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バトルロワイアル - Invented Hell – Part2
100
:
今、ここにある幸福
◆ZbV3TMNKJw
:2024/10/07(月) 23:46:12 ID:wfwbXT/60
☆
「ーーーミス。テミス、起きろ」
揺られ、呼びかけられる声にテミスの意識は覚醒していく。
「ん、んん...」
ぼんやりとする目を擦り、視界を明瞭にすると、そこには酒瓶立ち並ぶ棚。
それを見て思い出す。自分が、GMに連絡したあと、設置されたバーにてワインを堪能していたことを。
「...どれくらい寝てたのかしら」
自分を起こしてくれたリックにテミスは問いかける。
「2時間くらいだ。気持ちよく寝ていたし、このままそっとしておいても良かったんだが...」
「いえ。ありがとう。目的はもう終わったようなものとはいえ、せっかくの享楽を寝て過ごすのも勿体無いわ」
テミスのいう享楽。それは即ち、今のポジションのことだ。自分は安全圏に身を置き、絢爛豪華な衣装に身を包み、優雅に参加者の命を弄ぶ。
まさにかつての自分の生業にかなり近しい。絶望の縁に追い込まれた際に願っていた幸福そのものだ。
「見つけてくれたのが貴方で良かったわ。あの二人だと絶対に無視されてたもの」
「...嫌われている自覚はあったのか」
「長年トリニティの長を勤めていたのよ?あんなわかりやすい二人の心中くらい容易く察せるわ」
かつてテミスは、経営手腕や異能による暗躍、持ち前の美貌により多くの人間の根にまで手を回してきた。無論、関わった全員が彼女に靡くわけでもなく、そういった輩の見分け方も心得ている。
「それで?なにか状況に進展は?」
「大きな進展はまだ...けれど、『神隼人』と『桜川九郎』、それに『レイン』と『垣根提督』は首輪について理解を深めているように伺える」
そう報告するリックの面持ちは優れない。当然だ。自分たちの潜んでいる根城と首輪。この二つが自分たちの安寧を保証しているというのに、そのうちの一つが解除されるかもしれないというのだから。
101
:
今、ここにある幸福
◆ZbV3TMNKJw
:2024/10/07(月) 23:48:05 ID:wfwbXT/60
「やはりこちらからも何か手を...」
「大丈夫だと言ってるでしょう?μもあのお方も、如何なる参加者の行動も邪魔することを望んでいない。それに、首輪がいつかは解除されてしまうだろうことも織り込み済みだけれど...果たして、彼らに解を出せるかどうか」
自信満々にワインを呷るテミスにリックは眉を潜める。
「随分と自信ありげじゃないか。首輪の解除コードも音声認識システムなんて簡単なものなのに」
「ああいう如何にも頭脳を売りにしてますって連中は、変に深読みして考えすぎるきらいがあるのよ。
この殺し合いに関するワードか、μや私の思惑に類する言葉か。そんな意義のある理由づけをしてしまう。あまりにもシンプルなタネなんて、切り捨ててしまうものなの。
変に知識や知恵を持っているほど、『解除コードを使う権利が誰にでもある』ことに気が付かない。機械に精通する自分たちでないとわからないとタカを括りやすい。
だから、答えも。鍵も。既に持っていることに気づくことができない」
再びテミスはワインをグラスに注ぎ、口をつける。
「よしんぼ彼らがコードを見つけ首輪を解除しここにやってこようとも、先の戦いでμが手に入れた歌があるし、貴方のその身体なら大した脅威にもならないでしょう」
「それはそうだが...」
「だったら余計な心配をせず、μといられる今を堪能しなさいな。彼女もGMもそれを望んでいるわ」
なおもワインを堪能するテミスに、リックはため息を吐く。
「...あまり呑みすぎるなよ。いざという時に支障が出るかもしれないし」
「...そうね。あの地獄で求に求めていた刻だから、つい手が伸びちゃうのよね」
102
:
今、ここにある幸福
◆ZbV3TMNKJw
:2024/10/07(月) 23:48:52 ID:wfwbXT/60
彼女にしては珍しく眉根を下げて、グラスをカウンターに置く。
リックはそんな彼女を見ながら思う。
彼女がここに連れて来られる前の経緯はなんとなく聞いている。
それには過程はともかく末路は同情するし、至福の時に手を伸ばさずにはいられない渇望にも理解を示している。
だがその一方で思う。
本当に彼女は彼女なのだろうか、と。
μの力はあくまでも電脳世界での干渉に過ぎない。だから、現実に取り残された身体はどうにか維持しないといけないし、その関係もあり、メビウスに招いた者達も未来永劫に浸れるわけではない。
テミスの話を聞く限りでは、どうにもあの状況から彼女の肉体を救出出来たとは思えない。
ならば目の前にいる彼女はなんだ?それとも、本来のμの力を超えた何かが働いて...?
「リック」
己の胸中に浮かび上がる不安を察せられたかのようにかけられる声にハッと顔を上げる。
「あまり考えすぎてはダメよ。いま、私たちはここにいて、μと共に幸せを追い求め続けられる。大切なのはそれだけなのだから」
微笑みを向け、諭すように告げるテミス。
リックは息を飲み、そしてしばらく瞑目すると、静かに頷いた。
「ああ...そうだな。きみの言う通りだ」
そう。何にしてもこれで良いのだ。大切なのはこの幸せな時間なのだから。己の胸を打つこの鼓動こそが、生きているという全てなのだから。
リックは先ほどテミスが飲もうとしていたワイングラスを手に取り、一気に煽る。
「あら?貴方、その身体だと確か飲み物は...」
「必要無いが...構わないだろう?『生きている』んだから」
薄く微笑むリックに、かつて『生』を誰よりも望んだ彼に、テミスは微笑みを返さずにはいられなかった。
103
:
今、ここにある幸福
◆ZbV3TMNKJw
:2024/10/07(月) 23:51:14 ID:wfwbXT/60
☆
ーーーたとい人が全世界をもうけても、自分の命を損したら、なんの得になろうか。また、人はどんな代価を払って、その命を買いもどすことができようか。
(マタイの福音書16章26節より引用)
104
:
◆ZbV3TMNKJw
:2024/10/07(月) 23:51:40 ID:wfwbXT/60
投下完了です
105
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/10/27(日) 22:42:25 ID:..2.4lQM0
岩永琴子、黄前久美子、高坂麗奈、ロクロウ・ランゲツ、間宮あかり、オシュトル、ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン、折原臨也、クオン、東風谷早苗、カナメ、ウィキッド、ヴライ予約します
念のため、延長もしておきます
106
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:33:28 ID:pnp4O8I20
投下します
107
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:36:02 ID:pnp4O8I20
◇
「きゃはははははははははははっ!!
ほらほら、もっともっと、踊りなよッ!!」
揺らめく夜天の戦場に、嬌声が木霊し、爆音が奏でられる。
此の地で催されるは、魔女の宴。
宴の主たる魔女は、高坂麗奈の仮面を装い、獲物たる三人の男女を宇宙の塵にせんと、爆撃を見舞っていく。
「……ハァハァ……。クソッ……!!」
そんな魔女の猛撃に対して、カナメは、とにかく全力疾走で駆け回って――。
臨也は、パルクールを駆使して上下左右へと跳び回って――。
ヴァイオレットは、少女兵時代で培った経験値と俊敏性を以って――。
三者三様のやり方で、どうにか躱していくが、皆、回避に手一杯で、反撃の糸口を掴めないでいる。
三人とも、一度はウィキッドとは交戦しているが、過去のそれらとは比べ物にならぬほど、現在のウィキッドは身体能力、反応速度、爆撃の威力が段違いに強化されているのだ。
焦燥に駆られる、カナメ――。
戦局の厳しさを悟る、ヴァイオレット――。
以前のような余裕を面に出さない、臨也――。
ウィキッドは、そんな三人の様子を楽しそうに眺めながら、徐々に爆撃の出力と速度を上げていく。
一思いに殺そうとはせず、ジワジワと嬲るような程度で、カナメ達を追い詰めているのだ。
「おらおら、お前ら、どうしたよ〜?
もうちょっと張り切ってくれないと、こっちも興醒めなんだよねぇ。
特にカナメ君はさぁ〜、私の事を全力で否定するって言ってたよなぁ?」
「……っ!!」
まるで舞を踊るかのように、身体をくるりくるりと回転させて。
魔女は、爆炎を生みながら、カナメに語りかけていく。
「きゃはははははははははっ!! ほらほら、私はここにいるぜぇ?
否定してみろよ、殺してみろよっ!!
アンタだって、私にみっともなく殺された、あのバカ共の仇も取りたいんだろ?」
「……てめぇ……!!」
魔理沙に、Stork―――道半ばで亡くなった仲間達を貶められて、カナメの中で怒りが沸々と煮えたぎる。
だがこれは、カナメを誘うための分かりきった挑発――ここで感情任せに、突貫してしまえば、ウィキッドの思う壺だ。
カナメは必死に堪え、尚も続くウィキッドの爆撃を掻い潜って、どうにか反撃の機会を窺わんとする。
108
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:36:48 ID:pnp4O8I20
「――あの人、麗奈の姿で暴れて……!!」
そんな魔女による蹂躙劇を、久美子は歯痒い思いで見つめていた。
その瞳に映るは、あまにも醜い親友の姿。
――麗奈の顔で、下品に舌を出して
――麗奈の声で、誰かを罵って、嘲笑って
――麗奈の姿で、他人を甚振って
(ムカつく!!)
自分にとっての特別な存在を辱められている感覚を覚え、久美子は自身が握る車椅子のハンドルに、ギリギリと爪を立てていた。
「久美子さん、お気持ちは察しますが、ここは下がりましょう……。
この位置どりでは、私達も巻き込まれてしまいます」
車椅子に腰掛ける琴子は、久美子を宥めるように声を掛ける。
確かに、ウィキッド達の戦闘が行われているのは、目と鼻の先――。
今は、運良く爆撃の範囲外にいるが、いつ琴子達の下へと流れ弾が飛んでくるとも限らない。
「……だけど……!!」
「ロクロウさんがいない現状、私達は、あの偽麗奈さんと相対する戦力を持ち合わせておりません。
ここで、私達があの場に踏み込んでも、彼らの足手纏いになるだけです」
「……っ」
琴子の言葉に、久美子は苦々しい表情で黙り込む。
悔しいが、確かに琴子の言葉に反論出来なかった。
琴子も自分も、戦う術を持ち合わせておらず、あの超人的な戦闘に介入するのは難しい。
こんな時こそ、ロクロウを使役すべきなのだが、当人は、行方を眩ましている。
肝心な時に役に立たないロクロウに対しても、苛立ちを募らせる久美子であったが――
「――おい」
ドスの効いた声色が耳に入った瞬間、ポトンと、丸い何かが間近に落ちてくると、その思考は中断された。
えっ?と間の抜けた声を発し、久美子が視線を下ろす前に、それが何か察した琴子が慌てた様子で声を張り上げた。
「……っ!? 久美子さ--」
どかん!
琴子の退避指示は間に合わず、それは激しい爆音と共に、二人の眼前で盛大に爆ぜた。
「あが……ッ!?」
「ぐっ……!!」
爆風が、二人のか細い身体に容赦なく迫ると、琴子は車椅子から放り出され、久美子共々、地面に叩きつけられてしまう。
109
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:37:31 ID:pnp4O8I20
「――あんたらも、パーティに混ざりたいクチだろ?」
倒れ伏せる二人の前に跳んできたのは、今しがたカナメ達と交戦していたウィキッド。
その背後では、度重なる爆撃に圧し負けた、カナメ、ヴァイオレット、臨也の三人がそれぞれ地面に倒れており、土煙が周囲に漂っている。
「だったらさぁ、そのまま地面でも舐めながら待っててよ♪
あいつら、ぶっ殺した後に、たっぷり遊んであげるからさぁ」
グシャリと、地面に転がる車椅子を足で踏み躙りながら、魔女は愉しげに嗤った。
「――このっ……!?」
「あん? 何だよ、お前? なんか文句でもあんのか?」
――ゾワリ
地面に突っ伏せたまま、襲撃者たる魔女を睨みつけた久美子だったが、彼女と目を合わせた途端、背筋に悪寒が走った。
(……な、何、この人……?)
こちらを見下ろしている者は、外見だけにおいては、”いつも”の麗奈を装っている。そこは間違いない。
だが、見慣れた筈のアメジストの瞳の奥では、本来の麗奈が宿すであろう情熱、清廉さなどとはかけ離れていたものが蠢いていた。
「つーか、あんた、このクソ女の友達なんだってなぁ……。
この変身を見抜いたのも、友情パワーってやつ?
――はんっ!! 随分苛つかせてくれるじゃん!!」
底なしの悪意。
眼前の存在を一言で表すのであれば、それが相応しいだろう。
久美子は、その半生において様々な人間を観てきたし、この殺し合いにおいても、王や、シドーといった危険人物との対面を果たしてきた。
だが、眼前の麗奈に化けている者ほど、純然で禍々しい悪意を孕んだ瞳の持ち主を、未だかつて見たことがなかった。
110
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:38:27 ID:pnp4O8I20
「あっ、そうだ!! 良いこと思いついたわぁ!!」
――一体全体どんな人生を歩めば、こんな瞳を持った人間が出来上がるのだろうか?
慣れ親しんだ面貌に潜む、まるで世界そのものに絶望し、全てを憎悪しているかのような、どす黒い”未知”を感じ取った久美子は、蛇に睨まれた蛙のように硬直したままだ。
無論、麗奈の姿で暴虐の限りを尽くす彼女に対して、怒りの感情も当然あるが、彼女と目を合わせてからは、それ以上に恐怖が勝っている。
そんな久美子に対して、ウィキッドは口角を釣り上げ、嗜虐的な笑みを見せた。
「折角だし、あんたが、友情パワーで私を偽物だと見抜いたようにさ。
あのクソ女にも、アンタのこと見分けることが出来るか、テストしてみるのも良いかもなぁ」
「テ、テスト……?」
「うん、テスト♪ まずは、黄前さんの服を引っ剥がして生まれた状態にしてから、四肢を捥いで、コンパクトにしちゃいます〜」
「……っ!?」
ウィキッドの口から、とんでもない発言が飛び出すと、久美子は顔を真っ青にして戦慄する。
その反応を楽しむかのように、ウィキッドはケタケタと嗤った。
「それで、その後に目玉を抉りとって、髪も頭皮ごと引っこ抜いて、ついでに喉も潰しておいて、あのクソ女の前に放り投げてやるんだよぉ♪
そこに転がってる肉塊は、一体誰なんでしょーってね?」
「……い、いや……」
常軌を逸したアイデアを愉しそうに語るウィキッドは、一歩また一歩と、久美子の元へとにじり寄っていく。
迫る親友の姿を模した“異形”に、久美子は肩を振るわせながら、地を這うように後退する。
「あはははははは、果たして高坂さんは、それがあんただって、見抜けるのかなぁ?
見抜いた後に、あんたを抱きしめて、ワンワン泣いてくれると嬉しいよねぇーっと!!」
「――あがっ…!?」
ウィキッドは、久美子の元に辿り着くと、片腕で乱雑に胸ぐらを掴み上げ、そのまま宙へと持ち上げた。
容赦のない力で身体を締め付けられ、久美子は苦悶の声を上げる。
「く、久美子さん……」
琴子もまた、身体を動かさんとするが、如何せん義足が破壊され、片脚一本の身――彼女もまた芋虫のように地を這うのが限界だ。
111
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:39:16 ID:pnp4O8I20
「それじゃあ、黄前さん改造計画、始めちゃおうか♪」
「や、やめ――」
ビキビキと青筋を浮かべた魔女のもう片方の腕が差し迫り、伸び切った爪が久美子の身体に突き立てられんとした、その瞬間。
――ダンッ!!
「きゃは♪」
背後より、風を切る音が聞こえたかと思うと、ウィキッドはより一層口角を吊り上げ、振り向きざまに、久美子の身体を宙に放り投げた。
「――ッ!?」
ドレスを揺らしつつ、宙に舞った久美子の目前に迫っていたのは、魔女の暴虐を阻止せんと駆け付けていた、ヴァイオレット。
金色の自動手記人形は、勢い殺さず、咄嗟に振りかぶっていた手斧を引っ込めると、久美子の身体をキャッチする。
「随分と遅いお目覚めじゃねえか、お人形ちゃんよぉ〜!!」
戦線に復帰したヴァイオレットに、ウィキッドは間をおかずに、複数の爆弾を投擲する。
ヴァイオレットが、久美子の身体を受け止めたのは狙い通りだ。
両手が塞がり、人間一人を抱えた状態の彼女目掛けて、魔女の放った手榴弾が迫る。
「――わわわわわわっ!?」
刹那、ヴァイオレットはカッと目を見開くと、久美子を抱きかかえたまま、予備動作なしに真横へ跳躍。
直後に爆音が轟き、熱を帯びた暴風が、二人の躰を揺らした。
しかし、ヴァイオレットは少女一人抱えた状態で、姿勢を維持して着地―――爆撃を紙一重で躱してみせる。
「きゃははははははははっ、もっともっと遊ぼうぜっ!!」
「――っ!?」
しかし、魔女の追撃は止まることを知らない。
着地直後のヴァイオレット達目掛けて、続けざまに爆弾を投げつけてくる。
ヴァイオレットは久美子を抱えたまま、なおも前後左右へと跳躍を繰り返して、これを躱していく。
112
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:39:45 ID:pnp4O8I20
「〜〜〜〜〜っ!?」
爆撃の嵐の中で、飛び散っていく、焔と土塊。
鼓膜に突き刺さる爆音に、鼻腔を刺激する硝煙。
そして、目まぐるしく切り替わっていく視界の中で、久美子は、声にもならない悲鳴を上げていく。
「……くっ……!!」
流石のヴァイオレットでも、久美子を抱えたままでの爆撃回避には限界がある。
徐々に呼吸が乱れていき、額には汗が滲み始めていく。
対するウィキッドはまだまだ余裕があるようで、二人を執拗に追い詰めていく。
ヴァイオレットの現状は、まさに踊らされて、弄ばれている状態。
このままでは、遠からず魔女の餌食となるのは、火を見るよりも明らかだった。
「ねぇ――」
だがここで、唐突に飛来した銀色が、宙で弧を描く爆弾を撃ち落とすと、事態は一変する。
「あんまり、『人間』に手を出さないでくれるかな、茉莉絵ちゃん?」
「あははっ、私が他人で遊ぶのに、わざわざお前の許可が必要なのかよ、臨也おじさんよぉ!!」
傷だらけの身体を引き摺りつつ、『化け物』に刃を向けたのは、折原臨也。
黒を装う全身は、焦げ跡と裂傷が垣間見え、先の戦闘によって痛めつけられたダメージの深刻さが、容易に窺える。
「うん、そうだよ。 『人間』は俺のものなんだからさ」
しかし、人間を愛する情報屋は、その口元に薄ら笑いを浮かべてみせて、軽口を叩いてみせる。
それに呼応するかのように、魔女も獰猛な笑みを張りつかせた刹那。
「うぜぇ、死ね♪」
どかん!!
まるで、西部劇のガンマンさながら、互いに示し合わせていたかのように、ウィキッドの爆弾と臨也のナイフがほぼ同時に投擲。
飛翔する両雄の得物は、空中で交差し、爆炎を撒き散らした。
間髪おかず、共に地を蹴り上げる、魔女と情報屋。
眼前の忌まわしき存在を抹消すべく、第二撃、第三撃――。
続けざまに爆弾とナイフの投擲を繰り返しては、その度に爆音が奏でられていく。
113
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:40:14 ID:pnp4O8I20
(――今っ…!!)
「えっ、ちょっ……!?」
ウィキッドの注意は、臨也に向いている。
それを好機と捉えたヴァイオレットは、両腕で抱きかかえている久美子の身体を、脇で抱えて固定。
そのまま、地面を強く蹴り、戦場からの離脱を試みる。
「おいおい、折角盛り上がってきたのに、つれないことすんなよ、人形女ぁっ!!」
臨也と相対しながらも、ウィキッドは片腕を無造作に振り払い、ヴァイオレットの進路へと、爆撃を見舞う。
が、それは折り込み済みで、ヴァイオレットは電光石火の如く、爆撃の嵐の間隙を縫うように、駆け抜けていく。
そのまま、未だ倒れ伏せたままの琴子の元に辿り着くと、もう片方の腕で拾い上げた。
「逃がすわけ――」
これを、追いかけようと、身を翻すウィキッドだが――。
ブチリッ!!
脚の裏側に、鋭い痛みが走ると、前屈みに倒れこんだ。
舌打ちとともに、脚を見やると、そこには複数のナイフが生えている。
「言ったはずだよ、茉莉絵ちゃん。
俺の『人間』に手を出すなって……」
正確無比な臨也の投擲が、ウィキッドの追走を妨げたのである。
「……はぁ、うざぁ……」
如何に鬼になったといえども、基本的な身体の構造は人間と変わらない。
足の腱を切られてしまえば、当然地を踏み抜くこともできず、遠ざかるヴァイオレットの背中を追うことはできない。
しかし、それも束の間――うんざりしたような溜息とともに、突き刺さったナイフを引き抜き、ポイと投げ捨てる。
そして、鬼化の恩恵により、即座に負傷箇所を再生させると――
「そんなに、私と遊びたいなら、とことん痛めつけてやるよ、折原臨也ッ!!」
標的を臨也のみに絞り込んで、再び爆撃の円舞曲を奏で始めた。
臨也はパルクールを駆使して、木の上へと飛翔。
ウィキッドもまた、これを追う。
二つの影は、木々の間を飛び交いながら、爆撃と刺撃の応酬を繰り返していく。
114
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:40:39 ID:pnp4O8I20
「――お二人は、暫くこちらで身を潜めてください」
ひたすらに疾走していたヴァイオレットは、魔女の踊り場から、ある程度離れた場所に辿り着くと、抱えていた久美子と琴子を下ろした。
背後からは、今尚も爆音が木霊しており、未だウィキッド達による殺し合いが継続していることが窺える。
「……あ、ありがとうございます……えっと――」
「自動手記人形サービス、ヴァイオレット・エヴァーガーデンでございます。
久美子様のことは、お嬢様からお伺いしております」
「あぁ、やっぱり!! 麗奈が言っていたヴァイオレットさんっ!! 金髪美人の、お人形さんみたいな人!!」
「……っ!? 久美子様は、お嬢様と再会なされたのですか!?」
蛇足たる一言に触れること無く、麗奈から自分のことを聞き及んでいるという情報に、ヴァイオレットは目を見開いた。
「はい、さっきまで一緒にいました……。
でも今は、向こうで筋肉の凄い仮面と戦っています……」
「お嬢様が、あの方と……?」
唐突に齎された本物麗奈の消息に、ヴァイオレットは、サファイア色の瞳に不安の影を宿す。
今現在の彼女は、戦闘の最中にあるらしい。
そして、久美子が齎した情報から察するに、彼女と相対しているのは、先に自分達を襲撃してきたヴライらしい。
いくら鬼化していたとしても、麗奈は元々戦場とは無縁の世界で生きていた少女――相対するのには、あまりにも手に余る相手である。
どかん!!
「……っ……」
背後から再び轟く爆音の中、ヴァイオレットは眉を顰めた。
今尚も交戦を続ける、臨也とウィキッド――。
錯乱した早苗と、彼女を追ったロクロウ――。
戦闘の最中、離れ離れとなってしまったオシュトル――。
そして、ヴライと相対しているという麗奈――。
此の地で出会った誰もかれもが、窮地に陥っている。
今すぐにでも、全員の元へと、駆けつけて力になりたい――。
皆の"いつか、きっと"を失わせたくない――。
しかし、ヴァイオレットの身は一つしかない以上、今は誰の"いつか、きっと"を優先すべきか、決断が必要だ。
(……私は……)
故に、ヴァイオレットは選択に躊躇する。
人々の”いつか、きっと”は等しく尊いもので、そこに優劣など存在しないと理解しているから。
「コホン、少し宜しいですか、ヴァイオレットさん?」
悩めるヴァイオレットに声を掛けたのは、それまで静観に徹していた琴子であった。
義足を砕かれ、つい今しがたは、代わりの足となる車椅子も粉砕された、「知恵の神」。
しかし、それでも一切の取り乱しを見せない琴子は、ちょこんと地面に座ったまま、ヴァイオレットの心を覗き込むような眼差しで、言葉を紡いでいった。
115
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:41:16 ID:pnp4O8I20
◇
「この…、この…、この……っ!!」
夜天の森の中、翠色の長髪を乱しながら、滑空する巫女が一人。
焦燥と恐怖によって顔を歪める彼女は、一人の男の周囲を高速で飛び回りながら、光弾を放射。
標的を円の中心に見立て、全方位からの連続攻撃を浴びせる算段であった。
「ここで斃れて下さいよ、ロクロウさん!!
私の……、いえ……皆のために……!!」
全ては、殺し合いに乗った卑劣なオシュトル一味から、自分の身を護るため。
そして、クオンをはじめとした仲間達を護るため。
早苗は、人斬り夜叉への攻撃を緩めることはない。
「悪いが、そいつは出来ねえ相談だな、早苗――」
早苗を猛追していくロクロウは、左右に蛇行して、光弾を回避。
その足を止めることなく、早苗との距離を詰めていくも、早苗は素早く滑空。
ロクロウとの距離を取りつつ、光弾を放つも、尚もロクロウは、これを追う。
「言ったはずだ。俺は、お前から受けた恩に報いる……。
お前の目を醒ませてやるってな!!」
――借りたものは必ず返す。命を使ってでも。
ロクロウ・ランゲツは、人斬りの業魔であるが、決して、外道ではない。
普段は明朗快活な青年ではあるし、周囲に対して、気配りも出来る。
そして、ランゲツ家の家訓の元、義理人情を重んじる節もある。
此方に攻撃を撃ち込んでくる眼前の少女は、己が背にある大太刀を快く譲ってくれた。
そんな彼女が、今は錯乱して、苦しんでいる。
これを見過ごすわけにはいかない。
「そんなこと言って、私達を騙して、最終的には殺すつもりなんですよね!?
私、知っているんですから!!」
金切り声に近い声色で、滑空しながら、光弾を放ち続ける早苗。
早苗からすると、刃を片手に奮起するロクロウの姿は、恐怖の対象でしかない。
早苗を案じる、ロクロウの思惑など知る由もなく、捏造された記憶を“真実”として刷り込められた現状、彼女にとって、ロクロウは狡猾で残忍な人斬り---全ての参加者に害をなす、奸賊である。
116
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:41:45 ID:pnp4O8I20
―――怖い……。
そんな超危険人物と、一対一で相対するのは恐怖以外の何ものでもない。
更に、早苗を苛むのは、それだけではない。
―――怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……。
こうも立て続けに自身の記憶を、周りの参加者によって否定され続けては、言いようのない気持ち悪さと疎外感に、圧し潰されそうになる。
―――だけど、戦わなきゃ……!!
感情が悲鳴を上げて、全てを投げ出したいという衝動に駆られる。
しかし、それでもどうにか持ち堪えると、早苗は浮遊をやめて、着地。
真正面から、ロクロウを迎え撃たんと構える。
「いいや、俺はお前を斬らねえ……。
俺が斬るのは、お前の乱れ惑う心だ!!」
前方から飛んでくる、流れ星を彷彿させる弾幕を躱し、斬りつつ、突貫するロクロウ。
疾風の如き速度で、早苗に肉薄する。
――今っ!!
早苗はカっと目を見開くと、祓い棒を地に向けて、振り払う。
瞬間、地面が盛り上がると、水流が噴出。
「っ!?」
咄嗟に、サイドステップで飛び退き、水流にのみこまれるのを避けたロクロウであったが―――
「そこっ!!」
ビュン!!
退避先の地に足を着かんとする、ゼロコンマ秒程前。
守矢の風祝が放った、音速の突風が、ロクロウに襲い掛かる。
「ぬおっ!?」
如何に五感を研ぎ澄まし、それに見合う身体捌きを誇っていたとしても、空中では躱すためのステップを刻むことも叶わず。
バン!と空気の弾ける音が響くと、人斬り夜叉の身体は、吐血とともに、背面にある枝枝を突き破りながら、弾丸の如き速度で吹き飛んでいく。
「まだだっ…! まだだぜ、早苗っ!!」
しかしながら、ロクロウもやられっぱなしでは終わらない。
空中でくるりと体勢を調整し、吹き飛んだ先にあった木の幹を足場にすると、スプリングの要領で、再び早苗の元へと逆行する。
そして、これも、人斬り業魔の性なのだろう。
先に喰らわされた一撃で、相対する少女が一筋縄ではいかない相手だと改めて悟ったロクロウは、意図せず笑みを零してしまう。
117
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:43:01 ID:pnp4O8I20
「ひいっ…!?」
凄まじい速度で差し迫るのは、好戦的な表情を張りつけた、人斬り。
早苗はぞっと、寒気を覚えると同時に、再度五芒星の印を切り、光弾を射出---これを迎撃せんとした。
「――七の型!!」
真正面から到来する弾幕に対して、ロクロウは、咄嗟に印を切ると、裂帛の気合いとともに、七連続の神速の突きを放っていく。
七の型・雷迅――。
これは謂わば、刀の刺突による弾幕―――早苗の光弾は、瞬く間に、打ち消されていく。
光弾七発のみならず、更にロクロウの元へと殺到する。
しかし、夜叉の業魔は、印を重ねると、刺突の弾幕にて、その悉くを相殺。
勢いそのまま、早苗の元へと疾走する。
「こ、来ないでっ……!!」
焦燥に駆られつつ、早苗が、祓い棒を地へと払うと、再び大きな水波が生じた。
津波は、鉄砲水の如き勢いで、真正面からロクロウを飲み込まんとする。
「――八の型!!」
特に動じる素振りも見せず、印を切った、ロクロウ。
瞬間、灼熱の柱が、ロクロウの前方に出現。
そのまま前進すると、早苗が創成した水の波と衝突。
凄まじいほどの蒸気が巻き上がり、辺り一面は白に覆われる。
八の型・撤魔――。
地面の霊力を開放して対になる炎の柱をさせる術技は、早苗の引き起こした水波を相殺するに至った。
「くっ…こんな技まで……!?」
ロクロウを、剣術だけに特化した猪武者だと踏んでいた早苗は、彼の霊力を駆使した術技に虚を突かれる形となってしまった。
視界が塞がり、慌てて突風にて、蒸気を吹き飛ばす。
だがしかし、ロクロウの姿は、既に霧晴れした視界にはなかった。
「ど、何処へ……!?」
「こっちだ!!」
「っ!?」
天より降り注ぐ、快活な声。
頭上を見上げると、そこには、自身を目指し降下する、ロクロウの姿。
「しまっ……!?」
咄嗟に印を切り、光弾を放たんとするも、時既に遅く――
「が…はっ…!!」
重力を味方にしたまま、早苗の元へと落下したロクロウ。
勢いそのまま、少女のか細い身柄に圧し掛かり、抑え込まんとする。
「は、放してっ……、放してくださいよっ!!」
手足をばたつかせ、何とかその拘束から逃れようと試みる早苗。
涙を零し、喚きながら、自身の上に伸し掛かった男を振り払うべく、身を捩る。
「だ、誰か……誰か助けてください!!
クオンさん……!! 隼人さん……!!」
神々の決戦を共に生き抜いた仲間達の名を呼び、助けを求める早苗。
しかし、その声に駆けつける者はいない。
「落ち着けよ、早苗」
傍から見れば、暴漢がいかがわしい行為に及ばんとせんとしているようにも映る。
だが、ロクロウには、そんな邪な気は微塵もない。
冷静且つなるべく彼女に負担をかけぬよう配慮しながら、早苗を組み伏せようと力を込めていく。
それに反発するように、早苗の抵抗も激しさを増して、より一層手足をばたつかせる。
118
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:43:25 ID:pnp4O8I20
その時――。
ヒラリ
「……え?」
激しく揺れる彼女の服の袖口から、何かが落ちた。
それに気取られ、早苗は思わず抵抗の手を止める。
釣られる形で、ロクロウもまた、拘束の手を緩めると、早苗の意識を逸らせた“それ”の正体が気になったのか、目線をそちらに向けた。
「……これは……?」
二人の視線の先にあったのは、一枚の文。
ロクロウが頭に疑問符を浮かべたまま、その文に手を伸ばさんとするも―――。
「だ、駄目!! 触らないでください!!」
「うおっ、早苗!?」
早苗はロクロウの手を払いのけ、その文を手中に収めると、大事そうに胸元に抱き込んだ。
「これは……、この手紙だけは、私から奪わないで……!!」
余程大事な物なのだろう。
ロクロウに組み敷かれながらも、文を守る様に丸くなり、頑なに彼を拒む姿勢を崩さない。
「……これは、私の大切で……紛れもない“本当”だから……」
幻想郷で自分の帰りを待っているであろう、諏訪子と神奈子。
かけがえのない家族への想いを、形として残したくて、認めてもらったのが、この手紙だ。
自身の中の“真実”が何度も覆り、誰を信じて良いのか分からなくなった早苗ではあったが、それでも彼女達への“想い”だけは、不変のものとして揺るがない、心の拠り所だ。
例えこれから、自身の命が奪われるようなことがあったとしても、この“想い”にだけは、誰かに踏み込んでほしくなかった。否定してほしくなかった。奪ってほしくなかった。
「いや別に、俺にそんなつもりはないのだが――」
手紙を庇うように縮こまる早苗に、ロクロウはバツが悪そうな表情を浮かべて、髪をポリポリと掻く。
「うん? 待てよ……。
手紙ってことは、これもしかして、ヴァイオレットから書いてもらったのか?」
「……えっ?……」
ふとヴァイオレットが、自動手記人形サービスなる他人の手紙を代筆する職業に従事していたことを思い出し、ロクロウがそう尋ねると、早苗は目をぱちくりさせる。
119
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:44:14 ID:pnp4O8I20
「いえ……こんな大事な手紙を、あの人に書いてもらう訳--」
「それじゃあ、自分で書いたのか?」
「いえっ、これは……勧められるまま、代筆してもらって――」
本来であれば、この手紙の代筆は、改竄された記憶の中では、起こりえない出来事。
それでも、その記憶が断片化した状態で、呼び起こされたのは、手紙に込められた“想い”が、早苗の中に強く残っていたからに他ならない。
「えっ、あれ……? 私、誰に書いてもらったんだっけ……?」
朧げながらも、誰かに勧められるまま、代筆を依頼した覚えはある。
しかし、肝心要の誰に依頼したかまでは、判然としない。
早苗は、頭に手をやり、困惑した様子で、必死に記憶を辿る。
――この手紙を書いてくれた人は、私の想いに寄り添ってくれた人……。
――そんな自分に尽くしてくれた人のことを、忘れてたなんて……。
――思い出さなきゃ……。
強い意志と共に、必死に記憶の糸をたぐり寄せる。
とにかく、この手紙を代筆してくれた人物に辿りつくようにと、強く念じて……。
『――早苗様、宜しければお手紙を書いてみませんか?』
やがて、早苗の脳内に、一つの情景が浮かび上がった。
――これだ……。
早苗は更に、その記憶の糸を手繰り寄せていく。
『手紙、ですか……?』
『はい。早苗様の大切な方々への想い―――それを手紙に綴るのです』
それは、記憶の彼方に封された一幕。
この会話を契機に、手紙は認められた。
しかし、自分の対面にいる相手方の姿は靄が掛かったように、ボヤけて分からない。
そして、声色もまるで、変声機を通したように、ぼわんぼわんと歪んで聞こえて、男女の判別もままならない。
『―――お願いしても宜しいですか? ◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️さん』
自分が、相手の名前を呼んだ。
そして、靄がかかった相手は、「畏まりました」と言って、タイプライターを出して、両手の手袋を外した。
――えっ……。
その両手は銀色に光る義手だった。
それを皮切りにして、相手方を覆っていた靄が、手から腕、腕から肩、肩から首へと、全身をなぞるようにして、晴れていく。
120
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:44:36 ID:pnp4O8I20
――な、何で、あの人が……。
やがて、此方をじっと見据えながら、機械仕掛けの義手を動かしている相手の面貌が、金髪碧眼で人形のような顔立ちをした少女のものであったことに気付くと―――。
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
「ぁがっ!?」
「……早苗!?」
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
再び、早苗の脳天にノイズと共に、激しい頭痛が到来した。
121
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:45:01 ID:pnp4O8I20
◇
「ぬぅんっ!!」
咆哮と共に、炎槍を投擲する、ヴライ。
ヤマト最強とうたわれし漢は、その内に宿る火神(ヒムカミ)の猛りを憶えながら、己に向かってくる敵を討滅せんとする。
大地に槍が着弾すれば、轟音とともに業火の柱が立ち並び、闇に埋もれた森が紅蓮に染まっていく。
「はぁあああっ!!」
ヴライへと猛進するあかりは、その手に、魔力の粒子――直後、紅葉色の扇を顕現させると、それを振り払う。
瞬間、翠緑の旋風が吹き荒れると、爆撃と炎獄の嵐を消し飛ばす。
あかりが起こした旋風は、勢いそのまま、木々を薙ぎ倒しつつ、ヴライすらも吹き飛ばさんと、襲い掛かる。
「風神(フムカミ)の加護を、得るか、娘……!!」
その両腕に、特大の火炎を顕現させた、ヴライは、雄叫びと共に放射。
迫りくる暴風を、正面から迎え撃つ。
業火の荒波と翠緑の暴風がせめぎ合い、一瞬、辺りを昼間よりも明るく照らし出した。
さながら神話の光景であったが、それも束の間、互いに霧散する。
「――鷹捲っ!!」
土煙が立ち込める中、あかりは、両腕を突き立てるような姿勢で、ヴライ目掛けて突貫。
言うなれば、それは光の弾丸。
全身をフルスロットルで回転させ、螺旋を帯びつつ、獲物の心の臓を穿たんと差し迫る。
「むうぅんっ!!」
しかし、闘神の双眸は、マッハの速度で肉薄するあかりの姿を捉えており。
ガゴォン!!
超人的な反応速度で、拳を振り上げると、全身全霊の殴打を以って、弾き返す。
ホームランボールの如く跳ね飛ばされてしまった、あかりの小柄な躰は、幾重の空気の層を突き破っていき、遥か上空へと打ち上げられてしまう。
「まだっ!!」
だが、ここであかりは気合と共に、その背に白い翼を顕現。
ブレーキ代わりに羽ばたかせて、空中で踏みとどまると、羽から無数の光弾をヴライへと向けて降り注がせる。
「――羽蟲が……!!」
圧倒的物量によるフェザーショットの雨霰。
さしものヤマト最強の武士も、これを受けきることを嫌うと、地を蹴り上げ、回避行動に入る。
直後、大地は光の弾幕により抉られ、爆撃の嵐に見舞われていく。
ヴライは、その嵐の波濤を掻い潜りつつ、時折両手に炎槍を生み出すと、天を衝く勢いで投擲。反撃を試みる。
しかし、その悉くは、複合異能に目覚めた少女の羽弾によって阻まれる。
尚も、光弾の雨は、ヴライの反撃を飲み込みつつ、彼を追い立てていくが――
轟ッ――!!
ヴライを狙うは、夜天に浮かぶ覚醒者だけはない。
122
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:45:24 ID:pnp4O8I20
「ぬっ……!?」
真横から、超速で飛来してくる二本の触手を察知したヴライは、業火を帯びた剛腕でこれを薙ぎ払う。
瞬時に、一本は灰燼と帰す。しかし、もう一本は軌道を逸らして、これを回避。
バ ゴ ン !!
凄まじい殴打音が響くと同時に、ヴライの顔面を、衝撃が襲った。
「ぐ、ぬぅう……!!」
その威力に、さしものヴライもぐらつく。
だが、すぐに踏みとどまると、触手の飛来した方向を睨みつける。
「……顔を貫けると思ったけど、やっぱり、そう上手くはいかないか……」
高坂麗奈は、背中に生やした触手を蠢かしながら、落胆したような声を漏らしていた。
『夜の女王』は、あかりがヴライと正面から激突し、その注意を引いている間に、虎視眈々と付け入る隙を伺っていたのである。
「貴方に、恨みはないけど―――」
刹那、麗奈は地を跳ぶ。
久美子の血を吸い、通常の鬼では成し得ない、俊敏さと出力を得た、彼女もまた複合異能の体現者―――過剰強化された脚力を以ってして、瞬く間に、ヴライの真上に飛来。
眼下のヴライが身構えるより先に、勢いそのまま、背中の触手を、鞭のように振るう。
「ここで消えてもらう。私たちの邪魔になるだろうから」
凄絶な速度で繰り出される鞭打の連撃が、ヴライの鍛えぬかれた身体に叩きつけられていき、その都度、乾いた打撃音が奏でられていく。
「戯言をッ……!!」
無論、ヴライもただ攻撃を受けるばかりではない。
咆哮と共に、全身に灼熱を帯びて、己が肉体を傷めつける触手を燃焼。
更に地を踏み抜き、今度は自らが麗奈に接敵。
憤怒の炎を纏った拳で、麗奈を殴殺せんとする。
「――…っ!?」
目を開く麗奈。
咄嗟に身を捻って、炎拳のフルスイングを躱す。
必殺の拳撃が空振るも、ヴライは止まらない。
「塵芥と化せいッ!!」
もう片方の腕を振るうと、火炎を放射。
忽ちに、麗奈の身体は、業火に包まれる。
「ぐぁ……!!」
生まれてはじめて味わう、身体を燃やされる感覚に、さしもの『夜の女王』も、純白のドレスを焦がされながらも、苦悶の声を漏らす。
だが、それでも、歯を食いしばり、その場で踏ん張る。
123
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:46:01 ID:pnp4O8I20
--ここで、倒れるわけにはいかない…!!
火だるまになりながらも、オッドアイの瞳から、燃え上がる闘志と、不退転の覚悟が消え失せることはない。
全ては、久美子との「誓いのフィナーレ」のため――。
背に蠢く触手を射出し、反撃を試みる。
「ふんっ……!!」
しかし、攻勢に転じたヴライの勢いは、止まることを知らず。
麗奈の決死の抵抗を一笑し、よろめく彼女の身体に、豪炎纏う拳を叩き込む。
「……がはっ……」
今度は、躱しきれない。
炎拳が直撃した麗奈の体躯は、木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされる。
間髪入れず、ヴライはその両腕に炎槍を顕現。
ダメ押しとばかりに、地面に転がった麗奈目掛けて、追撃の投擲を繰り出した。
まだ全身火傷のダメージ癒えぬ、麗奈には、ミサイルの如く飛来する炎槍を、咄嗟に避ける術はない。
「――出でよ、土ボコっ!!」
天から声が降りたのは、その時だった。
瞬間、地面が隆起し、城塞のような壁を形成する。
ヴライの投擲した炎槍は、土の壁に着弾。その進行を遮られる。
「小癪な――」
咄嗟に、空を睨み上げたヴライの目に飛び込んできたのは、再び己に降り注がれる無数の光弾の雨。
その先に佇むは、翼をはためかせながら浮遊し、此方に向けて、手を振り下ろしている、あかりの姿。
麗奈の追撃に意識を向けすぎた故に、生じた隙。
その致命的な隙を、あかりは逃さなかったのである。
ダダダダダダダダダダダダッ――!!
ヴライが回避行動を取る間もなく、彼の巨躯は、光弾のシャワーに飲み込まれる。
言うなれば、小型の爆弾が絶え間なく着弾している状況。
ヴライは全身に炎を噴出し、即興の鎧を身に纏い、威力を殺さんとするものの、
着弾の度に、筋骨隆々の肉体が、大きく、激しく揺さぶられ、血飛沫と肉片が、夜の森に舞っていく。
「うぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
自身の肉体が穿たれ、削られる感覚を覚えながらも、ヴライは己が意識をしっかりと繋ぎ止める。
ヤマト最強は、決して倒れない。
否、倒れることは許されていない。
この殺し合いの舞台において、彼の漢をここまで勝ち残らせてきた原動力は、鍛え抜かれた身体と、研ぎ澄まされた武技、仮面(アクルカ)を伴った圧倒的な火力のみあらず。
その身を焦がす執念と、己が魂魄と引き換えにしても勝利をもぎ取ろうとする気概もまた、彼を最強たらしめている所以なのである。
124
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:46:33 ID:pnp4O8I20
―――力だ……、我に力を……。
爆撃に飲まれながらも、漢は天に片腕を掲げて、力を欲する。
その願いを向けるは、己が顔の半面を覆う仮面―――を通じた先にある『根源』。
そして、『根源』はそれに応える。
ヴライは、内より力が漲る感覚を覚える。
―――そうだ、我に力を……。より多くの力を我に与えよ……。
己が魂魄と引き換えに得た『根源』の力を以って、内に宿る火神の力を奮い立たせ、その手に決着のための炎を顕現。
更に、"窮死覚醒"―――死に瀕することで発現する火事場の馬鹿力を以って、この動きを過剰に加速させ、特大級の業火の塊へと、昇華させていく。
やがて、あかりの放つ光弾の悉くを、火球が吸収できる域にまで達すると―――。
「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおッーー!!」
咆哮と共に、業火の塊を、天に向けて解き放った。
「なっ…!?」
自身の放つ光弾を飲み込みつつ、猛スピードで差し迫る、紅蓮の巨大塊に、目を見開くあかり。
その特上のサイズと、圧倒的な速度を前に、回避しきれないと悟った彼女は、自身の前に、光を集約させ、即興の障壁を展開する。
直後。
ど ぅ ぉ ん !!
戦場の夜空に、爆炎が花開いた。
桁違いの衝撃は、あかりが展開していた障壁を粉々に打ち砕き、彼女の華奢な身体は黒煙を上げながら、流星の如く、遥か遠方へと吹き飛ばされていく。
それを見届けるヴライであったが、その身体は、先の光弾の雨霰によって、全身が鮮血で彩られ、満身創痍。
おまけに、仮面の行使の反動が、全身に押し寄せている。
未だ、二本脚で大地に立っている現状は、奇跡的とも言えるだろう。
「――化け物め、よくも……!!」
「ぬぅっ……」
しかし、ヴライに休息の暇は与えられない。
全身火傷から傷を癒した麗奈が、触手を射出。
鈍い殴打音が立て続けに奏られると、ヴライの身体は、蓄積されたダメージも相まって、後方へとぐらつく。
しかし、地をしっかりと踏みしめ、闘志の炎を燃え滾らせると、ヴライもまた麗奈の元へと駆け込む。
満身創痍が故、俊敏さの欠けた突撃ではあるが、尚も、ヴライは拳を振るう。
麗奈は、その接近を嫌い、軽快にステップを刻み、一定の距離を保たんとする。
そして、前後左右へと、触手を巧みに操り、ヴライを翻弄する。
しかし、ヴライの拳が纏う業火は尚、健在。
先の一撃にて、無理やりに限界を越えた出力を引き出した弊害で、その火力に限りが見えるも、麗奈の触手が焼け千切るなど動作もない。
麗奈も、負けじと新たな触手を生やして、ヴライの身体を打ち据えていく。
125
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:47:10 ID:pnp4O8I20
「ぬぅうっ!!」
「こんのぉおおおおおおお!!」
ヤマト八柱の剛拳と、鬼の触手。
互いの得物が交錯しあい、二人の男女は、死力を尽くしてぶつかり合う。
二人の咆哮と打撃音が、森の中で、木霊する中、やがて、その均衡が崩れる時がきた。
ガゴォッ!! バゴォッ!!
「……ぐぬぅ……」
触手による殴打が炸裂し、ヴライがよろめく。
『夜の女王』の俊敏な機動性が、疲弊した『ヤマトの矛』の出力を凌駕し始めたのだ。
―――死ね……死ねっ……!! 早く死ねっ……!!
呪詛のように、心の内で排他性と害意を呟きながら、眼前の敵を圧していく麗奈。
その様相は、あたかも彼女を人外へと仕立て上げた鬼の首魁を彷彿させていた。
「ぬぅうッ!!」
だが、ヴライとて、このまま沈む漢にあらず。
断末魔のような咆哮と共に、蠢く触手を捉えて、握り締めると、それに連なる麗奈の動きを、封じる。
「……っ!? 放してっ!!」
麗奈も慌てて、他の触手でヴライの顔面を殴打していく。
この殺し合いの場では、かつて平和島静雄に鉄筋を以って、殴られたこともあるが、それに勝らずとも劣らない打撃が連続して、ヴライの脳を揺らしていく。
だが、幾ら脳内で星が点滅しても、ヴライは触手を決して離すことなく、もう片方の掌に、徐々に炎槍を顕現していく。
やがて。
ブチリ―――!!
掴んでいた触手を引っこ抜く勢いで、ヴライが強引に麗奈の身体を引き寄せる。
引きちぎられた触手から、蒼い血が盛大に噴き出し、ヴライの身体に付着する。
しかし、ヴライは、そんなことなど、意にも介さず。
勢いよく迫る麗奈の身体に、炎槍を叩きつける。
ボン!!と、炎槍が弾け、黒煙を纏った麗奈の身体が勢いよく飛んだ。
「ぁがっ!!」
ゼロ距離からの炎槍の一撃は、麗奈の身体を容赦なく焦がし、胸元から下に大穴を穿った。
「がっ……はッ……」
血反吐を吐き、地面をバウンドした麗奈。
常人であれば、即死は必定。
しかし、麗奈は人ならざる者へと堕ちた存在。この損傷では、絶命には至らない。
ヴライも、それを察しており、とどめを刺すために歩を進めていく。
満身創痍が故、その足取りは、通常の彼のものとは程遠く、覇気に欠けたものだったが、それでも、ヴライは、麗奈の息の根を止めるべく、一歩、また一歩と、近づいていく。
徐々に損傷箇所が再生していく麗奈ではあるが、まだ立ち上がるには至らず。
己が元に到達し、自身の頭蓋を粉砕せんと、剛腕を振り下ろす武士の姿を、なす術なく見つめる他なかった―――
126
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:47:35 ID:pnp4O8I20
「させないかな!」
刹那、一陣の風が森を突き抜けたかと思うと、ヴライの顎に衝撃が走った。
「ガッ……!?」
よろめくヴライ。
一体何が起こったのか――ヴライが、その正体を探らんと視線を正面に向ければ、そこには、自身の顎に蹴りをかましたであろう姿勢の白装束の少女の姿が見えた。
「ぬぅっ!!」
即座に迎撃せんと、拳を振るい上げるヴライ。
しかし、満身創痍であるが故、その動きは鈍く、少女の方が速い。
長髪と獣耳を風になびかせると、ヴライの分厚い胸板目掛けて、掌底を連続して叩き込む。
一歩、二歩、三歩と、ヴライは打撃を浴びるたびに、巨躯を後退させていく。
「てぇああああああああああッ!!」
最後にダメ押しとばかりに、旋風を纏った回転蹴りを、鳩尾に叩きこむと、その衝撃により、地に足をつけたまま、肉体の山が大きく吹き飛んだ。
「貴女は――」
「下がっててと言われたけど、流石に見殺しにすることは出来ないかな」
ヴライから自分を庇うように立つクオンに、麗奈は目を見開く。
クオンは前方のヴライを睨みつけ、拳技の構えを取りつつも、後方の麗奈に語りかける。
「立てるかな、麗奈?
もし、まだ立てるのであれば、力を貸して欲しいかな。
私としては、直ぐにでも確認したいことが山々なんだけど、今は兎にも角にも、この漢を仕留めないといけないから」
ここでクオンは、麗奈と―――その遥か後方で佇むオシュトルの姿を、一瞥する。
成程、クオンは、負傷著しいオシュトルを気遣い下がらせて、自分が前線に復帰したのであると、麗奈は悟った。
「――はい…お願いします……」
ある程度再生が完了した身体を起こすと、麗奈はクオンの隣で前屈みとなって、構えを取る。
麗奈にとっては、クオンが何故自分と面識があるのか疑問は残るが、この助け舟に乗っからない手はなかった。
「……女……また、貴様か……。
オシュトルの供如きが……、どこまでも我の邪魔をしてくれる……!!」
忌々しそうに、二人の少女を睨みつけ、吠えるヴライ。
「それは違うかな、ヴライ――」
クオンはヴライの怒号をものともせず、淡々と言葉を返す。
「私はオシュトルの供なんかじゃない…。
私が共にありたいと思うヒトは、別にいる、かな……」
ポツリと呟きながら、視線を後方のオシュトルに向けるクオン。
彼に注がれるその眼差しは、先刻のトゥスクル皇女としての威厳と覇気に満ちたものとは打って変わり、暖かさと包容さとそして悲哀が入り混じった年相応の娘のものとなっていた。
「貴方には、斃れてもらう……。
私達が、共に歩んでいくために!!」
視線を戻して、その瞳に再び闘気と鋭い意志を宿すと、クオンは力強く踏み込んで、猛然と駆けていく。狙うは、前方に聳えるヤマト八柱の首、ただ一つ。
127
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:48:07 ID:pnp4O8I20
◇
「はてさて、どうしたものか……」
オシュトルは、眼前で繰り広げられている激突を前に、その足を止めていた。
ともかく助力せねばと、痛む身体を引き摺りながら、近寄ってはみたものの、あかりと麗奈、そしてヴライの攻防は、より一層苛烈なものへと昇華しており、自身が介在する余地は見当たらなかった。
「あれが『覚醒』した力とやらか……。
これ程までとはな……」
天より、光弾の雨を降らせて、ヴライを追い立てていくあかり。
その凄絶な出力に、オシュトルは舌を巻く。
下手に首を突っ込めば、自身も巻き込まれかねず、足手纏いにしかなりえない。
故にオシュトルは動けずにいた。
「――ねえ……」
ガシリ
「っ!?」
逡巡する最中、唐突に背後から肩を掴まれたオシュトル。
ビクリとしつつ、振り返る。
「クオン殿……?」
そこには、瞳を揺らしながらオシュトルの顔を覗き込むクオンの姿があった。
(一体何を……? まさか、この期に及んで、またさっきの続きをおっ始めるつもりか!?)
エンナカムイ城で、奥歯を折られた時の痛みが。この殺し合いの会場で、全身をボコボコにされた痛みが。トラウマとして、オシュトルの脳裏に蘇る。
ヴライという共通の脅威を前に、一時的に共闘関係となっていたものの、クオンは元来オシュトルに対して、恨みを抱いている節があった。
故に、また殴り飛ばされるのではないかと、身を固くする。
「……もっと……良く、顔を見せて……」
「なっ!?」
しかし、オシュトルの予想に反し、クオンはオシュトルの顔に両手を添えると、自分の方へと向けただけ。
そしてそのまま、顔の形を確認するかのように、ペタペタとオシュトルの顔を触り出し、凝視する。
「……やっぱり……。そうだったんだ……」
「……?」
オシュトルの顔から手を離したクオンは、何か得心いったかのように呟き、俯いた。
そして、すぐに顔を上げると、オシュトルへと再度向き直り、震える声で、口を開く。
「……何でかな……。どうして、仮面(アクルカ)なんかを……」
「……? 突然何を申されているか、クオン殿?」
「何故、貴方は、仮面を着けて、『オシュトル』の振りをしてるのかな……?」
「…っ!?」
心臓が跳ねる感覚を覚える。
自身には、偽りの仮面の奥に隠された正体が露見しないよう、ウルゥルとサラァナによる認識阻害の術が施されているはず。
顔の造形や、声色の違いだけでは、違和感を覚える事はないはずだ。
しかし、クオンは先の検分によって、それを看破したように見受けられる。
128
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:48:44 ID:pnp4O8I20
(凝視された程度では、悟られないはず。
――まさか、この殺し合いでは、術が無効化されていた?
いや、弱められていたのか……?)
オシュトルの中の思考が、ぐるぐると目まぐるしく回転する。
動揺する彼に対し、クオンは尚も畳み掛けるように言葉を続ける。
「答えて……欲しいかな」
「生憎と、クオン殿が何を申されているのか、某には分かりかねる……。
某はヤマト右近衛大将オシュトル。それ以上でも以下でも--」
「嘘っ!!」
クオンの悲痛な叫びが、オシュトルの耳を打つ。
「貴方は、とてもいい加減で……楽天的で……お調子者で……私が側にいないと、すぐにサボろうとする、そんなヒトだった筈……。
そんな貴方が、何で仮面(アクルカ)を着けて、ヤマトの趨勢を左右する、舞台に立ったの……?」
「クオン……」
今にも泣き出しそうに弱々しく、そして悲しい声で、クオンはオシュトルへと尋ねる。
その様相から、彼女の確信は、もはや揺るがないものだと、オシュトルは悟る。
――ならば、どうする?
――ここで全てを打ち明けてしまうか?
――だが、それは自分を信じ、仮面を託した友への裏切りになってしまうのではないか?
そんな葛藤が、オシュトルの頭の中を駆け巡り、答えるべき言葉を見失う。
「お願い……、本当の事を言ってよ、ハ--」
そして、クオンが、かつて彼に与えたその名前を呼ぼうとした矢先。
ど ぅ ぉ ん !!
