そして間を置かず、声の刃をさらに深く突き立てた。


「ククク…………。小娘、連れがもうできてるようだな………? 参加者の…仲間が……」

「………………」


──こくりっ。


「ほうほう………! …なら尚更丁度いいっ……! ちょうどワシとて調子が悪かったものだからな…指鳴らしの不安定さがっ……。──」

「──ほれ、もってけ…っ! セーラー服娘………!」

「…………っ……?」


「出血大サービス………っ!! 『悪魔的特別支給品』をくれてやる………!! 出会った縁に…特別だ………っ!!」


「……っ!」

「え………?」



 そう言うなり、利根川は背後のデイバッグに手を差し入れる。
ゴソリ…と布が鳴り、気づけば一冊の『書物』がその手の中に。
『出血大サービス』とは、いかなる贈り物か――。全身の血潮が波打つ日高に、差し出されしその本。

何を思ったか、なんとも言えない表情をする三嶋をスルーしつつ、利根川は一切の間を置かずに言葉を継ぐ。
まるで呼吸と同じくらい当然の所作として、説得と支配の『次の一手』を置いていった。


「記憶に新しいものだなっ………。先ほどのバスにて、ワシ…が蘇らせたろう…? 首の離れた…見せしめの…小娘を………っ」

「………」

「…………と、とね…」


「あの信じられぬ光景の原理はこの本………!! 見ろ……二百ページ目の『魂を蘇らせる〜』の記述………。ここを詠唱するだけでどんな肉片もカムバック………!! 何度でも蘇生させれるのだ………っ!──」

「──いわば、魔導書…とやつだな…………っ!!」


「…………っ……………!」


「……いや…、いや……利根…川さぁん……。──」

「(──いやソレ私の本やんけぇええええええ…ええ……ぇぇ…………)」


無論、その魔導書は『私だから伝えたい ビジネスの極意』。
著者である合法ロリ社長の顔写真入り。
帯には『堀江氏絶賛!! 【バカと政治家はこれを読め!! 日本復活の鍵となる本!!】』との詭弁が躍る、魔法の如しビジネス本である。


「そんな本をキサマに…無条件でやるというのだからまさしく悪魔的………! もはや犯罪っ………!!──」

「──…無論…信じるか信じないかはキサマ次第……っ。キサマには自由が保障されておるわけだ…。選択の自由がな……?──」

「────まぁ違う意味で『自由になりたい』というのならっ…今すぐ大声をあげるといい…………っ!! ククク…!!」


「…………………ッ」

 ──ビクッ

751『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:30 ID:MLDmdjmU0
「Are you Alright? ──さぁ…ワシからの縁、受け取ってもらえるかな………? 小娘……っ」


「……。……………」


 視線という矢が四方から突き刺さるなか、日高の前に差し出される蘇生本。
頁の重みより利根川の声の圧が重く、恐怖と奇妙な期待が胸の奥でせめぎ合う。
胸の奥ではまだ怯えがざわめいていたが、それでも信じてみたくなるような熱が、心の奥に滲んでいた。
逃げる余白も、否と告げる勇気も見当たらず、せめてもの意思表示に喉がひとつ震える中、


静かに彼女の身体は応えた。



「……………ッ」

 ──こくり………



「クククっ……!! 圧倒的賢明な判断………っ! キサマの将来が非常に楽しみだよ…。ククク……」



 ────勝利。
──結果的に、完全勝利。

利根川の説得は通るに至った。

それはまるで、タンヤオすら見えないゴミ手で始まった配牌が、ツモるごとに不思議と形を成し────混一。
ドラドラ──、三色同順まで乗って――倍満。
そんな逆転の巡り合わせだった。
ブラフも押し引きも冴えわたった、完璧な一局。
その和了牌を、短い会話の中で利根川という『天才雀士』は完璧に引いたのである。

利根川の見事な和了に、三嶋は祝杯の声をあげざるを得なかった。


「…私の本を勝手にどんどん神格化してきやがるのはさておき………。──」


「──さすが利根川先生!! デメリットを逆手に取って窮地を脱するとは……。さすがですよ!!」

「クク……。トネガワ主催者と呼びなさい…! 今はな…。三嶋よ……。──」

「──しかしキサマも中々酷な女だ…。ほれ…、もう解決したのだから、小娘の口から手を放すんだ………」

「あ、そうでしたね…。ご、ごめんね……! そしてありがとね!!」


「…………──ぷはっ…」



日高の口から、そっと三嶋の手が離れる。
その瞬間、張りつめていた糸が静かにほどけ、利根川と三嶋の胸に、歓喜と安堵がゆるやかに満ちていった。
まるで長い局を制したあとの和了の余韻――。


静かで、

確かな、

そんな勝利の余韻がそこにはあった────。



「まぁお嬢、これはキサマの本にも助けられた賜物だっ………。クククっ……」

「…うーん、それに関してはとりあえずノーコメントで〜…!!」

「…しかしワシも考えものかな……? 『私だから伝えたいビジネス』一冊で秒速億を稼ぐ…激アツビジネスを──…、」



「早く助けてぇえええええエエエエエエエエエエッッ──────!!!!!!!!! なじみちゃァ──────ん!! センシさん──────ッ!! 主催者がいるよぉぉ────────────っっ!!!」

752『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:43:52 ID:MLDmdjmU0
「「なっ」」





 ──ただし、勝利の味は『水』の味。
利根川ら二人の余韻に水を差したのは日高の絶叫。その声の大きさたるや、まるで館内アナウンスさながらの通達だった。
溜まった物を全て吐き出すかのような。日高の血気溢れる絶叫は、デパート内の空気を突き破り、三階の天井までも震わせるほどの凄まじいデシベルで響き渡る。

利根川も三嶋も、一瞬で言葉を奪われ、ただその空虚な余韻の中に立ち尽くすしかなかった。



「むっ。…聞こえたか、なじみ」

「…当然! ボクの耳に入らないのは授業だけだよ!! ……よ〜くは分かんないけど日高っちピンチっぽいし、さぁダッシュだDASHダッシュ──────!! センシィ──────っ!!!!」

「ゆくぞっ!!」



タ、タ、タタタ、タタ、タ………。



「「あっ!??」」


その叫びを合図にしたかのように、奥まった通路からと靴底が床を刻む二つの速足音が近づく。
続いて硬質な金属が引きずられる不協和音が重なり、静寂の廊下へ不気味なリズムを奏で始めた。




 利根川の和了ももはや水の泡。
ツモの直前――日高が放ったのは、麻雀界における禁忌の奥義、『つばめ返し』。
あらかじめ欲しい十四枚を一列に積み上げ、己の手牌と瞬時にすり替えるという、禁断の反則技。

『サムライスピリッツ』──橘右京使いの日高による『ツバメ返し(↙↓↘→+斬り)』は、利根川のプライドをズッタズタにまで切り裂いていった。


──日高の足元にて、魔導書(笑)がゴミのように転がり、風に吹かれて行く…────。



(このクソボケカス女ァ……)

「この…クズがぁあああああああぁあああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」


………
……



【1日目/H1/OIデパート/1F/AM.04:59】
【日高小春@HI SCORE GIRL】
【状態】恐怖(軽)
【装備】橘右京の居合刀@ハイスコアガール(サムライスピリッツ)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:なじみちゃん、センシさんと行動。
2:主催者とその助手(?@三嶋)の顔を認識。
3:矢口くん、大野さんと合流したい。
4:なんか私このパーティでツッコミポジション…?!

【センシ@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】斧、料理セット一式
【道具】鍋、干しスライム@ダンジョン飯
【思考】基本:【対主催】
1:日高を助ける。
2:殺し合いから脱出。主催者を倒す。
3:日高・なじみとパーティを組む。
4:メガネの若者(丑嶋)が心配。

【長名なじみ@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】健康
【装備】レーザー銃@ハイスコアガール(スペースガン)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:日高っち今助けにいくぜえええええ!!!!
2:参加者の幼馴染たちと会う!! 僕はみんなの『幼馴染』だからね
3:…あれ? センシとボクの出番もしかしてこれだけっ?!

753『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/25(水) 20:44:42 ID:MLDmdjmU0
あとは伊井野出てくるパートと相場出てくるパートをパパパっとやっておわり!
続きは明日以降です

754『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:27:27 ID:9Fifyl5Y0
 【Eカード】──…っ!!

 『皇帝』『市民』『奴隷』の三種のカードを用い、勝者と敗者の立場を極限まで強調した心理博打。
皇帝は奴隷に勝ち、奴隷は市民に勝ち、市民は皇帝に勝つ──ただしカード配分は不均衡。
一方は皇帝1枚・市民4枚、もう一方は奴隷1枚・市民4枚。立場の圧倒的差こそが、勝負の本質。

ゲームマスターが負ければ金銭を失い、挑戦者は耳や目といった尊厳そのものを賭ける──それがEカード。
三嶋らが命からがら逃げた先──S●INNS SHIBUYA109《服屋》には今、異様な熱気が満ち溢れている。
まるで焼き土下座の鉄板を眼前に据えられたかのような、息苦しいまでの緊張感が空間を支配していたのだ──。


「………さて…お嬢よ…」

「…うーーん。…そうだな……。…利根川さん、このアロハシャツ着てもらえます?」


 カラフルなアロハシャツ、もじゃもじゃと膨らんだアフロカツラ、そしてつばの広いパナマ帽──。
鮮烈な色と形が交錯する店内を、三嶋の指先は迷いなく渡り歩いていく。
まるで舞台衣装を選ぶ演出家のように、彼女の手は一つひとつの奇抜なアイテムを拾い上げていた。


「あ、はい。…そうだ、とりあえずサングラスも試着してみますか」

「……………『桶狭間の戦い』を知っているか………?」

「え? ……信長の…ですか?」

「…………クク、愚問だったな…。──」

「──今川義元の軍勢三万に対し、信長軍は僅か五千ぽっち…。誰がどう見ても圧倒的負け戦……窮地に立たされるな中………休憩中の今川軍を奇襲し──GIANT KILLING………っ! 織田信長は以降一躍乱世の寵児……っ。歴史の表舞台に駆け上がったのだ………」

「まさに運命を分かつ一戦ってわけですね」

「…信長は立派だ……。『殺すなら殺せ………っ』…その精神で駆け込める…剣槍乱舞する前線に…………っ!」


「──…同じ民族…同じ日本人の筈だ、あの人達と…ワシも………っ」


 利根川はそう言うと、ふっと視線を落とし、静かにうつむいた。

――1560年(永禄3年)。『桶狭間の戦い』。
圧倒的劣勢下の最中、家臣から「すぐ前方で今川軍が油断し、酒を酌み交わしている」との報を受けた織田信長は、この機を逃すまいと即断。
土砂降りの雨の中、わずかな兵を率いて奇襲を仕掛け、瞬く間に今川義元の首を討ち取ったいう──ビジネス戦略としても『ランチェスター戦略』の典型例に語られる痛烈一戦である。
そんな先人・織田信長の偉業を語り、利根川は何を思うか――。
彼の視線は、三嶋──いや、厳密には三嶋の腕にかかっていたアロハシャツやらカツラへと、実に恨めしそうに沈んでいった。


「そんな弱音吐いて…らしくないですよ利根川さん………。じゃ、一旦服脱いで、カツラを被っていただけ──…、」

「信長がするかあっ…?!! 仮に…家臣から『殿、逃げ延びる為にこれを………』と言われても……」

「…え?」

「変なコスプレをして…我が身を偽装しようとは……!!! するわけがない…っ…!!! しないんだよ信長はっ………!!!! …ふざけよって………。──」

「──この…三流スタイリストがぁあああああああっ……!!!」

「え…。えーー………」


 まるで風林火山が如し。
利根川は、三流スタイリスト《三嶋》に着せられた巨大なアフロウィッグ、袈裟のような僧衣を乱暴に脱ぎ捨てる。
「佐藤蛾●郎かッ」「パパ●ヤ鈴木かッ」とでもツッコみたくなる奇抜な装いが、彼の憤りを視覚化するようにぐったりと床に沈んでいく。

無論、このセンスの悪さも甚だしいスタイリングに、三嶋には悪意や悪ふざけの意図は全く無く。
あくまで利根川が『トネガワ《主催者》』として他の参加者に認識されるのを避けるため、彼女なりに考えた末の『変装プラン』なのだ。
その選択がどれほど彼の美学に反し、プライドを逆撫でしたとしても――少なくとも、命を守るという一点においては理にかなっている。


「…お気持ちはお察しします。ですがっ、…もうプライド捨ててくださいよ〜〜…。生身じゃ平穏に過ごせないんですってぇ〜利根川さんはぁ〜〜〜!!!」

「着るかっ…!!! 教示は命より重いっ………!! ワシをリカちゃん《着せ替え人形》扱いするなっ…!」

「もう〜〜〜…」

755『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:27:44 ID:9Fifyl5Y0
──勿論の事、利根川本人にとってソレは納得のいく作戦ではないものだが。


「…ちっ!!──」



毒づく不良人形は、箱からタバコを一本取り出し火を点けた。


「──…………お嬢よ。一つ軽い質問…良い──…、」

「…うぇっ?! あっ!!!!!! ストップストップストップ〜っ!!!! ダメですよそれ以上はっ!!!」

「………あ?」

「考えてくださいよっ!? そのセリフ言う度に参加者《野郎》共と出くわしてるじゃないですか〜!!! もはやフラグ化してますからね!!! だから絶っ対言わないでくださいよっ?!!!」

「…………安心しろっ…。白旗《フラグ》はもう振ったわ…っ! 満足なくらいにな……」

「いや全然返し上手くないですからね?! …あっ。そうだ、利根川さんに旗持たせてみるのもアリかな〜──…、」



「Question──…っ! キサマは何故…ワシが『本物』だとわかった………?」




「え゙っ。…あーあ、とうとう封を切られちゃったしぃ…………軽い質問《死亡フラグ》」

「いいから答えろっ……!!──」


とうとう切って出された死亡フラグに、三嶋は恐る恐る辺りをキョロキョロと。
照明の隙間、服の陰、レジカウンターの向こう――どこかから突然参加者が飛び出してくるのではないか、そんな妄想じみた緊張が背筋を走っていた。
経験則が告げていたのだ。
利根川が『軽い質問』を発した瞬間、この世界はいつだって騒がしくなるのだと。


「──…キサマは何故…他の愚民共とは違い……ワシを信じて、そして行動してくれるという…………? …そればかりが気になって……むず痒くて仕方ないわ…………さっきから……っ」

「…あー、その事ですか…。──」


「──………。…………ええ、簡単な事ですよ」


その簡単な事、とは。
再度入念にキョロキョロと見渡した三嶋は、不穏な気配がないことを確認した後、静かに背中のデイバッグへと手を伸ばす。
幼子同然の小柄な体つきゆえ、三嶋が背中のデイバッグの中身をあさる姿は、まさしく“むず痒いところに手が届かない”。
肩越しに手をねじ込んでは指先が届かず、少し体をよじってはまたも空振り――小さな悪戦苦闘の末、ようやく彼女の手が目的の『ソレ』に触れた。

彼女が取り出したのは一冊。
使い込まれた背表紙が、そのページが何度も開かれてきたことを物語る────『圧倒的名著』。


「読ませて頂きました、愛読書ですっ!!」

「なっ………!?」


────利根川幸雄著・『お説教2.0』。その本であった。


「…ど、読者………………?」

「はいっ。経営者界隈で…一目置かれている幻の存在…──『利根川幸雄』先生っ!! 皆口々に疑問に思ってますよ。そのバイタリティを保持しながら、何故彼は起業しないのか…ってね。利根川さん…!!」

「…読んだのか………っ? それを………」

──ペラペラ、ペラッ

「『信じられない事柄を目にした時まず疑うべきは世界ではない。とどのつまり自分の目と判断力だ。(126頁目参照)』────…ほんと、みんな《参加者達》ダメだなって感じですよ……。利根川さんとアイツの違いなんて、一目瞭然なんですから!」

「……あ?」

756『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:02 ID:9Fifyl5Y0
「あくまで私の洞察によるものですが。利根川さんとトネガワ《あの無能》はこれほどまでに違うんですからね!! ほら!」↓↓


……
………
ttps://img.atwiki.jp/heiseirowa/attach/171/400/%E3%83%88%E3%83%8D%E3%82%AC%E3%83%AF%E3%81%A8%E5%8E%9F%E4%BD%9C%E7%89%88%E5%88%A9%E6%A0%B9%E5%B7%9D%E3%81%AF%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%A0%E3%81%91%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%21.png
………
……


↑↑「この通り内面は勿論、外見にも大きく差があるというのに…。ねぇ〜利根川さん」

「サイゼの間違い探しかっ…!!」

「『成功とは、大きな一歩ではなく、小さな“気づき”の積み重ねである(221頁目あとがきより)』──圧倒的名文です…。ハッとさせられちゃいますよ」

「…まさかとは思うが、いじっとらんよな………!? ワシが散々キサマの奇書を皮肉った……仕返しに…………っ」


三嶋大先生が、正気とは思えぬ信者読者《堂下》に粘着されていた件は、記憶にも新しい事であるが。――まさか、堂下と同様の熱狂的な崇拝者が自分のすぐ隣《三嶋》に潜んでいようとは。
まったくの盲点。唖然と、言葉の喪失。利根川は完全に茫然とさせられる。
ただ、その間もまるで熱は冷めることがないかのように、三嶋は畳みかけるように言葉を紡いだ。


「とどのつまり、成功《生還》の為にはコツコツ細かいところから積み重ねなくちゃダメなんですって!! だから…お願いします。着ましょう? ね…?」

「…キサマァ〜〜………。『とどのつまり』の特許出願でもしようものか………っ」


三嶋はそれで話を上手くまとめたつもりなのか、と。
眼前に差し出されたダサいマジシャンスーツを、利根川は害虫を扱うように手で払いのけた────、


「いいか!? 着ないと言ったら着な──…、」



その時。

ガチャリっ──。




「「あ…」」


「…えっ?」



────『フラグ』から少々遅れて、またも再演。

 カウンター奥、スタッフルームと思しき扉から不意に登場したのは、三嶋とほぼ同じ背丈程の、小柄な少女だった。
店内をかすめた風が、彼女の肩にかかる茶髪のおさげをふわりと揺らす。
赤い結い目《アクセサリー》からこぼれる細い毛先が宙に舞い、やがて静かに落ちるまでの一瞬──、


「…渋谷って、広いようで狭いんですね……。はァ……………」

「…ハァ………。もうワシは…疲れた………っ──」


──利根川と三嶋は、ほぼ同時に諦めのため息をついた。



「──…おい、そこの二つ結い娘……」

「………はい」

「せめて最期にさせろ……一服くらい…………っ。後は煮るなり焼くなり好きにしていいが…………武士の情けを………っ、かけれんものか……おい…」


(武士……。どんだけ武将が好きなのコイツ……)──三嶋が心中で一々毒づく中。
目の前の茶色いおさげの少女は静かに口を開いた。
その声音は風に揺れる髪とは対照的に、凛としていた印象だという。


「……やはり、利根川さんのようですね…」

「……おっ。この子脳みそいっぱい積まってますよ〜利根川さ〜〜ん。さすがですねーー…ハァ………」


「それに、──ミシマコーポレーションCEO。三嶋瞳社長」

「…え?」 「…あ?」


二人は少女の言葉に思わず虚を突かれる。
まっすぐに三嶋を見据え、言葉をひとつひとつ丁寧に紡ぐ少女――その眼差しには、幼さを超えた確かな意志と、揺るがぬ信念が宿る。

757『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:16 ID:9Fifyl5Y0
「…お会いできて光栄です。不肖ながら私、伊井野。読ませていただきました」

「あ…?!」


少女は言い終えると同時にすぐさま──『再演』。
ほんの数分前、三嶋が見せた動きとまったく同じように、背中のデイバッグへともどかしく手を差し入れる。
やや苦戦の末、ようやく引き抜かれたその手には────言うまでもない。『再演』となる一冊の本。


「貴方様の本を。『本物の』利根川幸雄……。利根川先生の御本を……!」



───凛、時として奇跡。

それは、伊井野 ミコという――──初めて、話の通じる参加者に出会った瞬間だった。




………
……


758『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:33 ID:9Fifyl5Y0
「やっと………会えた…………。──」



 感涙──。



「──話の…分かる……参加者………」

「…はい?」



 三嶋の、心からの感涙──。



「ありがとぉ伊井野さん────っっ!!!! もう…ほんっとにすっごく大変だったんだからああぁ〜──…、」

「──ぐへがあっ!!!」



 三嶋の感涙は、拒絶の一撃と共に宙へと弾け飛んでいく────。



「不純同性行為…っ!! 貴方様という御方が…気安く抱きついてこないでくださいっ……!!」

「…え、えぇ……?!! …不純要素……どこ…?!」

「よせお嬢……。自分の身体に触れられるのが嫌という…そういう人間もいるのだ………っ。というか一番不順なのは…圧倒的にワシ………っ!!!」

「え、えーー……。と、とりあえずごめん…ね……? 伊井野さん……」

「……失礼。私も私でつい取り乱してしまって。…三嶋さん、申し訳ありません」


 事情説明・兼・自己紹介タイム割愛。
根元&ヒナ、日高と──これまでまるで話が通じない、信頼の通路すら築けぬ参加者共と出会いを重ねてきた道中。
そんな旅路の果てに、ようやく現れた《理解者》ミコの存在に、三嶋と利根川は心の底から歓喜していた。
それは言葉が通じるというだけで、これほどまでに救われるのかと。──――異国の僻地で日本人旅行者を偶然見かけたかのような、それに似た安堵に二人は酔いしれる。

自分たちの味方が現れたという事もさることながら、利根川がなによりも感心さえられたのは、彼女の経歴。学力。
自己紹介の間にてミコが口にした肩書等に、利根川は顎に手を添え感服する。


「(ククク…。…ほう……。──)」


「(──裁判官の父を持ち…、名門・秀知院学園で風紀委員を務めるという……原理原則主義者、伊井野ミコ………っ。──)」

「(──将来は司法関係の仕事を勤めたいだか……そのナンダカカンダカという夢は心底どうでもいいが……。…だが流石は……秀知院現役生徒なだけあるじゃないか…………!──)」

「(──凡人共とは頭一つかけ離れた…洞察力……っ。力が………!! ……コイツは使える………っ!──)」


「(──さしずめ両腕が揃ったものだな………。右腕には三嶋…、左腕には秀才の卵《伊井野》とやらがっ…!! ククク……っ)」


ミコの圧倒的な肩書き、そして名門校に在学していることをほのめかす、端的で洗練された自己紹介。
その語る姿からにじむ育ちの良さと、場の空気をわきまえた品のある教養。利根川は、その全てを一瞬で見抜いた。
「これほど“使える”参加者は、もう二度と現れまい…」――そう確信した彼の口元に浮かぶは期待の笑み。
『逆境』の予感をまるでミコに見せつけるが如く、利根川はじっとミコに視線を注ぎ続けた。


「…そうだ。三嶋さん、良い機会ですからお伺いしたいのですが…、貴方の著書である『私だから云々』………あれ、全文パクリですよね? はっきり言って」

「……。(どんな風向きになろうが結局そのゴミ本の話に巡るのかよッ……)……え〜と……。それが…なにか…?」

「良いですか? 盗作罪は著作権侵害に当たり、刑事罰の対象となる可能性があります。ただし、著作権侵害は親告罪であるため著作権者が告訴した場合にのみ、公訴を提起できますがね。…見損ないましたよ。何開き直ってるんですか?」

「…私だって、あんなの……。小宮って野郎《編集者》に無理矢理書かされたもんだし〜…」


「おい、話は済んだか……? 小娘共…………っ」


「…お気遣い無く。利根川先生との対話に比べれば塵芥同然の会話ですので」

「……塵芥…。まぁ、事実だけどさぁ………」

759『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:28:50 ID:9Fifyl5Y0
 小宮《編集者》同様、三嶋の愚本(──の話題に──)ピシャっと冷や水をかけた利根川は、今度はミコへと顔を向ける。
彼の目に宿るは、まるで試すかのような光。
問いかける内容は一つ――ミコなりの『解決策』についてだった。


「さて、伊井野よ……。秀才のキサマは…どう考える……?」

「…利根川先生が、今後参加者対策としてどうすべきか……についてですね?」

「ほう! クククっ……! 本当に将来が楽しみな小娘を呼びよって…!!──」


「──…その通り……っ! …かの棚ぼた成り上がり娘は…ワシに変装させて事を済まそうという……圧倒的凡骨な発想しか思いつかぬものだったのだがな………。是非とも……っ、キサマの代案を参考にしたいものだ………!」

「何この毒の飽和状態……。利根川さんもしかして私に見切りつけてませんっ?!」


「…………そうですね……、利根川先生…。──」


一旦はそう答え、ミコはしばし静かに思考の淵へと沈む。
眉間に軽く皺を寄せ、言葉にならぬ答えを探すように――考え、また考え、さらに考え続ける彼女。
だがやがて、まるで諦念と表すかのように、正面へと顔を上げた。


「……申し訳ありません利根川先生。…想像以上の難題ゆえに、今私の口から即席で案を出す事は不可能です」

「………。いや、いい………。ワシとて今ここで…過度な期待はよせておらんかったからな………。あまり責めるな…、自分を……伊井野……っ」


もっとも、『期待などしていない』というのは大嘘。
ミコの返答に落胆を隠せない、利根川の実に分かりやすい表情を見て、三嶋は内心でふっと嘲笑を浮かべる程だったが。

──だが、そこで終わらない点が、利根川が惚れ込んだだけのことはある才媛・ミコであった。


「…ですが、三人集まれば文殊の知恵。…とどのつまり、『五人集まれば』…どうなるものか、です」

「あ…?」 「…!!(出た?! 利根川さん十八番の『とどのつまり』!! やっぱこの子ホンモノ《熱烈な読者》じゃん〜!!)」

「私にも同行者が二人…。確かにいますので、彼らを交えて……自己紹介も兼ねてその解決策を導き出しましょうか。──」


「──私が藤原先輩よりも唯一尊敬するお方……利根川先生…!!」

「…なるほど……っ!! 素晴らしい……。キサマは圧倒的だな……人脈面もっ……!!」


ミコの口から飛び出した、まだ見ぬ協力者の存在。
この状況下にて、たった一人さえ参加者を信頼させ、引き入れることすら中々至難なはずだ。それにもかかわらず、彼女は二人も連れていると言うのだ。
人を見る眼、統率力、そして何より信頼を得る才――。やはりこの少女は只者ではなかった。


「私達もちょうど今この服屋に野暮用がありましてね。奥のスタッフルームに、鴨ノ目さん、そして鰐戸さんが待機してますので、ご同行お願いします」

「…鴨ノ目に鰐戸か………。ククク…………」

「………やりましたね、利根川さん…!!──」


──ヒソヒソ、

「──……。(ここに来て立ったのはまさか『成功フラグ』とは……。やはり偉大な作家は神も見放さないんですよ!! 利根川さん〜〜っ!!)」

「……。(クク……、月面に旗《フラグ》を立てた時…きっと奴等も同じ高揚感だったろう……アポロ13号の宇宙飛行士連中も………っ!)」

「………!(ほんとミコちゃんに会えて良かった〜…。聞きましたか利根川さん、秀知院ですよ!! あの秀知院!! もうベタ惚れしちゃいますよ〜〜…!)」

「………。(クク……! 程々にしておけよお嬢…? 羞恥淫……不純同性行為《百合》も……っ!)」


「…いやその発言はさすがに笑えませんから。」

「……………あ? なんだあっ……? ワシは今何か喋ったかぁ……? あぁあ〜っ??」

「…………。(……………)──」


「──ともかくこれで一安心ですねっ!!」

「圧倒的同感…!! …ぐぅっ……! 思えば…しんどい…苦行の道のりだったものよ………っ」



茨の道の末、ズタボロの身の前に咲いていたのは、聡明な一凛の百合花。──ミコ。
伊井野ミコという名の若き才媛に、確かに薫る戦略性。

利根川は、期待と確信に胸を膨らませ、伊井野のあとを歩んで行くのだった─────。


奥へ、奥へと。スタッフルームの元へ────。

760『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:11 ID:9Fifyl5Y0
────ゾッ………。



「…ぐううっ…!!??」






「え…? 利根川先生、どうなさいましたか…?」





 不意に、正体不明の悪寒が利根川を襲った。
何が原因かは分からないが、それは首にネットリとまとわりつく大蛇のような、嫌な予感。
無論、あくまで『予感』である。何の根拠も気付きも一切ない、なんとなくのその予感。


「……やっぱり……。…ワシは降りる。行くぞ、お嬢《三嶋》………」

「えっ?! な、なんでですか??!! き、気を確かに………」 「………」


 Eカード、パチンコ『沼』、十七歩麻雀、そして社会という名の終わりなき競争──。
利根川幸雄は、これまで幾度となく死線を渡ってきた。
不条理に満ちた勝負の場にあって、ただ勝つのではなく、勝ち抜くということ。それを可能にしてきたのは、決して運ではない。
一手、一秒の『気づき』であった。
絶望の中に差し込む一筋の光を見逃さず、他者が見落とした『違和感』をいち早く察知し、踏み込む勇気と見極める冷静さを併せ持つ──。
それが、利根川という男の本質だった。

その勝者ゆえの独特の嗅覚。勘というわけか。
もはや本能。野生の勘に近い。数々の修羅場を越えてきた者だけが持つ静かなる警鐘が彼を支配していたのだ。


「…利根川先生、疑心暗鬼になる心中はお察しします。ですが、私をどうか信じてください!! 罠…口八丁の方便……そんなのでは決してありません…!! 利根川先生、どうか…──…、」

「予感だっ……!!」

「「え?」」


 利根川は語る。
一見すれば、何の変哲もなく、明るい照明に照らされるスタッフルーム扉。
だがその奥に潜み隠され────どす黒く澱みきった『予感』について、利根川は説明を始めるのであった。


「危険な…危ない雰囲気とは……普段の日常ならば…得……っ。女共はその危ない雰囲気の男に……、ヤバそうな男に惹かれるのだ……心をっ………。──」

「──だがっ………、ワシが今…感じる危険な雰囲気とは…────文字通りの『キケン』ッ……!! 悪い予感しかせんっ……!!」

「………いやそういうのいいですから。バカなこと言ってないでついていきますよ……」

「…危険とはつまり。『私の同行者が信じられない』、と。そう仰るつもりですか?」

「……察しが良いな………っ。勿論…、この件はキサマには一切非はない……。ないがっ…………──」


利根川はこの折、一瞬言葉をつまらせる。
スタッフルームの曇りガラス越しに、ぼんやりと二つの人影が浮かんだ為だ。
言わずもがな、その人影はミコの言う『同行者』なのだろうが、その輪郭を視界の端に捉えた瞬間、利根川の中にあったただの『予感』がそして確信へと変わっていく。

大人の体格の、二つの影。
曇りガラスの向こうで、ゆっくりと輪郭を濃くしながら、静かに、確実に近づいてくる。
『鴨ノ目』、『鰐戸』という、そんな影は──。



「…伊井野、キサマは優秀だ…。ワシが出会った小娘達の中じゃ……文句無くナンバーワンの切れる女………。実に優秀だっ………。──」

「──そんな優秀なキサマに…人生の年長者であるワシから………別れ際、アドバイスをくれてやる………」


「え…?」

761『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:27 ID:9Fifyl5Y0
──ガチャッ…



「ミコ、誰と話してるん──…、」

「さっきからガタガタうるせェぞ伊井──…、」




「「……ぁあ?」」


「え゙」





──姿を現したその瞬間、彼らは視界に捉えた『主催者の男』めがけて、迷いなく一直線に駆け寄った。

──それぞれ手には、重たげな鉄器――まるでバールのような物を握りしめ、鬼気迫る形相を貼りつけたまま。


パっと見で分かる明らかに『アチラの《やべー》世界の人間』な坊主頭の二人。
世にも恐ろしいふたつの恐相を前に、身動きひとつ取れず硬直する三嶋を無理やり引き寄せ、利根川は踵を返す。
別れ際、彼は伊井野ミコ《実に惜しい人材》に向け──『ワンポイントアドバイス』を残し、泣く泣くこの場から疾走していった──。





「友達選びはよく考えろっ……………伊井野…っ!!!」

762『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:29:39 ID:9Fifyl5Y0
【1日目/G7/ビル1階/S●INNS SHIBUYA109店内/AM.05:10】
【伊井野ミコ@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】頭部打撲(軽)、左頬殴打(軽)
【装備】???
【道具】ホイッスル、クロミちゃんの抱き枕、利根川著『お説教2.0』@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:ど、どこに行くんですか!? 利根川先生!!
2:殺し合いの風紀を正す。
3:鴨ノ目さん、鰐戸さんを信頼。
4:法律違反をする参加者を取り締まる。
5:利根川先生を助けたい。
6:カメラの少年(相場)がトラウマ。

【鴨ノ目武@善悪の屑】
【状態】背中火傷(大)、右足火傷(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:目の前の主催者野郎を追いかける。拷問後、即殺害。
2:クズは殺す、一般人は守り抜く。
3:ミコ、三蔵と行動。
4:三蔵は屑と認識しつつも見直している様子。

【鰐戸三蔵@闇金ウシジマくん】
【状態】胴体、顔に微々たる火傷(軽)
【装備】パイプレンチ@ウシジマ
【道具】処した男達の写真@ウシジマ
【思考】基本:【静観】
1:目の前の主催者野郎を追いかける。拷問後、即殺害。
2:伊井野、鴨ノ目を信頼。
3:自分に指図するクズ、生意気なブタ野郎は即拷問。




763『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/06/28(土) 16:30:05 ID:9Fifyl5Y0
タブアシ(続きは多分明日)です

764『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:10 ID:kyzqnuMU0




……
………

「はぁはぁ………。…うっ、ひぐっ……、うぇ……ん……っ」

「………」

『羞恥心〜〜♪ 羞恥心〜〜♪ オレ達は〜〜〜〜♪』



「うっ…もう…な、なんなのぉお……もう………。うぅっ……………」

「………………」

『もういつもどんな時も負けやしないっSAァ〜〜〜〜♪』



 【羞恥心】─────…っ!
それは、2008年に結成されたユニットによる、かつて一世を風靡したデビュー曲。
渋谷の路地裏、公園前にて。
たまたまそこに落ちていた古びたラジオから、その懐かしきメロディが流れ出す──…、



『どんまいどんまいどんまいどんまい〜〜♪ 泣かないで〜〜〜(笑)♪』

「「ぃいッ!!!──」」

「「──煽んなボゲッ!!!!!」」



 ガシャンッ──。
蹴り上げられたラジオは、宙を舞う刹那──『渋谷区の天気、今朝は三十度を越える見込……』とニュースキャスターの声を響かせ、

 バンッ──。
遺言を言い終えることなく、アスファルトに叩きつけられた。


「……死ね…っ!!…………」


 無論、ラジオはこの時すでに死亡している。



 ニュースキャスターの予報通り、突き刺すような陽射しの下の大疾走。
今どき野球部ですら避けるというこの炎天下での走り込みは、利根川と三嶋を汗でぐっしょりと濡らし、ベタついた不快感と特大疲労で包み込む。
“よりによって……夏に…バトロワ開催しやがってぇ…………”────。
──公園の水道水をがぶ飲みしながら、三嶋は天高く眩しい太陽を恨めしく睨んだ。


「…クク……っ!! ケキャっ…! キキキ………」

「……え?」

「分かった……っ! とうとう…気付いてしまった……っ!! キキキ…………っ」


 そんな三嶋の隣でふと響く不気味な笑い声。
三嶋は一瞬、それがラジオからの音声かと錯覚させられた。
というのも、隣から聞こえた笑い声は、まるで機械のような感情皆無の声。完全に狂い切った笑い声だった故に。──まさか隣にいる利根川の声だとは、思いもしなかったのだ。


「…と、利根川さ──」


「──ぁ………………………っ」


恐る恐る横を向いた三嶋は、この時。灼熱下の暑さを相殺するような悪寒に襲われたという。

765『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:29 ID:kyzqnuMU0
 ムシャムシャッ……──

「…ククク……。よくよく考えれば……バトル・ロワイヤルだの…超能力だの…蘇生だの………っ。全てが荒唐無稽……! まるでバラエティ番組……っ!! クズ視聴者共が見る…ドッキリ番組なのだっ………!! なにもかもが…………!!」

「……と、とねが……ぁ……………」

「ククク……!! 見ろ…、お嬢…………っ!!」

「…え?」


 バリバリ、ムシャムシャッ……──

何せ、隣に広がるのは地獄絵図。
かつて『理想の上司』、『圧倒的ビジネスカリスマ』…と日本中の経営者から尊望されていた利根川は、


──正気を欠いた眼を漂わせながら、地面の土や草を次々頬張り、



「バレバレじゃないか…………! 隠しカメラ…………っ!!」



──公園に設置された防犯カメラを、狂気の笑みで指差していた────。




「スタッフ…出てこいい──────っ!! 出てこいぃぃ──────っ…!!! さっさと持ってこんかぁあああ────っ…!!! 『ドッキリでした〜』ボードをっ…!!!──」

「──どうしてくれるっ…!!! ほれ、キサマらのせいで泥まみれじゃないか…っ!! ワシのスーツが………っ!!!──」

「──おいスタッフスタッフスタッフィっ………!!! …山崎かっ…?! 黒崎…キサマもどうせ見てるのだろっ…?!! それとも海老谷…もしやキサマかっ…!?? 出てこいぃいっ…!!!──」


「──出てこいスタッフぅうぅうぅ────────────っ………!!!!!!!」



「…あ、あわ……わわ…………」



 三嶋が利根川をラジオの声かと勘違いするのも無理はなかった。──道端で部品散らすラジオ同様、彼もまた、壊れてしまっていたのだから。

防犯カメラへ向かって一人、狂気じみた怒声を浴びせる中年男。
三嶋が心中(なんで私がこんな目に遭ってるの……? よくよく考えればこれ全部利根川さんに巻き込まれてる形じゃん……)と呟きかけたその矢先の出来事である。
完全に常軌を逸した光を眼に宿し、もはや理性の灯など微塵も感じさせないその中年男は、わんぱく全開に土を食らう。
今目の前に広がる狂い切った現実に、三嶋は言葉という概念すら見失っていた。

──『想定上の最悪』という言葉はあるが、これは『想定外』かつ『最悪』。

三嶋はもはや願わずにはいられなかった。
今すぐにでも、ドッキリ大成功!!の札を掲げた軽薄なスタッフ共がニタニタ飛び出して。


この狂夢を終わらせてくれることを────。




「おいおい…早朝から発狂するなってオッサンさぁー。ラジオの曲聴こえないじゃないかよ…」


「「……え?」」


「…って、ぶっ壊れてるし。…ラジオ」



 ──ただいくら願おうとも、現れてきたのはスタッフではなく『カメラマン《参加者野郎》』。
一眼レフを手にした一人の少年がスタスタとこちらへ歩み寄ってきた。
中性的な美貌を湛えたその顔には、何があったのか痛々しい傷や打撲痕がいくつも走り、右手に巻かれた包帯はグロテスクに濡れ切る。
その白い右手で、彼はカメラの『シャッターボタン』に指を添えていた。



「……ん? …は? …いや、ちょっと待てよ……。──」

「──……オッサンさ、……え、何? …主催者……………??」


「「……」」

766『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:42 ID:kyzqnuMU0

もう、正直。
ここまで来たら怖いものなしである。



「…何でここに………いるんだ……? のんきに…………」


「…………」 「………」



完全に終わりきった表情の三嶋。
そして気がつけば、彼女と同じく諦念の色を顔に宿していた利根川。

──カメラの少年の存在は、利根川の理性を呼び戻す引き金となったというわけか。
少年がカメラのスイッチを『戦闘用』に切り替えた折、利根川は静かに口を開いた。



「……小僧、このお嬢からキサマに一つ………『軽い質問』があるとのことだ………。いいな……?」

「…………なんだよ」



「軽い質問」────。もはや注釈は要らないであろう。
死神を呼び起こす呪文のような一語《死亡フラグ》である。


ふと浮かぶ二つの笑顔。
三嶋と利根川は顔を見合わせ、ほんの一瞬、静かに微笑みを交わし、



「クク……。おいお嬢……忘れるなよなっ…………? ワシの常套句をっ……!」

「え、あ、…あー。分かりました。──『とどのつまり』……そこのキミに一つ質問ね……。──」



本当に軽い質問。
それでいてキレがあり『答え』が分かり切ってる質問《直球130km/h》を、三嶋は少年へ──。
────相場 晄の内角目掛けてゆるやかに投じた。




「──キミは敵か? それとも味方になるか?」

767『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:33:58 ID:kyzqnuMU0



………
……




──もう少し自然な笑顔でお願いしまーす。



 パシャリッ……




ドガァンッ──

 
 ドッガァァァァンッッ──


  ドッガバッガァッァアアアアアアアアンッッッ──


   ドッッッガバッガァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ──



………
……


768『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:16 ID:kyzqnuMU0


 
 ───ドッガガガバギャァァアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ



 背後で爆発音が鳴り響く。それも断続的にボンボンボンドガンドガンっと。
閑静な住宅街に不釣り合いな轟音が全くの間髪を入れずに炸裂する中、利根川と三嶋は振り返ることなく、ただひたすらに逃げ続けていた。


「はぁあぁぁぁぁあぁああああああああああああああああ!!!! もうもうもうもうもうっ、もうううううううううぅうううう〜〜〜〜っ!!!!!!」

「ガキ使年末のラストかぁああああああああっ…!!!!!!」


 爆ぜる爆炎に何度も足をすくわれそうになりながら。
二人はただ夏を、


「はぁあぁぁぁぁあぁぁ……もう〜〜〜〜熱いよきついよしんどいよお〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!! ……あの時ミコちゃん無理矢理にでも連れ出してればこんなことにはならなかったのにぃい〜〜〜〜〜〜!! もうこれどうすりゃ…どうすりゃいいんですか利根川さぁあああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!」

「ハァハァ………。バカがっ……、どうした《堂下》もこうじたもあるかっ………………!!!──」

「──今はただ止まらずっ………馬の様に駆けるのみ………っ!! 本能だ……っ、本能のまま走るのだお嬢っ…………!!」

「……はぁはぁ…。………この緊迫下でも…──…、」


 ───ドッッッガバッガァッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ


「うおっ!? うっさい! 私の言葉遮んなっ!!! せめて空気くらい読んで爆発攻撃してよイカレポンチィイ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!──」

「──はぁあ………はぁはぁ………。…この…緊迫下でも……その倒置法喋りに利根川節を維持するとは………はぁ……さすが先生ですよ……。利根川さんん〜〜………っ。──」

「──私…頭おかしくなって……土とか食べだしたら…止めてくださいねぇ〜………。利根川先生ぇええ〜〜…ん……………」

「ハァハァハァ…ハァハァ……。おあいにく様だっ……三嶋大先生よっ………!」


 灼けるような季節を、


「ハァハァ………。…キサマも食ってみろ…土くらい…………」

「……はぁはぁぁああ………、ところでお味はいかが……で……………?」

「ハァ…ハァ…。……ックク……!! 気になる土の味は…キサマ自身で試すといい………っ!! なまじ『作家』ならば……!」

「………作家なら何事も経験が命…ですかぁ………」

「……ククク…、さすがは三嶋大先生………っ!!」



 ──命がけで駆け抜けた。

 この様子は傍から見れば…。まるで、シンクロ………。
長い長い『利根川逃亡劇』を経て、二人に生まれた一体感……………っ。
利根川ら両名は逃げることに必死で気づかずとも、二人の足並みはこのターン……完全に揃い切っていたのだ………っ────!


無論、利根川らの逃走……。ならびに、これまでの、やれ説得だの…やれWinwinを踏まえたプチ脅しだの…才媛を招き入れるだの……軽い質問だのと…すべては悪あがき………っ!
利根川が主催者にソックリな以上、もうどうすることもできない……。奇跡的に災難を先延ばしにできただけの…虚しいあがきでしかない……………っ。
あがけばあがくほどに、深みにハマっていき………。
奈落の底へとアクマが手招きしている……………。
どっちに転ぶか分からない……悪あがきなのだが………………っ。



 ────それでいて、今が三嶋らのラストチャンス………………。



「楽しめ……っ。むしろこの経験を……楽しむのだっ………!! ワシに関わってしまった以上……キサマはもう開き直るしかないっ……!!」

「……はぁはぁ……(息切れ)…。………ハァ…(ため息)」



 ────あきらめるんじゃない………。変わるのは自分自身……………っ。



「考えてみろ……っ! これだけ悲惨な目に遭ったのであれば………きっと重厚なものになるだろう……………」

「………もうやめにしませんか?──」

769『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:34 ID:kyzqnuMU0
 ────誰も情けなんてかけちゃくれないのだからっ…………。



「──…『本』の話はっ!! …はぁはぁはぁハァアアアア〜〜〜………」

「…そう……っ! キサマの最新著『バトロワ体験記』は………重厚にっ………!! …中々、先読みができるじゃないかお嬢……!!──」



「──先読みのプロである…キサマとは是非とも…詰将棋をしたいもの……っ!!! だから今は…逃げぬくぞっ………!! 生きて帰るぞ………っ!! スリルを楽しめ…! ──」

「──圧倒的文豪…三嶋大先生っ……………はぁはぁ……!!──」

「──ピース…又吉……著………『火花』っ…………!!」



 ──ドッガンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン──────ッッッッッ……!!!!!!!



「クククッ!!! クククッ!!! ククククククッ──────!!!!! 狙うぞ…芥川賞をっ……!!!!」

「あぁあああああああああああああぁぁぁぁああああああああ〜〜っ!! これだから本とか大嫌いなんですよ私はああああああぁ〜〜〜〜〜〜っ!!! もうがぁああああああ〜〜〜〜っ!!!!!!!」



嗚呼…。

あぁ…。

ぁぁぁ………。


………
……




『人間は考える葦である。』
────詩・作家。ブレーズ・パスカルの名言。




 今…負け犬たちの勝負の時が始まる…………。



 今……っ、

 負け犬たちの……勝負の時が………始まる…………っ。

770『颯爽と走るトネガワくん』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:34:52 ID:kyzqnuMU0
【1日目/G7/街/AM.05:30】
【相場晄@ミスミソウ】
【状態】精神衰弱(軽)、顔殴打(右目、右頬腫れ)、右腕開放骨折、左足打撲
【装備】爆殺機能付き一眼レフカメラ、鉄製のハサミ
【道具】写真数枚(小黒妙子の死体写真他)
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象:野咲春花】
1:主催者共を追いかける。んで、殺す。
2:野咲にとにかく会いたい。
3:邪魔する奴は『写真』に納める。
4:絶対に死にたくない。
5:チンピラ共(カモ・ミコ・三蔵)を許さねぇ……。



【利根川幸雄@中間管理録トネガワ】
【状態】疲労(大)、熱中症(軽)、右腕捻挫(軽)
【装備】回転式拳銃
【道具】タバコ
【思考】基本:【対主催】
1:とにかく逃げる………っ!!
2:伊井野にはいつかまた会いたい……。
3:自身指揮の元、『プランA』でゲームを終わらせる。
4:お嬢(三嶋)をお守り。
5:会長が少し気がかり。
6:黒崎っ…。

【三嶋瞳@ヒナまつり】
【状態】疲労(大)、熱中症(軽)、精神衰弱(軽)
【装備】ハンドガン
【道具】『お説教2.0』@トネガワ
【思考】基本:【対主催】
1:仲間を集ってゲームを終わらせる。
2:ミコちゃんがいたらこんなことにはならないのにぃいいい〜〜〜〜!!!
3:利根川さんについていく。
4:新田さんがピンチすぎる……。
5:利根川さんがこの先生き残る方法を模索…。

771 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/01(火) 21:41:19 ID:kyzqnuMU0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①このスレッドが埋まり次第次回から、『【なんJ】ステマ棚漫画バトル・ロワイヤル』に改題します。
②略称はステロワとかですかね。
③大変ご迷惑をおかけしますが、どうかご理解をお願いします。


【次回】
──中日ドラゴンズのレジェンド・山本昌投手の焼き肉の食べ方をご存じだろうか。
──焼いた肉を、生の肉が浸かっていたつけだれにチョンチョンとつけて食べるという、なかなかに胃袋の鍛えられる流儀である。
──本題の元ネタは、まさしくそれ。

──……ところで、あなたは『お茶漬け』。
──スプーンで食べる?それとも箸で食べる?

