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バトルロワイアル - Invented Hell – Part2

1 ◆qvpO8h8YTg:2024/02/04(日) 21:47:29 ID:KDm6eFsc0
◆ 参加者名簿
3/7 【テイルズ オブ ベルセリア】
○ベルベット・クラウ/○ライフィセット/○ロクロウ・ランゲツ/●マギルゥ/●エレノア・ヒューム/●オスカー・ドラゴニア/●シグレ・ランゲツ

4/7 【うたわれるもの 二人の白皇】
〇オシュトル/〇クオン/〇ムネチカ/●アンジュ/●マロロ/●ミカヅチ/〇ヴライ

2/6 【東方Project】
●博麗霊夢/●霧雨魔理沙/〇十六夜咲夜/●魂魄妖夢/〇東風谷早苗/●鈴仙・優曇華院・イナバ

3/6 【ダーウィンズゲーム】
〇カナメ/●シュカ/〇レイン/〇リュージ/●ヒイラギイチロウ/●王

1/5 【鬼滅の刃】
●富岡義勇/●錆兎/●煉獄杏寿郎/●累/〇鬼舞辻無惨

1/5 【緋弾のアリアAA】
◯間宮あかり/●神崎・H・アリア/●佐々木志乃/●高千穂麗/●夾竹桃

0/5 【乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…】
●カタリナ・クラエス/●マリア・キャンベル/●ジオルド・スティアート/●キース・クラエス/●メアリ・ハント

3/5 【Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
●天本彩声/〇琵琶坂永至/●Stork/〇梔子/〇ウィキッド

2/5 【ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
●ジョルノ・ジョバァーナ/〇ブローノ・ブチャラティ/●リゾット・ネエロ/●チョコラータ/〇ディアボロ

1/5 【とある魔術の禁書目録Ⅲ】
●浜面仕上/●フレンダ=セイヴェルン/●絹旗最愛/●麦野沈利/〇垣根帝督

2/5 【響け!ユーフォニアム】
〇黄前久美子/〇高坂麗奈/●田中あすか/●傘木希美/●鎧塚みぞれ

2/4 【新ゲッターロボ】
〇流竜馬/〇神隼人/●武蔵坊弁慶/●安倍晴明

2/4 【デュラララ!!】
●セルティ・ストゥルルソン/●岸谷新羅/〇平和島静雄/〇折原臨也

2/3 【虚構推理】
〇岩永琴子/〇桜川九郎/●弓原紗季

0/2 【ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島】
●ビルド/●シドー

1/1 【ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
○ヴァイオレット・エヴァーガーデン


【残り29人】

まとめウィキ: ttps://w.atwiki.jp/kyogokurowa/
避難所:ttps://jbbs.shitaraba.net/anime/11085/

2 ◆qvpO8h8YTg:2024/02/04(日) 21:48:00 ID:KDm6eFsc0
【基本ルール】

参加者全員が、最後の一人になるまで互いに殺し合い続ける。
優勝者はどんな願いも叶える事ができる。
参加者間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、参加者は会場内にランダムで配置される。
ゲーム開始から72時間経過した場合、勝者なしゲームオーバー(参加者全員死亡)となる。


【スタート時の持ち物】

全ての参加者にデイパックが支給される。
デイパックにはゲームのルールブック、参加者名簿、腕時計、懐中電灯、地図、最低限の水及び食料が入っている。
上記基本支給品の他にランダムの支給品3つが支給されている。
袋に入れられる物の数及びサイズに制限はない。


【侵入禁止エリアについて】

放送で主催者が指定したエリアが侵入禁止エリアとなる。
放送度に禁止エリアは計3マス指定される。
参加者が禁止エリアに入って一定以上の時間が経てば、首輪は爆発する。


【放送と時間表記について】

0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が侵入禁止エリア、死亡者、残り人数の発表を行う。
禁止エリアは放送度に計3マス指定される。

※本編は0:00スタート。


【状態表】

投下した作品の最後につける状態表は下記の形式で

【エリア/場所/経過日数/時間】

【キャラクター名@作品名】
[状態]:
[服装]:
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:
1:
2:
3:
[備考]


時間帯の表記について
 状態表に書く時間帯は、下記の表から当てはめる。

 深夜:0〜2時 / 黎明:2〜4時 / 早朝:4〜6時 / 朝:6〜8時 / 午前:8〜10時 / 昼:10〜12時
 日中:12〜14時 / 午後:14〜16時 / 夕方:16〜18時 / 夜:18〜20時 / 夜中:20〜22時 / 真夜中:22〜24時


死亡したキャラが出た場合は以下の通りに表記する
【参加者名@作品名】死亡

3 ◆qvpO8h8YTg:2024/02/04(日) 21:48:28 ID:KDm6eFsc0
【作品別の参加者・支給品の制限】
◆ 全作品共通
基本的に首輪が爆発すると、どの参加者も死亡するものとする。

◆ テイルズオブベルセリア
参加者の業魔化はなし
ベルセリア以外の作品の参加者から聖隷は視認可能

◆ うたわれるもの二人の白皇
仮面の本人支給は問題なし(支給品枠扱い)
仮面による能力は使用可能。但し、仮面の能力による広範囲攻撃には制限。及び能力使用時の負担は増大されている。
仮面による変身は禁止。
クオンに宿るウィツァルネミテアの力はある程度制限

◆ ダーウィンズゲーム
出典はアニメ最終話までとする
スマホがなくてもシギルの発動は可能
カナメのヒノカグツチについて、首輪の増殖は不可

◆ 東方Project
弾幕生成・能力使用など霊力を消費するものは同時に体力消耗
翼や補助道具なしでは空は飛べない
飛行は上昇するほど体力消耗
範囲攻撃及び魔法についてはある程度制限
咲夜の時止め能力については、最長10秒。連続使用は不可
鈴仙の能力について、『狂気』を操ることは不可

◆ 鬼滅の刃
アニメ化されていない漫画内の時系列からのキャラクターの参戦及び支給品の支給品も可能とする
無惨による鬼への呪いは無効化されている

◆ 緋弾のアリアAA
特に制限なし

◆ 乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった……
特に制限なし

◆ Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-
アリアの調律なしでカタルシスエフェクトの発現可能
カタルシスエフェクトの物理干渉あり

◆ ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風
スタンドは一般人から視認可能
スタンドの矢の支給は禁止
スタンドによる能力効果は本体からある程度離れると解除
スタンド能力による首輪干渉不可
ジョルノについてはレクイエム発現以前からの参戦とする

◆ とある魔術の禁書目録
特に制限なし

◆ 響け!ユーフォニアム
特に制限なし

◆ 新ゲッターロボ
ゲッターロボの支給は禁止
清明の鬼召喚は禁止
清明の変身は禁止

◆ デュラララ!!
特に制限なし

◆ 虚構推理
九郎の能力について、首輪の爆破による死亡は即死とする。
四肢の切断などの瀕死、重症の状態であれば、損傷に応じ時間をかけ再生可能。
鋼人七瀬の支給は禁止


◆ ドラゴンクエスト ビルダーズ2 -破壊神シドーとからっぽの島
ハンマーでの首輪破壊は不可
シドーについて、破壊神シドーでの参戦は不可

◆ ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン
特に制限なし


【書き手ルール】
キャラの予約に関しては、当該掲示板にて表明ください。
作品投稿については、当該掲示板に投下ください。
予約期限は基本的に二週間とする。
尚、当企画にて5回以上投下された書き手様にのみ、
2週間の延長を受け付けます。

残酷表現に関しては原則的にそれぞれの作者の裁量に委ねる。
性的描写に関してはR-18に抵触するような詳細な描写は禁止。

4 ◆qvpO8h8YTg:2024/02/04(日) 21:49:48 ID:KDm6eFsc0
2スレ目を立てましたので、今後はこちらに予約及び投下いただければと存じます。

5 ◆ZbV3TMNKJw:2024/02/25(日) 22:53:26 ID:UCpXiW1w0
新スレ立て乙です
琵琶坂、ベルベットを予約します

6 ◆ZbV3TMNKJw:2024/03/06(水) 23:09:36 ID:jBlatneE0
投下します

71/3の純情な感情 ◆ZbV3TMNKJw:2024/03/06(水) 23:11:05 ID:jBlatneE0
シ ャ ア ア ア ア ア ァ ァ ァ ァ ァ

シャワーのヘッドから流れ出る湯が全身を温め、こびりついた血や垢も落とし清めていく。
彼女、ベルベット・クラウは気持ちいい、とシンプルに思う。
顔に湯が掛かれば、目を閉じて顔を顰めつつもその一滴一滴を心地よく感じ。
たわわに実った果実から爪先までもが温もりに包まれ。
地に放たれた湯から立ち昇る湯気に、鼻腔をくすぐられながら深呼吸して肺いっぱいに満たし。
そして頭から湯を被り、長い髪の先までをも濡らし、備え付けのシャンプーを手に擦り付け泡立てると、その泡で髪を洗い始める。

もこもこもこ

シャンプーの泡がベルベットの頭を包み込む。
その感触の心地よさに思わず鼻歌の一つでも歌いたくなるような気分になる。
シャンプーを流すと、長年のしかかっていたような錘から解き放たれたような気分にすらなる。
髪の次は全身だ。
持ち込んだタオルに石鹸を着け、わしゃわしゃと揉みしだき泡立てると、首から順に拭っていく。
肩。腕。脇の下。胸。腹部。臀部。脚。全身を余すことなく泡で包めばそれだけで充足感が湧いてくる。
そのまましばし待機し、泡を全身で堪能。程なくして洗い流せば汗や血、垢と共に疲れも流れていくようなそんな感覚すら覚えてしまう。
傷はさすがに埋まらないが、それでも全身が綺麗になればシャワーを浴びる前とは見違えるほどスッキリした気分になれるのだ。

「あー......生き返る」

浴槽に浸かり、手足を思いっきり伸ばして息を吐けば自然とその言葉が出てくる。
体中に染み渡る熱を感じつつ、ベルベットはその肢体をゆっくりと沈ませていった。

「ふぅ〜〜〜...」

思わずため息にも似た吐息が漏れる。吐瀉物や汗を落とすために急遽入った風呂だったが、思えば、こんなにゆっくり風呂に入るなどいつ以来だったか。
アルトリウスに左腕を切られ、監獄島に堕ちてから、寝る時以外はずっと戦い喰らい続けてきた。そもそもロクな入浴施設が無かったのもそうだが、何よりも強くなるため。強くなりアルトリウスを殺すため。ただそれだけを考える三年間で、今までのような人間らしい行為なんて忘れていた。

と、感慨にふけっていると、ふと思い出す。

(...そういえば、私の臭いってどんなだったのかしら)

この世界が虚構であり、自身もまた本物ではないかもしれない、というのはわかっている。しかし、μが「三年間、ロクに風呂にも入らず血みどろなまま過ごした人間」をそっくりそのまま細部まで再現している可能性もある。
体臭というものは自分ではわからないことが多い。もしもμが臭いまで再現していたらとなるとゾッとしてしまう。

(...大丈夫よね?臭くないわよね?麦野たちも特に何も言ってなかったし...)

夾竹桃はともかく麦野であれば喧嘩腰に臭いについて言及があるはずだ。それが無かったということは決して気になる臭いではなかったということだ。
そう思いつつも、一度気になってしまえばついてまわるのは乙女の本能か。
すんすんと鼻を鳴らしてみるが、やはり不安にかられてしまう。

(...もう少し浸かろう)

いま何分くらい入ったかはさておき、ベルベットはそのまま湯船に顔までつかりぶくぶくと泡を吐くのだった。

81/3の純情な感情 ◆ZbV3TMNKJw:2024/03/06(水) 23:11:58 ID:jBlatneE0


「...遅せぇ」

琵琶坂は苛立ちと貧乏ゆすりをしながら椅子に腰掛けていた。
ベルベットと共にテレビ局に着くなり提案したのは身体の洗浄だった。
疲れが溜まっているのもそうだが、それ以上にベルベットが吐いた吐瀉物の臭いが気になって仕方なかった。プライドの高い琵琶坂からしてみればそれが耐え難く、彼女から先に入らせ、自身はボロボロになった服の代わりを探していた。ベルベットをシャワー室に向かわせ、程なくして見つけたのは衣装部屋だった。
そこにはなんと参加者分の全ての替えの衣装が用意されていた。
この殺し合いの舞台はμの作ったメビウスだ。アレなら替えの衣装の用意くらいは容易いだろうが、それにしてもなぜテレビ局に集めているのだろうか、思考を巡らせる。

(この殺し合いでの俺たちは偽物らしいが...まさか、そいつらのコスプレ用か?)

テレビ局と衣装の関連性をこじつけるなら、誰ともわからない偽物たちが本来の姿で訪れた時、この衣装を着て成りきる為か。
そこまで考えたところでどうでもいいかと切り捨て、目当てのものだけを手に、落ち合う予定だった食堂で待機。しかし、ベルベットが入ってから三十分は経過したというのに未だにやってこない。

「制限時間もあるのに呑気な奴だな...」

琵琶坂は溜め息を吐かずにはいられない。ベルベットの長風呂もそうだが、自分も早くシャワーを浴びてスッキリしたいのだ。殴り込みをかけてもいいのだが、相手もただの雑魚じゃない。こんなところで無駄な消耗はしたくないため、大人しく待機しているのだ。

それからさらに十分ほど経過して、ようやく風呂から上がってきたベルベットがやってきた。

「待たせて悪かったわね」
「そう思うならもっと早く出てくれ」

気だるげに立ち上がり、ベルベットの横を通り過ぎようとする琵琶坂だが、肩を掴まれて立ち止まる。

「...なんだ?」
「ねぇ、私、変な臭いしない?」

思わぬ問いかけに琵琶坂は「はぁ?」とつい漏らしてしまう。
それもそのはず。つい先程まで暴君の如き振る舞っていた女が、今は恥じらい隠せぬ乙女のようなことを言い出すのだから。

(まさか臭いを気にして長風呂してたのか...?)
「ねえ、どうなのよ」
「...特に変な臭いはしないさ。もう充分だろ?」
「ええ。それならよかった」
「それと、向こうに衣装部屋があった。そのボロ切れだと見苦しいから、なにか着てくるといい」
「助かる」

衣装部屋へと向かっていくベルベットの背中を見ながら、本当に人が変わったようだと思う。
魔王と自称していた時より威厳が消えたというか憑き物が落ちたというか。つい先程まで暴れるしかなかった脳筋の暴君とは思えないほどの変貌ぶりだ。

(まあ邪魔にならなければなんでもいいさ。どのみち、優勝するんならいずれは殺すし、そうでないにしても二度と会うこともないしな)

琵琶坂永至は組んだ相手に情を抱くことは決してない。用が済めばすぐに関係を断ち、あるいは排除して、繋がりを消すことで己の本性を世間からひた隠し欲望を振るう。それはこの場でも、どんな相手でも変わらない。

91/3の純情な感情 ◆ZbV3TMNKJw:2024/03/06(水) 23:13:42 ID:jBlatneE0


シ ャ ア ア ア ア ア ァ ァ ァ ァ ァ


シャワーのヘッドから流れ出る湯が全身を温め、こびりついた血や垢も落とし清めていく。
彼、琵琶坂永至は気持ちいい、とシンプルに思う。
思えばここまでロクな目に遭わなかった。
非力だった少女に氷で頬を裂かれ。巨大な鳥にタップダンスを踏まれ。クソメイドにナイフを突き立てられ。珍妙な陰陽師に身体を焼かれ。魔王のビームによる襲撃に遭い。暴走する馬鹿に飽きるほど殴り飛ばされ。
そんな溜まりに溜まった鬱憤も、シャワーを浴びているこの時ばかりは和らいだ。
シャンプーで髪を洗い、石鹸で全身を泡で包めば、血も臭いも全てが洗い流されていき、爽快という2文字では表せられないほどに気持ちが和らぐ。
これで風呂が一人分の浴槽ではなく、旅館のような温泉であれば更に良かったのだが。

琵琶坂はメビウスの都合上、学生の姿をしているものの、実年齢は三十四歳。世間的に言えばまだ若いものの、直に中年の領域に入る。風呂に酒の一つでも持ち込みたいと思ったが、流石に殺し合いという状況の中でそんなことをするほど愚かではない。身体が温まり、ほどほどに気も安らぐと、風呂からあがり、身体をしっかり拭いて衣服を身に纏う。
そして、食堂に向かうと、鼻腔に届くのは食欲を誘う香りだった。
不思議に思いながらもそのまま足を進めれば、下着のシャツの上からエプロンをかけたベルベットが台所に立っていた。

101/3の純情な感情 ◆ZbV3TMNKJw:2024/03/06(水) 23:17:14 ID:jBlatneE0
「ちょうどいいわね。もう少しでできるから」
「...なにをやってるんだ?」
「見ればわかるでしょ。料理よ、料理。あんたもお腹空いてるでしょ」

ベルベットの手元にはおたまが、目の前には鍋が煮えたぎっており、そこからは香ばしい臭いが漂っていた。
クリームシチュー。
殺し合いの舞台であるテレビ局の中で、その料理が出てくるというのはなんともミスマッチな光景だ。
ただ、食欲という欲求には逆らえず、琵琶坂の腹は早く寄越せと音を鳴らす。

「...毒でも入れたか?」
「入れるわけないでしょ。あんた、私をなんだと思ってるの。...こんなものでいいかしら」
ベルベットは呆れながら鍋の中身を皿によそい、テーブルに置くと、琵琶坂も席に着く。
そして、スプーンを手に取りシチューを口に運ぶ。

「!こ、こいつは...」

美味い。思わずそう漏らしてしまうほどに。
殺し合いの場であることを忘れてしまいそうになるほど美味かった。
ルウの味が舌の上で溶けるように広がり、そこに野菜や肉の旨みが染み渡る。
具材も小さく切られており、変に舌や歯に挟まることもなく胃に収めることができる。そのおかげで一つまた一つと食べる手が止まらない。

111/3の純情な感情 ◆ZbV3TMNKJw:2024/03/06(水) 23:18:36 ID:jBlatneE0
「で、どう?味は?」
「...悪くないんじゃないか」

強がるようにそう答えるが、未だに止まらないスプーンで本心は誤魔化せない。

「そ。ならよかった」

微笑みをこぼすベルベット。基が顔立ちの整っている彼女の微笑みだ。側から見ればそれは大層な美女として映るだろう。これまでの言動を知らなければ。

(...なんだこいつ。俺に取り入ろうとしてるのか?)

琵琶坂はベルベットを訝しむが、しかしすぐに「ないな」と改める。
もしもこれが帰宅部の頭の軽そうな女どもであればそういう可能性も無きにしもあらずだったろう。
しかし、ベルベットは帰宅部連中のような後ろ向きのダメ人間ではない。暴君、百歩譲っても荒れ狂うゴリラだ。そんな彼女に微笑まれようが、琵琶坂の心は微塵も寄らない。もとから他者に寄せる心なんてものは持ち合わせていないが。

そして琵琶坂の考えは概ね当たっていて。

(よかった...久々に作ってみたけど案外忘れてないものね)

ベルベットは琵琶坂のために料理をしていたのではない。


ベルベットは喰魔になった影響で、味覚が殆ど死んでいた。何を食べても無味であり、不味でもなければ美味くもない。そんな中で味見もせずにかつての味を再現できるか不安だった。しかし、その心配は杞憂だったようだ。
そして本当に食べてもらいたいのは琵琶坂ではなく、『ライフィセット』。弟と同じ名前を冠する彼のためだった。

(...おかしな話ね。これから殺そうとする相手に喜んでもらいたいだなんて)

彼は最終的には殺す。それは変わらない。そうしなければ願いを果たせないからだ。けれどもう、彼に対しての憎悪や怒りなどない。戦う前に一度、向き合って話したい。記憶だけではなく、互いのことをもっと解りあいたい。だからか、柄にもなく変な臭いがしないか気になったり、手料理を食べてもらいたいなどと変に色気づいたりしたくなった。

(ふふっ、魔王なんてものになったせいでイカれちゃったのかしら)

思わず笑みを溢すと、琵琶坂が怪訝な目を向けてくるのを感じ取った。
ベルベット自身、己の変わりように驚きもした。けれど忌避感はなく受け入れられてるのは、吹っ切れて心が軽くなったからだろうか、それともーーー

121/3の純情な感情 ◆ZbV3TMNKJw:2024/03/06(水) 23:20:06 ID:jBlatneE0


食事を終えた二人は、これからの方針を決めるーーーはずだったのだが。

「私たちで話し合うことなんてある?」
「そりゃ...あー、いや、ないな」

琵琶坂にしてもベルベットにしても、ここまできたからには狙うは優勝であり、最終的には殺し合う間柄だ。
故に、互いに信頼など一切置けず、他の連中のように背中を預け合って戦うなんてこともできるはずもない。組んでいるメリットとしては相手にする人数を分散するくらいのもので、それについても特別に策があるわけでもない。

「これでよし、と」

『1階・ベルベット・クラウ 2階・琵琶坂永至』
テレビ局の入り口に貼られた紙にはそう書かれていた。非常にシンプルな案内ではあるが、これで互いに背中から撃たれることもなく、且つ敵の戦力を分散させることができる。
仮に一方に戦力を集中させようとしても、敵はかえってもう一人の背後からの奇襲に気を割かなければならなくなるため、それはそれで都合もいい。

そして、ここがテレビ局だということは、移動する必要もないということでもある。

「えーと、このメガホン?ってやつに向けて話せばいいのね」
「ああ。たぶん、それでここら一帯くらいには響くんじゃないか?」

ベルベットが手に持つのは、大型メガホン。
テレビの機材として置かれていたそれを見て、使い方を知るなり彼女はこう考えた。

これで相手に呼び掛ければ会いやすくなるんじゃないかと。


琵琶坂からしても、以前までならいざ知らず、今はゲッターの恩恵を得ているため、大概の相手が脅威ではない。故に、面倒な相手、特にメアリのようなやつらとはさっさと決着を着けられるならそれでいいと同意した。

そして、ベルベットがメガホンに声を吹き込めば、周囲にその声が響き渡った。

『あー、あー。ちゃんと響いてるわよねこれ...まあいいわ。いま私たちはテレビ局にいる。ベルベット・クラウと琵琶坂永至、この二人に用がある奴らは今すぐここに来い!』

131/3の純情な感情 ◆ZbV3TMNKJw:2024/03/06(水) 23:21:35 ID:jBlatneE0
【一日目/夜中/Hー5・テレビ局】

【ベルベット・クラウ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、????を注入された。気分スッキリ。
[服装]:いつもの服装 (新品)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:復讐を果たす。私のやりたいことはソレだ。
0:テレビ局で他の参加者を待ち受ける。
1:琵琶坂永至、信用ならないが利用する。
2:会いたい...ライフィセット
3:『ゲッター』は邪魔をするなら排除する。
[備考]
※牢獄でのオスカー戦後からの参戦です
※3人でアイテムを結成しました
※恐らく『絶対能力者』へ到達しました。恐らく『その先』にも到達する可能性があります。
※夾竹桃の知っている【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。

※複合能力 『災禍顕現』を習得しました。本人の拡大解釈を以て穢れを様々な形として行使できる能力です。
...が、本人が魔王になるつもりがないので出力は大幅に下がっています。


【琵琶坂永至@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:◆◆化、顔に傷、全身にダメージ(大)、疲労(大)、背中に複数の刺し傷、左足の甲に刺し傷、ゲッター線による火への耐性強化、火傷(中)、痣@鬼滅の刃
[服装]:普段の服装(新品)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1、ゲッター炉心@新ゲッターロボ、絹旗の首輪
[思考]
基本:優勝してさっさと元の世界に戻りたい……つもりだったが……
0:俺の邪魔となるやつは全員潰せばいい。利用できるやつはとことん利用してやる 。ひとまずテレビ局で他の参加者を待つ。
1:ベルベットと組み、他の参加者を潰してまわる。ひとまずは休憩か。
2:あいつ(流竜馬)は許さない、が、関わりたくもない。頼むからどこかで勝手にくたばってろ。
3:あのクソメイド(咲夜)も殺す。...そういえばさっき居たな...殺しそびれたな...まあいいか
4:他の帰宅部や楽士に関しては保留
5:他に利用できそうなカモをがいればそいつを利用する
6:クソメイドの能力への対処方法を考えておく
[備考]
※帰宅部を追放された後からの参戦です
※ゲッターに選ばれました。何処まで強化されたかは後続の書き手にお任せします。

14 ◆ZbV3TMNKJw:2024/03/06(水) 23:21:54 ID:jBlatneE0
投下終了です

15 ◆qvpO8h8YTg:2024/03/10(日) 00:04:53 ID:rn/2uP0U0
岩永琴子、黄前久美子、高坂麗奈、ロクロウ・ランゲツ、間宮あかり、オシュトル、ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン、折原臨也、クオン、東風谷早苗、カナメ、ウィキッド、ヴライ予約します。

16 ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:29:16 ID:ZrR6y5mk0
予約延長しますが、まずは前編投下します

17戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:30:02 ID:ZrR6y5mk0


「――ナメ……カナメ……」

暗がりの中、俺の名前を呼ぶ声がする。
聞き慣れた――しかし、どこか懐かしさも感じさせる声。
その正体を確認すべく、俺は声のする方向に顔を向けた。

「――ナメ……」

目を凝らせば、かなり離れた所から、必死にこちらに呼びかけている人影があった。

「……シュカ……?」

深紅のドレスに、ブロンドのツインテールを揺らしながら、懸命に声を上げるその姿を認めて、俺はアイツの名前を心中で呟いた。

遠目であるが、見間違うはずもない――。
ひょんなことから巻き込まれたDゲームというクソゲームで、一度は交戦して殺されかけて、その後は「家族を作ってほしいの」などと誤解を招かねない誘い文句で、思春期真っ只中のこちらをドキリとさせてからは、行動を共にするようになった女の子、シュカだ。
クラン「サンセットレーベンズ」を結成してからも、常に傍にいて俺の戦いを支えてくれた相棒のような存在は、懸命に何かを伝えようとしているが、闇の奥に吸い込まれるように遠のいていく。

