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悪魔憑きバトルロワイアル

1 ◆ejQgvbRQiA:2019/12/13(金) 17:38:35 ID:SMcTq7iQ0


【鬼滅の刃】〇竈門炭治郎〇我妻善逸〇嘴平伊之助〇不死川玄也〇時任無一郎〇宇髄天元●塁に切り刻まれた隊士〇鬼舞辻無惨〇妓夫太郎/堕姫〇猗窩座〇黒死牟 10/11

【彼岸島】〇宮本明〇宮本篤〇青山龍ノ介(師匠)〇西山正一(若しくは徹)〇山本勝次〇鮫島(兄)〇斧神〇金剛様〇雅 9/9

【魔法少女まどか☆マギカシリーズ】 〇鹿目まどか〇暁美ほむら〇巴マミ〇佐倉杏子〇アリナ・グレイ〇御園かりん〇環いろは〇七海やちよ〇双葉さな 9/9

【ジョジョの奇妙な冒険】 〇ジョナサン・ジョースター〇ロバート・E・O・スピードワゴン〇ディオ・ブランドー〇ジョセフ・ジョースター〇ルドルフォン・シュトロハイム〇カーズ〇エシディシ〇空条承太郎〇花京院典明 9/9

【サタノファニ】 〇甘城千歌〇鬼ヶ原小夜子〇カチュア・ラストルグエヴァ〇坂上和成〇フロイド・キング〇水野智己〇神崎京子 7/7

【血と灰の女王】 〇ドミノ・サザーランド〇佐神善〇狩野京児〇七原健〇堂島正〇加納クレタ〇芭藤哲也 7/7

【神尾ゆいは髪を結い】〇園宮鍵人〇神緒ゆい〇淡魂ほのか〇松蔵院カーラ〇橘城アヤ子〇あしゅら寺あす香 6/6

【HELLSING】 〇アーカード〇アレクサンド・アンデルセン〇セラス・ヴィクトリア〇ウォルター・C・ドルネーズ〇ピップ・ベルナドット 5/5

【ベルセルク】 〇ガッツ〇グリフィス〇キャスカ〇ゾッド〇ファルネーゼ 5/5

【チェンソーマン】〇デンジ〇早川アキ〇パワー〇サムライソード 4/4

【デビルマンG】〇不動アキラ〇雷沼ツバサ(シレーヌ)〇魔鬼邑 ミキ 3/3

74(5)名


書き手枠
〇/〇/〇/〇/〇/〇


地図
ttps://imgur.com/a/kGk7xTG

112エメラルドの眩しい決意 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/02(木) 01:00:19 ID:evCBF5g20

「っ!」

他の参加者の気配を察知した花京院は反射的に振り返る。

月光に照らされ、花京院へと影を伸ばしていたのは少女だった。

緑色の髪に、大きな盾と胸当てに身を包んだ、どこかメルヘン風味なRPGの戦士のような恰好だ。
少女は武器や盾を構えるでもなく、さほど距離をとっているわけでもなく、ただじっとこちらを見つめている。
敵意はない、とみていいのだろうか。

(罠を仕掛けているのなら僕が彼女の存在に気が付くような素振りを見せるはず...こちらから接触してみるか)

こちらの存在に気が付きながらもなにもアクションをしてこない彼女に、花京院も警戒心が高まるが、このまま黙っていたところでどうにもならないだろう。
花京院は意を決して声をかけた。

「そこのきみ、僕の名前は花京院典明。僕はこの殺し合いに乗っていない。少し話を聞かせてもらいたいのだが」
「っ!?」

少女は驚き慌てたように盾をかざしその後ろに身を隠し、上部にある覗き穴からこちらをじっと見つめ始めた。

(警戒されているな...仕方ない)
「...わかった。きみが落ち着くまで僕はここにいる。接触する気が起きたらなにか合図をくれないか。信用できなければそのまま立ち去ってくれても構わない」

こちらから譲歩し彼女に選択を委ねさせる。
こちらを見つめていたことから、彼女もなにかしらの情報を欲しているのは火を見るより明らかだ。
ならば警戒心さえ薄められれば情報交換は容易いはずだ。
その考えのもと、花京院は彼女の返答を待った。

十秒。二十秒。三十秒...

沈黙が場を支配する。

もうすぐ一分が経過するといったところで少女は口を開いた。

「わ、私、二葉さなといいます。あの、花京院さんも魔法少女なんですか?」

魔法少女。
殺し合いにそぐわぬそのファンタジーチックな可愛らしい単語に、花京院の困惑はますます深まるばかりだった。

113エメラルドの眩しい決意 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/02(木) 01:01:20 ID:evCBF5g20



傍に立っていた城に身を隠し、花京院とさなは腰を落ち着け、互いの情報を交換していた。

さなは語った
己がキュゥべえという生物と契約し魔法少女となり、その願いが作用し、魔法少女以外には存在を認知できなくなっていることを。

「それで気付かれないはずだとああも無防備に見張っていたということか...」
「あの、すみません。私からどう接触すれば気付いてくれるか思いつかなかったので...」
「いや、責めてるわけじゃないんだ。僕もきみと同じ立場なら同じ方法をとっただろう」


魔法少女―――俄かには信じがたいし、始めは自分やアヴドゥルのような天然のスタンド使いだと思った。
が、さなが変身を解除して制服の姿に戻るのも見せてもらったうえ、キュゥべえという他生物の名前も出てきている。
妄想と現実の区別がついていないにしては会話も成り立ち違和感を覚えるところもない。
となれば、自分やスピードワゴン財団が知らないだけでそういう存在がいると考えるべきだろう。スタンド使いにせよ、基本的に一般人が知ることはないのだから。

「あの、本当に魔法少女じゃないんですよね?」
「ああ。僕は御覧の通り男だし、魔法少女に関わったこともない」
「じゃあ、なんで私が見えたんでしょうか?」
「......」

花京院は己の口元に手を添え考える。
スタンドは基本的にスタンド使いにしか認識できない。これだけ見ればさなの魔法少女もスタンド使いの派生と捉えることもできる。
しかし、それはあくまでもさなに当てはまるだけ。他の魔法少女は誰にでも認識できるらしい。

(...確認してみるか)

花京院は、右手の甲をさなに向けて差し出した。

「いいかい、この手を見ていてくれ」

さなは、言われた通りに差し出された手を見つめる。


―――ブンッ

「!?」

さなは己の目を疑った。花京院の腕から緑色の別の腕が浮き出ているのだ。
そのまま彼の背中からぬるりと姿を現した像を見て、さなの警戒心はさらに高まる。

114エメラルドの眩しい決意 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/02(木) 01:02:07 ID:evCBF5g20

「魔女...ウワサ...!?か、花京院さん、こっちに来て盾に隠れてください!」
「大丈夫。落ち着いてくれ。これは僕の力だ」
「えっ?」
「スタンド...精神エネルギーが作り出すパワーある像だ。僕以外にも使える者たちがいる」

スタンドを引っ込め、花京院は再び思案にふける。

(やはり見えていた...となると、僕のスタンドも彼女も、神子柴に干渉され他の参加者にも認識できるようにされているのだろう)

よくよく考えればだ。
スタンドやさなのように、他者に認識されず一方的に攻撃を仕掛けられる者は殺し合いにおいてアドバンテージが働きすぎている。
神子柴は、首輪は強い衝撃を与えれば爆発すると言っていた。
つまり、花京院が己のスタンド『ハイエロファントグリーン』を潜航させ、破棄力の高い必殺技であるエメラルドスプラッシュを近距離で首輪に向けて放てばそれだけで決着が着いてしまう。
そんなもので優勝する様を『殺し合い』というゲームにおいて観たいと思うだろうか?
もしもそんな映画があれば途中退席する者が後を絶たないだろう。

(どうやってその調整をしているかは...いまは置いておこう)

現状、さなと花京院の分の情報しかないため『これだ!』と断定するのは難しい。
それならば、いま必要なのは知人たちとの合流と首輪を如何に解除するかだ。
首輪さえ外してしまえば参加者たちのリスクは格段に減り、殺し合いをする必要も無くなるからだ。

「さて...ひとまず知人たちを探しに行こう。僕の知り合いはジョースター邸に向かうかもしれない。一応、名前が入っている施設だしね。君の知り合いの向かう場所に心当たりは?」
「えっと、確かまどかさんとほむらさんが見滝原中学校の出身だと言っていたので、そこに向かうかもしれません」
「見滝原中学校...ちょうどジョースター邸の近くにあるな。僕らの場所からもそこまで遠くはない。よし、まずは中学校から向かおう」

花京院に促されるまま、さなは荷物を纏めて彼についていく。
その背中を見つめつつ思う。

さなは本来ならば花京院とは会話すらできない筈だった。
誰にも知られず、触れ合えず、独り孤独に生きていく筈だった。
けれど、この殺し合いの場ならばこうして触れ合える。優勝すれば、もうあんな寂しさを味わわなくてよくなる。
そのことに悩み苦しんだことは確かにあった。

(でも、もういいの)

それでもさなは殺し合いを否定した。
例え『人』と触れ合えずに生きることになっても構わなかった。

彼女はもうとっくに救われていたから。

(アイちゃんは私を生かしてくれた。...その意味は、解ってるから)

人工知能のウワサ―――アイ。
人間でも魔法少女でもない彼女だが、さなの初めての友達だった彼女。
彼女は背中を押してくれた。自分を必要としてくれる人と共に生きてと。
そんな人はいないだろうと諦めていたけれど、それこそが幻想だと教えてくれた。
弱虫で、ダメな自分でもちゃんと見てくれる人たちが、必要としてくれる人たちはいてくれた。
その人たちはきっと理不尽で残酷な絶望にも負けないだろう。
もしも挫けそうになっても、自分が護ればいい。盾になればいい。
彼女たちと共にいられる日々を、彼女たち自身を護れればそれでいい。それが、さなの戦う理由だった。

(いろはさん、やちよさん。絶対に、絶対に守りますから!)

115エメラルドの眩しい決意 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/02(木) 01:03:23 ID:evCBF5g20


ここに孤独な青年と少女があった。
青年は己の『異常』に気が付いて周囲への壁を作り独りになった。
少女は己の『劣等』に打ちのめされ周囲から己を切り離し独りになった。

互いに孤独であったのは同じだが、その原因は真逆。彼ら同士、真に互いを理解することは難しいだろう。

けれどそれでも共有する思いは同じ。だからこそ、同じ道へと進める。

それは、己にとっての『特別』を最期まで護ること。

仲間であり恩人。
友であり家族。

それを護る為に命を懸け、彼らは戦う。その全てに悔いはないだろう。





【B-7/ミッドランド城/1日目・深夜】

【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:殺し合いを破壊する。
1:承太郎、ジョセフと合流する。ジョナサン・ジョースター、スピードワゴンも気になる。
2:DIOを倒す。
3:さなの知り合い(いろは、やちよ、まどか、ほむら)を探す。

※参戦時期はテレンス・T・ダービーに負けて人形に魂を入れられる直前です。

【二葉さな@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:殺し合いを止める。
1:いろは、やちよ、まどか、ほむらと合流。
2:花京院の知り合い(承太郎、ジョセフ)との合流


※参戦時期はマギレコ本編8章以降です。

116 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/02(木) 01:09:53 ID:evCBF5g20
投下終了です

佐神善、ジョセフ、フロイドを予約します

>>23
の予約期限が延長分も過ぎていますので、1/4日の23:59までなにも反応が無ければ予約破棄という形になりますのでよろしくお願いします
予約を延長する場合は再延長の申請をお願いします

117 ◆3g7ttdMh3Q:2020/01/03(金) 12:33:46 ID:c8jR6U.o0
延長させていただきます

118 ◆IOg1FjsOH2:2020/01/03(金) 21:35:10 ID:8jd4sgPk0
鬼舞辻無惨を予約します

119 ◆A2923OYYmQ:2020/01/05(日) 00:21:58 ID:VYIEjnA20
佐倉杏子を予約します

120クソみてぇな事態 ◆A2923OYYmQ:2020/01/05(日) 18:42:50 ID:VYIEjnA20
とうかします

121クソみてぇな事態 ◆A2923OYYmQ:2020/01/05(日) 18:43:10 ID:VYIEjnA20
それは 武器と言うには あまりにもクソすぎた
大きく 不細工、 重く そして クソすぎた
それは 正に クソみてぇなシロモノだった

「何だ…コレ?」

佐倉杏子の口から、呆然とした呟きが漏れる。
佐倉杏子に与えられた武器、それは世間一般でいうところの【旗】だった。
旗竿の下部は切り取られたのか、鋭利な斜めの切断面をみせており、このままでも槍として使えそうだった。
しかし、そんな事は今はどうでも良い。肝心なのは旗である。

「ウワーイラネ」

旗にプリントされていたのは笑顔の男。一目見てクソみてぇだと思った杏子は、旗を外して捨てようとして、

「外れねえ!?」

外れない旗というクソみてぇな事態に悪戦苦闘していた。

「どうなってるんだよ!?チクショウ!!」

ポイっと捨てて行こうかとおもったが、襲われた事を想定すれば、やはり武器になるものは持っていきたい。
変身しておけば備えにはなるが、魔法少女の真実を知った今となっては、緊急時でも無いのに変身し続ける気にならない。
やはり持っていくしかないだろう。気は乗らないが。こんなものを振り回すのは、アラサーになっても魔法少女(?)やるレベルで恥ずかしいが。
杏子は溜息を吐いて、旗をクルクルと巻いて立ち上がると、ガサゴソと名簿を広げる。

「チッ…それにしても何だってんだ?インキュベーターの仕業か?」

奴なら…やるだろう。あの胸糞悪い顔で、「効率よくエネルギーを集める為」とか吐かして。
確かに殺し合いなんてシロモノ、魔法少女を効率良く絶望させるのには最適だ。ましてやあんな餌をぶら下げられれば。

「……….………………私が居て、マミが居て、ほむらが居て、まどかがいて………。さやかが居ないのはそういう事か………」

巴マミ。杏子の知らぬ所で、魔女に────魔法少女の成れの果てに殺された魔法少女。

美樹さやか。杏子の目の前で魔女となり、救おうとして果たせなかった魔法少女。

佐倉杏子。美樹さやかを救おうとして果たせず、諸共に死ぬことを選んだ魔法少女。

うち2人が、生き返って、此処にいる。

122クソみてぇな事態 ◆A2923OYYmQ:2020/01/05(日) 18:44:19 ID:VYIEjnA20
杏子は嗤う。獣の様に、奴等の思惑を見破ったと言いたげに。

────さやかを餌にして、私に殺して回らせようってか!!

杏子は足元の石を勢い良く蹴り飛ばした。

「残念だったなぁ…。お前たちの思い通りになんてなるもんかッ!」

「このクソ忌々しい殺し合いを必ず止める。そして奴等にキッチリと落とし前を着けてやる。
私とさやかをこれ以上コケにすることを許してたまるかってんだ!」

しかし、である。決意と覚悟を決めたとはいえ、まず如何するべきか?闇雲に動いても仕方が無い。

「マミかまどかを探すか」

先ずはマミと合流する。ほむらはその後だ。性格的にも、能力的にも、信用できるマミと違って、ほむらは剣呑だ。どういうスタンスか分からない限り、うかつに近づくのは危険だろう。
だが、ほむらはバカでは無い。如何なるスタンスであれ、自分とマミが一緒にいれば、襲ってきたりはしない筈。
まどかは………、戦力にはならないが、ほむらが執着している相手だ。一緒に居れば、ほむらとの交渉に役に立つだろう。

それに、さやかの友達だ。放っては置けない。



杏子はクソみてぇな旗を携えて、適当な方角へ歩き出した。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
[状態]健康/ソウルジェムの濁り。無し
[装備]クソみてぇな旗(初代)@彼岸島シリーズ
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜2
基本方針:殺し合いを止め、黒幕を倒す。
0:巴マミと合流
1:暁美ほむらとは、マミかまどかと合流するまで逢いたくない
2:現在適当な方角へ移動中です
3:必要時以外は変身したくない

アイテム紹介:
クソみてぇな旗(初代)
吸血鬼達が国会議事堂に立てていた雅様フラッグ。
現在立っている二代目を設置する際邪魔なので、ザンッ→ポイッとされたのをリサイクルしたもの。
なお旗をポールから外すことは絶対に出来ない。

123クソみてぇな事態 ◆A2923OYYmQ:2020/01/05(日) 18:44:44 ID:VYIEjnA20
投下終了です

124名無しさん:2020/01/05(日) 19:38:19 ID:ZXpfnxOQ0
クソ人間のクソ書き手め…雅様の神々しい旗をクソみてぇだと?許せねェな……
それと正しくはクソみて「ェ」な旗だぜガハハハ!!

125 ◆PxtkrnEdFo:2020/01/05(日) 23:36:30 ID:q/WWKWII0
猗窩座、ウォルター・C・ドルネーズ予約します

126クソみてぇな事態 ◆A2923OYYmQ:2020/01/06(月) 07:10:49 ID:Vv0s3yUk0
>>124
クソみてぇなを一括変換したからだよチクショウ!

御指摘ありがとうございます
wikiに修正して、書き忘れていた参戦時期追記して載せておきました

127 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:17:46 ID:JK2yaUdQ0
投下乙です
>クソみてぇな事態
切られてなお武器として戦おうとするなんて...雅様...なんて神々しいんだ...
原作よりも早くザンッされた神々しい旗の行く末や如何に。
ほむらと合流するのはマミとまどかと合流してからにしようと冷静に行動でき、対主催で決意を固めた杏子はほんと頼もしく思えますね。
合流しようとしてる一人は神浜聖女ですが。

投下します

128そして沈黙が支配する ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:19:48 ID:JK2yaUdQ0
許せない。

佐神善は胸中で怒りを燃やしていた。

彼は吸血鬼(ヴァンパイア)だ。殺し合いの経験は何度もある。
だが、慣れているからといって生物の殺害になんの躊躇いもないわけではない。

そもそも彼は戦いなんて嫌いだ。吸血鬼と戦うのも己の力を誇示する為でなく、親友が殺され悲しみを知り、もう二度と失わないと決意したからである。
故に善は誰も彼もに殺人を強要するこの殺し合いに、主催の老婆に憤慨していたのだ。

(いけない...冷静さだけは失うな)

深呼吸と共に、熱くなる思考を落ち着ける。
クリアになったその頭で、ひとまず名簿を取り出し確認する。

知った名前があった。

ドミノ・サザーランド、狩野京児、七原健。

この三名とはチームを組んでおり、皆、人の血を吸わずに戦う吸血鬼たちだ。

ドミノは絶対女王主義とでもいうべきか、傲慢な女王を人の形に留めたような女だ。ただ、それでも優しく、決して悪人ではないのも確かだ。
そんな彼女が、首輪を着けられ殺し合いを強制されればどうなるか―――意地でも乗らないのは想像に難くない。

七原は臆病で短気で現金な性格だが、信頼できる友達だ。
燃然党にいた時だって一般人に被害が出ないよう必死に立ち回っていたし、吸血鬼の力もいつだって力なき人々を護るために振るわれていた。
七原は殺し合いに乗らない。そう、断言できる。

京児...恐らくこの会場でもトップクラスに危険で立ち回りが読めない男だ。
暴力が好きで嫌がらせが好きで殺し合いが好きで拷問が好きで虐殺が好きな戦闘狂、もといサイコパス。
その反面、気持ちが昂ろうともいつだって冷静で、れっきとした仲間ではあるし、共闘すれば頼もしいことこの上ない。
そんな彼がこの殺し合いでどんな動きを見せるのか全く読めない。
ドミノを大好きだと公言する以上乗ることはないと思いきや、『あの綺麗な顔をどう歪ませて死ぬのかなぁ』などと宣ったこともある。
冷静に考えて神子柴が約束を守る筈がないと判断し、この殺し合いを止める方向に動くのか、この状況にかこつけて闘争と殺戮を楽しむのか。
本当に行動が読めない。とにかく真っ先に合流し真意を見極める必要がある。

129そして沈黙が支配する ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:20:13 ID:JK2yaUdQ0

加納クレタ、芭藤哲也。

芭藤とは七原と共に戦っただけで詳しくは知らないのだが、死に瀕してまでもより多くの命を消そうとした男だ。
彼はまず間違いなく殺し合いに乗る。実力も高く、非常に厄介な相手だ。

加納クレタ。彼女は確かにこの手で殺した。その彼女が名簿に載せられている...神子柴が蘇らせたのだろうか。
きっと彼女はこの殺し合いに乗るだろう。彼女は死の間際、穏やかな眼差しを向けてくれたが、それでも自分が声をかけたところで止まらないはず。
彼女は強い。強い人だから曲がらない。きっと彼女は―――姉/妹の為に戦い続ける。


そして、先生―――堂島正。

彼は命の恩人であり善が止めなければいけない宿敵という奇妙な関係だ。
彼はきっと殺し合いには乗らないだろう。だが、それが必ずしも味方になり得るとは限らない。
きっと、この会場には錯乱して人を傷つけてしまう者は出てくるはずだ。
先生は恐らくそのような人たちも『悪』とみなして断罪する。あるいは、自分が救う価値なしと判断すれば、誰一人とて逃がすことはないだろう。
もしも彼の正義が暴走しているなら止めなければならない。

(でも、そうじゃなかったら?)