『山本昌の焼き肉の食べ方、やっぱおかしい?』…田宮丸二郎、クロエ、???(アシストフィギュア)、小宮山琴美
(『目玉焼きの黄身いつ潰す』事前に鬼把握したためエミュ度自信ありの巻)

772『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:22:41 ID:DKOnC83.0
『山本昌の焼き肉の食べ方、おかしい?』

[登場人物]  田宮丸二郎、クロエ、小宮山琴美、伊藤さん

773『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:03 ID:DKOnC83.0
『男には強固で積極的な殺意はなく、計画的な犯行でもない。殺意のグラデーションの中では最も淡い』


 ──死刑執行部屋にて、裁判官から言われた言葉を思い出す。
蝉の声がやけに五月蝿く、対象的に周りの刑務官達は沈黙のまま俺を囲い込む。そんな執行室にて。
俺はただ、ぼんやりと追憶をなぞっていた。


 ハジメさんと……、それに、クロエ…。
正直、殺した数はわずか二人。その上精神異常を理由に、酌量もあるはずだと思っていたのだが。…裁判官の俺を見る目は、氷よりも冷えきっていた。

退廷前、俺は傍聴席の最前列──みふゆと一瞬目が合う。
……彼女はその時どんな顔をしていたのか、か。
…みふゆは静かに笑っていたさ。普段の日常生活と変わらない穏やかな笑顔で。
白木の額縁に収まれて。みふゆの写真はいつまでもいつまでも、笑っていて……。
自殺した愛娘の遺影を抱えた……みふゆの父さんの目を、…俺は一瞬たりとも合わせることなんかできなかった。


 裁判最終判決から、三年が経つ。
渡された遺書の用紙は、一文字すらも綴ることないまま。
木偶人形同然と化した俺を、刑務官二人は実にしんどそうに引っ張り上げ、絞首台へと向かわせに行く。
俺の足取りは重かったが、これは生に執着しているからというわけでは決してない。
生きようとする気力も、死を恐れる感情も、…俺にはもう無かった。



──ただ、


──一つだけ。


──それでもなお最後まで、俺の心に引っかかっていたことがある。


それは、執行室に入った際、最後の晩餐として出された──お茶漬けについて。
………その妙な食事チョイスも気になったものだが、それ以上に俺を惑わせたのは、盆の上に置かれた二つの食器。


『箸』。

そして、『れんげ』についてだ。


 なぁ……。
お茶漬けって…、どっちで食うものなんだ…………?
箸か? れんげか?
何故……、……「どうぞお好きな方で」と言うかの如く…二択を出してきたんだ……………?

俺はずっと、…これまでの人生常に……お茶漬けを箸で食べてきた……。
……理由なんて大したものじゃない…。
ガツガツかき込むように食うという……、それが一番旨いと思うし、それが『普通』だと思っていたからだ……。
…それだというのに………。
お茶漬けという『和食』をスプーンなんかで食べる奴が、いるというのか…………?
…当事者に聞くぞ。いいのか……? 本当に、それが“アリ”だと思っているのか……………?

…それが気になって、気になって……、どうしようもなくて………、


首に縄を掛けられた時……、俺はその『最期の言葉』を迷う事なく口について出た…………────…。



「ぉ、お茶漬けって……箸で食べるのが……普通で──…グフガッ────」



………………
……………
…………




“…い、ろー……。”


“…おい、二郎……。”


“…きろ……二郎……っ!!”

………
……


774『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:22 ID:DKOnC83.0




「起きろ、二郎っ!!」

「はっ!! …………………え?」


ひたすらに青い空に、白く膨らむ入道雲。
湿った風に混じった耳を撫でるミンミンゼミの声に。
場違いなほど鮮烈なモジャモジャアフロヘアー……。


「……とりあえず、おはよう!」

「お、おはよう……。──」

「──近藤さん」


近藤さんの声で、俺は目を覚ます。


「……おいおい。そっちは『ございます』だろ」

「あっ、あぁ……ございます、近藤さん……」

「まったく。呑気に眠りこけやがって……お前、疲れてるのか? とにかくもうすぐ出番だ。早く準備しろ」

「は、はい……!」


 アフロヘアとサングラスがトレードマークの、近藤雄三……。近藤さん。
俺の上司であり、初代どくフラワーの中の人。現場ではカリスマ的な存在だ。
いつも何かに悩み迷っている俺のよき相談相手であり、こんな俺のことを常に気にかけている…。
イチローにとっての仰木さん。錦織圭にとっての松岡修造。──近藤さんは、そういう存在だ。

……やれやれ。
それにしても、なんてとんでもない夢を見てしまったんだろう……俺は。
背中にはじっとりと寝汗。額にもまだ汗の名残があるから気持ち悪いったらありゃしない……。
休憩中、ほんの軽い仮眠のつもりで眠ってみたら、夢内容はとんでもない内容……。

ハハハ…。なんだろうな。
せっかくだし近藤さんに夢の話をしてみるか。
ちょっとした雑談のつもりでこの奇妙な夢の話を持ちかければ、さすがの近藤さんだって、驚く顔のひとつやふたつ見せてくれるに違いないだろう……。


「………近藤さん、僕…うなされてたりしてませんでした?」

「ん? …まぁ、随分と寝苦しそうな表情はしていたけどな。どうした? そんなに見た夢の話でもしたいのか?」

「ははは。変な夢見ちゃったんですよ。…気が付いたらバスの中にいて、たくさん乗客がいて、……それでバスガイドが現れたかと思ったら…何言いだしたと思います?」

「『右手をご覧くださいませ』とかだろ?」


この時思わず、俺の視線は自分の右手へと吸い寄せられていた。


「…いやいや。そんなんじゃ普通の夢じゃないですかー。…違うんですよ。『これから皆様に殺し合いをしてもらいます』って…そう言われたんです」

「…………!」

「驚きですよね…? 僕ももう、声なんか失っちゃいましたよ。…それでまた気が付いたら、殺し合いの会場にいて……。──」

「──そこで、ハジメとクロエという…同じく参加者の女性に会ったのですが、……あっ、言っておきますが僕殺し合いなんか乗る気じゃなかったですよ? 当然ですがね。…ただ。──」

「──その女性の食べ方を見て…僕はもう…取り返しのつかな──…、」


「おっとSTOP! それ以上は言うな二郎」

「…………え?」


近藤さんはそう言ってシーの指のジェスチャーを差し出した。
…シーと、『静かにしろ、シー』の。
あの人差し指だけを出すジェスチャーだ。


「これより先を聞いたら、多分俺…お前を殺す」

775『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:42 ID:DKOnC83.0
「え…………?」

「Kill Jiroだよ。オ・キル・ジロー!」

「……ぇ……?」


…『死ーー』のジェスチャーを決めたまま、脅迫罪スレスレの口ぶりで近藤さんはそう言った。
……何を言っているんだ? 近藤さんは……。もし俺が精神的に不安定な人間だったら、通報されてもおかしくないレベルの物騒発言なのだが………。
…まあ、とにかくこれ以上喋るなと言われたものだ。
俺も着ぐるみをkill<着る>準備をしなくちゃな……──……、


「待て二郎。…多分だがな、お前は重大な勘違いを二つしているぞ」

「………え? あ、すみません…。“十大・勘違い”ってことなのか、“二つ勘違いしてる”って意味なのか、どっちの話で──…、」


「一つ目、まず俺は近藤雄三じゃない」


「……え?」
(『え?』counter 5回目)



…え?
(『え?』counter 6回目)



「『クローン』だよ」

「く……クーロン?」

「はは、それじゃあプレステの怪作になるが、ゲームの話はまた今度の機会だ。──」

「──俺は近藤雄三の『クローン』だよ。──」


…えぇ??
(『え?』counter 7回目)


「──そして二つ目なんだがな……。殺し合いは『夢』じゃない」

「……え?」
(『え?』counter 8回目)


…え?(『え?』counter 9回目)




「つまるところ…まぁ簡潔にいったらだな。──見ろ」

「……ゑ?」
(『ゑ?』計測装置 八回目)



…近藤さんにうながされるまま、俺はゆっくりと後ろを振り返る。
そこには……………、



「……誰がお主に殺されたというのだ、オロカモノ──」

「──お主がやっていることは、現実逃避。自分の過ちから、贖罪から、目を背け続ける卑怯者だ。──」「──『夢』というものは本来、目標として掲げ、人が努力の糧とするもの。逃げ道に使うべきものではない。──」

「──……まったくッ…。木枯し紋次郎に憧れた私が……お主なんかに殺されてたまるものか……!! 夢見がちなオロカモノよ……」



「…A?」
(『A?』→すなわち『え?』。counter 10回目)



……俺は全身の血が逆流するかのような感覚に襲われた…。

振り返った先に立っていた彼女。
顔じゅうに殴られた痕がくっきりと残り、それでもまっすぐにこちらを睨む鋭い目。
金髪が朝の光を反射し、富士山のような口元がわずかに歪んでいる。

……クロエ……。
『夢』で俺が殺した……、
…あの…………『参加者』の女性が立っていた…………。


「……フフッ、二郎。すなわちな…」

「え?」
(『え?』counter 11回目)



「俺は、クロエに召喚された『フィギュアファイター』だ!」

776『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:23:57 ID:DKOnC83.0
その言葉の意味は、一瞬で理解できなかった。
いや、理解できなかったというより……俺の脳がそれを理解するのを拒んだのかもしれない。



──…多分、この時の俺は、塗られていない塗り絵のように真っ白になっていたと思う。

777『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:24:40 ID:DKOnC83.0
「……夢なのに」

「…ん?」


「夢じゃなかった……。夢だけど…夢じゃ…なかった…」

「……そうだな…。夏だし、俺も久々にみたくなってきたよ…。──」



「──…となりのトトロ」




限りなく広がる空は、まるで少年の頃に見上げた夏の午後のように。

ただひたすらに青かった────………。



………………
……………
…………
以上、田宮丸二郎『え?』記録11回。世界記録は276回。)
………
……


778『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:24:56 ID:DKOnC83.0



【アシストフィギュア No.11】
【近藤雄三@目玉焼きの黄身 いつ潰す? 召喚確認】
【概要】
→二郎の仕事先「フラワー企画」のイベントチームリーダー。
 風貌は細目の身体つきで大きめの黒い眼鏡を掛けたアフロヘア。
 いつも何かに悩み迷っている二郎のよき相談相手であり、常に彼のことを気にかけているが、二郎の行動にあまりにも問題がある時には鉄拳制裁をくらわすこともある。優しくも厳しい上司。


………
……


バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ────

 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ──、ガンッ────



「あああぁぁぁぁあああああぁぁああぁぁああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああ──────────────っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「な、なにをしているっ?! オロカモノ!!?」



 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ────、ガンッ────────


 …修行僧は心を無にするため毎朝木を打ち続ける…だかなんだかって話を聞いたことがある。
俺は今、無心でひたすらに近くにあった木に頭を打ち続けた。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!! あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「何の真似だ?! …いきなり?! オロカモノ!!」

「………あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ………!!!」



 バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ──


……皮膚が削れ、血が滲み、頭蓋の奥にじかに響くような鈍痛が走っても、俺はなお何度でも何度でも木に額を打ちつけた。
皮膚の痛みなど、とうに感覚の外に置き去りだった。ただ脳の奥底で、鈍い悲鳴が反響しているだけ。もう容赦のないバイオレンスの連続さ。
流石にドン引きしたクロエが腕を掴んで止めようとするが、俺は動きを止まることを知らず。

理性も羞恥もどこかへ飛び、ただひたすらに自傷を繰り返していた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「何の真似だと言っているだろう!!! ジロ殿っ!! ジロ殿!!!!」

「…ぁぁぁぁああああああああああああああ…………。ぃいいっ………!!──」


「──………、巨人の星の………真似っ………」

「はぁ?!」



 バンッ……。

…『巨人の星』の主人公、星飛雄馬。
彼が生涯でただ一人愛した女性──日高美奈が病に倒れ、帰らぬ人となったとき。
飛雄馬は深い悲しみのあまり、心を失い、目の前の木に己の頭を何度も打ちつけたという。
……そんな、魂の慟哭を描いた一場面がある。


「とにかくやめろ!! やめろ…やめろと申しておるだろジロ殿っ!!!!!!」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

779『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:12 ID:DKOnC83.0
……俺の幼少期に、多大な影響を与えた漫画──『巨人の星』。
未読の人には、ぜひとも読んでほしい名作だ。
梶原一騎の計算し尽くされたストーリー構成に、巻を重ねるごとに迫力が増してゆく川崎のぼるの作画。
自分の棺桶に入れてほしいくらい、俺にとって大切な作品だ……。


だから俺は今すぐ死ぬ為に、こうした自殺行為を続けて………、



バンッバンッ──、バンッバンッバンッ──、バンッ────

 ガンッガンッ──、ガンッガンッガンッ──、ガンッ────

「ああああああああああああああああああああああああああああああ──…、」


──ぶーん

「──あっ。…………………」


頭を打ちつけていた木のちょうど一点に、変な虫が止まった時………俺は頭を打つのをやめた。




「………………はぁ…………はぁはぁ…………」


全身から力がすうっと抜け落ち、膝から崩れ落ちる……俺…………。
頭の奥でくぐもった痛みだけが鼓動と重なり、静かに鳴り続けていた。


 ドクンッ…バクン……ドクン…………────






「………近藤殿。失礼ながら、こやつはいつもこういう有様なのか……?」

「いや……。…まぁ確かに二郎は、食が絡むとすぐ感情的になって、しばしば人と衝突していたよ。…でも、それでも二郎は人の話に耳を傾け理解しようとしてきた。これまで、ちゃんと自分の中に取り込んで……成長する…進化を続けてきた男だったんだがな………」


「はぁ………………はぁ…………………」



「……ここにきて何で急激に退化した……?」

「……………………………………はぁ……」



………正直今、めちゃくちゃバファリンと絆創膏が欲しかった。
──………それくらいの痛みで、俺は心身ともにズタボロだった………。


 朝の歌舞伎町。
ゴミが道に散らばり、あちこちに空き缶やタバコの吸い殻が転がる。足元ではカラスがぬるく乾いた『地面上のもんじゃ』をついばみ、どこかやる気のない鳴き声をあげる。
…そんな美しい景観の、町の片隅にて。
左から…クロエ。
右に俺……。
そしてクローン藤雄三さんがその間に挟まって座り……。並んだ三人の影が、夏らしく実に長く地面に伸びていた。


 …俺は、………俺…は……仕事前の『朝の匂い』が好きだった……。
カリカリとベーコンと目玉焼きが焼ける音で目を覚まし…、顔を洗うころにはホカホカのご飯の香りが鼻をくすぐる……。
リビングに行けば、みふゆが笑顔で待っていて、しょうもない会話を交わしながら、珈琲の苦々しさが部屋中に広がっていく……。
そんな何気ない時間が………俺にとって一番幸せだった。
好きな人と、好きなものを共有する朝。……それが、ずっと続けばいいと願っていた。
守りたかった。あの何でもない、でも確かな幸せを……未来永劫守備固めしたかった……。
……本来ならちょうご今ごろも、ブレックファストの最中だったはずなのに……。

780『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:29 ID:DKOnC83.0
その筈なのに……俺は………。



「……それで、今度はどうしたっていうんだ。二郎」

「…………近藤さんは……」

「ん?」

「お茶漬け……箸で…食べますか…………? そ、それともれんげで……食べますか………?」

「……お茶漬け、か…」

「………はい……………。…考えられますか………? 俺……今まで知らなかったんですが……いるらしいんですよ…………。お茶漬けを…レンゲで食う……和食の風情も何もない…そんな人間が…………。──」

「──…………そんな…………人間……がぁっ……………。……うぐっ………うっ…うぅ……………」


「「……………」」



──俺は涙が止まらなくて、止まらなくて…………。
──…よくよく考えたら…何の涙なのかわけがわからなかったが………、



「……まるでつかみどころのないヤツ…。近藤殿…こやつは一体………」

「面白いヤツだろうクロエ? 我がどくフラワーが誇る逸材、二郎さ。勿論誰にも引き抜かせんがな」

「……………ぶぶ漬けはいかがだ? ジロ殿に近藤殿………」



………………涙が止まらなくて仕方なかった。



「…………そうだな…。クロエ、君はどっちの派閥に入る?」

…ふと、近藤さんが口を開く…。


「…む。派閥…とは……? なんの話だ近藤殿」

「お茶漬けは──A:『箸派』か──B:『れんげ派』か。A or B。究極の選択さ」

「…………A…だ。…箸派だな、私は」
(『A』→すなわち『え?』。クロエcounter 1回目)


……………。
…不思議と、涙が一瞬で引っ込んだ気がした。まるで強力な掃除機に吸われたかのように……ズルズルズルッ…っと。
俺は頭を抱えつつ、クロエの方へと顔を向ける…………。


「………君も…箸派………。やっぱり箸で食うものだよな…っ!! なあ!!」

「『君も』……。………お主なんかと同じ派閥とは…私としてもいささか頭が痛くなるものだ……」

「なぁに。頭が痛いのは二郎も一緒だ。…はは、さしずめ箸兄妹めっ。お前らは案外気が合うのかもな。──」

「──で、クロエ。君はなぜ箸で食べるんだ? 俺としては、あの水中でバラバラに泳ぐ米粒を、箸で拾い上げるってのは……正直、めちゃくちゃ食べづらいと思ってるんだがなぁ」

「……オロカモノ。愚門だ近藤殿。──」

…クロエはほんの一瞬、空を仰いだ。
白くまぶしい陽射しが、髪の隙間をなぞっていって………。やがて富士山のような口を開き始めた……。

781『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:42 ID:DKOnC83.0
「──私の場合は『憧れ』だ」

「「憧れ……?」」

「『木枯し紋次郎』。──大昔の時代劇ドラマだ。その主人公、紋次郎は必ずご飯に味噌汁をぶっかけ、猫まんまにして食すという『紋次郎食い』なる作法を行う。──」

「──私は、時代劇というものが好きでな。…あの侍の生き様と飾らぬ食い方に心を奪われたもの。以来、私はずっと紋次郎食いだ。…あの侍のように、箸で静かに、かき込む。それが私のお茶漬けの流儀につながるわけだ」


「………そんな理由………なのか………? ただのかっこつけじゃないかっ!!!」

「……なに? お主とて箸を使う理由など大したことないであろうに……。ドアホウが………」



 …………っ。
富士山みたいな口してるくせに、芯食ってきやがって………っ。
そ、そりゃ…俺だって『箸でかきこんで食べるのが旨いから』という…しょうもない理由で派閥入りしているが………。
……だが、だ……っ。
たかがドラマの影響で自分の食い方を決めるような、そんな流されやすさはどうにも気に入らない…………。
同じ箸派として……クロエを除名処分にしたいくらいだっ……。

俺は軽蔑をにじませた視線で、じっとクロエを睨みつける……。
……くっ。だが当の本人は、俺のジリジリとした怒りなどどこ吹く風といった様子で……。
レジ袋から「さけるチーズ」を取り出すと──

──……裂かずに、モシャモシャと丸かじりしはじめた。



「って………。ふ、ふざけるなァアアア!!!!!!! なんだその…ふざけたさけるチーズの食い方はァアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「……むっ?!」 「……ん?」



 ……………見なきゃ…よかった。
…ここのところの俺は、人の変な食べ方を見るたびにサイコパス化してしまう。
まるでスイッチが入ったみたいに……完全なる沸点と化しているのだ………。

…それだというのに……。そんな自分の性質など分かっていたはずなのに……。



「まるで……まるでサラダチキンスティックのように…………さけるチーズを食べやがって……………。──」

「──生産者に対して冒涜じゃないかァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!」


俺は………もう頭真っ白になって………。
……クロエに対して怒鳴り散らして………………。

もはやブレーキ知らず。制御ができなくなって………………。


「……ま、またか……。…ジロ殿………」

「……また、だとッ?!!」

「ぴぎっ?!」

「…お前が悪いんだろうが………………」



気が付いたとき、俺は……。



「お前がさけるチーズを裂かないのが悪いんじゃないかァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



クロエにグーの拳をふりかざして────……………。

782『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:25:57 ID:DKOnC83.0
「いや待て二郎。『パー』✋」


「「………え?」」




「お前の負けだ。ジャンケンポン!」



 ──…近藤さんのジャンケンに負けていた────。
………『ふりかざす』で終われてよかったと思う。
顔いっぱいに広がる、近藤さんの掌………。
発狂した奴にバケツの水をぶっかけて頭を冷やす──とはよくある漫画の典型的シーンだが…、…俺は近藤さんに敗北したことでギリギリ寸前冷静さを取り戻せた………。


……やばい。

……ったく、なんなんだ………………俺は…………。

完全に……壊れかけてる……。いや──もう壊れてる………Radio……………。


なぜこんなにも、自我が保てなくなってるんだ……?
完全に狂い切っているじゃないか………俺は………………。
何故こうも自我を保てなくなってるんだ………………俺…はッ…………………。

…………俺は………………………。



「…………怒らずに、俺の話を聞けるか? 二郎」

「………うん」

「そっちは『はい』だろ?」

「……敗《はい》…………」


……近藤さんはため息を吐いた後、口を開き始めた……。


「………俺はな。れんげ派だ」

「……敗《はい》……………。──って、はいぃいっ??!!!」

「お、…こりゃまずいな。…今からずっと『パー』見せつけながら話すから俺の無礼を許してくれよ。…普通に殴られたくないからな、二郎」

「……ハっ!! …………敗《はい》……」


……そう言って近藤さんは、隣のクロエをチラリとみると、彼女の(かじり痕残る)さけるチーズを右手に取った。


 ──バクリっ。

「…あっ! 近藤殿?!」


……もちろん、彼女には許可なくである。



「俺はな、お茶漬けを和食とは思っていない。れんげを使う理由は『チーズ入り』! ──チーズお茶漬けにして食べるからだよ」

「…え?!」 「な、なに………?──」


「──和食をぶち壊す恥知らずめ、このドアホウ……。いいか、近藤ど──…、」

「悪い。こんな早朝に説教は俺的にお腹いっぱいだクロエ。『パー』✋!」

「──もがっ!!」

783『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:12 ID:DKOnC83.0
…近藤さんは、説教魔クロエの口を左手で塞いで……俺に説明を続けた。
……俺とクロエはこれでじゃんけん敗者同士。…正直気に食わない女子ではあるが、なんだかんだ彼女と惹かれ合うものはあるのかもしれない。


「きっかけはテレビでな。今流行りの…T君という子役が、お茶漬けにスライスチーズを入れるのがオススメと言っていたんだ」

「『T君』………寺田心くんですね………? ………こ、近藤さんも、そんなすぐ影響受けて脳死しちゃうタイプだったなんて……見損ないましたよ……。…お茶漬けにチーズとか……合うわけないじゃないですかっ!!!」

「おい実名を出すな二郎。……いや俺も最初は合わないと思ったよ。良い言い方をすれば子供らしい無邪気な食べ方…。悪い言い方をすれば……やめておこう。お前が実名出したせいで誹謗中傷になりかねん。……まぁともかく俺も呆れたものだったさ」

「……………」


「だが────『チーズおかき』!」

「…………っ!!! ………チーズ…おかき……………?」

「それと同じさ。食欲がそそられない見た目だが、熱湯でふにゃふにゃに柔らかくなったチーズがお茶漬けに妙にマッチしていて………。…あれは一口目ではまだわからん。…『まっず』と思い、仕方なく二口目を入れたら……もう気が付いたら完食だ。よくよく考えたら大体の料理チーズかけたら美味いからな。──」

「──…だから俺はお茶漬けをレンゲで食う。俺にとっては、お茶漬けは『リゾット』なんだよ」


「………………………だから、れんげ………………?」

「フっ………。『パー』✋。今度はあいこだ、二郎」

「………あ」


 ……気が付いたら、俺は力が抜けて手が開ききっていた✋。

理解できない…理解もしたくない……。……そんな食べ方を聞いたというのに。
俺の拳は開ききっていて、暴力性のかけらも見せていなかった…………。
掌が震えていた。微弱だけども確かに俺の掌は震えていた………。。
汗にじまみ、しわがはっきりと見える。

俺の年季こもった掌は、確かにこの時震えていた……。


「……なっ?! オロカモノ!! 私の朝食っ!!!!──…、」

「…ん?」


……あと…近藤さんが右手を開いた✋以上、クロエから奪ったさけるチーズが必然的に地面に落ちたことにも……今気づいた。(一応、チーズはあとでちゃんと水で洗って食べた)



「つまりな、二郎」


近藤さんは軽く肩をまわして、ポキポキと首を鳴らす……。


「…うまいこと言うつもりはないんだがな。俺もアシストフィギュアとして召喚された以上、お前…そして主であるクロエにも、一つだけアドバイスを送らなきゃならん。──ちょっとだけ気づいたことがあるんだ」

「……………ア、アドバイス…?」 「………なんだ…近藤殿」

「二郎、お前はこれまで食べ方について色んな人と対立し、まさしく気狂い沙汰をみせてくれたものだが……。どんな時も最後は相手を理解し、自分自身も変われた。──それが、俺とお前の歩みだっただろう?」

「……はい……」

「だが今のお前はどうだ。バトルロワイヤルっていう土壇場になった途端、全く他人の食い方に理解を示さなくなっただろ。……何故か。何故お前はここまで狂ったのか。…その答えは単純だ。──」



「──『みふゆさん』だよ」

784『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:31 ID:DKOnC83.0
 俺は……。
まるで全身に雷を落とされたかのような……そんな衝撃を受けていた………。

近藤さんの――心の奥まで見透かすような、その雷鳴のごとき指摘………。

空気は静まり返り、耳に届いたのはただ一言、クロエの「…こやつ…結婚しているのか……?」という的確なツッコミだけだった。



「……みふゆさんがこの場にいない今。………つまりはお前に。そしてクロエはどうすべきか………。それは…つまり──…、」


「ほう。『私』──…と言いたいのだろう。近藤殿」

「ん?」


「…いわばズワイガニ代わりのカニカマ。私がみふゆ殿の代わりとなり、このオロカモノのサポートをする。──」「──そして、またコヤツも私をみふゆと思って、私を守る。──」

「──私とてもちろん本望ではないのだがな。ただ、こやつと『箸派』という同派閥となった以上、運命に従うのは私の使命。──」
「──………フッ。まぁ確かに、考えてみればここまで破綻した人間…。私とて説教のし甲斐がありそうものだからなっ……!──」

「──…近藤殿、お主の提案……、承るぞ……! ズバリ、お主はそう言いたかったのだな?」



「…………………ん?」



…この時、近藤さんは『鈴木雅之の十七枚目のシングル』といった表情をしていた。
…どういう意味かは各自お調べに任せる。


 ただ、近藤さん、そしてクロエの言葉を重ね合わせ、これから先のバトルロワイヤルを生き抜く術を、俺なりにも考えてみた結果……。
……たどり着いた結論は一つ。この狂った舞台で、俺がまず信じるべきは──クロエと共に歩むという選択だった。

…思い出すのは、彼女…クロエとの最初の出会い。
俺は激情のままにクロエを車内へと引きずり込み、暴行し──そして、首を絞めて殺した……はずだった。
頭のネジが吹き飛んだ暴力魔。そんな男と手を取り合って進もうとする者など、常識で考えればどこにもいない。
……それでも彼女は、余裕いっぱいで笑い飛ばし(…富士山のような口を開いて)、平然と俺の隣に腰かける……。
ノリノリで、やる気まんまんで、…自分を殺そうとした相手を隣に…さけるチーズを咀嚼しながら──(…富士山のような口を開いて)。

…近藤さんもそうだ。
こんな俺を『進化する人間』とまで呼び、まるで父親のように導こうとしてくれている……。


俺は、そんな二人を──この手で遠ざけるわけにはいかなかった……。
……たとえ俺が、何度過ちを繰り返したとしても……………っ。たとえ俺が、何度正気を手放しそうになったとしても……。

この二人がいる限り、俺はまだ……、人間に戻れる気がした…………。


「……………近藤さん………。俺………俺は……………」

「……二郎。結論はもう出たぞ。なら行け………!」

「…………え?」


近藤さんが指すその先──そこには、ぽつねんと佇む一軒の焼き肉屋があった。
『焼き肉じゅうじゅう』。
赤提灯がまだ薄明るい早朝の空に、妙にあたたかく灯っていた。

…………不覚にもこの田宮丸二郎…。
俺はこの時緊張感もなく………………空腹が鳴った。


「朝から焼き肉は普通ヘビーだが、お前にはちょうどいいだろ。色んな意味で」

「…………」

「焼き肉の本場、韓国では──焼き肉屋は『出会い』の象徴らしい。見知らぬ者たちが、煙をくぐらせ、酒を酌み交わし……心を交わす。──」

「──今こそお前たちピッタリじゃないのか? クロエに、そして二郎……!」


「………」 「……焼き肉…」

785『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:26:46 ID:DKOnC83.0
俺とクロエは互いに顔を見合わせた。──…いや、今はもうクロエ《みふゆ》…なのかもしれない。
じゅうじゅうと焼ける音と、香ばしい炭の匂いが鼻腔をくすぐる……。

…………近藤さんはいつも俺を助けてくれた。
言葉に毒を含ませながらも、…時には毒のような鉄拳制裁をしつつも………導いてくれて……そして、見捨てなかった。

あの時だってそうだ。羅生門社長の言葉で色々と精神的不安定になっていた俺を、何も言わず焼き肉屋にハシゴしてくれて…………、
「割り勘な」とか言いながらも、実際は多めに払ってくれた…………。



……俺も…上手い事を言うつもりはないが……、



────近藤さんは、いつだって俺の『最後の一枚の肉』だったのかもしれない………。







(………………すまない。全く上手くないどころか意味不明だった)





「それじゃあな。…クロエ、悪いが今後しばらく頼むぞ」

「…え?」 「近藤殿、どこへ……?」

「言ったろう? 俺はフィギュアファイター。活動時間『15分』が限度のようだからな。最期にちょっくら目玉焼き定食でも食べに行っておさらばとするよ」

「………え?」


 近藤さんは唐突にそう言って、背を向け始める。
その後ろ姿は歩くごとに少しずつ薄れていき………、
──なぜか、サングラスの輪郭だけが最後まで大きく、はっきりと見えたような気がした。


「……二郎、本物の俺に…よろしくな?」

「近藤さん………」


その言葉を最後に、近藤さんはゆっくりと去っていった……。
………俺がこの先、生還し、…すべてをやり直せることを当然のように信じているかと………そんな口ぶりで……。



……そうだ………! …ハジメさんも。みんなも……この手で、どうにかして生き返らせばいいんだ………。
全てをやり直して、生きて帰ればいいんだ………! 俺は………!

自殺なんて…バカ抜かせだっ………!! 俺はまだやり直せる…!
取り返しのつかないことなんて、きっとない。
信じられる。そう、自信をもって言えるよ……俺は……。


…………なんだ?
…『その自信の源はなんなんだ』…か…………。


簡単さ。


………近藤さんの言葉を信じて動いた時、俺の人生はいつだって前に進んだのだから────。

786『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:02 ID:DKOnC83.0
「……何をしている。行くぞ、ジロ殿」

「………え、あ。ああ!」



──疲れてヘトヘトな時はカルビ→カルビ→カルビときて。落ち着けばハラミ。気が向けばロース……。
──近藤さんはいつでもこんな俺を助けてくれる。


────近藤さんと言う七輪が、俺の悪い脂を焼き落としてくれるんだ。いつも………。




(──今度こそは上手い事を言えたつもりでいるよ。俺は────………………)




【アシストフィギュア No.11】
【近藤雄三@目玉焼きの黄身 いつ潰す? 消滅】


………
……


787『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:29 ID:DKOnC83.0
 ガラガラガラ……


  ジュウジュウ………


『…コト。なんで朝から焼き肉なの? どういう体力をしてるの?』

「だ、だってしょうがないじゃないかぁ!! あんな…頭のおかしいグラサンに…私負けちゃったんだよ!! やけ食いも仕方ないでしょ伊藤さ〜ん!!!」

『……それよりも、その食べ方はなに?』

「あぁ。これチュニドラの山●昌がやってた食べ方でね。ほら、焼いた肉を、生の焼き肉の漬けダレにちょんちょんってつけて、──」

「──豪快にバクリッ!! これがおいしい食べ方なんだよ。今度一緒に試してみてよ伊藤さん」

『(……コトの変な食べ方を生で見てドン引きしたいけど、その場合は他の客に私がコトと同類だと思われて引かれる。行こうか行くまいか悩ましい)………………ん?──』


『──あっ。コト、お客さん』



「え………?」




「「あっ」」



──焼き肉屋の扉を開けたとき、そこにはすでに、ひと組の先客がいた────。

──スマホで誰かと会話しながら、そのメガネの女は焼けたカルビをパクリと────。


──…俺はこの時、生肉の漬けダレ絡む…箸先のカルビにしか目が行っていなかった────。

──釘付けだった────。

──クロエのことも、近藤さんとのことも完全に頭から消え去っていた────。



──香ばしい煙が鼻をくすぐった、その瞬間────、






俺は、思わず口について出た。







「お前………バカか?」

788『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:27:42 ID:DKOnC83.0
────第67話◎─────。
──『山本昌の焼き肉の食べ方、おかしい?』───────。
──To Be Continued……─────────。

………
……


789『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:02 ID:DKOnC83.0











【1日目/G1/】

790『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:15 ID:DKOnC83.0










【歌舞伎町→ミニバン車内・走行中/AM.05:25】

791『山本昌の焼き肉の食べ方ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:28:31 ID:DKOnC83.0
【小宮山琴美@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】恐怖(激)、右頬殴打(軽)、手足拘束、頭にレジ袋被せられて「ヘコーヘコー」
【装備】なし
【道具】スマホ
【思考】基本:【マーダー】
1:なになになになに???!! これなに???!! この人(ジロちゃん)なんでいきなりブチギレたの?! なんでこの人に私誘拐されてるの??!! 伊●勤の采配より理解不能なんですけどっ?!!
2:誰か助けて!? 誰か…だれかぁ!??? 伊藤さぁーーん!!! 里●ぃーー!!!!!
3:死ぬ前にロッテ五十年ぶりの優勝が見たいぃい…!!!!!
4:やばい『漢』(堂下)がトラウマ。
5:優勝の願い事でロッテを優勝させる。自分を黒木智樹くんが惚れるような女にさせる。
6:伊藤さんと通話しながら行動。

【クロエ@クロエの流儀】
【状態】恐怖(激)、右頬殴打(軽)、手足拘束、頭にレジ袋被せられて「ヘコーヘコー」
【装備】フランスパン@あいまいみー
【道具】タバコ@クロエの流儀、さけるチーズ
【思考】基本:【静観】
1:息苦しい…。へこーへこー……
2:ジロ殿を説教しまくって更生させたい(建前)
2:見境なく説教して気持ちよくなる(本音)

【伊藤さん@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【対危険人物→小宮山琴美】
1:コト(小宮山琴美)の暴走を止める。ついでに解説担当。
2:…このレジ袋集団はなに? …やや引く。



【田宮丸二郎@目玉焼きの黄身 いつつぶす?】
【状態】放心状態
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:気が付いたら、
2:俺は、
3:クロエと小宮山という子を
4:拉致誘拐していた。

5:……………………え?

792 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/08(火) 22:38:23 ID:DKOnC83.0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①あと十数話後に書く『巡り合う二人の会長』と『会長と、呼ばせたい。(仮)(もしくは、天才たちの頭脳戦)』という2ピソードがありますが
②正直めちゃくちゃ良い話に書ける自信があります。
③どんな話になるかお楽しみに。
④『あの会長』と『あの会長』をここまで活躍させれるロワは恐らくここだけだろうと、自信持って言えるくらいです。


【次回】
──うるさい

──女ごときが邪魔をするな


──男同士の闘い。その行く末は。

『男の闘い』…西片、ガイル、サチ、北条
(あるいは、『プランA』…白銀、島田、左衛門、サヤ)

793『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:12 ID:TQm/ytFw0
『【ℙ𝕝𝕒𝕟 𝔸】 - 𝕗𝕣𝕠𝕞 𝕂𝕒𝕘𝕦𝕪𝕒'𝕤 ℝ𝕖𝕢𝕦𝕚𝕖𝕞』

[登場人物]  白銀御行、島田虎信、佐衛門三郎二朗、遠藤サヤ

794『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:30 ID:TQm/ytFw0
 “俺は『神様』なんてものを信じちゃいない。”
 “本当にいると言うなら、今すぐ目の前にでも現れてみろって話だ。”
 “俺としてもそれが本望だ。こんな悲運に負わせた礼として、骨が飛び出るまで拳をぶち込んでやる。”

 “…だが、どれだけ憤りを見せたで、神が姿を見せる訳もなく。”
 “そもそも今具体的にどこにいるのかも分からん。いや、恐らく天の上だかにいるのだろうが。”
 “遥か届かぬ上空で胡座をかき、絶望下の俺をニヤニヤ見下ろしてると思うと──腸が煮えくり濁る。”
 “故に俺は、神という輩をハナから存在しないものとしている。”
 “…そうでも考えないと、発散のしようがない怒りでどうにかなってしまいそうだからな。”


 “その一方で、同じく非科学的存在である『あの世』だけはあってほしいと願っている。”

 “…ああ。都合の良い話だっていうのは分かってるさ。”
 “ただ、”

 ────もう居なくなってしまったアイツが、存在できる場所──。
 ────アイツと再開できる場があるというのなら──────、って。


 “俺はそう願っているよ。”





 “ブラインドの隙間から細く差し込んでくる朝日。”
 “薄明るい部屋の中で、パソコンのキーを打音のみが響く。”
 “ディスプレイの文字列を眼前に今、俺は。”


 ─────神を破戒する。

795『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:41 ID:TQm/ytFw0




 calling…
  calling…

 calling…
  calling…

──────【𝔸𝕌𝕏】──────────────────
 🅲🅰🅻🅻
    ᴘᴜꜱʜ ꜱᴇʟᴇᴄᴛ
─────────────────────────────────

  Calling Shhirogane Miyuki. 

  Calling Ishigami yū.


……
………

796『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:56:57 ID:TQm/ytFw0

……
………



 『…これは俺の友達の話なんだがな』

──…そのセリフ聞くたびに思うんですけど、会長ってクラスに友達いるんですか?

 『莫迦を抜かせ石上会計。白馬岳の渓谷の数ほど存在する友人の中でも、………特に俺が眼に灼きついていた…『アイツ』の話をしたいと思う。いいか?』

──……『アイツ』…………ですか。


 『……俺は、アイツのことが怖かった。──』

 『──芸術、音楽、文芸、学問。…あらゆる分野において才能を示し我が秀知院を総ナメにした、まさしく『天才』……。……こっちが彼女の心を読み取ろうと四苦八苦している最中にも、アイツはもう俺の全てを見透かし、掌の上で転がしているのでは……と。……俺はアイツが怖かったよ。──』

 『──俺がヤツに抱いていた感情の片鱗を…少しでも悟られたら………アイツはきっとこう言っただろう。「……お可愛いこと」…ってな。──』

 『──……その一言が、プライド…矜持の塊である俺には…何よりも恐ろしかった。──』



 『────……それでいて、…彼女は……俺にとっての『希望』だったんだ』

──………。



 『今の俺にはもう、恐怖はない。…恐れるものなど何一つない。…それは、幸か不幸かで問われれば幸せに値することなのだろうが、そんなのあくまで浅い視点からの話だ。……今の俺が、どんな感情かなんて………言うまでもないだろう。』

『──…『恐怖』と『矜持』は一字違い。故に、俺は今から『恐怖』を《プライド》とルビ打ち、呼ぶこととしようじゃないか。──』


『──俺は無くした『恐怖《プライド》』を取り戻すッ………。──』

『──手段も…ッ、倫理も……道徳も…もう知ったことかッ………。何があろうと絶対に恐怖《プライド》を…この懐に引き戻してやる…………ッ。──』

『──…………そうだ。丁度いい……ッ。こうしてプライドが無くなった今だからな………ッ。今だからこそ声高に言いたいことがあるよ……ッ。俺は……俺は…見るも忌々しかった…あの恐怖《アイツ》のことが………ッ。──』



『────……………計り知れないくらいに好きだった』




──………本当に友達の話をしだす人初めて見ましたよ。

──……まぁさておき。分かってはいましたが、つまりはその彼女が起爆剤となって……僕にここまでの仕事をさせた、と……。

 『…………』

──VPNを何重にも噛ませたうえでアフガンの爆弾発注ルートをハック改竄して、配送先をアメリカ本土にすり替え、さらに起爆時間セットもオンにさせる…とか。………僕的には何よりも会長が恐怖ですよ。

──大体にして、倫理面や法律面を抜きにしてもこの『作戦』…粗がありませんかね? いくら宗教国とはいえそう簡単に騙し込めるものなのか…とか、バリアー破壊はよしとして首輪解除はどうすんですかとか………。まぁその点は言うまでもなく考えてはいるんでしょうけど。…何よりも僕は──…、


 『……………………………………』


──……って、会長。

──…まさか僕に謝ろうとしてませんよね。ここまで来て今更罪悪感とか抱いたりとかしてないですよね。

 『………』

──…もしそうなのだとしたらやめてくださいよ。らしくない……。

──というか謝るどころか…国をあげて極刑十回執行してもまだ済まない、悪の可視化みたいな『作戦』なんですよ。そんな作戦の統率者に、罪悪感がまだあるんだとしたら………。

──……最低じゃないですか。

 『……』

──…まあとは言っても、起爆停止スイッチは作動可能なのでまだ中止は可能ですけどね。…どうしますか、会長──…、


 『──…【ウルトラアトミック作戦】。──────』


──え…?


 『当作戦の呼称は【ウルトラアトミック作戦】とする。……実に直球なネーミングではあるがな。仮に俺が死んだ時そう記載するよう、書類会計を頼むぞ。──』

 『────石上会計………っ』


──………ふっ、やっぱり貴方はそうこなくっちゃ。ただ、一つ異議を申すなら…死なないでくださいよ会長。…僕には生徒会長代理なんて到底勤まりませんから……。

797『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:57:11 ID:TQm/ytFw0
 『…………はは…。…検討はするさ』



──では二日後また。五人揃って、いつもの生徒会室で。…失礼します。

 『……………………礼は、その時に言おう。……またな』



──────プツンッ。






……
………
☩ EPISODE ##.𝟎𝟔𝟔 ☩

『【Plan 𝓐】 - from Kaguya's Requiem』

☩────────☩




………
……


798『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:57:25 ID:TQm/ytFw0



 15世紀のフランスにて。
ある貴族の男は、かつて神を信じていた。

1429年、シャルル7世の命で宮廷に呼ばれた男は、一人の少女と出会う。
ジャンヌ・ダルク──神の声を聴けるというその聖少女の姿に、彼はたちまち圧倒された。
まるで天使のような威厳を纏った彼女を前に、ただちに忠誠を誓ったのである。
以降、戦場では二人は共に剣を取り、いくつもの華々しい勝利を収めた。
男はその武功を称えられ陸軍元帥となり、家紋には王家の百合が加えられるという名誉を賜った。

だが、栄光は長くは続かなかった。
ジャンヌは捕らえられ、時の流行である魔女狩りによって火刑に処されたのだ。

……


『Pourquoi Dieu l’a-t-il abandonnée…?』
──(なぜ彼女を見捨てたのだ…、神よ………)
────百年戦争の英雄。ジャンヌ・ダルクの右腕。『ジル・ド・レ』の言葉。


……

信仰の灯が消えたとき、ジルの心には別の炎が灯る。
錬金術、黒魔術、少年達への残虐な拷問。
──見るも忌々しいキリスト教徒共、ならびに神を焼き尽くすほどの、『復讐』の焔。

神が、憎かった。
全ては神を裏切るための、儀式だった。
神がジャンヌを奪ったのなら、自分はその神を否定するしかない。


────悪魔に魂を売り渡した男・『青髭』はこの時、神へバスタードソード《宣戦布告》を突きつけたのである。



 時は流れ平成の世。
青髭の生涯を知ってか知らずか、──いや、英才卓抜である『彼』は間違いなくその存在を知っていたであろう──。
ジル・ド・レの生き写しが如く、悪魔に魂を売り切った男がいる。

フランス貴族として享楽の限りを尽くしたジル・ド・レとは対照的に。庶民の出でありながら、ただ努力一つで生徒会長の座を掴み取った──その男。
まるで宿命をなぞるように、彼もまたあの青髭と同じ『鋭い眼差し』を宿していた。

────四宮かぐやを想いながら、エンターキーを押し込む。彼の名は────。




 カタンッ──



──【残り00:14:59.875】──



……
………


「……こんのクソがァッッ!!!!」


 バンッ──。

 事務所『カウカウファイナンス』、廊下を少し歩いた先の男子トイレにて、鏡がひび割れる音が響く。
白銀の用心棒係──島田虎信は、血が滲む握り拳をギュっと締め、沸き立つ怒りを深く噛み締めていた。
彼のズボンポケットには一枚の野口英世札。──数分前、白銀から「悪いがこれで缶コーヒーを」と頼まれて受け取った紙幣であるが、島田が向かった先は外の自販機ではなくトイレ内。

別に、彼は緊張感もなく催していたというわけではない。


「………ぐぅッ………!! うっ………。なんや…。──」

「──なんや…アフガニスタンって…なんや融点がどうたらって………もうワケわからん…………。──」

「──アイツ《御行》の作戦はメチャクチャや………。──」


そして別に、白銀が彼に耳打ちした、ゲーム脱出のプラン──『ウルトラアトミック作戦』について理解ができなかったわけでもない。
荒くれ者で、お世辞にも教養は育まれていたとはいえない島田でも理解できた、実に単純な作戦である。

ただ、


「………カモ……っ。もっとお前に…『仕事』の流儀について聞いときゃって、後悔しとるで…………。…なぁ、カモ………。──」


「──…お前なら…どうするんや………。そして、オレは…………御行をどないすりゃ正解なんや……………っ」

799『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:57:45 ID:TQm/ytFw0
──その単純である『悪魔』の作戦と、悪魔に陥った『白銀御行』の二つに、島田は心の底から苛まれていた。
鏡同様ひび割れた拳の血雫と、──そこからにじむ血の存在に、彼がようやく認識したのはこの時。

島田の怒りの理由は『己の葛藤』であった。


「………………止めれば…ええんか…………。…もう、………オレには分からんわ……………」


白銀御行に現状一番寄り添っている参加者として、島田が抱える苦悩、葛藤は計り知れないものだった。
『悪魔の作戦』を止めるべきか、否か。
シーソーのど真ん中に立たされた島田は、そのおぼつかない立ち位置に、心が揺れ乱れて仕方なかったという。



──【残り00:12:31.846】──


 島田視点から順を追って、可能な限りの説明と回想をする。
全ての始まりはもはや説明不要。──二人の目の前で、四宮かぐやが爆ぜり、────彼女の瞼をそっと閉じさせたあの瞬間。
──────白銀の瞳孔カラーが明らかに血走ったあの時から作戦が始まった。

白銀に促されるまま、ホームセンターから得た『硬度計測装置』を片手に、無言の道中を続けること十数分。
垂れる汗も、灼熱の陽の光も気にせず、互いに無言で歩み続け、
辿り着いた先──エリア《渋谷》最南東、別名には『バリアーの最端部』にて、白銀はやっと口を開いた。


……

──……ほう。…硬度にしてHV2100、か。…意外でいて予想通り、という感じだな。

──なぁ島田、こんなコンタクトレンズの如くペラペラのバリアーが、まさかセラミックの十倍の硬度を誇るなんて…信じられるか? バトル・ロワイアルとはつくづくこの世の常識が通じない…侮り難いものだ。


────………あ? なんやねん………? セラミック?? ……そんな…そんな訳わからん話するために来たんか?! ここまで!! オイッ!!

────まさかやないけど…お前このバリアー壊すつもりやないやろな?!

────…なんや? 仲間ごっつ引き連れて…一斉にぶん殴って壊すっちゅう考えか……? それがお前のゆうた『ウルトラアトミック作戦』ゆうんか?!

────…ッざけんのもええ加減にせえっ!!! …それよりも、ほんま…かぐやの為……真面目に考えなあかんこと…あるんとちゃ…、


──『あずきバー』の逸話にはこういうものがある。

────あ?


──…聞いた話によればな、アメリカ軍が実験でライフル弾を二発放っても、氷菓には傷一つ付かなかったそうだ。

──…信じられないよな。あずきバーの硬度と、そして軍予算の無駄遣いっぷりに。……俺はふと思うよ。

────…あ? なんや…お前………? だからホムセンであずきバーもこうたっちゅうんか? …ィッ!!! いや何話したいねんおま…、


──硬いのなら『溶かせば』いい。


────………ぁ……?


──どんな物質にも『融点』がある。…バカげた話だが、『こいつ《バリアー》はこの世のものではないのでは…』と俺は危惧していてな。故に、こいつにも硬度があるのかどうか不安ではいたが……。…ほんとに『予想通りだが意外』だったよ。

──HV2100となると、融点の推測値は『摂氏3500度から4000度』ほどになる。……もう分かっただろう? 島田。

────あ……?



