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魔界都市新宿 ―聖杯血譚― 第3幕

334流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 23:05:34 ID:NJSF5ysM0
三人が死闘を繰り広げる路上の側に有る廃マンション、クレセント・ハイツの上空から、要石に乗った佐藤十兵衛と、その横に浮遊する比那名居天子は、眼下で繰り広げられる魔戦を見守っていた。
但し、十兵衛には何が起きているのか全く理解できていないが。

「どうするの?あれ」

「どうって言われてもなあ……」

十兵衛の基本戦略は情報収集と数の暴力による圧殺。此処で天子を投入するのは十兵衛の本意では無い。
だが、此処でヴァルゼライドを葬れば十兵衛が令呪を独占できる。
優勝を狙うのならば避けては通れぬライドウや、油断も信頼もならない塞といった面子に隠れて切り札を増やせる、というのは魅力的だった。
腕組みして考える十兵衛。
大体、今の処は目の前の相手に集中しているのと、距離を置いている所為で気付かれてはいないが、気付かれたら最後、ヴァルゼライドの放射能熱線で消し飛ばされるのは必至。
少なくとも、自分が安全地帯に移動するまでは何もしないのが賢いのだが、此処で問題になるのが“もし自分が離れて、天子を嗾けた場合。果たして此方の指示を聞くのか”というものだった。
一撃加えて退け。と命じても、無視して戦闘続行しそうな気質をこの少女は有している。

「それにしても、あのバーサーカー。放射能熱線出しまくるわ、あんな傷でも元気に戦うわ。G細胞でも植え込んでるのか?」

無論バイオじゃ無い方の。

「G細胞?」

訪ねてくる天子をスルーして眼下を見る。高い地力と多彩な能力とを持つ銀蝗のセイバーが、ヴァルゼライドを相手に手傷を負わされていた。
此処に十兵衛の肚は決まった。

「セイバー。俺を安全な場所まで運んでから、強烈なのを一発カマシてくれ。狙いはバーサーカーのマスター」

双方が傷付いたのなら得るべきは漁夫の利。強敵を労せず排し、令呪をコッソリ頂こう。

「私達は蛤と鷸を捕らえる漁夫という訳ね。任せなさい、天網恢恢疎にして漏らさず。一網打尽という言葉の意味を教えてあげる」

手に握るは天人にしか扱えぬ緋想の剣。〈新宿〉に顕現した英霊が持つ宝具の中でも上位に入る性質の剣を開帳すると、巨大な要石を造り出し、その上に乗った。

要石
─────* 天 地 開 闢 プ レ ス

直径10m、重量にして100tを超える要石が、地上で対峙する三人に落ち行く様は、まさに争いを止めぬ愚者共に対し、天が下した罰か。
古典文学に詳しい者なら、ジョナサン・スウィフトの小説に登場する、空に浮かぶ国を思い浮かべたかもしれない。
地上の三人が上を見上げたのが同時。
燃え盛る剣を持った男が要石の下から走って逃げようとし。
輝く剣を持った男が両手の光刃を振り上げ。
銀蝗の剣士の姿が描き消える。
そして─────落下した要石が路面を貫き、下水道すら粉砕し、完全に路面に埋まってから、緋想の剣を持った天子がドヤ顔で誰も居なくなった路上へと降り立った。
周囲に有った建造物が、要石の落下の際の激震と路上の陥没に伴い、大きく傾いでいるが気にした風も無い。
その時、天子の遥か上空から銀色の影が極音速すら超えて落下してくる。その様は、人が近い未来に於いて実現するであろう神威の兵器。“神の杖(ロッズ・フロム・ゴッド)”さながらのものだった。

回避も要石を用いた防御も間に合わぬ程に迫った処で、漸く気付いた天子が緋想の剣で銀影を受け止める。
隕石の落下にも匹敵する轟音は、衝撃波と化して周囲の建物を撃ち震わせ、耐えられなかった建物を倒壊させる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

335流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/02/20(月) 23:06:55 ID:NJSF5ysM0
投下を終了します
続きは近日中に投下します

336名無しさん:2017/02/21(火) 21:48:26 ID:/ZHxzIFY0
投下乙です

>>夢に見たもの
魔界都市勢の強さと凄みの描写が非常に卓越していて、読んでいて余りの表現力の高さに唸らされました
超級の魔人達に目を付けられてしまったタイタスは災難ですが、然し然程不安を感じさせない辺りは流石の始祖帝
どう転んでも只では済まなそうなお話、後編もとても楽しみです

>>波紋戦士暗殺計画・流星 影を切り裂いて
ジョナサンを隙あらば斃したい塞の考えは尤もですが、当のジョナサンのアーチャーにはとんでもない宝具があるのがまた
シャドームーンとヴァルゼライド閣下の戦闘は非常に読み応えがあり、どちらが勝利しても何らおかしなところのない激戦に手に汗握る想いで読み進めていました
此方も此方でとてつもない対決になりそうで、後編を楽しみにしています

337 ◆84KkaZCadA:2017/02/21(火) 21:50:27 ID:/ZHxzIFY0
それと差し障りなければ、遠坂凛&バーサーカー(黒贄礼太郎)を予約させてください

338 ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:34:29 ID:qCpQ9VzI0
投下させて戴きます

339追想のディスペア ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:36:16 ID:qCpQ9VzI0
 地獄だ。これ以上の地獄はないと、遠坂凛は心の底からそう思う。
 体を循環する血液と言う血液が丸ごと溶けた鉛に置き換わってしまったかのように身体はただただ重く、疾走の息継ぎで酷使した喉は乾いて裂けるような痛みを伝えてくる。何か考えなければならないと頭では分かっているが、考えれば考えるほど胸の奥で暴れている心臓が鼓動を強めて凛を追い詰めるのだった。
 人気のない路地裏に入り込み、凛は歩調を緩めてようやっと少し体力を回復する。

 ――兎にも角にも、先ずはこれから何処に向かうかを明確化しなければ。衣服の調達には、一応成功した。外面を取り繕う認識阻害の魔術の恩恵もあって、これで少しは人目に付いても問題なくなる。
 だからと言って、凛は呑気に大手を振って久方振りの娑婆を満喫するような阿呆ではない。そも、新国立競技場のあの惨状を前にしても尚その近辺に留まれる等、とんでもない胆の座りようだ。在り方としては、最早自殺に近い。
 恐ろしい戦いだった。聖杯戦争を侮っていた訳では絶対にないが、それでも、あの戦いは凄まじいの一言に尽きた。
 どこもかしもも神秘で満ちている、神話の大戦めいた光景が彼処にはあった。

 並のサーヴァントであれば最低でも三度は死んでいるような傷を負って尚、知ったことかと暴れ回る黄金の英雄。
 奇矯な歌を響かせて敵の動きを止め、止まっている間に撃ち込むと言う恐るべき戦法を駆使した艦装の少女。
 深淵に繋がる闇の湖面を形成し、激烈なる大戦争を事実上終結させた魔王の如き少年。
 凛が集中して観察していた面子だけでも、これなのだ。にも関わらずあの場には、少なく見積もってもその倍ほどのサーヴァントが揃っていた。セオリー通りの聖杯戦争ではまずお目にかかれない光景だったと言える。虚無の湖面により全員が散開したように思われるが、この近くに残留している者もまだ多く居るだろう。お尋ね者の身としては、そういう意味でもとてもじゃないが長居したいとは思えない。
 ――では、何処へ向かう? それが問題だった。何だかずっと前のことに感じられるが、そもそも自分は漸く見つけた新たな拠点を早々に後にし、新たな"最低限、家の体裁を保った"拠点を探すべく動いていた所だったのだ。其処まで思い返すと、今後の方針は自ずと浮かび上がってくる。

"出来るだけ競技場から距離を取りつつ、新しく拠点に出来そうな場所に当たりを付ける事……ね"

 忌まわしい偽物に罪を被せ、少なくとも聖杯戦争に噛んでいる人間からの関心を反らす目論見は失敗に終わった。凛とて、全部が全部上手く行くと思っていた訳ではないが、彼処まで何もかも上手く行かないと一周回って可笑しくなってくる。凛はあの競技場で無駄な徒労と心労を背負わされただけで、何一つ現状を変える事が出来なかった。貴重な時間と魔力を使って、無駄に疲れに行ったような物だ。
 そう考えると元凶の偽黒贄、ひいてはそれを生み出したステージ襲撃の首謀者に八つ当たりじみた怒りが沸々と湧き上がってくる。お前達さえ居なければと、そう思わずにはいられない。感情の薪を燃やした所でどうにもならないとは分かっていても、割り切れるかどうかはまた別の話である。
 無論、何時までも終わった事を引き摺っていても仕方のない事。失敗は素直に失敗と受け止めた上で、これからその損した分をどうやって挽回していくかが肝要だ。
 其処で凛は、行動の方針を元に戻す事が一番だろうと判断した。触手遣いのマスターとの戦闘もあった以上、何処かで暫く身体を休めつつ魔力の回復に努めたい。その為にも、やはり拠点……最悪そうとまでは行かずとも、人目を凌げ、腰を落ち着けられる場所は確保しておきたかった。

340追想のディスペア ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:37:08 ID:qCpQ9VzI0
「浮かぬ顔ですなあ」
 
 まるで他人事のように、凛から一歩引いた位置で、気怠げな瞳のバーサーカー……黒贄礼太郎がへらへら笑っていた。
 その緊張感も責任感も皆無と言った振る舞いに、凛はもう怒りすら湧いてこない。いや、事実、彼にとっては他人事のような物なのだろう。不死の性質を持ち、聖杯戦争にも凛程の執着はない異端のサーヴァント。規格外の狂化ランクをあてがわれるのも頷ける、狂気の権化。彼にも自分の怒りや焦りを共有して欲しいなどとは、今や凛は全く思っていなかった。それは無駄な事で、疲れるだけだと遅まきながら理解したからである。

「……最低限、気だけは張っておきなさい。それとなるべくなら、私の盾になるような感じで歩いて。もう大分離れたとは思うけど、サーヴァントにしてみればこのくらいの距離、殆ど無いも同然だろうから」

 あの状況で自分達を追い掛けてくる程余裕のある主従が居たかは定かではないが、警戒するに越した事はない。内に居たサーヴァントでなくとも、外で虎視眈々と待ち受けていた輩が居ないとも限らないのだ。黒贄にアサシンの襲撃を予見するなんて働きは期待していないが、正面戦闘と耐久競争に於いてだけは、この狂戦士はまさに天下一品の怪物だ。肉盾として活用すれば、実質絶無に近い消耗で得意の真っ向勝負に持ち込める。
 其処まで考えて、凛は足を一瞬止め、乾いた唇を血が出そうなくらい噛み締めた。
 後ろを歩いていた黒贄の歩みが予期せず追い付いて、彼も足を止める。殺人鬼は今、凛の隣に居た。「どうしたのですかな?」と問い掛けてくる黒贄に、凛は「何でもない」とぶっきらぼうにそう返す。此処で要らぬ追及を掛けてこない、掛けようという気にならない所だけは、今の凛にとっては少しだけ都合が良かった。

"……慣れたわね。色々と"

 遠坂凛と言う魔術師は、超を付けてもいいくらい優秀な人物だ。
 冬木の御三家が一角である遠坂の姓を持つ時点で、家柄が重視される魔術師の世界では誰もが無視出来ない。その上凛は自分の才能に驕って研鑽を怠るでもなく、自分の身に流れる血統に誇りと責任を持ち、より素晴らしい魔術師になるべく前進を続ける模範的な性分の持ち主でもあった。
 異世界の<新宿>で行う聖杯戦争と言う舞台設定には、簡単に慣れる事が出来た。然し彼女は――この街に招かれたマスターの中でも一二を争う位に、兎に角運がなかった。戦力面以外は最悪の一言に尽きる殺人鬼のバーサーカーを引き当てた挙句、何一つ自分の思い通りに行かない。聖杯戦争に於いて忌避される民間への露出と不要な殺戮を、出だしから己のサーヴァントの手で行われてしまった。
 血と臓物の臭いが常に隣り合わせの、想像していたのとは全く別な意味で過酷過ぎる聖杯戦争。
 事実常人なら、最初の大虐殺の時点で精神を病み、首を括っていてもおかしくはないだろう。

 然し遠坂凛は優秀だった。聖杯を獲らねばならないと言う想いも人一倍強く、故にその感情を支柱にして、壊れかけの精神を繋ぎ止める事が出来た。そして、それだけではない。時間は大分掛かったし失敗も山ほどしたが、凛はこの血腥い現状に段々自分が順応し始めているのを感じていた。
 素直に喜べる事では、無いだろう。それは裏を返せば、真っ当な人間の範疇から現在進行系でどんどん逸脱していることの証左に他ならない。魔術師の中には世間一般に人でなしと呼ばれるような人間も決して少なくはないが、それでも黒贄レベルの凶行に及ぶ者はまず居ない。そういう意味では今の凛は、魔術師基準でも"異常"な精神に成長しつつあるのだった。

 ああ、どうしてこんな事になってしまったのだろう。
 忘れもしないあの時――今思えば明らかに曰く付きの代物だった――最上のサファイアに手を掛けさえしなければ、自分はこんな冗談みたいな世界に迷い込むは無かったのだろうか。きっと、そうに違いない。何故なら今も手元にある"これ"はサファイア仕立ての宝石細工等ではなく、契約者の鍵。<新宿>と言うワンダーランドで執り行われる、聖杯戦争と言う名のティーパーティーへの招待状。
 数百万ぽっちでこんな上物を買えるなんてと喜んでいた自分を殴り飛ばし、ありったけのガンドで蜂の巣にしてやりたい。あの時、凛は"買った"のではない。"売った"のだ。たった数百万円ぽっちで、凛は自分の未来を悪魔に売り渡してしまったのだ。契約者の鍵と言う、代金を受け取って。

341追想のディスペア ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:37:56 ID:qCpQ9VzI0


『人殺し!!』

 走馬灯のように、脳裏に甦る声がある。

『あなたのせいで、皆死んだ! あなたさえ来なければ、皆で楽しく、素晴らしくライブが終われた筈なのに!! 辛かったトレーニングが実を結んだんだって笑いあえたのに!!』 

 あの時、凛は違うと言った。事実として、それは正しい。
 悲痛に叫びながら滂沱の涙を流す少女の仲間達を殺したのは黒贄礼太郎を騙った何某かであって、遠坂凛はあの一件に関しては被害者だった。其処については、何の間違いもない。だが、ああ。それがどうしたと言うのだろう。
 本物の黒贄が殺した人間の家族や友人が凛を見たとしても、きっと同じ反応をした筈だ。
 要は橘ありすは、そう言った人達の代弁者でもあった。何十、下手をすれば百にも届くような人間が、この世界の何処かで遠坂凛と言う人間……もとい殺人鬼に対して、彼女と同じ感情を抱いている。母を、父を、姉を、兄を、弟を、妹を、祖父を、祖母を、友を、恩師を、返せと哀しみに震えている。

 
 人間は、人の事を声から忘れていくと言う。
 なのに凛は、あの時の少女の声を今も頭の中で再生する事が出来る。
 それ程までに深く、橘ありすの訴えは凛の心に突き刺さった。返しの付いた針のように、それが抜ける気配もない。
 それが抜けた時が、遠坂凛が完全に戻れなくなる時だ。人倫の外にある、人でなしの精神性を手に入れる時だ。そうはなりたくないと、凛はまだ辛うじてそう思う。
 そんな事を考えながら歩いていると――どん、と何かにぶつかった。

342追想のディスペア ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:39:56 ID:qCpQ9VzI0
「痛ってえな! てめえ、どこ見て歩いてやがんだ!?」

 人だった。ガタイのいい、凛よりも背の高い男。男とは言っても、歳は凛より下だろう。背は高いが、顔立ちと声の調子を聞く感じは、精々中学生くらいと思われる。
 いきなり声を荒げた彼に驚いた様子で、後ろを歩いていた取り巻きらしい少年の一人が彼を止めに掛かった。

「とと、すいません! おい寺坂あ、気持ちは分かるけど誰彼構わず喧嘩売んのは止めろって!!」
「うるっせーぞ村松ゥ! 俺ぁな、今虫の居所が悪いんだよ!!」

 ……凛の抱いたイメージは、"典型的な不良学生"だった。親か、或いは学校か。どちらかは分からないが、今の現状に強い不満なり劣等感なりを抱いているのだろう。そのストレスを不良行為で発散する、テンプレートじみた思春期の子供。それは合っていたが、然し厳密には違っていた。
 彼らは、黒贄の殺戮とはまた別な、<新宿>を襲った災禍に依って友人を奪われた被害者であった。
 時は遡る事数時間前。何ら変哲のない住宅街の一角が、黄金の極光で無惨に焼き尽くされた。犠牲者の数はとんでもない人数に達しており、その中に、少年達がよくつるんでいる友人も含まれていたのだ。正確な安否を確認したくても、爆心地の周辺が警察に封鎖されているからどうにもならない。
 やり場のない怒りと遣る瀬無さを抱えながら当てもなくぶらついている時に、彼らはこうして凛と遭遇するに至ったのだった。認識阻害の魔術が掛かっている為、一目見られただけで素性が割れるような事はない。――ない、が。

「はは、謝る事はありませんよ。どうかお気になさらず」
「いや、ホントすんません! ……って、あれ? アンタ、確か――」

 何か言いかけた、村松と呼ばれた少年の首が、一瞬にして百八十度回転した。
 激昂する事も忘れて、何が何だか分からないと言った顔で、寺坂少年が「あ?」と呟く。次の瞬間には、二人の後ろ側にいた、やはり彼の取り巻きの一人なのだろう少女の頭がスイカのように潰されて、残った少女の首から下がハンマーのようになって寺坂の頭部をやはり果実のように粉砕した。
 此処まで、僅か四秒程だ。凶行を終えた黒贄は血塗れ姿で凛へと振り返り、その顔を見て「むむ?」と呟く。

「おや、ひょっとして拙かったでしょうか? 先程工面してやると言われた分を、今殺させて戴いたのですが」

 遠坂凛には、少年達に警告する事が出来た筈だ。何を言っているのかと言われてでも、逃げろと口にする事が出来た。
 まず人は通らないだろうと思っていた薄暗い路地裏で誰かと遭遇するなんて思わなかった――そうだとしても、やはり警告する事は出来た筈だ。然し凛は、そうしなかった。"殺人鬼・遠坂凛"の動向が早速漏れてしまうのと、少年達の命。それを天秤に掛けた結果、凛は前者の方を重視したのだ。
 此処が人気のない路地裏である事。少年達が少数である事。
 そして――先程競技場で、その場凌ぎの口約束とは言え、黒贄に"後で人命を工面してやる"と発言した事。後々変な場面でその約束を履行されるよりかは、何かと都合が良い今この時に済ませてくれた方が幾らかマシだ。そんな、凡そ真っ当な良心を持つ人間とは思えない考えの下に、凛は三人の中学生を犠牲にしたのだった。

「……行くわよ」

 擦り切れそうな精神を爆速で摩耗させながら、遠坂凛は往く。もう戻れない、"人殺し"の道を、着々と。
 
 その事を、他ならぬ凛当人も実感していた。だって今、中学生達が目の前で殺された時、凛はこう思ったのだ。
 自分の行いを嫌悪するよりも先に。仕方のない事だと自分に言い聞かせるよりも先に。

343追想のディスペア ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:40:18 ID:qCpQ9VzI0



 ――ああ、代えたばかりの服が汚れなくて良かったな……と。



【霞ヶ丘町方面(路地裏)/1日目 午後3:30】

【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]精神的疲労(極大)、肉体的ダメージ(小→中)、魔力消費(中)、疲労(大)、額に傷、絶望(中)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]いつもの服装(血濡れ)→現在は島村卯月@アイドルマスター シンデレラガールズの学校指定制服を着用しております
[道具]魔力の籠った宝石複数(現在3つ)
[所持金]遠坂邸に置いてきたのでほとんどない
[思考・状況]
基本行動方針:生き延びる
1.バーサーカー(黒贄)になんとか動いてもらう
2.バーサーカー(黒贄)しか頼ることができない
3.聖杯戦争には勝ちたいけど…
4.今は新国立競技場から逃走
5.それと並行して、新たな拠点にも当たりをつけておきたい
[備考]
遠坂凛とセリュー・ユビキタスの討伐クエストを認識しました
豪邸には床が埋め尽くされるほどの数の死体があります
魔力の籠った宝石の多くは豪邸のどこかにしまってあります。
精神が崩壊しかけています(現在聖杯戦争に生き残ると言う気力のみで食いつないでる状態)
英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)の主従を認識しました。
バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)が<新宿>衛生病院で宝具を放った時の轟音を聞きました
今回の聖杯戦争が聖杯ではなく、アカシックレコードに纏わる操作権を求めて争うそれであると理解しました
新国立競技場で新たに、ライダー(大杉栄光)の存在を認知しました。後でバーサーカー(黒贄礼太郎)から詳細に誰がいたか教えられるかもしれません
あかりが触手を操る人物である事を知りました
現在黒贄を連れて新国立競技場から距離を取っています。何処に移動するかは次の書き手様にお任せします


【バーサーカー(黒贄礼太郎)@殺人鬼探偵】
[状態]健康
[装備]『狂気な凶器の箱』
[道具]『狂気な凶器の箱』で出た凶器
[所持金]貧困律でマスターに影響を与える可能性あり
[思考・状況]
基本行動方針:殺人する
1.殺人する
2.聖杯を調査する
3.凛さんを護衛する
4.護衛は苦手なんですが…
5.そそられる方が多いですなぁ
6.幽霊は 本当に 無理なんです
[備考]
不定期に周辺のNPCを殺害してその死体を持って帰ってきてました
アサシン(レイン・ポゥ)をそそる相手と認識しました
百合子(リリス)とルイ・サイファーが人間以外の種族である事を理解しました
現在の死亡回数は『2』です
自身が吹っ飛ばした、美城に変身したアサシン(ベルク・カッツェ)がサーヴァントである事に気付いていません
ライダー(大杉栄光)が未だに幽霊ではないかと思っています

344 ◆84KkaZCadA:2017/02/22(水) 18:40:32 ID:qCpQ9VzI0
投下を終了します

345 ◆TE.qT1WkJA:2017/02/26(日) 22:46:02 ID:aQYdWu.U0
>>294の予約を延長します

346 ◆zzpohGTsas:2017/02/28(火) 04:25:54 ID:Xae50M.k0
>>夢に見たもの
予約した段階で思ったのは、遂に新宿聖杯に参戦している魔界都市シリーズのサーヴァントが全員予約されたか、と言う事。これは期待せざるを得ないでしょう。
そしていざ投下された物を見ると、これまた、大波乱の幕開けを思わせるような素晴らしい前半であったと言う事。
魔界都市勢、もとい菊地秀行御大特有の美貌描写や、ハッタリを効かせた文章の再現度も然る事ながら、しょっぱなから<王>とタイタスと思しき存在の会話を持って来る、
と言うクロスオーバー力には脱帽させて頂きました。再現する事に関しては特に難しい菊地節を此処まで再現されるとは、見事と言う他ない。
そして再現の見事な部分は地の文のみならず、せつらを筆頭とした魔界都市勢の会話文もまた素晴らしい。
>>「そういうお前も、僕より弱くなってるぞ。誰だ、桀王、紂王、幽王の不肖の弟子は?」
魔界都市勢の会話の中でも、これが一番凄い。原作のせつらが言いそうなセリフその物であったので、相当作品を読み込んで来たな……と言う事を窺わせる素晴らしい一文でした。
特に注目していた魔界都市シリーズのキャラクター以外にも、タイタスに匿われ人間である事を止めさせられたロベルタと、彼女を取り巻く境遇の描写も良い。
原作Ruinaにおける事実上のラストダンジョンである地下玄室、その精緻な描写は、原作をよくやり込んだ人間でなければ上手く再現出来ない素晴らしい物。
そして所々に、原作におけるタイタスの一番のシリアスブレイクが見られる小ネタをさりげなく挟むその腕前の方にも、嘆息を隠せません。
後、最近弟が十兵衛君に倒された佐川睦夫くん!! 君は陰陽トーナメントに帰ろう!!
どちらにしても、まだまだキタローとアレフのペアと、高槻君が出ておらず、どのように後編が展開されるのか、予想が出来ません。
非常に面白く、そして後編を期待させるその『引き』や、前述した様々な小ネタや再現困難な作品の地の文・会話文の再現。まことに見事で、美しかったと私は思います。

ご投下、ありがとうございました!!

>>波紋戦士暗殺計画・流星 影を切り裂いて
前者、波紋戦士暗殺計画は、塞の狡猾さも勿論、目的達成の為の様々なフォローの上手さも目立つ話だなぁと思いました。
蹴落とさねばならないライドウや十兵衛の事を意識し、彼らを倒す為の諜報・スカウト活動を行いつつ、運悪く引いてしまったババであるジョナサン主従を、
何とかして脱落させようと策を張り巡らせる様は実に狡猾。だが、ただ脱落させようと厳しい境遇にジョナサンを置かせるだけじゃなく、
彼らに違和感や不利を悟らせ難いやり方は、本当に恐ろしい。今の所塞の意図を読めず、義憤を露にするジョナサンは今の所、塞の望む通りの態度。
今後此処からジョナサンはどのように動き、そして塞の狡知と、北上主従の行く末が非常に気になるお話でした。
そして後半の、流星 影を切り裂いては、ヴァルゼライドとシャドームーンの烈しい戦闘話。先ず思ったのは、こいつ前話でアレだけ消耗しておきながらもう元気に戦うのか……、
と言う恐ろしいまでのヴァルゼライドのポジっぷり。コイツ本当に最初の話以外で戦闘しかしてないな、と言う事を改めて思い知らされました。
あれだけダンテやバージルを筆頭としたサーヴァントにボコボコにされながら、これまた<新宿>でも上位の強さのサーヴァントであるシャドームーンを相手に、
一歩も引かないガチバトルを展開するのは本当に流石総統。ですが、その戦闘描写がこれまた見事。
ヴァルゼライド程ではないにしろ、<新宿>でも戦闘経験を積んで来たシャドームーンと、語るまでもなく戦闘をこれまで一番行って来たヴァルゼライドの戦闘経験のぶつかり合い、
そして互いに『改造人間』の身の上である両名のサーヴァントの凄絶な死闘は、とても激しく、読む側である自分を熱くさせる大変面白い話でした。
そんなまさに「どうオチを付けるのか」と言う程激しい戦いに乱入して来た十兵衛主従。彼らが首を突っ込んだ事で、この話はどう展開されるのか。それが非常に気になりました。

ご投下、ありがとうございました!!

347 ◆zzpohGTsas:2017/02/28(火) 04:26:11 ID:Xae50M.k0
>>追想のディスペア
本編に登場する度に、テンションが沈んでは浮かび、そして上昇分の二倍ぐらいは沈んで行く事に定評のある新宿聖杯における遠坂凛。
そして今回の話でも……全然好転しませんでしたね……。何で状況がよくならないんですかね〜不思議ですねぇ〜(他人事)。
凛ちゃんによる新国立競技場で起こった事の回想ですが、まぁどんなに記憶を巡らせても良い事がなかった事を再認させてくれるお話でした。
他の多くの主従同様骨折り損だっただけでなく、NPCのありすから言われた『人殺し』の罵倒も、心に深い傷を負っていた模様。
あの話を執筆した身としては、ありすのあの台詞を思い出させてくれた事は嬉しい限りで御座います。あのやり取りは少し自信がありましたので。
凛の現状を読みやすく、解りやすい、見事な文章で描写しきっただけでなく、最低最悪のバーサーカーである黒贄が、暗殺教室出典のキャラを殺しても、
服が汚れなくて良かった程度に考えると言うたった一文だけで、精神が悪い方向にタフに成長して行っている事を説明出来ていて非常に良い。
遠坂凛と言うキャラクターの掘り下げが見事に成された、素晴らしいお話であると思いました。

ご投下、ありがとうございました!!

