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企画リレー小説スレッド

69第1回8番(IX):2008/03/10(月) 00:54:18
 デフォンさんと会ったのは、ようやく車椅子で所内を散歩する許可が出てからだった。休憩所のベンチ前、そろそろ木の葉も落ちきった季節で肌寒い。
「会いに来てくれればよかったのに」
「いやいや、どうも、自分から出向くのが恥ずかしくてさ……」
 すごくぱっとしない印象の人で、私を助けてくれるのは確かにこんな人なんだろうなと、一人で納得したのだった。
「もう、いいのかい?」
「何のことですか」
「目が覚めてから、色々あったろう。もう気分は落ち着いたのかな」
「それが、意外と動じてないんです。何年も眠っていて、そのうえ夢の中では感覚が二千年にも延びるんですよ。もう、眠る前の自分とは違う人間になっちゃいました」
「そうかい」
「それに、デフォンさんが夢をちゃんと終わらせてくれましたから」
「うん」
「ああ、でも、なんだか相当酷いのも混じってましたよね。私、もう一生猫と鼠にトラウマを抱き続けると思います」
「いや、あれはケルネーさんがね……しかもヘリステラ教授まで割り込んで悪乗りして」
「もう、皆して、人の夢で遊ばないでくださいよう」
「あっははは」
 そうやって笑って、私たちはすぐに黙り込むのだった。あるいは、黙り込んだのは私だけなのかもしれない。デフォンさんは、私が何か言いたそうにしているのを辛抱強く待ってくれているように思えた。なら、私も意を決するべきなのだろう。
「私がアルセスだと分かって、どう思いました?」

70第1回8番(X):2008/03/10(月) 01:03:34
 デフォンさんが動揺する様子はなかったし、かといって頑なになることもなかった。そのくらい何でもないぞという感じで、自然に微笑み続けている。
「いちばんなさそうな結論だったから、意外性はあったかな」
「どうして、分かりました?」
「気になるかい」
「気になります。それが分かるということは、私が眠りにつくとき何を考えていたか、デフォンさんには分かっているということなんです」
 そうなのだ。この時の私は、私自身がどういうつもりであんな夢を作り出したのか、もう覚えてはいなかったのだ。自分がかつて何をしたか、知識としての記憶はある。たとえ私があの頃の自分と全く違う人間になってしまったのだとしても、無視していくことはできない問題だとも思っている。けれど、では、あの夢は何だったのだ?
「ヘリステラ教授の用意していた資料が、分かりにくい書き方をしていたからいけなかったんだ。六年前の礼拝への参加者は六十一人だった。それに施設関係者が九人と、後から飛び込んだ施設長の弟が一人。つまりあの事件の被害者の人数は」
「えっと……あ、七十一人?」
「そう。それに、近隣にいた海外義援隊が合わせて四十四人だった。片方だけならともかく二桁の数字が二つも符合している。これはもう偶然ではないと思った。人物関係も、概ねで一致するしね。夢の中で四十四士の二名だけが名前を持って登場したのは、君に話しかけた義援隊が二人だったからだろう。科学者としてこういう推論の仕方はよくないのかもしれないけれど、これは言わば君が仕掛けた"なぞなぞ"だからね。そのあたりの予想をとっかかりにして、現地調査を依頼したよ。いくつかの固有名詞が一致して、用いられた兵器がファーゾナーという試作名だったことも分かった。ここまで来れば、仮説の信頼度は非常に高くなる」
 ああ、と思った。七十一という数字を、私は意識していなかった。しかし、夢の中にはしっかり投影されていたのだ。私が手に掛けた彼女らをキュトスの姉妹と見るならば、たしかに私は兄であるキュトスを救おうとしたアルセスだった。だから、私の夢の中でもキュトスはアルセスの恋人でなく兄だったのだ。
「結果として、君のお兄さんは助かった」
 そこでやっと思い出す。前世の記憶のように、思い出す。兄は、私を責めるようなことは言わなかった。けれど、自分が助かったのに、その顔はとても悲しそうだったのだ。
「私、後悔しました。兄が殺されないですんだことは、嬉しかった。でも、兄はとても悲しそうで、そのときになってやっと私は後悔したんです」
「事件で、一人だけ息のある人がいたそうだね」
「はい。容態は危険だとも聞いていて、でもすぐに大きな戦闘が起きてしまって、彼がどうなったかは……」
「彼は、助かったそうだ。名前はクリス」
 きっと私は、やり直しをしたかった。自分の間違った行いを、ちゃんと止めて欲しかった。本当は自分で助けを求めるべきだったけど、それすらできないくらいに私の心は弱かったから。だから私はアルセスになり、夢の中に逃げて隠れた。誰かが叱りに来てくれるのを、拗ねた子供みたいにずっとずっと待っていたのだ。
「ごめんなさい」
 喉の奥から絞り出そうとした声は、どうしてもかすれしまった。
「わがままを言って、ごめんなさい。みんなに迷惑をかけて、本当にごめんなさい」
「研究所の誰もが、君のことを思っていたよ。だから今、君が元気になってみんな本当に喜んでいるんだ」
 私はもう六年前とは違う人間になってしまって、遠くなってしまった故郷や過去に感慨を抱くことすらできない。けれど、私が眠っている間、沢山の人が走り回ってくれていた。デフォンさんも、他の人も。そして彼らは、夢の奥深くに隠れている私をちゃんと見つけて、そして叱ってくれたのだ。そのことを考えた時だけ、私の胸はひどく熱くなる。目覚めて以来、デフォンさんの前で、私は初めて感情に任せて声をあげることができた。