「っ!?」
「あれは……」
突如、大気を震わす轟音が辺りへと響き渡る。
二人して目を向けた先には、天に拡がっていく大爆炎と、彼方へと吹き飛ばされていくあかりの姿。
そして、視線を下せば、今しがたの大爆撃を引き起こしたであろうヴライが、麗奈と交戦を続けていた。
先の一撃の反動によるものか、ヴライの動きは鈍く、触手による鞭打が幾重にも、彼の身体に叩きこまれている。
129
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(前編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:49:09 ID:pnp4O8I20
側から見れば、今は麗奈が圧しているようにも見える。
しかし、相手はあの不撓不屈の猛将、ヴライ。このまま終わるような漢ではない。
それに、あかりが退場した今、二対一という数的有利は失われてしまっている。
目下最大の脅威を、確実に仕留めるためには、ここは加勢が必要不可欠だろう。
「待って…。私に、行かせて欲しいかな」
「クオン殿?」
いざ参らんと、オシュトルが足に力を込めた刹那。
クオンが、彼の手を掴んで、押し留めた。
「薬師として、傷だらけの貴方を、送り出す訳にはいかない。
私が、麗奈を助けに行くから、貴方は、ここで待っていて欲しいかな。
後でしっかりと手当てするから……」
物悲しげに、オシュトルの身体を見やるクオン。
知らなかったとはいえ、激情に流されるまま、大切な人を己の手で痛めつけてしまったという、悲哀と後悔の色が、その瞳には宿っていた。
「その……、私が戻ってきたら、包み隠さず話してほしいかな……。
貴方と『オシュトル』の間に、何があったのかを……」
「……。」
オシュトルの目を真っ直ぐ見据えて告げるクオンに、彼は何も言うことができず、ただ沈黙する他なかった。
そんな彼らの鼓膜を突き抜けたのは、またしても爆音。
爆音と言っても、先のものと比べると、かなり小さいものだ。
戦場に目を戻すと、今の爆発を契機に、形勢は反転しており、ヴライが麗奈を追い詰めんとしていた。
「……それじゃあ、行ってくるから……」
その戦況変化を見て、クオンは名残惜しそうに、オシュトルとの対話を打ち切ると、戦場へ向けて、駆け出した。
「……オシュトル……、自分はどうすればいい……?」
去り行く彼女の背中を見送りながら、偽りの仮面を装う青年は唇を噛み締める。
自分の正体を察した少女の悲しげな表情が、脳裏に焼き付き、己が使命と決意に大いに揺さぶりを掛けていた。
130
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/03(日) 10:50:51 ID:pnp4O8I20
一旦、投下終了して、区切りとさせて頂きます。
続きは近日中に投下します
131
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:28:08 ID:kPAszHZo0
投下します
132
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:29:48 ID:kPAszHZo0
◇
「本当に残念だよ、茉莉絵ちゃん」
「あん?」
爆弾とナイフが交錯する度に、森林を揺らす中。
情報屋は宙を飛び交いながら、自身を追尾する『高坂麗奈』を模した魔女へと語りかける。
「茉莉絵ちゃんは、とても人間らしい人間で、俺個人としては、気に入ってたんだよ。
だけど、君は化け物に成り下がってしまった――」
爆音と爆炎の合間を縫って、眉根を寄せるウィキッドへと語り掛けていく臨也。
含み笑いを浮かべながら、不敵にも自身の対峙する相手へと対話するその様相は、池袋で暗躍する、いつもの彼のそれに違いない。
しかし、それは表面上だけの話で、その実、彼の内では違和感と戸惑いに似た感情が渦巻いていた。
「仮に、君が化け物であることを拒んで、元の人間に戻ろうと足掻くものなら、俺はまだ君を人間として愛していただろう。
もしかしたら、君が元に戻るように、手を貸していたかもしれない――」
臨也は人間を愛しているし、人ならざるものが人間を手に賭けようとすることを良しとしない。そこに間違いはない。
但し、彼の愛する人間と、自分の命を天秤にかけた時、折原臨也は、躊躇うことなく、自分の命を選ぶ類の男だ。
臨也は、あくまでも趣味の延長として、人間を愛しているだけであって、博愛主義者という訳ではない。
彼の人間観察の果てに。救われた人間は少なからず存在する。
その中には、彼を讃えるような者もいた。
しかし、彼の本質は、極めて独善的で利己的な外道に過ぎない。
故にいくら愛しているとはいえ、自分の命が危うい場面が到来すれば、他人を切り捨てるも厭わない。より永く生き延びて、より多くの人間を観察し続けるという大義名分を掲げて――。
そんな自身の性分を、臨也は十全に理解していたつもりだった。
133
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:30:25 ID:kPAszHZo0
「だけど、君は人外の力を受け入れて、人間には成し得ないやり方で、アリアちゃんを殺めてしまった。
その時点で、君は、俺の敵になってしまったんだ――」
故に、臨也は現状に至る過程について、戸惑いを感じていた。
ウィキッドが排除すべき敵であることには違いない。
しかし、鬼と化した彼女の戦闘能力は、臨也の想定を遥かに凌駕しており、まともにぶつかっても無力化することは至極困難であることを、先の戦闘によって痛感させられていた。
にも関わらず、彼女がヴァイオレット達に手を掛けた場面で、彼女を足止めし、ヴァイオレット達の逃走を手助けする行動に出てしまった。
いつもの臨也であれば、頃合いを見計らって「じゃあ、お疲れー」とでも言いながら、逃走を図っていたことだろう。ウィキッドに蹂躙されるヴァイオレット達に見切りをつけて――。
「だから、俺は君を排除するよ、茉莉絵ちゃん」
何故自分らしからぬ、浅はかな行動に出てしまったのか。
その答えは明らかで、眼前で逝った友人の死にあるだろう。
あれを契機として、臨也は完全に調子を狂わされてしまっている。
「他でもない、人間を愛する俺自身の為に、さ」
ナイフを投擲し続けながら、言葉を紡ぐ臨也。
表面上は、ウィキッドに対する、改めての宣戦布告と見て取れる。
しかし、その実、自身の違和感と戸惑いに蓋をして、尤もらしい建前を自身に言い聞かせる意味合いも孕んでいた。
「どうでもいいわ。早く死ねよ、お前」
そんな臨也の理屈と、言葉の裏にある心情など、毛ほども興味の無いウィキッドは、苛立ちを乗せたまま、攻撃を加速させていく。
木々の上を飛び移りながら、無尽蔵に放り投げられていく爆弾。
臨也はこれを撃墜していくが、爆撃の雨は、やがて彼の反応速度を凌駕する勢いで、激しさを増していく。
そして、捌ききれない爆弾から逃れるため、左斜め後方の木に向けて、くるりと身体を捻りつつ、跳躍。
しかし、ウィキッドは、いよいよもって、鬼の脚力にて、全力で臨也を追尾。
猛スピードで肉薄せんとするウィキッドに、臨也は舌打ちとともに、ナイフで迎撃せんとするも――。
134
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:31:06 ID:kPAszHZo0
「きゃはっ♪ 遅いっつーの!!」
ざしゅっ!!
爪を突き立てたまま、振り下ろされた魔女の右腕。
その一閃が、臨也の顔面を左眼から左頬にかけて、縦に切り裂き、鮮やかな紅が弾け飛んだ。
「……。」
灼熱と共に左の視界が遮断されるも、臨也は苦悶の声一つ漏らさず、ウィキッドの腹部をすれ違い様に切り裂くと、再び後方に宙返りを決めながら、着地。
腹を裂かれても、さして気にする素振りもないウィキッドは、狂気の孕んだ笑みを崩すことなく、臨也に向けて、飛び掛かる。
「きゃはははははっ!!」
風を裂く音とともに、迎撃のため投擲されたナイフが、身体に生えていく。
しかし、一切怯むこともなく、獲物へと猛進するその姿は、肉食獣を彷彿させる。
ざくっ!!
「……っ!!」
「おいおい〜、痩せ我慢は良くないよ、臨也おじさん。
痛いなら、痛いって言っていいんだよ? きゃはっ!!」
右肩口を指で貫かれた臨也は、顔を顰めつつ、右斜め40度向かいの木へと、跳び上がる。
しかし、魔女はあっという間に、距離を縮める。
そして、一思いに殺そうとするのではなく、じわじわと嬲るようにして。
ざしゅっ!!
ぐしゃり!!
ざくっ!!
斬って。裂いて。刺して――。
血飛沫と肉を抉る音を、歪なリズムで奏でていく。
折原臨也という人間の全身を、楽器として。
「おらっ、どうしたよ!!
哭けよ、叫べよ!! 許しを乞えよ!!
もっともっと、私を愉しませてくれよ!!」
ごりっ!!
ぐしゃっ!!
嬌声を上げながら、臨也に対して、指の一本、爪一本の刃を交互に振るう。
時には切り刻み、時には肉を抉っていくも、一つ一つの攻撃は手を抜いており、致命傷に至らないものばかりだ。
これは一種の拷問――身体的な痛みを連続させることで、何をしても涼しい顔を装うとする眼前のいけ好かない男の精神を追い詰め、苦悶の表情を引き出したいという、ウィキッドなりの嗜虐的趣向によるものだった。
故に、ウィキッドは臨也の表情をねっとりと観察しながら、痛めつけていく。
135
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:31:38 ID:kPAszHZo0
「悪いんだけど、人間でもない君を楽しませるつもりはないよ」
「あっ?」
そんな折、臨也はボロボロになりながらも、表情一つ変えることなく、ウィキッドに返答した。
「仮に茉莉絵ちゃんが人間のままだったとしたら、俺は君の喜ぶさまを観察するために、痛がっていたかもしれない。
泣き叫んでいたかもしれない、みっともなく命乞いをしていたかもしれない―――」
ざしゅっ!!
ぐちゃっ!!
茉莉絵に追い立てられ、執拗に身を削られながらも。
沸騰しそうな痛覚を抑え込み、平然を装いながら、情報屋は、脚を動かし続け、宙を舞う。
「だけど、君は人間を辞めた化け物だ。
化け物を喜ばせる趣味は、俺にはないよ」
「ほざいてろよ、変態野郎がぁっ!!」
尚も余裕があるような素振りを崩さない臨也に、苛立ちを隠せなくなったウィキッドは、手榴弾を顕現。
そのまま、むかつく男の顔面を、グチャグチャにしようと投擲する。
ひゅん!!
その動きを予期していた臨也が、跳躍しつつナイフを投擲。
片方の視界を遮られても尚、その精度は健在であり、手榴弾を撃墜。
豪快な爆音と共に、空中で爆炎が弾けると、瞬間的に、魔女の視界が、黒煙に塗り潰された。
「それと、人間を辞めた君に対して、敢えて忠告するけど―――」
瞬間、ウィキッドはその双肩に、ずしりとした重みが加わるのを感じた。
咄嗟に真上を見上げると、そこには血に塗れながらも、憎たらしいことこの上ないドヤ顔を決める、いけ好かない男の姿。
「てめ――」
手を伸ばして、その黒と紅色で彩られたジャケットを掴もうとする。
臨也はというと、ウィキッドの肩を、跳び箱代わりにして、後方へと跳ね上がる。
そして、空中で、木の葉のようにくるりと身を翻すと。
「あまり俺達、『人間』を嘗めない方が良いよ」
冷たい声色の宣告とともに、チラリとウィキッドの後方を一瞥する臨也。
ウィキッドもまた怪訝な表情を浮かべつつ、そちらに視線を移してみると――
「……今度こそ、お前を否定してやるよ、ウィキッド……!!」
重厚な黒の機関銃を携えた、カナメがそこに突っ立っていた。
136
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:32:08 ID:kPAszHZo0
――そういうことかよ……!!
思わず、歯噛みするウィキッド。
あまりにも臨也がムカつかせてきたため、自ずと魔女の視野は彼のみを捉えており、熱くなりすぎていた。
故に、放置していたもう一人の存在を失念していた。
そして、悟る――臨也がこのカナメの戦線復帰を予期していたとすれば、他ならぬ自分こそが、掌の上で踊らされていた側なのであったと。
その事実に怒りを覚える間もなく。
「うぉおおおおおおおおおおおおッッーーー!!!
咆哮と共に、カナメの握る細長い銃口が火を噴いた。
瞬く間に、ゼロコンマ秒置きに連射される鉛玉が、跳躍中のウィキッドの身体へと殺到。
かつて、植物を操るDゲームプレイヤーの鎧を、学園都市の最新機兵を、ヤマト最強の肉体を穿った銃弾の雨は、それらよりも遥かに華奢で柔らかい少女の身体を、容赦なく貫いていく。
「ぐっ、が―――」
ステップが使えない故、宙での回避は困難。
為す術もなく、蜂の巣にされていくウィキッド。
口内を撃ち抜かれ、声を出すことも叶わず。
顔面を穿たれ、表情を歪めることも叶わず。
身体の至る所に、風穴を開けられては、鮮血と臓腑を撒き散らしながら、地に撃墜される。
それでも内に宿りし殺意は尽きることなく、ズタボロの身体のまま、起き上がらんとするも――。
ダダダダダダダダダダダッ!!
弾幕の圧に押されるがまま、何とも滑稽なダンスを刻みつつ、蹂躙される。
だが、それでも尚、ゾンビのように、カナメ目掛けて歩を進めようとする。
「チィッ!!」
そんなウィキッドに、尚も銃弾を浴びせ続けるカナメは、舌打ちを抑えられずにいた。
一見すると、優勢な立場にはあるのは確かであるが、どれだけ身体を穿っても、彼女が倒れ伏す気配は一向にない―――所謂、不死身のゾンビだ。
鬼の力を得たという話は聞き及んでいた。そして先刻、臨也によって眉間にナイフを突き刺されて尚、平然としているところを見せつけられ、理解はしていた。
しかし、このように直接相対することで、眼前の自分と齢変わらぬ少女が、人外の域の足を踏み入れた者であると、改めて痛感させられていた。
137
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:32:40 ID:kPAszHZo0
(これだけじゃ、駄目だ……。こいつを仕留めるためには――)
機関銃の掃射音に紛れて、焦燥に満ちた表情で、カナメが思考を巡らせていた最中。
ササッ――
カナメの真横を、黒色の影が通り過ぎた。
「!? 折原!?」
目を見開くカナメを他所に、臨也は、機関銃の射程の外より、ウィキッドに向けて、回り込むように駆けていく。
銀色の凶器を、ウィキッドの首元目掛けて投擲しながら。
(首輪か…なるほどな……)
ウィキッドを人外たらしめた鬼の首魁もまた、彼女と同様に、恐るべき再生能力を有していたと聞き及んでいる。
しかし、そんな不死の怪物も、この殺し合いの枠組みに囚われたままだという。
それは、つまり、参加者の枷たる首輪が、鬼にも等しく効力を有するという証左――爆発すれば、如何なる再生能力を有していたとて、その命は潰えるといえよう。
事実、今現在銃撃に晒されているウィキッドもまた、その自覚はあるようで、穴だらけの身体を懸命に揺らして、機関銃の掃射やナイフの投擲から首輪を護るべく、やり過ごそうとしている。
(なら、俺は――)
カナメは、機関銃を握る腕に、より一層の力を込める。
絶え間ない反動により、腕と肩に強烈な負荷が掛かるが、歯を食い縛り、こらえる。
もう片方の手に更なる多量の弾丸の束を創生しつつ、これを絶え間なく装填。
目標の距離と、武器の特性から鑑みると、カナメが僅か数センチの首輪を直接狙い撃つのは難しい。
であれば、カナメとしてはこのまま、弾丸の雨を浴びせ続けて、魔女の足止めに専念―――目標との距離を縮めつつ、より精密な投擲を行える臨也のサポートに集中するのが得策であろう。
ダダダダダダダダダダダッ!!
変わらず、ウィキッドは弾丸の嵐を浴び続けて、壊れたマリオネットのように、前後左右へと不恰好なテンポで踊り、血液と肉片を散らしている。
その合間も、臨也によるナイフの投擲は続いているが、僅かに身体を反らしたりなどして、生命線たる首輪には至らず。
138
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:33:12 ID:kPAszHZo0
臨也とウィキッド、両者の距離は、着実に縮まってきている。
そして、いよいよ、カナメが臨也に射撃を及ばぬよう、掃射に配慮した矢先。
「っ!?」
カナメは目撃した。
眼球が飛び出し、鼻も抉れ、歯茎も剥き出しになった、もはや原型を留めていない『高坂麗奈』の面貌--そこから、ペロリとまるで悪戯をする小学生のように、舌なめずりをする、その刹那を。
次の瞬間には、魔女の手に相当していた部位に、バスケットボール程のサイズの物体が顕現。
接近を試みていた臨也は、それを視認し、咄嗟に踏み止まる。
しかし、時既に遅し。その物体は引力に従って、地面と垂直に落下。
ど か ん !!
機関銃の掃射音ですら掻き消すほどの爆音が轟くと、炎と煙が巻き上がり、カナメの眼前からウィキッドと臨也の姿が消えた。
(自爆だと……!? いや、これは……)
土煙の向こう側に、銃口の照準を向けつつも、下手に掃射はできない。
ウィキッドだけならまだしも、味方である臨也の位置取りも分からないからだ。
しかし、攻撃の手を止めたカナメ目掛けて、土煙を突き破る様にして、何かが飛び出してきた。
思わず、引き金を引こうと指に力を込めるが--。
「っ!? 折原っ!?」
それがボールのように投擲された折原臨也の生身であると察すると、引き金から指を外した。
臨也はというと、意識は健在のようで、カナメと激突する寸前に、苦い表情を浮かべたまま、くるりと宙返りすると、後方に向けて、ナイフを投擲。
土煙の向こう側から、続け様に放り投げられてくる爆弾を、狙い撃つ。
ナイフは、見事に爆弾を捉えて、カナメ達に到達する前に爆発。
だが、その爆発の余波で、カナメと臨也は、共に吹き飛ばされてしまい、後方の木々に叩きつけられてしまう。
139
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:33:32 ID:kPAszHZo0
「いやぁ〜流石の私でも、さっきのはヤバかったわぁ」
先の爆発で生じた煙が晴れると、そこから姿を見せたのは、ウィキッド。
蜂の巣状態だった全身は、すっかり復元されており、乱れた髪を掻きながら、まるで世間話をするかのように、ヘラヘラと笑ってみせる。
あの瞬間、窮地に陥ったウィキッドは、迫りくる臨也を巻き込む程度の自爆を敢行。
無論自身も爆撃に巻き込まれることにはなったが、爆炎でカナメの視界を遮り、機関銃の掃射を停止させることに成功。
爆発の衝撃で地面に倒れ伏せた臨也の首根っこを掴む頃には、既に基本的な運動をこなせる程には、身体は再生していた。
そして、臨也を生きたまま、カナメがいた方向へと、ぶん投げた上、追撃とばかりに手榴弾を投擲―――その結果として、地に膝をつく二人を、勝ち誇った表情で見下ろすまでに至ったのである。
「まぁ、あんたらも、よく頑張った方なんじゃない?
それなりにはさぁ……」
ウィキッドは口角を吊り上げながら、カナメ達の健闘を讃える。
しかし、その声色には嘲りの色が濃く表れていた。
「--まだ、終わっちゃいねえっ!!!」
刹那、カナメはその手に銃を顕現。
咄嗟にウィキッドに銃口を定めて、躊躇なく引き金を引こうとした。
それに呼応するかのように、臨也もまたナイフを投擲しようとする。
「いいや、終わりだっつーの!!」
だが、二人よりも早くウィキッドがポイっと、手心な爆弾を放り投げる。
爆音とともに、二人の身柄は再び跳ね飛ばされ、腐葉土の上を、まるでボールのようにバウンドしていく。
ウィキッドは、爆風に運ばれていく二人を追って、跳躍。
臨也とカナメは、地面を転がった後、どうにか起きあがろうとするも、その目前にウィキッド は飛び降りた。
「……ぐっ、ウィキッド……」
「さぁ、そろそろ、処刑タイムといこうか!!」
もはや趨勢は決したと言っても良いだろう。
ペロリと舌なめずりをしながら、眼前の二人の獲物をどう料理してやろうかと、思考を巡らすウィキッド。
カナメは唇を噛み締め、臨也は不愉快そうに眉を潜ませる。
「まぁ、安心しろよ――」
けたけたと上機嫌に笑いながら、魔女は二人の生殺与奪を己が手中に収めたことに酔いしれる。
「たっぷりと、痛くしてやるからさぁっ!!」
そして、眼前の二人を料理せんと、いよいよ行動を起こしたその時だった。
「――させません!!」
「っ!?」
雷光の如き金色の影が、魔女の視界に飛び込んできたのであった。
140
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:33:56 ID:kPAszHZo0
◇
EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!!
EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!!
EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!!
その者にとって、現在進行中の事象は、予期せぬものであった。
と同時に、己が存在意義を揺るがす非常事態であると、全細胞が警鐘を鳴らした。
「い”だっ!! あ“だま……、頭がぁあ!!」
「おい、早苗っ!?」
故に、早苗の脳に巣食う蟲は、再び宿主の脳に工作を開始する。
何の因果か、本来消失されて然るべき、真実の記憶に、巡りめぐって到達してしまった宿主――彼女を真実から遠ざけるために、激しいノイズを奏でながら、辿り着いたその領域を完全に塗り潰さんとしていた。
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
「い"あ"あ"あ"あああああああああああああああっ!!」
「クソっ、またこれかよ。一体どうなってやがる……」
怒涛の勢いで押し寄せるノイズと頭痛に、早苗は、涙と涎と鼻水で、顔をぐちゃぐちゃにしながら悶え、泣き叫ぶ。
再び到来したその異常な様相に、彼女に馬乗りになっていたロクロウが放れると、彼女は地面の上で転げ回り、頭をガリガリと掻き毟りながら、上擦った叫び声を上げ続ける。
悶え苦しむ彼女を案じて、ロクロウは彼女を介抱せんとするも、少女は無意識のまま、その手を払いのけた。
「嫌ぁっ!! わ”だじの……私の中に触れないでぇ!!」
「っ…! お前……」
ロクロウにとっては、己が差し出した救いの手を、拒絶されたようにも見える。
だが、その実、彼女が拒絶しているのは、ロクロウに対してではなく、激痛と共に脳内を掻き乱されているという、この正体不明の異物感に対してであった。
このままでは、折角思い出すことのできた手紙のことを、また忘れてしまうかもしれない―――本能的に、そのように悟った早苗は、そうはさせまいと、歯を食いしばりながら、強く念じる。
絶対に、この記憶だけは死守する、と――。
家族への想いを綴った、大切な手紙。そして、それを仕上げるに至った過程。
早苗は、激しい頭痛の渦中にあって尚、唯一の心の拠り所に繋がるそれらを、失うまいと、必死にもがき続ける。
141
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:34:23 ID:kPAszHZo0
EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!!
EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!!
EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!! EMERGENCY!!
少女の奥に蠢くその者にとって、宿主の抵抗もまた、予期せぬものであった。
その者は、己が宿命たるオシュトル抹殺がために、少女の記憶を、幾度も改竄してきた。
ある時は、オシュトル自身の心象を悪くするため――。
ある時は、オシュトルを庇い立てる証言を行う者の心象を悪くするため――。
しかし、その改竄にも綻びがあった。
ひょんなことから掘り起こされてしまった、手紙に纏わる記憶が、まさにそうだ。
この記憶が確立してしまうと、これまでの改竄内容と矛盾が生じてしまう。
故に、その者は、その記憶を抹消せんと奮起をするが、少女の内にある深層心理が、それを許すまいと抗戦する。
余程この手紙に思い入れがあるのか、それとも、宿主たる少女が「奇跡」を司る巫女であるからなのか――真相は定かではない。
何にせよ、該当の記憶を侵さんとすると、すぐに彼女の深層心理が、領域外へと追い返そうとする。
これに負けじと、蟲もまた一斉に攻勢をかけていく。
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
「あ”ああああああああああああああっ!!」
脳内に濁流のようになだれ込んでくる、大量のノイズと、尋常じゃないほどの激痛。
その重荷は脳だけでは捌ききれないようで、早苗は、言葉にならない悲鳴を上げながら、ビクンビクンと、陸に打ち上げられた魚のように、のた打ち回る。
常人ならば発狂は必至の状況である。
しかし、激痛の激流の中でも、意識だけは失わないようにと、彼女は必死に耐える。
142
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:35:01 ID:kPAszHZo0
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
耐える。耐える。耐える。
涙に溺れて、喉がはち切れんばかりに喚きつつも、彼女は耐え続ける。
負けるものかと、己が意識に喝を入れて。
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
尚も、ノイズと激痛が脳内を掻き乱さんとする。
早苗は、ひたすらに耐える。
石にかじりついても、屈してはならないと、自分自身を鼓舞して。
耐える。耐える。耐える。
耐え続ける。
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――
やがて―――
「……ハァハァ……、ロ、ロクロウさん……?」
「落ち着いたか、早苗?」
永遠とも思えるようなノイズと頭痛の嵐が収束し、ぐちゃぐちゃになっていた視界が晴れると、浮かない顔をして此方を覗き込むロクロウの姿が、早苗の目に映った。
腐葉土の上で、転がり回っていた筈なのに、今は不自然なほど床が柔らかだ。
観察してみると、早苗が寝転んでいた地面には落ち葉が敷き詰められており、簡易的なベッドのようになっていた。
辺りを見渡すと、先程いた場所とは、幾分か離れているようで、人目につきにくい木陰にあった。
恐らく、早苗が苦闘している最中で、ロクロウが運んだのであろう。
143
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:35:18 ID:kPAszHZo0
「……あ、あの、ロクロウさん……」
「どうした?」
恐る恐る、早苗は、内より込み上げる震えを殺しながら、ロクロウに尋ねる。
まるで、爆発物を取り扱うような、慎重な声音で。
「ロクロウさんは、私を殺さないんですか?」
ロクロウはうんざりした様子で、「あのなぁ…」と、溜め息を吐く。
そして、面倒くさそうに、頭を掻きながら、口を開く。
「さっきも言っただろ。俺はお前を斬らんし、殺さん。
お前が死んじまったら、恩を返せなくなるしな」
「だ、だけど……!! ロクロウさんは殺し合いに乗っていて―――」
「仮に、俺が殺し合いに乗っていたとしたら、お前が頭を抱えて転げ回っていた時に、手を下していただろうよ」
「……。」
あっけらかんと言い放つロクロウに、早苗は二の句が継げず、押し黙る。
ロクロウの言うことは、尤もだと思ったからだ。
今、自身が生存したまま、ここに在る状況そのものが、彼の言っていることの証左にもなり得るだろう。
「それで結局、お前はどうするんだ?
まだ、俺を乗った側として、排除しにくるのか?」
そっちがその気なら、まだまだ付き合うぜと言わんばかりに、ロクロウは早苗を見据える。
早苗は、その眼光にたじろぎ、目を逸らす。
そして、手元で握りしめている手紙に、チラリと目を向けると、無言で逡巡する。
「わ、私は―――」
やがて、意を決し、言葉を紡ぎだそうとしたその瞬間―――。
ゴ ォ オ ン !!
凄まじい爆発音と同時に、彼女たちの視界は、紅蓮の光に包まれた。
144
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:35:59 ID:kPAszHZo0
◇
「――臨也様、カナメ様……」
夜天の森の中、ヴァイオレットは全力で疾走していた。
彼女が向かう先は、魔女の踊り場。
一度来た道を引き返し、再び同じ戦場に向かわんとしている。
『まず、ヴァイオレットさんは、偽麗奈さんことウィキッドと交戦している、お二人の救出をお願いします』
誰を救いにいくべきか――その選択に悩めるヴァイオレットに、琴子は聞き取った情報を咀嚼して、合理的な解を、彼女に示した。
ともかく今は、仲間を増やすべき――故に、まずは最短距離にいる者達を、救済すべきだと。
『彼女を撃破する必要はありません。とにかく、どうにか振り切って、お二人を引き連れて、此方に戻ってきてください』
過剰強化されているウィキッドの身体能力と執拗さを鑑みれば、無理難題に過ぎる注文だ。
しかし、ヴァイオレットは、引き受けた。
出来る出来ないの話ではなく、絶対にやり遂げてみせるという決意の元に。
そして、臨也やカナメだけではなく、その先にある早苗、オシュトル、麗奈――全ての人の”いつか、きっと”を失わせないという、確固たる意思を以って。
『それと、再合流の暁は、今の合図をお忘れなく』
手段は不明だが、ウィキッドは他者に化けることが可能。
それを鑑みて、琴子の発案により、三人は、再合流に備えて、本人確認のための合図も設けた。
再会できたと思った矢先に、不意打ちを食らう危険性を回避するためだ。
『――それでは、また後程、馳せ参じます。
今しばらくお待ちくださいませ、久美子様、岩永様……』
そうして、ヴァイオレットは彼女達を茂みの中へと匿ったまま、戦場へと急行して、今へと至っている。
ダダダダダダッ!!
戦場からは、絶え間なく、銃声が鳴り響いている。
さしもの彼女も、これだけの運動量を短期間で行っていては、息が上がっていく。
しかし、それでも、自動手記人形はペースを落とすことなく、風と共に駆け抜けていく。
145
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:36:31 ID:kPAszHZo0
ど か ん!!
鼓膜に突き刺さる銃声が近くなってきた頃に、一際大きな爆発音が木霊した。
それを受けて、ヴァイオレットは、更に足を急がせる。
「まぁ、安心しろよ――」
やがて、木々を抜けた先で、彼女は、その光景を目の当たりにする。
夜空に浮かぶ月を背に、頭部から全身にかけて血に染まり、地面に膝をつく臨也とカナメの姿を。
そして――。
「たっぷりと、痛くしてやるからさぁっ!!」
死刑執行人が如く、その二人に手を掛けんとする『高坂麗奈』の姿を。
「させません!!」
瞬間、ヴァイオレットは地を蹴り上げると、臨也とカナメを庇うように割って入る。
間髪入れずに、ウィキッドの胴元を狙い、斧による斬撃を見舞う。
ウィキッドは一瞬だけ面食らった様子を見せるも、即座に口角を吊り上げつつ、上体を反らして、斬撃を躱す。
そのまま、臨也のパルクールさながらに、バク転で後方に距離をとりながら、爆弾を投擲する。
「……!!」
ヴァイオレットも、即座に反応。
まずは、真横にいたカナメを回し蹴りで、吹き飛ばす。
カナメが苦悶の声を上げ、地面を転がっていく中、臨也が着ているフード部分を引っ張り上げると、そのまま後方へと跳躍。
瞬間、手榴弾は爆発。
その爆撃で、地面に数メートルほどの穴が穿たれるも、蹴り飛ばされたカナメには爆撃は及ばず。自身と臨也も、爆炎の圏外へと退避していたため、事なきをえる。
これら一連の攻防に要した時間は、数秒にも満たなかった。
「悪りい……助かったぜ、ヴァイオレット……」
カナメは、ふらつきながらもどうにか立ち上がり、拳銃を握りしめる。
その銃口をウィキッドに向けて、臨戦態勢をとる。
度重なる戦闘で身体はボロボロながらも、その闘志は死んでいない。
146
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:37:04 ID:kPAszHZo0
「……やれやれ……、俺としては、ヴァイオレットちゃんは、彼女達とそのまま逃げ延びる想定だったんだけど……。どうして、戻ってきたんだい?……」
臨也の状態は、カナメ以上に悲惨なものであった。
敢えて爆撃を使わず、爪や貫手を利用した、魔女の執拗な攻撃は、情報屋の全身に、無数の刺傷と裂傷を刻んでいた。
それらの傷口からは血が溢れて、黒の装束を紅色に染め上げている。
整った面貌の左半分は、切り傷で血に塗れ、左眼は完全に開けなくなり、機能しなくなっている。
「私は、ただ誰にも死んで欲しくない…。それ以上の理由はございません」
「ははははっ……、ヴァイオレットちゃんは、実に一貫しているね。
過去の体験を糧にして、自分の信念を、自分の行動指針に反映させている――そんなヴァイオレットちゃんの実直さも、人間らしくて良いよね……」
くつくつと愉快そうに笑いながらも、全身に力を込めて立ち上がる臨也。
満身創痍であるのは一目瞭然であったが、それでも、魔女に向けて銀色の刃を向けて、抗戦の意思を露わにする。
「口を開けば、気持ち悪いことをペラペラと……。
強がってんのが丸分かり。痛いぞ、おっさん」
散々痛めつけてやったのに、未だにさも余裕があるかのように振る舞う臨也。
いつも通りの、平常運転ともいえる、その不遜な態度に、不快感をあらわにしつつ、ウィキッドは、ヴァイオレットの方へと向き直る。
「おい、ポンコツ人形。アンタのお涙頂戴の御託はどうでもいいんだけどさぁ……。
あのクソ女のダチの――久美子達は、どこにいんの?」
「貴方に、答える必要はございません」
「あっそ、やっぱそう言うわな」
予想通りの回答に、ウィキッドは肩をすくめて嘆息したかと思うと。
「……それじゃあさ――」
刃物のような眼光を、ギロリと光らせて、瞬発的にヴァイオレットへと肉薄。
その頭蓋を串刺しにせんと、貫手を繰り出した。
「とっととアンタら殺して、あいつら回収しにいくとするわぁ!!」
本音としては、この癇に障る三人を、もっともっと痛めつけて、精神的にもグチャグチャにして、減らず口を叩けなくしてやりたい。
しかし、そんな悠長なことを言っていられない。
カナメも臨也も、再三痛めつけてやったが、他にも無惨や麗奈といった殺したい連中は存在する。
特に麗奈に関していうと、あの女を絶望に陥れるための、格好の材料が転がっている。
その材料たる久美子の回収や、その後の麗奈達と相対することを考えると、これ以上ここで時間を浪費するのは得策ではなかった。
147
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:37:22 ID:kPAszHZo0
「……っ!!」
ヴァイオレットは、反射的に斧を滑らすように振るい、ウィキッドの貫手を弾く。
それに続くかのように臨也は、ポケットに手を忍ばせ、得物を取り出し、カナメは、手に握る銃の引き金に、指をかける。
―――精々無様に踊って、殺されろ。
魔女は、三人に、呪いにも似た感情を込めた笑みを向けながら、空中で身を翻す。
そして、もう片方の手で、手刀を作り出すと、ヴァイオレットの脳天を割らんと、振り下ろす。
ゴ ォ オ ン !!
刹那、けたたましい自らが生み出す爆音とは比較にならない轟音が、鼓膜を揺さぶったかと思うと―――。
バリバリバリッ……
「あぁんっ!?」
まるで大津波のように、木々を薙ぎ倒しながら、凄まじい勢いで押し寄せてくる、紅色の炎の波を目にした。
「――はぁ…!?」
それは、一言で形容するのであれば、終末の炎。
ヴァイオレット達もまた、眼前に迫りくる爆炎風に瞠目する。
回避しようにも、圧倒的な質量を誇るため、かいくぐることは難しく、何よりも速すぎる――。
魔女の踊り場は、一瞬にして紅色の波によって、呑み込まれてしまうのであった。
148
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:37:56 ID:kPAszHZo0
◇
「麗奈、合わせて!!」
「はいっ…!!」
クオンと麗奈は、声を掛け合いながら、ヤマト最強を相手に、奮戦していた。
まずは前衛としてクオンが突貫。持ち前の俊敏さを活かして、ヴライの繰り出す、火炎を帯びた剛腕を掻い潜ると、覇気を伴った拳を一撃、二撃と叩き込む。更に三撃目として、回転蹴りを見舞わんとしたところに、ヴライが反撃としてその拳を振るわんとすると、側面から麗奈が触手を射出。
そのまま、側頭部を殴打すると、ヴライはぐらつきながら、拳の向け先を触手に変更。薙ぎ払うかのようにして、腕を振るって、触手を焼け切る。
しかし、その間にクオンの回転蹴りが、ヴライに炸裂。
ヴライは呻き声を上げながら、後方へと蹌踉めく。
そこに、麗奈の触手が追い打ちをかけて、筋骨隆々の肉体を痛めつけていく。
共通の脅威への対処のために、即席で結成された共闘関係---麗奈に至っては、クオンの素性をほとんど知らない。
にも関わらず、二人は、息の合った連携で、ヴライを翻弄していた。
「ぬぅっ……!!」
対するヴライは、精彩さを欠いていた。
それも無理はない。連戦に次ぐ連戦による、満身創痍となった肉体。
そして、"窮死覚醒"による、己が気力と火神(ヒムカミ)の力の酷使---活火山を彷彿させる絶対的な火力も、研ぎ澄まされた武技を繰り出す刃の如き機敏さも、今の彼は発揮する事叶わず。
一撃必倒の拳を振るえば空振り、火炎を噴けば触手を焼き切るに止まり、二人の少女が織り成す、拳撃と脚撃と鞭撃の嵐を浴びるがままとなっている。
「図に乗るなよっ、女共!!」
追い詰められた武士は、吼えた。
裂帛の気迫と共に地面を踏み抜くと、豪炎が走り、大地は陥没。その楕円の外周からヴライを守護するかのように、先端の尖った、槍のような岩が次々と隆起。
149
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:38:29 ID:kPAszHZo0
「くっ……」
至近距離で、奮戦していたクオン。
突如足元より、浮上した凶器に、咄嗟に身体を捻る。皇女の白装束を掠めるも串刺しを回避し、事なきを得る。
しかし、ヴライを付け狙っていた麗奈の触手には、岩槍の間に絡められ、その動きを殺される。
「我はヴライ……。ヤマト八柱、剛腕のヴライぞっ!!」
自ら築き上げた岩槍の群体を踏み越えて、ヴライは、体勢を崩したクオンに肉薄。
その頭蓋目掛けて、渾身の拳を突き立てんとする。
ぼ ん !!
異変が生じたのは、その直後であった。
手榴弾のような甲高い爆音とともに、ヴライの顔の左半面が爆ぜた。
爆炎と共に、炸裂する血肉。
「--貴方が、どこの誰だか知ったこっちゃない。
そんなこと、どうだっていい!!」
己が肉体に生じる異常事態に、目を見開くヴライ。
その真紅の視線の先に現れた麗奈は、その背に触手を蠢かせながら、叫ぶ。
「貴方に、お願いしたいのはたった一つだけ……さっさと死んで!!
私達が全てを取り戻すために、死んでいなくなってよ!!」
ぼ ん !!
ぼ ん !!
ぼ ん !!
麗奈のオッドアイが妖しく煌めくと、ヴライの首から胴にかけて、正体不明の爆撃が続々と炸裂していく。
「ぬぐうおぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
断末魔の咆哮を上げるヴライ。
当人は知る由もないが、彼を襲う爆薬の正体は、全身に浴びていた、麗奈の蒼の返り血。
ビエンフーを葬った時のように、体内に注入し内より起爆することは叶わなかったが、それでも、彼女は、自然な流れの中で、ターゲットの表面に起爆剤たる血を塗りたてることに成功--その後、一連の攻防の中で、発火のタイミングを伺っていたのである。
やがて、蒼の爆撃が収まる頃合いには、ヴライの全身は血肉が弾け、黒の焦げ目が点在する、見るも悲惨なものへと変貌していた。
それでも尚、気概を以って不倒を貫くのは、流石はヤマト最強といえるだろう。
150
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:39:01 ID:kPAszHZo0
「助かったかな、麗奈!!」
そんなヴライに追い打ちをかけるのはクオン。
爆撃の嵐の後に、間髪入れず跳び上がると、死体も同然の漢の身体に拳を、蹴りを、膝を叩き込んでいく。
そこに更に、麗奈も触手を以って、畳み掛けていく。
殴打音が奏でられる都度、ヴライの巨躯は激しく揺れていく。もはや、めった打ちといっても過言ではない。
「おおおおおおおおおお--っ!!」
声にもならない苦悶を吐き続けるヴライ。
己が殴られ、痛覚が刺激される都度、意識が遠のいていく。
いよいよもって、己が命の灯火が終焉に向かっていると悟りながら、ヴライは認めることになる――
「ッ!!」
しかし、ヴライの双眸は捉えてしまった。
暗闇に染まりつつある、己が視界の中。
二人の女が、自身に怒涛の攻勢を仕掛けるそのずっと奥、その先に。
自身と同じく、ヤマトの守護者たる象徴の仮面(アクルカ)を装い、こちらの様子を覗き込む、己が宿敵の姿を。
「--オシュトル……」
かつて二度も自身に土をつけ、帝からも、その強さと将器を讃えられた、ヤマトの英傑。
偉大なる先帝が亡くなられた今、次代のヤマトを束ねるのは、真なる強者たる者--つまりは、己か彼の者になるのが必然であると考えている。
故に、この闘争は、ヤマトの次代を担う覇者を決する意味合いも孕んでいる。
しかし、彼の者は、そんな漢と漢の雌雄を決する、誉れある決闘において、あろうことか女を使役して、止めをさしにくる気配すらない。
「オシュトルぅううううううううううううううっーー!!」
もはや自らが手を下す価値すらないと判断したのだろうか--。
それとも、この果し合い自体を軽んじているのだろうか--。
何れにしろ、ヤマト最強は、オシュトルという漢に対して、深い失望と屈辱、そして烈火の如き怒りを覚えた。
151
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:39:31 ID:kPAszHZo0
―――仮面(アクルカ)よ……、我が魂魄を喰らいて、その力を差し出せっ!!
なれば、このまま、屍に成り果てる訳にはいかない。
漢は、薄れゆく意識の中、力を願った。
終焉に向かう己が命。その魂魄の全てを差し出す覚悟で、眼前の蟲共を――。
その先で、高みの見物を決め込む宿敵(オシュトル)を――。
全てを必滅する力を呼び覚ますために、漢は『根源』へと手を伸ばす。
そして――……。
「おぉぉぉぉぉオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
雄叫び。
同時に、ヴライの全身は紅色に発光していく。
「なっ!?」
「いかん、あの光は……!! クオン殿!!」
「分かってるかな!!」
ターゲットの身に生じた唐突な異変に、思わず攻撃の手を緩めてしまう麗奈。
対照的に、何が発生しているのか察したオシュトルは声を荒げる。クオンも、それに呼応。焦燥した様子で攻撃の手を速めていく。
凄まじい速度で、ヴライの全身に拳打が浴びせられていくが、それでも漢の咆哮は止まることはなく――。
「きゃあ!?」
「くっ…!!」
刹那、ヴライの全身を包んでいた光は、爆発的にその輝きを増し、周囲一帯に広がる。
麗奈も、クオンも、距離が離れているオシュトルですらも、眩いその光に飲まれていく。
その瞬間的な閃光が収まった時、三人の視界から漢の姿は消えていた。
「――何ですか、これ……?」
代わりに現れたのは、空に浮遊する暗黒の巨獣。
ビルでいうと、何階層分に相当するのだろうか……? ともかく、頭上よりこちらを見下ろす、その圧倒的な存在に、麗奈は呆然。図らずとも、敬愛する顧問の口癖を漏らしてしまう。
そして、その巨大すぎる掌には、豪炎の塊が握られている。
忽ちに膨れ上がっていくそれは、言うなれば小型の太陽―――付近一帯の夜を白昼に塗り替えていく。
『滅セヨ、オシュトルゥウウウウウッ!!』
咆哮と共に、怪獣の腕が振り下ろされた火の星が、天からの鉄槌の如く、地上へと降り注がれる。
瞬間、大地は激震とともに、紅蓮に塗り替えられたのであった。
152
:
戦刃幻夢 ―Deadlines(後編)―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:39:59 ID:kPAszHZo0
◇
仮面(アクルカ)。
その昔、ヤマトを脅かした一連の大災厄から国を護るために、創造されたという超常の兵器。
以降は、帝からその功績を讃えられ、ヤマトの守護を託された武士のみ与えられる習わしとなっている。
仮面を装着した者は、「仮面の者(アクルトゥルカ)」とうたわれ、その身体能力、火力並びに治癒能力を大幅に引き上げる事ができる。
そして、その真価を発揮するのは、完全解放の時――。
これは、男の「仮面の者」に限った話ではあるが、己が魂魄を捧げ、『根源』より力を引き出すことで、自らを巨獣へと変貌させ、神に近しい力を得ることが出来る。
その力を以てすれば、街一つを消し飛ばすことは造作もないだろう。
オシュトル。ミカヅチ。ムネチカ。ヴライ――。
四人の仮面の者(アクルトゥルカ)は、皆己が仮面を装着した状態のまま、この殺し合いに招かれている。
本来であれば、女性のムネチカを除く三人においては、完全解放が可能であったが、それに伴う圧倒的な出力は、ゲームバランスを崩壊させかないと危惧した主催者は、彼らの仮面に細工(ストッパー)を施し、その機能を封印することにした。
したがって、本来であれば、彼らが巨獣化して、出鱈目な火力を振るうことは叶わなかった。
『――何ですか、これ……?』
では、何故ヴライは主催に施された制限を突破し、完全解放に至ったのだろうか?
時は、第二回放送前、ヴライが、ムーンブルク城にてシドーと交戦した頃まで遡る。
『貴様……』
『帝より賜わりし仮面に何をした!』
破壊の化身が齎した衝撃波によって、仮面に亀裂が生じた瞬間。
一見すると、単純にヴライの仮面に損傷を与え、崩壊の種を植え付けたように見える。
だが、その実、破壊の波動は、仮面の外装だけには留まらず、内部にも浸透――結果として、主催者が施した制限装置にも損傷を与えた。
そして、度重なる"窮死覚醒"―――『根源』への過剰なるアクセスを機に、その損壊は拡がっていくと、やがて、仮面に施された枷は、完全に機能しなくなった。
『滅セヨ、オシュトルゥウウウウウッ!!』
結果として、ヴライは仮面の力を完全解放。
巨大化した肉体に比例する形で増幅された火力に、"窮死覚醒"によるブーストが上乗せされると、E-5、E-6の二エリアに跨る広大な爆撃が引き起こされた。
そして、ヴライを除く十二名の参加者は、爆風を浴びる。
呆然と爆炎に飲まれてしまう者、為す術なく吹き飛ばされる者、他者を庇い立てる者―――その一撃は、参加者達の命運を分かつに、余りある威力であり、瞬く間に、戦場を紅蓮一色に染め上げた。
たった一撃――。
しかし、あまりにも理不尽すぎる一撃――。
それによって、十三の駒が点在していた盤面は、覆されてしまったのだ。
153
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/04(月) 10:40:49 ID:kPAszHZo0
投下終了します。続きは後日投下します
154
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:00:33 ID:jKKln31s0
投下します
155
:
戦刃幻夢 ―崩落の盤面で―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:01:12 ID:jKKln31s0
◇
「……ぁ……がぁ……」
黒緑から橙色へと塗り替えられた森の中。
岩永琴子は、燃え盛る倒木に、その半身を下敷きにされながら、懸命に酸素を求めていた。
琴子は、知恵の神。
この殺し合いに招かれた参加者の中でも、類稀なる頭脳を有している。
しかし、如何に比類なき頭脳や知識を有していたとしても、それを凌駕する暴力を前に、為す術なく蹂躙されてしまうのが、この殺し合いの常。
知恵の神である琴子であっても、例外には漏れず、ヴライが齎した爆風に吹き飛ばされてしまった。
(……万事休す……。今度こそ、ツキに見放されましたか……)
魔王ベルセリアとの邂逅時に、垣間見えた惨状を目の当たりにしていたので、予期はしていた。
前回は、たまたま運良く生き延びることはできたが、今後もあのレベルの災禍に直面することあれば、非力な自分など、命が幾つあっても足りないだろう、と。
爆風が飛来した方角から察するに、アレは恐らく、ヴライとあかり達の戦闘の余波。
あの出鱈目な火力は、彼女達の戦いが、先のベルセリアとの交戦に匹敵するレベルの激闘に昇華したが故のものだろうか。とにかく、その爆風は、茂みの中で息を潜めていた、琴子と久美子の身体を、容赦なく吹き飛ばした。
更に、彼女の不運は重なった。地面に叩きつけられた琴子の真上に降り注いだのは、同じく吹き飛ばされた燃え盛る大木――。
自身に降りかかるそれを、素早く察知した琴子であったが、義足が破壊されている手前、逃れること叶わず、灼熱を帯びたその重量の下敷きになってしまう。
苦痛に表情を歪めながら、顔を上げると、そこにいたのは、自分の惨状を目の当たりにして、あたふたとする久美子の姿。
彼女も近くに吹き飛ばされたようだが、運良く何か茂みなどがクッションになったのだろう―――メイド調のドレスが汚れてはいるものの、深傷は負っていないようだった。
そして、「だ、誰か助けを呼んでくるから!!」と彼女が背を向けて、走り去ってから今へと至る。
156
:
戦刃幻夢 ―崩落の盤面で―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:01:30 ID:jKKln31s0
―――切り捨てられた。
琴子は、そのように悟っているものの、久美子に対する怒りが湧くことはない。
彼女の立場及び目指すものを考慮すると、明確な彼女達の計画に賛同する意思表示しておらず且つ片足状態の自分を切り捨てるのは、損得勘定からしても当然の帰結とも言えるだろう。
故に、彼女が救援を引き連れてくることはない。
平たく言えば、今の状態はチェックメイト―――“詰み”の状態だ。
下半身の感覚を奪っている倒木の重量は、中学生に間違えられるような小柄な自身の力では、到底どうとなるものではない。
この地には、琴子が使役できるような魑魅魍魎の類もなく、ただ生きたまま焼かれる感覚を味わいながら、己が生命活動の停止を待つ他ない。
(……ここに在る、『私』という虚構もまた、還るということになりますね……)
岩永琴子は、秩序の番人――。
故に、其処に秩序を崩すような虚構が存在すれば、それを虚構として還せなければならない。それが、一つ目一本足となった瞬間から、少女に課せられた義務であり、使命であり、呪いでもある。
――この殺し合いの参加者は、作られた存在である。
琴子が導き出した推理に基けば、今ここに在る己が存在は、虚構である。
故に、自身という虚構が消失したとしても、それ自体は在るべき形に還ることに過ぎず、「知恵の神」としては、嘆かわしいものとはなり得ない。
彼女は「正しさ」という楔に、縛られているのだから。
157
:
戦刃幻夢 ―崩落の盤面で―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:02:06 ID:jKKln31s0
「――岩永様っ!!」
「……ぁ……」
走馬灯のように、己の思考に沈んでいた琴子であったが、彼女を呼ぶ声にその意識を現実へ戻す。
視線の先にいたのは、先程別れたヴァイオレット。
先程偽麗奈と交戦していた「臨也」と呼ばれていた、黒髪黒服の青年もまた、彼女に肩を貸されながら、傷ついた身体を引きずるように歩んでくる。
どうやら、先の爆風は、彼女達の戦闘にすらも、波及していたようだ。
「岩永様、もう少しのご辛抱を……」
ヴァイオレットは、琴子の上に積みあがっていた大木を両手で掴んでみせる。
瞬間、燃え盛る火炎が、ヴァイオレットの手袋と内にある義手を焼いていくが、彼女はそれに構うことなく、全身全霊を以って、大木を持ち上げた。
そして、どうにか大木が浮いたタイミングで、臨也が琴子の腕を掴むと、その小柄な身体を引っ張り上げた。
「……っ!?」
引き揚げられて、露わになった琴子の半身。
その凄惨な姿を目の当たりにした臨也は眉を顰めて、大木を手放し駆け寄ったヴァイオレットもまた、悲痛に顔を歪めた。
可憐な少女の半身は、重圧にみっともなく押し潰された上に、焼き焦げ炭化していたのだ。
先までは、活力に満ちていたその瞳もまた、光を失いつつある。
「今手当を――」
「……い、え……――」
慌てて琴子を抱き起こし、手当てを行おうとするヴァイオレットであったが、琴子はそれを遮るように、身体を捩らせると、懐からタブレットを取り出した。
「……こ、ちらを……、お、願いし、ます……」
「――これは……?」
震える手で差し出された端末には、この殺し合いを通じて、彼女が積み上げた知見と考察が内包されている。
ヴァイオレットにとって、電子タブレットなど未知の道具に他ならない。
故にその用途も分からなければ、琴子の意図も読み取れない部分があった。
しかし、嘆願するように此方を見つめる琴子の眼差しを無碍にはできず、琴子の手に重ねる様な形で、その端末を受け取った。
きっと、この一見無機質にも見える板には、命を張ってまで届けたい"想い"が籠っているのだろうと。
158
:
戦刃幻夢 ―崩落の盤面で―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:02:26 ID:jKKln31s0
「……感謝、します……」
タブレットを受け取ったヴァイオレットに、琴子は安堵のため息をついた。
バトンは託した――残された対主催を目指す集団が、このゲームという虚構を、虚構に還す為の、足掛かりとして役に立ててくれば、それに越したことはない。
結局のところ、琴子は、最後まで「秩序の番人」としての務めを貫かんとしていたのだ。
「……あぁ――」
だが――。
「……九郎、先輩……」
「岩永様……?」
「知恵の神」として、冷徹に自身の最期を俯瞰している一方。
相棒であり恋人でもある青年の姿を脳裏に浮かべる、「岩永琴子」という齢二十にも満たない少女の想いもまた存在していた。
病院で一目惚れをしたのを端に発し、再会後にしつこいくらいの猛アプローチをして、めでたく恋人関係となった九郎先輩。
琴子が「知恵の神」として様々な依頼をこなす際も、隣に立ちサポートをしてくれた彼は、この会場のどこで何をしているだろうか……?
このまま、「私」という虚構が消えてしまうのであれば、せめてもの最後に―――
「……会いたい、ですね――」
「……っ!? 岩永様、しっかりして下さい!! 岩永様――」
心の臓の鼓動がいよいよ霞んでいくのを感じながら、琴子はぐたりとしたまま、天を仰いで、ポツリと呟いた。
琴子を抱えるヴァイオレットもまた、そのか細い声に、彼女の命の灯火が今にも消えかかっていることを悟り、涙を流しながら、必死に呼びかける。
しかし、琴子はそれに応えようとせず、ただ想いに浸る。
―――九郎先輩に、会いたい
―――九郎先輩と、話したい
―――九郎先輩に、触れたい
過剰なまでのスキンシップを取って、さも迷惑そうに反応する九郎先輩の顔を眺めて、ほくそ笑む―――そんな当たり前に行われていた何気のない日常が、今は無性に恋しい。
それが、驚異的な頭脳を基に、無慈悲且つ冷徹に調停を下してきた「おひいさま」の思考とはまた別に存在していた、「岩永琴子」という少女としての本音。
「……九郎先ぱ――」
そして、今一度、愛しき人の名前を紡ごうとしたその瞬間――
「岩永、様……」
岩永琴子の意識は、闇の中へと落ちてしまった。
目覚めることのない、永遠の闇の中へと。
159
:
戦刃幻夢 ―崩落の盤面で―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:03:03 ID:jKKln31s0
◇
「――皆……」
覚醒した仮面の者(アクルトゥルカ)によって、猛火に彩られた森林帯。
あかりは、その中を、ただただ駆け抜けていく。
目指すは、先に離脱を余儀なくされてしまった戦場―――。
本来、この戦地にて得た異能の力を以ってすれば、早々の帰還を果たすことも出来ただろう。
だが、先の激戦の反動で、その小さな身体に蓄積されていた力は枯渇――謂わば充電期間に突入している関係上、その背に、白い翼を顕現する事は叶わず。
己が二本の脚を以って、駆けつける他なかった。
「お願い……、無事でいて……」
戦場へと引き返している道中で遭遇した、終末を彷彿させる大爆発は、あかりを戦慄させるに足るものであった。
先の戦場より生じたであろう、猛烈な爆風は、遠方に吹き飛ばされていた筈のあかりにも波及――あかり自身はどうにか踏み止まり、堪えることが出来たが、戦場に残してきた麗奈をはじめとした、仲間達を思うと、気が気ではなかった。
更に、あかりが焦燥を覚える要因が、もう一つ――。
(……どうか、持ち堪えて、あたしの身体……!!)
それは、現在進行で、自身に生じている異変。
ヴライの放った猛撃の質量に押し負けた結果、その身に焼き焦げた痕跡が刻まれてはいるが、それに伴う痛みを感じることがない。
一刻ほど全力疾走で駆け抜けていくが、息切れを起こすこともない。
痛覚に、疲労感――そういった、人を人たらしめる感覚が、欠落してきていることを、あかりは感じていた。
元より、あの隔絶された空間から帰還を果たした頃より、自身が“理”の外の存在となってしまった自覚はあった。
しかし、こうして『間宮あかり』という存在を構成していたものが、音もたてずに崩れていくのを実感すると、将来的に自分が自分以外のナニカに塗り替えられてしまうのではないかという危機感を抱かざるを得なかった。
事実、あかりの懸念は正しかった。
今現在、ここに在る『間宮あかり』という存在は、死んだ情報の抜け殻に、僅かに残った情報残滓と別の情報残滓を縫い足したハリボテでしかない。
そして、先のヴライとの交戦により、多大な情報の出力を行なったことにより、彼女の内で進行していた乖離撹拌を促し、結果として、『間宮あかり』の情報残滓の一部が剥がれ落ちてしまった。
痛覚と疲労感の喪失は、その副産物である。
あかりは、その仔細を、理解していない。
ただ、このままでは、自身の身に取り返しのつかないことになることだけは、直感していた。
160
:
戦刃幻夢 ―崩落の盤面で―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:03:32 ID:jKKln31s0
「……っ!? あれは……!?」
漠然とした不安と焦燥を抱えながら駆けていたあかりは、唐突に足を止めた。
その視界に、地面に倒れ伏せる人影を捉えたからだ。
「あのっ、大丈夫ですか!?」
「……ぐうぅ……、あ、あんたは……?」
あかりに抱え起こされたのは、黒の短髪の青年。
意識朧げながら、あかりに呼応する彼は、目立った外傷は見たらなかったが、身に纏う衣服の所々が焼け焦げており、先の猛火の余波を受けて、ここに吹き飛んできたであろうことが伺えた。
――メキメキッ
「っ!? 危ない!!」
「……なっ……!?」
自分達の頭上で燃えていた樹木が、突如、音を立てて倒壊し始め――あかりは、青年を抱えたまま咄嗟に飛び退いた。
ドサリ
先程まで自分達がいた場所に、倒れ伏す樹木。
間一髪、あかり達は難を逃れることが出来た。
「どうやら、あんたのおかげで命拾いしたようだな……。礼を言うぜ」
あかりに支えながら身を起こした青年は、燃え盛る森林の炎を背景にして、自分よりも遥かに小さな彼女に、向き合い頭を下げた。
「いえ、とにかく無事で良かったです。あの……、あなたは……?」
「ああっ、悪い。自己紹介がまだだったよな……。俺は、カナメ――スドウカナメだ」
「っ!?」
カナメの名を聞いて、目を見開くあかり。
世界線の狭間にて邂逅した、異なる世界線からの迷い人シュカ。
その彼女の想い人も、この殺し合いに参加していると聞いてはいたが、まさか巡りに巡って、こんな形で対面を果たすことになろうとは――。
161
:
戦刃幻夢 ―崩落の盤面で―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:03:48 ID:jKKln31s0
「そっか……、あなたが、カナメさん…なんですね……」
「……? もしかして、俺の事を知っているのか…?」
「あなたのことは、シュカさんから聞いてたから……」
「なるほどな、シュカと会っていたのか……」
カナメは、得心がいったように頷くと、この殺し合いの最初の放送で、名前を呼ばれてしまった相方の姿を脳裏に浮かべた。
偶然にも、つい先程は、自分に対して何かを伝えようとする彼女の姿を、夢の世界で垣間見ていたところだった。
結局、夢の中のあいつは何を伝えたかったのだろうか――そんな疑問が、胸中に去来し、しみじみと物思いに耽んとするカナメに、あかりは言葉を続けた。
「はい…、でも、あたしが出会ったシュカさんは、この会場で亡くなったシュカさんではありません」
「……? どういう事だ……?」
あかりの意味深な発言に、カナメは首を傾げる。
あかりのアメジスト色の瞳は、そんな彼をじっと見据える。
「お話しします、あたしが見たこと聞いたことの全てを――」
正直言うと、今はあまり悠長に言葉を交わす猶予はない。
しかし、託されてしまった以上、そして、その想いを知ってしまった以上、これを無碍にすることはできない。
故に、あかりは順を追って、伝えていく。
彼女自身のこれまでの経緯と、シュカとの邂逅と、そして、シュカから託されたその言伝を--。
162
:
戦刃幻夢 ―崩落の盤面で―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:04:10 ID:jKKln31s0
◇
「――すまん……。恩に着るぞ、早苗……」
根こそぎ抉られた樹木の残骸や、朽ち果てた緑に炎が散らばっている、荒廃した大地。
灰と土が、焼け焦げた空気の中にまだらに浮き沈みしている中で、ロクロウは、早苗に向かって深々と頭を下げた。
「俺としては、影打ちを譲ってくれた恩を返すつもりでいたのだが……。
まさか、また恩を重ねて受ける結果になるとはな……」
「……私は、その……」
ロクロウを前にして、俯いたまま、口籠る早苗。
先のやり取りにて、早苗は、封印されていた記憶の断片を取り戻し、思い出した。
幻想郷に残してきた、大切な家族に想いを綴った手紙の存在のことを―――。
その手紙を代筆してくれたのが、自動手記人形を名乗る心優しき少女であったことを―――。
それでは、その自動手記人形である彼女、ヴァイオレット・エヴァ―ガーデンに対する疑念は、めでたく払拭されたのだろうか?
