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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part2

1名無しリゾナント:2011/01/18(火) 17:04:23
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第2弾です。

ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
>>1-3に作品を投稿
>>4で作者が代理投稿の依頼
>>5で代理投稿者が立候補
>>6で代理投稿完了通知

立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。

806名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:33:08
3−3

「あゆみん、少し聞きたいことがあるんだけど、話せる?」
「はい、大丈夫です」
さゆみは、飯窪が豹変した際の様子を石田に尋ねた。
石田の説明が終わると、さゆみは改めて飯窪に聞いた。
「ねえ、はるなん、茶色のあれが接着剤みたいになるって知ってたの?」
「道重さん、茶色じゃなくてチョコレート色です。
 私、全然知りませんでした。…それに、さっきのことも全く覚えてないんです。」
「そう…、もしかすると何かがきっかけではるなんの中の別人格が現れたのかもね。
 石田の話だと、そっちのはるなんは、茶色のアレを上手に使いこなしてたみたいね」
「そうですね。チョコレート色のジェルにあんな使い道があったなんて…。」
「コスプレはともかく、茶色のアレを接着剤にすること、今もできる?」
「チョコレート色のジェルを接着剤にすることですか?やってみます」
飯窪は手のひらに集中した。すると、あの蜂蜜色の液体が滾々とあふれ出た。
「道重さん、できました!きれいなハニー色ですね〜。」
喜ぶ飯窪。だが、液体の噴出はすぐに止まった。
「あれ?出なくなっちゃいました…」
さゆみは地面に落ちた蜂蜜色の液体に触れ、その強力な接着力を確かめた。
「……これ、使い様によっては、かなり役に立つと思う。
 はるなん、この薄黄色のベタベタしたヤツ、上手に使いこなせるようになってね!」
飯窪は嬉しそうに答える。
「はい!私、このハニー色のクリームを必ず使いこなせるようになります!
 いつも皆の足を引っ張ってばかりで、これまで私、何の役にも立ってなかったから、
この能力で、みんなの力になれるように頑張ります!
あなたのハニー!みんなのハニー!って、ちがうかっ!ちがうかっ!」

807名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:33:49
〈Endingでーす〉

おどける飯窪を見ながら、さゆみはその笑顔の裏にある陰を感じ取っていた。
(「これまで私、何の役にも立ってなかった」…か。)
両親から捨てられ、友人達から避けられ、新しくできた仲間の役にも立てない…。
自分の存在意義に最も疑問を感じているのは、この飯窪かもしれない。
「はるなん、気持ち悪いよー!」
さゆみは声を上げて笑い、湧き上がってくる切なさをごまかそうとした。

そんな二人のやり取りを見ていた佐藤が、飯窪に近づいてきて話しかける。
「はるなーん、てからせっちゃくざいだせるようになったの〜?
それってさあ、はるなんにぴったりののーりょくだね〜」
「えっ、どうして?」
「だって〜、まーとどぅーとあゆみんがけんかしたとき、いっつもはるなんが
 なかなおりさせてくれるでしょ〜?
 はるなんのおかげで、まーたちはなかよしでいられるんだよね〜。
 ほんと、はるなんって、みんなのせっちゃくざいみたい」
「……ありがとう、まーちゃん」
飯窪はそう言って佐藤を強く抱きしめた。
佐藤は驚いてキョトンとしていたが、すぐに笑顔で飯窪のか細い腰に両手をまわした。
そんな佐藤を見つめながら、さゆみはある人の笑顔を思い出していた。
超天然で、何も考えてないようで、それでいていつも大切なことを気付かせてくれた、
あの大親友の笑顔を……。

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『あなたのハニー!みんなのハニー!』でした。
飯窪と石田の特殊能力を新しく考えてみました。
なお、敵の少女のモデルは(仮)の紫の人です。

808名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:39:06
=======================================
>>798からここまでです。
 今気づいたんですが、>>803の「2−3」のナンバリングが抜けてました…。
 本当にすみませんが、付け足していただくと助かります。
 いつもお願いばかりで恐縮ですが、よろしくお願いします。
 
>>781さん。ご感想ありがとうございます。781さんは女性の方でしょうか。
よくもここまで細やかに少女の心理を表現できるなと、いつも感心しています。
これからの展開、とても楽しみです。

809名無しリゾナント:2012/08/25(土) 00:30:02
行って参りました
コミカルで軽い話口調なのに何処か切なさや寂しさもある感じが好きです
今後も頑張ってください!

810名無しリゾナント:2012/08/25(土) 01:24:42
>>809さん
早速の投稿、ありがとうございました!
ナンバリングの訂正もしていただき、感謝感謝です。
励ましのお言葉、本当にうれしいです。
ご期待にそえるよう頑張ります!

811名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:15:44
『What’s Up?愛はどうなのよ〜』

〈愛の力〉

1−1

秋晴れのある日、高橋愛の心に、助けを求める少女たちの叫び声が突き刺さった。
高橋は精神感応の力を使い、その叫び声の出所を探った。
瞬間移動を繰り返し、その出所を突き止めると、そこは山奥にある建造物だった。
正門には、「国立能力開発センター」という大きな看板が掲げてある。
高橋は建物から洩れ出す思念を探った。
そして、そこがダークネスの秘密研究所であることを確認した。
高橋はいったん喫茶リゾナントに戻り、仲間を集めて状況を説明した。
そしてその夜、高橋は新垣たち四人と共にその建造物に突入した。
高橋は先頭に立ち、少女たちの居場所を探りつつ、行く手を阻む戦闘員をなぎ倒す。
れいなは縦横無尽に動き回り、圧倒的な強さで敵を一掃する。
後方にいる愛佳は予知能力を駆使し、仲間たちに様々な情報を送り続ける。
同じく後方担当のさゆみは、キャーキャー騒ぎながらも敵の攻撃を巧みに躱し続け、
負傷した仲間が近づいて来れば瞬時に治療してしまう。
中心にいる新垣は、鋼線を操ってさゆみと愛佳を護りつつ、五人の連携の要となる。
歴戦の戦士たちは、完璧な陣形で敵の防衛ラインをいとも容易く突き崩していった。

譜久村・生田・鞘師・鈴木の四人は建物の外で待機している。
「少人数の方が動きやすいけん、あんたらはここで待っとり」
れいなにそう言われた譜久村は、まだ自分の実力に自信がなかったため少し安堵した。
五人の突入を見届けると、鞘師はすぐに草叢に寝転がり、うとうとし始めた。
「りほちゃん、起きていようよ。何かあったらどうするの?」
「あの人たちの力で対処できないような『何か』なんて、そうそうないと思うよ。
それに、もしあったとして、私たち四人の力じゃどうにもできないでしょ?」
睡魔に弱い鞘師は、譜久村に子供のような屁理屈を言うと、すやすや寝始めた。

812名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:16:58
1−2

侵入から約30分後、高橋たちは囚われていた四人の少女を見つけ出す。
新垣に精神干渉された初老の研究員が、虚ろな目で鋼鉄の扉の鍵を開ける。
中に入ると、飯窪・石田・佐藤・工藤の四人が奥の方で肩を寄せ合っていた。
高橋は、怯えた表情で見つめる少女たちに、ニコリと笑って声を掛けた。
「私は高橋愛。
あなたたちの声が聞こえたから、ちょっと来てみたの。
一緒に外に出る?」
四人は逡巡していたが、「愛」と名乗るその女性の澄んだ瞳を見て安心したのか、
まず、佐藤が立ち上がって高橋にしがみ付いた。
すると三人も次々と高橋に駆け寄り、その小さな体を取り囲むように抱き着いた。
「ゥオゥケィ!」
高橋は中途半端にネイティブっぽい発音で明るく叫んだ。
そして、まるでこれからカラオケにでも繰り出すかのように言った。
「じゃあ、行こっか!」

部屋から出てきた高橋に、さゆみがもたれかかり、甘え声で言う。
「ねえ、愛ちゃん、やっぱり瞬間移動できないの〜?さゆみ、足つりそう〜」
しかし、瞬間移動は不可能だった。
この研究所には瞬間移動を妨害する強力な装置が設置されているようだった。
ここに来るまで様々な機械を壊してきたが、その妨害機能は持続していた。

高橋たちが来た通路を戻り始めると、突然前方に一人の少女が現れた。
身構える五人と、慌てて後ろに隠れる飯窪たち。
その少女は、九人から二十メートル程前方に立ち、澄んだ声でこう言った。
「i914、私と戦って下さい」
「…あなたは?」
「私はi-Reproduced412。あなたと同じ、殺人兵器です」

813名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:18:11
1−3

「えっと、あいりぷろづ、どっ、どゅー…」
「愛ちゃん、ここで噛む〜?」
新垣は高橋に突っ込んでから、少女の方を向いて言った。
「あのぉ、省略して『アイリ』さん…でよろしいですかね?
アイリさん、こっちは五人、あなたは一人。
こっちの方がどう見ても有利だと思うんですけど…」
「私はi914の能力をわしゃわしゃわしゃ…。
さらに、全ての能力の性能が、i914のわしゃわしゃわしゃ。
 あなたたちが一度にわしゃしゃっても、おそらく一分もわしゃわしゃわしゃ…」
「…滑舌悪くてところどころうまく聞き取れないんだけど…」
さゆみは愛佳に耳打ちする。
「わたしもです…」
「みんな、逃げて。私がこの子を食い止める」
高橋は少女を睨みながら、意を決したような口調で言った。
「はあ?愛ちゃん、なんでよ!?」
れいなが高橋にくってかかる。しかし高橋はれいなを宥めるように諭した。
「私には分かる。この子はダークネスが作った殺人兵器。
多分、私と同じか、それ以上の力を持ってる。
もし光の力を使ってきたら、私たち全員、一瞬で消滅させられてしまうかもしれない。
 せっかく救えたあの子たちの未来を、ここで終わらせるわけにはいかない」
「へー。やっぱり愛ちゃんには分かるんだね〜」
少女の後ろに、白衣を着た女性のホログラム映像が出現した。
「コンコン!またあんたのしわざなの?」
「お久しぶり、ガキさん。私もここは愛ちゃんの言う通りにした方がいいと思うよ。
 あ、その子達はもういらないから、連れて帰っても全然かまわないよ」
「ふざけんな!じゃあ、何のためにこの子達に辛い目を合わせたと!?」
激昂するれいなに、マルシェは平然と言う。
「そんなの愛ちゃんをおびき出すためのエサに決まってるじゃん」

814名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:19:02
〈愛の行方〉

2−1

マルシェの言葉が終わると、「アイリ」は右手を上げ始める。
数秒後を「見た」愛佳が叫ぶ。
「みんな跳んで!」
新垣が佐藤を、愛佳が飯窪を、れいなが工藤を、高橋が石田を抱きバラバラに跳ぶ。
一人で跳んださゆみも含めて九人が移動した直後、ピンクの光球が襲い掛かる。
光が消えると、九人の居た場所の床が、大きな蟻地獄の巣のように抉られていた。
映像のマルシェが言う。
「私はこの自信作の性能を確認したいだけ。全滅したいんならそれでもいいけどね」
「ガキさんお願い。皆を連れて逃げて。私、力を解放して全力で戦う!」
「…愛ちゃん。分かったよ」
「ふふっ!そう来なくっちゃ!」
嬉しそうにそう言うと、マルシェの映像は消えた。
新垣は、悔しそうに唇を噛むれいなの肩を掴み、静かに言った。
「ここは、愛ちゃんに任せよう…」

高橋を除く八人は秘密研究所を脱出した。
途中、敵の戦闘員による攻撃は全く無く、数分で外に出られた。
外で待っていた譜久村たちは一瞬安堵の表情を見せたが、すぐに顔を曇らせた。
「高橋さんは…?」
鈴木が尋ねると、愛佳は中で起こったことを説明した。
説明が終わると、生田が新垣に聞いた。
「…そのアイリさんっていう人、高橋さんより強いんですか?」
「そんなわけないやろ!」
れいなが声を荒げる。生田はまたもやKYな質問をしてしまった自分を悔いた。
新垣がれいなを宥めようとしたとき、突然辺りが明るくなった。
振り向くと、研究所がピンク色と黄色の入り混じった巨大な光球に飲み込まれていた。

815名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:20:03
2−2

十二人は思わず後ずさりしながら、その恐ろしくも美しい光球を呆然と見つめる。
数秒後、光が収束すると、そこにはクレーター状の巨大な穴だけが残っていた。
「愛ちゃん…」「高橋さん…」
八人はそれぞれの思いを込めて、同じ人の名を呟いた。

高橋が消えた。
新垣はすぐさま譜久村に高橋の精神感応の力を使って探すように指示した。
譜久村は慌ててポケットから高橋の生写真を取り出し、その力を使った。
しかし、譜久村の心に、高橋の精神は感じられなかった。
その後、新垣たちは朝までその付近を捜索したが、結局高橋の姿はどこにも無かった。

喫茶リゾナントに戻ると、救出された四人全員がリゾナンターに入ることを志願した。
新垣は何度も断ったが、行く当てがない四人を無責任に放り出すことも出来ない。
「私達の仲間になったら、いつ敵に襲われるか分からないんだよ。それでもいいの?」
「はいっ!」
「自分の身を自分で守れるようになるために、きつい訓練に耐えなきゃいけないよ?」
「はいっ!」
「うーん…。しょうがないかあ…。じゃあ、明日から特訓だよ!」
「やったー!」
四人が手を取り合ってはしゃぐのを見つめながら、新垣は思った。
(ほーんと無邪気だねー。…昔の私と愛ちゃんもこうだったのかな…)

新しく加入した四人と、先輩とはいえまだまだ未熟な四人。
合計八人の「新人」たちの、厳しい訓練の日々が始まった。

816名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:21:00
2−3

体術はれいなが教官となった。指導はそれまでにも増して厳しくなった。
だが、その甲斐あって石田がその才能を開花させ、目覚ましい成長を遂げた。
そして、数か月後には、あの鞘師がてこずるほどの戦闘技術を身につけた。
もちろん、訓練で新人たちが負傷すれば、さゆみがすぐに治療してくれた。
「りほりほ、ほら、服を脱がなきゃ傷が確かめられないの!こっちにおいで!」
「…私、全然大丈夫ですから。それよりはるなんを治してあげて下さい」
「はるなんはそこで少し横になってれば大丈夫なの!」
「あのー…、道重さん、…私の腕、明らかに折れてるみたいなんですけど…」

精神系の訓練は新垣が担当した。
新垣は、新人の中では貴重な精神系能力者、生田の指導に力を注いだ。
また、敵からの精神攻撃に対する防御の方法は、全員に習得させる必要があった。
「コラー!生田!なんでこっちばっか見てんの!ちゃんと精神を集中させなさい!」
「ぐふふふっ、新垣さんがいけないんですよ、そんなに綺麗な瞳で私を見つめるから」
「もう、えりぽん!真面目にやらないと新垣さんに失礼でしょ!」
「あれ〜?ふくむらさ〜ん、はなぢでてますよ?そのてにもってるのなんですか〜?」
「ちょ、ちょっと、まーちゃん、やめて!」
二人がもみ合っているうちに落ちた写真を、工藤が拾い上げる。
「うわっ!これ、私が着替えてるときの写真じゃないですかぁ!キモっ!」
「……あんたら、いい加減にしなさーい!」

