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【アク禁】スレに作品を上げられない人の依頼スレ【巻き添え】part2

1名無しリゾナント:2011/01/18(火) 17:04:23
アク禁食らって作品を上げられない人のためのスレ第2弾です。

ここに作品を上げる → このスレの中で本スレに代理投稿する人が立候補する
って感じでお願いします。

(例)
>>1-3に作品を投稿
>>4で作者が代理投稿の依頼
>>5で代理投稿者が立候補
>>6で代理投稿完了通知

立候補者が重複したら適宜調整してください。ではよろしこ。

760名無しリゾナント:2012/08/15(水) 19:05:23
いってまいりやした

761名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:11:43
『超・戦慄迷宮』

〈One 構って欲しくて〉

1−1

「むり〜!むり〜!みずき〜、引き返そうよ〜!」
「もう、えりぽん!次の脱出口までは頑張ろう!田中さんに怒られるよ!」
「いや〜〜ん!」
生田は譜久村の背中にぴったり貼りついていた。
二人はれいなの命令でとあるお化け屋敷に来ていた。
生田と工藤のお化け嫌いがあまりにもひどいため、鍛え直そうという狙いだった。
だが、一緒に来た工藤は泣きじゃくって嫌がり、柱にしがみついて離れなかった。
譜久村はそんな工藤の様子を十分に堪能した後、生田を引きずりお化け屋敷に入った。
「おかしいおかしい!なんでくどぅーは入らなくていいとー?」
「くどぅーはまだ可愛い子供でしょ?
えりぽんは来年高校生になるんだからもうしっかりしないと!」
「もう!くどぅーとは二つしか変わらんのに!」
お化け役の人が物陰から飛び出すたびに、生田は絶叫を繰り返した。
生田が怖がれば怖がるほど、譜久村はそれがおかしくて逆に怖くなくなっていった。

しばらく歩いて行くと、なぜかお化け役の人がぱったり現れなくなった。
不思議に思いつつさらに進むと、廊下の先が壁で行き止まりになっていた。
(おかしいなあ…コースを間違えちゃったのかなあ)
譜久村が首を傾げる。生田は目をきつく閉じたままだ。
(少し「読みとって」みようかな)
譜久村は、能力を使ってみた。

762名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:12:18
1−2

譜久村には残留思念を感じ取る能力がある。
譜久村は壁に触れ、様々な思念を読み取った。
するとその中に懐かしい思念があるのを感じた。
(あれ?これ、新垣さん?)
譜久村は驚いた。
新垣は数か月前からリゾナンターを離れ、単独行動している。
思念とはいえ、久しぶりに新垣に触れ、譜久村は嬉しくなった。
(新垣さんもここに来てたんだ〜。ふふっ、新垣さんもお化け怖がってる。
ん?「カメをたあすけにきましたあ」って、亀井さんもいらしたの?)
譜久村がリゾナンターに入った時、亀井絵里はもういなかった。
しかし、さゆみから写真を見せられた譜久村は、一瞬でその可愛さの虜になった。
譜久村は絵里の思念を捜し当て、恍惚の表情でそれをむさぼった。
(亀井さ〜ん、こんなところであなたの心に触れられるなんて、みずき、幸せです〜)
「ねえ、みずき〜、どうして進まないの〜?」
立ち止まって動かない譜久村に疑問を抱いた生田が質問する。
譜久村は絵里の思念を辿るのに夢中で答えない。
「ねえ!何で構ってくれんと〜!みずき!みずきー!」
生田に揺さぶられようやく譜久村は我に返った。
そして、口元にたれているよだれを拭いながら生田に謝った。
「ごめん、ごめん。ところでえりぽん、私達、コースを間違えちゃったかも?」
「えっ、みずき、間違えたの〜!?」
「間違えてないよ!」
突然、聞きなれない声が響いた。

763名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:13:05
1−3

「誰!?」
二人が声の方を向くと、行き止まりの壁の前にピンクに光る一人の少女がいた。
少女は意地悪そうな笑みを浮かべつつ言った。
「誰って、お化けに決まってるじゃない。お化け屋敷だもん」
「ギャーーーーー!」
生田が叫ぶ。少女は続ける。
「私、あなたたちを殺さなきゃいけないの、ごめんね」
そう言うと、少女の体が明るさを増す。
同時に周囲の温度が急激に上昇し始めた。
「暑っ…」
「苦しい…」
譜久村と生田の顔が歪んだ。
ふと見ると、少女の近くの壁の張り紙が黒くなり始めている。
少女の体からものすごい熱が発せられているらしい。
二人は少女から遠ざかろうと、進路を逆走した。
10歩ほど進んだ時、譜久村は新垣の思念の中にあった言葉を突然思い出した。
(ギブアップはだめ!)
「えりぽん!」
譜久村が先行する生田の手を掴み引き戻す。
ガラガラッ!
生田の鼻先を掠めて、上から数本の鉄骨が落ちてきた。

764名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:13:50
〈Two 触って欲しくて〉

2−1

少女が感心したように言う。
「ふーん、罠に気付くとはなかなか勘が鋭いみたいね」
「みずき、サンキュ」
「うん。…でも、みずきたち、閉じ込められちゃった」
折り重なった鉄骨は完全に退路を塞いでいた。
二人が戸惑っているその間にも少女の放つ熱は激しさを増す。
命の危険を感じたせいなのか、それとも「キレた」のか、生田の目つきが急に変った。
「みずき、二人であのお化けを倒すしかないっちゃ!」
生田の能力は精神破壊。
リゾナンターに入る前、生田はその力を無差別にまき散らすだけだった。
しかし、精神系のスペシャリスト新垣との鍛錬が生田を成長させた。
今では破壊する方向をある程度制御できるようになっている。
「えええい!」
生田は目の前の少女にありったけの精神破壊波をぶつけた。
しかし、少女には何の変化も起きない。
「あれ〜、効かんと!?」
「えりぽん、お化けにそういう攻撃は効かないのかもしれない」
おバカ、もとい天然な譜久村は目の前の少女をお化けと信じてきっている。

765名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:14:20
2−2

二人は顔を見合せ、無言で頷いた。
こうなったら高橋やれいなに鍛えてもらった体術で勝負するしかない。
打撃程度の接触なら、少女の熱にも耐えられるかもしれない。
生田と譜久村は少女へ突進した。
だが、その考えは甘かった。
二人の攻撃は当たらない。
いや、当たっているはずなのだが、全く手ごたえがなかった。
その間にも猛烈な熱さが二人の体力を急速に奪っていく。
力尽きた生田がその場に倒れた。
「ハアハア、…。」
譜久村ももう限界に近かった。
その場に膝をつき、コンクリートの床に手を付いた。
その時、コンクリートから新垣の思念が譜久村に入り込んだ。
(お化けは触んないよ。絶対に、絶対触れない約束になってるから!)
確かに少女のお化けは一度も直接攻撃してこない。
譜久村たちが今受けているダメージは彼女の発する熱によるものだ。
「こっちの攻撃が当たらないだけじゃなくて、向こうも触れないってこと?」
その時、譜久村の脳裏に疑問が浮かんだ。

766名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:14:58
2−3

物に触れないお化けが、なぜ鉄骨を落とすことができたのか?
鉄骨を落とすには、何かに触れなければならない。
ということはこのお化けには仲間がいるんじゃないか。
物に触れることができる、お化けではない仲間が。
その仲間を倒せば、何か攻略の糸口が見えるかもしれない。
譜久村はポケットから一枚の生写真を取り出した。
譜久村の持っている生写真には一枚一枚先輩たちの能力が染みこんでいる。
譜久村はその能力を読み取って、性能は劣るが一時的に使用することができた。
いま譜久村が手にしたのは高橋の生写真。
瞬間移動の能力は、譜久村にはまだうまく使いこなせない。
読み込んだのは精神感応の力。譜久村は外で待っている工藤に語りかけた。
(くどぅー!聞こえる?)
「ん?譜久村さん?」
工藤が、ポップコーンをほおばる手を止めた。
(くどぅー、今、お化けに襲われてて大変なの!助けて!)
「えーーーっ!お、お化けですか!ど、ど、どうすればいいんですか?」
(くどぅーの能力を使って見てほしいの。
 みずきのいる場所の近くに誰か人が見えない?)
工藤の能力は千里眼、離れた場所を「見る」力だ。
譜久村の口調に緊迫したものを感じ、工藤は何とか勇気を振り絞った。
泣きはらして腫れぼったくなった目を閉じ、譜久村の周囲を探った。
「えっとー……、あっ、見つけた!
譜久村さんのいるところの天井裏に女の人がいます!」
(くどぅー!ありがとう!)

767名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:15:39
〈Three 笑って欲しくて〉

3−1

お化けじゃないなら倒せる。譜久村は生田の肩を掴んで叫ぶ。
「えりぽん、起きて!」
しかし、生田は生気を失った表情で、ぐったりとしたままだ。
譜久村は新たに生写真を一枚取り出した。それはれいなの生写真。
れいなの能力は共鳴増幅。
譜久村は自らの能力を増幅させ、新垣の思念を自分の体に染みこませた。
譜久村の顔つきが変わる。
そして、新垣そっくりな声色と口調で叫んだ。
「コラー!生田ー!こんなところで寝ない!」
「えっ!新垣さん!」
生田はパッと飛び起きる。
意識は朦朧としているが、満面の笑顔できょろきょろ周りを見渡す。
「新垣さん、えりなを助けに来てくれたんですか!?
 やっぱり、二人は固い絆で結ばれてるんですね!」
譜久村は新垣の声で続ける。
「生田ー!天井に向かってKYパワーを放出しなさーい!」
生田はその声が譜久村のものだと気付いていない。
「はいっ!ぐふふふっ…」
生田は気持ち悪い笑い声を漏らしながら真上を向いた。
「新垣さんとえりなの愛のコラボレーショーン!!」
生田は両手を上に広げて「愛」とは程遠い恐ろしい能力を解き放った。
「ギャーーー!」天井裏から響く断末魔の声。
同時に、ピンク色に光っていた少女のお化けの姿が消えた。

768名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:16:29
3−2

生田は攻撃を止めない。
天井裏の誰かがのた打ち回る音がバタンバタンと響いていくる。
バリバリッ!ドサッ!
暴れる衝撃に耐えきれなくなったのか、天井板が割れ、少女が落ちてきた。
「えりぽん、もういいよ!」譜久村に制止され、生田は攻撃を止めた。
少女は落下の衝撃で意識を失ったようだ。
「…あれ…みずき!新垣さんは?」
「新垣さんはいないよ。あれはみずきが物まねしただけ」
「えー!新垣さんいないの〜?助けに来てくれたと思って超嬉しかったのに〜!!」
「それよりえりぽん、みずきたち、何だかよく分からないけど勝っちゃったみたい」
「ホント!?やった〜!イエーーイ!」
お化けの少女が居なくなったことを確認し、生田は譜久村と飛び跳ねて歓喜した。
落ち着きを取り戻すと、二人は改めて目の前の少女をよく見た。
その少女は先ほどまで戦っていたお化けと全く同じ姿をしている。
「みずき〜、これ、どういうことかいね?」
「う〜ん、多分だけど、これ、生霊ってやつじゃないかな。」
「いきりょう?」
「うん、みずき、前に聞いたことあるんだけど、
生きている人でも恨みが強いと、幽霊になることができるんだって」
「じゃあ、えりなたちが戦ってたのは、この人のいきりょうってこと?」
「たぶん、間違い無いと思う」
「ふ〜ん、みずきは物知りっちゃねえ」
生田は尊敬の眼差しで、照れながら少しドヤ顔をしている一歳年上の同期を見つめた。

769名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:17:10
3−3

「大間違いだよ!」
カメラとマイクでこの様子を監視していた白衣の女性が突っ込む。
「生霊なんてあるわけないでしょ!
 自分の分身を作り出せる能力者がいることぐらい想定できないの!?
 比較的まともそうな譜久村って子でもこれかあ…。
 新生リゾナンター、これから大丈夫なの?
 まあ、私が心配することじゃないんだけど…」
白衣の女性はコーヒーを一口飲み、独り言を続けた
「…それにしても、この子もミッション失敗かあ。
 三人とも中々の能力を持ってるし、良い所までいったんだけど、
 詰めが甘いというか、運がないというか…」
「今回もダメですかー?」
「小春?もう!入る時はノックぐらいしてよね!」
「ほーい。でも今回はかなり周到に準備してましたよね〜
 あの子たちがお化け屋敷に行くって話しているのを盗聴して、
 前もってお化け屋敷のコースにも細工して…」
「うん、あれだけバックアップしてあげても勝てないってことは、
 やっぱりあの子たちは使えないってことかもね」
「あと四人残ってますけど、上はどうするつもりなんすかね〜。
…でも、どうして自分でお化け屋敷に行って監視しなかったんすか?
 面白い能力だって興味津々だったじゃないっすか?」
「…私、前にあそこねぇ、行ったんだけどねぇ、泣いて入口に戻って来たよ…」
「…そーっすか…。その気持ち…、すんごくよく分かります…」

