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魔法少女リリカルなのは総合エロ小説第99話

1名無しさん@魔法少女:2009/05/30(土) 16:59:12 ID:ypqjhtEM
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所の2スレ目です。


『ローカル ルール』
1.リリカルあぷろだ等、他所でのネタを持ち込まないようにしましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

『注意情報・臨時』(暫定)
 書き込みが反映されないトラブルが発生しています。
 特に、1行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えることがあるそうです。
 投下時はなるべく1レスごとにリロードし、ちゃんと書き込めているかどうか確認をしましょう。

前スレ
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説第98話
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1238819144/

561名無しさん@魔法少女:2009/07/06(月) 20:20:17 ID:hOe2xB1U
あれ?違ったか?
設定が後付けでグチグチ増えるもんで考え違いしてたみたいだ
スマヌ

でも管理局って生臭い組織だよなぁ
民主党みたいだ

562名無しさん@魔法少女:2009/07/06(月) 20:25:41 ID:OpnVhRzo
>>559
>スクライアなんかは現役の盗掘屋だしな
そういう設定のssは書いてみたいがw
もしそれが公式だったらユーノが管理局で普通に働いてること自体がおかしいからな。
そも、スクライアについての公式設定って
・テント暮らし
・放浪の一族
・ミッド出身
ぐらいじゃないか?

563名無しさん@魔法少女:2009/07/06(月) 20:40:04 ID:pYyt8QNg
スクライアやユーノに関する公式設定は恐ろしく少ないぞ。

564名無しさん@魔法少女:2009/07/06(月) 20:44:39 ID:fY61/21Q
ユーノ
・9歳の時点で魔法学院卒業済み(小説)
・9歳の時点で発掘隊のリーダー(無印)
・スクライア一族
・両親は居ない
・・・他にあったっけ?

565名無しさん@魔法少女:2009/07/06(月) 21:02:45 ID:BOcJBXPM
>>561
おk。一族が盗掘してたって設定で書いたことあるんだが、一応、
公式設定と捏造ネタの区別はついてないとあれだから気になってしまってな

566名無しさん@魔法少女:2009/07/06(月) 21:22:49 ID:OpnVhRzo
>>564
出自に関してはそのくらいかなぁ。
そこから推察できる設定についてはユーノスレで散々議論されてたけど。

567名無しさん@魔法少女:2009/07/06(月) 21:52:54 ID:zt3B.QEw
よくわかんないけどトーマからアイシス(だっけ?)を寝取るユーノってこと?

568名無しさん@魔法少女:2009/07/06(月) 22:33:10 ID:.KVEJk3A
SSはいいとして異様な流れになってるな。

569名無しさん@魔法少女:2009/07/06(月) 23:21:30 ID:bjjGukSo
>>567
違う。トーマにおb…なのはさん引き取ってもらって自由になったユーノのところに、その結果トーマにふられたアイシスがやってきて(ry

570名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 00:36:20 ID:LWyc0JN.
トーマを寝取るユーノだろ?

571名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 00:44:57 ID:Npsa.Sbk
てか何の話題? そんな名前のオリキャラ、パロでいたっけ

572名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 00:54:40 ID:BAl69s9U
四期のキャラだろ
今月だっけ第一話始まるの

573名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 01:07:47 ID:zBCTTKBA
トーマが第二のエリオとなるか、華麗にフェードアウトするかはまずそこにかかっているな。

574名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 01:17:02 ID:pTc16U7E
4期といえばViVidのなのはさんはStSの時より若く見えるから困る
Forceは作画が受け入れられない…

でも予告漫画で乳首解禁してたから全裸変身には期待している

575名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 08:23:29 ID:Jt7776ds
つまり児ポ法氏ねってことですね?

576名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 10:26:38 ID:1iFSenHU
>>573
都築さんの主人公だから、ヒロインの方が目立つかもしれんぞ。

577名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 11:52:42 ID:.iLIPs9Y
>>576
今川作品と同じ様なもんやね。
主人公がむしろ空気で、本来脇役のはずの奴がむしろ逆に重要キャラ扱いとして重点が置かれるとか

まあ男が主役の萌え美少女系作品はみんなこういうパターンかもしれんが

578名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 15:41:39 ID:RT79X7HU
リリィがユニゾンデバイスなんじゃという推測も立ってるが、実際どうだろうなぁ。
そうだった場合、トーマと

    ユニゾン
あなたと合体したい

な事態になる……と笑えるんだがなw

579名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 20:53:35 ID:mSxo0oY.
保守

何も終わっちゃいない!! 
何も! 言葉なんかじゃ終われないんだよ!
私だって好きで戦ってたわけじゃなかった! やれって言われたからやっただけ!
私は勝つために全力を尽くした! でも誰かが邪魔したんだよ!
管理局に戻ってみれば、局の前に市民がぞろぞろといて、 訳のわからない抗議してくるんだよ!
私のこと、人殺しだの、悪魔だの聞くに堪えない事を言いたい放題!
あんな人たちにに何が言えるわけ!? 戦いが何かわかって言ってるわけ!?
ええっ! 私と同じ経験をして同じ思いをして言ってるの!?
私には青春なんか、人生なんか空っぽだよ!
戦場では命を預け合えるような信頼関係があった。助け合い支えあってたよ。
なのにここじゃ何もない!
あっちじゃヘリも飛ばした。戦艦にも乗れたよ。SLBも撃てた!
1発100万もするカートリッジを自由にリロードできた!
それが故郷に戻ってみればコンビニの店員にもなれないんだよ!!
中卒だの、職歴なしだのバカにされて!! 時空管理局で教導官をやってましたなんて、
そんなアニメみたいなことが言える訳ないじゃない!
ちくしょう……みんな、どこ行っちゃったの……

580名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 21:01:09 ID:3Ibvw3XI
ミッドに帰れよw

581名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 21:03:15 ID:yC1nCH9U
>>579
はいはいいいコピペはったねえらいえらい
気がすんだら2ちゃんの本家なりアンチスレなりに帰ろうか?

582ザ・シガー:2009/07/07(火) 22:02:48 ID:Npsa.Sbk
>>572
ああ、四期かぁ……通りで知らないわけだ。


と、まあそれはそうと、ちょっくら短編投下します。
短編・非エロ・七夕SS・ヴァイシグ?

タイトルは「狙撃手の願い事」でっす

583狙撃手の願い事:2009/07/07(火) 22:06:18 ID:Npsa.Sbk
狙撃手の願い事


 世には、正確には第97管理外世界の地球という星の、特に日本という国には奇妙な風習がある。
 暦の7月7日に、笹の葉に願いを書いた紙、俗に短冊と呼ばれるものを下げて願望成就を祈願するのだ。
 この由来に関しては諸説あるが、それはひとまず置いておこう。
 まず語るべきは、その一風変わった行事がここ、ミッドチルダはクラナガンの機動六課隊舎で行われているという事だ。


「ねえねえ、ティアはなんて書いた?」


 ショートカットに切りそろえた青い髪の少女、スバルが隊舎に飾られた笹の葉を指先で弄りながら問う。
 ナニを、と考えるまでもない。
 それは無論、この笹に吊るす予定の『短冊』という紙に書く願い事についてだ。
 ツンテールにオレンジ色の髪を結った少女、ティアナは、やや頬を赤らめて恥ずかしそうに答える。


「べ、べつにいいでしょ、私のお願いなんて」

「ええ〜、教えてよ〜。ほら! あたしのも見せてあげるからさ!」

「うっさい! どうせ“アイスがお腹いっぱい食べたい”とかでしょ」

「うわ! なんで知ってるの!?」

「……ほんとに書いてたのね」


 と、そんなこんなでいつも通りな微笑ましいスバルとティアナのやり取り。
 全ての始まりは部隊長のはやての発案だった。
 せっかくの七夕なんだし、それらしい事をしよう。
 なんて言ったのがきっかけ。
 そこから笹の葉の調達、短冊の作成と配布に要した時間はたったの1日。
 なんともまあ、素晴らしいなんてもんじゃない早さだった。
 そして隊長命令による、六課全員短冊作成命令、拒否権なし。だった。
 J・S事件が集結してからというもの出動の機会がほとんど減ったので、問題がないといえばないのであるが。
 という訳で、締め切りである今日、7月7日には皆大慌てで短冊の作成作業に取り掛かったのであった。





 闇夜に二つの月が、まるで幾万の星を従えるように天に照る。
 鮮やかな、美しい夜。
 七夕という行事を飾るのに相応しい最高の夜空だった。
 雲ひとつない闇色の天には、地上で光るネオンすら霞むほどに月と星が眩い。
 そんな夜天を、一人の女が見上げている。
 女性にしてはやや高い身長の肉体、そしてあらゆる雄を虜のしてしまいそうな爆発的なプロポーションの女体。
 刃の如き鋭い眼差しに、ポニーテールに結われた艶を持つ緋色の髪を揺らした鮮烈な美貌。
 烈火の将、剣の騎士の二つ名を冠する古代ベルカの古強者。
 今は機動六課ライトニング分隊副隊長を務める、シグナムという美女だった。
 シグナムは心奪われるような美しい夜空を見つつ、隊舎を歩いている。
 夜間隊舎の見回り、と言えば聞こえは良いが、要するに暇なのでブラリと散策しているだけだ。
 少し冷えた、そして澄んだ夜気を胸の吸い込み、天より照る金色の光を愛でる。
 やや渋すぎる感があるが、風流この上ない。
 これで酒でもあれば最高だな。なんて事を頭の片隅で考える。


「……帰りにどこかに寄って一杯引っ掛けるか」


 誰にでもなく独り言。
 言ってから、一人寂しく酒を煽るのも虚しいな、とやや自嘲気味に苦笑する。
 今から誰か誘うにしても、やや時間が遅すぎるか。
 六課の皆は規則正しい生活に余念がなく、よっぽどの事がない限り早めに就寝してしまう。
 家に帰り、起きていればシャマルでも誘ってみようか。
 と、そんな事を思っていると、シグナムの足がピタリと止まった。
 着いた場所は機動六課の隊員を運ぶ空飛ぶ鉄篭、ヘリを収納する格納庫だ。
 もうとっくに明かりに超える頃合だというのに、そこにはまだ煌々と電灯が光っている。
 誰かいるのだろうか、と疑問に思い、中を覗く。
 そうすれば、ヘリの横で工具の散らかる中に座る、ツナギとジャケットに身を包んだ見慣れた男の姿があった。
 男、黒髪の青年の背にシグナムは声を掛ける。


「こんな時間まで仕事か? ヴァイス」


 唐突に問われ、ヴァイスは大慌てといった様子で振り返る。

584狙撃手の願い事:2009/07/07(火) 22:08:17 ID:Npsa.Sbk
 その顔には明確な焦りがあり、額には大粒の汗さえ垂れ始めていた。
 はて、と疑問符と共に首を傾げ、シグナムは彼に歩み寄る。


「どうした? そんな顔して」

「いい、い、いや! なんでもないです!」


 いや、全然なんでもなくないだろう。
 と思うが、ここは突っ込むべきだろうか迷う。
 彼を弄って遊ぶのも良いが、あまり部下を苛めるのは趣味ではない。
 故に、もう一度問いかけた。


「本当か?」

「も、もちろんです!」

「ふむ、ならば良いのだが」


 ヴァイスが何か後ろ手に隠したような気もするが、騎士の情けで見逃しておく。
 しかし、その代わりとばかりにシグナムは手を伸ばし、彼の首に腕を回す。
 そうして、自分より高い位置にある彼の顔を引き寄せた。
 途端に赤くなるヴァイスの顔、だが彼女は気にせず告げた。


「まあそんな事は良い、今夜は少し付き合え」

「って、あの……何に、っすか? 」

「酒だ。嫌か?」

「いえ、まあ嫌じゃないっす」

「よし、なら決まりだ」


 言うなり、シグナムは彼を半ば無理矢理格納庫から連れ出した。
 少なくともこれで寂しく一人で酒を飲むのは回避できたと、彼女は意気揚々とする。
 さっさとヘリの整備の後始末をさせて、行きつけの居酒屋に引きずっていく。
 と、その道中、シグナムは彼に問うた。


「ところでヴァイス、お前短冊に願い事は書いたか?」

「え!? え、ええ、まあ……一応」

「そうか。で、なんと書いた?」

「いや、その……別に俺のは良いじゃないっすか。そういう姐さんはなんて書いたんです?」

「ん、私か? まあ、私は“天下泰平”とかだな」

「なんか渋いっすね……」

「そうか? というか、私が教えたんだからお前も言ったらどうだ」

「え、遠慮しておきます!」


 何度も問われたが、ヴァイスはその事に関しては硬く口を閉ざした。
 まあ、言えるわけもない。
 彼がズボンのポケットに隠した短冊、その小さな紙切れに書かれた願い事。
 “今年こそシグナム姐さんに告白する”
 だなんて書いてあったのだから。

 ちなみに、その後酔い潰れたヴァイスのポケットから偶然その短冊を発見したシグナムが真っ赤っかになったり。
 翌日ヴァイスとまともに顔を合わせられなくなったりしたのだが、それはまた別の話。



終幕

585ザ・シガー:2009/07/07(火) 22:12:51 ID:Npsa.Sbk
はい投下終了。
1〜2日で一から練り上げた七夕SSですた。

七夕はポニーテールの日、つまりはシグナム姐さんとリンディさんの日!
ならばSS書いて投下するのが私にとって当然の義務なのです。

で、そろそろ鉄拳を投下するよう頑張ろう。

586名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 22:38:06 ID:6Rzr253c
クイントさんも!クイントさんも!

587名無しさん@魔法少女:2009/07/07(火) 23:07:40 ID:jlgxL4UM
リンディさんはもう来ないのか…?

588サイヒ:2009/07/07(火) 23:36:57 ID:JobguD02
「夏だ!」
「祭りだ!」
「今日は七夕だ!」
「だったらやることはなんだ?」
「「「浴衣エロだ!!」」」


というわけでクロフェで浴衣エロ。
二人が結婚してます。

589七夕の宵:2009/07/07(火) 23:38:05 ID:JobguD02
 カラコロと、下駄の音が石畳に鳴る。
 その音に覆いかぶさるようにして、屋台の呼び声や子供の騒ぎ声が混じる。金魚すくいの辺りで一際大きな歓
声がしたのは、大物をすくえたからだろうか。
 騒がしくもけっして耳障りにならない心地よい喧騒の中を、クロノとフェイトはゆっくり歩いていた。

「来るのは大変だったけど、来てよかったね。こんなに大きなお祭りは初めて」

 クロノと手を繋ぎ寄り添うフェイトが、嬉しそうな顔で言った。
 今宵は七夕。海鳴市でも商店街で七夕祭りが行われているが、二人がいるのは他県のもっと大規模な祭りだっ
た。
 学校の運動場ぐらいある巨大な神社の境内が丸ごと祭りの会場になっている。すぐ近くの河原では平行して花
火大会も行われ、地方のニュース番組で取り上げられるぐらい大きなものだった。
 おかげでここに来るまでの電車が会場を目指す客で寿司詰め状態で閉口したが、この盛況さを見ると来て正解
だったと思えた。

「でもこれだけ人が集まってると、だいぶ熱いね」
「ライトの熱もあるしな。普通の服装で着てたら今頃汗だくだろう」
「この格好だと風通しがいいね。ちょっと裾が歩きにくいけど」

 二人が着ているのは洋服ではなく、祭りらしく浴衣だった。色はフェイトが薄紫で裾には朝顔の絞り染め。ク
ロノは藍色に白の縦縞。
 フェイトは格好だけでなく、髪の毛をきれいに結い上げて大人っぽい雰囲気を漂わせていた。いつもは金髪に
隠されている白いうなじが見えているのがまた色っぽい。

「あ、あのベビーカステラおいしそう」
「買おうか?」
「うーん…………やっぱり後にする。先に肝心なことをやっておかないと」

 と言いつつも未練はあるのか、目的地へ向かうフェイトの歩みはやや速くなっていた。苦笑しながらクロノも
足を速めた。
 ほどなくして、二人は会場の中央にたどり着く。そこはぽっかりとスペースが空いており、屋台の変わりに色
とりどりの短冊をぶら下げた笹が飾られていた。

「またずいぶん大きな笹だな」

 見上げてクロノは感嘆の声を漏らした。
 人間の背丈の四倍ぐらいありそうな笹が、二十本以上並んでいる。遠くから見た時もちょっとした小山のよう
に見えたが、間近で見ればさらに大きくて圧倒されてしまう。
 日本屈指を謳う七夕祭りにふさわしい立派な笹だった。
 近くにある受付で短冊を渡してもらった二人は、願い事を書き込む。
 クロノはささっと書き終えたが、フェイトは筆ペンを額に当てて考え込んでいた。

「ずいぶん悩んでるな」
「いくつか考えてたんだけど、どれにしようかが決まってなくて。……クロノはどんなのにした?」
「家内息災」
「……七夕っていうより、神社のお守りみたいだね」

 しかしクロノにしてみれば、けっこう切実な願いだった。
 第一線を引いたリンディやアルフはともかく、クロノとフェイトは日々犯罪者と戦い続ける危険と隣り合わせ
な仕事である。
 命を落とすのはもちろんのこと、怪我の一つも負ってほしくない。

590七夕の宵:2009/07/07(火) 23:38:51 ID:JobguD02
「私も似たようなお願いしようかなって思ってたけど、クロノが書いたんだったら……うん、こっちにする」

 ようやく決めたのか、フェイトが短冊に筆を下ろした。


『クロノの子供が授かりますように』


「なあっ!?」

 思わずクロノは悲鳴のような声を上げてしまった。
 周りの人達が何事かと振り向く。受付の女性などは、フェイトの短冊を覗き込んでくすりと笑う始末だった。

「フェ、フェイト、なに考えてるんだ!?」
「……そんなにおかしいかな」

 ちょっとむくれた顔をフェイトが向けてくる。

「だってクロノと私、もう夫婦なんだよ? 子供がほしいってお願いするの、当たり前だと思うよ」

 やはり少しは恥ずかしいのか頬を赤くしつつも、フェイトは抗議の言葉を並べてくる。
 言われてみればそのとおりである。クロノも子供が早く授かりたいと、結婚以来ずっと思っていた。

「……悪い。いきなりだったんで、ちょっと動転した。そうだな、立派な願い事だよ」

 クロノの言葉に、また受付の女性が笑った。しかし今度はおかしくて笑うというより、暖かく微笑むような笑
みだった。
 それでもクロノは気恥ずかしくて、フェイトを促し足早に笹へと向かった。
 丈の高い笹なので、願い事を書いた本人ではなく係りの者がはしごを上ってつける。
 二人の短冊は一番高い笹の中程に並んでつけられた。

「……願い事かなうかな」
「かなうさ、きっと」

 そう思う根拠は、管理外世界の一地方だけに伝わる神話。それでもクロノは、立派な根拠だと思っていた。
 迷信だ非現実的だと否定するのは容易いが、そんなつまらない生き方をしていてはきっとどんな願いもかなわ
ないだろう。
 どんな馬鹿げた根拠でもいいから、まずは真っ直ぐに信じる。そのことが、結局は一番願い事をかなえる力に
なる。
 夜風に揺れる短冊をしばらく見上げていた二人だが、やがてフェイトが顔を戻してクロノの袖を引いた。