不意に脳裏に過る、ひとつのIF。
もしも先生の正義が暴走せず、協力的に行動してくれたら。
もしかしたら...もしかしたら、嘘偽りない『ヒーロー』と肩を並べて戦うことが出来るのだろうか。

(...いま考えることじゃない)

仮に実現したとして、殺し合いを破壊すればもとの生活に戻るだろう。
そうすれば関係も今まで通り。互いに譲れないものがある以上、戦う他ない。そうなれば―――いまよりもキツくなるだけだ。
先生のことは会ってから考えよう。



とにかく今は誰かに出会うことが先決だった。
目印としては地図上に記された教会がいいだろう。少なくとも七原か先生は来てくれるはずだ。

130そして沈黙が支配する ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:20:54 ID:JK2yaUdQ0

善が教会へ向けて歩き出し、10分程度が経過したころだ。善は道中で奇妙なものを見つけた。
白く蹲ったソレは生き物だった。猫のような肢体に、長い耳毛と赤色の目が特徴的な小さな不思議生物だった。
臀部付近の毛が赤く染まり、時折切れる息遣いがひどく痛ましかった。

動物まで参加者として招いたのかとも思ったが、しかしよく見ればこの動物には首輪が無かった。
参加者じゃない...ならばなぜ傷つき倒れているのか。

『誰でもよかったんだよ』

不意に声が過った。
かつて野良猫を趣味の悪いアートのように仕立て殺してまわり、親友を殺した名前も知らぬ吸血鬼の声が。
そいつはドミノが殺したが、もしかしたら蘇生させられ呼ばれているのかもしれない。

あいつではなくても、あいつのようにとにかく己の力を発散させたい者がこの白い生物を傷つけたのかもしれない。

(とにかく手当をしてやらないと)

善は白い生物を抱きかかえ、教会へと急いだ。
幸い、ほかの参加者との接触もなく着けた善は、救急セットを取り出し応急処置を施した。

痛みが和らいだのか、気の抜けたような顔になった動物に、善はホッと胸を撫でおろした。

(これで良し...あとは落ち着いたら病院へ向かってちゃんと治療してやらないと)

白い動物の頭を撫でてやりながらキョロキョロと周囲を見回す。備品や内装は変わらない。
ならば生物はどうだろうか。善の家には捨て犬や捨て猫がたくさんいるが、まさかここまで連れてこられているのだろうか。
善は、白い動物に小さく「少し離れるよ」と囁き、いったん離れて庭の探索を始めた。

結果、善の家にいるはずの動物たちは一匹もいなかった。そこまで細かく再現するつもりはなかったのだろうか。

なにはともあれ、身内の犠牲が出なかったことにほっと胸を撫でおろし、庭から出た時だった。
教会の扉の前に立っていた男に気が付いたのは。

131そして沈黙が支配する ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:21:27 ID:JK2yaUdQ0




(OH!!MY!!GOD!!!)

テンガロンハットを被った屈強な老人、ジョセフ・ジョースターは両頬に手を当て心中で叫んだ。
実際に声に出さなかったのは幸運だと思えるほどの衝撃を受けたのだ。

彼は目覚めてすぐに支給品を確認した。
あんな老婆の言いなりになって人を殺すつもりはない。だが、生き延びる為の本能が自然と彼に行動を起こさせたのだ。
デイバックの中に入っていた紙――名簿と地図を見て、彼は冒頭の叫びをあげたのだ。

なんせその名簿の中に自分が知る名がわんさかと記載されていたのだから。

空条承太郎、花京院典明。

心より信頼し頼りになる仲間たちの名。
彼らもまた自分と同じように殺し合いに反目するだろうという確信があった。
できれば仲間の誰も巻き込まれてほしくはなかったが、心強い仲間がいるというのはやはり幾らか安心感を得ることができる。

ディオ・ブランドー。
自分たちが追っている巨悪、DIOの本名だ。
あのオババはDIOの仲間にしては遣り口が遠回しすぎると思ってはいたが、奴を参加者として扱っていることで疑念は確信に変わった。
オババはDIOの仲間ではない―――つまり、DIOはいま部下という部下を剥がされた状態だということ。
ならばこれはある意味チャンスと捉えることが出来るだろう。


そして、ジョセフはあってはならない者たちの名を知った。

ジョナサン・ジョースター、ロバート・E・O・スピードワゴン、ルドル・フォン・シュトロハイム
かつて祖母から語り継がれ、或いは共に戦った者たち。
ジョナサンはDIOに身体を乗っ取られ、スピードワゴンは病死した筈だ。シュトロハイムに関してはスターリングランド戦線にて散ったと風の噂で聞いたが...まあ、彼なら生きていてもおかしくはない。
神子柴は見せしめとなった青年を一度蘇生していたが、彼らもまた蘇らせられたのだろうか?

彼らの名もジョセフに動揺を与えたが、しかしそれ以上に大きな衝撃を与える名があった。

カーズ。エシディシ。
吸血鬼を生み出す石仮面を作り出した者たちであり、何千年も昔から、波紋の戦士たちと戦い続けてきた一族、通称『柱の男』。
ジョセフはかつて仲間たちと共に彼らと死闘を繰り広げ、犠牲を出しながらもどうにか倒すことが出来た。
その彼らが記載されていた。正直、死者も呼ばれている可能性を考慮した時から嫌な予感はしていたが当たってしまった。

132そして沈黙が支配する ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:22:46 ID:JK2yaUdQ0

「確かにこいつらは命令なんざしなくとも破壊と死を齎すだろうが...だからって限度があるじゃろうが!こんなもん『殺し合い』が成り立つはずもないわい!!」

百歩譲っても彼らの部下であるワムウならばまだよかった―――とジョセフは思うが、これは決してワムウを軽視しているわけではない。
カーズ、エシディシ、ワムウの三人と直に戦ったことのある彼だから言えることなのだが、戦闘の面でいえばワムウは部下でありながら他の二人よりもセンスが頭一つ抜けている。
それはおそらくカーズらも認めているだろう。
ただ、ワムウは決して残虐非道ではなく、正々堂々とした戦いを好み、己の力を惜しみなくぶつけ合える宿敵(とも)を求める武人である。
如何にこの場に闘争の種が巻かれていても、弱者や戦士でない者すら手にかける殺し合いに嬉々として臨むとは思えない。
希望的観測だが、うまく接触できれば休戦という形で協力してくれる可能性がある。
そう、まず起こらないだろうと予想できるほどの微かな望みだ。

呼ばれた二人ではその『微か』さえ期待できるものではない。

カーズはひたすら合理的に物事を捉えるため、戦闘に喜びを見出すタイプではない。
そもそも彼は既に太陽を克服し究極の生命体になっているため、共に競い合い高めあうような好敵手と呼べるような存在はいない。つまり、出会った人間を生かしておく理由はこれっぽちもない。

エシディシは好奇心旺盛で好戦的とはいうものの、ワムウのように勝負や敵の成長を楽しむのではなく、敵の裏をかいたり罠に嵌めたりすることで相手の反応を見て楽しむ...そういうタイプだ。
ジョセフ自身がそうなのだからなんとなく気持ちはわかる。彼も彼で、人間を見逃す道理はないだろう。

そして彼らの共通点は、殺人に対しての嫌悪感がまったくないということだ。
当然だ。彼ら柱の男からしてみれば、人間は食糧か或いは奴隷。人間相手にすら正々堂々とした決闘を重んじるワムウの方が特殊といえよう。

(奴らに会いたくはないが放っておけば確実に犠牲者は出るからのう...まったく、あのババアにはワシらのこれまでの全てを侮辱された気分じゃ)

胸中で神子柴への怒りの炎がめらめらと燃え上がっていく。
カーズとエシディシのことを抜きにしても、軽々と命を弄ぶ神子柴の所業が気に入らなかった。
『お前の死闘なぞ儂にとって暇つぶしの映画のワンシーンにしかすぎんのじゃよ』とでも言いそうなあのにやけ面に一発叩きこんでやりたくなった。

「さぁて、ぼちぼち行くとするかのう」

ジョセフはデイバックを担ぎ立ち上がる。
目指すは恐らく先祖の建物であろうジョースター邸―――なのだかその前に。

(せっかく近くに施設があることだし、まずはここから調べておくか)

ジョセフの眼前に聳え立つのは教会。
そこそこの広さがあり、地図にも『善』という人物の家の補足と共に記載されている施設だった。

「善、というのは参加者のこの『佐神善』という人物のことかのう。となれば、自分の家がここにあるのが気になり訪れるかもしれんな」


よくよく見れば、ジョースター邸とこの教会以外にも『早川アキ』や『魔鬼邑ミキ』という参加者の家もある。
まず気になるであろう個々人の家をまわり、他の参加者と接触を図るのもいいかもしれない。

133そして沈黙が支配する ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:23:33 ID:JK2yaUdQ0


「さて、では早速...ムッ」

扉に手をかけようとした時に気が付く。ドアノブには微かに血が着いていた。

「まだ乾ききっておらん...ということは、既に先客がいるようじゃな」

誰かと争ったのか、あるいは不注意で自傷してしまったのか。
建物に入ってすぐに出ていくとは考えづらい。
ゲームが開始してからさほど時間が経っていないため、なにがあったにせよ、先客はまだこの中にいると推測する。
ただ、先客は危険人物か否かは判断が難しい。
さて、どう接触すべきかとジョセフが考えていたときだ。

「あの、参加者の方ですか?」

横合いから不意に声をかけられたのは。


「!」

とっさに飛びのき右手を腰に当てた警戒態勢をとるジョセフに、声の主...青年はギョッとして動きを止めた。
青年の反応を見たジョセフは、青年がこちらを襲おうとしているわけではないと判断した。

「ワシの名はジョセフ・ジョースター。きみも参加者かね?」
「はい。佐神善と言います」

佐神善。ジョセフの推測通り、教会の家主であろう彼はここに訪れていた。

「ワシは殺し合いに乗るつもりは毛頭ない。少し話を聞きたいんじゃが」
「構いませんよ、僕も聞きたいことは色々とありますし...とりあえず中へ」

善に促されるまま、ジョセフは彼の家に上がり込んだ。

134そして沈黙が支配する ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:24:37 ID:JK2yaUdQ0



「これは...」

机の上に寝かされたソレを見たジョセフは言葉を失った。
白いソレは生き物だった。猫のような肢体に、長い耳毛と赤色の目が特徴的な小さな不思議生物だった。
臀部付近の毛が赤く染まり、時折切れる息遣いがひどく痛ましかった。

「僕が見つけた時には既にこうなっていました。本当は病院の方がよかったんですが、出血が酷かったのでひとまずうちに運んだんです」
「ドアノブの血はそういうことか...さっき出てきたのが入り口じゃなかったのは、なにか治療用の道具を探していた、というところかね?」
「いえ、応急処置は済んでました。さっきはうちのペット達がいないか確認してたんです。もしかしたらこの子みたいに傷を負わされてるんじゃないかと思ったんですが、取り越し苦労でした」
「ふむ。となると、施設の全てが再現されているわけじゃあ―――ああ、いや、いまはそこの白いのについて心配すべきじゃな」
「...はい」

この生物がなんなのかは気になるところだが、いま知りたいのはこの生物は『なぜこうなったか』だ。
ここまで大きな怪我を負わされている以上、ただのドジで自傷してしまったとは思えない。
確実に何者かがこの動物を痛めつけたのだ。
誰が。なぜ。なんのために。
命に別状はないようだが、逆にそれがこの動物の現状を不可解にさせていた。

(動物相手に使うのは初めてじゃが、やってみるか)
「善くん。少しテレビを借りるぞ」

ジョセフはテレビと動物のそれぞれに手を添えながら己のスタンド『ハーミット・パープル』を発現させる。

「っ!?」

それを見た善は思わず驚嘆してしまった。

「むっ、お前さん、ワシの『スタンド』が見えているのか?」
「『スタンド』...?」
「ふぅむ...ま、詳しい話は後で聞かせてもらおうか。とりあえずいまは...」

彼にもスタンドが見えているのが気がかりはあるが、一先ずこの動物を襲った下手人の手がかりを掴むのが先だ。

「善くん。ワシはこれからこのテレビに白いのの考えを念写する。ワシのこの手の茨はその為に必要なものじゃ」
「???」
「ま、百聞は一見に如かずとも言うじゃろう。いくぞ、『ハーミット・パープル』!」

ジョセフの茨と手が光り輝き、触れているテレビにノイズが走り出す。

「ふむ、人間相手にやる時よりもだいぶ精密さは劣るようじゃが...そうら、映り始めたぞ」

そして、テレビに映像が流れ始めた。

135そして沈黙が支配する ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:25:22 ID:JK2yaUdQ0



『オゥ、プリティアニマル!』

モッキュ。

『モッキュ、プリティ!んー、でもワタシが欲しいのアニマルじゃないの...せめてTENG〇...』

モキュキュ

『......』

モキュゥ

『......』

モキュゥ?

『もうマスターベーションじゃ物足りないんだ。穴があるなら同じことだよね』

モッ!?








『...モキュ。オナホになれ』

136そして沈黙が支配する ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:25:54 ID:JK2yaUdQ0




プツン。

映像は途切れていた。
というより、ジョセフが切断した。

ジョセフの目元は影で覆われ、善は汗を流しながら訝しげな眼でジョセフを見つめている。

「......」
「......」

沈黙に包まれる二人。
数秒。数十秒。
短くも長く、気まずい沈黙を破ったのはジョセフ。

「...さ。ひとまずお互いの情報を交換しようか。今後をどうするかはそれからじゃ」
「...はい」

―――いまの映像は見なかったことにしよう。

そこには奇妙な一体感があった。
言葉にこそ出さなかったが無言の男の訴えがあった。

137そして沈黙が支配する ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:27:01 ID:JK2yaUdQ0

【F-3/教会(善の家)/1日目・深夜】

【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:殺し合いを止める。
0:善と情報交換する。
1:承太郎、花京院、ジョナサン・ジョースター、スピードワゴン、シュトロハイムを探す。
2:DIOを倒す。カーズ、エシディシには要警戒...会いたくないのぉ...。
3:小動物を犯した男に警戒。

※参戦時期はダービー(兄)戦後です。

【佐神善@血と灰の女王】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3、小さいキュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカシリーズ(フロイドの支給品)
[行動方針]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:ジョセフと情報交換する。
1:ドミノ、京児、七原との合流。
2:先生(堂島)は味方になってくれるかな...
3:クレタ、芭藤には警戒。ただ、クレタには複雑な想い。
4:小動物を犯した男に警戒。

※参戦時期は少なくとも七原が仲間になった後です。

【小さいキュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカシリーズ(フロイドの支給品)】
[状態]校門裂傷、出血(止血済み)、疲労(大)


【F-3から周囲1マスくらいのどこか/1日目・深夜】

【フロイド・キング@サタノファニ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[行動方針]
基本方針:性欲を発散させる。
0:女を犯す。
1:ありがとモキュ、ちょっと収まったよ。次は女がいいな。
2:カズナリを見つけたらオナホにしよう。
3:神子柴を見つけたら犯す。

※参戦時期は霧子に伸し掛かった直後。



【小さいキュウべえ@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
通称モキュ。マギアレコードにおけるユーザーの分身と呼べるキャラだが、通常のキュゥべえとは違い言葉を喋れず契約する能力もない。
その為か、本編や期間限定イベントでは度々空気と化し、悩むいろは達に助言をするも毎回「ううん違うよ」と否定される、普段なにを食ってるかもわからない、
終盤にてようやく活躍の場面が来たと思ったら幼女に叩きつけられ汚物扱いされ追い払われるなど、本家キュゥべえと比べてもぶっちぎりに不遇。
キュゥべえでありながらゲームキャラ達からは特に目立ったヘイトを向けられていないのは救いと言えるのだろうか。
そんな彼(彼女)の正体は...

138 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/07(火) 01:28:30 ID:JK2yaUdQ0
投下終了です

不動アキラ、雷沼ツバサ(シレーヌ)を予約します

139 ◆A2923OYYmQ:2020/01/07(火) 04:03:42 ID:Uju/uuvQ0
アーカード
スピードワゴン
暁美ほむら
空条承太郎

予約します

140名無しさん:2020/01/07(火) 06:27:40 ID:vC8S2x2I0
投下乙です

モ、モキューーー!!

141名無しさん:2020/01/07(火) 11:25:03 ID:mLi8E1o.0
数多くのパロロワでキュゥべえがケツを犯されたのはこれが始めてですね…

142 ◆IOg1FjsOH2:2020/01/08(水) 19:41:54 ID:XF.DEU.I0
投下します

143地震雷火事無惨 ◆IOg1FjsOH2:2020/01/08(水) 19:43:01 ID:XF.DEU.I0
(なんだこれは……?なぜ私がこのような事に巻き込まれている?)

D-7 見滝原中学校

教室内に飛ばされた鬼舞辻無惨の脳内では多数の疑問と激しい怒りが泡のように溢れかえっていた。

なぜ私がこんな所にいる?
なぜ私が家畜や奴隷のような首輪を付けられている?
なぜ完璧な存在である私が一方的に指図されなければならない?
あんな枯れ木のような脆弱な老婆風情が何の権限があって私に命令を下しているのだ?
許されない、許されるはずがない、その罪はあの老婆に限らず身内や協力者全ての命を持ってしても償い切れない。

無惨が右腕を一振り薙ぎ払うと、机や椅子は次々と砕け散り
宙を舞った破片が窓ガラスを割り、校内の外へと投げされた。
無惨の顔は茹でタコの様に赤く紅潮し、目はかっと見開いて血走っており、全身の血管がぷっくりと浮き出る程に力んでいた。

なぜ死んだ上弦共が蘇っている?
なぜ鳴女は、あの老婆に従っている?
私が鬼にしてやった恩を忘れたのか?
人の身では手に入らない強大な力と永遠に生きる事が出来る寿命を与えてやった恩を忘れたのか?

無惨が左腕を振るうと、廊下側に貼られているガラスや天井が切り裂かれて砂埃を巻き上げる。
ピクピクと無惨の体が震えている、怒りがマグマの様に湧き上がり、理性が限界寸前であった。

なぜ私の意志に反して鳴女は死ななかった?
いつから私の支配から抜け出した?
他の上弦共も同じように細工をしたのか?
全員私を裏切ったのか?
それで私の裏を掻いたつもりか?