770名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:17:51
〈Endingでーす〉

決着がついた直後、三人の様子を見にれいなが工藤の前に現れた。
工藤が状況を説明していると、譜久村が高橋の能力を使いそこに加わってきた。
事情が分かると、れいなは金魚のフンのようについてきていた佐藤に指示した。
おかげで譜久村と生田は容易に外に出られた。
「生霊!?何それ、こわっ!」
「たなさたん、むしだけじゃなくて、おばけもこわいんですか〜?ぷふっ」
「うるさいなあ!本物のお化けやろ?佐藤だって本物は怖いっちゃろ」
「まーちゃんもこわいですよ〜、でもまーちゃんはくどぅーよりおねえさんだから〜」
「なんでよ!同い年でしょ!」
精神年齢が近い三人の言い争いをよそに、譜久村と生田はお化け屋敷を眺めていた。
「新垣さんもここに来てたっちゃね」
「うん。先輩たちの思いに触れて、みずき、なんかすごく安心したし嬉しかった」
「えりな、新垣さんたちがおらんくなって、どうなるんかなって思ったっちゃけど、
 何てゆうとかいな、先輩たちがいてくれたっていうことで頑張れる気がするんよ。
先輩たちにいろいろ教えてもらったことだけじゃなくて、
先輩たちもうちらみたいに一生懸命頑張ってたんだなって思えることが、
自分の力になっとる気がするっていうか…」
「そうだね…、それがリゾナンターの「歴史」っていうものなのかもね……」
「フクちゃーん!生田ー!ドドンパ乗りに行こー!」
「「はーい!」」
れいなの呼び声に、二人は笑顔で返事をし仲間のもとへ駆けだした。

―おしまい―
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『超・戦慄迷宮』でした。パニック娘最高!
なお、敵の少女のモデルは(仮)の暑苦しい人です。

771名無しリゾナント:2012/08/15(水) 21:18:59
=======================================
>>761からここまでです。
 お好きなところで分割していただいても構いません。
 たびたびお手数おかけしますがよろしくお願いします。

772名無しリゾナント:2012/08/16(木) 22:55:44
狼のサーバーが落ちとる

773名無し募集中。。。:2012/08/17(金) 00:37:17
落ちたり復活したりで投下したくても出来ぬ〜ウワーン

774名無しリゾナント:2012/08/17(金) 19:29:36
行ってきます

775名無しリゾナント:2012/08/17(金) 19:41:15
行ってきました
本スレにも書いたけど最後3行ミスってホントに申し訳ないです作者様m(__)m

776名無しリゾナント:2012/08/17(金) 22:27:02
775さん、代理投稿ありがとうございました。
こちらこそご厚意に甘えるばかりですみません。
何の見返りもないのに時間と手間をお掛け頂いて本当に感謝しております。
まとめサイトの方も含めてリゾスレを支える方たちのご努力には頭が下がります。
みなさんの愛によって72話という長い長い「歴史」が築かれてきたんですね。

777名無しリゾナント:2012/08/18(土) 16:27:34
>>16‐19の続き

 「ふあぁ〜〜……」
 「この時期ってアレだよね、多分さ、半端に眠いんだろうね」
 「分かる、なんかそういう時ってあるよね。無性にっていうか」
 「そういえば今度席替えするんだっけ、後ろの方だったら寝てもバレないのに」
 「ご飯が取られないかと思うと安心するよ」
 「逃げられると思うなよ?」
 「返り討ちだね」

時間の流れと言うのは、そのときそのとき、さまざまな速度で進む。
あるひとには光速のようで、あるひとには時が止まって見えるらしい。
もしかすると、時間は平等ではないのかもしれない。
何処かでは激流のように時間は流れ、何処かでは時は停止しているのかもしれない。

窓の外は、青空。
何処までもつづく薄い水色に、やけに眩しい純白の雲。
最後に雨が降ったのはいつだったか。
少し考えても思い出せないくらい、ずっと晴れの天気が続いている。
気温は下がっていても、気配はあっても、晴れている。梅雨入りの話は何処に?

今は数学の授業中。
教師が黒板にゆるい字で数字を羅列している。退屈だ、特に不得意な教科なほど。
鈴木はため息を呑み込むのといっしょに、窓の外、空を泳ぐ真っ白な雲を
ぱくんっ、と食べるような仕草をしてみせる。

ふと教室に視線を戻すと、休み時間ギリギリに帰ってきた鞘師がノートに
黒板の内容を写すのに奮闘している。
彼女は数学が強いらしく、クラスでは教えてもらおうと囲まれてたりするのだ。
眠たそうに目を擦っている。

778名無しリゾナント:2012/08/18(土) 16:28:48
そういえば、また、夢を見た。

登場人物はいつも同じで、自分の目線もまた、同じ人。薄紫色の彼女。
戦う、夢だ。
あの赤色の少女も居て、変化と言えば、人数が増えている。
藍色の女性と、緑色の女性。
顔は日系だが、言葉が多分、中国語だったと思う。
片言で話す藍色の瞳はとても真剣だった。緑色の瞳も鋭さを増して行く。
薄紫色の彼女は赤色の彼女に強く頷く。まるで何かを示すように。

【ダークネス】に囲まれた状態で、誰かの声が上がる。

 「んー20対4か、ま、楽勝じゃん?」
 「皆の背中はワタシが守るヨ」
 「ひゅージュンジュン男前、でも足引っ張るのはなしだからね」
 「久住サンが一番心配ダ」
 「じゃあいつく潰せるか勝負する?」
 「久住さん、今は真剣になってください!」
 「ほら怒られた。リンリン、ミッツィーのことお願いね」
 「バッチリでスヨ!最大出力!」
 「うわあっち、リンリンフライグ過ぎー!」

どこかギャグめいた言葉と共に、辺りが一気に出火不明の緑色に『炎』を噴き上げる。
その驚きと共に、鈴木は目を覚ました。

戦い。

夢の中で繰り広げるのは、ゲームのように実感の全くない戦い。
自分が知らない世界で、国と国とが争いを続けているように。

779名無しリゾナント:2012/08/18(土) 16:30:16
この街、もっと大勢、この国で『平和』に暮らす人間はきっと、知らない。
戦争がなんなのか、誰と戦ってるのか、どうして戦わなければいけないのか。
誰も、きっと。
しかし、それでどう困ると言うのだろう?

 なにしろこの国は、どうしようもなく平和なのだから。

だけど、鈴木は小さな戦いを知っている。知らされた。
鞘師里保。
彼女が現れて、「きょーめいしゃ」だとか「だーくねす」だとか
そういうのが居て、「だーくねす」は人を醜い姿にして、それと「きょーめいしゃ」が
戦いを繰り返しているという事を思い知らされたあの日。

だけど、それは何の為?鞘師は、誰と、何の為に戦ってるのか。
そしてあの9人の戦いは終わったのか、続いているのかは、判らない。
それこそ、自分達には関係がないとでも言うように。

 (夢っていうかやっぱり、過去の話、とかなのかなあ)

鈴木には『共感覚 -シナスタジア-』と呼ばれるチカラがあった。
だがあれは音の振動音波で相手のオーラを「色」で知るというものであり
本来は風景イメージといったものは見ない。
鞘師によればそれに対して「ヒカリ」と呼ばれる物質が作用してうんぬんかんぬん…。
鈴木的にもよく判らない間に、そういったものが見えるようになった、らしい。
 
 (でもこの世界にあんなモノがいるなんて聞いたことがない)
 (正直、こんなものが見えたからってどんな意味があるのか全然判んないんだろうね)

780名無しリゾナント:2012/08/18(土) 16:31:12
シャーペンでノートに書くのはオリジナルキャラクター。
そこに誰かさんを書いてみたり、消しゴムで消してみたり。
諦めたように視線を窓に向けてみる。

 (あの女の人の名前、ミッツィーって言ってたから、ミッツイ…みつい、さん?)

薄紫色の女性、みついの視点で広がる世界は、此処ととてもよく似ている。
だからこそ戦う選択肢が当たり前のような光景に、鈴木は恐怖よりも
寂しさが込み上げた。何故か?何故か。

 (それにしても、お腹すいたな…)

鈴木は頬に手を当てて肘を置く、チャイムが鳴るまでずっと空を見ていた。

781名無しリゾナント:2012/08/18(土) 16:39:46
以上です。
今スレに入って一番手恐縮です。

>>72
ネタが満載で面白かったです。
(仮)のメンバーは残念ながら判らないんですが、フクちゃんの
能力仕様が上手いなと。

-----------------------------------------ここまで。

昨日の掲示板不使用でまたレベルが1になりました(涙
いつでも構わないのでよろしくお願いします。

782名無しリゾナント:2012/08/20(月) 20:34:35
遅くなりましたが行ってきます

783名無しリゾナント:2012/08/20(月) 20:42:28
行ってきました
冒頭のレスアンの全角ハイフン修正しようか迷ったのですが
とりあえずそのままにしておきました
何かあったら言ってください

784名無しリゾナント:2012/08/22(水) 00:16:09
代理投稿ありがとうございました。
あ、ホントだΣ
前に投下してくださった方のをそのまま使ったので…。

785名無しリゾナント:2012/08/22(水) 01:07:29
>>133-136の続き。

六月だ!海開きだ!プール開きだ!
そんな声が小さく大きく聞こえてくるようになった中旬。
何処までも続く薄水色のやけに遠い空を見上げて、梅雨が来なかった事に首を傾げて。
いつか降るだろうと結論づけた。
この空が果てしなくつづいていることは知っているはずなのに、『水不足』だと言えば
何処か遠い国の出来事に感じる誰かさん。
だから。

 「冷た!」

鈴木の悲鳴が上がる。
上空二メートルのところから、大雑把な粒の雨が降って来たからだ。

 「あははははははは!」

大笑いする彼女がホースを撒き散らし、放たれる水は弧を描いて
鈴木たちクラスの女子めがけて降ってきた。
はしゃぐ女子たちは、水しぶきから逃れようと小走りになる。

 「おーい走るなー、遊びじゃないんだぞーっ」

何度目かの教師の注意する声が飛ぶ、短パンとTシャツの格好で。
昼休みが終わり、本来なら五限目の現国の時間だ。
だが鈴木は体操着で今、プールサイドに素足をさらして立っている。
理由は簡単。

 今年もプール開きのため、昨日から始まった『プール清掃』だ。

786名無しリゾナント:2012/08/22(水) 01:08:31
この学校にはプールがある。しかも無駄にデカい共同プールだ。
今日は中等部の1年から3年までが受け持つことになっていた。
清掃など、業者に任せればいいんだろうと誰かが言う。

 「業者に金払うより、身内でやっちゃった方が安上がりってことでしょ?」

生々しい回答、デッキブラシを手にプールサイドのタイルをごしごしと擦る。
水不足など頭の片隅にもないような豪快さで水をまく彼女。
底に溜まった得体のしれない何かしらに足を取られながら眉間にしわを寄せて
デッキブラシなどで丹念にさらい続ける男子。
午前中もほかのクラスや学年の生徒達が清掃を行っているとはいえ
まるまる一年放置されたプールのデンジャラスな汚れっぷりは衰えを知らない。

男子がプールから葉っぱや何かしらが大量に盛られたバケツを女子に渡すと
「きゃあ!」とか「きもいっ!」とかいちいち悲鳴が上がる。
嫌がっている半面、どことなくこの状況を楽しんでるような気もする。

口では「めんどい」なんて言っていても、眩しい太陽光線、むせかえる気温
真っ白い雲に何処までも青く澄んだ空。
これでもかというくらい「青春せよ」と誰かが言っているようで。

 「単純だなー」

デッキブラシと自分の腕を支えにして、鈴木はだらんとアゴをつく。
瞬間。

 「――― ひゃあぁぁ〜〜〜〜!!」

787名無しリゾナント:2012/08/22(水) 01:09:28
隣で誰かの悲鳴が上がった。
真夏並みの気温とはいえ、水道の真水だ。頭から全身をまともに浴びれば
さすがに思わず声を出してしまうほど冷たい。

 「ほらやらかしたっ、誰かタオル貸してあげてっ」
 「鞘師さん、大丈夫?」
 「ごめんね里保ちゃんっ」

彼女の他にもホースを手にした女子が二人。
どうやらお互いに水をかけあって遊んでいたところ、運悪く鞘師に
向けられて放水されたらしい。
全身ずぶぬれの鞘師は手渡されたタオルで顔を拭いている。
鈴木はホースを取ると、とりあえず原因の彼女の顔面に思いっきり放水した。

 「こら男子こっち見るな!」

先ほどの鞘師の悲鳴でプールの中から覗いていた男子が頬を赤らめている。
全身がずぶぬれになった事で、鞘師の体操着が思いっきり透けていたからだ。
そんな熱視線に女子がホースを向けた、まさに冷や水。
怨念めいた断末魔の悲鳴をよそに、当の本人はきょとんとしている。

 「とりあえず着替えた方がいいよっ、替えの体操服あるか聞いてくるから」
 「あ、あぁえっと、大丈夫だよ」
 「大丈夫って……え?」

そういった鞘師がふいと、無造作に体操着のシャツを捲る。
ぎょっとしたが、体操着の下はスクール水着だった。いつの間に。
濡れた髪を後ろで結びながら、鞘師は小さく笑ってみせた。

788名無しリゾナント:2012/08/22(水) 01:27:00
 「ちょっとビックリしただけだから」
 「はぁーさすが里保ちゃんだ」
 「元はと言えばあんたのせいだけどね」
 「うーんとあ、そうだ。
 明日の給食の時間に里保ちゃんの好きなヤツあげるからそれで一つ!」

周りで心配していた女子は安心したのか笑顔を浮かべる。
先生の注意の声が上がるなどをしている内に、鞘師が鈴木の方に近寄ってきた。

 「りほちゃんってあんな風に叫ぶんだ」
 「叫んでないよ」
 「叫んでたじゃん」
 「叫んでないってば」
 「…それって指定のじゃないよね?」
 「うん。でもこういう事があるからって聞いてたから、着て来てよかったよ」
 「ふーん」
 「早く入りたいね、プール」
 「りほちゃん好きなの?」
 「うん。もう夏になるしね」
 「夏かあ」

あと1ヶ月も経てば中学生最初の夏休み。
その前の期末テストを思い出して遠い目を浮かばせる鈴木だった。

789名無しリゾナント:2012/08/22(水) 01:30:00
以上です。
酷い真夏のときに書いていたので少し涼しい日常など。

-----------------------------------------------ここまで。

いつもお世話になっております。
いつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏

790名無しリゾナント:2012/08/22(水) 13:54:41
行ってまいります

791名無しリゾナント:2012/08/23(木) 00:14:20
こんなに早く代理投下ありがとうございましたっ。
今気付いたらアクセス規制も喰らってました…(涙

