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バトルロワイアル - Invented Hell – Part2
1
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/02/04(日) 21:47:29 ID:KDm6eFsc0
◆ 参加者名簿
3/7 【テイルズ オブ ベルセリア】
○ベルベット・クラウ/○ライフィセット/○ロクロウ・ランゲツ/●マギルゥ/●エレノア・ヒューム/●オスカー・ドラゴニア/●シグレ・ランゲツ
4/7 【うたわれるもの 二人の白皇】
〇オシュトル/〇クオン/〇ムネチカ/●アンジュ/●マロロ/●ミカヅチ/〇ヴライ
2/6 【東方Project】
●博麗霊夢/●霧雨魔理沙/〇十六夜咲夜/●魂魄妖夢/〇東風谷早苗/●鈴仙・優曇華院・イナバ
3/6 【ダーウィンズゲーム】
〇カナメ/●シュカ/〇レイン/〇リュージ/●ヒイラギイチロウ/●王
1/5 【鬼滅の刃】
●富岡義勇/●錆兎/●煉獄杏寿郎/●累/〇鬼舞辻無惨
1/5 【緋弾のアリアAA】
◯間宮あかり/●神崎・H・アリア/●佐々木志乃/●高千穂麗/●夾竹桃
0/5 【乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…】
●カタリナ・クラエス/●マリア・キャンベル/●ジオルド・スティアート/●キース・クラエス/●メアリ・ハント
3/5 【Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
●天本彩声/〇琵琶坂永至/●Stork/〇梔子/〇ウィキッド
2/5 【ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
●ジョルノ・ジョバァーナ/〇ブローノ・ブチャラティ/●リゾット・ネエロ/●チョコラータ/〇ディアボロ
1/5 【とある魔術の禁書目録Ⅲ】
●浜面仕上/●フレンダ=セイヴェルン/●絹旗最愛/●麦野沈利/〇垣根帝督
2/5 【響け!ユーフォニアム】
〇黄前久美子/〇高坂麗奈/●田中あすか/●傘木希美/●鎧塚みぞれ
2/4 【新ゲッターロボ】
〇流竜馬/〇神隼人/●武蔵坊弁慶/●安倍晴明
2/4 【デュラララ!!】
●セルティ・ストゥルルソン/●岸谷新羅/〇平和島静雄/〇折原臨也
2/3 【虚構推理】
〇岩永琴子/〇桜川九郎/●弓原紗季
0/2 【ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島】
●ビルド/●シドー
1/1 【ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
○ヴァイオレット・エヴァーガーデン
【残り29人】
まとめウィキ: ttps://w.atwiki.jp/kyogokurowa/
避難所:ttps://jbbs.shitaraba.net/anime/11085/
280
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:54:25 ID:7gnuStw20
◇
「――ゴホッ……、俺としたことが、不覚を取っちまった……」
闇夜に染まる森の中。
ロクロウは、軋む全身に鞭打ちながら、疾風の如く木々の間を駆け抜けていく。
あのヴライの巨拳を真正面から受け、エリアを跨ぐほどの吹き飛ばされたのもあって、当然、そのダメージは尋常ではなく、その屈強な肉体を構成する骨は多々砕け、内臓も多大な損傷を受けている。
それでもなお、血反吐を吐きながらも、満身創痍の肉体を動かし、恩人である早苗が残る戦場へと駆け戻らんとしていた。
しかし――。
「久美子か……?」
その道中にて、これまた、自分にとって恩義ある少女が土の上で突っ伏した状態でいるのを目にすると、その足の動きを止めてしまった。
「――何でなの……?」
ロクロウの呼び掛けに、久美子は鬱々とした顔で見上げると、恨みがましく、嗚咽を漏らしながら言葉を紡いでいく。
「……久美子……?」
「何で、あなたは肝心な時に、いなかったんですか!?
“借り”を返してくれるんじゃなかったんですか!?」
「おいっ、久美子……!?」
キッと、涙に濡れた瞳で睨みつけながら起き上がると、ロクロウの胸倉を摑む久美子。
その剣幕に戸惑いを隠せないロクロウであったが、構わず久美子はヒステリックに喚き散らしていく。
「あなたが道草食ってる間に、皆死んじゃったんですよ!! 岩永さんも、カナメさんも、麗奈も!!」
「何っ……? それはどういう――」
「あなたさえ、ちゃんとしていれば……、私達は……こんな目に遭わずに、済んだのにッ!!」
困惑するロクロウを余所に、久美子は彼の疑問に答えることなく、ただただ、一方的に捲し立て、泣き崩れる。
その一方で---
(ああ、本当に最悪だ、私……)
理不尽極まりない八つ当たりと、どうにかして自分の罪を薄めようとする醜い保身。
突きつけられた現実(じごく)に向き合おうとしない、自分自身に対して、久美子は心底嫌気が差していた。
281
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:54:45 ID:7gnuStw20
【F-6/夜中/一日目】
【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損、言いようのない喪失感
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣(片一方は粉砕)@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[思考]
基本:主催者の打倒
0:他の連中がどうなったか気になるが、一先ずは久美子が落ち着くのを待つ。
1:久美子達の計画に賛同するつもりはないが、久美子には借りがあるので、暫くは共闘するつもり
2:無惨を探しだして斬る。
3:シグレを殺したという魔王ベルセリア(ベルベット)は斬る。
4: 早苗が気掛かり。號嵐を譲ってくれた借りは返すつもりだが……
5: 殺し合いに乗るつもりはない。強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
6: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
7: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
8: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。
※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。
※ 更新されたレポートの内容により、ベルベットがシグレを殺害したことを知りました。
※ 久美子が作った解毒剤によって、毒は緩和されており、延命に成功しました。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身に火傷(冷却治療済み)、右耳裂傷(小)、右肩に吸血痕、深い悲しみと喪失感、琴子とカナメに対する罪悪感、精神的疲労(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:特製衣装・響鳴の巫女(共同制作)
[装備]:契りの指輪(共同制作)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体、シグレ・ランゲツの片腕、クロガネ征嵐@テイルズオブベルセリア、点滴セット複数@現実
[思考]
基本:歌姫(μ)に勝って、その力を利用して殺し合いの全てを無かったことにする。
0:麗奈……私は――。
1:ロクロウさんは嫌いだけど、利用はするつもり
2:ヴァイオレットさんには、改めて協力をお願いしたい
3:ウィキッドは絶対に許さない
4:例え隼人さん達を敵に回したって、もう私は迷わない。望みを叶えるまで逃げ切ってやる。
5:あかりちゃんも、仲間になってほしいけど……
6:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒
7:岩永さん、ごめん。必ず生き返らせるから……
※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。現状は麗奈と一緒に衣装やら簡単なアイテムを作れる程度に収まっています。
※麗奈がビエンフーから読み取った記憶を共有し、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※μの事を「楽器」で「願望器」だと独自の予想しました
282
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:55:10 ID:7gnuStw20
◇
『オシュトルゥゥゥゥゥゥッッーーー!!』
夜宵の戦場に轟くは、黒の巨像の断末魔。
白の巨像が放出した限界突破の水流に呑まれて、彼方へと消えていった。
『--ハァ…ハァ……』
勝者として君臨していた白の巨獣が、肩を揺らして、呼吸を整えている。
やがて、呼吸が落ち着き、その全身が眩い光に包まれると、それを見守っていたクオンは、その名を呼んだ。
―――ハク……?
記憶を失い、右も左も分からなかった彼に、自分が与えた、その名前を。
―――これからは、ハクと名乗るといいんじゃないかな。
―――この名前は、とても由緒正しい名前なんだよ。
―――伝承にまでうたわれし御方の名からいただいた名前なんだから。
―――そう、うたわれものから……
想起されるは、彼に名前を授けた日のこと。
その日から、『ハク』と自分の旅路が始まった。
それは、とても濃密で、波瀾万丈で……だけどかけがえのない日々だった。
―――……奴は、死んだ。
―――……すまぬ。
だけど、別れは唐突に訪れて。
―――お前と一緒に居た日々は、本当に楽しかった。
―――ありがとう。
―――ハク殿からの言葉だ。
当たり前のように側にいた彼と、もう肩を並べることも、語り合うことも、お説教することも出来ないのだと悟ると。
心にポッカリ穴が開いてしまって。
凄く苦しくて、胸が張り裂けそうになって。
―――そっ……か……
―――そう……だったんだ……
―――ハクのこと……すき……だったんだ……
ようやく、自分の想いに気付いて。
でも、その想いはもう叶わぬものだと、理解していて。
気付くのが遅すぎたと、ひたすらに後悔して。
―――……やれやれ、もはや追加労働手当だけでは割に合わんな……
でも、自分に彼の死を告げた漢が、実は彼で。
どういう訳か、ヤマトのうたわれる武士に為り変わってて。
『仮面の者』になって、あのヴライを退けて……。
283
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:55:50 ID:7gnuStw20
「――クオン……」
変身が解かれて、元の人の姿に収まったオシュトルは、クオンの呼び掛けに反応。
ゆっくりと背後を振り向くと、此方を見つめる彼女の姿を捉える。
ピシピシピシ―――
(……これが、『力』の代価か……)
揺らめくクオンの瞳を見据えながら、オシュトルは、自身の面貌を覆う仮面の亀裂が、音を立てて拡がるのを知覚し、悟る。
先の死闘にて仮面が限界に達したのだ、と。
そして――
パリン!!
「……ハ、ク――」
仮面が砕け散ったと同時に、顕になったその素顔に、クオンは息を呑む。
「……やっぱり、ハクだったんだね……」
「あぁ……」
視線の先には、かつて彼女の隣にいた青年の、陽だまりのような心地の良い微笑みがあって。
「……ハ、ク……。……ハクゥ……!!」
その懐かしくも、安心させられる想い人の姿に、クオンは胸が熱くなるのを感じた。
「……どうして、今まで隠していたのかな……?
私、ハクが死んだと告げられて、本当に悲しくて、落ち込んで、後悔して……。
凄く苦しかったんだよ……」
「……すまなかった……」
ポロポロと、クオンは大粒の涙を溢しながら、激戦の反動で覚束ない足取を以って、ハクの元に歩まんとする。
自分のために涙を流す彼女を安心させるべく、ハクもまた一歩踏み出すが――
(……っ!?)
唐突に生じた右腕の違和感に、ハクは足を止めた。
見れば、ヴライに決定打を浴びせた右腕部分がゆっくりと塩となり、風に運ばれて散っていく。
(……そうか……、自分もあいつのように……――)
かつて見届けた、親友の最期。
それが今まさに、自分の身に起こっていることを悟ると、やれやれといった感じで、ハクは嘆息した。
これが、願望を叶える断片とやらが、囁いていた『破滅』―――深淵の扉を開いた、代償なのか、と。
284
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:56:47 ID:7gnuStw20
「――ハ、ク……?」
不意に立ち止まったハクに、不安を覚えたクオン。
そこで気付いてしまった。
自分を悲しそうに見下ろす、ハクの―――。その顔が―――。
まるで陶器でできた仮面のように、ピキピキと罅割れているということに。
顔面だけではない。ふと視線を落とせば、彼の右腕からは、手首より先が無くなっていて。
真っ白な塩となって、風に運ばれている。
(――急がねば……)
硬直するクオンの元に、ハクは改めて、步を進めていく。
一歩、一歩と進んでいく度に、身体が徐々に塩が溢れて、大気へと還っていく。
その都度、自分という存在が、徐々に薄れていくことを認識しつつ、ようやく、クオンの元に辿り着く。
本当は抱きしめてやりたい。
彼女の温もりを感じながら、心配かけたなと謝りながら、全てを話してやりたい。
だけど、この身体では、もはやそれは叶わない。
今自分がやるべきことは、散りゆく自分の使命を―――。遺志を―――。
かつて、親友が自身に行ったように。信の置ける仲間に、託すことにあるのだから。
「クオン―――」
故に、オシュトルは、クオンの小さな肩に左手を乗せて、言葉を紡いでいく。
この殺し合いにおいて、己が目指していたことを、託すため―――。
そして、ヤマト帰還後に、成す遂べきことを、託すため―――。
285
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:57:39 ID:7gnuStw20
「自分は、お前に―――」
「クオンさんから、離れてくださいっ!!」
バ ァ ン !!
瞬間、ヒステリック気味の悲鳴が響くと同時に、閃光が走ったかと思うと―――
「……え……?」
ハクの顔は弾け、塩となって大気の中へと消えた。
ドサリ
「ハ、ク……?」
倒れ伏した、頭部のないヒトだったもの。
その残骸からは、首輪が分離されて。
残りの胴体部分も徐々に塩と化して、音もたてずに、風に運ばれていく。
「――ハァハァ……、クオンさん、無事ですか!?」
呆然とするクオンの視界には、緑髪を揺らす巫女が、息を切らせながら此方に駆け寄って来るのが映った。
「……う、嘘……だよね……?」
「―――クオンさん……?」
しかし、クオンが巫女に反応することはなく。
ガクリと膝を地面に付けて、虚空に消えつつある想い人の亡骸に縋りつく。
「い、や……。いやぁ……!! 何で……!?