──なら、『ちょうどよかった』じゃないか。


……


800『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:03 ID:TQm/ytFw0
 手から放り落とされたあずきバーをジワジワ、ジワジワと溶かしていく──早朝の太陽と、地面の熱。

 あずき液にアリが集るのを待たずして、確信じみた表情を浮かべた白銀は、島田を近くの雑居ビルへと促した。
ノートパソコンがあるビル三階へと足を運ぶや否や、通話を飛ばすは、白銀の後輩という──石上優へと。
『ネットに関しては腕っぷし』と評す、その石上へ、白銀は事情説明を兼ねて『ウルトラアトミック作戦』の一部を託す。
最初こそ当然ドン引きしていた石上会計だったが、経過に連れ、ゲームを攻略するかのようなノリで手を動かしていく。
荒唐無稽かつ鬼畜じみた『作戦』も引き受けてしまうとは、生徒会長・白銀御行の人望を表す光景と言えるのだろうが、異様な雰囲気に島田はこの時、ただ立ち尽くすしかできずにいた。

ふと、石上が白銀へクエスチョンを向ける。


……

────……ところで会長。……アフガニスタンってどういうチョイスですか? 国なんて山程あるのにそこを選ぶセンスが僕には理解できませんが。

──ん、簡単だ。日本に一番近い核保有国がそこだから。それだけだな。

────あー、なるほど。

──それに宗教国家は都合がいいだろ? “神の教え”だの何だのと……。現実離れした神話を、真剣に信じ込んでいる連中だ。脳死な狂信者ほど扱いやすいものはない。…呆れた話だ。


──…………………『神』なんて存在しないというのにな。


────………はい。


……



 二人の会話をただ聞き流せば、気がついた頃にはもう作戦準備は終了間近。
石上の圧倒的な作業速度により、──もう取り返しのつかない地点へと踏み込んでいた。


 石上と通話を終えても、白銀は休むことを知らない。
ふと尋ねたところによれば、今度は『タリバン最高指導者のモデリング作成』に入るとのこと。
いつどこで学んだのか知らぬ、Dari語(アフガン公用語)をブツブツ練習しながら、白銀は作業をどんどん進めていく。
目にクマを腫らし、顔色も眠そうに青白くなっても、疲労が明らかになっていてもなお。
白銀は取り憑かれたように、作戦の準備を止めなかった。


 たかが──と言ったら語弊が発生するかもしれないが。

 たかがバトル・ロワイヤルが────いつの間にやら信じられぬ程スケールが肥大化していく。



 ──たかが、バリアーの為だけに。



 ただでさえ、ナルコレプシー(睡魔発作)傾向の白銀である。

眠気覚ましのため、強めのカフェイン《ブラックコーヒー》を島田にパシらせたのは、この折であった。





──【残り00:11:00.924】──

──そして現時刻に至る。──

801『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:18 ID:TQm/ytFw0
………
……



「……オレは……………。オレ…は………………………。──」


 以上の通り、(裏社会の人間とはいえ)常人である島田が、ここまで苦悩するのも無理はなかった。


「──…どうすりゃ、ええんや…………。」


 母を理不尽に失って以来、『復讐屋』鴨ノ目武と働くようになった島田。
その稼業も気づけば長い年月を経ており、これまでも幾度となく『クズ共』を無惨に始末してきた。
被害者遺族の依頼を受け、対象のクズを攫い、物置小屋にて──斧、ドリル、ガスバーナー……etc。様々な戒めを味あわせていく。
依頼こそ無いとはいえ、復讐屋としての視点から見れば、白銀御行は紛うことなき『執行対象』。
──いや、もはやクズや極悪人なんて言葉は生温い、『大正義的巨悪』。正義すらも超越した、悪魔のような理知と意志だった。


「……おかん、カモ…………。…奈々………。…誰でもええから、最適解…教えてや…………」


ただ、そんなクズ共。
かつてのジェイク堀尾や櫻井志津馬。あるいは歴史に名を遺すジル・ド・レといった悪人達と、白銀で、決定的に異なる点がある。
それは一つのみ。
たった一つであるが、『悪』という存在を構成する根幹に関わる、決定的な分岐点だった。



──白銀は、【利他主義】。

──殺し合いに巻き込まれたすべての人間を救うために。ゲームそのものを崩壊させるために。


────【そして何よりも、四宮かぐやの為に。】




彼は、自ら悪の道を選び取ったのだ。



「………………………御行……っ」



 それは果たして、正義か否か。
というのも、白銀の立案したその作戦は、『巻き込まれる』無関係な人々にとっては、たまったものではない為である。
何かを得るには、必ず何かを失わねばならない。
まさに『等価交換』──。錬金術の理を地で行くその作戦は、罪なき人々の命を犠牲とすることで成立していた。
殺し合いに一切関わりない、それどころか他国の老若男女。
たまたま『その場』に居合わせただけの無辜の人々が、虫のごとく殺されていく。
それに加えて、犠牲数も桁違い。白銀曰く、「三百人で済めば御の字だな」──と、その『爆発』の威力を懸念していた。

いわば、国境を越えた虐殺を踏み台にした末の────自分達の生還。


 もしかすれば、他に方法があるのかもしれない。

バリアーを破壊し、主催者を突き止め、ゲームを終わらせる。
犠牲も最小限にとどめるプランが、どこかに存在していた可能性もゼロではない。
島田も、作戦の具体的内容を聞かされた際、勿論「アホか、他に方法あるやろ」──と、紛れもない正論のツッコミを入れたものだった。

──その正論は、また『別の正論』によって完全に打ち消されたものだが。


「…『あるなら出してみろ』…って……………。御行………お前……そんなん……………」



殺し合いに巻き込まれた参加者たちの命を救うために、無関係な多数を犠牲にするか。
または逆も然りか。

どちらが正解で、そして自分は白銀を止めれば良いのか否かも判断ができず、
両サイドに命がのしかかるシーソーの中心にて、島田が立ち尽くし続けること早三分。



──【残り00:10:01.123】──


「……………とりあえずは、…コーヒーやろ………」


 ポケットに手を入れた拍子、触れた貨幣の感触で『お使い』のことを思い出し。
長く伸びた髪をひと掻きし、島田は静かにトイレを後にした。
結論を出すことを一旦は放棄して、今はただ言われるがまま自販機へ。

島田はまだ、『神の存在』、──すなわち希望の道筋を諦めてはいなかった。その願いにも似た思いを胸に、彼はそっとドアノブを回す。




廊下を出て数歩ほど。

802『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:30 ID:TQm/ytFw0
──片や、すれ違いざまの風の感触で、

「…あ?」


──片や、バタンと閉まったドアの音で、

「……え?」 「…なッ」




──島田と、
──このビルにたまたま入っていた佐衛門&サヤ。


互いが互いを振り返ったそのタイミングは、ほぼ同時だったという。




 ──【残り00:09:41.999】──

803『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:58:44 ID:TQm/ytFw0



………
……



 一方は────対、改造銃。
島田の額にて、銃が突きつけられる。


「……ハァハァ………言っとくがなァ…、至近距離戦では…銃よりナイフのほうが遥かに有利なんやからな…………ッ!!!──」

「──なんかの漫画でゆうてたけど、銃はスリーアクションなんやぞ…。『抜き』……──…、」

「『構え』、『引き金を引く』…そのスリーアクション…なんだろ………っ?」

「…あぁ?!」


 もう一方は────対、ナイフ。
左衛門の頸動脈ギリギリにて、仕込みナイフが牙を剥く。


「それに引き換え、ナイフは『刺す』の一動作に終わる………。アンタはそう言いたいんだろ…………っ? とどのつまり……、──『オレのほうが有利〜』と。…そう〆るつもりなんだろ……っ!!」

「……っ。……んや…見透かしたかのように………。お前も読んどったんか、マスターキートン…………」

「答える気はない……っ。そしてアンタとも漫画の話で和気あいあいとする気は……ない…………っ。──」


「──僕にはただ殺意のみっ……!! アンタに今…向けるのは…殺意だけだ……っ!!」

「ッ、お前…ェ…ッ……」


「佐衛門さんっ!!!!」



 狼狽するは────サヤの声、ただ一つのみ。



「………な、なに……。なんなのこの状況…。…ね、ねえ佐衛門さん…何してんのっ………?」

「……サヤさん……・猜疑心重……『信じちゃダメ』ってことさっ……!! 参加者全員…誰もかも…………」

「…え? は、はぁ???!」

「その上…よく見てみるんだ……。こんな見るからに目付きの悪い……輩を相手にしているんだぞっ……。なら尚更じゃないかっ…………!!──」


 島田と左衛門で、互いに伸びる腕。
空気が張り詰める中、その互いの手にて、交差するそれぞれの武器。
互い、互い、互い、互い、互い、互い、互い、たがい。
────疑い。【疑心暗鬼】。


いや、この状況を四字熟語で簡潔に表すとするなら、【疑心暗鬼】ではなく──、



「──ここは僕が引き受けるから……。だから逃げろ………逃げるんだ…サヤさんっ……!!!!」

「なにが逃げろやねんワレッ!!!! お前が急に銃向けてきたんやろがッ!!! ふざけんなやゴラアアアァッ!!!!!」


「ひっ!!」



────【一触即発】だった。



 数分前。
すれ違い──島田の存在を認識するなり、佐衛門が取った行動は、先手必勝。
言葉挟む間もなく颯爽と銃を引き、そして構えた左衛門は、名前も知らぬゴロツキ標準にトリガーを指にかけ出す。
この考える余裕もない刹那の瞬間、佐衛門を支配していた感情は『焦燥』であっただろう。

なにせつい数刻前、兵藤に片目を奪われたという『バトル・ロワイヤルの真髄』をまざまざと見せつけられた彼だ。
唯一残る左目は、誰彼全てが【敵】。傍らのサヤを除いて、全てが敵と視えている。
平時はマイペースで、冷静な観察眼を持つ佐衛門であっても、この時ばかりは、初対面の人間を信用する余裕など欠片も残っていなかった。

──それが余計、島田のような見た目からして反社会的な匂いを漂わせる男と出会ったとあらば、尚更だろう。

804『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:02 ID:TQm/ytFw0
 そしてまた、同じく数分前の話。
あっという間もなく銃を向けられた島田であったが、銃弾は放たれることなく。
何せ、過去には違法格闘技で名を馳せ、『復讐屋』となった今でも卓越した格闘術を見せる島田虎信。その人である。
トリガーに指がかかる寸前、反射神経で腕を振るい、仕込みナイフを引き抜いてみせた。
鋭利な刃先は、佐衛門の頸動脈を寸分違わずギリギリなぞり。──もしくは、すでに0.1ミリほど食い込ませた、瞬発の攻撃。

互いの心臓の震えが、互いの武器の先端を微かに揺らす。
刹那ごとに命の天秤が傾く、張りつめた静止。先に動けば、どちらかがフィフティーフィフティーで絶命する。

──この現状下は、こうして出来上がったのである。



汗が滲み出て、

「…………ぃッ!!」


向顔。睨み続け、

「ぐっ……………!」


一方は、首から、か細い一本の血脈がスーッと滴り、
一方は、銃口の奥に宿る冷たい空気に心臓が早鐘を打つ。


二人は膠着を解き放つ何か──『隙』が来るのを待つばかりの。


「……………っ!!」

「…………ぃイッ!!」


────この、緊迫の時間。



『甲子園には魔物が棲む』。
そんな言葉があるが、もしもこのバトル・ロワイヤルにもそのような『神』が宿っているのだとすれば、今この瞬間──。
きっと愉悦に満ちた眼差しで、島田 vs 佐衛門の静かなる死闘を見下ろしていることだろう。
──もっとも、比較的巻き込まれた側である遠藤サヤは不運なものであるのだが。


「え、え………。さ、佐衛門さ……………………」




【Judgment】。
──決着の刻。死の兆し。



ただ、どうであれ。


「…………悪魔がっ………」

「ああァ!?? 悪魔はお前やろがッ! ボゲッ!!──」



膠着下が暗転に包まれる瞬間は、



「──…容赦はせんからな……クソったれ……。ゲームに乗ったクズ野郎がッ…!!!」

「……ブーメラン…っ! そっくりそのままお返しだ………っ。──」


──もう。


「…終わり…もう終わりにしようじゃないかっ………!! うわああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」

「イィッ!!! ざっけんなやボゲゴラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



眼の前を覆い尽くすほどに、近かった──。








「…やれやれなものだ。たかが缶珈琲一本。まさか豆から挽いていたわけじゃないだろうな? …そう思っていたら………島田め……」



 ──【残り00:08:20.521】──

805『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:21 ID:TQm/ytFw0
「「…あ?」」


「え?」



 そんな眼前から離れた向こうにて。

白い廊下に、揺れるカーテン。長く無機質な廊下奥から、コツ、コツ、コツ…と。

戦慄に満ちたこの空間をものともしないかのように、革靴の音と──、




「…案の定。実に愚かな争いだな……」



────独壇場を切り開くかの声が、静寂を引き連れて響きだした。




 ──【残り00:08:01.351】──




「………なっ…!? おま……──…、」

「島田、俺は常々思うんだがな」

「あぁ…?!」



 突然の出現。誰ひとりとして喧噪に夢中で、その気配を察知できなかった。
怒号も罵声も掻き消え、まるでサイレント映画のように静まり返る。──いや、三人を静まらせる力を持つその声。

靴の音が徐々に徐々に、一定のリズムでこちらへと近づいていく中。シルエットの主は淡々と、三人の内の一人、島田に向かって演説口調を発する。



「裁判、スポーツ、家督争い…なんだっていい。──」

「──結局、争い…すなわちバトルってのは『ジャッジマン《公平な第三者》』がいて、初めて成り立つと思っている」



「……え?」 「……………っ」



「そう考えるとだ。この『バトル・ロワイヤル』ってやつは、つくづくお粗末な構造をしていると思わないか?──」

「──なにせ審判《ジャッジマン》もなし。ルールも無用。勝手に始まり、勝手に命を奪い合って、勝手に結論が付く。…『バトル』の定義としては最低のフォーマットじゃないか。…公平性も何もない…。審判がいる分、小学校の球技大会のよっぽど秩序があるだろう」



 コツコツ、コツコツ────。

まるで機械仕掛けの秒針のように響く一つの足音。
佐衛門も島田もサヤも、誰彼もが虚を突かれ、氷と化したこの場で唯一響く音。

ビルの内壁に反射する光も、路面に焼きつく熱も、どこか白んで見える。
それは暑さのせいではなかった。彼が近づくにつれ、空間そのものの輪郭がぼやけていく。



「さて──唐突に割り込む形になってしまったが…、島田。あとそれから……君たちにも一つ俺から提案がある。──」

「──というよりも、…サヤ…だったか。そこの君に任せたいことがあるんだが。…いいか?」


「えっ!?」 「…な……っ?!──」


「──…な、なに……?」



光が邪魔で、なおも顔の判別もつかぬその男の白い輪郭が名指しするは、突飛にもサヤの名。
その口ぶりから察するに、彼は島田と佐衛門の膠着を、初めからどこかで見届けていたのだろう。
にもかかわらず、あえて直接の当事者ではないサヤを指名したことに、誰もが小さな違和感を覚えた。

なぜ彼女なのか。

というより何を言い出したいのか。奴は。

806『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:34 ID:TQm/ytFw0
島田。佐衛門。
敵味方関係なく、かの男の存在感に身動き一つ取れなくなるこの空間にて。



窓を通り過ぎた折、やっとその姿をはっきり確認できた謎の男は。

──いや。




────『白銀御行』は。





「案ずるな。簡単な事さ、サヤ」

「…だから……なにって…──…、」




「君に是非『ジャッジマン』をしてもらおうと俺は思う。──島田虎信を始末すべきか、まずは話し合うべきか。──」


「──この場の命運をサヤに預けようじゃないか」





「…えっ、え?──」

「──え、え、え、え、──」


「──えっ!???!」



「「…………え」」





────比較的まだ若いサヤへ、白羽の矢をたてた理由について説明しだした。





「な、え、…は? な、なな、なんで………。急にアタシ………?!」

「道理も筋も『なんで』もあったものか。…まぁ強いて理由づけるとするなら、予行練習と思って審判を担えばいいさ」

「…な、何のっ?!」


「…『裁判員制度』の…かっ………?!」

「…ん。──」


サヤを弁護立てるかのように、佐衛門が割って出る。


「──御名答だ、サングラス男。…選択ってのは、往々にしてある日唐突に突きつけられるもの。国がそうやって制度《裁判員制度》として決めているんだ。ならちょうど良い機会だろう?──」

「──それに、現状この場で一番ジャッジメントに相応しいのは紛れもなくサヤ。君のみだからな」


「え……………」

「御行…………っ、お前……………」



 何を言い出すのか見当もつかない。
佐衛門の視点からすれば、突如現れたこの男の『提案』は、思考回路を乱す渦でしかなかった。

ただ、理には適っている。
冷静に考えれば確かに理には適っている提案とはいえよう。
なにせ、喧噪下にいた三人のうち、対峙の真っただ中にいる島田と佐衛門では、どれほど言葉を重ねたところで歩み寄りは期待できない。
そうなれば、必然的に残る選択肢は一つ。佐衛門の味方と認識されているサヤの判断こそが、唯一この場を収める鍵となる。

確かに、論理としては美しい。納得はいく『裁判員制度』。
無駄のない理ではあった。

807『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/15(火) 23:59:49 ID:TQm/ytFw0
──もっとも、サヤの立場からしたらそんな『理』など理不尽極まりないものであるのだが。


「…え、え…え………………、」

「俺としてもこんな不毛な応酬に時間を割く余裕はない。できれば、速やかに判断を下してほしいものだ」

「え?! …いや……ちょっと…………まってよ…」

「悪いな、俺的にはもう十分なくらいに待ったつもりだ」

「はぁっ?!!」


焦るサヤに、迫る白銀。
この理不尽を突きつけてきた諸悪の根源は、なおも忌憚なくサヤに言葉を続けてくる。




「選択肢は二つに一つ。シンプルだろう?──」


「──『殺すか』、それとも『生かすか』──」


「──さあ、判定の時だ。サヤ」




「…い、いや……、ちょ、ちょっと……。なんなわけ…──…、」

「──…あっ……」


そして気がつけば、佐衛門と島田の視線は、ただ一人──サヤへと静かに集束していた。
まるで世界の焦点が定められたかのように、二対の眼差しが彼女を射抜く。



「……サヤさん………っ」

「………ィッ……」


「ぃ、ぁ………あの………………」



その緊迫を帯びた鋭い眼差しは、睨みつけるというよりも、捕らえて離さぬ鎖のようだった。
細身のサヤの全身を、冷たい光が絡みつき、ゆっくりと締めあげていく。
逃げたい──本能がそう叫ぶのに、足は一歩も動かず。
投げ出したい──心がそう嘆くのに、この沈黙の圧は容赦なく肩にのしかかる。
ただ、空気だけが異様に重く、時間だけが冷たく流れていた。


気が付けば、この場の空気は白銀御行一人に完全に支配されていた。



「え、え……。え。…え………」


「さあ早く」


「…ちょ、じ、焦らすなよっ?!!」

「断る。──」




「──さあ、早く……っ」



「…えっ………え、」



一秒ごとに重くなっていく、全身を押し潰さんばかりの圧。
視線、視線、視線──突き刺すような眼差しが脳髄を灼き、目眩が走る。
良く効いた空調など意味をなさず、汗は皮膚を濡らし続けていた。

わずか十六歳。
喫茶店の店主でしかない、ただの少女に、
そんな重圧に耐えきれるはずもなく。



「あ…………アタシは…………………………────」



彼女は唇を震わしながら、やっと。【ジャッジメント】を下した──。

808『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:02 ID:MBpdp8rs0


………
……


──Spotifyから流れるは、『逆転裁判3』BGMより。

『〜珈琲は闇色の薫り』
ttps://youtu.be/5uabvR-jCpE?si=I7AnnajviE8agHXJ


……
………



809『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:18 ID:MBpdp8rs0




 ──【残り00:01:08.110】──



「…蛇めっ………!!──」


「──選べるわけ無いだろう……、サヤさんが…『殺す』という…選択肢を………っ!!」

「…ま、つまりそこまで計算づくやったちゅうわけやろ。恐ろしいやっちゃで…。なぁ三四郎」

「…くっ…………。………」



 サックスジャズが響く、カウカウファイナンス三階──事務所内。
Spotifyから流れる落ち着きの音色に寄り添うように、珈琲の香ばしさが空間を満たしていく。

『サヤ自家製・特製コーヒー』──四人分。

互いの間にあった疑心暗鬼が解けた──とは、まだ到底言い難い。
それでも、わずかながら緊張は緩和され、──そして白銀にとっては、ようやく念願のカフェインにありつけた次第である。
一応のところ、事態は丸く収まりつつあった。


「ほいよ、ブラックコーヒー」

「……すまないな遠藤。──」


 ──ゴクっ


「──……ほう。これは中々…。酸味と苦味のバランスが秀逸。…美味いな」

「あーへへー…。あーごめん、なんかもう色々疲れすぎて褒められても嬉しく感じないや、ぶっちゃけ……」

「まさに『コピ・ルアク』のようなコーヒー。ここにありだよ」

「…あ? …は? …いやそれ…褒めてんのっ?! …遠回しに『糞』みたいなコーヒーつってない?!」

「……物は言いようさ」

「そこは否定しろよおいっ!!!」


 マグカップから広がる苦い湯気。
一番窓際のデスクにて朝日を浴びながら、パソコンを動かし珈琲を飲む。まるでモーニングタイムの理想郷。
当然ながら本家本元の高級品『コピ・ルアク』とは程遠いコーヒーではあるが、ほろ苦い薫りにつられて、白銀はふと回想をする。


二年の時、

あれは夏休み以前のことか、生徒会室にて。

藤原書記が『コピ・ルアクのです〜』と口走ったせいで、ついつい猫の排泄シーンを想像しながらとなった、珈琲タイム。
無論、生産工程はどうあれさすがは一等品といえる、珈琲の奥深い味、薫りであったが。

その味わいを、三人で。


──隣にいた“彼女”と、同じ味わいを分かち合いながら──カップを口に運ぶ、あの笑顔を──……、



「…………………ふっ…」


──いや、今は、よそうか。──と。
ここまでを区切りとして、白銀は意識を現在に引き戻す。
カップをデスクに置き、タイピングの再開を始めていった。



「………」 「………」



無論、白銀がパソコンを用いて為すことはただ一つ。
──『ウルトラアトミック作戦』準備の続きである。

810『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:33 ID:MBpdp8rs0
 ──【残り00:00:58.424】──


当作戦については、自己紹介の時間にすでに佐衛門ら二人へと説明済み。
ゆえに佐衛門は、白銀のパソコンを、まるで目の前に悪魔でも映し出されているかのような眼差しで、睨み続けていた。


「……白銀君…だったよなっ………? ………僕は是非ともキミに勧めたい場所があるよ…………」

「…………勧めたい場所、ですか。…当てても構いませんよね。──…『病院』と仰りたいのでは?」

「…流石だね………っ。──」


「──何が『ウルトラアトミック作戦』だっ…!? こんなの…ふざけている………。何もかもが内容が…滅茶苦茶だっ……!!!」

「…………三四郎……ゆうてそんなん……」

「なんだ島田さんっ……!? これ以外に策がないと…そう言いたいのか…………!?!」

「……………俺やて……。そんなん俺やって…──…、」


「インポッシブルだっ……!! 完全に狂っている……馬鹿すぎる計画だよ……っ!!!」

「ああ勿論自覚しています。バカの発想? その通り。正気の沙汰じゃない作戦なのは確かです。…ただ、俺は『バカと天才は紙一重』という言葉が嫌いじゃなくてね」



 ──【残り00:00:33.443】──


「…天才と言いたいのか……? 自分をっ………」

「…いえ。──」

「──ただ、バカと天才の違いについて分かりますか? …俺の持論を以て然るに、バカは思うだけで終わりますが、天才は行動に移す。…佐衛門さんもそう思いませんかね」


 ──【残り00:00:20.333】──


「………狂人の持論はあてにならないよ………っ」

「──ええ、アンタがそう思うなら自由にしてください。…まぁどう思おうにせよ、病院に行くべきは貴方ですよ佐衛門さん。──」

「──痛まないんですか? その右目」


「え、ちょっと白銀!! …それNGワードなんだけど…」 「…ぐっ………………。──」


 ──【残り00:00:08.133】──


「──…僕は、…間違った発言はしていないつもりだからな……………っ」


 ──【残り00:00:2.214】──


「…そうですか。なら俺とは対照的ですね。自分で言うのもナンですが、俺はこの作戦何もかもが過ちで、完全に間違いきってると思いますよ。──」





 ──【残り00:00:00.333】──




「──……なにせ、全ては一人の『女子』の為だけにあるんですから──────────」





 ──【残り00:00:00.001】──



 ────【Time up】────







 ボンッ──。

  ドッガガガガガガッガァァアオバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ────



「わっ!!??」 「がっ……!?」


「な、なんやっ!??」

811『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:00:54 ID:MBpdp8rs0

 唐突な爆発音が、事務所の空気を裂いた。
建物が軋みを上げ、大きく揺れる。

思わず窓際へ駆け寄った島田と佐衛門の目に映ったのは、遠くのチェーン店が炎に包まれる光景。
──平穏を絵に描いたような国、日本。──その中でも最も華やぎと平和に満ちた街、渋谷。
その筈だというのに────爆風は届かずとも、炎の残響は胸中を焦がしていく。

恐らく対岸の火事。自分らを対象とした爆破攻撃でないのだろうが、サヤと佐衛門の眉間には汗が滲み、島田は歯を食いしばったまま視線を逸らさない。


「…んやねんッ………。おい………」

「え、え、どうすんのこれ…!? とりあえず……避難──…、」


その『バトル・ロワイヤル』の一破片が飛び交った瞬間。


「──あっ……!」


パッと。
一つ、また一つ。
照明が、パソコンのディスプレイが、何もかも。『電気』の灯りが消え失せて行く。

ふと窓の外に目を移せば、街の灯りまでもが、ポツリ、ポツリと断たれていくのが見えた。──爆発の余波による電気接触の不良。大規模停電であろう。
誰かの指でスイッチを切られるように、街の灯《ライムライト》が、続々と退場していく。

早朝とはいえ、まだ薄暗さ残る渋谷区/外苑西通りは気づけば明かり一つない状態。
文明開化以前の街並みが如く、暗闇に包まれた。この一瞬であった。



──この一瞬。


──この一瞬にて、最後の幕を下ろすが如く、また一つの明かりが消えて行く。



────『パソコン』が壊れたことが起因となり、



「………サ、サヤ。とりあえず落ち着けって……──…、」



「──って、あッ!!!」 「あっ!!」







「……………………つくづく、爆破尽くめだな。…今日の俺は」




────白銀御行の視界は、ゆっくりと暗転していった。────。



 バタリッ─────



「み…御行ィッ!!!!」



………
……


812『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:01:07 ID:MBpdp8rs0



 ピ…

 ──【残り00:00:03.000】──

アメリカ・マディソン郡の橋にて。


 ピ…

 ──【残り00:00:02.000】──


渋滞中であったことが不幸か幸か。
車内にて、赤いカウントダウンが人知れず泣きはらし。



 ピ…

 ──【残り00:00:01.000】──



 ピィーー……

 ──【残り00:00:00.000】──






 ────【Time up】────



──プルトニウム爆弾を積んでいたトラックが閃光と共に大爆破。

──その衝撃波により、周囲の車両は次々と吹き飛ばされ、近郊にあったトルーマン元大統領の墓すら無残に蹴散らかされる。



──前方車両に乗る、現地を視察していたアフガニスタン最高指導者は、光に包まれその生涯に終止符を打った。





────『ウルトラロマンティック作戦』は経過に連れ、後にこう改題されることとなる。



……
………

☩ EPISODE ##.𝟎𝟔𝟔 ☩

────『【Plan 𝓐】 - from 𝓐fghanistan』

☩────────☩




………
……


813『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:01:24 ID:MBpdp8rs0
【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.05:00】
【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】疲労(大)、昏倒
【装備】アーミーナイフ@映画版かぐや様
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:四宮かぐや…。
2:ゲーム崩壊のプラン『ウルトラロマンティック作戦』を指揮。ゲームを崩壊させる。
3:島田、サヤ、佐衛門はとりあえずで引き入れている。

【島田虎信@善悪の屑】
【状態】頭部出血(軽)
【装備】なし
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:白銀の『策』を信じ、従う。
2:姫(四宮)……。ほんますまんッ……。
3:中年親父(黒崎)に復讐したい。…が、今は後回し。
4:三四郎、サヤと行動。ただ三四郎には嫌な感情しかない。

【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ】
【状態】右眼球切創、背中打撲(軽)
【装備】ヘルペスの改造銃@善悪の屑(外道の歌)
【道具】医療用●麻x5
【思考】基本:【静観】
1:サヤさんを守る。
2:白銀、島田は注視しつつも同行。
3:会長に激しい憎悪。
4:『ウルトラロマンティック作戦』に激しい嫌悪感。

【遠藤サヤ@だがしかし】
【状態】疲労(大)
【装備】あやみのヨーヨー@古見さん
【道具】フエラムネ10個入x50
【思考】基本:【静観】
1:佐衛門さん、白銀、島田さんと行動、そして互いに助け合う。
2:ジジイ(兵藤)を絶対許さない…っ。
3:ほたるちゃんを探したい。
4:とりあえずその作戦…ヤバくね……?

814『plan a(ry』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/16(水) 00:04:53 ID:MBpdp8rs0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①今回の話、意味不明だと思った方。正しいです。
②あえて説明不足で書いたので理解できなくて当然なのです。
③そして、融点とかアフガンについての描写がメチャクチャと思った方。正しいです。
④私は科学とか国勢に興味がないので適当に書きました。これもまた支離滅裂で当然なのです。

【次回。7月22日投下。】
──遠い、
──空をあの日。
──眺めていた。

『男の闘い』…西片、ガイル、サチ

815『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:19:57 ID:nieNARdc0
[登場人物]  西片、ガイル、美馬サチ

816『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:20:39 ID:nieNARdc0
「あはは〜、また私の勝ち。西片はほんと分かりやすいね〜」

「ぐ、ぐぬぬ〜……っ………………」


 …また、負けた……。

 入念に準備して…、恥もプライドも無くイカサマまで仕込んで…、泥水すする覚悟で勝つつもりだったのに………。
高木さんにまたゲームで敗れてしまった……。
……しかも負けた上にからかわれるというダブルパンチ………。なんて屈辱だ……っ!!
よくマンガで「負けたけど、清々しい気分だぜっ!」って、ライバルキャラが負けを認めて笑うシーンあるけど……。
…見習いたい……。…っていうより、オレも欲しいよ〜その心の余裕が〜〜!!!


「じゃ、そういうわけだからね。罰ゲームの覚悟、オーケー?」

「…え。え゙っ?! ほ、本当にやる気なの?! 高木さんっ?!!」

「ん? もしかしてそんなに怖かったの? デコピン」

「…いっ…!! …い、いや………。あ、あんまりに子供っぽい罰ゲームだからさぁ〜。『え? その程度でいいの?!』って思っちゃったんだよね〜オレ〜〜………」

「お〜流石は西片。じゃさっそくいくよ!」

「え?!! いやちょ、ちょっと!! タイムタイム!!!」


くそぉ……。
……高木さんめぇええええ……。
…いつの日か……きっと……。
──いや、オレは、いったいいつになったら……。


「タイムもなし、二言も認めません。『男に二言はねぇぜ…』って、西片の好きな西部映画でも言ってたでしょ?」

「なっ!!? なんで知ってるのそのセリフ?! 見たのっ!?」

「うん。クリント・イーストウッド、渋かったなぁ〜。昔の映画だけど面白かったよ」

「い、いやどうして興味惹かれたのっ?!」

「んーー。西片をからかう為ならなんでも履修の私だからかな〜」

「結局それに行き着いちゃうのかよ〜っ?!!」


……はぁ……。
オレは……。

オレはァ〜〜〜〜〜……………。


「じゃ、いくよ」

「…た、高木さーん…………」

「えいっ!──」


……高木さんにからかい、勝つことができるんだろう………。はあ〜あ〜ぁ……………。



「──…と、見せかけて脇腹にパンチ!! おりゃっ!」







 ────ズッッッバアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァンンンンッッッッッッ!!!!!!!

 ──バキバキバキバキバキバキゴキゴキゴキゴキッッッッッ──ミシミシミシミシギギギチギチギチィィィィィィイイイイイッッッッ




「ぐッがばぁああああああああぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!!???」



 …ご…ぁあ…ァァ……ッ………。

い、痛い゙っぃ………………ッ!!

脇腹を抉るように…めり込んでくる拳………ッ…。
腹肉とあばら骨が、ぐちゃぐちゃのミンチになって、…全身に震える波動が………走る……ッ。
い、息が……できない……ッ………!!
痛みのあまり……呼吸の仕方を思い出せ…ないぃ…ッ……………。

817『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:20:53 ID:nieNARdc0
「ゲホッ、ゴホッ……、た、タイム──…、」

「どうした、もう終わりか? 西片ッ」

「…あ、……うわぁッ!!!?!」



 ────ブンッッ


…わっ…!!
……そして間髪入れず飛んでくる……蹴り………ッ………!!!



…そうだ……。
そうだった………。

頭の上を星とヒヨコがグ〜ルグル………。──そんな混乱状態で忘れていたけど……、

オレ…………、今………。



「フンッ!!!」

「ぁっ──────!!!」



──…『ガイルさん』と……、ガチンコ死闘《Street Fight》をさせられてるんだった…………────。







episode 70
『男の闘い』
〜🅸🅽🆂🅴🆁🆃 ​ 🅲🅾🅸🅽〜





………
……


818『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:10 ID:nieNARdc0



い…いや………。

いや。いや……。



…ど、どうして………?



「はぁっ、はぁっ……っ。ひへぇ……、はぁ…っ…はぁ……っ。──」

「──ガ、ガイルさん……っ。ちょ、ちょっとだけ……話を──」



──ROUND【5】────


「──いっ?! も、もう始まるのっ?!!」

「…ッ!!!──」


────FIGHT!!


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──【ソニックブーム】(←ため→+P)
──[腕を交差させて放つ、真空の刃──音を置き去りにするような超速飛び道具。]


「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!──」



なんで………?

どうして…?



「──はぁ…はぁ……。ひぃいいいいいいっっっ!!!」

「逃げるな西片ッ!! ファネッフー!! …──フンッッ!!!」

「うわっ!!!?」


──BUUUNッ!! BANッ!!
──【しゃがみ蹴り】(↓+K)
──[太い脚から繰り出される強烈なローキック。ガイルの圧倒的な体格から生まれる長いリーチが特徴]


「うわぁああああぁぁぁああああああああああ!!!!!」


も、もう……っ。
わけが……、わからない……っ……。


「何度でも言うぞッ…!! …避けるなッ! そして逃げるなッ!! …逃げるな卑怯者ォッッ!!!」


──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「ひ、ひぃいぃぃいいいいいッッ!!! うわあああああああッッッ!!!!」

「…クッ。…西片よ……勝負においてだ」

「え?!」

「逃げて、何が得られる……ッ!? 攻撃を受けずして、何を学ぶというのだ……ッ!! …仮にこれが俺が狼で、貴様が野ウサギだったなら。…逃げることも戦術と呼べたであろう……」

「ひぃ、ひっ……! はぁ、はぁ……」

「だが、俺は貴様を、そんな純粋無垢な小動物だとは思っていないッ!! これは……貴様と俺……餓狼同士の対等な闘いだッ!!!」

「ひい?! ぃいぃいいいいいいいいいわぁああああああああ!!!!!」


「ゆえに、無抵抗を装った逃げなど、断じて許さぬッ!!!! ──フゥンッッ!!!」

819『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:26 ID:nieNARdc0
「えっ!!? ぁぁあ!!…──」


──…GASHIッ!!
──投げ技【ジュードースルー】…(→+中P)
[背負い投げに近い技。“柔よく剛を制す”の一手。]
[威力は高くないが、間合いを整えるにはうってつけだ。]



──BANNNッッッ………






はぁ、はぁ……っ。
……はぁ…………。


──……ど、どうして…………………?


オレとガイルさんは……。

────闘わなきゃならないんだっ…………………?!



しょ、初対面だったとはいえ………。
さっきまで、なんとなく仲良さげな…空気だったのに…………。
肩がぶつかったとか、誤解とか、そういう喧嘩のきっかけもなかった……。
ほんとに、なにも……なかったはずなんだ……。

つまり……
オレたちの間には、恨みも怒りも──0。

ついさっきまではそうだった…。
…少なくとも、オレがお腹壊して…トイレ行くまでは…そうだったはずだ…………。

それまでは優しくて、そして頼もしかった…ガイルさん…。
正直オレはバトル・ロワイアルが怖かったし…心もちょっぴり屈していたけども……、
美馬先輩と、…そしてガイルさんとなら……。希望の道を開けるんじゃないか…って……。

……そう思っていたのに………………。


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「う、うわぁっ!!!!」




────…トイレに行くとき……どんな逆鱗が踏まさったというんだ……っ????



「はぁはぁ……………」


「………………ッ……」





 ……まずい……。

いや本当にまずすぎるっ………!!


『残りカウント』は…たぶん五十秒くらい……。
…長いようで短いとはこのことだっ……!!体は今すぐ終わってほしいと悲鳴をあげてるけど、頭のほうは、もうちょっとだけ考える時間がほしいと訴えている……。

とにかくまずいから……──次の『インターバルタイム』までに…ガイルさんの説得方法を考えつかないと………!!

はぁはぁ………。
考えろ、オレ……!
…なにを考えるって、そりゃもちろん、……何故『今闘わされているのか』について………!
キッカケとなった、トイレ中の『空白の五分間』に何があったかについて考えるんだ………!!

820『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:41 ID:nieNARdc0
「サマーソルトキッィィクッッ!!!!」

──BUNNNッッッ………

「うわ!? あ、あぶな〜!!!」

「……クッ!! 逃げ足だけは野ウサギ並みか……。まったく、男の風上にも置けんッ…!!」



 ……もちろん、逃げながら……──考えるんだ、オレぇぇっ!!!

 …たったの五分程度……。
トイレから戻った瞬間、鬼みたいな形相で待ち構えていて、気付いた時にはヘッドロックされて…バトルを挑まれるという………。
兄貴分のような存在だったガイルさんが…なんで豹変したのか………オレにはさっぱり分からないよっ!!?

……いや待てよ…?!
も、もしや……。オレの…その……『トイレの音』があまりにも爆音で、不愉快だったから……とか…。そういう理由…なのかっ………?
……そんな、理由で……?
ここまでの殺意MAXに…っ!?


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「わ、わぁああああああああああああああっっ!!!!!」



 ──って、違う!! そんなくだらない理由なわけがあるかっ!!!
お、オレだって、美馬先輩の前だからめちゃくちゃ気を使って用は済ませたし……。
ていうか音が漏れるはずなんてないしっ……!! そんな理由は絶対にあり得ない…。
……いやいや、そもそも理由がどうこうじゃなくてっ……!! そうだ、仮に音がちょっとでも聞こえてたとしても……!!

──あんなにナイスガイだったガイルさんが…そんなちっちゃいことでキレるわけがないだろっ……。

…そりゃたしかに、ガイルさんとはこの場が初対面……。
この人について、分からないことや得体の知れない部分なんてまだまだ山程あるさ………。

なんで、アメリカ人なのに日本語そんなに上手いの?!──とか。
あの筋肉と格闘術、どういう人生送ったらそうなるんだ!?──とか。


「──ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


……その『ふぉねっふー』ってのはなに?!! ──
手からグルグルと火みたいなの出てるけど、アレなに!? 武器!? 魔法!!?──
無限に繰り出してきてるけどなんの武器を使ってるの?! ガイルさん、あなたは本当に人間なんですか!?? ──とか……。

…あぁ、そうだ……。
信じられない技といったらこの……、


「…クソッ……。──このッッ!!!」

──GUIッッ

「え。──お、おわっ!??」


「──フンッッッ!!!!」

──BAANッッッ!!!!
──【真空投げ】…←タメ→+強K→中K0同時押し。
[『無』を掴んで投げると、掴まれてもない相手がなぜか吹っ飛ぶ。]
[距離なんか関係なし。……もはや、バグとしか言いようがない『ガイル専用チート技』]


 ──バンッッ

「ぐっはぁああっ……!!!!!」


…どれだけ離れていようが、触れられてもないのに宙へ投げ飛ばされていく……、
「合気道か?!」とか「超能力か!?」って突っ込みたくなるくらいの、意味不明な投げ技も……──。

──質問したくてしたくて仕方ない……。
とにかくただ者じゃないことは確かな格闘家、それがガイルさんだ……。


 …だけど……、
それでも、…ガイルさんだってオレや美馬先輩のことは詳しく分かっていない……そんな中でもっ………!!!

821『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:21:56 ID:nieNARdc0
オレたちはさっきまでのコメダで……和気あいあいと食事を楽しんで…………、
お互いの確かな『心』を分かりあえたはず………!! オレとガイルさんは信頼関係にあったはずっ…………!!
ガイルさんが…この地獄みたいなゲームに巻き込まれた中でも、誰よりも立派で、優しい『男』だってことを──少なくとも、オレは分かってたはずなんだっ………!!!

それだというのに……。
一体、なにが…。
なにがきっかけで…こんな……ことに…………。

オレはガイルさんと闘いたくないのにっ………!!


「──フンッッッ!!!!」

──BAANッッッ!!!!
──【真空投げ】


「ぐえっ!!! …ま、……また…………?」


…まぁ闘うって言っても、実際はただの一方的なボコボコタイムだけどさ…………。
う、ぐぅぅ……! あたま、痛い……っ!!


「……はぁっ、はぁっ、……っはぁ……」



……あれ?
……いや、待てよ……!?
投げられて、頭をゴンッてぶつけたその瞬間──ふと、ひとつの疑念が……脳裏によぎった……。


──“…だけど……。”
──“ガイルさんだってオレや美馬先輩のことは詳しく分かっていない……。”


──“オレや『美馬先輩』のことは……”


「──っ……!!」


 ……あの時、店内にいたのはオレを含めて三人…。
ガイルさんと、美馬先輩とで三人だった………。

もちろん、これからする考察には……なんの証拠もない。言ってしまえば、ただの憶測。……いや、悪意ある邪推とすら言えるよ……。
──だけども、……可能性はそこに賭けても良いくらいだ……………。

…オレもバカじゃない。
前々からずっと、『彼女』はオレに、なーんだかイヤな視線を注いでいたことは…気付いていたけど………──もしかして。


「…『また』、か。真空投げが気に食わんと言うなら仕方ない。俺の肉体で味合わすのみだッ!!! ──フンッ!!!!」

──BANッ!!
──【しゃがみ蹴り】


「わ、わわわ、わっ!!!?」



これは…これは──全部……美馬先輩の仕組んだこと…………!?
オレを亡き者にする為、…彼女が…ガイルさんにウソを吹き込んだんじゃないのかっ…………?


…………………………。


……い、いやいやっ!? なに考えてんだオレっ!?
それって、あんまりにも……最低な妄想じゃないか……っ!! 美馬先輩からしたら「は?」ってレベルの冤罪だぞっ!?
初めて出会った時、美馬先輩は言ってくれたんだろ!
オレに、「私を助けて。信頼して」……って……!!
……くっ、それだというのに……。せっかく出会えた信頼する先輩へ……なんて酷いことを考えていたんだ…オレは。
…疲れているのか?! オレは……っ!!


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!!
──【ソニックブーム】


「うわ!! ──ひぃっ!! ──ぐっああっ!? いっ……たあぁ……っ!!」

822『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:12 ID:nieNARdc0
 ──…いや、そりゃ、疲れてるよな。……オレ………。

 雨のように絶え間なく降ってくる攻撃に、避けようのない未知の技《真空投げ》……。
ここまで長時間避け続けてきたけど…あいにくオレは全てをかわすほどの超人なんかじゃない……。それができるんなら高木さんにここまでからかわれてないよ…………っ。
顔も体も……もう何発喰らったか分かんないくらい、ボコボコ……。
打撲って言葉の辞書が身体中に刻まれてるレベルだ……。
身体は歩くだけで軋むように痛むし、顔の違和感なんかスゴイ…。多分、目とかお手本のように腫れ上がっていると思う……。

おまけに今は真夏……。よりにもよって全く空調がない炎天下、外での闘い……。
ミンミンゼミの声援なんか励みにならない……どころか、イライラブーストにしかならなくっ……!

オレは…もう膝をつくほど………、
限界だった………………。



『──K.O.』

「あ…」 「くッ…!!──」



『────Time Over』

「──ここまで…かッ」



……これで、五回目のKO。
毎回聞こえてくる、どこかからの野太い声が……まるでゲームのアナウンスみたいに、休憩時間を告げてくる……。
…ガイルさんは戦闘態勢を立てた時、必ず、『Round 1,──FIGHT』との声が遠くから響いて、…そして九十九秒が経ったと同時に、この『K.O.(以下略)』が響くんだ……。
…インターバルタイムは、およそ二分ほど……。
そのあいだ、ガイルさんはほとんど動かない……。
唯一することといえば、乱れた髪をクシで整えるぐらいで……まるで銅像みたいに直立不動だ……。


「はぁはぁ…はぁはぁっ………! はぁ、はぁ……」

「………ぐうッ…」


あの声の主は誰で……どこにいるのか……。
そもそも、なんでガイルさんはその声に従ってるのか………。
…オレには全くさっぱりだけども……。(そのサッパリさをこの重苦しい身体中に分け与えてほしいくらいだっ……!!)

ともかく、オレはこの時を…。
インターバルタイム──休憩時間だけをずっと待って……。とにかく逃げ続けてきた………!!
戦闘中は全く聞く耳を持ってくれないガイルさんも、この時間だけは拳を止めてくれる…。
会話ができる…チャンスの時間なんだ……っ!

一回目は「あの……」で終わって、
二回目は「ガイルさ……」って途切れて、
三回目は「が、ガイ……」止まりで、
四回目なんて「……しつ、質問……」が精一杯。
疲れと痛みがひどすぎたせいで、まったく有効活用できなかったインターバルタイムだけども……っ。


分からないことは山積みな今………。オレは言葉の続きを………!!
オレは…ッ、疲弊する体にムチを打ってでも……──ガイルさんと話し合わなきゃならないんだッ────。


「……はぁ、はぁ…………。ぐッ、…美馬先輩…ですよね……ガイルさんっ………」

「………なんだ、西片」


これから話すことは……
自分でもヒドいって分かってる。……最低の勘違いかもしれない。
でも……もうそれしか、思いつかないんだ……。
今は……とにかく、ぶつけるしかない……っ!!


「も、もしかして……っ……。はぁ、はぁっ……ゴホッ! ゴホッ……っ。──」
「──……『西片を殺せ』って……そう……言われたんじゃ、ないですか……ガイル、さん……っ」

「…聞こえていたか」

「……っ!! …く、くそっ………………。はぁっ……はぁ……っ……──」


『聞こえていたか』って……それ、本当だったのか……!?
美馬先輩が……っ……!!
そんなっ……!? くそっ……ぐうぅっ……!!!


「──美馬先輩に……なに…言われたか…分かりません…けど……………、オレを…信じてくださいっ!!!! …あの人の話は、全てウソなんです…!!!」

「…なに」

「そ、そりゃ…あの人が何企んでるかとか…嘘ついてる証拠とか……オレ…頭悪いんで分からないし…説明できませんよ………っ。──」

823『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:28 ID:nieNARdc0
「──で、でもッ…ここまで、5Rも闘ってきて…分からないですかッ!?! オレが……そんなに殺されるほどの人間じゃないって……!! 誰かに恨まれるような奴じゃないってことを……ッ!!──」

「──…ってそんなの自分で言うのも、色んな意味でナンセンスですが……。…でも…と、とにかくッ!!!──」


「──オレを……信じてくださいッ!!! 本当に……お願いしますっ……!!」

「……」


「ガイルさんッ………!!!!」



…息があがって、肺が潰れそうになってるのを思い出したのは言い終えたこのときだった……。
『過労死』って死因、授業でつい最近習ったけど……。次の6R目の頃には……多分オレはそれで死ぬ感じだと思う……っ。

インターバルは、たった二分しかない……。
もうあと残り何分残ってるかなんて分からないけど…………それでも、今だけは……!!
ガイルさんが拳を止めてくれてる、この一瞬に……。
オレはこの今に人生の全てを賭けたんだッ………!!


「……………。──」


…何を考えてるか分からない表情で対面し続けるガイルさん…………。

お願いだ……!
聞いてくれ……! 分かってくれ……!! 頼むからッ……!!!

オレの心が通じてくれ………ッ!!!


オレの声が……この心が……届いてくれ……ッ……!!!
オレは……オレは、あなたのことを……。
──強くて、カッコよくて……どこまでも真っすぐな、あなたのことを……。


「──…………。──」



もっと知りたいんだッ…………──────!!