「――行くな、シュカっ……!!」

ここでアイツを見失ってしまっては、もう二度と会えない気がする。
そんな焦燥に駆られながら、必死に手を伸ばすも、シュカの姿も、シュカが発する声も、消えていく――。

「シュカぁあああああああああああっーーー!!!」

そう叫んだ瞬間、視界が一気に明転した感覚を覚えると――

「カ、カナメさんっ!?」
「随分と元気のよいお目覚かな」
「なっ……!?」

シュカとは異なる二つの声色が鼓膜を震わせ、俺の意識は現実に引き戻された。
視界に飛び込んできたのは、夜空を背景に青々と茂る木々と、此方を上から覗き込む二人の女の顔。
一人は、見覚えのない女だった。長い黒髪と―――これは、所謂獣耳ってやつか?
とにかく白く大きな毛並みの耳が特徴で、その耳をパタパタと動かして、目を細めて、こちらを優しげに見守っている。
そして、もう一人は見覚えのある顔だった。一時的に行動を共にして、学校で別れた緑髪の巫女。

「早苗――」
「うわあああああああん、カナメさん、良かったですぅー!!」
「え、あっ、おいっ……!?」

俺が名前を呼ぶのと同時に、早苗は泣きじゃくりながら、勢いよく飛びついてきたのであった。

18戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:31:15 ID:ZrR6y5mk0



「……そうですか、霊夢さんは、そのヴライって人に……」
「やっぱり、あの漢――。
オシュトルと同じくらいに、野放しするのは危険かな」

目覚めたカナメとの情報交換を通じて、病院での顛末を聞いたクオンと早苗は、神妙な面持ちで互いに顔を見合わせた。

全ては、ブチャラティが懸念した通りであった。
剛腕のヴライ――。深傷を負っていたはずのヤマト最強は、その息を吹き返して、病院一帯を、霊夢やフレンダといったカナメの同行者達諸共、その業火を以って、屠ったという。

未だ近辺を彷徨っているであろうハクとアンジュの仇の姿を脳裏に浮かべ、クオンは沸々と湧き上がる激情に拳を固める。

早苗もまた複雑な思いを胸に秘める。
無論、霊夢を殺害したというヴライに対する怒りはある。
しかし、一方で、カナメは彼女にとって到底無視できない情報を齎した。

(……咲夜さん、やはり貴女は……)

カナメ、フレンダ、霊夢を襲撃したというメイド服の少女。
幾多の参加者と接してきた早苗ではあるが、投擲用ナイフを得物とするメイドというと、咲夜をおいて他には思い当たらない。
学校エリアでの激闘において、一時的に手を組むんでいたが、彼女の目指すところが最終的に優勝ということであれば、いつか必ず対峙する時が訪れることになる。
今となっては唯一生き残っている幻想郷の知人を相手に、果たして自分はうまく立ち回ることができるのか、不安に思ってしまう。
何せ此処は、幻想郷で常日頃行われている弾幕ごっこのフィールドではなく、冷酷無慈悲な殺し合いの戦場なのだから。

「ともかく、此処でじっとはしていられないかな。
まずは、急いでブチャラティ達のところに追いつかないと……。
カナメも一緒に来てくれると嬉しいかな…」

応急処置したとはいえ、カナメが負った傷は決して軽くない。
薬師としても、この状態のカナメを放っておくことも出来ない。
故にクオンは、彼に自分達に同行するよう要請する。

19戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:32:48 ID:ZrR6y5mk0
「ああ……俺は構わないが……」

カナメとしては、学校付近に向かったというレインとの合流を目指したい気持ちもあったが、命の恩人たるクオンの誘いを無碍に断る理由もない。
そして、何より――

「そうですね、急ぎましょう、クオンさん、カナメさん。
ブチャラティさん達が、オシュトルさん達と合流してしまう前に――」
「なぁ、少し良いか? 本当に折原の奴は、そのオシュトルっていうクソ野郎と結託して、色々と暗躍しているのか?」

折原臨也――。
カナメは、遺跡にいるとされる彼と会って話をしてみたいと思っていた。
実際、カナメが臨也と接したのは、軽く情報交換をした程度の短い時間だ。
飄々として、掴みどころのない自称『情報屋』――それがカナメが臨也に対して抱いていた印象ではあったが、少なくとも、カナメの中では味方側に分類される人間であった。
しかし、クオン達から聞かされた話によると、どうにも碌でもないことを仕出かしているらしい。

「……折原さんに関しては、正直よく分かりません。
私達も直接会った訳でもないですし、あくまでも麗奈さんから聞いた話ですので……」

カナメの問いに、早苗は目を伏せて自信なさげに呟く。
人伝いに聞いた話をそのまま鵜呑みにして、他人を悪く言うつもりは、彼女にはない。
それはクオンにしても、同じだった。
彼女達が、臨也に関してカナメに齎したのは、「悪漢に手を貸しているらしい」という情報のみであり、それ以上彼に言及するつもりはなかった。

(――高坂麗奈……。 そもそも、こいつが信用できるか怪しいところだな……)

そんな二人の姿を見やりながら、カナメは、早苗達にオシュトル達の悪評を吹き込んだという少女について、思考を巡らしていた。
というのも、カナメがオシュトル達の悪評に懐疑的なのは、この少女が二人に齎した情報に不審な点があるからだ。

(遺跡に辿り着くまで、折原とウィキッドが一緒に行動していただと? 
普通に考えてありえんだろ……)

ウィキッドは、カナメ達に臨也を崖下に突き落としてやったと愉しげに語っていた。
そして、カナメ自身も、二人が交戦していたとみられる形跡を目の当たりにしている。
そんな二人が仲良く行動を共にしていたとは考え辛い。
何れにしろ、それを踏まえても、臨也に会って直接真偽を問い質したかった。

20戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:33:20 ID:ZrR6y5mk0
「――だけど、彼と一緒にいるオシュトルが、『クソ野郎』って言うのは間違いないかな。
それは、実際にあの漢と会ったことのある私と早苗が保証するよ。
自分の手を汚すことなく、平然と他人を欺いて、良いように利用して、最終的にはゴミのように切り捨てる卑劣漢――カナメも、あの漢と出会うことがあっても、彼の口車に乗らないように気を付けてほしいかな」
「あ、あぁ……」

少しの間を挟んで、臨也からオシュトルに話題が移ると、クオンは、やや昂った様子で、彼に対する悪感情を露わにして、早苗もまた確信を持った様子で、クオンに同調して頷く。
その気迫に押されるような形で、カナメもまた相槌を打つほかない。

(二人がここまで嫌悪感を露わにするってことは、相当に性根がねじ曲がった奴なんだろうが……)

オシュトルに関しては、直接会ったことはない。
故に、オシュトルの悪評自体に対して、カナメはとやかく言及するつもりもない。
けれども、ここにも、腑に落ちない点が一つある。
カナメはゲームが始まってから、ここに至るまで、オシュトルと接触した参加者三名と出会って、彼の風評を耳にしていたが、何れも彼の人格を貶めるような内容はなかった。
元々知り合いだったというクオンが語るような人物像であれば、なるほど確かに表面上は、善人であるかのように取り繕っていた可能性はある。

しかし――

「なぁ、早苗……。
そのオシュトルって奴が、どうしようもない下衆野郎だって事は理解したんだが、
どうしてそれを、前に俺と一緒にいた時に、教えてくれなかったんだ?」
「……っ!? そ、それは……」

カナメの問いに、早苗は言葉を詰まらせる。
カナメが早苗と再会する前に出会った、オシュトルを知る三人の人物――。
流竜馬に、『ブローノ・ブチャラティ』――。
そして何を隠そう早苗自身も、そこには含まれていた。
しかし、当時の彼女からは、オシュトルに対して否定的な感情は見受けられなかったのである。
カナメとしては、何故早苗が今更になって、彼への嫌悪を顕にするようなことになったのか、不思議で仕方がなかった。

21戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:33:58 ID:ZrR6y5mk0
「……怖かったからなんでしょ、早苗?」
「……クオンさん……」

言い淀む早苗に、ポンと優しく肩を叩いて、助け舟を出したクオン。
彼女の配慮に感謝を覚えつつ、早苗はコクリと頷くと、わなわなと肩を震わせながら口を開く。

「――はい、どうしても、あの人に、皆の前で糾弾されたことを思い出してしまって……。
それに、オシュトルさんは、一応殺し合いに反対する立場を取っていましたので、同じ殺し合いに反対する人達の間で、余計な不和を招きたくないとも思っていました。
だけど、クオンさんや麗奈さんの話を聞いて、やっぱりあの人は許せないと思ったんです……!!」
「そうか……」

意を決し、言葉を紡ぎ出した早苗に対して、カナメは神妙な面持ちで頷く。
成程確かに、自分と歳変わらぬ少女の気持ちを鑑みれば、理解できない話ではない。

「すまん、早苗……。
配慮に欠けた質問だったかもしれない。許してくれ」
「あ、いえ、カナメさんが謝るようなことじゃないですよ! そもそも私がもっとしっかりして、オシュトルさんの危険性を前もって伝えるべきでしたし!」

カナメが頭を下げると、早苗はあわわと慌てた様子で、手をパタパタさせながら、カナメに頭を上げるように促した。

「さて、話は纏まったようだし、この話は、ここまでにしようか。
先を急がないと、あまり猶予はなさそうかな」

カナメと早苗の会話に一区切りついたところで、クオンがぱんぱんと手を叩くと、それを皮切りとして、三人は陽の当たらない森を進み始める。
クオンと早苗は、カナメにもオシュトル一味の危険性を認知してもらえたと一安心して話を締め括ったが、その実カナメの中では、彼らの悪評に対する疑念は晴れていない。

22戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:34:20 ID:ZrR6y5mk0
(――取り敢えず、連中と遭遇することになったら、事を荒げないようにしないとな……。
出来れば、話し合いの場を持ちたいが――)

流石に一方通行の情報だけでは、オシュトル達を悪と断ずるのは早計だ。
まずは、直接その真意を問いただす必要があると、カナメは改めて気持ちを引き締め直した。

その直後。

――ピタリ

先行していた二人の足が止まった。
何事かと、カナメが前方を伺うと、自分達の進行方向に小さな崖があることに気付く。
成程、これでは迂回する他なさそうだ。

「ちっ、行き止まりか。面倒だが、ここは回り道をして――」
「……見つけた……」
「うん、何だって、クオン?」

舌打ちしながら、カナメが迂回路を探しに踵を返そうとした矢先、クオンはぽつりと呟いた。
カナメが訝しげに振り返ると、クオンと早苗は崖下の一点を凝視していた。
早苗は肩をわなわなと震わせて、その眼は大きく見開かれている。

「早苗……?」

カナメは、只ならぬ様子の彼女に呼び掛けた。
しかし、カナメの呼び声は届いていないのか、早苗は依然として崖の下を凝視し続けていた。
彼女の視線の先に何があるのかと、カナメも崖下を覗き込む。
そして気付く――崖下の開けた獣道を横断する三つの人影に。
その三つの影の一つに、カナメは覚えがあった。

「あれは、おりh「オシュトル...!」
「あっおい、クオン!」

カナメが折原臨也の存在を認知したその瞬間、クオンは地を蹴り上げ、猛然と崖下へと駆け出すのであった。

23戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:35:03 ID:ZrR6y5mk0



「どうやら、オシュトル達は、どこかに行っちまったみてえだな」

ロクロウが案内する形で、久美子達が遺跡のコンピュータルームに到着したのは、ドッピオがブチャラティ達追跡のため、同施設を発った数刻後のことであった。
ロクロウや麗奈にとっては、再訪という形になるため、遺跡内でも特に迷うことはなく、一直線に辿り着くことは出来た。
しかし、そこにいたはずのオシュトル達の姿もなく、おまけに主催者側のサーバにハッキングしたというコンピュータも既に電源は切られていた。

「オシュトルさん達が向かった場所に、心当たりは?」

麗奈はロクロウに問い質すが、彼は肩をすくめてみせた。
これでは、琴子達に『レポート』の内容の証左を提示できないと、麗奈は歯噛みする。
久美子もまた意気消沈したような表情を見せる。

(徒に他の参加者に情報が流失することを防止しましたか……。
こういうところに抜け目がないのは、こちらとしても都合が良いですね)

そんな二人を他所に、琴子は先まで此処を拠点にしていたというオシュトル達について、思考を巡らす。
聞くところによれば、『レポート』とやらには、参加者の『覚醒』事象に関連付いた形で、会場内で起こった様々な情報が含まれているとのこと。
そういった情報量の差は、この生存競争において、他の参加者達に対してアドバンテージにもなりえるし、いざとなれば、交渉材料にも利用できる。
故に、レポートを開示したままの状態にしておらず、情報の垂れ流しをシャットダウンを行ったのは賢明な判断と言える。
今後のことを考えると、今追っているグループが、そういった理知的な判断を下せる参加者達であれば、願ったり叶ったりだ。
理知的であればあるほど、久美子達の計画を否定する際に、此方側に賛同する流れを作りやすいからだ。

24戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:35:55 ID:ZrR6y5mk0
(しかし、問題は“彼女”の方ですね)

琴子が後ろを振り返ると、そこには彼女を乗せる車椅子の手押しハンドルを握り、棒立ちして、虚な表情を浮かべるおんぼろの少女がいた。

「――あかりさん、大丈夫ですか?」
「……。」
「あかりさん?」
「……はい?」
「いえ、ボーっとしていらしたので」

琴子に顔を覗き込まれ、あかりはハッとなる。

「あっ、岩永さん、すみません! 私の方は大丈夫です……」
「そうですか……。
お手数お掛けしている私が言える立場ではないかもしれませんが、あまりご無理はなさらずに……」
「はい、ありがとうございます!」

琴子からの心遣いに、笑顔を返すあかり。
しかし、その取り繕うような笑顔から、まだ内に抱える「傷」と「迷い」が払拭できていないことは容易に察せられた。
傷心中のあかりには、麗奈達が掲げる理想(けいかく)は、ある種の希望のように映るのかもしれない。
彼女の動向にも改めて注視する必要があるだろう。

(――はぁ…、九郎先輩は一体どこにいるんでしょうか……)

いくら『知恵の神』として魑魅魍魎から崇めらているとて、岩永琴子は決して万能の存在ではない。
度重なる死線に、選択肢を誤れば生命を失いかねない駆け引き、秩序を揺るがしかねない久美子達の計画、心身不安定なあかりの監視、遺跡に先行したのを最後に行方知れずとなった『ブローノ・ブチャラティ』を騙る青年――。
幾多の問題を抱えることで、琴子の心労もまた蓄積されていく。

こういう時だからこそ、心を通わせた恋人とスキンシップでも取れれば、少しは癒されるのだが……。
と、心の中で嘆息しながら、琴子は行き先不安な現状について思考するのであった。

25戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:36:16 ID:ZrR6y5mk0



ズン ズン ズン

己が宿敵に擬態した鬼の首魁との邂逅の後、ヤマト最強とうたわれた漢は、進行方向をただ一点――大いなる父の遺跡に定めて、歩を刻み続けていた。
オスカー・ドラゴニア、鈴仙・優曇華院・イナバ、鎧塚みぞれ、ヒイラギイチロウ、アンジュ、安倍晴明、天本彩声、平和島静雄、レイン、シドー、ブローノ・ブチャラティ、十六夜咲夜、博麗霊夢、カナメ、フレンダ=セイヴェルン、鬼舞辻無惨――幾世の強者達と、幾度となく繰り広げられた激闘。
その爪痕は、鍛え抜かれた鋼が如き巨躰に、幾重にも刻み込まれている。

傍から見れば、満身創痍――。
しかし、どの傷をとってみても、ヴライの猛火の如き闘志を削ぐには、至らず。
待ち受けるであろう宿敵との死闘を渇望し、己が闘気を昂らせ。
深紅の双眸は爛々と燃え盛り、宵の空気を無理矢理に引き裂いて、漢はひたすらに突き進むのであった。

26戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:36:56 ID:ZrR6y5mk0


麗奈をはじめとした『覚醒者』達の確保を目標に、遺跡を発ったオシュトル、臨也、ヴァイオレットの三名。
そんな彼らの前に、影が一つ降り立ったのは、ひたすらに下っていた山道の傾斜が平らになって一刻ほど経過した頃合いだった。

夜天の闇が包み込む背景とコントラストを演出するかのような白き装束を身に纏まった一人の少女――。
着地するや否や、少女は面をゆっくりと上げて、黄玉色の眼光を煌めかせて、一同を睨みつける。
そして、その面貌は、オシュトルが良く知るものであった。

「……っ!? クオン、その格好は!?」

探し求めていた仲間との再会――本来であれば、喜ぶべき場面ではある。
しかし、オシュトルは、眼前のクオンの様相に驚きを隠せなかった。
クオンが纏うその白装束は、忘れるはずもない。
それは、かつてエンナカムイに来訪し、その破天荒な言動を以って、オシュトル達を困惑させた挙句、災害の如く暴れ回ったトゥスクル皇女のものであった。
彼女の拳によって、奥歯をへし折られてしまった際の痛覚を、オシュトルは鮮明に記憶している。

「ヤマト右近衛大将、オシュトル……。汝に問う――」

そして、眼前のクオンは、あの時の皇女を想起させる声色と威圧感を以て、言葉を紡いでいく。
その威風堂々且つ気品を兼ね備えた佇まいは、紛れもなく、あの皇女を彷彿とさせている。

「汝は、何故己が友を……!! ハクを、切り捨てたのだッ!?」
「…何っ!?」

クオンからの予想だにしない問い掛けに、オシュトルは目を見開く。
ヴライとの戦闘に巻き込まれた折り、オシュトルはハクを護りきること叶わず、彼は命を落としてしまった――それがクオンに告げたハクの死の全容だ。
それが何故今になって、オシュトルがハクを切り捨てたなどという、あらぬ嫌疑をかけられた上で、追求される羽目になるのかと、オシュトルは内心で訝しむも-――

「答えよ、オシュトル!!」

クオンから放たれる尋常ならざる気迫に、問いに答えずにはいられないと結論付ける。

27戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:38:02 ID:ZrR6y5mk0
「……クオン殿、奴の死については、先にも言った通りだ。
奴は某とヴライ――仮面の者(アクルトゥルカ)の戦いに巻き込まれて、死んだのだ……。
それ以上でも、以下でもな――」
「惚けるなぁッ!!」

瞬間、クオンは殺気を迸らせ、地を蹴り、オシュトルの元へと肉薄する。
そのまま、拳を握り込むと、クオンはオシュトルの顔面へと殴りかかった。
豪速の拳をオシュトルは寸前で鉄扇で防ぐが、その威力は凄まじく、轟音と共にオシュトルの身体が宙を舞い、後方に吹き飛ばされた。

「ぐっ!? クオンっ!?」

何とか空中で体勢を整えて着地すると、オシュトルは驚愕を表情に張りつけ、クオンを見やる。

「卑劣で狡猾な汝のこと……。
大方、汝がこの殺し合いで、たくさんの人を欺き、利用し、使い捨てにしてきたように、ハクのことも捨て石にしたのだろうッ!!」
「な、何を言っている、クオン――」
「汝のような俗物を、皆のところに還す訳にはいかぬ…!!
ここで朽ち果てよ、オシュトルッ!!」

謂れなき罪に糾弾されるオシュトルは、弁明せんと言葉を探すも、クオンは聞く耳を持たずに、再びオシュトルの元へと肉薄し、拳を振り下ろす。

ガ キ ン!

何とか鉄扇でそれを防いだものの、クオンはその場で身体を捻らせ、回転蹴りをオシュトルの腹部に叩き込む。

「ぐはっ!?」

風を切る音ともに放たれた蹴撃は、オシュトルの腹部を抉るように命中し、オシュトルを後方へと吹き飛ばし、その身体は二度三度と地面をバウンドさせられる。

28戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:38:45 ID:ZrR6y5mk0
「がはっ……! く、クオン殿……一体何があったというのだ……!?」

吐血した口元を拭いながら、オシュトルは立ち上がる。
クオンは、オシュトルの構える鉄線に視線を落とす。

「――それに、その鉄扇……。
ハクを模倣して、悪事を重ねるとは、何事かッ!!」

クオンは、燃え上がる憎悪を瞳に宿して、再びオシュトルの元へと駆ける。

「くっ……!!」

休む暇与えぬ程のスピードで連撃を繰り出していくクオン。
オシュトルは鉄扇を振るい、クオンの繰り出す猛攻を捌かんとするも、ウィツァルネミテアの天子の拳はあまりにも重く、オシュトルの身体は大きく仰け反っていく。
防戦一方。それに加えて、オシュトル自身にはクオンに危害を加える意思はない。
このままいけば、オシュトルが撲殺されるのは、火を見るよりも明らかだ。

だが――

ヒ ュ ン!!

風を裂く音とともに、銀色に煌く一筋の閃光がクオンに迫り、クオンは後退してその一撃を回避すると、オシュトルへの猛撃は断ち切られる。
そして、両者の間に金色の影が割り込み、オシュトルを庇うようにしてクオンの前に立ちはだかる。

「オシュトル様、お下がりを……」
「へぇ、彼女がオシュトルさんが言っていた亜人――人間もどきってやつかい?
なるほどねぇ、確かに耳とか尻尾は獣っぽいけど、その他の部分は人間に似ているかもだね」
「ヴァイオレット殿、臨也殿…!!」

前方で表情を崩すことなく手斧を構えるヴァイオレットに、後方でニタリと笑いながらナイフを突き立てる臨也。
当事者間で何やら訳ありと考え、当初は、敢えて俯瞰に徹していた二人であったが、流石にこれ以上の暴挙を見過ごすことはできないと、オシュトルへの加勢を決めたのである。

「――オシュトルに利用されている哀れな女と、オシュトルと共謀する悪漢か……。
成程、今はこの者たちが汝にとって、都合の良い駒ということか――」

クオンは忌々しげに、二人を交互に見やると再度オシュトルに向き直る。

「この者たちの状態を見れば、容易に察せられる……。
汝が、言葉巧みに他人を操り、己が手を汚さず、邪魔者を排除していたことくらいは……」
「……な、何を言っている?」

ドレスがボロボロになり、所々に血が滲み染みているヴァイオレット。
ヴァイオレットほどの損傷はないが、それでも右拳を赤黒く腫らしている臨也。
どちらもこの殺し合いにおいて、命のやり取りを行ったものの証左として、その躰に痛々しく刻まれている。
それに比べてオシュトルはどうだろうか――。
身に纏う服に汚れや傷みこそあれど、クオンが負わした叩き込んだもの以外に、特に目立ったダメージは見受けられない。

まさに、クオン達が懸念していた卑劣漢オシュトルの実態を、如実に表している光景がそこにはあったのだ。

29戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:39:19 ID:ZrR6y5mk0
「そして、利用するだけ利用して、最後は使い捨てるつもりなのだろうな?
ハクのようにッ…!!」
「それは違う。クオン殿、某の話を――」
「黙れッ!!」

最早語る言葉などないと判断したクオンは、地を蹴り上げ、再びオシュトルとの距離を詰める。
再び風を裂く音が聞こえたかと思うと、飛来したナイフを素手で掴み取る。
その隙に、ヴァイオレットがクオンに肉薄する。

「クオン様、まずは落ち着いてくださいませ」

ヴァイオレットは、クオンの足元を掬うように足払いを仕掛けるが、クオンはそれをジャンプで躱す。

「邪魔を――-」
「……っ!?」

そのまま空中で身体を捻ると、勢いそのまま踵をヴァイオレットの顔面に叩き込まんとする。

「するなぁあああッーー!!」

咄嗟に己が義手を眼前で交差させ、直撃こそ免れたが、それでも衝撃は殺しきれずに、ヴァイオレットの華奢な躰は地面に叩きつけられる。
忽ち背中で受け身を取り、身体のバネを使って起き上がるが、その麗しい顔面目掛けて、クオンが、回転蹴りを繰り出さんとする。

その刹那――。

ヒ ュ ン!!

今度は複数のナイフがクオンの元に殺到する。臨也による投擲だ。

「小癪なッ!!」

しかし、クオンは眉を顰めつつ、それら全てを難なく躱わす。
クオンの注意が逸れたその間、体勢を整えたヴァイオレットは、オシュトルと共に彼女を取り押さえんと、その懐に駆け込まんとする。

「――させません!!」
「「っ…!?」」

直後、天より第三者の声が響くと同時に、二人の頭上には光弾の雨が降り注いだ。
咄嗟に左右に散開するヴァイオレットとオシュトル。どうにか直撃を免れて事なきを得る。二人が、土煙が漂う中を掻い潜り、視界が明らかになった頃、今度は後方から数多の衝突音が木霊した。

30戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:39:48 ID:ZrR6y5mk0
「臨也様っ……!?」

先程まで後方から援護攻撃に務めていた臨也がいた場所は、一際大きな土埃に覆われて何も見えず、彼の安否を窺い知ることが出来ない。
一体何が起きた―――そんな疑問とともに、オシュトルとヴァイオレットは光弾の元たる天を見上げる。
そして、そこで二人は目を見開いた。

「――早苗殿…?」
「……。」

夜天の空に佇み、得物たるお祓い棒を突き立てるような形で、此方を見下ろすのは、二人が見知った巫女であったからだ。

「すまない、早苗。助かった……」

クオンが宙に浮かぶ早苗に礼を述べると、早苗は首を左右に振って、言葉を返す。

「クオンさん、私も戦わせてください……。
オシュトルさんをこのまま野放しにしておけませんから……!!」

身体を震わせながらも、早苗は己が覚悟をクオンに告げた。
振り絞られた勇気に、クオンもまたコクリと頷き応えると、二人してオシュトルとヴァイオレットを睨みつけた。

「早苗様まで、一体どうなされたのですか!?
何故、私達が戦わねばならないのですか!?」

困惑し、声を張り上げる、ヴァイオレット。
彼女からしてみれば、クオンはともかく、早苗に自分達が攻撃される謂れはどこにもない。

「ヴァイオレットさんと戦う理由はありませんが、オシュトルさんを排除する理由はあります……。
ヴァイオレットさんも、見ていましたよね?
その人の研究所での暴挙を……」
「――はい?」

ザザッ――、ザザッ――。

早苗の脳裏で掘り起こされるは、研究所での一幕。

31戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:40:26 ID:ZrR6y5mk0
――――――

『―――早苗殿……?』
『ごめんなさい……。私やっぱり理解できないんです……。オシュトルさんのことも、ロクロウさんのことも……。兄弟で殺し合いなんて……。』
『早苗殿、失礼を承知で言わせて頂くが、つまらぬ感情論で議論を長引かせるのは、控えて頂きたい。今の状況では、シグレ・ランゲツの首輪の回収こそが、最も合理的だ。
貴殿の我儘に付き合わされる今でも、我々の命運は、主催の者達の意思次第でどうとでもなってしまうことをお分かりか?』
『それでも認めたくないんです! 誰かを……それも肉親を踏み台にするようなことなんて!!』
『なれば、早苗殿に問う―――貴殿に首輪の心当たりがあると?
ロクロウに代わって、貴殿が、手頃な参加者を殺めて、その首輪を調達してくれるとそう捉えて宜しいか?』
『……っ!? ちが……わ、私は……』

――――――

オシュトルが、ロクロウに持ち掛けた、シグレ殺害及びその首輪回収の依頼――それに異を唱えた彼女が皆の前で糾弾された記憶。
しかし、それは彼女の脳に巣食う蟲によって改竄された記憶である。

オシュトルやヴァイオレットには当然思い当たる節もなく、首を傾げる他ない。
しかし、そんな二人の反応を他所に、早苗の独白は続く。

「あの時から、オシュトルさんには違和感を覚えていました。
そして、クオンさんや麗奈さんから話を聞いて、私は確信したんです――」
「待てっ、麗奈殿だと…!?」
「お嬢様と、お会いになられたのですか!?」

不意に飛び込んできた、麗奈の名前にクオンとヴァイオレットは驚愕し、早苗に問い詰める。
だが、早苗はそれに答えることなく、手に握るお祓い棒を振り上げる。

「オシュトルさんは、ある意味で殺し合いに乗った人よりも質が悪く、目的の為には、他人を平然と使い捨て、必要があれば、排除も厭わない人だとっ!!
だから、私はオシュトルさんを倒します!! 他の人がオシュトルさんの被害に遭われてしまう前に!!」

ブォンッ!!