71第1回8番(XI):2008/03/10(月) 01:06:18
 デフォンさんに、車椅子を押してもらう。これはなかなか、心地のよいものだった。
「今度は、デフォンさんの方から尋ねてきてください。散歩道で偶然会うのを待つなんて、私絶対嫌ですからね」
「君、実は相当わがままなのかな」
「ヘリステラさんに曲者認定されました。なんだか苦手がられてるみたいです」
「き、君! あの捩じっくれたヘリステラ教授と対等に渡り合うようになったら人として終わりだぞ!」
 腐っても師弟か、と思う。
「私も、ここの人たちみたいに勉強してみようかと思います」
「それは、研究者になるってことかい」
「自分がどんなものにお金を出しているか知っておくのは、悪いことじゃないと思います。それに、皆さんは私の夢をじろじろ覗いてきたんでしょう? 覗かれっぱなしじゃなんだか癪です」
「プライバシー、侵害し放題だったからねえ」
「そうですよ。それに私の夢って、将来の研究のためとか言って保存されたままなんですから」
「まあ、頑張るといいよ。勉強すればするほど、僕たちがどれほど凄いか理解ができて、敬意も湧こうというものさ」
「あ、そんなこと言っていいんですか。人類史上最長記録、精神年齢二千歳の私は有り体に言って天才ですよ。すぐに追いついちゃうんですから」
「精神年齢ってそういう意味だったかなあ。新しい測定法が必要だね」
 からかおうとしても、のらりくらりとかわされる。日ごろヘリステラさんに鍛えられているのか、ぼうっとしているように見えて彼もなかなか手強かった。
「身体を鍛え直して丈夫になったら、一度国に帰りたいです。思い出として覚えていることは何もないですけれど、一度はこの目で見ておかなきゃとも思います」
「今は平和になっているし、君さえよければそれもいいと思う。自分の前世を知りたいとか、そういう感覚なのかな」
「そういうものだと思います。あと、それと、」
 車椅子の車輪が、まだ残っている落ち葉を踏む。たしかこの地域も、冬には雪が降るはずだ。


「お墓参りが、したいです」

                              END

72メメントリレー(1):2008/03/11(火) 20:25:23
破片が身体を掠め、胸のロケットが千切れた。
一瞬反応が遅れ、最後の一弾が猫柳の腹を刺し貫き、爆散した。

青空に散らばってきらきらと光る自分の部品を見て、猫柳は綺麗だなと思った。
だからずっと目を開けてそれを眺めていたが、視界にノイズが混じり出し、ほどなく何も見えなくなったので、開けているのをやめた。

73メメントリレー(1):2008/03/11(火) 20:29:49
破片が身体を掠め、胸のロケットが千切れた。
一瞬反応が遅れ、最後の一弾が猫柳の腹を刺し貫き、爆散した。

青空に散らばってきらきらと光る自分の部品を見て、猫柳は綺麗だなと思った。
落ちながらずっと目を開けてそれを眺めていたが、視界にノイズが混じり出し、ほどなく何も見えなくなったので、開けているのをやめた。


(修正です。失礼しました。)

74メメントリレー(2):2008/03/11(火) 22:56:44
「こいつを持って先に行け」
 爆音が足元を揺らした。フェンダーたちの足音はすぐそこまで迫っている。
「余計なことは考えるんじゃあない。誰かが、これは伝えなくてはならないんだ。
 その目的に一番適しているのがお前だというだけだ……早く、行け」
 扉が開いた。猫柳は走り出した。

75メメントリレー(3):2008/03/12(水) 22:41:34
 突き出されたそれを見て、猫柳は何かを託された経験を走査した。
 該当記録はない。そんな経験はない。猫柳は何一つ託されたことがなかった。受け継いだことがなかった。己の命でさえ。
「――――」
 躊躇う猫柳の手に、セルマはロケットを握らせた。