「じゃ願い事もしたし、お祭りいっぱい楽しもうよ」

591七夕の宵:2009/07/07(火) 23:39:30 ID:JobguD02
          ※




 フェイトが言ったとおり、二人は思う存分祭りを楽しんだ。
 フェイト待望のベビーカステラを買ったり、射的やくじ引き、金魚掬いといった定番物に興じる。
 数多くある焼きそば屋のどこが一番うまそうかを真剣に考え、結局二人別々の屋台で買って半分こした。
 くじ引きでは外れしか引けなかったが、残念賞にもらったラムネは爽やかで美味しかった。
 タコ焼きにタコが二個入っていたと喜び、金魚すくいではもう少しのところで網が破れたのを本気で残念が
る。
 それこそ小学生に戻ったようにはしゃぐフェイト。いつもおとなしい彼女が、これだけ感情を前に出しては
しゃぐのは珍しい。
 こんなフェイトが見れただけでも来た価値はあった。
 クロノも二十歳過ぎのいい年した男であるという見栄は無くして、一つ一つの催しを素直に楽しんだ。
 そうやって屋台を見て回るうち、いつのまにか会場の外れに出てしまう。先には屋台も人影も無く、林へ続
く細い道が一本あるだけだった。
 戻ろうか、とフェイトに声をかけるが、フェイトはその場に立ち止まったまま何かを見つめていた。

「どうしたんだ?」
「ほらクロノ、蛍がいるよ」

 フェイトが指差した先で、わずかに緑色を帯びた光がふよふよと飛んでいた。花火大会が行われる近くの川
で生まれたものだろうか。

「きれい……。私実際に見るのは初めて」
「僕もだよ。そういえば海鳴では見なかったな」
「海鳴はそこそこ都会だからね」

 蛍はそのまま、林の奥へと飛んでいく。
 誘われるように、フェイトが後に続いた。止めようとしたクロノだったが、ちょっと思い直して自分も後を
についていった。
 そこまで深い林でもないし、ちょっとぐらいの危険ならクロノもフェイトも自力で抜け出せる力はある。蛍
見物の風流もたまにはいいだろう。
 林の道は案外広く、左右の木も生い茂ってはいなかった。梢の合間から漏れた月光の中を蛍が舞うところな
ど、まるで一葉の絵画のようだった。
 神秘的な夜の景色をゆっくりと楽しみながら歩いていたクロノだが、数歩先を行っていたフェイトがいきな
りぴたりと立ち止まった。
 どうしたんだと訊くより先に、クロノの耳に入ってきた声があった。

「……っはぁ……くぅん……」

 ほんの微かだが、うめくような声と荒い息遣いが林の奥でする。
 まさか急病で苦しんでいる人でもいるのかと気色ばんだクロノだったが、次の言葉で肩に入った力ががっく
りと抜けた。

「もっとぉ、おちんちんで私のあそこいっぱい……ああん!!」

 声自体に聞き覚えは無かったが、似たような色の声はいくらでも聞いたことがあった。夜中にフェイトと一
緒にベッドの上であれやこれやをしている時に。
 よくよく聞けば似たような声があちこちから流れてきており、眼を凝らせばもぞもぞと動く二人分の人影が
そこかしこにあった。ついでに鼻にも、なにやら生臭い匂いが漂ってきた。

(…………これはあれか!? ハッテン場という奴なのか!?)

 祭りの熱気に当てられて、ついつい大胆になってしまうカップルがいるという話は聞いたことがあった。実
際に眼にしたのは初めてだが。
 フェイトも気づいたのか、夜目にも明らかに顔を真っ赤に染めていた。

592七夕の宵:2009/07/07(火) 23:40:37 ID:JobguD02
「ほ、ほらフェイト、戻るぞ」

 フェイトの袖を引くクロノだが、フェイトの足は動かず顔だけがこちらを見上げてきた。
 紅の瞳に微妙だが妖しい色が灯っているのを見て、クロノは嫌な予感を覚えた。
 そして予感はフェイトの言葉で現実となった。

「私達も…………しない?」
「…………何を言ってるんだ君は」
「だってほら……他にもいっぱいしている人がいるし……」
「人数の問題じゃない。ここは一応公共の場だ。見つかったら警察を呼ばれたって仕方ないんだぞ」
「ここミッドチルダじゃないから、結界張ったら絶対ばれないよ」
「それにしたって、何もこんな屋外で……」
「家に帰ってからだと深夜になっちゃうし……明日からまたクロノは航海でしょ。その前に一回でいいからし
たいなあって……」

 本来理性的で聞き分けのよいはずのフェイトが、妙に意地を張って駄々をこねる。
 クロノも必死で言い聞かせようとするのだが、どうやってもフェイトを説得できそうにない。
 ついには、クロノの腕を抱いてぴったりとくっついてくることまでしてきた。

「それに私の願い事。クロノがこういうことしてくれないと…………絶対かなわないんだよ?」

 だからといって別に今日しなくてもいいだろとか、それにしても場所を考えるんだとか、反論の言葉はいく
らでも思いついた。
 しかしいつの間にかクロノも、周囲の桃色気配に当てられて心が揺れ動いていた。
 なによりかにより、潤んだ目で上目遣いをしてくるフェイトが、殺人的なまでに色っぽい。浴衣から覗いて
いる首筋から胸元にかけて、うっすらと汗ばんでいかにもおいしそうなのもまずい。
 とどめに、二の腕にはフェイトの胸が強く押しつけられていた。浴衣越しでもはっきり感じる豊かな胸は、
腕をふにふにと包んできて、否が応でもクロノの内にある雄の部分を刺激してくる。
 ついにため息をついて、クロノは常識とか理性とかそういったものを投げ捨てた。

(…………フェイトは僕の弱点すぎるな)

 彼女に本気で懇願されたら、どんなことでも自分はやってしまいそうだった。
 クロノの雰囲気が変わったことを敏感に察したのか、期待するような眼をしているフェイトに、クロノは顔
を近づけた。

「一回だけだぞ」

 言葉だけでなく、キスでも承諾の返事をする。舌をちょっと入れると、強く絡めてありがとうと答えてきた。

「本当に君は時たまどうしようもなくいやらしくなるな」
「…………こんな私、だめかなクロノ?」
「いいさ、かまわない。僕だって、似たようなものだ」

 よくよく考えてみると、自分の方が色々と強引にフェイトを抱くことが多い気がする。
 どこまでも似た者同士かと思いつつ、道を外れ周りに同類のいない場所へと二人は場を移した。一本の木の
周りに、防音と姿が見えなくなる結界を簡単に張ると、仕切り直しにもう一度唇を重ねる。
 今度は舌を絡ませるだけではない。クロノは両手でフェイトの胸に触れた。
 腕よりもずっと神経が通っている指先で触れると、改めて柔らかさと張りが感じられる。徐々に触るから揉
むへと力加減を変えていくクロノだったが、フェイトがむずがるように身体を揺らした。

593七夕の宵:2009/07/07(火) 23:41:21 ID:JobguD02
「待って……待ってクロノ」
「……やっぱりやめるのか?」

 今更そんなこと言われても、今度はクロノが止まれそうになかったが。

「ううん、そうじゃなくて、下着だけ脱ぐから。汚れちゃったら替えがないから。……浴衣もそうだけど、こっ
ちはそういうわけにもいかないし……」

 さすがに野外で全裸というのには抵抗があるらしい。
 一度身体を離したフェイトが、浴衣の合わせ目からブラジャーを抜き取る。続いてショーツを下ろし、足首
から抜いた。
 見た目には何も変わっていない。しかし浴衣で隠された下に、完全に無防備になった乳房と秘所があるのか
と想像しただけで、クロノの血の熱さが増した。
 もうクロノは胸などという遠回りをせず、フェイトの浴衣の裾から手を突っ込んだ。

「あっ……」

 いきなり肝心な部分に触れられたフェイトが驚きの声をあげるが、クロノは気にもとめない。
 乾いていてもなお柔らかい恥丘。思わずそのまま指を進め奥の奥までかき回したくなるが、なんとか自重す
る。代わりに割れ目の上から下まで、やや強めに擦った。
 逆の手もクロノは遊ばせない。
 浴衣の上から乳首を探り当てると、持ち上がろうとしているのを逆に埋め込むように強く押し込む。残りの
指でも胸全体をたぷたぷと揺らすように揉みしだいた。
 下着一枚無くなっただけで、フェイトの乳房はまろやかさを増していた。指に吸いつくように柔らかい。
 指先が頭に直結したかのようにくらくらする。
 耳の裏側。匂いが凝縮された場所に鼻をおしつけると、フェイトの甘い香りがした。そのまま露出している
うなじへ舌を滑り落としていく。
 フェイトの首の裏が唾液でねっとりと濡れ、月光を反射する。摺り込むように舌を動かせば、自分の唾液以
上に汗の味を感じた。ただの塩が、とんでもなく甘美に思える。

「んぅ………はぁ……ん……」

 クロノが指を、舌を動かす度に、フェイトの吐息が急速に色づいていく。
 身体からは力が抜け、背中は木にもたれかかり、腕はすがるようにクロノを抱きしめていた。
 なすがままとなった腕の中の肉体を、ますます激しくクロノは愛していく。
 上から揉んでいるのが面倒になり、襟を引っ張り胸を露わにした。直に触りたい以外特に何も考えずにした
行為だが、意外な結果を生んだ。
 浴衣の襟が乳房を根元から絞り出すようになり、ただでさえ大きな胸が前に突き出るようになる。
 フェイトが身を少しよじっただけで、ぶるんと大きく乳房が揺れる。
 その光景を見て、また我慢が一つきかなくなった。
 双丘の上に突き出た可憐な乳首に、クロノはしゃぶりついた。
 中身を吸い尽くす勢いで吸い、甘噛みし、舌で舐め尽くす。

「やあん! 胸、そんなに……!」

 力を失っていたフェイトの手が、クロノの頭に置かれる。
 言葉と相まって胸への愛撫を拒否しているようだが、手は押し離すのではなく、もっとしてと自分の乳房へ
押しつけていた。
 フェイトのスイッチは、もう完全に雌の方へと切り替わっている。
 花弁を弄くっているクロノの指も、とっくにびしょ濡れだった。指どころか手首まで滴り、まるで愛液で洗
い流されているようである。

594七夕の宵:2009/07/07(火) 23:42:13 ID:JobguD02
「ずいぶん、濡れるのが早いな」
「結界張ってても、外でしてるとやっぱり……ああんっ…………興奮するね……」

 フェイトだけではない。クロノの股間も猛りに猛り、浴衣の前を大きく持ち上げていた。
 先走りで幹が濡れていくのが自分で分かる。
 ベッドの上では感じられない、夏草や土の匂い。湿気を帯びた空気。それだけで、興奮が普段の倍以上にな
る。

「僕にもしてくれ。我慢できない」

 フェイトの手を自分の股間に導くクロノ。
 すぐに強すぎず弱すぎず、絶妙の力加減で肉棒に指が絡む。一度しごかれただけで、背筋を快感がうねった。
丸みを帯びた先端を爪でくにくにと弄ばれると、腰が抜けそうになった。
 やっていること自体は、自分でしている時と変わりないはず。なのに、気持ちよさが全く違う。一切をフェ
イトに委ねてしまえば一瞬で放出してしまいそうな魅惑の指技。
 クロノも負けじと、フェイトの花びらの中心へと指を進めた。
 我慢できないとばかりに、秘肉が指に絡みつく。ただ締めるだけでなく、細かく動いて指を蕩かそうとして
くる。まるで咀嚼するような動き。

「ふぁ……あ……やぁ。クロノのこんなにぱんぱんで、出したがってるよ。ほら……出しちゃって、いいんだ
よ」
「君こそ、こんなに咥えこんでるじゃないか」

 果てさせる速度を競うように、二人は指の動きを大きくしていく。
 先に限界が来たのは、やはり先に攻められていたフェイトだった。

「ああん! イッちゃう、イッちゃうよおぉぉ!!」

 叫びが木々の間で尾を引き、がっくりとフェイトの頭が垂れる。
 それでも右手だけは、クロノの肉棒を離さず
 フェイトが先にイッた今、意地を張る必要は無い。クロノは腰の衝動任せに、一気に放った。
 宙を飛んだ精液は木の幹にべったりとひっかかる。まるで樹液のようにたらたらと白い液体が垂れていく。
 放出した量はかなりのものだったが、一度出したごときでは足りないにもほどがある。フェイトの中で果て
ないと、身体も心も収まりがつかなかった。
 我慢できないのはフェイトも同じだった。絶頂を迎えたばかりなのに、顔全体を淫らな色に染めながらクロ
ノをじっと見つめてくる。

「……するぞ」
「うん」

 食事を目の前に置かれた犬のような顔で、フェイトが頷く。もう頭の中にはクロノとのセックスのことしか
ないのだろう。
 木にもたれかかったままのフェイトの股間に、自分の性器を押し当てる。
 充分濡れているのに、入っていくのに抵抗がある。何度か入り直すのだが、角度が上手くいかない。
 つい焦れたクロノは強引に根元まで挿入れたが、表面が強く擦られ痛みが走った。フェイトの眉も、苦しそ
うに歪んでいる。

「きついのか?」
「大丈夫……平気だからクロノ動いて」

 そう言うフェイトだが、軽く二、三回動かしただけで辛そうに唇を噛んだ。
 立位は女性に負担が大きい上、二人の身長差もあって奥まで深々と刺さりすぎている。亀頭が子宮口にめり
込みかけていた。これでは痛みが勝って当然だった。
 ふぅと息をついて、クロノはフェイトの中から出た。

595七夕の宵:2009/07/07(火) 23:42:56 ID:JobguD02
「……この体勢だと無理だな」

 やめないで、とフェイトが言い出すより先に、クロノは行動をもって答えた。
 フェイトの腰に手を回すと、一気に持ち上げた。
 腰の高さが揃ったところで再度腰を突き入れれば、最初のつかえが嘘のようにスムーズにいった。かといっ
て緩いわけではない。きついくせに、柔らかい。愛しい女と繋がっている時でしか体験できない感触。
 いっぺんに腰の動きがトップスピードに入った。突き上げる勢いでフェイトの身体が、がくがくと揺れる。
 持ち上がったフェイトの足から、下駄がぽたりと落ちた。

「くっ、あぁっ……うあぁ……!」
「ん………んんぅ……んっ!」

 脳髄を直撃してくる快感に、クロノの口からは鋭い叫びが勝手に出てくる。
 しかしフェイトの声はくぐもっていてはっきりしない。
 なぜだと閉じていた眼を開ければ、フェイトの口は浴衣の襟元を噛みしめていた。

「……フェイト、声を聞かせてくれ」

 耳朶を舌で舐めながらクロノは囁いた。

「僕以外聞いてない。だから、君の声を聞かせてくれ」

 交わっている間だけ上がる、フェイトの甘い啼き声。それを耳にすることができるのは、この世でクロノた
だ一人。だから、思う存分聞かせてほしい。
 フェイトの唇が、襟から離れる。

「ひっあ、ああっ、うあっ!! 気持いいよぉクロノっ!!」

 フェイトの嬌声に押されるように、クロノは腰だけでなく抱えたフェイトの身体も揺らして快感を貪る。
 全身の筋肉を使ってのセックスに、体内の酸素がすぐに燃え尽きた。
 一度止まり、喉を鳴らして荒い息を吐くクロノ。フェイトの口も嬌声こそ止まったが、身体全体で呼吸する
かのように喘いでいた。二人とも、交わることだけ考えている獣の息。
 ちょっとでも呼吸が整えば、インターバルに終わりを告げてまたクロノは突き上げる。
 フェイトも不自由な体勢ながら腰を振って答える。
 二人とも相手に合わそうなどと微塵も考えていないくせに、なぜかテンポだけは合っていた。
 恥骨同士がぶつかると、気が狂うぐらい気持ちいい。
 浴衣は二人ともとっくにぐしゃぐしゃだった。頭の中はもっとぐしゃぐしゃだった。
 もうどうでもいい。狂おうがなんだろうがどうでもいい。快感ですらどうでもいい。どうでもいいまま、ク
ロノは叫んだ。

596七夕の宵:2009/07/07(火) 23:43:41 ID:JobguD02
「いくぞフェイト!!」
「きてぇ、クロノ!!」

 一瞬、足元が消え去ったような浮遊感がきて、次に怒涛の波が押し寄せてきた。
 肉棒だけでなく、思考から肉体全てまで弾け飛ぶような絶頂。
 どくどくと快感の塊を迸らせながら、クロノは恍惚の彼方に至った。

「あっ、ああっ、はぁぁぁぁん!!!!」

 このまま気を失うかと思うぐらいの射精だったが、どれだけクロノの精が強くても終わりはやってくる。腰
からくる快感が少しずつ小さくなり、やがて途切れた。

「…………すごく気持良かったよ、フェイト」

 疲弊の汗を顎から垂らしつつ、フェイトに口づける。
 一度結合を解こうとするクロノだったが、フェイトの足がくっと絡んできて腰を引きとめた。

「まだ抜かないで。もうちょっとだけ…………このままでいて」

 フェイトの言うとおり抜くのは止めて、クロノは事後の膣をデザートのようにゆっくりと味わう。
 セックスの最中の灼熱の熱さは失せたが、ぬるま湯のようなゆったりとした温かさでクロノの分身を包んで
いる。
 激しい交わりにフェイトの髪の毛が解けていた。顔を埋めて匂いを嗅ぐと、甘酸っぱさが鼻腔に広がった。
始める前にも嗅いだが、微妙に違う。どちらもクロノにはいい匂いなことに変わりはなかったが。
 足元では夏虫の鳴き声。あとは二人の呼吸の音だけがする世界。そこに、大きな音が響き渡った。

「……花火、始まったね」

 ドーンドーンと遠くで連発で鳴る音と、空に輝く光の華。
 繋がったまま、しばらく二人は大輪の花火に見とれた。
 だがすぐに二人の視線はお互いの顔へと戻る。
 夜空に咲く花もきれいだが、目の前にあるフェイトという花よりきれいなものなどこの世にありはしなかっ
た。
 最初に一回だけと言ったことなどとうに忘れて、クロノは囁いた。

「……もう一回しようか?」
「…………うん」

 小さく頷いたフェイトが、仕草で下ろしてくれと促してくる。
 地面に下ろしてやると、木に手をついて腰をこちらに突き出してきた。
 汗ばんだ白い尻と、腰から足へかけての淫らな曲線が丸見えのはしたない格好。
 思わずクロノは唾を飲み込んだ。

「あのままだとクロノが大変だから、今度はこうやって、して」

 誘われるまま、クロノは腰を突き入れる。
 花火の弾ける音に混じって、艶やかな喘ぎが林の中に響いた。

597七夕の宵:2009/07/07(火) 23:44:21 ID:JobguD02
          ※




(そんなこともあったね)

 手にした団扇で風を送りながら、フェイトは思い出を振り返っていた。
 今日は七夕。二人はまた、数年前に訪れた祭りにやってきていた。
 あの日と同じ雰囲気の祭り会場。クロノとフェイトが来ている浴衣も当時と同じ物で、時間が数年前に巻
き戻ったような気がした。
 しかし完全に違うことがある二つある。二人の年齢が数歳上がったことと、二人きりではなく三人で来て
いることである。

「父さん母さん、早く早く!!」

 一緒に来ている三人目、クロノとフェイトの息子が興奮を隠し切れない様子で手を振ってくる。
 フェイトも手を振って答えながら、クロノに語りかけた。

「七夕の願い事、本当にかなったね」

 七夕の夜に受胎したのかどうかは不明だが、七夕祭りから間もなくフェイトは妊娠し、十月十日後には無
事子宝に恵まれた。
 フェイトの願いだけではない。クロノの願いもかない、今日まで大怪我をすることもなく家族は全員元気
だ。

「ねえクロノ、今年はどんなことお願いしようか?」
「芸が無いけど、あの時と同じで家族の安全にしようと思ってる」
「私もあの時と同じかな。クロノの子供はもっと産みたいし」

 お面屋の前で足を止めて眼を輝かせている息子に眼をやりながら、フェイトは少し色気を混ぜた声でクロ
ノの耳元で囁いた。

「今度も林の中でする? もう一人できるかもしれないよ?」
「ば、馬鹿なこと言うんじゃない!」

 顔を真っ赤にして照れるクロノがまるで子供のように可愛くて、フェイトくすくすと微笑む。
 楽しい七夕祭りの夜は、まだ始まったばかりだった。




          終わり

598サイヒ:2009/07/07(火) 23:45:26 ID:JobguD02
以上です。
浴衣といったら野外エロ。これ世界の常識。
でもせっかく祭りネタなんだからチョコバナナ挿入とかやっても良かったかも。


クロフェで尻成分が皆無な話を書くのはいったい何話ぶりでしょうね。
クロフェ=尻がもはやエロパロの共通認識になりつつあるのは本当にどうなんだか。
いやまあ、尻は書くのも読むのも大好きですけどね。
ユーフェで尻を書いてたお方が帰ってきてくれないかなぁ。


>シガーの旦那
こいつはいいニヤニヤ話。
シグナムさんが短冊見つけた後の話も読みたい。

599名無しさん@魔法少女:2009/07/08(水) 05:22:55 ID:hdspfEoM
野外クロフェGJ
浴衣エロスww
チョコバナナをしれっとフェイト嬢の尻に突っ込む提督の姿がみえたのは俺だけで無い筈

600名無しさん@魔法少女:2009/07/08(水) 17:12:05 ID:AusC3mrM
>>浴衣といったら野外エロ。これ世界の常識。

全力で同意。
アレだよね、浴衣を着たらもうエロス力が300%は増すよね?
しかも相手はフェイトです、もう反則です。

GJっしたサイヒ氏!