348 ◆TE.qT1WkJA:2017/03/05(日) 21:42:50 ID:jlN3P.as0
申し訳ありません、予約期限を超過していますが、>>94の予約を破棄します
ある程度進んではいますので、近日中にゲリラ投下という形で投下できると思います
予約したい方はご自由にどうぞ

349流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:10:14 ID:Ef0xKzCs0
予約期間超過してしまった上に、途中ですが投下します。
次で終わりますんで許してください。お願いします

350流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:11:00 ID:Ef0xKzCs0
カシャン。という音と共に大地を踏みしめるシャドームーン。先刻までの戦意は消え失せ、凄まじい怒気を宿して、天子が立っていた場所に穿たれた大穴を睨め付けた。

「絶えて滅びよ、道化」

忌々しげに呟くと、念動力で天子を穴の底から引き摺り出した。
右の拳を真直ぐに引く、エルボートリガーを作動させることなどしない。
RXとの再戦の為の儀式、己がRX前に立つ為に避けては通れぬ相手との一戦に、巫山戯た乱入をしてきた女に、シャドームーンは激怒していた。
この怒りは乱入者を、死ぬまで殴って殺しでもしなければ晴れはしない。
穿たれた穴の底から天子がゆっくりと引き上げられてくる。
見る者が居れば、シャドームーンの風貌も合間って、宙に釣り上げられた天子は魔神に捧げられた美しい贄を思わせたに違いない。
その眼に烈しい戦意を湛え、身体の周囲に要石を旋回させていなければ。

「今のは…大分痛かったんだから!!」

─────要石 カナメファンネル

天子の怒りの声と共に、天子に周囲を旋回していた要石がシャドームーン目掛けて猛進。シャドーセイバーを振るっての迎撃を嘲笑うが如く展開し、シャドームーンを包囲すると、凄まじい勢いで光弾を射出し始めた。

「ヌゥオオオオオオオ!!!」

全方位からの弾幕を浴び、全身に火花を散らせて怒声を上げるシャドームーン。然し、直線上に位置する天子とシャドームーンで射線が重なる為に、真後ろにだけ要石が配置されていない事を即座に看破、スティンガーを模した動きで一気に天子との距離を詰める。
前方に突き進むことで弾幕から逃れ、天子との距離を詰める。この二つの行為を一つの動作で行う動き。
今だシャドームーンの念動力に捉われた天子にこの攻撃を防ぐことも躱すことも叶いはしない。

351流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:12:08 ID:Ef0xKzCs0
「ゴフッ!?」

胸に撃ち込まれる拳の一撃、エルボートリガーもシャドーセイバーを用いなかったのは、やはり怒りの所為だった。
更に振るわれる拳の連打。肝臓、胃、鳩尾、心臓、喉、と急所に連続で撃ち込んで天子に苦鳴を吐かせ続け、最後に大きく右拳を弓引いた。
弓引いた右の拳に赤熱の魔力を纏わす、放つは必殺のシャドーパンチ。頑強な肉体を持つ天人といえども、この一撃を受ければ頭が砕けて死に至る。
拳が放たれようとした時、攻撃に間が生じた機を逃さず、天子がカナメファンネルを再度操り、シャドームーンの背中に連続して要石を直接叩き込む。
シャドームーンの背中に連続して火花が散り、よろめいたシャドームーンに今度は正面からありったけの魔力弾とレーザーを射出。
シャドームーンの姿が火花の向こうに消える程の弾幕を生成し、シャドームーンを後退させる。
此処で念動力による拘束が緩んだ事を認識した天子は、全力で拘束を振り切り大きく空中へ飛翔。30m程の処に浮遊すると、再度カナメファンネルを展開し、
自身の放つ魔力弾、レーザー、要石及び、カナメファンネルの魔力弾で濃密な弾幕を形成した。
幻想郷の弾幕ごっこだと反則必至の隙間の無い魔力弾とレーザーの嵐。
回避など出来よう筈も無く、防いだ処で雨霰と降り注ぐ攻撃に削り潰される。手数と威力に物を言わせた弾雨を、念動力の壁で防ぐシャドームーンの周囲が、陽炎のように揺らめいて無数の剣が形作られていく、その全ての切っ先は、シャドームーンの殺意を示すが如く天子の方に向いている。
念動力の壁が凄まじい勢いで削られている事を全く意に介さないシャドームーン、
シャドームーンの緑色の複眼が禍々しい光を放つと、一つ一つが膨大な魔力で形成された、無数の刃が天子めがけて殺到する。
天子の弾幕が雨ならば、此方はさしずめ剣の嵐。雨を蹴散らし呑み込んで、雨の元たる不良天人を斬り刻み、肉体を塵と散らして弾雨を止めんと宙を舞う。
並のサーヴァントならば、死命を制されていただろうが、そこは弾幕の撃ち合いには慣れっこの幻想郷の住民である比那名居天子、飛来する剣を回避し、カナメファンネルをぶつけて防ぎ、緋想の剣で薙ぎ払う。
顔面目掛けて飛んできた最後の一本を回避したのを最後に、撃ち止めになった事を認識し、防御の為に使い潰したカナメファンネルを再形成したその時、
背中側に在ったカナメファンネルが突如として砕け、反射的に身を捻った刹那、首筋を掠めて、さっき躱したばかりの剣が通過、処女雪の様な白い肌から紅い血の珠が飛散した。
シャドームーンは最後に放った剣に念動力を纏わせ、天使に回避された剣の向きを変えて、背後から襲わせたのだった。
天子がこの攻撃を凌いだのは、幻想郷での弾幕ごっこでは、躱した後背後から飛んでくるという攻撃はさほど珍しく無いからだが、
それにも関わらず刹那の差で致命傷を負わせる攻撃を行ったシャドームーンの技の冴えよ。
差し伸べられた右手に自然に収まった長剣、シャドーセイバーを構えて空中の天子を睨みあげるシャドームーン。
緋想の剣を手に、身体の周囲に要石を旋回させ、地上のシャドームーンを睨みつける天子。
天子が再び弾幕を放とうとし。
シャドームーンの周囲に陽炎が生じたその時。
要石の埋まった場所から、彼らのいる方向へと向かって、直線距離にして数百mの距離に渡って地面が爆砕、その先の1km近くが煮えたぎる灼熱の溶岩と化した。


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352流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:12:36 ID:Ef0xKzCs0
要石を壁にして、噴き上がる土煙と瓦礫を避けながら天子は見た。地面に埋まった要石の頂点部分が閃光を放つのを。
光の柱が天地を繋ぎ、要石が内部からの光圧に耐えかねたかの様に千々に砕けて四散する。
その様は地中深くに封じられていた破壊神が、封を破って地上に躍り出ようとする瞬間に天子には見えた。
果たして閃光に灼けて眩む天子の視界の中を舞ったのは、黄金の英雄クリストファー・ヴァルゼライド。遍く邪悪を憎んで許さず撃滅する英雄だった。

「嘘でしょ………」

最早天子はヴァルゼライドが人類種とは信じられなくなってきた。幾ら常識に囚われてはいけない幻想郷の住人でも限度という物が有る。

無論、ヴァルゼライドが健在なのには種が有る。ヴァルゼライドとてあんな巨岩に潰されれば死ぬ。
岩が直撃する寸前に振り上げた双刀に纏わせた黄金光の熱で、要石の自身と接触する部分を蒸発させ、砕けた路面と共に地下へと落下。
その場でガンマレイを放ち、地下からの一撃で乱入者諸共シャドームーンを消し飛ばそうと目論んだのだ。
その目論見は一応の成果を見せ、シャドームーンをこの場より消し去った。
だが、その代償は果たして成果に応じたものか?もとより満身創痍の上に、シャドームーンの猛攻に晒されたヴァルゼライドの身体は、最早死に体というものを通り越し、生きて─────現界を保てる事自体が理不尽な程の傷を負っていたのだ。
そこへ更に岩盤が蒸発したことによる、溶岩など比較にならない高熱のガスに身を浸していたのだ。ヴァルゼライドは人の英霊だ、吸血鬼でも蓬莱人でも無い、
にも関わらず五体が─────酷く傷付いているとはいえ存在し、動けること自体が異常此の上無いのだ。
ヴァルゼライドを見る天子の眼は、真性の怪物を見るそれだった。妖怪や神が其処いらで酒盛りしている幻想郷でも、天子が此の様な目で他者を見たことなどはない。

「あの銀のセイバーは消えたか、残るはお前だ。俺の願いの為、永遠の人理の繁栄の為に此処でその命を終えてもらう」

黄金光を纏わせた双刀を構えるヴァルゼライド。確かにダメージは受けている。傷の痛みと体機能の損傷はヴァルゼライドを苛んでいる。
それでもこの英雄は止まらない。有限の魔力体力では無く、無尽蔵の気合と根性で、壊れた/壊れつつある身体を支え、天子を斬ろうと動き出す。

「貴方はさっき“全ての悪の敵となり、全ての『善』と全ての『中庸』から『悪』を遠ざけ、彼方にて悪を断罪し続ける裁断者となる”そう言ったわね。
過ぎたるは猶及ばざるが如し、薬も過ぎれば毒となる。この世が病人だとするならば、貴方は過ぎた薬で、そして悪だわ。病魔を絶やしても病人を死なせる薬なんて意味が無い」

対する天子も緋想の剣を構え、身体の周囲にカナメファンネルを旋回させる。
新国立競技場でのヴァルゼライドの雷声は、
遮蔽物が無いというのもあるだろうが、かなり離れて見ていた天子の耳にも届く大音声だった。
そのヴァルゼライドの宣言に嘘偽りが無い本心からの言葉であることは天子にも理解できる。
そしてその在り方が有害極まりないことも、戦い方を見ていれば理解できる。

「だろうな。確かに俺はこの世界にとっては毒だろう。だが、毒であるからこそ病魔を駆逐する事が出来る。毒である俺が此の身を処するのは、全ての病魔を駆逐した後の事だ」

天子の言葉に返し終えた時には、既に双刀は黄金光に激しく鮮烈に輝いている。
ヴァルぜライドは天子の言葉が正しいと理解している。だがそれでも英雄は止まらない。只真っ直ぐに征き、そして理想成就という勝利を得て死ぬのみだ。
その決意と想いを刃に乗せ、クリストファー・ヴァルゼライドは比那名居天子を屠るべく動き出した。
方や地を操り天に住まう少女。
方や地に生き天罰の具現とも言うべき黄金光を放つ英雄。
生きる場所も、使うものも対照たる二人は、今天地に分かれて争覇する


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353流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:13:13 ID:Ef0xKzCs0
天に浮かんで、地に聳え立つヴァルゼライドと対峙した天子は迷うこと無く地に降りようとした。
亜光速のガンマレイはその速度故に発動モーションを見て、放たれるより前に回避するしか無いが、飛翔速度が其れ程速くはない天子では、回避しきれ無い可能性が高いのだ。
防ぐことなど無論出来ず、回避も宙にあっては難しいとあれば、地に降りるのは理の当然。飛翔したままで、ヴァルゼライドの剣技を封じるという利点より、不利の方が大き過ぎる。
天子の動きにヴァルゼライドは、右手に握った星辰光の発動媒体であるアダマンタイト製の刀を振るう。
ヴァルゼライドの動きに、ガンマレイの発動を予感した天子は即座にカナメファンネルから光弾を射出しつつ、要石を蹴り抜き横っ飛びに移動。死光の射線上から身を避ける。
だが、そんな事はお見通しだとばかりのヴァルゼライドの一手。右は陽動、本命の左が、バージルの次元斬を模したガンマレイを発動する。
偽攻に釣られた天子に回避する術は無く、如何に頑強な天人の肉体といえども、極熱の放射能光を直接身に刻まれれば絶命するより他にない。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!?」

天子が助かったのは、放ったカナメファンネルの一弾が偶然ヴァルぜライドの左腕を直撃。技の威力を鈍らせ、狙いを狂わせた為だった。
それでも右足を掠めた死光に、まともに声も出せずに苦悶し、地へと落ちていく。
天から落ちた天人は、只人にすら組み伏せられるのは各地に残る伝説が語る通りだ。
ましてや天子を地に引き摺り下ろしたのは、人類種に於ける最大の異常者(えいゆう)クリストファー・ヴァルゼライド、比那名居天子の命運は此処に窮まる─────事は無かった。

─────気符 無念無想の境地。

如何なる攻撃を受けても怯まず退かぬ天子の闘法。一説によれば“只気合と根性で耐えているだけ”とされるだけの代物であるが─────鬼の猛打にすら引かずに制圧前進出来る頑強さをこの少女の華奢な身体は有している。
つまりは、比那名居天子は、死光の直撃を受けたのならば兎も角、光条が足を掠めた程度では倒れ伏すことも止まることもないのだ。

天に留まった天人は、その人という種とは比べられぬ程の頑強さを以って黄金の死光に耐え、大地を両の足で踏みしめて、殺到してくるヴァルぜライドを迎え撃つ。

「人間五十年。下天の内を比べれば、夢幻の如くなり。私(天人)から見れば一瞬にも満たない生で、幾ら功を積み上げても、天には届か無いと知りなさい!!」

緋想の剣を青眼に構えて天子が啖呵を切る。

「笑止。人が武技を研鑽し積み上げてきた歳月は、猿人同士が殺しあった時から始まっているッッ!!貴様がどれほどの生を生きたかは知らぬが、人という種を甘く見るなッッ!」

言葉とともに繰り出される黄金剣を、天子は橙色に燃え盛る剣で受ける。

「そっちこそ!種の違いを知りなさい!!」

354流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:13:41 ID:Ef0xKzCs0
緋想の剣で斬り返す。ヴァルゼライドは左手の刀で受け、天子の首目掛けて右の刀で刺突を放つ。
上体を横に振って躱した天子に、繰り出した刀を横薙ぎに振って追撃。膝を曲げて屈んだ天子が地に緋想の剣を突き立て、ヴァルゼライドの足元から要石を出現させる。
当たれば腰から下が骨と血の混じった肉塊と化した奇襲を、ヴァルゼライドは跳躍することで回避、追う様に下から迫る要石を更に蹴って飛翔。上方から天子目掛けて襲い掛かる。
天子は咄嗟にレーザーを数条放ち、ヴァルゼライドの身体を穿つが、頭部だけを護って突っ込んだヴァルゼライドは天子の脳天目掛けて、太陽の如き輝きを放つ刃を振り下ろす。
受け止めた天子の足元の路面が、割れ砕けて大きく陥没する程の一撃。

「鬼並みじゃない!!?」

シャドームーンと交えていた時よりも、上昇しているヴァルゼライドの膂力に驚愕する天子だが、そんな呑気な事をしている暇は無いと、刹那にも満たぬ後に思い知る。

頭頂から股間まで両断し、踏みしめている地殻ごと打ち砕かんと振り下ろされる上段からの斬撃。
胸を貫く─────どころか当たった部位を中心に、肉が骨が吹き飛んで大穴が開きそうな突き。
万年の大樹の幹を枯れ枝の様に撃砕する剣威の薙ぎ払い。
それら全ての動き一つ一つが複数の変化を秘め、全ての動きは自然に繋がり、淀みない連続技─────どころかたった一つの動作にを緩慢に行っている様に見える程に超高水準に連結された動き、双刀を存分に駆使したこの剣嵐を、要石を併用しているとはいえ、殆んどを只一振りの剣で支える天子の身体能力こそ讃えられるべきだろう。
それでも、服の各所に焦げ目が生じているのは、凌ぎきれずにグレイズしている為だった。
そんな窮状にありながらも、天子あ半歩も下がってはいない。両足は同じ場所を踏みしめたままヴァルゼライドの猛威を耐えしのいでいる。
其れは天人としての意地か、下がらずに耐えれば即座に反撃に移れるという計算か。
それも有るが、やはり死光の掠めた右足の損傷が無視できず、この猛撃のさなかに僅かでも下がればそのまま押し潰されると理解している為だ。
受け、弾き、捌き、躱し、その合間を縫ってレーザーや要石で応戦するも、悉く黄金に燃え盛る双刀に阻まれ、当たっても英雄の勢威を微塵も揺るがせることもできはしない。
誰の眼から見ても劣勢─────どころか敗勢にある天子だが、その眼に宿した戦意に僅かの曇りも無い。
裂帛の気勢と共に振り降ろされた黄金剣を緋想の剣で受け流す。天子の足元がひび割れる。
喉笛を貫き、剣勢で首を宙へと飛ばす程の突きを、緋想の剣を横からぶつけて逸らす。天子の足が砕けた路面に僅かに沈む。
壮絶無比の剣撃が伝える衝撃は、天子の身体を伝わり、元々傷んでいた路面を更に破壊していく。
そして遂に放たれる、受けた剣ごと両断し、剣が持っても剣を支える腕が撃砕される剣威の真っ向上段からの斬撃。
此れを天子はヴァルゼライドの刀を握る右手に要石を連続してぶつけることで対抗。刀こそ手放さぬものの。流石に威力を減じた斬撃を受け止める。
同時、形容し難い音とともに天子の足元の路面が砕け足首までが地に埋まった。
同時に繰り出される首を狙った左の横一文字。天子の首を斬り飛ばす処か微塵と砕く威力を乗せた刃が、音を遥かに超えた速度で迫る。
死地に落ちた天子にこの絶殺の斬撃を躱す術無し、受けたところで押し切られて首が飛ぶ。
此処に比那名居天子は〈新宿〉の聖杯戦争に於ける最初の脱落者に─────なりはしなかった。

355流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:14:20 ID:Ef0xKzCs0
空間をすら断裂する勢いで黄金に輝く刃が虚空を薙いだ時、天子の頭はヴァルゼライドの膝より低い位置に在った。
自分の踏んで居る場所が砕けつつあるの当にを感知していた天子は、路面が砕けて身体が沈んだと同時に膝を曲げ、上体を地面に伏せて、ヴァルゼライドの刃を躱してのけたのだ。
傍目から見れば敗北のベスト・オブ・ベストにしか見えない姿勢だが、そんな姿勢をこの気位の高い少女がするはずも無く。

─────ッッ!?

ヴァルゼライドの剣舞が極小の間、静止する。ヴァルゼライドは人の子の英雄、条理を逸脱した精神を持とうとも、その肉体構造は人のそれと同じ。
人の剣術が威を発揮するのは、相手の身体の高さが膝の辺りにあるまで、それより低い相手には、常の姿勢では刃は届かぬ。
この機を狙っていた天子が地に突き立てた緋想の剣を振り上げる。ヴァルゼライドの左の刀は振り切ったばかり、右の刀もこの下からの猛襲を防ぐには遠い。
古流剣術の奥伝にも似たこの動きは、ヴァルゼライド程の剣士をして剣舞を止め、退かせた。
咄嗟に後方に跳躍して躱したヴァルゼライドに、構え直した天子が、脚を叱咤して前方に跳躍し、真っ向上段から緋想の剣を振り下ろす。
此れに対しヴァルゼライドも猛然と右の刀を振るい、自身目掛けて振るわれる緋想の剣の切っ先目掛けて刃を振り下ろす。
振り下ろされた刀の加えた力により、緋想の剣は更に勢いを増すが、僅かに方向を狂わされ虚しく地面を穿つ。
緋想の剣を撃ち落としたヴァルゼライドの刀は、そのままの勢いで天子の頭を割りにいく。
攻防一体のこの動きは、ヴァルゼライドのいた世界では消滅した/今ヴァルゼライドの居る地─────日本に伝わる剣術で言うところの“切り落とし”と同じ技だった。。
思い切り天子が仰け反った為に、刃は被った帽子の鐔を割っただけに留まった。
ヴァルゼライドが後方に飛んで居る最中でなければ、天子の頭は両断されていただろう。
着地し、天子が放った要石を双刀で捌きながら、更に後ろに飛んだヴァルゼライドが、刀を握った両手を後ろに回す。
双刀から放たれるガンマレイ、斜め後方に放たれた黄金光が路面を穿ち、巨大な爆発を起こす。
そしてヴァルゼライドは超音速の爆風を背に受けると同時に地を蹴り、音を遥かに超える速さで天子目掛けて突貫した。
驚愕に天子の眼が見開かれる、こんな方法で加速するなど思いもよらぬ。背中に刺さった複数の石塊など知らぬとばかりに双刀を振りかざすその姿は、鬼神も三舎を避けるだろう。
咄嗟に天子は地に刺さったままの緋想の剣に魔力を注ぎ、足元の地面を隆起させ己の身体を上昇させる。
そのまま突っ込んだヴァルゼライドが黄金に輝く双刀を振り抜く、隆起した石柱に刀身が接触した刹那、常軌を逸した剣勢で石柱が爆散した。
石柱の内部に予め爆弾が仕込まれていて、それが爆発したのだと言われても納得いく爆発。石柱の上に乗っていた天子の身体が宙に放り出される。
間髪入れず放たれるガンマレイ、しかし、ヴァルゼライドがガンマレイを放つモーションに入るより早く、ヴァルゼライドの足元に撃ち込まれた要石と魔力弾が、ヴァルゼライドの足元を崩していた為、虚しく宙を彩るに留まった。
天子が空中で弾幕を形成し、ヴァルゼライドの両脚を狙って光弾を猛射、ヴァルゼライドに防御に務めさせて、その隙に着地を決める。
地に降り立ったと同時に、緋想の剣を地に突き立てると、己の足元から斜め三十度の角度で地面を勢い良く隆起させ、
先のヴァルゼライドの模倣を行い、その隆起をカタパルト代わりにして勢いをつけ、ヴァルゼライド目掛けて突撃する。


「ええええええええいッッ!!!」

「オオオオオオオオオッッ!!!」

叫喚して突っ込む天人に、英雄は双刀を振り上げ真っ向から迎撃。
三つの刃が両者の間で交差した。
刃と刃が激突した音が衝撃波と化して宙を伝わり、天子の突撃の威力が地面に激震として伝わり、砂塵はおろか周囲の瓦礫すら舞い上げる。
拮抗する両者が鍔競り合う最中、先刻放たれたガンマレイで、マグマと化して煮え滾っていた路面が盛り上がり、灼熱の波濤と化して二人の頭上から落ちてきた。


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356流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:14:50 ID:Ef0xKzCs0
ヴァルゼライドの放ったガンマレイの爆発で飛ばされ、マグマと化した一帯に墜落したシャドームーンは、念動力を身体の周囲に展開し、自身の周りにマグマを寄せ付けず。
更にシルバーガードの防御力を併せる事で、マグマの中に潜伏。マイティアイを用いてザ・ヒーローの居場所を探っていたのだった。
結果、ザ・ヒーローは、乱入してきた女のマスターを求めて離れた場所に居る事を把握。此れでヴァルゼライドのマスターを巻き込む心配は無い。

シャドームーンは神経が繋がっているかどうか確かめる様に、左手の手指を開閉させる。
数万年の歴史を持つゴルゴムの科学力の結晶たるシャドームーンである、活火山の火口に放り込まれたのならいざ知らず、高熱で溶けたアスファルト程度では小揺るぎもしない。
気になるのはヴァルゼライドの一刀を受けた左腕。ヴァルゼライドの死光は高濃度の放射能を帯びているということは、ルーラーからの通達と、マイティアイでの観察で理解しているが、
それだけでは無い何かを、あの死光は帯びている様だった。でなければ、キングストーンの力を用いているのに、傷は治らず兎も角痛みが引かぬということがあり得ない。

─────其れでも関係ない。

動けば良いのだ。クリストファー・ヴァルゼライドはあれだけの損傷を負って、尚も烈しく戦い抜いたのだ。
比べれば、この程度は傷とも呼べぬ。

シャドームーンはキングストーンの生成する膨大な魔力を用いて、マグマを束ね、津波として、合い戦う天子とヴァルゼライドの頭上から落としたのだった。


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突如として起きた灼熱の津波に、二人が愕然としたのも束の間。意識が他を向いた隙に、十数発の魔力弾を放ちながら天子が大きく後ろに飛ぶ。
ヴァルゼライドの両脚と左右に放たれた魔力弾は、脚を撃って脱出を阻む狙いと、左右に回避する余地を潰す意図の元放たれている。
此れに対しヴァルゼライドはガンマレイを応射。魔力弾諸共天子を消し飛ばそうとするが、予め読んでいた天子は再度足元の地面を隆起させて踏み台とし、上空へと自身の身体を打ち上げていた。
いよいよ降りかかってくる灼熱の波濤を迎え撃つべく、ヴァルゼライドが双刀を振り上げ、ガンマレイを放とうとしたその時、
ヴァルゼライドの背後から飛来したカナメファンネルが背中を直撃。動きが止まった刹那を逃さず、緋想の剣気が直撃する。
そして─────英雄の姿は滾り落ちるマグマの中にに消えた。

「まだだっ!」

燃え盛る溶岩の中、より熾烈に、より鮮烈に煌めく黄金光が天地を繋ぐ。
天より神が降臨したと言われて、聞いた者全てが納得しそうな光景を現出せしめたのはクリストファー・ヴァルゼライドに他ならない。
灼熱の溶岩を浴びながらも、振り上げた双刀からガンマレイを放ち、溶岩を蒸発させてしまったのだ。

この光景を上空から呆然と見やる天子。幾ら常識に囚われてはいけない幻想郷の住人でも限度という物が有る。
天子が動けずにいる間に、ヴァルゼライドが灼熱地獄と化した、陽炎揺らめく路上で双刀を動かす。
左の刀の切っ先は天子の方を。
右の刀の切っ先は津波が到来した方を。
放たれる二条のガンマレイ。切っ先が此方を向きだした瞬間に回避を始めていた天子は何とか回避に成功する。
右の刀から放たれたガンマレイは、空間そのものが揺らいでいるとしか見えない程に烈しく空気が揺らめく方へと放たれ、過ぎ去った。

357流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:17:03 ID:Ef0xKzCs0
──────────!?

何かを感じた二人が頭上を仰ぎ見る。銀色の影が上空に浮遊する天子の更に上空に現れる。二人が構えた時、シャドームーンは既に攻撃を終えていた。
爆発音としか聞こえない轟音。シャドームーンが念動力で天子を叩き落としたのだ。
地面に種蒔いたら生えてくる戦闘員に自爆されたZ戦士そっくりなポーズで、天子の身体が路面にめり込む。その上から砕けたカナメファンネルの残骸が降り注いだ。

「ぐうう……」

流石に動く事も出来ずに呻くだけの天子目掛けて、止めを刺すべく空中からシャドームーンが膝を落とす。
レッグトリガーを最大限に稼働させたニードロップは、当たれば天子の背骨を粉砕し、九穴から赤黒い肉塊を噴出させて絶命させた事だろう。
だが、膝が触れる直前でシャドームーンの姿は掻き消え、俯せに伏したままの天子の身体が地に埋没する。
刹那の間も置かず、天子の倒れていた辺りを閃光が走り抜けた。


ガンマレイを放ったヴァルゼライドは双刀を持った両腕を真っ直ぐ伸ばして回転。自身の周囲を黄金光の幕で覆う。
シャドームーンが天子に止めを刺しに行ったのを、己の攻撃を誘う為と、己に天子を始末させる為の、二つの目的を持った行為と理解した上でのガンマレイ。
二人纏めて屠るつもり─────少なくとも天子は葬れると踏んだのだが、両者共にガンマレイを回避、ヴァルゼライドはこの結果にも動じず、シャドームーンの猛襲に備えて動く。
果たして、ヴァルゼライドが展開した防御幕に、全方位からシャドームーンが形成した武具が激突し、激しい爆発を起こす。
ここでヴァルゼライドは直感に任せてガンマレイを発射。確かにガンマレイはシャドームーンのいた位置を通り抜けるも、シャドームーンは捉えられず。
此れも又予測の内。右の刀を納刀し、左の刀を振り上げ垂直に放つ黄金光。同時に膝を地につけて屈み込む。
果たして黄金光は再度シャドームーンを捉えられず。ヴァルゼライドが屈むと同時にその背後に出現したシャドームーンが、真紅の長剣を振るうも虚しく虚空を裂いたのみ。
不意に居る筈の標的を見失い、シャドームーン程の大戦士が、刹那の間にも満たぬ間動きを止める。
先刻の天子が、ヴァルゼライドの剣舞を凌いで反撃した時と同じ状況だとは、シャドームーンは知らぬ。
此処に来て更に冴え渡るクリストファー・ヴァルゼライドの感覚は、シャドームーンの出現と同時に身体を動かし、神速という言葉ですら猶遠い抜刀でシャドームーンに斬り掛かる。

358流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:17:39 ID:Ef0xKzCs0
シャドームーンはこの攻勢に、素早く思考を巡らせる。
空間転移─────即座に使うことは出来ない。
魔力を脚に纏わせ敢えて受ける─────否。今からでは間に合わぬ。脚を斬り飛ばされる。
後ろに飛ぶ─────否。あの虚空に光条を刻む技を仕込んでいるかもしれない。
であれば残るは─────。
サイドステップして回避─────ヴァルゼライドの斬速の方が遥かに速い。
残るは─────上。
シャドームーンは跳躍し、ヴァルゼライドの斬撃を回避する。
しかし、此処で更にヴァルゼライドは加速。左腰の刀を抜刀して水平に薙ぐ右腕のベクトルを強引に変換。真っ向上段からの縦の斬撃に変えてシャドームーンを猛襲する。
もとよりこの局面、上方にしか脱げ場が無い。故にシャドームーンの読むことは容易いが、その動きへの対応が尋常では無かった。
強引極まりない変化に筋肉が裂け、骨が軋むがそんな事には構いはしない。
この鬼神でも予測不可能な奇襲を、シャドームーンは咄嗟にシャドーセイバーで防ぐ。
天を圧する巨人が、大鉄槌で山を砕いたかの様な衝撃と轟音。双方の刃が半ばからへし折れ宙を舞う。
シャドームーンは極音速で飛ばされ、ヴァルゼライドが空に刻んでいた黄金の残痕に背中から突っ込んだ。
間髪入れずに放たれるガンマレイ。遍く悪を許さず滅ぼす黄金光がゴルゴムの世紀王、反英霊シャドームーンを討ち滅ぼす。
シャドームーンはヴァルゼライドの奇襲を受けた時、背中に魔力を集めて防御する事をしなかった。
そんな事に魔力を使うよりも、シャドーチャージャーに魔力を集める事を選んだのだ。
一日で二人の相手にこの宝具を使う事になるとはシャドームーンも思ってはいなかったが、読み合いに負けて王手詰み(チェックメイト)になった時点で切り札を切るしか無いと確信。
窮まった盤上を覆すには、最早盤面そのものを引っくり返すより他に無し。

「シャドーフラッシュ!!」

ヴァルゼライドが黄金光を放つと同時、シャドーチャージャーも緑色の光を放つ。
黄金光が緑色の光に呑まれる様に掻き消えたその時、シャドームーンはヴァルゼライド目掛けて躍り掛かっていた。
左へと─────ヴァルゼライドから見て右へと回り込み、再び形成したシャドーセイバーによる、ヴァルゼライドを縦に両断し地面にまで切っ先を食い込ませる振り下ろし。
ヴァルゼライドは必殺の一撃が霧散して、意識に空白が生じているが、そんなものが致命となる程この英雄は柔ではない。
そこで折れた刀を持つ手の方から仕掛ける。右の折れた刀では満足に防御が行えない。それはシャドームーンは知らぬが、ルーラーとの一戦でも明らかだ。
だが─────真紅の刃は半ばから折れた刀に止められていた。
激しく動揺しながらも繰り出す四撃、その全てが折れた刀で防がれる。反撃として放たれたライフル弾を超える速度のヴァルゼライドの突きを、左手の短剣で受け止める。
立て続けに繰り出される八連撃、悉くを短剣で捌いて首を狙っての刺突を返す、右の折れた刀で跳ね上げられ、空いた胸元に左の突き、
跳ね上げられた勢いを利用して後ろに飛び、右にサイドステップ。十数条の光条が虚空に刻まれる。
両者は5mの距離を置いて静止した。
シャドームーンは内心大いに驚愕していた。まさかこの極小の間に、己の剣技すら習得してのけるとは、やはりこの男は強い。それもスペックなどでは無く、人として純粋に強い。
まるで“あの男”の様に。身体を改造されても、人では無い身体となっても、人の心を失わず、人として戦い抜いた“あの男”の様に強い。