答えは、否―――。彼女が、冷徹な殺人鬼の表情で、諸悪の根源たるオシュトルと、殺し合いの進め方について画策している情景は、脳内に刷り込まれたままだ。
早苗の中に、その記憶が存在する限りは、ロクロウに対しても、警戒を怠るわけにはいかない。
だが、ロクロウが一連の喧騒の中で、早苗がいくら隙をみせたとしても、殺めようとするような素振りは見せなかったのも、また事実。
それに、彼が早苗に示していた誠意に、偽りがあるとも思えなかった。
つまるところ、現在はロクロウとヴァイオレット―――それぞれに対して、相反する記憶が混在している状況となっている。
そんな折に、発生したのが、先の大災厄―――。
完全解放された『仮面の者』が齎した紅蓮の爆風を前にして、早苗は咄嗟にロクロウに飛びついた上、夜天へと舞い上がった。
結果として、ロクロウは、早苗の機転により、事なきを得たのであった。
163
:
戦刃幻夢 ―崩落の盤面で―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:04:32 ID:jKKln31s0
「……私は、まだロクロウさん達を完全に信用したわけではありません……。
もう頭の中でぐちゃぐちゃになっちゃって、何が正しくて、何が間違っているのか分かんないんですよ―――」
「早苗……」
並び立てることで露になる、時系列の綻びと、皆の行動の矛盾。
それに直面してしまった今、自身の記憶そのものに対しても、疑念を持つようになっている。
もしかすると、何者かの悪意によって、自分の頭は弄られ、踊らされてしまっているのではないか―――そう考えてしまうと、もはや何ものに対しても、信用ができなくなってしまう。
「だけど、それでも……。私は、ロクロウさん達を信じたい……。
信じさせてほしいんですよ……」
故に、早苗は、縋りたい。
ロクロウの誠実さに。ヴァイオレットの優しさに。
例えそれが、『悪意』の裏返しの『善意』だったとしても、それを信じ、縋りたいのだ。
そうでもしないと、自分の存在そのものが、瓦解しかねないから――。
「あぁ、分かった。今はそれだけで十分だ」
信用するには足らない、だけど、信じたい―――。
早苗の抱く複雑な心境を、ロクロウも感じ取ったのだろう。
それ以上、深く追及することはせず、ただ静かに頷きを返したのであった。
164
:
戦刃幻夢 ―崩落の盤面で―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:05:15 ID:jKKln31s0
◇
「――ハァハァ……」
仮面の力を完全解放した闘神によって、炎獄と化した森林の中。
息を乱しながら、燃え盛る木々を掻い潜り、ひたすらに駆ける影が一つ。
「――ごめん……。ごめんね、岩永さん……」
久美子の脳裏に過ぎるは、大木に下敷きにされたまま、自分を見やる琴子の姿。
死地に晒されてしまった彼女が、自分に向けていた、その表情--。
憎悪や怨恨も込められず、絶望も悲哀も宿さず、ただただ真っ直ぐ、涼しげに久美子へと投げかけられていた、その眼差し――。
人一倍に共感性に富んでいるが故に、久美子は察した―――琴子は、自分を査定し、きっと彼女のことを切り捨てるということを悟っていたのだろうと。
黄前久美子という人間に対する、ある種の「諦め」が含まれた、そんな視線と向き合うのが、どうしても怖くて、久美子は、彼女に背を向けて逃げ出した。
「救援を呼ぶ」など、都合の良い建前を口実としたが、その気は全くなく、単純に逃げ出した。
琴子の予期していた通り、久美子は彼女を見捨てたのである。
見殺しにしたと言っても過言ではない。
「――だって……だって、仕方ないでしょ!!
私一人の力じゃどうにもならないし……、皆の為にも、無理はできない……!!」
琴子は、久美子達の目指す理想に対しては慎重な姿勢を貫いていたとはいえ、決して、彼女に死んで欲しいと思ってはいなかった。
好き好んで、切り捨てたわけでもない。
状況が状況だっただけに、やむを得ず、そうせざるをえなかったのだと、自分に言い聞かせる。
それに―――
「だけど、きっと必ず、岩永さんのことも、『無かったこと』にしてあげるから……!!」
麗奈と定めた理想さえ実現すれば、琴子の犠牲も、自分が背負うべき十字架も、全て『最初から無かったこと』に出来る。
それが、この殺し合いに巻き込まれてしまった参加者――まだ生きている者、死んでしまった者を問わず、全てを救済できる唯一の手段であると縋る。
そして、それを全うせんとする責務を以って、溢れ出る罪悪感を誤魔化した。
「あっ…!?」
ひたすらに駆けていた久美子の足が、不意に止まったのは、その視界に、彼女の“特別”が飛び込んだ時であった。
165
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:06:56 ID:jKKln31s0
一旦ここで区切りとして、続けて投下します。
166
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:08:40 ID:jKKln31s0
◇
「……久美子っ!! 何処にいるの、久美子っ!!」
紅蓮に塗りたてられた森の中。
風の如く疾走する麗奈は、焦燥に駆られていた。
先のヴライによって投擲された、災害と言っても差し支えのない爆撃――。
それを至近距離で受けた彼女は、その華奢な身体の大部分を焼失させながら、猛烈な勢いで吹き飛ばされ、夜天の空を舞うこととなった。
幸いにも、頭部の完全焼失には至らなかったため、その命を繋ぎとめることが出来た。
吹き飛ばされた先で、時間の経過と共に、焼失した身体を再生させ、何とか動けるようにしてからは、久美子の捜索を行っている。
ちなみに、頭部を除く、全身のほとんどが消し飛んでしまった時、彼女の身に纏っていたドレスもまた、その大半が消失してしまっている。
故に、その後、身体の再生が行われても、ドレスの再生については叶わず――今駆け回っている麗奈は裸も同然の姿となっている。
地を踏み抜く度に、その豊満な胸を揺らしているが、生憎と彼女がそれを気にすることはない。
「――久美子…… 久美子……!!」
麗奈自身はかなりの距離を吹き飛ばされたはずだが、それでも、今自身が立つこの場所でも、一面が火炎に覆いつくされているのを鑑みるに、先の爆撃は相当に大規模なものだったのだろう。
だとすると、まだ近辺にいたであろう久美子の安否が危ぶまれる。
ものづくりの能力に目覚めたといっても、鬼の力を得た麗奈と違って、久美子は生身の人間なのだから。
故に、ひたすらに地を駆けて、彼女を探し回っていた。
近場からは、先の怪物によるものであろう咆哮と衝突音、爆音が木霊しているが、そちらに反応することはない。今は何よりも、久美子の安否が気掛かりなのだから。
ガサリ
「……っ!? 誰っ!?」
ふと燃える草陰から、何かが蠢く音がした。
咄嗟に足を止めて、その方向へと、鋭く視線を投げ掛ける麗奈。
背後の触手を蠢かせ、いざという時のために、臨戦体制を取る。
ガサガサ
しかし、草陰から、姿を現したのは――
「久美子っ!!」
「れ、麗奈っ!? あわわわわわ、ちょっと!?」
ふわりとした癖っぽい茶髪のボブカットに、御伽話に出てくるようやメイド服調のドレスを身に纏った、自分が探していた親友。
その姿を認めると、麗奈は飛び掛かる勢いで、彼女に抱き着いた。
167
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:09:06 ID:jKKln31s0
「良かった……。本当に、良かった……!!」
「うん、ありがとう……。私も、麗奈が無事でいてくれて嬉しい」
裸も同然の姿で抱きつかれた久美子。
初めこそ困惑はした様子であったが、徐々に身を委ねていき、ハグを返してくれた。
――ああ、良かった……。無事でいてくれた……。
炎が取り巻く環境の中で、時が静止したかのように、抱擁をかわす二人。
――久美子がいてくれるから、私は勇気を出せる……。これからも、戦える……!!
久美子の鼓動が、久美子の温もりが、自分の肌に伝わってくる。
それだけでも、疲弊した自分の心を癒してくれるには充分であった。
ゾワリ
だが。
――あ、れ……?
親愛のハグを続けていくうちに、身震いとともに、言いようのない違和感に気付いた。
否、気付いてしまった――。
「……く、久美子?」
「うん? どうしたのー?」
果たして、自分が惹かれた、黄前久美子という少女からのスキンシップは、こんなにも遠慮がちで、よそよそしかっただろうか?
ゾワリ
こんなにも無情な声色で応えただろうか?
ゾワリ
こんなにも冷たい体温をしていただろうか?
ゾワリ
そして、何より――
ゾワリ
ゾワリ
ゾワリ
こんなにも血生臭い匂いを、発していただろうか?
ドクンドクン
違和感は徐々に、心臓の鼓動を早鐘のように打ち鳴らすものへと、変貌を遂げていく。
そんな折――
「……れ、麗奈……?」
ふと自分の背後から、聞き慣れた声が、耳に入ってきて、反射的に振り返る。
「な、何を……、何をしているの……?」
そこには、此方を呆然と見つめる、久美子の姿があった。
「――えっ……?」
瞬間、麗奈の世界が静止した。
目を見開いて、こちらを覗いているのは、紛うことなき久美子だ。
炎風の中に揺れる髪も、瞳も、面貌も、装うドレスも、その何もかもが、久美子のそれに違いなかった。
では、今自分が抱擁している、こちらの”久美子”は一体―――
「ばーか」
脳内で思考が錯綜する中、耳元で、嘲り笑うような声が聞こえた。
168
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:09:47 ID:jKKln31s0
ゴォツン!!
刹那、重厚のある音とともに、首元に強い衝撃が走る。
不意の一撃によって、思わず上体を大きく仰け反らせると、
『首輪に強い衝撃が加わりました。違反行為として起爆します』
耳障りな警告アラームを背景とした、無機質な音声が、無慈悲に鳴り響いた。
「ぷっ――、きゃは……きゃはははははははははは!!
このクソ女、まんまと騙されてやんの、すっげー笑える!!」
「……は……? え……?」
口元を歪に歪ませ、ゲラゲラと哄笑を響かせる、“久美子”。
その光景を茫然と眺める、麗奈と、もう一人の久美子。
彼女達が、この警報が、麗奈の首に巻き付いた銀の枷から齎されていることを悟るのに、そう時間は掛からなかった。
「う、嘘……。嘘だよね……麗奈……」
麗奈が死んでしまう――。
無情に突き付けられた宣告に、久美子はふらふらした足取りで、麗奈に歩み寄らんとする。
その瞳は激しく揺れ動き、その唇もまた、戦慄くように震えている。
「麗奈は特別になるんでしょ……?
だったら、こんなとこで終わる訳――」
「来ないで!!」
「っ!?」
麗奈の声が鋭く響く。
その剣幕に気圧されたのか、久美子はビクリと身体を震わせて、その場で硬直した。
「ごめん、久美子……。
私が手伝えるのは、ここまでみたい……」
自身には、無惨から押し付けられた超常の力が備わっている。
故に、普通の人間にとって致死となる損傷を受けたとしても、再生はできる。
しかし、鬼の首魁たる無惨ですら、このゲームの枠組みに囚われていることを鑑みるに、この首輪には、そういった再生能力持ちの参加者ですらも、死に至らしめることが可能なのだろう。
「だから、ここから先は……久美子一人で、頑張って……」
「嫌……嫌だよ……麗奈ぁ……」
泣きじゃくる久美子を見て、涙が溢れ出てくる。
本当は、触れ合いたい。抱きしめたい。
本当の久美子の温もりを感じ取りたい。
だけど、それは叶わない。
そんな事をしたら、首輪の爆発に、久美子を巻き込んでしまうかもしれないから。
「お願い……、私達の“いつも”を取り戻して……。
私は、久美子と一緒に、全国金を取りたい……絶対に……」
正直、死ぬのは、とても怖い。
だから、残される久美子に、願いと想いを託す。
託す事で、恐怖を紛らわす。
久美子は、涙と鼻水で顔をクシャクシャにしながら、強く頷いてくれた。
ソロオーディションの時もそうだった。
最後に私の後押しをしてくれるのは、久美子だ。
だから、覚悟も決められる。
「約束、だから……、裏切ったら、きっと殺すから……」
嗚咽交じりに、途切れ途切れになる言葉。
久美子は、その言葉にも強く頷いてくれる。
本当は別れたくない――そんな気持ちをグッと堪える。
「……それじゃあ、またね……」
「麗奈ぁっ!!」
未だ泣きじゃくる久美子を尻目に、麗奈は身体の向きを反転させると、ケラケラと嗤う久美子の姿を模した敵へと、飛び掛かる。
せめてもの、こいつだけは道連れにしてやろうと。
169
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:10:08 ID:jKKln31s0
「あれれぇ? お涙頂戴の茶番劇はもうお終いなんですかぁ、高坂さぁん♪」
一連のやり取りを、ニタニタと眺めていた、もう一人の久美子。
その声色に嘲笑を滲ませると、自身の頭蓋に差し迫る、麗奈の貫手を、ひょい、と軽やかな身のこなしで躱した。
麗奈の突貫は、空を切るが、それは、あくまでも初撃に過ぎず。
己が敵の顔を睨み付けながら、身体を捻ると、背中から触手を射出。
狙うは、偽者の首元にて銀色に煌めく首輪一点のみ。
「――っ!? それは月彦の……!?」
偽久美子にとって、麗奈のその機転は、予想外だったようで、面食らった様子で、咄嗟に身体を捻る。
結果として、麗奈の触手も空を切ることとなり、間一髪で、事なきを得る。
「――きゃは……きゃははは……!! 無駄な悪あがきですよ、高坂さぁん♪」
不意の一撃をいなした、偽の久美子は、その表情を驚愕のものから一転。
醜悪に歪めながら、嘲りの言葉を紡いでくる。
そんな彼女を睨みつけたまま、麗奈は思う。
―――本当ムカつく、と。
何をどうやって久美子に化けているかは知らないが、この品性のない言動からして、この偽物の正体の見当はついている。
水口茉莉絵―――同じ無惨の毒牙にかかった犠牲者とはいえ、この女に対しては、憎しみの感情しか湧いて来ない。
何よりも―――
「というか、別にそこまで大して仲良くないんだろ、あんたら?
何せ、私が化けていることもろくに見抜くことも出来ず、外見だけでまんまと騙されちゃって、発情した猿みたいに抱きついてきたくらいだしさぁ。
身体だけを求め合う上辺だけの関係ってところかぁ?」
いくら焦っていたとはいえ、こんな女を、久美子と見誤ってしまったことが、悔しくて。
こんな女に、自分と久美子の絆を、穢されたことが、許せなかった。
「あんたなんかに――」
溢れ出る殺意に駆られるまま、麗奈は、その背から、もう一本の触手を射出せんとする。
狙うは、先と同じく茉莉絵の首輪。
残される久美子の為にも、こいつだけは絶対に仕留めなければならない。
刹那――。
ぼ ん っ!!
乾いた破裂音がタイムリットを告げて、高坂麗奈の生命活動は打ち切られることとなった。
170
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:10:32 ID:jKKln31s0
◇
「……れ…いな……?」
炸裂音と共に、戦火の中で散った、紅色の華。
親友の首輪が爆ぜたその瞬間を、目の当たりにして、久美子は呆然と立ち尽くしていた。
「おおー、死んだ死んだ」
今しがた麗奈と交戦していた偽久美子こと、ウィキッドは、まるで花火を鑑賞し終えた後のような気楽さで、ポツリ、と呟いた。
そのまま、放心状態の久美子を一瞥し、ニタリと口元を歪める。
(いやぁ、まさか、こんな面白いものが観れるとはなぁ……)
元々は、先の爆発で、離れ離れとなってしまったヴァイオレットを初めとした得物を捜していただけであった。
しかし、その途中、偶然にも麗奈を発見。
久美子の名前を呼び、必死に駆け回る、麗奈。
その何ともいじらしい姿から、二人の少女の美しい「絆」を感じ取った魔女は、胸を高鳴らせた。
――嗚呼、どうにかして、ぶっ壊してやりたい
そんな歪な欲望に駆られて、魔女は己が姿を、久美子に変貌させた。
そして、形こそ違えど、先に久美子に告げた友情測定テストを実施すべく、麗奈に接触したのであった。
「しかし、あんたらの絆とやらも、てんで大したことなかったよねぇ」
そして、結果はこの惨状。
ウィキッドの変身を見破れなかった麗奈は、それが命取りとなり、首輪の爆破と共に、その身体は分断。
虚ろな目を見開いたままの頭部と、首から下の胴体が、それぞれ血塗られた地面に転がっている。
鬼化によって齎された再生能力も、機能することはない。
高坂麗奈は、完全に絶命したのだ。
「あっでも、あんたは、さっき私の変身を見破れたんだから、あんたの友情パワーは本物だったかもね。うん、それは認めてあげる――」
ウィキッドは、うんうんと頷きながら、麗奈の生首と胴体を拾い上げて、久美子に見せつける。
久美子は、未だ呆然自失。
光の宿っていない瞳で、ただ麗奈だった肉塊を見つめたままだ。
171
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:11:08 ID:jKKln31s0
「それに比べて、このクソ女ときたらさぁ……。
化けた私を見るなり、『久美子〜!!』なんて馬鹿みたいに飛びついてきちゃって……。
ぷっ――くくくっ……しかも、よりにもよって、真っ裸で!!
きゃはははははは、節操無しにも程があるだろ!! 流石の私もちょっと引いちゃったわぁ」
大声で爆笑するウィキッドに、ピクリと、久美子の肩が揺れ動いた。
その反応に、魔女は、さらに口角を吊り上げると――
「まぁ、こいつに関しては散々煮え湯を飲まされたからねぇ。ざまあねえわな」
麗奈の胴体を、引っ張り上げる。
そして、人形劇に用いられる人形のそれのように、吊り上げられた片腕部分を、自分の口へと近づけると――
ガブリ、と。
思い切り、歯を立てた。
「―――えっ……?」
思考が停止していた久美子は、眼前の光景に目を疑う。
ぐちゃり――
がぎ、ぼぎ、べぎ――
ぐじゅっぐじゅぐじゅぐじゅっ―――。
肉を引き裂き、骨を嚙み砕き、中身を咀嚼する湿った音が、久美子の鼓膜を刺激していく。
「何、やって……」
久美子は、思わず口を押さえた。
脳が理解を拒む。いや、本能が、それを拒絶した。
目の前の光景を信じたくなかったのだ。
ぐじゅっぐじゅぐじゅぐじゅっ―――。
久美子の姿を借りた魔女は、残酷な音を響かせながら、久美子に見せつけるようにして、肉片と鮮血を飛び散らかせながらの凄まじい勢いで、彼女の親友の亡骸を貪っていく。
やがて、胴体の四分の一ほど平らげたところで、ポイっとそれをゴミのように投げ棄てる。
そして、もう片方の手にある麗奈の生首を、久美子に見せつけるように掲げたかと思うと、その脳天目掛けて、手刀を叩き込んだ。
172
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:11:42 ID:jKKln31s0
バギッ
頭蓋が割れる音と共に、端正な麗奈の顔が、縦方向に潰れた。
左右の眼球は、それぞれあらぬ方向へと飛び出し、鼻と口は、出来の悪い福笑いのようにひしゃげている。
ウィキッドは、脳漿が溢れでるその頭部に、思いっきり歯を立てた。
バリッガリッ――
ぐちゃっぐちゃぐちゃぐちゃっ――。
まるでデザートといわんばかりに、麗奈の顔面を咀嚼するウィキッド。
「―――あ……あぁ……」
久美子は、さらに血の気が引いていくのを感じた。
眼前の光景を、脳が正しく認識できていない。
否、理解することを拒絶していた。
ぐちゃっぐちゃぐちゃぐちゃっ――。
そんな久美子の心情などお構いなしに、魔女は食事を続ける。
高坂麗奈の残骸を、貪り続ける。
やがて――
「ぷはっ」
三分の一ほど顔面の面積を減らしたところで、ウィキッドが麗奈の頭部から口を離すと、今度はその食べかけの生首を、地面に転がる胴体の上に投げ棄てた。
「あ〜不味かったぁ。
くたばった後もクソなあたり、実にこいつらしいわ」
オエオエと、わざとらしくえずきながら、口の周りに付着した血と脳漿を拭った後、ウィキッドは、その手に爆弾を顕現。
そのまま、ポイっと、麗奈の残骸に投げつけた。
ボンッ!!
麗奈だった肉塊が、爆炎と共に四散。
べチャリと飛び散った血肉が、久美子の顔を赤黒く染め上げた。
「……ぁ……」
「特別」になるために、ありったけの情熱を、トランペットに注ぎ込んだ親友の姿かたちはもう存在しない。
久美子の眼前に在るのは、グロテスクに変容した肉片と地面に付着した染みだけとなった。
173
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:12:30 ID:jKKln31s0
「まぁ、結論としては、このクソ女は、あんたが友情を覚えるほどの価値はなかったってこと。
黄前さんも、友達はちゃんと選んだ方が良いですよ〜、きゃははははははははっ」
飛び散った麗奈だったものの上を、びちゃびちゃと水溜まりで遊ぶ子供のように踏みにじりながら、魔女はくるりくるりと身体を回転させ、快悦のまま嗤ってみせる。
――あぁ、最高の気分だ!! 仲睦まじそうに見えていた女どもの絆を、否定してやった!!
高揚感に連動して、体内の臓物も興奮して跳ねているような快感が、全身を駆け巡っていく。
――嗚呼、堪んない……。私は、この瞬間が、堪らなく好きだ!!
狂気と狂喜に彩られた、血生臭い舞踏―――その様相はまさに、宇宙の塵で踊り狂う、コスモダンサーと言えよう。
「――めて……」
罵られながら、足蹴にされていく、親友だったもの。
放心状態で立ち尽くす久美子の唇から、微かに声が漏れる。
『悔しい…悔しくて死にそう』
『あんたは悔しくないわけ? 私は悔しい! めちゃくちゃ悔しい!』
彼女の脳裏に過るは、麗奈との記憶の断片。
『久美子って、性格悪いでしょ?』
『違う!これは愛の告白。』
『私、特別になりたいの。他の奴らと同じになりたくない。』
元々、うっすらと惹かれていたものはあった。
だけど、大吉山での「愛の告白」を経てから、自分は麗奈に引力を感じていると、改めて確信した。
そして、あれ以来、麗奈とは特別な関係になった。
「きゃははははははははっ―――」
それが壊されていく。穢されていく。
自分たちのことを、何も知らない赤の他人が、土足で踏み込んできて、嘲笑い、荒らしていく。
現実を逃避していた思考が、徐々にクリアになっていき、心の奥底から激情が込み上げてくる。
174
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:13:08 ID:jKKln31s0
そして――
「――止めてよっ!!!」
久美子は、腹の底から声を絞り出し、目の前の魔女に吠えた。
「あ〜?」
狂った舞踏をピタリと停止させ、ウィキッドは久美子を、睨みつける。
久美子は、その視線を正面から受けて立つと、ずかずかと魔女に詰め寄っていく。
「止めてよ!! 麗奈のことも、私達のことも、何も知らないくせに、勝手なことばっか言って!!
あんたなんかに、私たちの何が分かるっていうの!?
あんたみたいなクズに、麗奈のことを貶める権利なんてないっ!!」
ギロリと、こちらを凝視する魔女の双眸など気にも留めず、久美子は、ポカポカと己が偽物の胸元を叩いていく。
「今でも、これからも、私は、麗奈と友達になったことを、後悔することなんて絶対にない!!」
全身が震えている。
しかし、これは恐怖によるものではない。
胸の内から際限なく湧き出てくる怒りと悔しさが、久美子の身体を、熱く震わせているのだ。
「かっこ良くて、可愛くて、目標にまっすぐで、心に熱いものを持っていて、だけど、実はちょっと脆いところもあったりして―――私は、そんな麗奈と一緒にいることを誇りに思っているから!!」
悔しい。悔しい。悔しい。悔しい―――
激情に身を任せながら、久美子は言葉を紡いでいく。
175
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:13:25 ID:jKKln31s0
「だから、私はあんたを絶対に許さない!!
大好きで”特別”だった麗奈を、私から奪って、否定したあんたを死んでも許さないから!!」
「あっそ」
瞬間、久美子はふわりと浮遊感を覚える。
ベチャリ
次に気付くと、肉片の上に仰向けに転がされていた。
久美子の視界には、興ざめした様子で、こちらを見下す自分の偽物の姿が映し出されている。
「じゃあ死ねよ」
氷のように冷たい声が、頭上から降り注ぐ。
偽物の手には、先程麗奈にぶつけた小型の爆弾が握られている。
麗奈を殺した憎き仇は、それを投擲しようと、振りかぶる。
(――麗奈、ごめん……)
必ず、この殺し合いを無かったことにする―――。
その誓いを守れないことを、久美子は心の中で彼女に謝罪し、死を覚悟した。
ダダダダダダダダダダダダッ―――
だが、久美子の耳に轟いたのは、自身の終焉を告げる爆音ではなく、どこからともなく響く掃射音であった。
「あぁんッ!?」
「えっ?」
瞬間、魔女が飛び退き、自身から離れていく姿を目の当たりにして、久美子は目を白黒させる。
何が起こった――? そんな疑問が脳裏を過った刹那、今度は浮遊感を覚え、風圧が身体を包み込んだ。
「黄前さん、大丈夫!?」
「あかりちゃん……?」
そして、久美子の視界に、心配そうな眼差しでこちらを覗き込んでくる、あかりの姿が収まる。
この時、彼女はようやく、自身が抱きかかえられていることに気付くのであった。
176
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:14:10 ID:jKKln31s0
◇
あかりから、一連の流れとシュカからの言伝を聞かされた後、カナメは、彼女と行動を共にし、行方知らずの仲間達の捜索のため、奔走していた。
程なくして、二人の“久美子”の姿を目にして、片側の“久美子”が、もう片方の“久美子”を転がして、悪意に満ちた表情で、その手に爆弾を顕現させたのを認めると、手に持つ銃口をそちらの“久美子”へと向けた。
その者の正体が、何らかの方法で他者に変身し、悪意を振り撒く魔女であると確信したからだ。
「ウィキッドぉおおおおおおおおっーーー!!」
怒号とともに、機関銃が火を噴いて、火神槌の担い手と、絶望の魔女による殺し合いの第三幕が幕を開けた。
「きゃはっ♪ 熱烈なラブコールありがとう、カナメ君!!
随分と私にご執心のようで、お姉さん、嬉しいよ!!」
「黙れっ!!」
銃口の先では、久美子に化けたウィキッドは口角を吊り上げつつ、バク転や側転を織り交ぜながら、弾幕を避けている。
余裕の表れなのか、時折回避の最中に軽口を挟んで、挑発してくるが、カナメが取り合うことはない。
ただひたすらに、眼前の悪意を排除すべく、鉛玉を撃ち込んでいく。
しかし、先の交戦で銃弾の雨を嫌というほど味わった魔女は、カナメの腕の動きと銃口の向きに、その意識を集中。
そこから射線を先読しつつ、鬼ならではの過剰強化された身体能力と反応速度を駆使して、銃弾を潜り抜けていく。
「っ……、くそがっ!」
銃弾が空だけを切り裂き、周囲に散らばった炎にただただ吸い込まれる中、カナメは忌々しげに吐き捨てる。
確かに、機関銃の掃射自体は強力無比なものではある。まともにその弾幕を浴びることあれば、如何に鬼の身に堕ちたものであろうと、無視できない脅威になりえる。
事実、先の戦闘では、臨也との連携の最中、機関銃の掃射を皮切りに、この憎き魔女を、あと一歩のところまで追いつめている。
しかし、機関銃の操り手はカナメ―――如何に度重なる修羅場を潜り抜けてきたとはいえ、その動体視力と身体能力は、人間の範疇を超えるものではなく、断罪の弾丸は、俊敏に四方八方跳び回る魔女を捉えることは叶わない。
177
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:14:33 ID:jKKln31s0
「なあ――」
暫くの間、回避に専念して、苛立つと焦りで表情を歪めるカナメを、さながら檻の中の猛獣を愛でるかのように、嗜虐的な瞳で観賞を愉しんでいたウィキッド。
しかし、そろそろ観賞にも飽きてきたのか、その眼をすっと細めると、
「そろそろ、反撃するからさぁ。
いっぱい、いっぱい、痛がってくれよな♪」
そう宣言して、体勢を前のめりに倒したかと思うと、地面を思い切り蹴って跳躍。
「っ!?」
機関銃の銃口が、魔女の反転攻勢を捉えるよりも早く、その懐に潜り込む。
「ほーら、捕まえたぁ」
そして、カナメの腹部に肘打ちを食らわせ、その身体をくの字に折り曲げる。
機関銃は彼の手から放れ、彼が奏でていた銃撃のワルツは中断される。
さらに、がら空きになった彼の顎先に向けて、膝蹴りを一発。
「がっ……!?」
脳内に星が煌めくような衝撃を食らい、カナメは地面に倒れ伏す。
ウィキッドは、悶えるカナメの様相に、ぐにぃと口元を歪める。
そして、そのまま、彼の頭蓋を踏み砕くべく、足を振り上げる。
「駄目っ!!」
パ ァ ン !!
しかし、突如、銃声が響き渡ると、ギロチンのように振り下ろされんとしていた足は撃ち抜かれた。
「はぁ?」
ドクドクと流れ出る自身の血に、ウィキッドは呆けた声を上げる。
折角のお楽しみの時間に、水を刺された形となってしまった魔女は、先程までのハイテンションとは打って変わり、気怠そうに、振り上げていた足を引っ込める。
そして、銃弾が飛来した方角に視線を向けると、そこには横槍を入れてきたであろう白髪の小さな少女が、後方に控える久美子を庇うように佇んでいた。
178
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:14:59 ID:jKKln31s0
「あなたが…、ウィキッド……」
「あん? だったら、何なんだよ、白髪チビ」
そう言えば、どさくさに紛れて、久美子を掻っ攫っていった奴がいたなと、ウィキッドは記憶の欠片から呼び起こしつつ、ドスの効いた声と共に、白い少女に睨みつける。
しかし、少女はウィキッドの威圧に臆することなく、その視線を受け止めると、静かに問いを紡いでいった。
「――どうして……、アリア先輩を殺したんですか……?」
「あぁ? お前、あのピンクチビの知り合い?」
ウィキッドが眉を吊り上げて、問いを返そうとしたその時、足元で未だ悶えていたカナメは、少女の方を向いて、「あ、あかり……」と呟いた。
「――あかり……?」
カナメの呟きを聞いたウィキッドは、再度少女の姿を凝視。
そして、彼女の制服が、アリアの着ていた制服と同じものであると認識すると、合点がいったとばかりに、声を張り上げた。
「あぁ、そっか、そっか、なるほど……!!
あんたが、間宮あかり!! ピンクチビの後輩ちゃんって訳かぁ!!
きゃはははははっ、こりゃあ良いわぁ!!」
そして、新たな玩具を見つけた子供の様に、その眼を爛々と輝かせる。
「それで、あんたが知りたいのは、私が、何であのピンクチビ――アリアを殺したか、だっけ?」
問い掛けるウィキッド。
しかし、あかりは応えることはなく、ただじっとウィキッドを睨みつけている。
ウィキッドは、その視線を心地良さそうに受け止めながら、「きゃはっ」と嗤うと――
「理由は単純で、あいつが、私の邪魔してきたから♪
私大嫌いなんだよねぇ……、ああいう無駄な正義感振りかざして、ああだこうだ言ってくるクソ生意気な馬鹿女はさぁ」
さも愉快そうに、喜色満面に、嘲るように言い放った。
対するあかりは、愉悦に満ちた魔女を見つめたまま、不動――しかし、その表情は、次第に強張っていく。
そんな彼女の反応を、魔女は愉しそうに観察しながら、さらに言葉を紡いでいく。
「くくくくっ……、しかし、あいつが、くたばる瞬間は傑作だったわぁ〜!!
あー駄目だ、思い出しただけでも、腹が痛い……。
あいつが死に際にほざいた言葉、何だったと思う?」
ピシリ、ピシリ――
魔女が吐き出す言の葉が、あかりの心に、亀裂を生じさせていく。
179
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:15:24 ID:jKKln31s0
――駄目……。これ以上、この人の悪意に耳を傾けてはいけない……。
――じゃないと、あたしが、あたしでいられなくなってしまう……。
あかりの本能がそのように警鐘を鳴らすも束の間。
魔女は更に言葉を重ねて、彼女に揺さぶりを掛ける。
「涙を流しながら、『……ママ……』だってさぁ!!
きゃはははははははっ!! おしめもとれてない、マザコンの分際で、正義の味方気取ってんじゃねえよ、ばーかっ!!!
いやぁ、あんたにも見せたかったわぁ!! 最高に笑えたから、あいつの無様な死に様!!」
「――っ!!」
ピキピキピキピキピキ――
あかりの中で、感情の激流が、溢れ出す。
それに圧される形で、心に亀裂が広がっていく。
やがて、亀裂が亀裂を呼び、内にある堤防が、遂に決壊しそうになった時――。
「……この、ゲス野郎――」
魔女の足元で、カナメが身体を起こし、憎悪に満ちた瞳で、ウィキッドを睨みつけると、
「やっぱり、お前みたいな奴は、生きてちゃいけねぇ……。
お前みたいな奴は、どこの世界にも、存在しちゃいけねえんだよ、ウィキッド !!」
その手に、黒に煌めく拳銃を顕現させ、魔女の急所たりえる首輪へと、銃口を向ける。
己が殺めた、罪なき者への、止め処ない冒涜--。
遺された者には、嬉々として悪意を振り撒く、悪鬼羅刹の如き所業--。
その吐き気を催す蛮行に、友人を殺害した外道の影を再度重ねて、激情に流されたまま、カナメはその引き金を引かんとする。
しかし――
「うるせぇよ」
ドゴォ!!
弾丸が射出される直前、ウィキッドは、素早くこれに反応。
結果、銃口より硝煙が吐き出されることはなく、鈍い音が木霊すると――。
「がはぁっ……!?」
カナメの身体は、缶蹴りの空き缶の如く、宙へと蹴り飛ばされてしまう。
そして、勢いそのまま、放物線を描きながら、燃える茂みの向こう側へと翔けていった。
180
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:15:49 ID:jKKln31s0
「はぁ……、こっちは、楽しい、楽しいガールズトークに花咲かせてるんだから、邪魔すんじゃねえっつーの!!」
ウィキッドは、気怠そうにしながら、その手に、握り拳ほどのサイズの爆弾を顕現。
それを、カナメの吹き飛んでいった方向へと放り投げる。
どかん!!
「――カ、カナメさんっ……!?」
忽ち、茂みの向こう側から、爆炎と黒煙が立ち昇ると、あかりは、ハッと我に返る。
慌てて、カナメがいるであろう方角へ、駆けつけんとするも、その前に立ち塞がる影が一つ。
「しかし、『お前みたいな奴は、生きてちゃいけねぇ』か……、クククっ……」
自らが引き起こした爆炎には目もくれず、 “黄前久美子”の姿を借りた魔女は、薄らと口角を吊り上げながら、唇を噛み締めているあかりと相対する。
「きゃはははっ……!! なぁ、おい、あかりちゃんよぉ!!
あんたも、カナメ君と同じ意見なのかなぁ?」
「そこ、退いてくださいっ!!」
魔女の問い掛けに、あかりは応じることなく、突貫。
両手両脚を狙った銃撃を織り交ぜながら、地を蹴り上げる。
目的は殺害ではなく、あくまでも、眼前の脅威を無力化した上での、突破だ。
「私みたいなクソったれは、生きてる価値はない――だから、とっとと殺しちまった方が、世の為、人の為……ってかぁ?」
しかし、過剰強化された魔女の動体視力は、迫る弾丸の悉くを捕捉。
軽快なステップで、銃撃をひらりひらりと躱しながら、爆弾を次々と投擲。
爆撃のカーテンを以って、あかりの進路を阻むと、足を止めた彼女に、瞬く間に肉薄――その小さな頭蓋を穿たんと、貫手を放つ。
「……っ!!」
しかし、あかりも咄嗟に反応。
サイドステップを刻むと、風を切る刃と化した貫手は、右頬を裂くまでにとどまり、直撃には至らない。
空を穿った貫手を横目に、あかりは片手に握る銃を、魔女の脚部目掛けて、引き金を引く。
パァン!!
乾いた銃声が木霊すると、鉛の弾丸が一直線に射出され、魔女の脚部――脹脛へと命中。
着弾点より赤々とした火花と血飛沫を飛び散らせる。
だが、魔女は臆するどころか、むしろ、その口角を吊り上げる。
181
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:16:21 ID:jKKln31s0
「お前、さっきから手足ばっか狙ってるけどさぁ―――」
そして、脚部に生じた風穴ををものともせず、地を蹴り上げたかと思うと、そのまま身体を一回転。
「もしかして、先輩の仇を取るつもりないの?」
問い掛けと同時に、遠心力を宿した損傷した側の右脚を、あかりの側頭部へと叩き込んだ。
「く……っ……!?」
バゴン!という鈍い音が、耳朶を打つと、あかりの小柄な身体は横転。
野球ボールのように、地面の上をバウンドするも、素早く受け身を取って、飛び起きるあかり。
間髪入れずに、ウィキッドは、手榴弾を振りかぶる。
「何だよ、折角ピンクチビ先輩を殺した奴が、目の前にいるってのに、憎いと思わないわけ? 殺してやりたいとも思わないわけ?」
「……。」
「あんたらってさぁ、先輩後輩ってだけで、実際はただそれだけの、薄っぺらい関係だったんだね〜。
いや、むしろ、パシリとかでこき使われてた感じ? だったら――」
「違うっ……!!」
嘲る声音と共に、投げつけられる爆弾。
あかりは、怒気を孕んだ叫びを上げて、弾丸を撃ち込み、これを迎撃。
空中で爆弾が炸裂していくと、爆音と爆炎が、周囲に広がり、熱風が、あかりとウィキッドの肌を撫でていく。
「あたしは、アリア先輩が好き……、大好きっ…!!
この想いだけは、絶対に否定させない……!!」
「ふーん、それで?」
銃弾と爆弾が交錯し、硝煙と爆炎が入り乱れる戦場で、二つの影が飛び交う。
少女の悪意と、少女の想いは、激しくぶつかり合う。
「――だから……、あたしからアリア先輩を奪った貴女のことは、決して許さない……!!」
「きゃははははっ……、だったら、私のこと、ちゃんと殺しに来いよ、チビ助ちゃんよぉ!!
ほらほら、あんたの大大大好きな先輩の無念を晴らせるチャンスなんだぞ!!」
爆撃と共に、投げかけられるは、ドス黒く、悪意に満ちた復讐への誘い―――。
傷だらけとなった、あかりの心を抉るように、ウィキッドは彼女の憎悪を煽っていく。
あかりは、その瞳を揺らしつつ、地を蹴り上げ、魔女の悪意と向き合う。
182
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:16:51 ID:jKKln31s0
「ううん……あたしは、そんなこと…しない……。
だって、あたしは武偵で―――、そんなことは、アリア先輩も、きっと望まないから……!!」
あくまでも無力化を狙った射撃を繰り出しながら、自分に言い聞かせるかのように、言葉を紡いでいく、あかり。
――武偵法9条。
――武偵は如何なる状況に於いても その武偵活動中に人を殺害してはならない
如何に、異能の力を得たとしても、如何に、”人間らしさ”を失っても、間宮あかりは、武偵であり続けることを諦めていない。
如何に、ウィキッドに対する憎しみが込み上げてきても、その都度、憧れの先輩の後ろ姿が脳裏に過ぎっては、武偵としての矜持と信念が、あかりの理性を繋ぎとめていた。
ウィキッドは、鬼化に伴って、異常な回復能力を有していると聞き及んでいる。
先程、撃ち抜いた脚の傷が、既に塞がっているのを見るからに、その情報に間違いはないのだろう。
しかし、それでも、あかりは武偵として、急所になりえる箇所は狙わず、両手両脚のパーツへの照準に拘り、狙撃を行っていた。
間宮の家で磨いた狙撃術を駆使すれば、人体の各急所を撃ち抜くのは容易いのにも関わらず、だ。
「あっそ、随分とご立派な志を、お持ちなこったねぇ。
あそこで突っ立てるザコとは、大違いだわ。偉い偉い〜♪」
そんな、あかりの覚悟を、嘲りを以って受け流した、ウィキッド。
地を跳ねて、くるりと宙を返りながら、その視線を、自身の遥か後方へと向けた。
「……!? ――ウィキッドっ……!!」
視線の先にいたのは、久美子。
魔女の悪意によって、自身の”特別”を奪われ、“絆”を蹂躙された少女。
久美子は、自身と同年代の二人の少女による、常人離れした闘争に対して、ただただ己が非力を痛感―――介入したくても介入できない現状に、なす術なく、傍観に徹していた。
しかし、唐突に自身に注がれた魔女の視線に、溢れかえる憎悪と殺意を込めた視線で、応えてみせる。
183
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:17:16 ID:jKKln31s0
「きゃはははははっ、それじゃあさ、頑張るあかりちゃんに、ちょっとした、ご褒美♪」
怨恨だけで人を殺めることが出来るのであれば、即死になりえるであろう禍々しい視線を、心地よい風のように迎え入れた魔女は、その手に、それまでのものとは一回り大きな爆弾を顕現。
「これから面白いもの、見せてやんよー!!」
ニタリと口元を歪めながら、キャッチボールの要領で、久美子目掛けて、爆弾を投擲した。
「……っ!?」
「――黄前さんっ!!」
放物線を描きながら飛来する爆弾が、久美子の元に着弾する寸前―――。
あかりは、疾風の如き身のこなしで、久美子に飛びついては、彼女を庇うように抱え込んだ。
どかん!!
直後、爆弾が炸裂するも、二人はどうにか爆発に巻き込まれことはなく、事なきを得る。
「黄前さん、下がって……」
「あかりちゃん……」
起き上がった二人の眼前には、爆発の衝撃で舞い上がる土埃と煙。そして、その中から、近付いてくる一つの影。
視界がぼやつき、未だ、はっきりとした輪郭は確認はできない。
しかし、それが誰なのかは明らかで、あかりは、久美子を庇うように、立ち塞がると、銃口を、そのシルエットへと向けた。
「ねえ――」
しかし、煙から姿を現したのは、先程まで対峙していた“黄前久美子”の偽物などではなかった。
「――えっ……?」
思わず目を開く、あかり。
それも無理はない。何しろ彼女の眼前にいるのは―――
184
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:17:54 ID:jKKln31s0
「どうして、私に銃を向けているの、あかり?」
「…ア、アリア……先輩……?」
鮮やかな緋色の長髪をツインテールで纏めた、小柄ながらも、美しさと可憐さを兼ね備えた、あかりが、誰よりも敬愛する、彼女の戦姉妹(アミカ)。
東京武偵高強襲科2年所属Sランク武偵、神崎・H・アリア――その人の姿に、違いなかったのだから。
「な、何で……どうして……? だ、だって……アリア先輩は……」
「ねえ、あかり。もう一度聞くわ。
どうして、私に銃を向けているの?」
「ち、違っ……、これはっ……!!」
動揺と混乱が、あかりの身体を揺るがす。
こちらを鋭く、しかしまるで生気を感じさせない瞳で見据える、アリアの姿。
聞き慣れた声音、しかし、まるで感情の籠っていない声色に、彼女の戦妹(いもうと)は激しく狼狽し、思わず銃を引っ込めようとする。
「騙されないで、あかりちゃん!!
こいつは、あかりちゃんの先輩なんかじゃない!!」
「っ!!」
しかし、彼女の背後にいた久美子は、そんな、あかりを叱咤。
その声によって我に返ったあかりは、慌てて銃を構え直し、“アリア”へと向けた。
“アリア”は、そんなあかりをまじまじと観察すると、唐突に、ぐにゃり、と口角を吊り上げた。
「――つってなぁ!! きゃははは、どうよ、あかりちゃん。
大好きなアリア先輩と再会できた感想は?
健気に頑張る、とってもお馬鹿なあかりちゃんへの、私からのご褒美なんだけど、気に入ってくれたかぁ?」
冷静に考えてみれば、分かることだ。
先の二人の“久美子”を鑑みれば、ウィキッドが、他者に変身できるのは明らかで、アリアに化けることなど造作もないだろう。
(――しっかりして、あたし……。見た目に騙されちゃ駄目……。
黄前さんの言う通り、目の前のこの人は、アリア先輩じゃない……)
あかりは、自身にそう言い聞かせながら、眼前の存在を、無力化すべき脅威として、銃を構え続ける。
しかし--
「おいおい、手震えてんぞ、あかりちゃん」
偽物の嘲りの中で、あかりは、自身の手がガクガクと震えて、銃の照準が定まらないことを自覚する。
185
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:18:20 ID:jKKln31s0
「きゃははははっ、やっぱ、あれか?
いくら偽物だって分かっていても、大好きな先輩には鉛玉撃ち込めないってかぁ?」
(――違う……。そんなのじゃない……)
ウィキッドの指摘は、的を外れている。
訓練などで、アリアに銃口を向ける機会は、多々あった。
今更になって、銃口を向けることに躊躇いなどはない。
では、何故手元がこんなにも乱れているのか?
それは、アリアを殺した張本人が、よりにもよって、アリアの姿を借りて、また悪意をまき散らしている--その事実に対して、激情が込み上げ、あかりの心を激しく揺さぶり続けているが故であった。
「――我慢ならないよね、あかりちゃん……。
こんな奴が、大切な人の姿で、好き放題してるのって--」
「……黄前さん……?」
自身の気持ちを代弁するかのような、久美子の言葉に、あかりは、思わず彼女の方へと視線をやる。
久美子は、その大きな瞳を涙で潤ませながら、キッと“アリア”を睨み付けた。
「さっきの人の言う通りだよ……。こいつは、麗奈と、あかりちゃんの先輩を殺した……。
それだけに飽き足らず、今度は死んだ人の姿まで勝手に使って、冒涜して……。
こんな奴は、生きてちゃいけない……!!」
「……高坂さんが……?」
その言葉を受けて、あかりは初めて、麗奈も魔女の悪意によって、亡き者にされたことを知った。
そして、理解した。
何故久美子がウィキッドに対して、ここまで憎悪を剥き出しにしているのかを。
「言ってくれるねぇ、黄前さん。
それじゃあ、どうする? 私を殺しちゃう?
っていうか、そんな事できるの? あんたみたいな、何も出来ないザコが?」
くつくつと嗤いながら、挑発の言葉を紡いでいく“アリア”。
悪意に満ちた問いかけに、久美子は更に険しい表情を浮かべ、唇を強く噛み締めると、ぶちりと一筋の血が滴り落ちた。
憎悪に装飾された形相で、ぷるぷると震える久美子の反応に、ウィキッドは、ますます楽しげに口角を吊り上げると、自らの後方―――麗奈の残骸がある場所に指を差す。
186
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:18:45 ID:jKKln31s0
「きゃはははははっ、やれるものなら、やってみろよ。
そしたら、あそこに散らばってるゴミ屑も、少しは浮かばれるってもんだよ!!」
――ぶちりっ!!
瞬間、久美子の唇から、夥しい量の血が滴り落ちたかと思うと、彼女は勢いよく飛び出し、“アリア”の元へと駆け出した。
「う”う”あ”あ”あ”あ”あ“あ”あああああああああああーーーっ!!」
普段は金管楽器に注入する、肺活量と気管の強度を以て、金切り声のような咆哮を上げる久美子は、獣のような姿勢で、地を蹴り上げていく。
もはや理性などは、欠片も残っておらず、ただ眼前の魔女に、憎悪と殺意の全てを叩き付けんと突貫していた。
「きゃはっ――」
武器も持たずに、ただただ突進してくる生贄―――。
その哀れ極まりない姿に、“アリア”は口元を歪めてほくそ笑むと、青白い筋を浮かび上がらせた腕で、接近する久美子の心の臓を穿たんと、貫手の構えを取る。
だが――
ヒュン!!
突貫する久美子の背後より、疾風を伴った影が、飛来してきたかと思うと―――
「……があっ!?」
横殴りに、久美子を突き飛ばし―――
バババババァンッ!!
彼女が地面に叩きつけられるのとほぼ同時に、複数の弾丸が、"アリア"の身体に見舞われた。
187
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:19:11 ID:jKKln31s0
「――が、は……っ」
途端に、仰向けに倒れる、偽りの肉体。
神崎・H・アリアを模した、美しい面貌は見るも無残に破壊され、三つの赤黒い空洞からは、ドクドクと鮮血を垂れ流し続けていた。
弾痕を穿たれたのは、額、右目、左目、喉、左胸――何れも人体の急所として、知られる箇所付近に一発ずつ。
喉を貫いた弾丸に至っては、後数ミリでも下にズレていれば、首輪をも作動させていただろう。
「――何、今の……?」
未だ何が起こったか理解できない久美子は、身を起こすと、前方に、自身の怒りの矛先であったはずの魔女が、無様に風穴を晒しながら、天を仰ぎ見ている光景が飛び込んで来た。
そして、その彼女の元へ、ゆっくりと銃に弾丸を充填しながら、歩んでいく影を視界に捉える。
「あ、あかりちゃん……?」
久美子は、その影の正体があかりであると認識して、その名を呟く。
それに呼応するようにして、白髪の少女は久美子の方へと、チラリと一瞥するが、
「――っ!?」
その横顔を見て、久美子は思わず絶句―――憎悪で燃え滾っていた久美子の心は、驚愕と困惑によって塗り替えられた。
それも無理からぬこと。
間宮あかりが、本来どんな女の子だったのかは、久美子には分からない。
しかし、彼女から見た、間宮あかりという少女は、この殺人ゲームによって、心身ともにすり減らされた影響か、口数は少なく、大半の時は、沈痛な面持ちを浮かべていた。
この殺し合いに同じく苛まれてきた久美子も、自身と同学年である少女が抱いていたであろう、陰鬱な心情は痛い程に理解し、共感を覚えていた。
しかし、そういった、あかりへの印象も、今しがた垣間見せた面貌によって、塗り替えられた。
それまでの弱々しい先入観があったからこそ、その変貌ぶりは、より強烈に久美子の心に刻み込まれ、ぞっ…と、怖気すらも走らせたのである。
188
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:19:37 ID:jKKln31s0
「……。」
武偵の少女が、己が先輩の姿をした魔女へと、歩み寄っていく。
彼女が歩を進めていく度、ぐにゃり、ぐにゃり……と、空気が歪んでいく錯覚を、久美子は憶えた。
それ程までに、あかりが形成している面貌は、おどろおどろしく、見るものに畏怖と威圧を与えるものであった。
「きゃはははははははははっ、良い面構えになったじゃねえか、チビ助っ!!」
あかりが残り数歩の所まで接近すると、"アリア"は勢いよく飛び起き、愉快そうに嗤いながら、相対する。
撃ち抜かれてしまった箇所は、超常の治癒能力によって、既に塞がりつつあった。
「――本当に、頭撃たれても死なないんですね……」
「うん、まぁ、気に食わねえ奴から押し付けられたのは癪だし、クソみてえなデメリットはあるけど、この特性自体は気に入ってるぜぇ。
お陰で一杯一杯楽しいもの見れてるからなぁ!!」
「そう、それなら良かった」
「あぁ?」
爆弾を片手に臨戦体制を取るウィキッドに、あかりは、ぽつりと呟く。
訝しむウィキッドに、あかりは、その表情を崩さないまま―――
バババァンッ!!
目にも止まらぬ早業で、三発もの銃弾を発砲。
狙いは、ウィキッドの眉間、右胸、左胸の三点。
コンマ秒にも満たない世界にて、撃ち抜かれた速射であったが、魔女は咄嗟に反応。
サイドステップで弾丸を回避しようとするも、如何せん、超至近距離での発砲―――完全には避けきれず、一発が右肺を貫いた。
189
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:20:26 ID:jKKln31s0
「あなたは、どれだけ痛めつけても死なない……。
つまり、殺さずに、償わせることができる―――それが分かっただけでも、良かったってことです」
「――がほっ、ごほぉっ……!! 『償わせる』だぁ……!?」
血反吐を吐きつつも、魔女は、依然として、不敵な笑みを返す。
刃物のように尖った、その鋭い視線を向けられても、あかりは表情を一切変えることなく、銃口を、ウィキッドへと向ける。
「あたしは、あなたの口から、謝罪の言葉を聞きたい―――」
ババババァンッ!!
一切の躊躇いなく、放たれる弾丸。
嗤う魔女の胴体に吸い寄せられるように、四発の銃弾が迫る。
「あなたが殺してきた人達、あなたに大切な人を奪われた人達―――」
ウィキッドは身体を捻りつつ、右後方へと跳ねることで、それらを躱さんと試みる。
しかし、あかりは、そこでは止まらない。
ババァンッ!!
「――っ!?」
更に続けざまに二発発砲すると、見事に、空中で身を捻っていたウィキッドに着弾。
一発目は、右耳を血飛沫と共に弾き飛ばし、もう一発は、額に再び紅色の穴を穿った。
着地する、偽りの“アリア”。ドクドクと、額からは夥しい血が垂れ流され、顔面は紅色に染められるが、それでもペロリと口の周りの血を舐めとると、眼光はより鋭いものへと昇華させ、あかりと対峙する。
「あなたの悪意に蹂躙された全ての人達に、謝ってくれるまで―――」
先と同じ、見る者の背筋を凍らせるような形相を張りつかせて。
静かに、冷たく、それでいて、確かな怒りを滲ませた口調で、武偵の少女は宣告する。
「あたしは、あなたの身体に風穴を空け続けるから……!!」
間宮あかりは、武偵であり続けることを、諦めていない。
武偵を諦めることは、母との約束を裏切ることになるから――。
そして、いなくなってしまった、かけがえのない人達との繋がりを、断ち切ることになってしまうと考えたから――。
その一方で、己が内でマグマのごとく煮えたぎる憎悪と憤怒を、抑えることも止めた。
自分からアリアを奪って、あまつさえ彼女を侮辱し、そして、その姿を模倣して、彼女の尊厳を貶めることを、平然とやってのける、眼前の魔女。
鬼化の影響で、超常の再生能力を得た彼女は、急所を穿たれたとしても、致命傷にはなりえないようで、恐らくは、首輪を作動させない限り、絶命に至る事はないだろう。
対峙する上では厄介極まりない特性ではあるが、今回に限っては、この不死性については却って都合が良かった。
190
:
戦刃幻夢 ―感情表現の強制パレード―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:20:49 ID:jKKln31s0
-――感情の赴くまま、ありったけの弾丸を撃ち込んで、徹底的に痛みを分からせた上で、心を折る。
それが、ウィキッドに対して下した決断。
間宮あかりという少女は、この殺し合いの会場にて、初めて、誰かに対して明確な害意を露わにしたのであった。
「――く、くくっ……。あぁ、良いぜ、上等だよ……」
怒りに震える銃口を向けられながらも、魔女は、なお嗤い続ける。
突きつけられた宣告を、むしろ、楽しんでいるかのような態度で、前傾の構えをとると――
「やれるもんならやってみろよっ、クソチビッ!!」
両の手に爆弾を顕現させるや否や、あかりに向けて、跳躍。
刹那―――銃声と爆音が、ほぼ同時に轟くのを皮切りに、間宮あかりと水口茉莉絵による闘争劇は、激化の一途を辿ることとなった。
191
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/09(土) 13:21:54 ID:jKKln31s0
投下終了します。続きは後日投下します。
192
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:37:11 ID:A6IR5g3s0
投下します
193
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:37:55 ID:A6IR5g3s0
◇
『滅セヨ、オシュトルゥウウウウウッ!!』
憤怒に染まりし黒の巨獣より、地上に降り注がれるは、日輪を彷彿させる巨大な炎塊。
「――な、に……?」
大陸の地表を根こそぎ焼き払わんばかりの質量で迫りくる、それを前に――ただのヒトの身に、何が出来ようか……。
オシュトルは驚愕を顔に張り付け、自身に迫る“滅び”を、ただただ為す術なく見上げていた。
「――ハクっ!!」
「……なっ!?」
しかし、終焉の炎がオシュトルを焼き焦がす寸前、疾風が吹き抜けたかと思うと、血相を変えたクオンが飛び込んできた。
(死なせない――、絶対に……!!)
あの瞬間―――。
巨獣化したヴライから豪炎が放たれた瞬間、クオンは、近くで呆然と見上げていた麗奈には目もくれず、猛然とオシュトルに向かって駆け出した。
そして、勢いそのまま、庇うようにしてオシュトルに抱きつくと、炎に背を向けたのであった。
「クオン殿、何を--」
オシュトルが、驚愕に目を見開いた、その瞬間。
ゴォオオオオッ!!