それと、シナイダ氏のお尻フェイト復活もまた同意ですだよ。

601名無しさん@魔法少女:2009/07/08(水) 21:07:44 ID:XgNkXfOk
>>529
なのスカお待ちしてました。
今更ですがGJ!

602( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 18:52:53 ID:raDydbq2
投下行きます。

今回、JS事件の真相の独自解釈としてかなり聖王教会ヘイトです。
苦手な方や、カリム、ヴェロッサのファンの方は特にご注意ください。

その他の注意事項
・オリキャラ・準オリキャラ注意
・捏造設定オンパレード注意
・TUEEEEE注意
・NGワードは『熱き彗星の魔導師たち』

603熱き彗星の魔導師たち 30-01/10 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 18:54:06 ID:raDydbq2
 クラナガン。
 時空管理局陸士総隊・地上本部と、市の中枢部である官庁街のある中央区画、その北部
側の区画沿いからさらに市境まにで東西に向かって延びる線に封鎖用のバリケードが築か
れ、陸士隊と暴徒のにらみ合いが続いている。
 奇妙な光景だった。一部で管理局施設への放火他破壊活動は見られるものの、一般市民
への暴力行為のない暴動。確かに奇妙だが、明快でもある。

熱き彗星の魔導師たち〜Lyrical Violence + StrikerS〜
 PHASE-30:Stupid sage.

 シングルナンバー、陸士総隊の中では数少ない、次元巡航警備部本部や、航空戦技教導
隊(通称・空)と比較しても遜色のない精鋭部隊。今はそのすべてがこの封鎖線の要所に固
められていた。
 だが……
 ────シングルナンバー、分けても私達陸5の本来の強みは機動力……膠着状態から
数で圧されることになれば……
 ちらちらとこちらを伺う暴徒の群れを、バリアジャケットとデバイスを展開したまま、
直立不動で睨みつつ、クイントは声には出さずに呟いた。焦れる。汗が流れる。
 ────だが、今出て行っても多勢に無勢……被害が大きすぎる! 許容できない!
 既に、次元巡航警備部の治安維持部隊である、首都防空隊は壊滅の憂き目を見ている。
再三の地上本部側の封鎖線退行と無用の戦闘の回避を勧告したが、本局からの指示を盾に
応じなかった。彼らの能力は概ね自分達を上回っていたが多勢に無勢すぎた。
 あるいはシールドの扱い方については陸士隊側に一日の長があったのだが、それはクイ
ントを含め双方が気付いていなかった。
 彼らの犠牲は心苦しいが市街地での戦闘行為は避けよと言う直接の指令に反するわけに
は行かなかったし、直接預かる部下を危険にさらすわけにも行かない。ジレンマだ。クイ
ントは臍をかんだ
 ────あるいは、彼らの突入は……
 パタタタタ……
 クイントの思考を遮って、発砲音が聞こえてきた。バチバチと小口径だが高初速の弾丸
が、ミッドチルダ式のシールドに阻まれて弾ける。
 クイントがそれを知る由もなかったが、弾丸の正体はM193 .233Cal小銃弾だった。別名、
5.56mmNATO弾。
「大丈夫です、あの程度では貫かれませんよ」
 クイントが発砲音に不快な表情をすると、背後からそう声をかけられた。
「他の部隊も……分散さえされなければ守りで負けることはありませんよ、なんたって彼
らは────」
 振り返ったクイントに、苦笑気味に部下がそう言いかけた時──

604熱き彗星の魔導師たち 30-02/10 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 18:54:37 ID:raDydbq2
『レジアス・ゲイズ中将、殉職!』
 念話による通信で、そう伝えられてきた。
 どよ……
 封鎖線を守る陸士隊に、動揺が走る。
「うろたえるなぁっ!」
 クイントは声を張り上げた。わざと、男口調で乱暴に言う。
「ここが堕ちれば法治体制の敗北につながる! 中将の死を無駄にしないためにも、総員
現封鎖線の維持に全力を尽くせ!」
 ────とは言ったものの……
 クイントは焦れる。彼女以外の指揮官からもそのような一括があったか、浮き足立つよ
うな状況は抑えられたが、それでも動揺そのものを完全に拭い去ることは出来ない。
 ────なにか……ないかしら……状況を好転させる材料は……
 クイントが、険しい表情で前を睨みつつ、そう焦れたときだ。
 ざわわ……
 暴徒の側に、よりいっそうの動揺が走った。
「…………なに?」
 明らかに浮き足立ち始めた。それもかなりの動揺が見て取れる。
「何があったの……?」
 クイントが半ば呆気に取られかけた時、その問いの回答になるべき情報が、オットーか
らの念話という形でもたらさせた。
『状況、「聖王のゆりかご」は管理局のコントロールに入りました』
「!」
 クイントは理解した。この暴動はスカリエッティによる『聖王のゆりかご』のクラナガ
ン侵入に呼応して起こったものだ。というより、スカリエッティによって起されたものだ
ろう。だが、その『聖王のゆりかご』が管理局の手に落ちた今、その場の勢いで参加した、
おそらくは大半の参加者は、冷や水をかけられた状態になったのだ。
「第5陸士隊、総員、突入準備! ただし突入はまだ!」
「了解!」
 クイントの声に、ローラーブレード型デバイスで統一された第5陸士隊の面子が答える。
『Loud voice』
 ソニックキャリバーのシステムボイスが告げる。
『被疑者全員に告ぐ!』
 地球の電子拡声器を経由したように、クイントの声が周囲、主に前方に向かって、響き
渡った。
『ジェイル・スカリエッティによって不法に運用された巨大艦は、時空管理局の制御下に
入った! 諸君等に援護は無い、不法行為を止め解散せよ!』
 さらに大きな動揺が、群集に波打つように広がった。

605熱き彗星の魔導師たち 30-03/10 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 18:55:19 ID:raDydbq2
『繰り返す、不法行為を即刻中止して解散せよ! さもなければ5分後に突入を強行する!
こちらは時空管理局陸士総隊・ミッドチルダ地上本部第5陸士隊!』
 果たして────
 群集の多くはクイントの呼びかけに、じりじりと後退りするように、封鎖線から距離を
とり始めた。
「ふぅ……」
 緊張状態の山場は越えたか、そうクイントが安堵の息を漏らしたとき。
 タタタンッ!!
 群衆の中から発砲音が聞こえてきた。弾丸はしかし、封鎖線の陸士隊が張ったシールド
には着弾しなかった。
「いけない、陸5、突入!」
「了解!」
 正確には5分を経過していなかったが、クイントは突入命令を出した。
 暴徒の一部、確信犯、つまりこの暴動を扇動した過激分子が、暴走しだしたのだ。
「逃げる市民は極力構うな、必要があれば保護、そして過激派構成員の身柄を確保!」
「了解!」
 精鋭・シングルナンバーの中でも最高の機動力を誇る第5陸士隊は、隊長、クイント・
ナカジマの陣頭指揮下、逃げ惑う群衆の中にたちまちのうちに浸透した。
 その中で、質量兵器──地球製アサルトライフルを振り回している暴漢を、バインドや
直接打撃で抑え、拘束していく。
『Ring bind』
 ソニックキャリバーシステムボイスと共に、パワーロードナックルから青紫の光のリン
グが飛び、銃を手にしていた男の1人を拘束した。
 第5陸士隊に呼応して、他のシングルナンバー部隊も行動を開始していた。先導されて
いただけの市民と、煽動していた過激派、それにXI系戦闘機人がふるいわけられた。
 厳密には前者にも犯罪行為の立件は可能だろうが、数が多すぎるし、なによりこの事態
を沈静化することが最優先だった。

606熱き彗星の魔導師たち 30-04/10 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 18:56:02 ID:raDydbq2

「少し動きがあったようだぞ」
 シグナムが言う。
 クラナガン・北方中央区画、上空。
 その市街地は暴徒に占拠されており、陸路を移動することはかなわない。レンに先導さ
れて、はやてとシグナムは空から聖王教会へと向かっていた。
「ホントや。まぁいいほうに転んでくれればええけどな」
 くるっと、半分でんぐり返ったような姿勢で、レンは地上を見下ろし、そう言った。
「そうだな……」
 シグナムも、それ自体には特に他意はなく頷いた。
「…………」
 はやては一瞥もせず、ただ軽く顔を上げて前を向き、飛行を続けた。
「…………主……」
 シグナムははやての様子を見て呟いてから、レンに接近し、
「レン、本当に主はやてをお連れしなければならないのか?」
 と、耳打ちした。
 どこかキョトン、としたような表情で聞いたレンだったが、すぐに、憤りと哀しみが織
り交ぜになった表情になった。
「見届ける必要、あると思う。私も、はやてちゃんも、シグナムも……」
「…………そうか」
 遣る瀬無いといったような表情で、シグナムは呟いた。
 やがて郊外へ抜ける。住宅街にはそれほど暴動の傷跡は無かった。それでも大きな通り
には、ゴミだのが散乱し、整然とした街並みは見るも無残だった。
 そしてその中、ひときわ大きな、しかし古風な聖堂と、付属する鉄筋の建物が見えてき
た。
 3人が聖王教会に降り立つと、そこには、3人の知る顔が複数、立って待っていた。しか
し、その中の1人は、少なくともはやてにとっては意外な存在だった。
「グリフィス君!? どうしてここへ?」
 はやてが素っ頓狂な声を出す。
 グリフィスの表情も重々しい。
「どうしても地上本部から運ばなければならないデータがありまして……アリシアさんと
アルフさんに運んでいただきました」
「アリシアちゃん? アルフ? けど、2人の姿は見えへんようやけど」
 はやては辺りを見回すような仕種をして、そう言った。
「2人は今は『ゆりかご』の中」
 答えたのは、アリサだった。
「ユーノと一緒に、ギンガのサポートに当たってもらってるわ」
「え、それってどういう意味や?」

607熱き彗星の魔導師たち 30-05/10 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 18:57:05 ID:raDydbq2
 状況がわからないはやては、怪訝そうに聞き返す。
「それについては……後。今はまず……」
 アリサは言って、聖王教会の聖堂を見上げた。
「決着をつける必要があるわ。行くわよ」
 そう言って、歩みを進める。
 続くのは、フェイトと、ウェンディ、ティアナ。
「行くで、はやてちゃん」
 レンに促され、はやて達がその後を追う。

608熱き彗星の魔導師たち 30-06/10 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 18:57:48 ID:raDydbq2

 はやての一行が訪れたと伝えると、カリムは自らの執務室に通した。はやてはよく知っ
ている。クロノやカリムと6課について会談したり、お茶会をしたりしている披露目の部
屋だ。
「それで、機動6課の皆さんは、今日は何の御用でしょうか? この火急の際に来られたか
らには、相応の理由があるかと思いますが」
 カリムはよそよそしい態度で、慇懃にそう言った。
 確かに、状況を考えればそれは真っ当な言い分だ。またアリサやウェンディと言った、
地上本部の人間がいることも、態度が余所行きのものである理由だろう。
「カリム、あたしは……」
 はやてが何か言いかけたのを、アリサが腕で制した。
 そのまま、ずい、と前に出る。
「たしか、聖王教会には騎士団って呼ばれる自警部隊があるって聞いたけど? 騎士カリ
ム」
 室内を値踏みするように見回しつつ、アリサは挑発するようにそう言った。
「教会騎士団でしたら……今は出払っております、管理局の暴動鎮圧に協力する為にです
よ」
 カリムはにこやかに笑い、自慢するようにそう言った。
「おかしくないかしら? むしろ、この状況だったら、教会騎士団がまず守らなきゃなら
ないのはここじゃないの?」
 アリサは流し目でカリムを見て、口元で薄く笑った。
「いいえ。聖職者たるもの、まずは民の救済が第一ですわ。聖王家がそう望まれたように」
「なるほど、辻褄は合うわね」
 カリムが動じずに、やんわりと言い返すと、アリサは口元に指を当てて、軽く見上げな
がらそう言った。
「一体、何が仰りたいのですか?」
 アリサの無礼と言えば無礼な振る舞いに、カリムが焦れたような声を出す。
「この手の謀略とか事件ってね」
 アリサは笑みを消し、カリムを睨むように見た。
「最初と最後で一番得したやつが犯人、首謀者なのよ」
「はやてさん!」
 カリムは急に、苛立ったような声を出し、視線をはやてに向けた。
「スマン……カリム、もう、アリサちゃんはあたしの指揮下にあらへんのや」
 申し訳なさそうに俯き、はやては小さな声で言う。
「スカリエッティは……本人にも利害があったのは確かだけど、基本的にはエンジニア。
事件を起す財力も無ければ、成功した所で精神的な満足を得られるだけ……もっとも、あ
のパラノイアには、それだけでも充分な動機になるかもしれないけど」
 アリサはカリムに僅かにすめよる。わざと足音を強めに立てて、カリムを自分に向けさ
せる。

609熱き彗星の魔導師たち 30-07/10 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 18:58:54 ID:raDydbq2
「今回の事件、誰が一番リスクが少なくて、成功した時に得るものが多い……? そう…
…いわば革命に成功すればよし、失敗したとしても、管理局内の抵抗勢力の排除、ベルカ
聖王の復活、それも夜天の王と揃って……ベルカの発言力は増す、つまり、聖王教会の
ね」
「面白い仮説ですね……本当に聖王教会がスカリエッティの犯罪に関与しているとでも?」
 カリムは鼻を鳴らして笑い、そう言った。
「それでは、少将閣下」
 そう言って、アリサの隣にグリフィスが進み出てきた。その手に、高密度データディス
クと一部のハードコピーが握られている。
「貴女の権限で行われている、地上本部医療センターのデータベースへの定期的なアクセ
ス……参照されるファイルはディエチ・ロウラン、オットー・レックス、ウェンディ・ゲ
イズのメンテナンス記録と……トェリー・タッカーの定期診察カルテ」
「トェリー・タッカー?」
 そう聞き返したのは、傍らのアリサだった。
「元、スカリエッティ製戦闘機人No.12……」
 グリフィスの答えに、アリサはあっと息を呑むような仕種をした。
 グリフィスはアリサに答えてから、視線をカリムに戻す。その表情には、にわかに憎悪
の色が差した。
「これらの部外秘ファイルの参照は、それもアクセス経歴を義弟のヴェロッサ・アコース
査察官が消去しようとした事実は! 一体どういう説明をなされるのですか!!」
「スカリエッティの元にはあたしの稼動データが流れてたっス」
 アリサをはさんで反対側に、ウェンディが歩み出た。
 いつものおちゃらけた様子は微塵も無く、やはり表情は険しい。
「そのデータはクライアントが融通させていたって、スカリエッティ側のナンバーズから
の証言っス」
「あなたは、管理局少将にして聖王教会の騎士であるこの私より、犯罪者の証言を信じる
と言うのですか?」
「無条件にそうとは言わないっス。けど、それが正しいとするなら辻褄が合うっス。これ
について説明を求めるのは当然のことっしょぉ!?」
 カリムの苛立った声に、ウェンディは声を荒げて言い返した。
「この場で説明できないと言うなら、騎士カリム」
 アリサは先程までと異なり、淡々とした声で告げる。
「あなたの身柄を拘束、地上本部に連行させていただきます」
 じっとカリムを見据えて、そう言った。
「なぁ、カリム、言い訳すること、あんのやろ? なんか、別の理由、あったんやろ?」
 困惑しきった表情のはやてが、我慢しきれなくなったかのように顔を上げ、カリムに向
かってそう言った。