折角、また逢えたのに―――」
まだ何も聞かされていない―――
まだ何も伝えられていない―――
今度こそ共に歩んでいけると、そう、思っていたのに――
「いやだよ……、こんなの……!! こんなのって――」
風に運ばれていく、ハクだったもの。
クオンは上から覆い被さるようにして、懸命にその消失を食い止めようとする。
しかし、そんなクオンをあざ笑うかのように、亡骸は全て塩の山へと変わり-――
「い、や……。待って……、待ってよぉ!!
ハク……、ハクゥゥゥゥゥゥゥゥッーーーーーーー!!!」
風に攫われて、宵の闇へと消えてしまった。
戦場の跡に残されたのは、あまりにも理不尽な現実(じごく)。
皇女は、生前の彼が纏っていた偽りの衣服を握り締めて、咽び泣き、巫女は、ただ呆然とその慟哭を眺めていた。
286
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:58:05 ID:7gnuStw20
◇
少女の奥に蠢く“その者”は、己が使命を全うした。
確かに、ヴァイオレットの手紙をきっかけとして、オシュトルと、彼を庇い立てる者達に関わる記憶の改竄に、綻びが生じてしまったのは、“その者”にとっては痛恨の極みだった。
これに対応するため、再び記憶の改竄を試みるも、早苗の深層心理は、これに抗戦。脳内における激しい攻防の末、“その者”は、宿主への身体的及び精神的負荷を鑑みて、記憶の改竄を断念した。
結果として、早苗の中では、矛盾する記憶が混在するようになり、ロクロウとヴァイオレットに対する不信は、彼らの言動を鑑みた上で、考えを改めるまでに至った。
しかし、それはあくまでも、ロクロウとヴァイオレットの二人に対してだけであって、“その者”は、決して、己が存在意義を放棄したわけではなかった。
早苗の深層心理が、過剰に拒絶反応を示していた、ヴァイオレット達に関連する記憶の工作―――それを断念する代わりに、オシュトルのみを対象とした記憶領域に対して、心象悪化の工作を徹底的に行なった。
彼一人のみ悪たらしめる、偽りの記憶をひたすらに刻み込んでいったのである。
その結果、早苗は、もはや自分自身の他の記憶との整合性を持ち合わせない状態にありながらも、オシュトルを悪として絶対視するようになってしまった。
人を喰らう害獣であれば、駆除しなければならない―――
人を死に追いやるウイルスであれば、滅菌しなければならない―――
早苗の記憶に根付いてしまった悪漢オシュトルの先入観は、まさにそれと同じ理屈で、彼を断罪する事を正当化するものであった。
元来、こういった周辺の記憶との整合性を無視した改竄は、周囲から不信を招いてしまい、最終的には宿主の破滅に繋がりかねないものである。
しかし、己が目的の達成のため、“その者”には、もはや手段を選ぶ余裕は残されていなかった。
287
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:58:41 ID:7gnuStw20
「クオンさんから、離れてくださいっ!!」
やがて、“その者”の工作は、実を結んだ。
バ ァ ン !!
駆け付けた早苗の目に飛び込んできたのは、絶対悪たるオシュトルが、クオンに掴みかかろんとしていた光景。
自身の仲間であるクオンを、その魔の手から護るため為、彼女は咄嗟に光弾を放った。
瞬間、オシュトルは断末魔を上げることもなく、その頭部は弾け飛んだ。
「――ハァハァ……、クオンさん、無事ですか!?」
何故、彼の頭が砂のように崩れ去ったかは、早苗には分からない。
だが、悪を葬り去り、大切な仲間を護ったことに変わりはなく、早苗はホッと胸を撫で下ろしつつも、クオンに駆け寄った。
「……う、嘘……だよね……?」
「―――クオンさん……?」
けれども、クオンは早苗に見向けもせず、放心状態。
そのまま、膝を落として、オシュトルの亡骸に縋り付くと、事もあろうに、泣き始めたではないか。
(……どうして?)
まるで、オシュトルの死を悲しんでいるような彼女の素振りに、早苗は、疑問を禁じえなかった。
オシュトルは断罪すべき悪人―――それは、クオンとの共通認識であったはず。
だというのに、このような反応をされてしまうと、あたかも、自分がいらぬ事を仕出かしてしまったようではないか、と。
「い、や……。待って……、待ってよぉ!!
ハク……、ハクゥゥゥゥゥゥゥゥッーーーーーーー!!!」
絶叫する、クオン。
まるで愛する人を失ったが如く、その慟哭を前にして、早苗は困惑して、立ち尽くしたまま。
288
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:59:00 ID:7gnuStw20
―――嗚呼、これでようやく眠れる……。
疑問符を浮かべたままの宿主を他所にして、“その者”は、己が使命を果たしたことを悟った。
自分は役目を全うした―――であれば、これ以上の活動に意味はない。
もはや自身の存在意義もなくなったので、これ以上、生き永らえるつもりもない。
故に、早苗の脳内に蠢く蟲は、後のことは知ったことではなく、宿主の好きにすればよいと、静かに眠りについて、その活動を停止した。
やがて、蟲の活動停止を機として。
「――あ、れ……?」
未だ泣き喚くクオンを見下ろしながら、早苗は、ふと疑問に思い始める。
「どうして、私はオシュトルさんを……?」
何故、あそこまで、彼を目の敵としてきたのだろうか。
何故、彼を悪として断罪することに、躍起になっていたのだろうか、と……。
「え、でも……、オシュトルさんは、許しがたい悪党で……。あ、あれ……?」
ここで、早苗は気付く。
先程までは明瞭に刻まれていたはずの、自身のオシュトル断罪を正当化する、彼を悪たらしめる記憶の数々―――それらが、時間が経つにつれ、まるで靄がかかるようにして、不確実性を帯びるようになっていくことに。
どちらかというと、現実で発生したものではなく、夢や空想の中での出来事を、あたかも事実として認識していたような―――そんな過ちを犯してしまったという感覚が、湧き上がってくる。
「……わ、私、もしかして――」
取り返しのつかないことを、仕出かしてしまったのではないのだろうか、と
そう悟った途端、足がガクガクと震え出し、全身から滝のような冷や汗が流れ落ちていく。
蟲の活動停止に伴って、引き起こされた、記憶と認知の修正―――。
刻まれたそれらが、偽りのものだと確信に変わったその瞬間。
東風谷早苗は、残酷なまでの現実(じごく)と向き合うこととなった。
289
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:59:17 ID:7gnuStw20
【E-6/更地/夜中/一日目】
【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(極大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、オシュトルへの怒り及び不信(極大)、ウィツアルネミテアの力の消失、悲しみと絶望(極大)、喪失感(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2、マロロの支給品3つ
[思考]
基本:???
0:ハク……、ハクゥ……!!
[備考]※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※早苗から、オシュトルに対する悪評を聞きました。
※ウィツァルネミテアは去りましたが、残された残滓を元に、『超常の力』を発動することは出来ます。但し身体には絶大な負荷が掛かります。
※ヴライとの戦闘によって、E-6を中心として、E-5の一部、E-7の一部、D-6の一部、F-6の一部に、破壊の痕跡及び火災が発生しております。
【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:全身にダメージ(極大)、疲労(極大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(極大)、脳内にウォシスの蟲が寄生(活動停止)、記憶改竄(修正済)、オシュトルへの不信(修正済)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
0:私……、何てことを―――
1:クオンさん……
2:ロクロウさん、ヴァイオレットさんは信じたい
3:さっきの人が、ヴライ……。霊夢さんの仇……。
4:ブチャラティ(ドッピオ)さん、信じていいんですよね……?
5:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
6:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
7:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
8:魔理沙さん、霊夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※ウォシスの蟲に寄生されております。その影響で、オシュトルにまつわる記憶が改竄され、オシュトルに対する心情はかなり悪くなっています。今後も、記憶の改竄が行われる可能性は起こりえます。
※記憶の改竄による影響で、オシュトル、ヴァイオレット、ロクロウが殺し合いに乗っていると認識しました。
※ウォシスの蟲が活動停止したため、改竄された記憶が全て偽りだったと認識しました。
290
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:59:46 ID:7gnuStw20
◇
――ぐじゅっぐじゅぐじゅ、じゅるるる……
崩落した瓦礫の上で、水気の多い果実を貪るような音が響いている。
月明かりに照らされつつ、食事に没頭しているのは、身体や衣服の至る所に焦げた跡が目立つ、一人の魔女。
鬼に堕ちた彼女が、口にしているのは、つい先ほどまで此の地にて、闘争に身を投じていた、一人の漢の屍肉―――。
「――はぁ……はぁ……」
食事を終え立ち上がったウィキッドは、口元に付着した血を拭い、食人本能によって興奮気味となっていた呼吸を落ち着かせていく。
複合異能の力を解放させたあかりに、苦杯を喫する形となった彼女は、損傷激しい身体を引き摺りながら、この場所に漂着。
そして、物言わなくなったヴライと対面。
当初こそ、目を見開いたまま佇ずむ、その威風堂々とした姿に、ビクリと跳びあがってしまったが、既に事切れていることを悟ると、食人衝動に促されるまま、その屍肉に喰らいついた。
「きゃはははははは、良いじゃん、良い感じじゃん!! ありがとなぁ、デカいのぉ!!