─────矢張りこの男を越えねばRXは見えてこない。

そう、確信したシャドームーンは静かに一歩を踏み出す。

359流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:18:24 ID:Ef0xKzCs0
ヴァルゼライドは内心大いに驚愕していた。まさか己の星辰光が幻の様に消えるとは。
あれこそがこのセイバーの宝具なのだろう。宝具を抜いてさえ尋常では無い程の強さ、それがあの様な超常の宝具を用いだしたとなれば、魔星全てを同時に相手取って勝ちを収めるのではあるまいか?
今日戦った者達は、皆超絶の強さを異能を持つ者達。此の男は彼等と比べても遜色無いどころか上位に入る。

だが、それでも─────。

「“勝つ”のは俺だ」

そう口にして一歩を踏み出す。
進んだ距離は同じ、振り下ろす刃の速度も同じ、二つの刃が交わる─────。
その刹那、二人を中心に地面が急激に隆起する。
見る者が居れば、二人の発する圧で、二人の間の地面が押し上げられたと取るだろう。
この現象により、後方に崩れた姿勢を立て直そうとしていたヴァルゼライドが、不意にトンボを切って後方に飛ぶ。
同時に地面を突き破り、緋想の剣を肩に担いだ天子が飛び出して来た。
シャドームーンに叩き落とされ、ヴァルゼライドの死光を躱す為に地に潜った天子は、下水道を通って二人の下に移動、
『大地を操る程度の能力』を用いて二人の間の地面を隆起させ、隙を作らせた上で強襲したのだ
身体を真っ直ぐ伸ばし、頭からヴァルゼライド目掛けて飛翔する。天人の頑丈さを活かしたこの猛襲。直撃すればヴァルゼライドの背骨と臓腑が砕けたろうが、
天子が飛び出すと同時に回避行動に移っていたヴァルゼライドには当たらない。
だが、天子とてそれでも終わる攻撃をする様な甘いサーヴァントでは無い。自身の上方で背を晒すヴァルゼライドに担いだ緋想の剣を振るう。
緋想がヴァルゼライドの身体を背骨に沿って斬り裂く、全身を大きく震わながらも着地を決めるが、ダメージが大きすぎるのかそのまま蹲ってしまう。
好機とばかりに天子が突っ掛けるが─────。

「まだだっ!!」

裂帛の気勢を挙げ、立ち上がったヴァルゼライドが、凄まじい速度で左の無事な刀を振るう。明らかに速過ぎる、天子の服に切っ先がかする事も無く過ぎ去る攻勢。
天子の全身に走る衝撃。石壁に全力疾走してぶつかった様な痛みと衝撃を受けて後方に飛ばされる。
ヴァルゼライドが人修羅との一戦で受けた『烈風破』、振り抜いた腕で大質量の物体に等しい空気の壁を作り出しぶつけて攻撃する技で、ヴァルゼライドは天子を弾き飛ばしたのだった。
元々はガンマレイを無効化する閻魔刀を持つバージルを破る為の方策を模索していた結果の産物だが、よもやこんな形で役立つとは思ってもみなかった。
今だ宙を飛び続ける天子目掛けてヴァルゼライドは死光を放つ。
此れに対し、天子は自身の斜め後ろに要石を形成、ぶつかることで飛翔の軌道を変えて、死光の範囲外へと逃れる。
ヴァルゼライドは追い討つ事をせず、回転しながら刃を振るう。180度開店した処で火花が散り、刃が止まる。
シャドームーンが空間転移を行い、ヴァルゼライドの後ろに回り込んだのを、ヴァルゼライドがその一刀を以って防いだのだ。
獅子吼と共に繰り出されるヴァルゼライドの六連撃。防ぎ、躱しきったシャドームーンが念動力を至近距離から放つも、ヴァルゼライドは黄金光に輝く刀で両断、霧散させてしまった。
シャドームーンとて、ヴァルゼライドを相手に散々多用した念動力だ、どれ程至近距離であろうと今更正面から念動力を放っても通用しないと判っている。
元よりこの攻撃はヴァルゼライドの攻勢を止める為のもの。シャドームーンは僅かに稼いだ時間で体勢を立て直し、猛然と刃を振るう。
共に長短の刃を持つ両者は、秒週の間に無数の剣撃を交わし、身体の周囲を無数の火花で彩った。
突如として両者に飛来する十数条の赤い光線。シャドームーンとヴァルゼライドがそれぞれ反対方向に7mも飛び、レーザーの飛来した方に視線を向ける。
二人の視線を浴びて傲然と立つは、比那名居天子に他ならない。既に身体の周囲にカナメファンネルを旋回させ、傲岸とさえ言える視線を両者に向ける。

360流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:20:42 ID:Ef0xKzCs0
「随分と面白くなってきたじゃない」

天界での何不自由無い平穏で退屈な暮らしに飽いて、ワザワザ地上に異変を起こした不良天人の本領此処に在り。
天人の永い永い生から見れば、人の生など瞬きの間に終わる程度。だが、人にとって、時に人の生の刹那の燃焼は、永劫の輝きを凌駕する。
比那名居天子は元は地上の者である。其れ故にこそ人の生の輝きに魅せられ、地上の諸人諸妖と交わり戯れる様になったのだ。

─────愉しい。こんなに愉しいのは久し振り。

地上の愉快な人間達が皆死んでしまい。妖怪達も数が減り、死ぬ前にはそれはそれは退屈だった。
死んでからまたこんな愉快な事に巡り会えるとは思わなかった。
いっそのこと聖杯に願ってもう一度生を得ようかと思う程に、心の底からの愉悦を感じながら、不良天人は驚天の魔人超人に挑みかかる。
此処に三つ巴の魔戦が開始された。


三人の中で唯一、武器が宝具であり、尚且つ頑丈極まりない身体を有し、多彩な飛び道具を持ち、地殻を操る程度の能力を持つ比那名居天子。

三人の中で最も高いステータスを有し、シルバーガードによる高水準の防御力と、多彩な能力による強力な攻撃力と、尽きることの無い魔力を有するシャドームーン。

この両者と比べれば、やはりヴァルゼライドは劣っていると言わざるを得ない。
武器で劣り、手数で劣り、魔力量で劣り、何より基準となるべきステータスで劣る。
そして満身創痍を通り越して死に体だ。今日これまでに無数の傷を受け、そして此の場でも痛手を負った。
息が有るだけで奇跡。意識が有るだけで偉業と言える重篤の身で、二本の足で立って戦うという理不尽を成し遂げるヴァルゼライドは、二人を相手に優勢を保って戦うという大理不尽を成し遂げていた。
新国立競技場で、紅蒼の魔剣士達を相手取った時は、二人の息の合い過ぎたコンビネーションの前に一方的にやられたが、シャドームーンと天子にコンビネーションなど発揮出来るわけも無く。
且つシャドームーンはヴァルゼライドと戦って勝つ為に此の場に在り、比那名居天子は佐藤十兵衛の狙いがザ・ヒーローで有る為に此の場に現れた。
此の為、シャドームーンは先ず天子の排除を優先し、天子はヴァルゼライドを狙う。
そしてヴァルゼライドは二人を此の場で屠るべく奮起する。

左の刀でシャドームーンの放った念動力を斬り散らし、右の折れた刀で天子の放った要石を、シャドームーン目掛けて飛ぶ様に軌道を変える。
シャドームーンが防いでいる隙に天子の目掛けて猛攻を掛ける。
悉くを受け、捌き、躱す天子だが、明らかにヴァルゼライドの動きに追随出来ていない。
それもその筈、幻想郷の住人は基本的に空を飛んで戦う者。地に足を着けて戦う経験が乏しい為に、間合いを構成する要素のうち、歩幅や歩法といったものに慣れていないのだ。
それでもヴァルゼライドの攻勢を凌ぎ切れるのは、陽動や回避先潰し、只の見せ球を含む無数に飛来する弾幕の中から、
自身に直撃するものを精確に見切って防ぎ、躱す、命名決闘法の経験によるものだ。
向かって左から首を薙いできた刀を緋想の剣で受け止める。ガンマレイが掠めた右足が激しく痛むが歯を食いしばって耐える。
動きが止まったのは一瞬。同時に2人は後ろに飛ぶ。
ヴァルゼライドの首の有った処を光条が、天子の首が有った位置を真紅の長剣が、同時に通過した。

361流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:22:37 ID:Ef0xKzCs0
天子に向かってシャドームーンが猛進する。仮借無い殺意を乗せた凄絶無比の斬撃が途切れること無く天子を襲う。
十余合を打ち交わした時、傷ついた右足を狙ってシャドームーンが長剣を振るう。
緋想の剣で受けたのを狙いすまし、左の短剣を天子の口目掛けて突き込んでくる。
頑強な肉体を持つ天子といえど、口に刃を突き込まれて脳幹を貫かれれば絶命する。
仰け反って回避した天子に、シャドームーンが念動力を放とうとした時、踏み込みの勢いでアスファルトを砕き、ヴァルゼライドが二人纏めて両断する勢いで斬りつける。
シャドームーンが横に、天子が後ろに転がって回避。天子が要石を、シャドームーンが左のシャドーセイバーをヴァルゼライド目掛けて飛ばす。
長短の刀でヴァルゼライドが防いだ隙に、立て直した二人が殺到する。
龍を思わせる咆哮と共にヴァルゼライドが折れた刀を捨て、腰の刀に手をやる。今手にしている双刀では無く、新たに手にした三本目。
戦いながら再生させた三本目の刀で、バージルから習得した剣技を放つ。
シャドームーンが駆ける為に足に込めていた膨大な魔力を用いて横に飛び、天子がカナメファンネルを踏み台に上方に跳躍する。
読んでいたかの如くシャドームーンが跳躍した天子にシャドービームを放って直撃させるも、自身も光条が右の脇腹を掠めた。

地に落ちた天子目掛けて走り寄るヴァルゼライドが、突如虚空に一刀を振るうのと、立ち上がった天子が硬直したのが同時。

「アアアアアアアッッ!!」

天子が絶叫する。いきなり拘束されて、全身を魔力のスパークで灼かれているのだ。
ヴァルゼライドには看破出来ていた。ルーラーと戦った時、先んじてルーラーと交えていたアサシンの技と同類の─────操る技量も刃そのものも大幅に劣るが─────ものだと。
シャドームーンが精製した隠し札。サーチャーの使う妖糸の劣化コピー。
両手の中指から精製した、百分の一ミリの魔力糸を念動力で操り、ヴァルゼライドと天子目掛けて放ったのだ。
そもそもがオリジナルの再現など、そう簡単に出来るわけなど無い。太さも強度も�嗄性もサーチャーの妖糸には遥か及ばぬ。まして操る技など論外だ。
それでも百分の一ミリの魔力糸は不意を衝くには充分過ぎる─────筈、だったのだが。
天子には決まったものの、ヴァルゼライドは“以前にも対したことがある”かの様な手慣れた動きであっさりと防いでしまった。
魔力糸を介して天子に魔力を流し込んでダメージを与えながら、全長30cm程の魔力糸を数百条精製、念動力を用いて、ヴァルゼライド目掛けて殺到させる。
シャドームーンは知らぬ。ヴァルゼライドがこの地で戦った者の中に、サーチャー─────秋せつら─────と同じ日に生まれ、幼馴染として育ち、ただ一つの座を巡って相剋した魔人が居たことを。
シャドームーンと同じ宿命の元に産まれ、シャドームーンと同じく敗北した魔人、浪蘭幻十と対峙した経験を以って、ヴァルゼライドはシャドームーンの隠し札を破り捨てる。
ヴァルゼライドが“魔力糸の悉くを斬り払いながら猛進。瞬く間にシャドームーンに詰め寄り両手を後ろに廻す。
シャドームーンがヴァルゼライドの意図を読めず、硬直した刹那、ガンマレイを斜め後ろに発射。爆風を受けて加速する。
両腕を後ろに回したヴァルゼライドがどちらの腕で攻撃てしてくるのかシャドームーンには読めない。
常ならば無事な刀を持つ左なのだろうが、持ち替えてしまえばそれきりだ。
先手を取って斬り伏せる、という事も考えたが、ヴァルゼライドが両腕を後ろに廻した時に、意図を読めずに硬直したことで遅れを取ってしまった。
この状態で繰り出せる攻撃などそうは無く、クリストファー・ヴァルゼライドならば、全て防ぐ準備を終えているだろうと判断。
先ずは防ぐ、そして返す一撃で仕留める。シャドームーンは意識を集中し、ヴァルゼライドを注視する。

362流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:23:54 ID:Ef0xKzCs0
ヴァルゼライドが近づく。
両腕は未だ身体の後ろ。
ヴァルゼライドが近づく。
両腕は未だ身体の後ろ。
ヴァルゼライドが近づく。
両腕は未だ身体の後ろ。
ヴァルゼライドが近づく─────最早刀の間合いでは無くなっている。
ヴァルゼライドが近づく。
左腕が動き出し、黄金に輝く刀身が振り上げられる。
ヴァルゼライドが近づく。
シャドームーンはヴァルゼライドの瞳に写る己の顔を見た。
ヴァルゼライドが近づく。
衝撃─────シャドームーンが後ろによろめく。その左胸に突き立っているのは折れた刀。
ヴァルゼライドの左は陽動。左に気を引きつけて置いて、右の刀で心臓を抉るのが本命。
思考が受けに回った時点で、この結果は定まっていたのいたのかも知れない。
左の刀を両手で握り。ヴァルゼライドがシャドームーンに刃を繰り出す。狙いは首。どれ程の戦闘続行能力があろうとも、首を落とせば身体を動かすことが出来ない。例え死なずとも戦闘不能。
総身が消滅しても平然と蘇る化け物が相手でも、首を落として動きを封じ、その間にマスターを殺せば良い。
不死身のバーサーカー黒贄礼太郎を殺すべく、ヴァルゼライドが出した答えが此れだった。あの場では乱戦の為に成功しなかったが、次に出会えば世の安寧の為に必ず殺す。
蝿の王や悪魔との混血まで居るこの魔戦の場、全ての敵に確実に死を滅びを与える手段をヴァルゼライドは思考し、そして眼前のセイバーで実践する。
シャドームーンは防御も回避も出来る状態では無く、念動力やシャドービムも使える状態ではない。だが、おとなしく首をやる程シャドームーンは諦めが良くは無い。
左腕を伸ばして斬撃を受け止める。凄絶な斬撃は、掌を断ち割り、肘まで達して刃は止まった。エルボートリガーを作動させて、刀身を砕こうとしたのにこの有様。
この時点でシャドームーンは敗北を悟っていた。
左腕を断ち割った黄金剣が更に鮮烈に煌めく。この次のヴァルゼライドの一手をシャドームーンは確信しているが何も出来ない。
刃を肉体に食い込ませたまま放つガンマレイ。RXの必殺の一撃と同じ技を以って、ヴァルゼライドはシャドームーンの左肘から先を消し飛ばした。

「グゥオオオオオオ!!!!」

此れが真っ当な一対一の闘争ならば、シャドームーンは敗北を受け入れることがまだ出来た。無念は残るが、此の男に勝てぬ様ではRXの前に立っても同じ結末を迎えるだけだからだ。
だが─────こんな邪魔が入った勝負で敗死するのは受け入れられない。
怒りと無念を乗せた念動力でヴァルゼライドを50mも後方に飛ばし、魔力のスパークで灼かれ続けて、蹲ったまま立てぬ天子に極大の殺意を向ける。

「オオオオオオオオオッッ!!!」

怒号と共に放たれる念動力。倒壊したクレセント・ハイツの瓦礫から、数トンはある円柱を宙に舞わせる。
比那名居天子は、生前に凄まじく自分勝手な理由で博麗神社を倒壊させたことが有る。
シャドームーンが今まさに、比那名居天子を潰すべく、念動力で持ち上げた円柱は、奇しくも此処とは異なる〈新宿〉で、
“神”によって天へと消え、その後天より落ちて、名も無き神社を破壊したものと同じ円柱だった。
説教の長い閻魔やスキマ妖怪なら『因果応報』とでも言うだろう。

「オ・ン・バ・シ・ラーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!?」

上を仰ぎ見た天子が間の抜けた絶叫を残し、円柱の影に消える。轟音と土煙が収まった後には誰も残ってはいなかった。

363流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/07(火) 22:24:42 ID:Ef0xKzCs0
本日の投下分は此処までです

364流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/13(月) 21:33:48 ID:weF2oNz20
長期間のキャラの拘束、大変申し訳ありませんでした。
此れより投下します

365流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/13(月) 21:34:29 ID:weF2oNz20
空間転移を繰り返し、メフィスト病院目指して移動しながらシャドームーンは思考する。
警察組織は掌握した。此れを今後にどう活用するべきか。
先ずは遠坂凛及びセリュー・ユピキタスの捜索だろう。この両者を仕留めることで令呪を独占する。
遠坂凛に関しては、警察からある程度の情報をあえて流すことにより、他の主従をぶつけることにする。
特に新国立競技場に居た者共は、遠坂凛はサーヴァントを失ったと認識している事だろう。そうして、あの歌うアーチャーに令呪を独占させまいとして、不死身のバーサーカー、黒贄礼太郎と遭遇する。
そして猟犬共と黒贄が交戦している間に、遠坂凛を殺せば良い。シャドームーンの持つ能力ならば十分可能だ。
マイティアイと空間転移と気配遮断の組み合わせは、現にあのザ・ヒーローですら不覚を取った。
そうして遠坂凛と黒贄礼太郎を排除し、黒贄と戦い、疲弊したサーヴァントを討つ。
あの新国立競技場での魔戦を戦った者共は、いずれも端倪すべからざる強者達。黒贄は精々頑張って奴等を消耗させて貰おう。
其の後に控えるのは黒衣のサーチャー及びクリストファー・ヴァルゼライドとの決着だ。
サーチャーのマスターはウェスが自分の手で破壊したがっている為、マスター同伴になる。リスクを無くす為にもやはり令呪を使うべきだろう。
だが、クリストファー・ヴァルゼライドに関しては、令呪など不要。己が力のみであの英雄を打倒できねば、到底RXの前には立てぬからだ。

残る討伐対象のセリュー・ユピキタスとバーサーカーに関しては、全く情報が無い。紅いセイバーの例もある。手の内を探ってから戦うべきだろう。

「勿体無い事をしたかも知れん」

シャドームーンの脳裏に浮かぶのは、本戦が始まった直後に撃破したバーサーカーとそのマスター。奴等が居れば、有用な駒として使い潰せるのに。
例えばこの場合なら、セリュー・ユピキタスにぶつけて威力偵察を行わせる。という事が可能だ。
シャドームーンはこの聖杯戦争を戦う主従の数を、こう推測していた。
今まで確認した中で、最も数が多いのがバーサーカーの四体。各クラス四体として、全八クラス有るのだから、全部で32組。
此れを単独で撃破するのは流石に面倒だ。其れに己が地に伏してもおかしく無い強者が犇いている。
やはり手駒は必要だった。
手駒が有れば、クリストファー・ヴァルゼライドとの一戦に際して、奴等が居ればザ・ヒーローを抑えさせる事も出来た。

シャドームーンは怒りを抑えて考える。
そもそもクリストファー・ヴァルゼライドというサーヴァントは目立つ。戦う度に周囲に黄金光を放ち、街並みを破壊する。
クリストファー・ヴァルゼライドは自身の存在を大声で喧伝しながら戦闘を行っているに等しい。
あの巫山戯た乱入者の様な輩が、次に沸いてこないとは言い切れない。何処か人の立ち入れ無い場所で決着を着けたかった。
此処で脳裏に浮かぶのは、紅いコートのセイバーと交えた異相空間。あの様な場所を用意出来れば、心置き無く戦えるのだが。

─────悪魔か。

あのロキとかいう悪魔以外にも存在するというが、首尾よく見つかるのだろうか。









【シャドームーン@仮面ライダーBLACK RX】
[状態]魔力消費(大だが、時間経過で回復) 、肉体的損傷(中)、左腕の肘から先を欠損
[装備]レッグトリガー、エルボートリガー
[道具]契約者の鍵×2(ウェザー、真昼/真夜)
[所持金]少ない
[思考・状況]
基本行動方針:全参加者の殺害
1.敵によって臨機応変に対応し、勝ち残る。
2.他の主従の情報収集を行う。
3.ルイ・サイファーと、サーチャー(秋せつら)、セイバー(ダンテ)を警戒
4.クリストファー・ヴァルゼライドはこの手で必ず斃す。
5.手駒が欲しい。
[備考]
千里眼(マイティアイ)により、拠点を中心に周辺の数組の主従の情報を得ています
南元町下部・食屍鬼街に住まう不法住居外国人たちを精神操作し、支配下に置いています
"秋月信彦"の側面を極力廃するようにしています。
危機に陥ったら、メフィスト病院を利用できないかと考えています
ルイ・サイファーに凄まじい警戒心を抱いています
アイギスとサーチャー(秋せつら)の存在を認識しました
葛葉ライドウ&セイバー(ダンテ)の存在を認識しました
ルシファーの存在を認識。また、彼が配下に高位の悪魔を人間に扮させ活動させている事を理解しました
〈新宿〉の警察組織を掌握しました
新国立競技場で新たに、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました
ザ・ヒーローが人間を超えた強さを持つことを認識しました
セイバー(比那名居天子)、バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)と交戦しました。

366流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/13(月) 21:35:13 ID:weF2oNz20
ザ・ヒーローは南榎町の一角を当てど無く彷徨って居た。乱入してきたセイバーのマスターを仕留めるべく、ヴァルゼライドと別行動を取ったのだが、敵のマスターの姿を補足できなかったのだ。
其れもそのはずで乱入してきたセイバー、比那名居天子のマスターは矢来町に迄移動しているのだから、幾ら南榎町を探しても見つかる筈が無いのだった。
戻ってきヴァルゼライドに合流するべきか。そう、考えた時、ザ・ヒーローの全身は、不意に動きを止めた。

「グ……アアアアア…」

凄まじい力で全身を締め上げられ、宙に浮くザ・ヒーロー。その目前に姿を現したのは、銀鎧のセイバー、シャドームーンに他なら無い。
比那名居天子にオンバシラ決めた後、空間転移であの場を離脱。マイティアイでザ・ヒーローを補足し、キングストーンによる疑似的な気配遮断を用いて近づき、念動力を以って拘束したのだ。
全身を拘束されて、宙に浮いたザ・ヒーローにシャドームーンに抗する術無し。
此処にザ・ヒーローの命運窮まったかと思われた。

「お前を殺すことは容易いが、クリストファー・ヴァルゼライドを斃すまでは貴様に生きていて貰わなければならぬ」

然し、シャドームーンにザ・ヒーローを害する意思なし。
念動力でザ・ヒーローを拘束したまま、ザ・ヒーローのアームターミナルに右手を伸ばす。
ザ・ヒーローが全身に力を漲らせる。アームターミナルはザ・ヒーローの魔力ソースであり、クリストファー・ヴァルゼライドの力の元でもある。此れを破壊されては、満身創痍のヴァルゼライドを治せない。
だが、シャドームーンの行動は、ザ・ヒーローの予想もし無い事だった。
シャドームーンの右手から、アームターミナルに流れ込む魔力。其れがマグネタイトとして、アームターミナルに蓄積されていく。
この量ならば、ヴァルゼライドの傷を治して、新国立競技場に於ける魔戦をもう一度行ってもまだまだ余剰が残る。

「クリストファー・ヴァルゼライドに伝えておけ、この聖杯戦争の後に控える相克に臨む為に、俺はお前の屍を越えると」

そうしてセイバーは現れた時同様、唐突に消え去り。後にはザ・ヒーローが残された。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「クソッ!!」

地面に突き立った石柱をガンマレイで消し飛ばし、地面に空いた穴を見たヴァルゼライドは怒声をあげて地面を蹴りつける。
満身創痍と読んでも良かった身体は、最早形容する言葉も無い程に傷ついていたが、そんなものはこの怒りを鈍らせる事など無い。
あの時、銀鎧のセイバーを確実に葬る為に左腕を吹き飛ばしたが、あの場は首を落としにいくべきでは無かったか。

─────否。其れで獲れる程あの首は低くない。右腕で防ぐだけだ。

左腕を吹き飛ばし、更に左側から猛攻を掛ける。この方針に間違いは無い。あのセイバーの力量を鑑みればこれしか無い。
落ち度は一つ。己が間髪入れずにセイバーの首を落とせなかった事。そして、女のセイバーにガンマレイを撃たなかった事。
あの女のセイバーは動けない程に消耗していた。ガンマレイを放てば確実に仕留められていた。
だが、ヴァルゼライドは即座に思考を切り替える。二人共にダメージは深刻だ。当面の間戦闘能力は半減するだろう。仕留めるならば好機というもの。
ヴァルゼライドは脳裏に二人のセイバーを加えて、模擬戦闘を行いながら、ザ・ヒーローと合流すべく歩み去った。

367流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/13(月) 21:36:55 ID:weF2oNz20
【南榎町の一角/一日目午後4:00】


【ザ・ヒーロー@真・女神転生】
[状態]肉体的ダメージ(中)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]ヒノカグツチ、ベレッタ92F
[道具]ハンドベルコンピュータ
[所持金]学生相応
[思考・状況]
基本行動方針:勝利する。
1.一切の容赦はしない。全てのマスターとサーヴァントを殲滅する
2.遠坂凛及びセリュー・ユビキタスの早急な討伐。また彼女らに接近する他の主従の掃討
3.翼のマスター(桜咲刹那)を倒す
4.ルーラー達への対策
5.取り敢えずヴァルゼライドを治そう
[備考]
桜咲刹那と交戦しました。睦月、刹那をマスターと認識しました。
ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると推理しています。ケルベロスがパスカルであることには一切気付いていません。
雪村あかりとそのサーヴァントであるアーチャー(バージル)の存在を認識しました
マーガレットとアサシン(浪蘭幻十)の存在を認識しましたが、彼らが何者なのかは知りません
ルーラーと敵対してしまったと考えています
新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました。真名を把握しているのはバージルだけです
現在<新宿>新国立競技場周辺から脱出しています。何処に向かうかは次の科書き手様にお任せします
キャスター(タイタス1世)の産み出した魔将ク・ルームとの交戦及び、黒贄礼太郎に扮したタイタス10世を目視した影響で、廃都物語の影響を受けました
ライドウが自分と同じデビルサマナー、それも恐ろしいまでの手練だと確信しています
セイバー(シャドームーン)、セイバー(比那名居天子)を認識しました。


【バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】
[状態]肉体的ダメージ(超々極大)、魔力消費(大の大)、霊核損傷(超々極大)、放射能残留による肉体の内部破壊(極大)、全身に放射能による激痛(極大)、
全身に炎によるダメージ(現在重度)、幻影剣による内臓損傷(現在軽度)、内蔵損壊(超々極大)、頭蓋骨の損傷(大)、脊椎の損傷(大)、出血多量(極大) 、背骨を緋想の剣で縦に割られている(大)、背中に無数の石塊が埋まっている。
→以上を気合と根性で耐えている
[装備]星辰光発動媒体である七本の日本刀(現在五本破壊状態。宝具でない為時間経過で修復可)
[道具]なし
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:勝つのは俺だ。
1.あらゆる敵を打ち砕く
2.例えルーラーであろうともだ
3.ザ・ヒーローと合流する
[備考]
ビースト(ケルベロス)、ランサー(高城絶斗)と交戦しました。睦月、刹那をマスターであると認識しました。
ザ・ヒーローの推理により、ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると認識しています。
ガンマレイを1回公園に、2回空に向かってぶっ放しました。割と目立ってるかもしれません。
セイバー(チトセ・朧・アマツ)は、彼女の意向を汲みいつか決着を付けたいと思っております
アーチャー(那珂)は素晴らしい精神の持ち主だとは思っておりますが、それはそれとして斬り殺します
マーガレットと彼女の従えるアサシン(浪蘭幻十)の存在を認知しましたが、マスター同様何者なのかは知りません
セイバー(シャドームーン)、セイバー(比那名居天子)を認識しました。
早稲田鶴巻町に存在する公園とその周囲が完膚無きまでに破壊し尽くされました、放射能が残留しているので普通の人は近寄らないほうがいいと思います
早稲田鶴巻町の某公園から離れた、バージルと交戦したマンション街の道路が完膚なきまでに破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います
新小川町周辺の住宅街の一角が、完膚なきまでに破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います
交戦中に放ったガンマレイの影響で、霞ヶ丘町の集合団地や各種店舗、<新宿>を飛び越えて渋谷区、世田谷区、目黒区、果ては神奈川県にまでガンマレイが通り過ぎ、進行ルート上に絶大な被害と大量の被害者を出していますが、聖杯戦争の舞台は<新宿>ですので、渋谷区等の被害は特に問題ありません
南榎町に有るマンション、クレセント・ハイツの有る一帯がが完全に破壊されました。放射能が残留しているので普通の人は近寄らない方がいいと思います

368流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/13(月) 21:37:51 ID:weF2oNz20
十兵衛は戦場から大分離れた場所に降り立ち、そこから徒歩で移動して、矢来町のほぼ中央にある写真スタジオの前に居た。
かなりの距離を離した筈だが、時折此処にまで伝わる地響きは、十兵衛に聖杯戦争というものを雄弁に教えていた。
天子が未だに戻ってこないのは、戦いに巻き込まれたのか、戦いに乗ったのか。
どちらにせよ確かめる術は無く、十兵衛としては戻ってくるのを祈りながら待つより他無い。
手持ち無沙汰の現状、やれることといえば頭を働かせるくらいである。

まず、この聖杯戦争なる催しで言えることは、参加者の選考に関して運営は関わっていない─────完全ランダムという可能性が高い。
根拠としては、田島彬が開催した陰陽トーナメントの参加者と比較すれば判るが、あっちの参加者が皆悉くやる気全開で優勝狙い。
対して、こっちの参加者は、マスターはおろかサーヴァントにさえ、やる気が無いどころか運営に反旗を翻す気の奴等迄居る。
しかもその運営に逆らう奴の中に、主従共に全参加者中最強といって良い戦力持ちのライドウが居るという始末。
そんな連中を管理する運営の能力はどれほどのものか?