610熱き彗星の魔導師たち 30-08/10 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 18:59:47 ID:raDydbq2
「残念ですわ、はやて……」
「カリム!?」
 カリムはゆっくりと立ち上がる。
 それを合図にして、ダンッ、と、アリサやはやて達の背後にある。扉が弾けた。
 青緑と紫色の影が、アリサ達の頭上をすり抜けるように飛び越え、カリムとの間に割っ
て入るように、その目前に着地した。
 レオタードのような騎士甲冑、双剣形アームドデバイス『ヴィンデルシャフト』を構え、
カリムを庇うように立ちはだかる。
「しまった……!」
 アリサが言い、反射的に胸元のレイジングハートに手を伸ばす。その背後で、フェイト
が同じようにバルディッシュに手を伸ばした。だが、今から起動していたのでは、到底間
に合わない────
「待ってや!」
 自分より前にいた4人を制して、レンが前に踊り出た。
 正面でシャッハと対峙する。険しい表情で強い視線をシャッハに向けた。だが、まだジ
ルベルンメタリッシュを起動してはいない。
「ちょ、レン!?」
 レイジングハートをかけるネックレスのチェーンに手をかけた体勢のまま、アリサはレ
ンの後頭部に向かって、憤り半分、焦り半分の表情で声をかける。
「主君に仕えるを騎士の誇りととるか? シャッハ?」
 レンがシャッハに問いかける。
 しばしの沈黙──レンのその低く静かだが、はっきりとした声に、アリサたちの動きも
止まった。
「シャッハ!?」
 顔色を劇的に変えたのは、カリムだった。
 ヴィンデルシャフトの切っ先は、カリムの首先を狙っていた。
「私の使える主君は、聖王陛下であり望まれた平穏です。閣下」
 シャッハはカリムを睨みつけつつ、そういい切った。
「カリム・グラシア……閣下。ご同行願えますね?」
 フェイトがアリサより前に歩み出て、ニュートラルな表情でカリムを見ながら、事務的
な口調でそう言った。質問の形をとってはいるが、実質的に拒否は認めていなかった。
 カリムは憮然とした表情のまま、沈黙していた。
『オットー、取れてる?』
 悲嘆するはやてを痛ましげに見ながら、アリサは地上本部にいるはずのオットーに呼び
かけた。
『感度良好、なに?』
『カリム・グラシアを拘束したわ。暴徒煽動に参加している教会騎士団を逮捕させて』
『了解』

611熱き彗星の魔導師たち 30-09/10 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 19:00:33 ID:raDydbq2

 やがて、ヴァイスの操縦するJF705型ヘリが飛来した。そのまま執務室に軟禁されてい
たカリムを、フェイトがバインドで拘束したまま、ヘリのカーゴルームに連れて行く。
「主……」
 シグナムが、少しはなれたところで佇んでいるはやてに声をかける。カリムを軟禁して
いる間、はやては終始塞いだ様子のままだった。
「何でこんなことになってしもたんやろなぁ、あたし、こんなつもりやなかったんやけど
なぁ……良かれと信じて……」
「主……誰とてそうです。悪の為に悪を成す人間はそういません。私は……私達は何百年
もの間、そういう人間を見てまいりましたから」
 シグナムははやてを痛ましく思いつつも、キッパリとそう言った。
「わかっとる……免罪符になりはせんのや……せやけど……せやけどな……」
「主……」
 シグナムは目を伏せ、哀しげな表情で語り始めた。
「主はやて……10年前……主は弱く、また幼かった。だから、この事実を突きつけること
は出来なかった……もっとも、バニングスとスクライアはそうではなかったようですが」
「…………」
「ですが、今なら受け止めていただけるでしょう、あの裁定がただ、主に対する同情にお
いてのみ決定されたものではないと言うことを……」
「…………」
「そしてそれこそが、闇の書の“本当の闇”」
 そう言ったのは、シグナムの声ではなかった。
 はやてはシグナムと共に、軽く驚いたように声の主を振り返る。そこに、ユーノが立っ
ていた。
「ユーノ君!?」
「夜天の書を闇の書に変えた時と同じように……ベルカ夜天の王と最高峰のデバイスの復
活が、その強大な力が、周囲のあり方を歪ませてしまった。今回の事件は──10年前に、
既に始まっていた」
 はやては半ば唖然とした表情でユーノを見ていたが、シグナムの方はそれほど驚いた様
子は無く、むしろそれを肯定するかのような、険しく、どこか哀しげな表情だった。
「今回のスカリエッティと聖王教会の共謀は確かに、カリムの予言が出たことによって計
画されたものだよ。でも、その下地が出来上がったのは、あの『“最後の”闇の書』事件
の時だったんだ」
「そん、な……あたしは……みんな……友達、やって……」
 ユーノの柔和ながら断固とした言葉に、はやては愕然とし、震えながら絞るように声を
出す。
「主はやて、彼らの悪意によってあり方を変えられたのは、主自身でもあったのです」
 シグナムが険しい口調で言った。

612熱き彗星の魔導師たち 30-10/10 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 19:02:25 ID:raDydbq2
「あたし、も?」
「主はやて、私は……いや、我らヴォルケンリッター、その誓い覚えています。あなたの
望みは、我らに望んだことは────」
「…………何事も無く、平穏、みんなと楽しく暮らせる世界、ただ平穏に……」
 愕然とした表情で目を見開き、はやては呟くように言った。
「あはは……やっと理解できた……流されとるだけやんあたし……目先の言葉の優しさに
誤魔化されて、自分の望みとはまったく別の世界に引きずり込まれて、何も気づいとらん
かった」
「主はやて、それはとても難しいことなのです、あの頃のあなたにそれを求めるのは、無
理とは言わないまでも、厳しいものだったのです」
 シグナムは言い聞かせるように言ったが、ふと気がついたように視線をユーノに向けた。
「それとも、ただの逃げだったか。ただ自らの存在が消えることが惜しかっただけかも知
れん」
 自嘲気味に、シグナムは言った。
「それは、僕が答えられる問題じゃないよ」
「そう、だな」
 ユーノが答えると、シグナムは重々しい口調でそれを肯定する。
「ただ、自分の身が愛しいのは誰だって同じ、これは言える。自分を守れない人間に、他
人は守れない」
「そう言ってくれるとありがたいが……お前達には教えられる事ばかりだな」
「そうでもないよ。僕もアリサも10年前は大差なかった。4年前の事件が無ければ、僕達
もずっとそのままだったかも知れない」
 今度は、ユーノの方が自嘲気味に笑った。
「そうか……すると今回の最大の功労者は……」
「ティーダ・ランスター、ティアナのお兄さんかもしれないね」
 シグナムの言葉に、ユーノは静かに答えた。
「シグナム、地上本部に戻るで」
 姿勢を正したはやてが、2人の方を振り返ってそう言った。
「はい」
 シグナムは真摯に応じる。
「これから……管理局内の大掃除がまっとるからな」

613熱き彗星の魔導師たち 30-11/10 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/09(木) 19:04:59 ID:raDydbq2
>>603-612
今回は以上です。

シャッハも伏線はっといたとは言え唐突に出てきて唐突に動いた感じ……反省。

614名無しさん@魔法少女:2009/07/09(木) 21:24:05 ID:Z4ur5nVM
>>613
まさかカリム黒幕とは…いつも度胆を抜いてくれる(いい意味で)
原作アニメでも主役3人ともそんな感じしてたからちょっと胸がスッとした(ぉ

615F-2改:2009/07/09(木) 21:37:41 ID:zLJ/ONZY
どうも、初めまして。2145くらいに投下させていただきます。
話はクロノ×なのはで4部構成、エロは一部のみです。今回は第一部
を投下させていただきます。

616F-2改:2009/07/09(木) 21:46:20 ID:zLJ/ONZY
時間になったので投下させていただきます。



踏み出す一歩は誰のために 


第一話 休暇


休暇の上手な過ごし方とは、いかなるものか。
その年、二二歳になったクロノ・ハラオウンの悩みはしかし、答えなど見つかるはずも無かった。
執務官としての任務、自身が艦長を務める次元航行艦"アースラ"の整備状況、休暇初日だと言うのに脳裏を駆け回るのは仕事のことばかり。
趣味の一つや二つ、持つべきだったかな。仕事一本槍な自分に自嘲気味な苦笑いを浮かべ、クロノは目の前に並ぶ本の群れを見た。
結局彼が取った休暇の過ごし方は、読書だった。それも、読むのは医学書など娯楽とは程遠い代物。知識を増やすのは無駄なことではないし、いざと言う時に色々役に立つ
かもしれないからだ。
分厚い専門書を何冊か手に取り、値段を確認した上で――懐の中身については、使うアテがあまり無いので特に心配することも無いのだが――レジに持って行く。
会計を済ませて本屋を出たクロノはふと、上空を見上げる。雲一つ無い快晴、無限大に広がる群青の世界。時折吹く風は温かく、この地、海鳴市の地理的特性の一つである
気候の良さを物語っていた。
とりあえずは、帰るとするか。特に用事も無いクロノは、休暇中はいつもそこで過ごすマンションに向かった。ハラオウン家の現在の住居である。
もちろん、家には母リンディもいる。義妹フェイトも、その使い魔アルフも。家族の顔を思い浮かべるクロノの表情は、しかしあまりいいものではなかった。


"アースラ"が定期整備に入る直前、リンディから通信が入った。思えば、この時からすでに計画は動いていたのだろう。半透明のディスプレイに浮かぶ、母の笑顔はどうにも
きな臭かった。次の瞬間彼女の口から出たのは、「休暇を取りなさい」、この一言。
最初は固辞した。艦が定期整備に入るからと言って、艦長の仕事は無くならない。特に老朽化の激しいブロックなどは、整備の現場とも直接話して現状を知っておく必要があ
る。他にも電子装備のアップデート、定期交換部品、チェックするべき部分は山のようにあった。
だが、リンディとの通信中図ったようなタイミングで艦長室にやって来たオペレーターのエイミィが、「あぁ大丈夫大丈夫。ちゃんとおねーさんが責任持ってやっとくから。
クロノ君にはあとで報告書送るからいいよ」とか言ってきた。提督の委任状付きで。
しかし、クロノは食い下がる。艦を降りれば、人手不足の管理局にはクロノのような優秀な魔導師を必要としている部署もある。
これも通信中、図ったようなタイミングでフェイトが連絡してきた。「今大きな仕事無いから、私の方でやっちゃうね」とか言ってきた。提督の委任状付きで。
それでも、クロノは諦めない。あの仕事がこの仕事がと嘘でもハッタリでも何でも出す。
だけども、やっぱりリンディは通信回線の向こうで微笑を崩さなかった。「あなたのスケジュールは全部チェック済みよ」とか言ってきた。
万事休す。もはやどうにもならない。八方塞。四面楚歌。孤立無援。絶望を意味するあらゆる言葉が脳裏をよぎり、クロノは真っ白な休暇簿を持ち出した。
だからクロノは母に問う。そうまでして休暇を取らせる意味は何ですか、と。
すると母は、んーと、とわずかに考えたそぶりを見せて答えた。

「実はねー、この際ばらしちゃうけど"アースラ"のクルーからのお願いなのよ。艦長が休暇をほとんど取らないから自分たちが休み辛いって。だから休みなさい」

617F-2改:2009/07/09(木) 21:47:21 ID:zLJ/ONZY
言いたいことは分かるが、とクロノは海鳴市の商店街を歩きつつ、思考を巡らせる。上司が目の前で休まず働いているのに、自分たちだけ休む訳にはいかない。
そう思わせてしまった時点で自分は、知らぬ間に乗組員たちに負担をかけていたのだ。そこは反省すべき点だろう。もっとも、クロノとしては気にせず休んでくれていいのに
と言うのが本音だが。
――振り返れば、この時のクロノは考え事に集中するあまり、周囲の状況に対して緩慢になっていた。ゆえに、目の前をヨタヨタと歩く人影に気付けなかった。
どっと突然、正面からやって来た衝撃。人影は彼よりいくらか小さい割りに、それなりの質量を伴っていた。
しまった、迂闊だった――後悔する頃には足元がふらつき、脇に抱えていた専門書の重さが仇となり、クロノはアスファルトの地面に尻餅をついてしまう。

「ッテ!?」
「あ痛!」

ぶつかってきた人影の方も同じく、尻餅をついてしまった。持っていたコーヒー豆の瓶や砂糖の袋が、辺りに散乱している。
慌ててクロノは立ち上がり、痛そうにお尻をさする正面衝突の相手に手を差し出す。

「すいません、大丈夫です、か……」

手を伸ばしたと同時に出した言葉が、途中で小さくなっていく。クロノは自身の瞳に映る人物に、見覚えがあった。

「あ、いえ、大丈夫で、す……」

差し出された彼の手を取り、立ち上がる人物もまた顔を上げた瞬間、相手がクロノであることに気付く。
長く綺麗な栗毛色の髪。健康的な白く、しかし黄色人種特有の色を持った肌。決して美的センスがある方ではないと自覚するクロノでさえ、間違いなく美人と呼べる整った顔
立ち。対照的に服装は半袖に捲くったブラウスにジーンズ、黒を基調に真ん中辺りに「翠」とプリントされたエプロンと質素なもの。
――違う。見覚えがある、なんてものじゃない。僕は彼女を知っている。

「なのは?」
「あ……あー、嘘、クロノくん!?」

武装隊でその名を馳せるエースオブエース、高町なのは。紛れもない本物、正面衝突の相手は彼女だったのだ。


昼食の時間帯もとっくに過ぎた喫茶店、翠屋。人も疎らな店内のカウンター席にクロノは腰を下ろし、ブラックのコーヒーを飲んでいた。

「どうかな?」

突然、カウンターの向こうにいたなのはが、声をかけてきてクロノは「ん…」と顔を上げる。
視線の先にはカウンターに膝を突き、少し緊張気味の表情のなのはの顔があった。
エースオブエースが見せた少女らしい一面、しかしクロノがそれに気付いた様子はなく、投げかけられた質問に首をかしげるだけ。

「コーヒー。私が淹れたんだけど」
「あ、ああ……」

なのはの質問の意図を理解したクロノは、一口コーヒーを飲む。口の中に広がる独特の苦味、だが不快感はない。芳醇な香りが鼻腔をくすぐって、気分を落ち着かせてくれる。
極度な甘党の母の手料理、それの実験台にさせられた過去もあってか、砂糖も何も入ってないブラックのコーヒーは、クロノの好みにぴったりだった。
クロノは頷きながら、悪くないと答える。するとなのはは頬を緩ませ、「よかった」と呟いた。
衝突事故より十分後。偶然にも休暇が被っていたなのはは、翠屋の手伝いをやっていたそうだ。先ほどは買出しの帰り道だったらしい。
そこで例の衝突事故から久しぶりの再会を果たし、お詫びの印にクロノは買出し途中だったなのはの荷物を翠屋に運び、現在に至る。

「けど珍しいね、クロノくんが休暇って」

いかにも意外そうななのはの言葉を聞いて、クロノはわずかに苦笑い。どうやら自分には休暇を取らない、と言うイメージが定着してしまっているらしい。

「嵌められたんだ」
「ほえ? 誰に?」
「母さんとその他諸々に」

クロノの言葉に怪訝な表情を浮かべるなのはだったが、その意味を理解した時、なるほどねと笑ってみせた。
笑うことないだろとクロノは表情を曲げる。一応なのははごめんごめんと謝る仕草を見せるが、果たしてどこまで本意なのか。コーヒーのお代わりを注文した時でさえ、その
顔はにやけていた。

618F-2改:2009/07/09(木) 21:48:32 ID:zLJ/ONZY
「でも、クロノくんってホントに休暇取らないよね。なんで?」
「なんでって……」

それは君もじゃないか。言いかけて、クロノは口をつぐむ。なのははしっかり、休む時はしっかり休んでいることを思い出したからだ。休暇中にも関わらず家業の手伝いが出来
るのは、心に余裕がある証拠。
なのはの問いに思考を巡らせつつ、ちらっと彼は視線を上げる。カウンターに陣取ったなのはは、クロノがどんな回答をするのか興味津々と言った様子。他の話題を振るのもこ
のまま黙秘を貫くのも駄目だろう。模擬戦の時もそうだが、彼女との長期戦は不利だ。

「仕事しか知らないから、かな」

強いて言うならだが、と付け加えてクロノはコーヒーをまた一口。
回答を得たなのははふんふん、と頷き、いつぞやの猫のような姉妹の使い魔たちから聞いた話を思い出す。
父が死んだ日から、ひたすら訓練に明け暮れたクロノ。まだ十歳にもならない子供が、自分なりに感じた責任感を果たすべく足掻いた結果、魔力量ははるかに劣ると言うのに
自分と互角、あるいはそれ以上の力を手に入れて今に至る。
だが、それは同時にクロノから趣味や楽しみと言うモノを奪ってしまったようだ。本来なら遊び盛りの年頃の時代を、全て魔導師として成長するために費やした。
ならば、彼からそれが生かされる場所を奪ってしまえばどうなるか。そこまで考えて、なのははクロノの回答と自己の思考を重ねて納得する。

「そっか……」
「せっかく取った休暇だけど、今日も何をしていいか分からなくてね。こんなのでも読んで色んな分野の知識を深めようと思ってたんだ」

そう言って、クロノが足元の紙袋から取り出したのは分厚い専門書。医学関連が多いのは、現場で負傷した時、治療魔法が使えない場合を想定してるからとクロノは答えた。
専門書を手にとって、なのはは思わずうわぁ、と声を上げてしまった。パラパラとページを捲ると、小難しい専門用語に聞いたことも無い単語がずらっと並んでいた、少なく
とも休暇中、気晴らしに読むようなものではない。

「つまらない人間だね、僕は」

なのはの反応を見たクロノは、自重気味な苦笑いを浮かべる。仕事、管理局の任務に関わること以外にやろうと思うことがない。食事でさえ、忙しい時は調理不要で高カロリー
な、おそらく連食すれば身体に悪いことは間違いないレーションで済ませることは多々あった。

「駄目だよ、クロノくん」

ところが、どういう訳かカウンターの向こうにいるなのはの表情は、明らかに怒りが宿っていた。
何かまずいことを言っただろうか。自分のこれまでの発言を振り返ってみるクロノだが、特に彼女を怒らせるようなことを言った覚えは無い。
ならば何故に彼女は――疑問の答えは、他ならぬなのはの口から出てきた。

「もっと自分を大事にしようよ。つまらない人間なんて、言っちゃ駄目」
「いや……え? な、なんでそこで怒るんだい」

言ってみて、あっとクロノは気付く。
闇の書事件から二年後、ある次元世界の任務中、無理な行動を取ったなのはが重傷を負ったことがあった。命だけは助かったが、その後は歩けるかどうかすらも不明と告げられた。
血の滲むようなリハビリの末、現場復帰を果たしたなのはだったが――それ以来、上官部下問わず、無理を続ける者には必ずやめるように忠告するようになった。
彼女は知っているのだ。自分自身に無理を強いた結果が、どんな形で返ってくるか。自分を大事にしない者が、どんな目にあうか。

「……悪かったよ」

クロノはそんな彼女の事情を思い出して、わずかに躊躇した末に謝罪の言葉を口にする。

「けど、どうしたらいいのかな。どうすれば、僕は自分はつまらない人間なんて思わなくなるんだろう」

だが、自分が考える自身への評価は変わらない。変わる術を知らない。クロノ・ハラオウンと言う人間は、仕事ばかり出来るロボットのようなものだ。
そんな彼の言葉を聞いたなのははしかし、思いのほか気楽な返事をよこしてきた。

「簡単簡単。自分にあった趣味を見つければいいんだよ、これから」
「趣味、と言われても……」

口篭るクロノに、なのははまったくもう、とでも言いたげなため息を吐く。

「しょーがないなぁ、もう。ここは、私がエスコートしてあげる」
「えすこー……何?」
「なのはさんに任せなさいっ」

どんっと胸を叩き、自信満々の笑みを浮かべるなのは。クロノはそんな彼女に、はぁ、と気の抜けた返事をするだけだった。

619F-2改:2009/07/09(木) 21:50:03 ID:zLJ/ONZY
両親に一言告げて、翠屋の手伝いを早めに上がらせてもらったなのはは、クロノを連れて海鳴市の商店街に飛び出した。
ほとんど抵抗も出来ないまま連れられたクロノは、こういう時は案外女性の方がよっぽどパワフルであると言うことを思い知らされた。
そうして彼が連れて来られたのは、海鳴市の駅前にある――唯一ある、映画館。建物は古いが、サービスが行き届いている上、上映する映画も万人受けするものからコアなファン
が喜びそうなものと豊富なジャンルを揃えるため、人気が高い。