瞬間、五芒の星が顕現するや否や、風切りの音を響かせ、無数の光弾が放たれた。

「っ……!」

夜天より流星群の如く降り注ぐ光弾。
自身に差し迫るその質量に、オシュトルは苦鳴を僅かに漏らしながら、全速で地を駆けて、逃走を試みる。

32戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:40:49 ID:ZrR6y5mk0
「オシュトル様っ!?」

明らかにオシュトルを照準とした弾幕。
近くにいるヴァイオレットを巻き込む訳にもいかず、彼女からは遠ざかっていく。

ドドドドドドドドドッ――

大地が光弾に穿たれ、削り飛んでいくその様は、機関銃による掃射を彷彿させる。
爆撃音が鼓膜を震わせ、土煙が巻き上がる中、オシュトルは、ただひたすらに駆けていく。
早苗の追撃も緩むことはなく、流星雨はしつこくオシュトルを追いかけ回す。

オシュトルは死に物狂いで、光弾から逃げ続けると、森の深部へと駆け込んだ。
ここまで来ると、枝葉のカーテンによって上空からの視界は遮られ、早苗は標的を捉えることはできない。
その証左か、早苗の攻撃はぴたりと止んだ。
オシュトルは、ようやく足を止めると、乱れた息を整える。

「ハァハァ……、何がどうなってる……?」

未だに、オシュトルは混乱の最中にあった。
何故、クオンと早苗が、ここまで自分を目の敵にして排除しようとしているのか、身に覚えがないからだ。

――今更になって、問い詰められるハクの死の真相
――研究所での会話についての糾弾
――高坂麗奈との接触を匂わせる発言

振り返っても、あまりにも不明な点が多すぎる。
彼女達とは、腹を割って話し合いたいのだが、あの状況ではまともに話もできる余地はない。

一体どうしたものかと、オシュトルが途方にくれたところ――

「――見つけましたよ、オシュトルさんっ!!」
「なっ、早苗っ!?」

木々の隙間から飛び出た、早苗の姿を目の当たりにして、オシュトルは戦慄するも束の間、光弾がオシュトルを掠め、背後の木を穿った。

「クソッ!!」
「逃しませんよ!!」

慌てて背を向けると、オシュトルは一目散に逃走を開始する。
早苗も光弾を放ちながら滑空し、オシュトルを追走するのであった。

33戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:41:13 ID:ZrR6y5mk0


――ぐじゅっぐじゅぐじゅ、じゅるるる……

大部分が焼失し、荒廃した病院内。
その施設内の一室「身体ストック室」の中に響く咀嚼音が一つ。
美しき黒髪を靡かせる少女・高坂麗奈――に扮するウィキッドは、その清廉潔白な見た目とは裏腹に、獣のような姿勢で部屋の中で保管されていた参加者の身体の欠片に喰らいついていた。

――ぐじゅぐじゅ、ばぎっ、ぶちっ、がしゅっ……

肉を食い千切り、骨を噛み砕く中、ウィキッドは自身の身体に巣食っていた飢えと渇きが満たされていくのを感じ取る。

しかし、その事に対して特に感動を覚えることもなく、今自分が口にしているものが美味いと感じる事もない。
それもそのはず――元々水口茉莉絵という少女は、「楽しく食事を取る」というありふれた幸せとは無縁の半生を歩んできた。
確かに学生という身分の都合上、ランチタイムはクラスメイト達と食事を共にする機会は多々あった。しかし、それを楽しいと思ったことは一度もない。
あくまでもターゲットに近づいて、そいつを壊すための情報収集と工作の一環であって、女子特有の他愛のない会話に相槌を打ちながらの食事など反吐が出る。

―――圧倒的な憎悪。

生成された複製人肉を貪る魔女の中で蠢くのは、飢えを満たされる満足感でもなく、背徳的行為に対する忌避感でもなく、自分にこのような不自由を押し付けた月彦に対する、途方もない憎悪のみであった。

34戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:41:41 ID:ZrR6y5mk0
「――さてと……」

ある程度の肉片を喰らい尽くし、自身の飢えが一時的に収まったところで、ウィキッドはディパックを開くと、そそくさとまだ手を付けていない肉片を詰め込んでいく。
これは謂わばお弁当――再び飢餓が襲いかかってきた際に備えてのものだ。
とはいっても、部屋内の全ての身体ストックを持っていくわけでもない。
あくまでも必要最低限―――目に留まった肉厚な男性参加者の者と思わしき肉片を幾つかデイパックへと放り込むと、もう此処には用はないと言わんばかりに、部屋に穿たれている大穴から外へと飛び降りた。

本来、この「身体ストック室」は秘匿された空間であり、この場所を見つけだすには中々に骨が折れるはずだが、ここで起こったであろう戦闘の余波で、この部屋と外界を隔てる施設部分が瓦礫と化した結果、外に剥き出しの恰好となり、容易に発見及び立ち入ることができるようとなっている。

これほどの惨状を造りだすには余程の火力が必要であるが、ウィキッドにとっては誰がどのような過程で生み出したものなのかなど、至極どうでもいい事柄であった。
ただ、自身を苛む飢餓さえ解消できれば、それだけで良く、彼女は病院には見向きもせずに、戦場跡を走り去っていく。

(きゃはははは、身体が軽くなった……。良いねぇ、最高だ)

自らの動きを鈍らせていた飢え。
忌々しいことこの上なかったそれを解消することで、鬼化によって強化された脚力は、本来のスペックを発揮――。
魔女は水を得た魚の如く、猛スピードでフィールドを駆け抜けていく。

獰猛な笑みを張り付け、次なる戦場に新たな戦禍を運ばんとしていた。

35戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:42:21 ID:ZrR6y5mk0


月夜に照らされる森の中。
オシュトルと早苗による、命を賭した鬼ごっこは尚も続いていた。
オシュトルは入り組んだ森の地形を利用して、早苗から逃れようとする。
早苗は、滑空しながらも追撃の光弾を放ち、執拗に追跡を行う。

「ハァハァ……」

心の臓が悲鳴を上げるのを感じながらも、オシュトルは懸命に駆けていく。
辛くも直撃は避けている状態ではあるが、それでも幾つかの光弾が掠めて、肉が抉られ鮮血が舞うと、オシュトルは苦悶の表情を浮かべる。
かれこれ、十分近く逃げ続けているが、光弾によるダメージとノンストップの逃走劇は確実にオシュトルの体力と気力を奪っていく。

だが、彼にとっての脅威は早苗だけではなかった。

「――オシュトルッ!!」

飛来する光弾より逃れた先に、クオンが待ち構えていた。
地を蹴り上げ、瞬く間にオシュトルに肉薄したクオンは、その拳を固く握りしめ、オシュトルの頭蓋目掛けて、思い切り殴り付けた。

ガゴッーー!!

「がはっ……!?」

凄まじい殴打音とともに、天地が反転したのではないかと錯覚する程の衝撃が、オシュトルを襲った。
皇女の細腕から繰り出された一撃は、オシュトルの顔面を捉え、その身体を軽々と吹き飛ばし、数十メートル先の大樹に叩きつけたのである。

「――ぐっ……!!」

視界が歪み、鼻の骨が折れたのか、血が止め処なく滴り落ちる。
それでもオシュトルは、尚も立ち上がらんとする。
しかし、間髪入れずに、彼の真正面に早苗が着地すると、止めを刺すべく、五芒星の印を切ろうとする。

「早苗様、お止めください!! 」

しかし寸前で、金色の影が姿を見せるや否や、早苗に飛びつき、押し倒すことで、術を不発に終わらせた。

36戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:42:51 ID:ZrR6y5mk0
「ヴァイオレットさん、退いてください!!」
「いいえ、退きません!! 私達は話し合うべきです!!」

地面の上で、揉みくちゃに掴み合いなりながらも、早苗とヴァイオレットは互いに譲らず、言い争いを続ける。

「その人は、生かしておいてはいけない人なんです!!」
「いいえ、生きてていけない人なんて、存在しません!!」

しかし、近接格闘においてはヴァイオレットに圧倒的に分があり、早苗の身体は袈裟を固めるような形で、容易く取り押さえられてしまう。

「くっ…!! ヴァイオレットさん、何で分かってくれないの……!!」
「早苗様こそ、何故私達の声に耳を傾けてくれないのですか?」

早苗は目に涙を浮かべて、ヴァイオレットもまた悲痛な面持ちで、言葉を投げ掛けてくる。
親睦を深めた彼女と争いたくない、だけど、これだけは譲ることはできない――。
相反する感情が、二人の中でひしめき合い、それが悲しみとなって零れていく。

「汝――」

だが、それも束の間――。

「早々に、早苗から放れよォッ!!」
「…っ!?」

クオンは、早苗を抑え込むヴァイオレットの顔面に、容赦なく回転蹴りを食らわした。

「……かはっ!?」

短い悲鳴と共に、ヴァイオレットの身体は宙を舞った上に、地面を転がっていき、草木生い茂る森の闇へと消えていってしまう。

「クオンさん、ヴァイオレットさんは……!!」
「案ずるな、加減はした。あの者もオシュトルに利用された哀れな傀儡だ。
我の手で、殺めてしまえば、それこそ奴の思う壺だ」
「……ありがとうございます……」

手を差し伸べ、地面から引き起こしてくれるクオンに、早苗は礼を言った。
早苗は立ち上がると、ヴァイオレットが消えた森の奥を心配そうな目で見据えるも、すぐに視線を本来の標的へと移す。

37戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:43:44 ID:ZrR6y5mk0
「観念してください、オシュトルさん。
私は貴方を絶対に許しませんから」
「汝が、切り捨ててきた者の無念を、思い知るがいい……」

クオンも早苗の隣に立ち、オシュトルを鋭く睨みつけた。

「クオン殿、早苗殿……。
頼むから、某の話を聞いてくれぬか…?」

オシュトルは、大樹に凭れる形で、その場に留まっていた。
否――。先程のダメージが尾を引いており、動くに動けぬと言った方が正しい。
血に塗れた口で、尚も対話を求めるが、二人は聞く耳を持たず。
早苗が五芒星の印をきると、オシュトルを抹殺するための光弾が放たれる。

「くっ……!!」

自身に殺到する死の光に、オシュトルは唇を噛み締め、満身創痍の身体に鞭を打ち、横に飛び、これを回避。
尚も追撃が押し寄せるが、身体を横に転がしながら、死に物狂いで躱していく。

「全く――」

そんなオシュトル目掛けて、跳躍するはクオン。

「諦めの悪い漢だ」
「……っ!?」

片脚を上げて、転がり回るオシュトルの顔面を粉砕せんと、踵を叩き落とす。

ドスン!!

大地に亀裂が奔り、陥没する程に強力無比な一撃。
オシュトルは、どうにか身体を転がせて、クオンの一撃を回避。
だが、間髪入れずに繰り出される蹴りは避けられず、オシュトルの身体はサッカーボールのように、吹き飛ばされる。

「ぐわああぁっ!!」

激痛に悶えるオシュトルに、死刑執行人が如く、クオンそして早苗が迫る。
オシュトルは、地を這いずり、差し迫る二人から逃れようとする。

「最期まで、みっともなく己が生にしがみつくか、オシュトル。
これがヤマトにその者ありとうたわれた武人の姿か……実に見苦しい……」

クオンは跳躍し、ふわりと着地するとオシュトルの眼前に立ち、息も絶え絶えの彼を見下ろした。
殺意に塗られたクオンの瞳を覗きみながら、オシュトルは苦笑する。

「ははっ…如何に不格好であろうと、構わぬさ。
亡き友との約束のため、某はまだ死ぬ訳にはいかんからな……」
「何っ?」

オシュトルから発せられた意味深な言葉に、クオンの眉がぴくりと動く。
それはどういうことかと、問い詰めようとした矢先――。

――バァンッ!!

「っ!?」

乾いた銃声が鼓膜を震わせ、彼女の思考は中断されてしまう。

「そこまでだ、全員動くな!!」

クオン、そしてオシュトルは、咄嗟に、声のした方向を振り返る。
その視線の先、まず森林の闇より姿を現したのは、カナメであった。
今しがたの銃声は彼によるものだろう。硝煙が彼の顔に薄く纏わりついている。

38戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:44:11 ID:ZrR6y5mk0
そして、姿を現したのはカナメだけではない。
彼の左腕にはもう一つの人影が引き摺られるような形で、抱えられている。

「カ、カナメさんっ!? 貴方は何を――」

暗がりの中でその全容を視認した早苗が、戸惑いの声を上げた。

「何を、しているんですかっ!?」

カナメは、冷徹な表情を浮かべながら、ヴァイオレットを羽交い絞めのような姿勢で拘束し、彼女の額に銃口を突き付けていたのだ。
ヴァイオレットは、少し困惑した表情を浮かべながらも、大人しく従っており、抵抗の意志は感じられない。

「どういうつもりだ、カナメ?」

クオンは、ヴァイオレットを拘束するカナメを訝しみ、彼の元へと歩み寄ろうと一歩踏み出すが――。

「動くなと言ったはずだぜ、クオン。
動くと彼女は死ぬことになる」

カナメは、人形のように沈黙を貫くヴァイオレットのこめかみに銃口を突き付けたまま、警告を発する。

「駄目ですよ、クオンさん!!
下手に動くと、ヴァイオレットさんが……!!」

尚も、接近を試みようとするクオンだったが、早苗の悲鳴にも近い懇願の声に、どうにか踏み止まった。
クオンにしても、早苗しても、ヴァイオレットはオシュトルに与してはいるものの、搾取されているだけの善意ある参加者だ。
故にその生命が脅かされているということであれば、慎重にならざるを得ない。

二人が落ち着いたのを認めたカナメは、安堵の溜息を漏らす。

「クオン、早苗、それとそこにいる――オシュトルさんだっけか?
この場は俺に預からせて欲しいが、構わないか?」
「某としては構わぬが……。
カナメ殿と言ったか――貴殿の目的を聞かせ願いたい」

ヴァイオレットを人質に取られてしまっている以上、オシュトルとしても、クオンと早苗と同様にカナメに従わざるをえない。
眼前の青年に対する警戒を解かぬまま、オシュトルはカナメに問いを投げかけた。

「どうこうも、アンタらとクオン達の認識に齟齬があるようだから、改めて互いの言い分を聞かせてもらって、整理したいだけだよ。
俺自身もアンタらの争いについて、何が真実かを見極めたいしな」
「……それは……此方としては願ってもないことだ。是非ともお願いしたい」
「クオンと早苗も、問題はないよな?」
「「……。」」

カナメに裏切られたような形になってしまった二人は、互いに目線だけで示し合わせ、不満そうな顔を見せつつ、無言を貫いた。
抗いたくとも、人質を取られてしまっている現状、今はどうすることもできない。
しかし、大人しく頷くのも癪であるから、敢えて沈黙という形で応対したのである。

「話は纏まったぞ……。ここまでは、お前の目論見通りか?」

その沈黙を肯定として受け取ったカナメは自身の背後に向けて、声を掛ける。

「いやいや、俺は可能性を提示しただけであって、実践したのはカナメ君だよ。
まぁ状況は好転したと言って良いね、上出来だよ」
「――貴方は…っ!!」
「……無事であったか……」

カナメの陰から現れたのは、一時的に戦場からフェードアウトしていた折原臨也。
恐らくこの状況はこの男が創り出したものであると悟った早苗とクオンは、憎悪を込めて臨也を睨み付けた。

「さてと、それでは情報の突き合わせといこうか」

自身に向けられる憎悪や叛意ですら愉しむかのように、情報屋は不敵に笑ってみせるのであった。

39戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:44:43 ID:ZrR6y5mk0


――遡ること数刻前

「いやはや、随分とめちゃくちゃな状況になったものだね」

臨也は、茂みの中に身を潜めつつ、騒乱の様子を窺っていた。
早苗からの急襲を受けたあの瞬間――臨也はパルクールで培った身のこなしで、直撃を回避。
その後は、皆の視界から行方をくらまして、このように観察に徹している。

ドドドドドドドドドッ――

さらに状況は動く。
早苗の弾幕から逃れるため、オシュトルは道脇の森林へと駆け込むと、早苗も弾幕を止めて、彼を追って森林に入っていく。
更に、クオンとヴァイオレットも、互いに牽制をしながらも、早苗の後を追う形で、同様に森へと駆け込んでいった。

「さて、どうしようか」

観察対象達が去ったのを確認してから、臨也はポツリとそう呟く。
状況は混沌としており、臨也としても、仲間であるオシュトルやヴァイオレットが窮地に立たされている現状、好ましい状況とは言い難い。
にも関わらず、臨也は、好奇に満ちた視線を、オシュトル達の消えた森へと向け、さも愉しそうに口角を吊り上げていた。
人間観察を己が道楽とする臨也としては、このような混沌とした状況は望むところだ。

「両手を挙げろ、折原」

期待に胸が躍らせている臨也の背後より、冷たい声が響いた。
同時に、後頭部に何かを突きつけられる感触。
臨也は、特に慌てる素振りも両手を上げてみせる。

「こちらを向け。ゆっくりと……」
「やれやれ……。半日ぶりの再会だというのに、随分とご挨拶だね、カナメ君」

促されるまま、臨也は背後の人物――スドウカナメと向き合った。
カナメは臨也の眉間に向けて、拳銃の照準をピタリと合わせている。

40戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:45:25 ID:ZrR6y5mk0
「さて、これはどういうことかな、カナメ君?
君も彼女達と同じように、俺達を敵視しているクチかい?」
「…アンタとあのオシュトルって男は危険人物だという、タレコミがあったからな。
警戒しない方がおかしいだろ?」
「でも君は、そのタレコミについては半信半疑のようだね。
すぐに俺を始末しようとせず、こうして話を持ちかけているのが、その証拠だ」
「少なくとも、他人からの伝聞に踊らされる浅はかな人間にはならないよう、努めてるんでな」
「なるほど。殊勝な心掛けだね。
君が冷静でいてくれるなら、俺としても大助かりだ」

くつくつと笑う臨也。
対照的に、カナメは尚も冷徹な表情を崩さない。

「――時間が惜しい……。
まずはアンタらと高坂麗奈との間で、何があったか教えてほしい」
「あぁ、いいとも。俺としても彼女が君たちに何を伝えたかは興味があるしね。
情報交換といこうじゃないか」

臨也は、遺跡で起こった麗奈周りの事情を、掻い摘んで説明した。
その返しとして、カナメも、クオン達経由で聞かされた、麗奈の齎した情報を臨也に伝える。

「――なるほど……。
確かに、高坂麗奈の証言とアンタの知ってる情報に齟齬があるようだな……」
「ああ、そうだね。
まぁ、俺からしてみれば、麗奈ちゃんの話は、真実も含まれてはいるけど、前提となる時系列がグチャグチャになってる感じは否めないよねぇ」

一連の情報交換を経て、カナメは臨也が指摘する相違点について、実感していた。
麗奈は、臨也達が、鬼となってしまった麗奈と茉莉絵を排除のため、ヴァイオレット達を唆したと証言していた。
それに対して、臨也は、あくまでも自分たちが麗奈達の鬼化を知ったのは、一連の騒動が収束してから、ヴァイオレットから聞いた話だと主張。

41戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:46:04 ID:ZrR6y5mk0
「恣意的な情報操作か、或いは錯乱していたのか……。
俺としては、麗奈ちゃんが何を思って、早苗ちゃんたちに情報を吹き込んでいたのは、気にはなるけど――。
まぁ、答え合わせはヴァイオレットちゃん本人に問い質すのが手っ取り早いと思うけど、どうかな?」
「……異論はねえ……」

臨也の投げかけに、カナメも首肯する。
カナメからしてみれば、確定しているのは、被疑者二人の証言が食い違っているまででとなっており、どちらがシロかクロかまでは確定していない。
ここから先の情報検証は、臨也の言う通り、ヴァイオレットを結問する必要があると、判断していた。
その為には、まずは現在進行形で行われている騒動を、どうにか収めなければならないのだが―――。

「――なぁ、折原……」
「何だい?」

カナメは再度その銃口を、臨也の眉間に突きつけた。
どうしても、決着をつけたい問題があるからだ。

「そもそも、どうしてアンタは、水口なんかと一緒に行動していた?
あいつは、魔理沙とStorkを殺した張本人なんだぞ」

臨也は、情報交換の折、遺跡に辿り着く前まで、茉莉絵と行動を共にしていたことを否定しなかった。
カナメの仲間達を殺し、他の参加者にも危害を加えかねない悪意の権化たる彼女と行動を共にする理由が、カナメにはどうしても理解できなかった。

「……。」

臨也は全く動じる様子もなく、ポーカーフェースを貫き、じっとカナメを観察している。
そのねっとりとした視線を不快に感じながらも、カナメは彼に付きつける拳銃に力を籠める。

「答えろ……。アンタだって、あいつに襲われていたはずだ」

カナメは、臨也と茉莉絵によるものであろう、激しい交戦の爪痕を目撃している。
Storkとともに茉莉絵を結問した際に、彼女は、臨也に対して、敵意を剥き出しにしていた。
もしも、その襲撃すらも見せかけであり、臨也が当初から茉莉絵と手を組んでいたということであれば、到底許すことは出来ない。

しかし、そんなカナメの疑念を嘲笑うかのように―――

「何てことはないさ。それは、俺が彼女を愛して"いた"から、だよ」

臨也は、全く予想外の答えを返した。

42戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:46:48 ID:ZrR6y5mk0
「は……?」

思わず呆けた声を上げるカナメ。
疑念によってフル回転していた思考が、たった一言で停止した。
臨也が何を言ったのか、全く理解できなかった。

「ちょっと、待て……。何言ってんだアンタ……」
「あぁ、誤解しないでね。今は愛していないし、そもそも俺が愛したのは彼女ではなく、『人間』だから、さ。ここ重要」
「は……? え……?」

完全に臨也のペースに吞まれてしまっているカナメは、どうもうまく言葉が継げない。
混乱するカナメを尻目に、臨也はベラベラとまくし立てる。

「これは、俺自身の主義なんだけどさ。
端的に言ってしまえば、俺はどうしようもなく人間が好きなんだよ――うん、俺は全ての人間を平等に愛しているんだ。
男も女も、老いも若きも、天才だろうが凡人だろうが関係ない。
俺は分け隔てなく、人間を愛するよ。
例えそれが、茉莉絵ちゃんのような、人殺しであったとしてもね――」

目を見開くカナメ。
しかし、お構いなしに、臨也は言葉を紡いでいく。

「だからこそ俺は、彼女がこの殺し合いにおいて、どのように振る舞うのか、そして周囲の人間がどのように反応するのかを間近で観察したかったんだよ。
たとえ、彼女自身や、周囲の人間達がどのような結末を辿ることになろうとも、それが人間たちが織り成した結末である限り、俺はそれを尊重し、その結末ですら愛するつもりだった」
「――てめえ……」

臨也の言わんとしていることに、ようやく理解が追い付き、カナメの顔色が変わる。
理屈は分かった。だが、その理屈は、あまりにも常軌を逸しており、到底許容できるものではなかった。
そして、自分は折原臨也という人間を完全に見誤っていた、と自覚した。
かつて、ウィキッドは眼前の男を「変態野郎」と評していたが、今となっては、それもまた言い得て妙であると理解できた。

「アンタの主義とやらで、誰かが死んだとしても、構わないっていうのか……!?」
「言っただろう? 俺はどのような結末であろうと、その結末すらも愛すると。
ハッピーエンドだろうが、バッドエンドだろうが、喜劇だろうが、悲劇だろうが、全てを受け入れるさ」

悪びれもなく、言ってのける臨也。
カナメは、自分の内に、沸々と怒りが込み上げてくるのを感じた。

43戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:47:21 ID:ZrR6y5mk0
「そうかよっ…!! だったら――」
「仮にここで君が俺を撃ったとしても、それは君という人間が辿り着いた一つの結末だ。
俺はその結末を、決して否定しないし、許容するよ」
「っ……!!?」

怒りに身を任せて発砲しようとしたカナメの手が、止まった。
まるで自分の心を見透かされたかのような言葉に、完全に虚を突かれたのだ。

「だから、カナメ君が俺という存在を否定したいというのであれば……ほら、撃つと良いさ」

カナメの手元で震える銃口を凝視しながら、臨也はポケットに手を突っ込んだまま、不敵な表情を浮かべてみせる。
対するカナメは、暫しの逡巡を経て、ギリっと歯ぎしりをすると、静かに拳銃を下した。