問答無用に、世界は紅蓮に染まった――。
凄まじい熱量と衝撃が、大地を焼き焦がし、吹き荒ぶ――。
黒緑で覆われていた一帯は、例外なく、一瞬で焼け野原へと変貌した――
「――クオン……、お前は……」
たった一点を除いて。
『ヌウゥ……!?』
上空より地上の行く末を見届けていたヴライは、その現象に、忌々しげに唸る。
爆心地付近は、巨大なクレーターが穿たれ、広範囲にわたり草木は根こそぎ吹き飛んでいたが、一塊の光の繭のようなものが、その中心に鎮座していた。
そして、その光の中で、オシュトルとクオンが何事もなかったかのように佇んでいたのである。
「――良かった……。まだ私の中に、残っていてくれたんだね……」
目を見開くオシュトルを他所に、金色の闘気(オーラ)を全身に纏ったクオンは、両の掌に視線を落としながら、自身の奥底より湧き上がる“力”の奔流を感じていた。
194
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:38:22 ID:A6IR5g3s0
トゥスクル皇女に宿りし、その”力”は、超常の類。
嘗て、クオンの母は、不治の病に侵されて、若くして、その命を散らした。
クオンの母の命を奪ったのは、稀な血の病―――。
元来、大いなる父(オンヴィタイカヤン)こと旧人類により、創造された亜人(ヒト)は、六種の神の加護の内、いずれか一つのみの加護を躰に宿し、顕現させる神憑(カムナ)という特性がある。
しかし、極稀にそのどれもが強く顕現してしまう者が現れる。
もしも、これを制御することが出来れば、超常の力を得ることになるが、通常のヒトの身では、躰に宿る神憑(カムナ)の争いによる負荷には耐えきれず、内側から破壊されてしまう。
これが、クオンの母を死に追いやった病の正体。
そして、この類稀なる血の特性は、不幸なことに、娘であるクオンにも遺伝してしまった。
その為、クオンも幼少の頃、この病によって、死線を彷徨うことになるが、そこは選ばれし神の子―――先皇でもあり、父でもある、『うたわれるもの』より継承した、『願いの神』の血が、病を克服。
以後は、火、水、土、風、光、闇、全ての加護の力を制御するに至った。
しかし、先の破壊神との激闘で、クオンの中からウィツァルネミテアが消失したことで、この能力に纏わる状況は一変する
クオンの身体に宿っていたウィツアルネミテアの存在は、謂わば、超常の力を制御するために必要不可欠な歯車―――故に、このウィツァルネミテアという歯車が欠けてしまったが為、彼女は、超常の力を発動できなくなってしまったのである。
それでは何故、クオンは再びこの力を呼び覚ますに至ったのだろうか?
それは、彼女の躰の中に、僅かながら、願いの神の力が残留していたことに起因する。
ウィツァルネミテアは、確かに消滅した。
しかし、完全に消え去ったという訳ではなく、僅かながらの欠片を、置き土産として残していたのだ。
そんな中で、巨獣と化したヴライにより、必滅の炎が放たれた瞬間、オシュトルを護りたいという、クオン自身の強き願いに、願いの神の”残滓”は呼応―――結果として、歯車は起動し、超常の力の再覚醒に至ると、即席の障壁を以って、オシュトルと自身を災厄から護ったのである。
195
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:38:41 ID:A6IR5g3s0
「剛腕のヴライ……、汝は、幾度となく、我が朋友に手を掛けんとした―――」
呆然とするオシュトルを背にして、トゥスクルの天子は、己を見下ろすヴライを睨みつける。
全身に纏う金色の闘気は、徐々にその色を濃くしていき、揺らぎを増していく。
「その蛮行、実に許し難い……。万死を以て贖って貰おうぞ!!」
「クオンっ!?」
言うが早いか、クオンは大地を蹴りあげると、弾丸の如き勢いで、ヴライに向かって飛翔。
大地にオシュトルを置き去りとしたまま、瞬く間にヴライの眼前に迫ると、勢いそのまま、右の拳を振りかぶる。
『―――ッ!?』
まさか、自身の頭蓋まで跳び上がってくるとは、微塵も考えていなかったのだろう。
ヤマト最強を誇る巨獣は、驚愕に目を見開きながら、咄嗟に左拳に炎を宿し、クオンの拳を迎え撃たんとするも―――
「遅い!!」
クオンの拳が振り抜かれる方が、速い。
そして、ズドンッ!!と顔面から強烈な打撃音が響き渡ったかと思うと、城砦を彷彿させる巨体は、数十メートルほど後方に弾け飛んだ。
『ヌォオオオオオッ!?』
衝撃波が大気を震わせ、轟音が周囲に木霊した。
生身の少女(ヒト)が、自身の百倍以上もの質量を有する巨獣を吹き飛ばすという、物理学に矛盾する光景が展開された。
『貴様……何者―――』
クオンは尚も、追撃の手を緩めない。
吹き飛んだヴライの元へと、一息に飛躍すると、そのまま空中で体勢を整えて、右脚を振りかぶり、叩き込まんとする。
196
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:39:31 ID:A6IR5g3s0
「沈めよ、仮面の者(アクルトゥルカ)!!」
『女ァアアアアアアッーーー!!』
しかし、ヤマト最強も驚愕したままでは終わらない。
要塞のような巨躯に似合わぬ俊敏さで、空中で身を翻すと、飛来してくるクオン目掛けて、巨腕を振るうと、直径十メートル以上はあろう巨大な炎球を放出。
砲弾の如く射出された高熱火球は、クオンの小さな躰を、瞬く間に呑み込もうとする。
「無駄だぁっ!!」
クオンは勢い殺すことなく、火球を真っ正面から突き破り、ヴライの顔面に強烈な回し蹴りを炸裂させた。
『――ッ!?』
大地を振るわす凄まじい殴打音とともに、再度、巨躯が水平方向へと浮いた。
しかし、怪物は、直ぐに地に脚を突き立てると、ブレーキをかけて、その勢いを殺す。
間髪入れず、今度は両の手から、灼熱の火球を連射。追撃にくる神の子を消し炭にせんとする。
しかし、神々しい輝きを宿したトゥスクルの天子が、臆することはない。
そもそも、仮面で極限にまで火力を増大させたとはいえど、火神(ヒムカミ)の加護をベースとしたヴライの投擲では、あらゆる神憑を超越した神の子を、屠ることは叶わないのだ。
クオンは顔色一つ変えずに、殺到するそれらをただひたすらに突き破り、時には弾き飛ばしながら、ヴライとの間合いを一気に詰める。
「はあああああああっ!!」
目標を蒸発させるに至らなかった火球が、あちらこちらに着弾し、火柱が天に昇り、熱波が大地を焼く中、クオンの拳撃と蹴撃が、ヴライの巨躯を穿いていく。
『ガァアアアッ!?』
怒涛の連撃が叩き込まれるたびに、苦悶の咆哮と共に、黒の巨躯は大きく揺れ動き、大地が踏みしめられる都度に鳴動する。
真なる力を解放するも、それを凌駕する存在の出現によって、忽ち劣勢に立たされることとなったヤマト最強―――。
しかし、このような状況下に陥っても、彼の闘志は不撓不屈―――決して折れることはない。
197
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:39:54 ID:A6IR5g3s0
『図ニ乗ルナ、女ァアア!!』
巨躯を素早く翻し、打撃を重ねんとしていたクオンの間合いから逃れたヴライは、両脚を踏みしめると、気合一閃。
尚も追撃に迫るクオン目掛けて、カウンター気味に巨腕を振り抜く。
「……っ!?」
咄嗟に回避行動を取るクオンであったが、巨獣の拳は今度こそ彼女を捉え、その小さな躰はピンボールのように弾き飛ばされ、勢いよくクレーターとともに地面へと叩きつけられる。
一呼吸置く間も無く、ヴライは大地に沈んだクオンに向けて、巨大な掌に収束させた炎球を容赦なく連続射出。
凄まじい爆炎が秒間十発近くも炸裂していき、クオンが沈んでいたクレーターを中心に、半径数十メートル規模で、盛大に火柱を噴き上げていく。
これでもかとばかりに、炎熱地獄を創出していくヴライ。だが爆心地から、金色の光が飛翔したのを視認するや否や、前傾姿勢となり、地を思い切り蹴って、そちらに向けて跳躍する。
『ムゥンッ!!』
「てぇあっ!!」
裂帛の気合いと共に、両雄の拳が激突し、大気が割れんばかりの衝撃が、辺り一帯に伝播する。
地上から数十メートル上空で、列車を彷彿させる質量の黒の剛腕と、その数百分の一にも満たない白く小さな拳が、互いを押し切らんと全力せめぎ合う。
両者一歩も引かぬ均衡状態は三十秒ほど続いたが、やがて、その均衡は崩れ去ることとなる。
198
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:40:39 ID:A6IR5g3s0
『ヌゥオォオオッ!!』
「くっ……!?」
ヴライが雄叫びを上げながら、更にその巨大な拳に力を込めていくと、クオンの拳が徐々に押し返されていく。
顔を苦悶の表情に染め上げながらも、なおも懸命に抗わんとするクオンであったが、ヴライの剛腕は、徐々にその小さな躰を圧していき――
「っ……!?」
やがて、完全に拮抗が崩れ去ると、トゥスクル皇女の躰は勢いそのままに弾き飛ばされ、豪快な衝突音と共に大地に叩きつけられた。
間髪入れずに、ヴライはクオンの元に急降下。
地面に張り付いた、敵の躰を圧殺せんと、大筒のような巨拳を地面に向けて、振り落とす。
瞬間、ドゴン!!という轟音が響き渡り、地震かと錯覚させる振動が、一帯に伝播する。
大地に巨大なクレーターが穿たれ、クオンの躰はその中に埋没したはず。
『ヌゥ……!!』
「―――はぁ……はぁ……」
しかし、己が手応えに違和感を憶え、ヴライが拳を引き抜くと、そこにはクオンが健在しており、両の手を交錯させ、防御の構えを取っていた。
心なしか、彼女を覆う金色の闘気は、薄くなっているようにも映り、苦しそうな呼吸を繰り返してはいるものの、その眼光から闘志の輝きは失われていない。
「――っ!」
刹那、カッと目を見開くと、クオンは自らの全身に力を込め、そのまま一気に上空へと飛翔。
拳を引き抜いたばかりで隙だらけのヴライの顎を目掛けて、弾丸を彷彿させる渾身のアッパーカットを炸裂させる。
『ッ!?』
ヴライの巨躯が大きく仰け反り、浮き上がった。
その隙を突き、クオンは続けざまに左右の拳を振り上げ、神速を伴った連撃を繰り出さんとする。
しかし、仰け反ったヴライはその全身から炎の渦を生み出し、放出。
爆風熱波は、瞬く間にクオンの躰を圧し飛ばして、その拳撃を不発に終わらせた。
199
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:41:08 ID:A6IR5g3s0
『消エ失セイッ!!』
ヴライは再び、両の掌から火球を乱射。
未だ宙にいるクオンに、怒涛の勢いで、火球が殺到していき、着弾と同時に、爆発が連鎖していく。
「っ……!!」
だがそれでも、地に堕ちていくクオンの華奢な肢体が爆散することはなく、金色の膜が彼女の躰を護っていく。
超常の加護のため、外的損傷を負うことはないのだが、その身に纏う闘気は薄く揺らいでいき、息は荒く、苦悶の表情を浮かべたまま、着地する。
ヤマト最強は尚も、執拗に、徹底的に、クオンの生命を狩り取ろうと、次々と火球を放ち続ける。
「くっ……!! ――はぁ……はぁ……」
猛然と襲い来る火球の連撃。
クオンは時には、爆撃を縫うようにして回避し、回避が間に合わない場合は、金色の膜の障壁を以てして、その悉くを弾いていく。
未だ無傷を保ってはいるが、いよいよもって、クオンの動きは覚醒当初のそれと比べて、精彩を欠き始めていた。
「――ごほっ!!」
遂には、回避行動の最中に、小さな血の塊を吐き出すクオン。
額には、夥しい量の脂汗が滲んでおり、整った面貌は青ざめ、苦痛で歪んでいる。
200
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:41:31 ID:A6IR5g3s0
(――身体が、もたない……)
『仮面の者』の猛撃を捌いているにもかかわらず、何故クオンはここまで、追い詰められているのか。
その答えは、至極単純明快である――『力』の使い過ぎによる消耗だ。
『超常の力』は、願いの神をその身に宿していたからこそ、本来はヒトを絶命に追いやるほどの負荷を軽減させたうえで、行使することが可能だった。
しかし、その神は既にクオンの内になく、今は僅かながらの残滓を代用しているに過ぎない。
故に、『力』の行使による身体への負荷は、かつてとは比べ物にならず、クオンは徐々に、その肉体を内側から蝕まれていく―――言うなれば、諸刃の剣だ。
このまま、『力』を行使し続ければ、間違いなく斃れることになるだろう。
だが、今の状況では『力』を解除することが出来ない。
そんなことをしてしまえば、ヴライの猛撃によって、一瞬で灰燼と化すのは目に見えているからだ。
『コレ以上、汝ニ付キ合ウ道理ハ無イ―――』
無論、そんなクオンの事情など、ヴライは知ったことではなく。
黒の獣は、無慈悲且つ徹底的に、己が敵を屠らんとして、攻勢を強めていく。
クオンは、俊足の脚力を以ってして、回避に徹してはいたが、段々とその足取りは重りを付けられたように鈍くなり、遂には盛大に吐血の上、片膝をついてしまう。
彼女を包んでいた金色は、靄のように消えかかっていた。
『塵トカセィッ!!』
そのような好機を、ヴライが見逃す筈もなく、その巨体を疾駆させると、紅蓮の炎を宿した剛腕を振りかざし、クオン目掛けて一気に振り下ろした。
201
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:42:00 ID:A6IR5g3s0
「――クオンさんっ!!」
刹那、一陣の疾風が、ヴライとクオンとの間に割り込むと、その巨大な拳撃の勢いを、真っ向から受け止めた。
『ヌッ!?』
「っ……!? 早苗!?」
クオンの目の前には、風の障壁を展開させ、ヴライの剛腕を正面から受け止める早苗の姿があった。
『オノレェ……、マダ、蟲ガ沸クカッ…!!』
突然の乱入者に、巨獣はほんの一瞬だけ、驚愕の表情を浮かべる。
しかし、すぐさま、邪魔立てする早苗への怒りを剝き出しにし、その剛腕に更なる力を籠めていく。
「うっ……ぐっ……」
あらゆる理を塗り替えるような圧倒的な剛力によって、風の障壁は軋むような音を奏でる。
それに伴い、障壁越しの早苗の華奢な体躯に、圧し掛かる重圧が、徐々に増していく。
早苗は、歯を食いしばり、耐え続けるも、いよいよもって抑えきれなくなる。
だが、しかし―――
「てぇあああああああっ!!」
『――ッ!?』
気合と共に、再び『力』を解放したクオンが、ミサイルのようにヴライの顔面に飛翔。
勢いそのままに、回転蹴りを叩き込むと、黒く蠢く山は、水平方向へと大きく弾き飛ばされる。
「はぁ、はぁ……、早苗、ありがとう……。
助かった、かな……」
苦悶の表情を張り付けたまま、クオンは口元の血を拭い、早苗に向き合う。
「いえ……。それよりクオンさんは大丈夫なんですか?
その『力』……、それに、あの怪獣みたいなのは―――」
瞬間、二人の会話を遮るかのように、大火球が飛来。
クオンは、咄嗟に早苗を抱えると、そのまま横っ飛びで回避する。
『ヌゥウンンンンッ……』
大火球が地面に着弾し、凄まじい爆炎が生じる。
その向こう側では、漆黒の怪獣が、憤怒の形相で二人を睨み据えている。
「詳しい話は後……。今は、この状況を切り抜くのが先、かな……」
クオンの言葉に、早苗が無言で頷く。
刹那―――地を震わす咆哮と共に、ヴライは爆炎を突っ切ると、猛進。
神の血を継承する天子と、現人神たる巫女は、互いに顔を見合わせると、これを迎撃するのであった。
202
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:42:56 ID:A6IR5g3s0
◇
「――あれは、早苗か……」
荒廃した大地で、たった独り、ポツリと取り残されたオシュトル。
爆撃絶えぬ戦場の中、爆炎に照らされるは、夜の色よりも濃い黒を彩る怪獣と化したヤマト八柱将ヴライ。
遠目ながら、その巨躯の周囲を高速で飛び駆け巡る、二つの影も視認できる。
金色の光を身に纏いつつ、ヴライに突貫しているのが、クオン。
そして、宙を飛び回りつつ、煌めく光弾を放ち、クオンに加勢しているのが、早苗なのだろう。
二人の少女は、次々に放出される巨大な火球の合間を搔い潜りつつ、勇猛果敢に応戦している。
傍から見れば、二対一という構図ではあるが、旗色は芳しくない
当初こそ、クオンがヴライを圧倒していたようにも見えたが、時間の経過とともに、彼女の動きのキレは鈍っていき、今では早苗の援護ありきでも、ヴライに圧されている始末だ。
「――止しな、あんたが出る幕じゃねえ」
傷む身体を引き摺って、戦いの場へ赴こうとしたオシュトルを呼び止める声。
振り向けば、そこには遺跡にて離別した隻腕の剣士が佇んでいた。
「ロクロウか……」
「そんな歩くのもやっとな状態で行ったところで、足手まといにしかならん」
「……。」
淡々と、しかし、有無を言わさぬ口調で忠告するロクロウ。
紡がれるのは全くの正論。オシュトルは押し黙るしかない。
「それに、早苗の奴は、未だにあんたには疑念を抱いているようだった。
余計な混乱を招かないためにも、ここで大人しくしておいた方がいいぜ」
ロクロウの忠告は続く――。
早苗とのわだかまりを解消した後、二人は共に行動していた。
その道中のやり取りにて、彼女の中から、ロクロウとヴァイオレットに対する敵意はたち消えていたことは伺えた。
しかし、オシュトルに対する敵意及び恐怖は未だに拭いきれてはいないように感じたのであった。
オシュトルもまた、先に彼女に執拗に追いかけ回された記憶も手伝って、ロクロウの忠告に異を唱えることは出来ない。
203
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:43:32 ID:A6IR5g3s0
「しかし、早苗の奴を追いかけてきてみりゃ……一体何なんだあのデカいのは?
あれも参加者なのか?」
視界に映し出される、神話さながらの激闘――。
それを前にして、刀を肩に担ぎ上げながら、訝しんだ顔で呟くロクロウ。
早苗との同行の道中、激しい轟音と、獣のような咆哮を耳にすると、彼女は、その正体を探るべく、空高く飛び上がった。
そして、遠方にて何かを発見すると、「クオンさん!?」と血相を一変させて、そちらへと急行した。
取り残されたロクロウも、急いでこれを追うことになったのだが、その果てで、ドラゴンにも勝るとも劣らぬ巨躯で暴れ回る異形の怪物と、それと交戦する早苗達、そして、その戦場に向かわんとしていたオシュトルを見つけて、今に至っている。
「――奴は、ヤマト八柱将、ヴライ……。我らが宿敵よ」
「……あいつが……?」
「然り……。そして、奴のあの姿こそが、ヤマトに伝わりし『うたわれるもの』……。
我ら、仮面の者(アクルトゥルカ)が、仮面(アクルカ)の力を解放した姿だ」
オシュトルの言葉を受け、改めて暴れ回る巨獣に目を向けるロクロウ。
ヴライという漢の危険性については、オシュトルやあかりから聞き及んでいた。
実際に、猛々しく拳を振るっていた姿を目の当たりもしていて、その奮戦ぶりに、己が夜叉の業魔としての血が奮い立たされた記憶も新しかった。
まさかそんな猛者が、このような怪物に成り果てるとは想像の埒外であった。
「やれやれ、こいつは骨が折れそうなこった……」
溜息を漏らしつつ、ロクロウは歩を進めていき、オシュトルの横を通り過ぎていく。
「行くのか……?」
「ああ、恩人に死んでもらっちゃ困るからな。
あんたは、巻き添え喰らわないように、離れときな。
全て片付いたら、早苗を交えて、話をしようや。
色々と誤解を正しといた方がいいだろうしな」
「――すまぬ……」
頭を下げるオシュトルに、ロクロウは背中越しに手を振りながら、戦場へと駆けていくのであった。
204
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:43:54 ID:A6IR5g3s0
◇
「――がはっ!!」
覚醒した漆黒の巨獣を取り巻く戦場。
『仮面の者』が繰り出した、巨大な拳撃を真正面から受けたクオンは、その身体を岩盤に叩きつけられ、苦悶を漏らす。
宙を駆けるうたわれるものは、その手に巨大な炎槍を顕現し、身動きの取れない彼女を葬り去るべく、投擲せんとする。
慌てて、早苗が援護に入らんとするも―――
『ヌゥウウン!!』
「きゃあ!?」
早苗の動きを察知したヴライは、投擲先を彼女に変更し、射出―――豪速で迫る巨大な炎塊を、早苗は翠色の髪を靡かせつつ、寸前で躱す。
的を外した炎槍は、大地に着弾。
業火に焼かれ、黒煙を上げる地上を一瞥し、早苗は冷や汗を浮かべる。
何とか今はやり過ごせたものの、その火力は桁違い―――直撃すれば、一たまりもない。
クオンの窮状を察して、駆けつけ加勢したのは良いが、北宇治高校で相対した破壊神に引けを取らぬ、圧倒的火力と相対する羽目になり、生きた心地がまるでしない。
例えるならば、死神に首筋に鎌を突き付けられているような、そんな感覚。
(――それでも、私は……!!)
仲間を助けたい―――その一心で、早苗は己の恐怖を押さえつけると、立て続けに迫り来る業火の塊を躱していく。
風を切り、豪炎の中を掻い潜りながらも、決して防戦一方というわけではない。
隙を見ては、ありったけの弾幕を叩き込んでいく。
205
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:44:19 ID:A6IR5g3s0
『……ッ……、羽蟲―――』
巨獣化したヴライにとって、早苗の存在など、ブンブンと耳障りな羽音を立てる蟲にも等しいだろう。
しかし、現人神たる巫女から降り注ぐ光の弾幕は、ヴライの巨体に容赦なく突き刺さると、その肉を抉っていき、決して無視することは出来ない威力を孕んでいた。
『早々ニ失セイッ!!』
「っ!?」
苛立ちと怒りに塗れた咆哮を轟かせると、ヴライの胸部からは、業火が間欠泉のごとく噴射。
早苗は咄嗟に、風の結界を展開し、焼き焦げることだけは防ぐ。
しかし、業火の勢いを殺すことは出来ずに、後方へと、勢いよく弾き飛ばされてしまう。
百戦錬磨の闘鬼は、大地を蹴り上げると、これを猛追。まさに、蟲を叩き潰さんとする勢いで、猛炎を帯びた剛腕を振るう。
刹那―――
「早苗はやらせねえ!!」
『ヌッ――!?』
疾走する黒い人影が、ヴライの眼前へと跳躍。
予期せぬ乱入者によって、否応なしに開かれた深紅の眼光―――そこを目掛けて、手にする銀の得物を横一閃に振り抜く。
ヴライも、即座に迎撃せんとするも―――
ザ シ ュ ッ!!
『グゥウウ……!!』
怪獣の唸り声が轟く。
ヴライの顔面に刻まれた斬線は、左の眼窩を深々と抉り、その視界を奪ったのだ。
206
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:44:41 ID:A6IR5g3s0
「ヴライっ!!」
『ッ!? 女ァ――』
片目を奪われ、瞬間的に動きが止まったヴライ。
それを好機と見たか、岩盤にめり込んでいたクオンが、戦線復帰。
自身が沈んでいた岩場を蹴り上げると、黄金の弾丸の如く、ヴライの元へと一直線に飛来してきたのだ。
「ハァァァァァァッ!!」
懐へ飛び込んできたクオンに、ヴライは反射的に左腕を振るい、裏拳の要領で殴り飛ばさんとする。
しかし、クオンの方が一瞬速く、拳が振るわれるより先に、巨獣の側頭部に痛烈な蹴撃を叩き込む。
『――ヌゥッ!!』
その巨体は、大きく傾ぐも、倒れることなく踏みとどまり、すぐに反撃せんと右掌に炎槍を顕現。そのまま、クオンに投擲せんとするも、すかさず早苗がこれに反応。風と光の弾幕を、巨獣の右手首へ連続掃射。
肉が爆ぜ削がれて、手元が狂うと、炎槍の投擲はクオンを捉えること叶わず、結果として、遠方の大地に火の柱を立ち昇らせるだけとなった。
再び生じた隙を、トゥスクルの天子は見逃すことなく、拳と蹴りを間断なく叩き込んでいき、巨躯を揺らしていく。
そして--
「てえああああっ!!」
『……ッ!!』
裂帛の気合いと共に、金色の闘気を全開にしたクオンが、渾身の右掌底を巨大な頭蓋に叩き込むと、ヤマト八柱の巨獣の躰は、後方へと大きく吹き飛び、大地に背を打ち付けた。
「――はぁはぁ……」
生身の身体で、城塞を彷彿させるような巨体を殴り飛ばすという、離れ業をやってのけたクオン。
ヴライが吹き飛んだ方向を見やりながらも、地面に着地すると、『力』の反動によって吐き出された口元の血を拭う。
207
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:45:12 ID:A6IR5g3s0
「やるじゃねえか、あんた」
「――貴方は……?」
そんな彼女に、乱入者たるロクロウは、好奇の眼差しを向けて、語り掛ける。
遠目から、怪物相手に奮戦していたのは窺えていたが、実際にアレを吹き飛ばすのを目の当たりにしてしまうと、その規格外の強さに感銘を受けると同時に、己が夜叉の血が滾るのを感じていた。
「ロクロウさん……!!」
「助太刀に来たぜ、早苗。
ったく、一人で突っ走りやがって……」
「ご、ごめんなさい……。でも、クオンさんが危なかったので……」
慌てて駆け寄る早苗に、ロクロウは呆れた様子で嘆息すると、彼女は申し訳なさげに頭を下げる。
「……味方と考えて良いのかな?」
「応……、ロクロウだ、宜しく頼むぜ」
「私はクオン……。ロクロウ、早速で悪いんだけど、手を貸してくれると助かるかな?」
既にクオンの視線は、吹き飛んだヴライの方に向いている。
地に背を預けていたヴライは、ゆっくりと起き上がると、三人を鋭く睨み据えていた。
「言われるまでもねぇ。俺はその為にここに来たんだからな」
蠢く山に向けて、ロクロウも眼光を光らせると、妖しく煌めく剣を構える。
早苗もまた、ゴクリと生唾を呑みつつ、お祓い棒を振り上げる。
『……我ヲ阻ム蟲ガ、マタ増エタカ……』
一体の怪物と、三人の男女――。
互いに一触即発の空気を放つ中、山の如き巨獣は、前傾の構えをより前屈みにして、両の手に炎槍を顕現。
『良カロウ……、ナレバ此度コソ、汝ラ総テ滅却シ、我ガ武ヲ……否、ヤマトノ武ヲ、示ソウゾ!!』
開戦の号砲が如く、ヴライは炎槍を投擲。
迫り来る業火の塊を前にクオン、早苗、ロクロウは、それぞれ散開---爆心点より退避する。
爆ぜる大地と、迸る火花の嵐の中で、ロクロウとクオンはその脚力を以って、ヴライに肉薄せんと疾駆。
208
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:45:30 ID:A6IR5g3s0
「「……っ!?」」
しかし、炎獄を掻い潜ったその先に、そこにいたはずの巨躯は存在せず――。
「なっ…!? 一体何処に……?」
宙へと退避していた早苗も、ヴライの消失に驚きを露にするも、すぐに、その答えに行き着く。
「っ!? クオンさん、ロクロウさん!!」
自身の更なる上空から伝播する熱量。
いつの間にか、頭上を覆うように跳躍していたヴライの両掌には、日輪の如く輝く炎球があった。
早苗は、咄嗟に二人の名を叫び、警鐘を鳴らす。
『ヌゥンッ!!』
しかし、その呼び掛けによって、ロクロウとクオンが、ヴライの所在に気付いた頃には、天より振り下ろされた業火球が猛然と差し迫っていた。
早苗は慌てて、光弾の弾幕を撃ち込んで、その勢いを殺さんとするが、如何せん質量が違い過ぎる。
炎球の速度は緩まることなく、瞬く間に、宙に浮かぶ早苗に達そうとする。
「たぁぁあああああああっ!!」
刹那、全開の闘気を纏ったクオンが、地を思いっきり蹴ると、ロケットの如く天高く飛翔。
早苗を吞み込まんとしていた炎球を突き破り、これを霧散させると、勢いそのままヴライに迫る。
ヴライもまた二発の炎槍を連続投擲し、これを撃ち落とさんとする。
しかし、クオンが纏う金色の闘気は、二度の爆撃を真正面から受けても、尚健在。
勢いを殺されることなく、ヴライに肉薄していく。
咄嗟に剛腕が振り下ろされるが、クオンはくるりと身を翻して、躱しきる。
やがて、高度が巨獣の頭上を越えるや否や、空中で一回転―――遠心力に勢いを乗せて、自身を見上げる怪物の頭蓋に、踵落としを叩き込んだ。
『グッ……!?』
爆発的な衝撃に、巨獣の頭蓋は軋みを上げ、その巨躯は地上へと、叩き落とされる。
隕石の如く、豪速で地面へと叩きつけられると、大地は円状に陥没。
その周囲は罅割れ、捲れ上がった土砂が天へと立ち昇った。
209
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:46:01 ID:A6IR5g3s0
「――そこぉっ!!」
ダダダダダダダン!!
人間(ヒト)の姿を保った者達の攻勢は、尚も続く。
地に倒れ伏すヴライに対して、流星の如く光弾を叩き込む早苗。
着弾とともに、肉体が削られていき、その巨体は揺れ動くものの、ヴライはその身を奮起させ、ゆっくりと起き上がらんとする。
ザシュッ!!
『――ヌゥッ……!?』
脚に灼熱が走り、思わず膝をつきそうになるヴライ。
ザシュッ!!
ザシュッ!!
ザシュッ!!
目をやると、自身の脚部に何重もの斬線を刻み込んでいく、隻腕の剣士の姿があった。
『小癪ナァ……!!』
上体を穿っていく早苗―――。
脚部を斬り付けてくるロクロウ―――。
二方向からの同時攻撃を、ヴライは剛腕を振るい、薙ぎ払わんとするも―――
ガ ゴ ン ォ !!
天より降ってきたクオンが、ヴライの側頭部に回し蹴りを叩き込んだ。
『ヌ……グゥッ!?』
頭の中で星が煌めくような衝撃が走り、ヴライの巨躯は水平に、二転三転―――地鳴りを轟かせながら、荒廃した大地を転がっていく。
黒と橙が混合した、うたわれるものの巨躯は、生々しい傷と土埃によって、すっかりと汚されてしまっている。
「早苗、ロクロウ、合わせて……!!」
地の味を噛み締めながら、上体を起こすヴライの視界が捉えたのは、猛然と自身に突貫する、クオンとロクロウの二人。
ダダダダダダダン!!
『……ッ!!』
迎撃の構えを取る前に、その視界は、天より降り注ぐ早苗の弾幕によって、遮られる。
顔面に殺到した爆撃を嫌って、右前腕で顔を庇うと、がら空きとなった胴体部に、クオンとロクロウが詰め寄る。
210
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:46:25 ID:A6IR5g3s0
「「おおおおおおおおおおおおおっ!!」」
ロクロウが左から、クオンが右から。
猛る強者二人から繰り出されるは、斬撃と拳打の雨あられ。
―――真向、袈裟、逆袈裟、左袈裟、左逆袈裟、刺突……。
隻腕の業魔が、一閃一閃に神速を宿して、ランゲツ流の剣技を叩き込んでいく一方で―――。
―――横打、斜打、突き、掌底、突蹴り、回し蹴り……。
金色を纏う天子は、その四肢を存分に活かして、その身を躍動させながら、連撃を撃ち込んでいく。
ヤマト最強はその巨躯を捻り、左前腕を振り回して、反撃を試みる。
しかし、二人は素早く跳び上がることで、これを躱すと、息つく間もなく、怒涛の勢いで、肉を切り裂く斬音と、内をも穿つ打刻音を、奏でていく。
ダダダダダダダン!!
無論、ヴライの巨躯にダメージを与えるのは、地上の二人の攻勢だけではない。
天より降り注ぐ早苗の弾幕もまた、ヴライの頭蓋に炸裂し、血肉を抉っていく。
『――オノレェ……』
三方向からの一斉攻撃を受けて、怪物の表情は、屈辱と憤怒に歪んでいく。
己は帝より『仮面』を賜った、ヤマトの矛。
その『仮面』を完全解放したからには、敬愛する帝の威光の元、最強であらねばならない。
しかし、今はどうだ。誉れある『仮面の者』は、オシュトルの側付きの女と、何処の馬の骨とも分からぬ者達によって、いいように痛めつけられているではないか。
このような恥辱が、許されるものか。
―――否ッ、断ジテ否ッ……!!
尚も猛攻仕掛ける連中を、忌々しげに見据えたヴライは、早苗からの弾幕の傘としている右腕―――その掌を開くと、そこに灼熱の炎を灯らせる。
早苗がいち早く異変を察するも、憤怒の猛炎は、既に膨張しきっており―――
『我ラ、ヤマトノ武ヲ、身ヲ以ッテ知レィッ!!』
怒声とともに、大地に叩きつけられると、直径数十メートル規模の爆炎が、盛大に弾けた。
「チィっ!!」
「きゃあっ!?」
風の障壁で身を護った早苗は、圧しきられる形で遥か上空へ。
ロクロウは身を焦がしながら、水平方向に吹き飛ばされる。
ただ唯一、金色の闘気を纏うクオンのみが爆炎の中では健在。
そのまま、燃え盛る炎を突っ切ると、跳躍―――ヴライの下顎目掛けて、アッパーカットを打ち込まんとする。
『図ニ―――』
しかし、再三クオンに苦杯を嘗めさせられたヴライは、この動きを読んでおり。
巨躯に似合わぬ俊敏さで身を捻り、彼女の拳打を躱すと―――
『乗ルナァッ!!』
カウンターとして、右の大振りを放ち、クオンの華奢な身体を地盤に叩きつける。
211
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:46:51 ID:A6IR5g3s0
「がはっ!!」
圧倒的な質量差、そして、無理矢理に引き起こされた『力』の酷使により、少女の肉体は悲鳴を上げ、血反吐を吐いてしまう。
ヴライは間髪入れず、炎槍を生成すると、クオンへと射出。
一撃目、二撃目と―――それが大地に着弾する度に、爆炎と地鳴りが連続していく。
まずは目下最大の戦力を排除せんと、クオンを徹底して狙い撃っているのだ。
「クオンさんっ!!」
爆風に吹き飛ばされながらも、直ぐに空中で体勢を立て直した早苗。
慌てて戦線に復帰すると、弾幕をヴライに浴びせ、懸命に妨害せんとする。
『目障リダ、羽蟲ッ……!!』
これを患しく思ったヴライは、早苗目掛けて炎槍を乱れ撃つ。
早苗は、風を纏いながら、俊敏に飛行し、これを躱していく。
炎槍が躱される度、ヴライの苛立ちは募っていき、必然とその意識は、早苗の方へと傾いていく。
--刹那。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
巨獣の背後より一つの影が跳び上がると、身体を何重にも回転させつつ、ヴライの首筋へと迫っていく。
影の正体は、戦線に復帰したロクロウ。
風に黒の長髪を靡かせる、獰猛な夜叉の紅き眼光が捉えるは、怪物のあまりにも太い首元。
これもμの力によるものなのか、そこには『仮面の者』の変身にも適応し、膨張した銀の首輪も見受けられる。
「その首、貰い受けるぜ!!」
恐らく、これに攻撃を加えれば、爆殺も狙えるだろう。
しかし、隻腕の業魔には関係ない。首輪ごと敵の首を斬り落とす---その一心で、巨獣の首元に、遠心力を乗せた刃を奔らせんとする。
212
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:47:21 ID:A6IR5g3s0
しかし――。
『ガアアアアアアアアッ!!』
「――何っ!?」
ロクロウが放つ殺気を、即座に感知したヴライは、咆哮と共に全身から爆炎を噴出。
その爆風の勢いに圧されて、渾身の刃は、ヴライの首に到達することなく、ロクロウの身体は、遥か上空へ。
「チィッ……!!」
ロクロウは舌打ちしながら、空中で身体を捻り、すぐに体勢を立て直そうとするも―――。
「っ!?」
真正面を向けば、宙へと舞い上がった黒の巨像が、追撃のために巨腕を振りかぶっていた。
咄嗟に手に握る剣で、防御せんとするが――――
『消エ果テヨ!!』
バ ゴ ォ ン !!
ロクロウの全身に、彼の人生でかつて体験したことがない程の、凄まじい衝撃が迸った。
盾代わりに構えた剣は、いとも簡単に粉砕され、自身の身体を大きく上回るサイズの剛拳を真正面より受けたロクロウは、矢の如く勢いで、彼方へと吹き飛ばされていった。
「ロクロウさんっ!?」
夜空の向こうへと消えていったロクロウに、悲鳴を上げる早苗。
しかし、次の瞬間には、その叫びに呼応するかのように、ヴライは宙にて反転。
ギロリと早苗を睨みつけると、間髪入れずに、炎槍を連続投擲。
「……っ!!」
超高速で飛来してくる二つの弾頭―――。
回避は間に合わず。早苗は咄嗟に風の障壁を展開して、身を護る。
ド ゴ ォ ン!!
ド ゴ ォ ン!!
鼓膜を突き破らんとばかりの轟音が、連続して響けば、黒と橙が入り混じる爆炎が、早苗の視界を埋め尽くしていく。
213
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:47:44 ID:A6IR5g3s0
「ぐ、ううう……!!」
一発でも被弾したら、あの世行きとなるのは必定だろう。
早苗は歯を食いしばり、障壁が砕けぬように、必死で耐え凌いだ。
しかし、爆炎が晴れて、視界が開けた時――。
「ぁ……っ!?」
早苗の目に飛び込んできたのは、ヴライが放ったであろう大火球が、目前に迫っていた光景であった。
今しがたの炎槍ほどの速さはない。しかし、あまりにも巨大なそれはもはや壁とさえ錯覚してしまうほど。
早苗に回避の猶予は与えられておらず、展開済みの障壁に、ありったけの風を纏わせ、これを受け止める他なかった――
バギバギバギバギ
だが。
「う、く……っ!?」
早苗を護る、風の障壁は軋み、今にも砕けそうな悲鳴を上げる。
ヴライの放った大火球は、その大きさと質量故に、風の障壁だけは止めきれず。
懸命に押し返そうと、早苗はありったけの風を込めて、障壁を満開にする。
しかし、そんな彼女の抵抗を嘲笑うかのように、大火球は容赦なく彼女を圧し迫る。
バギバギバギバギ
「ぐ、ぁああああああああっっ!!」
そして遂には、障壁ごと早苗を呑み込むと、勢いそのまま地上に激突。
大爆発とともに地は震え、天を衝く火柱が、夜天と荒廃した大地を繋ぎ合わせた。
「がはっ……ごほっ……、さ、早苗……」
血を吐きながらも、地に穿たれたクレーターより這い上がったクオンは、その惨状を目の当たりにして、言葉を失う。
豪ッ!!
「--っ!?」
だが、クオンに仲間の安否を気遣っている暇は与えられない。
早苗を片付けたヴライは、クオンを視界に捉えるや否や、急降下。
そのまま、炎を纏わせた拳を振りかぶり、クオンに殴りかかってきたのである。
214
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:48:06 ID:A6IR5g3s0
「このっ……!」
クオンは瞬時に、『力』を解放。
再び金色を全身から滾らせ、拳を繰り出してくるヴライに対し、自らも拳を放つ。
両者の拳は再度衝突し、大気が振動し、世界が軋むが、それは刹那の出来事。
「っう……!!」
当初よりも、纏う闘気が大分薄くなってしまったクオン。
『力』の出力も、大幅に弱まってしまったためか、ヴライの巨躯を僅かでも押し返すこと叶わず。
剛拳に押されると、大地にその躰を打ち付けられ、地盤に放射状の亀裂を走らせながら、めり込ませてしまう。
『ヌゥオオオオオオオオッッ!!』
地鳴りと震動を轟いた。
クオンは咄嗟に両の腕を交差させて、巨拳を受け止めた。
しかし、躰の負担が高まり、『力』の出力がままならない状況で、その威力を防ぎ切ることは叶わず。
『力』の反動と、外部からの圧倒的な膂力に、彼女の華奢な身体は絶叫を上げて、大地に埋没していく。
そして、尚もヴライは拳を振り下ろす。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
右の拳、左の拳を交互にして。
何度も、何度も、執拗に叩き込む。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
クオンの肉体のみならず、内包される魂魄すらも圧砕せんと。
容赦のない拳の嵐が、大地を揺らしていく。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
「ぐっ、あ”あ“あああああああああああああああああっ―――」
クオンは防御の姿勢を崩さない。
しかし、止め処ない真正面からの猛打と、『力』の酷使によって生じる内部からの崩壊―――二つの激痛に挟まれて、苦悶の叫びとともに、その端正な顔を歪ませていく。
それに伴い、命綱たる『力』も、徐々に減衰していく。全身に帯びる金色が霞んでいくのが、その証左になりえるだろう。
215
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:49:04 ID:A6IR5g3s0
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
徹底して撃ち込まれていく巨拳の嵐によって身体が軋む音と、大地が陥没していく音を耳にしながら。
クオンの意識は、徐々に混濁し、薄れていく。
(わ、たくしは……、ま、だ---)
それでも、未だ闘志は潰えていない。故に戦える、と―――。
腕のガードを崩さずに起き上がろうとするも、結局は天からの鉄槌にて叩きつけられてしまい、磔からの脱出は叶わない。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
無情にも迫り来る“終わりの刻”。
ヤマトの天子を内包するヒトとしての器は、既に限界を迎え、決壊寸前となっていることを、クオンは悟り始めていた。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
--ピタリ。
その時だった。
(……え……?)
不意に、巨拳の嵐が止んだ。
訝しながら、巨獣の様子を窺うクオン。
ヴライは、振り下ろしていた拳を引き戻しつつ、彼方を見つめていた。
既に彼の注意は、クオンには一切向けられていない。
一体何が―――と、クオンが身を起こした、その瞬間。
『―――ウォオオオオオオオオオオオッッ!!』
猛々しい咆哮が轟いたかと思うと、どこからともなく現れた巨大な影が、ヴライへと猛進。
『ヌゥンッ!!』
ヴライは拳で迎撃せんとすると、その巨大な影もまた、拳を繰り出す。
拳と拳が激突し、大気を震わせると、その振動が、地上にいるクオンの髪を激しく揺らした。
『――……。』
『クッハハハハハハ……!! コノ時ヲ、待チ侘ビタゾ……!!
漸ク、汝モ《仮面》ノ枷ヲ外シタカ……!!』
視界が晴れてきたクオンの瞳が捉えたのは、対になる二体の巨獣。
黒と橙を基調とする巨獣は、言うまでもなくヴライだ。
そして、もう一体。そのヴライと拳を交錯させるのは、白と蒼を基調とすると巨獣―――そのサイズ感はヴライのそれと同等のものであった。
「――ハ、ク……?」
クオンを庇うようにして立ちはだかり、ヴライに負けじと張り合っているのは、初めて見る巨獣。
だけど、その背中から垣間見える、どことのない頼もしさと温かさは、姿形こそ違えど、確かに覚えがあるもので。
クオンはぽつりと、その名を呟いた。
『サァ、互イニ縛ルモノハ無クナッタ……!!
今コソ、己ガ力ヲ存分ニ振ルイ、死合ウ時ゾ、オシュトルッ……!!』
『アァ……貴様トノ因縁、今ココニ断チ切ッテクレヨウ、ヴライッ!!』
地上でクオンが呆然と見上げる中。
二体の巨獣は、同時に咆哮し、拳を振りかぶり、激突するのであった。
216
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:49:35 ID:A6IR5g3s0
◇
ド ォ ン !!
「――ぜぇはぁ……、皆……!!」
東風谷早苗の身体を吞み込んだ、大火球が地に激突し、大爆発する頃。
熱風吹き荒れる戦場にて、オシュトルは満身創痍の身体に鞭打ちながら、戦禍のど真ん中へと駆け付けんとしていた。
自身が参戦してしまえば、余計な混乱と負担を、味方に与えかねないとロクロウに諫められ、固唾を飲んで戦況を見守るしかできなかったが、そのロクロウが盤外に弾き出され、早苗もまた理不尽なまでの火力によって、排除されてしまった今、オシュトルが駆けつけぬ理由などありはしなかった。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
焦燥に駆られるオシュトルの鼓膜に、断続的な轟音が突き刺さる。
巨獣が、大地に剛拳をうちつける音だ。
「――っ……、クオン……!!」
遠目にて確認できる、拳の集中砲火を浴びているのは、クオン。
亜人達の世界にて最初に出会い、右も左も分からなかった自分に「名前」を与えてくれて、世話をしてくれた少女。
怒ると怖いが、面倒見がよく、聡くて、強かで、そして、いつも傍にいてくれた、かけがえのない仲間だ。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
そんな自分にとってかけがえのない、大切なヒトが蹂躙されている―――。
『仮面』の力を完全解放したヤマト最強は、たった一人のヒトを破壊するために、ひたすらにその剛拳を振るい落しているのだ。
217
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:50:02 ID:A6IR5g3s0
「止めよ、ヴライ!! 貴殿の狙いは某だろう。
某は、ここにいる!!」
クオンを見殺しには出来ない。
声を張り上げて、オシュトルはヴライの注意を引こうと試みる。
だが、その声がヴライに届くことはなく、苛烈な拳の嵐が止まることはなかった。
(くそっ……、今度ばかりは恨むぞ……。
己の無力さ、無能さ、不甲斐なさを……!!)
心の臓が張り裂けそうなまでに鼓動し、早鐘を打つのを感じながら、地を駆けていく。
「ぐっ、あ”あ“あああああああああああああああああっ―――」
接近するにつれて、轟く地鳴りは大きくなっていき、クオンの苦悶に満ちた悲鳴が鮮明に聞こえ始める。
(……クオン……!!)
オシュトルの脳裏に過るのは、彼女との最後の会話―――。
『……何でかな……。どうして、仮面(アクルカ)なんかを……』
『何故、貴方は、仮面を着けて、『オシュトル』の振りをしてるのかな……?』
『その……、私が戻ってきたら、包み隠さず話してほしいかな……。
貴方と《オシュトル》の間に、何があったのかを……』
自分の正体を悟り、しかし、それを頑なに否定する自分に対して見せた、寂しくて、悲しい表情。
着飾っている衣装は違えど、道中でいざこざはあれど、最後に自分を気遣い、面倒見良く接してくれたのは、間違いなく、いつものクオンで――。
『……それじゃあ、行ってくるから……』
寂しげな微笑みと共に去る彼女を、本当は呼び止めたかった。
自分のせいで、悲しむ彼女を見るのは、これ以上なく辛かった。
自分の口から真実を打ち明けて、隠していてすまなかったと、詫びを入れて、抱きしめてやりたかった。
218
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:50:20 ID:A6IR5g3s0
(……某は―――、自分は―――)
―――あの会話を以って、今生の別れとするものか。
―――クオンを失いたくない、救いたい。
オシュトルの中で、そんな"願い"が膨れ上がっていく。
「友よ、某に力を……!!」
息を切らせながらの疾走の中、気付けば、己が仮面に手を添えていた。
友より託された、揺るぎのない意思を宿した仮面。
その仮面に、祈るように、縋るように、"願い"を込めていく。
「仮面(アクルカ)よ―――」
ヴライとクオン達が交戦する中で、オシュトルは幾度となく、自身も同様に変身せんと試みていた。
しかしながら、主催が『仮面』に制限を掛けた影響か―――『仮面』の力を完全解放することは叶わなかった。
ヴライが如何にして、主催の制限を突破したのかは不明だ。
だが、クオンを救うためには、彼と同じくその制限を突破した上で挑まねばならない。
「扉となりて……根源への道を開け放てっ!!」
だからこそ、藁にも縋る思いで。
オシュトルは、ありったけの“願い”を込めて叫んだ。
根源につながる力を呼び覚まさんと、再び『仮面』に訴えかけた。
瞬間―――。
「……っ!?」
オシュトルの視界は眩い光に覆われた。
次に感じたのは、浮遊感。
全身を伝うは、灼熱を帯びた大いなる力の流れ。
白に塗りつぶされていた視界が晴れると、此方を見据えるヴライの姿が目に入る。
大地を揺らしていた、その巨腕は既に引っ込められている。
そして彼と交わす視線が、見上げるような形ではなく、同じ高さになっていたことを悟ると――。
『―――ウォオオオオオオオオオオオッッ!!』
白の巨獣と化したオシュトルは、大地に轟く咆哮と共に、地を踏み砕くと、黒の巨獣へと飛びかかったのであった。
219
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:50:43 ID:A6IR5g3s0
◇
本来であれば、『仮面』の力の完全開放―――すなわち、巨獣への変身は、殺し合いにおけるゲームバランスを崩壊させかねないものとして、主催からは細工(ストッパー)を施され、封じられていた。
しかし、ヤマト最強の武士は、その道中における破壊神との交戦、そして、『根源』への過剰アクセスを契機として、その抑止を突破。己が姿を、黒と橙を基調とした巨獣へと昇華させた。
それでは、オシュトルの『仮面』の完全開放は、如何にして発現に至ったのだろうか?
予め断っておくが、この殺し合いの監獄を管理している主催者は、支給品である『仮面』に対して、同等の制限を掛けていた。決して、オシュトルの『仮面』への細工だけ、手を抜いていた訳ではない。
ヴライの力の解放が、前述の通り、二つの事象が重なったことがきっかけであったように、オシュトルもまた、二つの大いなる力が併さった結果、『仮面』の完全開放に至ったのだ。
まず、一つ目。
これはヴライと同じく、『仮面』に施された制限装置―――これが『破壊』の力によって損壊したことが根幹にある。
きっかけは、ヴライの拳を仮面に受けた、あの瞬間にあった。
破壊神との交戦により、『破壊』の衝撃を受けたヴライは、仮面と、それに施された細工に損壊を与えられただけに留まらず、僅かながら、その躰の内に『破壊』の残滓を内包していた。
そして、その力の残滓は、ヴライの意識しないところで、彼が織り成す破壊行為に反応。それに力を貸し与えていたのだ。
こうして、ヴライの『破壊』の残滓を帯びた拳を受けたオシュトルの『仮面』は、亀裂が生じ、ヴライのそれと同様にして、内部の制限装置も損壊を受けることとなったのだ。
とは言え、破壊神の衝撃を直接受けたヴライの『仮面』を比べると、その損傷具合は微々たるものに過ぎなかった。
220
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:51:02 ID:A6IR5g3s0
それでは、何故この微かな破壊から、制限装置の完全停止に至ったのだろうか?
こちらにも、『破壊』とはまた異なる、二つ目の大いなる力が深く関わることになる。
事は、激昂したクオンの蹴撃が、オシュトルに容赦なく叩きつけられた瞬間にまで遡る。
クオンは元々その躰の内に『願い』の神ウィツァルネミテアを宿していたが、知っての通り、北宇治高校での大戦を経て、それはクオンの元から消え去った。
しかし、完全に消失したという訳ではなく、その一部を、クオンの躰の内に残していた。
今でこそ、この残滓を制御し、『超常の力』発現のための歯車として活用しているクオンであるが、当初この『願い』の断片は、彼女の制御下にはなく、不定形且つ不安定なものであった。
例えるならば、器に収まっていない液体のようなものであり、クオンの意思とは無関係に、外部と激しい接触を行えば、その欠片は無作為に撒き散らされていた。
そして、クオンに無慈悲な蹴撃を叩き込まれたオシュトルもまた、激しい痛覚と同時に、図らずとも、微弱ながら『願い』の断片を身に宿すこととなった。
そして、時を経て、その『願い』の残滓が、「クオンを護りたい」というオシュトルの強い願いに呼応―――その力を以てして、オシュトルが装う『仮面』に干渉。
『仮面』の内にある制限装置の損壊箇所を拡張させ、最終的には機能停止へと追いやった。
その結果として、オシュトルは『仮面』の完全開放に至ったのである。
だが、ここで疑問が一つ残る。
『願い』の残滓が撒き散らかされていた間、オシュトル以外にも、クオンによる猛打を浴びた者はいた。
ヴァイオレットとヴライである。
しかし、現在のところ、彼女らに『願い』の力が発現する気配はない。
それでは、二人には『願い』の断片が宿らなかったということになるのだろうか――?
答えは否―――。ヴァイオレットもヴライもまた、その躰に、『願い』の神の残滓を宿したのには違いなかった。
では何故オシュトルのみ、“願い”に呼応したのだろうか?
それは残滓に込められた大いなる意志が、オシュトルの“願い”に共鳴したからだ。
オシュトルが「クオンを護りたい」と強く願ったのと同じくして、欠片となった『願い』の神の意思もまた、己が『同胞』になり得る元の宿主を失いたくないと同調したのだ。
故に、大いなる意思を味方につけたオシュトルだけが、『願い』の力を発現。
最終的に、『仮面』の完全開放に至ることが出来たのである。
『破壊』の神と『願い』の神―――。
この殺し合いの会場で、激闘を繰り広げた二つの神の残滓は、再び一人の漢の中で交錯し、『仮面』の完全開放による『根源』への到達という、奇跡を顕現させたのであった。
221
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:51:23 ID:A6IR5g3s0
投下終了します。続きは後日投下します
222
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:36:57 ID:w7MuKjnQ0
投下します
223
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:37:51 ID:w7MuKjnQ0
◇
「おいおい、さっきの啖呵はどうしたよ、あかりちゃ〜ん♪
私に鉛をぶち込みまくって、懺悔させるんじゃねーのかよ?」
「……くっ……!?」
間宮あかりの怒りと、ウィキッドの悪意が交錯する戦場は、銃撃と爆撃の二重奏が絶え間なく響き渡り、元々散らばっていた火神(ヒムカミ)の残滓に付け足す形で、爆炎と土煙が彩りを与えていた。
「最初だけは良かったんだけどさぁ。
こんな、へなちょこ射撃じゃ、ピンクチビ先輩も浮かばれないわぁ―――」
爆炎と土煙の先で、わざわざ神経を逆撫でするような言葉で語り掛けてくる、“アリア”の声色。
「黙って……!!」
視界は遮られてはいるものの、あかりは、研ぎ澄まされた聴覚と、培われた勘を頼りに、声のする方へと銃火を返す。
しかし、視界の向こう側では、ほぼ同時に、魔女が素早くステップを刻んで、大きく跳躍。
数発の弾丸は、その小さな体躯を掠めて肉を抉るも、痛みに慣れた魔女の動きを殺すには至らず。
立て続けに、宙に躍動中のウィキッドの胴体目掛けて、弾丸を射出していくも、多くの弾丸が的を外れ、辛うじて二発ほどが腹部に穴を穿つ程度。それだけでは、ウィキッドの活動を停止することは叶わない。
「はい、残念〜!!」
「っ!?」
お返しとばかりに投擲される三つの手榴弾。
あかりは瞬発的に、後方へと飛び退きつつ、引き金を引いて、三発。
それぞれが空中で手榴弾に直撃し、爆ぜる。
撃墜に成功するも、再び爆発によって生じた爆炎と土煙が、あかりの視界を遮り、ターゲットたる魔女はせせら嗤う。
224
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:38:11 ID:w7MuKjnQ0
「あーあー、こんな出来の悪いのが、私の後輩だったなんて、興醒めだわぁ」
「――るさい……」
アリアと同じ声色で、アリアの口調を模倣して、アリアに成り切って、挑発してくるウィキッドに、あかりは苛立ちを弾丸に乗せて、放つ。
しかし、その悉くは魔女を捉えることは出来ず、反撃の爆弾を見舞われては、防戦および回避に専念せざるを得なくなってしまう。
開戦当初こそ、正確無比な速射を繰り出す、あかりが全面的に圧していたのだが、時間が経つにつれて、戦況は一変。あかりの狙撃が、精密さを失うにつれ、自身が巻き込まれることも省みない爆撃を繰り出す、ウィキッドに趨勢が傾くようになった。
――それでは、何があかりの射撃の精度を狂わせているのか?
傍から見れば、あかりの視界を遮り、立ち込める爆炎と土煙―――それこそが原因であるようにも思える。
しかし、その実、間宮の術を解禁したあかりにとってみれば、感覚を研ぎ澄ますことで、視覚情報に頼らずとも、聴覚と気配から、相手の位置取りを察知することは、そう難しいことではない。
事実、狙撃の際は、ウィキッドのおおよその位置情報は把握できていた。
にもかかわらず、何故あかりの狙撃は、魔女を捉えきれないのだろうか?
「うえーん、ママぁ……、あかりの射撃が下手くそすぎて、私の仇取ってくれそうにないよーん」
「――うるさい……!!」
根本の原因は、あかりの内で蓄積されていく、怒りと苛立ちにあった。
225
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:38:51 ID:w7MuKjnQ0
アリアの姿と声を借りて―――
アリアの口調を真似て―――
アリアの人格を貶める言動を織り交ぜての―――
度重なる挑発の類によって、引き起こされた激情は、あかりの手元を狂わし、弾道を逸らさせ、結果として、ウィキッドの被弾率を激減させていったのである。
「先輩は、そんな事言わない!!」
バババァンッ!!
怒声と銃声が重なった刹那、放たれる弾丸。
しかし、それらもまたウィキッドの身体を貫くには至らず。
「下手くそで、出来損ないで、お馬鹿さんのあかり。
あんたさぁ、才能ないんだから、武偵なんて、さっさと辞めちゃえば〜?」
偽のアリアは、更なる罵りを口添えして、またしても両の手に爆弾を顕現―――更なる爆撃に邁進せんとする。
瞬間――
「――鷹捲っ!!」
「っ……!?」
突風が正面より突風が吹き抜けたかと思えば、弾丸に勝るとも劣らぬ速度で、砲弾に近い”何か”が肉薄。
寸前で、身を捻ることで直撃を避けるものの、先の突風によって、付近に立ち込めていた爆炎や土煙は、吹き飛び、視界は明瞭になった。
即座に振り返り、今しがた突き抜けた“何か”を捉えようとするも―――
ババババババァンッ!!
ウィキッドは、思考を巡らせる間もなく、鼓膜を殴打する銃声と銃火に晒された。
「……ごほっ……!!」
全身に風穴を空けられ、苦悶の声を漏らしたウィキッド。
銃撃の主は勿論、あかりだ。
鷹捲自体は躱されてしまったが、その余波によって齎された、晴れた視界、縮まった射程、捉えた魔女の隙―――。
そんな好機を、“間宮の継承者“が逃す筈もなく、間髪入れずに、銃弾を装填すると、血反吐を吐くウィキッドに、容赦なく銃弾を浴びせていく。
226
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:39:25 ID:w7MuKjnQ0
ババァンッ!!
「……ぐがっ……!!」
ババァンッ!!
一発、二発と弾着を重ねる度に、血飛沫が弾けて、ウィキッドの身体が後方に仰け反っていく。
ババァンッ!!
ババァンッ!!
ババァンッ!!
「ぐ……ぎあ……!!」
執拗に、且つ、無慈悲に浴びせられる弾丸の雨霰。
全身に風穴を穿たれては、そこから生じる灼熱の痛みに、呻きを漏らす、ウィキッド。
あかりは、尚も冷徹に、銃の引き金に指を掛け、更なる弾丸を見舞おうとする。
「ま、待って……!! 私を撃たないで、あかり!!」
唐突に片手を突き出し、制止を呼び掛ける、憧れの先輩の紛い物。
そんな彼女の姿に、ピタリと、引き金を引かんとするあかりの指が一瞬止まった。
贋物だということは十二分に理解している。
しかし、大好きな先輩と同じ容姿で、同じ声色で、同じ口調を以って、懇願されてしまっては、あかりとて、反射的に手を止めてしまうのは、無理からぬこと。
「きゃは――」
その一瞬の躊躇いを、魔女は逃さない。
刹那、手に持つ爆弾を、あかり目掛けて投擲。
「っ……!!」
あかりは、咄嗟に後方に跳んで、爆弾を回避。
どかんっ!!!