792名無しリゾナント:2012/08/23(木) 13:53:43
>>169-172 の続き。

 「すみませーん、こっちにデッキブラシあまってないですか?」

三年の女子生徒のひとりがやってきてそう言った。
二人もその声の方に振り向くと。

 「フクちゃん?」
 「みずきちゃん?」

同時にその生徒の名前を呼んだ。
こっちにやってきた譜久村聖に男子がまた騒ぎ始めている。
譜久村はジャストサイズじゃない身体のラインがでないくらいの体操着(上)に
濡れないように短パンを脱いだのか、体操着(上)に下はスク水というスタイルだった。

 「あれ?香音ちゃんもこの時間だったんだ」
 「ということはみずきちゃん達も?」
 「うん。更衣室とか部屋の掃除。まあ水泳部っていうのもあるしね。練習も始まるから」
 「みずきちゃん泳げるんだ。ちょっと意外」
 「スポーツは好きだよ。里保ちゃん水泳とか興味あるなら入ってみる?」
 「うーん、考えとく」

よいしょ、鈴木はフェンスに立てかけてあったデッキブラシを三本ほど抱えて持ってきた。
その時に不意に、視線を感じる。
鈴木がその異変に気付いたのと同時に、鞘師と目が合う。
無言。無表情。
じわりと、鞘師の目が朱く。

 「みずき、ブラシあった?」

793名無しリゾナント:2012/08/23(木) 13:54:35
突然聞こえて来た声が上がり、鈴木が感じていた視線が消えた。
この声はまさか。

 「あれ、1年のクラスは里保達のところやったと?」

後ろから出て来たのは紛れも無く、生田衣梨奈だった。
髪を後ろで結び、体操着で両手には手袋をはめている。
まるで計ったような組み合わせに「誰かの陰謀か!?」とか皮肉めいたことも言いたくなる。
誰かさんに。

 「えりぽんのところは外側の掃除なんだって」
 「もうさー不法投棄反対!変なゴミが多すぎるけん、選別したくないっ」
 「まあ1年も放置してればね。でも皆でやったらすぐに済むからがんばろっ」
 「あーあ、えりなプール係の方が良かったなあ」
 「こっちもこっちで大変だけどね、ね、かのんちゃん」

鞘師が言って指さす方には大量に積まれた得体のしれないものが入ったゴミ袋。
生田は思わず「うわあ」と漏らす。

 「じゃ、私達も行こっか。ブラシありがとー」
 「よーし、こうなったらめっちゃくちゃ綺麗にしてやるっちゃんねっ」

譜久村聖はデッキブラシを片手に手を振り、生田は気合いを入れ直して去っていった。
その後、二人はまたプールサイドの掃除に戻り、黙々と作業を行う。
ふと、鈴木は先ほどの出来事を鞘師に問い掛けてみた。

794名無しリゾナント:2012/08/23(木) 13:55:17
 「りほちゃん、さっきの気付いた?」
 「かのんちゃんも気付いたなら間違いないね」
 「また"アレ"?」
 「うーん、ちょっと違うかな。でも放ってはおけないね」
 「あれってさ、りほちゃんにしか倒せないものなの?」
 「どうかな。でもその手段はあるよ」
 「どういうこと?」
 「かのんちゃんにはもう渡してあるけどね」

鞘師の言葉が理解できずに、鈴木は口を開こうとした。
だがまた、背筋に冷たい感触が走る様な、視線を感じる。
思わず振り返ってみるが、視覚に"色"を知ることはできなかった。

 「ねえかのんちゃん。もしもさ―――」

キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ―――ッ!!

悲鳴のような音があたりに響き渡る。
例えるなら、金属でできた風船を鋭く尖った爪で引っかいた様な。
酷く耳障りで不快な音。
そして間髪いれずに。

 ――― パァァァァァァンッ!!

風船が破裂したような、大きな音が聞こえる。

 「……んぬぇっ!?」

795名無しリゾナント:2012/08/23(木) 13:56:38
鈴木は思わず両手で耳を塞ぎ、頭上から大粒の雨。
ではなく、大量の"水"を降り注いでいることに気付く。
すっかり全身ずぶ濡れだった。
鞘師がぼんやりと空を見上げる。
空は、晴天。
遠く高く何処までも水色が続いている。
だから、雨じゃない。
原因は、プールサイドにある手洗い場、消毒プール、シャワー。
そして、プールに水を張るための巨大な蛇口、その全てから水が噴き出し
あたり一面は大雨に降られている様な状況になっていた。

 「す、水道管が破裂した!?」

突然のことに動揺を隠せない教師が、声をひっくり返しながら叫んだ。
確かに、水道という水道から蛇口をひねってもいないのに、流れ続ける。
それもかなりの勢いで。

 「と、とにかくプールから離れろー!」

教師の声で、プールサイドの女子生徒達が小走りに、プールの中に居た
男子達もあがってきて、逃げるようにぱたぱたと出口へ駆けだす女子たち。
悲鳴のように口々に飛び出す言葉。
鈴木も避難しようとして、鞘師が来ていないことに気付く。
呆然と立つ鞘師が何かをつぶやいた。
しかし、豪雨のような降水の音にかき消されて聞こえない。

鞘師の手を取ると、ようやく彼女は歩き出した。

796名無しリゾナント:2012/08/23(木) 14:01:25
以上です。
何かでりほりほはプライベート水着を
持ってないとかなんとか。

-------------------------------ここまで。

残暑お見舞い申し上げます。
いつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏

797名無しリゾナント:2012/08/24(金) 19:20:52
行ってまいりました

いよいよ鞘師以外の面々も交戦ですかね

798名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:22:52
『あなたのハニー!みんなのハニー!』

〈One ちょびっといじけて〉

1−1

石田は勝利を確信していた。
目の前の少女は強い。
れいなにしごかれる前の石田だったら、負けていたかもしれない。
だが、今の石田は、約一年間の鍛錬によって戦士として急成長している。
石田の優勢を裏付けるかのように、少女は苦しそうに肩で息をしていた。
さらに、全身からは異常な量の汗がしたたり落ちている。
「あゆみちゃん、まーちゃんに誰か連れて来てもらわなくても大丈夫?」
「大丈夫!私一人で倒せる!」
「でも、その人、なんかただ者じゃないっていうオーラが出てるよ。
とっても可愛らしいんだけど、たくさんの修羅場をくぐってきた凄味を感じる!」
「なんで敵をヨイショしてんの!?はるなんはそこで大人しくしてればいいから!」
「…はーい」
叱られてちょびっといじけている飯窪を無視し、石田は目の前の敵に集中した。
そして、次の一撃で勝負を決めようと一歩踏み出した時、石田は体の異変に気付いた。
(足が痺れてる!?)
「どうやら効いてきたみたいね」
蒼ざめる石田の顔と対照的に、敵の少女の口元が緩む。
「な、何をした?!」
「汗は武器!」
少女は、自らの汗を瞬時に化学変化させる特殊能力を持っていた。
石田の脛や拳には、攻撃の際の接触によって少女の汗が付着している。
その汗を、少女は化学変化させた。
皮膚から染みこみ、運動神経を麻痺させてしまう恐ろしい猛毒に。
「うそだ、うそだ、うそだ…」
石田は徐々に感覚が無くなっていく手足を見つめた。

799名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:24:05
1−2

飯窪石田佐藤工藤の四人は同時にリゾナンターに加入した、言わば「同期」である。
約一年前、四人は高橋愛によって「闇」から救い出された。
四人の境遇はほぼ同じだった。
もともと彼女らは「普通」の女の子だった。
ところが、ある日突然、特殊能力が発現する。
平凡だった日常が、それによっていとも容易く崩壊してしまう。
自分の娘が「異常」であると知った両親は、現実を受け入れられず困惑する。
彼女らは家族や友達から疎まれるようになり、体と心の置き場所を失っていく。
そこに現れる黒服の男たち。
彼らが差し出した名刺には、「国立能力開発センター」と印字されていた。
両親は大喜びで娘を彼らに預けることを決める。
両親に見放された彼女らは、その男たちについていくしか選択肢がなかった。
彼女らが連れて行かれた先は人里離れた研究施設。
その施設は「国立…」などではなく、ダークネスの秘密研究所だった。
哀れなモルモットとなった彼女らは、過酷な実験で心身がぼろぼろになっていく。
しかし、一年前のあの日、彼女らに救いの手が差し伸べられた。
高橋率いるリゾナンターが秘密研究所を襲撃したのだ。
四人は無事保護され、地獄の日々から抜け出した。
自由になった彼女らは、全員がリゾナンターに加わることを志願した。

高橋はその日の戦いが原因で行方不明になってしまい、新垣が次のリーダーとなった。
四人の思いを受け止めた新垣は、すぐに彼女らの両親たちに連絡した。
そして、彼女らが施設を出たこと、彼女らを自分に任せてほしいことなどを伝えた。
ダークネスについては、到底理解できないだろうと考え、説明しなかった。
新垣の申し出に対する両親たちの反応は、判で押したように同じだった。
「そちらで預かっていただけると、助かります」

800名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:24:55
1−3

喫茶リゾナントの近くにある安い賃貸マンションで、飯窪たちの新生活が始まった。
飯窪・佐藤・工藤の家は比較的裕福だったため、毎月多額の仕送りが振り込まれた。
それに対して石田の家庭はごく平均的であり、仕送りは滞りがちだった。
高校生になった石田は、生活費の足しにしようとアルバイトを始めた。
踊るのが大好きな彼女が選んだのは、某球団のチアリーディングチームのメンバー。

その日も石田はチアリーディングの練習に行っていた。
遅くとも夜9時には帰宅するはずなのだが、その日は深夜になっても帰って来ない。
心配した飯窪は、練習場のある野球場に石田を迎えに行った。
屋外にある練習場の鉄の扉を開けると、チアリーダー姿の石田が少女と戦っていた。

石田の動きが止まった。飯窪が慌てて声を掛ける。
「あゆみちゃん!どうしたの?」
「体がマヒして動かない!どうしよう!」
飯窪は慌てて扉の陰から飛び出した。
そして、自分の背後に石田を隠し、少女の前に立ちはだかった。
ただし、飯窪は弱い。
現時点ではリゾナンター最弱である。
華奢な体に穏やかな性格。戦闘には全く向いていない。
一応飯窪にも特殊能力がある。
だがそれは、手のひらから茶色のネバネバした物体を出すというもの。
どのような使い道があるのかも分からない、気味が悪いだけの能力だ。
戦闘になると、飯窪はいつも先輩や同期が戦う姿を物陰から「見学」しているだけで、
全くと言っていいほど戦力になっていなかった。
そんな飯窪の実力を見抜いたのか、少女が余裕の表情で挑発する。
「ねえ、あんた、やるの?」
(どうしよう…、あゆみちゃんがかなわない相手に、私が勝てるわけない)
自分の体が震えているのを、飯窪は感じた。

801名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:25:47
〈Two ぷくっとほっぺを〉

2−1

しかし、飯窪は逃げなかった。
飯窪は全力で前へ走り出した。
「オラオラオラオラオラオラーーーーーー!」
猫パンチを繰り出しながら、甲高い声を上げて敵の少女に突進した。
れいなから伝授された戦闘術は、残念ながら飯窪の体には全く染みこんでいなかった。
少女は、突っ込んできた飯窪の顔面に、無造作に拳を当てる。
ボコッ!
飯窪は仰向けに倒れ、全く動かなくなった。
「はるなん!」
石田は自由に動かない自分の四肢にいら立った。

石田にも特殊能力がある。
それは「小石」限定のサイコキネシス。
手のひらに収まるサイズの石なら、石田は重力を無視して自由に動かすことができた。
石田はこの力をとても気に入っており、自らを「石プロ」と称していた。
だが、いま戦場となっている屋外練習場は、とてもきれいに整備されている。
念動力で動かせそうな適度な大きさの小石はどこにも見当らない。
急な戦闘に備えて、石田はいつも制服のポケットに小石を携行している。
しかし、今石田が着ている服はチアリーディングのユニフォーム。
制服は更衣室の施錠されたロッカーの中だ。
石田は、自分の不用意さを呪った。

802名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:27:06
2−2

「リゾナンターなんて大したことないじゃん」
嘲笑う少女。石田は痛くなるほど強く奥歯を噛みしめた。
「こんなショボい奴らに、なんでみんな負けたんだろ?」
「…今、何ておっしゃいました?」
突然後ろから甲高い声がした。少女は振り向き、声の主に言った。
「何だ、あんたか…。まだやる気なのか?」
「あなた、今、『ショボい』っておっしゃいませんでしたか?」
飯窪は仰向けになったまま、丁寧な口調で再び尋ねる。
少女はその態度に苛立ち、飯窪に向かって怒鳴った。
「ああ、言ったよ!お前らがショボいからショボいって言ったんだよ!」
「ショボい…、ショボい…、ショボい…、ショボい…、
 ハ、ハ、ハウーーーーーーーーーーーーーーーーーーン」
飯窪は眼を見開き、両手を地面と垂直に掲げた。
細長い十本の指がパッと開くと、手のひらから茶色の物質があふれ出す。
その物質は黒く変色しながら、ワンピースとなって飯窪の体を包み込む。
また、物質の一部は飯窪の頭の上で固形化し、二本の角となった。
飯窪は立ち上がって、モデルのようにポーズを決めた。
全身黒ずくめのその姿は、まるで悪魔のコスプレをしているかのようだ。
「なんだ、その恰好は?」
少女の問いかけに、飯窪がにやりと笑う。
「小悪魔ですって?いいえ、大悪魔よっ!」
「……誰も『小悪魔』なんて言ってねーよ!」
少女の突っ込みを無視し、飯窪が前方に両手をまっすぐ伸ばす。
二つの手のひらから、今度は大量の蜂蜜色の液体が噴出した。
「うわっ!」
叫んだのは、石田だった。