「――いいや…。今は、お前を撃たない……」
「なるほどね、俺はカナメ君のその選択も尊重するよ」

カナメとしては、王やウィキッドのような、明確な悪意を以て他人を害するような輩には勿論容赦するつもりはない。
しかし、臨也から感じ取れたのは、そういった悪意や叛意ではなく、善悪をも通り越した、歪さであった。
それだけでは、彼を撃つ理由としては不十分であると、理性が感情を抑えた。

「……。」

歯噛みをしながら、視線を落とすカナメ。
そんなカナメを暫し観察して、臨也は言の葉を紡いでいく。

「――とはいえ、俺としても助かったかな?
まだまだ興味深いものが目の前に転がっていることだし。
本音を言えば、ここで君に殺されるのは、俺としても遠慮したかったしね。
飼い慣らしていたペットに裏切られたオシュトルさんに、早苗ちゃんとの確執、それに応対するヴァイオレットちゃん――。
俺は皆の行く末を、見届けたいからね。そして何よりも――」

そこで、臨也は言葉を切り、口端を吊り上げてみせた。

「君がこの騒動をどのように収めようとするのか、非常に興味があるんだよ、カナメ君」

端正な顔立ちに浮かべる、歪んだ笑み。
カナメは、この笑顔にこの上ない不快感を覚えた。
それはある意味、シノヅカが殺された時に王が見せたそれよりも、質が悪いものであると感じた。

――上等だ……。

カナメは強い意志を込めた瞳で、臨也を睨みつける。
眼前の男の行動原理は、理解できた。
反吐が出るほどものではあるが、本質を理解できたからこそ、御しやすいとも言える。
臨也が、己が主義を貫くということであれば、自分もそれを精々有効に利用させてもらうだけだ。

決意を固めたカナメは、臨也を伴って、オシュトル達が彷徨う森の中へと歩を進めていくのであった。

44戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:48:02 ID:ZrR6y5mk0



「――成程な……。
つまり、アンタは高坂麗奈によって気を失い、オシュトル達に介抱された後、事のあらまし――彼女らの鬼化について報告したってことで問題ないんだよな?」
「はい…、ご認識の内容に相違ございません」

拳銃を突きつけられながらも、ヴァイオレットはカナメからの質問事項について、淡々と答えていく。
ちなみに彼女は、表面上は人質という扱いを受けているが、これは事前に示し合わせたもの――つまりは、八百長を演じている。
その実、クオンに蹴り飛ばされ、倒れ伏せているところをカナメ達に拾われた後、協議を行なった結果として、このような形でオシュトル達への嫌疑を晴らすように協力しているのだ。
ここには、クロと決めつけられたオシュトルや臨也の弁明よりも、あくまでもシロとして見られているヴァイオレットの言葉であれば、早苗達にも届くであろうという臨也の思惑があった。

「――だそうだ……。
少なくとも、高坂麗奈の証言については、信憑性は怪しいようだぜ?」
「……そんな……、麗奈さんが、嘘を……」

突きつけられた残酷な現実に、早苗は口元を手で覆い、呆然と呟く。

「――……。 ヴァイオレット……貴方が今言った事は事実なのかな?」

そして、些か冷静さを取り戻したクオンは、皇女として振る舞っている時の口調を改め、通常の口調を以って、ヴァイオレットに問い掛ける。

「はい、事実にこざいます」
「本当に? カナメに脅されて、無理やり言わされてはいないかな?」
「――クオン、お前……」

クオン達が放った言葉に、カナメは言葉を失う。
今の言葉から、手厚く介抱を行なってあげたにも関わらず、いざオシュトル達と遭遇すると手の平を返し、あまつさえ人質をとるような蛮行をしでかした青年に対する、クオンの信用は失墜していることが伺えた。

「あのさぁ――」

そんなクオンの様子に業を煮やした臨也は、うんざりした様子で言葉を挟んだ。

「仮にカナメ君が、ヴァイオレットちゃんを脅して、嘘の証言をさせているとして、彼に何のメリットがあるんだい?
彼はあくまでも、第三者として真実を見極めたいって言っていたじゃないか。
元はと言えば、アンタが聞く耳持たずで、馬鹿みたいに暴れ回るから、カナメ君としても、本意ではない手段を取る羽目になっているんじゃないか……」
「――……。……それは……」

臨也からの指摘に、クオンは言葉を詰まらせる。
実際、彼女としても理解はしているのだ。
ここまで来ると、麗奈の証言は信憑性に足るものではなくなったことに。
そして、心の内では、オシュトルに対する嫌疑が一つ晴れてしまうことを、どうしても受け入れたくない自分がいることに。

45戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:48:39 ID:ZrR6y5mk0
「獣と言っても、合理的に考える脳味噌くらいはあるんだろ?
いや、あったとしても人間と比べて容量が少ないのかな?
それとも、単純に頭が悪いだけなのかな――」
「……っ!!」

押し黙っていたクオンに追い打ちをかますかのように、臨也は畳み掛ける。
クオンは射殺さんばかりの視線で臨也を睨み付けるが、彼は涼しい顔で受け流す。

本来であれば、今は、臨也にとっては絶好の人間観察の機会であることに違いない。
様々な思惑、感情、確執が交錯する中で、人間達がどのように行動し、どのような結果に至るのか、非常に興味深い状況と言える。

仮にこの問答の相手が早苗であれば、ここまで執拗に煽るようなことはせず、軽く心を揺さぶり、その反応を愉しむこともあっただろう。

しかし眼前の獣耳の少女は、臨也の中では、人間としての条件を満たしていない。
したがって、彼の「愛」の対象にはなりえない。
人間愛を標榜する情報屋は、人外の周囲の人間を愛することはあっても、人外そのものを愛することは決してない。
だから、臨也としてはクオンが抱えている葛藤などに全く興味はない。むしろ邪魔でしかないのだ。

そして、この殺し合いでの体験も相まって、そんな排外的な思惑は、臨也を彼らしくもなく感情的にさせて、眼前の人ならざる者へと、更なる言葉の矢を放たんとさせる。

「あぁ……もしくは、ぬくぬくとした飼育環境で甘やかされて、何も考えることもなく餌付けされてきたらから、考える脳味噌が退化しちゃったのかな?」

クオンの眼が、より鋭いものへと移り行く。
人外のくせに、まるで人間のように怒気を露にするクオンの姿に、臨也は尚も苛立ちを覚えて、ダメ押しとばかりに、口を開く。

「まあ俺から言わせてもらうと、アンタみたいな獣は所詮人間にはなりきれない、単細胞の―――」
「そこまでとしていただこう、臨也殿」

尚も続かんとした口撃に対して、オシュトルの制止の声が遮った。
臨也は「おや…」とわざとらしく呟くと、オシュトルの次なる言葉を待った。

「先にも言ったはずだ。 種こそ違えど、我らにも貴殿らと同じように心があると……。
それ以上、某の仲間を愚弄するのであれば、例え貴殿とて容赦はせん」

オシュトルが真剣な眼差しを以って臨也に向けて鉄扇を向けると、彼はへらりと笑い、両手を上げた。

「オシュトルさんにそう言われちゃ、俺もこれ以上何も言えないね……。
確かに、俺も少し大人げなかったよ」

肩をすくめながら引き下がる臨也に、オシュトルはそっとため息を吐いた。
それに釣られるように、固唾を飲んで趨勢を見守っていたカナメとヴァイオレットも安堵の息を漏らした。

46戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:49:22 ID:ZrR6y5mk0
しかし――。

「何が『仲間』か……。
これまで、その『仲間』を切り捨ててきたのは貴方でしょう、オシュトル!!」
「そうですよ、今更綺麗事を並べても、あなたが犯した罪、私に言ったことは、何一つ変わりませんから!!」
「クオン殿、早苗殿……」

火に油を注いでしまったかのように、クオンと早苗はオシュトルに対して憤怒の言葉を投げつけてきた。
麗奈の流言の件をクリアしても尚、二人の根底には、オシュトルへの不信が強く根付いているのだ。
二人の反応を見て、オシュトルはまだまだ埋めるべき溝が深いことを痛感する。

「なぁ、早苗……、アンタはオシュトルに酷いことを言われたと主張しているけど、具体的に何を言われたのか教えちゃくれないか?」

そんなオシュトルの心情を察したかのように、カナメは早苗に尋ねる。

「え? それは……」

問われた早苗は一瞬言い淀む。
しかし、その場にいる全員の視線が、自身に集中していることを悟ると、意を決して口を開いた。

「分かりました……。正直あまり思い出したくはないですけど、お話ししますね。
私がその人に、何を言われたのかを……」

オシュトルを恨めしそうに見つめながら、早苗は自身の記憶に基づいて、研究所におけるオシュトルとのやり取りについて語り出した。

曰く――オシュトルは、自身が仕える主であるアンジュ死亡を告知されても、特に動揺することもなく、“この程度のこと”と割り切ったとのこと。
曰く――オシュトルは、ロクロウが渋っているのにも関わらず、平然と彼の兄であるシグレ・ランゲツの殺害及びその首輪の回収を依頼したとのこと。
曰く――オシュトルは、その兄弟殺害の依頼に異を唱えた早苗を糾弾し、反対するならば、ロクロウの代わりに、他参加者の殺害及び首輪の調達を促すよう恫喝を受けたとのこと。

「成程ねぇ、確かにそんなこと言われてしまうと、オシュトルさんを嫌いになるのも納得だよね」

早苗の話を聞き終えた後、臨也はうんうんと頷くと、オシュトルを見やる。
オシュトルは、目を見開いて固まっていた。
見るからに、早苗が話した内容に衝撃を受けている様子だった。

47戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:49:48 ID:ZrR6y5mk0
「いやぁ、恐い恐い〜。
オシュトルさんが、そんな冷酷で恐ろしい人だったなんて知らなかったよ。
俺だって、早苗ちゃんのように恐喝されるのは勘弁願いたいから、オシュトルさんとは距離を置きたくなっちゃったかな」

くつくつと茶化するように笑う臨也。
やがて、その笑みを潜めると、涙滲ませ自身を睨みつけてくる早苗を一瞥。
その後、今度は真面目な口調で、オシュトルに尋ねる。

「――それで、被告人のオシュトルさん。
今の早苗ちゃんの告発に対して、何か弁明はあるのかい?」
「……誓って言うが、某は、早苗殿を貶めるような言動は行なっていない」
「なっ!? この期に及んで、貴方はまだそんなことを言うのですか!?」

静かに紡がれたオシュトルの否認に、早苗は信じられないとばかりに、声を上げる。

「そもそも、平然と他人に兄弟を斬り殺せと強要するような人の言うことを、誰が信じろって言うんですか!?」
「早苗の言う通りかな!! オシュトル…貴方は、どこまでも嘘を吐いて、他人を騙して、卑劣でっ……!!
私は貴方がアンジュの死を蔑ろにしたことは、絶対に許さないから!!」

早苗に重ねるような形で、クオンもまたオシュトルを糾弾する。
しかし、平静を取り戻しているオシュトルは、動じる様子もなく言葉を紡いでいく。

「それらも、また事実と異なる――。
某は姫殿下の死を決して軽んじてはおらぬし、ロクロウについても、元々奴はこの地で実兄を斬るつもりであった」
「だったら、早苗が全部噓を吐いているっていうの!?」
「――然り……」
「汝はっ…!! 抜け抜けと、よくも――」
「あー、熱くなってるところ悪いんだけどさ、アンタ外野だろ? 少し黙っててくれるかな?
キーキー吠えて、耳障りで仕方ないし、今はともかく当事者達の主張を聞きたいからさ」
「……っ!!」

激昂するクオンを、まるで蟲を払うかのような仕草で、鬱陶しそうにあしらう臨也。
クオンは、怒気を込めた表情で臨也を睨みつけるも、臨也はそれを気にも止めず、カナメと、彼に人質として拘束されているヴァイオレットの方へとズカズカと歩いていく。
物憂げな表情で一連のやり取りを眺めていたヴァイオレットの前に立つと、臨也は囁くように問い掛けた。

「――それでさ、ヴァイオレットちゃん……。
告発者の早苗ちゃんに、被告人のオシュトルさん……。どちらが、真実を言っているのか、
君の見解を聞かせてくれるかな?」

この諍いの決着をつけるべく、研究所でオシュトル達のやり取りを見聞きしていたであろうヴァイオレットに、証言を求めたのである。
自ずとその場にいる全員の視線がヴァイオレットに注がれる――。
それを受け、ヴァイオレットは一同を見渡したうえで、最後にチラリと、早苗を一瞥すると、ゆっくりと言葉を紡いだ。

48戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:50:20 ID:ZrR6y5mk0
「――オシュトル様の仰っていることが真実でございます……」
「なっ……!? ヴァイオレットさん、何を言っているんですか!?」

ヴァイオレットの回答は、早苗にとっては寝耳に水だったらしく、目を白黒させ狼狽を露わにする。
それもその筈――。早苗からして見れば、ヴァイオレットは、間違いなく、研究所内での自分とオシュトルとの諍いの始終を目撃していた証人であると同時に、妖夢や魔理沙の脱落で落ち込んでいた自分に寄り添い、諏訪子や神奈子に向けた手紙を代筆してくれたりもした、心優しく誠実な少女であった。
そんな彼女が平然と嘘を吐いていることに、驚きを隠せなかったのである。

早苗以外の人間の反応はまちまちだった。
カナメは合点がいったような表情を浮かべており、臨也は何とも愉しそうに口元を歪める一方で、クオンは困惑を隠し切れずにいた。
そしてオシュトルはというと、無表情を貫いたまま、混乱するクオンと早苗をただ静かに見つめていた。

「早苗様こそ、何故事実と異なることを仰り、オシュトル様を陥めるようなことをなさるのですか…? 
――私達と別れた後に、何があったのですか…?」

ヴァイオレットは、早苗へと逆に問い掛ける。
猜疑心、不信感から刺々しく責め立てるというよりは、むしろ、心配し親身に寄り添っているような優しい口調で。
きっと何か事情があるはず……、そうに違いない――。
彼女のサファイア色の瞳は、そんな確信を以って早苗を捉えていた。

「私、嘘なんか吐いていません!!
ヴァイオレットさんは全部見てたじゃないですか!?
何でそこまでして、オシュトルさんを庇うんですかぁっ!?」

しかし、その柔らかい眼差しは、却って、早苗を苛立たせ、追い込んでいく。
あたかも、自分が乱心したかのような物言いは、彼女の心を掻き乱すのに十分であった。

49戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:51:11 ID:ZrR6y5mk0
「わ、私は――」

そして追い詰められた早苗が、ヒステリック気味に重ねて声を張り上げようとした、その瞬間――。

ザザザッ――、ザザザッ――。

「――痛っ……!? ぁがっ……!!」
「……早苗っ!?」

唐突にそれはやって来た。

「ぅあっ!? あ゛だま……頭がっ……!! 頭があ゛ああぁぁあああああああっーーー!!」
「おいおい、大丈夫かっ!?」

脳天を駆け抜ける、尋常ではない激痛。
まるで頭の中を焼き尽くされてるような、耐え難い苦痛。
早苗は絶叫とともに、頭を掻きむしりながら、その場に蹲る。

その場にいる全員が、早苗の身に起きた異変に呆気に取られた。

ザザザッ――、ザザザッ――。

「しっかりして、早苗!!」

駆け付けたクオンに身体を支えられながら、彼女の頭にノイズが響いていく。

------------------

「―――怖い?」
「はい、怖いです……私には衣食住を共にする家族のような人達がいるんですけど、その人達に会えなくなることが怖い……。その人達の知らないところで死んでしまうのが怖いんです……」
「早苗様、宜しければお手紙を書いてみませんか?」
「手紙、ですか……?」
「はい。早苗様の大切な方々への想い―――それを手紙に綴るのです」

------------------

ザザザッ――― ザザザッ―――

早苗の脳内にて、蠢く悪意。
彼の者は、己が宿主が著しく動揺していることを察すると、その活動を活発化させた。
全ては己が目的を達成するため。

宿主の記憶を、都合の良いように捻じ曲げていく。

------------------

『―――怖い?』
『はい、怖いです……私には衣食住を共にする家族のような人達がいるんですけど、その人達に会えなくなることが怖い……。その人達の知らないところで死んでしまうのが怖いんです……』
『左様でございますか……』

------------------

今回、蟲が改竄を加えた記憶は、オシュトルとの記憶―――ではなく、彼を擁護するヴァイオレットとの記憶である。
本来であれば、ここは、最初の放送を受けて、オシュトルが己が方針と考えを纏めるまでに、ヴァイオレットとともにブリーフィングルームにて小休憩を取っていた頃の場面。
現在の早苗の記憶においては、オシュトルはアンジュの死亡に一切動じることもなく、「この程度のこと」と切って捨ててしまったため、辿ることのできないはずの場面ではある。
しかし、ここで手紙を代筆してもらった記憶は、早苗の中で、ヴァイオレットという少女の印象を根強く残していたため、前後のつながりはなくとも断片的に存在していた。

故に、その記憶はヴァイオレットに対する心情の要と見做され、今ここに書き換えられることとなった。
新たな記憶では、心情を吐露する早苗に対して、ヴァイオレットは心に寄り添うことも、手紙の代筆をすることもなく、淡白な台詞で相槌を打つまでに留まった。

50戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:51:44 ID:ZrR6y5mk0
------------------

『―――早苗殿……?』
『ごめんなさい……。私やっぱり理解できないんです……。オシュトルさんのことも、ロクロウさんのことも……。兄弟で殺し合いなんて……。』
『早苗殿、失礼を承知で言わせて頂くが、つまらぬ感情論で議論を長引かせるのは、控えて頂きたい。今の状況では、シグレ・ランゲツの首輪の回収こそが、最も合理的だ。
貴殿の我儘に付き合わされる今でも、我々の命運は、主催の者達の意思次第でどうとでもなってしまうことをお分かりか?』
『それでも認めたくないんです! 誰かを……それも肉親を踏み台にするようなことなんて!!』
『なれば、早苗殿に問う―――貴殿に首輪の心当たりがあると?
ロクロウに代わって、貴殿が、手頃な参加者を殺めて、その首輪を調達してくれるとそう捉えて宜しいか?』
『……っ!? ちが……わ、私は……』

------------------

ザザザッ――― ザザザッ―――

改竄は、尚も続き、既に書き換えられている記憶にも及んでいく。
宿主のヴァイオレットに対する心象を反転させ、オシュトル討滅の道を揺るがぬものとするために。

------------------

『―――早苗殿……?』
『ごめんなさい……。私やっぱり理解できないんです……。オシュトルさんのことも、ロクロウさんのことも……。兄弟で殺し合いなんて……。』
『早苗殿、失礼を承知で言わせて頂くが、つまらぬ感情論で議論を長引かせるのは、控えて頂きたい。今の状況では、シグレ・ランゲツの首輪の回収こそが、最も合理的だ。
貴殿の我儘に付き合わされる今でも、我々の命運は、主催の者達の意思次第でどうとでもなってしまうことをお分かりか?』
『それでも認めたくないんです! 誰かを……それも肉親を踏み台にするようなことなんて!!』
『なれば、早苗殿に問う―――貴殿に首輪の心当たりがあると?
ロクロウに代わって、貴殿が、手頃な参加者を殺めて、その首輪を調達してくれるとそう捉えて宜しいか?』
『……っ!? ちが……わ、私は……』
『早苗様…残念ながらここは綺麗事など一切通じない戦場です。
戦場で生き残るためには、手段は選べません。
皆様の生存のために、首輪が必要な今、オシュトル様のご提案が最も理にかなっています』
『ヴァイオレットさん、貴女までそんなことを言うんですか……!?』
『それほどまでに、シグレ様の首輪の回収を拒まれるのでしたら、早苗様が、今嵌めていらっしゃる首輪をご提供いただけますでしょうか?
そうして頂けますと、私達も大変助かりますし、早苗様の望み通り、ロクロウ様がご兄弟を殺める必要はなくなるかと存じます」
『そ、そんな……』

------------------

今ここに、偽の記憶が、新たに植え付けられた。
植え付けられたのは、蟲が創り上げた、「虚構」に違いない。
しかし、そんな「虚構」も、早苗には「事実」としてインプットされた。

そして――。

「ハァハァ……ク、クオンさん……」
「早苗、大丈夫かなっ!?」

脳内に響いていたノイズが途切れると、早苗はようやく頭痛から解放された。
肩で呼吸しながらも、落ち着きを取り戻し、クオンに支えられながらも、ゆっくりと上体を起こす。

51戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:52:15 ID:ZrR6y5mk0
「……クオンさん、私思い出したんです--」
「え……?」

クオンが首を傾げる中、早苗は、心配そうに自分を見つめるヴァイオレットとカナメを、乱れた髪の隙間から見据える。

「そこにいるヴァイオレットさんは、オシュトルさんに負けるとも劣らない、人を人とも思わない残酷な人だったってことをッ!!」

刹那――。
早苗は躊躇うことなく、光の弾丸をヴァイオレット達に撃ち込んだ。

「……っ!?」

ヴァイオレットは、カナメに拘束されたまま彼の身体を背負うような形で、咄嗟に横に転がるように回避する。
光の弾丸は、ヴァイオレットが立っていた場所を通り抜けると、背後の樹木に直撃し、大穴が穿たれた。

「さな……え……?」

突然の凶行に、クオンを含めた、その場にいる全員が呆気に取られた。
カナメから身体を離し、立ち上がるヴァイオレットを睨みつけながら、早苗は続けて叫ぶ。

「罠です…!! これは罠なんです、クオンさん!!
ヴァイオレットさんは、最初からオシュトルさんと手を組んでいた共犯者です!!
だから、オシュトルさんを庇うために嘘を吐いているんです!!」
「早苗様……一体何を仰って--」
「麗奈さんの件も、きっとそうです!!
ヴァイオレットさんは、オシュトルさん達の指示で、麗奈さん達を殺そうとしたに違いありません。
だから、この人も、オシュトルさんと一緒に倒さないと駄目なんです!!」

もはやヴァイオレットの声は、耳には届いておらず、早苗はただただ、「敵」であるオシュトルとヴァイオレットに向けて一心不乱に弾幕を放っていく。
自身を抹消せんと迫り来る光弾を、二人は苦虫を潰した表情を浮かべながら、避けていく。

52戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:53:19 ID:ZrR6y5mk0
「ちょ、ちょっと、早苗……!? 前に聞かされていた話とは違うかな……!!」
「だから、それが罠だったんですよ、クオンさん!!」
「何が罠だよ!? 流石に言っていることに無理があるぞ、早苗!!」

戸惑うクオンに早苗が訴える中、カナメは事態を収拾すべく、光弾を撃ち続ける早苗に突貫しようとするも――

「邪魔しないでください!!」
「がはっ……!!」

瞬間、カナメの鳩尾に、早苗が引き起こした突風が直撃した。
強烈な衝撃にカナメは、嗚咽を漏らすとともに、後方に吹き飛ばされる。
カナメに意識を取られた早苗を押さえ込まんと、オシュトルとヴァイオレットが彼女に差し迫るが、早苗はそれを察知すると宙へと上昇し、回避。
一息付く暇もなく、焦燥を滲ませる二人に向けて、光弾の雨を見舞っていく。

(へぇ、だいぶメチャクチャするね、彼女)

臨也は眼前の修羅場を目の当たりにしながら、心の内でそう呟いた。
ヴァイオレットの証言を受けて、窮地に追い込まれていた早苗。
池袋の情報屋は、彼女の心がその後どのように無様に揺れ動くのか、期待を込めて観察していた。
しかし、よもやこのような行動に打ってでるとは、想定外であった。

(これだから、人間は面白いね)

追い詰められてしまったが故、壊れてしまったのか、それとも何か別の理由あっての暴走なのかは定かではないが、その言動に一貫性はなく、中立の立場であったカナメを完全に敵に回している。
共闘関係にあるはずの「獣」も困惑して、加勢できていないように見て取れる。
無造作に暴力を振り回す彼女の破滅は、火を見るより明らかだ。
願わくば、人間達がこの騒乱をどのような決着にもっていくか見守りたい。
しかし、生憎とこれ以上、此処で悠長に時間を浪費するわけにもいかないのも事実だ。
ここは、一先ずオシュトル達に加勢をして、暴れる彼女を制圧するとしよう。

空より地上への爆撃を続ける早苗―――幸いなことに、彼女の注意はオシュトル達へと注がれており、彼女が佇む座標も臨也の投擲の範疇にある。
今なら撃墜も容易いと判断した臨也は、銀に光る得物を彼女に投擲せんとした。

53戦々凶々(前編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:53:47 ID:ZrR6y5mk0
その瞬間――。

豪 ッ !!

「――早苗っ!!」
「きゃっ……!!」

情報屋の目は捉えていた――。
早苗の側面より、何か大きな焔の塊が飛来したかと思うと、地上に佇んでいたクオンがいち早く反応。
跳躍し、早苗の身体を横から抱きしめると、彼女共々、地上へと落下。
飛来したそれの直撃を間一髪で避け、事なきを得たのを。

「……小蟲が、騒々しく宙に舞っておったので、足を運んてきてみれば――」

焔が飛来した方向より、太い声音が響き、臨也とその場にいる全員の意識が一点に向けられる。
先程までとは一転、静寂に支配された空間。
闇より現れしは、筋骨隆々の体躯を誇る一人の巨漢。

(また、化け物か……)

漢の風貌を一瞥し、獣の臭いを感じ取ると、臨也は苦々しく、心の内で吐き捨てた。

「フフッ……今度は紛い物ではない……。
感じるぞ仮面(アクルカ)の息吹を――。
ようやく、我は汝を捉えたぞ、オシュトルッ……!!」

情報屋より「化け物」と評された漢は、周囲の参加者には目もくれず、ただ、一点。
己と同じく仮面を装った漢にのみ、その視線を注いでいた。

「――ヴライ……」

オシュトルは、自分の巡り合わせの悪さに、思わず苦虫を潰した顔を浮かべる。
謂れなき憎悪を向けてくるクオンに、乱心した早苗――。
そして、ここにきてのヤマト最強との邂逅――。
一体全体、自分が何をしたというのか? と、言の葉として叫び出したい程、オシュトルは己のツキの無さに辟易する。

「さぁ、オシュトルよッ!! 雌雄を決するときは来た!!
我と汝……どちらか一方が斃れるまで、存分に死合うぞぉおッ!!」

しかし、オシュトルに嘆く暇すら与えず、ヴライは咆哮。
大地を揺るがす勢いで、彼に向けて駆けていく。
紅蓮の炎を帯びた剛腕が振るわれる先は、己に二度土をつけた宿敵(おとこ)の首、唯一つ―――。

六人の参加者によって繰り広げられた騒乱は、災厄の到来によって、炎獄の果たし合いへと塗り替えられるのであった。

54 ◆qvpO8h8YTg:2024/03/23(土) 21:54:44 ID:ZrR6y5mk0
一旦、投下終了します。
後編は後日投下いたします。

55 ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:21:41 ID:zQWVdmfw0
投下します

56戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:22:29 ID:zQWVdmfw0



「――ぬぅんッ!!」
「……くっ……!?」

豪速を伴って、差し迫るヤマト最強の剛拳。
オシュトルは身を捻って紙一重で避けると、後方に飛び退ける。
豪風とともに右の拳撃が空振ると、間を置くことなく、巨躯が間合いを潰し、左の剛腕が振るわれる。

(……疾いっ!!)