もし仮にライドウが他のマスターを全員制圧し、令呪を使わせてサーヴァントに戦うことを禁じさせれば、聖杯戦争はそこで止まる。
つまり運営としてはライドウの行動を今のうちに掣肘してもおかしくは無いが、今現在それを行おうとはしていない。
遠坂凜たセリュー・ユピキタスの様に、暴れ回る連中を抑えに回っているというのも有るだろうが、積極的に行わない理由は三つ。

1.単純にライドウが意図する処を知らない。
2.歯向かって来ても返り討ちに出来るから放っている。
3.ライドウが意図する処を知っていて、今は対処する時では無いと考えて放置している。

2の場合だと、“運営に逆らう=死”という事が確定するが、十兵衛はおそらく1だと思っている。
3という可能性については、正直判らない。3の場合だと参加者の動向をリアルタイムで知っている事になるが、こればかりは不明である。
だが、討伐令が、NPCや〈新宿〉に対する大規模な加害行為に対して発布されていることを考えれば、3は無い。
相当数のNPCを悪魔化しているサーヴァントを放置している理由が無いからだ。
それに、今迄に出た討伐令の内容を踏まえれば、確実に3は無い。

369流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/13(月) 21:38:19 ID:weF2oNz20
「無能だな」

十兵衛の運営に関する評価は辛辣だった。
十兵衛は元いた世界の知識に照らし合わせて考えてみるが、運営が無能という結論はそうそう変わらない。
十兵衛が思い浮かべる知識は、北野武が華麗なナイフ投げを披露した、中学生が殺しあう映画だった。
運営のレベルがあの映画並だとすると、ザ・ヒーローに対する討伐令など出ない。逆らった時点で殺されるからだ。
十兵衛が己の令呪の有る位置を手で撫でた。凡そ元居た世界からして違うマスター達の唯一の共通項。三度きりの切り札を十兵衛はずっと疑っていたが、どうやら杞憂だった様だ。
この令呪が、マスター達の動向を逐一モニターし、尚且つ反逆行為や禁則事項に抵触した場合、マスターに死を齎すのでは無いか─────此れを十兵衛は懸念していたのだ。
あの二人、ザ・ヒーローとクリストファー・ヴァルゼライドのおかげで判ったことが二つ有る。
聖杯狙い─────例えば寨のような─────にとっては気にかけることも無い事柄だが、脱出が目的の十兵衛にとっては重要な事実である。
運営に対する反逆=死では無いということ。少なくとも、運営が絶対的上位者で、全てのサーヴァントを問題としない権限を持っている訳では無い。もし持っていたとしても抵抗や対策は可能。
目的が目的の為に、運営と一戦交える可能性もある十兵衛にとって、あの二人はモルモットの役割を果たしたも同然だった。
もう一つは、“運営の監視能力の低さ”。何故にクリストファー・ヴァルゼライドというサーヴァントのみ名前とステータスを開示したのか。
そして、何故にステータスと宝具の大雑把な説明しかしていないのか。
宝具の真名も発動条件も、保持するスキルも説明されていない。“運営に喧嘩売って怒らせた”というならば、ステータス及びスキルと宝具の詳細な情報を公開して然るべきでは無いか。
更には、今迄に出た討伐令の全てが、標的がどこに居るのかを明かしていない。
どうしても始末したいなら、居場所を公開するべきだろう。
此れに関しては、ザ・ヒーロー及びクリストファー・ヴァルゼライドに対してすら無い。
何故に『ルーラー』という特殊なクラスが関わったにも関わらず、一般のマスターとサーヴァントが得られる程度の情報しかないのか。
此処から出せる推論は一つ。『此れが運営の限界』という事。おそらくはルーラーというサーヴァントの情報収集能力は、
対峙したサーヴァントの真名を看破する程度のものでしか無く、それ以外は一般のサーヴァントとそう変わらないのだろう。
つまりはよっぽど派手な動きをしない限り、運営が気付くことは無い。という結論になる。此れならNPCの悪魔化やライドウを放置している説明がつく。
そしていざ事を構えるにしても、此方の手を隠しておくことも可能だという事だ。
益々以って、あの跳ねっ返りの手綱を慎重に握っておかなくてはならなくなった。その場の勢いで宝具を使われては溜まったものでは無い。
ならばどうやってセリュー・ユピキタスの写真を入手したのかが不明だが、此の〈新宿〉のカメラ全てを掌握しているのだろうか?此処はよく判らない。

そして、この討伐令で運営が犯したミス。其れは“クリストファー・ヴァルゼライドと交戦した”という情報を提示したこと。つまり運営は〈新宿〉の何処かに居るという事を提示したに等しい。。
そしてクリストファー・ヴァルゼライドというサーヴァントは、戦闘の度に高濃度の放射能汚染を引き起こしている。つまり、居場所、或いは元居た場所の特定が容易ということだ。
ライドウならば、容易にルーラーの拠点に迫る事だろう。
そうなれば十兵衛としても行動を決めなければなら無い。迅速に離脱する為に、もし仮にライドウと共に運営と戦うのなら、ジョナサンと塞を駆り出せる。
ジョナサンは元々聖杯戦争に否定的であり、塞にした処で、運営を斃して聖杯を強奪出来るとなれば乗ってくるだろう。
もしルーラーが何らかの切り札を持っていても、十兵衛と天子以外の誰かが犠牲になれば、其れを元に攻略できる。
とまあ、仮定の話は置いておいて、此処から判る事は、運営している奴等は“此の手の事に関する経験を持たない”という事だ。例えば田島彬ならこんな杜撰なミスは犯すまい。
この事から十兵衛は運営の裏をかくことは、困難だが充分に可能だと判断した。

370流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/13(月) 21:38:47 ID:weF2oNz20
十兵衛は短く息を吐くと、思考を切り替える。
次に考えるべきは、脱出の方法だ。此れは4パターン有る。

1.何らかの脱出方法が有る。
2.運営をどうにかしなければ脱出不能。
3.聖杯に願わなければ脱出不能。
4.優勝しなければ脱出不能。

取り敢えずどの場合でも、必要とあれば十兵衛は天子を令呪を用いて自殺させるつもりでいる。余り気は乗らないが元より死人、良心は痛まない。
それはさて置き、どの場合でも当面の間、十兵衛は現在の同盟関係を崩すつもりは無い。
1の場合なら、脱出条件を満たすまでの身の護りとして、ライドウ達の戦力と、塞達の能力は有用だ。
2の場合ならば、ライドウ達の戦力は多いに利用出来る。天子が帰ってこなければ判らないが、ヴァルゼライドの戦力次第では、
ヴァルゼライドを退けたルーラーは運営としては無能だが、戦闘能力が極めて高い。という事になる。この場合、ライドウと組んでおくことが唯一の正答だろう。
若しくは、ルーラー何らかの隠し札を持っているかも知れないが、ライドウ達の戦力ならば、その隠し札の内容を明らかに出来るだろう。
3の場合だと、ライドウと組んで聖杯を獲れば良い。ジョナサンと手を組むのも有りだろう。
天子が途中で死んでも、ライドウかジョナサンが聖杯を獲れば、“巻き込まれたマスター達を元の世界に返す”という願いをして貰う事が出来る。あの二人ならば、この手の願いをさせることは可能だろう。
此処迄のパターンだと、十兵衛は塞を切り捨てることにな。向こうもそのつもりだろうが、塞と十兵衛では圧倒的に十兵衛が有利だ。
何故ならば、ライドウに対する為には塞単独では不可能だからだ。
塞と十兵衛の同盟は、ライドウという圧倒的な強者の存在が保証している。何かの拍子でライドウが死ねばともかく、生きて居る間は、塞は十兵衛を裏切れない。
そして4の場合。此れが一番困難なパターンだった。
この場合、一番の問題となるのは“ライドウを排除するタイミング”である。
理想的なのは、十兵衛と塞の同盟では苦戦するような連中が全員死んでいて、残った連中の手の内が判っている。というものだが、此れは高望みし過ぎだろう。
其れにライドウを倒すのならば、確実にあと一組は仲間にしたい。
此処で仲間にするとなれば、ライドウを速やかに排除出来きて、更には正面戦闘が苦手なアサシンが理想的だった。若しくは優秀なサーヴァントを従えた一般人。
敵対した時の事を考えれば、天子が苦戦するような相手でも、マスターを仕留めれば其れで済む。方針が優勝狙いならば“強いサーヴァントに一般人のマスター”というのは、理想的な同盟相手である。
そして塞も同じ事を考え、同盟相手を密かに探しているだろう。新国立競技場に居た、塞のサーヴァントの師匠とやらについては口を閉ざすことにしておこう。

まあ、対ライドウで同盟を組むのは容易だろう。何せ新国立競技場での乱戦で、主従共に破格の戦闘能力を存分に見せつけたのだ。
強敵と見做されて、対抗策としての同盟を考えている奴等が必ず居る筈だ。其奴等と組めば良い。
然し、組みたく無い相手もいる、それはアーチャーだった。単独行動スキルを持つアーチャーは、マスターを殺しても直ぐには消えない。思わぬ逆撃を食うのは御免だった。
では、アーチャーを従える塞との同盟は?
此れに関しては例外で、先ず問題は無い。何しろ向こうの手を知り尽くす天子が居る上に、京王プラザで出逢った時の向こうの反応から、あのウサギは天子に勝てないと判断して居る。
塞にした処で、真っ向勝負で十兵衛が十度戦って一度勝てれば良い方な強さだが、時間稼ぎに徹すればそうそう簡単にはやられ無い自信がある。要は天子がウサギを仕留める迄粘れば良いだけなのだ。
ライドウが健在な限り、十兵衛は塞に対し行動上で常に先手を取れる。直接戦闘以外の処で厄介極まりない二人だが、この優位は覆せ無い。
取り敢えず、現在の同盟関係ならば、どの様な状況にも対応は可能だ。この状態を崩すのは脱出方法が明らかとなり、聖杯戦争が終盤に差し掛かった頃だろう。

371流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/13(月) 21:39:13 ID:weF2oNz20
「お待たせ〜〜」

そこ迄考えた時、戻ってきた天子が実体化した。

「ボロボロじゃねぇか。負けたのか」

「お流れよ、お流れ。次は必ず私が勝つわよ!!」

眦を決して告げる天子に、十兵衛は口を閉ざした。オンバシラがどうこう言っているがスルー。
令呪をこっそり獲得&運営の機嫌を取る為に行ったザ・ヒーロー及びクリストファー・ヴァルゼライドの討伐は失敗したらしい。
まあ、ルーラーが知らないであろう“NPCを悪魔化しているサーヴァント”の情報があるから問題は無いが。

「取り敢えずメフィスト病院行くか」

ほっといても治るが、時間が掛かる。その間に襲われたら事だし、魔力の消費も惜しい。

「そういやヤゴコロエーリン……とかいうのは医者なんだっけか。存外メフィスト病院に居たりしてな」

「ん〜どうかしらね?結構気位高いそうだから、対抗意識燃やしてたりして、『フ…メフィスト病院か…そのくらいの事私にも出来る!!』みたいな事言ってたりして」

「で、誰にも相手にされなくて『メフィスト!メフィスト!メフィスト!どいつもこいつもメフィスト!何故奴を認めてこの私を認めないのよ!』とかキレてるのか」



この時〈新宿〉の何処かで銀髪の美女が凄まじく不愉快そうにクシャミをしたとかしなかったとか。

372流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/13(月) 21:39:35 ID:weF2oNz20
【矢来町にある写真スタジオの前/一日目午後4:00】

【佐藤十兵衛@喧嘩商売、喧嘩稼業】
[状態]健康 魔力消費(中)、廃都物語(影響度、小)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]部下に用意させた小道具
[道具]要石(小)、佐藤クルセイダーズ(9/10) 悪魔化した佐藤クルセイダーズ(1/1)
[所持金] 極めて多い
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争から生還する。勝利した場合はGoogle買収。
1.他の参加者と接触し、所属する団体や世界の事情を聞いて見聞を深める。
2.聖杯戦争の黒幕と接触し、真意を知りたい。
3.勝ち残る為には手段は選ばない。
4.正午までに、討伐令が出ている組の誰を狙うか決める。
5.当面は今の同盟関係を維持する。
[備考]
ジョナサン・ジョースターがマスターであると知りました
拠点は市ヶ谷・河田町方面です
金田@喧嘩商売の悲鳴をDL販売し、ちょっとした小金持ちになりました
セイバー(天子)の要石の一握を、新宿駅地下に埋め込みました
佐藤クルセイダーズの構成人員は基本的に十兵衛が通う高校の学生。
構成人員の一人、ダーマス(増田)が悪魔化(個体種不明)していますが懐柔し、支配下にあります。現在はメフィスト病院で治療に当たらせ、情報が出そろうまで待機しています
セイバー(天子)経由で、アーチャー(ジョニィ・ジョースター)、バーサーカー(高槻涼)、謎のサーヴァント(アレックス)の戦い方をある程度は知りました
アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)の存在と、真名を認識しました
ある聖杯戦争の参加者の女(ジェナ・エンジェル)の手によるチューナー(増田)と交戦、<新宿>にそう言った存在がいると認識しました
バーサーカー(黒贄礼太郎)の真名を把握しました
遠坂凛、セリュー・ユビキタスの主従の拠点の情報を塞から得ています
<新宿>の全ての中高生について、欠席者および体のどこかに痣があるのを確認された生徒の情報を十兵衛から得ています
<新宿>二丁目の辺りで、サーヴァント達が交戦していた事を把握しました
塞の主従、葛葉ライドウの主従と遭遇。共闘体制をとりました
屋上から葛葉ライドウ&セイバー(ダンテ)と、ロベルタ&バーサーカー(高槻涼)が戦っていたのを確認しました
メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません
セイバー(シャドームーン)を認識、ステータスを把握しました。
ルーラー及び主催者の能力について考察しました。ルーラーの能力は真名を看破する程度だと推測しましたが、その戦力は全くの未知数だと認識しています。
黒贄礼太郎に扮したタイタス10世を目視した影響で、廃都物語の影響を受けました



【比那名居天子@東方Project】
[状態]ダメージ(中)、放射能残留による肉体の内部破壊(小)、放射能による全身の痛み。 上機嫌。
[装備]なし
[道具]携帯電話
[所持金]相当少ない
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を異変として楽しみ、解決する。
1.自分の意思に従う。
2.復活を願うのも良いかも知れない。
3.まさかオンバシラされるとは思わなかった。
[備考]
拠点は市ヶ谷・河田町方面です
メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません
セイバー(シャドームーン)、バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)と交戦しました。
新国立競技場で新たに、セイバー(ダンテ)、セイバー(チトセ・朧・アマツ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(八意永琳)、アーチャー(那珂)、アーチャー(パム)、ランサー(高城絶斗)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認知しました
ザ・ヒーロー及びライドウが人間を超えた強さを持つことを認識しました。

373流星 影を切り裂いて ◆/sv130J1Ck:2017/03/13(月) 21:41:29 ID:weF2oNz20
投下を終了します。wiki編集に際に直しますので、誤字や脱字、問題点が有りましたらご指摘お願いします。
長期間に渡るキャラ拘束。大変申し訳ありませんでした

374名無しさん:2017/03/17(金) 19:15:45 ID:9n/Q0mFg0
投下乙。
壮絶な三つ巴の戦闘描写にただ圧倒されました。
攻守がや相手が目まぐるしく入れ替わり、誰が落ちてもおかしくない状況(特に天子)に読む手が止まりませんでした。
あんた本当に死にかけ?と思わずにはいられない総統はやっと治療されるのか、今回はあまり良いところがなかったザ・ヒーローはここらで主従共々一回休んでください。
天子は何度も死にかけながらも、意地と根性と運で九死に一生を得て、十兵衛は討伐令だけで運営の持つ権限や居場所を推測する相変わらずの強かさ。
だが、今回一番印象に残ったのはシャドームーン、ヴァルゼライドにRXの面影を見て奴だけは万全の状態で倒したいと、敗走しながらも、わざわざ敵に塩を送る真似をするなどさすがの世紀王

375 ◆/sv130J1Ck:2017/03/17(金) 21:07:17 ID:RMHpWTpQ0
wikiに編集しておきました

376 ◆/sv130J1Ck:2017/03/18(土) 20:43:24 ID:ajX5cSEY0
wikiの編集。お疲れ様です
あの長さのSSを編集するのは始めてで、御迷惑をおかけしてしまいました

377 ◆zzpohGTsas:2017/03/19(日) 12:06:38 ID:yrmzKjgU0
>>流星 影を切り裂いて
登場する度濃密な戦闘を繰り広げ、登場する度当たり前のように<新宿>に破壊を振り撒きまくる、一種の舞台装置みたいになりつつあるヴァルゼライド。
彼の迷惑さがこれ以上となく発揮された一方で、このサーヴァントの気合と根性に裏打ちされた恐ろしい戦闘能力、そして原作じゃ英雄と言われ、
別格の扱いをされてきたキャラクターに相応しい戦闘描写を、これ以上となく書ききれていて大変すばらしい話であると感じました。
ステータスや宝具の汎用性、特性から何まであらゆる面でヴァルゼライドを上回っているシャドームーンや、同じく種族的な特性で上回る天子を、
気合と根性、原作シルヴァリオ ヴェンデッタでも見せた、強い者と戦えば戦う程に強くなると言う意味不明な特性で凌ぎ、上回るその様子は実に恐ろしい。
個人的に好きだなと思った総統新技は、ガンマレイを推進力に超スピードで移動するって言う、何かFGOの謎のヒロインXみたいな奴ですね。
環境破壊と移動を一時にこなせて一石二鳥って感じで凄い気に入りました。総統と関わって良い目に合わない奴は今の所いませんが、今回もそれは同じ。
シャドームーンも天子も、無駄に疲弊した挙句に放射線によるダメージを貰っていると言う、触るもの皆不幸にする体質は相変わらず。
とは言え、原作では一部例外を除けば無敵とすら言える程の強さだった総統も、聖杯戦争でサーヴァントとして呼ばれればまだまだ上がおり、
この上辛酸を舐めさせられ、煮え湯を呑まされ続け苦い思いをする、と言うのもまた聖杯企画の妙でしょうか。果たして今後勝利を掴めるのでしょうか。
今回の戦いで一番のダメージを負ったシャドームーンは、どう動くのかも気になる所。彼もまた登場するや、戦う機会も多いですし、この辺りでダメージが気になる所。
そして、個人的に一番、今回の話で気に入ったのは十兵衛の考察でしょうか。少ない証拠から、ルーラーの権限及びその性質を推理、今後の振る舞い方を定めるその様子は、
正に原作喧嘩商売の十兵衛の頭の良いムーブメントそのもの。この辺りの佐藤十兵衛の再現ぶりは、ブラボーを送りたい程素晴らしいと思いました。
登場したキャラクター全員に素晴らしい戦闘面での活躍を与え、そして考察も見事だった。実に素晴らしい1話であったと、自分は思います。

ご投下、ありがとうございました!!

378名無しさん:2017/03/19(日) 22:32:32 ID:Ipq3nt4E0
投下乙です!
サーヴァント、改造された魔星とはいえ基本的には単なる人間に過ぎないヴァルゼライドの、けれど単純なカタログスペックなど超越した理不尽としか言いようがない気合と根性による強大な戦闘力。そしてそんな総統を完全に凌駕する域にあるシャドームーンという頂上対決を濃密かつ見事に描き切った今作は大変見事なものでした。そしてそんなシャドームーンの、総統にRXの影を見ていずれ必ず自分の手で打ち倒すという信念の顕れは、彼が単なる悪役に留まらないキャラの格というものが表現されており、大ダメージを負って尚株が下がらない素晴らしいものでした。
そんな二人に奇襲をしかける天子一行も、怪我やトラウマを負わされつつも情報を掠めとりブレインの十兵衛が考察を更に一歩進めるなど躍進を続けている模様。単純な戦闘だけが聖杯戦争ではない、ということがよく分かる一幕だったと思います。
それぞれのキャラの濃さや行動の推移をさまざまに交錯させながらの一作、お見事でした。

379名無しさん:2017/04/13(木) 13:23:48 ID:LJSg.4Tg0
◆2XEqsKa.CM氏は流石にそろそろ進捗報告した方がいいのでは……?

380 ◆2XEqsKa.CM:2017/04/16(日) 18:45:30 ID:m1OG9HDQ0
報告が遅れてしまい申し訳ありません
SS自体はほぼ書き上がっているのですが投下できる環境にない状況です
今月中には環境が戻りますので、整い次第投下させていただきたく存じます
企画主様の了解が得られない場合、又は他の書き手様が予約キャラを進めたい場合は前編ごと破棄した体でお願いいたします

381 ◆zzpohGTsas:2017/04/27(木) 00:00:16 ID:w04rMT0c0
>>380
返信が遅れてしまい申し訳ございません。私としましては、氏の投下を心待ちにしておりますので、投下を希望いたします

382名無しさん:2017/05/03(水) 23:12:55 ID:7Q/R4PUo0
投下が来ない……

383名無しさん:2017/05/03(水) 23:29:49 ID:0I3v/3wM0
破棄なんだろ

384 ◆zzpohGTsas:2017/05/12(金) 23:59:57 ID:uLNzHYFc0
企画主として余りにも決断が遅かったかもしれませんが、ここで企画主としての考えを述べたいと思えます
◆2XEqsKa.CM氏は本編スタート当時から当企画に投稿されていた、卑近な言い方をしますと古株と言う事でしたので、
此方としても多少の期限のオーバーは大目に見ておりまして、そして4月中も、リアルでの事情が有ったとのことなので、4月一杯までは待って欲しいと言うリクエストも受け入れました。
ですが、流石にここまでオーバーしてしまっては、依怙贔屓と言うものが余りにも過ぎる上に、当企画にも寄与されている他の書き手様からも顰蹙を買いかねません。
よって、他の書き手様達との平等を保つと言う意味も込めまして、企画主権限を発動し、私は◆2XEqsKa.CM氏の予約を破棄と致します。
それと、これは私事になりますが、企画主である自分も、最近はリアルが忙しいと言う切実な現実に直面致しましたので、
予約の期間を従来の『1週間+3日』から、『3週間+3日』まで延ばさせていただきます。

私からの報告は以上です。

385 ◆zzpohGTsas:2017/05/14(日) 02:15:22 ID:cXLAa.0k0
死ぬ程久々ですが、

一ノ瀬志希&アーチャー(八意永琳)

を予約いたします

386<削除>:<削除>
<削除>

387 ◆hVull8uUnA:2017/05/18(木) 01:14:58 ID:vKi9/zTE0
改めましてこちらで
蒼のレストライダー(妖姫)予約させていただきます

388 ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/18(木) 01:33:18 ID:WkLGCWQw0
不律&ランサー(ファウスト)で改めて予約します

389お気に召すまま ◆hVull8uUnA:2017/05/21(日) 22:36:40 ID:Mb3H3Cd20
蒼のライダー(美姫)投下します

390お気に召すまま ◆hVull8uUnA:2017/05/21(日) 22:39:04 ID:Mb3H3Cd20
「面白い見世物じゃった」

高田馬場・百人町に向かって舟の船首を向け、三人の娘を伴い、地獄の釜の底の様な争乱の
最中にある新国立競技場を後にする際、妖姫が口にした言葉がこれであった。
妖姫はメフィスト病院を後にして、せつらを求め<新宿>を当て所なく彷徨っていた、ジャ
バウォックに対する殺意は些かも揺らいでおらぬが、態々探し求めて殺すまでも無い。
次に出会えば必ず滅ぼすが、出会わなければそれまでだと割り切っている。
元より放埓気儘に生きてきた妖姫が、今更何かに捉われる事など有り得ない─────唯一
つの例外を除いて。
そうしていたところで突如生じた巨大な神気を感知。
古の時代を思い起こすその気配に誘われて、競技場へ赴いた先で見たものは、太古の地母
神“アシェラト”に変貌した人間と、ソレを討ち滅ぼした銀髪のアーチャーだった。
妖姫にも、これは驚嘆に値する出来事だった。“人が人以外の存在に変わる事など妖姫には
別段驚くにも値しない。
例えば─────面を被ることによって、その面が模す存在、猿なら猿、虎なら虎の力を得
る。
果ては他者の姿形どころか技能や精神までをも、面が表すもののそれに変え、秋せつらの面
をつまらぬ男に被せ、せつらを二人にしてのけた面作りがいた。
例えば─────自身で作成した薬を飲み、己が内の獣性を解き放ち、姿形をそれに相応し
い姿に変えた碩学がいた。
例えば─────人間に異なる生物の要素を植え付け、半獣半人の怪物へと変える技術が存
在した。
例えば─────人に“神”を降ろす事により。或いは“神”を喰らうことによりその血肉を取
り込み、文字通りの“現人神”と化した人間が居た。
例えば─────妖姫に血を吸われた者がそうだった。

それらを知る妖姫ですら、あのアシェラト女神は驚愕に値するする存在だった。
半獣人に作り変えるのとは訳が違う。凡百の悪魔に変えたわけでは無い。
あれ程の高位の古の女神を、如何なる術を用いたのか現世に蘇らせてのけた術者は賞賛に値
した。
そして、その女神を、本来の力を到底発揮しておらぬとはいえ圧倒し、滅ぼしてみせたアー
チャーに対する評価も改めた。
そして妖姫は、アシェラトとなっていた人間と愁嘆場を繰り広げている、アーチャーのマス
ター、一ノ瀬志希の顔を改めて覚えた。
それまでの妖姫にとっての一ノ瀬志希とは、路上の蟻と同じ、永琳が居なければ存在を気に
留めるどころか、認識すらしないだろう。
永琳に対する評価が上昇した事で、一ノ瀬志希もまた、覚えておくべき顔の持ち主となった
のだった。
そして妖姫は、その場から立ち去る二人を見逃した。
陽の下で戦うには永琳は手強い相手であり、魔獣から受けた傷も癒えてはいない。
血を啜るなり、紅湯に浸かるなりして傷を癒す必要が有った。
そうして妖姫は、激しい闘争の気配を感じ、飛翔して新国立競技場の外壁の上へと降り立
ち、フィールドを睥睨した。
そして見た。広い競技場を所狭しと疾駆し、争覇する三人の剣士を。
縦横に 武器を戦い方を縦横に変える紅い魔剣士を。
空間を跳び、神速の嫌疑を振るい、次元を斬り裂く蒼い魔剣士を。
そして─────その二人に囲い責めにされながら、僅かも譲らず戦い抜き、深淵を穿った
黄金の英雄を。

391お気に召すまま ◆hVull8uUnA:2017/05/21(日) 22:39:38 ID:Mb3H3Cd20
凡そ人がその生涯に口にする米粒を遥かに上回る人間を見、殺し、血を啜ってきた妖姫です
ら、過去に於いて見てきた者たちの中でも最上位に入る男達。
淀んでいた血が賦活する。萎えていた邪悪な意志が喚び醒まされる。
例えせつらが腑抜けていたとしても、この男達を捩じ伏せ、膝下に膝まずかせる事で、充分に釣り合う事だろう。

「ルシファーも存外気の利かぬ奴、この様な男達の存在を告げぬとは、私を踊らせたいのな
ら、此奴らの事を告げれば、意のままに踊ってやっても良かったのに」

あの“明けの明星”が何を考えて私を此の地に呼びつけたか知らぬが、どうでも良い。
最初に出会ったアーチャーといい、此の地には過去見た事がない輩共が数多いる。
それこそ、四千年の間に下僕とした二人、劉貴と秀蘭にも劣らぬ。
従僕にしたい、そう思える存在が、まさか三人も一度期に現れるとは。
過去に滅ぼしてきた国などよりも、あの男達の一人の方が遥かに価値がある。
あの様な者達がいるのならば、この街を過去滅ぼした国の様に変えてやることもやっても良い。

「しかし誰もが従いそうにないというのがな。ベイの如き輩を増やしても仕方がない」

血を啜って下僕にしても従うとは到底思えぬ。妖眼で縛るにしても縛れるとは到底思えぬ。
彼奴等を従僕とするのは不可能だろう。

「まあ部下とにするなら丁度良いサーヴァントが居る。彼奴なら秀蘭の代わりは充分に勤ま
るだろう」

とは言えその代わりを用意するのも一手間凝らさねばならないが。

その為の策を練る為に甲板に舞い降りた妖姫の眼に、新国立競技場から転けつまろびつ出て
きた三人の娘が映った。
今日1日で散々地獄の底を這いずり回った、アナスタシア・鷺沢文香・橘ありすの三人だっ
た。
常ならば認識すらしない。地を這う蟻を気にする人間がいない様に。
だが、今はあの魔獣に受けた傷が癒えていない。傷を癒す為に血を飲む必要があった。
男の血は熱く濃い。女の血は甘く薄い。この先最上の熱い血を持つ三人の男をその牙にかけ
るのだから、先ずは逆の味の血を持つこの女達で喉を潤そう。
精神的にも疲弊の極みにあった三人は突如現れた妖姫の美貌に全てを忘却した。美しいとい
う言語すらが、仮初に用いられるほどの、人の理解や認識の範疇を超えた美。
気力体力充溢した状態でも忘我の態となるなら、疲弊しきった状態でなら己が生きているこ
とをすら忘れ果てるだろう。
白痴のように立ち尽くした今の三人は意思を喪失し、妖眼の命じる儘に行動する木偶でし
かなかった。
もし此処で妖姫が三人の格好に気付かなければ、三人の命運は此処で尽きていただろう。

妖姫 にとっては、“アシェラト”に変貌していた者が誰か、などという事は心底どうでも良い
事柄だった。
唯その“アシェラト”に変貌していた者が、メフィスト病院内で一戦交えたアーチャーのマス
ターと愁嘆場を演じていたからこそ、記憶に残っていたに過ぎない。