「よくも私を裏切ったなッ!!鳴女ェェ!!」

怒りの感情を爆発させた無惨は両腕の触手を振りまわり、周囲の破壊を繰り返す。
無惨の圧倒的な力によって振るわれた暴力はコンクリートすらも豆腐のように砕く。

「裏切り者は容赦しない。珠代と同じ末路を辿らせる。
 そして……もう十二鬼月も必要無い。鬼狩り共々、私一人で終わらせる」

ロクに柱の処理も出来ない役立たずは不要。
裏切っていようがいまいが関係無い。もう上弦共には何も期待しない。
繋がりを断ち、私の意志から離れた鬼に存在価値など無い。

「ふん、殺し合いだと?くだらない」

人間が刃物や銃器を持ち出した所で、地震や台風や津波や火事に太刀打ちできるのか?
答えは否、天災の前には人は無力、それが過ぎ去るまでただ蹂躙されるのみ。

「始まるのは一方的な虐殺だ。殺し合いではない」

まるで戦場跡の様に破壊し尽くされた校舎から出た無惨は尋常なる速度で駆け出した。
全ての参加者を殺害し、くだらぬ余興を少しでも早く終わらせるために。

【D-7見滝原中学校/1日目・深夜】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:健康、怒り(極大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:全ての参加者を殺害し、神子柴と鳴女も殺害する。
1:参加者を探し、見つけ次第に殺す。
2:役に立たない上弦は不要、解体する。

※参戦時期は傷が癒え、珠代を殺害した時期からです。
※見滝原中学校は癇癪を起こした無惨によって破壊されました。

144 ◆IOg1FjsOH2:2020/01/08(水) 19:43:27 ID:XF.DEU.I0
投下終了です

145名無しさん:2020/01/08(水) 21:17:44 ID:MFXrh7dA0
無惨様平常運転

146名無しさん:2020/01/08(水) 21:30:04 ID:lXmymXME0
乙です
こいつどのロワでもブチキレてんな

147 ◆PxtkrnEdFo:2020/01/09(木) 22:42:06 ID:dFOg.fW20
皆さん投下乙です

> 血と吸血鬼とチェンソー
デンジくんとパワーちゃん。学も倫理もろくにない二人だけど方針の違いがくっきりでてていいなあと。
殺人に忌避感はそんなにないけどでも殺しちゃまずいと考えるデンジはやっぱり根はいい子だなあ
それに比べてパワー!お前はなんだ!通りがかりの人(人ではない)に手斧ぶち込んでそれをデンジのせいにするとは!
騙されかけて地頭の良さもデンジの方が優秀なの示されちゃうし……
その後の会話の流れも含めて雅様が一番真面目に殺し合いをやってるの、カタログスペックだけならおかしくないのになんか面白いからチクショウ!
キャラ再現すごかったです

> 眠る蛇と眠れない鬼狩り
実験っぽいなあとやっぱ最初は思うよなカチュア
そして善逸、お前クズのこと知ってかっこいいモード参戦かと思ったらお前……
まあそんなとこも善逸だよな
前にも書かれてましたが、平手打ち喰らうまでの一連の流れがすごい鬼滅っぽくてめっちゃ上手いなって思いました。善逸が玄弥に殴られるシーンで再生される
そして互いの家庭環境を対比したり、善逸の耳を通じてシリアスやってていいなあと思ったら彼岸島の民家で笑わされて、情緒のジェットコースターがやばかった
前話で雅様がシリアスやってた反動かと思わんばかりに話の空気を犯しやがって……
色んな意味で背景の描写が秀逸だったと思います。投下乙でした

> エメラルドの眩しい決意
よそでも緑色のコンビを組んでた花京院がここでも緑色の女の子と組んでて微笑ましい
お互いに認識されない系統のコンプレックスと異能持ちでいいですね
そしてスタンドを通じて二人の良さが出ていて綺麗でした
法皇をウワサかと思って咄嗟に前に出る強さを見せるさな、見えない筈のものが見えるところから思考を広げる花京院
参戦時期次第では危ういものがあるかなーと思っていたので、よさげな対主催になっていて先が楽しみです

> クソみてぇな事態
なんかもう書いてる感想の5分の3で彼岸島に触れていて、うち二つは彼岸島キャラ出てないのに世界観を汚染していてすげえなって
クソみてェな旗を支給されて、旗は外れないとかいうクソみてェなことになって、盤外ではクソみてぇじゃなくて「ェ」だと指摘されて本当にクソみてぇな事態だ……
で、杏子はマギレコ時空のことは知らない時期の参戦。彼女も時期次第では荒れるタイプではありますが、穏やかな時期からで対主催の未来は明るそうかな
さやかの名がないことをそう読むか、というのはなるほど面白いと思わされました

> そして沈黙が支配する
も、モキューーーーー!!!!
お前、フロイド……桜子に殺されるぞ
いろはちゃんはこいつを撃ち殺してもいいんじゃないかなマジで
ジョセフの参戦時期からくる諸々とか色々あるのに全てを持っていくボクサー、ツヨイネ

>地震雷火事無惨
まずタイトルで笑いました
「私のことは天災と思え」っていうから天災と同列にしてあげたよ!すごいね!ってタイトルなのに、オヤジの後釜に据えられてるのが絶妙
書き手は煽りの呼吸の使い手か?柱か?
半天狗の回想風なセリフから案の定キレてて、そして言ってることは相変わらず身勝手の化身でそんなだから頭無惨とか言われるんですよ無惨様
横綱相撲といいますか、予想通りの展開に案の定の流れでも面白かったです

私もウォルター・C・ドルネーズと猗窩座で投下します

148●●の話をすると鬼が笑う ◆PxtkrnEdFo:2020/01/09(木) 22:43:25 ID:dFOg.fW20

ウォルター・C・ドルネーズは忠実な執事にして殺し屋であった。
60年間、父娘二代に渡ってヘルシング家によく仕え、平時の世話はもちろんのこと敵(ゴミ)を片づける汚れ仕事にも広く活躍してきた。
老い、体の冴えを失ってからも執事としての務めは十全に果たし、後継の育成にも専心した良き従者であった。

『老いぼれ(ロートル)と新人(ルーキー)、二人足して一人前でしょう?』
『老いすら楽しむものさ、我々英国人(ジョンブル)は』

衰えてなおそう嘯く強さと信義には数百年の時を超えて生きる怪物、不死王アーカードも敬意を払うほどで。
だからこそ、彼の裏切りには誰もが驚いた。

『まだだ!!まだ僕の勝負は…ついていない!』

ウォルターは全てを捨てた。
人生も、主君も、信義も、忠義も、全て賭け(オールイン)。
まだ足りない。
死にたがりの死にぞこないから、決死の覚悟で不死身の体を法外な利息で借り受けて。
まだ足りない。
1000人の軍人、3000人の狂信者、13人の背徳者、1頭の怪物、1騎の英傑、自らの半生その全てを犠牲にして。
それでもなおこの糸は、剥いた牙はアーカードに届かなかった。

ウォルターは悔やんでいた。
60年の忠誠を誓ってきたヘルシング家を裏切ってしまったことを?ちがう。
人として美しく老いさらばえてきた人生を捨ててしまったことを?ちがう。
ナチスなぞに自らの体を弄らせて吸血鬼になってしまったことを?ちがう。
全て納得して叛逆した。全て納得して無様を晒した。

―――だから、宿敵アーカードを殺せなかったことのみを悔やむ。

『気張れよ、あとたった何万回くらいだ』
『アンデルセンで勝てなかったこの私を、お前みたいな顔色の悪いクソガキが50年や500年思い煩って、勝てるわきゃあねえだろう!!』

嗤っていた。傲岸に。
哂っていた。不遜に。
口にしているものが毒酒であると気づくことなく、高らかに。
その顔がここに招かれる前の最後の記憶だ。その果ては見ていない。
アーカードの最期は、見ていない。
だからウォルターもまた笑った。

149●●の話をすると鬼が笑う ◆PxtkrnEdFo:2020/01/09(木) 22:44:14 ID:dFOg.fW20

「く…はは…ははははははは!」

その次に見た光景は神子柴と名乗る老婆の狼藉だ。そんなものはどうでもいい。
目的?意味?知ったことではない。
そんなもの、今目の前にあるものに比べれば路傍の石ころほどのものでもない。

アーカード。
名簿に書かれたその名がウォルターの目にくっきりと映る。

「ははッ…はははははは!無様だなぁアーカード!僕もお前も首輪に繋がれて、猟犬から闘犬に格下げか!あはははははは!」

自らの首に巻かれた首輪に手をやり、ウォルターは笑い続ける。
殺し合えと。
標的を殺せと猟犬に命じるでもなく、傍で守れと狛犬に下知するでもなく、全ての狗に食い合え殺し合えとあの老婆は命じた。

「ああ、いいさ。殺してやるとも」

アーカードがいるなら是非もない。
あの怪物を殺すためだけに全てを捧げたのだ。
探し出して、殺してやる。
―――障害があるのならばれも含めて叩いて、潰す。それが例え何であっても。誰であっても。
立ち塞がるなら諸共に、殺す。

配られたディパックにウォルターが腕を突っ込み、中から取り出したものを全力で振るう。
握っているのはギターだが、当然ただの楽器ではない。
絞殺魔アルバート・デサルボの人格を植え付けられた殺人鬼槇村霧子が用いるそれは弦がワイヤーソーになっているとびっきりの凶器だ。
ウォルターの絶技で振るわれることでその一本一本が肉を裂く刃となり空を奔った。
まるで蜘蛛の糸の如く。
そう、まさにそれは蜘蛛の糸であったろう。
ワイヤーソーの向かった上方には、ウォルターに向けて攻撃を放つ一人の男が飛来してきており、丁度蜘蛛の巣に飛び込む蟲のように男の拳は絡めとられた。

「はッ、気付いていたか小僧!」

だが男は羽虫のように捉えられる弱者ではなかった。
放った拳を切り裂かれながらも糸を脱し、その負傷も即座に再生してみせる。
そうして着地した襲撃者はウォルターの迎撃を讃えて呵々と笑い、真っすぐにウォルターと向き合った。

「そこをどけ。貴様などにかまっている暇はない」

対するウォルターはどこまでも冷淡だ。
殺し損ねたのは業腹だが、といってわざわざくたばるまで殺してやる義理も必要性も、なにより猶予が彼にはない。
邪魔立てするなら叩いて潰すが、去るならば追いはしないとはっきり示すが、襲撃者は拳闘の構えをとり、立ち去るつもりはないとこちらもまたはっきり示す。

「そう無碍にしてくれるな。俺とて弱者相手ならば割く時間は惜しいが、これほどの相手なら話は別だ。日輪刀もなく傷を負わされるなど久しいぞ」

逃げるつもりはない。逃がすつもりもない。

「俺は猗窩座。さあ、宴を始めようじゃないか」

腰を落とし、変形の熊手と掌底を向けた戦闘態勢から一歩踏み込む。
それが戦闘開始の合図だった。

150●●の話をすると鬼が笑う ◆PxtkrnEdFo:2020/01/09(木) 22:45:33 ID:dFOg.fW20

―――術式展開、破壊殺・羅針

猗窩座を中心として地面に雪の結晶が描かれた。
鬼舞辻無惨の血を分けられて生まれた鬼は不死性や再生、食人や日光に弱いなどの特徴を持つが、中でも食人を重ねた強大な鬼は『血鬼術』という異能を行使するようになる。
猗窩座もまたその術を行使する鬼、その中でも最上級の一体だ。
開戦と共に放った術式は彼の戦闘の基底となる闘気の探知術。
猗窩座にとっては己の手足こそが敵を殺す最大の武器であり、術はあくまで敵の出方を知る手段でしかない。

ウォルターの放った五つのワイヤーを全て紙一重で躱しながら即座に距離を詰め、両の拳を打ち放つ。

―――破壊殺・乱式!!!

産まれたてでも岩を砕く鬼の膂力をさらに鍛えた猗窩座の剛腕、その両腕による拳の連打。
ウォルターはそれを、手元に残したワイヤーを束ねて盾とし受け止める。

「吼えるな、駄犬が」

腕が伸び切ったその瞬間にワイヤーをほどき、躱されたワイヤーと合わせて切り裂かんと挟み撃つが、猗窩座は横へ大きく跳んでそれを躱した。

「吼えるとも!猛るとも!お前は滾らないのか小僧!強者とぶつかるこの時ほど、武人として生を実感することはあるまい!!
 違うか小僧!?ああ、いや小僧ではなんだ。何より無礼だ、名乗れ強者よ!」

―――破壊殺・空式

距離をとりながらも猗窩座は空を殴り、その衝撃波をウォルターへ向けて飛ばす。
たしかな殺意を込めた攻撃と、確かな親しみを秘めた語り掛けと、その二つを同時に行うのは鬼の歪みか武人の嗜みか。
吸血鬼(ウォルター)もまた呼吸をするように攻撃を躱しながら言葉を返す。

「死者(デッド)が生を実感することなどあるかよ、逝き損ない」

吸血鬼など動いているだけのただの死体だ。泣きたくなくて、涙が枯れて、妄執にとらわれて、なって果てたザマに甲斐などあるものかよ。

そこまで紡ぐ余裕はないが、猗窩座の言葉など無意味だと、猗窩座ごとに斬って捨てようとワイヤーを振るう。
だが猗窩座の肉は断てても骨までは至らず、ウォルターにとって目障り耳障りな戦闘は続く。

「生きているとも!俺たち鬼は人とは違う。老いぬ、朽ちぬ、衰えぬ、死なぬ!
 数百余の年を超えて鍛え続けたのがこの俺だ!人の身では至れない至高の領域に踏み込む、その第一歩こそが鬼の力だ!」

空式の速度に負けぬ勢いで猗窩座も踏み込み、ウォルターの首に迫る。
ワイヤーで右腕を裂かれながらも、筋肉の締めでそれを食い止め、逆にウォルターを縛る枷にした。
痛みも出血も無視した外法の攻め。そこから起こる左の手刀がウォルターの首目がけて放たれた。
咄嗟にワイヤーを引き、猗窩座の右腕を盾にしようとするが、猗窩座がそれをさせるはずもなく。
やむなくウォルターは屈んで前転し、手刀をくぐるようにして猗窩座の背後へ抜けて躱す。

「逃がさん!」

手刀に伴う体の回転を活かして猗窩座が右腕を引く。
食い込んだワイヤーが当然それに引っ張られる。
そして右腕を引く回転に連動させて左の中段蹴りを放った。
手応えあり。
足刀の直撃で真っ二つにへし折れて……

151●●の話をすると鬼が笑う ◆PxtkrnEdFo:2020/01/09(木) 22:45:58 ID:dFOg.fW20

(楽器…いや奴の武装!?)

砕いたのはウォルターの持っていたはずのギターだった。
まさか武器を捨てて逃走に転じたか、と視界に舞うギターの欠片を猗窩座は見やるが。
ぞわり、と。
いつ以来かになる寒気を覚える。

銀色の線が猗窩座の首を目がけて走っていた。
その出本はウォルターが右手に握る鍔から伸びた、鞭のような蛇腹剣のような……

(日輪刀!隠し持っていたか!)

日輪刀、それは鬼を殺すことのできるほぼ唯一の武器である。
通常の刃物などであっても鬼を傷つけることはできるが、命を奪うには太陽に晒すか、あるいは日輪刀で頸を斬るかしなければならない。
ウォルターに支給されていたのはその中でも特に奇怪なる一振り、“恋柱”甘露寺蜜璃が帯びるものである。
極めて薄く、極めて柔らかい布のような刀身で、ともすれば振るう者を切り裂きかねない扱いの難しい刀だ。
甘露寺の鍛錬と経験と才能あって初めて使いこなせるそれを、ウォルターは無理矢理に振るう。
経験と鍛錬は半世紀にわたり吸血鬼退治に執心してきたウォルターとて劣らぬ。
されど才能は。甘露寺に備わった女性特有の柔らかな関節と筋肉、そして常人の八倍の密度の筋繊維、それをウォルターは吸血鬼の体質で補った。
吸血鬼の膂力は常人の八倍などでは収まらない。そして今のウォルターは不完全な吸血鬼化で少年期のもの……柳の枝のように柔らかな関節を備えている。

その腕で、日輪刀を振るった。
鋼線を主武装としてきた経験を活かして刃を猗窩座に飛ばす。
それでも不慣れな武装で十全とはならず、心臓目がけて放った突きは首元にそれてしまったが、ビギナーズラックというべきか。
吸血鬼の急所と、猗窩座たち鬼の急所は違うのだが、ウォルターは偶然にも猗窩座に向けて致命の一撃を放っていたのだ。

上体を逸らし猗窩座がそれを必死に躱す。
逸れた刃が僅かに喉元を裂いた。
伸びきった刃を猗窩座が殴る。
柔らかな鋼はたわんで衝撃を逃がし、折れることなくウォルターの元へ。
続けざまにもう一太刀。
今度は余裕をもって躱して、二人の間に距離が空いた。
命の危機に追い込まれたことで、猗窩座はより高振ったか笑みを浮かべて称賛を述べる。

「見事だ!剣技にも覚えがあったか!鬼殺の剣士だったか?いやそうであってもなくても構わん!
 嗚呼、殺すには惜しいぞ……どうだ、お前も鬼にならないか?」

それは猗窩座にとっては何のこともない呼びかけだった。
何故だかは彼自身にもよく分かっていないのだが―――門下に誘うことに無意識下に執着でもあるのか―――強い者がいれば闘い、そして鬼に誘う。
鬼殺の柱にも何度も呼びかけ、そのたび断られてきた。
しかし此度は趣きが違う。
ウォルターの闘気が目に見えて凪いだ。

「……鬼とは。吸血鬼とは違うのか」
「知らん。あのお方は我らを鬼と呼んでいる」

この男より上の者がいる。
そういう体系も吸血鬼に近いものにウォルターには思える。

「僕も鬼になれるのか?」
「…稀に。鬼にならない体質の者がいるとは聞いているが。見極めるすべは俺には分からん。試すしかあるまいよ」

吸血鬼も、血を吸われた者が非処女非童貞ならばグールになる。
だがこの言い分だと根本的に変じないように聞こえる。
僅かにウォルターも逡巡するが、体の内から悲鳴のような軋みが上がり、ウォルターの背中を押した。
文字通り一刻の猶予もウォルターには残されていない。
猗窩座との戦闘で一撃も受けていないに関わらず肉体の崩壊は進んでいる。
このままではアーカードと戦うどころか出会う前に残された灯火は尽きてしまうだろう。
外法に手を伸ばさない限りは。

「名乗れと言っていたな。ウォルター・C・ドルネーズ……」

続ける言葉に詰まってしまう。
かつての自分はこの後に所属を誇らしく朗々と名乗り上げた。

『ヘルシング家執事(バトラー)。元国教騎士団(ヘルシング)ゴミ処理係』

だが今はもう、裏切者の自分にその名を掲げる資格はない。

「しがないゴミ処理屋だよ。これから鬼になる、な」

人生も、主君も、信義も、忠義も、全て捨てた。
まだテーブルに乗せられるものが残っているとは思わなかった。
鬼になれるか否か。勝負(コール)だ。

152●●の話をすると鬼が笑う ◆PxtkrnEdFo:2020/01/09(木) 22:46:34 ID:dFOg.fW20

【C-2/1日目・深夜】

【ウォルター・C・ドルネーズ@HELLSING】
[状態]:吸血鬼化、それに伴う若化と肉体崩壊(中)
[装備]:槇村霧子のワイヤーソー(ギター部分破損)@サタノファニ、甘露寺蜜璃の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:アーカードを殺す
0:鬼になる
1:アーカードを殺す。邪魔するものも殺す

※参戦時期はアーカードがシュレディンガーを飲み干すのを見た直後です。

【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:健康、高揚
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:無惨のために殺戮を進める。神子柴も殺す
0:ウォルターに血を分け与えて鬼にする
1:無惨に尽くす
2:強者と戦い、強くなる。
3:役に立たないものは殺す

※参戦時期は後続の方にお任せします。

153 ◆PxtkrnEdFo:2020/01/09(木) 22:49:26 ID:dFOg.fW20
投下終了です
黒死牟、ジョナサン・ジョースター、七海やちよで予約します

154 ◆PxtkrnEdFo:2020/01/10(金) 22:49:28 ID:E.kIdGlY0
すいません、支給品を書き忘れたので一応
wikiの方にも加えておきます


【槇村霧子のワイヤーソー@サタノファニ】
ウォルター・C・ドルネーズに支給。
ギターの弦に仕込まれた超高分子量ポリエチレン製のワイヤーソーで、ギターを振ることで投擲・捕縛・切断などが可能。
ギター自体を鈍器として用いることもできたが、すでに猗窩座に蹴り壊されてしまったので難しいか。

【甘露寺蜜璃の日輪刀@鬼滅の刃】
ウォルター・C・ドルネーズに支給。
この日輪刀は、刀匠の里の長である鉄地河原鉄珍が打った特殊な『変異刀』であり、その薄鋼は布のようにしなやかでありつつも、達人が扱えば決して折れる事の無い「傑作」の一刀である。
斬断できるのはあくまでも刃の部分だが、本来の持ち主である甘露寺はこの変異刀をあたかも新体操のリボンのように、軽やか且つ高速で振るう事で、鬼を取り囲んでのオールレンジ攻撃、或いは広範囲全周囲防御を実現する。

155 ◆wsjaB5KUdQ:2020/01/11(土) 14:32:34 ID:TkAXfVFU0
申し訳ございません、一度予約を破棄させて頂きます

156 ◆A2923OYYmQ:2020/01/11(土) 18:35:32 ID:WxaqPi.20
予約の延長お願いします

157名無しさん:2020/01/13(月) 12:05:03 ID:W7oF18lI0
ナチュラルにさやかちゃんを省いてるんじゃあ
ないよ!

158名無しさん:2020/01/13(月) 21:37:10 ID:wgOug8OQ0
>>157
予約でも感想でもない下らないコメすんなようぜえ…

159 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/14(火) 00:38:43 ID:rS5n0Bxc0
投下乙です
>地震雷火事無惨
>ロクに柱の処理も出来ない役立たずは不要。
裏切っていようがいまいが関係無い。もう上弦共には何も期待しない。
繋がりを断ち、私の意志から離れた鬼に存在価値など無い。
この思考、無惨イズムがキレにキレてますね。
八つ当たりで校舎をぶっ壊したり、取捨選択が迅速すぎたり、その場の感情で動く無惨様がすごく無惨様で面白かったです。


> ●●の話をすると鬼が笑う
上のキレ散らかしてる上司とはうってかわってすごく楽しそうな猗窩座殿。
彼がイキイキとして戦ってると見てるこっちも楽しくなりますよね。
ウォルターのワイヤーだけでなく日輪刀もフルに使いこなしての戦い方がスタイリッシュでカッコいい。
スペックだけなら吸血鬼よりも高そうな鬼になれそうならまあそっちを選びますよね。
肝心の無惨様が上弦含めてサーチ&デストロイになっているが、彼らの運命はどうなるのやら...