アンタのおかげで、力が漲ってきたわ!!」
骸を平らげてみせると、おんぼろだった身体の傷は、みるみるうちに回復。
続けて、身体の奥底から気力が溢れ返り、心身が研ぎ澄まされるのを感じると、己が糧となった名もわからぬ巨漢に、ウィキッドは、上機嫌に感謝の言葉を贈った。
291
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 11:00:34 ID:7gnuStw20
「さてと」
そして―――
「あの杖を壊されたのはムカついたけど、代わりの玩具も手に入ったことだし、逆襲タイムといきますかぁ!!」
漢が装っていた亀裂まみれの仮面を、自身の顔面に装った。
彼の支給品袋を漁った際に、目にした説明書。それによれば、この仮面を利用することで、飛躍的に戦闘力の向上が見込めるという。
鬼化の影響で、身体能力の向上と再生能力を得てはいるものの、それでも鬼舞辻無惨や間宮あかりらとの戦力差は、歴然。
直接手を合わせたことで、連中の強さは嫌という程実感している。
故に、ウィキッドは、新たに手に入れたこの仮面を用いて、更なる戦力の増強を図ることにした。
「待っとけよ、クソ共。今度こそきっちり、ぶっ殺してやるからなぁ!!」
次なる踊り場を求めて、夜の闇へと歩を進めていくウィキッド。
ヴライの屍肉と仮面を取り込むことで、溢れかえるは、マグマのような猛き活力と闘争本能。
そこに生粋の悪意が混ざり合うことで、魔女の精神は、より歪なものへと変貌していく。
彼女は、気付いていない。
この殺し合いの会場で膨張する憎悪の思念、及び外部から力の取り込みによって、自身の本質が徐々に徐々にと、本来の「水口茉莉絵」だったモノから逸しつつあることに―――。
滲み出る憎悪と悪意をまき散らすだけの、ただの怪物に成り果てつつあることに―――。
―――連中に地獄を味わせてやる……。
しかし、今は、湯水のごとく湧き上がる、他者への圧倒的害意のままに。
破壊衝動と狂気に染め上がった、絶望の魔女の舞踊は、尚も続く。
292
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 11:01:44 ID:7gnuStw20
【D-7/市街地/夜中/一日目】
【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:鬼化、食人衝動(小)、疲労(極大)、無惨への殺意(極大)、臨也とあかりへの苛立ち
[服装]:
[装備]:ヴライの仮面(罅割れ、修理しなければ近いうちに砕け散る)@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2 、アリアの支給品(不明支給品0〜2)、キースの首輪(分解済み)、キースの支給品(不明支給品0〜1)、カタリナの布団@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…、北宇治高等学校職員室の鍵、参加者の人肉(複製品)多数@現地調達、ヴライの支給品2つ
[思考]
基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ
0:次の目的地に向かう
1:無惨を探しだして、殺す
2:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。
3:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。
4:臨也がとにかく不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。
5:私を鬼にしただぁ? 元に戻せよ、クソワカメ。
6:覚えてろよ、間宮あかり。必ず殺してやるからな
7:人形女(ヴァイオレット)も殺す。
8:久美子に関しては、散々玩具にしてやったから、もうどうでも良いかな。ご馳走様〜♪
[備考]
※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。
※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。
※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読んでおり、覚醒者『006』は麗奈、『007』は無惨が該当すると認識しております。
※ 麗奈との距離が離れたため、太陽に対する耐性を失いました(認識済み)
※ へんげのつえは破壊されました
※ 麗奈、ヴライの屍肉を食べました
※ どこに向かっているかは、次の書き手様にお任せします。
【岩永琴子@虚構推理 死亡】
【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム 死亡】
【へんげのつえ@ドラゴンクエスト ビルダーズ2 破壊】
【カナメ@ダーウィンズゲーム 死亡】
【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇 死亡】
【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇 死亡】
【ウォシスの蟲@うたわれるもの 二人の白皇 活動停止】
【残り24名】
293
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 11:02:08 ID:7gnuStw20
以上で投下終了となります。
294
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/02(日) 23:50:52 ID:aKjWh2fw0
クオン、早苗、ロクロウ、久美子で予約します
295
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:51:26 ID:xjzPINJo0
投下します
296
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:52:44 ID:xjzPINJo0
さんざん泣きわめき、言葉で責め立てた少女は膝を折り、嗚咽と共に俯いている。
それを見届けた夜叉・ロクロウは無言のままに彼女を見下ろす。
だが、彼女に声をかけないのは、なにも彼が非情であるのを示す証左ではない。
巨大獣と化した武士の一撃をモロに受け、吹き飛ばされ、甚大なダメージを受けながらもどうにか戦場に戻る道中で遭遇した少女・久美子。
彼女に対しては、欲求に駆られて同行者を傷つけた負い目がある。撃ち込まれた毒を軽減してもらった恩もある。
そんな彼女が齎した「自分がいなかったせいで大勢の仲間が死んだ」という情報は、ロクロウの心に負荷をかけた。
だが、それは彼の心を縛る鎖までには成り得ない。
もしもこれが、ヴァイオレット・エヴァーガーデンや間宮あかりのように不殺を信念とする者たち、あるいは牧歌的な平和を愛する者であれば、その心に爪痕を残せただろう。
ロクロウは違う。
ロクロウの住んでいた世界は、人の理不尽な死などありふれていた。時には、自分たちが齎していた。
そしてなにより、彼自身が戦いを、血肉を好む戦闘狂。礼儀作法は心得ているため、平和や一般的道徳に理解は示せど、重視するのは己の欲求。
平和な現代世界で生きてきた久美子とは価値観が違う。世界が違う。
自分のあずかり知らぬところで少し話した程度の少女が、久美子の友達が、名前も知らぬ青年が死んだと聞かされても、悼む気持ちはあれど自罰には至らない。
よほど自分を占めるものでもなければ、終わってしまったものは、そういうものだと割り切ってしまえる。
(...嬢ちゃんの言う通り、うかうかしてられねえのは事実だが)
自分がいれば悲劇が収められた―――それは、この混沌とした戦場ではまだ潰えていない。
先ほどまで響き渡っていた轟音は既に途切れており、戦場を蹂躙していた巨大獣の姿も消え去った。
どういう形であれ、奴との戦いが終わっているのは察せられる。
残っているのは、奴が齎した戦火の痕、そして早苗とオシュトル。
早苗のオシュトルへの憎悪は要領をえないものだった。
一緒に行動していた時にはおくびも見せなかったのに、突然、オシュトルを悪しように吹聴し。
こちらがその否定や矛盾点を挙げれば、今までの言動を改竄・翻してでも己の主張を正そうとし。
挙句の果てには、同調していたはずのクオンですら困惑するほどに狼狽し、オシュトルに味方をするもの全てを否定するようになって。
どうにかして、自分やヴァイオレットへの否定は収まったものの、未だ、オシュトルへの嫌疑は晴れていない。
そして自分から見たオシュトルという漢が、早苗の言っていた人面獣心の大悪漢などではないことも相まって、自分かヴァイオレットが間に入り仲裁しつつ立ち回らなければ、ロクなことにならないのを確信している。
恩人の一人である早苗に、恩を返すこともなく死なれてしまえば寝覚めが悪いというもの。
「悪いが、こっちも先を急ぐ身でな。詳しい話はあとで聞かせて貰う」
「えっ、わっ」
ロクロウは久美子の身体を軽々と持ち上げ、肩に担ぐとすぐに駆け出す。
久美子がもがくも、ロクロウが止まることはない。
(何事もなけりゃあいいんだが...)
その願いが既に潰えているのを知るのは、ほんの数分後の話である。
297
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:53:37 ID:xjzPINJo0
☆
ゴッ
慟哭、そしてしばしの静寂の後に肉を打つ音が鳴った。
右頬を殴られ、地を舐める巫女・早苗は尻餅をついたまま細かに後ずさる。
その胸中を占めるのは、恐怖。
右頬に走る痛み。
己を殴った女傑―――クオンから迸る殺意と悲哀の気配。
取り返しのつかないことを犯した己の罪。
それら全てと直面させられ、早苗のぐちゃぐちゃになった心は、その身体から防衛以外の選択肢を奪い取る。
再び振り上げられる左拳に、ひぃと小さく悲鳴を漏らし、反射的に両手を盾にし。
その上から振るわれた拳に再び地を嘗めさせられ。
それでも怒ることも立ち上がることもできず。
ただ逃避するかのように縮こまることしかできない。
振るわれる右足。
来るとわかっているのに、避けられない。
アルマジロのように丸まろうとする身体を打ち上げるような襲撃に、身体こそ浮かないものの、ゴロゴロと蹴鞠のように転がされる。
距離が離れ、身体が仰向けになったところで顔を上げる。
クオンと目が合った。
そこにはもはや、己を気遣ってくれた優しい薬師の面影などなく。
涙を流しつつも、全ての感情を削ぎ落した能面のような表情が張り付いており。
それがいっそう、痛みと共に早苗の恐怖を掻き立てる。
なにもできない。
己の命を脅かす存在が目の前に迫っているというのに、ただ傷つけられるのを恐れる被虐待児のように、震え縮こまることしかできない。
ガチガチと歯の根が合わない早苗にも構わず、その緑の髪が掴み上げられ、無理やりに顔を持ち上げられる。
再び目が合う。
直視することができず、ヒイッと喉を鳴らして両手で顔を隠す早苗の顔面に、クオンの右拳が放たれる。
ゴッ、と鈍い音を響かせ、まだ端整さを保っていた早苗の鼻が歪む。
小さく悲鳴を漏らすも、クオンの拳は止まらない。
ゴッ ゴッ ゴッ
まるで壊れた人形のように振るわれる拳は、早苗の顔に幾度も降りかかり、肉を打ち、その奥にある骨を打ち。
痣を刻みつけ、唾が飛び、歯が欠け、顔の形状を変えていく。
美少女といっても過言ではなかった早苗の顔は、もはや見る影もない。
目。鼻。唇。頬。
至る箇所が膨れ上がり、まるで不出来な葡萄のように凹凸激しく無様極まりないものとなっていた。
298
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:54:16 ID:xjzPINJo0
はあ、はあ、はあと荒い息遣いだけが空気を支配し。
ありとあらゆる激痛が脳髄を支配する中、早苗の胸中を占めるのは、自分をこうしたクオンへの怒りや憎悪ではなく。
「ころ、ひて...ころひて、くだひゃい...」
贖罪と逃避、ただそれだけだった。
―――どうして、あんなことをしたんだろう。
クオンに嬲られている間、ずっと考えていた。
もともと、オシュトルと自分の関係は決して悪いものではなかった。
この殺し合いにおいて、最初に出会い、共に対主催を掲げる者同士。
首輪を調達するにあたる参加者の生死についての価値観の相違こそあれど、それがああも嫌悪と憎悪に繫がるものではなかったはずだ。
それからも、オシュトルになにかされたというわけではないというのに。
なぜか、オシュトルが悪しように記憶が塗り替えられていた。
一度、恐怖を抱けば火をつけた導火線のように憎悪と嫌悪が留まることを知らなかった。
いつからそうなったというのか―――ビルドたちの名前が連ねられた放送を聞いてからという、大雑把なことしかわからない。
なにか、妙な刺激があったような気もするが、その正体もわからない。
ただ、いまの早苗がわかるのは、勝手な思い込みでオシュトルを殺し、それがクオンを絶望に追いやったということだけ。
原因も。取り返す手段も。何もわからないというなら、せめて彼女の手で殺されよう。
そうすることで罪を償おう。それがきっと正しいのだ。
そんな逃避でしかない自己満足の自暴自棄―――諦観にはこれ以上なく相応しい、麻薬の如き事後犠牲の美徳に、身を任せようとする。
「......ッ!!」
クオンの目が見開かれ、感情が息を吹き返す。
掴んでいた早苗の髪を乱雑に地面に引き倒し、ぶちぶちと千切れる嫌な感触を掌から感じ取り、噛み締めた唇からは血が流れる。
仰向けに倒れ、視界いっぱいに映るのは、こちらを涙ながらに見下ろすクオン。
きっと、数秒後にはその拳で心臓を貫くのだろう。
その運命を受け入れるように、脱力感に身を任せるように、早苗は瞼を閉じる。
真っ暗になった視界の中、拳が迫るのを感じ取る。
ガキン、と金属を打ち付けるような甲高い音が鳴った。
「なにがあったかは知らんが...恩を返さないまま死なれては堪らん。ひとまず話だけは聞かせてくれねえか」
早苗が瞼を開けると、そこには、眼前にまで迫った拳を剣で受け止めていたロクロウの姿があった。
299
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:55:43 ID:xjzPINJo0
「っ...!」
ロクロウが剣を振り上げると、クオンは後方にたたらを踏み、距離を取らされる。
「ロク、ロウ、ひゃん...」
「おう。随分酷い有様になってるが...さっきのヴライって奴にやられた...わけじゃ、ねえなあ」
早苗の顔に刻まれた幾多の打撲痕から、殴打による怪我だと察することが出来る。
先の巨大獣・ヴライにやられたとすれば、あの巨大な拳を顔面に受ければ、もはや顔など存在すらしていないだろう。
となれば、やはり見間違いでもなんでもなく、先ほどまで共闘していたクオンが早苗を殺そうとしていたのは明白で。
「邪魔、しないでほしいかな...その娘は、ハクを...ハクを!!」
「ハク...?よくはわからんが、どうしても早苗を殺りたいんなら、俺を倒してからにしてもらおうか。久美子、早苗を看てやってくれ」
「ぅえ、えっと...ひっ」
送れて辿り着き、早苗の惨状を見た久美子の悲鳴がゴングとなり、ロクロウとクオンの戦闘が始まった。
駆け出すはクオン。
跳躍しての踵落としを、ロクロウは剣で受け、かかる衝撃をそのまま受け流せば、クオンはロクロウの手前に落下する。
その隙を突き、ロクロウは剣を逆手に持ち替え、柄の方でクオンのこめかみを殴りつける。
クオンは頭部に奔る痛みに怯むも、すぐに地面を蹴り抜き、右の拳を振るう。
ロクロウはそれを身を捩り回避。
躱された傍からクオンは左の拳を振るい、ロクロウはそれもまた回避。
クオンが拳を振るい、ロクロウが回避するというやり取りが数度続いたときだった。
「......」
ロクロウは動くのを止め、振るわれた拳をその腹で受け止める。
ドッ、と肉を打つ音がする―――が、しかし、ロクロウの上半身は微塵も動かない。
「...どうしたよ。そんな拳じゃ、早苗どころか猫だって殺せないぜ」
数度のやり取りでイヤでも理解させられた。