回避が間に合わないと悟ると、鉄扇をかざして受けるが、凄まじい衝撃。
勢い殺せず、身体が浮かび上がると、後方の大岩に激突。
その衝撃たるや凄まじく、大岩にも致命的な亀裂が生じる。

「がはっ……!?」

背中を強かに打ち、肺の空気を押し出されるオシュトル。
一瞬、視界が明滅し、意識が飛びかけるも、間髪入れずに放たれた炎槍が、彼の意識を強引に引き戻す。
慌てて地面を転がり回避すると、オシュトルが張りついていた大岩は炎槍の直撃を食らい、爆散。

「どうした、オシュトルッ!!
よもや、手負い故、十全に戦えぬなどとは申すまいッ!!」

猛る、ヤマト最強。
第二射、第三射と炎槍が立て続けに投擲されると、その度に、大気が震え、大地が爆ぜる。

闘神の眼が捉えるオシュトルは、己と同じく満身創痍――。
手に持つ得物も、使い慣れた長刀ではない為、かつてヴライが敬った老将の元で研ぎ澄まされた剣技も、此処で発揮することはないだろう。
互いに十全の状態での果たし合いが本望ではあるが、此の地が戦場であるが故、致し方ない。
なればこそ、ヤマトの次なる支配者を決する闘争の担い手として、全力を以って屠るこそが己が務めだ。

「さぁ、我を愉しませよッ!!
汝が力、我に示せッ!!」

昂る感情のまま、地を踏み抜き、猛然と疾駆するヴライ。
両の手に生成した炎槍を投擲しつつ、その着弾からどうにか逃れたオシュトルを殴殺せんと拳を振り上げる。

「てめえ、この野郎ぉおおおおおおっーーーーー!!

その刹那――。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!

怒声とともに、弾丸の雨あられがヴライに迫る。

「--むぅ!?」

肉を削られる不快感と、それに伴う無数の灼熱感に、僅かに眉を顰めるヴライ。
咄嗟に己が内に宿る火神(ヒムカミ)を激らせ、豪炎を全身に纏うと、自身を襲う弾丸を灰塵に変えていく。
弾丸の飛来する方向に振り向くと、尚も機関銃を撃ち続ける、いつぞやの青年の姿が目に留まった。

「失せよッ!!」

漢の果たし合いに水を差されたヴライは、怒りのまま思い切り腕を振りかぶり、炎槍をカナメに投擲。

「カナメ様っ!!」
「――うおっ!?」

放たれた炎の槍に、いち早く反応したのは、ヴァイオレットであった。
咄嗟にカナメに飛びついて押し倒し、爆撃を回避。
数舜前まで彼がいた空間は、炎槍の直撃を受けて燃え盛り、さながら地獄の業火の如くとなる。

57戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:23:02 ID:zQWVdmfw0
しかし、カナメに宿る闘志もまた、その炎に負けず劣らず、燃え滾っていた。
再び機関銃を手に取ると、ヴライにその照準を合わせ、再び引き金を引かんとする。
眼前の漢は、何を隠そう霊夢達の仇だ。絶対に許すわけにはいかない。

「これ以上の狼藉は許さないかな、ヴライっ!!」

だが、ヴライに対して因縁を覚えているのはカナメだけではない。

「…っ、クオン!?」

クオンが飛び出し、ヴライ目がけて疾走すると、カナメは慌てて機関銃を引っ込める。
今の位置取りでは、彼女に弾丸が当たってしまうと判断したからだ。

「――邪魔をするな、小娘がッ!!」

怒涛の勢いで迫り来るクオンに対し、ヴライは腕を振るい、灼熱の豪炎を纏う突風を巻き起こす。
炎嵐は、まるで意思を持っているかのように、クオンを吞み込まんと荒れ狂う。

「元はと言えば、貴方がいたから―――ハクはっ……!!」

その身に炎が触れる寸前、クオンは力強く大地を蹴りつけると、炎に対して垂直の方向に跳躍。
そして空中で身を翻すと、重力に引っ張られながらも、回転しながらヴライの頭蓋目がけて、渾身の回し蹴りを放った。

「はぁあああっ!」
「――ぬぅんっ!!」

旋風を伴う蹴撃と剛腕が激突し、轟音と共に大気が振動した。
地面が陥没し、クオンの身体が弾かれると、ヴライは更に追撃の一手を繰り出した。
右の拳に灼熱を纏わせると、それを撃ち下ろすように一気に振り下ろす。
灼熱の鉄槌は大地を揺るがし、爆発するように土砂が巻き上がるが、クオンはくるりと回転しながら、その間隙を掻い潜った。
そのまま、ヴライの懐に潜り込むと、その顎目がけて突け上げる様な形で掌底を放つ。

「――ッ!?」

ガゴンッ、という鈍い音を響かせ、ヴライの身体が僅かに浮き上がる。
そして続けざまにクオンの掌底が二発、蹴りを一撃、その巨体に叩きこまれる。
ヴライが後方に下がると、クオンは間髪入れず、地面を蹴りつけて追撃を仕掛ける。
しかし、ヤマト最強はこれしきで屈することはない。

58戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:23:35 ID:zQWVdmfw0
「温いわッ!!」

咆哮と共に爆発を彷彿させる勢いで、体内より炎を噴出。
その衝撃波は、クオンの突進を簡単に押し返す。

「ぐぅっ……!?」

堪らず吹き飛ばされかけるも、宙で体勢を整えて着地するクオン。
そこにヴライの剛拳が容赦なく迫る。

「――させぬよっ!!」
「……オシュトル……!?」

しかしそこで、クオンとヴライの間に割って入ったのは、オシュトルであった。
クオンに意識を向けていたヴライの懐に潜り込むと、その首筋目がけて、鉄扇にて一閃――。
咄嗟にヴライは反応して、上体を後ろに反らして躱す。

「フフッ、流石だ、オシュトル……。
もう少し踏み込みが深ければ、この首、落とされていたやもしれんな」

ッ―――と、太い首の皮が、僅かに裂かれ鮮血が噴き出るヴライは、愉しそうに嗤う。

――そうだ……我が宿敵は、こうでなくてはならない。

不慣れな得物ですらも難なく使いこなす技量。
満身創痍の身であれど、その武技、器量、闘志は、紛うことなく仮面(アクルカ)に選ばれた武士のそれに相違ない。

ヴライは、眼前に立ちはだかる漢を、改めて己とヤマト――そして帝が認めた強者なのだと再認識。そして血肉が踊る様な高揚感が、己の内に湧き上がるのを自覚した。

「――オシュトル……どうして……?」

その一方で、オシュトルの機転に救われた形となったクオンは、困惑する。
クオンとしては、オシュトルの事を、ハクを切り捨てた悪漢と断定して、再三早苗とともに追いかけ回し、攻撃を加えていた。
まさか、その悪漢が、散々痛い目に遭わせられた自分を助けるだなんて、夢にも思わなかった。

「どうしても何も…。仲間の窮地を救わんとするのは、当然のことであろう」
「仲間……? 貴方はまだそんな事を―――」

クオンは眉を吊り上げ、怒りの声を上げんとするが、眼前のオシュトルの姿に、息を呑んだ。
こちらを完全に信頼しているのか無防備な背中を晒しつつ、鉄扇を開いてヴライと対峙するオシュトル。

ボロボロの状態でも、尚も眼前の強敵をどうにかせんと相対する、その姿勢、その背中――。
一見頼りなく見えなくもないが、それでも、きっと何とかしてくれるのではないかという
期待を抱かせてくれるような、その後ろ姿は――。

いい加減で、お調子者で、いつも楽ばかりしようとしていて。
だけど、いざという時は、心強く頼りにもなる。
そんな、在りし日の"彼"が、まるで乗り移ったかのようで――。

59戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:24:28 ID:zQWVdmfw0
「――クオンさん、退いてっ!!」
「ッ……!?」

オシュトルの姿に、追憶に耽っていたクオンを現実に引き戻したのは、早苗の叫び声だった。
反射的にクオンが身体を横にずらした瞬間、煌びやかに光る弾幕が、彼女を横切り、ヴライとオシュトルに殺到した。

「ぐぅ……!!」
「蟲めがッ!!」

オシュトルは咄嗟に飛び退き、その光弾の雨を避けるが、完全に躱しきることはできず、何発か被弾し、顔を顰める。
ヴライもまた後方に飛びのき、光弾をやり過ごす。

「……早苗……?」
「――まだですっ!!」

弾幕の担い手たる巫女は、攻撃の手を緩めるつもりはないのか、再び無数の光弾を放出。
狙うは、今の攻撃で被弾し、体勢の崩れたオシュトルだ。

「止めろ、早苗!!」
「きゃっ!?」

カナメは猛ダッシュで早苗に駆け寄ると、その身体を抱きかかえる様にして押し倒した。

「カナメさん、邪魔しないで下さいっ!! 早く……早くあの人達を倒さないと……」
「ここは一時休戦だ!! まずは全員で協力して、あの化け物をどうにかするんだ!!
あのヴライって奴は、霊夢を殺した奴だぞ!!」
「霊夢さんの仇は取ります!! だけど、オシュトルさんもあの人と同じくらい危険で、倒さないといけないんです!!」

早苗は、自身に馬乗りになっているカナメを跳ねのける。
満身創痍のカナメは、その勢いに負けてバランスを崩し、地面を転がる。

「邪魔をするなら、カナメさんだって容赦しませんよ!!」

そんなカナメを見下ろしながら、早苗は五芒の印を切り、至近距離で弾幕を放たんとするも--。
ヒュン!!と風を裂く音を知覚するや否や、彼女は後方にふわりと浮遊。
彼女が元いた場所の地面には、三本の銀色が生えていた。

「早苗様、ここは――」
「カナメ君の言う通り、合理的にいかないかい?
まずは人間同士、手を取り合って、あの化け物を排除しようじゃないか。
その後は、君の好きなようにすればよい」

ヴァイオレットと臨也が、早苗とカナメの間に割って入るように立ちはだかる。

「そんな都合の良いこと、誰が信じると言うんですか!!」

しかし、早苗は聞く耳持たず。
躊躇なくヴァイオレット達に光弾を放った。

「くっ、早苗様……!!」

光弾の雨は、ヴァイオレットと臨也を容赦なく射貫かんとするが、二人は左右に散開して回避。
早苗は続けざまに弾幕を放ち、二人もさらにそこから距離を取って躱していく。
地面に着弾した光弾が次々と炸裂し、その度に土煙が高く舞い上がっていく。

「クソッ、やるしかねえのか……」

光弾を避けながら、カナメは現状に歯噛みする。
早苗は、紛れもなくカナメの仲間であり、恩人でもあり、自分のために涙まで流してくれた心優しい少女だった。なるべくなら、手を掛けたくない。
しかし、もはや、そんな悠長な事を言っていられる状況ではなくなっている。
反撃に転じる覚悟を決めると、カナメは宙より此方を見下ろす早苗に向けて、異能(シギル)で創成した手榴弾を投げつけるのであった。

60戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:24:53 ID:zQWVdmfw0


「はぁあああああー!!」
「むぅんッ!!」
「ハァッ!!」

一方で、ヴライとオシュトルとクオン。
此方でも、炎拳と蹴撃と斬撃が交錯し、三者入り乱れての攻防が繰り広げられている。
しかし、その様相はヴライ一人に対して、オシュトルとクオンが共闘している形となっている。
特に示し合わせたわけではないが、クオンとしてもオシュトルに対して、何か引っ掛かる部分があるのか、まずはハクの直接の仇でもあるヴライを倒すのが先決だと、割り切ることにしたらしい。

バゴォン!!

「――っ……!?」

均衡が崩れたのは、ヴライの業火で燃え盛る茂みの向こう側より、爆音が響いてきた瞬間だった。
それはヴライによるものではなく、カナメが早苗に投擲した手榴弾によるものであったが、鼓膜を突き破るその爆音に、クオンとオシュトルは、一瞬ではあるが気を取られてしまう。

「死合の最中に、呆けるとは笑止!!」

ヤマト最強はその隙を見逃すような、甘い漢ではない。
仲間の安否を慮ったが故に生じた僅かな隙を突いて、ヴライは突貫--クオンを横殴りに跳ね飛ばすと、オシュトルの頭蓋に炎を帯びた剛拳を叩き込まんとする。

「ぐぅっ!?」

それを鉄扇で受け止めようとするオシュトルだが、闘神による渾身の一撃を殺しきれず―――

ボゴンッ!!

先の爆発音に負けず劣らずの轟音が木霊すると、彼の身体は砲弾のような勢いで吹き飛び、樹々をなぎ倒しながら森の奥へと消えていった。

「オシュトル……ッ!!」

身体を起こしながら、オシュトルが吹き飛ばされた方を見やるクオン。
そんなクオンに微塵にも興味を持たず、ヴライは己が宿敵が消えて行った方角へと、猛然と駆けて行くと、クオンも慌ててこれを追走していった。

61戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:25:20 ID:zQWVdmfw0



ドォン!! ドォン!!

「……んくぅ……」

全身を伝う振動と、鼓膜を刺激する爆音が、オシュトルを覚醒へと促す。

ドォン!! ドォン!!

覚醒したオシュトルの視界に飛び込んできたのは、火の手が上がる中、戦闘を繰り広げるヴライとクオンの姿であった。
二人は吹き飛ばされたオシュトルを追跡し、意識を失っていた彼の元へ辿り着くと、再び拳を合わせ、一進一退の攻防を繰り広げていたのだ。

ヴライが炎槍を顕現しては、クオンに向けて、投擲していく。
クオンは持ち前の俊敏さを以って、爆撃を躱しつつ、ヴライに肉薄。
回転力を伴った蹴り技がヴライの顎を打ち抜けば、それとほぼ同時に彼女の腹部に、最強の拳が打ちつけられる。

「――かはっ!!」

乾いた声を漏らしながら、クオンの細い体が後方へと吹き飛ばされる。
その刹那、クオンは空中で姿勢を整えると、後方の大樹の幹に着地。
顔に塗られた自らの血を拭うと、間髪入れずに、その幹を蹴り飛ばし、再びヴライの元へと突貫。
ヴライは炎槍にて立て続けに放ち、これを迎撃。
辺り一面に火柱が上がっていくも、クオンはその悉くを躱していく。
謂わば、火力で勝るヴライを、クオンが機動性で凌いでいるという様相になっている。

「――クオンっ!! うぐっ……!!」

ヴライによる爆撃が絶え間なく大地を揺るがす中、オシュトルもまた駆けつけようとするも、先の一撃のダメージが抜け切っておらず、身体が悲鳴を上げる。

――ズキン、ズキン、ズキン

身体中の至る箇所が軋み、激しい鈍痛が脳天から全身を駆け巡る。
気が付けば、手に握る金色の扇は粉砕されて取手しか残されていなかった。
更に―――。

――ピシリ

己が面貌を覆う偽りの仮面にも、亀裂が生じるのを感じる。
仮面は割れることなく、その表面に蜘蛛の巣のような亀裂を走らせただけではあるが、これ以上損傷が進めば、崩壊してしまうのは明らかだった。

(どうにか持ち堪えてくれよ、仮面(アクルカ)……)

懐より、双扇のまだ壊れていない一方を取り出すと、ゆっくりと立ち上がるオシュトル。
全身が悲鳴を上げるのを堪えつつ、痛みを精神力で抑え込む。
血反吐を吐こうが、肉体に限界が訪れようが、今は立ち上がり、戦うしかない。
ボロボロの肉体を引き摺り、クオンに加勢をせんと歩を踏み出した。

62戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:25:45 ID:zQWVdmfw0
その刹那――。

「鳴神よ!」

一閃の光が走ったかと思えば、質量を伴う雷撃がヴライの巨体へと突き抜けた。

「ぬぐおおおおおおおおおおお!!」

超電子砲(レールガン)を彷彿させる光速の直撃に、ヴライは本能的に防御姿勢を余儀なくされる。
電撃により全身が痺れる感覚と、肉が削ぎ落されていく感覚を味わいながら、耐え凌ぐヴライ。

「ぬぅうんッ!!」

しかし、『ヤマトの矛』とうたわれし漢は、ここで押し切られて終わるような凡将に非ず。
電撃を浴びながらも、全身の筋肉を隆起させ、咆哮をあげながら炎を噴出。
電光石火の如く襲ってきた衝突物を、跳ねのけた。
跳ね除けられた“ナニカ”は、そのままふわりと、空中で静止。

「汝は……」

月光の元に晒されたその姿に、ヴライの動きは止まる。
深紅の双瞼が見上げる“それ”は、白き翼を背中に生やした一人の少女―――纏うオーラも、髪色も異なれど、その面貌は確かに、かつて学園の地にて言の葉を交わし、亡き御方の忘れ形見の埋葬を命じた少女のものに違いなかった。

「――これ以上、殺戮を続けるのであれば…。
今度は、私が貴方を止めます…!!」

その姿は、まるで、下界の不届き者に裁きを下す、天界の使いの如く。
間宮あかりは、毅然とした態度でヴライと対峙するのであった。

「――凄い……、アレがあかりさんの力……」
「っ…!? 貴殿は――!?」
「えっ、麗奈っ!?」

対峙する二人の様子を、呆気にとらながら見守る、クオンとオシュトル。
その前に現れ、ポツリと言葉を漏らしたのは、二人にとって見知った少女。

しかし、その姿かたちは、二人の知る彼女とは、大きく異なっていた。
身に纏う衣装は、先刻まで着用していた学校の制服などではなく、花嫁を彷彿させる純白のドレス。
鮮やかだった黒い髪は、炎を彷彿させる、紅蓮の色彩へと変貌。
そして、アメジスト色だったはずの双瞼の片方は、蒼く妖しく輝いている。

「オシュトルさん、さっきぶりですね……。
そして、貴女は―――ごめんなさい、貴女とは初対面の筈だけど、どこかで会ったかしら?」
「えっ? どこかで会ったも何も――」

認識の齟齬に、クオンが困惑するのも束の間。

ド ォ ン !!

凄まじい衝突音が、三人の鼓膜を激しく揺らす。
視線を前方へと戻せば、紅蓮の炎の塊と、紫に発光する雷の矢がぶつかり合い、四方八方へと、その衝撃をまき散らしていた。
ヴライとあかり、絶大な火力を誇る二人が、正面衝突でしのぎを削り合っているのである。

「詳しい話は、また後で……。
あっちは私たちが何とかしますので、二人は下がっていてください!!」
「あっ、ちょっと!?」

麗奈は二人にそう告げると、クオンが止める間もなくヴライ達の元へと駆けていく。
残された二人はただ呆然と、その背中を見送る他なかった。

63戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:26:15 ID:zQWVdmfw0



一方で、オシュトル達が去った戦線では――。

「おいっ、早苗!! もういい加減、止めにしないか!?
俺は、お前とは戦いたくないんだ!!」
「私だって、こんな事したくないですよ!!
だけど、カナメさんが邪魔するから……!!」

早苗は尚も臨也、ヴァイオレット、カナメをつけ狙い、弾幕で追い立てており、三人は各々どうにかして、それから逃れていた。
また三人とも、ただ逃げているだけではなく、臨也は投げナイフを、カナメは手榴弾を投擲し反撃を試みている。
元々二人とも、早苗を害そうという気は毛頭ない。
したがって、例え彼女が被弾しても重傷になりえないよう配慮して、反撃しているが、その悉くは早苗の放つ弾幕の物量差によって阻まれている。

「何で、そこまでして、オシュトルさん達を庇うんですか!?」
「話を聞く限り、オシュトル達が責められる謂れはないからだ」
「だから、それが罠だって言ってるんですよ!!
狡猾なその人達が工作した罠なんですよ!!」

爆音織りなす戦場で、カナメと臨也の攻撃を掻い潜りながら、早苗は尚も、自身の正当性を主張する。

「あれ? 早苗ちゃんが言った“その人達”って、ひょっとして俺も入ってる?
オシュトルさんや、ヴァイオレットちゃんだけじゃなくて?」

そんな早苗に、池袋の情報屋は、パルクールで培ったバク転や側転を以って、光弾を避けながら、口を挟んだ。

「当たり前じゃないですか!! 貴方はオシュトルさんとずっと連るんでいるし、クオンさんにも酷い事ばっかり言って、そもそも信用できません!!」

「おやおや、随分嫌われちゃってるようだね。
俺は早苗ちゃんのこと、結構好きだし、気に入ってるんだけどなぁ」

「私は、貴方のこと全然好きじゃないです!!!」

再度放たれた臨也のナイフを、弾幕で撃墜しながら早苗が叫ぶ。
臨也は、そんな早苗の表情を窺いながら、愉しそうに笑ってみせる。
そして、弾幕を躱しつつ、アクロバティックに回転しながら、木の上に着地すると、早苗
に指をさして、宣告する。

「自分の嫌いなもの、都合の悪いものは、とにかく敵だとみなして、排除する―――。
早苗ちゃんの今やろうとしている事は、実に愚かしいだけど、どうしようもなく、人間らしい。俺は好きだよ」
「……っ!?」

早苗としては、オシュトルやヴァイオレットから脅迫とも取れるような事を言われたのは紛れもない事実だ。
にも関わらず、目の前の黒コートは、事実に基づいて行動する自分を道化と揶揄する。
その笑みと、その言葉は、早苗を苛立たせていくが、臨也はお構いなしに言葉を紡いでいく。

64戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:26:53 ID:zQWVdmfw0
「仮に、この会場にいる俺たち以外の参加者26人全員が、君ではなくオシュトルさんの肩を持ったとしよう……。
君は、それでも俺達の罠だと言い張って、邪魔するものなら全員を排除するつもりなのかい?」

「そ、そんなこと――、まず皆がオシュトルさんを支持することはありえません!!」

「何故そう言い切れるんだい?
さっきのやり取りを振り返ってみるがいいさ。
君の一貫していない証言に賛同する人は、誰一人いなかったじゃないか?
あのクオンとかいう、オシュトルさんのペットですら、最終的には、君の言動に疑問を抱いていたようだけど?」

「そ、それは……」

臨也の指摘に、早苗は言い淀む。
そんな早苗の反応に、目を細めると、情報屋はさらに攻勢を掛けていく。

「オシュトルさん達によって、切り捨てられる犠牲者が出ないようにという大義名分で、早苗ちゃんは、彼らや、彼らの肩を持つ人間を排除しようとしてるけどさ。
このケースだと、早苗ちゃんによる犠牲者の方が遥かに甚大なものになってしまうよね?
でも、そうなっても、結局君は自分こそが正しいと言い張るんだろうね、きっと。
都合の悪いことは、全部『罠です!!』なんて言っちゃって、さ。
プッハハハハ、実に滑稽じゃないか――」

「――……っ!! 黙ってください!!」

臨也の挑発に、激昂した早苗は、これまでとは比較にならないほどの弾幕を彼に向けて、放射。
臨也は、迅速に後方の木の上に飛び退くと、彼が元いた大樹は、弾幕によって削られ、倒壊していく。

「逃がしませんからっ!!」

顔を真っ赤にした早苗は、滑空。
臨也へと差し迫り、尚も追撃せんとするが――

「……えっ?」

不意に自らの眼前を横切った投擲物に、目を奪われる早苗。
地上に目をやると、物体を投擲したばかりのカナメの姿があり、その片手にはピンが握られている。
臨也はニタリと笑いながら、宙返りしつつ真横へと退避している。

バ ァ ン !!

瞬間、閃光が早苗の視界を白く焼き尽くし、爆音が辺りに響きわたった。

65戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:27:21 ID:zQWVdmfw0
「ああああああああああああっ!! 目がっ、目がああああああああああああっ!!」

カナメが早苗に投擲したのはフラッシュバン―――殺傷を目的としたものではなく、主にターゲットの無力化を想定した非致死性兵器であった。
臨也の挑発によって、頭に血を上らせてしまい、周囲への注意が疎かになった結果がこれだ。
それによって齎された、凄まじい耳鳴りと眩暈に、早苗は絶叫を上げながら、地上へと落下する。

「早苗様っ!!」

すかさず、金色の自動書記人形が、駆け出す。
墜落した彼女の元にたどり着くと、少々手荒ではあるが、抑え込まんとする。

「いやぁ、触らないでくださいっ!!」

未だ視覚戻らぬ早苗は、その手を振り払うと、出鱈目に光弾を乱射し、必死に抵抗する。

「――かはっ……」

さしものヴァイオレットも、至近距離での砲撃を躱すことはできず、その躰は宙を舞う。
口から血を吐き出しながら、うつ伏せに地面へと落ちたヴァイオレット。
ようやく視力を取り戻した早苗は、よろよろと起き上がると、倒れ伏せたヴァイオレットに向けて光弾を放たんとする。

「――このっ…!!」
「ま、待て、早苗っ!!」

カナメと臨也は揃って、それを阻まんと反応するも、時すでに遅し。
早苗から、無情の光条が放たれ、ヴァイオレットの躰を貫かんとした、その瞬間――。

斬ッ!!