その間にも、異常な事象はしばしば発生した。
新垣リーダー率いるリゾナンターは、これまで通りその解決に尽力した。
新人たちも実戦訓練もかねて一緒に出動することが増えていった。
若い彼女らは、戦いの場を踏むごとに目に見えて成長した。
(この子達、もう大丈夫みたいね…)
あれから数か月が経ち、新人たちの成長ぶりに満足した新垣は、ついに決意した。
リゾナンターを離れ、一人で高橋愛の行方を探す旅に出ることを。

817名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:21:38
〈愛の形〉

3−1

新垣は喫茶リゾナントに全員を集め、自分の意志を告げた。
「えーー!?新垣さん、いなくなっちゃうんですか!嫌です!そんなの絶対に嫌!」
泣き喚く生田を、譜久村が困惑した顔で抱きしめる。新垣が呆れ顔で言う。
「コラ、生田!落ち着きなさい。これが今生の別れっていうんじゃないんだから」
「…あの〜、こんじょーのわかれってなんですか〜?」
佐藤が首を傾げる。
「こんじょうの別れっていうのは、我慢するのに根性が要る別れってことだよ」
「へー、工藤は中一なのによく知っちょうね。れいな、そんな言葉初めて聞いた」
「あのー、それ、違うと思うんですけど…。今生って言うのは…」
幼い三人への飯窪の説明が始まるなか、さゆみは小声で新垣に尋ねた。
「ガキさん、探す当てはあるの?…っていうか、愛ちゃん、…生きてるの?」
「…正直、分からない。でも、私、行かなきゃいけない気がするのよ」
「ガキさんの気持ちは分かるの。でも、ガキさんまでいなくなったら、さゆみたち…」

さゆみが不安がるのも当然だった。
その数日前、愛佳も自らの病気を理由に離脱したいということを皆に告げていたのだ。
「皆に迷惑を掛けたくない」という愛佳の思いを、さゆみ達は止むを得ず受け入れた。
愛佳が離脱するだけでも大変なのに、そのうえ大黒柱の新垣まで去ってしまったら…。
さゆみは黙り込んでしまった。

「あの…、新垣さんがそうしたいなら、ぜひそうしてください」
鞘師がおもむろに口を開いた。
凛とした鞘師の表情に、皆の視線が集中する。
「高橋さんはいまもきっとどこかで生きていると思います。
 探しに行くなら、一日も早い方がいいです。」

818名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:23:29
3−2

新垣の目を真っ直ぐ見つめ、鞘師が続ける。
「新垣さんなら、絶対に高橋さんを見つけ出せると思います」
その鞘師の言葉に続いて、両頬を涙で濡らした譜久村が話し出す。
「新垣さんがすぐに高橋さんを探しに行きたいって思ってるの、分かってました。
 でも、聖たちが頼りないから、それを我慢してるんだってことも…」
「私たち、まだまだ未熟だけど、田中さんや道重さんに迷惑をかけないように
 これからもっと、もっと、もーっと頑張ります!」
鈴木が満面の笑顔と潤んだ瞳で、精一杯明るく言う。飯窪の甲高い声がそれに続く。
「私たち、まだ高橋さんに、ちゃんとお礼を言えてないんです…
 ぜひ、直接高橋さんに感謝の気持ちを伝えさせてください」
涙もろい石田も懸命に言葉を紡ぐ。
「新垣さん…、必ず高橋さんを見つけ出して、…一緒に帰って来て下さい。
 私、高橋さんから…いろんなことを教わって、もっと強くなりたいです…」
「高橋さんにいただいた未来を、私たちがいま一生懸命生きているっていうことを、
 ぜひ、直接見ていただきたいです」
中一とは思えないほどしっかりと話す工藤とは対照的に、ようやく状況が飲みこめた
佐藤は、泣き顔のまま何も話せなくなっていた。
もちろん、佐藤の気持ちは、そこにいる全員が十分に分かっている。
愛佳は、にっこり笑って新垣に語りかける。
「新垣さん、何か『見えた』ら、愛佳、すぐに連絡しますからね」
「ガキさんのしたいようにすればいい。こっちはれいながおるけん、心配はいらん!」
れいなは腕組みしながら、いつも通り自信満々に言う。
一方、さゆみは、いつもとうってかわって、しっかりと力強く新垣に告げる。
「ガキさん。ガキさんが愛ちゃんと一緒に帰るまで、皆で力を合わせて頑張ります」
「…みんな、…ありがとう!」
新垣は両瞼に涙を溜めながら、仲間たち一人一人の顔を笑顔で見つめた。
ただ、生田だけは、譜久村の胸に顔をうずめて肩を震わせ続けていた。

819名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:24:40
3−3

新垣の旅立ちは、その翌朝だった。
その日は休日だったため、全員で新垣を見送ることができた。
喫茶リゾナントの前に並ぶさゆみたち。しかし、生田の姿はそこになかった。
「あいつは本当にしょーがないねー。…じゃ、そろそろいくね」
「ガキさん、いってらっしゃい!」
「新垣さん、お気をつけて!」
左手に落ち着いた緑色の旅行鞄を持った新垣は、何度も皆の方を振り返り手を振った。
もうこれで最後にしよう、そう思って新垣が振り返ったとき。
叫びながら猛然と迫ってくる人影が目に入ってきた。
「大好き、大好き、世界一〇×□△ーー!!!」
「うわーっ!」
新垣はあまりの迫力に思わず数歩後ろに逃げた。
しかし、すぐにそれがあの困った後輩であると気付き、立ち止まり優しく抱き止めた。
抱き合う二人のもとに、笑顔で駆け寄る十一人の仲間たち。
少しずつ暖かさを増していく朝の陽ざしの中、晴れ渡る五月の空に笑い声が響き渡る。

しばらくして、改めて駅へ歩き始めた新垣は、皆の方を最後にもう一度振り返った。
そして、仲間たちの顔一つ一つを目に焼き付けた。
泣きはらした目で、懸命に笑顔を作ろうとしている生田。
生田の肩をしっかり抱き、手をちぎれんばかりに振っているさゆみ。
そんな二人の両脇に立つ、いつも通り元気なれいなと、人懐っこい笑顔の愛佳。
そして、初めて会った時と比べて見違えるように頼もしくなった可愛い後輩たち。
新垣の脳裏に、昨夜の一人一人の姿が改めて浮かび上がる。
表現方法は様々だったが、それらは全て新垣や高橋への思いが表された愛の形。
もちろん、一番心配な後輩がさっき見せてくれた、幼子のような感情の爆発も…。
新垣は、みんなの方を見ながら、噛み締めるように言った。
「リゾナンター。大好き」

820名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:25:20
〈Ending:愛のかけら〉

仲間のもとを離れた新垣は、とりあえず高橋にとっての思い出の地を巡ることにした。
光が氾濫したあの時、高橋が消滅する前に瞬間移動妨害装置が壊れてくれていれば、
高橋には「飛ぶ」チャンスがあったはずだ。
1秒、いや、0.1秒でもいい。たとえ一瞬でも、その時間があれば…。
また、紺野は、あの「アイリ…」という少女を「自信作」と言っていた。
であれば、紺野はその大切な自信作を、消滅する前に何らかの方法で回収したはずだ。
向こうに回収する時間的余裕があったとすれば、それは高橋にとっても同じはず…。
だが、高橋がうまく脱出できていたとして、なぜ数か月経っても連絡をくれないのか。
身体に大きなダメージを負っているのか。それとも、記憶をなくしたのか。
いずれにせよ、生きていたとしても通常の状態ではないということなのだろう。
「今助けに行くから…。待っててね、愛ちゃん」
新垣は、高橋があの時とっさに選んだ可能性のある行先を虱潰しに当たろうと決めた。
たとえそこに高橋本人がいなくとも、生存していたという証拠があるかもしれない。
(愛ちゃんの足跡の一かけらでもいい、残っていてほしい…)
新垣は心の底からそう願った。

♪どっんっなっばーめーんーでもっにっげっなーいー♪
新垣の携帯のメールの着信音が鳴った。
「ん?ま〜た生田だよ。なんでこう毎日毎日送って来るかね〜、なになに…」
新垣は列車に揺られながら、大した内容の書かれていない文面を目で追った。
もうウンザリといった態度だったが、その頬は、誰が見ても分かるほど緩んでいた。

―おしまいー

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『What’s Up?愛はどうなのよ〜』でした。
『「リゾナンター。大好き」』以降の四作品の、少し前に起こった出来事を描いてます。
皆さんの感想、本当に嬉しいです。なお敵の少女のモデルは…、いわずもがなですね。

821名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:26:39
=======================================
>>811からここまでです。
 お好きなところで分割していただいても構いません。
 連続ですみませんが、よろしくお願いします。

822名無しリゾナント:2012/08/28(火) 16:23:07
代理投下行って参りました…が、レス番入れるの忘れましたorz
書き込もうにも猿さん喰らってるのでまだ書き込めません…時間をおいて書き込みます
毎度毎度不備があって申し訳ないですm(__)m

シリアスな話を軸にしつつ小ネタが挟まれていてコミカルさが共存していて面白いです!
毎回3×3+1で収められるのが凄いなぁと尊敬してます
今後も頑張ってください!

823名無しリゾナント:2012/08/28(火) 19:56:47
>>822さん、投稿ありがとうございました!
暖かい励ましのお言葉までいただいて、本当にうれしいです。
今後もどうぞよろしくお願いします!

824名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:11:03
>>219-222 の続き。

 どうせ、私はこんなだ。
 どうせ―――私だから。

蛇口を捻る。冷たい水に手のひらは痛いくらいの温度。
体温。冷えた手。冷たい。冷たい。冷える、ココロ。
冷たい、何もかもが冷えていて、優しさも、温もりも無い。
水の無いプール。薄汚れた底。其処。

 でも満たされれば、なんて穏やかな世界だろう。
 此処はあまりにも醜いものが多過ぎると言うのに。

あの転校生は何故こんな場所に来てしまったのか。
こんな場所に居るのは苦痛でしかないのに。まるで牢獄だ。
可哀想に。
可哀想に。
でも一番可哀想なのはきっと、私。
いじめられても周りの人間は何もしてくれない。
だけどあの時に手に入ったチカラと一緒にかけられた声。

 「なら全部、沈めてしまえばいいじゃない。
 二セモノの世界を、そうすれば浮き上がってくる。貴方だけの世界が」

転校生が他の女子に囲まれている。友達と微笑んでる。
最初からあの子は特別だったんだ。私とは違う、別の人間。
羨ましい。

825名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:12:24
羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい。
ウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイ。

  ―――……。

結局、プールの掃除は途中終了になった。
プールでは未だ水が噴き出し続けていて、それは大雨のようになり。
見る見る水のないプールを溜めていってしまった。
原因は不明。
水道管の破裂かどうかを学園側から要請を受けた専門業者が調査にやってきた。
ただ何となく、無駄なんだろうなと、思う。

水道がどうのこうのとかいう話ではないだろうから。

 「――― じゃ、行ってくるね」
 「行ってくるって、どこに?」
 「水を止めに、部活頑張ってね」

そう言って鞘師はどこかに行ってしまった。
プール清掃が途中で終了となったことで、午後はいつもの時間割。
蛇口からどんどん水が沸きだしていたとしても、授業を止める訳にはいかない。
たった今本日最後の授業が終わって、生徒達はめでたく放課後に突入した。

鈴木は部活の準備をするために鞘師とは別の方向へ歩いて行く。
彼女がどんなことをしているのかは判っていたものの、それに無理に付き合うことは
ないと言われてしまい、あれから怪異な出来事に遭遇していなかった。

 ただ何となく、嫌な予感が過る。

826名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:15:24
ふと、鈴木は廊下の向こう側から来る女子生徒と目が合った。
リボンではなくネクタイだと気付き、先輩だと思って挨拶をする。
 
 「こんにちわー」

軽くお辞儀をしてからその傍を過ぎようとした時、香水の匂いが漂う。
ハーブティーの、匂いだ。

 「――― 此処に居ていいんですか?鈴木さん」

先輩は、小さく呟くように言った。

 「へ?」

その意味を理解できず、だが訊き返そうとしたときにはもう。

 「あ、ちょ、ちょっとっ」

先輩は長い黒髪をなびかせ、廊下を階段の方へと曲がった後だった。
鈴木はまつ毛を揺らし、残像を見送るしか無かった。
瞬間。もわあ、とした空気に包みこまれる。

 「なにこれ…湿気…?」

途端、パシャリと液体か何かを踏んだような気がしたかと思うと
どこかで悲鳴が上がった。

 「え!み、みず…っ?」

827名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:17:18
廊下が水浸しになっている。
とくに生徒達がやいのやいのと騒いでいる辺りでは、手洗い場の水道が
ものすごいイキオイで水を噴射させていた。
それが原因で酷い湿気が起こっている。

 あの時に聞こえた前兆のような『不快な音』はなかったのに。

周りでは、面白いように生徒達がつるつると足を滑らせ、廊下で転んでいる。
だが何かが変だ。普通の水ではない。
もう一層、"透明な水"の水かさが増しているのだ。

 「ど、どうしよう、りほちゃん居ないし…っ!」

ぱしゃぱしゃと"音"が鳴る。濁る様なそれに生徒達が足を取られている。
これでは業者もお手上げだろう。
しかもこれは、鈴木にしか"視えていない"。

 「かのんちゃん!」

すると何処からか見知った声が上がる。
譜久村がぱしゃぱしゃと視えない水を跳ねさせながら走ってきた。
鈴木は助け舟とばかりに譜久村の腕を掴む。

 「大丈夫?怪我してない?」
 「うん。みずきちゃん、やっぱりこれって」
 「りほちゃんはっ?」
 「それがさっきどこかに行っちゃって、水を止めに行くって」
 「水を止めに…かのんちゃん、りほちゃんがどこに居るか判らない?」

828名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:24:36
譜久村の言葉に一瞬考えたが、鈴木は意を決したように視線を上げる。

 「……多分、判ると思う」
 「えりぽんのクラスにも行ったんだけどあの子居なかったの。
 とにかく私達だけでも捜そっ」

刻一刻と、見えない"被害"が拡大していた。
鈴木は鞘師が何処に居るかは判らなかったが、"それを知る術"は在る。

あの感覚を思い出す。
鞘師の姿を見る度に感じた、あのオーラの"色"。
朱、血、鬼、寂、冷――― イメージを焼き付けるような概念。
全ての"音"が鈴木の耳に入り込み、脳内で変換され、目に収束する。

 鈴木が両目を見開く、濃緑色の閃きが左右に瞬いた。
 
その異変に彼女は気付かない。気付く前に彼女は走りだしていたのだから。

829名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:34:07
以上です。
スク水レンジャーな展開にはなりませんでしたごめんなさい。
そういう展開にするなら「ドキッ!女だらけの〜」みたいなものを
書かなくてはいけませんね(真顔

------------------------------------ここまで。

投下される作品が見るもの見るもの面白くて楽しいです。
作者さんのレベル半端ねえ…。
いつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏

830名無しリゾナント:2012/08/29(水) 17:08:50
行ってきますた
香音ちゃんが本格的に目覚めるのかな

831名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:11:50
『Be Alive』

〈君と共に〉

1−1

「うおっ!でかっ!工藤、佐藤、こっちこっち!」
れいなが呼ぶと、工藤と佐藤は笑顔で駆け寄ってきた。
「うわっ!本当だっ!」「ひゃーっ、でっかいですねー!」
二人はれいなの両脇に並んだ。
三人は、特殊アクリル製の透明な板の向こうにいるゴリラを食い入るように見つめた。
薄暗い部屋の中で、そのゴリラはまるで休日のおっさんのように寝そべっていた。
「えー、皆さん、今晩はこちらで寝ることになります。
保護者の方は、人数分の寝袋とマットを取りに来てください」
動物園の職員がメガホンで数十人の親子連れに語りかける。
「ええっ!こんなところで寝ると?」
「田中さん、パンフレット見てなかったんですか?
寝る場所はゴリラの飼育室の前って書いてあったじゃないですか」
「そうやったと?ちょっと、佐藤、パンフレット貸して」
れいなは佐藤の背負うリュックのジッパーに手を伸ばす。
「こちょぱい!」
「うるさいなあ!動いたら取れんやろ!」
「田中さん、私、寝袋とってきます」
「おー、サンキュ」

三人はその日、U野動物園に来ていた。
工藤と佐藤の夏休みの自由研究を終わらせるため、夜の動物園見学会に参加したのだ。
中学生が参加するには、20歳以上の保護者の同伴が必要だった。
道重はその巧みな話術をフルに駆使して、二人のお守りをれいなに押し付けた。
れいなは動物園に着くまでふてくされていたが、園内では一転して大はしゃぎだった。

832名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:13:17
1−2

はしゃぎ疲れたせいか、れいなは就寝時間になるとすぐに深い眠りについた。
「すみません……、すみません……、田中さん……」
工藤がれいなの体を揺する。
心地よい眠りを邪魔されて、れいなの機嫌は最悪だった。
「もう、…なによ!」
珍しくもじもじしながら工藤が小声で言う。
「あの、本当に申し訳ないんですけど…トイレ、一緒に行ってくれませんか…」
「はあ?れいなは今超眠いと!佐藤と一緒に行けばええやろ!」
「それが、まーちゃん、もっといろんな動物を見たいって『飛んで』っちゃって…」
「あいつ…、帰ってきたらビシッといわないけんな…。
それにしても工藤、そのビビり癖、早くなんとかしいよ。
こないだも結局、お化け屋敷に入らんかったやろ?」
「はい…」
「自分の弱点を克服しようっていう根性は無いんか!
そんな根性無し、れいなの仲間には要らん!もうリゾナンターやめりっ!」
「……。」
工藤は泣きそうな顔で黙り込んだ。
れいなが顔を逆方向に向けると、工藤はとぼとぼと暗い廊下を歩いて行った。
「…ちょっと言い過ぎたかな…」
れいなは少し心が痛んだが、睡魔には勝てず、また目を閉じて眠りについた。

トイレはゴリラの飼育舎には無く、本館に行かなければならない。工藤は外に出た。
ひと気のない夜の動物園。その非日常的な空間の不気味さが、工藤を涙目にする。
工藤は勇気を振り絞って、100mほど向こうにある本館入り口を目指して走る。
「はあ、はあ、なんでこんなに遠いんだよ…」
あと20m、10m…、ゴールまであとわずかに迫ったその時…。
ガツッ!
「ウッ!」工藤の両肩に突如激痛が走った。

833名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:14:07
1−3

次の瞬間、バサバサッという羽音がした。工藤は自分の体が浮くのを感じた。
上を向くと、巨大な鷲が工藤の肩を文字通り鷲掴みにして羽ばたいている。
「おいっ!放せーっ!ガブッ!」
工藤は鷲の足に思いっきり噛みついた。
鷲は痛みで鉤爪をパッと開いた。
「うわーっ、放すなー!」
ドサッ!地上約10mの高さから落下し、衝撃と痛みで工藤は動けなくなった。
「…ち、ちくしょー…、足、折れてるかな…」
落ちたところは、さっきの場所から数百メートル南にある広場の芝生。
鷲は、夜空に半円を描いて、再び猛スピードで向かってくる。
工藤はうつ伏せのまま、両手で頭を守るしか無かった。
鷲は真っ直ぐ急降下してきて、工藤の背中を鋭い爪で引き裂き、また空に舞い戻る。
「い、いてー…」
脇腹に背中から暖かい血が垂れてくるのを感じた。
鷲のヒットアンドアウェイは執拗に繰り返される。
それは、猫が鼠を嬲りものにしているかのようであった。
工藤は額を地面に付けていたが、千里眼の特殊能力によって鷲の姿は見えていた。
(あいつ…なんで止めを刺さないんだ?ハルをエサに田中さん達をおびき出す気か?)
近くのコンクリートの上に落ちている携帯を見ると、大きなひびが入っていた。
だが、たとえ携帯が壊れていなくても、工藤はれいなに助けを請うつもりはなかった。
れいなに言われたあの言葉が、工藤の心にのしかかっていた。
(やっぱり、こんな鳥にも勝てないハルは、リゾナンターに必要ないのかな…)
工藤がそう思った時、目の間の空間が歪み始めた。
「まーちゃん!?」
それは、佐藤が瞬間移動するときに必ず生じる現象だった。
歪みはどんどん大きくなり、ついにキリリと引き締まった表情の佐藤が現れた。
大きなパンダに乗って。

834名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:15:10
〈友と共に〉

2−1

「はああああ!?」工藤は目を疑った。
だが、佐藤が跨っているのは、間違いなくあのジャイアントパンダだ。
闇空を舞う鷲は、新たな敵に気付いたらしく、向きを変えて佐藤とパンダに迫る。
「ぱんださん、おねがい!」「ガオ」
猛スピードで突っ込む鷲。パンダは立ち上がって鷲に右前脚を叩きつける。
「ギャッ!」鷲は妙な鳴き声をあげながら左に吹っ飛んだ。
「パンダ強っ!」工藤が思わず声を上げる。
しかし、鷲はすぐに体勢を立て直して飛びあがり、闇に溶けていった。
パンダの背中にくっつき虫状態の佐藤が、工藤に大きな声で言う。
「どぅー!あのとりさんはてきだよ!まー、まえにみたことあるもん!」
「敵なのは分かってるよ!それよりそのパンダ、どうしたの?」
「まーもよくわかんない!どぅー、このぱんださん、だれ?」
「知るかああ!」
「そうだよねー、それより、どぅー、あのとりさんどこにいったかみえる?」
「もう、訳が分かんないよ………ええっと、あっ!見つけた!あそこの裏!」
鷲は、そこから100m程離れた木の、死角になっている枝に潜んでいた。
パンダがすぐさま工藤の指す方へ走り出す。
佐藤は騎手のようにパンダを巧みに乗りこなしている。
バッ!パンダが跳ぶ。
そして、地上5m辺りのかなり太い木の幹を右前脚でぶん殴る。
バギッ!「ギェエエエエエッ!」
木の幹もろとも鷲が吹っ飛ぶ。
そして、そのまま地面に落ち、ピクリとも動かなくなった。
「やったー!ぱんださん、ありがと〜」
佐藤は背中から降り、パンダの首に抱き着いた。
パンダは優しい目で佐藤を見つめた。そこに、一瞬の隙が出来た。

835名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:15:48
2−2

突然、パンダの体がびくっと動いた。
そして、ゆっくりと地面に這いつくばる。
「あれ?ぱんださん、どーしたの?」
佐藤が屈んで顔を覗き込むのと同時に、暗闇から十数人の全身黒ずくめの男が現れた。
「ゼンマザイジャアル?(何でこんなところに?)」
「…ハオバ、ザイジャアルシャーバ。(…まあいい、ここで始末してしまおう。)」
「…グルルル」
男たちの会話の内容が分かるのか、パンダが弱々しく唸る。
佐藤は、パンダの背中に吹き矢が刺さっているのを見つけた。
(どく!?)
佐藤の推測通り、その矢には神経を麻痺させる猛毒が仕込まれていた。
佐藤は、愛佳に教わった毒抜きの方法を思い出した。
急いで吹き矢を抜き取り、傷に口を付け、血ごと毒を吸いだしてペッと吐き出す。
黒ずくめの男たちは、半月刀を構えて、パンダと佐藤を半円状に取り囲んだ。
佐藤は一心不乱に、毒を吸って吐き出す作業を繰り返す。
「ジャーガニューハイ、ゼンマバン?(この娘、どうします?)」
「…シャー(殺せ)」
彼らのリーダーらしき長髪の男が言うと、二人が前に出て佐藤とパンダに近づく。
「待て!」
工藤は、超人的な精神力で全身の激痛に耐え、立ち上がって叫んだ。
「ハルの親友に手を出すな!」
長髪の男が工藤の方を向いて、思わず声を漏らす。
「オオ、ジェンクーアイ…(おお、超かわいい…)」
鼻の下を伸ばしたその長髪の男は、舌なめずりをしながら工藤に近づいていく。
(ちくしょう、…ハル、どうする?)
工藤は落下の衝撃と鷲の攻撃によるダメージで、立っているのがやっとだ。
「モンア〜(萌え〜)」
気持ち悪い声を出しながら、男が手を伸ばして工藤に触れようとした。

836名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:16:33
2−3

ゴギッ!
鈍い音とともに長髪の男の動きが止まる。
「大切な後輩に、なにしよう…」
「田中さん!?」
工藤が叫ぶと、男の顔面に拳をめり込ませたれいなが静かに答える。
「ごめん、遅くなった」
言い終わると、高速で体を半回転させ、左足で男の胴を蹴り上げた。
「グエッ」
長髪の男が後ろに吹っ飛ぶ。
だが、男もプロらしい。すぐに体勢を立て直し、立ち上がって部下に向かって叫ぶ。
「シャー!(殺れ!)」
黒ずくめの男たち全員がはじかれたように動き出した。
一人がパンダ、一人が佐藤、残りの十人と長髪の男がれいなに、それぞれ襲いかかる。
「「ギャーッ!」」
れいなが先頭の男に蹴りを見舞った時、佐藤とパンダを襲った二人が同時に絶叫した。
崩れ落ちる二人の男の背中からは、緑色の炎が上がっていた。
その炎に照らされて、闇の中に一人の少女の姿が浮かび上がる。
少女はれいなの方を向いて言った。
「田中サン、手助けはいるカ?」
「いらん!」
「そういうと思タヨ」
少女と話している間にも、れいなは次々と敵を仕留めていく。
そして、最後に長髪の男に全力の拳を打ち込み、早々と戦いを終わらせた。
「田中サン、ますます強くなタナ。まるでバカものみたいダ」
「はあ?それをいうなら『化け物』やろ!リンリン、日本語下手になったんやない?」
れいなはかつての戦友を見て、汗一つかいていない顔に子供っぽい笑みを浮かべた。

837名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:17:11
〈夢と共に〉

3−1

れいなは佐藤に、さゆみを連れて来るよう指示した。佐藤はすぐに「飛んで」いった。
パンダは、佐藤の応急処置が功を奏し、大事には至らなかったようだ。
黒ずくめの男たちの後始末は、リンリンの仲間がしてくれるらしい。
一方、工藤を襲ったあの大きな鷲は、例のごとくいつの間にか消えていた。

工藤は鷲に襲撃されたことをれいなに報告した。
それを聞き終わるとれいなは、その夜起こったことを皆に説明した。

工藤が一人でトイレに向ってしばらくして、れいなの携帯に愛佳から電話がきた。
「田中さん、今、どこにいます?工藤が危険です!」
れいなは慌てて寝袋から飛び出した。
そして走りながら、自分と工藤佐藤がU野動物園に来ていることを愛佳に伝えた。
それを聞いた愛佳は、自分がその夜見た「夢」の内容を話し出した。
その夢の中で、工藤は大きな鳥に襲われ血だらけになっていた。
背景の看板には、U野動物園南広場という文字が見える。
そして、そこには佐藤と、なぜかジュンジュンと思われるパンダの姿もあった。
目覚めた愛佳は急いで工藤に電話をしたがつながらない。
佐藤に電話すると、ちょうどパンダの見学中だった。
愛佳は、佐藤にそのパンダを連れて工藤のところに「飛ぶ」ように指示した。
さらに次の指示を出すために佐藤に電話をかけたが、それに出たのはリンリンだった。
そこで、リンリンにも事情を話し、南広場に向かうよう頼んだ。
以上のような話を愛佳から聞いたところで、れいなは南広場に到着した。
同時に、別方向から走ってくる見慣れたシルエットの少女に気付いた。
れいなは電話を切って、工藤に近づく長髪の男に全速力で突進した。

「ところでリンリンとジュンジュンは何で日本におると?」
れいなにそう尋ねられ、今度はリンリンの説明が始まった。

838名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:17:44
3−2

リンリンとジュンジュンは、「刃千吏」の極秘任務でU野動物園に来ていた。
数日前、ある犯罪組織がU野動物園のパンダ暗殺を計画しているという情報が入った。
どうやら、外交カードを増やしたい中国政府が裏で関与しているらしい。
そこで、その暗殺を阻止するために、リンリンとジュンジュンが急遽来日した。
ジュンジュンは、獣化能力を使い、狙われているパンダの影武者となった。
獣化状態を持続させるために、最低でも12時間は元に戻れなくなる薬を飲んだ。
敵の襲撃を待ち構えていると、どこから入ったのか突然檻の中に一人の少女が現れた。
少女はパンダ、すなわちジュンジュンに駆け寄り、嬉しそうにピタッとくっつく。
その少女は、どう見ても暗殺者には見えなかった。
困ったジュンジュンはとりあえずそのままパンダとして振る舞うことにした。
少女はジュンジュンにまたがり、キャッキャッと楽しそうに笑った。
ジュンジュンも、少女と一緒に遊んでいるうちに、だんだん楽しくなってきた。
「ジュンジュン、ニイザイガンシェンマ…(ジュンジュン、何してるの…)」
隣室のモニターで監視していたリンリンが呆れていると、突然少女の携帯が鳴った。
少女はジュンジュンから降り、携帯にこう言った。
「みついさ〜ん、こんちくわ〜、どうしたんですか〜」
(光井サン?)
その名前を聞いて、ジュンジュンは驚いた。そして、電話の内容に聞き耳を立てた。
愛佳が何か指示を出している。しかし、少女は全く状況を飲み込めていないようだ。
「う〜ん、よくわかんないですけど、いまからみなみひろばにいけばいいんですか?」
「そう!ジュンジュン…いや、そこのパンダと一緒にや!佐藤、パンダに代わって!」
「はーい。ぱんださん、おでんわですよ〜」
「ガウ」
携帯を受け取って愛佳の話を聞き終わると、ジュンジュンは少女を再び背中に乗せた。
そして、少女が何か叫ぶと同時に、少女とジュンジュンの姿が忽然と消えた。
慌ててリンリンが檻の中に入る。
それと同時に、うっかり忘れていったのか、床に落ちていた少女の携帯が鳴り出す。
リンリンは平仮名で「みついさん」と表示されている画面の着信ボタンに指で触れた。

839名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:18:28
3−3

れいなはテディーベアのように腰かけているジュンジュンの肩にもたれかかった。
ジュンジュンは、リンリンからもらった薬が効いてもうほとんど回復している。
「やっぱりジュンジュンの隣が一番落ち着くな〜」「ガウ」
れいなはあまりの心地よさにうとうとし始めた。