投下します

160IDENTITY CRISIS ◆ejQgvbRQiA:2020/01/14(火) 00:41:47 ID:rS5n0Bxc0
―――ほたーるのーひかーりーまどのゆーきー


「アニキ〜〜〜ッ、やめてくれ〜っ!」

あいつの声が木霊している

―――ふみーよむーつきーひーかーさーねーつーつー


「もうやめてくれよぉ〜〜〜っ!!」

口腔に広がるのは生臭い血、肉、臓物、骨の味、臭い。


―――いつーしかーとしーも、すぎーのーとーをー

それらを咀嚼する度に身体は喜びに震え、思考能力さえも彼方に吹き飛んだ。

―――あーけーてぞーけーさーはー


我に返った時にはもう遅い。

―――わかーれゆーくー

辺りに散らばるのは、かつて命だった友達と先生。

みんなを殺したのが誰なのか。それを理解してしまったオレは、ただ泣き叫び、怒りと絶望に身を委ねるしかなかった 。

161IDENTITY CRISIS ◆ejQgvbRQiA:2020/01/14(火) 00:43:43 ID:rS5n0Bxc0



ばさり、と旗がたなびいている。
記念写真のように貼り付けられた老婆の笑顔が彼を見下ろしていた。

彼の名は不動アキラ―――否。勇者アモン。
不動アキラの身体を触媒とし、現世に蘇った悪魔(デーモン)である。

「ククッ...」

彼は両の口端を極端に釣り上げ笑う。

「殺しあえ...あいつらを殺したこのオレに!殺し合えだと!?」

それは歓喜でも愉悦でもなく、怒り。一周回った怒りがかえって彼に笑みをもたらしたのだ!

「ふざけんじゃねえ、ミキまで巻き込みやがって!友達だけじゃなくアイツまでオレに殺させるつもりか!!」

魔鬼邑 ミキ。不動アキラが家族として愛し、アモンもまた一人の女として愛した少女。
その彼女が、この殺し合いに巻き込まれている。
許せない。このアモンの手でミキを殺させようとするその狙いが、なによりも許せない。

「てめえらだけは道連れにして死んでやる。オレを再びけだものに戻したこと...地獄で後悔するがいい!!」

脳裏に浮かぶ憎き仇敵の顔。


シレーヌ。
雷沼ツバサの身体を密かに乗っ取り今までいけしゃあしゃあと過ごしてきた女。
ミキの前ではお互いに悪魔であることを隠すという約束もすぐに破られた。

ヴィルフェ―――もとい、守城ケイ。
悪魔の力を手に入れながら人の人格を保ち悪魔と戦う存在、悪魔人間(デビルマン)でありながら、悪魔族に人類を売った裏切り者。
その理由も「デビルマンでヨーヨーの世界王者である自分がちやほやされないのが嫌だ」というクソのようなものだった。

クルール。
悪魔族の元老院の実質的トップの女。
恐らく、悪魔族による人類への一斉攻撃はこいつの主導だ。あれさえなければ...オレはあいつらを食わずに...!!

そして―――神子柴と名乗った老婆。
覚えがない顔だが、新たに生まれた悪魔なのだろうか―――どうでもいい。どのみち殺すだけなのだから。


目尻に涙が浮かび頬を伝う。怒りでガチガチと牙が鳴る。

感情の赴くまま、アモンは駆け出した。
目指すは、憎き老婆の描かれたクソみてェな旗。

「勝負だ!元老院!!」

162IDENTITY CRISIS ◆ejQgvbRQiA:2020/01/14(火) 00:44:24 ID:rS5n0Bxc0



ピピピ

国会議事堂へと踏み込もうとしたアモンの首輪から警告音が発せられる。
さしもの頭に血の登ったアモンでも、これには警戒心が高まり警告音の射程圏外へと離れる。

「近づけねぇ...そうだよなぁ、臆病なてめえらならそういう仕組みにするよなぁ」

わざわざ首輪をつけたのだ。殺し合いをさせたい連中からすればこの程度は当たり前の備えだ。
アモンもそんなわかりきっていることで諦めるはずもない。

「なら建物ごと燃やし尽くしてやる!」

アモンが飛び上がり、その口から灼熱の炎が放たれる。その勢い、まさに地獄の業火!しかし

「なにっ!?」

業火は壁に弾かれた。石造りの為に火が燃え移り難いだとかそんな話ではなく、そもそも触れる寸前に四散してしまったのだ。

「防壁かなんかを張ってやがるのか...遠距離からは壊させねえってハラか。だったらよぉ〜」

―――断空翼(スラッシャーウィング)!!!

アモンは背中の翼を広げ、高速で国会議事堂へと突撃する。

「中からぶっ壊すだけだ!」

外から壊すのが無理なら中から。無論、首輪の警告音が流れるが、そんなものは関係ない。1分。それだけあれば勇者アモンの力を持ってすれば、内部を荒らし回り破壊できる。
仮に間に合わずとも、国会議事堂にダメージを与え、ミキの助けになれればそれでいい。
彼女は強い女だ。脱出の足がかりさえあればきっと生き残れるだろう。

163IDENTITY CRISIS ◆ejQgvbRQiA:2020/01/14(火) 00:44:48 ID:rS5n0Bxc0

―――六十秒。

ベンっ

琵琶の音が鳴り、部屋の景観がまるきり変わる。
庭園だ。草木生い茂る室内庭園だ。
突然の出来事に、アモンの動きが一瞬止まる。

ボゴッ

そのタイミングを狙っていたかのように、地面が盛り上がり弾けるように飛び出す。
人の顔にすね毛の生えた足がついた、ほぼ丸形の異形がアモンの右腕に噛みついた。

「チッ、こんなもの」

異形を払おうとした瞬間、異形の身体が茹で蛸のように赤く染まっていく。

パ ァ ァ ァ ン

そして爆発!四散した異形の破片と爆風はアモンの身体を傷つけ削り取っていく!

「ぐあっ!!」

苦悶と共にのけぞるアモンの身体。
それに合わせて、同じ形の異形が地面を突き破り次々に飛び掛かっていく。

「なめるんじゃねぇ!!」

激昂と共に、アモンの額、1対の触覚がピンと張り、大気を震わす。

―――震空音檄(ソニックアロー)!!!

アモンが頭を袈裟懸けに振り下ろせば、触覚から放たれる真空の刃が異形を纏めて両断した!!

「ホーホホホ!!!」

一息着く間もなく、間髪入れずの襲撃。
巨大な鳥のような形状をした異形が、アモン目掛けて高速で飛来した!!
その体当たりをアモンは両腕を交差し防ぐ。

「悪魔族の勇者アモン!お初にお目にかかる、私は吸血鬼の」
「邪魔だ!!」

名乗りを上げようとした吸血鬼の顔目掛けて拳を振るう。
高速で動いていた吸血鬼は防御の構えすらとれず、あわれその顔面を陥没させた!

164IDENTITY CRISIS ◆ejQgvbRQiA:2020/01/14(火) 00:45:54 ID:rS5n0Bxc0

―――四十秒

ベンッ

アモンが拳を引き抜くと同時、再び鳴る琵琶の音。
変わる光景。
今度は松明だけが頼りの薄暗い部屋だった。

鼻をつんざく腐臭。ああ、うぅ、ともがくようなうめき声。
ゾンビ。グール。アンデッド。
呼び方は人それぞれだが、死にぞこないの屍たちが蠢いていた。

「ウヒヒヒヒヒ!あったけー血がすいてェーぜ!悪魔族の血はどんな味がすんだろぉなぁ〜〜〜!!」

一人だけ流暢に言葉を発する屍生人が、異様に長い舌と共にアモンに飛び掛かり、それを合図に四方八方から屍たちも飛び掛かる!
常人ならば悲鳴を上げ失禁し一目散に逃げだすこの場面。
しかし、それに臆するアモンではない。

「今更こんなもので怖気づくと思ってんのか」

口内に充満する屍肉の臭いに構わず、息を大きく吸い込む。

―――焼滅光線(ターミネーション・ビーム)!!!

「地獄へおちろ屍ども!」

放たれるは炎。敵を地獄へと送る浄化の炎!!

「ギャアアアアアア!!!」

湧き上がるのは悲鳴、悲鳴、悲鳴。
屍生人とて生き物。それを焼けばこうなるの必然。
アモンはそんなことを気にも留めない。それに、彼らも。

「ぐっ!」


降りかかる矢の嵐。
武装した獣人共がボウガンを構え、アモン目掛けて一斉に射撃したのだ!
さしものアモンもこの物量の攻撃には防御に回るほかなし。

165IDENTITY CRISIS ◆ejQgvbRQiA:2020/01/14(火) 00:46:34 ID:rS5n0Bxc0

―――二十秒。

(あのゾンビ共は囮で、本命はこっち。なかなか考えているが...だが!)

そんなもので勇者アモンは止まらない。留まらない。
防御に回ったままでも放てる技はある。
コオォ、と小さな音が鳴り、アモンの腹部が光だす。

「くらえ!斬肉―――」

目を見開き、獣人共を一掃しようとしたその瞬間だ。
アモンの眼前に奇妙な液晶画面が舞い降りた。
小型のテレビ。アモンは構わず獣人諸共破壊しようとする。が

『―――――』

声が聞こえた。
ノイズが混じり、しかし確かに聞き覚えのある声が。

『――――キ』

画面の砂嵐が収まっていくにつれ、声も鮮明になっていく。

『――アニキ!』

砂嵐も消え、ノイズは取り除かれ。画面にはその正体がはっきりと映った。

「あ...ああ...」

それは悪夢だった。

爪を、牙を振るい暴れ狂う自分。
恐怖と困惑に包まれても、自分を止めようとしてくれる友人たち。
大切な人を護ろうと立ちはだかった先生。

それらを。愛しい者の、なにより自分にとっても大切な日常を。
引き裂いた。消し飛ばした。バラバラに引きちぎり、中に詰まっていたものを嬉々として引きずりだし貪った。

悪夢だった。
既に起きた現実が、再び悪夢として襲い掛かってきた!


「わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ !!!」

あの時の光景がアモンの脳内を支配する。
皆の悲しみが。苦しみが。怨嗟の声となりアモンの精神を侵食する。
例え見せられているのが幻覚だとわかっていても、アモンに抗う術はない。
矢の嵐が、いつの間にか収まっていたことにすら気が付かない。

そして―――

―――零。


ホ ホ ホ ホ ホ ホ ホ ホ

堕ちていく意識の中、最後に聞いたのは、どこかで聞いた高笑いだった。

166IDENTITY CRISIS ◆ejQgvbRQiA:2020/01/14(火) 00:48:40 ID:rS5n0Bxc0




「―――という顛末ですよ」
「なるほど。よぉくわかった。そこの馬鹿がなぜ沈んでいるのかもな」

月光の下で四つの影が浮かんでいる。

ひとつは、水色の髪の小柄な少女、雷沼ツバサ。
ひとつは、半裸で白目を剥き倒れ伏しているアキラ。
ひとつは、大柄なジャマイカ人の男、ウサミミン。彼がアキラを連れ出してきた。
最後のひとつは―――大きな手に妖艶な顔を合成した奇妙な姿の怪物。

「サイコジェニー、幾つか質問があるがいいか」

ツバサ―――否、鳥人族シレーヌは、怪物、サイコジェニーをジロリと見下ろした。

「ちょっと待ってくださいね、主に許可を貰うので」

主。その言葉に、シレーヌの眉根がピクリと動いた。

(主だと?神子柴の裏を引いているのはクルール達ではないのか?)

もしも神子柴やサイコジェニーを操っているのがクルール達なら、わざわざ『主』などと遠回しな言い方はしない。
奴らなら神子柴のような替え玉を立てず、元老院の名の下に勅命を下すはずだ。
いや、そもそも今の悪魔族は最終戦争に向けて準備を進めている。だが、気を抜けばダンテ率いるデビルマン軍団に殲滅されるほどに綱渡りなのが現状だ。
そんな中で、貴重な一大戦力である自分になんの通達も無しに切り捨てるだろうか。否、奴らも流石にそれほど阿呆ではない。
ならば、この殺し合いの裏に潜んでいるのは奴らではない―――のだろうか。

「お待たせしました。『同郷のよしみとして、殺し合いに関わること以外で簡潔手短に済ますならば良い』だそうですよ」

ニヤニヤと笑みを浮かべるサイコジェニー。
恐らく念話で『主』とやらに確認をとったのだろう。

「...この殺し合いから生還するにはやはり優勝しかないのか?」
「はい。優勝者以外にその権利は渡しません」
「首輪は優勝すれば外せるのか」
「外します」
「貴様はなぜ私と接触した?」
「偶然です。本当なら誰にも会うつもりはありませんでした」
「この殺し合いを開いたのは悪魔族か?」
「答えられません」
「私は元老院に切り捨てられたのか?」
「答えられません」


こちらを小ばかにするようなサイコジェニーの笑みにも、しかしシレーヌは怒りも見せず淡々と受け流す。

「時間です。これが最後の質問です」


「サイコジェニー...貴様は、悪魔族を裏切ったのか」

シレーヌの問いに、それを待っていたと言わんばかりにサイコジェニーの笑みは更に深まった。

「知ったことじゃありませんよ。私は今が楽しければそれでいいんです」

ホ ホ ホ ホ ホ ホ ホ ホとひとつ高笑いをあげると、サイコジェニーはウサミミンを連れ闇夜に消えていった。

167IDENTITY CRISIS ◆ejQgvbRQiA:2020/01/14(火) 00:49:10 ID:rS5n0Bxc0
「......」

シレーヌは考える。

(開始数分で本拠地に殴り込みに行く。そんなタブー中のタブーを犯したこいつがなぜ五体満足で放り出された?)

サイコジェニーの話が本当ならば、アキラの身体にはもっと怪我があるはずだ。
それが今のアキラの身体には湿布ひとつすらない。わざわざ治療までしたのか。
なぜか。国会議事堂の恐ろしさを伝え、踏み入る輩を減らすためだろう。
確かに、アモンのように死なば諸共、あるいは考えなしで国会議事堂に攻め込む輩も他にいるかもしれない。
そう考えれば、アモンほどの悪魔でもなすすべも無かったという広告塔にはうってつけだ。

(あるいはそうせざるを得なかった、か。奴らはあくまでも殺し合いを見たがっている。極力、禁止エリアに踏み込んで自爆、なんて展開は望まないだろうよ)


シレーヌは、傍らで失神しているアキラにチラ、と視線を移した。

「アモン、お前は変わらんな。昔も今も衝動に任せて暴れるばかりで、自分が勝てる戦を作ろうともしない」

アキラの目元は赤く腫れ、涙の痕が微かに残っている。
彼が無謀にも主催の本部に殴り込みをかけたのは、つまりはそういうことなのだろう。

「だが、そのままじゃ誰と何べん戦おうがなにも守れんぞ。一度アタマ冷やすんだね。...さよなら」

シレーヌはアキラのデイバックに手をつけず、かといって彼を起こすのでもなく、自分の荷物だけを纏めて背中を向けた。
アモンと協力は難しいだろう。恐らくアモンはこの殺し合いに元老院が絡んでいると思い込んでいる。
いまの奴の状態で冷静に話し合うなど、とても出来たものじゃない。
だから、放っておき好きにやらせておけばいい。その果てに途中で力尽きるも自分と決着を着けるのも、一人で決めさせればいい。

「殺し合い、か」

シレーヌは己の首に手をあて、ぽつりとひとりごちる。

首輪を嵌められてのこの殺し合い。数多の殺戮と虐殺を経験してきた彼女にとっても気に入らないものだ。
自分の意思でなく、顔も知らない誰かさんの命令で殺す。そんなもの気分がいい筈がない。
無論、己の命が脅かされるようなら殺し合いに乗ることも辞さない。が、結論を出すにはまだ早い。
アモンのお陰で主催側にも相応の戦力が揃っているのがわかった。神子柴含む主催陣を殺すにしても、今回ばかりは一人では不可能だろう。

優勝か、主催の打倒か。

なんにせよ、彼女の方針で確かなものはひとつ。

―――生き残るのは、私だ。

168IDENTITY CRISIS ◆ejQgvbRQiA:2020/01/14(火) 00:50:35 ID:rS5n0Bxc0


【D-3/1日目・深夜】


【不動アキラ(アモン)@デビルマンG】
[状態]肉体的には健康、精神的疲労(大)、気絶中
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:元老院(主催)を殺す。
0:......
1:ミキは死なせない。

※参戦時期はチェーン万次郎、カミソリ鉄、アオイを食い殺した直後。
※主催を元老院だと思っています。



【雷沼ツバサ(シレーヌ)@デビルマンG】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:生き残る。手段は択ばない。主催陣は殺したい。
1:殺し合いに乗ってやってもいいが...どうするかな
2:アモンとは次に会った時に決着をつける。次があれば、だがな。

※参戦時期は18話以降。


※国会議事堂に

【噛みつき爆弾型吸血鬼@彼岸島】
【善が初めて殺した吸血鬼@血と灰の女王】
【トロール@ベルセルク】
【アダムスさん@ジョジョの奇妙な冒険】
【グール@HELLSING】
【ゾンビ@チェンソーマン】
【ハコの魔女@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
【サイコジェニー@デビルマンG】
【ウサミミン@神緒ゆいは髪を結い】

の存在が確認されました。国会議事堂に踏み入った者に襲い掛かります。殺された者が復活するかは不明です。

169 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/14(火) 00:52:09 ID:rS5n0Bxc0
投下終了です

師匠、勝次、カーズ、シュトロハイムを予約します

170名無しさん:2020/01/14(火) 14:12:57 ID:59IfkreU0
投下乙です
アモンの参戦時期がクッソ鬼畜ですねクォレハ…
国会議事堂には他にも色々防衛役の敵がいるのかな?

171 ◆PxtkrnEdFo:2020/01/15(水) 00:55:59 ID:DD1/Zp9Y0
延長お願いします

172 ◆A2923OYYmQ:2020/01/15(水) 17:41:25 ID:U1HdWWTQ0
再延長お願いします

173 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/20(月) 23:44:26 ID:3ecWWxcU0
予約を延長します

174 ◆PxtkrnEdFo:2020/01/22(水) 18:51:06 ID:Fot.xVss0
すいません再延長おねがいします

175 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 17:59:23 ID:u7AC/3320
投下します

176浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:01:52 ID:u7AC/3320
ハァ、ハァ。

少年の口から吐息が漏れる。
帽子を被った小柄な少年の名は山本勝次。吸血鬼に支配された絶望の孤島・日本においても恐怖に屈せずたくましく生きる少年である。

「明とハゲも来てるのか...それに、金剛...」

名簿を確認した勝次は、思わずくしゃりと力を籠め握ってしまう。

知り合いがいた。
明と鮫島。共に、かけがえのない仲間たち。

金剛。
許せない敵だった。母ちゃんを強姦し、吸血鬼にした挙句、わざと血を与えず亡者にした男だった。
だが、彼は間違いなく死んだはずだ。小さな者と大きな者がいたが、小さい方は皆で協力して、大きな方は明が倒した。
あのセレモニーで見せたようにオババが蘇らせたのだろうか。

「...関係ねえ。あいつがまた蘇って、また悪さするつもりなら何度でも殺してやる」

勝次は決して忘れない。
大好きな母親を弄ばれた恨みを。
母の手で復讐を完遂したとて、金剛を許すなど到底できるはずもない。

そして、同時に思い返すのは母のこと。

母・ゆり子は亡者と化した己の身体に耐えきれず、自我が無くなる前にその命を断った。
あの老婆は殺し合いで優勝すればなんでも願いを叶えると言った。
ならば、老婆に従い参加者を殺し尽くせば母もきっと蘇らせてくれるだろう。

「なめんなよクソババァ」

そんな縋りつくような弱い思いを勝次は蹴飛ばした。

勝次は母のことが大好きだ。今でも家族で暮らしたあの日々を忘れられずにいる。
けれど、勝次はゆり子の死際に誓った。母ちゃんがいなくても頑張って強く生きていくと。
例え手を伸ばせば届く奇跡であっても、あの時の誓いを反故にしたくない。

それに、この会場には明と鮫島も連れてこられている。
彼らを殺して母を蘇らせるなど、それこそ母ちゃんに殺されても仕方がない。

そして、主催―――それに、雅や金剛のように息をするかのように他者を害する悪党は許せなかった。

だから勝次はこの殺し合いに反目すると決意した。

177浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:02:33 ID:u7AC/3320

勝次が荷物を纏め、仲間たちを探す為にその場をあとにしようとしたその時だ。

ザ バ ァ

勝次の背後の海からなにかが上がってきた音がした。
彼は慌てて振り向き、その姿を確認する。

そこにいたのは、巨大な魚を握りしめる巨人だった。
能面を被った、人間離れした巨漢だった。

勝次は驚愕しつつも、慌てて支給品である拳銃を構えた。

(で、デケェ...ハゲより半身ぶんデケェ)

驚愕する勝次とは対照的に、男の感情は読み取れない。
仮面で顔を隠しているからではなく、拳銃を突き付けられているというのに一切の動揺もしていないのだ。
まるで、拳銃など屁でもないと言わんばかりに無反応だった。

ハァ、ハァ、ハァ。
ぴちぴちぴち。
互いの呼吸音が魚のもがく音共に空気へと溶ける。
数秒ほどの沈黙が続くと、男はくるりと踵を返し、海沿いに歩いていく。

拳銃に怯えた様子もない。敵意はないのだろうか。だったら、と勝次はゴクリとつばを飲み込んだ。

「あっ、あの、おっちゃん!」
「案ずるな。ワシはこんな殺し合いになぞ乗らん。ましてや脅しの為にしか武器を構えられぬ小僧など相手にもしてられん」

意を決しての呼びかけに、男は冷たく言い放った。勝次など取って足らぬ相手だと。
そこは少々頭にきた勝次だが、感情任せに引き金を引くほど愚かではない。
そもそも勝次は男を脅す為に呼びかけた訳ではないのだから。

「ごめんよおっちゃん。俺、アンタを脅したかったわけじゃないんだ。明って男と鮫島ってデケェハゲ知らないかな。あんたからしたらハゲも小せェかもしれないけどさ」

ピタリ、と男の歩みが止まる。

「小僧、貴様、明の知り合いか」
「おっちゃん、明のこと知ってんのか!?」

思わぬ食いつきに、勝次の顔は綻んだ。
よもやこんなところで明の知り合いに会えるとは。

「小僧。向こうにワシの着替えがある。そこで腰を落ち着け話を聞かせてもらおう」

そんな勝次に思うところがあったのか、男は勝次についてくるように促した。

178浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:03:01 ID:u7AC/3320




木造の小屋の中、勝次は服を着た男と共に食事を取っていた。
先ほど、男が海で獲った巨大な魚である。

「ウメェよおっちゃん!魚はやっぱり焼くのに限るぜ!」

勝次は満面の笑みで焼き魚にかぶりつく。
勝次はすっかり男に気を許していた。男の名は青山龍ノ介といった。

龍ノ介の話は勝次にとって非常に惹かれるものだった。
なんでも龍ノ介は明の師匠らしく、あのオババに丸太で殴り掛かった男も明の兄貴らしい。

(そりゃ、こんなスゲェ奴らに囲まれたらああなるよなぁ)

勝次は、明がなぜあそこまで強くなれたかを理解した。
同時に、そんな明たちでも倒しきれない吸血鬼たち―――ひいては、雅の強大さを思い知らされる。

(明...)