どこからともなく影が飛び出し、ヴァイオレットの前に立ち塞がると、その光弾を一閃。
光弾は二つに分かたれ、ヴァイオレットの両脇を掠めていった。

「――なっ!?」

予想外の展開に、早苗が息を呑んだ刹那――。
黒い影は早苗との間合いを瞬時に詰めると、手にする得物を彼女の喉元に突き付けた。

「よぉ…暫くぶりだな、早苗……」
「ロ、ロクロウさん……」

早苗の首筋に刃を突き立てるのは、紅の眼光を妖しく煌めかせるロクロウであった。

「ロクロウ様、何故こちらに……?」

早苗の動きを封じている夜叉の業魔の元に、ヴァイオレット、カナメ、臨也の三人が集まってくる。
ロクロウは、鬼気迫る表情で、早苗とヴァイオレット達を交互に見やる。

「こちとら引率の途中だったが、お前らが戦っているのが目に留まったから、飛んできたんだ。
なぁ、早苗……悪いが、まずは、事情を話しちゃくれねえか?
何がどうなって、お前とヴァイオレットが戦っている流れになっているんだ?」

有無を言わさぬロクロウの迫力に、早苗はただ従わざるをえない。
彼に唆されるまま、ヴァイオレット達が見守る中で、これまでの経緯を紡いでいくのであった。

66戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:28:17 ID:zQWVdmfw0



時は少しだけ遡る――。

「おうおう、随分と派手に戦り合ってるじゃねえか」

眼前で繰り広げられる闘争に、ロクロウは、静かに己が闘志を昂らせる。
オシュトル達との合流のため、遺跡を発ったロクロウ達一行は、その道中にて、断続的に立ち昇る火柱を目撃。
何事かと思い、急いで駆け付けると、其処では二人のヒトが激しい攻防を展開していたのだ。

「――あれは、クオンさんですね……。
そして、彼女と戦っているのは――」
「……剛腕の、ヴライ……」

新たな獲物を見つけたと言わんばかりに、目を妖しく光らせるロクロウの傍ら。
琴子とあかりは、それぞれ見知った相手の姿を認めていた。

「麗奈、見て! あそこにも、変な仮面がいる!」
「……オシュトルさんだ……」

久美子が指差す先には、大樹の幹を背中にして、ぐたりとしているオシュトルの姿。
ピクリとも動かず、生きているか死んでいるかは、此処からでは判別できない。
その近くでは、今尚もヴライとクオンが、苛烈な戦いを続けている。

「――行かなくちゃ……」
「あかりさん?」

ポツリと呟くあかりに、琴子は背後を振り返る。
あかりは、琴子の車椅子のハンドルを握りながらも、俯き震えていた。

「このままだと、また誰かが死んじゃう――」

あかりの脳内に過るのは、此の地で散っていた友人たちとの記憶。

圧倒的脅威を前にしても、物怖じることもなく奮起し、自分たちを逃してくれた、アンジュ。
焼き爛れた状態でも、最期の力を振り絞って、自分への想いを紡いでくれた、高千穂。
此処ではないどこかの世界で、間違いなくエールを送ってくれた、かけがえのない親友、志乃。
今際の際にも、悲しみに暮れる自分たちを気遣って、弱弱しくも優しい笑顔をみせてくれた、カタリナ。
どうしようもないくらいに大好きで、懸命にその背中を追った、憧れの先輩、アリア。

もはや皆と同じ時間を過ごすことも、言葉を交わすことも、叶わなくなってしまった。
それが死別―――その喪失の悲しみは、今もなお、あかりの心に深く刻まれている。

『おんぼろ』となった少女の瞳が捉えるは、アンジュを亡き者にした漢が、別の誰かを葬ろうと拳を振り上げる姿。

――誰かが殺され、残された者は悲しみと絶望に暮れる。
――そんな悲しみを、繰り返させるわけにはいかない。

「――私が、止めないと……!!」

武偵として、アリアの姉妹(アミカ)として、そして何より、間宮あかり自身の想いとして。
覚悟と共に、面を上げたあかりは、その小さな背中にバサリと白き翼を顕現。
驚く一同を他所に、地を蹴って飛び立つと、戦禍の中心へと突っ込んでいった。

67戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:29:09 ID:zQWVdmfw0
「……あかりさん……」

去りゆくあかりの背中を眺めながら、琴子は心の内で、己が失策を嘆く。
こうなる前に、彼女のケアを、しっかり行うべきだった、と。

今のあかりは、冷静さを欠き、自分の感情に突き動かされるままに、独断専行に走ってしまっている。
そんな彼女を一人で行かせてしまうのは、非常に危ういものがある。

「まぁ、あいつ一人で任せるのも心配だわな。
俺も行くぜ、オシュトルの旦那もいることだし。
お前らは、ここで待っときな」

琴子の思考を、知ってか知らずか。
ロクロウもまた、内より湧きでる闘争への欲求を滾らせつつ、あかりの後を追わんとする。

「待って、ロクロウさん」
「うん? どうした?」

麗奈の静止を受け、ロクロウは足を止めて振り返る。
すると、麗奈は神妙な顔つきで、ロクロウに語り掛ける。

「――貴方は残って、久美子達を護って欲しい。
あかりさんなら、私が追うから……」
「何っ?」
「ちょっと、麗奈っ!?」

麗奈の思わぬ発言に、ロクロウは眉を顰め、久美子は驚愕する。
麗奈は久美子に向き直り、真っ直ぐな瞳で彼女を見つめる。

「久美子、ここは私に行かせて欲しいの……。
私達の目的を達成するために、私はここで能力(ちから)を試したい……。
逃げてちゃ、何も始まらないから」

麗奈は、久美子の目を見据え、真摯に訴えかける。
そのアメジストの瞳には、確固たる覚悟に満ち溢れていた。

「で、でも……」
「……お願い。此処は私に任せて」

麗奈としては、紆余曲折を経て、得た異能の能力―――今のところ、道中で出会った珍生物にのみ行使しているが、実戦での有用性を確かなければならない。
そして、今後自分達の目標を達成するためには、この殺し合いに招かれた数多の猛者達との衝突も避けられない。
そういった者達と鎬を削るためには、実戦での経験が何よりの糧となるだろう。
故に、麗奈は自身が戦闘行為を行う意義を見出し、あの場に介入する決意を固めたのだ。

「……う、うん……分かった……」

その熱意に圧され、久美子は渋々頷く。
麗奈は一度こう決めたら、絶対に折れない性格だと、よく知っているから。

68戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:29:39 ID:zQWVdmfw0
「ロクロウさんも、構わないわよね?」

「――俺は、お前らによって命を繋いでもらった恩義がある。
お前らが、そうして欲しいってんなら、俺はそれに従うが……。
大丈夫なのか? あの漢、手練れってレベルじぇねえぞ?」

「大丈夫――私もきっと強いから……。
久美子、お願い―――」

「あ、うん……」

怪訝な表情を浮かべるロクロウに、麗奈は淡々と語ると、久美子に合図を送る。
久美子はコクリと頷き、麗奈のもとに歩んでいく。
琴子とロクロウが頭の中に?マークを浮かべ見守る中、その視線に晒され、気恥ずかしさを感じつつも、自らの首筋を差し出した。

「――麗奈、いいよ」
「うん、ありがとう……」

差し出された久美子の首筋に唇を添えると、麗奈は躊躇うことなく歯を立てる。
プツリという感触が伝わった直後、久美子は一瞬顔を苦悶に歪めるも、すぐに表情を元の穏やかなものに戻す。

「っ!? これは……」

琴子は目を見開かせ、眼前の光景に驚愕する。
突如として、接吻を彷彿させるような、情熱的で甘美な光景が見せつけられたのもあるが、何より久美子から血を吸い上げる麗奈の身体が、みるみるうちに変貌していったためだ。
摂取する血の量に比例するように、麗奈の髪の色が、黒から紅色へと染まっていく。
同時に、欠損していたはずの左腕が、まるで時間を巻き戻しているかのように再生し、久美子の身体を優しく抱きとめていく。

「それじゃあ、行ってくる」

吸血を終えて「夜の女王」と化した麗奈は、久美子の首元からゆっくりと口を離すと、その口元に付いた真紅の滴をペロリと舐めとる。
久美子の首筋に残された吸血痕は、みるみるうちに薄れ、完全に消え去っていく。

「――麗奈」
「何?」

踵を返さんとする麗奈を、久美子は思わず呼び止める。

「絶対に戻ってきてね……」
「うん、絶対に戻ってくる」

懇願するように告げる久美子に、麗奈は短くも、力強く誓いを返す。

「約束だから……」
「うん、約束」

唯一無二の親友の両頬に手を添えて、その温もりを確かめる。
と同時に、彼女から受け取った血(あい)が全身に染み渡るのを感じ取る。
そして、暫くしてから名残惜しそうに手を離すと、麗奈は、久美子達に背を向け、今度こそ戦場へと駆けていった。

69戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:30:47 ID:zQWVdmfw0



「――ひとつ訊かせよ、娘……」

夜天に君臨するは、裁きの天使。
己と対峙する乱入者をじっと見据えながら、ヴライは問いを投げかける。

「我は命じた……彼の者を弔えと――。
汝は、彼の者の葬送を成し得て、ここへ到ったか?」

ヴライにとっては、あかりがどういった経緯で、斯様な変貌を遂げたのか――。
何を思って、己が前に立ち塞がるか、など微塵も興味は湧かない。
ただ一点――。己が手で屠った皇女の骸が、その後、無事に葬られたか否か。
関心はそれだけだった。

「……アンジュさんなら、あの後、きちんと送りました……」

表情を曇らせながら、あかりは告げた。
その脳裏に、土に埋まっていった皇女の姿を、思い起こしながら。

「そうか。ならば、良し……」

ヴライはその答えを聞き受けると、再びその拳に炎を宿す。
これ以上の問答は不要。後は、立ちはだかる眼前の敵を屠るのみ。
そう言わんばかりに、ヴライは臨戦態勢へと入る。

「……。」

対するあかりもまた、その闘気に呼応し、構えを取る。
既に、会話が通じる相手ではないと悟っている。
故に、全身に気迫を漲らせ、ヤマト最強を、全力を以って迎え撃たんとする。

――刹那。

ヴライが動くと同時に、あかりもまた動き、両雄は正面衝突を果たす。

ド ォ ン !!

豪炎と豪風がぶつかり合い、周囲に激しい衝撃波が撒き散らされる。
その衝撃たるや、一帯の地面は陥没し、生い茂る木々はバッタバタと薙ぎ倒され、森林地帯は見るも無惨に切り裂かれていく。

「ぬぅん……!!」
「――ッ!!」

ヴライが、猛火を帯びた拳撃を振るえば、あかりは、自身を弾丸に見立てて、回転しながら突貫。
神風を彷彿させる勢いそのままに、雷撃を伴った螺旋の刺突を放つ。
絶大な力を誇る衝突が繰り返されるたびに、大地は悲鳴を上げて、空は割れて、戦場に破壊の爪痕を刻んでいく。
無論、これだけの破壊をまき散らしておいて、当事者達が無傷でいられよう筈もない。

既に、あかりの服はあちらこちらが焼け焦げており、露出した肌には火傷の痕と裂傷が散見される。
一方のヴライも、螺旋力を帯びたあかりの刺突を受けて、その拳は削られ、血に濡れている。

70戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:31:17 ID:zQWVdmfw0
「ぬおおおおおおおおおおお!!」
「はあああああああああっ!!」

しかし、それでも両者一歩も引かず。
ただ、眼前の敵を打ち倒さんと、次なる攻撃を放っていく――。
もはや、二人の激闘は、他の誰にも介入できぬほどの領域に昇華されていた

豪ッ!!

――かのように思われていた。

「ぬッ…!?」

突如として、ヴライの側頭部に向けて高速で飛来してきたのは、触手の槍。
それを察知したヴライは、振り向けざまに業炎を振るい、それを灰燼へと変える。
第三者による奇襲を、咄嗟にやり過ごしたヴライ。
しかし、その対応によって、あかりへの突進は中断される。

「……そこ!!」

その隙を逃すまいと、あかりは出力を上げて、突貫。
己が身を光の矢と化して、ヴライの心の臓を狙う。
迫りくる必殺の刺突に、ヴライは本能的に危険を察知。
反射的に身体を反らし、これを躱さんとする。

「ぐぅ……!!」

しかし、完全に躱すことは叶わず、左胸の一部が削り取られ、鮮血が舞う。
ヴライは、顔を顰めながらも、後方を振り返ると、今しがた自分の脇を通過したあかりに向かい、炎槍を投擲せんとする――。

豪ッ!!

だが、再び、別方向より、触手の横槍が到来。

「おのれぃッ……!」

やむを得ず触手を迎撃し、焼き払うと、触手の射出元へと、炎槍を投擲。
次の瞬間には、爆音と共に、炎が巻き上がる。
爆炎と同時に、触手の主と思わしき一つの影が跳躍。
そのまま、ヴライの巨体を通り過ぎると、目を丸くしているあかりの横へと、着地した。

「加勢するわ、あかりさん」
「……えっ、 麗奈さん?」

あかりと並び立ったのは、琴子達と一緒に残してきたはずの、麗奈であった。
しかし、その容姿は先程までとは一変しており、どこか神秘めいた雰囲気を身に纏っている。
特筆すべきは、その背中に蠢く二本の触手――。明らかに、人の域を超えた姿である。

「まだ蟲が湧くか……!!」

その風貌に、先のオシュトルを騙った不届き者の姿を重ねたヴライは、憤怒の表情で麗奈を睨みつける。

――ビクリっ!!

真正面から注がれる、鬼神の如き、闘氣と殺意。
麗奈は一瞬、心の臓が跳ねる感覚に襲われる。

(……大丈夫……、私は戦える……)

しかし、麗奈は自分にそう言い聞かせて、その身を震わせる感覚を振り払う。

(……これは試練……。
久美子と共に、全てを取り戻すためにも、ここで退くわけにはいかない……)

決意を新たに、麗奈はヴライを睨みつけ、前屈みとなって、構えを取る。

「あかりさん、色々と気になることはあるでしょうけど、まずは、この場を切り抜けましょう」
「え、ええ……そうですね……」

麗奈の呼びかけに、あかりは戸惑いながらも頷くと、咆哮と共に襲い掛かるヴライを、迎え撃つのであった。

71戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:32:11 ID:zQWVdmfw0
【E-6/夜中/一日目】
【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:ダメージ(絶大)、疲労(絶大)、額に打撲痕、左腕に切り傷(中)、火傷(絶大)、頭部、顔面に複数の打撲痕、右腕に複数の銃創、シドーに対する怒り、顔面に爆破による火傷、全身にガラス片による負傷、全身に銃弾と針による負傷、無惨に対する怒り(極大)、両拳にダメージ、胸に刺突痕
[服装]:いつもの服装
[装備]:ヴライの仮面(罅割れ、修理しなければ近いうちに砕け散る)@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ 、大量のヤシの実サイダー(現地調達)@とある魔術の禁書目録
[思考]
基本:全てを殺し優勝し、ヤマトに帰還する
0:目の前の二人(あかり、麗奈)を屠った後、オシュトルと雌雄を決する
1:あの男(シドー)もいずれ殺す
2:アンジュの同行者(あかり、カタリナ)については暫くは放置
3:オシュトルとは必ず決着をつける
4:デコポンポの腰巾着(マロロ)には興味ないが、邪魔をするのであれば叩き潰す
5:皇女アンジュ、見事な最期であった……
6:あの術師(清明)と金髪の男(静雄)とオシュトルの贋作(無惨)に再び会ったら葬る。
[備考]
※エントゥアと出会う前からの参戦です。
※破損したことで、仮面の効能・燃費が落ちています。
※『特性』窮死覚醒 弐を習得しました。


【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:覚醒、白髪化、痛覚が鈍くなっている、体温低下、情報の乖離撹拌(進行度34%)、全身のダメージ(大)、精神疲労(中)、疲労(絶大)、左中指負傷(縦に切断、包帯が巻かれている)、深すぎる悲しみ、久美子たちの計画に対する迷い、全身に火傷
[服装]:いつもの武偵校制服(破損・中、焼き焦げ・中)
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。
0:この人は、私が止めなくちゃ……。
1:黄前さん達の計画については……。
2:ヴライ、琵琶坂、魔王ベルセリア、夾竹桃を警戒。もう誰も死んでほしくない
3:『オスティナートの楽士』を警戒。
4:もし会えたらカナメさんに、シュカさんの言葉を伝えないと
5:メアリさんと敵対することになったら……。
[備考]
※アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
※覚醒したことによりシアリーズを大本とする炎の聖隷力及び「風を操る程度の能力」及びシュカの異能『荊棘の女王(クイーンオブソーン)』、そして土属性の魔術を習得しました。
※情報の乖離撹拌が始まっており。このまま行けば彼女は確実に命を落とします。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。

72戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:32:33 ID:zQWVdmfw0
【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム】
[状態]:鬼化(無惨の呪い無し)、新月の花嫁、確固たる思い、左腕の肘から先が消失(現在は一時的に再生中)、『夜の女王』形態
[服装]:特製衣装・新月の花嫁(共同制作)
[装備]:
[道具]:高坂麗奈のトランペット@響け!ユーフォニアム、危険人物名簿@オリジナル
[思考]
基本:久美子の願いを手伝う。……人間に戻れたら、私は滝先生にもう一度――
0 : まずはヴライを倒す。その後は、久美子の元に戻る。
1:久美子、待っていて―――
2:なるべく久美子には無茶はしてほしくはない。
3:ヴァイオレットさんと話をしたい。……出来れば、仲間になって欲しいかな。
4:岩永さん……敵に回るのであれば容赦はしないから
5:無茶にもほどがあるけど、音楽勝負なら負けてやらないから。
6:水口さんや月彦さんとはいずれ決着を付けないといけない。
7:まずは、力の使い方に慣れたい。
8:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒

※『ビルダー』黄前久美子の血肉を喰らい、精霊ルビスの情報を取得した結果、無惨の呪いから解放されました。
これ以上無惨の影響を受けることは有りませんが、無惨の血による鬼化自体は治っておりません。
※首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※ 精神の安定に伴い、カタルシスエフェクトの発動が可能となりました。形状は後続の書き手にお任せします。
※己の『奏者』としての特別(ちから)を自覚しました。それがどう作用するか後続の書き手におまかせします。
※ビエンフーから記憶情報を読み取り、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※鬼化した身体の扱い方にある程度慣れました。現状では鬼舞辻無惨の『管』等や、対象によって可能不可能の差異はありますか血を介しての情報の読み取り等が可能です
※久美子の血を飲むことで一時的に『夜の女王』形態になります。この場合左腕が一時的に再生し、通常時を遥かに超える出力が可能です。

73戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:33:05 ID:zQWVdmfw0


「――あれは月彦の……」

目と鼻の先で、あかりと共に、ヴライを相手に奮戦する麗奈。
壮絶な速度で駆け回り、背中から生やした触手を得物として、戦うその姿に、オシュトルは、先に遭遇した鬼の首魁の姿を想起した。
自分達と離別してから、“何か”があって、それを契機として、鬼化によって齎された力を使いこなせるようになったのだろうか――。
何れにしろ、あかりとともに、あのヴライを相手に互角以上の攻防を繰り広げている。

あわよくば、ここは彼女たちに一任して、自分はこの場所から早々に離脱したいのが本音ではあるが、そうも言っていられない。
眼前で、麗奈と共闘するあかりは、自分たちが探し求めていた覚醒者―――。
このゲームの打開のためにも、絶対に捨て置くことは出来ない存在だ。

(はぁ…、やることが多い……。
アイツの誤解も解かないといけないしな……)

憂鬱気味に、オシュトルはクオンの方をチラリと一瞥する。
クオンは未だ、呆気に取られた様子で、眼前で繰り広げられている激闘に釘付けとなっている。
先刻とは異なり、此方に敵意が向いていないだけでも、僥倖とも言える。
彼女とも、この後じっくり話し合う必要がありそうだが、まずは目下最大の脅威である、ヴライをどうにかせねばならない。

「……やれやれ、もはや追加労働手当だけでは割に合わんな……」

そんなことをぼやきつつ、偽りの仮面を纏いし青年は、満身創痍の身体を引き摺っていく。

「――えっ……?」

眼前の戦闘による衝突音が木霊する中、ふと耳に入ってきた、何気のない呟き。
かつて、自分の隣に在った青年が、時折口にしていたような、そんな言の葉に、クオンの意識は引かれ、思わず振り向いた。
視線の先には、傷だらけの身体を庇いながらも、あかり達の元へと歩みを進めるオシュトルの姿があった。

「……今、何て――」

全身が震える感覚を、覚える。
オシュトルの視界には、揺らめく自分の姿は映っていないようで、ただ真っ直ぐに、前進していく。
仮面(アクルカ)を装い、得物を手に取り、戦場へと歩んでいく、その姿はヤマト右近衛大将のそれに違わない。

「……まさか……まさか―――」

しかし、揺れる皇女の双眸には、かつて自分の隣に在った“青年”の姿としか映っていなかった。

74戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:33:25 ID:zQWVdmfw0
【E-6/夜中/一日目】
【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:健康、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、全身打撲、強い覚悟
[服装]:普段の服装
[装備]:オシュトルの仮面(罅割れ)@うたわれるもの 二人の白皇、童磨の双扇(一方は破壊済み)@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一色、工具一式(現地調達)、チョコラータの首輪
[思考]
基本:『オシュトル』として行動し、主催者に接触。力づくでもアンジュを蘇生させ、帰還する
0:まずは状況に対処する
1:クオン、早苗と話がしたい
2:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する(優先はあかり、麗奈)
3:ロクロウを蝕んでいる毒(無惨の血)の治癒方法を探る
4:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
5:ムネチカとも合流しておきたい
6:ヴライ、無惨を警戒
7:ゲッターロボのシミュレータについては、対応保留。流竜馬とその仲間を筆頭に適性がありそうな参加者も探してきたい。
8:殺し合いに乗るのはあくまでも最終手段。しかし、必要であれば殺人も辞さない
9:『ブチャラティ』を名乗るものが二人いるが、果たして……。
10:誰かに伝えたい『想い』か……。
[備考]
※ 帝都決戦前からの参戦となります
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『003』がミカヅチであることを認識しました。


【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、オシュトルへの怒り及び不信(極大)、ウィツアルネミテアの力の消失、早苗への不信(小)、混乱
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2、マロロの支給品3つ
[思考]
基本:殺し合いに乗るつもりはない。皆と共に脱出を。
0:――ハク……?
1:状況に対処する
2:早苗の様子に違和感。後でじっくり話したい。
3:オシュトルは絶対に許せない。
4:ヴライ……ハクの仇……!!
5:とにかく、あの臨也って奴はむかつくかな。
6:ムネチカを捕えた連中(ベルベット達)からムネチカを取り戻したい
7:アンジュとミカヅチとマロロを失ったことによる喪失感
8:着替えが欲しいかな……。
9:優勝……ハクを蘇らせることも出来るのかな……ううん、馬鹿なこと考えちゃ駄目!
10:マロロ...
[備考]
※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※早苗から、オシュトルに対する悪評を聞きました。

75戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:33:57 ID:zQWVdmfw0



「――成程な、概ねの事情は理解した……」

早苗の喉元に刃を突きつけたまま、彼女とヴァイオレットの双方から、事の経緯を聞きこんでいたロクロウは、ふーっと溜息をついた。

(――よりにもよって俺が、こんな立ち回りをする羽目になるとはな……)

慣れない役回りに、柄にもなく辟易するロクロウ。

元々は、ヴライ達の戦闘の余波が及ばぬよう、久美子と琴子の二人を引き連れて、らしくもなく、戦地から遠ざかっていたが、そこで知り合い同士が相争っている場面に遭遇――。
流石に捨て置くこともできず、らしくもなく、二人の戦いに介入し、戦闘を中断させ――。
まさにお代官様の如く、らしくもなく、両者の言い分を聞いて、これを裁かんとしているのだ。

「その上で、一つ、俺から言わせて貰えば―――」

ロクロウは、その場に居合わせるカナメ、臨也、ヴァイオレットの順に視線をやり、最後に早苗に目を向けて、口を開いた。

「なぁ、早苗―――。お前、本当に何があったんだ?
何故、わざわざ研究所でのオシュトル達とのやり取りをでっち上げる?」
「……なっ!? ロクロウさんまで何を言っているんですか!?」

ロクロウの言葉に、早苗が目を見開いて、声を荒げる。

「ロクロウさんだって、オシュトルさんに、シグレさんを殺害するよう強要されましたよね!?
それを巡って、私が、オシュトルさんとヴァイオレットさんに責められるのを見ていたじゃないですか!?」
「いいや、俺はオシュトルに頼まれるまでもなく、元々シグレを斬る予定だった。
それにお前が、オシュトル達に糾弾されることなんか、無かったぞ」
「――そんな……そんな……」

またしても、自身の証言を真っ向否定された早苗は愕然として、口をパクパクとさせる。
確かに、この身を以って見聞きして、体験した真実なのに、あの場に居合わせた人間は悉く、その記憶を否定してくる。
諸悪の根源たるオシュトルとヴァイオレットならまだしも、ロクロウまでもが、口裏を合わせたかのように、自身を異端として責めたててくる。
その異常な状況に、早苗が混乱しきった顔で、言葉を失っていると……。

76戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:34:31 ID:zQWVdmfw0
ザザザッ――― ザザザッ―――