リンリンは工藤に痛み止めを飲ませ、背中の傷の応急処置をしながら話しかけた。
「はるかチャンはまだ中学一年生カ。よくこの傷に耐えられタナ。すごい精神力ダ」
リンリンの天真爛漫な笑顔を見て、工藤はこの先輩になら何でも話せる気がした。
「…いいえ。ハルは本当にダメです…。さっきも田中サンに言われました。
ハルは根性無しだから、リゾナンターをやめろって…」
「アハハハハッ!」
「リンリンさん、笑うなんてひどいですよ〜」
「ゴメン、ゴメン。でも、田中サン、変わらナイなって思ったカラ…」
「えっ?変わらないってどういうことですか?」
「ワタシも、前にソレ、言われたことあるヨ」
「リンリンさんも田中さんにやめろって言われたんですか?!」
「ワタシもジュンジュンも言われタヨ。あのときの田中サンの顔、鬼みたいに怖かタ。
 でも、そのアト敵と戦っタとき、田中サンはワタシタチ庇ってボロボロになっテタ。
 そのトキ、思っタヨ。田中サンは、ワタシタチにもっと強くなって欲しくて、
 厳しいコトバ言っタ。強くなれば、ケガしたり、死んだりしなくなるカラ」
「……」
「田中サンはムカシ一人ぼっちだタカラ、やっと出来た仲間が傷つくノ本当に嫌がル」
「……」
「はるかチャン、田中サンが心配いらなくなるくライ、強くなって下さイネ!」
工藤はジュンジュンにもたれかかっているれいなを見ながら、元気に返事をした。
「はい!」

840名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:19:31
〈Ending:汗と共に〉

「おまたせしました〜」空間が歪み、そこに佐藤が現れた。巨大なサイに跨って。
「はあああああ!?」工藤はまたもや自分の目を疑った。
れいなが立ち上がって怒鳴る。
「佐藤!なんでサイなんか連れきよったと!?」
「だって〜、たなさたん、すぐにさいをつれてこいっていったじゃないですか〜」
「れいなが言ったのはサイじゃない!さ!ゆ!」
「がびんぼよ〜ん」
サイは草食動物だが、非常に気が荒い。
豹柄の服を着て大声を出すれいなの姿は、サイの闘争心を激しく喚起した。
ドドドドドドッ「うわわわっ!サイがこっちに来ようっ!」
れいなは慌てて逃げ出す。それを追うサイの上で、佐藤が無邪気に言う。
「たなさたんもさいさんといっしょにあそびましょ〜」
そのとき、リンリンのポケットの中の佐藤の携帯が鳴った。
「おー、光井サンだ!もしもーし、リンリンでーす。こっちは無事解決しましタ。
 みんな大丈夫ダ!バッチリンリンでーす!」
工藤が少し心配そうに言う。
「…田中さん、大丈夫ですかね」
「心配ない。あの人、バカものだカラ」
「ガウ」
れいなは、人間の限界を超えたスピードで両脚を動かした。
そして、先程の戦闘では全くかかなかった汗を全身に感じつつ、大声で叫んだ。
「さあああとおおおおおお!あんたああ、りぞなんたああ、やめりいいいいいいい!」

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『Be Alive』でした。
夏休みも終わりということで、こんな作品はいかがでしょう。

841名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:20:41
=======================================
↑>>831からここまでです。
 お好きなところで分割していただいても構いません。
 いつもすみませんが、よろしくお願いします。

842名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:43:42
行って来ますかね

843名無しリゾナント:2012/08/31(金) 00:03:53
完了
第三者であるリンリンによって語られるれいな像で工藤とれいなの関係性が変わっていく様子が好きです

844名無しリゾナント:2012/08/31(金) 10:13:15
>>843さん、投稿ありがとうございました。
 こんなに早く投稿したいただけるとは!
 また、ご感想もありがとうございます。とても励みになります。
 これからもよろしくお願いします。

845名無しリゾナント:2012/08/31(金) 10:43:11
すみません…。
「こんなに早く投稿したいただけるとは!」は、正しくは、
「こんなに早く投稿していただけるとは!」でした。
本文も含めていろいろ誤字が多くて、これじゃあリンリンのこと日本語下手って言えませんね。
今後はもっとしっかり見直すように心がけます。

846名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:17:01

二時の方向にダークネスの反応があると聞き、リゾナンターは現場へ急行した。
現場は、地下鉄「萌えーお江戸線」の某駅前だ。
迷ったり乗り継ぎでミスしたりして「地下鉄は複雑過ぎるわっ!」とツッコミを入れながらも、なんとか某駅に辿りついたメンバーたち。
だが、時すでに遅し。
そこはもう、ダークネスの悪意によって支配されていたのだった。

「キャハハハハ!いらっしゃーい、東京デカイツリー×3開業でーす!今ならオープン記念で入場料がお安くなっておりまーす!」

駅前で道行く人に宣伝のうちわを配っている、ちっちゃくてうるさい女がいた。
良くも悪くも耳につく声だ。
チキンのチェーン店のCMなどを任されてもおかしくないかもしれない。

さて、駅を出ると真っ先に目に入るのがこの女なのだが、よく見るとその背後がまたすごかった。
数百メートル先にそびえ立つ三つの塔。
2012年に開業した東京下町の新名所に似ていなくもない。
っていうか、そのものじゃね?

「ダークネスめ!何を企んどると!」

れいなが勢いよく前に出る。
まだまだ若いもんにセンターは譲らん!といった気概が見えた。

847名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:38:45
「あー?・・・なんだおめーらかよ。ほら帰った帰った。商売の邪魔だ」
「商売?」
「みなさーん!下町タワーは混んでて入場券買うのも一苦労ですよー!こっちのツリーに昇ったほうがおトクですよー!」

ちっちゃい女はれいなを相手にせず呼び込みを再開した。
女の宣伝の甲斐あってか、夏休みで暇そうにしている通行人がぞろぞろと下町タワーもどき×3に向かって歩いていく。

「どうも、下町電波塔の営業妨害を狙ってるみたいですね」
「まーちゃんもデカイツリー昇りたい!」
「バカ。ダークネスの作戦に乗っかってどうすんだよ」
「とにかくまずはポーズ決めましょう!戦隊ヒーローモノの基本ですよっ!」
「それもそうだね。じゃあ」

「やらせるかぁ!」
「わー!!」

ダークネスのちっちゃい女が全身でツッコミをかます。
さすが黄金期のツッコミ担当、と言わんばかりのキレと素早さだった。

「こっから10行も使わせるわけないだろ!全員分の決め台詞考えるほうの身にもなってみろ!」
「えー・・・・・・」

848名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:39:36
ヒーローモノの定番である登場シーンは都合によりカット。
ガッカリした顔をしているメンバーもいるが、これはそういうものだと思ってあるがままに受け入れてもらうしかないのである。

「れいなが先走って声をかけなければ、邪魔されずにできたかもしれないのにね」
「ちょ!れいなのせい!?」
「これでは、このお話のメンバー構成が読んでる方に伝わりませんわ。シクシク」
「今のリゾスレはそこを明示しないと、いつの時代の話なのか混乱するヤシ。グスグス」
「うっさい!あいつが10行って言いよるけん、2012年夏現在の10人ってわかるやろ!ってかそこ!嘘泣き!」

話を戻そう。

ダークネスという組織は、営業・広報力に定評のありそうなちっちゃい女を使って墨田区の営業妨害をしている。
その目的はいったいなんなのだろう。

「こんなものまで売ってましたからね。向こうは本気みたいですよ」

香音と春菜の二人がすっと前に出る。
香音の腕に抱えられているのは、焼きそば、たこ焼き、りんご飴、チョコバナナなど。
さらに春菜の左手首にかけられたビニール袋の中には、ツリーのマークが入ったクッキーや饅頭の箱などが入っていた。

849名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:40:20
「みんながコントやってる間に偵察してきました。この食べ物類は、その辺の屋台で売っていたものです」
「そこの“東京ホラマチ”っていうお店の中では、キーボルダーなんかも売ってましたよ。
 全10色だからみんなの分も買ったんですけど、やっぱりチョコレート色はないですね・・・」
「こここ、こんなに買い物するなんて・・・。二人のお小遣い、月いくらなんですか・・・」
「大丈夫だよ亜佑美ちゃん。全部経費で落とすから」
「私も!私もちょっと偵察に!!!」
「いや、もう充分だし」

今にも駆け出しそうな亜佑美を生温かい目で見守りながら、さゆみはダークネスの狙いを分析する。
これだけ多様な店を出店料の高そうな「萌えーお江戸線」の駅前に集めたのだ、連中も遊びでやっているわけではない。
そうだ、女は先程「商売」と言っていた。
ということはつまり。

「やいダークネス!おまえたちの狙いはなんだ!」
「ちょっと!そんなはっきり!」

さゆみが真面目に考えてる横から、衣梨奈が単刀直入に疑問をぶつける。
リーダーらしくシリアスな顔でキメてるところだったのに。
空気読めよこのKY、とさゆみは口の中で毒づいた。

「ふん。我がダークネスは“萌えーお江戸線”と業務提携してるんでな。あっちの沿線にばっか人が集まるのは面白くないんだよ」

しかも、あっさりと狙いを教えてくれるっていう。

850名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:41:05
「いくつか催眠をかけてあるからな。客は東京デカイツリーに昇ったつもりで、実は333m塔に昇ってるって寸法だ。
 帰りに“ホラマチ”でお土産のデカイちゃんグッズでも買ってくれたら、言うことないね!」
「この悪党!」
「邪魔するなら容赦しねーぞ。あそこに見えるデカイツリー×3は完全な幻ってわけじゃないんだ。行け!一号、二号!」

ちっちゃい女の合図で、三つの塔のうち左右の二つが動き出した。
ズシン、ズシンとこちらに迫ってくる。

「頑張れ、ダーリン!やっちゃえ、モトコサン!」

“ダーリン”と呼ばれた一際大きな木偶の坊と、“モトコサン”と呼ばれたジャイアントがリゾナンターに襲いかかった。
二つのデカイツリーに手が生えて、右パンチ左パンチ右アタック左アタック。
あまりに長大なそのリーチに、リゾナンターはただ逃げ回ることしかできない。

「うわわわわ!怪獣映画かよ、くっそー!」
「キャー!まだりほりほのスク水写真集完成してないのに潰されるのはイヤー!」
「ダメじゃダメじゃー!フクちゃんのありとあらゆる肌に頬ずりするまでは死ねーん!」
「私の最期は道重さんの腕の中って決めてるのに・・・!それが無理なら、ハアハア、小学5,6年生くらいの、女の子たちに囲まれて・・・ハァハァ」
「いろんな意味でもうダメだ!!」

絶望感に包まれるリゾナンター。
しかし、まだ諦めていないメンバーが一人。

851名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:42:08
「諦めるにはまだ早いっちゃん!この10人だからこそできる必殺技があるやろ!」

木陰に隠れて顔だけ出したれいなが凛々しく叫ぶ。
そうか、その手があったか。
他のリゾナンターもれいなにならい、木陰に隠れる。
そしてデカイツリーの手が届かない奥のほうで、10人は最新のフォーメーションを組んだ。



「リゾナントバスター改変版!“リゾナント・カラフルキャラクター”!!!」



※モーニング娘。の最新アルバム『(13)カラフルキャラクター』は、9月12日(水)発売です。

「「グワァァー!!」」

新必殺技“リゾナント・カラフルキャラクター”が見事に決まった。
崩れ落ちるデカイツリー一号と二号。
するとあら不思議、それまでデカイツリーだったものが見る見るうちに人型に変化していく。
どうやら催眠幻覚で必要以上に巨大に見せていただけで、ベースは正真正銘の人間であったようだ。

「ああ!ダーリン!」

852名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:42:59
ちっちゃい女が、恋する姐さん女房顔で元デカイツリー一号に駆け寄る。
倒れた男と介抱する女。そのカットだけ切り取ってみれば、まるでドラマのワンシーンのようだった。
ちなみにその隣では元二号も倒れていたが、新婚さんがそっちを振り向くことはないので以下省略。

「ツリーの横に333mタワーが見える!まだ戦いは終わってない!まさかあのツリーも催眠をかけられた人間なの!?」
「おそらくそうです!聖の持つ聖なるパワーで、くまくました可愛い女性が視えます!」
「聖にそんな能力設定あったっけ」
「そこは空気読んでください、生田さん!」

デカイツリー×3ということで、敵はまだあと一塔残っている。
しかし、最強の必殺技を放ってしまったリゾナンターに力はもう残されていなかった。
このままでは、夏休みの最後を安近短で済ませようとする人たちのお金がダークネスの手に堕ちてしまう・・・!

「ねー、くどぅー。夏休みの宿題終わった?」
「え。いやまだ数学と美術が残ってるけど」
「まーちゃんはねー、英語が終わったんだよー」
「英語“が”?まさか終わってるの英語だけ!?」

「・・・・・・宿題?」

853名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:43:29
最年少コンビの和やかな会話。
それに反応を示す声が、上空からひらり。

「くまくまー!!!」

奇声を発し、最後のデカイツリーが人間の姿に戻っていく。
だがリゾナンターは何もしていない。
ちっちゃい女も、傷つき敗れたダーリンと愛を語らうことに必死で、何かした様子は見られない。
いったいデカイちゃんの身に何があったというのか。

「ふう。弟の夏休みの宿題見てあげる約束をすっかり忘れてたよ。お姉ちゃんが約束やぶっちゃダメだよね」

綺麗な女子大生風のお姉さんの姿になったデカイちゃんは、そのまま何事もなかったかのように去っていった。
きっと彼女はこれから家に帰って、約束どおり弟さんの宿題を見てあげるつもりなのだろう。
真面目だ。実に真面目な性格だ。
故に、「宿題」の一言で我を取り戻したのかもしれない。
夏休みの終わりに聞く「宿題」という言葉は、学生であればあるほど結構ビクッとする。
彼女も例外ではなかったのだろう。

854名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:44:05
「えっとー・・・一件落着ってことでいいのかな、れいな」
「れいなに振らんでよ。れいなはリーダーの判断に従うけん」
「ずるーい。こういう時だけさゆみのことリーダー扱いして」

「じゃあ早く本部に帰りましょう!まーちゃんに宿題やらせないと!」
「でも〜、今日の出動報告書、まーちゃんが担当だからぁ〜」
「そんなもんだーいしが代わりにやってくれるって!ねっ!」
「・・・うん。それは別にいいけど・・・・・・」
「あゆみん、屋台への未練が視線に表れてるよ」

「別に宿題なんかやらなくても高校生になれるのに」
「聖って案外アホっちゃんね〜。数学のテスト6点やったっけ?」
「その後は42点に上がったもん!っていうかそうじゃなくて、学校なんておじいちゃんに頼めば大丈夫ってことを聖は言いたかったの!」
「うわぁ・・・」
「ああ香音ちゃん!そんな残念なものを見るような目で見ないで!」
「アハハハ!」
「・・・他人事だと思っとるみたいじゃけど、香音ちゃんはえりぽんにも結構そういう顔しとるよ?」

何はともあれ、悪の手は退けた。
酷暑だろうが酷ネタだろうがオチてなかろうが、リゾナンターは今日も往く。
今日も往くのだ!


おしまい

855名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:46:07
>>846-854
『カラフルリゾナンター 〜VSデカイツリートリオ〜』

オチなんていらねえよ、夏
小ネタに関してはふざけてるだけで悪意はないのであしからず


――――

酷い話ですがせっかく思いついたので
よろしくお願いします

856名無しリゾナント:2012/08/31(金) 22:27:51
行って参ります

857名無しリゾナント:2012/08/31(金) 22:36:54
行って参りましたがなにからつっこめば良いのやら…w
個人的にくまいちょーが好きです
「いろんな意味でもうダメだ!!」も最高でしたw

858名無しリゾナント:2012/09/01(土) 12:17:27
くくくくくくまいちょーちゃうわ!
実在の人物・団体とは関係ありません的なテイですから!