803名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:29:00
蜂蜜色の液体は、全て石田に降りかかった。
避けようとした石田は、バランスを崩して地面に這いつくばった。
「ちょっとはるなん!何するのよ!」
石田は、ぷくっとほっぺを膨らませて飯窪を責める。
「あんた、寝返ったの?勝ち目がないから私の味方になろうってわけ?」
呆れる少女に対して、飯窪はゆっくりとこう言った。
「そうだ、味方だぜ。
 ただし、正義の……味方だ…」
「ウザっ!」
少女は飯窪に近寄り、その顎を下から強烈に殴り上げた。
「ゴボオォッ!」
飯窪は変な声を出しながら数メートル後ろに吹っ飛んだ。
再び仰向けにのびてしまった飯窪を見ながら、石田は思った。
(はるなん…、一体何がしたかったの……。
 それにしても何よこれ!ベタベタして気持ち悪い!
 うわっ、土がくっついて取れない…)
石田は土まみれの両腕を見つめた。
(…ん?!)
石田は不自由な右手で地面の土を掴みとり、最後の力を振り絞って固く握り締めた。
一方、余裕綽々な敵の少女は、石田の様子を見てこう言った。
「ハハハッ!土を掴んで悔しがるなんて、テレビドラマの一場面みたい。
 それじゃあ、クライマックスといきますか!」
ザッ!
少女は最後の一撃を撃ち込むため、大地を蹴って夜空高く舞い上がった。
そして、地面に横たわる石田めがけて、急降下してきた。
ゴギッ!
骨を砕く鈍い音が響いた

804名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:31:02
〈Three ふくらませてる〉

3−1

「な、なに…!?」
少女は何が起こったか理解できなかった。
自分の体が地上約1.8メートルのところで鋭角に折れ曲がって静止している。
腹部には、槍のように突き出された石田の拳がめり込んでいる。
「…ウグッ!」
少女は食道の奥からこみ上げてきたものを口腔内に溜め、頬を膨らませた。
石田が静かに言う。
「クライマックスには、大逆転が起こるもんなんだよ」
「…ブハッ!」
堪え切れなくなったのか、唇から大量の真っ赤な血を吐き出し、少女は意識を失った。
右拳が降ろされるのと同時に、石田は地面に崩れ落ちた。
一瞬遅れて少女も落下し、練習場に静寂が訪れた。

「はるなん…、大丈夫…?」
石田は不自由な四肢を懸命に動かし、這って飯窪に近づいていく。
仰向けの飯窪は、顔だけを石田の方に向けて、ゆっくり目を開けた。
「…う、…うん。あゆみちゃんこそ、…大丈夫?」
石田はようやく飯窪のもとにたどり着き、覆い被さるように抱きついた。
「はるなん、ありがとう…」
飯窪は朦朧としつつも、微笑みながら石田の頭を優しく撫でる。
石田の瞼はもう涙の重さに耐えられなかった。

805名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:32:23
3−2

四肢の自由を奪われた石田が攻撃できたのはなぜか。
飯窪の出した蜂蜜色の液体。
それはまるで瞬間接着剤のように、物質を強力に結合する性質を有していた。
少女が最後の一撃を見舞おうと空中から襲い掛かったあの時、
石田の右の掌の中には、一掴みの土が握られていた。
その土の一粒一粒が蜂蜜色の液体によって結合され、瞬時に泥岩のように固まった。
石田は握った拳ごと、泥岩と化したその「小石」を操ったのである。
「石プロ」たる所以の、自らの特殊能力を使って。

意識を取り戻した飯窪は、佐藤に電話をした。
佐藤はすぐに「飛んで」来た。同行者は道重さゆみ。
石田の四肢には麻痺が残っていたが、特に大きな外傷は無い。
体に付着していたあの物質も、10分も経つときれいに消滅してしまった。
石田の無事を確認したさゆみは、飯窪の傷の治療にとりかかった。

飯窪の治療が終わったちょうどその時、背後から叫び声が聞えた。
「キャー!」「まーちゃん?」
さゆみが振り向くと、さっきまで走り回っていた佐藤が棒立ちで夜空を見上げている。
佐藤の視線の先には、猛スピードで降下して来る巨大な鳥がいた。
その鳥は倒れていたあの敵の少女のところへ舞い降り、彼女を両足で掴んだ。
そして、すぐさま夜空に舞い戻り、漆黒の闇に消えていった。
それはほんの数秒間の出来事で、さゆみたちはどうすることもできなかった。
飯窪がさゆみに話しかける。
「道重さん、あの大きな鳥も敵なんでしょうね?」
「そうね…。いつ襲ってくるか分からないから、用心しないとね…。
はるなん、今回みたいな状況になったら、すぐ私達に連絡しなきゃだめだよ」
「はい…、心配かけてすみませんでした」
頭を下げる飯窪に、さゆみは笑顔で応じた。

806名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:33:08
3−3

「あゆみん、少し聞きたいことがあるんだけど、話せる?」
「はい、大丈夫です」
さゆみは、飯窪が豹変した際の様子を石田に尋ねた。
石田の説明が終わると、さゆみは改めて飯窪に聞いた。
「ねえ、はるなん、茶色のあれが接着剤みたいになるって知ってたの?」
「道重さん、茶色じゃなくてチョコレート色です。
 私、全然知りませんでした。…それに、さっきのことも全く覚えてないんです。」
「そう…、もしかすると何かがきっかけではるなんの中の別人格が現れたのかもね。
 石田の話だと、そっちのはるなんは、茶色のアレを上手に使いこなしてたみたいね」
「そうですね。チョコレート色のジェルにあんな使い道があったなんて…。」
「コスプレはともかく、茶色のアレを接着剤にすること、今もできる?」
「チョコレート色のジェルを接着剤にすることですか?やってみます」
飯窪は手のひらに集中した。すると、あの蜂蜜色の液体が滾々とあふれ出た。
「道重さん、できました!きれいなハニー色ですね〜。」
喜ぶ飯窪。だが、液体の噴出はすぐに止まった。
「あれ?出なくなっちゃいました…」
さゆみは地面に落ちた蜂蜜色の液体に触れ、その強力な接着力を確かめた。
「……これ、使い様によっては、かなり役に立つと思う。
 はるなん、この薄黄色のベタベタしたヤツ、上手に使いこなせるようになってね!」
飯窪は嬉しそうに答える。
「はい!私、このハニー色のクリームを必ず使いこなせるようになります!
 いつも皆の足を引っ張ってばかりで、これまで私、何の役にも立ってなかったから、
この能力で、みんなの力になれるように頑張ります!
あなたのハニー!みんなのハニー!って、ちがうかっ!ちがうかっ!」

807名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:33:49
〈Endingでーす〉

おどける飯窪を見ながら、さゆみはその笑顔の裏にある陰を感じ取っていた。
(「これまで私、何の役にも立ってなかった」…か。)
両親から捨てられ、友人達から避けられ、新しくできた仲間の役にも立てない…。
自分の存在意義に最も疑問を感じているのは、この飯窪かもしれない。
「はるなん、気持ち悪いよー!」
さゆみは声を上げて笑い、湧き上がってくる切なさをごまかそうとした。

そんな二人のやり取りを見ていた佐藤が、飯窪に近づいてきて話しかける。
「はるなーん、てからせっちゃくざいだせるようになったの〜?
それってさあ、はるなんにぴったりののーりょくだね〜」
「えっ、どうして?」
「だって〜、まーとどぅーとあゆみんがけんかしたとき、いっつもはるなんが
 なかなおりさせてくれるでしょ〜?
 はるなんのおかげで、まーたちはなかよしでいられるんだよね〜。
 ほんと、はるなんって、みんなのせっちゃくざいみたい」
「……ありがとう、まーちゃん」
飯窪はそう言って佐藤を強く抱きしめた。
佐藤は驚いてキョトンとしていたが、すぐに笑顔で飯窪のか細い腰に両手をまわした。
そんな佐藤を見つめながら、さゆみはある人の笑顔を思い出していた。
超天然で、何も考えてないようで、それでいていつも大切なことを気付かせてくれた、
あの大親友の笑顔を……。

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『あなたのハニー!みんなのハニー!』でした。
飯窪と石田の特殊能力を新しく考えてみました。
なお、敵の少女のモデルは(仮)の紫の人です。

808名無しリゾナント:2012/08/24(金) 22:39:06
=======================================
>>798からここまでです。
 今気づいたんですが、>>803の「2−3」のナンバリングが抜けてました…。
 本当にすみませんが、付け足していただくと助かります。
 いつもお願いばかりで恐縮ですが、よろしくお願いします。
 
>>781さん。ご感想ありがとうございます。781さんは女性の方でしょうか。
よくもここまで細やかに少女の心理を表現できるなと、いつも感心しています。
これからの展開、とても楽しみです。

809名無しリゾナント:2012/08/25(土) 00:30:02
行って参りました
コミカルで軽い話口調なのに何処か切なさや寂しさもある感じが好きです
今後も頑張ってください!

810名無しリゾナント:2012/08/25(土) 01:24:42
>>809さん
早速の投稿、ありがとうございました!
ナンバリングの訂正もしていただき、感謝感謝です。
励ましのお言葉、本当にうれしいです。
ご期待にそえるよう頑張ります!

811名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:15:44
『What’s Up?愛はどうなのよ〜』

〈愛の力〉

1−1

秋晴れのある日、高橋愛の心に、助けを求める少女たちの叫び声が突き刺さった。
高橋は精神感応の力を使い、その叫び声の出所を探った。
瞬間移動を繰り返し、その出所を突き止めると、そこは山奥にある建造物だった。
正門には、「国立能力開発センター」という大きな看板が掲げてある。
高橋は建物から洩れ出す思念を探った。
そして、そこがダークネスの秘密研究所であることを確認した。
高橋はいったん喫茶リゾナントに戻り、仲間を集めて状況を説明した。
そしてその夜、高橋は新垣たち四人と共にその建造物に突入した。
高橋は先頭に立ち、少女たちの居場所を探りつつ、行く手を阻む戦闘員をなぎ倒す。
れいなは縦横無尽に動き回り、圧倒的な強さで敵を一掃する。
後方にいる愛佳は予知能力を駆使し、仲間たちに様々な情報を送り続ける。
同じく後方担当のさゆみは、キャーキャー騒ぎながらも敵の攻撃を巧みに躱し続け、
負傷した仲間が近づいて来れば瞬時に治療してしまう。
中心にいる新垣は、鋼線を操ってさゆみと愛佳を護りつつ、五人の連携の要となる。
歴戦の戦士たちは、完璧な陣形で敵の防衛ラインをいとも容易く突き崩していった。

譜久村・生田・鞘師・鈴木の四人は建物の外で待機している。
「少人数の方が動きやすいけん、あんたらはここで待っとり」
れいなにそう言われた譜久村は、まだ自分の実力に自信がなかったため少し安堵した。
五人の突入を見届けると、鞘師はすぐに草叢に寝転がり、うとうとし始めた。
「りほちゃん、起きていようよ。何かあったらどうするの?」
「あの人たちの力で対処できないような『何か』なんて、そうそうないと思うよ。
それに、もしあったとして、私たち四人の力じゃどうにもできないでしょ?」
睡魔に弱い鞘師は、譜久村に子供のような屁理屈を言うと、すやすや寝始めた。

812名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:16:58
1−2

侵入から約30分後、高橋たちは囚われていた四人の少女を見つけ出す。
新垣に精神干渉された初老の研究員が、虚ろな目で鋼鉄の扉の鍵を開ける。
中に入ると、飯窪・石田・佐藤・工藤の四人が奥の方で肩を寄せ合っていた。
高橋は、怯えた表情で見つめる少女たちに、ニコリと笑って声を掛けた。
「私は高橋愛。
あなたたちの声が聞こえたから、ちょっと来てみたの。
一緒に外に出る?」
四人は逡巡していたが、「愛」と名乗るその女性の澄んだ瞳を見て安心したのか、
まず、佐藤が立ち上がって高橋にしがみ付いた。
すると三人も次々と高橋に駆け寄り、その小さな体を取り囲むように抱き着いた。
「ゥオゥケィ!」
高橋は中途半端にネイティブっぽい発音で明るく叫んだ。
そして、まるでこれからカラオケにでも繰り出すかのように言った。
「じゃあ、行こっか!」

部屋から出てきた高橋に、さゆみがもたれかかり、甘え声で言う。
「ねえ、愛ちゃん、やっぱり瞬間移動できないの〜?さゆみ、足つりそう〜」
しかし、瞬間移動は不可能だった。
この研究所には瞬間移動を妨害する強力な装置が設置されているようだった。
ここに来るまで様々な機械を壊してきたが、その妨害機能は持続していた。

高橋たちが来た通路を戻り始めると、突然前方に一人の少女が現れた。
身構える五人と、慌てて後ろに隠れる飯窪たち。
その少女は、九人から二十メートル程前方に立ち、澄んだ声でこう言った。
「i914、私と戦って下さい」
「…あなたは?」
「私はi-Reproduced412。あなたと同じ、殺人兵器です」