「――いぎぃっ!?」
「早苗……?」

またしても、脳天より突き抜ける痛みが早苗を襲い、彼女は頭を抑えて、よろよろと後退していく。
ロクロウは、そんな早苗の異変に眉を顰める。

「うっ、い”だいっ!! あ、たま……頭がぁっ!!」

己が宿主の混乱と不安を悟った蟲は、再び彼女の脳内にて工作を開始する。
彼女が確信をもって、オシュトルを敵対視できるように、と。

「これは、先程の……!? ――早苗様っ!!」
「何が起こっている? おい、早苗――」

脳を錐で掻き回されるかのような激痛に、悶絶する早苗。
尋常ならざるその様子に、ヴァイオレットとロクロウは彼女に駆け寄ろうとするが――

「わ”だじに、近寄ら"な"い"でく"ださいっ!!」
「「っ!?」」

早苗が、混乱と苦悶の入り混じる形相で絶叫した途端、彼女を中心に突風が巻き起こり、二人の身体は押し戻されてしまった。

「あ、ぐ……ううっ……!! 嫌っ、いやあ”ああああぁあああああっーーー!!」

早苗は、苦痛に頭を抱えながらも、一同に背を向けると、ふわりと宙に浮遊。
そのまま、フラフラと滑空しつつ、その場から離脱していく。

「ま、待てっ!! 早苗っ!!」
「お止めください、カナメ様!!」

逃亡を図る彼女の背中に、咄嗟に銃口を向けるカナメ。
しかし、カナメが発砲するより早く、ヴァイオレットがその腕を摑んで、制止した。

「離せ、ヴァイオレットっ!! このままだと、アイツに逃げられる」
「いいえ、離しません。ここで早苗様を撃っても、何の解決にもなりません!!」
「……だが、くっ!!」

ヴァイオレットと揉み合いになりながらも、早苗の背中がどんどんと小さくなっていくのを見て、カナメは歯噛みする。
苦痛に悶える早苗の飛行は安定せず、木の枝葉や幹に何度も衝突を繰り返し、低空で不格好な軌道を描いている。
割れんばかりの頭痛に悲鳴を上げながらも、懸命に森の奥へと突き進んでいく。

「――俺が連れ戻すッ!! 任せとけ!!」

カナメ達がもたついている間に、ロクロウが地を蹴り、飛行する早苗の背を猛追する。

「ロクロウ様っ!?」
「早苗には、恩があるからな--ここは、俺が追うッ!!
お前ら悪いが、あっち側にいる俺の連れと合流しといてほしい!!」
「えっ…? あっ、おい!?」

自身がやって来た方向を指差しながら、ロクロウはカナメ達に一方的に久美子達の事を押し付けると、風を切って、夜の闇へと消えていった。
困惑したまま立ち尽くすカナメ達を、置き去りにして。

77戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:35:01 ID:zQWVdmfw0
「やれやれ……随分と好き勝手やってくれたね、彼は……」

ロクロウが来てからは静観を決め込んでいた臨也は、二人が去っていった方角を見つめ、肩をすくめる。
そして、カナメとヴァイオレットに向き直ると、真面目な面持ちで口を開いた。

「――早苗ちゃん……明らかに様子がおかしかったよね。
ヴァイオレットちゃんの時もそうだったけど、自分の正当性を疑っていないというか、確信的に行動しているというかさ……。
虚言を以って、オシュトルさんとヴァイオレットちゃんを嵌めているという自覚があれば、さっきの彼への供述にも、何かしらのテコ入れはする筈。なのに、それは無かった――」

これまでの早苗の言動を振り返りながら、臨也は己が考察を口にしていく。
その内容に耳を傾けながら、カナメもヴァイオレットも、深刻な顔を浮かべる。
二人とも、同行していた時間こそ短かったが、早苗の人となりは理解していたつもりだった。
そして、その人柄を鑑みれば、彼女が悪意を以って嘘を吐き、他者を陥れる真似をするとは到底思えない。

「つまり、早苗ちゃんの中では、嘘は言っていない――。
オシュトルさんと、ヴァイオレットちゃんに襲われたという『虚構』は、『真実』として刻み込まれているってことになるのかな……。
これはあくまで俺の推測だけど……彼女は、知らぬ間に自分の記憶や認識を改竄されている可能性がある」

この考察自体は、最初のヴァイオレットとのやり取りを観察した際に、可能性の一つとして、臨也は、脳内に留めていた。
しかし、今しがたのロクロウとのやり取りを鑑みると、臨也のそれは確信めいたものに変わっていた。

「――記憶や認識の改竄……だと? そんなことが―――」

「ありえないと、言い切れるかい? 
現に、このゲームには、様々な異能や人外、それに類する支給品が蔓延っている。
そういった洗脳能力を持った参加者がいたり、それを成し得る支給品があったとしてもおかしくはないんじゃないかな……?」

「――……。」

臨也の推測に、カナメは、険しい表情を浮かべる。
確かに、記憶や認識の介入によるものであれば、早苗の不可思議な言動も合点がいく。
そして、人を操る能力や支給品の有無という点においては、幾つか心当たりはあった。

78戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:35:31 ID:zQWVdmfw0
「どうやら、その様子だと、思い当たる節はあるようだね……」

「ああ…確かに、二つ近しい能力を見たことがある……。一つ目は、異能(シギル)だ。
他人をラジコンのように操れるDゲームプレイヤーが、このゲームに参加していることを、俺は知っている。
だが、そいつは既に死んでるし、そもそも、操る対象の自我を奪っていたから、早苗の場合とは少し性質が違うな……」

ヒイラギイチロウ――通称「花屋」。
かつて、宝探しゲームにて、カナメ達を苦しめた彼は、植物の麻薬成分を相手の脳に行き渡らせ、リュージを含めた多数の参加者を、己が兵隊として操っていた。
既にヒイラギは死亡しているが、似たような芸当ができる参加者がいても、何らおかしくはない。

「早苗ちゃんの場合は、元の人格と自我はしっかり残っているようだからね……。
それで、もう一つの心当たりっていうのは?」

「人を斬って操る刀だ……。俺は北宇治高等学校で、それを駆使する参加者と、実際に操られている参加者に遭遇している」

「それって、罪歌っていう妖刀のことじゃないかい?」

「……っ!? アレを知っているのか!?」

「あの刀とは少なからず、因縁があってね……。まぁ、これは追々話すよ……。
だけど、罪歌にしても、今回の早苗ちゃんの一件とは、また違う感じがするんだよね…。
カナメ君も、アレの能力を観察したなら、何となく察してるんじゃないかな?」

臨也の指摘に、カナメは頷かざるを得なかった。
カナメも実際に、佐々木志乃が、罪歌を以って、ジオルトを操るところを目撃していたが、あれは一種の催眠術のようなものであった。

事実、罪歌による支配は、所謂0か100の電源スイッチのようなもの―――スイッチがオフの場合は、元の人格を保たせたままとなるが、これをオンに切り替えることで、子の人格を完全に掌握するものだ。
そういう意味では、自我を保たせた上で、部分的に早苗の認識ないし記憶を改竄されたと疑われる今回の件に、罪歌が絡んでいる可能性は極めて低いのだが――

「――とまあ、こんな感じだけど……理解したかな、カナメ君……。
少なくとも、この会場には、カナメ君が知りうる限りでも、二つ。他者を操る術が存在していた……。
そこから鑑みると、早苗ちゃんの不可解な言動を起こしうる、”未知”が潜んでいる可能性だって十分ありえるってことさ」

あの妖刀以外にも、それに近しい、他者の精神に介在するような支給品が手に渡っていると仮定すれば、例え洗脳能力を有さない参加者でも、今回のような改変は行使可能だといえる。

異能力にせよ、支給品にせよ、実際に、事例を並べられてしまった現状、臨也の考察を否定する要素はどこにもない。

79戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:35:59 ID:zQWVdmfw0
「――もし、アンタの推測通り、早苗が何らかの方法で操られていたとしたなら……。
俺達はまんまと掌で踊らされてるって事か……。早苗を玩具にした、そのクソ野郎に!!」

「……カナメ様……」

悔しそうに歯噛みするカナメ。
もし臨也の推測の通りであれば、早苗もまた、黒幕による哀れな犠牲者に過ぎない。
そして、そんな彼女に対して銃口を向けてしまった、浅慮な自身の行動にも、後悔の念を滲ませていた。

「今のところ、犯人も手口も不明のまま……。
本当に、厄介極まりないよね――」

俯くカナメを観察しながら、臨也は言葉を続ける。
カナメやヴァイオレットの不安を煽るかのように口調で話したかと思うと、突如として、ふと何かを思い出したかのように、自身の拳で、もう一方の手のひらをポンと叩いてみせた。

「あぁ、でも、そうだ……。
改竄が行われる瞬間については、何となく見当はつくよね…」

何ともわざとらしく、そんなことを口にだした臨也。

「――早苗様が、頭痛に苛まれていた、あの時ですね……」

謂わんとしていることを察したヴァイオレットが、臨也の言葉を繋ぐと、彼は満足そうに首肯した。

振り返ってみれば、頭を抱えて苦しみだしたあの後から、早苗は「思い出した」という体裁で、過去の自身の証言とは異なるスタンスを取り、ヴァイオレットを完全に敵視するようになった。
まさに、この瞬間こそが、彼女の中にある”真実”が書き換えられたタイミングと見て間違いないだろう。

「――いや、ちょっと待て……。
もし、本当に改竄のトリガーが頭痛だとしたら――」

ハッとした様子で、カナメが声を上げると、臨也は間髪入れずに頷いた。

「気付いたかい……?
彼女は今まさに記憶の改竄の真っ只中って事になるよね……。
さしあたり、今度は早苗ちゃんを追っている彼を敵視するような改竄になるんじゃないかな?」

「事態は悪化する一方ってか……クソッタレ!!」

早苗とロクロウの二人が去っていった夜の闇を、一瞥する臨也。
カナメは、ギリリと歯を軋ませながら、その闇を睨みつけ、ヴァイオレットはその表情を更に曇らせる。
どんよりとした沈黙の後、臨也は二人の方へと振り向き、話を切り出した。

「さて、それを踏まえて、これから俺たちはどうするべきだと思う?
悪意ある何者かによって、頭をいじくり回されている可哀想な早苗ちゃんを救うに行くかい――?
それとも、早苗ちゃんはさっきの彼に任せて、頼まれている彼の “連れ”とやらを探すに行くかい――?
はたまた、化け物たちを相手にしている、オシュトルさんの応援にいくかい――?
これが、テレビゲームだったら、ここでセーブでもして、じっくり選択肢を吟味したいところだけど、あまり悠長に事を長引かせる訳にもいかないじゃない?」

口角を吊り上げつつ、選択を迫る臨也に、互いに顔を見合わせるカナメとヴァイオレット。眼前の二人の"人間"が果たしてどのような決断を下すのか―――人間を愛する情報屋は、好奇と期待に満ちた目で、その様を観察するのであった。

80戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:36:35 ID:zQWVdmfw0



ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

「い“だっ!! い”だい“っ―――!!」

脳内にノイズが反響する度に、鋭い頭痛が脳天を駆け抜ける。
早苗は、その激痛から逃れるように、全力で宙を駆けるが、脳内に流れ込むノイズは止まる事無く、頭痛も強まっていくばかり。
当然、そのような状態では、視覚情報から得られる情報を処理する余裕などあるはずはなく――

ゴ ツ ン !!

「カァッ――!?」

風を裂いて駆け抜けた先にあった大樹に、正面衝突。
鈍い衝撃と共に、か細い悲鳴を漏らしつつ、地面に叩きつけられる早苗。

ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

「あ……ぁ、ぐ……がっ……」

しかし、そんな状態となっても、脳内を掻き乱すノイズと苦痛は、容赦なく続く。
地に伏した早苗は、両手で頭を抱えながら、断続的に襲いくる激痛に、呻き、身悶える。

「――早苗、大丈夫かっ!?」

ようやく彼女に追いついたロクロウは、地に蹲る早苗の姿を視認すると同時に、彼女の元へ駆け寄らんとする。

「た、助けて……。助けてくださいっ……!!
頭が、おかしくな―――あぐぅっ!?」

手を伸ばして、救いを求める早苗。
しかし、哀願の声も、不協和音と共に、鋭い頭痛が頭蓋を締め付けると、すぐさま苦悶の悲鳴に変わる。

ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

「い"っ!? ぎっ!? い"あ"あ"あ"あああああああああああああああっ!!」
「早苗っ!?」

涙をこぼしながら、絶叫する早苗。
その脳内では、ノイズによってグチャグチャに乱された過去の映像が、断片的且つ無秩序に再生されていく。

ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

映像が駆け巡る中で、新たな"虚構”が脚色されていく。

81戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:37:15 ID:zQWVdmfw0
-------

「――殺し屋を所望なら他所を当たってほしいんだがな、オシュトル……」

(えっ、あそこにいるのは、ロクロウさんと、オシュトルさん―――。
それに、ヴァイオレットさんも……? 『殺し屋』って、一体何を――)

「シグレの他に、手頃に殺せそうな参加者を見つけたら、斬る――。
ただし、他に徒党を組む連中とは、程よく付き合って、それを悟られぬようにする――ってか……。
ったく、随分と注文が多い同盟者さんがいたもんだぜ……」

(――っ!?)

「これは、私達が勝ち残る為に、必要なことなのです、ロクロウ様……」

「然り……。何も貴殿にだけ、面倒事を押し付けているわけでもない。
我らとて、道中で出会う参加者は推し量り、利用価値のない者、直近で邪魔になりそうな者については、適宜、間引いていく所存だ」

「――そういうことなら、まぁ、いいさ……。
だが、早苗とブチャラティに関しては、どうする?
ブチャラティの奴はともかく、早苗は、お前に反感を持ってるみたいだが……」

「いや…奴らについては、暫く泳がしておく。
我々三人が殺し合いに乗っていると悟れていない以上、他の参加者との橋渡しとして利用できるからな」

(そんな……。この人たちは、皆殺し合いに……)

--------

82戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:37:38 ID:zQWVdmfw0
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

頭痛が引いていくと同時に、早苗は忌むべき記憶を“思い出して”いく。

(――そ、そうだ……そうだった……。
あの三人は皆、殺し合いに乗っていて――)

新たに早苗に刻まれた、偽りの記憶――。
それは、ドッピオとともに研究所を発つ前に、偶然にも、オシュトル、ヴァイオレット、ロクロウの三人の密談を目撃したというものであった。
そこでは、三人が、他の参加者を如何にして効率よく殺していき、勝ち残りを目指していくかの算段が話し合われていた。
無論、実際にそのような密談は行われてなどいないのだが、早苗の中では、それは「真実」として刻み込まれてしまった。

「――おいおい、早苗……。大丈夫か、お前――」

鎮まりかえった早苗を案じながら、近づいてくるロクロウ。
刹那、彼女はロクロウに向けて弾幕を射出。
ロクロウは、反射的にサイドステップにて、これを回避する。

「本当に、どうしたたんだ、お前?」
「……ロクロウさん、私”思い出しちゃった”んです……」
「――思い出した、だと……?」
「オシュトルさんと、ヴァイオレットさん、そしてロクロウさん――。
三人が、本当は殺し合いに乗っていて、私たちを利用していたということを――」
「突然、何言いだすんだ、お前は?」

早苗の突拍子もない発言に、ロクロウは眉を顰める。

「なあ、お前やっぱり変だぞ……一体何が――」
「五月蠅いッ――!!」

早苗は、ロクロウの言葉を遮って、再度弾幕を射出。
ロクロウは、あくまでも冷静沈着に、これを躱していく。

「だって、仕方ないじゃないですか!!
ロクロウさんが悪い人だったって、"思い出しちゃった"んですから!!
私だって、好き好んで、こんな事しているわけでは、ありませんよ!!」

尚も、機関銃さながらに、無数の光の弾丸を射出していく早苗。
だが、ロクロウは表情一つ変えることなく、これを躱し続ける。
夜叉の業魔の瞳は、ただひたすらに、荒れ狂う風祝をじっと捉えている。
そんな彼の態度が、早苗の神経を逆撫でしていく。

「――そんな目で、私を見ないでくださいよっ!!
私だって……私だって……!!」

眼前の漢は、殺し合いに乗っている超危険人物。
こちらを、殺そうと襲ってくるはず――。
自身に刻まれた"真実"に基づいた恐怖に駆られ、早苗は彼を撃退せんと、弾幕の出力を上昇させていく。
しかし、それと同時に込み上げてくるのは、正体不明の違和感。

――何かがおかしい……。

"真実"に基づいて、自分の取るべき行動を決めているはずなのに、何とも形容しがたい違和感が、纏わりついてくる。
既に恐怖と敵意で満たされている早苗の心が、その違和感によって、さらに掻き乱されていく。

「私は…、私は、どうすれば良いんですか……!!」

大粒の涙と共に、早苗は悲痛の叫びを上げた。

もはや、何が何だか分からない――。
"真実"に基づいて行動しているはずなのに、周りの理解は得られず、孤立していく。
不安、恐怖、焦燥―――ありとあらゆる負の感情によって蹂躙され、少女の心は決壊寸前であった。

「――そうか……お前、苦しいんだな、早苗……」

ロクロウは、静かにそう呟くと、手に握る刃を神速の如き勢いで振るい、弾幕を両断していく。

「……っ!?」

神業とも言えるその剣捌きに、早苗は目を見開き、思わず追撃の手を止める。

「俺は、一度受けた恩には必ず報いる――。
だから、お前の目を醒ませて、救い出してやる……」

唖然とする早苗に向けて、ロクロウは刃を向けて、高らかに宣告する。
月光に照らされたその刀身が、美しくも妖しい煌めきを放つと、ロクロウは地を蹴り上げる。

「――俺は、そういう業魔だからな……!!」

隻腕の夜叉は、刃を振るった。
眼前の少女を、斬るのではなく、救うがために―――。

83戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:37:57 ID:zQWVdmfw0
【E-6/夜中/一日目】
【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損、言いようのない喪失感
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[思考]
基本:主催者の打倒
0:早苗を救う。その後、久美子達と合流する。
1:出来れば久美子達はヴァイオレット達に面倒見てもらって、ヴライと戦ってみたい。
2:久美子達の計画に賛同するつもりはないが、久美子には借りがあるので、暫くは共闘するつもり
3:無惨を探しだして斬る。
4:シグレを殺したという魔王ベルセリア(ベルベット)は斬る。
5: 號嵐を譲ってくれた早苗には、必ず恩を返すつもりだが……
6: 殺し合いに乗るつもりはない。強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
7: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
8: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
9: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。
※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。
※ 更新されたレポートの内容により、ベルベットがシグレを殺害したことを知りました。
※ 久美子が作った解毒剤によって、毒は緩和されており、延命に成功しました。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。


【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(極大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(極大)、脳内にウォシスの蟲が寄生、記憶改竄(大)、オシュトルへの不信(極大)、ヴァイオレット、ロクロウへの不信(大)、錯乱状態
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
0:ロクロウさんを倒す?
1:オシュトルさん、ヴァイオレットさん、ロクロウさんは殺し合いに乗っているから、倒さないと!!
2:さっきの人が、ヴライ……。霊夢さんの仇……。
3:邪魔をするなら、カナメさんにも容赦はしません!!
4:オシュトルさんに協力している、折原臨也さんも倒します!!
5:ブチャラティ(ドッピオ)さん、信じていいんですよね……?
6:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
7:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
8:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
9:魔理沙さん、霊夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※ウォシスの蟲に寄生されております。その影響で、オシュトルにまつわる記憶が改竄され、オシュトルに対する心情はかなり悪くなっています。今後も、記憶の改竄が行われる可能性は起こりえます。
※記憶の改竄による影響で、オシュトル、ヴァイオレット、ロクロウが殺し合いに乗っていると認識しました。

84戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:38:26 ID:zQWVdmfw0



「――俺は、早苗達を追う……。
このまま、放ってはおけないからな……」

長い逡巡の後、カナメはそう宣言すると、臨也は「ほぅ…」と興味深げに声をもらした。

「それは、カナメ君が、彼女に恩義を感じているからかな?
もしくは、哀れな傀儡と化していることを知らず、彼女を傷付けようとしてしまったことに対する罪悪感からかい?
それとも、彼女に情があるからなのかな……?」
「――全部だ……」

試すかのように投げかけられた問いに、カナメは静かに答えを返す。

「カナメ様、私も―――」

「いや、ヴァイオレット。アンタは、来ない方が良い……。
オシュトルとアンタは、既にあいつの中で『悪』として認識されてしまっている。
下手に姿を見せたら、余計な刺激を与えかねない……。
その点、まだ俺に対する認識は、書き換えられていないようだからな……。
だから、アンタらには、オシュトル達と、あのロクロウって奴が言ってた『連れ』とやらのことを頼みたい……」

「うん、なるほど。至極妥当な着地点かな。
俺は、君の決意を尊重するよ、カナメ君。
ヴァイオレットちゃんは、どうだい?」

カナメの言葉に、臨也はうんうんと頷くと、ヴァイオレットに視線を向ける。
ヴァイオレットは目を伏せ、しばし沈黙――。
数瞬の後、ゆっくりと顔を上げた。

「承知致しました……。
カナメ様、どうか早苗様を宜しくお願いいたします……」
「ああ、任せろ……」

カナメが力強く頷く。
そんな二人のやり取りを上機嫌に眺めていた臨也は、「さて……」と言葉を付け足す。

「話はまとまったね。それじゃあ、早速―――」
「ヴァイオレットさんっ!!」

臨也の言葉を遮り、どこからともなく、女性の声が響き渡った。
呼びかけられたヴァイオレットをはじめ、一同は、声のした方向へと視線を向ける。
そこには―――

85戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:38:48 ID:zQWVdmfw0
「……お嬢様……?」

息を切らして、肩を大きく上下させる麗奈の姿があった。

「やっと……やっと……見つけました、ヴァイオレットさん……」
「お嬢様……!! ご無事だったんですね……!」

髪が少し乱れており、額に汗を滲ませてはいるものの、別れた時のままの制服を身に纏い、五体満足の状態で現れた麗奈に、ヴァイオレットは安堵の声をもらした。
麗奈もまたヴァイオレットとの再会に、頬を緩ませる。

「ええ、私の方は何とか無事です……。
ヴァイオレットさんも、無事で本当に良かった……!!」

心の底から安心しきった様子で、麗奈はゆっくりとヴァイオレットに歩を進めていき、ヴァイオレットもまた、麗奈の元へと歩み寄ろうとした――その時。

「――そいつは、麗奈じゃないッ!!
騙されないでッ!!」

また別の声が、辺りに響き渡った。
声のした方へと視線を向けると、そこには車椅子に腰掛けるベレー帽を被った少女と、その後ろに立つ、メイド服を着込んだ少女の姿があった。

「黄前…久美子……?」

日中に学校で邂逅した少女の姿を見て、カナメは首を傾げる。
あの時は、特別に彼女と話し込むことはなかったが、着込んでいる装束が異なっているせいか、印象がまるで違っていた。
そんな彼女は、鬼気迫る表情で、ヴァイオレットの対面にいる麗奈を睨みつけている。

――刹那。

「チィッ!!」

麗奈は、その形相を一変させると、ヴァイオレットに向けて猛然と駆け出す。
瞬く間に肉薄すると、ヴァイオレットの整った顔面に向けて、青筋と爪を立てての貫手を放つ。

「――っ!?」

しかし、ヴァイオレットとて、かつては「ライデンシャフトリヒの戦闘人形」という異名を以って、うたわれた元女子少年兵。
即座に反応すると、繰り出された貫手を後方へ飛び退いてかわす。

「――死んじまえよ!!」

だが、その動きも読んでいたかのように、麗奈は獰猛な笑みとともに、懐より投擲物を放り投げる。

――瞬間、どかん、と。
その場の空気を震わす爆発が、巻き起こるのであった。

86戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:39:16 ID:zQWVdmfw0



「はぁ……結局ロクロウさんは戻ってきませんでしたね……」
「仕方ありませんよ。そもそも、あの人になんかに、期待するのが間違いなんですから…。
あんな無責任で、奔放で、周りが見えてない人に……」

暗がりの森の中、久美子は琴子の車椅子を押しながらも、ロクロウへの愚痴をこぼしていた。
麗奈を見送った後、ロクロウは、ヴライ達の戦闘の余波を受けぬよう、自らが先駆けを務めるような形で久美子達を退避させていた。
しかし、道中でヴライ達のものとは異なる戦闘音を聞きつけると、様子を見てくると彼女達に一方的に告げて、飛び出していってしまった。
その後、暫く待機しても、音沙汰なし――流石にこのまま立ち往生するのも如何かと思い、こうして彼が消えていった方向へと向かっているのであった。

(やはり、久美子さんの、ロクロウさんに対する心象は良くないようですね)

久美子の愚痴に相槌を打ちながらも、琴子は二人の関係性について、思考する。
ロクロウは、久美子に対して引け目と恩義を感じているようで、彼女達の計画に対しては一応は協力するスタンスを取っている。
しかし、久美子はというと、ロクロウに対して、快く思っていない節があり、これを麗奈が間に介することで、二人の関係は保たれていた。
その仲介役の麗奈が不在となった途端、これだ。

この不安定な関係性を、上手く突くことが出来れば、今後自身が、久美子達の計画を真っ向否定する際に、優位に働くのではないかと、琴子が考えを巡らせていると―――。

『――ヴァイオレットさん!!』

ピタリ

前方より聞き慣れた声が、木霊すると、琴子が腰掛ける車椅子が止まった。

87戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:39:38 ID:zQWVdmfw0
「……えっ……?」
「あれは――」

木々の隙間より、目に飛び込んできたその光景に、驚愕の声を漏らす、久美子。
琴子もまた、眼前の光景に釘付けとなり、思考の中断を余儀なくされたが、それも無理からぬことだろう。

なぜなら、二人の視線の先では―――

『やっと……やっと……見つけました、ヴァイオレットさん……』
『お嬢様……!! ご無事だったんですね……!』

先程別れたはずの麗奈が、息を切らせながら、佇んでいたのだから。

『ええ、私の方は何とか無事です……。
ヴァイオレットさんも、無事で本当に良かった……!!』

目を潤ませ、感極まった様子の麗奈は、ヴァイオレットと呼ばれた金髪の少女の元に、一歩、また一歩と歩んでいく。
それに呼応するように、金髪の少女の方もまた、引力にひかれるかのように、麗奈へと近づいていく。

(あの麗奈さんは、恐らく……)

―――身を包む、装束の変化。
―――吸血を以って変貌したはずの見た目が、元に戻っているという現実。
―――ここに居るはずがないのに、その姿を晒しているという矛盾。

眼前の『麗奈』について、違和感しか覚えなかった琴子は、一つの結論を導き出す。
そして、如何にして対処すべきかと、頭を働かせるも――

「――そいつは、麗奈じゃないッ!!
騙されないでッ!!」

怒気を孕んだ、久美子の叫び声が、琴子の思考と、『麗奈』とヴァイオレットの邂逅を、制止したのであった。

88戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:41:08 ID:zQWVdmfw0



(――ビンゴッ!! うはぁ〜殺したい奴、大集合じゃん!!)