代理ありがとうございました

859名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:16:18
『女子かしまし物語2012』

〈WOW WOW WOW 青春〉

1−1

「ハァ…」生田衣梨奈は机の上の携帯を見つめながら、また、ため息をついた。
生田は休み時間になると、新垣里沙からの返信メールを、いつもこうして待っている。
生田がこれほど新垣に魅かれるようになったのは何故か。
リゾナンター加入前、生田の憧れの存在はTVに出てくる流行りのアイドル達だった。
加入後も、特に先輩の誰に憧れているということはなく、皆同じように尊敬していた。
生田が新垣に対して明らかに特別な感情を抱くようになったのは、去年の今頃からだ。

その頃から生田は、新垣から感じる「安心感」に魅了されはじめた。
高橋がいなくなってから、新垣の指導は急に厳しくなった。
何度も何度も叱られ、何度も何度も泣かされた。
だが、新垣からのアドバイスは、全てが分かりやすく、納得できるものだった。
また、ほんの少しでも成長すると、新垣は母のような笑顔を見せ、頭を撫でてくれた。
戦場での新垣からも、絶対的な「安心感」を感じた。
高度な技術、無尽蔵のスタミナ、冷静な判断、的確な指示、仲間や周囲への配慮…。
皆が安心して戦うことができるのは新垣がいるからだ。生田はそう感じていた。
いつも自分に対して不安を感じている生田にとって、その「安心感」は眩しかった。

生田はいま、一日も早く新垣のようになりたいと、心の底から思っている。
だが、自分がその目標に向かって前進しているという実感が、生田には全く無い。
そもそも自分は、リゾナンターに入ってから、何か成長できたのか。
確かに、精神破壊波を制御できるようにはなった。しかし、そんなのは些末なことだ。
もっと本質的なところで、自分は何も変わっていないのではないか。
こんな成長の無い自分が、あの人の域に達する日なんて、本当に来るのか。
そんな不安に苛まれる度、生田は無意識のうちに新垣の「安心感」にすがろうとする。

新垣里沙という人間の凄さに気付き、憧れ、そして、目標と決めたこと。
それこそが生田の「本質的な」成長の証しだということに、本人はまだ気付いていない。

860名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:17:07
1−2

佐藤優樹は、隣りでスポーツ飲料水をがぶ飲みする工藤をボーっと見ていた。
佐藤は工藤が好きだ。本当に大好きだ。でもその理由が、自分でもよく分からない。

リゾナンターの同期だから?
違う。もちろん同期はみんな好きだ。飯窪も石田も、かけがえのない存在だ。
でも、工藤に対して抱く感情は、もっと特別なものだ。

叱ってくれるから?
それも違う。佐藤はリゾナンターのメンバー全員から叱られている。
メンバーといる時、佐藤は感情のままに笑い、泣き、甘え、叫び、だだをこねる。
佐藤が自分の感情を抑えないのは、みんなを本当の家族だと思っているから。
みんなは自分を叱るけど、見捨てることは絶対にない。
だから、安心して、心を開け放つことができる。

(じゃあ、どうしてどぅーはとくべつなんだろ〜?)
佐藤は、自分がいつも工藤に抱いている思いを、一つ一つ確認してみた。
工藤のそばにいたい。工藤に自分の話を聞いてほしい。
工藤に自分の思いを共感して欲しい。工藤を自分のものにしたい。
できることなら、工藤を自分の体の一部にしてしまいたい…。

「まーちゃん!冷蔵庫あけっぱなしにするなって言われてるじゃん!」
(あっ、どぅーがこっちむいた!)
佐藤の心が躍る。
(おとなになればわかるのかな?)
佐藤はもうそれ以上考えるのをやめた。
そして、工藤に駆け寄り、いつものようにその背中にくっついた。
決して離れないように、ぴったりと……。

861名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:17:37
1−3

工藤遥は、黒ずくめの男たちを倒していく田中れいなの勇姿を思い出していた。
れいなの動きは美しい。その四肢は、きまった型にはまらず、自由奔放な動線を描く。

争いに満ちた人類の歴史は、幾多の戦闘術を生み落してきた。
それらは、無数の先人達が生命を賭して創造し、継承してきた技術の結晶だ。
そして、一つ一つが時と血によって磨かれた、揺ぎない理論によって構築されている。
では、れいなの戦闘術はどうか。
彼女に自らの戦闘術が如何なる理論に基づいているのか尋ねたら、こう答えるだろう。
「リロン?何それ。国の名前?ドイツ?」

高橋愛を知る前のれいなは、私闘で明け暮れていた。
自信家でわがままで口が悪く、筋の通らないことは認めず、阿諛追従を嫌う。
まさに一匹狼にしかなりようのない性格だった。
争いの種を毎日まき散らし、その収穫に追われる日々。
類まれなる天賦の才は、そのような自学自習のスパルタ教育によって磨かれ続けた。
仮に彼女の戦闘術に理論があるとすれば、それはこの一言で説明できるだろう。
「強気」
自分は強い。もし負けたら、それは相手が自分より強いからではない。
自分がミスなく戦えていれば、負けるはずがない。
ミスを無くすためには、身体が意思の従順な僕になるまで鍛え上げなければならない。
れいなは真面目だ。勝つ為ならば、どんな努力も惜しまなかった。
自分の思い通りに戦うことができれば、誰にも負けるわけがないのだ。
なぜなら、自分は、田中れいなだから。

生死のかかった一瞬一瞬を自信満々に躍動し、戦場という「舞台」で誰よりも強い輝き
を放つれいなは、工藤の理想そのものだった。
自分も、いつかあんな風になれるかな…、 いや、なる!絶対に!
憧れが目標に変わる年頃、すなわち青春と呼ばれる季節に、少女はさしかかっていた。

862名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:18:12
〈いろいろあるさ〉

2−1

ある夏の昼下がり、譜久村聖は工藤の写真をじっとりと見つめていた。
二時間前、一緒に訓練をしていたときの工藤の姿が、脳裏に蘇ってくる。
工藤は幼い体を懸命に動かし、れいなの動きを少しぎこちなくトレースしていた。
その額が、首筋が、二の腕が、太ももが、子供特有の甘い匂いのする汗で光っている。
真剣な眼差し、端正な顔立ち、細く小さな体、漏れ出る低い声。
すべてが中性的な魅力に満ちていて、もはやそれは、芸術作品としか思えなかった。
抱きしめたい…、抱きしめたい…、この体でその全てを包み込みたい…。
譜久村は、全然悲しくないのに、自分の瞳が涙で潤んでいるのに気づく。
(どうして涙が出てくるんだろう。聖、やっぱり変なのかな…)
譜久村は、突然、自分の心を分析してみたい衝動に駆られた。
工藤を見ていたあの時に渦巻いていた思念を、胸に手を当ててリロードしてみる。
激しく、無心に動き続ける工藤の姿態を、このまま永遠に見ていたいという幸福感。
一方で、このまま続けてはその華奢な体が壊れてしまうのではないかという不安。
この場ですぐ押し倒して、嫌がる工藤を思いのままに汚してみたいという欲望。
それとは逆に、工藤には永遠に純潔無垢なままでいて欲しいという祈りにも似た思い。
矛盾しているのに完璧に嵌まり合い、延々と回転を続ける二対の思念の螺旋運動。
読み取ったそれらの思念に体が支配され、心臓の鼓動が激しくなっていく。
上気した頬に水滴が二筋走り落ちるのを感じながら、譜久村は写真を唇に運んだ。

「ふう…」事が済んだ譜久村は、ケースのフタをあけ、そこに工藤の写真を戻した。
そして、新たに一枚、無作為に取り出し、そこに写っている人物が誰か確認した。
「ほう、お次はこうきましたか…」
そこには、最近可愛さと美しさに一段と磨きのかかったリーダーが微笑んでいた。
譜久村の眼差しが、再び妖しい湿り気を帯び始めた。

863名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:19:01
2−2

鈴木香音は燃えていた。
「お笑い」なら、誰にも負けない。
リゾナンター加入当時から、それだけは自信があった。
鈴木が笑いを取りにいけば、みんなが爆笑し、褒めてくれた。
ところがある人物の登場で、その自信が脆くも崩れ去った。
その人物とは、飯窪春菜。
突然現れた四つ年上のその後輩は、恐るべき笑いのセンスを持っていた。
佐藤のような天然ならば良い。それは笑わせているのではなく笑われているのだから。
飯窪は違う。彼女は計算し、狙いを定め、確実に「笑い」という獲物をハントする。
リゾナンターの「お笑い担当」という栄光の玉座が、彼女に奪われてしまった。
鈴木はショックだった。自分の存在を全否定されたように思えた。
みんなといる時も、鈴木は真剣な顔で考え込むことが増えていった。
そんな鈴木を立ち直らせたのは、近所に住む、ある男の一言だった。
鈴木は、喫茶リゾナントの近くにある公園で、ペリーの物まねの練習をしていた。
すると、ベンチに座っていたチャラい男が、笑いながら近づいてきて、こう言った。
「それ、嫌いじゃない」
知らない人に褒められた!鈴木はとても嬉しかった。鈴木の闘志が、蘇った。

「田中さん、私、公園で練習してきます!」
「もう夜やけん、気い付けぇよ!………ねえ、さゆ。このごろ鈴木気合入っとらん?」
「確かに。最近の鈴木って、闘志に満ちてる感じがするし、なんか迫力を感じるよね」
一時期やたら真剣な顔して何か悩んでたけど、『戦士』として目覚めてきたのかな?」
「さゆもそう思う?!れいなもそう思っとったと!鈴木はきっと強くなりよるよ!」
「後輩をこんなにちゃんと分かってるさゆみ達って、とってもいい先輩なのかもね!」
二人はニヤニヤしながら、「「イエーイ!」」と叫んでハイタッチした。

その頃、ひと気の無い夜の公園では、努力家鈴木の練習が始まっていた。
「飯窪春菜です!石田あ・ゆ・みです。さとうまさきでぇす。ぐどうはるがですっ!」

864名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:19:41
2−3

(どうしよう…、あゆみちゃんがかなわない相手に、私が勝てるわけない)
自分の体が震えているのを、飯窪春菜は感じた。
そして、以前、道重さゆみもこのように震えていたことを、ふと思い出した。

それは、リゾナンター全員で敵と交戦していたときのことだ。
戦いは、敵味方入り乱れての総力戦となっており、文字通り「乱戦」状態だった。
さゆみと飯窪は安全のため、近くの岩陰に隠れていた。
二人で戦場を見ていると、突然さゆみが「あっ!」と声を上げ、岩陰から跳び出した。
さゆみの走っていく方向を見ると、生田が血を流して倒れている。
「やなのやなの!さゆみやなの!」「まって!まって!」「ハッ!?ハッ!?ハッ!?」
さゆみは、敵に攻撃される度に絶叫しながらも、生田のもとへ前進していった。
そして、ほんの数秒で生田を治療して、再び叫びながら一目散に岩陰に戻ってきた。
飯窪はそれまで、堅固な陣形によって守られているさゆみしか見たことがなかった。
新垣やれいなに守られっぱなしの彼女は、とても弱々しく見えた。
事実、さゆみは、先輩たちの誰よりも弱い。攻撃力はゼロだ。
そのさゆみが、一瞬の躊躇もなく、あの乱戦状態の中へ跳び込んでいった。
攻撃手段を一切持たない人間が戦場に飛び出す。それがいかに恐ろしいことか。
現にさゆみの体は、さっきから微かに震えており、目には涙がたまっている。
飯窪は思い知らされた。
さゆみは戦っている。臆病で、弱気で、泣き虫な自分と、いつも懸命に戦っている。
自分の弱さと戦いながら、恐怖と緊張の中、仲間の為にさゆみは前へ跳び出し続ける。
飯窪の脳裏に、ある物の映像が浮かびあがった。
それは、数日前、さゆみがうっかり床に落とした一冊のノート。
拾おうとした飯窪がたまたま目にしたページには、丸っこい文字でこう書いてあった。
「前へ、前へ」

(道重さん!私、あなたのようになりたいです!)
飯窪は全力で前へ走り出した。「オラオラオラオラオラオラーーーーーー!」

865名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:20:15
〈2、3人集ったら〉

3−1

道重さゆみは、鞘師里保、石田亜佑美と都内のとあるカフェに来ていた。

さゆみは、愛しい鞘師の横顔を盗み見ながら、ある「記憶」を蘇らせる。
それは、欲望の塊となって鞘師を抱いた、あの夜の「記憶」…。
そもそもさゆみは、ピンクの悪魔になったときのことを覚えていない。
だが、あの夜の「記憶」だけは、繰り返し見る淫夢によって、少しずつ復原された。
もちろん、それはただの妄想かもしれない。
さゆみの願望が生み出した蜃気楼にすぎないのかもれない。
しかし、さゆみは、その「記憶」が、妄想でも蜃気楼でも構わなかった。
その「記憶」の中には、縛られたまま身をよじり悶える鞘師が、確かにいる。
さゆみは、鞘師を見ながら、あの夜の「記憶」を、五感全てで味わい始める。

触覚。まだ誰も触れていない薄絹のような肌に、自分の指先の皮脂が染み込んでいく。
上下に撫でさするたびに、うぶ毛以外に摩擦のないなめらかな表面が桃色に火照る。
嗅覚。湿り気を帯びた胸元から漂う鞘師そのものの匂いが、本能に強く爪を立てる。
鼻先にかかってくる熱く淫らな吐息に、微かに残る自制心の欠片も砕き潰されていく。
視覚。服を首まで捲りあげられ、羞恥のあまり微かな蠕動を続ける、あどけない体。
ただそこには確かに凹凸が生まれつつあり、この年頃特有の危険な色気に満ちている。
聴覚。こらえきれず鼻から洩れ出る声が、鞘師の混乱している心を教えてくれる。
それは、泣いているようであり、責めているようであり、誘っているようでさえある。
味覚。首筋の汗、頬を伝う涙、拒む唇へ無理に舌先を押し込んで舐め取った唾液。
その全てに、芳醇さと、甘美さと、熟す直前の果実が持つ淡い酸味が感じられる。

「道重さん、アイスクリーム、溶けちゃいますよ」
石田の声で、さゆみは突然現実に引き戻された。
「あっ、そうだね…。なんか、おなか一杯になっちゃった。あゆみん、これ食べる?」
「えっ、いいんですか!?」
さゆみは頷くと、急いで「記憶」の世界に戻ろうと、再び鞘師の横顔を盗み見た。

866名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:20:48
3−2

「じゃあ、これ、私、食べちゃいますよ。鞘師さん、半分コしませんか?」
石田亜佑美のその言葉が、鞘師里保の心をかき乱す。
(『食べちゃいますよ……、鞘師さん……』)
「私は大丈夫。あゆみん、全部食べなよ」
(そう…、食べなよ…、この私を…、全部……)
……自分は一体何てことを考えているんだ!?
自らの心の声に激しい嫌悪感を抱きながら、鞘師は見たくもない天井を見た。
上を見たのは、そうしないと、自分の目がある場所に集中してしまうからだ。
そう、あのプルンとした石田の唇に…。