「お前達のその装束に見覚えがある」

嘗て<新宿>の吸血鬼達の長である“長老”孫である夜香、三万人のトルコ兵を串刺しにした
吸血魔王カズィクル・ベイを縛った妖姫の妖眼が、この<新宿>に赤く輝いた。
その双眸を見た刹那。三人は思考はおろか人間性すらをも喪失した。

「お前達の様に、命に溢れた者が数多く居る場所を教えよ」

競技場で魔天をすら揺るがす妖戦を戦う三人の丈夫(ますらお)といい、あの神箭手といい、
せつらといい。誰もが傷ついた身でその前に立つわけにはいかぬ相手だった。
特にせつらの前に立つ為には、傷を快癒させる必要がある。
この三人は使えぬ以上代わりを求める。その数が多ければ紅湯とし、少なければ飲み干す。
その思考の元に放たれた問いに、三人競い合う様に一つの答えを出した。

392お気に召すまま ◆hVull8uUnA:2017/05/21(日) 22:40:17 ID:Mb3H3Cd20




【四ツ谷、信濃町方面(新国立競技場周辺/1日目 午後2:30】

【ライダー(美姫)@魔界都市ブルース 夜叉姫伝】
[状態]左脇腹の損傷(大。時間経過で回復)、実体化、せつらのマスターに対する激しい怒り、
[装備]全裸
[道具]
[所持金]不要
[思考・状況]
基本行動方針:せつらのマスター(アイギス)を殺す
1.アイギスを殺す、ふがいない様ならせつらも殺す
2.ついでに見かけ次第ジャバウォックを葬る
3.セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)バーサーカー(クリストファー・ヴァルぜライド)に強い関心。彼らを力づくで捩じ伏せたいと思っています
4.血を飲むなり紅湯に浸かるなりして傷を癒したい

[備考]

* 宝具である船に乗り、<新宿>の何処かに消えました
* 一ノ瀬志希&アーチャー(八意永琳)、不律&ランサー(ファウスト)の存在を認識しました
* セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)バーサーカー(クリストファー・ヴァルぜライド)を認識しました
* 人間を悪魔化させる者がいる事を知りました
* 高田馬場・百人町方面に向かって移動中です
* アナスタシア・鷺沢文香・橘ありすの三人を妖眼で支配しました
* 部下としてあるサーヴァントに目を付けました

393お気に召すまま ◆hVull8uUnA:2017/05/21(日) 22:40:59 ID:Mb3H3Cd20
投下を終了します

394名無しさん:2017/05/21(日) 23:35:52 ID:bQlL/VSY0
投下お疲れ様です

志希にゃんも顔覚えられちゃったかー、これは美姫と志希組の因縁が続きそうな予感
そして折角生き残ったアイドル3人は今度は美姫に出くわしてしまうとは
これは誰もかれもが難易度マストダイですよ…

395 ◆hVull8uUnA:2017/05/25(木) 21:20:22 ID:/uP4gY4g0
マーガレット&アサシン(浪蘭幻十)予約します

396 ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:31:34 ID:oieGq0Po0
予約分を投下します

また、回想シーンという形でですが企画主様の予約面子が登場してしまっているのと、
あまり描写に自信が持てない状態での投下になりますので、不自然な点や修正点がありましたら指摘をお願いします

397おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:34:09 ID:oieGq0Po0
メフィスト病院の執務室のデスクに腰掛けて、老医不律は束の間ではあるが一息をついていた。
病院に絶え間なく訪れてくる患者を他のスタッフと共に捌ききり、ようやく訪れた数分間の貴重な空き時間だった。
勤務するスタッフの例に漏れず不律も多忙に追われているが、老体といえどまだ十全に戦えるほどには体力は有り余っている。
しかし、その厳格そうな顔つきの中には驚き醒めやらぬ様子がたたえられていた。

「まさか我々の知らぬ間にマスターが退院していたとはな…」

メフィスト病院に入院しており、少し前にこの病院を退院していたマスターの少女がいた。
不律がそれを知ったのは、綾瀬夕映の件の後処理を終えた直後のことだった。
自身にも支給されているPCタブレット端末を回収し、今後もスムーズにメフィスト病院の職務を遂行するべく――且つ、メフィスト病院外で起きた出来事もチェックしつつ――端末を操作して過去の患者のデータを閲覧していた。
既にサーヴァントらしき者が暴れた余波が<新宿>で確認されていることにも驚きはあったが、調べているとある患者のカルテに目が留まった。
番場――、という名前ではない。患者に対しての処置の一部に、だ。

――魔力を補填し、このまま安静。目が覚めるまで待つ。

「魔力」という単語は、聖杯戦争に関わる者には聞き流せぬ言葉だった。
医者の守秘義務も徹底されているからか、治療以外の余分な情報は記載されないからか『マスター』とは一言も書かれていないものの、
他の項目からして人間とわかる以上、魔力が重要となってくる人間となればそれこそマスターか、何者かの手に落ちたNPCのいずれかしかいない。
番場について詳しく調べてみると、その症状は死神すら裸足で逃げ出しそうなほどの惨状だった。

「左眼球の眼窩からの突出、両手両足の複雑骨折に、頭蓋骨破砕、それによる大脳の損傷、その他多数――」
【流石に、私としてもこの方の治療には少しばかり骨が折れますね】

不律の傍らで霊体化しているファウストとしても、ここまでの症状はそうそう見ないものらしい。
他方、『治せない』と言わないあたりはファウストも破格の医術を心得ているというべきか。
そして、番場の治療は院長であるメフィストが直々に行ったという。
その治療方法は理解の範囲を超えていたことは言うまでもないとして、成程、この症状で入院から退院までたったの2時間強というわけだ。
否、メフィストが治療したにしてはそれでもこの間隔は長すぎる。
メフィスト病院は1時間も経たずに患者の殆どが入れ替わるのだ。
一方で、二重人格をあの院長が治療していなかったことは、ともすれば番場の凄惨な状態よりも衝撃的であったが、そこは一先ず置いておこう。
やはり聖杯戦争の本戦の段階にまで生き残ったマスターは、一筋縄ではいかぬ連中ばかりのようだ。

【サーヴァントもおったじゃろうが――】
【恐らくは、この方と同じようにされたかと。ドクターメフィストは知識の記録に貪欲な御方です。
仮にサーヴァントも同じように治療を受けたとすれば、カルテとして記録されているのかもしれませんね】
【うむ…確かめてみる価値はある】

それを聞いた不律は、懐からタブレット端末を取り出し早速調べてみることにした。
メフィスト病院でなくとも、医療に携わる者の間では知識の共有が不可欠である。
不律にはサーヴァントのカルテを調べる権限がない――という懸念はあったが、それは杞憂に終わり、拍子抜けするほどに番場のサーヴァントらしき者のカルテがあっさりと表示された。
研究者としての側面も持つ不律からしても、メフィスト病院の技術力には舌を巻くばかりだ。
病院の再生医療に対してはかの研究を想起させるので、複雑な心境であったが。

398おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:34:40 ID:oieGq0Po0

【バーサーカー…道理で魔力が足りなくなる筈じゃ。あのマスターも辛かろうて】
【バーサーカーといえば、元々は弱い英霊を強化するためのクラスです。狂化による強化分を差し引いても圧倒的な力量差があったかと考えられます】

やはりカルテには秘匿すべき真名は書かれていないが、これでは患者の秘密などあったものではないと思う不律であった。
クラスはバーサーカー。担当医は番場と同じくメフィストで、霊体・霊核の損傷が激しかったためにアストラル体を用いたことと、
治療が完了したと同時にメフィストに襲い掛かったため、メフィスト病院の地下に拘禁した旨が書かれている。
殺されずに済んだことが奇跡のように思える。

【しかし、サーヴァントよりも気にかかるのは――】
【何故、この主従がメフィスト病院にいらしたか…ですね。その観点から見ると、どうも不自然な点が見えてきます】

不律は端末を操作し、再び番場のカルテを表示する。
ジェネレーションギャップなどどこ吹く風と言わんばかりの手慣れた手つきだ。
周囲の規格外の才能の影に隠れてあまり目立たないが、不律も人間からすれば天才の域を大きく超える才がある。
使い方の基礎こそ役割の記憶頼りだが、メフィスト病院の機器を応用できているのは元々の能力に依るところも大きいのだ。

【番場の脳幹が無事な分、おそらくそれなりの時間はかろうじて生き永らえるじゃろうが…病院に来なければ死を免れなかったろう】
【そこです。番場さんは本当に『かろうじて生きていられる』ギリギリの状態なのです。…まるで敢えて調整したかのように】

【下手人が体の構造に詳しくないのか、私には若干粗があることも読み取れてしまいますが…】と、ファウストは自嘲気味に付け加えた。
人体というものは意外と頑丈なもので、生命維持に必要な部分さえある程度機能していれば回復せずともそれなりに長持ちする。
例えばあの夢見の患者や植物状態や脳死のように、「実質的に死んでいるが肉体は生きている」というケースは少なくない。
この番場のケースは、まさに『最小限に必要な部位を維持しつつ』『最大限にその他の部位を破壊している』のである。

【状態からして手ずから動くことはまず不可能。運び込まれたと見るべきじゃ】
【以上を踏まえると、その主従は「生かされていた」と考える方が自然かもしれません。バーサーカーが霊核を損傷しながらも同時に入院したことにも説明がつきます】

霊核が破壊されたサーヴァントは、通常では現界を保てずにそのまま消滅してしまう。
だが、この場合はアーチャーでもない限り、マスターのようにある程度生存することなく即時に魔力が霧散してしまい、生命を維持することができない。
しかし、生かされていたとなればどうだろうか。
魔力さえ供給できれば実体化はできなくとも、存在自体はこの世に留めることができる。
バーサーカーは木端微塵にされた後に、何かしらの術によって魔力を供給され、マスターと同じように無理矢理生かされていた、というのがファウストの仮説である。
確かに偶然見つけられて病院まで運び込まれたといえばそれまでだが、主従同士の戦闘が起きる場所でNPCが通りかかるのも不自然だし、かといって下手人がここまで痛めつけておいて見逃すのもおかしい。

【では、何のために――とはいうが、大方察しは付くな】
【ええ。メフィスト病院の、それもドクターメフィストの治療が如何なるものかをその目で見るためでしょう】

メフィスト病院、もといメフィストから預かれる恩恵はあらゆる主従にとって垂涎の的だろう。
現に、先ほどアーチャーの主従がメフィストに接近し、病院に勤務することになったのは記憶に新しい。
聖杯戦争など意に介さずに大規模な病院を構えるサーヴァントの敵情視察という戦略的な意味でも、メフィストの美貌とその治療を一目見れるだけで十分価値はある。
そこから得られる情報を少しでも多くするためにも、必要以上に傷を負わせたのだろう。

【本当に、酷いことをする方もいるものです…】

ファウストからの念話の声が重くなり、ほんの少しだけ怒気を孕んだものになる。
穏やかな物腰ではあるが、こう見えてファウストの内面は穏やかでなくなっているのを不律は感じた。
この場に実体化していれば義憤で手を震わせていたに違いない。
優しいやつだ、と思う。自分達もいずれ残酷な決断を迫られる時がくるかもしれないというのに。

399おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:35:37 ID:oieGq0Po0

【文面の情報だけで真相が明らかになったわけではないぞ、ランサー。礼服の殺人鬼はともかく、下手人が返り討ちにした可能性もある】

黒い礼服のバーサーカーが無関係なNPCも巻き込んで殺戮の限りを尽くしていることは周知の通りだが、
カルテから得られた情報だけでは、その前後に何があったのかは断定できない。
ともすれば、番場の主従が下手人に襲い掛かり、逆に痛めつけられた上でいいように利用されたということもなくはない。
それは番場が単なる被害者なのではではなく聖杯を求めている――つまり、不律、あるいはファウストが斬らざるを得ない者であることも考えられるのだ。

【勿論、それもあり得る話でしょう。…それでも、女の子が血を流すというのは、どうにも苦手でしてね】

討伐令で礼服のバーサーカーの情報に触れた時にも、ファウストは不快感と怒りを露にしていたものだ。
それは罪なき多くの人々を殺めた、謀略があったとはいえ少女を死なせてしまった過去の自分自身への憤りでもあった。

【――せめてマスターだけでも、聖杯戦争から解放してあげたかったですね。望まぬ者にも戦いを強要するなど、世界そのものが病んでます】
【それは儂にもどうにもできぬ。メフィスト病院は病める者達を治すがための場所よ。蔓延る『病』から避難させるための場所ではない】

ファウストの声が、今度はどこかやるせない感情を含むものになる。
あんな目に遭って、さぞ怖かったことだろう。
しかも、番場は二重人格とのことだ。人格が解離するほどに暗い過去を過ごしていたに違いない。
元の世界は返せずとも、その身を病院に留めて聖杯戦争の呪縛から解き放ってやりたい、という想いがファウストにはあったが、それはメフィスト病院では通用しないことも承知していた。
不律の言ったように、メフィスト病院というのは病める者達のために用意された場所だ。
病と認められない者――病院の治療を必要としない者――は勤務するスタッフと患者の関係者以外はここにいてはならない。
病が完治すれば、その患者は即刻退院の措置が取られるというのはスタッフの間では常識だ。
スタッフである不律もその絶対原則を覆せるような立場ではなく、たとえ患者が退院を拒んだとしても、そこに例外はない。

【…聖杯もむごいことをする】
【まったくです】

ファウストの想いを汲み、不律も否応なしに退院させられたマスターのことを考える。
甚大な被害を及ぼす戦闘が既に幾度も勃発している<新宿>に、魔力を貪り食らうサーヴァント共々丸腰同然で放り出されることが何を意味するのかは想像に難くない。
不律は彼女を葬ることができなかったことを残念がってはいない。
かのマスターは二重人格、心の裡に鬼を飼っている可能性も無くはないといえど、自身の障害にならなければマスターをも斬る必要はない。
主従が一組脱落すれば確かに聖杯に願いをかける不律にとっては利益となるが、それとは別に彼女への哀れみが強かった。

400おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:36:08 ID:oieGq0Po0


「――不律先生、来患の方がお見えです。問診の後に診察をお願いしたいのですが、ご準備できますか?」
「解った」


しばらくタブレット端末と睨めっこをしていると、執務室に入ってきた看護師からまた新たな患者が来院してきたことを告げられる。
ふと時計を見れば、午前の10時30分を示そうとしていた。
本当に束の間の休憩時間だったが、また持ち場に戻らねばならない時間が近づいている。

【今後も、メフィスト病院を訪れる主従が多くおる。ここで働いている以上しばらく自由には動けんが…また時間を見つけて調べられることは多い筈】
【では、それ以外では医者として働くと】
【うむ。聖杯戦争もまだ序盤。しばらくはアーチャーのようにここに籠城するのもよかろう。その過程で命も救えるのだからお主も吝かではあるまい】
【勿論ですとも!命に貴賤も、本物も偽物もありませんからな!】

そう念話で話しながら、不律は執務室を出る。
メフィスト病院に勤務している以上、その利を生かさぬわけにはいかない。
病院では医者として振る舞うとはいっても、情報収集を怠っていては他の主従に置いていかれるばかりだ。
勤務の合間を縫って、出来得る限りの情報はメフィスト病院で集めておきたいところだ。
だが、その利もメフィスト病院の医者としての責務を果たさねば露と消えてしまうのは明白。
なるべく時間に余裕を作るために、不律はやや早歩きで病院の通路を歩いていた。

「む」
「あ…」

診察室へ向かうその途上で、不律は二人の女性に出くわした。
居合独特の歩法を習得していたからか、早歩きとはいえ道行く人が見れば相当なスピードを出して歩いていたようで、対面する女性の長い髪が不律の立ち止まった拍子に揺れる。
思わず声を上げた、二人のうち片方は女性というよりはどちらかといえばあどけない少女のような印象が目立つ。
もう片方は落ち着いた、知的な雰囲気のある女性で、少女とは対照的だった。
いや、対照的というよりは、傍らにいる少女の持ちうる能力や足りない部分を全てにおいて昇華させたような、少女との師弟関係を匂わせるような女性であった。

「あら、不律先生」
「アーチャー…否、『鈴琳』先生か」
「ええ。薬科の臨時専属医として勤務することになりましたの。助手の一ノ瀬共々、改めてよろしくお願いしますわ」

二人の女性――アーチャー、鈴琳もとい八意永琳とそのマスターは、既にメフィスト病院のスタッフとして認められているのか、自身と同じメフィスト病院から支給された名札付きの白衣を着用していた。
志希もアーチャーの隣で少し縮こまりながら「よ、よろしくお願いします」とぎこちなくお辞儀する。
白昼堂々帯刀しており、常に仏頂面のような面構えをした老人を前にした苦手意識もあるだろうが、世代の違いからかどう接したらいいのかよくわからない様子だった。

(…因果なもんじゃ)

不律はそんな志希を見つつ、悟られぬように小さくため息をつく。
まさか、こうも早くに自身の前に巻き込まれたマスターを抱える主従が現れようとは。
先刻の病室でのやり取りどころか志希が病室に入ってきた瞬間から、彼女が不運にも契約者の鍵を拾ってしまった被害者であることは、ファウストにはもちろん不律にも一目瞭然であった。
魔力もなければ、不律のようにマスター単体でも戦えるような身体能力も有しておらず、修羅場慣れしているとも言い難い。
番場のように精神に異常があるわけでもなく、誰かを殺してでも叶えたい願いがあるという様子でもない。
一般人の基準では変わっているのかもしれないが、<新宿>の聖杯戦争の参加者の中では常人の範疇であった。
魔界都市の祝福そのものでもある輝けるメフィストの美貌と、どこぞの兇眼者どころか宇宙の真理よりも謎めいたアーチャーの胡散臭さなだけに、それが一層際立って見えた。

401おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:36:43 ID:oieGq0Po0





【…不律さん】

ファウストが念話にて、不安げに声をかけてくる。
この主従については今後どうするつもりであるのかを、マスターに聞いているのだ。
無論、不律にはファウストがどのような答えを望んでいるのかはわかるし、不律自身もそう考えていた。

【…アーチャーが院長に取り入った目的はマスターの保護じゃ。建前の可能性もあるとはいえ、一ノ瀬を見れば確かに理に適っている】

アーチャーがメフィスト病院で何を企んでいるのかはさておき、病院――もといメフィストに接近してきた動機だけを見れば特におかしくもない。
得体の知れないサーヴァントの陣地に足を踏み入れるリスクはあれど、メフィスト病院は不律が先ほど言ったように籠城するのには最適な場所だ。
マスターが貧弱ならば、尚更ここに入るメリットは大きくなる。
メフィスト病院の防衛システムと医療技術に守られているというだけで、マスターが討たれるという懸案はほぼ解決してしまうとも言っていい。
…それだけに、退院していったマスターが出る際にどんな思いをしていたかが容易に想像できる。

【正直、私としてはこのまま成り行きで同盟を組んだままにすることをお勧めします。もちろん、志希さんの命を救いたいという気持ちもありますが――
アーチャーが敵に回したくない相手というのもあります。あの方の実力は未知数ですが、私の予測では相当な難敵となるのは間違いないかと】
【誠か】
【はい…恐らくですが、ドクターメフィストと肩を並べているといっても過言ではありません】

ファウストはメフィストと対峙していたアーチャーの姿を思い返す。
あの時感じた深淵を覗いたが如き悪寒は、アーチャーというサーヴァントの格がメフィストに匹敵し得ることを肌に知らせていた。
あの一切の妥協も許さない美の魔人の首を縦に振らせただけでなく、優秀とも言わしめたのだから単なる薬師の英霊である筈がない。
不老不死の薬といい、卓越した魔術といい、最高水準の魔力のランクといい、アーチャーは膨大な知識と才能をその魂に刻み込んでいるのは明らかだ。
未だ彼女の戦闘を見たことがないゆえに断定はできないが、戦闘に転用できるものは星の数ほどに上るだろう。

【現時点で明確なアーチャーの弱点は――】
【それ以上はいけません、不律さん】
【…わかっておる。儂も、その可能性については考えたくはない】

弱点とは、言うまでもなくマスターの一ノ瀬志希である。
このアーチャーというサーヴァントを討つという状況において、無力なマスターというこれ以上なく露呈した弱点を狙わない主従はそういないだろう。
それを承知しているからこそ、アーチャーもここにいる。
ここはメフィスト病院。聖杯の恩寵を望んでいるとしても、自ら刀を振るってはいけない。
病院で患者を殺し得る力が振るわれた時、病院そのものが牙を剥くのだから。

【どちらにせよ、アーチャーを相手にすることを考えるのは時期尚早じゃ。この主従と敵対する理由はない】

【今のところはな】と不律は付け加える。念話を通して、ファウストの安堵が伝わってくる。
強力なサーヴァントを従えながらも、聖杯を望まない巻き込まれた少女のマスター。
無力なマスターに対してはサーヴァントのみを討つという方針の不律の主従にとっては、ある意味では最も苦手とする相手だった。
不律とて、斬る必要のない相手は可能な範囲内であれば生かしておきたいというのが本心だ。そういう意味でも、この主従には敵対してほしくはないと思う。
また、一ノ瀬志希がメフィスト病院にいることができているのはアーチャーの影響が強い。
仮にアーチャーを討ち取ったとしても、一ノ瀬志希はメフィスト病院にいられなくなるだろう。
サーヴァント無しで<新宿>に放り出されては、一ノ瀬志希は死んだも同然だ。

【院長の言っていたように、アーチャーが慈悲深いことに嘘はないじゃろう。…尤も、プライドも高いようじゃが】
【でなければ、一ノ瀬さんをそのままにしておくとも限りませんしね。マスターを変えずにメフィスト病院に来たのもそのためでしょう】

アーチャーに何らかの下心はあれど、一ノ瀬志希を帰すために現界していることは偽りではあるまい。
それならば、一ノ瀬志希とアーチャーをそのまま据え置くことは不律も吝かではなかった。
共同戦線を組むかはまだ不明だが、アーチャーから何か有力な情報が得られればそれに越したことはない。
もし聖杯戦争の過程でアーチャーがメフィスト病院に反旗を翻したとしても、状況を鑑みてメフィストの下についたままにするかその場に乗じてアーチャーにつくかを見極めればいい。
アーチャーがメフィストと肩を並べているのであれば、それはメフィスト打倒の一手になり得るということでもある。
しかし、メフィスト側につくことになった場合は…一ノ瀬志希は見捨てるしかないだろう。

402おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:37:19 ID:oieGq0Po0





「どうかしましたの?私の助手が何か」

しばらく無言で互いに向かい合っていたからか、痺れを切らしたようにアーチャーが口を開く。
どうやらあちらも暇ではないようで、大方これから薬科の持ち場へ向かうところだろう。

「いや…お主らがうまく専属医として務まるか気になっただけよ。…アーチャーには愚問か」
「ええ、愚問ね。先の案内で薬科に関連する場所は既に把握しています。一ノ瀬についても私がみっちりと指導致しますわ」

不律に対し、アーチャーは言ってのける。
一ノ瀬志希はともかく、メフィストに認められたのだからすぐに馴染むだろうとは不律自身も思っている。
アーチャーの顔には柔和な笑みが浮かんでおり、一見温かい印象を受けるが、その裏では何を考えているのか見当がつかない。
アーチャーの傍らでは、志希が怯んだ表情をしながら横目で己がサーヴァントを見ていた。
「みっちりと」に何やら嫌な予感を覚えたようであった。

【あの方は、随分人遣いが荒いようですな】
【…若い内にそういった経験をしておくのもいいじゃろう】

ファウストは、内心で志希に同情する。今のアーチャーの笑みは、余興を楽しむ時の顔だ。
ファウストが思うに、アーチャーはかなりの年月を生きているらしい。
途方もない時を長生きした者は、見出した嗜好への期待を隠すことは難しいものだ。
一方で、不律は周囲に妙な違和感を覚える。此処が病院とはいえ、人の気配がしなくなったのだ。

「それよりも貴方のサーヴァント、私達に用があるのではなくて?まさかこんな場所で人払いの術をかけるなんて」

アーチャーの言葉を聞いて、不律は顔色は変えずとも僅かに目を見開く。
志希が小さい悲鳴を上げながら不律の隣へと視線を移していたので、不律もそれに倣って顰めた目を隣へ向けると、実体を得たファウストが既に現界していた。
どうやら不律の意図しないところでファウストは霊体化したまま、人払いの術を周囲に施していたらしい。

「おや、やはり貴方には見抜かれてしまいますか」
「私の知る魔術とは少し違うみたいだけれどね」

ファウストは丁寧な物腰で話しているが、そのまま直立しているせいで見る者を圧倒させる威圧感に満ちている。
3m近い巨体に加え、長身に比してあまりにもスレンダーな身体に、頭に被った紙袋の織り成す異様な風体は、魔の道に堕ちた医者のそれを連想させる。
そんなファウストの姿を改めて視た志希は、顔を青くしつつ乾いた怯え笑いを浮かべながら、後ずさりさえしていた。

「あわ、あわわわわ…」
「あのー、そこまで怖がられると流石に傷つくのですが…」

ファウストが落ち込んだように首を傾げる。
しかしその首はきっちり180度、つまり首が完全に半回転してしまっており、逆さになった紙袋から覗く光に志希は蛇に睨まれた蛙のようにすくみ上がった。

「…あまり、私のマスターを怖がらせないでもらえるかしら」
「えー、私としたことが失礼しました。患者を見下ろすのは医者としても褒められたものではないですからな」

コホンと一呼吸置いてからファウストは志希に詫び、足を屈めて人並みの身長に合わせる。
メフィストの美貌に比べれば霞んでしまうものの、ファウストの外見は常人からすれば相当なインパクトを持つだろう。
百聞は何とやらとは言うが、やはり実際に見た方がその時に感じる感情の振れ幅は大きくなる。
しかし、メフィストの美貌に当てられた時のそれとは違い、世界の深淵を見た時のような明確な恐怖と驚嘆の混じった呆けが浮かんでいた。
なお、不律は奇妙な挙動をする輩は多く目にしてきたのですぐに慣れ、ファウストはそういうサーヴァントだと割り切っている。

403おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:37:49 ID:oieGq0Po0

「ランサー…何か話したいことでもあるのか?」
「いえ、特に用事もございませんが、折角ですし自己紹介をと。一方だけで終わらせては不公平ですから」

不律の問いに対し、ファウストが答える。
成程、先ほどの夢見の患者をメフィストと共に診た時にはアーチャーの臨時専属医としての採用の可否のみで散会し、こちらから話す機会がなかったといえばそうだ。
しかし、自己紹介とは言ってもクラス名や医者であることくらいしか話すことはないはずだ。
また、互いに一度会っているため、一ノ瀬志希を通してファウストの情報が伝わっている可能性も高い。

【一体、何のつもりじゃ…儂は許可を出した覚えは――】
【最低限、交流を持っておくのもいいと思いまして。志希さんもアーチャーも、今は不律さんの同僚です】
【しかし――】
【…たとえ貴方の心身が鉄だとしても、孤独を貫かねばならないということはありませんよ?相手の存在を知るだけでなく、人についてもある程度触れておいた方が今後のためにもなります。
成り行きとはいえ、同盟関係になったのですから。それに、アーチャーの今後の動向を見るヒントを得られるやもしれません】
【むぅ…】

「貴方のクラスは既にマスターから聞き及んでいるわ。医者であることも一目瞭然。今更自己紹介なんて、不要ですわ」
「まあ、そうおっしゃらずに。仮初の役職とはいえ、我がマスターと同じメフィスト病院の専属医になったのですから」
「そうは言っても、貴方達もそれ以上の情報は明かしたくないのではなくて?手の内を知られたいというのなら、喜んで聞かせてもらうけど」
「いやはや、これは手厳しい」

ファウストは小さく笑いながら、アーチャーに応対する。
二人の対話を、不律は顔の皺を深くさせて、志希は不安げな顔で見守っていた。
この場がメフィスト病院内であるが故に戦闘が起きる心配はないが、それでもNPCのいない空間で英霊が対峙している状況というものは、その気がなくとも張り詰めた緊迫感を生む。

【ランサー…アーチャー達と話すことは認めよう。しかし、あまり深入りせぬようにな】
【と、言いますと?】
【確かに、儂らとアーチャー達は客観的に見れば同盟なのやもしれぬ…が、あくまでアーチャーが取り入った相手は院長じゃ。
アーチャーからすれば儂らは眼中にすらない危疑があることをくれぐれも忘れるな】
【私としても、その可能性は勿論視野に入れております。マスターの言葉とあらば…肝に銘じておきましょう】
【アーチャーは、確かに慈悲深いじゃろう。しかし同盟とは言っても過度に依存すると、儂らがトカゲの尻尾切れにされるやもしれぬ】

不律は念話でファウストに忠告する。
成り行きで同じ場所にいるものの、現時点では、未だ互いに偶然遭遇した参加者程度の関係でしかないのだ。
下手に近づきすぎると、いいように利用された上で背後から討たれないとも限らない。
しかも、相手はあの癖者で底の見えぬアーチャーだ。ともすれば、アーチャーの能力で不律がどんなスタンスかが既に割れているということも考えられる。
そうでなくとも、アーチャーならばいざという時には非情な選択肢も躊躇なく取れる人物であるという確信に近いものがあった。

【――それこそ、一ノ瀬を守るために】

アーチャーには慈悲があるかもしれないが、それは慈悲が向けられる相手次第だ。
マスターを守るために、同盟相手を切り捨てる――願いをかける不律にとっては取ってほしくない選択肢である。
ゆえに、慈悲深いことと信頼に足ることは同義ではないのだ。

【アーチャー達との共闘も悪くない。一ノ瀬も生かしておく。しかし、この主従とはある程度距離を置く。今はまだ、見極めねばならぬ時期じゃ。よいか、ランサー】
【了解しました】

404おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:38:12 ID:oieGq0Po0





「けど、殊勝な心掛けね。材料が揃えば妖怪用の薬くらいは処方してあげるわ」
「よ、妖怪用ですと!?この私のどこが妖怪に見えるというんですか!?」
「全部、かしら」

その人間の肉体構造からあまりにも逸脱した身体に一瞥もくれず、アーチャーは無慈悲に返した。
念話では真摯な一方で、実体として話しているファウストはそれを感じさせない。
妖怪扱いされたことがかなり心外なようで、驚いているのを誇示するかのように首をろくろ首のように長くしながら、2m以上に伸ばした腕を大げさに仰いで見せる。
それを志希は絶句しながら見守っていた。