と、爆弾が地面に着地するのと同時に、先程までのものよりも広範囲激しい爆炎と衝撃がまき散らされる。
どかんっ!!!
更に爆音の木霊が連続していき、辺り一面は瞬く間に、爆炎と煙によって覆われてしまう。
227
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:39:59 ID:w7MuKjnQ0
「……くっ……、ウィキッド……!!」
爆音は尚も続いているが、その発生源が徐々に遠のいていく。
この爆撃は、あかりの進行を牽制するためだけのものではなく、逃走の為の煙幕の役割も兼ねているのだろう。
「――逃がさない……!!」
あかりは、爆煙の中へと飛び込んで、逃走するウィキッドを追撃せんと、駆け出す。
炎と煙が視界を遮り、一寸先すらも見通すのは至難の業ではあるが、それでも飛来してくる爆弾を躱し、時に撃ち落としていく。
そして、投げ込まれる爆弾の方向、角度、タイミングから、投擲手の位置取りを推測すると―――
「そこっ!!」
あかりは、煙の向こう側に銃口を向け、引き金を引いた。
「――い”だい”っ!! い”だい”よぉ、ママぁあああああああああ!!」
「……っ!?」
銃声の木霊として返ってきたのは、大好きだった先輩の情けない悲鳴。
(……あの人、どこまでも、先輩を侮辱して……!!)
唇を嚙み締めると同時に、自分の頭に血が上り、カッと熱くなるのを感じる。
込み上げてくる激情を、引き金を引く力に変えて、容赦なく発砲を続ける。
「――あ“あ”あ“あああああああ、助けて、ママぁあああああ!!!
頭の悪い後輩が、私を虐めてくるよぉおおおお!!」
尚も、耳に飛び込んでくる、神経を逆撫でしてくるアリアの声。
その間も、爆炎は、絶えず生成されていく。
視界の向こうでは、あの悪女が、舌を出して嗤いながら、アリアを演じていることだろう。
「それ以上、アリア先輩を穢すなぁああああああああ!!」
気が付くと、自分自身でも驚くほどの怒号を張り上げ、激情に身を任せて銃火を乱射しながら、爆炎の中を駆け抜けていた。
もはや、狙いも、定めもあったものではない。
ただただ、怒りのままに、仇敵がいるであろう方角に弾丸を撒き散らしては、追走していく。
228
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:40:36 ID:w7MuKjnQ0
「――ひぃいいっ……!! 来ないで……、来ないでぇ……!!
……ママぁ……ママぁあああああっーー!!」
もう、うんざりだ。
可能であれば、自分の耳を千切って、聴覚を完全に遮断してしまうとさえ思った。
「あかりのくせにぃ……、あかりのくせにぃ……!!」
こんなにも、他人に対して、悪感情を抱いたのは、未だかつてなかった。
間宮の里を焼き討ちにされたときも、夾竹桃と再会したときでさえ、未だ冷静さを保つことが出来ていたのだと思う。
「――私に、こんな事して!!
絶対に、ママに言いつけてやるぅうう!!」
頭の中に灼熱を感じる。
もはや、何も考えることはできない。
ただ、感情に突き動かされるまま、銃の引き金を引いて、無我夢中に駆けていく。
「――ママぁ……ママぁ……!! 痛いよぉ……怖いよぉ!!」
駆けて、駆けて、炎と煙の中を突き進み―――
「――ママぁ……ママぁ……!! 何で助けてくれないのぉ!?」
駆けて、駆けて、茂みを突っ切り―――
「――ママぁ……ママぁ……!! お菓子買ってぇ!!」
駆けて、駆けて、ただひたすらに、銃を撃ち続けて―――
やがて、煙幕を突破して、視界が開けた場所へと辿り着くと―――
「――見つけた……!!」
「っ……!?」
目を見開き、自身を見据える、“アリア“の姿を認めた。
229
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:41:01 ID:w7MuKjnQ0
ババァンッ!!
すかさず、乾いた銃声を鳴らし、偽者の左脚と右脚に、一発ずつ弾丸を叩き込む。
「あ”っ……、がぁあっ……!!」
被弾した箇所から噴出する、紅色の花火。
“アリア“は苦痛に顔を歪めて、その場に倒れ込むが、銃の照準はそのまま。
一旦動きを殺すことは出来たが、超回復能力を保有しているが故、油断は許されない。
再び、立ち上がるような素振りを見せるようものなら、徹底的に銃弾を浴びせるつもりでいる。
「……あ”…が……、…り”ぃ……」
恐らく、先の炎煙越しの乱射によるものだろう。
偽のアリアの喉からは、血が垂れ出ており、銀色に煌めいていたはずの首輪が、紅く彩られている。
ヒューヒューと、苦しそうに呼吸する音が、彼女の口から漏れているのを耳で捉えつつ、あかりは銃口を向け続ける。
「その状態では、喋ることは出来ない……。
謝る気があるのなら、そのまま動かず、大人しくしてください」
冷酷且つ淡々と、言葉を紡いでいくあかり。
発声することが難しいのであれば、喉の損傷が回復するまで待つしかない。
幸いにして、ウィキッドは人智を超えた再生力を有している。
数分もすれば、その口から懺悔の言葉を吐き出すことが出来るだろう。
230
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:41:52 ID:w7MuKjnQ0
「……ま”っ……、…で……」
死刑執行人が如く、冷たく見下ろしてくる、あかり。
そんな彼女に対して、“アリア”は首を小さく左右に振り、先刻と同様に片手を突き出し、静止を呼びかけようとする。
バァン!!
「……ぎぃっ……!?」
瞬間、突き出された手の甲に赤黒い穴が穿たれた。
“アリア“は声にならない悲鳴をあげて、被弾した手を、もう片方の手で庇う。
「――動かないでって言いましたよね?
あたしは、あなたに、償い以外の言動は求めていないから…!!」
怨敵を前にした復讐の執行者―――今のあかりを言い表すなら、まさにそれに相応しかった。
少々天然なところこそあれど、人懐っこい笑顔の似合う、明朗快活な少女の姿は、ここにはない。
「……あ”……、が……」
そんなあかりの剣幕に圧倒されたのか、負傷した手を抑えながら、その場で静止する、“アリア“。
それでも、何かを伝えようと、懸命に言葉を紡がんとする。
―――不快だ。
あかりの手に握る銃が、震える。
憧れの先輩の面貌で、あえて惨めな姿を晒すそれは、あかりにとって不快以外の何ものではなかった。
故に、喉の傷が癒えるまでは、これを完全に黙らせるべく、更に圧をかけんとしたその時――。
「――首輪を狙って、あかりちゃん!!」
背後から響く叫び声に、振り返ると、そこにいたのは汗びっしょりのまま、肩で息をしている久美子であった。
非力ながらも、やはり戦局が気になったのであろう---息切れしつつも、あかり達の戦いを見届けんと、ここまで駆けつけてきたのが伺える。
231
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:42:16 ID:w7MuKjnQ0
「……黄前さん……?」
「首輪を狙って!! じゃないと、そいつは殺せない!!」
ウィキッドと同じく、鬼の力を得た親友の最期――。
それを目の当たりにしたからこそ、認知した、鬼に堕ちた者の殺し方を、久美子は反芻する。
だが、あかりとしても、首輪の作動こそが、現状ウィキッドを葬り去る唯一の手段であることは、実戦を通じて、認知していた。
しかし、あかりは、その手段を行使するつもりはない。
「――黄前さん、私はこの人に別の方法で償わせる……。だから――」
「あかりちゃんは、そんな奴が、心から謝罪すると思うの?
平然と他人を痛めつけて、弄んで、命を奪って……挙げ句の果てに、その人の人格まで汚すような奴が……!!」
「するか、しないかじゃないよ、黄前さん……!! させるの……!!
償いをする気がないのであれば、徹底的に風穴を空けて、分からせる……!!」
「私も、そいつを痛めつけて、苦しませることには、賛成だよ?
だけど、仮にそいつが、謝罪でもすれば、あかりちゃんは、そいつのやったことを許せるの……?
無罪放免で許せる訳……? あかりちゃんの大事な人を殺した、そいつを……!!」
「……っ……」
「少なくとも、私は、麗奈を奪ったこいつを絶対に許さない……!! 何があっても!!」
語気を荒げて、あかりの決意に異を唱える、久美子。
そんな久美子の剣幕に、あかりは思わず押し黙ってしまう。
久美子の言っていることは尤もだ。
仮に、ウィキッドから懺悔の言葉を引き出すことができたとしても、それで、あかりや久美子の心が晴れることは恐らくないだろう。
232
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:42:36 ID:w7MuKjnQ0
しかし、それでも――
「――武偵に、人は殺せない……」
『殺さない』ではなく、『殺せない』。
間宮あかりは、武偵であり続けるため、ウィキッドの首輪の作動を狙うことはない。
「それは、あかりちゃんのルールでしょ……!! 私に押し付けないで……!!
あかりちゃんのルールで裁いても、私は納得しないから!!」
「あたしは、黄前さんに、押し付けてなんか――」
「ううん、押し付けてるよ!!
あかりちゃんは、あかりちゃんの先輩のことも、麗奈のことも、一括りにして、あかりちゃんのルールで裁こうとしている」
しかし、久美子にとって、あかりの事情など、知ったことではない。
二人とも、魔女に対して、罰を与えるべきだという点では、一致はしている。
しかし、仮にあかりのやり方で、ウィキッドが、悔い改めることがあったとしても、受け入れるつもりは毛頭ない。
忌まわしき魔女への罰は、『死』以外にはありえないと確信しているからだ。
「――……。」
久美子の糾弾に、あかりは言葉を詰まらせた。
あかりは、武偵のまま、ウィキッドに激情をぶつけて、償わせるという道を選んだ。
しかし、その決意に至るにあたって、もう一人の被害者である久美子の心情を全く考慮に入れてなかったのは、事実であったからだ。
魔女の断罪を実行するのであれば、同じく、魔女の悪意に翻弄された者として、久美子の意思を無碍にすることはできない。
故に、あかりの内で固められていた決意は、揺るがされる。
233
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:43:06 ID:w7MuKjnQ0
「それに――」
言い淀むあかりに、久美子は更なる言葉を紡ぐ。
今尚も苦しそうに呼吸する偽者を指差して、あかりの決意を更に揺るがす、決定的な言葉を。
「あかりちゃんは、人は殺せないって言うけど、そいつは『人』なの……?」
「……っ!?」
自身の決意の根底を揺るがす指摘に、大きく目を見開く、あかり。
久美子は尚も、言葉を重ねていく。
「頭を撃っても、心臓を撃っても、死なない『鬼』なんだよ、あいつは……。
だから、あかりちゃんが言う『人』じゃない!!」
「――ぁ……」
久美子の言及に、あかりは、思い知らされる。
度重なるウィキッドの挑発により、頭に血が上り、冷静な思考を欠いていたため、失念していた。
そもそも、自分達の目の前にいる者は、姿形こそ、自分がよく知る人間であれど、その本質は、人間から逸脱してしまった存在―――つまり、武偵法の定める『人』には、そもそも該当しない可能性があることに。
「だから、例えあいつを殺しても、あかりちゃんは、ルールを破ることにはならないの!!
分かるでしょ!? あいつは、『人』じゃない、人間を食い物にする、化け物なの!!」
“特別”を奪われた少女は叫び、訴えかける。魔女への怒りを原動にして。
ウィキッドという存在は、既にあかりを縛る制約の対象外にあると。
故に、殺してしまえと。
「だから、首輪を狙って、あかりちゃん!!
あいつは、別に殺してしまっても、問題ないの!!」
「――あ、あたしは……」
殺害を促され、武偵の少女が握る銃は再び、揺れ動く。
ウィキッドを殺しても、武偵のままでいられる――そんな解釈をぶつけられたがため、己の内で抑えていたドス黒い感情が、再び湧き上がるのを感じた。
間宮の術を解禁した自分にとって、偽アリアの首輪を射抜くのは、造作もない。
故に殺せる―――そして、それを阻かんでいた制約はもはや存在しない。
234
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:43:58 ID:w7MuKjnQ0
「あかりちゃん、撃ってよ!! 殺してよ!!
そいつが動けない、今のうちに!!」
「……あたしは――」
久美子に煽られるがまま、溢れ出る殺意が全身に染み渡っていくのを感じる。
しかし、同時に、それを拒む理性も、確かに存在していた。
もはや『人』ではなくなったからという理由で、『人』を辞めたものを殺めてしまって、本当に良いのだろうか、と。
それを行なってしまった時、果たして、アリア達は自分を肯定してくれるのだろうか、と。
(アリア先輩……、あたし、どうすれば……?)
感情と理性がせめぎ合い、あかりは銃を構えたまま、もう片方の手で頭を抱える。
苦悩するあかりに対して、久美子は、尚も喚いている。
殺して……、早く殺してよ、と。
その時だった―――。
バ ン !!
「…っ!?」
「きゃあ!?」
突如として一帯に閃光が弾けると、あかりと久美子の視界は、真っ白に染め上げられる。
ガサガサ
目が眩んだ二人が次に知覚したのは、茂みを搔き分ける音。
「――ウィキッドっ!!」
いち早く視覚を回復したあかりの目に飛び込んできたのは、偽のアリアが自分たちに背を向けて、遠ざかろうとしている姿。
偽りの武偵は、あかりと久美子が揉めている隙に、フラッシュバンを顕現。
間髪入れずに投げつけて、二人の視覚を奪ったたうえで、逃走を図ったのだ。
しかし、両足の損傷が尾を引いて、身体を引き摺るよう様な形での歩行となってしまい、二人の視力が回復しきる頃になっても、まだその背は捉えられていた。
「――殺して、あかりちゃん!!」
「逃がさない……!!」
バババァン!!
久美子の号令に呼応するかのように、あかりの銃口が火を噴いた。
「……がはぁ……!!」
弾丸は全てその背中に着弾。
三点の赤黒い穴が穿たれると、”アリア”は、前のめりに倒れた。
235
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:44:39 ID:w7MuKjnQ0
「……ぁ……が……」
満身創痍となった、”アリア”。
しかし、それでも懸命に身を捩らせて、芋虫のように地を這い、尚も逃走を試みる。
「――まだ、そんな……!!」
尚も、憧れの先輩の姿で、醜態を披露せんとするその様に、あかりは再び、頭に血が上る感覚を覚えた。
怒りのままに、更に弾丸を叩きこむべく、銃の照準を、その背中に定める。
だが、そんな彼女の照準を遮る様に、一つの影が飛び出すと、一直線に”アリア”の元へと駆け出した。
「うああああああああああああああああああ!!」
「黄前さん……!?」
烈火の如き咆哮を上げながら、"アリア"の元に辿り着いた、久美子。
ふわりとした髪を揺らしながら、その両手を振り上げる。
両の手に握られているのは、漬物石くらいのサイズの岩。
勢いそのままに、それを、偽のアリアの後頭部へと叩きつけた。
ガゴン!!
「……がぁ……」
鈍い音と共に、偽のアリアの頭が地面に叩きつけられる。
そして、その身体が、びくんと大きく痙攣したかと思うと、それっきり動かなくなった。
「……はあっ! はあっ!」
完全に沈黙した"アリア"。
久美子は、荒れた自分の呼吸を整えると、血痕が付着した岩を、再び頭上に振り上げる。
狙うは、眼下の悪魔の首元に巻かれている、銀色の首枷―――これを作動させれば、麗奈の仇を討てる。
「待って、黄前さん!!」
「っ……!? 放してよ、あかりちゃん!!」
だが、振り下ろさんとしてたその腕は、寸前で、あかりの手によって引き止められる。
久美子は、キッとあかりを睨みつけて、自らの復讐を阻んだその腕を振り払わんとする。
しかし、あかりも譲らない。
「やっぱり、駄目……!!
例え、相手が人じゃなくなったとしても、殺すのだけは違う……」
結局、あかりは、ウィキッドへの不殺を選択した。
度重なるアリアへの侮辱で、あかり自身も、ウィキットに対しては、間違いなく憎悪を募らせている。
しかし、それでも、あかりは、敬愛するアリアの戦姉妹として、一線を越えることは避けた。
もしも、アリアが同じ状況に陥ったら、どんな決断をするのか―――それを考えたうえでの答えだった。
236
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:45:31 ID:w7MuKjnQ0
「いい加減にしてよ!! それは、あかりちゃんのルールでしょ!?
そんなの、私に押し付けないでよ!!」
しかし、そんな決断は、久美子にとって、無為なものでしかない。
久美子は、あかりの手を強引に振り払おうともがき、あかりは、それを制圧しようと身を乗り出す。
その瞬間―――
「はいはい、二人とも、喧嘩しないのー」
パンパンと手を叩く音と、聞き慣れた声が、響いた。
ハッと我に返った久美子とあかりが振り返ると、茂みの向こう側から、歩み寄って来る人影があった。
「「――えっ?」」
その姿を目の当たりにして、二人は言葉を失った。
それも無理はない。
何しろ、二人の眼前に現れたのは―――。
「……どうして……?」
緋色と白を基調とした制服を身に纏い、ピンク色のツインテールの長髪を靡かせた―――
「ア、アリア先輩……?」
自分達の眼下で沈黙している、『神崎・H・アリア』。
その人と、まったく同じ容姿をしていたのだから―――。
「きゃははは、何が何だか分からないって顔をしてるねえ、お二人さん」
同じ空間に、死んだはずのアリアが二人存在するという異常事態。
久美子とあかりは、混乱の極みに立たされ、唖然とする他ない。
そんな二人の反応を見て、その“アリア”は愉快そうに、口角を吊り上げる。
「まぁまぁ折角だし、種明かししてやんよ♪」
ケラケラと嗤いながら、懐から取り出されて、二人の前に掲げられたそれは、一本の杖。
237
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:46:02 ID:w7MuKjnQ0
「こいつは、『へんげのつえ』。
死んだピンクチビからパクったもんなんだけど、これが中々便利でさぁ。
こいつを使えば、あっという間に、他人に変身することができるんだよねぇ」
まるで、自慢の玩具をひけらかす子供の様に。
“アリア”は、『へんげのつえ』をクルクルと弄びながら、その効果を説明する。
「当然、変身を解除することだってできる、あっという間にね」
こんな風にね、と。
“アリア”は、その手に持った『へんげのつえ』を、自らの頭へと翳した。
瞬間、煙の様なものが“アリア”の全身を包み込み、その姿を覆い隠してしまう。
そして、数秒後――その煙は晴れて、再びその場に姿を現したのだが……。
「これが、本来の私―――」
そこにいたのは、アリアと似ても似つかない、別人。
薄い茶色の髪はボサボサで、無駄にはだけた制服とミリタリーベストを身に纏い、獰猛且つ好戦的な笑みを張り付かせている少女。
「アンタらが、憎くて憎くて仕方ないと思っていた、楽士ウィキッドの本来の姿ってわけよ。
宜しくねー!!」
「――待ってよ……」
「くすっ――、どうしたんですかぁ、間宮さん?」
ウィキッドの“種明かし”を、呆然と聞いていたあかりは問いかける。
顔を強張らせ、声を震わせながら。
「あなたが、ウィキッドだとしたら……。
こっちの“アリア先輩”は、一体……」
チラリと見下ろしたのは、動かなくなった“アリア”――。
アリアだけではない。久美子もまた、事の重大さを認識したようで、青ざめた顔で、「あ…ぁ…」と呻き声を上げていた。
動揺する二人を、ウィキッドはニヤニヤと眺めると、これが答えだと言わんばかりに、倒れ伏せる“アリア”に向けて、杖を振り下ろし、変身の解除を実行。
忽ち、“アリア”は煙に包まれるも、数秒の後、そこから本来の姿を露わにした。
「……そ、んな……」
露わになった、その人物の姿を目の当たりにして、あかりは言葉を失う。
予感はしていた――。
しかし、実際に現実を突きつけられると、あかりは絶望に打ちひしがれ、膝から崩れ落ちた。
そんな彼女に対して、魔女は口元を歪める。
「あーあー、カナメ君も可哀想にねぇ」
スドウカナメは、手脚や背中に穴を穿たれ、倒れたまま――。
うつ伏せで、その表情を伺うことはできないが、微動だにすることもなく、その活動を停止していた。
238
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:46:27 ID:w7MuKjnQ0
◇
「――い”だい”っ!! い”だい”よぉ、ママぁあああああああああ!!」
銃撃と爆撃が交差する戦場にて。
この会場で殺害したSランク武偵の姿を借りた魔女は、身体に幾つもの弾痕を刻まれながら、憎悪に駆られる後輩武偵の追撃を、捌いていた。
弾丸が身体を貫き、灼熱の痛みが生じる度に、馬鹿みたいな悲鳴を上げるが、実際にはこれしきの痛みで、魔女の心が折れることはない。
あくまでも、憎悪に駆られる後輩武偵を、揶揄うために、泣き喚いているに過ぎない。
(さぁて、どうしてやろうかなぁ)
頭の悪いマザコン女を演じながらも、魔女は、新しく見出した玩具をどのように虐めてやろうか、ほくそ笑む。
再三揶揄った甲斐もあり、あかりは既に激昂状態で、冷静さを欠いている。
他への注意力が散漫している今だからこそ、何かしらのトラップを仕掛ければ、安易に引っ掛かってくれるだろう。
(おっ、あそこに転がってんのは―――)
地面に倒れ伏せているカナメを発見したのは、そんな時であった。
先程蹴り飛ばした上、適当に爆撃を見舞ってやったが、どうやら原型は留めていたようだ。
炎煙の向こう側にいる、あかりを牽制しつつ、瞬時に首根っこを掴んで、これを回収。
「うぅ……」
尚も続く、あかりとの攻防にて、ウィキッドが高速で翔び交うことで、身体を激しく揺らされると、カナメは、呻き声を上げながら、苦し気に表情を歪める。
爆撃の影響で身体はズタボロとなり、意識を失ってはいるものの、どうやら、死んではないらしい。
239
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:46:43 ID:w7MuKjnQ0
「――ひぃいいっ……!! 来ないで……、来ないでぇ……!!
……ママぁ……ママぁあああああっーー!!」
あかりへの挑発を行いつつも、ウィキッドは、たった今生捕りにしたカナメをどのように有効活用するか思考を巡らした末、ふと思いつく。
『へんげのつえ』を利用しての、悪魔のような発想を。
これまでは、撹乱や不意打ちのため、自身に対して再三利用してきたが、付属していた説明書によれば、そもそも変身の対象は、限定されたものではなかった。
であれば、他者に対しても、問題なく行使できるはずだと、杖を取り出し、カナメに振ると、その姿は忽ちアリアへと変貌。
結果として、炎と煙に塗れた、夜天の森の中で、死んだはずのピンク髪の少女が、自分と同じ姿の少女を抱えながら、跳んで駆け回るという奇妙な光景が、展開されることとなった。
「――ママぁ……ママぁ……!! お菓子買ってぇ!!」
その後もウィキッドは、挑発を繰り返して、あかりを誘導。
頃合いを見計らうと、口止めの意味も込めて、変身したカナメの喉の肉を抉り取る。
カナメが、痛覚とともに意識を強制的に覚醒したのを確認すると、放り捨てた。
憤怒に染め上げられた、あかりが猛追する戦場の中へと―――。
240
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:47:14 ID:w7MuKjnQ0
◇
「――と、まあこんな感じで、私はカナメ君をピンクチビに変身させて、あんたらの前に差し出した訳よ。
いやぁ、まさか、こんなにも上手くハマってくれるとは思ってなかったわぁ」
物言わなくなったカナメを前にして、ウィキッドは、自身が仕掛けた悪意の全容を、悠々と語った。
明らかとなった残酷な現実に、久美子は、呆然と立ち尽くし、あかりは地面にへたり込んだまま。
魔女は、そんな二人に、悪意に満ちた眼差しを向けながら、更なる追い討ちをかける。
「それで、気分はどうよ、お二人さん?
罪のない人間を、よってたかってリンチして、ぶっ殺した気分はさぁ〜?」
「ち、違う……、これは、貴女が仕組んだから――」
「違わねえよ。確かに舞台を整えてやったのは、私だけどさ。
実行したのは、あんたらな訳。あんたらがカナメを殺したってのは、揺るぎない事実なんだよ」
「そ、それは……」
声を震わせながら、否定する久美子。
しかし、ウィキッドが、そんな久美子の言葉を遮り、再び現実を叩きつけると、言葉を詰まらせた。
「あたしが……、カナメさんを……。あたしが……――」
一方、あかりは、地面にへたり込んだまま。
呆然とした表情で、同じ言葉を何度も呟いている。
それはさながら、壊れかけのレコーダーのようで、その表情からは、先程までの鬼気迫るものはなくなり、ただ無気力と絶望が支配していた。
「わ、私は、中身が入れ替わってたなんて、知らなくて……。
でも、あかりちゃんが、その人のことを貴方だと、決めつけていたから……、そ、それで、わ、私……私は―――」
久美子は、尚も、声を震わせながらも、必死に弁明の言葉を紡ぎ出す。
自分の名前を出された瞬間、ピクリと、あかりの肩が、小さく震えた。
241
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:47:32 ID:w7MuKjnQ0
「おいおい、ここにきて、責任転嫁かよ。
再三、そいつに殺せ殺せって嗾けた上、トドメの一撃を加えたくせによぉ。
それを棚上げして、自分は悪くないってか? はッ、中々良い性格してんじゃねえか、黄前さん」
「そ、それは……!! そ、そもそも、貴女が麗奈を殺したから―――」
「はぁ〜? 高坂麗奈が殺されたから、赤の他人を殺しても許されるって言いたいのか、あんたは?
随分と都合の良い話じゃねえか」
「わ、私は、そんなつもりじゃ……!!」
久美子は、必死に弁解の言葉を口にしようとするが、思考が定まらない。
混乱と、絶望が、久美子の思考を泥沼へと引きずり込んでゆく。
「まぁ、結果だけ見れば、あんたらは、罪悪人でもない、善良な他人を殺しちゃったって訳。
その気があったかどうかは、問題じゃないんだよ。結局のところ―――」
「ち、違う……。わ、私……、私は悪くな―――」
「あんたらは、私と同じ穴の狢―――人殺しって訳だぁ!!」
ウィキッドは、久美子の弁明をぴしゃりと遮った。
さも愉快そうに、グサリと、決定的且つ鋭利な事実を突き刺して。
「……っ!!」
瞬間、久美子の目がギョッとしたように、大きく見開かれると。
「い、嫌あああああああああああああああああああ!!」
耳を塞ぎ、絶叫。
そして、脱兎の如く、明後日の方向へと駆け出した。
まさに、自分が犯してしまった過ちから、目を背けるようにして。
242
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:48:02 ID:w7MuKjnQ0
「あーあー、逃げちまったよ、あのヘタレ」
ウィキッドは、やれやれといった感じで、遠のいていく久美子の背中を見送る。
過剰強化された脚力を以ってすれば、すぐにでも追いつくことは出来るが、それをしようとは思わない。
あの玩具では散々遊びつくしたから。
今はあれにトドメを刺すよりかは、目の前に転がっている、もう一つの玩具で遊ぶほうが、愉しそうだったから。
「……黄前…、さん……」
取り残されたあかりは、尚も地面にへたり込んだまま。
ぼんやりとした眼差しで、久美子が駆けていった方向を見つめている。
その双眸は、まるで現実を直視することを拒むかのように虚ろで、その瞳に光はない。
「カナメ君も無念だったろうねぇ。味方だと思っていた相手、護ろうとしていた相手にボッコボコにされてさぁ。
カナメ君、射的の的にされた時も、あんたに必死に呼びかけてたよぉ。
だけど、あんたは聞く耳もたずで……。くっくっく……、あの時のカナメ君、どんな気持ちだったんだろうなぁ?」
呆然自失のあかりの胸倉を掴み上げて、魔女はその耳元に囁きかける。
瞬間、ビクリと、その小さな身体が揺れた。
「――う…ぁ……」
あかりの中で蠢くは、カナメに対する罪悪感と自責の念。
振り返ってみれば、カナメが化けていたアリアには、不審な点が多々あった。
喉の傷が、明らかに弾痕によるものではなかったし、超人的な傷の回復が、これっぽちも見受けられなかった。
そして、何より、偽アリアの処遇について、あかりと久美子の意見がぶつかった際、隙を見計らって、投擲したのが殺傷能力のない、フラッシュバンであったことも、あかり達を害さないよう、配慮があったように見て取れた。
自分さえ冷静さを保っていれば、それらの不審な点を見抜いて、気付いていたはず。
カナメが死ぬことには、ならなかったのだ。
243
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:48:25 ID:w7MuKjnQ0
「確か、あんたら『武偵』ってさぁ、人殺しちゃいけなかったんだよね?
だから、ピンクチビの仇である私にでさえ、殺し無しでの制裁に拘っていたんだよなぁ――」
失意に沈む、あかりの双瞼に映るは、悪意と嘲りに満ちた、歪みきった笑顔。
明らかに、これからあかりを甚振ろうとしている、サディスティックで醜悪な意志が、ありありと見て取れたが、あかりに抗う気力はもはやなかった。
「だけど、結局人殺しちゃったよねぇ、あかりちゃんは!!
きゃははは、あれだけ頑なに人殺しはしないって言ってたくせに、ざまあねえな!!」
「――……。」
「なぁなぁ、あれだけ拘っていた『武偵の掟』とやらを破って、護ろうとしていた味方もぶっ殺す羽目になってさぁ。今、どんな気持ちよぉ?」
ウィキッドは、あかりの細い首をミシミシと締め上げながら、ゲラゲラと哄笑した。
「……か、はぁ……」
あかりは、その圧迫に、苦しげな声を漏らすが、抵抗する素振りはなく、ただ一言、掠れた声で呟く。
「――ご、めん……なさい……」
「きゃははははは、結局、懺悔をするのはてめえの方だったな!!
謝っても、死んだやつは、戻ってこねえよ!! 死んで詫びろよ、クソチビ!!」
絶望と、自責と、後悔の色に染まった、あかりの表情。
満足したものを鑑賞できた魔女は、あかりの首を絞める手に、更なる力を込めて、終わらせにかかろうとする。
244
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:48:44 ID:w7MuKjnQ0
(ごめんなさい、カナメさん。
あたしが、もっとしっかりしていれば――)
徐々に霞んでゆく視界。
あかりは、ただひたすらに、心の中で謝罪の言葉を繰り返していく。
(ごめんなさい、アリア先輩、志乃ちゃん、高千穂さん。
あたし、もう『武偵』じゃなくなっちゃった――)
武偵としての矜持は、完全に砕け散り、武偵として生きる道は絶たれてしまった。
もはや、何のために、この殺し合いで生き抜いていくべきか、わからなくなってしまった。
(ごめんなさい、アンジュさん、ミカヅチさん、カタリナさん。
折角、命を繋いでもらったのに――)
生きる意味を失ってしまったが故、あかりには、現在の窮状から脱そうという意思は残されていない。
ただ、漠然と自分という存在が、消えていくのを感じるだけ。
(ごめんなさい、シアリーズさん。
あなたに託された約束、果たせそうにないです――)
あかりは、その瞼を閉ざして、自身の終焉を受け入れようとした―――
バ ァ ン !!
「……っ!?」
その矢先、突如として鳴り響いた銃声が、あかりの鼓膜を揺さぶった。
同時に、あかりの首を絞めていたウィキッドの手が離れ、その身体が地面に投げ出される。
「な……に……?」
突然の事態に、目を白黒させるあかり。
「てめえ―――」
一方で、ウィキッドはというと、側頭部から血を垂れ流しながら、戦慄の眼差しを、銃声の響いた方向へ向けている。
あかりもまた、その視線の先を追う。
「あ……あぁ……」
その正体を認めて、あかりは、思わず声を漏らした。
しかし、それも無理からぬこと。
何しろ、そこにいたのは―――
「ぜぇ……はぁ……」
つい先程まで、自身の手で沈められていたはずの青年―――。
「……カナメさん……」
肩で息をしながら、銃を構えて佇むカナメの姿であったのだから。
245
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:49:16 ID:w7MuKjnQ0
◇
『――と、まあこんな感じで、私はカナメ君をピンクチビに変身させて、あんたらの前に差し出した訳よ。
いやぁ、まさか、こんなにも上手くハマってくれるとは思ってなかったわぁ』
暗がりで、何も見えない世界の中で、薄らと声だけが聴こえてくる。
この声は、間違えねえ。
忘れもしない、魔理沙やStorkを殺した、あのクソッタレの声だ。
『――カナメ君も無念だったろうねぇ。味方だと思っていた相手、護ろうとしていた相手にボッコボコにされてさぁ。
カナメ君、射的の的にされた時も、あんたに必死に呼びかけてたよぉ。
だけど、あんたは聞く耳もたずで……。くっくっく……、あの時のカナメ君、どんな気持ちだったんだろうなぁ?』
あぁ…、こっちは最悪の気分だったぜ。
気が付いたら、知らない女の子の姿に、変えられちまって―――。
訳わかんねえ内に、あかりに撃たれちまって―――。
呼び掛けようにも、喉が抉れてるせいで、声は出ねえわ、また撃たれるわで、散々だった。
それもこれも、全部てめえの手回しだったわけか、ウィキッド……!!
『――確か、あんたら『武偵』ってさぁ、人殺しちゃいけなかったんだよね?
だから、ピンクチビの仇である私にでさえ、殺し無しでの制裁に拘っていたんだよなぁ――』
『なぁなぁ、あれだけ拘っていた『武偵の掟』とやらを破って、護ろうとしていた味方もぶっ殺す羽目になってさぁ。今、どんな気持ちよぉ?』
……クソっ、あかりの奴、そんな事情があったのかよ……。
ウィキッドの野郎、それを把握したうえで、あかりに俺を撃たせたのか、あいつを追い詰めるために。
246
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:49:47 ID:w7MuKjnQ0
『――ご、めん……なさい……』
駄目だ、あかり。
そんな奴の言うことに、耳を貸すな。
あの久美子って子も、俺に手をかけたことに耐えられず、去っちまったようだが、お前達が負い目を感じる必要はないんだ……。
――っ!! クソっ、身体が動かねえ……。
第一、俺はまだここにいる……。 死んじゃいねえんだよ……。
『きゃははははは、結局、懺悔をするのはてめえの方だったな!!
謝っても、死んだやつは、戻ってこねえよ!! 死んで詫びろよ、クソチビ!!』
黙って聞いてりゃ、あいつ……、勝手に人を殺したことにしやがって……。
畜生っ、動け……!! 動けよ、俺の身体……!!
すぐそこには、魔理沙達を殺した仇がいて―――。
てめえを、助けてくれた女の子が、泣いているんだぞ。
なのに、なんで身体が動かねえんだ……!! 動け……動いてくれよ!!
魔理沙、Stork、フレンダ、霊夢―――。
俺は、ここに来てからもずっと、助けられてばっかで、結局誰も護れちゃいねえ……。
そんなのはもう御免なんだよ!!
だから―――
動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け―――
(動きやがれ、須藤要ッ―――!!!)
バ ァ ン !!
瞬間、渇いた音を知覚したと同時に、俺の暗闇に染まっていた視界が、急に開けた。
247
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:50:11 ID:w7MuKjnQ0
「てめえ―――」
「あ……あぁ……」
視界に飛び込んできたのは、側頭部から血を垂れ流し、こちらを睨みつける水口と、まるで幽霊を目の当たりにしたような、驚愕の表情を浮かべる、あかりの姿。
そして、二人の視線を遮るように立ち上る硝煙から、俺はようやく、無意識の内に、ウィキッドの頭を撃ち抜いたを悟った。
「ぜぇ……はぁ……」
「……カナメさん……」
呼吸が苦しい。視界がぼやけて、全身が痛え―――。
察するに、あかりのピンチはどうにか凌げたみたいだが、これで終わるわけにはいかねえ。
ボロボロの身体を引き摺りながら、俺は這うようにして、ウィキッドににじり寄っていく。
「何で、まだ生きて―――」
未だに、信じられないといった様子で、狼狽えていたウィキッドの足元に辿り着くと、俺は片方の手で、その足首を掴んだ。
そして、ギョッとした様子で頭上から見下ろしてくる、あいつの首元―――正確には首輪を目掛けて、もう片方の手に握る拳銃を向けて―――
バ ァ ン !!
引き金を、引き絞った。
「――んの、死に損ないがぁあああああああああーーー!!!」
ふわりと身体が浮く感覚と共に、俺はウィキッドの放った蹴りによって、真上へと吹っ飛ばされていた。
嗚呼、しくじった―――。
引き金を引いた瞬間、ウィキッドは、めちゃくちゃ焦った様子で、上体を反らして、首輪への着弾を躱しやがった。
そして、怒鳴りながら、俺のことを蹴り上げてきやがった。
248
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:50:30 ID:w7MuKjnQ0
(ははっ……)
宙に舞い、上下が逆転した視界の中で、俺は水口を嗤ってやった。
俺みたいな死にかけに、殺されかけたのが、余程悔しかったんだろうな―――顔を真っ赤にして、怒号を飛ばしながら、俺を睨みつけてくるあいつは、とても滑稽に映った。
結果として、俺は、あいつに引導を渡すことは出来なかった。
だけど、勝ち誇ってやりたい放題していた、あいつの鼻っ柱をへし折ってやれただけでも、スカッとする。
最後にもう一つ。ブチぎれ状態のあいつを、更に煽ってやろうと思って、俺はボロボロの声帯を震わせて、言葉を紡ぎだす。
「ざ――」
あいつは、怒りのままに、その手に手榴弾を顕現させた。
「ま”――」
そのまま勢いよく、手榴弾のピンを引くと。
「ぁ”――」
野球選手のように、腕を大きく振り被って。
「み”――」
地面に墜落していく、俺を目掛けて、投げつけてきた。
「ろ”!!」
ド カ ン ! !
爆音が鼓膜を震わせると、俺の視界は、爆炎に塗り潰された。
249
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:50:57 ID:w7MuKjnQ0
◇
「―――ぜぇ……ぜぇ……。
雑魚が、調子に乗りやがって……」
「……カ、カナメさん……」
肩で息をして、怒りで身を震わせる、ウィキッド。
爆撃を胸部に受けて、焼き焦げた匂いを漂わせながら、夜天を仰ぐ形で、地面に横たわるカナメ。
先程まで失意と絶望に沈んでいた、あかりは、眼前で発生した予想だにしない展開を前に、呆然と立ち尽くしていた。
自分たちのせいで死んだと思っていたカナメが、実は生きていて―――
自分の窮地を救おうと、ボロボロの身体で、再び立ち上がってくれた―――
だけど、たった今、屍になり果ててしまった―――
「あ、あたしは……、また……」
そこまで、理解した時、あかりの目には再び涙が溢れ出していた。
救えなかった―――、また、救えなかった―――、と。
咄嗟に動くことが出来なかった自分の失態に、胸が張り裂けんばかりの不甲斐なさと、罪悪感を覚えて。
「―――ぁ”……」
「えっ?」
その時、ピクリと、カナメの右手が微かに動いたことに、あかりは思わず、素っ頓狂な声を漏らす。
そして、それに気づいたのは、彼女だけではなくて―――。
「いい加減、しぶてえんだよ! ゴキブリ野郎がぁ!!」
激昂したウィキッドは、ずかずかとカナメの元へと歩み寄っていくと、完全にその息の根を止めるべく、頭蓋目掛けて、大股でその足を振り上げんとした。
ギロチンの如く、これが振り下ろされれば、カナメの頭は果実のように潰れることになるだろう。
250
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:51:17 ID:w7MuKjnQ0
刹那―――。
「駄目ぇええええええっーーー!!!」
「なっ……!?」
白い閃光が迸ると同時に、その光は、ウィキッドの身体に衝突。
まるで、巨大なダンプカーに撥ねられたかのような凄まじい衝撃に、ウィキッドのか細い体躯は、砲弾のように吹き飛んだ。
勢いよく、宙に弾き出されたウィキッドは、一瞬、何が起こったか分からず、目を白黒させていた。
しかし、天地が逆転した視界の中―――猛スピードで自身に迫りくる、白い影を目視して、ようやく状況を悟る。
「なっ……!? てめえ、その力―――」
それは背中に光の翼を生やした、あかりだった。
ヴライとの激闘で枯渇していたリソースが回復し、カナメの危機を前に、再びその力を解放せしめたのだ。
「ああああぁああああああ!!!」
気合の咆哮と共に、あかりは両の手の掌を突き出すと、巨大な光弾をウィキッド目掛けて、解き放つ。
慌てて、空中で体勢を立て直すウィキッドだったが、時既に遅し。
光の槍の如く、猛然と突き進んだ光弾は、ウィキッドを捉えると、勢いそのまま、彼女の華奢な身体を圧し出していく。
その圧倒的な質量と熱量は、魔女の肉体を容赦なく焼き削っていき、彼女の腰にぶら下げられていた『へんげのつえ』は、バキバキと音を立て、砕け散った。
「がっ……、ぐっ……!!
てめえええ、間宮あかりぃいいいいいいっ―――!!!」
抵抗も虚しく、全身を光に包まれたウィキッドは、怒号を響かせると、そのまま、空の彼方へと吹き飛ばされていった。
「……カナメさん……!!」
夜空を渡る流星のように、彼方へと消えたウィキッド。
その行方を見届けることなく、あかりはすぐさま、地面に横たわるカナメの元へと舞い戻ると、既に虫の息である彼を抱き起したのであった。
251
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:51:42 ID:w7MuKjnQ0
◇
「……ひっぐ……、カナメさん……」
気が付くと、カナメの目の前には、あかりの顔があった。
酷い顔であった。涙と鼻水でグシャグシャになっており、折角の愛らしい顔が台無しになっている。
ウィキッドがいないということは、あかりが、どうにかしたということなのだろうか……。
「―――ぁ”……、ぁ………」
「……カナメさん……、ごめんなさい……、あ、あたしのせいで……」
微かに息はあるが、今にも消え入りそうな声で呻く、カナメ。
そんなカナメの弱弱しい姿に、あかりの目から止めどなく涙が溢れていく。
元はと言えば、自分がウィキッドの策略に嵌り、浅はかにもカナメに弾丸を撃ち込んでしまったことが、事の発端だった。
そんな自分の浅はかな行動の結果、カナメは死に瀕してしまっている。
自分が殺したも同然だと、止めどない後悔と罪悪感だけが、蜷局のように、あかりの心を締め付けていた。
「―――ぁ”……、が……り”……」
ひたすらに泣きじゃくる、あかりを見て、カナメは思った。
このままいくと、こいつは、自分のことを、いつまでも引き摺るんだろうな、と―――。
故に、カナメはズタボロになった声帯を震わせて、彼女に話し掛ける。
「カナメさん……?」
―――カナメが、声を絞り出して、何かを伝えようとしている。
あかりは、涙でぐしょぐしょになった顔を拭いながら、カナメの言葉を聞き取ろうとした。
そんな、あかりに対して、カナメは弱弱しくも、優しい微笑みを向けて――。
252
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:52:19 ID:w7MuKjnQ0
「……――」
絞り出すような声で、たった一言だけ、懸命に紡ぎ出す。
ありがとな、と―――。
本音を言えば、投げ掛けたい言葉は、たくさんあった。
最後に自分に致命傷を与えたのは、ウィキッドだ。自分を殺したのは、お前じゃないので、気にするな―――だとか。
まだ、戦場の何処かにいるであろう仲間達を頼む―――だとか。
このクソゲームを潰して、自分達の無念を晴らしてほしい―――だとか。
だけど、損壊した喉では多くを語れることも叶わず。
最終的にカナメが紡ぎ出したのは、自分の窮地を救ってくれた上、シュカの言伝を伝えてくれた、心優しい武偵の少女に対する、感謝の気持ちであった。
「カナメさん……」
あまりにも、か細くて、聞き取りづらく、不明瞭な声――。
しかし、恨み言でもなく、無念の言葉でもなく、ただ純粋に自分に対する謝意を紡いだその言葉には、純然たる想いが込められており、あかりの心を揺さぶった。
せめてものの謝意は、エールとなって、あかりの心に巣食っていた、後悔と罪悪感の鎖を、優しく解きほぐしてくれた。
「――あたし、頑張るから……。絶対、頑張るから……!!」
紡ぎ出された言の葉に込められた、温かな心遣い――。
その意図を汲んだあかりが、涙で濡れた顔を更にくしゃくしゃに歪めて、嗚咽を堪えながらも頷くと、カナメは、目を細める。
(――あぁ……、しっかりな……)
目の前で決意を固める少女に、カナメは心の中でエールを送る。
瞬間、強烈な眠気と共に、これまでの記憶が、ゆっくりと脳裏を駆け巡った。
253
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:52:47 ID:w7MuKjnQ0
(―――これが、走馬灯ってやつか……)
生と死の狭間の中で、掘り返された、己が軌跡―――。
振り返ってみると、Dゲームに巻き込まれてしまったあの日からは、激動の日々を歩んできたのだと痛感させられる。
ゲームに巻き込まれて早々、着ぐるみ野郎に、追い掛け回されたり―――。
植物園と化したホテルに、閉じ込められたり―――。
唐突に現れた、ランキング一位の最強プレイヤーに、拉致られたり―――。
反吐の出るクソ野郎に、友人を惨殺されたり―――。
何度も何度も、殺されかけ、何度も何度も、理不尽に翻弄されてきたか思ったら、また別のクソゲーに参加させられて、こっちでも、これでもかというくらいに、理不尽な目に合わされてきた。
本当に碌でもない日々であった。
だけど―――
『――愛してる……。例え、どんなに離れてしまっても、私達はずっと一緒……。
だって、私達は、最高の【家族】だから』
(ははっ……、クソったれな出来事ばっかだったけど、あいつらと出会えたことだけは、悪くなかったかもな……)
あかりから伝え聞いた、別世界のシュカの伝言を思い出すと、カナメは心の内で苦笑した。
あかりがいる手前、伝えられた時は、正直、胸の中がムズ痒くて堪らなかった。
だけど、悪い気はしなかった。
(――後は任せたぜ、レイン、リュージ……)
まだ会場の何処かにいるであろう、仲間たちに想いを馳せて、スドウカナメは、強烈な眠気に身を任し、その意識を手放したのであった。
254
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:53:54 ID:w7MuKjnQ0
投下終了します。続きは後日投下します
255
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:39:13 ID:7gnuStw20
投下します
256
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:39:48 ID:7gnuStw20
◇
複数の意思と力が、代わる代わる交錯していく戦地。
今現在は二つの巨大な影が、互いの存在を叩き潰さんと、咆哮と衝突を繰り返している。
どすん、どすん、と。
その戦闘の余波により、大地は激しく揺さぶられるが―――
「……ぁ……、……がぁ……」
二体の巨像が殺し合う地帯から、少し距離を置いた地にて。
断続的に到来する振動によって、早苗の意識は無理矢理に呼び覚まれてしまった。
「ぐ、う……っ」
先刻、ヴライが放った大火球に、飲み込まれてしまった早苗。
瞬間、即興で全身に纏わせた風の防護にて、どうにか炭化は免れたものの、無傷とはいかなかった。
地面に叩きつけられた衝撃、そして爆圧によって、彼女の華奢な身体は押し潰される形となり、意識は刈り取られてしまっていた。
「ゴボッ……」
内臓が損傷したのか、呼吸の度に口の中が血で溢れかえる。
圧迫を受けていた全身は、まるで鉛を括り付けられたかのように重く、鈍い。
全身は、まるで鉛を括り付けられたかのように重く、鈍い。
致命傷とまではいかぬものの、決して軽傷とも呼べないダメージを負ってしまっている。
しかし、それでも―――
「……クオン、さん……」
伝搬する振動にて、未だ仲間が向こう側に留まり戦い続けていると、察した早苗は、5メートルほど宙に浮遊。
視界も聴覚もおぼつかないが、それでも懸命に、震源地へと向かうのであった。
257
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:40:12 ID:7gnuStw20
◇
『ハァアアアッ!!』
『フンッ!!』
二体の巨像が咆哮を上げては、互いに拳を振るい、衝突を繰り返していく。
ヤマト八柱が一人、剛腕のヴライは、黒の巨躯を豪快に振り回して―――
二重の『仮面』を装う右近衛大将オシュトルは、白の巨躯を機敏に駆って―――
『根源』から力を汲み上げた二人の『仮面の者』は、その身に宿した大いなる力を惜しみなく振るい、眼前の宿敵を討滅せんと、苛烈な肉弾戦を繰り広げる。
拳と拳が交錯する度に、大気が唸り、大地が軋み、天へと地鳴りの如き衝撃が昇っていく。
人智を超越した力と質量の激突――。
エリア内の空間そのものを揺るがす、両雄の闘争は、まさに神劇の世界を再現したかのような光景となっていた。
『ウハハハハハッ! 愉快! 愉快ゾ!
コレゾ戦! コレゾ死合! コレゾ我ガ望ム至高ノ瞬間ヨ!!』
拳を叩きこみ、その返しとして叩き込まれる中、ヴライは、己が内が沸るのを感じていた。
闘争の権化たる漢は、この地において、様々な難敵と相見えてきた。
しかし、如何に相手が強者であろうと、覚えるのはせいぜいが、苛立ちや怒りといった程度のもの。
武士の血が踊り、魂が震えるような、この高揚は、相手が同じ『仮面の者』であるからこそ―――そして、何よりも、己が認めた宿敵と全身全霊を賭して闘っているからこそ味わえるものであった。
『貴様モ、ソウハ思ワヌカ、オシュトルゥゥゥゥゥ!!』
猛るヴライは、オシュトルの突き刺すような拳打を掻い潜ると、渾身の力を込めた拳を叩き込む。
『グッ――!?』
オシュトルは、その一撃を真正面から受けてしまい、大地を削りながら吹き飛ばされるような形で後退する。
258
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:40:34 ID:7gnuStw20
『アア……。確カニ、心ガ踊ル……。
コレゾ《仮面ノ者》ノ闘争ーー」
しかし、それも一瞬のこと。
両脚に踏ん張りを効かせ、踏みとどまったオシュトルは、上空へと飛翔。
『ダガ、己ガ闘争欲ニ身ヲ捧ゲテ、貴様ト長々ト闘ウツモリハナイ!
早々ニ終ワラセテ貰ウゾ、ヴライ!!』
ヴライがそうであるように、オシュトルもまた仮面の力を解放した今、身体は高揚感を覚えていた。
身体を巡る血液が、内に宿る腑が、灼熱を呼び覚まし、訴えかける。
眼前の強者との闘争に興じよ、と―――。
しかし、オシュトルは、それを意志の力で捻じ伏せる。
『ウハハハハハハハ!!
吐カシタナァ、オシュトルゥ!!』
そんなオシュトルの葛藤を他所に、彼を追うため、地を蹴り上げて、飛翔するヴライ。
接近する黒の肉塊に、オシュトルは、右腕を銃口の如し構えると、その巨掌から巨大な水塊を怒涛の勢いで、射出していく。
地に向け、高速連射されるは、半径10メートルはゆうに超える超高速のウォーターカッター。
常人が直撃すれば、一瞬で挽肉と化すような水圧の散弾だが、ヴライは両掌を天へと掲げると、水塊を遥かに凌ぐ巨大な火球を展開。
それを盾にして、飛来する水の散弾を防ぎながら、オシュトルとの間合いを詰める。
五発目、六発目、七発目、八発目……。
オシュトルの放ったウォーターカッターが、火球に着弾し、水蒸気に帰す度に、火球の直径は徐々に小さくなっていく。
九発目、十発目―――、そして、十一発目が達して、火球は大きく弾け去った頃。
ヴライは、オシュトルの元に到達。
霧散する蒸気を吹き飛ばす勢いで、業火を纏った剛腕が、オシュトルを襲う。
しかし、それを紙一重で躱したオシュトルは、カウンター気味に水の大砲をヴライの胸部に撃ち込んだ。
259
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:40:58 ID:7gnuStw20
『ヌウッ!?』
至近距離の射撃に、思わず呻き声を上げるヴライは、数メールほど後方に吹き飛ばされる。
間髪入れず、オシュトルは、先ほどよりも二回り小さなウォーターカッターを連射。
『グヌォオオオオオオオ!?』
一発一発の出力を抑制した分、連射速度は機関銃の如し。
秒間数十発という速射でヴライの巨躯に炸裂し、進撃の巨像の肉を穿ちつつ、後退させていく。
『足リヌ―――』
しかし、ヴライはその全てを受け止めながらも、息を大きく吸い込むようにして、その身に宿した『力』を練り上げる。
そして――、
『コレシキデハ、我ヲ屠ルニ足リヌゾ、オシュトルゥゥゥゥゥ!!』
ヴライの咆哮が、空間そのものを震わせたかと思うと、彼の肉体から業火が溢れ出す。
それはまるで、火山の噴火の如く。
ヴライの全身は炎に包まれながら、オシュトルへと突進していく。
射出されるウォーターカッターの悉くは、炎の鎧の前に蒸発してしまい、その進撃を阻むことは叶わず。
瞬く間に、オシュトルの間合いにまで到達したヴライは、炎を纏った拳打を繰り出す。
咄嗟に身を捻って躱したオシュトルは、再びカウンター気味に水の大砲を放たんとするも―――
『我ニ同ジ手ハ、通用セヌ!』
発射口たる腕を、ヴライの剛腕に掴まれ、捻り上げられると、大砲は天に放たれる。
260
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:41:20 ID:7gnuStw20
『ガッ!?』
豪炎を宿すヴライの剛腕の灼熱に、苦悶を漏らすオシュトル。
ヴライはというと、捻じり上げた腕をそのまま、身動きが取れないオシュトルの頭蓋に、もう一方の拳を叩き込む。
ド ン ッ !!
まるで、大地が爆ぜたような殴打音。
瞬間オシュトルの頭の中では、星が煌めき、意識が明滅した。
しかし、それも束の間。すぐに意識を直したオシュトルは、追撃のために振り上げられたヴライの炎拳が迫る前に、四肢を全力で動かし、その拘束から脱する。
瞬時に、大きく後退し、距離を取らんとするオシュトルであったが―――
『――ッ!?』
刹那、眼前に迫るは巨大な火球。
無論、ヴライが間髪入れず放ったものである。
咄嗟に両掌を眼前に翳して、水の障壁を展開。
『グゥオオオオオオオオオ!!』
圧倒的質量を孕んだ炎塊に圧されつつも、水の障壁を維持し、完全に防ぎきるオシュトル。
炎球が消失した後、反撃のための水塊を放出せんと、その両掌に力を籠めんとする。
しかし、視界には既に黒の巨獣の姿はなく―――
『ヌゥン!!』
間髪入れず、オシュトルの頭上からヴライが降り立ち、剛腕を鉄槌の如く叩きつける。
ド ン ッ !!
オシュトルは、再び脳天に凄まじい鈍痛を味わうと、勢いそのまま、垂直方向へと叩き落とされる。
しかし、地面に衝突する寸前で、反転―――どうにか持ち堪えると、頭上を見上げ、改めてヴライに対峙する。
しかし、黒の巨像の猛攻は止まらない。
『ナッ―――!?』
目を見開くオシュトルに迫りくるは、炎槍の雨霰。
咄嗟に横方向へと滑空をしながら、これを躱していく。
261
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:41:48 ID:7gnuStw20
『ドウシタ、オシュトルゥゥゥゥ!!
汝ノ力ハ、ソノ程度カァア!!』
自身に二度も土をつけた漢の実力は、この程度ではない---。
そう言わんばかりに、ヴライは怒涛の勢いで炎槍を投擲。
大地は忽ちに爆撃に晒されていき、爆炎とともに、大規模なクレーターが穿たれていく。
(……強い……、流石は、剛腕のヴライ……。
兄貴が『ヤマトの矛』と讃えた漢……)
地を滑るように滑空し、どうにかして爆撃の雨を避けていくオシュトル。
引き続き炎槍を投擲しながらも追尾してくるヴライに向けて、ウォーターカッターを連射しつつも、その猛撃に、オシュトルは内心で舌を巻く。
この姿で、ヴライと相対するのは二度目となるが、こと一対一の闘いでは、前回同様、ヴライに分があると言わざるを得ない。
巨躯に刻まれたダメージも、オシュトルとは比ではなく、満身創痍であるはずだが、それをまるで感じさせない。
まさしく、ヤマト最強―――。亡き友に倣わんがため、武芸に研鑽を重ねて間もないオシュトルであったが、一人の武士として、ヴライの武勇には、脅威を感じるとともに、畏敬の念すら覚えるのであった。
(……だが、ここで圧し負ける訳にはいかない……!)
無数の炎弾と水弾が衝突し、高熱の蒸気が戦場を満たす中、オシュトルは自らを奮起させると、地を踏み抜き、突貫。
『ウォオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
『ヌゥウ!?』
それまで接近戦を嫌い、遠距離攻撃に徹していたオシュトルが、突如として反転―――己が懐へと飛び込んできたことに、虚を突かれるヴライ。
オシュトルはそんなヴライの心の臓目掛け、右掌に圧縮した水流を、ゼロ距離で叩きつけんとする。
しかし―――
『笑止ッ!!』
『ナッ!?』
ヴライが、咄嗟にその巨躯を捻転させると、オシュトル渾身の水撃は彼方へと逸れてしまう。
そして、そのまま身体の回転とともに繰り出されるは、必滅の炎槍握る剛腕。
262
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:42:23 ID:7gnuStw20
『コレデ終イダ、オシュトルゥゥ!!』
今度はオシュトルの胸元を穿つべく、炎槍が唸りを上げて迫る。
オシュトルもまたこれを躱さんと、身を捻らんとするが、時既に遅く―――
ド ガ ン!!
『ガハッ―――』
触れるものを灰燼にした上で、炸裂した炎槍。
ゼロ距離からのカウンターは、白の巨像の胴部に大穴を空けると同時に、その巨躯を吹き飛ばして、大地に仰向けに転がした。
ズシン ズシン
倒れたオシュトルの元へ、ヴライは歩を進めていく。
(……くそっ……しくじった……)
振動と共に、近づいてくるヴライの気配を感じながらも、オシュトルが起き上がることが出来ない。
もはや、勝敗は決した。
先の一撃は、致命傷だった。
胸元に穿たれた大穴からは、何か大事なものが溢れていく感覚を覚え、脳が身体を動かすための信号を送ったとしても、もはやこの巨躯がそれに応じることはない。
やがて、虚になりつつある視界に、黒い影が映り込む。
『先ニ逝ケ、オシュトル……。
地獄(ディネボクシリ)デモ、マタ闘リ合オウゾ……』
まるで、生気を感じさせない眼光で自身を見上げる宿敵。
ヴライはそんなオシュトルを見下すと、とどめを刺すべく、炎槍を振り上げた。
その時だった―――
「ハクーーーーッ!!」
『ッ!?』
絶叫が木霊すると同時に、金色の塊が、弾丸の如く、ヴライの懐に飛び込んできた。
眼下の宿敵に気をとられていたヴライは、咄嗟に反応できず、直撃。
ド ン!!