勝次は思う。自分は肝心な時にはいつも明の力になれていない。
金剛の時だって、姑獲鳥の時だって、ここにいる師匠や兄貴のような強く頼れる者たちがいれば明ももう少し楽に戦えたはずだ。
自分が、明のように強くなれれば...

ゴクリ、と唾を飲み込み、その勢いのまま、勝次は膝を地につけた。

「なっ、なァおっちゃん!」
「むっ」
「この殺し合いから抜け出たらさ、俺を鍛えてくれよ!俺も明みたいになりたいんだ!頼むよ!」
「......」


がばり、と身体を丸め、勝次は額を地に着けた。
土下座。彼なりの全力の誠意である。

龍ノ介は、勝次を見下ろしたまま沈黙する。
十秒。二十秒。
その数秒が、勝次にとっては非常に重苦しいものだった。

179浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:03:39 ID:u7AC/3320

「...顔をあげろ」

その言葉に、勝次は顔を綻ばせた。

「おっ、おっちゃ」

パ ン ッ

顔を上げたその瞬間、勝次の頬に衝撃が走った。
頬を叩かれたのだと、遅れて気が付いた。

「...こんなのを躱せない人間に教えることなどあるものか」

それだけ言って、龍ノ介は座り直し、再び焼き魚にかぶりつき始めた。

その姿を見ていた勝次は、ヨロヨロと立ち上がり―――龍ノ介に飛びついた。

「離れい、小僧!」
「ヘッ、クソ坊主、俺が叩かれただけで諦めると思うなよ!!」
「ワシは素質のない奴には教えん」
「関係ねェ!俺は強くなるんだ。強くなって、明の力になるんだよ!!」
「......!」

勝次を引き離そうと藻掻いていた腕を止め、龍ノ介は改めて勝次へと向き合う。

「小僧。貴様はなぜ強さを求め、明の力になろうとする。吸血鬼の撲滅のためか?あるいは親族の仇か?」
「明は俺の友達だ。友達の力になりたくてなにが悪ィんだよ」

ハァ、ハァ、ハァ。
再び見つめあい沈黙する二人。ややあって、口を開いたのは龍ノ介。

「...わかった」
「おっ、おっちゃ」

ブンッ。

振るわれる右の張り手を、勝次は飛びのき躱す。

180浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:04:17 ID:u7AC/3320
「へっ、何度も同じ手は食わね」

言い終わる前に振るわれる左の張り手。
体勢の崩れたいま、勝次にそれを躱すことはできない。

パ ァ ン

その威力に勝次の身体は宙を舞い、壁に背中を打ち付けた。

ヨロ ヨロ

が、受けた痛みに歯を食いしばり耐え、すぐに立ち上がった。

「...いまのを食らってすぐに立ち上がるとは、決意は本物のようだな」
「何遍も言わせんなよ。俺は殴り殺されるまで諦めねェぞ」

龍ノ介は息を呑む。
勝次は明や篤のように心底吸血鬼を恨んでいる訳ではない。
母を亡者にされたと言っていたが、その仇も殺したため、彼らほどの恨みはない。
だが、それでもなお彼は明の力になるため戦うと決意を固めている。
明を、友達を助けたいと強く願っている。

「小僧。ワシに出来ることは全て教えてやるが、それでも雅に勝てるとは限らんし、明のようになれる保証もない。それでもよいな」
「!ありがとうおっちゃん...いや、師匠!!」

満面の笑顔を見せる勝次に、龍ノ介は思う。

勝次の話してくれた、明の様子。
恐らく、勝次と明が出会っている頃には自分はもう死んでいるのだろう。

そして、雅が本土にいるということは、彼岸島における吸血鬼と人間の戦争は吸血鬼が勝ったのだろう。
自分には死んだ記憶などないが、近い将来にどこぞで殺され、神子柴による蘇生の際に記憶を弄られたのだと推測した結果、そう仮説を立てることができた。

その仮説は勝次には話していない。所詮仮説は仮説であるし、彼には自分に妙な気を遣わず、明の友であってほしかったからだ。

「飯も食い終わったことじゃ。そろそろ明たちを探しに行くとするか」
「おう、師匠!」

火を消し、明たちを探しに行こうと二人が小屋を出たちょうどその時だった。

暗闇の中、一人の男が歩いてきたのは。

181浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:04:40 ID:u7AC/3320




歩み寄ってきたのは、紫のターバンとコートが特徴的な大男だった。
男は勝次たちを見つけるも、走りも動揺もせず、ただ淡々と歩いてきた。

「止まれ!ワシらはこの殺し合いには乗っておらん!」

龍ノ介の静止の声に、しかし男は歩みを止めない。
殺し合いに乗る参加者か―――龍ノ介は、デイバックから支給品である鉄のハンマーを取り出し構える。
それに対しても男に変化はない。まるで龍ノ介たちのことなど見えてもいないかのように悠々と歩みを続ける。

「『殺し合い』か。全くもってくだらん」

ポツリと男が呟いた。

「神子柴とか言ったか...貴様は許せん。我らへの侮辱、その命で償ってもらう」

男は龍ノ介の言葉への返答ではなく、独り言をぶつぶつと呟いていた。

「なァ師匠、あの男、オババを許せないって言ったよな?なら協力してくれるんじゃないかな」

勝次の問いかけに、龍ノ介は小さく首を振ることで否定の意を示す。

龍ノ介は、この男の不遜な態度と異様な気配に宿敵・雅の影を見ていた。
人を人とも思わぬ外道。人間を遥かに超越した、吸血鬼の王の影を。

龍ノ介の警戒心とは裏腹に、男との距離はどんどん縮まっていく。

男からの殺気は未だに感じていない。それ故に恐ろしい。

「――――ッ!!」

龍ノ介の予感は当たっていた。
男が彼らの横を通り過ぎ、その数瞬後―――龍ノ介の胸が裂け、血が噴き出した。

182浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:05:57 ID:u7AC/3320

「し、師匠!」

困惑しつつも、龍ノ介の身体に手をやろうとする勝次を、龍ノ介は制する。

「心配はいらん。薄皮一枚じゃ」
「今のを防いだか。多少は腕に覚えがあるようだな」

男はここにきてようやく『会話』をし始めた。

「てめーなにしやがる!殺し合いなんざくだらねェって言ったじゃねェかよ!!」
「その通りの意味だ。このカーズと貴様ら下等種族が『殺し合い』などという対等な立場に立てる訳がなかろう」

震えつつも激昂する勝次の言葉に、男―――カーズはフン、と鼻を鳴らした。

「貴様...何者じゃ」
「死にゆく者に答える必要はない」

会話をするのも面倒だと言わんばかりに、カーズは腕から刃を生やし龍ノ介へと斬りかかる。

ガキン、と金属音が鳴り、龍ノ介のハンマーの柄とカーズの刃が競り合う。

「ほぉう、パワーだけならサンタナに匹敵し得るか...だ・が、その程度ではこのカーズを倒せんなァ」
「勝次...すぐのこの場から離れろ。こいつのことを明にも知らせるんじゃ」

カーズから目を離すことなく、龍ノ介は言葉を投げる。
自分が食い止めている間にここから逃げろ。長くはもちそうにない。
勝次は、龍ノ介のいわんことを既に理解していた。

だからこそ。

「離れやがれこの紫色ォ!」

警告と共に、発砲。
パァン、パァン、と甲高い銃声と共にカーズの腹部に銃弾が着弾する。

「なにをしておる!」
「うるせェクソ坊主!あんた明の師匠なんだろ!だったら会わなきゃダメだろ!こんなところで死ぬみたいなこと言うんじゃねェよ!!」
「勝次...!」

「小僧...その躊躇いのなさは評価してやろう。だが、おれにこんな玩具が通用すると思うなよ」

鍔迫り合いの最中、カーズは仰け反り上体を逸らす。
急な脱力に対応できず、龍ノ介の上体は前のめりに突き出してしまい、無防備な腹部を晒す。

そこに放たれるカーズの蹴撃、加えて。

ドスリ。

カーズの足から生えた剣が龍ノ介の腹部を貫いた。

「がふっ」

その衝撃に吐血し、宙に浮かぶ龍ノ介の身体。

「てめええェェェ!!」

怒りのままに発砲する勝次。
しかし、その弾はあっさりとカーズの掌に収まった。

「そぅら、返してやるぞ小僧」

口角を吊り上げながら、カーズは銃弾を握った手を突き出し、親指と人差し指の間に銃弾を挟み込む。

「避けろ勝次!カーズはお前目掛けて銃弾を弾くつもりじゃ!!」

龍ノ介の警告も時すでに遅し。
カーズの指は弾かれ―――


ギャンッ!!

183浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:07:08 ID:u7AC/3320


突如、横合いからカーズの首元に食らいつくような衝撃が走り、小屋の壁へと叩きつけられる。
その衝撃に押され、カーズの照準がブレ、弾も明後日の方角へと飛んでいく。

「ぐあっ、こ、これは...!」

カーズの首元を圧迫するモノの正体。
それは、赤く大きな蟹の腕だった。

「カーズ...それが貴様への地獄の手向けよ」

現れたのは、顔の右半分を機械で覆い、軍服を着た大男だった。


「こんなものでこのおれを...」
「ふんっ!」

龍ノ介の振るったハンマーがカーズの頭部を潰し血液が飛び散る。

「ごあっ」

カーズの口からうめきがあがるも、しかしその身体はなお健在。突き出された両腕は龍ノ介の身体を掴もうと力強く蠢く。

「むっ、これでも生きておるか」
「そこの日本人、追撃はいらん!!すぐにカーズから離れろォォォォォォ!!!」

軍人の叫びに龍ノ介が振り返り、言われた通りにカーズから距離をとる。


「喰ウゥゥゥゥらえィィィィィィィカァァァァァァァズゥゥゥゥゥゥ!!我がナチスと同盟国日本の科学が産んだ最高知能の結晶ォォォォォォ!!!」

軍人の雄たけびと共に軍服がはだけ、その鍛え上げられた肌色の胸部と異様な腹部が露わになる。
砲門だ。赤く雄々しい砲門が彼の腹部から露出していたのだ!!


「新兵器、まどキャノン!!これで貴様を地獄に送ってやるぜェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」

軍人の砲門から放たれる小型のミサイル。
それは、コン、とカーズの身体を一度跳ね―――辺りを覆うほどの爆発を引き起こした。


眼前の光景にあんぐりと口を開ける勝次。
彼が我に返るよりも早く、軍人は勝次にかけより脇に抱きかかえた。

「日本人、俺についてこい!あの程度でカーズがくたばると思うなッッ!!」

龍ノ介は、軍人の言葉に従いあとに続く。

「あの船に乗るぞ!出航さえしてしまえばしばらくの時間稼ぎにはなる!!」

軍人が指さす先には、確かに巨大な船があった。
ルールに書いてあった、参加者用の豪華客船だ。

「お主はいったい...」
「俺の名はルドル・フォン・シュトロハイム!詳しくは船に乗ってからだ!」


かくして自己紹介の暇すらなく、彼ら三人は船へと飛び乗った。

その三人の背を、カーズは確かに睨みつけていた。

184浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:07:58 ID:u7AC/3320



「大丈夫かよ師匠!」
「案ずるな。この程度ではワシは死なんよ。...奴をあそこで仕留めるわけにはいかなかったのか」
「奴を侮るなァ!奴は柱の男!あの程度でくたばるなら苦労は無いわァ!」
「柱の男?」

勝次の質問に、シュトロハイムは険しい顔で語り始める。
柱の男と吸血鬼の関係性、人類側からの対抗勢力・波紋の戦士達、彼らとの永きに渡る因縁...
簡易的ではあるが、大まかな事柄を二人に伝えた。

(あいつが吸血鬼を...それに、明たち以外にもあいつらに抗う人間がいたなんて!明にも伝えねェと!)

吸血鬼に脅かされど、そのルーツを知らなかった勝次は素直に感嘆する。

一方の龍ノ介は、仮面の下で神妙な表情を浮かべていた。
彼は彼岸島で生まれ育ち、吸血鬼の成り立ちについてはよく知っている。
その陰に『柱の男』の存在など影も形もなかったし、元々は吸血鬼も容易く増やせるようなものではなかった。
だが、実際に『柱の男』はいた。シュトロハイムが語った吸血鬼と自分たちの知る吸血鬼はまた別の存在なのだろうか。

「ところで...先ほど、あのカーズに退かず立ち向かったあの勇気に私は敬意を表する。
先ほどの戦闘で奴の脅威はわかっただろう。ここは同盟国同士、手を取り合い奴ら柱の男に目にもの見せてくれようではないかァ!!」
「そりゃいいけどさ、この殺し合いはおっちゃんはどうするんだ?」
「フンッ、しれたこと...確かにあの老婆の語った報酬はチト気になる...が、しかし!俺は誇り高きドイツ軍人!!
俺が従うのは偉大なる総統閣下のみ!!あの愚物に殺せと言われてホイホイと従うほど恥知らずではない!
この殺し合いを潰したうえで、あの婆の言った報酬とやらを奪い取ってみせるわァ!!」

ワハハハ、と豪快に笑い飛ばすシュトロハイムに、勝次は思わず耳を塞いだ。

「して、龍ノ介とやら。お前の言葉通り、その腹の傷は致命傷ではないのかもしれんが、一応応急処置だけはしっかりしておくべきだ。
戦場において傷口の放置はあらぬ失敗を引き寄せるからな。まだこの船を調べきれていないのでなんともいえんが、消毒や包帯くらいはあるだろう。探してくるといい」
「探してくるといいって、おっちゃんは?」
「俺はもう少し後方を見張っておく。カーズが別の船を用意せんとも限らんからな」
「わかった。師匠、少し我慢しててくれよ」

階段を降りていく勝次を見送り、甲板にはシュトロハイムと龍ノ介が取り残される。

「...時に龍ノ介、ひとつ聞きたいことがある」

先ほどまでの大声とは打って変わって、シュトロハイムは神妙な声音で語り掛ける。

「その腹の傷...確かに致命傷ではない。が、しかし、我慢してどうにかなるモノでもなかろうに」
「なにが言いたい」
「その人間離れしたタフさ...明らかに人間のものではない。お前の身体の特性も不老不死の手がかりになるやもしれん。龍ノ介よ、神子柴を倒した後、お前にも我がナチスの医科学班に協力してもらいたい」

協力―――この軍人の言う『協力』とは、要するに人体実験のことだろう。
既に日本軍に似たような建前で一族郎党、実験体にされていた為、龍ノ介は彼の真意を解っていた。

そして、やはりかと思う。
彼らは自分たち『吸血鬼』についてはなにも知らない。
先ほどの柱の男やらが生み出す吸血鬼と、彼岸島の吸血鬼はまるで別物だと。

ならばこそ、だ。

185浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:08:39 ID:u7AC/3320

「『協力』するのはいいが、条件がある」
「なんだ?」
「ワシと共にこの会場に来ている吸血鬼『雅』を共に殺してくれ。そうすれば、ワシは思い残すことはなにもない」

そう。彼岸島の常識に囚われている自分では雅を倒せずとも、異なる異形を研究しているこの男や波紋の戦士とやらの協力があれば今度こそ雅を倒せるかもしれない。
無論、雅を殺した後は自分も自害し研究などに使わせる余地すら与えないつもりでいる。
長寿を望む研究者の行き着く先は同じだ。もしも自分が素直に研究に協力すれば、第二の雅が生まれることは想像に難くない。
約束を破ることになるのは気が引けるが、それでもこれ以上『雅』を増やすわけにはいかなかったのだ。

「吸血鬼か...安心しろォ!この身体になった俺ならば吸血鬼など恐るるに足らん!なァァァァァァァぜならァァァァァ!!!我がナチスの科学はs」
「大変だ師匠、おっちゃん!!」

世界一、と普段からの口上を叫ぼうとしたシュトロハイムを遮り、勝次が慌てて駆け上がってきた。

「どうした勝次」
「この船動いてねェんだよ!これじゃあ師匠を病院に連れていけねェ!」
「馬鹿を言うな。我らがこうしてカーズを撒けたのはこの船に乗れたから―――ッ」

チラ、と時計に目をやり、シュトロハイムは絶句した。

「...おいお前たち。この船は確か10分程度で向かい側の港に着くと書いてあったな」
「ウム。そろそろ件の港に着いてもよい頃じゃが」
「そう。10分程度...多少の前後はあるだろう。だが、俺たちはこの船に乗って既に15分以上が経過している!!なのに陸地はあんなにも遠い!!この船の行程は半分程度までしか進んでおらんのだ!!」

一同に戦慄が走る。
この船は停滞している―――なぜ。

「こ、壊れたのかよ」
「わざわざルールブックに載っているようなものが作動15分で壊れるなんて馬鹿なことがあるかァ!故障だとしても人為的なミスとしか思えん!」
「じゃがこの船は無人で動いているのは確認した。乗組員はワシら三人...しかし、つい先ほどまで一切離れておらんし、勝次が離れたのもものの数分...そもそも勝次に壊す動機がない」
「ああ。俺はなにも触ってねェ」
「と、なると、まさか...」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

三人の背に冷や汗が滴る。

―――いる。
この船を、悪意を持って壊し、三人を陥れようとする何者かが。
そして本能が警鐘を鳴らす。ここに留まるのは危険だと。

186浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(前編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:09:03 ID:u7AC/3320

「マズイ...非常にマズイぞ。この船は広いとはいえ限られた空間。相手が俺たちを捕捉するのも時間の問題だ!いや、すでにされているのかもしれん!!」
「どうするんだよおっちゃん!!」
「う、うろたえるんじゃあない!ドイツ軍人はうろたえない!!なにか策を練らねば...!」
「いや...その余裕はなさそうじゃ」

ズ ン ッ
三人の足元から地響きのような衝撃が走り、足元は浮遊感に襲われる。
勝次は尻もちをつき、シュトロハイムと龍ノ介もぐらりと上体を崩してしまう。

「うわっ、なんだこれ気持ち悪ィ!!」
「ま、まさか...まさか敵は...!!」
「ウム。恐らく、この船のエンジンを壊し、船の一部も壊したのだろう。この船が沈むのも時間の問題じゃ」
「待てば藻屑、待たずとも藻屑...選択肢は最初から『この船から脱出する』以外にはなかったということか。ええい、味な真似を!!」
「急いで脱出しねーと!」

くるりと踵を返す勝次。

瞬間。

ボッ

「―――えっ」

床下から、一筋の閃光が走る。

同時に、勝次の足元へと垂れる赤い雫。

遅れて、ドチャリ、と音がした。

そして、地面に落ちたソレを認識してようやく理解した。

あの閃光の刹那、自分の左腕が切断されたことを。

「うわああああああああああ!!」

勝次の絶叫が響き渡り、切断面からじわじわと痛みが滲んでくる。

「ンンンンいい声だ...実にいい響きだぞ小僧」

それを嗤う者が一人。芸術のように磨き上げられた肉体が床下から這い出てくる。

そう。そいつの名は。ソイツの名は!!

「カァァァァァァァァァズゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

187浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:10:05 ID:u7AC/3320




「オオオオォォォオオオオ!!!」

雄たけびとともにシュトロハイムがカーズへと躍りかかる。

フン、と鼻を鳴らし、カーズは右腕から生えた刃―――『輝彩滑刀の流法(モード)』を振るう。
それに対し、シュトロハイムは、組み合わず、身をかがめ地面を転がった。

その先には、激痛に蹲る勝次。
シュトロハイムは勝次を抱きかかえ体勢を立て直す。彼の狙いは勝次の救出だったのだ。

「ほう。組み合わず躱すとは...おれのこの『輝彩滑刀の流法』の恐ろしさは理解しているらしい」
「この身を以ての経験を無下にするほど俺は愚か者ではない。...悔しいが、ジョジョがいない今!俺たちは圧倒的に不利な状況にいる!!
しかしどうやって!カーズ、貴様はどうやってこの船に乗り込んだのだ!!」

シュトロハイムは出航後も不審なボートや小舟が追ってきていないか見ていたが、そんな影は微塵もなかった。
如何に柱の男といえども、素潜りでは船ほどのスピードでは泳げない。
ならばなぜここにいる。

「シュトロハイムよ。貴様のくれた手向け、中々イイ代物じゃあないか」

カーズの左掌に乗せられるのは、シュトロハイムが彼に撃ち込んだまどキャンサー。
その後部から伸びるロープを見て、シュトロハイムは彼がこの船に乗り込めた理由を知った!

「き、貴様カーズっ!ロープを繋いだまどキャンサーを船に打ち込み、そのロープを辿ってきたというわけか!道理で追手の船が見当たらぬはずだ!!」

常人ならば、それでも追いつけはしないだろう。だが、柱の男の身体能力があればそれが可能!!

「...どうやら逃げ場はないようじゃな」
「龍ノ介、迂闊に『輝彩滑刀の流法』を受けようなどと思うなよ。カーズがその気になればお前のハンマーも容易く切られてしまうだろう」
「おっちゃん、師匠、俺...」
「小僧、這ってでもいい。なるべく壁に背を預けておけ」


シュトロハイムは勝次を下ろし、龍ノ介はハンマーを構えながらじり、じり、とカーズとの距離を詰めていく。

「「オオオオオォォォォォ―――!!!」」

二人の雄たけびが重なり、同時にカーズへと殴り掛かる。
龍ノ介のハンマーが、シュトロハイムの機械仕掛けの剛腕がカーズへと振るわれるが、しかしカーズは寸でのところで回避、返す刀で両者への反撃。
二人もまた、必死に身を捩りどうにか躱す。

カーズも二人も、互いの攻撃が芯を捉えることがないまま1分程度が経過するが、わずかその間だけで彼らの"差"が顕著になり始める。

未だ傷一つついておらぬうえ、息も乱さぬカーズ。

徐々にかすり傷が増え、微量ながらも出血し始め、呼吸も荒くなる龍ノ介とシュトロハイム。

どちらが有利かは火を見るよりも明らかだ。

そして、均衡はあっさりと崩れ去った。

188浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:10:42 ID:u7AC/3320
ドスリ。

再び、龍ノ介の腹部にカーズの足から生えた刃が刺さる。

「がふっ」
「このまま」
「させぬぞォォォ!」

両断させまいと、シュトロハイムは龍ノ介の腹部より貫通した刃を掴もうとするが、しかしカーズは龍ノ介を斬るのではなくそのまま足で持ち上げた。

「なっ」
「フンッ!」

まるでプロサッカー選手のように足を振るえば、龍ノ介の身体がシュトロハイムへと勢いよく飛んでいく。
回避の間に合わぬシュトロハイムは、正面から龍ノ介の全体重と衝突し、後方へと吹き飛ばされた。

その衝撃で吐血し、臀部を地に着ける二人。
改めて思い知らされる。いま戦い続ければ間違いなく敗けると。

「お、おのれ〜〜...こうなれば...」

シュトロハイムはこそこそと龍ノ介へと耳打ちをする。
それを見たカーズはフン、と鼻を鳴らしせせら笑った。

「なにをこそこそしている。どちらが先に死ぬか相談でもしていたか?」
「カーズ...この俺に完全勝利を収めたと思うなよ。我がナチスの科学は世界一ィィィィィ!!!」

ウィンウィンと作動音が鳴り、シュトロハイムの機械仕掛けの右目が蠢き開く。

「紫外線照射装置作動ォォォ!!」

そこから放たれるは光。柱の男が唯一苦手とする紫外線!
紫外線はカーズが咄嗟に翳した手を貫き通した!さすがのカーズもこれには動揺した!!

「WONUUUUUU!!」
「そしてェェェェェくらえまどキャノン!!」

発射される砲弾はまたしてもカーズを爆発に飲み込み、その火は船上に燃え移った。

189浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:12:17 ID:u7AC/3320
「いまだお前たち!この船から脱出するぞ!」

シュトロハイムが指さす場所は、海面。
ここから飛び降りる。そう告げているのを、二人は理解した。

チャンスはカーズの視界が塞がれているこの瞬間しかない。
龍ノ介は勝次を抱き抱え走った。

「飛べェェェェェェェェェェ!!」

甲板を蹴り、海へと飛び出す二人。
そう。二人―――シュトロハイムと勝次。

二人は共に「えっ」と声を漏らす。

「勝次よ。お前は生きろ。生きて、明と会え」

龍ノ介は、勝次を放り投げ船に留まっていた。

「シュトロハイム!勝次を頼んだぞ!!」
「キッ、貴様、龍ノ介!!...その覚悟、受け取ったぞ!!」

龍ノ介の行動に面を食らったシュトロハイムだが、その意図を汲み、勝次を引き寄せ、可能な限り勝次への衝撃を減らすように抱き抱えながら着水する。
水面から顔を出し、ぷはぁと息を大きく吐く二人は即座に次の行動に移した。
シュトロハイムは陸地へと向かうよう方角を確かめ、勝次は龍ノ介のもとへ行こうと船の方へ。

「テメェクソ坊主!!言ったじゃねェかよ!!あんたも明と会わなきゃ駄目だって!!」

叫ぶ勝次。その勝次の襟を掴み、シュトロハイムは抱き寄せ陸地へと泳ぎ始める。

「離せクソ軍人!!俺ァ師匠を見捨てねェぞ!!」
「甘ったれるな小僧ォ!戻ったところで今の貴様になにができる?腹を刺された奴以下の戦力の、片手落ちの貴様がカーズの相手が務まるとでも?
奴の覚悟を無駄にしたいのかァ!?」

シュトロハイムの言っていることは勝次でも解る。あの目くらましは一時的なもので、三人纏めて泳いで逃げるよりは、一人が残り時間を稼いだ方が誰かが生存する確率が高いと。
それでも納得できなかった。納得するには、勝次はまだ幼かった。

「いやだ!いやだ師匠ォォォォォォ!!」

シュトロハイムに引っ張られ、徐々に船から遠ざかっていく。
勝次の叫びに返ってくるのは、燃え盛り崩れていく船の音だけだった。

190浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:13:10 ID:u7AC/3320



ハァ ハァ ハァ

「よもや一人で残るとはな...」

龍ノ介のハンマーを持つ手に力が籠る。
眼前に立つその姿は、爆撃を受けても尚も健在。そして美的。
カーズは、先ほどまでと変わらぬ姿で立っていた。

「ひょっとして、一人で充分な時間が稼げると...本気で思っていたのか?」

龍ノ介を意にも介さないかのように、すたすた、とカーズは歩を進める。

「うおおおおおお!!」

吠える。吠える。傷ついた己の身体を鼓舞するように。
カーズはそれを冷ややかな目で眺めている。
無駄だ。どれだけ頑張ろうと結果は変わらんと。

龍ノ介がハンマーを振り下ろす。
寸前に迫ってもカーズはソレから目を逸らさない。寸でのところで躱し、最小限の動きで龍ノ介の懐に入り込む。

―――シャッ

右腕の刃による二振り。
一撃目は、龍ノ介の腹部を真横に裂き、上半身と下半身を両断。
二撃目は、彼の仮面を割りその素顔を晒した。

戦いは、余りにも静かに決してしまった。

191浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:14:04 ID:u7AC/3320
「ただの人間ではないと思ってはいたが...そうか貴様は吸血鬼だったか」

露わになった龍ノ介の素顔を見て、カーズは小さく鼻を鳴らした。

「我らの餌の中ではそこそこの使い手だったが所詮餌は餌。このカーズに立ち向かうなどおこがましいわ」

ギラリ、と眼光と共にカーズの右腕の刃が光る。
龍ノ介の首を刎ねるため、カーズは刃を振り下ろした。

「ッ!」

刃が龍ノ介へと届く寸前、ビタッとカーズの腕が止まる。
その原因は、カーズの腕を掴む腕。
上半身だけになった龍ノ介が、残された両腕でカーズの腕を掴み止めたのだ。

「貴様...どこにそんな力が...」

振り切れない。柱の男の身体能力を以てしても龍ノ介の両腕は剥がれない。
死の淵に瀕した火事場のバカ力とでも言うのか。

「無駄な抵抗をする...大人しくしていれば早々に楽になれたものを」

カーズの左腕から刃が生える。
龍ノ介が腕を離すのを待つ間もなく、切断するつもりだ。

もはや動けぬ龍ノ介に打つ手はない。このまま達磨にされ、首を斬られて死ぬのを待つだけだ。

(...いや、まだ終われん!!)

いま死ねば間違いなくカーズは勝次たちに追いついてしまう。
カーズが彼らを見失うまで、なにがなんでも止めなければならない。

(なにか手段はないか。なにか―――)

カーズの刃が振り下ろされる。瞬間、龍ノ介の思考は彼方に吹き飛んだ。
それは本能か意地か。彼は無意識下に口を大きく開き、カーズの右腕に噛みついた。

そして。

シャッ

光の線が走り、龍ノ介の頭部と身体が切断された。

192浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:17:59 ID:u7AC/3320

「最後の最後までしつこい餌だ」

カーズは未だ腕に食らいつく龍ノ介の頭部をはがそうと手をかける。

―――ガクリ。

カーズの視界がブレる。足場が揺れたのか?違う。彼の足が笑い膝をついたのだ。

「な...なんだコレは...?」

突然だった。
未だかつてない寒気と脱力感、痺れが身体に一気に押し寄せてくる。

それだけではない。

「ムゥッ!?」

―――プシュー ドボドボドボ

カーズの褌を突き破らん勢いで股間より小便が放出される。

「KUAAAAA...こ、こんな...!!」

ふらふらと覚束ない足取りで尻餅を着くカーズ。
それを見た龍ノ介は心中で嗤った。

(まさか貴様の血で助けられるとはな、雅)

龍ノ介は吸血鬼の混合種(アマルガム)。
その生命力は並の吸血鬼を遥かに凌駕し、また、雅同様、普通の吸血鬼としての力も有している。
彼の吸血は、カーズにすら例外なく効果を齎したのだ。

(勝次...ワシのことは気にするな。ワシは所詮過去の亡霊よ。未来を紡ぐべきはワシではない。お前たちじゃ)

龍ノ介の瞼が重くなっていくにつれ、生命の灯が消えていくのも実感する。
彼の並外れた生命力でも、首を断たれてはもはやどうしようもなかった。

(明...篤...雅を倒してくれ...勝次...どうか...我が愛弟子たちの心を救ってやってくれ...お前たちが...ワシらの希望...)

『龍ノ介殿』
『お頭』


沈んでいく意識の中、思い浮かぶは仇敵ではなく彼岸島で散っていった住民たち。

『お父さん』
『師匠』

そして、家族と家族のように慕ってくれた者たちの笑顔。
かつて過ごした幸せだったあの日々に微睡むように、龍ノ介の瞼はそっと閉じられた。


【青山龍ノ介(師匠)@彼岸島 G-8、海上にて散る】
※師匠の参戦時期は少なくとも明が弟子入りした後でした。
※師匠の支給武器であるピピンのハンマー@ベルセルクは海に沈みました。

193浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:18:55 ID:u7AC/3320



地図にしてG-7に位置する港。
シュトロハイムは、10分以上泳ぎ続けようやくここまで辿り着いた。

「ゼェ――ゼェ――ッ、つ、着いたぞ小僧」

上陸したシュトロハイムが己の背に縛り付けた勝次に声をかけるが、返事はない。
慌てて勝次を下ろし、呼吸を確認する。
異常はない。が、失血による疲労は顔にも表れている。
ある程度の応急手当を施し、まどキャンサーを装着させることで止血は済ませた為、失血死はないだろうが、落ち着き適切な処置を行える場所を探すのが先決だろう。

「輸血のことを考えれば病院へ向かうべきか。しかし殺し合いに輸血パックが置いてあるとも限らんし、殺し合いに乗った参加者が待ち伏せしている可能性もある...ここはやはりJOJOを探し波紋を頼むか?しかし奴がジョースター邸の近くにいるかもわからん...ええい、どうすればよいのだっ!!」

シュトロハイムは考える。
どちらへ進むべきか。勝次を、青山龍ノ介に託された命を救える場所はどちらなのかを。

振り返り、先ほどまで乗っていた船が燃え盛り崩れ落ちていくのを見つめる。
右手を掲げ、敬礼と共に勇敢なる戦士への賛美と勝利への誓いを立てる。

「迷っていたところで仕方あるまい...こちらに進むとしよう」

くるりと振り返り、方針を定め、歩き出すシュトロハイム。
その背で眠る勝次の目から、スゥ、と一筋の涙が流れ落ちた。




【G-7/1日目/黎明/港】


【山本勝次@彼岸島】
[状態]身体にダメージ(中)、師匠を喪った悲しみ、左腕切断(止血済み)、疲労による睡眠。
[装備]14話で堂島正が殺したヤクザが撃った銃@血と灰の女王、まどキャンサー@魔法少女まどか☆マギカシリーズ×1(左腕の止血用)、切断された左腕
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[行動方針]
基本方針:オババをぶっ倒す。
0:......
1:シュトロハイムと行動する。
2:明、鮫島との合流。師匠の知り合いの宮本篤、西山も探す。
3:金剛、カーズへの絶対的な敵対心。

※参戦時期は母ちゃんが死んだ後。

【ルドル・フォン・シュトロハイム@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]疲労(大)、全身にダメージ(中)
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1、、まどキャノン@魔法少女まどか☆マギカシリーズ
[行動方針]
基本方針:このくだらんゲームを止め、主催共を粛正する。
0:病院かジョースター邸か...
1:同志を集める。
2:ジョセフ・ジョースター及びロバート・E・O・スピードワゴンと合流する。
3:柱の男及び吸血鬼(いるのなら)を倒す

※参戦時期はカーズに身体を両断された直後。
※腹部に仕込まれている機関銃は没収されました。代わりにまどキャノンが装着されています。


※支給品解説

【まどキャンサー@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
マギアレコード紹介漫画、マギア☆レポートに登場するまどか先輩の武装のひとつ。
因果を断ち切るVサイン、もとい蟹の手の形をしている。
こう見えて斬撃も衝撃も与えられる万能武器。
手先は案外起用で犬のフンをつまんだ後におにぎりを握ったこともあるほど。



【まどキャノン@魔法少女まどか☆マギカシリーズ】
同上。
最大の火力を持つキャノン砲に加え、ミサイル、レーダーを装備し、長時間の作戦行動では膝にも爆弾を抱える重装備。
砲撃時には自前の双眼鏡で照準を合わせるよ。

194浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて(後編) ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:20:22 ID:u7AC/3320

ザバァ。
シュトロハイム達とは対岸側の港。
船の崩落と共に海に沈み、波にさらわれたカーズは近場の陸に上陸していた。

「おのれ神子柴とやらめ...この身体の異変も貴様の仕業か」

地に背を預けながら、カーズは空を忌々し気に睨みつける。
異変に気が付いたのは戦いの最中だった。

全力で動こうとすれば、なにかに抑えられるような違和感と共に動きは想定よりも鈍くなり。
輝彩滑刀の威力は明らかに落ち。
柱の男の普遍的な能力のひとつである吸収も、自動で吸収できるのではなく、意識して使わなければ発動せず、流法との併用も気軽にはできない。
もちろん吸収速度も落ちている。

その所為で、龍ノ介の最期の抵抗に不覚をとる羽目になったのだ。

「エシディシ...」

休憩のため身を隠しつつ、ここに連れてこられている男の名前をつぶやく。

彼は死んだ。波紋戦士であるジョセフ・ジョースターとの闘いで死んだ筈だった。
その彼が名簿に載っている。死んだふりをして身を潜めていたのか?あの見せしめで殺され蘇らせられた男のように生き返らせられたのか?

なんだっていい。生きているのならば合流するしかあるまい。
生きて、共にワムウのもとへと帰還する。必ずだ。

そしてジョセフ・ジョースター。
あの男は始末する。
奴との再戦を心待ちにしているワムウには悪く思うが、エシディシを倒した男を放っておくわけにはいかない。

(神子柴...貴様の目的がなにかは知らん。だが勝利するのは我らだ。我ら二人が貴様ごときに頭を垂れると思うな!!)




【F-1/1日目/黎明/港】

【カーズ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]疲労(中)、失禁
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2、頑丈なロープ@現実、青山龍ノ介の首輪×1、まどキャンサー×1@魔法少女まどか☆マギカシリーズ(シュトロハイムの支給品)
[行動方針]
基本方針:エシディシと共に生き残る。
0:少し休憩をとる。
1:首輪のサンプルを集め、解析する。
2:ジョセフ・ジョースター及びシュトロハイムは始末しておきたい。


※参戦時期はエシディシ死亡以降。
※吸収能力は制限されています。自分で使おうと意識しなければ使えず、流法との併用はかなり体力を消耗します。


※港間を渡る豪華客船が燃え尽きました。第一回放送までに新しい船が主催側より配置されます。

195 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/24(金) 18:22:48 ID:u7AC/3320
投下終了です

魔鬼邑ミキ、不死川玄弥を予約します

196名無しさん:2020/01/25(土) 00:27:31 ID:aA0WfJJE0
投下乙です

し、師匠…!!かっちゃんを鍛え明さんと再会して欲しかったが脱落して辛ェなぁ…
さらっとまどか先輩の武装が登場して草が生えたからチクショウ!

197 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/29(水) 00:42:02 ID:/A5OuY3M0
>>195の予約から玄弥を外して投下します

198マイペースで進めばいい ◆ejQgvbRQiA:2020/01/29(水) 00:43:09 ID:/A5OuY3M0
「だぁ〜〜〜っ、仕留められなかった!!」

あたし、魔鬼邑ミキは悔しさで地団太を踏んだ。

最後の一人になるまでの殺し合い。
そんな人道外れたゲームの主催者、オババこと神子柴が乱入者たちのお陰で隙だらけになったのでとっ捕まえようとしたら琵琶が鳴って、意識が飛んで、気が付いたらこのザマよ。
情けない。こんな有様じゃ今は亡き大柴先生に喝を入れられちゃう。

スゥッ、と息を吸い、パンパン、と顔をたたく。

「うしっ!闘魂注入!!」

死人が出てしまったとはいえ、恐怖に屈してオババの言いなりになる訳にはいかない。
...もちろん、すぐに頭を切り替えられるかって言われたら、まあ、無理だけどさ。
でもここで足を止めたところで、悔やみまくったところでなにか解決するわけでもない。
辛くても苦しくても、前に進まなくちゃいけないんだ。

「さてさて、配られた名簿とやらをチェックしてみようかな」

絶対に嫌だけど、もしかしたらあたしの知り合いも誰か巻き込まれてるかもしれない。
で、チェックしてみたところ、やっぱりいましたわ。
あたしの幼馴染兼居候の恋人でデビルマンアモンのアキラくん。
もう一人、我が義理の妹にしてテレパシー使いの秀才美少女、ツバサ。

その名前を見つけた時、あたしは思わず膝を抱えへたり込んだ。

あぁ〜もう、なんで連れてこられちゃうかなぁ〜。

そりゃこんな場所に一人放り込まれたら不安だし心細いよ。
実際、あの二人と一緒だったら敵なしだし頼もしいし。もちろん、二人とも殺し合いなんざ賛成しないってわかってる。
でも、でもだよ?
大切な人たちがあたしの知らないところで殺されてるかも、とか、アキラくんこの空気にあてられてヤンキーモードになってないかなとか、不安の方が大きくなっちゃうのは仕方ないでしょ。
戦う力がない学校の人たちやら家族が連れてこられてないのはまだよかったけどさ。
ぐぬぬぬぬ...あのオババめ、悪魔族(デーモン)じゃないとは思うけど、あんたが人間でも許せない範囲ってのはあるんだよ。
次に会ったら絶対にグーパン叩きこんでやっからね!