鞘師が石田の唇の魅力に気付いたのは、半年ほど前だ。
写真を撮ろうと石田の顔をじっと見ているうちに、鞘師はその美しい唇に魅了された。
彼女の肉感的な唇は、この世で最も美味なるものに思えた。
心地よさそうな弾力、瑞々しい艶、健康的な色。全てが完璧で理想的だった。
鞘師は、「見とれる」という言葉の意味を、そのとき初めて理解した。

スプーンが石田の唇に運ばれる。上下の唇が、鈍く光る金属の棒を優しく包み込む。
その棒が引き出されると、上下の唇それぞれを横切って、細い線が一本ずつ生まれた。
それらの線は、唇の柔らかさを如実に物語りながら深さを変え、そして消滅した。
もし、あのスプーンが、自分のこの人差し指だったら…。
熱く淫らな欲情の奔流が、鞘師の体の中心部を駆けあがった。
(ハッ!)
鞘師は、また自分が石田の唇を見つめていることに気付いた。
慌てて目の前のグラスを掴み、のどにサイダーを勢いよく流し込む。
鞘師は、自分の心を汚している、いやらしい情念をきれいに洗い流したかった。
炭酸の刺激による痛みを感じながら、鞘師は思った。
(私、道重さんやフクちゃんみたいに、変態さんになっちゃったのかな…。
 …じいさま、瀬戸内の海は、今も青くきれいですか?里保は…里保は、もう…)

867名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:21:27
3−3

石田亜佑美は道重からもらったその高級なアイスクリームの味に愕然としていた。
(嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ!こんなに美味しい物が、この世に存在するわけがない!)
石田は、新たな味覚との出会いに心を震わせた。
思い起こせば、石田のこの一年間は、驚きの連続だった。

以前、「スターバックス」という喫茶店に同期みんなで行った時も、そうだった。
石田はそれまで、その高級な喫茶店に入ったことがなかった。
一方、工藤と佐藤は、まだ中学一年生のくせに生意気にも経験済みらしい。
プライドの高い石田は、二人に馬鹿にされたくなくて、初めてだということを隠した。
工藤が「フラペチーノ」というものを注文し、佐藤と飯窪もそれにした。
当然、石田もそれを選ぶしかない。他のものを注文すれば、ボロが出る可能性がある。
石田は、「フラペチーノ」とは、フラッペをフランス風に言い換えたものと解釈した。
だが、注文後、カウンターの上に乗せられたものは、石田の想像とは違っていた。
それはカキ氷ではなく、冷たいコーヒーの上にソフトクリームが乗ったものだった。
その飲み物の容器には、透明なドーム状のプラスチックの蓋がついていた。
蓋には小さな穴があいていて、長めのストローが突き刺してある。
(ハハ〜ン、これでアイスクリームをすくって食べればいいのね)
石田はさも慣れているような手つきで、ストローを抜いた。
めまいがした。(先が、スプーンみたいになってない…)
石田は、動揺を誰にも悟られないように笑顔を作りつつ、飯窪の方をさりげなく見た。
飯窪はストローを回した。コーヒーが白濁していく。それを飯窪はストローで吸った。
石田は慌てて、その行為をぎこちない手つきでまねて、コーヒーを吸い出してみた。
(嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ!)
それは、苦みと甘みとが絶妙に調和した、信じられないほど衝撃的な美味しさだった。

鞘師を盗み見ながら恍惚としているさゆみ。石田の唇にまた心を奪われている鞘師。
あまりにも美味しすぎるアイスクリームを凝視し、テンションMAXの石田。
三人の心が共鳴することは…なかった。

868名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:22:05
〈Ending:かしましかしまし〉

田中れいなは、喫茶リゾナントの二階の自室で新しい陣形をノートに書いていた。
その陣形は、5人ずつ2チームで構成されている。
左から順に、石田工藤さゆみ生田鞘師。もう一つは、田中鈴木譜久村飯窪佐藤。
それぞれ、さゆみと譜久村は後ろに下がり、石田と鞘師、田中と佐藤は前に出ている。
つまり、両方とも、さゆみと譜久村のところで折れ曲がるV字型になっていた。
左のVは本隊。司令塔であるさゆみの隣に千里眼の工藤を置き、情報を収集させる。
新人ツートップの鞘師・石田が攻撃を担当。生田は精神破壊波で彼女らを支援する。
右のVは遊撃隊。飯窪の薄黄色の接着剤と、鈴木の物質透過能力で敵を攪乱。
さゆみの能力が使える譜久村は、負傷した仲間の応急処置を担当する。
また、譜久村は高橋の能力も使えるため、本隊との連絡係も担う。
攻撃はれいなのワントップ。
佐藤の役目はメンバーの移送係なので、その配置についてはあくまで形式的なものだ。
「ふぅ、疲れた〜。やっぱ頭使うのは性に合わん。
愛ちゃんとガキさんがおったら、こんなことせんでいいのに。早く帰って来んかな〜」
さゆみがコーヒーカップを二つ持って部屋に入ってきた。れいながノートを見せる。
「どれどれ…、うん、これでいいんじゃない?」
「右が少し不安やけど、飯窪が特殊能力を使えるようになったし、まあ、大丈夫やろ」
「そうだね。フクちゃんもさゆみの能力をだいぶ使えるようになってきてるもんね」
下が騒がしくなってきた。時計を見ると、集合時間を3分過ぎていた。
「じゃあ、あの賑やかな後輩たちに、見せに行きますか」
「ああいうの、『かしましい』って言うっちゃろ?れいな、うるさいのは好かん!」
そう言いつつ、二人の顔には笑みがこぼれ、階段を降りる音はとても軽やかだった。

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『女子かしまし物語2012』でした。
今回はオムニバス形式にしてみました。皆さんのお気に召す話があれば嬉しいです。
なお、最後の「陣形」は「What’s Up?…」の動画が元になってます。

869名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:22:50
=======================================
>>859からここまでです。
 いつもいつもすみませんが、よろしくお願いします。

870名無しリゾナント:2012/09/03(月) 23:38:34
行ってきました
これまでに書かれた作品とも呼応しててにやりとしてしまいました

871名無しリゾナント:2012/09/04(火) 01:06:24
>>354-358 の続き。

黎明学園中等部の校舎および敷地内の関連施設すべてにおいて
原因不明の水漏れが発生していた。全ての水道から。
けれど、実害は、見えざる部分で出ていた。

 カチカチカチカチ。

携帯の画面を見続ける。

 カチカチカチカチ。

文字を打つ手はまるで楽器でも弾いてるかのようにリズミカルに叩く。
彼女は微笑みを浮かべて打ち続ける。
周りでは悲鳴や、水の流れる音や、そういうものは一切無い。
彼女が居る場所は学校の校門前。
高等部からの生徒が何人か通っている、中等部の異変は一切無い。

 一切無い。

異変に気付く者は誰一人として存在しない。
平穏な平和を謳歌する生徒達は笑って帰って行く。

  なにしろこの国は、どうしようもなく平和なのだから。

まるで義務のように幸福を抱いたまま。

872名無しリゾナント:2012/09/04(火) 01:07:22
 "共鳴者"だけが持つ『位相空間』を形成する技術。

どうなった所で、誰もこれを打ち破る事は出来ない。
彼女は着信通りに事を進めていた。

 カチカチカチ、ピ。

そしてまた着信通りの行動を開始する。彼女はただ行動するだけなのだ。
それが行動原理であり、"あの人"に対する愛情表現である。
生田は微笑んで校門の中にあるグラウンドを踏みしめた。

 「i914の反応を知ったら凄く嬉しそうにしとおっちゃね。
 嫉妬してしまいそうやけど、でもあれを渡したらもっと喜んでくれるかな」

まるで恋する乙女のように身体を軽くさせて"ある物"を手に校舎へ入る。
ばしゃん、と水が跳ねる音。
目には見えない、だが生田には視えている。
"透明な水"は、彼女の膝下にまで溜まってきていた。


 「これ、そろそろ泳げるんじゃない?かのんちゃん平泳ぎできるんでしょ?」
 「この浅さだとまだ泳げないよ。というかそっちより浮き輪がほしい」
 「確かにそうだね。転ばないようにしないと」

"透明な水"は水圧の抵抗は感じるものの、服が濡れたりだとか体温を
奪うといった本来あるべき働きを持っていない。
つまりこれは、直接神経や精神に作用するなんらかのチカラ、という事になる。

873名無しリゾナント:2012/09/04(火) 01:09:29
だが具体的にこれがどういうものなのかは、あまりにも情報が不足していた。
鈴木が目撃している【ダークネス】とはまた別のもの、という事だけ。
唯一知っていると思われる鞘師は居ない。
"音"は聞こえている。
ただ静かに聞こえるのは、何故?

 「ハアハア、西棟が二階からしか行けないのがこんなに辛いなんて…」
 「明日筋肉痛だねきっと」
 「それだけなら良いんだけどねー」

二人はざぶざぶと見えない水の中をウォーキングする。
感覚的にはほとんど抵抗を感じないが、逆に、あるようでないという感覚は
走りにくくて仕方が無い。
通常の三倍は遅い気がして、さらに腰のあたりまで見えない水位が上がっている。

階段を上っていると、ふと、鈴木は何かを感じ始めていた。
鞘師の"音"とは別の何か、誰?誰か居るのか?
鞘師と一緒に。

 「――― どうして学校に【闇】が蔓延してるか、知ってますか?」

向こうから、静かに声が上がった。
鈴木と譜久村は瞬間的に身構えたものの、譜久村がその人物を呼んだ。
ハーブティの香りに嗅ぎ覚えがある。

874名無しリゾナント:2012/09/04(火) 01:17:04
 「亜佑美、ちゃん?」
 「知ってるの?みずきちゃん」
 「何度か朝の挨拶で会ってるけど、覚えてないですか?鈴木さん」
 「中等部の生徒会をやってるんだよ」
 「あ…」

鈴木は思い出したように声を漏らす。
風紀委員が学園の生徒を監督する立場なら、生徒会は、生徒が
生徒のために立ち上げた、正しい黎明学園の生徒としての生活を送ってもらおうと
自身が模範となって生徒を導く立場にある。

あの不定期に行われる「あいさつ合戦」でもその二つの組織がまとめているが
思えば何度か挨拶を交わした記憶があった。
だがそんな人が、よりによってこんな事態にどうしてこんな場所に?

 「人の想いは強ければ強いほどカタチを作るもの。それがきっと
 ダメなことを判っていたとしても、想わずにはいられない。それが、【闇】を
 呼ぶんです、【闇】は人の悪意に"狂鳴"するモノだから」
 「亜佑美ちゃん、もしかして、知ってるの?何が起こってるのか…?」
 「だけど、それだけです。私にはそのためのチカラは与えられてないから」
 「どういうこと?」
 「早く行ってあげてください。手遅れになる前に、鞘師さんが危ないですよ」
 「あ、待って。亜佑美ちゃん!」

そう言って、石田はまた廊下の死角へと消えて行く。
譜久村が追おうとしたが、"透明な水"で階段を上手く上れず、結局見失ってしまう。
ハーブティの匂いは徐々に薄くなり、消えていった。

875名無しリゾナント:2012/09/04(火) 01:19:53
以上です。
当初は登場させる予定はなかったんですが、だいぶ
某舞台の影響を受けた結果がこれです。

---------------------------------------ここまで。

いつでも構わないのでよろしくお願いします。

876名無しリゾナント:2012/09/04(火) 12:46:43
行ってきたよん

ナマタの立ち位置とかだーいしの役割とかこれから明らかになっていくのが楽しみですねん

877名無しリゾナント:2012/09/04(火) 13:14:34
『女子かしまし物語2012』を投稿したものです。
>>870さん、代理投稿ありがとうございました!
行数の調整だけでなく、まとめスレの管理人さんへの連絡までしていただいて
本当に感謝しております。
お手数おかけして申し訳ありませんでした。

また、まとめスレの管理人さんにもこの場を借りてお礼申し上げます。
あのまとめスレがなければ、この楽しい遊び場を知ることができませんでした。
本当にありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。

878名無しリゾナント:2012/09/06(木) 12:15:39
>>489-492の続き。

 「――― 譜久村さん、鈴木さん、お二人には"共鳴"のチカラを
 使えるようになってもらわないと困るんです。きっとあの子もそれを望んでる。
 そうじゃないとこの世界は消えるしかないんですよ。
 主軸が歪み始め、バランスを失いつつあるこのセカイ。
 そのチャンスを前にして、何もせずに消される気ですか?」

ゆらり、ゆらり。
水面が揺れて、斜陽に透き通って、光を揺らす。

水の中で、ヒトは呼吸をすることは出来ないが、これは本物の"水"ではない。
全身を絡めて動かすことを許さない、閉じ込めるための空間。
視えない"透明な水"の中。
魚も泳いでいない水の世界。

まるで、プールの底。
鞘師はゆっくりと目を開ける。身体がダルさを訴える、動かない。
口から気泡が生まれる、だが息が出来る。本物ではない。
何故このまま生かされているのかは分からなかった。

 「皆、止まっちゃった。でもキレイだわ。全部沈めてあげたの。
 時間だって止めてあげられるわ、ほら見て。ずっと綺麗なままなのよ。
 必要としなくてもこんなに綺麗なものが出来るの、凄いでしょっ」

見覚えの無い女子生徒が視界に入る。
覚えている限りでは、背後から何かに包みこまれたのが最後だ。
多分、この"透明な水"に囚われたのだろう。

879名無しリゾナント:2012/09/06(木) 12:16:30
 「ねえ、なんで貴方は此処に居るの?自分が決めたの?
 私はね、親が無理やり入れたの、この学校に。それも勝手によ。
 "バケモノ"を傍に置いておきたくないって顔に書いてあった。
 学校なんかどこでも良かったけど、ここは最悪だわ。
 全てが醜いの、あいつらも、全部、全部全部全部全部全部!!」

ぐわっと、水圧が呼応するように重くなる。鞘師の表情が歪んだ。
気泡が幾つも上がっていく。まずい。

 「貴方は水みたいね。透き通った水面の雫のよう。
 羨ましい、私もそんな世界が欲しい。自分が自由にできる世界。
 ねえ鞘師さん、どうすれば行けると思う?貴方なら分かるでしょ?
 だって私と同じ感じがするもの。ねえ、ねえってば」

女子生徒は、答えが欲しい子供の様にぐずる。
鞘師は口を開くが、そこから溢れるのは気泡だけ。
両肩を掴まれて押し込まれると、重力に逆らわずにどんどん底へと落ちていく。
堕ちて行く。

光が遠くに見える。
光が遠くになっていく。遠のいて行く、意識の向こう側。

寂しさが、込み上げて来る。
途端、鞘師の視界に見えたのは、微かな光。暖かい光。

 「――― 」

その名前を呼んで、鞘師は微かに、口角を上げた。

880名無しリゾナント:2012/09/06(木) 12:17:13
 「――― ハア…ここ!間違い、ない…!」

息を整えない間に鈴木が指で示して叫ぶ。
教室の上に取り付けられたプレートには『美術室』と書いてあった。
西棟の端の端にあるこの教室は、移動授業か部活でしか使用される事が無い。
それも今日は部活が休みだ。

 「ダメ、鍵がかかってるっ」
 「今から職員室行ってもかなり時間かかるよ、どうしよう…」
 「こうなったら何かで割るしか…」

ドアがピクリとも動かない為、消火器でも良いから何かないかと探す。
その時、鈴木はゾワリと背筋を感じた。

 「二人とも、ちょっとそこ離れといた方が良いっちゃよ」

背後からパシャパシャと水が跳ねる音。
振り向くと、廊下にゴツゴツと何かをぶつけて生田が近寄ってきた。

 「えりぽんっ、もおどこに行ってたのよっ」
 「ちょっと用事があったっちゃん。でもなんか凄いことになっとおね。
 ここに犯人がおると?」
 「判んない、でも里保ちゃんがここに閉じ込められてるみたいで」
 「マジで?よぉーし、思いっきり振りあげるけんね、ホールインワンったい」

生田が構えたのは、ゴルフクラブだった。
ゴルフヘッドが鉄製で、鈍く光る。
大きな窓に狙いを定め、大きく振りかぶり。

881名無しリゾナント:2012/09/06(木) 12:18:14

 ――― バアアアアアアアアアアアアアァン!!!