『グッ――!?』
予期せぬ衝撃に、ヴライの巨躯は大きく仰け反った。
咄嗟にギロリと、そんな自身の懐に飛び込んだ存在を睨みつける。
「―――絶対に、殺させないっ……!!」
視界に捉えたのは、金色の闘気を放つクオン。
この戦場で、幾度も拳を交わしてきた少女は、衝突の反動で、大きく後ろに空に吹っ飛ぶも、素早く空中で体勢を整える。
そして再び、ヴライの元へと降下すると、その頭蓋目掛けて回転蹴りを繰り出さんとした。
263
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:42:43 ID:7gnuStw20
『マタ、汝カ―――』
しかし、その蹴撃が顔面に叩き込まれる寸前。
怒れる怪獣が、その巨躯を再び起こすと―――
『漢ノ死合ニ、水ヲ差スカ、女ァアアアアアアアアッッッ!!!』
激情のままに、剛腕を振り下ろし、自身の数十分の一にも満たないサイズの躰を叩き落した。
「――ごほっ……!!」
地面に叩きつけられたクオンは、衝撃で、肺の中の空気を強制的に吐き出させられる。
それに続いて色鮮やかな鮮血が、口から溢れた。
ヴライの打撃自体は、発現している『力』によって緩衝されたが、その『力』の酷使によって、器たる彼女の身体は悲鳴を上げ、吐血という形で、その限界を知らせていた。
(……クオン……!!)
仰向けとなっていた首を横に動かした、オシュトル。
霞む視界の中で捉えたのは、ボロボロの状態でも、尚、全身を震わせながらも立たんとするクオンの姿。
このままでは、クオンが先に殺されてしまうのは明白だ。
(――せめて、クオンだけでも……)
どうにか、生き延びてほしい――。
その一念でオシュトルは奮起する。
だが、その想い虚しく、死体も同然の巨躯は最早動かず。
己が非力を恨みつつ、意識が途切れるのを待つ他なかった。
264
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:43:42 ID:7gnuStw20
【彼ノ者ヲ、護リタイカ……?】
その時だった。
(……っ!?)
突如として内より響く、何者かの声。
聴覚からというよりは、意識の奥底に、直接囁きかけてくる声は、無機質―――声色も分からぬため、声主が男性なのか、女性なのかも定かではない。
得体の知れないその囁きに、オシュトルは閉じかけていた瞼を、大きく見開いた。
(……誰だ……?)
死期が迫ったが故の幻聴か。
そう訝しみながら、オシュトルは問いを投げ返した。
【我ハ、汝ノ内ニ在リシ、願望ヲ叶エル断片ナリ】
(……願望を叶える断片だと?……)
答えが返ってきた。
しかし、突拍子のない返答にオシュトルは困惑を覚える。
そんなオシュトルを他所に、声は淡々と語り掛ける。
【然リ……。時ヲ渡リシ旅人ヨ、今一度、問オウ……。
汝ハ、アノ娘ヲ護リタクハナイノカ……?】
声に唆されるままに、今一度、視線をクオンに向けた。
辛うじて、立ち上がるクオン。
しかし、今一度その身に金色を宿すと、血反吐を吐いて、膝を地につけた。
ヴライはそんなクオンを見下し、巨拳を振り下ろす構えを取る。
265
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:44:16 ID:7gnuStw20
(――ああ……、護りたい……!!
自分は、クオンを護りたい……!!)
得体の知れない存在に、オシュトルは首肯した。
すると声は、その答えを待っていたかのように、再び語り掛ける。
【ナレバ、根源ニ『力』ヲ求メヨ。汝ガ求メレバ、我モ力ヲ貸ソウ。
シカシ、ユメ忘レルナ。汝ハ既ニ、十全ニ『力』ヲ引キ出シテイル。
コレ以上ノ『力』ノ捻出ハ、汝ノ身ニ破滅ヲ齎ソウ……】
(――構わない……!!
黙ってこのままクオンを見殺しにして、朽ち果てるくらいならば……!!)
本音を言えば、この声の主に対する疑念は晴れていない。
しかしながら、今この胡散臭い存在を訝しむ猶予など残されていはい。
万に一つでも、事態を打破する可能性があるのならば、それに賭けたい。縋りたい。
僅かな逡巡を経て、オシュトルはそのように結論づけ、己が覚悟を打ち明けた。
【良カロウ……ナラバ、求メヨ、彼ノ者ヲ救ウタメノ『力』ヲ……!!】
無機質な声からどことなく満足したような感情を感じ取ったと同時に、オシュトルは内より活力が湧き起こるのを感じた。
胸の奥底から湧き上がる、灼熱のような衝動。
それがオシュトルの全身に行き渡ると、
(……『仮面』よ、我は更に求む―――)
内なる声に唆されたままに、『力』を求めた。
(我が魂を全てを喰らいて、天元を超えし天外の力を示せっ――』
この窮地を脱するために。
そして、何よりも、自身を想う一人の女のために。
『我ヲ……チカラ深淵ヘト導キタマエ……!!』
死に体も同然だった白の巨躯が、大きく躍動し、立ち上がった。
胸に空いていたはずの大穴は瞬く間に、塞がっていく。
266
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:44:50 ID:7gnuStw20
『ナ、ニッ……!?』
「……ハ、ク……?」
再起したオシュトル。そして、癒えていく致命傷―――その異常事態を目の当たりにして、ヴライもクオンも、驚愕に目を見開く。
『更ナル深淵ヘト……我ヲ――』
白の巨像の全身が、煌めき始める。
同時に、オシュトルは心地の良さとともに、途方もない力が無制限に雪崩れ込んでくる感覚を覚えた。
そして―――
『ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!』
空間を軋ませるかのような咆哮を上げると、オシュトルは、大地を蹴り上げた。
瞬間移動と見間違うばかりの速度で、ヴライの懐に飛び込んだ白の巨像。
黒の巨像も即座に、黒炎の豪腕を以って、これを迎撃せんとする。
ド ォ ン !!
だが、炎拳が振り降ろされるよりも先に、オシュトルの拳がヤマト最強の顎を突き上げた。
『……ガァッ!? オシュトル―――』
ド ォ ン !!
仰け反ったヴライが体勢を戻すよりも早く、もう一方の白の剛腕が容赦なく叩き込まれる。
拳打の速度は、先程までのそれを遥かに凌ぎ―――右拳、左拳が交互に、機関銃の弾丸の如き勢いで、その巨躯に叩き込まれていく。
空間が爆ぜるかのような衝突音が、怒涛の勢いで連続し、黒の巨像が前後に激しく揺れる。
『グッ、ガッ……!?』
一撃一撃に、黒の巨躯が軋みを上げていく。
『根源』の最後の扉を開いたオシュトルは、ものが違った。
身体能力、反応速度、出力、全てが別次元の領域に到達しており、もはやただの『仮面の者』では太刀打ちできない。
267
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:45:16 ID:7gnuStw20
『ヌゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
だが、しかし――
ド ォ ン !!
『――ガハッ!!』
ヤマト最強とうたわれるものは、ただの『仮面の者』にあらず。
オシュトルの打撃の嵐を浴び続け、仰け反りながらも、膝を屈することなく。
その拳を握り続け、渾身の一撃を、眼前の宿敵の顔面に叩き込んだ。
理不尽なまでに強大な力を前にしても、その闘志が折れることはない。
むしろ、それを更に燃え上がらせ、仰け反ったオシュトルへと、追撃の拳打を撃ち込んでいく。
『ウハハハハハハハハハハハハッ!! 愉快……愉快ゾォッ……!!
我ヲココマデ滾ラセルトハ、流石ヨ、オシュトルッ!!』
昂ぶる感情とともに、闘争を貪っていく、黒の巨獣。
己が磨き上げた武(ちから)のみを頼りとする、その姿こそ、まさに武頼(ヴライ)。まさしく、闘争の権化。
『ヴライィッーーー!!!』
しかし、オシュトルも地を踏みしめ堪えると、再びその拳を打ち放っていく。
やはり、その連打の速度は尋常ではないが、それに負けじと、ヴライもまたオシュトルの拳によって脳を揺らされながらも、重厚な連打を見舞っていく。
ド ォ ン !! ゴ ォ ン !! ガ ォ ン !! グ ォ ン !!
互いに防御を一切顧みない、愚直なまでの正面衝突。
爆音にも似た衝突音と同時に、両雄の肉片や血飛沫が、周囲に四散していく。
268
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:45:40 ID:7gnuStw20
『ウォオオオオオオッ、オシュトルゥゥゥゥゥッーーー!!』
だが、やはり根源の全ての扉を開いたオシュトルの地力は、ヴライのそれを遥かに上回っていることには変わらない。
徐々に、徐々に、黒の巨像は後退していき、その剛拳も、威力が弱まっていく。
気合いと共に、どうにか持ち堪えんとするが、やがてそれも限界に達し、頭の芯を捉えた正面打を以って、その巨躯は弾かれるように大きく後退。
『幕ヲ下ロソウゾ、ヴライッ!!』
その隙を見逃すまいと、オシュトルはその手にドリル状の水流を纏わせ、ヴライの胸部を穿たんと、疾駆。
『否ッ!! 我等ガ闘争ハ、コレカラゾォ、オシュトルゥゥッ!!』
ヴライも、即座に体勢を立て直し、これに反応。
その拳に炎球を宿らせ、オシュトルを迎え撃つべく、その剛腕を振りかぶると、炎拳と水拳が正面から衝突。
戦場に、二色の野太い咆哮が響き渡れば、全てを灰燼にする猛炎と、全てを穿つ水流が、互いに押し合い、鍔迫り合いの様相を呈する。
『グ……、ヌゥウウウウ……!!』
しかし、それも数瞬のこと。
水の拳が、炎の拳を押し返していき、地を削りながら、ヴライの巨躯を押し込んでいく。
今や、単純な力比べでさえも、オシュトルに軍配が上がる状況となっていた。
269
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:46:05 ID:7gnuStw20
『仮面(アクルカ)ヨ……、更ナル力ヲ、我ニ……!!』
だが、それでも尚、黒き巨獣は抗わんとする。
闘争心を滾らせ、歯を剥き出しにして、更なる力を求め、己が仮面に呼びかける。
『我ガ魂魄ヲ更ニ喰ライテ、更ナル力ヲ差シ出セッ!!』
不屈の闘志の根幹にあるのは、ただ一つ―――この死合において、眼前の宿敵を打ち負かせたいという、純粋な我儘だけ。その宿願を果たさんが為、更なる力を漢は欲した。
そして―――
『オオオオオオオオオオオオォォッーーー!!』
黒の拳が宿す火球は、たちまちに肥大化。
それとともに、水流を纏うオシュトルの拳を、圧倒的質量を以って押し返し始める。
『グゥ……!! ヴライ……貴様ハ……!?』
―――“窮死覚醒"。
この殺し合いの地で取得した、所謂『火事場の馬鹿力』の特性は、それまで劣勢に立たされていたヴライの出力を限界突破させ、根源の深淵へと至った『仮面の者』ですら凌駕する力を与えた。
今の今まで、圧倒していたはずのオシュトルは、その底力と自身の巨躯が後退しつつあるという事実に、目を見開く。
(……クオン……!!)
それも束の間。
地に膝をつき、呆然と此方を見上げるクオンの姿を視界の隅に捉えるや否や、オシュトルは脚に踏ん張りを効かせて、踏みとどまる。
『某ハ……、敗レル訳ニハイカヌノダァッ!!』
ボロボロの状態のクオン。見ているだけでも、痛々しい。
もうこれ以上、彼女を傷つけせたくない―――。
絶対に護ってみせる―――。
そんな想いと共に、己が拳に更なる力を込めると、拳に纏わる水流は、その体積と勢いを増大。
黒の拳と、それに宿る火球の質量を押し返すと、拮抗の状態に持ち直した。
270
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:47:08 ID:7gnuStw20
『フハハハハハハハッ!!
ヤハリ、ドコマデモ愉シマセテクレル漢ヨ……!!』
己が限界を越えた出力で押し切ろうとしても尚、押し通せない。
食らいつくオシュトルに、ヴライは喜悦を滲ませながら、その剛腕に全身全霊を込めていく。
『ヌゥオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!』
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!』
吼える両雄。巨拳による鍔迫り合いは、尚も続く。
二人の『仮面の者』が織り成す、圧倒的質量の豪炎と、螺旋を帯びた激流のせめぎ合い―――その衝動の余波は、周囲に散らされていき、地は揺れ動き、飛び散った炎と水の断片は、暴風の如く、破壊の爪痕を刻んでいく。
それは、さながら天地鳴動の光景であった。
ピシリピシリピシリ―――
しかし、その均衡は、長くはもたなかった。
『ヌゥウウッ!?』
突き立てる己が拳に生じる異変に、ヴライが唸る。
全身全霊を込めている剛腕は、蜘蛛の巣状に亀裂が走っていき、割れ目からは白い粒状のものが溢れ、大気へと霧散しているのだ。
―――“窮死覚醒"を基にした根源からの、限界を超越した『力』の入出力。
例えるならば、容量が定められた器を以ってして、爆発的に許容量を大幅に超過する水を流出入させる様なものだ。
己を顧みることなく、そのような過剰強化を、幾度も発現するようなことがあれば、当然決壊は免れない。
今まさに、その決壊の瞬間が、ヴライの身に訪れていた。
271
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:47:54 ID:7gnuStw20
『――マダダァッ……!! マダ……我ハ、闘エルゥッッッ!!』
怒号を張り上げ、尚も剛腕を押し込もうとするヴライ。
それに比例するかのように、火球も膨れ上がっていき、その質量を加速度的に増加させ、オシュトルを圧迫していく。
パリン―――
しかし、そんなヴライの執念も虚しく、剛腕はガラスが砕けるような音と共に、決壊。
大火球を宿したその拳は砕けたまま、天上と弾け飛んでいった。
『終ワリダ、ヴライィイイイイイッッーーー!!』
宙に舞い上がった大火球が爆発を起こし、夜天が白に染め上がり、天地が鳴動する中、オシュトルは勢いそのままに、ヴライの胸元に水流を纏った拳を叩き込んだ。
ドリル状の水流は、黒の巨塊に穴を穿っていく。
『グオオオオオオオオオッッッッ―――』
断末魔の咆哮を上げる、ヤマト最強。
白の巨腕は、その胸元に大穴を貫通させるや否や、ダメ押しとばかりに、大筋の水流を噴射。
黒の巨躯全てを飲み込まんとする勢いで、圧倒的な水圧を以ってして、吹き飛ばした。
『オシュトルゥゥゥゥゥゥッッーーー!!』
片腕を消失し、致命傷を負わされたヴライには、もはやなす術なく。
水流の勢いに飲まれたまま、夜の闇の向こう側へと、溶けて消えていくのであった。
『--ハァ…ハァ……』
やがて、戦場に訪れるは、夜の静寂。
肩で息をしていた白の巨像は、黒の再来に備えて、身構えていた。
しかし、その気配はもはやない。
(……終わったか……)
手応えはあった---巨躯が飲み込まれたであろう夜の闇の向こうを睨みつけながら、闘争の終焉を実感すると、オシュトルは肩の力を抜く。
途端に、その巨躯は眩い光に包まれる。
「――ハク……」
背後から、聞き慣れた声が聴こえてくる。
どこか安心感を覚える声色。
自分が、長い眠りから目覚める時に聴いた声。
(……そうだ……。もう一つ、ケリをつけないといけないことがあるんだよな……)
変身が解かれて、元の人間の姿へと戻った青年は、背後を振り返る。
そこには、こちらを心配そうな眼差しで窺う少女が佇んでいた。
272
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:48:21 ID:7gnuStw20
◇
「……見事だ……、オ、シュトル……」
瓦礫に背を預け、座り込んだまま、血反吐とともに掠れた声で呟くは、剛腕のヴライ。
その姿形は、オシュトルと同様に、元のヒトの姿へと収まっていた。
オシュトルとの激闘の果て、全身に水流を浴び吹き飛ばされてしまった彼は、勢いそのまま、一エリアを跨いで、市街地に聳え立つビルへと激突。
大地に撒かれた瓦礫の上にて、変身もまた解除され、鎮座していた。
先の激闘の爪痕は、その肉体に深く刻まれており、片方の視界は奪われ、その片腕は消失し、胸元には大きな風穴が穿たれており、もはや立ち上がることは叶わない。
「……汝との、死合……、存分に、堪能したぞ……」
ヤマト最強の武士は、敗北した。
決定打は、自身の肉体の酷使による崩壊―――そこからの一撃であったが、この結末に対して悔恨はない。
己が認めた強者と、互いに全力以上を出し尽くし、戦い、そして、敗れた。
一人の武士として、充足感に満たされる、清々しさすらあった。
「……抜かるなよ……、オシュトル……」
あの“御方”が愛した國を統べるに相応しいのは、己かオシュトルの、何れかの勝者だ。
そして、勝ち残ったのはオシュトル。
力を以って全てを制すべきという、己が覇道とは決して相入れぬものではあるが、勝者であるが故、奴の在り方も認めざるを得ない。
故に、ヤマトの次代を託す。貴様は、貴様のやり方でヤマトを治めてみせよ、と。
そして、見事ヤマトを導き、己が生を全うしたその後は―――
「……地獄(ディネボクシリ)で、待つ……」
再び相見える、その瞬間を心待ちに。
ヤマト最強とうたわれた漢は、その生涯に幕を下ろした。
その死に顔は、目を見開いたままの能面。憤怒の色も、悔恨の色も、ましてや喜悦の色などもなく。
しかし、どことなく、微かな穏やかさを感じさせるものとなっていた。
273
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:49:32 ID:7gnuStw20
一旦ここで区切りとして、続けて投下します
274
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:50:22 ID:7gnuStw20
◇
「――……。」
物言わなくなったカナメを前にして、あかりは暫くの間涙を流していたが、やがて、嗚咽を堪えると、涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔を乱暴に拭った。
静かに息を引き取った、カナメ―――。
最期には、残されるあかりに負担を掛けまいと、安心したような表情を張りつかせていた――。
故に、その心遣いと想いに応えるためにも、いつまでも、メソメソとしている訳にはいかないのだ。
「――そんな……、カナメ様……」
そんな折、背後から、愕然としたような声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには、茫然と佇む金髪の少女と、その隣で、じっと此方を見据えている黒髪の青年の姿があった。
恐らく、彼らも参加者で、相応の死線を潜ってきたのであろう。
少女が身に纏っているドレスは、元は色鮮やかなものであったのだろうが、焦げ目や土埃で汚れ、所々が破けている。
青年にいたっては、黒のコートが血で赤黒く染まり、左目付近には、ざっくりと切り裂かれたような痛々しい傷がある。
275
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:50:39 ID:7gnuStw20
「――初めまして、間宮あかりちゃん、だよね?」
あかりが口を開くより前に、黒髪の青年―――折原臨也が、表情を和らげ、やんわりとした口調でそう言った。
「俺は折原臨也。で、こっちがヴァイオレット・エヴァーガーデンちゃん……」
臨也が視線を移すが、ヴァイオレットは放心したような様子で、よたよたとカナメの側に歩み寄ると、その傍らにへたり込んでしまった。
二人は、琴子の亡骸と別れを済ませた後、カナメを初めとした他の仲間達を探していた。
その後、ようやく見つけたのが、事前情報から推察されるに、間宮あかりと思わしき少女。
そして、彼女の眼前で、既に変わり果てた姿となったカナメであった。
「あなたたちが、折原さんとヴァイオレットさん……」
事前にカナメから聞いていた情報と照らし合わせるように、その名前を反芻しながら、臨也達を見やる、あかり。
二人は殺し合いには乗っていない側であり、カナメとも共闘関係であったということは聞かされていた。
「うん、出会って早々悪いんだけど、聞かせてくれないかな?
此処で一体何があったのかを、さ……」
自身を見据えるあかり、そして、物言わなくなったカナメに、交互に視線を送りながら、臨也が問いかける。
まるで値踏みされているかのような、ねっとりとしたその視線に、あかりは若干の居心地の悪さを覚えるも、静かに頷いた。
「分かりました、お話しします……。あたし達に、何が起こったのかを―――」
そして、語り出す。
一つの悪意によって引き起こされた災禍と、それが齎した現実(じごく)の顛末を―――。
276
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:51:54 ID:7gnuStw20
【E-7/夜中/一日目】
【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:覚醒、白髪化、痛覚と疲労感の欠如、体温低下、情報の乖離撹拌(進行度63%)、全身のダメージ(大)、精神疲労(中)、左中指負傷(縦に切断、包帯が巻かれている)、深すぎる悲しみ、久美子たちの計画に対する迷い、ウィキッド対する憎悪
[服装]:いつもの武偵校制服(破損・中)
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。
0:まずは目の前の二人と情報交換
1:ウィキッドは許せない
2:ヴライ、琵琶坂、魔王ベルセリア、夾竹桃を警戒。もう誰も死んでほしくない
3:『オスティナートの楽士』を警戒。
4:メアリさんと敵対することになったら……。
5:黄前さん達の計画については……。
6:カナメさん……。
[備考]
※アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
※覚醒したことによりシアリーズを大本とする炎の聖隷力及び「風を操る程度の能力」及びシュカの異能『荊棘の女王(クイーンオブソーン)』、そして土属性の魔術を習得しました。
※情報の乖離撹拌が始まっており。このまま行けば彼女は確実に命を落とします。
※殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
※情報の乖離撹拌の進行に伴い、痛覚と疲労感が欠落しました。
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:疲労(大)、全身強打、右拳骨折、言いようのない喪失感、全身に刺し傷、左眼失明
[服装]:普段の服装(濡れている)
[装備]:
[道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数0/10、使い切った状態)、まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0〜1(新羅)
[思考]
基本:人間を観察する。
0:まずは、あかりと情報交換する
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
3:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だったのに...残念だよ。
4:平和島静雄はこの機に殺す。
5:『月彦』は排除する。化け物風情が、俺の『人間』に手を出さないでくれるかな。
6:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。
7:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。
8:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃、オシュトル、ヴァイオレットに興味。
9:オシュトルさんは『人間』のはずなのに、どうして亜人の振りをしてるんだろうね?
10:ロクロウに興味はないが、共闘できるのであれば、利用はするつもり。
[備考]
※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。
※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※ Storkと知り合いについて情報交換しました。
※ Storkの擬態能力について把握しました
※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。
※ 無惨を『化け物』として認識しました。
277
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:53:06 ID:7gnuStw20
【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
[状態]:全身ダメージ(大) 、肩口及び首負傷(止血及び回復済み)
[服装]:普段の服装
[装備]:手斧@現地調達品
[道具]:不明支給品0〜2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ)、電子タブレット@現実
[思考]
基本:いつか、きっとを失わせない
0:まずは、あかりと情報交換する
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する
2:お嬢様、久美子様……どうかご無事で...
3:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。
4:麗奈と再合流後、代筆の続きを行う
5:手紙を望む者がいれば代筆する。
6:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。
7:ブチャラティ様が二人……?
8:「九郎先輩」に琴子の“想い”を届ける
9:カナメ様……
[備考]
※参戦時期は11話以降です。
※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 琴子から電子タブレットを託されました。琴子の電子タブレットにはこれまでの彼女の経緯、このゲームに対する考察、久美子達の計画等が記されています。
278
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:53:45 ID:7gnuStw20
◇
―――しかし、あんたらの絆とやらも、てんで大したことなかったよねぇ
私だって、人間だ。
十数年生きていれば、誰かと衝突して、その度に怒りを顕にすることは多々あった。
―――まぁ、結論としては、このクソ女は、あんたが友情を覚えるほどの価値はなかったってこと。
黄前さんも、友達はちゃんと選んだ方が良いですよ〜、きゃははははははははっ
だけど、生まれてこの方、他人に対して、ここまで憎しみという感情を覚えた事は、かつてなかった。
そういう感情を覚える場面に遭遇することなんて、平凡な人生を歩んでいた私には、一生ないと思っていた。
―――きゃはははははっ、やれるものなら、やってみろよ。
そしたら、あそこに散らばってるゴミ屑も、少しは浮かばれるってもんだよ!!
これが俗に言う「殺意」というものだろうか。
死んで欲しい。
ただ死ぬだけではなく、滅茶苦茶に苦しんで、自分の所業を後悔しながら、地獄に堕ちて欲しい。
私から麗奈を奪った、あの悪魔の存在が許せなかった。
―――あかりちゃん、撃ってよ!! 殺してよ!!
そいつが動けない、今のうちに!!
だから、感情のままに、あかりちゃんに嗾けた。
害虫を駆除するように、早くそいつを殺せと……。
―――うああああああああああああああああああ!!
―――黄前さん……!?
―――……がぁ……
そして遂には、私自身の手で、あの女の頭部に、大岩を叩きつけると、悪魔は沈黙した。
罪悪感は、これっぽっちも感じなかった。
だって、こいつは死んでもいい存在だから―――。
―――それで、気分はどうよ、お二人さん?
罪のない人間を、よってたかってリンチして、ぶっ殺した気分はさぁ〜?
だけど、実はそれは、悪魔が仕掛けた巧妙な罠で。
私が手を掛けたのが、罪もなく、むしろ私のことを護ろうとしてくれてた人だと明かされると、私は、我を取り戻して、自分のしでかした事の重大さを思い知った。
279
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:54:03 ID:7gnuStw20
―――わ、私は、中身が入れ替わってたなんて、知らなくて……。
でも、あかりちゃんが、その人のことを貴方だと、決めつけていたから……、そ、それで、わ、私……私は―――
ああもう、本当に最悪だ……。
湧き上がる後悔、罪悪感、そして恐怖。
恐慌状態の私は、罪を全て、あかりちゃんになすりつけようとした。
私は悪くない―――そんな酷く醜い自己保身に走ろうとした。
―――あんたらは、私と同じ穴の狢―――人殺しって訳だぁ!!
―――い、嫌あああああああああああああああああああ!!
だけど、悪魔によって、容赦なく現実を突きつけられると。
私は、その現実に耐え切れずに、その場から逃げ出した。
絶望に陥って、動けないでいるあかりちゃんを、その場に残したまま―――。
「……どうして……どうして、こんな事に―――」
あの場所から逃げ出した後は、とにかく無我夢中に走った。
どこに向かっていたとか、どれだけ走っただとか、そんな記憶は曖昧だ。
そして、いつの間にか、木の根っこかなんかに躓いて、私は無様に地面に転がり込んで、ぐちゃぐちゃの思考の中で、ただ嗚咽を漏らす事しかできなかった。
「……麗奈……麗奈ぁ……、う、うぅ……!!」
もう私に寄り添ってくれる“とくべつ”はいない。
それは分かっている。だけど、それでも、崖っぷちの私は麗奈を求めずにはいられなかった。
当然応えなど返ってくるはずもなく。
そんな残酷な現実を改めて認識すればするほど、私は絶望に沈んでいった。
「久美子か……?」
聞き覚えのある、だけどあまり良い印象のない声色が、私の聴覚に割り込んだのは、そんな時だった。
280
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:54:25 ID:7gnuStw20
◇
「――ゴホッ……、俺としたことが、不覚を取っちまった……」
闇夜に染まる森の中。
ロクロウは、軋む全身に鞭打ちながら、疾風の如く木々の間を駆け抜けていく。
あのヴライの巨拳を真正面から受け、エリアを跨ぐほどの吹き飛ばされたのもあって、当然、そのダメージは尋常ではなく、その屈強な肉体を構成する骨は多々砕け、内臓も多大な損傷を受けている。
それでもなお、血反吐を吐きながらも、満身創痍の肉体を動かし、恩人である早苗が残る戦場へと駆け戻らんとしていた。
しかし――。
「久美子か……?」
その道中にて、これまた、自分にとって恩義ある少女が土の上で突っ伏した状態でいるのを目にすると、その足の動きを止めてしまった。
「――何でなの……?」
ロクロウの呼び掛けに、久美子は鬱々とした顔で見上げると、恨みがましく、嗚咽を漏らしながら言葉を紡いでいく。
「……久美子……?」
「何で、あなたは肝心な時に、いなかったんですか!?
“借り”を返してくれるんじゃなかったんですか!?」
「おいっ、久美子……!?」
キッと、涙に濡れた瞳で睨みつけながら起き上がると、ロクロウの胸倉を摑む久美子。
その剣幕に戸惑いを隠せないロクロウであったが、構わず久美子はヒステリックに喚き散らしていく。
「あなたが道草食ってる間に、皆死んじゃったんですよ!! 岩永さんも、カナメさんも、麗奈も!!」
「何っ……? それはどういう――」
「あなたさえ、ちゃんとしていれば……、私達は……こんな目に遭わずに、済んだのにッ!!」
困惑するロクロウを余所に、久美子は彼の疑問に答えることなく、ただただ、一方的に捲し立て、泣き崩れる。
その一方で---
(ああ、本当に最悪だ、私……)
理不尽極まりない八つ当たりと、どうにかして自分の罪を薄めようとする醜い保身。
突きつけられた現実(じごく)に向き合おうとしない、自分自身に対して、久美子は心底嫌気が差していた。
281
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:54:45 ID:7gnuStw20
【F-6/夜中/一日目】
【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損、言いようのない喪失感
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣(片一方は粉砕)@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[思考]
基本:主催者の打倒
0:他の連中がどうなったか気になるが、一先ずは久美子が落ち着くのを待つ。
1:久美子達の計画に賛同するつもりはないが、久美子には借りがあるので、暫くは共闘するつもり
2:無惨を探しだして斬る。
3:シグレを殺したという魔王ベルセリア(ベルベット)は斬る。
4: 早苗が気掛かり。號嵐を譲ってくれた借りは返すつもりだが……
5: 殺し合いに乗るつもりはない。強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
6: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
7: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
8: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。
※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。
※ 更新されたレポートの内容により、ベルベットがシグレを殺害したことを知りました。
※ 久美子が作った解毒剤によって、毒は緩和されており、延命に成功しました。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身に火傷(冷却治療済み)、右耳裂傷(小)、右肩に吸血痕、深い悲しみと喪失感、琴子とカナメに対する罪悪感、精神的疲労(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:特製衣装・響鳴の巫女(共同制作)
[装備]:契りの指輪(共同制作)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体、シグレ・ランゲツの片腕、クロガネ征嵐@テイルズオブベルセリア、点滴セット複数@現実
[思考]
基本:歌姫(μ)に勝って、その力を利用して殺し合いの全てを無かったことにする。
0:麗奈……私は――。
1:ロクロウさんは嫌いだけど、利用はするつもり
2:ヴァイオレットさんには、改めて協力をお願いしたい
3:ウィキッドは絶対に許さない
4:例え隼人さん達を敵に回したって、もう私は迷わない。望みを叶えるまで逃げ切ってやる。
5:あかりちゃんも、仲間になってほしいけど……
6:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒
7:岩永さん、ごめん。必ず生き返らせるから……
※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。現状は麗奈と一緒に衣装やら簡単なアイテムを作れる程度に収まっています。
※麗奈がビエンフーから読み取った記憶を共有し、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※μの事を「楽器」で「願望器」だと独自の予想しました
282
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:55:10 ID:7gnuStw20
◇
『オシュトルゥゥゥゥゥゥッッーーー!!』
夜宵の戦場に轟くは、黒の巨像の断末魔。
白の巨像が放出した限界突破の水流に呑まれて、彼方へと消えていった。
『--ハァ…ハァ……』
勝者として君臨していた白の巨獣が、肩を揺らして、呼吸を整えている。
やがて、呼吸が落ち着き、その全身が眩い光に包まれると、それを見守っていたクオンは、その名を呼んだ。
―――ハク……?
記憶を失い、右も左も分からなかった彼に、自分が与えた、その名前を。
―――これからは、ハクと名乗るといいんじゃないかな。
―――この名前は、とても由緒正しい名前なんだよ。
―――伝承にまでうたわれし御方の名からいただいた名前なんだから。
―――そう、うたわれものから……
想起されるは、彼に名前を授けた日のこと。
その日から、『ハク』と自分の旅路が始まった。
それは、とても濃密で、波瀾万丈で……だけどかけがえのない日々だった。
―――……奴は、死んだ。
―――……すまぬ。
だけど、別れは唐突に訪れて。
―――お前と一緒に居た日々は、本当に楽しかった。
―――ありがとう。
―――ハク殿からの言葉だ。
当たり前のように側にいた彼と、もう肩を並べることも、語り合うことも、お説教することも出来ないのだと悟ると。
心にポッカリ穴が開いてしまって。
凄く苦しくて、胸が張り裂けそうになって。
―――そっ……か……
―――そう……だったんだ……
―――ハクのこと……すき……だったんだ……
ようやく、自分の想いに気付いて。
でも、その想いはもう叶わぬものだと、理解していて。
気付くのが遅すぎたと、ひたすらに後悔して。
―――……やれやれ、もはや追加労働手当だけでは割に合わんな……
でも、自分に彼の死を告げた漢が、実は彼で。
どういう訳か、ヤマトのうたわれる武士に為り変わってて。
『仮面の者』になって、あのヴライを退けて……。
283
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:55:50 ID:7gnuStw20
「――クオン……」
変身が解かれて、元の人の姿に収まったオシュトルは、クオンの呼び掛けに反応。
ゆっくりと背後を振り向くと、此方を見つめる彼女の姿を捉える。
ピシピシピシ―――
(……これが、『力』の代価か……)
揺らめくクオンの瞳を見据えながら、オシュトルは、自身の面貌を覆う仮面の亀裂が、音を立てて拡がるのを知覚し、悟る。
先の死闘にて仮面が限界に達したのだ、と。
そして――
パリン!!
「……ハ、ク――」
仮面が砕け散ったと同時に、顕になったその素顔に、クオンは息を呑む。
「……やっぱり、ハクだったんだね……」
「あぁ……」
視線の先には、かつて彼女の隣にいた青年の、陽だまりのような心地の良い微笑みがあって。
「……ハ、ク……。……ハクゥ……!!」
その懐かしくも、安心させられる想い人の姿に、クオンは胸が熱くなるのを感じた。
「……どうして、今まで隠していたのかな……?
私、ハクが死んだと告げられて、本当に悲しくて、落ち込んで、後悔して……。
凄く苦しかったんだよ……」
「……すまなかった……」
ポロポロと、クオンは大粒の涙を溢しながら、激戦の反動で覚束ない足取を以って、ハクの元に歩まんとする。
自分のために涙を流す彼女を安心させるべく、ハクもまた一歩踏み出すが――
(……っ!?)
唐突に生じた右腕の違和感に、ハクは足を止めた。
見れば、ヴライに決定打を浴びせた右腕部分がゆっくりと塩となり、風に運ばれて散っていく。
(……そうか……、自分もあいつのように……――)
かつて見届けた、親友の最期。
それが今まさに、自分の身に起こっていることを悟ると、やれやれといった感じで、ハクは嘆息した。
これが、願望を叶える断片とやらが、囁いていた『破滅』―――深淵の扉を開いた、代償なのか、と。
284
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:56:47 ID:7gnuStw20
「――ハ、ク……?」
不意に立ち止まったハクに、不安を覚えたクオン。
そこで気付いてしまった。
自分を悲しそうに見下ろす、ハクの―――。その顔が―――。
まるで陶器でできた仮面のように、ピキピキと罅割れているということに。
顔面だけではない。ふと視線を落とせば、彼の右腕からは、手首より先が無くなっていて。
真っ白な塩となって、風に運ばれている。
(――急がねば……)
硬直するクオンの元に、ハクは改めて、步を進めていく。
一歩、一歩と進んでいく度に、身体が徐々に塩が溢れて、大気へと還っていく。
その都度、自分という存在が、徐々に薄れていくことを認識しつつ、ようやく、クオンの元に辿り着く。
本当は抱きしめてやりたい。
彼女の温もりを感じながら、心配かけたなと謝りながら、全てを話してやりたい。
だけど、この身体では、もはやそれは叶わない。
今自分がやるべきことは、散りゆく自分の使命を―――。遺志を―――。
かつて、親友が自身に行ったように。信の置ける仲間に、託すことにあるのだから。
「クオン―――」
故に、オシュトルは、クオンの小さな肩に左手を乗せて、言葉を紡いでいく。
この殺し合いにおいて、己が目指していたことを、託すため―――。
そして、ヤマト帰還後に、成す遂べきことを、託すため―――。
285
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:57:39 ID:7gnuStw20
「自分は、お前に―――」
「クオンさんから、離れてくださいっ!!」
バ ァ ン !!
瞬間、ヒステリック気味の悲鳴が響くと同時に、閃光が走ったかと思うと―――
「……え……?」
ハクの顔は弾け、塩となって大気の中へと消えた。
ドサリ
「ハ、ク……?」
倒れ伏した、頭部のないヒトだったもの。
その残骸からは、首輪が分離されて。
残りの胴体部分も徐々に塩と化して、音もたてずに、風に運ばれていく。
「――ハァハァ……、クオンさん、無事ですか!?」
呆然とするクオンの視界には、緑髪を揺らす巫女が、息を切らせながら此方に駆け寄って来るのが映った。
「……う、嘘……だよね……?」
「―――クオンさん……?」
しかし、クオンが巫女に反応することはなく。
ガクリと膝を地面に付けて、虚空に消えつつある想い人の亡骸に縋りつく。
「い、や……。いやぁ……!! 何で……!?
折角、また逢えたのに―――」
まだ何も聞かされていない―――
まだ何も伝えられていない―――
今度こそ共に歩んでいけると、そう、思っていたのに――
「いやだよ……、こんなの……!! こんなのって――」
風に運ばれていく、ハクだったもの。
クオンは上から覆い被さるようにして、懸命にその消失を食い止めようとする。
しかし、そんなクオンをあざ笑うかのように、亡骸は全て塩の山へと変わり-――
「い、や……。待って……、待ってよぉ!!
ハク……、ハクゥゥゥゥゥゥゥゥッーーーーーーー!!!」
風に攫われて、宵の闇へと消えてしまった。
戦場の跡に残されたのは、あまりにも理不尽な現実(じごく)。
皇女は、生前の彼が纏っていた偽りの衣服を握り締めて、咽び泣き、巫女は、ただ呆然とその慟哭を眺めていた。
286
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:58:05 ID:7gnuStw20
◇
少女の奥に蠢く“その者”は、己が使命を全うした。
確かに、ヴァイオレットの手紙をきっかけとして、オシュトルと、彼を庇い立てる者達に関わる記憶の改竄に、綻びが生じてしまったのは、“その者”にとっては痛恨の極みだった。
これに対応するため、再び記憶の改竄を試みるも、早苗の深層心理は、これに抗戦。脳内における激しい攻防の末、“その者”は、宿主への身体的及び精神的負荷を鑑みて、記憶の改竄を断念した。
結果として、早苗の中では、矛盾する記憶が混在するようになり、ロクロウとヴァイオレットに対する不信は、彼らの言動を鑑みた上で、考えを改めるまでに至った。
しかし、それはあくまでも、ロクロウとヴァイオレットの二人に対してだけであって、“その者”は、決して、己が存在意義を放棄したわけではなかった。
早苗の深層心理が、過剰に拒絶反応を示していた、ヴァイオレット達に関連する記憶の工作―――それを断念する代わりに、オシュトルのみを対象とした記憶領域に対して、心象悪化の工作を徹底的に行なった。
彼一人のみ悪たらしめる、偽りの記憶をひたすらに刻み込んでいったのである。
その結果、早苗は、もはや自分自身の他の記憶との整合性を持ち合わせない状態にありながらも、オシュトルを悪として絶対視するようになってしまった。
人を喰らう害獣であれば、駆除しなければならない―――
人を死に追いやるウイルスであれば、滅菌しなければならない―――
早苗の記憶に根付いてしまった悪漢オシュトルの先入観は、まさにそれと同じ理屈で、彼を断罪する事を正当化するものであった。
元来、こういった周辺の記憶との整合性を無視した改竄は、周囲から不信を招いてしまい、最終的には宿主の破滅に繋がりかねないものである。
しかし、己が目的の達成のため、“その者”には、もはや手段を選ぶ余裕は残されていなかった。
287
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:58:41 ID:7gnuStw20
「クオンさんから、離れてくださいっ!!」
やがて、“その者”の工作は、実を結んだ。
バ ァ ン !!
駆け付けた早苗の目に飛び込んできたのは、絶対悪たるオシュトルが、クオンに掴みかかろんとしていた光景。
自身の仲間であるクオンを、その魔の手から護るため為、彼女は咄嗟に光弾を放った。
瞬間、オシュトルは断末魔を上げることもなく、その頭部は弾け飛んだ。
「――ハァハァ……、クオンさん、無事ですか!?」
何故、彼の頭が砂のように崩れ去ったかは、早苗には分からない。
だが、悪を葬り去り、大切な仲間を護ったことに変わりはなく、早苗はホッと胸を撫で下ろしつつも、クオンに駆け寄った。
「……う、嘘……だよね……?」
「―――クオンさん……?」
けれども、クオンは早苗に見向けもせず、放心状態。
そのまま、膝を落として、オシュトルの亡骸に縋り付くと、事もあろうに、泣き始めたではないか。
(……どうして?)
まるで、オシュトルの死を悲しんでいるような彼女の素振りに、早苗は、疑問を禁じえなかった。
オシュトルは断罪すべき悪人―――それは、クオンとの共通認識であったはず。
だというのに、このような反応をされてしまうと、あたかも、自分がいらぬ事を仕出かしてしまったようではないか、と。
「い、や……。待って……、待ってよぉ!!
ハク……、ハクゥゥゥゥゥゥゥゥッーーーーーーー!!!」
絶叫する、クオン。
まるで愛する人を失ったが如く、その慟哭を前にして、早苗は困惑して、立ち尽くしたまま。
288
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:59:00 ID:7gnuStw20
―――嗚呼、これでようやく眠れる……。
疑問符を浮かべたままの宿主を他所にして、“その者”は、己が使命を果たしたことを悟った。
自分は役目を全うした―――であれば、これ以上の活動に意味はない。
もはや自身の存在意義もなくなったので、これ以上、生き永らえるつもりもない。
故に、早苗の脳内に蠢く蟲は、後のことは知ったことではなく、宿主の好きにすればよいと、静かに眠りについて、その活動を停止した。
やがて、蟲の活動停止を機として。
「――あ、れ……?」
未だ泣き喚くクオンを見下ろしながら、早苗は、ふと疑問に思い始める。
「どうして、私はオシュトルさんを……?」
何故、あそこまで、彼を目の敵としてきたのだろうか。
何故、彼を悪として断罪することに、躍起になっていたのだろうか、と……。
「え、でも……、オシュトルさんは、許しがたい悪党で……。あ、あれ……?」
ここで、早苗は気付く。
先程までは明瞭に刻まれていたはずの、自身のオシュトル断罪を正当化する、彼を悪たらしめる記憶の数々―――それらが、時間が経つにつれ、まるで靄がかかるようにして、不確実性を帯びるようになっていくことに。
どちらかというと、現実で発生したものではなく、夢や空想の中での出来事を、あたかも事実として認識していたような―――そんな過ちを犯してしまったという感覚が、湧き上がってくる。
「……わ、私、もしかして――」
取り返しのつかないことを、仕出かしてしまったのではないのだろうか、と
そう悟った途端、足がガクガクと震え出し、全身から滝のような冷や汗が流れ落ちていく。
蟲の活動停止に伴って、引き起こされた、記憶と認知の修正―――。
刻まれたそれらが、偽りのものだと確信に変わったその瞬間。
東風谷早苗は、残酷なまでの現実(じごく)と向き合うこととなった。
289
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:59:17 ID:7gnuStw20
【E-6/更地/夜中/一日目】
【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(極大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、オシュトルへの怒り及び不信(極大)、ウィツアルネミテアの力の消失、悲しみと絶望(極大)、喪失感(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2、マロロの支給品3つ
[思考]
基本:???
0:ハク……、ハクゥ……!!
[備考]※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※早苗から、オシュトルに対する悪評を聞きました。
※ウィツァルネミテアは去りましたが、残された残滓を元に、『超常の力』を発動することは出来ます。但し身体には絶大な負荷が掛かります。
※ヴライとの戦闘によって、E-6を中心として、E-5の一部、E-7の一部、D-6の一部、F-6の一部に、破壊の痕跡及び火災が発生しております。
【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:全身にダメージ(極大)、疲労(極大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(極大)、脳内にウォシスの蟲が寄生(活動停止)、記憶改竄(修正済)、オシュトルへの不信(修正済)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
0:私……、何てことを―――
1:クオンさん……
2:ロクロウさん、ヴァイオレットさんは信じたい
3:さっきの人が、ヴライ……。霊夢さんの仇……。
4:ブチャラティ(ドッピオ)さん、信じていいんですよね……?
5:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
6:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
7:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
8:魔理沙さん、霊夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※ウォシスの蟲に寄生されております。その影響で、オシュトルにまつわる記憶が改竄され、オシュトルに対する心情はかなり悪くなっています。今後も、記憶の改竄が行われる可能性は起こりえます。
※記憶の改竄による影響で、オシュトル、ヴァイオレット、ロクロウが殺し合いに乗っていると認識しました。
※ウォシスの蟲が活動停止したため、改竄された記憶が全て偽りだったと認識しました。
290
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:59:46 ID:7gnuStw20
◇
――ぐじゅっぐじゅぐじゅ、じゅるるる……
崩落した瓦礫の上で、水気の多い果実を貪るような音が響いている。
月明かりに照らされつつ、食事に没頭しているのは、身体や衣服の至る所に焦げた跡が目立つ、一人の魔女。
鬼に堕ちた彼女が、口にしているのは、つい先ほどまで此の地にて、闘争に身を投じていた、一人の漢の屍肉―――。
「――はぁ……はぁ……」
食事を終え立ち上がったウィキッドは、口元に付着した血を拭い、食人本能によって興奮気味となっていた呼吸を落ち着かせていく。
複合異能の力を解放させたあかりに、苦杯を喫する形となった彼女は、損傷激しい身体を引き摺りながら、この場所に漂着。
そして、物言わなくなったヴライと対面。
当初こそ、目を見開いたまま佇ずむ、その威風堂々とした姿に、ビクリと跳びあがってしまったが、既に事切れていることを悟ると、食人衝動に促されるまま、その屍肉に喰らいついた。
「きゃはははははは、良いじゃん、良い感じじゃん!! ありがとなぁ、デカいのぉ!!
アンタのおかげで、力が漲ってきたわ!!」
骸を平らげてみせると、おんぼろだった身体の傷は、みるみるうちに回復。
続けて、身体の奥底から気力が溢れ返り、心身が研ぎ澄まされるのを感じると、己が糧となった名もわからぬ巨漢に、ウィキッドは、上機嫌に感謝の言葉を贈った。
291
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 11:00:34 ID:7gnuStw20
「さてと」
そして―――
「あの杖を壊されたのはムカついたけど、代わりの玩具も手に入ったことだし、逆襲タイムといきますかぁ!!」
漢が装っていた亀裂まみれの仮面を、自身の顔面に装った。
彼の支給品袋を漁った際に、目にした説明書。それによれば、この仮面を利用することで、飛躍的に戦闘力の向上が見込めるという。
鬼化の影響で、身体能力の向上と再生能力を得てはいるものの、それでも鬼舞辻無惨や間宮あかりらとの戦力差は、歴然。
直接手を合わせたことで、連中の強さは嫌という程実感している。
故に、ウィキッドは、新たに手に入れたこの仮面を用いて、更なる戦力の増強を図ることにした。
「待っとけよ、クソ共。今度こそきっちり、ぶっ殺してやるからなぁ!!」
次なる踊り場を求めて、夜の闇へと歩を進めていくウィキッド。
ヴライの屍肉と仮面を取り込むことで、溢れかえるは、マグマのような猛き活力と闘争本能。
そこに生粋の悪意が混ざり合うことで、魔女の精神は、より歪なものへと変貌していく。
彼女は、気付いていない。
この殺し合いの会場で膨張する憎悪の思念、及び外部から力の取り込みによって、自身の本質が徐々に徐々にと、本来の「水口茉莉絵」だったモノから逸しつつあることに―――。
滲み出る憎悪と悪意をまき散らすだけの、ただの怪物に成り果てつつあることに―――。
―――連中に地獄を味わせてやる……。
しかし、今は、湯水のごとく湧き上がる、他者への圧倒的害意のままに。
破壊衝動と狂気に染め上がった、絶望の魔女の舞踊は、尚も続く。
292
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 11:01:44 ID:7gnuStw20
【D-7/市街地/夜中/一日目】
【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:鬼化、食人衝動(小)、疲労(極大)、無惨への殺意(極大)、臨也とあかりへの苛立ち
[服装]:
[装備]:ヴライの仮面(罅割れ、修理しなければ近いうちに砕け散る)@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2 、アリアの支給品(不明支給品0〜2)、キースの首輪(分解済み)、キースの支給品(不明支給品0〜1)、カタリナの布団@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…、北宇治高等学校職員室の鍵、参加者の人肉(複製品)多数@現地調達、ヴライの支給品2つ
[思考]
基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ
0:次の目的地に向かう
1:無惨を探しだして、殺す
2:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。
3:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。
4:臨也がとにかく不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。
5:私を鬼にしただぁ? 元に戻せよ、クソワカメ。
6:覚えてろよ、間宮あかり。必ず殺してやるからな
7:人形女(ヴァイオレット)も殺す。
8:久美子に関しては、散々玩具にしてやったから、もうどうでも良いかな。ご馳走様〜♪
[備考]
※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。
※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。
※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読んでおり、覚醒者『006』は麗奈、『007』は無惨が該当すると認識しております。
※ 麗奈との距離が離れたため、太陽に対する耐性を失いました(認識済み)
※ へんげのつえは破壊されました
※ 麗奈、ヴライの屍肉を食べました
※ どこに向かっているかは、次の書き手様にお任せします。
【岩永琴子@虚構推理 死亡】
【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム 死亡】
【へんげのつえ@ドラゴンクエスト ビルダーズ2 破壊】
【カナメ@ダーウィンズゲーム 死亡】
【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇 死亡】
【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇 死亡】
【ウォシスの蟲@うたわれるもの 二人の白皇 活動停止】
【残り24名】
293
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 11:02:08 ID:7gnuStw20
以上で投下終了となります。
294
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/02(日) 23:50:52 ID:aKjWh2fw0
クオン、早苗、ロクロウ、久美子で予約します
295
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:51:26 ID:xjzPINJo0
投下します
296
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:52:44 ID:xjzPINJo0
さんざん泣きわめき、言葉で責め立てた少女は膝を折り、嗚咽と共に俯いている。
それを見届けた夜叉・ロクロウは無言のままに彼女を見下ろす。
だが、彼女に声をかけないのは、なにも彼が非情であるのを示す証左ではない。
巨大獣と化した武士の一撃をモロに受け、吹き飛ばされ、甚大なダメージを受けながらもどうにか戦場に戻る道中で遭遇した少女・久美子。
彼女に対しては、欲求に駆られて同行者を傷つけた負い目がある。撃ち込まれた毒を軽減してもらった恩もある。
そんな彼女が齎した「自分がいなかったせいで大勢の仲間が死んだ」という情報は、ロクロウの心に負荷をかけた。
だが、それは彼の心を縛る鎖までには成り得ない。
もしもこれが、ヴァイオレット・エヴァーガーデンや間宮あかりのように不殺を信念とする者たち、あるいは牧歌的な平和を愛する者であれば、その心に爪痕を残せただろう。
ロクロウは違う。
ロクロウの住んでいた世界は、人の理不尽な死などありふれていた。時には、自分たちが齎していた。
そしてなにより、彼自身が戦いを、血肉を好む戦闘狂。礼儀作法は心得ているため、平和や一般的道徳に理解は示せど、重視するのは己の欲求。
平和な現代世界で生きてきた久美子とは価値観が違う。世界が違う。
自分のあずかり知らぬところで少し話した程度の少女が、久美子の友達が、名前も知らぬ青年が死んだと聞かされても、悼む気持ちはあれど自罰には至らない。
よほど自分を占めるものでもなければ、終わってしまったものは、そういうものだと割り切ってしまえる。
(...嬢ちゃんの言う通り、うかうかしてられねえのは事実だが)
自分がいれば悲劇が収められた―――それは、この混沌とした戦場ではまだ潰えていない。
先ほどまで響き渡っていた轟音は既に途切れており、戦場を蹂躙していた巨大獣の姿も消え去った。
どういう形であれ、奴との戦いが終わっているのは察せられる。
残っているのは、奴が齎した戦火の痕、そして早苗とオシュトル。
早苗のオシュトルへの憎悪は要領をえないものだった。
一緒に行動していた時にはおくびも見せなかったのに、突然、オシュトルを悪しように吹聴し。
こちらがその否定や矛盾点を挙げれば、今までの言動を改竄・翻してでも己の主張を正そうとし。
挙句の果てには、同調していたはずのクオンですら困惑するほどに狼狽し、オシュトルに味方をするもの全てを否定するようになって。
どうにかして、自分やヴァイオレットへの否定は収まったものの、未だ、オシュトルへの嫌疑は晴れていない。
そして自分から見たオシュトルという漢が、早苗の言っていた人面獣心の大悪漢などではないことも相まって、自分かヴァイオレットが間に入り仲裁しつつ立ち回らなければ、ロクなことにならないのを確信している。
恩人の一人である早苗に、恩を返すこともなく死なれてしまえば寝覚めが悪いというもの。
「悪いが、こっちも先を急ぐ身でな。詳しい話はあとで聞かせて貰う」
「えっ、わっ」
ロクロウは久美子の身体を軽々と持ち上げ、肩に担ぐとすぐに駆け出す。
久美子がもがくも、ロクロウが止まることはない。
(何事もなけりゃあいいんだが...)