「──…恥を知らんのなら…教えてやるッ!!!」




「…え………」



「…あれだけ彼女を苦しめ、辱め……ッ。それでいていざ自分がピンチとなれば…サチに全部の罪をなすりつけるとは………」


「えっ…」



「…なにが『ここまで5Rも闘ってきて分からないですか』…だ? 俺はもう十分分かったつもりだ。散々逃げ回り、休憩時間を悪用して御託を並べる……。──」


「──そんなお前の本性がッ……!!──」



…え。



「──恥を知れッ!!! 残り十五秒…このラウンドで終わらせるッ、西片ッッ!!!!!」



 …………………ッ…。

…失敗…………?

う、嘘だろ………!?

824『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:22:54 ID:nieNARdc0
…オレの心からの思いが……全く伝わっていない……!
それどころか、余計火に油を注いだ結果……。
レギュラーもハイオクも軽も全て注ぎ入れたような………ガイルさんの……──鋭い殺意しか生まれていないっ………!?

こ、これって………『闘いにおいては話しても無駄』…という教訓の現れなのか………?!
いや……他の人だったら……説得できてたのか?
オレが口下手だから……ダメだっただけなのか……!?

残り休憩時間は九秒…、八秒…、七秒…………。
一秒ごとが異常なくらいに速すぎるっ…………!!
この短い時間で…オ、オレは………。
オレは一体どうすればいいんだ…っ!!?

か、考えろっ……。考えるんだ!! オレの脳みそ、さぼるんじゃない!! 働けぇぇぇっっ!!

そ、そうだ…!!
高木さんなら……。
あの人なら…同じシチュエーションの場合、どうしたかを考えてみよう!!
…いつもオレより一回りも先を行く……彼女なら、この緊迫した状況でどうしたか……………っ。

え、えーと……!! くそ、思い出せ……!
今までの高木さんとのやり取りを……全部……思い出すんだ……!!


高木さんなら、………高木さんならきっと………ッ。



きっと……………………ッ。


 ──五秒、四秒……、


「覚悟をするんだな、外道ッ………」

「いっ!!!」



 ………………………………ダメだ…っ。

なにも……、
…全くなにも思いつかない………………。

…くっ。
……ふふ……あはは……。
考えてみれば……当然か……。



彼女の思いを読み取れるなら……、

オレはここまで負け続けていないのだから、さ……………────。



……残り三秒が経過したとき────。


「…………」


────……すべてを諦めたオレは、不意に思い出した。
…そういえば、学ランの懐に『支給武器』──拳銃があったっけ、って。



……残り二秒が経過したとき────。


「…………高木……さん…」

「むっ…。──」


────気づいたら、もう手は懐に伸びてた。
弾は……入れてある。……撃てるかどうかは分からないけど、西部劇を何本も観てきたオレの勘がなぜかこう言ってた。
「──いける」って一言のみ。


「──なッ!!?! き、貴様ッ──…、」


「………」



……そして、残り一秒が経過しよう、そのとき────。


────もう、何もかもがどうでもよくなって。
………オレは、銃をガイルさんへ向けた。


「……………。オレだって……ッ」

「っ……に、西片……ッ……」

825『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:11 ID:nieNARdc0
……さっき、『高木さんならどうしたんだろう』とか頭一杯に考えていたけど……、…オレはそのことを後悔したよ………。

オレだって、…ガイルさんからした美馬先輩のように…守りたい人がいるんだよッ。
オレだって…ただ殴られて蹴られて掴まれて…そして殺されるわけにはいかないんだッ。


「……………っぅ!!!」


………卑怯極まりないし、…本当は撃ちたくない相手だけど、…もう仕方ない……。



「…西片アァァッ──…、」




────この闘いに勝つには、これしかないんだッ…………!!!






 “…あははー。顔赤いよー。”



 “…じゃ、また明日ね。交換日記忘れないでね?”



 “じゃあね、────西片!”







「………高木さん……」




残り0秒が経過。
『ROUND 6』の声が響いた、その瞬間……オレは────。



 カラン──……カラ……カラカラ……

 ……コン……。



「……なッ。………に、西片…………?」


「…………」




────銃を……遠くへ。思いきり放り投げた。

826『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:26 ID:nieNARdc0
「…な、…。──」


「──なんの真似だッ……西片………」

「………当たり前だろっ…」

「なに…!?」


…顔ギリギリのところで、ピタリと止まるガイルさんの拳。
視界を覆うその拳の向こうでも分かる、…その面を食らった表情。


「これをやっちゃ…おしまいなんだよッ…」

「……西片、何が………」

「オレはこのバトル……殺し『抜き』の、ぶつかり合いでやりたいって言いたいんだッ!!!!」

「…っ!!!」



…一瞬ではあったけども、その驚きの表情のガイルさん。
──さっきまで見せていた怒り一色の顔とは対象的な、…憤怒のない顔に。
オレはガイルさんの顔に憧れ、仲間意識を持っていた。

…穏やかな顔つきのガイルさんが『好き』でいたんだ。


「大人はみんな『争いは話し合いで』とか言うけどさ……そんなのは違うッ!!! 男なら…男なら己の力を見せ合い、ぶつかり合いッ、そして互いを鼓舞してこそ、初めて分かり合えるんだッ!!!──」

「──そうだろ!! そうだよなガイルさん!!!」

「…………」


「…だったら分からせるまでだ…!! オレの思いを、本当の気持ちを全て……、分かり切るまでバトル…闘ってやる…!!! 拳で、届けるんだッ!!!」



…そして、オレは…。
────もしかしたら、高木さんの…。彼女のこと『も』…、また…………。


……いや、これ以上は言わないでおくか。…小っ恥ずかしいし。



 まぁ、いいや……。
とにかくオレは、あの二つの笑顔を……オレが好きなその笑顔たちを……取り戻し………、


守るため……………っ!!!




「…西片、急に敬語をやめたな。その意思は何が理由だ?」



オレは遠く転がる銃を一目して、ガイルさんへを真っすぐ見据えた───。



「……これで、立場は『対等』だよな………ッ」


「……フっ。……面白い、ならば見せてもらおうじゃないか……。貴様の…『思い』やらを…ッ!!──」




「──確かみさせてみろッッッ!!!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!!!」


「ッ!!!!!!」

827『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:37 ID:nieNARdc0


──【FIGHT】────ッッ!!!!


828『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:23:54 ID:nieNARdc0
「──フンッ!!!!!!」

──POWッ!!!


 至近距離…ともあって想定はしていたけど、ガイルさんが我先に繰り出したのは『しゃがみ蹴り』…!!
分かっていても打てない変化球みたいに、スッと伸びてくるその脚をかわすことできずッ…、


「ぐうッ!!」


オレはもろに食らって滑るように後退りさせられた……ッ。
…ぐ…痛いッ…これ絶対、ヒビ入ってるやつ………ッ!!
正直痛みでもう叫びたいくらい…本気の一撃だっ……。

だが……痛みなんかに……。
そうさ…!! たかが痛みなんかに、オレの両足は屈してたまるものかッ!!!

地面をつかむようにして踏ん張って──必死で、立ち上がってみせた……ッ!!


「ぐううッッッ!!!」

「むっ!! …く、西片………。…行くぞッ!!──」


…ガイルさんの次なる攻撃ッ………。
『行くぞ』の声を込められた、その乱発攻撃も……オレは想像できた…!!


「ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!


「…来たッッ!!!」


 巣箱を開けた途端のハトの群れみたいに……ッ、一斉に飛び出してくる『ふぁねっふーファイアー』……!!
かわせるものならかわしてみろ、と言いたいみたいに……上下左右から隙間なく飛んでくる回転軸は、脳内による避けルートの構成を阻止してくる……ッ!!
…考える暇もなかった…ッ。
一発、また一発ッ……!! 遠慮も容赦もゼロのファイアーが、顔に、胸に、腹に突っ込んできて…ッ!!
歯が飛んで、血がにじんで、唾液まで巻き散らかして…オレの体が、空中でバラけそうになる………ッ!


「…がアッ!!! ぐうッ!!! イッ!!!!」


欠けた歯の違和感が、神経を直接殴ってくる…ッ。
パンパンに腫れ上がった右目から溢れる、嫌な液体が染みて苦しかった…ッ。

だけど、考えろッ! 思い出せオレッ!!
──……このくらいの痛みッ……あのガイルさんの『拳』に比べりゃ、まだ軽い部類だッ!!!


…ギリギリ耐えられるとなればッ…!!!



「この…このッ!!!!」


 ────PANッ!!!!!



「な、なんだとッ!!?」


────オレは両腕をクロスさせて…、胴体や顔の前に重ねる…ッ。
ファイアーの直撃は上腕筋に任せ、胴体や顔への直撃を防ぐ…──いわば『ガード』ッッ!!!
…勿論、腕の悲鳴は甲高かったけど、…肉体全身へのダメージは防げるから、まだ戦闘への残り体力は温存できる………ッ!!

正直、型なんてなってないし、我流そのものだ。
けど、オレは今──“ガイルさんのガード”を……自分の中に、確かに覚えたッ!!
ファネッフーを受け止める技術を……今、手に入れたんだッ!!!


「……に、西片………。お前は……ッ!! ─栄泉ファネッフーッ!!! ファネッフーッ!!!」

──BUUUNッ!! BUUUNッ!! BUUUNッ!!


「はぁっ……はぁっ……!! っ、はああッ……はぁっ……!!」


 …喋りながらもにじり寄ってくるガイルさん……っ。
そして間髪入れず生成されるフォネッフー……ッ。
…余裕なんかオレにはない…ッ!!!

考えろ、このコンマ一瞬でも頭に導き出すんだッ…!! 思い出すんだ!!
次なるガイルさんの攻撃手段……、今までのラウンドで見てきた…彼の戦法を……!!!

この戦いは……そう、ボクシングと将棋を同時にやってるようなもの…ッ!!!
体も頭も、止まってたら即アウトなんだよッ!!!

829『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:10 ID:nieNARdc0
「…クッ…西片…ッ!!!」

「……っ!!」


…!!
そうだ、そうだ……!!

これまでの闘いの軌跡──それはつまり、高木さんとの勝負にて…、オレは負けるたびに彼女からこう言われてきた……ッ!


“西片はクセがバレバレなんだよ”


────オレの敗因はいつも『クセ』…ッ。
単純なオレはいつもそのクセに気づかず高木さんに看過され玉砕していく……。
…本当になかなか曲者だよ、高木さんはッ………。

…つまり、
……どんな一流プロ野球選手…どんな首位打者でも打席前は己の『ルーティン』を成すもの……ッ。

…オレは見切ったぞ。
ガイルさんの次の技は……ッ、



「……ハァァァァァッッ!!!!!!!!」



───(←タメ→+強K→中K0同時押し)



──来るッ……!! あの『真空投げ』だッ!!
触れずに投げる……武道の極致…ッ!!
わずか一瞬……でも、出す前には必ず前後に一歩だけ踏む────『クセ』が…ッ!!
ガイルさんにはあるッ……!


「フンッッ!! ──…、」


──それはお見通しだッッ!!!


「喰らええええええええええええッッッッッッ!!!!」

「──なッ……!?」


投げ飛ばされたらもう手も足も出ないッ。
ならオレは、投げる前に──『投げ返す』までだッ!!!!


「オラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」


飛来してきたファネッフーを右手、左手でギッチリ挟み込み…掴むッ!!!

……ズルリと滑る、熱をもった刃…。
指の皮が裂け、掌の肉がえぐれ、血と火花が散る……!!
──でもそんなの、もう関係ないッッッッ!!!!
────痛みを雄叫びで発散して、オレはガイルさんへぶん投げたッ!!!



「ぐぁッ!!!」

──BAGYAAAANッ!!!


「…あっ!!」



…あ、当たった……。
…初めて……ガイルさんにダメージを与えた…………!
顔がフラついている……。めまいに堪えるように、その巨体が……揺れている……ッ!!
あの絶対的な存在に……オレの攻撃が、通じたんだ……ッ!!!


「…いや、違うッ……!! これはあくまでガイルさんの技………。オレが生み出した攻撃なんかじゃない……!!! オレの拳で、心で、ぶつけたわけじゃないッッ!!!」

「ぐうッ…。──」


「──はッ!!!?」

830『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:25 ID:nieNARdc0
…ああ、そうだッ……!!
もう6ラウンドも闘って……まだ、オレは“この人”に一歩も近づけていないッ!!!
オレ自身の拳を──この両手でつかんだ想いを……ッ、
まだ、ガイルさんに届けられてないんだッ!!!

だったら……行けるのは、今しかないッ!!!

……その巨人が、わずかに揺らいだ……今しかないんだッ!!!!!


「今しかないだろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!」

「──来るかッッッ!!!」


 …来るか、と言われてもオレには必殺技とか持ち合わせていないさっ…!! ガイルさんと違って…!
修行もなけりゃ、格闘術もない…。喧嘩ひとつしたことない、あいにく普通の中学生だからなッ……!!

そんなオレにできるのは、たった一つ。


“シンプルな、まっすぐな拳”だけだッ!!!!


──太陽に誓うように、拳を高く掲げるッ!
空さえも砕く覚悟で、振り下ろすッ!!!
ガイルさんに飛び掛かり…渾身の拳を重力のまま──叩き込むッッッ!!!!


「……クゥッ…!!! ──『サマーソルトキック』ッ!!!!!」

「ぃぎッ!!!」


…対して、ガイルさんはバク宙したかと思えばあの特徴的な長い脚で、オレを蹴りかかってくる…!!
サマーソルトキック…。……多分、ここまできて初めて投じられた隠し必殺技なんだろうッ………!!
無駄の動き一つないその回転蹴りはオレの胴目掛けて襲いかかってくる……ッ!! 避ける間なんて当然の如くなかった………ッ。


…だけど礼を言うよ、ガイルさんッ…!!


『先読み』……ッ!!
オレが拳の打点に向けるのは、アンタ自身に対してじゃないッ……。


──アンタが何かしら繰り出してくる攻撃──『拳か脚』狙いでオレは拳を突き出したんだッ!!


 ──GAKIIIIIIIIIIIIIIIINッッッ!!!!!


「ぐうッ!??」 「うッ…!!」


…分かるだろうッ?
打点を打点で受け止めることは…相殺ッ……!!
すなわち『ガード』になるのさッ…!!!

…身体はもうガードによる痛みに慣れてきた……ッ!!
この痛みを受け止めきれるほどの余裕がオレにはあるッ……!!

…アンタもその通りなはずだガイルさんッ!!
オレと違って百戦錬磨と語っていただろう? だから今更この打撃のぶつかり合いはどうってことないはず…ッ。



──だが、…『サマーソルトキック』を防いだオレの攻撃が……、──どうやらガイルさんには『想定外』のアクションだったらしく…ッ。



「な…俺の………サマーソルトキックが…まさかッ………」



 彼にはハッキリと『隙』が出来ていたッ…──!!!


…勝てる……自信はなかった。
……何もかも、これまでどんな勝負事も負け続けたオレが、ガイルさんを相手に成す術もないと思っていた…。

だから…オレはこの一瞬…。
ガイルさんに想いを打ち付ける可能性のある…勝機を見えたこの瞬間が………、…正直楽しくはあったッ!!
希望の光を掴みかけた…掴みかけではあるけど……その瞬間に歓びを感じたんだッ!!


ならば、…もう決着さッ!!

オレの…──ッ。
オレだけの…──ッ。
オレによる────勝利ッ!! このバトルに勝ってみせるんだッ…!!!

831『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:41 ID:nieNARdc0
隙だらけの身体へ、オレは叩き込むッ──。

お返しとばかりに…蹴りを大きく振り切って…叩き込むッ──!!!

怨みも、妬みも、マイナスな感情は一つもない魂の蹴りッ!!!


オレは、…生きてる実感を味わいつつ………、



「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!!!」


「なっ!!!!」



 ──BAKIIIIIIIIIIIIIIッッッ──…、



初めてガイルさんへ、一撃を投じていったッ──────。






 ──パシッ





「…え?」




「まだまだだな。モーションが大き過ぎる。格闘とは常に60fpsのハイスピードで生きる世界だ。西片。──」

832『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:24:57 ID:nieNARdc0

……え。
…あっさりと………。
…いとも簡単に……、片手一本で受け止められた…オレの………蹴り……………。


「──しかし案ずるな西片。お前の格闘発想は秀逸。特に感心した点は、ソニックブームを投げ返した点だな。…今まで闘った中で、その術を講じた者はいなかった」

「…え………っ」


「…そうだな……。このバトル・ロワイヤルが終わった暁に、リュウやザンギエフの奴にも教えるとしよう。──」



「──いや、『CAPCOM』に…か────。」



…ガイルさんの右手にて、
『青い瓶』が持たれていることに────この時気付いた。
その瓶をガイルさんは容赦することなく……、呆気にとられるオレの頭へスイング……………。



 ──バリンッ────

内容液の冷たさを感じるのを待たずして、オレは意識が闇へ落ちていった………………。


「…いっだ────…、」


………
……




「…くはない…………。え? ──『痛くない』………?」

833『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:25:12 ID:nieNARdc0



………
……



──…『青ポーション』…ですか?


────ああ。打撲、裂傷、軽度の骨折…。こいつを一瓶分かぶるだけで、どんな怪我でも癒える。…ただ蓋がなくてな、こうして割るしかなかったのだ。…『ゴールデンアックス』とは末恐ろしいゲームだ。…すまない。

──…ごーるでん…あっくす?

────…なんだ知らないのか? …ハルオなら目を輝かして飲み干すアイテムなのだがな……。

──えっ、の、飲むヤツなんですか!? それとも塗るタイプなんですか!?

────……塗り薬だ。言うまでもないだろう、ハルオはそういう男だ。
────俺の、心の友…………ハルオならな…………。

──…………はい。


────…西片、『ゲーム』は好きか?

──ゲ、ゲームですか……。いや、そりゃ……好きって言われりゃ、好きなんですけど……、
──………あ、いや。うーん……好きじゃない、かもです。いろんな意味で……。

────フッ。そうか……。


────俺はこれまで、世界中。中国、ブラジル、日本と、飛行機をまたにかけて戦い続けてきた。1991年、稼働以来何度も。何十度も。

──1991年……。

────相手は力士だったり、タイの格闘家だったり……中には人間ですらない存在もいた。
────そんな相手と、何度も何度も闘い続けて……そのたびに、思っていたことがある。
────「なぜ自分は、闘っているのか」ってな。

──……理由もなく…闘ってきたんですか…?

────いや。理由はある。
────俺たちが闘うことで……喜び、熱狂する者たちがいるからだ。

────画面越しに、レバーを握りしめる老若男女たちのために……な。


──………。



────…すまない、西片。

──い、いや! もういいんですってガイルさん!! こうして分かり合えたんだし、オレも、もうどこも痛くないんですから〜!!

────…違う。お前の怪我のことを詫びているんじゃない。

──え?

────お前の戦いぶりは、見事だった。
────心のこもった拳は、どんな必殺技よりも強い。
────あの魂のこもった一撃……興奮と、熱気……。
────まがい物じゃない、本物の“力”だったよ。

────そんなお前の真価を……6ラウンド目になるまで見抜けなかった。
────それどころか、卑怯だのなんだのと……お前にあらぬ暴言を吐いてしまったことを、悔いている。


────……すまない。……本当にすまない。

──………………。

834『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:25:28 ID:nieNARdc0
──…ふざけないでくださいよ……。謝って済む問題じゃありませんって……。

────…………。

──…そうですよねっ!! ガイルさん!!!!

────…………。


──…いくら謝ろうが……あの…『女』はっ…!!

────…っ!!


──仮に土下座されようが陳謝されようが……、許す気なんてありませんからっ……!

────………!!



──…少し用事…いいですか? 『『ヘリコプター』に乗る前に、ちょっとだけ。

────西片…!


──行きますよ、ガイルさん!



 ブロロロロ………

  ブロロロロ…………



【支給品解説】
【青ポーション@ゴールデンアックス(ハイスコアガール)】
【概要】
回復ポーション。
瓶を割って内用液に触れることで全治癒できる。


【アシストフィギュア No.02】
【タイガーヘリ@究極Tiger(ハイスコアガール) 召喚確認】
【概要】
ガイルのアシストフィギュア。
アーケードゲーム『究極タイガー(1987)』の自機。
軍用ヘリコプター。自我なし。ショット、ボンバーを撃てる。

835『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:25:46 ID:nieNARdc0



………
……



 アホのガイルの奴……。
あんだけ「即死でやってね?」って念押ししたのに肉弾戦やりやがったし……。
さっさと高木ロボの首やっちゃえよ。骨狙えよ。てゆーか、私が持たせたナイフ使えってーの。
……もう、いちいち注意するのもだるいし、なによりあいつ無駄にワチャワチャうるさいから、ブルートゥースのハメちゃったじゃん。ノイキャン全開で。
マジうっざ……。

──というわけで、私は決着(笑)がつくまでの間、『100%片想い』ってLINEマンガで暇をつぶす羽目になった。


「…はぁ………。なーんか…まこっちが勧める漫画って……ウザイのばっかな気がするわ………」


 はァ…………。
暇つぶしがてらに読んでみたけど……本気でこの漫画苦痛……。ページを捲るのさえ苦行だわ。
話は典型的なオタク大好きラブコメって感じで冷めるし。なにより登場人物が痛すぎて全く共感できないんだけど。
なにこれ?
主人公のキュン子ってやつ…、いつも彼氏みたいなやつと弁当食べてるけどさぁ。女子の友達とかいないわけ??
いちいちいちいち語尾が「〜だもん」とか「〜なの♡」とかで鳥肌立つし……、こいつの交友関係が気になってストーリーどころじゃなかったわ。
私的には五巻が精一杯。
これを全巻特に気にせず読める人って、ほんと悩みとか人間関係の不安がない幸せな人なんだろねー。小陽ちゃんがつるんでる二木みたいな。(笑)
マージ、うらやまって感じ?(笑)


ま、そんなマンガとの付き合いは二十分ほどで終了。
アホ達そろそろ殺し終えたかな〜だなんて、イヤホン取って、外の様子を見てきたらさぁ。



「サチ。妖怪腐れ外道にも劣るお前にはもう話すことなど皆無だがな。…二つ、答えてもらおうじゃないかッ…」

「…美馬先輩………ッ」


「…………はァ…」


『【新田】に気をつけろォオオ!!!!』って、どっかのバカがハッキリとその名前を叫び…、
んで、それをBGMにやたら睨みつけてくる筋肉バカとロボ……。
筋肉バカはいやらしく私の胸ぐら掴んできて…、さも「お前の悪事は全部見抜いたぞ」みたいに顔近づけてくる………──。


──この現状……。



…なにこれ。

…………いや最悪でしょ。

836『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:26:01 ID:nieNARdc0
「一つ目だ。何故仲間割れを先導した? もっとも理由が理由なら、俺もお前をまだ見捨てたりはせんがな──…、」

「はい、質問。なんで私を悪と決めつけんの?」


はぁ……。
あーもう…。
なーんかどうでもいいって感じ………。


「…なんだ? …話を遮るな──…、」

「いやだからなんで、私をそう悪者と決めつけてくるの? 今日会ったばかりなのにそう睨んで。なんなの? ねえ私を殺したいわけなの? サイコパスキャラ? わーカッコイイじゃーん」

「…おいサチッ…!! そんな話をしていないだろッ!! いいから聞け──…、」

「は? ちょっと待て。聞けって」

「……こいつ…」 「………」

「なんでさあ、そうやって私を一方的に加害者って決めつけるの? ねえなんで? なんでそう西片くんの肩を持つのか一回説明して? ……あ、いや、説明いらないわ。──」

「──まず謝ってよ、じゃないとその質問だかなんだかも聞く気失せるから。──」

「──ほんっと、そういうのムカつくんだって。ねぇ、なんで? なんで私を悪と決めつけるの?」


「………」 「…話にならん。──」

「──ならもういい。二つ目は『高木さん』という子の話だ。お前は何かその子について行方を──…、」

「あー知らな〜い。知らない知らない興味ないし〜。てかさ、謝らない癖に自分のしたい話はするわけ? 会話能力陰キャになってるじゃん。ガイルさん…大丈夫?」

「……。……言ったろう、西片。こいつと話すのは無駄な時間だと」

「………で、ですが……。…美馬先輩──…、」

「うわ怖っ。こわぁ〜……。急に話しかけられちゃったし…こっわ……。ねぇ西片くん絶対いじめられっ子でしょ? オーラからしてそういう感じ出過ぎだしぃ〜? ウケる〜〜(笑)」


「………行くぞ」

「…はい………」



「は?」



…もう。
なにこいつら…。

急に…なに? なんなの???

いや考えてみてよ。
片や陰キャでしょ? で、片やキモい筋トレオタクじゃん?
それだというのになんで? 何がどう繋がってコイツらはそんな「わかり合えました」みたいな展開なってんの?
どこにそんな共通点あったわけ? 意味不すぎてちょっと面白いわコイツら…。


そんなアホ二人は私を用済みと判断したら、不満そうにズカズカ背を向けだしていって……。
そのまま、どっから出したか分からないヘリコプターへと乗り込んで…。



 ──ブロロロロロロ………



「……………」



……飛んで行った。



────…私がマンガ読んでる間に…………なにがあったわけ…?

837『男の闘い』 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:26:13 ID:nieNARdc0
【1日目/B5/上空→タイガーヘリ内部/AM.05:26】
【西片@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:ガイルさんを熱くリスペクト。
2:高木さんを探したい。

【ガイル@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】くし、ポーション瓶@ゴールデンアックス(ハイスコアガール)
【思考】基本:【対主催】
1:西片を育て上げ、主催者を倒す。
2:上空から『高木さん』を探す。
3:襲われている参加者・力なき者を助ける。
4:サチは屑……。見捨てる。
5:ハルオ…生きろよ……っ!


【コメ●珈琲店前】
【美馬サチ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】唖然
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【優勝狙い】
1:つかアイツら置いていきやがったし私の事………。
2:ボッチじゃん私……。……ウけるぅ…。

838 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/22(火) 23:26:40 ID:nieNARdc0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①今回の話はからかい上手の高木さんの北条がアシストフィギュアで登場予定でした。
②北条が「何バカなことしてんの」的なこといって仲裁ENDみたいな。あまりに文章が長くなりすぎたため削りましたがね。
③それと今回チャレンジしてみて分かったのですが、私は致命的にバトルシーンを描く文才がないみたいです。
④そのため、平成漫画ロワは今後バトルはほぼしません。大体瞬殺で終わらせます。宣言です。


【次回。7月29日投下。】
──私の好きな人はみんな目の前でいなくなっていく。
──姿が消えるのはいつもいつも、私の方だというのに。

──もう、私を残さないで。


「日々は過ぎれど飯うまし」…飯沼、マルシル、山井、ひろし、海老名、マロ

839 ◆UC8j8TfjHw:2025/07/28(月) 23:36:29 ID:ZsZDkn5w0
(トリこれ合ってるかな。ま、いいや)

お知らせです。
仕事の都合で、二、三日投下が遅れます。
大変申し訳ありません。

840『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:33:42 ID:kWrg7C0g0

[登場人物]  [[マルシル・ドナトー]]、[[飯沼]]、[[マロ]]、[[野原ひろし]]、[[海老名菜々]]、[[マロ]]、[[山井恋]]

---------------

841『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:34:03 ID:kWrg7C0g0

 ちいさい頃、父から読み聞かせられた一冊の絵本。
まるで子ガモが産まれて最初に見た相手を親と認識するように。
その絵本の内容は生涯、少女──マルシル・ドナトーの心に深く深く刻み込まれる事となる。



〜おうじょさまは、てきのしろにて かくれていました。〜
〜くらいへやの タンスのなかです。〜


「(……はぁっ、はぁっ……。)──」


「──(…お、落ち着いて……絶対大丈夫…。……私なら、大丈夫……っ……。)──」

「──(ウンディーネの挙動は予測済み……、対処法も……把握してる……。詠唱は可能……魔力も乱れてない……。……私は…大丈夫……。大丈夫…大丈夫……)──」


〜そとでは、みずの まものたちが「どこだ」「どこだ」と さがしていました。〜
〜がががー。がががー。〜
〜こうげき を やすむことなく、つづけながら。〜
〜おうじょさまは、ふるえながら、いきを のんで じっとしていました。〜


「(……大丈夫…っ…なんだからぁ…………っ!!)」



〜そのときです。〜


 ガガガガ────ッ


「がぁっ…!!!」

「……えっ?」



〜ふと タンスの すきまから のぞくと、そこに おうじさまが いました。〜



「……う………、嘘…でしょ……?」

「………」



〜おそらく、おうじょさま を たすけにきた、そのおうじさま。〜

〜かれは、みずの まものに おそわれて、うごかなくなっていたのでした……。〜



「……い、……いぃ……っ……!!──」



〜おうじさま、かれの なまえは──。〜



「────い、イイヌマっ!!!!」

842『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:34:18 ID:kWrg7C0g0



………
……


「はぁはぁ…………ッ! 『မင်္ဂလာပါ။ ကျွန်တော်』──────っ………!!!」

………
……


843『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:34:44 ID:kWrg7C0g0



 数刻ほど時を遡っての──回想。
マルシルが山井恋に襲撃され、ウンディーネが蠢く地雷地帯《廊下》へ飛び出した、その折。
彼女の望む王子様・飯沼は、ちょうど真下。六階1682号室にその身を置いていた。
行く先で出会った野原ひろし、海老名菜々の二人と共に、ウンディーネの攻撃から命からがら逃げ延びた彼。

マルシルが危機的状況に瀕している最中、彼は、
──というよりも三人は。
その一室で一体どのような行動に移していたかというと。



 ズルズルズル…────


「うまい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

「(…うっま………)」

「このラーメン…うんめぇなぁ〜……!!」


「「(あ!! 秋田弁!!)」」



食事をしていた。




【本日のお品書き】
・エースコック クセになるもやしそば ピリ辛仕立ての味噌
・エースコック クセになるもやしそば 胡椒仕立ての塩
・マルちゃん 赤いきつね

カップ麺。以上三品。




──「人がこんな目にあってる時に…なに呑気に食ってんのじゃ!!」──。
──もしマルシルがこの場に居合わせたならそうツッコんだ行動ではあるが、一旦は置いておく──。


 ガガガガ────ッ、ガガガガ────ッ。
部屋の外にて、けたたましい殺意の狂騒が響く中、それでも気にせずして夜食を嗜むひろし一行。

停電はすれど、ホテルの非常用電気のお蔭で電気ポッドが利用できるとなれば、購買から持参したカップ麺に湯を注ぐ。
待ち時間、三分とは短し。されど空腹には酷な三分間。
この待ち時間の間、

「飯沼くんはスポーツしてたの?」→「…あ、いえ。特には……」→「ふーん(…してないのかよぉ〜…)」
「彼女はいるの?」→「いえ、特には…」→「そうなんだ〜(…う〜ん…)」
「出身は?」→「…東京ですね」→「………へー(…う〜む、会話が盛り上がらねぇ〜!!!)」

等々。
ひろしが飯沼との世代の違いで、会話に苦戦を強いられる中。
沈黙を切り裂くようにタイマーが鳴り響いた時、──いざ、食事。

844『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:02 ID:kWrg7C0g0
 飯沼が二重の意味でアツアツのお揚げを口に入れれば──、


「はふはふ…っ!! (…このお揚げ、久しぶりに食べたけど…うまいな………)」

「おっ! 飯沼くんはキツネ先に食べる派なのかぁ〜!!」

「…あ、はい。野原さんは最後まで残す派なんですか?」

「当たり前だぜ〜。好きな物は最後まで残す! 秋田県民は皆そーなんだからな!! な、海老名ちゃん!!」

「え……? あ、ごめんなさい! 私もきつねうどん食べるときは…先派…ですかね……!」

「えっ?!! が、がびぃ〜〜〜〜〜〜〜んっ!!!!」


──ひろしが大きく出た主語で玉砕され。

 もやし麺を啜るひろしが、散らばったラベル等を片付けようとすれば──、


「あ、野原さん。ここは僕が…」

「おっ、サンキューだぜ。──」

「──(気が利くなぁ。飯沼くんは若いのに立派だぜ……。…川口のやつなら絶対しね〜ってのによ!!!)」


──飯沼の気遣いに感心し。

 そして、飯沼の食べ顔。光悦で頬を紅くする、汗滴りしその表情に、海老名がふと気づけば──、


「…うまっ…」

「あっ!!! …〜〜〜〜〜〜っ!!!」

「ん? どうしたんだ海老名ちゃん」 「…?」

「あ、い…いえ!! なんでもありません…!!」


──海老名は顔を赤らめ、目を逸らす。


「(…い、言えないよぉ……。タイヘイさんに似てるから……飯沼さんのこと…惚れちゃった…って〜〜!!)」

「?」


────そんな、和気あいあいとした食事風景。



 ガガガガ────ッ、
ガガガガ────ッ。


 『水は油に強く、対して、水は油に弱い』。
──その言葉が示す通り。
ホテルのドアは一般的に、特殊な油(Neatsfoot oil)を塗っているため、ウンディーネがどれだけ鋭い水圧で攻撃をしようとも、完全鉄壁。
ウォーターカッターは油の壁に弾かれ、それ故にひろし等が被害を受ける可能性はゼロ。
自らドアを開かない限り安全地帯となっているのだが、それでもドア前にはウンディーネが二体。
完全包囲の証として、煩いほどに攻撃を続ける現状だ。

あははは、ハハハ!、と室内で咲き乱れる雑談の花。
その花咲く大地に立つ、壁の向こうでは旋律なる殺戮の戦場が繰り広げられている。
いわば──『BATTLE ROYALE』。
今はまだ対岸沿いの水圧カッター音は聞こえぬふりをするひろし等ではあるが。


彼らは如何にしてこの状況を乗り越えるというのか。

────いや、それ以前に。

何故、彼らはこの状況にして、まず飯を喰らうことを選んだというのか。

845『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:16 ID:kWrg7C0g0
きっかけは、ひろしの言葉だった。



 ズルズル…

「ハハハ。『窮地に立たば、まず敵を見定めよ。空腹に勝る敵なし』!!」

「…え?」

「あ、あの…どうしたんですかひろしさん! いきなり……」

「あ〜ごめんよ二人とも!! オレがさっき言ったセリフ…なんかカッコいいからもっかい言いたくなってな〜。いや〜悪いぜ」

「あぁ、ははは〜。そういうことでしたか〜」


「…やっぱり、焦った時は飯を食うに限る!! ……ラーメン食べたら、少しは冷静になれた気がした…ってのはオレだけか? 二人とも」


 ガガガガ────ッ、
ガガガガ────ッ。


「…………はい…!」 「……はい。──」


「──僕も、…正直さっきまで落ち着けなかったというか…。自分らしさを見失っていたので、……その通りだと思いますよ、野原さん……!」

「おう!! 飯沼くん!!」



 周知された言葉で言うならば『腹が減っては戦はできぬ』。──とは少し違うかもしれないが。
その精神の元、ひろしの提案でつかの間の食事を行った経緯となっている。
ウンディーネの刃に、少し前までは恐怖しか見出だせなかった三人。
泣き晴らす海老名に、震えが止まらない飯沼、そしてひろし自身も死の影に心を侵されそうになっていた。
そんな怯える三人の、共通点。
──好きな事となればすばり『食べること』。


ごくごく、ぷはっ。
スープまで完飲し、光悦の表情で顔を見合わせる三人。
そして三つの箸が、空のカップにほぼ同時に置かれた。


「……さて、飯沼くん。海老名ちゃん」



 *海老名にとっての『食』。
──それは、どこにいるかも分からない兄との架け橋。そして、何よりも一番幸せな時間だった。


「はい…!!」 「…野原さん……」


 *ひろしにとっての『食』。
──それは流儀。昼飯タイムという短い時間の中で、己のあり方、そしてビジネスの方向を決める、貴重で好きな時間だった。


「………オレの息子にしんのすけっているんだけどな〜。そいつは何か覚悟を決める時に、どこで知った言葉なのか分からないが…こう『決め台詞』を吐く。──…ってのを、さっき話したよな?」

「…しんのすけ…さんですね……!」 「野原…しんのすけ……くん…………」

「…悪いけど付き合わせてもらうぜ…!! すべては脱出…、そしてマルシルさん救出のために!!!」

「「!!!」」

846『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:30 ID:kWrg7C0g0

 そして、

 *飯沼にとっての、『食』────。


「…かすかべ防衛隊…ならぬ、しぶや防衛隊〜〜〜っ!!!」


「!!」 「…!」



それは────、



 ガガガガ────ッ、ガガガガ────ッ。
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
   ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ




「ファイアアアアアアアアアアァァァ───────ッッ!!!!!!!!!」


「「ファ、ファイアあああああああぁぁぁぁあああ!!!!!!!!──」」




  ────バキィイッ



「────あっ」




────単純に、『好きな時間』だった。
 


 水と油──とはいえど。
ドアに薄く塗られただけの油では、高圧の水刃を完全に防ぎ切ることは叶わない。
漏れ出た『水』は、我先に飯沼に向かって。
津波の如く【絶命までの時間《タイムリミット》】が押し寄せてくる────。


「に、逃げろォオッッ!!! 飯沼く──…、」



──プツンッ




………
……


847『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:43 ID:kWrg7C0g0




 魔術詠唱────『မင်္ဂလာပါ။ ကျွန်တော်』。

人間《トールマン》の言語にすると、直訳で────『蘇生せよ』。


……

 “わっ!! え、なになに?!”

 “──ごめん…マルシル。私の魔力を少し分けてあげようと思って……”

 “やだもう…、人に分けるほど魔力ないんだからさ。ファリン…”

 “──…ううん。なんだか調子がいいの…!”

 “──力が湧いてくる…みたいな。…私、さっきまで死んでたのに、不思議……!!”

 “……で、でも……”


 “──ねぇマルシル。…よく思い出せなくてさ…、一体何が起きたのか…教えてくれる?”

……




 “──……あなたの名前は、イイヌマさん……だったよね?”

 「……え?」

 “──ふふっ、ごめんね。マルシルが何度も呼んでたから……覚えちゃって”


 “私は…マルシルが好きだった。お弁当を一緒に食べて、雲を眺めてさ……。好きな人と好きな事を共有する時間が、一番幸せだったんだ……”

 「……」

 “…お願いが一つ。いいかな、イイヌマさん”

 「…お願い………?」



 “────私の好きだったあの子の一口を、守ってあげて…。”


 「…………あの子…」


恐らく妹の夏花と同い年ぐらいだろうか。
無音な銀世界の中、見知らぬ少女は飯沼の両手をしっかり握り締める。


「…すみません。あなたは…一体…。──」


少女の手がふっと離れた、時。


「──……あっ」



飯沼の手中にて。
魔法のレシピ──『一枚のメモ』が握らされていた。



………
……


848『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:35:57 ID:kWrg7C0g0



 …ドクン…………ドクン…………………。

  ────ドクンっ。


「(………あっ…)」


 一波高鳴った鼓動の音で、飯沼は目を覚ます。
何があったかは覚えていない。周囲はひたすらに黒一色で、目を擦って凝らそうとし眼鏡をかけ直しても、闇は晴れなかった。
壁に背もたれをかけ鎮座する、暗闇の空間にて。
足を伸ばそうとすれば、対岸の壁にぶつかり真っ直ぐ伸ばし切れない。
仕方なく立ち上がろうとすれば天井に頭がぶつかる。そういった具合で、この非灯の空間がいかに狭いかを思い知らされる。

──まるで、棺桶のような箱に入れられたかのような、息詰まる狭さ。


「(……あぁ、そういうことか………)」


犬のような獣臭と黴臭さが鼻につくこの空間にて。飯沼は『自分は既に死んでいる』という結論に至った。
朧気な記憶を辿ると、水の塊からの逃走中。ひろし等と離れ離れになった末に、意識が途絶えたのだ。
──ガガガ──ッ、ガガガ──ッ、鼓膜を破るような爆音が最期の記憶で。
過去を整理し、現状を客観的に見れば、間違いなく『死』。
恐らく、今は葬儀中で自分は納棺でもされているのだろうと彼は実感していた。


「(…ふぅ……)」


ただ、死を前にしても特に慌てふためく様子がない点は、マイペースかつ冷静な彼らしい。
ありのまま死を受け入れた飯沼はゆっくりと。
思い残すことなく、再度眼を閉じていった。


「(…あれ。………待てよ……)」


──“ただ、そうだとするなら、何故『心臓』の音が聞こえたんだ”────?


 終焉した筈の身体にて、確かに聞こえ、──目を覚ました起因となる──自分の鼓動。
先ほどの音は空耳だったのか。なにかの幻聴なのか。
不思議に思い飯沼は、自分の胸へそっと手を当ててみる。

ゆったりとした動作で触れたその先に、

──ふんわりと柔らかな髪の感触。
──花のような匂い。


「…え?」


 暗闇に目が慣れ、徐々に明瞭さが増していく視界。
視界の良好さに比例して、不思議と体の力がどんどん漲っていくような気がした。

飯沼の胸へ顔を埋め、小さな体を震わしつつも、確かにギュっと抱きしめてくる。──その彼女。
必然的に、頭を飯沼に撫でられる形となったその彼女は、温かな掌の感触に。

涙は止まりを見せず、ただずっと、ずっと飯沼の体を離さなかった。


「……っ……ひっ……うぐ……っ……。よかっ……たぁ……っ。よかっ……たぁ……っ……!!」

「…………あなたは…もしかして…」

「ほんとに…っ、せ、成功して……生き返ってくれて……よかったんだからぁ……!! ……………うぅ…っ!──」



「──イ、イイヌマっ………!!!」


「…ま、マルシルさん……」

849『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:10 ID:kWrg7C0g0
再会────。
エルフとサラリーマン。不釣り合いで奇妙な関係の、再会。


「……あの…。すみませんマルシルさん。僕、よく覚えてなくて…。ここは一体──…、」


「──…ん? …あっ………」


はっ、はっ、はっ、はっ、と。
膝元の違和感に視線を落とせば、何処かで見たような大型犬。
犬がしっぽを振るい、ペロペロと人懐っこく飯沼のスーツを舐めだした折。


「(………………これは、いったい何があったんだろう…)」


今自分がいるこの場が───『タンスの中』である事に気が付いた。


──

□(事情説明中略)□

──

850『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:24 ID:kWrg7C0g0
「……はぁっ、はぁっ……聞いて驚かないでね…。私なりの考えなんだけどさ……。──このシブヤは、ただの街なんかじゃない…!! ……【ダンジョンの異界】なんだって!」

「……あ、はい」

「………え? リアクション…薄くない? ま、とにかく説明を聞いて!!」

「はい」


「普通なら、外での蘇生は成立しにくいでしょ? 身体と魂の結びつきが脆すぎて、死んだらすぐに離れていっちゃうから……。そこはまず分かるよね? イイヌマ」

「はあ」

「でもここでは蘇生が成立した……。あり得ない…ほんとにあり得ないことなんだけど……──この通り、私があなたを生き返りを成功できた………………」

「はあ」

「そう、ダンジョン内部は魂が留まりやすい…。だから体と魂を繋ぎ直す蘇生が可能になる、成功率が跳ね上がるの。……ね、理屈は分かるでしょ?」

「はあ」

「……でしょ!? …そう、外では熟練者じゃない限り成立しない蘇生が、ここでできたのだから……。──」



「──つまりシブヤは、ダンジョン以外の何物でもないって結論に至るわけ!! …そうじゃないと…説明がつかないんだから…!!」


「はあ。分かる気がします」



 勿論、嘘である。
東大生が幼稚園児相手に数学問題の講義するかのような。──全く意味の分からない力説ではあるものの、飯沼は黙ってマルシルの話を聞いていた。
ダンジョンが云々、魂が云々と。
何かのアニメかゲームの影響でそんなジョークを言っているのかと思っていたら、マルシルの顔は至って真剣。
どうやらマジな様子のマルシルに、飯沼は何を思うか。ひたすらに無難な相槌を打ち続けた。

ただ、おとぎ話の中に放り込まれたような奇妙な説法の中で、二つ。
飯沼でも理解ができた、『現実』。────認識させられた事実がある。
それは、彼女の説明曰くして、自分がウンディーネの攻撃で一旦は『死』に至ったこと。

そしてもう一つは、


「………はぁ、はぁ……そうなると、一つだけ……。…どう考えても説明がつかないことがあるよ……」

「……え、それは…?」

「……こんなに高度な魔術の一覧が載っていて……。しかも、蘇生術が専門でない私でも唱えれる…安易な手順でできる方法が記されているとか……。なんなの……。──」

「──『このメモ』は誰が書いたものなのっ…?! どこでこれを拾ったの?! もう…わからないっ……!!! 常識が通じないよっ!!! …はぁ、はぁ………」

「…マルシルさん……。──」



──自分の支給品であるメモ一枚が、とんでもない力を秘めているという事。

メモを見せつけながらマルシルは訊いた。『これは一体誰が書いたものなのか』と。
ふと、先程まで自分が見た夢とシンクロしていることに気付き、その『誰か』について口にしようとした飯沼だったが、──何だか思い留まる。


 紙面は古く茶ばみ、サイン書きしたアラビア語のような羅列が埋め尽くされた、そのメモ用紙。
無論、飯沼からすれば何が書いてあるのか、ましてや何が高等なのか全く理解不能。
未解な文字列でしかなかったのだが、どうやらマルシルにとってはこの世をひっくり返すほどの破壊力があったようだ。
彼女のメモを握る手はガクガクと震え、吐息が不規則に揺れており、

851『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:40 ID:kWrg7C0g0
「──これ、僕のカバンの中に入っていたんです。野原ひろしさん、海老名さんらと支給品確認したときに見つけて……。それで──…、」

「あっ!! ちょ、ちょっとイイヌマ!! 声が大きいって!! ……もう少し落として……本当にまずいんだから……!!」

「え。…あ、すみません。…ところでマルシルさん、このメモはもしかしてフランス語なんですか? 僕には読めな──…、」


「──あっ…!」


 ──バタリッ。


「……う、…うぅ…………。…ぐっ……」

「ま、マルシルさん…! 大丈夫ですか……」


何よりも、彼女の顔は酷く青ざめていた。
意識はある。ただ、軽い貧血のような症状で、飯沼の身体へとグッタリ、吸い込まれるように倒れ込んでいった。
ふと見れば、マルシルの顔色とシンクロするように、萎れきった杖の先っぽの枝葉。
「もっと声のトーン下げて!!」とは言いつつも、自分の方が断然に声が大きいマルシルであったが、あれは気力だけで無理やり言葉を紡いだものだったのだろう。

──はぁ、はぁ。

息苦しそうに、やっとのことで空気を吸っていたマルシルの吐息。限界に近いその体から、弱々しく伝わる心臓の鼓動。

「……マルシルさん…」


飯沼は医者ではない。
だが、それでも何とかしてマルシルに即効で健康を取り戻す術が欲しかった。
狭く、一畳にも満たない、薄暗いタンス内にて。
ビタミン剤や飲料水といった部類が見当たらない中、なんとかしたい。──なんとかなきゃ、という一心で。
飯沼は、ふと。


「はぁ…はぁ………。い、イイ…──…、」

「……………えーと…──『ကဂစမား』……!」


──無意識のうちに、視線はマルシルが落としたメモを『読み上げた』。



「ヌ……マ……………。……──」


 ──パアァァァァ


「──って、ストップストップストップっ!? ちょっと何やってんの、イイヌマっ!?」

「…あ、すみません。蘇らせる魔術があるなら、回復する類もあるかなって…。つい」

「それは隣の行だし!! イイヌマが詠唱したの、火炎系魔術なんだけど?!! ちょっと適当に詠むのやめてよね!! デリケートなんだからこういうのはぁ!!!」

「あー、それは本当に申し訳ありません…。速攻中止します」

「もう…!!」


 ──シュン……




「──…え。いや……何で……………?」

「……あ、なんですか?」

852『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:36:58 ID:kWrg7C0g0
「……イイヌマ、どうして、それ……『詠めた』の…………?」

「…あぁ、何故だが分かりませんが──『詠めちゃった』んですよ。知らない文字なのに……」


「……え………?」



 火炎系魔術。
暗いタンス内にて、一瞬のみ灯りを広めた火の光。
その刹那の光に浮かび上がったマルシルは──畏怖を帯びた顔でこちらを見つめていたという。

何故、ダンジョンとは無縁な一般人が、魔術を『詠唱』できたのか。
仮に繰り返し問われても、飯沼は困惑を浮かべることしかできないだろう。
感覚、というか。
目にした瞬間、反射のように言葉が口をついて出た──と。それ以上の理屈など、彼には語れなかった。

これは言わば【参加者特権】。
主催者側の設定にして。メタな視点で説明すれば、『誰でも詠唱できるよう施した物』ということなのだが。
当然知る由もない飯沼、そして理論重視派であるマルシルは愕然とするのみである。


