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避難所ロールスレ
39
:
名無しさん
:2020/07/21(火) 11:30:55
>>37
興味だけで話しかけた。それについては納得したが、かと言って観察されるのを是とするわけではない。
そもそも、その興味の対象が自分であるということに納得しているわけではないことにも後になって気付く。
なんとも本心を躱すかのような、誘うような物言いに、やはりやり難いように視線を送って。
「ええ、日本でもあまり馴染みが無いですけど……ロシア?
えっと、そちらの方から来た……のでしょうか」
日本における紅茶文化はまだ庶民には浸透していない。
輸出品としてはそれなりの質のものを作ってはいるものの、ティーハウスの誕生までまだ幾許か待つ必要があった。
それでも、上質な茶葉は、そんな日本人からして、良いものだ、と理解させるだけの質があった……そして。
彼女の言葉に、思わず聞き返した。ロシアといえば、正しく今、革命を終えたばかりの渦中の国でもあったのだから。
「はい……物静かで、でも好奇心が旺盛で、少し危なっかしくて……でも優しくて、勇気があて……。
私の一番大事な人なんです。だから……一緒に来ようって、前から約束していて」
彼女の演技がかった動作も、気にならないほどに、美珠の語る言葉は少々熱が籠もっていた。
語る内に、彼女へと感じた類似点、好奇心というものが形となってから、自覚と確信へと変形していく。
表情豊かにコロコロと表情を変える、彼女の姿は似ても似つかないものであるが、似ていると感じるのはそれでも不思議ではあった。
「ヘレナ……さんですか。えっと……えっと……!!」
彼女の名前を聞いてから、二の句を継ごうとした時に、その断片的な情報が一つにまとまっていく。
元々はロシア人であって、英国に思い入れがあり、そしてヘレナという名と、何処となく友達に似ているこの感覚。
表情は分かりやすく困惑と焦燥に駆られたものに変わっていくだろう。
当てはまるものが多すぎる、冷や汗が伝って握っていたカップが震えたので、それをソーサーの上に置く。
かちゃりと甲高い音が鳴った。
「し、失礼ですが……」
目の前の相手にどう対応するか、考えあぐねていた
だというのに、言葉は震えながらもその疑惑を確信へ至らせようとする。
それが正しいことであるのか、分からないまま。遠くに聞こえる喧騒は、遂に美珠の耳には届かない。
「……ファミリーネームをお聞かせ頂いても?」
それまで一致すれば、そうそう偶然は起こり得まい。
老境に差し掛かる紳士の、燻らせるパイプの煙が流れて、美珠の鼻腔を揺さぶった。
40
:
◆HnQRCeqIrM
:2020/07/21(火) 22:12:17
>>39
「血の日曜日よりずっと昔の話だよ。彼らがあの国をどうしようと、ワタシの知った事じゃあない」
「一度気になったら、じっとしていられない性分でね。若い頃から転々としていたんだ」
国家を揺るがす大きな流れに対する言葉は、苦言や皮肉の色を映さない。
優しく語って聞かせているようで、呆れたように肩を竦めたものだから、一切の関心がないのは事実らしかった。
自ら口にする好奇心旺盛な気質は、否定するべくもないだろう。現に今、こうして見ず知らずを相手に実演しているのだから。
「随分と仲がいいんだ。羨ましいな、ワタシにはそこまで想える相手がいなかったから」
「キミ達は、人を大事にするといい。お節介だと思ってくれても構わないけれどね」
悔悟だとか、そういった過去を惜しむ湿っぽさは見受けられない。純粋に、若さ故の豊かな情緒を微笑ましげに眺めていた。
己の生き方に欠落があると知りながらも、欠片も後悔を抱いていなければ、違う道を嫉む事なく素直に訓示などできないだろう。
志を共にする同胞はいても互いを想い合う友を得られなかった、表裏に孤高と孤独を据えた人生を。
「……キミが想像している人間が、誰の事かは分からないけれど」
狼狽に揺れる琥珀の漣、焦燥に知らん顔をしてテラス席を包む陽の光。
学生層の比較的多い雑踏も、隣の卓の甘い香りも、黙々と動き回る給仕の影ですら。
泰然とした彼女の佇まいを崩す事は叶わない。秘め事を共有する悪戯っ子のように、唇に人差し指を添えた。
「彼女はあの地獄の時、この学園都市で死んでいる。そうでしょう?」
「今のワタシは、真理と叡智を求めて旅するただの遊子。それ以外の何者でもないさ」
全てを語らずとも、その質問の真意を汲んでいる時点で答えを明言しているようなものだというのに。
あまりに平然とそう嘯いて、まるでバレてしまっても構わないとでも言いたげであった。
はっきりとその名を口にしないのは、むしろ周囲を意識しての事だった。神智学の礎を築いた人間として、また衆目を集めるのを彼女は嫌っていた。
かつては成り行きでそうなったとはいえ、せっかく死を偽ってまで余計な柵を捨て去ったのだから。
ひどく迂遠な言い回しとはいえ、目の前の少女に、暗にそう扱われる事自体を厭ってはいなかった。
41
:
名無しさん
:2020/07/22(水) 00:58:33
>>40
特定の国家に対して、自身の存在意義を委ねるような相手ではないことは何となく察しはついた。
ただ、その国を転々としていたという経歴には納得するに足るだけの、好奇心を、今まさに見せつけられている。
それを疑う余地もなかった。アールグレイをまた一口、運ぶ。
「……はい、その……私にとって、いちばん大事な人……なんです。
他の誰よりも……今までも、これからも。だから、はい。これからも、大事にしていけたらと……」
普段であれば、こんなに小っ恥ずかしい事は、友人にも、面と向かっては早々言えたことではない。