今のクオンの拳に、先ほどヴライとやり合っていた時ほどの威力や覇気は無い。
疲労で動かないだとか、技が使えないだとか、そんな次元ではなく。
拳が泣いている。力を振るっている本人が己の心を傷つけている。
今のクオンが、本当に早苗を殺そうとしているのかさえ疑問を抱くほどに。
まるでそよ風のようになびいているだけの軽い、軽い拳だった。
だから、あの巨大獣を怯ませるほどの威力を間近で見ておきながら、躱すこともなく受け止めることに躊躇いもなかった。
300
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:56:20 ID:xjzPINJo0
「......!」
クオンの唇を噤み、目元が歪んでいく。
身体が弛緩していくその隙に、ロクロウはクオンの伸ばされた腕を掴み取る。
「なんで...」
疑問の言葉が漏れる。
「なんで、早苗なの」
溢れ出した想いは止まらない。
「なんで、ハクが早苗に殺されなくちゃいけないの...!?」
ずっと会いたかった。
ずっと後悔していた。
また会えて嬉しかった。
今度こそ共に歩めると思っていた。
ずっと、ずっと大好きだった。
そんな想い人を殺されたのだ。
絶望せずにはいられない。
現実なんかじゃないと逃避せずにはいられない。
それでも、ハクがオシュトルに成り替わっていたのを知らなかった時は。
この殺し合いで仇を―――ヴライを討てると思えば、それも一つの活力とすることができた。
何故か。
自分の知る限りで、ヴライが冷徹で力を至上とする暴君だと認識していたからだ。
だから、最初にリゾットと出会い、問答した時も、復讐の是非はおいておいて『奴を斃す』ということ自体には忌避感すら湧かなかった。
そう。
もしも早苗が、他者の命を軽視し弄ぶような鬼畜外道であれば、悲しみに沈められようとも、躊躇わず拳を振り抜くことが出来た。
復讐という大義名分に酔うことができた。
彼女を殺した後に、命を断ち、この地獄から逃れハクのもとへ逝くことができた。
けれど、下手人が早苗であるがゆえに、そうはならなかった。
クオンとてわかっていた。
早苗が、オシュトル―――否、ハクを殺したのは、本意ではないと。
短い付き合いながらも、早苗がどういう人物かは理解している。
彼女は決して、デコポンポのように私欲で他者を害し悦に浸るような下衆ではない。
なにより、命を賭けて破壊神と戦い、その身を挺して皆を護ったのだ。彼女という人間を疑う余地はない。
ハクを撃ち抜いたのも、クオンを護ろうとしての行為だ。
だから、仮に本物のオシュトルに危害を加えられていたとしても、ハクの事情を知っていれば、決してそんなことはしないのだ。
もしも自分が早苗の豹変に気づき、安易に彼女に同意しなければ。
もしも皆で話し合う時間があれば。
もしも戦いが終わった時、自分と早苗が同じ場所にいることができていれば。
もしも早苗と合流した時に、オシュトルがハクであると伝えることができていれば。
もしもハクが自分と再会し、詰められた時にオシュトルではなくハクであると明かしてくれていれば。
もしもそれらを許さぬ程、ヴライが猛威を振るっていなければ。
決して、こんなことにはならなかった。
わかっている。
状況が、戦況が、時間が、そして誰もが悪かった。
早苗一人が悪いのではないことは、全部、わかっているのだ。
それでも止められなかった。
身体は勝手に動き、早苗を、己の心までを傷つける自傷行為に走るほかなかった。
ハクが戻るわけでもないのに、復讐という大義名分すらない、自慰行為に等しき最低最悪の児戯に身を任せるしかなかった。
「...もう、やだよ、こんなの...」
ガクリと膝を折り、涙に沈むクオン。
その嗚咽に、ロクロウも、早苗もかける声が見つからなかった。
「だったら、戦おうよ」
ただ一人、黄前久美子を除いて。
301
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:57:01 ID:xjzPINJo0
☆
みんなが悲しみと戸惑いに暮れる中、私の思考はイヤなほどに冷静だった。
きっとそれは、麗奈がいなくなってしまったからだろう。
麗奈。高坂麗奈。
麗奈はただの同じ部活の友達、なんてものじゃない。
彼女は誰の代わりにもならない『特別』だ。
同じ咎を背負い。
共に血を交わらせ。
禁忌と背徳に浸りながら共に墜ちると契りを交わし。
もはや私の番いと言っても過言ではない、半身とも言える存在だった。
それがなくなった。
二人で潜っていた暗い地の底に、私だけが取り残されてしまった。
だからだろう。
これからしようとしていることが最低だと理解していても。
本来なら私自身が忌避すべきものだとしても。
半身を失った私に、今さら恐怖なんてものはなく。
あとはもう生きるか死ぬか、それだけの世界でしかない。
踏み出すことでしか、光を掴むことができない。
そう、理解しているから。
悪魔が、背中を押すのを感じ取りつつも、その言葉に震えは微塵もなかったのだと思う。
302
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:57:29 ID:xjzPINJo0
☆
「こんなの、納得できないんだよね」
早苗の看病もそこそこに、久美子は涙ぐみながらクオンに投げかける。
「だったら、取り戻そうよ。なんで諦めようとするの?私たちにはその権利があるのに」
「ぇ...?」
その言葉に、思わずクオンは顔を上げる。
「だってこんなの、おかしいよ。やりたいことも、頑張ってたこともたくさんあるのに。無理やり殺し合いなんかに連れてこられて、本当ならしなかったこともさせられて...どうしてそんなもの、受け入れなくちゃいけないの?」
「おい、久美子。おまえ、まさか...」
「貴方は黙ってて!」
何を言おうとしているのか察したロクロウを、彼の強く出られない立場を利用し久美子は吐き捨てるように制する。
久美子の狙い通り、ロクロウは立場を顧みて一歩退き、久美子に場を譲った。
その実感に、彼女は、いま、この場の支配権は自分にあると言わんばかりの全能感に浸り、まるで逸材を見出した部活動の顧問のようにクオンの肩に手を置き問いかけた。
「本当に貴女はそれでいいの?建前なんか使わないで、ちゃんと、本音で言って」
「ほん、ね...?」
「こんなわけのわからない状況で、色んな人が死んじゃって、早苗さんがハクって人を殺しちゃって...それが、貴女の望んだ未来なの!?」
久美子の言葉にクオンは息を呑む。
自分はハクの死を―――否、ハクが死んだという事実自体を受け入れようとしていた。
だから束の間の誘惑に身を委ねようとしていた。死に逃げようとした。
「わた、くしは...」
でも。
本当に望んでいるのは、そんなのじゃなくて。
苦しいだけの地獄なんて微塵も望んでいなくて。
彼女が欲しいのは、たった一つの日常だけ。
「そんなの、望んでない...」
かつて過ごしたあの賑やかな日々。
ネコネ。
ルルティエ。
アンジュ。
マロロ。
アトゥイ。
ノスリ。
オウギ。
ムネチカ。
キウル。
シノノン。
ヤクトワルト。
ウルゥルにサラァナ。
ミカヅチ。
オシュトル。
共に戦った皆がいて。
「あの頃に、戻りたい...こんなの、受け入れられない!!」
なにより。
ハクがいた、あの愛おしき日々への回帰。
ただそれだけが、クオンが『本当にしたいこと』だ。
「...だったら、ぜんぶやり直そう?」
クオンの慟哭に報いるように、久美子の掌が差し出される。
「私は貴女の願いを否定しない...だって、私も、その為に戦ってるんだから」
彼女の言葉が、胸にストンと落ちてくる。
自分の醜く弱い部分を受け入れてくれるかのような、不思議な温もりさえ感じてしまう。
「...早苗さんも、聞いてほしいんだ。私と麗奈が目指した道しるべを」
そして、久美子は抑揚のついた、幼児に言い聞かせるような柔らかい口調で、ポツリポツリと語り始めた。
303
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:58:14 ID:xjzPINJo0
・
・
・
「μの力をうばって...全部なかったことにする...」
ロクロウより軽い応急処置を受けながら、早苗は久美子が語った目的を反芻する。
「そう。私と麗奈は、こんな殺し合いを否定して、全部無かったことにしようとしてるの。そうすれば、私たちだけじゃない...死んじゃった人たちも、みんなひっくるめて幸せになれるんだよ」
みんなが幸せになれる。
その誘惑に、早苗の頭が蕩けそうになる。
無かったことになる、ということはつまり、霊夢たち同郷の者、この殺し合いで関わり合い散っていった者たち、そして自分がオシュトル―――否、ハクを殺してしまったことをも取り返せるということで。
それは今の早苗にとって麻薬の如き甘言だ。
「ロクロウさんにはもう話は通してあって...二人も、手伝ってくれるよね」
同意前提の久美子の言葉に早苗の心境は一気に傾く。
確証はないものの、一応の理屈は整っていて。
金銀財宝の類のような私欲ではなく、かつての日常を取り戻したいという共感のできる目的であり。
なにより、この地獄のような現実から逃げ出すことができる。
否定する理由はどこにもない。
にべもなく、早苗は肯首しようとして―――
―――カラァン
不意に、脳裏に鐘の音が過る。
ビルドが己の全てをかけ高らかに打ち鳴らした鐘の音が。
(ぁ...)
躊躇いが生まれる。
久美子の言う通り、全てを無かったことにするということは。
あの破壊神との戦いで参加者たちが見せつけた覚悟やビルドの想いすらも否定するということ。
無論、散った者たちがそのままでいいなどと思っているわけではない。
しかし、彼らが生きた証を、ただ己が楽になりたいというだけで否定していいものか。
304
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 23:00:32 ID:xjzPINJo0
「...わ、私は...」
「...クオンさんは?」
返答を戸惑う早苗の様子に、これ見よがしにため息を吐きつつ、久美子はクオンへとかぶりをふる。
「わたくし、は...」
瞼を閉じ、考える。
この殺し合いを否定し無かったことにすれば。
この催しで出会った者たちとの縁や覚悟、今の自分たちをも否定することになる。
それを良しとしない者も多いだろう。
例えば、散ってしまった中ではミカヅチにビルド。
例えば、生きている中では隼人やブチャラティ。
彼らの想いや信念とて、蔑ろにしたい訳ではない。
けれどそれ以上に。
自分には、ハクのいない世界など耐え切れない。
そもそも。
マロロの言を信じるならば、本来は、もっと早い段階で自分はオシュトルの正体を知っていたのだ。
でなければ、オシュトルの下に着いて共に戦うなどあり得ないのだから。
それを、理不尽な横やりで無かったことにされたのが今なのだ。
例え我儘で傲慢だと罵られても―――それを運命だと受け入れられるはずもない。
「私は...久美子に、賛成、するかな」
「!」
「私も...久美子と同じ気持ちだから」
遠慮がちでありながら、しかしここにきて真っ当な賛成意見に久美子の顔は綻びた。
そう。そうなのだ。
こんな理不尽で出鱈目な異変に唐突に巻き込まれて、その中で一生懸命に生きて、それでも殺される。殺してしまう。
そんなものをどうして受け入れる必要があるのか。
だって、本当なら、そんなことをすることもされることもなかったはずなのに。
だから、彼女たちはその運命を否定し、拒絶する。
「ありがとうクオンさん!...それで、早苗さんは?」
お礼を言ったクオンに対してとは対照的に、早苗に対しては露骨に声音が下がる久美子。
さっさと答えを出せと言わんばかりの久美子の視線に早苗の胸が締め付けられるような息苦しさを覚える。
「わ、私は...その...」
「早苗さんはハクさんを殺したことに後悔はないんですか?」
「!!」
久美子の言葉に動悸は更に早くなる。
後悔が無い、だなんてそんなことは口が裂けても言えない。
あの瞬間まで時間が巻き戻せるなら、どんな手段を使ってでも止めたいと思っている。
「こ、後悔がないなんて、そんな...」
「じゃあなんで躊躇うんですか。ハクさんだけじゃなくて、カナメさんやみぞれ先輩にマロロさん、霊夢さんに弁慶さんに志乃ちゃん...早苗さんが関わってるだけでもたくさん死んじゃった人たちがいるんですよ。みんな、みんな見捨てるんですか」
強い語気になっているのは、心を抉るような酷いことを言っているのは久美子自身も自覚していた。
きっと、自分が早苗の立場で同じ言葉を投げかけられれば、もう立ち直れなくなってしまうだろうと。
しかしそれでも、久美子は早苗には味方に付いてほしかった。
破壊神との戦いで共に生き延びた仲、というのは勿論のこと、同じ咎を背負った者同士だからこそのシンパシーも感じているから。
早苗が、本来は殺すはずのないハクを殺したのと同様に、久美子もまた、本来は殺すはずのないジオルドやカナメを殺している。
同じような境遇にある者同士で敵対し、排除するようなことはできればしたくはない。
だから、酷い言葉をぶつけてでも、彼女の反抗する意思を削ごうとした。
305
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 23:01:51 ID:xjzPINJo0
「わ、私、は」
「流されるなよ、早苗」
久美子の思惑通りに同調しようとした早苗をロクロウが遮る。
「誰の意思も関係ない。お前が、お前の意思で決めればいい。でないと、どんな結末になっても後悔しちまうぞ。それと先に言っておくがな、ここで久美子に同意しなけりゃ俺たちを敵にまわすことになるし、俺たちに着いても反対するやつらと敵対することになる。そいつだけは頭に置いておきな」
「ロクロウさん...!」
順調だった流れに横やりを入れられた久美子は、キッとロクロウを睨みつける。
が、しかし、ロクロウは意にも介さず言い返した。
「久美子。お前は確かに恩人だが、同時に早苗もまた俺の恩人だ。その恩に報いるにはこうするより俺は知らん。心配すんな。契約通り、お前が諦めない限りは手伝ってやるさ」
肝心な時にいなかったくせに、役立たず。と心の中で悪態をつきつつ、やはりこの人は嫌いだと久美子は改めて思うのだった。
「とにもかくにもだ。まだ近くにヴァイオレットたちもいるかもしれないんだろ?探しに行かねえとな」
「うん...けど、あかりちゃんはともかく、ヴァイオレットさんはきっと反対すると思う」
「一人でも増えるなら探すべきじゃないかな」
「...そう、だね」
躊躇いつつも、久美子はしぶしぶとロクロウとクオンに同意する。
反対する気配の濃厚だった琴子が死んだ以上、あかりはおそらくこちらに引き込める。
ただ、先のウィキッドとの戦いのこともあり、彼女と面を合わせるのも気が引けてしまう。
戦わせてばかりで、且つあれほどの暴言を浴びせ、挙句の果てにカナメにトドメを刺して逃亡したのだ。印象はかなり悪くなっているだろう。
できれば彼女とは会わずに終わらせたい。
あわよくば。自分のあずかり知らないところで、散っていてほしい。
どうせ無かったことにできるのだから―――
そこまで考えて、久美子は己を嫌悪する。
結局、なんだかんだと理屈を着けながら、自分は己の保身ばかりしか考えていないのだと。
あすか先輩が見ていたら、その辺りを容赦なくつっつかれそうだ。
それでも進むしかない。
麗奈のいない今、どんな手段を使ってでも生き残り、全てを無かったことにするしかないのだ。
久美子は拳を握り、決意を新たにする。
早苗に先行して足を進めていく三人の背中を見ながら、早苗は思う。
この殺し合いを全てを無かったことにして、悲しみも、罪もなくしてしまう。
もしも実現すれば、それはきっとすばらしいことのはずだ。
なのに、自分の前の三人が進む先が、ひどく暗く見えてしまうのは気のせいだろうか、と。
306
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 23:02:14 ID:xjzPINJo0
【E-6/更地/夜中/一日目】
【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損、言いようのない喪失感