「………都市伝説みたいなものだけどさ……。カナリアにいる罪人エルフは耳に刻みを入れられるって聞いたことがある……。……もう分かった…」

「え? マルシル…さん?」

「イイヌマ、あなた元エルフなんでしょ!? そうに決まってる!! 試しに答えてみてよ!! 何歳なの!? 私は百一歳だけど!! ねえ、正直に答えてよ!! 理屈や構文に基づいた魔術はエルフは得意なんだから…っ!!」

「…うーん、困ったな…。………ん? あれ? 今百一歳って言いました???」


 理屈&理屈&理詰めに、時折挟まる支離滅裂な発言。
顔色を悪くしながらもツッコミに夢中なマルシルのお陰で、気付けば今隠れているという現状を忘れさせるほどの騒がしさだった。
彼女が口を酸っぱく注意していた『声のトーン』という概念は一体何なのか。
飯沼の耳を触りながら騒いでくるマルシルには、さすがの飯沼も困りが限界といった様子で。
彼女に共鳴してか、唐突に鳴き始める大型犬を傍らに、メガネの縁を押し上げる動作しかできずにいた。


「わんっ、わんっ、」

「わっ?! い、イイヌマやめてよ! いきなり犬の真似してさ!! 話逸らさないでね!!」

「え…。いや、このマロって犬が鳴いたんですよ」

「へ!? …え……。あっ、ちょっとわんちゃん!! あまり騒がないで!! バレちゃうから!!」

「わんっ、わんっ。ばうっ、…ぅううぅぅっ」

「ねぇもう〜〜〜〜っ!!!!──」


タンスのドア部分に向かって、懸命に吠えだす犬《マロ》。
「このバカ犬め…」──だなんて思ったか否か。飯沼から離れて、マルシルがその口を抑えようと行動に移した。


「──ね、いい子だから!! 落ち着いて!! 怖くない…怖くないから──…、」




「いやバレバレだし。クソ犬よりも声でかいじゃんアンタ」



「…え」 「………えっ…」




「ねえ、マルシルちゃぁ〜〜ん……?」




 そんな時だった。

853『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:37:21 ID:kWrg7C0g0



 犬が鳴くときには、必ず理由がある。
野生の本能として『外からの敵意』を察知すれば、飼い主に危険を知らせる。
マロの吠え声は、ただの騒ぎではなかった。

タンスの薄い壁を挟んでかなりの至近距離。
そこから、じわりと染み込むように声が響く。
──口調は明るく、年頃の女子といった可愛らしさはあるものの、────奥底では人ならざる邪悪を孕む。
何も知らない飯沼でも、そう察知させられる、その声が聞こえた。


「……ッ!」

「…ま、マルシル…さん……?」


マルシルの表情が瞬時に強張る。
先ほどまでの飯沼を責め立てていた真っ赤な顔色は消え失せ、健康状態相応の蒼白さ《恐怖》だけが残るのみ。

──忘れるはずもない。
偽装された明るさの、ついさっき聞いたばかりの声を、マルシルは忘れる訳がなかった。


「………ごめん、イイヌマ。……ここは私に任せてッ…」

「え?」


 十数刻前、突然自分の眼の前にパッ、と現れ。
 何があったのか額を真っ赤に濡らし悶えていた『ソイツ』は、目を合わせた途端、心配の声を待つまでもなく宣言。

 【死ね】──と極めて単純なる、宣戦布告。

 やたら先の尖った菜箸を片手に襲いかかった後、
 暫くしてから、どこからか、自分の使い魔と語る『ウンディーネ』を呼び寄せ、


 『過去のトラウマ《ウンディーネ》』の召喚と、『今起こり得るトラウマ』の生産を、二重の螺旋で見せつけてきた、
────その女。


「……私が…合図出すから……逃げてよね……」

「………逃げるって…。何からですか…?」

「…ッ、そんなの答える必要ないでしょ……。…それは──…、」


「あっ、マルシルちゃん〜♡ さっきはゴメンね〜? 私、ついちょっとだけ酷いこと言っちゃったかな〜って思って、ほ〜んと反省してるの! …ほんとだよ〜?──」

「──ねえ仲直りして遊ぼうよ! 大丈夫大丈夫〜、傷付けたりもしないから〜〜」

「……ィッ!!!」

「……だからさ、──」



「──早くドアを開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けてよ開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけてけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、

854『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:37:36 ID:kWrg7C0g0
「う、わ、わぁ……!!!」


「………ッ……!! ──『ウンディーネ娘』ッ…!!!」


 
 時折ドアの隙間から見えるがん開かれた瞳孔と、笑顔。
事情を知らぬ飯沼とて、眼前の少女のおぞましい表情は、すべてを察知させるだけのエナジーがあった。
蝶番とハンガーで施錠したドアは何度も何度も何十度も。
開かれそうになっては開けきれず戻され。また無理やり開かれそうになり。
ドア全体が軋み、タンスが地鳴りのように揺れ動く──この場は一瞬にして恐怖の支柱と化していた。


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ──

────見ィ──ツ──ケ──タ。


ウンディーネ娘────山井恋。彼女のその目は地獄の陽炎の如し、邪悪にギラつき揺れ動く。


「…も、もう……。なんでなの………」

「え? なんで隠れ場所が分かったのかって?? だってさぁ〜タンスの前に血ぃべったり付いてんだもん。中にいるのバレバレじゃん☆ それよりも早くドアを開けてよ〜〜」

「…いや違うってッ!!! なんで私を襲ってくるの?! 私……なにか貴方にしたかなっ?!! …わけが……わけがわかんないよっ!!!」

「えー何それウケる〜。勘違いしないでよね? 私は本当にマルシルちゃんと遊びたいだけなんだよぉ〜〜?? …あんたの隣りにいるメガネくんとも、ね♫」

「…っ!!」

「ねえだから友達になろうよ〜。絶対滅多刺しにしないから〜〜。本当に絶対刺さないよ〜。ねっ。刺さない。──」


「──刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺さない刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい刺したい──」


「──殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、



「………もう…………嫌ッ……!!!」

「……うぅ………」


 刺さないと口で吐いても、鋭利な菜箸先だけは本音を語る。
ギラつき光を放つその刃は、マルシルらを触れずして羽交い締め仕切っており。
この状況はもはや文字通り。──そして本来の意味通りで『八方塞がり』。

マルシルが「もう嫌」というのも仕方がなかった。


「…………な……何が友達…だ……ッ」


だが、マルシルは八方塞がりの現実を受け止める気は毛ほどない。
背中に冷たい汗が伝い落ちても、視線は決して逸らさず。

──抵抗する。
それ以外の選択肢など、彼女には存在しなかった。


「……私はもう…十分なくらい仲間はいるんだからッ……!!!」


事実──具体的選択肢として、こちらにはあの高等魔術のメモがある。
紙切れ一枚。しかし、その一枚が、生死を分ける高価なキップ代わりであることは確かだ。

855『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:37:50 ID:kWrg7C0g0
「ライオスに……チルチャックに……センシに……ッ! ──ファリンに………ッ!!」


 ただ魔力の消耗は著しい現状。
体力はすでに短い蝋燭の炎のように揺らぎ、息は乱れ、吐き気が収まらない。
むせ返るような暑さと、耳を劈くドアの開閉音が、さらに喉の奥を締めつけた。
まるで短く揺らめく蝋燭の炎のようだった。


ただ──それでも。

それでも、大丈夫。

根拠はないが、絶対大丈夫。



「…そしてイイヌマにッ!!!」



なぜなら、隣には──、
自分の【王子様】がいるのだから──。


「………ッ!!!!」


 マルシルはちらりと飯沼の顔を見やる。
口をぽかんと開け、曇った眼鏡越しにこちらを見る──頼りなくて冴えない顔。
……それでも、彼女にとっては間違いなく王子様。夢見たその人が、すぐそばにいるのだから。

体力も、理屈も、魔力量の残りも──夢の前では関係ない。


 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、
 バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、バンッ、


マロを強く抱きしめ、杖をどうにか握り。


「…終わらせてやるッ…!!──」


マルシルは一度だけ深く息を整える。


「────何もかもッ!!!!」


そして、足元に置いてあった筈の、あの一枚のメモ用紙へ手を伸ばした。







「『ထမင်းစားချင်တယ်』────。」





「……………………………え?」

856『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:38:08 ID:kWrg7C0g0
「……詠唱って、これだけでいいんでしたよね。マルシルさん」



 そう。足元に置いてあった──『筈』だった。


確たるメモの行方は、隣の──飯沼の手中にて。
『詠唱』を唱えた彼は、笑うわけでも、悲しむわけでもなく。



普段通りのボーっとした面持ちでマルシルを眺めて。
手をかざしていた。



「え…イイヌマ…………。…なん…で…」

「あ、はい。勝手なことしてすみません。──」


「──外には……さっき話した二人がいます。以降は彼らに頼ってください。……それにしても、野原ひろしって……すごい名前ですよね。本名らしいですけど……あ、マルシルさんは外国の方だから……知らないかな」

「……いや…………。…なんで……イイヌマ……」


飯沼が唱えた詠唱。
その響きは──既視感だった。

かつて、マルシルが一度だけ『受けたことのある』魔術の詠唱。再演を彼は繰り出して見せた。


「……なんで……。あんた、その『魔術』…なんなのか………分かってて唱えたの…………?」

「はい。…説明を読めばわかったので」

「……は? …………はっ? ……ふ、ふざけないでよ……………」

「………」


徐々に、輪郭がほどけていくマルシルと、腕に抱いた犬の身体。
二つの影は光の粒となり薄れ始める。


『ထမင်းစားချင်တယ်』。
──さかのぼれば、迷宮に初めてパーティで挑んだ際の、炎竜(レッドドラゴン)戦にて。

自分一人を残して、仲間を全員送還させた──ファリンによる、



 ────【迷宮脱出魔術】。



「ふざけないでよッ!! ねえなんでッ…!! …どうして……そんなことを──ッ…、」

「マルシルさん。モノを食べる時はですね」

「え?」


あの時も、そうだった。
声を伸ばしても、手を伸ばしても、ファリンの背中に届かないまま光にさらわれていく。
残された指先には、ぬくもりの余韻だけがやけに鮮明に残っていた。

857『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:38:27 ID:kWrg7C0g0
「誰にも邪魔されず自由で……。なんというか救われてなきゃダメだと思うんです。独りで…静かで……豊かで。──」


嫌だった。
もう、仲間を失うのは──嫌だった。


「──……僕は大勢で食べるのも一人で食べるのも好きですが、今は『一人食いしたい気分』ですかね」


そう言ってメモを丁寧に彼女の手へ握らせる飯沼。
透明さを増していくマルシルの指先。
涙は頬を伝い、重さを持った雫となって指先へ落ちた。
その手は、溺れる者が最後の浮き輪を求めるようにただ一人へ向かって伸びていく。



「……え………。な、何言ってるのって…聞いてるよねッ……!!!!」


自分の好きな人は、みんな目の前でいなくなっていく。
姿が消えるのは、いつだって、自分の方だというのに。



「ねえ……イイヌマ………。イイヌマッ………!!!」

「それにしても……──」

「……え?」



だから今度こそは。──この光から、誰も奪わせたくなかった。




「──お腹すきましたね……。マルシルさん」




 ──ピシュン



奪わせたくなかった。心からの想いだったのに。



………
……



「イ…イヌマ……っ…!! …うっ……ヌマ……っ……! ……イイヌマぁ……っ……!!!」


「………ひろしさん…」

「……………。──」


「──君が、マルシルさん……だね?」


「……ひっ……ぐ……っ………っ……ひくっ……! ぁ……っ……!!」




────ホテル玄関前の光が、痛いくらいに眩しかった。

858『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:03 ID:kWrg7C0g0
【1日目/F6/東●ホテル前/AM.05:39】
【マルシル・ドナトー@ダンジョン飯】
【状態】悲哀
【装備】杖@ダンジョン飯
【道具】高等魔術一覧メモ@ダンジョン飯
【思考】基本:【静観】
1:もう、いや……。

【野原ひろし@野原ひろし 昼飯の流儀】
【状態】疲労(軽)
【装備】銃
【道具】なし
【思考】基本:【対主催】
1:飯沼くん……っ。
2:老名ちゃん、マルシルさんを守る。
3:新田、ウンディーネ娘(山井)を警戒。

【海老名菜々@干物妹!うまるちゃん】
【状態】疲労(軽)
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:飯沼さん……そんな……………。
2:ひろしさんと行動。

【クン●ーヌ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【静観】
1:くーん……。

859『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:19 ID:kWrg7C0g0


………
……

 ザシュッ────

  …ぐちゅぐちゅ


「…ぐうッ……!!!」

「はっ……んぁっ……んんっ…!! わ、わけが…分かんない………。なんで…どうして…なの……。ぁ…」


 ホテル廊下にて、粘り気を含んだ水音と、肉と肉がぶつかる鈍い音が響き始める。
出会い頭、即腹部に一突き。──激痛のあまり仰向けになった飯沼を逃さまいと、馬乗りになる山井。
それからは刺す。刺す。刺す。突く。滅多刺し。
菜箸が皮膚を貫き、肉の中で泳ぎ蠢き。
刺される度に、ビクンと揺れる全身に、グズグズと真っ赤に染まる白シャツ。
飯沼は悲痛の汗や唾液、途切れ途切れの声を漏らし続けるが、彼の苦しみなどお構い無しに、山井は刺し続けた。


ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅっ……。
紅潮した頬の飯沼から、唾液や汗が飛び交い、山井の顔を濡らしていく。


 ザシュッ──

「あぅッ……!!」

「ぁあ………っ、なんで…どうしてなの………っ」


 ザシュッ──

「ぎいッ…!!」

「…体が…疼いちゃう………っ。ドキドキが止まらない………!!──」



「──もう止まらないんだけど…っ!!♡♡」


 ザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッ


「んあッ!! はぁん………、ん、んはぁ……はぁっ…!!!」



 飯沼の下腹部に股がる山井。ピクつく肉感の良い太もも。
片手で胸を触る彼女の口からは、もう言葉というよりも、断続的な喘ぎと甘い声しか出てこなかった。

深く、そして鋭く突き上げるたびに、飯沼の身体が大きく仰け反る。


「っ、ん……っ、は……っ、ふぅ……っ……」

『と、止まらないのっ……♡ あぁっ、すごくっ……きてる、からぁっ……♡──」


最初は慎重だった動きが、徐々にリズムを帯びていく。
ガンッ、ガンッと腰を打ちつけるたびに、山井の胸が制服越しに、下にぶら下がり、ぐるんぐるんと大きく揺れた。

呼吸が乱れ、頬が紅潮し、目が潤む。
────それは、飯沼。そして山井。二人揃ってのシンクロナイズ。

860『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:34 ID:kWrg7C0g0
「──なんて…なんて……可愛いリアクション……するの?!♡ アンタはぁ…♡ あっ…♡ んっ、あぁっ!!♡♡」

「っは、あっ……ふ、ひぁぁっ…」


 ぬちゅっ、ざしゅっ、ざしゅっ、じゅぷっ……。
水気たっぷりの音が、湿った空間にいやらしく響く。
まるで、本能のままというか。
自分の意志では止められない身体の奥から突き上げられる欲求に、抗うことなく身を任せているかのようだった。


体液が、太ももを伝ってぽたぽたと床に滴っていく。

声が、甘く蕩けていく。


「っふ♡ くっ、…んぁっ♡ んっ…♡ だめぇっ……♡ もっと突いてぇ!! 突いてったらぁ!!」

「……んっ……ふ……っ……お…お………」

「って…突いてるのは私だしぃ〜〜〜〜っ♥  はっ♥ ふあぁっ♥ あっ…、んっ、あっ!!♥──」


物を食べた時の、光悦かつ淫靡なリアクションは、見た女子全て惚れさせる────。

食べることが好きなサラリーマン、飯沼。


「──あぁああっっ〜〜♥♥♥ あァんっ♥ あぁああ〜〜っ♥♥♥ だめなのにぃい〜〜〜!!!♥♥♥♥♥♥」



彼はまた一人、女子高生を快楽へと陥らせた──。



【飯沼@めしぬま。 死亡確認】
【残り63人】

861『日々は過ぎれど飯うまし』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:39:48 ID:kWrg7C0g0
【1日目/F6/東●ホテル/7F/室内/AM.05:40】
【山井恋@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】光悦、額に傷(軽)、鼻打撲(軽)、膝擦り傷(軽)
【装備】めっちゃ研いだ菜箸@古見さん、ウンディーネ@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰古見硝子】
1:古見さん、四宮かぐや以外の皆殺し。
※マーダー側の参加者とは協力…かな?
2:こんなドブネズミの巣から古見さんを早く脱出させたい。
3:ホテルにいるクソカス共をとりあえず全員皆殺し。
4:クソ犬(マロ)を使って古見さんを見つける。トリュフ探すブタみたいにね☆
5:クソ親父(ひろし)、脂肪だけの女(海老名)、魔人(笑)(デデル)とその仲間共(うまる、マミ)に激しい恨み。

862 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/03(日) 22:40:09 ID:kWrg7C0g0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①ダンジョン飯エミュ度向上の為、『ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル』購入しました。
②何故か九井先生の短編3冊つきで到着。『竜の子が〜』ってタイトルの短編集です。なんてお得な買い物した気分。
③いずれも、まだ完読には至ってませんが、世界観を堪能できればなと毎日読み続ける次第です。


【次回。8月5日投下。】
──時は平成末期、ラーメンは900円台。
──…未来のラーメンは、果たして値札に味が勝てているのだろうか。

「らぁめん再遊記 第三話〜未来《スパイスガール》!!〜」…芹沢達也、アンズ、佐野、???

863らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:29:33 ID:XG./maZk0
『らぁめん再遊記 第三話〜未来《スパイスガール》!!〜』


[登場人物]  芹沢達也、アンズ、佐野、???

864らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:29:53 ID:XG./maZk0
 ナンダカンダとキレイごとを言ったところで、ラーメン屋というのは所詮、商売だ。
金儲けのことを考えれば、どれだけ評論家やラーメンオタク共に酷評されようとも、大勢の客を招き入れるような一杯を作ることが大切だ。
この世は『売れたら勝ち』なのである。

これは、もちろん俺にも当てはまる。
俺の淡口らあめんは鮎の煮干しと比内地鶏・鹿児島黒豚を合わせたスープに、国産有機醤油と自家製麺…と。
こだわりに拘ってはいるが、売れなければ独りよがりな自慰行為に過ぎない。

一方で、そういう観点からすれば、小娘アンズの来々軒は完全に『勝ち組』だ。
屋台の客単価が六百五十円の中で、売上は日商五万円。
単純計算で一日あたり約七十五食、昼と夜の二部制で回している計算になる。
客単価・回転率ともに、屋台業態としては全国上位数パーセントに入る水準なのだ。

…俺が汗水垂らし、試行錯誤を重ねて『我がラーメン』を自答してる間に、奴は創意工夫皆無な一品でこの数字を叩き出している。
……言いようによっては天才のそれだ。
商売的な意味では間違いなく勝者に値するだろう。


──…そんな天才様()と凡人である俺との差は、もはや胃酸が込み上げてくる程だッ……。



「っ、おええぇええぇぇぇえ…ッ!!! ごぼっ、ごぼっ…、……ゔぉろろろろろろろろろろぉおえええええッ………!!!!──」


 …はぁ、はぁはぁ………………っ。


「──……死ね!!」


 …小娘アンズの陳腐なラーメンを試食され続け早十杯目……っ。
今、俺は奴の屋台から少し離れたコンビニ裏にて、地獄のデトックスタイムに見舞われている最中だ。

確かに俺は奴と出会った際、「最後までとことんサポートする」「お前の味と歩む覚悟だ」…とは言ったが……。
…限度というものがあるだろ…ッ! 限度が……ッ!!
『限度』という単語すら知らないであろう中卒無教養女の『一杯』は……(…というか十杯は)…、三角コーナーの野菜クズを口直しに貪りたい程の味である………。


「…ダメだわ………。どれだけ作り直しても…納得いく味にならないっ……!! …なんなの。芹沢さんとの差はなんなのよ!! もうっ…あの人を見るだけでムカムカしそうだわ!!」

「……………」


……おい、なに嫉妬しているんだこの女は。
不相応にも程があるジェラシーだろ! 俺のラーメンを同じ土俵にあげて語るな!!


……くっ。
………くそっ…。青筋絶叫小娘め……。

865らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:10 ID:XG./maZk0
 んぐ、んぐっ……


「ぷはっ…………。はぁはぁ………」


 …吐き散らして空っぽになった胃袋へ、俺は安物のウイスキーを流し入れる。
あぁ、勿論胃と食道が荒れることは承知済みだ。
だが飲まなきゃやってられんとはこの事……。

──五百円のブラックニッカに頼らなきゃいけないほど、今の俺は最大に追い込まれているわけだ……。



「…うん、ごちそうさま。美味しかったよ、アンズさん」

「あっ! ありがとう佐野!! ま、礼なら私のおじさんやおばさんに言ってよね! あくまでこの一杯は来々軒の味を受け継いだまでなんだから!! …へへへ〜!!」

「……それで、あの…。…もう行ってもいいよね?」

「へ? いや、なんでよ佐野!!」

「…なんで、って……。私は瞳さんって【仲間】を探さなきゃならないから……。さっきもそう言ったんだけど……。だから、…うん」

「あ、そっか〜…。…じゃあ、そういう訳でちょっといいかしら!!──」

「──隣に置いてるラーメン…。これは芹沢さんの分なんだけど、…伸びそうじゃない? だから食べてから行きなさいよ! ね〜!!」

「え。何が『じゃあ』……??」



………。
俺の身代わりというか、屋台にはたまたま通りかかった『佐野』という女が毒牙の餌食と化しているが……。…まぁそいつはどうでもいい。

アンズのラーメン拷問よりも、
佐野がペットのタランチュラを卓上に乗せてギャーギャー騒がれてる煩さよりも、

──俺を追い詰めている物………。


「………ちっ、とうとう来たか………」


それは、吐いている途中の俺に突如落ちてきた──、


「…………『ハル』のやつめっ……!!」



──イクラを肥大化させたかのような、『ボール』だった…………。



「…『拝啓 芹沢達也さんへ。アンズさん、佐野さんとご一緒に、このボールを押して、【ライブ中継】をご覧ください』……だと…?」



未来人──ハルからの、ボール。
…ご丁寧にもボールにはメッセージ付きでだ。
要するに、このオレンジボールはライブ配信を移す未来の映写機といった代物らしいのだが。


 ぐむぐむ…
  ズンッ

   ──パッ

 ジジジ────ッ、ガガガガ────ッ、


「…………」



…未来のインターフェイスのセンスが俺にはさっぱり分からない………。

866らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:25 ID:XG./maZk0



 calling…
  future…

 calling…
  future…

──────【𝔸𝕌𝕏】──────────────────
 🅲🅰🅻🅻
    ᴘᴜꜱʜ ꜱᴇʟᴇᴄᴛ
─────────────────────────────────


芹沢達也・アンズ・佐野
    ↓↑
    ハル

【通話画面】
ttps://img.atwiki.jp/heiseirowa/attach/181/425/m/musen.png





867らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:43 ID:XG./maZk0

……
………


 (芹沢)『…あ?!』


 ────お久しぶり…ですかね、芹沢さん。…アンズお姉さん、佐野さんからしたら初めまして。

 (佐野)『…あ、はい。初めまして…』

 (アンズ)『……えっ、アンタ誰よ……。まさ…、』

 (芹沢)『いや待て待て!! バカか!? 俺もお前のことなんか知らん!! …お前は誰だ!!?


 ────ハハハ、どんな御冗談を。ま、丁度よいので自己紹介に入りますね。ボクはハル。超能力者検体No.12。

 ────……つまりはアンズお姉さんと遠い親戚にあたるわけです。…超人会製ではないのですがね。


 (アンズ)『な、なによそれ…。つまりアンタは未来…、』

 (芹沢)『嘘をつくなっ!! だから誰だと聞いているだろ!!!』

 (アンズ)『ちょっと芹沢さん!! さっきから私の言葉に被せてこないでよ!!』

 (芹沢)『…黙れお花畑!!』


 (芹沢)『…いいか、ガキ』

 ────ええ。

 (芹沢)『確かに以前、俺の元にボールが落ちてきて、お前同様『ハル』と名乗るガキが来たものだ……』

 (芹沢)『お前とそのハルの決定的な違いが分かるか? …口で一々説明するのも馬鹿らしい、極めて単純なものだがな…』

 ────そこはご教示いただきたいたいものです。

 (芹沢)『…俺が会ったのは男だ!! 真っ裸の少年なんだよ!! …なにが『ボクはハルです』だ……?! お前みたいな小娘知るかっ!!』

 (佐野)『え? …裸の…少年……??』

 (アンズ)『…芹沢、最低ね…ッ』

 (芹沢)『お前らは口を挟んでくるなと言っただろ!! …というかアンズ、お前はコイツと同じ類なんだから裸になる仕組みくらい知っているだろうが………』


 (芹沢)『くっ……。俺はてっきりハルの奴がバトル・ロワイヤル攻略のアドバイスでも持ってきたものだと思っていたのだがな………。おい自称ハル…』

 (芹沢)『お前の目的は……なんだ?』


 ────…あぁ、なるほど。そういう訳でしたか。単刀直入に申します。ボクは【ハル】です。

 (芹沢)『その単刀は俺の理解には全く刺さってないがな…』

 ────そして芹沢さんがお会いしたというその娼少年もまた【ハル】。ボクなのですよ。

 (芹沢)『あ…??』

 (佐野)『…娼少年………』

868らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:30:58 ID:XG./maZk0
 ────はい。単刀では物足りないようですので、聖剣エクスカリバーでご説明いたしますね。まず、初めになんですが……。えー、どれどれ。


 ペラッ


 ────…あーはい、なるほど。…とりあえず、皆様が今いる場所はシブヤ【B-2】エリアで間違いないですよね?

 (アンズ)『…へ? びーつー…? も、もちろんよ! 当り前じゃない!』

 (芹沢)『いや絶対分かってないだろお前…。……おい自称ハル、B-2だのC-3だの言われても俺達は分からん。具体的名称ではっきり言え』

 ────あ、はい、申し訳ありません。B-2は目の前にファ●リーマートがあると思うのですが、間違いないでしょうか。

 (芹沢)『………』

 (佐野)『あ、はい。…それなら、確かにここはB-2ってことに……なりますね』

 ────それは良かった。話が早いです。



 ────史実では、今から十秒後に、エリアB-2・ファ●リーマート店前にて隕石が落下します。


 (アンズ、芹沢、佐野)『『『…え?(は?)』』』


 ────他区域での戦闘が誘発したものでして……ええ、直径一キロのクラスです。避けようはありませんね。


 (芹沢、アンズ)『『はぁ?!』』


 ────一応、ダメ元で使ったほうがよろしいかと。

 (アンズ)『えっ、え? え?? …え?? な、何をよっ?!!』

 (芹沢)『バカかお前!! お前の力……エスパーだか念動力だかを使えと言っているんだっ!!』

 (アンズ)『え?? あ、そっか……!! で、でも…どこから……、』

 (芹沢)『黙れ!!! さっさとしろォオオオオオオオオぉぉ…、』



 ヒューン…



  ──コツン



 (佐野)『わ、痛っ…』


 (芹沢)『………は?』


 (アンズ)『…………………え、小さ』



 (アンズ、佐野、芹沢)『…………は??』

869らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:31:11 ID:XG./maZk0
 ────…ご無事で何よりです。なにはともあれ、この通り降ってきたでしょう。隕石が…!

 (芹沢)『アンズ、映像の切り方を教えてくれ。ボールをまた押す感じでいいのか?』

 (アンズ)『さあ。適当に川に捨てればいいんじゃないかしら』


 ────おっと、これは厳しい御冗談ですね。でもこれはボクが接続を絶えるまで切れない仕組みですので…、

 (アンズ、芹沢)『やかましいッ!!! 冗談じゃないのはこっちだ!!! 何が隕石だ!! ふざけるなッ!!!!』

 ────…ボクも冗談は苦手な質なのですがね。皆さん落ち着きましょうよ。

 (芹沢)『お前のせいだろっ!!? …クソ…!! 貴重な時間を浪費させられた……。どいつもこいつも…俺は未来人()にはうんざりだっ…!!!』

 ────いえいえ。だから落ち着いてくださいって。隕石は本当に、史実通りならAM.05:32:25に落ち、壊滅的被害をもたらしたんです。

 (佐野)『……たしかに、ちょっとは痛かったけども…』

 (芹沢)『…壊滅的か、それは結構。ならば俺は未来人ってカテゴリを壊滅させるのが道理だろうな。……全くお前は……ッ』

 ────はい、その通りです。貴方には未来を壊滅させてほしいんですよ。…ボクはそのために過去へ来た。

 (芹沢)『壊滅してるのはお前とアンズの頭だけだ!!! ふざけるな!!!』

 (アンズ)『…え?』

 (芹沢)『人をおちょくるのも…ッ……、いい加減にし……、』


 ────芹沢さん、失礼ながらもしかして数分前に、嘔吐をしませんでしたか?


 (芹沢)『…あ?』


 ────…ハハ、やはり。そのお陰で、隕石は空中で破裂し、小さな石ころと化したんですよ。



 ────分かりましたか? ボクが少女に『書き換わった』理由。


 ────分…それは【バタフライ・エフェクト】によるものなんです。




 (アンズ)『…ばたふらい……えふぇくと………?』



 (芹沢)『いや、そんな聞き慣れない言葉でもないだろ……』

 (アンズ)『はぁっ?!』

 (佐野)『あの…。小さな出来事が、時間を経て予想外に大きな結果を引き起こす現象のこと……だよ。…アンズさん』

 (アンズ)『へえ〜! 佐野は物知りねぇ〜』

 (芹沢)『お前意外全員知ってる言葉だがな。さてアンズのせいでテンポはグズついたが、さっさと説明しろ。…ハル』

 (アンズ)『なによそれっ?!』


 ────はい。明確なバタフライ・エフェクトの起点は十日前。過去に戻ったボクが芹沢さんと干渉した瞬間が期でしょう。

 (芹沢)『……』

870らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:31:28 ID:XG./maZk0
 ────佐野さんの説明通り、過去という歯車はほんの少しの綿埃を噛み挟んだ程度でも、動きが大きく歪むものです。そのため、ボクの住む未来では政府の公認外でのタイムトラベルは極刑となっているのですがね。

 ────それはともかくとして。事実、【堂下浩次】という参加者は、現時点ではまだ生存しているはずですよね?


 (???)『三嶋先生ェエエ!!! 私、堂下浩次は大変感動しましたァアアア……っ!!!』

 (佐野)『わっ!!』


 
  しましたぁぁぁ………


    ……ましたぁぁぁ…………


      ……たぁぁぁ…………



 (芹沢)『………。…史実ではどうなっているんだ。その堂下と言う男は…』

 ────えーどれどれ…。…はい、『第一回放送深夜にて、…Sに誤射され死亡』。一時間十三分の寿命となっていますね。

 (芹沢)『…別に個人名をあげていいものを、わざわざ『S』と仮名したのは引っかかるぞ……』

 (アンズ)『………配慮したってわけよ。……ね? 犯人のS沢さんッ…!』

 (芹沢)『何が【…ギロリっ】──だっ、アンズ!! お前はさっきから俺になんの恨みがあるんだ………』


 ────…ともかくです。このともかくです。この通り些細な出来事で簡単に未来は変わってしまう。言うなれば、殺し合いを根本から瓦解させるだけのエネルギーを持つ唯一の策が、バタフライエフェクトというわけですよ。

 ────蝶の羽ばたき一つが、戦争をも、全宇宙すらもひっくり返す…【バタフライエフェクト】。ボクが皆様三人を集めた理由は、もう言うまでもありませんね?



 ────今から、僕の指示通りに行動していただきたいのです。


 ────…汐見閣下と終身名誉ゲームマスターAから、未来を救うため。



 (アンズ、佐野)『………』

 (芹沢)『……………っ』



 (アンズ)『…ところでアンタ、なんで浜辺から中継してるのよ。その場所チョイスはなに?』

 (芹沢)『…マイペースかお前、アンズ……』

 ────浜辺? いえいえ、ワイキキビーチとお呼びください。第三次世界大戦戦勝記念のバブル景気で、小旅行中なんですよ、ボク。

 (アンズ)『はぁああ?!』

 (佐野)『人がこんな目に遭ってるというのに……旅行………』

 ────まぁ骨休めも仕事の一つですから。アンズお姉さん、ハワイのマクドナルドにはラーメンが売っていることをご存知ですか? その値段わずか500ラー。もはや激安の殿堂ですね。

 (芹沢)『ラーってなんだ。ラーとは…』

 ────未来の日本の通貨単位です。麺歴三年以降、円は廃止され『ラー』に変わりました。

 (芹沢)『……『メン』でいいだろっ………』

 ────まぁそこは汐見閣下のブランディングセンスですので。何とも言えませんね。

 (芹沢)『……………バカがっ…』

871らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:31:44 ID:XG./maZk0
 ────話を戻します。それでは第一に、皆様三人にはある参加者へ会いに行ってもらいたいんです。


 (佐野)『…なんとなく黙ってましたが……私も巻き込まれているんですね……』

 ────えぇ勿論。後々欠かせないピースの一つになりますから。……佐野さんも、【車で10km引きずり回された末、皮膚欠損で死亡】だなんて死因は勘弁でしょう?

 (佐野)『……っ』

 (アンズ)『…え? なによそれ?? じゃあ私は史実じゃ…どうなっちゃうわけよ』

 ────あー、はい。アンズお姉さんは【壺の中にて遺体が発見された】との記述がされています。……タコ壺ですか?

 (アンズ)『え? 壺?? いや…はぁああ???!』

 (芹沢)『……ふふっ!! ………ぶふふ…』


 ────話が逸れました。それで、そのある人物とは、B-3・横断歩道前にて怪我を抱えつつ放心状態です。

 ────彼に三人そろって接触し、仲間に引き入れることで。はじめて【惨劇】を未然に防ぐ下地が整うんですよ。

 (芹沢)『…結論から話せハル。誰だ、そいつは……』

 
 ────はい。『新田義史』さん。その人です。


 (アンズ、佐野)『…え?!』

 (アンズ)『……新田…………!?』


 ────勿論存じ上げていますよ。山中藤次郎の拡声器で、新田さんが殺人者の危険人物と広められた現状は、計算上、史実通り。

 (アンズ)『違うッ!!! 違うんだからぁッ!!! 新田は悪いやつなんかじゃないわよッ!!!』

 (芹沢)『おいアンズ、話の腰を折るな』

 ────いえ芹沢さん。彼女の言う通り、新田さんは人畜無害。全ては山中の浅はかさが招いた風評被害です。

 (芹沢)『あ?』

 ────彼は野原ひろしに見捨てられ、早坂愛には除き魔と誤認され、そして逃げた先では西片に…と、今、心身ともにボロボロの状態です。……もちろん、それで暴走するようなれではありませんが、とにかく今の新田さんは(哀しい意味で)危険なのです。


 ────そんな新田さんに接触できるかどうかが、あなた方が【史実の惨事】から救われる一歩になるんですよ。



 (佐野)『…史実の惨事…って何なんですか………? 車とか…壺とか…さっき言ってましたが…それが何に…、』

 ────申し訳ありませんが説明は割愛させてください。……なにせ、もう時間がないんです。

 ────AM.05:37:00、ちょうどその時刻に、あなた方にはB-3へ向かっていただく必要があります。


 (アンズ)『え?! …五時三十七分って……』


 チラッ


 (アンズ)『あと十分もないじゃないっ!!!』

 (芹沢)『それは湿度計だバカ!! ………つまりは三分後、か…』


 ────その通りです。また、移動に際してお願いが。三人で、【ぴったり百五十八歩】で歩いてください。早歩きや遅歩きで調整して、なんとかきっかりに。

 (芹沢)『…その具体的歩数は何を意味する』

 ────…説明する時間は、もう無いんですよ、芹沢さん。

 (芹沢)『………くっ…』

872らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:32:01 ID:XG./maZk0
 ────では一旦はこの辺にて。必ず、指示を守った上で行動をお願いしますね。

 ────…未来というのは、たった一歩で思いもよらぬほど大きく、塗り替わるものですから………。


 (芹沢、アンズ、佐野)『……』



 ──ねぇ〜ハルちゃーん!! はやく来て一緒に泳ご〜〜っ。

 (アンズ)『は?』


 ────あ。…うん、分かった、分かったってば。とりあえず、水着に着替える時間だけはくれないかな〜皆。

 ────…ごくごく、ぷは〜〜。うん、ハワイに来たからにはトロピカルカクテルを飲まないと始まらないや。

 ──も〜〜、ハルちゃんたら〜っ!!

 ──きゃははは〜〜〜!!

 芹沢『…は?』



 ────では皆さん。この一歩が、未来の希望になると信じて。…今、塗り替えましょう。


 ────では失礼します。



………
……


 プツンッ………

873らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:32:16 ID:XG./maZk0



「新田………」

「………私…関係ない…はずじゃ………?」



「………グッ…」


 …未来は、塗り替えられる……だと。
…冗談じゃない。…ふざけるなッ。
いかにも未来人共の傲慢が溢れたセリフじゃないかっ。

仮に俺が1930年の日本に放り込まれたとしてだ。
「このまま戦争をすれば、広島で多くの人間が焼かれることになる」
「だから満州事変など起こさず、国際協調路線を取るべきだ」──そう進言したとして。

──歴史は、果たして変わるか?

…笑わせるな。
当時の人間に、そんな理屈が通用するはずがない。連中は理解すらせず、俺を特高警察に突き出すのが関の山だ。
そして十数年が経ち──ようやくのこと、誰かが言うだろう。「アイツは、正しかったのかもしれない」とな。


未来の人間がどれだけ知識を振りかざそうと、歴史の盤上で駒を動かせるのは、その時代に足をつけて生きた者だけだ。
結果を決めるのは情報量や、誰が駒を動かすかじゃない。紛れもなく、『駒自信』なのだ。


「………っ」


 ………時計は残酷だ。指定時刻まで、残り一分を切る。

…くっ、ふざけたことを言いやがって………。
ぬくぬくとビーチで寝転がり、特に説明もせず新田という輩に会えとは………。


──……大概にしろ……ハル……ッ!!
──…未来人共がッ…………!!



「……だが礼は言うぞハル。俺はまだ終わるつもりではいないからな……」

「え…?」


「それに、アンズと佐野。…お前らも少しは思ったことだろう?」


「何を…ですか…?」 「何をよ…」


「映像の終わり際。ハル背後に、妙な黒服の連中が近づいて──次の瞬間、映像がぷつりと切れた。あの瞬間……。──」




「──少しスカっとはな?」

874らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:33:27 ID:XG./maZk0
 アンズが俺用に出した試食ラーメンへ、


「…え?」 「え?」



 胡椒を…
──ドォバババババババババババババババババッババッバッババッバババババババァァァッァァァッァァァァァッッ──────!!!!!!!!!!!!!!!!!


「はぁあ?!!」



 伸び切った麺を一気に…
──ズズズズズッズズズッズズズズッズズズズズズズズズルズルズルズルウウウウウウウウウウウウウッッッ─────!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
──マズイッ、マズイッ、マズイッ


「はぁああああ!!!??? ちょ、ちょっと!? 芹沢さん何してんのよッ!!!」



 プハッ!!


「…うん、まずい。だが胡椒で味をごまかしたら、あのウンザリしたスープも飲み込めたじゃないか。……アンズ。これは新境地の扉が開かれたんじゃないのか?」

「はぁあぁぁああああああああああああああああっ??!!!」



──はい、完ッ食ッッ!!!!



「いや私のラーメンっ!!!!! 私の作ったラーメンなんだけどォォォォ────ッ!!!! 何してくれてんのよォオオオオオ────ッ!!!! うわぁあああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「黙れプッツン女!! 南国の鳥かお前は…」



 ……あぁそうだ。

未来は、そこに住む者も建物も文化も、何もかも全てが空疎で最低品質。終わりきっている。
俺も実際にこの目で見た以上、確信を持って言えるものだ。

臭い消しのコショウはラーメンの風味を飛ばしてしまう。にも関わらず、ただ慣習で卓上コショウを置くのは悪臭でしかない。
──ハルの未来はコショウ同然の、邪智すべき存在なのだ。


「どんなゲテモノでも、カレーをかけりゃ大抵食える代物になる、それもまた事実だ。…スパイスというやつは時として食材の罪まで塗り潰してくれるのだな。──」

「──……俺はこういう誤魔化しの食法を長らく邪道と断じてきたが……さしずめ『邪道』はバカとハサミ同様、使いようというわけだ」

「ふ、ふざけるんじゃないわよぉおおおっ!!!! 私のラーメンんんんんんんんんん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

「あの…アンズさん、ちょっと落ち着いて……」

「もがあぁあああああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

875らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:33:42 ID:XG./maZk0
…だが、それがどうしたという話だ。
どんな最低品質の代物も、少しこちらで手を加えるだけでマシにはなることは実証済みだ。

──この、学食以下のラーメンのようにな?


「おい佐野!! そいつ係はお前に任せる。…行くぞ」

「え…?」 「はぁ?? そいつ係ぃぃぃ〜〜っ?!」


「時間だ。……忘れるなよ、『百五十八歩』。…きっかり、な?」


「は、はい………!」 「え?? ちょ、いやちょっと待ちなさいよっ!?」



 一歩、二歩、三歩………。

足並みをそろえ、俺らは前へと進み続ける。
未来だの何だの…。陳腐なSFごっこを仕向けてきて、ガキの使いじゃないんだぞとは言いたいところではあるが。

俺は一つの『疑念』を、次なるハルへ晴らすため、今はただ、残りの歩数を、淡々と刻むまでだ。



「待って…!! 待ちなさいってばぁああ〜〜〜〜!! …この……ラーメンハゲエエエエ──────っ!!!!」



 疑念。【Question】.
──数多いる参加者の中から、なぜ『俺』に白羽の矢を立てたのか?

未来人が俺に期待を託した、その理由。
ヒントは『汐見ゆとり閣下』が最大の鍵となっているだろう。


──……それは、つまり。──俺が………────。


「……ふん…」



…とな。








………
……


「…うぷっ……!! おえっ…」

「あ!! せ、芹沢…さん………!!」

876らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:33:54 ID:XG./maZk0



【ラーメン界の第一人者・芹沢達也 〜本日の名言〜】
──コショウは邪道だ。ただし使い方次第では一定の効果あり。
──俺はこういうコショウでの食法を長らく邪道と断じてきたが、さしずめ『邪道』はバカとハサミ同様、使いようというわけだ。



〜バトル・ロワイヤルを経て学んだ『ラーメン道』 アンズメモ〜

①まずいラーメンには胡椒で応戦!! 卓上調味料、バカにしちゃダメ…らしい。
②ということは味噌ラーメン用に卓上に一味唐辛子も見当。ただし、かけすぎには注意よ〜!! 辛すぎて口から火を吹いたら…アウト!!
③ハワイのマクドナルドにはラーメンがあるらしい……。何味なの?! チャーシューはさしずめパティかな?






【外部介入】
【ハル(過去改変二巡目)@ヒナまつり 死亡確認】

877らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:34:07 ID:XG./maZk0
【1日目/B2/屋台『とんずラーメン』前/AM.05:37】
【芹沢達也@らーめん才遊記】
【状態】嘔吐中、満腹限界(大)、心労(大)
【装備】???
【道具】いくらボール@ヒナまつり(使用済み)
【思考】基本:【生還狙い】
1:アンズの念動力を利用し生還。
2:どんな卑劣な手段を取ってでも生き残る。
3:未来からの使者『ハル』の次なる通信を待つ。ハルのバトロワ攻略法の元、動く。
4:新田義史に会う。
5:…新田。…アンズの陳腐な店に週四で訪れる男……。なんだこいつは罰ゲーム中か?!

【アンズ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】中華包丁
【道具】寸胴鍋
【思考】基本:【対主催】
1:芹沢さん、佐野と協力して打倒主催!!
2:殺し合いを終わらせるほどのラーメンを作りたい!!
3:新田に会う。…待っててね、私が全部疑惑を晴らしてあげるんだからっ…!!
4:『未来』は一体どうなってるわけ………?
5:ばたふらいえふぇくと……。よくわからないけど気をつけなくちゃ!! …今度、瞳に意味を再確認しないと!!

【佐野@空が灰色だから】
【状態】健康(普通の姿)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:『三嶋瞳』がいる渋谷デイリーマンションに行きたかった。
2:…それだというのに、私はなぜ少年の妄想を聞かされていたんだろう。
3:それを芹沢さんたちが真剣な顔で聞いてるのが、輪をかけて怖いんだけど………。
4:【仲間】に会いたい。…できれば来生さんとも…ね。

878らぁめん再遊記3(ry ◆UC8j8TfjHw:2025/08/05(火) 22:34:58 ID:XG./maZk0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①気づけばあと4話で三巡終了です。第四巡目は以下の通りになります。

001「サイダーガールと、ラーメンガールと…」
002「良識がちょっと足りない」
003「ヒナ・まつり」
004「うまるとでろでろ(仮)」
005「あたしのあした」
006「マルシルさんの好きなもの…だゾ(仮)」
007「風評被害ロックンロールフィーバー」
008「鴉 -巣立ち」
009「CONTINUED OVER GIRL」
010「咲けよ、二郎(仮)」
011「Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。」
012「巡り合う二人の『会長』」
特別回「Kung-Fu the Future ──思い出す、ふとした時に。」
013「第1回放送」

②「ヒナ・まつり」、「サイダーガールと、ラーメンガールと…」、「巡り合う二人の『会長』」の3本は筆が乗りそうな自信があるのでご期待ください。


【次回。8月12日投下。】
──最後に、お願い。
──ETの…指と指重ねるあのシーン。一緒にやってくれないかな。

──だって私たち友達じゃん!