その願いが既に潰えているのを知るのは、ほんの数分後の話である。
297
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:53:37 ID:xjzPINJo0
☆
ゴッ
慟哭、そしてしばしの静寂の後に肉を打つ音が鳴った。
右頬を殴られ、地を舐める巫女・早苗は尻餅をついたまま細かに後ずさる。
その胸中を占めるのは、恐怖。
右頬に走る痛み。
己を殴った女傑―――クオンから迸る殺意と悲哀の気配。
取り返しのつかないことを犯した己の罪。
それら全てと直面させられ、早苗のぐちゃぐちゃになった心は、その身体から防衛以外の選択肢を奪い取る。
再び振り上げられる左拳に、ひぃと小さく悲鳴を漏らし、反射的に両手を盾にし。
その上から振るわれた拳に再び地を嘗めさせられ。
それでも怒ることも立ち上がることもできず。
ただ逃避するかのように縮こまることしかできない。
振るわれる右足。
来るとわかっているのに、避けられない。
アルマジロのように丸まろうとする身体を打ち上げるような襲撃に、身体こそ浮かないものの、ゴロゴロと蹴鞠のように転がされる。
距離が離れ、身体が仰向けになったところで顔を上げる。
クオンと目が合った。
そこにはもはや、己を気遣ってくれた優しい薬師の面影などなく。
涙を流しつつも、全ての感情を削ぎ落した能面のような表情が張り付いており。
それがいっそう、痛みと共に早苗の恐怖を掻き立てる。
なにもできない。
己の命を脅かす存在が目の前に迫っているというのに、ただ傷つけられるのを恐れる被虐待児のように、震え縮こまることしかできない。
ガチガチと歯の根が合わない早苗にも構わず、その緑の髪が掴み上げられ、無理やりに顔を持ち上げられる。
再び目が合う。
直視することができず、ヒイッと喉を鳴らして両手で顔を隠す早苗の顔面に、クオンの右拳が放たれる。
ゴッ、と鈍い音を響かせ、まだ端整さを保っていた早苗の鼻が歪む。
小さく悲鳴を漏らすも、クオンの拳は止まらない。
ゴッ ゴッ ゴッ
まるで壊れた人形のように振るわれる拳は、早苗の顔に幾度も降りかかり、肉を打ち、その奥にある骨を打ち。
痣を刻みつけ、唾が飛び、歯が欠け、顔の形状を変えていく。
美少女といっても過言ではなかった早苗の顔は、もはや見る影もない。
目。鼻。唇。頬。
至る箇所が膨れ上がり、まるで不出来な葡萄のように凹凸激しく無様極まりないものとなっていた。
298
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:54:16 ID:xjzPINJo0
はあ、はあ、はあと荒い息遣いだけが空気を支配し。
ありとあらゆる激痛が脳髄を支配する中、早苗の胸中を占めるのは、自分をこうしたクオンへの怒りや憎悪ではなく。
「ころ、ひて...ころひて、くだひゃい...」
贖罪と逃避、ただそれだけだった。
―――どうして、あんなことをしたんだろう。
クオンに嬲られている間、ずっと考えていた。
もともと、オシュトルと自分の関係は決して悪いものではなかった。
この殺し合いにおいて、最初に出会い、共に対主催を掲げる者同士。
首輪を調達するにあたる参加者の生死についての価値観の相違こそあれど、それがああも嫌悪と憎悪に繫がるものではなかったはずだ。
それからも、オシュトルになにかされたというわけではないというのに。
なぜか、オシュトルが悪しように記憶が塗り替えられていた。
一度、恐怖を抱けば火をつけた導火線のように憎悪と嫌悪が留まることを知らなかった。
いつからそうなったというのか―――ビルドたちの名前が連ねられた放送を聞いてからという、大雑把なことしかわからない。
なにか、妙な刺激があったような気もするが、その正体もわからない。
ただ、いまの早苗がわかるのは、勝手な思い込みでオシュトルを殺し、それがクオンを絶望に追いやったということだけ。
原因も。取り返す手段も。何もわからないというなら、せめて彼女の手で殺されよう。
そうすることで罪を償おう。それがきっと正しいのだ。
そんな逃避でしかない自己満足の自暴自棄―――諦観にはこれ以上なく相応しい、麻薬の如き事後犠牲の美徳に、身を任せようとする。
「......ッ!!」
クオンの目が見開かれ、感情が息を吹き返す。
掴んでいた早苗の髪を乱雑に地面に引き倒し、ぶちぶちと千切れる嫌な感触を掌から感じ取り、噛み締めた唇からは血が流れる。
仰向けに倒れ、視界いっぱいに映るのは、こちらを涙ながらに見下ろすクオン。
きっと、数秒後にはその拳で心臓を貫くのだろう。
その運命を受け入れるように、脱力感に身を任せるように、早苗は瞼を閉じる。
真っ暗になった視界の中、拳が迫るのを感じ取る。
ガキン、と金属を打ち付けるような甲高い音が鳴った。
「なにがあったかは知らんが...恩を返さないまま死なれては堪らん。ひとまず話だけは聞かせてくれねえか」
早苗が瞼を開けると、そこには、眼前にまで迫った拳を剣で受け止めていたロクロウの姿があった。
299
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:55:43 ID:xjzPINJo0
「っ...!」
ロクロウが剣を振り上げると、クオンは後方にたたらを踏み、距離を取らされる。
「ロク、ロウ、ひゃん...」
「おう。随分酷い有様になってるが...さっきのヴライって奴にやられた...わけじゃ、ねえなあ」
早苗の顔に刻まれた幾多の打撲痕から、殴打による怪我だと察することが出来る。
先の巨大獣・ヴライにやられたとすれば、あの巨大な拳を顔面に受ければ、もはや顔など存在すらしていないだろう。
となれば、やはり見間違いでもなんでもなく、先ほどまで共闘していたクオンが早苗を殺そうとしていたのは明白で。
「邪魔、しないでほしいかな...その娘は、ハクを...ハクを!!」
「ハク...?よくはわからんが、どうしても早苗を殺りたいんなら、俺を倒してからにしてもらおうか。久美子、早苗を看てやってくれ」
「ぅえ、えっと...ひっ」
送れて辿り着き、早苗の惨状を見た久美子の悲鳴がゴングとなり、ロクロウとクオンの戦闘が始まった。
駆け出すはクオン。
跳躍しての踵落としを、ロクロウは剣で受け、かかる衝撃をそのまま受け流せば、クオンはロクロウの手前に落下する。
その隙を突き、ロクロウは剣を逆手に持ち替え、柄の方でクオンのこめかみを殴りつける。
クオンは頭部に奔る痛みに怯むも、すぐに地面を蹴り抜き、右の拳を振るう。
ロクロウはそれを身を捩り回避。
躱された傍からクオンは左の拳を振るい、ロクロウはそれもまた回避。
クオンが拳を振るい、ロクロウが回避するというやり取りが数度続いたときだった。
「......」
ロクロウは動くのを止め、振るわれた拳をその腹で受け止める。
ドッ、と肉を打つ音がする―――が、しかし、ロクロウの上半身は微塵も動かない。
「...どうしたよ。そんな拳じゃ、早苗どころか猫だって殺せないぜ」
数度のやり取りでイヤでも理解させられた。
今のクオンの拳に、先ほどヴライとやり合っていた時ほどの威力や覇気は無い。
疲労で動かないだとか、技が使えないだとか、そんな次元ではなく。
拳が泣いている。力を振るっている本人が己の心を傷つけている。
今のクオンが、本当に早苗を殺そうとしているのかさえ疑問を抱くほどに。
まるでそよ風のようになびいているだけの軽い、軽い拳だった。
だから、あの巨大獣を怯ませるほどの威力を間近で見ておきながら、躱すこともなく受け止めることに躊躇いもなかった。
300
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:56:20 ID:xjzPINJo0
「......!」
クオンの唇を噤み、目元が歪んでいく。
身体が弛緩していくその隙に、ロクロウはクオンの伸ばされた腕を掴み取る。
「なんで...」
疑問の言葉が漏れる。
「なんで、早苗なの」
溢れ出した想いは止まらない。
「なんで、ハクが早苗に殺されなくちゃいけないの...!?」
ずっと会いたかった。
ずっと後悔していた。
また会えて嬉しかった。
今度こそ共に歩めると思っていた。
ずっと、ずっと大好きだった。
そんな想い人を殺されたのだ。
絶望せずにはいられない。
現実なんかじゃないと逃避せずにはいられない。
それでも、ハクがオシュトルに成り替わっていたのを知らなかった時は。
この殺し合いで仇を―――ヴライを討てると思えば、それも一つの活力とすることができた。
何故か。
自分の知る限りで、ヴライが冷徹で力を至上とする暴君だと認識していたからだ。
だから、最初にリゾットと出会い、問答した時も、復讐の是非はおいておいて『奴を斃す』ということ自体には忌避感すら湧かなかった。
そう。
もしも早苗が、他者の命を軽視し弄ぶような鬼畜外道であれば、悲しみに沈められようとも、躊躇わず拳を振り抜くことが出来た。
復讐という大義名分に酔うことができた。
彼女を殺した後に、命を断ち、この地獄から逃れハクのもとへ逝くことができた。
けれど、下手人が早苗であるがゆえに、そうはならなかった。
クオンとてわかっていた。
早苗が、オシュトル―――否、ハクを殺したのは、本意ではないと。
短い付き合いながらも、早苗がどういう人物かは理解している。
彼女は決して、デコポンポのように私欲で他者を害し悦に浸るような下衆ではない。
なにより、命を賭けて破壊神と戦い、その身を挺して皆を護ったのだ。彼女という人間を疑う余地はない。
ハクを撃ち抜いたのも、クオンを護ろうとしての行為だ。
だから、仮に本物のオシュトルに危害を加えられていたとしても、ハクの事情を知っていれば、決してそんなことはしないのだ。
もしも自分が早苗の豹変に気づき、安易に彼女に同意しなければ。
もしも皆で話し合う時間があれば。
もしも戦いが終わった時、自分と早苗が同じ場所にいることができていれば。
もしも早苗と合流した時に、オシュトルがハクであると伝えることができていれば。
もしもハクが自分と再会し、詰められた時にオシュトルではなくハクであると明かしてくれていれば。
もしもそれらを許さぬ程、ヴライが猛威を振るっていなければ。
決して、こんなことにはならなかった。
わかっている。
状況が、戦況が、時間が、そして誰もが悪かった。
早苗一人が悪いのではないことは、全部、わかっているのだ。
それでも止められなかった。
身体は勝手に動き、早苗を、己の心までを傷つける自傷行為に走るほかなかった。
ハクが戻るわけでもないのに、復讐という大義名分すらない、自慰行為に等しき最低最悪の児戯に身を任せるしかなかった。
「...もう、やだよ、こんなの...」
ガクリと膝を折り、涙に沈むクオン。
その嗚咽に、ロクロウも、早苗もかける声が見つからなかった。
「だったら、戦おうよ」
ただ一人、黄前久美子を除いて。
301
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:57:01 ID:xjzPINJo0
☆
みんなが悲しみと戸惑いに暮れる中、私の思考はイヤなほどに冷静だった。
きっとそれは、麗奈がいなくなってしまったからだろう。
麗奈。高坂麗奈。
麗奈はただの同じ部活の友達、なんてものじゃない。
彼女は誰の代わりにもならない『特別』だ。
同じ咎を背負い。
共に血を交わらせ。
禁忌と背徳に浸りながら共に墜ちると契りを交わし。
もはや私の番いと言っても過言ではない、半身とも言える存在だった。
それがなくなった。
二人で潜っていた暗い地の底に、私だけが取り残されてしまった。
だからだろう。
これからしようとしていることが最低だと理解していても。
本来なら私自身が忌避すべきものだとしても。
半身を失った私に、今さら恐怖なんてものはなく。
あとはもう生きるか死ぬか、それだけの世界でしかない。
踏み出すことでしか、光を掴むことができない。
そう、理解しているから。
悪魔が、背中を押すのを感じ取りつつも、その言葉に震えは微塵もなかったのだと思う。
302
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:57:29 ID:xjzPINJo0
☆
「こんなの、納得できないんだよね」
早苗の看病もそこそこに、久美子は涙ぐみながらクオンに投げかける。
「だったら、取り戻そうよ。なんで諦めようとするの?私たちにはその権利があるのに」
「ぇ...?」
その言葉に、思わずクオンは顔を上げる。
「だってこんなの、おかしいよ。やりたいことも、頑張ってたこともたくさんあるのに。無理やり殺し合いなんかに連れてこられて、本当ならしなかったこともさせられて...どうしてそんなもの、受け入れなくちゃいけないの?」
「おい、久美子。おまえ、まさか...」
「貴方は黙ってて!」
何を言おうとしているのか察したロクロウを、彼の強く出られない立場を利用し久美子は吐き捨てるように制する。
久美子の狙い通り、ロクロウは立場を顧みて一歩退き、久美子に場を譲った。
その実感に、彼女は、いま、この場の支配権は自分にあると言わんばかりの全能感に浸り、まるで逸材を見出した部活動の顧問のようにクオンの肩に手を置き問いかけた。
「本当に貴女はそれでいいの?建前なんか使わないで、ちゃんと、本音で言って」
「ほん、ね...?」
「こんなわけのわからない状況で、色んな人が死んじゃって、早苗さんがハクって人を殺しちゃって...それが、貴女の望んだ未来なの!?」
久美子の言葉にクオンは息を呑む。
自分はハクの死を―――否、ハクが死んだという事実自体を受け入れようとしていた。
だから束の間の誘惑に身を委ねようとしていた。死に逃げようとした。
「わた、くしは...」
でも。
本当に望んでいるのは、そんなのじゃなくて。
苦しいだけの地獄なんて微塵も望んでいなくて。
彼女が欲しいのは、たった一つの日常だけ。
「そんなの、望んでない...」
かつて過ごしたあの賑やかな日々。
ネコネ。
ルルティエ。
アンジュ。
マロロ。
アトゥイ。
ノスリ。
オウギ。
ムネチカ。
キウル。
シノノン。
ヤクトワルト。
ウルゥルにサラァナ。
ミカヅチ。
オシュトル。
共に戦った皆がいて。
「あの頃に、戻りたい...こんなの、受け入れられない!!」
なにより。
ハクがいた、あの愛おしき日々への回帰。
ただそれだけが、クオンが『本当にしたいこと』だ。
「...だったら、ぜんぶやり直そう?」
クオンの慟哭に報いるように、久美子の掌が差し出される。
「私は貴女の願いを否定しない...だって、私も、その為に戦ってるんだから」
彼女の言葉が、胸にストンと落ちてくる。
自分の醜く弱い部分を受け入れてくれるかのような、不思議な温もりさえ感じてしまう。
「...早苗さんも、聞いてほしいんだ。私と麗奈が目指した道しるべを」
そして、久美子は抑揚のついた、幼児に言い聞かせるような柔らかい口調で、ポツリポツリと語り始めた。
303
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:58:14 ID:xjzPINJo0
・
・
・
「μの力をうばって...全部なかったことにする...」
ロクロウより軽い応急処置を受けながら、早苗は久美子が語った目的を反芻する。
「そう。私と麗奈は、こんな殺し合いを否定して、全部無かったことにしようとしてるの。そうすれば、私たちだけじゃない...死んじゃった人たちも、みんなひっくるめて幸せになれるんだよ」
みんなが幸せになれる。
その誘惑に、早苗の頭が蕩けそうになる。
無かったことになる、ということはつまり、霊夢たち同郷の者、この殺し合いで関わり合い散っていった者たち、そして自分がオシュトル―――否、ハクを殺してしまったことをも取り返せるということで。
それは今の早苗にとって麻薬の如き甘言だ。
「ロクロウさんにはもう話は通してあって...二人も、手伝ってくれるよね」
同意前提の久美子の言葉に早苗の心境は一気に傾く。
確証はないものの、一応の理屈は整っていて。
金銀財宝の類のような私欲ではなく、かつての日常を取り戻したいという共感のできる目的であり。
なにより、この地獄のような現実から逃げ出すことができる。
否定する理由はどこにもない。
にべもなく、早苗は肯首しようとして―――
―――カラァン
不意に、脳裏に鐘の音が過る。
ビルドが己の全てをかけ高らかに打ち鳴らした鐘の音が。
(ぁ...)
躊躇いが生まれる。
久美子の言う通り、全てを無かったことにするということは。
あの破壊神との戦いで参加者たちが見せつけた覚悟やビルドの想いすらも否定するということ。
無論、散った者たちがそのままでいいなどと思っているわけではない。
しかし、彼らが生きた証を、ただ己が楽になりたいというだけで否定していいものか。
304
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 23:00:32 ID:xjzPINJo0
「...わ、私は...」
「...クオンさんは?」
返答を戸惑う早苗の様子に、これ見よがしにため息を吐きつつ、久美子はクオンへとかぶりをふる。
「わたくし、は...」
瞼を閉じ、考える。
この殺し合いを否定し無かったことにすれば。
この催しで出会った者たちとの縁や覚悟、今の自分たちをも否定することになる。
それを良しとしない者も多いだろう。
例えば、散ってしまった中ではミカヅチにビルド。
例えば、生きている中では隼人やブチャラティ。
彼らの想いや信念とて、蔑ろにしたい訳ではない。
けれどそれ以上に。
自分には、ハクのいない世界など耐え切れない。
そもそも。
マロロの言を信じるならば、本来は、もっと早い段階で自分はオシュトルの正体を知っていたのだ。
でなければ、オシュトルの下に着いて共に戦うなどあり得ないのだから。
それを、理不尽な横やりで無かったことにされたのが今なのだ。
例え我儘で傲慢だと罵られても―――それを運命だと受け入れられるはずもない。
「私は...久美子に、賛成、するかな」
「!」
「私も...久美子と同じ気持ちだから」
遠慮がちでありながら、しかしここにきて真っ当な賛成意見に久美子の顔は綻びた。
そう。そうなのだ。
こんな理不尽で出鱈目な異変に唐突に巻き込まれて、その中で一生懸命に生きて、それでも殺される。殺してしまう。
そんなものをどうして受け入れる必要があるのか。
だって、本当なら、そんなことをすることもされることもなかったはずなのに。
だから、彼女たちはその運命を否定し、拒絶する。
「ありがとうクオンさん!...それで、早苗さんは?」
お礼を言ったクオンに対してとは対照的に、早苗に対しては露骨に声音が下がる久美子。
さっさと答えを出せと言わんばかりの久美子の視線に早苗の胸が締め付けられるような息苦しさを覚える。
「わ、私は...その...」
「早苗さんはハクさんを殺したことに後悔はないんですか?」
「!!」
久美子の言葉に動悸は更に早くなる。
後悔が無い、だなんてそんなことは口が裂けても言えない。
あの瞬間まで時間が巻き戻せるなら、どんな手段を使ってでも止めたいと思っている。
「こ、後悔がないなんて、そんな...」
「じゃあなんで躊躇うんですか。ハクさんだけじゃなくて、カナメさんやみぞれ先輩にマロロさん、霊夢さんに弁慶さんに志乃ちゃん...早苗さんが関わってるだけでもたくさん死んじゃった人たちがいるんですよ。みんな、みんな見捨てるんですか」
強い語気になっているのは、心を抉るような酷いことを言っているのは久美子自身も自覚していた。
きっと、自分が早苗の立場で同じ言葉を投げかけられれば、もう立ち直れなくなってしまうだろうと。
しかしそれでも、久美子は早苗には味方に付いてほしかった。
破壊神との戦いで共に生き延びた仲、というのは勿論のこと、同じ咎を背負った者同士だからこそのシンパシーも感じているから。
早苗が、本来は殺すはずのないハクを殺したのと同様に、久美子もまた、本来は殺すはずのないジオルドやカナメを殺している。
同じような境遇にある者同士で敵対し、排除するようなことはできればしたくはない。
だから、酷い言葉をぶつけてでも、彼女の反抗する意思を削ごうとした。
305
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 23:01:51 ID:xjzPINJo0
「わ、私、は」
「流されるなよ、早苗」
久美子の思惑通りに同調しようとした早苗をロクロウが遮る。
「誰の意思も関係ない。お前が、お前の意思で決めればいい。でないと、どんな結末になっても後悔しちまうぞ。それと先に言っておくがな、ここで久美子に同意しなけりゃ俺たちを敵にまわすことになるし、俺たちに着いても反対するやつらと敵対することになる。そいつだけは頭に置いておきな」
「ロクロウさん...!」
順調だった流れに横やりを入れられた久美子は、キッとロクロウを睨みつける。
が、しかし、ロクロウは意にも介さず言い返した。
「久美子。お前は確かに恩人だが、同時に早苗もまた俺の恩人だ。その恩に報いるにはこうするより俺は知らん。心配すんな。契約通り、お前が諦めない限りは手伝ってやるさ」
肝心な時にいなかったくせに、役立たず。と心の中で悪態をつきつつ、やはりこの人は嫌いだと久美子は改めて思うのだった。
「とにもかくにもだ。まだ近くにヴァイオレットたちもいるかもしれないんだろ?探しに行かねえとな」
「うん...けど、あかりちゃんはともかく、ヴァイオレットさんはきっと反対すると思う」
「一人でも増えるなら探すべきじゃないかな」
「...そう、だね」
躊躇いつつも、久美子はしぶしぶとロクロウとクオンに同意する。
反対する気配の濃厚だった琴子が死んだ以上、あかりはおそらくこちらに引き込める。
ただ、先のウィキッドとの戦いのこともあり、彼女と面を合わせるのも気が引けてしまう。
戦わせてばかりで、且つあれほどの暴言を浴びせ、挙句の果てにカナメにトドメを刺して逃亡したのだ。印象はかなり悪くなっているだろう。
できれば彼女とは会わずに終わらせたい。
あわよくば。自分のあずかり知らないところで、散っていてほしい。
どうせ無かったことにできるのだから―――
そこまで考えて、久美子は己を嫌悪する。
結局、なんだかんだと理屈を着けながら、自分は己の保身ばかりしか考えていないのだと。
あすか先輩が見ていたら、その辺りを容赦なくつっつかれそうだ。
それでも進むしかない。
麗奈のいない今、どんな手段を使ってでも生き残り、全てを無かったことにするしかないのだ。
久美子は拳を握り、決意を新たにする。
早苗に先行して足を進めていく三人の背中を見ながら、早苗は思う。
この殺し合いを全てを無かったことにして、悲しみも、罪もなくしてしまう。
もしも実現すれば、それはきっとすばらしいことのはずだ。
なのに、自分の前の三人が進む先が、ひどく暗く見えてしまうのは気のせいだろうか、と。
306
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 23:02:14 ID:xjzPINJo0
【E-6/更地/夜中/一日目】
【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損、言いようのない喪失感
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣(片一方は粉砕)@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[思考]
基本:主催者の打倒
0:ひとまずは周囲の参加者を探す。
1:久美子達の計画に賛同するつもりはないが、久美子には借りがあるので、暫くは共闘するつもり
2:無惨を探しだして斬る。
3:シグレを殺したという魔王ベルセリア(ベルベット)は斬る。
4: 早苗が気掛かり。號嵐を譲ってくれた借りは返すつもりだが……
5: 殺し合いに乗るつもりはない。強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
6: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
7: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
8: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。
※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。
※ 更新されたレポートの内容により、ベルベットがシグレを殺害したことを知りました。
※ 久美子が作った解毒剤によって、毒は緩和されており、延命に成功しました。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身に火傷(冷却治療済み)、右耳裂傷(小)、右肩に吸血痕、深い悲しみと喪失感、琴子とカナメに対する罪悪感、精神的疲労(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:特製衣装・響鳴の巫女(共同制作)
[装備]:契りの指輪(共同制作)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体、シグレ・ランゲツの片腕、クロガネ征嵐@テイルズオブベルセリア、点滴セット複数@現実
[思考]
基本:歌姫(μ)に勝って、その力を利用して殺し合いの全てを無かったことにする。
0:ひとまずは周囲の参加者を探す。
1:どんな手段を使ってでも、麗奈と共に描いた道しるべを達成する。もう、迷うことは無い。
2:ロクロウさんは嫌いだけど、利用はするつもり
3:ヴァイオレットさんには、改めて協力をお願いしたい
4:ウィキッドは絶対に許さない
5:例え隼人さん達を敵に回したって、もう私は迷わない。望みを叶えるまで逃げ切ってやる。
6:あかりちゃんも、仲間になってほしいけど……
7:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒
8:岩永さん、ごめん。必ず生き返らせるから……
※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。現状は麗奈と一緒に衣装やら簡単なアイテムを作れる程度に収まっています。
※麗奈がビエンフーから読み取った記憶を共有し、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※μの事を「楽器」で「願望器」だと独自の予想しました
307
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 23:02:49 ID:xjzPINJo0
【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(極大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、ウィツアルネミテアの力の消失、悲しみと絶望(極大)、喪失感(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2、マロロの支給品3つ
[思考]
基本:久美子の願いの手助けをする。ハクを取り戻す。
0:ひとまず久美子に着いていく。
1:隼人達とも協力できるかは会って聞いてみたい。できなければ...?
2:早苗だけが悪いわけじゃないのはわかってる、でも...いまは...
[備考]※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※早苗から、オシュトルに対する悪評を聞きました。
※ウィツァルネミテアは去りましたが、残された残滓を元に、『超常の力』を発動することは出来ます。但し身体には絶大な負荷が掛かります。
※ヴライとの戦闘によって、E-6を中心として、E-5の一部、E-7の一部、D-6の一部、F-6の一部に、破壊の痕跡及び火災が発生しております。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:全身にダメージ(極大)、疲労(極大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(極大)、脳内にウォシスの蟲が寄生(活動停止)、記憶改竄(修正済)、オシュトルへの不信(修正済)、クオンへの罪悪感(極大)、久美子の提案への不信感(微)、顔面ボコボコ(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める...?
0:ひとまず久美子さんに着いていく。最終的に久美子さんに賛同するかは、まだ決めかねています。
1:クオンさん……
2:ロクロウさん、ヴァイオレットさんは信じたい
3:さっきの人が、ヴライ……。霊夢さんの仇……。
4:ブチャラティ(ドッピオ)さん、信じていいんですよね……?
5:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
6:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
7:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
8:魔理沙さん、霊夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※ウォシスの蟲に寄生されております。その影響で、オシュトルにまつわる記憶が改竄され、オシュトルに対する心情はかなり悪くなっています。今後も、記憶の改竄が行われる可能性は起こりえます。
※記憶の改竄による影響で、オシュトル、ヴァイオレット、ロクロウが殺し合いに乗っていると認識しました。
※ウォシスの蟲が活動停止したため、改竄された記憶が全て偽りだったと認識しました。
※殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
308
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 23:03:11 ID:xjzPINJo0
投下を終了します
309
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/03/24(月) 02:29:09 ID:f8p5eTSM0
折原臨也、ヴァイオレットエヴァーガーデン、間宮あかりで予約します
310
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:41:08 ID:QGN9PH7U0
投下します
311
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:42:53 ID:QGN9PH7U0
俺は人間を愛しているーーーだなんて、口癖のように吐いてきたけれど。
これを第三者に対してどう正しく理解してもらう説明するかを問われると案外難しいものだ。
というのも、そもそもとして俺の言う『人間』の定義がなんなのかを知ってる人がそうそういないからだ。
生物学的上、ホモ・サピエンスであれば人間ではないかーーーだなんて言う奴もいるだろうがそれはないと断言したい。
平和島静雄。アレを人間だなんて俺は絶対に認めない。誰がなんと言おうとアレは化け物だ。
感情の有無?いいや、感情は確かに人間にとって大切だけれど、感情だけならゴリラやチンパンジーだって持ってるさ。世間的にはサイコパスと言われる、感情の起伏が見られない奴がいたとしても、類人猿よりはソイツの方が人間だと俺は思うね。
思考能力?なおさら違う。そんなものは家畜ですら失っていないし、それを失ったヤツがいたとしても、やはり俺は人間として愛してやれるだろう。
じゃあ、俺の言う人間に当てはまるヤツはなんなのか。それを少し考えてみようか。
312
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:43:34 ID:QGN9PH7U0
☆
「そんな...カナメ様...麗奈お嬢様...」
ことの顛末を聞かされたヴァイオレットは、ガクリと両膝を着き、身体を震わせ項垂れる。
『ヴァイオレットさん、ごめんなさい…。 急に、滝先生がこの手紙を読んでしまった時のことを想像してしまって……。その…引かれたりしないかなって……』
『自分への好意を綴られた手紙を読んで、嫌な気分になる方はいませんよ。 他人から好かれるということは嬉しいものです』
『そ、そういうものなんですか…!?』
最初に麗奈と出会った時の光景が脳裏を過ぎる。
彼女は大切な人に想いを伝えたいと願っていた。
あの時は彼女は続きを書くのを躊躇ってしまったけれど、それだけ本当の想いだったのが窺い知れる。
『……助けて……。助けてください―――』
再会した彼女は泣いていた。ボロボロの姿になって、血溜まりを踏み荒らして。それでも涙を流して救いを求めていた。
『お嬢様の想いを……届けられるように……
私が……元の日常に連れ戻しま……すから……』
だから約束した。
手紙を、想いを必ず届けると。貴女の「いつか、きっと」を失わせないと。
その望みが、いまーーー絶たれてしまった。
「そうか...カナメくんがね」
臨也はあかりからの報告に素直に落胆の色を見せた。
彼はこの会場で出会った半分ほどの純粋な人間だった。多少、超能力じみたモノを使えるが、それでも臨也にとって人間だった。
そんな彼の顛末と結末をこの目で見届けられなかったのは素直に残念に思う。
「ごめんなさい...わたしが...あの人を止められなかったから...」
見るからに消沈する二人に、あかりは心臓を鷲掴みにされるような罪悪感に襲われる。
ウィキッドを殺せるチャンスは恐らく何度もあった。
カナメの言っていた通り、この世に存在していてはいけない鬼畜外道の擬人化とはああいう奴のことを言うのだろう。
でも出来なかった。
それは命を尊ぶ慈しみの心なんかじゃなく。武偵の不殺主義による信念からくるものだけでなく。
感情任せに動いた結果だ。
313
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:44:43 ID:QGN9PH7U0
大好きで尊敬するアリアを愚弄し尽くして殺し、死んだ事実すら弄ぶあの魔女に対しての憎悪と怒りのままに立ち向かって。
相手が死なないのを良いことに、後悔し懺悔するまで風穴を開け続けてやるという衝動のままに動いてしまった。
それでも不殺の信念を蔑ろにしてしまえば、アリアや家族、それにこの会場に連れてこられる前も、後からも、自分の背中を支えてくれた大勢の人たちが残してくれた繋がりを無くしてしまうと思ったから曲げることはできなかったがーーー
『あかりちゃんは、そんな奴が、心から謝罪すると思うの?
平然と他人を痛めつけて、弄んで、命を奪って……挙げ句の果てに、その人の人格まで汚すような奴が……!!』
『それは、あかりちゃんのルールでしょ……!! 私に押し付けないで……!!
あかりちゃんのルールで裁いても、私は納得しないから!!』
『ううん、押し付けてるよ!!
あかりちゃんは、あかりちゃんの先輩のことも、麗奈のことも、一括りにして、あかりちゃんのルールで裁こうとしている』
久美子からの糾弾が心に重くのしかかってくる。
自分のルールとやり方でウィキッドを裁くと決め、その隙を突かれてカナメを身代わりに仕立て上げられ、それに気づかないままに彼を瀕死にしてしまった。久美子にまで十字架を背負わせてしまった。麗奈どころかカナメまでもを、死なせてしまった。
カナメが最期に遺してくれた「ありがとな」という言葉で辛うじてまだ折れずにいられるが、それでもいつ何時立てなくなっても、もはやおかしくはない。
「きみもずいぶん大変だったんだねぇ...そんなきみに伝えるのは俺としても伝えるのは酷なんだけどね」
全くそうとは感じさせない軽い調子の声音で語り口を切るも、すぐに真面目な面持ちに臨也は切り替える。
「岩永ちゃんも死んでしまったよ。俺たちの前でね」
「ーーーッ!!」
告げられた事実にあかりは息を呑む。
つい先程まで共に行動していた彼女が死んだ。
物腰落ち着き、戦えずとも常に理性的であり続け、どこか頼もしさを感じられた彼女もまた、死んでしまった。
「ああ、補足しておくと彼女を殺したのは茉莉絵ちゃんじゃないよ。炎を操る筋肉もりもりの大猿さ。だからあかりちゃんが彼女を殺さなかったから岩永ちゃんも死んでしまった、なんてことはないから安心しなよ。...化け物に殺されたっていうのには変わりはないけれど」
そんな慰めにもならない慰めに、あかりとヴァイオレットの面持ちが晴れることはない。そんな彼女たちを微笑みながら見つめ観察する臨也に苦言を呈せる者もこの場にはいない。
「さて。これで一通りの状況整理は終わったわけだけれど...二人にはまず真っ先に考えて貰わなくちゃいけないことがある」
「えっ?」
臨也の告げた言葉にあかりとヴァイオレットは共に目を丸くする。
「俺たちは岩永ちゃんとカナメくんと麗奈ちゃんという仲間たちを化け物たちに殺されてしまったわけだけど...二人はそれでも不殺を貫くつもりかい?それとも、アレらには目を瞑って信念の範囲外に置くかい?」
試すような問いかけに、あかりとヴァイオレットは共に沈黙し俯く。
「俺個人のスタンスとしては、やっぱり化け物達にはご退場願いたいね」
だが、その沈黙を臨也は容易く打ち破る。
314
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:46:21 ID:QGN9PH7U0
「ヴァイオレットちゃんにはもう耳にタコができるくらい言ってるかもだけど、俺は化け物を嫌悪してるし常々排除したいと考えてる。だから今の茉莉絵ちゃん達を殺せそうなら遠慮なく殺せるし、実際に殺したところで後悔がないどころか喜び勇むくらいだろうね。二人は、俺の言いたいことはわかるかい?」
「...折原さんは、私の不殺を否定するっていうこと?」
「違うよ、あかりちゃん。きみがアリアちゃんのように不殺を貫き通したいというならそれを心から祝福するし、そうでなくても全てを肯定する」
「!あ、アリア先輩のこと...」
「待った。彼女のことはおいおいヴァイオレットちゃんから聞いた方がいい。俺よりも関わった時間が長いからね。それに君からも、茉莉絵ちゃんを吹き飛ばした力のことも聞きたいけど...それよりさっきの俺の言葉の意図を考えてほしいな」
重ねられる問いかけにあかりとヴァイオレットは共に眉を顰める。
臨也が茉莉絵達、人外を敵視しているのはわかった。だが、そうなると不殺を貫き通そうとする二人は敵視されそうなものだがーーー と、そこでヴァイオレットがハッとする。
自分の意図を汲み取ってくれたヴァイオレットの様子に臨也はどこか楽しげな笑みで続きを話す。
「俺が、いや、俺じゃなくても、茉莉絵ちゃんを殺せる状況になった時。もしもそれを止められる手段があった時。君たちは『人間』をどうするつもりでいるんだい?」
臨也が告げた言葉に、あかりとヴァイオレットは揃って息を詰まらせた。
先のあかりと久美子のウィキッドの処遇を巡る件では、久美子にウィキッドを殺せる力が無く、あかりが生殺与奪の権利を握っていたからこそ、あかりや久美子の心情の平定はどうあれ、不殺を曲げずにいられた。ならばその生殺与奪が他者の手にあったら?
極端な例をあげれば。
臨也が茉莉絵の首にナイフを突きつけており、自分たちの手に拳銃が握られていた時。
その拳銃で臨也のナイフを撃つのか、それともその拳銃を下ろして臨也のナイフが茉莉絵の首を割くのを見届けるのか。
これはそういう問題だ。そして、臨也の問いかけに対する答えは、その拳銃を下ろすか、下ろさないか。
この二択に絞られる。
もしもミカヅチのように打ち負かすことで答えを示せるのなら、あるいは拘束して相手の意思に関係なく鎮圧できればその道もあっただろう。
だが、茉莉絵は違う。
彼女はいくら叩きのめしても他者を愚弄し害することを辞めないし、拘束しようにも、両手足が千切れても再生できる彼女には無意味だろう。
説得などもってのほかだ。同じ殺人者でも、敵を無意味にいたぶることはしないヴライやミカヅチらとは違って、茉莉絵は目についた者全てを汚すことに悦びを見出している。
どんな言葉を投げかけても嘲笑うだけで聞き入れないのは目に見えている。
だから答えは二つしかないのだ。
化け物と化した茉莉絵を切り捨て『人間への不殺』を守るか、『人間』と敵対してでも茉莉絵の『命』を護るか。
「わ、わたしは...」
「......」
突きつけられる選択肢にあかりとヴァイオレットは共に言葉を失い唇を噛み締める。
そんな彼女たちの苦悩する様を臨也はニタニタと笑みを浮かべながら、じっくりと観察し、堪能すると
「まあ、俺もすぐに答えが出るとは思ってないよ。ただ頭の片隅に置いて覚悟はしておいてほしいってことさ。君たちがその信念を掲げている限り、同じような状況はいくらでも起こり得るからねぇ」
と、臨也はそう締めくくり、この話題を終わらせた。
315
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:47:13 ID:QGN9PH7U0
「さて、じゃあ次は今後の方針について話そうかな。いつまでもここにいても仕方がないし」
「...はい」
「...かしこまりました」
二人が力なく頷くと、話題は今後の方針決めに完全に切り替わる。
「さっきまで遠くで鳴ってた騒音がすっかり止まってるところを見ると、あの大猿の方も決着は着いてるみたいだ。
となると、この辺りの生存者として可能性があるのは、オシュトルさんとそのペット、錯乱した早苗ちゃんとそれを相手どってる彼、大猿。それと逃げちゃった久美子ちゃんだね。オシュトルさん達が大猿を始末してくれてたら助かるけど、もし生き残ってたらこんな有様の俺はすぐに殺されそうだなぁ。それに彼らと合流したら、ここまでの被害を出した茉莉絵ちゃんを殺さない選択肢は取れないと思った方がいいね。友達を殺された久美子ちゃんもそうだけど、オシュトルさんも敵には容赦しないタイプだから。
彼らを探しに行ってもいいけどあかりちゃんが吹き飛ばしたっていう茉莉絵ちゃんを追って決着を着けるのもいいかもね。不殺を遂行するならそっちの方がまだ都合が良いんじゃないかい?その場合、さっきの質問がすぐに突きつけられることになると思うけど」
臨也の迂遠な言い方に、あかりとヴァイオレットは苦虫を噛み潰したかのような顔をする。
選択しなければならない状況が眼前まで迫っていることを自覚しながら、それでも二人は即答することができないでいた。そんな思い悩む彼女たちを心底楽しそうに観察しながら。
「さて...君たちはどう動きたい?」
折原臨也はそう投げかけた。
316
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:48:12 ID:QGN9PH7U0
☆
とまあ、こんな感じだ。
おや、俺の言っていた『人間』の定義に触れてないって?
いいや、俺は確かに示してるよ。
俺はあかりちゃんとヴァイオレットちゃんに対しては一貫して人間として扱っている。ヴァイオレットちゃんはともかくとして、奇天烈な超能力を使えるようになった、ひいては一度は首輪の反応が消えて蘇ったゾンビのようなあかりちゃんもだ。
彼女は異形の力を手に入れながらもそれに溺れるのではなく、それでも敢えて困難な道を行こうとしている。
その人を容易く殺せるであろう力に縋りきらず、己の存在意義を見失うまいと抗っている。間宮あかりというこれまで歩んできた道から外れたくないと願っている。
だから俺は化け物ではなく人間として扱っている。
一方で茉莉絵ちゃんは。
へんげの杖でカナメくんを囮に使い、それをあかりちゃんたちに傷つけさせる。それだけなら好ましかっただろう。おそらくそのやり口自体は彼女という存在の歩んできた道から思いついた全霊の悪戯だろうから。
問題はその過程さ。
全身を致命的なほどに撃たれる中で、再生させながら、策を行使する。そんなこと、鬼になる前は不可能だっただろうし思いつきもしなかっただろう。怪物でしかできないやり口を我が物顔で行うその様は、かつての茉莉絵ちゃんすら歪めているようで腹立たしい。
化け物が人の皮を被って遊ぶなよ、気持ち悪いーーーそう思わざるをえない。
そんなの大した差はないじゃないか、お前の匙加減だろう。感情的に不公平に判断するな。
そう言われてしまえば身も蓋もないかもしれないね。
けど、仕方ないさ。
俺だって人間なんだ。
殺し合いなんて環境下でも。
同行者が続々と死んでいっても。
友達が死んでも。
身体をこれでもかと抉られても。
今の自分がデータから作られた虚構の存在かもしれなくても。
俺は折原臨也で。如何なる時も人間を愛し観察することを辞められない。
そんな、どうしようもないほどに感情的な『人間』なんだから。
317
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:49:30 ID:QGN9PH7U0
【E-7/夜中/一日目】
【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:覚醒、白髪化、痛覚と疲労感の欠如、体温低下、情報の乖離撹拌(進行度63%)、全身のダメージ(大)、精神疲労(中)、左中指負傷(縦に切断、包帯が巻かれている)、深すぎる悲しみ、久美子たちの計画に対する迷い、ウィキッド対する憎悪
[服装]:いつもの武偵校制服(破損・中)
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。
0:生存者を探すか、ウィキッドを追うか
1:ウィキッドは許せない
2:ヴライ、琵琶坂、魔王ベルセリア、夾竹桃を警戒。もう誰も死んでほしくない
3:『オスティナートの楽士』を警戒。
4:メアリさんと敵対することになったら……。
5:黄前さん達の計画については……。
6:カナメさん……岩永さんまで...
7:もしも臨也さんの言う通り、ウィキッドが殺されかけている場面に遭遇したらどうすれば...
[備考]
※アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
※覚醒したことによりシアリーズを大本とする炎の聖隷力及び「風を操る程度の能力」及びシュカの異能『荊棘の女王(クイーンオブソーン)』、そして土属性の魔術を習得しました。
※情報の乖離撹拌が始まっており。このまま行けば彼女は確実に命を落とします。
※殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
※情報の乖離撹拌の進行に伴い、痛覚と疲労感が欠落しました。
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:疲労(大)、全身強打、右拳骨折、言いようのない喪失感、全身に刺し傷、左眼失明
[服装]:普段の服装(濡れている)
[装備]:
[道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数0/10、使い切った状態)、まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0〜1(新羅)
[思考]
基本:人間を観察する。
0:これからの方針を決める
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する。まずは一人だね。
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
3:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だったのに...残念だよ。
4:平和島静雄はこの機に殺す。
5:『月彦』は排除する。化け物風情が、俺の『人間』に手を出さないでくれるかな。
6:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。
7:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。
8:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃、オシュトル、ヴァイオレットに興味。
9:オシュトルさんは『人間』のはずなのに、どうして亜人の振りをしてるんだろうね?
10:ロクロウに興味はないが、共闘できるのであれば、利用はするつもり。
[備考]
※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。
※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※ Storkと知り合いについて情報交換しました。
※ Storkの擬態能力について把握しました
※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。
※ 無惨を『化け物』として認識しました。
※あかりの『翼』の話から、レポートに記載されていた覚醒者の1人であるとなんとなく理解しています。
318
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:50:20 ID:QGN9PH7U0
【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
[状態]:全身ダメージ(大) 、肩口及び首負傷(止血及び回復済み)
[服装]:普段の服装
[装備]:手斧@現地調達品
[道具]:不明支給品0〜2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ)、電子タブレット@現実
[思考]
基本:いつか、きっとを失わせない
0:これからの方針を決める
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する
2:麗奈お嬢様...そんな...
3:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。
4:手紙を望む者がいれば代筆する。
5:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。
6:ブチャラティ様が二人……?
7:「九郎先輩」に琴子の“想い”を届ける
8:カナメ様……
9:もしも折原様の言う通り、茉莉絵様が殺されかけている場面に遭遇したらどうすれば...
[備考]
※参戦時期は11話以降です。
※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 琴子から電子タブレットを託されました。琴子の電子タブレットにはこれまでの彼女の経緯、このゲームに対する考察、久美子達の計画等が記されています。
319
:
所詮、感情の生き物
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/06(日) 21:50:34 ID:QGN9PH7U0
投下終了です
320
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/23(水) 00:14:24 ID:K47elWgo0
垣根、レイン、静雄、咲夜、リュージ、ムネチカで予約します
321
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:26:17 ID:MJ8Oj7d.0
投下します
322
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:27:27 ID:MJ8Oj7d.0
「さて。ここからのチーム分けですが...」
「解析屋。俺とお前が別れるのは確定だな」
口火を切るレインに補足するように、垣根はそう繋げる。
その言葉にレインは小さく頷き肯定する。
「この中で機械に通じているのは私と垣根さんだけのようですからね」
彼らが目下目指すのは、首輪の解除だ。
先に挙げた外せる可能性のある参加者を探すのは勿論だが、それ以前に、正攻法で外せるのならそれに越したことはない。
もしも別れた先で解除につながる手がかりを見つけた時に、機械に詳しいものがおらず待ちぼうけを食らうことになれば目も当てられない。
なれば、頭脳労働を得意とする二人を分けるのは定石だろう。
「それで垣根さんはどちらに行きます?研究所か、大いなる父の遺跡か」
「そうさな...ゲッターってのも気になるが、ひとまずは遺跡だな。本物のブチャラティが向かってるなら、あいつと合流しておきてえ」
「では私は研究所の方に向かいます。隼人さんに合流しておきたいので」
垣根はブチャラティが攻略の鍵の一つになることを期待して。
レインは隼人から受けていた依頼の成果を報告する為に、つつがなく話は進行していく。
「残りは四人だ。てめえらはどっちに着く?」
そうふられた四人はしばし己の身の振り方を考える。
垣根に着きブチャラティを探すか、レインに着き神隼人たちと合流するか。
「小生は垣根殿に着かせていただく」
真っ先に答えたのはムネチカだ。
「ブチャラティ殿にはライフィセット殿も着いているとのこと。迷惑をかけたことへの詫びと...今度こそ、誓いの通りに正しく盾となりたい」
ライフィセットと出会った時、ムネチカは武士として、仲間として彼を護ると誓った。
しかし、放送でアンジュの死を聞かされてからというもの、ずっと支えられていたばかりだった。
彼になにを返すこともなく捕らえられてしまった。
なればこそ、その汚名を雪ぐ意味合いも込めて、彼を護りたい。誓いを果たしたいと、思わざるをえなかった。
「俺はレインに着いていくぜ。せっかく仲間に再会できたことだし、それに...いや、なんでもねえ」
次いだのはリュージだ。
(ゲッターをどうにかするにはゲッターを知らなくちゃ話にならねえからな)
リュージのゲッターへの恐怖と嫌疑は未だに消えていない。
見せられた地獄の如し未来を防ぐため、ゲッターをどうにかしたいと思っている。
できれば関わりたくはないが、何も知らなければただ摺りつぶされるだけだ。
だからこそ、敢えて火中の栗を拾うようなことも厭わない。
残る二人、静雄と咲夜だが―――
「じゃ、俺はレインに着いてくわ。隼人に病院の事を伝えてやらねえとな」
「私は特に希望はないからどっちでもいいわ」
静雄が先に申し出たことで、最後まで残ったのは咲夜となり、消去法で垣根に着いていくこととなった。
「これで人員の振り分けは終わりましたね。集合場所と時刻はどうします?」
「次の放送が終わり次第、早乙女研究所だ。機器なんかはそっちの方が充実してるだろ。...多分な」
「わかりました。それで垣根さん、病院で回収した首輪から判明した解除コードについてですが、なにか手がかりはありましたか?」
「いいや。わかったのは音声認証ってことだけだ」
病院でブチャラティたちと別れた後、紅魔館へと向かう道中に垣根は気が付いた。
首輪と首の接着面に近い場所に小さなくぼみがあったこと、そして首輪ごとにその大きさが異なっていたことに。
人間の深層心理からして、下手に触れれば爆発するものを無暗に弄る馬鹿はそうはいない。
そして、この位置からして対面しただけではわかるはずもなく、このくぼみも、機器に明るくない者であればただの装飾の一種だと思うだろう。
垣根は指紋認証を期待して己の首輪で試してみるものの、そこはまだ第一段階。
音声による認証コードを求められ、手がかりも無いままに試すのは危険だと判断し、保留した。
このことを麦野たちに伝えていなかったのは、彼女たちとの信頼関係が殆どなく、下手に伝えたことで出し抜かれるのを防ぐためである。
「他のも試そうとしたが、指紋認証の時点で弾かれた。やはりこいつは個々人で識別されてるみてえだ」
「なるほど。となると、音声コードも統一されたものよりは、個別のものだと考えた方が良さそうですね」
「まだその可能性は高いってまでの話だがな」
「そこまでわかるのか?」
「ええ。この個々人の指紋認証を突破された上で敷かれたセキュリティが、他者と同じコードであれば二重のロックがまるで意味がありませんから。となれば、この解除コードの音声も個々人で別々だと考えるのが無難でしょう」
さらりと言ってのけるレインに、リュージは思わず感心のため息を吐く。
頭の回転が早い奴だとは思っていたが、解析屋の名にたがわず与えられた情報からスラスラと解を紡いでしまうのだから。
323
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:31:34 ID:MJ8Oj7d.0
「ただ、どのみちここらで手詰まりですがね」
「ここまでヒントが無いとなれば、さすがの解析屋様でも無理ってもんか」
「ええ、そうですね。...」
リュージの言葉に相槌をうったレインが、そのまま顎に指を添えて考え込む。
「...どうして、なにもヒントがないんでしょうね」
「そりゃ、簡単に首輪を外されちゃ困るからだろ」
「そう。私たちに首輪を外されたら困るというのはわかります、が...なら、なんで解除コードなんて機能を着けたんでしょうか」
「なんでって...」
レインから呈された疑問に、垣根は言葉を詰まらせる。
そうだ。
この解除コードは、予め首輪に備え付けられている。
つまり、主催の連中がわざわざ取り付けた機能だ。
なぜ?
解除されたら困るのは、参加者ではなく主催の連中だというのに。
「テメーら」
垣根はこの場にいる面々に呼びかけ、紙をトントン、と鉛筆で突くことで筆談を促す。
―――筆談 開始(以降、:の前に各々の頭文字が付きます)―――
垣:別れる前に考えておきてえことがある。この解除コードについてだ
リ:つってもヒントがないことには先に進めないんだろ?
垣:ああ。だからこそ考えなくちゃならねえんだ
咲:と、言うと
垣:解除コードにヒントが無い、その意味自体についてだ
ム:?
静:なにが言いてえんだ?
レ:みなさん。この解除コードが主催が備え付けた機能だということはわかりますよね
リ:そりゃ、そう書いてあったんだろ?
垣:ああ。ご大層に説明書付きでな。なら聞くが、何のために連中はコレを着けたんだ?解除されたら困るのは自分たちだってのに
一同は沈黙し、顔を見合わせ合うが答えは出てこない。
レ:私が考えるに、可能性は大きく分けて三つあります
垣:聞かせろ
レ:①主催の中に裏切り者がいる。テミス達の中にこの殺し合いを良く思わない者がいて、首輪を作る際に解除コードを仕込んだ
レ:ですがこの可能性はかなり低いでしょう。もしそういう存在がいて、私たちに首輪を解除してもらいたいなら、猶更ヒントや手がかりを残すはずです
レ:②ただの主催の悪戯心。解除コードの存在を知った参加者が右往左往するのを愉悦に見下して嘲笑う為にコードを仕込んだ
レ:これも可能性は低いと考えます。手がかりが無ければ右往左往以前に後回しにされるのが定石ですし、タイムリミットが迫るにつれてこの解除コードは存在意義を無くしていきます
静:なんでだ?
レ:簡単なことです。例えば、このまま解除コードの手がかりが見つからず、残り一時間になってまだ首輪が解除できない時、静雄さんはどうします?
静:壊す
レ:そうですね。貴方はそうでしょう。咲夜さん、貴女は?
咲:私は死ぬつもりはないから、最悪は戦うことも辞さないわ
レ:そうなりますよね。ちなみに私は先ほど議論していた裏技の方に舵を切ります
レ:このように、ヒントすらないというのはコードの存在自体を蔑ろにしがちになるのが心情というものです。ましてや先着何人、ではなく解除コードという多数が使える代物であれば、それを巡っての争いというのも起きませんし
324
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:34:08 ID:MJ8Oj7d.0
レ:そもそもこのゲームは殺し合いです。参加者同士の争いを目的としているのに、あてもなく解除コードを探しているうちにタイムアップで全滅だなんて結末、彼女たちが求めていると思いますか?
リ:笑い話にもなりゃしねえ。そんなドラマがあったらクソ映画確定だな
レ:私たちが参加させられたダーウィンズゲームでも、イベントの際はクリア条件、あるいは生存条件を示しそのヒントも示されていました。ただポンと存在だけ示して手がかりもなく終わり、だなんてことだけはありませんでしたよ
レ:そして③。そもそも目立ったヒントが無くても解除コードを見つけることが出来る。私はこれが一番可能性が高いと思っています
ざわり、と漂う空気が変わるのを感じ取るも、レインはそのまま続ける。
レ:先ほども垣根さんが言っていた通り、まず指紋認証で個々人の識別が行われ、次いで音声認証でコードを入力する。これだけの仕掛けを作ったんです。もしも皆さんが仕掛けを作った立場だとして、その鍵をどこかの施設にでも隠して、けれど誰にも見つけられず、顧みられず終わってしまえばどう思いますか?
リ:そう言われりゃ、なんか勿体ねえ気もするな
ム:確かに。創作にせよ、作った以上は他者に触れられたいと思うのが道理
咲:どうせ辿り着かせるつもりもないなら、最初から仕込むはずもないわね
レ:ええ。この解除コードを作った者は、解除ができるにせよできないにせよ、挑戦はしてもらいたいはずです。だから私はヒントが無いことこそがヒントだと考えました
垣:音声コードが個別な可能性も考えれば、特別なヒントが無くても俺たち全員が解除できるってことか?
レ:まだあくまでも可能性ですがね。この考えが正しいという確たる証拠もありませんし
垣:纏めると、俺たち全員を個別に識別できて、ヒントが無くても辿り着けるコード、ってことか
リ:都合が良すぎるなそりゃ
そこで区切り、一同はしばし考えこむ。
リュージの言う通り、そんな都合の良いコードなどあるのだろうか?
静:名前じゃねえのか?
ふと零した静雄のその単語に、一同はそんな単純な、と空気が弛緩し、すぐに焦燥が帯び始める。
そんなバカな、と、いやでも...と困惑と納得が織り交ぜな空気が漂い始めた。
ヒントが無くても辿り着けて。個別に識別できるコード。
確かに条件を満たしている。
「おし、試してみるわ」
賛同の空気が流れ始めた途端、静雄は言うが早いか首輪に触れ指紋認証を始める。
「ちょっ」
「平和島静雄」
レインが止める間もなく、静雄は己の名を口にした。
『エラー。もう一度コードを入力してください』
「ワリィ、違うみてえだわ」
首輪からのメッセージに、静雄はあっけらかんと謝り、レインはへなへなと尻餅を着いた。
―――筆談 終了―――
325
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:34:56 ID:MJ8Oj7d.0
「し・ず・お・さ・ん」
「悪い悪い」
レインが額に怒りの筋を走らせながら、静雄の耳を引っ張るが、しかし静雄は痛がる様子も見せず平謝りで済ませる。
失敗のリスクを危惧して垣根は踏みとどまったというのに、どうしてそれを顧みず試してしまうのか。
様々な苦言がレインの腹の底から湧き出してくる。
「確かに考えなしだったが、収穫はあったな。名前じゃねえってのもそうだが、重要なのは間違えても爆破されるようなことはねえってことだ」
諫めるレインとは違い、垣根は静雄の躊躇いのなさをむしろ労った。
「何度間違えてもトライできるなら、やっぱコイツは解除されることも織り込み済みだ。つまり、俺たちが首輪を外す為にどう行動しようが構わねえし、筆談でこそこそやらなくてもいいってワケだ。コイツは俺や解析屋が二の足踏んで得られなかった成果だな」
垣根やレインは考察を広げられど、無謀を作戦に組み込めるタチの人間ではない。
無論、多くの場合では無謀は潰されるのが世の常だが、こうして成果を果たせる場合も稀にある―――先の戦闘で麦野が竜馬に一矢報いたように。
「時には馬鹿になるのも必要だってことだ、解析屋」
「...はぁ、そうですね。そこは認めます。今回だけは貴方の単純さを評価してあげますよ静雄さん」
「褒められてんのかバカにされてるのかわからねえな...別にいいけどよ」
レインが静雄の耳を離し、ぷるんと耳たぶが元の位置に戻る。
「とはいえこれ以上ここで議論してても仕方ねえ。手筈通り、俺たちは遺跡へ向かってブチャラティたちとの合流。お前たちは早乙女研究所で隼人って奴らと合流だ」
「了解です。場所と時間は先ほど決めた通りに」
「ではレイン殿、静雄殿、リュージ殿。ご武運を」
「おう、そっちもな」
各々、言葉を駆け合い、レインたち三人が馬車となったコシュタ・バワーに乗り込む形で、六人は二組に分かれて目的地を目指す。
「......」
馬車となったコシュタ・バワーに揺られながら、レインは顎に手をやりながら考える。
「どうしたレイン?」
「いえ。解除コードのことですが...自分で言っておいてなんですが、本当にそんな都合の良いコードがあるのかな、と」
「おいおい」
「正直に言うと、静雄さんの出した参加者の名前というのはイイ線をいっていたと思うんですよ」
「そうか?俺は理屈とかは抜きになんとなくそう思っただけなんだが」
「ええ。その直感が大切なんですよ。例えば、μやテミスの関係者だとか、それに連なるワードなどでは手に入れられる確率が非常に狭まります。μに関するワードだとして、梔子さんからの情報と照らし合わせれば、彼女に関わりを持つ参加者は五名。その五名がロクに参加者と関わることもなく退場すればそれでコードは無用の長物になってしまいますし、そもそもμに近い立ち位置にいる彼女ですらも専門知識を有しているわけじゃない。それをμに関係のない世界の人間たちに当てはめられれば、まずヒント無しではたどり着けないでしょう」
「そりゃ無理だわな」
「ですが、名前であれば容易く個々人を識別できますし、ヒントなんていらないほどにシンプルでわかりやすいコードです。それこそ、静雄さんがなんとなくで挙げる程度には。まあ、なんとなく首輪に触れながら自己紹介でもしたら外れてしまった、なんて事故が起きないとも言い切れませんが」
「なるほどなぁ」
専門知識が無くとも誰でも知っていて。
下手にヒントを与えれば誰でも解除できてしまい。
個々人で識別のできるワードとなれば、名前が有力候補だった。
「しかし名前でもないとなれば、皆目見当がつかねえよなあ」
「ええ。なんなら先ほどまでの推測が全て間違いだったなんて可能性もありますし」
そう。今はまだ推測を重ねた推測にすぎない。
推測を空論で終わらせるのではなく、そこから真実に辿り着かせるのが解析屋の仕事だ。
レインは身体は休めつつ、しかし脳髄だけは常に働かせつつ早乙女研究所へと向かう。
(...本当に、あるんでしょうか?個々人を識別できて、ヒントも無しに辿り着け、うっかりでも言わないようなそんな便利すぎるコードが)
326
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:35:23 ID:MJ8Oj7d.0
【一日目/夜/D-5】
【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、全身火傷(大・処置済み)、出血(小〜中、止血済み)、全身に複数の切り傷(小)、精神的ダメージ、全身に複数の打撃痕、レインの仮説による精神的躊躇(小)
[服装]:いつものバーテン服(ボロボロ)
[装備]:なし
[道具]:見回り用の自転車@現地調達品、コシュタ・バワー@デュラララ!!