切り裂かれるように割れたガラスから身を守るように体を屈めたが、その
裂け目から"透明な水"がドバッと流れ出てくる。

 「ねえなんか、水かさ増してない!?」
 「んーこれはけっこーヤバイかも☆」
 「ヤバイかもってちょ…!」
 
割れてしまった部分は元には戻らない。
三人は"透明な水"の奔流に飲まれてしまい、ついには天井まで到達してしまう。
息はできる。
だがどんどん体が重くなっている事に気づき、譜久村は鈴木と生田を探す。
鈴木はすぐに見つかったが、生田が水の逆流で美術室に入り込んでしまった。

 どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。

焦る。鈴木を離さないように抱きしめ、譜久村は焦りながらも考える。
彼女を助けなければ、この子も、助けたい。助けて、誰か。


 誰か、ねえねえ、誰か。

探るように手を動かす。揺れるスカート。揺らめく視界。
次の瞬間、あたりは、光の中だった。

882名無しリゾナント:2012/09/06(木) 12:24:31
以上です。
今のメンバーはどんどん道重さんによって変t(ryの王国に
なっている時点でネタの宝庫ですね、>>471-480さんとか。
当時の「ピンクの悪魔」がこの状況を予期していたらなにそれ怖い。

------------------------------------ここまで。
いつもお世話になっております。
投下はいつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏

883名無しリゾナント:2012/09/06(木) 21:47:48
行って参りました

884名無しリゾナント:2012/09/07(金) 22:53:11
『好きな先輩』

〈今日の私美人ですか〉

1−1

生田衣梨奈は、学校から喫茶リゾナントへ向かう途中だった。
毎日少しずつ訪れるのが早くなる夕暮れ。もう秋が始まっている。
「もう5時か…新垣さん、今日も返信くれんかった…。えりな、泣きそう…」
誰もいない路地を歩きながら、生田は携帯を見つめる。
「ワンワン」「ワン」「ワオーン」「クーン」「バウワウ」「ウー」「キャン」「オン」
突然、たくさんの犬の鳴き声が耳に入ってきた。
生田が顔を上げると、リードの束を握った一人の少女がこちらを見ている。
歳は生田と同じくらいに見えるが、胸が大きく、鼻筋が通った美人さんだ。
少女の足下では、8匹の犬がこっちを見ている。
少女は微笑んでいたが、その目は明らかに笑っていなかった。
「こんばんは」
少女が生田に声をかける。
同時に、犬たちが尻尾を振りながら駆け寄ってきて、生田を円状に取り囲む。
「生田衣梨奈さん…ですよね?」
「…はい。えっと…、どちら様ですか?」
生田が警戒しながら答えると、少女の微笑が消える。
それを合図に、犬たちが生田の方を向き、同時に吠える。
「「「「「「「「ワン!」」」」」」」」
次の瞬間、生田の姿が消えた。
犬たちに囲まれた場所には、生田の通学鞄だけが落ちている。
「…行くよ」
少女がそう言うと、犬たちはすぐに少女のもとへ駆け戻る。
そして、さっき生田にしたのと同じように少女を取り囲み、一斉に吠えた。
今度は、少女だけでなく、犬たちも一緒に消えた。

885名無しリゾナント:2012/09/07(金) 22:55:01
1−2

生田は、薄暗い森の中に立っていた。
「一体、何が起こったと〜!?ここ、どこ〜?」
携帯を見ると、表示には「圏外」の文字。
生田は、とにかく森から抜け出そうと、低い方へ向かって歩き出した。
すると、水の流れる音が聞こえてきた。
「川だ!」
生田は音のする方へ急ぐ。
視界が急に開け、白い砂地が広がる川原に出た。
もう日が沈んでいるとはいえ、夕空の明るさで、辺りはまだよく見えた。
「川に沿って下って行けばいいっちゃろ。えりな、さえてるー!」
生田はそう言うと、川下の方へ顔を向けた。
そこには、信じられない光景があった。
「新垣さん!?」
数10m先に、大きな岩に座って川面を眺めている、生田の大好きなあの先輩がいた。
生田は子猫のような笑顔で新垣のもとへ走り出す。
しかし、生田の足はすぐに止まった。
新垣の後ろから、さっき路上で会ったあの少女が顔を出したのだ。
少女は、生田をじっと睨みつけている。
少女のその目には狂気が感じられた。
「あんた、さっきの…」
少女は、目つきを柔らかく変えてから新垣を見て、もたれかかり甘えるように言った。
「新垣さん、あの人知ってます〜?」
新垣が生田の顔をじっと見つめる。
生田の胸が、新垣に久しぶりに見つめられたトキメキで高鳴る。
しかし、新垣はすぐに少女の方を振り返ってこう言った。
「ううん、…知らない」
生田の顔と心が凍った。

886名無しリゾナント:2012/09/07(金) 22:56:46
1−3

「…にっ、新垣さん!私です、生田です!」
生田の必死の呼びかけに、新垣がまたこちらを向く。
そして、戸惑いの色を浮かべてすまなそうに答える。
「…ごめんなさいね。ちょっと私、あなたのこと、記憶にないのよ…」
その斜め後ろにある少女の視線は、生田を刺すように冷たかった。
「ねえ、…あずちゃん、この人、知ってるの?」
新垣が少女の方を再び向く。
「あずちゃん」と呼ばれた少女は、瞬時に表情を変え、穏やかに微笑む。
「いいえ、知りません。…新垣さん、ここで少し待っててくださいね」
そう言うと、少女は新垣の顔に手をかざす。
新垣は壊れたマリオネットのように岩の上に横になった。
生田の怒りが爆発する。
「新垣さんに何をした!」
少女は生田の方に歩を進めながら答える。
「新垣さんは私の精神干渉の力によって眠っている。
私の指示に従いなさい。さもないと、新垣さんは永遠にあのまま。
ちなみに、私が死んでも効果は消えないから、変な気を起こさないでね」
生田は、その不気味に落ち着いた声色から、少女の本気を感じた。
「あんたの狙いは何だ!?」
少女は生田の目の前で立ち止まり、静かにこう言った。
「生田衣梨奈、私と勝負しましょう。どちらの方が新垣さんへの思いが強いか…」
「はあ!?」
怪訝そうな生田に、少女は言う。
「勝負は三回勝負。先に二勝した方が新垣さんの正式な後継者となれる。いい?」
生田には、少女の狙いがいまいちよく分からなかった。
だが、「どちらの方が新垣さんへの思いが強いか」という少女の言葉に、生田の闘志が
メラメラと燃え上がった。
「新垣さんへの思いなら、えりな、絶対に負けん!」

887名無しリゾナント:2012/09/07(金) 22:58:01
〈今日の私色っぽいすか〉

2−1

「じゃあ、まずは第一回戦。『仲良し写メ対決!』」
「写メ対決!?待って、待って!えっと、えっと…、よし、えりな、これに決めた!」
生田は、新垣と笑顔で頬をぴったり寄せ合っている写メを見せた。
「この新垣さんの笑顔、たまらんやろ〜!」
「…ふ〜ん、確かにいい笑顔ね…。でも、この勝負は私の勝ちね。私のは、これよ!」
「こ、これは…」
生田は、言葉を失った。
「ふふっ、どう?私、新垣さんと一緒の布団で寝ちゃったの」
少女が出したのは、パジャマ姿でピースサインをしている新垣と少女の写真だった。
「もちろん、精神干渉で洗脳する前に撮った写真よ。あなた、こんな経験ある?」
「……ない」
「ふふっ、この勝負、私の勝ちね!」
口惜しさで声が出ない生田を見て、少女は勝ち誇ったように言う。
「次は第二回戦。今度はそっちが勝負の内容を決めていいわよ」
「……じゃあ、『いま身につけているもの対決!』」
生田は制服のシャツのボタンをささっと外し、前をはだけた。
中に着ている黄緑色のTシャツ、それは新垣からもらったものだった。
「どう!あんた、新垣さんからもらった服はあると?」
少女が下唇を噛む。少女の着ているTシャツは自分のものだ。
「…私だって、…私だって、新垣さんの服、欲しかったわよ…。
 でも…、着てみたらどれも入らなかったの!…胸が…きつくて…」
確かに、その少女の胸はとても豊かだった。
生田は少女の色っぽい体つきを見て、勝負には勝ったのに、強烈な敗北感を味わった。
「と、とにかく、これで1対1っちゃ!次は何で勝負すると?」
少女の顔が、それまでとはうってかわって、急に引き締まった。
「ここまではただのお遊び。次が本当の勝負よ」

888名無しリゾナント:2012/09/07(金) 22:59:34
2−2

少女は続ける。
「私には精神干渉の力がある。あなたは、精神破壊よね。
つまり、二人とも精神系の能力者。
どちらが新垣さんの後継者としてふさわしい力を持っているか、勝負しましょう!」
そういうと、少女は両手を前に出した。
「望むところたい!えりな、絶対に負けん!」
生田も両手を前に出す。
一瞬の間を置き、二人は叫び、ありったけの精神波を放出した。
「ハアアアアア!」「ウリャアアアア!」
少女は生田の精神を支配すべく、生田は少女の精神を壊すべく、全力を注ぎ込んだ。
二人の間の空気が震える。
力はほぼ互角だった。
しかし、時間が経つにつれ、徐々に生田が押され始める。
精神波の力は、集中力の高さが大きく左右する。
生田の集中力は、明らかに低下していた。
少女は自分が押している手応えを感じた。
あと一歩で自分の勝ちだ。
少女がそう思った時、突然、生田がその場を離れ、全速力で走り出した。
(逃げた!?)
少女は精神波を止めた。
しかし、生田は逃げたのではなかった。
生田が走っていったのは、新垣がいた方だ。
(何をする気!?)
少女は新垣がいた大きな岩を見る。しかし、そこに、新垣の姿は無かった。
直後、バシャーンと何かが跳びこむ水音が響く。
水音のした方を見ると、穏やかな川面の中で、そこにだけ波が立っている。
数秒後、そこから生田が出てきた。
右脇に、新垣を抱えて…。

889名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:01:33
2−3

あかあかと燃える焚火の前で、少女は生田の言葉を聞いていた。
「新垣さん、寝相が悪いけん、岩から落ちるんやないかとずっと気になっとんたんよ」
「…あなた、だから、途中で集中力が切れたのね?」
「そんなのは言い訳にならん。新垣さんは、いつも集中力を切らさず周りをみとった。
もし新垣さんが起きてたら『生田ー!修行が足らーん!』って、叱られとったと思う。
それに、あんたの精神波は、本当にすごかった」
少女はうつむいてしまった。
自分は、新垣と一緒に寝た。だから、新垣の寝相の悪さはよく分かっている。
それなのに、自分は新垣が岩から転げ落ちることなど全く想定していなかった。
一方、生田は、一度も一緒に寝たことがないのに新垣の寝相が悪いことを知っていた。
そして、あの激しい戦いの最中でも、新垣の身を案じ続けていた。
(私の…負けか…)
「よし、だいたい乾いた!とにかく、今回の勝負はあんたの勝ちでいい。
だから、お願いやけん、新垣さんを元に戻して!
超悔しいけど、新垣さんの後継者の地位は、今日のところはあんたに譲る!」
生田はそう言いながら、立ち上がって少女に握手を求める。
少女は生田を見上げながら尋ねる。
「あなた、私のこと、憎くないの?」
「えりなのいいところは、『すぐ許す』やけん。
それに、新垣さんを好きな人に悪い人はおらん!」
少女は吹き出した。そして、生田の手を握った。生田も少女につられて笑い出した。
二人の少女の楽しそうな笑い声が、静かな夜の森にこだまする。
しばらくして笑いがおさまると、少女は、新垣に向って静かに手をかざした。
生田がそれを見ていると、急に少女の手が自分の方へ向けられた。
「えっ!?」
少女の精神干渉の力が、無防備な生田の心に入り込む。
まるでマネキンにでもなったかのように、生田の動きが止まった。
少女が口笛を吹くと、闇の中からあの8匹の犬が現れ、生田を囲んで一斉に吠えた。

890名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:02:40
〈今日の私元気ですか〉

3−1

精神系能力のスペシャリストである新垣が、なぜ少女の力に屈してしまったのか。

新垣は、高橋愛を捜索する旅に出ると、すぐにブログを始めた。
ブログには、「超能力を持つ女性の情報求む」と書き、謝礼を出すこともつけ加えた。
何がしかの情報が得られるかと期待したが、何の反応もないまま、数か月が過ぎた。
ブログを閉鎖しようか迷っていたある日、携帯に見知らぬ人からのメールが届いた。
タイトルは「精神干渉と瞬間移動」、本文には、住所だけが記されていた。
捜索が手詰まり状態だった新垣は、藁にもすがる思いで急いでその住所へ向かった。
そして、その日の夜遅く、一棟の古びたアパートにたどりついた。
明かりの点いている部屋は一つしかなく、新垣はそこのチャイムを鳴らした。
ドアが開いて出てきたのは、高校生くらいの年頃と思われる純朴そうな少女だった。
新垣が事情を話すと、やはりその少女があのメールの差出人であった。
少女は、自分には特殊な能力があると言う。
申し訳ないと思いつつ、新垣は彼女の心を覗こうとした。
すると、驚くべきことに、その少女は、新垣の精神干渉を完全に防いだ。
そして、「ほらね」と言うかのように、愛敬のある顔でにっこり笑った。
話を聞くと、その少女は、新垣と同じく精神干渉の能力者だった。
ちなみに、瞬間移動の能力があるのは、少女が飼っている8匹の犬だった。
いずれにせよ、高橋とは関係がないと分かり、新垣は落胆し、少女に別れを告げた。
すると、少女は満面の笑顔で新垣を引きとめた。
「今夜はもう遅いからここに泊まっていって下さい」
新垣は、その少女の屈託のない笑顔の奥に、暗い影があるのを感じた。
この子は私と同じ力を持っている。ならば、私と同じ苦しみを経験してきたはずだ。
望んでいない「異常」な力によって、この子もつらい思いをしてきたのだろう。
アパートで一人暮らしをしているのも、家族がこの子を遠ざけたかったからか…。
少女への同情心が芽生えた新垣は、一晩だけその少女の家に泊まっていくことにした。

891名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:04:10
3−2

少女は、新垣にべったり甘えてきた。新垣は、甘えてくる年下の子が大好物だ。
初めて同じ力を持つ人に出逢えて、この子本当に嬉しいんだな。新垣はそう解釈した。
新垣は、その天然気味の少女とたくさん話をし、思う存分つっこみ、そして、笑った。
捜索の旅で心身ともに疲れていた新垣は、その少女の元気な笑顔に、心から癒された。
仲間と離れた寂しさに凍えていた心が、切ないくらいのぬくもりで溶けていった。
少女を見つめる新垣の目に、戦士の鋭さはもはや残っていなかった。