813名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:18:11
1−3

「えっと、あいりぷろづ、どっ、どゅー…」
「愛ちゃん、ここで噛む〜?」
新垣は高橋に突っ込んでから、少女の方を向いて言った。
「あのぉ、省略して『アイリ』さん…でよろしいですかね?
アイリさん、こっちは五人、あなたは一人。
こっちの方がどう見ても有利だと思うんですけど…」
「私はi914の能力をわしゃわしゃわしゃ…。
さらに、全ての能力の性能が、i914のわしゃわしゃわしゃ。
 あなたたちが一度にわしゃしゃっても、おそらく一分もわしゃわしゃわしゃ…」
「…滑舌悪くてところどころうまく聞き取れないんだけど…」
さゆみは愛佳に耳打ちする。
「わたしもです…」
「みんな、逃げて。私がこの子を食い止める」
高橋は少女を睨みながら、意を決したような口調で言った。
「はあ?愛ちゃん、なんでよ!?」
れいなが高橋にくってかかる。しかし高橋はれいなを宥めるように諭した。
「私には分かる。この子はダークネスが作った殺人兵器。
多分、私と同じか、それ以上の力を持ってる。
もし光の力を使ってきたら、私たち全員、一瞬で消滅させられてしまうかもしれない。
 せっかく救えたあの子たちの未来を、ここで終わらせるわけにはいかない」
「へー。やっぱり愛ちゃんには分かるんだね〜」
少女の後ろに、白衣を着た女性のホログラム映像が出現した。
「コンコン!またあんたのしわざなの?」
「お久しぶり、ガキさん。私もここは愛ちゃんの言う通りにした方がいいと思うよ。
 あ、その子達はもういらないから、連れて帰っても全然かまわないよ」
「ふざけんな!じゃあ、何のためにこの子達に辛い目を合わせたと!?」
激昂するれいなに、マルシェは平然と言う。
「そんなの愛ちゃんをおびき出すためのエサに決まってるじゃん」

814名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:19:02
〈愛の行方〉

2−1

マルシェの言葉が終わると、「アイリ」は右手を上げ始める。
数秒後を「見た」愛佳が叫ぶ。
「みんな跳んで!」
新垣が佐藤を、愛佳が飯窪を、れいなが工藤を、高橋が石田を抱きバラバラに跳ぶ。
一人で跳んださゆみも含めて九人が移動した直後、ピンクの光球が襲い掛かる。
光が消えると、九人の居た場所の床が、大きな蟻地獄の巣のように抉られていた。
映像のマルシェが言う。
「私はこの自信作の性能を確認したいだけ。全滅したいんならそれでもいいけどね」
「ガキさんお願い。皆を連れて逃げて。私、力を解放して全力で戦う!」
「…愛ちゃん。分かったよ」
「ふふっ!そう来なくっちゃ!」
嬉しそうにそう言うと、マルシェの映像は消えた。
新垣は、悔しそうに唇を噛むれいなの肩を掴み、静かに言った。
「ここは、愛ちゃんに任せよう…」

高橋を除く八人は秘密研究所を脱出した。
途中、敵の戦闘員による攻撃は全く無く、数分で外に出られた。
外で待っていた譜久村たちは一瞬安堵の表情を見せたが、すぐに顔を曇らせた。
「高橋さんは…?」
鈴木が尋ねると、愛佳は中で起こったことを説明した。
説明が終わると、生田が新垣に聞いた。
「…そのアイリさんっていう人、高橋さんより強いんですか?」
「そんなわけないやろ!」
れいなが声を荒げる。生田はまたもやKYな質問をしてしまった自分を悔いた。
新垣がれいなを宥めようとしたとき、突然辺りが明るくなった。
振り向くと、研究所がピンク色と黄色の入り混じった巨大な光球に飲み込まれていた。

815名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:20:03
2−2

十二人は思わず後ずさりしながら、その恐ろしくも美しい光球を呆然と見つめる。
数秒後、光が収束すると、そこにはクレーター状の巨大な穴だけが残っていた。
「愛ちゃん…」「高橋さん…」
八人はそれぞれの思いを込めて、同じ人の名を呟いた。

高橋が消えた。
新垣はすぐさま譜久村に高橋の精神感応の力を使って探すように指示した。
譜久村は慌ててポケットから高橋の生写真を取り出し、その力を使った。
しかし、譜久村の心に、高橋の精神は感じられなかった。
その後、新垣たちは朝までその付近を捜索したが、結局高橋の姿はどこにも無かった。

喫茶リゾナントに戻ると、救出された四人全員がリゾナンターに入ることを志願した。
新垣は何度も断ったが、行く当てがない四人を無責任に放り出すことも出来ない。
「私達の仲間になったら、いつ敵に襲われるか分からないんだよ。それでもいいの?」
「はいっ!」
「自分の身を自分で守れるようになるために、きつい訓練に耐えなきゃいけないよ?」
「はいっ!」
「うーん…。しょうがないかあ…。じゃあ、明日から特訓だよ!」
「やったー!」
四人が手を取り合ってはしゃぐのを見つめながら、新垣は思った。
(ほーんと無邪気だねー。…昔の私と愛ちゃんもこうだったのかな…)

新しく加入した四人と、先輩とはいえまだまだ未熟な四人。
合計八人の「新人」たちの、厳しい訓練の日々が始まった。

816名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:21:00
2−3

体術はれいなが教官となった。指導はそれまでにも増して厳しくなった。
だが、その甲斐あって石田がその才能を開花させ、目覚ましい成長を遂げた。
そして、数か月後には、あの鞘師がてこずるほどの戦闘技術を身につけた。
もちろん、訓練で新人たちが負傷すれば、さゆみがすぐに治療してくれた。
「りほりほ、ほら、服を脱がなきゃ傷が確かめられないの!こっちにおいで!」
「…私、全然大丈夫ですから。それよりはるなんを治してあげて下さい」
「はるなんはそこで少し横になってれば大丈夫なの!」
「あのー…、道重さん、…私の腕、明らかに折れてるみたいなんですけど…」

精神系の訓練は新垣が担当した。
新垣は、新人の中では貴重な精神系能力者、生田の指導に力を注いだ。
また、敵からの精神攻撃に対する防御の方法は、全員に習得させる必要があった。
「コラー!生田!なんでこっちばっか見てんの!ちゃんと精神を集中させなさい!」
「ぐふふふっ、新垣さんがいけないんですよ、そんなに綺麗な瞳で私を見つめるから」
「もう、えりぽん!真面目にやらないと新垣さんに失礼でしょ!」
「あれ〜?ふくむらさ〜ん、はなぢでてますよ?そのてにもってるのなんですか〜?」
「ちょ、ちょっと、まーちゃん、やめて!」
二人がもみ合っているうちに落ちた写真を、工藤が拾い上げる。
「うわっ!これ、私が着替えてるときの写真じゃないですかぁ!キモっ!」
「……あんたら、いい加減にしなさーい!」

その間にも、異常な事象はしばしば発生した。
新垣リーダー率いるリゾナンターは、これまで通りその解決に尽力した。
新人たちも実戦訓練もかねて一緒に出動することが増えていった。
若い彼女らは、戦いの場を踏むごとに目に見えて成長した。
(この子達、もう大丈夫みたいね…)
あれから数か月が経ち、新人たちの成長ぶりに満足した新垣は、ついに決意した。
リゾナンターを離れ、一人で高橋愛の行方を探す旅に出ることを。

817名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:21:38
〈愛の形〉

3−1

新垣は喫茶リゾナントに全員を集め、自分の意志を告げた。
「えーー!?新垣さん、いなくなっちゃうんですか!嫌です!そんなの絶対に嫌!」
泣き喚く生田を、譜久村が困惑した顔で抱きしめる。新垣が呆れ顔で言う。
「コラ、生田!落ち着きなさい。これが今生の別れっていうんじゃないんだから」
「…あの〜、こんじょーのわかれってなんですか〜?」
佐藤が首を傾げる。
「こんじょうの別れっていうのは、我慢するのに根性が要る別れってことだよ」
「へー、工藤は中一なのによく知っちょうね。れいな、そんな言葉初めて聞いた」
「あのー、それ、違うと思うんですけど…。今生って言うのは…」
幼い三人への飯窪の説明が始まるなか、さゆみは小声で新垣に尋ねた。
「ガキさん、探す当てはあるの?…っていうか、愛ちゃん、…生きてるの?」
「…正直、分からない。でも、私、行かなきゃいけない気がするのよ」
「ガキさんの気持ちは分かるの。でも、ガキさんまでいなくなったら、さゆみたち…」

さゆみが不安がるのも当然だった。
その数日前、愛佳も自らの病気を理由に離脱したいということを皆に告げていたのだ。
「皆に迷惑を掛けたくない」という愛佳の思いを、さゆみ達は止むを得ず受け入れた。
愛佳が離脱するだけでも大変なのに、そのうえ大黒柱の新垣まで去ってしまったら…。
さゆみは黙り込んでしまった。

「あの…、新垣さんがそうしたいなら、ぜひそうしてください」
鞘師がおもむろに口を開いた。
凛とした鞘師の表情に、皆の視線が集中する。
「高橋さんはいまもきっとどこかで生きていると思います。
 探しに行くなら、一日も早い方がいいです。」

818名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:23:29
3−2

新垣の目を真っ直ぐ見つめ、鞘師が続ける。
「新垣さんなら、絶対に高橋さんを見つけ出せると思います」
その鞘師の言葉に続いて、両頬を涙で濡らした譜久村が話し出す。
「新垣さんがすぐに高橋さんを探しに行きたいって思ってるの、分かってました。
 でも、聖たちが頼りないから、それを我慢してるんだってことも…」
「私たち、まだまだ未熟だけど、田中さんや道重さんに迷惑をかけないように
 これからもっと、もっと、もーっと頑張ります!」
鈴木が満面の笑顔と潤んだ瞳で、精一杯明るく言う。飯窪の甲高い声がそれに続く。
「私たち、まだ高橋さんに、ちゃんとお礼を言えてないんです…
 ぜひ、直接高橋さんに感謝の気持ちを伝えさせてください」
涙もろい石田も懸命に言葉を紡ぐ。
「新垣さん…、必ず高橋さんを見つけ出して、…一緒に帰って来て下さい。
 私、高橋さんから…いろんなことを教わって、もっと強くなりたいです…」
「高橋さんにいただいた未来を、私たちがいま一生懸命生きているっていうことを、
 ぜひ、直接見ていただきたいです」
中一とは思えないほどしっかりと話す工藤とは対照的に、ようやく状況が飲みこめた
佐藤は、泣き顔のまま何も話せなくなっていた。
もちろん、佐藤の気持ちは、そこにいる全員が十分に分かっている。
愛佳は、にっこり笑って新垣に語りかける。
「新垣さん、何か『見えた』ら、愛佳、すぐに連絡しますからね」
「ガキさんのしたいようにすればいい。こっちはれいながおるけん、心配はいらん!」
れいなは腕組みしながら、いつも通り自信満々に言う。
一方、さゆみは、いつもとうってかわって、しっかりと力強く新垣に告げる。
「ガキさん。ガキさんが愛ちゃんと一緒に帰るまで、皆で力を合わせて頑張ります」
「…みんな、…ありがとう!」
新垣は両瞼に涙を溜めながら、仲間たち一人一人の顔を笑顔で見つめた。
ただ、生田だけは、譜久村の胸に顔をうずめて肩を震わせ続けていた。

819名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:24:40
3−3

新垣の旅立ちは、その翌朝だった。
その日は休日だったため、全員で新垣を見送ることができた。
喫茶リゾナントの前に並ぶさゆみたち。しかし、生田の姿はそこになかった。
「あいつは本当にしょーがないねー。…じゃ、そろそろいくね」
「ガキさん、いってらっしゃい!」
「新垣さん、お気をつけて!」
左手に落ち着いた緑色の旅行鞄を持った新垣は、何度も皆の方を振り返り手を振った。
もうこれで最後にしよう、そう思って新垣が振り返ったとき。
叫びながら猛然と迫ってくる人影が目に入ってきた。
「大好き、大好き、世界一〇×□△ーー!!!」
「うわーっ!」
新垣はあまりの迫力に思わず数歩後ろに逃げた。
しかし、すぐにそれがあの困った後輩であると気付き、立ち止まり優しく抱き止めた。
抱き合う二人のもとに、笑顔で駆け寄る十一人の仲間たち。
少しずつ暖かさを増していく朝の陽ざしの中、晴れ渡る五月の空に笑い声が響き渡る。

しばらくして、改めて駅へ歩き始めた新垣は、皆の方を最後にもう一度振り返った。
そして、仲間たちの顔一つ一つを目に焼き付けた。
泣きはらした目で、懸命に笑顔を作ろうとしている生田。
生田の肩をしっかり抱き、手をちぎれんばかりに振っているさゆみ。
そんな二人の両脇に立つ、いつも通り元気なれいなと、人懐っこい笑顔の愛佳。
そして、初めて会った時と比べて見違えるように頼もしくなった可愛い後輩たち。
新垣の脳裏に、昨夜の一人一人の姿が改めて浮かび上がる。
表現方法は様々だったが、それらは全て新垣や高橋への思いが表された愛の形。
もちろん、一番心配な後輩がさっき見せてくれた、幼子のような感情の爆発も…。
新垣は、みんなの方を見ながら、噛み締めるように言った。
「リゾナンター。大好き」

820名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:25:20
〈Ending:愛のかけら〉

仲間のもとを離れた新垣は、とりあえず高橋にとっての思い出の地を巡ることにした。
光が氾濫したあの時、高橋が消滅する前に瞬間移動妨害装置が壊れてくれていれば、
高橋には「飛ぶ」チャンスがあったはずだ。
1秒、いや、0.1秒でもいい。たとえ一瞬でも、その時間があれば…。
また、紺野は、あの「アイリ…」という少女を「自信作」と言っていた。
であれば、紺野はその大切な自信作を、消滅する前に何らかの方法で回収したはずだ。
向こうに回収する時間的余裕があったとすれば、それは高橋にとっても同じはず…。
だが、高橋がうまく脱出できていたとして、なぜ数か月経っても連絡をくれないのか。
身体に大きなダメージを負っているのか。それとも、記憶をなくしたのか。
いずれにせよ、生きていたとしても通常の状態ではないということなのだろう。
「今助けに行くから…。待っててね、愛ちゃん」
新垣は、高橋があの時とっさに選んだ可能性のある行先を虱潰しに当たろうと決めた。
たとえそこに高橋本人がいなくとも、生存していたという証拠があるかもしれない。
(愛ちゃんの足跡の一かけらでもいい、残っていてほしい…)
新垣は心の底からそう願った。

♪どっんっなっばーめーんーでもっにっげっなーいー♪
新垣の携帯のメールの着信音が鳴った。
「ん?ま〜た生田だよ。なんでこう毎日毎日送って来るかね〜、なになに…」
新垣は列車に揺られながら、大した内容の書かれていない文面を目で追った。
もうウンザリといった態度だったが、その頬は、誰が見ても分かるほど緩んでいた。

―おしまいー

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『What’s Up?愛はどうなのよ〜』でした。
『「リゾナンター。大好き」』以降の四作品の、少し前に起こった出来事を描いてます。
皆さんの感想、本当に嬉しいです。なお敵の少女のモデルは…、いわずもがなですね。

821名無しリゾナント:2012/08/28(火) 12:26:39
=======================================
>>811からここまでです。
 お好きなところで分割していただいても構いません。
 連続ですみませんが、よろしくお願いします。

822名無しリゾナント:2012/08/28(火) 16:23:07
代理投下行って参りました…が、レス番入れるの忘れましたorz
書き込もうにも猿さん喰らってるのでまだ書き込めません…時間をおいて書き込みます
毎度毎度不備があって申し訳ないですm(__)m

シリアスな話を軸にしつつ小ネタが挟まれていてコミカルさが共存していて面白いです!
毎回3×3+1で収められるのが凄いなぁと尊敬してます
今後も頑張ってください!