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣(片一方は粉砕)@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[思考]
基本:主催者の打倒
0:ひとまずは周囲の参加者を探す。
1:久美子達の計画に賛同するつもりはないが、久美子には借りがあるので、暫くは共闘するつもり
2:無惨を探しだして斬る。
3:シグレを殺したという魔王ベルセリア(ベルベット)は斬る。
4: 早苗が気掛かり。號嵐を譲ってくれた借りは返すつもりだが……
5: 殺し合いに乗るつもりはない。強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
6: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
7: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
8: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。
※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。
※ 更新されたレポートの内容により、ベルベットがシグレを殺害したことを知りました。
※ 久美子が作った解毒剤によって、毒は緩和されており、延命に成功しました。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身に火傷(冷却治療済み)、右耳裂傷(小)、右肩に吸血痕、深い悲しみと喪失感、琴子とカナメに対する罪悪感、精神的疲労(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:特製衣装・響鳴の巫女(共同制作)
[装備]:契りの指輪(共同制作)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体、シグレ・ランゲツの片腕、クロガネ征嵐@テイルズオブベルセリア、点滴セット複数@現実
[思考]
基本:歌姫(μ)に勝って、その力を利用して殺し合いの全てを無かったことにする。
0:ひとまずは周囲の参加者を探す。
1:どんな手段を使ってでも、麗奈と共に描いた道しるべを達成する。もう、迷うことは無い。
2:ロクロウさんは嫌いだけど、利用はするつもり
3:ヴァイオレットさんには、改めて協力をお願いしたい
4:ウィキッドは絶対に許さない
5:例え隼人さん達を敵に回したって、もう私は迷わない。望みを叶えるまで逃げ切ってやる。
6:あかりちゃんも、仲間になってほしいけど……
7:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒
8:岩永さん、ごめん。必ず生き返らせるから……
※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。現状は麗奈と一緒に衣装やら簡単なアイテムを作れる程度に収まっています。
※麗奈がビエンフーから読み取った記憶を共有し、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※μの事を「楽器」で「願望器」だと独自の予想しました
307
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 23:02:49 ID:xjzPINJo0
【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(極大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、ウィツアルネミテアの力の消失、悲しみと絶望(極大)、喪失感(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2、マロロの支給品3つ
[思考]
基本:久美子の願いの手助けをする。ハクを取り戻す。
0:ひとまず久美子に着いていく。
1:隼人達とも協力できるかは会って聞いてみたい。できなければ...?
2:早苗だけが悪いわけじゃないのはわかってる、でも...いまは...
[備考]※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※早苗から、オシュトルに対する悪評を聞きました。
※ウィツァルネミテアは去りましたが、残された残滓を元に、『超常の力』を発動することは出来ます。但し身体には絶大な負荷が掛かります。
※ヴライとの戦闘によって、E-6を中心として、E-5の一部、E-7の一部、D-6の一部、F-6の一部に、破壊の痕跡及び火災が発生しております。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:全身にダメージ(極大)、疲労(極大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(極大)、脳内にウォシスの蟲が寄生(活動停止)、記憶改竄(修正済)、オシュトルへの不信(修正済)、クオンへの罪悪感(極大)、久美子の提案への不信感(微)、顔面ボコボコ(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める...?
0:ひとまず久美子さんに着いていく。最終的に久美子さんに賛同するかは、まだ決めかねています。
1:クオンさん……
2:ロクロウさん、ヴァイオレットさんは信じたい
3:さっきの人が、ヴライ……。霊夢さんの仇……。
4:ブチャラティ(ドッピオ)さん、信じていいんですよね……?
5:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
6:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
7:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
8:魔理沙さん、霊夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※ウォシスの蟲に寄生されております。その影響で、オシュトルにまつわる記憶が改竄され、オシュトルに対する心情はかなり悪くなっています。今後も、記憶の改竄が行われる可能性は起こりえます。
※記憶の改竄による影響で、オシュトル、ヴァイオレット、ロクロウが殺し合いに乗っていると認識しました。
※ウォシスの蟲が活動停止したため、改竄された記憶が全て偽りだったと認識しました。
※殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
308
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 23:03:11 ID:xjzPINJo0
投下を終了します
309
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/03/24(月) 02:29:09 ID:f8p5eTSM0
折原臨也、ヴァイオレットエヴァーガーデン、間宮あかりで予約します
310
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:41:08 ID:QGN9PH7U0
投下します
311
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:42:53 ID:QGN9PH7U0
俺は人間を愛しているーーーだなんて、口癖のように吐いてきたけれど。
これを第三者に対してどう正しく理解してもらう説明するかを問われると案外難しいものだ。
というのも、そもそもとして俺の言う『人間』の定義がなんなのかを知ってる人がそうそういないからだ。
生物学的上、ホモ・サピエンスであれば人間ではないかーーーだなんて言う奴もいるだろうがそれはないと断言したい。
平和島静雄。アレを人間だなんて俺は絶対に認めない。誰がなんと言おうとアレは化け物だ。
感情の有無?いいや、感情は確かに人間にとって大切だけれど、感情だけならゴリラやチンパンジーだって持ってるさ。世間的にはサイコパスと言われる、感情の起伏が見られない奴がいたとしても、類人猿よりはソイツの方が人間だと俺は思うね。
思考能力?なおさら違う。そんなものは家畜ですら失っていないし、それを失ったヤツがいたとしても、やはり俺は人間として愛してやれるだろう。
じゃあ、俺の言う人間に当てはまるヤツはなんなのか。それを少し考えてみようか。
312
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:43:34 ID:QGN9PH7U0
☆
「そんな...カナメ様...麗奈お嬢様...」
ことの顛末を聞かされたヴァイオレットは、ガクリと両膝を着き、身体を震わせ項垂れる。
『ヴァイオレットさん、ごめんなさい…。 急に、滝先生がこの手紙を読んでしまった時のことを想像してしまって……。その…引かれたりしないかなって……』
『自分への好意を綴られた手紙を読んで、嫌な気分になる方はいませんよ。 他人から好かれるということは嬉しいものです』
『そ、そういうものなんですか…!?』
最初に麗奈と出会った時の光景が脳裏を過ぎる。
彼女は大切な人に想いを伝えたいと願っていた。
あの時は彼女は続きを書くのを躊躇ってしまったけれど、それだけ本当の想いだったのが窺い知れる。
『……助けて……。助けてください―――』
再会した彼女は泣いていた。ボロボロの姿になって、血溜まりを踏み荒らして。それでも涙を流して救いを求めていた。
『お嬢様の想いを……届けられるように……
私が……元の日常に連れ戻しま……すから……』
だから約束した。
手紙を、想いを必ず届けると。貴女の「いつか、きっと」を失わせないと。
その望みが、いまーーー絶たれてしまった。
「そうか...カナメくんがね」
臨也はあかりからの報告に素直に落胆の色を見せた。
彼はこの会場で出会った半分ほどの純粋な人間だった。多少、超能力じみたモノを使えるが、それでも臨也にとって人間だった。
そんな彼の顛末と結末をこの目で見届けられなかったのは素直に残念に思う。
「ごめんなさい...わたしが...あの人を止められなかったから...」
見るからに消沈する二人に、あかりは心臓を鷲掴みにされるような罪悪感に襲われる。
ウィキッドを殺せるチャンスは恐らく何度もあった。
カナメの言っていた通り、この世に存在していてはいけない鬼畜外道の擬人化とはああいう奴のことを言うのだろう。
でも出来なかった。
それは命を尊ぶ慈しみの心なんかじゃなく。武偵の不殺主義による信念からくるものだけでなく。
感情任せに動いた結果だ。
313
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:44:43 ID:QGN9PH7U0
大好きで尊敬するアリアを愚弄し尽くして殺し、死んだ事実すら弄ぶあの魔女に対しての憎悪と怒りのままに立ち向かって。
相手が死なないのを良いことに、後悔し懺悔するまで風穴を開け続けてやるという衝動のままに動いてしまった。
それでも不殺の信念を蔑ろにしてしまえば、アリアや家族、それにこの会場に連れてこられる前も、後からも、自分の背中を支えてくれた大勢の人たちが残してくれた繋がりを無くしてしまうと思ったから曲げることはできなかったがーーー
『あかりちゃんは、そんな奴が、心から謝罪すると思うの?
平然と他人を痛めつけて、弄んで、命を奪って……挙げ句の果てに、その人の人格まで汚すような奴が……!!』
『それは、あかりちゃんのルールでしょ……!! 私に押し付けないで……!!
あかりちゃんのルールで裁いても、私は納得しないから!!』
『ううん、押し付けてるよ!!
あかりちゃんは、あかりちゃんの先輩のことも、麗奈のことも、一括りにして、あかりちゃんのルールで裁こうとしている』
久美子からの糾弾が心に重くのしかかってくる。
自分のルールとやり方でウィキッドを裁くと決め、その隙を突かれてカナメを身代わりに仕立て上げられ、それに気づかないままに彼を瀕死にしてしまった。久美子にまで十字架を背負わせてしまった。麗奈どころかカナメまでもを、死なせてしまった。
カナメが最期に遺してくれた「ありがとな」という言葉で辛うじてまだ折れずにいられるが、それでもいつ何時立てなくなっても、もはやおかしくはない。
「きみもずいぶん大変だったんだねぇ...そんなきみに伝えるのは俺としても伝えるのは酷なんだけどね」
全くそうとは感じさせない軽い調子の声音で語り口を切るも、すぐに真面目な面持ちに臨也は切り替える。
「岩永ちゃんも死んでしまったよ。俺たちの前でね」
「ーーーッ!!」
告げられた事実にあかりは息を呑む。
つい先程まで共に行動していた彼女が死んだ。
物腰落ち着き、戦えずとも常に理性的であり続け、どこか頼もしさを感じられた彼女もまた、死んでしまった。
「ああ、補足しておくと彼女を殺したのは茉莉絵ちゃんじゃないよ。炎を操る筋肉もりもりの大猿さ。だからあかりちゃんが彼女を殺さなかったから岩永ちゃんも死んでしまった、なんてことはないから安心しなよ。...化け物に殺されたっていうのには変わりはないけれど」
そんな慰めにもならない慰めに、あかりとヴァイオレットの面持ちが晴れることはない。そんな彼女たちを微笑みながら見つめ観察する臨也に苦言を呈せる者もこの場にはいない。
「さて。これで一通りの状況整理は終わったわけだけれど...二人にはまず真っ先に考えて貰わなくちゃいけないことがある」
「えっ?」
臨也の告げた言葉にあかりとヴァイオレットは共に目を丸くする。
「俺たちは岩永ちゃんとカナメくんと麗奈ちゃんという仲間たちを化け物たちに殺されてしまったわけだけど...二人はそれでも不殺を貫くつもりかい?それとも、アレらには目を瞑って信念の範囲外に置くかい?」
試すような問いかけに、あかりとヴァイオレットは共に沈黙し俯く。
「俺個人のスタンスとしては、やっぱり化け物達にはご退場願いたいね」
だが、その沈黙を臨也は容易く打ち破る。
314
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:46:21 ID:QGN9PH7U0
「ヴァイオレットちゃんにはもう耳にタコができるくらい言ってるかもだけど、俺は化け物を嫌悪してるし常々排除したいと考えてる。だから今の茉莉絵ちゃん達を殺せそうなら遠慮なく殺せるし、実際に殺したところで後悔がないどころか喜び勇むくらいだろうね。二人は、俺の言いたいことはわかるかい?」
「...折原さんは、私の不殺を否定するっていうこと?」
「違うよ、あかりちゃん。きみがアリアちゃんのように不殺を貫き通したいというならそれを心から祝福するし、そうでなくても全てを肯定する」
「!あ、アリア先輩のこと...」
「待った。彼女のことはおいおいヴァイオレットちゃんから聞いた方がいい。俺よりも関わった時間が長いからね。それに君からも、茉莉絵ちゃんを吹き飛ばした力のことも聞きたいけど...それよりさっきの俺の言葉の意図を考えてほしいな」
重ねられる問いかけにあかりとヴァイオレットは共に眉を顰める。
臨也が茉莉絵達、人外を敵視しているのはわかった。だが、そうなると不殺を貫き通そうとする二人は敵視されそうなものだがーーー と、そこでヴァイオレットがハッとする。
自分の意図を汲み取ってくれたヴァイオレットの様子に臨也はどこか楽しげな笑みで続きを話す。
「俺が、いや、俺じゃなくても、茉莉絵ちゃんを殺せる状況になった時。もしもそれを止められる手段があった時。君たちは『人間』をどうするつもりでいるんだい?」
臨也が告げた言葉に、あかりとヴァイオレットは揃って息を詰まらせた。
先のあかりと久美子のウィキッドの処遇を巡る件では、久美子にウィキッドを殺せる力が無く、あかりが生殺与奪の権利を握っていたからこそ、あかりや久美子の心情の平定はどうあれ、不殺を曲げずにいられた。ならばその生殺与奪が他者の手にあったら?