「映画か……あんまり見ないな」
「そんなことだろうと思ったからほら、手始めにね」

なのはとしては、あっちこっち連れ回してクロノに何かしら興味を持たせたいのだろう。映画はその第一歩だ。趣味としてはありふれたものだが、それだけにクロノでさえも興味
を持つのは充分あり得る。
映画館の中に入った二人は、掲示板に表記される現在上映中の映画表を見てみる。アクション、ホラー、コメディ、ラブロマンス、種類は多々あるが、無論クロノはどれがいい
のか分からない。
なのは、君が選んでくれ――彼が口を開きかけた瞬間、彼女が振り返る。

「クロノくん、どれがいい?」

――やられた。先手を打たれてしまった。
こうなればもう、君が選んでくれなどとは言い出しにくい。渋々、クロノは映画のタイトルを見てみた。ランキング表とジャンルで選べば、そう外れはないはずだ。
そういえば。ふとクロノは、"アースラ"の乗組員が休憩中に交わしていた雑談の内容を思い出す。
映画鑑賞が趣味だった彼らの会話によれば、映画館で寝てしまうと言うのはご法度らしい。しかし、選んだ映画がつまらないとどうしても眠たくなるとも。
ならば、導き出される解答は一つ。怖くて眠れないであろう、ホラーだ。

「よし、このホラー映画にしよう。いいかい、なのは――なのは?」

振り返ると、なのはが露骨なまでに表情を歪めていた。
この時ばかりは、クロノは彼女の考えていることが即座に理解できた。

「え――ええと、うん、ほ、ホラーだね。うん、分かった。じゃあチケット買ってくるから、あ、クロノくんポップコーンは食べる? 欲しいなら私買ってくるけど」
「怖いんだろ」

必死に誤魔化そうと喋りまくるなのはを見て、確信を得たクロノは一言だけ、今の彼女が必死に隠したがっている感情を当ててみせた。
ぴたりと黙ったなのははわずかに間を置き、うー、あー、うーと恥ずかしそうにもじもじと身体を動かし、あっちこっちに視線を逸らし

「……ゴメンナサイ」

ついに陥落した。耳まで真っ赤になって頭を下げるなのはに、クロノは笑ってみせる。

「エースオブエースでも、怖いものはあるんだな」
「だ、だってぇ! ホントに怖いんだよこの映画!? CMで女の人が青白い顔して出てきた時は……」
「なるほど、そんなに怖いのか。ますます見たくなったよ」

うぅぅー、クロノくんのイジワルー。
涙目になってぽかぽかと両手を使って襲撃を仕掛けてきたなのはを面白そうに受け流し、クロノはいい加減に見る映画を決めることにした。もちろん、なのはの了承が得られ
そうなもので。


結局、クロノが選んだのは無難なコメディだった。
九七管理外世界のギャグセンスが無愛想と自認する自分に合うかどうか分からないが、笑うことがあれば眠くはならないはず。

「これは……こういう時に、食べるものなのかい?」

映画のチケットを買うついでに、なのはの提案で併せて買ったポップコーンを不思議そうに見つめながら、クロノは席に着く。

「そだよ? 映画を見ながら食べるポップコーンは、普通に食べるのより二倍くらい美味しくなる魔法がかかってるんだから」

同じく席に着き、早速ポップコーンを掴んで口に運ぶなのは。彼女の言葉に、クロノはやけに驚く。

「魔法!? 九七管理外世界に魔法なんてあったのか!?」
「うん、まあ……あるよ」

620F-2改:2009/07/09(木) 21:50:54 ID:zLJ/ONZY
実はただ気分の問題。真実を口にしようとしたなのはだったが、クロノの反応が面白いのでやめておいた。騙されていることを知らない彼は「そうか、こっちにも魔法が……
いや、知らなかった」とただただ、驚いている。いい気味だ、先ほどのお返しである。
そうこうしているうちに、照明が落とされ、ブザーが鳴る。スクリーンには上映中のマナーを紹介し、それらを守ろうと言う映画会社の広告、そしてお決まりの近日上映予定の
映画の予告編が流れ、本編に。
映画の内容そのものは、別段つまらないと言うことは無かった。分かりやすいコメディは、隣に座るなのはだけでなく、観客たちを笑わせ、クロノでさえ時折吹き出しそうになった。
ただ、それ以上にクロノは感動したことがあった。上映中は照明が落とされることは知っていたし、映画館でないと味わえない音の広がりなどが存在することも知っていた。
しかしそれらは所詮、知識としてのみ知っているに過ぎなかった。実際に味わってみると、なかなかどうして。臨場感がまるで違うではないか。これでアクション映画など見たら
さぞ迫力があるに違いない。
映画そのものは一時間半と若干短いものであったが、クロノにとっては非常に充実した時間だった。


「どうだった?」

映画館を出てすぐ、なのはが質問を投げかけてきた。くりくりした愛らしい瞳を輝かせるのは、期待と不安がごちゃ混ぜになった不思議な気持ち。
どうだった、とはこの場合映画の感想ではあるまい。映画館と言う場所に初めて入ったクロノが、どう感じたか。誘った張本人である彼女にしてみれば、そこが気になるはずだ。
だから、クロノは大して考えず、率直な感想を述べた。

「ああ、思っていたより面白かったよ。あの暗がりって言うのかな、映画に集中できた。音響とかも、部屋で普通に見るんじゃ味わえない」

面白かった。クロノの言葉の中に出てきた単語を聞いて、なのははぱっと表情を輝かせた。喜色満面、とはきっとこのことだろう。

「よかった」

嬉しそうに微笑むなのはを見て、クロノは釣られてふっとわずかに笑みを浮かべた。
ああ、彼女はきっと人生を余すことなく楽しんでる。こんな純粋な笑顔、そうでなければ説明が尽かない。
出来ることなら、自分もそうなりたいものだ――そう考えた瞬間、クロノはふと気付く。
楽しんでいたじゃないか、僕は。彼女に連れられて、映画を見て。時々吹き出したりなんかして。彼女に誘われなければ、こんな楽しみは味わえなかったに違いない。
だから、クロノは口を開く。そこから零れた言葉に、なのはが驚くなど思いもせずに。

「なぁ、なのは」
「うん? なあに?」
「――よければ、他の場所にも連れてってくれないか?」

海鳴市は映画館だけじゃないんだろう。そう付け加えてみたところで、クロノはぎょっとなる。なのはの表情が、驚愕、この一言に染まっていた。
あのクロノが。堅物が。およそ娯楽などとは自ら縁を切ってきた彼が、他にも教えてくれと興味を示している。
その事実が現実のものであることに気付いた彼女は、少しずつ表情を驚愕から喜びに変える。完全に切り替わった瞬間、なのははクロノの手を引いた。

「うん――うんうん! いいよ、連れてってあげる! そうだよクロノくん、海鳴は他にも楽しいとこいっぱいあるよ!」
「な、なのは。ちょっと待ってくれ……」

あまりに唐突な出来事に狼狽するクロノだったが、なのはは止まらない。火が点いたように彼を引っ張って、駆け出した。

「人生は楽しまないと損だよ、さぁ急いだ急いだ!」
「いや、急がば回れって言葉も、へぶぉ!?」

ぐいぐい引っ張られるクロノに抵抗する余地はなく。道端に存在した電柱やガードレール、消火栓にがんがんと叩きつけられる。骨が折れてないのが奇跡の衝撃すら走った。
それでも決して嫌な気分にならなかったのは――彼女がずっと、笑顔だったからだろうか。

621F-2改:2009/07/09(木) 21:52:05 ID:zLJ/ONZY
散々海鳴市内を引きずり回され、一息つく頃には夕方になっていた。
休憩も兼ねて、なのはが最後にクロノを連れてきたのは、海鳴臨海公園。
クロノはその場所を知らなかった訳ではない。幾度か、なのはと初めて知り合った頃、何度か訪れている。

「ほら、あれ」

だけども、なのはがあえてクロノをこの地に連れてきたのは、もちろん理由があった。
色々ぶつかったせいで痛む身体をどうにか奮い立たせて、クロノはなのはの指差す方向を見る。
何もない海、水平線の向こう。傾いていた太陽が、その奥に顔を半分埋めて、空を赤く染めている。夕日だ。
赤く染まっているのは、空だけではなかった。海面すらもが赤く染まり、光が反射してきらきらと輝いている。見る者全ての心を癒し、一日の終わりを知らせる、そんな光景。

「綺麗でしょ?」

風に揺れる、綺麗な栗毛色の髪。それを手で押さえながら、なのはが微笑む。
一瞬、クロノはなのはの言葉に怪訝なものを感じた。
夕日のことを指して綺麗と言ったのか。それとも、赤い光の反射で輝く健康的な肌を持った自分のことを言ったのか。
クロノがそう考えてしまうほどに、今のなのはは、綺麗だった。沈む夕日に照らされる、可憐な少女。飾り気のない、エプロンだけ外したウエイトレスの服装が、よりいっそう
その魅力を引き立てる。

「あぁ――うん、綺麗だよ、うん」

思わず見惚れてしまい、回転数の上がらない頭で返事。そんな適当な回答を得て、なのはが黙っているはずもない。

「えい」

ぺしっと、いかにも迫力のない打撃音が響きそうなパンチが、クロノの頬に当てられる。
正気に戻ったクロノは何を、と表情を曲げるが、当のなのはは可笑しそうに笑っていた。

「……何で叩く? と言うか笑う?」
「ううん、何でも。ぼーっとしてるクロノくんって、案外可愛いかなって」
「かわっ――大人をからかうな」

むすっとした表情を見せるクロノに、しかしなのははそれを見てまた笑う。
敵わない。露骨に不機嫌な面をしていた彼もやがて諦め、苦笑いで表情を崩し、正面に向き直る。沈み行く夕日は、確かに綺麗だった。
久しぶりだった。こんな穏やかな気持ちで、休暇を過ごしたのは。同時に、妙に懐かしくもあった。失われていた人間らしい部分が、元に戻ってきたような感覚。
彼女のおかげかな。ちらっと、クロノはなのはの横顔に眼をやった。同じく夕日を眺める彼女は、幸せそうだった。

「なのは」

そんな彼女に吸い寄せられるように、クロノは声をかける。「何?」となのはは振り返り、微笑を浮かべていた。
本当によく笑う子だ。それも、幸せそうに。楽しそうに。見ているこっちまでもが、そんな気分にさせられそうな。
出来ることなら、この笑顔をずっと見ていたい。明日も、明後日も、来週も、来月も、来年も。自分に楽しみと言うものを教えてくれた、彼女の笑顔を。

「休暇は、今週いっぱいあるんだ。なのはは?」
「私も同じ。色々、予定は入ってるけどね」
「そうか、それじゃあ……」

予定が入っている。その言葉に、妙に苛立ちを覚えるのは何故だろう。
そんなもの無しにしてしまえ。腹の奥から込み上がってきた言葉を噛み殺し、クロノは言葉を続けた。

「空いてる時でいいんだ。また、色々連れてってくれ」

――なるほど、分かったぞ。
言葉を口に出してから、クロノは唐突に気付いた。今の自分の、この気持ち。なのはに対する感情、想い。

「うん!」

快く承諾し、頷くなのは。
クロノの心の中に、季節外れの春風が吹いた。

622F-2改:2009/07/09(木) 21:52:57 ID:zLJ/ONZY
深い深い森の最中。どれだけ進んでも変わらない景色に、そろそろ飽き飽きしていた頃。
肩に担ぐAK-47、自動小銃の中でも最高傑作と名高いそれも、今のところは単なる重りでしかない。管理局の奴らが追ってこないと言う保障があるなら、このまま投げ捨てたい
ところだった。

「おい」

AK-47を担ぐその男は、不意に後方にいる同僚に話しかけた。その同僚はと言えば、先ほどから地図とコンパスを持って、ぶつぶつと何か呟いていた。

「本当にこっちであってんのかよ、分け入っても分け入っても木ばっかりだぜ」

俺たちゃ詩人になりにきたのか、と男は毒づく。進んでも進んでも姿を見せない目標に、男は嫌気が指していた。気分転換にポエムなどを考えたりもしてみたが、どうにも今
の自分たちの状況を皮肉ったものしか浮かばない。
地図を持った同僚は、答えなかった。いいから行けと顎を突き出し、前進を指示するだけ。
くそったれが。男は唾を吐き捨て、言われた通りに進む。地図を持っているのはこのいけ好かない同僚だけなので、指示を聞かなければ道に迷うことになる。
草木を掻き分け、邪魔な枝をAK-47の銃床で押し退け、ひたすら歩みを続けた。
苛立ちも頂点に達しかけたその時、急に開けた場所に出た。よく周囲に眼を凝らしてみると、長年開いた様子のない、巨大な鉄の扉が彼らの前に現れる。地下に繋がっている
と思しきその扉は、すでに塗装もほとんどが剥げ落ちていた。かろうじて、扉の番号が「七」と読み取れる。

「ここだ」

同僚がようやく、口を開く。ここが目標地点で間違いないらしい。
男は同僚の持つ地図を覗き込み、確かに間違いがないことを確認すると、腰のホルスターから銃を引き抜く。
ただの銃ではなかった。銃身が太く、中折れ式で装填可能な弾は一発だけの代物。しかし、それで充分だ。男は銃を右手に持つと、銃口を天に向けて、引き金を引く。
ぽんっと軽い発射音があって、直後に空中で炸裂する光の塊。なんてことはない、自分たちの居場所を示す信号弾だ。

「あとはひたすら待機だな」

役目を終えたことを悟った男は、近くにあった木の幹に腰を下ろす。バックパックから水筒を持ち出し、美味そうに一口。疲れた身体には、ただの水でもご馳走同然だ。
飲むか、と男は同僚に水筒を差し出すが、彼は首を振った。地図を畳んで、代わりに持ち出したのは何かの計測器。そいつを鉄の扉に当てて、計測器が示した数値を律儀にメ
モに取っていた。
生真面目な奴だな。男は水筒の水をまた一口飲んで、同僚の背中を見つめていた。もっとも、こんな奴がいるからこそ、彼らのボスは今回の大博打を計画したのだ。
まさか管理局の連中も思うまい。すでに封鎖され、地図からも消えた古い資材搬入口を使うなど。これが成功すれば俺たちは大金持ちだ。
男は歪んだ笑みを浮かべ、天を仰ぐ。太陽はすでに半分以上が没し、茜色の空も徐々に暗くなろうとしていた。
平和な時間は、長く続かない――。



To be continued...

623F-2改:2009/07/09(木) 21:54:25 ID:zLJ/ONZY
投下終了です。
とりあえず甘ーい展開にしてみたんですが、いかがだったでしょうか?
いろいろ初めてで及ばないところがあるかもしれませんが、読んで
頂けたら幸いです。
第2部、3部は戦闘メインの予定です。

624名無しさん@魔法少女:2009/07/09(木) 21:59:19 ID:GoE4gk5c
おお、クロノ×なのはとはいまどき希少な!
しかも甘くて美味しい話だw

次回も心からお待ちしております
GJでした

625( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:02:33 ID:/aUkkgL6
最終話投下いたします。

かなり強めの管理局ヘイト入ります。ご注意ください。

その他の注意事項
・オリキャラ・準オリキャラ注意
・捏造設定オンパレード注意
・TUEEEEE注意
・NGワードは『熱き彗星の魔導師たち』

626熱き彗星の魔導師たち FINAL-01/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:03:20 ID:/aUkkgL6
『アンタがレジアス・ゲイズ?』
 それはアリサのぶっきらぼうな言葉からはじまった。
『はやてを犯罪者扱いするのは、やめてくんない?』
『確かに間違いじゃないかも知んないけど……でもね、彼女はそんなもの望んでなかった
のよ! 蒐集も指示していなかった、記録として残ってる』
『それでも筋が通らないこと言い続けるなら……あたしにも我慢の限度ってモノがあるか
ら!』

熱き彗星の魔導師たち〜Lyrical Violence + StrikerS〜
 FINAL PHASE:God's in his heaven, all's right with the world.