823名無しリゾナント:2012/08/28(火) 19:56:47
>>822さん、投稿ありがとうございました!
暖かい励ましのお言葉までいただいて、本当にうれしいです。
今後もどうぞよろしくお願いします!

824名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:11:03
>>219-222 の続き。

 どうせ、私はこんなだ。
 どうせ―――私だから。

蛇口を捻る。冷たい水に手のひらは痛いくらいの温度。
体温。冷えた手。冷たい。冷たい。冷える、ココロ。
冷たい、何もかもが冷えていて、優しさも、温もりも無い。
水の無いプール。薄汚れた底。其処。

 でも満たされれば、なんて穏やかな世界だろう。
 此処はあまりにも醜いものが多過ぎると言うのに。

あの転校生は何故こんな場所に来てしまったのか。
こんな場所に居るのは苦痛でしかないのに。まるで牢獄だ。
可哀想に。
可哀想に。
でも一番可哀想なのはきっと、私。
いじめられても周りの人間は何もしてくれない。
だけどあの時に手に入ったチカラと一緒にかけられた声。

 「なら全部、沈めてしまえばいいじゃない。
 二セモノの世界を、そうすれば浮き上がってくる。貴方だけの世界が」

転校生が他の女子に囲まれている。友達と微笑んでる。
最初からあの子は特別だったんだ。私とは違う、別の人間。
羨ましい。

825名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:12:24
羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい。
ウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイウラヤマシイ。

  ―――……。

結局、プールの掃除は途中終了になった。
プールでは未だ水が噴き出し続けていて、それは大雨のようになり。
見る見る水のないプールを溜めていってしまった。
原因は不明。
水道管の破裂かどうかを学園側から要請を受けた専門業者が調査にやってきた。
ただ何となく、無駄なんだろうなと、思う。

水道がどうのこうのとかいう話ではないだろうから。

 「――― じゃ、行ってくるね」
 「行ってくるって、どこに?」
 「水を止めに、部活頑張ってね」

そう言って鞘師はどこかに行ってしまった。
プール清掃が途中で終了となったことで、午後はいつもの時間割。
蛇口からどんどん水が沸きだしていたとしても、授業を止める訳にはいかない。
たった今本日最後の授業が終わって、生徒達はめでたく放課後に突入した。

鈴木は部活の準備をするために鞘師とは別の方向へ歩いて行く。
彼女がどんなことをしているのかは判っていたものの、それに無理に付き合うことは
ないと言われてしまい、あれから怪異な出来事に遭遇していなかった。

 ただ何となく、嫌な予感が過る。

826名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:15:24
ふと、鈴木は廊下の向こう側から来る女子生徒と目が合った。
リボンではなくネクタイだと気付き、先輩だと思って挨拶をする。
 
 「こんにちわー」

軽くお辞儀をしてからその傍を過ぎようとした時、香水の匂いが漂う。
ハーブティーの、匂いだ。

 「――― 此処に居ていいんですか?鈴木さん」

先輩は、小さく呟くように言った。

 「へ?」

その意味を理解できず、だが訊き返そうとしたときにはもう。

 「あ、ちょ、ちょっとっ」

先輩は長い黒髪をなびかせ、廊下を階段の方へと曲がった後だった。
鈴木はまつ毛を揺らし、残像を見送るしか無かった。
瞬間。もわあ、とした空気に包みこまれる。

 「なにこれ…湿気…?」

途端、パシャリと液体か何かを踏んだような気がしたかと思うと
どこかで悲鳴が上がった。

 「え!み、みず…っ?」

827名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:17:18
廊下が水浸しになっている。
とくに生徒達がやいのやいのと騒いでいる辺りでは、手洗い場の水道が
ものすごいイキオイで水を噴射させていた。
それが原因で酷い湿気が起こっている。

 あの時に聞こえた前兆のような『不快な音』はなかったのに。

周りでは、面白いように生徒達がつるつると足を滑らせ、廊下で転んでいる。
だが何かが変だ。普通の水ではない。
もう一層、"透明な水"の水かさが増しているのだ。

 「ど、どうしよう、りほちゃん居ないし…っ!」

ぱしゃぱしゃと"音"が鳴る。濁る様なそれに生徒達が足を取られている。
これでは業者もお手上げだろう。
しかもこれは、鈴木にしか"視えていない"。

 「かのんちゃん!」

すると何処からか見知った声が上がる。
譜久村がぱしゃぱしゃと視えない水を跳ねさせながら走ってきた。
鈴木は助け舟とばかりに譜久村の腕を掴む。

 「大丈夫?怪我してない?」
 「うん。みずきちゃん、やっぱりこれって」
 「りほちゃんはっ?」
 「それがさっきどこかに行っちゃって、水を止めに行くって」
 「水を止めに…かのんちゃん、りほちゃんがどこに居るか判らない?」

828名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:24:36
譜久村の言葉に一瞬考えたが、鈴木は意を決したように視線を上げる。

 「……多分、判ると思う」
 「えりぽんのクラスにも行ったんだけどあの子居なかったの。
 とにかく私達だけでも捜そっ」

刻一刻と、見えない"被害"が拡大していた。
鈴木は鞘師が何処に居るかは判らなかったが、"それを知る術"は在る。

あの感覚を思い出す。
鞘師の姿を見る度に感じた、あのオーラの"色"。
朱、血、鬼、寂、冷――― イメージを焼き付けるような概念。
全ての"音"が鈴木の耳に入り込み、脳内で変換され、目に収束する。

 鈴木が両目を見開く、濃緑色の閃きが左右に瞬いた。
 
その異変に彼女は気付かない。気付く前に彼女は走りだしていたのだから。

829名無しリゾナント:2012/08/29(水) 01:34:07
以上です。
スク水レンジャーな展開にはなりませんでしたごめんなさい。
そういう展開にするなら「ドキッ!女だらけの〜」みたいなものを
書かなくてはいけませんね(真顔

------------------------------------ここまで。

投下される作品が見るもの見るもの面白くて楽しいです。
作者さんのレベル半端ねえ…。
いつでも構わないのでよろしくお願いします(平伏

830名無しリゾナント:2012/08/29(水) 17:08:50
行ってきますた
香音ちゃんが本格的に目覚めるのかな

831名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:11:50
『Be Alive』

〈君と共に〉

1−1

「うおっ!でかっ!工藤、佐藤、こっちこっち!」
れいなが呼ぶと、工藤と佐藤は笑顔で駆け寄ってきた。
「うわっ!本当だっ!」「ひゃーっ、でっかいですねー!」
二人はれいなの両脇に並んだ。
三人は、特殊アクリル製の透明な板の向こうにいるゴリラを食い入るように見つめた。
薄暗い部屋の中で、そのゴリラはまるで休日のおっさんのように寝そべっていた。
「えー、皆さん、今晩はこちらで寝ることになります。
保護者の方は、人数分の寝袋とマットを取りに来てください」
動物園の職員がメガホンで数十人の親子連れに語りかける。
「ええっ!こんなところで寝ると?」
「田中さん、パンフレット見てなかったんですか?
寝る場所はゴリラの飼育室の前って書いてあったじゃないですか」
「そうやったと?ちょっと、佐藤、パンフレット貸して」
れいなは佐藤の背負うリュックのジッパーに手を伸ばす。
「こちょぱい!」
「うるさいなあ!動いたら取れんやろ!」
「田中さん、私、寝袋とってきます」
「おー、サンキュ」

三人はその日、U野動物園に来ていた。
工藤と佐藤の夏休みの自由研究を終わらせるため、夜の動物園見学会に参加したのだ。
中学生が参加するには、20歳以上の保護者の同伴が必要だった。
道重はその巧みな話術をフルに駆使して、二人のお守りをれいなに押し付けた。
れいなは動物園に着くまでふてくされていたが、園内では一転して大はしゃぎだった。

832名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:13:17
1−2

はしゃぎ疲れたせいか、れいなは就寝時間になるとすぐに深い眠りについた。
「すみません……、すみません……、田中さん……」
工藤がれいなの体を揺する。
心地よい眠りを邪魔されて、れいなの機嫌は最悪だった。
「もう、…なによ!」
珍しくもじもじしながら工藤が小声で言う。
「あの、本当に申し訳ないんですけど…トイレ、一緒に行ってくれませんか…」
「はあ?れいなは今超眠いと!佐藤と一緒に行けばええやろ!」
「それが、まーちゃん、もっといろんな動物を見たいって『飛んで』っちゃって…」
「あいつ…、帰ってきたらビシッといわないけんな…。
それにしても工藤、そのビビり癖、早くなんとかしいよ。
こないだも結局、お化け屋敷に入らんかったやろ?」
「はい…」
「自分の弱点を克服しようっていう根性は無いんか!
そんな根性無し、れいなの仲間には要らん!もうリゾナンターやめりっ!」
「……。」
工藤は泣きそうな顔で黙り込んだ。
れいなが顔を逆方向に向けると、工藤はとぼとぼと暗い廊下を歩いて行った。
「…ちょっと言い過ぎたかな…」
れいなは少し心が痛んだが、睡魔には勝てず、また目を閉じて眠りについた。

トイレはゴリラの飼育舎には無く、本館に行かなければならない。工藤は外に出た。
ひと気のない夜の動物園。その非日常的な空間の不気味さが、工藤を涙目にする。
工藤は勇気を振り絞って、100mほど向こうにある本館入り口を目指して走る。
「はあ、はあ、なんでこんなに遠いんだよ…」
あと20m、10m…、ゴールまであとわずかに迫ったその時…。
ガツッ!
「ウッ!」工藤の両肩に突如激痛が走った。

833名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:14:07
1−3

次の瞬間、バサバサッという羽音がした。工藤は自分の体が浮くのを感じた。
上を向くと、巨大な鷲が工藤の肩を文字通り鷲掴みにして羽ばたいている。
「おいっ!放せーっ!ガブッ!」
工藤は鷲の足に思いっきり噛みついた。
鷲は痛みで鉤爪をパッと開いた。
「うわーっ、放すなー!」
ドサッ!地上約10mの高さから落下し、衝撃と痛みで工藤は動けなくなった。
「…ち、ちくしょー…、足、折れてるかな…」
落ちたところは、さっきの場所から数百メートル南にある広場の芝生。
鷲は、夜空に半円を描いて、再び猛スピードで向かってくる。
工藤はうつ伏せのまま、両手で頭を守るしか無かった。
鷲は真っ直ぐ急降下してきて、工藤の背中を鋭い爪で引き裂き、また空に舞い戻る。
「い、いてー…」
脇腹に背中から暖かい血が垂れてくるのを感じた。
鷲のヒットアンドアウェイは執拗に繰り返される。
それは、猫が鼠を嬲りものにしているかのようであった。
工藤は額を地面に付けていたが、千里眼の特殊能力によって鷲の姿は見えていた。
(あいつ…なんで止めを刺さないんだ?ハルをエサに田中さん達をおびき出す気か?)
近くのコンクリートの上に落ちている携帯を見ると、大きなひびが入っていた。
だが、たとえ携帯が壊れていなくても、工藤はれいなに助けを請うつもりはなかった。
れいなに言われたあの言葉が、工藤の心にのしかかっていた。
(やっぱり、こんな鳥にも勝てないハルは、リゾナンターに必要ないのかな…)
工藤がそう思った時、目の間の空間が歪み始めた。
「まーちゃん!?」
それは、佐藤が瞬間移動するときに必ず生じる現象だった。
歪みはどんどん大きくなり、ついにキリリと引き締まった表情の佐藤が現れた。
大きなパンダに乗って。