極端な例をあげれば。
臨也が茉莉絵の首にナイフを突きつけており、自分たちの手に拳銃が握られていた時。
その拳銃で臨也のナイフを撃つのか、それともその拳銃を下ろして臨也のナイフが茉莉絵の首を割くのを見届けるのか。
これはそういう問題だ。そして、臨也の問いかけに対する答えは、その拳銃を下ろすか、下ろさないか。
この二択に絞られる。
もしもミカヅチのように打ち負かすことで答えを示せるのなら、あるいは拘束して相手の意思に関係なく鎮圧できればその道もあっただろう。
だが、茉莉絵は違う。
彼女はいくら叩きのめしても他者を愚弄し害することを辞めないし、拘束しようにも、両手足が千切れても再生できる彼女には無意味だろう。
説得などもってのほかだ。同じ殺人者でも、敵を無意味にいたぶることはしないヴライやミカヅチらとは違って、茉莉絵は目についた者全てを汚すことに悦びを見出している。
どんな言葉を投げかけても嘲笑うだけで聞き入れないのは目に見えている。
だから答えは二つしかないのだ。
化け物と化した茉莉絵を切り捨て『人間への不殺』を守るか、『人間』と敵対してでも茉莉絵の『命』を護るか。
「わ、わたしは...」
「......」
突きつけられる選択肢にあかりとヴァイオレットは共に言葉を失い唇を噛み締める。
そんな彼女たちの苦悩する様を臨也はニタニタと笑みを浮かべながら、じっくりと観察し、堪能すると
「まあ、俺もすぐに答えが出るとは思ってないよ。ただ頭の片隅に置いて覚悟はしておいてほしいってことさ。君たちがその信念を掲げている限り、同じような状況はいくらでも起こり得るからねぇ」
と、臨也はそう締めくくり、この話題を終わらせた。
315
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:47:13 ID:QGN9PH7U0
「さて、じゃあ次は今後の方針について話そうかな。いつまでもここにいても仕方がないし」
「...はい」
「...かしこまりました」
二人が力なく頷くと、話題は今後の方針決めに完全に切り替わる。
「さっきまで遠くで鳴ってた騒音がすっかり止まってるところを見ると、あの大猿の方も決着は着いてるみたいだ。
となると、この辺りの生存者として可能性があるのは、オシュトルさんとそのペット、錯乱した早苗ちゃんとそれを相手どってる彼、大猿。それと逃げちゃった久美子ちゃんだね。オシュトルさん達が大猿を始末してくれてたら助かるけど、もし生き残ってたらこんな有様の俺はすぐに殺されそうだなぁ。それに彼らと合流したら、ここまでの被害を出した茉莉絵ちゃんを殺さない選択肢は取れないと思った方がいいね。友達を殺された久美子ちゃんもそうだけど、オシュトルさんも敵には容赦しないタイプだから。
彼らを探しに行ってもいいけどあかりちゃんが吹き飛ばしたっていう茉莉絵ちゃんを追って決着を着けるのもいいかもね。不殺を遂行するならそっちの方がまだ都合が良いんじゃないかい?その場合、さっきの質問がすぐに突きつけられることになると思うけど」
臨也の迂遠な言い方に、あかりとヴァイオレットは苦虫を噛み潰したかのような顔をする。
選択しなければならない状況が眼前まで迫っていることを自覚しながら、それでも二人は即答することができないでいた。そんな思い悩む彼女たちを心底楽しそうに観察しながら。
「さて...君たちはどう動きたい?」
折原臨也はそう投げかけた。
316
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:48:12 ID:QGN9PH7U0
☆
とまあ、こんな感じだ。
おや、俺の言っていた『人間』の定義に触れてないって?
いいや、俺は確かに示してるよ。
俺はあかりちゃんとヴァイオレットちゃんに対しては一貫して人間として扱っている。ヴァイオレットちゃんはともかくとして、奇天烈な超能力を使えるようになった、ひいては一度は首輪の反応が消えて蘇ったゾンビのようなあかりちゃんもだ。
彼女は異形の力を手に入れながらもそれに溺れるのではなく、それでも敢えて困難な道を行こうとしている。
その人を容易く殺せるであろう力に縋りきらず、己の存在意義を見失うまいと抗っている。間宮あかりというこれまで歩んできた道から外れたくないと願っている。
だから俺は化け物ではなく人間として扱っている。
一方で茉莉絵ちゃんは。
へんげの杖でカナメくんを囮に使い、それをあかりちゃんたちに傷つけさせる。それだけなら好ましかっただろう。おそらくそのやり口自体は彼女という存在の歩んできた道から思いついた全霊の悪戯だろうから。
問題はその過程さ。
全身を致命的なほどに撃たれる中で、再生させながら、策を行使する。そんなこと、鬼になる前は不可能だっただろうし思いつきもしなかっただろう。怪物でしかできないやり口を我が物顔で行うその様は、かつての茉莉絵ちゃんすら歪めているようで腹立たしい。
化け物が人の皮を被って遊ぶなよ、気持ち悪いーーーそう思わざるをえない。
そんなの大した差はないじゃないか、お前の匙加減だろう。感情的に不公平に判断するな。
そう言われてしまえば身も蓋もないかもしれないね。
けど、仕方ないさ。
俺だって人間なんだ。
殺し合いなんて環境下でも。
同行者が続々と死んでいっても。
友達が死んでも。
身体をこれでもかと抉られても。
今の自分がデータから作られた虚構の存在かもしれなくても。
俺は折原臨也で。如何なる時も人間を愛し観察することを辞められない。
そんな、どうしようもないほどに感情的な『人間』なんだから。
317
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:49:30 ID:QGN9PH7U0
【E-7/夜中/一日目】
【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:覚醒、白髪化、痛覚と疲労感の欠如、体温低下、情報の乖離撹拌(進行度63%)、全身のダメージ(大)、精神疲労(中)、左中指負傷(縦に切断、包帯が巻かれている)、深すぎる悲しみ、久美子たちの計画に対する迷い、ウィキッド対する憎悪
[服装]:いつもの武偵校制服(破損・中)
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。
0:生存者を探すか、ウィキッドを追うか
1:ウィキッドは許せない
2:ヴライ、琵琶坂、魔王ベルセリア、夾竹桃を警戒。もう誰も死んでほしくない
3:『オスティナートの楽士』を警戒。
4:メアリさんと敵対することになったら……。
5:黄前さん達の計画については……。
6:カナメさん……岩永さんまで...
7:もしも臨也さんの言う通り、ウィキッドが殺されかけている場面に遭遇したらどうすれば...
[備考]
※アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
※覚醒したことによりシアリーズを大本とする炎の聖隷力及び「風を操る程度の能力」及びシュカの異能『荊棘の女王(クイーンオブソーン)』、そして土属性の魔術を習得しました。
※情報の乖離撹拌が始まっており。このまま行けば彼女は確実に命を落とします。
※殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
※情報の乖離撹拌の進行に伴い、痛覚と疲労感が欠落しました。
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:疲労(大)、全身強打、右拳骨折、言いようのない喪失感、全身に刺し傷、左眼失明
[服装]:普段の服装(濡れている)
[装備]:
[道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数0/10、使い切った状態)、まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0〜1(新羅)
[思考]
基本:人間を観察する。
0:これからの方針を決める
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する。まずは一人だね。
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
3:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だったのに...残念だよ。
4:平和島静雄はこの機に殺す。
5:『月彦』は排除する。化け物風情が、俺の『人間』に手を出さないでくれるかな。
6:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。
7:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。
8:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃、オシュトル、ヴァイオレットに興味。
9:オシュトルさんは『人間』のはずなのに、どうして亜人の振りをしてるんだろうね?
10:ロクロウに興味はないが、共闘できるのであれば、利用はするつもり。
[備考]
※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。
※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※ Storkと知り合いについて情報交換しました。
※ Storkの擬態能力について把握しました
※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。
※ 無惨を『化け物』として認識しました。
※あかりの『翼』の話から、レポートに記載されていた覚醒者の1人であるとなんとなく理解しています。
318
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:50:20 ID:QGN9PH7U0
【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
[状態]:全身ダメージ(大) 、肩口及び首負傷(止血及び回復済み)
[服装]:普段の服装
[装備]:手斧@現地調達品
[道具]:不明支給品0〜2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ)、電子タブレット@現実
[思考]
基本:いつか、きっとを失わせない
0:これからの方針を決める
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する
2:麗奈お嬢様...そんな...
3:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。
4:手紙を望む者がいれば代筆する。
5:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。
6:ブチャラティ様が二人……?
7:「九郎先輩」に琴子の“想い”を届ける
8:カナメ様……
9:もしも折原様の言う通り、茉莉絵様が殺されかけている場面に遭遇したらどうすれば...