聞かれていたらどうなるか。こんな風に素直に物を言えたのは、彼女自身が、全くもって赤の他人だからか。
彼女の歩んだ孤独の道に、美珠は答えることはできなかった。ただ、彼女が応援する言葉に、頷くのみであった。
その訓示の通りに歩むことを約束するくらいのことしかできず……それで答えは合っているのかと、疑問ではあった。
「――――っ」
生唾を飲み込んで、彼女の言葉を聞き届ける覚悟をした。
想像通りの相手であるならば、こうまで彼女へと警戒心を解かれてしまう理由も、論理的ではないが納得できる。
自身の落ち着かない鼓動に対して、彼女は悪戯な微笑みを口元に浮かべたままであった。
ただ、踊らせるばかりが彼女の目的でもないようだった。少なくとも、そこに悪辣な答えをもたらすことはなかった。
「……それはつまり……」
答えは殆ど出ていると言ってもいいだろう。要約の一言を、美珠はそこで切った。
彼女がそう語るならば、無粋であるだろうと、あくまでそこは彼女の言葉に則ることにした。
ただ、それは煙に巻いた肯定であると理解した。それではあくまで、美珠が導き出した答えを前提に、語ることにする。
「……じゃあ、あなたが私の思う通りの人だと、私は思うことにします。その上で……」
奇妙な偶然であった。あるいは運命か、それとも彼女がなにか齎したのか。
死人に合う可能性など、ほんの幾許とて考えたこともなかった。目の前の存在が現実であるかどうかも定かではない。
ただ、会えたのであれば。これがまさしく、現実であるというのならば。
「……私は今日、あなたに会えたことに、心から……感謝します」
伝えたいことがある。だからこの機会を与えてくれたことに、先ずは何よりの謝意をしました。
42
:
◆HnQRCeqIrM
:2020/07/22(水) 13:23:22
>>41
「あはは、まるで番だね。ワタシまで恥ずかしくなりそうだよ」
揶揄っている調子ではなかった。むしろ心に灯が点って、思わず笑みが零れてしまったかのようだった。
籍を入れた相手こそいたが、女にはそういう人間はいなかった。拒んでいた訳ではなかったが、それよりも優先すべき事があった。
かつて黎明が一翼を担った身として。碩学たる彼女を今尚慕う者こそ多々いれど、それら以上に熱を傾けるべきだと信じて疑わないモノが。
同じく人倫も軽視できる同胞ですら、二の次にしてしまえるくらいに。
「好きにするといい。それが本当に正しいか、ワタシからは何も言わないさ」
その許容が、何よりもはっきりと答えを示していた。スコーンが一つだけ残っている皿を無言で押しやる。
利発で少し感情が面に出やすい、多くを語らずとも意を汲んでくれた少女への、細やかな返礼のつもりなのかもしれなかった。
「可笑しな事を言うね。ワタシとキミが会うのは、今日が初めてだっていうのに」
「ワタシがキミにしてあげた事なんて、今ここでご馳走しているくらいだろう?」
惚けているのは言葉だけ。片眉を持ち上げたが、意表を突かれたと形容するには程遠かった。
如何なる手段で、それを見知ったのかは分からない。あるいは経緯の仔細など、全くもって知らないのかもしれない。
しかし美珠が今から言わんとしている事が、何に所以するものか理解しているのは、首を傾げて続きを促している仕草からも明白だった。
43
:
名無しさん
:2020/07/22(水) 15:33:38
>>42
「つ、つが……!! げほっ、げほっ……!」
彼女の言葉に揶揄の意図は含まれていなかったかもしれないが、少なくとも美珠自身に似た効果があったことは明確だった。
顔に昇る熱は美珠自身の錯覚によるものではなく、紅潮という形で、外見から見て分かる通りに描き出されている。
品も無く噎せてしまったことで、そこに否定も肯定も挟む余裕もなかったのは、ある意味で幸運だったかもしれない。
落ち着いた後も、動揺から落ち着きを取り戻すのに、ほんの幾許かの空白を挟む必要もあった。
「……ええ、確かに初めてです。でも……貴女にもらったものは、これだけじゃない」
差し出されたスコーンを、指先で摘んで拾い上げて、口へと運ぶ。
その話も名も聞いている。偉大なる碩学が一人。マハトマの女。……彼女はあくまで、そう名乗ることはなかったが。
彼女はあくまで、その好奇心のままに動いた。それだけかもしれない。
彼女が……その口振りのままに、全て知っているのだろう。彼女の上を行こうだなんて、そんな気持ちは欠片もない。
「……貴女は、淡島豊雲野という少女を生み出してくれた」
――――それは、彼女の実験の結果。或いは、その経過だ。
ある魔術師とともに、彼女の魂を分けて生み出された一人の少女。
今まで正しく熱を籠めて、語り続けてきた一人の少女の名だ。きっと彼女にも、覚えがある。
「あの子がいなかったら、私はこの世界が大嫌いなままで……いえ、この場にはいなかったかもしれない。
だから、貴女に感謝しないといけません。あなたには、そんなつもりなんて無かったかもしれないけれど……」
その少女がいなければ、美珠はジェームズ・モリアーティの駒として、呆気なく死んでいたのは間違いない。
誰かが、その事件を解決していたとしても、仮に生き残ったとしても、その先の鬱屈とした人生は変わらない。
あの日、自分に語りかけた少女がいなければ。
「――――豊雲野さんを生んでくれて、ありがとうございました」
……ともすれば。淡島豊雲野という少女に、彼女は非人道的な振る舞いをしたかもしれない。
それでも、彼女がいなければ、自分はこんなにも今を幸福に生きることは出来なかった。
だからそれだけは伝えたかった。貴女の生み出した一人の少女は、ここにいる一人の愚かな人間を、確かに救ってくれたのだと。
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