199マイペースで進めばいい ◆ejQgvbRQiA:2020/01/29(水) 00:44:46 ID:/A5OuY3M0

で、アキラくんたちと合流して殺し合いをブッ壊そうって意気込むのはいいけど、どこで合流するかだよね。

「地図、地図っと...は?あたしの家があんじゃん!!」

地図に記されていたあたしの家。
なんだこれ。あたしの家を引っこ抜いて持ってきたの?パパたち困ってない?
ムキー!勝手に人様の家を引っ越しさせおって!グーパンに加えて慰謝料ないしは損害賠償も徴収決定だ!


まあ、なんにせよ知ってる施設があったのは幸いだ。
ここならアキラくんもツバサも楽に合流できるだろう。

んじゃあ、目下あたしの家まで向かいますか!


あたしがそう方針を決めた時だった。





―――ズウン

何かが崩れる音が、どこか遠くない場所で響き渡った。





【E-7/1日目・深夜】


【魔鬼邑ミキ@デビルマンG】
[状態]健康
[装備]魔女っ子の衣装
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3
[行動方針]
基本方針:打倒主催者。殺し合いには絶対に乗らない!!
0:ひえっ、なんの音!?
1:アキラ、ツバサと合流する。


※参戦時期は14話のあたりです。
※無惨が見滝原中学校を破壊した音を聞きました。

200 ◆ejQgvbRQiA:2020/01/29(水) 00:45:21 ID:/A5OuY3M0
投下終了です

201名無しさん:2020/01/29(水) 20:28:16 ID:GbPfwSe.0
乙です
ミキも御子柴に対しアクション起こしてたんだよなぁ、それが吉と出るか凶と出るか
参戦時期がアキラと同じじゃないのも一見幸いだけど無惨様が近くにいるのがヤバい

202 ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:13:16 ID:vYKtjpqc0
遅くなって本当に申し訳ない。
ひとまず感想から


> IDENTITY CRISIS
やはりそこから来たかアキラ……
一番きつい時期からの参戦で天を仰ぐ思いです
そして案の定いるよなサイコジェニー
刹那主義という意味ではアモンもジェニーも同類で、それを眺めるシレーヌの方がむしろ悪魔らしからぬなんですかねえ
そしてなんか国会議事堂に色々いる!最近流行りの噛みつき爆弾型吸血鬼まで!蟲の王もびっくりの国会議事堂で、主催陣混沌だなあ

> 浮き上がる消えない誇りの絆、握りしめて
師匠と勝次、時を超えた明さんの仲間の邂逅!彼岸島も随分やってるからなあ
シリアスに彼岸島の空気感を再現しててこのへん好きです
そこからカーズとシュトロハイムが現れてお、空気がジョジョになったかなって思ったらまどキャノンは笑う
フレーバーを信じるとすげえ兵器だし実際この戦闘で活躍してるんだけど出展的に草不可避
そして師匠ォォォォォォ!!さすがだよ、邪鬼になっても消えない正義は健在だよ
カーズを噛んでアマルガムがさらに進むか?とドキドキしたけどそうはならず、二人を助けられてよかった
あとはカーズとシュトロハイム、数少ない首輪解除候補だからここから進展してくれるかな……

> マイペースで進めばいい
ミキちゃん、シレーヌのことをまだ知らない時期から参戦でさらりと不安……
アキラもやべえ時期参加だし、デビルマン勢どうなるやら
真っ先に気にする家のことはなんか所帯じみたというかミキちゃんってそういうとこある
で、無惨様
開幕拡声器紛いのことやらかしてたわ……てか今更気付いたけど日が昇ったら隠れられる建物壊して目立ってどうすんだあの鬼
でもまあ脅威ではあるからアレが近くにいるのはやべえという
この近辺がまず日の出までの山になりそうかなあ

改めまして黒死牟、ジョナサン・ジョースター、七海やちよ投下します

203月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:14:16 ID:vYKtjpqc0

焦燥と混乱が七海やちよの中で激しく渦巻いていた。
突如殺し合いに巻き込まれたといっても、平時であればもう少し平静でいられたかもしれない。
魔法少女……願いを叶える代価に魔女という怪物を退治する戦士になってもう7年にもなる。
自他ともにベテランと認める彼女の経験からくる冷静さは、異常事態においても即座に対応を試みるだろう。
しかし彼女とて木石の塊というわけではなく、当然冷静さを失うこともある。

魔法少女となった自分の魂が宝石に変えられてしまっていると知った時。
今まで倒していた魔女が自分たち魔法少女の成れの果てだと知った時。
大切に思っていた仲間の死に立ち会ってしまった時。
その仲間の死の原因が自分の願いのせいではないかと思い至った時。
何より、それらの記憶を一度にフラッシュバックさせられた時。

記憶キュレーターのウワサという怪異に立ち会った彼女は、それらの過去を共有する親友の記憶を見せられ、動揺のさなかにいた。
そこに神子柴の狼藉を叩きつけられ、理性的な行動をとれる人物の方が稀であろう。
……かろうじて揺らがなかった彼女の根幹にある倫理観・正義感が今の彼女を幽鬼のようにゆっくりとだが動かしている。
支給されたバッグを漁り、まず目についた名簿を確かめる。

(環さん、二葉さん、御園さん……それに鹿目さんに暁美さん、佐倉さん……巴さんまで)

見知った名前がいくつかある。もう仲間ではない…仲間ではないが、それでもこんな事態に共に巻き込まれてしまったことに何も感じないというほど冷淡にはなれなかった。
無事に生き延びてほしいと少しだけ想う。
続けて名簿を隅々まで何度も見渡して、つい親友の名前を探してしまう。

(みふゆはいない……)

その事実に安堵の息がホッと漏れるが、いくつかの疑問は浮かんでくる。

(二葉さんはいるけれど、鶴乃とフェリシアはいない。アリナはいるけれど、みふゆともう一人のマギウス…里見灯花はいない。
 あの場にいた全員が連れられてはいないけど、どういう基準で?)

マギウスが関わっているのかと少しばかり考えたが、それならアリナがいるのもせっかく洗脳した二葉さながいるのも奇妙な話だ。
いくらなんでも切り捨てるには早すぎるだろう。
とはいえ考えたところでここにいる理由もいない理由も分かるはずもなく、詳しい事情を知りたければ本人たちに会って聞くしか―――

(いえ、それはダメ。一人で戦わないとまた私の願いで人が死んでしまう)

七海やちよは大多数の者がそうであるようにかつてキュウべぇという白い妖精と契約し、願いを叶えられたことで魔法少女となった。
託した願いは≪リーダーとして生き残りたい≫というもの。
生き残りたいというのは文字通りの意味ではなく、読者モデルをやっている彼女が芸能界で活動しているユニットで生き残りたい、という意味であった。
しかし彼女が実際に口にした願いは上記のものであり、そして魔法少女の固有魔法は願いから派生して成立するものである。
後の魔法少女としての戦いの日々で、彼女を庇うような形で命を落とした仲間が二人いた。

『未来へ進んで』
『守れてよかった』

最期に二人がそう言い残して彼女を守るように逝ってから、彼女には一つの疑念がついて離れない。
リーダーとして生き残ることを願った自分は、周囲の全てを犠牲にしてでも自分だけは生き残る魔法を身に着けてしまっているのではないかと。

そのため彼女はこの殺し合いにおいても一人で戦おうとしている。
誰も巻き込まないために。誰も死なせないために。
苦難の道ではあるが、進むことを七海やちよは決めた。

名簿には目を通した。
続けてルールも熟読する。
そして支給品を取り出して検めると

204月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:14:46 ID:vYKtjpqc0

「笛……?」

まず最初に出てきた物は木を削って作っただけの簡素な笛だった。
笛を武器にする魔法少女に心当たりはあるが、この笛は別段特別なものでもないらしい。
非常時に備える笛というのに心当たりはある。
災害に巻き込まれた時や遭難した時などに大声を出して助けを求めているとすぐに喉がつぶれてしまうので、自分の居場所を発信するためにこうした笛やあるいは鈴などを用いるというものだ。
災害時の避難グッズなどにも導入されているらしいが、殺し合いという状況で濫りに自分の居場所を知らせたいとは思わない。
軽く吹いてみると一応音は出るが、そう使うこともなさそうで、ハズレを掴まされたなとバッグにしまおうとするが

「女……なぜお前が…それを持っている……!?」

持ち主としてふさわしくないという意味で、その笛はやちよが想定する以上のハズレであった。



◇ ◇ ◇



黒死牟



名簿に書かれた自分の名前はすぐに見つかった。
人間であった頃は別の名であったが、主君の手によって鬼に転じてこの名となってから久しい。
人間時代の名で書かれていたら見つけるのにむしろ余計な時間がかかったかもしれない。
続けて近くに並べられた見覚えのある鬼の名が目に入る。




鬼舞辻無惨 妓夫太郎 堕姫 猗窩座



どれもここにあるのは少しばかり悩みの種になる名だ。

(無惨様は…解毒はすまれたのか……
 猗窩座……つい先刻鬼狩りめらに…討たれたはずだ……
 妓夫太郎に堕姫……この者らも……
 あの老婆……鬼まで…黄泉還らせたか……)

鬼舞辻無惨は裏切者の作った人間化薬を盛られ、その分解の時間を稼げと黒死牟たち鬼に命じていた。戦場に立てる状況ではないはず。
猗窩座はその戦いの中で、妓夫太郎と堕姫はそれ以前に命を奪われた。ここにいるわけがないのだが、神子柴のしたことを信じるならば真の猗窩座たちが蘇生しているのだろう。

(確かに…猗窩座の気配を感じた……今は分からんが……
 妓夫太郎も…いたやもしれん……)

右手にの刀を握る力を強め、神子柴に斬りかかろうとした瞬間のことを思い出す。
たしかにいくつか覚えのある感覚がした。鬼と鬼殺の剣士何人か、自らの子孫の気配も。

(あの者を…鬼に誘いはしたが…猗窩座と妓夫太郎が戻ったのならば…不要であろうか……
 いや…また討たれぬとも…限らぬか……)

玉壺を斬った柱、それに妓夫太郎を斬った柱もいるとあっては鬼の百戦百勝を妄信できるほど黒死牟は楽観できない。
一度は自分と鳴女以外の十二鬼月は全滅したのだ。さらにその鳴女が離反したとあっては、もはや前任の上弦であろうと信用しきれない。

(私が…動かねばなるまい…)

考えることは多い。
鳴女の裏切り。
黒死牟の推挙した新参の陸はともかくとしても、なぜ童磨に半天狗、玉壺でなく猗窩座と妓夫太郎がここにいるのか。
首輪が爆発すれば死ぬというが、鬼まで殺すということは日輪刀に近似したものなのか。
何より憂慮すべきはここに飛ばれてからまったく無惨の声が聞こえないこと。
この調子で鳴女も珠代なる鬼と同様にこれ幸いと離反したのか。
黒死牟自身がまだ生きているのだから無惨の命は無事ではあるのだろうが、毒から回復していたとしても万全であるとは限らない。
自らの足で動かねばならなくなったが、無惨に仇なすもの―――裏切った鳴女や神子柴なる狼藉者も含めて―――を全て斬り捨てるべく闇の中に一歩を踏み出そうとする。

………………発達した鬼の聴覚が小さな笛の音を捉えた。
跳ぶ。
その音を知っていた。その音が二度と鳴るはずがないことを知っていた。
懐に、あるべきものがないことに今気づいた。
………………音の出どころにはすぐに辿り着いた。

「女……なぜお前が…それを持っている……!?」

205月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:15:15 ID:vYKtjpqc0

神子柴を斬るべく抜き放っていた刀を衝動的に振るう。
矮小な小娘などその一太刀であっけなく首が地に落ちる、黒死牟はそう考えていた。
だが現実はそうはならない。
刀を振るわれたやちよは黒死牟の異様な風体と殺気に一瞬驚きはするものの、攻撃範囲からは即座に離脱していた。
その予想外の速さに黒死牟は六つある目をわずかに見開き仰天する。

(背丈は…女にしてはある……肌艶もいい…栄養状態は…上々……
 しかし…細い……手足も…筋も…
 鍛えては…いるようだが…武人の体つきとは違う…あれほどの速さには…ならない筈だが……)

黒死牟の視線がやちよの体の上を走り抜けた。
透き通る世界、無我の境地、至高の領域―――呼び方は様々だが、弛まぬ努力の果てに辿り着く武人の究極に黒死牟は至っている。
肉体のあらゆる感覚を完全に掌握・認識し、世界も見て感じとれる領域にまで至った者は人体を透き通って見ることができるようになるのだ。
その力で七海やちよの体の組成を観察した結果が黒死牟には珍しい困惑だった。

平成の日本に生まれ育ったやちよは、黒死牟の経験してきた戦国から大正の世に比べて食や生活の環境が発展しており、女にしては恵まれた体躯をしているように黒死牟には映った。
モデルとしての美意識や、日常的に行われる魔女や使い魔との戦闘経験がその体を肥やすことなく美しく保っており、それも健康体であるという最低限の形ではあるが読み取れる。
だがその程度の肉体で、黒死牟の剣閃を躱せるのはおかしい。
眼筋かそれを補う何かが鍛えられていなければ攻撃を認識できるはずもなく、認識したところで反応する肉体が未熟では回避が間に合うわけもない。
明らかに目の前の女の肉体は黒死牟に対処するだけの性能を備えていない。

(仕掛けがあるな…外法…血鬼術のような…
 あるいは装備…からくりの類は…さすがに分からぬ……)

胸に一瞬燃え上がった焦げ付くような感情はいつの間にやら初撃を生き延びた奇怪な存在への興味で鎮火されている。
ゆっくりと剣を構えなおし、愉しむように、されど慎重に次の動きを練る。

対する七海やちよは余裕をもって躱したようだが、実際のところ九死に一生であった。

(見えなかった……全く)

魔女のような怪物退治なら百戦錬磨、魔法少女同士で戦った経験もあり対人であってもそうは遅れはとらないとやちよは自負していた。
しかしこれはどうだ。
不意に現れた怪物の攻撃をからなぜ生き延びたのかはやちよ自身理解できていない。
まるで背後霊なるものがそこにいてやちよの手を引いて守ってくれたのではないか、そう思うほどにやちよは何が起きたか認識できていなかった。

(……勝てないわね)

向き合う怪物の外観はほぼ侍のそれで、多少の錯誤感はあるが魔女などに比べればよほど人間に近い。
ただし三対に並んだ六つの眼を持ち、そのうち中央の左眼に上弦、右眼に壱の文字が浮かんでおりその僅かなれど確かな差異が怪物性を際立てている。
あまりにも速く、熟練された剣技はやちよがこれまで戦った魔法少女とは比べ物にならず、怪物としての存在感はこれまで倒してきた魔女やウワサ全てを搔き集めても及ばない。
逃げる以外に彼女が生き延びるすべはない。だがただで逃げられるような相手ではない。
それゆえに、彼女が選んだ行動は

(死中に活!)

やちよの左手に嵌められた指輪、彼女の魂を結晶化させた宝石、ソウルジェムが輝く。
青く輝く魔力が身体を一瞬で包み、彼女を魔法少女の姿へと転じる。
そして涙の如く流れ落ちた一筋の魔力を槍へと変え、怪物へと即座に踊りかかった。

一瞬だった。
まばたきよりも早く、達人の抜刀もかくやという刹那でやちよは魔法少女への変身と攻撃を終えていた。
しかし黒死牟にはそれすら児戯。
全身の突撃まで乗せた槍の刺突を、彼は片手の刀で容易く受け止める。

206月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:15:40 ID:vYKtjpqc0

(何が…起きた…)

黒死牟の目の前で女の衣装が戦支度へと変わり、どこからともなく槍も取り出して仕掛けてきた。
まさに鬼が姿を変えたり武器を作り出すのと同じように。妓夫太郎や玉壺、そして黒死牟自身も似たようなことができるが、ただの人間にはできようはずもない。
得体の知れなさを増した女の正体を見極めようと反撃よりも防御を優先し、観察を深めていく。

(やはり…重いな…見た目よりも)

刺突自体は黒死牟なら受けるどころか先んじてやちよの腕を斬りおとすことすら可能な程度の速度だった。
しかし受けてみてはっきりと確信する、女の細腕で出せる威力ではないと。
やちよが即座に続けて放った薙ぎの数閃も軽く払いながら探りを入れていく。

「術師のたぐいか…血鬼術とは異なる…何者だ女」
「あなたこそ、何?」
「私は…鬼だ。さる偉大なお方の…御手により…人を超えた……」

その先の問答を打ち切るようにやちよが交錯する槍と刀を弾くようにして跳び距離を置く。
魔女と違って問答ができるならばそれで時間を稼ぐこともできるだろうが、やちよはそれを選ばない。
魔法少女のことを下手に知られれば、自分が逃げ延びた後に別の魔法少女に不利益となるかもしれないからだ。

(オニ、ってあの鬼?どういうものかはよく分からないけど、コイツ一体ではないでしょう。
 上弦以外に下弦とか朔とか……あとは十七夜なんているかもしれないし。壱というなら弐や参も……?)

槍の間合いで、二人無言で睨み合う。
剣道三倍段という言葉の通り、距離が離れればリーチに優るやちよに有利に働く。
だが黒死牟の腕前はやちよの三倍では効くまい。
鍛え方が違う。経験が違う。種族が違う。何より彼の本来の射程は剣の届く範囲に収まるものではない。
赤子の手を捻るどころか花を手折るように勝利できようが、その花がまるで赤子の這うような速度で動いているため些か不気味に思い警戒しているだけのこと。
だがそのための観察も終わりを迎えようとしていた。

(指輪が消え…新たに胸に宝石が現れている……恐らくこれが力の根幹か…
 支給されたか…自前かは分からんが…斬りおとせば常人に戻るか……
 口を割らせるにしろ…鬼にするにしろ…命さえあればよい…)

六つの目と透き通る世界を通じてやちよの変化を見抜く。
それが彼女の能力なのか、道具頼りなのかは判別できないがそれゆえに黒死牟の関心を惹く。
鬼であっても使える技術なのか。あるいはこの女を鬼とすれば全集中の呼吸や猗窩座の武術のようにより強大なものになるのか。
ひとまず指輪をしていた腕でも落とそう、と刀を中段に構えなおし横薙ぎの一撃を浴びせんとする。

その瞬間、眼の一つが新たな脅威の飛来を捉えた。
巨大な鉄球が轟と宙を翔け、黒死牟へ猛然と迫っている。
いつの間にか接近しつつある大男がこちらへ放ってよこしていたのだ。
やちよとは比べ物にならない強大な乱入者に黒死牟は振るう刃の行方を変える。

(日輪刀か…)

速度、重量、どちらも黒死牟の頸を落とすに足る一撃。
もっとも直撃すればの話だが。
投げられた鉄球をいなし、そのまま鉄球に繋がる鎖の向こうの使い手を斬り捨てる程度、黒死牟なら容易い。
はずだった。

黒死牟の刀と鉄球が交わった瞬間、刀の方が塵となり崩れていく。
まるで日の光にさらされた鬼を想起させる現象にさすがの黒死牟も肝を冷やす。

(なに…!?)