新垣の滞在は延びていった。
毎日の食事は、新垣の好物ばかりを、少女が一生懸命作ってくれた。
幸福感におぼれていた新垣は、全く気付いていなかった。
その食事には、特殊能力を抑制する、マルシェ特製の薬物が混入されていたことに。
新垣の能力は徐々に弱まっていき、五日後、新垣の心はその少女に完全に支配された。
少女は新垣を山奥の川原に連れて行き、自分は犬と一緒に生田のもとへ「飛んだ」。

その少女、関根梓の正体は、ダークネスの元「研修生」である。
梓は幼い頃から、その異常な能力によって、家族や周囲から疎外され続けた。
自殺を考えていた梓に、ある日、闇の組織からの使者が声を掛ける。
自分の力を正当に評価してくれるその組織に、梓はすがりついた。
組織に加入すると、そこには、彼女と同じような境遇の仲間がいた。
彼女たちは、一人前の戦士となるべく、「研修生」として特殊能力を日々鍛え続けた。
だが、「研修生」の中には、その能力が、組織の要求するレベルに達しない者もいた。
そのような少女は、落伍者とみなされ、一定期間が過ぎると組織から追い出された。
梓も、そんな落伍者の一人となった。同期で落伍者となった者は梓の他にも6人いた。
ある日、ついに組織から最後通達が下された。しかし、梓たち7人は諦めなかった。
彼女らは組織に対して、もう一度自分たちの力を試してほしいと直訴した。
組織はそれを了承し、彼女ら一人一人に、過酷なミッションを与えた。
そして、それをクリアすれば、彼女らをダークネスの正規メンバーにすると約束した。
梓に与えらえたミッションは、同じ能力を持つ新垣里沙を廃人にすることだった。

892名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:05:46
3−3

梓は、新垣里沙について研究するため、ダークネスの資料室に篭った。
新垣が以前ダークネスの一員だったこともあり、データは質量ともに充実していた。
能力、性格、行動など、新垣を知るために、あらゆる書類や映像に目を通した。
梓は、ある意味「先輩」である新垣について、膨大な知識を手に入れた。
その結果、梓の心に意外な感情が生まれた。梓は、新垣を好きになってしまったのだ。
その戦闘能力はもちろん、優しさ、可愛さ、心の強さ、全てが梓を魅きつけた。
梓は、自分の感情にとまどった。

感情の整理がつかないうちにミッションが始まった。梓は予定通り新垣を罠にはめた。
自分が組織から認められるには、そうするしかなかった。
梓は、せめて、新垣と一緒にいられるそのわずかな時間を、心から楽しもうと思った。
ただ、その楽しい時間に水を差される瞬間があった。
新垣が、困ったような笑顔で「生田衣梨奈」という後輩のことを嬉しそうに話す時だ。
梓はその幸せな後輩に激しく嫉妬した。梓は、どうしても生田と勝負したくなった。
自分の方が新垣を深く愛しているということを、生田に知らしめたかった。

焚火が、燃え尽きた。
月明かりがやけに明るく感じられる。
予定の時刻が来て、腕時計型通信機から声が響く。「No6、結果を報告せよ」
梓は表情をひきしめ直して立ち上がる。(とうとう、この時が来ちゃったか…)
長年に渡る血の滲むような訓練の日々を振り返り、梓は、非情になる決意を固める。
眼前に眠る新垣の心を完全に抹殺すべく、梓は両手を正面に向け、指を広げた。
その時、月の光に照らされた両手の指先が、キラキラと輝いた。
突然、梓は膝から崩れ落ちる。そして、冷たい川砂に両手を着いた。
頬に涙を走らせながら、梓は静かに言った。「…No6、…ミッション失敗です…」
白い砂の上に並ぶ爪の一枚一枚には、美しいラピスラズリで文字がかたどられていた。
「あ」「ず」「ち」「ゃ」「ん」「あ」「り」「が」「と」「!」
それは、洗脳前の新垣が、もんじゃ焼きの御礼にと施してくれたネイルアートだった。

893名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:07:23
〈Ending:LALALA…先輩〉

生田は、夜の路地にぼーっと立っている自分に気が付いた。
「あれ〜、…えりな、何しとるんやろ…?うわ!もう8時だ!」
携帯の時刻表示は、ミーティングの集合時間を2時間も過ぎていることを示していた。
生田は、地面に落ちている鞄を拾い、喫茶リゾナントへ走り出した。
携帯メールの着信音が、繰り返し鳴る。
「うわっ、みずきから一杯メールが来とる!もう、一体どうなってんのー!?」
それまでの3時間分の記憶が、生田の脳からきれいに消し去られていた。

「…ここ、どこ?」
一方、新垣も、とある駅の前で呆然としていた。
新垣は、時間を確かめようと、携帯を見る。
そして、そこに表示されている日付を見て、さらに目を丸くする。
「はあ!?9月7日!?ウソ!ウソ!ウソ!何でよ!今日は3日でしょ!?」
状況が全く理解できない新垣は、携帯を両手で握り、足をばたばたさせた。
周囲にいた数人が、そのオーバーで時代遅れな新垣の動きを、珍しそうに見ている。

そんな新垣の様子を、物陰からじっと見つめる一人の少女がいた。
少女は小さく呟く。
「大好きです、先輩…」
そして、少し寂しそうに微笑みながら、夜の街の雑踏の中へ消えて行った。

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『好きな先輩』でした。
敵の少女のモデル、関根梓ちゃんは(仮)のメンバーで、ガキさんの大ファンです。
とってもグラマーで、ガキさんとは大違…、あれ?なんか首が冷たあbぽしhそg

894名無しリゾナント:2012/09/07(金) 23:08:04
=======================================
>>884からここまでです。
 いつもお手数をお掛けしてすみませんが、よろしくお願いします。

895名無しリゾナント:2012/09/08(土) 14:08:57
行ってきたよん
関根さんが八匹の犬を連れているのは八犬伝の舞台にでも出てたのかと思って調べてみたらリアルに飼ってたのねん
ガキさんの服のサイズとが関根さんに合わないとか少し毒を吐きつつ優しい話にまとまってましたねん

896名無しリゾナント:2012/09/08(土) 19:05:35
895さん、代理投稿ありがとうございました!
また、暖かいご感想もありがとうございます。
八犬伝のアイディアは面白いなあと思いました。
書いているとき、まったく思いつきませんでした。

897名無しリゾナント:2012/09/08(土) 22:19:17
>>538-541の続き。

 な、なに……っ!?

圧倒的な光の量に戸惑いながらも、コハクのヒカリが溢れ出す。
譜久村自身からそれが放出されている事に気付く。
包まれるような感覚。暖かさ。不意に手がポケットへ。

 「フクちゃんに預けておくね。きっと大事なものになる筈だから」

放出されるヒカリがもっと広がりを増す。
手のひらに置かれた箱がひとりでに蓋を開け、その中から浮力で現れた、砂時計。
コハクの光が"透明な水"に水面を作り、波紋が生まれる。
その波紋の中心から水が隆起し、まるで生き物のように砂時計の周りを
グルグルと螺旋状に囲み始める。

目の前には、巨大な水の空洞が出来ていた。

譜久村の指が自然と動き、水が自由に、上下左右と操る。
優しい風が、強い風が、暖かい風が流れた。
旋風を形成したかと思うと、その真空から鋭い爪の様な疾風(かぜ)が無数に飛び交う。

――― パアアアアアアアアアアンッ!

"透明な水"を切り裂き、粒がシャボン玉のように壊れて、消えた。

 「エッ……?」
 「ハア…ハア…ッ、里保ちゃんを返して!」

898名無しリゾナント:2012/09/08(土) 22:21:04
譜久村の声に応えるように疾風(かぜ)が唸る。
教室全体を包んでいた筈の"透明な水"を、女子生徒を巻き込んで
窓ガラスをブチ破り、校舎の外へと放り出された。
女子生徒は何が起こったのか判らず、だが浮遊感と共に一気に恐怖を抱く。

 落下。それは死へ沈む刹那。

 「きゃああああああああああ」

見上げる夕暮れの景色がある其処は、海よりも真っ青な空があった。
譜久村は窓から身体を出し、女子生徒の手を掴むように腕を伸ばす。
落下する身体に緩やかな気流が包み込むと同時に、女子生徒の意識は途絶えた。




 ――― コハクのヒカリに抱かれていたあの瞬間。
 薄紅色の閃きが過る視界に譜久村が見ていた記憶が在る。
 彼女に映るのは夢ではなく現実。それも欠片では無く、水面を見るように。
 だからきっと、これは誰かの記憶なんだと、雫が跳ねた。

 「何してんの?そんな思いつめた顔してぼーっと立っちゃって」

女性は、命の選択を迫られていた。
相手も自分も同じ立場なのだと気付いたときに、曖昧だった道が
少しずつ、それでも確かに其処にあることを知らしめる。

899名無しリゾナント:2012/09/08(土) 22:24:28
女性は自分の命が、世界の命が儚いことを始めから知っていた。
それを受け入れていた筈なのに、それを寂しいと感じるに至った
理由が確かにあったのだ。

 微かに生きる希望を見つけてしまったからだ。

女性がまだ少女だった頃、年季の入った木目のターンテーブルで
レコードに針を落とす老人に出会う。
老人は古ぼけた音に耳を傾け、少女は向かうように立ってその姿を見つめる。

 「笑ってしまえば良いのさ。風景の違いに気付かないヤツらなど
 いくらでもいるからね。眺める景色がいい加減なのだよ」
 「でもみんな、みえるものしかしんじないよ」
 「見えるモノ、見えないモノ、今になってそれが判るなんてね」
 「おじいちゃんはこのきょくがすきなら、えりも、すきになっていい?」
 「ああ、今思えば、私は好きだったんだな。どんなに嫌っても、結局は
 元に戻ることを信じてた、信じてたんだよ」

老人と少女の会話は一度も噛み合わないままだった。
だけど少女に対して向けられた視線と、頭を撫でるその皺と一緒に残る暖かさが
両親の優しさを十分に受け止められない少女にとって、何か、かけがえのない
ものになって行くのを感じていた。

陽が落ちるまで続き、古ぼけたレコードが老人の手によって自然と音を
止むまで、少女は、永遠とも思える時間に身をゆだねていた。

 病室で居る独りとは別の、傍に在るという安心感に漂いながら。

900名無しリゾナント:2012/09/08(土) 22:29:45
以上です。

>>578
動物に能力が備わってるというのもビックリですが、現実に8匹も
飼ってる事実にw 大量飼いして放置してる人ぜひ見習ってもらいたい(犬好き

ガキさんが出てくる作品には大半が胸をイジられてるというこのスレ独特の風習に涙。

-----------------------------------------ここまで。

すみません、かなりこちらを独占しているようなカタチになってしまって…。
いつでも構わないのでよろしくお願いします。

901名無しリゾナント:2012/09/09(日) 01:02:54
行って参りましたm(__)m

902名無しリゾナント:2012/09/09(日) 09:28:10
代理投稿ありがとうございます!
最近はすこし長めになっているので
何かあればぜひ仰ってください。

903名無しリゾナント:2012/09/10(月) 01:39:46
>>588-590 の続き。

 夕暮れのひこうき雲。
 明日は雨かと訊ねてみれば、何処からか嗄れたレコードの音が聞こえてくる。
 春夏秋冬。
 季節は巡り、廻り、回り。

老人がベッドに仰向けに寝そべるようになってから、少女に視線を向けることは無くなった。
真っ白な部屋の天井に向かって口を開く。

 「私の想いは、最後まで伝わらなかった。それでも良いと思ってた。
 だが、駄目だな、心臓をえぐり取られるような気持ちになる。
 だから無くなってしまえばいいと、思ったんだ。だが、それは、悪……か」
  「生まれたときから、わたしは欠けてたんだって、ここがね、しんぞうが、悪いんだ。
 おじいちゃんとおんなじ、おんなじだけど、おじいちゃんの方が悪いんだね。
 きょうもあのうた、きいてないね。おじいちゃんはあのきょく、すきじゃなかったのかな。
 …えりのことも、すきじゃなかったのかな。
 みんな、えりのこと、きらいなのかな、欠けてるから、きもちわるいのかな…」

少女の頭には包帯が巻かれていた。
傷痕が出来ていた。でもこんな痛みよりも、心臓が酷く痛んだ。
持病と同時に、精神が、ココロが、押し潰されそうに。鬱されて、涙が溢れる。
老人は撫でてくれなどしない。
ただボソボソと呟いて、真っ白な天井を見ていた。

 「ああ、誰かを想って目を閉じることは、不幸そのものなのかもしれないな」

904名無しリゾナント:2012/09/10(月) 01:40:35
老人は、自分自身に話しかけている。心の奥の自分自身に。
想いはここに在るのに、わたしはいない。
わたしはここにいるのに、わたしはいない。
わたしはいないのに、想いは此処に在る。

 「その目は私を見てないんだね」

傷痕が痛む。でも自分の想いは、確かに此処に。
希望が、自分を押し潰す。悟る。思い知る。

 老人の真っ白な部屋に、少女は初めから、独りで立っていた。
 レコードは二度と鳴る事はない。

――― 其処は、屋上だ。
 夕暮れ、女性は、屋上に居た。
 其処は階段の上、踊り場の隅、手摺のあっち側、向こう、何処か。
 ヒュー、という音が歌のコーラスのように聞こえる。
 街は、いつの間にか失った自分のはじっこに気付かずに、ずっと歌を唄っている。

そうだったのだ。
老人の部屋にあったレコードの音は、きっと、そんな歌ばかりなのだ。
期待をして、手を伸ばして、届かない。
昨日を全て忘れたフリして、言い訳と意味の無い繰り返し。
この曲は、そんなひとたちを不意に振り向かせるために、流れている。

 そしてそんな曲ですら、女性の近くで鳴ることを止めてしまった。

905名無しリゾナント:2012/09/10(月) 01:42:14
老人は誰を想い、誰を殺したのか、それを知る術はもうない。
女性は扉を開き、そして、大きな、小さな背中を見つけた。
死に方の模索を行い、ヒトは逝き方を選んでいる。

 其処はステージ、命の、オーディション。
 振り返る表情に驚きと、笑顔が浮かんでいた。

 「――― 『リゾナント』で待ってるって約束だったのに、破っちゃいましたよ」

景色が急に変わり、女性は静かに、微笑んだ。
風に水が揺れる、そのたびに、女性の身体もゆるやかな波に上下する。
まるで、宇宙を泳いでいるように。

 「だって皆がふんばってるのに、絵里だけ待ってるなんてそんなの。
 仲間なら仲間らしく、頑張ってみたくなったんです。だって、夢じゃなくて、現実だから」

ミナソコに身体を沈め、其処から歪んだ夜空を眺める。
月が水面に映っている。三日月が、揺れた。
他には何も無い、音も聞こえない。ここは宇宙だ、透明の、宇宙。

 「醜い夢ほど醒めないんだって。だから願うの、いつも願ってた。
 この死体のような未来が夢でありますようにって」

女性の瞳が次第に虚ろう。
探るように誰かを抱きしめ、誰かがむせび泣く声が響く。
頭を撫でる、サラサラとした髪が、風で揺れる。

 「でも大丈夫だって判ったんだよ、夢はいつかは醒めるんだって。
 だから諦めないで。きっと大丈夫だから」


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