「人間用のもので結構です!何やら毒になりそうな響きなので。あ、そうだ、もし薬を調合していただけるのでしたら――」
「残念だけど、育毛剤の処方は受け付けていないの。髪の毛がないのは病じゃないですもの」
「そんなあ!?」

それを聞いてファウストは項垂れて残念がっていたが、頭の紙袋がひとりでにゴムのように伸びたかと思うと、
気を持ち直したかのように鞭打って元の大きさに戻り、アーチャーに向き直った。
不律は、アーチャーがファウストの被る紙袋の中身を見通した上で言葉を先取ったことにはもはや驚けなかった。

「…変な奴だとは思ってやるな。此処では最も『医者』らしい医者じゃ」
「えっ?あっ、はい」

ファウストの身体変化を見て現実逃避するように立ち尽くしていた志希に、不律は声をかける。
人付き合いの苦手な人間のするようなぎこちない反応が返ってくる。
あまり会話をする気はなかったが、ファウストを誤解されたまま別れて今後の行動に支障が出るのは拙い。
ファウストは言わば人間より一歩進んだような存在だが、やはり人間だ。妖怪のような怪物では一切ない。

「でも、二重の意味でへんたいしてるっていうかなんていうか〜…」
「…否定はしまい」

とはいえ、これはまだ序の口で、実際ではカエルの如く舌をしならせたり唐突に花を咲かせたり、首が取れたりするのだが。
それ以上、会話は続かなかった。
夢見の患者の件からしばらく経ってからの、束の間の対面だった。






405おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:39:26 ID:oieGq0Po0




今から四時間程前のことを思い返しながら、不律は手術室で一人、受け持った患者の手術を黙々と執刀していた。
この患者は、メフィスト病院の襲撃者(ジャバウォック)の件での被害者ではなく、元々メフィスト病院に入院していた難病の患者である。
襲撃者によって傷ついた患者は、どんな惨状であろうとものの30分でメフィスト病院お抱えの専属医が全て完治させてしまった。
もちろん、それには病院前での治療を担当した不律や、あのアーチャーも含まれている。
異常事態から元通りになったメフィスト病院で、不律は元通りの役目をこなしているに過ぎないのだ。

では全て元通りになったかというとそんなことはなく、襲撃により防衛に割いた約1時間の空白は、未だ治療を受けていない患者が増えるということも意味していた。
1時間足らずでほぼ全ての患者が退院できるメフィスト病院には、1時間治療を受けられない時間帯があった分、平時の倍以上の患者が押し寄せる事態となっていたのだ。
不律の所属していた診療科は特にその皺寄せを受けることになり、病院前での治療から休憩無しでそのまま患者の手術の執刀を受け持っている。
やはり忙しくなっただけあって人手も足りないため、数あるメフィスト病院の手術室で不律は一人で手術に当たっているというわけである。

病院前で展開していた急設の手術設備の片付けは担当しなかった。それにかける時間分、患者の治療に専念しろということだろう。
設備の片付けを担当した者――アーチャーと一ノ瀬志希を始め、今回の皺寄せをあまり受けなかった診療科のスタッフには多少の休憩があるようだが、特に理不尽は感じない。

聖杯戦争開幕前からメフィスト病院で専属医をしていたこともあり、その手術の手際は見事なものだ。
実に、一人しかいない筈の手術室が、二人、あるいは四人に分身しているかのごとく素早い作業を行っていた。
これは比喩でもなんでもなく、手術の一工程から、心拍数、麻酔などの各確認を済ませ、次の工程に必要な道具を助手無しで取り揃えるまでの過程を5秒から10秒のローテーションで繰り返す。
傍から見れば、肘から先はあまりの速さに霞んで見え、数秒ごとに手術室を所狭しとテレポートの如く瞬間移動して回る不律の姿が目に入る。
このメフィスト病院の医師にも劣らぬ業は、不律の装備している電光被服の成し得るものであった。
電光被服には単純な身体能力だけでなく、動体視力や身体の精密操作といった神経由来の能力も強化されるため、
本来は戦闘でしか使わぬものだが、これと持ち前の知識を手術に応用することでメフィスト病院の専属医足りえる腕を発揮し、その資格を得ていたといえる。
むしろ、不律としては電光機関無しで自分以上の腕を持つ医師がいること自体がもはや常軌を逸していると言いたいものなのだが。

こうしている今も不律は懐の電源装置から電光被服に電気を送り込みつつ、独り手術を進める。
あと数分ほどで手術を終わらせることを目標にし、テキパキと患者の患部を治療する中で、不律は病院襲撃の件で邂逅したあの美しき吸血鬼――ライダーの言っていたことが脳裏に蘇る。

――魔界医師は敵対するよりも利用してやる方が都合がよい。

…仮にも、いずれメフィストを倒さねばならないと認識していながらも、その通りだと心底感じてしまう。
襲撃者の騒動による被害を短時間で修復してしまうダメージコントロール能力もそうだが、やはり恐ろしいのはメフィスト病院の防衛システムだ。
その存在だけは記憶していたが、いざ異常事態に陥ってそれを直に目にするとその凄まじさが改めて痛感させられるというものである。
件の襲撃者のサーヴァントも、それと対峙したという警備員から聞いた話だけでもかなりの難敵であろうことが伝わってくるが、
メフィストが直々に出向くまでの事態となり、あまつさえその手から逃れたのだから実際に尋常でない実力を持っているといえる。
それとは別に問題なのは、メフィストが出てくるまで動いていた防衛システムが同僚曰く「第一段階」ということだ。
つまりかの襲撃者でも「その程度で済む」のであり、その後に第二、第三の更なる防衛線が張られているということでもあり、ここがメフィストの陣地内であることを再認識させられる。
既に自明のことだが、病院内でメフィストに戦いを挑んでも勝ち目はない。

406おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:39:55 ID:oieGq0Po0

となれば、やはりメフィストを相手にするならば病院外でなければどうしようもないだろう。
しかし、それだけでは全く以て足りないこともまた理解してしまう。
メフィスト病院という未だに未知の領域が山ほどある陣地の中で、メフィストは今も新たなシステムや装置を業務の片手間に作っているに違いない。
どんなにメフィストへの対策を練っていたとしても、彼はそれ以上のものを即座に用意していとも簡単に破られるであろう。
また、空間の謎が既にメフィスト病院に施されていることからして、ファウストの十八番の一つである空間転移や空間歪曲をも会得しているといっていい。
ファウストの得意分野をもカバーされているとなると、やはり厳しいというレベルではない。
そのことは、真っ向から戦っても不律とファウストのみでは彼を討つことは今後も億に一もないことを意味していた。
まさに、前途多難と言わざるを得ない。

「……」

縫合を終え、手術が無事終わったところで、不律は手を止めた。
メフィストと彼の抱える病院が如何なるものかを思い知る機会はたった半日で数知れずあった。
そして、<新宿>にはメフィストの他にもアーチャー、吸血鬼のライダー、そして先ほどの襲撃者や討伐対象のバーサーカーのように、規格外の強者であふれかえっていると来た。
そんな魔境<新宿>の聖杯戦争において、不律の主従はどうすれば聖杯に近づくことができるだろうか。

「やはりこの<役割>は、おいそれと手放してよいものではない…か」

真っ先に浮かんだのは、メフィスト病院から受けられる恩恵を受け続けること。
いずれ一戦を交えねばならぬだろうが、幸いなことにメフィストは聖杯にかける願いはないという。
患者を傷つけた者以外は無差別に受け入れている分、こちらから手出ししない限り報いは受けないということだ。
やはり、いくら時間がかかろうとも、機が見えるまではこの役職に甘んじた方が遥かに賢い選択肢だと、不律は思った。
その間にメフィスト病院で力をつけることは十分に可能だろう。
同時に病院内で他の主従の情報を得られれば、有利にはなっても不利になることはない。
それらのためには、以前よりも積極的に院長や他のスタッフに働きかける必要が出てくる。

(…思えば、アーチャーの狙いはマスターの保護だけでなくこちらにもあったのやもしれぬ)

ふと、メフィスト病院の専属医としてではなく聖杯戦争のマスターとして勝つため考えを巡らせると、アーチャーがメフィストに接近したもう一つの可能性が浮かび上がってくる。
アーチャーのマスターの非力さに目が行って見えていなかったが、確かにメフィスト病院は情報以上に有用な道具が豊富だ。
例えば不律の持つタブレット端末のような、メフィスト病院備え付けの道具を手に入れることができれば、憂いの5つや6つが吹き飛ぶといえよう。

「しかし、勝つためには外部の詳しい情報を得ることもまた必要…」

他方で、それは同時に専属医としての役割を果たさねばならず、<新宿>での行動に大きな制約ができてしまうということでもある。
メフィスト病院のタブレット端末で病院外での事件を調べられるとはいえ、集められる病院外部の情報には限度があり、具体的なサーヴァントの情報が届かないデメリットもある。
そのデメリットを解消するとなると、自身やファウストの代わりに足となって情報を収集し、連絡を取り合える人物――詰まる所、同盟が必要となる。
病院には今まで相当数の主従が出入りしただろうが、同盟を組むためには勤務の合間を縫って病院に属さない主従とのコンタクトは必須だろう。
幸い、メフィスト病院の専属医としての立場のおかげで交渉で切れる手札には事欠かない。メフィストの機嫌を損ねない範囲で小出しにしていけば問題はないだろう。

勿論、相手は選ぶ。アーチャーやかの兇眼者のような胡散臭い輩は、正直言って苦手だ。特に後者とは不律の過去をぶり返されたことが原因で一戦を交えたことがある。
高望みであることは承知だが、一時的な同盟を結ぶならば互いに思惑はあれど、為すべきことを果たしてくれる信用に足る人物でなければ安心はできない。
何はともあれ、今後時間が空けば、メフィスト病院を訪れた主従の中から秘密裏に連絡を取れる人物を探すことも視野にいれておくべきか。

407おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:40:25 ID:oieGq0Po0

「頑迷固陋…儂も未だ幼き子よ」

患者の安定を確認し、手術の後片付けを済ませた手術室で、不律は独り言ちた。
4時間程前にファウストから言われたことを思い出す。

――相手の存在を知るだけでなく、人についてもある程度触れておいた方が今後のためにもなります。

確かに、その通りだと今では思う。
これまで不律は、聖杯戦争でもファウスト以外の人物とは必要以上のことはあまり話さないつもりだった。
同盟を組んでも、最終的に聖杯を得られる主従は一組だ。成り行きやその場で一時的な共闘こそすれ、結局は自分以外の全サーヴァントが命を落とさなければ意味がない。
ファウストも決して弱いサーヴァントではないこともあり、情報を得るべく他人に頼ることはあれど基本的に同盟を組むのにはあまり積極的ではなかった。
不律自身、<新宿>に来る前まではほぼ単独で行動していたために、堅実に一組一組を斃していく方が性に合った。

『医者として振る舞う』方針もそういうことだ。
本来は従来の方針故にこちらから仕掛けてもおかしくはなかったが、メフィスト病院では決して戦ってはならない以上、
目の前に主従がいても事務的な対応をしてその存在を認識するだけに留めておく、いずれ命を落とす者の人柄を知っても心労が増えるだけ、の筈だった。

しかし、強者のひしめく聖杯戦争の状況はもはや不律とサーヴァント一騎だけでどうにかなる問題ではない。
役職や同盟も駆使していかねば、最悪詰んでしまう可能性がとても大きいのだ。
そして役職にしろ、同盟にしろ、うまく活用するにはまず相手の「人」について詳しく知らなければならない。
メフィスト病院の機器や情報を得ようにも院長やスタッフと交渉せねばならないし、同盟を組むならば尚更、相手がどんな人物かを知ることが今後の明暗を分けるという場面も出てくる。
相手の存在を知るだけでなく、どんな奴かを知ってようやくスタートラインに立てるのだ。
たとえ心身が鉄だとしても、孤独を貫かねばならないということはない。
ファウストの言っていたことがよくわかる。

(儂も、折れる必要があるか)

このままでは、心まで折られかねない。
不律の心身は、確かに鉄だった。
しかし、鉄にもまた融点があった。

「オペ終了、成功です!」

その時、突如手術室にどこからともなく声が響く。
直後に床に大きなドアが出現したかと思えば、そこから生えるようにファウストが現れた。
ドアの向こう側には、不律のいる手術室と同じ光景が垣間見えていた。

「…お主も終わったか」
「ええ、久々なので少々気合いが入ってしまいましたが、バッチリです」

指でOKサインを作りながら、ファウストは答える。
ファウストには、不律が受け持っていた別の患者の治療を任せていた。
現在、メフィスト病院はこの通り患者が平時よりも多いので、中には複数の患者の手術を同時に任されている医師もおり、不律もその一人であった。
何を無茶なとも思ったが、それをやり通してみせるのがメフィスト病院の専属医なのだろう。
そこで、不律は同時に手術できるという意味でも、ファウストに不律の担当している患者の一人の治療を受け持たせることにした。
メフィスト病院ではファウストを使わないと肝に銘じていたとはいえ、それは要するに攻撃能力を使わないというだけだ。
病院にいるにも関わらず、その腕を振るうことができないでいてはファウストも息が詰まるだろう。
少しでも多くの命を救うことを使命とするファウストがそれを断るはずもなく、嬉々として引き受けた後にメフィスト病院の専属医と変わらぬ早業で病を完治させてきたところだ。

「こちらもこの通り、終えたばかりよ」
「お見事です!私も、負けてられませんね」
「今から報告と、治療を待つ他に患者がおらぬか問い合わせにいく」
「ご一緒します」

そう言って、ファウストの姿は不可視の霊体となり、不律の後ろにつく。
不律はメフィスト病院の白衣を身に纏い、手術室を出た。

【ところでランサー…少しばかり話したい事がある】
【はて…?お聞きしましょう】






408おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:41:03 ID:oieGq0Po0




不律はメフィスト病院の通路を早めに歩きながら、先ほど考えていたことをファウストに伝えた。
それは不律が人との繋がりを重視し始めたことでもあり、不律が今後生き残れる可能性にも繋がるため、ファウストは歓迎した。
あの吸血鬼やメフィストについても脅威に思っていたのはファウストも同じだ。
あれに単騎で、しかも真っ向から立ち向かっても、生き延びることは難しいだろう。
可能な限りの命を救う――ファウストにとっては、無論不律の命も含まれているのだ。
しかし、病院の様子を見ていると、悠長に念話をしている場合ではないことが伝わってきた。

【手術室に入る前よりも、更に慌しくなっておるな】
【また、只ならぬ事態が起きたようですね】

周囲を見てみれば、医師や看護師問わず、あらゆる病院のスタッフが忙しそうに東奔西走していた。
不律が手術に当たっている間に、かなり状況が変わっているのを肌で感じた。
ファウストの言う『また』とは先刻の襲撃者の件に他ならない。
またメフィスト病院に対する襲撃者かと身構えもしたが、どうやらそういう話でもないようだ。
たった今、生々しい傷を負った患者がベッドに寝かされ、不律とすれ違う形で搬送されていくのを目にした。
どちらかといえば病院の外で起きたことが原因らしい。

「如何した」
「不律先生!ロビーで多数の患者が搬送されてきています。先生もロビーへ応援に向かっていただけますか?」

不律は近くを歩いていた看護師に声をかけ、何があったのかを把握するために話を聞いた。
看護師の話によれば、メフィスト病院の近場にある新国立競技場に黒い礼服の男が乱入して大規模な殺人が起こったようで、その余波で負傷した患者がこのメフィスト病院に押し寄せているとのことだ。
間違いなく、「また」<新宿>でサーヴァントによる騒動が起きたのであろう。
こうも<新宿>のあちこちで主従による被害が湧き起こっているのを鑑みると、初っ端から白昼堂々好き勝手にやる主従が多すぎると溜息を禁じ得ない。

【…ッ!あの礼服の殺人鬼が…!!】
【落ち着け、ランサー】

ファウストが霊体でありながらも、耳を塞ぎたくなるほどの憎しみを声に滲ませる。
不律が宥めるも、ファウストはしばらく礼服の殺人鬼への怒りを抑えきれなかった。
霊体化を解かなかったのは最低限理性が残されている証か。

【今は情報を集めることが先決、討伐対象に憤るのはその後じゃ】
【失礼、取り乱しました。…あのバーサーカーの所業は、『ファウスト』でなかった頃の私を思い出してしまいますので】

ファウストも「元」がつくとはいえ、殺人鬼だ。どんな美談が後につこうとも、その罪過が消えることは永劫にない。
ファウストに「過去への後悔」があるとすれば、彼にとって礼服の殺人鬼は「過去への後悔」を象徴するものであった。
後悔というものは、誰しもが消したくなるものだ。

「ロビーにはすぐに向かう。…ところで、その新国立競技場での事件はどこで知り得た?」

ファウストの何とも言えない感情を念話越しに感じながらも、不律は看護婦から事件の情報の出所を聞く。
勤務中でも、非常時ならばそれに乗じてある程度は自由に動けるが、流石にメフィスト病院を飛び出して国立競技場に行くとなると役職を失いかねない。
ファウストには悪いが、ここは我慢してもらうしかないだろう。
できれば、病院で知り得る限りのより具体的な情報がほしいところだ。

409おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:41:38 ID:oieGq0Po0

「患者の方から直に聞いたのと…もっと早いものだと、その様子が病院のテレビスクリーンに映されていました。私も見ていましたから。私のいた場所だと、薬科の休憩室ですね」
「テレビに映っていたのか」

流石の不律も、驚きのあまり思わずオウム返しをしてしまう。
何と、件の殺人はテレビで生中継されていたというのだ。
その放送を直に見ていたというのに、この看護婦はやけにあっさりしている。やはり魔界病院のスタッフだからか、相当に修羅場慣れしているらしい。
それよりも、生中継されていたということは、<新宿>どころかかなりの広域にわたって事件の様子が広められたということになる。
何故、人の目につくような場所に敢えて殴り込むのか――という疑問が浮かんだが、それも後回しにして新国立競技場でそもそもどんな催しがあったのかを聞く。
不律とて、モラトリアム期間でも情報収集を怠っていたわけではなく、ニュースや新聞くらいは見るようにしていたが、殆ど記憶にないとなると余程不律の眼中になかったことになるであろう。

「ご存じないのですか?人気アイドルのライブですよ、346プロ主催の。<魔震>からの復興20周年のコンサ-トイベントだそうで」
「あいどる…?…若い者の文化は、儂にはよくわからぬ」

成程、不律の記憶にはほとんど無いわけだ。
そもそも不律は世代が世代なだけにアイドルのような若者の文化に対してはあまり理解がなく、たまに小耳に挟んだりその様子を見てもそこまで関心は持たなかった。
新聞やテレビでも宣伝は何度か目にしていた筈だが、さして気にも留めていなかったのだ。
ところが、更に重要な情報が看護師の口から出てきた。

「何とも、一ノ瀬さんの友人が出ていたそうです」
「何っ、一ノ瀬の関係者がか!?」
「ええ、一ノ瀬さんもアイドルのようで、全部本人から聞いたのですが」
「…件の惨劇を見て、一ノ瀬は如何した」
「すごい形相で、休憩室を飛び出していきましたよ。私はその後すぐに復務したので、戻ってるといいのですが」
「…そうか、礼を言う。時間をとらせたようで済まぬな」

看護婦に別れを告げ、不律は足早にその場を離れる。
今頃は外で設備の片付けに当たっていた者の休憩もとっくに終わり、勤務に戻っている頃だ。
これからどこへ向かうかというと、薬科の方面である。

【不律さん。これは、嫌な予感がしてきましたよ…!】
【奇遇じゃな。儂もそう思っておる】

何のために行くかといえば、アーチャー達が戻って来ているかどうかを確かめるためだ。
確かに直ちにロビーへ行って患者の受け入れにあたるべきだろうが、一度薬科へ寄ってアーチャー達の様子を見に行っても職務怠慢とは見なされないだろう。
しかし、一ノ瀬志希の場合は別だ。
あの院長のことだ、休憩時間を超えて患者の治療を怠っていたとなれば黙ってはいまい。最悪、解雇もあり得る。
また、休憩室を飛び出していった一ノ瀬志希に対して、アーチャーがどう動いたのかも気になる。
それも含めての寄り道だった。

「何いっ、鈴琳先生がいない!」

1分も経たずに薬科の休憩室がある場所に移動すると、やはり薬科のスタッフの大声が聞こえてくる。
その付近では、周囲よりも慌ただしさが段違いに大きかった。
数人の白衣を着た医師や看護婦が慌てた様子で話し合っており、案の定アーチャー達は戻っていないようだった。

【どう見る、ランサー】
【個人的な感情抜きでも、ここは助け舟を出しておくべきかと。アーチャーは敵に回せば厄介ですが、それは味方にすれば心強いということです】
【うむ…違いない】

ここは、やはりアーチャーと一ノ瀬志希が帰って来た時を見越して口利きをしておくべきだろう。
まだあちら側がどう考えているかは不明だが、少しでも恩を売っておけば、今後は多少なりとも楽にはなる。
不律としては警戒はまだ解いていないとはいえ、少なくとも敵対する可能性は薄れると見ている。

【尤も、アーチャーならば一人でどうにかしてしまいそうではあるが…】
【できることは全てやっておくべきですよ、不律さん。いらぬ気遣いだと言われるやもしれぬでしょうが――医者は、お節介を焼くくらいが丁度いいですからな】

ファウストの言葉を聞いて踏ん切りがついたか、不律は薬科のスタッフに近づいた。

410おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:42:44 ID:oieGq0Po0

「少しよいか」
「不律先生!」

集まっていた薬科のスタッフが一斉に不律の方へ向く。
その中の一人が、「聞いてください!」と言おうとしたのを不律は制し、口を開いた。

「鈴琳先生についてじゃが、言伝を預かっておってな」
「鈴琳先生のことで、何かご存知で!?」

薬科のスタッフの一人が、食いつくように不律に聞き返してくる。
その表情は心配半分、焦燥半分といったところか。

「先ほど新国立競技場であった殺人事件については耳にしておるな」
「ええ、まあ…」
「そのことじゃが、鈴琳先生とその助手はその事件現場に赴いておってな」

薬科にいたスタッフのほぼ全員の顔に、今度は疑問符のついた怪訝な表情が浮かび上がる。
何を言わんとしているのかは不律にもわかる。丁度それを、スタッフの一人が聞いた。

「では、なぜ新国立競技場にまで?」

何故。メフィスト病院の医者でなくても誰しもがそう思うだろう。
本来医師が行うべき治療をすっぽかしてまですることがあった理由がなければ、納得するのは難しい。
そして、不律は「それはな」と言ってから息を少しばかり大きく吸い込み、コホンと咳払いしてから、少しだけ声を硬くして、続けた。

「まだ生きておる患者をメフィスト病院に誘導するのと――ドナー用に使える臓器や血液の残っている死体があるかを調べに行ったのじゃ」

それを聞いて、薬科の周囲であった喧騒が一気に静まり返る。
薬科周辺はメフィスト病院の騒がしさはどこ吹く風、と言わんばかりに凍てついたような静寂が支配していた。
妙な緊張感が、不律に走る。決して油断せずに、スタッフの顔色から目を離さないようにする。
周囲のスタッフの顔は呆けたように無表情だったが、次第に明るさを取り戻していった。
そして、スタッフの一人が言った。

「なんだ、そういうことか」
「う、うむ…」

胸のつっかえが取れたかのように、スタッフは心からの安堵の色を浮かべながら微笑んだ。

「わかりました。そういうことでしたら、院長や婦長から何かあれば、こちらからそう伝えておきます」

不律からアーチャーのいない理由を聞いたスタッフは一同に納得したようで、数秒後には解散し、何事もなかったかのように業務に戻っていった。
そこには、皺がれた顔の中に複雑な表情を残している不律だけが残されていた。
不律は無言で踵を返し、ロビーへと向かう。そろそろ行かなければ不律までペナルティをくらってしまう。

【私が言うのも何ですが、あんな理由でよかったのでしょうか…?】
【儂の思いつく限りでは、あれが理由としては最適じゃ。…不本意ではあるがな】

確かに、それを聞いてアーチャーと一ノ瀬志希が何を思うかは不律も理解している。
が、やはり「生きている患者をメフィスト病院に誘導するため」だけでは、理由としての説得力が薄い。
というのも、メフィスト病院にとっての患者は、『病院に救いを求めて来た者』。これに限る。
それは裏返せば、自分から行かない限り救いの手は差し伸べないということでもあり、自分から病める者を探しに行ってもメフィスト病院の方針とは矛盾してしまうのだ。

411おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:45:46 ID:oieGq0Po0
しかし『ドナー用の臓器』については、メフィスト病院に限っては説得力のある説明だった。
不律のデフォルトの役職がメフィスト病院の専属医である分、病院での常識というものはある程度は理解している。
その最たるものが、『臓器についての扱い』だった。
メフィスト病院は常にドナー用の臓器を求めている。それを手に入れた過程や理由を問わずに、だ。
提供された臓器によってどこを治療できるか、誰を治せるかということしか考慮せず、それをこの病院のスタッフは全面的に認めている。
そのため、代用の臓器を探しにいくことはメフィスト病院のスタッフからは「患者を救うための善意の行動」と捉えられやすく、
決して「死人を侮辱している」という悪の側面は目を向けられないのだ。
ゆえに、不律はアーチャーと一ノ瀬志希のいなくなった理由づけとして、多少血生臭くなることを百も承知でこれを使った。

【やはり此処はドクターメフィストの陣地…スタッフの皆さんも人の感覚からは途方もなくズレた方々ですね】
【まったくじゃ】

ここはメフィスト病院。
魔人の営む病院であり、そこに勤める者もまた魔界の住人であることを決して忘れてはならない。
それを、不律とファウストは改めて肝に銘じずにはいられなかった。

(…儂からしてやれることはやった。流石にお主らを綺麗なままで保つことはできぬ。いらぬ世話かもわからぬが…後はお主次第じゃ、アーチャー)

【それにしても、志希さんはとても優しい子のようですね】
【…まさか、友の危機に病院を飛び出すとはな】
【しかもそのお友達の殆どがNPCである筈。にも関わらずに起こした行動です。確かに戦略上は間違っているかもしれない。しかしそれは何よりも尊い。私も、見習いたいものです】
【……】

不律は、しばらく黙りこくってから肯定の意をファウストに返した。
少なくとも、かつての友を問答無用で斬り殺してきた自分に比べれば、友のために動いたというだけであまりにも眩いものがあることは言うまでもなかった。

412おじいちゃんといっしょ ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:46:20 ID:oieGq0Po0

【四ツ谷、信濃町方面(メフィスト病院)/1日目 午後2:40】

【不律@エヌアイン完全世界】
[状態]健康、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]白衣、電光被服(白衣の下に着用している)
[道具]日本刀、メフィスト病院のタブレット端末
[所持金] 1人暮らしができる程度(給料はメフィスト病院から出されている)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、過去の研究を抹殺する
1.無力な者や自分の障害に成り得ないマスターに対してはサーヴァント殺害に留めておく
2.メフィストとはいつか一戦を交えなければならないが…
3.ランサー(ファウスト)の申し出は余程のことでない限り認めてやる
4.アーチャーは警戒、しかし敵対する意思はなく、共闘も視野に入れている
5.一ノ瀬志希はできれば生かしておきたい
6.メフィスト病院の専属医としての立場を最大限利用する
7.外部で情報を集めてくれる主従を隙を見て探す
[備考]
・予め刻み込まれた記憶により、メフィスト病院の設備等は他の医療スタッフ以上に扱うことができます
・一ノ瀬志希とそのサーヴァントであるアーチャー(八意永琳)の存在を認識しました
・眠り病の呪いをかけるキャスター(タイタス1世(影))の存在を認識、そして何を行おうとしているのか凡そ理解しました。が、呪いの条件は未だに解りません。
・メフィストが投影した綾瀬夕映の過去の映像経由で、キャスター(タイタス1世(影))の宝具・廃都物語の影響を受けました
・ライダー(姫)の存在を認識しました。また彼女に目を付けられました
・メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません
・支給されたタブレット端末で、番場真昼とバーサーカー(シャドウラビリス)のカルテを閲覧しました
・支給されたタブレット端末で、メフィスト病院の外で起きた出来事を調べていました。しかし集められる情報には限界があるようです。どの程度調べられたかは後続の書き手にお任せします
・一ノ瀬志希が病院を飛び出したことを知りました
・薬科のスタッフに対し、鈴琳(アーチャー)とその助手(一ノ瀬志希)は「まだ生きている患者をメフィスト病院に誘導することとドナー用に使える臓器や血液の残っている死体があるかを調べることを目的に事件現場(新国立競技場)に行った」と説明しました


【ランサー(ファウスト)@GUILTY GEARシリーズ】
[状態]健康
[装備]丸刈太
[道具]スキル・何が出るかな?次第
[所持金]マスターの不律に依存
[思考・状況]
基本行動方針:多くの命を救う
1.無益な殺生は余りしたくない
2.可能ならば、不律には人を殺して欲しくない
[備考]
・キャスター(メフィスト)と会話を交わし、自分とは違う人種である事を強く認識しました
・過去を見透かされ、やや動揺しています
・一ノ瀬志希とそのサーヴァントであるアーチャー(八意永琳)の存在を認識しました
・眠り病の呪いをかけるキャスター(タイタス1世(影))の存在を認識、そして何を行おうとしているのか凡そ理解しました。が、呪いの条件は未だに解りません
・ライダー(姫)の存在を認識しました。また彼女に目を付けられました
・メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません
・バーサーカー(黒贄礼太郎)に激しい怒りを感じています
・不律の受け持った患者の一部の治療を担当しました

413 ◆ZjW0Ah9nuU:2017/05/30(火) 01:46:42 ID:oieGq0Po0
以上で投下を終了します

414 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:05:24 ID:QP1foXhs0

>>お気に召すまま
原作において、天上天下唯我独尊ぶりを発揮し、人に対して評価と言うものを下さなかった姫が、
手放しに永琳やダンテ、バージルにヴァルゼライドと言った、新宿聖杯でも強者にラベル分けされるサーヴァントを褒める姿が新鮮。
ですがそれ以上に、折角命を拾われたと言うのに、早速姫に捕まってるクローネの生き残り3人がもう哀れ過ぎてどうしようもない。
折角あの地獄から生き残ったと言うのに、早くも仲間の沢山いるあの世行きの切符を手にしてしまっている辺り、不運が極まっている。
……いや、もうあの世の方がアイドルのお仲間が多いし、寧ろ幸せになれる可能性が……? 何だ、姫って優しいじゃん!!(錯乱)
当初は<新宿>の聖杯戦争に興味を示さなかった姫。だが、新国立競技場の件で、下僕にしたいと思える様なサーヴァントを一時に3体も目に付ける、
と言うのはターニングポイントのような気がしてなりません。今後の展開を予兆させる様な、面白い話だと思いました。見事です。

ご投下、ありがとうございました!!