834名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:15:10
〈友と共に〉

2−1

「はああああ!?」工藤は目を疑った。
だが、佐藤が跨っているのは、間違いなくあのジャイアントパンダだ。
闇空を舞う鷲は、新たな敵に気付いたらしく、向きを変えて佐藤とパンダに迫る。
「ぱんださん、おねがい!」「ガオ」
猛スピードで突っ込む鷲。パンダは立ち上がって鷲に右前脚を叩きつける。
「ギャッ!」鷲は妙な鳴き声をあげながら左に吹っ飛んだ。
「パンダ強っ!」工藤が思わず声を上げる。
しかし、鷲はすぐに体勢を立て直して飛びあがり、闇に溶けていった。
パンダの背中にくっつき虫状態の佐藤が、工藤に大きな声で言う。
「どぅー!あのとりさんはてきだよ!まー、まえにみたことあるもん!」
「敵なのは分かってるよ!それよりそのパンダ、どうしたの?」
「まーもよくわかんない!どぅー、このぱんださん、だれ?」
「知るかああ!」
「そうだよねー、それより、どぅー、あのとりさんどこにいったかみえる?」
「もう、訳が分かんないよ………ええっと、あっ!見つけた!あそこの裏!」
鷲は、そこから100m程離れた木の、死角になっている枝に潜んでいた。
パンダがすぐさま工藤の指す方へ走り出す。
佐藤は騎手のようにパンダを巧みに乗りこなしている。
バッ!パンダが跳ぶ。
そして、地上5m辺りのかなり太い木の幹を右前脚でぶん殴る。
バギッ!「ギェエエエエエッ!」
木の幹もろとも鷲が吹っ飛ぶ。
そして、そのまま地面に落ち、ピクリとも動かなくなった。
「やったー!ぱんださん、ありがと〜」
佐藤は背中から降り、パンダの首に抱き着いた。
パンダは優しい目で佐藤を見つめた。そこに、一瞬の隙が出来た。

835名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:15:48
2−2

突然、パンダの体がびくっと動いた。
そして、ゆっくりと地面に這いつくばる。
「あれ?ぱんださん、どーしたの?」
佐藤が屈んで顔を覗き込むのと同時に、暗闇から十数人の全身黒ずくめの男が現れた。
「ゼンマザイジャアル?(何でこんなところに?)」
「…ハオバ、ザイジャアルシャーバ。(…まあいい、ここで始末してしまおう。)」
「…グルルル」
男たちの会話の内容が分かるのか、パンダが弱々しく唸る。
佐藤は、パンダの背中に吹き矢が刺さっているのを見つけた。
(どく!?)
佐藤の推測通り、その矢には神経を麻痺させる猛毒が仕込まれていた。
佐藤は、愛佳に教わった毒抜きの方法を思い出した。
急いで吹き矢を抜き取り、傷に口を付け、血ごと毒を吸いだしてペッと吐き出す。
黒ずくめの男たちは、半月刀を構えて、パンダと佐藤を半円状に取り囲んだ。
佐藤は一心不乱に、毒を吸って吐き出す作業を繰り返す。
「ジャーガニューハイ、ゼンマバン?(この娘、どうします?)」
「…シャー(殺せ)」
彼らのリーダーらしき長髪の男が言うと、二人が前に出て佐藤とパンダに近づく。
「待て!」
工藤は、超人的な精神力で全身の激痛に耐え、立ち上がって叫んだ。
「ハルの親友に手を出すな!」
長髪の男が工藤の方を向いて、思わず声を漏らす。
「オオ、ジェンクーアイ…(おお、超かわいい…)」
鼻の下を伸ばしたその長髪の男は、舌なめずりをしながら工藤に近づいていく。
(ちくしょう、…ハル、どうする?)
工藤は落下の衝撃と鷲の攻撃によるダメージで、立っているのがやっとだ。
「モンア〜(萌え〜)」
気持ち悪い声を出しながら、男が手を伸ばして工藤に触れようとした。

836名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:16:33
2−3

ゴギッ!
鈍い音とともに長髪の男の動きが止まる。
「大切な後輩に、なにしよう…」
「田中さん!?」
工藤が叫ぶと、男の顔面に拳をめり込ませたれいなが静かに答える。
「ごめん、遅くなった」
言い終わると、高速で体を半回転させ、左足で男の胴を蹴り上げた。
「グエッ」
長髪の男が後ろに吹っ飛ぶ。
だが、男もプロらしい。すぐに体勢を立て直し、立ち上がって部下に向かって叫ぶ。
「シャー!(殺れ!)」
黒ずくめの男たち全員がはじかれたように動き出した。
一人がパンダ、一人が佐藤、残りの十人と長髪の男がれいなに、それぞれ襲いかかる。
「「ギャーッ!」」
れいなが先頭の男に蹴りを見舞った時、佐藤とパンダを襲った二人が同時に絶叫した。
崩れ落ちる二人の男の背中からは、緑色の炎が上がっていた。
その炎に照らされて、闇の中に一人の少女の姿が浮かび上がる。
少女はれいなの方を向いて言った。
「田中サン、手助けはいるカ?」
「いらん!」
「そういうと思タヨ」
少女と話している間にも、れいなは次々と敵を仕留めていく。
そして、最後に長髪の男に全力の拳を打ち込み、早々と戦いを終わらせた。
「田中サン、ますます強くなタナ。まるでバカものみたいダ」
「はあ?それをいうなら『化け物』やろ!リンリン、日本語下手になったんやない?」
れいなはかつての戦友を見て、汗一つかいていない顔に子供っぽい笑みを浮かべた。

837名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:17:11
〈夢と共に〉

3−1

れいなは佐藤に、さゆみを連れて来るよう指示した。佐藤はすぐに「飛んで」いった。
パンダは、佐藤の応急処置が功を奏し、大事には至らなかったようだ。
黒ずくめの男たちの後始末は、リンリンの仲間がしてくれるらしい。
一方、工藤を襲ったあの大きな鷲は、例のごとくいつの間にか消えていた。

工藤は鷲に襲撃されたことをれいなに報告した。
それを聞き終わるとれいなは、その夜起こったことを皆に説明した。

工藤が一人でトイレに向ってしばらくして、れいなの携帯に愛佳から電話がきた。
「田中さん、今、どこにいます?工藤が危険です!」
れいなは慌てて寝袋から飛び出した。
そして走りながら、自分と工藤佐藤がU野動物園に来ていることを愛佳に伝えた。
それを聞いた愛佳は、自分がその夜見た「夢」の内容を話し出した。
その夢の中で、工藤は大きな鳥に襲われ血だらけになっていた。
背景の看板には、U野動物園南広場という文字が見える。
そして、そこには佐藤と、なぜかジュンジュンと思われるパンダの姿もあった。
目覚めた愛佳は急いで工藤に電話をしたがつながらない。
佐藤に電話すると、ちょうどパンダの見学中だった。
愛佳は、佐藤にそのパンダを連れて工藤のところに「飛ぶ」ように指示した。
さらに次の指示を出すために佐藤に電話をかけたが、それに出たのはリンリンだった。
そこで、リンリンにも事情を話し、南広場に向かうよう頼んだ。
以上のような話を愛佳から聞いたところで、れいなは南広場に到着した。
同時に、別方向から走ってくる見慣れたシルエットの少女に気付いた。
れいなは電話を切って、工藤に近づく長髪の男に全速力で突進した。

「ところでリンリンとジュンジュンは何で日本におると?」
れいなにそう尋ねられ、今度はリンリンの説明が始まった。

838名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:17:44
3−2

リンリンとジュンジュンは、「刃千吏」の極秘任務でU野動物園に来ていた。
数日前、ある犯罪組織がU野動物園のパンダ暗殺を計画しているという情報が入った。
どうやら、外交カードを増やしたい中国政府が裏で関与しているらしい。
そこで、その暗殺を阻止するために、リンリンとジュンジュンが急遽来日した。
ジュンジュンは、獣化能力を使い、狙われているパンダの影武者となった。
獣化状態を持続させるために、最低でも12時間は元に戻れなくなる薬を飲んだ。
敵の襲撃を待ち構えていると、どこから入ったのか突然檻の中に一人の少女が現れた。
少女はパンダ、すなわちジュンジュンに駆け寄り、嬉しそうにピタッとくっつく。
その少女は、どう見ても暗殺者には見えなかった。
困ったジュンジュンはとりあえずそのままパンダとして振る舞うことにした。
少女はジュンジュンにまたがり、キャッキャッと楽しそうに笑った。
ジュンジュンも、少女と一緒に遊んでいるうちに、だんだん楽しくなってきた。
「ジュンジュン、ニイザイガンシェンマ…(ジュンジュン、何してるの…)」
隣室のモニターで監視していたリンリンが呆れていると、突然少女の携帯が鳴った。
少女はジュンジュンから降り、携帯にこう言った。
「みついさ〜ん、こんちくわ〜、どうしたんですか〜」
(光井サン?)
その名前を聞いて、ジュンジュンは驚いた。そして、電話の内容に聞き耳を立てた。
愛佳が何か指示を出している。しかし、少女は全く状況を飲み込めていないようだ。
「う〜ん、よくわかんないですけど、いまからみなみひろばにいけばいいんですか?」
「そう!ジュンジュン…いや、そこのパンダと一緒にや!佐藤、パンダに代わって!」
「はーい。ぱんださん、おでんわですよ〜」
「ガウ」
携帯を受け取って愛佳の話を聞き終わると、ジュンジュンは少女を再び背中に乗せた。
そして、少女が何か叫ぶと同時に、少女とジュンジュンの姿が忽然と消えた。
慌ててリンリンが檻の中に入る。
それと同時に、うっかり忘れていったのか、床に落ちていた少女の携帯が鳴り出す。
リンリンは平仮名で「みついさん」と表示されている画面の着信ボタンに指で触れた。

839名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:18:28
3−3

れいなはテディーベアのように腰かけているジュンジュンの肩にもたれかかった。
ジュンジュンは、リンリンからもらった薬が効いてもうほとんど回復している。
「やっぱりジュンジュンの隣が一番落ち着くな〜」「ガウ」
れいなはあまりの心地よさにうとうとし始めた。

リンリンは工藤に痛み止めを飲ませ、背中の傷の応急処置をしながら話しかけた。
「はるかチャンはまだ中学一年生カ。よくこの傷に耐えられタナ。すごい精神力ダ」
リンリンの天真爛漫な笑顔を見て、工藤はこの先輩になら何でも話せる気がした。
「…いいえ。ハルは本当にダメです…。さっきも田中サンに言われました。
ハルは根性無しだから、リゾナンターをやめろって…」
「アハハハハッ!」
「リンリンさん、笑うなんてひどいですよ〜」
「ゴメン、ゴメン。でも、田中サン、変わらナイなって思ったカラ…」
「えっ?変わらないってどういうことですか?」
「ワタシも、前にソレ、言われたことあるヨ」
「リンリンさんも田中さんにやめろって言われたんですか?!」
「ワタシもジュンジュンも言われタヨ。あのときの田中サンの顔、鬼みたいに怖かタ。
 でも、そのアト敵と戦っタとき、田中サンはワタシタチ庇ってボロボロになっテタ。
 そのトキ、思っタヨ。田中サンは、ワタシタチにもっと強くなって欲しくて、
 厳しいコトバ言っタ。強くなれば、ケガしたり、死んだりしなくなるカラ」
「……」
「田中サンはムカシ一人ぼっちだタカラ、やっと出来た仲間が傷つくノ本当に嫌がル」
「……」
「はるかチャン、田中サンが心配いらなくなるくライ、強くなって下さイネ!」
工藤はジュンジュンにもたれかかっているれいなを見ながら、元気に返事をした。
「はい!」

840名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:19:31
〈Ending:汗と共に〉

「おまたせしました〜」空間が歪み、そこに佐藤が現れた。巨大なサイに跨って。
「はあああああ!?」工藤はまたもや自分の目を疑った。
れいなが立ち上がって怒鳴る。
「佐藤!なんでサイなんか連れきよったと!?」
「だって〜、たなさたん、すぐにさいをつれてこいっていったじゃないですか〜」
「れいなが言ったのはサイじゃない!さ!ゆ!」
「がびんぼよ〜ん」
サイは草食動物だが、非常に気が荒い。
豹柄の服を着て大声を出すれいなの姿は、サイの闘争心を激しく喚起した。
ドドドドドドッ「うわわわっ!サイがこっちに来ようっ!」
れいなは慌てて逃げ出す。それを追うサイの上で、佐藤が無邪気に言う。
「たなさたんもさいさんといっしょにあそびましょ〜」
そのとき、リンリンのポケットの中の佐藤の携帯が鳴った。
「おー、光井サンだ!もしもーし、リンリンでーす。こっちは無事解決しましタ。
 みんな大丈夫ダ!バッチリンリンでーす!」
工藤が少し心配そうに言う。
「…田中さん、大丈夫ですかね」
「心配ない。あの人、バカものだカラ」
「ガウ」
れいなは、人間の限界を超えたスピードで両脚を動かした。
そして、先程の戦闘では全くかかなかった汗を全身に感じつつ、大声で叫んだ。
「さあああとおおおおおお!あんたああ、りぞなんたああ、やめりいいいいいいい!」

―おしまい―

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、『Be Alive』でした。
夏休みも終わりということで、こんな作品はいかがでしょう。

841名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:20:41
=======================================
↑>>831からここまでです。
 お好きなところで分割していただいても構いません。
 いつもすみませんが、よろしくお願いします。

842名無しリゾナント:2012/08/30(木) 23:43:42
行って来ますかね

843名無しリゾナント:2012/08/31(金) 00:03:53
完了
第三者であるリンリンによって語られるれいな像で工藤とれいなの関係性が変わっていく様子が好きです

844名無しリゾナント:2012/08/31(金) 10:13:15
>>843さん、投稿ありがとうございました。
 こんなに早く投稿したいただけるとは!
 また、ご感想もありがとうございます。とても励みになります。
 これからもよろしくお願いします。

845名無しリゾナント:2012/08/31(金) 10:43:11
すみません…。
「こんなに早く投稿したいただけるとは!」は、正しくは、
「こんなに早く投稿していただけるとは!」でした。
本文も含めていろいろ誤字が多くて、これじゃあリンリンのこと日本語下手って言えませんね。
今後はもっとしっかり見直すように心がけます。

846名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:17:01

二時の方向にダークネスの反応があると聞き、リゾナンターは現場へ急行した。
現場は、地下鉄「萌えーお江戸線」の某駅前だ。
迷ったり乗り継ぎでミスしたりして「地下鉄は複雑過ぎるわっ!」とツッコミを入れながらも、なんとか某駅に辿りついたメンバーたち。
だが、時すでに遅し。
そこはもう、ダークネスの悪意によって支配されていたのだった。

「キャハハハハ!いらっしゃーい、東京デカイツリー×3開業でーす!今ならオープン記念で入場料がお安くなっておりまーす!」

駅前で道行く人に宣伝のうちわを配っている、ちっちゃくてうるさい女がいた。
良くも悪くも耳につく声だ。
チキンのチェーン店のCMなどを任されてもおかしくないかもしれない。

さて、駅を出ると真っ先に目に入るのがこの女なのだが、よく見るとその背後がまたすごかった。
数百メートル先にそびえ立つ三つの塔。
2012年に開業した東京下町の新名所に似ていなくもない。
っていうか、そのものじゃね?