「いいの、いいの」…マミ、うまる、デデル、山井

879『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:12:40 ID:hzrHUxHA0
[登場人物]  うまるちゃん、新庄マミ、魔人デデル

880『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:13:46 ID:hzrHUxHA0
 東●ホテル・『四階』。──読み方にして、『しかい【死界】』。

四方八方至るところにて、ブクブクブクブクと。急性アレルギー患者の水膨れの如く、ウンディーネが上品な館内を埋め尽くす。
至極当然、この場に一歩でも踏み込めば即肉片化。死を恐れる暇もなく、鋭い水流で楽にしてくれるだろう。
言わば、この場は完全に水先案内人のサンクチュアリ《聖域》と化していた。

ただ、トゲが多い薔薇は美しいもの。
というのも、魔力の集合体であるウンディーネは、本質上ポーション同然の成分を含む。
生命力という名の棘さえ外せば、(微々たるものではあるが)十分な魔力エネルギー源となるのだ。

言わば、《聖水》。
大きなリスクを背負ってでも手に入れたい──いや、絶対に手に入れなくてはならない。
聖なる水を求めて、三人。

ウンディーネ達のちょうど死角となる階段の影にて、うまるとデデル。


「やばっ?! やばやばやば〜〜っ!!! …なんか増殖してない?! バイバインか!!」

「…フゥ。とりあえず四階の有様を知れただけでも収穫だろう、土間の小娘。──」

「──さて、ウンディーネが少ない三階にて策を練りましょうか。行きますよ、マスタ…、」


「魔人さんにうまるちゃん、とくとご覧あれ!!! …私が『ただ者』ではない証明……──宇宙のパワーを見せてさしあげよう!!!」


「は?」 「…へ?」


そして、マスター・新庄マミは、
──魔力不足により徐々に姿が薄れてゆく我が使い魔。
──砂時計にして、一握り程度の残りリミットしかない魔人デデルを救うため、
『緊急SOS/ホテルの水全部抜く』──【ウンディーネ捕獲作戦】を遂行せねばなるまいのだった。


「…そりゃマミちゃんは宇宙人()だけどさぁ〜〜」

「ただ者ではあるでしょう。ただの人間の、小娘。……全く、マスターの愚かさには飽きさせ知らずです。ほら行きますよ…、」
 

「「…って、あぁ!!!」」


「はぁ〜〜っ。ハァ─────────っっ!!!!!」15:12 2025/08/13



仲間の制止を知らぬ構わずで、我先に飛び出したのはマスター自ら堂々と。新庄マミ。
ウンディーネの視線というスポットライトを存分に浴びる切込隊長は、何がしたいのやら、両掌を群れへ向けて差し出す。
「ハァ────!!」「ハァ────!!」「ハアァ────っっ!!!!!」──両手に力を込め、水塊を目柱強く睨む、その彼女。
傍から見れば、R-1グランプリに現れた電波芸人のような奇行をしてみせたマミであったが、別にふざけた訳では無い。
彼女には自信があったのだ。


「はぁああああ〜〜〜〜〜…っ」


それは日々。
同級生であり『超能力』の師匠でもある新田ヒナとの訓練の日夜。
放課後、何時間も河原で石ころを動かし続けた──念動力の練習に費やした時間と努力。
その積み重ねが、もしかすればウンディーネすべてを倒せるかもしれない。根拠のないとはいえ、そんな自信がマミには本気であったのだ。

そして、何よりも、


「ハァアアア─────────っっ!!!!!」


三人の中で自分が一番偉く、凄いという【マスター】の称号を、自分自身の力で証明してみせたかった。



「破ァアアアアアアアアア─────────っっ!!!!!」

881『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:14:00 ID:hzrHUxHA0
 …しーん。



──「寺生まれのtさんかっ!!」
──うまるがそうツッコんだ折、『結果』が突如として現れた。


────『結果』を言おう。

────マミの力は、本物だった。


「…え?」

「「…え」」


何せ、マミへ。そして隠れていたデデルらの元へ。
手を一切触れずして、計二十体のウンディーネが、まるで吸い寄せられたのように一斉に急接近したのだから。


「なぁあぁあッ!??」 「……くぅッ!!」



この力は『本物』だったと認めざる得ない────。


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
   ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
    ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────


………
……


882『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:14:27 ID:hzrHUxHA0



 東●ホテル・『三階』。──韻を踏めば『安泰』。
調理ルーム/食品保管室は、冷や汗と疲れを癒すには十分なほどに冷気が効いていた。

食品保管室とは、当ホテルにおいて精肉や作り置きの品々を保管するための空間。
──その中でも冷凍必須な食品においては、保管室奥の冷凍庫ルームにて保存されることとなる。


「うぅぅ゙ぶぶぶ〜〜〜っ!!! ぐ、ぐらかったよ〜! 狭かったよ〜! ざ、ざむかったよぉおおおお〜〜〜〜…!! ご、ごへんなはァい魔人さんん〜!! 寒い寒いぃい〜〜〜……!!!」

「申し訳ありませんマスター。私は制裁には暴力を好まぬ性分でして。ただ、これで頭が冷えたご様子ですので安心しました」

「…『冷凍室閉じ込めの刑』……。うまる、普通にマミちゃんのこと殺っちゃうのかと思ったんだけど〜…」

「それだと冷凍室が気の毒だろ」

「もう〜〜…だから何それっ!!? うぅ…、寒ぃ〜〜〜…」


 口では冗談を言いつつも、冷や汗を隠しきれなかったデデル。
そして、未だに顔の引きつりが収まらないうまると、冷えた上に顔も引き攣るマスター。

三人はこうして、奇跡的に調理室まで隠れ逃げた次第に至ったが、一生分の奇跡はこれにて使い切ってしまったのか不安にも至る現状である。


 調理室の鉄製のドアは施錠済み。
したがって、ウンディーネはおろか他参加者さえ侵入を許されない籠城下とはなってはいる。
そう。なってこそはいるが──、
──それでも怪異が収まるまでここに留まり続けるわけにはいかないのが、一行の状況だった。


「……………まったく、誰の為に私がわざわざ使い魔をしていると思っているのだか。私はキサマら人間共の争いに巻き込まれただけというものを…」

「…あ、デデル……。あれ、ちょっと〜〜…」

「…………いつ我が身が消えようとも、私には関わりなき話だというのに…。……愚かな主だ」


「………だいぶ、スケルトン度やばくなってきたね〜…………。デデル…」

「…魔人…さん……………。…さむ」



「…………ふっ、くだらん」



 刻。刻一刻と過ぎ、徐々に空気へと溶け込んでいくデデルの身体。
その手にあるランプの中は、すでに干上がり、わずかな水滴が底にしがみつく程度。
残り少ない魔力が、透けてゆくデデルの姿を何より雄弁に物語っていた。
まるでスマホ充電の残り10%時のように、何もせずとも魔人の身体は脆くなり続けていく。


「……ねぇデデル〜…。どうにかしてさ……てかワンチャン、ほっといても勝手にランプに魔力チャージされるとかない? 自然回復〜〜…みたいなぁ〜〜?」

「…全く怠惰な土間だな。ただ、着眼点は悪くない。確かに時間をかければ、空気中の魔力で少しずつ回復することもある」

「え、うそっ?! それなら下手に動く必要もないじゃん!!! 楽チンで楽チンでうまるもダラダラ〜…、」

「586,920時間37分後。…人間時間でそれくらいになる見込みだな」

「………えぇ…。なにそのロー●ンメイデンでしか聞かない時間の長さ〜〜…………」


その為、調理室に逃げ隠れはすれど休息の時間も無く。超一般人であるうまるとマミは、どうにかしてウンディーネ捕獲作戦の明確プランを練らねばならぬのだった。


「…………マミちゃん」 「ぅ、うまるちゃぁ〜ん…」

「…………………」

883『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:14:43 ID:hzrHUxHA0
三人は互いに目を合わせあい、覚悟に似た共通認識を巡り流す。



「…ごほんっ!! えーではでは………」


  \うまるーーん/
 〜緊急うまる超脳会議!!〜
 ~また私は如何にしてウンディーネを手に入れ魔人を救わねばなるまいか。~
 ーGenie's Strangeloveー

……


 A『お兄ちゃんへのプレゼント、又は宴のつまみ…と、これまで幾多のうまるん会議を開いてきたものですが。…ですがッ!!!──』

 A『──今回ばかりは本当に人生最大の危機なため、皆、真面目モード100%で望んでいただきたい!! うまるの諸君!!!』

 B『はーい!!』 J『はいはいはい!!』 G『はーいぃ〜!!!』


 A『今回は特別に参考人聴取として、以下の面々を会議室にお呼びしました!! まずは当の本人、デデル氏!!!』

 「……おい土間の小娘。なんなんだこれは? まずこの会議自体がふざけ全開100%だろう」

 A『…ごほん、参考人は静粛に!! 続いては、第二の参考人として〜、我らがリーダー・新庄マミ氏に…、』


「あっ!! ほら見て二人とも、いい? 月刊マー145頁によるとさ、CIAが魔物を密かに製造しているという証拠があるんだよね…。つまりは、魔物…ウンディーネ対策としては〜…、」


「……」 「…………」


 C『…議長、なんだか外野が騒がしいですがいかがなさいます?』

 「無視は健康に良いぞ」

 A『はいその通り!! では以上、一名の参考人と共に、これから全うまるには慎重かつRTAに結論を辿ってほしいものであります!! ではどうぞ!!』


 E『はいはいはい〜!!! 私、うまるEとしては、電気で感電させて捕える方法を推奨します!!!』

 M『…え、水だから??』 B『んな安直な…』

 E『安直とか関係ないでしょ!! とにかく魔人の力を使って「百万ボルト〜!!」とかやれば解決じゃん!! …じゃない……?』

 「そのような力すらも残ってはないとは、言うまでもないよな?」

 E『…さ、さ〜せん〜……』

 C『いやそもそもの話さ! 案を出すにもまず前提が整ってないよ!! なにせ相手は水!! 触れない・運べない・触れたら即ゲームオーバー!! 凶暴で掴みどころない相手なんだからねっ!!』

 M『水だけに掴み所がないだってさ〜』 G『ほら、ここ笑いどころです!! ひひひ〜』

 「………………ぃッ」

 ──指パッチン


 M『』 G『』


 C『…と、ととと、というわ…けで……! な、何が言いたいかと…申しますと……デデル!!』

 「……なんだ」

 C『ウンディーネには何か弱点がないの?! うまるはそこからヒントを得たいわけ!!!!』

 一同『『『『『そうだ、そうだ〜!!!』』』』』


 「…………弱点か」

 A『ねえ、何か…ない? 参考までに水タイプは草と電気に弱いよ〜? …ポケ●ンの話だけどさ……』


 「………………。──」


 「──…【熱】に弱い。…との伝来は残っているな」

884『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:15:09 ID:hzrHUxHA0
 B『え、熱?!』 C『つまりは火??』 T『ほのおタイプがみずタイプに勝つ天地返し状態?!』

 「…火……、…いや『熱』と言ったほうが今は正解か。貴様ら人間も、川の水を煮沸して飲む探検家を見たことがあるだろう。それと同じで奴らも熱消毒には弱いのだ。──」

 「──…もっとも、聞き及んだ話にすぎんがな」


 A『………………』 C『…………』

 A『………だったらさ…………』

…………
………
……



「────…ってゆう『作戦』はどう? デデル!」

「…………」

「…うまるちゃん、ちなみにだけどその作戦。わたしの月刊マーの知識どれくらい取り入れた?」

「え、ゼロ。……でさ、役割分担としてはうまるがまず〜…」


「……土間……」 「さらっと流したよォうまるちゃんめぇええ〜!!!」



 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
曲がりなりにも、完璧美少女であるうまるだ。彼女も本気を出すとなれば、ものの三分で完璧な『捕獲案』を練りだしてみせた。
もはや成仏しかけの幽霊同然、透明さの極致に達したデデルを救う。──いや、自分達が救われる為の、完璧な作戦。
それは、デデルが主体となり、うまる、マミと三人全員の団結の元。
多少の生命的リスクは背負うものの、──勝算は見込める作戦だった。
単純な観点からは、緊迫した現状で導き出した、最良の策といえようものだ。


「…それでマミちゃんの役割は〜〜…、」

「……私は貴様を見くびっていたようだな、土間」

「へ?」

「まず初めに貴様がここまで頭が回る生物とは、不覚にも今悟ったものだ。………それともう一つ。──」


「──見た目に反して中々に『悪魔』な作戦じゃないかっ…。……ここまで私を明確に『道具』扱いするとは。………鬼畜めッ」

「………うん、そうだね。自分で言うのもアレだけど…うまる、結構鬼だと思うし。──」

「──でもさ! あっちが鬼モードで来てんだから、こっちだって鬼らしさを発動しなくちゃ!! でしょ?」

「……………」



「それに、シューティングゲームの鬼モードでは、『敵機が大量に来た場合は、BOMBを使わず一匹一匹倒していく』…。──これが上級者ムーブなんだからさ…っ!」


「………やれやれだ」


──ただ、その策の説明を以てして、デデルは難色を隠し切れない表情であった。

885『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:15:26 ID:hzrHUxHA0


………
……


【ウンディーネ捕獲作戦】
【ウマル作戦】
────始動。


 三階廊下。
館内案内図によるとレストランやスポーツジムなどが併設されているこの階にて、──現在ウンディーネは一体のみ。
もっともそれはあくまで目に見える範囲の話。
他にもどこかで密かに蠢いている模様だが、──ただ、デデル曰く「魔力反応はこの階だと三体ほど」とのことだ。

1/3。
────たまたま群れから離れ、孤独に漂い続ける一体のウンディーネ。
これは偶然か、あるいは奇跡か。
うまる立案作戦のために用意されたかのような、格好の実験体だった。


銀扉のガラス越しに、ゆらゆらと不規則に漂うウンディーネを覗き込む三人。


「…じゃ、……そゆわけで〜…──うまるーんっ!!」

「………」 「わ、わぁ……」


当作戦において、切り込み隊長を名乗り上げたのはうまる。
動きやすいようJKモードに変身した後、立案者自ら表舞台へと望む。


「……………すぅ……」


うまるは、一呼吸。息を整える。

正直なところ──先陣を切って生き残れる自信なんて、うまるにはなかった。
身体の震えを抑えるだけで精一杯だ。
どこぞの脳内お花畑月刊マー少女みたいに、死の恐怖を感じず突っ込めたら楽だっただろうに…と、うまるはこの瞬間ばかりは、自分の妙に回る頭を恨んだ。

恐怖が心臓を揉みくだして、はち切れそうだった。


「……はぁ…………。──」


「──じゃ、……あとはよろしく〜。デデルにマミちゃん!」


「…………」 「………うまる…ちゃん……」



だが、自分以外にやれる者は該当しないため、────ならば動き出すしか無かったのだ。


 バタンッ──


「うおわァアアアアアアアアアアアっっ!!!!! なにがウンディーネだこの水ヤロォオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!!」




〜【行動その①】〜
──囮となったA(※うまるが該当)が、ウンディーネの前に飛び出す。



 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────


「うわ!! あぶなっ!! …く、くおおおおおォオオオオオオオオオ!!!!!」



【備考】
──※なお、囮は卓越した運動神経を持ち、ウンディーネの水刃を軽々と避けられる者が望ましい。



「よっ…!! あらもっかいよっと!!!」


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────


「……さらにもっかいよっと!!!」


  ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────ガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
 

「はぁはぁ…。──……へへへ…!! なんだかちょっと楽しくなってきた自分に驚いてるんだよね〜(ひ●ゆき風〜〜)…なんちって。はぁはぁ……。──」

886『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:15:44 ID:hzrHUxHA0
「──じゃ、今だ!!! 準備!!! デデル〜〜…Fightッ!!!」

「………やれやれ。…この重労働は労災が下りるものやら……。──」


「──まぁ魔人である以上、務めを果たすまでですがねっ……!」


 バタンッ──



〜【行動その②】〜
──その後、Aと交代で鉄鍋を持ったB(※デデルが該当)が飛び出し、ウンディーネのウォーターカッターを正面から受け止める。



 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────

 ギギギギギギギィィイィイィィィィィッッッ


「ぐぅうッ…!!!」


「ま、魔人さん…!!!」 「はぁはぁ……。だ、大丈夫?! デデル!!!」

「…………ご心配なくッ…というよりも黙ってください…マスター……ッ。ものの数秒の…忍耐ですからッ……!!!」


 ギギギギギギギィィイィイィィィィィッッ



【備考1】
──※なお、Bは三人の中で腕力、そして体力が一般人以上。並外れた力の持ち主が望ましい。
──※ウンディーネのウォーターカッターは、レンガブロックも刹那に切り裂くパワー。
──※1000km/hの剛速球をしっかりと鉄鍋に受け止める。強靭なブロック力を持つ者でないと遂行には難しい。



 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────

 ギギギギギギギィィイィイィィィィィッッッギギギギギギギッッ
  メキメキメキメキバキバキバキバキバキバキバキッ


「ぐぅがぁッ!!! ぐぅううッ…!!!!」

「え、…ちょ、ちょっとまずくない……?? え、本当に平気なの?! デデル!!!」

「ぐうッッ………!!!!!!」

「な、なんか…すごい勢いで凹んでるけど………。ほんとに大丈夫?! …これは鍋的な意味も含まれてるからね?!」


「……ッ。………土間の小娘、一つ…ッ、聞きたい……」


「へっ?!!」


「…何故………ッ、キサマが……囮役を志願したのだ……ッ? ……マスターはともかく……私が囮と捕獲役の二重を兼ねても……良かった筈ではないのかッ……………?!!」

「え、…え。そ…そんな、理由なんてそんなの………。──って今ど〜でもいい質問してる場合はないでしょ!!! そんな余裕は…、」

「余裕なら────…十分にある」



 ガガガガガガ…………

    ガガ、ガ………



  ぽちゃん、ぽちゃん……



「………え?」

887『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:16:03 ID:hzrHUxHA0
【備考2】
──※ウンディーネは小さな個々の『水の精霊』が集まり、球状の形を成した存在。
──※つまりは、代表的攻撃である『水流攻撃』は、厳密には体当たり《アタック》。
──※自らの身体を相手へ目掛けて突進、移動してくる形とも言える。



「…あまり魔界の力を見くびるなよ。人間の小娘に…魔物風情がっ………」



【備考3】
────※即ち、鉄鍋で忍耐強く受け止め続ければ、ウンディーネ丸々一体、手中の内も可能。



 ちゃぽん…

  ちゃぽん…


 ガガ…ガガッ──…



「お、おおっ!!!」 「さすがはこの私の魔人さん!!!──」



【行動その③】〜
──急いでもう片方の鉄鍋でウンディーネを閉じ込め、キッチンまで急ぐ。


 ガシャンッ


「──す、すごい!! やばいよねうまるちゃん〜!!! ついに…ついにここまで来たんだよ! なんて…なんて凄いんだ……! これはもはや人類の選別カウントダウンに似た光悦だよ!!」

「「黙れッ!!! 口よりも手を動かせ!!! マスター(マミちゃん)ッ!!!」」

「あ、…え、えぇ……。あっ…そっか!!」


 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ──



【備考】
──※この際、閉じ込められたウンディーネは激しく暴れるため、押さえ込みは全力で行うこと。




〜【行動その④】〜
──Bが来る間、C(※マミが該当)がガスコンロから火を付け、待機。



「マミちゃん急いでっ!!!」

「わ、分かってるから〜…!! どれどれ……──ポチっと」


 ──ピッ


「点いたよ!! 魔人さんっ!!!」

「………ありがとうございますマスター…!! さて、ここからが一番の…、」



〜【備考】〜
──※少しでも早く煮沸できるよう火力は『強火』が望ましい。



「…って、IHで鉄鍋に火が通るかァッ!!! この小娘がッ!!!!!」

「え…?! え、えぇー……?!! 魔人さんの…マジギレ………」

「……〜ぃッ!!! あぁもういい!! ──…ほらデデル!! 火つけたから!! こっち使って!!!」

「くぅッ!!!──」


 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ──

  バンッ、バンッ、バンッ、バンッ──


「──では、行きますよ……ッ」

「…うんっ!!!」 「…あ、ぁう……」

888『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:16:19 ID:hzrHUxHA0
 シュウウウウ…………


  ジュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥッッッッ


「ぐうッッ!!!!」



〜【行動その⑤】〜
──火のついたガス台に鉄鍋を据え、ウンディーネが死滅するまで熱し続ける。



 ジュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッッ


  ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ──

   バンッ、バンッ、バンッ、バンッ──


「がぁああァァァァ…ッ!!!!」


「で、デデル…!!!」 「わ、わわ‥!!!」



〜【備考1】〜
──※ウンディーネが死滅するまでの間、どれだけ鉄板の熱さが酷くなろうとも。
──※どれだけウンディーネが暴れ回ろうとも。
────※そして、どれだけ掌が焼け爛れようとも。

──※決して手を離してはいけない。



ジュウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッッ
 ゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッッ


「………ぐぅが…がぁアアアアアアアア…ッッ!!!!!!」




〜【備考2】〜

────※全ては、作戦遂行の為に。



 ガンッ… ガンッ… ガンッ… ガンッ…

   ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ1

     バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!!



「アアアアアァァァァアアアアアアッ…!!!!!!」

「…あ、あぁ……」 「デデルッ!!!」


「うっがああああああああああああああああああアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアァァアアアアアアッ────」




 ────バンッ──────。





【以上】
──全ての行動を遂行した際、『うまる作戦』は成功と同義となり、


──【ウンディーネ捕獲作戦】、【ウマル作戦】は終了とする。



………
……


889『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:16:32 ID:hzrHUxHA0



……

【ウンディーネの白湯】
・ウンディーネ────適量

1:ウンディーネを煮沸させる。

[エネルギー]
[タンパク質]
[脂   質]
[炭水化物 ]
[カルシウム]
[鉄   分]
[ビタミンA]
[ビタミンB2]
[ビタミンC]

……


890『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:16:48 ID:hzrHUxHA0



「……やれやれ。これだから興味深い物だ、人間という生き物は…」

「え? デデルなんか言った〜??」

「……いや、気にするな。たかが独り言だ、うまる」


 三階/冷蔵ルーム。薄暗い室内にて。
山積みのブラジル産鶏肉の段ボール箱に寄りかかる魔人・デデル。
今の彼の身体は、箱に刻まれた『消費期限 七月九日』の文字が霞みがちに映る程度には、透明から色を取り戻していた。
右手に持つランプを揺らせば、中でチャポンチャポンと魔力が波打つ。
ほんのショットグラス一杯ほどの、かすかな量ではあるが、彼の『タイムリミット』はか細くも延ばされた形となっていた。


「……フっ…」


らしくもない──と。自分の掌を見て自嘲する魔人。
自らの肉体的苦痛と引き換えに、成功へと終わったうまる流ウンディーネ作戦であるが、考えてみれば参加する理由はデデルに無いのである。
願い事を叶える魔人──とはいえ、この作戦は主の願いから来たものではない。
身を削り、焼ける痛みに耐えても、その対価となる報酬は何一つ存在しない。ゆえに、進んで臨む道理など、本来あろうはずもなかった。

“それだというのに、何故自分は、ランプの魔人らしからぬ行動をしたのか”────。

朧げながらジンジンと未だ熱さを覚える右掌へ、デデルは静かに笑みを浮かべる。


「…あれ? もしかしてまだ痛む感じなの? 魔力戻ったからしたはずじゃんか、回復魔法で…、」

「いや。貴様も何千年間生きれば悟ってくるものだ、うまる。…大人というものはな、理由もなく何かを眺め、ただ物思いに耽る瞬間がある」

「ふ〜〜ん。とりあえず次の願い事は『うまるとお兄ちゃんの寿命五千年にして』で決定だね〜〜。一生ダラダラしたいよぉ〜〜〜〜」

「…まったく貴様は……。フッ……。──」


うまるは敢えて触れずにはいたが、作戦終了を機にいつの間にやら、呼称が「土間→うまる」へと変わっていた。
この呼称グレードアップの裏腹には、辞書で引くところの『ある二文字』が込められているのだろうが、
魔人は果たしていつ、その意味に気付くことになるのだろうか。


『信頼』という、単純な二文字が──。



「──……さて、そろそろ面倒事を片付けるとするか…。貴様にも働いてもらうぞ、うまる」

「……はいは〜い。はあ〜〜…めんどくさい〜………。──」


 ばん、ばん、ばんっ


「──おーい!! マミちゃ〜ん!! そろそろ出ておいでってば〜〜!! ほらほら、そんなとこ寒いでしょ?」

「…うっ、うぅ……。やめて!! は、話しかけないで…!!」

「はぁ……。マスター、もう分かりましたからそろそろ開けますよ。誰も貴方を責めてなどいませんから」

「だ、だから話しかけないでってばぁ!!! …ひぐ、うぅっ………。お願い…だから…。──」


「──ひとりにしてよ…………。うっ、う………」


「……はぁ…………」 「……駄目だこりゃ…」



──ただ一方で、その『信頼』が深まるほどに、心を抉られていく者もいる。
うまるとデデル──二人の間に芽生えた信頼関係。

────自分一人を除いた、その信頼。

891『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:17:04 ID:hzrHUxHA0
 場所視点を移そう。
うまるらが今身を置く冷蔵ルーム、そこを区切る分厚いドアの向こう側にて。
体育座りで冷え切る身体を縮こませながら、涙ぐむ少女が一人。
氷点下の冷気と比例するように、心までどんどん冷えきっていく彼女は、

・『IHクッキングを点けてしまった際、うまる&デデルの苛立ちが傷ついた』──が、一割。
・『作戦の最中、自分だけ何もできず、無力感に苛まれた』──が、一割。

そして、
・『自分が一番偉い【マスター】な筈なのに……三人の中で足手まといなのが……辛い』──が、八割の内訳で。


「ぐすん……ぐすんっ………。う、うぇっ……ぇ………え…っ………………」

「「……」」


マミは、先程から冷凍庫ルームに引きこもっていた。



「…まぁ引きこもると言ってもこちら側から開けられるものだがな、冷蔵庫同様」

「…ねえマミちゃん分かるかなぁ……。そのドア、マミちゃんの側だと絶対出ることできないんだよ……? ほっといたら凍死しちゃうじゃん…」

「……え? ……うぅ〜…だ、だからぁ!! わたしのことなんか構わないでって!! ……もう〜っ………」


「…やはり人間はコリゴリな気がしてならない」

「まぁまぁデデル〜…。じゃ、お望み通り放置プレイでいこ〜よ。ね」

「そうだな。…ではマスター。一時間後、生存確認しに参りますのでその時までお休みください」


 そりゃマミも寒いだろうが、うまるたちも冷蔵ルームの空調はなかなか堪える。
ドア奥から響いた「えっ?!」という声を無視して、うまるらは冷蔵ルームを後にしていった。

二人の共通認識を直球で示すとするなら、──アホに構ってる暇はまだ無いのである。



 三階/調理室。
干物妹モードで調理台に寝転がるうまると、掌を再度眺めるデデル。
火傷一つ残らず治癒しきった──半透明な掌を眺め、デデルは憂いのため息を漏らしていた。


「…ちなみにだが、うまる。貴様の性格上、少し褒めてやればすぐ図に乗るだろうから、先に落としておくぞ」

「………うわぁ〜…今脳裏に走ったよ〜…。テロリン♪──って名探偵メガネくんみたいに…嫌な予感がさぁ〜………」

「十八点。貴様のウンディーネ捕獲プランは十八点だ」

「…一応聞こっかな。何点中…っ??」

「五京二千三百八十六兆七千五百十億三千二百五十一万…、」

「あぁもうストップストップ!!! わかったから〜!!! …てか絶対適当数字でしょっ!!──」

「──つまりはこう言いたいんだね? ────『二度目は通用せんぞ』……的な〜?」

「…今度は百点満点の回答だ。ただ一つ減点ポイントを考えるとするのならな?──」


「──『一度目で終わらせる策』も添えて、答えてもらいたかったものだ」

「………うん、う〜ん…」


 大勢が敵なら、まず一人ずつから────それがモットーのうまる作戦。
一応は成功に終わったものの、欠点の多さゆえに一概に『成功』と括るのは難儀な話であった。

それは、簡単にまとめるなら、『一回きりなら成功と言える作戦だった』──という故である。

 ねずみ算ならぬ『ウンディーネ算』で考えた所、現在ホテルには総勢二十六体。それぞれ一階から四階に分散されているとデデルは語った。
一方で、デデルの魔力残量はパーセンテージにして現在18%ほど。
ウンディーネ一体のみで二桁台に魔力度合を乗せたため、単純計算すれば十数体分の魔力がランプには必要となる。
従って、必要分以外のウンディーネは構わずとも良いのだが、今後の身の危険を考え(──というより山井恋への嫌がらせも兼ねて)、うまるらは全員捕獲との結論に至った。

892『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:17:18 ID:hzrHUxHA0
そう。二十六体分。

四階分を往復しながら、チマチマと二十六体を熱しなければ事態の解決には至らないのである。
──今のプランのままでは。


「…たしかにうまるも体力的にムリだし〜……。…デデルの手も…ね。一回ごとに回復タイム設けるとはいえ、そんな回数火傷させられるとなりゃ〜………もう懲役三十日みたいなもんじゃん」

「…懲役三十日……。世にも奇妙のか」

「えぇ…知ってんだ…。魔界にもフ●テレビ映るわけ〜??」

「………朧げな記憶の残滓だ。そうそう、奇妙といえば我が愚主《マスター》も、二十六回必ずキッチンコンロを点けられる保証はない。──」


「──すべては奴らの弱点である【熱】を突こうとした、この私が浅慮であったのだ………」

「…今気付いたけど、マミちゃん相当マスター特権()で忖度されてる作戦だよね〜……これ〜〜…」


 『熱』という弱点を度外視した、新たなプラン。
果たして『新たな作戦立案』という光明は見えるのだろうか。

ちなみにだがデデル曰く、残りの魔力で叶えられる願いはあと一つ。
先程、うまるは「だったら全部のウンディーネここまでワープさせればよくない?」と言いかけたが、──すぐさま口を閉ざした。
分かっている。喋ろうとした瞬間、頭をよぎったのだ。
「その量のウンディーネを一体誰が熱するというのだ?」や、「その量を収められる鉄鍋をどこから用意する」や、
────「…魔力が少し回復した瞬間、真っ先に『ポテイトとコーラ出して〜』と願った貴様が言うかッ…?」等と、恐ろしいロジハラの嵐を。


 ──バリバリッ…

「どうした、食え。中々に美味いぞ、このポテイトとやらは」

「い、いや………。違う意味でお腹いっぱいです…。…我がデデル様…………」


 ──ゴクゴクッ…

「あぁ、コーラとやらも実に美味い。…これだけの味なら、貴様が癖になるのも無理はないなァ?」

「………は、ハハ…(こわっ?! 思い出したかのように怒ってヒートアップしてるよぉ〜〜!!!)」


なんだか干物妹モードだと、やたら機嫌が悪くなる我が魔人であるが──それはともかく。


一体どうすれば。
ウンディーネを捕まえる手段は、他にはあるのか。
どうすればこの危機から、──この居心地の悪い空間からおさらばできるというのか。


かつて、アイザック・ニュートンは空から落ちたリンゴをきっかけに万有引力を見出したものだが。
──ならば今この瞬間、うまるの頭にも『リンゴ』という名のヒントがぽとりと落ちてこないものか。


「…う〜〜〜ん………」

「…まったく………」


うまるはノーベル化学賞に匹敵する頭脳を、心の底からレンタルしたい気分であった。

893『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:17:31 ID:hzrHUxHA0
────ただ、いくら頭を捻ろうとも、難題《壁》は容易く崩れず、越えることもできない。

────人は思索を深めれば深めるほど、かえって袋小路に迷い込む性質を持つ。

────しかし、それでも私は『考える』という営みを無益だとは断じない。

────成功する者とそうでない者の差は、努力や才覚ではなく、『考え方』だ。『考え方』さえ変えれば、閉ざされた扉も驚くほど容易く開くのだ。


────私が何事かを案ずるとき、必ず考えておく事項がある。



────“それは、もう既に『忘れてしまった物事』について、考えるのだ”。

(哲学者 アイザック・ニュートンの遺稿より)




 バタンッ──


「話は聞かせてもらったよっ!!! うまるちゃんに魔人さん!!!」


「くっ?!」 「わ、ビックリしたぁ?!!」



 冷蔵ルームのドアが突拍子もなく開かれた。
「M●Rのキバヤシかっ!! …また古いネタをあんさんは…」──この時うまるが冷静だったのなら、そうツッコんだ事だろう。


驚嘆を隠しきれないデデル、うまるの両視線の先。
そこに立っていたのは──────【“魔人に忘れ去られていた冷却少女”】。


「いい!! UMAるちゃんの作戦なんかよりも、わたしの方が50,238,675,103,251万倍すごいってことを…このわたしが……──」

「………マスター…?」 「ま、マミちゃん………?!」



──新庄マミは、全身至る所に霧氷をつけ、誇張してるぐらいにガクガク震えながら、──颯爽と現れた。
顔色も悪い。手に持つ月刊マーなんか完全に凍りきっている。
イメージとしては『SAW3』の氷漬けにされた女性に近い姿で、我らがマスターは現れたのだが。

──だが、その表情だけは、いつもの倍以上の熱量を放っていた。


「──マルっとズバっと見せつけてあげるんだから!!! だから聞いて!!!──」



「──わたしなりの…【ウンディーネ一括捕獲作戦】を!!!」



「…………え?」



────事実、デデルらはこの後、二十五体全てのウンディーネを手にすることとなる…………。

894『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:17:51 ID:hzrHUxHA0



【BGM】
ttps://youtu.be/9IOZNfDpRek?si=mlQqNmr0UYitMxQZ


 用意された習字用の筆と、何枚にも重なる紙──。
うまる、デデル両名の視線が集中する中、マミは第一投を紙へとぶつける──。

閃きのきっかけは、ドアだった──。
一通り泣きはらし、切り替えの意を込めて超能力()の練習をした際──、
内部からは絶対に開けられないはずのドアが、突然、後方へと倒れてきたのだ──。


「はァア──────っ!!!!」

「和田アキ子かっ〜〜!!」





 スラスラスラ──。


…《回想》…
マミは、先程から冷凍庫ルームに引きこもっていた。


「…まぁ引きこもると言ってもこちら側から開けられるものだがな、冷蔵庫同様」

「…ねえマミちゃん分かるかなぁ……。そのドア、マミちゃんの側だと絶対出ることできないんだよ……? ほっといたら凍死しちゃうじゃん…」
…《回想》…


一枚目ッ────【ドア】。



無論、これは念動力が実を結んだ結果ではない──。
老朽化により自然と壊れたまでであるのだが──。

『ドア』が床に倒れ伏せたその時。マミの脳裏に【閃き】が走った──。


 スラスラスラ──。


…《回想》…
『単刀直入に申しますと、皆様には『最後の一人になるまで殺し合い』──をしていただきたく集まってもらいました……!』

そう言い終わると、利根川は持っていた頭を適当な方向に投げ捨てる。
…《回想》…


二枚目ッ────【バトル・ロワイヤル】。



「マスター…これは一体……」

「へぇ〜……フジは映るのに、TBSまでは入らないんだ〜デデル。魔界のテレビ事情ってさ!」

「は?」

「…ま、見てなってば〜!!」



 スラスラスラ──。


…《回想》…
 「…………弱点か」

 A『ねえ、何か…ない? 参考までに水タイプは草と電気に弱いよ〜? …ポケ●ンの話だけどさ……』


 「………………。──」


 「──…【熱】に弱い。…との伝来は残っているな」
…《回想》…



「はぁっ!!!!」



三枚目ッ────【弱点:熱】。

895『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:18:07 ID:hzrHUxHA0
…《回想》…
〜【備考】〜
──※少しでも早く煮沸できるよう火力は『強火』が望ましい。



「…って、IHで鉄鍋に火が通るかァッ!!! この小娘がッ!!!!!」

「え…?! え、えぇー……?!! 魔人さんの…マジギレ………」
…《回想》…



「はぁっ!!! …はぁ……ぁ………」

「あ、多分嫌なこと思い出して萎えたっぽい」 「…………マスター…」



 スラスラスラ──。

四枚目ッ────【弱点:強火!!!】。



…《回想》…
そう。二十六体分。
四階分を往復しながら、チマチマと二十六体を熱しなければ事態の解決には至らないのである。
──今のプランのままでは。
…《回想》…


スラスラスラ──。

五枚目ッ────【チマチマ】。



…《回想》…
「…やはり人間はコリゴリな気がしてならない」
「まぁまぁデデル〜…。じゃ、お望み通り放置プレイでいこ〜よ。ね」

「そうだな。ではマスター。一時間後、生存確認しに参りますのでその時までお休みください」
…《回想》…


スラスラスラ──。

六枚目ッ────【コリゴリ】。



「……ふぅ…!!」



ここまで書き表し、マミは一旦筆を置く。
弘法筆を誤る──という諺に失礼なくらい、汚い字の習字たちを並べていくが。


極めつけに、最後の一書き──。



「はぁっ!!!!!!!!」

「織田●道か!! G●NTZの仏像に殺されたやつ!!!」 「……うまる、貴様も何故一々ツッコむ必要がある?」


スラスラスラ──。

七枚目ッ────【土間 うまる】。


「……なんだマスター。そのチョイスは…」

「いや分かったよ?! うまる、その意図もうバッチリ読めちゃったからね?! だってこの後マミちゃんが何をしだすか…、ドラマ見てるから履修済みだもん!!!」

「なんだそれは。おいうまる、詳しく説明しろ」

「そ、そりゃ……。『うまるのこと憎んでるから』──でしょ?! ねえっマミちゃん!!!」


「…へへっ…!!」

896『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:18:21 ID:hzrHUxHA0
 文字が書かれた紙を全て一纏めにしたマミは、したり顔に似たバカらしい笑みでニヤリと。
うまるを一瞥した後、紙を両手でビリッ。
破いては再度まとめ、ビリッビリッ、さらにビリッ。両手で破けないとなれば足で踏み、ビリビリビリビリッ。
七枚すべてを破き切ったその後──。


「………」

「はぁ!!!」


──習字の紙吹雪を、両手で勢いよく撒き散らした。






「……いただきました…!! …題して──【ウンディーネ捕獲作戦 in マミ】…!!」

「………はい…?」

「──主から魔人へ。令呪を持って命じます…!!──」



「──作戦に伴い、わたしの願い事を一つだけ………叶えてほしいんベェへックシュンッ!!!!」


………
……


897『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:18:38 ID:hzrHUxHA0




 ウンディーネとは、水の『塊』。


四階廊下。
館内案内図曰く豪華なプールサイドが併設されているとのことだが、そんな案内図を読む暇もなくウンディーネが漂う。
その数実に二十体。二十体もの殺戮水生物が漂っているのだから、もはやプールサイドというより人食サメの水族館の併設だ。

20/25。
──人が絶対踏み込んではいけない縄張り地帯にて。


一匹。

そして、また一匹と。一匹と。


 ──ゴトンッ

  ──ボトンッ


なんの前触れもなくして、ウンディーネは次々に生命活動を停止。
文字通りの『塊』が床へと落ちていった。



「う、ゔぶう…〜〜うぅぅぅぅ…!!!! 寒いよぉお!! 夏なのにぃ〜夏なはずなのにぃ〜〜〜!!!」

「…作戦立案者がそんな情けない姿みせなさんなってマミちゃん〜!!」

「うぅうう〜……。分かってるから!! んじゃあ…ごほんっ!──」


「──うまるちゃんっ!! そして魔人さんっ!! 本時刻を以て作戦始動────開始!! 行くよっ!!!!」

「らじゃぁアアアアー!!!」

「……やれやれだな。………これだから人間とは…、──」



「──実に興味深い生き物だっ……!」



【ウンディーネ捕獲作戦】
【マミ作戦】
────始動。



〜【行動その③】〜
──三人協力して、ウンディーネを回収。後、粉砕。


 ──ヒョイッ

「おもっ!!? …いや予想はしてたけどさぁ〜〜……。とにかく重っ!!!」

「うぅう〜ガクガクガク〜〜!!! 寒いよ冷たいよ重いよぉ〜〜〜〜!!!!」

「…だから申し上げたはずです、私一人で運ぶと。…にも関わらずあなた方は聞く耳すら持たなかった…。…せいぜい頑張ってください」

「……うぅう〜〜〜………。『鬼めっ…』とは言えない立場なのが悔しいぃ……。──」


「──で、でも…。でもだよ!! …デデルっ!!」

「……なんだうまる」

「…そりゃ出会って何時間も経たない…お互い信頼しあってるかと聞かれたら即答はできない関係性だよ…。うまるらは……。──」

「──でも!!! それでも…一人だけに重労働任せるなんて…!! そんなのできないから!!!」

「……」

「…薄っぺらくたっていいさ!! 信頼関係乏しくても構わない……!! それでも…うまるらは…三人は『仲間』なんだから!!!──」


「──さっきの作戦の時、『何故キサマが囮役を志願したのだ?』ってデデル訊いたでしょ…?──」


「────これがその答えだよっ!!」



「…………。………ほう。──」

898『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:18:52 ID:hzrHUxHA0
〜【行動その②】〜
──ウンディーネが『凍りつく』のをただひたすら待つ。

【備考】
──全てが氷塊と化す、その時まで。実行者A、B、Cは忍耐するのみ。



「──陳腐ではあるが心には響く回答ではあったぞ、うまる。──」

「──…ただ一つ。願わくば、その発言がワ●ピースからの受け売りでないことを祈るまでだがなっ…!!──」


「──…しかしお任せください、マスターにうまる。……魔人とて、ただ傍観するだけでは飽き足らぬ時があるのですから……っ!」


 ふわっ…


「おお!! ウンディーネの塊が浮き上がったよ〜!!! しかも全部! 全部!!! さすがわたしの魔人さん!!!」

「しかも魔界は間違いなくフジテ●ビが映るご様子だ〜い!!!」




〜【行動その①】〜



──B(※デデルが該当)に、

────『一階から四階まで。つまりウンディーネがいる全ての階の温度を【氷点下零度】にして』と願い事を頼む。


【備考】
──※ウンディーネは【熱】に弱い魔物。
──※熱とはすなわち【温度】と意味合いではイコール付けられる。

────※水の融点は『零度』である。



………
……



「じゃあ行くよ…!! うまるちゃんに魔人さん!! せーの!!」


「…いや、何が『せーの』ですか? 貴方一人でやる作業でしょうに」

「あ〜〜もういいからさっさとやっちゃって!! 我がマスター・マミ様!!!」

「はいはい!! 【アルティメット〜〜…──」


「──かき氷作戦】!!! おりゃああぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!」



 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────
  ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────


〜【行動その④】〜
──全回収後、調理室に戻り、『かき氷機』で氷のウンディーネを粉砕。


【備考】
──※氷の刃がきゅるきゅると唸り、透きとおる粒がほろほろと崩れてゆく。
──※砕かれたばかりの雪のような氷片は、ふわりと舞い、涼やかな音を立てながら器へ降り積もる。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────
  ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリッッッ────


「…雄叫びを上げるほどの仕事でないでしょう」

「まぁまぁ!! マミちゃんにやっと訪れた見せ場なんだから!! 念願の舞台に水差さないであげてよ〜〜!!」

899『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:19:04 ID:hzrHUxHA0
「う…うるさいんだって!! …二人して、わたしをイジれば場が和むっていう……その共通認識がぁ!!!──」


「──ムカつくんだってもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」



 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ────





 ────ガガッ──────。




「あ!!」




【以上】
──全てのウンディーネを粉砕しきり、そしてランプへと氷の粒を入れきった際、

──『マミ作戦』は成功を意味し、




────【きょうの料理】は完成となる。








【ウンディーネx25@ダンジョン飯 死亡確認】
【mission complate!!】





900『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:19:16 ID:hzrHUxHA0



……

【ウンディーネのかき氷】
ウンディーネ────適量

1:ウンディーネを凍らせる。
2:お好みでシロップをかける。

[エネルギー]
[タンパク質]
[脂   質]
[炭水化物 ]
[カルシウム]
[鉄   分]
[ビタミンA]
[ビタミンB2]
[ビタミンC]



──[魔   力]★★★★★★★★

901『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:19:35 ID:hzrHUxHA0


………
……



【ホテルでのBGM】
ttps://youtu.be/3hEyf6KZxPM?si=neaUniefA2Zb86JL


 ──パクっ

「うんみゃぁああ〜〜〜〜〜!!! ヒエッヒエ〜〜〜!!! やっぱ夏って言ったらコレだよねぇ〜〜マミちゃ〜〜〜ん!!! かき氷パワー全開〜〜〜〜〜!!!」


「………」



「…え。何そのドン引いてる感じ………。ま、マミちゃん…食べないの……?」

「土間、貴様サイコパスだろ」

「え゙っ?!!」

「そうだようまるちゃん。もう気付いてって。──」

「──シロップ、つまり人工甘味料は体に悪いんだよ。なんで体に悪いものを販売してるか分かる? 『依存』と『病気』を作り出すための陰謀なんだよ。砂糖の代わりじゃない──新しい鎖なんだよ。…関先生がそう言ってたけどね」

「…この歳にして思想が月刊マーに犯されてるしぃ〜…」

「というか、シロップじゃなきゃ食べるつもりだったのですか……? マスター…」


 一階ロビー。噴水の縁にて。
噴水が脅威の欠片も感じさせない、本来の『水』としての和やかさを演出する。

本来の姿──といえば、それはまたデデルも同じく。
ランプ内の充満された『魔力』が、彼の元の身体を物語っていた。


「…あ、そうだうまるちゃん。…一応〜聞きたいんだけどさ………。さっき、四階でたくさんのウンディーネに襲われたとき…あったじゃん?」

「あんむ!! もしゃもしゃ……。それがどした〜?」

「あの時…わたし何か叫んだの……。聞こえてない…よねぇ〜…??」

「え? うん。マミちゃんが『ママ〜!!!』って叫んだのはうまるらだけの秘密だよ〜〜〜ん」

「っ??!! ちょ、そ、それ秘密になってないでしょ?!──」


 ──ぐぅぅ…

「…も、もういい!! わたしだってかき氷食べるんだから!! シロップ代わりにコーラで!!!」

「…いや食べるのですか、マスター」

「あ。ついでにデデル〜。『五万円の水●燈のドールちょうだい』〜〜!! はい、お願い☆」

「……最も普通からかけ離れた種族であるこの私が、唯一の常識人になりつつあるな……。……まったく、土間め……っ」



 ピアノのBGMが静かに鳴り響く、早朝のロビー。
壊れかけの窓ガラスからノンビリと日差しが登る。
それは純粋な温かさの日差しではない。夏の予感、とも言えるジリジリ感は拭いきれない朝日だった。
熱さ故に、空調が壊れきったロビー内にいるうまるらは自然と汗が浮かび上がるが、
──その汗には冷や汗が含まれることは、もうない。


「うへっ!!! 頭いた〜いぃ〜!! キンキンするよぉ〜!!!」

「おっ、脳に電波攻撃されてますか〜!!? マミちゃ〜〜〜〜ん!!!」

「う、うるさいって!!! もう!!!」




「…まったく。──」

902『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:19:49 ID:hzrHUxHA0
縁に腰を据え、和気あいあい(?)と喋る女学生二人と。
そして、呆れながらも眼差しを注ぎ続けるデデル。


「──…やれやれなもの…だな………。…ふっ」



 平穏な、陽の光。
嵐が過ぎ去った。
安らぎのこの時間。

噴水が陽光を弾き、細やかな水しぶきが宙に舞う。
耳をくすぐるのは、途切れることなく続く涼やかな水音。
そのさざめきの中、ふと、水面がわずかに揺れ、ひそやかに顔をのぞかせるは取り残されたウンディーネ。



  ──パンッ────






「……………え」



「………な」




新庄マミの心臓を的確に撃ち抜いた後、颯爽と『主人』の元へ帰るウンディーネを眺めながら。
三人は、今はまだ平穏さの余韻を味わい続けるまでであった──。



【新庄マミ@ヒナまつり 死亡確認】
【残り62人】

903『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:20:01 ID:hzrHUxHA0
【1日目/F6/東●ホテル/1F/AM.05:08】
【魔人デデル@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】記憶喪失、魔力(残り98%)
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【奉仕→対象:新庄マミ】
1:…マスター……………?

【うまるちゃん@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康
【装備】うまるがやってるFPSのマシンガン
【道具】ジャンプラやら雑誌色々、ポテイトチップスとコーラ
【思考】基本:【静観】
1:………え。

904『いいの、いいの』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:27:07 ID:hzrHUxHA0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①連載の締め切り遅れてしまい申し訳ございません。
②新しく工事したwifiの影響で規制が入り(巻き込まれ的な)、投下が困難な条件にいました。
③今後もこのスレで投下ができるか不透明でありますが、wikiでは必ず毎週火曜日に更新するので、暫くはwikiから閲覧をお願いしたいです。
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/

【次回。8月19日投下。】
──苦い檸檬の匂い。

「悪魔のゲームソフト」…メムメム、ひょう太、高木さん、肉蝮

905 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:31:09 ID:hzrHUxHA0
【お知らせ】
現在、『要望スレ』にて2chパロロワ@wikiの管理者権限に関する重大な話し合いが進められるため、
wikiの方針が定まるまでの間、邪魔にならぬよう当ロワはsage進行で行わせていただきます。

906 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/13(水) 15:32:12 ID:hzrHUxHA0
>>905訂正
×『要望スレ』
〇『管理人様に連絡』スレッド

907名無しさん:2025/08/26(火) 23:05:09 ID:miG0SwzE0
>>905
お気遣いありがとうございました。おかげさまで方針も決まりました。

また、パロロワウィキにてこちらの企画のページも新規作成しようと考えています。
次スレ以降企画名を変更されるとのことですが新しい名称でのページ作成がよいでしょうか?
このスレ内での告知やまとめウィキを見たところ表記揺れもあり、どれが正式な名称になるかわからなかったもので、企画主様からページ名と新企画名について教えていただけると幸いです。

908『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 22:58:56 ID:ftVzt7Bs0
[登場人物]  [[メムメム]]、[[肉蝮]]、[[小日向ひょう太]]、[[高木さん]]

---------------

909『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 22:59:17 ID:ftVzt7Bs0
「た、高木さんっ!!! メムメムのやつ、どこ行ったか知らないか!?」

「え? メムちゃん? メムちゃんならついさっき、“トイレに行く”って言ってたけど……。それよりも廊下の様子はどうだった? 小日向くん」

「どうもこうもないんだよ、それがっ!!! …とにかく、早くアイツを探してここから逃げないと……」

「ちょっと待って。何があったの? 落ち着いて説明してくれなきゃ、私も下手に動けないよ」

「……………っ、廊下にいたんだよ…!」

「え?」


「────…明らかに危険人物な…ヤバい奴がっ……!!!」

910『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 22:59:37 ID:ftVzt7Bs0
………
……





「ふんふふ〜〜〜ん♫──」

 …ふふっ♪
別に花摘みで個室トイレに入ったわけじゃないっすよ〜〜。催し度はゼロ%っすから!
ただっ!! バヒョやデコ娘の目の前で、魔道具の品々をおっ広げるわけにはいかないのでね…。
つまり今のあたしは、『一人作戦会議』の真っ最中ってわけっす!


「──まずはこの自縛キャンディ!! こいつは、口にしたら無意識のうちに自分をロープで縛っちゃうというやべ〜アメだからね〜〜。バヒョを無力化するにはもってこいだわ!!──」

「──で、バヒョが芋虫みたいになってる間に、デコ娘へ使い魔レーザー射撃!! あたしの使い魔と化したデコ娘の太ももギロチンで、バヒョの魂はサクッといただき〜〜!!──」

「──これにて、デコサキュバスの伝説の始まりっすわ!!」


 ────『魂乱獲』の作戦会議をね…!!
ふふひひ…!!