>>おじいちゃんといっしょ
>>「よ、妖怪用ですと!?この私のどこが妖怪に見えるというんですか!?」、自分の首を捩じりながら飛ばすような奴には残当な評価なんだよなぁ……。
GGでは一番人間やめてるようなファウスト先生ですが、あのゲームで一番良識的な性格が、自分としてはあのキャラクターの魅力だと思っており、
それがいかんなく発揮されたお話だと感じました。徹底して人道的で、モラリストな態度を取り、良識的な選択を選び続けるファウストと、
一方で、それなりの良識を持ち合わせつつも、本質的には武人であり、聖杯への執着を見せる不律との対比が実に良く表現できている。
メフィスト病院での通常業務をこなしつつ、現状における己の雇い主をどう打ち倒すかを考え、ああでもないこうでもないと思う不律の曲者感。
そして、Dr.ボルドヘッドとしての記憶が暗い翳を心に落としつつも、その過去と決別し、友の為に動こうとする志希の尊さを眩しく思うファウスト。
結局ファウストは元より、不律ですら非情になり切れず、余計な御世話だと知りつつも、彼女達に助け船を出してやるシーンは、魅力をより高めさせていると思いました。
未だに病院から出られず、雇主と雇われ人としての立場を崩せていないこの主従ですが、今後二人は如何なってしまうのか。今後の展開の足掛かりになる、素敵な話で御座いました。

ご投下、ありがとうございました!!

415 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:05:39 ID:QP1foXhs0
投下します

416えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:06:13 ID:QP1foXhs0
 聖杯戦争と言うイベントを、達成しなければならない大小様々な目標を包括した一つの大きな案件だと考えた場合、最も達成困難な目標とは、果たして何なのだろうか。
自身にとって一番相性的に不利なサーヴァントを下す事? 無傷の状態を維持する事? 宝具を一度も開帳しない事? 
それとも、聖杯戦争に参戦している多くの主従にとっての大願である、聖杯の獲得だろうか? 成程、これが一番達成不可能なタスクであろう。
しかし、クリアーする見込みが絶望的に低いタスクと言うのは、個々人によって違うもの。人によっては、聖杯の獲得の方がまだ簡単である、と言う程困難な仕事をせざるを得ない所もあるだろう。

 ――結論を言えば、一ノ瀬志希と八意永琳の主従も、そっちの、聖杯の獲得の方がまだ簡単なレベルの仕事をしなければならない者達だった。
八意永琳と言う天才と言う言葉を使う事すら烏滸がましい神域の知恵者、深淵たる魔導や学術の知識を有する存在にですら、そんな難事が存在するのだ。
月の賢者とすら称されたこの才女をして、達成困難と言わせしめる当面のミッション。それは、メフィスト病院の院長に今までの行為を許して貰う、と言う事であった。

 永琳とメフィストは、これから舌戦を繰り広げなくてはならない。その最大の争点は、一つだ。
永琳はメフィストの許しを得ず、勝手に職務を放りだし新国立競技場へと足を運び、其処で勝手に戦闘をしてしまった、と言う事。
他の事なら、手練手管を用いてフォロー出来る自信が永琳にはあった。だが、この点に関しては不可能。この勝手な行動を、最大の失点だと永琳は捉えていた。
あの、医術については厳格極まりない魔界医師・メフィストは、確実に自分の手前勝手を許しはしない。永琳はそう推理していた。
解雇処分、自分に下される処罰はそれだろう。命までは取られないのだから安いもの、と思われるだろうが、永琳としてはそれは困るのだ。
何せ、霊薬を作る、強力な毒を作る、などと言った、当初メフィスト病院に期待していた物事を何一つとして達成出来ぬまま、あの病院を去らざるを得ないのだ。
それは即ち、月の賢者とすら呼ばれる永琳の敗北に等しい。手持無沙汰、何の成果も得られず敵のアジトをとぼとぼ去る。
彼女にとってそれは、殺されるのと同じ程の屈辱である。そして屈辱である以上に、これではマスターである一ノ瀬志希に申し訳が立たな過ぎる。
何せ志希は、永琳を信頼して、わざわざメフィストの腹中とも言うべきメフィスト病院に紛れ込む、と言う永琳の考えを、何の疑いもなく認めてくれたのだ。
その彼女の心意気に応えられないのは、永琳の道理に反する。最低でも、何かの利は奪い取る。それが、永琳の当面の目標であった。

 とは言え、今から永琳が舌戦を繰り広げなければならないのは、あの魔界医師である。
月の賢者として宮仕えをしていた頃に、知恵者を名乗るに相応しい頭脳の持ち主達とは様々な議論を交わして来た永琳であったが、
メフィストは、彼らと比較しても何ら遜色のない――いや、それどころか、彼らすら上回る見識と知能の持ち主であると見て間違いはなかった。
これは、人に対して厳しい評価を下しがちな永琳にとっては、最大限の評価と言っても良い。彼女から、優秀であると言う評価を貰うのは、
難しいという言葉を用いるのが憚られる程の難度であると言っても良い。そんな彼女が、手放しに、メフィストを優秀だと判断している。
メフィストはそれ程までの難敵なのだ。最初に設定した、妥協に妥協したノルマですら、達成が困難かもしれない。
それでも、向かわねばならない。あの白き魔人が全てを取り仕切る、白亜の大伽藍へと。

「……少しは見れる風には、なったかしら」

 と言って、メフィスト病院前の駐車場、その、一目の付かない裏口で、永琳が呟く。

「と、思うな〜」

 暢気そうに――実際にはそう振る舞っているだけ――口にしながら、永琳のマスターである志希が返事をする
タール状の形を取って現れた虚数空間、其処に呑まれて今や消えてなくなった新国立競技場では、パムを一緒に倒す為に一時期永琳が共闘していた、
チトセ・朧・アマツが己の能力を駆使し、其処にのみ集中豪雨を降り注がせ、フィールドを濡らしていた。
当然、永琳も志希も、その雨に思いっきり打たれてしまい、全身がずぶ濡れの状態であった。当然、こんなコンディションで院内に入る訳にはゆかない。
メフィストからの心証が悪くなるのは必定であるからだ。それに永琳に至っては、フレデリカが変身したアシェラト、パムとの戦闘でダメージを負った状態である。
要するに、血を流している状態だ。臨時のスタッフと言う体裁で此処で働ている以上、永琳は病院内では実体化して行動しなければならない。
それなのに、血を流していては、患者も、他のスタッフも驚いてしまうだろう。

417えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:06:31 ID:QP1foXhs0
 よって、院内に入る前に、志希は服を永琳の魔術で乾かせて。
永琳は、己の魔術で身体の傷を癒させてから、内部に入ろうと決めたのである。
そして現在。志希の服は完全に水分が吹き飛ばされ、乾燥され、永琳の傷も元通り。目立った外傷は何処にもない。
傷一つ存在しない白い肌を見て、果たして誰が、八意永琳がつい先程までサーヴァントと熾烈な戦いを繰り広げていたと思おうか。それ程までの、完璧な施術だった。

【これは恐らく、戦闘以上に厳しい戦いになるわ、マスター。あの魔人も貴女には直接手を上げないとは信じたいけど、万が一もある。気を張っておきなさい】

【う、うん。解ったね、アーチャー。それで……勝算って言うか、何とかなるの?】

【痛い所を突いて来るわね……。少なくとも、今回新国立競技場に勝手に足を運んだ事については、此方には落ち度しかないわ。其処が、私達の急所になる】

【じゃあ……】

【勘違いしないで。不利なのは事実よ。だけど、付け入る隙が無い訳じゃないわ。其処を、私は突くわ】

 永琳の言葉には、不安も何も感じられない。
平時の気丈さが、全く声音から失われていないのである。本心では、自信がないと思っているのかもしれないと、志希は考えた。
それを、自分に気取られない為に、然も必勝の策は我にあり、とでも言うような声音で、そう言っているのだろうと。志希は思った。

【時間よ。そろそろ服も乾いたでしょう。心底気が乗らないけれど……交渉、始めるわよ】

【うん】

 と、志希は即答をした。永琳の性根の強さに呼応するように、なるべく不安や恐れを払拭させた声音でだ。
それを受けて、先ずは永琳から、メフィスト病院の医師専用通用口から内部に入って行く。己のマスターの声音が、微かに震えていたと言う事実を、敢えて指摘せずに。

418えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:06:47 ID:QP1foXhs0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 メフィスト病院に勤めているスタッフ専用の通用口に入った瞬間、所定の人物を呼び出す為のアナウンスが、小気味の良い呼び出し音と同時に院内に鳴り響いた。
「薬科の鈴琳先生は、至急、二階応接間まで起こし下さい」。告げられた内容は、一字一句の間違いもなくこれであった。
鈴琳とは、この病院での八意永琳の偽名である。そして彼女は、このアナウンスを受け全てを得心。
如何やらメフィストの方も、こちらが院内に入った事に気付いたらしい。早急に話がしたい、と言う所なのであろう。

「せっかちね、息を吐く暇もないわ」

 そう軽口を叩いた後、永琳は直に、不安の色をもう見せ始めた、この病院内において助手と言う立場で通っている、一ノ瀬志希を引き連れ、
メフィストが指定した二階応接間まで足早に移動。そして一分後程経過して、両名は、応接間へと繋がる、鋼色の自動ドアの前までやって来た。

 ――『いる』、と言うのが、永琳は勿論、志希にも伝わる程の鬼気が、如何にも重圧そうな空気を醸す扉越しからでも伝わってくる。
扉を開ければ、光を編んだように眩いばかりの、白いケープを纏った魔人が佇んでいるであろう事は想像に難くない。
「お、怒ってるよねこれ……」、と小声で志希が意見を求めた。如何やら彼女は、扉越しの鬼風を、メフィストの怒気だと解釈したらしい。
そう志希が思いこむのも、むべなるかな、と言うものだ。永琳自身ですら、メフィストは『キレ』ているのではないかと、考えたのであるから。
とは言え、相手が怒っていようが何であろうが、永琳達は、この場に入るしか道はないのである。その為に永琳も、この病院に足を踏み入れたのだ。
メフィストが面会を望んでいると言うのであれば、それに応えるまで。「入るわよ」、そう短く告げた後、永琳は自動ドアを開かせ、内部に淀みなく足を踏み入らせた。

 其処は、応接間と言うよりは、西欧の王宮の客間か待合室を思わせるような、豪華絢爛たる部屋だった。
見るも壮麗たるバロック様式で統一された内装、鏡のように磨き上げられた大理石の床。
染みも無ければ汚れもないワイン色の壁紙と、其処に掛けられた、キリスト教を題材にした宗教画。
天井から垂れ下がる巨大なシャンデリアはそれ自体が水晶の小山の如く大きく、豪華以外の言葉を失う程の凄味を放っているが、そのシャンデリアそのものを支える、
天井自体も凄まじい。天井はもれなく全て巨大な一枚の黄金をドーム状に誂えたもので、その黄金を彫金し巨大な一つの天井画を形成していた。
とても、一病院の応接間とは思えぬ程に、美麗な一室だった。この病院の総予算の全てを擲って作ったと言われても、皆信じてしまう程には、この部屋は完成されていた。

「……」

 だが、この美しい部屋の最大の不幸とは、こんな一室が問題にならぬ程の存在感を放つ男が、この場に存在してしまっていると言う事だろう。
果たせるかな、この応接間にいて当然の人物が、黒革張りのチェスターフィールドソファに腰を下ろしていた。そう、その男は、美し過ぎた。余りにも。
初めてその姿を見せ、永琳が嘗てない衝撃を憶えた程の麗姿は、この病院で起こった椿事を経た後とは思えぬ程、褪せてはいない。
纏うケープは、宇宙に限りなく近い高山の山頂近くに堆積する万年雪が汚泥に見える程の純白さを保っていた。
其処から伸びる白い手は、白光を微かに放っていると錯覚する程滑らかで、輝いていた。
黒メノウを煮溶かしたような長髪は、宇宙のそれよりなお黒く――見るだけで、魂を焦がして燃え尽きさせると錯覚するほどのその美貌はまさに、この世の『美』なるものの最頂点。

 魔界医師・メフィスト。
彼はどうやら、永琳達がこの場にやって来るよりもずっと前から、この場で待機し、ずっと、無言の状態を保っていたようであった。
口は堅く、一文字に引き絞られ、その無表情の保たれた顔からは、何処となく、不機嫌そうなオーラが醸し出されている事が解る。
処断される。志希も永琳も、一瞬だが、そう思ってしまう程には、今のメフィストは、虫の居所が悪そうであった。

「かけたまえ」

 志希と、永琳の姿を横目で見やりながら、メフィストが言葉を紡いだ。
ただの一瞥。そんな、取るに足らない動作一つで、一ノ瀬志希は、その魂、その肉体を束縛されてしまう。
魔術も異能も、何もない。ただの目線だけで、この男は、人間から自由を奪ってしまうのである。

「お言葉に甘えさせて頂きますわ」

 そう言って、正気を保った状態の永琳が、志希の手を握り、そのまま、硝子のテーブルを挟んだ向かい側に設置されたチェスターフィールドまで移動。
永琳が手を引っ張った事で漸く、志希が正気を取り戻し、慌てた様子で永琳の歩調に合わせて移動。
そしてソファに近付くや、永琳が腰を下ろすのと同じタイミングで、志希も腰を下ろした。

419えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:07:25 ID:QP1foXhs0
「此処に呼ばれた理由を、説明していただけるかしら、ドクター?」

「凡愚が賢者に物を説明する事の無意味さを、知らぬ訳ではあるまい」

「ドクターほどの殿方が、己を凡愚と謙遜する事はそれ自体が罪です事よ。貴方が己の才を誇らねば、この世の全ての者の才覚の価値など芥程も無くなりますわ」

「医術は兎も角、調略の方は達者ではないのかね、女史よ。不興を買う事を恐れているように私には映るが、だとしたら、余りにも稚拙だぞ」

 如何やら、褒めて怒りを宥めさせる、と言う手段は駄目らしい。世間話の類がそれ程好きな男ではない、と言う事を永琳は再認。それに合わせたプランを行う方向性に、彼女はシフトチェンジする。

「職務を放り出した理由ですか?」

「それ以外にはないだろう。君とて、理解していない訳ではあるまい」

「サーヴァントはマスターの命令に従うのが道理、と言えば納得していただけるでしょうか?」

「半分はな」

「半分」

「常ならば、君の口にした道理の方が、成程確かに、聖杯戦争に召喚された英霊であるのなら全てに優先されるだろう。だが、当院では違う。この病院のスタッフになった以上、例えサーヴァントであろうとも、君は、当病院の掟に唯々諾々とするべきだったのだ。例えそれが、君の主の友の危機であったとしても、君は、主の命を無視して突っぱねるべきだったのだよ」

「仰る通り。己の職務を放棄する医者は、私としましても、医道に反する落伍者同然の評価しか下し得ません。不肖の弟子にして、不肖のマスター。一ノ瀬志希の我儘に従ってしまった事を、此処にお詫び致します」

 其処で永琳が、座りながら頭を下げる。遅れて志希の方も、永琳に倣った。

「月に在りて賢者と称される、八意のXXに頭を下げられると、さしもの私も弱い、と言いたい所だが、それでは君の為にならん。此処は私も、心を鬼とするとしよう」

 やはり、頭を下げる程度じゃ、許してくれないんだ。
案の定とも言う風に、志希は胸中でそんな事を思い浮かべるが、永琳は今、それ所ではなかった。
今、メフィストは、何と言った? 聞き間違える筈がない。この男は間違いなく、己の真名を言い当てた。
それも、八意永琳と言う、地上の民にも言いやすいよう自分が考えた偽の名前ではない。月の世界における、地上の民には発音不可能な、真の意味での永琳の本名を、
いとも簡単にメフィストは言い当てただけでなく、完璧な発音で、彼女の真名を口にして見せた。その事実に、永琳は、頭を下げながらも目を大きく見開かせていた。
如何やら、自分の予想を超えて、この男は難物であるようだと、永琳は考え込む。魔界医師。その綽名は、伊達でも何ともなかったようである。

「……何処で、その名を。そう聞いた所で、答えてはくれないのでしょうね」

「無論。敵に手札を明かさない程度の常識は、如何な私でも持ち合わせているさ」

 その謙遜を、永琳は自身への挑発と受け取った。
出鼻を挫かれ、掌で踊らされているのは今の所自身である。永琳は素直に、今の現状を認めた。
いやそればかりか、何故、メフィストが、真実の意味で、永琳の本当の名を知っているのか、それすらも永琳は予測が出来ずにいた。
――この男が、ドクター・メフィストだから。知っているのは当たり前。そんな理由も何もあった物じゃない理由で、本当に自分の名前を知っている、と言われても、
本気で納得してしまわんばかりの凄味と説得力を、メフィストは、全身で発散させているのであった。

「平時であれば、職務の放棄を行ったスタッフには、然るべき処罰を下してはいるのだが……君達は臨時スタッフ。それも、其処の八意女史は、当院の薬科どころか、並み居る古参の先生方と比較しても、遜色ないどころか比肩、超越する程の技量を発揮していた事を知っている」

 その、瞳の中に昏黒の宇宙が広がっていると言われても、永琳ですらが信じようと言う程の、吸い込まれそうな黒い瞳で、メフィストは二名を射抜いた。
意識を強く持たねば、永琳ですら、心どころか魂ですら持って行かれかねないその美貌は、今日の様な交渉では並々ならぬ力を発揮して来た事は、想像に難くない。
志希がゴクリ、と息を呑む。その事を咎める事は、永琳には出来ない。彼女ですらこれなのだ。一般人の志希がそんなリアクションを取って、誰が咎められようか。

「その技術を以って、君は確かに、当院に貢献していた時期もある。そう言った事情も酌量した場合、処罰を下す、と言うのは酷だと言う判断に至った」

 其処までメフィストが言った瞬間だった。
唐突に彼が、神憑り的な才を千年磨き上げた彫刻家が、白石英を手ずから削って作り上げた様な白い繊指で、パチンとフィンガースナップ。
それに呼応し、永琳達が応接間に入る為に通った自動ドアが一人でに開き始め、その方角にメフィストが腕を差し伸ばし、一言。

420えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:07:52 ID:QP1foXhs0
「お帰りはあちらだ。当院の規定違反による都合退職にならざるを得ないのが心苦しいが、君達の実力ならどの医局でも出色の存在になれるだろう。次の新天地を目指したまえ」

「優秀過ぎると、やっかみを買い過ぎますの。御院は私の実力を認めて下さった他に、私に妬みも嫉みを見せるスタッフすらいませんでしたので、居心地が良いのです」

「私はおべっかが好む所ではなくてね。本音と建前を駆使する小賢しい真似をするくらいなら、素直に、『其処の無力なマスターを保護したいから此処に残せ』ぐらい、堂々と口にして貰いたいものだな」

「それを言わないのが、大人、と言うものでしてよ」

「大人は課された職務と責任を放棄しないものだ」

 殺意と敵意を伴わせない。
ただ淡々とした、感情の裏を掻かせない交渉事。互いの土俵にどうやって相手を引きずり出すか、そして、自分の意思(わがまま)を呑ませるか。
それにのみ腐心する、大人のエゴのぶつかり合い。よりにもよってそれを行っているのが、月の賢者たる八意永琳、神の美貌を持つ魔界医師・メフィストと来ている。
一ノ瀬志希が、空間の余りの重さと密度に、呼吸が苦しい、と思って胸を抑えだすのも、無理からぬ事柄であった。

「とは言え、だ」

 玲瓏たる煌めきを内に宿した、黒水晶の如き瞳で、永琳を射抜く。
賢者は、動じなかった。流石に、何千、何万年を容易く上回る年月を生きて来ていない。天与、魔境……人知を超越したと言う意味合いで用いられるありとあらゆる比喩や修飾技術がこれ以上となく当て嵌まるメフィストの美に、彼女は既に慣れ始めていた。それでも、気を抜けば『やられる』力を、この医師の美は有していた。

「女史をこのまま、一切の弁疏も聞き入れずに、当院を解雇させる、と言うのも余りに惜しい。月の世界、興味がないと言えば、嘘になるからな」

「解雇させない、と言う選択肢を選んでくだされば、幾らでもお話しましてよ」

 ここを攻めるしかない、と志希ですら思ったタイミング。永琳ですら、此処で攻めに転ずるべきだと思った程だった。

「ここぞとばかりに、だな。だが、女史よ。私は元より、君を解雇するつもりで此処に呼んでいる。私の知らない知識を保有しているからと言って、最初の解雇が覆る可能性は絶無だぞ」

 心の中で舌打ちを響かせると同時に、何度も何度も、メフィストの顔面にデカい斧を振り下ろしまくる空想を描く永琳。
何処まで真面目な男なのだろうか。融通がこれっぽちも利かない。ガードが固すぎるのだ。他人から見た自分も、こんな風に思われているのだろうかと、永琳は自分を見つめ直す。

「絶無――だが」

「……だが?」

「私の出す課題をこの場でクリアすれば、解雇は取り下げる」

「乗ったわ」

 元より乗るしかない。課題が無理難題、或いは、マスターに危難が及ぶものであれば、直に降りる。その心構えだけは、忘れない。

「そう難しい物じゃない。『当院に私が君を留め置く正当性』、それを示して見せれば良い」

「実力、では駄目なのですか?」

「正当性としては弱すぎるな。薬科の先生の一人に体細胞を提供して貰い、これを利用し技術や記憶、人格を完全にコピーしたクローンを用意すれば、君の代わりなど事足りるのだよ」

「そうしない訳は?」

「同じ顔、同じ体格の人物が二人も同じ科にいれば、患者に混乱が生じるだろう」

「正論ですわね」

 何が何だか、と言う風に瞳をグルグル回し始めている志希を余所目に、永琳は考える。
この場合の、メフィストが求める正当性とは、技術ではない事は今の会話で示された通り。
では、その正当性とは、一体何なのだろうか? 永琳は、その正体に二秒と掛からず想到した。
彼の求める正当性、つまり答えとは、『貢献』だ。つまり、八意永琳と言う個人が、この病院について何を成せるか。それをメフィストは問うているのだ。
成程、求めているものがそうであるのならば、技術は正当性足り得ない。メフィストは其処から先、その技術で何をして来たか、それを聞きたいのである。
自分の技術があればこれが出来る、と言う未来的な話は、今のメフィストが見たい答えではない事は永琳も理解している。
肝心なのは、此処に所属してから、つまり、現在から見て過去に、永琳が何をこの病院にして見せたのか。其処なのである。

 ――そうであるのならば。勝ちの目は、自分にある。永琳は、そう確信したのだった。

421えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:08:29 ID:QP1foXhs0
「幾人もの患者を救った、と言う実績では不足ですか?」

「医者が患者を救う事など、人が食事を摂るにも等しい事柄。自慢にすらならんよ」

 予想していた答えである。現状、メフィストが永琳達を評価する目は、辛口を極るものだ。
この程度のアピールなど、一蹴する事は永琳とて予想出来ていた。と言うより、永琳がメフィストの立場でも、同じ事を口にしていただろう。
万策尽きた――などと言う事はなく。永琳は此処から、第二の矢、つまり、彼女が『本命』とも言うべき殺し文句を、今此処で解き放った。

「ですが、『御院のスタッフ』を治療した事については、自慢が出来る事柄ではありませんか?」

「ほう」

 其処を突くか、と言う風な目でメフィストが言った。或いは、想像していた通りの所を突いて来たか、とでも言う風な目だ。
まだ相手の掌で踊っている、と言う風な実感を永琳は捨てきれない。そうと思っていても、此処を突くしか最早ない。永琳は、言葉のナイフを、美の極点とも言うべきメフィストの身体に突き立てまくる。

「病院が何者かによって襲撃されていた時、私は、院長に負けぬ美貌を誇る、大淫婦に出会いましたわ」

「あの女を、七つ首の獣に騎乗するバビロンの女と呼ぶか。慧眼だな。あれを表現する言葉で、大淫婦以上に相応しいものはない」

「そして、それを呼び寄せたのは、他ならぬ貴方で御座いましょう? 院長」

 メフィストの、宝石ですらが路傍の石以下の価値に貶められる、玲瓏たる輝きを秘めたる双の眼球の奥底が、冷え始める。

「サーヴァントの身の上で、サーヴァントに似た何かを召喚する。驚くべき実力のキャスターですこと。流石は、魔界医師。そうと、スタッフに畏怖される事だけはありますわね」

「何が言いたいのかね?」

「本題を焦るなんて、院長らしくありませんわね。私の愚見にも、筋道と言うものがあります。その通りに話させて下さいな」

 ペースの手綱を握り始めている、その実感を、永琳は感じ取っていた。

「実を申し上げますと、この病院で出会った、サーヴァントとはやや気色の異なるサーヴァント……。私共が勝手に出向いた、新国立競技場でも、二体。出会いましたの」

「誰だったかね」

「二人とも、女性でしたわ。どちらも、正当な聖杯戦争で呼び出されていれば、最後の生き残りになれる程の強さだった事、我が身で実感いたしました」

「いかにも。私が呼び寄せたサーヴァント……と言うべき存在は、そのどれもが化外の強さを誇る魔人達。あれらを相手に生き残れるとは、君は荒事にも堪能らしいな」

「そんな事は問題ではありませんわ、ドクター。問題は……」

「問題は?」

 ニコッ、と微笑みながら、永琳は一言。

「『あれらの存在は確実に、此度の聖杯戦争の異物になり、そして、この<新宿>により大きな混沌(カオス)を齎す事は必至』、と言う事ですわ」

「……」

「戦いまして、理解した事がありますわ。私の出会った三名の女魔人達。そのどれもが、激しい性情を裡に秘めた、荒ぶる者。到底、大人しく雌伏の時を過ごすような者達ではありません。況して一人は、貴方も御存知の通り、人の命を命とすら思わぬ大妖婦。状況と時間次第では、あの黒礼服のバーサーカーよりも、甚大な被害を<新宿>に招く事、想像に難く御座いませんわ」

「恫喝かね、月の賢者よ」

「まぁ。ドクターはそう受け取りましたのね。私にはそんな意図は御座いませんでしたが……その発想は正味の話、私にはありませんでした」

 惚ける永琳だったが、勿論彼女は、メフィストの言う通り、脅しと釘刺しの目的で今の言葉を口にした。
如何にキャスターが魔術に造詣の深いサーヴァントとは言えど、自分達と同じ高次の霊的存在であるサーヴァントを召喚する等、あり得ない事柄である。
縦しんば召喚出来たとしても、サーヴァントを現界させる為の魔力が枯渇し、数時間と持たず召喚されたサーヴァントも、召喚した当のサーヴァントも、
ガス欠を引き起こす事は余りにも容易に想像が出来る。それを、メフィストは事もあろうにやっとのけている。
それは即ち、彼が卓越した魔術の御業の持ち主である事と、極めて潤沢な魔力の持ち主である事の証左である。だからこそ、尚の事ナシを付けておきたいのだ。
そして、サーヴァントがサーヴァントを召喚出来、完全に彼らを従えられるのであれば、迷わずそうするべきである。そうする事で、聖杯戦争は自分達にとって有利になるのであるから。

422えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:09:05 ID:QP1foXhs0
 ――但し、『従えられるのならば』、だ。
この病院で出会った大妖婦のライダー、及び、新国立競技場で応戦した四枚の黒羽のアーチャー。
彼らの態度を見るに、メフィストは明らかに彼らを御し切れていない。否、と言うよりは、手綱を握るつもりすらない、彼女の自由意思に任せている、
と言った方が適切だろうか。呼び出したサーヴァントが極めて高いモラルを持っているのであれば、その自由放任主義も良かっただろうが、
黒羽のアーチャーはいつ暴走するか解らない程の戦闘狂であったし、妖婦のライダーに至っては論外そのもの。あれは、全生命にとってのアンチ。
召喚する事も不可能だし、召喚出来たとしてもその手段を永久に封印する事の方が望ましい程の、絶対悪。
そんな存在達を聖杯戦争に呼び出し、剰え大殺戮を引き起こしたとしたら、どうなるのか。勿論、彼らを召喚したメフィストに帰責される。
マスター以外でサーヴァントを召喚出来るクラスは、エクストラクラスを除いた正規の七クラスの内、キャスター以外にあり得ない。
その中でも特に、桁違いに潤沢な魔力プールを秘めたメフィスト病院の主、つまり、キャスター・メフィストは真っ先にクロとして疑われる。
そうなった場合、メフィストは著しく不利を蒙る事になるか、最悪の場合、ルーラーからの制裁すら考えられる。

 如何にメフィストが魔界医師と謳われ、月の賢者たる永琳ですらが認める程の才能の持ち主とは言え、だ。
ルーラーから睨まれて、面白いと思う筈がない。そして、ルーラーと事を争いかねない一歩手前まで、メフィストは追い詰められている。
だが現状、あれらのサーヴァントを召喚した存在がメフィストである事は、永琳及び、その時一緒にいた不律とランサーの主従以外には今の所考えられない。
そればかりか、あの三体のサーヴァントが、正規の手段で召喚されなかったサーヴァントだと認識出来ている者すら、下手したら稀かもしれない。
自分の話を呑んでくれれば、『その事を黙ってやる』。永琳は暗に、こう言う事をメフィストに主張しているのである。そして驚くべき事には、この意見は、本命のそれではない。