“この地にとって偉大なりし彼は、彼の愛したこの地に永遠に眠る。レジアス・ゲイズ
新暦23-75”
 ミッドチルダ語でそう掘られた新しい墓碑の前には、年中献花が絶えない。
 レジアス・ゲイズ幕僚長(死後2階級特進)が、管理局葬に付されたのはもう数ヶ月も前
のことだった。
 今は、クラナガン郊外の海岸地帯、青い空と海岸の見える小高い丘の墓地に、彼の亡骸
は収められていた。
「レジアス中将、いや、幕僚長やったか、……今更こんな階級貰っても、意味あらへんや
ろけどな」
 制服姿のはやては、墓碑の前に訪れると、どこか照れくさそうに苦笑しながらそう言っ
た。
「今回の事件の元凶みたいなあたしが墓参りに来ても……嬉しくないかも知れへんけどな、
……うん、多分迷惑やと思ってるんやろけど、区切りやし」
 言いながら、はやては手に持っていた花束を、墓碑の前に捧げる。
「彼の愛したこの地、か。……アナタの信ずるものは力やった。けどそれはすべてこの地
の……ミッドチルダの為やったんや。大変やったろうな、誰にも理解させず、正義を貫く
言うんは。スカリエッティと一時期つながりがあったんも、無理あらへんことや」
 言いながら、はやての目頭に熱いものが滲んでくる。
「安らかには……眠れへんやろな……多分、アナタはいつまでも、この世界と、2人の娘
のことを心配しつづけるんやろな、あたしには到底、両方背負うのは無理や。多分、あた
しがアナタと同じくらいの歳になったとしても……や」
 そう言ってから、はやては涙を拭う。
「おかしいな、はは……涙は葬式の時に全部流しきったつもりやったのに。今更みっとも
ないこと……ははは……」
 乾いた笑い声交じりの言葉。
「まだ本題に入ってもおらん言うのになぁ……」

627熱き彗星の魔導師たち FINAL-02/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:03:59 ID:/aUkkgL6

 『聖王教会事件』。
 そう名付けられたジェイル・スカリエッティによるテロ行為及びロストロギア強奪から
クラナガンでの大暴動に至る事件は、時空管理局の断固とした法治体制維持の意志によっ
て鎮圧、解決したとされた。
 ──その時点では。
 だが、その中枢のひとつであるミッドチルダ首都クラナガンでの大暴動は、時空管理局
の各次元世界に対する求心力の低下をもたらした。
 加えて、戦闘機人密造問題との関わりや、聖王教会他ベルカ勢力の管理局私物化など、
公正かつ厳粛であるべき管理局の実体が暴露された結果、時空管理局はその実体を維持で
きなくなりはじめたのだ。
 既にいくつかの世界で、統一時空管理法の有効性の放棄を唱える、反管理局政権が成立
していた。
 ──時空管理局本局、事件から2ヶ月後。
「レジアス中将を失ったのは、管理局にとって致命的なダメージだったよ」
「せやろな」
 機動6課は事件の直後に解散。フェイトは内勤の執務官として次元巡航警備部のオフィ
スにいた。
 その机の傍らで、はやてがコーヒーを啜る。
 はやては結果的に聖王教会の管理局における不正行為を助長したとして、罪には問われ
なかったものの1尉にまで降格の後、待機が命じられた。今のはやては、要は窓際族であ
る。
「陸士総隊の治安維持の意志が、辛うじて管理世界を管理局につなぎとめていたんや。そ
の象徴であるレジアス中将がいなくなった今、管理世界の意識は管理局に向きっこあらへ
んよ」
「“伝説の3提督”が、陸士総隊を立て直して状況の改善を図るつもりでいるみたいだけ
ど……」
 ため息混じりに、フェイトがそう言った。書類が置いてたる机の上に、構わずもたれか
かる。
 “伝説の3提督”……レオーネ・フィルス、ラルゴ・キール、ミゼット・クローベルの
3人。時空管理局内では、かのギルバート・グレアム元提督に並ぶカリスマ達。
「無理やろな。そもそも今の次元巡航警備部の体制をつくったのがあの方達や。レジアス
中将の真意を理解しようともせずに……レジィ坊や、などと言って見下してたのもやで」
 はやてはくすくすと、妙な笑顔で言う。その表情は、どこかサバサバとしていた。
「見下していたって言うのは違うと思うけど……」
「同じ事やよ、相手の真剣な言葉を、子供のわがままと同じに扱ってたんやから」
 そう言うと、はやてはカップの中のコーヒーを飲み干した。
「ねぇはやて、ひょっとして管理局……辞めるつもり?」

628熱き彗星の魔導師たち FINAL-03/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:04:36 ID:/aUkkgL6
「さぁなぁ、アリサちゃんとユーノ君がそうやったように、あたしも辞めたくても辞めら
れへんと思うけど、ただ……」
 そこまで言って、はやてはにやっ、と笑った。
「未練は、一切あらへんよ」
「そっか……うん、私は義母さんや義兄さんの影響があるから、そこまで割り切れないん
だけど……」
 フェイトが、複雑そうな表情でカミングアウトする。
「けどクロノ君はわからへんのやろ?」
 はやては苦笑しつつ、視線をフェイトに向けた。
「なんだよね」
「なのはちゃんが未練持ってへんからなぁ、これからはヴィヴィオの育児に専念できる仕
事選びたい、言うとったし」
「プライド高いから、簡単には認められないみたいだけどね」
 フェイトもそう言って、顔を上げて苦笑する。
 くすくすと笑いあい、僅かに、会話が途切れる。
「そういや、あ、レジアス中将で思い出したんねんけどな」
「え?」
 ふと話題を切り出したはやてに、フェイトは聞き返す。
「ずっと気にかかってたんやけど、聞きそびれてしもて……そもそも、アリサちゃんとレ
ジアス中将が知り合った経緯って何やったんやろ? 接点無い様に思えるんやけど」
「え、はやて知らなかったの?」
 はやての質問に、フェイトは軽く驚いて、意外そうに聞き返した。
「フェイトちゃん、知ってるんか?」
 はやては驚き返し、問い質す。
「知ってるも何も、はやての事……10年前の事件の事だよ。2人が知り合ったきっかけ」
「え……?」
 苦笑気味にも、あまり申告でもなさそうに言うフェイトだったが、それを聞いたはやて
は、一瞬呆気に取られてしまう。
「レジアス中将が、以前、はやての事を犯罪者って言ってたことがあるの、知ってる?」
「うん、それは聞いたことある」
「アリサ、4年前の事件の後、コンテッサの陸士隊本部に出入りしてたんだけど……そこ
で聞いちゃったんだよ。陸士隊がはやてのこと犯罪者扱いしてるの」
「まさか、それで……」
 はやてが唖然としつつ汗を滲ませながら、引きつった表情で言うと、フェイトはしかし、
頷いた。
「地上本部に啖呵きりに行ったの。アリサ、元々管理局での自分の地位に固執してなんか
いなかったからね。レジアス中将に言ったんだよ。はやては望んで闇の書の主になったわ
けじゃない、積極的に蒐集してたわけじゃない、ってね」

629熱き彗星の魔導師たち FINAL-04/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:05:22 ID:/aUkkgL6
「!」
 はやての意識に衝撃が走った。表情が一瞬固まったが、フェイトはそれが、はやてにと
って意外な行動だったからと認識した。
「それで……」
「お互い胆(はら)を割った話ができた……それかららしいよ、レジアス中将の一家と、ア
リサとユーノの付き合い」
「そう……そうなんか……中将……っ」

630熱き彗星の魔導師たち FINAL-05/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:06:19 ID:/aUkkgL6

「それが今日の本題──中将……違うんや、アリサちゃんたちも知らへんだけなんや、あ
たし……、あたしは……」
 中将の墓前。はやては慟哭する。
『あたしかて……あたしかて、自分の脚で歩きたい! 誰の迷惑にもならず、1人で自由に
動き回りたい! それに……それに……』
『もういやや! 1人になりたくない! まだ死ぬのだって嫌や! 死んだらまた、1人ぼっ
ちや! もう、1人は嫌や! 寂しいのは、いやなんや!!』
「あたしは、望んだ、一度は……闇の書の力、その犠牲を知って尚、望んだんや!! 中将
や思っているような意志の強い人間でも、アリサちゃんたちが思っているような偶然の不
幸に襲われた少女でも、ないんや!!うわぁぁぁぁぁ……」
 声を上げ、レジアスの是非に手を突き、泣き崩れた。
「聞こえたな」
 少し離れた場所、墓地の正面に沿う道路。
 オープンタイプの73式多用途車が路上駐車しており、その周囲にシグナム達ヴォルケン
リッターが佇んでいた。
「あたしは……知らなかった、アイツがそんな事言ってたなんて……」
 ヴィータは俯きがちに、気まずそうな表情でそう言った。
「私も似たようなものだ……10年前の事件、バニングスがどういうスタンスを取っていた
のかは知ってはいたが……まさかレジアス中将とバニングスの馴れ初めがそれだったとは
な」
 シグナムが自責するように言う。
「失敗って言うのは、取り返しがつかなくなってから解るものなのよね……」
 シャマルも重々しくため息をつき、そう言った。
「ああ、10年前もそうだった。我らはあの時、非常に幸運だった。やり直しの犀を投げて
くれた人間がいたんだからな」
 シグナムが言った。
「でも……そろそろ、はやてんトコ行ってくるよ」
 ヴィータがいい、それまで車にもたれていた身体を上げた。
「待て、私も行こう」
 シグナムはヴィータを制するように言ってから、自らもそれに続くように歩き出した。

631熱き彗星の魔導師たち FINAL-06/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:06:54 ID:/aUkkgL6

 聖王教会はその影響力を著しく下げた。聖王教会騎士にして管理局少将だったカリム・
グラシアをはじめ、主だった有力者は逮捕拘留された。経済的にも困窮し、付帯する施設
はその権利をほとんど手放し、残ったのは純粋に宗教団体として活動していく為の最低限
の組織だった。
 有力な司祭や騎士を失った聖王教会は、今は後任の責任者が決まるまでの暫定代理とい
う形で、騎士でもあるシスター、シャッハ・ヌエラが管理の責任を負っていた。
「教会の人間の……ベルカの民としてのあるまじき振る舞い、そしてそれが元に殿下にご
迷惑をおかけする結果になった事……これすべて騎士である我々の不徳の致すところです」
 シャッハは傅き、神妙かつ悲痛な面持ちでそう言った。
「そんな……殿下だなんて、止めて下さい、私は……」
 傅かれた相手は両手を振りつつ、困惑した声を上げる。
 盗難にあった聖骸布の遺伝子から作られた聖王胚は2体。1人はスカリエッティによって
つくられた“器”ヴィヴィオ。そしてもう1人は──かつて、管理局も関与していた戦闘
機人計画の為に作成された人工胚、タイプゼロ・ファースト、ギンガ・ナカジマ。
 能力──ベルカ聖王としての──としてはヴィヴィオの方が高いのだろうが、出生の順
から言えばギンガの方が先になる。もっとも儀礼としての戴冠を行ったわけではないから、
“陛下”ではなく“殿下”というわけだが。
「顔を上げてください、私はそんな……大それた事をした覚えもありませんし、自分がそ
んな身分にふさわしい人間だとも思わないです。それに私は、普通の人間では……ありま
せんから」
 最後の一句で、ギンガは気まずそうに視線をずらした。
「ですが……申し訳ないことではありますが……このままでは、本当に無辜のベルカの民
は救われません。既に母なる大地を失い、流浪の民となりかけた私達に──心の拠り所ま
で失えというのは、あまりに残酷です」
「それは……解りますが」
 シャッハの嘆くような言い回しに、ギンガはそれ以上頭ごなしに否定する意気地を殺が
れてしまう。
「ギンガ」
 ギンガが困惑し、言葉を失っていると、シャッハの背後に佇んでいたクイントが、苦笑
気味ながらも優しく微笑みつつ、ギンガの傍らに寄る。
「母さん……」
 ギンガはクイントに縋るような視線を向けてしまう。
 クイントはギンガに向けて悪戯っぽくウィンクした後、ギンガと並んでシャッハの方を
向く。
「騎士シャッハ」
 穏やかな笑顔で、クイントは声に出した。

632熱き彗星の魔導師たち FINAL-07/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:08:06 ID:/aUkkgL6
「申し訳ありませんが、この子は……ギンガは私の娘です。家族がいます。その点は……
理解していただけますね?」
「か、母さん……」
 ギンガは軽く驚いたようにクイントを見たが、
「え!? そ、それはもちろん、当然じゃないですか。殿下を御母堂らから離そう等という
意図は、決してございません」
 と、シャッハの方がむしろ、目を円くして素っ頓狂な声を出した。
「だって。ギンガ、これならあなたもやりやすいでしょう?」
 クイントに言われて、ギンガは困ったように苦笑しながら、後頭部を掻くように手を当
てる。
「え、と、まぁ……心がけも無い私ですが、そんなのでもよければ、名前ぐらいは……で
す」
 ギンガがそう言うと、シャッハの表情がぱっと輝いた。
「ありがとうございます! それで充分です!」
「ま、まぁそういうことでしたら」
 ギンガは照れたように苦笑して頬を掻いた。

633熱き彗星の魔導師たち FINAL-08/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:09:03 ID:/aUkkgL6

「時空管理局の解体、管理世界の独立主権国家化の流れは、もはや規定路線となりました」
 メガーヌ・アルピーノ、ミッドチルダ“非公式”全権大使は、口元で微笑みつつも真摯
にそう言った。
「そうですか。これでどうやら、我々もまた孤独から解放される時代に1歩近づいたよう
ですな」
 常に口元の引きつったような、初老の年齢、その割には精力的な印象を受ける男性が、
そう言った。
「しかし御国の過激分子を利用して、本来の悪阻たるを取り除く……まさに手練手管の見
本のようなものですが、えてして自滅することも在り得る……よく、このような決断をな
さいましたな」
 男性の言葉に、メガーヌは悪戯っぽく笑った。
「不利な博打を打ったつもりはありませんわ。その為に、そちらからカードを貸していた
だいたのですから」
「ははぁ、件の2人ですか」
「ええ、事件はより理想的な形で決着を迎える……確実に」
「しかし、聞くところによりますとその為に貴女の娘さんも事件に関与することになった
とか……しかし我々が故意に流しました事を考えますと、危険だったのでは?」
 男性は口元で笑いつつも、気遣う口調で問いかけた。
「閣下は勘違いなされているようですが、まず、私はあなた方との連絡の為の人材であっ
て、計画そのものに深く関与している訳ではございません」
 メガーヌはキッパリと言い返した。
「なるほど」
「それに……あの人の娘であるあの子が、そう簡単にやられる心配はあまりしていなかっ
たというのが本音ですね、まして、あの2人の下にいるのなら」
「どうやら信頼されているようだ。娘さんも、彼女達も、旦那様も」
「旦那といっても、正式に籍を入れていたわけではありませんが……確かに信頼できる人
物でしたわ。もっとも……歳は閣下よりいくらか上だったのですけど」
「それは……」
 自分の2/3程の年齢の女性にあっけらかんと言われて、男は流石に面食らった。
「ところで、そちらの御国の方は準備は整っているのですね?」
「ええ、時空管理局の外交権集約が解かれ次第、国交樹立に向けた交渉に入る──政権政
党を問わずに実現されます。覚書が既に政界と外務省に出回っておりますから……もっと
も我々は惑星のすべてを把握しているわけではなく、極東の島国に過ぎません」
「承知しております。ですが、我々がもっとも責任を感じなければならない相手でもあり
ます」
「そうですね、我々は“不幸な出会い”をしたが、破滅を回避できた」
 メガーヌがしみじみと言い、男もそれを肯定した。

634熱き彗星の魔導師たち FINAL-09/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:10:32 ID:/aUkkgL6
「まぁ、諸外国はたまげるでしょうな、我々が“地球外国家”と国交を樹立したなど。惜
しむらくは私が首相、とは言わないまでも現役である内に実現できなかったことですか。
今回の件、私が外相の頃に仕込みを始めたことですからなぁ……」

635熱き彗星の魔導師たち FINAL-10/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:11:17 ID:/aUkkgL6

 『聖王教会事件』から11ヶ月後、時空管理局は解体された。
 管理局内の徹底した粛清にもかかわらず、その求心力を回復させることは出来なかった。
肥大化していた組織を維持したままの改革は所詮限界があったのである。
 元々反管理局の傾向が強かった管理世界とそうではない管理世界との間で軋轢も生じて
いた。それはテロの横行を呼び、さらには管理世界間の紛争に発展しかねない状況となっ
た。それは、聖王大戦の悪夢を呼び起こさせた。
 スカリエッティの言葉は正鵠を得ていた。ミッドチルダ主導の時空管理局の独善は、隣
人の心をもつかめていなかった。いや、つかんではいたが、自ら手放したと言った方が正
しいかも知れない。
 最終的な解決法は、統一時空管理法の廃止、すなわち、時空管理局の発展的解消しかな
かった。
 管理世界、管理外世界問わず、文明は自己の責任で、可能性を喪うことなき発展を。そ
の主張の元、統一時空管理法は各世界間の合意を得て、失効の日を迎えた。
 時空管理局は解体され、管理世界は新たに次元世界主権国家共同体を形成。次元航路の
安全をつかさどる限定的な防衛組織として国際次元航路警備隊が設立された。構成員は時
空管理局時代の次元巡航警備部がほぼ引き継がれたが、彼らには各国政府に干渉する権限
は与えられなかった。各世界、各国内の治安維持は各政府が独立して責任を負うという形
になった。
 なぜかその場には、未だ次元航行技術を持たないはずの旧管理外世界のある国家からオ
ブザーバーとして代表団が招かれ……そして多くの旧管理世界の国家と国交樹立の手形を
捺していったと言う。

636熱き彗星の魔導師たち FINAL-11/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:11:59 ID:/aUkkgL6

「これで、明日からはあたし達も晴れて一介の大学生、ね」
 アリサはサバサバとした表情で言い、身を伸ばした。
「あたしはなんか、もっといろいろ事件おきて欲しいけど、平和なだけじゃ退屈」
「なに言ってんのよ」
 まったく同じ声で、そんなやり取りをする。コビト姿のローウェルに、アリサがデコピ
ンをした。
「平和が一番」
「ちぇっ。あたしは平和じゃないぞー」
 それを見て、やはり私服姿のユーノが穏やかに苦笑している。
 2人は向かい合わせの椅子に座り、テーブルを囲んでいた。
 そこへ、
「お待ちどう様です」
 と、トレイに乗ったケーキとコーヒーが、アリサとユーノの前に運ばれてきた。
「やっぱアンタ、それが一番似合ってるんじゃない?」
「そう……かな?」
 ウェストレスの衣装に身を包んだ、翠屋パティシェ見習い、高町なのはは照れたように
はにかんだ。
「ヴィヴィオは元気?」
「げんきーだよー」
 アリサはなのはに訊ねたが、その声を聞きつけたのか、厨房の方からカウンターを回っ
て、ヴィヴィオ自身が姿を現した。
「おー、それならよし」
 アリサは笑ってそう言った。
「ヴィヴィオ、あたしと遊びにいこっか?」
 ローウェルがヴィヴィオの前に出て、そう提案した。
「ちょ、ちょっと……」
 アリサは制しようとしたが、
「うん、ローウェルと遊びに行くー」
 と、ヴィヴィオが満面の笑顔で言ったため、遮られてしまった。
「あー、もー、しょうがないか。行ってらっしゃい」
 アリサは苦い顔をしながら、手をひらひらさせてそう言った。
「あいっ」
 ヴィヴィオは元気よく返事をすると、ローウェルと共に翠屋から出て行く。
「あんまり目立つ真似すんじゃないわよー」
 その背後に、アリサはそう声を張り上げた。
「ところで……」
 それまで、穏やかな笑顔で傍観に徹していたユーノが、ふと声を出す。

637熱き彗星の魔導師たち FINAL-12/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:12:50 ID:/aUkkgL6
「そっちのバリスタさんも、よく似合ってますよ」
「るさいっ、よけーなお世話だっ!」
 それまで黙々とコーヒーサーバーの前で作業していたウェイター姿の青年が、振り返っ
て、カウンター越しにユーノに怒鳴り返した。
「もう、駄目だよクロノ君。いくら知り合いって言っても、お客さんなんだから」
「ぐ……」
 なのはが困り半分憤り半分といった様子でクロノを振り返り、腰に手を当てて嗜める。
 クロノが詰まったような声を出すと、ユーノはなのはの後ろからからかうような表情で
手を振る。
「ユーノも他人(ひと)の旦那をそこまでからかわない」
 ガンッ
「っつう!」
 テーブルの下で、アリサの爪先がユーノの左の脛にヒットした。

638熱き彗星の魔導師たち FINAL-13/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:13:45 ID:/aUkkgL6

「そんじゃまたね。フェイトによろしく」
「うん」
「まぁあたしの方にも連絡来るけどね」
 そう言いながら、会計を済ませてアリサとユーノは翠屋を出る。
「ありがとうございましたー」
 なのはの声が、カランカラン、というドアベルの音と共に、ドアの向こうに消える。
「さて、この後どこ行こうかしらねー」
 店の前に路上駐車していたクルマに向かいながら、アリサは呟くように言う。
「ユーノはどこか行きたい所は?」
「えっと、そうだな……」
 アリサが訊ね、ユーノは答えかけようとしたが、
「あれっ?」
 と、歩道の前方にいるそれを見つけて、声を出した。
「えっ?」
 アリサも視線をそちらに向けて、軽く驚いた声を出す。
 そこに、どこか気まずそうな表情をして、ティアナとスバルが立っていた。
「ちょっと2人とも……どーしてこっちへ?」
 アリサは駆け寄りつつ、そう問い質すように声をかける。
「ええと……一応、親善の為の交換留学生という形です」
 ティアナが答えた。
「留学生?」
「はい、こちらの大学の方に。また教えを請う事になりそうですが」
「つーか、学年は一緒だ」
 ティアナは照れくさそうに言ったが、アリサは脱力したように引きつった笑みで言う。
「まぁいいわ、とりあえず乗んなさい。折角だしパーッと騒ぐわよ」
「えー、今から!? ケーキ食べたばっかりだよ?」
「後だろうが先だろうが、甘いものは別腹でしょーが」
 ユーノが驚いたように言うが、アリサは至極当然といった表情でそう言い切った。
 ティアナとスバルは、顔を見合わせ、肩を竦めて苦笑する。
「ほらほら、そうと決まったら乗った乗った」
「はいっ、あ、アリサさん、クルマ買い直したんですか? 前のと同じ……?」
「チッチッ」
 ティアナとスバルを後席に乗せつつ、アリサは得意そうに澄まして、指を振った。
 アリサが運転席に、ユーノが助手席に収まり、アリサがエンジンを始動させる。
 ギアを入れ、Fiat500を発進させる。
「今度のは、新型よ」
 1200ccのFiat・169A4エンジンを唸らせ、クリームのボディを市街地に躍らせた。

639熱き彗星の魔導師たち FINAL-14/13 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/10(金) 01:21:36 ID:/aUkkgL6
>>626-638
以上です。お付き合いいただき、ありがとうございました。

非常にだらだらと長く続くことになってしまいました。申し訳ありません。
「燃え上がる炎」でも経験したことですが、目標の容量に治めるって言うのは、やっぱり難しいものですね。
それとキャラクターの数。
主要な描写の必要なキャラは漸減させたつもりだったんですが、やはりこれだけの数のすべてのキャラを描ききるのは
自分には少し重荷でした。orz

「燃え上がる炎」までは原作と明らかに矛盾する設定は極力控えていたのですが、
本作ではかなり多かったと思います。
ゆえに読みづらかったり理解しにくかったりしたかと思います。申し訳ありません。

メガーヌの話し相手は、たぶん多くの方が想像される通りかと思います。
それと、既にだいぶ前に出た話ですが、アリサとユーノはとある日本一有名な警部の後輩にしてあったりします。
気付いた方はニヤリとしていただけたらと思います。

それでは、ここまでお付き合いいた方々に再度お礼を申し上げて、〆とさせていただきます。
ありがとうございました。

640名無しさん@魔法少女:2009/07/10(金) 01:26:34 ID:OnOQPQco
謙遜なされるな。これだけの話、マトモに終らせるのも難しいですって!
まぁ何はともあれ堂々完結おめでとう御座います!!