参加者全員の魂をかき集めた暁には……宝石ザックザクに、美味しいご飯〜♫
もしかしたら六淫将に昇格〜、──だなんて転がり込むかもしれない、このチャンス……!!
だからこそ、…万年雑用以下のあたしは……絶対に掴まなきゃいけないすわ……!!


「ふふふ…ふふふ〜!!! なーんか今のあたし、頭のネジ噛み合いすぎてて怖いんすけど〜〜! ふふふふ〜♫」


ゲーム脱出?? 打倒主催?? ──そんな偽善知ったこっちゃないっす!!
所長から貰った(=盗んだ)魔道具を前に、あたしは野心でメラメラに燃え上がっていたのでした!


……もちろん、六淫将の面倒くさい仕事は、全〜部レース先輩に丸投げして〜………、


 ──バンッ、──バンッ

「おい出てこいッ!!! 中にいることは分かってンだぞッ!!!!」

「びぃいっ?!!!!?」


 わ…、ビックリさせないでくださいよもうっ!!!
あたしがノってる時にドアノックしてくるとか…。…なんすか? KYっすか? 空気読んでくださいよ!!
まぁどうせバヒョの奴なんでしょうけども……。…って、ここ女子トイレっすよ??!
うわぁあ〜…きしょいよおぉ〜〜…。アイツほんと性癖歪みすぎっす〜〜……。

はぁ〜あ……、もう〜〜〜…。


「はいはい今出るっすから〜落ち着い……、」


 ────ガッギャァァンッッ

  ──メキメキィィッ

   ──バリバリバリッッ



「……え?」




「オイコラァッ!! てめぇ……杖持ったクソジジイを見てねェだろうなァ!?」


「…………ぇ…」




 …個室ドアをシャベルで破壊という、ダイナミックに登場してきたソイツは、
…こんな暑い中だというのに厚着のフードジャンバーで……、
…歯はギザギザのボロボロで、明らかに目がイッていて……、

……そして何よりも、第一印象で『ゲームに乗ってる人物』と分かる〜…。
凶悪面と〜……大柄でぇ〜〜……。

911『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 22:59:56 ID:ftVzt7Bs0
「俺はそいつを……──ぶち殺すッッ!!!」

「ひ、ひぃい!!」



神様、どうかこの人が突然変異でバリクソになったバヒョでありますように…。
神様、どうかこの人が突然変異でバリクソになったバヒョでありますように…。
神様、どうかこの人が突然変異でバリクソになったバヒョでありますように…。






【#074 『やりなおしカナブン』】

912『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:00:22 ID:ftVzt7Bs0



………
……



 …だな〜んて思っていたのも、今や遠い過去の話♫
人は見かけによらないとは正にこのこと、──と言っても勿論こいつはバヒョでは無いんですが。
兎にも角にもあたしは……この──…!!


「お茶をお淹れしました!! よろしければお召し上がりくださいっす!!」

「おうっ。……いや…待て。てめぇ、まさか毒入れてたりしてねェよな?!」

「毒なんてまさかとんでもない!! 隠し味はあたしの愛だけっすよ〜〜♡──」

「────我が『肉蝮さま』!!!」


──肉蝮さまという、素晴らしい相棒を手にすることができたんすわ!!!
いやぁ〜〜ほんと肉蝮さまは神!! …いや神とかっていうレベルじゃないんすよ!!! もはや神の上っすか!??

……ま、そんな神を前にしたあたしも、最初は正直ビビってたんすけどね〜〜…。
『お帰りくださいぃ、お帰りください〜…』って唱えるのが精一杯だったんすよ……あの頃は。
──でもっ!! 話してみりゃ肉蝮さまの慈悲深いこと深いこと!!!
…いいすか? 聞いて驚かないでくださいよ?
なんと肉蝮さまは参加者全員の命を『救いたい』らしく、──そ〜ゆ〜わけであたしの『魂集め』にも協力してくれるみたいなんす〜〜!!!


「…では失礼ながら肉蝮様。このあたしが直々に、お茶の毒味を致し…、」

「はぁ? よせ汚ェ!! 口つけんなっ!!! ……ったくメムメムてめぇはよォ。──」


──(ズズズッ…グビグビ

「──ぬりぃ…。この夏にヌルいお茶って絶妙にムカつかせにきてンな…。ただでさえイライラしてるっつーのにバカかてめぇはよっ!!!」

「ふふ♫ 肉蝮さまともあれば最高級玉露も陳腐な味に感じますでしょう〜」


ほんと神っすよ肉蝮さまは!!!
キリストとかムハ●マドなんてこの御方に比べたら雑魚カスっす!!!
肉蝮さまがMLBなら、神様なんて千葉ロッテの九番打者って感じすよ〜!! もう〜〜!!!


「──……ところであなた様のイライラの原因とは、やはり………ナタのことで?」

「ッたりめェだボケ!!! 俺がジジイにKOされて動けねェ間に盗まれんだぞっ!!! 誰が盗ったのか知らねェが卑怯な根性が許せねェっ!! おかげでその辺にあったスコップに武器ボリュームダウンしちまったが…なンだよスコップって!!! 何でホテルにあンだよそんなもんが……、」

「………っ……〜…。……そうっすそうっすよ!! ほんとクズっすねその犯人!!」

「……おいてめぇ…今アクビ堪えてただろ?」

「ちょっと言ってるイミがわからないです♪」

「…チッ!!!」


 …うぅ〜……。ぐすっ〜…ひぐっ〜〜………!
…ふふふ……!
涙って、悲しくなくても……勝手に出るもんなんすね……!!
あたし……いま……人生で一番しあわせを噛みしめてるかもしれないっすよ……!!!
友だちができる奇跡。信頼できる味方がいる安心感。しかも強くて頼りがいまである優越感……!
こんなん……居心地よすぎて死ねるっす〜〜……!!

あたし、もう決めました。
一生どころか、死んだあとだって──背後霊になってでも、あなた様に付いていきます!


親愛なる……我が、肉蝮さま──────。



「で、てめぇは俺に何しろって話だっけ? メムメム」


「もう肉蝮さまったら〜!! さっきも言ったっすけど、あたしの魔道具を頼りに、全参加者の魂回収してほしんすよ!!──」

「──言っちゃえば皆殺し──『優勝』っす!! よろしゃっす!!!」

「…あァアッ?──」

913『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:00:57 ID:ftVzt7Bs0
「──…ッテメェに言われなくてもそのつもりなンだよゴラアッッ!!!!」




「…え?」



………え。

…な、なに……………?


「“さっきも言ったけど”だァ!? テメェ、俺様にダメ押しする気か!? 舐めてんのかコラァアッッ!!! 舐めてンのかっつってんだよクソガキィィッ!!!!!」

「…な、舐めてるって……。──」



あれ。

これ、もしかしてあたし…怒られてるんすか…?

え…なんで……?

肉蝮さま……、何をきっかけで…。
急にお怒りスイッチが………ONに…??



「──いや、そりゃ……あたしは悪魔で……肉蝮さまは……人間……だからその……上下で言ったら……」

「ぃぃィイイッッッ!!!!!」


 ──ガシッ


「い、痛ぁ゙ァっ!!!!」


 …あ、あっ、あっ、え゙っ?!! ちょっとストップストップ!!
な、なんで急に…?! 肉蝮さまは何でキレてきたんすか!!?
突拍子なさすぎるってゆーか……。…と、とにかく髪引っ張らないでください……っ…!!!
痛い…痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……いだいっ!!!!


「テメェみてェなクソガキがこの俺に命令してる感じが超気に食わねンだよッッ!!!! …どっちだァッ?!!! おい、どっちが上だッ!! もっかい答えてみろゴラッ!!!!!」

「うぅ…いだいっ…痛い痛い!!! …す、すませ…ずまぜん゙じだぁっ!!!! 命令では…なぐぅ…、協力……してほしぃ…んす……っ」

「協力だとッ?! じゃあ、俺のウンコ踊り食いしろ!!! チビッ!!!!」


…ぐすっ…!!!
痛いぃっ………。ぐすっ…。

────……いや、…えっ……!?

…今……、肉蝮さまは…なんと仰りに…………?



「…え……? あ、あの肉まむ…、」

 ──ゴスッ

「…っぃっだぁああ!!!」


「“え?”──じゃねェぞチビ。俺さっきラーメン食ったからよォ〜? ちょうど腹ン中にコンモリ溜まってンだわ!!! 俺がイクまでアナル舐めしてくれるっつーなら認めてやる」

「…え……」

「…ィッ!!! だから“え”じゃねぇつってンだろうが!!! おい!!! やれつってんだろッ!!! 文字通りの肉便器になれよッ!!!!」


 ──ガシッ
 
  ──ゴスッ──ゴスッ──ゴスッ

「うっ!!! いだっ…痛っ痛っ!!! ぁああ…っ!!」



「舐めてんじゃねェエぞッッ!!! おいッ!!!!」

914『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:01:27 ID:ftVzt7Bs0
………。
…どっち…すか………。
舐めりゃいいのか、舐めちゃだめ…なのか…………?

どちらにせよ……痛い………。
歯……歯の根っこが……ぐらぐらする…………。
ほっぺが……熱い……ひりひりする…………。

…肉蝮さまの…拳が………怖…い…。


「………」


……と、とにかく…鼻を…つままなきゃ……。
舌先を噛んで神経を一時的に麻痺させなきゃ……。
…む、無を…無を考えないと…………。
それでいて、気絶しないように…しなきゃ……。


「…が、がんばります………。………お舐めいたします…ぅ………」

「あァ??!!」



あぁ…。


全部は…。


すべて…は…。



「…できる範囲…で…」

「…………テメェ…」



魂回収と、
肉蝮さまへの親睦の……ためなんすから……────。



「げげぇ〜〜〜〜〜!!! げげげげぇ〜〜〜!!!!」


「…………え?」


「おまえ変態かぁ〜〜?! 俺はスカトロ趣味なんかないぞ〜〜〜〜! 気色悪ぃ〜〜〜!」

「………え」

「ったくガキのくせにマセたこと言いやがってよォ!! …この児ポ児ポちゃんが〜〜っ!!! げげげげぇ〜〜〜〜〜〜!!!」


「…………は、はい…。…うっ、うぅ…」



……鼻から血が、出ちゃった。
──はははー。目から涙、鼻から血、折れた葉からは歯槽膿漏ー…ぐしょ濡れじゃないすか、あたしー……。
…はは…は………。


「泣くな児ぽっち!! どーせ悪魔だから痛みなんて感じてねェだろ! ンじゃ、そろそろ行くぞ」

「…あ、は、はい!! …よろしゃっす…!!」

「敵は【2106号室】にあり!! ……楽しみだぜ!! げひゃひゃひゃ〜」

「………ははは、…しゃっす……」


 …うん。ダメ、ダメダメ!! ダメだよあたし! 肉蝮さまに対して心の中で悪口しゃべったら!
この一連の行動は、何もかも欠けてるあたしへの──愛のムチ……。
今後またミスしそうになったら、この痛みを思い出せばいいんすよ……!!

915『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:01:42 ID:ftVzt7Bs0


それに…日頃の…。
──レース先輩のお仕置きに慣れてる身からしたら、これなんてマッサージレベルっすよ……。
……肉蝮さまは、もう仏……いや大仏っす……。

…うぐっ………。
ありがたい、ありがた…や〜………。



……

 ──“レース様って優しいよねぇーー…”

 ──“ほんとそれ!! メムメムみたいなダメ悪魔を庇ってくれるなんて。普通の六淫将なら即処分なのにさー”

……



「…………」



…肉蝮さまはありがたい。

…………ありがたいんだ。





916『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:01:58 ID:ftVzt7Bs0
………
……



「祝ゥっ!!!!!!!」

「あ? うっせェんだよテメェ!!!!」

「ひっ、す…すません〜〜」


 ……祝!!(ヒソヒソ)

この、あたし!!
なんと今日をもって、めでたく改名させら…──肉蝮さまから新たなお名前を賜りましたっ!!!
わ〜いわ〜い!! へっへへ〜参っちゃうなぁ〜〜〜♫
天才たる肉蝮さまのネーミングセンスはもはや湯婆婆に匹敵!! 素晴らしいお名前をつけてもらったんすよ〜。

さて目に焼き付けろ、あたし!!
おでこに貼られた札に書いてる、新しい名前に惚れ惚れしろ、あたし!!
その気になるお名前は〜…、ワン・ツー・スリー──鏡をチラーリッ!!!


 【命名︰『ア●メ(笑)』】


「……………ア●メ…!!」


はい、どうもこんちゃっす!! あたし、ア●メ(笑)っすわ!!
「あくまのメムメム…略してア●メだっ!!笑」──肉蝮さまの由来説明も…素晴らしい〜!!

…ふふふ…♬
何もできない悪魔のあたしに、ここまで気をかけてくださるなんて……!!
感動で昔の名前なんて、もう記憶から吹き飛んじゃったっすよ……。
魔道具の一つ、『開運改名札』をあたしに使ってくれた肉蝮さまに感謝っす!!


「なんかイミわかんねェーけど、てめぇの魔道具ってヤツおもしれぇなぁ〜〜。ウケるわ〜。ぎゃははは」

「喜んでいただき大変光栄でありますっ…!! 肉蝮さま〜!」

「…こうなるンなら、もっと早くてめぇに会えばよかったぜ。そしたらあのクソッタレ丑嶋の野郎にも改名させれたのにな〜。その名はまさしく『牛糞 香(ぎゅうふん かおる)』ッ!!!! ぎゃははははッ!! 最高だろコラ!!!」

「…うしじま? 肉蝮さま、その人は一体…、」

「ゥうるせェんだよッ!!! ムカつく奴の話をしてンじゃねェよクソチビ!!!!」

「…ひっ…。そ、それはそれは失礼っしゃした〜〜。…あはは〜〜!」


 今、あたしの魔道具は全〜部、肉蝮さまのデイバッグにお納め状態♪ 気に入っていただけたようで、ほんと光栄の極みっす!

──そして更に今!! あたし達さいつよコンビは、『2106号室』を目指して廊下をズンズン進軍中!!!
シャベル片手に練り歩く肉蝮さまの背中はもう、威圧感の権化っすわ〜〜!


 …ふふふ。そうだそうだ。
記憶力の足りないばかの為に説明しときましょうか。
『2106号室』とは、────ズバリっ、バヒョとデコ娘がいる部屋!! (…あ。あと多分兵藤のヤローも)
あたしが告げ口した結果、肉蝮さまは「己の力を見せつける」ってことで突撃する流れになったんすよ〜〜!

…嗚呼、哀れなバヒョ。…それと、デコ娘…。
ええ、もちろんちょっとは心が痛むんすよ? だって一応はアイツら元仲間だったんすから。
あまりに心が痛いんで、オロナインを胸に塗りたくっちゃうあたしっすわ〜…。


「……でもっ、魂を狩れる方と狩れない方…。どっちに付くかと考えたら……!! ──あたしもばかじゃないんでね。…ふふふ〜…」

「つかてめぇ独り言多すぎ。あとなんか…臭くね? 悪魔ってガチ目にニオイえげつねぇよな!!」


 いやいやいや〜。
えげつないのは貴方様のオーラですよ〜、肉蝮さま!! 貴方様は自分から醸し出される覇気に気づかれていない!!

バヒョなんか見てくださいよ〜。
あのヘナチョコ、長いこと一緒に暮らしてるんすが、まったくもってもう…。もう〜〜…ねっ!! 牛乳臭い雑巾のほうがまだ役に立つって話っすわ〜〜!
それに比べて肉蝮さまは、もう万能ナイフを千個発注したくらいの便利さ…!!
てゆーか単純に素晴らしすぎるっ!!! 痺れる憧れるビッリビリっすよ〜〜!!

あたしはもう、早く肉蝮さまのキレたナイフっぷりで、魂をごっそり刈り取っていただきたいっすね……!!
魂大漁フェスティバル〜〜〜♫

917『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:02:14 ID:ftVzt7Bs0
 スタ、スタ、スタ、スタ…──

「おいチビ」


 スタ、スタ、スタ、スタ……──

「ふんふふ〜〜〜ん♫ 何ですか肉蝮さま〜」


「なんだっけなァ…、その、デコ娘ってガキ。可愛い?」

「え、アイツすかぁ〜? んまぁ…顔は良いっちゃ良んじゃないすかね? とにかく、胸はペッタンコすからあたし的には接しやすい人間っす!!」

「へぇーー…処女かなァ〜? マグロだったら面白みねェ〜からなぁ…」

「…あ。……肉蝮さま、えろいこと…するつもりなら……あたしが見えないようによろしゃっすよ………? あたしえろ嫌いなんでぇ〜…」

「はぁ? ンだそれ。俺的にはてめぇがいろんな意味で怖いっつーの!!! じゃあ罰としててめぇがそのデコのパンツ脱がせろ!!!」

「な?! なにが“じゃあ”なんすか?!! …それだとあたしが頑張る感じじゃないすかぁ………。嫌だなぁ……あたしがデコ娘をって…、──」



……

 ──“小日向くん…そんなメムちゃんを責めないでよ。まだ幼いんだから”

 ──“ね、メムちゃん。…お菓子、食べる?”

……




「──……………………。──」



「──ま、まぁ…肉蝮さまの頼みなら尽力つくす限りっすよ〜〜!! できる範囲で…!!」

「『できる範囲で』大好きっ子だな…、おい!! ──」


 スタ、スタ、スタ、スタ…──


「──あ。あとよォ、バヒョってガキ………なんだよ外人か? つか女か??」

「一つ目の質問はNO、二つ目はYES!! あぁ、イエス・ノー両方一回に使えるだなんて…肉蝮さまの質問は素晴らしい……素晴らしい…」

「てめぇやっぱ舐めてんだろ」

「あ、流石に持ち上げが過ぎました!! すませんっんんん〜〜〜!!!!!──」


「──バヒョは一見ただの人間の小僧っすが、…ちょっと特殊でね〜……。……聞いてください肉蝮さま……アイツ、お湯かけられると女になるんすよ!!!」

「…あ? はァ〜ア?!! 何の工夫もなくパクってきたなそのガキ!!!」

「そうそう〜!! ♫タンマタンマで〜そんなもんねとオトモダチ〜〜♫………ってね!! バヒョのヤローとは長らくの付き合いなんすがねぇ〜。ほんとアイツは駄目なやつで…、──」



……

 ──“メムメム!!!”


 ──“あのバカ…こら、メムメム!!!”


 ──“メムメムゥ──────ッ!!!!”

……


918『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:02:32 ID:ftVzt7Bs0

……

 ──『うぅ…』

 ──“…流石に今回のミスは堪えたようだな、お前もさ……”

 ──『…ん。え? あぁ、違うっす。さすがにあたし…空腹が限界でぇ〜…』

 ──“……っ……まったくメムメム…お前ってやつは…。いや俺だって腹減ってるからな!? 何故か俺も巻き込まれで魔界の人らに怒られたんだぞ!!?! お前のせいで!! …もうすっかり夜じゃないか〜〜〜!!!!”

 ──『まぁまぁ落ち着きましょうって〜!!!』

 ──“落ち着けるかぁ!!!! …くそ……。…本気で叱ったらもう疲れるよ………はぁ……”


 ──“…とりあえず……奢るからさ。付き合えよラーメン屋。な、メムメム。”

 ──『マジすか?! あの人妻のとこのラーメン屋っすよね!?! もうバヒョったら〜!!』

 ──二言目が微妙に余計なんだよっ!!!

……


……


 ──『うぅ…ぐすっ……。バヒョ……バヒョと……』


 ──『バヒョと……ひぐっ…。……一緒にいたいからっ…!!!』



 ──『…だからあたしは……ここに残りますっ……!!!』


……


……


──タンマタンマで。

──そんなもんねと、

──オトモダチ。



────………バヒョ。


………
……



「…………。………バヒ……、」


 ──バシンっ


「え、いだぁあっ!! な、何するんですかぁ〜!!」

「意識飛んでたぞッ!! 集中しろチビ!!」

「すっ…すませんすません〜!! …でも暴力はやめてくださいよ〜〜肉蝮さま!!?」

「だーかーらァ、俺に指図すんじゃねェつってんだろ!!! 次命令したら両親殺すからなッ」

「…あ、はいっ!! 気を付けますっ!!! ………──」


 …いたた…痛ぁ〜…。うぅ…。
あたしとしたことが、ついボーッとして躾されちゃいましたよぉ……。
しかも魔道具で殴られて!! あれ高価な品っすからね!? 鈍器にされちゃ色々たまんないっすわ!!
そりゃあたしもくだらない過去に思い更けてて、悪いっちゃ悪いっすけどもぉ〜…。

…もう〜っ、肉蝮さまったら〜〜!! ははは〜!

…………はは、はは…は……。


「──………………。」



…────くだらない、

 ────過去…。



「……」

919『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:02:49 ID:ftVzt7Bs0
 …ごめんね────、とは勿論言いませんからね? …バヒョに高木。

そもそもあたしは、最初から一貫してゲーム優勝狙いなんすから。
勝手に仲間意識持って…、「裏切ったな〜!!!」とか言われても……知らんがな、で終わりっす。

そもそも、あたしは悪魔。
お前らは人間。
土俵も住む世界も常識も。何もかもが違うんすから!
お前ら人間の言う義理やら人情やら…勝手に作った物差しであたしをクズと図らないでくださいよ!!


「……」


………魂一つすら集めれない、
気づけばみんなから見下され、嫌われて、だんだん自分でも「ホントにダメだな」って思うようになって。
……気づいたら、自分のことまで嫌いになる。
そんな出来損ないの気持ちなんて。



お前らには分かるわけないんすから。




「…………」


 ──スタ、スタ、スタ


「……2103、2104、2105…。──」


  ──タッ──


「────【2106号室】…! おい、ここでいンだろ? さっさとドア開けろチビ!!」

「………あ、はいはい!! この部屋で合ってます合ってます〜!!」



 ……とまぁ、そ〜こ〜している内に着いちゃいました!
バヒョと高…デコ娘らがいる部屋──あたし達の目的の場所に!!
いやぁ〜、肉蝮さまと会話してたらもう話が弾んじゃって、時間があっという間に感じるものっす〜。


「……では肉蝮さま!! …開けますよ? 本当によろしいっすね??」

「あ? とっととしろ」

「………………………あ、ところで…扉にカギ、別にされてないすけど、あたしがわざわざ開ける理由は…?」

「ッチィ!!! うるせんだよッ!!!! この部屋はテメェがいた場所だろッ?!! ンで、テメェが開けて閉めたドアノブだろうが!!! 触りたくねェんだよばっちぃッ!!!!」

「あ!!! そういうわけっすか、すませんっ〜〜!!!」


 あー…またまた肉蝮さまを怒らせちゃった〜…。
もうしっかりしてくださいよ!! あたし!!!

……ふふ♪
それにしても肉蝮さま、このあたしをまるでバイキンかなにかのように扱いなさるなんて……!!
あたしも、とうとう菌と肩を並べれるくらいにはなれたんすね…!
……いやぁ、出世したなぁ〜あたし……♪

「………。……ふう」


 …かちゃっ──。──ドアノブのヒ〜ンヤリとした感触。
無機質な扉の向こう側では、…バヒョたちは一体どんな顔をして待っているのやら♪

のんきにお菓子でも食べてたりしてるのかな?
肉蝮さまのオーラを前にしたとき、あいつらきっとビビりまくるでしょうね!!
「お許しをぉおお〜〜〜!!」とか命乞いしたりして!!

──…あっ。バヒョの奴、今、我慢できずにデコ娘とえろいことしてたりして。


……。
…く、くそぉおお〜!!! ありえる…アイツのことだしやりかねんっすよ!!!
人がこんな苦労してる時に、ヘラヘラお盛りになるとか……、余計腹立たしくなってきたっす!!!
えろい奴は全員、肉蝮さまがナマハゲの如くギッタギタにしてやりますからねこのヤロー!!!!

920『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:03:05 ID:ftVzt7Bs0
「……。…では仕切り直して。オープン・ザ・ドア!! 開けさせていただくっす」

「テンポ悪ぃんだよ!! さっさとしろやッ!!!」


 …とにかく!! バヒョたちの怯えきった顔が楽しみで仕方ないっす〜!!
あたしにイライラMAXで睨みつけてもムダ・ムダ☆ その頃にはとっくにあんたらは魂化してるんすから!
この調子でたくさんたくさん参加者たちの魂を集めていって〜〜♪
レース先輩をどうパシらせるか妄想ふくらませつつ、肉蝮さまの魂荒稼ぎをニコニコ眺めて〜♪
気がついた時にはあのトネガワヤローとご対面!!
…ついでだしソイツの魂も狩らせて〜、あたしも念願の優勝をして〜〜♪



 ────優勝した時、あたしはどんな顔しているんだろ。──



「………」



…はは。何で汗なんかかいてんすかね、あたし。
“どんな顔してるんだろ”って……。そんなの決まってるっしょ! 満点満開、大スマイルっすよ!!
あーもう、テンポ悪ぃな〜あたし!!

ワクワクが止まらないっすね〜、もう〜!
だって今から始まっちゃうんすもん、伝説が!!
肉蝮さまと、悪魔のあたし……──あっ、え〜とえ〜と…あたしの名前なんだっけ……。
……あ。そうだそうだ。


このあたし──『悪魔のアクメ』。

二人によるサキュバス伝説の、幕開けを────…。




……

 ──“ひょう太とやら人間よ。…どうやら貴様はこいつと長くいすぎたせいで耐性がついたようだな。メムメム化の免疫が……”

 ──“…悔しいが、魔界の命運は貴様ら二人にかかっている。頼んだぞ”

 
 ──“ひょう太と……、そして、”──

……




「────ッ『メムメム』ゥゥゥゥっ!!!!! 早くっ!!! 早く逃げろォオオオオオオオオ──────っ!!!!!」



「あ?」




「……………え」




 おでこに貼られた命名札が──、
無風の廊下で、ひらりと剥がれ落ちていった。

921『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:03:30 ID:ftVzt7Bs0
「…あ……? あんだぁ……?! あのガキ…………」

「……あっ」


「逃げろって──ッ!! 逃げろつってんだろォオオオ────────ッ!!! バカァア────────ッ!!!!!」



 ……振り返る必要なんて、ないのに。
振り返らなくてもいいって、自分でも分かってたのに──あたしは。
肉蝮さまより先に、首が声の方へ向いていた。


 タタタタ────ッ、
  タタタタ────ッ、

廊下の奥から勢いよく走ってくる──『アイツ』。
武器を片手に、どんどんあたしらと距離を詰めてきて。

……普段は弱っちくて、ヒョロヒョロで、なんの役にも立たないクセに。
今だけは不相応に血気盛んな顔をして。
けど、その血気盛んさだけじゃ誤魔化しきれないくらい、顔色は真っ青で……。
無理してるのなんて、丸見えで。

──………でも、そういうのがアイツらしくて。


アイツと目が合った瞬間、あたしは思わず声が震え出た。


「ば…なん………なんで……なんすか……………」

「ハァハァ…!! 高木さん連れて…そいつから逃げろっ………ハァハァ……、逃げろよォ…!!!」

「あ、…に、逃げ……………ぁた、ぁたしは………」

「…ィッ早く逃げろっつってんだろォ────────!!!!!」

「………っ!」


…“震え出た”……って。
あたしは別に、アイツのことなんかちっとも恐れてないのに。


「…ンだぁ? おいチビ、てめぇアイツと知り合いなんか? ぁあ?」

「あ、ひ……し、知り合いっていうか…………あたしは………」

「いやてめぇなに泣きそうになってんだよ? まったく気持ち悪ぃ奴だぜ悪魔はよォ……………。──」


「──…って、あ? …おい待てよオイッ……」



…というより、アイツの方が肉蝮さまにビビりまくってるはずなのに。



 タタタタ────ッ、
  タタタタ────ッ、


「うわぁああアアァアアああああああああああ────────ッ!!!!!!!」


「…ィイイッ!!! あのクソガキィッ!!!! テメェ……ッ、ソレ……!!!──」

「…………え?」


「──俺のナタじゃねェかゴラァアアアアアッ!!!!!!! テメェが犯人かァ、この糞ガキィィィィィッ!!!!」

「…えっ」



ヨタヨタしながら重いナタを振り回して。
……無謀にも、あたしらに戦意をむき出しで突っ込んできて。

………いや、違う。
アイツは、肉蝮さま“のみ”に向かって刃先を振りかざしてきて……。

922『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:03:49 ID:ftVzt7Bs0
恐怖に呑まれきってるくせに、恐れ知らずみたいな態度で。
あっという間に至近距離まで飛び込んできた、アイツに──。


「ば、……バヒ………………そ、その…ナタ……」

「だッから、逃げろつってんだろうがァアアアア────────────!!!!!!!──」


──……………『バヒョ』の奴に。
バヒョに名前を呼ばれて、


「──メムメムッ!!!!! 逃げろよォオオ──…、」

「テメェエエエエ!!!!!! 死ぃいいいいいねぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!!!!!!!!」

「…あっ………」



 ────ガシュンッ



……あたしは、自分の名前が『メムメム』であることを思い出した。




「…ぁ、あぁ…ぁ………!!」


「がぁあ…………っ……!! い、痛……っ!! ぐ、ぁ…いぃっ…………、──」

 ────ガシュンッ

「──うがぁああぁっ……!!!!」


「死ねッ!!! ふざけンなよテメェゴラアアアッッ!!!! クソガキのくせに俺を舐めてんじゃァねぇえッ!!!!」



な、

……な。


な………な、何をしてるんすか……? バヒョ…。
そんな…らしくないことを……。


肉蝮さまを…怒らせるような真似をして………。
シャベルで一発食らわされて……、…もう頭…凹んでるじゃないすか…………?
絶対痛くて…。…いや、痛いとかそんなレベルじゃないのは………あたしだって分かるくらいっすよ……。
うずくまって…、手からナタはこぼれ落ちて……、
もう頭を抑えるので精一杯だというのに………、


 ガキィンッ────

「ぐっい…ぎゃぁあああああああああああああああ゙あ゙!!!!!!」

「ひっ………」

「テメェなに死んだフリぶっこいてんだコラァッ!!!! 俺ァ熊じゃねぇんだぞ?!! そんなもん通用しねぇからなゴラァアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!」


右手を、シャベルの側面で叩き折られて……、白く鈍いものが皮膚を突き破って…覗いていて………。
手の先はどんどん真っ青に変色していって……。


「テメェだけは絶ッ対許さねぇからなッ!!!!──」

「──絶対に許さねェエからなテメェエエエエエエエエエ!!!!!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ!!!!!!!!!!」


 ブンッ──

 ────ガシュンッ、────ガシュンッ、────ガシュンッ
 ──ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ

  ぐしゃり……ぐちゅり……メキメキ……ッ


「…ぁっ…………、がぁ…………っ……、…ぁ……、っ………、っ…………、……………。、………」


「ぁああ……ぁぁ……………ぁ、ぁ……」

923『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:04:08 ID:ftVzt7Bs0
 …何度も……何度も何度も顔面をシャベルで殴られて…………。
おでこも…鼻も口も………目も…。
打ち付けられるたび、文字通りに表情が歪んでいって……。大破していって………。
…ぷつぷつと血の泡が弾けるたび、鉄の匂いが鼻に突き刺さって……。
顔…もう、血みどろでめちゃくちゃじゃない…すか…………っ。


な…なんで。


…いや、どうしてっすか!!!?


……なんでそんな……自分が損しかしないような……ばかなことをして……………!?
…Mなんすか………? ドMでもなきゃ説明つかないでしょこんなの…………!


なんで…なんすか…………っ……!!



 ──ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、

  ──ガンッ────



「………っ……………………ぁ」


「……ふぅ〜。計三十発!!! おいチビ、凄くね?! ここまでフルスイングしたっつーのに、息一つ切れてない俺凄くねぇか?! なぁ!? なぁッ!!!」」

「ば………ば、バヒ……。…ば……………」

「オイッ、チビ!!! 何黙ってんだッ!!! テメェ如きが俺を無視すんのかゴラッ!!!!」


 ──グイッ


「ゎ…ぎゃっ!! ……ひ、ひ…あた…あたし………っ…」

「おい聞いてるよな? 何俺のこと無視してんの? 何無視してんのかつッてるよなァ?」

「…………あ、ぁた……し………」

「あ? あたし〜…がなんだよ。おい、テメェはなぁ…頭悪ぃんだから…、──」



……………どうして。
……どうしてなんすか。



 ────ガリィッッッ


「──ぃッッ!!? ぎゃあああぁいっでええぇぇえ!!!!!!!!」

「…え」


「………ぃ……が………ッ……げ…………ッ…」



…どうして。
どうしてあたしが肉蝮さまに掴まれた瞬間……、奴の脚に噛み付いたんすか。
…そんなことしたら……どうなるかなんて絶対分かってるのに………。

真っ赤になった顔で………息を苦しそうに漏らしながら……必死で歯を食いしばって………。


「ぇ……む……………、っぅ…う、…………ッ………、」

「テンッメェエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!!! 絶対絶対ッッ絶対に許さねぇえええええええええええええええええッ!!!!!!」


 ──ガシュンッ、

     ────ベチャッ

924『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:04:23 ID:ftVzt7Bs0
「…、…………………」

「あっ……、あぁ……!!」


「殺すッ!! 殺しまくって殺しきってサツガイしてやるッッッ!!!! テメェの両親共が棺桶にゲロ吐くくらい、死体蹴り潰してやるからなッ!!!!!! クソガキがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


 ──ガシュンッ、

  ガシュンッガシュンッ、ガシュンッガシュンッ、ガシュンッ、ガシュンッ、

     ガシュンッガシュンッ………、



…もう…もう………何も見えてないというのに…ぃ………………。

…顔をぉ…しっかり……、あたしの浮いてる方向だけを見据えて…ぇ……………。

声に……こ、声に…ならない言葉で………。
…口をしっかり…形作って……ぇ……………。



「………っ………、……ぉ……………」

「……え…?」




────『に』『げ』『ろ』。

…って。



「…ぅうっ、ひ……ぅうっ!! ひょ…ば……、バ…ぁ…ヒョぉ…!! バヒョぉ…お…ぉおお…………!!!」



あたしは…、あ…あたしはバヒョと顔が合って………泣いて震えることしかできない…というのに…ぃ………。
大粒の涙が…足元のバヒョに向かってこぼれ落ちる…それだけが精いっぱいで……ぇ……。
なにも…なにもできていない……と…いうのにぃ……ぃ……。



…どうして、そんなことを……したってゆうんすか…………………?



 ガシュンッ──────。



「……ひっ……ひぅ…っ……っ、ぅ……はぁっ……っ………バ…ヒョぉ…っ……」


「………………、…………………」



「あ〜…なんか……やっぱちょっとキちゃうよな、チビ」

「…………………え…」

「人間ってこんなんになっても生きられるんだなァ〜ってな…。…命の神秘すぎて…俺ちょっと感動しちゃったわ……。マジでコイツの死、どうにかしてドラマチックな物にできねーのかなぁ…」

「…………………………」

「ほら、キレイな顔してんだろ? 死んでるんだぜ……………。…………あーやべ、泣けるぜ…」



「………………」




────……“どうして”って────。

────理由は、あたしだって分かっている。

925『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:04:42 ID:ftVzt7Bs0
 ………最初からあたしは分かっていた。
肉蝮のやつが全く『優しい人』なんかじゃないことを。

 絶対にあたしの心配や思いなんて一ミリも頭にはないし、…それどころか気まぐれであたしを殺したりとか、そんなヤバいだけの奴なことは……普通に分かっていた。
あたしもそこまでばかじゃないから。
ファーストコンタクトで分かってたはずだった。

でも──逆らったり、逃げたりした瞬間に捕まるのが怖くて。
それでいて……肉蝮とはいえ、たかが人間ごときに屈することを、悪魔としてのプライドが許せなくて。

『魂稼ぎの良き相棒』とか、『あたしは肉蝮を信頼している』とか、自分自身に嘘をつき続けた。
ほんとは逃げ出したくて、嫌で嫌でたまらない奴なのに、あたしは自分に言い聞かせるように嘘で心を固めてきた。

ほんとに、ただ自分の為だけに。

……ダメダメで、何をやらせても失敗して、ミスばかりで、ポンコツにも程がある……。
それだけならまだしも、おまけに開き直りクセのある、………最低なあたし。
……魔界のみんなから見捨てられるのも、当然の報いだ。

結局のところあたしは……。
自分のことしか考えてない、どうしようもないクズなんだから。


「ぐ…っ……はっ……うぅ…………」



──そんなあたしを、────バヒョだけは受け入れてくれた。



「うぅ……うぐっ……!! うぅう………!!!」



──一緒に暮らしてくれた。

──一緒におやつを食べた。

──バヒョが休みの日は、一緒にお昼寝した。

──魔界の厄介事にどれだけ巻き込んでも、追い出したりしなかった。

──あたしのせいで、アパートの娘との仲が最悪になったときだって、ただ呆れて済ませてくれた。

──どんな時だって、嫌々ながらも付き合ってくれた。


「…ぅ、うぅ………! うぅっ…! うわぁあ…うわぁあああぁぁ……」

「あ?」


──喧嘩はした。何度もした。

──でもあたしが泣いたら仲直りしてくれる。

──勘当なんてしなかった。

──あたしなんていない方が楽な生活だっただろうに、

──それでも一緒にいてくれた。


「うっ…ぁぁ…ぁあああああああああああああ……」

「う〜あ〜うるせぇぞコラ!! コイツのうめき声思い出して吐きそうになるっつーの!!!」

「うぅ……うっ…──」




──そして今、利害関係なしに、あたしを助けに来てくれた。




────…あたしの、友達だった……。




「──うわぁあぁあぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁんんあっ…!!!!! うわぁあああああああああ!!!!!」

「…な。…チィッ!!!──」

「──やかましい!!! 俺は赤ん坊のお守りなんかゴメンだぞクソガキィ…、」


 ガシッ──


「………あ?」

926『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:04:57 ID:ftVzt7Bs0
「…ひぐっ、うぐ……ぇ………。…にぐ、肉蝮っ………!!」



「テメェ…なに俺の手掴んでんだ? つか、なにその反抗的な目? ぁ?」

「………っ、…うぅ……!!」

「それに今、俺のこと呼び捨てにしたよな? どうした? …………俺に本気で怒ってほしいのか?」

「んっ……ひぐ……! うぐ……っ……!!」

「俺に。本気で。怒ってほしいのか、つってるよな?」

「…うぐっ……! …うるさいっ…!!!!」


「あ?」


 ……あたしは、これまでの人生、どんな局面でも楽な方を選んできた。
二つの道があれば、必ず安全そうな方へ。
少しでも自分が傷つかずに済む方へ。
楽で、安っぽくて、逃げるだけの方へ。

……そうやって、ずっと逃げ回ってきた。
それがあたしの、生き方だった。


…だから今も、あたしはこの局面で楽な選択肢に逃げようと思う。


「………ひぐっ……よく聞いて…ぁ、頭に叩き込んでよね………肉蝮っ………!!」

「………………テメェ…」

「………………と言っても…うぐっ……、…別に…理解する事はどうあがいても……『できない』んだけども…………。うぅ……」

「ぁあ?」

「……悪魔からの…、忠告です………っ。いい………?──」



「──一度裏切った奴は…何回でも裏切るんすよっ……!!!!!」




 楽な選択肢。
──『バヒョが死ななくても良いようにする』という、逃げの一手を。


…バヒョのこの姿を目に焼き付けて、優勝のお立ち台にあがりたくないっ……。
……これから何十年、ずっとずっと後悔しながら長生きなんかしたくないっ………。
やっとの思いで手に入れた、奇跡みたいな友達がいない世界なんて……あたしは何よりも嫌だった……!!

…だからあたしは……、
万が一のために、肉蝮には渡さず隠していた『魔道具』のひとつを取り出して…。
震える手で、それをマントにギュッと取り付ける…っ。


「テンメッッ…、このクソチビッ…、」

「…っ!!! お願いぃっ!!!!! ────『やりなおしカナブン』ッ────!!!!!」



………っ。…バヒョ……。
お前は「逃げろ逃げろ」って……死に物狂いであたしに叫んでたすけども…。

……あたしだって、もう逃げるのは飽きたっすよ……っ。



 ──パァァァ……


………
……





#074『やりなおしカナブン』

【魔道具説明】
…『タイムリープ道具。』
『取り付けると五分前まで【過去】を遡る。』


『この場合の五分前とはつまり、──』

『──肉蝮がバヒョに、最初のフルスイングを叩き込もうとした、──』



『──丁度その時────。』

927『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:05:13 ID:ftVzt7Bs0



………
……



「──メムメムッ!!!!! 逃げろよォオオ──…、」

「死ぃいいいいいねえええええええええええええええええええええええええええええ…、」


 ──スッ…──。




「あっ?!!」



「あ………」




 たくさん迷惑かけて

 ごめんなさい。


 今まで一緒にいてくれて、

 ありがとう。



 バイバイ。



「────……ひょう太」


「………………メ、メムメ」



………

……





【メムメム@悪魔のメムメムちゃん 死亡確認】
【残り61人】

928『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:05:25 ID:ftVzt7Bs0



……


「……………ねえ、小日向くん」

「…」


 私が「ごめん。勝手に使わせてもらったよ」と、スタンガンを見せても、彼は何も反応をしなかった。

スタンガンで気絶させて、更にメムちゃんの魔道具でグルグル巻きにした大男。
一旦は脅威が去ったはずなのに、小日向くんはその場で凍りついたまま、大男と同じように動かない。

私が肩を叩いても、言葉は返ってこない。
何も聞くことがない。


「…………………メムメム」


彼が漏らすのは、その一言だけ。
腕の中で、ぐったりとしたメムちゃんの亡骸を抱えるだけだった。

……辛うじてパーツが残っているといった、メムちゃんの両目を、ずっとずっと。
目を合わせて、眺め続けて。


「…小日な…、」

「………ごめん、高木さん。…少し、ここで待ってて…」

「………え? 小日向…くん……?」


薄明るい廊下にて、ふと立ち上がった彼はそう口に発した。
背中越しに「…五分で済むから」とだけ残し、ゆらりゆらりと歩き出す。


「……どこ、行くの?」


愚問だったのかもしれない。
足を止めた彼は、振り返らずに答えた。


「…作って…やらないとさ…………」

「…………メムちゃんの、を…?」


「……………」



……本当は、私も彼に付いていくべきだったのかもしれない。
でも、その時の私はただ立ち尽くすことしかできなかった。
……五分後、小日向くんが帰ってこれることを、ただ願うことしか。



「……………………ごめんな、…ごめん」


風も、音もない。
ただ電光だけが淡く照らす廊下にて、レモンのような苦い香りが通り過ぎていった。




【高木さん@からかい上手の高木さん 第一回放送通過】

929『やりなおしカナブン』 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:05:37 ID:ftVzt7Bs0

【1日目/F6/東●ホテル/11F/廊下/AM.05:50】
【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】放心、人間(←→サキュバス)
【装備】鉈
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:…………メムメムの墓を作る。

※ひょう太は水をかけられると男、温かい水なら女(淫魔)になります

【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】自転車@高木さん、ドッキリ用電流棒@トネガワ
【道具】限定じゃんけんカード@トネガワ
【思考】基本:【静観】
1:小日向くんと行動。
2:……メムちゃん、…そんな。
3:西片が心配。
4:兵藤、大男(肉蝮)に警戒。


【肉蝮@闇金ウシジマくん】
【状態】気絶、全身打撲
【装備】シャベル
【道具】魔道具諸々@メムメム
【思考】基本:【マーダー】
1:畜生ッ…………全員…殺してやるッ………。
2:クソチビ(メムメム)はムカついたが、フルボッコにできたからまぁまぁ満足。
3:ジジイ(兵藤)、クソガキ二人(ネモ、ヒナ)の顔を覚えた。絶対に復讐する。
4:皆殺し後、主催者の野郎とスマブラをする。

930 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:06:14 ID:ftVzt7Bs0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①お久しぶりです。
②私のスタンス上、平成漫画ロワは書きたい回から優先的に投下して、構想が全く思いつかない回は後回しにしています。
③まぁ、つまり、投下が遅れた理由はそういうわけです。


【次回。多分9月2日投下。】
──See you again.(また会おうね!)

「人畜無骸」…マイク、???、藤原書記、吉田茉咲、札月キョーコ、土間タイヘイ、ゆり

931 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:06:34 ID:ftVzt7Bs0
【お知らせ】
本日をもって平成漫画ロワは1周年となりました。
1周年?たかが通過点にすぎん…だなんて言えればカッコイイのでしょうが、正直長いようで長かったです。
「流行り物0のロワなら長続きできそう」との発想で始めた平成漫画ロワですが、
この1年の間、古見さんが完結したり、昼飯の流儀がアニメ化したり、マ●シルさんが色んな意味でえらい目に遭っていたりと、「まだまだ平成漫画(ステマ棚)も捨てた物じゃないんだな」と実感する次第でございます。

改めまして、俺ロワ掲示板管理者様、読者の皆様、毒吐き掲示板の皆様、他関係者の皆様に日頃のご愛顧を感謝申し上げます。
中でも、拙作『#018 ラヂヲヘッド(現:『(元)小日向くん』)』での、高木さんのエミュ度の足りなさを指摘してくださったお方には大変感謝しております。
現状、ほぼ意地のみで書き進めている当ロワでありますが、これから非リレーロワの企画を考えている人達の見本となれるよう、どうにか完結まで付き進めたいと思いますので、
これからもこの頭のおかしいロワをどうかよろしくお願いします。

はい。
『頭のおかしいロワ』とは自虐ではありません。むしろ誇りのつもりでいたりします。
次回以降、どんどんどんどん超変化球かつ超展開&そして超発想に参りますので、このただ者ではないロワを、最期の時までご賞味あれ。

932 ◆UC8j8TfjHw:2025/08/28(木) 23:10:53 ID:ftVzt7Bs0
>>907様。
返信が遅れてしまい、大変申し訳ございません。
また、当ロワのページ作成を検討していただき、誠にありがとうございます。
次スレッド以降当スレは『ステマ棚漫画バトル・ロワイヤル』に改題しますので、
正式名称は『ステマ棚漫画バトル・ロワイヤル』で記事作成して頂ければと思っております。

私は幼少期からパロロワ辞典@wiki様に、自分のSSが載ることが夢でしたので、大変光栄に思います。
本当にありがとうございます。

933『人畜無骸』 ◆asMWoVpuyo:2025/09/02(火) 23:25:44 ID:oXQIdaV60
**『人畜無骸』


[登場人物]  [[マイク・フラナガン]]、[[藤原千花]]、[[土間タイヘイ]]、[[札月キョーコ]]、[[吉田茉咲]]、[[田村ゆり]]

934『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:26:07 ID:oXQIdaV60

……
………

 ──“……ごほっ、ごほっ…!!”