[備考]
※参戦時期は11話以降です。
※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 琴子から電子タブレットを託されました。琴子の電子タブレットにはこれまでの彼女の経緯、このゲームに対する考察、久美子達の計画等が記されています。
319
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:50:34 ID:QGN9PH7U0
投下終了です
320
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/23(水) 00:14:24 ID:K47elWgo0
垣根、レイン、静雄、咲夜、リュージ、ムネチカで予約します
321
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:26:17 ID:MJ8Oj7d.0
投下します
322
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:27:27 ID:MJ8Oj7d.0
「さて。ここからのチーム分けですが...」
「解析屋。俺とお前が別れるのは確定だな」
口火を切るレインに補足するように、垣根はそう繋げる。
その言葉にレインは小さく頷き肯定する。
「この中で機械に通じているのは私と垣根さんだけのようですからね」
彼らが目下目指すのは、首輪の解除だ。
先に挙げた外せる可能性のある参加者を探すのは勿論だが、それ以前に、正攻法で外せるのならそれに越したことはない。
もしも別れた先で解除につながる手がかりを見つけた時に、機械に詳しいものがおらず待ちぼうけを食らうことになれば目も当てられない。
なれば、頭脳労働を得意とする二人を分けるのは定石だろう。
「それで垣根さんはどちらに行きます?研究所か、大いなる父の遺跡か」
「そうさな...ゲッターってのも気になるが、ひとまずは遺跡だな。本物のブチャラティが向かってるなら、あいつと合流しておきてえ」
「では私は研究所の方に向かいます。隼人さんに合流しておきたいので」
垣根はブチャラティが攻略の鍵の一つになることを期待して。
レインは隼人から受けていた依頼の成果を報告する為に、つつがなく話は進行していく。
「残りは四人だ。てめえらはどっちに着く?」
そうふられた四人はしばし己の身の振り方を考える。
垣根に着きブチャラティを探すか、レインに着き神隼人たちと合流するか。
「小生は垣根殿に着かせていただく」
真っ先に答えたのはムネチカだ。
「ブチャラティ殿にはライフィセット殿も着いているとのこと。迷惑をかけたことへの詫びと...今度こそ、誓いの通りに正しく盾となりたい」
ライフィセットと出会った時、ムネチカは武士として、仲間として彼を護ると誓った。
しかし、放送でアンジュの死を聞かされてからというもの、ずっと支えられていたばかりだった。
彼になにを返すこともなく捕らえられてしまった。
なればこそ、その汚名を雪ぐ意味合いも込めて、彼を護りたい。誓いを果たしたいと、思わざるをえなかった。
「俺はレインに着いていくぜ。せっかく仲間に再会できたことだし、それに...いや、なんでもねえ」
次いだのはリュージだ。
(ゲッターをどうにかするにはゲッターを知らなくちゃ話にならねえからな)
リュージのゲッターへの恐怖と嫌疑は未だに消えていない。
見せられた地獄の如し未来を防ぐため、ゲッターをどうにかしたいと思っている。
できれば関わりたくはないが、何も知らなければただ摺りつぶされるだけだ。
だからこそ、敢えて火中の栗を拾うようなことも厭わない。
残る二人、静雄と咲夜だが―――
「じゃ、俺はレインに着いてくわ。隼人に病院の事を伝えてやらねえとな」
「私は特に希望はないからどっちでもいいわ」
静雄が先に申し出たことで、最後まで残ったのは咲夜となり、消去法で垣根に着いていくこととなった。
「これで人員の振り分けは終わりましたね。集合場所と時刻はどうします?」
「次の放送が終わり次第、早乙女研究所だ。機器なんかはそっちの方が充実してるだろ。...多分な」
「わかりました。それで垣根さん、病院で回収した首輪から判明した解除コードについてですが、なにか手がかりはありましたか?」
「いいや。わかったのは音声認証ってことだけだ」
病院でブチャラティたちと別れた後、紅魔館へと向かう道中に垣根は気が付いた。
首輪と首の接着面に近い場所に小さなくぼみがあったこと、そして首輪ごとにその大きさが異なっていたことに。
人間の深層心理からして、下手に触れれば爆発するものを無暗に弄る馬鹿はそうはいない。
そして、この位置からして対面しただけではわかるはずもなく、このくぼみも、機器に明るくない者であればただの装飾の一種だと思うだろう。
垣根は指紋認証を期待して己の首輪で試してみるものの、そこはまだ第一段階。
音声による認証コードを求められ、手がかりも無いままに試すのは危険だと判断し、保留した。
このことを麦野たちに伝えていなかったのは、彼女たちとの信頼関係が殆どなく、下手に伝えたことで出し抜かれるのを防ぐためである。
「他のも試そうとしたが、指紋認証の時点で弾かれた。やはりこいつは個々人で識別されてるみてえだ」
「なるほど。となると、音声コードも統一されたものよりは、個別のものだと考えた方が良さそうですね」
「まだその可能性は高いってまでの話だがな」
「そこまでわかるのか?」
「ええ。この個々人の指紋認証を突破された上で敷かれたセキュリティが、他者と同じコードであれば二重のロックがまるで意味がありませんから。となれば、この解除コードの音声も個々人で別々だと考えるのが無難でしょう」
さらりと言ってのけるレインに、リュージは思わず感心のため息を吐く。
頭の回転が早い奴だとは思っていたが、解析屋の名にたがわず与えられた情報からスラスラと解を紡いでしまうのだから。
323
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:31:34 ID:MJ8Oj7d.0
「ただ、どのみちここらで手詰まりですがね」
「ここまでヒントが無いとなれば、さすがの解析屋様でも無理ってもんか」
「ええ、そうですね。...」
リュージの言葉に相槌をうったレインが、そのまま顎に指を添えて考え込む。
「...どうして、なにもヒントがないんでしょうね」
「そりゃ、簡単に首輪を外されちゃ困るからだろ」
「そう。私たちに首輪を外されたら困るというのはわかります、が...なら、なんで解除コードなんて機能を着けたんでしょうか」
「なんでって...」
レインから呈された疑問に、垣根は言葉を詰まらせる。
そうだ。
この解除コードは、予め首輪に備え付けられている。
つまり、主催の連中がわざわざ取り付けた機能だ。
なぜ?
解除されたら困るのは、参加者ではなく主催の連中だというのに。
「テメーら」
垣根はこの場にいる面々に呼びかけ、紙をトントン、と鉛筆で突くことで筆談を促す。
―――筆談 開始(以降、:の前に各々の頭文字が付きます)―――
垣:別れる前に考えておきてえことがある。この解除コードについてだ
リ:つってもヒントがないことには先に進めないんだろ?
垣:ああ。だからこそ考えなくちゃならねえんだ
咲:と、言うと
垣:解除コードにヒントが無い、その意味自体についてだ
ム:?
静:なにが言いてえんだ?
レ:みなさん。この解除コードが主催が備え付けた機能だということはわかりますよね
リ:そりゃ、そう書いてあったんだろ?
垣:ああ。ご大層に説明書付きでな。なら聞くが、何のために連中はコレを着けたんだ?解除されたら困るのは自分たちだってのに
一同は沈黙し、顔を見合わせ合うが答えは出てこない。
レ:私が考えるに、可能性は大きく分けて三つあります
垣:聞かせろ
レ:①主催の中に裏切り者がいる。テミス達の中にこの殺し合いを良く思わない者がいて、首輪を作る際に解除コードを仕込んだ
レ:ですがこの可能性はかなり低いでしょう。もしそういう存在がいて、私たちに首輪を解除してもらいたいなら、猶更ヒントや手がかりを残すはずです
レ:②ただの主催の悪戯心。解除コードの存在を知った参加者が右往左往するのを愉悦に見下して嘲笑う為にコードを仕込んだ
レ:これも可能性は低いと考えます。手がかりが無ければ右往左往以前に後回しにされるのが定石ですし、タイムリミットが迫るにつれてこの解除コードは存在意義を無くしていきます
静:なんでだ?
レ:簡単なことです。例えば、このまま解除コードの手がかりが見つからず、残り一時間になってまだ首輪が解除できない時、静雄さんはどうします?
静:壊す
レ:そうですね。貴方はそうでしょう。咲夜さん、貴女は?
咲:私は死ぬつもりはないから、最悪は戦うことも辞さないわ
レ:そうなりますよね。ちなみに私は先ほど議論していた裏技の方に舵を切ります
レ:このように、ヒントすらないというのはコードの存在自体を蔑ろにしがちになるのが心情というものです。ましてや先着何人、ではなく解除コードという多数が使える代物であれば、それを巡っての争いというのも起きませんし
324
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:34:08 ID:MJ8Oj7d.0
レ:そもそもこのゲームは殺し合いです。参加者同士の争いを目的としているのに、あてもなく解除コードを探しているうちにタイムアップで全滅だなんて結末、彼女たちが求めていると思いますか?
リ:笑い話にもなりゃしねえ。そんなドラマがあったらクソ映画確定だな
レ:私たちが参加させられたダーウィンズゲームでも、イベントの際はクリア条件、あるいは生存条件を示しそのヒントも示されていました。ただポンと存在だけ示して手がかりもなく終わり、だなんてことだけはありませんでしたよ
レ:そして③。そもそも目立ったヒントが無くても解除コードを見つけることが出来る。私はこれが一番可能性が高いと思っています
ざわり、と漂う空気が変わるのを感じ取るも、レインはそのまま続ける。
レ:先ほども垣根さんが言っていた通り、まず指紋認証で個々人の識別が行われ、次いで音声認証でコードを入力する。これだけの仕掛けを作ったんです。もしも皆さんが仕掛けを作った立場だとして、その鍵をどこかの施設にでも隠して、けれど誰にも見つけられず、顧みられず終わってしまえばどう思いますか?
リ:そう言われりゃ、なんか勿体ねえ気もするな
ム:確かに。創作にせよ、作った以上は他者に触れられたいと思うのが道理
咲:どうせ辿り着かせるつもりもないなら、最初から仕込むはずもないわね
レ:ええ。この解除コードを作った者は、解除ができるにせよできないにせよ、挑戦はしてもらいたいはずです。だから私はヒントが無いことこそがヒントだと考えました
垣:音声コードが個別な可能性も考えれば、特別なヒントが無くても俺たち全員が解除できるってことか?
レ:まだあくまでも可能性ですがね。この考えが正しいという確たる証拠もありませんし
垣:纏めると、俺たち全員を個別に識別できて、ヒントが無くても辿り着けるコード、ってことか
リ:都合が良すぎるなそりゃ
そこで区切り、一同はしばし考えこむ。
リュージの言う通り、そんな都合の良いコードなどあるのだろうか?
静:名前じゃねえのか?
ふと零した静雄のその単語に、一同はそんな単純な、と空気が弛緩し、すぐに焦燥が帯び始める。
そんなバカな、と、いやでも...と困惑と納得が織り交ぜな空気が漂い始めた。
ヒントが無くても辿り着けて。個別に識別できるコード。
確かに条件を満たしている。
「おし、試してみるわ」
賛同の空気が流れ始めた途端、静雄は言うが早いか首輪に触れ指紋認証を始める。
「ちょっ」
「平和島静雄」
レインが止める間もなく、静雄は己の名を口にした。
『エラー。もう一度コードを入力してください』
「ワリィ、違うみてえだわ」
首輪からのメッセージに、静雄はあっけらかんと謝り、レインはへなへなと尻餅を着いた。
―――筆談 終了―――
325
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:34:56 ID:MJ8Oj7d.0
「し・ず・お・さ・ん」
「悪い悪い」
レインが額に怒りの筋を走らせながら、静雄の耳を引っ張るが、しかし静雄は痛がる様子も見せず平謝りで済ませる。
失敗のリスクを危惧して垣根は踏みとどまったというのに、どうしてそれを顧みず試してしまうのか。
様々な苦言がレインの腹の底から湧き出してくる。
「確かに考えなしだったが、収穫はあったな。名前じゃねえってのもそうだが、重要なのは間違えても爆破されるようなことはねえってことだ」
諫めるレインとは違い、垣根は静雄の躊躇いのなさをむしろ労った。
「何度間違えてもトライできるなら、やっぱコイツは解除されることも織り込み済みだ。つまり、俺たちが首輪を外す為にどう行動しようが構わねえし、筆談でこそこそやらなくてもいいってワケだ。コイツは俺や解析屋が二の足踏んで得られなかった成果だな」
垣根やレインは考察を広げられど、無謀を作戦に組み込めるタチの人間ではない。
無論、多くの場合では無謀は潰されるのが世の常だが、こうして成果を果たせる場合も稀にある―――先の戦闘で麦野が竜馬に一矢報いたように。
「時には馬鹿になるのも必要だってことだ、解析屋」
「...はぁ、そうですね。そこは認めます。今回だけは貴方の単純さを評価してあげますよ静雄さん」
「褒められてんのかバカにされてるのかわからねえな...別にいいけどよ」
レインが静雄の耳を離し、ぷるんと耳たぶが元の位置に戻る。
「とはいえこれ以上ここで議論してても仕方ねえ。手筈通り、俺たちは遺跡へ向かってブチャラティたちとの合流。お前たちは早乙女研究所で隼人って奴らと合流だ」
「了解です。場所と時間は先ほど決めた通りに」
「ではレイン殿、静雄殿、リュージ殿。ご武運を」
「おう、そっちもな」
各々、言葉を駆け合い、レインたち三人が馬車となったコシュタ・バワーに乗り込む形で、六人は二組に分かれて目的地を目指す。
「......」
馬車となったコシュタ・バワーに揺られながら、レインは顎に手をやりながら考える。
「どうしたレイン?」
「いえ。解除コードのことですが...自分で言っておいてなんですが、本当にそんな都合の良いコードがあるのかな、と」
「おいおい」
「正直に言うと、静雄さんの出した参加者の名前というのはイイ線をいっていたと思うんですよ」
「そうか?俺は理屈とかは抜きになんとなくそう思っただけなんだが」
「ええ。その直感が大切なんですよ。例えば、μやテミスの関係者だとか、それに連なるワードなどでは手に入れられる確率が非常に狭まります。μに関するワードだとして、梔子さんからの情報と照らし合わせれば、彼女に関わりを持つ参加者は五名。その五名がロクに参加者と関わることもなく退場すればそれでコードは無用の長物になってしまいますし、そもそもμに近い立ち位置にいる彼女ですらも専門知識を有しているわけじゃない。それをμに関係のない世界の人間たちに当てはめられれば、まずヒント無しではたどり着けないでしょう」
「そりゃ無理だわな」
「ですが、名前であれば容易く個々人を識別できますし、ヒントなんていらないほどにシンプルでわかりやすいコードです。それこそ、静雄さんがなんとなくで挙げる程度には。まあ、なんとなく首輪に触れながら自己紹介でもしたら外れてしまった、なんて事故が起きないとも言い切れませんが」
「なるほどなぁ」
専門知識が無くとも誰でも知っていて。
下手にヒントを与えれば誰でも解除できてしまい。
個々人で識別のできるワードとなれば、名前が有力候補だった。
「しかし名前でもないとなれば、皆目見当がつかねえよなあ」
「ええ。なんなら先ほどまでの推測が全て間違いだったなんて可能性もありますし」
そう。今はまだ推測を重ねた推測にすぎない。
推測を空論で終わらせるのではなく、そこから真実に辿り着かせるのが解析屋の仕事だ。
レインは身体は休めつつ、しかし脳髄だけは常に働かせつつ早乙女研究所へと向かう。
(...本当に、あるんでしょうか?個々人を識別できて、ヒントも無しに辿り着け、うっかりでも言わないようなそんな便利すぎるコードが)
326
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:35:23 ID:MJ8Oj7d.0
【一日目/夜/D-5】
【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、全身火傷(大・処置済み)、出血(小〜中、止血済み)、全身に複数の切り傷(小)、精神的ダメージ、全身に複数の打撃痕、レインの仮説による精神的躊躇(小)
[服装]:いつものバーテン服(ボロボロ)
[装備]:なし
[道具]:見回り用の自転車@現地調達品、コシュタ・バワー@デュラララ!!