さらにその塵化は伝染するように刀の切っ先から鍔、柄へと流れ始めた。
それを握る黒死牟の腕も塵に還さんとするように。



―――月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦



咄嗟に放ったのは黒死牟の扱う呼吸・剣技・血鬼術を合わせた奥義の型の一つ。
自身を中心に三日月状の斬撃を一斉に放ち、周囲一帯を斬り刻む技だ。
攻撃範囲も優れるが最大の長所は刀を振るうことなく放てる、剣技にあるまじき速射性と利便性にある。
朽ち、刀身の半分も残されていない刀ではこれを放ち鉄球を弾くのが精いっぱいだったとも言える。
不完全な刀での行使だったのに加え、放たれた斬撃の多くも鉄球とそれに繋がる鎖によって塵に帰り、やちよにも鉄球の担い手にも一切のダメージはない。
鉄球と血鬼術が相打ちに終わったその猶予で男は黒死牟からやちよを守るように立ち塞がっていた。

207月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:16:17 ID:vYKtjpqc0

「波紋をいなしたかッ!怪物!」
「は…もん……?」

現れた男を前に黒死牟の警戒が強まる。
長く戦いに身を置いてきたが、さすがの黒死牟も西洋人の剣士とは初めて相対する。
未知の人種に未知の技術。
そんな男が両の手に携える武装は当代最強の鬼殺の剣士、悲鳴嶼行冥のために鍛えられた日輪刀だ。鎖鎌を巨大化させたようなとでもいうべきか。片手斧と巨大な鉄球が鎖でつながれた、刀の粋を逸脱した最高峰の個人兵装である。
それを振るう2m近い体躯、100㎏を超えるほどに積み上げられた筋肉は括りつけたディパックが小さく見える。
本来の担い手である悲鳴嶼には僅かに劣るが、それでも十分な巨躯と言えよう。そしてその差異も人種の違いが埋めていた。

(素晴らしい…三百年の間…斯様な剣士は見たことがない…日ノ本の民とは根源からして異なる筋と骨格…それを鍛えるとこうまで至るか……
 これより幾百の年月を重ねようとも…この者を超える男児は日ノ本では産まれまい……)

足の長さ、背筋や腸腰筋のつき方、骨盤の傾きをはじめとした骨格、その全てが東洋人以上の力を発揮する形になっている。
種は同じでも猫と獅子でまるで異なる強さであるような決定的な違いがそこにはあった。

「異国の剣士…それとも術師か…?鬼殺隊ではないな…その女の仲間か?」
「怪物などに誇りある我が名を教えたくはないが―――」

一瞬やちよの方へと意識を向け、男は堂々と名乗りを上げる。

「イギリス貴族ジョースター家党首、ジョナサン・ジョースター。彼女とは初対面だが、僕にはお前と戦う理由がある」

右手に斧、左手に鉄球、そして呼吸を整えジョナサンが構えた。
だが

「助けてくれたのには礼を言うけれど」

水を差すようにやちよがジョナサンに並ぶように前へ出て黒死牟に切っ先を突き付ける。

「これ以上私にかまわないで。それに刀を失った今が好機。あなたは退いて」

自分のために犠牲になる仲間はいらない。それがやちよのした決意だ。
万に一つもジョナサンのような、初対面の相手のために武器をとれる善き人を失うわけにはいかない。
刀のない相手ならば相打ちになってでも一人で仕留める、とやちよが槍を握る手に力をこめるが

「武器を失った?」

黒死牟から失笑とともに声が上がる。
そして事実、刀が一振り折れたことなど些末事であったと証明するように新たな刀を己の能力で精製して見せる。

「先刻までは…抜いた剣の納めどころがなく…提げていただけだったが…」

今度抜き放った刀は三支刀とでも言おうか。
七支刀は段違いの枝刃が七つ刀身についた祭具であるが、新たな黒死牟の刀は三つの枝刃のついた刀であった。
すなわち、これこそが彼の全力の武装。

「これよりは敬意をもって…貴様らを…我が剣の錆としてくれよう…」


―――月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え


振り下ろされた刀から幾筋もの斬撃が放たれた。
礫を伴う激流のように、小さな三日月状の刃を纏って進む斬撃の波がジョナサンとやちよを諸共に呑み込まんと迫る。


―――鋼を伝わる波紋 銀色の波紋疾走(メタルシルバー・オーバードライブ)!


迎え撃ったのはジョナサンの呼吸法だった。
太陽に一番近く、一年中陽の射すという陽光山で採れる猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石から打たれた日輪刀は、偶然にも太陽の性質を持つ波紋の呼吸との相性は抜群だった。
隅々まで日輪刀として鍛えられた悲鳴嶼の日輪刀に波紋を纏わせて振るい、黒死牟の斬撃をことごとく撃ち落とす。

(やはり…呼吸…しかし…知らぬ型だ……
 我流にしても…縁壱のものとは…まるで似つかぬ…)

透き通る世界によって黒死牟はジョナサンの動きを臓腑に至るまで見切る。
真っ先に着目した肺の活動からその戦闘方法はやちよのものより自分たち、否かつての自分たち鬼殺の剣士に近しいものだと推察できた。
一つ数えるうちに十を超える呼吸をしたかと思えば、常人の数十倍の空気を一瞬で取り込みまた吐き出し……血中の酸素濃度を操る全集中の呼吸とは異なる、波を発生させるような特殊な呼吸法だ。

(波…そうか波紋か……波紋の如く伝播する…
 雷の呼吸と血鬼術の複合も…そうなっていたか……なら一太刀でも受ければ…厄介だ…)


―――月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾


続けざまに黒死牟は次の型を披露した。
形状としてはシンプルな横薙ぎの斬撃を一振り。
ただしまさしく龍が尾を振るう如く巨大な一撃で、そして鱗のように満遍なく纏っている三日月状の刃が受けることを大きく困難にしている。
ジョナサンが波紋を帯びた鉄球を振るっても纏う刃に阻まれ掻き消しきれない。
目前まで攻撃が迫る。

208月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:17:26 ID:vYKtjpqc0

(跳んで避けることも、伏せて躱すことも叶わないッ!ならばせめて!)

二つの攻撃に反応しきれずにいるやちよに向けてジョナサンが手を伸ばす。
すると彼女の体が引き寄せられるようにジョナサンの元へ。
生命磁気への波紋疾走。
それによって彼女を引き寄せ、即座に攻撃範囲の外へと送りものも添えて放り出す。

(僕は波紋で防御を!)

最も強力な太陽の波紋と、弾く波紋を纏い耐える姿勢に入るが

「ミスター!」

やちよがそれを助けるべく動く。
彼女はジョナサンに波紋による肉体の強化を送られたのだ。
この波紋を受ければただの少女であっても2m近い大男を投げ飛ばせるほど。ジョナサンは知らない話だが、後にジョナサンの孫ジョセフはこれに手こずる羽目になる。
熟練の魔法少女であるやちよがその恩恵を受ければ、最強の鬼である黒死牟相手でも戦線に立てるほどのものであった。

複数の槍を魔力により生成し、空中にずらりと並べる。
即座にその意図を察したジョナサンは並ぶ槍を足場にして黒死牟の奥義を跳び越えた。
それを黙って見ている黒死牟ではないのだが、足場の役割を終えた槍が即座に向かってくるためその対処に追われる。
透き通る世界はあくまで人体の起こりを見極めて先の先をとる技術であり、肉体的変化を伴わない魔法による攻撃には黒死牟自身の技術で迎え撃たねばならないからだ。
当然、ジョナサンは槍に波紋を纏わせていたため迎撃した刀は大きなダメージを受け、その再生にも追われる。
そこへ跳んだジョナサンが鉄球を振るって追撃をかけ、黒死牟がそれを躱して隙が生じたことで戦場のイニシアチブが移る。

(これなら私にも……!)

コネクトという魔法少女間で力を共有する戦術を行使してきたため、ジョナサンが施した波紋による強化にもやちよは即座に順応した。
……仲間として認めるつもりはないが、この戦況を一人で切り抜けられると思うほど愚かにも傲慢にもやちよはなれない。
難敵相手に協力するのは必要なことだと自分をだましながら、見ることも能わず、歯噛みするしかなかった戦場に追いついたやちよが全力の一撃で黒死牟の命を狙う。


―――アブソリュート・レイン


撤退を考えての牽制などではない、渾身の奥義(マギア)。
足場にしたもの以上に強大な槍を六本生み出し、黒死牟を封ずるべく取り囲む。
さらに自らも七本目の槍をつがえ、その全てを急所へ向けて放つ。

「これ以上、出し惜しみするつもりはないから!」

捉えた!
切っ先が黒死牟の肌に触れた瞬間やちよはそう思った。

「斯様な…児戯で…鬼は殺せぬ…」

四方より飛来する槍の全てを黒死牟は掴み、止めていた。いくつかは肌を裂き血を流させていたが、致命には程遠い。
無刀取りという技法がある。
柔術や合気などに端を発する、徒手にて剣を防ぐ超絶技巧だ。
刀に比べれば触れられる箇所の多い槍であったことも黒死牟に幸いしたのは事実だが、それでも容易くなせることではない。
そしてその本質は後の先をとる反撃の技法にある。

続けざまに鉄球を叩きつけようとしているジョナサンに掴んだ槍を二つ投げつけて牽制を入れる。
流れるように残った槍をやちよに突き立てようとするが、やちよは咄嗟に掴まれた槍を放して距離を置きそれを躱す。
だがその間隙で黒死牟は再び刀を握っていた。


―――月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り


大刀では追撃に間に合わぬと判断して、再度通常サイズの刀を作り即座に斬撃を放つ。
間断なく放たれたとは思えぬほどの数の横薙ぎの斬撃がやちよへと襲い掛かる。
それを阻むのは投げられた巨大な戦斧。
ジョナサンは自らに向かった槍の迎撃に武装は不要とし、波紋を纏わせた斧を黒死牟に投げていたのだ。
大規模な型でなかったのも幸いし、その一撃は黒死牟の攻撃をすべて呑み込んだ。

209月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:17:55 ID:vYKtjpqc0

(手放したな…日輪刀を…)

だがそれも黒死牟の掌の上。
一度突いた槍は引き戻さなければ次を打てぬように、投擲された鉄球や斧も回収しなければ攻防どちらにも使えない。
手元の鎖で槍をいなし、もう一つをかろうじて躱しはしたが黒死牟の技に比べればなんと無様なことか。
ジョナサンが鎖を引くより速く、黒死牟が踏み込む。


―――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮


雷の呼吸もかくやという神速の抜刀術が無数の斬撃を纏いジョナサンに襲い掛かる。
直撃すれば首か腕かいずかは間違いなく落ちるだろう。
だが黒死牟は一つ致命的な勘違いをしていた。
ジョナサン・ジョースターは剣士ではないということを。


―――太陽の波紋 山吹き色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)!!


なるほどジョナサンは槍を使い、鎖を使い、剣を使った戦士である。波紋使いはそんな武装はもちろんのこと、シャボンやクラッカー、マフラーすらも武器にする。
されど最も強いとされる波紋は拳から放たれるものである。
騎士ブラフォードの剣戟を受けたように、ジョナサンの拳が黒死牟の刀を迎撃する。

「ぐ……!?」

湿った重い、何かが地に落ちる音がどさりと響く。
落ちたのは逆に黒死牟の腕の方だった。
太陽の波紋を纏った拳は傷つきながらも血鬼術を打ち破り、さらには刀身をへし折りそのまま黒死牟の左腕に届く。
その一撃が上腕を砕き、肘から先が地に落ちたがそれもすぐに塵に還る。
さらに波紋が残った腕を駆けのぼろうとするが

「がァァァ!」

咄嗟に肩口から先を引きちぎり、それ以上の拡大を防ぐ。
ちぎった肉片はジョナサンに投じた。
鬼の肌は鋼鉄の硬度を誇るゆえ、それもまた十分な殺傷力を秘めるのだが、ジョナサンが拳ではじくと即座に蒸発する。

(拳で…我が剣を無力化など…猗窩座にもできんぞ…)

動作自体は透き通る世界で読めていたが、さすがに月の呼吸を素手で破られるのは思いもよらず、痛打を受けてしまった。
それも上弦の鬼ならば即座に回復するはずだったが

(再生が…遅い…これは…まさか…)

即座に生えるはずの腕が未だに欠けたまま、少しづつ癒えるだけ。
鬼の再生を遅らせる手段に黒死牟は一つだけ心当たりがある。
そして今ジョナサンが放った呼吸は【太陽】の波紋であるというのも引っかかる。

「まさか貴様…異国に流れた…日の…」
「オォォォォォ!!」

黒死牟の発する言葉にジョナサンは耳を貸さず追撃する。
再生する怪物に大きなダメージを与えたのだから当然と言えよう。
片腕を失い重心が狂ってなお武術自体は黒死牟が優るため、放たれた拳を躱すのは容易い。
腕をくぐるようにジョナサンの脇を抜け、背後をとるがそこでジョナサンの首筋にあるものが目に付いた。

(痣…!)

左肩首筋の付け根に浮かぶ星型の痣。
波紋を練り上げ脈も体温も昂ったジョナサンに浮かぶそれと、太陽の波紋という類似性が黒死牟の胸を焦がす炎になった。

「その…痣は…」

背後に回った優位を活かすでもなく黒死牟の口からは言葉が突いて出ていた。
その言葉には、背後の黒死牟と向き合い、さらに日輪刀の鎖を手繰るために僅かながらジョナサンも応じる。

「父に聞いた。一族の者には皆この痣があると」
「…………生まれついての…痣者か…」

210月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:19:13 ID:vYKtjpqc0

黒死牟の胸の炎が強まる。
そして同時に、主より自分だけに賜った厳命も思い出す。
故にこの者は何としても殺さなければならないと。


―――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月


残った右腕の中に刀を生み出しながら振るい、不格好ながら斬撃を高速で黒死牟が繰り出す。
本来なら巨大な三日月状の斬撃を三つ放ち、衛星のように伴う斬撃も併せて敵を刻む技だが、片腕で振るったために二つしかなく、伴う斬撃も少ない。
それでも常人なら十人仕留めて余りある奥義であった。
だが相手はジョナサン・ジョースターである。波紋を纏わせ振るった鉄球で迎撃に成功する。
不完全とはいえ黒死牟の絶技相手にその戦果は十分に誇れるものであるのだが

(なにッ!?こいつ自らの攻撃に飛び込んで!)

それだけでは終わらず、続けざまに月の呼吸の斬撃を追い抜くような勢いで黒死牟が飛びかかる。
鬼の脚力に縮地の歩法も加え、自らの斬撃で身を削られるのも厭わず襲い来る怪物の姿がそこにあった。


―――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮
―――鋼を伝わる波紋 銀色の波紋疾走(メタルシルバー・オーバードライブ)!


鉄球を放り、戦力が半減したジョナサンに改めて最速の月の呼吸を見舞う。
ジョナサンはそれを今度は波紋を纏った斧を振り下ろして撃ち砕く。
交錯により刀身を波紋が駆けのぼろうとするが、腕へと至る前に刀を捨てて黒死牟は徒手でジョナサンに迫る。
対するジョナサンもまた、伸び切った日輪刀を手放し拳から波紋を放って迎え撃とうとする。

次の瞬間、ジョナサンの拳は黒死牟を捉えていた。
だがそれによるダメージを黒死牟は一切受けていない。
対する黒死牟は、再生した左腕に生成した刃を握り、ジョナサンの胸に突き立てていた。
吸って、吐く一呼吸。それさえあれば波紋は練られ、黒死牟に引導を渡していただろう。
だがそれは叶わなかった。

黒死牟もまたジョナサンとは異なるが呼吸の名手であり、そして彼は透き通る世界を見通す武人であった。それゆえの先の先。
二つの月の呼吸を迎撃し、体内の波紋を吐き出したジョナサンは必ずや呼吸によって新たに波紋を練る必要がある。
その瞬間を黒死牟は透き通る世界によって見抜き、ジョナサンが息を吸うまさにその直前に牙を立てるような距離で息を吸い……ジョナサンが吸うはずの空気を奪った。
人間ほどの大きさの巨大で硬い瓢箪を破裂させるほどのすさまじい肺活量、さらに鬼となって300年余で強化された心肺での全集中の呼吸はまさしく大気の略奪ともいえるもの。
そして人体は酸素濃度の薄い空気を吸ってしまえば、即座に意識障害が発生する。
呼吸を奪われ、正気も奪われたジョナサンの拳は無為に終わり、全集中“常中”によって失った腕と刀を即座に再生した黒死牟は決定打を放った。

「終わり…だ…!」

肺と横隔膜を裂いた刀を滑らせ、とどめを刺さんと黒死牟の腕に力が籠もる。

「はぁぁぁぁぁ!!」

だがそれを阻む乱入者。
七海やちよの槍が黒死牟の刀を止める。

「無駄なことを…娘…」
「やらせない!もうこれ以上、私のためなんかに誰も死なせるなんて……!」

波紋で強化されたやちよの膂力はかろうじてだが黒死牟の進行を遅らせることはできている。
だが刀が止まった程度で、最強の鬼の進撃は止むことはない。
黒死牟が息を、吸って吐く。


―――月の呼吸 伍ノ型…

「VAAOHHHHHHHHH!!!」

この戦闘の始まり、ジョナサンの鉄球をいなした伍の型で二人を諸共に切り裂こうとしたが、突如響いた獣の嘶きがそれに待ったをかける。
ジョナサンが体に括りつけていたディパックに腕を突っ込むと、巨大な二頭の馬とそれに曳かれる戦車が飛び出した。
ただの馬ではない。
偶然にもジョナサンが研究し、宿敵ディオを生み出した石仮面と同じ原理で吸血馬となった怪物だ。
150馬力を誇るそれが突如現れ蹴りを見舞ったとなれば、さすがの黒死牟も怯むざるを得ない。
そうして生じた僅かな隙で、ジョナサンは胸の刀を引き抜き、やちよも抱えて戦車に飛び乗り黒死牟から離れていく。
時速60km以上の速さで駆ける戦車の操作は容易くないが、手綱は波紋が通るようにできており僅かな呼吸で吸血馬を操ることができる。
透き通る世界でそれを見た黒死牟は訝しむ。

211月は昇り、日は沈む ◆PxtkrnEdFo:2020/01/31(金) 03:19:42 ID:vYKtjpqc0

(損傷した…臓器で…なぜ呼吸ができている…!?)

肺を動かす横隔膜は断ち、肺にも刃が通って血が溜まりまともに機能するはずがない。それにもかかわらずジョナサンは波紋を練っている。
その疑問の答えを透き通る世界によって黒死牟は知ることになる。

(傷口から…手で直接肺を操作するとは…なんという…)

刀で突かれた穴をさらに広げて腕を突っ込み、肺を握る指が繊細に動いていた。
息を吐くたびに肺に溜まった血も吐き出している。
息を吸うたびに肺から血を流している。
それでも構わずジョナサンは波紋を練り続ける。そして黒死牟にとって恐るべきことに、呼吸のたびに波紋により傷が癒えているのか出血が少なくなりつつあった。
それを見た黒死牟の内で逃がさぬ、殺さねばならぬの念が強まる。
その殺意に呼応するかのように握る刀が巨大化していき、再び三支刀の形をとった。
なるほど吸血馬は速かろう。されどいかな俊足も剣聖の一太刀に優る道理無し。
追撃の構え。
背後から迫る死そのものと言っても過言ではないその殺気を遠ざけるべく、戦車上で真っ先にジョナサンが構えた。
すぐに続くようにやちよも反転して槍をとる。

その瞬間、ジョナサンの繰り出した貫き手がやちよに食い込む。

「がはっ…な、にを……?」

乱心としか思えない行動にやちよは困惑を隠せない。
だが次の瞬間の自分の行動にやちよはさらに戸惑うことになる。
再度反転して前方をむき、手綱をとって馬の足を速めたのだ……やちよの意に反して。
ジョナサンが貫き手とともに行ったのは横隔膜を刺激してやちよに波紋を練らせることと、身体操作の波紋を打ち込むこと。
それにより今のやちよは微弱な波紋で吸血馬を操る御者に徹するざるを得なくなった。
そしてジョナサンが体に括りつけていたディパックを戦車の上に置いたことで、何をしようとしているのか誰もが察せられてしまう。
致命になりかねない胸の傷に対して行っている自傷としか思えぬ行動も、彼の戦意の証明。
一人で残り、死ぬまで……いや死んでも戦うつもりなのだ。

「待って……待ちなさい!ダメよ!」

制止の言葉がやちよの口をついて飛び出る。
また自分の願いのせいで誰かが死んでしまう。そんなことは許せない。生きるために抗え。
そう止められるのもジョナサンは察してやちよに波紋を流したのだろう。
傷ついた呼吸器では喋るのも厳しいのか、ジョナサンは何も発さず静かに微笑むだけだった。
口の端から血を流しつつもあまりに美しく、気高く、強壮な笑みにやちよの言葉がはっと止む。
それで別れの挨拶は済んだということだろう。
ジョナサンの顔が戦士の相に戻る。

胸に突き立てていた腕を引き抜くと、そこから波紋を手綱に流した。
答えるように馬は嘶き、体を沈める。
そこにジョナサンが跳ぶと合わせるように蹴足を放った。
吸血馬とジョナサンの脚力、カタパルトのように二つを合わせて男は死地へと翔けた。



―――月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月
―――波紋乱渦疾走(トルネーディ・オーバードライブ)!!


これまでに放った月の呼吸のどれよりも巨大な螺旋状の斬撃が、月輪を纏ってやちよとジョナサンに襲い掛かる。
対してジョナサンは残った波紋を足先に集中し、黒死牟の奥義に真っ向から挑む。
先の衝突とは違い今回はジョナサンが不利だ。
太陽の波紋で刀身を折ったのは技が発動しきるより前に拳を繰り出せたのが大きい。
それで破ったのも基礎となる壱の型で、此度向かい合うのは磨きに磨かれた拾肆ノ型。
呼吸器のダメージもあり、まともに挑めばジョナサンは敗北は必定であった。


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