 ──“…はぁはぁ……マイク…、歌、一緒にいいかな………。”

 ──『………え? 歌…ですか……?』

 ──“………なんでもいいよ……。もう、最後だからさ……デュエットしたいんだ…。なぁマイ……、”

 ──“……んっ…!!! げほっ……!! ゲホ、ゴホッ……がぁ………ッ”

 ──『リョ、リョージさん!!! …大丈夫デスか………!! あまり無理は…、』

 ──“……はぁはぁ…。大丈夫…、大丈夫だから…………。…はぁ…はぁ…”


 ──“……『just the two of us』……あの歌を…歌おう”

 ──『……………はいっ』

 ──“……………これが、俺とお前との…最後の共同作業だな……”


 ……〜♪


  ………〜♪



──“………マイク…”


──マイク…。

──マイク……。

………
……


935『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:26:26 ID:oXQIdaV60




「……マイク…さ、…マイ……………」

「…………………」

「────…マイクさんっ!!」

「……あっ!!」


 コトコト──、グツグツ────。
マンション二階の一室。男二人、台所にて。
厚手の鍋で煮込まれるカレーからは、マイク・フラナガンを遠い記憶へ誘うほどの『カナダの香り』が漂っていた。


「………だ、大丈夫ですか? …俺、てっきり具合でも悪いのかと思って……。休みますか?」

「いえいえ。大丈夫デスよ、タイヘイさん。…ちょっと昔のこと思い出して、ボーっとしてました」

「そっか。なら良かったです。ほんと、急に固まっちゃうから心配しましたよ」

「ハハハ、それはスミマセン〜…!」


 土間タイヘイ・アシストの元、男の料理として仕上げたのは『カナダ式カレー』。
基本的調理工程、スパイスは日本式と大きく変わらないが、このカレーには肉の代わりにサーモンを使う。
隠し味はメープルシロップ。
ぶつ切りにしたサーモン、ジャガイモを鍋に入れ、カレーパウダーを投入後、生米と一緒に煮込む──そんな一風変わった料理だ。
俗名にすれば、さしずめ『カレー風雑炊』とでも名付けれそうな代物である。

スパイスの刺激と甘さ、そして濃厚さ。
、極寒の大地──カナダを彷彿とさせる、その香り。
蓋を開ければ、キッチンはあっという間に北米の風土に抱かれた。


 ぐぅう〜…──

「…あっ!! スミマセンスミマセン〜。ワタシ、ちょっとお腹空いてたみたいで」

「ははは! そりゃ俺も同じですよマイクさん。時間はもう朝食どき。…俺だってがっつきたいくらいですから!」

「オー! それはHAHAHAデス〜!! ではタイヘイさん、満を持して皆のトコにもっていきマショウ!」

「ええ!──」


 タイヘイは六枚の皿とスプーンを、マイクは大鍋を抱え、四人の女子が待つリビングへと向かう。
自身の胸元にて匂い立つ、カレーの優しい温もりさ。
その味は、かつてのフィアンセ──折口涼二の面影。
料理が不得手なマイクのために、婚約の日々に彼が教えてくれた、唯一のレシピだった。

ウッドハウスのキッチンで、ぎこちなく魚を切り、
不器用な手つきを笑い合いながら、やがてテーブルには二つの皿が並ぶ。
吹雪の夜、窓の外を白に閉ざされながら、温かな皿を挟んで顔を見合わせ、
同じ味を、好きな人と共有して──、


「──(………ハハ。…リョージさん………!)」


──マイクにとっては、決して色褪せぬ思い出の味だった────。



「お〜〜〜いマイク〜〜〜〜!! ちょっと来てくださいよ〜〜♫」

「ん?」 「あ、フジワラさん…」


ふと、リビングの扉越し、玄関の方から声が響いた。
高いトーンで弾むその声は、まるで花が一瞬で咲き誇るように軽やかで、そして同時に場の緊張感を(良くも悪くも)吹き飛ばす無邪気さを持つ。
──藤原千花。ノ〜天気な書記娘の声である。


「どうしたんデスかね〜…。………あ、ではタイヘイさん、申し訳ないデスがワタシ…」

「ええ構いませんよ! …ただし冷めないうちに、手短に〜…で!」

「ハイ!!」


一体なにが話したいのかと。大鍋を託したマイクは、キッチンをあとにした。


………
……

936『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:26:39 ID:oXQIdaV60
 『ですからぁ〜、…Kレコレさんに……マネーの方、二十万円頂きたいんですけどぉお…』

 『だから渡さね〜つってんだろ虚言ババア!!! ったくテメェはよぉ…ボケ!!』



「……んじゃ、そういうわけだから。私がカレーに手つけなくても文句言わないでよねっ。…特に吉田っ!」

「…あ?」

「血以外のモノ口にしたら私、グロッキーになるんだってば!! 『食物無駄にするな〜』とかアホみたいな説教するんじゃないわよっ!! ねぇっ! 吉田!!!」

「…チッ、釘刺すんじゃねぇよ。それくらい分かってるわ…ったく……。──つかおい書記!! さっきからなんなんだよこの動画!!! 悪口しか言わねぇじゃねぇかコイツ!!」

「ほ〜おやおや〜〜? ヤンキーの吉田さんともあろう方が知らないんですかぁ〜〜? 暴露系YouTuberの配信ですよっ!!」

「…ぁあっ?」

「わ、わ?! す、凄まないでくださいよ!!? もう!! ──…今やSNS台頭時代!! 困った時に『ドラえも〜ん』はもう古いんですっ!!──」

「──つまりは〜っ!! コ●たんにバトル♡ロワイヤルのことをリークして、脱出を図ろう〜〜…って考えたんです〜っ!! …もう相談の予約取りましたからね〜! 動画止めないでくださいよ…、──」

 ──ピッ

「──な?! え、ちょっとゆりちゃんっ?!!!」

「え、なに? ────…何」

「はぁ?! ゆりちゃんが凄んでも別に威圧感ないですからね?!!? もう〜話聞いて下さいよぉ〜!!!」

「いやNICEだから田村。こんな不愉快動画、田村の情操教育に良くないわよ。…ねぇ〜田村〜!! カレーは私がフーフーしてあげるから、安心して食べなさいよ〜!!」

「………札月さんも、いい加減そういうのいいんだけど」
「…キョーちゃんのゆりちゃんに対するこの甘さなんなんですか……?!」


 ──ガチャッ

「…おっ」

「みんなお待たせ! 今カレーできたから………って!!!──」


「──コラ藤原さんっ!!! マイクを置き去りにするんじゃないっ!!──」 「あれ? タイヘイさん〜マイクと一緒じゃないんですかぁ〜〜〜?──」




「「──…………。…………………ん?──」」



「──えっ…?!」 「──…へ?」


………
……


937『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:26:56 ID:oXQIdaV60
 薄暗い廊下を過ぎて、玄関。
青白い太陽光を遮るように、マイクの目の前には、確かに藤原千花が──いた。


「いい匂いだね、マイク。…カナダ式カレー……だっけか。思わず足を運んでしまったよ」

「………………っ、…………誰…デスか」



──厳密には藤原千花の『声』が、いた。



「ただ、勝手を言うようだけどね。具材がサケとイモだけとは…少し味気ないんじゃないかい?」

「………アナタ…………『何者』なんデスかっ…!!」


彼女と瓜二つ。
──いや、というよりもまんまの声色を放つ、異型の獣。
微風に毛並みを吹かれ、見た者全てを二度見させる容姿の『奴』は、凍りついたマイクを傍目にふと笑い、
どこからともなく一つの『植木鉢』を差し出す。


「だから、『この食材』を持ってきたんだよ。ちょっとした土産だ」

「………え…………? …だ、だから……、」

「…悪かったね、君の武器をさくら棒なんかにして。我々も時間がなかったのだ」

「……答える気はないんデスか……? ……アナタはっ……」

「そうそう。この植木鉢の中身は『マンドレイク』という……まぁ…野菜みたいなものだよ」

「…アナタは誰なんデスかっ…………!!! ワタシに一体何の…、」

「是非とも君には『引っこ抜いて』、味見してもらいたいさ。主催者直々のプレゼントだよ」

「………………え…?」

「ははは。──」



奴は──。
唐突の来訪者である奴は、植木鉢──植生魔物『マンドレイク』をマイクの足元へ寄せて──、





「──私、────【主催者】からの──ね」






「…えっ」



──AIが描いたイラストかのような偽装された笑みを浮かべた。





#075『人畜無骸』



938『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:27:23 ID:oXQIdaV60
 折口涼二の死。
午後1時36分17秒、電話口でその報せを受けたマイクに、哀しみの情が押し寄せたのは実に二十五分後の事だった。

理解を拒んだ事実が脳を打った時、──まず彼は呼吸を忘れた。
次に──いま自分がどこにいるのか、その座標をも見失った。
────そして、脈々と伸びていく汗の感触で、自分という存在を辛うじて自認できていた。


「……大声…出しマスよ」

「ん? それは何故だい、マイク」

「それとも、吉田さん達を……皆さんを連れてきたほうがいいデスカ……ッ。──」


「──主催者ッ………!!」



早朝、無音の廊下。
時間を停止させられたかのような、──霊安室にも似た沈黙の中。
立ち尽くすマイクの額からは、一筋の汗がゆっくりと滴り落ちていく。


「…確かにそうだね。君たちにとって私は憎悪の対象。ましてや一対六、立場は圧倒的不利だ。捕まった暁にはどうなることやら…。…私には想像の勇気がないよ」

「…何をふざけているんデスかッ…!!! ……あなたは…ッ、あなたのことは絶対に…ワタシたち…許すことができな…、」

「ただね、私は君との一対一を望みたい思いかな。いいかい、マイク。藤原千花…土間タイヘイ…札月キョーコ…吉田茉咲…田村ゆり。──」


「──君が大声を上げた瞬間、以上五人の首輪を爆発させます。そして折口夏菜の家を燃やします」

「………ッ…?…!!!」

「………ははは、陳腐な脅迫をして申し訳ないね。私も性格上、気が進まない発言だったから、ご容赦してもらえないかな」



「……。……な、…………なんなん…デスか………ッ」

「…ありがとう、大声を出さないでくれてね。……やっぱり君は優しい心の持ち主だよ、マイク」


吐息が、異様なほど冷たく頬を撫でた。
気がつけばマイクの膝は崩れ落ち、巨体は制御を失ったように震えていた。
汗を抑えきれず、表情を強張らせながら、ただその場に押し留められているマイク。

──そんな彼へ、慰めるかのように優しい声をかける【主催者】。

いや、奴が雄《男》なのか、メスなのか。そもそも人間なのかさえ今は知れず。


奴もまた気が付いた時には、四足歩行の容姿から、藤原千花へと姿を変じていた。


「……うーん、そうだな…。常日頃から『都合の良い嘘』で人々を欺く私とはいえ、…優しい君に嘘を付くのは多少罪悪感がある。…そこで、率直に述べるとするよ」

「………え…」


黒いリボンをわざとらしく整えた後、主催者はマンドレイクの葉に指を這わせた。


「マイク。君には優勝してもらいたいのさ」


「………ッ、……優勝って…それは…」

「ああ、皆殺しだね。だが君が気負う必要はない。──」

「──……このマンドレイクという魔物はね、引き抜けば雄叫びをあげる。聞いた者の精神を、粉々に砕くほどの絶叫をあげるのさ。──」

「────いわば、発狂するってわけだね。…形は違うとはいえ、マンドレイクも、そして君自身も」

「…………発…狂……………」

「知らず知らずの内…。意識が混沌とする中、君の身体が勝手に暴れて、そして目を覚ましたら優勝という筋書きさ。どうだい、これほど楽な殺し合いは中々無いと思うよ」

「………………」

「正直私はね、君に大いな期待をしているのだよ。なにせこの恵まれた体格にこのパワー! 優勝候補としてはチップを山積みにしたいほどさ。…ははは。──」


「──だから君は、ただマンドレイクを引っこ抜けば良い。それだけなんだよ」

「………………ッ。──」


地中に埋まるマンドレイクの半目に、睨まれた気がした。
マイクに注がれる、乾ききった二つの視線。──内、一つはなんとか潤いを偽装した視線。

無論、マイクにはそんな微笑みなど通用する筈もない。


「…………アナタ、怖い物知らずデスね………」


「…ん? ……それは褒めているのかな。それとも皮肉かな?」

939『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:27:34 ID:oXQIdaV60
「…ッアナタは愚かだッ…!!! 『怖い物知らず』なんて…良い風に言っただけの言葉……ッ。アナタは愚かだから…ワタシたちの怖さを知らないんダヨッ…!!!!」

「………」


 悪魔の目になど合わせることなく、彼は力いっぱい植木鉢を払い除けた。
邪魔だった。自分には十分過ぎるほどに邪魔だった。
視界にさえ、入れたくなかった。

940『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:28:07 ID:oXQIdaV60
「……吉田さんに…ッ、田村さん、タイヘイさん、キョーコちゃんに藤原さん………ッ!! アナタは参加者誰一人の怖さを…知らないッ…! 何もかも知らないんだッ………!!!──」

「──何よりも…アナタは、ワタシのことを一ミリさえ分かっていないッ…!!! …何が“プレゼント”…デスか…? …ッふざけるのもいい加減にしてくれッ!!!!──」

「──ワタシは優勝なんて考えていないッ…!!! あなたの見込みは的外れ…何も分かっていないんだッ!!!!──」


「──だからもう出ていってくれ…ッ!!!!!」


「…ぽくぽくぽくぽ〜〜…。……いやぁ、それは困りましたよ〜マイク〜〜♫」

「…ぃいッ!!!! だから出ていけと言っているダロッ!!!!」


ましてや藤原千花の姿と声で、耳を汚すような囁きをしてくる奴は、爆発的な不愉快さだった。

マイク・フラナガン。
──亡くなった涼二を以てして、マイクが激昂する様は見たことが無いという。

朝起きても、夜疲れていても常にニコニコ温厚で。
つい彼に当たることがあれば、何一つ非は無いというのに謝ってきてくれる。──お菓子とお酒を愛する、温厚人物だった。

そんなマイクをここまで激情させ、感情のままに言葉を吐かせた────【奴】。
奴──主催者を、『怖い物知らずの愚者』と評したのは、モノの見事といえようか。
遭遇依頼、初めて面と向かい、睨みが止まらないマイクの目を見ても、藤原千花の無邪気な瞳はただ一切の揺らぎを見せなかった。


「……ぃッッ…………」

「……ははは。にらめっこなら、夏菜ちゃんとする方がいいんじゃないかな」

「ッッッ…!!!!」


無邪気にして醜悪なその笑みに、掌で握り潰したい衝動が胸を焼く。
だが──理性が、最後の良心が、それを押しとどめた。
偽物であれ、憎むべき主催者であれと。藤原千花の顔を傷つける真似は、彼にはできなかった。


「………もういい。アナタのことは知らない。……関わったワタシが馬鹿デス」

「…おや、おや」


相手にするのも馬鹿らしい、と。
そう自分を誤魔化しながら、マイクは踵を返し、リビングへ戻ることを思い立った。
ただ、『誤魔化す』とは言っても、僅かばかり不器用である彼には百パーセント包み隠すことはできない様子で。
主催者視点からして、ゴツゴツしたその背中からは、目には見えない怒りのオーラが隠しきれていなかった。

──それでもマイクは、後を去り、なんとか主催者との遭遇を『無かったこと』にしようと奮闘した。


「おーい。マイク〜、どこに行くんだ〜〜〜い?」

「………………………」


たとえ、緊張感のないほんわかした藤原千花の声が、彼を挑発するかのように追いすがってこようとも。
マイクは堪え続けた。


「“ワタシのこと何も分かっていない”──そう言ったけど、私は君のことを全部知っているのだよー?」

「……………………………」


一歩、また一歩。
確かに遠ざかっていく背中へ、声は執拗に張り付いてくる。


「そりゃ主催者の務めだからね。君の家族や過去、折口夏菜ちゃんとの関係や、弥一が君をどう思っていたのかも………。私は全て知っているのだよ〜〜、マイクーー」

「…ッ、………………………………」


主催者とて偽装するほどの余裕さがなくなってきたのか。
藤原千花の声に、時折野太い男が混じり入った声で、奴は執拗に呼びかけ続けた。


「君の亡くなった婚約者──涼二のことだって、私はなんでも知っているのだからなァアーー」

「……………っ。──」


「──……………………………………」


“それが切り札のつもりなのか”──。
“リョージの名を出せば足を止めると思ったのか”──。

941『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:28:18 ID:oXQIdaV60
マイクはそう思ったのかもしれない。

だが、どうあれ彼は振り向かない。
語らぬ背中を突きつけたまま、歩みを止めることはなかった。



「おーい!! おーーい!!」


何度も何度も呼ばれても、


「おいって。…おい。おーいっ」


声質が完全に、化けの皮が剥がれ。男の声と化しても、


「……おーいッッ!!!!」


「………………」

942『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:29:04 ID:oXQIdaV60

マイクは空腹の事ばかりを無理矢理考えて、無視を決め込んだ。
リビングに続くドアノブを、力を抑えて押し込むマイク。
──その握り拳を、普通の人間なら憎たらしい主催者奴へ、絶命の限り決め込むというのに。

主催者の言葉通り、
────マイク・フラナガンは、本当に『やさしい人間』であった。


「おーい!!!」


「………」





「────おい。……待ってくれよ、マイク」






「…………………えっ」




 六度目の「おーい」が響いた時。

マイクの手は、ドアノブから弱々しく落ちていった。




「……え…………」


「ははは、やっと振り返ってくれたか。マイク」



 その声はもはや藤原千花のものとは全く似つかわぬ、三十代半ばの男──低く湿った響きだった。

振り返る必要などない。
無視しなければならないと、自分に言い聞かせていた。
絶対に応じてはならなかった。


──だが、人は、過去に縛られる生き物だ。


もし、失くした宝物が見つかったという情報を耳にしたら。
もし、夢の中で亡くなったペットに声をかけられたなら。
もし、三途の川の向こう岸に、大切だったあの人が立っているのだとしたら。




「……………ぁ、あ…………」



──分かっていた。
罠であることは、分かっていたはずだった。


それでも、マイクの瞳に映る────その男。



「やぁマイク…。元気だったか?」


「リョ………リョージ…さ…………」



植木鉢を片手にニコリと微笑む、
────折口涼二の姿を。その声を、目の当たりにして。



「……俺との『約束』………、果たしてくれたよな?」

「………ぁぁ、あ………リョ、リョージ……………ッ」

「ははは。ワガママで悪いけどさ、もう一つ約束…頼めるかな? …いや、その話はいいや。ともかくさ…」

「…………え?」

943『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:29:26 ID:oXQIdaV60
「……好きだ。もうずっと一緒だよ………。何があっても絶対に離さない。──」



「──………愛してるよ、マイク…」




「…リョ、リョージ………さ…、」




マイクの全身から力が抜けてく。
霧散するように、怒りが消え失せていた────。






 ──────ブチュリッッ……

   ──ベチャッ……ベチャ、ベチャ……





「………………………ぇ」





 刹那。

内側から押し広げられた風船のように膨れ、音を立てて弾け飛ぶ──涼二の肉体。
四肢は節ごとに断たれ、顔は輪郭を失い、ねじれた蝋細工のように飛散する。
手足、臓腑、眼球、脳漿、筋繊維。
赤黒い破片が空中に散り、降り注ぐ雨。

床に叩きつけられ、ピクピクと温もりを保った臓物と骨の破片──。
──亀裂まみれの顔面の涼二。



「ぁ…あ、あ。ぁあ、あ…」


「…イッ、イイ………ッ」




──張り裂けんばかりの高笑いを噴き上げながら、涼二はマイクの眼をがっちり合わせた。



「やあ、マイク!!」


「ぁぁああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!!!!! あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッッ!!!!!!!!!」


「あははははははははははははハハハハハハハハハハハハはははははははは──────っ!!!!!! あ゛っははははははははははははは!!!!!!!!」

944『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:29:59 ID:oXQIdaV60
「ぁぁああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!!!!! りょ、りょうじざぁァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

「ひひひひ……はははは……あ゛っはっはっはぁぁぁっ!!! 痛い痛い、死ぬのはイヤだよぉ……あーっははははははははッッ!!!!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!!!!!!!」

「ぼっくんをまた一度見殺しにする気かいっ!!!? そんなのは嫌だ…嫌だぁああああ!!!! 痛いよぉおおおおおおおおおよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよよ!!!!!──」



「──あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっっ!!!!!!!!!!」

945『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:30:11 ID:oXQIdaV60
 もう、かつての落ち着きを見せていたマイクはいなかった。
髪を乱し、自身の頭をわしづかみにしながら、喉を裂くような絶叫を吐き続ける。
指の間からは汗と血がにじみ、爪が頭皮に食い込む。
理性の残滓などすでに砕け散る。
ただ「あ゛」の連なりだけが、獣のように響き渡るのみ。

脳細胞が一秒ごとに潰れていく錯覚の中、頭を真っ白にしてマイクは叫び続けた。


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

「…す、素晴らしいっ!!! 君の優しさは存分に認めるとしよう、この私は!!!」



そんなマイクを、心の底から慰めるように。
ズルリっ、ズルリ──とトマトソースのように崩れた涼二が、彼の体へ纏わりつく。
崩れ落ちた膝から、胴にかけて。首元まで、スライムの如くゆったりと。



 ──ズボッ──。
赤黒いスライムから、引き裂かれんばかりに口角を上げる、涼二の顔が浮き上がる。



「だが私はね、優しさとは『余裕』がある者の特権だと思っている!! だからこの世の中は陰湿で悪い人間ばかりなのさ!!! 皆、余裕なんてないのだからぁ!!! さて、君はあるかね?! 今、余裕なんてものは、心にあるのかね?!!!」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁ…」

「そうさないとも!!!! 君の心はもう容量オーバーだ!!!! …私は知っているぞ?! なんでも知っているぞ!!!! 折口涼二のことは、君以上に知っているのさぁ!!!!」

「ぁぁあ…あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙…あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!!!!!!」



──片目を零し、肉が崩れてぐずぐずに溶けた涼二の顔。

──静かに笑みだけを貼りつけるその顔は、指一本も入らぬほど近い距離で。

946『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:30:29 ID:oXQIdaV60
「涼二の死因は病死なんかじゃない!!! 自殺なんだよ!!! 就寝前、インシュリンをあえて打たなかったことによる自殺!!!! その選択を私はこの目で見たのさぁ!!!──」

「──彼の最期の言葉も聞いたぞ!!! 『どうして俺は、普通じゃないんだ…』──彼は同性愛を疎む世の中を恨んで、怨念のまま死んだんだ!!!! 未練たっぷりに死んだんだよ!!!!!──」

「──涼二は生きたかった!!!! ほんとは生きたかったのに許してくれなかったんだ!!!! 愚母が…愚父が…愚かな弥一が!!!!! 世の中がぁ!!!! …だから、偏見のない世界を作ることこそ、君の役目なんだよっ!!!!!!──」




──血交じりの唾液を激しく散らした後、奴はマイクに──、




「────『弟の夫』マイク・フラナガンくん。私なら、君と涼二の【約束】を叶えられるんだよ」


「ぁ、ぁ……ぁ……………………」




────悪魔らしく、優しい声色で囁いた。




 ──ガチャリっ────と、ドアが開かれる。
現れた者は土間タイヘイ。凄まじい雄叫びに慌てて駆けつけたのだ。

「大丈夫ですか!? マイクさん!!」──そう声をかけようとした時。もう、涼二──主催者の姿はなかった。


「……え?」

「………」

「………マイク…さん?」



丸太のような腕から引き上げられる、一本の『魔物』。



──マイクの代わりとして──、土から引っこ抜かれたマンドレイクが、事のすべてを雄弁に説明するまでだった。





……

 キィヤアァァアエエエエエエエエエエエエエエエエッッ─────
 

 エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェ─────────ッッ

……


947『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:30:48 ID:oXQIdaV60


 歌を、歌えば、
気が晴れるらしい。




……
 ──“悲しいときは歌えばいいんですよっ!”


 ──“歌には不思議な力があります! 悩んでるときはまず歌えば、バッと気が晴れるものなんです!!”

……



誰が言った言葉だったのか、もうマイクは思い出せなかった。



「…ゲキキキキ……!!──」


「──♪One day〜, in the forest〜〜…ゲキャキャ!!」
(♪ある日〜、森の中〜)


「♪I met〜, a bear〜〜♫ ききき!!!」
(♪熊さんに〜、出会った〜)



実に楽しげな笑みを浮かべ、町を闊歩する男──マイク・フラナガン。
彼が唯一覚えていたのは、


──マンドレイクの叫びで泡ぶくを噴き出した、土間タイヘイのこと。

──自分が標的に定めた、四人の女子たちのこと。


──馬乗りになって、鼻血が出てもなお、拳を浴びせ続けた、札月…キョー…………のこと。


──自分の頭へ、木刀で殴りかかってきた……吉田……ま………………のこと…。



──勝てないと見込み、たむ……ら…………と、タイヘ……と…、。デイバッグを置き去りに……、三人を抱え逃げる…………よし…だ………と…きょー………のこ、と……………。



──そ、し……て。


──………抱えられたうちの、『一人』……、桃色髪の女子の脚を……掴み上げ、

──………四人を追いかけることを…放棄し………、ピンク髪の………彼女だけの…抹殺を…開始…する……。


──…ベランダから………放り投げて、…………地面に…叩きつける轟音を響かせた………………、



────…名前の忘れた、あの子。





「………。──」

948『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:31:05 ID:oXQIdaV60
「──On a flower-blooming forest path〜〜〜♪──」
(花咲く森の道〜〜♪)


「──♪a bear〜…、」
(くまさんに〜…、)





「…出会っ……た…ぁ………………♪」




「………………」


「……マイ…ク…………。…つらい……とき…は………一緒…に……歌いましょう…よ…………」


「……………ぃいぃい?」



彼の歌声に、足元からかすかなハモりが重なる。



「…独唱は…つまら、ない…で…しょ…………?」

「……………ぃいい〜??」

「………だから……行かない…で………よ………………」


ズタボロで、目から光が消えかかっている彼女。
倒れ伏せる彼女を見ても、マイクがとどめを刺さなかったのはどういう心境か。
単なる偶然なのか。
それとも、まだ心の奥底に、『本来のマイク』が残っている証なのか。



「………oh,…産め!!! 産め神の子を!!!! しゅうう〜〜〜りょぉおおお〜〜〜〜〜〜〜!!! ゲキャキャキャ!!!」



「…ま、いく………………………。──」

「──……ぅっ…………」



何はともあれ、マイク・フラナガンは『考える』という煩わしさをもう放棄しきり、獲物を探しに歩き続ける。

全て忘れ切り、
自分さえも完全に見失っても、
──『歌うこと』だけは忘れずに。


「………。──」

「──………二番〜、にばん〜〜〜〜〜〜!!! パチェ湖の汁を添加したぱちゅたぁ〜〜げいっげいっげぇえええ〜〜〜〜〜!!!」



意識の途絶えた藤原千花を振り返ることなく、一人、街をさまよい続けた。

949『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:31:16 ID:oXQIdaV60
 ♪

 くまさんの、言うことにゃ、

 お嬢さん、お逃げなさい、


  すたこらさっささのさ…、

   すたこらさっささのさ…………。




【札月キョーコ@ふだつきのキョーコちゃん 第一回放送通過】
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!! 第一回放送通過】
【吉田茉咲@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!! 第一回放送通過】
【土間タイヘイ@干物妹!うまるちゃん 第一回放送通過】
【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜 第一回放送通過】
【マイク・フラナガン@弟の夫 第一回放送通過】

950『人畜無骸』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:32:15 ID:oXQIdaV60
【1日目/G5/住宅街/AM.05:11】
【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】気絶、暴行痕複数
【装備】護身用ペン@ウシジマ
【道具】ワードバスケット@目玉焼きの黄身
【思考】基本:【対主催】
1:………マイ…ク………。

【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】精神完全崩壊
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー(発狂)】
1:rfghfれghfげrhfrghjけgqhgfrへgbふへrhfヴぇrhfgrへgfrgfh



【チーム・キョンシーズ】
【札月キョーコ@ふだつきのキョーコちゃん】
【状態】暴行痕複数、鼻骨折
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:マイクに激しい恨み。
2:ふ、藤原…藤原が…ぁ………!

【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】ハーフフット(ロリ化)、キョンシーの服装
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:【静観】
1:……な、なにが起きたの………。

【吉田茉咲@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】暴行痕複数
【装備】木刀
【道具】タイムマシンボール@ヒナまつり
【思考】基本:【対主催】
1:………マイクの野郎ッ!

【土間タイヘイ@干物妹!うまるちゃん】
【状態】意識消絶、背中に痣(軽)
【装備】なし
【道具】ボイスレコーダー
【思考】基本:【静観】
1:…………………………。

951 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:32:48 ID:oXQIdaV60
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①つい先日散々大絶賛しておいてアレですが、『颯爽と走るトネガワくん』からChtagtに書かせるのやめました。
②理由は単純。自分で書いた方が楽しいから。
③せっかく1年も書いてきて、自分なりの手つき・小説論を掴んできたものですから。これからも、私の癖全開な文体で書き進めて行こうと思います。

④つまり、何を一番に言いたいかと言うと、挿絵も手書きで始めるので急激に画力が劣化します。ご了承ください。

【次回。多分9月9日投下。】
──勇者であれ。
──Be ambitious.

「我が友よ冒険者よ」…来生、ライオス、ハルオ、オルル、早坂
同時上映「め組の」…うっちー、早坂

952 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/02(火) 23:33:41 ID:oXQIdaV60
【お知らせ】
今回をもって、この「どうでもいいネタバレシリーズ」はラストになりました。
これまでゴアイコーいただきありがとうございます。

953『Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:16:10 ID:XKc2VvY20
予定を変更して4話後の回から投下します。

[登場人物] 山井恋

954『Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:16:31 ID:XKc2VvY20

 It began in a small village.

One day, a slight tremor shook the ground, and the floor of the underground catacombs collapsed. From the depths emerged a man.
He claimed to be the “King of the Golden Kingdom,” a nation that had perished a thousand years ago.
Once glorious, that kingdom had been cast into the depths of the earth by a frenzied sorcerer and remains imprisoned to this day.


────“To the one who slays the sorcerer, I shall grant all that belongs to my kingdom.”


Having spoken those words, the man crumbled into dust and vanished...


……


955『Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:16:48 ID:XKc2VvY20




 星もいいけど、やっぱり私は青空のほうが好き…かな。
理由? だってさぁ、雲ってフワフワしててカワイイじゃん♡
…あーっ、ちょっと!! メルヘンとか子供じみてるとかってバカにしたりはしないでよね〜?

遠い空のひつじ雲をさ、ずーっと眺めてると、頭が空っぽになっていって……。
まだ朝だってゆうのに、な〜んだかセンチメンタルになっちゃうんだよねぇ………。


「…ってかいけないいけない!! 私ったらボーっとしてる場合じゃないし〜!! バカバカ私のバカ! しっかりしろっての〜〜!!」


…あはは☆
でも、やっぱり早朝の散歩っていうのも爽やかで悪くなかった……かも?



 改めて、私の名前は山井恋! フツーの女子高生で〜す☆^^
どれくらい普通かってゆうと〜、…うーん、勉強はちょっと苦手。
でも、その分おしゃれとかカワイイものが大好き〜♡
悩みはあるけど、友達もたくさんいるから幸せ!!
カースト下位の子とも話せちゃう余裕まであるんだから、……ね? 私ってやっぱ普通っぽいでしょ?


そんな私は今──、
バトル・ロワイヤルをちょっぴり頑張っています────。



「……つか遅っ。あのバカ、なに道草食ってるわけ? ……もうっ、主人を待たせんなっての!!!──」


 ──指、パチンッ────


「──…ったく、私のこと完全に舐めきってんじゃんアイツ……。はぁ…。やだなぁ〜めんどくさいなぁ〜、お仕置きタイム……」


……本当はね、私…バトル・ロワイヤルなんて怖いし……今すぐ逃げたい気分ではあるよ。
もし周りに友達も知り合いもいなくて、私がひとりぼっちだったら──とっくに泣いてるか、もう死んでるかだと思う…。
──でも、私には『古見硝子さま』がいる。
──そして一人きりじゃない。最っ高〜の相棒・水の精霊ちゃんがいるのだから──!!(只野君から盗んだとはいえ)

古見さまのためなら死ねる私。
──言い換えれば、彼女のためにも死ぬわけにいかない私────山井恋。

私は古見さまとの再会を急ぐため、ホテルで殺人をが〜んばってる水の精霊ちゃんを呼び寄せたのでした。




 ──シュッ

「………」


「…やっと来たし。はいはいお疲れ〜。ウン…水の精霊ちゃーん」


「…………」



……………ん?
…あれ?
ちょっと待って、…コイツ。


「え。…たった一体……だけ? はァあ? ほかの奴らはどこ行ったの?」

「…………………」

「“…………………”──じゃねーし〜。黙ってるフリしないでよねえ? アンタ、喋れなくても一応ジェスチャーとか意思疎通はできたでしょうが」

「……………………………………」

「……なに? 言えないの? 言いたくない何か事情でもあるの? 一応言っとくけど、私が求めてんのは報連相だけだからね? ホウ・レン・ソー」

「………………………………………………」


………あー。
はいはい。

956『Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:17:04 ID:XKc2VvY20

つまりは「察してください」って伝えたいんだね〜、このおバカな相棒ちゃんは〜〜。
『何故一体しか来れないのか。』『ほかの精霊共は今、どうなっているのか。』
──主人である私には恐れ多くて言えないから、ダンマリ決め込んでるわけなんだね〜〜〜。
なるほどなるほど〜〜。

──うんっ☆


「…あははー。生き延びるより死んじゃってた方がマシって瞬間、あるよねー」

「……………………………」



「────ちょっと『オハナシ』しよっか。精霊ちゃぁあああああぁぁん」



…はあ〜あ、
できない子を叱るのって…私苦手なんだけどなー………。





957『Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:17:25 ID:XKc2VvY20
◆[割愛開始]◆



……
………



……【ポエム】。
──writer. 山井恋。

──『恋の詩』




 私は別に女の子が好きってわけじゃないけど、古見硝子さんと一緒に𝓿𝓮𝓷𝓮𝔃𝓲𝓪𝓷𝓲(ヴェネツィア)の海辺のアパートで暮らしたいな。
 そこで私は古見さまに鍼灸をするの。
 鍼灸。知ってる?
 針をツボに刺して疲れを癒やす、あのマッサージっぽいやつ。
 もちろん、私は鍼灸のやり方とか知らないよ?
 でもね、古見さんが海の見える窓辺で、潮気を帯びた髪をドライヤーで梳かしながら乾かしてて。
 その熱風と潮風がTシャツをふわって仰いで、うっすら汗ばんだ素肌がチラッと覗いたとき──。
 ──気がついたら、私はアマゾンで鍼を何百本も注文してたの。

 太ももの内側のツボを押すと、嫌なこと忘れられる効能があるらしい。
 首元の骨の近くだと、想い人をもっと愛おしく感じる効能があるらしい。
 そして……好きな人の素肌を見たら──鼻腔からの大量出血で逝っちゃう効能があるらしいの……。
 うん、イッちゃうわけ。私が。

 私はインフルエンサー仕込みの鍼灸で、古見さんの身体へ舐め回すように挿入していくの。
 あくまで比喩表現として『舐め回すように』、刺していったらさ。
 ──そこには、蝶の標本が完成してるわけ。
 𝓿𝓮𝓷𝓮𝔃𝓲𝓪𝓷𝓲(ヴェネツィア)は温帯気候だから、本来なら蝶なんて生息しないんだけどさ、私の目の前でたしかに彼女は羽ばたくの。
 ハイビスカスを一凛纏った私が花役。
 彼女が蝶役でね。


 やがて秋風が吹き、花びらを散らす季節が来る頃。古見さまは目に見えて衰弱していくの。
 …嫌だった。
 顔は青白く、頬もこけて、それでもなお美しい裸身を震わせていて…──そんな古見さんを、私は見たくなかった。
 でも、それ以上に。
 針を抜いて赤くドレッシングされた蝶の身体と、痛みに悶えるその表情を……私は見たくなかった。
 だから私は、古見さんの身体から鍼を抜くことを──あの日から、拒絶していたわけ。


 ある日、私は目を閉じるの。
 意識が遠のいていく私の眼前には、等身大ケースに収められた彼女の標本が眠っていてね。

 立ったまま。私を見下ろしながら眠る、スリーピングビューティー……。
 ガラス越しの古見さん。

 蝶の標本作るときってさ、酢酸エチルとか亜硫酸ガスとか。なんか毒使うらしいんだけど、…怖いよねぇ。
 肌に触れて添い寝できない運命に、ぷくっと頬をふくらませながら、私は酢酸エチルを一気飲みして自殺するの。


 ────スタッフロールも、優しい結末もいらない。
 終わりの来ない永遠のロマンス映画。


 ────それが【恋】。十六歳のアオハルってわけ──。





………はい、割愛終了!
精霊ちゃんと私の『オハナシ』をみんなに見せたくないからさ、合間として自作ポエムを披露させていただきました。
……ごめんね〜無駄話。ほんとごめんっ!

それじゃ、続きを〜…どぞ!


◆[割愛終了]◆

………
……


958『Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:19:35 ID:XKc2VvY20




 ──チャポン、チャポン


「あれぇ〜? 精霊ちゃん、元気なくない? どうしたのかな……。まさかペットボトルに入れたら具合悪くなっちゃうのかな……。やだ〜死んだら泣いちゃうよ〜!! ね、元気出してってば〜!!!」

「………………」

「…まぁアンタは元気ない方が似合ってるけどさ。──んじゃ、反省してさ、次からヨロシクね〜〜☆」

「……………………………………」


 『水』を痛めつける方法って、結構思いついちゃうもんなんだね〜。
…あ、でも拷問しちゃったせいで、もう精霊ちゃんのこと絶対『触れられなくなった』のは反省……かも…。


「もう…拷問のせいで野菜ジュース一生飲めなくなっちゃったじゃん! 私の身体にぜった触れてこないでよね〜? 分かった〜??」

「……………………」


 アハハっ☆
精霊ちゃんの元気が少しでも戻れば…ってことで、私たちは今朝のお散歩の再開〜!

のんびり差し掛かってくる朝日に、本当に静かな住宅街。
草木が起きたばかりの匂いに満たされながら歩くのって、なんか優雅な気分だった〜^^。
…もちろん。ほんとに言うまでもないけど、私は何も考えずただブ〜ラブラ歩いてるってわけじゃないよ?
散歩って普通、気分転換とか趣味の一環でさ、目的地もなくブラつくもんだけど、私にはちゃ〜んとあるんだよ。
……『古見硝子さまのお所』っていう明確なゴールが…ね!


あぁ……古見さまのお姿を一刻も早く拝みたい。──。
古見さまが通り過ぎた残り香でもいいから、鼻腔いっぱいに満たしたい──。
十円玉? そんなのよりも、古見様の髪の毛一本が落ちていてほしい──。

古見さまバッドトリップを堪えながら、私は巡る街々とあいさつをかわすのでした〜〜。



 ──がやがや、がやがや…。


  ──ざわっ…、ざわざわ……。


「………あっ!」

「……………」



……だな〜んて、古見さま一杯の想いを宣言したいとこなんだけど、実は違うんだよね〜。
うん、何が違うって。今の目的地は古見さん『だけ』じゃないの。
神々が流した雫である古見さまを二の次にするなんて、ほんと辛いんだけど……。
私が会いたいモノは二つあるわけ。

ひとつは、『マロ』って名前のクソカスボゲ犬。
──ただ、この犬畜生の話は後回しで!

でもうひとつは、『他参加者の子たち』……なの。
男、女、ガキ老人問わず、参加者なら誰でもいいから会いたいって感じなわけ。
だってさ〜、見てよ? 今の私、めちゃくちゃボッチじゃん??
そりゃ精霊ちゃんは隣にいるけど、この子(色んな意味で)会話が今期待できないし…。
私って結構おしゃべりが好きでさ〜。なじみちゃん程ではないけどマシンガントーク気味な面があるから〜…。

誰かと話したくて、話したくて、ハナしたくて。
──『オハナシ』したくて、…仕方なくて…………。


「…まぁマシンガントークつっても、菜箸と精霊ちゃんしか持ってないから『ウォーターカッタートーク』になっちゃうんだけどね〜」

「……………………」

「じゃ、よろしく」

959『Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:19:50 ID:XKc2VvY20
 ──だから、ちょうど横にて話し声が聞こえた瞬間、私、恥ずかしながら歓喜しちゃいました〜〜…☆


 私の横にて「待ってました」みたいに建っていた、落ち着く雰囲気の料亭。
木の格子戸がズラ〜〜ッと並んでて、赤い提灯がポツンってぶら下がり。…な〜んか、「昭和の映画のセットかな?」ってくらい『和』って感じ。

んで、その玄関の向こうから笑い声が聞こえたわけなの。
一人じゃなくて、複数! 複数人数だよ!
多分、声からして男しかいないんだろうけども、キャハハ〜って楽しげな声でさ〜。

当たり前だけど、私はまだ高校生だから、料亭(?)…っていうか居酒屋には一回も入ったことないよ?
でもタイムラインで知った限り、こうゆうお店って『一見さんお断り』とか、入店が厳しいとこ多いらしいじゃん??
もし何も知らず入って、それでお店の人に怒られたら…。
そう考えたら……怖くて、不安でさ……。



「────やっちゃって。さっさと片付けなさいよ、…このおバカが」

「………っ…」




だから私はペットボトルのキャップを、くるりっ。
勢いよく飛び出した精霊ちゃんに、仕方なく『入店』を頼んじゃうのでした〜。




 ガガガガガガガガッ───────、ガガガガガガガガッ───────

  ガガガガガガガガッ───────、ガガガガガガガガッ───────


「ノイズキャンセリング、ONっと。…さて何聴こっかな〜〜♪」


 キャップを外した瞬間、『水』を得た魚のように暴れ射つ精霊ちゃん〜〜──……だなんて月並みな表現は、今さら使うつもりないよ?
それでも、「さっきの元気のなさはやっぱ仮病じゃん〜」ってくらいに、精霊ちゃんは玄関にガチぶっ放し開始!!
精霊ちゃんの集中攻撃っぷりといえば、もうぶっ放しに次ぐぶっ放し。
木の格子戸も提灯も、シュパパパって斬り裂かれて、もう水しぶきと木っ端まみれの超カオスって感じ〜。
ガーガーうるさすぎて中の声なんて聞こえないけど……間違いなくお客さんたち、百パー絶句してんだろなあ〜コレ。

…もう〜っ! この『オハナシ』大好きっ子め!!
普段は大人しくて陰キャオーラ全開なくせに、なんだかんだ饒舌にはなれるんじゃん精霊ちゃん!


「ふんふふ〜〜ん♪ ふんふ〜〜ん♪」


 ガガガガガガガガッ───────、

  ガガガガガガガガッ───────…………


…でも、流石にお客さんたちにも迷惑だから、少し加減くらいは覚えろっての……──と。
──ついつい心の中で毒づいちゃった私〜…。

うーん…。
やっぱ正直うるさすぎるわ……。
空気読んでよ……もう〜。オハナシが過ぎるってーの!!



 ガガガガガガガガッ───────、

  ガガガガガガガガッ───────…………



もう…ハイテンション精霊ちゃんったら〜〜〜……。

あはははは〜〜〜………、





『──────無駄だ。大規模防御魔術《バリアー》は高等魔術。ウンディーネ如きじゃ破ることはできない』






 ガガガガガガ──…………




  ──────パッ。




「…………………………は?」

960『Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:20:09 ID:XKc2VvY20
………不意に、さっきまでと同じ『静寂』に戻った住宅街。

その異様なほどの静けさが、Bluetoothのノイキャン機能なんかじゃないってのは──イヤホンを外した時、気付かされた。




「………は?」




…目の前に移る物事全てに、意味がわからなかった。


……一切──傷ひとつない。
まるで最初から無傷のまま、そこに立っていた料亭の外壁…。



「……え……?」


……ウォーターカッター攻撃なんて、対岸の火事かのように…。
玄関向こうから続かれる談笑と…………、

『触れない』玄関の取っ手口……………。



「………………どうゆう、こと…………?」


うん、『触れない』の。
ヌルヌルしてるっていうか、無を掴んでいるっていうか……。
とにかく、触れることさえできない玄関…………。



『触れない』──で思い出す。
水だから掴むことなんてできない精霊野郎の姿も……、

蒸発したみたいに、完全に消えてた。


「…………な、なんなの……。意味…わかんないし………。──」

「──なに……これ…………、」


『理解できないのなら教えてやってもいい。バリアーという魔術は、我々エルフでさえ詠唱も叶わないもの。──もっとも、お前たち【シブヤの世界】を生きる人間ならどうなのかは知らないが』

「え…?──」




……そんな精霊野郎と出番交代というように。



「──は…???!」



────後ろを振り返ったら、『ヤツ』がいた。




『案ずる必要はない。お前の相棒、水先案内人はあくまで【転移】させたまで。望みとあれば、いつでも戻すことはできる』


 ──パッ

  ──がががが〜………ちゃぽん…ちゃぽん……


「あっ…精霊…!! ……いや、何……てゆうか……アンタ……………」

『そしてもう一度言おう。──案ずる必要はない。私はお前にとって、敵か味方かで区分すれば【味方】にはなる。神経質な敵意は無用だ』

「………………は?」

『これは【敵の敵は味方】という理屈からだ。…別に私はお前を信頼してはいない。それはお前もまた同様だろう、────ヤマイ』

「…………は、はぁ?! な、なんで………私の名前………、」

『だが、大規模防御魔術を扱えるとなれば、古代エルフか。……あるいは【迷宮の悪魔】…か。──…私は今日にいたるまで人生、その【悪魔】のことばかり考えてきた』

「………は…?」

961『Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:20:25 ID:XKc2VvY20
『【悪魔】は欲望を煽り意のままに操っている……。浅はかな欲は【悪魔】にとっていい餌だ…。──』


『──…何を考えたか、【悪魔】は私を鳥かごに閉じ込め……【殺し合い】という劇場舞台に立たせたものだが、──私は助演で終えるつもりはないっ……。──』


『──私は今度こそ奴を殺し切りっ……バッドエンドで幕を閉じさせてみせる…っ。──』



「……………………え?」



……音の消えた町。
電柱の影の底に、『ソイツ』は鎮座していた。


……ソイツの表情は、私にはまったく分からない。



『──ヤマイ、私に協力しろ。…何事にも無欲となった私は、もう片棒抜きでは行動できない』

「………は?」

『そして今はただ、その玄関前を目に焼き付けろ。…奴は確かにこの料亭内に潜んでいるのだからな。………悪魔の奴は──』


でも、ヤツは……、

怒りが籠って…その怒りを地面にたたき震わすかのような声で………、────確かにはっきりと言った。






『────いや。【主催者】は………か』






────自分が、『主催者』の知人であることを──────。










「………ちょっと待って。協力しろ……だって? 私がぁ?」

『お前の記憶は覗かせてもらった。タイムリミットは残り四十云々時間しかないようだな。したがって、その二日間、私の食事──ならびに世話を頼みたい。……ゆえに、まずは召喚…、』

「てかさぁー、アンタなんで喋れんの? いや、違う違う……なんでそんな偉そうなわけぇ?」

『話を遮るな。…古見硝子…といったな。お前の想い人は捜索してやる。そのためにも召か…、』

「うんうん、まずは召喚しないと話になんないよね〜アンタは。──」




「────んで、なんで『アシストフィギュア』風情がそこまで偉そうなの…?」




地面にたたずむ、まだ開封もしていない私の『アシストフィギュア』。
──……“私の”って言っても、厳密にはあのメガネリーマンからモラッチャッタ物ではあるけどさ……。


カプセルケースに話しかけられる。

ちょっぴり不思議な朝の出来事。


殺し合いが始まって以降、何故かそれが一番の衝撃だったっていう。



それだけの、オハナシ。。

962『Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:20:39 ID:XKc2VvY20



………
……




ちょっと思い出したから話させて。


>神々が流した雫である古見さまを二の次にするなんて、ほんと辛いんだけど……。
>私が会いたいモノは二つあるわけ。

>ひとつは、『マロ』って名前のクソカスボゲ犬。
>──ただ、この犬畜生の話は後回しで!



うん、犬野郎の話ね。


 仮に。…仮にだよ?
クソボケ犬畜生が古見さんを既に見つけててさ。
で、バター野郎全開に古見さんの美しい体(特に陰部)にペロペロ頭突っ込んでたとしたら〜……、


「『お手!』『ちんちん!』そして『頭』の順番……かな?」

「…切断する順番か?」

「おっ! 頭いいじゃ〜ん! さっすが隊長さん! …でもちょっと褒めたからって図には乗らないでよねえ? ね〜〜?」

「くだらない。生産性0の会話は好まぬ主義だ」

「ごめ〜〜ん! アンタの好き嫌いとか私ぜんっぜん興味ないや! あっ、ところでさぁ、──」






「──『ミスルン』は古見さまのこと…、──────好き?」






【山井恋@古見さんは、コミュ症です。 第一回放送通過】

963『Delicious in Dungeon〜感電死までの追憶。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:20:50 ID:XKc2VvY20
【1日目/D5/センター街/AM.06:00】
【山井恋@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】額に傷(軽)、鼻打撲(軽)、膝擦り傷(軽)
【装備】めっちゃ研いだ菜箸@古見さん、ウンディーネx1@ダンジョン飯
【道具】なし
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰古見硝子】
1:古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子古見硝子…。
2:古見さま、四宮かぐや以外の皆殺し。(※マーダー側の参加者とは協力…かな?)
3:とりあえずアシストフィギュアちゃんと同行。
4:見かけた人間全員と『オハナシ』をする。
5:カスボケ犬畜生(マロ)を見つける。
6:ならびに、精霊ちゃん(ウンディーネ)と犬畜生は不要になり次第殺処分。…てかもう精霊ちゃんいらなくな〜い??
7:クソ親父(ひろし)、脂肪だけの女(海老名)、魔人(笑)(デデル)とその仲間共(うまる、マミ)に激しい恨み。
8:センター街/住宅地/料亭にて、主催者がいることを確認。

964 ◆UC8j8TfjHw:2025/09/10(水) 19:22:36 ID:XKc2VvY20
【次回。多分9月16日投下。】
──『僕は君に敵意はない。ぜひとも一緒に、コイツの味を舌鼓打とうじゃないか!!』

──『…イカれてますよ、あなた』

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同時上映「め組の」…うっちー、早坂


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