[状態・思考]
基本行動方針:主催者を殺す。
0:早乙女研究所に向かう。黄前久美子、高坂麗奈も探したい。
1:竜馬を見つけたらぶん殴る。
2:仮面野郎共(ミカヅチ、ヴライ)は絶対殺す。
3:やっぱりノミ蟲(臨也)は見つけ次第殺す
4:竜馬の知り合いに遭ったら一応伝えておいてやる。
5:彩声との約束を守るため、梔子を護る。
6:仮面をつけている参加者を警戒。
7:久美子と会ってセルティの話を聞きたい。
8:新羅の死の真相が知りたい。
[備考]
※参戦時期は少なくともセルティが罪歌と関わって以降です。
※静雄とミカヅチの戦闘により、公園が荒れ放題となっております。
仮面アクルカによる閃光は周辺地域から視認できたかもしれません。
※彩声の遺体は喫茶店に運び込まれています。
※梔子と情報交換しました。
ただウィキッドは仲間の義理として細かくは説明してません。
【レイン@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[服装]:普段の服
[装備]:ベレッタM92@現実、レミントンM700@現実
[道具]:天本彩声の支給品(基本支給品、ランダム支給品×0〜2)
[状態・思考]
基本行動方針:会場から脱出する
0:早乙女研究所に向かう。黄前久美子、高坂麗奈も探したい。
1:竜馬が心配。それにイヤに執着するリュージも不安視。
2:『アリア』に対し、疑念。確証はないが、彼女に関しての情報は集めておきたい。
3:情報は適切に扱わなければ……
4:サンセットレーベンズメンバーとの合流を目指す。
5:μについての情報を収集したい。
6:琵琶坂、ウィキッド、無惨に警戒。
7:竜馬の知り合いに遭ったら協力を仰いでみる。
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後、カナメ達とクランを結成した頃からとなります。
※ヒイラギが名簿にいることから、主催者に死者の蘇生なども可能と認識しております。
※彩声の支給品はレインが回収しました。
※『参加者は赤の他人がキャラクターになりきってる』と言う説と、
『それが参加者が折れ殺し合いをするしかない結論をさせる為の罠』説を立ててます。
どちらも確証はありません。(前者の方は辻褄が合い、後者の方は発想の逆転のようなもの)
※梔子と情報交換しました。
ただしウィキッドには仲間であるため細かく説明してません。
【リュージ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:片腕・片目損失。精神的疲労(中)、『ゲッター』への強い忌避感。
[服装]:軍服
[装備]:イケPの二丁拳銃@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-
[道具]:ポルナレフの双眼鏡@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、上やくそうの束@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島(一部消費)、悲鳴嶼行冥の日輪刀@鬼滅の刃(暴走時に竜馬が捨てたのを拾った)
[思考]
基本:『ゲッター』を止める。
0:早乙女研究所に向かう。殺し合い云々以上に、なにを置いても『ゲッター』を止める。隼人には悪いが、竜馬の殺害も辞さない
1:垣根たちと共に『ゲッター』を止めたい。
2:ひとまずは殺し合い反対派の連中に合流したい。
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後です。
※この世界をメビウスのような「フィクション」だと思っています。
※夾竹桃・ビルド・琴子・隼人・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。
※琵琶坂のこれまでの経緯を聞きました。
※気絶中に『ゲッター』の一部を垣間見せられた影響で、『ゲッター』に対して強い忌避感を抱いています。
327
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:39:15 ID:MJ8Oj7d.0
さて。しばしの時間をかけ、大いなる父の遺跡まで辿り着いた垣根たちだが。
「ハズレ、だな」
施設の中を探索したものの、何者かがいた痕跡はあれど、残されたものはなく。
何者かが暴れ、荒れ果てた痕と壊れ果てた鋼鉄の巨人が鎮座しているのみ。
ムネチカはその巨人に見覚えがあれど、操縦が出来る訳でもなければ詳しい訳でもない。
ブチャラティたちや後から着いていったらしいクオンたちもいないならば、もはやここに留まる意味もないと垣根は踵を返そうとする。
「...ちょっと待って。垣根提督、貴方の能力でこの巨人を分解できないかしら」
「どうした、なんか思い入れでもあんのか」
「いえ、思い入れというか、その...なにか作りたい欲求に駆られて...」
「そういえば、麦野殿のアレを作った時もそんなことを言っておりましたな」
麦野が魔王戦において使用した『拡散支援半導体(シリコンバレー)』。
作戦を立てる際、麦野とムネチカから自身の能力を聞かされた時、ふと咲夜の脳裏に『ひらめき』が過った。
咲夜自身にもビルダーになったという自覚は無かったものの、まるでなにかに突き動かされるかのような欲求に駆られ、あのカードを作り上げるに至った。
まるで自分がなにかに汚染されているような恐怖と困惑を感じつつも、害を為しているわけではないので、不本意ではありつつもその欲求に従うことにした。
そして今回も。スクラップ同然になったアヴ・カムゥに触れたことで咲夜の中に欲求が生まれ、本能的に素材として欲したのだ。
「何かをすぐに作りたいだとか、そういうのではないけれど...」
「いいさ。あとからなにかに使えるかもしれねえからな」
垣根は未元物質の羽を広げ、アヴ・カムゥ目掛けて突き刺すと、バラバラと身体が零れ落ちあっさりと分解されてしまう。
その折に。
「ッ!」
「あー...先客がいやがったか」
分解され、その内側を曝け出した中に全身を赤く染め上げ、全身をズタズタに裂かれた白衣の男が眠っていた。
一目で死体だとわかるソレを一瞥し、垣根はブチャラティたちから齎された岸谷新羅という青年の情報を一致させる。
「あいつらの不安視してた通りに、愛人が殺されて暴走した挙句に返り討ちにされたってとこか」
垣根は新羅の惨状にさして動揺もせず、状況を見てそう判断する。
如何にブチャラティたちが案じていたとはいえ、垣根からしてみれば見ず知らずの敗北者。
もしも自分が出会っていたとて、敵に回るのは確実だった相手だ。
そんな輩に向ける情を彼は有していない。
「ま、ちょうどいい。もう使うかはわからねえが、このままサンプルを頂くとするか」
「待たれよ」
新羅の死体を滅し、首輪を回収しようとする垣根をムネチカが留める。
「これ以上の首輪が不要であれば、死者を辱めることはないであろう」
「今更きれいごとか?サンプルなんざあって困るもんじゃねえだろ」
「見よ、この遺体を。惨状とは裏腹に、腕を折り畳まれ眠るように安置されていた。親類か友人か...己が血に濡れるのも厭わず、悼んだ者がいる証拠だ」
「死者を悼む、か。俺たちがコピーかもしれねえってのに、どれだけ意味があるのやら...まあいい」
ムネチカの言葉に感じ入った訳ではないが、死体の処遇で揉めるのも時間と体力の無駄だと判断し、ここは素直に羽を仕舞う。
そんな二人を他所に、咲夜はアヴ・カムゥの残骸を淡々と纏めていく。
「よし...回収は終わったわ」
「おし。ならズラかるぞ」
「待たれよ。この御人をこの場に置いておくことはできぬ。あの布団のある部屋まで運ばせてもらおう」
「おう。時間がかからねえならなんでもいい。さっさと運んで来い」
さすがに丁寧な埋葬までしたいといえば垣根も苦言を呈しただろうが、ただ安置するだけならさして時間もかからないため、ムネチカに許可を下した。
「それで、次に向かう場所はどうするの?」
ムネチカが新羅を運んでいる最中、咲夜は垣根に問いかけた。
「ブチャラティたちもクオンって奴らもどこに向かったかわからねえからな。もう死んでるのかもしれねえし、早乙女研究所に向かって解析屋たちと合流する」
そう方針を決め、新羅を安置してきたムネチカが戻り、研究所へ向かおうとしたその時だった。
彼らの下まで立ち昇る炎柱と轟音が鳴り響いたのは。
328
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:42:04 ID:MJ8Oj7d.0
【一日目/夜中/E-4/大いなる父の遺跡】
【ムネチカ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:疲労(極大)、全身に火傷や打撲ダメージ(極大)、強い決意、出血(大、火傷による止血済)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ムネチカの仮面@うたわれるもの
[道具]:基本支給品一色、大きなゲコ太のぬいぐるみ@とある魔術の禁書目録(現地調達)、夾竹桃の支給品一式(分解済みのシュカの首輪、素養格付、クリスチーネ桃子作の同人誌、夾竹桃のNETANOTE、薬草及び毒草)
[思考]
基本:アンジュとの絆を嘘にしない。
0:研究所に向かう。黄前久美子、高坂麗奈、ライフィセットも探したい。
1:小生はもう迷わない。
2:志乃乃富士、夾竹桃、麦野沈利、感謝する。
3:ライフィセットや『あかりちゃん』を護る。
4:魔王や流竜馬に最大限の警戒を。
5:あの轟音と炎はまさか―――
[備考]
※参戦時期はフミルィルによって仮面を取り戻した後からとなります
※女同士の友情行為にも理解を示しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。
※アンジュとの友情に目覚め、崩壊していた精神が戻りました。
【垣根提督@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(極大)、全身に火傷や打撲ダメージ(極大)、強い決意、精神的疲労(極大)、出血(大、火傷による止血済)、右腕切断(止血済み)。
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3、ジョルノの心臓から生まれた蛇から取り出した無惨の毒に対するワクチン、ジョルノの首輪、マギルゥの首輪、妖夢の首輪、リゾットの首輪、、土御門の式神(数個。詳しい数は不明)@とある魔術の禁書目録、マギルゥの支給品0〜1、ジョルノの支給品0〜3、顔写真付き参加者名簿、リゾットの支給品2つ
[思考]
基本方針: 主催を潰して帰る。ついでにこの悪趣味なゲームを眺めている奴らも軒並みブッ殺す。
0:早乙女研究所に向かう。ライフィセットも探したいが、首輪の解析も進めたい。
1:あの化け物(無惨)は殺す。
2:リゾットの標的だったボスも正体を突き止めていずれ殺す。
3:未元物質と聖隷術を組み合わせた独自戦法を確立する。道中で試しながら行きたい。
4:異能を知るために同行者を集める。強者ならなお良い。
5:魔王及び流竜馬には最大限の警戒。
6:麦野の最期に複雑な感情。
7:なんだぁ、あの炎は?
[備考]
VS一方通行の前、一方通行を標的に決めたときより参戦です。
※ジョルノ、リゾット、マギルゥの支給品も垣根が持っています。
※未元物質を代用した聖隷術を試しました。未元物質を代用すると、聖隷力に影響を及ぼし威力が上がりますが、制御の難易度が跳ね上がります。制御中は行動が制限されます。
※首輪の説明文により、自分たちが作られた存在なのではないかと勘繰っています。
※ブチャラティ達と情報交換をしました。
※魔王の件が片付くまでの間、麦野と夾竹桃と十六夜咲夜と同盟を組みました
【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(極大)、全身火傷及び切り傷、全身にダメージ(極大)、右目破壊(治療不可能)腹部打撲(再発)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ 、アヴ・カムゥの残骸(ビルダー用素材)
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:遺跡方面に向かうかを決める。
1:ひとまずは脱出の方で動くべきか。
2:今後のことを見据え、遭遇する参加者については殺せる機会があれば殺すが、あまり無茶はしない。
3:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
4:余裕があれば完全版チケットとやらも探す。
5:ヴライや魔王、流竜馬に最大限の警戒。
6:紅魔館...
7:あの炎、まさか...勘弁してほしいわね
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
※オスカー達と情報交換を行いました
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全には分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ビエンフーからこれまでの経緯を聞きました。
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◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:42:32 ID:MJ8Oj7d.0
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