76メメントリレー(4):2008/03/13(木) 00:52:01
 猫柳は走っていた。セルマが後ろに続いていた。砂煙が舞っていた。
 フェンダーの放つ弾幕が、セルマの腹部を掠め取った。体が地面を転がり落ちる。猫柳は振り返る。
 セルマの損傷は激しかった。頭部と上腕部しか残されてはいなかった。エネルギーが漏洩し、体内から逃げていく。もうじき機能停止する。
 セルマは満天の星空に向けて、右手に小さな何かを掲げた。

77メメントリレー(5):2008/03/13(木) 01:11:55
「案外、僕らって壊されてデータをリセットされる前は、恋人同士だったりして。」
「…下らん考えだ。死ぬ前も死んだ後も興味ない。今の俺達こそが全てだ。」
「…うん、絶対二人で生きて戻ろうね。」
猫柳が地下通路に潜り込むと当時、ついに食料庫の扉が蹴り破られた。

78メメントリレー(6):2008/03/13(木) 04:36:33
 猫柳たちが<教会>に仕掛けた一つ目の爆弾が破裂する轟音。鳴り響くは物悲しい鐘の音。
 きいきいとまじり合うことのない不協和音を奏でる二人の身体。
 持たざる者の叛乱を予期せぬ管理者は慌てふためき当惑することだろう。
「ざまあみろ」
 セルマは駆けながら小さく呟いた。

79メメントリレー(7):2008/03/13(木) 23:07:56
 外に出たら、セルマの顔を見てみたい。
 抱かれながら、唐突にそう猫柳は思う。
 それとも何か他に見たいものがあったのかもしれない。無かったのかもしれない。

 そうして、最後のキーはそろった。ここから出るための。

80メメントリレー(8):2008/03/14(金) 19:02:30
もうすぐだ。フェンダー<可能捜索者>たちが集う忌まわしい<教会>、外へ繋がる境目の世界に、自分たちは立っている。
存在置換を最終フェイズに移行される前に、猫柳たちは逃げ出すことにした。
夜が来たら、自分たちは心まであの冷たい歯車に押し潰されてしまうから。
そうしたら、きっとあの乾いた土みたいに冷たい、昆虫の目をしたフェンダーたちと同じになってしまう。
このぬくもりが消えてしまう。
嫌だな、と思った。多分、二人同時だった。

81メメントリレー(9):2008/03/14(金) 21:12:40
猫柳は外へ出たかった。
<教会>の治める世界は息苦しい。<教会>は猫柳のような不適格者にフェンダーとして生きる道を示すが、あれは処刑と同じだ。
外世界から世界を守る戦士といえば、聞こえがいいが、つまりは存在置換によって軍の規格部品に加工されるということだ。
しかし<教会>こそがもっとも外世界と近い。猫柳は決意を胸に志願した。