遠方より、断続的に立ち上がる火柱を視認してからは、まるで花火大会に向かう子供のように、ルンルン気分で森を駆けていた、ウィキッド。
高坂麗奈の姿に扮する魔女は、その道中で、三人の男女の姿を捉えて、胸を高鳴らせていた。

ヴァイオレット・エヴァーガーデン――。
反吐が出るような綺麗事を並べ立てては、終始あのクソ女を庇い続けた、偽善に満ちた人形女。私の一番嫌いなタイプの人種。

スドウカナメ――。
私に弄ばれるべき玩具の分際で、生意気にも私を欺き、鉛玉をぶち込んできやがった、死に損ない。さっき見かけた時は、メス二人に手厚く介抱されていたが、どうやら私に殺されるために、わざわざ復活してくれたらしい。

折原臨也――。
『愛』だの『好き』など、耳が腐るような御託を並べながら、私を見下して、あたかも実験動物のように覗き込んでくる、最高にいけ好かない害虫野郎。殺すにしても、こいつだけは徹底的に痛めつけないと気が済まない。

「――ヴァイオレットさん!!」

眼前の三バカは、真剣に何やら話し合っていたようだが、そんな事は知ったことではなく、如何にも切羽詰まった声色で、声を掛けてみた。

「……お嬢様……?」

案の定、人形女はアホ面ぶら下げながら、こちらに反応。
その後も、月並みな台詞を並べて、再会に感極まる少女を演じてやると、人形女はホイホイと釣られて、こちらに近づいて来る。
此方も笑いを堪えながらも、いざ感動の抱擁へ向けて、歩みを進めていく。

(きゃははは、コイツは、どんな悲鳴聞かせてくれかなぁ)

無論、そんな反吐が出るような茶番を演出するつもりはない。
人形女が両手を広げた瞬間に、腹でも突き破って、絶望と苦痛に歪む顔を間近で鑑賞しながら、腸でも掻き混ぜてやろうとしよう。

――と、魔女が心中でほくそ笑んだ刹那。

「――そいつは、麗奈じゃないッ!!
騙されないでッ!!」

何処からともなく、女の声が聞こえた。
咄嗟に振り向いてみると、そこに居たのは二人の女。
一人は車椅子に搭乗する中学生くらいの小さな女で、もう一人はその車椅子のハンドルを握るメイド服を着込んだ女。
恐らく今声を発したのはメイド女なのだろう――憎々しげに此方を睨みつけている。

「黄前…久美子……?」

メイド女と面識があるのだろうか、カナメが、女の名前らしきものを呟いた。

(黄前……? ああ、こいつが……あのクソ女が言ってた――)

黄前久美子―――かつて遺跡に向かう道中で、麗奈と交わした数少ない会話の中で、彼女の友人として、ウィキッドはその名前を聞き及んでいた。
ウィキッドからすれば、へんげのつえによる変身も、高坂麗奈としての振る舞いにも、特に穴はなかった筈。
にも関わらず、久美子が、その真贋を見極めることが出来たのは、所謂友情が故の直感というやつなのだろうか。

(くっだらねえ……!!)

何れにしろ、目論みを台無しにされたウィキッド。
苛立ちとともに、舌打ちをかますと、大地を踏み抜く。
鬼化によって強化された脚力を以って、間もなくヴァイオレットに肉薄。
その頭蓋を貫かんと腕を振るう。

89戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:42:21 ID:zQWVdmfw0
「……っ!?」

しかし、ヴァイオレットは超人的な反応で、後方に飛び退いて、これを回避。
だが、ウィキッドからすれば、その動きは想定内。

「――死んじまえよ!!」

間髪入れずに、手榴弾を放り投げ、彼女を爆殺せんとする。
しかし――。

ヒュン!!

「あん?」

風を裂く音とともに、銀色の光が奔ったかと思うと――

どかん!

殺意込められた爆弾は、標的に達する事なく空中で爆散した。
暗黒に染まっている森の中に、幾片の焔が飛び散る。

ザシュッ!!

続け様に爆炎の中から、再び銀光が迸れば、ウィキッドの額に、ナイフが生える。
その衝撃に魔女の身体は、ぐらりと大きく後ろに仰け反った。

「――痛ってえなぁ……」

しかし、ウィキッドはむくりと起き上がると、何事もなかったかの如く、額に刺さったナイフを引き抜き、投げ捨てる。
額からはドクドクと紅い雫が垂れ流しとなるが、特に気にする様子もなく、不機嫌気味にナイフの投擲元へと視線を送る。
額に空いた傷穴は、まるでビデオを逆再生しているかのように修復されていく。

「――成程ね……さっきの能力といい、その再生力といい、合点がいったよ……。
早苗ちゃん達が掴まされた偽情報のことが、ずっと腑に落ちていなかったけど、裏では君が暗躍していたんだね――」

その睥睨の先、折原臨也は目を細めながら、魔女の真名を紡ぐ。

「茉莉絵ちゃん……」
「――何だとっ!?」

静かに紡がれたその名前に、カナメとヴァイオレットは、目を見開いた。

「きゃはっ――」

その様を視界に収めながら、魔女は、グニィと『高坂麗奈』の仮面を歪ませてみせる。

「きゃははははははは……!! ピンポン、ピンポーン!! 大正解〜ッ!!
相変わらず、目敏いですね、折原さぁん♪」

高坂麗奈の外見を以って、高坂麗奈の声色を響かせて、高坂麗奈が決して浮べないような形相を張りつけて、高坂麗奈が決して口にしないような口調で、魔女は嗤った。

「――てめえ、ウィキッド……!!」
「あーあ、本当は、このクソ女の姿で、もっともっと掻き乱してやりたかったけど、バレちゃったなら、仕方ないかぁ。
まぁ、とりあえず--」

カナメの怒声を聞き流しながら、ウィキッドはやれやれと肩をすくめると、

「アンタら、全員まとめてブチ殺してやんよ――ッ!!」

狂気と殺意をその瞳に宿らせ、大地を蹴り上げるのであった。

これより、此の地は、破壊と殺戮を振り撒く、魔女の踊り場へと変貌する。

90戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:42:45 ID:zQWVdmfw0
【E-5とE-6の境目/夜中/一日目】
【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:高坂麗奈の姿(へんげのつえで変身済み)、鬼化、食人衝動(小)、疲労(極大)、カナメへの怒り(中)、無惨と麗奈への殺意(極大)、臨也への苛立ち、参加者の人肉(複製品)多数@現地調達
[服装]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2 、アリアの支給品(不明支給品0〜2)、キースの首輪(分解済み)、キースの支給品(不明支給品0〜1)、カタリナの布団@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…、北宇治高等学校職員室の鍵、へんげのつえ@ドラゴンクエスト ビルダーズ2
[思考]
基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ
0:目の前にいる奴らを、全員殺す(臨也、カナメ、ヴァイオレットを優先)
1:無惨と麗奈を探しだして、殺す
2:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。
3:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。
4:舐めた真似してくれたカナメ君には、相応の報いを与えたうえで殺してやる
5:暫くは利用していくつもりだが、臨也はやはり不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。
6:私を鬼にしただぁ? 元に戻せよ、クソワカメ。
7:アリアの後輩達(あかり、志乃)に出会うことがあれば、アリアの最期を語り聞かせてやる
8:あいつが久美子―――クソ女の親友か……
[備考]
※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。
※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。
※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読んでおり、覚醒者『006』は麗奈、『007』は無惨が該当すると認識しております。
※ 麗奈との距離が離れたため、太陽に対する耐性を失いました(認識済み)


【カナメ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、王とウィキッドへの怒り、全身打撲(小)、肋骨粉砕骨折(処置済み)、全身火傷(治療済み)、シュカの喪失による悔しさ、虚無感、ダメージ(大) 、胸部に刺傷(回復済み)、霊夢とフレンダの死による失意と罪悪感、精神的疲労(絶大)
[服装]:いつもの服装
[装備]:白楼剣@東方Project
[道具]:白楼剣(複製)、機関銃(複製)、拳銃(複製)、基本支給品一式、不明支給品2つ、救急箱(現地調達)、魔理沙の首輪、Storkの首輪、Storkの支給品(×0〜2)
[思考]
基本:主催は必ず倒す
0:――ウィキッドッ!!!
1:洗脳されている早苗を救いに行くつもり――だったが……
2:出来れば、クオン達とオシュトルの仲介をしたい
3:回収した首輪については技術者に解析させたい。
4:【サンセットレーベンズ】のメンバー(レイン、リュージ)を探す。今は初期位置しか分からないリュージよりも近くにいるレイン優先。
5:王の奴は死んだのか……そうか……
6:ウィキッドのような殺し合いに乗った人間には容赦はしない。
7:無力化されたようだが一応ジオルドを警戒
8:折原は気に入らないが、利用はするつもり
9:絶対にウィキッドを殺す。
10:爆弾に峰があってたまるか!
11:ヴライを警戒。
[備考]
※シノヅカ死亡を知った直後からの参戦です
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、霊夢、竜馬と情報交換してます。
※ブチャラティ(真)と梔子達と情報交換をしました。二人のブチャラティ問題に関しては保留にしています。

91戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:43:07 ID:zQWVdmfw0
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:疲労(中)、全身強打、右拳骨折、言いようのない喪失感
[服装]:普段の服装(濡れている)
[装備]:
[道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数0/10、使い切った状態)、まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0〜1(新羅)
[思考]
基本:人間を観察する。
0:状況に対処
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する(優先はあかり、麗奈)
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
3:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だったのに...残念だよ。
4:平和島静雄はこの機に殺す。
5:『月彦』とヴライは排除する。化け物風情が、俺の『人間』に手を出さないでくれるかな。
6:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。
7:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。
8:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃、オシュトル、ヴァイオレット、カナメ、早苗に興味。
9:オシュトルさんは『人間』のはずなのに、どうして亜人の振りをしてるんだろうね?
10:ロクロウに興味はないが、共闘できるのであれば、利用はするつもり。
11:早苗ちゃんは、中々面白いことになってるね
12:オシュトルさんのペット(クオン)は、気に入らないね。邪魔。
[備考]
※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。
※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※ Storkと知り合いについて情報交換しました。
※ Storkの擬態能力について把握しました
※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。
※ 無惨を『化け物』として認識しました。


【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
[状態]:全身ダメージ(大) 、肩口及び首負傷(止血及び回復済み)
[服装]:普段の服装
[装備]:手斧@現地調達品
[道具]:不明支給品0〜2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ)
[思考]
基本:いつか、きっとを失わせない
0:状況に対処
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する(優先はあかり、麗奈)
2:お嬢様……どうかご無事で...
3:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。
4:麗奈と再合流後、代筆の続きを行う
5:手紙を望む者がいれば代筆する。
6:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。
7:ブチャラティ様が二人……?
8:早苗、オシュトルのことが、非常に気がかり。
[備考]
※参戦時期は11話以降です。
※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。

92戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:43:28 ID:zQWVdmfw0
【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身に火傷(冷却治療済み)、右耳裂傷(小)、右肩に吸血痕、確固たる想い
[役職]:ビルダー
[服装]:特製衣装・響鳴の巫女(共同制作)
[装備]:契りの指輪(共同制作)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体、シグレ・ランゲツの片腕、クロガネ征嵐@テイルズオブベルセリア、点滴セット複数@現実
[思考]
基本:歌姫(μ)に勝って、その力を利用して殺し合いの全てを無かったことにする。……そうすれば、麗奈は人間に戻れるから。
0 : 状況に対処
1:麗奈、必ず戻ってきて――
2:もう、麗奈の事は裏切らない、――絶対に。
3:麗奈の為なら、この命だって捧げても良い。ただ今はまだ死ねない、麗奈を悲しませるから。
4 :ロクロウさんは好きじゃないけど、利用はするつもり。
5:例え隼人さん達を敵に回したって、もう私は迷わない。望みを叶えるまで逃げ切ってやる。
6:岩永さんとあかりちゃんも、仲間になってほしい
7:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒

※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。現状は麗奈と一緒に衣装やら簡単なアイテムを作れる程度に収まっています。
※麗奈がビエンフーから読み取った記憶を共有し、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※μの事を「楽器」で「願望器」だと独自の予想しました


【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康、新たなる決意、無意識下での九郎との死別への恐れ、義足損壊、車椅子搭乗中
[服装]:いつもの服、義眼
[装備]:赤林海月の杖@デュラララ!!
[道具]:基本支給品、文房具(消費:小)@ドラゴンクエストビルダーズ2、ポルナレフの車椅子(ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風)、電子タブレット@現実
[思考]
基本:このゲームの解決を目指す。
0:状況に対処
1:麗奈と久美子を警戒。彼女たちの計画を認めるわけにはいかない。
2:『ブチャラティ』を騙る青年(ドッピオ)を警戒。
3:魔王と琵琶坂永至、あの二人をどうにかする方法は……
4:あかりさん、貴方は……
5:九郎先輩との合流は……
6:紗季さん……
7:首輪の解析も必要です、可能ならサンプルが欲しいですが……
8:オスティナートの楽士から話を聞きたいですね
[備考]
※参戦時期は鋼人七瀬事件解決以降です。
※アリアから彼女が呼ばれた時点までのカリギュラ世界の話を聞きました。
※この殺し合いに桜川六花が関与している可能性を疑っています。
ただし、現状その可能性は少ないと思っています。
※リュージからダーウィンズゲームのことを知っている範囲で聞きました。
※夾竹桃・ビルド・隼人・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※今の自分を【本物ではない可能性】、また、【被検体とされた人間は自ら望んだ者たちである】と考えています。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。
※琴子、あかり、ドッピオ、メアリ、竜馬の五人でこれまでの経緯と、生存者についての情報を交換しました。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
※電子タブレットにはこれまでの彼女の経緯、このゲームに関する考察が記されています。

93戦々凶々(後編) ◆qvpO8h8YTg:2024/03/26(火) 21:43:46 ID:zQWVdmfw0
投下終了となります。

94 ◆ZbV3TMNKJw:2024/10/07(月) 23:37:16 ID:wfwbXT/60
投下します

95 ◆ZbV3TMNKJw:2024/10/07(月) 23:38:09 ID:wfwbXT/60


世界は終焉を迎えていた。
どことも知れぬ場所から無限に湧き出てくる異形の物怪ども。
人間が築きあげてきた文明を否定するかの如く破壊されていくコンクリートジャングル。
表も裏も社会の全てが蹂躙されていく。
そんな中で。
『裏』の恩恵を授かってきた彼女ーーーテミスもまた、破滅に貶められようとしていた。

96今、ここにある幸福 ◆ZbV3TMNKJw:2024/10/07(月) 23:39:14 ID:wfwbXT/60


微かな電力を頼りに動く機器に囲まれ。
はぁ、はぁ、と荒い息遣いを止められず。心臓に直接耳を当てたようなほどに響き波打つ鼓動に否が応でも恐怖を刻みつけられ。

数多の男を惑わした色香も、汗と脂で塗り潰され醜悪な臭いを醸し出し。
かつては絢爛豪華に彩ったその衣装も、いまやズタボロの布切れを纏うだけになり。

この世における絶望を纏めて煮詰めたような表情でテミスはガチガチと歯を打ち鳴らし縮こまっていた。

いったいどこで間違えた。
なぜこうなってしまった。

彼女はかつての成り行きを回顧する。

凋落が始まったと実感したのは、そう、狩りゲームの時に、シュカとの賭けに敗北し傘下に加えられてからだ。
それまではDゲームの中では名を馳せ、数多の参加者の命をチップに賭け事を運営し愉しんでいたというのに。
サンセットレーベンズの傘下に加えられてからは賭博は実質的に解体され。シュカにはいいように扱われ。
それでも海賊船ゲームが決まった時には下剋上を仕掛けようとしたのだが、あっさりと看破され実行前に差し押さえられ。命だけは取られなかったものの、組織・トリニティの一切合切の何もかもを奪われてしまった。

あそこで賭けに勝っていればこんなことにはならなかったのか?
いや、あの賭けの結末がどうあれ、どのみち、この化け物たちは世界に干渉してきている。さして差はないだろう。

どのみち、こうなることが決まっていたというのなら、それはもはや運命。一個人がどうにかできる問題でないというなら、諦めるしかないではないか。

「いやよ...認めない、認めないわ...!」

親指をガジガジと齧り、涙と鼻水を垂れ流しながら、必死に現実を拒絶する。

こんな辛いだけの現実なんて嫌だ。
またあの頃のように怖いもの知らずに数多の命を転がしていたい。
たくさんのお金に包まれて優越性に浸りたい。
高みの安全圏から地を這い蠢く蛆虫たちを見下ろして優越感に浸りたい。
絢爛豪華に着飾ってキラキラと輝きたい。

あの頃に戻りたいーーーそうやって過去に逃避している彼女に、現実は無情にも突きつけられる。

97今、ここにある幸福 ◆ZbV3TMNKJw:2024/10/07(月) 23:40:44 ID:wfwbXT/60
「テミスさん!連中が現れました!」

かつて共に組織を成長させてきた、コンドウの張り上げられた叫びに、テミスはびくりと身体を震え上がらせる。

きた。ついに見つかってしまった。

また逃げなければ。どこまでも。どこまでも。何度でも。何度でも。
たとえその果てになにが待っていようとも。

「早くここから脱出をーーー」
「おおっとぉ、そうは問屋が卸さねえ、ってかぁ!?」

シャッ、と音が鳴り、一筋の空気が揺れた。
同時に。
コンドウの上半身がずるりと傾けば、腰から下は直立したままの下半身を残し、血飛沫と臓物を散らしながら溢れ落ちていく。

「ばあっ!超危険生物、グリードちゃんでぇ〜す!!」

筋骨隆々な体躯と見るものを威圧するような大きなドレッドヘアーと爬虫類の如く鋭い目が特徴的な男は、おちゃらけたような言葉と表情で舌を出しながら突如姿を現した。

「きゃああああああああ!!!!」

テミスの叫びが木霊する。
目の前で起きた惨劇。
突如現れた男への恐怖。
見知った者の喪失。
己が辿る未来への警鐘。
数多の絶望がないまぜになった彼女はもはや立つことすらままならず、尻餅を着いたまま歩み寄ってくる男を目で追うことしかできなかった。

「ハッハー、俺様ちゃん好みのメスブタがいてくれるなんて嬉しい拾い物じゃねえかぁ!」
「な、なんであなた、生きて...!?」

テミスは知っている。ダーウィンズゲームの賭博を仕切っていた都合上、権利を奪われるまでのゲームのプレイヤーの生死は誰よりも把握している。
特にこの男、エイスの『王』は上位ランカーであり、カナメが台頭するまでは台風の目とあっても過言ではないほどに勢力を拡大し、他のプレイヤーにも多く被害をもたらしていたため、常に注目を集めていた。
だが、彼は死んだ。カナメ率いるサンセットレーベンズとの抗争の果てに、確かに死んだのだ。
その彼が生きている。あまつさえ、こちらに牙を向けているとなれば混乱もひとしおだ。

「んぁ?俺様ちゃん...あーいや、こいつのこと知ってんのか。記憶を見た限りじゃあ会ったことなさそうだが...まあいいか」
「ぇ...え?」

王の要領を得ないひとりごとに困惑の色を浮かべるテミスだが、その答えが返ってくるのは期待していない。
エイスの王といえば、実力と組織力だけでなく、その残虐非道さもひとしお際立っている。
敵と認めた者にはずっと粘着し続け、手足を切断しもがき苦しみのたうつ様を死ぬまで嘲笑う、手に入れた武器の実験台にする、欲望のままに強姦し飽きたら惨殺するなどクソのような噂が絶えない。

つまりだ。この場でコンドウを殺したということは自分もそうなるのは確定的に明らかであり。

「ま、待って!降伏!降伏するわ!!」

もはや彼女にできることは無様に命を乞うことだけだった。

98今、ここにある幸福 ◆ZbV3TMNKJw:2024/10/07(月) 23:43:29 ID:wfwbXT/60
「んん〜?いまなんて言ったのかなぁ?俺様ちゃんに?おねーさんが?何をするって?」
「こ、降伏よ!全面降伏!貴女の望むことはなんでもやってあげ...いえ、させてください!!だから命だけは助けてください!!お願いします!!」

かつての彼女を知る者がいれば驚きを隠せないだろう。絵文字にもできそうなほどに穏和な笑顔とは裏腹に、自分以外の全てを見下し利己の極致とも言えるほどにドス黒い腹を抱えた彼女が、プライドが高く自己顕示の塊である彼女が、涙と共に額と膝を地に着け土下座の姿勢で媚びているのだから。

だが彼女にはそうする他無かった。
彼女の異能『歪んだ天秤(アンバランス)』は不安定な状況にある精神にこそ効果を発揮する能力。
いまの揚々と殺しに来ている王には無意味極まりない。
そして、この場を突破出来うる武芸の心得もない彼女には、もはや媚びを売り隷属する以外の手段は持ちえなかった。

だが、そんな己の矜持と尊厳をかなぐり捨てた行為でさえ、目の前の男には通用しない。

「おいおいダメだぜおね〜ちゃんよぉ!?あんたのお友達はこんなに頑張っちゃったってのによぉ!?ひ・ど・い・じゃ・な・い・っす・かぁ・う・ら・ぎ・り・も・の・ぉ」


王は、事切れたコンドウの上半身持ち上げ、昔の人形喜劇のように顎をガクガクと揺らしてみせながらテミスを揶揄う。

「そしてぇ。俺様ちゃん達もぉ、そんな簡単に身内をホイホイ裏切るクソ売女(ビッチ)は信用なんてしませぇ〜ん♩」

それはまさに処刑宣告。
捕虜や奴隷ですらいられない全ての終わり。
テミスはそれが受け入れられずに、なおも縋りつき命乞いをしようとする。

「い、嫌よ!死にたくない!お願いたすけ」
「くせえんだよメスブタぁ!!」

パァン、と乾いた音が鳴った。
それは王の放った平手打ちだった。

「ひぎっ!?」

その一撃にテミスは吹き飛び、地面を転がり回る。

「いた...うあああぁぁぁ」

テミスは必死に立ち上がろうとするが、圧倒的な恐怖に心が折れているせいか、手足がまともに動かない。

「うぅ...いやぁ...」

そして王は、咽び泣くテミスの頭を踏みつけ、ニマニマと気色の悪い笑みを浮かべながら、手刀を構える。

99今、ここにある幸福 ◆ZbV3TMNKJw:2024/10/07(月) 23:44:58 ID:wfwbXT/60
「っと、いけねえや。この身体の時はつい性格がこいつに引っ張られちまう。別にいたぶるのが任務ってわけじゃねえし、サクッとおねんねさせてやるよおね〜さん」

これより振り下ろされる手刀の名は虚空の王。文字通り、空間を断つその一撃は、いかな防御をも許さぬ最強の矛。
身体ではなく精神に干渉する異能しか持たない彼女に対しては過ぎた殺傷力だ。
そう。王は微塵も手心を加えることなく、彼女を殺そうというのだ。

「ここにいるのがモノホンの王さんじゃなくて良かったなぁ。モノホン王さんだったら手足ぶった斬られてオ◯ホにされてるとこだったぜぇ」
「イヤ...」

それを理解しつつも、テミスは受け入れない。いまもなお、数秒後の未来を受け入れられぬと涙と嗚咽を漏らす。

「だれか...助けて...」

救世主などこない。
彼女の支配する組織は吸収されてしまったし、その吸収したサンセットレーベンズにしても、彼女とは関わりが薄く、彼らも彼らで対処に必死な以上はこちらに増援を寄越してくれるはずもない。
そもそも。
海賊船ゲームの時に裏切り、命があるだけマシだと思える領域にまで身を貶めるハメになったのは、彼女の因果悪業の果てである。

「どうか....」

それでも、生きていたいと願う。
もう元の煌びやかな世界に戻れずとも。
生き延びた先が一寸先すら見えぬ漆黒の闇だとしても。
これから待つのが文明崩壊した原始の時代だとしても。
生きたい。死にたくない。

「助けて...」

処刑人の鎌が振り下ろされてもなお、彼女はただ縋り祈る。
一切の穢れなく、純粋に生を願う。

『それが貴女の願いなんだね』

ーーーそんな彼女の願いを、電脳の女神は確かに聞き遂げた。

100今、ここにある幸福 ◆ZbV3TMNKJw:2024/10/07(月) 23:46:12 ID:wfwbXT/60


「ーーーミス。テミス、起きろ」

揺られ、呼びかけられる声にテミスの意識は覚醒していく。

「ん、んん...」

ぼんやりとする目を擦り、視界を明瞭にすると、そこには酒瓶立ち並ぶ棚。
それを見て思い出す。自分が、GMに連絡したあと、設置されたバーにてワインを堪能していたことを。

「...どれくらい寝てたのかしら」

自分を起こしてくれたリックにテミスは問いかける。

「2時間くらいだ。気持ちよく寝ていたし、このままそっとしておいても良かったんだが...」
「いえ。ありがとう。目的はもう終わったようなものとはいえ、せっかくの享楽を寝て過ごすのも勿体無いわ」

テミスのいう享楽。それは即ち、今のポジションのことだ。自分は安全圏に身を置き、絢爛豪華な衣装に身を包み、優雅に参加者の命を弄ぶ。
まさにかつての自分の生業にかなり近しい。絶望の縁に追い込まれた際に願っていた幸福そのものだ。

「見つけてくれたのが貴方で良かったわ。あの二人だと絶対に無視されてたもの」
「...嫌われている自覚はあったのか」
「長年トリニティの長を勤めていたのよ?あんなわかりやすい二人の心中くらい容易く察せるわ」

かつてテミスは、経営手腕や異能による暗躍、持ち前の美貌により多くの人間の根にまで手を回してきた。無論、関わった全員が彼女に靡くわけでもなく、そういった輩の見分け方も心得ている。

「それで?なにか状況に進展は?」
「大きな進展はまだ...けれど、『神隼人』と『桜川九郎』、それに『レイン』と『垣根提督』は首輪について理解を深めているように伺える」

そう報告するリックの面持ちは優れない。当然だ。自分たちの潜んでいる根城と首輪。この二つが自分たちの安寧を保証しているというのに、そのうちの一つが解除されるかもしれないというのだから。


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