「ドクター」

「何か」

 メフィストの態度は、あいも変わらず堂々としている。
志希は勿論の事、永琳にですら、内心焦っているのか如何かすら窺わせない。やはり、永琳にとってはこれ以上と相手し難い手合いであった。

「私が、この病院のスタッフを不律先生らと治療した、と言う事実については、どう思います?」

「その時の治療の程を、実はあの後拝見させて貰った。流石、の一言以外にないな」

「重ねての質問恐縮ですが……あのスタッフ達を害した存在が誰であったのか。御存知でしょうか?」

 永琳の顔から微笑みが消え、メフィストの物と同質の、冷たい光が、その双眸に宿り始めた。
極北の凍った大海、その上に巍々とした山脈の如く聳え立つ巨大な氷山が放つ冷たい冷気。それに似たオーラを、永琳の表情は醸し出し続けていた。
この男に限ってそんな事はないだろうとは、永琳も思っているが――惚ける事は、許さない。そんな凄味を、永琳の表情からは窺う事が出来た。

「私が召喚したライダー。彼女の悪性、淫悪さ、そして、強さから……我々は彼女を『姫』と呼ぶ」

「身の丈にあった者を、召喚するのが普通ではなくて? ドクター。あの吸血鬼……貴方にも私にも、手が余る程の魔そのものでしてよ」

「言われるまでもなく、私はあの女をこの地に招く事には反対だったさ。反対、しきれなかったがな」

 平時と変わらぬ声音でメフィストは言ったが、何処となく、言葉回しに疲れの色が、刷毛で塗られたかのように帯びていた。

「話を戻します。本来ならば私は、御院を頼って足を運んだ患者を治療する義務こそあれど、御院に従事するスタッフを治療する義務は、限りなくゼロに近いです。何故ならば、御院のテクノロジーを考えた場合、彼らが傷を負う可能性自体が、極めて低いからです」

「当院は、スタッフが100%のパフォーマンスを発揮出来るような設備を常に、完璧な状態で整えている。それは、外敵からの襲撃にも対応している。君の言っている事は正しい。当院のスタッフが傷付き、剰え、死ぬような事など本来的にはない」

「ですが、今回に限りそうはならなかった」

 かぶりを振るう永琳。

「勿論ドクターも御承知の通り、私の力足らずで、死なせてしまったスタッフも残念ながらおられます。ですが、私の手で一命を取り留めたスタッフがいる事も、事実」

 畳みかけるように、永琳。

「ご自身の不始末で産み出された怪物(まじん)、そしてそれによって生み出された死傷者。お見事な一人相撲だと感服致します」

「……成程。それが、君の正当性と言う訳か」

423えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:09:27 ID:QP1foXhs0
 胸の前で腕を組み、メフィストは永琳の事を眺める。
病院を預かる主として、相応しい威風と態度。天の神が産み出した精緻なミニアチュールを思わせる、白光を放っているとすら誤認させるその美貌には、
一つとして瑕疵がないように思える。志希は、確かにそう思っている。しかし、如何に態度で取り繕おうとも、優勢に立っているのは此方の方だと言う自負が、永琳にはあった。

 『お前の所のスタッフを助けたのだから、便宜を図らえ』。とどのつまり、永琳の主張とはそう言う事だ。
言うまでもなく、メフィスト病院の従業員を助けた瞬間とは、魔獣・ジャバウォックが襲撃した際の事を指している。
あの時、混乱に乗じて院内にやって来た姫は、戯れとでも言わんばかりに、機動服と呼ばれる機械鎧を纏ったスタッフを鎧袖一触。
幾人も殺して見せた事は、記憶に新しい。その時に、死に掛けであった従業員を治療したのは誰ならん、永琳と不律、そして、彼の従えるランサー・ファウストだった。
あの慌ただしい瞬間の中で、確かに永琳は、医者としての責任を果たすべく、スタッフを治療しようとも考えた。
だがそれ以上に、此処でメフィスト病院の従業員を治しておけば、後でスムーズに話が進められると言う打算があって、彼らを治したのである。
つまり、スタッフの命を救ったのは全て計算の上。今この状況の時を予期し、あの時助けたという事実を切り札(ジョーカー)にする為に。
永琳は、彼らスタッフを治療したのだ。まさに、恐るべき鬼謀である。そして、志希も漸く、永琳の目論見に気付く。
自分があわあわと狼狽していたあの時あの状況で、此処まで計算して動いていた何て、と。永琳を見る志希の目は、畏敬する神でも見る様なそれになっていた。

 自分を解雇すれば、そちらが<新宿>に撒いた災厄の件について言いふらす。
何よりも、自分には、そちらの所の従業員を治したと言う確かな実績がある。これが、メフィストに対して永琳が用意していた、切り札なのであった。

「……この程度の事を、主張出来ないようではな」

 ややあって、メフィストは落ち着いた口調でそう告げた。
この瞬間、メフィストの態度が平常通りのそれに復調。見る者の心に焦熱を齎す美貌をそのままに、目の前でミサイルが着弾した瞬間を見ても、
眉一つ動かさぬだろう事を確信させる恬然とした雰囲気を、今になって発散し始め出した。
今のメフィストの発言、そして、此処に来ての余裕の復活。その意味する所を、永琳は、全て得心した。

「……試していましたわね」

 鋭い瞳で、メフィストの瞳と真っ向から対峙する永琳。恐るべき事であった。
彼の魔界都市の住民は、どれ程の魔技を習得しようとも、どれだけ恐るべき体質を改造手術で得ようとも、魔界医師と真っ向から睨み合う事を避けた。
それは当然、この医師が、魔界都市<新宿>に於いて絶対に敵に回してはいけない三魔人の一人である、と言う事実がある事も大きい。
だがそれ以上に、その美貌のせいだ。純度の高い巨大なダイヤを丹念に研磨し、人の顔に彫り上げた様な美を誇るこの医者が、
相手を威圧・魅了すると言う目的で他人を見つめようものなら、たとい魔界都市の住民であろうとも、数秒と正気を保てまい。
ある者は、その美に心を絆され、或いは焦がされ、終生をこの男の奴隷となる事を誓うだろう。
ある者は、余りに隔絶された美の違いに発狂を引き起こし、胸元に差していたボールペンで直ちに己の心臓を貫き抉り取るだろう。
事実、やろうと思えばメフィストはこの程度の事、簡単にする事が出来る。そんな可能性を秘めた美しさに対し、真っ向から永琳が睨みつける。それがどれ程、メフィストと言う男について知っている者からすれば、勇猛果敢な行いであるのか。永琳が知る事は、ない。

「君の技術を捨て置く事は、正直な所惜しいのだよ。月の賢者、八意XX。それでも、当初私が設定した条件をクリア出来ぬようでは已む無く解雇する予定ではあったが……流石に、音に聞こえた思兼。高天原の知恵者だ」

「お褒めの言葉として、受け取っておきますわ」

424えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:09:58 ID:QP1foXhs0
 ――要するに。
メフィストは、永琳の事を解雇する気など初めからなかった。永琳は、そう解釈した。
無論、メフィストが知らない内に設定していた、解雇回避の基準を満たせていなければ、永琳も志希も病院から叩き出されていたのだろう。
だが、彼女らは見事これを回避して見せた。ならば、解雇は取り消し。こう言う事なのだろう。
それ程までに、永琳の有する、月の都の話とやらが、魅力的なものなのだろう。永琳はまだ、メフィストにこの都の事を話していない。
それを話さぬ内に、彼女を此処から立ち去らせるのは惜しい。だが、自分の求める水準にまで達していなければ、容赦なく切り捨てる。
その美貌からは想像もつかない程の、二枚舌。いや、三枚、四枚、五枚六枚も異なる舌をこの男は持っているに相違あるまい。つくづく、厄介な男だと、改めて永琳は思うのであった。

「良いだろう。君達に対して本来取る予定だった措置は、此処で撤回する。今より十分程の休息を与える。その後、業務へと戻りたまえ」

「かしこまりました。マスター。立って」

「あ、うん」

 言って永琳は、一ノ瀬を立たせ、共に一礼をさせようと試みるが、「あぁ、思い出した」、と言うメフィストの不意の一言で、彼女らは、直立したままの姿勢で静止させられてしまう。

「鈴琳……いや、八意先生、と言った方が宜しいか」

「どちらでも構いませんわ。ドクターに関しては、秘匿も何も意味がないと知りましたので」

「ではこの場に限り、八意先生と言わせて貰おう。臓器の方は如何したのかな?」

「……は?」

 永琳はメフィストに引きとめられた瞬間、何か、含みを持った忠告、或いは、それに類する謎めいた一言でも言われるものかと、思っていた。
だが、実態は違った。それどころか、志希は言うに及ばず、永琳ですらが理解が出来ていない。
神韻縹渺たる美の持ち主であるメフィストの口から放たれた、予期せぬ角度からの言葉のボディブローに、永琳達は当惑するしかないのだった。

「……ん? 不律先生は、君達が新国立競技場に向かったのは、当院のドナー用臓器を回収すると言う意味もあった、と窺っているのだが」

「……ちなみにお聞かせ頂きたいのですが、その臓器と言うのは、何処から?」

「無論、人の死体からだが。君の実力なら、死後数分以内の死体であるなら容易に回収、ドナー用に転じても問題はない程の状態を保つ事は出来るだろう」

 メフィストの言葉を、どう解釈したのか知らないが、志希の表情が途端に青褪め始め、「嘘……」と呟きながら、永琳の方を見つめた。
【あ、アーチャー……!?】、と、信頼していた友人が自分を裏切ったのを目の当たりにした人間が口にするような声音で、志希が念話を投げ掛けて来る。
【違う違う違う!! 何を勘違いしてるの!!】、と永琳が必死に否定する。志希がメフィストの言った事を如何様に解釈したのか、永琳には手に取るようにわかる。
まるで、禿鷹か、死霊術師(ネクロマンサー)のようだと思ったに違いあるまい。そして、永琳なら本当にやりそうだとも。確かに元の世界ではやった事はあるが、この世界ではやるつもりもないし、あの新国立競技場ではそんな事を行う、という考えは端からなかった。

 永琳の配属された診療科は、薬科である。これは、自分が薬剤師であった、と言う適性を見て、メフィストが配置した。
無論の事永琳はその時は、メフィストのこの采配に文句の一つも覚えなかったし、寧ろ、其処に配属されて当然だとも思っていた。
永琳は其処で、この病院で働く上での規則や心構え、労使協定――こんなものまで結ばされる――を精読した上で、契約。此処で働いていたのだ。
だから、この病院の事については、よく理解していたもの、と彼女は思いこんでいた。だが、それは間違いだった。メフィスト病院の細やかな暗黙の了解。
それを、彼女は解っていなかったのだ。結論を言えば、永琳は、メフィスト病院がドナー用の臓器が不足しており、そしてその足りない分の臓器を、
不心得者から腑分けさせて徴収している、と言う事実を知らなかったのである。知らなくて当然。何せ彼女の配属された所は薬科だ。
これが外科やら内科などに配属されていれば、彼女もそう言った情報を収集出来た事だろうが、薬による治療が望まれる薬科では、そう言った話題すら俎上に上がらなかったのである。

 不律が、今の状況の下手人である事を、永琳は理解した。
自分達を貶める為に、こんな嘘を流布させたのか。一瞬ではあるが、彼女はそう考えた。
だが、それは直に違うと、彼女は思い直した。そしてメフィストの方も、全て得心が言ったと言う風な表情で、納得。口を開いた。

425えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:11:21 ID:QP1foXhs0
「……如何やら、不律先生は、君達をサポートする為に、敢えて嘘を吐いたらしいな」

 そう言う事なのだろう。
メフィストの口ぶりから察するに、――俄かには信じ難い上、良心のへったくれもないが――不律の吐いた嘘は、この病院のスタッフにとっては、
肯定的に捉えられる事柄……、つまりは、良い事なのだろう。何せメフィストの口ぶりには、永琳を非難する様な色が全くないのであるから。
何故、あの老戦士はそんな事をしたのか。答えは明白だ、こちらに助け舟を出したつもりなのだろう。其処から、彼らに齎されるメリットは一つ。
自分達に恩を売り、味方として引き抜いておきたいのだろう。あの老人か、それとも妖怪よりも妖怪らしい身体を持ったランサーの猿知恵か。
それは永琳には解らない。どちらにしても言えるのは、『余計なお世話』、と言うもの。幸いメフィストからの心証は損なわずに済んだが、マスターからの誤解が酷い。これが、主従間の亀裂にならねばいいが、と永琳は祈る。

「『老』婆心、とは、さても良く言ったものですわね」

「全くだ。とは言え、臓器がないのならそれでも良い。引きとめて済まなかった、八意先生」

「いえ、問題はありません。私からも、聞きたい事が二つ程、御座いますので」

「……ほう」

 興味深そうな光を、その瞳が湛えた。メフィストが、他人に興味を覚える。
魔界都市の住民であるならば、それだけで、天にも昇る程の光悦……或いは、地獄に堕ちた方がマシだと言う程の恐怖を憶える。メフィストの関心とは、それだけの意味を持つ。

「一つ。ドクター。貴方は、姫と呼ばれるライダーや、黒軍服のセイバー、そして、戦闘狂極まりないアーチャーを召喚して、何を行うつもりなのですか?」

「さて、な」

「黙秘とは、無責任過ぎませんか? 確かに貴方程のキャスターであるのならば、そう言った存在を召喚して、聖杯戦争を有利に進めると言う事は取れる方策としては上等でしょう。ですが、貴方の召喚した存在は余りにも危険な存在が多すぎる。例え他の何体かが大人しくしていたとしても……姫、と呼ばれる吸血鬼を召喚したと言う事実一つだけで、ルーラーからの心証は最悪を極るもの。それで、ルーラーから討伐令を発布されたりなどしたら、馬鹿らしいにも程があり過ぎませんか?」

「全くだな。事によっては、ルーラーと争わねばならぬ時も、来るやも知れん」

 意外な事に、メフィストは、姫を召喚した事に対する永琳の非難を、すんなりと受け入れた。
如何やらこの魔界医師自身ですら、姫を<新宿>に招聘した、と言う事の意味を理解、その愚かさを承知していたらしい。
元より、メフィスト程の男が、全生命のアンチたる姫を召喚してしまった、と言う事実自体、永琳には今でも信じられない。何を思って、この男はあの怪物を、招き入れてしまったのか。……そして、永琳はその理由を、凡そであるが、理解しているつもりだった。

「貴方のマスターの、『金星人』の引き金、ですか?」

「……ほう。あれが直々に、君達の前に現れ、正体を口にしたのかは解らないが、独力で其処まで辿り着いたのであれば……成程。音に聞こえた、深遠なる知としか言いようがない」

 メフィストの「ほう」には、志希ですら理解出来る程の、驚嘆の色が含まれていた。
目の前に佇む、月の賢者、銀髪の美女の、驚くべき推理洞察力に、メフィストは、心底からの称賛を送っていた。今この瞬間、メフィストは、彼女が自分と同列の存在だと認めたのである。

「実を言うとその通りでね。時折、私は彼が何を考えているのかよく解らない時がある。『魔界』医師の名が廃るな」

「恥じる事では御座いませんわ。あれの考えが幸運にも理解出来ないのであれば……ギリギリ、ドクターは狂人の謗りを免れる事の出来る人物なのですから」

 永琳とメフィストの会話は時折、自分にも解る言葉で交わされているものにも関わらず、志希は、理解が出来ない事がある。
内容が難解であったり、そもそも自分にとって未知の内容を核に話が進んでいる、と言う事が理由としては大きい。
だが、今回の話は、志希にとってはまるで理解が出来なかった。話の内容が抽象的である事もそうだが、それ以上に、話の中心人物である、『金星人』、それのイメージが全く掴めないのである。故に、解らない。自分にも解る言葉で話しているのに、全くの異言語で交わされる会話を耳にしているような気分を、味わうしかないのである。

「続いて、もう一つの質問、宜しいでしょうか」

「伺おう」

「何故、貴方は本体ではないのですか?」

「……えっ?」

 頓狂な声を、志希は抑えきれなかった。

426えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:12:14 ID:QP1foXhs0
「あ、アーチャー? そこにいる院長先生って……」

「私でもなければ、気付かないわ。よく出来た『偽物』よ。但し――」

「ステータス及び、発揮出来る技術とその習熟度は、本体の私と同じだ。尤も、サーヴァントをサーヴァント足らしめる宝具までは、奮えないがね」

 軽く肩を竦める様な動作をし、メフィストは、立ち上がっている永琳の事を見上げた。
女性に見下ろされている、と言う事が耐えられなかったのか。それとも、そろそろ立ち上がるべきだと思ったのか。メフィストも、すっくと立ち上がって。
座っている姿もまた、女神の心を射止めるには十分過ぎる神韻があったが、其処に棒立ちしている姿もまた、美しい。
メフィストの立っているその姿に、煮溶かした白金を綺麗に塗りたくった、白樺の樹木の姿を、永琳と志希は連想した。

「偽物、と言う言い方は人聞きが悪い。クローン、或いは、ホムンクルスと呼びたまえ」

「どちらにしても、本体ではないのでしょう?」

 メフィストは時折、物理的な位置や、其処に到達するまでの時間を無視して突如としてその場に現れる、と言う事が数多い。
無論それは、メフィスト自身がこの病院の全てを知悉している院長であり、時空間に作用する程の病院のギミックを、
最大限利用していると言う事もあろう。事実、そうやって移動する事も、メフィストにはある。
それでも、メフィストの身体は一つである。同時に二つの異なる場所で治療する事は、メフィストにも難しい。
しかし、それを簡単にクリア出来る方法を、メフィストは知っている。簡単だ、『自分の数を二倍、四倍』にすれば良い。
そう、メフィストは、便利だからと言う理由で、己を模したホムンクルスを創造し、同時に異なる場所で異なる作業をやらせているのである。
ホムンクルスの医療技術、及び荒事に対する適正は、本体のそれと何らの遜色はなく、十全の活躍が約束されている。
彼らホムンクルスの仕事は、患者の治療及び、病院の運営、本体不在の際の院長業務の代理、そして、新しいギミックやデバイスの開発等多岐に渡る。
メフィスト病院が二十四時間フルタイムで営業出来、そして院長が常にその間、完璧なパフォーマンスを発揮出来る理由は正に、この自身のクローンによる分業体制、と言う所が大きいのである。

 ――だが。

「そんなに、私が本体ではないのが疑問かね」

「今はこの病院で働かせて頂いている身空とは言え、曲りなりにもサーヴァントと会うのに、ホムンクルスを代理にするのは、良い判断とは言えません。私がもし、何か叛意を起こしたとしたら、如何対策するつもりなのですか?」

「君が、此処でそれを出来ないと理解……、いや、信用しているからこそ、ホムンクルスである私が代理として君に会っているのだ」

 大した信頼のされ方だ、と永琳は胸中でゴチる。そしてすぐに、本題に入る。

「……本物のドクターは、何処に?」

「――『狩り』だ」

 その短い言葉を発した際のメフィストの言葉は、この応接間で今までメフィストが口にしたどんな言葉よりも、ずっと低く、高圧的で、そして――無慈悲だった。
まだ、氷山の方が温かみがある。志希はメフィストが発する――彼が発しているつもりなのかすら、永琳には解らない――狩りと言う言葉に怯えを隠し切れず、
永琳ですら、背骨が凍結して行くような感覚を覚える。此処まで、メフィストが『出来上がっている』とは思っていなかった。
彼をして此処まで言わせる人物。十中八九は、この病院を襲撃したサーヴァントとそのマスターであろう。
その二名は正味の話、永琳達からすれば因果応報、受けて当然の報いとしか映らないが。それでも、この魔界医師から追跡されるとなると、幾許かの同情は、隠せないと言うものであった。

427えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:12:29 ID:QP1foXhs0

「我が病院に救いを求めた者は、必ず帰す。だが、我々に危害を加えようとして、無事に帰った者は未だ嘗ていない。そして、これからも赦さない」

 二名を一瞥する、メフィスト。審判者の光が、その両目には宿っていた。

「バーサーカーのサーヴァント、ジャバウォック……もとい、高槻涼。そして、そのマスターであるロザリタ・チスネロス。本物の私は、二名を殺す為なら地の底まで追跡し、その魂を砕かんとするだろう。それは、ホムンクルスである私とて、同じ事。彼奴らは、赦されざる一線を越えたが故に」

「ドクターの応報が、果たせる事をお祈り致します」

「有り難いお言葉だ。休憩に入りたまえ、八意先生。君には、休息が必要だろう。まだ新国立競技場の疲れが抜け切れていまい。十分……いや、二十分に延長しておこう。身体を休め、業務を遂行したまえ」

「了解致しました。マスター、出るわよ」

「う、うん」

 そう言って二名は足早に、いつの間にか閉じられた自動ドアの下まで近づいて行く。
其処で永琳は、佇立するメフィストにお辞儀をし、彼女に倣うように、遅れて志希も腰を曲げ一礼。
その後二名は、主に対する一礼を受けたかのように開かれた、自動ドアの先へと消えて行く。

 音もなく、ドアが閉じる。
最早無意味とすら言える程の、壮麗たる応接間に一人、メフィストだけが残された。本物ではない、紛い物(ホムンクルス)のメフィストが。

「……金星人、か」

 ホムンクルスのメフィストは、それぞれ業務に当たるメフィスト及び、本物のメフィストが現在見聞き・体験している情報を、
超高速遠隔並列思考法により、リアルタイムで同期する事が出来る。当然、己のマスターがルイ・サイファーで、彼が何者なのかも、このメフィストには既知の事柄である。

「言い得て妙だな。月の賢者、恐るべし」

 それは、メフィストにとって、最大級の称賛の言葉であった。
彼が、女性を褒めるなど。彼の思い人である、黒コートを纏った『私』の男が聞けば、さて、何を思うのか。

428えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:12:43 ID:QP1foXhs0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【ねぇ……アーチャー】

【何かしら】

【……本当に、臓器の事……】

【一時間前の記憶すら曖昧なの? 貴女。誰の命令で、私が競技場まで出向いたのか、一々貴女に言わせないとダメかしら】

【あっはい、私です】

【宜しい】

 廊下を歩きながら、休憩所まで向かう、永琳と志希。
その道中、メフィストが言った、ドナー用の臓器探しの件がずっと頭から離れず、志希は永琳に問いかけてみるも、無論永琳にはそんな考えなどない。
メフィストの言霊の呪力が強力過ぎるとは言え、マスターである志希にですらあんな悍ましい真似を自分がしていると思われると、流石の永琳も少々凹む。いや、確かに元の世界ではやっていた事もあるが。

【アーチャー、一ついいかな】

【?】

【金星人……って、何? あの綺麗な人のマスターって、宇宙人なの?】

 志希はずっと、あの応接間で二名が行っていた会話の最後の辺りに出て来た、金星人の事が気になっていた。
余りにも謎めいており、どう言う人物なのか全く推察が出来ない。まさか、メフィストのマスターは本当に、この地球に住んでいる人間ではなく。
ウェルズの宇宙戦争に出て来たような、タコのお化けみたいな古典的な宇宙人がマスターであるとでも言うのだろうか? そんな可能性も、なくはない。
何せ呼び出されたサーヴァントが、あの美の魔人なのである。地球外の生命体でも、最早驚くに値しない。志希は、そう考えていた。

 志希は、永琳から「馬鹿ね」、とか、「そんなわけないでしょ」、とか。
自分の馬鹿げた意見を一蹴する様なリアクションを、当初は予期していた。――実際は、違った。非常に神妙そうな顔つきを露にしながら、彼女は口を開き、語った。

【……貴女の言った宇宙人の方が、ずっと可愛げがあるわね】

【違うの? じゃー、その金星人って、一体何なの?】

 時間にして、五秒程。永琳にしてはたっぷりの沈黙の後、彼女は、志希に対してこう告げた。

【悪魔、よ】

【悪、魔……?】

 何だか、人を表現する言葉としては、余りにもチープ。志希は、そんな事を考えた。

【私達が聖杯戦争を順調に生き残っていれば、何れ解る時が来るわ】

 【――けれど】

【解らない方が、ずっと幸せよ。私に出来るのは、早くその金星人が脱落する事を、心の底から、祈るだけ】

 志希には今も、永琳が口にした事の意味がよく解らない。
それでも、理解した事がある。きっと、金星人の意味など、解らない方が幸せであると言う事を。
それは、永琳の女性的で、柔らかな背中が、雄弁に語っているのであった。

429えーりんのぱーふぇくと交渉教室 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:13:03 ID:QP1foXhs0
【四ツ谷、信濃町方面(メフィスト病院/1日目 午後3:10】

【一ノ瀬志希@アイドルマスター・シンデレラガールズ】
[状態]健康、精神的ダメージ(極大)、廃都物語(影響度:小)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]
[道具]服用すれば魔力の回復する薬(複数)
[所持金]アイドルとしての活動で得た資金と、元々の資産でそれなり
[思考・状況]
基本行動方針:<新宿>からの脱出。
1.午後二時ごろに、市ヶ谷でフレデリカの野外ライブを聴く?(メフィスト病院で働く永琳の都合が付けば)
[備考]
・午後二時ごろに市ヶ谷方面でフレデリカの野外ライブが行われることを知りました
・ある程度の時間をメフィスト病院で保護される事になりました
・ジョナサン・ジョースターとアーチャー(ジョニィ・ジョースター)、北上とモデルマン(アレックス)の事を認識しました。但し後者に関しては、クラスの推察が出来てません
・不律と、そのサーヴァントであるランサー(ファウスト)の事を認識しました
・メフィストが投影した綾瀬夕映の過去の映像経由で、キャスター(タイタス1世(影))の宝具・廃都物語の影響を受けました
・メフィスト病院での立場は鈴琳(永琳)の助手です
・ライダー(姫)の存在を認識しました
・アーチャー(魔王パム)とセイバー(チトセ・朧・アマツ)と言う、ドリーカドモンに情報を固着させたサーヴァントの存在を認識しました
・新国立競技場にて、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(那珂)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認識しました
・地母神アシェラトのチューナーとなった宮本フレデリカの死を目の当たりにし、精神的ダメージを負いました
・メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません


【八意永琳@東方Project】
[状態]十全
[装備]弓矢
[道具]怪我や病に効く薬を幾つか作り置いている
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:一ノ瀬志希をサポートし、目的を達成させる。
1.周囲の警戒を行う。
2.移動しながらでも、いつでも霊薬を作成できるように準備(材料の採取など)を行っておく。
3.メフィスト病院で有利な薬の作成を行って置く
[備考]
・キャスター(タイタス一世)の呪いで眠っている横山千佳(@アイドルマスター・シンデレラガールズ)に接触し、眠り病の呪いをかけるキャスターが存在することを突き止め、そのキャスターが何を行おうとしているのか凡そ理解しました。が、呪いの条件は未だ明白に理解していません。
・ジョナサン・ジョースターとアーチャー(ジョニィ・ジョースター)、北上とモデルマン(アレックス)の事を認識しました。但し後者に関しては、クラスの推察が出来てません
・不律と、そのサーヴァントであるランサー(ファウスト)の事を認識しました
・メフィストに対しては、強い敵対心を抱いています
・メフィスト病院の臨時専属医となりました。時間経過で、何らかの薬が増えるかも知れません
・ライダー(姫)の存在を認識しました。また彼女に目を付けられました
・アーチャー(魔王パム)とセイバー(チトセ・朧・アマツ)と言う、ドリーカドモンに情報を固着させたサーヴァントの存在を認識しました。また後者のサーヴァントには、良いイメージを持っております
・新国立競技場にて、セイバー(ダンテ)、アーチャー(バージル)、アーチャー(那珂)、ライダー(大杉栄光)、アサシン(レイン・ポゥ)の存在を認識しました
・タイタス10世の扮した偽黒贄礼太郎の正体を、本物の黒贄礼太郎だと誤認しております
・メフィスト病院が何者かの襲撃を受けている事を知りました。が、誰なのかはまだ解っていません
・事が丸く収まり次第、メフィストから襲撃者(高槻涼)との戦闘の模様と、霊薬を作成する為の薬を工面して貰うよう交渉する予定です
・メフィストから許しを得、通常業務に復活する事が出来ました
・メフィストのマスターが何者なのかついて理解していました
・メフィストが現在病院不在で、彼が幾つものホムンクルスを分業させている事を知りました

430 ◆zzpohGTsas:2017/06/11(日) 00:14:24 ID:QP1foXhs0
投下を終了いたします。この程度の話に、予約超過を致しまして申し訳ございません。
引き続きですが、

キャスター(メフィスト)
キャスター(タイタス1世)
ロベルタ&バーサーカー(高槻涼)
蒼のライダー(姫)

を予約いたします

431名無しさん:2017/06/13(火) 15:58:46 ID:xesui0kU0
投下お疲れ様です!
戦闘も劇的な展開の動きもないメフィストと永琳の舌戦がメインのお話であるにも関わらず、まるでバトル話を読んだ後のような読後感にさせられました。
メフィストがすごい人物であることはこれまでのお話でも散々語られてきましたが、永琳もそれに決して劣らない天才なのだと改めて実感出来るお話だったように思います。
そしてそんな緊迫した邂逅が終わったところで不律の老婆心が奇妙な脱力感を生む辺りでクスリとしてしまいましたね。
メフィストはこれからやはりジャバウォック討伐に向かうようなので、かの怪物と魔界医師の再戦にも期待を隠せません

432名無しさん:2017/06/13(火) 21:34:01 ID:8bOaCaf20
順調に進んでいたタイタス帝も此処でストップか?
クローネの三人が示した先に本拠があるとは因果というやつか

433 ◆hVull8uUnA:2017/06/15(木) 21:05:37 ID:3fVwORew0
予約を延長します


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