[状態・思考]
基本行動方針:主催者を殺す。
0:早乙女研究所に向かう。黄前久美子、高坂麗奈も探したい。
1:竜馬を見つけたらぶん殴る。
2:仮面野郎共(ミカヅチ、ヴライ)は絶対殺す。
3:やっぱりノミ蟲(臨也)は見つけ次第殺す
4:竜馬の知り合いに遭ったら一応伝えておいてやる。
5:彩声との約束を守るため、梔子を護る。
6:仮面をつけている参加者を警戒。
7:久美子と会ってセルティの話を聞きたい。
8:新羅の死の真相が知りたい。
[備考]
※参戦時期は少なくともセルティが罪歌と関わって以降です。
※静雄とミカヅチの戦闘により、公園が荒れ放題となっております。
仮面アクルカによる閃光は周辺地域から視認できたかもしれません。
※彩声の遺体は喫茶店に運び込まれています。
※梔子と情報交換しました。
ただウィキッドは仲間の義理として細かくは説明してません。
【レイン@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[服装]:普段の服
[装備]:ベレッタM92@現実、レミントンM700@現実
[道具]:天本彩声の支給品(基本支給品、ランダム支給品×0〜2)
[状態・思考]
基本行動方針:会場から脱出する
0:早乙女研究所に向かう。黄前久美子、高坂麗奈も探したい。
1:竜馬が心配。それにイヤに執着するリュージも不安視。
2:『アリア』に対し、疑念。確証はないが、彼女に関しての情報は集めておきたい。
3:情報は適切に扱わなければ……
4:サンセットレーベンズメンバーとの合流を目指す。
5:μについての情報を収集したい。
6:琵琶坂、ウィキッド、無惨に警戒。
7:竜馬の知り合いに遭ったら協力を仰いでみる。
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後、カナメ達とクランを結成した頃からとなります。
※ヒイラギが名簿にいることから、主催者に死者の蘇生なども可能と認識しております。
※彩声の支給品はレインが回収しました。
※『参加者は赤の他人がキャラクターになりきってる』と言う説と、
『それが参加者が折れ殺し合いをするしかない結論をさせる為の罠』説を立ててます。
どちらも確証はありません。(前者の方は辻褄が合い、後者の方は発想の逆転のようなもの)
※梔子と情報交換しました。
ただしウィキッドには仲間であるため細かく説明してません。
【リュージ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:片腕・片目損失。精神的疲労(中)、『ゲッター』への強い忌避感。
[服装]:軍服
[装備]:イケPの二丁拳銃@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-
[道具]:ポルナレフの双眼鏡@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、上やくそうの束@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島(一部消費)、悲鳴嶼行冥の日輪刀@鬼滅の刃(暴走時に竜馬が捨てたのを拾った)
[思考]
基本:『ゲッター』を止める。
0:早乙女研究所に向かう。殺し合い云々以上に、なにを置いても『ゲッター』を止める。隼人には悪いが、竜馬の殺害も辞さない
1:垣根たちと共に『ゲッター』を止めたい。
2:ひとまずは殺し合い反対派の連中に合流したい。
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後です。
※この世界をメビウスのような「フィクション」だと思っています。
※夾竹桃・ビルド・琴子・隼人・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。
※琵琶坂のこれまでの経緯を聞きました。
※気絶中に『ゲッター』の一部を垣間見せられた影響で、『ゲッター』に対して強い忌避感を抱いています。
327
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:39:15 ID:MJ8Oj7d.0
さて。しばしの時間をかけ、大いなる父の遺跡まで辿り着いた垣根たちだが。
「ハズレ、だな」
施設の中を探索したものの、何者かがいた痕跡はあれど、残されたものはなく。
何者かが暴れ、荒れ果てた痕と壊れ果てた鋼鉄の巨人が鎮座しているのみ。
ムネチカはその巨人に見覚えがあれど、操縦が出来る訳でもなければ詳しい訳でもない。
ブチャラティたちや後から着いていったらしいクオンたちもいないならば、もはやここに留まる意味もないと垣根は踵を返そうとする。
「...ちょっと待って。垣根提督、貴方の能力でこの巨人を分解できないかしら」
「どうした、なんか思い入れでもあんのか」
「いえ、思い入れというか、その...なにか作りたい欲求に駆られて...」
「そういえば、麦野殿のアレを作った時もそんなことを言っておりましたな」
麦野が魔王戦において使用した『拡散支援半導体(シリコンバレー)』。
作戦を立てる際、麦野とムネチカから自身の能力を聞かされた時、ふと咲夜の脳裏に『ひらめき』が過った。
咲夜自身にもビルダーになったという自覚は無かったものの、まるでなにかに突き動かされるかのような欲求に駆られ、あのカードを作り上げるに至った。
まるで自分がなにかに汚染されているような恐怖と困惑を感じつつも、害を為しているわけではないので、不本意ではありつつもその欲求に従うことにした。
そして今回も。スクラップ同然になったアヴ・カムゥに触れたことで咲夜の中に欲求が生まれ、本能的に素材として欲したのだ。
「何かをすぐに作りたいだとか、そういうのではないけれど...」
「いいさ。あとからなにかに使えるかもしれねえからな」
垣根は未元物質の羽を広げ、アヴ・カムゥ目掛けて突き刺すと、バラバラと身体が零れ落ちあっさりと分解されてしまう。
その折に。
「ッ!」
「あー...先客がいやがったか」
分解され、その内側を曝け出した中に全身を赤く染め上げ、全身をズタズタに裂かれた白衣の男が眠っていた。
一目で死体だとわかるソレを一瞥し、垣根はブチャラティたちから齎された岸谷新羅という青年の情報を一致させる。
「あいつらの不安視してた通りに、愛人が殺されて暴走した挙句に返り討ちにされたってとこか」
垣根は新羅の惨状にさして動揺もせず、状況を見てそう判断する。
如何にブチャラティたちが案じていたとはいえ、垣根からしてみれば見ず知らずの敗北者。
もしも自分が出会っていたとて、敵に回るのは確実だった相手だ。
そんな輩に向ける情を彼は有していない。
「ま、ちょうどいい。もう使うかはわからねえが、このままサンプルを頂くとするか」
「待たれよ」
新羅の死体を滅し、首輪を回収しようとする垣根をムネチカが留める。
「これ以上の首輪が不要であれば、死者を辱めることはないであろう」
「今更きれいごとか?サンプルなんざあって困るもんじゃねえだろ」
「見よ、この遺体を。惨状とは裏腹に、腕を折り畳まれ眠るように安置されていた。親類か友人か...己が血に濡れるのも厭わず、悼んだ者がいる証拠だ」
「死者を悼む、か。俺たちがコピーかもしれねえってのに、どれだけ意味があるのやら...まあいい」
ムネチカの言葉に感じ入った訳ではないが、死体の処遇で揉めるのも時間と体力の無駄だと判断し、ここは素直に羽を仕舞う。
そんな二人を他所に、咲夜はアヴ・カムゥの残骸を淡々と纏めていく。
「よし...回収は終わったわ」
「おし。ならズラかるぞ」
「待たれよ。この御人をこの場に置いておくことはできぬ。あの布団のある部屋まで運ばせてもらおう」
「おう。時間がかからねえならなんでもいい。さっさと運んで来い」
さすがに丁寧な埋葬までしたいといえば垣根も苦言を呈しただろうが、ただ安置するだけならさして時間もかからないため、ムネチカに許可を下した。
「それで、次に向かう場所はどうするの?」
ムネチカが新羅を運んでいる最中、咲夜は垣根に問いかけた。
「ブチャラティたちもクオンって奴らもどこに向かったかわからねえからな。もう死んでるのかもしれねえし、早乙女研究所に向かって解析屋たちと合流する」
そう方針を決め、新羅を安置してきたムネチカが戻り、研究所へ向かおうとしたその時だった。
彼らの下まで立ち昇る炎柱と轟音が鳴り響いたのは。
328
:
眼光紙背に徹す
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:42:04 ID:MJ8Oj7d.0
【一日目/夜中/E-4/大いなる父の遺跡】
【ムネチカ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:疲労(極大)、全身に火傷や打撲ダメージ(極大)、強い決意、出血(大、火傷による止血済)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ムネチカの仮面@うたわれるもの
[道具]:基本支給品一色、大きなゲコ太のぬいぐるみ@とある魔術の禁書目録(現地調達)、夾竹桃の支給品一式(分解済みのシュカの首輪、素養格付、クリスチーネ桃子作の同人誌、夾竹桃のNETANOTE、薬草及び毒草)
[思考]
基本:アンジュとの絆を嘘にしない。
0:研究所に向かう。黄前久美子、高坂麗奈、ライフィセットも探したい。
1:小生はもう迷わない。
2:志乃乃富士、夾竹桃、麦野沈利、感謝する。
3:ライフィセットや『あかりちゃん』を護る。
4:魔王や流竜馬に最大限の警戒を。
5:あの轟音と炎はまさか―――
[備考]
※参戦時期はフミルィルによって仮面を取り戻した後からとなります
※女同士の友情行為にも理解を示しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。
※アンジュとの友情に目覚め、崩壊していた精神が戻りました。
【垣根提督@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(極大)、全身に火傷や打撲ダメージ(極大)、強い決意、精神的疲労(極大)、出血(大、火傷による止血済)、右腕切断(止血済み)。
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3、ジョルノの心臓から生まれた蛇から取り出した無惨の毒に対するワクチン、ジョルノの首輪、マギルゥの首輪、妖夢の首輪、リゾットの首輪、、土御門の式神(数個。詳しい数は不明)@とある魔術の禁書目録、マギルゥの支給品0〜1、ジョルノの支給品0〜3、顔写真付き参加者名簿、リゾットの支給品2つ
[思考]
基本方針: 主催を潰して帰る。ついでにこの悪趣味なゲームを眺めている奴らも軒並みブッ殺す。
0:早乙女研究所に向かう。ライフィセットも探したいが、首輪の解析も進めたい。
1:あの化け物(無惨)は殺す。
2:リゾットの標的だったボスも正体を突き止めていずれ殺す。
3:未元物質と聖隷術を組み合わせた独自戦法を確立する。道中で試しながら行きたい。
4:異能を知るために同行者を集める。強者ならなお良い。
5:魔王及び流竜馬には最大限の警戒。
6:麦野の最期に複雑な感情。
7:なんだぁ、あの炎は?
[備考]
VS一方通行の前、一方通行を標的に決めたときより参戦です。
※ジョルノ、リゾット、マギルゥの支給品も垣根が持っています。
※未元物質を代用した聖隷術を試しました。未元物質を代用すると、聖隷力に影響を及ぼし威力が上がりますが、制御の難易度が跳ね上がります。制御中は行動が制限されます。
※首輪の説明文により、自分たちが作られた存在なのではないかと勘繰っています。
※ブチャラティ達と情報交換をしました。
※魔王の件が片付くまでの間、麦野と夾竹桃と十六夜咲夜と同盟を組みました
【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(極大)、全身火傷及び切り傷、全身にダメージ(極大)、右目破壊(治療不可能)腹部打撲(再発)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ 、アヴ・カムゥの残骸(ビルダー用素材)
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:遺跡方面に向かうかを決める。
1:ひとまずは脱出の方で動くべきか。
2:今後のことを見据え、遭遇する参加者については殺せる機会があれば殺すが、あまり無茶はしない。
3:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
4:余裕があれば完全版チケットとやらも探す。
5:ヴライや魔王、流竜馬に最大限の警戒。
6:紅魔館...
7:あの炎、まさか...勘弁してほしいわね
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
※オスカー達と情報交換を行いました
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全には分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ビエンフーからこれまでの経緯を聞きました。
329
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/04/25(金) 23:42:32 ID:MJ8Oj7d.0
投下終了です
330
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/06(日) 00:10:36 ID:GZO2V8Ng0
鬼舞辻無惨、神隼人、桜川九郎、ウィキッドで予約します
331
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 00:50:34 ID:SOKjlHhU0
遅れてすみません、投下します
332
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 00:51:34 ID:SOKjlHhU0
首輪の解除コードの手がかりを探すも、結局見つからず行き詰まった隼人たちは、早乙女研究所にある特殊な施設のもとに足を運んでいた。
「あったあった。これがゲッターロボのシミュレータってやつだね」
早苗との情報交換の際に教えられたゲッターロボのシミュレータ。本物ではないにせよ、限りなく本物に近い領域まで体験できるという、なんとも殺し合いという場では奇天烈にすぎる機械だ。
「どうですか隼人さん」
「中は俺たちが乗っているコクピットとなんら遜色はない。どうやら本物のゲッターロボの体験ができるというのも眉唾物ではなさそうだ」
ゲッターに携わり、幾度もジャガー号を操縦してきた隼人の目からしても、再現度は非常に高く作られている。
そして、現状、この三機のシュミレータを操縦できるのは、神隼人、桜川九郎。
「にしてもラッキーだったわさ。都合よくあんたが来てくれるなんてさ、ヴァイオレット」
ヴァイオレット・エヴァーガーデンーーー否、彼女の姿を模した鬼・鬼舞辻無惨である。
☆
ーーー時は僅かに遡る。
ゲッターの化身の猛攻から逃げおおせた彼は、再び他者の姿を模すことにした。
彼の目的は、依然、高坂麗奈の確保。
本来の目的である禰󠄀豆子を食っての日光克服は、ここに連れて来られる前のあの状況からして実現性はかなり厳しくなっている。
無論、自分をおびき寄せる為の餌の側面もある彼女を殺害することはないだろうが、こちらは鳴女や上弦、鬼殺隊は多くの柱と隊士達を失っている現状、更なる時間を要することになるのは確実。その間の繋ぎとして、麗奈にはまだ価値がある。
故に探す。探し出して、仕置きの一つや二つくれてやって完全に支配下に置く。
故に、苛立ちを抱きつつもまだ麗奈を殺そうとはしない。
333
:
因果呪縛
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 00:53:29 ID:SOKjlHhU0
さて。誰の姿を借りるかといえば、既に脱落した者たちと表立って暴れている者たち、そして探している本人である高坂麗奈を除けば、彼の関わった人間は既に軽く数えられる程度にまで減っている。
オシュトル、ヴァイオレット・エヴァーガーデン、ディアボロ、折原臨也、翼の男(名前は知らない)、水口茉莉絵。
まず候補から外れるのは水口茉莉絵だ。鬼にしたというのもそうだが、アレは麗奈と確実に揉めている。現場を見たわけではないが、あの鬼にされても微塵も従う素振りすら見せない狂犬ぶりでは、有象無象の鬼どものように当たり構わず噛みつきまわっていることだろう。そんな女から探していると聞かされても麗奈が従うとは到底思えない。
折原臨也も候補から外れる。そもそも麗奈と関わりが薄いというのもあるが、殺し合いという場においても、息を吐くように人を煽るような人間性からして他者から信用されるとは思えないし、もしかしたら既に犬猿の仲と窺える平和島静雄を筆頭に悪評を撒かれている可能性も高い。
オシュトルの姿はもう信用しない。あの姿を借りて既に二度も襲撃にあったのだ。信用できる要素はどこにもない。
翼の男は名前も知らないため除外。
となると、残りはディアボロとヴァイオレット・エヴァーガーデン。
前者は麗奈と関わりこそはあるものの、偽名すら使って欺こうとした輩だ。それに遺跡にはいなかったため、麗奈が逃げまわっていることすら知らないため、探し回るのも不自然だろう。
となれば、だ。残るは1人。消去法でヴァイオレット・エヴァーガーデンとなる。
彼女も彼女で、最後に見た姿が負傷し倒れていた姿であるため、不安要素はあるが選り好みもしていられない。
「錯乱して自分を傷つけ逃げ出してしまった麗奈を探し保護しようと思っている。負った怪我は支給品で治した」とでも伝えておけばさしたる問題もないだろう。もしそこで不審を抱き噛みついてくるようなら殺すだけだ。
こうして、ヴァイオレット・エヴァーガーデンの姿を模した無惨は、近くにあった早乙女研究所に足を運び、そこで神隼人と桜川九郎、アリアと遭遇したのだ。
「ヴァイオレット・エヴァーガーデンと申します」
本物のヴァイオレット・エヴァーガーデンの名乗り口上は割愛する。彼女の知己はこの会場にはいないと聞いているため、そこに違和感を抱く者はいないからだ。
「神隼人」
「あたしはアリア。参加者の方のアリアじゃなくて支給品なんよ」
「桜川九郎です。ヴァイオレットさんのことは早苗さんから聞いています」
「ーーーそう、ですか。それなら助かります」
無惨は遺跡でヴァイオレットを発見はしたものの、ロクに会話もないまま離れてしまったので、早苗なる人物については微塵も知らない。しかし、最初に遭遇した時の物腰のままの態度であれば、ある程度の参加者と友好関係を築いているだろうと察することかできた。
334
:
因果呪縛
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 00:54:28 ID:SOKjlHhU0
「あなた方が殺し合いに乗っていないと見込んでお話があります」
無惨は語る。
ヴァイオレットーーー自分は最初に麗奈と遭遇し、彼女の手紙を書こうとしていたこと。
それから、向かいたい方角が違うことと、麗奈から友達を探して欲しいと頼まれたために彼女とは別行動をし、後ほど大いなる父の遺跡で再会。しかしそこで起きた騒動に巻き込まれて錯乱した彼女に傷つけられ、今は逃げ出した彼女を保護するために探しているーーーそんな都合よく脚色した顛末を。
「んーー、ごめんけど、麗奈はまだ会ったことないかなぁ。友達の久美子やみぞれとは会ってるんだけど」
「そうですか...では、もし見つけたら私が探していたことと、大いなる父の遺跡へ戻るようにと、どうぞお伝えください」
ぺこりと懇切丁寧なお辞儀をし、踵を返そうとする『ヴァイオレット』。
そんな彼女を隼人は「待て」と呼び止める。
「...なにか?」
「この施設に一つ妙な機械があるらしい。だがそいつは参加者が3人いなければ動かせないときた。ヴァイオレット、お前も手伝え」
「申し訳ございませんが、先を急いでいますので」
「それがこの殺し合いからの脱出に関わっているとしてもか?」
その言葉に『ヴァイオレット』は視線だけを隼人たちに向ける。
「お前は麗奈を保護してやりたいと言っていたが、そもそもこの殺し合いさえどうにかしてしまえばその必要も無くなるだろう。なに、さしたる時間を取らせるつもりはない」
「......」
無惨は考える。
この男の言葉に乗るかどうかを。
優先すべきは高坂麗奈の確保だ。しかし、あの半端者の未熟者のことだ。考えたくは無いが、自分が探している間に野垂れ死ぬのもあり得なくはない。
そうなれば首輪を解除するまでもなく優勝狙いに切り替えるだけだが、あの仮面の男(ヴライ)や狂人(竜馬)のような一筋縄ではいかない連中もいることから、手駒を増やしぶつけ合わせるのも悪く無い。それに、最初にも懸念していたが、素直に優勝したとして、主催の連中が約束を果たすかも疑わしい。ならば、少しでも殺し合いを有利に進められる可能性を見逃すのは愚策だ。
「かしこまりました。15分。それだけはお付き合いさせていただきます」
それを過ぎても悪戯に時間をかけるようなら殺してやる、と心の中で付け加えながら、無惨は隼人たちに同行することにした。
もしも、ここで九郎の不死性に言及があれば、真っ先に無惨は九郎を取り込み、その鬼をも超える不死身性を身につけることを考えただろう。
しかし、妖怪変化の類ならば九郎の異常性は一目で見抜き恐れ慄いたただろうが、無惨の身体に宿す鬼はあくまでも人為的な薬による身体強化。謂わば化学の範疇である。また、九郎の側からしても、彼は妖怪変化の気配を察知するのに長けていない。琴子のように、他者の異様な気配を察することができない。
故に、本来ならば衝突が必至だった彼らの邂逅は、存外、平穏無事に進んだのであった。
335
:
因果呪縛
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 00:58:01 ID:SOKjlHhU0
☆
そして現在。
隼人がゲッターロボシミュレーターや周りの機器を点検している最中、『ヴァイオレット』はキョロキョロと周りを見回していた。
(ふむ。これはなかなか...)
「あの、ヴァイオレットさん」
声をかけられる『ヴァイオレット』の目は機械に釘付けであったが、しかし、声をかけられたことですぐに現実へと引き戻され、ヴァイオレット・エヴァーガーデンらしい無表情に戻る。
「なんでしょうか?」
「いえ。ずいぶん熱心に見ていたので...機械に興味があるんですか?」
「...ええ。私の見たことのないモノばかりですから」
周囲の機械や模型に、無惨は素直に関心を抱いていた。彼は生存のためなら極限的にまで合理的になるが、その一方で海外からの輸入品や外国語、新しい機械を学ぶという趣味も持ち合わせている。
無惨は不変を好み変化を嫌うが、劣化しない限りはその枠組みに当てはまらない。
視野を広く持ち、社会に適応し上流に乗ることこそが永く生きる秘訣だと知っているからだ。
その観点から、無惨の生きる時代にはなかった飛行桶やそのレプリカなどは
興味を惹かれるものばかりだった。
「九郎様はこれらの機器についてのご知識が?」
「いえ、僕もあまり。そもそも、こういったものに触れる機会もあまりないので」
「そうですか」
『ヴァイオレット』は、九郎の返答に少し落胆した顔を見せた。
「よし...準備はできた。ヴァイオレットはイーグル号へ、九郎はベアー号に乗れ。俺はジャガー号へと乗る。...それとこいつも被れ」
指示に従い各々の機体に乗り込む二人に、隼人は機械造りのヘルメットを手渡す。
「これは?」
「電子頭脳だ。こいつを被って身を任せていれば猿でも操縦できる。ご丁寧にオートパイロットまで再現されていた」
「『おーとぱいろっと』...そのような便利な機能があるのですね」
「主催の連中も、殺し合いの中で操縦訓練をしている暇なんざねえことは分かっているらしい」
いくらシミュレーションとはいえ、機械の操縦。ましてや命に関わるとなれば、訓練は必須。殺し合いのなかでそれに費やす時間はハッキリ言って無駄だ。故に、電子頭脳を用いた時間の短縮を測ったのだと隼人は考える。
(そうまでしてシミュレーションなんて用意してあるんだ。主催側からしてもこいつをクリアしてもらいたい目的があるんだろう)
ソレがなんなのかはまだわからない。なにか特別な特典でも貰えるのか、果ては首輪の解除コードか。
少なくとも、こちらが不利になることではないと隼人は直感している。
「隼人さんは電子頭脳は使わないんですか?」
「ああ。慣れれば自分で操縦する方が確実だからな。お前たちは操縦桿を握って座っていればいい。頼んだぞ」
「隼人ー、あたしはどうすればいい?」
「お前は万が一何者かが襲撃してきた時に外に残っていろ」
「なかなか責任重大だね...OK、誰だろうと邪魔なんてさせないわさ!」
他の三人に指示を出し、従うのを確認した隼人は己もまたジャガー号に乗り込む。
「準備は完了だ...ゲッターロボ、発進!!」
336
:
因果呪縛
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 00:59:40 ID:SOKjlHhU0
☆
隼人の掛け声と共に、電子頭脳を通じて無惨の脳に直接情報が叩き込まれ、ゲッターロボの操縦法が身体を通じ学ばされる。
(なるほど。血鬼術でなくともこうまで情報を伝えられるのか)
無惨の生きている時代にはこのような機械は無い。
新鮮な感覚に、無惨は素直に感心する。
そのままモニターを眺めていると、自分の機体の後ろに隼人の機体が着き、高速で迫ってくる。
あくまでもシミュレーションであり、実際に動いているわけではないため、さしたる脅威も感じずそれを眺める。
ガシャン、と派手な音と共に接着すれば、次いで九郎の乗るベアー号がジャガー号の後に着く。そして同様にベアー号がジャガー号の後ろより迫りーーー
●ガシャン!合体成功!!!
『チェ-ンジゲッターワン‼︎』
どういう仕組みかわからないが、三機が接着した途端、画面の中の機体が身体となり、手足が生え、自身が乗るイーグル号が頭部となり、一体の機械造りの鬼が顕現した。
「ほお」
映像の出来事とはいえ、機体の変形合体という、大正時代には存在しない技術と概念に、無惨は感嘆の声を思わず漏らす。
隼人の世界ではこれが現実に起こっているというのだから、海外の文化を積極的に取り入れている無惨にとって中々に趣深いものがある。
「む?」
合体成功の場面から画面が止まり、その中央に文字が表示される。
次のランクに進みますか?
はい/いいえ
『はいを押せ。あとはさっきと同じようにオートで動く』
「かしこまりました」
隼人からの通信指示に従い、はいを押すと、先の合体前の画面に戻り、再びシミュレーションが始まる。
(確かにこれならさしたる時間も取らないか)
一回につき、一分もかからないのであれば、最初に提示した15分の時間もゆうに守ることができる。
(だが、これで何がわかるのか?)
それはまだ無惨にはわからない。だが、おそらく殺し合いに有利になるモノだとは隼人の言だ。故にこうして大人しく付き合っているのだ。
果たしてこれが何を示すのかーーー そんな疑問を胸中に収めつつ、無惨は流れに身を任せるように機体を操作した。
337
:
因果呪縛
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:00:19 ID:SOKjlHhU0
☆
●ガシャン!合体成功!!!
『チェ-ンジゲッターワン‼︎』
次の合体も成功し、次のランクに進むとさすがに負荷も自覚してくる。
実際に動くわけではないオートプレイとはいえ、もしも自分が不死身でなければ流石に危機感を覚えていただろうと九郎は思う。
飛行機の衝突事故は知識としては知っているし、高速で動く物同士がぶつかればどうなるかは容易く想像がつく。
(隼人さんたちはこんなことを何度もやっているのか)
自分とは違う生身の人間が、こんな交通事故のような危険を犯してまでなにを成そうとしているというのか。
そうまでして成したいことがあるのか。
気にはかかるが、それはさして彼を知らない自分が踏み入ることではないと九郎は思い直す。
この時までは、そう思っていた。
338
:
因果呪縛
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:01:01 ID:SOKjlHhU0
☆
●ガシャン!合体成功!!!
『チェ-ンジゲッターワン‼︎』
「次で最後か」
ランクが上がるにつれ、負荷がかかっていくのを自覚し、確かにこのシミュレータは本物のゲッターロボを操縦するのに限りなく近い感覚を得られるのを実感する。
(ここまででは俺にはさしたる恩恵はないが、ヴァイオレットと九郎は本物のゲッターに乗せてもある程度は動かせるようにはなっただろう。だが、それだけなのか?)
いくらこのシミュレータを通してゲッターロボの操縦を学んでも、それがこの殺し合いにおいてなんの役にたつというのか。あるいはその先になにかあるというのか。
それをいま、見極める。
いくら身体に負荷が増そうと、普段からかけられているモノであるため、隼人の操縦に狂いはない。
●ガシャン!合体成功!!!
『チェ-ンジゲッターワン‼︎』
これまで通りに操縦し、難なく合体を完了する。
「ふぅ」
一通り終わったーーーそう息を吐くのも束の間。
モニター画面にノイズが走り始め、文字が浮かび上がる。
---ゲッターの深淵に踏み込みますか?
はい/いいえ
「...こいつは」
これまでと異なる項目に隼人は無意識に呟く。
『いかがいたしましょう?』
『ヴァイオレット』からの通信に、隼人は
「無論だ。はいを押せ。九郎、お前もだ」
『わかりました』
迷わずはいを押す。
---本当に踏み込みますか?
はい/いいえ
まるで警告のように表示される項目。
どういった理屈で表示され、なにが引き起こされようとしているのか不明だが、それでも隼人はためらうことなく「はい」を押す。
瞬間。
「っ!?」
彼の視界を覆う全てが一変した。
339
:
因果呪縛
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:01:57 ID:SOKjlHhU0
☆
真っ赤な空だった。
人が作り上げた文明の寿命を示すかのように荒廃し倒壊したビルの群れ。その中心に、彼は、隼人はいた。先ほどまで乗っていたシミュレータも、早乙女研究所も無く。
ただ1人で廃墟の一室にいた。
「応答しろ、九郎、ヴァイオレット!!」
隼人が呼びかけるも返答は無い。
なにがどうなっていやがる。そう困惑するのも束の間。
機械の群れが降り注ぐ。降り注ぐ。地べたから湧いて出る。そしてーーー喰らい合う。
互いが互いに破壊しあい、 喰らい合い、 殺し合う。
敗者は残骸として地に打ち捨てられ、勝者は敗者を取り込み強大になっていく。
「これは、なんだ」
ただ目の前で繰り広げられる地獄を前にし、隼人は驚愕するしかなかった。
惨劇自体もそうだが、それ以上に。
集い、殺し合っている機械たち全てに見慣れた面影を感じずにはいられない。
隼人がこれまで操縦してきた、『ゲッター』の面影を。
「まさか、これは」
隼人の脳裏に一つの仮説がよぎる。
この光景は、この惨状は、この地獄はーーーゲッターが引き起こしたものではないかと。
そんな馬鹿なと一蹴したいところだが、しかし、目の前の光景はそれを肯定するに充分すぎるものだった。
「ゲッター線...これが、お前が望んだ俺たちの未来なのか?」
鬼相手ではなく、同種同族で喰らい合い、進化していく。その光景に隼人はーーー
(見てみたい...ゲッターが何を求め、どこまでゆくのかを!!)
嫌悪以上に、胸を躍らせていた。
そして。隼人が『ゲッター』の群れの中へと足を踏み出そうとしたまさにその時。
空が割れた。
地が悲鳴をあげ、大気がその全身を震わせる。
天より、笑い声が響き渡る。
その声に内腑から掻き乱されるような感覚の中、彼が意識を保てたのはその数秒後までだった。
意識が急速にブラックアウトしていく中、聞こえてきたのは。
天より降下し、哄笑と共に響き渡る、聞き慣れたその声は。
『チェーンジゲッターワン!!』
宇宙を震撼させるその声は、まさしく流竜馬のものだった。
340
:
因果呪縛
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:02:56 ID:SOKjlHhU0
☆
「隼人ー、九郎ー、ヴァイオレットー?終わったのー?」
コクピット越しにかけられる声に意識が覚醒する。頬を伝う冷や汗と脂汗を掌で拭い、コクピットの席から腰を上げる。
「あ、起きた。シミュレータはどうだったのよ?」
(なんだいまのは...夢、か?)
抱きかけた疑問を己の中で否定する。あれは夢などという生優しいモノではない。未来だ。確かに起こりうる未来であると、隼人は断言できる。そう、己の感覚が告げている。
「アリア...俺の応答がなくなってからどれぐらい経った」
「ほへ?んー、ざっくり20秒くらい?」
あの地獄を見ていた時間と、こちらで沈黙していた時間の差異はかなり大きい。
少し遅れて、目眩を抑えるように掌で抑える九郎が、呆然とした表情を浮かべる『ヴァイオレット』がコクピットから降りてくる。
「隼人さん...」
「......」
なにかを言いたげな2人の様子に、彼らも自分と同じものを見たのだと隼人は確信した。
「えっ、なになに?なんかあったのあんたたち?」
なにも知らないアリアは心配げに三人の顔を覗き込みながらうろちょろと飛びまわる。
「...隼人様、九郎様」
ほどなくして、『ヴァイオレット』が口を開き。
「お伝えしたいことがございます」
あの地獄を見た者として、二人に告げた。
341
:
因果応報
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:04:20 ID:SOKjlHhU0
☆
異常者。
それは鬼舞辻無惨が嫌悪する存在だ。
自らの平穏を投げ捨て、復讐などという無利無益極まりない愚行に生を注ぐ鬼狩り共。
自らの力を振るうことしか眼中にない野蛮人共。
そしてーーー文明や社会といったもの全てを虚無に引き摺り込む、存在するだけで害悪極まりない男。
鬼舞辻無惨にとって、早乙女研究所に着く前に戦った男ーーー流竜馬というらしいーーーは、これまでの長い生の中でも頭抜けて災厄であり害悪であった。
かつて、最も自分を追い詰めた縁壱(バケモノ)ですら、自分を殺せる力をありながらも、個の範疇でしか自分を害さなかった。寿命という枷には抗いきれなかった。だから雲隠れすれば逃げ切れた。
流竜馬は違う。アレを相手にすれば、逃げたところでその土地丸ごと消し飛ばしてしまう。そんな類の災厄だ。関わるべきではない。
だから、アレの相手は隼人と九郎に押し付けることにした。
遠目で見ただけだが、あの地獄を作り出した男・流竜馬は、誰ともわからない男を嬉々として殺し、暴れ回っていたと嘘を混ぜ込んで。
しかも話を聞けば、神隼人は竜馬と知己ときた。尚更、アレの責任は貴様が取れと言いたくなる衝動を堪え、ヴァイオレット本人のように丁寧に対応した。
そんな無惨が足を運んでいたのは、病院だ。
別れ際、隼人と九郎に『麗奈は身体を化け物に変えられた可能性がある。もしも飢餓状態に陥り、暴走していたら
病院にある参加者の肉体ストックを食わせて落ち着かせておくといい』と教えられたからだ。
ちょうどいい、と無惨は思った。
無惨も病院から始まる連戦にかなり消耗していたところだ。
まだ限界ではないものの、ここで補給しておいて損はない。
そうして病院まで足を運んだのだが、その荒廃しきった有様には、さしもの無惨も驚きを隠せなかった。
342
:
因果応報
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:05:07 ID:SOKjlHhU0
(……ここまでとはな)
一度は訪れた病院が、無惨が想像していた以上に荒れ果てていた。
壁や天井は穴だらけで、至る箇所に瓦礫や血飛沫が飛び散っており、焼け跡までも多く残されている。自分たちが戦った時でもここまでの惨状では無かった。
焼け跡から、先に戦った仮面の男を想起し、これだから戦うしか能のない野蛮な猿は嫌いだと舌打ち混じりに思いながら、『ヴァイオレット』の姿のまま、病院へと足を踏み入れた。
隼人たちの言っていた身体ストック室はすぐに見つかった。既にここで用を済ませた者がいたのか、多くが姿を消し、あるいは肉片としてぶちまけられていたものの、無惨がそれに嫌悪を抱くことはない。
(神隼人と桜川九郎以外にも、高坂麗奈が鬼と化したことを推測している者たちはいるらしいが、連中が連れてきたのか?)
無惨が確認している鬼は累、麗奈、水口茉莉絵の三名。
累は第二回放送の前にこの手で殺したし、その時まではまだこのストック部屋は存在が秘匿されていたと聞く。こんな部屋の存在をあからさまな危険人物である茉莉絵に話すとも思えず、消去法で麗奈が隼人たちの仲間の誰かに保護されここで食事を済ませたと考え、無惨はようやく一つ肩の荷が降りた気持ちになった。
とはいえ、殺し合いに乗らない集団に麗奈が囲まれていること自体は予想はしていたものの面倒な部類ではある。
落ち着いた麗奈からも自分の悪評を吹き込まれていることだろう。
(まあ、いい。引き渡さなければ殺すだけだ)
ともあれ今は補給だ。無惨は自分も食事を取ろうと目の前の肉体に手を伸ばした。
「何にも護れないポンコツ人形みぃ〜つけたぁ♡」
刹那、そんな囁きと共に、小さな円形のモノが転がりーーー『ヴァイオレット』の足元で、小規模な爆発が起きた。
343
:
因果応報
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:06:42 ID:SOKjlHhU0
「ッ!?」
両脚の肉が焼け千切れ、鮮血を撒き散らしながら『ヴァイオレット』は床にその身を転がせる。
「場も落ち着いたし、改めて栄養補給しようと思ったらさぁ、これまた都合よくいてくれるじゃんかぁ!私のクソムカつくオモチャがさぁ!!」
狂喜の笑い声を高らかにあげながら『ヴァイオレット』のもとに現れるのは、水口茉莉絵ーーーもとい、ウィキッド。
鬼が肉を喰らえる量は、基本的に強さに直結する。
だんだんと肉を食らえる量が減ってきた響鼓などは、下弦から降ろされるほどに実力が不足しているのに対して、上弦の弍である童磨などは、栄養価の高い女の肉を何人分も平気で平らげる。鬼の始祖である無惨などは、飢餓状態であったことを加味しても、何十人もの人間を容易く喰らうことができる。
ウィキッドもまた、その性質が反映されていた。
ーーー稀血。
滅多に現れない、鬼にとって非常に栄養価の高い血液型の持ち主のこと。
これを食えば、1人で何十人何百人分の人間を食った時と同等の栄養価を得られる。
ヴライはその稀血では無かったものの、彼の体内に宿る火神(ヒムカミ)の加護はそれに近い栄養価が含まれていた。
既に死後であったため、火神の加護も消えつつあったため十全の栄養ではないものの、それでも鬼としてのウィキッドを次なるステージに進められる程度には残っており。
ヴライの屍肉ごとそれを取り込み強化されたウィキッドは、まだ足りないと手持ちの肉を平らげた。
しかし、ヴライのように死んですぐならばまだしも、生命の通わない肉では、やはり効果は薄く。もっと持ってきておいた方が良かったかと少しばかり後悔し、再び人肉を求め、病院へと走った。
そして、再びストック部屋に辿り着いた時、『ヴァイオレット』の姿を見つけ、手榴弾による奇襲をかけたのだ。
「きさ、ま...!」
「キサマぁ?ずいぶんきたねえ言葉遣いするようになったじゃんかぁ、ええ?さすがに余裕なくなってきたのかァ?ざぁんねん、あのクソムカつく澄まし顔をもういっぺん見せてほしい、なぁッ!!」
今までのヴァイオレットと違い、歯を食いしばり怒りを露わにする彼女を見おろし、ウィキッドは嘲り笑いながらその顔を蹴り上げ、踏みにじった。
「っ、が...!」
呻く『ヴァイオレット』をウィキッドは何度も蹴りつけながら、その顔を踏みつける。
しかし、鬼の力であれば容易く頭蓋を粉砕させられるにも構わず、ウィキッドは加減して『ヴァイオレット』を甚振る。
何故か。見せつけてやりたいからだ。自分の目の前で、綺麗事の茶番劇を繰り広げた女に絶望という名のスパイスを。
344
:
因果応報
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:08:25 ID:SOKjlHhU0
「あんた1人でここまで来たってことはぁ、折原臨也とかはほったらかして来たのかぁ?お嬢様ぁ、お嬢様ぁって喚いてさぁ。その麗奈お嬢様はあんたのことなんてこれっぽちも気にかけてなかったってのに滑稽だねぇ」
「っ...お嬢様、の場所を...」
食いついた。ウィキッドはニィ、と口角を邪悪に吊り上げ心を踊らせた。
「あ〜知ってるわぁ、知ってる知ってる。ちゃぁんと教えてあげますよぉヴァイオレットさん♩」
鼻歌でもひとつ歌い出しそうなほどの上機嫌さで語り出すウィキッドに嫌な予感を抱きながらも、まだ確定していないと己に言い聞かせ、彼は『ヴァイオレット』であることに努める。
「このクソ女、高坂麗奈は、あんたの知っての通り、月彦に鬼にされて逃げ出したあと、お友だちの久美子ちゃんとイイ仲になったみたいでぇ...あぁん、久美子だいすきぃ、ヴァイオレットさんなんていーらない、ぶっちゅ〜」
ウィキッドは側にあった麗奈と久美子の肉体ストックを片手ずつにひんづかみ、両手につける手袋人形のようにその顔同士を乱雑に擦り合わせ、『ヴァイオレット』に見せつけるように唇同士を付け合う。
ビキリ、と『ヴァイオレット』の額に青筋が走るのを魔女は見逃さない。
「それでぇ、あんたも知っての通り、なんのかんのと大混戦で離れ離れになっちゃった高坂さんは久美子ちゃんを探して素っ裸のお間抜け面で全力疾走!久美子ぉ、久美子ぉ〜!」
麗奈の肉体の制服を引き裂き、露わにされた果実をわざとらしくぶるんぶるんと揺らし、見せつけるウィキッド。
ビキビキと更に額に筋を立てる『ヴァイオレット』をケラケラと嘲笑い、彼女は告げる。
「そして燃え盛る火の森を抜けた先には愛しの久美子ちゃん!会いたかったよぉ、久美子ぉ!久美子ぉ!!発情した高坂さんはもう盛りきった犬みたいに久美子ちゃんに飛びついてまたぐら濡らして腰ヘコヘコ」
麗奈の肉体を前後に揺らし、カクカクと腰を振らせ、久美子の肉体に押し付けて弄ぶ。
「このまま二人で百合の花を咲かせてハッピーエンド、ちゃんちゃん...の、はずでしたがぁ、一転、背後から久美子ちゃんの声が!なにしてるの麗奈!?なんとびっくり、久美子ちゃんが二人に!そうです、高坂さんが久美子ちゃんだと思って発情してたのは、黄前久美子の変装をして魔女だったんで〜す!そして」
久美子の肉体から手を離し、空いた手で麗奈の首を薙ぎ、身体と分離させ、生首と化した麗奈を『ヴァイオレット』に見せつける。
「哀れ、色ボケ発情クソ女は、間抜けづら晒しながら、魔女に食べられちゃいましたとさ。お〜しまい♡」
ブチリ、と今にも血管がはち切れそうなほどに筋張った『ヴァイオレット』の目の前で、ウィキッドは大口を開けて麗奈の顔に齧り付く。
345
:
因果応報
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:09:11 ID:SOKjlHhU0
久美子の前でやったように、誰もが目を惹かれる美貌に歯を突き立て、肉を食いちぎり、骨を噛み砕く。
皮の奥に隠されていた繊維や肉が覗き、グロテスクな内容物を曝けさせた麗奈の頭部を振り回し、口に含んだ血を激しく吹きかけながら、ウィキッドは『ヴァイオレット』を見下し、嗤った。
「キャハハハハ!あんたも哀れだよねぇ!こぉんなカス女にお嬢様、お嬢様って尽くしてさぁ!まあ安心しなよ私の腹の中で、私の糞になって出てくまで、ずっと罵り合わせてやるからさぁ!!」
かつてないほどに怒りを露わにする『ヴァイオレット』に、ウィキッドはこれ以上なく上機嫌だった。
何があっても味方だの。私が必ず護るだの。誰も死なせたくないだの。
ウィキッドにとって、口を開けば綺麗事ばかり宣うヴァイオレット・エヴァーガーデンはこれ以上なく嫌悪するタイプの人間だった。
だから、彼女は全力でヴァイオレットを否定する。愚弄する。嘲笑う。そして絶望に染め上げてから殺す。
それが彼女の存在意義であり欲望だから。欲望を我慢できないのが、水口茉莉絵という女だから。
「それとも命乞いでもしてみるかぁ!?私は誰も守れなかった何の価値もない蛆虫だから殺さないでください、とかーーー」
「もういい。口を開くな」
だから彼女は、いつだって最後の一手を見誤る。
346
:
因果応報
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:10:41 ID:SOKjlHhU0
ウィキッドの知るヴァイオレット・エヴァーガーデンのものではない声が耳に届いたその刹那だった。
ウィキッドの腹部に風穴が空いた。
「がっ!?」
血反吐を撒き散らし、己の腹部を貫いたのが、見覚えのある触手であるのを認識すると、ウィキッドはその場に尻餅を着く。
鬼であるため、この程度では死なないが、しかし、再生にかかる数秒間は立つことすらままならない。
その数秒間の間に、先程まで上機嫌だった気持ちはすっかり別の色に塗りつぶされた。
「貴様の無能さには呆れて言葉もでない」
もしも、これがヴァイオレット・エヴァーガーデンがただ反撃してきただけならむしろ喜んでいただろう。神崎・H・アリアにしたように、多少の反撃でいい気になったところを絶望に染め上げてから殺す楽しみができたからだ。
「なぜ高坂麗奈を殺した?奴は貴様の生命線でもあったというのに。貴様からはデジヘッドとやらのことを聞こうと思っていたがーーーもうどうでもいい。貴様には何も期待しない」
いま、起きているのは違う。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を模っていたものが、ゴキゴキと音を立てながら姿形を変えていく。
「今まで何体も鬼を生み出して来たが、貴様ほどの出来損ないは初めてだ」
見下ろしてくる目と、視線がかちあった時、ウィキッドの心臓が締め付けられるような感覚を覚える。
知っていたからだ。
その紅梅職の瞳と猫のように縦長の瞳孔は自分の身体をこうした張本人のものであり。
「死ね。貴様は存在してはいけない生き物だ」
『鬱陶しいんだよ、クソ、死ね!』
憎悪と侮蔑に塗れた、へばりつく泥のような視線は、かつて親だった者に向けられたモノだから。
「ク、ソ、ワカメ、がぁ!!」
脳裏によぎった影を誤魔化すように、叫びと共に手榴弾を構えーーー刹那、四肢が貫かれ、瞬く間に不恰好な達磨が出来上がる。
(バカが、こんなもんすぐに再生してーーー)
あかりにしこたま撃ち抜かれた時のように、身体を再生させようとするも、治らない。いや、治ってはいるが、かなり再生が遅いのだ。
「私が生み出した鬼を、殺す術を知らないと思ったか?」
茉莉絵の思考を読み取ったかのように、鬼舞辻無惨は侮蔑の目を向け告げる。
鬼を殺すには頸を斬るか日光に晒すしかない。再生限界はあれど、それで死に至るわけではない。
しかし例外は存在する。
鬼の始祖たる鬼舞辻無惨。彼だけは、上記以外の殺し方を知っているため、任意で鬼を殺すことができる。
先の戦闘で無惨が鬼化直後のウィキッドを殺せなかったのは、デジヘッドについて聞き出そうとしていたこと、そしてお互いに第二の支配者たる高坂麗奈によるデジヘッド化現象が進んでいたため、完全な鬼ではなかったため無惨による鬼の殺し方に当てはまらなかったという、二つの幸運が重なっていたにすぎない。
だが、無惨がデジヘッドについての知識に見切りをつけ、麗奈が死んだことで彼女から受けていた恩恵が無くなれば、その幸運はたちまちに消え失せる。
もしも、ウィキッドが麗奈を生かしたまま捕らえていれば、無惨と交渉する余地もまだあったというのに。
因果応報。
鬼舞辻無惨がウィキッドを鬼にしたことで、竈門禰󠄀豆子以外の太陽を克服する手段を失い。
ウィキッドが先の見通し無しに高坂麗奈を殺したことで、鬼舞辻無惨はウィキッドの処刑を敢行すると決めた。
互いに、己の身から出た錆である。
347
:
因果応報
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:13:04 ID:SOKjlHhU0
(クソ、ふざけんな!ようやくここからだってのに、こんな、こんな...!)
気づくべきだった。
あれだけボロボロにしたヴァイオレットが、目立った傷もなく復帰していたこと。
折原臨也どころか、誰1人として側にいなかった不自然さに。
だが、既に一度、臨也に支給品で傷を癒やされたことから、そういう支給品があったのだろうと決めつけ、自身がへんげの杖を使っていたことから、他者の姿に変身できる支給品などそうそうあるものではないと思い、自力で出来る肉体変化の可能性など微塵も考えが及ばなかった。
それでも本来の彼女ならばまだ気づけたかもしれない。しかし、鬼となったために、思考は欲望をより過激に満たすのを優先するようになり、己の視野も狭くなっていたために、己に都合よく状況を補完し。目の前の『ヴァイオレット』がなぜ怒っていたのかも思考が及ばず読み違えてしまった。
もぞもぞと蠢くウィキッドに構わず、無惨はその触手を振りかぶる。言葉すら交わす価値などないと言わんばかりに、その頭部を弾けさせる為に殺意を込めて。
その無慈悲な暴力に。
一方的な蹂躙に。
父の。母の。祖父の。
憎悪と嫌悪に塗れた拳が脳裏に想起され。
「死ね、よ、クソ共がぁ!!」
ウィキッドは、衝動のままに、己の口から手榴弾を吐き出し、爆発させた。
激しい爆発は、煙塵を巻き上げ、無惨の視界を塞ぐのと共に、その身体を焼き付ける。
その衝撃に、無惨の身体は後方に吹き飛ばされ、ウィキッドもまた、胸部から上を残して彼方に吹き飛ばされる。
ぼとりぼとり、と地面を跳ねる最中にその身体が再生し、四肢を取り戻す。
(なんで...そうか、あいつに攻撃されたら再生が遅くなるのか)
今の自爆は、カナメ達にも使った緊急避難方法だが、どうやら自分で自分を攻撃したことで無惨による攻撃を上書きして自傷したことになったらしい。本来ならばできないことだが、いまの彼らはデータで構築された存在だからできた荒技だ。
もちろん、ウィキッドにそんな理屈などわからないが、今はそれだけ分かればいいと割り切り余計な思考を削る。
(クソッ、力をつけたと思ったのにまだ足りないのかよ!)
ウィキッドはヴライの肉体を食い、仮面も着けて確かに強くなった。
手榴弾の威力も底上げされている。
だがそれまでだ。
ウィキッドの手榴弾に仮面と火神の力を足してもなお、ヴライの操っていた炎の術には及ばない。
同じ仮面を着けた者でも、ヴライとは違い鬼舞辻無惨に迫ることはできない。
当然だ。
仮面の力を引き出せる漢と引き出しきれない女という違いではない。
仮面の力は、文字通り己の命を削って解放されるモノである。
そのリスクを鬼という性質で踏み倒す不届き者に、仮面(アクルカ)が、ましてやヴライという己の魂すら戦に捧げてきた者とあり続けた仮面が微笑むはずもない。
先程まで上機嫌だった気分もすっかり鳴りを顰め、これだけやっても敵わないと自覚すると、ウィキッドは一目散に逃走する。
その背後より迫る触手に貫かれる度に、手榴弾で自傷と牽制をしては、ヨタヨタと地を這うようにみっともなく逃げ続ける。
だがこれも永遠に続けられるわけではない。無惨の攻撃よりはマシだとはいえ、自傷するにも消耗は発生する。
このまま続けていれば、確実に力尽きるのはウィキッドだ。
因果応報、諸行無常の鬼ごっこ、ここにて開幕。
348
:
因果応報
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:14:18 ID:SOKjlHhU0
【D-6/病院/真夜中】
※ウィキッドが逃亡しました。どこへ向かっているかは次の書き手の方にお任せします。
【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(極大)、全身ダメージ(大)、苛立ち(絶大)、『ゲッター』への嫌悪感
[服装]:ペイズリー柄の着物
[装備]:シスの番傘@うたわれるもの 二人の白皇(麗奈の支給品)
[道具]:不明支給品1〜3、累の首輪、鈴仙の首輪、オスカーの首輪
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない
0:ウィキッドを追いかけて殺す。使えないゴミめ。
1:麗奈確保の為の人員として、他人の姿で他の参加者を利用するつもりだったがもういい。私の邪魔をするものは殺す。
2:太陽克服のカラクリを究明するため、ウィキッドから『デジヘッド』の情報を吐かせるつもりだったが必要ない。やつからの情報などなんの価値がある。
3:逆らう者は殺す。もう隠れる必要もない。
4:『ディアボロ』の先程の態度が非常に不快。先程は踏みとどまったが、機を見て粛清する。よくも私に嘘をついたな。ただでは殺してやらない。
5:垣根、みぞれ、オシュトル、ロクロウ、臨也は殺しておきたいが、執着するほどではない。
6:あの獣共(ヴライ、竜馬)とは、二度と関わらない。特に『ゲッター』。頼むから死んでくれ。
[備考]
※参戦時期は最終決戦にて肉の鎧を纏う前後です。撃ち込まれていた薬はほとんど抜かれています。
※『月彦』を名乗っています。
※本名は偽名として『富岡義勇』を名乗っています。
※ 『危険人物名簿』に記載されている参加者の顔と名前を覚えました。
※再生能力について制限をかけられていましたが、解除されました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※ 攻撃強化スキル『ロジックマイト』を発動できるようになりました。無惨自身の生命が脅かされ、それによるストレスが蓄積された状態になると、無自覚に発動します。
※ゲッター線の生み出した地獄を垣間見ました
【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:鬼化、食人衝動、疲労(極大)、無惨への殺意(極大)、臨也とあかりへの苛立ち
[服装]:
[装備]:ヴライの仮面(罅割れ、修理しなければ近いうちに砕け散る)@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2 、アリアの支給品(不明支給品0〜2)、キースの首輪(分解済み)、キースの支給品(不明支給品0〜1)、カタリナの布団@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…、北宇治高等学校職員室の鍵、参加者の人肉(複製品)多数@現地調達、ヴライの支給品2つ
[思考]
基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ
0:クソッ、クソッ!なんでこうなる!
1:無惨を殺したい。絶対に。
2:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。
3:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。
4:臨也がとにかく不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。
5:私を鬼にしただぁ? 元に戻せよ、クソワカメ。
6:覚えてろよ、間宮あかり。必ず殺してやるからな
7:人形女(ヴァイオレット)も殺す。
8:久美子に関しては、散々玩具にしてやったから、もうどうでも良いかな。ご馳走様〜♪
[備考]
※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。
※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。
※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読んでおり、覚醒者『006』は麗奈、『007』は無惨が該当すると認識しております。
※ へんげのつえは破壊されました
※ 麗奈、ヴライの屍肉を食べました
※ どこに向かっているかは、次の書き手様にお任せします。
349
:
因果宿業
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:15:42 ID:SOKjlHhU0
☆
「隼人さん、どこへ行くんですか」
ヴァイオレットーーーもとい、無惨から、竜馬と大いなる父の遺跡で見たというレポートとサイトの存在を伝えられてから、九郎は早速備え付けのパソコンを使いレポートとサイトを確認しようとしたが、隼人は目もくれずに踵をかえし何処へと向かおうとしていた。
「サイトはお前が見ておけ。俺は地下に行く」
「いや、僕はそこまで機械に強いわけじゃないんですけど。地下になにがあるんです?」
「......」
隼人は無言のまま、振り返ることなく階下へと降りていく。
「ほんとどうしちゃったのよ。シミュレーション終わってからなんか変じゃない?」
「......」
一瞥もせずに降りていく隼人の背中が、どこか操られた人形のように思えて。
どうせこの場にいても自分でサイトをハッキングするなど無理だと判断し、九郎は隼人の後を追っていく。
「...ゲッター、ですか」
追いつき、かけられる声に隼人の足がぴたりと止まる。
「隼人さん。僕もあなたやヴァイオレットさんと同じ光景を見ました」
不死の身体や妖怪変化魑魅魍魎に深く関わる岩永琴子との長い付き合いからか、彼は己の生死というものに頓着が殆どない。
そんな彼をしても、先のゲッターにより見せられた光景には吐き気をもよおし恐怖心を刻みつけられた。
アレには関わるべきではないーーーそう、魂から警鐘を鳴らしている。
「隼人さん。ゲッターにはもう関わらない方が...」
「ふざけるな」
しかし、隼人は九郎の忠告をピシャリと跳ね除ける。
「ゲッターを解き明かすことが俺の全てだ。あんなものを見せられた程度で止めてたまるか」
「けど、行き着く先がアレなら」
「九郎」
足を止め、隼人が振り返る。
その眼を見た瞬間、ぞわりと九郎の背筋に悪寒が走った。
「何度も言わせるなよ。ゲッターを解き明かすことが俺の全てだ。そいつを邪魔するなら、誰であろうと容赦はしない」
その双眸に、今までは無かった螺旋状の緑光が走っていた。
「ッ!」
同じだ。
あの地獄で垣間見た、流竜馬の目と。
「ちょっと隼人、らしく無いじゃんか。あたしはその変なの見てないからわかんないけどさ、今までのあんたなら、ヴァイオレットに教えてもらったレポートとかを優先してたじゃん」
「......」
アリアの言葉のあと、九郎としばし目を合わせたあと、隼人は目を閉じ、再び開ける。
すると、先程まで彼の目に宿っていた緑光は消え去っていた。
そんな彼の変遷を見て、九郎は漠然と不安を抱く。
シミュレーションを通じて見た地獄の如し未来。あれは明らかに秩序の範囲外にある存在だ。
あの地獄を作るのが流竜馬であるのならば、それを岩永琴子が、知恵の神が知ったらどうするだろうか。
(排除するだろうな、岩永なら)
考えるまでもない。排除に舵を切るだろう。
そしてそれは、ゲッターの危険性を目の当たりにしながらも邁進を止めようとしない隼人もだ。
(...敵対するかもしれないな、彼らとも)
隼人が戦う意味がゲッターならば、自分の戦う意味は岩永琴子のためにある。
普段こそおざなりに扱ってはいるものの、彼女のような存在は幸せになるべきだと本気で考えている。
だから自分が不死身の怪物であるのは彼女の側にいる上で必要だと受け入れているし、手放そうとも思っていない。
『ゲッター』の生み出す未来に琴子の幸せなどあるはずがない以上、それを求める隼人もまた敵になる。
(できれば、そうならないことを祈りたいけども)
まだ会って数時間の短い関係だが、それでもこの殺し合いの解決に立ち向かう仲間でもある。
九郎は感情の起伏は少ないが、情が全くない少年ではない。
だから、協力してきた人たちと争うことはしたくないし、殺したくない。
未だ、パソコンのもとに戻ろうとしない隼人に、なるべく穏便に済ませたいものだと思いながら、九郎はあとを追うのだった。
350
:
因果宿業
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:16:10 ID:SOKjlHhU0
ーーー轟音。
それはあまりにも唐突だった。
けたましい音を響かせ、振り返った隼人の前でぐちゃり、と鈍い音を立てて赤い花が咲き誇った。
破壊された壁が、九郎を押し潰したのだ。
隼人は目を見開くもーーーすぐに『それ』を見据える。
「え、ちょ、九郎!?嘘でしょ九郎!?」
「九郎。まだ死んでないな」
顔を青ざめさせ、慌てふためくアリアとは対照的に、隼人は冷静に九郎へと声をかける。
「死んではいますね」
ぐじゅぐじゅと肉片を蠢かせながらそんなことを言い再生する九郎を一瞥し、隼人は再びソレに視線を移す。
「いずれこうなるとは思っていた」
無言で腕を上げ、アリアに乗るように促す。
「ゲッターを求める俺と、ゲッターに求められるお前...いずれ、戦うことになるだろうと」
アリアは戸惑いつつも、無言の指示に従い、腕にしがみつくと、隼人はカタルシスエフェクトによるドリルを発現させ、叫ぶ。
「俺の邪魔をするなら容赦はせんぞ...竜馬ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ーーーーーーー!!!」
隼人の叫びに呼応するかのように咆哮し、砂塵を吹き飛ばしーーー『ゲッター』の化身、流竜馬が姿を現した。
351
:
因果宿業
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:17:14 ID:SOKjlHhU0
【D-8/早乙女研究所/真夜中】
【流竜馬@新ゲッターロボ】
[状態]:ダメージ(大、再生中)、疲労(大、再生中)、ゲッター線同化による暴走、自我消失。
[服装]:
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本方針:全てを壊す。
0:強者を喰らい進化する。
【神隼人@新ゲッターロボ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(絶大)、出血(大)、カタルシス・エフェクト発現
[役職]:ビルダー
[服装]:普段着
[装備]:ミスタの拳銃@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、ミスタの拳銃(ビルドの作った模造品)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、浜面仕上の首輪、錆兎の首輪(分解済み)、ビルドの支給品0〜2、ビルドの首輪、霊夢の首輪、マロロの首輪
[思考]
基本方針:首輪を外して主催を潰し帰還する。
0:ゲッターの全てを解き明かすのは俺だ...竜馬!!
1:ものつくりの能力を利用し有利に立ち回る。現状、殺し合いに乗るつもりはない。
2:主催との対決を見据え、やはり首輪のサンプルはもっと欲しい。狙うのは殺し合いに乗った者、戦力にならない一般人(優先度は低い)。
3:竜馬と合流する。
4:無惨、ウィキッド、ヴライを見つけたら排除。
5:ベルベット、夾竹桃、麦野、ディアボロ、琵琶坂を警戒するが判断保留。
6:静雄とレインと再会したら改めて情報交換する。
※少なくとも平安時代に飛ばされた後からの参戦です
※幻想郷の大まかな概要を聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※カタルシス・エフェクトに目覚めました。武器はドリルです。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※ゲッター線の生み出した地獄を垣間見ました
【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 静かに燃える決意、魔王ベルセリアに対する違和感、ゲッターへの嫌悪感
[服装]:ホテルの部屋着(上半身の部分はほぼ全焼)
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×1〜3、スパリゾート高千穂の男性ロッカーNo.53の鍵
[思考]
基本:殺し合いからの脱出
0:あれが流竜馬...いや、ゲッター...!
1:あの彼女(魔王ベルセリア)、何とかしかければ……。
2:岩永を探す 。少し心配。
3:人外、異能の参加者達を警戒
4:余裕があればスパリゾート高千穂を捜索
5:きっとみねうちですよ。
6:ゲッターを危険視。
[備考]
※鋼人七瀬編解決後からの参戦となります
※新羅、ジオルドと知り合いの情報を交換しました。
※アリア、ブチャラティと知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。
※新羅から罪歌についての概要を知りました
※魔王ベルセリアに対し違和感を感じました。
※垣根と情報交換をしました。
※隼人、クオン、早苗らと情報交換をしました。
※ゲッター線の生み出した地獄を垣間見ました
【アリア@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:疲労、悲しみ(絶大)
[思考]
基本:μを止める、だけど……
0:ほ、本当に戦うの隼人?仲間なんでしょ?
1:永至を信じたい
[備考]
※参戦時期は少なくてもシャドウナイフ編以降。琵琶坂生存ルートです。詳しい時期はお任せします。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・隼人・ビルド・琴子・リュージと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、
Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※フロアージャックはしばらく使えません
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
352
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/07/24(木) 01:17:32 ID:SOKjlHhU0
投下終了です
353
:
名無しさん
:2025/07/25(金) 22:34:07 ID:LA1HICHU0
乙です
無惨、お前が言うな的な存在で性格ですが妙に共感できるんですね
ここでも健在である意味安心です
なので胸糞悪いに尽きるウィキッドの挑発と心理描写も動のカタルシスの良いスパイスでした
一方の隼人を軸としたゲッターへの探求も危うげながらも、同行者の気質からか実験と考察から難なく臨戦に切り替えられたのには安定さを感じられました
ゲッターチーム全滅が見えてくる中、参加者のみならずゲッターの因縁もここで消えるのかどうかの瀬戸際も楽しめた話でした
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