82メメントリレー小説(全文をつなげて正しい順序にしたもの):2008/03/14(金) 21:16:37
猫柳は外へ出たかった。
<教会>の治める世界は息苦しい。<教会>は猫柳のような不適格者にフェンダーとして生きる道を示すが、あれは処刑と同じだ。
外世界から世界を守る戦士といえば、聞こえがいいが、つまりは存在置換によって軍の規格部品に加工されるということだ。
しかし<教会>こそがもっとも外世界と近い。猫柳は決意を胸に志願した。
もうすぐだ。フェンダー<可能捜索者>たちが集う忌まわしい<教会>、外へ繋がる境目の世界に、自分たちは立っている。
 存在置換を最終フェイズに移行される前に、猫柳たちは逃げ出すことにした。
 夜が来たら、自分たちは心まであの冷たい歯車に押し潰されてしまうから。
 そうしたら、きっとあの乾いた土みたいに冷たい、昆虫の目をしたフェンダーたちと同じになってしまう。
 このぬくもりが消えてしまう。
 嫌だな、と思った。多分、二人同時だった。
 外に出たら、セルマの顔を見てみたい。
 抱かれながら、唐突にそう猫柳は思う。
 それとも何か他に見たいものがあったのかもしれない。無かったのかもしれない。
 そうして、最後のキーはそろった。ここから出るための。
 猫柳たちが<教会>に仕掛けた一つ目の爆弾が破裂する轟音。鳴り響くは物悲しい鐘の音。
 きいきいとまじり合うことのない不協和音を奏でる二人の身体。
 持たざる者の叛乱を予期せぬ管理者は慌てふためき当惑することだろう。
 「ざまあみろ」
 セルマは駆けながら小さく呟いた。
「案外、僕らって壊されてデータをリセットされる前は、恋人同士だったりして。」
「…下らん考えだ。死ぬ前も死んだ後も興味ない。今の俺達こそが全てだ。」
「…うん、絶対二人で生きて戻ろうね。」
 猫柳が地下通路に潜り込むと当時、ついに食料庫の扉が蹴り破られた。
 猫柳は走っていた。セルマが後ろに続いていた。砂煙が舞っていた。
 フェンダーの放つ弾幕が、セルマの腹部を掠め取った。体が地面を転がり落ちる。猫柳は振り返る。
 セルマの損傷は激しかった。頭部と上腕部しか残されてはいなかった。エネルギーが漏洩し、体内から逃げていく。もうじき機能停止する。
 セルマは満天の星空に向けて、右手に小さな何かを掲げた。
 突き出されたそれを見て、猫柳は何かを託された経験を走査した。
 該当記録はない。そんな経験はない。猫柳は何一つ託されたことがなかった。受け継いだことがなかった。己の命でさえ。
「――――」
 躊躇う猫柳の手に、セルマはロケットを握らせた。
「こいつを持って先に行け」
 爆音が足元を揺らした。フェンダーたちの足音はすぐそこまで迫っている。
「余計なことは考えるんじゃあない。誰かが、これは伝えなくてはならないんだ。
 その目的に一番適しているのがお前だというだけだ……早く、行け」
 扉が開いた。猫柳は走り出した。
破片が身体を掠め、胸のロケットが千切れた。
一瞬反応が遅れ、最後の一弾が猫柳の腹を刺し貫き、爆散した。
青空に散らばってきらきらと光る自分の部品を見て、猫柳は綺麗だなと思った。
落ちながらずっと目を開けてそれを眺めていたが、視界にノイズが混じり出し、ほどなく何も見えなくなったので、開けているのをやめた。

83言理の妖精語りて曰く、:2008/04/12(土) 00:56:07
チャットでやった逆リレー小説のまとめです。
複数の並列史が共存します。

FA:最初、破壊王は一人だった。だけれども、破壊王は、彼がが隣にいるということを知ってしまった。安らぎの剣、それが勇者が最初に手に入れた魔剣だった。
FB:勇者は王者の剣の材料である聖剣と魔剣を探していました。それは二人の男が別々に持っていたそうな。
FC:この世の全てのモノの、始まりを司る聖剣、結果を司る魔剣、そして過程を司る王者の剣は、それぞれのパワーバランスの均衡を崩さぬよう、異なる時間・場所に隠されていた。
FD:とても暑い日のことでした。遂に滅殺王は斃され、暗黒の時代は終焉を告げ、世界の平和が戻りました。そして魔剣の呪いによって生まれるはずの新たな魔王は生まれませんでした。勇者は魔剣の誘惑に打ち勝ったのです。その勇者は破壊王と呼ばれていました。
-5:あらゆる事物事象を壊してきた破壊王にも壊せないものがたった一つだけあった、それが魔剣である。だが、持ち手との融合の瞬間、それを狙うことが出来れば…
-4A:勇者のもう片方の紋章が輝いた。それは奴が魔剣を手に入れた事を示している。今までの日々はもう帰ってこないのだ。
-4B:知っていた。破壊王は知っていた。勇者の剣がルクシオンを貫いていたことを。
-3A:破壊王は思い出す。魔道士ルクシオンとの日々を。あの、日々を。あの、かつてあった、あの日々を守るため、
-3B:ルクシオンは己の心臓を勇者の眼前に掲げ、言い放った。「私の命など安いよ。殺戮の正義によって魔に落ち、負の王となる運命から、お前を救えるのならばね」
-2A:全ての時代、文明を越えて、破壊王13は剣の因子の元へたどり着き、赤く煮えたぎる拳を振上げた。
-2B:そして魔道士が術式を起動します。勇者の両肩の紋章が紅く光り、百戦錬磨の英雄の両腕は永遠に失われました。
-1:世界は何万回も赤く染まった…。そして、百年の月日が過ぎた。
0:という事で、勇者は聖剣も魔剣も王者の剣も手にする事ができませんでしたとさ。めでたしめでたし。

84言理の妖精語りて曰く、:2008/04/12(土) 02:03:32
なにこれ?

85言理の妖精語りて曰く、:2008/04/12(土) 04:02:25
どうやって読むのが正しいんだろ?

86言理の妖精語りて曰く、:2008/04/12(土) 23:07:59
普通の小説同様に数値の小さいもの(上)から読んでください。なおFはFIRSTを表すとか。
数値の右のアルファベットは並列史で同じ時間軸の記述が複数存在しているとか。

逆リレー小説なので実際には終わり(下)から書いてます。


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