641名無しさん@魔法少女:2009/07/10(金) 05:40:21 ID:OQPxM0.6
連投お疲れ様でした。
そして完結オメデトウございます。
やはりカリムが全ての黒幕だったか…。
信じていた者に裏切られ、レジアスの真意を知った時にレジアスは鬼籍に入る。
疎遠で袂を分かってしまったと思っていたアリサがはやてを「犯罪者」呼ばわりしていた陸士隊に憤り、レジアスに詰め寄った事さえ有った。
真実を全て知ったはやては管理局も消滅した今、どう生きていくんでしょうね。
仮にアフターストーリーが有るとしたら、他のキャラもそうですが、特にはやてと家族のその後を見たいですね。
アリサやユーノと10年越しに漸く親友と呼べる間柄になっていく…みたいな。

何はともあれ無印、A’s、StSと三部作で続いたリリカルバイオレンスシリーズ本当にお疲れ様でした。
今はごゆっくりお休みください。

642名無しさん@魔法少女:2009/07/10(金) 06:00:21 ID:4kcqoEro
>>639
完結おめでとうございます。
また、新作期待しています。長編だけでなく、歪んだ素直みたいな中編エロとか。
本当にGJでした。

643名無しさん@魔法少女:2009/07/11(土) 00:37:40 ID:7pJaqG8A
完結おめでとう、お疲れ様でしたー

原作キャラの扱いがどうとかと注意書きがありましたが、原作メインキャラらの持ち上げっぷりや優遇っぷりがアリサ達主人公側に
レジアスの扱いがはやて達にといった感じで移ってるだけで原作とは優遇不遇の構図にそんなに変わってるようには見えなかったんで
違和感なく読めました

644名無しさん@魔法少女:2009/07/11(土) 01:25:46 ID:jOnHxDPM
>639
乙。

有名な警部……よれよれのトレンチコートと姿無きかみさんがトレードマークの?


 【せめて渡瀬恒彦で】

645熱き彗星の魔導師たち 蛇足 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/11(土) 02:57:46 ID:rAS.juQE
>>644
最初は原作のそれを躍起になって否定しようとして壁に突っ込みました。
「ありゃ、結局やってること同じじゃん……」と。
24話辺りでアリサが前面に出ようとしなくなったのがその痕跡だったりします。

が、途中でキャラの優遇不遇自体が問題なのではないとふっと気付きました。
つまり説得力を持たせればいいんだと。
「説明台詞は参謀役キャラ(アリシア・リニス)に任せる」「強敵を作る」って結論に行き着きました。
「どーやって倒すんだこれ」状態のスバルやヴィヴィオがその一片だったりします。
特にティアナ&マギーv.s.暴走スバル戦はどうやって収拾させるか、
書いてる奴自身が思い浮かばなくなりドツボにはまりました。(ダメじゃん

最初からそれに気付いてれば(旧版での騒動も含め)もっと違った展開が出来たかなと。
反省点です。

他に縛りを入れたのはサポート系のキャラ(シャマル、アリシア)をちゃんと書けってことなんですけど、
これもシャマルはちょっと中途半端で終わってしまいました。

もうひとつの反省点は、基本的に無印、燃え上がる炎〜は、
原作を見ていなくてもストーリーが把握できるように心がけていたのですが、
本作はどうしてもStriker'sを視聴した人でないとわからない内容になってしまいました。
これだけの設定情報を最初から用意して、作品中に盛り込んだ原作陣はなんのかんの言ってプロなんだなと思い知りました。
言うは易し行なうは難しとはこのことです。orz

正直放り出しかけたのですがそれはいかん、ここまで書いたのだからどういう形であれ完結はさせようと。
いうことで、お付き合いいただいた方々には非常に感謝いたしております。

ただ書ききっていないキャラも多いので、後日談はフラッと書くかもしれません。
エロも入れてな。

蛇足おば失礼いたしました。

>>644
当たりです。
でも、あのコートバーバリー製で結構高いんですよ。

それとマギーのファーストネームは……

646名無しさん@魔法少女:2009/07/11(土) 22:17:40 ID:w3t5AXMs
イマイチだったけど完結まで持ってったのはスゲエ。

647名無しさん@魔法少女:2009/07/11(土) 23:15:51 ID:DYpWVbRo
>>639
ついに完結おめでとうございます&お疲れ様でした!
管理局消滅、舞台は何気ない日常へ、私達の戦い(生活)はこれからだ!エンドですね)マテ
なんにせよここまでの大作を見せてくださった事に深い感謝を。更新止まりつつも挫けなかった貴方の不屈の根性に敬服を。
後日談と更新止まってる蟻地獄を楽しみに待ってますねw
では大事な事なんでもう一度。本当にお疲れ様でした!!

648ザ・シガー:2009/07/12(日) 00:35:21 ID:s1gUtgCI
>>493
お待たせしました、鉄拳できましたぜ

と、いう訳で鉄拳最新話が完成したので投下行きます。
長編・非エロ・タイトル『鉄拳の老拳士 拳の系譜』 投下します。

649鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:38:52 ID:s1gUtgCI
鉄拳の老拳士 拳の系譜 9


「ただいまー」


 自宅へと帰り着き、少女はドアを開けると共に元気良くそう言った。
 だが、そこで少女は疑問符を交え首を傾げる。
 せっかく帰ってきたというのに、愛しの我が家は真っ暗だった。
 玄関も、そこから続く廊下も居間も、全部電気が消えている。
 おかしい。
 と、疑問を思う。
 今の時間帯ならいつもは母がいるし、今日は父も兄も家にいる筈なのに。
 真っ暗闇の我が家に違和感を覚えつつ、少女は靴を脱いだ。


「誰もいないのかな?」


 一人呟きながら、うら若き乙女はポニーテールに結った母譲りの青い髪を揺らして廊下を歩く。
 居間の扉を開けて壁に手を這わせ、電灯のスイッチを探りつつもう一度声をかけようとした。
 その瞬間、突然その場に光が満ち溢れ、パンッパンッ、と何かを炸裂させるような大きな音が幾重にも木霊する。


「誕生日おめでとう〜!」


 聞き慣れた母の声も次いで響けば、もう何が起こったかなんて考えるまでも無い。


「お母さん、それにお父さんにお兄ちゃんも」


 居間に訪れた少女を迎えたのは、彼女の家族だった。
 手にクラッカーを持ち、ニコニコと嬉しそうに微笑む母。
 その母の隣りには寄り添うように父と兄が立っている。
 テーブルの上にはご馳走、きっと母が腕を振るったであろう豪勢な料理の数々が並んでおり、漂う香りが食欲を誘う。
 どうやら今日の、自分の誕生日の為に用意しておいてくれたようだ。
 正直、気恥ずかしくてしょうがない。
 もう17歳になったというのに、こうやって家族揃って誕生日を祝われるだなんて。
 小さい頃からずっとそうだった。
 父も兄も、管理局のどんな仕事があってもこうやって誕生日には祝ってくれた。
 去年なんて大掛かりな捕り物から直行で帰り、バリアジャケットのまま家に上がったりしていた。
 ふと思い出して、口元に笑み浮かぶ。
 そんな少女を、母は手を引いてテーブルに引き寄せる。
 テーブルには彼女の為に用意された大きな大きなケーキ、真っ白な生クリームと真っ赤な苺をたっぷり乗せた美味しそうなもの。
 そして、そんなケーキに負けないくらい大きな箱があった。
 一体なんだろう、と思うと同時に兄の手が箱を持ち上げる。
 父譲りの黒髪の合間からどこか恥ずかしそうな瞳を覗かせて、彼はおずおずと少女の前に歩み寄った。


「まあ、なんだ……ほれ、俺からの誕生日プレゼントだ」


 と、言葉と共に差し出される大きな箱。
 少女は受け取ると同時に満面の笑みとなって、ありがとう、と兄に頭を下げた。
 まずは料理に手をつけてからプレゼントの中身を見ようかとも思ったが、どうにも好奇心が勝る。
 開けても良い? と首を傾げれば、彼は小さく頷いて返した。
 ゆっくりと、包み紙もリボンも傷つけないように丁寧に少しずつ開ける。
 ダンボール製の箱を開けば、そこには一対の鉄拳が静かに佇んでいた。
 鋼鉄、強固な魔力合金で形成されたストレージのアームドデバイス。
 父が自分と兄に伝えた魔法格闘戦技法、シューティングアーツ独特の得物である。
 これに、少女はヒマワリみたいな輝く笑みを見せた。


「うわぁ〜! これデバイス? 私に!?」


 問えば、兄は少しだけ恥ずかしそうな顔で、ああ、と小さく返事。
 恐る恐るそっと持ち上げて、少女は表面処理の美しさと手にかかる重量に嬉しげに目を細めた。
 そして、咲き誇る笑顔の花をより華やかに咲かせて言う。


「ありがとう、お兄ちゃん」


 クイント・ナカジマは、兄ギルバートにプレゼントとして贈られたリボルルバーナックルのお返しとばかりに、最高の笑顔を見せた。





 あちこちが破壊された施設の中を、黒衣を翻した男は駆ける。

650鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:42:10 ID:s1gUtgCI
 脚部に装着したデバイス、膝まで装甲が覆うような大型のローラーブーツが鋼鉄の唸りを上げて男の巨躯を風と運ぶ。
 愛する家族の、妹クイントの仇を討つ為に疾駆するのは復讐の黒き狂犬、ギルバート・ゴードン。
 復讐鬼と化した男が向かうのは拘置施設内の一角、戦闘機人ナンバーズがいるであろう場所だ。
 そう、今ここにいるのだ、愛しい家族を無残に奪った憎い仇が。
 一見静かに引き締まった表情の底には、地獄の業火の如き憤怒が燃え盛っている。
 奥歯を砕きそうなほどに歯を食いしばり、男は憎む、心の限りに。
 あの日、もう取り戻せないあの過去の日々に自分に笑いかけた妹を永遠に奪った仇、それをようやく狩れるのだ。
 どす黒い衝動が胸の内で例え様のない鼓動を刻む。
 それはさながら快楽の悦びだった。
 クイントの死を知ってからの今までの日々、復讐すべき相手を選別して計画を練り続けた。
 今日がその記念すべき最初の狩猟である。
 ナンバーズ、クイントの死んだ、ゼスト隊全滅に直接関わったサイボーグ集団。
 最近生まれた者は関係ないかもしれないが、しかしここには確実にあの日あの場所にいたであろう古いナンバーも確実にいる。
 詳しい固体データはあまり入手できなかったが、そんな事は構わない。
 何なら全員殺してやったって良い。
 煮え滾る憎悪が思考を焼き付かせ、復讐鬼を狂おしいほどに走らせる。
 目的へ、目的へ、目的へ。
 ギルバートは胸中で負の感情を燃やしながら、施設内の通路をウイングロードで駆け抜けた。
 と、もうじきナンバーズの収容されているだろう区画に近づいた時、目の前に一つの影を見る。
 通路のど真ん中に立つ一人の男、白髪交じりの壮年。
 忘れもしない、かつての義理の兄弟、ゲンヤ・ナカジマの姿だった。
 高速の疾走に急制動をかけ、脚部のローラーブーツで火花と轟音を立てながらギルバートは急停止する。
 数歩で詰められる程の距離で立ち止まれば、かつての義兄弟同士が刃の如き視線を交錯させた。
 張り詰めた、濃密な気迫に満ちた空気が場を支配する。
 気の弱いものならば失禁でもしてしまいかねない、凄絶なにらみ合い。
 最初に口を開いたのは黒衣の復讐鬼。


「ゲンヤか、久しぶりだな」


 静かで低いギルバートの言葉に、ゲンヤもまた同じく静かな声で返す。


「ああ、そうだなギル。久しぶりだ」


 言うと同時、ゲンヤの手が動く。
 素早い動作で上着の懐へと滑り込み、彼の右手は鉄を得物を取り出した。
 それは大口径、44口径はあろうかという回転式拳銃(リボルバー)、俗にマグナムと呼称される拳銃。
 魔法を使えない局員が限定的に持つ事を許される質量兵器だ。
 流れるような動きでその拳銃を取り出すや、同じく淀みない操作で撃鉄が起こされる。
 瞬く間に戦闘態勢を整え、ゲンヤは即座に発射可能な銃をギルバートの眉間に突きつけた。


「随分な挨拶だな、ゲンヤ」

「そりゃこっちの台詞だ。ここに来るまで俺の部下を……何人殺した?」


 語尾に明確な殺意と怒りを込め、ゲンヤが問う。
 彼はここの、収容されたナンバーズの護衛と更正を担当した陸士108部隊の隊長である。
 ギルバートらの強襲により哀れな屍の山へと変わった陸士隊員は彼の部下だった。
 故に叩きつける、腹の底から怒気を込めた眼差しを。
 されど、その強烈な気迫と突きつけられた銃口を前にギルバートは少しも揺るがない。
 ただ静かにゲンヤを、彼に負けぬほど鋭い眼差しで見つめた。
 しばしの沈黙が場を支配して、形容し難い静寂が流れる。
 そして、それを破ったのは黒衣の狂犬。
 ギルバートの端正な顔が地獄のような怒気に歪み、告げる。


「じゃあ、てめえはどうなんだゲンヤ。クイントを殺した奴らを守って正義の味方面か?」


 冷たい、まるで極寒の凍気のような殺意を孕んだ。
 熱い、まるで灼熱の熱気のような憤怒を孕んだ。
 そんな言葉だった。
 ギルバートの放った言葉にゲンヤは一瞬目を見開き、何か言おうとするが、しかし言えず沈黙。
 そんな彼に、黒衣の復讐鬼の顔が憤怒と歪む。
 今までの静かな容貌が嘘のように、ギルバートの目は釣り上がり、口は牙を剥き――吼えた。


「ゲンヤ、てめえクイントの事愛してたんじゃねえのかッ! なら、どうしてあいつを殺した連中を守るッ!!?」


 声が、そして鋼の如く鍛え抜かれた五体から発せられる気迫が空気を振るわせた。

651鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:43:40 ID:s1gUtgCI
 視線に至っては人を屠れるのではないかと思うほどに鋭く、ゲンヤの背筋を凍らせる。
 だがそれだけではなく、問われた言葉もまた彼の心を冷たく突き刺した。
 クイントを、妻を死に追いやった者を何故守るのか。
 その問いはあまりにも痛烈で、肉体ではなく心を蝕む痛みにゲンヤは歯噛みする。
 銃を持つ手が震え、金属質な音を小刻みに立てた。
 何か言おうとするが、何も言えない、答えられない。
 あの少女らを救おうとするのは、守ろうとするのは、何故なのか。
 理由はもちろんあった。
 娘達と同じ境遇の、改造された肉体を持つ子供らを放ってはおけなかったから。と。
 しかし、ギルバートを前にその言葉は吐けなかった。
 ナンバーズを救うという事、それは確かにギルバートの言う通り、クイントへの裏切りに他ならない。
 眼前で燃え盛るギルバートの怒りは、本来ならば自分が燃やすべきものだったろう。
 されど、ゲンヤはその灼熱に浸る事が出来なかった。
 彼が選んだのは妻の為の憎悪より、娘達や彼女らと同じ境遇の少女への憐憫。
 ギンガもスバルも、ナンバーズも、皆守りたいと思う。
 それは彼の強さでもあり、そして弱さでもあった。
 故に答えられない、ギルバートの憎悪に満ちた問いに。
 言い淀むゲンヤの姿に、黒き狂犬は目を鋭く細める。


「まあ、どうでもいい。てめえが何を思おうが、何をしようが俺には関係ねえ……」


 言いながら、彼の巨躯が動く。
 ゆっくりと歩を進め、黒いコートを翻してゲンヤの横を通り過ぎる。
 そして、繋げるように言葉を紡いだ。


「俺はただ、連中を殺す。それだけだ」


 と、次げた。
 それはゲンヤに語りかけるようであって、同時に自分自身への宣誓でもあった。
 滾る殺意を、燃える憎悪を、全ての怒りに連なる感情を込めての誓いである。
 ギルバートの言葉に、混濁としていたゲンヤの意識が覚醒。
 黒衣の復讐鬼に銃を向けた。


「待てッ!」


 言葉と共に、44口径を誇る大口径の銃口がギルバートの背に向けられる。
 ゲンヤの手に握られた巨銃は、既に撃鉄を起こされていた。
 あとほんの少し、数ミリもない距離を動けば、強大な破壊力を孕んだ鉛の弾が飛ぶだろう。
 一触即発の銃火を前に、されど黒衣の男は動じない。
 顔を僅かに振り返らせ、氷のように冷たい眼差しをゲンヤへと向け、そして告げる。