「ダークネスめ!何を企んどると!」

れいなが勢いよく前に出る。
まだまだ若いもんにセンターは譲らん!といった気概が見えた。

847名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:38:45
「あー?・・・なんだおめーらかよ。ほら帰った帰った。商売の邪魔だ」
「商売?」
「みなさーん!下町タワーは混んでて入場券買うのも一苦労ですよー!こっちのツリーに昇ったほうがおトクですよー!」

ちっちゃい女はれいなを相手にせず呼び込みを再開した。
女の宣伝の甲斐あってか、夏休みで暇そうにしている通行人がぞろぞろと下町タワーもどき×3に向かって歩いていく。

「どうも、下町電波塔の営業妨害を狙ってるみたいですね」
「まーちゃんもデカイツリー昇りたい!」
「バカ。ダークネスの作戦に乗っかってどうすんだよ」
「とにかくまずはポーズ決めましょう!戦隊ヒーローモノの基本ですよっ!」
「それもそうだね。じゃあ」

「やらせるかぁ!」
「わー!!」

ダークネスのちっちゃい女が全身でツッコミをかます。
さすが黄金期のツッコミ担当、と言わんばかりのキレと素早さだった。

「こっから10行も使わせるわけないだろ!全員分の決め台詞考えるほうの身にもなってみろ!」
「えー・・・・・・」

848名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:39:36
ヒーローモノの定番である登場シーンは都合によりカット。
ガッカリした顔をしているメンバーもいるが、これはそういうものだと思ってあるがままに受け入れてもらうしかないのである。

「れいなが先走って声をかけなければ、邪魔されずにできたかもしれないのにね」
「ちょ!れいなのせい!?」
「これでは、このお話のメンバー構成が読んでる方に伝わりませんわ。シクシク」
「今のリゾスレはそこを明示しないと、いつの時代の話なのか混乱するヤシ。グスグス」
「うっさい!あいつが10行って言いよるけん、2012年夏現在の10人ってわかるやろ!ってかそこ!嘘泣き!」

話を戻そう。

ダークネスという組織は、営業・広報力に定評のありそうなちっちゃい女を使って墨田区の営業妨害をしている。
その目的はいったいなんなのだろう。

「こんなものまで売ってましたからね。向こうは本気みたいですよ」

香音と春菜の二人がすっと前に出る。
香音の腕に抱えられているのは、焼きそば、たこ焼き、りんご飴、チョコバナナなど。
さらに春菜の左手首にかけられたビニール袋の中には、ツリーのマークが入ったクッキーや饅頭の箱などが入っていた。

849名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:40:20
「みんながコントやってる間に偵察してきました。この食べ物類は、その辺の屋台で売っていたものです」
「そこの“東京ホラマチ”っていうお店の中では、キーボルダーなんかも売ってましたよ。
 全10色だからみんなの分も買ったんですけど、やっぱりチョコレート色はないですね・・・」
「こここ、こんなに買い物するなんて・・・。二人のお小遣い、月いくらなんですか・・・」
「大丈夫だよ亜佑美ちゃん。全部経費で落とすから」
「私も!私もちょっと偵察に!!!」
「いや、もう充分だし」

今にも駆け出しそうな亜佑美を生温かい目で見守りながら、さゆみはダークネスの狙いを分析する。
これだけ多様な店を出店料の高そうな「萌えーお江戸線」の駅前に集めたのだ、連中も遊びでやっているわけではない。
そうだ、女は先程「商売」と言っていた。
ということはつまり。

「やいダークネス!おまえたちの狙いはなんだ!」
「ちょっと!そんなはっきり!」

さゆみが真面目に考えてる横から、衣梨奈が単刀直入に疑問をぶつける。
リーダーらしくシリアスな顔でキメてるところだったのに。
空気読めよこのKY、とさゆみは口の中で毒づいた。

「ふん。我がダークネスは“萌えーお江戸線”と業務提携してるんでな。あっちの沿線にばっか人が集まるのは面白くないんだよ」

しかも、あっさりと狙いを教えてくれるっていう。

850名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:41:05
「いくつか催眠をかけてあるからな。客は東京デカイツリーに昇ったつもりで、実は333m塔に昇ってるって寸法だ。
 帰りに“ホラマチ”でお土産のデカイちゃんグッズでも買ってくれたら、言うことないね!」
「この悪党!」
「邪魔するなら容赦しねーぞ。あそこに見えるデカイツリー×3は完全な幻ってわけじゃないんだ。行け!一号、二号!」

ちっちゃい女の合図で、三つの塔のうち左右の二つが動き出した。
ズシン、ズシンとこちらに迫ってくる。

「頑張れ、ダーリン!やっちゃえ、モトコサン!」

“ダーリン”と呼ばれた一際大きな木偶の坊と、“モトコサン”と呼ばれたジャイアントがリゾナンターに襲いかかった。
二つのデカイツリーに手が生えて、右パンチ左パンチ右アタック左アタック。
あまりに長大なそのリーチに、リゾナンターはただ逃げ回ることしかできない。

「うわわわわ!怪獣映画かよ、くっそー!」
「キャー!まだりほりほのスク水写真集完成してないのに潰されるのはイヤー!」
「ダメじゃダメじゃー!フクちゃんのありとあらゆる肌に頬ずりするまでは死ねーん!」
「私の最期は道重さんの腕の中って決めてるのに・・・!それが無理なら、ハアハア、小学5,6年生くらいの、女の子たちに囲まれて・・・ハァハァ」
「いろんな意味でもうダメだ!!」

絶望感に包まれるリゾナンター。
しかし、まだ諦めていないメンバーが一人。

851名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:42:08
「諦めるにはまだ早いっちゃん!この10人だからこそできる必殺技があるやろ!」

木陰に隠れて顔だけ出したれいなが凛々しく叫ぶ。
そうか、その手があったか。
他のリゾナンターもれいなにならい、木陰に隠れる。
そしてデカイツリーの手が届かない奥のほうで、10人は最新のフォーメーションを組んだ。



「リゾナントバスター改変版!“リゾナント・カラフルキャラクター”!!!」



※モーニング娘。の最新アルバム『(13)カラフルキャラクター』は、9月12日(水)発売です。

「「グワァァー!!」」

新必殺技“リゾナント・カラフルキャラクター”が見事に決まった。
崩れ落ちるデカイツリー一号と二号。
するとあら不思議、それまでデカイツリーだったものが見る見るうちに人型に変化していく。
どうやら催眠幻覚で必要以上に巨大に見せていただけで、ベースは正真正銘の人間であったようだ。

「ああ!ダーリン!」

852名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:42:59
ちっちゃい女が、恋する姐さん女房顔で元デカイツリー一号に駆け寄る。
倒れた男と介抱する女。そのカットだけ切り取ってみれば、まるでドラマのワンシーンのようだった。
ちなみにその隣では元二号も倒れていたが、新婚さんがそっちを振り向くことはないので以下省略。

「ツリーの横に333mタワーが見える!まだ戦いは終わってない!まさかあのツリーも催眠をかけられた人間なの!?」
「おそらくそうです!聖の持つ聖なるパワーで、くまくました可愛い女性が視えます!」
「聖にそんな能力設定あったっけ」
「そこは空気読んでください、生田さん!」

デカイツリー×3ということで、敵はまだあと一塔残っている。
しかし、最強の必殺技を放ってしまったリゾナンターに力はもう残されていなかった。
このままでは、夏休みの最後を安近短で済ませようとする人たちのお金がダークネスの手に堕ちてしまう・・・!

「ねー、くどぅー。夏休みの宿題終わった?」
「え。いやまだ数学と美術が残ってるけど」
「まーちゃんはねー、英語が終わったんだよー」
「英語“が”?まさか終わってるの英語だけ!?」

「・・・・・・宿題?」

853名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:43:29
最年少コンビの和やかな会話。
それに反応を示す声が、上空からひらり。

「くまくまー!!!」

奇声を発し、最後のデカイツリーが人間の姿に戻っていく。
だがリゾナンターは何もしていない。
ちっちゃい女も、傷つき敗れたダーリンと愛を語らうことに必死で、何かした様子は見られない。
いったいデカイちゃんの身に何があったというのか。

「ふう。弟の夏休みの宿題見てあげる約束をすっかり忘れてたよ。お姉ちゃんが約束やぶっちゃダメだよね」

綺麗な女子大生風のお姉さんの姿になったデカイちゃんは、そのまま何事もなかったかのように去っていった。
きっと彼女はこれから家に帰って、約束どおり弟さんの宿題を見てあげるつもりなのだろう。
真面目だ。実に真面目な性格だ。
故に、「宿題」の一言で我を取り戻したのかもしれない。
夏休みの終わりに聞く「宿題」という言葉は、学生であればあるほど結構ビクッとする。
彼女も例外ではなかったのだろう。

854名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:44:05
「えっとー・・・一件落着ってことでいいのかな、れいな」
「れいなに振らんでよ。れいなはリーダーの判断に従うけん」
「ずるーい。こういう時だけさゆみのことリーダー扱いして」

「じゃあ早く本部に帰りましょう!まーちゃんに宿題やらせないと!」
「でも〜、今日の出動報告書、まーちゃんが担当だからぁ〜」
「そんなもんだーいしが代わりにやってくれるって!ねっ!」
「・・・うん。それは別にいいけど・・・・・・」
「あゆみん、屋台への未練が視線に表れてるよ」

「別に宿題なんかやらなくても高校生になれるのに」
「聖って案外アホっちゃんね〜。数学のテスト6点やったっけ?」
「その後は42点に上がったもん!っていうかそうじゃなくて、学校なんておじいちゃんに頼めば大丈夫ってことを聖は言いたかったの!」
「うわぁ・・・」
「ああ香音ちゃん!そんな残念なものを見るような目で見ないで!」
「アハハハ!」
「・・・他人事だと思っとるみたいじゃけど、香音ちゃんはえりぽんにも結構そういう顔しとるよ?」

何はともあれ、悪の手は退けた。
酷暑だろうが酷ネタだろうがオチてなかろうが、リゾナンターは今日も往く。
今日も往くのだ!


おしまい

855名無しリゾナント:2012/08/31(金) 20:46:07
>>846-854
『カラフルリゾナンター 〜VSデカイツリートリオ〜』

オチなんていらねえよ、夏
小ネタに関してはふざけてるだけで悪意はないのであしからず


――――

酷い話ですがせっかく思いついたので
よろしくお願いします

856名無しリゾナント:2012/08/31(金) 22:27:51
行って参ります

857名無しリゾナント:2012/08/31(金) 22:36:54
行って参りましたがなにからつっこめば良いのやら…w
個人的にくまいちょーが好きです
「いろんな意味でもうダメだ!!」も最高でしたw

858名無しリゾナント:2012/09/01(土) 12:17:27
くくくくくくまいちょーちゃうわ!
実在の人物・団体とは関係ありません的なテイですから!

代理ありがとうございました

859名無しリゾナント:2012/09/03(月) 18:16:18
『女子かしまし物語2012』

〈WOW WOW WOW 青春〉

1−1

「ハァ…」生田衣梨奈は机の上の携帯を見つめながら、また、ため息をついた。
生田は休み時間になると、新垣里沙からの返信メールを、いつもこうして待っている。
生田がこれほど新垣に魅かれるようになったのは何故か。
リゾナンター加入前、生田の憧れの存在はTVに出てくる流行りのアイドル達だった。
加入後も、特に先輩の誰に憧れているということはなく、皆同じように尊敬していた。
生田が新垣に対して明らかに特別な感情を抱くようになったのは、去年の今頃からだ。

その頃から生田は、新垣から感じる「安心感」に魅了されはじめた。
高橋がいなくなってから、新垣の指導は急に厳しくなった。
何度も何度も叱られ、何度も何度も泣かされた。
だが、新垣からのアドバイスは、全てが分かりやすく、納得できるものだった。
また、ほんの少しでも成長すると、新垣は母のような笑顔を見せ、頭を撫でてくれた。
戦場での新垣からも、絶対的な「安心感」を感じた。
高度な技術、無尽蔵のスタミナ、冷静な判断、的確な指示、仲間や周囲への配慮…。
皆が安心して戦うことができるのは新垣がいるからだ。生田はそう感じていた。
いつも自分に対して不安を感じている生田にとって、その「安心感」は眩しかった。

生田はいま、一日も早く新垣のようになりたいと、心の底から思っている。
だが、自分がその目標に向かって前進しているという実感が、生田には全く無い。
そもそも自分は、リゾナンターに入ってから、何か成長できたのか。
確かに、精神破壊波を制御できるようにはなった。しかし、そんなのは些末なことだ。
もっと本質的なところで、自分は何も変わっていないのではないか。
こんな成長の無い自分が、あの人の域に達する日なんて、本当に来るのか。
そんな不安に苛まれる度、生田は無意識のうちに新垣の「安心感」にすがろうとする。

新垣里沙という人間の凄さに気付き、憧れ、そして、目標と決めたこと。
それこそが生田の「本質的な」成長の証しだということに、本人はまだ気付いていない。


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