「止めろゲンヤ。てめえは仮にもクイントの愛した男だ、正直傷つけたくはねえ」


 自分が殺されるかもしれないという懸念ではなく、自分が相手を滅する事を案じ、ギルバートは言う。
 至近距離での大口径拳銃の射撃、魔道師といえど普通ならば危険な状況だ。
 だがこの男には恐怖など微塵もなく、ただ怒りと悲しみに淀む瞳だけがある。
 決してはったりなどではない。
 彼の、ギルバート・ゴードンの戦闘力とは、至近距離のマグナムを前にしても怯まぬものなのだ。
 ゲンヤもそれはよく知っている。
 目の前の男が類稀なる戦闘力を持つ、最強クラスの魔導師であると。
 だが、ゲンヤの指はそっと引き金に触れる。


「確かに俺は、仇も討てない腰抜けかもしれねえ……」


 銃把(グリップ)をしっかりと握り締められたリボルバーから震えが消え去り、照準がギルバートをしっかりと捉える。


「でもな、だからこそ譲れねえんだよ……クイントを裏切るような真似してまで選んだ……“守る”って、道は」


 もはや迷いはなく、そこには憎い筈の仇でさえ守ろうという、愚直なまでの男があった。
 覇気を帯びたゲンヤの力強い眼光に、ギルバートの眉根が怒りと歪む。
 かつては義兄弟として、血は繋がらぬといえど家族だった者同士がこうして修羅場を築くとは、なんという皮肉な様だろうか。
 大気が一触即発と張り詰める中、黒衣の男は問うた。
 今までの裂帛の怒気が嘘のように、静かに澄んだ残響で。


「それが……てめえの選んだ道、か」

「ああ」

「そうか」


 もう言葉はいらなかった。

652鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:45:41 ID:s1gUtgCI
 これ以上そんなもので語らったところで意味は無い。
 次なる刹那、ゲンヤの手に握られた巨銃が鮮やかな火を噴いた。
 無煙火薬の燃焼ガス、オレンジ色のマズルフラッシュが銅合金の被甲を施された鉛の弾を飛ばす。
 秒速にして約448メートル、音速の領域に足を踏み込んだ強烈な銃弾がギルバートの五体を狙う。
 まず人間ならば反応できぬ、超速の攻撃。
 されど黒き復讐鬼にそのような常識は通じない。
 音速超過の銃弾を視認、手に纏った鉄拳をその軌道上に翻し、火花と金属音を伴い弾き落とす。
 魔力で強化された反射速度と鍛え抜かれた肉体が成す常人を超越した反応だ。
 二発目、三発目と次々に射出される弾丸を防御。
 そして同時に脚部ローラーブーツが加速、距離を爆発的な勢いで詰める。
 六発目の最終弾を防がれ、金色の焼け付く薬莢を排出してリロードを行おうとしたゲンヤは成す術もなく接近を許してしまう。
 目と鼻の先に迫るギルバートの、黒髪を揺らした端正な顔、そして巻き起こる旋風。
 巨大な鉄拳、ナックル型アームドデバイスが風を蹂躙して暴力を成す。
 振るわれた拳は吸い込まれるようにゲンヤの腹部へと命中、凄まじい破壊力をもたらして彼の肉体を冗談のように吹き飛ばす。


「がはぁッ!!」


 背骨まで軋みそうな拳撃に中空で二度回転、着地すると同時にその慣性で床を転がり、ゲンヤは血飛沫を吐いて呻いた。
 既に手に銃は衝撃と痛みで手放し、丸腰だ。
 そんな彼に、対面の黒衣は悠然と歩み寄る。
 苦痛に呻くゲンヤを、ギルバートは冷たく鋭い眼差しで見下ろした。
 どこか寂しげに、哀しげに、沈痛そうな面持ちで。


「安心しろ、殺しゃしねえ。少しだけ眠ってろ」


 そう言い、拳を振り上げる。
 シューティングアーツを極めた男の行う、熟練の力加減で行使される打撃だ。
 それは容易くゲンヤを殺す事無く意識だけを刈り取るだろう。
 その筈だった。
 一つの声が遮らなければ。


「止めなさい! お父さんから離れてッ!!」


 よく澄んだ、凛とした声を発して。
 青い、艶を持つ長い髪を揺らして。
 爛熟と実った、豊満な女体をバリアジャケットに包んで。
 そして何より、かつて自分が妹に贈ったあのデバイスを構えて。
 少女が現れた。
 クイントの、亡き妹のクローン、彼女の残滓――ギンガ・ナカジマという少女が。





 広き次元世界の中心地ミッドチルダ、その首都であるクラナガンを夜の闇色が包み、その闇を幾重もの轟音が刻む。
 音の源は鋼鉄の骨格を持つ空駆ける猛禽、JF704式の名を持つヘリコプターである。
 管理局に採用されている人員輸送用の大型ヘリは群れを成し、敵の索敵を逃れるような低空を駆け抜けて群れを成す。
 ヘリに乗るのは機動六課所属の若きエースとストライカー達。
 向かう先は更正組ナンバーズの収監されている収容施設だ。
 事の始まりは、今から30分ほど前に発令された緊急招集だった。
 収容所を護衛していた陸士部隊が発した救援要請の報に、地上本部から応援部隊が出動された。
 しかし、待てども待てども、彼らからの連絡は途絶したまま回復しない。
 地方本部管制室がデバイスデータや通信から解析した結果、出た結論は“全滅”の二文字。
 その結論に至った指揮官は一瞬自失した。
 ありえない。
 武装した陸士部隊が総勢で150人以上、それが1時間も掛けずに全滅したというのか。
 ありえる筈のない事態だった。
 これに、現状の武装隊だけでは戦力不足と判断した地上本部首都防衛隊は、緊急で本局所属部隊への援護要請を発令。
 そうして、機動六課の隊員も対処に駆り出されたのが事の顛末だった。
 ヘリに乗るのはライトニング分隊の隊長陣、フェイトとシグナム。
 そしてスバル、ティアナ、エリオ、キャロのフォワードメンバー四人。
 教導隊関係の業務で本局に出向しているなのはとヴィータを除く、機動六課の前線メンバーである。
 狙撃手も兼任したヘリパイロットのヴァイスと、副操縦士のアルトの繰るヘリに揺られる中、各員は防護服を着用して各々が自身のデバイスを手に状況説明を受けていた。


『フランクモリス収容所に最初の救援隊が駆けつけたのが1時間前、そしてそれからすぐに通信が絶たれ、上は全滅と判断しました。ライトニング及びスターズ分隊の任務は、現場に到着し次第敵戦力の無力化をしてください』


 ディスプレイ越しに機動六課隊舎の管制室から状況の説明をするのは、眼鏡を掛けた少女、シャリオ・フィニーノ。

653鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:47:09 ID:s1gUtgCI
 シャーリーの愛称を持つ、後方支援部隊ロングアーチのメンバーだ。
 彼女の語る内容から事態の異常性が伺え、ヘリの内部は張り詰めた嫌な空気が立ち込めた。
 特にスバルは不安そうな面持ちだった。
 なにせ件の収容所の護衛にあたっているのは陸士108部隊、彼女の父や姉がいる部隊である。
 二人の安否を思い、少女の顔は不安に沈む。
 だが、今は感情的になっている場合ではない。
 愛剣レヴァンティンの柄を撫ぜつつ、ライトニング分隊副隊長、シグナムがシャーリーに問い掛けた。


「敵の具体的な数や素性は分からないのか?」

『今のところは……まだ何も。ただ魔力残滓などの状況から見て敵戦力はかなりの少数、下手をしたら数人という事だけは分かっています』

「たった数人で護衛部隊を全滅か。どうやら一筋縄では行かないようだな」


 瞳を鋭く細めて言いながら、シグナムはフェイトに目配せ。
 彼女もまた、常の温和そうな瞳とは違う真剣な眼差しを返す。
 なのはとヴィータを欠く戦力で未知の敵と戦うというのは、この二人をしても不安を感じずにはいられない。
 フォーワードメンバーはこの一年で大きく成長したとは言えども、だ。
 家族の事を案じているだろうスバルのメンタル面もまた、大きな不安要素の一つ。
 自然、美女二人の顔は緊張を帯びた鋭いものを纏う。
 そんな中、前方の操縦席からヴァイスの声が響いた。


「収容所まであと10キロ、もうちょいで到着しますぜ」


 その言葉に、そうか、と答えるシグナム。
 同時、外からヘリの回転翼の作る轟音が響く。
 サイドに設けられた窓から覗けば、彼女らの乗るヘリと平行するように飛ぶ新たなヘリがいた。
 機動六課と同じく召集を受けた地上本部の部隊、よく見ればシグナムやヴァイスの古巣である首都航空隊のヘリだ。
 コクピットのパイロットがそれを知ってか、こちらに手だけで軽く敬礼をしてくる。
 それにシグナムもまた返礼として手を翳した。

 瞬間、それは起こる。

 紅い、血よりも紅い鮮やかな光だった。
 シャーリーが通信で“高魔力反応を確認”という、叫ぶような警告が聞こえたのは真っ赤な光と同時だ。
 夜空の闇色を魔力で練られた紅の光、20〜30センチほどの太さを持つ光の奔流が蹂躙。
 それがヘリを、六課の隣りを平行に飛んでいたその機体を穿った。
 閃光に貫通された瞬間、次いで魔力の紅い光とは違う光が生まれる。
 爆音を伴った大爆発の炎。
 炎に飲み込まれ、ヘリが哀れな鉄の残骸に変わるまで、全ては1秒にも満たぬ間の顛末だった。
 闇夜に落ち行く炎の光を見るや、烈火の将が怒号を放つ。


「狙撃だ! 高度を下げろッッ!!」


 その残響が言い終わるより早く、ヴァイスは操縦桿を動かしていた。
 ヘリの機首は思い切り地表へと傾き、中に乗った人間全てに強烈なGを叩きつけながら急下降。
 眼下にそびえるビル群の合間に滑り込む。
 クロムとチタンが軋みを上げて耳障りな金属音を奏でる中、熟練の操縦技術が繰るヘリは砲撃の射軸を逃れる。
 上空、先ほどまでヘリの存在していた空間を鮮血色の砲撃の残滓が消え行く様に、シグナムは柄にもなく頬に冷たい汗が流れたのを感じた。
 そして、一拍の間を置いて付近から轟音と爆音が喝采のように響き渡る。
 おそらくは、収容所への救援要請に向かっている他の部隊のヘリが落とされたのだろう。
 表情に苦いものを浮かべながら、シグナムは操縦席のヴァイスに問うた。


「ヴァイス、収容所までの距離は?」

「9キロと少しくらい……ですね」


 ヘリの管制デバイスとして搭載されているヴァイスの愛銃、ストームレイダーの表示した目的地までの距離に場の空気が張り詰める。
 9キロ以上離れていた場所からこれだけ正確で圧倒的な砲撃を行える敵の懐に飛び込むのに、まだそれだけの距離があるのだ。
 ビル群の合間を縫うように飛び続けるのは難しいだろう。

654鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:48:21 ID:s1gUtgCI
 冷や汗を流す彼の横顔に、シグナムは続けて問う。


「このまま行けるか?」


 問われ、一瞬彼女に振り返ったヴァイスの顔は苦々しげながらも笑みであった。


「難しいっすね。でも……やってみます」

「そうか、出来るだけ近づいてくれ。あとは降下して接近ルートを探す」

「了解しました。しっかし、信じられねえ。この距離、この高度のヘリを見つけ出して落としやがるなんて……」


 憎々しげに、そして隠し切れぬ怖気を孕ませてヴァイスは呟く。
 彼は遠距離狙撃を得意とする、否、遠距離での射撃しかできない、それのみに特化した魔導師である。
 そのヴァイスをして、この狙撃攻撃は異常な程の性能だった。
 対索敵魔法用表面塗装を施された、9キロ以上の距離を飛ぶヘリ。
 しかも時間帯は闇色の支配する夜だというのに、寸分の狂いもなく、たった一撃で沈めた。
 有効射程距離は元より、正確性も威力も連射性も半端ではなかった。
 あんな狙撃が出来る魔導師、それも犯罪者ならばそう多くはない。
 いや、むしろ彼にはその心当たりがあった。
 紅い魔力光、そして最高クラスの射撃魔法の使い手となれば……
 と、そこまで考えた時、通信音声として介されたシャーリーの声が場に響く。


『先ほどの砲撃から魔力波動パターンを割り出しました! 相手はテッド・バンディ、先日脱獄したSランク級の指名手配反です!』


 瞬間、脳髄の奥底、記憶を司る海馬がざわめく。
 テッド・バンディ、その名を忘れる事など出来る訳がない。
 かつて幾人もの友を殺した悪鬼、最高の才能を持つ最悪の犯罪者、人の皮を被った獣、魔銃。
 彼を、あの親友を殺された晩の事は今も忘れない。
 操縦桿を握る手に抑制しきれぬ感情の力を込めながら、ヴァイスは僅かに首を反らし振り返る。
 居並ぶ六課隊員の中にオレンジ色の髪を二つに結った少女、ティアナの顔があった。
 少女の顔に浮かぶ相は、常の凛とした愛らしさは打って変わった怒気。
 眉根を歪め、唇を噛み切りそうなほど噛み締めている。
 普段の彼女を知る者ならば、己が眼を疑う様だろう。
 だがそれは無理もない。
 テッド・バンディ、その名が意味するものとは即ち六年前のティーダ・ランスターの殉職した事件の犯人だった。





「ああ、クソ! 何機か撃ち漏らしちまったぞ」


 フランクモリス収容所の周囲、囚人の逃亡を防ぐ為に築かれた巨大な塀の上で男はそう吐き捨てる。
 両手に十字架を刻まれた巨大な拳銃型デバイスを持ち、真っ赤なレザー調のバリアジャケットを纏い、黄金の髪を揺らした美青年。
 テッド・バンディ、Sランクオーバーの戦闘力を持つ最悪の犯罪者である。
 悪鬼の如き男が今宵受けた仕事は、ギルバート・ゴードンの依頼によるナンバーズの収監された収容所への襲撃。
 収容所の護衛に当たっていた108部隊の陸士、そして他部隊の救援・増援を含む都合153人を、彼らは苦もなく殲滅した。
 一片の容赦も躊躇もなく、むしろ歓喜と狂気を以って。
 そうして築かれたのは屍肉の山と血潮の河、おぞましい虐殺のアート。
 だが殺戮の宴はそれだけでは終わらない。
 収容所の緊急事態に駆けつけてくる増援を、また“掃除”する作業の始まりだ。
 高く設計された塀の上に立ち、金髪の悪鬼はその天才的な狙撃砲撃の腕を垣間見せる。
 通常のものを遥かに超えた射程距離を持つ砲撃は、接近するヘリや魔導師を次々と落とした。
 が、相手とて木石ではないのだ、全てを一方的に滅する事は叶わない。


「それは残念ですねぇ」


 そう言うのは、横に立つもう一人の男だ。
 雑に結われた長いざんばらの黒髪、ややこけた頬に長身痩躯、そして左腕を欠いた隻腕と右腕に握った長剣が印象的な男。
 ジャック・スパーダという、バンディと共にこの件に雇われた筋金入りの戦闘狂だ。

655鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:49:12 ID:s1gUtgCI
 彼の言葉に、金髪の美貌は憎々しげに歪む。


「うっせえ、んな事ぁ分かってるっつうの。これくらい十分想定の範囲内だよ」


 彼がそう言うや、空中に立体映像が展開される。
 両の手に握られた二丁銃型デバイス、ディセイクレイター、冒涜者の名を冠するそれが見せる映像だ。
 映るのは収容所周辺の地形図。
 その各所にはマーキングされた赤い光点が規則的な速度で以って明滅を繰り返している。
 光の点を指差し、バンディは言う。


「これが敵の予測侵入ポイントだ、てめえのデバイスにも通信使って送ったから確認しろ」

「了解しました。で、どうしますか?」

「どうするも糞もねえだろ、今までと同じだよバァカ。ここに来る管理局の豚共を殺しまくる、それだけだ」


 口汚く言うと、バンディは手のデバイスを振りかざしながら嗜虐に満ちた暗黒の笑みを浮かべた。
 同時に響く甲高い金属音、輝く金光を発して空薬莢が宙を飛ぶ。
 装填された大口径魔力カートリッジが薬室で炸裂、濃密極まる魔力がデバイスを満たし、大気を焼く。
 悪意と魔力に猛る愛銃を指先で器用に回し、金髪美貌の悪鬼は白い歯を見せつけるように笑った。


「さ、じゃあ楽しくお仕事(ワーキング)と行こうぜ殺人鬼くん。今日は楽しい豚狩りだ」


 まるで放課後の帰り道、友達と遊びに行くジュニアハイの子供のような気軽さでバンディは言う。
 対する剣鬼、狂った斬殺魔もまた然り。
 柔らかくにこやかな笑みを浮かべ、真っ赤な鮮血に濡れる手の愛剣を翻し答えた。


「言われずとも楽しませていただきますよ。今夜は楽しい戦いになりそうだ」


 さらなる陵辱に、さらなる殺戮に、さらなる闘争に、さらなる地獄に、二匹の鬼は心躍らせる。
 さあさあ、夜はこれからだ、パーティーはこれからだ。
 瑞々しい乙女の肉体が屍肉と血潮の織り成す死の宴で、血に餓えた狂人共とダンスを興じる。
 激しく、卑しく、美しく、そして最高に楽しい暴力の坩堝。
 もはやそこは現世である事を疑うような、冥府の狭間となるだろう。
 機動六課の美しき戦士がこの地獄に訪れるまであと20分。
 場にはただ、狂気と悪意が混ざり合った濃密な夜気が漂っていた。



続く。

656ザ・シガー:2009/07/12(日) 00:55:15 ID:s1gUtgCI
投下終了。
まさかの叔父と姪の邂逅。
目の前に立ちはだかる可愛い妹の忘れ形見を前に、ギルおじさんは戦えるのか。
そして外道コンビVS六課陣営。
なのはとヴィータは、アレ、ヴィータの教導隊入りとかなんとかでいない。 という脳内設定でお送りしております。
スピンオフと違って、キャロが陵辱される事はない、たぶん。
しかし他のキャラの保障はしないw

で、やっぱりというかなんと言うか、ティーダの仇はバンディでした。
そしてヴァイスとティーダの親友説の設立。
もう憎しみと復讐だらけ。

ええ、趣味です♪

657名無しさん@魔法少女:2009/07/12(日) 10:07:07 ID:KfYVDYVc
完結が多いな〜。みんな乙

658B・A:2009/07/12(日) 21:16:00 ID:PvZP/z2s
>>657
じゃ、新しい長編を初めて良いですか?

659名無しさん@魔法少女:2009/07/12(日) 21:37:51 ID:ndFiDdIA
>>658
ばっちこーい。

660B・A:2009/07/12(日) 21:44:52 ID:PvZP/z2s
わかりました。
でも、その前に謝らせてください。

>ザ・シガー氏
許可を頂いたタッグ戦SSのネタがうまくまとまらず(主にオチで)、お蔵入りとなってしまいました。
折角ネタ被りを了承してくださったのに、本当にすみません。




やっぱり、狙ったギャグSSは書けないみたいです。
これからは非エロバトルとエロとパロディで生きていくぞ。

注意事項
・sts再構成
・非エロ
・途中から(原作5話以降)オリ展開あり
・基本的に新人視点
・タイトルは「Lyrical StrikerS」




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